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組み換え帯状疱疹ワクチン2回接種、4年後の効果

 組み換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス)の2回接種は、臨床試験において有効率97%と非常に高い有効性を示しているが1)、実臨床における長期有効性は明らかになっていない。そこで、米国・Kaiser Permanente Northern CaliforniaのOusseny Zerbo氏らは、組み換え帯状疱疹ワクチンの実臨床における効果を調べた。その結果、1回接種の場合は有効性が1年後に低下したが、2回接種の場合は4年間の追跡期間において有効性が低下しなかった。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2024年1月9日号で報告された。組み換え帯状疱疹ワクチンの2回接種の重要性が示された 本研究は、Vaccine Safety Datalinkに登録された、50歳以上の組み換え帯状疱疹ワクチン接種者および帯状疱疹ワクチン未接種者を対象とした。有効性について、抗ウイルス薬の処方を伴う帯状疱疹の診断を基にした、帯状疱疹予防効果をワクチン未接種者との比較によって評価した。また、ワクチン接種後の期間別およびステロイド使用の有無別にワクチンの有効性を評価した。 組み換え帯状疱疹ワクチンの実臨床における有効性を調べた主な結果は以下のとおり。・解析対象は約200万人、追跡期間は761万4,196患者年であった。・接種後の期間別にみた帯状疱疹ワクチンの有効率は以下のとおりであった(1回接種の有効率vs.2回接種の有効率)。【30日後~1年未満】70% vs.79%【1年後~2年未満】45% vs.75%【2年後~3年未満】48% vs.73%【3年後以降】52% vs.73%・ステロイド使用の有無別にみたワクチンの有効率は、ステロイド非使用者が77%、帯状疱疹リスクの高いステロイド使用者で65%であった。 著者らは、本研究結果について「臨床試験での報告よりは有効性が低かったものの、実臨床においても組み換え帯状疱疹ワクチンは非常に有効であった。2回接種の有効性は4年間の追跡期間中にほとんど低下しなかったが、1回接種の有効性は1年後に大幅に低下した。このことから、2回接種の重要性が示された」とまとめた。

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黒砂糖、がん発症を抑制か~J-MICC研究

 黒砂糖にはミネラル、ポリフェノール、ポリコサノールが多く含まれているが、黒砂糖が健康に役立つと評価した疫学研究はほとんどない。今回、鹿児島大学の宮本 楓氏らが、長寿者の割合が比較的高く黒砂糖をおやつにしている奄美群島の住民を対象としたコホート研究を実施したところ、黒砂糖摂取ががん全体、胃がん、乳がんの発症リスク低下と関連することが示された。Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition誌2023月12月号に掲載。 本研究は日本多施設共同コホート研究(J-MICC研究)の一環で、黒砂糖摂取と死亡リスクおよびがん発症率の関連を明らかにするために実施された。奄美の一般住民から参加者を募集し、5,004人(男性2,057人、女性2,947人)が参加した。追跡期間中央値13.4年の間に274例が死亡、338例でがんが発症した。糖関連およびその他の変数を調整後、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間を推定した。黒砂糖の摂取頻度により低摂取群(週1回未満)、中摂取群(週1~6回)、高摂取群(1日1回以上)に分け、低摂取群を基準とした中摂取群、高摂取群の各HRとその傾向を評価した。 主な結果は以下のとおり。・交絡因子調整後、男女におけるがん全体と胃がん、女性における乳がんについて、黒砂糖の中摂取群と高摂取群のHRが低く、HRの低下傾向(がん全体:傾向のp=0.001、胃がん:傾向のp=0.017、乳がん:傾向のp=0.035)が認められた。・肺がんは非喫煙者および元喫煙者のみHRの低下傾向がみられた(傾向のp=0.039)。・全死亡、がん死亡、心血管疾患死亡におけるHRの低下は明らかではなかった。

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日本人高齢者における抗コリン薬使用と認知症リスク~LIFE研究

 抗コリン薬が認知機能障害を引き起こすことを調査した研究は、いくつか報告されている。しかし、日本の超高齢社会において、認知症リスクと抗コリン薬の関連は十分に研究されていない。大阪大学のYuki Okita氏らは、日本の高齢者における抗コリン薬と認知症リスクとの関連を評価するため本研究を実施した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2023年12月号の報告。 2014~20年の日本のレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。対象は、認知症患者6万6,478例および、年齢、性別、市区町村、コホート登録年がマッチした65歳以上の対照群32万8,919例。1次曝露は、コホート登録日からイベント発生日またはそれに一致したインデックス日までに処方された抗コリン薬の累計用量(患者ごとの標準化された1日当たりの抗コリン薬総投与量)であり、各処方の抗コリン薬各種の総用量を加算し、WHOが定義した1日の用量値で除算して割り出した。抗コリン薬の累計曝露に関連する認知症のオッズ比(OR)の算出には、交絡変数で調整した条件付きロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・インデックス日の平均年齢は84.3±6.9歳であり、女性の割合は62.1%であった。・コホート登録日からイベント発生日またはインデックス日までに1種類以上の抗コリン薬が処方された割合は、認知症患者で18.8%、対照群で13.7%であった。・多変量調整モデルでは、抗コリン薬を処方されていた人は、認知症と診断されるORが有意に高かった(調整OR:1.50、95%信頼区間:1.47~1.54)。・完全多変量調整モデルでは、抗コリン作用を有する薬剤の中でも、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、抗精神病薬、膀胱に対する抗ムスカリン薬の使用で、認知症リスクの有意な増加が確認された。 著者らは「日本の高齢者が使用するいくつかの抗コリン薬は、認知症リスクの増加と関連している」とし、「これらの集団に対して抗コリン薬を使用する際には、ベネフィットと並び、潜在的なリスクを考慮する必要がある」としている。

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無羊水症への羊水注入、新生児の予後を改善するか/JAMA

 胎児の両側性腎無形成に起因する妊娠初期の無羊水症は、新生児に致死的な肺低形成を引き起こすが、連続的な羊水注入により羊水を回復させることで、胎児の肺の発達を促し、生存が可能になると示唆されている。米国・ジョンズ・ホプキンス大学のJena L. Miller氏らは、連続的な羊水注入は新生児の致死的肺低形成を軽減するが、早産の増加と関連し、退院までの生存率は低いことを示した。研究の詳細は、JAMA誌2023年12月5日号で報告された。米国9施設の非無作為化臨床試験 本研究は、米国の9施設が参加した非盲検前向き非無作為化臨床試験であり、2018年12月~2022年7月に行われた(米国・ユーニス・ケネディ・シュライバー国立小児保健・人間発達研究所[NICHD]の助成を受けた)。 孤立性両側性腎無形成による無羊水症が確認され、他の先天性異常のない21組の母体・胎児を対象とした。妊娠26週までに、超音波ガイド下で経皮的に、等張液を用いた羊水注入を開始した。注入の頻度は、妊娠期間に応じて正常な羊水レベルを維持するよう個別に設定した。 主要アウトカムは、新生児の生後14日以上の生存と、透析導入の複合とした。主要アウトカムは生児出産17例中14例で達成 介入の有効性が示されたものの、主要アウトカムの領域を超える新生児の合併症と死亡が懸念されたため、18組の母体・胎児の中間解析に基づき、本試験は早期中止となった。 生児出産は17例(94%)で、分娩時の妊娠期間中央値は32週4日間(四分位範囲[IQR]:32~34週)と全般に早産であった。全参加者が37週までに出産していた。 生後14日以上の生存と透析導入は、17例の新生児のうち14例(82%)で達成された(95%信頼区間[CI]:44~99)。 主要アウトカムの生後14日以上の生存と関連する因子として、(1)羊水注入の回数(中央値)が多い(生存例14回vs.非生存例5回、p=0.01)、(2)初回羊水注入から早産期前期破水(PPROM)までの期間(中央値)が長い(66.0日vs.13.0日、p=0.04)、(3)妊娠期間が32週より長い(14例[100%]vs.1例[25%]、p=0.005)、(4)出生時体重が重い(2,010g vs.1,350g、p=0.03)が挙げられた。生存退院は6例(35%)のみ 生後24週(中央値、範囲:13~32週)の時点で長期の腹膜透析を受けており、自宅へと生存退院した新生児は、17例中6例(35%)のみだった。 その後、2例が死亡した。1例は2歳時に透析関連の感染性合併症による死亡、1例は生後4ヵ月時に自宅で心停止後の死亡であった。3例(50%)が脳卒中を発症し、2例は長期生存している。 著者は、「退院までの生存率の低さは、肺機能とは別に、付加的な死亡負担が存在することを強調するものである」と指摘し、「生存している新生児のアウトカムの特性を完全に明らかにし、合併症と死亡の負担を評価するためには、さらなる長期データが求められる」としている。

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国内初のRSVワクチン発売、対象は60歳以上/GSK

 グラクソ・スミスクライン/GSKは、60歳以上におけるRSウイルス(RSV)による感染症の予防を目的とした組み換えRSVワクチン「アレックスビー筋注用」を2024年1月15日に販売開始した。本ワクチンは、60歳以上を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「AReSVi-006試験」の結果1)に基づき、2023年9月25日に製造販売承認を取得している。 AReSVi-006試験の対象は、60歳以上の成人(医学的に安定している基礎疾患を有する者を含む)2万4,981例(日本人1,038例を含む)で、主要評価項目はRSV感染による下気道疾患※の初回発現を指標とした予防効果であった。主要評価項目に関する有効率は82.6%であり、RSV感染による下気道疾患に対する本ワクチンの有効性が検証された。なお、日本人集団ではRSVによる下気道疾患の発現はみられなかった。※:24時間以上持続する1つ以上の下気道徴候を含む2つ以上の下気道症状/徴候がある、または24時間以上持続する3つ以上の下気道症状がある 本ワクチンは、アジュバント添加RSVワクチンであり、抗原として膜融合前型立体構造を保持できるよう改変したRSVのfusion(F)糖タンパク質の3量体を含有している。この抗原にGSK独自のAS01Eアジュバントを組み合わせている。また、国際共同第III相無作為化比較試験(NCT05590403)2)に基づき、RSVによる感染症のリスクが高い50~59歳の成人への接種対象者拡大についても、2023年12月に厚生労働省へ承認申請を行っている。【アレックスビー筋注用 製品概要】製品名:アレックスビー筋注用一般名:組換えRSウイルスワクチン効能又は効果:RSウイルスによる感染症の予防用法及び用量:60歳以上に1回、0.5mLを筋肉内接種

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アルドステロン合成酵素阻害薬vs.鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(解説:浦信行氏)

 アルドステロンは腎尿細管の鉱質コルチコイド受容体(MR)に作用して水・Na代謝を調節するが、その過剰は水・Na貯留を引き起こし、体液量増大を介して昇圧する。したがって、スピロノラクトンをはじめ、MR拮抗薬は降圧薬として用いられてきた。その一方で、降圧作用とは独立して、酸化ストレスの増加やMAPキナーゼの活性化を介して心臓や腎臓障害性に作用することが知られている。したがってMR拮抗薬は降圧薬であると同時に、臓器保護作用を期待して使用される。 アルドステロン合成酵素阻害薬も降圧薬(ジャーナル四天王「コントロール不良高血圧、アルドステロン合成阻害薬lorundrostatが有望/JAMA」2023年9月27日配信)として注目されているが、このたびはCKDに対して尿アルブミンを強力に減少させ、SGLT2阻害薬との併用でも相加的に効果を現すことから、CKD治療薬としての期待を伺わせる報告がなされた。この2種類の薬剤の差別化は可能であろうか。これまでのMR拮抗薬の研究ではMRのリガンドは鉱質コルチコイドのみならず、糖質コルチコイドもリガンドであるが、体内でコルチゾールを速やかに非活性のコルチゾンに代謝する11β-水酸化ステロイド脱水酵素が十分に作用している状態では糖質コルチコイドによる作用はごく限られる。しかし、漢方薬に含まれるグリチルリチンはこの酵素の阻害作用があるため、糖質コルチコイドのMRを介した作用が起こりうる。また、低分子量G蛋白のRac1は、肥満、高血糖、食塩過剰でMR受容体を活性化する。 これらを考慮すると、MR拮抗薬のほうに分があるように見える。しかし、アルドステロンはMRを介した作用だけでなく、それを介さない非ゲノム作用の可能性も報告されており、そうであればアルドステロンの生成を抑えるほうに分がありそうである。この両薬剤の臨床効果の比較を待つことになろうか。

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オルカンは全世界株式投資ではない!?本当は怖いインデックスの話【医師のためのお金の話】第76回

インデックス投資の勢いが止まりません。オルカン(全世界株式:オール・カントリー)やVT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)などの世界中の株式を対象とした株価指数に連動するインデックス銘柄は注目の的です。2000年代以前には、私たちのような庶民が投資できるインデックス投資は存在しませんでした。株式投資といえば、アクティブ投信や個別株以外の選択肢はありません。そして、バブル崩壊以降の日本株は最悪のパフォーマンスだったので、イメージは最悪です。このような事情も相まって、2010年以降に登場した全世界株式インデックスは喝采を浴びます。世界の成長を取り込めるという触れ込みは、停滞した日本社会で暮らす投資家の希望の光となりました。さらに、インデックス投資が多くのアクティブ投信や個別株投資の成績を上回るという研究成果が喧伝されました。このため、最近では投資初心者までもが、オルカンやVTへの投資を第1選択にしています。でもちょっと待ってください。本当にインデックス投資は安全・確実なのでしょうか。投資の世界には「人の行く裏に道あり花の山」という、利益を得るには他人の逆行動をとらなくてはならないという格言があります。そこで、インデックス投資の是非について考えてみましょう。全世界株式インデックスの実態全世界株式インデックスというからには、全世界の株式に対して満遍なく投資していると思いがちです。しかし、実態はまったく異なります。たとえば、オルカンの代表であるeMAXIS Slim全世界株式。「全世界」という言葉とは裏腹に、構成銘柄は以下のごとくです。組入上位銘柄 (2023年11月30日現在)1. アップル4.5%2. マイクロソフト4.0%3. アマゾン2.0%4. エヌビディア1.8%5. アルファベットA1.5%6. メタ1.1%7. テスラ1.0%8. アルファベットC0.8%9. ユナイテッドヘルス0.7%10. イーライリリー0.7%上位10位は全て米国の企業です。5位と8位はGoogleの親会社なので、実質的にたった9社でオルカンの18.1%も占めています。たしかに有名企業ばかりですが、この9社だけで世の中すべての経済活動の18.1%を提供しているはずはありません。おそらく9社合わせても1%に満たないのではないでしょうか。しかも業態は情報技術などのテック産業に偏っています。これほどまでに実際の経済活動から乖離した評価がまかり通っているのが「全世界株式インデックス」と呼ばれているオルカンの正体なのです。さらに、オルカンの国別配分比率では米国が60.4%を占めています。世界のGDPに占める米国の割合は24~25%と言われています。それにもかかわらず60%を超えているのは違和感しかありません。オルカンの実態は全世界株式ではなく、米国テック株インデックスなのです。インデックス投資は割高な買物を宿命付けられているオルカンが全世界株式インデックスとは名ばかりであることは説明しましたが、インデックス投資には致命的な欠点があります。それは、常に割高な買い物を強制されることです。前述のように、インデックスを構成する銘柄は時価総額に応じて組み入れられます。時価総額が高いということは株価が高いことを意味します。簡単にいうと、割高に評価されている銘柄群です。このような銘柄ばかり組み込まれているため、インデックスは常に割高な銘柄で構成されることを宿命付けられています。30年後も現在の「割高」な銘柄が上位をキープしていれば問題ないですが、確率的には数年後でさえも上位組入銘柄が激変していることが予想されます。割高に組入れられた銘柄の下落で発生する損失は、投資家が負担します。インデックス投資は割高な買物なのです。皆が同じ方向に向かう時には注意しよう!ここまでインデックス投資の実態はイメージと大きく異なることを説明してきましたが、本当はもっと大切なことがあります。それは、皆が同じ方向に走っている時には危機感を抱くべきだということです。投資の世界では、最後に負けるのは一般投資家と相場が決まっています。そして、現時点での一般投資家とは、インデックス投資をメインにしている人たちです。世の中の大半の投資家がインデックス投資に傾いているのなら、盲目的に近づくのは危険だと思います。もちろん一生懸命に勉強した結果、確固たる自信をもってインデックス投資に賭けるのはアリだと思います。しかし、単に周囲の人が皆、インデックス投資が良いと言うからという理由では投資しない方がいいでしょう。少なくとも、インデックス投資は100点満点の投資ではありません。せいぜい60点ぐらいの投資にすぎないのです。オルカンに投資をしていれば間違いないという誤ったイメージを払拭して、インデックス投資の実態を直視してみましょう。

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英語で「ICUに立ち寄る」は?【1分★医療英語】第113回

第113回 英語で「ICUに立ち寄る」は?《例文1》Could you swing by the office?(オフィスに立ち寄っていただけますか?)《例文2》I will stop by the floor and talk to the patient.(病棟に立ち寄って、その患者さんと話をしておきます)《解説》“swing by~”は「~に立ち寄る」「顔を出す」という意味になり、病棟やICU、ナースステーションなどに立ち寄ることを伝えるときに使える表現です。“swing”は「揺れる」という意味の動詞ですが、「ブランコが揺れるようにふらっと立ち寄る」というイメージを持ってもらうとよいでしょう。「立ち寄る」という意味を表すほかの表現には“stop by”や“drop by”という熟語がありますが、“stop by”よりも“swing by”や“drop by”のほうが、「より短時間で立ち寄る」というイメージになります。また、例文に出てきた表現の“check on”は「様子を見る」「無事を確かめる」という意味になり、こちらも臨床現場で頻繁に使うフレーズです。講師紹介

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透析そう痒症を改善する初の静注薬「コルスバ静注透析用シリンジ」【最新!DI情報】第7回

透析そう痒症を改善する初の静注薬「コルスバ静注透析用シリンジ」今回は、静注透析そう痒症改善薬「ジフェリケファリン酢酸塩注射液(商品名:コルスバ静注透析用シリンジ17.5μg/25.0μg/35.0μg、製造販売元:丸石製薬)」を紹介します。本剤は、透析治療を受ける慢性腎不全患者に多く認められるかゆみを治療するわが国初の静注薬であり、患者QOLの向上が期待される新たな治療選択肢です。<効能・効果>血液透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得し、同年12月13日に発売されています。<用法・用量>通常、成人にはジフェリケファリンとして、ドライウェイト時における下記用量を週3回、透析終了時の返血時に透析回路静脈側に注入します。45kg未満:17.5μg45kg以上65kg未満:25.0μg65kg以上85kg未満:35.0μg85kg以上:42.5μg<安全性>国内の血液透析患者を対象とした試験(MR13A9-3、MR13A9-4およびMR13A9-5試験)における本剤投与群の副作用の発現割合は19.7%(50/254例)で、2.0%以上に発現した主な副作用は、傾眠(2.8%)、浮動性めまい(2.4%)、便秘(2.0%)および血圧低下(低血圧との合算で2.0%)でした。自動車運転および機械操作に対する影響または精神機能の障害に対する試験は実施していませんが、主な副作用として傾眠と浮動性めまいが確認されたことから、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には従事させないよう注意喚起が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血液透析における既存治療で効果が不十分なかゆみの改善に用いられます。2.抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬などが効きにくいかゆみを抑えます。3.眠気、めまいなどが現れることがありますので、車の運転など危険を伴う機械の操作には従事しないでください。4.妊婦または妊娠している可能性のある人、授乳中の人は、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>皮膚そう痒症は、血液透析治療を受ける慢性腎不全患者に多く認められる疾患で、かゆみの原因となる明らかな皮膚病変がないにもかかわらず、全身のあらゆる場所にかゆみが生じます。かゆみは断続的に生じてQOLを低下させるばかりでなく、睡眠障害やうつ病、死亡リスクの上昇などの悪影響を引き起こすこともあります。血液透析患者におけるそう痒症の緩和には、一般的に保湿剤やステロイド剤の外用治療、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬による外用または内服治療が行われます。これらの治療でも効果不十分の場合は、かゆみを抑制するκオピオイド受容体(KOR)の作動薬であるナルフラフィンが内服で用いられています。しかし、血液透析患者の約40%は、これらの治療を受けても中等度~重度のそう痒症が残存します。ジフェリケファリンは、ナルフラフィンに次ぐKOR作動薬であり、透析終了後の返血時に透析回路からボーラス投与するわが国初の静注のプレフィルドシリンジ製剤です。静注薬なので、透析患者の水分摂取制限や嚥下機能低下に影響されず、透析時に医師の管理のもとに投与されるため服薬アドヒアランスにも影響されません。既治療のそう痒症を有する血液透析患者178例を対象とした国内第III相臨床試験(MR13A9-5)の二重盲検期において、主要評価項目である「4週時の平均かゆみNRS(numerical rating scale)スコアのベースラインからの変化量」は、本剤投与群-2.06、プラセボ投与群-1.09、群間差-0.97(95%信頼区間:-1.52~-0.42)であり、プラセボ投与群に対して本剤投与群の優越性が示されました(p

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第197回 セマグルチドと自殺念慮は関連せず

セマグルチドと自殺念慮は関連せずGLP-1受容体作動薬の自殺リスクが取り沙汰されていますが、併せて180万例強の電子カルテ解析で幸いにもノボ ノルディスク ファーマのセマグルチド使用患者の自殺念慮はほかの糖尿病薬や抗肥満薬使用患者に比べて多くなく、むしろ少なめでした。今月5日にNature Medicine誌に掲載された解析結果です1)。2つの集団が解析され、その1つは2021年6月~2022年12月にセマグルチドかほかの抗肥満薬が処方された米国の肥満か太り過ぎの約24万例(24万618例)の医療記録の解析です2)。被験者の大半の23万2,771例は先立って自殺念慮を被ったことがなく、残り7,847例は過去に自殺念慮を生じたことがありました。自殺念慮の経験がなかった患者にセマグルチド処方後6ヵ月間に認められた自殺念慮の発生率、すなわち初発率は0.11%、自殺念慮の経験があった患者のセマグルチド処方後6ヵ月間のその再発率は7%ほどでした。一方、ほかの抗肥満薬処方患者の自殺念慮の初発率と再発率はどちらもより高く、それぞれ0.43%と14%でした。2017年12月~2021年5月にセマグルチドかほかの糖尿病薬が投与された2型糖尿病患者160万例弱(158万9,855例)の医療記録を使ったもう1つの解析も同様の結果となりました。セマグルチド投与群の自殺念慮の初発率と再発率はそれぞれ0.13%と10%、ほかの糖尿病薬投与群の自殺念慮の初発率と再発率はより高くそれぞれ0.36%と18%でした。2型糖尿病へのセマグルチド使用は2017年に米国で承認されているので、より長期の経過の比較が可能です。そこで最大3年間の経過を比較したところ、差は縮まってはいたもののセマグルチド投与群の自殺念慮初発率はやはりより低く保たれていました。セマグルチドと自殺念慮が生じ易くなることの関連をそれらの結果は支持していません。一方、セマグルチドが自殺念慮を生じ難くすると決めつけることはできなさそうですが、もしそうであるなら体重減少が心理的によい影響をもたらすことによるのかもしれませんし、まだ知られていないメカニズムによるのかもしれません3)。先週11日に米国FDAはセマグルチドなどのGLP-1作動薬と自殺念慮や自殺行為の関連の調査の途中経過を発表しました。幸い、Nature Medicine誌の報告と一致し、GLP-1作動薬と自殺念慮や自殺行為の因果関係は示されていないとひとまず判断されています4)。ただし若干のリスクの恐れ(small risk may exist)の払拭には至っておらず、FDAの検討は続いています。今後の課題としてより長期のセマグルチド使用と自殺念慮の関連を調べる必要があるとNature Medicine誌報告の著者は言っています2)。また、自殺念慮から一線を越えた自殺企図(suicide attempt)との関連の検討も必要です。参考1)Wang W, et al. Nature Medicine. 2024 January 5. [Epub ahead of print] 2)Semaglutide associated with lower risk of suicidal ideations compared to other treatments prescribed for obesity or type 2 diabetes / NIH3)No link between popular weight loss drugs and suicidal thoughts, health records suggest / Science4)Update on FDA’s ongoing evaluation of reports of suicidal thoughts or actions in patients taking a certain type of medicines approved for type 2 diabetes and obesity / FDA

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音楽を聴きながら勉強するのはアリ?ナシ?【医学生お悩み相談ラヂオ】第25回

動画解説今回は医学部6年の女性から音楽を聴きながら勉強することについて増田さん、民谷先生の見解を伺いたいとのこと。アリかナシか?また、ふたりの音楽に対するこだわり、聴くならコレ!を発表していただきます。

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医療者の燃え尽き、カギはトレーニングよりも看護師人数

 新型コロナウイルス感染症流行下では、世界中で多くの医療者が燃え尽き症候群に直面し、多くの離職者が出た。そして、日本では2024年4月から医師の働き方改革がスタートし、時間外労働への規制が厳しくなる。この状況において、パンデミックの経験から学ぶべきことは何か。 米国ペンシルベニア大学のLinda H. Aiken氏らは、医師と看護師の健康状態と離職率を測定し、有害な転帰、患者の安全性、介入に対する好みと関連する実行可能な要因を特定することを目的とした調査を行った。具体的には、臨床医のメンタルヘルスを改善する介入を優先すべきか、ストレスや燃え尽き症候群の修正可能な原因に対処して病院の労働環境を変えるべきかについて比較検討した。JAMA Health Forum誌2023年7月7日号に掲載。 2021年に米国看護師資格認定センターの指定を受けた60施設の医師と正看護師、計2万1,050人から電子調査でデータを得た。回答者はメンタルヘルスと幸福感、職場環境因子と燃え尽き症候群(バーンアウト)、病院スタッフの離職率、患者の安全性についての質問に回答した。バーンアウトはMaslach Burnout Inventory(MBI)、不安は全般性不安障害スケール、うつ病はPatient Health Questionnaireスケールを用いて測定した。データは2022年2月21日~2023年3月28日に解析された。 主な結果は以下のとおり。・53病院の医師5,312人(平均[SD]年齢44.7[12.0]歳、男性2,362人[45%]、白人2,768人[52%])と、60病院の看護師1万5,738人(平均[SD]年齢38.4[11.7]歳、女性1万887人[69%]、白人8,404人[53%])が回答した。1病院当たりの医師数平均は100人、看護師数平均は262人、回答率は26%(医師22%、看護師27%)だった。・医師の約3人に1人、看護師の約半数が高いバーンアウト状態だったが、その割合は病院によって大きく異なり、医師では9~51%、看護師では28~66%だった。・医師の5人に1人以上(23%)が、「可能であれば1年以内に現在の病院を辞めたい」と回答した。病院間の差を考慮すると、いくつかの病院では3~4割の医師が可能であれば現在の病院を辞めたいと考えていることが示唆された。・「患者の安全性に関して、自院は好ましくない状況だ」と評価したのは医師12%、看護師26%だった。「看護師の数が少な過ぎる」は医師28%、看護師54%、「劣悪な職場環境である」は医師20%、看護師34%、「経営陣に対する信頼がない」は医師42%、看護師46%だった。「職場が楽しい」と回答者した医師は10%未満であった。・医師も看護師も、医師のメンタルヘルスを改善する介入よりも、病院の労働環境改善のほうがより重要である、と回答した。・介入策の中で、看護師の人員配置の改善が最も高く評価された(医師45%、看護師87%)。 研究者らは、「看護師の数が少な過ぎる、職場環境が好ましくないと医療者が考える施設は、医師の燃え尽き症候群と離職が多く、患者の安全性に関する評価が好ましくないと評価する割合が高かった。医療者は看護師の人員不足、医師の仕事量に対するコントロール不足、劣悪な職場環境への経営陣の対応を望んでおり、心身の健康に関するプログラムやトレーニングへの関心は低かった」とした。

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境界性パーソナリティ障害の診断~治療に関する包括的レビュー

 インド・Jawaharlal Nehru Medical CollegeのSanskar Mishra氏らは、境界性パーソナリティ障害(BPD)の診断から治療までの複雑さを明らかにするため、包括的な文献レビューを実施した。Cureus誌2023年11月23日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・BPDは、予測不能な感情、行動、人間関係を特徴とする重度の精神疾患である。・BPDの診断基準では、情緒不安定、相動性、社会的つながりの希薄などの症状が基本となる。・注目すべき点は、BPDといくつかの精神症状との間に臨床的共通点がみられ、BPDと精神症状により精神病理学的リスクを増加させると考えられる。・神経画像に関するエビデンスでは、BPD患者は、とくに脳の感情や衝動性を制御する領域において、構造的および機能的変化が認められる。・精神分析家Adolf Stern氏は、1938年、治療中に症状が増悪し、自虐的な傾向を示した患者を表現するため「境界性(borderline」」という言葉を用いた。・現在のBPDに関する研究では、退屈(空虚感に関連する以前の診断基準)などの症状の複雑さが示唆されている。・BPDの実用的な構成要素に関しては、不明な点があるものの、有望な治療法としてBPDに対する統合的な認知行動療法であるスキーマ療法が注目されている。・BPDが他の疾患と複雑に関係していることは非常に興味深く、たとえば、一部の神経化学的経路は神経性過食症と一致しており、より密接な相互関係が示唆されている。・診断に関しては、BPDの特徴的な症状として、見捨てられることへの恐怖、アイデンティティの崩壊、反復的な自殺行為などが挙げられる。・治療選択肢は、薬理学的介入、弁証法的行動療法(DBT)などの心理学的療法が含まれる。・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬による治療が行われることも少なくないが、その有効性に関する研究は現在進行中であり、綿密な治療計画の重要性が指摘されている。・BPDは、とくに思春期に発症することが多いことを考慮すると、これまでどおり早期発見が必要とされる疾患である。・多くの患者において、症状の軽減が報告されているが、依然として課題は残っており、包括的かつ個別化された治療戦略が求められる。

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睡眠呼吸障害の小児、扁桃摘出術は有効か/JAMA

 いびきと軽度の睡眠時無呼吸を有する睡眠呼吸障害(SDB)の小児の治療において、アデノイド切除・口蓋扁桃摘出術は監視的待機(watchful waiting)と比較して、12ヵ月の時点での実行機能(executive function)および注意力(attention)を改善しないが、行動、症状、生活の質(QOL)、血圧などを有意に改善することが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のSusan Redline氏らが実施した「PATS試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年12月5日号に掲載された。米国7施設の単盲検無作為化臨床試験 PATS試験は、米国の7つの睡眠センターで実施された単盲検無作為化臨床試験であり、2016年6月~2021年2月に参加者を登録した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]協力協定の助成を受けた)。 年齢3~12.9歳、習慣性のいびきがみられ、閉塞性の無呼吸低呼吸指数(AHI)が3点未満のSDB患児458例(平均年齢6.1歳、女児230例[50%])を登録し、早期にアデノイド切除・口蓋扁桃摘出術を施行する群(手術群)に231例、監視的待機を行う群に227例を無作為に割り付けた。 2つの主要アウトカムとして、実行機能を評価するための、保護者報告によるBehavior Rating Inventory of Executive Function(BRIEF)のGlobal Executive Composite(GEC)Tスコアと、コンピュータベースの注意検査であるGo/No-go(GNG)テストのd-prime信号検出スコアの、ベースラインから12ヵ月時までの変化量を評価した。BRIEF GEC Tスコア、GNG d-primeスコアの変化量に差はない ベースラインで169例(36.9%)が過体重または肥満で、108例(23.6%)に喘息の既往があり、282例(61.6%)で扁桃腺が口腔咽頭幅の50%以上を占めており、331例(72.3%)でAHIが1点未満(中央値0.5点[四分位範囲[IQR]:0.2~1.1])であった。 12ヵ月の時点でのベースラインからのBRIEF GEC Tスコアの変化量は、手術群が-3.1点、監視的待機群は-1.9点であり、実行機能については両群間に統計学的に有意な差を認めなかった(群間差:-0.96点、95%信頼区間[CI]:-2.66~0.74、p=0.27)。 また、GNG d-primeスコアの12ヵ月時までの変化量は、手術群が0.2点、監視的待機群は0.1点と、注意力にも両群間に統計学的に有意な差はなかった(群間差:0.05点、95%CI:-0.18~0.27、p=0.68)。有害事象の頻度は同程度 一方、行動上の問題(CBCL総問題スコア:-3.09点[97%CI:-4.90~-1.28]、p<0.001)、眠気(mESSスコア:-1.18点[-2.15~-0.21]、p=0.01)、SDB症状(PSQ-SRBDスコア:-0.16点[-0.20~-0.12]、p<0.001)、疾患特異的QOL(OSA-18スコア:-9.75点[-12.84~-6.65]、p<0.001)、全般的QOL(PedsQL総スコア:4.76点[1.44~8.09]、p=0.005)のベースラインから12ヵ月時までの変化量は、いずれも監視的待機群に比べ手術群で有意に改善した。 手術群は監視的待機群と比較して、12ヵ月後の収縮期および拡張期血圧のパーセンタイル値の低下が大きかった(変化量の群間差:収縮期血圧:-9.02[97%CI:-15.49~-2.54]、p=0.006、拡張期血圧:-6.52[-11.59~-1.45]、p=0.01)。また、AHIが睡眠中1時間当たり3イベント以上へ進行した患児の割合は、監視的待機群が13.2%であったのに対し、手術群は1.3%と有意に少なかった(群間差:-11.2%[97%CI:-17.5~-4.9、p<0.001)。 6例(2.7%)が、アデノイド切除・口蓋扁桃摘出術に関連した重篤な有害事象を経験した。試験との関連を問わない有害事象が1件以上発生した患者は、手術群が175例、監視的待機群は172例であった。 著者は、「これらの知見は、睡眠ポリグラフ検査でAHIが低くても習慣性のいびきを呈する小児における、手術の有益性を排除するものではない。今後、どの小児がアデノイド切除・口蓋扁桃摘出術の恩恵を受ける可能性が高いかを特定するための、取り扱いが簡便なスクリーニング法を開発する研究が必要である」としている。

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高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 原著論文 Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults./NEJM―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2023年夏以降、急性呼吸器感染症として新型コロナに加え、季節性インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)の3種類のウイルス感染に注意すべき新時代に突入した。興味深い事実として、新型コロナが世界に播種した2020年度にはインフルエンザ、RSVの感染は低く抑えられていたが、2021年度以降、両ウイルス感染は2019年以前のレベルに戻りつつある。この場合、インフルエンザは11月~1月、RSVは7月~8月に感染ピークを呈した。 本邦にあっては、RSVは主として幼児/小児の感染症として位置付けられており、ウイルス感染症の有意な危険因子である高齢者に対する配慮が不十分であった。本論評では、高齢者RSV感染に適用される新たな遺伝子組み換えProtein-based vaccine(RSVPreF3 OA、商品名:アレックスビー筋注用、グラクソ・スミスクライン)とGene-based vaccine(mRNA-1345、Moderna)に関する治験結果を基に、高齢者RSV感染症の全体像について考察する。RSVの分子生物学 RSVは1956年に同定されたParamyxovirus科のPneumovirus属に分類されるウイルスである。エンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示す一本鎖(-)RNAウイルスで、10種の遺伝子をコードする15,000個の塩基からなる。RSVにあって宿主細胞との接着、侵入を司るのがウイルス表面に発現する1,345個のアミノ酸配列を有するF蛋白(膜融合前F蛋白)である(コロナウイルスのS蛋白に相当)。RSVは表面抗原であるG蛋白の違いによってA型とB型の2種類の亜型に分類されるが、両者の膜融合前F蛋白には明確な差を認めない。RSVの自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。高齢者RSV感染の疫学 すべての新生児において母親と同程度のRSV抗体(母体からの移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し、生後7ヵ月目以降のRSV抗体は生後に起こった新規自然感染に由来する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、生涯を通して再感染を繰り返す。RSV感染の最大の脅威は生後3ヵ月以内の乳児、未熟児、先天性心疾患を有する小児であることは間違いないが、近年、成人、とくに、高齢者におけるRSV感染の重要性が指摘されている。 欧米の検討では、看護施設に入所中の高齢者のうち年間で5~10%がRSVに罹患、うち10~20%が肺炎を合併、2~5%が死亡すると報告されている。さらに、65歳以上の高齢者にあってA型インフルエンザによる死亡が毎年3.7万人であるのに対し、RSVによる死亡は毎年1万人(インフルエンザの約30%)に達すると報告されている。18歳以上の成人を対象とした検討では、基礎疾患として喘息、COPD、糖尿病、冠動脈疾患、うっ血性心不全を有する人のRSV感染による入院比率は、基礎疾患を有さない人に比べ有意に高いことが示されている。高齢に加え、上記の基礎疾患は新型コロナ、季節性インフルエンザ感染の増悪因子としても作用するので、ウイルス性呼吸器感染症の普遍的危険因子として念頭に置く必要がある。インフルエンザ感染との比較において、RSV感染のほうが入院した症例の肺炎合併頻度、基礎疾患として存在する喘息、COPDの増悪頻度が高いことが示されている。 本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、本邦独自の成人データは集積されていない。2024年以降、3種のウイルスによる急性呼吸器感染症の本邦における重要性を確立するためには、RSV感染症に関する情報収集は成人を含めた広範囲な対象に広げる必要があり、早期の法的整備を望むものである。先進国のデータからの外挿値ではあるが、本邦の60歳以上の高齢者におけるRSV感染による入院者数は毎年6.3万人、死亡者数は4.5千人と推定されている(Savic M, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2023;17:e13031.)。RSVワクチン開発の軌跡 RSVに対するワクチン製造は1960年代に開始され、当初は不活化されたRSVを生体に導入する不活化ワクチンが中心であった。しかしながら、不活化ワクチンを用いた臨床治験の結果は悲惨なものであった。失敗の原因は、不活化ワクチンの導入によってウイルス殺傷能力の低い不適切IgG抗体が産生され抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)が発生したためである。それ以降の検討で、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的な働きをする膜融合前F蛋白の重要性が明らかにされ、それを標的として20世紀後半から現在に通じるモノクローナル抗体薬(mAb)、ワクチンの製造が開始された。まず初めに、膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えmAbであるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のハイリスクを有する新生児、乳児、幼児のRSV感染に伴う下気道感染の重症化阻止治療薬として使用されている(本邦承認:2002年1月)。現在、パリビズマブの半減期を延長させたニルセビマブの開発が進行中である。 新型コロナ発生に伴い、高度の蛋白・遺伝子工学手法を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、1つ目はGene-based vaccineであり、標的S蛋白をコードするmRNAをヒトに直接導入するもの(ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックスなど)、2つ目はProtein-based vaccineあるいはSubunit vaccineと定義されるもので、S蛋白に関する遺伝子情報をヒト以外の細胞に導入しS蛋白を生成、それをヒトに接種するものであった(ノババックス[武田]のヌバキソビッドなど)。2017年以降、以上と質的に同様のワクチンが、RSVの膜融合前F蛋白を標的として作成され始めた。高齢者に対する治験結果が報告されているProtein-based vaccineとしては、アレックスビー筋注用(GSK)とアブリスボ筋注用(ファイザー)がある。アレックスビー筋注用は2023年9月に、60歳以上の高齢者に対するRSV予防ワクチンとして本邦で製造承認された(米国での承認は2023年5月)。2023年12月、GSKはアレックスビー筋注用の適用を50歳以上の成人に拡大する申請を厚労省に提出した。 米国においては、アブリスボ筋注用も60歳以上の高齢者に使用可能である(2023年8月承認)。しかしながら、アブリスボ筋注用の特記事項は、本ワクチンを妊娠24~36週の妊婦に1回接種し、母体で作られた抗体を胎児に移行させるという斬新な方法が提示されたことである(米国での承認:2023年8月)。この方法によって新生児のRSV感染に由来する重症下気道感染を予防できるようになった(生後3ヵ月以内のRSV感染による重症化予防率:81.8%、生後6ヵ月以内の重症化予防率:69.4%)。本邦にあっては、アブリスボ筋注用は母体/新生児用として認可されているが(2023年11月)、高齢者用としては認可されていないことに注意する必要がある。 RSV膜融合前F蛋白を標的とした高齢者用のGene-based vaccineとしてmRNA-1345(Moderna)の開発が進められている。2023年現在、本ワクチンは、米国、スイス、オーストラリアなどにおいて製造承認の申請が始まっているが、本邦においても2024年度内に製造申請がなされるものと予測される。高齢者におけるRSVワクチンの予防効果 Papiらは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験の結果を報告した(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。中央値が6.7ヵ月の追跡期間においてRSVの下気道感染全体に対する有効率(予防効果)は82.6%であった。RSV感染の重症化因子(COPD、喘息、慢性心不全、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患)を有する対象での下気道感染症に対する有効率は94.6%であった。これらの結果は、アレックスビー筋注用が高齢者のRSV感染全体に対して臨床的に意義ある予防効果を発揮することを示す。RSV-A型に対する下気道感染に対する有効率は84.6%、RSV-B型に対する有効率は80.9%と両亜型間でほぼ同等の有効率を示した。 Wilsonらは60歳以上の高齢者3万5,541例を対象としたmRNA-1345に関する国際共同無作為化二重盲検第III相試験の結果を発表した(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。追跡期間の中央値は3.7ヵ月でRSV関連下気道感染に対する予防有効率は83.7%であった。基礎疾患の有無、RSV亜型による予防有効率に明確な差を認めなかった。以上より、Gene-based vaccineであるmRNA-1345のRSV感染抑制効果はProtein-based vaccineアレックスビー筋注用と同等であり、2024年度内に本邦を含め世界各国で承認されるものと期待される。 高齢者に対するRSVワクチンにあって今後の課題の1つがワクチンの年間接種回数である。しかしながら、RSVにあっては年1回の流行ピークが同定されているので、その時期に合わせた年1回のワクチン接種で十分だと論者らは考えている。RSVに関するもうひとつの課題は抗ウイルス薬の確立で早期の開発が望まれる。

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第177回 災害派遣医療チーム(DMAT)182隊が派遣、災害関連死防止のため患者を移送へ/能登半島地震

<先週の動き>1.災害派遣医療チーム(DMAT)182隊が派遣、災害関連死防止のため患者を移送へ/能登半島地震2.2024年度の診療報酬改定、高齢者の救急搬送を受け入れる病棟の新設へ/厚労省3.大学病院の対応能力を超過、臓器移植の体制整備が急務/移植学会4.処方箋なしで病院の薬が買える「零売薬局」を規制強化/厚労省5.3次救急病院において救急救命士への指示拒否やパワハラが発覚/鳥取県6.高齢化と後継者不足で約半数の開業医が10年以内に引退へ、地域医療が危機/山形県1.災害派遣医療チーム(DMAT)182隊が派遣、災害関連死防止のため患者を移送へ/能登半島地震能登半島地震の影響で石川県の高齢者施設では、災害関連死のリスクが高まっている。過去の災害では、多くの災害関連死が高齢者施設や自宅で発生しており、現在も同様の状況が懸念されている。神戸協同病院の上田 耕蔵院長は、施設の現状が「限界を超えた状態」にあると指摘している。東日本大震災のデータによると、災害関連死の25%が発生から1週間以内に起きており、能登半島地震でも同様の事態が発生している可能性がある。被災地では、1月14日現在、災害派遣医療チーム(DMAT)182隊が活動しており、災害支援ナースも複数の自治体から派遣されている。また、熊本地震でも活躍したモバイルファーマシーも活動を開始している。しかし、高齢者施設や自宅での災害関連死のリスクは依然として高く、とくに高齢者の健康状態に問題があるため、自宅にとどまっている人々に対する支援が重要となっている。東日本大震災の事例を分析した結果、関連死の8割は震災後3ヵ月以内に発生し、死因の多くは呼吸器疾患や心血管疾患であった。能登半島地震の被災地では、避難所のトイレ、食事、寝床の改善が重要であり、とくに高齢者に対するケアが必要とされている。災害関連死を防ぐためには、ライフラインの復旧とともに、弱っている人々を早急にみつけ、適切な医療や支援を提供することが求められている。このため石川県は災害関連死を防ぐため、被災した人たちの2次避難や広域避難を急いでいる。なお、厚労省は能登地震への対応について「まとめサイト」を設けており、地震に関する情報を掲載して、随時更新している。参考1)石川県能登地方を震源とする地震について(厚労省)2)石川県能登地方を震源とする地震による被害状況等について(同)3)「まだまだ水が足りない」 石川・被災地の総合病院、人工透析もできず(神奈川新聞)4)病院や施設でも高齢者に命の危機 半島部から350人以上を移送(毎日新聞)5)災害関連死、発生のピークは1~2週間後 東日本大震災の事例を分析(朝日新聞)6)災害関連死、施設や自宅で起きている恐れ もう「限界を超えた状態」(同)2.2024年度の診療報酬改定、高齢者の救急搬送を受け入れる病棟の新設へ/厚労省2024年度の診療報酬改定に向けた議論が大詰めを迎えている。1月12日、武見 敬三厚生労働大臣は中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問を行った。改定の基本方針は、医療関係職種の賃上げと働き方改革の推進に重点を置いたものとなっており、診療報酬の本体は0.88%引き上げられ、そのうち0.61%分が看護職員や病院薬剤師の賃上げに、0.28%分が若手勤務医や事務職員の賃上げに充てられる。中医協では、この前提に基づいて点数配分を議論し、改定案を答申する予定である。入院医療の評価に関しては、高齢者の救急搬送を受け入れる病棟の新設や、急性期入院医療の評価項目の見直しが焦点となっている。また、外来医療では、地域包括診療料の算定要件と評価の見直し、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応、介護との連携強化が議論されている。賃上げを実現するため、入院基本料などの評価の見直しも検討され、外来診療での感染防止対策や職員の賃上げに対する評価の見直しも含まれている。また、栄養管理体制基準明確化や、患者への身体的拘束を組織的に最小化にする体制整備なども追加された。医療DXによる情報連携や医療・介護連携の推進も、2024年度同時改定の重要ポイントとされている。これには、オンライン資格確認体制整備や、遠隔医療の推進、医療保険と介護保険との給付調整見直し、医療・介護のリハビリ連携強化などが含まれている。質の高い医療サービスの実現に向けては、がん医療や小児医療の充実、食材料費や光熱費の高騰への対応、医療安全対策の強化などが議論されている。また、医療保険財政逼迫を踏まえ、長期収載品の患者特別負担の適正化や、後発医薬品の使用促進なども検討されている。この改定は、医療人材の確保と賃上げ、医療サービスの質の向上、医療DXの推進など、多岐にわたる分野に影響を及ぼすとみられており、今後、個別改定項目の論議を経て、中医協総会は2月上旬に武見厚労相へ答申を行う予定。参考1)これまでの議論の整理(案)について(厚労省)2)2024年度診療報酬改定を諮問、厚労相 中医協の議論大詰めへ(CB news)3)賃上げで入院基本料などの「評価見直す」24年度改定議論の整理、中医協了承(同)4)2024年度診療報酬改定の項目固まる!病院の機能分化、処遇改善、医療・介護連携、医療DX推進など診療報酬で推進!-中医協総会(Gem Med)3.大学病院の対応能力を超過、臓器移植の体制整備が急務/移植学会昨年、国内の主要な大学病院において臓器移植手術の断念が急増していることが読売新聞の報道で明らかになった。2023年、東京大学、京都大学、東北大学の3大学病院では、人員や病床不足のため、60件以上の臓器移植を受け入れることができなかった。とくに東京大学では35件の受け入れを断念し、前年の4倍に急増していた。他の大学でも同様の事態が発生している。この背景には、脳死ドナーからの臓器提供が増加していることがある。2023年は132件と過去最多となり、提供件数が大きく伸びた結果、限られた移植施設に要請が集中した。また、臓器摘出手術が休日に偏って行われることも、施設の対応能力を超える一因となっている。土日祝日に摘出手術が行われた割合は、2020年以降61%に増加している。心臓と肺の移植手術は特定の病院に集中しており、東京大、国立循環器病研究センター、大阪大の3施設で心臓移植の約70%、京都大、東北大など4施設で肺移植の約75%を占めている。移植手術の実績がある施設に患者が集まる傾向があり、結果的に臓器の受け入れ先に選ばれやすい状況が生じている。このような状況に対し、医療関係者からは「救える命が救えなくなる」という危機感が表明され、市民団体や専門家らは、ドナー増を見据えた移植体制の整備を国に求めている。東京大学の佐藤 雅昭教授は、看護師や臨床工学技士の不足により、1日に行える移植手術が限られている現状を指摘し、病状が悪化した患者が移植の順番が回って来たにもかかわらず、別の緊急手術に人員が割かれたために移植を断念し、その後患者が亡くなった事例を挙げている。国立循環器病研究センターでは、2023年に32件の心臓移植を実施し、1施設あたりの年間心臓移植件数で過去最多を記録したが、ドナーの増加に伴い、3件同時に要請が来た場合の対応が難しくなるとの懸念を示している。日本移植学会の小野 稔理事長は、現在持ちこたえている移植施設でも早晩深刻な状況に陥ることが予想されるとし、臓器移植の体制充実を求める要望書を国に提出するなど対策を求める方針を明らかにした。参考1)臓器移植見送り、東大・京大・東北大で昨年60件超…提供集中で「対応できる限界超え」(読売新聞)2)移植見送り相次ぎ「救える命救えなくなる」…ドナー増加で体制整備急務(同)3)臓器摘出手術の曜日に偏り、対応能力超え…休日に60%(同)4)臓器移植の体制充実を求める要望書、学会が国に提出へ…東大などで受け入れ断念相次ぎ(同)4.処方箋なしで病院の薬が買える「零売薬局」を規制強化/厚労省厚生労働省は、一部の医療用医薬品を処方箋なしで販売する「零売薬局」に対する規制を強化する方針を示した。現行法では、約2万種類ある医療用医薬品のうち、7,000種類の医薬品を処方箋なしで販売する「零売薬局」について、近年は、「処方箋なしで病院の薬が買える」などと利便性を訴えて増加しており、都市部を中心に全国で約100店の零売薬局があることが問題視されてきた。このため、厚労省は「医薬品の販売制度に関する検討会」を2023年2月から定期的に開催し、具体的な問題点や新たな規制のあり方について検討を重ねてきた。これまで厚労省は、災害時の受診困難や市販薬での代替が難しい場合など、正当な理由がある場合に限り、必要な受診勧奨を行った上での販売を認めていたが、法的拘束力はなかった。その結果、日常的に販売を行う薬局が存在し、不適切な広告を行う薬局が確認されていた。新たな規制では、このようなメリットのみを強調する広告も禁止される。厚労省は、来年以降の法改正を目指し、昨年12月に医薬品の販売制度に関する検討会で改正案をまとめ、厚生科学審議会(医薬品医療機器制度部会)での議論を経て、法改正が進められる予定。参考1)処方箋なしで病院の薬「零売薬局」規制へ 緊急時のみ(日経新聞)2)「医薬品の販売制度に関する検討会」の「とりまとめ概要資料」(厚労省)3)第11回医薬品の販売制度に関する検討会(同)5.3次救急病院において救急救命士への指示拒否やパワハラが発覚/鳥取県鳥取市の鳥取県立中央病院と県東部消防局の関係が、救急搬送を巡る問題で悪化している。昨年12月5日~14日の間、病院の救命救急センター長が消防局に対し、救急救命士からの医療行為指示要請に応じないと通知。この拒否は、院長の許可なく行われ、10日間続いていた。廣岡 保明院長は、「県の手順書が不十分なため、医師が責任を問われる可能性があったため、救命救急センター長が独断で指示要請を拒否した」と説明している。この間、救急救命士は他の病院の医師の指示を受けながら患者を中央病院に搬送した。さらに消防局側は、搬送時に病院医師からパワーハラスメントを受けたと訴え、病院に調査を要請している。廣岡院長は今回の問題について記者会見を開いて陳謝し、再発防止策を講じる意向を示した。また、救急隊員に対するパワハラ行為を認め、消防局側からの約20件の調査要請についても明らかにした。現在、病院側は通常通り救急車を受け入れ、12月15日以降は、指示要請にも応じてとしている。県東部消防局は、地域住民への救急サービスが低下しないよう努めるとコメントした。今回の事件は、医療機関と消防の間の連携に影響を与え、地域住民への医療提供にも影響を与えかねない深刻な事態となっている。神戸大学の小谷 穣治教授は、「医療事故のリスクを抑えるために、医療機関と消防の円滑な連携が求められる」と指摘している。参考1)救急隊の医療行為指示要請医師が拒否 県立中央病院の院長陳謝(NHK)2)救急救命士への指示拒否 鳥取県立中央病院、医師のパワハラ認める(毎日新聞)3)県立病院と消防局の関係が悪化、医師が救急救命士への指示を一時拒否…消防側「搬送時にパワハラも」(読売新聞)4)県民の皆様へ(マスコミ報道について)(鳥取県立中央病院)6.高齢化と後継者不足で約半数の開業医が10年以内に引退へ、地域医療が危機/山形県山形県内の開業医の高齢化が進み、後継者不足が深刻化していることが明らになった。山形県医師会が行ったアンケートによると、約半数の開業医が10年以内に引退する可能性が高いと回答し、後継者が決まっている医師はわずか20.6%にとどまった。とくに60代以上の医師が多く、地域医療を支える現役医師の高齢化が顕著だった。この状況は、地域医療の崩壊をまねく恐れがあり、県医師会は危機感を示している。過去10年で診療所の減少が顕著な地域もあり、とくに最上地域では7診療所が新たに開設された一方で、14診療所が閉院している。また、酒田地区医師会の調査では、半数近くの診療所が10年以内に閉院する可能性があると回答している。医師不足に対応するため、山形県と県医師会は2024年度に「医業承継事業」を実施する方針を立てている。この事業では、開業を希望する医師と後継者不足に悩む診療所を結ぶマッチング専用のホームページを開設し、マッチングの提案や支援制度の紹介を行う予定。新年度予算案には関連費用として1,530万円が計上されている。この取り組みは、地域医療の維持と後継者問題の解決に向けた重要な一歩となる見込み。参考1)高齢化進む開業医 半数余“10年以内に引退の可能性“と回答(NHK)2)診療所の6割「後継者決まっていない」…山形県医師会「地域医療が崩壊しかねない」(読売新聞)

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死亡確認、どんなかたちが理想?【非専門医のための緩和ケアTips】第67回

第67回 死亡確認、どんなかたちが理想?自分以外の医師は、どんなふうに死亡確認をしているのだろうって思うことはありませんか? 初期研修医ならいざ知らず、ある程度の年齢になると、ほかの医師の死亡確認に同席することはあまりないでしょう。今回は緩和ケアの実践でも重要なシーンである、死亡確認について考えてみましょう。今日の質問私の診療所は、初期研修の地域研修施設で、定期的に初期研修医が学びに来ます。研修中は在宅医療でお看取りをする機会があり、その指導をする必要もあります。とはいえ、私自身、学生や研修医時代に死亡確認の指導を受けた記憶がなく、何を伝えるべきか迷います…。私自身、死亡確認について明確に指導を受けた経験はありません。ただ、若手医師の多い環境で勤務してきたので、「どんなふうにやってますか?」と時々話題になり、皆で議論したことが学びになりました。患者、家族にとってはもちろん、医療者にとっても死亡確認は重要な場面です。それまで積み重ねてきたケアや関係の集大成であり、医師の立ち居振る舞いがネガティブな影響を与えないことが求められます。緩和ケア病棟に限定されたものではありますが、死亡確認時に関する研究があります1)。日本で行われた、遺族を対象にホスピス・緩和ケアの質の評価した研究で、この中で死亡確認にまつわる内容も調査しています。「遺族にとって、どのような死亡確認が望ましいか」がテーマの1つです。この研究では、「医師の死亡確認の仕方には、改善すべきところがあった」という質問について、「大いにある」「かなりある」「ある」との回答は計12.4%でした。また、改善の必要性に関連した要素では、「主治医以外の医師による死亡確認」は改善の必要性が有意に高くなり、「死亡確認を行う前に、医師は患者に声を掛けてから診察を始めた」は改善の必要性が有意に低くなる、という結果になりました。この知見をどのように臨床と教育の現場に活かすとよいでしょうか?ここからは私の解釈と意見になります。まず、死亡確認の改善の必要性について、12.4%という数字を多いと見るか少ないと見るかは意見の分かれるところですが、多くの家族にとって大切なシーンですので、医療者としては常に改善できないかを顧みる必要があるでしょう。一方、改善の要素としては、必ず主治医が死亡確認をできるわけではないので、事前に家族に「主治医以外が対応する可能性もある」と説明し、主治医以外の患者には、いっそう丁寧に対応する意識が必要でしょう。具体的には、「主治医の先生から申し送りをしてもらっている」と伝えるとよいかもしれません。また、「患者さんに声を掛ける」というのは私もよくしていますが、ここには経験や練習が必要かもしれません。「声掛けをしましょう」とアドバイスされても、死亡確認は診療とはまた違った緊張が伴う場面であり、何を言ったらよいか、わからなくなりそうです。ここでは、ロールプレイの研修などが有効でしょう。死亡確認時の工夫、皆さんの知見もぜひ共有ください。今回のTips今回のTipsよりよい死亡確認については、関連研究があります。施設内で議論する、ロールプレイ研修をするなど、工夫をしてみてください。1)浜野 淳. 42. 緩和ケア病棟における望ましい死亡確認に関する研究. 遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究4(J-HOPE4).日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団;2020.p.253-256.

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映画「かがみの孤城」(その2)【実は好きなことをさせるだけじゃだめだったの!?(不登校へのペアレントトレーニング)】Part 1

今回のキーワード社会的な自我(アイデンティティ)味方になる(自尊心)寄り添いワード大人扱いする(自信)お小遣い歩合制家庭のルールづくり夢を語り合う(自我)ユートピア型前回は、不登校の根っこの心理を掘り下げました。それは、自我の弱さでした。そして、不登校が増えている一番の原因を解き明かしました。それは、社会構造の変化でした。それでは、これらを踏まえて、自分の子供が学校に行けなくなったらどうすればいいのでしょうか?今回も、不登校をテーマに、アニメ映画「かがみの孤城」を取り上げます。この映画を通して、再び発達心理学の視点から、不登校への効果的な親の対応(ペアレントトレーニング)をご紹介します。好きなことをさせるだけじゃだめなの?主人公のこころは、不登校になってから、家でテレビを見るか横になっているだけでした。近くに住む萌ちゃんが毎回学校からの届け物を郵便ポストに入れていましたが、その時もこころは窓からこっそり見ているだけで、かかわりを持とうとしません。自分の子供が不登校になった時、親として無理やり学校に行かせることは本人を追い詰めるだけなので、確かに望ましくないです。かと言って、こころのようにただ家にいて、本人の好きにさせるだけでいいのでしょうか? 教育関係者の中には、そうするよう提唱する人もいます。はたして、どうなんでしょうか?このやり方は、前回説明した自我を育むという点においては、明らかに望ましくないです。確かに、家で好きなことをしているだけでは、単に今ここでどうしたいかという「個人的な自我」(自己愛)は育まれます。しかし、ただ家にいるだけでは、勉強(認知能力の学習)はなかなかする気になれず、クラスメートや先生とのかかわり(社会的コミュニケーション)の刺激もありません。すると、これから社会でどうなりたいか、つまり大人になってどう生きていきたいかという「社会的な自我」(アイデンティティ)はやはり育まれなくなります。これが理由です。もっと言えば、先進国で日本ほど不登校に寛容な国はありません。たとえば、米国で子供が不登校になると、ネグレクトとして親に罰金が課され、子供には心理カウンセリングが義務づけられます。そして、米国や欧州の多くの国々では、代わりに少なくともホームスクーリング(家庭学習)が義務づけられています。なお、ドイツにいたってはホームスクーリングさえ認められず、転校するなどして通学することが義務づけられています。世界的に見れば、それくらい子供に教育を受けさせることは親や国家の義務とされています。日本は、家族主義が根強いため、不登校への対応は主に家庭に任せ、国は法的な介入をしないというスタンスを取り続けています。しかし、さすがにこれだけ不登校が増え続けるなか、不登校の黙認は、日本国憲法に定められた三大義務の1つである「教育を受けさせる義務」を親も国家も果たしていないことになります。もはや、好きなことをさせるだけでは「教育ネグレクト」と言わざるを得ません。じゃあ親はどうしたらいいの?好きなことをさせるだけでは望ましくない理由は、「社会的な自我」(アイデンティティ)が育まれなくなるからであることがわかりました。これを踏まえて、それでは、親はどうしたらいいのでしょうか? こころと母親のやり取りから不登校を解決するために必要な親の対応を、ペアレントトレーニングとして、順番に大きく3つ挙げてみましょう。なお、ペアレントトレーニングとは、もともとADHD(注意欠如多動症)などの発達障害の子供への親の対応スキルを練習することですが、不登校にも広げることができます。(1)味方になる―自尊心こころの母親は、フリースクールの先生の助言もあって、こころにあまり口出しをせず、根気強く見守るようになります。普段から他愛のない雑談を心がけるようになります。こころがいじめを打ち明けた時は、「本当に気付いてあげられなくてごめん」と言い、やさしく抱きしめます。1つ目は、味方になることです。ここで、その方法を具体的に3つ挙げてみましょう。a.雑談1つ目は、雑談です。これは、ただ親が「宿題やった?」「どこ行ってたの?」などと見張るようセリフはNGです。雑談の内容は、親がただ知りたいことではなく、あくまで子供が話したいことに寄せるのがコツです。たとえば、一緒にテレビを見ながら「このお笑い芸人おもしろいね」「この俳優、私の最近の推しメンだわ」などと楽しく話すことです。雑談の目的は、情報ではなく情動、つまりまず信頼関係を築くことです。b.良いところ探し2つ目は、良いところ探しです。これは、まさに子供の良さや強みをどんどん指摘していくことです。ここで、良いところが見つからないと困っている人はいますでしょうか? そんなことはありません。たとえどんなネガティブなことでもポジティブに返すことができます。心理学では、リフレーミング(認知再構築)と呼ばれています。具体例は表1をご覧ください。良いところ探しの目的は、良さが本当にあるかどうかではなく、良さがあると思ってくれる味方がいることを子供に伝えることです。なお、これは、褒めるスキルにも通じます。詳細については関連記事1をご覧ください。c.寄り添いワード最後にして一番大事なのは、3つ目の寄り添いワードです。これは、欧米圏のようにことあるごとに「アイラブユー」と言い添えることです。ただし、日本人はストレートな表現に馴れていないです。いきなり言ってしまうと気持ち悪がられるおそれがありますので、言い換える必要があります。たとえば、普段から会話の中で「きみは大事だよ」「一緒にいて幸せだよ」と言うことです。また、いじめを打ち明けた時などは、子供の気持ちを受け止めることです。説教したり審判するのは逆効果です。助言については、「アドバイスほしい?」と確認するくらい慎重になる必要があります。具体例は、表2をご覧ください。なお、これは、うつ病など弱っている人へのかかわり方にも共通しています。この詳細については関連記事2をご覧ください。このようにして味方になることで、「自分は大丈夫」(OK)という安心感を育み、自尊心(自己肯定感)を高めることができます。これが、土台としてまず必要になります。次のページへ >>

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映画「かがみの孤城」(その2)【実は好きなことをさせるだけじゃだめだったの!?(不登校へのペアレントトレーニング)】Part 2

(2)大人扱いする―自信こころの母親は、こころが城に通っている間に家にいないことに気付き心配して指摘します。しかし、こころから「監視されるの好きじゃない」と言い返されると、その後は、それ以上言わず、本人に任せるようになります。2つ目は、大人扱いすることです。ここで、その方法を具体的に4つ挙げてみましょう。a.プライバシー尊重1つ目は、プライバシーの尊重です。たとえば、部屋の掃除という口実で、勝手に持ち物を確認したり、日記を見たりしないことです。携帯電話を持たせている場合、勝手に見ないことです。ここで、「心配だから確認したい」と思う人はいますでしょうか? これは、子供扱いです。本人が「大人になりたい」という自我を削ぐことになります。そして、信頼関係も損ねてしまいます。もしも、皆さんが大人扱いする感覚がよくわからない場合は、ホームステイ中の外国人の若者だったらどう接するかと想像したらいいでしょう。もはや文化が違うわけです。相手の文化を尊重して、こっちの文化を押し付けることはできないです。親切に接して、決して勝手に携帯電話をのぞき見しないでしょう。それくらいの距離感が必要であるということです。b.大人トーク2つ目は、大人のトークです。たとえば、親が話しかけても子供が無愛想な時、「その態度は何なの?」と叱る(攻撃)のではなく、それ以上何も言わないという黙認(非主張)でもなく、フラットな大人の関係を意識して、ほどほどに伝えることです。具体例は表3をご覧ください。なお、これは、心理学ではアサーションと呼ばれています。この詳細については、関連記事3をご覧ください。c.お小遣い歩合制こころは、他のメンバーへのお誕生日プレゼントを自分の財布から支払っていました。こころはお小遣いをもらっているようです。実は、お小遣いは、子供を心理的に自立させるためにも効果的なツールであると言われています1)。一方で、不登校の相談を受ける時、お小遣いについて確認すると、多くの親がお小遣いをあげていない、つまり必要に応じて親の判断でお金を渡していることが判明しています。そうではなくて、このお小遣いに仕組みをつくる必要があります。3つ目は、お小遣い歩合制です。具体例は図1をご覧ください。ポイントは、親の判断や気分でお小遣いをあげないこと、つまりお小遣いのルール化です。まず、あらかじめベースのお小遣いを設定します。そして、たとえばフリースクールに行けたら1日プラス〇円と設定するのです。これは、大人の給料(報酬制)と同じです。心理学的には、トークンエコノミー(行動療法)と呼ばれています。これを本人がある程度納得する形で提案し、一緒に署名します(契約制)。定期的に見直して、項目や金額設定を変更する話し合いも行います(交渉制)。こうすることで、「何もしなくてもお金がもらえる」「なくなったらねだればいいや」という子供っぽい発想がなくなります。そして、「がんばったら自由に使えるお金が増える」「計画的にお金を使おう」という発想が生まれます。そうなるためにも、安易にお金を渡さないことも必要です。d.家庭のルールづくりこころの家には、ゲーム機がありませんでした。原作では、こころが不登校になってから父親が一方的にゲーム機を取り上げてしまったと説明されていました。確かに、ゲーム機やスマホを最初から家に置かないようにするのも1つのやり方です。ただし、ただ一方的に取り上げるだけでは子供扱いです。それでは、ゲームやスマホの時間制限をお小遣い歩合制の項目に入れるのはどうでしょうか? 残念ながら、機能しないでしょう。なぜなら、子供はその分を損してもやり続けるからです。それくらい、ゲームやスマホは依存性が強いのです。夜遅くまでゲームに熱中していれば、朝起きられないのは当たり前です。こんな時、親が本人を無理やり叩き起こして学校まで送迎するのはどうでしょうか? これも明らかに子供扱いです。「親が起こして連れてってくれるからいいや」とますます子供っぽい発想になります。そこで、最後にして最重要なのが、家庭のルールづくりです。具体例は図2をご覧ください。このポイントは、 まずペナルティの設定です。そして、ある程度納得してもらうために、ゲーム依存症のリスクがどれほどのものか根拠(データ)を示すとともに、家族の目標、つまりビジョンを示すことです。また、「家族で助け合う」というビジョンを入れておくと、先ほどのお小遣い歩合制によって「お金がもらえないなら家事は手伝わない」という発想を予防することもできます。さらに、なるべく家族全員に署名してもらいます。つまり、立会人の存在です。ルールが機能するためには、ペナルティの設定と同時に、それをチェックする周りの目が必要になります。これは、ルールを課される子供だけでなく、ルールを課す親にも向けられているという点で、とてもフェアで妥当なものになるでしょう。家庭のルールづくりの一番の目的は、ゲームやスマホなどの家庭内の娯楽の制限です。娯楽という点では、テレビも含まれます。こころは、城に招かれる前、1日中テレビを見ていました。家庭は、確かに安心できる場所であることが必要ですが、楽しい場所である必要はありません。むしろ、「家にいてとても楽しい」と思っている子供がそれよりも娯楽が少ない学校やフリースクールに行くわけがないことは容易に想像できます。「家にいると退屈だ」と子供に思わせることが必要になります。その方が、そんな家を早く出て自立したいと思うでしょう。「それじゃかわいそうだ」と思う人はいますでしょうか? この発想も子供扱いです。私たち親は、自立できる人を育てる責任があります。それが最優先されます。その責任がある以上、不登校の子供に家庭内の娯楽の制限をすることはやはり必須になります。ちょうど、糖尿病の子供にお菓子やジュースなどの嗜好品を制限するのとまったく同じです。そうしないのは、やはり「教育ネグレクト」と言わざるをえません。つまり、大人扱いをするとは、本人がどんな行動を選択するかの自由を与えると同時に、その行動への責任を教え、責任を取る練習をさせることであることがわかります。よく言われるように、自由と責任はセットです。この責任とは、最終的には自分の人生を自分で生きる責任です。逆に言えば、成人したら、経済的な援助は基本的にできない、病気になるなど困ったときに一時的に限ることをあらかじめ伝える必要があります。また、「ゲームをやらせろ」と暴れる場合は、もはや対応の限界です。暴行や器物破損として警察に通報を必要があることを本人に冷静に伝える必要もあります。つまり、家庭のルールは社会のルールにつながっています。なお、このような限界設定は、やはりその前に味方になるという信頼関係を十分に築いていることが大前提です。この信頼関係がなければ、そもそも家庭のルールを守ろうとする気が子供に起こらないでしょう。このようにして、もともとの自尊心を土台として、さらに大人扱いすることで、「自分はできる」(can)という有能感を育み、自信(自己効力感)を高めることができます。これが、中核として必要になります。(3)夢を語り合う―自我こころの両親は、二人とも仕事をしていました。しかし、夕食などで、とくに仕事については話題にしていませんでした。実は、話してほしい話題があります。3つ目は、夢を語り合うことです。ここで、その方法を具体的に3つ挙げてみましょう。a.背中語り1つ目は、背中を見せる、つまり背中語りをすることです。まず、親が、仕事をはじめボランティアなども含めた社会参加をどうしていて、どうなりたいのかという「夢」(ビジョン)をさりげなく語っていることです。これは「味方になる」の方法の1つである雑談の延長です。たまに愚痴は言いつつも、やはりがんばっていることを夫婦で語り合っていることです。いつか行ってみたい場所、いつか会ってみたい人たちなども語るのも良いでしょう。逆に言えば、親が仕事の愚痴を吐いてばっかりでつまらなさそうにしているだけでは、子供は大人になって仕事をがんばりたいとは思わなくなるでしょう。これは、心理学的にはモデリングと呼ばれています。思春期の子供は親の言うことは聞かなくなりますが、親のまねは知らず知らずにしてしまうということです。b.タイムマシン2つ目は、タイムマシンに乗せるです。これは、タイムマシンに乗って未来の自分を見にいったら、どんな自分が見れるか想像しもらうことです。何歳でどんな場所にいて、どんな格好や表情をしているか、誰とどんな話をしているか、細かく聞き出すことです。さらに、それを子供に書き出してもらって、その紙を張り出すことを提案します。絵が得意なら、絵にして飾るのも良いでしょう。夢(未来)を語るとは、自分の人生に責任を感じていくプロセスでもあります。すると、じゃあ今どうすればいいのかがおのずと沸き起こってきます。それは、夢(目的)を叶えるために少なくとも学校に行くことは必要だと気付くことです。こうして、自分で決めて行動することで、自分の行動に責任を持つようになります。それが自分の生き方に納得するという自我同一性(アイデンティティ)につながっていきます。この働きかけは、心理学的にはタイムマシンクエスチョン(ブリーフセラピー)と呼ばれています。ポイントは、未来の自分の視点に立たせ、考えさせることです。ちなみに、視点は、未来の自分だけでなく、理想の自分、尊敬する人(ロールモデル)に置き換えることもできます。具体例は、表4をご覧ください。この考えさせるかかわりの詳細については、関連記事4をご覧ください。c.意味づけ3つ目は、意味づけることです。これは、うまく行かないことや嫌なことがあっても、それを「これは夢(目的)を叶えるために必要なんだ」と意味づけることです。夢を具体的に描けていれば、これが可能になります。「試練」「次にうまくやるためのリハーサル」などと伝えることもできます。これは、「味方になる」でご紹介したポジティブ返しでもあります。実際の研究では、人はストレスがあることによって、自ら成長していくこともわかっています。心理学的には、ストレス関連成長(SRG)と呼ばれています。つまり、うまく行かないことや嫌なことは、成長するためにはむしろある程度必要であるという考え方です。これは、悔しさという心理の機能です。この点で、親が失敗させないように先回りして指示したり、嫌な思いをさせないように人間関係を制限するのは、逆効果であるということです。この詳細については、学校環境の影響度として、関連記事5をご覧ください。なお、夢を語ったり意味づけしてもらうためには、「味方になる」の方法の1つである良いところ探しから、本人が自分の強み(リソース)を自覚していることが大前提です。そして、「大人扱いする」の方法の1つである家庭のルールづくりから、本人が自分の人生を自分で生きる責任を自覚していることも大前提です。この強みや責任の自覚がなければ、いくら夢を聞いても、「わからない」「思いつかない」としか答えなかったり、「つまんない大人になってる」としか言わないでしょう。このように、先ほどの有能感を中核として、夢を語り合うことで、「やりたい」(want)、「なりたい」(want to be)という自分の人生への責任感を育み、個人的そして社会的な自我(アイデンティティ)を確立することができます。これが、仕上げとして必要になります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「かがみの孤城」(その2)【実は好きなことをさせるだけじゃだめだったの!?(不登校へのペアレントトレーニング)】Part 3

これからの家族のあり方とは?不登校へのペアレントトレーニングとして、味方になる、大人扱いをする、夢を語り合うことで、自尊心、自信、自我を順に育んで、学校に行くことは必要であると自覚させることであることがわかりました。つまり、学校は、行きたいか行きたくないかという好き嫌いの問題ではなく、行く必要があるという必要性の問題であると自分で思えるかどうかであるということです。言われてみれば、当たり前のことのように思えますが、この発想を促す自我がもともと弱かったり、育まれていなかったために、あっさり不登校になっていたのです。以上を踏まえて、これからの家族のあり方とはどういうものが望ましいでしょうか? ここから、家族を国家のタイプに例え、大きく4つに分けて、その答えを導いてみましょう。(1)独裁国家型1つ目は、独裁国家型です。これは、北朝鮮、ロシア、中国のように、逆らうとひどい目に遭う国です。これは、封建社会の価値観に通じます。家族に置き換えれば、前回すでに紹介した1980年代以前の日本の家族が当てはまります。親(国家)は、子供(国民)の味方になっているわけではなく、無理やり大人扱いして、一方的に責任を押し付ける特徴があります。結局、自尊心は育まれず、自信はありますが、自我は弱いです。そのため、「とにかくやらなきゃ」(should)という発想になりがちです。このタイプは、現代の価値観では時代遅れとなっており、家族のあり方としてはもちろん危ういです。(2)ユートピア型2つ目は、ユートピア型です。これは、中東のオイルマネーで豊かな国です。そこには、その名の通り、王子と呼ばれる働かない人が多くいます。家族に置き換えれば、ちょうどこころのように、1980年代以降の不登校を招きやすい日本の家族が当てはまります。親(国家)は、子供(国民)の味方にはなっていますが、大人扱いが不十分で、無責任にさせてしまう特徴があります。自尊心はある程度育まれるものの、自信がなく、結局自我は弱いままです。そのため、「誰かやって」(please)という発想になりがちです。このタイプは、不登校だけでなく、アルコール、ギャンブル、ひきこもりなど嗜癖の問題を招くリスクが最もある点で、やはり家族のあり方として危ういでしょう。(3)民主国家型3つ目は、民主国家型です。これは、欧米圏のように、積極的な話し合いと多数決によって成り立っている国です。家族に置き換えれば、おそらく萌ちゃんの家族が当てはまります。親(国家)は、子供(国民)の味方になり、大人扱いして、夢(より良い未来)を語り合う特徴です。自尊心も自信も育まれて、必然的に自我は強くなります。そのため、「やりたい」(want)、「なりたい」(want to be)という発想になります。このタイプこそが、不登校を防ぐ点でも、これからの家族のあり方として、望ましいわけです。(4)無法地帯型4つ目は、無法地帯型です。これは、ロシアとウクライナ、パレスチナとイスラエルのような戦争状態の国です。親(国家)は、子供(国民)の味方にはなれず、大人扱いどころではなく、いつ「殺される」(虐待される)かわからないという特徴があります。もちろん、自尊心も自信も育まれず、自我も芽生えないです。先のことは何もわからないため、「やらない」(no way)という発想に陥ります。このタイプは、もはや家族のていをなしていない点でも、家族のあり方として、決して望ましくないでしょう。ちなみに、日本は国としては民主国家の形になってはいるのですが、家族としてはまだ家族主義が根強いことから、ユートピア型になってしまっている家族が多いのが現状です。だから、不登校が多いのです。逆に言えば、家族も個人主義化して家族主義から抜け出して民主国家型になれば、不登校は海外と同じように目立たなくなることが予測できます。なお、この家族の国家タイプの詳細については、関連記事6をご覧ください。いじめにとらわれると不登校が解決しづらくなるこころが母親にいじめの件を打ち明けたことから、母親が担任の先生に迫るシーンがありました。親心として、いじめ加害者を断罪したいと思う気持ちはよくわかります。「その子のせいで不登校になった」「その子がいなければ不登校にはならなかった」というロジックです。しかし、前回説明したとおり、いじめは不登校のきっかけ(誘因)にすぎず、たとえいじめがなかったとしても、不登校の根本的な原因である自我の弱さは変わりません。城に来た他の6人と同じように、別のきっかけでこころは遅かれ早かれ不登校になる可能性が考えられます。不登校にならなかったとしたら、ただそれは誘発されずに運が良かっただけです。つまり、いじめを掘り下げても、不登校は解決しないです。むしろ、いじめられることは、子供の心理からしてみれば、恥です。学年が変わるタイミングで加害者たちを別のクラスにするなどの対策は必要ですが、親がいじめにとらわれて騒ぎ続けると、子供が前に進めなくなります。そもそもいじめの認定は、いじめられたと主張する本人の主観による要素が大きいです。これは、ちょっとでも何かされたり(いじりや陰口だけでも)、逆にちょっとでも相手にされない(無視)だけでも「いじめ」であると本人が認識する場合も含まれることを意味します。そのため、犯罪レベルを除くと、もはや不登校に「いじめ」があるかどうかを明確に区別することには限界があります。また、進化心理学的に考えれば、いじめは人類が心の進化の過程で社会を維持するために獲得した負の機能(社会脳)です。私たちが集団をつくる限り、いじめの心理をなくすことは難しいのが現実です。いじめを減らす取り組みはもちろん必要ですが、仮にいじめを完全になくすことができたからといって、自我の弱さは変わらないため、不登校が劇的に改善することはないでしょう。逆に、先ほどのストレス関連成長(SRG)の観点から、大人の社会でもいじめはあるのに、学校で小さな「いじめ」(対人ストレス)までも厳しく取り締まって「無菌状態」(ストレスフリー)をつくってしまったら、大人になった時に「免疫力」(ストレス耐性)が高まらず、結局小さな「いじめ」ですぐに参ってしまうでしょう(ストレス脆弱性)。たとえば、こころが自我の弱いまま大人になったら、今度は「新型うつ」(職場不適応)になる可能性が考えられます。なお、「新型うつ」の詳細については、関連記事7をご覧ください。つまり、不登校といじめ(犯罪レベルを除く)を積極的に結びつけることには大きな意味はなく、むしろいじめにとらわれてしまうと、不登校が解決しづらくなってしまうおそれがあります。なお、いじめの心理と対策の詳細については、関連記事8をご覧ください。ちなみに、こころの母親から「学校に行けないのはこころちゃんのせいじゃないって」というセリフがありました。あとからいじめ被害が判明したため、結果的には、自分を責めてしまいそうなこころに味方になるメッセージを伝えるという効果がありました。一方で、子供にはこれからどうするかについて責任を感じなくて良いという裏メッセージとして伝わる可能性もあり、実は危ういセリフであることもわかります。まさに、これはユートピア型ならではの声かけです。よって、安易に使わない方が良いでしょう。厳密に言うと、学校に行けなくなったことへの責任は確かにないですが、これからどうするかにはやはり責任があります。これは、アルコール依存症と同じで、なってしまったことへの責任は本人にないですが、治す責任は本人にあるということです。ちなみに、ひきこもりの人の多くが口を揃えて言うセリフがあります。それは「こうなったのは親のせいだ」です。このような責任逃れの心理(モラルハザード)に陥らないようにするためにも、やはり、「誰のせい」「誰のせいじゃない」などと学校に行けなくなった原因を掘り下げることは避けて、その他の寄り添いワード(1ページ目)を使いつつ、これからどうしたらいいかという解決にフォーカスすることが有効です。1)「子供におこづかいをあげよう!」P66:西村隆男、主婦の友社、2020<< 前のページへ■関連記事ダンボ【なぜ飛ぶの? 私たちが「飛ぶ」には?(褒めるスキル)】ツレがうつになりまして。【うつ病】逃げるは恥だが役に立つ【アサーション】ドラえもん【子供のメンタルヘルスに使えるひみつ道具は?】ちびまる子ちゃん(続編)【その教室は社会の縮図? エリート教育の危うさとは?(社会適応能力)】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 1こうして私は追いつめられた【新型うつ病】告白【いじめ(同調)】Part 1

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