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096)お久しぶり受診の患者さんとの静かな戦い【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

お久しぶり受診の患者さんとの静かな戦いゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆内服処方の多い内科外来などと異なり、外用のみ処方の患者さんが主な皮膚科の外来。内服薬であれば、決まった日数でなくなってしまいますが、外用薬だと塗り方で調整ができてしまうため、受診がのびのびになってしまう患者さんも少なくありません。「受診日までに足りなくなりそうなので、チビチビ塗っていました」という申告も、皮膚科ではよく聞かれます。塗る量が少なくなれば効果も低下するため、もちろんよいことではありません(早めに取りに来て…!)。診療のコツとして、次回の受診日を指定すること使った軟膏量をチェックすること定期通院をうながすことなどを個人的には意識していますが、うまくいくケースばかりではありません。やはり、患者さんとしては、次の受診はなるべく先延ばししたいという思いがあるようです。症状のコントロールが良好で、落ち着いている患者さんであれば、多少、受診の間隔がのびてしまっても、問題はないのですが…。問題は、コントロール不良の患者さん。毎回、同じ主訴で「お久しぶり受診」を繰り返し、ふりだしに戻った状態で「治らない」と文句ばかり言ってくる患者さんも…。こちらもなんとか定期通院を促そうと努力しますが、「お久しぶり」タイプの患者さんではなかなか応じてもらえないことも多く、静かな攻防戦を繰り返しております。あきらめず働きかけ続ければ、いつかは響くはず…?こういうとき、「『治す気あるのか!』と愛のムチ? を繰り出すべきなのか」という考えが、ふと頭をよぎりますが、性格的にできそうもありません。患者さんには、「それでは治りませんよ」と伝えますが、厳しく接することも時には必要?まだまだ精進が足りないようです。それでは、また次の連載で。

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ケアネットDVD 販売終了のお知らせ【2025年6月20日 公開】

ケアネットDVD 販売終了のお知らせ【2025年6月20日 公開】 日頃よりケアネットをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。ケアネットDVDは、2025年6月20日を以て販売を終了いたしました。これまでにケアネットDVDで販売していたタイトルにつきましては、臨床医学チャンネルCareNeTVにて引き続き配信しておりますので、今後はCareNeTVをご利用いただけますと幸いです。※一部、CareNeTVでの配信が終了しているタイトルもございます。今後ともケアネットをご愛顧のほどお願い申し上げます。本件に関するご質問、ご不明な点はこちらよりご連絡ください。

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第263回 10代の濫用薬物の傾向は?改正薬機法が何を変えるの?

改正薬機法が5月14日の参院本会議で可決成立した。今回の改正ポイントは複数あるが、一般向けの報道の多くは、薬剤師や登録販売者が常駐していないコンビニエンスストアでもこれら有資格者からオンラインで情報提供を受けることを条件に、消費者がいつでも一般用医薬品(OTC)を購入できる点を紹介している。実際、このことで私は突如、関西のとある民放から電話取材を受け、写真付きのフリップコメントで番組に出演することになった。若者の薬物依存、この10数年の動向今回の改正項目には、一般消費者にも身近で、かつ医療者も看過できない問題に関するものも含まれている。OTC濫用防止対策である。ご存じのように昨今、OTCの感冒薬・鎮咳薬に含まれるエフェドリンやコデインの過剰摂取(オーバードーズ)など、OTCによる薬物依存に陥る者が増加している。隔年で行われている「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」1)によると、薬物関連精神障害患者のうち調査時点から1年以内に使用が認められた主たる薬物の中に占めるOTCの割合は、2012年は2.7%に過ぎなかったが、これが2024年には25.6%と約9.5倍にまで膨れ上がっている。入手の手軽さなどから、ほかの違法薬物などと比べて急増しているのが実態だ。しかも、OTC濫用は若年層が顕著だ。実態調査の経年変化を見ると、10代の主たる依存薬物に占めるOTCの割合は、2014年実態調査では0.0%(おそらく完全にゼロではない)。しかし、2024年実態調査では71.5%まで拡大している。ちなみに2014年時点で10代の主たる依存薬物の“王座”に君臨していたのは「危険ドラッグ」の48.0%だった。また、成人一般で主たる依存薬物として最も多い覚せい剤は、10代の場合、2014年実態調査で占めた割合は12.0%だったが、2024年実態調査では3.8%にまで減っている。改正薬機法、もう1つのポイント今回の改正薬機法では、こうした濫用の恐れのあるOTCを「指定濫用防止医薬品」という新設する区分に組み入れ、20歳未満への大容量製品や複数個の販売を禁止。また、薬剤師・登録販売者が購入希望者に対し、購入理由や他薬局での購入状況などを確認することを義務付けた。具体的な規制の詳細は省令で定められる予定だ。ちなみに、この指定濫用防止医薬品などに関する改正薬機法での取り扱い議論の出発点となったのは、2024年1月に公表された「医薬品の販売制度に関する検討会」2)のとりまとめだが、そこでは濫用が懸念されるOTCについて「身分証などによる氏名などの確認と記録を行い、購入履歴を参照して頻回購入でないかを確認した上で販売の可否を判断」「直接購入者の手の届く場所に陳列しない(いわば空箱陳列など)」などの方針が示されていた。しかし、現状で身分証確認と購入履歴の記録・保管では完全な買い周りを防げないこと、空箱陳列は適正使用者のアクセスを過度に阻害するうえに店頭管理の厳格化によるコスト増を招くとして日本チェーンドラッグストア協会が強く反発。最終的には記録はなしになり、空箱陳列とともに代替選択肢として、情報提供コーナーに有資格者が常駐し購入希望者への直接対応にあたることも可能にした。若者のOTC濫用、その背景が重要この改正薬機法の取り扱いについての賛否はまちまちだと思われる。「実効性に乏しい」という主張は、ある意味正しいかもしれない。しかし、そもそも正しく使えば消費者の利益になるはずのOTCである以上、完全な規制は難しい。水をためるバケツに開いた穴で例えるならば、穴を小さくできても完全に穴を塞ぐことは土台無理な話である。このケースで「完全に穴を塞ぐ」とは濫用の恐れのある成分を含むOTCそのものを流通させないことと同義と言って差し支えないからだ。もちろん今後、さらなる薬機法改正により新たな規制手段が生まれてくる可能性は高い。たとえば、今回見送られた「消費者の手に届かない位置への陳列の義務化」や「ICT(情報通信技術)を利用した購入履歴の記録」「購入履歴管理の簡素化」である。これらの手法はすでに導入している国もある。日本ではまだマイナカードの普及が始まったばかりと言える段階であり、同カードの浸透とともに購入履歴の記録・管理の簡素化は現実のモノとなるだろう。しかし、これらの対策でも大きく欠けている視点・対策はある。そもそも前述のようになぜ若年層でOTC濫用事例が増加しているのか? 「安価で入手しやすいから」「インターネット・スマートフォンの普及により、情報も裏販売ルートなどからも入手しやすくなったから」などの指摘はあるだろう。もちろんこれらの指摘は一定程度当たっていると思われるが、本当の意味での「なぜ?」には答えていない。ここで「薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021」(有効回答者4万4,613人)1)を参照したい。同調査によると、過去1年間にいずれかのOTCの濫用経験率は1.6%。濫用経験者と非経験者で生活属性を比較すると、「学校生活が楽しくない」「親しく遊べる友人がいない」「相談事のできる友人がいない」などの回答率がいずれも濫用経験者群で有意に高い結果となっている。実は同様の調査は中学生を対象にしたものが隔年で行われているが、こちらでもこの点はほぼ同様の結果である。今風の言葉でありきたりな表現をすれば、「『生きづらさ』が市販薬依存の一因になっている」ということになるだろうか?もちろん国が無策だとは言えない。厚生労働省は関連するさまざまなツールや資材、窓口などを紹介はしている。ただ、こうした地味な活動はそれを広げようとする思いを持つ人の熱量が高くとも即効性には乏しい。そして現在は今回の改正薬機法のように“規制強化”という車輪だけが回転数を上げている状態である。次なるフェーズとしては、この「生きづらさ」の受け皿をどのように強化していくかにならねばなるまい。それなしに規制の強化だけが進めば、「薬物依存対策」という名の車両はバランスを崩し、横転することになるだろう。参考 1) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所:薬物依存研究部 2) 厚生労働省:医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ概要資料

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高齢者の転倒対策、現場は何をすべきか?【外来で役立つ!認知症Topics】第29回

「縛るな!」――身体拘束ゼロへの取り組み病院・施設の高齢者における訴訟は増加しているが、訴訟の2大原因は、転倒と誤嚥だそうだ。いずれであれ、その判決内容、賠償金額によっては病院・施設の死活問題になりかねない。そこで誰もが転倒の予防対策として考えるのは身体抑制だろうが、これは人の尊厳を損なう最たるものである。さて「身体拘束ゼロ」、わが国のいわゆる老人病院で始まった高齢者医療・ケアの改革運動である。2001年には厚生労働省が『身体拘束ゼロへの手引き』を作成し、また、2024年には診療報酬改定で身体拘束最小化の基準が設けられた。とくに慢性期病院や介護施設は、身体拘束の最小化に向けて懸命に取り組んできた歴史がある。この流れの源流は、今年4月に亡くなられた吉岡 充医師にある。彼は、東大病院と都立松沢病院の勤務を経て、ご尊父が営む八王子の精神科病院に移られた。そこには数十年の入院生活で高齢化した統合失調症の患者さんたちがいた。これが彼の高齢者医療への取り組みの始まりだったと思う。1980年代に、この病院でアルバイトをさせてもらっていた私はこの当時、彼と初めて会った。「患者さんを縛っちゃいけないよ!」「どうして病院ではすぐに患者を縛るんだ? 朝田、おかしいと思わないか」という会話をした。正直、「理想はそう、病院では安静を守れない患者も、すぐに転んで骨折する患者もいます、必要悪ですよ」が私の本音だった。しかしその後、吉岡医師は類まれな意志力・行動力で「抑制廃止」(彼はいつも「縛るな!」と言っていた)を全国展開していった。転倒による死亡は交通事故の3倍こうした抑制廃止の裏面が、転倒である。今日、高齢者の転倒・転落は、広く高齢者医療の大きな課題として一般の人にもよく知られている。転倒による大腿骨骨頭骨折などの骨折はもとより、死亡例も驚くほど多い。2023年の資料では、こうした事故による死亡者数は全国で1万2,000例弱にも上り、交通事故死の3倍以上だというから恐ろしい1)。ところで老年医学は、1950年代からイギリス、北欧で芽生え成長してきた。この分野では、イギリスのバーナード・アイザックス(Bernard Isaacs)が1965年に提唱した「老年医学の4巨人」、すなわち転倒、寝たきり、失禁、認知症が今日に至るまで主要テーマである。筆者は1980年代にイギリスの大学老年科に留学して、老年医学の病棟のみならず患家にも立った。その影響で、帰国後は精神科領域における転倒を臨床研究のテーマにし、この領域の進歩に努めて触れてきた。そのポイントをまとめると、まずは転倒の危険因子、転倒予防、予後、そして手術と手術適応である。個人の転倒危険因子では、より高齢であること、転倒既往、認知症、パーキンソン病などの神経疾患、身体機能・ADLの低下、向精神薬など薬剤、飲酒などがある。また施設の住宅設備面から段差の解消、手すりや常夜灯の設置がある。一方で床にこぼれた水分や尿などを可及的速やかに拭き取ったり、落ちた紙などの障害物を除いたりすることも極めて重要である。というのは転倒の直接原因では、滑る・躓くが最多とされるからである。次に予後では、認知症者では、身体機能はもちろん、生命予後もよくない。アメリカのナーシングホームのデータ2)では、大腿骨頸部骨折の手術がなされた者では、6ヵ月以内に35~55%が、2年以内に64%が亡くなったとされる。また手術をしてもこうした患者の機能レベルは容易に転倒前まで戻らないこともわかっている。それだけに手術適応の決定も簡単ではない。これまで転倒予防として繰り返し強調されたのは、脚力を中心とした体力増強の運動である。もっともこの運動や薬剤の調整で発生リスクを2割ほど低減したとの数少ない論文はあるが、リスク低減のエビデンスは乏しい。今のところ、予防の決め手はないというのが現実だ。病院・施設はどのような対策をすべきか?さて訴訟に関し、転倒を含めた事故で病院・施設に過失があるとされるのは、「結果予見義務」と「結果回避義務」が尽くされなかった場合である。転倒・転落が起こるかもしれないという「結果予見義務」だが、裁判の論点にならなくなってきている。なぜなら今日では、認知症の有無、転倒歴、睡眠薬の使用などの転倒・転落リスクは、ほぼしっかり確認されているからである。そこで論点になるのが転倒・転落を防ぐための備え・工夫をしたかという「結果回避義務」になる。もっとも既述のように、転倒・転落は完全には防ぎ難いことはわかっている。それだけに事情通の弁護士によれば、転倒は予見の可能性が難しいだけに、判決として「病院・施設に責任ありとするが、賠償額を低く抑えることでバランスをとる」のが主流ではないかとの由。以上をまとめると、病院・施設側として転倒リスクの評価はまず入院時に不可欠である。そして計画した予防策は明文化し、たとえば定時の見守り・チェックなどは必ず記入する。また濡れた床拭き、靴の履き方直しなど臨機応変に対応したことの記録を残し、結果回避義務を強く意識した努力を記録として蓄積すべきだろう。参考1)厚生労働省「不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」(e-Stat). 2)Berry SD, et al. Association of Clinical Outcomes With Surgical Repair of Hip Fracture vs Nonsurgical Management in Nursing Home Residents With Advanced Dementia. JAMA Intern Med. 2018;178:774-780.

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高齢者への抗菌薬投与の有害性と安全性、3~7日vs.8~14日

 地域在住の66歳以上の高齢者において、アモキシシリン、セファレキシン、シプロフロキサシンの投与期間が長期(8〜14日)となった場合、短期(3〜7日)の場合と比較して、副作用やClostridioides difficile感染症(CDI)などの有害性アウトカム発現に差は認められなかった。カナダ・トロント大学のBradley J Langford氏らは、10万例以上の高齢患者を対象としたコホート研究の結果を、Clinical Infectious Diseases誌2025年4月号で報告した。 本研究では、カナダ・オンタリオ州の行政医療データが用いられた。対象はアモキシシリン、セファレキシン、シプロフロキサシンのいずれかまたは複数の処方を受けた66~110歳の外来患者で、処方期間は短期(3〜7日)または長期(8〜14日)に分類された。主要アウトカムは副作用、CDI、抗菌薬耐性を含む抗菌薬関連の害の複合、副次アウトカムは、抗菌薬の再処方、通院、死亡を含む安全性指標の複合であった。バイアスリスクを低減するため、抗菌薬投与が長期の患者の割合を元に操作変数法による解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者11万7,682例において、抗菌薬投与期間が長期の患者と短期の患者の間で、主要有害性アウトカムに差はみられなかった(以下、調整オッズ比[95%信頼区間])。 アモキシシリン:0.99[0.84~1.15] セファレキシン:1.11[0.90~1.38] シプロフロキサシン:0.94[0.74~1.20]・抗菌薬投与期間が長期の患者と短期の患者の間で、副次安全性アウトカムに差はみられなかった(以下、オッズ比[95%信頼区間])。 アモキシシリン:1.01[0.94~1.08] セファレキシン:1.06[0.97~1.17] シプロフロキサシン:0.99[0.85~1.15]

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若年性認知症リスクとMetSとの関連

 若年性認知症は、社会および医療において大きな負担となっている。メタボリックシンドローム(MetS)は、晩年の認知症の一因であると考えられているが、若年性認知症への影響はよくわかっていない。韓国・Soonchunhyang University Seoul HospitalのJeong-Yoon Lee氏らは、MetSおよびその構成要素が、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症を含む若年性認知症リスクを上昇させるかを明らかにするため、本研究を実施した。Neurology誌2025年5月27日号の報告。 The Korean National Insurance Serviceのデータを用いて、全国規模の人口ベースコホート研究を実施した。2009年に国民健康診断を受けた40〜60歳を対象に、2020年12月31日または65歳までのいずれか早いほうまでフォローアップ調査を行った。MetSは、ウエスト周囲径、血圧、空腹時血糖値、トリグリセライド値、HDLコレステロールの測定値を含む、確立されたガイドラインに従って定義した。共変量には、年齢、性別、所得水準、喫煙状況、飲酒量および高血圧、糖尿病、脂質異常症、うつ病などの併存疾患を含めた。主要アウトカムは、65歳未満での認知症診断で定義したすべての原因による若年性認知症の発症率とし、副次的アウトカムに若年性アルツハイマー病、若年性脳血管性認知症を含めた。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)の推定には、多変量Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象者数は197万9,509人(平均年齢:49.0歳、男性の割合:51.3%、MetS罹患率:50.7%)。・平均フォローアップ期間7.75年の間に、若年性認知症を発症したのは8.921例(0.45%)であった。・MetSは、すべての原因による若年性認知症リスク24%上昇(調整HR:1.24、95%CI:1.19〜1.30)、若年性アルツハイマー病リスク12.4%上昇(HR:1.12、95%CI:1.03〜1.22)、若年性脳血管性認知症リスク20.9%上昇(HR:1.21、95%CI:1.08〜1.35)との関連が認められた。・有意な交互作用が認められた因子は、より若年(40〜49歳vs.50〜59歳)、女性、飲酒状況、肥満、うつ病であった。 著者らは「MetSおよびその構成要素は、若年性認知症リスク上昇と有意な関連を示した。これらの知見は、MetSに対する介入が、若年性認知症リスクの軽減につながることを示唆している。しかし、本研究は観察研究のため、明確な因果関係の推定は困難であり、請求データへの依存は、誤分類バイアスに影響する可能性がある。今後の縦断的研究や包括的なデータ収集により、これらの関連性を検証し、さらに発展させることが望まれる」と結論付けている。

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「がんと栄養」に正しい情報を!がん患者さんのための栄養治療ガイドライン発刊

 日本栄養治療学会(JSPEN)は2025年2月、『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』(金原出版)を刊行した。JSPENが患者向けガイドラインを作成するのは初めての試みだ。5月14日には刊行記念のプレスセミナーが開催され、比企 直樹氏(北里大学医学部 上部消化管外科学)と犬飼 道雄氏(岡山済生会総合病院 内科・がん化学療法センター)が登壇し、ガイドライン作成の経緯や狙いを解説した。【比企氏】 世の中には「〇〇を食べると健康に良い」といった根拠の乏しい情報があふれている。とくにがんに関しては、科学的根拠のない栄養療法や補助食品の情報があふれており、患者や家族が正しい情報を得ることに苦労している。一方で、最近ではがん治療と栄養療法に関連した研究が増え、「どの栄養素を、どれだけ摂取すれば、どんな効果があるか」に関するエビデンスが蓄積されてきた。実際、がんの薬物療法や手術治療において、栄養治療が副作用の軽減や合併症の予防に寄与することが明らかになっている。こうした背景から、患者さんが正しい情報を得られるよう、情報を整理するために作成されたのがこのガイドラインだ。 JSPENは約2万4,000名の会員を抱える世界最大級の臨床栄養学の学会であり、会員の職種は医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など多岐にわたる。実際、医療現場において栄養治療はNST(栄養サポートチーム)として多職種で担うことが多く、こうした医療者向けに昨年10月に『がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 総論編』(金原出版)を刊行した。入院期間中はNSTが支援できるだろうが、外来治療中や退院後に不安になったときに、今回の患者向けガイドラインを使ってもらえればと考えている。患者さんの目に留まりやすいようポップな雰囲気の表紙にし、イラストを使うなどの工夫をした。全国のがん診療連携拠点病院を中心に1,000冊以上を寄付する取り組みも行っており、ぜひ手にとっていただきたい。【犬飼氏】 本ガイドライン作成に先立ち、がん患者へのアンケートを行った。334人から回答があり、Webアンケートだったこともあり、乳がんや血液がんの比較的若年層が多かった。「がん治療中の悩み」として多く挙がった項目としては、「リハビリテーションや運動療法、生活の仕方」が最多で29%、「食事のメニュー」が23%、「薬物療法の際の食事や栄養」が20%だった。口腔状態(9%)や手術後の栄養(5%)の項目は挙げる人が比較的少なかった。術後の栄養指導は診療報酬加算があり、医療機関が一般的に行っていることが不安解消につながったのではと分析している。 栄養に関するアンケートのつもりが、「リハビリに関する悩み」が最多という結果を受け、ガイドラインでは46のQ&Aのうち、リハビリに関するものを9つ設定した。また、口腔に関する悩みは少なかったものの、口腔環境が食欲不振や味覚障害に影響することを知らない人も多いと考え、口腔関連で7つのQ&Aを設定した。その他が栄養に関するQ&Aという構成だ。 がん薬物療法では、副作用の重症度を評価する指標であるCTCAEを使って、副作用の程度にかかわらず、それに応じた栄養治療の必要性が示されている。「がんになると体重が減って当たり前」と考える患者や家族も多いが、体重を維持することでQOL向上や副作用の軽減、治療の成績や予後の改善につながることがわかっている。こうした背景から、「がん治療中、体重は維持したほうがよいですか?」というQ&Aを設け、体重維持の重要性を強調している。がんによる体重減少には「食べられないで痩せる」と「食べていても痩せる」という2つの要因があり、前者はうつや吐き気、味覚障害、口内炎などが原因であることも多く、介入による改善が期待できる。ただし、「体重を減らすな、しっかり食べろ」と言うだけでは、食欲不振などで食べられず、ストレスを感じる患者・家族もいるだろう。そうした場合にお勧めの食品や調理法を提示し、栄養剤や点滴などの方法もあることを紹介した。 がん治療前に口腔ケアをすることで、手術の合併症や口内炎の悪化を防ぐことも知ってほしい。体力低下には有酸素運動が有効で、患者には「栄養・運動・社会参加」のバランスが大切であることを伝えている。「がん治療のさまざまな場面で、多職種が適切に栄養治療をサポートする」というメッセージを込めた。このガイドラインが、患者や家族が医療者に悩みを相談するきっかけになればと考えている。『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』定価:2,420円(税込)判型:B5判頁数:144頁(カラー図数:34枚)発行:2025年2月編集:日本栄養治療学会目次・1章 がんにならないために・2章 がんになったら・3章 薬物療法が始まったら・4章 手術が決まったら・手術をしたら・5章 がん治療後について・6章 緩和医療において書籍情報はこちら

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40%の患者が過小診断される心不全疾患とは/アレクシオン

 新たなトランスサイレチン型心アミロイドーシス治療薬アコラミジス(商品名:ビヨントラ)が2025年5月21日に発売された。これに先駆け、アレクシオンファーマが4月16日にメディアセミナーを開催し、北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が『心アミロイドーシスを取り巻く環境と治療の現状と課題』、田原 宣広氏(久留米大学病院 循環器病センター 教授)が『新薬アコラミジスがもたらすATTR-CMに対する新たな治療』と題して講演を行った。最大の課題は“疑われない”こと トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は、TTR(トランスサイレチン)四量体が単量体に解離し、アミロイド線維を形成し、心臓に沈着することで心機能が障害される疾患で、野生型(加齢)と変異型(遺伝性)に分類される。遺伝性ATTR-CMは長野県や熊本県で患者が多く存在することが知られている一方で、加齢によって発症する野生型ATTR-CMの診断・治療が喫緊の課題であることはあまり知られていない。さまざまな研究報告から野生型ATTR-CMは「60歳以上の男性」に多いことが示されているが、その性差や加齢に伴う発生機序は明らかになっていない。北岡氏は「心アミロイドーシスは非常にありふれた心不全症状を呈するが、心不全の基礎疾患となる虚血性心疾患、拘束性心筋症、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などと比べ、疾患認知度の低さが一番の問題」と述べ、「患者の39~44%は初診時に過小診断を受け、17%は診断までに5人以上の医師の診察を受けたとの報告がある。その結果、3~4年の診断遅れに伴う機能的・生命的予後への影響が問題となっている」と指摘した。 診断のポイントとして、「まずは血液検査、心電図検査、心臓超音波検査の3つの実施を検討してほしい。心臓超音波検査は専門的であり、実施施設が限られる。心電図検査は早期診断するには向いていないが、血液検査によるNT-proBNP、トロポニンの測定は簡便であり、実施施設を選ばず早期診断にも有用である。これらの検査でATTR-CMが疑われた場合には、次のステップとして、シンチグラフィを実施してほしい。生検の実施は確定診断の上では有用であるが、高齢者へ行う検査としてはハードルが高いので、まずはシンチグラフィの実施が望まれる」と説明した。ただし、「トロポニン測定は保険適応外である点に注意してほしい」ともコメントした。アコラミジスの有効性・安全性 続いて田原氏は、海外第III相ATTRibute-CM試験(AG10-301)結果を踏まえたアコラミジスの有効性・安全性ついて解説。ATTRibute-CM試験は症候性ATTR-CM患者632例を対象にアコラミジスの有効性及び安全性を評価するために行われた第III相無作為化二重盲検比較試験1)。本研究より、有用性をプラセボ群と比較し、1)アコラミジス群では1.8倍良好な結果が得られた、2)心血管症状に関連する入院頻度が50.4%低下した、3)死亡と入院についてのカプランマイヤー曲線では3ヵ月以降から両群に開きが観察され、30ヵ月まで持続した、4)アコラミジス群では血清TTRレベルが投与28日時点で有意に上昇し、試験期間完了まで長期に継続、5)有害事象(いずれかの群で発現割合が20%以上)はアコラミジス群、プラセボ群それぞれについて、心不全(24.0%.vs 39.3%)、心房細動(16.6%.vs 21.8%)などの結果が認められたことを説明した。 なお、アコラミジスの作用機序は既存製品のタファミジス(商品名:ビンダケル/ビンマック)と同様で、TTR四量体のサイロキシン結合部位を安定化させ、四量体の分解を抑制する。同氏は試験開始12ヵ月後からプラセボまたはアコラミジスにタファミジスを併用する補足的解析を示しながら、「アコラミジスには強いトラスサイレチン安定化作用を有する可能性がある」とコメントした。 また、両氏によると、心アミロイドーシスの診断には「手根管症候群の発症から5~6年後に心アミロイドーシスが発症する可能性がある」「神経系に蓄積する」などの特徴を踏まえ、整形外科、神経内科、循環器内科の3診療科による医療連携が全国的に進んできているという。ーーーーーーー<製品概要>製品名:ビヨントラ錠400mg一般名:アコラミジス塩酸塩効能又は効果:トランスサイレチン型心アミロイドーシス(野生型及び変異型)用法及び用量:通常、成人にはアコラミジス塩酸塩として1回800mgを1日2回経口投与する。薬価:400mg1錠 8,995.90円製造販売承認日:2025年3月27日薬価基準収載日:2025年5月21日発売日:2025年5月21日製造販売元:アレクシオンファーマ合同会社

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自家SCT後に再発した多発性骨髄腫、同種SCT vs.自家SCT

 自家造血幹細胞移植(auto-SCT)後に再発した多発性骨髄腫患者に対して、これまでauto-SCTより同種造血幹細胞移植(allo-SCT)のほうが優れていると考えられていた。今回、オーストリア・Wilhelminen Cancer Research InstituteのHeinz Ludwig氏らの系統的レビューとメタ解析の結果、allo-SCTがauto-SCTよりも全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)が劣っていることが示された。Cancer誌2025年5月15日号に掲載。 研究グループは、1995年~2024年10月に発表された英語論文の包括的な文献レビューを行い、初回auto-SCT後に再発した多発性骨髄腫に対して、allo-SCTとauto-SCTを比較した5研究を解析した。また、再発後に適合する同種造血幹細胞ドナーが存在する患者と存在しない患者を比較した2研究を個別に解析した。日本造血・免疫細胞療法学会と国際血液骨髄移植研究センター(CIBMTR)の2つの大規模データベースから 815例の個別データを入手した。Kaplan-Meier曲線で示された5つの小規模研究(allo-SCTとauto-SCTを比較した3研究、および適合ドナーの有無で比較した2つの研究)のデータは、Shinyアプリを用いてデジタル化した。メタ解析はR 4.3.3を用い、OSおよびPFSについてKaplan-Meier検定およびlog-rank検定を行った。 主な結果は以下のとおり。・個々の患者データ解析では、auto-SCT群でOSが有意に延長し、このベネフィットは3つの小規模試験で一貫していた。PFSも、CIBMTRのデータセットおよびプールされた小規模研究において、auto-SCTのほうが優れていた。・適合ドナーの有無で比較した2試験では、ドナーあり群のほうがPFSが長く、データを統合するとOSも改善していた。 これらの結果から、著者らは「初回auto-SCT後に再発した多発性骨髄腫患者には、allo-SCTを推奨すべきではないことが示された」としている。

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筋萎縮性側索硬化症、リルゾール+低用量IL-2で死亡リスク低減か/Lancet

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者において、リルゾールへの低用量インターロイキン2(IL-2LD)の上乗せは補正前解析では有意ではないものの死亡リスクの減少をもたらし、補正後解析では脳脊髄液中リン酸化ニューロフィラメント重鎖(CSF-pNFH)低値集団で有意な死亡リスクの減少が認められた。フランス・Pitie-Salpetriere HospitalのGilbert Bensimon氏らMIROCALS Study Groupが、フランスの10施設および英国の7施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「MIROCALS試験」の結果を報告した。ALSは、運動ニューロンの進行性喪失を特徴とする生命を脅かす疾患であり、治療法は限られている。著者は、「主要エンドポイントにおける補正前解析と補正後解析の結果の差は、ALSの無作為化比較試験において疾患の異質性を考慮する重要性を強調しており、CSF-pNFH低値集団で死亡リスクが減少したことは、ALSに対するこの治療法が有望であることを示すものであり、さらなる研究が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版5月9日号掲載の報告。リルゾール未投与の発症後2年以内のALS患者が対象 研究グループは、年齢18~75歳、改訂El Escorial基準のpossible、laboratory-supported probable、probable、definiteを満たし、症状(筋力低下、球麻痺による発症の場合は構音障害と定義)発症後24ヵ月以内で、静的肺活量70%以上、リルゾール未投与のALS患者を、12~18週間のリルゾール単独投与の導入期を経て、IL-2LD群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 IL-2LD群ではaldesleukin 2 million international units(MIU)、プラセボ群では5%ブドウ糖溶液の、1日1回5日間皮下投与を28日ごと19サイクル投与した。 主要エンドポイントは640日(21ヵ月)の追跡期間における生存、副次エンドポイントは安全性、ALS機能評価尺度改訂版(ALSFRS-R)スコア、および制御性T細胞(Treg)、CSF-pNFH、血漿および脳脊髄液ケモカインリガンド2(CCL2)などのバイオマーカー測定値とした。 主要エンドポイントに関する治療効果は、補正前解析と事前に定義した補正後解析により評価した。補正前解析には層別log-rank検定と、Coxモデル(層別因子:発症[四肢vs.球発症]、および施設[英国vs.フランス])を用いた。補正後解析では、ステップワイズ多変量Coxモデル回帰により、あらかじめ定義された共変量を用いて解析した。予後因子で補正後、IL-2LD投与群で死亡リスクが有意に減少 2017年6月19日~2019年10月16日に304例がスクリーニングを受け、そのうち220例(72%)が導入期後に無作為化された。患者背景は男性136例(62%)、女性84例(38%)で、25例(11%)はEl Escorial基準がpossibleであった。カットオフ日時点で追跡不能者はおらず、無作為化された全220例(死亡90例[41%]、生存130例[59%])がITT集団および安全性集団に組み入れられた。 主要エンドポイントの補正前解析では、有意ではないもののIL-2LD群でプラセボ群と比較し死亡リスクが19%減少した(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.54~1.22、p=0.33)。 一方、多変量Coxモデルで同定された予後因子(年齢、ALSFRS-Rスコア、CSF-pNFH値、血漿-CCL2値、Treg絶対数)による補正後解析では、IL-2LD群で死亡リスクが68%有意に減少し(HR:0.32、95%CI:0.14~0.73、p=0.007)、CSF-pNFHとの有意な交互作用が認められた(HR:1.0003、95%CI:1.0001~1.0005、p=0.001)。 IL-2LDは安全であり、すべての時点で有意なTreg細胞数増加と血漿中CCL2値減少が認められた。 無作為化時に測定したCSF-pNFH値による層別化では、CSF-pNFH低値(750~3,700pg/mL)集団(全体の70%)において、IL-2LDにより死亡リスクが48%有意に減少したが(HR:0.52、95%CI:0.30~0.89、p=0.016)、CSF-pNFH高値(>3,700pg/mL)集団(全体の21%)では有意差は認められなかった(HR:1.37、95%CI:0.68~2.75、p=0.38)。

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MASHによる代償性肝硬変、efruxiferminは線維化を改善せず/NEJM

 代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)による代償性肝硬変患者において、efruxiferminは36週時点で線維化の有意な改善を示さなかった。米国・Houston Methodist HospitalのMazen Noureddin氏らが、米国、プエルトリコおよびメキシコの45施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SYMMETRY試験」の結果を報告した。線維芽細胞増殖因子21(FGF21)アナログであるefruxiferminは、MASHによる線維化ステージ2または3の患者を対象とした第II相試験において線維化の軽減とMASHの消失が認められたが、MASHによる代償性肝硬変(線維化ステージ4)の患者における有効性と安全性に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2025年5月9日号掲載の報告。主要アウトカムは36週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージの1段階以上改善 SYMMETRY試験の対象は、18~75歳、MASHと一致する肝組織学的所見が認められ、Child-Pughスコアが5または6(Child-Pugh分類A)、線維化ステージ4の代償性肝硬変患者であった。 加えて、2型糖尿病、またはメタボリックシンドロームの構成要素(肥満、脂質異常症、高血圧、空腹時血糖上昇)のうち2つ以上を有していることを要件とした。 研究グループは、適格患者をefruxifermin 28mg群、50mg群、またはプラセボ群に、1対1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ週1回皮下投与した。 主要アウトカムは、36週時のMASH悪化を伴わない線維化ステージの1段階以上の改善、副次アウトカムは、96週時の同様の改善、ならびに36週および96週時におけるMASHの消失とした。主要アウトカムはITT解析により評価された。36週時の改善、プラセボ群13%、efruxifermin 28mg群18%、50mg群19% 2021年12月21日~2022年12月16日に182例が無作為化され、このうちefruxiferminまたはプラセボの投与を受けた181例がITT解析集団および安全性解析対象集団に含まれた。36週時に154例、96週時に134例で肝生検が行われた。 36週時にMASHの悪化を伴わず線維化が改善した患者の割合は、プラセボ群で13%(8/61例)、efruxifermin 28mg群で18%(10/57例)(層別因子補正後のプラセボ群との差:3%ポイント[95%信頼区間[CI]:-11~17]、p=0.62)、50mg群で19%(12/63例)(プラセボ群との差:4%ポイント、95%CI:-10~18、p=0.52)であった。 96週時にMASHの悪化を伴わず線維化が改善した患者の割合は、それぞれ11%(7/61例)、21%(12/57例)(プラセボ群との差:10%ポイント、95%CI:-4~24)、29%(18/63例)(プラセボ群との差:16%ポイント、95%CI:2~30)であった。 有害事象は、efruxifermin両群で99%、プラセボ群で97%の患者に発現した。efruxifermin群でプラセボ群より発現が多かった有害事象は、主に胃腸障害(下痢、悪心、食欲亢進)であり、ほとんどは軽度または中等度であった。

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妊娠初期の貧血は子の先天性心疾患リスクを高める

 妊娠100日目までの妊娠初期に母親が貧血状態にあると、生まれてくる子どもが先天性心疾患を持つリスクが大幅に高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学分野のDuncan Sparrow氏らによるこの研究結果は、「BJOG: An International Journal of Obstetrics & Gynaecology」に4月23日掲載された。Sparrow氏は、「妊娠初期の貧血がこれほど有害であることを示した本研究結果は、世界中で医療のあり方を一変させる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 Sparrow氏らは今回、英国で出生後5年以内に先天性心疾患の診断を受けた児を出産した女性2,776人(症例群)と健常児を出産した女性1万3,880人(対照群)の医療記録を比較した。母親の貧血の有無は、妊娠100日目までに測定されたヘモグロビン濃度を確認し、110g/L未満を貧血と見なした。 その結果、妊娠100日目までに貧血状態にあった母親の割合は、症例群で123人(4.4%)、対照群で390人(2.8%)であることが明らかになった。影響を与える可能性のある因子を調整して解析した結果、貧血状態にあった母親が先天性心疾患と診断される児を出産するオッズは、貧血のなかった母親に比べて47%有意に高いことが示された(オッズ比1.47、95%信頼区間1.18〜1.83、P=0.0006)。 研究グループによると、これらの結果は、過去にイスラエル、カナダ、台湾で実施された3件の研究結果と一致しているという。これらの研究では、母親の妊娠中の貧血が児の先天性心疾患リスクのそれぞれ24%、26%、31%の上昇と関連することが示されているという。 Sparrow氏は、「先天性心疾患のリスクがさまざまな要因により高まることはすでに知られているが、今回の研究により貧血に関する理解が深まった。この知見は今後、実験室での研究から臨床現場で活用されるようになるだろう」と述べている。 研究グループは、妊娠中の貧血症例の約3分の2は鉄の欠乏が原因だと指摘する。Sparrow氏は、「鉄欠乏症は多くの貧血の根本原因である。そのため、妊娠を計画している女性や妊娠中の女性に対して鉄分補給を行えば、多くの新生児の先天性心疾患を予防できる可能性がある」と述べている。 Sparrow氏らはマウスを用いた過去の研究で、鉄欠乏症を原因とする妊娠中の貧血と先天性心疾患との関連を確認している。そのため同氏らは、ヒトを対象にした研究でも同じ関連が認められるかを確認したいと考えているという。もしこの関連が確認されれば、将来的には、鉄サプリメントが先天性心疾患の発症リスクを下げる手段として有効か否かの臨床試験の実施が期待される。

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マラソン大会中の心肺停止:米国の大規模データ収集から見えてくる「備え」の在り方(解説:香坂俊氏)

 米国のRACER 2研究が2025年3月のJAMA誌オンライン版に報告された(※RACER 1研究は2012年にNEJM誌に掲載)。この研究では、2010~23年の間に米国で公認されたフルマラソンとハーフマラソン443大会(完走者約2,930万人)の記録を全米陸上競技連盟(USATF)の協力の下で収集し、走行中の心肺停止事故の発生率とその原因を調査した。前回のRACER 1は、研究者がRunning USAというNPOが収集している情報を基に新聞記事などをさかのぼり情報を収集したが、今回は陸上競技連盟の協力を得られたことで、より網羅的かつ詳細なデータ収集が可能になったものと考えられる。 まず、走行中の心肺停止事故の発生率は、10万人当たり0.54例と、2000~10年を対象としたRACER 1と同率であった。しかし心臓死は0.39例から0.20例へとほぼ半減し、AED普及や救命体制強化の効果が示唆される結果となった。原因は冠動脈疾患によるもの(急性冠症候群)が最多(生存例の56%、死亡例の9%)、次いで冠動脈起始異常(同7%と9%)、肥大型心筋症(同2%と9%)の順であり、RACER 1と比較して若年例の肥大型心筋症の比率は低下していた(ただ、剖検後も原因が不明であった症例もかなり多い[死亡例の41%])。 わが国では、心筋症や冠攣縮とされる症例が相対的に多いという印象がある(個人の経験:原因不明症例が冠攣縮と見なされている可能性もある)。とはいえ、ゴール前で発症が集中する傾向は共通しており(これも個人の経験)、搬送導線、カテーテル検査やVA-ECMOなどの即応体制を、大規模な大会開催当日に整える重要性は変わらない。 救命率が上がっているというのは非常に良いニュースであるが、経験的に救命後も2つのジレンマが待つ。若いランナーに対し「競技禁止」を進言するか、そしてさらに「ICD植え込み」をどう判断するか、というところである。若い方というのは、高齢の方とはまた違った価値観を持っており、ここで悩む方も多い。数は少ないが冠動脈異常やMyocardial bridgeが見つかった際に手術を行うか、ということも同様にジレンマとなることが多い。 また、心肺停止には至らなくとも、胸部症状や意識障害など、いろいろなことが起こることも忘れてはならない(トロポニンが陽性になる方は本当に多い)。「マラソン大会」の当日というのは、ランナーの方も緊張してレースに参加しているのだと思われるが、救命救急医と循環器内科医もドキドキしながら勤務することとなる。今後もRACER 2をはじめとする最新のエビデンスを羅針盤とし、救命体制を整備していく必要があるだろう。

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学会オンライン参加の効能【Dr. 中島の 新・徒然草】(581)

五百八十一の段 学会オンライン参加の効能5月だというのに、無茶苦茶暑い日が続いています。外来に来られる患者さんの第一声が「暑い、暑い!」というのが最近の日常となりました。私が中学生や高校生だった頃は、6月1日と10月1日に一斉に衣替えをしていたものです。白い夏服に切り替わるその日は、季節の変化をはっきりと感じさせてくれました。ところが最近では、その習慣もすっかり時代遅れになりつつあります。初夏の暑さが年々厳しさを増しており、夏服への移行は2週間ほど前倒しにした方がよいのでは、と思わざるを得ません。さて、今回は学会参加についてお話ししたいと思います。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、全国規模の学会の開催形式は大きく様変わりしました。現地参加に加えて、オンライン参加が選択肢として定着してきたのです。私はもっぱらオンライン派。理由は単純で、遠くまで出掛ける必要がないからです。新幹線や飛行機を使って半日がかりで現地入りするだけで、すでに疲労困憊。宿泊先のホテルでもぐっすり眠れないこともあり、翌日まで疲れを持ち越すこともありました。その点、オンライン参加であれば移動のストレスもなく、慣れた環境で視聴できます。画面の見やすさも利点の一つです。パソコンのモニターに映し出されるスライドは、多少文字数が多くても読みやすく、視認性に優れています。また、イヤホンを使えば音声も非常にクリア。とくに外国人演者による英語の発表のリスニングには強力な味方です。病院にいながら空き時間を使ってセッションを視聴できるのも、オンラインならではの利点。時には発表を聴きながら簡単な事務作業をこなすこともできます。とはいえ、院内PHSが鳴って呼び出されることもあり、ようやく戻ってきたらセッションが終わっていた、ということもしばしば経験しました。そこで今年の春は、もっぱら自宅からの参加に切り替えています。これが思いのほか快適で、今後もこのスタイルを続けようと思わされました。もちろん自宅にいても完全に集中できるとは限りません。急な来客や宅配便の対応で、途中退席を余儀なくされることもあります。それでも、見逃したセッションは後日オンデマンドで視聴可能。オンライン形式ならではの強みですね。また、領域講習単位を取得する目的で、専門外の発表を視聴する機会も増えました。各演者が何年もかけて積み上げてきた研究成果が、わずか20分ほどに凝縮されて発表され、毎回のように「世の中、こんなに進んでいるのか!」と驚かされます。こうした発表の情報の質や密度は、日常的に配信されているYouTube動画などとは比較になりません。その一方で、各発表演題の内容を理解するには大変な集中力が必要です。私の場合、4演題ほど視聴すると疲れてしまうので、自然に瞼が下がって……すみません。考えてみれば、今では院内の全職員参加必須講演会ですらオンデマンド配信が併用される時代です。学会出席もまた、現地参加に加えてオンラインやオンデマンドを組み合わせることで、より柔軟な対応が可能となりました。オンライン参加はやむを得ず選ぶという位置付けではなく、むしろ積極的に活用すべき手段だと思います。これからますます暑くなる季節に、涼しく快適な部屋からのオンライン参加。たとえコロナが完全に終息しても、こういった多様な参加形式はぜひ続いてほしいものです。最後に1句学会は 麦茶片手に オンライン

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タルラタマブってどんな薬?安全に使うポイントは?【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第9回

第9回:タルラタマブってどんな薬?安全に使うポイントは?パーソナリティ日本鋼管病院 田中 希宇人 氏ゲスト国立がん研究センター東病院 泉 大樹 氏※番組冒頭に1分ほどDoctors'PicksのCMが流れます関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 1

今回のキーワード包括適応度血縁選択新生児同種免疫性血小板減少症同種免疫反応性的拮抗性的二型前回(その1)、性の多様性とはどのようなものか、そして、その性が多様であるのはなぜかを進化心理学的に掘り下げました。ここで、進化論の視点から、大きな疑問が湧いてきます。同性愛では自分の子供をつくれない(遺伝しない)わけですが、人口の約3%、たとえば学校で30人ちょっとのクラスに1人はいる計算になります。この頻度の高さから、遺伝子の突然変異では説明できません。ちなみに、その1でも登場した、遺伝子の異常であるアンドロゲン不応症や先天性副腎過形成症は、ともに人口の約0.005%(10万人に5人)です。それでは、なぜ同性愛はこれほどにも「ある」(遺伝している)のでしょうか?今回(その2)も、5月17日の「多様な性にYESの日」に合わせて、「記念日セラピー」と称して、この謎に迫ります。なんで同性愛は「ある」の?実は、動物の同性愛(同性間の性行動)は、珍しくありません。たとえば、人間に最も近い種であるボノボ(チンパンジー)は、とくにメス同士が向き合って性器をこすり合わせる「ホカホカ」(G-G rubbing)と呼ばれる行動を頻繁に行います。また、イルカ、ゾウ、コウモリ、テンジクネズミなどでも、それぞれのやり方での同性間の性行動が確認されいます1)。ただし、これらの目的は、あくまで群れの中での同性同士の協力関係や上下関係を確かめ合うためであったり、異性との性行動に向けて練習するためであったり、異性がいない状況での代替行動であったりなどです。人間のように、同性愛のみに限って逆に異性愛を避けているわけではありません。つまり、動物の同性愛は、厳密には両性愛です。そして、あくまで異性愛を主目的とした副次的なものであり、生存と生殖に適応的であることがわかります。それでは、人間の同性愛はなぜ「ある」のでしょうか? 代表的な3つの説を、進化心理学の視点から一緒に検討してみましょう。(1)親族の子供を助けるため?-血縁選択たとえば、働きバチや働きアリは、自ら生殖能力を失い、女王バチや女王アリが自分の妹(※母系家族のためオスが生まれるのはもともとごくわずか)をよりたくさん産めるように働き続けます。同じように、人間は、自分が同性愛であることで子供がつくれない代わりに、親族の子供のサポート役(血縁のヘルパー)になることで、間接的に自分の遺伝子を残している(包括適応度を上げる)と仮定することができます。1つ目は、同性愛になって親族の子供を助けるため、つまり血縁選択です。しかし、実際の調査では、同性愛男性よりも異性愛男性の方が、むしろ兄弟との交流があり、兄弟に対して経済的援助をする傾向があることがわかっています2)。よくよく考えると、この説を主張するなら、血縁のヘルパーになるためにわざわざ同性愛になる必要はなく、働きバチや働きアリのように無性愛(性的指向なし)の独身になって親族を助けた方がより間接的に自分の遺伝子を残せます。この状況は、現代ではなく、原始の社会であっても同じです。つまり、同性愛の原因は、血縁選択で説明するには無理があります。なお、摂食障害については、この血縁選択(包括適応度)が成り立つ可能性が考えられます。この詳細については、関連記事1のページの最後をご覧ください。次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 2

r(2)兄が多いため?―同種免疫反応たとえば、母親と胎児の血液型が違う場合、母親の免疫系で胎児の血小板への抗体がつくられることがあります。それが胎盤を通して胎児の血小板を攻撃して血小板が減っていく病態(新生児同種免疫性血小板減少症)があります。同じように、母親と胎児の性別が違う、つまり胎児が男性の場合、母親の免疫系で男性特有の物質(H-Y抗原)への抗体がつくられると仮定します2)。すると、それがその後に胎盤を通して次の男性胎児(弟)のその抗原を攻撃することが考えられます。そして、その抗原がとくに多く分布するのは、男性化するはずの脳であると考えられます。また、この抗体は、母親が男児の妊娠出産を繰り返すたびに増えていくと考えられます。2つ目は、胎児期の兄への母親の免疫反応が、その後に胎児期の弟に及んで、脳が男性化しにくくなる(同性愛になる)、つまり、同種免疫反応です。実際の調査2)では、兄が多くなればなるほど、確かに同性愛男性の割合が上がっています。なお、姉が多くなるにつれて同性愛女性の割合が上がるわけではない原因については、母親にとって、姉も妹(本人)も同じ女性であり、同種免疫反応が起こりにくいからです。しかし、これだけでは、女性の同性愛が「ある」原因を説明できません。また、つくられた抗体が攻撃するはずの、男性特有の抗原があるとしたら、それは男性の脳だけでなく男性の性器にもあるはずです。しかし、同性愛男性が不妊になることはありません3)。さらに、同種免疫反応が実際にあるとしたら、兄が同性愛なら弟たち全員が同性愛になるはずです。しかし、実際にそうなっているとの調査結果はありません。そもそも、先ほどの新生児同種免疫性血小板減少症は人口の約0.03%(10万人に30人)程度であり、同種免疫反応は頻度がとても低い病態です。つまり、同性愛の原因は、同種免疫反応で説明するには無理があります。なお、兄が多くなると同性愛の割合が高くなる、この「兄効果」の原因については、兄が多ければ多いほど、一緒にいる刺激が性的指向に影響を与えていると指摘する学者はいます3)。確かに、その1でも説明しましたが、性的指向は胎児期に固定化されるとはいえ、性的指向はスペクトラムであることから、完全な異性愛または完全な同性愛ではなく、両性愛を含む中間層は、環境の刺激によって異性愛になるのと同じように、同性愛にもなる可能性は十分に考えられます。実際に、双子研究(行動遺伝学)において、男性の同性愛への影響度は遺伝22%、家庭環境14%、家庭外環境64%、女性の同性愛への影響度は遺伝37%、家庭環境1%、家庭外環境62%と算出されています3)。男性において、家庭環境の違いによる影響度が出ているのは、やはり兄と一緒にいる刺激によるものである可能性が示唆されます。また、家庭外環境の影響が男女ともに60%以上あることから、とくに性的欲求が高まる思春期での男子校や女子校、男女別の部活動など同性集団の凝集性が高い環境では同性愛になりやすくなる可能性が示唆されます。しかし、これに関連した調査を行った研究は現時点で見当たりません。参考までに、一時的ながら刑務所で同性愛になる現象(刑務所効果、機会的同性愛)は少なからずみられます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 3

(3)親族の子供が増えるため?-性的拮抗たとえば、男性と女性では腰の大きさは明らかに違います。なぜなら、性別役割分業をしていた原始の時代を想定すると、男性は狩りをするためになるべく身軽でスリムな腰になるように進化した一方、女性は安全に出産をするためになるべく大きな腰になるように進化したからです。このように、男女で最適条件が対立することがあり、父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子の綱引き(拮抗)によって、生まれてくる子供の腰の大きさが決まります。ここで極端に考えて、とても大きな腰になる遺伝子を持つ母方の家系があるとします。すると、その家系で生まれた女性は、もちろん大きな腰を持つために安全に出産するでしょう。そんな女性はモテるでしょう。一方で、その家系で生まれた男性も、大きめの腰を持つわけですが、鈍くなりうまく狩りができません。そんな男性は女性からモテないでしょう。逆に、とてもスリムな腰になる遺伝子を持つ父方の家系があるとします。すると、その家系で生まれた男性は、もちろんスリムな腰を持つため、しっかり狩りができるでしょう。そんな男性は女性からモテるでしょう。一方で、その家系で生まれた女性は、スリムな腰を持つため、難産になるでしょう。そんな女性は、現代とは違い原始の時代ではモテないでしょう。このように、同じ遺伝子でありながら、生存と生殖の適応度において男女で真逆になってしまうことがわかります。同じように、もともと男性ホルモンが少なくなる(相対的に女性ホルモンが多くなる)遺伝子を持つ母方の家系があるとします。その家系で生まれた女性は、もちろん女性ホルモンが多いので、ふくよかな体型で妊娠出産をしやすいでしょう。そして、とても共感的なので男性にモテるでしょう。一方で、その家系で生まれる男性は、胎児期に男性ホルモンが少ないので、同性愛になると考えることができます。逆に、もともと男性ホルモンが多くなる(相対的に女性ホルモンが少なくなる)遺伝子を持つ父方の家系があるとします。その家系で生まれた男性は、もちろん男性ホルモンが多いので、筋肉質な体型でしっかり狩りができるでしょう。そして、狩りの能力の高さをほのめかすこだわりの仕草から女性にモテるでしょう。一方で、その家系で生まれる女性は、胎児期に男性ホルモンが多いので、同性愛になると考えることができます。3つ目は、自分が同性愛であるのと引き換えに、自分とは異性の親の家系(親族)で子供がより多く生まれている、つまり性的拮抗(性的対立)です。同性愛の遺伝子は、それ自体では適応度を下げていますが、それをチャラにしてお釣りが出るくらいに、その血縁の異性の適応度を上げているというわけです。実際の調査では、異性愛男性よりも同性愛男性の母と母方オバの子供の数がともに多くなっています3)。つまり、同性愛の原因は、性的拮抗で説明できそうです。ただし、現在のところ、同性愛女性の父と父方のオジの子供の数については明らかになっていません。また、同性愛の遺伝子は現在でも特定されていません。とても頻度が高いのに特定できないということは、先ほどの腰の大きさと同じように、そもそも多因子で散らばりすぎており、遺伝的にありふれていると考えることもできるでしょう。つまり、同性愛は、性(異性愛)の進化の歴史のなかで、そして性別役割分業に徹した人類の歴史のなかで、男女差(性的二型)の進化の副産物であったと捉え直すことができるでしょう。1)「進化が同性愛を用意した」pp.17-31:坂口菊恵、創元社、20232)「同性愛の謎」p.81、pp.176-179、pp.204-206:竹内久美子、文春新書、20123)「同性愛は生まれつきか?」pp.52-53、pp.89-92:吉源平、株式会社22世紀アート、2020<< 前のページへ■関連記事映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるってわからないの?(エピジェネティックス)】Part 2

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第12回 アルツハイマー病の診療が変わるーFDAが血液検査を承認

米国食品医薬品局(FDA)が、アルツハイマー病の診断を補助する初の血液検査「Lumipulse G pTau217/β-Amyloid1-42 Plasma Ratio」を承認しました1)。この承認は、アルツハイマー病の診療に大きな変革をもたらし、認知症診療の新たな時代を開くと期待されます。検査名が長過ぎてあまりピンとこないかもしれませんが、とにかくすごい検査なのです。血液検査による早期発見の可能性これまでアルツハイマー病の診断には、アミロイドPETや脳脊髄液(CSF)検査といった高価で侵襲的な方法が用いられてきました。 アミロイドPETは、脳内のアミロイド斑を可視化できますが、コストが高く、患者さんへの放射線被ばくも伴います。 また、アミロイドがどこにあるかを知ったところで、それが患者さんの症状に反映されないといった限界もありました。脳脊髄液検査も、腰椎穿刺という侵襲的な方法で検体を採取する必要がありました。今回承認された新しい血液検査は、血液(血漿)中のpTau217とβアミロイド1-42という2つの数値を測定し、その比率を算出します1)。pTau217はアルツハイマー病患者の血液中で増加傾向を示し、認知機能障害の悪化に比例して増加するという特徴も報告されています。一方で、βアミロイド1-42はアミロイド斑に沈着するため、血液中からは減少します。それぞれ単独では診断精度に限界がありましたが、この比率を用いることで、検査精度が向上し、的確な診断をもたらすことができるようになりました。これにより、PETの必要性を減らし、脳脊髄液検査の置き換えになることが期待されています。 簡単な採血のみで行えるため、患者さんにとって負担が少なく、検査を受けやすくなります。200ドル程度と、費用負担も小さくなります。 FDA長官は、「2050年までにアルツハイマー病患者の数が倍増すると予測される中、このような新しい検査が患者の助けとなることを期待している」と述べています。診断プロセスの変化と期待される効果近い将来、アルツハイマー病の血液検査は、血圧やコレステロールのチェックのように、とてもありふれた日常的なものになる可能性が高いと思います。認知機能検査で異常が見られた場合、次のステップとして血液検査が行われるという流れはごく一般的なものになるでしょう。この検査の普及により、以下のような変化が予想されます。誤診の減少LATE(辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症)のように、アルツハイマー病と症状が似ていても原因が異なる疾患(LATEの場合はTDP-43が関与)との鑑別がつきやすくなります。これまで診断方法が限られていたため、誤った情報共有が行われるケースがありましたが、より正確な診断が可能になることで、患者は適切なケアを受けられるようになります。適切な予防策と予後予測早期かつ正確な診断は、適切な予防策の実施や、より正確な予後の情報提供につながります。治療薬開発の加速より簡便で正確な診断方法が確立することで、治療薬の開発も促進されると期待できます。「認知症」診断前の「アルツハイマー病」診断診断ツールの普及により、症状に基づく診断である「認知症」よりも前に、脳内の変化に基づく診断である「アルツハイマー病」という診断が先につくケースが増えるでしょう。「あなたは『アルツハイマー病』ですが、『認知症』ではありません」という説明が一般的になるかもしれません。注意点と今後の課題一方で、この血液検査は無症状の人に行うスクリーニングや単独の検査として開発されたものではなく、他の評価や検査と合わせて診断を行う必要があります。この点はFDAも強調しています。 臨床試験では、この検査で陽性だった人の91.7%がPETまたは脳脊髄液検査でもアミロイドの存在が確認され、陰性だった人の97.3%がそれらの検査でも陰性でした1)。 しかし、偽陽性や偽陰性の可能性も指摘されており、偽陽性の場合は不必要な治療や精神的な苦痛を、偽陰性の場合は適切な診断の遅れを招く可能性があります。 当面は、不必要な人にまで過剰に検査を行い、不適切な投薬が増えるといったマイナス面が生じてしまうことへの懸念もあります。いずれにせよ、FDAによるアルツハイマー病の血液検査の承認は、診断のあり方を根本から変える可能性を秘めています。より負担が少なく、アクセスしやすい検査方法の登場は、早期発見・早期介入を促進し、誤診を減らし、最終的には患者さんとその家族の生活の質向上に貢献することが期待されています。多くの医師が、この新しい知識を習得し、患者側も理解を深めることで、認知症診療は新たな時代を迎えることになるでしょう。 1) FDA Clears First Blood Test Used in Diagnosing Alzheimer’s Disease. FDA. 2025 May 16.

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女性のオーガズム持続性とADHD症状との関係

 注意欠如多動症(ADHD)症状の有無による女性のオーガズムの持続性の違いを評価するため、カナダ・Kwantlen Polytechnic UniversityのTina Jensen-Fogt氏らは、十分な検出力を有する事前登録制オンライン調査より、性的自己主張および性的態度といったこれまで検討されていない構成要素を対照に調査を行った。Journal of Sex Research誌オンライン版2025年4月21日号の報告。 対象は、Qualtricsという調査プラットフォームを通じてオンライン調査に回答した18歳以上、過去6ヵ月間で1人以上のパートナーと性交を有する女性(シスジェンダー)815人(平均年齢:28.93±9.23歳)。既存のADHD診断は不要とした。 主な内容は以下のとおり。・研究仮説を検証したところ、ADHD症状はオーガズムの持続性を予測し、とくに不注意症状が強いほど、オーガズムの持続性が低いことが明らかとなった。・ADHD症状マネジメントのための薬物療法に関する調査では、現在ADHD症状の基準を満たしていない女性においてのみ、薬物療法がオーガズムの安定性に有意な影響を及ぼすことが示唆された。・性的マイノリティ女性と性的マジョリティ女性を比較したところ、ADHD症状の基準を満たしていない女性においてのみ、オーガズムの安定性に有意な差が認められた。 著者らは「オーガズムを安定して得ることが難しい女性は、人間関係の満足度、自尊心、性的満足度の低下、精神的苦痛の増加を経験する可能性が高いと考えると、本研究結果は、ADHD症状を有する女性の性的健康や幸福において重要な意味を持つと考えられる。これらの結果は、とくに不注意型のADHD症状を有する女性に当てはまるであろう」としている。

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