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うつ病診療ガイドライン、ゼロベースの改訂でどう変わったか

 日本うつ病学会は、2025年12月25日に『うつ病診療ガイドライン2025』1)を公開した。今回の改訂は、既存のガイドラインへの加筆修正ではなく、ゼロベースからの再構築となっている。そこで、本ガイドラインの改訂のポイントについて、作成ワーキンググループの代表・責任者を務める加藤 正樹氏(関西医科大学医学部精神神経科学講座)、統括を務める渡邊 衡一郎氏(杏林大学医学部精神神経科学教室)、馬場 元氏(順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック)の3人に話を聞いた。改訂のポイントについて「改訂の背景と概要、重症度別の治療」と「治療過程のフェーズ別の治療、サブタイプ・ライフステージ別の治療」に分け、前編と後編の2回にわたって紹介する。ゼロベースで作成、実臨床に即したガイドラインに 今回の改訂では、国際的なガイドライン作成基準であるMindsに準拠し、科学的妥当性と透明性を担保する作成方法へと一新された。そのため、システマティックレビューに基づくエビデンス評価を基盤としながら作成されているが、実臨床での思考過程に焦点を当てた構成とするため、ナラティブな記載も織り交ぜられている。また、作成グループには薬剤師・看護師・心理師などのメディカルスタッフ、当事者やその家族も含まれる。 推奨の決定にあたっては、推奨決定会議において投票者の70%以上の合意形成を必須とするルールが採用され「強く推奨」「弱く推奨」という推奨度と、推奨までには至らない「提案」「選択肢のひとつ」が設定された。診療の「現在地」が把握できるマトリクス構造 本ガイドラインの特徴は、複雑化するうつ病診療を整理するために導入された「横軸」と「縦軸」によるマトリクス構造である。横軸:重症度(軽度、中等度・重度)、ライフステージ(児童・思春期、周産期、老年期)、サブタイプ(不眠症状を伴ううつ病、特定用語:不安性の苦痛、混合性の特徴など)縦軸:初期治療、後続治療、さらなる段階の治療、維持期治療 この構造について、加藤氏は「うつ病治療では、どの薬が良いか、目の前の患者にどうフィットさせるか悩みやすい。そこで、患者を横軸と縦軸に当てはめて読めるようにした」と意図を述べた。実際に、目の前の患者をガイドラインの項目に当てはめながら読めるようにするため、うつ病診療のアルゴリズムが掲載されている。 第1章「治療計画の策定」は、あえてナラティブな記載とし、臨床の原則を網羅している。さらに「診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソード」など、エビデンスを基に作成するのは難しいものの臨床上重要なテーマは、トピックスとして7テーマ取り上げている。 今回の改訂では、Clinical Question(CQ)の構成にも工夫が施されている。各章のCQX-1では「治療に際して何を考慮すべきか?」という臨床的視点からの問いかけが提示され、CQX-2では「システマティックレビューの概要など、治療の総論」がまとめられている。すなわち、CQX-1、X-2を読むことで、各章の治療方針の立て方がわかるような構成になっている。これについて、馬場氏は「すべて読むことが難しい場合は、まずは第1章を必須として読んでもらい、以降は診療する患者に該当する章のCQX-1、X-2を読んでほしい」と述べた。軽度うつ病の薬物療法は「選択肢のひとつ」 軽度うつ病への介入は、支持的な傾聴、生活における負担の軽減、心理教育などの基礎的介入が基本となる。本ガイドラインでは、これらを実施したうえで、新規抗うつ薬を使用することを「選択肢のひとつ」と位置付けている。 これについて、加藤氏は「軽度うつ病のみを対象とした無作為化比較試験、システマティックレビューおよびメタ解析は存在しなかった。そこで、本邦で実施された新規抗うつ薬の無作為化比較試験について、2,464例を対象とした個人データのメタ解析を実施したところ、重症度と抑うつ症状の改善には相互作用がなかった。つまり、重症度にかかわらず抗うつ薬は有効と考えることができる。また、軽度うつ病では症状の改善の余地が小さいため、プラセボとの差はみられにくいが、抗うつ薬によりいずれの試験でも症状が改善していた。これらを考慮して、安全性の高い新規抗うつ薬は『選択肢のひとつ』となると判断した」と根拠を述べた。 そのほか、認知行動療法、それを基盤とした集団プログラムやガイド付きのプログラム、集団あるいは指導下での運動療法も「選択肢のひとつ」となっている。中等度・重度うつ病への抗うつ薬は強く推奨 中等度・重度のうつ病に対しては、新規抗うつ薬による単剤治療を「行うことを強く推奨する」としている。一方、治療初期からの抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の併用療法※については「行わないことを弱く推奨する」となっている。ただし、カタトニアを伴ううつ病の治療法に関するCQ7-6-2では、急性期の薬物療法としてベンゾジアゼピン系薬剤による補助療法は「提案する」とした。これについて、馬場氏は「全体としては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の併用は勧められないが、使用すべき患者もいる。このようにサブタイプ別にも見ることで、より適切な治療を行うことができるというのが、本ガイドラインの特徴である」と述べた。 構造化された精神療法や電気けいれん療法(ECT)については、有用性に関するエビデンスがあるものの、推奨度は「提案する」にとどまっている。これについて、加藤氏は「エビデンスは存在するが、実施可能な施設が限られることなどから『提案する』にとどめる判断となった」と述べた。※:本ガイドラインでは、治療初期から同時に開始することを併用療法と定義している。どのように治療を使い分けるか? うつ病治療の基本は、共同意思決定(SDM)に基づいて患者自身が積極的に治療に関わるようにすることである。SDMでは、病状や各種治療選択肢、予想される経過などについて治療者が説明し、リスク・ベネフィットを共有したうえで、患者の意見や価値観も聞きながら治療を選択していくことが重要となる。 本ガイドラインでは、抗うつ薬の副作用に関するヒートマップや、薬物相互作用をまとめた表が掲載された。これらは、SDMを通じた抗うつ薬の使い分けにも、用いることが可能である。これらを用いた使い分けの例として、加藤氏は「会社に行きながら治療するのであれば、眠気の少ない薬を提案する。一方で、睡眠が十分に取れていない場合は、副作用として眠気が出てしまうかもしれないが、しっかりと睡眠が取れる薬を提案する。薬物相互作用については、高齢者や併用薬の多い患者には薬物相互作用の少ない薬剤を提案するといった使い分けができる」と説明した。治療の質を向上させる「MBC」 本ガイドラインでSDMと共に強調しているのが、測定に基づく診療(Measurement-Based Care:MBC)の実践である。MBCは、標準化された評価尺度を用いて治療反応を定期的に評価し、その結果を共有しながら治療を調整するアプローチである。MBCを実践することで、MBCを用いない標準治療と比較して寛解率が45%向上したという研究結果も存在する2)。 MBCの実践に当たっては「自己記入式の評価尺度を用いるのが良い。自己記入式の評価尺度は、患者の自己洞察や意思決定を促進するほか、症状の伝え漏れを防ぐことができる」と加藤氏は述べる。 評価の頻度と使用しやすい評価尺度について、渡邊氏は「最初に寛解を達成するまでは、できるだけ毎回、少なくとも2週間に1回は評価するのが良いのではないか。自己記入式の評価尺度としては、QIDSやPHQ-9が推奨される。これらは、うつ病の診断基準に合った9項目で構成されており、残遺症状のピックアップができるというメリットもある」と語った。(後編に続く)

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1型糖尿病とCKD併存、フィネレノンがUACRを改善/NEJM

 1型糖尿病患者における慢性腎臓病(CKD)の治療では、30年以上前の研究に基づき、生活習慣、血糖値、血圧の最適化に重点が置かれ、レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬が推奨されてきたが、これらの介入はCKDの進行を抑制する効果はあるものの、完全に阻止することはできないとされる。オーストラリア・University of New South WalesのHiddo J.L. Heerspink氏らは「FINE-ONE試験」において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンはプラセボと比較して、有効性と安全性の代替指標としての尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を有意に低下させ、高カリウム血症が多くみられるものの重篤な有害事象の頻度に大きな差はないことを示した。研究の成果は、NEJM誌2026年3月5日号で報告された。9ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 FINE-ONE試験は、9ヵ国で実施した国際的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(Bayerの助成を受けた)。2024年2月~2025年2月に参加者を登録した。 対象は、18歳以上、1型糖尿病と診断され、CKD(推算糸球体濾過量[eGFR]:25~<90mL/分/1.73m2)およびアルブミン尿(UACR[アルブミンはmg、クレアチニンはgで測定]200~<5,000)を有し、ACE阻害薬またはARBの投与を受けている患者であった。 被験者を、フィネレノンまたはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けた。フィネレノンの用量は、スクリーニング時eGFR≧60mL/分/1.73m2の患者は20mg/日、同25~<60mL/分/1.73m2の患者は10mg/日で開始した。 主要アウトカムは、6ヵ月の時点におけるベースラインからのUACRの相対的な変化量とした。UACRの減少率が25%高い 242例を登録し、フィネレノン群に120例(平均[±SD]年齢51.3[±14.2]歳、女性34.2%)、プラセボ群に122例(51.9[±13.2]歳、35.2%)を割り付けた。 UACR中央値は、フィネレノン群でベースラインの574.6から6ヵ月時に373.5へ低下し、プラセボ群では506.4から475.6へ低下した。 この6ヵ月間で、UACRは、フィネレノン群で34%の減少(ベースラインとの最小二乗幾何平均比:0.66、95%信頼区間[CI]:0.60~0.73)、プラセボ群で12%の減少(0.88、0.79~0.98)であった。これは、プラセボ群に比べフィネレノン群で25%高い減少率を示したことになり、有意に優れた(6ヵ月時のプラセボ群との最小二乗幾何平均比:0.75、95%CI:0.65~0.87、p<0.001)。血圧、HbA1c値、体重の変化に差はない 最も頻度の高い有害事象は高カリウム血症であった(フィネレノン群12例[10.1%]、プラセボ群4例[3.3%])。高カリウム血症のためフィネレノンの投与を中止した患者は2例(1.7%)だった。また、重篤な有害事象の頻度は両群で同程度であった(14例[11.8%]、14例[11.5%])。 6ヵ月時のeGFRの変化量は、フィネレノン群で-5.6mL/分/1.73m2、プラセボ群で-2.7mL/分/1.73m2であった(群間差:-2.9mL/分/1.73m2、95%CI:-5.1~-0.7)。6ヵ月以降のウォッシュアウト期間中に、フィネレノン群のeGFR値はベースラインの値に近づいた。 6ヵ月の時点で、収縮期血圧のベースラインからの変化量の両群間の差は-0.9mmHg(95%CI:-4.3~2.6)、拡張期血圧の変化量の差は-1.3mmHg(-3.4~0.9)であり、いずれもフィネレノン群のほうが変化量は大きかったが、有意な差はなかった。また、両群とも、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値や体重に有意な変化を認めず、群間差は小さかった。高リスクのサブグループでも有効な可能性 著者は、「ガイドラインに基づく薬物療法(ACE阻害薬、ARBなど)に加えフィネレノンを投与すると、プラセボに比べより大きなUACRの低下が得られ、この効果は、ベースラインのeGFRが最も低い(<45mL/分/1.73m2)集団(最小二乗幾何平均比:0.74、95%CI:0.57~0.97)およびUACRが最も高い(>1,000)集団(0.91、0.70~1.18)といった腎および心血管の有害なアウトカムのリスクがきわめて高いサブグループにおいても同様であった」としている。 なお、著者は考察で「本試験は地理的に多様なCKD合併1型糖尿病患者を対象としたものの、被験者の約3分の2が男性であったことから、これらの知見は試験コホートと同様の特徴を共有する患者にのみ適用可能であり、一般化はできない」と指摘している。

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急性期統合失調症、24種の抗精神病薬をネットワークメタ解析/Lancet

 急性期統合失調症の薬物療法では、抗精神病薬の有効性には各薬剤間で臨床的に意義のある小~中の違いが存在し、忍容性はドパミンパーシャルアゴニストが全般的に良好で、新たな薬剤クラスのムスカリン受容体作動薬xanomeline-trospium(ドパミン受容体を主な標的としない初めての抗精神病薬[2024年にFDA承認])はドパミン拮抗薬にみられる有害作用を伴わないものの、コリン作動性および抗コリン作動性の有害事象を引き起こすことが、ドイツ・ミュンヘン工科大学のJohannes Schneider-Thoma氏らの調査で示された。研究の成果はLancet誌2026年2月28日号に掲載された。24種の抗精神病薬のネットワークメタ解析 研究グループは、急性期統合失調症に対する抗精神病薬の有効性と忍容性に関して、統計学的有意性だけでなく臨床的に重要な治療効果を重視した最新知見の提示を目的に、系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した(ドイツ研究振興協会などの助成を受けた)。 対象とした抗精神病薬は、ドパミン受容体遮断薬を主とする23種と、ムスカリン受容体作動薬xanomeline-trospiumの24種の薬剤であった。医学関連データベースを用いて、2024年7月26日までに発表された、これらの薬剤に関する試験の論文を抽出した。適切な無作為化が行われた試験のみを解析に含めた。 主要アウトカムは、評価尺度で測定された統合失調症の全体的症状(有効性)とし、変量効果モデルを用いた頻度論的ネットワークメタ解析で分析した。副次アウトカムは、さらに32項目の有効性および忍容性のアウトカムで構成された。有効性はクロザピンが最も高い 438件の無作為化臨床試験を解析の対象とした。このうち388件(参加者7万8,193例[女性2万8,448例・36.4%、男性4万9,745例・63.6%]、年齢中央値37.28歳[四分位範囲:33.58~40.50]、二重盲検試験315件[81%])が、少なくとも1つのアウトカムについて使用可能なデータを提供した。5,117件の中国の試験が特定されたが、その多くで、著者が問い合わせに応答しなかったか、方法論上の懸念が報告されていたため、採用されたのは24件のみだった。 主要アウトカムに関して、256件の二重盲検試験(参加者5万8,948例)が使用可能なデータを提供した。 24種の抗精神病薬のすべてが、プラセボに比べ症状を軽減し、各薬剤の標準化平均差(SMD)は、クロザピンの-0.90(95%信頼区間[CI]:-1.03~-0.77)からlumateperoneの-0.23(95%CI:-0.39~-0.06)の範囲であった。 とくに、クロザピン、amisulpride(SMD:-0.68、95%CI:-0.81~-0.55)、オランザピン(-0.57、-0.62~-0.52)、リスペリドン(-0.53、-0.57~-0.48)は、他の3種以上の抗精神病薬より有効性が高かった。xanomeline-trospium(-0.57、-0.76~-0.37)の有効性は上位6番目だった。 また、23種の抗精神病薬のすべてが、プラセボに比べ陽性症状を軽減し(SMD:-0.90[95%CI:-1.06~-0.73]~-0.16[-0.67~0.34])、陰性症状も軽減した(-0.65[-0.95~-0.34]~-0.16[-0.27~-0.05])。体重増加が83%で 有害事象は、各薬剤で多岐にわたっていた。ドパミンパーシャルアゴニスト(アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、cariprazine)は、有効性では上位に含まれなかったが、全体としてドパミン拮抗薬よりも良好な忍容性を示した。 22種の抗精神病薬のうち12種(55%)で、コリン作動性有害事象のオッズがプラセボより高く、「非常に小さい」以上のオッズ比(OR)は、xanomeline-trospiumの4.11(95%CI:2.27~7.43)からスルピリドの1.27(0.40~4.02)の範囲であった。 また、24種の抗精神病薬のうち18種(75%)で、抗コリン作動性有害事象のオッズがプラセボより高く、ORはゾテピンの3.55(95%CI:1.31~9.66)からリスペリドンの1.28(1.03~1.59)の範囲であった。 プラセボと比較した体重増加は、23種の抗精神病薬のうち19種(83%)にみられ、平均差はゾテピンの3.21kg(95%CI:2.21~4.22)からペロスピロンの0.51kg(-1.36~2.39)の範囲だった。 著者は、「本研究で明らかとなった各種抗精神病薬の有効性の臨床的に意義のある違いについては、臨床ガイドラインにおいて、より強調し具体的に記述すべきであり、個別の薬剤選択の際には忍容性の重要な差異を考慮する必要がある」「今後の研究では、xanomeline-trospiumの有効性を確認するために、他の抗精神病薬との直接比較を行うべきである。また、統合失調症の初期段階におけるクロザピン使用に関する先進的な試験を実施し、アウトカムの改善や疾患の慢性化の予防効果を確立する必要がある」としている。

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高リスクくすぶり型多発性骨髄腫への治療がもたらすベネフィット/J&J

 抗CD38抗体ダラツムマブ(商品名:ダラキューロ)において、2025年11月に高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)における進行遅延の適応が追加され、多発性骨髄腫の診断指標であるCRAB症状(高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨病変)が確認される前に治療を開始することが可能となった。これを受け、2026年2月25日に開催されたJohnson & Johnson(ヤンセンファーマ)の記者説明会において、福岡大学の高松 泰氏がSMMの治療開始基準とその課題を、日本赤十字社医療センターの鈴木 憲史氏がSMM治療の意義とAQUILA試験の結果を解説した。SMMの診断基準と治療開始時期 多発性骨髄腫は、形質細胞への初期遺伝子異常によって前がん状態であるMGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)になり、2次的な遺伝子異常によりSMMへ、さらに遺伝子異常が重なることで多発性骨髄腫に進展すると考えられている。 かつてMP療法で治療していた時代の試験において、CRAB症状の出現前に治療しても生存期間を延長しなかったことから、CRAB症状の有無でSMMと多発性骨髄腫に分けられ、CRAB症状の出現後(多発性骨髄腫に進行後)に治療開始することが標準治療になった。その後、2014年にIMWG(International Myeloma Working Group)の診断基準が改訂され、CRAB症状がなくとも、進行リスクがきわめて高いバイオマーカー(SLiM:骨髄形質細胞割合≧60%、血清遊離軽鎖[FLC]比≧100、MRIで局所性骨病変2ヵ所以上のいずれか)を満たす患者は、2年以内に80%以上が多発性骨髄腫に進行する可能性が高いため、多発性骨髄腫として治療を開始することになった。 高松氏は、「SMMと診断された場合、その後つらい症状が出現することがわかっているなら、症状出現前に治療を開始して出現しないようにしてほしいと思うのではないか」と述べ、早期の治療開始の意義を強調した。高リスクSMMの適切な抽出のためのリスク層別化の課題 早期の治療介入が適切なSMM患者を選ぶためには、急速に進行する患者を精度高く抽出することが重要になる。これまでMayo Clinic基準(M蛋白量、FLC比、骨髄形質細胞割合の3因子)やPETHEMA基準(骨髄中の異常形質細胞の割合、M蛋白以外のγグロブリン値の2因子)などが提唱されてきたが、両基準でリスク評価が一致する割合は28.6%に留まり、Mayo Clinic基準で低リスクと診断された患者が、PETHEMA基準で高リスクに分類されてしまう例もあったという。 また、次世代シーケンサーによるゲノム解析(MAPK経路、DNA修復経路、MYC変異)によるリスク層別化も可能となっているが、高松氏は、リスク因子として抽出されているゲノム変異の種類が異なる点や実臨床では高額過ぎることを課題として指摘した。現在、世界で主流の分類は、2020年にIMWGで提唱された「血清M蛋白量」「血清FLC比」「骨髄形質細胞割合」「細胞遺伝学的異常」の4因子を用いたリスク分類である。 高松氏は、「CRAB症状出現前に治療を開始したほうが副作用を軽減でき、より安全に治療できる可能性が高くなると考えられるため、早期の進行が予測される患者には、早期に治療介入することは妥当な方法ではないか。ただし、高リスク患者を精度高く抽出する方法を見つけることが今後の課題」とまとめて、講演を終えた。SMM治療におけるShared Decision Makingの重要性 鈴木氏は、症状がないときに治療を開始することについて、副作用と効果、通院回数を考慮し、開始を待つ患者もいるが、IMWG 2020モデルの高リスク患者の多発性骨髄腫への2年進展率が72.5%であると伝えると治療を希望する患者が多いと述べ、治療に際しては、治療選択肢とエビデンス、メリットとデメリットについて患者・家族と共通の理解を持ち、十分に話し合って決めていく「Shared Decision Making(SDM)」が重要であることを強調した。ダラツムマブによる進展抑制効果~第III相AQUILA試験 鈴木氏は、SMM治療におけるダラツムマブの承認の根拠となった国際共同第III相AQUILA試験の結果を紹介した。同試験は高リスクSMM 390例を対象に、ダラツムマブ単独投与(皮下投与、サイクル1~2:週1回、サイクル3~6:2週に1回、サイクル7~:4週に1回)群と経過観察群を比較したものである。高リスクの基準は(1)血清M蛋白30g/L以上、(2)IgA型、(3)IgA、IgM、IgGのうち2種類のuninvolved Ig減少を伴う免疫不全、(4)involved/uninvolved血清遊離軽鎖比が8以上100未満、(5)クローナルな骨髄形質細胞が50%超かつ60%未満で測定可能病変を有する、のうち1つ以上満たす場合としている。この条件について、鈴木氏は「免疫不全の有無をみているのが注目すべき点」と指摘した。 主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)において、ダラツムマブ群は有意な延長を示した(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.67、p<0.0001)。また、CRAB症状出現を疾患進行(PD)イベントとしたときのPFSも明らかに差が認められた(HR:0.29、95%CI:0.16~0.52)。有害事象は、ダラツムマブ群で肺炎(3.6%)、COVID-19(1.6%)など、経過観察群で敗血症や発熱などが認められた。 日本人集団の5年PFS解析では、ダラツムマブ群が63.1%、経過観察群で40.8%であった(HR:0.25、95%CI:0.10~0.65)。全体集団より日本人集団のほうでHRが小さいことについて、鈴木氏は「体重の違いや患者の治療に対する真面目さもあるのだろう」と考察している。 最後に鈴木氏は、「多発性骨髄腫に対する新薬が次々と開発され、初発例に使用可能になり、MRD陰性も達成し治癒も期待されるようになってきた。さらに機能的治癒だけではなく、発症を遅らせ、場合によっては予防も期待されるようになるまで進んできた」と治療の進歩を振り返り、「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.」(早く行きたければひとりで行け、遠くへ行きたければみんなで行け)という、協力とチームワークの重要性を説くアフリカのことわざを紹介し、「医師、患者、製薬業界の連携によりここまで来れた」と結んだ。

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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾールの最適な投与量は

 アジテーションは、アルツハイマー病による認知症患者にとって最も苦痛な神経精神症状の1つであり、患者のQOLに重大な影響を及ぼし、介護者の負担を増大させる。ドーパミン受容体パーシャルアゴニストであるブレクスピプラゾールは、アジテーションのマネジメントに有望な薬剤である。パキスタン・King Edward Medical UniversityのHammad Javaid氏らは、アルツハイマー病に伴うアジテーションのマネジメントに対するブレクスピプラゾールの有効性と安全性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Neurological Sciences誌2026年1月29日号の報告。 2025年1月までに公表された研究をPubMed、Cochrane、Scopus、Embase、ClinicalTrials.govより包括的に検索した。ランダム効果モデルを用いて、二値アウトカムをリスク比(RR)、連続アウトカムを平均差(MD)として、95%信頼区間(CI)とともに統合した。異質性の評価には、I2統計量およびカイ二乗検定を用いた。p値0.05未満を統計的に有意と判定した。すべての計算はRevMan 5.4を用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・アルツハイマー病に伴うアジテーションを呈する認知症患者1,440例(944例vs.496例)を対象とした4つの研究をメタ解析に含めた。・ブレクスピプラゾールは、CMAI(MD:-3.94[-6.21~-1.67]、p<0.001)およびNPI-NH(MD:-0.67[-1.08~-0.26]、p=0.002)において、2~3mg/日で最適な効果を示し、アジテーションの有意な軽減を示した。・SASスコアには、わずかな悪化が認められたが(MD:0.38[0.18~0.58]、p=0.0002)、MMSE(p=0.06)およびCGI-S(p=0.06)は安定していた。・重篤な有害事象、死亡率、めまい、錐体外路症状については統計学的に有意な差が認められなかった(各々、p>0.05)。 著者らは「ブレクスピプラゾールは、軽度の運動機能への影響が認められたものの、安全性に関する重大な懸念はなく、アルツハイマー病に伴うアジテーションを効果的に軽減した。本研究の限界としては、中程度の異質性と試験期間の短さが挙げられる。今後の研究において、長期的なアウトカムおよび患者の層別化について検討する必要がある」としている。

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子どもの食物アレルギー、原因は遺伝だけではない

 子どもが食物アレルギーを発症するかどうかを決める要因は、遺伝子だけではないようだ。新たな研究で、抗菌薬の使用や他の免疫疾患の存在、アレルゲンとなる食品の導入が遅れることも、子どもの食物アレルギーの発症に関与している可能性のあることが示された。マクマスター大学(カナダ)のDerek Chu氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Pediatrics」に2月9日掲載された。Chu氏は、「われわれの研究結果は、食物アレルギーの傾向を遺伝だけで完全に説明することはできず、遺伝子、皮膚の健康、マイクロバイオーム、環境要因が重なり合って食物アレルギーの発症に関与していることを示している」とニュースリリースで述べている。 この研究では、6歳未満の子どもを対象にした世界40カ国の190件の研究データ(対象者は総計280万人)が分析された。食物経口負荷試験を用いた16件の研究を統合して解析した結果、IgE媒介性アレルギーの6歳までの平均発症率は4.7%と推定された。176件の研究で342種類のリスク因子が特定されていたが、エビデンスの確実性が高く、IgE媒介性アレルギーとの関連が最も強いと判断されたのは、乳児期のアレルギー性疾患の既往であった。具体的には、生後1年以内のアトピー性皮膚炎(オッズ比3.88)、アレルギー性鼻炎(同3.39)、喘鳴(同2.11)が、いずれも大幅なリスク上昇と関連していた。 また、食物アレルギーの家族歴もリスク因子であり、特に、両親(同2.07)やきょうだい(同2.36)にアレルギーがある場合にはリスクが2倍以上に上昇した。さらに、ピーナッツ、ナッツ類、卵などのアレルゲン食品の導入が遅いことも関連因子であり、例えば、1歳を過ぎてからピーナッツを食べた場合にピーナッツアレルギーになるオッズは2倍以上であった(同2.55)。このほか、妊娠中の母親の抗菌薬使用(同1.32)や、生後1カ月以内(4.11)、または1年以内(1.39)の乳児の抗菌薬使用でもリスク上昇が見られた。 一方で、食物アレルギーに関与すると疑われていた多くの要因、例えば低出生体重や予定日超過の出産、母乳育児をしていないこと、母親の妊娠中の食事やストレスとIgE媒介性アレルギーとの間に有意な関連は認められなかった。 研究グループは、「これらの結果は、食物アレルギーのリスクがある乳児を特定し、早期予防に役立つ可能性がある」と述べている。また、Chu氏は、「この結果は、食物アレルギーに対するわれわれの理解を広げるものだ。今後の研究では、同じ主要因子を測定・調整し、より多様な集団を対象とし、食物経口負荷試験をもっと活用すべきだ」と述べている。さらに同氏は、「今回の発見を実際に活かすためには、新たなランダム化臨床試験とガイドラインを早急に更新することが必要だ」と付け加えている。

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約5人に1人が耳鳴りが原因で労働時間を減らしている

 耳鳴りは、簡単にやり過ごせるもののように思われがちだ。しかし、最新の研究によると、耳鳴りは人のキャリアに大きな影響を及ぼす可能性があるようだ。約5人に1人の成人が、耳鳴りが原因で労働時間を減らしたり、仕事を辞めたことがあると回答したことが明らかになった。英アングリア・ラスキン大学のEldre Beukes氏らによるこの研究結果は、「Brain Sciences」に1月29日掲載された。Beukes氏は、「一部の人にとって、耳鳴りは単なる持続的な音以上のものだ。安定した雇用や職場でのウェルビーイングの妨げとなり、難聴や不安、睡眠トラブルを引き起こすことも珍しくない」と述べている。 耳鳴りとは、外部に音源がないのにベルなどが鳴り響く音や、蚊などがブンブンいう音、シューという空気が漏れるような音などが聞こえる現象であり、人口の約15%が耳鳴りを有しているとされている。 今回の研究では、耳鳴りを有する449人の成人(平均年齢54.4歳)に対して、症状が仕事の生産性にどのような影響を与えているのかが評価された。 その結果、7%が耳鳴りが原因で仕事を辞めたと回答し、11%が労働時間を減らしたと回答した。また、1%は障害手当を受給していた。質問に回答した310人の試験参加者の72%(223人)が、「耳鳴りによって仕事に支障をきたしている」と回答した。具体的な影響としては、耳鳴りによって「集中しにくい」「生産性が落ちる」「コミュニケーションが難しくなる」などの問題が生じ、「疲れやすくなった」「仕事が遅くなった」「ミスが増えた」と回答した人も多かった。 一方で、この研究では、耳鳴りによる影響を軽減する方法があることも示唆された。参加者のうち200人が、耳鳴りへの対処法を学ぶオンライン認知行動療法(ICBT)プログラムを受講した。その結果、受講後には、「労働時間を減らす必要がある」と回答した参加者が大幅に減り、耳鳴りによるストレス、不安、抑うつ、不眠も改善した。 Beukes氏は、「職場は、耳鳴りが生産性に影響を及ぼす可能性がある状態であり、合理的な配慮が必要となる場合があることを認識すべきだ。柔軟な働き方、聴覚関連テクノロジーへのアクセス、管理者の理解促進などの措置は、耳鳴りを有する人が就労を継続する助けとなるだろう」と述べている。 研究グループは、「この結果は予備的であり、今後、対照群を含めた検証が必要だ」としながらも、適切なサポートがあれば耳鳴りを有する人も仕事を続けやすくなる可能性があることを指摘している。Beukes氏は、「早期の支援は、個人の負担を軽減するだけでなく、労働能力低下による経済的損失の軽減にもつながる」と話している。

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末梢動脈疾患(PAD)の症状改善にメトホルミンは無効(解説:小川大輔氏)

 末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease;PAD)は、動脈に脂肪やコレステロールが蓄積する動脈硬化によって、腹部大動脈から下肢の動脈が狭くなり血流が制限される疾患である。これにより、歩行時の足の痛み(間欠性跛行)などの症状が生じる。症状はゆっくりと現れることが多いが、急激に悪化する場合もある。主な原因は動脈壁への脂肪、コレステロールなどの蓄積、いわゆるアテローム性動脈硬化と考えられている。PADの患者は動脈硬化を原因とする狭心症や脳梗塞を合併することが多いため、下肢だけでなく全身の動脈硬化症の評価も必要となる。 PADの治療としては、禁煙、生活習慣病の管理、運動療法、薬物療法、血行再建術などがある。PADの最大の原因は喫煙であり、禁煙は必須の治療である。糖尿病、高血圧症、脂質異常症があればそれらの治療も行う。運動療法は血流改善や新しい血管(側副血行路)の発達を促すため、痛みが生じない範囲でのウォーキングなどの運動は有効である。血行再建術は、運動療法やシロスタゾールなどの薬物療法で症状の改善が見られない場合や重症の場合に検討される。カテーテル治療(血管内治療)やバイパス手術はPADの部位や患者の状態を考慮して実施される。 PADは歩行障害を引き起こす重篤な循環器疾患であり、効果的な治療法が限られている。そこで今回非糖尿病のPAD患者に対し、2型糖尿病の治療薬であるメトホルミンを6ヵ月間投与し、歩行能力に与える効果を検証したランダム化二重盲検試験が実施された1)。その結果、メトホルミンはPAD患者の歩行能力改善には効果がないと結論付けられた。 メトホルミンは主に肝臓での糖新生を抑制したり、筋肉や脂肪組織でのブドウ糖の取り込みを促進したりすることによって血糖値を下げる効果がある。その他、血管内皮細胞におけるAMP活性化プロテインキナーゼの活性化、酸化ストレスの抑制、内皮型一酸化窒素合成酵素の活性化などの作用も報告されている2)。メトホルミンのこれらの“pleiotropic effects”による血管内皮機能の改善により、PAD患者の血流改善や歩行時間延長を期待され、この試験が実施された。 メトホルミンがPAD患者の歩行能力改善に効果がなかった理由として、喫煙率が約30%と高かったことや、インスリン抵抗性の強くない症例が多かったこと、また観察期間が6ヵ月と短かったことなどが考えられる。その他の可能性として、著者らはPAD患者の骨格筋や血管内皮でAMP活性化プロテインキナーゼがすでに最大活性化されているため、メトホルミンの追加効果が得られなかった可能性を考察している。 いずれにしても今回の研究でPADの歩行障害に対するメトホルミンの効果はないことが示された。今後は異なる作用機序を持つ治療薬の開発や、PADの複雑な病態に対処する新たなアプローチの研究が求められる。またそれ以前に、完全禁煙や肥満の是正、厳格な血圧管理など、現状できることをまずはきちんと行うことが重要である。

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nalbuphine:IPFに伴う慢性咳嗽に対する新しいアプローチ(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 本研究は、IPFに伴う慢性咳嗽に対する「ナルブフィン(nalbuphine)」の有効性と安全性を評価した第IIb相国際多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。nalbuphineは、オピオイドκ受容体作動薬かつμ受容体拮抗薬という今までにないユニークな機序を持つ薬剤であり、2026年3月現在、本邦未承認のオピオイドである。その鎮痛活性はモルヒネと同等とされている。8週間以上持続する咳嗽を有するIPF患者165例を、nalbuphine徐放剤27mg、54mg、108mg、またはプラセボを1日2回投与する群に無作為に割り付け、6週間観察した。結果として、主要評価項目である「24時間客観的咳頻度」は、プラセボ群の16.9%低下に対し、27mg群で47.9%、54mg群で53.4%、108mg群で60.2%低下と、用量依存的かつ統計学的に有意な改善を示した。また、高用量群(54mg・108mg)では、患者報告による主観的な咳の頻度、重症度、およびQOLスコアも有意に改善した。 本研究から得られる、実臨床に直結する重要な知見としては、(1)客観的・主観的な咳嗽の改善効果(2)安全性プロファイルと初期の副作用マネジメント(3)既存の抗線維化薬との併用が可能といったところが挙げられる。 まず効果に関するところであるが、IPF患者の最大で80%が咳嗽に苦しみ、これが疾患の進行や予後不良と関連することが知られている。既存の抗線維化薬では咳を十分に制御することができないこともよく知られている。本試験では最高用量(108mg)で客観的な咳の回数を約60%も減少させ、さらに患者自身の「咳が減った」「生活の質が上がった」という主観的評価(PRO)の改善も伴っていた。この客観的指標・主観的指標における改善効果が示されたことはIPFの対症療法としてきわめて強力な武器になると考えられる。 nalbuphineはμ受容体に対して「拮抗的」に作用するため、従来のモルヒネやコデインなどのμ受容体作動薬で懸念される呼吸抑制、多幸感、依存性のリスクが低いという利点がある。とくに高度の拘束性換気障害を持つ重症の間質性肺炎症例では呼吸抑制は注意すべき副作用であるが、そのようなリスクがないことは重要である。実際、本試験でも致死的な有害事象は認められなかった。一方、悪心(33.6%)、嘔吐(21.0%)、便秘(20.0%)といった消化器症状がプラセボ群(悪心5.0%、嘔吐・便秘0%)より高頻度で認められた。しかし、これらは用量を漸増する際に発現しやすく、悪心の持続期間の中央値は6日、嘔吐は2日と、継続によって耐性ができ消失する傾向があった。このような有害事象が判明しているので、実臨床で使用する際は、「導入初期の制吐剤・下剤の併用」と「低用量からのゆっくりとした漸増」といった上手な副作用対策で乗り切ることができるだろう。 本研究では対象症例の約77%がすでにニンテダニブやピルフェニドンといった抗線維化薬が導入されていた。抗線維化薬によるベースライン治療に上乗せする形で強力な鎮咳効果を発揮した点は、実臨床セッティングに非常に合致している。 有効性に関しては素晴らしい結果である一方、観察期間の短さは際立つ。対象患者の平均咳嗽期間が3.0〜5.4年であったように、IPFは慢性疾患であり、IPFによる咳嗽も慢性的な症状である。本試験の投与期間はわずか6週間であり、nalbuphineの効果が数ヵ月、数年単位で維持されるのか、薬剤耐性はどうか、また長期投与によって新たな有害事象が顕在化しないかは、現時点では不明なので今後の検証が望まれる。 本試験では持続的な酸素療法が必要な症例や、最近呼吸器感染症を起こした患者、すでにオピオイドやベンゾジアゼピンを使用している患者は除外されている。実際のIPF診療では、呼吸機能障害が高度で、在宅酸素が導入されている方や、心身の苦痛から睡眠薬・抗不安薬を併用している高齢患者が一定数存在する。こうした「よりフレイルで重症なリアルワールドの患者群」に対する有効性と安全性は明らかではない。 ただnalbuphineは、IPFによる難治性咳嗽という実臨床でも対応が困難なアンメットニーズに対し画期的な薬剤と考える。中枢性と末梢性の両面から咳反射を抑えつつ、呼吸抑制リスクを回避した点は高く評価できるといえよう。今後の症例の集積や長期データには注目したい。

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第304回 Lancet誌が怒りあらわに、ケネディ氏に向けたEditorialを掲載

INDEX保健福祉省長官が公衆衛生を破綻に追い込む危険な結果を導き出す愚策感染症の流行で結果は明確保健福祉省長官が公衆衛生を破綻に追い込む前回は米国によるイラン攻撃の影響を取り上げたが、米国の無茶苦茶ぶりはほかでも進行中である。何かといえば、昨年2月に保健福祉省長官に就任したロバート・ケネディ・ジュニア氏のことである。過去に本連載でもケネディ氏によるLancet誌、NEJM誌、JAMA誌の3誌の腐敗呼ばわり、米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨する小児向けワクチン接種スケジュールの大幅縮小、CDCにワクチン政策の助言・提案を行う外部専門家機関・ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員解任とワクチン懐疑派委員への入れ替え、mRNAワクチン開発への研究支援の縮小、自分の主張と反する科学的研究論文を掲載したジャーナルへの論文撤回要請などを取り上げてきた。しかし、ケネディ氏の傍若無人ぶりには、いよいよ目を背けたくなる。ケネディ氏の長官就任1年を経た2026年2月28日付のLancet誌407巻では、表紙にデカデカと“The destruction that Kennedy has wrought in 1 year might take generations to repair, and there is little hope for US health and science while he remains at the helm.”(ケネディがこの1年で引き起こした破壊は、修復するのに何世代もかかるかもしれない。そして彼が指揮を執り続ける限り、米国の保健と科学に希望はほとんどない)と謳い、冒頭では「Robert Kennedy Jr:1year failure(ロバート・ケネディ・ジュニア:1年間の失敗)」と題したEditorialが掲載された1)。詳細は省くが、これまでの数々の悪行を取り上げ、「ジャンクサイエンスや異端の信念が正当な説明もなく重視されている」「誤情報を拡散し、国の最も弱い立場にある人々を犠牲にして政治的な政策を推進し続けている」「議会から自身の決定について説明を求められても、彼は逃げ腰で攻撃的な態度をとってきた」と徹底的にこき下ろしている。危険な結果を導き出す愚策前述のようにケネディ氏は、小児向けワクチン接種スケジュールの大幅縮小により、従来は小児全員に推奨されていたインフルエンザ、B型肝炎、A型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、新型コロナウイルスの6種類のワクチンを推奨から外し、「高リスク群のみ」または「医師と個別に相談して決定」という枠組みに変更した。また、2025年10月、ケネディ氏が刷新したACIPは、「MMRV(麻疹・おたふくかぜ・風疹・水痘)ワクチン」の4歳未満への定期接種の推奨を取り消した。これにより州レベルでは、フロリダ州が接種義務解除に踏み切ったほか、低所得者層向けの無料接種プログラム(VFC)からMMRVワクチンが外れ、接種のハードルが上がった。そしてこれらの影響と思われる現実は深刻である。感染症の流行で結果は明確CDCによると、米国での2025年の麻疹感染報告は2,283例、2026年(3月6日時点)は1,281例で、今年はわずか3ヵ月で前年の半数超に達している。2024年が285例なので昨年は前年比で9倍弱、感染報告が増加したことになる。もちろんMMRVワクチンの非推奨は2025年秋のことなので、これが同年の麻疹患者増加の主要な原因とまでは言えない。しかし、2026年の急速な感染報告数の立ち上がりを見る限り、ケネディ氏の政策の影響は徐々に顕在化していると言わざるを得ない。しかも、ケネディ氏はこうした危機的な状況に対して何も具体的な対策を講じてはおらず、保健福祉省の公式声明でもコメントしていない。そもそも、ケネディ氏は以前からワクチン懐疑派であることは有名だが、昨年3月のFOX Newsでのインタビュー2)では麻疹ワクチンに関し、「ワクチンの効果は年間約4.5%低下する」「麻疹ワクチン接種が毎年死者を出している」と科学的根拠の乏しい発言をしている。ちなみにこの当時、麻疹が流行していたテキサス州では、米国では10年ぶりとなる麻疹による死者が発生し、2025年全体で麻疹による死者は3例が確認され、いずれもワクチン未接種者だったことがわかっている。この数字から算出される2025年の米国の麻疹感染者の死亡率は0.1%強。一般に先進国の麻疹感染者の死亡率は0.01%程度と言われるが、それより1桁高い数字だ。このままでは2026年はもっと悲惨なことになるかもしれない。また、インフルエンザについても懸念が生じ始めている。CDCの報告では、2025~26年シーズンの小児のインフルエンザによる死者は暫定値で90例。2024~25年シーズンの293例と比べればかなり少ない。ケネディ氏の考えに基づき、インフルエンザワクチンの接種推奨が外された中で、この数字は不思議に思われるかもしれない。ここはおそらく米国小児科学会(AAP)のケネディ氏に抗った努力の成果かもしれない。2025年9月にはAAP独自でインフルエンザワクチンの接種を推奨する声明を発表した3)ほか、今年1月にはアメリカの保険業界団体であるAHIP(America's Health Insurance Plans)と直接交渉し、インフルエンザワクチンなど推奨から外されたワクチン接種を2026年末までは無償提供を維持する旨の共同声明を発表している。もっとも2026年2月最終週の死者報告は11例だが、それ以前の3シーズンでは同時期に死者はいない。これも踏み込んで解釈すれば、ケネディ氏の政策決定の負の効果が表れているとは言えないだろうか。いずれにせよ国外では戦争、国内ではパンデミックというまさに内憂外患状態が今の米国である。ボーダレス化が一層加速する現在の世界で、この禍に日本が無縁でいられるだろうか?参考1)The Lancet. Lancet. 2026;407:825.2)FOX NEWS:We will make sure anyone who wants a vaccine can get one, says HHS secretary3)Committee on Infectious Diseases. Pediatrics. 2025;156:e2025073620.

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日本における妊娠および授乳中のブレクスピプラゾール投与、その安全性を評価

 ブレクスピプラゾール(BPZ)は、本邦において2018年に承認された抗精神病薬であり、現在では統合失調症やうつ病、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対する適応を取得し、広く臨床応用されている薬剤である。しかし、BPZを使用している母親から生まれた乳児に対する授乳中の影響は、これまでよくわかっていなかった。東北大学の福田 朱理氏らは、授乳中の母親によるBPZ使用の安全性を評価した。Breastfeeding Medicine誌オンライン版2026年2月6日号の報告。 2018~23年、東北大学病院において3組の母子を評価した。各母親は、妊娠中および出産後1ヵ月以内の授乳期間中、BPZ単剤療法(1~2mg/日)を継続していた。母子の健康状態、ならびに新生児および乳児の離脱症状または有害事象に関するデータを診療記録から収集した。 主な結果は以下のとおり。・3例すべての新生児および乳児において、離脱症状および重篤な有害事象は認められなかった。・3例すべての新生児および乳児において、軽度の新生児黄疸および座瘡が認められたが、これらはBPZ使用とは無関係と判断された。・しかし、粉ミルクによる授乳が時折必要であったことから、BPZが乳汁分泌量を減少させた可能性が示唆された。 著者らは「授乳中のBPZ単剤療法(1~2mg/日)は、産後1ヵ月以内の新生児および乳児に離脱症状または重篤な有害事象を引き起こさないことが示唆された。この初期のエビデンスは、BPZ単剤療法を受けている母親の母乳育児に関する意思決定に役立つ可能性がある」と結論付けている。

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胃がん術後の早期経口摂取、ガイドライン記載も実施は2割/日本胃学会

 胃がん術後の早期経口摂取は、ガイドラインで提唱されているにもかかわらず、実際に導入している施設は約2割に留まることがわかった。水戸済生会総合病院の丸山 常彦氏らはDPCデータを用いて全国472施設・2万6,097例を解析し、早期経口摂取の実施状況と臨床的意義を検討した。本研究「本邦における胃手術後の早期経口摂取の現状と臨床的意義―全国DPCデータ26,097例の解析」は、2026年3月4~6日に行われた第98回日本胃学会総会で発表され最優秀演題に選ばれるとともに、Surgical Oncology誌2026年2月号に掲載された。 丸山氏らは2017年8月~2022年7月の全国472施設のDPCデータベースより、ICD-10コードC16(胃の悪性腫瘍)に該当し、胃がん手術を施行された患者2万6,097例を抽出し、解析対象とした。術後2日までに1食でも食事のレセプトコードがある症例を「早期経口開始群」と定義し、それ以外を「非早期経口開始群」とした。両群の背景因子および術後入院期間を比較検討した。 主な結果は以下のとおり。・早期経口開始群は5,422例(20.8%)、非早期経口開始群は2万675例(79.2%)であった。・術式別の検討では、早期経口開始群には腹腔鏡下手術の症例が有意に多く含まれていた。幽門側胃切除では、腹腔鏡下手術の場合は開腹手術と比較して早期経口症例が有意に多かった(開腹:19.0%、腹腔鏡:24.7%)。しかし、胃全摘および噴門側胃切除においては、腹腔鏡下と開腹で有意差はなかった。・がん診療連携拠点病院、大規模病院において有意に早期経口症例が多く、術後経口開始時期は施設の運用方針に強く依存していると考えられた。・術後在院日数は早期経口開始群で有意に短縮した(9日vs.12日)。 本研究を主導した丸山氏に話を聞いた。――今回の研究に取り組んだきっかけや問題意識は? まずは、「ビッグデータ」が必要だと考えたことだ。「術後回復強化(Enhanced Recovery After Surgery:ERAS)」の概念は、消化器外科領域における周術期管理において広く普及してきているが、日本全体における現状や実態については十分に明らかにされていない。これまでの類似研究は単施設や多施設共同研究で症例数が限られており、実臨床とかけ離れてしまうリスクがあった。 DPCデータは全国の急性期病院をカバーしており、今回データを提供してもらったメディカル・データ・ビジョンはその約4割を保有しているため、全国472施設、2万6,000例という大規模データを解析することができた。加えてDPCデータには患者背景、既往歴や入院後の合併症、入院中に行われた医療行為すべてがレセプトコードとして残っており、医療行為に関してさまざまな解析が可能となった。――早期経口摂取を実施していた施設は2割に留まったが、この結果をどうみるか? 解析前は、全国の施設でそれほどばらつきはないと考えていた。私の施設ではほぼ100%の実施率であり、『胃治療ガイドライン2025年版』でも「2日目から経口摂取が可能」と明記されている。それにもかかわらず実施率2割というのは驚きだった。 早期経口摂取が広まっていない理由はいくつか考えられる。ガイドラインの記載には「特に離床に問題ない場合、第1日目からの飲水、第2病日からのsoft dietの開始、第7病日から第10病日の退院が可能と考えられる」とされているが、その前には「ただし、経口摂取時期を早めることにより合併症が増加するとの報告もあり、各施設において実施の是非に関して検討が必要である」という一文がある。この「各施設の検討」部分を重視しているケースがあるのだろう。――施設ごと、術式ごとの実施率の差をどうみるか? そもそも、早期経口摂取の大本となるERASプロトコルは、消化器分野では大腸がんで先行して広がった。一方で、胃の縫合部を伴う胃がん手術では、術後感染症などの懸念から早期経口摂取に慎重になる医師が多かった経緯がある。しかし、最近では、ランダム化比較試験でも早期経口摂取が腸管機能の回復に有利で、かつ安全に行えるとの報告があり1)、今回の研究も含め、早期経口摂取の利点がエビデンスとして蓄積しつつある。症例数の多い大規模施設では、こうしたエビデンスをクリニカルパスに取り入れ、実施していると考えられる。 腹腔鏡下手術において、幽門側胃切除術では実施率に有意差があったが、全摘術や噴門側胃切除術では差がなかった。これは全摘術や噴門側胃切除の場合には、吻合部の合併症が若干多いため、外科医が安全性を考慮して実施を控えていると考えられる。――今後、早期経口摂取の実施率を高めるために何が必要か? 今回の研究では、早期経口摂取と入院期間短縮に関連がみられたが、患者背景を適切に調整できていないという制限がある。大規模前向き試験の実施が難しい分野なので、DPCデータからどこまで患者背景をそろえられるかについて、現在取り組んでいる状況だ。エビデンスの質を高め、周知していくことが必要だろう。――学会発表の反応や質疑応答は? どの医師も自施設のデータしか知らないため、全国のデータは驚きをもって受け止められたようだ。座長からも「実施率2割は少ないですね」とのコメントが寄せられた。術式によって実施率が大きく違うこと、全摘術では腹腔鏡であっても早期経口摂取の実施率が低い点も関心を呼んだ。 質疑応答では、海外の医師から「早期経口開始によって肺炎などの合併症が増えないか?」という質問を受けた。今回は早期経口摂取と合併症発症との関連を解析できていない。DPCデータから合併症を抽出するのがやや煩雑になることが理由だが、ここは重要なポイントなので、今後の課題として取り組んでいく予定だ。

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PHSは過去のもの?それとも現役?/医師1,000人アンケート

 医療現場のICT化による業務効率化が期待される中、厚生労働省も補助金制度を設けるなど、生産性向上を目指す支援策が行われている。しかし、現場の環境整備・活用状況には施設ごとに大きな差がある状況と考えられる。CareNet.comでは会員医師(勤務医)1,025人を対象に、勤務先で実際どのような環境が整えられているか、デバイスの貸与・使用状況とメールの使用状況についてアンケートを実施した(2026年2月19~20日実施)。勤務先からPCの貸与ありと回答した医師は約3割 勤務先からのパソコン(ノート・デスクトップどちらでも)貸与状況について聞いた結果、「自分専用で貸与あり」と回答したのは23.6%、「共用で貸与あり」と回答したのは9.2%で計32.8%となり、およそ7割の医師は勤務先からのパソコンの貸与はないという結果となった。タブレットについてはより少なく、「自分専用で貸与あり」が5.7%、「共用で貸与あり」が4.8%にとどまった。 年代別にみると、パソコンの貸与率(自分専用あるいは共用のいずれかで貸与あり)は年齢が高くなるほど上がり、20代では26.7%だったのに対し、60代では41.2%であった。また、病床数が少ない施設ほど貸与率が高い傾向がみられ、20~99床の施設勤務の医師では貸与ありとの回答が44.2%だったのに対し、200床以上の施設勤務の医師では30.2%であった。PHSは約7割が貸与ありと回答、スマホは2割強にとどまる 勤務先からのPHS貸与状況については、「自分専用で貸与あり」と回答したのは63.2%、「共用で貸与あり」と回答したのは7.9%で計71.1%となり、およそ7割が勤務先からPHSを貸与されていることがわかった。一方でスマートフォンの貸与は自分専用・共用で計23.9%にとどまった。 PHSの貸与状況について年代別に大きな差はみられなかったが、スマートフォンについては20~30代で貸与率がやや高い傾向がみられた(20代:計31.1%、30代:計29.2%)。また、スマートフォンは20~99床の施設(計7.7%)と比較して200床以上の施設(計26.1%)勤務の医師で貸与率が高かった。 スマートフォン貸与ありと回答した医師を対象にその用途について複数回答で聞いた質問では、「内線通話」が79.7%と最も多く、「電子カルテの閲覧・入力」は13.4%、「医療画像などの閲覧」は13.0%にとどまった。「グループチャット」との回答は36.0%だった。業務用メアドをチェックするツール、主力は私物デバイスか 勤務日に業務用メールアドレスをチェックする頻度について、使用するデバイスごとに聞いた質問では、貸与デバイスについては「使用しない/貸与なし」が53.4%だったのに対し、私物デバイスでは「使用しない」と回答した医師は26.0%であった。私物デバイスで業務用メールアドレスを1日1回以上チェックすると回答した医師は63.3%に上った。 年代別にみると、1日5回以上と頻回にチェックすると回答した医師は、デバイスを問わず50~60代で多く、20~30代で少ない傾向がみられた。 貸与デバイスからのネット接続状況など、その他のアンケート結果・詳細は以下のページに掲載中。「勤務先からのデバイス貸与・メールの使用状況/医師1,000人アンケート」

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最新の人工股関節、30年後も92%が再置換術不要/Lancet

 カナダ・Queen's School of MedicineのVeronica Pentland氏らは、システマティックレビューおよび各国の人工関節レジストリデータのメタ解析を行い、最新の人工股関節全置換術の30年生存率、すなわち30年間再置換術を施行しない患者の割合は92%と推定されることを報告した。人工股関節の耐用年数を知ることは、患者、外科医、そして医療機関にとって重要である。過去20年間で、人工股関節における最新のベアリングの使用がインプラントの摩耗、さらには耐久性に大きな変化をもたらしているが、これら最新インプラントの耐用年数を検討した大規模な研究はこれまでなかった。著者は、「今回の結果は、ベアリングの摺動面技術の進歩により人工股関節の長期耐久性が大幅に向上していることを示しており、患者への説明、医療計画の策定および医療機器規則に影響を及ぼす可能性がある」とまとめている。Lancet誌2026年2月28日号掲載の報告。臨床研究と8ヵ国のレジストリから人工股関節全置換術の30年生存率を推定 研究グループは、成人患者の初回人工股関節全置換術における最新のベアリング摺動面技術にのみ着目して評価を行った(高度架橋ポリエチレン[XLPE]vs.金属あるいは第3世代・第4世代セラミックヘッドおよびセラミック-on-セラミック)。 まず、MEDLINEおよびEmbaseを検索し、2024年6月13日までに発表された最低10年追跡しアウトカムを報告している論文を、固定法や手術アプローチにかかわらず特定した。次に、さまざまなベアリングの組み合わせにおけるあらゆる原因による再置換術を評価した8ヵ国の人工関節レジストリのデータを統合してメタ解析を行い、さらに、レジストリデータに基づく多変量ランダム効果モデルを用いて、抽出データを外挿し、30年までの生存率を推定した。 主要アウトカムは、初回人工股関節全置換術からあらゆる原因による初回再置換術までの期間(特定の時点における再置換されていないインプラントの割合)と定義した。全体で92.1%の患者が30年間再置換を受けない 臨床研究29件(5,203例)および8ヵ国のレジストリ(189万9,034例)から、計190万4,237例の人工股関節全置換術を特定した。 29件の臨床研究の統合解析では、ランダム効果モデルを用いた全生存率は全体で0.97(95%信頼区間[CI]:0.96~0.98)であった。 ベアリングの材質別では、金属-on-XLPEが0.97(95%CI:0.95~0.98)、セラミック-on-XLPEが0.96(95%CI:0.93~0.98)、セラミック-on-セラミックが0.97(0.96~0.98)であった。全体として、すべてのベアリングタイプにおいて、15年生存率は94%を超えた。 レジストリデータの統合解析では、全生存率は20年時点で93.6%(95%CI:92.3~94.7)と推定された。 各ベアリング材質の10年、15年、および20年生存率推定値は、臨床研究の統合解析とレジストリの統合解析で一致していた。 これらのデータを外挿すると、全体で25年生存率は92.8%(95%CI:91.2~94.2)、30年生存率は92.1%(95%CI:90.1~93.7)と予測された。

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GLP-1受容体作動薬、物質使用障害の予防や治療に有効か/BMJ

 GLP-1受容体作動薬の使用は、さまざまな物質使用障害(SUD)の発症リスク低下と一貫して関連し、複数の物質タイプにわたる幅広い予防効果があること、また、SUD既往患者においても有害な臨床アウトカムのリスク低下に関連していることが、米国退役軍人省セントルイス・ヘルスケアシステムのMiao Cai氏らによる観察研究の結果で示された。GLP-1受容体作動薬の使用がアルコール、タバコ、大麻使用障害の発症および再発リスクを低下させることが示されていたが、他の物質に関するエビデンスや、SUD既往患者の臨床アウトカムの改善に有効かどうかを評価する大規模研究は不足していた。著者は、「今回のデータは、GLP-1受容体作動薬がさまざまなSUDの予防と治療の両方において潜在的な役割を果たす可能性を示唆しており、さらなる評価が必要である」とまとめている。BMJ誌2026年3月4日号掲載の報告。退役軍人の医療記録を用いて8件の実薬対照比較試験をエミュレーション 研究グループは、米国退役軍人省の電子医療記録を用いて新規投与開始者に関する8件の実薬対照標的試験エミュレーション(target trial emulation)を行った。内訳は、SUD既往のない患者における新規SUD発症に関する7試験(プロトコール1)と、SUD既往患者における有害アウトカムに関する1試験(プロトコール2)であった。 2型糖尿病を有する米国退役軍人60万6,434例をベース集団とし、患者を2つのプロトコールのいずれかに割り付け、最大3年間追跡した。 プロトコール1(主要試験)では、GLP-1受容体作動薬新規投与開始者12万4,001例およびSGLT2阻害薬新規投与開始者40万816例の計52万4,817例が、プロトコール2では、それぞれ1万6,768例および6万4,849例の計8万1,617例が対象となった。 主要アウトカムは、アルコール、大麻、コカイン、ニコチン、オピオイドの使用障害、その他のSUD発症、およびこれらの複合アウトカムとした。SUD既往患者における有害アウトカムには、SUD関連の救急外来受診、SUD関連入院、SUD関連死、薬物過剰摂取、自殺念慮または自殺企図などが含まれた。 ハザード比(HR)および3年間の純リスク差(NRD、1,000人当たり)を、逆確率重み付けを用いた原因特異的Cox生存モデルに基づいて報告した。アルコール、大麻、コカイン、ニコチン、オピオイド、他のSUD発症リスクの低下と関連 SGLT2阻害薬の開始と比較し、GLP-1受容体作動薬の開始は以下の使用障害のリスク低下と関連していた。・アルコール(HR:0.82[95%信頼区間[CI]:0.78~0.85]、NRD:-5.57[95%CI:-6.61~-4.53])・大麻(0.86[0.81~0.90]、-2.25[-3.00~-1.50])・コカイン(0.80[0.72~0.88]、-0.97[-1.37~-0.57])・ニコチン(0.80[0.74~0.87]、-1.64[-2.19~-1.09])・オピオイド(0.75[0.67~0.85]、-0.86[-1.19~-0.52]) また、主要アウトカムとした、その他のSUD発症(0.87[0.81~0.94]、-1.12[-1.68~-0.55])、複合アウトカム(0.86[0.83~0.88]、-6.61[-7.95~-5.26])のリスク低下も認められた。 SUD既往患者では、GLP-1受容体作動薬の投与開始は、次のリスク低下と関連していた。・SUD関連救急外来受診(HR:0.69[95%CI:0.61~0.78]、NRD:-8.92[-11.59~-6.25])・SUD関連入院(0.74[0.65~0.85]、-6.23[-8.73~-3.74])・SUD関連死(0.50[0.32~0.79]、-1.52[-2.32~-0.72])・薬物過剰摂取(0.61[0.42~0.88]、-1.49[-2.43~-0.55])・自殺念慮または自殺企図(0.75[0.67~0.83]、-9.95[-13.14~-6.77]) 治療アドヒアランスに基づく解析でも、新規SUD発症およびSUD既往患者における有害アウトカムの両方について、治療開始に基づく解析と一貫した結果が示された。

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身体活動習慣を維持することが中年期の累積ストレスの少なさと関連

 成人期の初期から日常的に運動などで体を使っていないと、中年期に入った時点で累積ストレスによる身体への影響が強く現れるとする研究結果が報告された。オウル大学(フィンランド)のMaija Korpisaari氏らが、累積ストレスの程度を意味する「アロスタティック負荷」をスコア化して過去の身体活動習慣との関連を検討した結果であり、詳細は「Psychoneuroendocrinology」2月号に掲載された。 この研究で検討したアロスタティック負荷とは、慢性的なストレスによって引き起こされる心身の生理学的な消耗を指す。アロスタティック負荷の標準化された評価方法はまだ確立されていないが、本研究では先行研究を基に、13項目(BMI、ウエスト周囲長、血圧、血清脂質、空腹時血糖値、HbA1c、心拍数、高感度C反応性蛋白、コルチゾールなど)からスコア化する指標と、より絞り込んだ5項目からスコア化する指標を用いて評価した。 解析対象は1966年にフィンランドで生まれ、31歳および46歳になった時点で調査に参加した3,358人(男性42.6%)。世界保健機関(WHO)の身体活動に関するガイドラインの推奨(週に中~高強度運動を150分以上)を満たしているか否かに基づき、全体を以下の4群に分類した。一つ目は31歳と46歳のいずれの時点においてもガイドラインの推奨を満たしていた運動維持群(12.4%)、二つ目はいずれの時点においてもガイドラインの推奨を満たしていなかった非運動群(55.4%)、三つ目は31歳時点では満たしていなかったものの46歳時点では満たしていた運動量増加群(19.4%)、四つ目は31歳時点では満たしていたものの46歳時点では満たしていなかった運動量減少群(12.8%)。 結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、教育歴、婚姻状況、仕事上のストレスの認識)の影響を調整し、運動維持群を基準とする解析の結果、身体活動量が少ない群ではアロスタティック負荷が強いことが明らかになった。例えば13項目のスコアでは、非運動群は負荷が18%高く、運動量減少群は10%高いことが示された。また5項目のスコアでは、非運動群は17%高く、運動量減少群は有意差がなかった。運動量増加群に関しては、13項目の指標と5項目の指標のいずれにおいても、運動維持群と有意差がなかった。 論文の筆頭著者であるKorpisaari氏は、「この研究結果は、身体活動はライフステージの特定の時期のみに重要というわけではなく、成人期を通して習慣的に運動を続けることで、慢性的なストレスの有害な影響から身体を守ることができる可能性を示唆している」と述べている。ただし研究者らは、この関連性を確認し、身体活動がストレス負荷をどのように軽減するかをより深く理解するため、さらなる研究の必要性も指摘している。

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エクソーム解析で家族性高コレステロール血症の遺伝子変異保有者を特定可能

 エクソーム解析により、家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia;FH)の遺伝子変異保有者を特定できるという研究結果が、「Circulation: Genomic and Precision Medicine」に11月12日掲載された。 米メイヨー・クリニックのN. Jewel Samadder氏らは、地理的にも人種的にも多様な米国内の3地域から参加者を募集し、エクソーム解析を用いた生殖細胞系列遺伝子検査によってFH遺伝子変異保有者を特定できるかを検討した。研究には、計8万4,413人が参加した。 解析の結果、FH関連遺伝子の病的バリアントおよび病的である可能性の高いバリアントを有する対象者が419人特定され(有病率0.50%)、内訳はAPOBが116人、LDLRが298人、PCSK9が5人であった。対象者の66%が女性で、平均BMIは27.3kg/m2、12.3%が糖尿病の既往を報告した。39.5%が高トリグリセライド血症(150mg/dL以上)を、56.7%がHDLコレステロール低値(50mg/dL未満)を呈していた。コレステロール低下薬を服用していなかったのは27.5%で、FHキャリアのうちLDLコレステロールの目標値を達成していたのは10%にとどまった。さらに、コホートの22.4%が冠動脈疾患の既往を報告していた。遺伝学的に新規にFHキャリアと診断された人が約90%を占め、そのうち現行の臨床診断基準を満たしていたのは30.8%にとどまった。 Samadder氏は、「現行のガイドラインでは血中コレステロール値や家族歴に基づいて遺伝学的検査の対象者を判定しているが、今回の研究結果はそのアプローチに盲点があることを示している」と述べている。 なお、複数の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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脳外傷後の迅速な神経リハがアルツハイマー病のリスクを抑制する

 外傷性脳損傷(TBI)がアルツハイマー病(AD)や認知症のリスク上昇と関連していることが疫学研究から示されている。一方、TBI後の神経リハビリテーション(神経リハ)がそのリスクを抑制し得ることを示唆する、複数の研究結果が報告されている。ただし、神経リハ開始のタイミングによってAD等のリスクが異なるのかは明らかでない。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学のAustin A. Kennemer氏らはこの点について、リアルワールドの医療情報データベースであるTriNetXを用いて、米国内の大規模医療機関69施設の患者データを解析し検証した。結果の詳細は「Journal of Alzheimer's Disease」に10月9日掲載された。 2000~2019年に中等度または重度のTBIと診断され6カ月以内に神経リハを受けていた50~90歳の患者から、TBI前にAD、認知症、軽度認知障害(MCI)の診断またはAD関連薬剤の処方記録がある患者を除外した3万7,081人を抽出。このうち2万8,157人は神経リハがTBI後1週間以内に開始され、8,924人は1週間以上経過してから開始されていた。 人口統計学的因子(年齢、性別、人種/民族)、社会経済的因子(教育歴、雇用状況、居住環境など)、およびTBIや認知症のリスクに影響を及ぼし得る疾患等の既往歴(糖尿病、肥満、心血管疾患、COPD、薬物乱用など)について傾向スコアマッチングを行い、各群8,818人からなるコホートを作成。3年後および5年後の追跡調査時点のAD発症を主要アウトカム、MCI、認知症、およびAD関連薬剤の処方を副次的アウトカムとしてリスクを比較した。なお、神経リハ早期開始群は平均年齢64.0±9.09歳、女性41.1%、後期開始群は同順に63.9±9.05歳、40.9%だった。 Cox比例ハザードモデルでの検討の結果、神経リハ早期開始群の後期開始群に対するADリスクは、3年後(ハザード比〔HR〕0.59〔95%信頼区間0.41~0.86〕)および5年後(HR0.70〔同0.52~0.94〕)ともに有意に低いことが示された。同様に、認知症(3年後がHR0.77〔0.68~0.88〕、5年後が0.88〔0.79~0.98〕)、MCI(同順に0.71〔0.60~0.84〕、0.72〔0.62~0.84〕)、AD関連薬剤の処方(0.69〔0.56~0.84〕、0.79〔0.66~0.93〕)のいずれも、早期開始群の方が有意に低リスクだった。 Kennemer氏は、「われわれの研究結果は、TBI後の迅速な神経リハ開始が、長期予後にとり重要であることを示している」と述べている。

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「ポイント@ギフト(dポイント)」交換レート変更のお知らせ

このたび、ケアネットポイントの交換先である「ポイント@ギフト(dポイント)」につきまして、2026年4月1日(水)13:00より、交換レートを以下のとおり変更いたします。【変更前】 3月31日(火)13:59まで100pt=95ポイント分【変更後】 4月1日(水)13:00より100pt=90ポイント分※2026年3月31日(火)13:59までにお申し込みいただいた分は、現行のレート(100pt=95ポイント分)で交換いたします。※2026年3月31日(火)14:00~4月1日(水)13:00に、ポイント交換システムのメンテナンスを実施いたします。状況により、メンテナンスの時間帯は前後する場合がございます。ご利用中の皆さまにはご不便をおかけしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。ケアネットポイントの交換はこちらよりお手続きください。https://point.carenet.com/exchange※ログインが必要です

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