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うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法の有用性

 うつ病患者は不安症状が高頻度でみられ、そのような患者では抗うつ薬に対する治療反応が低下し、機能的な悪影響につながる恐れがある。カナダ・トロント大学のRoger S. McIntyre氏らは、不安症状を伴ううつ病患者における補助的ブレクスピプラゾール治療の抑うつ症状および機能に対する有効性を評価するため、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(RCT)の事後分析を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2024年3・4月号の報告。 うつ病患者および抗うつ薬治療で効果不十分な患者を対象に、補助的ブレクスピプラゾール治療6週間RCT3件よりデータを抽出した。患者は、DSM-Vの不安による苦痛(anxious distress)に準じて層別化した。ベースライン時から6週目までのMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)の項目スコアおよびシーハン障害尺度(SDS)の平均スコアの変化について、補助的ブレクスピプラゾール治療群(2mg、2~3mg)とプラセボ群で比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時に不安による苦痛を感じていた患者は、746例中450例(2mg分析:60.3%)および1,162例中670例(2~3mg分析:57.7%)であった。・不安による苦痛を伴ううつ病患者において、補助的ブレクスピプラゾール治療群は、プラセボ群と比較し、MADRSの項目スコア(悲しみ)の改善が認められた(p<0.05)。悲しみ、内面的緊張、睡眠の減少、食欲低下、倦怠感、無感情、悲観的思考の改善が報告された(Cohen d エフェクトサイズ:0.18~0.44)。・同様に、SDS平均スコアの改善も認められた(エフェクトサイズ:0.21~0.23)。 著者らは「補助的ブレクスピプラゾール治療は、抗うつ薬治療で効果不十分なうつ病患者および不安による苦痛を伴う患者において、中核症状である抑うつ症状や睡眠、食欲、機能の改善に有効であることが示唆された」としている。

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新型のリブレ2はスキャン不要で1分ごとに測定/アボットジャパン

 アボットジャパンは、3月28日に糖尿病管理のための持続グルコース測定器「FreeStyleリブレ2」の新発売に合わせて、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、本機の新しい機能や特徴の説明、血糖変動の可視化がいかに重要か糖尿病専門医の講演、トークセッションなどが行われた。世界で550万人超が利用しているリブレ FreeStyleリブレは、持続グルコース測定技術を用いたデバイスで、60ヵ国以上、550万人以上の人々に使用されている。 本機は上腕の後ろ側に専用センサーを装着し、スマートフォンあるいは専用リーダーをセンサーにかざすと、その画面に測定値が表示されるもの。また、衣服の上からも読み取ることができ、1つのセンサーで最長14日間24時間グルコースプロファイルを記録することができる。 FreeStyleリブレLinkアプリを使用することで、自身のスマートフォンで迅速にセンサーを読み取ることができるほか、糖尿病患者では自身のグルコースデータについてリブレViewを使用することで医師と共有することができる。 本機の保険適用区分は「C150血糖自己測定器加算」に加え、「特定保険医療材料158 関連技術料D231-2皮下連続式グルコース測定(一連)」が追加されたため、目的に応じて保険診療下で患者が使用できることもメリットとなる。 今回新たに追加された機能は、1分ごとに測定されたグルコース値がリアルタイムに表示され、従来のようにスキャンする必要がなくなった(ただしスマートフォンを使用していない人は従来通りスキャンが必要)。そして、スキャンが途切れた場合は過去8時間分のデータが補完される。また、選べるアラート機能として「低グルコース」「高グルコース」「受信圏外」と3つのアラートを使用者のライフスタイルに合わせて選択し、使用することができ、事前にリスク発生に気付くことができる機能が追加された。グルコースグラフで気付く無自覚性低血糖 基調講演として「『FreeStyleリブレ2』活用による先進的な糖尿病診療について」をテーマに西村 理明氏(東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授)が、グルコース値の変動が可視化されることで起こる診療上のメリットやリブレ2の新しい機能について講演を行った。 わが国には2,000万人の糖尿病患者およびその予備群が推定され、6人に1人が糖尿病に関係する。糖尿病の初期は、目にみえる身体症状が乏しく、じわじわと悪化していく疾患であり、とくに合併症の発症阻止に向け、診療ではHbA1cの目標数値が定められている。 糖尿病にはさまざまな合併症があるが、とくに「し(神経障害)・め(目の網膜症)・じ(腎疾患)」に代表される3つの合併症には注意が必要となる。 糖尿病の治療で目安となるHbA1cは、2~3ヵ月の血糖値の平均値であり、合併症予防のための血糖コントロール目標値として7.0未満(65歳以下)にすることが、糖尿病の診療ガイドに明記され、診療の場ではこの目標値に向けて治療が行われている。ただ、HbA1cは、過去数ヵ月の値の平均値であり、点のデータのため生命予後に重大な影響をもたす無自覚性低血糖などの発見には不向きであるとされている。 そこで、持続グルコース測定器リブレのようにリアルタイムに血糖変動が測定できる機器の活用で、線のデータで血糖変動を追うことで、低血糖などのリスクに対応することができる。リブレで血糖変動を測定すると、健康成人ではグルコースグラフがなめらかでアップダウンがないのに対し、糖尿病患者などではグルコースグラフのアップダウンが大きかったり、ギザギザのグラフになったりと可視化により、血糖変動の動きをみることができる。とくに持続測定で特徴的なことは、HbA1cが同じ値の人でもグルコースグラフを比べると、なめらか型とアップダウン型に分かれることがあり、後者では夜間の無自覚性低血糖に気が付き、対応することができるという。 そして、今回発売のリブレ2では、「スキャンが不要となることで使用者のアドヒアランスがよくなると予想されること、アラート機能で危険察知などができること、リブレViewで家族や主治医と血糖データをリアルタイムで共有することで、遠隔での見守りや医師がより細やかな診療ができることなどのメリットが追加され、かなり血糖変動のデータがよくなることが予想される」と語り、セミナーを終えた。 セミナー後半では、先の講師の西村氏とゲストに原 晋氏(青山学院大学 駅伝部 監督)を迎え、スペシャルトークセッションが行われた。 トークセッションでは、運動や食事が血糖値に与える影響やマラソンのラップタイムを血糖値になぞらえた話題などが話し合われた。最後に原氏が、血糖値を穏やかなグラフにすることを「血糖トレンド大作戦」と命名し、セッションを終えた。 同社は「FreeStyleリブレ2の登場により血糖状態をより詳細に示すことで、患者さんの不安解消の支援をしたい。今後も医療従事者と一緒に、糖尿病と共に生きる方のより豊かで健康的な生活に貢献していきたい」と抱負を語っている。

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がん関連DVTに対するエドキサバン長期投与のネットクリニカルベネフィット、サブグループ解析(ONCO DVT)/日本循環器学会

 昨年8月欧州心臓学会(ESC)のHot Line SessionでONCO DVT Study1)“の試験結果(がん関連下腿限局型静脈血栓症[DVT]におけるエドキサバンの長期投与の有効性を示唆)が報告されて話題を呼んだ。今回、その続報として西本 裕二氏(大阪急性期・総合医療センター心臓内科)らが、サブグループ解析(事後解析)結果について、第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 2で報告した。 ONCO DVT Studyは日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験である。下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付け、主要評価項目として症候性のVTE再発またはVTE関連死を評価した。主要評価項目は12ヵ月群では1.2%、3ヵ月群では8.5%に発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。一方、主な副次評価項目である12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)は12ヵ月群では10.2%、3ヵ月群では7.6%で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。 この結果を基に、今回はエドキサバンの長期投与による出血リスク増加の懸念を検証することを目的として、12ヵ月の血栓性イベント(症候性VTE再発またはVTE関連死)と大出血イベントを複合した全臨床的有害事象(NACE:net adverse clinical events)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月群296例、3ヵ月群305例の計601例のITT解析対象集団を事後解析した。・NACEの発生率は、12ヵ月群では296例中30例(10.1%)、3ヵ月群では305例中42例(13.8%)であった(OR:0.71、95%CI:0.43~1.16)。・12ヵ月群のネットクリニカルベネフィットを算出すると3.6%(95%CI:-1.5〜8.8%)で、有意差がないことが示された。・事前に規定したサブグループでは、血小板減少患者では3ヵ月群で、がん転移を有する患者では12ヵ月群でNACEの発生率が低かった。・それぞれのイベントの重みを考慮し、探索的に大出血イベントに重みを加えて12ヵ月群のネットクリニカルベネフィットを算出すると、0.5の重みで4.8%、2.0の重みで0.7%であった。・また、NACEに血栓性イベントとして無症状VTE再発を加え、出血性イベントして臨床的に意義のある非大出血を加えて検証したところ、12ヵ月群のNACEの発生率が有意に低く(OR:0.67、95%CI:0.47~0.97)、ネットクリニカルベネフィットは7.8%(95%CI:0.8~14.9)であった。また出血イベントに0.5の重みを加えるとネットクリニカルベネフィットは10.1%、2.0の重みでは3.1%であった。 西本氏は「DVTを有するがん患者において12ヵ月群のほうがNACEの発生率が数値的に低かったが、ネットクリニカルベネフィットは12ヵ月群と3ヵ月群で有意差がなかった。サブグループ解析からは、血小板減少患者とがん転移を有する患者でNACEに対する異なる影響が認められた」とコメントした。 なお、本研究の限界として、非盲検であること、対象患者の多くが無症候性の下腿限局型DVTであること、本研究における治療アドヒアランスが高くないこと、そして最も重要な点として、12ヵ月のエドキサバン治療における大出血増加の懸念を検証することを目的として事後解析した点が示された。

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喫煙と乳がんリスク~日本の9研究のプール解析

 喫煙と乳がんリスクは生物学的には相関することが妥当であるにもかかわらず、疫学研究では一貫していない。今回、岐阜大学の和田 恵子氏らが9つの前向き研究のプール解析を実施した結果、現喫煙者は50歳になる前に乳がんを発症するリスクが高く、とくに30歳になる前から喫煙するとリスクが高いことが示唆された。副流煙による受動喫煙との関連はみられなかったという。International Journal of Epidemiology誌2024年6月号に掲載。 本研究は、国立がん研究センターがん対策研究所の「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の1つで、1984~94年に開始し8~22年間追跡した9つの前向きコホート研究(計16万6,611人)のプール解析である。喫煙および副流煙に関する情報はベースライン時の自記式質問票から入手した。個々の研究において現在または過去の能動喫煙および受動喫煙の状況別の乳がんの相対リスクを、潜在的交絡因子の調整後にCox回帰を用いて算出し、ランダム効果メタ解析を用いてハザード比(HR)を要約した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点で閉経前だった6万441人中897人、閉経後だった10万6,170人中1,168人が追跡期間中に乳がんを発症した。・現喫煙者は喫煙未経験者より50歳になる前に乳がんを発症するリスクが高かった。・30歳より前に喫煙を開始した喫煙経験者と初産前に開始した喫煙経験者は、50歳以前に乳がんを発症するリスクが高かった。・成人期または小児期の副流煙曝露と乳がんとの関連はみられなかった。 本研究の結果、喫煙は閉経前の乳がんリスクを上げる可能性があり、人生の早期からの喫煙はとくに有害である可能性が示唆された。副流煙の影響については「さらなる調査が必要」とした。

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早期パーキンソン病へのGLP-1受容体作動薬、進行抑制効果を確認/NEJM

 診断後3年未満のパーキンソン病患者を対象とした糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬リキシセナチド療法について、第II相のプラセボ対照無作為化二重盲検試験で、プラセボと比較して12ヵ月時点での運動障害の進行を抑制したことが示された。ただし、消化器系の副作用を伴った。フランス・トゥールーズ大学病院のWassilios G. Meissner氏らLIXIPARK Study Groupによる検討結果で、NEJM誌2024年4月4日号で発表された。リキシセナチドは、パーキンソン病のマウスモデルで神経保護特性を示すことが報告されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「より長期かつ大規模な試験により、パーキンソン病患者に対するリキシセナチドの有効性および安全性を確認することが必要である」とまとめている。リキシセナチドを1日1回皮下投与、1年後のMDS-UPDRSパートIIIスコア変化を評価 試験は、パーキンソン病患者の運動障害進行に対するリキシセナチドの有効性を評価するため、パーキンソン病診断後3年未満で、対症薬の服用量が安定しており、運動合併症のない患者を無作為に2群に割り付け、一方にはリキシセナチドを1日1回皮下投与(当初14日間は10μg/日、その後は20μg/日)、もう一方にはプラセボを、それぞれ12ヵ月投与し、2ヵ月休薬した。 主要エンドポイントは、運動障害疾患学会・改訂版パーキンソン病統一スケール(MDS-UPDRS)のパートIIIスコア(範囲:0~132点、スコアが高いほど運動障害が大きい)のベースラインからの変化量で、12ヵ月時点で試験薬服薬中の患者を対象に評価した。 副次エンドポイントは、6ヵ月、12ヵ月、14ヵ月時点のMDS-UPDRSのその他のサブスコアや、レボドパ換算投与量などだった。スコア変化の群間差は3.08ポイントで有意な差 試験登録のスクリーニングは2018年2月~2020年3月に行われ、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、計156例(各群78例)が登録された時点で組み入れ中止となった。ベースラインの両群の人口統計学的および臨床的特性は類似しており、典型的な早期パーキンソン病の被験者像であった。平均年齢はリキシセナチド群59.5±8.1歳、プラセボ群59.9±8.4歳、男性被験者は同56%、62%、平均診断後期間は1.4±0.8年、1.4±0.7年で、MDS-UPDRSパートIIIスコアは両群とも約15点(14.8±7.3点、15.5±7.8点)だった。 12ヵ月時点で、MDS-UPDRSパートIIIスコアの変化量は、リキシセナチド群では-0.04ポイント(障害の改善を示す)、プラセボ群では3.04ポイント(障害の悪化を示す)だった(群間差:3.08、95%信頼区間[CI]:0.86~5.30、p=0.007)。 2ヵ月の休薬期間後14ヵ月時点で、非服薬状態でのMDS-UPDRSパートIIIスコアの平均値は、リキシセナチド群17.7点(95%CI:15.7~19.7)、プラセボ群20.6(18.5~22.8)だった。 副次エンドポイントに関するその他の結果は、両群で大きな差は認められなかった。 リキシセナチド群の46%で悪心が、13%で嘔吐が報告された。

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脳内出血24時間以内の低侵襲血腫除去術、180日アウトカム良好/NEJM

 急性期脳内出血後24時間以内に手術が可能だった患者において、低侵襲血腫除去術はガイドラインに基づく内科的管理に比べ、180日時点の機能的アウトカムが良好であることが示された。米国・エモリー大学のGustavo Pradilla氏らによる300例を対象とした多施設共同無作為化試験の結果で、著者らは「脳葉出血への介入が手術の効果に寄与しているものと思われる」と述べている。先行研究では、テント上脳内出血の外科的除去の試験は、概して機能への効果がないことが示されている。早期の低侵襲外科的除去により、内科的管理よりも良好なアウトカムが得られるかは明らかになっていなかった。NEJM誌2024年4月11日号掲載の報告。ガイドラインに基づく内科的管理と比較 研究グループは、急性期脳内出血患者を対象に、血腫の外科的除去と内科的管理のアウトカムを比較した。被験者は、脳葉出血または大脳基底核前部出血があり、血腫体積が30~80mL、最終健常確認時刻から24時間以内の患者だった。 被験者を1対1の割合で2群に無作為化し、一方の群には血腫の低侵襲外科的除去+ガイドラインに基づく内科的管理を(手術群)、もう一方の群にはガイドラインに基づく内科的管理のみを(対照群)、それぞれ行った。 有効性の主要エンドポイントは、180日時点の効用値加重修正Rankinスケール(UW-mRS、範囲:0~1、スコアが高いほどアウトカム良好、患者による評価)の平均スコアで、事前に規定した優越性の事後確率閾値は0.975以上だった。安全性の主要エンドポイントは、登録後30日以内の死亡だった。なお、本試験は出血部位に基づく登録基準の変更規則を設定して行われた。手術の優越性の事後確率は0.981、事前規定の閾値を超える 2016年12月1日~2022年8月24日に、計1万1,603例が適格性のスクリーニングを受け、米国内37施設から計300例(両群150例)が登録された(脳葉出血69.3%、大脳基底核前部出血30.7%)。175例の登録後に規則を変更し、以後は脳葉出血患者のみを登録した。両群の特性は類似しており、年齢中央値は手術群64歳、対照群62歳、女性は48%と52%、NIH脳卒中スケールのスコア中央値は16点と18点、無作為化時点のGCSスコア9~14点は83%と81%、血腫量中央値は54mLと55mL、また最終健常確認時刻から無作為化までの時間中央値は12.8時間と12.9時間だった。 180日時点のUW-mRS平均値は、手術群0.458、対照群0.374(群間差:0.084、95%ベイズ信用区間[CrI]:0.005~0.163)で、手術の優越性の事後確率は0.981と事前に規定した閾値を超えていた。群間差の平均値は、脳葉出血患者では0.127(95%ベイズCrI:0.035~0.219)、大脳基底核前部出血患者では-0.013(-0.147~0.116)だった。 30日以内に死亡した患者の割合は、手術群9.3%、対照群18.0%だった。手術群の5例(3.3%)で、術後の再出血と神経症状の悪化が認められた。

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プライマリケア提供者の不足は緊急手術の増加を招く

 プライマリケア医やナース・プラクティショナー(医師の指示なしで一定の治療や治療が可能な看護師)が不足している地域に住む米国人は、緊急手術が必要になったり合併症を発症したりするリスクの高いことが、新たな研究で明らかになった。こうした人では、退院後に再入院するリスクが高いことも示された。米ミシガン大学外科学分野のSara Schaefer氏らによる研究で、詳細は「Health Affairs」3月号に掲載された。 Schaefer氏は、「潜在的な問題を特定し、画像診断や手術のために患者を専門病院などへ紹介するプライマリケア提供者の役割は、迅速に対処すべき問題が緊急事態に陥るのを防ぐ上で大きな違いを生む可能性がある」とミシガン大学のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、連邦政府が2015〜2019年の間にプライマリケア提供者不足を指摘していた地域において、処置のタイミングが極めて重要な疾患に対する手術(結腸がんの結腸切除術、腹部大動脈瘤の修復術、腹壁瘢痕ヘルニアの修復術)を受けたメディケア受益者のデータが調査された。対象地域を不足のレベルに応じて5群に分類し、それぞれの群での待機的手術と緊急手術の割合を調べて比較した。 その結果、緊急手術が必要となった手術の割合は、不足レベルが深刻な地域で37.8%であったのに対し、不足レベルが最も軽度だった地域では29.9%であることが明らかになった。また、前者では後者に比べて、重篤な合併症の発生率(14.9%対11.7%)や再入院(15.7%対13.5%)のリスクが高いことも示された。 研究グループは、「この研究結果は、プライマリケア提供者の数を増やし、プライマリケア提供者が不足している地域で診療を行うようにさせる取り組みの重要性を強調するものだ」と述べている。なお、今回の研究でプライマリケア提供者が不足していると判断された国勢調査区の58%は農村部であったという。 Schaefer氏は、「この取り組みを進める上で重要な手段となるのが、医師や他の医療提供者の教育関連の負債を軽減するためのローン免除や再構築プログラムだ。専門的な分野よりもプライマリケアをキャリアとして選択することを奨励してプライマリケア提供者の数を増やし、不足地域での診療を促進することにより、最終的には、そうした地域に住む人にタイミングが重要な手術が必要となった際に、より良い転帰をもたらすことにつながるだろう」と述べている。 Schaefer氏はさらに、この研究結果には、プライマリケア提供者が不足している地域に住む人に対する重要なメッセージも含まれていると話す。同氏は、「それは、たとえ時間がかかっても定期的なケアのためにプライマリケア提供者を見つけること、そして、新たな症状に注意を払い、かかりつけの医師との対話の中でどうすれば症状に対する関心を高められるのかを知っておくことも重要だ」と具体的に説明している。一方、外科医に対しては、プライマリケア提供者の不足が理由で緊急手術を受けることになる患者がいると認識することの大切さを強調し、「外科患者のケアにおけるパートナーとしてのプライマリケア医の役割は、強調してもし過ぎることはない」と述べている。

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ピロリ菌の除菌治療の失敗は虫歯と関連

 ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の除菌治療に成功するかどうかは、虫歯の有無と有意に関連しているとの研究結果が示された。朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野の岩井浩明講師、友藤孝明教授らによる研究であり、詳細は「Scientific Reports」に2月19日掲載された。 ピロリ菌は、胃炎、胃潰瘍、胃がんなどを引き起こす。胃がんの90%以上はピロリ菌が原因とされている。ピロリ菌の感染者は減少傾向であるものの、2017年時点で日本人の約3600万人が感染しており、年齢が上がるほど感染率は高まる。ピロリ菌の感染者には抗菌薬による除菌治療が行われるが、除菌は必ず成功するわけではない。除菌失敗の可能性としてピロリ菌の薬剤耐性が報告されているが、まだ不明な点も多く、さらなる研究が必要とされている。 著者らは過去の研究で、日本人におけるピロリ菌感染と虫歯との関連を報告している。今回の研究では、ピロリ菌の除菌失敗と、未治療の虫歯との関連について検討した。対象は、2019年4月から2021年3月に朝日大学病院でピロリ菌の除菌治療および歯科検診を受けた226人(男性150人、平均年齢52.7歳)。対象者には標準的な初回除菌治療として、7日間の3剤併用療法(ペニシリン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬、プロトンポンプ阻害薬)が行われ、1カ月後に除菌の成否が尿素呼気試験で判定された。 その結果、226人のうち除菌に失敗した人は38人(17%)だった。除菌に失敗した人は成功した人と比べて、歯磨きの回数が1日2回以上である人の割合が有意に低く、虫歯のある人の割合が有意に高かった。除菌に失敗した人と成功した人で、歯の詰め物や歯の欠損の有無について有意な差はなかった。 次に、多変量ロジスティック回帰を用いて、年齢、性別、歯磨きの回数による影響を調整して解析した結果、ピロリ菌の除菌失敗は、虫歯ありと有意に関連していた(虫歯なしと比較したオッズ比2.672、95%信頼区間1.093~6.531)。虫歯の本数別に検討したところ、除菌に失敗した人の割合は、虫歯が1本の人では24%(21人中5人)、2本の人では40%(5人中2人)、3本以上の人では67%(6人中4人)だった。虫歯の本数が増えるほど、除菌に失敗する人の割合が高まるという有意な傾向が認められた。 今回の研究で示された、ピロリ菌の除菌失敗と虫歯が有意に関連することの説明として著者らは、虫歯のある部位からもピロリ菌は検出されるが、この部位は血液循環が悪く、抗菌薬が浸透しにくいという可能性を挙げている。さらに、コロニーを形成した虫歯の細菌が「バイオフィルム」という膜を形成することで、ピロリ菌も抗菌薬から保護され、抗菌薬の効果が低下する可能性を指摘。一方、除菌の失敗と歯の詰め物との関連は見られなかったことから、「虫歯が発生しても、適切に治療すれば、除菌失敗のリスクを減らすことができる」と述べている。

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sFlt-1/PlGFの繰り返し検査は妊娠高血圧腎症に伴う新生児合併症率を低下させず(解説:前田裕斗氏)

 Soluble fms-like tyrosine kinase-1(sFlt-1)と血管新生因子、とくに placental growth factor(PlGF)を用いた検査は、妊娠中から後期にかけて妊娠高血圧腎症が疑われる妊婦について1週間以内の発症可能性を予測するための検査であり、日本でも妊娠18週から36週未満の間に、原則一連の妊娠に対して1回のみ算定することができる。今回のPARROT-2試験の前身であるPARROT試験では、PlGFベースの検査結果を診療に利用する群で妊娠高血圧腎症の診断までの期間が有意に早くなり、母体合併症の有意な減少を認めた。PARROT-2試験ではPlGFベースの検査を繰り返し行い、結果を利用しながら管理する群と管理に検査結果を利用しない群で新生児合併症を主要評価項目としてランダム化比較試験が行われた。 結果としては、PlGFベースの検査結果を繰り返し利用した群では新生児合併症・母体の重篤な有害転期は減少せず、分娩時の妊娠期間が短縮し、妊娠34週以前の早産・帝王切開が有意に増加した。 本研究はPlGFベースの検査を繰り返し利用することを支持しない結果であった。手法はランダム化比較試験であり、共変量も十分な項目が考慮されている。研究参加者のアジア人割合が12%と低い点は日本に結果を応用するうえでは気になるが、信頼性の高い研究である。主要評価項目の結果以外に、Figure 3で示された初回から最後までのPlGFベースの検査結果の推移にも注目したい。本研究では2種類の検査が利用されたが、どちらの検査でも初回に異常を検出した場合、その後の検査結果は約95%で異常のままであった。これらの結果を踏まえれば、初回で検査結果が異常であった例についてはそれ以上検査を行う意味はなく、逆に無用な介入を増やす可能性があるといえる。一方、初回検査結果が正常であったがその後異常となる割合は約30~40%であり、これらの症例については今後、PlGFベースの検査を繰り返し行う管理方法を検討する余地があるといえるだろう。 日本ではまだsFlt-1/PlGF比検査は一般的ではなく、まずは本邦での観察研究結果などから単回の検査をアルゴリズムとして取り入れるかどうかの検討から始めることになる。その点、本研究結果からPlGFベースの検査は発症予測のための検査であり、病勢を診る検査ではないこと、単回で十分であると示されたことは重要であり価値の高い論文であるといえる。

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名を変え、実を取りたい「エンディングノート」【外来で役立つ!認知症Topics】第16回

高齢化社会になってから、われわれが若い頃と比べると、テレビ、新聞や書籍のターゲット層の年代はぐっと高まった。NHKの歌謡番組などは、懐メロ一色に見える。私はときに、出版社などマスコミの関係者で、高齢者向けの記事や番組制作の担当者とご一緒させていただく。近年、こうした方々にみられがちな傾向があると思っている。どなたも「高齢者への配慮と敬意」を示す言葉遣いをなさる。ところが、以前から言われてきた「老いの神話」、つまり老いた者への軽視・哀れみという価値観は、現代の彼ら・彼女らにも伝わっているように感じてしまうのである。70歳代の知人から次のようなお手紙をいただいた。「年寄り向けの本がいろいろ出るのはありがたい。しかし70歳にもならない筆者に、われわれ高齢者の気持ちがわかっているとは思えない。まして編集など出版の実務に携わり、売れ行きを考えるのは30~40代の若手だろう。だから現実離れしたことが、堂々と世間に流布している」と。これに似たコメントは結構多い。「エンディングノート」という名称の違和感ところで「エンディングノート」という名を初めて聞いたときの第一印象は、なんと粗雑で気配りのない名前だろうという不快感だった。その意味はわかる、しかし何と当事者への配慮を欠く命名かと感じた。要は「あんた、もうすぐ終わり。相続などで皆を喜ばせ、また迷惑をかけないように」だよね、と。この印象は今でもまったく同じだ。ならばせめて日本語では、「未来への連絡帳」とか、「賢者の一筆」とか当事者の気持ちが少しは明るく前向きになるものに変えてほしいものだ。さて聞くところでは、この種の出版物は、とくに敬老の日の前後に書店では目立つ場所に置かれるようだ。この時期に限らず、全国の書店では、比較的安定した売れ筋の商品だと聞く。そして買う人は、1回きりでなく繰り返し購入するリピーターになる傾向もあると。その最大の理由は、買って、書き始めても書き終えないからだ。あるいは「あの頃はそう思って書いたけど、今は違う考えになった」という声もあった。いずれにせよ完成する確率は低い。そもそもエンディングノートを書く意味はどこにあるのだろうか? ある専門家が簡潔に話してくれた。目的は、「こんな場合はこうしてほしい」と、老い先を託す人にできるだけ負担をかけずに支援を具体的に依頼することだ。立場を変えると、老い先を託された人が困らないようにする予告メッセージとも言える。そこでは課題ごとの要望を述べるのはもとより、できる限りその財源を明示すべきだろう。いずれにしてもこの種のことは、積極的に考えたくない事柄。それだけに明文化されたものを前にして向き合えば、双方の覚悟が多少とも定まると教わった。何を書くべきか? 必要最小限の4項目そこでは何を書くべきか? この種の本を読むと、ものによっては圧倒されるほど多くの項目が並んでいる。しかし筆者は自分事として考えたとき、次の4項目が必要最小限だと思う。まず認知症などになったときの介護・施設。また終末期医療についての希望も不可欠だろう。そして財産・相続の重要性は言うまでもない。最後に葬儀と役所等への各種の届け出も欠かせない。これらの回答に先立つ最大のポイントは子供の数だろう。1人なら簡単だが、2人以上だと難易度が高まる。経験的に考えると、終末期のケアをお子さんたちが平等にシェアするのは例外的で、誰か中心になるお子さんがいるのが普通である。中心役を誰に託すかで、悩む人は多い。託したい人には他の子より遺産分配が多くなるのが当然だろう。となると誰しも自分亡きあとの子孫間の確執を連想する。「難し過ぎる」、「想像がつかない」、「考えたくない」となって、「うまくやってくれるはず」で終わってしまう。さて問題はここからだ。実行が難しくても書き上げなくてはならない。この領域の専門家は次のように述べる。まず遅くとも75歳までには仕上げること、さもないと仕上げへの意欲も合理的な判断力も失われてしまうから。次に、当事者である親子の話し合いが出発点だが、信託銀行など企業を排除することだと言う。なぜなら企業の関与は当事者にとって得でないことが多いからだそうだ。したがって、合法的、合理的な生前贈与を勧める。ちなみに、筆者は最近、『徒然草』において吉田 兼好が生前贈与を勧めていると知った1)。これらが当事者の努力なら、行政や法曹界からも工夫が必要だろう。まず家庭の人間模様に応じた典型例のケーススタディは欲しい。それぞれのポイント解説や法的・制度的なレクチャーは不可欠だ。また個々人の「考えたくない」点を中心に相談し、解決策を探るには、有資格のコンシェルジュの育成や制度も要るだろう。加えて多くの国民に、これは自分事と思っていただかねばならない。過去に自死予防のためにうつ病の初期発見に注目した「お父さん眠れている?」いうキャッチフレーズが広まった。この先例に倣って、ご本人が当事者で国民なら誰でもが知っている著名人に「私はこうやって書き終えました」とやってもらえないかと愚考する。参考1)吉田 兼好. 『徒然草』第百四十段「身死して財残る事は、智者のせざる処なり」.

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第208回 「地域ごとの医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代に入ってきた」と武見厚労大臣、地域偏在、診療科偏在の解消に向け抜本策の検討スタート

医師の偏在対策はこれからの医療政策の大きな課題にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球では、中日ドラゴンズの好調が続いています。4月15日時点の勝率は8勝4敗2分の6割6分7厘でセ・リーグ1位。2年連続最下位のチームとは思えない快進撃ぶりです。昨年、“令和の米騒動”で話題となった立浪ドラゴンズについては、この連載の第206回で「今年もAクラス入りは厳しいのではと感じた次第です」と書いたばかりで少々戸惑っています。やはり、中田 翔選手の加入(打点増)がプラスに働いているのかもしれません。本来の“ドラゴンズらしさ”が出てくるまで、もう少し様子を見てみたいと思います。さて今回は、先週の日曜日(4月7日)の朝、NHK総合で放送された「日曜討論」での武見 敬三厚生労働大臣の「地域ごとに医師数割当」発言について書いてみたいと思います。2024年の診療報酬改定・介護報酬改定の同時改定も終わり、医療の世界では中長期的な制度改革の議論が始まっています。医師の地域偏在や、診療科での偏在はこれまで幾度も議論が行われてきましたが、決定的な解決策は出ていません。次の“地域医療構想”の議論も始まった中、医師の偏在対策は、これからの医療政策の大きな課題になってくるかもしれません。「医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことを我が国もやらなければならない段階に入ってきた」と武見厚労相4月7日放送の「日曜討論」は「医療」がテーマでした。武見厚労相のほか、横倉 義武日本医師会名誉会長ら専門家が議論しました。この中で武見厚労相は、医師の偏在対策について「今まで、入学試験に地域枠を設けるなど色んな試行錯誤をしてきたがまだまだ偏在を解消できない。ここまで来ると、地域において医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代となった。したがって、医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことを我が国もやらなければならない段階に入ってきた」と述べ、地域偏在や診療科偏在の是正を、これまでとは違ったやりかたで検討していくべきだという考えを示しました。「地域において医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代となった」「医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことをやらなければならない」といった発言は、厚労相としては相当踏み込んだ発言と言えます。実際、この発言はNHKの番組内でのものにもかかわらず、4月7日付の朝日新聞デジタルや、4月8日付の日本経済新聞でも報道されました。日本経済新聞の記事のタイトルは、「医師の偏在『規制で管理』」というもので、国が医師数を「規制する」に力点が置かれていました。その後、武見厚労相の発言はさらに勢いを増します。4月15日付の朝日新聞の報道によれば、武見厚労相は、この日開かれた衆院決算行政監視委員会で「単に医師の増員によって医師不足が解消できるかといったら、そうではなかった。規制を含めて、前例にとらわれない方法で問題を解決する政治的リーダーシップが必要」と述べ、医師偏在問題を解消するため規制の導入も視野に入れ、年末までに具体策をまとめる方針を示し、厚労省内に検討チームの設置を指示したとのことです。ちなみに、朝日新聞デジタルは4月15日付で、「『医師偏在を規制で管理』 役人も仰天の武見厚労相発言 本気度は?」というタイトルの記事を配信、「武見氏の発言は省内に波紋を広げた。厚労省幹部は『憲法違反になる。大臣の頭の中はさっぱりわからない』と話す。別の幹部も『医師会からどれだけ反対されると思っているのか。国が強制的に割り当てるなんて無理だ』と驚く」と厚労省内の戸惑いを報じています。朝日新聞報道によれば、武見厚労相は、政府が毎年6月にとりまとめる「骨太の方針」に大きな方向性を盛り込み、年末までに具体的な方向性を提示する考えとのことです。「三位一体改革」の一つ、「実効性のある医師偏在対策の着実な推進」医師の偏在対策については、国も手をこまねいてきたわけではありませんが、実際のところ、実効性に乏しいものばかりでした。コロナ禍の前まで、厚労省は2040年を展望した医療提供体制の改革として、盛んに「三位一体改革」という言葉を使っていました。当時は、2025年を目標年とした地域医療構想の実現に取り組みはじめたところで、政府は少子高齢化の進展、人口減に伴う医療人材の不足などにも対応するため、「地域医療構想の実現」、「医師・医療従事者の働き方改革の推進」、「実効性のある医師偏在対策の着実な推進」の3つを同時に進めることが重要だと考えていました。この方針は基本的に今でも踏襲されています。「医師の働き方改革」は本年度からいよいよスタート、「地域医療構想」も来年に目標年を迎えます。この2つの施策は一応進展を見せている一方で、「医師の偏在対策」だけは、その効果はほとんど出ていないのが現状です。そうした中で期待されているのが、2024年度から各都道府県で始まった「第8次医療計画」です。この中には「医師確保計画」が含まれており、これは2次医療圏を医師多数区域(医師偏在指標に照らして上位3分の1)、中間の区域、医師少数区域(同下位3分の1)に3区分し、地域の区分に応じた「医師確保計画」を作成する、というものです。地域枠の確保や、2次医療圏・3次医療圏間の医師の融通などが計画されている模様です。とは言うものの、全国レベルでの医師偏在が解決されない状況では、都道府県がどれだけ計画を立てても、その地域の医師数が足りていなければ計画の実現は困難です。武見厚労相の発言は、医療計画での医師確保計画の実現を後押しするため、国による規制の導入の必要性を訴えたものだと言えるでしょう。地域偏在と併せて深刻な診療科の偏在医師の地域偏在と併せて深刻なのは、武見厚労相も言及していた「診療科の偏在」です。3月19日、厚生労働省は「医師・歯科医師・薬剤師統計」の最新結果を取りまとめ、公表しました。それによると、全国の医師数は34万3,275人で、前回調査(2020年)に比べ1.1%増加。人口10万対医師数は274.7人で、前回に比べ5.5人増加しました1)。この調査では「従事する主たる診療科」も調べています。それによれば、前回調査時(2020年)と比較して医師数が増えた診療科は、美容外科(対前回比132.4%)、アレルギー科(110.7%)、産科(108.3%)、形成外科(106.8%)など。一方で医師数の減少が大きかったのは気管食道外科(95.4%)、小児外科(95.7%)、外科(96.7%)、心療内科(97.5%)、耳鼻咽喉科(97.7%)などでした。最近話題となっている、高収入で業務も比較的ラクな美容外科への転身が増えているのは、日本の医療提供体制にとって由々しき事態だと言えるでしょう。危機感を募らす医学会、「2023年度の調査で美容領域で医学部2つ分に相当するような多数の新規の医師採用があった」と指摘こうした現状に対し、日本の医学会も危機感を募らせています。2023年12月21日、142の学会で構成する日本医学会連合(門脇 孝会長)は、武見厚労相ら4大臣に「専門医等人材育成に関わる要望書」を手渡しました。要望書は、専門医の取得・維持と学位取得や研究が両立できる専門医制度と、専門医制度の充実と地域偏在・診療科偏在の課題解決について検討する必要性を指摘、その議論に医学会連合の参画を求める内容です。この中で、診療科偏在については、専門医制度におけるシーリング制度や、将来出てくるであろう類似の規制の問題点として、「職業選択の自由を奪うこと」「医学部卒業生や臨床研修医が十分な臨床的修練を経ずに保険診療以外の領域への大量流出に繋がる危険をはらむこと」「医師たちのモチベーションを下げること」などを指摘しつつも、各診療科の適正数の算定等の議論に各学会が積極的に関与していくという姿勢を見せています。なお、この要望書では、「確定的な数値ではありませんが、2023年度の関係諸機関の調査で、美容領域で医学部2つ分に相当するような多数の新規の医師採用がありました」と、自由診療、とくに医師たちの美容外科への“転向”を憂慮する一文もありました。憲法第22条の「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」という条文が最大のハードルか15年ほど前、当時の舛添 要一厚労相にインタビューしたことがあるのですが、診療科偏在の問題を問うた時、「憲法で職業選択の自由が保障されているからなあ。そこはとても難しい」と答えていたのが印象的でした。おそらく憲法第22条の「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」という条文が、医師数に関する規制を導入するにあたっての最大のハードルになっているのでしょう。というわけで、国、医学会、日本医師会などが議論して、医師の地域偏在や診療科偏在の解消に効果的な“規制”のルールをどこまで導入できるかはまだまだ未知数です。個人的には、医師養成には多額の税金が投入されていること、診療報酬にも税金が入っていること、そして、素人考えですが憲法第22条にある「公共の福祉」は地域の医療提供体制も包含した概念と解釈できそうなことを考えると、医師の診療科選択や配置についても、国の権限である程度のコントロールを行っても問題ないと思うのですが、皆さんいかがでしょう。まさか、韓国のように、医学生や医師のストライキが起きたりはしないと思いますが、もし医師偏在や診療科偏在を是正する何らかの“規制”が実現するとしたら、武見厚労相は、父上・武見 太郎元日本医師会長と同様、日本の医療の歴史に名を刻むことになるでしょう。参考1)医師数統計公表、増えた診療科・減った診療科-厚労省調査

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悪性黒色腫、個人情報を共有せずにAI診断は可能か?

 悪性黒色腫の人工知能(AI)診断モデルの開発には通常、大規模かつ集中化されたデータセットが必要であり、各施設による患者データの提供が求められ、これによりプライバシーに関する重大な懸念が生じている。そこで、ドイツがん研究センター(DKFZ)のSarah Haggenmuller氏らは、こうした懸念の払拭が可能とされる新たな機械学習の連合学習(federated learning)アプローチを取り入れた検討を行った。その結果、分散化された状態でのデータセット上で、浸潤性悪性黒色腫と母斑の分類が可能であることが示唆された。結果を踏まえて著者は、「連合学習は、悪性黒色腫のAI診断におけるプライバシー保護を改善すると同時に、機関や国をまたいだコラボレーションの促進が可能である。さらに、デジタルパソロジーやその他の画像分類タスクにも拡張できるだろう」と述べている。JAMA Dermatology誌2024年3月号掲載の報告。 研究グループは、悪性黒色腫のAI診断において、プライバシー保護の向上に寄与する連合学習アプローチが、従来の集中型(すなわち単一モデル)およびアンサンブル型の学習アプローチと同等の診断パフォーマンスを達成できるか検討した。 2021年4月~2023年2月に、ドイツの6つの大学病院で前向きに取得されたwhole-slide image(WSI、バーチャルスライド)を用いて、悪性黒色腫と母斑を病理診断するための連合学習モデルを開発。ホールドアウト検証データセットおよび外部検証データセットを用いて、同モデルのベンチマークを行った。データ分析は後ろ向きに2023年2~4月に実施した。 主要エンドポイントは、受信者動作特性曲線下面積(AUROC)で評価した各モデルの診断能。副次エンドポイントは、平均正解率(balanced accuracy)、感度、特異度などであった。 主な結果は以下のとおり。・本試験には923例から得られた臨床的に悪性黒色腫が疑われる皮膚病変のWSIが1,025件含まれた。内訳は、組織病理学的に確認された浸潤性悪性黒色腫388件と、母斑637件であった。・診断時の年齢中央値(範囲)は、トレーニングセットは58歳(18~95)、ホールドアウト検証データセットは57歳(18~93)、外部検証データセットは61歳(18~95)であった。・Breslow厚の中央値(範囲)は、トレーニングセット0.70mm(0.10~34.00)、ホールドアウト検証データセット0.70mm(0.20~14.40)、外部検証データセット0.80mm(0.30~20.00)。・ホールドアウト検証データセットでは、AUROCで評価した診断能は、連合学習アプローチ(0.8579、95%信頼区間[CI]:0.7693~0.9299)が、従来の集中型アプローチ(0.9024、0.8379~0.9565)と比べて有意に低かった(ペアワイズWilcoxon符号順位検定のp<0.001)。・しかし、外部検証データセットでは、連合学習アプローチ(0.9126、95%CI:0.8810~0.9412)が、従来の集中型アプローチ(0.9045、0.8701~0.9331)よりも有意に診断能が高かった(ペアワイズWilcoxon符号順位検定のp<0.001)。・連合学習アプローチは、ホールドアウト検証データセットおよび外部検証データセットの両者で、アンサンブルアプローチよりも診断能が低かった(それぞれ0.8579 vs.0.8867、0.9126 vs.0.9227)。

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認知機能低下の高齢者における活動時の疼痛の特徴

 神戸学院大学の中田 健太氏らは、アビー痛みスケール(APS)を用いて、認知機能が低下している高齢者の運動および活動に伴う疼痛を評価し、活動時の疼痛を効果的に反映するサブ項目を特定しようと試みた。Journal of Pain Research誌2024年3月5日号の報告。 富山県・池田リハビリテーション病院の筋骨格系疾患および認知機能低下を有する高齢患者225例を対象に横断的研究を実施した。歩行中または移動中の疼痛の評価には、言語式評価スケール(VRS)およびAPSを用いた。疼痛の有無や程度を最も正確に反映するAPSサブ項目を特定するため項目反応理論(IRT)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・運動に伴う疼痛スコアは、VRSで1.3±1.1、APSで2.5±2.6であった。・IRT分析では、疼痛の最も信頼できる指標として、発声、顔の表情、ボディランゲージの変化が抽出された。・これらの抽出された項目は、内部一貫性が良好であり(Cronbach's α=0.72)、VRSの変化と有意な正の相関が認められ(rs=0.370、p<0.001)、主観的な疼痛がある患者とない患者において有意な差が認められた。 著者らは「認知機能が低下している高齢者の運動および活動時の疼痛を最も正確に反映している指標として、APSのサブ項目である発声、顔の表情、ボディランゲージの変化が挙げられた。運動療法中の疼痛の評価やマネジメントの信頼性を高めるためにも、このようなアプローチは重要である」としている。

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「魚と酒」は「肉中心」より高血圧になりやすい!?~日本人男性

 食事パターンと高血圧発症の関連を検討した日本人男性における前向きコホート研究で、「魚介類とアルコール」より「肉類中心」や「乳製品/野菜中心」のほうが高血圧リスクが低かったことを、東北大学/中国・Heze UniversityのLongfei Li氏らが報告した。本研究では食事パターンの特定に、食物摂取頻度・食事行動・調理方法を考慮した「教師なし機械学習法」を用いている。European Journal of Nutrition誌オンライン版2024年2月25日号に掲載。 本研究は、2008年8月~2010年8月に仙台卸商研究に登録された仙台卸商センターに勤務する日本人男性のうち447人の最終データセットを解析に使用した。UMAP(一様多様体近似と投影)による次元の削減とK平均法によるクラスタリングを用いて、食事パターンを導出した。さらに、多変量ロジスティック回帰を用いて、食事パターンと高血圧発症率の関連を評価した。高血圧は、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、自己申告による高血圧歴、高血圧治療薬の使用のいずれかに当てはまる場合とした。 主な結果は以下のとおり。・食事パターンは「低タンパク質・低食物繊維・高糖類」「乳製品/野菜中心」「肉類中心」「魚介類とアルコール」の4パターンが特定された。・年齢・BMI・喫煙・学歴・身体活動・脂質異常症・糖尿病などの潜在的交絡因子を調整後、基準とした「魚介類とアルコール」と比較して、「乳製品/野菜中心」(オッズ比[OR]:0.39、95%信頼区間[CI]:0.19~0.80、p=0.013)と「肉類中心」(OR:0.37、95%CI:0.16~0.86、p=0.022)で高血圧リスクが低かった。・年齢を一致させたグループ解析でも同様の結果だった。 著者らは「本研究の方法は、食物摂取頻度・食事行動・調理方法を考慮した複雑な食事パターンに対する知見を提供できることから、従来の統計学的方法や主成分分析法(PCA)では見過ごされがちな隠れたパターンを明らかにするのに有用」としている。

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診療ファシリテーターの介入、CKDや高血圧患者の入院は減少せず/NEJM

 腎機能障害をもたらす3疾患(慢性腎臓病[CKD]、2型糖尿病、高血圧)を有する患者のケアに対し、電子健康記録(electronic health record:EHR)に基づくアルゴリズムと、医療従事者を支援する診療ファシリテーターを導入する介入は、通常ケアと比較して、1年の時点での入院の減少に至らないことが、米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのMiguel A. Vazquez氏らが実施した「ICD-Pieces試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2024年4月4日号に掲載された。141のプライマリケア施設の実践的クラスター無作為化試験 ICD-Pieces試験は、米国の4つの大規模な保健システムに参加している141のプライマリケア施設で実施した実践的な非盲検クラスター無作為化試験であり、2016年7月~2019年6月に患者を募集した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18~85歳のCKD、2型糖尿病、高血圧を有する患者であった。試験参加施設を、介入群または通常ケア群に無作為に割り付けた。介入群には、患者を同定するためのEHRに基づく個別のアルゴリズムと、医療従事者がガイドラインに基づく介入を行えるよう支援する診療ファシリテーターを導入した。 主要アウトカムは、1年後のあらゆる入院であった。副次アウトカムは、救急診療部の受診、再入院、心血管イベント、透析、死亡などとした。副次アウトカムの発生率は同程度 介入群に71施設の5,508例(平均年齢68.1[SD 10.4]歳、男性53.7%)、通常ケア群に70施設の5,492例(68.9[10.3]歳、53.7%)を割り付けた。 1年時の入院率は、介入群が20.7%(95%信頼区間[CI]:19.7~21.8、1,139/5,508例)、通常ケア群は21.1%(20.1~22.2、1,160/5,492例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:0.4ポイント、p=0.58)。 また、救急診療部受診(介入群24.3% vs.通常ケア群22.6%)、初回入院治療後の30日以内の再入院(37.7% vs.37.3%)、心血管イベント(18.5% vs.19.4%)、透析(0.7% vs.0.6%)、全死因死亡(2.3% vs.2.7%)のリスクも両群で同程度であった。有害事象も両群で同程度 有害事象の発生率は両群で同程度だった。最も頻度が高い有害事象は急性腎障害(介入群12.7% vs.通常ケア群11.3%)で、これ以外はいずれもまれであった。 著者は、「医療システム全体にエビデンスに基づくガイドラインを適用してアウトカムを改善するには、臨床意思決定支援などの別の技術が必要となる可能性がある」とし、「このようなツールを、現場での実践(boots on the ground)を行うファシリテーターと組み合わせれば、臨床医と患者がガイドラインに基づく治療を順守できるような支援が可能となるだろう。今後、エビデンスに基づくガイドラインの実践状況を改善し、この患者集団におけるガイドラインの有効性を評価するための研究が必要である」としている。

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小児期の弱視が成人後の肥満、糖尿病リスクなどと関連

 子ども時代に弱視であった人は成人後の視力も良くないことが多いだけでなく、心血管代謝疾患のリスクが高いことを示すデータが報告された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)眼科学研究所のSiegfried Wagner氏らの研究によるもので、詳細は、「eClinicalMedicine」に3月7日掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「視覚は健康全般の番人としての役割があり、視機能はほかの器官の働きと密接な関係がある」と話している。 視力は出生後に物を見ることで、網膜から脳へつながる神経が刺激されて成長する。視力が急速に成長する幼少期に何かしらの理由で網膜が刺激されない状態では、視力の成長が滞る。また、左右の見え方に少し差がある場合には、脳は良く見えない方の目の情報を無視するような処理をするため、見えにくかった方の目の視力はより育ちにくくなる。子どもに多い斜視も、このような理由で弱視につながりやすい。 Wagner氏らはこの研究のため、英国で現在も進行中の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者12万6,399人のデータを用いた。このうち3,221人が小児期に弱視の治療を受けており、その82.2%(2,647人)は成人後にもどちらか一方の目の視力が十分でない状態だった。データ解析の結果、以下のように、成人後にも視力の低下が持続している人とそうでない人の双方で、健康上の問題との関連が認められた。 まず、横断的な解析では、小児期に弱視で成人後にも視力が低い人は、小児期に弱視でなかった人に比べて、心血管代謝疾患を有している人が多いことが明らかになった。具体的には、肥満〔オッズ比(OR)1.16(95%信頼区間1.05~1.28)〕、高血圧〔OR1.25(同1.13~1.38)〕、糖尿病〔OR1.29(1.04~1.59)〕の有意なオッズ比上昇が観察された。小児期に弱視で成人後には視力の問題がない人では、これら三つの状態の有意なオッズ比上昇は認められなかった。 続いて、受療行動データを用いた縦断的な解析を施行。その結果、小児期に弱視で成人後にも視力が低い人は、小児期に弱視でなかった人に比べて、心筋梗塞〔ハザード比(HR)1.36(1.07~1.72)〕や全死亡〔HR1.45(1.21~1.72)〕のリスクが高いことが明らかになった。さらにこの解析では、小児期に弱視で成人後には視力の問題がない人でも、心筋梗塞のリスク上昇が認められた〔HR1.56(1.03~2.36)〕。 これらの結果の解釈上の注意点としてWagner氏は、「子どもの頃の弱視が成人後の健康問題を引き起こす直接的な原因だと決めつけることはできない」とし、正しい理解を求めている。その一方、視力検査について、「成人後の重篤な疾患のリスクマーカーが、子ども時代から異常値を示すということはあまりないが、視力はそのようなリスクマーカーとして使えるのではないか。さらに、全ての子どもの視力がごく一般的に測定されている」と、その特徴と可能性を指摘。「視力検査を経て弱視と診断された子どもやその保護者には、われわれの研究結果を、小児期から健康的なライフスタイルを保つための動機付けとしてもらいたい」と述べている。

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PREVENT計算式で心血管疾患リスクを推定可能に

 「心血管疾患(CVD)イベントのリスク予測(Predicting Risk of CVD EVENTs;PREVENT)」方程式は、心不全を含むCVDのリスクを正確に推定できることが、「Circulation」に11月10日掲載のmethods paperおよび付随する科学的声明により報告された。この結果は、米国心臓協会の年次学術集会(AHA 2023、11月11~13日、米フィラデルフィア)でも同時発表された。 CVDの絶対リスクを評価する多変量リスク予測方程式の使用は、複数の一次予防ガイドラインにおいて現在推奨されているが、課題も多く存在する。米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のSadiya S. Khan氏らは、心血管・腎臓・代謝の3つの軸に関連する予測因子や、健康の社会的決定因子も考慮した新たな方程式が必要と考え、CVDの既往のない30~79歳の米国成人を対象としたPREVENT方程式を開発した。 主要アウトカムはCVD〔アテローム動脈硬化性CVD(ASCVD)および心不全(HF)〕で、予測因子は従来のリスク因子である喫煙、収縮期血圧、コレステロール、降圧薬・スタチン使用、糖尿病に加え、推算糸球体濾過量(eGFR)を用いた。モデルの導出は、コホート25件から得た個人レベルの対象者データ328万1,919人を対象とし、外部検証は、追加コホート21件の対象者333万85人を対象とした。モデルの開発では、年齢を尺度として使用し、非CVD死亡を競合リスクとして考慮した上で、男女別に予測因子とCVDとの関連を推定した。モデルの予測能はC統計量で評価し、較正は十分位数による観察リスクと予測リスクの傾きとして算出した。 対象者全体の平均年齢は53歳、女性56%で、平均4.8年間の追跡期間中に21万1,515件のCVD発症が確認された。外部検証の結果、PREVENTモデルはCVDリスク予測において、C統計量の中央値が女性で0.794、男性で0.757を達成した。較正曲線は女性で1.03、男性で0.94だった。ASCVDとHFを個別に予測するモデルにおいても、予測能と較正は同程度だった。選択可能な予測因子として、尿中アルブミン・クレアチニン比、HbA1c、社会的剥奪指数を追加したところ、モデルのCVD予測能はわずかながら有意に向上した(C統計量の差は女性で0.004、男性で0.005)。 Khan氏らは科学的声明の中で、PREVENT方程式の臨床的意義を説明している。この方程式を使用すれば、10年間および30年間におけるCVD(ASCVDとHF の複合)リスクを推定可能になることが重要という。方程式は男女別であり、予測因子としてeGFRを含み、人種を含んでいないことも特徴である。 Khan氏らは「PREVENT方程式は、CVDのリスク予測に心血管・腎臓・代謝に関わる健康因子と社会的因子を含めるための重要な第一歩である」と結論付けている。 なお、複数人の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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アプリを通じて蓄尿量が分かる膀胱デバイスを開発

 疾患に関連した尿失禁に悩まされている人の中には、帰宅するまでトイレに行くのを我慢できるのか、それとも今すぐトイレに行くべきなのかの判断が難しい人もいる。そのような人に役立つデバイスとスマートフォン(以下、スマホ)のアプリの開発に関する研究成果が報告された。膀胱用のインプラントデバイスとスマホのアプリにより、膀胱内の蓄尿量をリアルタイムで追跡できるのだという。米ノースウェスタン大学生体医工学分野のGuillermo Ameer氏らによるこの研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に3月28日掲載された。Ameer氏は、「このアプリとデバイスは、疾患などが原因で膀胱の機能が低下し、トイレに行きたいのかどうかが判然としない患者にとって、画期的な解決策になるだろう」と述べている。 Ameer氏は、「手術や二分脊椎などの疾患により膀胱の神経がダメージを受けると、膀胱が満杯であることを感知できないことがよくある。このような患者に対しては、しばしばカテーテルを使って膀胱から尿を排出させるが、この処置は患者に不快感をもたらすだけでなく、痛みを伴う感染症に罹患するリスクも高める。われわれは、病院や臨床の場で行う必要がある、このような侵襲性が高く、非常に不快な現行の膀胱機能モニタリング手順を回避したいと考えた」と研究背景を説明している。 研究グループが開発した、膀胱の外壁に取り付けて使用するインプラントデバイスは、柔らかくて柔軟性があり、電池も必要としない。膀胱の中に尿がたまるにつれ膀胱壁は引き伸ばされ、それとともにこのゴムのようなデバイスも引っ張られる。すると、デバイスに搭載された複数のセンサーがその「ひずみ」を検出し、それにより膀胱内の尿量をモニタリングする。蓄尿量の情報は、ワイヤレスでスマホのアプリに送信され、これにより、デバイス装着者はリアルタイムで膀胱の状態を追跡することができるという仕組みだ。 論文の共著者で、ノースウェスタン大学生体医工学分野のJohn Rogers氏は、「今回は、とても柔らかくて極薄な上に、伸縮可能なひずみゲージの開発に成功したことが重要な進歩だ。このひずみゲージは、膀胱の外面を優しく包み込み、自然な蓄尿とその排泄動作に機械的な制約を加えることがない」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 小動物を用いた実験では、このデバイスを用いて、膀胱の充満と排泄を30日間リアルタイムで追跡することができたという。さらに、ヒト以外の霊長類を使った追跡調査では、このデバイスを使って8週間にわたり膀胱の蓄尿量を追跡することに成功し、ごく少量の尿でもひずみを検出できることが確認できた。 Ameer氏は、「この研究では、本デバイスを人間用にスケールアップして初めて検証した。そして、この技術が長期的に機能し得ることを示した。使用状況に応じてこのデバイスを恒久的に体内に留置し、患者が完全回復した後に無害な形で溶解させることも可能だ」と話す。 研究グループは、このデバイスを、膀胱の再建や必要に応じて排尿を誘発するために使用できる他の新技術と組み合わせたいとの考えを示している。Ameer氏は、「このアプリは、蓄尿量をモニタリングするだけでなく、デバイス使用者に警告を送り、最寄りのトイレの場所を指示することができるようになる。また、将来的には患者がアプリを通じて、オンデマンドで排尿することができるようになるだろう」と述べている。

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日本人の喘息患者に睡眠時無呼吸が多く見られる

 日本人の喘息患者を対象に、閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea;OSA)の合併および臨床転帰を検討する研究が行われた。その結果、OSAの合併率は高く、特に重症OSAを有する人ほど喘息のコントロールや症状が悪いことが明らかとなった。これは川崎医科大学呼吸器内科学の小賀徹氏らによる研究結果であり、「Allergology International」に2月9日掲載された。著者らは、「喘息とOSAの合併は過小評価されている」として、臨床転帰を改善するためのOSAのスクリーニングを推奨している。 睡眠中に気道が閉塞することにより呼吸停止が起こるOSAでは、夜間のいびきや日中の眠気など、さまざまな症状が生じる。OSAのリスク因子の1つに肥満があるが、OSAは肥満のない人でも発症する。特に日本人は欧米人と比べてBMIが低いにもかかわらず、OSAの有病率は米国と日本で同程度と報告されている。 今回の研究は、2020年7月~2022年3月に、定期的に川崎医科大学附属病院を受診している喘息外来患者97人(平均年齢56.5±13.9歳、そのうち女性66人)を対象として行われた。患者は自宅での睡眠時の検査として携帯型モニターを装着。睡眠中の1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数から算出する呼吸イベント指数(respiratory event index;REI)により、OSAの有無や重症度が評価された。さらに、患者報告アウトカムとして、胃食道逆流症、日中の眠気や睡眠の質、喘息コントロール(Asthma Control Test;ACT)、咳嗽症状(Leicester Cough Questionnaire;LCQ)、呼吸器症状(COPD Assessment Test;CAT)、喘息の健康状態〔Asthma Health Questionnaire(AHQ)-33〕が評価された。 その結果、OSAなしの患者は19人(19.6%、平均41.3±13.9歳)、軽症OSAは40人(41.2%、59.0±12.0歳)、中等症OSAは24人(24.7%、61.8±10.7歳)、重症OSAは14人(14.4%、60.8±9.8歳)だった。患者の平均BMI(kg/m2)は、中等症OSA合併群で26.5±5.2、重症OSA合併群で27.8±4.4であり、OSAなし群の22.6±5.4と比べて有意に高かった。 国際的なガイドライン(Global Initiative for Asthma)に基づく喘息の治療ステップ(1~5)は、重症OSA合併群の方がOSAなし群と比べて有意に高かった(平均4.3±1.1対3.1±1.4)。しかし、肺機能やアレルギーの指標(FeNO、血清IgE、末梢血好酸球など)には、群間で有意な差は認められなかった。重症OSA合併群では、有意に喘息コントロールが悪く、症状・咳嗽も多く、健康状態も悪かった。 重症OSAと関連する因子を単変量ロジスティック回帰分析で検討すると、BMI、治療ステップと、患者報告アウトカムのうちACT、LCQ、CAT、AHQ-33の各スコアが有意な因子だった。次に多変量ロジスティック回帰を用いて、BMIを調整して解析した結果、治療ステップ、ACT、LCQ、CAT、AHQ-33は、BMIとは独立して、重症OSAの有意な予測因子であることが明らかとなった。 以上の結論として著者らは、「日本人の喘息患者において、中等症以上のOSAは多く見られた(39.1%)」と述べている。また、OSAのある人ほどBMIは高かったものの、重症OSAと喘息コントロールや症状・咳嗽・健康状態の悪化などとの関連は、BMIとは独立して有意であり、さらに、肺機能には群間で差がなかったことを挙げた上で、肥満や肺機能にとらわれず、喘息の患者報告アウトカムが不良であれば睡眠時無呼吸の評価を積極的に行うことの重要性を指摘している。

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