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初発Ph+ALLへのポナチニブvs.イマチニブ、年齢別・バリアント別のMRD陰性とPFS(PhALLCON)/日本臨床腫瘍学会

 新たにフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)と診断された成人患者に対してポナチニブとイマチニブを比較した第III相PhALLCON試験では、すでに主要評価項目である導入療法終了時の微小残存病変(MRD)陰性完全寛解(CR)率において、ポナチニブ群(34.4%)がイマチニブ群(16.7%)に比べて有意に高かったことが2024年のJAMA誌に報告されている。日本も参加している本試験の結果を受け、米国では2024年3月にPh+ALLの1次治療にFDAより迅速承認されている(現在、日本で1次治療に承認されている薬剤はイマチニブのみ)。今回、本試験における年齢およびBCR::ABL1バリアント別の微小残存病変(MRD)陰性割合と無増悪生存期間(PFS)、さらに造血幹細胞移植(HSCT)を受けなかった患者における治療中に発現した有害事象(TEAE)の結果について、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で国立がん研究センター東病院の南 陽介氏が発表した。 本試験では、新たにPh+ALLと診断された成人245例(うち日本人13例)を、ポナチニブ群(開始用量30mg1日1回、導入療法終了後はMRD陰性CRが得られた時点で15mgに減量)またはイマチニブ群(600mg1日1回)に2:1に無作為に割り付け、低用量の化学療法(導入療法3サイクル、強化療法6サイクル、維持療法11サイクル)と併用した。化学療法後はポナチニブまたはイマチニブの単剤投与が行われた。HSCTは治験責任医師の判断に従った。主要評価項目はMRD陰性CR率、主な副次評価項目は無イベント生存期間(EFS)であった。今回の事後解析では、年齢(65歳以上/65歳未満)、BCR::ABL1バリアント(p190/p210)で分け、任意の時点でのMRD陰性(MR4:BCR::ABL1IS≦0.01%)の割合とPFS(治療終了時MRD陰性未達、MRD陰性の消失、全死亡、導入療法終了時CR未達、CRからの再発)を比較した。 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時(2022年8月12日)に中央検査機関でp190/p210が確認された232例(ポナチニブ群:154例、イマチニブ群:78例、追跡期間中央値19.4ヵ月)において、MRD陰性の割合はポナチニブ群68%、イマチニブ群50%であった(相対リスク[RR]:1.35、95%信頼区間[CI]:1.05~1.73)。各サブグループにおいても、統計学的有意差は認められなかったものの、ポナチニブ群/イマチニブ群のMRD陰性率(RR:95%CI)は、65歳未満が69%/49%(1.41:1.06~1.86)、65歳以上が62%/53%(1.16:0.67~1.99)、p190が70%/57%(1.24:0.95~1.62)、p210が60%/36%(1.67:0.93~2.98)と、すべてのサブグループでベネフィットが認められた。・PFS中央値は、全体ではポナチニブ群(20.2ヵ月)がイマチニブ群(7.5ヵ月)の2倍以上長かった(ハザード比[HR]:0.52、95%CI:0.36~0.73)。各サブグループにおいても、ポナチニブ群/イマチニブ群のPFS中央値(HR:95%CI)は、65歳未満では18.7/7.3ヵ月(0.50:0.34~0.74)、65歳以上では22.5/7.5ヵ月(0.65:0.28~1.49)、p190では22.5/9.3ヵ月(0.52:0.34~0.81)、p210では9.0/4.1ヵ月(0.48:0.26~0.90)と一貫していた。・HSCTを受けた患者の割合は、全体でポナチニブ群が36%とイマチニブ群の47%より低く、MRD陰性が得られた患者においてもポナチニブ群32%、イマチニブ群56%で同様であった。・HSCTを受けなかった患者では、曝露期間中央値がポナチニブ群(107例)で12.8ヵ月とイマチニブ群(42例)の5.1ヵ月より2倍以上長かった。・TEAEの発現割合は、動脈閉塞イベントおよび静脈血栓塞栓イベントを含め同程度であった。TEAEによる投与中断の割合はポナチニブで高く、TEAEによる減量・投与中止の割合は同程度であった。 今回の結果から、南氏は「Ph+ALLの1次治療でポナチニブ+化学療法を受けた症例は、イマチニブ+化学療法を受けた症例に比べて、年齢およびBCR::ABL1バリアントのどのサブグループにおいてもMRD陰性の割合が大幅に高く、PFSも延長し、さらにMRD陰性が得られた患者ではHSCTを受けた割合も低かったことが示された」とまとめた。また、ポナチニブで懸念されていた血管毒性がイマチニブと同程度であったことについて、「効果が得られた場合に減量するという設定によるものと思われる」と述べた。

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腎細胞がんへのbelzutifan、安全性プロファイルとその管理戦略(LITESPARK統合解析)/日本臨床腫瘍学会

 belzutifanはHIF-2α阻害薬として米国で初めて承認された薬剤であり、日本でも承認申請中である。独自の作用機序を有し、貧血および低酸素症を含む特有の有害事象(AE)プロファイルを示すことが明らかになっている。腎細胞がん患者を対象にbelzutifanの安全性プロファイルを評価することを目的として、4つの臨床試験の事後統合解析が実施され、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのEric Jonasch氏が結果を第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で発表した。 本解析は、既治療の進行淡明細胞型腎細胞がん(RCC)患者を対象とした第I相LITESPARK-001試験、第II相LITESPARK-013試験、第III相LITESPARK-005試験、およびフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病関連腫瘍患者を対象とした第II相LITESPARK-004試験から、belzutifan 120mgの1日1回経口投与を受けたRCC患者を対象に実施された。 主な結果は以下のとおり。・対象となった患者は計576例で、各試験の内訳はLITESPARK-001が58例、LITESPARK-013が76例、LITESPARK-005が381例、LITESPARK-004が61例であった。・ベースラインの患者特性は年齢中央値が61歳(範囲:19~90)、男性が76.7%、ECOG PS 0~1が98.3%を占めた。西欧39.2%/北米38.4%/日本を含むその他の地域からの参加 が22.4%であった。・全体として、572例(99.3%)に何らかのAEが認められ、355例(61.6%)にGrade3以上のAEが発現した。・288例(50.0%)でAEによる用量調整が必要となったが、AEによる治療中止は37例(6.4%)にとどまった。・最も多く認められたAEは貧血(ヘモグロビン低下を含む、84.2%)で、疲労(42.7%)、悪心(24.1%)、呼吸困難(21.4%)が続いた。・多く認められたGrade3以上のAEは貧血(28.8%)、低酸素症(12.2%)であった。・主なAEの初回発現時期中央値(範囲)は、貧血が29日(1~834)、低酸素症が31日(1~952)、疲労が42日(1~1,017)、悪心が43日(1~1,346)、呼吸困難が57日(1~911)であった。・貧血を認めた485例のうち、111例(22.9%)は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)のみ、85例(17.5%)は輸血のみ、62例(12.8%)はESAと輸血で治療された。患者当たりのESA投与回数の中央値は5回、輸血回数の中央値は2回であった。回復までの期間中央値は70日であった。・低酸素症を認めた94例のうち、66例(70.2%)が酸素療法を受けていた。酸素吸入の期間中央値は9日、回復までの期間中央値は11日であった。・治療関連有害事象(TRAE)は526例(91.3%)に認められ、Grade3以上は217例(37.7%)で発現した。Grade5のTRAEとして、多臓器不全が1例報告されている。 Jonasch氏は今回の結果について、有害事象は比較的早期に発現し、初回発現時期の中央値は治療開始から3ヵ月以内であったとし、想定されたとおり貧血と低酸素症が多くみられ、用量調整およびESA/輸血(貧血)・酸素療法(低酸素症)により管理されたとまとめている。

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大腸がん1次治療のセツキシマブ、RAS/BRAF野生型の左側、男性に有効(DEEPER)/日本臨床腫瘍学会

 DEEPER試験はJACCRO(日本がん臨床試験推進機構)が主導し、RAS野生型切除不能大腸がんの1次治療として、3剤併用化学療法(mFOLFOXIRI)の上乗せとして抗EGFR抗体薬・セツキシマブと抗VEGF抗体薬・ベバシズマブの有用性を比較検討した無作為化第II相試験である。これまでにセツキシマブ併用群はベバシズマブ併用群に比べ、主要評価項目である腫瘍縮小率(DpR)が有意に高かったことが報告されている。2025年3月6~8日に行われた第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)のPresidential Sessionにおいて、聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座の砂川 優氏が、サブグループ解析を含む本試験の最終解析を報告した。・試験デザイン:国内ランダム化第II相試験・対象:未治療のRAS野生型転移大腸がん(mCRC)、ECOG PS0~1・セツキシマブ(CET)群:mFOLFOXIRI(イリノテカン150mg/m2、オキサリプラチン85mg/m2、5-FU 2,400mg/m2)+セツキシマブ・ベバシズマブ(BEV)群:mFOLFOXIRI+ベバシズマブ・評価項目:[主要評価項目]DpR[副次評価項目]奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)など 今回は観察期間5年における最終生存解析とともに、原発巣の位置、性別、肝転移の状態、BRAF遺伝子などのサブタイプ別の探索的解析の結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・CET群に179例、BEV群に180例が無作為に割り付けられ、それぞれ159例、162例がper protocol setとして解析対象となった。・データカットオフ時点での左側症例におけるPFSの中央値はCET群で13.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.2~17.5)、BEV群で12.1ヵ月(95%CI:10.9~14.1)であり、両群間で有意差は認めなかった(HR:0.81[95%CI:0.63~1.05]、p=0.11)。・一方で、RAS/BRAF野生型の左側症例(178例)に限定して行われた解析では、PFS中央値はCET群で14.8ヵ月(95%CI:12.6~19.4)、BEV群で11.9ヵ月(95%CI:10.8~14.6)であり、CET群で有意に延長した(HR:0.71[95%CI:0.52~0.97]、p=0.029)。OS中央値はCET群で50.2ヵ月(95%CI:39.9~56.0)、BEV群で40.2ヵ月(95%CI:33.5~48.8)であり、CET群では50ヵ月を超える結果が示されたものの、統計学的有意差は認められなかった(HR:0.74[95%CI:0.53~1.05]、p=0.091)。・さらに、RAS/BRAF野生型左側症例から肝限局転移症例を除外して行われた解析(125例)では、OS中央値はCET群で50.2ヵ月(95%CI:39.6~60.1)、BEV群で38.6ヵ月(95%CI:30.5~45.2)であり、CET群で有意に延長した(HR:0.60[95%CI:0.40~0.90]、p=0.014)が、肝限局転移例ではこの傾向は見られなかった(HR:1.17、95%CI:0.61~2.24)。・RAS/BRAF野生型左側症例では、男性患者においてCET群がBEV群よりもOSの延長を示した(52.8ヵ月vs. 40.2ヵ月、HR:0.59、95%CI:0.38~0.91)が、女性患者ではこの傾向はみられなかった(HR:1.19、95%CI:0.67~2.14)。 砂川氏は「現在、RAS野生型進行大腸がん1次治療の標準療法は2剤併用の化学療法+抗EGFR抗体薬であるが、今後はRAS/BRAF野生型の左側症例についてはmFOLFOXIRIの3剤併用+セツキシマブ療法が有用なオプションとなり、とくに転移が肝臓に限局していない患者や男性患者には有効である可能性がある」とまとめた。 ディスカッサントを務めたDuke大学のJohn Strickler氏は、同じくRAS野生型大腸がん1次治療として抗EGFR抗体薬のパニツムマブとベバシズマブを比較した日本のPARADIGM試験をはじめとした関連試験の結果を紹介し、化学療法は2剤か3剤か、抗EGFR抗体薬に何を選択するか、最適な患者の選択基準など、多くの論点があることを紹介した。質疑応答では、セツキシマブの有用性の男女差が出た理由について質問があった。砂川氏は「抗腫瘍効果に男女差があるかについて先行研究を調べたが、むしろ女性のほうが有効だという結果だった。n数が少なく確定的ではないものの、女性は男性よりも皮膚毒性が強く出ており、治療強度が弱まった可能性がある」とした。

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楽観的な人ほど貯蓄額が多い?

 物事の明るい面を見ることは、気持ちを前向きにさせるだけでなく貯蓄にも役立つ可能性のあることが新たな研究で示唆された。米コロラド大学ボルダー校のJoe Gladstone氏と米ニューハンプシャー大学のJustin Pomerance氏らによる研究で、楽観性が高い人ほど貯蓄額が多い傾向があり、この傾向は特に低所得者層で顕著であることが示唆された。この研究結果は、「Journal of Personality and Social Psychology」1月号に掲載された。 Gladstone氏は、「楽観主義は、それをかけると全てが素晴らしく見えてしまう『バラ色のメガネ』であり、将来のための貯蓄を減らす原因になる可能性があると考えられがちだ。しかし、本研究では、特に経済的困難に直面しているときには、楽観主義が貯蓄に役立つ重要な心理的資源である可能性が示唆された」と話している。 この研究でPomerance氏らは、米国、英国、およびヨーロッパ14カ国で実施された8件の調査(参加者の総計14万3,461人)のデータを用いて、楽観主義(素質的楽観主義)と貯蓄行動との関連を検討した。いずれの調査でも、「将来について常に楽観視している」や「全体的に悪いことよりも良いことの方が多く起こると思っている」などの質問を通して調査参加者の楽観主義が評価されていた。8件の調査のうち、3件はある時点でのみ調査を行う横断調査であり、残りの5件は同じ参加者を追跡して複数回の調査を行う縦断調査であった。 その結果、楽観性の高い参加者ほど、概して貯蓄額も多いことが明らかになった。例えば、貯蓄額の中央値が8,000ドル(1ドル152円換算で121万6,000円)の世帯の場合、楽観性の1標準偏差増加は貯蓄の1,352ドル(約20万5,500円)の増加と関連することが示された。この結果は、年齢、性別、交際状況、子どもの有無、小児期の社会経済的状況、健康状態、雇用状況、および「ビッグファイブ(開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向)」など、貯蓄と楽観主義の両方に影響を与える可能性がある因子を調整した後も変わらなかった。 さらに、楽観主義が貯蓄行動に与える影響は、低所得者層で最も強いことも明らかになった。この結果についてGladstone氏は、「毎月の給料を使い切るような生活をしている人は、貯蓄に意味を見出せないかもしれない。しかし、楽観的な見通しがあれば、たとえ今、大変な状況に置かれていても、貯蓄しようという動機が生まれる可能性はある」と述べている。 研究グループは、「本研究結果は、特に低所得者層の貯蓄を増やすことを目的とした金融教育プログラムや政策に影響を与える可能性がある。従来の金融リテラシー訓練に楽観主義を育む手法を組み合わせることで、貯蓄行動を促す効果を高められる可能性がある」との見方を示している。Gladstone氏は、「最終的には、将来に対する希望と貯蓄を賢く管理するスキルを組み合わせることが、より多くの人々が経済的安定を築くための鍵となるかもしれない」と米国心理学会(APA)のニュースリリースで述べている。

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米国では約10年で家族介護者数が30%以上増加

 米国では、2011年から2022年の間に自宅や介護施設で暮らす高齢者を介護する家族や友人などの数が32%増加し、このような介護者が介護に費やした時間も50%近く増加したことが、新たな研究で明らかにされた。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のJennifer L. Wolff氏らによるこの研究は、「Health Affairs」2月号に掲載された。 この研究では、National Health and Aging Trends Study(NHATS)とNational Study of Caregiving(NSOC)の2011年と2022年のデータの分析が行われた。NHATSは、米国の65歳以上のメディケア受給者を対象にした全国調査で、高齢者の日常動作に関する情報を収集している。一方、NSOCは、家族や友人などの無償で介護を提供している人(以下、無償の介護者)に関する情報を収集している。2022年のデータでは、無償の介護者の約12%は家族以外の人(友人や近隣の人など)であり、残りは親族であった。 高齢者を介護する無償の介護者の数は2011年は1820万人であったのが2022年には2410万人と32%増加していた。また、無償の介護者が介護に費やす時間も、2011年の週平均21.4時間から2022年には週平均31時間と、ほぼ50%増加していた。被介護者の介護ネットワークの規模は2011年と2022年で変化はなく、1人当たり2人であった。2022年に無償の介護者が介護していた人は、2011年の無償の介護者が介護していた人と比較して、若く、教育水準が高く、男性の割合が高く、認知症である可能性が低かった。また、無償の介護者は、レスパイトケア(介護者が休息を取れるように支援するサービス)や支援グループなどの支援サービスへの依存が減ったと報告していたにもかかわらず、介護の難しさや雇用と育児の両立に対する責任については、ほとんど変化がないと報告していた。 Wolff氏は、「われわれの調査結果は、介護者の数が大幅に増加しているにもかかわらず、彼らの状況は驚くほど変化がないことを示している。これは、政策に関わる人々が口にする『家族介護者の負担が増加の一途をたどっている』という懸念とは異なる結果だ。それでもわれわれは、特に認知症患者の介護に関わる人が直面する特定の課題に対応する必要がある」とジョンズ・ホプキンス大学のニュースリリースで述べている。 本研究では、介護の責任は依然として主に女性が負わされており、また、認知症患者の介護者や経済的に余裕のない人は特に悪影響を受けるリスクが高いことも示されたという。研究グループは、85歳以上の人口は2050年までに3倍になると予測されていることに言及し、介護者の経験における格差に対処することが喫緊の課題だと主張している。 さらに研究グループは、政策立案者が、州レベルの有給家族休暇政策を含む、家族介護者に対する強力な支援策を策定するべきだとしている。Wolff氏は、「家族介護者は、介護提供システムにとって極めて重要だ。将来を見据えて、何百万人もの高齢者が頼りにしている重要なサポートを今後も提供し続けられるように、家族介護者のニーズを把握し、サポートする必要がある」と話している。

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リファンピシン耐性キノロン感性結核に対する経口抗菌薬(解説:寺田教彦氏)

 結核は、依然として世界的な公衆衛生の問題であり、2023年WHO世界結核対策報告書によると、2022年には約1,060万人が結核を発症し、130万人が死亡したとされる。結核治療を困難にする要因の1つに薬剤耐性結核(MDR/RR-TB)があり、今回の対象であるリファンピシン耐性結核は、毎年約41万人が罹患すると推定されている。このうち治療を受けたのは40%にすぎず、その治療成功率は65%にとどまっている(WHO. Global tuberculosis report 2023.)。これは、従来のレジメンが18~24ヵ月と治療期間が長く、アミノグリコシド系やポリペプチド系の注射製剤が含まれ、副作用の問題もあったためと考えられる。 2016年から2017年にかけて、本研究(endTB試験)を含めた3つの多国籍ランダム化比較試験(STREAM2試験、TB-PRACTECAL試験)が開始され、リファンピシン耐性結核に対する6ヵ月または9ヵ月の全経口短期レジメンの安全性と有効性が評価された。 本研究は、15歳以上のリファンピシン耐性・フルオロキノロン感性の結核患者を対象に、ベダキリン(B)、デラマニド(D)、リネゾリド(L)、レボフロキサシン(Lfx)またはモキシフロキサシン(M)、クロファジミン(C)、ピラジナミド(Z)から成る5つの併用レジメン(BLMZ、BCLLfxZ、BDLLfxZ、DCLLfxZ、DCMZ)と、当時のWHOガイドラインに準拠した標準治療群の計6つの治療群を比較した。その結果、3つのレジメンが標準治療に対して非劣性を示した(詳細は「リファンピシン耐性/キノロン感受性結核に有効な経口レジメンは?/NEJM」参照)。 WHOは2024年8月に発表したKey updates to the treatment of drug-resistant tuberculosis: rapid communication, June 2024において、本試験(endTB)の結果を解釈し、内容を更新している。ガイドライン開発グループの解釈では、フルオロキノロン感受性が確認されたMDR/RR-TB患者において、BLMZ、BLLfxCZ、BDLLfxZの3種類の9ヵ月全経口レジメンは、長期(≧18ヵ月)レジメンの代替として効果的かつ安全に使用できるが、DCLLfxZおよびDCMZレジメンは治療失敗・再発率および獲得耐性率が高いため推奨されないとされた。そのため、WHOはフルオロキノロン感性MDR/RR-TB患者に対し、9ヵ月の全経口レジメン(優先順位:BLMZ>BLLfxCZ>BDLLfxZ)を従来の長期レジメンに代わる選択肢の1つとして提案した(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)。 本研究のレジメンは小児用製剤もあり、妊娠中の使用も検討可能である。今後、2025年のWHOガイドライン改訂にも反映され、より多くの患者に適用可能な治療法の1つとなることが期待される。

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第233回 コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省

<先週の動き>1.コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省2.高額療養費の引き上げを凍結、参院選への影響か-与党内にも異論噴出/政府3.2026年度診療報酬改定、医療機関の経営危機対応が最優先課題/三保連4.自治医大卒業生が修学資金返還を巡り提訴、「契約は憲法違反」と主張/自治医大5.吉祥寺南病院、事業継承が決定 救急・災害医療の機能維持へ/東京都6.殺人隠蔽のみちのく記念病院、元院長ら2人を起訴/青森県1.コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省厚生労働省は2025年2月26日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版」を公開した。前回の改訂から1年4ヵ月ぶりで、各章の要点をまとめた「Point」を追加し、罹患後症状が続く場合に利用できる支援制度の解説や患者向け説明資料を付録として掲載した。改訂では、罹患後症状の疫学に関する最新知見が追加され、大阪府八尾市の調査結果を基に、感染者の罹患後症状の割合が3ヵ月後の14.3%から18ヵ月後には5.4%に低下する傾向が示された。また、罹患後症状ごとの診療アプローチを整理し、プライマリ・ケアの対応や専門医への紹介基準などを明確化した。さらに、労災保険や障害年金、自立支援医療制度など、患者が利用できる支援制度を詳述し、厚労省は2月27日に関連Q&Aも改訂した。今回の改訂により、医療従事者の診療支援強化と患者への適切な情報提供が期待されている。参考1)新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版(厚労省)2)新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A(同)3)罹患後症状が続く場合に活用できる支援制度を追記「コロナ罹患後症状のマネジメント」が1年4ヵ月ぶりに改訂(日経メディカル)4)新型コロナウイルス感染症に係る罹患後症状 (いわゆる後遺症)実態把握調査結果について(愛知県)2.高額療養費の引き上げを凍結、参院選への影響か-与党内にも異論噴出/政府政府は3月7日、今年8月に予定していた高額療養費制度の自己負担上限額の引き上げを見送ることを決定した。患者団体の強い反発に加え、与野党からの批判が高まり、夏の参院選への影響を懸念する声が強まったことが背景にある。当初、政府は医療費の増大に対応するため、2025年8月~2027年8月にかけて3段階で負担上限を引き上げる方針だった。しかし、患者団体から「治療を続けられなくなる」との訴えが相次ぎ、政府は2月末に2026年以降の引き上げを再検討すると発表した。それでも批判は収まらず、与党内でも選挙への悪影響を懸念する声が拡大。公明党や自民党の参議院議員が見直しを求め、政府は最終的に引き上げそのものを見送る判断を下した。石破 茂首相は7日夜、患者団体と面会し、「8月の改定を含め、全体の見直しを見合わせる。秋までに改めて方針を検討する」と述べた。患者団体の代表は「われわれの声が一定程度届いた」と評価する一方で、再検討の期間が短く、当事者の意見が十分反映されるか懸念を示した。政府がこの制度の見直しを進めた背景には、医療費の増加と社会保障費の持続可能性確保の問題がある。高額な医薬品の普及により高額療養費の支給額は増加傾向にあり、政府は負担区分の細分化や負担上限の引き上げによって、財政の健全化を図る考えだった。しかし、拙速な決定プロセスが批判を招き、結果的に3度目の方針転換を余儀なくされた。今後の焦点としては、秋までに政府がどのような新方針を打ち出すかにある。代替財源の確保や制度の持続可能性を維持しつつ、患者の負担を最小限に抑える方策が求められる。また、予算案の再修正が必要となるため、国会での審議にも影響が及ぶ見通しだ。参考1)石破首相、高額療養費上げ見送り=今秋までに新方針検討-25年度予算案再修正へ(時事通信)2)高額療養費制度 負担上限額 ことし8月の引き上げ見送りへ 政府(NHK)3)高額療養費の負担引き上げ見送り、参院選への影響考慮…新年度予算案は衆院で再議決の異例の展開へ(読売新聞)4)高額療養費上げ見送り、拙速議論のツケ 医療改革に逆風(日経新聞)5)高額療養費の負担増見送り表明、石破首相 秋までに改めて方針を検討・決定へ(CB news)3.2026年度診療報酬改定、医療機関の経営危機対応が最優先課題/三保連3月6日に開催された三保連合同シンポジウムで、2026年度の診療報酬改定において、病院の経営危機への対応が最優先課題であるとの声が相次いだ。内科系学会社会保険連合(内保連)の小林 弘祐理事長は「病院が赤字で潰れてしまえば、良い医療を提供することもできない」と強調し、医療従事者の人件費高騰や医療材料のコスト増加が経営を圧迫している現状を指摘した。政府が25年度予算案で社会保険料の負担軽減を目的に医療費削減を打ち出したことについて、関係者からは強い警戒感が示された。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の瀬戸 泰之会長も「医療機関が経営危機にあるのは間違いない」と述べ、診療報酬の適切な引き上げを求めた。看護分野では、看護系学会等社会保険連合(看保連)が専門性の高い看護師を手術室や救急外来に配置することへの評価を求める方針を示し、具体的な提案を月内に厚生労働省へ提出する予定だ。また、がん患者への妊孕性相談指導の評価など、看護ケアの質向上に向けた要望も出された。外科分野では、外保連の渡邊 雅之実務委員長が、ロボット支援手術の評価向上や整形外科の手術コード(Kコード)の精緻化を求める方針を示した。現行の評価では、ロボット支援手術は従来の手術法に比べて収益が低く、医療機関の負担が大きいことが問題視されている。また、物価高騰や人件費増加が病院経営に大きな影響を与えており、診療報酬の総枠拡大が不可欠とされた。全国医学部長病院長会議の相良 博典会長は、高額医療機器の更新が困難になっている現状を指摘し、「医療の質を維持するためには診療報酬の適切な引き上げが必要」と述べた。今後、三保連は診療報酬改定に向けた提言をまとめ、政府への働きかけを強める方針だ。医療機関の経営基盤を強化し、持続可能な医療提供体制を確保するため、適切な診療報酬改定が求められる。参考1)令和8年度診療報酬改定に期待するもの 三保連の重点要求項目(三保連)2)経営危機への対応を最優先に、学会から指摘相次ぐ 三保連シンポで(CB news)3)2026年度診療報酬改定で医療技術の適切な評価・点数引き上げを行い、病院経営の持続性を確保せよ-内保連・外保連・看保連(Gem Med)4.自治医大卒業生が修学資金返還を巡り提訴、「契約は憲法違反」と主張/自治医大自治医科大学を卒業した医師が、同大学の修学資金貸与制度の違法性を主張し、自治医大と愛知県を相手取り訴訟を提起した。訴えの内容は、修学資金の返還義務の不存在確認と国家賠償請求である。自治医大の修学資金貸与制度は、医師不足地域の医療確保を目的とし、学生に修学資金を貸与し、卒業後に指定された公立病院などで一定期間勤務することで返還が免除される仕組み。しかし、途中で指定病院を辞職した場合、修学資金と損害金を一括返済する義務が発生する。原告の医師は、大学在学中に約2,660万円を貸与されたが、家庭の事情により指定勤務先を退職しようとした。しかし、自治医大や愛知県は退職を認めず、最終的に一方的に退職を迫られたと主張。その後、大学側から修学資金と損害金の一括返済を求められたため、契約条項の憲法違反や労働基準法違反を理由に訴訟を起こしたもの。代理人の弁護士は「指定勤務を強制することは憲法が保障する居住・移転の自由に反する可能性がある」と指摘し、修学資金返還義務の法的根拠の正当性を問うている。一方、自治医大は公式声明で「本学の修学資金制度は、地域医療を確保するために合理的かつ重要な制度であり、関係法令にも適合している」と反論。これまで原告に対し返還請求の説明を行ってきたとした上で、訴訟の提起を「遺憾である」と表明し、法廷で制度の正当性を主張していく方針を示している。今回の訴訟は、地域医療を担う医師確保の必要性と、医師のキャリア選択の自由とのバランスが問われる問題として、今後の医療政策にも影響を与える可能性がある。参考1)本学卒業生からの訴訟提起に関する本学の見解(自治医大)2)「無知な受験生を囲い込む、悪魔のような制度」自治医大の修学金貸与制度巡り卒業生の医師が提訴(弁護士JPニュース)3)Dr.NKMR〈自治医大卒医師/弁護士志望の法科大学院生/アンチ地域枠制度〉@自治医大・愛知県を提訴5.吉祥寺南病院、事業継承が決定 救急・災害医療の機能維持へ/東京東京都武蔵野市の吉祥寺南病院は老朽化と建設費高騰のため2024年9月に診療を休止していたが、社会医療法人社団・東京巨樹の会が事業を継承することが決定した。東京巨樹の会は関東や九州で病院を運営するカマチグループに属し、今後、既存の建物を取り壊し、新たな病院を建設する予定。新病院は、これまでの二次救急医療機関や災害拠点連携病院としての役割を引き継ぎ、病床数も増やす方針だが、開院時期は未定。吉祥寺エリアでは過去10年間で病院の閉鎖が相次ぎ、救急病床が大幅に減少していたため、地域住民の不安が高まっていた。小美濃 安弘市長は「地域医療の再建に向け、市としても支援を行う」と述べ、事業継承を歓迎した。市民からも「医療機関の減少は困る」「存続が決まり安心した」との声が上がっている。東京巨樹の会は「地域とともに、救急や災害対応に強い病院を作りたい」とし、早期の診療再開を目指している。参考1)“存続危機”の吉祥寺南病院、事業後継者が決定 診察再開時期は未定(TOKYO MX)2)吉祥寺南病院 品川の法人が事業継承 二次救急機能も受け継ぐ(東京新聞)3)休止の東京・吉祥寺南病院、東京巨樹の会へ事業承継(日経新聞)6.殺人隠蔽のみちのく記念病院、元院長ら2人を起訴/青森県青森県八戸市の「みちのく記念病院」で発生した患者間の殺人事件について、青森地検は7日、当時の院長・石山 隆被告(61)と主治医である弟の哲被告(60)を犯人隠避罪で起訴した。両被告は、2023年3月、入院患者の男性(73)が別の患者に殺害されたことを知りながら警察に通報せず、虚偽の死亡診断書を作成し、事件を隠蔽したとされる。死亡診断書の名義人となった医師は認知症を患い、実際には意思疎通が困難な状態であったことも明らかになった。青森県と八戸市は病院に対して立ち入り検査を実施し、医師の勤務実態と記録の不一致、病室の定員超過、許可を得ない設備変更などの問題を確認した。7日には病院に対し改善勧告を行い、勤務証明書類の提出や病床数の適正化を求めた。また、専門家は精神科病棟の特性として外部のチェックが入りにくいことを指摘し、病院内での権力乱用が放置されていた可能性を示唆した。さらに、行政の監査が書類確認に止まり、実質的な医療の質の検証が行われていなかった問題点も浮かび上がった。この病院では、死亡診断書を専門に作成する「みとり医」と呼ばれる高齢医師を雇用し、適切な診療を行わないまま死亡診断書を発行していた疑いもある。警察の捜査では、この名義の診断書が200件以上確認され、その7割が「肺炎」とされていた。事件の背景には、医療機関の管理体制の不備や、社会的に「必要悪」として機能してきた病院の構造的問題がある。地域医療の維持と患者の人権保護の両立が求められる中、今後の行政の対応が注視されている。参考1)病院内殺人隠蔽事件 死亡診断書専門の高齢“みとり医”も(NHK)2)殺人隠蔽の「みちのく記念病院」元病院長らを起訴 青森県と市が改善勧告も(産経新聞)3)患者殺害隠蔽で虚偽診断書 病院元院長ら2人を犯人隠避罪で起訴(毎日新聞)

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線形回帰(重回帰)分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第52回

重回帰分析の考え方前回解説したのは、線形回帰のうち、1つの目的変数に対して1つの説明変数を用いる「単回帰」分析でした。今回からは、複数の説明変数を扱うことができる「重回帰分析」について説明します。重回帰式は、ある目的変数が複数の説明変数によってどのように影響されているかを数式で示したものです。重回帰式は下記のような数式で示され、目的変数yが切片aと複数の説明変数xiのそれぞれの回帰係数biの項の総和と残差eで表されます(連載第51回参照)。y=a+b1x1+b2x2+…+bixi+e「重回帰分析」の目的変数は連続変数に限定されますが(連載第49回参照)、説明変数は連続変数以外のカテゴリ変数、たとえば2値変数も適用可能です。ここで、残差eについて簡単に説明します。上記の重回帰式をeを左辺にして変形すると、以下のようになります。e=y-(a+b1x1+b2x2+…+bixi)残差eとは上記の式のとおり、実際に観察された目的変数yと重回帰モデルで予測された値(a+b1x1+b2x2+…+bixi)の差分として定義されます。残差が小さいほど重回帰モデルのデータへの適合度が高いことを示しています。また、「残差の正規性(残差が正規分布していること)」が「重回帰分析」の前提条件になります。それでは、われわれのResearch Question(RQ)を重回帰式に当てはめて考えてみましょう(連載第49回参照)。ここでは、「低たんぱく食の遵守」が、連続変数である糸球体濾過量(GFR)の低下速度に影響を与えているかどうかを検証します。検証したい要因(E)である「低たんぱく食の遵守」と、アウトカム(O)である「GFR低下速度」の関連を歪める可能性のある交絡因子として、以下の要因を挙げ、重回帰分析による調整を試みます。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、ベースラインeGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値Oである「GFR低下速度」を重回帰式によって表すと、下記のようになります。「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+eすなわち、目的変数yである「GFR低下速度」は、切片aと主たる要因である「低たんぱく食の遵守」と以下の交絡因子(「年齢」、「性別」、「糖尿病の有無」、「血圧」、「ベースラインeGFR」、「蛋白尿定量」、「血清アルブミン値」、「ヘモグロビン値」)とそれぞれの回帰係数の項と残差eの総和で表されます。ここで必要な仮定が「重回帰分析」における線形性の前提です。重回帰モデルでは、上述の式で表したように説明変数と目的変数の間に直線的な関係があると仮定します。つまり、説明変数が 1 単位変化すると、目的変数が常に一定の割合で増減するということです。この線形性の前提は、前述の「残差の正規性」を確認することで検証できます。「重回帰分析」を用いた多変量解析結果の解釈について、われわれの RQ を適用した重回帰式を用いて具体的に説明します。O である「GFR低下速度」が、検証したい E である「低たんぱく食の遵守」のあり・なしでどの程度違うのかを考えてみます。「低たんぱく食の遵守」あり、の場合は下記の式で示したとおり、その回帰係数b1の項は残ります。「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守の程度(あり=1)」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e一方、「低たんぱく食の遵守」なし、の場合は下記の式で示したように、その回帰係数b1はゼロとの積になるため、項は消えます。「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守の程度(なし=0)」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e多変量解析を行うことにより、その他の交絡因子の影響はすべて一定に保ったうえで(他の説明変数の影響を除外して)分析ができます。したがって、他の交絡因子を調整したうえでの、「低たんぱく食の遵守」あり(なし、と比較して1単位増加)の場合の、「GFR低下速度」に与える影響は、回帰係数b1で表されるのです。

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事例019 外来感染対策向上加算の算定(続き)【斬らレセプト シーズン4】

解説前回の「事例18 外来感染対策向上加算の算定」に引き続いて、今回も同じテーマの追加事項を解説いたします。外来感染対策向上加算(以下「同加算」)にかかる「協定指定医療機関」の指定を受けているものと見做す経過措置は、2025年1月に終了しました。同加算を新規で届け出る場合には、医療機関所在地の都道府県知事による指定を受けてから、「様式1の4 外来感染対策向上加算に係る届出書添付書類」を届け出ることが必要となります。様式の5項目に対して、記載にかかる質問が多いことから現時点での具体的要件を紹介します。1項目目「院内感染管理者」は、専任であって週1回以上感染対策にかかる院内巡回を行う必要があります。年2回の感染対策にかかる院内研修も必要です。これらは書面で記録を残す必要があります。院長自らが就任されてもよいですが、雇用している看護師などの医療有資格者を選任することもできます。2項目目「抗菌薬適正使用のための方策」は、地域医師会において準備されている手引きに沿っての実践と、連携医療機関から助言を受けている内容の記載が必要です。3項目目「連携保険医療機関名又は地域の医師会」は、感染向上対策加算1の届出医療機関と直接に連携の了解を得て書面を交わすか、地域医師会に相談をお願いします。4項目目「発熱患者等への対応」は、車内待機や発熱患者を時間で分離するなどの対応が記入されていれば要件を満たすとされています。5項目目「新興感染症の発生・まん延時の対応」は、所在地の感染症対策課から指定を受けたことがホームページに掲載された以降にチェックを入れて届け出ることができます。そのほか、各項目と同時に提出する付随書類のひな型は地域医師会に準備されていますので地域医師会への問い合わせなどお願いします。

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英語で「脛骨」、医療者or患者向けの2つの表現を解説【患者と医療者で!使い分け★英単語】第8回

医学用語紹介:脛骨 tibia「脛骨(けいこつ)」はtibiaといいますが、脛骨について説明する際、患者さんにtibiaと言って通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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統合失調症の認知機能改善に対するメトホルミンの有用性

 統合失調症の陰性症状に対して、メトホルミンに本当に有用性があるかは、まだ結論が出ているとはいえない。中国・The Brain Hospital of Guangxi Zhuang Autonomous RegionのZhen-Juan Qin氏らは、統合失調症患者の神経認知機能に対するメトホルミンの効果に関するランダム化比較試験(RCT)を評価するため、システマティックレビューを実施した。Frontiers in Psychiatry誌2025年1月20日号の報告。 中国のデータベース(WanFang、Chinese Journal Net)および英語のデータベース(PubMed、EMBASE、PsycINFO、Cochrane Library)より、包括的な検索を実施し、統合失調症の神経認知アウトカムに対するメトホルミンの影響を評価したRCTを特定した。 主な結果は以下のとおり。・4件のRCT、統合失調症患者271例を対象に含めた。・3件のRCT(75%)において、MATRICSコンセンサス認知機能評価バッテリー(MCCB)、神経心理検査アーバンズ(RBANS)、ミニメンタルステート検査(MMSE)による評価では、メトホルミン群は、対照群と比較し、神経認知機能の有意な改善が認められたが、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)では、有意な差が認められなかった。・2件のRCT(50%)において、メトホルミンの総合的な神経病理に対する効果が認められたが、両群間で有意な差は認められなかった。・2件のRCTにおいて、有害事象が報告されたが、食欲減退および下痢に関する結果に、一貫性は認められなかった。・その他の有害事象および治療中止率は、両群間で同程度であった。 著者らは「本検討により、メトホルミンは、統合失調症の神経認知機能を改善する可能性が示唆された。ただし、これらの結果を検証するためには、さらに大規模かつ二重盲検による高品質のRCTが必要とされる」と結論付けている。

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切除不能進行胃がん1次治療、sugemalimab追加でOS・PFS改善(GEMSTONE-303)/JAMA

 未治療の切除不能な局所進行または転移を有する胃・食道胃接合部腺がんの治療において、プラセボ+化学療法と比較してsugemalimab(完全ヒト型抗プログラム細胞死リガンド1[PD-L1]抗体)+化学療法は、全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、安全性プロファイルは管理可能であることが、中国・北京大学のXiaotian Zhang氏らGEMSTONE-303 Investigatorsが実施した「GEMSTONE-303試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年2月24日号に掲載された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 GEMSTONE-303試験は、切除不能な局所進行または転移を有する胃・食道胃接合部腺がんの1次治療における化学療法(カペシタビン+オキサリプラチン[CAPOX])へのsugemalimab追加の有用性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年4月~2021年12月に中国の54施設で患者を登録した(CStone Pharmaceuticalsなどの助成を受けた)。 PD-L1の複合発現スコア(CPS)が5点以上、全身療法による前治療を受けていない患者479例を対象とした。これらの患者を、3週間ごとに最長24ヵ月間sugemalimab 1,200mgを静脈内投与する群(241例)またはプラセボを投与する群(238例)に割り付け、全例に3週間ごとに最長6サイクルCAPOXを投与した。 主要評価項目は、OSおよび担当医評価によるPFSであった。中央判定によるPFS、客観的奏効率も優れる 全例がアジア人であった。sugemalimab群の年齢中央値は63歳(範囲:25~75)、男性が71.4%、PD-L1 CPSが10点以上の患者の割合は53.9%であり、プラセボ群はそれぞれ63歳(26~75)、74.8%、53.8%だった。追跡期間中央値は、それぞれ25.1ヵ月および26.3ヵ月であった。 OS中央値は、プラセボ群が12.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.6~14.1)であったのに対し、sugemalimab群は15.6ヵ月(13.3~17.8)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.75[95%CI:0.61~0.92]、p=0.006)。 また、PFS中央値は、プラセボ群の6.1ヵ月(95%CI:5.1~6.4)に比べ、sugemalimab群は7.6ヵ月(6.4~7.9)であり有意に優れた(HR:0.66[95%CI:0.54~0.81]、p<0.001)。 副次評価項目である盲検下独立中央判定のPFS中央値(PD-L1 CPS 5点以上の患者のHR:0.72[p=0.002]、同10点以上の患者のHR:0.70[p=0.02])、および客観的奏効率(sugemalimab群68.6%vs.プラセボ群52.7%、群間差:15.9%[95%CI:6.6~25.2]、p=0.001)はsugemalimab群で有意に優れ、奏効期間中央値(PD-L1 CPS 5点以上の患者:6.9ヵ月vs.4.6ヵ月、同10点以上の患者:7.2ヵ月vs.5.6ヵ月)もsugemalimab群で良好であった。新たな安全性シグナルは認めない Grade3~5の治療関連有害事象は、sugemalimab群で53.9%、プラセボ群で50.6%に発現した。Grade3~5の治療関連有害事象のうち最も頻度が高かったのは血小板数の減少(sugemalimab群18.3%vs.プラセボ群16.0%)であった。 試験薬の投与中止に至った有害事象は、sugemalimab群17.8%、プラセボ群12.2%に認めた。治療関連の重篤な有害事象はそれぞれ33.2%および25.3%にみられ、最も頻度が高かったのは血小板数の減少(6.2%vs.6.8%)、貧血(3.3%vs.2.1%)、好中球数の減少(2.5%vs.1.7%)であった。死亡の原因となった有害事象は、それぞれ7例(2.9%)および9例(3.8%)に発現した。新たな安全性シグナルは認めなかった。 著者は、「PFSのHRはCPS 5~9点の患者で0.78、10点以上の患者で0.58、OSのHRはそれぞれ0.88および0.65であり、これはCPSが高いほどsugemalimabの有益性が優れるとの予測が可能であることを裏付けている」「これらの知見は、PD-L1 CPSが5点以上の患者の1次治療における新たな治療選択肢としてのsugemalimab+化学療法の併用を支持するものである」としている。

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2型DMの血糖コントロールなど、予測モデルによる治療最適化で改善/Lancet

 英国・エクセター大学のJohn M. Dennis氏らMASTERMIND Consortiumは、2型糖尿病患者に対する最適な血糖降下療法を確立するために、日常臨床データを用いた5つの薬剤クラスのモデルを開発し、妥当性の検証を行った。その結果、モデルによって予測された最適な治療を受けていない2型糖尿病患者と比較して、最適な治療を受けている患者は、12ヵ月間の糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が低く、追加的な血糖降下療法を必要とする可能性が低下し、糖尿病合併症のリスクが減少することが示された。研究の成果は、Lancet誌2025年3月1日号で報告された。モデルの予測因子は、日常的に入手可能な9つの要因 研究グループは、2型糖尿病患者の日常臨床で利用可能なデータを用いて、5つの薬剤クラス(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬)の血糖降下薬に関して、相対的な血糖降下作用の予測が可能かを明らかにする目的で、モデルを開発しその妥当性を検証した(英国医学研究審議会[MRC]の助成を受けた)。 モデルには、予測因子として、薬剤投与開始時の2型糖尿病患者の日常臨床で入手可能な9つの要因(年齢、糖尿病罹病期間、性別、ベースラインのHbA1c・BMI・推算糸球体濾過量[eGFR]・HDLコレステロール・総コレステロール・ALTの値)を用いた。 モデルの開発と初期検証には、Clinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumのデータベースの観察データを用い、2004年1月1日~2020年10月14日に5つの薬剤クラスのうち1つの投与を開始した年齢18~79歳の2型糖尿病患者を対象とした(データへのアクセス時に英国の人口の19.3%を網羅)。 モデルの検証には、2型糖尿病患者を対象とした3つの無作為化臨床試験の個人レベルのデータを用いた。また、CPRDを用いた検証では、モデルで予測された最適な治療(予測された血糖降下作用が最も高い[すなわち、12ヵ月時のHbA1c値が最も低い]薬剤クラスと定義)と一致する治療を受けた群と、一致しない治療を受けた群で観察された血糖降下作用の差を評価した。血糖値異常の5年リスクも良好 5つの薬剤クラスのモデル開発には、CPRDの10万107件の薬剤投与開始時のデータを用いた。CPRDコホート全体(開発コホート+検証コホート)では、21万2,166件の薬剤投与開始のうち3万2,305件(15.2%)がモデルによる予測で最適な治療法とされた。 モデルによって予測された最適な治療を受けなかった群に比べ、これを受けた群は、観察期間12ヵ月の時点での平均HbA1c値の有益性が、CPRDの地理的検証コホート(薬剤投与開始群2万4,746例、背景因子をマッチさせた群1万2,373例)で5.3mmol/mol(95%信頼区間[CI]:4.9~5.7)、CPRDの時間的検証コホート(9,682例、4,841例)では5.0mmol/mol(4.3~5.6)であった。 予測されたHbA1c値の差は、3つの臨床試験における薬剤クラスのpairwise比較、およびCPRDにおける5つの薬剤クラスのpairwise比較で観察されたHbA1c値の差で良好にキャリブレーション(較正)されていた。 また、CPRDにおける血糖値異常の5年リスクは、モデルによって予測された最適な治療を受けなかった群に比べこれを受けた群で低かった(補正後ハザード比[aHR]:0.62[95%CI:0.59~0.64])。MACE-HF、腎疾患進行、細小血管合併症が改善 血糖値以外の長期のアウトカムについては、全死因死亡の5年リスクには差がなかった(aHR:0.95[95%CI:0.83~1.09])が、主要有害心血管イベントまたは心不全(MACE-HF、心筋梗塞、脳卒中、心不全が主な原因の入院、心血管疾患、心不全が主な原因の死亡)アウトカム(0.85[0.76~0.95])、腎疾患の進行(eGFRの40%超の低下、末期腎不全)(0.71[0.64~0.79])、細小血管合併症(臨床的に有意なアルブミン尿[尿中アルブミン/クレアチニン比>30mg/g]の進行または重度の網膜症のいずれか先に発現した病態に基づく複合)(0.86[0.78~0.96])は、いずれもモデルによって予測された最適な治療を受けた群で優れた。 著者は、「このモデルは、日常臨床で収集されるパラメータのみを使用することから、世界中のほとんどの国で、低コストで容易に臨床への導入が可能と考えられる」「このモデルの導入により、血糖コントロールの改善、追加治療による治療強化前の安定的な血糖降下療法の期間の大幅な延長、および糖尿病合併症の減少につながる可能性がある」としている。

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TTF-1陰性Non-Sq NSCLCに対するアテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセル(LOGIK2102)/日本臨床腫瘍学会

 非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とペメトレキセドを含む化学療法の併用療法が広く用いられている。しかし、TTF-1陰性の非扁平上皮(Non-Sq)NSCLCでは、ペメトレキセドの治療効果が乏しいことも報告されている。そこで、ペメトレキセドを含まないレジメンとして、アテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルの有用性を検討する国内第II相試験「LOGIK2102試験」が実施された。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)において、白石 祥理氏(九州大学病院 呼吸器内科)が本試験の結果を報告した。・試験デザイン:国内第II相単群試験・対象:TTF-1陰性(IHC)で、化学療法による治療歴のないStageIII/IVまたは再発Non-Sq NSCLC患者52例・試験群:アテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセル(4サイクル)→アテゾリズマブ(病勢進行まで)・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効割合(ORR)、奏効期間(DOR)、治療継続期間、安全性など・解析計画:PFS中央値の期待値を6.7ヵ月とし、80%信頼区間の下限値が4.5ヵ月を上回った場合に主要評価項目達成とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は68歳(範囲:41~81)、男性の割合は79%、PS0/1の割合は31%/69%であった。組織型は、腺がん/非腺がん(扁平上皮がんを含まない)の割合が63%/37%であった。臨床病期は、StageIII/StageIV/再発の割合が4%/85%/12%であった。PD-L1の発現状況は、1%未満/1~49%/50%の割合が42%/35%/21%であった。・主要評価項目のPFSについて、PFS中央値は4.9ヵ月(80%信頼区間[CI]:4.3~5.9、95%CI:4.2~6.1)であり、主要評価項目は達成されなかった。・PFSのサブグループ解析において、PS0の集団、非腺がんの集団で良好な傾向にあった。PFS中央値は、PS0の集団が6.6ヵ月(95%CI:4.3~推定不能)、PS1の集団が4.4ヵ月(同:3.6~5.9)であり、非腺がんの集団が7.2ヵ月(同:5.6~9.3)、腺がんの集団が4.2ヵ月(同:2.7~5.6)であった。・OS中央値は12.9ヵ月(95%CI:9.7~推定不能)であった。・組織型別にみたOS中央値は、非腺がんの集団が未到達(95%CI:10.3~推定不能)、腺がんの集団が10.7ヵ月(同:7.3~推定不能)であった。・ORRは56.9%(いずれもPR)であり、DOR中央値は4.4ヵ月であった。・カルボプラチン+nab-パクリタキセルを4サイクル実施した患者の割合は66%であり、アテゾリズマブを8サイクル以上実施した患者の割合は35%にとどまった。・本試験における有害事象発現状況は、既報のアテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルによる治療成績と同様であった。 本結果について、白石氏は「本試験は、TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者を対象とした初の前向き試験であったが、主要評価項目は達成されなかった。TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者の予後は不良であり、治療法の開発が必要である。今後については、TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者に対するプラチナ製剤+ペメトレキセド+抗PD-1/L1抗体のリアルワールドでの治療成績と、本試験の治療成績を比較する研究を計画・実施中である」とまとめた。なお、新規治療法の開発について、TTF-1陰性の進行・再発Non-Sq NSCLCに対するデュルバルマブ+トレメリムマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルの有用性を検討する第II相試験(WJOG17223L、TURNING試験)などが、進行中である。

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「善玉」コレステロールは緑内障リスクを高める?

 心臓の健康に良いとされるHDLコレステロール(HDL-C)は緑内障のリスクを上昇させる一方で、心臓の健康に悪いとされるLDLコレステロール(LDL-C)は緑内障リスクを低下させる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。中山大学(中国)中山眼科センターのZhenzhen Liu氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Ophthalmology」に2月4日掲載された。 Liu氏は、「HDL-Cは70年間にわたり『善玉コレステロール』と考えられてきた。しかし、この研究では、高レベルのHDL-Cが必ずしも良好なアウトカムと関連しているわけではないことが示された」と述べている。 米国心臓協会(AHA)によると、LDL-Cは肝臓から組織にコレステロールを運ぶ働きを持つが、血管内に過剰に存在すると血管壁に沈着してプラークを形成し、最終的には心臓病、心筋梗塞、脳卒中を引き起こす可能性がある。一方、HDL-Cは、余分なLDL-Cを回収して肝臓に戻し、分解を促すことで、動脈硬化を予防する働きを持つ。 研究グループによると、これまでの研究で、脂質異常症は加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症と関連付けられているものの、緑内障との関連については一貫した結果が得られていないという。緑内障は、多くの場合は眼圧の上昇により視神経が損傷を受けることで視野が欠けていく進行性の眼疾患である。 今回の研究でLiu氏らは、UKバイオバンク参加者40万229人(試験参加時の平均年齢56.40歳)のデータを分析して、一般的な血中脂質の指標(LDL-C、HDL-C、総コレステロール〔TC〕、トリグリセライド〔TG〕)と緑内障との関連を評価した。対象者は、試験開始時に脂質レベルを測定されていた。 平均14.44年間の追跡期間中に6,868人(1.72%)が緑内障を発症していた。解析の結果、HDL-Cの値が最も高いグループは、最も低いグループと比べて緑内障の発症リスクが10%高いことが示された(ハザード比〔HR〕1.10、95%信頼区間〔CI〕1.02〜1.20、P=0.014)。HDL-Cの値の1標準偏差上昇ごとの緑内障発症のHRは1.05(95%信頼区間1.02〜1.08、P=0.001)であった。これに対して、LDL-CとTGの値が最も高いグループでは、最も低いグループと比べて緑内障の発症リスクがそれぞれ8%(HR 0.92、95%CI 0.85〜0.99、P=0.030)と14%(同0.86、0.80〜0.93、P<0.001)低かった。TCと緑内障との関連は、統計学的に有意ではなかった。LDL-C、TC、TGの値の1標準偏差上昇ごとの緑内障発症のHRは、それぞれ0.96(95%CI 0.94〜0.99、P=0.005)、0.97(同0.94〜1.00、P=0.037)、0.96(同0.94〜0.99、P=0.008)であった。さらに、年齢層別に分けて解析を行うと、コレステロール値と緑内障とのこのような関連は55歳超の対象者でのみ認められ、40〜55歳の年齢層での関連は統計学的に有意ではなかった。 研究グループは、それぞれのコレステロールが緑内障のリスクに異なる影響を及ぼす理由は明らかになっていないと述べている。それでも、「これらの研究結果は、目の健康に関連した善玉コレステロールと悪玉コレステロールに関する既存のパラダイムに疑問を投げかけるものだ」と結論付けている。 さらに研究グループは、追跡調査でこれらの結果が裏付けられれば、緑内障リスクを持つ患者に対するコレステロール低下薬の使用について再評価する必要が生じるかもしれないと付言している。

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症状を電子的に報告するシステムががん患者の症状管理やQOLを改善

 電子機器を通じて週に1回、自分の症状をケアチームに知らせた進行がんの患者では、通常ケアを受けた患者に比べて生存期間の延長にはつながらなかったものの、身体機能の低下、症状の進行、健康関連QOLの低下、救急外来の初回受診までの期間が有意に遅延し、救急外来の受診回数も減少したとする研究結果が報告された。米ノースカロライナ大学(UNC)医学部教授で腫瘍内科学部長のEthan Basch氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に2月7日掲載された。 今回の研究で検討された患者報告アウトカム(patient-reported outcome;PRO)による症状のモニタリングは、電子的に提供される分かりやすいチェックリストを用いて患者が痛みや運動能力などの日常的な問題の程度を評価するもので、患者はコンピューターやスマートフォンを使って自宅にいながらケアチームにフィードバックを送ることができる。 しかし、こうしたテクノロジーは本当に患者の役に立っているのだろうか。それを明らかにするためにBasch氏らは、米国の26州、52カ所のがん治療施設を、PROによる症状モニタリングを実施する群(PRO実施群)と通常のケアを行う群(通常ケア群)に割り付ける、クラスターランダム化比較試験を実施した。試験には、転移性がん患者が計1,191人登録された(PRO実施群593人、通常ケア群598人)。これらの患者は、年齢中央値が63歳で女性が58.3%、白人が79.5%を占め、26.6%は地方に住んでいた。また、16.9%にはインターネットを利用した経験が全くなかった。 その結果、全生存期間については、PRO実施群と通常ケア群の間で統計学的に有意な差は認められなかったが、PROは患者の健康関連QOLを向上させる可能性が示唆された。以下は、研究結果の一部だ。・身体機能の低下:身体機能が低下し始めるまでの期間の中央値は、PRO実施群で12.6カ月だったのに対し通常ケア群では8.5カ月だった(ハザード比0.73、P=0.002)。・健康関連QOL:健康関連QOLが維持された期間の中央値はPRO実施群で15.6カ月、通常ケア群で12.2カ月であり、PRO使用により健康関連QOLの悪化リスクが28%有意に低下した(同0.72、P=0.001)。・救急外来の受診回数:試験登録から12カ月後までに救急外来を受診した患者の割合は、PRO実施群で48.7%、通常ケア群で54.8%であり、PRO実施群の方が6.1%少なかった。また、1人当たりの受診回数も、PRO実施群で平均1.02回、通常ケア群で平均1.30回と、前者の方が有意に少なかった。さらに、初回の救急外来受診までの期間も、PRO実施群では通常ケア群に比べて有意に延長された(同0.84、P=0.03)。・満足度:PRO実施群では、自分のケアをコントロールできていると感じた人が84%、PROによってケアチームとのコミュニケーションが改善したと答えた患者の割合も77%に上った。また、ほとんどの患者(91.4%)が他の患者にもPROを勧めたいとの考えを示した。 Basch氏は、この研究で使用されたPROシステムは、事務処理に追われることの多い医師には依存しないものであったと説明している。「PROは、症状の管理やケアのコーディネートを担うことの多い看護師や患者ナビゲーターにより管理されるシステムで、医師が介在することはほぼない。また、技術的に見ても患者にとって極めて使いやすいものであることが証明された」と同氏はUNCのニュースリリースの中で述べている。 Basch氏は、「PROシステムは、さまざまながん種で優れた成果を示した。今回の研究は進行がん患者を対象としたものであったが、将来的には早期がん患者を対象とした臨床試験が行われることが望まれる」と話している。

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うつ病歴は慢性疾患の発症を早める

 過去にうつ病と診断されたことがある人は、同年代のうつ病歴がない人に比べて中高年期に慢性疾患に罹患している可能性が高く、また、より早いペースで新たな慢性疾患を発症する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。英エディンバラ大学の統計学者であるKelly Fleetwood氏らによるこの研究は、「PLOS Medicine」に2月13日掲載された。Fleetwood氏は、「うつ病歴のある人は、ない人に比べて心臓病や糖尿病などの慢性疾患を発症しやすい」と述べている。 この研究では、UKバイオバンク参加者から抽出した17万2,556人を対象に、UKバイオバンク参加当時および追跡期間中のうつ病歴と慢性疾患との関連が検討された。対象者は、2006〜2010年にUKバイオバンクに参加し(参加時の年齢は40〜71歳)、評価を受けていた。追跡期間は平均6.9年だった。慢性疾患については、血液がん、固形がん、心筋炎、冠動脈性心疾患、脳卒中、1型および2型糖尿病、高血圧、勃起不全、アレルギー性・慢性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、認知症など69種類を対象とした。対象者の17.8%に当たる3万770人がうつ病歴を持っていた。 解析の結果、うつ病歴がある人はうつ病歴がない人と比べて、UKバイオバンク参加時に有していた身体疾患の数が多く(平均2.9個対2.1個)、また年間の新たな疾患の発症数も多いことが明らかになった(平均0.20個/年対0.16個/年)。最も発生頻度の高かった疾患は、変形性関節症(うつ病歴ありの患者15.7%、うつ病歴なしの患者12.5%)、高血圧(12.9%対12.0%)、胃食道逆流症(13.8%対9.6%)であった。年齢、性別、社会経済状況を調整した上でも、うつ病歴のある人ではない人に比べて1.3倍の速さで新たに慢性疾患を発症することが示唆された(率比1.30、95%信頼区間1.28〜1.32)。さらに、試験参加時の疾患数や生活習慣なども調整して解析すると、この差はやや縮まったものの、それでも依然としてうつ病歴のある人の方が有意に発症の早いことが確認された(同1.10、1.09〜1.12)。 こうした結果を受けて研究グループは、「これらの結果は、うつ病を『全身』の病気として捉え、それに応じて治療する必要があることを意味している」と結論付けている。 研究グループはまた、「既存の医療制度は、複数の症状を抱える個人ではなく、個々の症状を治療するように設計されている」と指摘。「うつ病と慢性疾患の両方を抱える人をケアするために、総合的なアプローチを取る医療サービスが必要だ」と述べている。

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EBウイルスが腎移植後のリンパ増殖性疾患に関与

 腎移植は命を救うことにつながり得るが、移植を受けたレシピエントの中には、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)のリスクの高い人のいることが、新たな研究で示唆された。リスクを高める元凶は、伝染性単核球症の原因ウイルスとして知られているエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)であるという。米ペンシルベニア大学病院腎電解質・高血圧部門のVishnu Potluri氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に1月28日掲載された。 PTLDは、臓器移植後などに免疫抑制療法を受けている患者に発生する異常なリンパ増殖性疾患の総称である。EBVは、PTLDのほかにもいくつかのがんのリスクに関連することが示されている。米国では、EBVに感染しているか感染歴を持つ成人の割合は90%以上に上る。過去の研究では、EBV感染歴のないレシピエントがEBV感染ドナーからの臓器を移植された場合、1〜4%がPTLDを発症する可能性のあることが示唆されている。しかし、この推定値は詳細なデータが不足した限られた情報に基づいたものであった。 Potluri氏らはこの研究で、米国の大規模移植センター2施設のデータを分析した。対象として、ドナーがEBV陽性でレシピエントがEBV陰性(EBV D+/R−)のケースと、ドナー、レシピエント、および移植の特徴が類似したドナーとレシピエントの双方がEBV陽性(EBV D+/R+)のケースを1対3の割合で選び出した(EBV D+/R−レシピエント104人、EBV D+/R+レシピエント312人、平均年齢42歳)。 EBV D+/R−レシピエントの48.1%(50人)が移植から中央値で198日後にEBV DNAemia(EBVのDNAが血中で検出される状態)を発症し、22.1%(23人)は移植から中央値で202日後にPTLDを発症していた。また、同レシピエントでは、あらゆる原因による生着不全率が有意に高く(ハザード比2.21、95%信頼区間1.06~4.63)、死亡率も高かったが、統計学的に有意ではなかった(同2.19、0.94~5.13)。 研究グループは、これらのデータに基づくと、成人の腎移植症例の最大5%、年間1,200人に上る患者がPTLDを発症する可能性があることになり、この値は、全米の登録データに基づく従来の推定値よりも5~10倍高いと指摘している。Potluri氏は、「臓器のドナーやレシピエントのウイルス曝露歴の追跡において不完全な報告やミスがあるため、全米登録データではPTLDの発症率が過小評価されている可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 共同研究者の1人で、論文の上席著者である米ピッツバーグ大学腎電解質部門のChethan Puttarajappa氏は、「PTLDがレシピエントの生存にもたらす重大な脅威、さらに今回の研究の結果と先行データの間に大きな開きが存在することを考慮すると、われわれの研究は、この脆弱な移植患者集団の安全性と生存率を向上させるためのさらなる研究を優先して行うことを喚起する役割を果たすものだといえる」と話している。 この研究結果は、腎移植患者のEBVとPTLDのモニタリングのあり方を変える時期に来ていることを示唆している。論文の共著者の1人である、ペンシルベニア大学医学部のEmily Blumberg氏は、「われわれは、患者のEBV感染のモニタリング方法と、これらの高リスク患者に対する免疫抑制の管理方法を再考する必要がある。これには、早期からルーチンでEBV検査を行うこと、個別化した免疫抑制療法の調整を検討することが含まれる」と述べている。 米国ではEBVのスクリーニング率は施設によって異なり、多くの施設は腎移植後のEBVスクリーニングをルーチンで実施していない。

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活動性ループス腎炎に対する新しいタイプの抗CD20抗体の治療効果(解説:浦信行氏)

 活動性ループス腎炎(LN)は全身性エリテマトーデス(SLE)の中でも重症病態の1つであり、LN患者の約20%が15年以内に末期腎不全に至る。B細胞はSLE発症の重要なメディエーターであるが、この病原性B細胞の減少を来すことがSLEの治療となりうる可能性が以前から指摘されていた。 CD20はB細胞の表面に存在するタンパク質で、B細胞の活性化や増殖に関与する細胞表面マーカーである。この病態に対する治療的アプローチとして、当初はタイプI抗CD20モノクローナル抗体(mAb)であるリツキシマブ(RTX)が検討された。しかし、臨床試験においてその評価は無効とするものもあり、有効とするものでも反復投与例に、B細胞の枯渇が不完全な二次無効が存在することが報告されている。 今回は、タイプIIヒト化CD20mAbのオビヌツズマブの臨床試験の成績が報告された。その結果は2025年2月20日配信のジャーナル四天王に詳しく紹介されているので詳細はここでは述べないが、大変良好な効果を示す成績であった。タイプI抗体は、CD20と結合後Fc受容体IIBを介して細胞内移行するためCD20発現低下となり、部分的にRTXの作用を免れてB細胞が残ってしまうため効果が減弱し、二次無効を来すことが知られている。タイプII抗体のオビヌツズマブのCD20の細胞内移行率は低く、より効果的にB細胞枯渇を達成できることが両者の差異である。少数例の研究ではあるが、SLEに対するRTXの二次無効例に対してオビヌツズマブ投与が著効を示したとの報告もある。

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肺機能に有利なビタミンはどれ?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第277回

肺機能に有利なビタミンはどれ?ここで、問題です。肺機能に最も有利なビタミンは何でしょうか。「うーん、ビタミンCかビタミンBかなあ…」……違います!Chen YC, et al. Associations between vitamin A and K intake and lung function in the general US population: evidence from NHANES 2007-2012. Front Nutr . 2024 Sep 20;11:1417489.1つ目の研究は、ビタミンAとKの摂取と肺機能の関係を評価することを目的としたものです。この横断的研究は、20~79歳の成人を対象とし、2007~12年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを利用しました。肺機能は、1秒量(FEV1)、努力肺活量(FVC)、そしてこれらの比である1秒率(FEV₁/FVC)を測定することで評価しました。ビタミンAとKの摂取と結果の関連性を判断するために回帰モデルが用いられました。1万34人の参加者(米国の成人1億4,296万5,892人)のデータが分析された。関連する交絡因子を調整した後、多変量解析により、ビタミンA摂取量の1µg/日の増加ごとに、FEV1が0.03mL増加(p=0.004)し、FVCが0.04mL増加すること(p<0.001)と関連していることが明らかになりました。さらに、ビタミンK摂取量の1µg/日の増加ごとに、FEV1の0.11mL増加と有意に関連していました(p=0.022)。1秒率や気道閉塞とは関連していませんでした。以上のことから、アメリカの比較的健康な集団では、ビタミンAまたはKの摂取量が多いと、スパイロメトリーで評価した肺機能の向上と独立して関連していることが示されました。Mongey R, et al. Effect of vitamin A on adult lung function: a triangulation of evidence approachThorax. 2025 Feb 12. [Epub ahead of print]2つ目の研究は、観察データと遺伝子データの両方から得たエビデンスから、成人の肺機能に対するビタミンAの影響を調査することを目的とした、UKバイオバンクの解析です。食事によるビタミンA摂取量(総ビタミンA、カロチン、レチノール)とFVC、1秒率との関連性を調査しました。次に、メンデルランダム化を使用してこれらの関連性の因果関係を評価し、ビタミンAに関連する39の遺伝子が成人の肺機能に与える影響と、ビタミンA摂取量との相互作用を調査しました。その結果、観察分析では、カロチン摂取量とFVCのみ(100µg/日増加ごとに13.3mL、p=2.9×10-9)の間に正の相関が見られ、喫煙者では相関が強いものの、レチノール摂取量とFVCまたは1秒率との相関は見られませんでした。メンデルランダム化でも同様に、血清βカロチンがFVCのみに有益な効果を示し、血清レチノールがFVCにも1秒率にも影響を与えないことが示されました。―――というわけで、上記2つの研究からは、ビタミンAのカロチンが最も肺にイイ!ということになりますね。

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