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アルツハイマー病のアジテーション、日本におけるブレクスピプラゾールの長期安全性

 アジア人アルツハイマー病患者におけるアジテーション(攻撃的行動および発言、非攻撃的行動の亢進、焦燥を伴う言動等)の治療に対するブレクスピプラゾールの長期安全性および有効性は、明らかとなっていない。香川大学の中村 祐氏らは、第II/III相試験において10週間の二重盲検投与期間を完了した日本人患者におけるブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日を14週間投与した場合の安全性および有効性を評価した。Journal of Alzheimer's Disease Reports誌2025年4月16日号の報告。 本試験は、多施設共同第III相オープンラベル試験である。元試験において、プラセボまたはブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日の10週間投与を完了した患者を、本延長試験に組み入れた。主要エンドポイントは、有害事象の発現頻度とした。 主な結果は以下のとおり。・インフォームドコンセントが得られた183例のうち、ブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日を14週間投与した患者は164例(元試験ブレクスピプラゾール投与群:102例、元試験プラセボ投与群:62例)、試験全体の完了率は71.3%。・治療中に発現した有害事象は、全体で90.2%(元試験ブレクスピプラゾール投与群:90.2%、元試験プラセボ投与群:90.3%)。・有害事象のほとんどは、軽度または中等度であり、新たな安全性シグナルは認められなかった。・14週目(最終観察持ち越し)のCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)合計スコアのベースラインからの平均変化量は、−4.0±9.8であった。 著者らは「アルツハイマー病に伴うアジテーションを有する日本人患者において、ブレクスピプラゾール1mg/日または2mg/日による合計24週間までの投与は、忍容性はおおむね良好であり、有効性の維持も確認された」と結論付けている。

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心血管イベント高リスクのASCVD/FHヘテロ接合体、obicetrapibが有効/NEJM

 最大耐用量の脂質低下療法を受け、心血管イベントのリスクが高いアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)または家族性高コレステロール血症(FH)ヘテロ接合体の患者において、プラセボと比較してCETP阻害薬obicetrapibはLDLコレステロール(LDL-C)値を有意に低下させ、安全性プロファイルは大きな差はないことが、オーストラリア・Monash大学のStephen J. Nicholls氏らBROADWAY Investigatorsが実施した「BROADWAY試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月7日号で報告された。国際的な無作為化プラセボ対照比較試験、84日目までのLDL-C値の変化率を評価 BROADWAY試験は、心血管イベントのリスクが高い患者におけるobicetrapibの脂質値に及ぼす効果を評価し、安全性と副作用プロファイルを明らかにすることを目的とする無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年12月~2023年8月に、中国、欧州、日本、米国の188施設で患者の無作為化を行った(NewAmsterdam Pharmaの助成を受けた)。 年齢18歳以上、FHヘテロ接合体またはASCVDの既往歴を有し、最大耐用量の脂質低下療法を受けている患者を対象とした。LDL-C値≧100mg/dLまたは非HDLコレステロール(非HDL-C)値≧130mg/dLの患者、あるいはLDL-C値55~100mg/dLまたは非HDL-C値85~130mg/dLで少なくとも1つの心血管リスク因子を持つ患者を適格とした。エゼチミブ、bempedoic acid(ベムペド酸)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)阻害薬の使用の有無は問わなかった。 これらの患者を、obicetrapib(10mg、1日1回)を経口投与する群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、365日間投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから84日目までのLDL-C値の変化率とした。365日目までの変化率も良好 2,530例(平均年齢65歳、女性34%)を無作為化の対象とし、obicetrapib群に1,686例、プラセボ群に844例を割り付けた。全体のベースラインの平均LDL-C値は98mg/dL、平均HDL-C値は49mg/dL、平均BMIは29であり、糖尿病が38%、ASCVDが89%、FHヘテロ接合体が17%であった。91%がスタチン(70%が高強度スタチン)、27%がエゼチミブ、4%がPCSK9阻害薬の投与を受けていた。 ベースラインから84日目までのLDL-C値の最小二乗平均変化率は、プラセボ群が2.7%(95%信頼区間[CI]:-0.4~5.8)であったのに対し、obicetrapib群は-29.9%(95%CI:-32.1~-27.8)と有意な差を認めた(群間差:-32.6%ポイント[95%CI:-35.8~-29.5]、p<0.001)。84日目の平均(±SD)LDL-C値は、obicetrapib群が62.8(±37.3)mg/dL、プラセボ群は92.3(±35.1)mg/dLであった。 また、84日目にLDL-C値<40mg/dLを達成した患者の割合は、obicetrapib群27.9%、プラセボ群1.1%、<55mg/dL達成率はそれぞれ51.0%および8.0%、<70mg/dL達成率は68.4%および27.5%だった。 ベースラインから4つの評価時点までのLDL-C値の最小二乗平均変化率(副次エンドポイント)は、30日目(群間差:-36.6%ポイント[95%CI:-39.1~-34.2])、180日目(-32.7%ポイント[-36.0~-29.4])、270日目(-30.2%ポイント[-33.6~-26.8])、365日目(-24.0%ポイント[-27.9~-20.1])のいずれにおいてもobicetrapib群で良好であった(すべてp<0.001)。 また、ベースラインから84、180、365日目までのアポリポ蛋白B、非HDL-C値、HDL-C値の最小二乗平均変化率もobicetrapib群で優れた(すべてp<0.001)。有害事象は両群とも約6割、重症度などにも差はない 試験期間中の有害事象は、obicetrapib群で59.7%、プラセボ群で60.8%に発現した。有害事象の重症度、試験レジメンとの関連、投与中止の理由に関して両群間に明確な差を認めず、頻度の高い有害事象(COVID-19、高血圧症、上気道感染症、上咽頭炎、関節痛、尿路感染症など)の発現率も両群で同程度だった。 心血管イベント(冠動脈心疾患死、非致死的心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建術)はobicetrapib群で4.2%、プラセボ群で5.2%に発生した。血圧には、両群ともベースラインからの明らかな変化はみられなかった。 著者は、「これらの知見は、心血管イベントのリスクが高い患者において、obicetrapibが脂質低下療法の補助薬として有用である可能性を示唆する」「本薬が、ASCVDの予防に有用な治療薬となるかについては、さらなる臨床試験で検討する必要がある」としている。

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希少疾病の診断ラグへの提言を入れた希少疾病白書を刊行/アレクシオン

 アレクシオンファーマは、希少疾患領域での貢献を目指すため、ヘルスエクイティ(医療の公平性)の実現に向けて大きな課題となっている診断の遅れ(診断ラグ)の分析、およびその解決策を提示した『希少疾患白書「診断ラグ」の実態と解消に向けての提言~最新テクノロジーと社会の力で実現するヘルスエクイティ~』を刊行した。 希少疾患患者は、確定診断されるまで長い時間がかかることが多く、その影響は患者本人だけでなく、医療システム全体にも及んでいる。この実情を踏まえ、診断ラグが希少疾患患者の医療の公平性の実現における大きな障壁であると問題提起し、わが国における希少疾患患者を取り巻く現状と課題を整理する。 同書では、診断ラグが、希少疾患患者にもたらす負担について、直接的な医療費を含め定量的なデータで示しているほか、診断の迅速化や医療アクセスの公平性を高めるために、中長期的な視点に立った現実的かつ実行可能な提言も記載している。 同書が明示する主なデータは以下のとおり。・希少疾患患者の診断までに要した期間が平均3.4年間・診断に5年以上かかるケースは全体の35%(おおよそ3人に1人)・希少疾患患者の59%が誤診を経験している・希少疾患患者の医療費は一般対照群と比較して約3.4倍、通院日数は約2.2倍に達する こうした事情を踏まえて同書では、希少疾患患者が直面する実態とさまざまな課題を分析するとともに、診断ラグの解消に向けた下記の6つの提言を行っている。(提言1)新生児マススクリーニング検査対象疾患を拡大するとともに、重症新生児に全ゲノム検査を取り入れるための環境整備を推進する(提言2)医師が早期に疾患に気付けるためのAI診断支援ツール(SaMDなど)の活用を促進する(提言3)希少疾患の“Center of Excellence”を構築し、非専門医・専門医のつながりを強化する(提言4)希少疾患に関するデータが早期診断に活用される環境整備を推進する(提言5)患者の声が反映された社会の実現に向け、患者団体などの意見の政策への反映の推進、およびそれに必要となる資金基盤の強化を支援する(提言6)政府が推進する中核的取り組みに、希少疾患の診断ラグ/診断ロス解消に向けた施策を組み込む 同社では、「この白書が、希少疾患および診断ラグについて考えるきっかけとなり、社会全体での対話を促すとともに、希少疾患に関わる多様な関係者が連携し、迅速な診断、治療、ケアの実現に向けた具体的な解決策の実行へとつながることを願っている。誰もが正確な診断と適切な支援を受けられる未来を実現するためには、関係者の協働が不可欠と考える」とコメントしている。【白書の主な目次】・背景・希少疾患患者のヘルスエクイティの現状・希少疾患の診断ラグ/診断ロスの解消に向けた提言・診断ラグ/診断ロスの解消によるヘルスエクイティの実現・補足資料・主な用語・略語の説明・参考文献

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HR+/HER2-進行乳がん、ESR1変異検査を行うタイミングは?(PADA-1)/ESMO BREAST 2025

 第III相PADA-1試験では、ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)進行乳がんに対する1次治療としてアロマターゼ阻害薬とパルボシクリブの併用療法を受けた患者のうち、疾患進行前に血液中で検出されたESR1変異を有する患者において、フルベストラントとパルボシクリブ併用療法への早期切り替えの臨床的有用性が示されている。フランス・キュリー研究所のFrancois Clement Bidard氏は、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2025、5月15~17日)で同試験の2次解析結果を発表し、血中ESR1変異累積発現率は約40%で、その検出時期は一様でなく、治療開始後6ヵ月以内の検出例は少数であり、3年以降は減少することが確認された。 本研究では、アロマターゼ阻害薬とパルボシクリブの併用による1次治療中の、転移を有するHR+/HER2-乳がん患者1,017例が対象とされた。組み入れ時、1ヵ月後、その後2ヵ月後おきにリキッドバイオプシーで採取した血中循環腫瘍DNA(ctDNA)からdroplet digital PCR(ddPCR)を用いてESR1変異の状況がモニタリングされ、以下の2群に分類された:・疾患進行が認められたが血中ESR1変異を認めなかった395例・画像診断による病勢進行の有無にかかわらず血中ESR1変異上昇が認められた283例 ESR1変異発現の関連因子を評価するために、2項ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・PADA-1試験における血中ESR1変異の累積発現率は、評価可能な患者の41.7%であった。・血中ESR1変異の検出には経時的なばらつきがあり、アロマターゼ阻害薬とパルボシクリブの投与開始後6ヵ月間はほとんど検出されず、また投与開始後3年経過すると発現率は減少した。・以下のベースライン因子は、疾患進行が認められたが血中ESR1変異を認めなかった症例との比較において、血中ESR1変異上昇と独立して関連が認められた:骨転移あり(骨転移のみのオッズ比[OR]:2.7[95%信頼区間:1.5~4.8]、骨転移+他臓器転移のOR:2.1[1.3~3.4])エストロゲン受容体発現の高さ([10%増加ごとに]OR:1.1[1.01~1.3])年齢の若さ([10歳若いごとに]OR:1.3[1.1~1.45])LDH高値(OR:1.6[1.1~2.3])

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EGFR陽性NSCLC、EGFR-TKI後のアミバンタマブ+化学療法が承認/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2025年5月19日、アミバンタマブ(商品名:ライブリバント)と化学療法の併用療法について「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺」に対する用法及び用量の一部変更の承認を取得したことを発表した。本承認により、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)による治療後に病勢進行が認められた非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対し、カルボプラチンおよびペメトレキセドとの併用においてアミバンタマブが使用可能となる。 本承認は、オシメルチニブ単剤療法で病勢進行が認められたEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA-2試験」の結果1)に基づくものである。本試験において、アミバンタマブ+化学療法群は化学療法群と比較して、主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し(ハザード比:0.48、95%信頼区間:0.36~0.64、p<0.001)、PFS中央値はアミバンタマブ+化学療法群6.3ヵ月、化学療法群4.2ヵ月であった。また、確定奏効率はアミバンタマブ+化学療法群53%、化学療法群29%であった。<今回追加された「効能又は効果に関連する注意」「用法及び用量」「用法及び用量に関連する注意」の主な記載>2)・効能又は効果に関連する注意 EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による治療後に増悪した患者に対してカルボプラチン及びペメトレキセドナトリウムと併用する場合は、臨床試験に組み入れられた患者の前治療歴等について、「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。[17.1.3参照]・用法及び用量EGFR遺伝子エクソン20挿入変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺にはA法、EGFR遺伝子変異(エクソン20挿入変異を除く)陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺にはA法又はB法を使用する。 A法:カルボプラチン及びペメトレキセドナトリウムとの併用において、3週間を1サイクルとし、通常、成人にはアミバンタマブ(遺伝子組換え)として以下の用法及び用量で点滴静注する。なお、患者の状態により適宜減量する。 <略>B法:ラゼルチニブメシル酸塩との併用において、4週間を1サイクルとし、通常、成人にはアミバンタマブ(遺伝子組換え)として以下の用法及び用量で点滴静注する。なお、患者の状態により適宜減量する。<略>・用法及び用量に関連する注意EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による治療歴のないEGFR遺伝子変異(エクソン20挿入変異を除く)陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺に対するA法の有効性及び安全性は確立していない。 本剤、ラゼルチニブ、カルボプラチン及びペメトレキセドナトリウムの併用投与は行わないこと。

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アシミニブが初発CMLに効能追加/ノバルティス

 ノバルティス ファーマは2025年5月19日、アシミニブ(商品名:セムブリックス)が初発の慢性骨髄性白血病(CML)に対する効能追加の承認を取得したことを発表した。 本剤は、2022年3月28日に「前治療薬に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病」に対して承認されている。なお、今回の効能追加に伴い、40mg1日2回投与から、80mg1日1回投与に変更することが承認された。 この承認は、国際共同第III相試験(J12301/ASC4FIRST試験)のデータに基づくもの。本試験は、初発のCML成人患者を対象に医師選択の第1世代または第2世代TKI(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ)と直接比較した多施設共同非盲検無作為化試験であり、医師選択TKIに対するアシミニブの優越性が検証された。 今回の承認で改訂された「効能又は効果」「用法及び用量」は以下のとおり。■効能又は効果改訂前:前治療薬に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病改訂後:慢性骨髄性白血病■用法及び用量:改訂前:通常、成人にはアシミニブとして1回40mgを1日2回、空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。改訂後:通常、成人にはアシミニブとして1回80mgを1日1回、空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

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若年層での脳梗塞、意外な疾患がリスクに?

 片頭痛、静脈血栓、腎臓病や肝臓病、がんなどは、一般に脳梗塞リスクを高めるとは考えられていない。しかし、一般的な心臓の構造的異常を有する50歳未満の人においては、このような因子が脳梗塞リスクを2倍以上に高める可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。ヘルシンキ大学病院(フィンランド)脳卒中ユニットの責任者であるJukka Putaala氏らによるこの研究の詳細は、「Stroke」に4月17日掲載された。 Putaala氏は、「われわれは、これまで脳梗塞のリスク因子と見なされていなかった因子(以下、非伝統的リスク因子)、特に片頭痛がもたらす影響に驚かされた。片頭痛は、若年成人の脳卒中発症の主なリスク因子の1つであると思われる」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、原因不明の脳梗塞である潜因性脳梗塞(cryptogenic ischemic stroke;CIS)を発症して間もない患者を対象に、修正可能な伝統的リスク因子、非伝統的リスク因子、および女性特有のリスク因子の影響の大きさと、それらと若年発症型CISとの関連を検討した。対象は、ヨーロッパの19施設の18〜49歳のCIS患者523人(平均年齢41歳、女性47.3%)と対照523人とした。CIS患者の37.5%には、卵円孔開存(PFO)が認められた。PFOは、胎児期に右心房と左心房の間にある壁(心房中隔)に開いていた孔(卵円孔)が出生後も閉じずに残存している状態を指す。解析は、臨床的に意義のあるPFO(心房中隔瘤または大きな右左シャントを伴う場合と定義)の有無で層別化して行った。 伝統的なリスク因子としては、高血圧、糖尿病、高コレステロール、喫煙、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満、不健康な食事、運動不足、大量飲酒、ストレス、うつ病の12項目、非伝統的なリスク因子としては、慢性的な他臓器不全(炎症性腸疾患、慢性腎臓病、慢性肝炎、自己免疫疾患、血液疾患/血栓傾向)、静脈血栓症の既往、悪性腫瘍の既往、前兆を伴う片頭痛、違法薬物の現在の使用の10項目、女性特有のリスク因子としては、妊娠糖尿病の既往、妊娠高血圧の既往、妊娠合併症の既往など5項目が検討された。 PFOのないCIS患者では、対照群に比べて、リスク因子が1つ増えるごとにCISリスクが有意に上昇していた。CIS発症リスクは、伝統的なリスク因子で約40%(オッズ比1.417、95%信頼区間1.282〜1.568)、非伝統的なリスク因子で約70%(同1.702、1.338〜2.164)、女性特有のリスク因子で約70%(同1.700、1.107〜2.611)高かった。一方、PFOのあるCIS患者では、非伝統的なリスク因子についてのみ有意なリスク上昇が見られ、リスク因子が1つ増えるごとのCISの発症リスクは165%(同2.656、2.036〜3.464)上昇していた。 さらに、人口寄与危険割合(PAR)を算出して、当該リスクがなければどの程度のCISを防げたかを推定したところ、PFOがないCISでは、伝統的リスク因子が64.7%、非伝統的リスク因子が26.5%、女性特有のリスク因子が18.9%のCIS発症に寄与していると推定された。一方、PFOがあるCISでは、それぞれ33.8%、49.4%、21.8%がCIS発症に寄与していると推定された。CISの最も強い寄与因子は前兆を伴う片頭痛であり、PFOありのCISの45.8%、PFOなしのCISの22.7%は前兆を伴う片頭痛により説明されると推定された。前兆を伴う片頭痛の影響は、特に女性で顕著であった。 Putaala氏は、「これらの結果は、医療専門家が、より個別化されたリスク評価と管理の方法を考えるべきであることを示している。また、若い女性には、片頭痛の既往歴やその他の非伝統的なリスク因子の有無について確認するべきだ」と述べている。

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帯状疱疹ワクチンで認知症の発症リスクを低減できる可能性(解説:小金丸博氏)

 「帯状疱疹ワクチンの接種が、認知症の発症リスクを低減する可能性がある」。この仮説は近年の観察研究で示唆されてきたが、2025年になってそれを強く支持する2つの高品質な準実験的研究がNature誌およびJAMA誌に相次いで報告され、大きな注目を集めている。 まず、先行研究としてウェールズでの研究結果が2025年4月2日号のNature誌に報告された。2013年にウェールズで導入された帯状疱疹ワクチン接種プログラムでは、1933年9月2日以降に生まれた人が接種対象となり、それ以前に生まれた人は対象外とされた。この明確な誕生日による区分を利用し、年齢のみがわずかに違うと推定される2つの集団を比較することで、交絡因子の影響を最小限に抑えた。その結果、ワクチン接種者では、7年間の追跡期間中に認知症と診断されるリスクが20%低下(3.5%ポイントの絶対リスク減少)し、この効果はとくに女性で顕著であった。 続いて今回、オーストラリアでの研究結果がJAMA誌オンライン版2025年4月23日号に報告された。2016年にオーストラリアで導入された帯状疱疹ワクチン(商品名:Zostavax)の無料接種プログラムに基づき、誕生日による接種適格性を利用して接種群と非接種群を比較した。その結果、ワクチン接種適格者では、7.4年間の追跡期間中に新たに認知症と診断される確率が1.8%ポイント低下した。ワクチン接種者と非接種者の間で、教育歴、既往歴、他の予防医療サービスの利用状況に大きな差がなかったことから、健康意識の違いによるバイアスの影響は最小限と考えられた。また、この研究では、性別による効果の差異は明確に示されなかった。先行研究では女性でより強い予防効果が観察されていることから、今後の研究での検討が期待される。 これら2つの研究の特徴は、どちらも回帰不連続デザイン(regression discontinuity design)を用いている点にある。これは、自然ルールではない人為的なルールによって生まれる境界線を利用した統計的因果推論の手法の1つである。両研究共に、ワクチン接種の適格性を外的要因に基づいて決定することで交絡因子の影響を最小限に抑えており、従来の観察研究よりも因果関係の推定に信頼性が高いと評価されている。 今回の研究の対象となったのは主に生ワクチン(Zostavax)であり、不活化ワクチン(商品名:Shingrix)ではなかった。現在、日本を含む多くの国ではShingrixが主流となっている。Shingrixは免疫応答がより強力であるとされる一方で、Zostavaxと同様の神経保護効果が得られるかは不明である。今後、Shingrixを用いた研究や他国での再現性の確認が進むことで、より確固たるエビデンスが構築されることが期待される。 帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを低減させるメカニズムとして、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化抑制や、ワクチンによる免疫系の調節効果などが考えられている。VZVの再活性化が神経炎症や神経変性を惹起する可能性があり、慢性的な神経炎症が認知機能の低下に関与しているという仮説が考えられている。また、ワクチン接種が免疫老化の進行を遅らせることも、間接的な効果として議論されている。 日本においては、50歳以上を対象に帯状疱疹ワクチンが適用となっており、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛の予防目的での接種が徐々に広がりつつある。認知症予防効果が確立されれば、高齢者医療におけるさらなる付加価値として期待される。ただし、現時点では認知症予防を明確な適応とは規定しておらず、あくまで副次的な効果として受け止めるべきである。 高齢化社会の進展と認知症の増加が避けられない中、帯状疱疹ワクチンが神経変性疾患のリスクにも影響を及ぼす可能性を持つことは、予防医療の新たな可能性を提示している。今後のさらなるエビデンスの蓄積が期待される。

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人生100年時代、猫に学ぶ、死ねない時代の生き方【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第84回

老後に備える日本のこども今日は2025年5月5日です。連休を利用してこの原稿を書いています。付けっぱなしのテレビから、「こどもの日」特集の子供へのインタビューが流れてきます。「欲しいものは何ですか?」「がまんします。老後の資金にするつもりです」お年玉にも手を付けず貯めこんでいると、その子供は自慢気に答えます。ゲーム機やケーキ、好きな本や自転車のために貯めているのかと思っていた私は、不意を突かれ、言葉を失いました。周囲の大人たちは「えらいね」と笑っていましたが、私の胸には少しだけ重たいものが残りました。いま私たちは、人生100年時代と呼ばれる社会に生きています。老後が長くなり、介護や医療の問題が切実になり、社会保障制度への不安も広がるなかで、大人たちは口をそろえて「老後の備えが大事だ」と言います。そうした空気が、子供にまで届いているのでしょう。けれど、子供が「老後の資金」を心配してお年玉を使えない社会に、果たして本当の豊かさはあるのでしょうか。人生100年時代とACPかつて人間は、「生老病死」という四つの苦しみを宿命としてきました。生まれること、老いること、病むこと、そして死ぬこと。そこには恐れもあったでしょうが、同時に、それが人間として自然な営みであるという静かな諦観もありました。死は身近にあり、誰もが「人はいつか死ぬもの」と思っていた時代には、生きることにもまた、ある種の覚悟と納得が伴っていたのかもしれません。ところが現代の日本では、医療の発展と社会構造の変化により、「死ねない」という新たな恐怖が現実のものとなっています。人生100年時代とは、単に寿命が延びただけではありません。長い人生をどう生き、どう終えるかを考えなければならない時代です。長生きの先にある現実──たとえば、自分の意志に反した延命や、支え手のいない介護──それらにどう向き合うのか。「死ねない恐怖」を克服するための第一歩は、「自分の人生をどう終わらせるか」を考えることです。病気になる前、そして元気なうちから、家族や医療者と話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」──いわゆるライフカンファレンス──は徐々に知られるようになってきました。しかし、まだ日常的な実践にはなっていません。がん診療の分野では少しずつ広まりつつありますが、私が関わる循環器、とくに末期心不全の領域では、ようやく始まりつつある段階です。ネコに学ぶ、死ねない時代の生き方人生100年時代、老後の不安や「死ねない恐怖」が現実味を帯びる今、私たちはつい「将来の備え」に意識を向けがちです。ですが、ふと思うのです。将来ばかりに気を取られて、今この瞬間を楽しく生きることを、忘れてはいないだろうかと。そんなとき、ふと目をやると、わが家の猫がいます。陽だまりの中で丸くなり、ときどき伸びをして、気が向けばおもちゃを追いかけ、飽きればまた寝る。そしてごはんの時間になると、ちゃっかりと起きてきて、しっかり食べて、再びくるりと丸まって夢の中へ。予定も立てず、時間も気にせず、ただ「今ここ」をまっすぐに生きている。その姿には、なんとも言えない豊かさがあります。猫は「今を生きる」ことにかけては、人間など到底かなわない“ニャン生の達人”です。彼らは、足るを知り、自分に必要なものだけを見極める、その姿勢は、どこか禅の境地さえ感じさせます。私たち人間は、猫のように生きることはできません。将来を考える知恵があり、だからこそ不安にもなります。だからといって、「今」を犠牲にして生きる必要はないはずです。猫は言います。「未来のことを考えるのもいいけれど、今、日向ぼっこしておかないと損だよ」と。死ねない時代に私たちが本当に必要としているのは、「長くなった人生の一日一日を、自分らしく生きること」なのかもしれません。さあ、今日も一杯のコーヒーをゆっくり味わってみませんか。ネコがのんびりまばたきしながら、きっとこうつぶやいています「まあ、なんとかなるさ」。愛猫レオと箱画像を拡大する幸せ宅配中画像を拡大する猫にささげる箱の中の宇宙猫を師匠と仰ぎ、猫に尽くすことに懸命な私です。連休の時間を利用して工作をしました。宅配便の段ボール箱を改造した猫ハウスです。完成するやいなや、愛猫のレオが目を輝かせて飛び込みました。すっぽり収まり、まるでそこが何ヵ月も探していた理想の住まいであるかのように落ち着いています。誰にも邪魔されず、すべてを忘れて、ただそこにいる。猫にとって、狭い空間は彼らの本能に従った安全地帯です。私も時に、小さな部屋や車の中、布団の中など、「狭くて落ち着く場所」に身を置きたくなる瞬間があります。心が疲れた時、不安に包まれた時、広すぎる世界が怖く感じるとき──人間もまた、自分だけの「箱」に入りたくなります。私も、あの箱の隣に自分用の小さなスペースを作って、そっと身を丸めてみたくなるのです。今度は、レオの隣に私用の小さなスペースも作ってみようと思います。そして一緒に、何も考えずに丸くなる練習から始めてみようと思うのです。

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近視の進行を抑制する点眼薬「リジュセアミニ点眼液0.025%」【最新!DI情報】第39回

近視の進行を抑制する点眼薬「リジュセアミニ点眼液0.025%」今回は、近視進行抑制点眼薬「アトロピン硫酸塩水和物(商品名:リジュセアミニ点眼液0.025%、製造販売元:参天製薬)」を紹介します。本剤は、わが国で初めて近視の進行抑制を効能・効果として製造販売承認を取得した薬剤です。<効能・効果>近視の進行抑制を適応として、2024年12月27日に製造販売承認を取得し、2025年4月21日より発売されています。本剤は薬価基準未収載医薬品であり、健康保険などの公的医療保険の給付対象外です。<用法・用量>通常、1回1滴、1日1回就寝前に点眼します。<安全性>副作用として、羞明(5%以上)、視力障害、霧視、瞳孔障害、頭痛(1~5%未満)、調節障害、眼瞼湿疹、グレア(1%未満)があります。緑内障および狭隅角や前房が浅いなどの眼圧上昇の素因のある患者には禁忌です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、近視の進行を抑制する点眼薬です。この薬は、眼球の前後の長さが伸びるのを抑えることで、近視の進行を抑制することが期待できます。2.現在の近視を進みにくくすることを目的としており、近視を治して裸眼視力を回復させる薬剤ではありません。3.この薬は、自己判断で使用を中止すると近視が急激に進行することがあります。指示どおりに使用し続けてください。4.開封後、最初の1~2滴は点眼せずに捨ててください。5.保存剤を含んでいないため、開封後は1回きり(両眼に点眼する必要がある場合は両眼点眼)の使用としてください。点眼後、薬液が残っていても後で点眼せずに必ず捨ててください。<ここがポイント!>近視は、「平行光線が無調節状態の眼に入射したとき、網膜の前方に像を結ぶか、または眼前有限距離にある点から発散する光線が網膜上に結像する眼の屈折状態」と定義されています。すなわち、近視の目では、遠くの物(平行光線)を見ようとすると、光が網膜の前で焦点を結んでしまうため、物がぼやけて見えます。一方、近くの物(発散する光線)では網膜上で正しく焦点を結ぶので、はっきり見えます。近年、近視の発症は低年齢化が進んでおり、スマートフォンやタブレットの使用、屋外での活動時間や睡眠時間の減少などがリスク要因とされています。学童期における近視の多くは、不可逆的に眼軸長が伸びる軸性近視であり、その進行を抑えるには眼軸長の伸長を抑制することが重要です。近視進行抑制治療薬としては、海外では低濃度アトロピン点眼が使用されていますが、2024年11月時点において、国内では近視の進行抑制を効能・効果に有する治療薬は承認されていませんでした。リジュセアミニ点眼液0.025%は、有効成分としてアトロピン硫酸塩水和物を1mL中に0.25mg含有する、日本で初めての近視進行抑制点眼薬です。アトロピンは、網膜または胸膜に存在するムスカリン受容体を介して直接または間接的に胸膜のリモデリングに関与することで眼軸の伸長を抑制すると考えられています。5~15歳の近視患者を対象とした第II/III相プラセボ対照二重遮蔽比較試験において、本剤群は投与24ヵ月後の調節麻痺下他覚的等価球面度数の変化量をプラセボ群と比較して有意に抑制しました(p<0.0001、MMRM分散分析)。これにより、本剤がプラセボ群に対して優越性を持つことが検証されました。また、投与24ヵ月後の眼軸長の投与前からの変化量についても、プラセボ群に対して有意差が認められました(名目上のp<0.0001、MMRM分散分析)。本剤を用いた治療は、健康保険などの公的医療保険の給付対象外となるため、2025年4月11日に日本眼科医会から通達が出されています1)。近視の治療は、検査から投薬まですべてが自由診療となり、同じ疾患に対して保険診療と自由診療を併用することはできません。また、同日に自由診療と別の保険診療を併せて行った場合でも、1枚の処方箋に自由診療と保険診療の薬剤を記載することはできず、処方箋や領収書はそれぞれ別々に発行する必要があります。点眼によるアレルギーなどの有害事象への治療なども自由診療の扱いとなりますので注意が必要です。なお、使用に際しては、臨床試験に組み入れられた患者の背景(年齢、近視の状態など)を十分に理解した上で、適応患者を選択する必要があります。 参考 1) 日本眼科医会:低濃度アトロピン点眼液による近視進行抑制治療を行う際の注意点

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手根管症候群の診断【日常診療アップグレード】第30回

手根管症候群の診断問題45歳女性。右手の母指、示指、中指、環指のしびれを主訴に来院した。夜間に右手の痛みで目覚めることがある。右手を振るとしびれは改善する。頸部痛はない。既往歴はとくになく、外傷歴もない。服薬中の薬はない。バイタルサインは正常で筋力低下はない。環指は橈側のみ知覚低下がある。手根管症候群の補助診断として、神経伝導検査をオーダーした。

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人工関節感染疑い、培養が陰性である原因は?【1分間で学べる感染症】第26回

画像を拡大するTake home message人工関節感染(Prosthetic joint infection:PJI)疑いで培養が陰性である場合、先行する抗菌薬、培養が難しい微生物、検体採取の問題、非感染性疾患の4つの原因を考えよう。皆さんが目の前の患者さんの人工関節感染(PJI)を疑った際は、まず関節穿刺で関節穿刺液を採取して培養検査を提出すると思います。培養で何らかの原因微生物が検出されると思いきや、培養結果が陰性である状況に遭遇した場合、解釈とそのマネジメントに頭を悩まされることになります。単に「培養陰性だから感染ではない」と結論付けず、ここでは培養が陰性となる4つの原因を考えていきたいと思います。1)先行する抗菌薬の影響最も頻度の高い原因です。検体採取前に抗菌薬が投与されていた場合、培養結果が陰性となることがあります。患者さんの状態によりますが、状態が安定している場合にはいったん抗菌薬を中断し、抗菌薬を使用しない状況での培養提出が推奨されます。2)培養が難しい・培養されない微生物特殊な環境だけで増殖する微生物や、発育に時間がかかる微生物は、通常の培養法では検出が困難です。Cutibacterium acnesは発育に時間がかかるため、10~14日間の延長培養が推奨されます。非結核性抗酸菌や真菌も時間を要します。また、まれながらMycoplasma、Coxiella、Brucella、Ureaplasmaなどの報告もあります。3)検体採取の問題採取する検体数が不十分であったり、適切でない検体(例:スワブ)が使用されたりする場合、また保存や搬送過程に問題があると、培養感度が低下します。複数部位からの適切な量と種類の検体を、適切な条件で処理することが重要です。4)非感染性疾患関節痛や炎症を呈する非感染性疾患が、感染と間違えられることがあります。代表的なものに、痛風、偽痛風、メタローシスなどがあり、これらはPJIと類似した臨床像を示すため、診断に悩むことがたびたびあります。この4つの枠組みを念頭に置きながら、追加検査と初期治療に進むようにしましょう。1)Parikh MS, et al. J Infect Public Health. 2016;9:545-556.2)Goh GS, et al. J Arthroplasty. 2022;37:1488-1493.3)Tan TL, et al. JB JS Open Access. 2018;3:e0060.4)Tsai SW, et al. J Clin Orthop Trauma. 2024;52:102430.

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第267回 GLP-1薬は体重減少効果以外の仕組みのがん予防効果を有するらしい

GLP-1薬は体重減少効果以外の仕組みのがん予防効果を有するらしい先週11~14日のスペインでの欧州肥満学会で取り上げられたイスラエルの研究者の発表によると、GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は体重減少がもたらす以上のがん予防効果を有するようです1,2)。GLP-1薬と肥満手術はどちらも糖尿病や肥満の治療として確立としています。肥満手術は糖尿病や肥満と関連するいわゆる肥満関連がん(ORC)を生じ難くすることが長期の試験やメタ解析で裏付けられており、発生率の32~45%の低下をもたらします。一方、肥満治療薬(肥満薬)のがん予防効果のほどはよくわかっていませんが、2型糖尿病、肥満、それらの合併症を制しうるGLP-1薬も肥満手術と同様にORCを生じ難くするかもしれません。実際、米国の2型糖尿病患者およそ165万例の最長15年間の経過を解析したレトロスペクティブ試験でGLP-1薬とORCの発生率低下の関連が示されています。GLP-1薬投与群は調べた13種のORCうち10種(食道、大腸、子宮内膜、胆嚢、腎臓、肝臓、卵巣、膵臓のがん、髄膜腫、多発性骨髄腫)の発生率がインスリン投与群に比べて低くて済んでいました3)。同試験の著者はいくつかの課題の1つとして、GLP-1薬とがんの発生率の関連を肥満手術と比べる必要があると述べていました。イスラエルの人口の半数超が加入している保健組合Clalitの研究者らはまさにその課題に取り組み、GLP-1薬と肥満手術のORCを減らす効果を同組合の患者の電子カルテを使って比較しました。比較されたのは24歳以上で、肥満かつ糖尿病の患者の第一世代GLP-1薬開始後と肥満手術後のORCの発生率です。2010~18年にGLP-1薬を開始した群と肥満手術を受けた群の患者はどちらも同数の3,178例で、性別、年齢、BMIが一致するように1対1の割合で選定されました。2023年12月までの追跡期間中央値7.5年のあいだに298例にORCが生じました。最も多かったのは閉経後乳がんで77例に生じました。その次に多かったのは大腸がんで49例、3番目に多かった子宮がんは45例に生じました。肥満手術群のほうが体重はより減ったものの、ORCの発生率は肥満手術群とGLP-1薬投与群で似たりよったりで、それぞれ1,000人年当たり5.76と5.64でした。肥満手術群のBMI低下は31%で、GLP-1薬のBMI低下14%を2倍以上上回りました。そのような体重減少の効果を差し引くと、GLP-1薬の体重減少以外の作用によるORC発生率低下は肥満手術に比べて41%高いと推定されました。GLP-1薬がORCを防ぐ効果は炎症の抑制などのいくつかの仕組みによるのかもしれません。より用を成し、より体重を減らす新世代のGLP-1薬のORC予防効果はさらに高いと期待できそうですが、無作為化試験やより大人数の観察試験でORCの予防効果をさらに検証し、その効果の仕組みの理解に取り組む必要があります。また、新世代のGLP-1薬がORC以外のがんを増やさないことの確認が必要と研究リーダーの1人Dror Dicker氏は言っています2)。幸い、10試験の7万例超を調べた最近のメタ解析では、2型糖尿病患者のGLP-1薬使用のがん全般の発生率はプラセボに比べて高くないことが示されています4,5)。 参考 1) Wolff Sagy Y, et al. eClinicalMedicine. 2025 May 11. [Epub ahead of print] 2) GLP-1 receptor agonists show anti-cancer benefits beyond weight loss / Eurekalert 3) Wang L, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2421305. 4) Lee MMY, et al. Diabetes Care. 2025;48:846-859. 5) expert reaction to conference poster about GLP-1 obesity drugs (compared with bariatric surgery) and obesity-related cancer / Science Media Centre

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心不全患者の亜鉛不足、死亡や腎不全が増加

 台湾・Chi Mei Medical CenterのYu-Min Lin氏らは、心不全(HF)患者の亜鉛欠乏が死亡率、心血管系や腎機能リスクおよび入院リスクの上昇と関連していることを明らかにした。Frontiers in Nutrition誌2025年4月28日号掲載の報告。 HF患者では、利尿薬やRA系阻害薬といった降圧薬の使用などが原因で、亜鉛欠乏症(ZD)の有病率が高いことが報告されている1,2)。また、亜鉛補充により左室駆出率を改善させる可能性も示唆されている3)が、亜鉛がHFの臨床転帰に与える影響を調査した大規模研究はほとんど行われていなかった。 本研究は、ZDとHFの臨床転帰との関連性を調べる目的で実施された多施設共同後ろ向きコホート研究である。2010年1月1日~2025年1月31日にHFを発症した成人患者をTriNetX社のネットワークと提携する世界142施設の医療機関の1億6,056万2,143例から年齢などの基準を満たす適格患者を抽出。血清亜鉛値が70μg/dL未満のZD患者(ZD群)と70~120μg/dL患者(対照群)を傾向スコアマッチングにて栄養状態、アルブミン値、利尿薬やβ遮断薬の使用などの交絡因子で調整し、8,290例(各群4,145例)について、1年間の追跡調査を行った。主要評価項目は、全死亡、主要心血管イベント(MACE)*、主要腎イベント(MAKE)**で、副次評価項目は全入院であった。*急性心筋梗塞、脳卒中(脳梗塞および脳出血を含む)、心室性不整脈(心室頻拍や心室細動など)、心停止を含む。**末期腎不全、緊急透析の開始、維持透析を含む。 主な結果は以下のとおり。・ZD群では、全死亡において対照群と比較して有意に高い累積罹患率を示し(ハザード比[HR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.29~1.66、p<0.001)、100人年あたりの罹患率はZD群で13.47、対照群で9.78であった。・MACEの上昇についてもZD群に関連し(HR:1.46、95%CI:1.30~1.64)、MAKEの上昇も同様に関連していた(HR:1.51、95%CI:1.34~1.70)。・全入院リスクも対照群と比較してZD群は高かった(HR:1.24、95%CI:1.16~1.32)。 研究結果より、研究者らは「心不全治療における亜鉛の評価と管理の臨床的重要性が浮き彫りになった」としている。

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キウイを毎日食べると心が健康になる

 キウイフルーツは身近なフルーツとして日常で食す機会も多い。では、このキウイフルーツの摂取は、われわれの健康にどのような影響を与えるのであろうか。オーストラリア・アデレード大学の心理学研究科のMichael Billows氏らの研究グループは、ビタミンCが豊富なキウイフルーツの摂取が、高度気分障害の人に対し心理的ウェルビーイングを改善するか検討した。その結果、キウイフルーツは、気分障害の軽減に潜在的に有益性があることが示唆された。この結果は、Nutrients誌2025年4月18日号に掲載された。4週間のキウイフルーツの摂取で気分障害が改善 研究グループは、軽度~中等度の気分障害を有する18~60歳の成人26例を無作為に割り付け、2週間の休薬期間を設けた。各4週間の期間中、参加者はキウイフルーツを1日2個、または通常の食事を摂取した。主要アウトカムは、キウイフルーツ摂取期間と通常食摂取期間との気分障害総スコアの平均変化とした。副次的アウトカムは、血中ビタミンC濃度、ウェルビーイング、活力、消化器症状。2期にわたり非盲検クロスオーバー試験を実施した。 主な結果は以下のとおり。・各スコアは、通常の食事と比較しキウイフルーツ摂取時のほうが有意に改善した。気分障害の総スコアは65.2%(p<0.001)、ウェルビーイングは10.5%(p<0.01)、活力は17.3%(p=0.001)改善した。 ・血中ビタミンC濃度は27.5%(p=0.002)改善し、消化器症状は16.2%(p=0.003)軽減した。・重篤な有害事象は認められなかった。 ・キウイフルーツの摂取により、気分障害の総スコアが有意に低下し、ウェルビーイング、活力、ビタミンC濃度が改善した。 ・消化器症状の重症度も有意に減少した。 これらの結果から研究グループは、「この結果は、成人集団におけるキウイフルーツの気分障害の軽減に対する潜在的な有益性の予備的証拠を提供するもので、臨床集団を含む多様なグループにおけるさらなる研究が必要」と結論付けている。

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日本における治療抵抗性うつ病患者と医師の重要視しているポイントの違い

 福岡大学の堀 輝氏らは、抗うつ薬治療で効果不十分な日本人うつ病患者の臨床成績に対する医師と患者が重視するポイントの違いを、臨床的に意義のある最小差(MCID)の概念を適用して調査した。Frontiers in Psychiatry誌2025年3月26日号の報告。 本研究は、うつ病患者に対するブレクスピプラゾール2mg/日の増強療法を評価した52週間の非盲検多施設共同研究の事後分析として実施された。Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)スコア、シーハン障害尺度(SDS)スコア、EuroQol-5 dimension-5 level (EQ-5D-5L)から導き出された効用スコアにおけるMCIDを決定した。医師と患者の回答におけるMADRS、SDS、効用スコアの曲線下面積(AUC)との相関係数を比較した。 主な結果は以下のとおり。・患者のMCIDは、MADRSスコアで4.89〜4.94、MADRS改善率で31.15〜35.10%、SDSスコアで0.69〜2.14、効用スコアで0.045〜0.195であった。・患者視点アンカーから導き出されたSDSおよび効用スコアのMCIDは、医師視点アンカーから導き出されたMCIDの約2倍であった。・患者視点アンカーでは、効用スコアのAUCとの相関係数が最も高く、医師視点アンカーではMADRSスコアが最も高かった。 著者らは「MADRS、SDS、EQ-5D-5Lから導き出された効用スコアのMCIDが推定された。医師は、抑うつ症状に重点を置き、日常生活機能や活動性の改善よりも症状の重症度を優先する傾向があるのに対し、患者は、日常生活機能や活動性の改善を優先する傾向が示唆された」と結論付けている。

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術前PD-1阻害薬療法、広範なdMMR固形腫瘍で手術を回避/NEJM

 ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の局所進行直腸腫瘍では、免疫チェックポイント阻害薬を用いた術前補助療法により高率に手術の必要性がなくなったとの報告があり、これを腫瘍部位を問わずにあらゆる早期dMMR固形腫瘍に適用可能ではないかとの仮説が提唱されている。米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのAndrea Cercek氏らは、根治手術が可能な早期dMMR固形腫瘍患者において、PD-1阻害薬dostarlimabを用いた術前補助療法が、高い割合で当該臓器の温存をもたらすことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年4月27日号に掲載された。米国の2つのコホートの第II相試験 研究グループは、早期dMMR固形腫瘍の非手術的管理の根拠を検証する目的で、治癒切除可能な広範な部位の早期MMR固形腫瘍におけるdostarlimabによる術前補助療法の有効性と安全性を評価する第II相試験を行った(Swim Across Americaなどの助成を受けた)。 米国の3施設でスクリーニングを受け、新たに診断されたI、II、III期の固形腫瘍で、治癒を目的とする手術が可能であり、免疫組織化学染色でMLH1、MSH2、MSH6、PMS2の発現がないdMMRの患者を対象とした。 これらの患者に対し、術前補助療法としてdostarlimab(500mg)を3週ごとに6ヵ月間(9サイクル)静脈内投与し、2つのコホート(コホート1:dMMR局所進行直腸がん、コホート2:直腸以外のdMMR固形腫瘍)で評価を行った。臨床的完全奏効が得られた患者は非手術的管理による治療の継続を選択することができ、残存病変を有する患者は切除術を受けることとした。 コホート1の主要エンドポイントとして、手術を受けなかった患者または手術を受け病理学的完全奏効を達成した患者におけるdostarlimab療法(±化学放射線療法)終了から12ヵ月の時点での持続的な臨床的完全奏効を評価し、コホート2では探索的解析を行った。解析には、2019年12月~2025年4月に得たデータを使用した。治療終了患者の臨床的完全奏効は82%、80%で手術回避 117例を解析の対象とした。コホート1が50例(年齢中央値51.0歳[範囲:26~78]、女性56%)、同2が67例(67.0歳[28~87]、43%)であった。103例が治療を終了した(コホート1:49例、コホート2:54例)。コホート2の主な腫瘍の部位は、結腸(33例)、胃(15例)、尿路上皮(7例)、食道(3例)、胃食道接合部(3例)などであった。 コホート1では、治療を終了した49例のすべてが臨床的完全奏効を達成し、全例が非手術的管理による治療継続を選択した。12ヵ月の時点で、37例が持続的な臨床的完全奏効を維持しており、有効性の基準を満たした。 コホート2では、治療を終了した54例中35例(65%)が臨床的完全奏効を得て、このうち33例(61%)が非手術的管理による治療継続を選択した。残りの2例(胃がん1例、尿路上皮がん1例)は手術を選択し、いずれも切除検体にがんの証拠は認めなかった。 両コホートを合わせた治療終了患者103例では、84例(82%[95%信頼区間[CI]:72~88])で臨床的完全奏効が得られ、このうち82例(80%[70~87])が手術を受けなかった。また、原発腫瘍が治療中または治療後に進行したり、切除不能となった患者はなく、死亡例の報告もなかった。 全117例における2年時の無再発生存率は92%(95%CI:86~99)で、再発までの期間中央値は20.0ヵ月(範囲:0~60.8)であった。コホート1の50例では、それぞれ96%および30.2ヵ月、同2の67例では、85%および14.9ヵ月だった。全体で再発は5例のみで、1例は原発腫瘍(直腸)の再増殖であったが、残りの4例はリンパ節に限局した再発であった。有害事象発現率は65%、可逆性のGrade1、2が60% dostarlimabの投与を少なくとも1回受けた患者の65%に有害事象が発現した。60%は可逆性のGrade1または2の有害事象であった。最も頻度の高いGrade1または2の有害事象は、疲労感(全体の23%)、皮疹または皮膚炎(同21%)、そう痒(同19%)であった。Grade3の有害事象として、糖尿病、肺感染症、甲状腺機能低下症、脳炎、好中球減少症を各1例に認めた。Grade4の発熱性好中球減少症が1例にみられた。 著者は、「免疫チェックポイント阻害薬の効果は、腫瘍の原発部位よりもdMMRの表現型に主に依存していると思われた」「今後の大きな課題は、腫瘍反応を監視する最良の方法を確立することである」「本研究は、早期dMMR固形腫瘍の従来の治療パラダイムに変更をもたらし、多くの患者において手術や他の治療の必要性をなくすための基礎を提示するものである」としている。

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モデルナのコロナワクチン、生後6ヵ月からの追加免疫の一変承認を取得

 モデルナ・ジャパンは5月19日付のプレスリリースにて、新型コロナウイルスワクチン「スパイクバックス筋注」について、生後6ヵ月以上4歳以下を対象とした追加免疫に関する承認事項の一部変更を厚生労働省から取得したと発表した。 これまで「スパイクバックス筋注」は、生後6ヵ月以上5歳未満に対して初回免疫のみ承認されており、追加免疫は5歳以上が対象であったが、今回の承認により、生後6ヵ月から追加免疫としても接種できるようになる。 COVID-19は、高齢者や免疫不全を有する高リスク者だけでなく、乳幼児においても重症化のリスクが高く、肺炎などの入院を要する疾病を引き起こす可能性がある。同社は、今回の承認が、幅広い世代のCOVID-19感染症予防に貢献すると期待を示している。

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EGFR陽性StageIIIのNSCLC、CRT後のオシメルチニブ承認/AZ

 アストラゼネカは2025年5月19日、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)について「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な局所進行の非小細胞肺における根治的化学放射線療法後の維持療法」の適応で、厚生労働省より承認を取得したことを発表した。EGFR遺伝子変異陽性の切除不能なStageIIIの非小細胞肺がん(NSCLC)に対する分子標的薬では、本邦初の承認となる。これまで、切除不能なStageIIIのNSCLCにおいては、EGFR遺伝子変異の有無を問わず、根治的化学放射線療法(CRT)およびその後のデュルバルマブによる維持療法が標準治療とされていた1)。 本承認は、プラチナ製剤を含むCRT後に病勢進行のない、切除不能なStageIIIのNSCLC患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「LAURA試験」の結果2)に基づくものである。本試験において、オシメルチニブ群はプラセボ群と比較して有意に無増悪生存期間(PFS)が延長し(ハザード比:0.16、95%信頼区間:0.10~0.24、p<0.001)、PFS中央値はオシメルチニブ群39.1ヵ月、プラセボ群5.6ヵ月であった。<今回追加された「効能又は効果」および「効能又は効果に関連する注意」の主な記載>・効能又は効果EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な局所進行の非小細胞肺における根治的化学放射線療法後の維持療法・効能又は効果に関連する注意<効能共通>本剤の術前補助療法における有効性及び安全性は確立していない。<EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な局所進行の非小細胞肺における根治的化学放射線療法後の維持療法>根治的化学放射線療法後に病勢進行が認められていない患者を対象とすること。 なお、LAURA試験のオシメルチニブ群において、重篤な放射線肺臓炎の発現割合が高く、本剤との因果関係が否定できない重篤な放射線肺臓炎が複数例で認められていることから「7. 用法及び用量に関連する注意」「8. 重要な基本的注意」「9.1 合併症・既往歴等のある患者」「11.1 重大な副作用」の項に「放射線肺臓炎」に関連する注意事項が追記されている3)。

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米国では孤独感を抱える人は高齢層よりも中年層に多い

 社会的孤立は認知症、健康問題、精神障害、死亡のリスクを高めるため、老化の専門家の間では高齢者の孤独が大きな懸念事項となっている。しかし、少なくとも米国においてはその懸念はやや見当違いであり、むしろ中年層の方が高齢層よりも孤独を感じている実態が明らかになった。米エモリー大学ロリンズ公衆衛生大学院のRobin Richardson氏らによるこの研究結果は、「Aging and Mental Health」に4月21日掲載された。 Richardson氏は、「一般的に、加齢に伴い孤独感は増すと考えられているが、米国では、実際には中年層の方が高齢層よりも孤独を感じている人が多い」と同大学のニュースリリースで述べている。同氏はさらに、「孤独の蔓延に対処するためのこれまでの支援活動や介入策は高齢者や青少年に焦点が当てられてきた。中年層は、重要な対象であるにもかかわらず、見過ごされている」と指摘する。 この研究は、ヨーロッパ、中東、および北米の29カ国で実施された調査データを用いて、年齢に関連した孤独感の格差に対して、性別や年齢などの人口統計学的要因や健康状態がどの程度影響しているのかを、国内および国間で検討した。調査には、50〜90歳の6万4,324人(平均年齢68歳、女性58%)が参加していた。孤独感は、改訂版UCLA孤独感尺度(3項目版)で測定された(スコアは0〜6点で、スコアが高いほど孤独感が強い)。また、年齢による孤独感の格差は、集中指数(COIN)と呼ばれる指標を用いて評価された。COINは一般的に、所得や資産など、社会経済的勾配に沿った健康格差を説明するために使用されるが、本研究では年齢という順序性の明確な変数に基づいてCOINを算出した。値が負の場合は孤独感が中年層に、正の場合は高齢層に偏っていることを意味する。 その結果、孤独感のレベルは国によって大きく異なり、最も低いのはデンマーク(0.4点)、最も高いのはキプロス(1.7点)であった。年齢による孤独感の格差も国によって大きく異なっていたが、多くの国でCOINは正の値を示し、孤独感が高齢層に偏っていることが示唆された。特に、ラトビアとスペインでは年齢による孤独感の格差が顕著だった。一方、オーストリア、ドイツ、イスラエル、ルクセンブルク、スイスでは年齢による孤独感の格差が小さかった。さらに、米国とオランダでは、COINが負の値を示し、孤独を抱えている人は高齢層よりも中年層に多いことが示唆された。 研究グループは、「中年層は、仕事、育児、年老いた親の介護を担うことが多いため、余暇の時間が減り、友人などと過ごす機会を持ちにくくなっている可能性がある」と推測している。米国では、社会的支援の不足と介護費用の高騰により、この問題がさらに悪化する可能性があるという。 このような年齢による孤独の格差に寄与する因子としては、未婚、働いていないこと、うつ病、自己評価に基づく不良な健康状態が確認されたが、それらの影響の大きさも国によって大きく異なっていた。さらに、年齢による孤独感の格差の20%は、本研究で検討された要因では説明できず、この説明できない格差は中年層に集中する傾向があることも判明した。 論文の上席著者で、マヨール大学(チリ)社会科学・芸術学部長のEsteban Calvo氏は、「われわれの研究結果は、孤独が単に高齢期の問題ではないことを示している。実際、仕事、介護、孤立の中でバランスを取ろうとしている中年層の多くは、孤独に陥るリスクが非常に高く、高齢者と同様に的を絞った介入を必要としている」と話す。 こうした状況に対する対策としてCalvo氏は、「世界レベルでうつ病の評価を中年層にまで拡大し、働いていない人や未婚の人への支援を強化すべきだ。ただし、画一的なアプローチではこの世界的な問題を解決できないため、各国の状況に合わせてこれらの取り組みを調整する必要がある」と述べている。

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