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第26回 化学療法時に用いられる各制吐薬の有用性をエビデンスから読み解く【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 がん化学療法では、疼痛管理や副作用の予防などさまざまな支持療法を行うため、それぞれのレジメンに特徴的な処方があります。代表的な副作用である悪心・嘔吐に関しては、日本治療学会による制吐薬適正使用ガイドラインや、ASCO、NCCN、MASCC/ESMOなどの各学会ガイドライン1)に制吐療法がまとめられていますので、概要を把握しておくと患者さんへの説明やレジメンの理解に有用です。悪心・嘔吐は大きく、化学療法から24時間以内に出現する急性悪心・嘔吐、25~120時間に出現する遅発性悪心・嘔吐、予防薬を使用しても出現する突出性悪心・嘔吐、化学療法を意識しただけでも出現する予期性悪心・嘔吐に分けられ、化学療法の催吐リスクに応じて制吐薬が決められます。今回は主な制吐薬である5-HT3受容体拮抗薬のパロノセトロン、NK1受容体拮抗薬のアプレピタント、MARTAのオランザピンのエビデンスを紹介します。パロノセトロンまずは、2010年に承認された第2世代5-HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロンを紹介します。本剤は従来のグラニセトロンやオンダンセトロンとは異なる構造であり、5-HT3受容体への結合占有率、親和性、選択性が高く、半減期も約40時間と長いことから遅発性の悪心・嘔吐にも有効性が高いとされています。2018年版のNCCNガイドラインでは、パロノセトロンを指定しているレジメンもあります1)。パロノセトロンとグラニセトロンの比較試験では、CR(Coplete Response)率、すなわち悪心・嘔吐がなくレスキュー薬が不要な状態が、急性に関しては75.3% vs.73.3%と非劣性ですが、遅発性に関しては56.8% vs.44.5%(p<0.0001、NNT 9)とパロノセトロンの有効性が示されています2)。また、同薬剤によりデキサメタゾンの使用頻度を減らすことができる可能性も示唆されています3)。添付文書によると、便秘(16.5%)、頭痛(3.9%)のほか、QT延長や肝機能値上昇が比較的高頻度で報告されているため注意が必要ですが、悪心の頻度が多いと予期性の悪心・嘔吐を招きやすくなるため、体力維持や治療継続の点でも重要な薬剤です。院内の化学療法時に静注される薬剤ですので院外では見落とされることもありますが、アプレピタント+デキサメタゾンの処方があれば、5-HT3受容体拮抗薬の内容を確認するとよいでしょう。アプレピタント2009年に承認されたアプレピタントは、中枢性(脳内)の悪心・嘔吐の発現に関与するNK1受容体に選択的に結合することで、悪心・嘔吐を抑制します。一例として、NK1受容体拮抗薬を投与された計8,740例を含む17試験のメタアナリシスを紹介します4)。高度または中等度の催吐性化学療法に対して、それまで標準的だった制吐療法(5-HT3拮抗薬、副腎皮質ステロイド併用)に加えてNK1受容体拮抗薬を追加することで、CR率が全発現期において54%から72%(OR=0.51、95%信頼区間[CI]=0.46~0.57、p<0.001)に増加しています。急性/遅発性の両方で改善効果があり、なおかつ、この高い奏効率ですので、本剤が標準的に用いられるようになったのも納得です。一方で、因果関係は定かではありませんが、重度感染症が2%から6%に増えています(1,480例を含む3つのRCT:OR=3.10、95%CI=1.69~5.67、p<0.001)。また、CYP3A4の基質薬剤なので相互作用には注意です。オランザピンMARTAのオランザピンは、D2受容体拮抗作用および5-HT3受容体拮抗作用によって有意な制吐作用を示すと考えられており、2017年に制吐薬としての適応が追加されました。直近のASCOやNCCNのガイドラインの制吐レジメンにも記載があります1)。従来の5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用と、同レジメンにオランザピンまたはプラセボを上乗せして比較した第3相試験5)では、シスプラチンまたはシクロホスファミド、およびドキソルビシンで治療を受けている乳がんや肺がんなどの患者を中心に約400例が組み入れられました。併用の5-HT3受容体拮抗薬はパロノセトロンが約75%で、次いでオンダンセトロンが24%でした。ベースの制吐薬3剤は、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬に加えて、デキサメタゾンが1日目に12mg、2~4日目は8mg経口投与でガイドラインのとおりです。エンドポイントである悪心なしの状態は0~10のビジュアルアナログスケールで0のスコアとして定義され、化学療法後0~24時間、25~120時間、0~120時間(全体)で分けて解析されました。いずれの時点においてもオランザピン併用群で悪心の発生率が低く、化学療法後24時間以内で悪心がなかった割合はオランザピン群74% vs.プラセボ群45%、25~120時間では42% vs.25%、0~120時間の5日間全体では37% vs.22%でした。嘔吐やレスキューの制吐薬を追加する頻度もオランザピン群で少なく、CR率もすべての時点で有意に改善しています。なお、忍容性は良好でした。論文内にあるグラフからは、2日目に過度の疲労感や鎮静傾向が現れていますが、服用を継続していても後日回復しています。うち5%は重度の鎮静作用でしたが、鎮静を理由として中止に至った患者はいませんでした。服用最終日およびその前日には眠気は軽快しています。以上、それぞれの試験から読み取れる制吐薬の効果や有害事象を紹介しました。特徴を把握して、患者さんへの説明にお役立ていただければ幸いです。1)Razvi Y, et al. Support Care Cancer. 2019;27:87-95.2)Saito M, et al. Lancet Oncol. 2009;10:115-124.3)Aapro M, et al. Ann Oncol. 2010;21:1083-1088.4)dos Santos LV, et al. J Natl Cancer Inst. 2012;104:1280-1292.5)Navari RM, et al. N Engl J Med. 2016;375:134-142.

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第14回 その失神、あれが原因ではないですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)失神は突然発症だ! 心血管性失神を見逃すな!2)発症時の痛みの有無を必ずチェック!3)検査前確率を正しく見積もり、必要な検査の提出を!【症例】60歳男性。工事現場で現場監督をしていた際に、気を失った。目撃した現場職員が呼び掛けたところ、数分で意識は改善した。倦怠感、37℃台の微熱も認め救急外来を独歩受診した。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧158/98mmHg脈拍102回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温37.4℃瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧を健康診断で指摘されたことはあるが未受診内服薬定期内服薬なし意識障害vs.意識消失意識障害と意識消失の違いは理解できているでしょうか。できていない方は過去の本連載を振り返って読んでみてください。普段の意識状態と比較するのがポイントでした(普段から認知症によって3/JCSの方が見当識障害を認めても、それは意識障害とは言えませんよね)。今回の症例では、目撃した同僚の方の話では、初めは「ぼっー」としていたものの、数分で普段どおりになったようです。意識障害というよりは意識消失、そして明らかな痙攣の目撃がなく、速やかに意識が戻っているようであれば、まずは「失神」として対応するのがよいでしょう。失神のアプローチ失神の定義は前回述べたとおりですが、具体的に失神と認識したらどのようにアプローチするべきでしょうか。私は表1の事項を意識して対応しています。詳細はこちらの本(『あなたも名医! 意識障害』(日本医事新報社)1))でぜひご確認ください。表1 失神のアプローチ画像を拡大する本稿では、(4)「前駆症状(とくに痛み)を確認する」に関して取り上げましょう。前回の症例でもそうでしたが、失神? と思ったら必ず痛みの有無を確認し、頭頸部に痛みがあればクモ膜下出血を、胸背部痛など頸部以下の痛みを伴う場合には大動脈解離を一度は考え、意識して病歴や身体所見を評価することが大切です。目の前の患者は大動脈解離なのか?大動脈解離が失神の鑑別に上がっても、そこで立ち止まってしまうことはないでしょうか。大動脈解離の来院パターンはいくつかありますが、代表的なものは胸痛などの痛みを訴えて来院、意識障害、そして今回のような失神です。大動脈解離の10%程度は失神を認めるということを頭に入れておくとよいでしょう2)(表2)。表2 発症時の症状画像を拡大する医学生のときに誰もが習う、「突然発症の胸背部痛で痛みが移動し、血圧の左右差を認める」という症例は、残念ながら病院にたどり着けないことが多いものです。実臨床では、「何らかの痛みが突然始まる」と覚えておくとよいと思います。失神→心血管性失神の可能性→発症時の痛みをチェック→大動脈解離かも? クモ膜下出血かも? こんな感じです。大動脈解離らしいか否か、確定診断するために必要な造影CT検査をオーダーするか否か、これはどれほど疑っているかに依存します。すなわち検査前確率を正しく見積もり、必要な検査をオーダーすることが大切なのです。ADD risk score(表3)を意識して「らしさ」を見積もりましょう3)。(1)基礎疾患、(2)痛みの性状、(3)身体所見、これら3項目のうちいくつの項目に該当するのかを評価します。そして、それが1項目以下の場合には可能性は低く、2項目以上に該当する場合には精査をしなければなりません(図)。表3 ADD risk score -大動脈解離は否定できるか-画像を拡大する図 大動脈解離疑い症例 -実践的アプローチ-画像を拡大するD-dimerか、造影CT検査か大動脈解離を疑った際にベッドサイドで行う検査としてエコーは必須ですが、フラップや心嚢液貯留が明らかな症例は、決して多くはありません。もしあればその時点で強く疑い、専門科へコンサルト、または造影CT検査をオーダーすることに躊躇はありませんが、実際にははっきりせず採血や画像検査を行うことになるでしょう。検査が迅速に施行できない環境であれば、突然発症の痛みや痛みに伴う失神ということのみでコンサルト、転院の打診でもまったく問題ありません。D-dimerは有用な検査ですが、ルーティンに提出するものではありません。肺血栓塞栓症を疑った際にも同様ですが、可能性が低いと思っている症例にのみ提出し、陰性をもって否定するのです。具体的には先述の図にのっとればよいでしょう。ADD risk scoreを評価し、2項目以上に該当した場合には、施行すべき検査は造影CT検査です。D-dimerを出すなというわけではありません。必要な検査をきちんとやる必要があるということです。大動脈解離の典型例を見逃すことはあまりありません。一見、軽症に見える患者の中からいかにして拾い上げるのか、それがポイントとなります。繰り返しになりますが、失神は瞬間的な意識消失発作であり突然発症です。そこに痛みの関与があれば疑いたくなりますよね。本症例のように、痛みが入り口でない場合でも、転倒の背景に失神が、そして失神の原因が心血管性失神(HEARTS)ということが決して珍しくありません。バイタルサインが安定しており、重症感がない患者だからこそ、きちんと病歴を聴取し、身体所見を根こそぎ取りましょう。1)坂本壮ほか. あなたも名医! 意識障害. 日本医事新報社;2019.2)Hagan G, et al. JAMA. 2000;283:897-903.3)Adam M, et al. Circulation. 2011;123:2213-2218.4)Nazerian P, et al. Circulation. 2018;137:250-258.

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第17回 実は脂質が多い!外食の人気メニュー【実践型!食事指導スライド】

第17回 実は脂質が多い!外食の人気メニュー医療者向けワンポイント解説外で食事をする際に、カロリー表示を気にする方は多くいますが、脂質や三大栄養素の配分について考えている方はほとんどいません。「肉だから大丈夫」「野菜が入っているからバランスが良い」そう考えていても、実は脂質の割合が多い外食メニューはたくさんあります。今回は代表的な脂質の多いメニュー3品を、タンパク質量が多く、脂質の少ないヒレステーキと比較しました。●ハンバーグファミレスをはじめ、ステーキの専門店などでもハンバーグを注文する方は多くいます。ハンバーグを割った際のじゅわっとあふれる汁を「旨味成分の肉汁」と考えている方も多いようですが、「溶けた脂質」がほとんどです。脂質なので、旨味成分としては正解ですが、脂質量やカロリーは過多になります。ハンバーグの原材料であるひき肉は、赤身と脂肪を一定の割合で混ぜて作ります。つまり、純粋な赤身肉部分だけよりも脂質の割合が高くなっているわけです。<参考>デニーズ:All Beefハンバーグ~デミグラスソース(デミグラスソースハンバーグ)556Kcal、タンパク質29.5g、脂質38.1g、炭水化物24g●カレーカレールゥの原材料表示を見ると、どのメーカーも小麦粉と食用油脂(牛脂、豚脂、牛脂豚脂混合油、パーム油など)のどちらかが必ず1番目と2番目にきます。この食用油脂のメインは動物性脂質です。つまり、カレールゥは「スパイスのかたまり」ではなく、「小麦粉と動物性脂質のかたまり」にスパイスを加えたものということです。あまり具材の入っていないカレーを食べる場合、栄養バランスはご飯(炭水化物)にルゥ(脂質)をかけて食べるというイメージになります。具材が多く含まれるカレーを選ぶことが大切です。<参考>CoCo壱番屋:ポークカレールゥ(ポークカレーからライス300gを抜いて計算)251kcal、タンパク質4g、脂質19.1g、炭水化物15.2g*ポークカレーは755kcal、タンパク質11.5g、脂質20g、炭水化物126.5g●牛丼牛丼チェーン店の牛肉は、やわらかく旨味のあるバラ肉を使用しています。牛肉がたくさんのっていると考えている方も多いですが、脂肪部分が半分程度を占めるため脂質の割合が高くなります。脂質だけではなく、糖分や塩分も高くなりがちなメニューです。<参考>吉野家:牛丼(並盛)アタマ(ご飯230gを抜いて計算)266kcal、タンパク質14.4g、脂質19.7g、炭水化物7.5g*牛丼(並盛)は652kcal、タンパク質20.2g、脂質20.4g、炭水化物92.8g●比較対象のヒレステーキ300kcal分ヒレ部分は肉の中でも脂質が少ない部位です。また、ステーキは調味料で焼くだけのシンプルな調理法です。外食でタンパク質を摂取しよう、脂質を低くしようと考える場合、ヒレや赤身、胸肉、ささみなどの低脂肪な部位をシンプルに調理したメニューを意識すると、脂質が減り、タンパク質を摂取できるので良いでしょう。<参考>牛ヒレ(輸入牛)ステーキ250gエネルギー333kcal、タンパク質51.3g、脂質12g、炭水化物0.8g

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鉄剤と葉酸の漫然投与を見抜き中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第2回

 処方提案をする際には、副作用や相互作用による影響を検討するだけでなく、患者さんの希望を聞き取り、前向きに治療を受けられるようにすることも重要です。今回は、多剤併用に悲観的な患者さんに漫然投与されていた薬剤の中止提案を行った症例を紹介します。患者情報施設入居、70歳、女性、身長:140cm、体重:50kg現病歴:関節リウマチ、高血圧、骨粗鬆症処方内容アムロジピン錠2.5mg 1錠 朝食後エソメプラゾールカプセル20mg 1カプセル 朝食後クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 2錠 朝食後アルファカルシドール錠0.5μg 2錠 朝食後センナ・センナ実顆粒1g 朝夕食後葉酸錠5mg 2錠 朝夕食後アレンドロン酸錠35mg 1錠 起床時・木曜日症例のポイントこの患者さんは、「処方される薬が多いのは自分が重い病気だからであり、これ以上楽になることはない」と考え、悲観的になっていました。多剤併用が苦痛だったようです。上記の薬剤を継続することによって、心理的負荷の増加、鉄剤継続に伴う便秘や肝機能障害、胃腸障害などの懸念もありました。そこで、薬剤の削減ができないか見直しました。関節リウマチなどの炎症性疾患の患者さんでは貧血が比較的多くみられますが、それらによる二次性貧血の場合は原疾患の治療の見直しが必要になることがあります。また、葉酸錠とクエン酸第一鉄ナトリウム錠が長期間投与されていますが、メトトレキサートの副作用予防のための葉酸というわけでもないため患者さん自身はあまりメリットを感じておらず、投与量の見直しも行われていないようです。そこで、鉄欠乏性貧血もしくはリウマチに伴う二次性貧血の見極めの必要性、そして葉酸錠とクエン酸第一鉄ナトリウム錠の漫然投与の可能性を考え、血液検査からのアプローチを行いました。鉄欠乏性貧血は、貯蔵鉄が枯渇することでHb(ヘモグロビン)合成材料の血清鉄が不足して起こる。鉄の貯蔵と血清鉄の維持を行うフェリチンは鉄の貯蔵状態を反映しており、鉄剤治療を行う際の重要なモニタリング項目となる。貯蔵鉄を運搬するTIBC(トランスフェリン)は鉄欠乏の状態で増加することから、TIBCの増加は鉄の全体量としての不足を意味する。本来、鉄欠乏性貧血は、Hb:男性12g/dL未満・女性11g/dL未満、フェリチン:12ng/dL未満、TIBC:360μg/dL以上が治療対象となる。処方提案と経過往診同行の際に、医師に葉酸錠とクエン酸第一鉄ナトリウム錠の評価を提案しました。葉酸錠については葉酸、クエン酸第一鉄ナトリウム錠についてはフェリチンとTIBCの検査オーダーを依頼し、下記の血液検査結果(1)の結果が得られました。TIBCが正常であり、葉酸は充足過剰かつフェリチンが十分であることからリウマチの二次性貧血が疑われますが、めまい・ふらつき・倦怠感などの自覚症状もないことから、葉酸錠とクエン酸第一鉄ナトリウム錠の処方中止を医師に提案し、中止となりました。血液検査結果(1)(介入時提案)MCV:97、Hb:9.9g/dL(↓)、Alb:3.0g/dL、AST:13U/L、ALT:4U/LBUN:14.0mg/dL、Scr:0.61mg/dL、Na:139mEq/L、K:3.5mEq/L、Ca:9.1mg/dLFe:35μg/dL(↓)、TIBC:420μg/dL、フェリチン:203.5ng/mL、葉酸:706.0ng/mL(↑)両剤を中止後、自覚症状の出現や増悪などもなく2週間が経過し、服用錠数が減ったことで気持ちも楽になったことを患者さんより聞き取りました。フォロー中の血液検査結果(2)でも血清鉄こそ基準値に満たないものの、フェリチンは充足しており、自覚症状の出現もなく安定した体調を維持しています。本症例は、関節リウマチによる二次性貧血の可能性が高く、原疾患の治療コントロールを目標に現在もフォローを継続しています。血液検査結果(2)(処方変更3ヵ月後の検査結果)MCV:96、Hb:11.6g/dL、Alb:3.7g/dL、AST:16U/L、ALT:5U/L、BUN:16.2mg/dL、Scr:0.55mg/dL、Na:137mEq/L、K:4.0mEq/L、Ca:9.0mg/dLFe:30μg/dL(↓)、TIBC:385μg/dL、フェリチン:192.5ng/mL、葉酸:4.7ng/mL日本鉄バイオサイエンス学会治療指針作成委員会 編. 鉄剤の適正使用による貧血治療指針 改訂第3版. 響文社;2015.

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関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」【下平博士のDIノート】第30回

関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ペフィシチニブ臭化水素酸塩(商品名:スマイラフ錠50mg/100mg)」を紹介します。本剤は、1日1回の服用でJAKファミリーの各酵素(JAK1/2/3、チロシンキナーゼ2[TYK2])を阻害し、関節リウマチによる関節の炎症や破壊を抑制します。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年7月10日より発売されています。なお、過去の治療において、メトトレキサート(MTX)をはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬などによる適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与します。<用法・用量>通常、成人はペフィシチニブとして150mg(状態に応じて100mg)を1日1回食後に投与します。なお、中等度の肝機能障害がある場合は、50mg/日を投与します。<副作用>後期第II相試験、第III相臨床試験2件および継続投与試験の4試験における安全性併合解析において、本剤が投与された患者1,052例中810例(77.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、上咽頭炎296例(28.1%)、帯状疱疹136例(12.9%)、血中CK増加98例(9.3%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、帯状疱疹(12.9%)、肺炎(ニューモシスチス肺炎などを含む)(4.7%)、敗血症(0.2%)などの重篤な感染症、好中球減少症(0.5%)、リンパ球減少症(5.9%)、ヘモグロビン減少(2.7%)、消化管穿孔(0.3%)、AST(0.6%)・ALT(0.8%)の上昇などを伴う肝機能障害、黄疸(5.0%)、間質性肺炎(0.3%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ヤヌスキナーゼという酵素を阻害することにより、関節の炎症や腫れ、痛みなどの関節リウマチによる症状を軽減します。2.持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感などの症状が現れた場合はすぐにご連絡ください。3.痛みを伴う発疹や皮膚の違和感、局所の激しい痛み、神経痛などが現れた場合は速やかに受診してください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合には主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および服用終了後少なくとも1月経周期は、適切な避妊を行ってください。6.本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。関節破壊の進行抑制を含めた病態コントロールのため、発症初期にはMTXをはじめとする従来型疾患修飾性抗リウマチ薬(cDMARDs)が使用されます。MTXなどを十分量で用いても効果不十分な場合には、生物学的製剤であるTNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど)やIL-6阻害薬(トシリズマブなど)、T細胞活性抑制薬(アバタセプト)、もしくは低分子標的薬であるJAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ)が使用されます。本剤は、関節リウマチに用いる3剤目のJAK阻害薬で、JAK1、JAK2、JAK3およびTYK2を阻害し、関節の炎症や破壊を抑制します。生物学的製剤は点滴または皮下注射での投与となりますが、しばしば発疹などの投与時反応や注射部位疼痛が問題となることがあります。JAK阻害薬は経口投与のため、非侵襲性の治療を望む患者さんや自己注射が困難な患者さんであっても、好みや生活環境に合わせた治療を選択することができると期待されています。また、本剤は相互作用も少なく、1日1回投与であるため、高齢者でも使用しやすいと考えられます。留意点としては、中等度の肝機能障害を有する患者については投与量の制限があることが挙げられます。また、本剤は免疫反応に関与するJAK経路の阻害により、結核、肺炎、敗血症などの感染症リスクが増大する懸念があることから、既存のJAK阻害薬2剤と同様に、生物学的製剤や他のJAK阻害薬などの免疫を抑制する薬剤との併用はできません。承認時の臨床試験では、副作用として12.9%で帯状疱疹が報告されているので、とくに高齢の患者さんでは、使用前に帯状疱疹ワクチン接種の有無などについて確認し、服用後に帯状疱疹が現れる可能性について注意喚起をしておく必要があるでしょう。

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第25回 心電図の壁~復刻版~(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第25回:心電図の壁~復刻版~(後編)さて、前回に引き続き復刻版の『心電図の壁』*をお届けします。Dr.ヒロの自伝的回想録から、心電図に苦手意識を持つ人の困難を乗り越えるためのヒントになるようお届けします。では、後半戦のはじまり~!*杉山裕章. 内科医の道[電子版エッセイ]. 医学書院;2012.第48回. (※2018年に公開終了)3年目からは循環器レジデント生活だった。有名な先生もいる病院で、今度こそ心電図を教えてもらえるかと思った。でも、当時は専門医取得に向けての研修カリキュラムなども明確ではなく、上司の先生は皆あまりに多忙過ぎだった。しかも、大半のレジデントにとって紙カルテから抽出したデータを用いて学会発表をする、あるいは作りたての院内データベースを使って論文を書くことが“ステータス”であり、多くの者たちがそれを競った。けれども、当時の自分は、レジデントとして知りたいこと・やりたいことを別の部分に見いだしていた(理由はいくつかあるが、生来のヘソ曲がりが悪く作用したのか!?)。当然、データ集計も滞りがち、統計解析も“数遊び”に思えてしまい、なぜかあまり興味がわかなかった(その後、大学院生になった時、一から学び直すのに苦労したが)。結果、また一つ“劣等生”の称号が増えたのかもしれなかった。ただ、この病院で初めて本格的な不整脈の世界に触れた。ちょうど国内で普及し始めた植込み型除細動器(ICD)や両心室ペーシングを用いた心臓再同期療法(CRT)、さらにCARTO®などの三次元マッピングシステムや心房細動を含むカテーテルアブレーション…見るモノ聞くモノすべてが新鮮だった。同僚たちが冠動脈造影やインターベンション(PCI)のとりこになるなか、かつてマニアック路線だった不整脈分野の技術革新を肌で感じ、基本技能の習得に邁進することができた。しかしながら“道”は決して容易ではなかった。現在の日常臨床に広く浸透した12誘導心電図は体表から記録される、いわば“地上”の情報だが、“地下”で起きている電気現象を観察する心臓電気生理学検査(EPS)1)の存在が自分にとっては新たなハードルとなった。しかも、“地上”の心電図は静止画だが、“地下”の世界は動画だった。今ではほとんど何の苦労もなく理解できる心内心電図にも目が泳いだ。何でも出だしにつまずく自分は、カンファレンスで発表しなくてはならない不整脈解析にも当初は5〜6時間くらいかかった2)。横に座って丁寧に教えてくれる“個別指導”的な先生などはおらず(そういうのも何だかムズがゆく感じる性分だが…)、ほとんど独学のOJT(On-the-Job training)に近かったと思う。文字通りの真っ暗闇からスタートした“地下”探索は、体表面心電図の“壁”よりもさらに苦しいものだった。現在も業界のトップを走る大家の先生に、「先生、そんなレベルだと一生EPなんて読めるようにはならないと思うよ」と言われひどく落ち込んだ記憶が今も時々思い起こされる。でも、なぜかここでも諦めなかった。2年ほど続けると、12誘導心電図の“地上”情報だけを見せられても、その裏、すなわち“地下”でどんな現象が起きているかが想像できるようになった。院内では優秀な同僚たちにだいぶと水をあけられたが、“心電図の壁”が崩落する音が微かに聞こえた気がした。今思い返せば、心の耳に聞こえた独特の感覚は、おぼろげながら“何か”をつかんだ瞬間だったのだと思う。いつしか、心電図も不整脈もそれほど怖くはなくなっていた。今、不整脈をどう考えるかを伝える時、なるべくわかりやすい形で“地下”の世界を紹介しようと思っているのも、この経験からだ3)。1:いわゆるイーピー(EP:電気生理学)・スタディと呼ばれている検査で、カテーテルアブレーションでの基本情報ともなる。心臓の中に留置した電極カテーテルから記録する「心内心電図」という理解で良く、10~20、時には30近いカラフルな波形が同時に画面上に描かれる。2:週に2~3件を担当するなか、1症例にこれだけの時間をかけていたとは…“電気部屋”と呼ばれた解析装置のある部屋に深夜、週末問わずに入り浸った。元々こもるタイプなのかもしれないな、ボクは(笑)3:個人的には、専門性の高い心内心電図を誰もが習得すべき内容だとは思わない(循環器専門医でも苦労する人が多い)。ただ、それをデフォルメしたラダーグラム(laddergram)は、“動く地下”の様子を静止画にしたもので、不整脈心電図の理解に有用である。これが理解できると、心臓の中で今どんな電気の流れが起きているのか、想像力もかき立てられワクワクする。その後、自身の出た大学に戻った。不整脈中心の臨床業務もこなしたが、大学院生にはレジデント時代よりも時間に余裕があった。執筆業が加速したのもこの時期だ。また、某企業のホルター心電図解析センターで判読レポート作成のアルバイトも始めた。数年間で4,000件以上のホルター冊子と向き合うこととなり、ささやかながら研究成果4)、書籍化5)にもつながる貴重な体験だった。EPSとも12誘導とも異なる視点で心電図を眺め続けたのも能力アップにつながったように思う。いつしか心電図が“大好き”に変わっていた。三度の飯より、いや、それどころか決して裏切らない“友達”にすら思えた。そして、ある時ふと心電図の「読み方」はどう形成されるのかに興味を持った。そんなことをマジメに相談する人は誰もいなかったので、一人であれこれ考えた。自分が過去に感じた“心電図の壁”を感じている人が決して少なくないことも既に知っていた。苦労しているのは皆同じなのだ、と。でも何故? 学生時代から研修医、レジデント時代まで、自分が心電図にここまで苦労したか振り返ってみると、それは“art”としての「読み方」を伝える授業や実習などがないのが原因ではないか。医学教育がブームになっており、ジェネラリスト志向が高まる中でも、心電図に関する新しい教育システムの話はあまり耳にしない6)。4:膨大な件数をスピーディにこなすため、音声認識ソフトを用いて所見付けを行い、その有用性を報告した。杉山 裕章ほか. 心電図. 2011;31:158-164.や杉山 裕章ほか. 心電図. 2012;32:239-247.など。5:『個人授業 心電図・不整脈 ホルター心電図でひもとく循環器診療』の執筆につながった。6:「令和」時代の現在でも、状況はあまり大きく変わらないように思う。この気づきが、ボクの提唱する「心電図の読み“型”」の基盤である。心電図が読める人の頭の中には、これが正常、という心電図波形の“テンプレート”ができている。それを自分の目の前の心電図と瞬時に比較して、必要な部分だけ“異常”として抽出するカンのようなものを習得している7)。そのやり方・手順は個人それぞれで、自分には明文化できないけれど、一度、心電図と友達になった人は決して見落としがない。この“テンプレート”をどう作っていくか、何をどう比べればいいのかなどが口承伝授されにくいのではないか。ちまたにあふれている所見や診断基準の羅列本はもちろん、“ココだけ”や“速効”、あるいは“わずかな時間で”と、うたうテキスト8)では心電図“テンプレート”は築かれないと思う9)。絶対に。「読み方」に徹底的にこだわった講義や教科書が必要だと思う。先般述べた心電図ゼミや添削指導の類いが、学部や初期研修医・レジデントの教育過程に取り入れられるべきだ10)。波形の各パーツ別に“テンプレート”との差異を抽出する作業は訓練せずして決して身につかず、場数はもちろん、相応の個人努力が必要だ。それを乗り越えた人だけが心電図のうまみを享受しており、そうでない人にとっての心電図は、友達の正反対、永遠に“距離を置きたい存在”以外の何ものでもないのだ。 7:肢誘導の上肢電極の左右つけ間違いを扱った回でも、これを踏まえた表現を登場させているボクとしては、それが心電図の「正常」を知るということなのだと思う。 8:でも、悲しいかな。魅力的な表紙やキャッチーなタイトルの心電図本がAmazonランキングなどでも上位となる傾向がある…。 9:この後、「“正常”な心電図とは何か?」を突きつめた名作(他著)も出版されており、ぜひとも探し求めて欲しい。10:一部の大学医学部や実績・人気のある研修病院では行われているところもあると聞く。このall or none的な状況を何とか打破できないものか。自分は人よりたくさん回り道をしたと思うが、特別“鈍感”だっただめか、あまり“心電図の壁”を強く意識せず、心電図と友達になるプロセスでは最終的に挫折せずに済んだ。心電図ゼミやそのほかの経験も含め、部分的にはラッキーな出来事もあったからかもしれない。ただ、人によってはこうしたチャンスに恵まれないこともあるだろう。丁寧な指導医11)だってどこにでもいるわけじゃない。つまり、運なのか…?いや、否。現在の臨床医学における心電図の汎用性・簡便性・有用性などを考えれば、それじゃダメじゃないかと思う。すべての医師に一定の心電図診断能力が問われているのだ。今もしも、劣等生が経験した、人一倍の苦労の先に得たartたる心電図の「読み方」をカタチにできたら…誰もがきっと今よりずっとスムーズに“心電図の壁”を乗り越えられるのではないか? それは来年10年目を迎える自分の新しい目標の一つになった。「心電教育学」12)と勝手に名付けているが、「読み方」を身体に染み込ませるような新しい教育システムが今後重要視され、そのためのツールが開発されて欲しい13)。何事も一歩を踏み出さなくては始まらない。たとえ“1”でも“0”に比べると無限大倍なのだ14)。11:現在では、DVDやオンライン教材があって素晴らしい!12:残念ながらこの言葉はあまり流行らず、いつしかボク自身も口にするのを忘れていたが、これを機にまたハッと思い出し、わが専門分野の一つとして標榜したいくらいだ(笑)13:この時点で実は『心電図のみかた、考え方[基礎編]』、および『同[応用編]』の原稿がほぼ完成しており、確固たる意志を遠巻きに表明していた。これは教科書であり、講義としては、本連載の『Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター』がボクなりのアンサーの1つ。14:「とにかく一歩踏み出せ」-作業興奮に自分がdriveされたら勝機あり。これが仕事におけるボクのモットーの1つ。人の評価や評判を気にするあまり、せっかくの熱意・才能を無駄にしてしまうのは実にもったいないから。今後「心電教育学」が発展することで、より多くの人が“心電図の壁”を克服できる日が来ることを切に願う。当然ながら、微力ながら自分自身も努力してゆきたいと鼻息を荒くしている。近い日に“その日”が来ることを夢見て。(執筆:2012年7月12日)さて、2回に分けてお送りした『心電図の壁』、いかがだったでしょうか。“プロジェクトX”(中島みゆきの『地上の星』が聞こえてきそうな…)ばりに、劣等生がゼロから“心電図の壁”に挑み、それを乗り越えた過程が、いま心電図や不整脈に悩む方への参考になったらと願っています。Take-home Message正常な心電図波形の“テンプレート”を頭の中にインプットしよう。波形のパーツごとに異常を抽出する練習をくり返すべし-“系統的判読”の重要性きちんと勉強すれば心電図は決して裏切らない“友達”になる!【古都のこと~鷺森神社~】「寺社を散歩するなら早朝」-鷺森(さぎのもり)神社(左京区修学院)で試してみましょう。修学院離宮や曼殊院(門跡)にほど近く、平安時代(貞観年間:859-877)創建の由緒ある神社1)です。到着は6時。「おはようございます」、まずは境内の掃除されている方にごあいさつ。続いて本命、スサノヲノミコト2)にお参りを済ませます。お賽銭、ガラガラ鈴、二礼二拍手一礼。そして振り向くと圧倒的な存在感の御神木が目に飛び込んできます。近づいて周囲の柵に目をやると「区民誇りの木スギ」の説明書きが! 名前そのほかスギに縁のある人なら少しだけ気分が上がります。そして、移動中は大きく息を吸い込みます。静かで深遠な空気は朝だけしか味わえません。鳥居をくぐってここまで約20分。春は桜、夏は青モミジ、そして秋は紅葉で楽しませてくれるでしょう。さぁ、帰ってシャワーを浴びれば極上の休日が始まります。1)もとは比叡山麓にあり、修学院離宮山林中(応仁の乱)を経て、江戸時代(元禄年間:1688-1704)に現在地(鷺の社)に遷座された。2)この神社の八重垣は、祭神であり古事記・日本書紀などに登場する「素戔鳴尊(スサノヲノミコト)」による日本最古の和歌『八雲立つ 出雲八重垣 妻籠(つまご)みに八重垣作る その八重垣を』にちなむ。八岐大蛇(やまたのおろち)から櫛名田比売(くしなだひめ)を救い、姫を妻に得て須賀に新宮を構える際に詠んだ和歌と伝わる。

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加熱式タバコから有害物質は出ない?【新型タバコの基礎知識】第5回

第5回 加熱式タバコから有害物質は出ない?Key Points加熱式タバコから出る有害物質の量は、紙巻タバコと比べて、少ない物質もあるが、そうではない物質もある。加熱式タバコに含まれる有害物質の種類は、紙巻タバコと同様に多い。現在のところ、アイコスやプルーム・テックといった加熱式タバコ製品が今までのタバコ製品よりも害が少ないという証拠はありません。しかし、加熱式タバコから出る有害物質に関する学術論文が次々に発表されてきており、徐々に、加熱式タバコについて判断を下すための資料、科学的根拠、疫学データ等が集まってきています。まず、紙巻タバコの煙に含まれる有害物質について簡単に触れたいと思います。タバコの煙を専用の機械で分析すると、紙巻タバコの煙には、5,000種類以上の化学物質が含まれていることが分かります。そのうちの70種類は、発がん性があるとされている物質です。従来からの紙巻タバコに含まれる代表的な有害物質は、ニコチンや一酸化炭素、ベンゼン、ホルムアルデヒドといったものです。表1は、国際がん研究機関(IARC)や世界保健機関(WHO)がタバコに関して研究および調査すべきと指摘している、代表的な有害物質の一覧です。IARCグループとは、世界的に収集された科学的根拠に基づき発がん性の有無について判定した発がんリスク分類のことであり、グループ1とは十分な証拠があるため「ヒトに対して発がん性がある」と判定されていることを示します。グループ2Bは「ヒトに対する発がん性が疑われる」であり、グループ3は「ヒトに対する発がん性について分類することができない」を指します。WHO-9とは、WHOが2008年にタバコにおいて低減させるべき9つの有害物質として取り上げたものです。2012 年に米国食品医薬品局(FDA)は、タバコ製品やタバコの煙に含有され、害を引き起こす可能性があるとして、93種類の有害物質のリスト(FDAリスト)を発表し、タバコ会社に物質量を測定し報告するように求めました。リストの中のほとんどの物質で発がん性が認められ、呼吸器系や心血管系の障害、胎児の発育や脳の発達への障害を引き起こす物質も含まれています。画像を拡大するでは、加熱式タバコではこれらの有害物質の量はどうなっているのでしょうか?有力な情報源の1つとして、日本の保健医療科学院の欅田らの研究グループによる実験結果があります。基準となる紙巻タバコおよび、アイコス専用スティックから出る有害物質の量が、それぞれ調べられています(表2)。画像を拡大する紙巻タバコ1本あたり、ニコチンが2,100μg、一酸化炭素が33.0mg、ベンゼンが110μg、ホルムアルデヒドが41μg、タバコ特異的ニトロソアミンが 838.2ng、グリセロールが1,800μg、粒子状物質総量(タール)として34mg、出ていることが分かりました。一方、アイコス・スティック1本当たりでは、ニコチンが1,200μg、一酸化炭素が0.44mg、ベンゼンが0.66μg、ホルムアルデヒドが4.8μg、タバコ特異的ニトロソアミンが 70.0ng、グリセロールが4,000μg、粒子状物質総量としては39mg出ていると分かりました。ここでは、まずは、多くの種類の有害物質がアイコスからも検出された、という事実が重要だと考えます。次に、アイコス以外も含めた加熱式タバコと紙巻タバコの比較をみてみましょう。加熱式タバコに含まれる有害物質の量に関する報告は、しばらくの間、タバコ会社からの情報だけでしたが、2017年以降にはタバコ会社とは独立した研究機関から研究成果が報告されるようになってきました。表3は、これまでに報告された加熱式タバコと紙巻タバコに含まれる有害物質の量を比較した文献の結果一覧です。画像を拡大するここでは、8本の文献からの結果を横に並べています。一番左の文献を例として、表の見かたを説明します。Schallerらによる2016年の研究は、タバコ会社のフィリップモリス社の研究者が実施した研究であり、アイコスのレギュラースティック(表中のR.IQOS:メンソールではないもの)および3R4Fという名前の基準となる紙巻タバコのそれぞれから出る有害物質の量をHCI法という分析手法で測定し、基準となる紙巻タバコから出るそれぞれの有害物質の量を100%とした場合にアイコスのレギュラースティックから出る有害物質の量が何%に相当するのか、という値が%で表されています。たとえば、ベンゼンの量は1%未満であり、一酸化炭素は1%、ホルムアルデヒドは11%、ニコチンは73%、グリセロールが203%、粒子状物質総量が122%だったことを示します。100%より小さな値は加熱式タバコから出る物質の量の方が少ないこと、100%より大きな値は加熱式タバコから出る物質の量の方が多いことを表しています。研究機関の欄をみると、タバコ会社の研究が多くを占め、タバコ会社以外ではベルン大学や日本の保健医療科学院で研究が実施されたと分かります。タバコ会社は自社に都合のいい結果だけを報告する場合があり、データを読み解くうえで注意が必要になります。最も多く調べられたアイコス(R.IQOS)の結果について比べてみると、タバコ会社による結果と保健医療科学院での結果で大きな違いは認められません。ベルン大学の研究では他の研究とはやや異なる値が観察されていますが、分析方法の違いがその原因として考えられます。ベルン大学の研究だけ、異なる条件で研究が実施されていたためです。それぞれの化学物質の量(%)をみると、加熱式タバコでは紙巻タバコと比較して、1%未満~1%程度とかなり少ない物質(1,3-ブタジエン、ベンゼン、一酸化炭素など)、3~9%程度に減っている物質(アクロレイン、ベンゾ[a]ピレン、N-ニトロソノルニコチンなど)、10~100%未満と減っている物質(アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ニコチン)、100%前後で同量の物質(粒子状物質総量)、100%以上と増えている物質(水、グリセロール)があることがわかります。一律に有害物質が減少しているわけではないのです。“紙巻タバコと比べて有害物質が約90%低減されている”とのタバコ会社の宣伝文句のとおり、ベンゼンやアクロレインなどは確かに少ないと言えるでしょう(表2、表3)。しかし、ホルムアルデヒドやニコチンなど、そんなに減っていない物質もあることがわかります。さらには、プロピレングリコールやグリセロールなど、加熱式タバコの方がかなり多くなっている物質もあるのです。粒子状物質総量(タール)については、加熱式タバコには紙巻タバコとほぼ同じ量が含まれていました。ただし、ほぼタールが同じ量とは言っても、タールの内容がだいぶ違うことに注意が必要です。加熱式タバコではグリセロールがかなり多くを占めており、プルーム・テックではプロピレングリコールも多いという結果が出ています。このことが意味する健康被害については第7回の記事で説明する予定です。第6回は「加熱式タバコに含まれる未知の物質」です。

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ミネブロ錠:3剤目のミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬

2019年5月13日、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬、ミネブロ錠(一般名:エサキセレノン)が高血圧治療薬として新たに販売開始となった。高血圧治療に残された課題日本の高血圧患者は4,300万人と推計され、そのうち治療によって適切に血圧がコントロールされているのはわずか1,200万人。残りの3,100万人は治療をしていてもコントロール不良、もしくは治療を行っていないという。このような状況の中、日本高血圧学会は2019年に、5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を発表し、高血圧対策を進めていく必要性を訴えた。今回の改訂では合併症のない75歳未満の成人、脳血管障害患者、冠動脈疾患患者は130/80mmHg未満に、75歳以上の高齢者は140/90mmHg未満に、それぞれ降圧目標値が10mmHgずつ引き下げられている。降圧目標達成のためには個人レベルでの取り組みだけでなく、社会全体での積極的な取り組みが必要であることが強調されており、降圧目標達成率や疾患啓発など、高血圧治療に課題が残されていることがうかがえる。新しく登場したミネブロ錠は高血圧治療の新しい選択肢となり、課題解決に寄与する可能性がある。MR拮抗薬の作用機序について尿細管に存在するMRへ、アルドステロンが過剰に結合し続けると、尿中のナトリウム再吸収とカリウム排泄を促進させ、循環血量の増加により、血圧が上昇する。ミネブロ錠はMRをブロックし、ナトリウム排泄を促進することで血圧低下効果を発揮する。このMRをブロックするという作用機序から、食塩感受性高血圧の患者さんや原発性アルドステロン症の患者さんで有効性を示すことが期待されている。国内臨床試験成績:中等度腎機能障害に使えるMR拮抗薬国内第III相試験において、I度またはII 度の本態性高血圧症患者を対象に、単剤および他の降圧薬との併用の両方で試験が行われた。単剤投与では2.5mgを1日1回、12週間投与した結果、収縮期血圧は13.7mmHg低下し、エプレレノン(投与量:50mg)に対する非劣性が検証された。また、長期投与試験では52週を通して安定した降圧効果の持続が確認されただけでなく、ARBやCa拮抗薬との併用でも観察期に比べて有意な降圧効果を示している。さらに、中等度腎機能障害を合併した患者やアルブミン尿を有する2型糖尿病を合併した患者を対象とした試験では1.25mgを1日1回投与し、どちらの患者でも収縮期血圧は10mmHg以上低下している。ARBやCa拮抗薬を用いても降圧目標を達成できず、あと10mmHg程度を下げたいケースに追加する薬剤として良いだろう。そして、最大の特徴の1つは、これまでのMR拮抗薬では禁忌であった中等度腎障害の患者にも使用できるようになっている点である。ただし、副作用である高カリウム血症には注意が必要であり、とくに腎機能が低下している患者では、注意を払いながら使用していくことが求められる。カリウム値のモニタリングを行うなどして、患者に合わせて投与量を調整しながら使用していくことが重要となってくる。今後の可能性ミネブロ錠は単独投与、併用投与どちらでも10mmHg以上の血圧低下効果を示している。今後は、あともう少し血圧を下げたい場合や、これまでMR拮抗薬を使いたいが使えなかった症例において、新しい選択肢の1つとなるのではないか。さらに、MR拮抗薬はアルドステロンの作用を阻害するため、腎臓や心臓などの臓器保護効果を示す可能性があり、ミネブロ錠は高血圧症以外の適応拡大を目指して、糖尿病性腎症患者を対象とした第III相臨床試験が進められている。

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新型タバコで急性好酸球性肺炎になった人【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第144回

新型タバコで急性好酸球性肺炎になった人いらすとやより使用急性好酸球性肺炎(AEP)といえば、初めて喫煙をした若い男性が起こす強いアレルギー性肺炎で、末梢血や気管支肺胞洗浄液中の好酸球比率は数十%に及びます。全身性ステロイド投与によって著明に改善するので、予後は極めて良いです。呼吸器内科医としては、「初めての喫煙」というキーワードで必ず鑑別に挙げなければならない疾患です。基本的には燃焼式の紙巻きたばこによって起こるのですが、電子タバコや加熱式タバコでも起こりうるという症例が報告されています。Thota D, et al.Case report of electronic cigarettes possibly associated with eosinophilic pneumonitis in a previously healthy active-duty sailor.J Emerg Med. 2014;47:15-17.1例目はこれまで既往歴のない水兵さんです。電子タバコを吸った直後にAEPになり、ステロイドと抗菌薬で治療されました。海外の電子タバコは、日本では基本的に輸入以外では用いられず、加熱式タバコとは別物です。海外では、リキッドタイプのものが主流です。Arter ZL, et al.Acute eosinophilic pneumonia following electronic cigarette use.Respir Med Case Rep. 2019;27:100825.2例目は、電子たばこを吸い始めて2ヵ月目に呼吸不全で救急搬送された18歳女性です。ICUに入室するほどひどい状態でしたが、ステロイド投与してわずか6日目に退院したそうです。Kamada T, et al.Acute eosinophilic pneumonia following heat-not-burn cigarette smoking.Respirol Case Rep. 2016;4:e00190.3例目は、加熱式タバコによって起こった急性好酸球性肺炎の日本の症例報告です。加熱式タバコ開始から6ヵ月後に急性好酸球性肺炎を起こし、入院しました。加熱式タバコによる急性好酸球性肺炎は、実はこの症例が世界初の報告とされています。内因性に急性好酸球性肺炎を起こしやすい患者さんが、たまたま偶発的に新型タバコを始めた後に同疾患を発症したのかどうかは、疫学的研究を立案しないことにはわかりません。ですが呼吸器内科医としては、紙巻きタバコを止められないときの代替案として新型タバコを提示したくはないですね。

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オンライン英会話再び【Dr. 中島の 新・徒然草】(283)

二百八十三の段 オンライン英会話再び昔、私がオンライン英会話で勉強をしていたこと(百三十三の段)、最近は女房が頑張っていることは以前に述べました(二百七十の段)。スカイプを使ってフィリピン人の講師に教えてもらうシステムですが、いつの間にか私はやらなくなっていました。ところが先月から、スマホを使って<CAMBLY>という別のオンライン英会話を始めました。こちらは講師が全員ネイティブというのがウリで、私の場合、1回の授業が15分です。実際にやってみると、確かに当たった講師は全員が英語圏出身の人たちでした。面白いのは、色々な国に住んでいる講師がいるということです。フィリピンに住んでいるカナダ人、トルコに住んでいるアメリカ人、ついには東京に住んでいるイギリス人まで登場しました。この先生は日本人女性と結婚し、7歳の娘さんがおられます。家では英語で、外では日本語で喋っているのだとか。今のところ特に固定した講師がいないので、毎回、自己紹介から始めています。中島「日本の大阪からです」講師「そいつはいい」中島「大阪を知ってますか?」講師「知ってるよ、行ったことないけど」大阪の知名度もまあまあってとこでしょうか。中島「職業は医師です」講師「すごーい」中島「専門は neurosurgery(脳神経外科)です」講師「Oh, OK」ちょっと引かれているような気が。講師「ちょっときいていいかな?」中島「ええ」講師「手術の対象は何になるわけ? 脊髄とか末梢神経とか脳とか」中島「脳ですね」講師「Oh, OK」脳ってのは、どこの国でも禁断の臓器なのかもしれません。講師「脳の手術って難しいんだろうね」中島「ええ、やはり自分が術者の時はプレッシャーがありますね」こういう簡単な表現が難しいのです。そもそも「プレッシャーがある」ってのは、何ていうのかな。講師「なんだって医者になったんだい」中島「高校の成績が良かったからですね」これまた出てきません。「高校の成績が良かった」って、どない言ったらエエねん。後で調べたら、"my grades were excellent in high school" という表現が見つかりました。でも、こんな英語で詰まっているようでは「成績が良かった」というのも全然説得力がありません。苦難は続きます。中島「医学部を受験してみようかなって言ったら、引っ込みがつかなくなって」この「引っ込みがつかない」というのも言われんがな。"I was backed into a corner." という表現を後で知りました。これは「要らんこと言って追いつめられてしまった」というニュアンスか?というわけで15分間、汗だくの英会話ですが、簡単な表現が難しい!ウンウン唸りながらその場をしのぎ、後でネットを調べます。「ホントはこう言ったら良かったのか」などと考え、今度は英作文に挑戦。外国人相手に流暢な英語を喋っている自分を頭に思い描いて、文字にするわけです。これを<IDIY>という英文添削サイトで直してもらうのですが、今度は冠詞や複数形がボロボロ。まあ、実際の会話では冠詞や複数形の間違いくらいは大目に見てもらえるでしょう。やはり、言いたい事がパッと英語で出てくるか否かの問題ですね。亀のようにノロノロと進む毎日ですが、とりあえず1ヵ月続けることを目標にしたいと思います。最後に1句汗だくで ウンウンうなる 英会話

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第2回 眼科の手技 その2【一般内科医が知っておきたい他科の基本処置】

第2回 眼科の手技今回の眼科編では、眼の異常所見“Red eye”の診断について学習します。日常診療で患者さんの眼に異常をみかけたら、簡単な診療をすると喜ばれますし、緑内障などの見落としてはいけない疾患の早期発見につながればさらに信頼度は高まります。ケース1では10歳女児の「眼の充血」からどのような手技、検査、視診が必要かを学びます。また、患者さんやその家族にできる療養指導やアドバイスなども網羅。ケース2では30歳男性の「眼のゴロゴロ感」からどのような疾患を想定するか、上眼瞼翻転の手技などを診断のポイントとともに学んでいきます。解説は石井 恵美氏(やくも診療所 院長)、監修はへき地・離島医療の助っ人ゲネプロ。【眼科編 2】症例から診る結膜の診断と処置

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万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 1

今回のキーワード自己正当化敵意バイアスポジティブバイアス抽象的思考の困難さ反社会的モデル格差罪悪感フリーライダーみなさんは、万引きを見かけたことはありますか? なぜ万引きするのでしょうか? 逆に、私たちはなぜ万引きしないのでしょうか? そもそもなぜ万引きは「ある」のでしょうか? 万引きは遺伝するのでしょうか? そして、万引きをしないためにはどうすれば良いでしょうか?これらの答えを探るために、今回は、映画「万引き家族」を取り上げます。「万引き」と「家族」というまったく相いれない2つのテーマが絡み合っており、後半にかけて私たちの心を激しく揺さぶります。万引き(窃盗)は、犯罪の検挙人員の割合としては2割程度で多くはないです。しかし、認知件数の割合は6割近くあります。認知されていない暗数を含めると、もっとあるでしょう。つまり、万引きは、犯罪の中で最も多いながら、実際に犯人が捕まることが最も少ないと言えます。この映画を通して、万引きを主とする犯罪(反社会的行動)を精神医学的、進化心理学的、そして行動遺伝学的に掘り下げます。そして、犯罪と遺伝の関係という「不都合な真実」を「なかったこと」にしたいという私たちの心理にあえて迫ります。その「真実」を踏まえてこその対策を一緒に考えてみましょう。なお、スリルを求める病的な万引き(クレプトマニア)や摂食障害に伴う万引き(盗食)については今回割愛します。家族にあるまじき3つの「万引き」とは?ストーリーの舞台は、平屋の古い一軒家。6人の家族が、貧しいながらも、冗談を言い合い、いつも笑いが絶えません。彼らなりに一生懸命に生きて、お互いを気遣っており、家族の温かさが描かれています。しかし、同時に、その家は、周りを高層マンションに囲まれており、今にも崩れそうで、社会から取り残された危うさも暗示されています。実は、彼らには、家族にあるまじき多くのスキャンダルがありました。これらを3つにわけて整理してみましょう。(1)家族が万引きして生計を立てている父親の治は、時々呼ばれるだけの日雇いの建築作業員です。資格も経験もなく、実際はほとんど働いていません。彼の「稼ぎ」は、スーパーや釣り道具屋などでの万引きと車上荒らしです。母親の信代は、クリーニング工場で、パートで働いていましたが、リストラされてからは無職です。それまでは、当たり前のようにクリーニングに出された衣類のポケットの中の金品をくすねていました。祖母の初枝は、月6万円近くの年金を得ています。これが、この家族の唯一の定収入です。初枝も、パチンコ店で、隣の客の玉をくすねたり、不倫した元夫と不倫相手との間にできた息子の家族の家に押しかけ、金品をたかっています。やがて、初枝は急死しますが、治と信代はその遺体を床下に埋めて、年金の「万引き」(不正受給)も始まります。1つ目のスキャンダルは、家族が万引きで生計を立てていることです。そして、家族全員が万引きで得たものを当たり前のように当てにしてます。(2)家族が子どもを「万引き」(誘拐)して育てている治は、近所で、寒い中、罰として外に出されている5歳のじゅりをかわいそうだからとの理由で、家に連れて帰ります。そして、信代は、じゅりの体中にあるやけどの痕を見て、かつての自分と同じく虐待されていることを確信し、帰さずに育てることを決意します。実は、すでにいる11歳の息子の祥太も、数年前に治が車上荒らしをした時に、パチンコ屋の駐車場の車に残されて熱中症になっていたところを、治が助け出し、連れ帰っていたのでした。2つ目のスキャンダルは、家族が子どもを「万引き」(誘拐)して育てていることです。治と信代の間には子どもはいません。積極的ではなかったにしても、治と信代は、祥太とじゅりを誘拐しています。また、治は、かつて初枝がパチンコ店で客の玉を盗んでいるのに気付いてから初枝と仲良くなり、信代とともに初枝の家に転がり込んだのでした。そして、信代と異母姉妹と自称していた亜紀も、実はもともとは家出少女で、初枝に誘われて家に居候するようになったのでした。つまり、この家の6人は、誰一人として血がつながっていないのでした。(3)家族が子どもの社会性を「万引き」(隔絶)している祥太とじゅりは、家の出入りを自由にしています。しかし、祥太は小学校に行っていません。じゅりも幼稚園や保育園に行っていません。ご近所付き合いもありません。もちろん、誘拐がばれてしまう恐れがあるからです。そのため、祥太とじゅりは、実質的にはこの家に閉じ込められていると言えます。その代わりに、治は、祥太に万引きの仕方を教えています。そして、2人の連携プレーで万引きを毎回成功させています。さらに、祥太がじゅりに万引きの仕方を教えるようになります。3つ目のスキャンダルは、家族が子どもの社会性を「万引き」(隔絶)していることです。子どもの教育を受ける権利や社会性を育む権利を奪うこと、そして万引きなどの犯罪(反社会的行動)を教えることは、虐待に当たります(教育ネグレクト、心理的虐待)また、亜紀は、風俗バイトをしています。このバイト自体は、反社会的行動とは言えないです。ただ、このバイトのことを聞いた初枝は、気にも止めずに受け止めています。本来は、自分の体を大切にできて、先行きが見える、より社会性のある仕事をしてほしいと願うのが親心のはずなのにです。「万引き家族」は「万引き」をどう思っているの? ―犯罪心理治、信代、初枝がしている万引き、誘拐、虐待などは、どれも犯罪(反社会的行動)として許されないことです。子どもたちが見ているなら、親としてなおさらです。一体、彼らは「万引き」(反社会的行動)をどう思っているのでしょうか? 彼らのセリフを通して、主に3つの犯罪心理(認知的バイアス)を掘り下げてみましょう。(1)自分は悪くない―自己正当化治は、万引きについて祥太に「お店に置いてあるものはまだ誰のものでもない」「店がつぶれなきゃいい」と説明しています。信代はクリーニング工場で「盗ったんじゃない、拾ったんだ」「忘れるやつが悪い」と思っています。また、信代は、誘拐について「違うよ。別に監禁も身代金も要求していないから」「(虐待していた親は)今頃せーせーしてるんじゃない?」と言っています。治も「保護してやったんだ」と開き直ってもいます。治は祥太に、学校に行かせない理由について「家で勉強できないやつが学校へ行くんだ」と言い聞かせています。1つ目の犯罪心理は、「万引き」する自分は悪くないと思うこと、つまり自己正当化です。これは、反社会的行動の理由付けをして自分は間違っていないと思い込むことです。そうすることで、罪悪感を抱きにくくなります(中和)。(2)相手が悪い―敵意バイアス信代は捕まった時、初枝の死体遺棄について女性刑事に「捨てたんじゃない。拾ったんです。誰かが捨てたのを拾ったんです。捨てた人ってのはほかにいるんじゃないですか?」と答え、暗に初枝を見捨てた息子夫婦のほうが悪いと言い張っています。また、信代は、じゅりを誘拐した理由についてその女性刑事に「憎かったのかもね。母親が」と答えます。2つ目の犯罪心理は、「万引き」される相手が悪いと思うこと、つまり敵意バイアスです。これは、うまくいかないことを相手の悪意によるものだと思い込むことです。そうすることで、自分の反社会的行動の責任を相手(社会)に押し付けることができます。(3)向こう見ず―ポジティブ・バイアス治は、じゅりをあっさり連れて帰ってから半年後に、じゅりが行方不明の事件になっているニュースを見て、「やばいな、やばいよな」と急にオロオロし始めます。大事になっていることを見て、自分の思い付きでしたことのまずさにようやく気付いたのでした。一方、信代は、じゅりを連れて歩く時に初枝から「こういうのはかえって大っぴらにしたほうが疑われないのよ」と言われて、同意します。さらに、信代は、同僚に誘拐がバレていることを知った後も、「大っぴら」にしています。「見つかったらその時はその時だ」「コソコソ生きるなんて性に合わない」という思いなのでした。3つ目の犯罪心理は、「万引き」に向こう見ずであること、つまりポジティブ・バイアスです。これは、後先をあまり考えずに、自分に都合が良くなると思い込むことです。そうすることで、反社会的行動の重大性やそれが明るみになる危険性に目をつむることができます。なぜ「万引き」するの?―犯罪の危険因子このように、「万引き」(反社会的行動)について、自分は悪くない、相手が悪い、向こう見ずという犯罪心理(認知的バイアス)が働いてることがわかりました。それでは、なぜそんな犯罪心理が働くのでしょうか? つまり、そもそもなぜ「万引き」するのでしょうか?治、信代、初枝を通して、犯罪の危険因子を主に3つ探ってみましょう。次のページへ >>

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万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 2

(1)やってはいけないことの意味がよく分からない-抽象的思考の困難さ治は、祥太から「『スイミー』って話、知ってる?」「『スイミー』ってね、小さい魚がみんなで大きなマグロをやっつける話なんだけど、何でやっつけるか知ってる?」と聞かれます。すると、「そりゃ、おまえ、マグロがおいしいからだろ」「最近、マグロ食ってねえからなあ」と話がすり替わり、両手を魚の口のように広げて、「ぐわー!おー!」と祥太を襲うマネをしています。治は、日常生活の具体的な話はできます。軽い冗談も言えます。しかし、小さい魚たちが協力して大きな魚に勝つ方法を想像できず、その方法について興味も持てません。「スイミー」のストーリーの意図や要旨が理解できず、理解したいとも思っていないようです。1つ目の犯罪の危険因子は、やってはいけないことの意味がよく分からない、つまり抽象的思考の困難さです。これは、相手の気持ちを探る洞察、自分の気持ちや行動を振り返る反省、先の見通しを立てる予測が困難になることです。つまり、相手の気持ちも自分の気持ちも将来もあまり読めず、その日暮らしで場当たり的に生きています。実際に、治は、仕事の能力が低いにしても、そもそも真面目にコツコツ働いて、経験を積んだり、貯金をしようとしません。お金があれば、すぐにパチンコにつぎ込みます。なお、お金がなければパチンコをやらないので、ギャンブル依存症というほどではないです。治は、「万引き」をはじめとするやってはいけないこと自体はわかっています。つまり、善悪の判断は表面的にはできます。しかし、「なぜやってはいけないのか?」「やったら相手はどう傷付くのか?」「バレたら自分の将来はどうなるのか?」についてはあまり深く考えることができていないです。つまり、やってはいけないことの意味がよくわかっていないと言えます。よって、あまり考えなく、手っ取り早く金品が手に入ってバレにくいから万引きをしていると言えます。バレてとがめられれば、その瞬間に罪悪感は抱きますが、次の瞬間にはけろっとしています。また、子育てとはこうあるべきという抽象的思考(規範意識)が働かないので、虐待をしているという認識すらないです。このように、抽象的思考の困難さによって、洞察、反省、予測ができないため、自分は悪くない、相手が悪い、向こう見ずという犯罪心理が働きやすくなると言えるでしょう。また、このワンシーンで、治は11歳の祥太よりも精神的に幼いことが判明します。祥太がもともと賢いことを差し引くと、治の精神年齢(知能)は、高学年の小学生から良くても中学生です。これはIQ(知能指数)に換算すると60~85程度で、治は軽度知的障害から知能境界域(境界知能)に当たります。ちなみに、健常の知能の目安は、IQ 85以上とされています。なお、ここで誤解がないようにしたいのは、知能が低いこと(知的障害)が、犯罪の主要な原因ではないことです。その理由は、知能が低ければ低いほど、日常生活を送るのにも援助が必要になるので、犯罪はできなくなるからです。つまり、犯罪の危険因子は、知能が、犯罪ができるレベル以上であり抽象的思考ができないレベル以下であると言えます。実際に、非行に走る少年たちの多くは、知能が境界域(IQ が70~85)であることが指摘されています。このように、知的レベルから考えると、非行は、高学年の小学生から中学生に多く、幼稚園児から低学年の小学生には少ないのも納得ができます。(2)やってはいけないことをする親がいた-反社会的モデルの存在じゅりが元の家に戻らないという態度を示したことで、信代は「選ばれたのかな…私たち」「でも、こうやって自分で選んだほうが強いんじゃない?」と初枝に語りかけます。「何が?」と聞かれた信代は、「キズナよ、キズナ」と照れながらも、うれしそうに答えます。「キズナ」に対して人一倍敏感なのは、信代自身が親から虐待されていた過去があったからでした。2つ目の犯罪の危険因子は、やってはいけないことをする親がいた、つまり反社会的モデルの存在です。これは、親が虐待をすることなどを通して、自分や相手を大切にすることを教えていないばかりか、自分や相手を大切にしないことを教えてしまっていることです。つまり、親が、相手を傷付けても良いという悪い見本になっています。これでは、やって良いことと悪いことの意味がはっきり伝わりません。実際に、信代は、捕まって取り調べの時、「(じゅりが元の家に)戻りたいって言ったんですか?」と戸惑いながら、刑事に尋ねます。さらに、じゅりに一度も「ママ」と言われていなかったことを刑事に指摘されて顔をしかめます。信代は、自分なりにじゅりを大切にしていると自認していました。しかし、それが独りよがりだったかもしれないということに初めて気付かされたのでした。ここで、じゅり自身も虐待のサバイバーとして、流されるままに信代に従っていただけだったこともわかります。また、信代は、ぐうたらな治の世話焼きをしょっちゅうしていますが、最後は、刑事に「自分が全部やりました」と言い、治の罪まで肩代わりしています。信代は、親から大切にされていなかった分、相手をどう大切にして良いか分からず、やり過ぎてしまうなどの独りよがりな面もあります(共依存)。さらに、信代は、祥太から万引きの善悪を聞かれた時、「父ちゃんは、何だって?」と質問を返して、はぐらかします。信代は、治よりも知的レベルが高い分、子どもに万引きを教えるという後ろめたさは多少なりとも抱いています。しかし、祥太を学校に行かせないことを含めて、治のやり方に流されています。このように、もともとの反社会的モデルの存在によって、周りに流されやすく、自分は悪くないという犯罪心理が働きやすくなると言えるでしょう。(3)やってはいけないことを刺激する社会がある-格差信代は、年下の大卒男性と結婚して寿退社した元同僚が職場の社長にあいさつに来ていたのを見て、「あいつ整形?」「辞める前にデリヘルやってたっしょ」と悪口を言い、隣の同僚となじります。「勝ち組」であるその元同僚がおもしろくないのでした。その後、信代なりに一生懸命に働いていたのに、時給が高い古株であることを理由に、リストラされます。さらに、仲の良かった同僚は、裏切りによりリストラを免れます。信代は、定職と友人を同時に失ったのでした。また、初枝が亜紀を居候させたのは、ある意図があったことが後に明らかになります。実は、亜紀は、初枝の元夫と不倫相手との間にできた息子の長女だったのです。それを知った上で、初枝は亜紀を家出するよう誘ったでした。亜紀は、自分なりに、親が自分よりも優秀な妹を大切にすることへの不満があったからです。しかし、亜紀は自分の家族と初枝との関係を知りません。亜紀の家族は、亜紀と初枝との関係を知りません。初枝にも元夫との間にできた息子がいましたが、その嫁とそりが合わず、別居してからは音信不通になっていたのでした。3つ目の犯罪の危険因子は、やってはいけないことを刺激する社会がある、つまり格差です。これは、同僚、友人、知人などの身近な周りの人たちと比べて、自分が経済的、人間関係的に恵まれていない不満を抱くことです(相対的剥奪)。簡単に言えば、お金とつながりの境遇において、報われない社会への恨みです。実際に、信代は、失業により同僚との経済的格差が生まれます。仲の良かった同僚に裏切られたことにも腹を立てます。治との間に子どもができなかったことについて、直接的な心理描写はないですが、誘拐を容認する心理を生み出しているでしょう。それは、目の前にいたじゅりへの純粋な愛しさではないです。それは、「お前(じゅりの母親)なんかにこの子を返してやるもんか」という、自分を虐げた自分のかつての母親への憎しみです。それをじゅりの母親に重ね合わせた復讐心でもあります。一方、初枝は、元夫の不倫、息子の親不孝から孤独に陥っていました。「治」と「信代」という実は本来の息子と嫁の名前を、治と信代に名乗らせていることも納得がいきます。さらに、初枝が亜紀を隠密に居候させているのは、自分の境遇に不満を持つ初枝なりの、元夫、不倫相手、息子夫婦への復讐なのでした。ちなみに、亜紀の風俗バイトでの源氏名は、妹の名前の「さやか」です。自分が妹の名を風俗店で名乗ることによって、妹をおとしめて仕返ししたいという心理がありそうです。このように、格差によって、社会への復讐心から、相手が悪いという犯罪心理が働きやすくなると言えるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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万引き家族(前編)【親が万引きするなら子どももするの?(犯罪心理)】Part 3

なぜ「万引き」しないの? ―社会脳祥太は、いつも万引きをする駄菓子屋にじゅりを連れていき、初めて万引きをさせます。その直後、駄菓子屋のおじいさんから呼び止められ、「これやる」とゼリー棒を2本渡されます。そして、「その代わり、妹にはさせるなよ」とたしなめられます。実は、おじいさんはすべてお見通しだったのです。この時初めて、祥太に罪悪感が芽生えます。初枝が亡くなった後、祥太は、治から「これ(初枝を床下に埋めること)は内緒だぞ。ばあちゃんは最初からいなかった。おれたちは5人家族だ」と告げられますが、納得がいきません。その後、治が初枝のへそくり9万円を探し出し、信代と飛び跳ねて大喜びする様子を目の当たりにしていら立ち、祥太は持っていたヘルメットを放り投げます。祥太は、後に児童相談所に保護された時、刑事から「あの人たち(治と信代)ねえ、私たちが家に着いた時、荷物まとめて逃げようとしてるところだったんだよ。あなたを置いて」「本当の家族だったらそういうことしないでしょ」と聞かされます。さらに、祥太は、児童養護施設に入って半年後、治に再会します。その別れ間際、祥太は治に「わざと捕まった」と伝えます。実際は、じゅりの万引きがばれそうになって、その身代わりになるために、わざと自分の万引きを店員たちに見せつけて、注意を引いて逃げて、結果的に捕まったのでした。それなのにです。この時、祥太は、治に決別を悟らせます。子どもが父親を見限る瞬間です。その直後、治は、祥太が乗り込んだバスを必死に追いかけます。まるで、テレビの世界名作劇場のワンシーンです。もはや、どちらが子どもか分からなくなります。そして、独りぼっちになったのは、祥太ではなく、治だったことに気付かされます。祥太は、治が「本当の家族」ではないと見限ったのでした。家族の温かみはまったく表面的であることに気付いたのでした。治は、祥太の将来を考えていません。ただ自分の寂しさを満たしたかっただけなのでした。治は、祥太の幸せよりも自分の幸せを優先していたのでした。ここで考えたいのは、祥太は、治と違って万引きをしなくなりました。なぜでしょうか? もっと言えば、私たちは、なぜ「万引き」(反社会的行動)をしないのでしょうか? その答えを進化心理学的に解き明かしてみましょう。数億年前の太古の昔から、自然界では、動物同士が獲物を奪う奪われるという取り合いの関係(競争)になるのはごく当たり前のことでした。しかし、数百万年前に誕生した私たち人類は、サバンナ(草原)で猛獣に襲われたり飢え死にしないために、家族(血縁)を中心とした村(社会)をつくり、助け合い(協力)の関係を築きました。そして、その社会の中でうまくやっていくためのさまざまな社会的感情を進化させました(社会脳)。その基盤になるのが信頼です。そして、社会に望ましい行動を促すのが誇りです。逆に、社会に望ましくない行動(反社会的行動)を抑えるのが、罪悪感です。つまり、私たちが犯罪をしない理由の答えは、「本当の家族」を中心とする社会に対して罪悪感を抱く社会脳を進化させたからであると言えるでしょう。なぜ「万引き」は「ある」の? ―犯罪の起源私たちが「万引き」(反社会的行動)をしない進化心理学的な理由がわかりました。それでは、そもそもなぜ「万引き」は「ある」のでしょうか? その答えを、もう一度、進化心理学的に考え、犯罪の起源に迫ってみましょう。私たち人類は、原始の時代に長らく、約150人程度の村人たちによる助け合い(協力)をする村を維持して、生存確率を高めました。そこは、限られた資源をわけ合う平等社会です。逆に言えば、私たちは、そもそも不平等(格差)であることを嫌います。しかし、そんな中、協力して得た資源を出し抜いて総横取りする種が現れました。助け合い(協力)よりも、取り合い(競争)の心理が上回った種です(フリーライダー)。フリーライダーとは、周りがお金を払って乗り物に乗っているのに、自分だけただで乗ろうとする種という意味です。なぜなら進化の本来の姿は競争だからです。私たち人類は、信頼による協力とだましによる競争の心理を器用に使いわけて、バランスを取りながら進化してきたのでした。つまり、私たちの心の中には、信頼の心と同時に、常に裏切りの心が潜んでいるわけです。ただし、裏切りの心は必ず出てくるわけではありません。また、裏切り者は増えません。その理由として、裏切りの心理は短期的には効率的であるというメリットはありますが、長期的には秩序のある社会から排除されるというデメリットのほうが大きくなるからです。原始の時代に排除されることは、すなわち死を意味します。原始の時代は常に飢餓と隣合わせであることを考え合わせると、飢餓や戦争などにより社会の秩序が不安定になり(アノミー)、不平等(格差)が広がった時にこそ、この社会への裏切りの心理が高まると言えるでしょう。これが、信代や初枝の復讐心の正体です。つまり、犯罪が「ある」という理由の答えは、不平等な社会に対しては裏切る「反社会脳」を進化させたからであると言えるでしょう。ちなみに、約5千年前に、文字が発明され、法が明記されるようになりました。それ以降、懲罰による犯罪の抑止や更生の考え方が、文化として根付いていったのです。なぜ「万引き」は「ある」の? ―犯罪の起源「万引き」(反社会的行動)の起源が進化心理学的にわかりました。それでは、「万引き」は遺伝するのでしょうか? その答えを、行動遺伝学的に考えてみましょう。双生児研究において、反社会的行動の一致率は二卵生双生児が50%程度であるのに対して、一卵生双生児は80%へと高率になることがわかっています。ここから、遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響の強さの相対的な比率が算出されます。なお、厳密には男女差、年齢差、研究機関の差がありますが、わかりやすくするために、青年期の平均男女のおおむねの数値として示します。<< 前のページへ

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