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日本における統合失調症患者の死亡率

 統合失調症患者は、一般集団と比較して、死亡率が高いといわれている。しかし、日本における統合失調症患者の死亡率を調査した最近の研究はなかった。ドイツ・ミュンヘン工科大学の野村 信行氏らは、日本における統合失調症患者の超過死亡率と死亡率に対するリスク因子を評価するため、レトロスペクティブ研究を実施した。Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology誌オンライン版2024年1月20日号の報告。 対象は、2013年1月~2017年12月に山梨県立北病院で統合失調症または統合失調感情障害と診断された患者。統合失調症患者と一般集団の死亡率の比較には、標準化死亡率(SMR)を用いた。死亡率に対するリスク因子を推定するため、ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者1,699例(男性:893例、女性:806例)のうち、研究期間中に死亡が認められた患者は104例(男性:55例、女性:49例)であった。・すべての原因によるSMRは2.18(95%信頼区間[CI]:1.76~2.60)、自然死のSMRは2.06(1.62~2.50)、不自然死のSMRは5.07(2.85~7.30)であった。・死亡リスクと関連が認められた因子は、男性(調整オッズ比[aOR]:2.24、95%CI:1.10~4.56)、年齢(aOR:1.12、1.09~1.16)、バルビツール酸の使用(aOR:8.17、2.07~32.32)であった。 著者らは、「日本における統合失調症患者の死亡率は、依然として高いままであり、統合失調症患者の死亡率の傾向を評価するためには、さらなる研究が求められる」としている。

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論文での生成AI使用、投稿雑誌のガイドライン整備状況は?/BMJ

 著者による生成人工知能(generative artificial intelligence:生成AI)の使用に関して、一部の大手出版社や雑誌によるガイドラインが不足しており、ガイドラインを提示していても許容される生成AIの使用やその開示方法は大きく異なり、出版社と提携雑誌間でガイドラインの不均一性が存在している場合があるという。米国・南カルフォルニア大学のConner Ganjavi氏らが、学術出版社および科学雑誌による著者に対する生成AI使用のガイダンスの範囲と内容を明らかにすることを目的に、横断的な計量書誌学的研究を行った結果を報告した。2022年後半以降、ChatGPTを含む生成AIツールが学術論文や研究で広く利用されるようになり、出版社、雑誌、監督官庁のメンバーを含む出版エコシステム(publishing ecosystem)の関係者は、この新しいテクノロジーを監視し、安全に使用する方法について議論をしている。著者は、「標準化の欠如は、著者への負担につながり、規制の効果を限定的なものとする可能性がある。生成AIの人気が拡大し続ける中、研究成果の科学的誠実性を確保し続けるためにも標準化されたガイドラインが必要となる」とまとめている。BMJ誌2024年1月31日号掲載の報告。各公式ウェブサイトで生成AIに関するガイドラインを計量書誌学的に調査 研究グループは、テーマ、言語、発行国に関係なく、最大手の学術出版社上位100社と高ランクの科学雑誌上位100誌を対象として、各社の公式ウェブサイトを手作業で検索し、生成AIに基づくものも含めて広く生成AIツールに関する著者ガイダンスを調査した。 出版社はポートフォリオ内の雑誌の総数によって特定し、学術誌は雑誌の生産性と影響力の指標として、Hirsch index(H index)を用いるSCimago journal rank(SJR)によって特定した。各社の公式ウェブサイトについて、2023年5月19~20日にスクリーニングを行い、同年10月8~9日に検索を更新した。 主要アウトカムは、上位100の学術出版社および科学雑誌の公式ウェブサイトに掲載されている生成AIガイドラインの内容、および出版社とその提携雑誌間のガイダンスの一貫性とした。ガイドラインの記載は、上位100の学術出版社で24%、科学雑誌で87% 上位100の学術出版社のうち、生成AIの使用に関するガイダンスを提示していたのは24%で、そのうちの15社(63%)は上位25社に含まれていた。また、上位100の科学雑誌のうち、生成AIに関するガイダンスを提示していたのは87%であった。 ガイドラインを設けている出版社と雑誌のうち、著者として生成AIを含めることを禁止しているのは、それぞれ96%、98%であった。原稿作成における生成AIの使用を明確に禁止している雑誌は1誌(1%)のみで、出版社2社(8%)と雑誌19誌(22%)は執筆過程にのみガイドラインが適用されるとしていた。 生成AIの使用を開示する場合、出版社の75%、雑誌の43%が特定の開示基準を定めていたが、生成AIの使用を開示する場所は、方法あるいは謝辞、カバーレター、新しいセクションなど、さまざまであった。 雑誌と出版社間で共有されている生成AIガイドラインへのアクセス方法についても、ばらつきがあることが確認された。12誌の生成AIガイドラインは、出版社が作成したガイドラインとは相反するものであった。トップ医学雑誌(medical journals)が作成したガイドラインは、学究的な雑誌(academic journals)のガイドラインとほぼ類似していた。

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母乳最低限の超早産児の神経発達、ドナーミルクvs.早産児用粉ミルク/JAMA

 最小限の母乳しか与えられなかった超早産児は、ドナーミルクまたは早産児用粉ミルクのいずれを与えられても、修正月齢22~26ヵ月時点の神経発達アウトカムに差異は認められなかった。米国・アイオワ大学のTarah T. Colaizy氏らが、Eunice Kennedy Shriver National Institute of Child Health and Human Development Neonatal Research Networkに参加している米国の大学医療センター15施設で実施した無作為化二重盲検臨床試験「MILK試験」の結果を報告した。出生後入院中の超早産児の母乳育児は、早産児用粉ミルクと比較して神経発達の良好なアウトカムと関連しているが、母乳をまったく与えていない、または最小限しか与えていない超早産児において、ドナーミルクが早産児用粉ミルクと同様の神経発達上の利点をもたらすかは不明であった。JAMA誌オンライン版2024年1月30日号掲載の報告。修正月齢22~26ヵ月でのBSID認知スコアを比較 研究グループは、2012年9月7日~2019年3月13日に、生後7日未満で参加施設に入院した在胎週数29週0日未満または出生時体重1,000g未満の新生児を登録した。主な登録基準は、(1)出産した母親が授乳を開始していない、(2)授乳は開始されたが出産後21日以前に母親が搾乳を中止、(3)出生後7~21日の間、母乳供給量が最小限(5日間の平均母乳量が3オンス/日以下)であった。 登録した新生児をドナーミルク群または早産児用粉ミルク群に無作為に割り付け、無作為化から生後120日時点か死亡または退院のいずれか早い日まで与えた。母乳の基準が満たされていれば、生後21日目までいつでも無作為化できるとした。 主要アウトカムは、修正月齢22~26ヵ月で測定されたBayley乳幼児発達検査(BSID)の認知スコアとした。無作為化から修正月齢22~26ヵ月の間に死亡した乳児には、54ポイント(スコア範囲:54~155、≧85は神経発達の遅れがないことを示す)を割り当てた。副次アウトカムは、BSIDの言語および運動スコア、院内での成長、壊死性腸炎、死亡などを含む24項目であった。修正月齢22~26ヵ月の追跡調査終了日は2021年11月15日であった。ドナーミルク群と早産児用粉ミルク群で神経発達アウトカムに有意差なし 適格新生児1,965例のうち、483例が無作為化された(ドナーミルク群239例、早産児用粉ミルク群244例)。在胎週数中央値は26週(四分位範囲[IQR]:25~27)、出生時体重中央値は840g(IQR:676~986g)、女児52%であった。出産した母親の人種は、自己申告で黒人52%(247/478例)、白人43%(206/478例)、その他5%(25/478例)であった。 追跡調査前に死亡した乳児は54例だった。生存乳児の88%(376/429例)は、修正月齢22~26ヵ月で評価された。 調整平均BSID認知スコアは、ドナーミルク群80.7(SD 17.4)、早産児用粉ミルク群81.1(SD 16.7)、補正後平均群間差は-0.77(95%信頼区間[CI]:-3.93~2.39)で、両群間に有意差はなかった。補正後平均BSID言語スコアおよび運動スコアにも有意差は認められなかった。 死亡率(追跡調査前の死亡)は、ドナーミルク群13%(29/231例)、早産児用粉ミルク群11%(25/233例)であった(補正後群間リスク差:-1%、95%CI:-4~2)。壊死性腸炎は、ドナーミルク群では4.2%(10/239例)に発生したが、早産児用粉ミルク群では9.0%(22/244例)に発生した(-5%、-9~-2%)。 体重増加は、ドナーミルク群22.3g/kg/日(95%CI:21.3~23.3)、早産児用粉ミルク群24.6g/kg/日(23.6~25.6)で、ドナーミルク群のほうが緩徐であった。

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令和6年度コロナワクチン接種方針を発表、他ワクチンと同時接種が可能に/厚労省

 厚生労働省は2月7日の「新型コロナワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会」1)にて、令和6年度(2024年度)の接種方針を発表した。2月5日に開催された第55回生科学審議会予防接種・ワクチン分科会2)の議論を踏まえ、2024年3月末まで特例臨時接種が実施されている新型コロナワクチンは、4月以降、インフルエンザや高齢者の肺炎球菌感染症と同じ定期接種のB類疾病に位置付け、高齢者等に対して個人の発病または重症化を予防し、併せて蔓延予防に資することを目的とした接種を実施することとした。対象は65歳以上、もしくは60歳~64歳で心臓、腎臓、呼吸器のいずれかの機能の障害、またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有する者。定期接種開始は9月以降となる。他ワクチンとの同時接種も可能に 新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの接種間隔については、特例臨時接種となっている現在は、インフルエンザの予防接種は同時接種可能であるが、その他の予防接種との間隔は13日以上空けることとされている。4月以降は定期接種実施要領の規定どおり、注射生ワクチン以外のワクチンにおいては接種間隔を定めず、医師がとくに必要と認めた場合は同時接種を行うことが可能とした。この方針は、諸外国における新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの同時接種を可能とする状況も参考にされた。秋冬接種はWHO推奨株を基本に 接種に使用するワクチンについて、これまでは流行株の状況やワクチンの有効性等に関する知見に加え、諸外国の動向も踏まえて決定し、その後、ワクチンの製造販売業者による薬事申請等がなされ供給されていた。また、世界保健機関(WHO)は2023年以降、株構成に関する専門家会議を少なくとも年2回開催する方針を示している。直近では2023年12月に開催された3)。これらを踏まえ、令和6年度の秋冬接種に用いられるワクチンの検討については、最新のWHOの推奨株を用いることを基本とした。選択肢の確保の観点から、mRNAワクチン以外にもさまざまなモダリティのワクチンを開発状況に応じて用いることとし、具体的な対応株の検討などは、インフルワクチン同様に、研究開発及び生産・流通部会にて行われる。

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早期閉経やホルモン補充療法は関節リウマチのリスク増加と関連

 女性は50歳未満での関節リウマチ(RA)の発症リスクが男性よりも4〜5倍高いが、この原因として、いくつかのホルモン因子が関与している可能性が新たな研究で示唆された。ホルモンや生殖に関わる因子とRAリスクとの関連を検討したところ、45歳前の早期閉経やホルモン補充療法(HRT)を受けていること、4人以上の子どもがいることなどがリスク上昇と関連していることが示されたという。安徽医科大学(中国)公共衛生学院のHai-Feng Pan氏らによるこの研究の詳細は、「RMD Open」に1月9日掲載された。 RAは、体の免疫系が関節を含む自分の組織を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患であり、ダメージが他の臓器に及ぶこともある。RAリスクは男性よりも女性で高いことが以前から知られており、女性でのリスクは、50歳未満では男性の4〜5倍、60〜70歳では男性の2倍と推定されている。さらに、女性の方が男性よりもRAの進行速度が早く、疾患活動性も高いことも知られている。 先行研究では、このような女性でのRAリスクの増加には、女性ホルモンや、妊娠や閉経などの生殖機能に関わる因子が影響している可能性が示唆されている。しかし、具体的にどの要因がRAリスクに特に強い影響を及ぼすのかについては、明らかになっていない。 Pan氏らは、UKバイオバンク参加者の中から女性22万3,526人のホルモンや生殖に関わる因子に関するデータを抽出して、それらとRAリスクとの関連を検討した。ホルモンや生殖に関わる因子には、初経年齢、妊娠歴、子どもの数、更年期、閉経年齢、生殖期間、子宮摘出歴、卵管摘出歴、避妊薬の使用歴と使用期間、HRT歴とその治療期間を含めた。 中央値で12.39年にわたる追跡期間中に3,313人(1.5%)がRAを発症していた。交絡因子を調整して解析した結果、初経年齢が14歳超の女性は初経年齢が13歳の女性と比べてRAリスクが13%有意に高いことが明らかになった(ハザード比1.13、95%信頼区間1.02〜1.26、P=0.025)。また、閉経年齢が45歳未満の女性でも閉経年齢が50〜51歳の女性と比べてRAリスクが46%高かった(同1.46、1.27〜1.67、P<0.001)。さらに、生殖期間が33年未満の女性では38〜39年の女性と比べてRAリスクが39%高かった(同1.39、1.21〜1.59、P<0.001)。この他、RAリスクは、子どもの数が2人の女性に比べて4人以上の女性では18%、子宮摘出術や卵管摘出術を受けた女性では受けていない女性に比べてそれぞれ40%と21%高かった。また、HRTの使用歴がある女性では使用歴のない女性に比べてRAリスクが46%高いことや、HRTの使用期間が1年増えるごとにRAリスクが2%上昇することも示された。 このようにいくつかの女性ホルモンや生殖に関わる因子とRAリスクとの間に関連が認められたものの、Pan氏らは、これらの結果が因果関係を示したものではないことを強調している。それでも研究グループは、「本研究で得られた知見は重要であり、女性におけるRAリスクを抑制するためのターゲットを絞った介入策を開発するための基礎となる可能性がある」と述べている。

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『東京タラレバ娘』にハマっちまった!【Dr. 中島の 新・徒然草】(515)

五百十五の段 『東京タラレバ娘』にハマっちまった!今週のはじめ、関東は雪で大変なことになったそうですね。でも関西では単に雨が降っただけでした。大阪でも雪が積もることがありますが、せいぜい年に2回くらいです。今シーズンはまだ積雪がないので、これから降るのかもしれません。さて、最近のニュースとしてテレビドラマ『セクシー田中さん』の原作を描いた漫画家が自殺してしまったというのがありました。なんでも「できるだけ原作の漫画に忠実にドラマを作ってほしい」という願いが叶えられず、ストーリーもキャラクターも変えられてしまったことが原因となっているのだとか。私自身は原作もテレビドラマも知りませんでした。遅ればせながら、原作の漫画『セクシー田中さん』を読んでいるところです。まだ3巻までしか読んでいませんが、確かにテレビドラマ化されるだけのことはあります。で、このような漫画を電子書籍で読んでいると、スマホやPCの画面に「お前はこういうのも好きなんだろう」みたいな広告がいろいろ出てくるわけです。それでついつい読み始めたのが『東京タラレバ娘』と『ど根性ガエルの娘』という漫画。前者は30代前半の独身女性3人組が、それぞれの幸せを目指して頑張るというもの。後者は一世を風靡した『ど根性ガエル』の作者が連載を投げ出して失踪した、という実話を娘の大月 悠祐子が漫画化したというものです。今はこれら3つの漫画を行ったり来たりして読んでいます。電子書籍なのでアマゾンでクリックしたらすぐに入手することができ、便利といえば便利ですが、無限に課金してしまいそうで恐ろしいですね。私にとって、とくに感情移入できるのが『東京タラレバ娘』です。漫画が2014年、テレビドラマが2017年に始まったということなので、今更感は否めません。でも、面白いものは面白い!主人公3人組が集まっては「あの男で妥協していたらよかった」とか「もうちょっと痩せればいい男が現れるはず」とか、際限のない女子会トークを中心にしたラブコメディーです。とくに主人公の1人である女性脚本家が、出演俳優に「なんで30超えたおばさんがこの2人の男に一方的に言い寄られるのか、あまりにもリアリティがなさすぎだなって、そう思っちゃったんですけど」と自分の書いた脚本を批判されるところなんか、思わず吹き出してしまいました。実は、この女性3人組の会話が、外来診察室での会話にそっくりなのです。診察中に、このテの話を患者さんに聞かされることは、決して珍しくはありません。「彼氏に振られました」とか「お局さんに虐められているんです」とか「どこかにいい男はいないんですか」とか。以前は真面目に耳を傾けて真剣にアドバイスしたりしていましたが、今では「うん、うん」と聴いているだけです。でも、高齢者の長話よりは、独身30代女性の失恋話のほうが聴いていて飽きません。時間がある時なんか「なんとまあ酷い話だなあ!」「そんな奴はこっちからお断りだ」と相槌を打って、さらに楽しい話を引き出しています。いわゆる共感的対応って奴ですね。というわけで、『セクシー田中さん』『ど根性ガエルの娘』『東京タラレバ娘』の3つともハズレはありません。よかったら皆さんも読んでみてください。最後に1句雪のふる 都会にタラレバ 活躍す

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映画「かがみの孤城」(その3)【この城が答えだったんだ!(不登校への学校改革「かがみの孤城プロジェクト」)】Part 1

今回のキーワード目的評価距離感工場型一斉授業飛び級・「留級」グループワークブレンディッド・ラーニング不登校特例校前々回(その1)では、不登校の心理を掘り下げ、学校にしてもフリースクールにしてもただ居場所であるだけでは不十分である理由を説明しました。前回(その2)では、不登校へのペアレントトレーニングを紹介し、家で子供に好きなことをさせるだけでは不十分である理由も説明しました。それでは、これらを踏まえて、なぜこころたちは城には通えているのでしょうか? つまり、学校とこの城との違いは何でしょうか?今回(その3)も、不登校をテーマに、アニメ映画「かがみの孤城」を取り上げます。この映画を通して、これからの学校に必要な機能を明らかにします。そして、「かがみの孤城プロジェクト」と勝手に名づけ、不登校を解決するための抜本的な学校改革をご提案します!さらに、いきなりの改革に戸惑いや抵抗を感じる関係者の方々に考慮して、このプロジェクトをスムーズに進めるための第一歩を最後にご提案します。なんで城には通えているの?こころは、フリースクールにさえ行けなかったのに、他の6人と同じように、城にはほぼ毎日、自分から通うようになります。なぜでしょうか? ここから、学校やフリースクールになくて城にあった、ある「仕組み」を主に3つ挙げて、その理由を考えてみましょう。(1)願いを叶えるという目的がある―自我を育むこころたちが城に運ばれた時、狼の仮面をかぶった謎の案内人の女の子が、城に隠された鍵を探し出せば、願いが叶うことを伝えます。さらにその子は、「夢がないなあ、おまえたち。物語の主人公に選ばれたって思わないのか」「おまえたち、願いごとってないの?」「まあ、ないならないで構わないが」と言って煽ります。1つ目の仕組みは、願いを叶えるという目的があることです。これが、こころたちが城に通うようになった一番の理由です。こころの当初の願いごとは、「真田さん(いじめグループのリーダー)がいなくなってほしい」という短絡的で自己中心的なものでした。現実的には、その「真田さん」がいなくなったとしても、思春期の集団心理のなかですぐに第2の「真田さん」が現れるので、本当に願いが叶うわけではありません。それでも最初はそれで良いのです。結果的に、城に通うようになったからです。そして、城という「学校」に通うなかで、彼女の願いごとが「自分のため」から「大切な誰かのため」、つまりより社会的な自我(アイデンティティ)を育むものに変わっていったからです。この願いごとを叶えるとは、大人になって社会で自分が望むように生きていくこと、つまり自我同一性(アイデンティティ)の確立と言い換えられます。これは、案内人の女の子の言うところの「夢」であり、人生という「物語の主人公」になることです。一方で、現実の学校はどうでしょうか? 学校に行くのは、大人になって社会でどう生きていくかを学ぶという本質的な目的よりも、より偏差値の高い高校、より有名な大学に合格するという目先の目的になっています。もちろん、学校としても、それを親(社会)が望むことを忖度しているからです。結局、親だけでなく、学校も、自分の人生に責任を持つ必要があるという思春期に達成するべき一番の目的を軽視していることがわかります。(2)先に鍵を見つけられるかという評価がある―自信を育む謎の案内人の女の子は、「今日から来年の3月30日までにその鍵を探し出してもらわねばならない」「要は早い者勝ちだ。誰かが鍵を見つけて願いを叶えたら、その時点でゲームオーバー」と言います。するとその後に、彼らはお互いに隠れてその鍵を必死に探すようになっていたのでした。2つ目の仕組みは、先に鍵を見つけられるかという評価があることです。これは、競争原理であり、城になるべく通う動機づけになっています。そして、自分こそが探し出すという自信を引き出します。もはや、そうしなくてもいいのにそうさせてもらえる点で、義務ではなく権利になります。なお、ちょうど3月という年度替わりが期限になっており、進級を象徴しているようでもあります。一方で、学校はどうでしょうか? 学校でも成績表という評価は存在しますが、ただ存在するだけです。その成績をもとに、達成度別のクラス分けをすることはありません。授業に出席していなくても、小学校や中学校は自動的に進級します。高校進学は基本的に一発勝負であるため、学校の成績表は軽視されます。保健室やフリースクールへの登校で出席扱いにできる措置もあり、高校への進学の内申点にあまり影響がないように配慮されている場合もあります。つまり、何を学んだかという中身よりも、とりあえず学校(またはフリースクール)に来る、そして教室に座っているという形式に重きが置かれています。もちろん、学校としても、それを親(社会)が望むことを忖度しているからです。結局、学校は、配慮を優先して、達成しなかったら認めないという評価を避けてしまっていることがわかります。(3)ほどほどに仲良くなれるという距離感がある―自尊心を育む城に通える選ばれし7人は、男子4人と女子3人で、中1が3人、中2が2人、中3が2人でした。さらに、それぞれの個性が際立っていました。そして、城には、全員が集まることができる大広間、中庭、屋上とは別に、それぞれの個室が用意され、9時から17時の間なら、だれがいつ来てもいつ帰っても良いルールになっていました。ちなみに、そのルールを破った場合は、「狼に食われる」というとんでもないペナルティもありました。こころは、「どんな願いを叶えたいのって聞きたかったけど。聞けない。私も聞かれたくなかったし」「学校行ってないのって誰も聞かない。それが心地いい」「なんか和む」と心の中でつぶやいています。だんだん顔を合わせていくうちに仲良くなり、お互いの境遇を気にかけるようにもなります。やがて、あるメンバーが「お互いライバルだけど、もし見つかったら、誰がどんな願いを叶えたいかって話し合って、くじ引きかジャンケンで決めてもいいかなって」と言い出し、鍵探しの場所を分担し、協力するようになります。また、願いごとが叶うとその時点で城がなくなってしまうことを案内人の女の子から聞かされていたため、別のメンバーが「たとえ鍵を見つけたとしても、それは3月の末まで使わない」と提案して、全員の合意のもとで取り決めをするなど、自分たちでルールをつくっていました。3つ目の仕組みは、ほどほどに仲良くなれるという距離感があることです。この距離感とは、少人数に絞られた集団で、男女の違い、学年の違い、個性の違いという心理的な距離(多様性)、個室にもいられるという空間的な距離(開放性)、いつでも出入りが自由という時間的な距離(流動性)です。不登校で鍵探しをするという共通点がある一方、これらの距離により、ほどほどの関係を保つことができます。そして、協力関係から信頼が生まれ、自尊心を育みます。一方で、学校の教室はどうでしょうか? 基本的に同じ学年で同じ制服(見た目)という心理的な近さ(均一性)、保健室しか逃げ場がなく教室に閉じ込められているという空間的な近さ(閉鎖性)、一日中ずっと一緒にいなければならないという時間的な近さ(固定性)があります。この条件は、その近さから、「ほどほど」ではなく「べたべた」の仲良しになろうとする心理(同調)を煽ります。そして、同時に、そうならない人を仲間外れにしようとする心理(排他性)も煽られ、結果的にいじめのリスクを高めます。次に誰がいじめのターゲット(スケープゴート)になるかを探り合ってばかりで、煮詰まって息苦しいです。これは、一緒にいて協力する目的がはっきりしていないのに、一緒にいなければならない状況をつくってしまうと、協力するための目的を無意識につくり上げてしまう心のメカニズム(社会脳)によるものです。たとえば、もしもあの城に願いを叶えるという目的の仕組みがなくて、毎日強制的に運ばれる仕組みになっていたら、どうでしょうか? 「天然キャラ」(非定型発達)の男子あたりがまずいじめのターゲットになっていたことは容易に想像できるでしょう。つまり、一緒にいるから協力するのではなく、協力するから一緒にいることができるのです。重要なことは、結果的に居場所になることであり、最初から居場所を目指すことは危ういということです。この点で、学校にしてもフリースクールにしても、ただ居場所であることを強調することは、逆説的にも居場所にならなくなってしまうおそれがあることもわかります。ちなみに、もしも城に通える生徒が7人に限定されずに、学校のクラスのように大人数だったら、どうでしょうか? 結局少人数グループがいくつかできて、その中であぶれた人が「ぼっち」のレッテルを貼られ、やはり通えなくなっていたでしょう。だからこそ、最初から少人数に限定されていたのです。この点でも、「かがみの孤城」の設定はよくできています。結局、学校は、生徒たちの近すぎる距離により、居場所であるどころか、サバイバルの戦場になっていることがわかります。なお、排他性の心理の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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映画「かがみの孤城」(その3)【この城が答えだったんだ!(不登校への学校改革「かがみの孤城プロジェクト」)】Part 2

これからの中学校に必要な機能とは?こころたちが城に通うようになったのは、願いを叶えるという目的がある、先に鍵を見つけられるかという評価がある、ほどほどに仲良くなれるという距離感があるからであることがわかりました。そして、これらの仕組みは、学校にはないことがわかりました。これを踏まえて、とくにこれからの中学校はどう変わればいいでしょうか? 私たちの現実の世界で、「かがみの孤城」のような中学校をどうつくることができるでしょうか? ここから、「かがみの孤城プロジェクト」と称して、これからの中学校に必要な機能を主に3つご提案します。(1)学校に行く目的を意識させる―自我を育む1つ目の機能は、学校に行く目的を意識させることです。その1でも説明したとおり、小学校までは「親に言われるから」「友達に会えるから」という理由で、学校に行っていました。しかし、中学校からは、これだけではなく、学校に行く目的を自分で納得する必要があります。これは、自分は何を学んでどうなりたいかという自我を育みます。そのための具体的な取り組みを主に3つ挙げてみましょう。a.ビジョンを共有する学校では、従来から「将来の夢」を書かせることはよくあります。ただ、これだけで終わらせないことです。その夢の実現のためのプロセスを具体的に示し、話し合って共有する必要があります。1つ目は、ビジョンを共有することです。これは、大人になったらどうしたいか、どうなりたいか、つまりどうやって生きていきたいかを本人、家族、そして学校が定期的に話し合っており、それを共有していることです。また、学校に行く一番の目的は、なるべく偏差値の高い高校や有名な大学に進学するためではないことも共通認識とする必要があります。その一番の目的は、先ほども触れましたが、大人になって社会で自分が望むように生きていくためです。その結果として、偏差値の高い高校や有名な大学に進学する必要が出てくることはあります。これは、その2でご紹介した家庭でのタイムマシンクエスチョンに通じます。ちなみに、プロスポーツ選手、アイドル、ユーチューバー、ゲームクリエイターなどなかなかなれない職業を言ってきたら、どうしましょうか? その夢は夢で支持しつつも、実際になれる人の数や知名度による収入差を示し、なれなかった時のバックアップのための現実的な職業も考えてもらうことです。思いつかないと言ったら、どうしましょうか? その2でも説明したとおり、いったん本人の強み(リソース)の再確認をして、自尊心や自信を高めます。そして、「やってもいい職業」「嫌いじゃない職業」と言い換え、ハードルを下げて、とりあえず何かの職業を言いやすくすることです。そして、その職業を「仮ビジョン」とすることです。大事なことは、何でもいいからまずビジョンを描くことです。そうすれば、こころの願いごとが最後に変わったように、学校で出会う友達や先生との相互作用によって、仮ビジョンが最終ビジョンに変わっていく可能性を見出せます。逆に、仮ビジョンすらなければ、学校に行く目的を見失ってしまい、最終ビジョンを育むチャンスを逃してしまいます。b.どれだけ学ぶかの自由を与える小学校の教育は、社会で生きていくために必要なものばかりです。一方、高校の教育は、義務教育ではなく、何をどれだけ学ぶかの選択の自由があります。その間の中学校の教育は、現代の情報化社会では必ずしも生きていくために必要なものばかりではないのに、義務教育であるという建前のため、高校のような選択の自由がないです。自由があるとしたら、それは不登校という一択だけです。2つ目は、どれだけ学ぶかの自由を与えることです。これは、本人のビジョンに合わせて、何をどれだけ学ぶかの多様性(自由)を認めることです。学びのトータルの時間を変えずに、そのバランスを選ばせるということです。もちろん、従来の標準的な各科目の授業時間数は基準として示しておけば、従来通りの教育を受けることもできます。たとえば、英語、国語、数学、理科、社会科の各科目の時間数の60%は必修としつつ、残りの40%は選択とすることです。すると、英語をもっと学びたいけど数学は必要最低限で良いという生徒は、数学の40%の時間を英語に回して、英語の授業時間数を増やすことができます。逆に、言語能力がもともと低い場合は、英語が負担になってしまうため、英語の40%の時間を国語に回して、日本語に専念することができます。このプロセスで大事なことは、あえて生徒に選ばせることです。選べばそこに責任が生まれます。これは、学ぶことで責任感を持たせ、学校に行く動機づけを高めます。もともと決められたこととしてやらなければならないという心理(外発的動機づけ)から、自分で決めてやりたいという心理(内発的動機づけ)に変えていくことができます。これは、本人の意思を尊重している点で、大人扱いです。そして、学校に行かないと得るものがないという点で、学校に行くことは義務ではなく権利であるという感覚になります。そして、学校で自分がどうしたいかという自我を育みます。c.学ぶ責任を自覚させる高校では、何をどれだけ学ぶかの自由があると同時に、その学びが期限内に達成されなければ、留年や中途退学という責任が負わされます。先ほどのように、中学校でもどれだけ学ぶかの自由(選択権)をある程度与えるなら、その選んだ責任が生まれると考えることができます。3つ目は、学ぶ責任を自覚させることです。これは、学校に行かないことによる将来のリスクを説明するだけでは限界があります。義務教育であるだけに、やはり社会的な介入が必要になります。たとえば、欠席日数が1ヵ月を超えた時点で、教育委員会や専門医療機関での評価と定期的な心理カウンセリングを義務づけることです。その義務も果たさない場合は、親(養育者)に罰金を課すことです。親としても、罰金を取られたくないという大義名分から、本人に義務を守ることを促すことができます。これも大人扱いです。学校に行かないと面倒が起きて損をするという点でも、本人にその責任を自覚させることができます。ちょうど、車がスピードを自由に出してはいけないという交通ルールがあるのと同じです。子供が教育を受けないで自由にしていてはいけないという「ワークルール」を教える必要があります。教育を受けるとは、何かに取り組むこと(ワーク)であり、働く(ワーク)リハーサルをしているとも言えます。これは、日本国憲法に定められた三大義務のもう1つである「勤労の義務」につながります。交通ルールと同じように、この「ワークルール」も、罰金などのペナルティがあることで、ルールを守る責任を自覚させることができます。(2)評価によって今後を左右させる―自信を育む2つ目の機能は、評価によって今後を左右させることです。その1でも説明したとおり、小学校まではまず居場所であることが重要なため、評価は二の次でした。しかし、中学校からは、積極的に評価して、本人の強み(リソース)を自覚させる必要があります。これは、自信を育みます。具体的な取り組みを主に3つ挙げてみましょう。a.科目別・達成度別にクラスを分ける1つ目の取り組みは、科目別・達成度別にクラスを分けることです。たとえば、1学年で4クラスあるなら、それぞれの科目で4つの達成度別のクラスをつくります。ちょうど、英検や漢検などの資格が細かく級分けされているイメージです。すると、より自分のレベルに合った授業を受けられるため、わからなくて嫌になることも物足りなくて嫌になることもなくなります。そして、学べば学ぶほど、達成した結果が目に見えるため、自信がつきます。これは、その2でご紹介した家庭でのお小遣いルールに通じます。また、この取り組みによって、よく一緒の授業を受ける人が数人いることはあっても、すべての授業を同じ数十人が同じ教室でずっと一緒に受け続けることはなくなります。もはや「〇組」という概念は曖昧になります。すると、クラスの人間関係は流動的となり、先ほど説明した同調性が低くなるので、結果的にいじめのリスクが低くなるという副次的な効果が得られるでしょう。b.クラス替えを年複数回にする2つ目の取り組みは、クラス替えを年複数回にすることです。すると、もしも自分のレベルに合っていないクラスだったり、人間関係でうまく行かなかったとしても、1年我慢して待たなくてよくなります。これは、不登校のリスクを下げるでしょう。たとえば、年度替わりの4月、夏休み明けの9月、冬休み明けの1月でそれまでのクラスの評価をもとにクラス替えを3回行います。冬休み明けの1月を外して、2回にすることもできます。評価には、休み中の課題を加味すれば、その課題の達成率が飛躍的に高まります。人間はやってもやらなくても状況が変わらないのだったらたいていやる気が起きませんが、やっただけ評価され、状況が変わるのであれば、やる気は高まります。この取り組みも、クラスの人間関係をさらに流動的にさせるため、いじめのリスクをさらに低くさせることができるでしょう。c.飛び級・「留級」を可能にする3つ目の取り組みは、飛び級・「留級」を可能にすることです。たとえば、3学年で12クラスあるなら、科目別と達成度別に12のクラスをつくります。達成度によってその生徒に合う授業を受けることを優先することです。もはや、年齢と学年を厳密に一致させる合理性はまったくなくなります。これは、ある生徒がある科目のクラスに出席していなかったりただ教室に座っているだけの場合、その生徒はそのクラスに次の学期(約3ヵ月)に留まること(名づけて「留級」)になります。この状況は、見方によっては「かわいそう」と思われるかもしれません。しかし、よくよく考えると、学んでいないのに自動的に進級させるのは、本人にとってさらに難しい授業を受けさせることになります。むしろこちらの方が「かわいそう」です。また、すべての科目の1年間の留年と違い、1つずつの科目の3ヵ月の「留級」は、そのロスが最低限です。逆に、ある科目のクラスで生徒の学ぶスピードが速いのであれば、次の学期で飛び級にすることは、その生徒により合った授業を提供することになるため、もちろん合理的であり、その生徒のためになります。中学校を半年早く卒業すれば、海外の高校にも進学できます。ただし、これらは本人希望であることが大前提です。本人が望まなければ、大人扱いして本人の意思を尊重します。また、本人があえて「留級」を望む場合も同じです。この取り組みは、科目によっては学年が上がっていたり下がっていたりすることもあることから、もはや「〇学年」という概念も曖昧になるでしょう。ちなみに、欧米では、小学校、中学校での留年率が一定数ある国が多いです。たとえば、留年率が高い国としてはドイツの中学校(15%)、フランスの中学校(30%)です1)。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「かがみの孤城」(その3)【この城が答えだったんだ!(不登校への学校改革「かがみの孤城プロジェクト」)】Part 3

(3)教え合うという役割を与える―自尊心3つ目の機能は、教え合うという役割を与えることです。その1でも説明したとおり、小学校までは不特定多数の友達づくりの心理から、教室にただ一緒にいるだけで居場所になりました。しかし、中学校からは、特定少数の親友づくり(グループ形成)の心理が高まることから、ただ一緒にいるだけでは仲間外れが起こり、居場所になるとは限りません。よって、学校側が一緒にいる理由(役割)を枠組みとしてつくる必要があります。これは、自尊心を育みます。具体的な取り組みを主に3つ挙げてみましょう。a.グループワークをメインにする1つ目の取り組みは、授業はグループワークをメインにすることです。少人数グループに分けて、一人ひとりが学んだことを発表し合い、お互いに教え合います。教師は、教え合うテーマを出して、簡単なガイダンスをすることはあっても、一方的に教えるのを控え、サポートに徹します。これは、まさに映画に登場する案内人の女の子の立ち位置です。逆に言えば、ただ教室に座っているだけの生徒は評価されないことになります。教室で発言しようとする態度とその発言内容が評価されます。生徒たちもお互いにどれだけ学んでいるかがわかり、評価もオープンなものになります。すると、授業中に寝る生徒はいなくなるでしょう。寝るなら、評価されないだけだからです。これは、わざわざ寝ている生徒を起こす必要がなくなり、教師にとっても楽になります。なお、教え合うにはやはり達成度が同じレベルであることが必要になります。同じでなければ、教え合ってもわかり合えないという事態が起きるからです。この取り組みは、アクティブ・ラーニングとも呼ばれています。この詳細は、関連記事2のページの最後をご覧ください。b.オンラインによる個別学習にする2つ目の取り組みは、オンラインによる個別学習です。これは、グループワークの前に自習時間を設け、各自で予習をすることです。教えるためには、やはりまず教わる必要があります。ただし、教わる場所や教師は、同じである必要はありません。場所は、図書室、空き教室、自宅などで自由とします。その内容は、すでに収録された授業をストリーミング動画でいつでも視聴できるようにします。また、教える先生は、グループワークと同じ先生ではなく、別の学校の先生でも、学習塾の先生でも可能とします。どの先生にするか、生徒に選ぶ自由(選択権)を与えるのです。これも、大人扱いです。そもそも、現代の情報化社会でICTが高度に発展しているなか、大人数が教室という1ヵ所に集まって、決まった教師が話すことを一方的に聞いて、黒板を静かに書き写す作業を1日中続けることは、何の合理性もないです。これは、海外の教育学者から「工場型一斉授業」と指摘されています2)。まさに、商品がベルトコンベヤーに並べられて自動的に作り込まれていくのと同じように、生徒たちが教室に並べられて有無を言わさずに一方的に知識を詰め込まれるイメージです。オンライン個別学習によって、1人の教師の授業動画を数百万人の生徒に共有できるようにすれば、残りのほとんどの教師はグループワークの授業だけになり、時間と労力が相当数浮きます。その分、グループワークの授業に専念できますし、グループワークに複数の教師を配置することもできます。そして、もともとの教師不足という社会問題の打開策にもなります。また、科目別・達成度別のクラスを複数維持するためには、選択したいクラスがバッティングしないように予備の時間(自習時間)を増やす必要があります。その時間にオンライン個別学習を当てれば、この問題は解消されます。なお、オンライン学習(学習インプット)+グループワーク(学習アウトプット)は、ブレンディッド・ラーニングと呼ばれ、すでに米国で広がりつつあります2)。ちなみに、オンライン個別学習だけで、すでにホームスクーリング(家庭学習)の役割を果たしていることにもなります。ちなみに、テストも個別学習と同じように、オンライン化していつでもどこでも受けられるようにします。生成AIを導入すれば、オンラインで面接テストも可能です。成績表(評価)を自動算定できるようにします。これらの取り組みは、生徒だけでなく、教師の労力も大幅に減らすことができます。もはや、教室という空間は、生徒たちが静かに座っている場ではなく、生徒たちが活発に話し合って動き回って相互作用する場にしかしないようにするのです。この取り組みも、自習時間がクラスの人間関係から解放される時間になり、逆に「ぼっち」がありふれたものになるため、もはや「ぼっち」というレッテルを貼るいじめはなくなるでしょう。c.校則を生徒たちの投票によって決める3つ目の取り組みは、校則を生徒たちの投票によって決めることです。これは、かがみの孤城で7人が話し合いによってルールを決めていたように、自分たちの学校生活のルールを話し合い、投票によって決めるのです。そのためには、生徒会が真の役割を発揮するでしょう。これは、民主主義の基本を学ぶことにもなります。条例が法律に則っていれば有効であるのと同じように、校則も法律や条例に則っていれば有効です。すると、制服や髪型の規制をはじめとする不合理な「ブラック校則」はすぐになくなるでしょう。これは、その2でご紹介した家庭のルールづくりの交渉制に通じます。この取り組みは、生徒一人ひとりに票があるという点で、自尊心を育みます。また、選ぶという行為によって、自我が高まります。かがみの孤城プロジェクト」をスムーズに進めるには?こころたち7人の共通点は、不登校でした。当初、だから城に集められたと私たちは思い込んでいました。ネタバレになるため詳細は避けますが、彼らが城に集められたのは、ある別の目的によって不登校であることが都合良かったからなのでした。この映画の設定と同じようにすれば、「かがみの孤城プロジェクト」を実験的にスムーズに進めることができます。ここから、3つの段階に分けてご提案します。(1)第1段階第1段階は、すでに不登校になっている中学生を全国から募り、個別学習だけでなくグループワークもオンラインにすることです。まさに、パソコンやスマホの画面という「かがみ」を通して、グループワークという「孤城」に参加するのです。こころたちと同じように、新しい人間関係になるため、もともとのクラスに戻るよりも引け目がない分、ずっと参加しやすいでしょう。そもそも、彼らは、たいてい昼に家にいます。そして、不登校であるため、学習指導要領に縛られるという問題は起きません。つまり、不登校に対して規制がないことを逆手に取るのです。これは、不登校の生徒たちだからこそ実現できる学校改革です。そして、これがこのプロジェクトをスムーズに進めるための第一歩です。これだと、戸惑いや抵抗を感じる関係者の方々は少ないでしょう。すでに、「不登校特例校」でオンライン授業を2025年から開始する構想があります。この構想にこのプロジェクトが結びつくことが理想でしょう。(2)第2段階第1段階で枠組みが整えば、第2段階は、募集対象を不登校になりそうな子供、希望する子供まで広げることです。また、地域のフリースクールや学習塾と連携することです。そうすれば、オンラインから、オフライン、つまり実際のこれらの教室でもグループワークに段階的に参加する頻度を増やすことができるでしょう。グループワークで重要なのは、オンラインはあくまで橋渡しの位置づけで、最終的には生身の人間関係にも慣れていく必要があることです。なぜなら、在宅ワークが増えたとはいえ、やはり社会の仕組みが対面の人間関係に重きを置いているからです。そして、これが私たちの本来の姿(社会脳)だからです。(3)最終段階第2段階で規模が大きくなっていけば、最終段階は、すべての生徒たちに、いままでどおり学校に行くか、それともプロジェクトに参加するかを選ばせることです。また、プロジェクトに参加してグループワークの授業をする教師を学校の教師からも募集することです。プロジェクト参加を希望する生徒や教師がどんどん増えれば、必然的に学校からどんどん生徒や教師が減っていきます。すると、学習指導要領をはじめとする学校の仕組み自体を大きく見直す必要に迫られるでしょう。これが、学校改革のタイミングです。そして、学校が「かがみの孤城プロジェクト」そのものになる日が来るでしょう。その時、問題なのは、不登校の生徒ではなく、不登校を招く学校のあり方であったことに気付くでしょう。なお、このプロジェクトは、中学校の科目全般で進めるだけでなく、小学校の英語教育でも進めることができます。この詳細については、関連記事3をご覧ください。1)「教育は何を評価してきたのか」P49:本田由紀、岩波新書、20202)「ブレンディッド・ラーニングの衝撃」P14、P37:マイケル・B・ホーンほか、教育開発研究所、2017<< 前のページへ■関連記事マザーゲーム(前編)【ママ友付き合い、なんで息苦しいの?(「女心」の二面性)】Part 1クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 2NHKラジオ「小学生の基礎英語」【和製英語教育」から抜け出せる?日本人がバイリンガルになった未来とは?(言語政策)】Part 1

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花粉症、舌下免疫療法を希望する患者が来院【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第17回

花粉症、舌下免疫療法を希望する患者が来院講師日本医科大学多摩永山病院 病院教授 後藤 穣 氏【今回の症例】33歳女性。約10年前より2月下旬から4月上旬にかけて水様性鼻漏、くしゃみ、目のかゆみを自覚している。前年までは市販薬で治療していたが効果が乏しいために、2月初めにスギ花粉症に対する根治的治療として舌下免疫療法を希望し、クリニックを受診した。

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第83回 反ワクチンは左派が多い?

illustACより使用SNSでは反ワクチン・反マスク・反医療などが話題になりました。ある程度弱毒化したため、COVID-19のワクチンも以前ほど取り上げられなくなりました。医療従事者でも、もう接種していない人であっても普通に働いている印象です。さて、X(旧Twitter)を使った興味深い研究結果が報告されました1,2)。ズバリ、「反ワクチンは左派が多い」というものです。個人的には右派だろうと左派だろうと、どちらでもいいのですが、SNSでは結構バズっているので取り上げてみました。とはいえ、反ワクチンにも幅があります。何となく心配だから…という人の気持ちはよくわかります。「殺人ワクチンや!」みたいなことを叫んでいる人は、ガチの反ワクチンでよいと思います。そういう方は、攻撃的なアカウントのことが多く、私も職場にいくつか誹謗中傷のお手紙が届きました。風の噂では、「ワクチン接種をやめろ」とカッターナイフが職場に届いた医師もいるそうです。さて、この研究は、2021年1~12月にワクチンを含んだツイート(現在は「ポスト」といいます)を収集して、機械学習を用いて「ワクチン賛成」「ワクチン政策批判」「ワクチン反対」の3つのクラスターに分類しました。ワクチン反対ツイートを多く投稿したアカウントを特定し、このアカウント周辺の方々を反ワクチンと定義しています。ワクチン賛成派と反対派を比較して、反対派の特徴を明らかにしました。結果、ワクチン反対派は賛成派と比べて政治的関心が強いことがわかりました。基本的に、左側に偏った意見が多かったようです。これはわれわれも実感するところです。他方、ワクチン賛成派は政治的なツイートは多くなかったようです。また、コロナ禍以前から反ワクチンだった人は、同様に政治的関心が強く、ほとんどが左派政党や陰謀論に偏っていることもわかりました。そして、コロナ禍以降に新たに反ワクチンになった人は陰謀論・スピリチュアリティ・代替医療に傾倒しやすく、反ワクチンを掲げる参政党への支持を高めているという結果が示されています。確かに、アメリカにおいても反ワクチンは、イベルメクチンや一部政党と関連があったという研究結果も報告されています。国を挙げた政策になることから、ワクチンと政治は切っても切れない関係なのかもしれません。個人的にはワクチンに懐疑的な集団をすべて反ワクチンとひとくくりにするのではなく、エビデンスがしっかり確立されているにもかかわらず、強い熱意を持って反対活動を行い、周囲の人へ当該危険性を知らしめるような行動を取る人に注意すべきだと思っています。参考文献・参考サイト1)Toriumi F, et al. Anti-vaccine rabbit hole leads to political representation: the case of Twitter in Japan. J Comput Soc Sci. 2024 Feb 5. [Epub ahead of print]2)東京大学工学部:人はなぜワクチン反対派になるのか ―コロナ禍におけるワクチンツイートの分析―

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背景知識が評価基準を決める【国試のトリセツ】第26回

§1 アセスメント背景知識が評価基準を決めるQuestion〈110B52〉16歳の女子。胸部刺創のため同級生らに抱きかかえられて来院した。現病歴突然見ず知らずの男性に左前胸部をサバイバルナイフにて刺された。受傷後すぐに近くにいた同級生らに助け出され、一般救急外来に運ばれてきた。同級生らの話では、病院の近くの公園で、青年男性の無差別な暴力行為が発生しており、他にも数人が負傷しているとのことである。既往歴特記すべきことはない。生活歴高校生。家族歴両親、兄弟とも健康。現 症意識は清明。身長150cm(推定)、体重40kg(推定)。体温35.5℃。脈拍120/分、整。血圧80mmHg(触診)。呼吸数28/分。SpO296%(room air)。ショック状態と判断し、直ちに医療従事者を集めた。蘇生処置室に搬入し、酸素投与を開始の上、静脈路を確保して輸液を開始した。左第5肋間鎖骨中線よりやや内側に長さ3cm程度の刺創を認めるが、体表への出血は止まっており、衣服には径数cm程度の血液が付着している〈110B50〉。吸気時に大腿動脈の拍動が減弱し、胸部の聴診で心音が減弱している、創部より呼吸に伴う吸気の流入出が疑われ、呼吸音は左側でわずかに減弱している。触診で皮下気腫は認めない〈110B51〉。この患者を救命救急センターに転送することにした。搬送時間として少なくとも30分は見込まれる。左側の呼吸音はさらに減弱し、ポータブル撮影による胸部X線写真でも明らかな気胸を認める。転送前に行う処置として必要性が低いのはどれか。(a)創閉鎖(b)心囊穿刺(c)中心静脈路確保(d)胸腔ドレナージ(e)尿道カテーテル留置

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第21回日本臨床腫瘍学会の注目演題/JSMO2024

 日本臨床腫瘍学会は2024年1月31日にプレスセミナーを開催し、第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(2024年2月22日~24日)の注目演題などを紹介した。 今回は、国・立場・専門分野・職種・治療手段などのあらゆる障壁をなくし、世界を1つにして皆で語り、議論をして、その先に続く未来を切り拓いていきたいという願いを込め、「Break the Borders and Beyond ~for our patients~」というテーマが設定された。演題数は1,258となり、そのうち海外演題数は511と過去最多になる予定である。プレジデンシャルシンポジウムなどの注目演題 能澤 一樹氏(愛知県がんセンター ゲノム医療センターがんゲノム医療室・乳腺科部 医長)が、本会で企画されているプレジデンシャルシンポジウムを紹介した。プレジデンシャルシンポジウムは8セッション、シンポジウムは30セッション企画されている。プレジデンシャルシンポジウムは以下のとおり。【プレジデンシャルシンポジウム】会長企画シンポジウム1:Real World Data(RWD)活用に向けた基盤整備2月22日(木)9:00~10:20会長企画シンポジウム2:ICIで変わる、周術期治療2月22日(木)10:30~11:30会長企画シンポジウム3:腫瘍内科医に知って欲しい外科治療の進歩2月22日(木)15:30~17:00会長企画シンポジウム4:多学際領域との協働で奏でる臨床腫瘍学の未来2月23日(金)8:20~9:50会長企画シンポジウム5:超高齢社会のがん医療、日本はどうすべきか2月23日(金)9:50~11:20会長企画シンポジウム6:臨床開発や日常診療のためのReal World Data活用を考える2月24日(土)8:20~9:50会長企画シンポジウム7:がん診療は集約化か均てん化か2月24日(土)13:45~15:15会長企画シンポジウム8:新規薬剤開発における新しいドラッグロス2月24日(土)9:50~11:50 また、岩田 広治氏(愛知県がんセンター副院長 兼 乳腺科部長)は、プレジデンシャルセッションが充実していることを強調した。プレジデンシャルセッションで発表されるデータは、過去に国際学会で発表されたものではなく、世界で初めて発表されるデータとなっている。紹介された演題は以下のとおり。【プレジデンシャルセッション】・肺がんグローバル試験の日本人サブセット解析:1演題・肺がんグローバル試験のアジア人サブセット解析:1演題・肺がんグローバル試験の全生存期間アップデート:1演題・消化器がん大規模コホート研究からの新規データ(SCRUM-Japan MONSTAR SCREEN2、GALAXY Trial):3演題・血液がんの新規薬剤第I相試験:1演題・乳がん新規抗体薬物複合体のグローバル試験のアジア人サブセット解析:1演題・乳がん新規グローバル試験のバイオマーカー解析:1演題・日本での新規抗体薬物複合体の第I相試験データ:1演題・消化器がんの日本での第III相試験のバイオマーカー解析:1演題・消化器がんのグローバル試験の日本人サブセット解析:1演題・肝胆膵領域でのJCOG試験の追加解析結果:1演題新規薬剤のドラッグロスへの取り組み 室 圭氏(愛知県がんセンター 薬物療法部 部長)がドラッグロスについて解説した。ドラッグロスは、欧米にて承認されている薬剤が日本では開発されず、使用できないという問題であり、ドラッグロスに該当する抗がん剤は2016年時点で21剤であったのに対し、2020年時点では44剤に増加している。この原因として、海外新興企業が開発する薬剤の増加、臨床試験に日本が組み入れられないことなどが挙げられる。 そこで、わが国が直面する喫緊の問題の解決に向けて、以下のシンポジウムが企画されている。会長企画シンポジウム8:新規薬剤開発における新しいドラッグロス2月24日(土)9:50~11:50リアルワールドデータの活用に向けた諸問題 武藤 学氏(京都大学大学院医学研究科 腫瘍薬物治療学講座 教授)がリアルワールドデータの活用法と現状の課題について紹介した。国際的には、リアルワールドデータを用いて薬剤の承認申請を行うことが検討されており、実際に活用され始めている。日本でもさまざまなデータベースが利用できるようになっているが、アウトカムのデータが存在しない、デジタル化が遅れている、電子カルテメーカーや施設によって情報のコードやデータ構造が異なる、医療者によって記載方法が異なるナラティブデータの取り扱い方が定まっていないなど、課題が山積している。 そこで、リアルワールドデータの活用に向けて、以下のシンポジウムが企画されている。会長企画シンポジウム1:Real World Data(RWD)活用に向けた基盤整備2月22日(木)9:00~10:20会長企画シンポジウム6:臨床開発や日常診療のためのReal World Data活用を考える2月24日(土)8:20~9:50

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日本における頭痛に対する処方パターンと特徴

 長野県・諏訪赤十字病院の勝木 将人氏らは、メディカルビッグデータであるREZULTを用いて、日本の成人頭痛患者(17歳以上)に対する処方パターンの調査を行った。Cephalalgia誌2024年1月号の報告。 Study1では、2020年に頭痛と診断された患者における急性期治療薬の過剰処方の割合を横断的に調査した。過剰処方は、トリプタンとNSAIDs(30錠/90日以上)、NSAIDs単剤(45錠/90日以上)と定義した。Study2では、最初の頭痛診断から2年超の処方パターンを縦断的に調査した。処方薬剤数は、90日ごとにカウントした。 主な結果は以下のとおり。・Study1では、363万8,125例中20万55例(5.5%)が頭痛と診断されており、そのうち1万3,651例(6.8%)に対し急性期治療薬が処方されていた。・NSAIDs単独処方は、1万2,297例(90.1%)でみられ、トリプタンは1,710例(12.5%)に処方されていた。・過剰処方は、2,262例(16.6%)でみられ、1,200例(8.8%)には頭痛の予防治療薬が処方されていた。・Study2では、684万618例中40万8,183例(6.0%)は、頭痛と診断され、その後2年以上継続していた。・時間の経過とともに、急性期治療薬の過剰処方の割合が増加していた。・2年間で急性期治療薬が過剰処方を経験した患者は3万7,617例(9.2%)、2万9,313例(7.2%)において、予防治療薬の処方経験が認められた。 著者らは「実臨床データより、予防治療薬の処方が依然として不十分であることが示唆されており、頭痛に対する急性期治療薬および予防治療薬の処方の割合は、いずれも時間の経過とともに増加している」とまとめている。

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フレイル、「やせが多い」「タンパク質摂取が重要」は誤解?

 人生100年時代といわれ、90歳を迎える人の割合は女性では約50%ともされている。そのなかで、老衰が死因の第3位となっており1)、老衰の予防が重要となっている。また、要介護状態への移行の原因の約80%はフレイルであり、フレイルの予防が注目されている。 そこで、2024年1月26日(腸内フローラの日)に、青森県りんご対策協議会が「いま注目の“健康・長寿”における食と腸内細菌の役割 腸内細菌叢におけるりんごの生体調節機能に関する研究報告」と題したイベントを開催した。そのなかで、内藤 裕二氏(京都府立医科大学大学院 医学研究科 教授)が「京丹後長寿研究から見えてきたフレイルの現状~食と腸内細菌の役割~」をテーマに、日本有数の長寿地域とされる京丹後市で実施している京丹後長寿コホート研究から得られた最新知見を紹介した。フレイルの4つのリスク因子、やせではなく肥満がリスク 内藤氏はフレイルのリスク因子は、大きく分けて4つあることを紹介した。1つ目は「代謝」で、糖尿病や高血圧症、がんの既往歴、肥満などが含まれる。実際に、京丹後市のフレイルの人にはやせている人はほとんどいないとのことである。2つ目は「睡眠」で、睡眠時間ではなく睡眠の質が重要とのことだ。3つ目は「運動」で、日常的な身体活動度の低さがリスク因子になっているという。4つ目は「環境」で、これには食事、薬剤、居住地などが含まれる。このなかで、内藤氏は運動と食事の重要性を強調した。高タンパク質食はフレイルの予防にならない!? 厚生労働省が公開している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、65歳以上の高齢者のフレイルやサルコペニアの発症予防には、少なくとも1g/kg/日以上のタンパク質摂取が望ましいとしている2)。しかし、内藤氏はこれだけでは不十分であると指摘した。高齢者の高タンパク質食は、サルコペニアの発症予防にならないどころか発症のリスクとなっているという報告もあり3)、単純にタンパク質を多く摂取すればよいわけではないことを強調した。フレイル予防に有用な栄養素とは? 内藤氏は、京丹後長寿コホート研究でフレイルと非フレイルを比較した結果を報告した(未発表データ)。3大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)について検討した結果、フレイルの有無によって脂質や炭水化物の摂取量には差がなく、タンパク質についても植物性タンパク質がフレイル群でわずかに少ないのみであった。しかし、6大栄養素(3大栄養素+ミネラル、ビタミン、食物繊維)に範囲を広げて比較すると、フレイル群はカリウムやマグネシウム、ビタミンB群、食物繊維の摂取が少なかった。また、食物繊維を多く含む食品のなかで、その他野菜(非緑黄色野菜)や豆類の摂取がフレイル群で少なかったことも明らかになった。 京丹後長寿コホート研究では、食物繊維の摂取が腸内細菌叢にも影響することもわかってきた。食物繊維の摂取と酪酸産生菌として知られるEubacterium eligensの量に相関が認められたのである。Eubacterium eligensの誘導に重要な食物繊維はペクチンであり4)、内藤氏は「りんごにはペクチンが多く含まれており、フレイル群で不足していたカリウムやマグネシウムも多く含まれているので、フレイル予防に役立つのではないか」と述べた。 食物繊維について、現在の日本人の食事摂取基準2)では成人男性(18~64歳)は21g/日以上、15~64歳の女性は18g/日以上が摂取目標値とされている。しかし、最新の世界保健機関(WHO)の基準では、10歳以上の男女は天然由来の食物繊維を25g/日摂取することが推奨されているため5)、内藤氏は「日本が世界基準に遅れをとっていることを認識してほしい」と述べた。

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ニーマン・ピック病C型へのN-アセチル-L-ロイシン、神経学的状態を改善/NEJM

 ニーマン・ピック病C型(NPC)の患者において、リソソームと代謝の機能障害改善が期待されるN-アセチル-L-ロイシン(NALL)による12週間の治療はプラセボと比較し、神経学的状態を改善したことが、スイス・ベルン大学のTatiana Bremova-Ertl氏らが、60例を対象に行ったプラセボ対照無作為化二重盲検クロスオーバー試験の結果で示された。NPCは、進行性、衰弱性、早期致死性の常染色体劣性遺伝性リソソーム蓄積症(ライソゾーム病)で、発症頻度は10万人に1人(本邦では12万に1人)と報告される希少疾病である。現行では、ミグルスタットによる薬物治療があるが進行抑制に限定され、欧州連合(EU)と本邦を含むいくつかの国では承認されているが、米国では未承認である。NALLの有効性と安全性を評価した今回の結果について著者は、「さらなる検討で長期の有効性を確認する必要がある」とまとめている。NEJM誌2024年2月1日号掲載の報告。12週投与後の小脳性運動失調評価法(SARA)の合計スコアをプラセボと比較 研究グループは、4歳以上の遺伝学的に確認されたNPC患者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け、一方にはNALLを12週間投与後にプラセボを12週間投与、もう一方にはプラセボを12週間投与し、その後NALLを12週間投与した。 NALLまたはプラセボは、体重35kg未満の4~12歳には体重ベースの用量(2~4g/日)を1日2~3回、体重35kg以上の4~12歳および13歳以上には4g/日を1日3回(朝2g、昼1g、夜1g)経口投与した。 主要エンドポイントは、小脳性運動失調評価法(SARA:0~40で数値が低いほど神経学的状態が良好)の合計スコアだった。副次エンドポイントは、臨床全般印象度改善度(CGI-I)スコア、脊髄小脳性運動失調症機能指数(SCAFI)スコア、modified Disability Rating Scale(mDRS)スコアなどだった。 各群のクロスオーバーデータを用いて、NALL群とプラセボ群の比較を行った。合計スコア変化量、NALL群-1.97ポイントvs.プラセボ群-0.60ポイント 5~67歳の患者60例が登録された。主要エンドポイントであるSARAのベースライン時の平均合計スコアは、NALL初回投与前(60例)が15.88、プラセボ初回投与前(59例、1例はプラセボ投与なし)が15.68だった。 SARA合計スコアのベースラインからの平均変化量(±SD)は、NALL 12週間投与後は-1.97±2.43ポイント、プラセボ12週間投与後は-0.60±2.39ポイントだった(最小二乗平均差:-1.28ポイント、95%信頼区間:-1.91~-0.65、p<0.001)。 副次エンドポイントについては、概して主要解析の結果を支持するものだったが、それらの結果について、多重比較補正は事前に規定していなかった。有害事象の発現率はNALLとプラセボで同等で、重篤な治療関連有害事象は認められなかった。

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GLP-1受容体作動薬、血糖値や体重減少効果が高いのは?~76試験メタ解析/BMJ

 中国・北京中医薬大学のHaiqiang Yao氏らが成人の2型糖尿病患者を対象としたGLP-1受容体作動薬の76試験をネットワークメタ解析した結果、プラセボと比べ、チルゼパチドによるヘモグロビンA1c(HbA1c)と空腹時血糖値の低下が最も大きく、血糖コントロールの有効性が最も高いGLP-1受容体作動薬であることが示された。また、GLP-1受容体作動薬は体重管理も大幅に改善することが示され、なかでも体重減の効果が最も大きかったのはCagriSema(セマグルチドとcagrilintideの合剤)だった。一方で、GLP-1受容体作動薬は、とくに高用量の投与で消化器系の有害事象がみられ、安全性について懸念があることも明らかになったという。BMJ誌2024年1月29日号掲載の報告。2023年8月までの試験をシステマティックレビューとネットワークメタ解析 研究グループは、2型糖尿病成人患者において、GLP-1受容体作動薬による血糖コントロール、体重、脂質プロファイルの有効性と安全性を比較評価することを目的とし、システマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 PubMed、Web of Science、Cochrane CENTRALおよびEmbaseを、データベース発刊から2023年8月19日まで検索し、GLP-1受容体作動薬治療を受けた2型糖尿病成人患者を登録しプラセボまたはほかのGLP-1受容体作動薬と比較した、追跡期間12週間以上の無作為化対照試験を適格とし特定した。クロスオーバーデザインの試験、GLP-1受容体作動薬と他クラスの薬剤をプラセボ群なしで比較した非劣性試験、販売が中止された薬剤を使用したもの、英語以外で記述された試験などは除外した。体重減は対プラセボでCagriSemaが-14kg、チルゼパチドが-8kg 適格基準を満たしたのは76試験で、15種のGLP-1受容体作動薬と被験者総数3万9,246例が、ネットワークメタ解析に組み入れられた。プラセボとの比較において、15種すべてのGLP-1受容体作動薬が、HbA1cと空腹時血糖値を低下させた。 なかでもチルゼパチドは、HbA1c濃度(対プラセボの平均差:-2.10%、95%信頼区間[CI]:-2.47~-1.74、SUCRA:94.2%、信頼性のエビデンス:高)、空腹時血糖値(-3.12mmol/L、95%CI:-3.59~-2.66、97.2%、高)の低下が最も大きく、血糖コントロールについて最も有効なGLP-1受容体作動薬であることが示された。 さらに、GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病成人患者の体重管理に強力なベネフィットを有することが示された。なかでもCagriSemaは体重減少が最も大きく(対プラセボの平均差:-14.03kg、95%CI:-17.05~-11.00、信頼性のエビデンス:高)、チルゼパチド(-8.47kg、-9.68~-7.26、高)がそれに続いた。 セマグルチドは、LDL値の低下(対プラセボの平均差:-0.16mmol/L、95%CI:-0.30~-0.02)と総コレステロール値の低下(-0.48mmol/L、-0.84~-0.11)に有効であった。 また今回の解析では、GLP-1受容体作動薬による消化器系の有害事象、とくに高用量投与の安全性について懸念があることが示唆された。

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適度な低炭水化物食が1型糖尿病患者の治療の助けに

 適度な低炭水化物食が1型糖尿病患者の血糖管理を容易にする可能性を示す研究結果が、「The Lancet Regional Health - Europe」に12月19日掲載された。論文の筆頭著者であるヨーテボリ大学(スウェーデン)のSofia Sterner Isaksson氏は、「この研究の結果は、適度な低炭水化物食によって平均血糖値が低下し、血糖値が目標範囲内に収まる時間が延長することを示している。この変化は1型糖尿病患者の臓器障害のリスク軽減につながるのではないか」と述べている。 炭水化物を消化吸収することで生じる血糖は、膵臓のβ細胞で分泌されるインスリンの働きで全身の細胞に取り込まれ、エネルギー源として利用される。1型糖尿病はβ細胞が破壊されて発症するタイプの糖尿病で、発症後には生存のためにインスリン療法が必須となり、その血糖管理は2型糖尿病に比べて一般に困難であり、高血糖や低血糖が起こりやすい。血糖管理が不十分な状態が年余にわたると深刻な臓器障害につながる。 1型糖尿病の治療として、古くは厳格な炭水化物摂取制限が行われていた時代もあった。しかし現在は糖尿病でない人に対して推奨されるような健康的な食事が、1型糖尿病の食事療法としても推奨されることが多く、1型糖尿病の血糖管理目的で低炭水化物食を行った場合の影響を調べた研究は少ない。以上を背景にIsaksson氏らは、極端ではなく適度な低炭水化物食が、1型糖尿病患者の血糖管理状態を改善し得るかを検討した。 この研究には、HbA1c7.5%以上の成人1型糖尿病患者54人が参加し、12週間にわたる多施設共同無作為化非盲検クロスオーバー試験として実施された。通常の食事(炭水化物の摂取エネルギー比が50%)または適度な低炭水化物食(同30%)を4週間継続し、4週間のウォッシュアウト期間を置いて、食事条件の割付けを切り替えた上で4週間継続した。主要評価項目は、連続血糖測定で把握された各試行条件の最後の14日間の平均血糖値の差とした。 データ欠落などのない50人が解析対象となった。解析対象者のベースラインデータは、平均年齢48歳で、女性50%、HbA1c8.4%、BMI29など。 解析の結果、平均血糖値の差は10.8mg/dL(95%信頼区間5.4~16.2)であり、低炭水化物食条件の方が有意に低値だった(P<0.001)。また、血糖値が管理目標(70~180mg/dL)の範囲内にあった時間の割合は、低炭水化物食条件の方が4.7%(同1.3~8.0/1日当たり68分)有意に大きかった(P=0.008)。また、高血糖(180mg/dL以上)の時間の割合は低炭水化物食条件の方が5.9%(2.2~9.6/1日当たり85分)有意に少なかった(P=0.003)。 低血糖の時間の割合や、血糖値の標準偏差には有意差がなかった。また、重症低血糖やケトアシドーシスなどの重篤な有害事象は観察されなかった。 Isaksson氏は大学発のリリースの中で、「適度な低炭水化物食は、成人1型糖尿病患者にとって良い治療選択肢となり得る。ただし、脂質と炭水化物の質に留意し、食事全体が健康的であること、そして炭水化物の摂取量が少なくなりすぎないことが重要」と解説している。

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自殺未遂者の身体損傷、精神疾患のない人ほど大きい

 精神疾患は自殺の主な危険因子の一つであり、自殺予防対策では精神疾患のある人への支援が重要視されている。秋田大学大学院看護学講座の丹治史也氏らが秋田市内の自殺未遂者のデータを分析した結果、精神疾患の既往のない人は、その既往がある人と比べて、致死性の高い自殺企図の手段を選ぶ傾向があり、身体所見の重症度も高いことが分かった。同氏らは、精神疾患のある人だけでなく、精神疾患のない人にも配慮した自殺予防対策が重要だとしている。詳細は「Journal of Primary Care & Community Health」に11月19日掲載された。 日本の自殺率は近年減少傾向にあったが、新型コロナウイルス感染症の流行が影響して増加に転じている。自殺の主な危険因子には自殺未遂歴と精神疾患が挙げられる。自殺企図者の9割以上が精神疾患を有するとの報告もあり、精神疾患のある人は自殺リスクが高いと言われている。一方で、精神疾患のない人は致死性の高い自殺手段を選ぶ傾向のあることが報告されているが、精神疾患の有無と自殺未遂者の身体所見の重症度との関連は明らかになっていない。そこで、丹治氏らは今回、秋田市のデータを用い、自殺未遂者における精神疾患の既往の有無と救急搬送時の身体所見の重症度との関連を調べる二次データ解析を実施した。 この研究は、秋田市内5施設で収集した自損患者診療状況シートのデータを用い、2012年4月から2022年3月の間に救急搬送された自殺未遂者806人を対象に実施したもの。精神疾患の既往を曝露変数とし、主要評価項目は、自殺未遂者の身体所見の重症度(中等症または重症)とした。対象者のうち女性が67.6%を占め、76.4%(616人)は1つ以上の精神疾患の既往を有していた。 年齢と性、自殺企図の回数および支援者の有無で調整した解析の結果、自殺未遂者において、精神疾患の既往と身体所見の重症度との間に有意な負の関連が認められた〔有病割合比(PR)0.40、95%信頼区間0.28~0.59〕。つまり、自殺未遂者において、精神疾患の既往がない人は身体所見の重症度が高いことが分かった。この関連には年齢や性による差は認められなかった。また、自殺企図の手段に関する分析では、精神疾患の既往がある人は薬物過剰摂取などの致死性の低い方法を選ぶケースが多かったのに対し、既往のない人は、首つりや手首の深い損傷など致死性の高い方法を選ぶ傾向にあった。 以上から、著者らは「致死性の高い自殺企図の手段を選択するということは、自殺死亡に至るリスクが高まることを意味する。今回の研究は、精神疾患の診断がつく前に自殺を企図する可能性は高いことを考慮することの重要性を強調するものだ」と述べ、「精神疾患がなくても精神科を受診したり、社会的な支援を得られたりしやすい環境を整えることが自殺率の低下につながる可能性がある」と付言している。

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