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過度の運動はいうほど有害ではなくむしろ寿命を延ばしうる先週5月6日はヒトの運動能力の限界の1つの突破が樹立された記念日で、とりわけ医師にとっては感慨深い日かもしれません。その記録とは1マイル(約1,600m)を4分未満で初めて走ったことです(1kmを2分30秒未満で走ったことに相当)。その偉業を達成したのは他でもない医学生でした。70年前の1954年5月6日に当時25歳でアスリートでもあったRoger Bannister(ロジャー・バニスター)氏は学び舎のオックスフォード大学の競技場で1マイルを3分59.4秒で走り、1マイルを4分以内で初めて走った人となりました。運動習慣は心臓の健康を保つのに役立ちますが、1マイルを4分以内で走るなどの負荷の大き過ぎる運動は心臓にはかえって毒らしいことも示唆されています。とはいうものの、長距離自転車レース(ツール・ド・フランス)出場者やオリンピックのボート選手などの極度の運動/生理能力を有する持久運動選手の寿命はより長いことを示す報告もあります。Bannister氏を初めとすると1マイル4分以内走者はどうなのでしょうか? それを調べたカナダのアルバータ大学のStephen Foulkes氏らの新たな解析結果がBritish Journal of Sports Medicine誌に先週掲載されました1)。Bannister氏以後1,750人超が1マイル4分未満走者の名簿にいまや名を連ねており、その最初から20人目までを調べた2018年の報告がFoulkes氏らを新たな研究へと駆り立てました。6年ほど前のその先立つ報告によると、それら1マイル4分未満走者20人中18人は80年以上生きており、世間一般の寿命を平均して12年上回っていました2)。かつて不可能とされていたほどの極度の運動に取り組んだところで、命の長さや質は害されないことをその結果は支持しています。Foulkes氏らはその観察結果に触発され、1マイル4分未満走者と世間一般の生存年数をより確かな統計的手法を用いて比較してみました。Foulkes氏らは解析人数も増やし、最初から200人目までの1マイル4分未満走者を調べました。全員が男性で、生まれは1928~55年です。それら200人のうち昨年末までに死亡した60人の平均死亡年齢は73歳、存命の140人の平均年齢は77歳でした。生まれた年や場所を考慮して計算したところ、1マイル4分未満走者は世間一般に比べて平均4.7年長生きでした。1マイル4分未満の初の達成が1950年代だった人はとくに長生きで、世間一般より9.2年長く生きています。1マイル4分未満の初の達成が1960年代と1970年代だった人は世間一般に比べてそれぞれ5.5年と2.9年長生きでした。その違いはおそらく世間一般が時代と共により健康になっていることによるのかもしれません3)。結論として、今回の結果は過度の運動で寿命が損なわれうるという見解に反するものであり、エリート選手レベルさえも含む運動の有益さを支持していると著者は言っています。参考1)Foulkes S, et al. Br J Sports Med. 2024 May 10. [Epub ahead of print]2)Maron BJ, et al. Lancet. 2018;392:913.3)Extreme exercise may help you live longer without stressing your heart / NewScientist