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英語の学会発表、練習にChatGPTをフル活用【タイパ時代のAI英語革命】第11回

英語の学会発表、練習にChatGPTをフル活用前回の記事では、国際学会での発表に向けた英語原稿の作成方法を解説しました。質の高い原稿が完成したら、次はいよいよ「発表練習」です。どんなに素晴らしい内容でも、聞き手に伝わらなければ意味がありません。伝わる英語を話すためには、「正しい発音」と「正しい抑揚」で話すことが重要です。そして、この練習にもChatGPTを活用することができます。今回は、作成した原稿を効果的に読み込み、自信を持って発表に臨むためのChatGPT活用法をご紹介します。Read Aloudで音声を読み上げるChatGPTは、単に文章を生成するだけでなく、生成した英文を音声で読み上げる「Read Aloud」機能を備えています(第4回参照、PCのブラウザ版ではこの機能がない場合もあり、その場合はスマホアプリかブラウザの拡張機能を使います)。この機能を活用すれば、ネイティブスピーカーの自然な発音とイントネーションを直接耳で確認しながら、発表練習を進めることができます。AIに原稿全体を読み上げてもらうことで、耳で聞いて不自然に感じる箇所や、リズムが悪い部分を発見しやすくなります。また、この機能を活用した「シャドーイング」は、英語のリスニング力とスピーキング力を同時に高める非常に効果的な練習法です。シャドーイングとは、聞こえてきた英文に合わせて、少し遅れて影(シャドー)のように自分も声に出して発音するトレーニング方法のことで、自然な発音を練習することができます。Read Aloudで読み上げるのは、ChatGPTが作成した文章だけなので、読み上げたい文章をChatGPTに出力させる必要があります。そのためのプロンプトがこちらです。プロンプト例Copy this, and read very slowly and clearly “[読み上げたい文章を入力]”.その後、図1のようにスピーカーのマークをタップすると、その文章をそのまま読み上げてくれます。実際のRead Aloudが話すスピードはネイティブスピーカーに近いため速いと感じるかもしれません。残念ながら、現時点ではこのスピードをうまく調整するのは難しいのですが、たとえば「Please add “...” at the end of each word.」という指示を追加するとしゃべる速度をやや遅くすることが可能です。図1スマートフォンの録音機能を活用するChatGPTの「Read Aloud」機能で生成された音声は、その場での確認に非常に便利ですが、オフラインや移動中に繰り返し聞きたい場合もあるでしょう。残念ながら、ChatGPTのインターフェースから直接音声をダウンロードする機能は提供されていませんが、スマートフォンの画面録画機能や録音アプリを活用することで、この音声を「保存」し、いつでもどこでも聞き返すことが可能になります。手順1.スマートフォンの画面録画機能(iOSのスクリーンレコーダーやAndroidの画面録画機能など)を起動します。2.ChatGPTの「Read Aloud」機能で音声を再生し、その音声をスマートフォンの画面録画や音声録音機能で記録します。3.録画・録音した音声ファイルは、スマートフォンのギャラリーやファイルアプリに保存されます。保存された音声を繰り返し再生し、シャドーイングやリスニング練習に活用しましょう。とくに、通勤時間やちょっとした空き時間など、場所を選ばずに練習できる点が大きなメリットです。ほかの表現を提案してもらう作成した原稿を声に出して読んでみると、書面では問題なかった文章が、口語としては不自然に感じられることがあります。そのような場合は、ChatGPTに修正案を提案してもらいましょう。口頭発表に適した、より自然でわかりやすい表現にすることが可能です。プロンプト例次の文章を、口頭で発表するのにより適した形に修正したものを3つ提案してください。具体的には、一文を短くし、聴衆が一度で理解しやすいように、より平易な単語や表現を使ってください。文章:「[ここに修正したい文章を入力]」アウトプット例:(修正前)The introduction of ChatGPT represents a significant milestone in the evolution of generative AI. This cutting-edge technology has spread to a variety of fields, including health care and education, influencing practices and methodologies.(修正後)ChatGPT is a big step forward in generative AI.This new tool is now used in many areas, like health care and education.It is changing the way people work and learn.このように具体的な指示を出すことで、ChatGPTはさまざまなニュアンスの代替案を提示してくれます。最も自然で、自分の口から発しやすい表現を選びましょう。専門用語の発音を確認する医学の学会発表では、専門用語が数多く登場します。これら英語の専門用語の発音に自信がない場合、一般的な辞書やChatGPTの音声読み上げ機能だけでは、実際の使われ方や微妙なニュアンスをつかむのが難しいことがあります。そこで活用したいのが「YouGlish」という無料ツールです。YouGlishは、YouTubeの膨大な動画の中から、特定の単語を含む動画を手軽に検索でき、発音が難しい専門用語の正しい発音を確認するのに非常に役立ちます。また、その単語が使われている実際の文脈や関連する背景情報も同時に把握できるのが特徴です。使い方はシンプルで、ウェブサイトにアクセスして検索窓に調べたい単語を入力します。たとえば「paracentesis(腹水穿刺)」と入力すると、米国英語や英国英語など、好みのアクセントを選んだうえで検索することが可能です(図2)。検索結果にはその単語が出てくる動画が字幕付きで表示され、単語が使われる直前のシーンから再生されます。再生速度も細かく調整できるため、発音練習には遅めのスピード設定がお勧めです。さらに、動画の再生中や周辺部分をチェックすることで、関連する医学用語(例:ascites[腹水]、catheter[カテーテル]など)の発音も併せて学べます。専門用語だけでなく、慣れていないフレーズや表現の実際の使われ方やトーンを確認する際にも、大いに役立つツールです。

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ペニシリンが得意・苦手とする細菌【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第3回

ペニシリンが得意・苦手とする細菌前回 、ペニシリンGがカバーできる細菌を挙げてきました(図1)。今回は、逆にペニシリンGが苦手とする細菌はどのようなものがあるかを考えていきましょう。図1 ペニシリンGがカバーする細菌画像を拡大するペニシリンが苦手とする細菌苦手な細菌として、まず挙げられるのが黄色ブドウ球菌です。こちらは前回のとおりです。これまでグラム陽性球菌ばかりを取り上げてきましたが、グラム陰性桿菌の話をほとんどしていません。ペニシリンGはグラム陰性桿菌が苦手なのですが、グラム陰性桿菌の代表選手として、大腸菌が苦手と覚えておきましょう。そして、横隔膜から上の嫌気性菌が得意だとわざわざ言っていたわけですが、横隔膜から下は苦手です。細かい話をすると、ペニシリンGはバクテロイデス属が苦手というわけです。これまでの話をまとめると、図2のようになります。図2 ペニシリンGのスペクトラム画像を拡大するこれで、ペニシリンGが得意とする細菌と苦手とする細菌が一通り揃いました。ここまでの内容は、ぜひフレミング博士のストーリーと絡めて復習していただければと思います。ちなみに、ここさえ乗り越えられれば、この後に続くβラクタム系の話も一気に楽になります。ペニシリンGを使用する代表的な場面と注意点実際にペニシリンGを使う場面としては、肺炎球菌性肺炎、レンサ球菌による感染性心内膜炎、梅毒などが挙げられると思います(図3)。図3 ペニシリンGを使う代表的場面画像を拡大するせっかくなので、ここで肺炎球菌について寄り道したいと思います。まず、肺炎球菌性肺炎の診断ですが、絶対やってはいけないのが「肺炎+肺炎球菌尿中抗原陽性=肺炎球菌性肺炎」という考え方です。なぜかというと、肺炎球菌による単独感染とは限らないからです。たとえば、肺炎の患者さんでは「肺炎球菌+インフルエンザ桿菌」や「肺炎球菌+モラクセラ」などのように、複数の細菌が感染していることも多く見かけます。インフルエンザ桿菌やモラクセラに対してはペニシリンGが効きません。したがって、肺炎球菌尿中抗原が陽性だからというだけで、肺炎患者さんにペニシリンGだけで治療しないようにしましょう。喀痰グラム染色や培養検査の結果を確認していただければと思います。そこで、肺炎球菌を狙って培養検査を提出するわけですが、「思った以上に発育してこない」と悩まれる方もいるのではないでしょうか。「グラム染色では肺炎球菌が確かに見えていたのに、培養検査ではなぜか生えない」なんてことが、結構多くあります。皆さんには思い当たる節がありますか? じつは、肺炎球菌はオートリジンという自己融解酵素を出すのです。そのため、培養検体の容器の中で放っておくと自滅してしまいます。培養検体を検査室に渡さずに放っておくと、死んでしまうのです。そうして、培養で生えなくなってしまうわけです。グラム染色でも、自滅している最中の肺炎球菌の色がグラム陰性、つまり赤く見えてしまうなんて現象が見られます。役に立つ知識かと言われると微妙ですが、面白いと思った方がいれば、検査技師さんをつかまえて話を聞いてみてください。まとめでは、前回と今回の内容をまとめます。ペニシリンは黄色ブドウ球菌を狙って作られた抗菌薬でした。ところが、現在のペニシリンGは耐性化の影響で黄色ブドウ球菌をほとんどカバーできません。一方で、黄色ブドウ球菌を除くグラム陽性球菌であれば、ペニシリンGでカバーできることが多いため、抗菌薬として意外にスペクトラムが広いともいえます。ペニシリンでカバーできて、セフェムでカバーできない「腸球菌とリステリア」もぜひ覚えておいてください。逆にペニシリンが苦手な細菌としては、黄色ブドウ球菌、大腸菌、横隔膜から下の嫌気性菌を覚えていただければと思います。これらの細菌をいかにカバーするかが、ペニシリン系進化の歴史そのものになっていきます。次回は、これまでの知識を下敷きにして、ペニシリン系を一気に俯瞰したいと思います。お楽しみに!

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第287回 高市新首相の所信表明と閣僚指示で気になった2つの言葉、「新たな地域医療構想」と「自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度」

医療界は補正予算での医療機関に対する支援に期待こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。高市政権が誕生しました。新総理大臣は就任直後から、フルスロットルで国内外を飛び回り、タフネス振りをアピールしています。とはいえ60歳を超えた女性です。いつ何時、つまづいたり転んだりして大腿骨頸部などを骨折しないとも限りません。学生時代、カワサキのロードスポーツ、Z400GP(ホンダやヤマハでないところが渋いですね)に乗っていた“走り屋”だそうですが、くれぐれも諸々、飛ばし過ぎには気を付けていただきたいと思います。さて、医療界では、来年の診療報酬改定を待たず、補正予算で医療機関に対する何らかの支援が行われるだろうとの期待が高まっています。しかし、所信表明演説をよく読むと、前回(第286回 連立に向けた与野党の最低パフォーマンスのあげく、高市早苗総理大臣の誕生へ 連立参加で維新の社会保障政策案はどこまで実現できる?)も書いたように、日本維新の会の意向も汲んで、医療界にとってはなかなか厳しい内容も盛り込まれています。ということで、今回も前回に引き続き、高市政権のこれからの医療政策について書いてみたいと思います。国民会議を設置し税と社会保障の一体改革について議論高市早苗首相は10月24日、衆参両院の本会議で就任後初めての所信表明演説を行いました1)。「物価高対策」の中では、「赤字に苦しむ医療機関や介護施設への対応は待ったなしです。診療報酬・介護報酬については、賃上げ・物価高を適切に反映させていきますが、報酬改定の時期を待たず、経営の改善及び従業者の処遇改善につながる補助金を措置して、効果を前倒しします」と、改定前での対応を約束しました。また、「健康医療安全保障」の中では、「社会保障制度における給付と負担の在り方について、国民的議論が必要」として、「超党派かつ有識者も交えた国民会議を設置し、給付付き税額控除の制度設計を含めた税と社会保障の一体改革について議論してまいります」と述べました。そして、「政党間合意も踏まえ、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しや、電子カルテを含む医療機関の電子化、データヘルスなどを通じた効率的で質の高い医療の実現などについて、迅速に検討を進めます」と述べるとともに、「こうした社会保障制度改革を進めていく中で、現役世代の保険料負担を抑えます。当面の対応が急がれるテーマについては、早急に議論を進めます」としました。日本維新の会が強く求める現役世代の保険料負担軽減については、所信表明が行われる前日、10月23日に開かれた社会保障審議会・医療保険部会において、厚生労働省が70歳以上の高齢者が医療機関の窓口で支払う医療費の負担について、現役世代と同じ3割とする対象者の拡大など、医療費負担のあり方が議題として提示され、議論がスタートしています。厚労省からは後期高齢者の給与所得や金融所得が増えていることを示す資料が出されたとのことです。各方面からの抵抗も大きそうですが、一定収入のある高齢者の負担増はほぼ既定路線と言えるでしょう。「新たな(新しい)地域医療構想」という言葉が2度も所信表明で個人的に気になったのは、地域医療構想に言及した部分です。「高齢化に対応した医療体制の再構築も必要です。入院だけでなく、外来・在宅医療や介護との連携を含む新しい地域医療構想を策定するとともに、地域での協議を促します。加えて、医師の偏在是正に向けた総合的な対策を講じます。あわせて、新たな地域医療構想に向けた病床の適正化を進めます」と、「新たな(新しい)地域医療構想」という言葉を2度も使っています。それだけ政府が重要視している政策だということでしょう。高市首相は社会保障分野でこれまで目立った実績はありませんが、第3次安倍内閣で総務大臣をしていた2015年には、「新公立病院改革ガイドライン」の策定に関与し、地域医療構想に沿った公立病院の病床機能分化・連携強化を推し進めました。病院経営や病院再編に関しては一定の素養があるとみられます。とは言うものの、「新たな地域医療構想」が盛り込まれた医療法改正案は、以前の回「第265回 “米騒動”で農水相更迭、年金法案修正、医療法改正案成立困難を招いた厚労相の責任は?」で書いたように今年4月に衆院本会議で審議入りしてから棚ざらしとなり、年金法改正案が優先されたこともあって結局継続審議となっています。厚労省は今の臨時国会での成立を目指しているとのことですが、自民、公明、維新の3党合意を踏まえた法案の修正も行わなければなりません。医療法の施行期日は、最も早いもので来年4月を予定しているそうです。仮に臨時国会でも成立せず、来年の通常国会に回した場合、施行スケジュールの大幅な見直しを迫られ、医療提供体制の改革にも大きな影響が出るでしょう。「重要視」している割に医療法改正案を「棚晒し」にしてきた政府と厚労省の本気度が問われるところです。OTC類似薬含めセルフメディケーションは推進の姿勢ところで、21日の内閣発足にあたり、高市首相が18人の閣僚に出した指示書の全容が明らかになっており、上野 賢一郎厚生労働大臣にも9項目に及ぶ指示が飛んでいます。各紙報道等によれば、総理大臣が就任にあたって各大臣にこのような指示書を出すというのは極めて異例のことだそうです。しかもこの指示書、高市サイドからあえてマスコミにリークしたそうで、「なかなかの剛腕ぶり」と書くメディアもありました。上野厚労省への指示書の中にも気になる文言がありました。2つ目の項目の中に、「関係大臣と協力して、データに基づく医療行政のメリハリ強化を進めるとともに、自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度の構築により、医療費を適正化する」と書かれているのです。「自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度」とは、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しやセルフメディケーション推進のことだと考えられます。所信表明では「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し」、大臣への指示では「自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度の構築」と表現が微妙に異なるその真意はわかりませんが、OTC類似薬だけではなく広くセルフメディケーションを推進していく意向があるのは間違いないようです。だとすれば、日本医師会とは全面対決となるかもしれません。財務省主計局次長に「診療報酬の地域別単価」の一松氏ところで、財務省は10月21日付で、予算編成を担う主計局の次長に、一松 旬大臣官房審議官(大官房担当)を充てる人事を発令しました。一松氏は次期診療報酬改定も含め社会保障分野を担当するとのことです。一松氏は社会保障に詳しい財務官僚として有名な存在で、主計官の時には2021年度介護報酬改定、2022年度診療報酬改定を担当しました。また、「第209回 これぞ財務省の執念? 財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も」でも書いたように、財務省から出向し奈良県副知事を務めていた時には奈良県(高市首相の地元です)で診療報酬の地域別単価の導入を推し進めようとした人物でもあります。医療関係団体が補正予算対応を喜んでいる間に、政府側は“抵抗勢力”のための布陣をしっかり敷いたという見方もできそうです。これから本格化する次期診療報酬改定に向けての議論、とくに財務省の動きが注目されます。参考1)第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説/首相官邸

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高齢者の体重増減、何kg以上が死亡リスクに?

 高齢者において1年間で2kg以上の体重減少または3kg以上の体重増加は、要介護状態の発生および全死因死亡のリスク増加と有意に関連することが、静岡社会健康医学大学院大学の田原 康玄氏らによるしずおか研究(静岡多目的コホート研究事業)で明らかになった。結果は、Journal of the American Medical Directors Association誌2025年10月17日号に発表された。 本研究は、静岡県の健康保険および介護保険データを用いた観察研究で、2年連続で健康診断を受けた65~90歳の日本人高齢者11万7,927例を対象とした。研究チームは、1年間の体重変化と要介護状態の発生および全死因死亡との関連を調査した。ベースラインの臨床特性と1年間の体重変化は健康診断データから、要介護状態の発生と全死因死亡は保険データから取得した。追跡期間の平均は、要介護状態の発生について7.3年、全死因死亡について8.0年であった。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中、要介護状態の発生は2万7,719例、全死因死亡は1万7,002例記録された。・解析の結果、1年間の体重変化と両アウトカムにはU字型の関連が観察され、2kg以上の体重減少、または3kg以上の体重増加が有意なリスク増加と関連していた。この関連性は、若年群(75歳未満)と高齢群の両方で一貫しており、ベースラインのBMIに関わらず認められた。さらに、低体重(BMI<19kg/m2)、肥満(BMI≧30kg/m2)、体重減少(2kg以上)、体重増加(3kg以上)を同じモデルに含めた場合、これらの因子はいずれも両アウトカムと独立して関連していた。 研究者らは、「高齢者において1年間で2kg以上の体重減少または3kg以上の体重増加が、要介護状態の発生および全死因死亡と有意に関連することを明らかにした。この結果は、高齢者の健康管理において、たとえ小さくても、意図しない体重変化に注意を払うことの重要性を示唆している。体重変化は健康状態の変化を反映しており、早期介入の契機となる可能性がある。本研究は、高齢者の健康維持における体重管理の重要性を裏付けるエビデンスを提供しており、臨床現場での高齢者の健康評価において体重変化のモニタリングが有用である可能性を示している」とした。

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アルコール消費量と自殺リスクとの関係~メタ解析

 アルコール使用は、個人レベルにおける確立された自殺のリスク因子であるが、これが人口レベルで反映されているかは不明である。アルコールの有害な使用の削減について進捗状況を測る国際的な枠組みで用いられている、人口レベルの総アルコール消費量の指標である1人当たりアルコール消費量(APC)が自殺と関連しているとすれば、自殺予防の取り組みにおいて、アルコールは有用な目標となる可能性がある。カナダ・トロント大学のKatherine Guo氏らは、APCと自殺死亡率の間に関連があるかどうか、また関連がある場合には性別によって違いがあるかどうかを評価するため、メタ解析を実施した。JAMA Network Open誌2025年9月2日号の報告。 2025年2月24日までに公表されたAPCと自殺の関連を測定した独自の定量的研究をEmbase、Medline、PsycINFO、Web of Scienceより検索した。対象研究は、前後比較デザインを含む縦断的観察研究または横断的生態学的デザインによるオリジナルの定量的研究、関連性の尺度を示した研究とした。最終的に合計304件の研究が特定された。データ抽出は、1人のレビューアーで行い、2人目のレビューアーによりクロスチェックを行った。バイアスリスクは、Risk of Bias in Nonrandomized Studies of Exposure tool、エビデンスの質は、GRADEを用いて評価した。システマティックレビューおよびメタ解析は、PRISMAに従い実施した。APCと自殺死亡率の関連性のプール推定値を算出するため、ランダム効果メタ解析を実施した。性差の有無は、ランダム効果メタ回帰を用いて評価した。主要アウトカムは、1人当たりのアルコール消費量(リットル)として測定したAPCと自殺死亡率との関連とした。 主な結果は以下のとおり。・主要解析には合計13件の研究を含めた。・人口レベルでは、APCが1リットル増加するごとに自殺死亡率が3.59%(95%信頼区間:2.38~4.79)増加することが明らかとなった。・性差を示すエビデンスは、認められなかった。 著者らは「本システマティックレビューおよびメタ解析において、APCの増加は人口レベルでの自殺死亡率の上昇と関連しており、この関連は男女間で同様であった。したがって、APCは包括的な国家自殺予防戦略において検討すべき有用な目標となる可能性がある」と結論付けている。

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免疫性血小板減少症への新治療薬による診療戦略/Sobi Japan

 希少・難治性疾患治療に特化し、ストックホルムに本社を置くバイオ医薬品企業のSwedish Orphan Biovitrum Japan(Sobi Japan)は、アバトロンボパグ(商品名:ドプテレット)が新たな適応として「持続性および慢性免疫性血小板減少症」の追加承認を取得したことに合わせ、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、免疫性血小板減少症(ITP)の診療に関する講演や同社の今後の展望などが説明された。約2万例の患者が推定されるITP はじめに「免疫性血小板減少症について」をテーマに、加藤 亘氏(大阪大学医学部附属病院輸血・細胞療法部 部長)が、本症の概要を説明した。 出血時の止血に重要な役割を担う血小板は、巨核球が血管内に行くことで血小板となり、体内で約7~10日間活動する。正常15~35万/μLの血小板数があり、10万/μL以下で血小板減少症、1万/μL以下では重篤な出血症状を呈する。そして、ITPは血液中の血小板が免疫により減少する疾患である。症状としては、皮膚の紫斑、粘膜出血などの出血症状の繰り返しがあり、健康な人よりもわずかに高い死亡率となる。 また、近年の研究からITPは血小板に対する自己抗体によって起こる自己免疫疾患とされ、「特発性」という言葉から「免疫性」に変更された。 わが国には約2万例の患者が推定され、毎年約3,000例が新規発症しており、その半数は高齢者である。本症は、指定難病であり、小児慢性特定疾患であるが、医療費助成の対象はステージ2以上の比較的重症の患者となっており、特定医療費受給者証所持者数は2023年時点で約1万7,000人となっている。 難病申請データに基づくITPの出血症状としては、紫斑が88.2%、歯肉出血が26.8%、鼻出血が18.1%の順で多く、その症状は血小板減少の程度、年齢と相関する。とくに血小板数1~1.5万/μL、60歳以上では重篤な出血リスクが増大するといわれている1)。 ITPの治療戦略としては、(1)リンパ球による抗血小板自己抗体の産生抑制、(2)破壊される以上に血小板を多く産生する、の2つがあり、治療の流れとしては『成人特発性血小板減少性紫斑病 治療の参照ガイド 2019改訂版』により治療が行われる(わが国独自の治療にピロリ菌除去療法がある)。 治療目標は、血小板を正常に戻すことではなく、重篤な出血を予防することであり、治療薬の副作用による患者QOLの低下を考慮し、過剰な長期投与は避けることとされている。 本症の1次療法としては、副腎皮質ステロイド療法が行われる。次に1次療法で効果がみられない場合、2次療法としてトロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)、リツキシマブ、脾臓摘出術などが考慮される。2次療法については大きな優劣はなく、ただ、近年では脾臓摘出術はほぼ行われていない。 わが国でのITP治療薬の使用状況について、2015~21年で比較すると、TPO-RAが35.71%から61.37%へと増加し、リツキシマブも0%から3.3%へと増加したという報告がある2)。 多く使用されているTPO-RAは奏効率は高いものの、長期使用の場合は肝機能障害などの副作用の課題もある。治療の選択では、各治療の特徴を踏まえ、患者の希望・背景に合わせた治療選択が望まれる。 また、現在、解決が必要とされる課題として5つが指摘されている。(1)治療薬の使い分け、併用法(2)完治を目指す治療の開発(3)妊娠中、出産時の血小板数コントロール(4)出血症状、血小板数の改善のみではなく、症例ごとのQOLに配慮した治療・薬剤選択(5)ITP診断の改善(特異的な診断法開発の必要性)約6割のITP患者に投与8日以内で反応あり 今回、アバトロンボパグは新たな適応である「持続性および慢性免疫性血小板減少症」の承認を2025年8月25日に取得した。適応追加に係るわが国での第III相試験は、慢性ITPの患者19例を対象に、26週間の投与期間中に救援療法なしに血小板反応(血小板≧50×109/L)が得られた累積週数を主要評価として行われた。試験対象者の平均年齢は56.0歳で、女性が78.9%だった。 試験の結果、血小板反応(≧50×109/L)について、26週間の投与期間中、臨床的に意義のある累積週数の基準(閾値:8.02週)を達成し、患者の63.2%が8日以内に反応を示した。安全性では、治療に関係する重篤な有害事象はなく、一般的な有害事象として、新型コロナウイルス感染症、上気道感染症、鼻咽頭炎などが報告された。 最後に加藤氏は、「アバトロンボパグは慢性ITPを有する日本人成人患者に対し有効であった。安全性・忍容性も良好で、海外の主要な第III相試験3)および中国の患者の第III相試験4)と同様の血小板反応を日本人でも示した。長期的な有効性と安全性は、現在進行中の延長期で評価をする予定」と展望を述べ、講演を終えた。 同社では、今後新たに5つの希少疾患に対する製品の上市を目指しており、「これらの薬剤を早く日本の患者さんに届けられることを使命とし、希少疾患薬におけるドラッグラグやドラッグロスという問題の解決の一助となるようにしていきたい」と抱負を語っている。

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閉塞性睡眠時無呼吸症候群、就寝前スルチアムが有望/Lancet

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は有病率が非常に高いが、承認された薬物治療の選択肢はいまだ確立されていない。ドイツ・ケルン大学のWinfried Randerath氏らFLOW study investigatorsは、炭酸脱水酵素阻害薬スルチアムについて有効性と安全性を評価した第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験「FLOW試験」を実施。スルチアムの1日1回就寝前経口投与は、OSAの重症度を用量依存性に軽減するとともに、夜間低酸素や日中の過度の眠気などの改善をもたらし、有害事象の多くは軽度または中等度であることを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年10月25日号で発表された。3種の用量とプラセボを比較 FLOW試験は欧州5ヵ国の28施設で実施され(Desitin Arzneimittelの助成を受けた)、2021年12月~2023年4月に参加者のスクリーニングを行った。 年齢18~75歳、未治療の中等症または重症のOSAと診断され、無呼吸低呼吸指数(AHI)3a(酸素飽和度の3%以上の低下を伴う低呼吸または覚醒[あるいはこれら双方])の発生が15~50回/時で、BMI値が18.5~35の患者298例(最大の解析対象集団[FAS]:平均年齢56.1歳[SD 10.5]、男性220例[74%]、平均BMI値29.1)を登録した。 被験者を、プラセボ群(75例)、スルチアム100mg群(74例)、同200mg群(74例)、同300mg群(75例)に無作為に割り付けた。1~3週目までに各群の目標値に達するように用量を漸増し、目標値到達後は12週間経口投与(1日1回、就寝前の1時間以内)した。 有効性の主要アウトカムは、AHI3aのベースラインから15週目までの相対的変化量とした。AHI4、ODI、ESS総スコアも良好 FASにおける15週の時点でのプラセボ群と比較したAHI3aの補正後平均変化量は、スルチアム100mg群が-16.4%(95%信頼区間:-31.3~-1.4、p=0.032)、同200mg群が-30.2%(-45.4~-15.1、p<0.0001)、同300mg群が-34.6%(-49.1~-20.0、p<0.0001)といずれの群も有意に優れ、有効性には用量依存性を認めた。 ベースラインから15週までのAHI4(酸素飽和度の4%以上の低下を伴う低呼吸)、酸素飽和度低下指数(ODI)、平均酸素飽和度の変化量は、いずれもプラセボ群に比しスルチアム200mg群(それぞれp=0.0006、p=0.0008、p<0.0001)および同300mg群(p<0.0001、p<0.0001、p<0.0001)で有意に改善した。 ベースラインで主観的な日中の過度の眠気(Epworth sleepiness scale[ESS]総スコア≧11点)を有していた患者(120例)では、15週時のESS総スコアがプラセボ群に比しスルチアム200mg群で有意に改善した(p=0.031)。また、総覚醒指数で評価した睡眠の分断化も、プラセボ群に比べ同200群(p=0.0002)および同300mg群(p<0.0001)で有意に良好だった。知覚異常が用量依存性に発現 試験期間中に発現した有害事象の頻度は、プラセボ群で61%(46/75例)、スルチアム100mg群で73%(54/74例)、同200mg群で84%(62/74例)、同300mg群で91%(68/75例)であり、用量依存的に増加した。いずれかの群において10%超の患者で発現した有害事象として、知覚異常(プラセボ群9%、スルチアム100mg群22%、同200mg群43%、同300mg群57%)、頭痛(8%、7%、16%、15%)、COVID-19(4%、4%、8%、13%)、上咽頭炎(12%、4%、9%、9%)を認めた。全体で知覚異常により15例(5%)が試験薬の投与中止に至ったが、118件の知覚異常イベントのうち98件(83%)は1回のみまたは散発的で、99件(84%)は軽度だった。 有害事象の多くは軽度または中等度であった。重篤な有害事象は11例(プラセボ群2例[3%]、スルチアム100mg群4例[5%]、同200mg群1例[1%]、同300mg群4例[5%])に発現し、このうち3例(100mg群で好中球減少1例および急性骨髄性白血病1例、200mg群で三叉神経障害1例)が治療関連の可能性があると判定された。 著者は、「睡眠中の気道虚脱には複数の病態生理学的機序が関与している可能性があり、OSAは臨床的な表現型の幅が広いため、病態に応じて個別化された治療戦略が求められる」「本研究は、標準治療である持続陽圧呼吸療法(CPAP)が施行できない患者では、スルチアムによる薬物療法が有望な治療選択肢となる可能性を示唆する」「ベネフィット・リスク比は200mg群で最も良好であった。今後、200mgで十分にコントロールできない場合に、300mgを考慮する研究を続ける必要があるだろう」としている。

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アルコール性肝線維化の有病率が過去20年間で2倍以上に

 多量飲酒者において、肝線維化の有病率が過去20年間で2倍以上に増加したというリサーチレターが、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に7月23日掲載された。 米南カリフォルニア大学ケック医科大学院のKalpana Gopalkrishnan氏らは、米国国民健康栄養調査(NHANES)の1999~2020年のデータを用いて、多量飲酒者の間で、進行したアルコール関連肝疾患のリスクが経時的に変化したかどうかを検討した。過去12カ月間のアルコール摂取量が、女性で1日当たり20g以上、男性で30g以上を多量飲酒と定義した。主要評価項目はFibrosis-4(FIB-4)スコアが高いこととし(65歳以下は2.67超、66歳以上は3.25超)、これを肝線維化の代替指標として使用した。 対象者4万4,628人のうち2,474人が多量飲酒者に該当した。解析の結果、多量飲酒者のうち、FIB-4が高い人の割合は経時的に増加し、1999~2004年には1.8%であったが、2013~2020年には4.3%となっていた。一方、多量飲酒をしない人においても、同期間に0.8%から1.4%に増加していた。多量飲酒者の平均年齢は上昇し、女性と貧困層の割合が高かった。平均アルコール摂取量は、いずれの期間でも同程度であった。また、多量飲酒者のメタボリック症候群の有病率は、1999~2004年の26.4%から2013~2020年の37.6%と増加し、多量飲酒をしない人でも32.0%から40.2%に増加していた。 共著者である同大学のBrian P. Lee氏は、「1990年代以降の多量飲酒者の人口統計学的特性および肝疾患との関連について総合的に調査したのは本研究が初めてであるが、今回の知見から、どのような集団がアルコール摂取量を抑えるためにより多くの介入を必要としているかについて、重要な情報が得られた。また、近年における肝疾患の増加傾向を説明できる可能性もある。さらに本研究の結果は、多量飲酒をする米国民の構成が20年前と比べて変化していることを示している」と述べている。

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ロボット支援気管支鏡が肺の奥深くの腫瘍に到達

 最先端のロボット支援気管支鏡が肺の奥深くにある極めて小さな腫瘍にまで到達できることが、チューリッヒ大学病院(スイス)のCarolin Steinack氏らによる臨床試験で示された。Steinack氏らによると、このロボット支援気管支鏡は、特殊なCTスキャナーにより、肺の中の到達が難しい位置に隠れた腫瘍を見つけることができるという。この研究結果は、欧州呼吸器学会議(ERS 2025、9月27日~10月1日、オランダ・アムステルダム)で発表された。 Steinack氏は、「この技術によって、専門医は肺のほぼ全領域にアクセスできるようになった。これは、より多くの患者に生検を実施できること、より高い治療効果が期待できる早期の段階でがんを診断できるようになることを意味している」とERSのニュースリリースの中で述べている。 ERSの呼吸器インターベンション専門家グループ代表で、Golnik大学クリニック(スロベニア)内視鏡部長のAles Rozman氏も、肺がんを治療可能な早期の段階で発見して治療するのにこの技術が役立つ可能性があるとの見方を示している。同氏は、「がんは通常、早期に診断されれば生存率の大幅な向上を望める。しかし、こうした極めて小さな腫瘍は診断が難しい。今回の研究は、ロボット支援技術が肺の奥深くにある小さな腫瘍の多くを診断する助けになることを示している」と付け加えている。 Steinack氏らは今回の臨床試験で、肺の周縁部に異常増殖がある78人の患者に気管支鏡検査を実施した。異常増殖の数は合計で127個だった。肺の周縁部は接続する気道がない場合が多く、通常は容易に到達できない領域である。腫瘍は直径が中央値11mmで、18個(14.2%)は気管支サインが陽性(病変に向かって走行する気管支が明確に認められる)で、35個(27.6%)は均一なすりガラス陰影に分類された。患者の半数(39人)はX線画像を用いた従来型の気管支鏡検査を受け、残る半数(39人)はCTスキャンを用いたロボット支援気管支鏡検査を受けた。 その結果、診断に至った対象者の割合は、ロボット支援気管支鏡群で84.6%(33人)であったのに対し、従来の気管支鏡では23.1%(9人)にとどまった。通常の気管支鏡の方法で生検が成功しなかった人に対してロボット支援気管支鏡を用いると、92.9%(26/28人)で腫瘍への到達と生検に必要な組織の採取に成功した。最終的に68人(53.5%)が肺がんと診断され、そのうち50人は最も早期の治療可能な段階のがんであった。Steinack氏は、「臨床的に従来の気管支鏡が選択肢とはならない患者において、この技術は正確な診断を可能にする」と述べている。 ただし、この技術は安価ではない。この新しいシステムの導入には110万ドル(1ドル150円換算で1億6500万円以上かかり、検査1回当たりの費用は約2,350ドル(同35万2,500円)になるとSteinack氏らは説明している。チューリッヒ大学病院の呼吸器内科医で主任研究者のThomas Gaisl氏は、「こうした腫瘍がある患者を多く診ている医療機関では、この技術により得られるメリットは投資に見合うものだと考えている。ただし、このロボットシステムは従来の気管支鏡が使えない、小さくて到達が難しい病変に限定して使用すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。 一方、Rozman氏は、「この装置を導入し、使用するために必要となる莫大な追加コストを正当化するためには、この種のゴールドスタンダードの研究を実施することが極めて重要だ」と指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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乳児期の犬への曝露は小児喘息リスクの低下と関連

 犬を飼っている家庭の乳児は、5歳時の肺機能が高く、喘息を発症しにくい可能性のあることが、新たな研究で示唆された。猫を飼っている家庭の乳児では、このような保護効果は認められなかったという。The Hospital for Sick Children(カナダ)のJacob McCoy氏らによるこの研究結果は、欧州呼吸器学会議(ERS 2025、9月27日〜10月1日、オランダ・アムステルダム)で発表された。 McCoy氏は、「猫アレルゲンと小児喘息の間に関連は認められなかったものの、犬アレルゲンへの曝露は肺機能の改善と喘息リスクの低下と関連していることが示された」とERSのニュースリリースの中で述べている。 この研究でMcCoy氏らは、カナダのCHILDコホート研究のサブコホートに属する乳児1,050人(平均月齢3.94カ月)のデータを用いて、生後3カ月時点のほこり中のアレルゲン濃度と5歳時の喘息、および1秒量(FEV1、息を最大限吸い込んだ後に、できるだけ速く・強く吐き出したときの最初の1秒間の空気の量)との関連、さらに遺伝的リスクがそれらの関連に影響するのかを検討した。ほこりサンプルは対象児の家庭から採取されたもので、1)犬の皮膚や唾液から排出されるタンパク質であるCan f1、2)猫の皮膚や唾液から排出されるタンパク質であるFel d1、3)細菌の表面に存在するタンパク質であるエンドトキシン、の3種類の潜在的なアレルゲンについて評価した。 対象児の6.6%が5歳までに喘息を発症していた。多変量モデルを用いた解析の結果、犬由来のアレルゲンであるCan f1への曝露レベルが高い児では低い児に比べて喘息リスクが48%低いことが示された(オッズ比0.52、95%信頼区間0.25〜0.98)。また、これらの乳児では、FEV1のZスコアも有意に高かった(β=0.23、95%信頼区間0.06〜0.40)。さらに、肺機能に対する保護効果は、喘息やアレルギーの遺伝的リスクが高い乳児でより強く現れることも明らかになった。一方で、猫アレルゲンや細菌アレルゲンの曝露レベルが高い乳児では、このような保護効果は確認されなかった。 McCoy氏は、「なぜこのようなことが起こるのかは明らかになっていない。ただし、犬のアレルゲンに敏感になると、喘息の症状が悪化する可能性があることは分かっている。今回の結果は、犬アレルゲンへの早期の曝露が、鼻腔内のマイクロバイオームを変化させたり免疫系に影響を与えたりすることで、感作を防ぐことができる可能性があることを示唆している」との見方を示している。その上で同氏は、「幼少期の犬アレルゲンへの曝露と喘息に対する予防効果との関連を理解するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。 この研究には関与していない、ERS小児アレルギー・喘息専門家グループの議長であるErol Gaillard氏は、「喘息は、若年者の間で最も一般的な慢性疾患であり、緊急治療のために入院する主な理由の一つでもある。喘息の症状を軽減または抑制できる優れた治療法はあるが、喘息を予防するためにはリスク要因を減らすことも重要だ。この研究結果は、犬を飼っている家庭にとって朗報となる可能性がある。ただし、この関連について、そして犬との生活が長期的には小児の肺の発達にどのような影響を与えるかについて、さらに詳しく知る必要がある」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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米国でサマータイムを廃止すれば脳卒中や肥満が減少する可能性

 米国では夏季に時計を1時間早めるサマータイムが実施されているが、それを廃止することによって、脳卒中や肥満を減らせる可能性があるとする論文が、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に9月15日掲載された。 この研究は、米スタンフォード大学のLara Weed氏、Jamie M. Zeitzer氏によるもので、仮に標準時間(夏季以外の時間)に固定した場合、1年間で約30万件の脳卒中が予防され、260万人の肥満が減少する可能性があるという。また、サマータイムのままとした場合にも、影響は3分の2程度に減るものの脳卒中や肥満の抑制効果が見込まれるとのことだ。研究者らは、「これを別の言葉で表現するなら、現在実施されている年2回の時計の切り替えは、米国民の健康にとって最悪の政策である」と述べている。 この研究では、時間政策が概日リズム(多くの生理活動を調整する体内時計)にどのような影響を与えるかを推定した。Zeitzer氏によると、「朝に光を浴びると概日リズムが速まり、夕方に光を浴びると遅くなる。通常、24時間周期にうまく同調するには、朝の光曝露を多く、夕方の曝露を少なくする必要があり、そうでないと概日リズムが乱れがちになって、代謝や免疫システムが不調になりやすい」という。 今回の研究では、標準時間で固定した方が、多くの人にとって概日リズムへの負担が減ることが示された。そしてその影響を、米疾病対策センター(CDC)の地域ごとの疫学データと結び付けて、時間政策が人々の健康にどのようなインパクトを与えるかを推定した。その結果、標準時間を恒久化することで、米国全体で肥満が0.78%、脳卒中が0.09%減少すると計算された。パーセントの値としては小さなものだが、人口に換算すると、肥満者が260万人、脳卒中が30万件減少することになる。また、サマータイムを恒久化した場合にも、肥満者が0.51%減少し、脳卒中が0.04%減ると推計された。Zeitzer氏は、「標準時間とサマータイムのどちらであっても、それを恒久化することが米国国民の健康増進に役立つだろう」と述べている。 現在、米国においてサマータイムは年に7カ月実施されている。サマータイムの恒久化を提案する法案は、2018年以来ほぼ毎年議会に提出されているが、一度も可決されていない。それに対して、米国の医師会、睡眠医学会、睡眠財団などの医療関連団体は、標準時間を恒久化することを支持している。Zeitzer氏によると、時間政策に関する主張はしばしば、主張する政策の方が人々の健康全般に良いということを根拠として語られるという。ただし、「問題はその主張の根拠がデータのない理論だということだ」と同氏は述べ、「一方でわれわれは今回、それらの主張を検討し得るデータを手にした」と付け加えている。 なお、研究者らが論文の中で取り上げている先行研究によると、夏時間への移行は心臓発作や交通事故の増加と関連があり、標準時間に戻す際にはそのような悪影響は生じないという。

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エンゼルケアについて考えてみる【非専門医のための緩和ケアTips】第110回

エンゼルケアについて考えてみる患者さんが亡くなった際に、多くの施設で看護師を中心にエンゼルケアが行われています。患者さんにとってはもちろん、ご家族にとっても大切な時間なので、丁寧なケア提供が求められます。今回の質問患者さんが亡くなった時、訪問看護師がエンゼルケアをしていますが、どういったことを行うのが標準的なのでしょうか? 在宅医療だと人手も少ないので、医師である私も少し手伝ったほうが良いかなと思う時もありますが、やり方を学んだことがないため、言い出しにくく感じます。死亡確認後にご遺体へのケアを「エンゼルケア」と言います。施設によっては化粧をするといったケアにも取り組んでおり、これは「エンゼルメイク」と言います。私が勤務する施設では、看護師が清拭で身体をきれいにしたうえでメイクをしています。男性の私は普段は化粧をする機会はなく、美容にも関心はありませんが、エンゼルメイクをした患者さんは男女を問わず顔色が良くなり、ご家族に喜んでもらえることを実感します。エンゼルケアを通じて、何を提供しているのか考えてみましょう。エンゼルメイクをテーマにした研究では、家族から「穏やかな表情にしてくれた」「生前と同じような扱いをしてくれた」といった声が寄せられました1)。確かに看護師のエンゼルケアを見学すると、とても丁寧に遺体を扱っています。同時に「頑張りましたね」と声掛けをしたり、ご家族をねぎらったりもします。こうしたケアが「故人を大切にしてもらった」という感覚を生むのでしょう。看護師によっては、ご家族が希望するケアを取り入れるケースもあります。たとえば、お風呂が好きだった患者さんであれば、清拭ではなく湯灌(ゆかん)し、故人をしのびながら、身体をきれいにします。あるケースでは、お孫さんにも湯灌を手伝い、ご家族から「非常に良い時間でした」と言ってもらいました。お孫さん自身も「おじいちゃんが最期に教えてくれた、大切な経験として忘れないようにしたい」と言っており、エンゼルケアは死生観を育む機会にもなるのだなと感じました。ご家族が最期に着せたい服に着替えてもらったうえで、お別れをすることもあります。病院では自動的に病衣に着替えてもらうことが多いですが、スーツなど思い出のある服に着替えた姿からは、患者さんのかつての生き生きとした姿を感じることができます。あれこれ思い出を振り返ってきましたが、このようにエンゼルケアは非常にナラティブなものです。そして、そのケアに対して私が何かするかというと、基本的にはすべて看護師に任せています。とくに在宅でのお見取りの際は、医療機器を外すなど死後の処置が必要なケースも少ないため、死亡確認をして死亡診断書を作成したら、その場を離れることが多いです。長くお世話になっている緩和ケアの看護師は、「エンゼルケアはその患者さんに私たち看護師が提供できる最後のケア」と言っていました。そんな看護師を尊敬しており、看護師とご家族で取り組むケアに医師が無理に割り込む必要はないのかな、と感じます。もちろん、人手が足りないなど事情があれば、邪魔にならないよう手伝うことはありますが、基本的にエンゼルケアはそれを専門とする看護師と患者さん、ご家族のものだと思います。今回のTips今回のTipsエンゼルケアは最後のケアとして、患者さんはもちろんご家族にとっても非常に大切。1)山脇 道晴ほか. ホスピス・緩和ケア病棟におけるご遺体へのケアに関する 遺族の評価と評価に関する要因. Palliative Care Research. 2015;10:101-107.

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急性期の“むくみ”に対する漢方薬の使用法【急性期漢方アカデミア】第2回

急性期漢方を普及・研究するグループ「急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia: AKA)」。急性期でこそ漢方の真価が発揮されるという信念のもと、6名の急性期漢方のエキスパートが集結して、その方法論の普及・啓発活動を2024年から始動した。その第1回セミナーで公開された、急性期の“むくみ”に対する漢方薬の使用法を今回は紹介したい。急性期の“むくみ”のAKAプロトコール急性期の“むくみ”に応用できる医療用漢方製剤のうち、とくに急性期病院でも使用しやすい五苓散(ごれいさん:17)、柴苓湯(さいれいとう:114)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう:28)、真武湯(しんぶとう:30)の4処方に注目して、AKAプロトコールを紹介し、具体的な使い分け方法を示す。図1は、急性期のむくみの病態を漢方における視点から、全身性か局所性であるか、熱感や発赤を伴っているか末梢の冷感を伴っているかの2大軸、4象限で分割した座標を提示、4つの処方の位置付けを示している。画像を拡大する図2は、使用の便を図るために、急性期の“むくみ”に対して4つの処方を使い分けるためのフローチャートを示した。画像を拡大する急性期の“むくみ”での漢方治療の実際急性期の“むくみ”に対して漢方薬を使用したAKAメンバーの経験した実際の症例を紹介したい。症例1【症例】91歳女性【主訴】下腿浮腫、労作時呼吸困難感【現病歴】2ヵ月前より増悪する下腿浮腫・労作時呼吸困難感で受診。精査の結果、大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁閉不全、重症三尖弁閉鎖不全を伴う両心不全、Hb 8g/dL程度の貧血、血清クレアチニン値2mg/dL程度、尿蛋白3+で慢性腎臓病(CKD G4A3)を指摘された。右心不全および慢性腎臓病があるため、利尿剤は使用しにくいと考えられた。認知症もあり入院によるADL低下も懸念され、外来での加療を選択し漢方薬での治療を行った。四肢は冷えている。下腿浮腫あり。【処方および経過】AKAプロトコールにおける“全身性の”“冷感を伴う”浮腫であり、真武湯が選択された。真武湯は単独では利尿効果が弱いため、五苓散を併用。内服開始から浮腫は軽快傾向となり、2週間後には、肺高血圧や下大静脈径も改善し、胸水も消退した(図3)。画像を拡大する症例2【症例】29歳女性【主訴】右手の腫脹・疼痛【現病歴】来院3日前に右手背部の腫脹・疼痛が出現し、38℃台の発熱があり。来院前日に近医受診。全身疾患も含めて精査・加療目的で、当科紹介。【既往歴】アトピー性皮膚炎【診断】右前腕蜂巣炎【処方および経過】AKAプロトコールにおける“局所性の”“熱感・発赤を伴う”浮腫であり、越婢加朮湯が選択された。化膿性病変であることを考慮して黄連解毒湯とセファクロル750mg 分3を併用している。内服開始2日後で発赤・腫脹は消退傾向となり、5日後には、わずかに浮腫が残る程度で症状は消失した(図4)。画像を拡大する症例3【症例】20代女性 卵巣過剰刺激症候群からの急性呼吸不全【現病歴および経過】2023年某日 卵巣刺激法(ウルトラショート法)で卵胞刺激を施行。2日日に腹痛と呼吸苦を認め、前医救急外来受診。呼吸状態が悪化し4日目に当院搬送となった。図5のように両側胸水が顕著に貯留、利尿薬等を投与しつつNPPVによる陽圧換気を開始した。しかし、十分な尿量確保が困難となり人工呼吸器装着を考慮せざるを得ない状況となった。利水作用※を期待し五苓散の投与を開始、投与翌日より尿量増加傾向となった(図5)。画像を拡大するこのように血管透過性が亢進した病態において、五苓散の併用は病態の改善につながる場合がある。なお、この場合は分量を多めに使用することを考慮する(保険診療上、通常量より多くの投与は認められないため、処方の際には一定の配慮が必要である)。※ 利水作用:利水とは西洋医学の利尿薬のような強制利尿ではなく「水毒」と呼ばれる水の異常分布を調整すると考えられており、浮腫では利尿作用、脱水では抗利尿作用を発揮するとされる。症例4【症例】熱傷:80歳代、女性 既往に高血圧のある、生来元気な方。【現病歴および経過】X日自宅コンロの火で左脇を受傷し、近医クリニックを受診。大きな病院に行くように説明があった。X+1日当院紹介受診。左腋窩を中心に約2%の熱傷あり(図6)、II~III度熱傷を認めた。軟膏と被覆材による処置を行い、ツムラ柴苓湯エキス顆粒3包 分3、ツムラ越婢加朮湯エキス顆粒3包 分3を処方した。X+2日38℃台の発熱を来したが、来院時は37℃台の微熱(図7)。X+3日上腕部周辺の正常皮膚にやや発赤・熱感が発現した(図8)。安静時には疼痛はなく、本人の体力もあることから、同処方を継続した。X+4日37℃台の微熱はあるものの、昨日よりは全身状態は改善したとのことで、創部の発赤も消退していた(図9)画像を拡大するX+10日食思不振、倦怠感を訴えるため、ツムラ越婢加朮湯エキス顆粒からツムラ六君子湯エキス顆粒3包 分3に切り替え、柴苓湯は飲みきり終了とした(図10)。X+29日食思不振や倦怠感はなくなったことから、六君子湯も終了とした。X+73日上皮化が滞っているためツムラ十全大補湯エキス顆粒3包 分3を処方した(図11)。X+101日すべて上皮化し、終診となった(図12)。画像を拡大する以上のように漢方薬を使用した診療を行うことで、西洋医学単独では困難な病態に対する治癒の過程を促進できる可能性がある。

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第290回 慢性疲労症候群の正確な血液検査を開発

慢性疲労症候群の正確な血液検査を開発原因がはっきりしない難病の筋痛性脳脊髄炎(ME)の血液検査が開発され、少人数の試験でかなり優秀な性能を示しました1-3)。重い疲労感、動作後の倦怠感、認知障害、自律神経機能障害を特徴とし、患者をひどく弱らせるMEは慢性疲労症候群(CFS)とも呼ばれ、しばしばME/CFSと表記されます。最もよく使われる定義によるとME/CFSの有病率は1%弱(0.89%)と推定され4)、それが本当なら世界人口80億人のうち実に7千万例強がME/CFSを患っています5)。しかし、報告されている有病率は手段によって大きく異なり、より客観的な診断基準の確立が急務です4)。ME/CFSを引き起こす根本的な仕組みは不明ですが、顕著な特徴の1つとして免疫不調を示すことが知られており、免疫系の一員の末梢血単核細胞(PBMC)を使ってその病理や発症の仕組みが検討されています。英国のOxford BioDynamics社のEpiSwitchという技術を使った先立つ研究で、筋萎縮性側索硬化症、関節リウマチ、前立腺がん、大腸がんに特有のPBMCの染色体構造(chromosomal conformation、CC)が同定されています。同社は同郷の大学University of East Anglia(UEA)と組み、EpiSwitchを使ってME/CFSに特有のDNAの折り畳まれ方、つまりCCを探すことを試みました。重度のME/CFS患者47例と健康な61例の血液検体を調べたところ、期待どおりME/CFSに特有のCCが見つかり、200のCC特徴に基づく検査Episwitch CFSが開発されました。ME/CFS患者24例とそうでない45例の合計69例で検証したところ、Episwitch CFSの検出感度は92%、特異度は98%、そして正確度は96%でした。すなわち69例のうち誤診は3例のみでした。ME/CFSが示す免疫不調の病状と一致し、免疫や炎症の伝達と強く関連する一連のゲノム変化も見つかっています。それらの変化は治療手段の開拓や治療の向き・不向きを予想するのに役立ちそうです。EpiSwitchを利用した検査はすでに販売されています。1つは前立腺がん診断用で、94%の正確度を誇ります。もう1つはがんの免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1阻害薬)の効果を予測するもので、正確度は85%です。Episwitch CFSは健康な人とME/CFS患者をかなり正確に区別できることが示されましたが、他の慢性炎症疾患と区別できるかは不明であり、今後調べる必要があります。また、今回の試験は重度ME/CFS患者を対象としており、軽度~中等度のME/CFS患者でもEpiswitch CFSが通用するかどうかも調べなければなりません。Episwitch CFSがどれだけ頼りになるかは、それらの課題を踏まえたより大人数を募っての多施設試験で判明するでしょう。やがてEpiswitch CFSが現場で活用され、それぞれの患者により適した効果的な治療が実現することを願うと今回の研究を率いたUEAのDmitry Pshezhetskiy氏は言っています2)。 参考 1) Hunter E, et al. J Transl Med. 2025;23:1048. 2) Revolutionary blood test for ME / Chronic Fatigue unveiled University of East Anglia in Norwich 3) First proposed blood test for chronic fatigue syndrome: what scientists think / Nature 4) Lim EJ, et al. J Transl Med. 2020;18:100. 5) Vardaman M, et al. J Transl Med. 2025;23:331.

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アルツハイマー病のアジテーションに対するブレクスピプラゾール〜RCTメタ解析

 アルツハイマー病に伴うアジテーションは、患者および介護者にとって深刻な影響を及ぼす。セロトニンとドパミンを調整するブレクスピプラゾールは、潜在的な治療薬として期待されるが、最近の試験や投与量の違いにより、最適な有効性および安全性についての見解は、一致していない。ブラジル・Federal University of ParaibaのJoao Vitor Andrade Fernandes氏らは、アルツハイマー病に伴うアジテーションの治療におけるブレクスピプラゾールの有効性および安全性を用量特異的なアウトカムに焦点を当て評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Indian Journal of Psychiatry誌2025年9月号の報告。 アルツハイマー病に伴うアジテーションにおいてブレクスピプラゾールとプラセボを比較したRCTを、PubMed、Embase、Cochrane Libraryよりシステマティックに検索した。主要有効性アウトカムには、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコアの変化を用いた。安全性アウトカムには、治療関連有害事象(TEAE)、重篤な有害事象(SAE)、死亡率を含めた。メタ解析は、ランダム効果モデルを用いて実施し、平均差(MD)、オッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・4つのRCT、1,710例を分析対象に含めた。・ブレクスピプラゾール2mg群は、プラセボ群と比較し、CMAIスコア(MD:-5.618、95%CI:-7.884〜-3.351、p<0.001)およびCGI-Sスコア(MD:-0.513、95%CI:-0.890〜-0.135、p=0.008)の有意な低下が認められた。・低用量(0.5〜1mg)群では、有効性が限定的であった。・TEAEは、ブレクスピプラゾール2mg群でより多く認められたが(OR:1.554、95%CI:1.045〜2.312、p=0.030)、SAE(OR:1.389、p=0.384)および死亡率(OR:2.189、p=0.301)はプラセボ群と有意な差が認められなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾール2mgは、許容できる安全性プロファイルを有しており、アルツハイマー病に伴うアジテーションの軽減に有効である」と結論付けている。

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「若者は管理職になりたがらない」は医師にも当てはまる?/医師1,000人アンケート

 「最近の若手は出世意欲がない」「管理職になりたがらない」と言われることがあり、20〜40代の会社員を対象とした調査1)では、約71%が出世を望んでいなかったという報告もある。これは医師にも当てはまる傾向なのだろうか?若手医師が管理職になりたいのかどうか、また仕事で重視することは何かを調査するため、CareNet.comでは20~30代の会員医師1,006人を対象に、管理職への昇進・昇格意向に関するアンケートを行った(実施:2025年9月18日)。なお、本アンケートにおける「管理職」とは、講師以上、医長以上(または相当)のポジションを指すこととした。管理職になりたい派は35.8%、なりたくない派は60.8% Q1では、将来的に管理職になりたいかどうかを聞いた。その結果、「とてもなりたい」が8.8%、「どちらかといえばなりたい」が27.0%、「どちらかといえばなりたくない」が35.6%、「まったくなりたくない」が25.2%であり、「とてもなりたい」と「どちらかといえばなりたい」を合わせた管理職になりたい派(35.8%)が少数派となった。なお、「すでに管理職に就いている」は3.3%で、すべて30代の医師であった。 年代別では、20代では管理職になりたい派が41.4%と多かったが、30代では34.5%に減っていた。病床数別では、20~99床の施設では管理職になりたい派は22.7%、100~199床は26.6%、20床以上は36.8%と、病床数が増えるほど管理職を志望する割合が高まった。管理職になりたい理由第1位「収入や待遇が改善する」 Q2では、Q1で「とても/どちらかといえばなりたい」と回答した管理職になりたい派(361人)に、管理職になりたい理由を聞いた。全体では、第1位が「収入や待遇が改善する(19.4%)」、第2位が「後進を育てたい(15.3%)」、第3位が「名誉や社会的評価が得られる(14.5%)」、第4位が「キャリアの安定につながる(12.8%)」、第5位が「研究や学会活動に有利(11.6%)」であった。 年代別では、20代では「名誉や社会的評価が得られる」が突出して多く第1位で、第2位が「収入や待遇が改善する」、第3位が「後進を育てたい」であった。30代では、「収入や待遇が改善する」「後進を育てたい」「キャリアの安定につながる」の順番であった。なお、「人脈形成ができる」を選んだ割合は20代のほうが30代よりもかなり多かった。管理職になりたくない理由第1位「業務量が増える」 Q3では、Q1で「どちらかといえば/まったくなりたくない」と回答した管理職になりたくない派(612人)に、管理職になりたくない理由を聞いた。全体では、第1位「業務量が増える(20.5%)」、第2位「ストレスが増える(20.0%)」、第3位「責任が増える(19.5%)」、第4位「収入と釣り合わない(15.8%)」、第5位「プライベートを重視したい(10.6%)」であった。20代・30代ともに上位3項目は「業務量が増える」「ストレスが増える」「責任が増える」が占めた。世代・出世意向で異なる「仕事で重視すること」 Q4では、全員を対象に仕事で重視することについて聞いた。全体では、第1位「収入が多いこと(20.7%)」、第2位「自分の専門や知識・技術を生かせられること(17.2%)」、第3位「休みをとりやすいこと(13.6%)」、第4位「医師として成長できること(12.3%)」、第5位「子育てや介護との両立がしやすいこと(11.1%)」であった。 年代別では、第1位は20代・30代ともに「収入が多いこと」であったが、20代の第2位は「医師として成長できること」、第3位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」、第4位は「多くの臨床経験が積めること」とモチベーションの高さがうかがわれた。30代の第2位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」であったが、第3位が「休みをとりやすいこと」、第4位が「子育てや介護との両立がしやすいこと」であり、ライフステージの変化を感じた。 出世意向別では、管理職になりたい派の第1位は「自分の専門や知識・技術を生かせられること」、第2位「収入が多いこと」、第3位「医師として成長できること」であった一方、なりたくない派の第1位は「収入が多いこと」、第2位「休みをとりやすいこと」、第3位「自分の専門や知識・技術を生かせられること」であった。 Q5では、フリーコメントとして、出世に関するご意見、理想の管理職像やキャリアパスなどを聞いた。管理職になりたい人のご意見(抜粋)・外科医を続けるためにはポジションが必要であり、後輩のためにも自分がポジションを確保しておくべきだと考える(30代・外科)・まだ不明確だが、後進の育成には興味があるので、ある程度の役職は必要だと思っている(30代・放射線科)・医師の待遇悪化がささやかれる今日この頃、自分の立場を守るためには、ある程度出世して社会的信用を得たり実績を出したりして、特定分野のプロフェッショナルになる必要性がある(30代・眼科)・まずは医師として自らの臨床力を極め、将来的には管理職として地域社会の医療を担える立場になりたい(20代・産婦人科)・多くの症例を経験して、実践的で全体を把握出来る管理職を目指したい(30代・耳鼻咽喉科)・収入よりも家族との時間の方が本当は重視したい思いはある(30代・精神科)管理職になりたくない人のご意見(抜粋)・管理職になるより一兵卒が性にあっている(30代・呼吸器内科)・出世は収入につながらないためあまり魅力に感じない(30代・乳腺外科)・大学病院での出世はまったく考えていない。収入が釣り合わないため。今後医師の収入が上がることは見込めないため、業務量が増えるだけになってしまう可能性がある(30代・脳神経外科)・それなりに時間的、経済的に余裕のある生活を送れるだけの給料がもらえるならそれで満足。それ以上は望まず、出世したいとはまったく思わない(20代・小児科)・出世希望は0ではないが、臨床以外の仕事が増えるのは望まない(30代・消化器内科)・以前は出世にこだわっていた時期もあるが、子どもが生まれてから優先順位ががらりと変わった(30代・呼吸器内科)・管理職は育児と両立できる気がしない(30代・小児科)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。出世願望のある若手医師は何割?/医師1,000人アンケート

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MSI-H大腸がん、ニボルマブへのイピリムマブ追加でPFS延長傾向(CheckMate 8HW)/ESMO2025

 CheckMate 8HW試験は、全身療法歴のない高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機構欠損(dMMR)の転移大腸がん患者に対する、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有用性を検討した試験である。すでに併用療法が化学療法を無増悪生存期間(PFS)で上回ったことが報告されており、新たな標準治療の候補となっていた。欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)においてイタリア・Veneto Institute of Oncology のSara Lonardi氏が、本試験のPFSの最終解析、および初の報告となる全生存期間(OS)を発表した。・試験デザイン:多施設共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:MSI-H/dMMR未治療の切除不能または転移大腸がん(mCRC)・試験群: 1)ニボルマブ(240mgを2週ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週ごと):NIVO+IPI群 2)ニボルマブ単剤:NIVO群 3)化学療法(医師選択による化学療法±標的療法):化学療法群 患者は2:2:1の割合で無作為に割り付けられ、治療は疾患進行または容認できない毒性が認められるまで(全群)、最長2年間(NIVO+IPI群)継続された。・評価項目:[主要評価項目]二重エンドポイント 1)1次治療コホート:NIVO+IPI群と化学療法群のPFS 2)全治療コホート(1次+2次治療以降):NIVO+IPI群とNIVO群のPFS[副次評価項目]1次および全治療コホートにおけるOS、奏効率(ORR)、安全性など・データカットオフ:2025年4月30日 今回は1次治療コホートにおけるNIVO+IPI群とNIVO群のPFSの最終解析、全治療コホートにおけるNIVO+IPI群とNIVO群のOSが発表された。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は55.1ヵ月であった。1次治療コホートにおけるNIVO+IPI群(n=171)はNIVO群(n=170)と比較してPFSの改善傾向を示したものの、事前に設定された有意水準(0.0383)には達せず、統計学的有意差は認められなかった(未達vs.60.8ヵ月、ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.48~0.99、p=0.0413)。・1次治療コホートにおけるORRはNIVO+IPI群(73%)がNIVO群(61%)と比較して高かった。・全治療コホートにおけるOSは両群とも未達であったが、NIVO+IPI群がNIVO群と比較して改善傾向を示しており(HR:0.61、95%CI:0.45~0.83)、PFSおよびORRもNIVO+IPI群がNIVO群と比較して引き続き良好であった。・全患者におけるGrade3以上の治療関連有害事象の発現率はNIVO+IPI群で24%、NIVO群で17%であり、新たな安全性シグナルは認められなかった。 研究者らは「NIVO+IPIは、MSI-H/dMMRのmCRC患者において、長期追跡後も1次治療および全治療ラインにおいてNIVO単剤と比較して臨床的に意義のある有効性の改善を示し、NIVO+IPIが1次治療の標準治療であることのさらなる裏付けとなった」とした。 ディスカッサントを務めたSharlene Gill氏(ブリティッシュコロンビア大学・カナダ)は「1次治療におけるNIVO+IPIはNIVO単剤と比較してPFSの有意差は示せなかったものの、これは副次評価項目であり、改善傾向は明らかであることからも、大きな問題ではないと考える。NIVO+IPIは今後のMSI-H/dMMR mCRC患者の標準治療となる一方で、単剤で効果を得られる患者の層別化も必要となるだろう」とまとめた。

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1950~2023年の年齢・男女別の死亡率の推移~世界疾病負担研究/Lancet

 米国・ワシントン大学のAustin E. Schumacher氏らGBD 2023 Demographics Collaboratorsは人口統計学的分析(世界疾病負担研究[Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD]2023)において、(1)サハラ以南のアフリカの大部分の地域における死亡率が前回の分析とは異なっており、青年期と若年成人女性ではより高く、高齢期では低いことを示し、(2)2020~23年のCOVID-19の世界的流行期と回復期には、死亡率の傾向が多様化し、その変動の時期と程度が国によって著しく異なると明らかにした。Lancet誌2025年10月18日号掲載の報告。分析に新たなモデル「OneMod」を導入 GBDでは、過去数年単位の全死因死亡や平均余命などの健康指標を、世界各国で比較可能な状態で提示し、定期的に更新している。現在のGBD 2023はGBD 2021を直接引き継ぐ調査であり、1950~2023年の各年の、204の国と地域、660の地方自治体の人口統計学的分析結果を報告している(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。 また、GBD 2023では、GBD 2021とは異なる分析結果も導出されているが、これはOneModと呼ばれるより簡潔で透明性が高い新たなモデルを開発・適用するとともに、より時宜を得た情報提供を可能とする工夫がなされたためと考えられる。東アジアで5歳未満児死亡率が大きく減少 2023年に、世界で6,010万人(95%不確実性区間[UI]:5,900万~6,110万)が死亡し、そのうち467万人(95%UI:459万~475万)が5歳未満の小児であった。また、1950年以降の著しい人口増加と高齢化によって、1950~2023年に世界の年間死亡者数は35.2%(95%UI:32.2~38.4)増加し、年齢標準化全死因死亡率は66.6%(65.8~67.3)減少した。 2011~23年の年齢別死亡率の推移は、年齢および地域で異なっていた。(1)5歳未満児死亡率の減少が最も大きかったは、東アジアであった(67.7%の減少)。(2)5~14歳、25~29歳、30~39歳の死亡率増加が最も大きかったのは、高所得地域である北米であった(それぞれ11.5%、31.7%、49.9%の増加)。また、(3)15~19歳および20~24歳の死亡率増加が最も大きかったのは、東ヨーロッパだった(それぞれ53.9%、40.1%の増加)。 今回の分析では、サハラ以南アフリカ諸国の死亡率が前回の分析結果とは異なることが示された。(1)5~14歳の死亡率は前回の推定値を上回り、1950~2021年の国と地域の平均で、GBD 2021に比べGBD 2023で87.3%高く、同様に15~29歳の女性では61.2%高かった。一方、(2)50歳以上では、前回の推定値より死亡率が13.2%低かった。これらのデータは、分析におけるモデリング手法の進歩を反映していると考えられる。COVID-19で平均寿命が短縮、その後回復 調査期間中の世界の平均寿命は、次の3つの明確な傾向を示した。(1)1950~2019年にかけて、平均寿命の著しい改善を認めた。1950年の女性51.2歳(95%UI:50.6~51.7)、男性47.9歳(47.4~48.4)から、2019年には女性76.3歳(76.2~76.4)、男性71.4歳(71.3~71.5)へとそれぞれ延長した。(2)この期間の後、COVID-19の世界的流行により平均寿命は短縮し、2021年には女性74.7歳(95%UI:74.6~74.8)、男性69.3歳(69.2~69.4)となった。(3)2022年と2023年にはCOVID-19の世界的流行後の回復期が訪れ、2023年には平均寿命がほぼ世界的流行前(2019年)の水準(女性76.3歳[95%UI:76.0~76.6]、男性71.5歳[71.2~71.8])に復した。健康アウトカムの世界的な多様性を確認 204の国と地域のうち194(95.1%)が、2023年までに年齢標準化死亡率に関してCOVID-19の世界的流行後の少なくとも部分的な回復を経験し、126(61.8%)は世界的流行前の水準まで回復するか、それを下回っていた。 世界的流行の期間中およびその後の死亡率の推移には、国と地域で異なる複数のパターンがみられた。また、長期的な死亡率の傾向も年齢や地域によって大きく異なり、健康アウトカムの世界的な多様性が示された。 著者は、「これらの知見は、世界各国の健康施策の策定、実施、評価に資するものであり、医療の体制、経済、社会が世界の最も重要なニーズへの対応に備えるための有益な基盤となる」としている。

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