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米国・ワシントン大学のAustin E. Schumacher氏らGBD 2023 Demographics Collaboratorsは人口統計学的分析(世界疾病負担研究[Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD]2023)において、(1)サハラ以南のアフリカの大部分の地域における死亡率が前回の分析とは異なっており、青年期と若年成人女性ではより高く、高齢期では低いことを示し、(2)2020~23年のCOVID-19の世界的流行期と回復期には、死亡率の傾向が多様化し、その変動の時期と程度が国によって著しく異なると明らかにした。Lancet誌2025年10月18日号掲載の報告。分析に新たなモデル「OneMod」を導入 GBDでは、過去数年単位の全死因死亡や平均余命などの健康指標を、世界各国で比較可能な状態で提示し、定期的に更新している。現在のGBD 2023はGBD 2021を直接引き継ぐ調査であり、1950~2023年の各年の、204の国と地域、660の地方自治体の人口統計学的分析結果を報告している(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。 また、GBD 2023では、GBD 2021とは異なる分析結果も導出されているが、これはOneModと呼ばれるより簡潔で透明性が高い新たなモデルを開発・適用するとともに、より時宜を得た情報提供を可能とする工夫がなされたためと考えられる。東アジアで5歳未満児死亡率が大きく減少 2023年に、世界で6,010万人(95%不確実性区間[UI]:5,900万~6,110万)が死亡し、そのうち467万人(95%UI:459万~475万)が5歳未満の小児であった。また、1950年以降の著しい人口増加と高齢化によって、1950~2023年に世界の年間死亡者数は35.2%(95%UI:32.2~38.4)増加し、年齢標準化全死因死亡率は66.6%(65.8~67.3)減少した。 2011~23年の年齢別死亡率の推移は、年齢および地域で異なっていた。(1)5歳未満児死亡率の減少が最も大きかったは、東アジアであった(67.7%の減少)。(2)5~14歳、25~29歳、30~39歳の死亡率増加が最も大きかったのは、高所得地域である北米であった(それぞれ11.5%、31.7%、49.9%の増加)。また、(3)15~19歳および20~24歳の死亡率増加が最も大きかったのは、東ヨーロッパだった(それぞれ53.9%、40.1%の増加)。 今回の分析では、サハラ以南アフリカ諸国の死亡率が前回の分析結果とは異なることが示された。(1)5~14歳の死亡率は前回の推定値を上回り、1950~2021年の国と地域の平均で、GBD 2021に比べGBD 2023で87.3%高く、同様に15~29歳の女性では61.2%高かった。一方、(2)50歳以上では、前回の推定値より死亡率が13.2%低かった。これらのデータは、分析におけるモデリング手法の進歩を反映していると考えられる。COVID-19で平均寿命が短縮、その後回復 調査期間中の世界の平均寿命は、次の3つの明確な傾向を示した。(1)1950~2019年にかけて、平均寿命の著しい改善を認めた。1950年の女性51.2歳(95%UI:50.6~51.7)、男性47.9歳(47.4~48.4)から、2019年には女性76.3歳(76.2~76.4)、男性71.4歳(71.3~71.5)へとそれぞれ延長した。(2)この期間の後、COVID-19の世界的流行により平均寿命は短縮し、2021年には女性74.7歳(95%UI:74.6~74.8)、男性69.3歳(69.2~69.4)となった。(3)2022年と2023年にはCOVID-19の世界的流行後の回復期が訪れ、2023年には平均寿命がほぼ世界的流行前(2019年)の水準(女性76.3歳[95%UI:76.0~76.6]、男性71.5歳[71.2~71.8])に復した。健康アウトカムの世界的な多様性を確認 204の国と地域のうち194(95.1%)が、2023年までに年齢標準化死亡率に関してCOVID-19の世界的流行後の少なくとも部分的な回復を経験し、126(61.8%)は世界的流行前の水準まで回復するか、それを下回っていた。 世界的流行の期間中およびその後の死亡率の推移には、国と地域で異なる複数のパターンがみられた。また、長期的な死亡率の傾向も年齢や地域によって大きく異なり、健康アウトカムの世界的な多様性が示された。 著者は、「これらの知見は、世界各国の健康施策の策定、実施、評価に資するものであり、医療の体制、経済、社会が世界の最も重要なニーズへの対応に備えるための有益な基盤となる」としている。