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統合失調症とうつ病の治療ガイドライン普及が睡眠薬処方に及ぼす影響

 信州大学の中村 敏範氏らは、「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」が、日本における統合失調症およびうつ病に対する、精神科医による睡眠薬の処方や処方する睡眠薬の種類に及ぼす影響を調査した。これは、精神疾患の治療ガイドラインによる教育が、精神科医の睡眠薬処方に及ぼす影響を評価した、初めての研究である。BMC Psychiatry誌2024年5月29日号の報告。 EGUIDEプロジェクトは、日本における統合失調症とうつ病のエビデンスに基づく臨床ガイドラインに関する、全国的なプロスペクティブ研究である。2016〜21年にEGUIDEプロジェクト参加施設から退院した患者を対象に、臨床データと処方データを用いて、睡眠薬の処方状況を調査した。EGUIDEプロジェクトに参加している精神科医から処方された患者と参加していない精神科医から処方された患者における、睡眠薬の処方率および各タイプの睡眠薬の処方率を比較した。睡眠薬のタイプは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬、非ベンゾジアゼピン受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬に分類した。EGUIDEプロジェクトが睡眠薬処方に及ぼす影響を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、統合失調症患者1万2,161例、うつ病患者6,167例。・EGUIDEプロジェクトに参加した精神科医は、統合失調症患者およびうつ病患者に対し、睡眠薬、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方率が有意に低かった(各々、p<0.001)。 著者らは「EGUIDEプロジェクトは、睡眠薬の処方、とくにベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方率削減に、重要な役割を果たしていると考えられる。本結果は、EGUIDEプロジェクトが治療行動の改善に寄与する可能性を示唆している」としている。

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外科医不足をどう乗り越えるか~女性医師が超党派議員の勉強会で講演

 2024年6月、超党派の女性議員が主催するクオータ制(人種や性別、宗教などを基準に一定の比率で人数を割り当てる制度。狭義には女性に一定の議席を割り振る制度)勉強会に、大阪医科薬科大学一般・消化器外科の河野 恵美子氏が招かれ、「女性外科医を取り巻く問題」について講演を行った。講演後には自民党の野田 聖子氏、立憲民主党の辻元 清美氏、公明党の竹谷 とし子氏ら、出席した女性議員と意見交換を行った。 河野氏「医療機関に勤務する外科医は年々減少し、平均年齢は50歳を超えており1)、2024年度に外科領域の研修プログラムに登録した専攻医数は13の都道府県で5人以下だった2)。外科医不足は現在進行系で悪化しており、これまでなら診断から1ヵ月以内に手術を受けられたものが数ヵ月待たねばならない、緊急手術に対応できない、といったことがすでに起こり始めている。また、高齢化に伴いがん患者が増加し、手術の総件数は増えており、外科医不足はさらに悪化することが予測される。一方、外科医の総数に占める女性医師の割合は少しずつ増加しており、外科医不足対策には若手医師や女性医師が働き続けられる労働環境の整備が急務となっている。 私自身も参加した2013~17年における「日本における男性と女性の消化器外科医の短期手術結果の比較調査」(2022年にBMJ誌に掲載)3)では、医師の性別ごとの手術成績を比較した。結果、性別によって手術成績は変わらなかった。海外にも同様のテーマの研究報告が複数あり、私の知る限り、性別ごとにみた手術結果は同等、もしくは女性医師のほうが成績が良いというものだった。こうした事実にもかかわらず、なぜ外科領域において女性医師が指導的立場に就くことが少ないのか。現在日本外科学会の指定・認定施設は約1,200あるが、女性の代表者は12人とわずか1%に過ぎない。 女性医師が指導的立場に就けない理由は複数あると考えられるが、まずは妊娠・出産によって仕事が継続できなくなることがあるだろう。女性外科医の年齢別就業数をみると30~34歳をピークとして急激に低下している。さらに見逃せないのが経験とチャンスの差だ。私たちの研究グループでは、手術の種類別に外科医1人当たりの執刀数の男女別の検討も行った4)。結果として、女性外科医は医師登録後最初の2年間の虫垂切除術と胆嚢摘出術を除き、すべての年で6種類の手術すべての経験数が少ない傾向にあった。とくに低位前方切除術(27~29歳)は男性医師が女性医師の6.75倍、膵頭十二指腸切除術(30~33歳)は同22.2倍など、難易度の高い手術ほど経験数の男女差が開く傾向が認められた。つまり、女性外科医は男性外科医と比較して手術、とくに難易度の高い手術を任せてもらえていない。これは妊娠出産だけでは説明がつかない格差だ。結果として手術経験数が問われる専門医取得が遅くなる、または取得・維持自体が困難になり、組織の中で指導的立場に上がれない構造が明らかになった。 では、何を優先して改革を進めるべきか。まずは働き方改革だろう。昨年消化器外科学会が会員に対して行ったアンケート5)では、3,000人弱の回答者のうち2割近くが週70時間以上勤務しており、今年から医師の働き方改革が始まっても大きくは改善していないことが予想される。さらに主な育児の担い手として、男性医師の96.3%が「配偶者」と回答したのに対し、女性医師の76.3%が「自分」と回答した。雇用形態も男性医師が常勤中心であるのに対し、子供を持つ女性医師は2割以上が非常勤と差があり、家事育児の負担が女性に偏っている状況が明らかになった。この状態を是正しなければならない。 私自身も子供を育てながら常勤医を続けてきたが、夫の協力があっても過労で倒れるくらい過酷なものであり、周囲の多くの女性医師がキャリアを断念するのも目にしてきた。外科医を増やし、タスクシフトを進めて勤務時間を減らし、女性医師だけでなく、男性医師も過度な負担なく働き続けられる環境をつくらねばならない。急性期病院の集約化や急性期医療に対するメリハリの付いた診療報酬体系の改革も必要だろう。 さらに意識改革も重要だ。男性が稼ぎ主となることを前提とした公的年金・税制度の改革は政治にしかできないことであり、多くの人の意識改革にもつながるため、ぜひとも早急に実現してほしい。女性の活躍なくして医療はもちろん、国全体の発展もあり得ない。」 講演後には参加した女性議員より「医療における男女格差についてデータ化、論文化し、トップジャーナルに掲載されたことは素晴らしい。問題は可視化されてはじめて議論できるようになる」「海外では大手企業の取締役に一定数の女性を入れることを義務付けるクオータ制を採用する国も多く、日本でも東証プライム上場企業に対し女性役員比率30%という数値目標が掲げられている。医療機関でも施設認定などの際に意思決定層の女性比率を要件とするのも1つのアイデアではないか」「ジェンダーバイアスをなくすための研究に予算を取るべきだ」といった意見・感想が寄せられた。 河野氏は「2023年、日本消化器外科学会学会総会では、男女共同参画を推進する『函館宣言』が発出された。時代は確実に変わりつつある。男女や世代で分断するのではなく、問題が山積した今の医療制度をどう変えたらよいのか、みんなで考える機運を盛り上げたい」とまとめた。

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「生活習慣病管理料」算定に適した指導・効率的な方法は?

 6月の診療報酬改定後もなお話題になっている、生活習慣病に係る医学管理料の見直し。今回の改定では、▽生活習慣病管理料(II)の新設(検査などを包括しない生活習慣病管理料 II[330点、月1回])▽生活習慣病管理料の評価および要件の見直し(療養計画書の簡素化、電子カルテ情報共有サービスの活用など)▽特定疾患療養管理料の見直し(対象疾患から生活習慣病である糖尿病、脂質異常症、高血圧症が除外)といった点が変更された1)。とくに高血圧症などの生活習慣病患者に対し、これまでの特定疾患療養管理料に近い点数を生活習慣病管理料で算定していくためには、療養計画書の作成、診療ガイドラインに基づいた疾患管理、リフィル処方箋に関する掲示、多職種連携推奨…といった要件が多く、今回の改定による医師の負担増は免れない。そこで今回、谷川 朋幸氏(CureAppメディカル統括取締役/聖路加国際病院 医師)は患者を効果的な生活改善へと導き、医師が効率的に療養計画書を作成するために、高血圧治療補助アプリを活用した打開策をCureApp主催メディアセミナーにて紹介した。生活習慣病患者への算定、改訂前より10点減点 これまでも生活習慣病管理料自体は存在していたが、特定疾患療養管理料と違い、療養計画書の作成や患者へ署名を求める点などがハードルとなり、生活習慣病管理料の算定件数割合は特定疾患療養管理料に比してたった数%に留まっていた。それが今回の改定では、政府が“効率的で効果的な疾患管理”を推進するために、従来の療養計画書を簡素化させたり、毎月受診の要件を廃止したりといった歩み寄りをしたうえで、生活習慣病患者の管理料を新たな生活習慣病管理料(I)および(II)へと変更した。その結果、200床未満の施設で生活習慣病管理料を算定する場合、以下のような追加業務が発生することになる。・療養計画書により丁寧な説明を行い、同意を得た証拠として患者から署名をもらうこと・計画書の写しを診療録に添付しておくこと・継続して算定する場合、内容に変更がなくともおおむね4ヵ月に1回以上は計画書を交付すること そして、診療報酬改定後に生活習慣病管理料(II)を算定すると、1診療につき333点(オンライン診療は290点)と改訂前に比べ10点近くもの減点となるため、これまでの生活習慣病患者への算定に対し発生するマイナス部分をどのように補填するかは大きな問題である。ここで谷川氏は「CureApp HT高血圧治療補助アプリ(以下、本アプリ)を活用することで、新設したプログラム医療機器等指導管理料(90点)などを算定2)できるため、むしろプラスに転じることが可能。また、患者さんにとっても指導内容が充実するため、本アプリの活用は医療者・患者さん双方にとって生活習慣病管理料(II)の穴埋め以上の効果をもたらすことができる」と説明した。電カルとの連携、患者の生活習慣見える化とカルテ入力に効果 本アプリに関連するその他のメリットとして、「患者さんに対し、生活習慣病の管理記録を簡単に作成できるツールを提供できると共に、生活習慣の改善(減量・減塩ができる、薄味に慣れるなど)が患者さんのみならず家族にも影響を及ぼし、降圧作用以外のベネフィットとなる」とコメントした。一方で、医師にとっては本アプリと電子カルテを連携させることでカルテ入力の負担軽減につながる点がポイントになる。「生活習慣指導について、内科系医師の86.0%は必須と考える一方で“うまくいっている”と回答したのは39.5%と半数に留まっていた。このギャップが生まれた理由として、患者さんの生活習慣を見える化することができない点が医師らの課題として挙がったが、本アプリを導入している医師らはアプリが生活習慣管理の動機付けにぴったりであり、なおかつ生活習慣の見える化にも有効と回答している」と話した。生活習慣改善の継続に寄り添える だが、生活習慣の改善は口で言うほど実際にその継続は容易ではない。患者が自力で改善させるとなると2人に1人は継続できないという報告3)もあるようだ。このような現状を踏まえ、CureAppは健康的な生活習慣を身に付けながら高血圧治療に取り組むためのプログラム『CureApp HT 血圧チャレンジプログラム』*を6月から新たにスタートさせている。このプログラムを開始するにあたり、患者アプリの情報を基に療養計画書(患者レポート)を作成できる機能を医師側のアプリに実装させており、「これまで敬遠されがちな事務作業の効率化はもちろん、医師の指導内容が可視化されて患者さんにとってもわかりやすいレポートが作成される」と同氏はコメントした。*高血圧治療補助アプリと医師による診察のほか、アプリで入力した取り組み内容を可視化できる患者レポート・療養計画書の同時作成や『血圧チャレンジキット』と称した「みんなのレシピ集(減塩レシピ)」や「CureApp血圧チャレンジプログラム スタートブック」の配布に加え、血圧計購入支援などのカスタマーサポートサービスを受けることができるプログラム4) 最後に谷川氏は、「今回の取り組みが患者さんと医療現場の双方にとって価値のあるものになることを目指している。次回2026年の診療報酬改定に向けて、医療DX推進の流れは強化されるだろう。日常診療により溶け込み、なくてはならないシステムとなるよう進化を続けたい」とも説明した。

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オシメルチニブのEGFR陽性NSCLC1次治療、化学療法との併用で添付文書を改訂/AZ

 アストラゼネカは2024年6月25日、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)の「用法及び用量に関連する注意」などにおける記載を変更し、電子化された添付文書(電子添文)を改訂したと発表した。EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん(NSCLC)治療薬としてオシメルチニブと化学療法との併用療法が可能となる。 今回の改訂は、EGFR変異陽性NSCLC1次治療におけるオシメルチニブと化学療法の併用治療とオシメルチニブ単剤治療を比較した第III相FLAURA2試験の結果に基づくもの。試験の結果、同剤と化学療法の併用が可能と判断された。 FLAURA2試験ではオシメルチニブと化学療法の併用がオシメルチニブ単剤に対し、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した(ハザード比:0.62、95%信頼区間:0.49~0.79、p<0.0001)。 EGFR変異陽性NSCLCの1次治療において、オシメルチニブ投与により臨床転帰は改善するものの、大部分の患者では病勢進行が認められる。オシメルチニブの耐性化を抑制できるより有効性・安全性の高い治療法が求められるなか、オシメルチニブ併用療法群は単剤療法を上回るPFSが認められたこととなる。 「用法及び用量に関連する注意」の改訂「他の抗悪性腫瘍剤との併用について、有効性及び安全性は確立していない」の記載を削除し、「本剤を他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合、併用する他の抗悪性腫瘍剤は「17.臨床成績」の項の内容を熟知し選択すること」に変更。

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D型肝炎へのbulevirtide、PEG-IFN上乗せが有効/NEJM

 慢性D型肝炎に対して、bulevirtide+ペグインターフェロン アルファ-2a(PEG-IFNα-2a)の併用療法はbulevirtide単独療法と比べて、治療後24週時点のD型肝炎ウイルス(HDV)RNA陰性化率の評価において優れることが示された。フランス・パリ・シテ大学のTarik Asselah氏らが第IIb相非盲検無作為化試験の結果を報告した。bulevirtide単独療法は慢性D型肝炎患者におけるウイルス学的奏効をもたらすことが、第III相試験において示されている。また、PEG-IFNα-2aは本疾患へ適応外使用されているが、両薬の併用によりウイルス学的抑制が強化され、慢性D型肝炎患者の投与期間を限定した治療となりうるのかは明らかにされていなかった。NEJM誌オンライン版2024年6月6日号掲載の報告。治療終了後24週時点のHDV RNA陰性化率を評価 研究グループは、PCRによりHDV RNA陽性、スクリーニング時のALT値が正常上限値の1倍超10倍未満である18~65歳の慢性D型肝炎患者を、以下の4群に1対2対2対2の割合で無作為に割り付けた。(1)PEG-IFNα-2a(180μg/週)を48週間皮下投与(PEG-IFNα-2a単独群)、(2)bulevirtide 2mg/日の96週間皮下投与+前半48週間はPEG-IFNα-2a(180μg/週)を皮下投与(bulevirtide 2mg+PEG-IFNα-2a併用群)、(3)bulevirtide 10mg/日の96週間皮下投与+前半48週間はPEG-IFNα-2a(180μg/週)を皮下投与(bulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群)、(4)bulevirtide 10mg/日を96週間皮下投与(bulevirtide 10mg単独群)。 すべての患者が、治療終了後48週間フォローを受けた。 主要エンドポイントは、治療終了後24週時点のHDV RNA陰性化率とした。主要比較は、bulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群vs.bulevirtide 10mg単独群で行われた。HDV RNA陰性化率はbulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群46%、bulevirtide 10mg単独群12% 175例が無作為化され、治療を受ける前にPEG-IFNα-2a単独群に割り付けられた1例が同意を撤回。PEG-IFNα-2a単独群24例、bulevirtide 2mg+PEG-IFNα-2a併用群50例、bulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群50例、bulevirtide 10mg単独群50例が割り付けられた治療を受けた。 患者の人口統計学的およびベースライン特性は、おおむね治療群間でバランスがとれていた。男性・白人が多く、平均年齢は41歳。約3分の1の患者が肝硬変に罹患。ほぼ全員(97%)がHDV遺伝子型1型で、79%がHBV遺伝子型D型であった。また84例(48%)は過去にIFN療法を受けていた。 治療終了後24週時点でHDV RNA陰性化率は、PEG-IFNα-2a単独群17%、bulevirtide 2mg+PEG-IFNα-2a併用群32%、bulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群46%、bulevirtide 10mg単独群12%であり、主要比較の群間差は34%ポイント(95%信頼区間:15~50、p<0.001)であった。 治療終了後48週時点のHDV RNA陰性化率は、それぞれ25%、26%、46%、12%であった。 最も多くみられた有害事象は、白血球減少症、好中球減少症および血小板減少症であったが、有害事象の大半はGrade1または2だった。

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慢性硬膜下血腫の穿頭ドレナージ術、洗浄なしvs.あり/Lancet

 慢性硬膜下血腫に対する穿頭ドレナージ術について、硬膜下洗浄を行わない場合(洗浄なし群)の6ヵ月以内の再手術率は、行った場合(洗浄あり群)より6.0%ポイント高率であり、洗浄なし群の洗浄あり群に対する非劣性は示されなかったことを、フィンランド・ヘルシンキ大学のRahul Raj氏らFinnish study of intraoperative irrigation versus drain alone after evacuation of CSDH(FINISH)試験グループが報告した。慢性硬膜下血腫に対する穿頭ドレナージ術には、アクセス用穿頭孔の作成、硬膜下腔の洗浄、硬膜下ドレーンの挿入という3つの要素が含まれる。硬膜下ドレーンの有益性は確立されているが、硬膜下洗浄の治療効果は検討されていなかった。結果を踏まえて著者は、「機能的アウトカムや死亡率について群間差がなかったことを考慮すると、硬膜下洗浄を行うことを支持するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年6月6日号掲載の報告。術後6ヵ月以内の再手術率を評価、非劣性マージン7.5% FINISH試験はフィンランドの5つの脳神経外科ユニットで実施された、研究者主導の実践的多施設共同無作為化並行群間非劣性試験であり、穿頭ドレナージを要する慢性硬膜下血腫を有する18歳以上の成人を登録して行われた。 被験者は、硬膜下洗浄を行う穿頭ドレナージ群(洗浄あり群)または硬膜下洗浄を行わない穿頭ドレナージ群(洗浄なし群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。コンピュータ生成ブロック無作為化法(4、6、8ブロックサイズ)が用いられ、試験地による層別化も行われた。 脳神経外科医および手術室スタッフを除き、すべての患者およびスタッフは治療割り付けが盲検化された。 両群ともに、穿頭孔は血腫厚が最大の部位に開けられ、硬膜下腔を洗浄せずに硬膜下ドレーンを挿入、または硬膜下腔を洗浄したうえで硬膜下ドレーンを挿入。ドレーンは48時間留置された。 再手術、機能的アウトカム、死亡および有害事象を、手術後6ヵ月間記録し評価した。主要アウトカムは、6ヵ月以内の再手術とし、非劣性マージンは7.5%で設定した。非劣性を結論付けるためには重要な副次アウトカムの達成も求められた。重要な副次アウトカムは、6ヵ月時点の機能的アウトカムが不良(すなわち修正Rankinスケールスコア4~6、スコア範囲:0[症状なし]~6[死亡])であった被験者の割合および死亡率であった。主要アウトカムおよび重要な副次アウトカムの解析評価はいずれもITT集団およびper-protocol集団で行われた。群間差6.0%ポイントで洗浄なし群の非劣性は示されず 2020年1月1日~2022年8月17日に1,644例が適格性の評価を受け、589例(36%)が無作為化され、割り付けられた治療を受けた(洗浄なし群295例、洗浄あり群294例、女性165例[28%]、男性424例[72%])。6ヵ月フォローアップは、2023年2月14日まで延長された。 ITT解析では、再手術が必要となった被験者は洗浄なし群54/295例(18.3%)、洗浄あり群37/294例(12.6%)であった(群間差:6.0%ポイント、95%信頼区間:0.2~11.7、p=0.30、試験地補正済み)。 修正Rankinスケールスコア4~6の被験者の割合(洗浄なし群37/283例[13.1%]vs. 洗浄あり群36/285例[12.6%]、p=0.89)、死亡率(18/295例[6.1%]vs.21/294例[7.1%]、p=0.58)のいずれも両群間で有意差は認められなかった。 主要ITT解析の結果は、per-protocol解析でも実質的に変わらなかった。 有害事象の発現件数は両群間で有意差はなく、最も多くみられた重篤な有害事象は全身性感染(洗浄なし群26/295例[8.8%]vs.洗浄あり群22/294例[7.5%])、頭蓋内出血(13/295例[4.4%]vs.7/294例[2.4%])、てんかん発作(5/295例[1.7%]vs.9/294例[3.1%])であった。

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男女平等が進むと男性の肉の摂取頻度が増える?

 男女平等が進んでいる国では、男性の肉の摂取頻度が女性よりも増える傾向にあることが、新たな研究で明らかになった。この現象は、主に北米とヨーロッパの豊かな国で見られ、中国やインド、インドネシアのような、国土は広いが経済的に豊かではない国では見られなかったという。工場式畜産の撲滅を目指す非営利家畜保護団体のMercy for Animalsから資金提供を受けてチューリッヒ大学(スイス)心理学教授のChristopher Hopwood氏らが実施したこの研究の詳細は、「Scientific Reports」に6月13日掲載された。 Hopwood氏らは今回、長年の統計データをベースに研究に着手した。そのデータとは、「ほぼどの国でも、男性は女性よりもよく肉を食べる傾向がある」というものである。しかし、男女間の平等が進めば肉の摂取に見られる男女差も縮まるのだろうか? この答えを得るためにHopwood氏らは、2021年に北米、南米、ヨーロッパ、およびアジアの23カ国から2万802人が参加した調査データの分析を行った。調査では、参加者が自分のジェンダーと肉の摂取頻度を報告していた。 その結果、中国、インド、インドネシアを除くその他の国では、男性の肉の摂取頻度は女性よりも高いことが明らかになった。また、その国の平均所得水準が上がるにつれて、男女ともに、肉の摂取頻度が高くなることも示された。これらの結果についてHopwood氏らは、「肉は植物性食品に比べ、生産・購入コストが高いので、この結果は理にかなっている」と述べている。 しかし、驚くべきことに、男女間の肉の摂取頻度の差は、男女間の平等が縮まるにつれて広がることも示された。この理由について研究グループは、「より裕福で男女が平等な国では、男性が食事の選択をコントロールできる機会が増え、その結果、肉を選ぶことが増えているのではないか」との考えを示している。そして、この傾向について、「先進国では、経済力の豊かさから男性が肉を選ぶ機会が増え、それが男性での肉の消費量の増加につながっているのであり、女性の肉の消費量が少ないことが原因ではない可能性が高い」と述べている。研究グループはさらに、「男女間の平等が進んだ裕福な国の男女は、自分の好みに従って肉を多く食べたり、あるいは控え目に食べるようにしたりしている可能性がある」との見方も示している。 Hopwood氏らは、これらの新たな知見に基づき、肉の消費量を減らす努力は、ジェンダーや性自認を考慮し、「男性の肉の消費量削減に焦点を当てる」ことが望ましいとの考えを示している。

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超加工食品の利便性・時短性のとりこになる危険に警鐘を鳴らす!(大規模コホート研究)―(解説:島田俊夫氏)

超加工食品に関する論文の見解の流れ 超加工食品に関する報告によれば、総じて全死因死亡(全死亡)リスクを高めるとの結論で一致しています1,2)。ただし、これまでのところ心血管疾患に関しては、リスクを高めることは全面的に肯定されているわけではありません(当論文において有意差を認めていないが否定するものではありません)。 食事を楽しむことができないような忙しい生活の中で、利便性や時短性に優れた超加工食品が重宝される傾向はわからないわけではありませんが、超加工食品への極端な嗜好は健康長寿と相反しており、将来の健康に懸念を抱かざるを得ません。 最近、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のZhe Fang氏らが、30年超えの長期にわたる医療従事者対象の男女別の2コホート研究から超加工食品の問題点を取り上げました。食事評価を繰り返したデータを担保する大規模コホート研究に基づく、超加工食品の全死亡への影響を仔細に検討した論文がBMJ誌2024年5月8日号に掲載されました。大規模かつ長期間にわたり追跡されたコホートデータに基づく信頼性の高い論文は数少なく、本論文についてコメントします。本論文概要 本研究では、米国11州の女性正看護師コホートと同国50州の男性医療従事者コホート中、心血管疾患・糖尿病歴のない女性7万4,563例と男性3万9,501例(計:11万4,064例、男/女比:0.53)を対象として、超加工食品摂取(4年ごとに実施された食物摂取頻度調査を使用)と死亡の関係を中心に調査・検討した。主要アウトカム:全死亡、副次アウトカム:がん、心血管死、その他による死亡として、多変量Cox比例ハザードモデルを用い超加工食品摂取量との関連を分析した。超加工食品の最低四分位数群vs.最高四分位数群比較では、全死亡リスクは最高四分位数群で4%有意に高かった。がん、心血管疾患に関しては、有意差はなかった。その他の死亡に関しては9%有意に高かった。 超加工食品サブグループ別解析では、肉/鶏肉/魚介類ベースの調理済みインスタント食品(加工肉)が全死亡と最も強い関連(HR:1.13、95%CI:1.10~1.16、傾向のp<0.001)を示し、砂糖または人工甘味料入り飲料(1.09、1.07~1.12)、乳製品ベースのデザート(1.07、1.04~1.10)、超加工パン・朝食用食品(1.04、1.02~1.07)(ただし、全粒穀物を除く)も、全死亡リスクの増加に関連していた。コメント 超加工食品は利便性と時短性から多忙な生活の中では重宝され、多くの人に愛され、利用されていると考えると恐ろしい気持ちがします。食事による健康被害が超加工食品により起こっていることが多数報告されており、その評価の信ぴょう性も高まっています。食物は自然の状態に近い形(whole food)で食べるのが健康的であると考えるのがごく自然です。健康を犠牲にする可能性が高い超加工食品の持つ利便・時短といった魅力のとりこになるのはきわめて危険です。ただちにやれることは、超加工食品の魅力のとりこになることを回避する理解・努力が必要だと考えます。命を削って利便性や時短性の犠牲になるのを回避する努力がいかに大事か、自問自答してください。この論文は超加工食品の利便性・時短性の背後に潜む健康被害に警鐘を鳴らす論文として素直に受け止めましょう。

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寄り道編(3)人工冬眠【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第52回

※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事61巻5号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(3)人工冬眠Questionクロルプロマジンの適応にある「人工冬眠」はどのような使い方をする?

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親の経営するクリニック、継ぐべきか?【Dr.大塚の人生相談】

13年目の医師です。整形外科で勤務医をしています。父が整形外科の開業医をやっており、周りは僕が父の跡を継ぐものだと思ってます。ただ、父は継げとか言うことはありません。まだ、自分が開業医になる目標などは持てていません。父に自分に継がせる意向があるかを確かめたほうがいいでしょうか?(今回の相談者:えにぐまさん)ぼくは、医者の子供には「2種類のタイプ」があると思っています。親の背中に憧れて医者になるタイプと、親の背中に絶望して医者にだけにはならないタイプです。まず、前者。前者の家庭は、良好な親子関係が多いと思います。親が子供に進路を強要することはまずありません。子は、親が医者として働く姿を見て、ごくごく自然と医者になることが多いように感じます。また、母親の理解もあり、お父さんの働く姿を子供の前で悪く言いません。もちろん、不満もあるでしょう。昭和の医者なんて、ブラックな環境が当たり前でしたから、お母さんもだいぶ我慢してきたはずです。しかし、心の何処かで医者である夫を尊敬しています。そういう空気が家庭内に溢れていると、子供は誰から言われることなく医者の道を志します。一方の後者、親の背中に絶望して医者だけにはならないタイプは多数のパターンがあります。親子関係が悪いところもあるでしょうが、すべてがすべてそういうわけではないでしょう。親子仲良しでも「医者にだけはぜったいにならない」と公言する医者の子供はいます。これは病院でがんばって働いていても、家でかっこいい姿を子供にみせられなかった親に多いと思います。全力で臨床やってクタクタになって帰ってきて、休みの日は死んだように寝る。その姿を見た子供は、「医者、しんどそう」と思いがちです。実際は、仕事が楽しかったりするんですけどね……。さて、相談者さんのお父さんは、ご本人さんになにも言わないタイプなんでしょうね。医者になると決めたときも、親御さんはなにも言わなかったんじゃないでしょうか?でも、お父さんはあなたが医者になることを心から喜んでいたはずです。今回のご相談の件に関しても、直接相談したところで、病院を継ぐかどうかは自分の好きなように決めたら良い、と応えるんじゃないのかしら。そうなるとあなたは混乱するわけです。どっちが父親が喜ぶかな、と。ここで親の気持ちを言ってしまうと、あなたのお父さんはあなたが病院を継いでくれたら少なからず嬉しい。でも、あなたのやりたいことを差し置いてまで、自分の病院を継いでほしくない。お父さんの一番の願いはきっと、あなたが医者という仕事を楽しんでやっていることと、その姿を見ること。病院を継いだとしても、「留学もしたかったなぁ」とか「もう少し技術を磨いておきたかったなぁ」なんていう後悔する姿を見たくはないはず。いろんなことに挑戦して、楽しんで、結果としてお父さんの病院を継ぐのがあなたの目標になったときに、開業したら良いんだと思います。ただね、親もいつまで元気でいるかわかりません。お父さんを喜ばせたいと思うあなたの気持ちは文章から伝わってきます。お父さんがお元気なうちに、いろいろ話しておくことは大事なんじゃないかなぁ。改まって「病院継いで欲しいの?」なんて聞かなくても、自分の仕事について少しでも話してあげたら、お父さんはすごく喜ばれると思います。

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植物の誤食、わが国で最も死亡例が多いのは?【これって「食」中毒?】第2回

今回の症例年齢・性別59歳・男性患者情報高血圧症に対してアジルサルタン40 mg/日が処方されていた。ある日、自宅の庭に生えていた植物の葉を「ギョウジャニンニク」と判断して、おひたしにして食べた。摂取3時間後より激しい嘔吐・下痢を繰り返したが、自宅で様子をみていた。次第に、全身状態が悪化して体動困難となった。たまたま訪れた友人にトイレの近くで倒れているのを発見されて、摂取36時間後に救命救急センターに搬送された。初診時は気道開通、呼吸数24/分、SpO2 97%(室内気)、血圧78/42 mmHg、心拍数122 bpm(整)、意識レベルJCS 10、体温36.2℃であった。末梢の冷汗および乏尿を認めた。腹部はやや膨満し、全体に圧痛を認め、腸蠕動音は減弱していた。検査値・画像所見末梢血では、WBC 2.88×103/µL、Hb 16.6g/L、Ht 50%、PLT 34.6×103/µL。生化学検査では、T-Bil 1.4mg/dL、AST 368IU/L、ALT 122IU/L、AMY 146IU/L、BUN 29.8mg/dL、Cr 2.80mg/dL、Na 136mmol/L、K 3.0mmol/L、Glu 63mg/dL、動脈血液ガス(室内気)では、pH 7.18、PaO2 82.4mmol/L、PaCO2 32.6mmol/L、HCO3- 11.2mmol/L、BE -8.4mmol/Lであった。心電図では、洞性頻脈を認めた。腹部CTでは、下大静脈の虚脱および小腸の浮腫を認めた。問題

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第218回 2040年に向けさまざまな改革が本格始動、「骨太の方針2024」から見えてくる医療提供体制の近未来像

日本医師会会長選、松本氏大勝で2期目に突入こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。任期満了に伴う日本医師会の会長選は6月22日に投開票が行われ、現職の松本 吉郎氏が元副会長の松原 謙二氏を破り、再選を果たしました。投票総数378票で、松本氏334票、松原氏38票という、前回を上回る圧勝でした。エムスリーなどの報道によれば、選挙後に都内で開いた報告会で松本氏は、「財務省などから本当に強大な圧力がかかっており、多くの課題を抱えている。それに打ち勝つには、これまで以上に私ども役員がもっとしっかりと頑張って、先生方とも共闘して事に当たらなければ、本当に日本の医療が壊れてしまうと思う」と述べたとのことです。本連載の前回「第217回 迫る日医会長選、『もう日医の力は昔ほどではない』と元自民党医系議員、松本会長は再選後も“茨の道”か?」でも書いたように、財務省が提案してくるさまざまな政策に加え、秋にかけて激しさを増す政局にも翻弄される、まさに“茨の道”のスタートと言えそうです。2040年ころまでの医療政策の中心課題が盛り込まれた「骨太の方針2024」さて、今回は、6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(骨太の方針2024)1)について書いてみたいと思います。今国会で成立した改正政治資金規制法を巡る与野党の激しい攻防の陰に隠れる形となり、例年に比べ、一般紙の報道は地味な印象でした。しかし、診療報酬・介護報酬の同時改定も終わり、新たな地域医療構想の検討も進む中、今回の「骨太」には、2040年頃までの医療政策の重点課題が盛り込まれています。ここでは医療提供体制関連の項目を中心に見てみたいと思います。かかりつけ医機能が発揮される制度整備と地域医療連携推進法人に言及、連携推進法人は4年連続で記述「骨太の方針2024」において医療や社会保障関連の内容は、主に「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」の「主要分野ごとの基本方針と重要課題(1)全世代型社会保障の構築」に書かれています。医療提供体制については、「国民目線に立ったかかりつけ医機能が発揮される制度整備、地域医療連携推進法人・社会福祉連携推進法人の活用、救急医療体制の確保、持続可能なドクターヘリ運航の推進や、居住地によらず安全に分べんできる周産期医療の確保、都道府県のガバナンスの強化を図る。地域医療構想について、2025年に向けて国がアウトリーチの伴走支援に取り組む」と、かかりつけ医機能が発揮される制度整備と地域医療連携推進法人に言及。本連載の「第214回 岸田首相、初夏の山形・酒田へ。2024年度から制度テコ入れの地域医療連携推進法人に再び脚光」でも予想したように、地域医療連携推進法人については4年連続の記述となり、同制度に対する国の期待を改めて感じ取ることができます。2040年頃を見据えた新たな“地域医療構想”の概要を年末までに現在検討が進む次なる地域医療構想については、「2040年頃を見据えて、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大や現役世代の減少等に対応できるよう、地域医療構想の対象範囲について、かかりつけ医機能や在宅医療、医療・介護連携、人材確保等を含めた地域の医療提供体制全体に拡大するとともに、病床機能の分化・連携に加えて、医療機関機能の明確化、都道府県の責務・権限や市町村の役割、財政支援の在り方等について、法制上の措置を含めて検討を行い、2024年末までに結論を得る」と明記、2040年頃を次の目標年に置いて、かかりつけ医機能や医療・介護連携についても盛り込んだ新たな”地域医療構想”(仮称)の概要を2024年末までに決めるとしています。かかりつけ医機能が発揮される制度整備に加え、次なる地域医療構想も2024年中にその概要が固まるわけで、医療関係団体にとって、今年がとても重要な年となることがこうした記述からも見て取れます。医師の偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージも年末までに策定昨年の「骨太の方針」と比べた大きな変化は、医師の偏在解消対策についての記述が以下のような長文で入ったことでしょう(昨年は「実効性のある医師偏在対策」という文言のみ)。「医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在の是正を図るため、医師確保計画を深化させるとともに、医師養成過程での地域枠の活用、大学病院からの医師の派遣、総合的な診療能力を有する医師の育成、リカレント教育の実施等の必要な人材を確保するための取組、経済的インセンティブによる偏在是正、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法を組み合わせた取組の実施など、総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定する」。医師偏在については、本連載の「第208回 『地域ごとの医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代に入ってきた』と武見厚労大臣、地域偏在、診療科偏在の解消に向け抜本策の検討スタート」で、武見 敬三厚生労働大臣が、規制の導入も視野に入れて医師偏在解消の具体策をまとめる方針を示した、と書きましたが、その意気込みがそのままこの長文につながった感じです。「骨太」に書かれた対策は“ごった煮”感もありますが、とにかくあらゆる手立てを尽くして医師偏在を解消するということのようです。これもまた「2024年末までに策定する」となっているのもポイントです。なお、1点気になったのは、「経済的インセンティブによる偏在是正」の文言が入っていることです。こちらは、本連載の「第209回 これぞ財務省の執念?財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も」で書いた、診療報酬への地域別単価導入と思われますが、財務省が(言葉を少し変えて)するりと潜り込ませたのでしょう。2024年末までにまとめられるという「総合的な対策のパッケージ」の内容に注目したいと思います。医療・介護DXについてはマイナ保険証を柱とする従来方針を改めて強調その他の医療関連の重要項目としては「DX」があります。「第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現」の中の「3.投資の拡大及び革新技術の社会実装による社会課題への対応」の「(1)DX」で、医療・介護DXについて言及、「政府を挙げて医療・介護DXを確実かつ着実に推進する。このため、マイナ保険証の利用の促進を図るとともに現行の健康保険証について2024年12月2日からの発行を終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する。『医療DXの推進に関する工程表』に基づき、『全国医療情報プラットフォーム』を構築するほか、電子カルテの導入や電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX、PHRの整備・普及を強力に進める。調剤録等の薬局情報のDX・標準化の検討を進める」と、マイナ保険証をベースとして、全国医療情報プラットフォームを構築するという従来方針を改めて強調しています。今年の「骨太の方針」は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化するという目標を盛り込みつつも、具体的な数値目標は設けられておらず、踏み込みが甘いとの見方がもっぱらです。また、岸田 文雄首相は「骨太の方針」を閣議決定した直後の記者会見で、物価高対策として電気・ガス代の補助や年金世帯への給付金支給を表明、「政府の歳出改革は一貫性を欠く」(6月22日付日本経済新聞)との批判もあります。とは言え、医療提供体制に関する項目については、「かかりつけ医機能」「次期地域構想」「医師偏在対策」「医療介護DX」とそれぞれの整合性が取れており、近未来を俯瞰する上では参考になる内容となっています。時間があれば、ご一読をお勧めします。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2024/内閣府

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塩分の多量摂取はアトピー性皮膚炎のリスク?

 ナトリウムの多量摂取はアトピー性皮膚炎のリスクと関連しているのか。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のBrenda M. Chiang氏らは、これまでほとんど明らかにされていない食事とアトピー性皮膚炎との関連性について、一般住民を対象とした大規模コホート研究で、食事によるナトリウム摂取量の増加とアトピー性皮膚炎の関連性を調べた。その結果、ナトリウム摂取量が増加するとアトピー性皮膚炎の罹病リスクが上昇した。著者らは「食事によるナトリウム摂取量を制限することが、アトピー性皮膚炎に対する費用対効果が高く低リスクの介入となる可能性が示唆された」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年6月5日号掲載の報告。 研究グループは、尿中ナトリウム量をバイオマーカーとした食事による推定ナトリウム摂取量と、アトピー性皮膚炎の関連を横断研究で調べた。英国のUK Biobankに登録された成人(37~73歳)を対象として、2006年3月31日~2010年10月1日に採取された単一スポット尿サンプルを用いて24時間尿中ナトリウム排泄量を調査した。主要アウトカムは、電子医療記録の診断・処方コードに基づく、アトピー性皮膚炎または活動性アトピー性皮膚炎であった。年齢、性別、人種・民族、社会的格差(タウンゼント剥奪指標)、教育レベルで補正した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、関連性を検討した。データ解析は2022年2月23日~2024年3月20日に実施した。 主な結果は以下のとおり。・対象は21万5,832例(年齢[平均値±標準偏差]56.52±8.06歳、女性54.3%)であった。・推定24時間尿中ナトリウム排泄量(平均値±標準偏差)は3.01±0.82g/日であり、アトピー性皮膚炎の診断例は1万839例(5.0%)であった。・多変量ロジスティック回帰分析において、推定24時間尿中ナトリウム排泄量の1g増加は、アトピー性皮膚炎(補正後オッズ比[aOR]:1.11、95%信頼区間[CI]:1.07~1.14)、活動性アトピー性皮膚炎(同:1.16、1.05~1.28)、およびアトピー性皮膚炎重症度(同:1.11、1.07~1.15)と、いずれも正の関連を示した。・米国国民健康栄養調査の1万3,014例を対象とした検証コホートでは、食事思い出し法を用いて推算した食事によるナトリウム摂取量の1g/日増加は、アトピー性皮膚炎のリスク上昇と関連していた(aOR:1.22、95%CI:1.01~1.47)。

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日本人高齢者におけるうつ病、認知症、死亡リスクの関係〜JAGES縦断的研究

 日本人高齢者を対象とした全国コホートに基づき、中国・広東薬科大学のShan Wu氏らは、うつ病、認知症、すべての原因による死亡率の関連および用量反応関係を調査した。The Journals of Gerontology. Series B, Psychological Sciences and Social Sciences誌オンライン版2024年5月23日号の報告。 2010〜19年に実施された日本老年学的評価研究(JAGES)の65歳以上の参加者4万4,546例を対象に縦断的研究を実施した。抑うつ症状は老年期うつ病評価尺度(GDS-15)、認知症は公的な長期介護保険(LTCI)を用いて評価した。うつ病の重症度が認知症の発症率およびすべての原因による死亡率に及ぼす影響を評価するため、Fine-gray modelおよびCox比例ハザードモデルをそれぞれ用いた。認知症を介したうつ病とすべての原因による死亡率との関連性の評価には、因果媒介分析(CMA)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・軽度および重度の抑うつ症状は、いずれも認知症累積発症率およびすべての原因による死亡率と関連しており、とくに重度の抑うつ症状で関連が認められた(p<0.001)。・認知症の多変量調整ハザード比(HR)は、非うつ病患者と比較し、軽度うつ病患者で1.25(95%信頼区間[CI]:1.19〜1.32)、重度うつ病患者で1.42(95%CI:1.30〜1.54)であった(p for trend<0.001)。・すべての原因による死亡率の多変量調整HRは、非うつ病患者と比較し、軽度うつ病患者で1.27(95%CI:1.21〜1.33)、重度うつ病患者で1.51(95%CI:1.41〜1.62)であった(p for trend<0.001)。・年齢が若いほど、うつ病は認知症およびすべての原因による死亡率に強い影響を及ぼした。・認知症は、うつ病とすべての原因による死亡率の関連性を有意に媒介していることが示唆された。 著者らは「認知症や早期死亡を予防するために、重度のうつ病を標的とした介入は効果的な戦略となる可能性が示唆された」としている。

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T1N0のHER2+乳がんへの術後トラスツズマブ、生存ベネフィットは

 腫瘍径が小さく、リンパ節転移のないHER2陽性乳がん患者において、化学療法の有無にかかわらず術後トラスツズマブ療法が無浸潤疾患生存期間(iDFS)を有意に改善することが、米国臨床腫瘍学会のデータベースを用いた多施設共同後ろ向き解析により示された。米国・オハイオ大学のKai C. C. Johnson氏らによるNPJ Breast Cancer誌2024年6月19日号への報告より。 米国臨床腫瘍学会のCancerLinQデータベースを用いて、2010~21年の間に診断され、局所療法のみまたは局所療法+術後トラスツズマブ療法(+/-化学療法)を受けたT1a~c、N0のHER2陽性乳がん患者の生存転帰が比較された。主要評価項目はiDFSと全生存期間(OS)であった。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした1,184例のうち、436例は局所療法のみ、169例は術後トラスツズマブ単剤療法、579例は術後トラスツズマブ+化学療法を受けていた。・ベースライン特性は3群でバランスがとれており、年齢中央値が60.4(18.9~95.4)歳、ホルモン受容体陽性が54.9%、T1mic:1.2%/T1a:17.1%/T1b:27.4%/T1c:51.9%であった。・単変量解析の結果、化学療法の有無にかかわらず術後トラスツズマブ療法を受けた場合、iDFS(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.003)およびOS(0.63、0.41~0.95、p=0.023)の有意な改善が認められ、多変量解析においても有意な改善が認められた。・3群単変量解析の結果、局所療法のみと比較して術後トラスツズマブ単剤療法(HR:0.51、95%CI:0.33~0.79、p=0.003)および術後トラスツズマブ+化学療法(0.75、0.58~0.97、p=0.027)でiDFSの有意な改善が認められた。・サブグループ解析の結果、T1b/T1cの患者ではiDFSとOSのいずれにおいても明らかなベネフィットがみられたが、T1aの患者ではみられなかった。

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局所進行食道がんの術前補助療法、3剤併用がOSを改善/Lancet

 局所進行食道扁平上皮がん(OSCC)の術前補助療法において、シスプラチン+フルオロウラシルによる2剤併用化学療法(NeoCF)と比較して、これにドセタキセルを追加した3剤併用化学療法(NeoCF+D)が全生存率を有意に改善し、日本における新たな標準治療となる可能性がある一方で、NeoCFに比べNeoCF+放射線(NeoCF+RT)では全生存率の有意な改善効果を認めないことが、国立がん研究センター中央病院の加藤 健氏らが実施した「JCOG1109試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年6月11日号に掲載された。日本の44施設の無作為化第III相試験 JCOG1109試験は、日本の44施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2012年12月~2018年7月に参加者を募集した(日本医療研究開発機構[AMED]などの助成を受けた)。 年齢20~75歳、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)が0または1で、未治療の局所進行OSCC(StageIB、II、III[T4は含まない])の患者601例を登録し、NeoCF群に199例(年齢中央値65歳[範囲:38~75]、女性11%)、NeoCF+D群に202例(64歳[41~75]、12%)、NeoCF+RT群に200例(65歳[30~75]、14%)を無作為に割り付けた。 NeoCF群ではCF療法を2コース、NeoCF+D群ではCF+D療法を3コース、NeoCF+RT群ではCF療法を2コース施行後に総線量41.4Gyの放射線照射を行った。引き続き、全例で食道切除術と局所リンパ節郭清を実施した。 主要評価項目は、ITT集団における全生存率とした。無増悪生存率、客観的奏効率、病理学的完全奏効率も良好 追跡期間中央値50.7ヵ月の時点における3年全生存率は、NeoCF群が62.6%(95%信頼区間[CI]:55.5~68.9)であったのに対し、NeoCF+D群は72.1%(65.4~77.8)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.68、95%CI:0.50~0.92、p=0.006)。一方、NeoCF+RT群の3年全生存率は68.3%(95%CI:61.3~74.3)であり、NeoCF群の62.6%(55.5~68.9)に比べ有意な差を認めなかった(HR:0.84、95%CI:0.63~1.12、p=0.12)。また、全生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で5.6年であった。 3年無増悪生存率は、NeoCF群の47.7%(95%CI:40.6~54.4)に比べNeoCF+D群は61.8%(54.7~68.1)と良好であった(HR:0.67、95%CI:0.51~0.88)。無増悪生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で2.7年だった。 測定可能病変を有する患者における客観的奏効率は、NeoCF群の42.4%(95%CI:30.3~55.2)と比較して、NeoCF+D群は76.4%(64.9~85.6)と高率であり、病理学的完全奏効の割合も、NeoCF群の2.0%(95%CI:0.6~5.1)に対しNeoCF+D群は19.8%(14.5~26.0)と良好だった。手術前後の安全性プロファイルはNeoCF+Dで比較的管理しやすい Grade3以上の発熱性好中球減少は、NeoCF群で193例中2例(1%)、NeoCF+RT群で191例中9例(5%)に発現したのに比べ、NeoCF+D群では196例中32例(16%)と頻度が高かった。また、術前補助療法の中止の原因となった治療関連有害事象は、NeoCF群(8/199例[4%])およびNeoCF+RT群(12/200例[6%])に比べNeoCF+D群(18/202例[9%])で高頻度であった。術後補助療法期間中の治療関連死は、NeoCF群で3例(2%)、NeoCF+D群で4例(2%)、NeoCF+RT群で2例(1%)に認めた。 Grade2以上の術後の肺炎、食道吻合部漏出、反回神経麻痺が、NeoCF群で185例中それぞれ19例(10%)、19例(10%)、28例(15%)に、NeoCF+D群で183例中18例(10%)、16例(9%)、19例(10%)に、NeoCF+RT群で178例中23(13%)、23例(13%)、17例(10%)に発現した。術後の院内死亡は、NeoCF群3例、NeoCF+D群2例、NeoCF+RT群1例であった。 著者は、「手術前後のNeoCF+D群の安全性プロファイルは、NeoCF群やNeoCF+RT群よりも管理しやすいものであった。本試験の目的は、NeoCF+D群とNeoCF+RT群の直接比較ではなく、この2つの群の優越性を認めた場合に、より大規模な比較試験に進む計画であった」と述べたうえで、「各治療群のリスクとベネフィットを明らかにするには、より長期の追跡による最新のデータの解析が必要である」としている。

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新たな男性用避妊ジェル、第2相試験で有望な結果

 新しいジェル状のホルモン剤が男性用の避妊法として有望な可能性を示した第2相試験の結果が報告された。2種類のホルモン剤を組み合わせたこの避妊ジェルは、ホルモン剤をベースにした他の実験的な男性用避妊薬よりも短期間で精子の生産を抑制することが示されたという。米国立衛生研究所(NIH)の避妊薬開発プログラム主任であるDiana Blithe氏らによるこの研究は、米国内分泌学会(ENDO 2024、6月1〜4日、米ボストン)で発表された。Blithe氏は、「男性にとって、安全で効果が高く、可逆的であることが確実な避妊法の開発は、アンメットニーズである」と述べている。 この試験では、222人の男性がこの新しい避妊ジェル5mLを1日1回、3週間以上にわたって両肩甲骨に塗布した。このジェルは、プロゲスチン(合成黄体ホルモン)の一種であるセゲステロン酢酸エステル8mgと、男性ホルモンのテストステロン74mgを含有する。セゲステロン酢酸エステルは、避妊リングのAnnoveraの成分である。研究グループは、4週間ごとに検査で精子濃度を調べ、精子生産の抑制を評価した。避妊効果があると見なされる精子濃度の閾値は100万個/mL以下であるという。 その結果、86%の男性が、ジェルの使用開始から15週目までに避妊効果のある精子濃度を達成したことが明らかになった。この濃度を達成するまでの期間中央値は8週間であり、研究グループの予想よりも早かったという。Blithe氏は、注射による男性ホルモン避妊薬に関する先行研究では、精子の生産が抑制されるまでの期間中央値は9週間から15週間だったと説明している。 以上の結果を踏まえてBlithe氏は、「精子生産抑制までの期間が短くなれば、潜在的なユーザーがこの避妊薬に対して抱く魅力が増し、受容性も高まるかもしれない」と述べている。 Blithe氏は、「いくつかのホルモン剤が男性の避妊に有効であることは示されているが、精子生産抑制の開始が遅いことが問題だった」と指摘し、本研究で用いたジェルには2種類のホルモン剤が配合されているため、効果がより速く現れ、必要なテストステロンの量も少なくて済むと説明している。同氏によると、この避妊ジェルを毎日使用しても、血中のテストステロン濃度は生理的範囲内に保たれ、性機能やその他のアンドロゲン依存の活動は正常なままで維持されるという。 Blithe氏らは今後も研究を続け、この避妊ジェルの有効性と安全性、受容性、治療中止後の生殖能力の回復についての調査を進める予定であると話している。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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抗肥満薬使用時に推奨される食事療法

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)を中心とする抗肥満薬を使用する際の栄養上の推奨事項をまとめた論文が、「Obesity」に6月10日掲載された。米イーライリリー社のLisa Neff氏らの研究の結果であり、同氏は「本報告は、抗肥満薬による治療を行う臨床医に対して、最適な栄養と介入効果を患者にもたらすための知識とツールを提供することを目指した」と語っている。なお、イーライリリー社は米国において、GLP-1RAであるチルゼパチドを抗肥満薬「zepbound」として販売しており、国内でも承認申請中。 近年、体重が15%以上も減ることもあるGLP-1RAが肥満治療に用いられるようになり、さらに新たな作用機序による抗肥満薬の開発も進められている。これらの薬剤により食事摂取量が減少すると、栄養バランスが崩れて微量栄養素が不足するなどのリスクも生じる。現状において、抗肥満薬治療を受けている患者の最適な食事スタイルに関するエビデンスは少ない。しかし、減量・代謝改善手術後の患者や超低カロリー食による減量中の患者の食事療法に関しては、一定のエビデンスが蓄積されてきている。Neff氏らは、文献検索によりそれらの報告をレビューすることで、抗肥満薬使用中の食事療法に関する推奨事項を総括した。 主な推奨事項は以下のとおり。・エネルギー量:個別に設定する必要があるが、通常は女性1,200~1,500kcal/日、男性1,500~1,800kcal/日。・タンパク質:通常は体重1kg当たり1.5g以下だが、1日に60~75g以上は確保するために、人によっては1.5g/kgを超える量が必要なこともある。推奨される食品は、豆類、魚介類、赤肉、鶏肉、低脂肪乳製品、卵など。・炭水化物:総摂取エネルギー量の45~65%で、添加糖は10%未満とする。全粒穀物、果物、野菜、乳製品などが推奨される。・脂質:総摂取エネルギー量の20~35%で、飽和脂肪酸は10%未満とする。ナッツ、種子、アボカド、植物油、脂肪分の多い魚などが推奨される。抗肥満薬使用に伴う消化器症状を来しやすくなることがあるため、揚げ物や高脂肪食品を避ける。・食物繊維:女性は21~25g/日、男性は30~38g/日。果物、野菜、全粒穀物などが推奨される。食事のみではこの推奨量を満たすことができない場合は、サプリメントの利用を検討。・水分:2~3L/日を摂取。水、低カロリー飲料、低脂肪乳製品などが推奨され、カフェイン入り飲料は控えるか摂取しない。 このほかに、微量栄養素の不足が生じないように、マルチビタミンやカルシウム、ビタミンDなどのサプリメントを適宜摂取することを推奨している。また臨床医に対する推奨として、抗肥満薬使用中の患者では栄養状態のモニタリングの必要があると記している。 本研究には関与していない米エモリー大学のJessica Alvarez氏は、「減量効果のみに焦点を当てた肥満治療は不完全だ。本論文は、抗肥満薬による治療に際して徹底した栄養評価を行う必要性を述べた重要なガイドと言える。抗肥満薬の使用中には、適切な栄養を確保して栄養失調を避け、筋肉量の減少を防ぐため、何をどれだけ食べるべきかといった詳細な患者指導が求められる」と語っている。

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心臓足首血管指数は心不全の予後と関連

 動脈硬化の指標とされる心臓足首血管指数(cardio-ankle vascular index;CAVI)は、心不全入院患者の予後と有意に関連するという研究結果が発表された。東邦大学大学院医学研究科循環器内科学の木内俊介氏らが日本人患者を対象に行った研究であり、「Journal of Clinical Medicine」に5月6日掲載された。 大動脈は「Windkessel効果」と呼ばれる機能を持ち、収縮期に左室から拍出された血液の一部は大動脈に蓄えられ、その血液は拡張期に末梢に送り出される。この血管機能の破綻は心不全の一因とされるが、血管機能障害と心不全の予後との関係は完全には解明されていない。また、心不全の治療は進歩しているものの、心不全患者の死亡率や再入院率は低下しておらず、適切な予後の評価と治療が重要となる。 そこで著者らは、2012年1月から2018年7月に東邦大学医療センター大森病院に入院後、退院して1年間追跡できた心不全患者214人を対象とする後方視的研究を行った。血圧は入院時と退院時に測定され、CAVIは心不全の改善後に評価された。心血管死亡または心不全による再入院を主要有害心イベント(major adverse cardiac event;MACE)と定義し、退院後1年間のMACE発生に関連する因子を調査した。 その結果、MACE発生群(57人)はMACE非発生群(157人)と比べて、退院時の平均年齢が高く(70.9±10.1歳対64.2±13.9歳)、男性の割合が低く(56.1%対73.2%)、BMI平均値が低く(21.4±5.0対23.8±4.9)、心不全の既往歴(42.1%対21.7%)と慢性腎臓病の既往歴(82.5%対51.0%)のある人の割合が高いなどの特徴が認められた。 また、MACE発生群の方が、入院時の胸部X線による心陰影および経胸壁心エコーによる左室サイズが有意に大きく、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の割合が有意に高かった。入院時の収縮期血圧、拡張期血圧は両群間で有意差はなかったが、CAVIに有意差が認められた。MACEリスクとの関連について、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析を行った結果、CAVIはMACE発生の独立予測因子であることが明らかとなった(モデル1:ハザード比1.33、95%信頼区間1.05~1.68、モデル2:同1.31、1.07~1.60)。 さらに、ROC曲線から、MACE発生を予測するCAVIのカットオフ値は9.0であることが示された(感度0.554、特異度0.754、AUC 0.66)。このカットオフ値を用いて生存曲線を比較すると、CAVI高値群は低値群と比べて、MACE発生率が有意に高かった。MACEのうち、心血管死亡率についてはCAVI高値群と低値群で有意差は示されなかったが、心不全による再入院率では有意差が認められた。 以上の結果から著者らは、「CAVI高値は心不全の予後不良と関連するため、これらの患者にはより慎重な治療が必要だ」と述べている。また、今回の研究は後方視的研究であり、患者のQOLや生活環境、看護ケアなどは評価していないと説明し、より大規模な前向き研究の必要性を指摘している。

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経口選択的心筋ミオシン阻害薬aficamtenは症候性の閉塞性肥大型心筋症患者の最高酸素摂取量を有意に増加する(解説:原田和昌氏)

 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)患者の運動耐容能低下、および運動を制限する症状の主な決定因子の1つは、左室流出路狭窄による心内圧上昇である。経口選択的心筋ミオシン阻害薬aficamtenは、心筋の過収縮を抑制することで左室流出路圧較差を減少させる。SEQUOIA-HCM試験は症候性HOCMを有する成人を、aficamtenまたはプラセボに無作為に割り付けた第III相二重盲検試験である。PIのMaron MS氏はMaron BJ先生の息子さんである。 主要エンドポイントは最高酸素摂取量のベースラインから24週までの変化量で、心肺運動負荷試験にて評価した。副次的エンドポイントは24週までのKCCQ-CSSの変化量、NYHA機能分類の改善、バルサルバ手技後の圧較差の変化量、バルサルバ手技後の圧較差30mmHg未満、中隔縮小治療の適応の有無、およびこれらの12週までの変化量、24週での心肺運動負荷時の総仕事量の変化であった。 平均年齢は59.1歳、59.2%が男性であり、ベースラインの安静時左室流出路圧較差の平均値は55.1mmHg、左室駆出率の平均値は74.8%であった。24週で最高酸素摂取量の変化量の平均値は、aficamten群1.8mL/kg/分、プラセボ群0.0mL/kg/分であった(群間差のp<0.001)。β遮断薬の有無でaficamtenの効果に差はなかった。副次的エンドポイントはすべてaficamten群でプラセボ群よりも有意に改善し、有害事象の発現率は同程度であった。NT-proBNP値はプラセボ群と比較してaficamten群で有意に低下した。 閉塞性肥大型心筋症にはmavacamtenがFDA承認されているが、aficamtenは結合部位が異なり選択性が高いという。また、半減期が短いため用量が漸増しやすく、効果消失もより短期間である。EFの過度の低下は認められていないが、一部NYHA 機能分類の改善に乏しい患者が存在することには、注意が必要である。ちなみに「ミオシン調整薬」であるmavacamtenのHFpEFに対する第II相試験が、すでに始まっている。

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