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認知症の評価に視覚活用、アイトラッキングシステムとは

 早期認知症発見のためのアイトラッキング技術を用いた「汎用タブレット型アイトラッキング式認知機能評価アプリ」の神経心理検査用プログラム『ミレボ』が2023年10月に日本で初めて医療機器製造販売承認を取得した。発売は24年春を予定している。この医療機器は日本抗加齢協会が主催する第1回ヘルスケアベンチャー大賞最終審査会(2019年開催)で大賞を取った武田 朱公氏(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学)の技術開発を基盤として同第5回大賞(10月27日開催)を受賞した高村 健太郎氏(株式会社アイ・ブレインサイエンス)らが産業化に成功したもの。 本稿では第5回ヘルスケアベンチャー大賞最終審査会での高村氏のプレゼンテーション、第3回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナーでの武田氏の講演内容を踏まえ、このプログラムの開発経緯や今後の展望について紐解いていく。アイトラッキング式認知機能評価アプリとは 認知症疑い患者に対し従来行われているMMSEや改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)といった認知機能検査では、患者の心理的負担(緊張、焦り、落胆、怒りなど自尊心を傷付け心理的ストレスを招きやすい)、医療者負担(時間的制約、専門スタッフの在籍)、検査者間変動(採点のバラツキ)が課題になっているが、近年、AIを活用した新たな認知症診断技術として、脳波、視線、表情、音声、体動などのデータをAIによって定量化することで鑑別診断や予後予測ができるまで研究が進んでいる。また、現代では認知症の危険因子のなかに回避可能なものが多く存在することが医学的にも解明したこと、アルツハイマー病の根本的治療法が臨床応用されつつあることから、早期認知症患者の早期発見・治療導入のためのスクリーニング方法に注目が集まっている。 そこで、高村・武田両氏らは現場での課題を解決するべく新たなスクリーニング法の開発に着目し、認知症領域に一筋の光をもたらした。それがアイトラッキング式認知機能評価アプリである。両氏によると、認知症検査には▽安価▽特殊な機器が不要▽短時間(3分以内)▽言語依存性が低いなどの条件が求められるが、本アプリは「目の動きを利用した『眺めるだけの認知機能検査』技術。使用方法は簡便で、患者は“画面に表示される質問に沿ってタブレット画面を3分間見るだけ”。データを自動的にスコア化し、定量的かつ検査者の知識や経験に依存せず客観的に評価することが可能であり、まさに『短時間・簡易・低コスト』を実現した製品」と高村氏は話した。 さらに、認知症は非専門医による診断も難しい点が臨床課題であったが、臨床的に認知症と診断された被験者およびそれ以外の被験者(認知機能健常者および軽度認知障害[MCI]が疑われる被験者含む)を対象に実施した臨床試験において、主要評価項目である本アプリによる検査スコアとMMSEの総合点において高い相関が認められた。加えて、副次評価項目である検査者に対する使用評価調査において検査者の負担軽減が確認されたことから、認知症を診断できる施設数の増加にも寄与できる可能性がある。このほか、本アプリは多言語対応も可能であることから、将来展望として認知症患者が増加傾向のアジア圏をはじめ、欧米にも日本発の技術を輸出・展開し世界進出を図る予定だという。“技術の産業化”を果たし、ヘルスケア産業・医療界に参入 なお、薬機法に規制されない一般向けアプリとして認知機能評価法『MIRUDAKE』による事業化も進めており、公的機関(高齢者の免許更新時の検査など)、検診サービス(住民健診など)、介護サービス事業(デイサービスでの重点見守りなど)への提供をスタートさせている。 第1回大賞受賞時の宿題であった“技術の産業化”を見事に果たした両氏。アイトラッキング技術をさらに応用して認知症のみならず、本アプリからの情報をAI解析することで高い精度でMCIの発見を行う、ADHDや大うつ病の検査補助、認知症の予防/治療を行うDTxの実用化などさらなるSaMD創出に意欲を示している。認知症領域の現状 国内65歳以上の5人に2人は認知症またはMCIと推算されている。世界規模では開発途上国(とくにアジア圏)での患者数が増加傾向で、2050年には認知症患者数は1億3,150万例になることが予想されている。今秋には国内でもレカネマブの承認が報道されたことで、物忘れ外来の受診患者が増えている病院もあるそうだが、外来での診察時間は1人あたり10~15分程度と限られ、認知機能検査に時間を割くことが厳しく、診断や治療へコストをかけることができないのが現状である。ヘルスケアベンチャー大賞とは アンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き社会課題の解決につなげていく試みとして、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げたもの。第5回の受賞者は以下のとおり。〇大賞株式会社アイ・ブレインサイエンス「認知症の早期診断を実現する医療機器の実用化」〇学会賞(企業)株式会社AutoPhagyGO 「健康寿命延伸を目指したオートファジー活性評価事業」〇ヘルスケアイノベーションチャレンジ賞(企業)エピクロノス株式会社「日本人に最適化されたエピゲノム年齢測定によるアンチエイジングの見える化」株式会社TrichoSeeds「男性型脱毛症治療のための毛髪の再生医療」株式会社プリメディカ「日本人腸内細菌叢データベースを活用した腸内環境評価システムの開発」〇アイデア賞(個人)市川 寛氏(同志社大学大学院)「超音波照射による酸化ストレス耐性誘導を介した老化関連疾患予防法の開発」楠 博氏(大阪歯科大学)「オーラルフレイルの新規診断法と治療薬の探索-医科からのアプローチ」

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食物アレルギーの小児患者へ安全・有効な経口免疫療法/国立成育医療研究センター

 小児の食物アレルギーの2大原因である卵と牛乳。この2つの食物が摂取できるようにさまざまな治療が行われている。国立成育医療研究センター アレルギーセンターの宮地 裕美子氏らの研究グループは、鶏卵もしくは牛乳の食物アレルギーがある子供(4~18歳)に対し、食物経口負荷試験の閾値をもとに5つの方法(A~E群)で経口免疫療法を行い、それぞれの方法の安全性と有効性について電子カルテデータを用いて分析した。 その結果、閾値の1/100量から開始、1/10量で維持する方法が従来の方法よりも2回目の食物経口負荷試験の閾値上昇人数の割合が高く、重篤なアレルギー症状であるアナフィラキシー症状が出現することなく、症状が出現しても軽微なものに限られているということがわかった。Clinical & Experimental Allergy誌2023年12月号からの報告。微量開始維持群ではアナフィラキシーがなかった 宮地氏らは、鶏卵もしくは牛乳の食物アレルギーがある小児患者(4~18歳未満)217例を対象に、同センターの外来を受診し、1回目の食物経口負荷試験を受けた後、食物経口負荷試験の閾値をもとに5つの方法(A群:超極微量開始維持法[開始量は閾値の1/10,000]、B群:極微量開始維持法[開始量は閾値の1/100]、C群:微量開始維持法[開始量は閾値の1/10]、D群:従来法[開始量は閾値に近い量]、E群:完全除去)で経口免疫療法を行い、経口免疫療法中のそれぞれの方法の安全性と有効性について電子カルテデータを用いて分析した。  主な結果は以下のとおり。・A~C群の微量開始維持群は、D群の従来法よりも有害事象を経験した人数の割合が有意に少なかった(A群24.2%、B群13.7%、C群29.4% vs.D群70.5%)。・微量開始維持群のほとんどの有害事象が口やのどのかゆみなど軽微な症状であり、アナフィラキシーは認められなかった。・D群の従来法では、アナフィラキシーを含むアレルギー症状が認められた。・B群の極微量開始維持法はD群の従来法よりも2回目の食物経口負荷試験の閾値上昇人数の割合が高かった(B群88.2% vs.D群56.8%)。・食物特異的IgE値が上昇した人数の割合は、B群の極微量開始維持法(93.8%)がE群の完全除去(61.1%)より多かった。 また、宮地氏は、本治療法の実施について「本研究の微量開始維持群でも軽微とはいえ経口免疫療法中に症状が出現している。この研究で行われた治療法をそのまま実臨床で行うのではなく、患者の症状や重症度、その他の合併症の症状などに合わせ、アレルギー診療を熟知した専門医が症状出現時の救急対応に万全を期したうえで、慎重に行われることが求められる」と注意喚起も述べている。

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食道切除術の術後感染予防、アンピシリン・スルバクタムvs.セファゾリン~日本の全国データ

 セファゾリン(CEZ)は食道切除術における感染予防として広く使用されている。一方、アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)は好気性および嫌気性の口腔内細菌をターゲットとしていることから、一部の病院で好んで使用されている。そこで、国際医療福祉大学の平野 佑樹氏らが、食道切除術の術後感染予防における短期アウトカムを2剤で比較したところ、ABPC/SBTがCEZより術後短期アウトカムを有意に改善することが示された。Annals of Surgery誌オンライン版2023年12月15日号に掲載。 2010年7月~2019年3月に食道がんで食道切除術を受けた患者のデータを日本全国の入院患者データベースから抽出した。潜在的交絡因子を調整し、CEZによる感染予防投与とABPC/SBTによる感染予防投与の短期アウトカム(手術部位感染、吻合部漏出、呼吸不全など)を比較するために、傾向スコアのオーバーラップ重み付けを行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者1万7,772例のうち、1万6,077例(90.5%)にCEZが、1,695例(9.5%)にABPC/SBTが投与された。・手術部位感染は2,971例(16.7%)、吻合部漏出は2,604例(14.7%)、呼吸不全は2,754例(15.5%)に発生した。・オーバーラップ重み付け後、ABPC/SBTは手術部位感染(オッズ比[OR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.43~0.60)、吻合部漏出(OR:0.51、95%CI:0.43~0.61)、呼吸不全(OR:0.66、95%CI:0.57~0.77)の減少と有意に関連していた。また、呼吸器合併症、術後在院日数、総入院費用の減少とも関連していた。・Clostridioides difficile腸炎および非感染性合併症の割合には差がなかった。

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18歳未満の家族性高コレステロール血症への診断アプローチは?/Lancet

 世界では毎年約45万例の子供が家族性高コレステロール血症を患って誕生しているが、家族性高コレステロール血症の成人患者のうち、現行の診断アプローチ(成人で観察される臨床的特徴に基づく)により18歳未満で診断されるのは2.1%にすぎないという。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKanika Inamdar Dharmayat氏らの研究グループ「European Atherosclerosis Society Familial Hypercholesterolaemia Studies Collaboration」らは、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体(HeFH)の小児・思春期患者の臨床的特性を明らかにする検討を行い、成人で観察される臨床的特徴が小児・思春期患者ではまれで、検出には低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)値測定と遺伝子検査に依存せざるを得ないことを明らかにした。しかし、世界の医療水準は画一ではないことを踏まえて、「遺伝子検査が利用できない場合は、生後数年間のLDL-C値測定の機会とその数値の使用率を高められれば、現在の有病率と検出率のギャップを縮めることができ、脂質低下薬の併用使用を増やして推奨されるLDL-C目標値を早期に達成できるようになるだろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年12月12日号掲載の報告。48ヵ国の55レジストリを基に、小児・思春期患者の特性を明らかに 研究グループは2015年10月1日~2021年1月31日に、Familial Hypercholesterolaemia Studies Collaboration(FHSC)レジストリに登録された、HeFHの臨床的または遺伝学的診断を受けた18歳未満の小児・思春期患者を対象に試験を行った。 データは、48ヵ国の55レジストリから収集され、自己申告による家族性高コレステロール血症歴、二次性高コレステロール血症疑いの診断症例は、レジストリから除外した。LDL-C値が13.0mmol/L以上で未治療の症例も除外した。 データは総合的に、またWHO地域、世界銀行による国の所得水準別分類、年齢、診断基準、インデックス・ケース(家族の中で最初に診断された患者)で層別化して評価した。 主要アウトカムは、家族性高コレステロール血症の小児・思春期患者について、現行の患者特性や管理の状況を評価することだった。高所得国と非高所得国で診断格差、脂質低下薬の非服用は72% FHSCレジストリの登録患者数6万3,093例で、そのうち18歳未満のHeFH患者1万1,848例(18.8%)を対象に試験を行った。 性別データが不明だった372例を除く1万1,476例中、女子が5,756例(50.2%)、男子が5,720例(49.8%)だった。登録時の年齢中央値は9.6歳(四分位範囲[IQR]:5.8~13.2)だった。また、遺伝子診断データまたは臨床診断データが得られなかった613例を除く1万1,235例中1万99例(89.9%)が家族性高コレステロール血症と最終的に遺伝子診断で確定診断を受けており、臨床診断による患者は1,136例(10.1%)だった。 遺伝子診断は、高所得国の小児・思春期患者が1万202例中9,427例(92.4%)と、非高所得国の415例中199例(48.0%)に比べ大幅に高率だった。インデックス・ケースは、1万804例のうち3,414例(31.6%)だった。 家族性高コレステロール血症関連の身体的徴候や心血管リスク因子、心血管疾患は全体としてはまれであり、非高所得国でより多く認められた。1万428例の患者のうち7,557例(72.4%)が脂質低下薬を服用しておらず、LDL-C中央値は5.00mmol/L(IQR:4.05~6.08)だった。 遺伝子診断に比べ、家族性高コレステロール血症の臨床基準に基づく診断は、成人向けに設定された基準を用いた場合には、より極端な表現型に依存するため、家族性高コレステロール血症の小児・思春期患者の50~75%が診断されない可能性があった。

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50~64歳へのインフルエンザワクチン、4価遺伝子組換えvs.標準用量/NEJM

 50~64歳の成人において、高用量の遺伝子組み換え4価インフルエンザワクチンは、鶏卵を用いた標準用量のワクチンに比べ、PCR検査で確認されたインフルエンザに対する防御効果が高いことが示された。米国・カイザーパーマネンテ・ワクチン研究センターのAmber Hsiao氏らが、163万例超を対象としたクラスター無作為化観察試験の結果を報告した。遺伝子組み換え4価インフルエンザワクチンには鶏卵を用いた標準用量のワクチンの3倍量のヘマグルチニン蛋白が含まれており、遺伝子組み換え製剤は製造過程の抗原ドリフトに影響を受けにくい。65歳未満の成人におけるインフルエンザ関連アウトカムについて、遺伝子組み換えワクチンを標準用量のワクチンと比較した相対的有効性に関するデータが求められていた。NEJM誌2023年12月14日号掲載の報告。2018~19年、2019~20年のインフルエンザシーズンに試験 研究グループは、カイザーパーマネンテ・北カリフォルニアの傘下である施設を通じ、2018~19年と2019~20年のインフルエンザシーズン中に、高用量の遺伝子組み換えインフルエンザワクチン(商品名:Flublok Quadrivalent)、または標準用量インフルエンザワクチン(2種類中1種類)を、50~64歳の成人(主要年齢群)および18~49歳の成人に接種した。各施設は施設の規模で同等になるよう遺伝子組み換えワクチンから開始、標準用量ワクチンから開始のいずれかに無作為化され、2つのワクチン投与は各施設で1週間ごとに入れ替えた。 主要アウトカムは、PCR検査で確認されたインフルエンザ(AまたはB)だった。副次アウトカムは、インフルエンザA、インフルエンザB、インフルエンザ関連入院アウトカムとした。 Cox回帰分析を用いて、各アウトカムについて標準用量ワクチンと比較した遺伝子組み換えワクチンのハザード比(HR)を推定した。相対的なワクチン有効率は、1-HRで算出した。遺伝子組み換えワクチンの有意な防御効果を確認、ただし入院については同等 試験対象集団に包含されたのは、18~64歳のワクチン接種者163万328例であった。そのうち遺伝子組み換えワクチン群は63万2,962例、標準用量群は99万7,366例だった。 試験期間中にPCRで確認されたインフルエンザ症例は、遺伝子組み換えワクチン群1,386例、標準用量群2,435例だった。 50~64歳の参加者でインフルエンザ陽性が認められたのは、遺伝子組み換えワクチン群559例(2.00例/1,000例)、標準用量群925例(2.34例/1,000例)(相対的ワクチン有効率:15.3%、95%信頼区間[CI]:5.9~23.8、p=0.002)。同年齢群において、インフルエンザAに対する相対的ワクチン有効率は15.7%(95%CI:6.0~24.5、p=0.002)だった。 インフルエンザ関連入院に対する遺伝子組み換えワクチンの防御効果について、標準用量ワクチンと比べて有意差は認められなかった(相対的有効率15.9%、95%CI:-9.2~35.2、p=0.19)。

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Hybrid closed loop(HCL)療法は1型糖尿病合併妊娠においても有効である(解説:住谷哲氏)

 CGMが一般的になってTIR time in rangeも日頃の臨床でしばしば口にするようになってきた。TIRは普通70 -180mg/dLが目標血糖値とされているが、より厳格な血糖管理が要求される妊婦の場合は、これが63-140mg/dLに設定されている1)。1型糖尿病患者におけるHCL療法の有用性はほぼ確立されているが、1型糖尿病合併妊娠患者におけるエビデンスは、これまで存在しなかった。本試験によって、ようやくエビデンスがもたらされたことになる。 HCLシステムはCGM、インスリンポンプおよびそれを統合管理するアルゴリズムから構成される。本試験で用いられたのは、CGMがDexcomの Dexcom G6 (リアルタイムCGM)、インスリンポンプがSooilのDana Diabecare RS、そしてアルゴリズムがCamDiabのCamAPS(Cambridge Artificial Pancreas System) FX (version 0.3.71)、スマートフォンがSamsungのGalaxy S8-12(または本人希望の機種)が用いられた。従来治療群のほぼ全例がCGMを併用しており、さらに約半数がインスリンポンプ使用患者であった。目標血糖値は従来治療群で食前血糖値63-130mg/dL、食後1時間値140mg/dLとされた。一方、HCL群では目標血糖値は妊娠初期では100mg/dL、妊娠16週から20週では81-90mg/dL、それ以降分娩までは81mg/dLに設定された。 主要評価項目である目標血糖値63-130mg/dLの達成時間の割合の差である10.5%(約2.5時間に相当する)が臨床的にどれほどのインパクトを持つのだろうか? 先行する観察研究の結果からは、5%の差が母児の有害事象の減少と相関することが示されており2)、本研究で得られた10%の差が臨床的に意義のある可能性は高い。厳密には臨床的アウトカムをエンドポイントにしたRCTが必要であるが、膨大な時間と費用がかかることから実施される可能性は低いと思われる。 現在では、すべての1型糖尿病患者に対してHCLを推奨する流れになっている。より厳格な血糖管理が必要とされる1型糖尿病合併妊婦にとっても同様である。エビデンスとテクノロジーは十分にそろったといえる。

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フレイルを考える【Dr. 中島の 新・徒然草】(508)

五百八の段 フレイルを考える急に風が冷たくなりました。外は人が歩いていないし、道路の脇の木は坊主だし。すっかり年末年始の風景になってしまいました。さて、先日に当院であったのが「おおさか健康セミナー」という市民講座です。テーマはフレイルで、その最初に私がしゃべることになっていました。担当の師長さんに言われて仰天したのですが、実は半年前に依頼されていたのです。でも、そんな昔のことは忘れていますよね、普通は。「フレイルのことなんて何も知らないのに、よくも安請け合いしたもんだ」と半年前の自分に呆れてしまいます。が、引き受けた以上、市民の皆さんに有難いお話をするしかありません。というわけでまずは勉強です。その結果、自分なりの結論に達しました。フレイルというのは、いわゆる「生老病死」という四苦のうちの「老」ではないかということです。これまで、われわれ医師はもっぱら「病」を相手にしてきました。でも、いつのまにか「病」だけでなく「老」も相手にすることになったのではないでしょうか。「病」と「老」は似ているので、なかなか区別が付きません。でも、例を挙げるとわかりやすい気がします。つまり、病脳梗塞、心筋梗塞、透析、喘息、がん、リウマチ、肺炎など老腰が痛い、目が見えにくい、おしっこが近い、眠れない、耳が遠い、ふらつく、物忘れするといったところでしょうか。「老」で挙げた症状はすべて「年のせいだよ!」で片付けられそうですね。でも、われわれ医師も、これらの症状に真面目に取り組む時代になったといえましょう。おおさか健康セミナーでは、管理栄養士さんや理学療法士さんの講演もありました。フレイル予防のための栄養や運動は彼らに任せるとなると、私の話は物忘れ対策が中心になります。私自身も物忘れが気になる年齢なので、自分自身の工夫を伝授しました。カメラ機能や録音機能を利用して、忘れそうなことはスマホに記憶させておく。なるべく物を捨てて、シンプル・ライフを心掛ける。年を取っても新しいことを勉強する。などですね。講演後の質疑応答では「認知症を予防する生活習慣はどうすればいいですか」という直球が来ました。中島「まずは喫煙をやめ、飲酒をほどほどにしましょう」聴衆「そんなことは当たり前やないか!」さすが、大阪の高齢者は元気ですね。中島「わかっておられるのであれば、あとは実行あるのみですよ」さらに付け加えました。認知症というは、多かれ少なかれ、血管性の要素があるのではないかと私は思っているからです。中島「血圧や血糖、コレステロールに注意して、動脈硬化を予防しましょう」当たり前のことの羅列なのですが、皆さん感心して聴いておられます。中島「歩くというのは血圧にも血糖にも効果があります」そして私が最も言いたいこと。中島「薬の副作用で物忘れが出ることがありますからね。ご自分の服用している薬の効果と副作用を必ずチェックしておきましょう」これができている人が少ないですね。後発品全盛の昨今、コロコロ変わる薬品名を覚えるのすら至難の業なのかもしれません。ということで、盛況だったおおさか健康セミナー。管理栄養士さんや理学療法士さんの話を聴くことによって、自らも勉強になった1日でした。最後に1句フレイルに 歩いて打ち勝つ 冬日向

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専門用語の発音に慣れよう【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第29回

専門用語の発音に慣れよう1)YouTubeなどのリソースを活用する2)「YouGlish」で専門用語の発音を確認する3)Podcastで専門用語に慣れておく英語での学会発表や質疑応答をスムーズに行うためには、専門用語の英語に慣れ親しんでおく必要があります。日本で仕事をしていると慣れるのは難しいと感じるかもしれませんが、今ではYoutubeなどにレクチャーや教育的な動画が数多くアップロードされているため、日本にいても学ぶチャンスは十分あるといえます。YouTubeを活用する場合に知っておきたいのは、特定のワードが含まれた動画を無料で検索できる、「YouGlish」というウェブサイトです。発音が難しい専門用語の発音を確認するだけでなく、どういう文脈でその単語が使われているかを確認したり、関連する背景知識を収集したりするためにも役立ちます。使い方ですが、ウェブサイトにアクセスし、検索窓に検索したい単語を入力します〈図1〉。たとえば、“paracentesis”(腹水穿刺)と入力してみましょう。検索する際、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど好みの英語のなまりを選ぶこともできますが、とくにこだわりがなければ「All」を選択します。〈図1〉画像を拡大する検索すると、“paracentesis”を含む動画が字幕付きで表示され、単語が使われている少し前の場面から再生されます。再生するスピードは細かく調整できるため、発音を確認したい場合は遅めに設定します。なお、再生される動画の周辺部分を見ることで、“ascites”(腹水)や“catheter”(カテーテル)といった、関連する単語の発音も併せて確認することができます。〈図2〉画像を拡大する専門用語以外にも、自分がプレゼンで使ってみたいけれどなじみのないフレーズを検索すると、実際にどういう文脈やトーンで使用されているのかがわかります。また、いわゆるネットラジオである「Podcast」も専門用語の学習に有効です。スマホアプリで簡単に利用ができ、好きな番組を登録しておくことで手軽に情報収集を行えます。Podcastは日本ではあまり一般的ではないかもしれませんが、米国では医療分野のPodcastがかなり発達しており、ジャンルも幅広く、医療者のリスナーも多くいます。例として、内科医にお勧めのPodcastを〈図3〉にまとめています。〈図3〉「New England Journal of Medicine」のような有名雑誌は、その週に出版された論文のサマリーを流すPodcastを用意している場合が多くあります。「The Curbsiders」は各内科疾患の専門家が登場し、低ナトリウム血症や肺炎といったトピックについてレクチャーしてくれます。また、「The Clinical Problem Solvers」は米国の医学生や研修医が症例プレゼンを行い、指導医と一緒に臨床推論をしていくという番組で、臨床留学を目指す人にはプレゼンの練習に役立つでしょう。ほかにも、外科や産婦人科など、学会が運営している各専門分野のPodcastがたくさんあるので、通勤途中などに習慣的に聴くようにすれば、自身の分野の専門用語にも慣れることができ、学会発表もスムーズに行えるようになるはずです。講師紹介

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第76回 海外で新型コロナJN.1が急増

もう来ないでほしい「波」Unsplashより使用日本で現在流行している新型コロナはオミクロン株のEG.5系統(通称エリス)であり、全体の6~7割くらいがこれです。現在インフルエンザの流行で陰に隠れていますが、水面下で感染が広がりつつあるのではないかという見解が増えてきました。懸念されるのは、諸外国で急激に増えているJN.1です(図)。画像を拡大する図. 世界の新型コロナウイルス変異株流行状況GISAIDに登録された各国からのゲノムデータ報告数と国別流行株(10月30日~11月30日)1)諸外国の感染状況アメリカでは12月中旬で1日約3万人の感染者数が報告されており、入院患者数もじわじわと増えてきている状況です。オミクロン株の変異株であるBA.2.86(通称ピロラ)が台頭していますが、ピロラからさらに派生したJN.1(BA.2.86.1.1)が急速に増えています。一応これもピロラの仲間になるわけですが、ややこしいのでJN.1と呼びます。たとえばオランダでは、現在JN.1が最も流行していますが、下水の新型コロナウイルス量が過去最高を記録しており、感染が相当広がっていることがわかります。そのほか、フランスやイタリアにおいても、JN.1が優勢になった直後に急激な入院増加が観察されています。イタリアはこの1年で最多水準の新型コロナ患者数を記録しています。JN.1は、感染性や免疫逃避能がこれまでの変異ウイルスの中で最も強力であることがわかっています(当然といえば当然なのですが)2)。肺炎が多くないのはこれまでのオミクロン株と同様ですが、数が多いと医療逼迫の懸念が生じます。日本もこの波に飲み込まれるのではないかと考えられます。実際、すぐ近くのシンガポールでは呼吸器系の入院のほとんどがJN.1で占められている状況で、マレーシアでも感染者数が倍増しています。ゆえに、同じ島国である日本が、EG.5系統の流行のみでこの冬を乗り切る可能性は低いと考えられます。JN.1は、XBB.1.5やEG.5系統の感染で成立した免疫や、XBB.1.5ワクチンによる免疫を逃避しやすいことから3)、しばらく人類は、このいたちごっこを続けないといけないのかもしれません。ごく軽症であればもう騒がなくてよいのですが、これまでと同じメカニズムで医療逼迫が起こるなら、インフルエンザと同じように警戒し続ける必要があります。参考文献・参考サイト1)東京都健康安全研究センター:世界の新型コロナウイルス変異株流行状況2)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. bioRxiv preprint. 2023 Dec 9. 3)※WHOはXBB.1.5対応ワクチンでJN.1に対しても接種効果ありとコメントしているWHO:Initial Risk Evaluation of JN.1, 19 December 2023

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腎機能を考慮して帯状疱疹治療のリスク最小化を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第56回

 帯状疱疹治療はアメナメビルの登場により大きく変わりました。しかし、すべての患者さんがアメナメビル1択でよいわけではありません。既存の治療薬であっても腎機能を適切に評価することで安全に治療を行うことができます。ただし、過剰投与によるアシクロビル脳症や急性腎障害は重篤な副作用であることから、薬剤師のチェックが非常に重要です。患者情報75歳、女性(施設入居)体重40kg基礎疾患高血圧症、大動脈弁狭窄症、慢性心不全帯状疱疹ワクチン接種歴なし主訴腰部の疼痛と掻痒感直近の採血結果血清クレアチニン 0.75mg/dL処方内容1.バラシクロビル錠500mg 6錠 分3 毎食後 7日分2.ロキソプロフェン錠60mg 疼痛時 1回1錠 5回分3.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後4.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後5.カルベジロール錠10mg 1錠 分1 朝食後6.ダパグリフロジン錠10mg 1錠 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは慢性心不全を基礎疾患として、循環器系疾患の併用薬が複数あります。今回、帯状疱疹と診断され、バラシクロビルとロキソプロフェンが追加となりました。しかし、この患者さんは低体重であり、かつ腎機能が低下(CG式よりCcrを算出したところ推算CCr40.9mL/min)していることから、腎排泄型薬剤の投与量の補正が必要と考えました。表1 バラシクロビル添付文書画像を拡大する現在のバラシクロビルの処方量では、代謝産物の9-carboxymethoxymethylguanine(CMMG)の蓄積による精神神経系(アシクロビル脳症)の副作用の発症リスクが高くなる可能性があります1)。利尿薬を併用していることから、腎機能増悪の懸念もありました。さらに、疼痛コントロールで処方されているロキソプロフェンも腎機能の増悪につながるので、できる限り腎機能への負担を軽減した治療薬へ変更する必要があると考え、処方提案することにしました。処方提案と経過医師に電話で疑義照会を行いました。腎機能に合わせたバラシクロビルの推奨投与量は1,000mg/回を12時間ごとの投与であり、現在の処方量(1,000mg/回を毎食後)では排泄遅延によるアシクロビル脳症や腎機能障害が懸念されることを説明しました。また、ロキソプロフェンは腎機能に影響が少ないアセトアミノフェンへの変更についても提案しました。医師より、肝代謝のアメナメビル200mg 2錠 夕食後に変更するのはどうかと聞かれました。治療薬価(表2)に差があるため、今度は費用対効果の問題が生じることを伝えたところ、バラシクロビル1,000mg/回を12時間ごとに変更するという指示がありました。また、ロキソプロフェンはアセトアミノフェン300mgを疼痛時に2錠服用するように変更すると返答がありました。その後、発症4日目に電話でフォローアップしたところ、腰部の疼痛および掻痒感は改善していて、その後も意識障害や精神症状の出現はなく経過しています。表2 治療薬価(著者作成、2023年12月時点)画像を拡大する1)筒井美緒ほか. 2006. 富山大学医学会誌;17:33-36.

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携帯電話依存症と先延ばし癖の関係~メタ解析

 携帯電話依存症は、学生の先延ばし癖に影響を及ぼす重要な因子として、広く研究されている。しかし、携帯電話依存症と先延ばし癖との相関関係とその影響力は、依然として明らかになっていない。中国・上海大学のXiang Zhou氏らは、学生の携帯電話依存症と先延ばし癖との関係、参加者の個人的特性(教育レベル、性別)、測定ツール、社会的状況要因(出版年、文化)の緩和効果を調査するため、メタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌2024年2月号の報告。 PubMed、Web of Science、Embase、PsycINFO、China National Knowledge Infrastructure(CNKI)、Wanfang、Weipuよりシステマティックに検索し、適格基準を満たす研究を収集した。メタ解析には、CMA3.0ソフトウェアを用い、緩和効果のテストには、分散メタ解析(ANOVA)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・75件の研究、4万8,031例をメタ解析に含めた。・変量効果モデルの総合エフェクトサイズでは、学生における携帯電話依存症と先延ばし癖との有意な正の相関が認められた(r=0.376、95%信頼区間:0.345~0.406)。・教育レベル、性別、文化、携帯電話依存症の測定ツールは、携帯電話依存症と先延ばし癖との関係を有意に緩和した。・この関係は、出版年や先延ばし癖の測定ツールでは緩和されなかった。 著者らは「携帯電話依存症は、学生の先延ばし癖と正の相関がある」とし、「学生では携帯電話依存症の発生率が高く、先延ばし癖の潜在的なリスク因子であることを考慮すると、学生の先延ばし癖を予防するために、携帯電話依存症の特定および介入に注意を払う必要がある」としている。

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遺伝子パネル検査、エキスパートパネルへの教育で推奨治療の精度向上/国立がん研究センターほか

 2019年にがん遺伝子パネル検査が保険適用となり、2023年8月までに6万例を超えるがん患者が本検査を受けている。しかし、検査結果に基づく次治療へ到達できる患者の割合は10%未満とされている。また、治験などの研究段階の治療の最新情報を把握することは難しく、各エキスパートパネルの推奨治療にばらつきがあることも報告されている。そこで、国立がん研究センター中央病院・東病院と日本臨床腫瘍学会は、がんゲノム医療拠点病院27施設のエキスパートパネル構成員に対し、エビデンスレベルが低く最新情報の把握が難しい治療に関する情報を共有する教育プログラムを実施した。教育プログラムの前後における、がんゲノム医療拠点病院のエキスパートパネルの推奨治療を評価した結果、教育プログラムによってエキスパートパネルの推奨治療の精度が向上することが明らかになった。また、探索的に実施したAIによる推奨治療の精度検証では、とくにエビデンスレベルの低い治療に関する情報において、AIはがんゲノム医療拠点病院のエキスパートパネルよりも精度が高かった。本研究結果は、国立がん研究センター中央病院の角南 久仁子氏らによって、JAMA Oncology誌オンライン版11月30日号で報告された。 模擬症例50例をA群25例とB群25例に分け、以下の流れで研究を実施した。(1)参加者による教育プログラム実施前にA群25例に対する推奨治療を作成(2)教育プログラム参加(3)参加者による教育プログラム実施後にB群25例に対する推奨治療を作成 推奨治療の精度検証については、模擬症例に対する推奨治療の模範解答(がんゲノム医療中核拠点病院12施設のエキスパートパネル代表者の合意に基づく推奨治療)との一致率(正答率)で評価した。 主な結果は以下のとおり。・教育プログラム実施前後における、がんゲノム医療拠点病院のエキスパートパネルの正答率は、58.7%から67.9%へ有意に上昇した(オッズ比:1.40、95%信頼区間:1.06~1.86)。・AIを用いた診断支援プログラムは、教育プログラム実施前後で評価可能であった1 社について評価した。教育プログラム実施前後における正答率は、それぞれ80%、88%と高かった。・教育プログラム実施後における、エビデンスレベルが低い治療の正答率は、がんゲノム医療拠点病院のエキスパートパネルが49.1%であったのに対し、AIは81.3%と有意に高かった(p=0.022)。 本研究結果について、研究グループは「本研究の結果、実臨床においてもこの教育プログラムを実施することで、エキスパートパネルがより適切な推奨治療を挙げることができるようになり、遺伝子異常に合致した推奨治療への到達割合の向上につながることが期待される。また、将来的にAIがエキスパートパネルの代替となりうることも示唆される」とまとめた。

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身体活動と閉経前の乳がんリスクの関連、19研究のプール解析/JCO

 余暇の身体活動が閉経「後」の乳がんリスクを予防するという強いエビデンスはあるが、閉経「前」の乳がんリスクとの関連は明らかではない。今回、英国・The Institute of Cancer ResearchのIain R. Timmins氏らが19のコホート研究を含む大規模なプール解析を実施した結果、身体活動レベルが高いと閉経前乳がんリスクが低いことが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年12月11日号に掲載。 本研究では、閉経前女性54万7,601人、乳がん患者1万231例を含む、19のコホート研究の自己申告による余暇の身体活動の個々人のデータを統合した。多変量Cox回帰モデルを用いて、余暇の身体活動と乳がん発症率の関連におけるハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値11.5年(四分位範囲:8.0~16.1)において、余暇の身体活動が低レベルに対する高レベルの人の乳がんリスクは、BMIの調整前で6%(HR:0.94、95%CI:0.89~0.99)、調整後で10%(HR:0.90、95%CI:0.85~0.95)低かった。・非線形性の検定は、ほぼ直線的な関係を示した(非線形のp=0.94)。・逆相関はHER2-enrichedの乳がんにおいてとくに強かった(HR:0.57、95%CI:0.39~0.84)。

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尋常性ざ瘡へのisotretinoin、自殺・精神疾患リスクと関連せず

 isotretinoinは、海外では重症の尋常性ざ瘡(にきび)に対して用いられており、本邦では未承認であるが自由診療での処方やインターネット販売で入手が可能である。isotretinoinは、尋常性ざ瘡に対する有効性が示されている一方、自殺やうつ病などさまざまな精神疾患との関連が報告されている。しかし、isotretinoinと精神疾患の関連について、文献によって相反する結果が報告されており、議論の的となっている。そこで、シンガポール国立大学のNicole Kye Wen Tan氏らは、両者の関連を明らかにすることを目的として、システマティック・レビューおよびメタ解析を実施した。その結果、住民レベルではisotretinoin使用と自殺などとの関連はみられず、治療2~4年時点の自殺企図のリスクを低下させる可能性が示された。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年11月29日号掲載の報告。 2023年1月24日までにPubMed、Embase、Web of Science、Scopusに登録された文献を検索し、isotretinoin使用者における自殺および精神疾患の絶対リスク、相対リスク、リスク因子を報告している無作為化試験および観察研究に関する文献を抽出した。関連データを逆分散加重メタ解析法により統合し、バイアスリスクはNewcastle-Ottawa Scaleを用いて評価した。メタ回帰分析を行い、不均一性はI2統計量で評価した。 主要アウトカムは、isotretinoin使用者における自殺および精神疾患の絶対リスク(%)、相対リスク(リスク比[RR])、リスク因子であった。 主な結果は以下のとおり。・システマティック・レビューにより、合計25研究(162万5,891例)が特定され、そのうち24研究がメタ解析に含まれた。・全25件が観察研究で、内訳は前向きコホート研究10件、後ろ向きコホート研究13件、ケースクロスオーバー研究1件、ケースコントロール研究1件であった。各研究の対象患者の平均年齢の範囲は16~38歳、男性の割合は0~100%であった。・1年絶対リスクは、自殺既遂0.07%(95%信頼区間[CI]:0.02~0.31、I2=91%、対象:7研究8コホートの78万6,498例)、自殺企図0.14%(同:0.04~0.49、I2=99%、7研究88万5,925例)、自殺念慮0.47%(同:0.07~3.12、I2=100%、5研究52万773例)、自傷行為0.35%(同:0.29~0.42、I2=0%、2研究3万2,805例)であったのに対し、うつ病は3.83%(同:2.45~5.93、I2=77%、11研究8万485例)であった。・isotretinoin使用者は、非使用者と比べて自殺企図のリスクが、治療2年時点(RR:0.92、95%CI:0.84~1.00、I2=0%)、3年時点(同:0.86、0.77~0.95、I2=0%)、4年時点(同:0.85、0.72~1.00、I2=23%)のいずれにおいても低い傾向がみられた(いずれも対象は2研究44万9,570例)。・isotretinoin使用と全精神疾患との関連はみられなかった(RR:1.08、95%CI:0.99~1.19、I2=0%、対象:4研究5万9,247例)。・試験レベルのメタ回帰分析において、高齢であるほどうつ病の1年絶対リスクが低い傾向にあった。一方、男性は自殺既遂の1年絶対リスクが高い傾向にあった。 著者は、「今回の所見は心強いものだが、引き続き臨床医は統合的な精神皮膚科ケア(holistic psychodermatologic care)を実践し、isotretinoin治療中に精神的ストレスの徴候がみられないか観察する必要がある」とまとめている。

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重症好酸球性喘息、ベンラリズマブでコントロール良好ならICSは削減可/Lancet

 ベンラリズマブでコントロール良好な重症好酸球性喘息患者では、毎日投与の吸入コルチコステロイド(ICS)を大幅に削減可能であることが、英国・キングス・カレッジ・ロンドンのDavid J. Jackson氏らによる、第IV相の多施設共同無作為化非盲検実薬対照試験「SHAMAL試験」の結果で示された。重症好酸球性喘息では、高用量のICSへの反応が不十分にもかかわらず、ICSの段階的強化がルーティンに行われている。生物学的製剤への反応が良好な患者では、ICSの用量低減が推奨されているが、これまで安全性を裏付けるエビデンスがほとんどなかった。Lancet誌オンライン版2023年12月7日号掲載の報告。ICS/ホルモテロールの漸減vs.維持を評価 SHAMAL試験は4ヵ国22施設で行われ、適格患者は、重症好酸球性喘息で5項目喘息コントロール質問票(ACQ-5)のスコアが1.5未満、スクリーニング前にベンラリズマブの投与を3回以上受けていた18歳以上の患者であった。 研究グループは患者を、低減群と参照群に3対1の割合で無作為化した。低減群は、ベンラリズマブ30mgを8週に1回+ICS/ホルモテロールのMART療法について、中用量の維持投与([ICS 200μg+ホルモテロール6μgの2噴霧を1日2回]+頓用[ICS 200μg+ホルモテロール6μg])で開始したものを、低用量の維持投与(ICS/ホルモテロールの1噴霧を1日2回+頓用)、さらに発作時のみICS/ホルモテロール投与の頓用へと漸減した。参照群は、ベンラリズマブ30mgを8週に1回+高用量ICS/ホルモテロール(1噴霧でブデソニド400μg+ホルモテロール12μg)2噴霧1日2回+サルブタモールの発作時頓用が維持投与された。漸減期間は32週間で、その後16週間を維持期間とした。 主要エンドポイントは、32週時点までにICS/ホルモテロール用量が低減した患者の割合であった。主要アウトカムは、低減群で評価し、安全性解析は、試験治療群に無作為化された全患者を対象に評価した。32週時点で漸減群の92%が低減を達成、61%が頓用のみに 2019年11月12日~2023年2月16日に、208例がスクリーニングを受けrun-in periodに登録。このうち168例(81%)が、低減群(125例[74%])と参照群(43例[26%])に無作為化された。 全体で、110例(92%)が、ICS/ホルモテロール用量を低減した。そのうち中用量への低減までが18例(15%)、低用量への低減が20例(17%)で、72例(61%)が頓用のみへ低減した。 患者113例(96%)において、48週まで低減は継続した。低減群の114例(91%)は、漸減期間中に増悪の報告はされなかった。 有害事象の発生頻度は両群で同程度であり、低減群91例(73%)、参照群35例(83%)であった。重篤な有害事象は17例報告され、低減群12例(10%)、参照群5例(12%)であった。死亡は報告されなかった。

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mRNAベースのRSVワクチン、高齢者への有用性を確認/NEJM

 mRNAベースのRSウイルス(RSV)ワクチン「mRNA-1345」について、60歳以上の高齢者への単回接種はプラセボとの比較において、明白な安全性の懸念が生じることなく、RSV関連下気道疾患およびRSV関連急性呼吸器疾患の発生率を低下したことが示された。米国・ModernaのEleanor Wilson氏らが、第II-III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験(22ヵ国で実施、現在進行中)の結果を報告した。高齢者におけるRSV感染が重大な疾患と死亡を増加させていることが報告されている。mRNA-1345は、安定化させたRSV融合前F糖蛋白をコードするmRNAベースのRSVワクチンで、臨床研究中の新たなワクチンである。NEJM誌2023年12月14日号掲載の報告。プラセボ対照試験で、下気道疾患の予防の有効性を評価 研究グループは、60歳以上の高齢者を、mRNA-1345(50μg)またはプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 主要エンドポイントは2つで、少なくとも2つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患の予防と、少なくとも3つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患の予防とした。重要な副次有効性エンドポイントは、RSV関連急性呼吸器疾患の予防とした。安全性も評価した。有効性82.4~83.7%、年齢や併存疾患で定義のサブグループ間も有効性は一致 2021年11月17日~2022年10月31日に、計3万5,541例が無作為化された(mRNA-1345ワクチン群1万7,793例、プラセボ群1万7,748例)。両群のベースライン特性はバランスが取れており、登録時の参加者の平均年齢は68.1歳、49.0%が女性、36.1%が非白人、34.5%がヒスパニック/ラテン系。1つ以上の併存疾患がある患者は29.3%、うっ血性心不全既往1.1%、COPD既往5.5%であった。21.9%が虚弱またはフレイルの状態であった。 追跡期間中央値は112日(範囲:1~379)。主要解析は、予想されたRSV関連下気道疾患症例の50%以上が発生した時点で行われた。 ワクチンの有効性は、少なくとも2つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患に対しては83.7%(95.88%信頼区間[CI]:66.0~92.2)であり、少なくとも3つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患に対しては82.4%(96.36%CI:34.8~95.3)であった。また、RSV関連急性呼吸器疾患に対するワクチンの有効性は68.4%(95%CI:50.9~79.7)だった。 防御効果は2つのRSVサブタイプ(AおよびB)いずれに対しても観察され、年齢および併存疾患で定義したサブグループ間でも概して一致していた。 mRNA-1345群ではプラセボ群よりも、局所副反応(58.7% vs.16.2%)、全身性副反応(47.7% vs.32.9%)の発現率が高かったが、ほとんどの副反応は軽度~中程度で、一過性のものだった。重篤な副反応の発現率は、各群とも2.8%であった。

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しびれをうまく説明するには

患者さん、それは…しびれ ですよ!しびれとは、感覚鈍麻 (感覚の低下)や異常感覚などを意味します。また、「手足に力が入りにくい」「動きが悪い」などの運動麻痺 (脱力)をしびれとして表現することもあります。また、寒い風に当たっただけで感じるものもあります。以下のような症状はありませんか?□触っても感覚がにぶい□冷たさ・熱さが感じにくい□痛みを感じにくい□何もしなくてもジンジン・ビリビリする□針でさされたような感じ□やけつく様な感じ◆そのしびれ、ある病気の症状かも!?• 指先と口が急にしびれたときは脳梗塞の可能性があります• 手足のしびれは糖尿病でよく起こります• 手根管症候群では手の親指から薬指にかけてしびれますズキズキチクチク出典:日本神経学会(症状編:しびれ)、日本整形外科学会(しびれ[病気によるもの])監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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RNA干渉治療薬パチシランはトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持したが全死因死亡や心血管イベントは低下しなかった(解説:原田和昌氏)

 ATTR心アミロイドーシスは、トランスサイレチンがアミロイド線維として心臓、神経、消化管、筋骨格組織に沈着することで引き起こされる疾患で、心臓への沈着により心筋症が進行する。パチシランは、脂質ナノ粒子に封入されたsiRNAの静脈注射剤で、RNA干渉により肝臓におけるトランスサイレチンの産生を抑制する。2019年にパチシラン(商品名:オンパットロ)は、APOLLO試験の結果に基づき、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの適応を取得している。 米国・コロンビア大学アービング医療センターのMaurer氏らは国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(APOLLO-B試験)において、パチシランがATTR心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力を維持すると報告した。360例がパチシラン群(181例)およびプラセボ群(179例)に無作為に割り付けられ、3週に1回12ヵ月間静脈内投与された。タファミジスのATTR-ACT試験ではNYHA III度の患者が30%以上含まれていたのに対して、本試験では8%程度で、NYHA II度が中心であった。ATTR-ACT試験の層別解析でNYHA III度の有効性が示されなかったことと、プラセボ群とタファミジス群の生存曲線の乖離が18ヵ月後以降であったことを踏まえ、早期診断による早期治療を目指した試験である。 ベースラインから12ヵ月時の6分間歩行距離における、プラセボ群とパチシラン群の変化量の差は14.69mで、KCCQ-OSスコアの最小二乗平均差は3.7ポイントであった。両群の治療効果の差は有意ではあったが、2指標ともあまり意味のある差ではなかった。KCCQ-OSスコアがパチシラン群ではベースラインから増加したというが、軽症例への早期投与であり、その後も効果が継続するかは明らかでない。また、全死因死亡、心血管イベントおよび6分間歩行距離の変化の複合は、両群間に有意差は認められなかった。有害事象は注入に伴う反応、関節痛および筋痙縮であった。 ATTR心アミロイドーシスの早期診断による、より早期の治療を目指した試験であり最短で有意差を出したが、結果を手放しで受け止めるのはまだ早いように思われる。RNA干渉治療は大手製薬企業が手を引いた後にバイオテクノロジー企業Alnylam(アルナイラム)が研究を進めたという経緯があり、こうした技術開発を応援する論文であるとも言えよう。ちなみにAlnylamはアンジオテンシノーゲンに対するRNA干渉による降圧治療薬の第II相試験にも成功している。

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第192回 レームダック政権で年末にバタバタと決まる重要施策、診療報酬改定率、紙の保険証廃止、レカネマブ薬価

2024年度診療報酬改定率、本体0.88%プラスにこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年の瀬も迫り、大谷 翔平選手のドジャース入団会見と前後するような形で、医療の世界でもいろいろなことがバタバタ、エイヤ!と決まっています。それにしても、大谷選手関連ニュースのコメンテーターとしてテレビ朝日系列の番組などに、楽天・前監督でシニアディレクターの石井 一久氏が出演し、呑気な発言を繰り返していたのには首を傾げてしまいました。今年の自軍での大不祥事(安楽 智大投手の時代錯誤のパワハラ)について、石井氏は公の場で何の発言もしていません。安楽問題からは逃げて、大谷関連のコメントをテレビで喜々として行っている石井氏に対し、SNS上では呆れ声だけでなく、バッシングも巻き起こっているそうです。ジャニーズ問題とも共通しますが、石井氏を使うテレビ局もテレビ局ですね。さて、12月15日、政府は2024年度診療報酬の改定率の方針を決め、最終調整に入りました。岸田 文雄首相、鈴木 俊一財務相、武見 敬三厚労相が協議し、合意したとのことです。医師の技術料や医療従事者の人件費となる「本体」は0.88%の引き上げ、「薬価」は約1%程度の引き下げ、全体の改定率は0.1%程度のマイナス改定になるとのことです。ちなみに診療報酬1%分は約4,800億円に当たり、約9割が保険料と公費などで賄われています。「財務省vs.日本医師会をはじめとする医療関係団体・厚生労働省」の争いが決着2024年度の診療報酬改定率を巡っては、本連載の「第187回」、「第188回」、「第190回」でも取り上げて来たように、財務省と日本医師会などの医療関係団体との間で激しい攻防が繰り広げられてきました。本体0.88%引き上げという数字は、一体どう解釈すればいいのでしょう。今回の「診療報酬改定シリーズ」は、端的に言って「財務省vs.日本医師会をはじめとする医療関係団体・厚生労働省」の争いでした。財務省は医療従事者の賃上げに理解を示しつつも国民の保険料負担を軽減するため本体マイナスが必要だと主張、賃上げの原資として“儲かっている“診療所の利益剰余金を充てるよう求めました。対する日本医師会をはじめとする医療関係団体は賃上げと物価対応のため本体の大幅な引き上げを要求、厚労省もこれに歩調を合わせ、「本体」の1%超の引き上げを求めていました。全体をマイナス1%で財務省の顔を立て、本体プラスで日医の顔も立てる本体の0.88%プラスは、前回2022年度改定の0.43%、前々回2020年度改定の0.55%を大幅に上回る水準です。岸田首相としては、政権が重要施策として掲げる賃上げ実現に配慮しつつ、全体をマイナス1%程度に抑えることで、財務省の顔もなんとか立てた形となりました。まだ正式確定していない段階ですが、日本医師会は12月15日コメントを公表、「医療・介護分野の賃金上昇は他産業に大きく遅れをとってきましたが、令和6年春闘の先鞭となる賃上げの実現、さらには物価高騰への対応の財源を一定程度確保いただいたとのことです。政府・与党はじめ多くの関係者の皆様に実態をご理解いただけたものと実感しており、必ずしも満足するものではありませんが、率直に評価をさせていただきたいと思います」と一定の評価をしています。松本 吉郎会長が会長として臨んだ初めての診療報酬改定だけに、かろうじて1%近い「本体プラス」を“勝ち取った”という意味で、日医としてはこのようなコメントになったのでしょう。「医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者」の賃上げがどこまで実現できるかなお、本体プラス分0.88%のうち、薬剤師や看護師、看護助手などの賃上げ分で0.61%、入院患者の食費の引き上げに0.06%を充てるとしており、賃上げ率は定期昇給分を含めて4%程度になる見通しだそうです。先頃中央社会保険医療審議会で決まった2024年度診療報酬改定の基本方針は、「人材確保・働き方改革等の推進」を重点課題に位置付け、「その際、特に医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者の賃金の平均は全産業平均を下回っており、また、このうち看護補助者については介護職員の平均よりも下回っていることに留意した対応が必要」としました。これからは、中医協での具体的な配分の議論に移ります。せっかく本体プラスとなったのですから、今回の改定が、「医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者」の賃上げが本当に実現できる内容になればと思います。現行の健康保険証の発行を来年秋に終了しマイナ保険証を基本とする仕組みに移行することも正式決定バタバタ決まったと言えば、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」への移行についても、先週、国の方針が決定しました。12月12日、岸田首相は「予定通り、現行の健康保険証の発行を来年秋に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」と表明したのです。この日開かれた第5回マイナンバー情報総点検本部では、総点検対象件数8,208万件のうち99.9%のデータについて本人確認を終了し、残る障害者手帳情報の一部のデータについても12月中に終了できる見通しとなり、総点検完了の目処が立ったと報告されました。総点検では、紐付けの誤りはすでに公表されているものを含め8,351件、割合にして0.01%だったそうです。これらについてはすでに閲覧を停止した上で、各自治体等において紐付け誤りの修正作業を進めていくとのことです。岸田首相は「マイナンバーカードは、デジタル社会における公的基盤。医療分野においても、マイナ保険証は、患者本人の薬剤や診療のデータに基づくより良い医療、なりすまし防止など、患者・医療現場にとって多くのメリットがあり、さらに、電子処方箋や電子カルテの普及・活用にとっても核となる、我が国の医療DXを進める上での基盤だ。まずは一度、国民にマイナ保険証を使っていただき、より質の高い医療などメリットを感じていただけるよう、医療機関や保険者とも連携して、利用促進の取組を積極的に行っていく」とマイナ保険証の活用促進を訴えました。一方、河野 太郎デジタル相はマイナンバー情報総点検本部開催後の記者会見で、「(国民の)不安を払拭するための措置を執るということで、措置(総点検)を執ったので廃止する。イデオロギー的に反対する方は、いつまでたっても不安だ不安だと言うだろう。それでは物事が進まない。きちんとした措置を執ったということで進める」と述べました。「弱腰の岸田首相を河野大臣が説得」との報道も12月12日付の朝日新聞の記事によれば、この紙の保険証廃止の表明については、ギリギリまで調整が続いたそうです。同紙は、「世論の反発を懸念した官邸側が、先送りの方針をデジタル庁に伝えた。報告を受けた河野氏は11日午前、『総理と直接話して説得する』と反発。デジタル庁幹部が官邸を訪れて首相周辺と協議し、具体的な日付を示さずに廃止を明言することで決着した」と書いています。岸田首相は紙の保険証廃止についても弱腰だったとは、情けなくなります。パーティー券収入のキックバック問題等もあり、防衛増税も先送りとなっています。この期に及んで、岸田内閣のもう一つの目玉とも言える医療DXの要、マイナ保険証も先送りとしてしまっては、一体何のために総理大臣をやっているのか、それこそわからなくなってしまいます。マイナンバーカードを保険証として使うマイナ保険証については、本連載でも「第132回 健康保険証のマイナンバーカードへの一体化が正式決定、『懸念』発言続く日医は『医療情報プラットフォーム』が怖い?」、「第153回 閣議決定、法案提出でマイナ保険証への一本化と日本版CDC創設がいよいよ始動」などで度々書いてきましたが、重複診療の是正など効率的な医療提供の実現のためにも、「イデオロギー的に反対する方」への説明や説得を続けながら、国民や医療機関に役に立つマイナ保険証の普及・定着を粛々と進めてもらいたいと思います。レカネマブの薬価決定も、臨床での効果には未だ疑問符「決まった」と言えば、レカネマブの薬価も決まりました。厚労省は12月13日、中央社会保険医療協議会で、アルツハイマー病の新たな治療薬レカネマブ(商品名:レケンビ)を公的医療保険の適用対象とすることを決めました。同日、エーザイはレカネマブを12月20日から発売すると発表しました。体重50kgの患者が1年間で26回使用した場合、年間の費用は1人当たり約298万円となる見通しだそうです。先行して承認された米国では、体重75kgを標準として1人当たり年2万6,500ドル(日本円で約380万円)でしたから、まあ同水準ということになります。ただ、日本の場合は高額療養費制度があるので、患者の自己負担そのものは相当低く抑えられます(70歳以上で年収156万〜370万円場合、年間14万4,000円)。レカネマブについては、本連載でも何度も取り上げてきました(「第169回 深刻なドラッグ・ラグ問題が起こるかも?アルツハイマー病治療薬・レカネマブ、米国正式承認のインパクト」など)ので、改めて特段言及することはありません。ただ、米国の神経生物学者のカール・へラップ氏がその著書『アルツハイマー病研究、失敗の構造』(みすず書房、8月刊)で、「レカネマブの効果が対プラセボで27%の悪化抑制」という数字に対して、「統計学的には有意な進行抑制であっても、生物学的にはほとんど実質のない差であることを示すデータといえる」と指摘すると共に、レカネマブ開発の根拠となっている「アミロイドカスケード仮説」について、詳細な検証の結果、「あまりにも不十分であるために、実質的に無価値であることを自ら証明した」と断言していることは付記しておきたいと思います。

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