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「将来が漠然と不安…」、専攻医の悩みに大塚篤司氏の答えは?【Dr.大塚の人生相談】

研修医2年目のものです。来年度から自大学の皮膚科に入局予定ですが、将来に対して漠然とした不安感を抱いています。皮膚科の専門医になるための5年間の研修に関して、本当にやっていけるかどうかと皮膚科を研修でまわっていて感じるときがあります。指導医の先生が「これはHairy-Hairy病だね」「肉芽腫性口唇炎をみたらMelkkerson-Rosenthal症候群を疑うよ」と仰ったときに「そうなんですね」と返しますが、「なんやそれ」と心の中では思っています。「なんとかなるやろ」と楽観的に思う自分もいるのですが、内心では不安感を抱いているのは事実です。それに加えて、医療費をめぐる医療従事者への当たりの強さも心配な面もあります。そこで、これからの時代を生きる専攻医に向けて、アドバイスといいますか、指針のようなものがあればご教授いただけると幸いです。(今回の相談者:たむさん)ぼくはいろんなところでコラムとかエッセイを書いて、過去の出来事を振り返ったりするのですが、じゃあ医局員との飲み会で自分のことを語るかというとほとんど何も言いません。先日、医局で忘年会をやったんですね。新入局員だけでなく、外来の看護師さんとか受付さんとかみんなに声をかけて。で、たぶんぼくが一番喋らずにその会は終了しました。まぁ、コミュ障というのもあるのですが(笑)、教授が語り始めると若手が喋れなくなるし、おじさんの武勇伝とか飲み会で披露されてもウザいだろうし、だからといって二十代の先生たちを楽しませるだけの話術と豊富なテーマもあるわけではないし、などと考えたら全く喋らずにただただ気配を消すしか正解が思い当たらなかったのです。忘年会の帰り道、「こんな性格で教授やっていけるのか?」とさすがに不安になりました。という感じで、教授になったらなったで将来の不安もあります。臨床も完璧かというと決してそんなわけではなく、知らない病気だってたくさんあります。Laugier-Hunziker-Baran症候群って聞いたことありますか?口唇や口腔粘膜に黒色斑が多発して、手足の爪に色素線条ができる疾患なんですが、ぼくはこの病気の読み方がいまだに正解をわからずにいます。いや、すみません。読めますけど、カンファレンスでは発音に自信がないから「バラン症候群」って言っちゃいます。ときどき「バラン症候群って正式名称なんだっけ?」とみんなに聞きます。もうすでに3回くらいカンファレンスで確認したことがあるくらい、こういう病名を覚えるのが苦手です。わりとポンコツなんです。でもね、医局の中でぼくが一番アトピー性皮膚炎に関しては詳しいと思います。教授だから当たり前だろう、っていうツッコミが聞こえてきますが、これが当たり前じゃないんです。アトピーに一番詳しくなるには、アトピーについてこれまでずっと研究したり、患者さんをみてきたからです。そうなったのも、アトピーについてもっと知りたいと思ったことがあったからだし、アトピー患者さんを治したいという強いモチベーションの結果なんですよね。相談者さんにいま見えている景色は、いろんな思いの末に出来上がった先生たちであり、その先生たちの努力のあと(途中)です。まだ皮膚科の研修もはじまっていない、自分がなにを専門にすればいいかもわからない状態で、自信満々の方が怖いですしヤバいです。きっとね、この先、患者さんと接していく中で、「もっと自分にできることがあったのでは?」という後悔や反省や「面白い!」と感じることに出会うと思います。そのときに、猛烈に頑張ったらいいと思います。日本で一番この病気に詳しくなってやろう、くらいの気概で勉強すれば、医局で一番詳しくなれます。そういう経験をひとつひとつ積み重ねていくと、いつの間にか「頼りになる皮膚科医」であり「かっこいい先輩」になれるんだと思います。臨床を通じて、心が動いた瞬間を大事に、そこで決して妥協しないこと。振り返ったときに後悔がないように全力を尽くすこと。ありふれたアドバイスですけど、一緒にがんばろうぜ。皮膚科医になったらぜひ声をかけてください。その時は一緒に飲みましょう!(コミュ障だからリアルではほとんどしゃべらないですけどね。笑)

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英語力ゼロからの国際学会成功ガイドブック

この本と、挑戦する気持ちがあれば国際学会プレゼンはできる!英語が苦手でも留学経験がなくても大丈夫!医師になってから英語を始めた著者たちだからこそ教えられる、経験をもとに本当に役に立つテクニックと、日本人が英語で苦労する部分やつまずきやすいポイントの解決策を1冊でマスター。アクセプトされる抄録の書き方、流暢に話せなくても成功するための方法、かっこよくてわかりやすいスライドづくりのノウハウなど、実際に準備するステップごとに解説。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する 英語力ゼロからの国際学会成功ガイドブック定価2,420円(税込)判型A5判頁数88頁発行2024年2月著者山田 悠史、原田 洸、園田 健人協力Medical English Hubご購入(電子版)はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら

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薬歴からサルファ剤アレルギー患者の過敏症を回避【うまくいく!処方提案プラクティス】第58回

 今回は、化学構造式のスルホンアミド構造に目を向けて、類似構造を有する薬剤の薬剤過敏症を未然に回避した事例を紹介します。サルファ剤はスルホンアミド構造をもつ薬剤の総称1)ですが、意外な薬剤がこの構造を有していることがあります。副作用やアレルギーの記録を活用し、どのような有害エピソードがあったのかを聴取してみましょう。患者情報70歳 女性(外来)基礎疾患高血圧症、骨粗鬆症副作用歴「サルファ剤」とだけ薬歴に記載処方内容1.アムロジピンOD錠5mg 1錠 分1 朝食後2.カルベジロール錠10mg 1錠 分1 朝食後3.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後4.アレンドロン酸35mg 1錠 起床時 毎週月曜日服用【新規処方】1.セレコキシブ錠100mg 2錠 分2 朝夕食後2.レバミピド錠100mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、基本動作はすべて自立していましたが、今回腰を痛めて整形外科を受診しました。そこで鎮痛薬を希望し、セレコキシブとレバミピドが処方されました。当薬局で処方箋を受け付け、鑑査のタイミングで薬歴を確認したところ、サルファ剤のアレルギーが登録されていることに気がつきました。そこで患者さんに、感染症治療の抗菌薬で副作用が出たことがあったかどうか確認しました。すると、過去に尿路感染症治療で服用したスルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠で全身に発疹と呼吸困難感が生じたと話してくれました。今回の処方薬をそのまま服用した場合、構造活性相関としてセレコキシブのスルホンアミド構造によりサルファ剤アレルギーが生じる可能性が高いため、医師に処方変更を提案することにしました。スルホンアミド骨格(セレコキシブ添付文書より)処方提案と経過医師に電話で、患者にサルファ剤によるアレルギー症状の既往があり、発疹と呼吸困難感が生じていたことを報告しました。今回処方となったセレコキシブもスルホンアミド構造を有していて、過敏症による有害反応の可能性があることを伝えました。医師より代替薬はどうしたらよいか相談があったので、安全面などを考慮してアセトアミノフェン500mg 3錠 分3 毎食後を提案し、了承を得ました。患者は、アセトアミノフェンを7日間内服して腰痛も改善し、その後はアセトアミノフェンも終了となりました。1)岡田 正人ほか. 薬局. 薬剤過敏症歴がある患者の薬物治療. 2018;69:63.2)セレコックス錠 添付文書

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「座りっぱなし」でCVD死亡リスク34%増 

 2020年に発表された世界保健機関(WHO)ガイドラインでは、初めて「座り過ぎ」が健康を害し、心臓病、がん、2型糖尿病のリスクを高めることが明記された。長時間座ることの多い仕事は健康リスクにどのように影響し、それは身体的活動で軽減することができるのか。台湾・台北医科大学のWayne Gao氏らによる研究の結果が、JAMA Network Open誌2024年1月19日号に掲載された。 本試験は、1996~2017年の台湾の健康監視プログラムの参加者を対象とした前向きコホート研究だった。職業的座位時間、余暇時間における身体活動(LTPA)習慣、ライフスタイル、代謝パラメータに関するデータを収集した。データ解析は2020年12月に行われた。 主なアウトカムは、3段階の職業的座位量(ほとんど座っている、座っている・いないを交互に繰り返す、ほとんど座っていない)に関連する、全死因死亡率および心血管疾患(CVD)死亡率だった。全参加者、および5つのLTPAレベルと個人活動知能(PAI:身体活動に対する心拍数応答に基づく新たな身体活動計量)の指標を含む、サブグループ別のハザード比(HR)を算出した。逆因果を防ぐため、追跡開始後2年以内の死亡は除外した。 主な結果は以下のとおり。・48万1,688例が対象となった。平均年齢は39.3歳、女性53.2%だった。平均追跡期間は12.85年、追跡期間中に2万6,257例が死亡した。・性別、年齢、教育水準、喫煙歴、飲酒歴、肥満度の調整後も、仕事中にほとんど座っている人はほとんど座っていない人に比べ、全死因死亡率が16%高く(HR:1.16、95%信頼区間[CI]:1.11~1.20)、CVD死亡率が34%高かった(HR:1.34、95%CI:1.22~1.46)。座っている・いないを交互に繰り返す人は、ほとんど座っていない人と比べ、全死因死亡率の増加はみられなかった。・ほとんど座っている人で、LTPAが少ない(1日15~29分)、またはまったくない(1日15分未満)人は、LTPAを各1日15分、30分増やすことで、ほとんど座っていないLTPAが少ない人と同程度まで死亡率が減少した。さらに、PAIスコアが100を超える人は、座りっぱなしと関連する死亡リスクが顕著に減少した。 著者らは「仕事中に座っていることが多い人が死亡リスク上昇を軽減し、仕事中に座っていないことが多い人と同レベルに達するには、1日当たり15~30分の身体活動を追加する必要がある。これらの知見は、職場での長時間の座位を減らすこと、および/または1日の身体活動の量や強度を増やすことが、座りっぱなしに関連する全死亡およびCVDリスク上昇を緩和する可能性がある」としている。

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卵や野菜の摂取が日本人のうつ病リスクと関連

 山形県立米沢栄養大学の北林 蒔子氏らは、日本人労働者における食品群別の摂取量とうつ病との関連を調査するため、アンケート調査を実施した。その結果、男性では卵、女性では卵と野菜(緑黄色野菜以外)の摂取がうつ病と関連している可能性が示唆された。BMC Nutrition誌2024年1月30日号の報告。 2020年、日本人労働者568人を対象にアンケート調査を実施した。回答した503人中423人を研究対象に含めた。性別、年齢、BMI、残業時間、睡眠時間、婚姻状況、職位、運動習慣、喫煙状況、うつ病の発症および、エネルギー、タンパク質、脂質、炭水化物、アルコール、食品群別の摂取に関する情報を収集した。うつ病の有無および重症度の評価には、うつ病自己評価尺度(CES-D)を用いた。食品群別の摂取量は、残差法を用いてエネルギー摂取量を調整し、性別ごとに、低、中、高に分類した。うつ病の有無を従属変数、食品群別の摂取量を独立変数とし、ロジスティック回帰分析により性別に応じたオッズ比(OR)と傾向を分析した。 主な結果は以下のとおり。・うつ病の調整ORが有意に高かったのは、以下のとおりであった。●卵の摂取量が少ない男性●他の野菜(緑黄色野菜以外)の摂取量が低~中程度の女性●卵の摂取量が中程度の女性・用量反応関係が確認され、男性では卵の摂取量が少ない場合(p for trend=0.024)にうつ病のORが有意に高く、女性では他の野菜(緑黄色野菜以外)の摂取量が少ない場合(p for trend=0.011)、卵の摂取量が少ない場合(p for trend=0.032)にうつ病のORが有意に高かった。

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透析高齢女性へのデノスマブ、重度低Ca血症が大幅に増加/JAMA

 65歳以上の透析女性患者において、デノスマブは経口ビスホスホネート製剤と比べて、重度~きわめて重度の低カルシウム血症の発現率がきわめて高率であることが、米国・食品医薬品局(FDA)のSteven T. Bird氏らによる検討で示された。透析患者は骨折を引き起こす割合が高いが、エビデンスのある最適な治療戦略はない。今回の結果を踏まえて著者は、「透析患者にきわめて一般的に存在する骨病態生理の診断の複雑さや、重度の低カルシウム血症のモニタリングおよび治療に複雑な戦略を要することを踏まえたうえで、デノスマブは、慎重に患者を選択し、十分なモニタリング計画を立てたうえで投与すべきである」と述べている。JAMA誌2024年2月13日号掲載の報告。デノスマブvs.経口ビスホスホネートのリスクを評価 研究グループは、骨粗鬆症治療を受ける透析患者における重度の低カルシウム血症の発現率とリスクを調べるため、デノスマブと経口ビスホスホネート製剤を比較する後ろ向きコホート研究を行った。対象は、2013~20年にデノスマブ(60mg)または経口ビスホスホネート製剤による治療を開始したメディケアに加入している65歳以上の透析女性患者とした。 毎月の血清カルシウム値を含む臨床パフォーマンスの指標を、透析や腎移植を受ける末期腎臓病患者に関するデータを集めたConsolidated Renal Operations in a Web-Enabled Network(CROWN)データベースを介して入手。 重度の低カルシウム血症は、アルブミン値補正後の総血清カルシウム値が7.5mg/dL(1.88mmol/L)未満、または一次病院や救急部門での低カルシウム血症診断(緊急治療)と定義し、きわめて重度の低カルシウム血症(血清カルシウム値が6.5mg/dL[1.63mmol/L]未満または緊急治療)とともに、骨粗鬆症治療の開始後12週間における逆確率治療重み付け(IPTW)累積発現率、重み付けリスク差、重み付けリスク比を算出し評価した。重度の低カルシウム血症、デノスマブ群は経口ビスホスホネート群の20.7倍 非重み付けコホートにおいて、重度の低カルシウム血症の発現は、デノスマブ治療群1,523例中607例、経口ビスホスホネート治療群1,281例中23例で認められた。 重度の低カルシウム血症の12週時における重み付け累積発現率は、デノスマブ群41.1% vs.経口ビスホスホネート群2.0%だった(重み付けリスク差:39.1%[95%信頼区間[CI]:36.3~41.9]、重み付けリスク比:20.7[13.2~41.2])。 きわめて重度の低カルシウム血症の12週時における重み付け累積発現率は、デノスマブ群10.9% vs.経口ビスホスホネート群0.4%だった(重み付けリスク差:10.5%[95%CI:8.8~12.0]、重み付けリスク比:26.4[9.7~449.5])。

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肝がん、乳がんが多い都道府県は?「がんの県民性」を知る

 企業でのがん対策を進めることを目的に厚生労働省が行うプロジェクト「がん対策推進企業アクション」は2月14日、プレス向けセミナーを行った。プロジェクトの推進役である東京大学特任教授の中川 恵一氏が「がんの県民性」をテーマに講演を行った。 世界中でも、国や人種によって多いがんと少ないがんがあるが、実は日本国内でも地域ごとに発生するがんの種類にバラツキがある。この要因はさまざまなものがあり、遺伝子、人口構成、食生活などが影響している。そして、最も大きな原因と考えられるのが、ウイルスの偏在と感染だ。【胃がん】 全国がん登録のデータ(2019年)を基に、人口調整後の10万人当たりの罹患率を見ると、胃がんの罹患率がもっとも高いのは、男女共に秋田県。胃がんはピロリ菌の感染が原因の9割近くを占めることがわかっており、ピロリ菌の検査と除菌するようになってから罹患者数は減少傾向にある。その中にあって秋田県の罹患率が依然として高いのは、塩分が多い食生活が大きな要因だと考えられている。マウスの実験では、ピロリ菌に感染しているマウスに塩分を過剰に摂取させると胃がんの発生率が上昇するという報告がある。秋田県に限らず、胃がんを減らすためには、減塩、胃がん検診、禁煙・節酒が有効だろう。【肝がん】 肝がんの罹患率が高いのは、佐賀県をはじめとした九州エリア。九州だけでなく、西日本全体が東日本と比べて高い傾向がある。これは肝がんの主な発症原因であるC型肝炎ウイルスが佐賀県一帯の東シナ海エリアに多いためだと考えられる。台湾なども同じ理由から罹患率が高い傾向がある。企業が行う健康診断では毎年肝機能検査を行っており、ここにウイルス性肝炎検査も加えることを要請している。【乳がん】 乳がんの罹患率が高いのは東京都などの首都圏。これは未婚で出産経験のない女性が多いことと関連している。乳がんは10万人当たりの年間罹患者数が40年で4倍と急増している。現在の日本人女性は平均して生涯に450回ほど月経があるとされるが、これは100年前の5倍超。かつては子沢山であり、妊娠・授乳期間を含めて子供1人当たり3年間ほど月経が止まる期間があった。この間、女性ホルモンによる刺激が減り、乳がんの罹患リスクが低下していた。現在の乳がんの新規罹患のピークが40代後半にある理由も閉経直前・閉経後に女性ホルモンの変化の影響を受けることが大きな理由だと考えられる。【白血病】 白血病の罹患率が高いのは沖縄県、鹿児島県など。白血病の中の成人T細胞白血病(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染によって生じることがわかっている。HTLV-1の感染経路は母乳による母子感染が多くを占め、このウイルスのキャリアが沖縄をはじめ、鹿児島、青森、岩手の一部などに多い。一方、このウイルスは中国・韓国ではほとんど見られない。この背景には、数千年前に日本に渡ってきた渡来人の遺伝子を受け継ぐ人々(弥生系)には感染者が少なく、縄文人が移行して弥生人になった人々(縄文系)には多い、という理由が考えられる。もっとも、人の移動の増加に伴い、HTLV-1感染は全国で見られるようになっており、とくに大阪などの大都市圏で増加している。【食道がんなど】 縄文系、弥生系の遺伝子は、飲酒時の分解酵素の有無にも関わる。アルコールは肝臓で「アセトアルデヒド」という物質に分解されるが、このアセトアルデヒドを分解するのが「ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)」。縄文系はこのALDH2の活性が強い「正常型」が多く、日本人の55%を占める。一方で弥生系はALDH2の活性が弱い「低活性型」が多く、日本人の40%を占める。残り約5%は「不活性型」でALDH2の働きがまったくなく、酒を飲めない体質となる。問題は「低活性型」の人が飲み過ぎることで、こうした人が飲酒を続けることで、発がんリスク、とくに大腸がんや食道がんのリスクが急激に高まるとされる。低活性型は弥生系が多い近畿・中部・中国地方に多く分布している。 中川氏は「がんは決して一様な疾患ではなく、地域や人種によってリスクに差があり、それを生む大きな要因にウイルス感染がある。自分の居住するエリアの特性を知り、対策を知っておくことが重要になる」とまとめた。

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電子タバコは禁煙継続に有効?/NEJM

 標準的な禁煙カウンセリングに電子ニコチン送達システム(電子タバコ[e-cigarettes]とも呼ばれる)の無料提供を追加すると、禁煙カウンセリングのみより6ヵ月間の禁煙継続率が高まったことが、スイス・ベルン大学のReto Auer氏らが、スイス国内5施設で実施した非盲検比較試験「Efficacy, Safety and Toxicology of Electronic Nicotine Delivery Systems as an Aid for Smoking Cessation:ESTxENDS試験」の結果で示された。電子ニコチン送達システムは、禁煙を補助するため禁煙者に使用されることがあるが、このシステムの有効性と安全性に関するエビデンスが必要とされていた。NEJM誌2024年2月15日号掲載の報告。禁煙に対する電子タバコの有効性と安全性を、禁煙カウンセリングのみと比較 研究グループは2018年7月~2021年6月に、一般紙やソーシャルメディア、ならびに医療施設や公共交通機関での広告により、1日5本以上の喫煙を12ヵ月以上継続し、登録後3ヵ月以内に禁煙を希望する18歳以上の成人を募集し、適格者を介入群と対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 介入群では、標準的な禁煙カウンセリングに加え電子タバコおよび電子タバコ用リキッド(e-liquid)の無料提供、ならびにオプション(有料)でニコチン代替療法を実施した。対照群では、標準的な禁煙カウンセリングを行い、ニコチン代替療法を含むあらゆる目的に使用できるクーポン券を配布した。 主要アウトカムは生化学的に確認された6ヵ月間の禁煙継続、副次アウトカムは自己報告による6ヵ月時点での禁煙(タバコ、電子タバコ、ニコチン代替療法を含む)、呼吸器症状、重篤な有害事象とした。生化学的に確認された6ヵ月間の禁煙継続率は介入群28.9% vs.対照群16.3% 2,027例がスクリーニングを受け、計1,246例が無作為化された(介入群622例、対照群624例)。 生化学的に確認された6ヵ月間の禁煙継続率は、介入群で28.9%、対照群で16.3%に認められた。両群の絶対差は12.6%(95%信頼区間[CI]:8.0~17.2)、粗相対リスクは1.77(95%CI:1.43~2.20)であった。 6ヵ月後の受診前7日間にタバコを使用しなかったと報告した参加者の割合は、介入群59.6%、対照群38.5%であった。一方、ニコチン(タバコ、ニコチン入り電子タバコ、ニコチン代替療法)の使用を一切やめた参加者の割合は、介入群20.1%、対照群で33.7%であった。 重篤な有害事象は介入群で25例(4.0%)、対照群で31例(5.0%)が、有害事象はそれぞれ272例(43.7%)および229例(36.7%)に発現した。

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生涯を通した楽器の演奏は脳の健康に有益

 楽器、特にピアノなどの鍵盤楽器を演奏することは、記憶力(作業記憶)や複雑な課題を解決する能力(実行機能)の向上につながることが、新たな研究で示唆された。英エクセター大学認知症研究教授のAnne Corbett氏らによるこの研究の詳細は、「International Journal of Geriatric Psychiatry」に1月28日掲載された。 この研究は、40歳以上を対象にした脳の老化や認知症発症に関するオンライン研究であるPROTECT研究のデータを用いて、楽器の演奏や歌を歌うことが脳の健康に与える影響を検討したもの。対象とされたのは1,570人で、このうちの89%(1,392人)に楽器演奏の経験があり、また44%(690人)は現在も演奏を続けていた。対象者の音楽の熟練度は、Edinburgh Lifetime Musical Experience Questionnaire(ELMEQ)を用いて、楽器の演奏、歌唱、読譜、音楽鑑賞の4つの観点で評価した。対象者はまた、PROTECT研究のプラットフォームに組み込まれた認知テストシステムを使用して、最大3回の認知テストを受けた。最終的に1,107人(平均年齢67.82歳)が解析対象とされた。 解析の結果、楽器を演奏することは作業記憶と実行機能の良好なパフォーマンスと関連することが明らかになった。特に、鍵盤楽器の演奏と作業記憶の良好なパフォーマンスとの関連は強かった。また、歌を歌うことと実行機能との間にも有意な関連が認められた。ただしこの結果について研究グループは、「歌を歌うことがもたらすこのような効果は、コーラスや何らかの集団に属しているという社会的要因に起因する可能性がある」との見方を示している。さらに、作業記憶と実行機能に対する楽器演奏の効果は、高齢になっても演奏を続けていた人の方が、過去に演奏していたがやめてしまった人よりも大きいことも示された。 Corbett氏は、「総じて、われわれは音楽に関わりを持ち続けることが、認知予備能として知られる脳の敏捷性と回復力を養う方法だと考えている」と述べている。そして、「両者の関連をより詳細に調査する必要はあるが、今回の結果は、脳の健康に保護的に働くライフスタイルを促進するための公衆衛生上の取り組みにおいて、音楽教育の推進が貴重な構成要素であることを示すものだ」との見方を示している。その上で、「集団で行う音楽活動が認知症患者に有益であることを示すエビデンスは豊富にある。このアプローチは、高齢者が積極的にリスクを軽減し、脳の健康を促進するための健康プログラムなどの一部として取り入れられるのではないか」と付言している。 英コーンウォールに住む78歳のStuart Douglasさんは、生涯にわたって楽器を演奏してきた高齢者の一人だ。現役のアコーディオン奏者であるDouglasさんは、「私は、ファイフ炭田の村に住んでいた少年の頃にアコーディオンを習い、警察官になってからもずっと演奏を続けてきたし、今でも定期的に演奏している。私のバンドは人前で演奏することも多いため、私の手帳は常に演奏スケジュールで埋まっている」と話す。 Douglasさんは、「私たちは、定期的にメモリーカフェ(認知症患者やその家族などの交流の場)で演奏し、音楽が記憶喪失の人に与える効果を目の当たりにしてきた。また、私たち自身も高齢のミュージシャンであるため、年を重ねても音楽を続けることが、私たちの脳を健康に保つ上で重要な役割を果たしていることを実感している」と話している。

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キムチでスリムに?

 キムチは古くから韓国の食卓の定番メニューであり、近年では米国でも人気が高まってきている。そのキムチを日常的に摂取することが、体重増加の抑制につながるのではないかとする研究結果が、「BMJ Open」に1月30日掲載された。論文の上席著者である中央大学校(韓国)のSangah Shin氏によると、「男性では、1日当たり1~3人前分のキムチを摂取していることが、肥満リスクの低下と関連がある」という。ただし同氏は、「キムチには塩分が多く含まれていることに注意が必要であり、またキムチ摂取量がより多い場合には、肥満リスクが上昇する可能性も示唆された」と付け加え、「キムチを多く食べるほど良い」と単純化した解釈をしないよう注意を呼び掛けている。 これまでの動物実験から、キムチ由来のプロバイオティクスには抗肥満作用があることが示されている。ただし、ヒトを対象とする疫学研究でのエビデンスはわずかしかない。Shin氏らは、2004~2013年の韓国国民健康栄養調査(KNHANES)のデータを用いた横断的解析により、この点を検討した。解析対象は、40~69歳の成人11万5,726人(平均年齢51歳、男性31.8%)。肥満(BMI25以上)の有病率は、男性36.1%、女性24.7%。 キムチの総摂取量が1日当たり1食分未満の群を基準として、年齢や飲酒・喫煙・運動習慣、摂取エネルギー量、食物繊維・ナトリウム・カリウム摂取量、婚姻状況、教育歴、所得などを調整後、男性ではキムチ総摂取量が1日当たり1~2食分の群の肥満オッズ比(OR)は、0.875(95%信頼区間0.808~0.947)、1日当たり2~3食分の群ではOR0.893(同0.817~0.978)であり、オッズ比の有意な低下が示された。一方、女性ではキムチ総摂取量と肥満との関連が非有意だった。 キムチの素材によって、体重との関連が異なることも考えられる。例えば、1食分の重量も水分含有量によって50~95gの範囲で異なる。そこで、素材別の解析を施行した。すると女性でも、白菜を用いるキムチ(ペチュキムチ)の摂取量が1日当たり2~3食分の群でOR0.921(95%信頼区間0.865~0.981)、大根を用いるキムチ(カクトゥギ)の摂取量が1日当たり1~2食分の群でOR0.895(同0.855~0.938)という有意な関連が示された。なお、ペチュキムチ、カクトゥギの1食分の重量はともに50g。 男性では、ペチュキムチ、カクトゥギのいずれについても、キムチ総摂取量での解析結果とほぼ同様の結果が示されたが、カクトゥギについては1日当たり2~3食分の場合に肥満リスクとの関連が非有意だった。また、男性・女性ともに、その他の素材のキムチの摂取量は、肥満リスクとの関連が乏しかった。 研究者らによると、キムチに含まれているLactobacillus brevisやL. plantarumという植物性乳酸菌には、抗肥満作用があることが知られているという。ただし、「本研究からは因果関係は証明されず、ほかの因子によってこの関連が生じているのかもしれない」と、研究の限界点を述べている。また、示された関連はJカーブのようであり、1日当たりのキムチ総摂取量が5食分以上の場合、肥満のオッズ比が性別を問わず、非有意ながら1を上回っていることも、留意すべき点として挙げている。 そのほかの留意点として、キムチには塩分が多く含まれているため、心臓には良くない可能性があることを指摘。一方で、野菜を発酵させて作るキムチにはカリウムが多く含まれているため、塩分による健康リスクが軽減される可能性もあるとのことだ。研究グループでは結論として、「キムチに含まれる塩分やそのほかの成分の健康への影響を考慮した上で、適量を摂取することが推奨されるのではないか」と述べている。

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歯と口の健康は「オーラルフレイル」を知ることから

 食事の能力は、歯と口の機能に関連するさまざまな要因に支えられており、「オーラルフレイル」(口の機能が衰えること)が注目されてきている。今回、5,000人以上の成人を対象に行われた研究により、高リスクの人ほど、オーラルフレイルについて知らないことが明らかとなった。また、オーラルフレイルを認知していることと、性別や年齢、居住地域、生活習慣などとの関連も示された。神奈川歯科大学歯学部の入江浩一郎氏、山本龍生氏らによるこの研究結果は、「Scientific Reports」に1月3日掲載された。 歯と口の健康には予防が重要だ。これまでにも例えば、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという「8020運動」を認知していることは、定期的な歯科受診と有意に関連することが報告されている。しかし、オーラルフレイルの認知がどのような影響を持つかについては明らかになっていない。そこで著者らは、オーラルフレイルを認知しているかどうかが、そのリスクに及ぼす影響を検討した。 対象は、神奈川県の歯科クリニックを受診または訪問歯科を利用した20歳以上の人で、2020年6月から2021年3月に研究に参加した。オーラルフレイルのリスクを評価し、自記式の質問紙により年齢・性別、居住地域(神奈川県を8つの地域に区分)、運動・喫煙の習慣などを調査。さらに、オーラルフレイルの認知(その意味または言葉を知っているか)、バランスの良い食事を心掛けているか、口の健康を意識しているかどうかを調査した。 オーラルフレイルのリスク評価には、OFI-8(Oral Frailty Index-8)と呼ばれる質問紙が用いられた。OFI-8は、「半年前と比べて硬いものが食べにくくなったか」「お茶や汁物でむせることがあるか」「義歯を使用しているか」などの8項目に、「はい」「いいえ」で回答してもらい、スコア化するもの。合計スコアが4点以上で高リスクと判定される。 その結果、解析対象となった5,051人(平均年齢59.9±18.7歳、女性3,144人)のうち、オーラルフレイルの高リスクと判定されたのは1,418人(28.1%)だった。 また、オーラルフレイルを認知していたのは1,495人(29.6%)にとどまった。高リスク者の割合は、オーラルフレイルを認知していた人では18.7%だったのに対し、認知していなかった人では32.0%に上り、有意な差が認められた。 さらに、オーラルフレイルの認知度が低いのは、男性、高齢の人、川崎市・相模原市の居住者、運動習慣がない人、バランスの良い食事を心掛けていない人、口の健康を意識していない人、オーラルフレイルのリスクが高い人、そして訪問診療の患者だった。 以上から著者らは、「オーラルフレイルのリスクは、オーラルフレイルの認知と有意に関連していた」と結論。認知度が29.6%だったことに関しては、日本歯科医師会が2025年までの目標として設定した「50%」に届いていないと指摘している。また、「驚くべきことに、高リスクの人が若い年齢層にも存在した」と述べ、「今回の研究対象を65歳以上に限定しなかった理由は、若年期からのオーラルフレイル予防対策が重要であることを伝えることだった」と付言している。

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やはりワルファリンとの比較でないとDOACは対抗できない?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動の脳卒中予防には、アピキサバンなどのDOACが多く使用されている。根拠となったランダム化比較試験では、PT-INR 2~3のワルファリンが対照薬であった。ワルファリン治療は心房細動の脳卒中予防の実態的な過去の標準治療ではなかった。さらに、PT-INR 2~3を標的とするのは実態医療とも乖離していた。今回は、心房の筋肉にcardiomyopathyを認めるが、心房細動ではない症例を対象として、奇異性塞栓によるアピキサバンの脳梗塞再発予防効果をアスピリンと比較した。心房筋に障害があるので、病態は心房細動に近い。心房細動例の脳卒中再発予防であれば、過去の標準治療(PT-INR 2~3を標的としたワルファリン)にDOACは有効性で劣らず安全性に勝った。しかし、本研究対象のように心房細動ではないとアピキサバンはアスピリンと有効性・安全性に差がなかった。心房細動の有無というリズムが結果に与えた影響が大きかったのだろうか? 筆者は見かけの差異は対象の差異によると考える。 試験中に心房細動に移行した症例もあった。しかし、アピキサバンは有効性においてアスピリンに勝らなかった。アピキサバン開発の早期には、心房細動の脳卒中予防におけるアピキサバンとアスピリンの有効性・安全性を比較したAVERROSE試験が施行された(Connolly SJ, et al. N Engl J Med. 2011;364:806-817.)。アスピリンに対するアピキサバンの優越性が確認されたとして、AVERROSE試験は早期に中止された。心房筋に異常がある塞栓性の奇異性脳卒中であっても、抗凝固薬アピキサバンの効果が抗血小板薬アスピリンに勝らなかった結果の解釈は難しい。 科学の基本は再現性である。ランダム化比較試験における臨床的仮説検証の結果は客観的であるが、コストの面から第三者による検証は困難である。本研究も多施設共同の二重盲検の第III相試験である。本研究であっても第三者による検証は難しい。ランダム化比較試験は、これまで臨床医学の科学の王道であったが、他の方法論を考える必要があるかもしれない。

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A群溶血性レンサ球菌咽頭炎ってどんな病気?

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 (溶連菌感染症)ってどんな病気?• どの年齢でもみられますが、幼児期から学童期の小児で多く報告されます• のどの痛み、38度以上の発熱、倦怠感や嘔吐といった症状が多く、舌が真っ赤になり小さなブツブツができる「イチゴ舌」がみられることがあります• 多くの場合、熱は3~5日以内に下がり、症状は1週間以内に改善します• まれに重症化し、のどや舌・全身に赤み・発疹がひろがる「猩紅熱(しょうこうねつ)」に移行することがあります治療法は?他の人にうつさないようにするには?•症状があり、検査をして感染が認められた場合は、抗菌薬での治療を行います。腎炎などを防ぐため、症状が改善しても医師に指示された期間は薬を飲むことが大切です•咳やくしゃみなどのしぶきに含まれる細菌を吸い込む「飛まつ感染」、細菌が付いた手で口や鼻に触れる「接触感染」、食品を介して細菌が口に入って感染する「経口感染」があります•のどの痛みがひどい場合は柔らかく薄味の食事を工夫し、水分補給を心がけましょう•感染力は病気になりはじめの時期、症状が急に現れる時期に最も高いとされます•手洗い・うがいを行いましょう•マスクの着用も有効です出典:東京都保険医療局「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 (溶連菌感染症)について」国立感染症研究所「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは」Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第199回 「想定外を想定せよ」が活きた恵寿総合病院の凄すぎる災害対策

同じテーマが続いて恐縮だが、今回も能登半島地震のことについて触れたいと思う。敢えてこうして連続で触れるのは、ある考えがあってのことだからだ。一言で言うと、「とかく人は熱しやすくて冷めやすいもの」と思っている。これはメディアの世界に身を置いていると痛切に感じることである。ある種の大きな災害が起きると、人は一瞬その情報に釘付けになる。ところが早ければ1ヵ月、長くとも3ヵ月も経つと、たとえどんなに大きな災害であっても当事者以外にとっては他人事になってしまう。もっとも私は大上段から「常に能登半島のことを思え」などと言うつもりは毛頭ない。被災地以外の人が常に被災地のことを考え、心理的に落ち込んでしまえば、世の中は回らない。実はこの事は被災地の人も同じである。それに関連して思い出すのが、東日本大震災の取材中、ある避難所で出会った高齢男性のことだ。ちなみに私にとって災害取材で一番苦手な取材現場が避難所である。あの場所にズケズケ入って「お話聞かせてください」はかなり気が引ける。よく「メディアは無神経に…」と言われることが多いが、被災地で出会うメディア関係者同士の雑談でも「実は自分も苦手で」という人は少なくない。ただ、やはり時間に迫られながらインタビューを取る必要がある時はそうせざるを得ない。しかし、自分にとってはいつまで経っても慣れることはない。避難所取材の時、私が屋内に入る代わりに赴く場所がある。避難所屋外に設置された喫煙所である。そこにはたいてい数人がたむろしている。報道腕章を付けていくと、結構な確率で「あんたらもご苦労さんだね」とそこにいる被災者から声がかかる。それを糸口に会話を始めると、実質的に取材となることが多いのだ。私が時折、思い出す前述の高齢男性もそのような形で出会った。その時の喫煙所には彼しかいなかった。彼は私を見るなり、独り言のように語り始めた。「俺さ、母ちゃん(妻)が津波で流されてしまってさ。んでも、避難所で若い綺麗なボランティアの女の子を見ると、ついそっち見るしな、時間が経てば腹も減るんだよな。兄ちゃん、俺は頭おかしいのかね?」一瞬戸惑ったが、避難所が地元の宮城県だったこともあり、私は地元訛りで次のように返した。「ほだごとねえんでねえの(そんなことないんじゃないの)? 津波のことばっか考えていられねえべさ」男性は一瞬目を丸くした。経験上、地方での災害取材時に被災者は「報道記者=東京の人」のような思い込みがあり、記者が訛りのある言葉を話すとは思っていないのだ。男性は丸くした目を普通に戻して、タバコをもう一度口にして煙を吐きながらこう言った。「んだがもな(そうかもしれない)」発災時ですらその場にいる人は、今起きていることが異常ではないと考えようとする「正常性バイアス」が働くもの。まして発災から時間が経てば、個人差はあっても常に災害の事だけを考えているわけにはいかない。というか、過度に気落ちしないために意図的に考えようとしないことも多い。そして被災地から離れた場所では半ば“忘れてしまう”のも無理はないと思っている。それでも私が再び能登半島地震について触れようとするのは、被災地外の人に防災対策を伝えるためには、まだ記憶が生々しい時期のほうが頭に入りやすいと思うからだ。神野 正博氏が伝える災害に負けない病院経営さて前置きが長くなってしまったが、先日、私が所属する日本医学ジャーナリスト協会で「能登半島地震~災害でも医療を止めない!病院のBCPと地域のBCP」と題して、現地の七尾市にある恵寿総合病院理事長の神野 正博氏にオンライン講演をお願いした。神野氏と言えば、全日本病院協会の副会長でもあり、医療業界では著名人である。あの大地震で426床を有する能登半島唯一の地域医療支援病院である恵寿総合病院も無傷でいられるわけもなく、本館以外に2つある鉄筋コンクリート造の病棟は物品が散乱し、本館と各病棟をつなぐ連絡通路も各所で破損した。断水は講演時点の2月13日時点でも継続中だった。しかし、発災翌日の1月2日には産科での分娩を行い、4日に通常外来、6日に血液浄化センターを再開している。マグニチュード7クラスの地震の被災地で、これが可能だったことは極めて驚くべきことである。そしてその理由は「事業継続マネジメント(BCM)」「事業継続計画(BCP)」を策定し、事前に入念な対策をしていたからだった。神野氏の口から語られた事前対策の肝は「基本は二重化」。具体例を以下に列挙する。本館で免震建築+液状化対策水道と井戸水による上水の二重化2ヵ所の変電所より受電夜間離発着設備も有した屋上ヘリポートも含めて避難経路二重化全国の病院との非常時相互協力協定全国の医療物資物流センター31ヵ所とバックアップ協定免震棟上層階にサーバー室設置震度5以上で自動発信するALSOKの職員安否確認・非常招集システム採用ゼネコン系設備管理会社24時間365日常駐神野氏によると「井戸水は平時に保健所に定期的な水質検査を実施してもらい、水道停止後ただちに井戸水に切り替え、医療用水・生活用水にいつでも利用できるようにしておいた」という念の入れようだ。もっとも120人の透析を行う別棟は、井戸水を上水利用する設備がなく、陸上自衛隊による1日15トンの給水支援を受けて再開にこぎつけている。変電所も北陸電力に依頼し2回線受電をしており、今回、実際に1つの変電所が瞬停して非常用自家発電に切り替わったものの、すぐにもう1つの正常だった変電所からの受電に切り替えて事なきを得ている。また、ゼネコン系設備管理会社24時間365日常駐は一瞬何のことかわからない人もいるかと思うが、この点について神野氏は次のように語った。「常駐者がいることで水道管の破裂などはすぐに復旧した。また、大手ゼネコンなので1月2日にはゼネコンの関係者が駆付け、復旧には大きな役割を果たした。よく病院の経営コンサルタントは、医業収益改善のためにまず清掃会社と設備管理会社をより安価なところに変更することを提案するが、私たちはそういうことは聞かずにやってきて本当に良かったと思っている」このような対策を聞くと、「いったいそのお金はどこから?」との疑問が浮かんでくるだろう。神野氏は「あくまで平時の診療報酬による収益の範囲内で準備をしてきた。災害対策を予算化したのではなく、都度都度、非常時対策を考えてのメンテナンスの一環として行ってきた」という趣旨の発言をした。これについてはかなり頷いてしまった。こうした大規模災害が起こると「いざ災害対策を!」のような掛け声があちこちから挙がる。しかし、人という生き物は概して納得尽くでないとお金は投じられない生き物でもある。災害・防災関連もテーマとする私はこうした大災害発生時に週刊誌などからコメントを求められることが多いのだが、その際にいつも言うことは「どんな小さなことでも良いから思いついたときに思いついたことに手を染め、必ずその点については完遂し、可能ならば日常化する」と伝えている。これだけだと、よくわからない人もいるかもしれないので、具体例を挙げると、自分の場合、災害現場の取材も少なくないので、がれきなどを踏んで負傷することを防止するため、平時から履いている靴には踏み抜き防止インソールを入れっぱなしにしている。たまにそのことを忘れ、空港の金属探知機でブザーが鳴ってしまうこともあるが、これは忘れるほど日常化している証でもある。また、国内の大災害ニュースに接した際、過去2年間を振り返り、破傷風ワクチンを追加接種していない場合は、現場取材に赴くか否かにかかわらず、医療機関に追加接種に行く。これ以外にも行っている対策はいくつかあるがここでは省略しておく。いずれにせよ災害対策とは、それが効果的だったかの答え合わせは、被災時にしかできない無慈悲な世界である。やはり「思い立ったが吉日」なのだと、今回再認識させられている。

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緩和ケアでもよく経験する高カルシウム血症【非専門医のための緩和ケアTips】第70回

第70回 緩和ケアでもよく経験する高カルシウム血症緩和ケアでは、急性期ほど頻繁に検査は行いませんが、そうした中でも検査がカギとなる疾患もあります。そのうちの1つが高カルシウム血症です。どのようなときに、この疾患を疑うべきなのでしょうか?今日の質問訪問診療で担当する終末期の肺がん患者さん。1週間ほどでどんどん意識状態が悪化し、経過が速いことを心配して採血をしたところ、カルシウム値がかなり上昇していました。基幹病院に搬送したところ、回復して食事摂取も可能となりました。こうしたことは、よくあるのでしょうか?今回のご質問は、がん患者の高カルシウム血症についてです。私もこうした状況はよく経験します。文献にもよりますが、がん患者の10〜20%に高カルシウム血症が生じるという報告もあります。高カルシウム血症を疑う症状としては、倦怠感や口渇、多飲、便秘などがあります。可逆性も期待できる病態ですが、重症になるとせん妄や意識障害を引き起こすことがあります。がん患者に生じやすい電解質異常だと知ったうえで、これらの症状に注意して診療することが重要です。臨床的に問題になるのは、進行したがん患者には、そもそもの病状進行やオピオイドの使用などによって傾眠をはじめ、さまざまな症状が生じることです。こうした要素がある分、高カルシウム血症を疑うタイミングが遅れてしまうことがよくあります。今回の質問者はファインプレーをした、という見方もできるでしょう。がん患者の高カルシウム血症の治療は、ビスホスホネートの投与と脱水の補正が中心となります。私が研修医の頃は、まだビスホスホネートがなかったので、大量に輸液をしていました。最近は脱水の補正ができれば十分、という推奨が増えています。ここまで、がん患者における高カルシウム血症を中心にお話ししましたが、非がん患者でもこの病態が問題になることがあります。さて、ここからは私の失敗談です。患者は80歳代の女性。頸部骨折の手術後にリハビリ入院をした際に、私の担当となりました。入院からしばらくして、それまで元気だったのに、突然意識障害が進行しました。採血するとカルシウム値が非常に高くなっています。原因は、手術前から継続していたビタミンDでした。入院後に軟便で脱水になったタイミングがありましたが、その際も内服を継続しました。脱水傾向が出ているにもかかわらず内服を継続したことでカルシウム値が上昇し、さらに脱水が悪化する、という悪循環が生じていたのです。身体状況の変化で調整が必要になった薬剤に気付かず、高カルシウム血症を生じさせてしまった……。この苦い経験を通じて、緩和ケアに限らず、高齢者の診療では高カルシウム血症の可能性を忘れないようにしよう、と誓いました。今回は私の失敗談も含めてお話ししました。皆さまの参考になれば幸いです。今日のTips今日のTipsがん患者、とくに高齢患者では、高カルシウム血症を常に疑う。

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維持期双極性障害に対する抗精神病薬の剤形による治療中止後の再発率の比較

 統合失調症患者において長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬は、患者が治療を中止した場合、同等の経口抗精神病薬と比較し再発までの期間を延長させる可能性があることが、これまでに報告されている。これと同様のパターンが、維持期治療中の双極性障害患者で観察できるかはよくわかっていない。藤田医科大学の岸 太郎氏らは、双極性障害の維持期治療におけるLAI抗精神病薬と経口抗精神病薬の中止後の再発率を比較するため、システマティックレビューを実施した。Psychiatry Research誌2024年3月号の報告。 双極性障害の維持期治療におけるLAI抗精神病薬のプラセボ対照ランダム化治療中止試験、LAI抗精神病薬に対応する経口抗精神病薬を用いた同等性の研究をシステマティックに検索した。 主な結果は以下のとおり。・5件の研究を特定した。内訳は、アリピプラゾール月1回LAIの研究1件、経口アリピプラゾールの研究1件、リスペリドン2週間LAIの研究2件、経口パリペリドンの研究1件であった。・アリピプラゾール月1回LAIを中止した場合、経口アリピプラゾールを中止した場合と比較し、2週、4週、6週、8週、12週、16週、20週、26週時点での再発率が低かった。・リスペリドン2週間LAIを中止した場合、経口パリペリドンを中止した場合と比較し、2週、4週、6週、8週、16週時点での再発率が低かった。 著者らは、「LAI抗精神病薬または同等の経口抗精神病薬で安定していた躁病患者において治療中止が行われた場合、LAIの剤形のほうが同等の経口剤よりも、再発までの期間を大幅に延長すると解釈できるだろう」としている。

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低炭水化物ダイエット、肉食だと効果が続かない?

 低炭水化物ダイエットの体重に対する影響は一律ではないことが報告された。炭水化物を減らした分のエネルギーを植物性食品主体に置き換えて摂取した場合は減量効果が長期間続く一方、動物性食品に置き換えて摂取した場合は時間の経過とともに体重が増加に転じやすいという。米ハーバード大学T. H.チャン公衆衛生大学院のBinkai Liu氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に12月27日掲載された。論文の筆頭著者であるLiu氏は、「われわれの研究では、炭水化物を摂取すべきか摂取すべきでないかという単純な疑問の範囲を超え、食事の内容の違いが数週間や数カ月ではなく数年間にわたって、健康にどのような影響を与える可能性があるかを検討した」と述べている。 この研究は、米国で医療従事者を対象に現在も行われている、3件の大規模前向きコホート研究のデータを用いて行われた。一つは30~55歳の看護師を対象とする「Nurses' Health Study;NHS」で、別の一つは25~42歳の看護師対象の「NHS II」であり、残りの一つは男性医療従事者対象の「Health Professionals Follow-up Study;HPFS」。65歳以上や糖尿病などの慢性疾患罹患者を除外し、計12万3,332人(平均年齢45.0±9.7歳、女性83.8%)を解析対象とした。 食習慣は後述の5種類の指標で評価した。研究参加者は4年ごとにこれらのスコアが評価され、そのスコアと4年間での体重変化との関連が検討された。解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・高コレステロール血症の既往、摂取エネルギー量、糖尿病の家族歴、経口避妊薬の使用、閉経後のホルモン療法の施行など)を調整した。 全体的な炭水化物摂取量が少ないことを表すスコア(total low-carbohydrate diet)のプラスの変化(炭水化物摂取量がより少なくなること)は、体重の増加と関連していた(傾向性P<0.0001)。動物性食品からのタンパク質や脂質が多いことを表すスコア(animal-based LCD)のプラスの変化も体重の増加と関連していた(傾向性P<0.0001)。植物性食品からのタンパク質や脂質が多いことを表すスコア(vegetable-based LCD)の変化と体重変化との関連は非有意だった(傾向性P=0.16)。炭水化物は精製度の低いものとして、植物性食品からのタンパク質や健康的な脂質が多いことを表すスコア(healthy LCD)のプラスの変化は、体重の減少と関連していた(傾向性P<0.0001)。全粒穀物などの健康的な炭水化物の摂取が少なく、動物性食品からのタンパク質や脂質が多いことを表すスコア(unhealthy LCD)のプラスの変化は、体重の増加と関連していた(傾向性P<0.0001)。 サブグループ解析からは、これらの関連性は、過体重や肥満者、55歳未満、身体活動量が少ない群で、より強く認められた。論文の上席著者である同大学院のQi Sun氏は、「われわれの研究結果は、低炭水化物ダイエットをひと括りにしていたこれまでの捉え方の変更につながる知見と言えるのではないか。また、全粒穀物、果物、野菜、低脂肪乳製品などの摂取を推奨する公衆衛生対策を、より強く推進していく必要があると考えられる」と述べている。

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朝型の人は拒食症のリスクが高い?

 夜更かしよりも早寝早起きの生活パターンになりやすい、いわゆる“朝型”の人は、神経性食欲不振症(拒食症)のリスクが高いことを示唆する研究結果が報告された。米マサチューセッツ総合病院のHassan Dashti氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に1月4日掲載された。 これまでに行われてきた観察研究から、拒食症と概日リズム(1日24時間周期の生理活動)や睡眠習慣との間に関連のあることが示されている。ただし、それらの因果関係の有無や環境因子の影響の程度などは、まだ十分に解明されていない。そこでDashti氏らは、双方向2サンプルメンデルランダム化解析という手法によって、これらの関係が遺伝的背景によって説明されるものか否かを検討した。解析には、マサチューセッツ総合病院のバイオバンク、および英国で行われている一般住民対象の大規模疫学研究「UKバイオバンク」などのデータが用いられた。 解析の結果、拒食症の遺伝的傾向は、朝型のクロノタイプ(概日リズムの特徴)と関連していることが明らかになった〔β=0.039(95%信頼区間0.006~0.072)〕。また、朝型の遺伝的傾向は拒食症のリスクと関連していた〔β=0.178(同0.042~0.315)〕。つまり、朝型であることと拒食症のリスクとの間に、双方向の関連が認められた。研究ではさらに、不眠症の遺伝的傾向が拒食症リスクと関連していることも示された〔β=0.369(同0.073~0.666)〕。また、拒食症の多遺伝子リスクスコア(polygenic risk score;PRS)が不眠症と関連していることも分かった〔オッズ比1.10(同1.03~1.17)〕。 これらの結果についてDashti氏は、「われわれの研究結果は、これまでの観察研究で示されていた拒食症と不眠症との関連性を裏付けるものだ」と総括し、「拒食症以外の精神疾患である、うつ病、過食症、統合失調症などは、概して夜型のクロノタイプとの関連が示されているが、拒食症に関してはそうではないようだ」との考察を付け加えている。また研究チームは、「拒食症に関連する遺伝子と早寝早起きに関連する遺伝子の間に双方向の関連のあることが見いだされた。これは、拒食症の人は早起きの生活パターンになりやすく、早起きの人は拒食症のリスクが高いことを意味する可能性がある」とし、今回の研究結果が、拒食症の新たな治療法の開発につながることを期待している。 拒食症は、精神疾患の中で物質使用障害(薬物依存)と並び、最も死亡率が高い疾患の一つと報告されている。また、研究者によると、拒食症の治療は困難で、寛解後の再発率も最大52%に上るという。論文の筆頭著者であるマサチューセッツ総合病院のHannah Wilcox氏は、「われわれの新しい発見の臨床的意味は、現時点では不明。しかし、われわれの研究結果は、概日リズムに基づいた治療法に関する将来の研究を先導し、拒食症の予防と治療を前進させる可能性を秘めている」と、同院発のリリースで述べている。

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便器の蓋を閉めて水を流してもウイルス粒子の飛散量は変わらない

 便器の蓋を閉めてから水を流すと、水を流したときに発生するミストを便器内にとどめておくことができるため、細菌の拡散を防ぐことができると言われている。しかし、ウイルスの場合には、蓋を開けたまま水を流すか閉めてから流すかで、水を流している間のウイルス粒子の飛散量に変わりはないことが新たな研究で明らかにされた。米アリゾナ大学環境科学部ウイルス学分野教授のCharles Gerba氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Infection Control」2月号に掲載された。 先行研究では、トイレの水を流すとエアロゾルが舞い上り、周囲の床や壁などのさまざまな表面に細菌をまき散らすことが明らかにされている。また、便器の蓋を閉めて水を流すことで、トイレ内での細菌の飛散量を抑制できることも示されている。しかしGerba氏らによると、同じことが細菌よりもはるかに小さいことが多いウイルスにも該当するのかどうかについては、いまだ検討されていなかったという。 今回の研究では、便器の蓋を閉めてから水を流すことが、ウイルス粒子を含んだエアロゾルの発生とさまざまな表面へのウイルスの付着に与える影響が検討された。腸管感染の原因ウイルスの代理として人体に無害なウイルス(バクテリオファージMS2)を家庭用トイレと公共トイレの便器にまき、便器の蓋を閉めた状態と開けた状態で水を流し、便器の中の水や、便座、周囲の壁や床などの表面からサンプルを採取した。 その結果、家庭用トイレの水を流す際に蓋が開けられたままだったか閉められたかにかかわりなく、トイレのさまざまな表面から採取されたウイルスの量に差はないことが明らかになった。同様の結果は、公衆トイレでも確認された。 次に、研究グループは、トイレ掃除の際に塩酸配合の洗剤を使った場合と使わない場合でのウイルス除去効果についても分析した。その結果、塩酸配合洗剤を使ってブラシで清掃すると洗剤を使わなかった場合と比べて、便器内の水から検出されるウイルス量が99.99%超減少することが示された。また、トイレブラシから検出されるウイルス量も、洗剤を使った場合では使わない場合に比べてウイルス量が97.64%減少していた。 Gerba氏は、「便器の蓋を閉めてから水を流しても、ウイルス粒子の飛散防止には意味がないことが示された」と話す。このことを踏まえて研究グループは、トイレ内での感染リスクを下げる最も効果的な方法は、水を流す前に便器の中に消毒剤を入れるか、トイレのタンク内にあらかじめ消毒剤ディスペンサーを入れておくことだと助言している。また、定期的に便器をブラシで洗浄し、その後にトイレ内のさまざまな表面を消毒することや、殺菌効果が持続する消毒剤を使用することも有効だと付言している。 米感染管理疫学専門家協会(APIC)のTania Bubb氏は、同協会のニュースリリースの中で、「この研究は、病原体がどのように広がっていくのか、また、感染の連鎖を断ち切るためにどのような対策を講じればよいのかをより明確に理解するのに役立つ。また、医療現場でウイルス感染の拡大を抑えるためには、さまざまな表面の定期的な消毒が重要であることも強調されている」と述べている。

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