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過剰な塩分摂取は男性の記憶力を低下させる?

 ソルトシェーカー(塩入れ)に手を伸ばすことは、記憶力や脳の健康に長期的な影響を与えるかもしれない。新たな研究で、ナトリウムの摂取量が多いことは、過去の個人的な経験や特定の出来事についての記憶である「エピソード記憶」に悪影響を及ぼす可能性があることが明らかになった。こうした影響を受けやすいのは主に男性であり、女性では同様の関連は認められなかったという。エディス・コーワン大学(オーストラリア)のSamantha Gardener氏らによるこの研究の詳細は、「Neurobiology of Aging」6月号に掲載された。 Gardener氏は、「男性の研究参加者は、血圧も高めだった。血圧はナトリウム摂取の影響を受ける。アルツハイマー病の発症を遅らせる上で、男女別のアプローチや修正可能な生活習慣要因としてのナトリウム摂取の位置付けに関しては、今後さらなる研究が必要だ」とニュースリリースで述べている。 Gardener氏らはこの研究で、認知機能が正常な1,208人(平均年齢70.87歳、男性41%)を対象に、自己報告による試験開始時のナトリウム摂取量と72カ月間での認知機能低下との関連を検討した。認知機能は、エピソード記憶、再認、実行機能、言語、注意力、前臨床アルツハイマー病認知複合(PACC)の6領域を評価するバッテリーを用いて、研究開始時および18カ月間隔で行われた計4回の追跡調査時に評価された。 その結果、ナトリウム摂取量が多いほどエピソード記憶の低下が速いという関連が認められ、この関連は統計学的に有意であった。一方、女性では、ナトリウム摂取と認知機能低下の関連は確認されなかった。さらに、対象者をアルツハイマー病リスクに関わるApoE遺伝子保有の有無で分けて解析しても、この関連に明確な差は認められなかった。 ただし、この研究はこうした関連を説明する要因の解明を目的としたものではなく、ナトリウム摂取と記憶力の間に直接的な因果関係があることを示すものではないとGardener氏らは指摘している。 Gardener氏は、「この研究結果から、ナトリウム摂取量の多さと認知機能との関連を示す初期的なエビデンスが得られた。ただし、このような関連が成り立つ機序や要因について完全に解明するには、さらなる研究が必要だ。これまでの研究でも、ナトリウム摂取量が多いことが認知機能低下に関連する脳内のプロセスに関与している可能性が示唆されていた。しかし、その基盤となるメカニズムを解明し、将来的に認知症リスクの低減を目指した食事の指針に反映させるには、より詳しく調べることが不可欠だ」と付け加えている。 なお、米国では1日当たりのナトリウム摂取量を、食品に含まれる分と添加する食塩に含まれる分を合わせて2,300mg未満に抑えることが推奨されている。Gardener氏らによると、ナトリウム約2,000mgは、食塩小さじ1杯、ピザ3~4切れ、ハンバーガー2個、または加工肉食品5~6オンス(約140~170g)などでこの量に達する可能性があるという。

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男性の生殖能力低下、一部のがんリスク上昇と関連

 男性不妊症が一部のがんのリスクと関連しているとする研究結果が報告された。ルンド大学(スウェーデン)のMichael Kitlinski氏らが、1973年以降に同国内で生まれた全ての人の医療記録(Medical Birth Register;MBR)を用いて明らかにしたもので、研究結果は「European Journal of Epidemiology」に2月21日掲載され、4月16日に同大学からリリースが発行された。リリースにおいてKitlinski氏は、「生殖能力が低下している男性は、自然妊娠で父親になった男性と比べて、大腸がんのリスクは約2倍であり、甲状腺がんのリスクは約3倍であることが分かった」と述べている。 研究者らは、今回の結果は、男性の生殖能力の低下とさまざまな健康問題との関連を示した先行研究結果を裏付けるものだとしている。先行研究では、精液中に精子が全く存在しない男性は疾患リスクが高い傾向にあり、精子の質が高い男性は平均寿命の長い傾向が示唆されている。論文の上席著者である同大学のAngel Elenkov氏は、「遺伝子レベルの異常が精子の質の低下として現れる場合、生殖機能以外の身体システムにも影響が及び、疾患リスクの高まる可能性がある」と説明している。 今回の研究では、1994~2014年にスウェーデン国内で第一子をもうけた男性118万1,490人のうち、解析に必要なデータのない男性やパートナーの妊娠前にがんの既往のあった男性などを除外した113万7,829人を解析対象とした。このうち1万4,540人が顕微授精(ICSI)または精子提供により父親になった。これらを生殖能力低下の代理指標として、自然妊娠で父親になった男性との間で健康状態を比較した。パートナーの妊娠が成立した時の年齢は、生殖能力低下群が中央値35歳、自然妊娠で父親になった群(対照群)は同31歳だった。がんのリスクは、年齢、パートナーの妊娠が成立した時期、教育歴の影響を調整し、対照群を基準として解析した。 その結果、生殖能力低下群は大腸がんのリスクが2倍に近く(結腸がんの調整ハザード比〔aHR〕が1.7〔95%信頼区間1.1~2.7〕、直腸がんはaHR1.8〔同1.1~3.0〕)、甲状腺がんのリスクは約3倍だった(aHR3.3〔1.7~6.2〕)。ただし研究者らは、精子の質が低く生殖能力が低下している男性では、がんの相対的なリスクが高いものの絶対リスクは低く、若い世代では発がん自体がまれであると指摘している。 Elenkov氏は、「不妊の検査を受ける男性は大半が30~35歳であり、検査はその世代の男性が父親になるのをサポートすることを目的に行われている。そのため、妊娠が成立した後に男性の健康状態をフォローアップすることはほとんどない」と指摘。その上で同氏は、「大腸がんや甲状腺がんが若年層で増加傾向にあることを考えると、公衆衛生という観点から、われわれの研究結果が重要な意味を持ってくる。これらのがんは、早期診断によって転帰を改善できる可能性がある」と付け加えている。 なお、大学発のリリースの中で研究者らは、今回の研究結果が、「男性不妊症の治療ががんの原因となることを意味するものではない」と強調している。

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複数ドナー由来の細胞製剤追加で臍帯血移植に有望な結果

 白血病などの血液悪性腫瘍の患者に対する臍帯血移植で、通常の単一臍帯血移植に加えて、複数ドナー由来の臍帯血を用いて製造された細胞製剤を追加投与する方法が有効である可能性が、臨床試験で示された。小規模な患者集団において、通常の臍帯血製剤の投与後にこのような幹細胞製剤を投与したところ、ほとんどの患者で重度の移植片対宿主病(GVHD)は認められず、28人中27人が少なくとも1年間生存したことが確認されたという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターの臍帯血プログラム部門長のFilippo Milano氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Clinical Oncology」に4月27日掲載された。Milano氏は、「移植患者が実質的に9人の異なるドナー由来の細胞の移植を受けたのは、これが初めてだ」とニュースリリースで述べている。 臍帯血移植は、幹細胞移植を必要とする血液がんやその他の血液疾患患者に対する治療選択肢の一つである。幹細胞移植とは、造血機能を再構築する治療法である。臍帯血に含まれる幹細胞は、白血球の型(HLA〔ヒト白血球抗原〕)が完全に一致していなくても比較的安全に実施できるため、適合するドナーが見つからない患者にとって有力な選択肢となる。ただ、単一の臍帯血ユニットでは含まれる細胞数が少ないため、造血機能の回復が遅いことが課題であるという。 研究グループは、今回の第2相臨床試験に白血病などの血液悪性腫瘍の患者28人を登録し、HLA適合単一ユニットの臍帯血移植後に、新たな幹細胞製剤であるdilanubicelを投与した。Deverra Therapeutics社が製造するdilanubicelは、6~8ユニットの異なるドナー由来の造血前駆細胞を組み合わせた製剤で、実験室内で培養・増殖させた後、患者に投与される。 その結果、全ての患者で、好中球は中央値18日、血小板は中央値31日で回復が確認された。臍帯血移植片由来のリンパ球の早期増殖は9日目までに認められ、11日目にピークに達した。グレード3~4の急性または慢性GVHDは認められなかった。追跡期間中央値1.4年の時点で、28人中27人が生存しており、再発・病勢進行は認められていなかった。1人の患者が死亡した。別の患者では、移植の約1年後に再発が認められたが、追加治療により寛解に至り、その状態が1年以上維持されているという。 Milano氏は、「プールされたドナー由来の幹細胞製剤に含まれる細胞が長期にわたって残存することはなかった。しかし、これらは全て、適合ドナー由来の臍帯血が患者に新しい健康な免疫システムを確立するのを支えた」と述べている。 研究グループは現在、より多くの患者を対象とした追加の臨床試験の実施に向けて、資金調達を進めている。「幹細胞移植が必要な人、特に高リスク疾患を抱える患者にとって、臍帯血が重要な選択肢であることに変わりはない」とMilano氏は話している。

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眼底写真を基にした「網膜年齢」が健康状態を知る手がかりに?

 目は心の窓であるだけでなく、その人の健康状態を映し出す窓でもある――そんな研究結果が発表された。この研究によると、網膜の早期老化は、糖尿病や心疾患といった重大な病気の兆候となる可能性があるという。東北大学大学院医学系研究科眼科学分野教授の中澤徹氏らによるこの研究結果は、「Communications Medicine」に4月8日掲載された。 網膜は、眼球の奥にある光を感知する細胞層である。研究グループによると、網膜は血管や神経の状態を非侵襲的に観察できる部位であることから、眼の画像データを解析して全身の健康状態や疾患リスクを読み解く「オキュロミクス」と呼ばれる新たな研究領域が注目を集めている。 今回の研究で中澤氏らは、健康診断で撮影された疾患のない2万7,214人の眼底写真5万595枚を用いて、「網膜年齢」を推定する人工知能(AI)モデルを開発した。モデルは年齢推定に加え、過去2〜3カ月間の平均的な血糖状態を反映するHbA1cを学習させるマルチタスク学習と、5つのAIモデルの予測結果を組み合わせて最終的な予測を行うアンサンブル学習を組み合わせる設計とした。その後、別の疾患のない成人から得られた7,288枚の眼底写真を用いて年齢予測能を検証した(内部検証)。モデルの性能は平均絶対誤差(実年齢と推定網膜年齢の平均誤差)を用いて評価された。 その結果、内部検証での平均絶対誤差は2.78歳であり、独立した135眼の眼底写真を用いた外部検証での平均誤差は3.39歳、海外の外部集団4,992眼の眼底写真を用いた検証での平均誤差は8.63歳であった。また、5つのモデルの予測のばらつきが中央値より小さい場合には、年齢予測の精度が高くなる傾向が認められた。さらに、全身性疾患を有する8,467人のコホートにおいて、網膜年齢ギャップ(推定網膜年齢と実年齢の差)は、糖尿病、心疾患、脳卒中の既往がある人では有意に大きく、これらの疾患のある人では、網膜が実年齢より「老けて見える」可能性が示唆された。 研究グループは、こうした画像のAI解析は、定期健診の中で病気の早期発見に役立つ可能性があるとしている。中澤氏は、「眼底画像は定期的な健康診断の一環として撮影される非侵襲的な検査であり、新たに何かをする必要はほとんどない。このAIモデルは、臨床現場の通常の診療フローにほぼそのまま組み込めるだろう」とニュースリリースで述べている。 中澤氏はさらに、「現在、1万人以上を対象に3年間追跡するコホート研究を計画しており、網膜年齢に関する指標が将来的な心血管疾患やその他の全身疾患の発症と関連するかを検証する予定である」と述べている。

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久しぶりの学会【Dr. 中島の 新・徒然草】(632)

六百三十二の段 久しぶりの学会暑くなってきました。昔の大阪医療センターには「冷房を入れるのは7月になってから」という謎ルールがあったと記憶しています。が、地球温暖化のせいか、そうも言ってられなくなりました。今は一定の気温を超えたら5月でも冷房が入るようになっています。当然といえば当然の話ですね。さて、春の学会シーズン。久しぶりに全国規模の学会に出席しました。会場が京都なので、日帰り出張の繰り返しです。もう朝から晩まで参加する体力もなくなってしまったので、途中から出席して途中で帰る毎日。今回から、京都までの行き帰りには新幹線を使うようになりました。新大阪・京都間は新幹線を使うとわずか13分!隣の駅なので、こだまに乗ってものぞみに乗ってもあまり時間は変わりません。なんといっても体力的に楽です。これが在来線だと25分前後かかるので、近距離であっても新幹線の威力は絶大でした。というわけで、京都に行くなら新幹線一択という気がします。話を戻しましょう。今回出席した日本脳神経外科コングレス総会の使命の1つは、若手脳外科医の教育です。とくに、夏の専門医試験に備えて受験生が勉強する場を提供する、というのが今も昔も変わらぬパターン。ところが、診断にしても治療にしても学問が進み過ぎてしまったのか、とにかく難しい!自分が30数年前に受験した時の10倍くらいの知識量が必要なんじゃないかと思わされました。考えてみれば、各演者はその道のトップなのだから、講演内容が難しいのは当たり前ですね。一方、案外面白かったのが他領域の話です。認知症のBPSDに対する治療とか、消化器外科のロボット手術とか。「へえー!」と思わされることがたくさんありました。たとえば消化器外科におけるバイポーラの使い方。私は皮弁の止血の時なんかは「パチン」「パチン」と音が出るまで景気よく通電していましたが、理屈の上では音の出る直前で通電を止めるのが正しいのだそうです。パチンと音がした時点で組織が破砕されてしまうので、止血効果が劣るのだとか。知らなかった。どうもすみません。ただ、自らの手術を振り返ってみるに、顕微鏡手術の時は慎重に少しずつ通電して音はさせていませんでした。つまり、繊細な部位では無意識に正しい使用法を実行していたことになります。よかった!こういった基本的なことでも、まだまだ知らなかったことがいっぱい。あらためて「勉強こそ人生最大の道楽」と思った次第です。これからも近場の学会にはできるだけ出席しようと思います。最後に1句 夏の京 賢くなったぞ またひとつ

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5月21日 ニキビの日【今日は何の日?】

【5月21日 ニキビの日】〔由来〕「いつ(5)も、ニ(2)キビは、皮(1)膚科へ」と読む語呂合わせから、ニキビ(尋常性ざ瘡)について理解を深め、皮膚科で治療できることを知ってもらうことを目的に2010(平成22)年に塩野義製薬が制定し、マルホに引き継がれている。この日にはさまざまな企業がニキビやスキンケアに関する啓発活動を行っている関連コンテンツ尋常性ざ瘡【患者説明用スライド】尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」【最新!DI情報】Cutibacterium acnes(C. acnes)【1分間で学べる感染症】尋常性ざ瘡へのisotretinoin、自殺・精神疾患リスクと関連せずざ瘡に期待できる栄養補助食品は?

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第62回 コンゴでエボラ流行、87人死亡。私たちが知らない落とし穴

2026年5月17日、世界保健機関(WHO)は、アフリカ・コンゴ民主共和国の東部イトゥリ州で発生しているエボラ出血熱の流行を、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言しました1)。アフリカ連合によれば、すでに87例が亡くなり、疑い例を含めると336例の感染が判明しているとされています。隣国ウガンダではコンゴ人男性の死亡例もすでに報告されており、周辺国への波及が強く警戒される事態となっています2)。「またエボラ?」と思った方も多いかもしれません。「エボラのワクチンはあるって聞いたけど、どうして今も流行を抑えられないんだろう?」そんな素朴な疑問を抱いた方もいるかもしれません。実は、今回のニュースを少し立ち止まって整理してみると、その「あるはずのワクチン」の話に、知っておきたい大切な落とし穴が隠れています。そもそもエボラとは、どんな病気?エボラウイルス病は、フィロウイルス科に属するエボラウイルスによって引き起こされる感染症です。潜伏期間はおよそ6〜12日(最短2日、最長21日)で、発症後は突然の発熱、激しい頭痛、筋肉痛、倦怠感など、決して特徴的とはいえない症状から始まります3)。数日のうちに嘔吐や下痢が加わり、大量の体液の喪失をきたすことが、その病態の中心になります。「出血熱」という名前が独り歩きしている感がありますが、実際には出血が目立つ患者さんは少数派で、多くは脱水と臓器の障害、ショックで命を落とします3)。致死率は流行ごとに大きく異なります。1976~2022年までの集計によれば、ザイールウイルスで約66.6%、スーダンウイルスで約48.5%、そして今回コンゴで検出されたブンディブギョウイルスでは約32.8%とされています4)。「3割」と聞くと低く感じるかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の致死率が1%前後であったことを思えば、いかに恐ろしい数字かが分かるかと思います。感染は、症状のある患者さんや亡くなった方の血液・体液との直接接触によって起こります。空気感染はしません。つまり、感染拡大の主役となるのは、家族の看病、葬儀での遺体への接触、そして十分な防護具なしで治療にあたる医療者です3)。逆にいえば、「症状のない人」からはうつらない。これも知っておきたい大切なポイントです。なぜ「緊急事態宣言」がそんなに重い意味を持つのかWHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言するのは、その感染症が「国境を越える拡大リスクがあり、国際協調的な対応が必要」と判断されたときに限られます。これまでに発令されたのは、新型インフルエンザ(H1N1)、ポリオ、エボラ(西アフリカ流行、東部コンゴ流行)、ジカウイルス、新型コロナウイルス、エムポックスなど、ごく限られた事例です。つまりPHEICは、「世界中で警報を共有しましょう」「物資、人材、検査体制を国際的に動かしましょう」という、最上位レベルの号令です。今回もWHOは、コンゴと国境を接するウガンダや南スーダンへの飛び火を念頭に、検査強化や接触者追跡の必要性を強く訴えています2)。日本に直接的な影響が及ぶ可能性は現時点では高くはないものの、グローバル化した現代において、こうした宣言を「対岸の火事」と片付けるのは適切ではないと、私は考えています。エボラに対する承認済みのワクチンは?実は、エボラに対しては承認済みのワクチンがあります。「rVSV-ZEBOV(商品名:Ervebo)」と呼ばれるもので、2019年に欧米で承認され、その後アフリカ複数カ国でも使用が認められました。すでに30万人を超える人に接種されています5)。流行が発生すると、患者の接触者と、そのまた接触者にワクチンを打つ「リング・ワクチネーション」という戦略が用いられ、実際の流行抑制に効果を上げてきました6)。では、なぜ今回はそれができないのでしょうか。実は、承認されているErveboは、エボラウイルスの中の「ザイールウイルス」専用のワクチンであり、今回検出された「ブンディブギョ株」に対する有効性は確立されていないのです5)。エボラウイルス属にはザイール、スーダン、ブンディブギョ、タイフォレストなど複数の種が含まれ、それぞれ抗原性(ウイルスの顔立ち)が異なります。実験動物のデータでも、ザイールウイルス向けワクチンはスーダンウイルスにはうまく反応しないことが示されており、ウイルスが違えば効果はなくなる、というのが現実です5)。承認されている治療薬(atoltivimab/maftivimab/odesivimab[商品名:Inmazeb]やansuvimab[商品名:Ebanga]など)も同様に、ザイールウイルスにのみ有効性が確認されている薬剤です5)。ではなぜ、ブンディブギョ向けのワクチンが整備されてこなかったのか。理由は単純で、これまでブンディブギョの流行が散発的かつ小規模で、製薬開発の優先順位がどうしても下がってきたからです。2014年の西アフリカ大流行(約2万9,000例感染)が世界を震撼させ、Erveboの開発が一気に進んだことを思えば、対照的な状況といえます5)。これは「市場原理だけにワクチン開発を委ねるとどうなるか」という、グローバルヘルスにおける古くて新しい問題でもあります。流行が起きるまで開発の動機が生まれず、いざ流行すれば「ワクチンがない」と慌てる。この繰り返しを断ち切るために、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)など国際的な枠組みが動いてはいますが、まだ十分とは言いがたいのが実情です。日本に住む私たちが今すぐエボラそのものを過剰に恐れる必要はないでしょう。感染経路は限定的で、症状のない人からは感染しないからです。ただ、海外渡航前後の発熱を安易に放置しないこと、そして「アフリカで起きていることは、いずれ自分たちの問題にもなり得る」という視点を持つことは、パンデミックの時代に大切な姿勢かもしれません。今回のニュースは、感染症が今なお人類にとって克服しきれない相手であること、そして国家間で協力してワクチン開発を進める難しさを、改めて教えてくれているように思います。 1) WHO. Epidemic of Ebola Disease caused by Bundibugyo virus in the Democratic Republic of the Congo and Uganda determined a public health emergency of international concern. 2026 17 May. 2) 共同通信. コンゴのエボラ熱、緊急事態宣言 WHO、東部の州で死者87人. 2026年5月17日. 3) Bray M, et al. Clinical manifestations and diagnosis of Ebola disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 4) Izudi J, et al. Case fatality rate for Ebola disease, 1976-2022: A meta-analysis of global data. J Infect Public Health. 2024;17:25. 5) Chertow DS, et al. Treatment and prevention of Ebola and Sudan virus disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 6) Muyembe JJ, et al. Ebola Outbreak Response in the DRC with rVSV-ZEBOV-GP Ring Vaccination. N Engl J Med. 2024;391:2327.

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日本人成人の1日の食事の料理数と心血管疾患リスクの関連

 日本食の「一汁三菜」に代表される、料理の品数が多い食習慣は、心血管疾患による死亡率の低下など、日本人の健康長寿に寄与する因子として注目されている。今回、北海道大学の高林 早枝香氏らが2018〜19年の国民健康・栄養調査のデータを用いた横断研究を行った結果、1日の全食事の料理の数(NDAM)が多い食習慣は、脂質異常症や肥満、高血圧などの心血管リスク因子の低下と関連している可能性が示された。Nutrition Journal誌2026年5月号に掲載。 本研究は、2018〜19年の国民健康・栄養調査に参加した20歳以上の男女2,900人を対象とした横断研究である。NDAMは、飲料を除くすべての料理および食品を含む1日の食事記録(秤量記録法)に基づいて算出された。性別ごとにNDAMに基づいて参加者を4つのグループに分類した。年齢、一人暮らし、居住地域、職業、運動習慣、喫煙習慣、飲酒習慣、総エネルギー摂取量を調整したポアソン回帰モデルを用いて、多変量相対リスクを推定した。 主な結果は以下のとおり。・NDAMが高い参加者は、高齢、非喫煙者、身体活動量が多い傾向があった。・男性では、NDAMが最も少ないグループ1よりNDAMが多いグループ2~4は脂質異常症のリスクが有意に低かった。・女性では、NDAMが最も少ないグループ1と比較して、最も多いグループ4は過体重・肥満リスクが有意に低かった。さらに、NDAMが中程度のグループ2~3では、最も少ないグループ1と比較して高血圧のリスクが低かった。・しかしこれらの関連は、ボンフェローニ補正後には統計学的有意性を維持しなかった。 本結果から、著者らは「料理の品数が多い食事は、日本人成人においていくつかの心血管リスク因子と逆相関している可能性がある」と結論している。

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抗精神病薬+SSRIの併用による突然死や心室性不整脈リスクはどの程度か

 抗精神病薬と選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、それぞれ心室性不整脈または突然死のリスク増加と関連しているといわれている。両薬剤の併用は、リスクをさらに高める可能性があるものの、その臨床的エビデンスは限られている。国立台湾大学のHsiu-Ting Chien氏らは、抗精神病薬とSSRIが併用されている患者における心室性不整脈または突然死のリスクを評価するため、本研究を実施した。JAMA Network Open誌2026年4月1日号の報告。 本研究では、逐次ターゲット試験エミュレーション法を用いて、米国(2010~23年)および台湾(2010~21年)の医療保険データベースの保険請求データを分析した。過去1年間にSSRIを使用しておらず抗精神病薬治療を開始した成人を対象に、抗精神病薬投与開始後1~52週目のSSRI開始の有無を毎週評価した。その評価に基づき、SSRI投与開始群または非開始群に分類した。新規で抗精神病薬治療を開始した患者におけるSSRI投与開始後1年間の心室性不整脈または突然死のリスクを評価するため、52週にわたる試験をエミュレーションした。逆確率重み付けと時間変動共変量の調整を用いたプロトコール順守解析法を適用した。主要アウトカムは、心室性不整脈または突然死の発生とした。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は、ロバスト分散推定量を用いた加重プールロジスティック回帰モデルを用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・米国コホートでは30万7,818例(被験者数:437万289例、平均年齢:46.6±18.8歳、女性:276万4,180例[61.2%])、台湾コホートでは19万1,080例(被験者数:215万639例、平均年齢:51.0±18.3歳、女性:118万4,464例[55.1%])が適格基準を満たした。・調整済みコホートにおいて、SSRI投与を開始した患者は、米国では5万2,825例(17.2%)と台湾では2万5,203例(14.7%)であった。・抗精神病薬とSSRIの併用と抗精神病薬単独投与を比較した場合の調整HRは、米国では1.51(95%CI:1.04~2.19)、台湾では3.32(95%CI:2.26~4.88)であった。・高リスクなSSRIであるシタロプラムとエスシタロプラムの調整HRは、それぞれ2.20(95%CI:1.39~3.46)と2.84(95%CI:1.75~4.62)であった。・感度分析では、主要結果のロバスト性が支持された。陽性対照および陰性対照分析では、残存交絡が限定的であることが示唆された。 著者らは「米国と台湾で抗精神病薬投与を開始した成人を対象としたこのコホート研究では、抗精神病薬使用者におけるSSRI投与開始は、心室性不整脈または突然死のリスク増加と関連していた。これらの事象はまれではあるものの、その重篤性を考慮すると、両薬剤の併用療法は慎重に検討する必要がある」としている。

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T2D合併肥満患者、セマグルチドvs.減量手術

 糖尿病(T2D)と肥満を合併する患者が多いことはよく知られている。こうした患者では、肥満治療薬と減量手術のどちらを利用し、その医療費、臨床転帰はどのようになるだろう。このテーマについて、米国のニューヨーク大学グロスマン医学部公衆衛生学科のKaran R. Chhabra氏らの研究グループは、T2Dと肥満を合併する患者におけるセマグルチドと減量手術の費用と臨床転帰の比較を検討した。その結果、減量手術は3年間の自己負担額が少なく、総医療費は同程度であり、長期的な主要心血管イベント(MACE)発生率も低いことが示された。Obesity誌オンライン版2026年5月6日に掲載。治療効果、コストパフォーマンスで肥満治療法を比較すると 研究グループは、2016~21年のMarketScan保険請求データを用いて、BMIが35以上のT2D患者を抽出した。対象者について、セマグルチド、スリーブ状胃切除術、または胃バイパス術の選択と、3年間の医療費(自己負担額および総医療費)、および臨床転帰(救急外来受診、入院、MACE)との関連性を検討し、解析は、一般化線形モデル、逆確率重み付け(IPTW)、および操作変数法を用いて調整した。 主な結果は以下のとおり。・6,748例の患者(セマグルチド群2,797例、スリーブ状胃切除術群2,300例、胃バイパス術群1,651例)を検討した。・対象者のうち肥満外科手術を受けた患者はBMIが高く、併存疾患も多かった。・IPTW調整解析では、セマグルチド群は3年間の自己負担額が最も高かった(セマグルチド群7,752ドルvs.スリーブ状胃切除術群5,980ドルvs.胃バイパス術群6,591ドル、p<0.001)が、総支出額は各群間で統計学的に有意な差は認められなかった。・セマグルチド群と比較して、胃バイパス術群では救急外来受診回数(ハザード比 [HR]:1.36、95%信頼区間[CI]:1.28~1.45)および入院回数(HR:1.25、95%CI:1.13~1.37)が有意に多く、MACEの発生率は有意に低かった(HR:0.71、95%CI:0.59~0.88)。・スリーブ状胃切除術は、長期入院率(HR:0.79、95%CI:0.72~0.86)およびMACE発生率(HR:0.79、95%CI:0.66~0.93)の低下と関連していた。 この結果から研究グループは、「T2Dと肥満を有する患者においては、セマグルチドと比較して、減量手術は3年間の自己負担額が少なく、総医療費は同程度であり、長期的なMACE発生率も低いことが示された」と結論付けている。

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中等症脳梗塞、血栓溶解療法への早期DAPT追加は有効か/Lancet

 発症後4.5時間以内に静注血栓溶解療法を受けた中等症の虚血性脳卒中患者において、発症後6時間以内の経口抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の開始により、90日時点の機能的アウトカムの改善が得られる可能性が示された。中国・首都医科大学のAnxin Wang氏らTAPIS Investigatorsが、同国で実施した二重盲検プラセボ対照試験「TAPIS試験」の結果を報告した。急性期虚血性脳卒中の患者に対して、静注血栓溶解療法に抗血小板療法を早期に追加することを支持するエビデンスは得られていなかった。Lancet誌2026年5月16日号掲載の報告。中国の60病院で試験、90日時点の優れた機能的アウトカムを評価 TAPIS試験は、中国の60病院で、発症後4.5時間以内に静注血栓溶解療法を受けた、National Institutes of Health Stroke Scaleスコア4~10の虚血性脳卒中患者を登録して行われた。 研究グループは被験者を発症後6時間以内(血栓溶解療法の前・中・後のいずれか)に、経口投与のアスピリン100mg錠1錠+チカグレロル90mg錠2錠(早期DAPT)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。早期DAPT群は1日目および2~7日目にチカグレロルを投与され、2~90日目は両群に非盲検下でアスピリン100mg錠1錠が投与された。患者、診療担当医、治験責任医師は割り付けを盲検化された。 有効性の主要アウトカムは、90日時点の優れた機能的アウトカム(修正Rankinスケールスコア0~1)。安全性の主要アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血であった。有効性の評価に有意差、ただし症候性頭蓋内出血のリスク増大は排除できない 2024年4月3日~2025年9月30日に、1,382例が早期DAPT群(690例[49.9%])、プラセボ群(692例[50.1%])に無作為化された。年齢中央値は65.6歳(四分位範囲:58.3~72.0)、男性991例(71.7%)、女性391例(28.3%)であった。 90日時点で、早期DAPT群474例(68.7%)、プラセボ群429例(62.0%)で優れた機能的アウトカムを達成した(リスク比[RR]:1.11、95%信頼区間[CI]:1.03~1.20、p=0.0089)。 36時間以内の症候性頭蓋内出血の発現は、早期DAPT群6例(0.9%)、プラセボ群5例(0.7%)で報告された(RR:1.20、95%CI:0.37~3.93、p=0.76)。 結果を踏まえて著者は、「症候性頭蓋内出血に関しては対照群との有意差は認められなかったが、CI値の範囲が大きく、リスク増大への懸念を排除することはできない」と述べている。

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IgA腎症へのtelitacicept、第III相試験の中間解析結果/NEJM

 疾患進行のリスクが高いIgA腎症患者において、新規開発中のtelitaciceptの投与により、プラセボと比較し、39週時点の24時間尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)が有意に低下した。中国・北京大学第一医院のJicheng Lv氏らTELIGAN Investigatorsが、同国72施設で行われた第III相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験の、事前規定の中間解析の結果を報告した。telitaciceptは、IgA腎症の病態に関与するB細胞活性化因子(BAFF)および増殖誘導リガンド(APRIL)の両方を標的とする組み換え融合タンパク質製剤で、IgA腎症への有効性が期待されている。NEJM誌2026年5月14・21日号掲載の報告。39週時点の24時間UPCRを対プラセボで検証 試験は、最適な支持療法を受けているものの、生検でIgA腎症と診断され、蛋白尿(尿蛋白値1.0g/日以上)の持続が認められる患者を登録して行われた。 研究グループは被験者を、週1回telitacicept 240mgを皮下投与する群またはプラセボ投与群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインと比較した39週時点の24時間UPCRとし、幾何平均比(GMR)で評価した。安全性も評価した。UPCRの変化率は、telitacicept群-58.9%、プラセボ群-8.8% 2023年4月~2025年2月に、318例がtelitacicept群(159例)またはプラセボ群(159例)に無作為化された。全被験者が少なくとも1回、試験薬を投与され、有効性および安全性の解析集団に包含された。今回の中間解析の時点で、それぞれ154例(96.9%)、150例(94.3%)が39週の試験期間を完了していた。 ベースラインの両群の被験者特性は類似しており、平均年齢は38.2歳、女性が53.8%であり、eGFRの平均値は75.5mL/分/1.73m2、24時間UPCRの中央値は1.26であった。また、全例がACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を使用しており、telitacicept群の35.2%およびプラセボ群の34.6%がSGLT2阻害薬を使用していた。 39週時点の24時間UPCRのベースラインからの変化率は、telitacicept群-58.9%、プラセボ群-8.8%であり、相対的群間差は-55.0%(95%信頼区間[CI]:-61.3~47.6、p<0.001)と実薬群で良好であった。 ベースラインと比較したeGFRの変化率は、telitacicept群-1.0%(95%CI:-3.2~1.2)、プラセボ群-7.7%(95%CI:-9.9~-5.4)であった。 有害事象は、telitacicept群のほうがプラセボ群よりも多くみられた(89.3%vs.78.6%)が、重篤な有害事象の発現頻度は低かった(2.5%vs.8.2%)。telitaciceptに関する予期せぬ安全上の問題は報告されなかった。

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潰瘍性直腸炎は直腸がんリスク上昇と関連せず

 潰瘍性直腸炎患者における直腸がんリスクは一般集団と同程度であるという研究結果が、「Gastroenterology」に2月3日掲載された。 カロリンスカ研究所(スウェーデン)のÅsa H. Everhov氏らは、潰瘍性直腸炎患者における直腸がんリスクを検討した。解析対象は、1997~2023年に直腸炎型の潰瘍性大腸炎と診断された患者1万5,957人(患者群)と、年齢や性別などでマッチさせた15万8,079人(対照群)であった。 その結果、直腸がんおよび高度異形成の累積発生率は、病変の口側進展時点で打ち切りとした解析を含め、患者群と対照群で同程度であった。5年時点の直腸がん累積発生率は患者群0.11%、対照群0.09%であり、10年時点ではそれぞれ0.16%、0.21%であった。標準化発生率は10万人年当たり患者群31、対照群33であった。病変の口側進展時点で打ち切りとした後は、両群とも33であった。高度異形成の5年累積発生率は患者群0.06%、対照群0.03%、10年ではそれぞれ0.10%、0.07%であった。標準化発生率は10万人年当たり患者群15、対照群11、進展時点打ち切り後はそれぞれ13、11であった。 同研究所のOla Olén氏は、「本研究結果は、炎症性腸疾患におけるがんサーベイランスをより個別化するアプローチを支持するものであり、疾患の進展範囲が重要な役割を果たすことを示している」と述べている。 なお、複数の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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ガバペンチノイドと併用薬で薬物中毒リスクが上昇か

 ガバペンチノイド系鎮痛薬(以下、ガバペンチノイド)を他の薬剤と併用すると、薬物中毒のリスクが上昇する可能性が、新たな研究で示された。ガバペンチノイドとオピオイド系鎮痛薬(以下、オピオイド)やベンゾジアゼピン系薬剤(以下、ベンゾジアゼピン)の併用はこのリスクを高め、特に治療初期には顕著なリスク上昇が認められたという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の薬剤疫学者であるKenneth Man氏らによるこの研究は、「PLOS Medicine」に4月16日掲載された。 Man氏らは、「今回の結果は、ガバペンチノイドが安全ではない、あるいは処方すべきではないことを示すものではない。ただ、特に他の薬剤を使用中の患者に処方する際には注意が必要であり、臨床医は患者を慎重にモニタリングする必要がある」とニュースリリースで述べている。 ガバペンチノイドは、主にガバペンチンやプレガバリン、ミロガバリンを含む薬剤群の総称であり、てんかん、神経痛、不安などの治療に広く用いられている。近年、ガバペンチノイドは、オピオイドの代替として鎮痛目的での使用が増加しており、現在では米国では7番目に多く処方される薬となっている。世界的に見ても、その使用量は2008年から2018年の間に4倍以上に増加している。 今回の研究では、2010年1月1日から2020年12月31日の間にガバペンチノイドを処方され、薬物中毒で入院した経験がある英国の18歳以上の患者1万6,827人(女性53.5%)を対象に、ガバペンチノイドによる治療と薬物中毒との関連が検討された。解析は自己対照ケースシリーズ(SCCS)デザインを用い、同一患者内で治療開始の90日前、治療開始後0~28日、29~56日、57~84日、およびそれ以降の治療期間に分けて、期間ごとの薬物中毒リスクを比較した。薬物中毒の症状は、意識消失、呼吸困難、けいれんなどである。観察期間中のいずれかの時点で、対象者の約9割がガバペンチノイドとオピオイドを、半数以上がベンゾジアゼピンを併用していた。 その結果、薬物中毒のリスクは、ガバペンチノイド非使用期間(対照期間)と比較して、治療開始の90日前にすでに約2倍に上昇していることが示された(調整発生率比2.09、P<0.001)。治療開始後0~28日間でもリスクは約1.8倍(同1.81、P<0.001)と高く、その後は徐々に低下したものの、それ以降の治療期間でも軽度の上昇が持続した(同1.11、P<0.001)。このことは、薬物中毒のリスクを軽減するためにガバペンチノイドを使用しても、その効果は限定的である可能性を示唆している。さらに、オピオイドやベンゾジアゼピンの併用によりリスクはさらに上昇し、治療開始後0~28日間では、オピオイド併用で約2倍、ベンゾジアゼピン併用で約4倍に達した。 薬物中毒リスクが最も高かったのがガバペンチノイドによる治療開始前90日間であったことは、オピオイドやベンゾジアゼピンなどの使用に対する懸念を背景に、医師がガバペンチノイドを処方した可能性を示唆している。論文の筆頭著者であるUCLのAndrew Yuen氏は、「臨床医がガバペンチノイドを処方する判断は、オピオイドなど他の薬剤に関連した薬物中毒リスクを減らす試みである場合がある」と述べている。同氏はまた、「ガバペンチノイドによる治療開始後に薬物中毒リスクはやや低下したものの、それでもなおリスクは高い状態が続いていた。この結果は、臨床医が治療期間を通じて継続的に薬物中毒リスクへ注意を払う必要があることを示唆している」と指摘している。 なお、ガバペンチノイドが直接的に薬物中毒を引き起こすかどうかは依然として不明である。ただし、これらの薬剤がオピオイドやベンゾジアゼピンなど他の薬の鎮静作用を増強する可能性があることを示すエビデンスは存在しているという。

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プレハビリテーションにより術後合併症が減少

 手術前に、運動や栄養管理をベースにしたプレハビリテーションを実施することで、術後合併症のリスクが大幅に低下することが、新たな研究で明らかになった。そのようなプレハビリテーションを実施した患者では、術後の入院期間も半日程度短縮したという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デヴィッド・ゲフィン医科大学のJustine Lee氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に4月29日掲載された。Lee氏は、「今回の結果は、特に合併症リスクの高い患者や、手術前に追加のサポートが有益と考えられる患者に対するプレハビリテーションプログラムの有用性を裏付けるものだ」と述べている。 運動や栄養、心理的サポートを通じて手術に備えるプログラムであるプレハビリテーションは、比較的新しい医学的概念である。近年、プレハビリテーションプログラムを導入する医療機関は増加しているという。 今回の研究では、論文データベースを用いて、手術前の運動や栄養管理をベースにしたプレハビリテーションプログラムに関する研究を検索し、基準を満たした23件のランダム化比較試験(参加者総数2,182人)を対象に、その効果が検討された。主要評価項目は、入院期間(LOS)と術後合併症の発生とされた。23件の試験のうち、18件は運動、5件は栄養管理をベースにしたプレハビリテーションに焦点を当てていた。運動ベースのプログラムは複数の手術領域で評価されていたが、特に整形外科手術で多く用いられていた(44.4%)。一方、栄養管理ベースのプログラムは、消化器外科および心臓手術で実施される傾向が認められた。 解析の結果、運動または栄養管理ベースのプレハビリテーションの実施により、標準ケアと比較して、術後合併症は有意に減少し(オッズ比0.52、95%信頼区間0.35~0.78、P<0.002)、LOSは平均0.44日短縮した(平均差−0.44日、95%信頼区間−0.78~−0.11、P=0.01)。介入内容別に検討すると、運動ベースのプレハビリテーションでは合併症リスクの低下が顕著であった(オッズ比0.45、95%信頼区間0.28~0.74、P<0.001)。一方、栄養管理ベースのプレハビリテーションは運動ベースのプレハビリテーションよりもLOSの短縮効果が大きかった(栄養:平均差−1.09日、95%信頼区間−1.72~−0.47、運動:平均差−0.21日、同−0.51~0.09、P=0.01)。運動ベースのプレハビリテーションでは、生活の質(QOL)の指標にも改善が認められた。 筆頭著者であるUCLAデヴィッド・ゲフィン医科大学のCatherine Cascavita氏は、「栄養または運動をベースにしたいずれのプレハビリテーションも術後回復を改善し得るが、それぞれ異なる利点を持つ可能性がある。患者ごと、また患者が受ける手術の種類に適したプログラムを明らかにするためには、さらなる研究が必要だ」と述べている。 研究グループは、「今後の研究は、プロトコルの標準化や費用・保険適用といった障壁の解消を通じて、プレハビリテーションをより広く普及させることに焦点を当てる必要がある」としている。Lee氏は、「手術前の段階で術後転帰をどのように改善できるかについては、まだ理解が始まったばかりだ」と述べている。

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高齢者のレボチロキシンは中止できるか?(解説:田村嘉章氏)

 高齢者では甲状腺機能低下症の有病率が高く、甲状腺ホルモン製剤が投与されている者が多い。近年、高齢者におけるポリファーマシーの弊害が叫ばれるようになり、不要な薬剤の減量や中止が推奨されているが、甲状腺ホルモン薬中止についてのエビデンスは不足しており、判断がつかぬまま薬剤が長期継続されているケースも多い。 オランダで行われた本研究は、60歳以上(中央値70歳)の高齢者でレボチロキシン(LT4)を≦150μg/日で投与中の370例のうち、TSH<10mIU/Lの者に対し、LT4の減量、中止が可能かを1年間にわたり検討したものである。プロトコールでは、6週間以上の間隔を空けてLT4を段階的に減量(初回12.5~50μg、6週・12週後25~38μg、以降25μgずつ)し、TSH、fT4を測定、TSH<10mIU/LかつfT4正常下限以上が保たれていれば減量を継続。保たれていなければ2週間後に再検し、条件を満たしていなければ減量中止としている。この結果、全参加者のうち25.7%が中止に成功し、元の維持量が≦50μg/日の者に限っては63.6%が中止に成功した。 高齢者では加齢に伴い、生理的にTSHが上昇することがある。また、TSHの上昇は一過性であることも多い。とくに海藻類の摂取の多い本邦では、一過性の甲状腺機能低下が含まれている可能性があり、繰り返し検査を行うことが重要である。潜在性甲状腺機能低下症はとくにTSH高値例で心血管疾患リスクとの関連が報告されており、一般成人ではTSH≧10mIU/Lの場合に治療開始を推奨し、<10mIU/Lの場合には症状やTPO抗体、心血管リスクを考慮して個別に判断するとされているが、過剰なLT4補充は心房細動や骨折などのリスク増加と関連するため、これらのリスクの高い高齢者ではとくに過量投与を避けるべきである。 本研究は、補充療法下で安定している高齢の甲状腺機能低下症患者で、とくにLT4の維持量が少ない者では減量・中止を積極的に考慮してよいという重要なメッセージを提供するものである。ただし、論文にあるように、定期的な評価を行いながら漸減していく必要があろう。なお、本研究ではエコー所見と中止の成否との関連は調べられていない。エコー所見が中止成功に関連するとの既報もあるが、日常診療でエコーを全例で行うのは必ずしも容易ではない。維持用量以外にも、中止成功を予測しうる簡便な指標について、さらなる検討が期待される。

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ライフスタイル関連の認知症危険因子――Lancetの14の危険因子を読み解く(その4)【外来で役立つ!認知症Topics】第41回

前回は、病理の進行を直接抑える「表街道」と、脳の予備能を高める「援護射撃」という視点で各因子を紐解いてきた。「Lancetの14の危険因子を読み解く」シリーズの完結編となる今回は、日常の選択が脳の未来を左右する6つの因子を整理する。脳の「炎症」を助長する因子今回取り上げる6つの因子のうち、肥満、喫煙、過度な飲酒、そして大気汚染の4つは、主に神経炎症や酸化ストレスを介して認知症の悪化を加速させる危険因子である。肥満:伝統的な食事で予防中年期の肥満は、認知症のリスクを最大3倍も増加させる。肥満の原因は、高カロリーやジャンクフードといった不適切な食生活、運動不足、睡眠不足、慢性ストレスなどである。脳への悪影響のメカニズムとして、運動不足やストレスに加え、睡眠時無呼吸症候群に伴う低酸素刺激、さらにはミクログリア炎症などの脳内炎症との関連も注目されている。計画的な体重減少は認知機能を改善させる。減量には食事や運動が基本だが、最近ではセマグルチドなど、いわゆる「痩せ薬」の有用性も注目されている。ただし、筋肉喪失と骨の脆弱化を防ぐために、年間3~4kg程度の緩やかな体重減少に留めるのが望ましい。ここで興味深いデータがある。先進諸国の肥満率を比較すると、アメリカが42.9%と最高であるのに対し、日本は最低の4.9%というものである1)。その背景には、伝統的な食生活と活動的なライフスタイルが指摘されている。前者は、日本食が地中海食と同様に生活習慣病予防食である事と関連するだろう。後者については勤勉を尊ぶ日本人の伝統的な価値観が関わっているのかもしれない。喫煙:禁煙5年でリスクをリセット今現在の喫煙者は非喫煙者に比べて、認知症リスクが30~50%高い。やはり喫煙は「やめるしかない」のである。以前からCOPD予防の文脈で、禁煙すれば呼吸器系がクリーニングされると知られていた。認知症に関しても、禁煙の効果を示す報告がある。印象的なのは、禁煙の5~7年以内に、吸わない者と同程度まで認知症のリスクが低下するという報告だ2)。なお禁煙による体重の増加には留意したい。禁煙しても体重が増加すればリスク低減効果は相殺されてしまう。治療では、薬理学的治療と行動療法が組み合わされる。最近では電子タバコが良いとも言われるが、実は酸化ストレスと脳の慢性炎症をもたらす点では、従来のタバコとあまり変わらない。過度な飲酒:不定期の大量飲酒に注意飲酒については適切な基準の把握が欠かせない。純アルコール10g (ビールで200mL 日本酒で0.5合、焼酎で40mL)を1単位とした場合、1週間に14単位を超える飲酒は認知症リスクを大幅に増加させる。飲酒の安全基準には男女差があり、男性は1日2単位、女性では1日1単位である。過度の飲酒は、記憶関連の大脳領域を萎縮させ、脳内のメッセージ伝達能力を障害する。さらに高血圧や心臓病、脳卒中のリスクを増加させる。注意すべきは、定期的な飲酒以上に、不定期に大量飲酒するほうが脳への悪影響が大きいことである。飲酒の認知機能への影響について、興味深い大規模なコホート研究がある3)。軽度~中等度の継続的な飲酒者は、ずっと非飲酒者より認知症のリスクが低減する。さらに、飲酒量を多量から中等量へと節酒することで、ずっと飲まない者に比べて認知症のリスクがさらに低下するという。もっとも、認知症予防のために、わざわざ飲酒を開始すべきではないことは言うまでもない。大気汚染:PM2.5とレビー小体型認知症大気汚染、とくにPM2.5は、認知症の危険因子だと認識される。それが脳に到達するのに3つの経路が考えられる。まず肺から血液吸収され脳に至るもの、次に鼻から直接脳に到達するもの、そして血流を通して脳に至って血液脳関門(BBB)を破壊するものである。PM2.5は高齢者にとってとくに危険だが、この濃度は交通量の多い道路周辺で最高である。しかし主要道路から100メートル離れるごとに曝露量は10~15%軽減し、300メートルで30~40%低減する。大通りを避けて住宅街の裏道の利用が望ましい。また室内で空気清浄機を活用すると、PM2.5を半分以下にできる。ところでPM2.5について斬新な最近の報告がある5)。PM2.5がレビー小体型認知症(DLB)の病理学的特徴であるαシヌクレインの異常な折り畳みを引き起こし、PM2.5の曝露量が多いとDLBやパーキンソン病発症リスクが高まるという。脳への「インプット」を阻害する因子残る2つの孤独と視力障害は、脳へのインプットを阻害する因子であり、これらへの対策は認知予備能を高める側面が強い。孤独:脳の萎縮を防ぐ「社会との接点」孤独とは主観的な感覚であり、社会的孤立は交流のない状態だが、いずれも認知機能低下と強く関連する。孤独感は全認知症リスクを31%増加させる。アルツハイマー病で14%、血管性認知症で17%、軽度認知障害で12%の増加をもたらす。また社会的孤立は孤独とは独立に26~50%の増加をもたらす。孤独感が単なる「気持ちの持ちよう」というレベルではないことを示す脳画像研究がある4)。前頭前野背外側部などの大脳部位は、共感や思いやりとの関連が知られているが、これらの脳部位の萎縮と、孤独が相関するという。つまり、共感・思いやりと孤独は表裏一体をなす脳活動なのだろう。対策としては、共通の関心事に基づくグループ参加が最も効果的だとされる。筆者が経験的に良いと思うのは、ペット(ペットロボットも含む)、趣味(読書、ガーデニング、手作業)のグループを探すこと。あるいは図書館や学校(登校・放課後の見守り)などのボランティア、地域で日常的に行われているラジオ体操などもいいだろう。視力低下:認知負荷を強いる「見えにくさ」の罠視力障害のある高齢者は正常視力の人と比べ、認知症発症リスクが1.5~2.3倍高い。想定されるメカニズムとして、視覚障害により脳への感覚入力が減少し、視覚処理領域の神経萎縮が起こり、脳刺激の減少、神経細胞の消失と連鎖していくことが考えられる。また視力障害と認知低下は、基礎的なプロセスに共通性があるかもしれない。たとえば脳血管障害、アミロイドβ蓄積、慢性炎症や神経変性である。さらに、視力低下により他の認知的リソースを使って情報を得なければならないため、本来の認知能力がその分減るとする「認知負荷仮説」も考えられる。目というと視力と考えがちだが、最近では「コントラスト感度」、つまり明暗を判別する能力が重要だとされる6)。たとえば夜間の活動には、高いコントラスト感度が必要だ。また照度が低い状態や、霧、眩しさのある状況ではその感度が鈍り、転倒・転落や交通事故のリスクが高まる。視力障害への対応は、白内障手術や眼鏡処方、低視力リハビリテーションが代表的である。これらにより、臨床リスクを30%低減できる可能性がある。今回をもって「Lancetの14の危険因子を読み解く」シリーズは終了となる。繰り返しになるが、この危険因子とはアルツハイマー病のみならず、すべての認知症に対するものである。また危険因子は、古典的なアミロイド仮説に関連するもののみならず、認知予備能仮説のように最大限に脳を守る・活用していくという方向に大別される。 1) WorldAtlas. The Most Obese Countries In The World In 2024. 2) Chen H, et al. Smoking Cessation, Weight Change, and Risk of Dementia: A Prospective Cohort Study. medRxiv. 2025 Nov 6. [preprint] 3) Jeon KH, et al. Changes in Alcohol Consumption and Risk of Dementia in a Nationwide Cohort in South Korea. JAMA Netw Open. 2023;6:e2254771. 4) Lam JA, et al. Neurobiology of loneliness: a systematic review. Neuropsychopharmacology. 2021;46:1873-1887. 5) Zhang X, et al. Lewy body dementia promotion by air pollutants. Science. 2025;389:eadu4132. 6) Risacher SL, et al. Visual contrast sensitivity in Alzheimer's disease, mild cognitive impairment, and older adults with cognitive complaints. Neurobiol Aging. 2013;34:1133-1144.

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肺がん診療ガイドライン2025押さえておきたい3つのポイント【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第11回

第11回:肺がん診療ガイドライン2025押さえておきたい3つのポイントパーソナリティ日本鋼管病院 田中 希宇人 氏ゲスト岡山大学病院 二宮 貴一朗 氏※番組冒頭に1分ほどDoctors'PicksのCMが流れます参考1)日本肺学会 肺診療ガイドライン2025(オンライン版)関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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第316回 医療業界の贈収賄事件に変化の予兆(後編) 製薬企業は医師への飲食の提供ルールの厳格化、食事は3,000円以下、会議等の飲食は2万円以下に

医療機器メーカーや製薬企業の業界団体に厳格な自主規制の動きこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回書いた連休の山登りで受傷した左膝ですが、MRI検査の結果、内側側副靭帯の単独損傷(Grade 2)との診断でした。半月板まではやられておらず、全治2〜3ヵ月とのこと。夏山は今年こそ北アルプスの伊藤新道へ行こうと意気込んでいたのですが……。計画を断念するかどうか悩ましいところですが、とりあえずはリハビリに励むことにしました。さて、今回も引き続き医療業界の贈収賄事件について書いてみたいと思います。前回は、2023年に表沙汰となった国立がん研究センター東病院における贈収賄事件について、収賄側の元医長の無罪に次いで贈賄側のゼオンメディカル(東京都千代田区)の元社長についても無罪が確定した件について書きました。贈賄側に自社製品を有利に使ってもらうためという「賄賂の趣旨」が明確にあったにもかかわらず、双方無罪となった最大のポイントは、収賄側の元医長に「賄賂を受け取る認識」がなく、「調査協力の報酬」だと理解していたためでした。贈収賄の罪が成立するには、受け取る側と贈る側の両方が賄賂であると認識していた必要があります。そのため、裁判所は賄賂の趣旨があったとしても被告の贈賄罪は成立しないと判断したわけです。贈収賄事件で、収賄側、贈賄側双方が無罪となるのは非常に珍しいことです。ただ、これを機に贈収賄の摘発が甘くなるとは思えません。医療業界で摘発される多くの贈収賄事件(最近では、整形外科や眼科領域の機器絡みのケースが多いようです)では、その大半に有罪判決が出ています。今後、当局はより厳密にその犯罪性を判断し、摘発に向かうと考えられます。そんな中、製薬企業や医療機器メーカーの業界団体は医師や医療機関との関係を適正化するため、これまで以上に厳格な自主規制を行う動きが出ています。製薬企業、施設外での飲酒を伴う飲食は禁止、5,000円以下の酒席は原則不可2ヵ月前、3月13日付の日本経済新聞朝刊に「医療業界、贈収賄防止へ自主対策 医師との飲食ルール厳格化」と題する記事が掲載されました。同記事は、東京大学医学部附属病院で起きた贈収賄疑惑など、頻発する金銭や接待がらみの事件を背景に、製薬企業や医療機器メーカーの業界団体が医師や医療機関との関係を適正化するための動きを活発化させている、と報じています。製薬企業については、自主規制団体である医療用医薬品製造販売業公正取引協議会の医師への飲食の提供ルールの厳格化について取り上げています。製薬企業は過去にMRによる過剰接待や金銭を伴う不祥事が刑事事件になったことを受けて2012年に自主規制ルールを厳格化し、飲食や娯楽のみを目的とした接待を禁止していましたが、2026年4月からそのルールが一層厳しくなりました。新しい自主規制ルールでは、原則として施設外での飲酒を伴う飲食は禁止となります。従来認められていた「5,000円以下の酒席」が原則不可となり、食事は3,000円以下、会議等の飲食は2万円以下に整理されました。具体的には、自社医薬品の講演会や調査・研究委託に関する懇親行事では、飲酒を伴う「飲食」の上限が1人当たり2万円、飲酒を伴わない「食事」は上限3,000円となりました。医療機関等の施設外で行う医薬情報提供活動では、飲酒を伴う提供が「不可」となり、3,000円以内の食事に限定されます。社内研修会の講師への慰労目的の飲食提供や、懇親行事での着席形式の飲食提供も認められません。ほんの15年ほど前まで、製薬企業は、やれ新薬発表会だ、講演会だ、社内勉強会だとさまざまなイベントを繰り出し、その都度MRが医師を接待漬けにするのが常道でしたが、そうしたことはほぼなくなったわけです。贈収賄事件などが起きにくくなり、製薬企業と医師との関係が適正化されるという意味では好ましいことと言えますが、この物価高の折、「3,000円以内の食事」ではサンドイッチとコーヒーぐらいしか出せません(欧米ならコーヒーだけかも?)。また、社内研修で医師に講演で話してもらっても、講演後の慰労もできません。製薬企業にとっては大きな経費削減につながるとは思いますが、「人と人のつながり」の醸成という面では、少々厳し過ぎるようにも感じます。医療機器メーカーの業界団体は講習会や研修を実施日本経済新聞のこの記事は、医療機器メーカーの業界団体の動きについても次のように報じています。「日本医療機器産業連合会(医機連、東京・新宿)は2026年春以降、最近発生した不祥事に関連するテーマを取り上げた講習会を実施する。医療機関や医師との適切な関係性を改めて学び、具体的なケーススタディーも紹介する。弁護士など外部の専門家を招いた研修も検討する。初めて医療機器業界を経験する社員を対象にした企業倫理に関するセミナーも開く」。医療用医薬品製造販売業公正取引協議会に比べ、いささか物足りない内容です。新しく厳格なルールを設けるというのではなく、単に講習会や研修を実施するだけというのでは、贈収賄が起こる業界風土や慣習まで変えることは難しいのではないでしょうか。と思っていた矢先、5月13日付の朝日新聞朝刊がまたまたあの医療機器メーカーの違法行為を報じていました。「手術室、無資格で医療補助 機器メーカーの営業担当 医師法に抵触か 関西医科大医療センター」と題するその記事によれば、脊椎手術の際に背骨を固定するインプラントを製造販売するニューベイシブジャパン(東京都中央区)の社員が2024年、関西医科大学総合医療センター(大阪府守口市)の手術室で患者の足を持ち上げるなど医師を補助する行為をした疑いがあるというのです。メーカーから医師への金銭や労務の提供は、景品表示法に基づく規約で禁じられてはいるがニューベイシブジャパンについては昨年、本連載の「第263回 大学病院などで医療機器メーカー社員が無資格でX線検査、医療機器絡みのリベートや労務提供がなくならない理由とは」で社員の無資格X線検査を取り上げました。今回も過去の事例とは言え、別件で再び医師法違反の疑いが発覚したわけです。それにしても朝日新聞の記者はなかなかしつこいですね。無資格でのX線検査や医療補助は、明らかな金銭提供ではなく贈賄とはなりませんが、労務の提供自体は医療機関や医師に対する利益供与に他なりません。第263回でも書いたことですが、メーカーから医師への金銭や労務の提供は、景品表示法に基づく規約(医療機器業公正競争規約)で禁じられています。医療機器業界の自主規制機関である公取協はこの規約を運用し、メーカーを調査・指導しており、違反すると再発防止策を取るよう警告され、社名公表などの処分もありますが、それはあくまでも業界内の処分でしかありません。そうした“甘さ”が、似たような事件が度々起こる最大の原因と言えます。医療機関が購入する医療機器の代金はそもそも公的財源も入った診療報酬で賄われています。その代金にあらかじめリベートや不当な現金供与分、労務提供分なども上乗せされているとしたら、それは大きな問題と言えるでしょう。医療機器絡みのリベートや不当な現金供与、そして労務提供などは、そろそろ「自主規制ルール」ではなく、法律で厳格に罰するようにすべきでしょう。米国並みのルール整備の必要性前出の日本経済新聞の記事も、「各業界を厳格な自主規制に駆り立てたもう一つの理由が海外との法規制の違いだ」として、日米のルールの違いについて指摘しています。同記事は、「米国は10ドル(約1,550円)以上であればランチ代でもすべてデータベースに登録。日本は性風俗店などで計約180万円の接待を受けても公開の義務なし――。医師と企業との金銭的なやりとりを巡る日米のルールだ。製薬や医療機器で世界最大の市場を抱える米国には厳しい規制が存在し、情報公開は法律で義務付けられている。講演料や食事代などの使途も明示する必要があり、誰でも政府の公開データベースで検索できる。日本にそうした制度はない」として、米国並みのルール整備の必要性を訴えています。製薬企業の自主ルールが厳しくなり過ぎ、その反動で医療機器メーカーや、東大病院の皮膚科元教授のケースのようにその他の業界企業に医師が“たかる”図式が生まれている、と指摘する声もあります。薬であろうが、機器であろうが、化粧品やサプリであろうが、医師と企業との金銭や労務等のやりとり全般にきちんとした法的規制(自主ルールではなく)の導入を検討すべき時がきているようです。

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