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第214回 マダニ媒介感染症治療薬が承認!それは新型コロナで苦戦した“あの薬”

久しぶりにあの薬の名前を聞いた。抗インフルエンザウイルス薬のファビピラビル(商品名:アビガン)のことである。本連載ではコロナ禍中にこの薬を核にした記事は2回執筆(第7回、第44回)し、そのほかの記事でも何度か触れたことがある。当時は新型コロナウイルス感染症に対してこの薬が有効ではないかと騒がれ、しかも一部報道やSNS上で過剰な期待が喧伝されていたため、それに苦言を呈する内容になったが、医療従事者内ではご承知の通り、結局、有効性が示されずに消え去る形となった。そのファビピラビルが5月24日に開催された厚生労働省の薬事審議会・医薬品第二部会で「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス感染症」を適応とする効能追加の承認が了承されたのだ。マダニに咬まれて感染、SFTSウイルス感染症とは一部にはSFTSウイルス感染症自体が聞き慣れない人もいるかもしれない。今回承認が了承された適応症のSFTSウイルス感染症はSFTSウイルスを保有するマダニ類に咬まれることで起こるダニ媒介感染症の1種である。6~14日の潜伏期間を経て38℃以上の発熱、吐き気・嘔吐、腹痛、下痢、下血などの出血症状、ときに神経症状、リンパ節腫脹なども伴う。臨床検査値では病名の通り、血小板減少(10万/mm2未満)をはじめ、白血球減少、AST、ALT、LDHの上昇などが認められる。致死率は10~30%程度というかなり恐ろしい感染症1)だ。もともとは2009年に中国の湖北省(ちなみに新型コロナウイルス感染症が初めて確認された武漢市は同省の省都)、河南省で謎の感染症らしき患者が多数発生し、中国疾病予防管理センター(中国CDC)が2011年にSFTSウイルスを同定した。日本では2013年に山口県で初めて確認され(患者は死亡)、この直後のレトロスペクティブな調査から2005年以降それまでに別の10例の存在が確認された(うち5例が死亡)2)。現在SFTSウイルス感染症は感染症法で4類感染症に分類され、初めて患者が確認された2013年は年間40例だったが、それ以降の報告数は年々増加傾向をたどり、最新の2023年は132例と過去最多だった。2013年以降の2023年までの累計報告数は942例で、うち死亡は101例。累計の致死率は10.7%。ただし、この致死率は見かけ上の数字である。というのもこの死亡例の数字は感染症法に基づく届け出時点までに死亡が確認されている例のみだからだ。国立感染症研究所などが中心となって2014年9月~2017年10月までのSFTS患者を報告した事例のうち、予後の追跡調査が可能だった事例では致死率27%との結果が明らかになっている。これまでの患者報告は、東は東京都から南は沖縄県まで30都県に及んでいるが、推定感染地域はこのうち28県で西日本に偏在しているのが特徴だ。西日本(近畿・中国・四国・九州)内でこれまで患者報告がないのは奈良県のみである。ただし、東日本での患者報告数は少ないものの、マダニ類が吸血する野生の哺乳類ではSFTS抗体陽性の個体も見つかっており、単に診断漏れになっている可能性がある。そもそも近年、国内でSFTS患者が増えている背景には、昨今のクマ出没の急増と同じく、マダニ類が吸血するシカやイノシシなどの野生の哺乳類が人家周辺まで生息域を広げたことが影響しているとの指摘は少なくない。こうした動物に接する機会が多い獣医療従事者では、動物のケアなどから感染した疑いがある報告例は11例あり、また愛玩動物である犬、猫がSFTSに感染し、そこから人への感染事例もある。ちなみに犬、猫から感染が確認された世界初の症例は、2017年に西日本で野良猫に咬まれ、SFTS発症後に死亡した日本での症例である。また、極めてまれだがSFTS患者の体液を通じて人から人へ感染する事例もあり、日本国内ではこの4月に初めてこうした症例が報告されたばかりだ。さてSFTSに関しては「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 改定新版2019」が厚生労働省より発刊されている。現時点でSFTS感染症のワクチンはなく、これまでの治療も基本は発熱・頭痛・筋肉痛にはアセトアミノフェン(病態そのものに出血傾向があるためアスピリンやNSAIDsは使わない)、悪心・嘔吐には制吐薬、下痢にはロペラミド、消化管出血には輸血療法などの対症療法しかなかった。過去に中国ではウイルス性肝炎治療に使用する抗ウイルス薬であるリバビリンが使用されたことがあったが、1日500mgの低用量では致死率を下げないと考えられた3)ことから、前述の手引きでも推奨されていない。そうした中でSFTSウイルス感染マウスでより高い効果が示されていたのがファビピラビルである。ファビピラビル、承認までの紆余曲折これに対する企業治験が行われて今回晴れて承認となったわけだが、これが実は一筋縄ではいかなかったのが現実だ。そもそも前述したこの感染症の特徴を考慮すればわかるように、患者は突発的に発生するものであり、かつ致死率は高い。結局、製造販売元である富士フイルム富山化学が行った第III相試験は、多施設共同ながらも非盲検の既存比較対照試験、いわゆる従来の対症療法での自然経過の致死率との比較にならざるを得なかった。実質的には単群試験である。たとえ患者数が確保されたとしても、致死率の高さを考えれば対症療法の比較対照群を設定できたかどうかは微妙だ。そして今回の承認了承に先立つ5月9日の医薬品第二部会での審議では、「有効性が示されていると明確には言えない」として一旦は継続審議になった。これは第III相試験の結果から得られた致死率が15.8%で、事前に臨床試験の閾値とされた致死率12.5%を超えてしまったためである。ただ、現実の致死率よりもこれが低い可能性があるとして、再度検討した結果、既存論文などの情報も含めたメタアナリシスで得られたSFTSウイルス感染症の致死率が21~25%程度だったこと、それに加えて富士フイルム富山化学側が市販後臨床試験でウイルスゲノム量の評価で有効性を確認することを提案したため、承認了承となった。ちなみにこれに先立ってSFTSウイルス感染症に対してファビピラビルを投与した愛媛大学を中心に行われた医師主導治験での致死率は17.3%。こちらも前述のメタアナリシスよりは低率である。そしてファビピラビルと言えば、抗インフルエンザ薬として承認を受けた際に催奇形性を有する薬剤であることが問題になり、「厚生労働大臣の要請がない限りは、製造販売を行わないこと」といった前代未聞の条件が付いたことはよく知られている。承認されたが市中在庫はない異例の薬剤だった。しかし、今回のSFTSウイルス感染症については、▽原則入院管理下のみで投与▽原則患者発生後に納入▽研修を受けた登録医師のみで処方可能、という条件のもとにこの「大臣要請のみ」で製造という条件は緩和された。あるけどない謎の抗インフルエンザ薬。期待のみで終わった新型コロナ治療薬という苦難を経て、ファビピラビルが復活の兆しを見せるのか。個人的にはひそかに注目している。参考1)厚生労働省:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について2)Takahashi T, et al. J Infect Dis. 2014;209:816-827.3)Liu W, et al. Clin Infect Dis. 2013;57:1292-1299.

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治療方針をなかなか選んでくれない患者さんへの対応は?【もったいない患者対応】第7回

登場人物<今回の症例>20代女性右下腹部痛で来院腹部造影CTで軽度の虫垂腫大と周囲の脂肪織濃度上昇あり<軽症の急性虫垂炎を疑ったため、治療方針を相談することに>いかがでしょうか?虫垂が腫れているようです。急性虫垂炎、いわゆる「盲腸」ですね。盲腸ですか! どうすればいいんでしょう?軽い虫垂炎なので、手術で虫垂を切除する方法もありますし、抗菌薬で治療する方法もありますよ。どうしよう…悩みます。どちらがいいんでしょうか?どちらにもメリット、デメリットはありますから、どちらがいい、ということはないんです。治療を選択するのは患者さんですので、お好きなほうをお選びください。その選択を私たちは尊重しますよ。(こちらで誘導して何かあったらこっちの責任だしな…)うーん…。【POINT】軽症虫垂炎の患者さんに、手術と保存的治療(抗菌薬投与)の2つの選択肢を提案していますね。唐廻先生はインフォームドコンセントの重要性に思考を巡らせ、「患者さんが主体的に治療を選択すべき」という考えから、治療について十分な説明をしたうえで患者さんに選択を委ねています。ところが、患者さんは悩み込んでしまい、なかなか選べません。こんなとき、どうすればいいのでしょうか?“選択をお手伝いする”という意識をもつかつて、医師が主体的に治療方針を決め、患者はその判断にすべてを委ねればよい、という考え方が一般的な時代がありました。現在はこうした考え方は“医療パターナリズム”と揶揄されていますし、インフォームドコンセント、すなわち、患者は医療行為について十分な説明を受けたうえで、自由意志に基づいて治療方針について合意するのが大切だということは、大学の講義でも学んできたでしょう。ところが、こうした“患者主体”という考え方は、患者さんに選択を完全に委ね、医師はその選択に関して責任を負わない、といった間違った発想に行き着くことがあります。カルテでも、ことさらに「患者さんが希望したため、この治療を選択した」と強調するような記載を見ることもあります。しかし、医療の専門家ではない患者さんにとっては、「選択権があっても選択できない」というのが実情でしょう。逆に、専門的知識をもつ医師だからこそ、“選択のお手伝い”をする必要があります。患者さんの状況に応じて選択をサポートする治療選択肢が複数あり、どちらかが優れているという明らかなエビデンスがないときは、まずそれぞれのメリット、デメリットをきちんと説明し、「科学的データに照らすといずれにも優劣がない」ことを強調します。そのうえで患者さんに選択を委ねますが、選択に難渋しているときは、専門的知識を使ってその選択をサポートします。たとえば仕事や介護、子育てをしている人は時間的な制約があるので、通院期間や入院の有無などが気になるかと思います。費用を気にする患者さんもいますし、既往や服薬状況によって副作用などのリスクも変わります。また、時間的に余裕がある場合は、いますぐに決めずに少し考える時間を設けたり、ご家族と相談する機会を設けたりすることも可能であることを伝えます。このようにして、医療者と患者さんが価値観を共有し、一緒に治療方針を決めていく過程を、近年ではShared Decision Making(SDM)と呼ぶこともあります。今回の例で重要なのは、まずは各治療選択肢を完全に等価であるとして提示するのではなく、(1)総合的に判断して推奨できる案を提示したうえで、(2)その案を採用しなくてもよいことを明示し、代替案を提示するという方向性が望ましいと考えます。病態に応じてケースバイケースなので、こうした手法が適用できない場合もあるとは思いますが、たとえば今回のようなケースでは次のような説明がいいでしょう。これでワンランクアップ!いかがでしょうか?虫垂が腫れているようです。急性虫垂炎、いわゆる「盲腸」ですね。盲腸ですか!どうすればいいんでしょう?軽い虫垂炎なので、手術で虫垂を切除する方法もありますし、抗菌薬で治療する方法もありますよ(ここで両方のメリット、デメリットを説明)※1。※1:まずはここを丁寧にどうしよう……悩みます。どちらがいいんでしょうか?どちらにもメリット、デメリットがありますから、どちらがいい、という確実なデータはないんです。ただ、抗菌薬の効果が乏しかったときは、いずれにしても手術が必要になります※2。また、お仕事でお忙しい〇〇さんのような方の場合※3、抗菌薬治療だと通院期間が長引いて仕事を休まなければならない日が多くなる可能性があります。一方、手術だと何も問題なければ数日の入院で済みます。その点を考えると、手術のほうがメリットは大きいかもしれません※4。もちろん、手術をせずに抗菌薬で炎症を抑えることもできますし※5、リスクをご理解いただいたうえで抗菌薬治療を希望されるのであれば、それでもまったくかまいません。いかがでしょうか?※2:その治療方針を選んだときの具体的な見通しを伝える。※3:患者さんの生活スタイルを考慮した提案も大事。※4:まずは推奨できる案を提案する。※5:他の選択肢のフォローもあると、患者さんの意思が入りやすい。そうですか。それでしたら、手術をお願いしたいと思います。

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syphilis(梅毒)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第6回

言葉の由来梅毒は英語で“syphilis”といい、「スィフィリス」という発音になります。近年、日本では感染者が急増していますが、その歴史や語源はご存じでしょうか?世界で初めて梅毒が確認されたのは15世紀の後半です。梅毒の起源については、コロンブスがアメリカ大陸から欧州に持ち帰ったなど諸説ありますが、15世紀末にフランス軍がイタリアに侵攻した際に、性的接触を介してイタリアで大流行が起こりました。このことからフランスでは「イタリア病」や「ナポリ病」、イタリアでは「フランス病」と呼ばれました。この呼び方は当時の国家間の政治的対立を反映したものであり、一種のプロパガンダとして利用されたともいえます。“syphilis”という名前は、イタリアの詩人、ジローラモ・フラカストロによって1530年に書かれたラテン語の詩「梅毒またはフランスの病」(Syphilis sive morbus gallicus)で初めて登場しました。この詩では、羊飼いの“syphilis”という英雄が、神を冒涜した罰としてこの病気に初めて感染した、と描かれています。このフラカストロは医師でもあり、新しい病気の名前をこの主人公からとって医学論文を発表したことから、“syphilis”という名前が広まったとされています。なお、日本で梅毒が最初に記録されたのは1512年といわれており、欧州での大流行から程なくして日本に伝わったことがわかります。日本語の「梅毒」という病名は症状として見られる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来しているという説が一般的です。併せて覚えよう! 周辺単語性感染症sexually transmitted diseases下疳chancre扁平コンジロームcondylomata lataゴム腫gumma神経梅毒neurosyphilisこの病気、英語で説明できますか?Syphilis is a sexually transmitted disease that can may lead to severe health complications if left untreated. Infection develops in stages, including primary, secondary, latent, and tertiary, and each stage can have different signs and symptoms.講師紹介

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寒がりですか? 体が冷えますか?【漢方カンファレンス】第2回

寒がりですか?体が冷えますか?以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】70代女性主訴冷え症、下肢浮腫既往62歳:胃がん手術病歴胃がんの手術後から下痢をするようになり、冷えを自覚するようになった。また、65歳頃から両下肢の浮腫が出現、とくに外出後に増悪。外出すると両下肢の浮腫が増悪して下腿の筋肉がこわばってカチカチになり、数日間持続する。X年7月にS病院を受診し、心・肝・腎機能、甲状腺機能などの精査を受けたが異常なく、弾性ストッキングや塩分制限の指導を受けたが下肢浮腫は持続した。また、こむら返りもあり、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の製剤で治療されたが効果がなかった。漢方治療目的に8月に当科を紹介受診。現症身長148cm、体重39.5kg。体温35.1℃、血圧99/59mmHg、脈拍66回/分 整、呼吸数12回/分。心音・呼吸音ともに異常なく、両下肢浮腫が軽度あり。経過初診時「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!)2週間後便に形が出てきた、こむら返りがなくなった。6週間後胃がん術後から長期間続いていた下痢が改善した。遠出をしたが、下肢の浮腫が増悪しなかった。以後、漢方治療を継続して経過良好である。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<冷えの確認>寒がりですか?体のどの部分が冷えますか?寒がりです。とくに下肢ですが、体全体が冷えますね。<温冷刺激に対する反応を確認>入浴で長くお湯に浸かるのが好きですか? 冷房は好きですか?はい、お風呂に長く入るのが好きです。冷房は嫌いです。飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?冷たい物を飲むと下痢が悪化するので夏でもあまり冷たい飲み物は飲みません。<ほかの随伴症状を確認>ほかに困っている症状はありますか?胃の手術後から下痢が始まりました。ほかには、長時間歩くと足がむくみます。倦怠感があったり、疲れやすかったりしませんか?外出するとすぐに疲れて座りたくなります。【診察】顔色は蒼白で、四肢を触ると冷感を感じた。※漢方の診察といえば脈、舌、腹の診察が特有ですが、今回はあえて省略します。しかし、患者の顔色や歩行の様子を診る(視診)、また実際に四肢や患部を触診して他覚的な温度を確認することも漢方治療では重要な診察です。カンファレンスまずは陰陽の判断が出発点ということですね。本症例では、主訴が冷え症なので陰証でよさそうです。冷えが主訴だからといって陰証とは限りませんよ。きちんと問診、診察をして総合的に陰陽の判断を行うことが大事です。漢方医の問診に注目してほしい。陰陽の判断のために、冷えの部位や温冷刺激に対する生体の反応を詳しく聞く必要があるんだ。本症例では冷えが体全体にあって、長湯が好きで、冷房や冷たい飲み物を好まないといった陰証の特徴が揃っているといえるよ。倦怠感を質問しているのはなぜですか?冷えの程度が強くなり全身に及んだ場合を陰証のなかでも、陰証の真っ只中である少陰病(しょういんびょう)と診断します。少陰病では生体の反応力の低下により、座りたい、横になりたいなどの倦怠感を伴います。そのため倦怠感の有無も冷えを確認するために着目する必要があります。本症例では、外出するとすぐに座りたくなるとあるので少陰病と考えてもよさそうです。また虚実に関しては、少陰病では闘病反応は乏しいため、虚実はすべて虚証になります。冷えと倦怠感の関係、少陰病は虚証であることがわかりました。実際に患者の腹部や四肢を触診して他覚的な冷感を確認することも大事だよ。私の診察では必ず靴下を脱いでもらって四肢の冷えを確認してるよ。下肢の足首から前脛骨部を触診すると、あたかも検者の体温が患者に吸われていくようにひんやりと感じる場合は、附子(ぶし)を含む漢方薬の適応になるといわれているよ1)。附子はトリカブトの根を減毒処理したもので、代表的な温める作用が強い生薬なんだ。陰証では寒があることから温める治療を行うのですね。本症例は冷え以外にも、下痢や浮腫などがありますね。いいところに気づきましたね。下痢や浮腫は漢方診療のポイント(3)の気血水の異常として、漢方医学的な水分バランスの異常である「水毒」と判断できます。本症例をまとめると以下のようになります。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?体が冷える、冷房が嫌い、倦怠感→陰証(少陰病)(2)虚実はどうか少陰病は実証はなく虚証となる(脈と腹の診療は今回は省略)(3)気血水の異常を考える下痢、浮腫→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む冷え、下痢、浮腫、倦怠感解答・解説【解答】本症例は、陰証で、水毒を治療する真武湯(しんぶとう)で治療を行いました。【解説】真武湯は、陰証の葛根湯(かっこんとう)ともいわれ、陰証の代表的な漢方薬です。応用範囲の広い漢方薬で、新陳代謝の低下と胃腸機能の低下から生じる倦怠感、下痢、めまい、浮腫などのさまざまな症状に対して活用されます。真武湯は5つの生薬から構成されます(茯苓[ぶくりょう]、朮[じゅつ]、芍薬[しゃくやく]、生姜[しょうきょう]、附子)。茯苓と朮は水分代謝をよくして、尿量を増やして浮腫を改善します。附子や生姜は温めて冷えを改善させ、新陳代謝を活発にします。今回のポイント「陰陽」の解説漢方治療では、陰陽が一番基本的な考え方であり、診断の出発点です。生体に外来因子が加わった際の生体反応の形式であり、熱性の病態を「陽証」、寒性の病態を「陰証」の2型で捉えます。陽証では活動性、発揚性、陰証では非活動性、沈降性などの特徴があります。また多くの病気は、基本的には陽証で始まり、陰証に向かって進んでいきます。そのため、急性疾患では陽証であることが多く、虚弱者、高齢者、慢性疾患など、長期にわたる疾患では新陳代謝の低下などから冷えを伴って陰証になることが多い傾向にあります。陰陽の判定は、暑がり・寒がり、薄着・厚着の傾向、冷水・温かい湯茶を好む、長湯ができる・できない、冷房が好き・嫌い、症状が温まると改善する・冷えると悪化するなどの問診や、脈の浮沈、顔色(赤ら顔・顔面蒼白)、体や患部の熱感・冷感などの診察により総合的に判断します。陽証と陰証はさらに3つずつの病期に分類され、六病位(ろくびょうい)とよばれます。参考1)寺澤捷年, 花輪壽彦 編. 漢方診療二頁の秘訣. 冷えの診察法. 金原出版;2004:p.86-87.

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東日本大震災による住宅被害や精神的ダメージと修正可能な認知症リスクとの関連

 東北大学の千葉 一平氏らは、地域住民の高齢者における、東日本大震災による住宅被害および精神的ダメージと認知症の修正可能なリスク因子との関連を評価する目的で横断的研究を実施した。Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2024年5月3日号の報告。 対象は、地域住民の高齢者2万9,039人(平均年齢:69.1±2.9歳、女性の割合:55.5%)。東日本大震災後の災害関連被害(住宅全壊または半壊)および精神的ダメージ(心的外傷後ストレス反応[PTSR])を、自己申告式アンケートを用いて収集し評価した。修正可能なリスク因子には、うつ病、社会的孤立、身体不活動、喫煙、糖尿病を含んだ。災害関連被害と修正可能なリスク因子との関連を評価するため、社会人口統計学的変数と健康状態変数を調整した後、最小二乗法および修正ポアソン回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・震災による住宅の全壊は2,704人(10.0%)、PTSRは855人(3.2%)で認められた。・修正可能なリスク因子の数は、住宅全壊者(β=0.23、95%信頼区間[CI]:0.19~0.27)およびPTSR者(β=0.60、95%CI:0.53~0.67)で有意に多かった。・住宅全壊者は、修正可能なリスク因子のうち、うつ病と身体的不活動の割合が高かった。・PTSR者は、修正可能なリスク因子のすべての分野で割合が有意に高かった。 著者らは「東日本大震災による住宅被害および精神的ダメージは、認知症のリスク因子増加と関連していることが示唆された。認知症リスク軽減については、とくに災害で住宅被害や精神的ダメージを経験した高齢の被災者に対し、修正可能なリスク因子のさまざまな側面に応じた多元的な支援が求められる」としている。

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“アルバイト代”の占める割合、収入・診療科による違いは?/医師1,000人アンケート

 ケアネットでは、2月20日(火)に会員医師1,004人を対象に、インターネットによる「年収に関するアンケート」を行った。その中で昨年度のアルバイト代について尋ねたところ、全体の26%が200万円未満と回答、次いで13%が200~400万円未満、9%が300~600万円未満と回答した。一方で、34%はアルバイトをしていないことが明らかとなった。年収がアルバイト代に左右される層 アルバイト代を年収別に見ると、全体と比較して年収600~800万円未満の回答者では、アルバイト代が年収の半分以上を占めていた割合が高く、年収1,600万円以上の回答者はアルバイト収入の比率が低い傾向であった。また、各年収層の5~10%の回答者では年収とアルバイト代に差がなく、アルバイトで生計を立てていると推察された。 さらに年代別では、36~45歳ではアルバイト収入が多い傾向にあり、400~600万円未満が最多で13%、続いて600~800万円未満が10%、200~400万円未満が9%、そして1,000万円以上は10%にも上った。診療科別のアルバイト状況と年収 診療科別にアルバイトをしている回答者数を比較したところ、眼科(90%)、総合診療科(81%)、整形外科(78%)の順に多かった。また、アルバイト収入について400万円以上の回答者が多かった診療科は、整形外科が46%と圧倒的に多く、次いで血液内科(41%)、麻酔科(39%)、耳鼻科(38%)、消化器内科(37%)、眼科(37%)であった。大学病院の勤務医、アルバイト代400万円以上が62% アルバイト代の収入全体に占める割合は勤務先の傾向が強く反映しているようで、本調査結果によると、一般診療所や一般病院に勤務する医師の約半数のアルバイト代が400万円未満であるのに対し、大学病院に勤務する医師では、400~600万円未満が18%、600~800万円未満が15%、800~1000万円未満が13%、1,000万円以上が16%という結果であった。 しかし、本アンケートは昨年のアルバイト代の調査結果である。今年4月より始まった「医師の働き方改革」によって、これまでのような外勤がかなわずアルバイト代による収入アップを見込めない医師が出てくるのかもしれない。ケアネットでは働き方改革による影響についても、今後、検証していく予定だ。 その他、年代ごとの男女別、病床数別、勤務先別などの詳細な年収分布については、以下のページで結果を発表している。医師の年収に関するアンケート2024【第2回】アルバイト代

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国内の患者・市民参画(PPI)に光、「患医ねっと」がMade with Patients Award受賞

 欧州で患者中心の医療・医薬品開発に力を注いでいる組織PFMD、EUPATI、EPFが5月23日(日本時間)に開催したイベント『Patient Engagement Open Forum 2024』において、患医ねっと「くすりと生活プロジェクト」(代表:鈴木 信行氏)が、Made with Patients Awardsのファイナリストとしてノミネートされ、審査員特別賞を受賞した。 患医ねっとは2011年に鈴木氏が設立し、より良い患者協働の医療環境を目指し、患者と医療者がともにイベントや研修会の開催を通じて、お互いを深く知る場を作ることを目的として活動を行う団体である。生まれつき二分脊椎症を抱え、がんサバイバーでもある鈴木氏は「病気の先にあるその人らしい生活、皆で支えられる社会を求め、『患者と医療者をつなぎ、日本のより良い医療環境を実現させる』理念」を掲げ、医療にかかわる人々をつなげる機会や場を創出している。今回ノミネートされたMade with Patients Awardは、医療における患者参画の優れた模範となる個人や取り組みを表彰するもので、今年は世界中の110もの候補が審査され、日本人として唯一、鈴木氏が団体の代表として審査員特別賞を獲得した。なお、このAwardに「くすりと生活プロジェクト」を推薦したのは、患者中心の医療を共に考え共に実践する協議会(JPPaC)のPCMプロジェクト(PCM-PJ)である。PCM-PJはPFMDの取り組みを日本に紹介することで、患者視点からの患者参画を勧める活動をしている。 受賞を受け鈴木氏は「くすりと生活プロジェクトは、製薬企業で働く方々が患者さんの日常生活を知り、薬に対する期待を理解し、企業理念の実現に役立てることを目的としています。とても重要な取り組みだと思っています。本団体を多くの人に知ってもらうことで、このような取り組みが世界中に広がることを期待しています。そして、製薬企業が患者さんのより良い生活に役立つ薬やソリューションを開発する環境を整えてくれることを期待しています。これが私の心からの願いです」とメッセージを寄せている。 世界では臨床試験の計画段階、医薬品などの承認審査の段階での患者・市民参画(PPI:Patient & Public Involvement)が進んでいるのに対し、国内でのPPIは課題が山積みである。日本医療研究開発機構(AMED)は、2022年に実施したPPIに関するアンケート調査ならびにヒアリング調査結果を踏まえ、▽PPI に当たって求められる考え方は「患者のために」ではなく、「患者のために、そして、患者と共に」である、▽PPI において協働を目的としたコミュニケーションに求められているのは、対話であり、説得ではない、▽真の顧客は「患者」(疾患を抱えた人)であり、PPI 活動を企業のイメージ戦略とすることなく、地道ながら、持続可能なあり方、やり方を構築するべきである、などのアイデアをまとめている。このような現状からも、鈴木氏らの受賞の意義は非常に大きいと言えるのではないだろうか。

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HR+/HER2-転移乳がん、SG+ペムブロリズマブvs.SG(SACI-IO HR+)/ASCO2024

 既治療の切除不能な局所進行または転移を有するHR+/HER2-乳がんに対して、sacituzumab govitecan(SG)+ペムブロリズマブを、SG単独と比較した無作為化非盲検第II相SACI-IO HR+試験で、ペムブロリズマブ併用による無増悪生存期間(PFS)の有意な改善は認められなかった。米国・ダナファーバーがん研究所のAna Christina Garrido-Castro氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。 SGはトポイソメラーゼI阻害薬(SN-38)をペイロードとする抗TROP2抗体薬物複合体(ADC)で、その作用機序から抗PD-1抗体との相乗効果が期待されている。・対象:切除不能な局所進行または転移を有するHR+/HER2-乳がんで、転移後に1ライン以上の内分泌療法歴があるか、術後補助内分泌療法中もしくは12ヵ月以内に進行した患者(活動性脳転移のある患者、トポイソメラーゼI阻害薬ADC、イリノテカン、抗PD-1/L1抗体による治療歴のある患者は除外)・試験群(併用群):SG(1、8日目に10mg/kg静注)+ペムブロリズマブ(1日目に200mg静注)、21日ごと・対照群(SG群): SG単独・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]PD-L1陽性患者のPFS、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、奏効までの期間(TTOR)、臨床的有用率(CBR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・治療開始した104例(併用群52例、SG群52例)が解析に組み入れられた。・年齢中央値は57.0歳(範囲:27.0~81.0歳)、40例(38.5%)がPD-L1陽性(CPS≧1)、56例(69.1%)が術前/術後化学療法歴があり、51例(49.0%)が転移乳がんに対する1ラインの化学療法歴があった。・追跡期間中央値12.5ヵ月(データカットオフ:2024年3月9日)におけるPFS中央値は併用群が8.12ヵ月で、SG群の6.22ヵ月より数字上は延長したが、統計学的に有意ではなかった(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.51~1.28、p=0.37)。・OSデータはimmatureであるが、OS中央値は併用群18.52ヵ月、SG群17.96ヵ月で有意な差は認められなかった(HR:0.65、95%CI:0.33~1.28、p=0.21)。・PD-L1陽性(CPS≧1)患者において、PFS中央値は併用群がSG群より4.4ヵ月長く(HR:0.62、95%CI:0.29~1.36、p=0.23)、OS中央値は6ヵ月長く(HR:0.61、95%CI:0.18~2.04、p=0.42)、どちらも有意ではないが併用群で改善傾向が認められた。・ORRは、併用群21.2%、SG群17.3%で有意な差はなかった(p=0.80)。また、CBR(p=0.84)、DOR(p=0.31)、TTOR(p=0.68)も有意な差は認められなかった。・主なGrade3以上のTEAE(治療中に発現した有害事象)は、併用群では好中球減少症(54%)、白血球減少症(23%)、リンパ球減少症(12%)、発熱性好中球減少症(6%)、貧血(6%)、下痢(6%)で、単独群では好中球減少症(44%)、貧血(10%)、悪心(10%)、下痢(8%)、白血球減少症(8%)、疲労(6%)、高血圧(6%)であった。 Garrido-Castro氏は、「これらの結果は、転移を有するPD-L1陽性HR+/HER2-乳がん患者におけるSG+ペムブロリズマブのさらなる検討を支持している。ADCと免疫チェックポイント阻害薬併用によりベネフィットが得られる予測因子を調査するために、追加の研究が必要である」と述べた。

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ロルラチニブ、ALK肺がん1次治療の効果をさらに改善、5年PFS中央値に到達せず(CROWN)/ASCO2024

 ALK遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対するロルラチニブ1次治療の無増悪生存期間(PFS)が5年経過しても中央値に達しなかった。 第III相CROWN試験の5年フォローアップ結果を、オーストラリア・PeterMaCllumがんセンターのBenjamin J. Solomon氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。・対象:StageIIIB/IVの未治療のALK陽性肺がん(無症状のCNS転移は許容)・試験群:ロルラチニブ(100mg/日)・対照群:クリゾチニブ(250mg×2/日)・評価項目:治験担当医評価のPFS、奏効率(ORR)、頭蓋内奏効率(IC-ORR)、奏効期間、頭蓋内奏効期間(IC-DOR)、頭蓋内病変進行までの期間(IC-TTP)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・PFSの追跡期間中央値は、ロルラチニブ群60.2ヵ月、クリゾチニブ群55.1ヵ月であった。・データカットオフ(2023年10月31日)時点で、治療が継続していた患者はロルラチニブ群50%、クリゾチニブ群5%であった。・治験担当医評価のPFS中央値はロルラチニブ群未到達、クリゾチニブ群9.1ヵ月で(ハザード比[HR]:0.19、95%信頼区間[CI]:0.13〜0.27)、5年PFS率はロルラチニブ群60%、クリゾチニブ群8%であった。・ベースライン時脳転移あり集団のPFS中央値はロルラチニブ群未到達、クリゾチニブ群6.0ヵ月であった(HR:0.08、95%CI:0.04〜0.19)。・ベースライン時脳転移なし集団のPFS中央値はロルラチニブ群未到達、クリゾチニブ群10.8ヵ月であった(HR:0.24、95%CI:0.16〜0.36)。・IC-TTP中央値はロルラチニブ群未到達、クリゾチニブ群16.4ヵ月で(HR:0.06、95%CI:0.03〜0.12)、5年時点でのIC病変無増悪率はロルラチニブ群92%、クリゾチニブ群21%であった。・ベースライン時脳転移あり集団のIC-TTP中央値はロルラチニブ群未到達、クリゾチニブ群7.2ヵ月で(HR:0.03、95%CI:0.01〜0.13)、5年時点でのIC病変無増悪率はロルラチニブ群83%、クリゾチニブ群0%であった。ロルラチニブ群のIC病変進行は35例中5例であった。・ベースライン時脳転移なし集団のIC-TTP中央値はロルラチニブ群未到達、クリゾチニブ群23.9ヵ月で(HR:0.05、95%CI:0.02〜0.19)、5年時点でのIC病変無増悪率はロルラチニブ群96%、クリゾチニブ群27%であった。ロルラチニブ群のIC病変進行は114例中4例であった。・ロルラチニブ群におけるGrade3/4の有害事象(AE)は77%に発現した。AEによる減量は23%、一時中断は62%、永久中止は11%であった。・PFS中央値もIC-TTP中央値も減量群、非減量群ともに未到達で、減量による影響はみられなかった。 「この5年解析におけるロルラチニブ群のPFS中央値は、現在までに報告された進行NSCLCに対する単剤分子標的薬治療の中で最長である」とSolomon氏は述べた。

5170.

メトホルミンは低リスク限局性前立腺がんの進行を抑制するか?(MAST)/ASCO2024

 前臨床データおよび疫学データにおいて、メトホルミンが前立腺がんの進行を遅らせる可能性が示唆されてきた。しかし、積極的監視療法適応の低リスク限局性前立腺がん患者において、メトホルミンは前立腺がんの進行を抑制しないことが示された。カナダ・Princess Margaret Cancer CentreのNeil E. Fleshner氏が、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照MAST試験の結果を、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で報告した。・対象:12ヵ月以内に新たに診断された低リスク限局性前立腺がん患者(Gleasonスコア≦6、生検陽性コア数≦1/3、陽性コアにおけるがん占拠率<50%、臨床病期T1c~T2a、PSA≦10ng/mL、HbA1c≦6.5%)・試験群(メトホルミン群):積極的監視療法+メトホルミン(850mg1日1回で1ヵ月間投与後850mg1日2回で35ヵ月間投与) 204例・対照群(プラセボ群):積極的監視療法+プラセボ 203例・評価項目:[主要評価項目]無増悪期間(治療を要する進行[前立腺摘除術、放射線治療、ホルモン療法、focal therapyのいずれかの開始]または病理学的進行[生検陽性コア数>1/3、陽性コアにおけるがん占拠率≧50%、Gleasonスコア≧4]のうち最も早い発生までの期間と定義) 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおける患者特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値はメトホルミン群62歳vs.プラセボ群63歳、臨床病期はT1cが93.6% vs.93.9%、BMI中央値は27.4kg/m2 vs.27.7kg/m2、PSA中央値は5.6ng/mL vs.6.0ng/mL、陽性コア数はともに1、腫瘍量中央値は43mm2 vs.44mm2であった。・無増悪生存期間(PFS)は、両群で有意な差はみられなかった(未調整ハザード比[HR]:1.08[95%信頼区間[CI]:0.78~1.50]、p=0.64)。治療を要する進行(同:1.75[0.99~3.08]、p=0.05)、病理学的進行(同:1.07[0.76~1.52]、p=0.69)のいずれにおいても、メトホルミン投与のベネフィットは確認できなかった。・病理学的進行例のエンドポイントについてみると、生検陽性コア数>1/3、陽性コアにおけるがん占拠率≧50%、Gleasonスコア≧7については両群で差がみられなかったが、Gleasonスコア≧8は12.9% vs.4.5%(log-rank検定のp値=0.082)とメトホルミン群で多い傾向がみられた。・BMIとメトホルミンの交互作用の調整p値は0.032、未調整p値は0.012となり、PFS(病理学的進行)の未調整HRは、BMI<30の患者では0.82(95%CI:0.54~1.23、p=0.34)と差はみられなかったのに対し、BMI≧30の患者では2.39(同:1.20~4.75、p=0.01)とメトホルミン群で不良であった。・多変量解析の結果、病理学的進行の予測因子はベースラインPSA値(HR:1.08、p=0.004)、生検陽性コア数(同:1.46、p<0.001)、前立腺体積の対数値(同:0.68、p=0.004)であった。・試験期間中のPSA動態について、両群で差はみられなかった。・メトホルミン群で下痢や悪心、腹部膨満感などの消化器系毒性が多くみられたほか、体重減少に関しては、12ヵ月時点でメトホルミン群-1.8kg vs.プラセボ群0.6kg、24ヵ月時点で-1.4kg vs.0.7kgであった。 Fleshner氏は、探索的サブグループ解析の結果はBMI高値およびGleasonスコア≧8に進行した患者においてはむしろメトホルミンが有害な可能性を示唆しているとし、前立腺がんのアウトカムへのメトホルミンの影響を理解するためにはさらなる研究が必要と結んだ。

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がんの臨床試験への参加でOSが延長するか?/JAMA

 カナダ・マギル大学のRenata Iskander氏らは、がんの臨床試験に参加した患者と参加しなかった患者の全生存期間(OS)を比較した研究についてシステマティック・レビューとメタ解析を行い、全体として試験参加群におけるOSの改善が示唆されたが、バイアスや交絡因子を考慮した研究に限定するとOSに対するベネフィットは認められなかったことを示した。がん患者が臨床試験に参加することが、試験に参加せず通常の治療を受けた場合と比較してOSの延長と関連するかどうかは明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2024年5月20日号掲載の報告。OSを比較した研究をメタ解析 研究グループは、PubMedおよびEmbaseを用い、がん患者を対象とし、臨床試験参加者(試験参加群)と試験に参加せず通常の治療を受けた患者(通常治療群)の生存転帰を比較した研究のうち、2000年1月1日~2022年8月31日に発表された英語の論文を検索した。主なキーワードは、cancer、oncology、clinical trial、retrospective cohort、trial participation、trial effect、participation bias、nonparticipant、nontrialなどである。また、検索で得られた文献に引用されている文献、ならびに検索で得られた文献を引用している文献についても調査した。 適格基準は、ハザード比(HR)を用いて試験参加群(無作為化試験かは問わない)と通常治療群のOSを比較していること、治療には薬剤/生物学的製剤が含まれることであった。2人の研究者が独立して、Covidenceソフトウエアを用いて解析対象とする研究のスクリーニング、データの抽出および方法論的な質の評価を行った。 主要アウトカムは、試験参加群と通常治療群のOSのHRで、DerSimonian-Lairdランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施した。バイアスや交絡因子を考慮した研究では、試験参加によるOSに対する有益性は減少  174件の論文について適格性を評価した結果、39件の研究(計85件の比較)がメタ解析に含まれた。 85件の比較のうち、32件は試験効果の測定を目的としたものであった(本論文において、試験効果とは、治療効果[臨床試験における介入群への割り付けによってもたらされたアウトカムに対する試験参加の効果]と、参加効果[臨床試験における介入群への割り付けによって媒介されない試験参加の効果]を組み合わせたものと定義されている)。また、通常治療群のデータソースは、レジストリが67件、医療記録が18件であり、サンプルサイズの中央値は試験参加群が209例、通常治療群が409例であった。 メタ解析の結果、試験デザインや質に関係なくすべての研究をプールした場合、試験参加群と通常治療群のOSのHRは0.76(95%信頼区間[CI]:0.69~0.82)であり、試験参加群でOSが有意に改善した。 一方、試験参加群と通常治療群を適格基準に一致させた研究のみをプールすると、試験参加群のOSに対するベネフィットは減少した(HR:0.85、95%CI:0.75~0.97)。また、質の高い研究のみをプールした場合、試験参加群でOSの改善は認められず(0.91、0.80~1.05)、潜在的な出版バイアスにより推定値を調整した場合も同様であった(0.94、0.86~1.03)。

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混合型脂質異常症へのRNA干渉薬zodasiran、TGを有意に低下/NEJM

 肝臓におけるアンジオポエチン様3(ANGPTL3)の合成と分泌を阻害する低分子干渉(si)RNA薬のzodasiranは、混合型脂質異常症患者において、プラセボと比較し24週時のトリグリセライド(TG)値を有意に低下させたことが示された。米国・Mount Sinai Fuster Heart HospitalのRobert S. Rosenson氏らARCHES-2 Trial Teamが、4ヵ国25施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験「ARCHES-2試験」の結果を報告した。ANGPTL3は、リポ蛋白および血管内皮リパーゼを阻害することで、TGに富むレムナントリポ蛋白の肝臓への取り込みを阻害する。ANGPTL3遺伝子の機能喪失型変異保有者は非保有者と比較し、TG、LDLコレステロール、HDLコレステロール、non-HDLコレステロールの値が低く、アテローム動脈硬化性心血管疾患のリスクが低いことが知られていた。NEJM誌オンライン版2024年5月29日号掲載の報告。第IIb相無作為化プラセボ対照比較試験で有効性と安全性を評価 研究グループは、2021年6月28日~2022年8月31日に、混合型脂質異常症(空腹時TG値150~499mg/dL、かつLDLコレステロール値70mg/dL以上またはnon-HDLコレステロール値100mg/dL以上)の成人患者を、zodasiran群(50mg、100mg、200mgの各用量群)またはプラセボ群に3対1の割合で無作為に割り付け、1日目および12週目に皮下投与して36週目まで追跡した。 主要エンドポイントは24週時における空腹時血漿中TG値のベースラインからの変化率で、各zodasiran群とプラセボ群の平均値の差を、反復測定共分散分析(ANCOVA)を用いて比較した。副次エンドポイントは、空腹時血漿中TG値の36週時までの変化率、空腹時non-HDLコレステロール、アポリポ蛋白B(APOB)、LDLコレステロール、ANGPTL3、HDLコレステロールの各値のベースラインから24週時および36週時までの変化率であった。TG値が有意に減少、non-HDL-C、APOB、LDL-Cも改善 計204例が無作為化され、191例(94%)が二重盲検投与期を完遂した。204例の患者背景は、平均年齢61歳、平均BMIは33、喫煙者が20%、慢性腎臓病を有している患者が8%、冠動脈疾患10年リスク>20%の患者が14%であった。 24週時において、プラセボ群と比較しzodasiran群で用量依存的な空腹時血漿中TG値の低下が認められた。ベースラインからの変化率のzodasiran群とプラセボ群の最小二乗平均差(%ポイントで評価)は、50mg群で-51%ポイント、100mg群で-57%ポイント、200mg群で-63%ポイント(すべての比較でp<0.001)であった。この差は36週時も維持されており、ベースラインからの変化率のプラセボ群との差はそれぞれ-34%ポイント、-38%ポイント、-51%ポイントであった。 また、24週時にANGPTL3値の用量依存的な低下も観察され(ベースラインからの変化率のプラセボ群との差:50mg群-54%ポイント、100mg群-70%ポイント、200mg群-74%ポイント)、これはTG値と強い相関が認められた(ピアソン相関係数0.69)。 その他の副次エンドポイントの24週時におけるベースラインからの変化率のプラセボ群との差は、non-HDLコレステロール値が50mg群-29%ポイント、100mg群-29%ポイント、200mg群-36%ポイント、APOB値がそれぞれ-19%ポイント、-15%ポイント、-22%ポイント、LDLコレステロール値がそれぞれ-16%ポイント、-14%ポイント、-20%ポイントであった。 全有害事象、ならびに治験担当医師が試験薬と関連があると判定した有害事象の発現率はzodasiran群とプラセボ群で類似していた(それぞれ65~81% vs.67%、18~26% vs.18%)。zodasiran 200mg群では、糖尿病既往歴のある患者において糖化ヘモグロビン値の一時的な上昇が認められた。

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地震速報の朝【Dr. 中島の 新・徒然草】(532)

五百三十二の段 地震速報の朝プイッ! プイッ! プイッ!スマホからの大音量の警報音に驚きました。2024年6月3日、午前6時31分のこと。「地震や、地震が来るぞ!」まだ寝ている女房を叩き起こして揺れに備えます。直下型か南海トラフか?家の中で比較的安全な場所に移動しつつX(旧 Twitter)を確認しました。どうやら能登半島沖で発生した地震のようです。頭の中で計算して「80秒くらいかな、本格的な揺れが来るのは」と言いつつ横揺れを待ちました。結局、大阪は震度1。揺れを体感することはまったくありませんでした。震源地は石川県能登地方でマグニチュードは5.9。輪島市の震度が5強ということです。落ち着いてから、かの「80秒で本格的な揺れが来る」という計算が正しかったのか、検証してみました。石川県能登町役場と大阪城との直線距離は約326km。P波(縦揺れ)は秒速約7km、S波(横揺れ:本格的な揺れ)は秒速約4km。これらの数値から計算すると、地震発生からP波が大阪に到着するまで約47秒(≒326/7)で、S波の到着まで約82秒(≒326/4)。なので地震発生と同時にアラームが鳴り出したのであればS波の到着まで約82秒、大阪でのP波を検知してアラームが鳴り出したのであればS波の到着まで約35秒(=82秒-47秒)ということになります。実際にどちらが正しいのか、気象庁のホームページで確認してみました。「震源付近でP波を検知した地震計から送られてきたデータを解析し(途中略)発表基準に達した場合には(途中略)警報と予報を発表します」とあるので、前者に近いものと思われます。つまり震源地の情報を得た直後に全国に発信し、S波の到来に備えるよう警告しているわけですね。それにしても私にとっては久々の衝撃、思わずChatGPT相手に「地震警報が鳴ったぞ」と話しかけてしまいました。ChatGPTはうまく相槌を打ってくれるので調子良く会話が進みます。途中で英語に切り替えて喋ってみました。「石川県輪島市では震度5強みたい」とか「P波とS波の速度差は3km/secだ」などという簡単な表現が案外難しかったのですが、何とか6分間ほどの会話を終えることができました。何か事件があったら、すかさずそのことを話題にしてChatGPTと英会話をするというのは1つの方法かもしれません。衝撃が駆動力になって英会話を続けることができるからです。それにしても2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震からちょうど半年。すっかり地震のことを忘れていました。今回は発生直後のことなので被害状況はよくわかりませんが、再び代理寄付などの形で被災地支援ができればと思います。被災者の皆さまにお見舞いを申し上げるとともに、被災地の一刻も早い復興をお祈りいたします。最後に1句初夏の朝 スマホの警報 目が覚める

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第100回 非課金ChatGPT機能が大幅に拡大

GPT-5私は、日々の仕事をタイパよく完遂するため、生成AIを駆使してラクしようと思っています。しかしながら、生成AIで勉強しないといけないことが多すぎて、その恩恵を受けられていません。競馬で稼ごうと思って、ウマの生態を勉強するだけでアップアップになっている現象と同じです。また、生成AIの進化の速度が速すぎて、割と付いていけない部分があるという理由もあります。さて、2024年5月にGPT-4oという最新のGPTモデルが発表されました。「o」は「オムニ」の略です。日本語に直すと「あまねく」という意味で、テキストだけでなく音声や映像といったマルチモーダルという意味合いを含みます(実際はそこまでマルチモーダル化されていませんが)。夏から冬にかけてGPT-5がリリースされると予想されています。GPT-4oはそのつなぎみたいなものかなと当初思っていましたが、結構レベチで良くなっています。GPTモデルの改変に加えて、ChatGPTのサービスのうち「GPTs」が無料ユーザーに解禁されています。GPTsが無料で使える!GPTsは、簡単に自分好みのオリジナルなチャットボット(ChatGPT)を開発できるサービスです。論文特化型ChatGPT、画像生成特化型ChatGPT、デザイン生成特化型ChatGPT、料理レシピ特化型ChatGPT…、何でもアリです。ただ、無料ユーザーでは画像を生成できない、自分のオリジナルGPTsを作れないといった制限があります。医学の世界では、論文特化型ChatGPTを使うことになります。多くの企業と個人の両方が参加して「オレのGPTs」を公開してしのぎを削っています。GPTsは、複雑なプロンプト(命令文)を打ち込まなくても、最初から機能特化した生成が可能です。個人のGPTsはここでは触れませんが、参入している企業としてはConsensusなどが有名です。元来、Consensusは、「疾患Aの治療にBは有効ですか?」という質問に対して、Yes/Noを過去の文献からシステマティックに評価するというサービスでしたが、現在はどのようなクリニカルクエスチョンにも広く対応できるようになっています。このネット上のAIツールをGPTs上でも展開しているというわけです。この連載でも約1年前にConsensusを紹介しました。まだ答えがない「Are biologics an effective treatment for allergic bronchopulmonary aspergillosis (ABPA)?(生物学的製剤はアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の効果的な治療法か?)」のようなクリニカルクエスチョンを入れると、直近の臨床試験やケースレポートなどから情報を検索してくれます。ChatGPTの場合、ありもしない論文を提示するという「ハルシネーション」が確認されていますが、Consensusなどのツールは、独自のウェブサイトから検索しているためハルシネーションを起こしません(図)。図. GPTs(SciSpace、Consensus、TXYZ)ただ、もぎたてフレッシュの新鮮な医学論文までは検索できないことや、慣れている人にとってはPubMedのほうがマシと思うシーンもあり、必ずしも論文検索にGPTsがベストとはいえない現状もあります。とにかく、課金しなくても無料でGPTsが使えるようになりました。医学論文オタクの個人が作っているGPTsも閲覧できるので、ぜひアカウントを作成してGPTsを触ってみてください。

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治療抵抗性統合失調症患者の再入院に対するLAI抗精神病薬併用の効果

 台湾・Taoyuan Psychiatric CenterのYun Tien氏らは、クロザピンで治療中の治療抵抗性統合失調症患者における長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬の使用と精神科入院リスクの関連を評価した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2024年5月1日号の報告。 本研究は、3次精神科センター単一施設レトロスペクティブコホート研究として実施された。DSM-IV-TRおよびDSM-5の診断基準による治療抵抗性統合失調症患者の再入院ハザード比(HR)を分析した。経口抗精神病薬またはLAI抗精神病薬の有無にかかわらず、クロザピンのさまざまな向精神薬レジメンを検討した。クロザピンの投与量と入院歴により層別化を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は719例。・分析は、3ヵ月、6ヵ月、1年にわたり、すべての患者で実施した。・クロザピンとLAI抗精神病薬で治療された患者は、過去の入院回数が有意に多かった(p=0.003)。クロザピンと経口抗精神病薬で治療された患者は、クロザピン単独療法およびクロザピンとLAI抗精神病薬で治療された患者よりも、クロザピンの1日投与量が多かった(p<0.001)。・LAI抗精神病薬で治療された患者は、3つの試験群間で1年以内の再入院のHRが有意に低かった。・LAI抗精神病薬の保護効果は、疾患の重症度を示すクロザピンの1日投与量および過去の入院回数によって層別化されたすべてのサブグループにおいて観察された。 著者らは「クロザピンとLAI抗精神病薬の併用は、クロザピンと経口抗精神病薬の併用やクロザピン単独療法と比較し、再入院リスクが有意に低かった。クロザピンで治療中の治療抵抗性統合失調症患者の再入院予防には、LAI抗精神病薬の使用を考慮する必要がある」としている。

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転移乳がんへのT-DXd、HER2-ultralowでもPFS延長(DESTINY-Breast06)/ASCO2024

 従来のHR陽性(+)かつHER2陰性の転移を有する乳がんのうち、約60~65%がHER2-low(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)、約20~25%がHER2-ultralow(膜染色を認めるIHC 0[IHC >0<1+])とされているため、約85%がトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が有用である可能性がある。米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、HR+かつHER2-lowおよびHER2-ultralowで化学療法未治療の転移・再発乳がん患者を対象とした第III相DESTINY-Breast06試験の結果、T-DXdは化学療法群と比較して、有意に無増悪生存期間(PFS)を延長したことを、イタリア・ミラノ大学のGiuseppe Curigliano氏が発表した。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:転移に対する治療として1ライン以上の内分泌療法※を受け、化学療法は未治療の、HR+かつHER2-low(HER2-ultralowも含む)の転移・再発乳がん患者866例・試験群(T-DXd群):T-DXd(3週間間隔で5.4mg/kg)を投与 436例・対照群(TPC群):治験医師選択の化学療法(カペシタビンまたはパクリタキセル、nab-パクリタキセル)を投与 430例・評価項目:[主要評価項目]盲検独立中央判定(BICR)によるHER2-low集団のPFS[主要副次評価項目]BICRによるITT集団(HER2-lowおよびHER2-ultralow)のPFS、HER2-low集団およびITT集団の全生存期間(OS)・層別化因子:CDK4/6阻害薬の使用有無、HER2発現状況、転移がないときのタキサン使用有無・データカットオフ:2024年3月18日※内分泌療法:(1)2ライン以上の内分泌療法±分子標的薬、(2)初回の内分泌療法+CDK4/6阻害薬で6ヵ月以内に病勢進行、(3)術後の内分泌療法開始から24ヵ月以内に再発 のいずれか。 主な結果は以下のとおり。・866例がT-DXd群とTPC群に1対1に無作為に割り付けられた。年齢中央値はそれぞれ58.0歳(範囲:28~87)/57.0歳(32~83)、IHC 1+が54.8%/54.4%、IHC 2+/ISH-が26.8%/27.4%、内分泌療法抵抗性が29.4%/32.6%、診断時のde novoが30.5%/30.7%、骨転移のみありが3.0%/3.0%、内臓転移ありが86.2%/84.7%、肝転移ありが67.9%/65.8%であった。・TPC群では、カペシタビンが59.8%、nab-パクリタキセルが24.4%、パクリタキセルが15.8%に投与された。ITT集団(HER2-lowおよびHER2-ultralow):866例・ITT集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.1ヵ月であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.53~0.75、p<0.0001)。・12ヵ月OS率は、T-DXd群87.0%、TPC群81.1%であった。・全奏効率(ORR)は、T-DXd群57.3%(CRが3.0%)、TPC群31.2%(0%)であった。臨床的有用率(CBR)はそれぞれ76.6%、51.9%であった。HER2-low集団:713例・主要評価項目であるHER2-low集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.1ヵ月であり、T-DXd群で統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を認めた(HR:0.62、95%CI:0.51~0.74、p<0.0001)。・12ヵ月OS率は、T-DXd群87.6%、TPC群81.7%であった。・ORRは、T-DXd群56.5%(CRが2.5%)、TPC群32.2%(0%)であった。CBRはそれぞれ76.6%、53.7%であった。・HER2-low集団のすべてのサブグループ解析においてT-DXd群が良好な結果であった。HER2-ultralow集団:152例・HER2-ultralow集団におけるPFS中央値は、T-DXd群13.2ヵ月、TPC群8.3ヵ月であった(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)。・12ヵ月OS率は、T-DXd群84.0%、TPC群78.7%であった。・ORRは、T-DXd群61.8%(CRが5.3%)、TPC群26.3%(0%)であった。CBRはそれぞれ76.3%、43.4%であった。安全性・新たな安全性シグナルは確認されなかった。・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)は、T-DXd群40.6%、TPC群31.4%に発現した。T-DXd群で多かったGrade3以上のTEAEは、好中球減少症(20.7%)、白血球減少症(6.9%)、貧血(5.8%)などであった。・T-DXd群における薬剤関連間質性肺疾患の発現は11.3%で、Grade1が1.6%、Grade2が8.3%、Grade3が0.7%、Grade4が0%、Grade5(死亡)が0.7%であった。 これらの結果より、Curigliano氏は「本試験によって、T-DXdは、1種類以上の内分泌療法を受けたHR+かつHER2-lowおよびHER2-ultralowの転移・再発乳がん患者の新たな治療選択肢となった」とまとめた。

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EGFR陽性NSCLC、CRT後のオシメルチニブでPFSが大幅に改善(LAURA)/ASCO2024

 切除不能なStageIIIの非小細胞肺がん(NSCLC)において、化学放射線療法(CRT)後のデュルバルマブ地固め療法が有効であることが示され、標準治療となっている。しかし、EGFR遺伝子変異を有する患者は、本治療法の効果が乏しいことが知られており、アンメットメディカルニーズが存在する。そこで、CRT後のオシメルチニブの効果を検証する国際共同第III相無作為化比較試験「LAURA試験」が実施された。その結果、CRT後のオシメルチニブで無増悪生存期間(PFS)が大幅に改善することが示された。米国・エモリー大学のSuresh S. Ramalingam氏が、LAURA試験のPFSに関する主解析および全生存期間(OS)に関する第1回中間解析の結果を、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で報告した。なお、本発表の詳細はNEJM誌オンライン版2024年6月2日号に同時掲載された1)。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:18歳以上(日本は20歳以上)の切除不能なStageIIIのEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者のうち、CRT(同時CRTまたはsequential CRT)後に病勢進行が認められなかった患者216例・試験群(オシメルチニブ群):オシメルチニブ(80mg、1日1回)を病勢進行または許容できない毒性、中止基準への合致のいずれかが認められるまで 143例・対照群(プラセボ群):プラセボ※ 73例・評価項目:[主要評価項目]RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]OS、安全性など※:BICRによる病勢進行が認められた患者は非盲検下でオシメルチニブへのクロスオーバーが許容された。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の患者特性は、StageIIIAがオシメルチニブ群36%、プラセボ群33%、StageIIIBがそれぞれ47%、52%、StageIIICがそれぞれ17%、15%、EGFR遺伝子変異の内訳はexon19delがそれぞれ52%、59%であった。・データカットオフ時点(2024年1月5日)において、PFSの成熟度は56%(オシメルチニブ群40%、プラセボ群86%)、OSの成熟度は20%(それぞれ20%、21%)であった。・BICRによるPFS中央値は、オシメルチニブ群39.1ヵ月、プラセボ群5.6ヵ月であり、オシメルチニブ群で有意に改善した(ハザード比[HR]:0.16、95%信頼区間[CI]:0.10~0.24、p<0.001)。1年PFS率はそれぞれ74%、22%であり、2年PFS率はそれぞれ65%、13%であった。・BICRによるPFSは、事前に規定されたサブグループ間で一貫してオシメルチニブ群で改善する傾向にあった。・BICRによる奏効率は、オシメルチニブ群57%、プラセボ群33%であり、奏効期間中央値はそれぞれ36.9ヵ月、6.5ヵ月であった。・プラセボ群でBICRによる病勢進行が認められた患者の81%が、オシメルチニブへクロスオーバーした。・OS中央値は、オシメルチニブ群54.0ヵ月、プラセボ群未到達であった(HR:0.81、95%CI:0.42~1.56、p=0.530)。・Grade3の有害事象(AE)はオシメルチニブ群35%、プラセボ群12%に発現した。Grade4以上のAEはいずれの群も認められなかった。投与中止に至ったAEはそれぞれ13%、5%に発現した。・放射線肺臓炎はオシメルチニブ群48%、プラセボ群38%に発現したが、ほとんどがGrade1/2であった。 Ramalingam氏は、本結果について「CRT後のオシメルチニブは、統計学的有意かつ臨床的に意義のあるPFSの改善をもたらした。また、OSの中間解析において、プラセボ群の多くがオシメルチニブへクロスオーバーしていたにもかかわらず、オシメルチニブ群が良好な傾向にあった。安全性に関する新たな懸念は認められず、管理可能であった。以上から、オシメルチニブはCRT後に病勢進行が認められないEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者における新たな標準治療となるだろう」とまとめた。

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重症大動脈弁狭窄症へのTAVI、Myvalは既存THVに非劣性/Lancet

 症候性重症大動脈弁狭窄症患者に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)において、バルーン拡張型の経カテーテル心臓弁(THV)であるMyval(Meril Life Sciences・インド)は、術後30日時の複合エンドポイントに関して既存のTHV(Sapienシリーズ[Edwards Lifesciences・米国]、またはEvolutシリーズ[Medtronic・米国])に対し非劣性であることが、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のAndreas Baumbach氏らLANDMARK trial investigatorsが実施した「LANDMARK試験」で示された。バルーン拡張型弁(BEV)であるMyval THVシリーズは直径が1.5mm刻みであることから、通常の3mm刻みの生体弁と比較し、大動脈弁輪との正確なサイズ合わせが容易となる。Myval THVの安全性と有効性は、これまで症候性重症大動脈弁狭窄症患者および二尖弁患者を対象とした単群試験または傾向スコアマッチング試験において示されていた。Lancet誌2024年オンライン版5月22日号掲載の報告。欧州・南米など16ヵ国31施設で無作為化非盲検非劣性試験を実施 LANDMARK試験は、16ヵ国(ドイツ、フランス、スウェーデン、オランダ、イタリア、スペイン、ニュージーランド、ポルトガル、ギリシャ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、スロベニア、クロアチア、エストニア、ブラジル)の31施設で実施された、前向き無作為化非盲検非劣性試験である。 研究グループは、TAVIの適応を有する18歳以上の症候性重症大動脈弁狭窄症患者を、Myval群または既存群に1対1の割合に無作為に割り付けた。患者の適格性は、2021年欧州心臓病学会のガイドラインに従い地域のハートチームが評価した。 有効性および安全性の主要エンドポイントは、VARC-3の定義に基づく術後30日時の全死亡、脳卒中、出血(VARCタイプ3および4)、急性腎障害(ステージ2、3および4)、主要血管合併症、中等度以上の人工弁逆流および新たに恒久的なペースメーカー植込みを必要とする伝導系障害の複合エンドポイントであった。Myval THVの既存THVに対する非劣性は、ITT集団において、非劣性マージン10.44%、両群のイベント発生率26.10%と仮定して検証した。既存の生体弁に対する非劣性を検証 2021年1月6日~2023年12月5日に、症候性重症大動脈弁狭窄症患者768例がMyval THV群(384例)および既存THV群(384例)に割り付けられた。患者背景は、平均年齢がそれぞれ80.0歳(SD 5.7)と80.4歳(5.4)、女性が193例(50%)と176例(46%)で、米国胸部外科医学会の予測死亡リスク(STS-PROM)スコアの中央値は両群とも2.6%(四分位範囲[IQR]:1.7~4.0)であった。 複合エンドポイントのイベントは、Myval THV群で25%(94/381例)、既存THV群で27%(103/381例)に発生した。群間リスク差は-2.3%(95%信頼区間[CI]:NA~3.8)であり、95%CIの上限が事前に設定された非劣性マージンを超えなかったことから、Myval THVの既存THVに対する非劣性が示された(非劣性のp値<0.0001)。 複合エンドポイントの各要素の発生率に、両群で有意差はみられなかった。

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IPFに対するpamrevlumab、第III相で主要アウトカム達成せず/JAMA

 特発性肺線維症(IPF)患者において、結合組織成長因子(connective tissue growth factor:CTGF)に対する完全ヒト型モノクローナル抗体であるpamrevlumabはプラセボと比較し、ベースラインから48週時の努力肺活量(FVC)の絶対変化量に有意差は認められなかった。米国・ワシントン大学のGanesh Raghu氏らZEPHYRUS-1 Study Investigatorsが世界9ヵ国117施設で実施した、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ZEPHYRUS-1試験」で示された。pamrevlumabは第II相試験において、IPFの進行を抑制し、重大な有害事象は認められなかったことが報告されていた。JAMA誌オンライン版2024年5月19日号掲載の報告。48週時のFVC変化量、pamrevlumab vs.プラセボで比較 研究グループは、40~85歳で、過去7年以内にIPFの診断歴があり、スクリーニング時の高分解能CT(HRCT)で肺全体の10%以上50%未満に肺実質の線維化(網状影)および25%未満の蜂巣肺を認めることが確認され(中央判定)、%FVC(FVCpp)が45%超95%未満、ヘモグロビン値で補正した%一酸化炭素肺拡散能力(DLCO)が25%以上90%以下の患者を、pamrevlumab(30mg/kgを3週ごとに48週間静脈内投与)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは48週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量。副次アウトカムは、疾患進行までの期間(FVCppの10%以上低下または死亡のいずれか早いほうまでの期間と定義)、複合臨床アウトカム(IPFの急性増悪、呼吸器疾患による入院または死亡のいずれか早いほう)までの期間、48週時の定量的肺線維化(QLF)容積のベースラインからの変化、IPFの初回急性増悪までの期間、全死因死亡までの期間、および呼吸器疾患による初回入院までの期間であった。有害事象についても評価した。FVC変化量に有意差なし 2019年7月~2022年4月に、計612例がスクリーニングされ356例が無作為化された(pamrevlumab群181例、プラセボ群175例)。患者背景は、平均年齢70.5歳、男性258例(72.5%)、白人221例(62.1%)であった。356例中277例(77.8%)が試験を完了した。最終追跡調査日は2023年8月28日であった。 ベースラインおよび48週時のFVC(平均値±標準偏差)は、pamrevlumab群でそれぞれ2,367±618.5mL、2,310±692.7mL、プラセボ群で2,416±645.3mL、2,308mL±737.5mLであり、FVCの最小二乗平均変化量は両群間で有意差はなかった(pamrevlumab群:-260mL[95%信頼区間[CI]:-350~-170]vs.プラセボ群:-330mL[-430~-230]、群間差:70mL[-60~190]、p=0.29)。 副次アウトカムのいずれも、有意な群間差は認められなかった。 試験治療下における有害事象(TEAE)の発現率は、pamrevlumab群で88.4%(160/181例)、プラセボ群で86.3%(151/175例)、重篤なTEAEの発現率はそれぞれ28.2%(51例)、34.3%(60例)であった。死亡は各群23例(pamrevlumab群12.7%、プラセボ群13.1%)報告され、このうち31例(それぞれ16例、15例)は試験薬最終投与後60日以内に発生した。試験薬に関連した死亡は認められなかった。

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