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グラム陰性菌血症への抗菌薬、早期経口スイッチの効果は?

 抗菌薬は多様な疾患に処方されており、経口投与は点滴投与と比較して医療者・患者負担が少ないが、その効果に違いはあるのか。合併症のないグラム陰性菌血症の患者を対象に、抗菌薬を早期に経口投与に切り替えた場合と静脈内投与を継続した場合の90日死亡リスクを比較した研究結果が発表された。デンマーク・コペンハーゲン大学病院のSandra Tingsgard氏らによる本研究は、JAMA Network Open誌2024年1月23日号に掲載された。 本試験は、対象試験エミュレーションの枠組みを用いて実施されたコホート研究で、2018年~21年、デンマーク・コペンハーゲンの4病院で診療を受けた合併症のないグラム陰性菌血症の成人の観察データを対象とした。追跡期間は90日間で、初回血液培養後4日以内に経口抗菌薬に切り替えた場合と、5日以上静脈内投与を継続した場合の90日全死因死亡率を比較した。絶対リスク、リスク差(RD)、リスク比(RR)推定のため、プールロジスティック回帰を用いてintention-to-treat解析およびper-protocol解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・計914例(年齢中央値74.5歳、男性56.0%)が組み入れられ、433例(47.4%)が早期切り替え群、481例(52.6%)が長期静脈内治療群に割り付けられた。99例(10.8%)が追跡期間中に死亡した。・長期静脈内治療群は、早期切り替え群と比較して年齢が高く、菌血症の進行がより重篤で、合併症の負担が大きかった。ベースライン時にこれらの差を調整し、per-protocol解析ではベースライン時の交絡因子と時間変動交絡因子の両方を調整し、割り当てられた治療戦略からの逸脱例は除外した。・死亡率は、長期静脈内治療群のほうが高かった(69例[14.3%]対30例[6.9%])。intention-to-treat解析では、90日全死因死亡率は早期切り替え群で9.1%(95%信頼区間[CI]:6.7~11.6)、長期静脈内治療群で11.7%(95%CI:9.6~13.8)であり、RDはー2.5%(95%CI:ー5.7~0.7)、RRは0.78(95%CI:0.60~1.10)であった。per-protocol解析では、RDはー0.1%(95%CI:-3.4~3.1)、RRは0.99(95%CI:0.70~1.40)と、両群に差はなかった。 研究者らは「4日以内の早期に経口抗菌薬へ切り替えた場合の90日全死因死亡率は、静脈内治療を継続した場合と同程度であり、早期の経口投与切り替えが効果的な代替手段となる可能性を示唆している」としている。

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肺がんコンパクトパネル、細胞診検体の精度は?

 2023年1月26日に遺伝子パネル検査「肺がん コンパクトパネルDxマルチコンパニオン診断システム」(肺がんコンパクトパネル)の一部変更申請が承認された。従来、4遺伝子(EGFR、ALK、ROS1、MET)のマルチコンパニオン診断検査として用いられていたが、今回の承認により3遺伝子(BRAF、KRAS、RET)が追加され、7遺伝子が対象となった。その肺がんコンパクトパネルについて、細胞診検体(液体検体)を用いた遺伝子検査の精度を検討した結果が、國政 啓氏(大阪国際がんセンター 呼吸器内科)らによって、Lung Cancer誌オンライン版2月3日号で報告された。本研究において、気管支生検鉗子洗浄液の検体では、組織検体で検出された遺伝子変異との一致率が94.9%と高率であった。 本研究は、StageIVの非小細胞肺がん患者を対象とした。液体検体として、気管支生検鉗子洗浄液(鉗子洗浄コホート:79例)、胸水(胸水コホート:8例)、髄液(髄液コホート:9例)を用いて、肺がんコンパクトパネルによる遺伝子検査を実施した。組織検体についても遺伝子検査を実施し(オンコマイン Dx Target Test マルチ CDxシステムまたはAmoyDx肺マルチ遺伝子PCRパネルを使用)、鉗子洗浄コホートの液体検体の結果と比較した。 主な結果は以下のとおり。・鉗子洗浄コホートでは、組織検体で検出された変異との一致率は94.9%(75/79例)であった。・鉗子洗浄コホートの組織検体と液体検体でみられた相違は以下のとおり(下線部は相違点)。症例1:組織(EGFR L861Q、MET exon14スキッピング)、液体(EGFR L861Q)症例2:組織(KRAS Q61H)、液体(検出なし)症例3:組織(EGFR L858R)、液体(EGFR L858R、KRAS G12C)症例4:組織(EGFR L858R)、液体(EGFR L858R、EGFR A859D)・胸水コホートでは、GM管で8週間冷蔵保存した後でもDNA・RNAの質や量は低下しなかった。・髄液コホートでは、9例中8例で組織検体にドライバー遺伝子変異が認められた。髄液中に腫瘍細胞が認められた患者全例で、髄液検体で認められた変異と組織検体で認められた変異が一致していた。 本研究結果について、著者らは「組織検体の採取が困難な場合、治療につながるドライバー遺伝子変異の検索や治療抵抗性の解析に、細胞診検体を用いた肺がんコンパクトパネルによる遺伝子検査が利用可能と考えられる」とまとめた。

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アルコール依存症の治療期間に応じた薬物療法の有用性~ネットワークメタ解析

 アルコール依存症やアルコール使用障害では、再発が多くみられることから、減酒治療をできるだけ長期間にわたり実施する必要がある。しかし、これまでのレビューでは治療期間が考慮されておらず、減酒治療が適切に評価されていない可能性がある。岡山済生会総合病院の小武 和正氏らは、アルコール依存症またはアルコール使用障害の患者における減酒薬物療法の有効性と安全性を治療期間に応じて評価するため、本研究を実施した。Addiction (Abingdon, England)誌オンライン版2024年1月3日号の報告。 15種類の薬剤を評価したランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。2021年5月までに公表された研究をMEDLINE、Embase、PsycINFO、Cochrane Central Register of Controlled Trials、ClinicalTrials.gov、ICTRPより検索した。アウトカムは、多量飲酒日(HDD)、総アルコール摂取量(TAC)、有害事象、禁酒日数とした。 主な結果は以下のとおり。・分析には、55件(8,891例)のRCTを含めた。・ナルメフェンは、長期にわたるHDD(標準化平均差[SMD]:-0.28、95%信頼区間[CI]:-0.37~-0.18)およびTAC(SMD:-0.25、95%CI:-0.35~-0.16)の減少において、プラセボよりも優れていたが、短期間では効果が十分ではなかった。・トピラマートは、短期的にHDD(SMD:-0.35、95%CI:-0.59~-0.12)および禁酒日数(SMD:0.46、95%CI:0.11~0.82)の減少において、プラセボよりも優れていた。・バクロフェンは、短期的にTAC(SMD:-0.70、95%CI:-0.29~-0.11)の減少においてプラセボよりも優れていた。・有害事象の頻度は、プラセボよりもナルメフェン、トピラマートのほうが有意に高かった。 著者らは、「ナルメフェン、トピラマート、バクロフェンは減酒の薬物療法として有効である可能性が示唆されたが、長期的な有効性が実証されている薬剤はナルメフェンのみである」とまとめている。

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遺伝性血管性浮腫、CRISPR-Cas9ベースの生体内遺伝子編集治療が有望/NEJM

 遺伝性血管性浮腫の治療において、NTLA-2002の単回投与は、血漿中の総カリクレイン濃度を強固に、用量依存性で恒久的に減少させ、重度の有害事象は観察されないことが、ニュージーランド・Auckland City HospitalのHilary J. Longhurst氏らによる検討で示された。遺伝性血管性浮腫はまれな遺伝性疾患で、予測不能な重度の浮腫発作を引き起こす。NTLA-2002は、CRISPR-Cas9に基づく生体内遺伝子編集治療で、カリクレインB1をコードする遺伝子(KLKB1)を標的とする。研究の成果は、NEJM誌2024年2月1日号で報告された。3ヵ国3施設の第I相用量漸増試験 本研究は、遺伝性血管性浮腫の治療におけるNTLA-2002の有用性を評価する第I/II相試験の第I相用量漸増試験であり、2021年12月~2022年8月に、ニュージーランド、オランダ、英国の3施設で患者を登録した(Intellia Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上、1型または2型の遺伝性血管性浮腫と診断され、スクリーニング前の90日間に少なくとも3回の発作を認めた患者10例(年齢中央値51歳[範囲:26~73]、男性6例、1型6例、2型4例)を登録し、NTLA-2002 25mgを単回投与する群に3例、同50mg投与群に4例、同75mg投与群に3例を割り付けた。 主要エンドポイントは、NTLA-2002治療の安全性と副作用のプロファイルであった。用量制限毒性、臨床的に重要な臨床検査所見はみられず 全体で最も頻度の高い有害事象として、注入に伴う反応を7例(70%、NTLA-2002 25mg群2例、同50mg群2例、同75mg群3例)、倦怠感を6例(60%、1例、3例、2例)で認めた。注入に伴う反応の症状の多くはGrade1で、投与日中に消退し、続発症はみられなかった。 また、NTLA-2002投与後に、用量制限毒性、重篤な有害事象、Grade3以上の有害事象、臨床的に重要な臨床検査所見の発現はなかった。 ベースラインと直近の評価では、この間に血漿中の総カリクレイン濃度の用量依存性の低下を認め、平均変化率は、NTLA-2002 25mg群が-67%、同50mg群が-84%、75mg群は-95%であった。1ヵ月当たりの発作数がベースラインから95%減少 ベースラインから1~16週までの、1ヵ月当たりの遺伝性血管性浮腫発作数の平均変化率は、NTLA-2002 25mg群が-91%、同50mg群が-97%、同75mg群は-80%であった。また、全例におけるベースラインから直近の評価までの、1ヵ月当たりの発作数の平均変化率は-95%だった。 著者は、「これらの結果は、遺伝性血管性浮腫に対する新たな治療法として、NTLA-2002によるCRISPR-Cas9ベースの生体内遺伝子編集治療の検討を継続することを支持するものである」としている。

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検診以外で発見の非浸潤性乳管がん、浸潤性病変・乳がん死の長期リスク高い/BMJ

 検診以外で発見された非浸潤性乳管がん(DCIS)の女性は、診断後少なくとも25年間は、一般集団の女性と比較して浸潤性乳がんや乳がん死のリスクが高く、検診でDCISが検出された女性に比べ長期的なリスクも高いことが、英国・オックスフォード大学のGurdeep S. Mannu氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年1月24日号に掲載された。長期リスクを評価するイングランドのコホート研究 本研究は、検診以外で検出されたDCISにおける浸潤性乳がんと乳がん死の長期的なリスクの評価を目的に、一般集団の女性と検診でDCISと診断された女性を比較する住民ベースのコホート研究である(Cancer Research UKなどの助成を受けた)。 1990~2018年に、英国国民保健サービス(NHS)の乳房検診プログラム以外でDCISと診断されたイングランドの女性2万7,543例を解析に含めた。浸潤性乳がん、乳がん死の実測値は予測値より高い 2018年12月31日の時点で、検診以外でDCISと診断された女性のうち3,651例が浸潤性乳がんを発症した。これは、全国的ながん罹患率から予測される値の4倍以上であった(実測値/予測値の比:4.21、95%信頼区間[CI]:4.07~4.35)。また、浸潤性乳がん発症の実測値/予測値の比は、追跡期間を通じて高いままであった。DCIS診断時年齢別の、浸潤性乳がんの25年間の累積リスクは、45歳未満で27.3%、45~49歳で25.2%、50~59歳で21.7%、60~70歳で20.8%だった。 乳がんで死亡した女性は全体で908例。これは、一般集団の乳がん死亡率から予測される値のほぼ4倍(実測値/予測値の比:3.83[95%CI:3.59~4.09])であった。また、乳がんに起因する死亡の実測値/予測値の比は、追跡期間を通じて高値を維持していた。DCIS診断時年齢別の、乳がん死の25年間の累積リスクは、45歳未満で7.6%、45~49歳で5.8%、50~59歳で5.9%、60~70歳で6.2%であった。乳房切除術は浸潤性乳がんを低減、乳がん死には影響せず 50~64歳(NHS乳房検診の対象年齢)の女性では、検診でDCISが検出された女性に対する、検診以外でDCISが検出された女性の、浸潤性乳がん発症の実測値/予測値の比は1.26(95%CI:1.17~1.35)、同じく乳がん死亡率の実測値/予測値の比は1.37(1.17~1.60)であった。 手術を受けた片側DCIS女性2万2,753例では、乳房温存術に比べ乳房切除術で、同側浸潤性乳がんの25年累積リスクが低かった(乳房切除術8.2%[95%CI:7.0~9.4]、乳房温存術+放射線治療:19.8%[16.2~23.4]、乳房温存術単独:20.6%[18.7~22.4])。 一方、乳がん死の25年累積リスクは、乳房切除術と乳房温存術(±放射線治療)で同程度であった(乳房切除術:6.5%[95%CI:4.9~10.9]、乳房温存術+放射線治療8.6%[5.9~15.5]、乳房温存術単独7.8%[6.3~11.5])。 著者は、「DCIS女性では、浸潤性乳がんと乳がん死のリスク増加が少なくとも25年間続いたことから、DCIS生存者は少なくとも30年間は、サーベイランスの恩恵を受ける可能性があると示唆された」としている。

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小児がんサバイバーは糖尿病ハイリスク

 小児期にがんを経験すると、その後の糖尿病の発症リスクが高くなることを示すデータが報告された。米セント・ジュード小児研究病院のStephanie Dixon氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Oncology」に12月13日掲載された。 小児がんサバイバーの糖代謝異常のリスクや、糖代謝異常に伴う心血管イベントおよび慢性腎臓病(CKD)のリスクは、これまでよく分かっていなかった。それを背景に実施されたこの研究から、小児期にがんの既往がある成人は既往がない人に比べて前糖尿病を発症する確率が2倍に上ることが明らかになった。Dixon氏は同院発のリリースの中で、「前糖尿病が20歳で始まった場合、それは心臓病や腎臓病のリスクが大きく上昇することを意味する。人生のより早期に前糖尿病になるほど、問題はより大きくなる。また、時間の経過とともに、より多くの小児がん既往者の耐糖能が悪化し続ける」と解説している。 この研究では、小児がんの診断から5年以上経過した成人3,529人〔年齢中央値30歳(四分位範囲18~65)〕と、小児がん既往のない対照群448人を年齢別に層別化した上で、前糖尿病(空腹時血糖値100~125mg/dLまたはHbA1c5.7~6.4%)、および糖尿病の有病率を比較検討した。また、前糖尿病から糖尿病への進行、および、心血管イベントやCKDなどのリスクを推定した。 解析の結果、対照群の前糖尿病有病率が18.1%(95%信頼区間14.5~21.6)、糖尿病有病率が4.7%(同2.7~6.6)であるのに対して、小児がんサバイバー群は同順に29.2%(27.7~30.7)、6.5%(5.7~7.3)だった。また、40歳代のサバイバー群の半数以上が糖代謝異常に該当した(前糖尿病が45.5%、糖尿病が14.0%)。前糖尿病者695人を5.1年(中央値)追跡したところ、10%に当たる68人が糖尿病に進行した。 Dixon氏は、「心血管疾患の危険因子の中で、糖尿病だけが統計的に有意なリスク上昇を示していた。さらに、前糖尿病者では合併症リスクが有意に増大し、糖尿病患者ではより顕著に増大していた」と述べている。同氏の指摘のうち後者に関して具体的には、糖代謝正常のサバイバーに比較して、前糖尿病者では心筋梗塞のリスクが2.4倍〔ハザード比(HR)2.4(1.2~4.8)〕、CKDのリスクが2.9倍〔HR2.9(1.04~8.15)〕であり、さらに糖尿病患者では心筋症リスクが3.8倍(HR3.8(1.4~10.5)〕、脳卒中リスクが3.4倍(HR3.4(1.3~8.9)〕であることが示されている。 一方でDixon氏は、前糖尿病や糖尿病は生活習慣次第で、その影響を抑制可能であることを指摘。その上で、「小児がんサバイバーに対して、糖代謝異常のリスクに対して早めに対処できるようにサポートする必要がある。そのために医師は、サバイバーがいつ前糖尿病を発症したかを特定し、糖尿病への進行抑止と経過観察の重要性をカウンセリングしなければならない」と強調。また同氏は、「小児期にがんを乗り越えた後に前糖尿病や糖尿病を発症した人たちが、より長く健康に人生を送ることができるようにするための介入法を検討すべきだ」との提言も付け加えている。

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ビデオゲームの音は難聴リスクを高める

 ビデオゲーム(テレビゲーム)の大音量は、ゲーマーに不可逆的な難聴や耳鳴りをもたらす可能性のあることが、新たな研究で示唆された。この研究では、ソファーに座っているか、ゲームセンターにいるかなどにかかわりなく、ビデオゲームの音量がしばしば人の聴覚にとって安全とされるレベルを超えていることが示されたという。米サウスカロライナ医科大学のLauren Dillard氏らによるこの研究結果は、「BMJ Public Health」に1月16日掲載された。 Dillard氏らは、論文データベースや灰色文献を検索して、基準を満たした世界9カ国(米国、ドイツ、イタリア、ポーランド、日本、中国、インドネシア、韓国、オーストラリア)で実施された14件の研究を抽出(コホート研究11件、非コホート研究3件、対象者の総計約5万4,000人)。これらの研究結果を統合して、ビデオゲームの音量と難聴や耳鳴りのリスクとの関連を検討した。 11件のコホート研究のうちの6件は、聴覚とコンピューターゲームやビデオゲームとの関連を検討し、4件はアジアに多いゲームセンターやパソコンルームでのゲームに、残りの1件はモバイルデバイスでのゲームに焦点を当てて聴覚との関連を探っていた。これらの研究で報告されたゲームの音量は、モバイルデバイスでの43.2dBからゲームセンターでの80dB超〜90dB未満に及び、音への曝露時間は平均3時間/週と推測された。また、1秒未満の短い衝撃音は、ビデオゲームのバックグラウンドサウンドよりも最大で15dB以上高く、1件の研究では119dBにまで達することが報告されていた。これは、衝撃音に対して子どもで許容されるレベル(約100dB、大人では130〜140dB)を大きく上回っている。 ゲーム機に取り付けられたヘッドホンを通じて5種類のビデオゲームの音量を測定した研究では、4種類のシューティングゲームでの音量がそれぞれ平均88.5dB、87.6dB、85.6dB、91.2dB、レーシングゲームでは85.6dBであることが報告されていた。これらの数値は、子どもと大人で許容される騒音レベル(子ども:75dBを週40時間、大人:80dBを週40時間)に近いものであった。 ビデオゲームをプレイしている人の割合を報告していた6件の研究に基づくと、その割合には20〜78%の幅があった。2件の韓国の研究では、ゲームセンター利用者の割合は60%程度に上ることが報告されていた。また、ゲームのプレイと自己報告による難聴や最小可聴限界、耳鳴りとの関連を検討した5件の研究のうちの2件では、生徒のゲームセンターの利用が両耳の重度の耳鳴りと高周波難聴のリスク増加と関連することが明らかにされていた。別の大規模観察研究では、ビデオゲームの使用と自己報告による難聴の重症度との関連が報告されており、さらに、別の1件の研究では、1000万人以上の米国人がビデオゲームやコンピューターゲームから発せられる「大きな」または「非常に大きな」音にさらされている可能性が報告されていた。 こうしたレビュー結果から研究グループは、「ゲーマーの中でも、特に、この論文で示された平均レベル以上の音量で高頻度にゲームをプレイする人は、おそらく許容される騒音レベルの限度を上回っていることが予想される」と話す。そして、そのようなゲーマーでは、「安全ではない音量に日常的にさらされることで、不可逆性の難聴や耳鳴りを発症するリスクが増加している可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 ただし研究グループは、この問題に関する研究は数が限られていることを指摘している。例えば、過去10年間で、ビデオゲームやゲームセンターでの平均的な騒音レベルを客観的に測定した研究はたった2件しかないのだという。このことを踏まえた上で研究グループは、「ビデオゲームによる聴覚への脅威を十分に評価するために、さらなる研究を行う必要がある」と話している。

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抗肥満薬アライ、内臓脂肪をどのくらい減らす? 【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第125回

要指導医薬品として承認された抗肥満薬「アライ」を覚えていますでしょうか。承認されたのはちょうど1年前の2023年2月で、その審査に4年もかかったこと、また久しぶりのダイレクトOTCであることも話題になりました。公式ブランドサイトには「今春発売予定」とあり、2024年3月4日の世界肥満デーに合わせて、アライの発売を記念した記者発表会を開催するようです。なんだかいよいよという感じがしてきましたね。「アライ」は、大正製薬によって申請された日本初となる内臓脂肪・腹囲減少薬で、成分名はオルリスタットです。「成人(18歳以上)」「腹囲が男性85cm以上/女性90cm以上」「生活習慣改善の取り組みを行っている」人の内臓脂肪および腹囲の減少が期待できるOTC医薬品です。「腹囲が男性85cm以上/女性90cm以上」というのは、いわゆるメタボリックシンドロームの基準と同じなので、本剤の必要のない人が過度なダイエットのために使用することはできません。なお、要指導医薬品ですのでオンラインでは販売できず、再審査期間が8年設定されます。このアライの気になる作用機序は、消化管の中でリパーゼを不活性化し、食事に含まれる脂質の体内吸収を抑制することで、減量効果を得ようとするものです。臨床試験において、投与開始から24週の内臓脂肪面積の変化率はプラセボ群-5.78% vs.アライ群-14.10%、腹囲変化量は-1.63cm vs.-2.49cmで、いずれもプラセボ群に対して有意に減少していました(p<0.05)。副作用としては、作用メカニズムに由来する油の漏れ、便を伴う放屁、脂肪便や下痢などですが、肝障害にも注意が必要です。注目すべきは、長期投与試験で「油の漏れ」が30%超、「便を伴う放屁」が20%超に発生しているという点です。軽微な副作用とはいえ、これらがQOLに及ぼす影響は大きいと考えられ、服薬継続に影響を及ぼしそうな気がします。本剤の販売には、腹囲などの基準や食事・運動習慣の確認だけでなく、1ヵ月間の生活習慣記録の確認も必要です。それらを薬剤師が確認し、アライを適切に服用することで肥満が改善したという報告が1年後に聞かれることを期待したいと思います。なお、この記者発表会では、日本肥満学会の理事長の講演やアライの情報提供だけでなく、購入フローのデモンストレーションや製品の配布(薬剤師の確認のうえ、本剤の対象者のみ)も行われるようです。いよいよ発売が近くなり、患者さんから聞かれる機会も増えると思うので、参考になれば幸いです。

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「進行がんだから仕方がない」は使わない ~外来通院の進行がん患者へのリハビリテーション~【Oncologyインタビュー】第45回

出演:関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座 勝島 詩恵氏「進行がんだから仕方がない」。がん医療の現場で何げなく使ってしまう言葉ではないだろうか。この言葉を考え直す時期が来ているようだ。外来通院の進行がん患者へのリハビリテーション介入という新たな挑戦が始まっている。関西医科大学の勝島 詩恵氏に聞いた。進行がん患者治療の課題に立ち向かう外来通院がん患者は増加している。その反面、治療に適応するための対策は追いついていないという。外来通院ができるがん患者は、基本的に全身状態(PS)良好で身体機能が維持されているはずだが、実際は問題を抱えているケースが多い。外来通院が可能な状態であっても、進行がん患者である以上、薬物だけで治療は成立しない。患者の栄養状態、身体機能、精神面の安定があってこそ、より良いがん診療ができる。外来通院がん患者に対して、これから始まる、あるいは現在行っている治療に適合させるための介入(リハビリテーション)が必要だと考え、2020年、関西医科大学附属病院は「フレイル外来」を立ち上げた。多職種が連携した介入を実現大学病院などのハイボリュームセンターでは、連日100人を超える外来化学療法患者が受診する施設も珍しくない。そのため、主治医の診察から治療(点滴)開始まで、長い待ち時間が生じ、患者の大きな負担となっている。フレイル外来は、その待ち時間を有効利用する。患者は化学療法外来主治医の診療終了後、フレイル外来を受診する。化学療法レジメンに合わせて、月1~2回の通院が通常である。関西医科大学附属病院のフレイル外来では、腫瘍内科医(勝島氏)が診察を行い、患者の治療内容、副作用や経過などの理解を深める。それ以外にも、食欲不振や体重減少が強い患者には、栄養士への栄養指導の依頼や治療薬に関する主治医への相談を行う。介護保険申請を行っている患者や通院が困難となってきた患者には、デイケアや訪問リハビリテーションの紹介、精神的ケアや症状緩和が必要な患者には緩和ケア科と連携したサポートを行う。フレイル外来には、立ち上げからの3年間で360人の患者が紹介されている。外来の認知度と共に患者は増え、現在は月100人の患者がフレイル外来を受診する。呼吸器、消化器、乳腺などが主体であったが、最近は血液内科から造血幹細胞移植後の患者の紹介も多い。「外来の認知度が上がるにつれ、紹介が増えており、確実なニーズの増加を実感している」と勝島氏は述べる。病勢進行していなくても、半数以上が悪液質を合併していた勝島氏らは、フレイル外来を受診する進行再発肺がん患者の調査を実施した。定期的に外来通院にて化学療法を受ける肺患者は基本的にPS良好で、病勢もコントロールされているはずの外来患者だが、フレイル外来初診時、過半数(55.2%)が悪液質を合併していた1)。また、化学療法を受ける進行再発がん患者の悪液質は、低栄養状態、低身体活動が悪液質の臨床的特徴、もしくは、悪液質の特徴として独立した因子として抽出された。低身体活動については、10分以上続けて行う身体活動を評価する「IPAQ*」で評価できたが、従来のPSでは拾い上げられなかった1)。「医師が判断するPSは実際の活動量と乖離している可能性があるため、PSだけで判断すると危険」と勝島氏は言う。*IPAQ(International Physical Activity Questionnaire、国際標準化身体活動質問票):1週間における高強度および中等度の身体活動を行う日数および時間を質問する。治療成績向上、鍵は治療開始までの期間と悪液質の早期予防また、勝島らは、近年肺診療において、病期診断、病理診断に一定の時間を要し、その間に身体機能が落ちる患者がいることに着目して調査を行った。初診から治療開始までの期間が長いほど悪液質発症が高まる傾向が明らかになった。初診から治療開始までが45日以上の群では、治療開始までに悪液質発症が増加したが(初診時37%→治療開始時87%)、45日未満の群では増加しなかった(61%→61%)。悪液質の存在は化学療法の効果に悪影響を及ぼすことも示されている。悪液がない患者では、初回化学療法の病勢コントロール率(DCR)は100%、初回治療完遂率も100%であった。一方、悪液質がある患者での初回化学療法のDCRは66.7%、初回治療完遂率は58.7%と、有意差はないものの、悪液質がない患者よりも悪い傾向であった。しかし、悪液質の合併については、医療者も患者も危機意識は低い。勝島氏によれば、がんの確定診断を受けながら、治療開始までの待機期間にPSが悪化し、抗がん剤治療が受けられなくなってしまったケースも少なくないという。悪液質は決してがん終末期の病態ではなく、がん治療の早期にも現れ、抗がん剤治療に悪影響を及ぼす。迅速な診断と介入で、いかに悪液質がない状態で化学療法を実施できるかが、がん治療成功の鍵を握るといえる。これらの研究結果について勝島氏は、「多くの医療者が何となく気付いていたこと。少し全貌が明らかになった」と言う。がんリハビリテーションの質的なメリット進行再発がんリハビリテーションの真のエンドポイントは定まっていない。治療を行ったとしても最終的には病勢が進行する。そのため、体重や身体機能などの量的なエンドポイントは、いずれ達成できなくなってしまう。一方、フレイル外来通院患者の中には、病勢が進行しても受診を希望する患者も多い。そのため、進行再発がん患者へのリハビリテーションは、量的な効果だけでなく、質的な効果を持つのではないかという仮説を立てた。そして、フレイル外来通院患者に、リハビリテーションでの経験について、半構造化面接法によるインタビューを行った。その結果、がんリハビリテーションに取り組むことで、フレイル外来通院患者は「身体機能改善に対する期待感」「変化を客観的に把握できる安心感」「自分の存在意義の再確認」といったポジティブな経験をし、根治不能な進行がんとの付き合い方を見いだしていることがわかった2)。現時点でできることとはいえ、すべての施設で関西医科大学のような取り組みができるわけではない。そのような中、医療者ができることは何だろうか。まず、悪液質に対する危機意識を高めるべきだと勝島氏は強調する。また、医療者と共に患者の理解も重要だ。治療医の言葉は患者に大きな影響を与える。治療医から患者への「どれだけ動けて、痩せずに治療を受けられるか、で抗がん剤の効果も変わってくる」などの一言で、患者の理解も深まるという。多職種連携の最初の一石は医師しか投じられない。モチベーションが高い理学療法士や看護師は多いが、医師からの紹介がないと動くことはできないことも多い。勝島氏は「治療医から発信するがん悪液質診療を形作るべき」と述べる。前向き試験の取り組み前述の先行試験から、悪液質は初回治療前からでも存在し得ること、治療に悪影響を及ぼすことが明らかとなった。勝島氏らは、次の段階として前向き試験を実施し、初回治療前からの運動・栄養療法が進行再発がんにおける悪液質の発症を抑制し、がん治療に良い効果を生み出すか否かを検証する予定である。今回の試験は治療前から介入するため、少なくとも化学療法の影響を受けない。交絡因子として化学療法の影響を受けないことから、がんリハビリテーションの効果をより純粋に評価できる可能性があるという。外来がんリハビリテーションの診療報酬獲得に結び付ける現在は、患者も医療者も、治療中の体重減少や身体機能低下の重要性について認識不足で、介入も遅れがちである。実際、フレイル外来には、痩せきって身体機能が落ちてから紹介されるケースも少なくないという。早期からのリハビリテーションの重要性を医療者が認識することで、治療効果が乏しくなる前に介入できる。勝島氏は、「痩せて筋力もない患者が、化学療法という大きな剣を無理やり持たされている状況が悪液質。それに対し、早期から多職種が介入して、身体機能や栄養状態、精神面を維持してもらうことで、大きな剣をしっかり振りかざすことができる」とし、「われわれの研究によって、運動療法・栄養療法という低コストの介入が、進行がん治療に寄与することが証明できれば、最終的には外来がんリハビリテーションの診療報酬獲得に結び付くかもしれない」と述べた。画像を拡大する画像を拡大する(ケアネット 細田 雅之)参考1)Katsushima U, et al. Jpn J Clin Oncol. 2024 Jan 11. [Epub ahead of print]2)勝島 詩恵ほか. Palliative Care Research.2022;17:127-134.

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英語で「慎重かつ前向きに」は?【1分★医療英語】第117回

第117回 英語で「慎重かつ前向きに」は?《例文1》 Let's prepare for the worst and hope for the best.(最悪の事態に備えて準備して、最善を祈りましょう)《例文2》He always has a glass-half-full mentality and never pessimistic.(彼は常に「コップが半分満たされている」という精神でいて、決して悲観的にならない)《解説》“cautiously optimistic”は英語の頻用表現です。“optimistic”は前向き、楽観的という意味で、“pessimistic”(悲観的)の対語です。医療現場では気軽に楽観的な言葉を掛けられない深刻な状況もありますが、「そんな状況でも患者さんを励ましたい」という場面で使うことができます。“cautiously”と前置きすることで、「医師として最大限に慎重に対応はしているが、そのうえで前向きに希望を持って臨みたい」という気持ちを伝えることができます。類似表現として、例文に示した“prepare for the worst and hope for the best”も同じような状況・意図で使われます。英語表現では楽観的・悲観的という性格を、“glass-half-full mentality” or “glass-half-empty mentality”と呼ぶことがあります。これは、水が半分入ったコップを見たときに、楽観的な人は「コップは半分まで満ちている」と言い、悲観的な人は「コップは半分まで空になっている」と言う、という逸話に由来します。講師紹介

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第201回 ペニスも休んでばかりだと錆び付くらしい

ペニスも休んでばかりだと錆び付くらしいあくまでもマウスの話なのですが、勃起すればするほど勃起を助ける線維芽細胞を増やし、勃起機能の維持に貢献するようです1)。マウスでもヒトでも線維芽細胞はペニスを占める最も多い細胞ですが2)、線維芽細胞は均質(homogeneous)でおとなしい(static)細胞とかつてはみなされていたこともあって、これまであまり研究されてきませんでした。しかし実は動きがあって個性豊かなことがわかってきており、今回Science誌に掲載された新たな研究では、これまで蔑ろにされてきた線維芽細胞が担うこれまで知られていなかった勃起での役割がマウス実験で示されました。スウェーデンのカロリンスカ研究所が発見したその役割とは、ペニスの勃起の原動力である血流の調節作用です。研究によると、海綿体の線維芽細胞は血管収縮に携わる神経伝達物質ノルアドレナリンをせっせと回収することでペニスの血管を収縮ではなく拡張へと誘い、ペニスの勃起を支えます。それゆえ線維芽細胞の数が多いペニスほど勃起に必要な血管拡張に長け、勃起すればするほど線維芽細胞は増えるとわかりました。一方、老化は線維芽細胞を減らしてペニスの血流を滞らせます。マウスやヒトを含むどの哺乳類の勃起も形態や細胞の配置などさまざまな点でよく似ています。ただし、ヒトのペニスはほかの哺乳類と違って骨がありません。その特徴を鑑みると血流調節はヒトの勃起にはおそらくなおさら重要かもしれません2)。上述したとおり老化マウスのペニスの線維芽細胞は少なく、血流低下を示しました。そのことから察するに、ヒトのペニスが老化で勃起しにくくなることは線維芽細胞の減少を一因とするかもしれません。そうであるなら、スポーツジムに定期的に通って筋肉を鍛えて体調を整えるのと同じように、性生活などでの定期的な勃起は線維芽細胞を増やして勃起不能を防ぐ効果がありそうです。今回の研究で判明した線維芽細胞の新たな一面は勃起不全の新たな治療の開発にも役立つでしょう。目下の勃起不全治療の主流は、シルデナフィルやタダラフィルなどのホスホジエステラーゼ阻害薬で一酸化窒素の効果を高めて海綿体血管平滑筋細胞の弛緩を促すことですが、多ければ30%の患者はそうしても勃起機能を回復できません。そのような既存の治療が手に負えない患者にはノッチ(Notch)阻害が有効かもしれません。今回の研究によると勃起の繰り返しはノッチ(Notch)伝達を抑制し、ノッチが活性化したままだと逆に線維芽細胞が減ってペニスの血流が減りました。そしてノッチ伝達の阻止こそ線維芽細胞を増やしてペニスの血流を増やす働きを担うとわかりました。よってノッチ阻害薬による勃起不全治療は今後検討の価値がありそうです3)。また、線維芽細胞のノルアドレナリン回収に携わる輸送体SLC6A2の発現を増やすことや、移植や何らかの刺激によって線維芽細胞を増やすことなども勃起不全の治療手段となりえそうです3)。参考1)Guimaraes EL, et al. Science. 2024;383:eade8064.2)Fibroblasts in the penis are more important for erectile function than previously thought / Eurekalert3)Ryu JK, et al. Science. 2024;383:588-589.

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鳥取救急に関する「ニュース批評」で批判的に取り上げた当事者が真相を語る

CareNet.comに2月7日に掲載した記事「救急医を巡るパワハラ疑い、鳥取県立中央病院で起こったこととは」(ニュース批評 ざわつく水曜日)に対して、記事中で、批判的に取り上げた当人、鳥取県立中央病院 院長補佐/救急集中治療部長の小林誠人氏から記事に事実と異なる部分があると編集部に連絡があり、取材を行った。何が事実で何が誤りなのか?ニュースの当事者からの情報をお届けする。まず、パワハラについてです。鳥取県東部広域行政管理組合消防局から当院の医師、看護師の対応が「パワーハラスメントではないか」と調査依頼を受けたのは事実ですが、病院ではホットラインはすべて録音していますし、初療の対応は医療安全の観点から全部動画撮影しています。つまり、指摘されたことが事実か否か事後検証できます。それを検証すると、消防局の指摘は必ずしも事実ではありません。パワハラは疑い事例について専門委員会に判断を仰いでいる段階だからといって、消防局の指摘が間違いだとただす気持ちはありません。人間の記憶はあいまいで、そこにいろいろな感情や2次情報、3次情報が加わって書き換えられてしまうものですから、仕方ないことだと思っています。一方、一連の報道は誤りであるとはっきりと申し上げたい。具体的には、当院の職員の対応が「パワハラであった」と断定している部分です。事実は、パワハラの可能性があると考えられた事例について、裁定を仰ぐため鳥取県病院局のハラスメント防止委員会に上げた段階であるということです。院長はそれを記者会見で説明したのですが、すべての報道で明白なパワハラがあったかのごとく取り上げられています(※記事では訂正済み)。今お話ししている時点(2024年2月8日)で、委員会の裁定は下っていません。動画を見ると、若いスタッフが厳しく言っていたりするところがあり、それを受け取り側が…、というのがあったのでしょうが、それも救急活動をよくしたいという一心からです。私としては、改めて動画を見て、医師も救急隊も看護師も、患者を救うために救命のために協働しながら一生懸命やってるな、と純粋に感じました。しかし、専門委員会がパワハラと認定するのかどうか私にはわかりません。指示要請は受けていた。「応諾」しなかったが「拒否」はしていないもう1つの論点が、救急活動プロトコルと特定行為に関する指示要請についてです。ここでまず理解していただきたいのは、パワハラ問題と本件はまったく別の話だということです。私たちは病院に来る前と病院内と分けて考え業務を行っています。パワハラ問題は病院内の管轄で、責任者は院長です。一方、特定行為に関する指示要請は地域メディカルコントロール協議会の管轄です。救急救命士の活動を医師が担保するというのが救急救命士法の趣旨であり、当県の主管は鳥取県救急搬送高度化推進協議会、私たちは通称「県メディカルコントロール協議会」と言っています。この論点についての記事の大きな誤りは、われわれが「特定行為に関する指示要請を拒否した」と書かれている部分があることです。「特定行為に関する指示要請に応諾しなかった」というのが正しい表現になります(※記事では訂正済み)。「拒否」と「応諾しない」は大きく異なります。「拒否」は何かをお願いされたときに門前払いすることで、「特定行為の指示要請をかけていいですか?」という電話も受けませんということです。それはメディカルコントロール体制下で許されないことであり、私たちは一度も「拒否」はしていません。一方、「応諾しない」というのは、指示要請に対してイエスもノーも言わないということです。しかし、それでは電話をかけてきた救急救命士が困るので、私たちは「特定行為の指示要請」を救急救命士法上の「助言」や「指導」に切り替えて対応していました。「先生、心肺停止の傷病者です。この特定行為をしてもよろしいでしょうか?」という依頼に対して「いや、特定行為は許可できません。その状況であれば、代わりに何々をしてください」ということを伝えていました。これが当方が説明してきた真実、1次情報です。実際に録音も残っています。その前段階で「医学的観点からの責任もあり、当院ホットラインへの指示要請、及び検証医への検証は応諾いたしかねます」というメールを私が消防局に送っています。では、なぜ私がそのような対応をとったのか説明します。傷病者に医学的に不利益があるプロトコルでは医師として応諾できない鳥取県のメディカルコントロール協議会の救急活動プロトコルは何年も改訂されておらず、現在の救急の実態とそぐわない部分があります。プロトコルは、フローチャートと手順書がセットになっていますが、県のプロトコルには、フローチャートしかない部分が多々あります。また、その内容も、現在の医学的な知見に照らし、傷病者にとって不利益になる内容が含まれています。そのことについては関係者の間で異論はなく、現在、県メディカルコントロール協議会のプロトコル改訂作業が進められており、もうすぐ改訂版が出来上がる見込みです。では、改訂されるまでの間、不具合があるとわかっている、立て付けの悪いプロトコルを現場で使うべきかということになるわけですが、傷病者に対して不利益があることが明らかなプロトコルを使うことは医学的にあり得ません。このため、われわれの地域、東部地域メディカルコントロール協議会では、地域に見合った補完したプロトコルを救急救命士法の範囲内で運用していました。これは私たちの地域だけの特殊事例ではなく、全国どこの地域でも普通のことだと思います。ところが、先の県のプロトコル改訂作業と並行して進めていた地域のプロトコルの文書化が一時ストップしてしまって、改めて、どのプロトコルを運用するのかという議論になったのです。責任者である東部地域メディカルコントロール協議会の会長に判断を求めたところ、それまでの改訂・文書化作業は中断して、昔の県のプロトコルで運用するように、という指示が出ました。それでは問題があるので何度も確認しましたが、県のプロトコルでやりなさいという指示は変わりませんでした。なので、傷病者、県民にとって不利益になるので、私たちはそのような指示要請には応諾できません。受けますけれどもイエスとは言えません、とお伝えしたのです。わずか10日後に「応諾しない」方針を撤回した真の理由このような経緯で、あのメールは「応諾いたしかねる」という表現を使い、会長の許可ももらったうえで出しています。病院の許可は必要なく、そもそも病院ではなく地域メディカルコントロール協議会が主体となる事案です。組織構造の理解と事実関係の確認が不十分なままに、病院側への謝罪要求が行われたことで、話がややこしくなっているのです。記事にもありますように、10日後には「ホットラインの運用を通常通り再開する」と連絡し、実際にそうしました。しかし、これは報道されていませんが、私たちが判断を変えたわけではありません。会長の方が判断を変えられたのです。つまり従来から運用してきたプロトコルに戻すことになったので、私たちも応諾しない理由はなく、従来の通常対応に戻したということです。そこで、会長はなぜわずか10日で判断を覆し従来のプロトコルに戻すよう指示したのかという疑問が沸くでしょう。プロトコルの明文化、改訂作業と並行して、救急救命士のプロトコル違反および事故事案の検証を行っていました。その検証作業中に県のプロトコルの不具合が改めて認識され、露呈したことで従来から運用されてきた地域のプロトコルに戻されたのだと理解しています。実事案の情報提供は、患者個人情報の絡みもあり慎重にならざるを得なかったのですが、患者家族への説明、県メディカルコントロール協議会への報告も行われましたので、今回情報提供に至りました。今回は、事実確認が不十分なマスコミの報道で相当振り回されましたが、その間も、当院は変わらず救急応需率100%、ホットライン通話時間1分以内を維持し、例年以上に多くの救急車搬入を受け入れています。救命救急士も救急医も傷病者のため県民のために粛々と救命救急をやり続けています。現場ではとくに大きな問題は起こっていないのです。逆に、この問題が明るみに出たことで、プロトコルの改訂作業を含む当地域の救急体制の課題解決へ向けての動きが一気に進み始めました。その意味では良かったと思っています。しかしながら、一方的かつ出所が不明確な情報だけで県民の不安を煽る報道、メディア・スクラムによる医療への悪影響は誰も幸せにしないことを改めて痛感しました。なお、2月10日付で県病院局が、私が救命救急センター長を外れる人事を発令していますが、これは先を見据え、今回の件で露呈した当県、当地域の救急医療体制、各組織の問題、課題を解決し、整備していくためです。院長補佐、救急集中治療部長の任は変わらず、私の役目、仕事はこれまでとまったく変わるところはありません。ニュース批評 ざわつく水曜日「救急医を巡るパワハラ疑い、鳥取県立中央病院で起こったこととは」(2月7日配信、一部修正済み)

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学会のSNS発信はどうあるべき?JSMO2024でシンポジウム開催

 2024年2月22日(木)~24日(土)、第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)が名古屋国際会議場とオンラインのハイブリッド形式で開催される。新薬開発や臨床課題に関する多くの演題が並ぶ中、一風変わったシンポジウムが企画されている。 テーマは「学会としてSNSをどう活用していくべきか」、昨年4月にJSMO広報渉外委員会の下部組織として「SNSワーキンググループ(SNS-WG)」が発足したことを契機に企画されたシンポジウムだ。SNS-WGは立候補制で、現在専攻医からがん薬物療法専門医まで、幅広い世代のJSMO会員メンバーが参加する。 SNS-WGの活動目的は下記のとおり。1)JSMO会員のSNS利用を活発にするための環境整備2)医学生・研修医や一般市民に向けた腫瘍内科・JSMOの認知度向上3)JSMOの国際化 今回のシンポジウムでは、SNS-WGの活動内容、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)、国内でSNS活動を最も精力的に行っている学会の1つである日本循環器学会がSNSを活用するために行っている取り組みを共有し、今後のJSMOのSNS-WGが進むべき方向性やSNSの上手な使い方について討論する予定だという。SNS-WGメンバーのほか、X(旧Twitter)で長年医療情報の発信を続ける循環器内科医・岸 拓弥氏が、日本循環器学会と自身の取り組みを紹介する予定だ。JSMO2024では会場内での許可のない撮影は禁止されているが、本シンポジウムに限っては、スライドの撮影およびSNSへの投稿を自由としている。 SNS-WGのメンバーの1人である寺田 満雄氏(名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野/The University of Pittsburgh Medical Center)は、「海外と比べ、日本ではまだ腫瘍内科はマイナーな存在。SNSで医学生や研修医に向けて情報発信し、魅力を伝えて志望者を増やしたい」と語る。さらに「最大のイベントであるJSMO2024会期中にSNSでの発信を増やし、学術集会を盛り上げることも目指したい」と語る。さらに「国内での情報発信の基盤ができたあとは、ASCOやESMOのように発表スライドを撮影して即時にSNSに投稿、その場でディカッションが起きるような環境整備も進めたい」と今後の展望を語る。 学会のSNS活用においては、投稿が炎上する、といったリスクも指摘されるところだが、「海外学会を見ていると、情報公開、拡散は避けられない流れ。投稿規定を定め、リテラシーを高めて経験を重ねれば、不要なリスクは避けられるはず。日本のプレゼンスを高め、患者・市民参画(Patient and Public Involvement)を促進するためにSNSは欠かせない手段だと考えている」(寺田氏)。まずはSNSを使うJSMO会員を増やそうと、シンポジウムでは個人向けにSNSを使った上手な情報収集法、上手なセルフブランディングなどの話題も提供するという。 シンポジウムの詳細は以下のとおり。JSMO2024(名古屋国際会議場)委員会企画2(SNS-WGシンポジウム)2月22日(木)15:40~17:10Room 6(1号館3F 会議室131+132)【司会】後藤 知之氏(滋賀県立総合病院 腫瘍内科)【冒頭挨拶】武藤 学氏(京都大学大学院医学研究科 腫瘍薬物治療学講座)【演者】山口 祐平氏(名古屋医療センター)上原 悠治氏(都立駒込病院 呼吸器内科) 岸 拓弥氏(国際医療福祉大学大学院医学研究科  循環器内科)【ディスカッサント】岸 拓弥氏(国際医療福祉大学大学院医学研究科  循環器内科)上原 悠治氏(都立駒込病院 呼吸器内科) 扇屋 大輔氏(東海大学医学部 内科学系 血液・腫瘍内科学)尾崎 由記範氏(がん研究会有明病院 乳腺内科)高見澤 重賢氏(NTT東日本関東病院 腫瘍内科)山口 祐平氏(名古屋医療センター) 学会はライブ配信のほか、3月1日(金)~29日(金)の期間にオンデマンド配信も行われる。

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ER陽性/HER2陽性乳がん、PR陽性vs.陰性で転帰の差は

 エストロゲン受容体(ER)陽性プロゲステロン受容体(PR)陽性HER2陽性(ER+/PR+/HER2+)乳がんとER+/PR-/HER2+乳がんは、異なる臨床病理学的特徴および生存転帰を示すことが示唆された。中国・Shaoxing Second HospitalのWu Ding氏らによるBreast Cancer誌オンライン版2024年1月17日号掲載の報告より。 本研究では、Shanghai Jiao Tong University Breast Cancer Data Baseと国立がん研究所のSEER(Surveillance、Epidemiology、and End Results)データベースを用いて分析。傾向スコア調整法により両サブタイプ間の患者特性のバランスが調整された。カプランマイヤー生存曲線により両サブタイプの無病生存期間(DFS)、乳がん特異的生存期間(BCSS)、全生存期間(OS)を推定したほか、多変量モデルを使用して閉経状態、病理学的分類(pN)、抗HER2療法および内分泌療法の有無についてサブグループ解析が行われた。 主な結果は以下のとおり。・ER+/PR+/HER2+乳がんは、とくに閉経後およびpN0の患者において、ER+/PR-/HER2+ 乳がんと比較して有意に良好なDFSおよびBCSSを示した。・抗HER2療法および内分泌療法後の生存転帰は両サブタイプで同様であった。・選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)治療を受けたER+/PR-/HER2+乳がん患者では、ER+/PR+/HER2+乳がん患者と比較して予後が有意に悪かった。 著者らは今回の結果を踏まえ、ホルモン受容体の状態と特定のモダリティについて考慮した個別の治療戦略を立てる必要があると結論付けている。

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キノコと認知症リスク~日本での研究

 キノコは、食物繊維やいくつかの抗酸化物質が豊富な食材である。このようなキノコの食事摂取が認知症リスクの低下と関連しているかは、不明である。筑波大学の青木 鐘子氏らは、キノコ摂取と認知機能障害リスクとの関連を調査した。その結果、日本人女性において、キノコの食事摂取が認知機能障害リスクの低下と関連していることが示唆された。The British Journal of Nutrition誌オンライン版2024年1月19日号の報告。 1985~99年に毎年実施されていた心血管リスク調査に参加した3つの地域に在住する40~64歳の地域住民3,750人を対象に、プロスペクティブ研究を実施した。認知症による障害が認められた事例を、1999~2020年に調査した。脳卒中の既往歴の有無にかかわらず、キノコの摂取量に応じた認知症発症数のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・3,739人を平均16.0年フォローアップ調査したところ、障害を伴う認知症を発症した人は670人であった。・女性では、キノコの摂取と認知症リスクの逆相関が認められた。この関連は、脳卒中の既往歴のない認知症に限定されていた。・女性における認知症発症の多変量HRは、キノコを摂取していなかった人と比較し、キノコの摂取量が0.1~14.9g/日で0.81(95%CI:0.62~1.06)、15.0g/日以上で0.56(0.42~0.75)であった(p for trend=0.003)。・脳卒中の既往歴のない認知症におけるハザード比は、キノコの摂取量が0.1~14.9g/日で0.66(95%CI:0.47~0.93)、15.0g/日以上で0.55(0.38~0.79)であった(p for trend=0.01)。・男性では、キノコの摂取と認知症リスクとの関連が認められなかった。

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神経発達障害リスク、中等度/後期早産児で高い/BMJ

 正期産(在胎期間39週0日~40週6日)で出生した子供と比較して、中等度早産(同32週0日~33週6日)および後期早産(同34週0日~36週6日)で出生した子供は、有害な神経発達アウトカムのリスクが高く、このリスクは在胎週数32週から41週まで徐々に低下することが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のAyoub Mitha氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年1月24日号で報告された。スウェーデンの128万人の子供のコホート研究 本研究は、異なる在胎週数で出生した子供における長期的な神経発達アウトカムの評価を目的とするスウェーデンの全国規模のコホート研究である(スウェーデン・カロリンスカ研究所研究基金などの助成を受けた)。 解析には、Swedish Medical Birth Registerといくつかの全国的な登録システムのデータを用いた。対象は、1998~2012年に、在胎期間32週0日~41週6日の単胎の生児として出生し、先天奇形のない子供128万1,690人であった。 主要アウトカムは、16歳までに診断された運動障害、認知障害、てんかん発作、視覚障害、聴覚障害、およびあらゆる神経発達障害の複合であった。神経発達障害は1万人年当たり47.8人で発生 7,525人(0.6%)が在胎週数32~33週(中等度早産)、4万8,772人(3.8%)が同34~36週(後期早産)、25万7,591人(20.1%)が同37~38週(早期正期産)、71万3,952人(55.7%)が同39~40週(正期産)、25万3,850人(19.8%)が同41週(後期正期産)に出生した。 追跡期間中央値は13.1年(四分位範囲[IQR]:9.5~15.9)で、この間に7万5,311人(47.8人/1万人年)の子供が、少なくとも1回の神経発達障害の診断を受けた。内訳は、運動障害が5,899人(3.6人/1万人年)、認知障害が2万7,371人(17.0人/1万人年)、てんかん発作が1万1,870人(7.3人/1万人年)、視覚障害が1万9,700人(12.2人/1万人年)、聴覚障害が2万393人(12.6人/1万人年)であった。同胞比較解析でも、ほぼ同様の関連性 あらゆる神経発達障害の複合リスクは、正期産児と比較して、中等度早産児(ハザード比[HR]:1.73[95%信頼区間[CI]:1.60~1.87]、リスク群間差:4.75%[95%CI:3.88~5.60])および後期早産児(1.30[1.26~1.35]、2.03%[1.75~2.35])で高かった。 同様に、運動障害、認知障害、てんかん発作、視覚障害、聴覚障害、重度障害のリスクはいずれも、正期産児に比べ中等度早産児および後期早産児で高かった。 また、運動障害、認知障害、てんかん発作、視覚障害、聴覚障害、あらゆる神経発達障害の複合、重度障害のリスクはいずれも、在胎週数32週に出生した子供で最も高く、41週まで徐々に低下しており、正期産(在胎週数39~40週)と比較して早期正期産(同37~38週)の子供で高かった。 一方、同胞比較解析(34万9,108人)では、在胎週数とてんかん発作および聴覚障害には関連がなかったが、これらを除けば、在胎週数と神経発達障害の関連性は安定的に維持されていた。 著者は、「これらの早産児は、早産児全体の中でも大きな割合を占めるため、絶対リスクが小さくても過小評価すべきではない。今回の知見は、医療従事者と家族が中等度/後期早産児のリスク、フォローアップ、医療システム計画のより良い評価を行うのに役立つだろう」としている。

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四肢骨折の手術部位感染予防、最適な皮膚消毒薬は?/NEJM

 四肢骨折の手術部位感染予防における手術前の皮膚消毒では、閉鎖骨折の場合は、クロルヘキシジングルコン酸塩のアルコール溶液と比較して、ヨウ素ポバクリレックスのアルコール溶液は有効性が高い一方で、開放骨折ではこのような差はないことが、カナダ・マクマスター大学のSheila Sprague氏らが実施した「PREP-IT試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年2月1日号に掲載された。北米25病院のクラスター無作為化クロスオーバー試験 PREP-IT試験は、四肢骨折の手術部位の感染予防における手術前の皮膚消毒として、2種のアルコールベースの消毒薬の有効性と安全性の評価を目的とするクラスター無作為化クロスオーバー試験であり、米国とカナダの25の病院で行った(米国患者中心アウトカム研究所[PCORI]などの助成を受けた)。 参加施設を、0.7%ヨウ素ポバクリレックスの74%イソプロピルアルコール溶液を使用する群(ヨウ素群)、または2%クロルヘキシジングルコン酸塩の70%イソプロピルアルコール溶液を使用する群(クロルヘキシジン群)に無作為に割り付け、2ヵ月ごとにこれらの介入を入れ替えた。 対象は、年齢18歳以上の閉鎖骨折(下肢、骨盤)または開放骨折(上肢、下肢)の患者であった。 主要アウトカムは、手術部位感染(30日以内の皮膚表層切開創感染、90日以内の深層切開創感染または臓器/体腔感染)とした。閉鎖骨折では、ヨウ素群2.4%、クロルヘキシジン群3.3% 閉鎖骨折6,785例(平均[±SD]年齢53.9±20.3歳、女性51.1%)と、開放骨折1,700例(44.6±18.2歳、男性63.5%)を登録した。閉鎖骨折ではヨウ素群に3,360例、クロルヘキシジン群に3,425例、開放骨折ではそれぞれ854例、846例を割り付けた。 閉鎖骨折では、手術部位感染は、クロルヘキシジン群の108例(3.3%)に発生したのに対し、ヨウ素群は77例(2.4%)と有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.55~1.00、p=0.049)。 一方、開放骨折では、手術部位感染は、ヨウ素群が54例(6.5%)、クロルヘキシジン群は60例(7.3%)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(OR:0.86、95%CI:0.58~1.27、p=0.45)。予定外の再手術、重篤な有害事象の頻度は同程度 副次アウトカムである1年以内の予定外の再手術(閉鎖骨折[ヨウ素群5.5% vs.クロルヘキシジン群5.9%、OR:0.96、95%CI:0.77~1.20]、開放骨折[16.1% vs.14.5%、1.16、0.87~1.54)の頻度は両群で同程度であった。また、1年以内の重篤な有害事象の頻度にも両群間に差はみられなかった。 著者は、「これらの知見により、米国では、手術前の皮膚消毒としてヨウ素ポバクリレックスのアルコール溶液を使用することで、数千例の閉鎖骨折患者の手術部位感染を予防する可能性が示唆されるが、開放骨折患者のアウトカムを改善する可能性は低い」とまとめ、「どちらの溶液の成分も、患者がアレルギー反応を示す可能性があるため、病院は両方の介入の在庫を保持し続ける必要がある」と指摘している。

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短時間睡眠は女性のインスリン感受性を低下させる

 女性の短時間睡眠はインスリン感受性の低下につながることを示すデータが報告された。睡眠時間が90分短い状態が6週間続くと、空腹時インスリン値やインスリン抵抗性(HOMA-IR)が有意に上昇するという。米コロンビア大学アービング医療センターのFaris M. Zuraikat氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Care」に11月13日掲載された。 これまでに、睡眠不足が糖代謝に悪影響を及ぼすとする研究結果が複数報告されている。それらの研究の中には、睡眠不足による悪影響は男性よりも女性でより強く現れることを示唆するものもある。そこでZuraikat氏らは、女性の睡眠不足の糖代謝に及ぼす影響に焦点を当てた研究を行った。 研究参加者は、習慣的に1日7~9時間の睡眠を取っている心血管代謝疾患のない20~75歳の女性38人で、うち11人は閉経後女性。研究デザインは無作為化クロスオーバー法とし、短時間睡眠(sleep restriction;SR)条件と十分な睡眠(adequate sleep;AS)条件をそれぞれ6週間継続。SR条件では、リアルワールドで起こりやすい1.5時間の睡眠不足を再現するため、就床時刻を1.5時間遅らせてもらった。実際の睡眠時間はウェアラブルデバイスによってモニタリングされ、SR条件では睡眠時間が1.34±0.04時間短縮されて(P<0.0001)、平均6.2時間であったことが確認された。 ベースライン特性を調整した線形モデルでの解析の結果、SR条件ではAS条件よりも空腹時インスリン値(β=6.8±2.8pmol/L、P=0.016)やHOMA-IR(β=0.30±0.12、P=0.016)がともに有意に高値であり、インスリン抵抗性の亢進が認められた。また、閉経後女性ではより強い影響が生じることが確認された。具体的には、HOMA-IRが全例では約15%の上昇であるのに対して、閉経後女性に限ると約20%の上昇であり、変動幅に有意な交互作用が観察された(閉経前後での交互作用P=0.042)。 交絡因子に体脂肪量を追加した場合、解析結果に有意な違いは認められず、睡眠時間短縮の糖代謝に及ぼす影響が肥満によって媒介される可能性は示されなかった。なお、血糖値に関しては参加者全員、研究期間を通して安定していた。 以上より著者らは、「医師は患者に対して、健康にとって睡眠が重要な役割を果たしていることを教育すべきだろう。特に女性に対しては、睡眠時間を増やすことがインスリン感受性の低下や2型糖尿病発症予防につながり、ひいては健康寿命を延伸する可能性があることを伝える必要がある」と述べている。 コロンビア大学発のリリースによると、成人に推奨される睡眠時間は7~9時間であるが、米国人の約3分の1はこの下限を下回っているという。論文の上席著者である同大学のMarie-Pierre St-Onge氏は、「女性は生涯を通して、出産、子育て、閉経などの要因によって、男性よりも睡眠衛生に影響が及びやすい」と解説。また、このテーマに関連する次のステップとして、「日常的に睡眠時間が不足している人や睡眠時間が変動しやすい生活を送っている人の睡眠パターンを安定化させることで、糖代謝や血糖管理を改善させ得るかを検討する予定」としている。

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抗真菌薬の過剰処方が薬剤耐性真菌感染症増加の一因に

 米国では、医師が皮膚症状を訴える患者に外用抗真菌薬を処方することが非常に多く、それが薬剤耐性真菌感染症の増加の一因となっている可能性のあることが、米疾病対策センター(CDC)のJeremy Gold氏らによる研究で示唆された。この研究結果は、「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」1月11日号に掲載された。 抗真菌薬に耐性を示す白癬(カビの一種である皮膚糸状菌を原因菌とする感染症)は、新たに現れつつある非常に大きな脅威の一つである。例えば、南アジアでは近年、外用や経口の抗真菌薬が効かない白癬が大流行した。このような薬剤耐性白癬の症例は米国の11の州でも確認されており、患者には広範囲に及ぶ病変が現れ、診断が遅れる事態が報告されているという。 抗菌薬の乱用が薬剤耐性細菌の増加につながるように、真菌も抗真菌薬に曝露すればするほど、薬剤耐性真菌が自然に増えていく。CDCのチームは、世界中で報告されている薬剤耐性真菌感染症の増加は、外用の抗真菌薬の過剰処方が原因ではないかと考え、2021年のメディケアパートDのデータを用いて、外用抗真菌薬の処方状況を調べた。データには、抗真菌薬(ステロイド薬と抗真菌薬の配合薬も含める)の処方箋の数量や処方者などに関する情報が含まれていた。 その結果、2021年にメディケアパートD受益者に処方された外用抗真菌薬の件数は645万5,140件であることが明らかになった。最も多かったのは、ケトコナゾールの236万4,169件(36.6%)、次いでナイスタチンの187万1,368万件(29.0%)、クロトリマゾール・ベタメタゾンの94万5,838件(14.7%)が続いた。101万7,417人の処方者のうち、13万637人(12.8%)が外用抗真菌薬を処方していた。645万5,140件の処方箋の40.0%(257万9,045件)はプライマリケア医の処方によるものだったが、処方者1人当たりの処方件数は皮膚科医で最も多く(87.1件)、次いで、足病医(67.2件)、プライマリケア医(12.3件)の順だった。さらに、645万5,140件の処方箋の44.2%(285万1,394件)は、処方数が上位10%に当たる1万3,106人の処方者により処方されたものだった。 Gold氏らは、抗真菌薬処方にまつわる大きな問題は、ほとんどの医師が皮膚の状態を見ただけで診断しており、「確認診断検査」を行うことがほとんどない点だと指摘する。さらに研究グループは、ほとんどの外用抗真菌薬が市販されていることを指摘した上で、「この研究結果は、おそらくは外用抗真菌薬の過剰処方の一端を示しているに過ぎない」との見方を示している。外用抗真菌薬の中でも、特に、ステロイド薬と抗真菌薬を組み合わせたクロトリマゾール・ベタメタゾンの多用は、薬剤耐性白癬の出現の大きな要因であると考えられている。この薬は、鼡径部、臀部、脇の下など、皮膚が折り重なる部分に塗布すると、皮膚障害を引き起こす可能性がある上に、長期にわたって広範囲に使用すると、ホルモンバランスの異常を引き起こすこともあると、研究グループは説明している。 こうしたことを踏まえて研究グループは、「真菌による皮膚感染症が疑われる場合、医療従事者は慎重に抗真菌薬を処方すべきだ」と結論付けている。さらに、「過剰処方や薬剤耐性真菌感染症の危険性を減らすために、医師は外用抗真菌薬や抗真菌薬・ステロイド薬配合薬の正しい使用法について患者を教育すべきだ」と付言している。

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