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切除可能NSCLCへのニボルマブ、術前術後vs.術前(CheckMate 77T vs.816)/WCLC2024

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)の薬物療法について、術前および術後にニボルマブを用いた治療を受けた患者は、術前のみニボルマブを用いた治療を受けた患者と比較して、無イベント生存期間(EFS)が良好であることが示唆された。術前および術後にニボルマブを用いたCheckMate 77T試験、術前のみニボルマブを用いたCheckMate 816試験の個別被験者データ(IPD:Individual Patient-level Data)の解析により示された。米国・ジョンズ・ホプキンス大学Bloomberg-Kimmel Institute for Cancer ImmunotherapyのPatrick M. Forde氏が、2024年9月7~10日に米国・サンディエゴで開催された世界肺がん学会(WCLC2024)で本研究結果を発表した。 本研究は、CheckMate 77T試験(ニボルマブ+化学療法[3週ごと4サイクル]→手術→ニボルマブ[4週ごと1年間])またはCheckMate 816試験(ニボルマブ+化学療法[3週ごと3サイクル]→手術)に参加した患者のIPDを用いて実施した。評価項目は根治手術後のEFSとした。解析には傾向スコアマッチングの手法を用い、平均処置効果(ATE:Average Treatment Effect)の重み付け、治療群における平均処置効果(ATT:Average Treatment effect on the Treated)の重み付けを行った。 主な結果は以下のとおり。・CheckMate 77T試験に参加した139例(術前術後群)、CheckMate 816試験に参加した147例(術前群)が、今回の解析の対象となった。・根治手術後のEFSは、術前術後群が術前群と比較して良好であった。解析方法別のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 ATEの重み付け:0.61、0.39~0.97 ATTの重み付け:0.56、0.35~0.90 重み付けなし:0.59、0.38~0.92・根治手術後のEFSを病理学的完全奏効(pCR)の有無別にみると、いずれのサブグループでも術前術後群が良好な傾向にあったが、pCR未達成のサブグループでベネフィットが大きいことが示唆された。HRおよび95%CIは以下のとおり。 pCR達成:0.58、0.14~2.40 pCR未達成:0.65、0.40~1.06・根治手術後のEFSをPD-L1発現レベル別にみると、いずれのサブグループでも術前術後群が良好な傾向にあったが、PD-L1<1%のサブグループでベネフィットが大きいことが示唆された。HRおよび95%CIは以下のとおり。 PD-L1<1%:0.51、0.28~0.93 PD-L1≧1%:0.86、0.44~1.70・根治手術後のEFSをベースライン時のStage別にみると、全体集団と同様に術前術後群が良好な傾向がみられた。HRおよび95%CIは以下のとおり。 StageIB~II:0.53、0.25~1.11 StageIII:0.63、0.37~1.07・安全性は両群間で同様であった。Grade3~4の治療関連有害事象は術前術後群27%(38例)、術前群35%(52例)に発現し、中止に至った治療関連有害事象はそれぞれ6%(9例)、5%(8例)に発現した。

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セマグルチド、心不全で過体重/肥満ASCVDのMACE低下/Lancet

 アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)で過体重または肥満の患者において、GLP-1受容体作動薬セマグルチドはプラセボと比較し、心不全の有無やそのサブタイプにかかわらず、主要有害心血管イベント(MACE)と心不全複合エンドポイントの発生を減少させることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJohn Deanfield氏らSELECT Trial Investigatorsが実施した「SELECT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年8月24日号に掲載された。41ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 SELECT試験は、41ヵ国804施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年10月~2021年3月に参加者の無作為化を行った(Novo Nordiskの助成を受けた)。 年齢45歳以上、BMI値≧27の心血管疾患(心筋梗塞の既往歴、虚血性または出血性脳卒中の既往歴、症候性末梢動脈疾患)患者1万7,604例(平均年齢61.6[SD 8.9]歳、男性72.3%、平均BMI値33.4[5.0])を登録した。 これらの患者のうち8,803例を、セマグルチド2.4mgを目標用量として週1回皮下投与(16週間)で漸増する群に、8,801例をプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、MACE(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死の複合)、心不全複合エンドポイント(心血管死、心不全による入院または緊急受診)、心血管死、全死因死亡とした。すべての評価項目を改善 1万7,604例中1万3,314例は登録時に心不全の既往歴がなく、4,286例(24.3%)は心不全の既往歴を有していた。心不全患者のうち2,273例(53.0%)は駆出率が保たれた心不全、1,347例(31.4%)は駆出率が低下した心不全、666例(15.5%)は分類不能の心不全だった。心不全の有無でベースラインの背景因子に差はなく、心不全患者は臨床イベントの罹患率が高かった。 セマグルチドは、心不全のない患者と比較して心不全患者において4つの評価項目のすべてを改善した。MACEのハザード比(HR)は0.72(95%信頼区間[CI]:0.60~0.87)、心不全複合エンドポイントのHRは0.79(0.64~0.98)、心血管死のHRは0.76(0.59~0.97)、全死因死亡のHRは0.81(0.66~1.00)であった。 セマグルチドによる治療は、駆出率が低下した心不全(MACEのHR:0.65[95%CI:0.49~0.87]、心不全複合エンドポイントのHR:0.79[0.58~1.08])と、駆出率が保たれた心不全(0.69[0.51~0.91]、0.75[0.52~1.07])の双方で予後を改善したが、駆出率が低下した心不全患者は駆出率が保たれた心不全患者よりも絶対的イベント発生率が高かった。投与中止率は駆出率が保たれた心不全で低い 重篤な有害事象は、心不全のサブタイプにかかわらず、プラセボ群に比べセマグルチド群で少なかった。また、セマグルチド群では、有害事象による恒久的な投与中止は主に胃腸障害によるもので、プラセボ群よりも高率であった(心不全患者:14.7% vs.9.0%、非心不全患者:17.2% vs.7.9%)。セマグルチド群の投与中止率は、駆出率が低下した心不全(17.4%)や分類不能の心不全(16.2%)に比べ、駆出率が保たれた心不全(12.7%)で低かった。 著者は、「この結果は、過体重または肥満で心不全を有するASCVD患者では、事前に詳細な心血管リスクの層別化を行う必要なしに、セマグルチドのベネフィットを受ける可能性があることを示唆する」としている。

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イモガイの毒が糖尿病治療につながる可能性

 巻貝の一種で、地球上で最も有毒な生物の一つである「イモガイ」の毒素が、糖尿病や内分泌疾患の治療に役立つ可能性のあることが新たな研究で示された。イモガイの毒素である「コンソマチン」が、血糖値やホルモンの分泌を調節するヒトのホルモンである「ソマトスタチン」に似た働きをするのだという。米ユタ大学のHo Yan Yeung氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に8月20日掲載された。論文の筆頭著者であるYeung氏は、「イモガイはまるで優れた化学者のようだ」と、冗談交じりに語っている。 著者らの過去の研究によると、コンソマチンはイモガイの毒液に含まれる別のインスリン様の毒素と互いに作用し合い、血糖値を急速に低下させるという。それによって獲物は昏睡状態になり、イモガイに捕食される。論文の上席著者である同大学のHelena Safavi氏は、「毒を持つ生物は進化の過程で、標的とする獲物を仕留めるために毒の成分を微調整してきた」と説明する。そして、「毒液の成分を一つずつ取り出して、どのように正常な生理機能を破綻させるかを観察すると、明らかになったメカニズムがしばしば疾患の病態とよく似ていることがある」のだそうだ。同氏は、「医薬品の研究者にとって、このような研究手法はある種の抜け道のようなものだ」と話す。 ソマトスタチンは、人体内の多くの生理的プロセスにおいて、ブレーキのような働きをしている。例えば、血糖値が危険なほど高くなるのを防ぐように作用する。研究によると、イモガイのコンソマチンは、ソマトスタチンと同じような役割を演じて血糖値の上昇を防ぐという。また、ソマトスタチンはヒトのさまざまなホルモンに作用するが、コンソマチンを利用すれば標的を絞り込んで、ホルモン分泌をより精緻に調整できる可能性があるとのことだ。さらにコンソマチンは、分解されにくい希少なアミノ酸を含んでいるために、ソマトスタチンよりもヒトの体内で長時間作用する可能性も示されている。 とはいえコンソマチン自体は、単独で薬として使用するには危険すぎる。しかし研究者らは、コンソマチンの構造を詳しく調べることで、ヒトのホルモンレベルに影響を与え得る新薬の開発の手がかりとなる可能性があるとしている。またコンソマチン以外にも、糖尿病治療に有用な成分が、イモガイの毒液に含まれている可能性もあるという。Yeung氏も、「毒液にはインスリンやソマトスタチンに類似した毒素だけが含まれているのではなく、血糖値を調整する性質を持つほかの毒素も含まれているのではないか」と話している。

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嚥下機能は睡眠の質と関連嚥下機能は睡眠の質と関連

 60歳以上の日本人を対象とした横断研究の結果、嚥下機能の低下が睡眠の質の低下と関連していることが明らかとなった。この関連は、男女ともに認められたという。広島大学大学院医系科学研究科の濵陽子氏らによる研究であり、「Heliyon」に5月31日掲載された。 睡眠維持困難(中途覚醒)は、慢性の痛み、消化器疾患、呼吸器疾患など、さまざまな身体的状態と関連する。例えば、睡眠中は呼吸と嚥下の連携が損なわれることがあり、覚醒時と比べて嚥下後の咳が発生しやすいが、このことも睡眠維持困難の一因とされる。加齢に伴い嚥下機能が低下すると、睡眠中の嚥下コントロールが困難となる可能性があるが、嚥下機能の低下が睡眠の質に及ぼす影響は明らかになっていない。 そこで著者らは、J-MICC Study 静岡研究と大幸研究の2012年2月~2015年3月の調査データを用いて、60歳以上の人を対象に、嚥下障害のリスクと睡眠の健康との関係を検討した。「地域高齢者誤嚥リスク評価指標(DRACE)」を用いて、合計スコア4点以上を嚥下障害のリスクありとした。また、「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」の合計スコア6点以上を睡眠の質が悪いと判定し、睡眠の持続時間、満足度、規則性などについても調査した。 解析対象者3,058人(男性1,633人、平均年齢66.5±4.2歳)のうち、嚥下障害のリスクがある人は28.0%、睡眠の質が悪い人は19.1%だった。嚥下障害のリスクがない人に比べ、リスクがある人は、睡眠の質が悪い人が多く(15.4%対28.5%)、平均睡眠時間が短く(6.74±0.88対6.62±0.99時間)、十分な睡眠のとれている人は少なく(61.7%対48.9%)、睡眠が不規則な人が多い(7.3%対13.7%)という傾向が認められた。 対象者の背景の差を調整後、嚥下機能と睡眠の関連を解析したところ、男性では、嚥下障害のリスクがあると、睡眠の質が悪いこと(オッズ比1.98、95%信頼区間1.38~2.83)、睡眠不満足(同1.69、1.29~2.20)、不規則な睡眠(同1.88、1.20~2.94)と有意に関連していることが明らかとなった。女性では、嚥下障害のリスクは睡眠の質が悪いこと(同1.39、1.00~1.92)、睡眠持続時間が6時間未満(同1.47、1.02~2.14)と有意に関連していた一方で、睡眠不満足、不規則な睡眠との関連は有意ではなかった。 また、嚥下障害のリスクとPSQI各項目の点数(0点または1~3点)との関連を検討したところ、男女とも、嚥下障害のリスクは睡眠の質、入眠時間、睡眠困難、日中覚醒困難と有意に関連していた。特に、日中覚醒困難については、男性(同2.10、1.62~2.71)、女性(同2.04、1.40~2.46)ともに関連が強かった。 研究の結論として著者らは、「日本の高齢者における嚥下障害のリスクは睡眠の質と関連していた。身体運動、口腔保健指導、栄養指導など、嚥下機能の維持に焦点を当てた戦略は、睡眠の質の改善に寄与する可能性がある」と述べている。また、睡眠維持困難の要因となり得る胃食道逆流症やドライマウスについては評価していないことなどに言及し、さらなる研究が必要だとしている。

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あいまいな診断を巡るモノローグ(解説:岡村毅氏)

 アルツハイマー病を明確に診断するための血液バイオマーカーに関する重要なポジションペーパーである。その意義を記す前に、精神医学の診断についてちょっとお話をしよう。 その昔、精神医学の診断はきわめてあいまいだった。うつ病の人が妄想を持つことはよくあることは知っているだろうか? そして妄想性障害や統合失調症の人がうつ状態になることもある。すると、「どちらを本体とみるか」というのは人間観や疾病観による。というわけで、その昔、精神科医の診断は学派によって異なることもあった。 これでは会話できないということで、最低限の共通認識として出来上がったのが操作的診断(DSMやICD)である。この症状がいくつある状態を、○○と定義しよう、というものである。ネット上にもたくさん落ちているのでご覧になった方も多いだろう。 なんだ、精神科の診断なんて簡単だ、というのはちょっと待ってほしい。文章を理解できても、実際に疾患の人を何人も診たことがなければ実際の診断は不可能だ。「飛行機を操縦するための本」をいくら読んでも、実際には操縦できないのと同じである。 とはいえ研修を終えるころには、こうした操作的診断に従って正しい診断はできるようになる。ところが、操作的診断ができるようになると、その限界も見えてくる。人生は多様であり、患者さんの人生(ライフコースなどという)から見ると、症状の配置も一回きりの人生のさまざまな経路を経た結果である(記述精神医学などともいう)。「操作的診断なんて浅いなあ」と思うのが若い精神科医の普通の成長過程だ。 とはいえ、操作的診断をばかにし続けていたら、それは思春期をこじらせたようなものである。操作的診断がなければ業界は回らない、というのもまた事実だ。 もっと正確な、科学的な診断はできないだろうか。精神医学でも、血液バイオマーカーとか、脳画像とか、体の動きとかで精神疾患を診断するという研究も行われている。生物学的精神医学の重要性を十分わかったうえで言うが、きわめて危険な研究であることも確かだ。心の中のことは誰にもわからないが、外に表出されたときに、たとえば統合失調症などと診断される。しかし、まったく症状もないのに「あなたの血液、あるいは脳画像は、統合失調症の特徴があるので、あなたは統合失調症だ」と診断されたらどうだろうか。 このように整理するとわかりやすいだろう。心は、脳や血液や遺伝子といったものと同じ次元にはない。したがって、脳や血液や遺伝子で心に「迫る」ことはできるが、明確に心の病を診断することはできない。あくまで別のものなのだ。ゴッホの絵を精密に分析しても、ゴッホの絵の価値を科学的に明らかにできないのと同じである。ちなみにゴッホは、後世の学者によれば妄想を伴う双極性感情障害とも、気分の変調を伴う統合失調症とも診断されている。 さて、本論文に戻ると、脳内のアミロイドやタウの変化を末梢血液で調べることができるようになったという重要な結果である。実は私は最初、この論文の意義がいまいちぴんときていなかったが、正直に書くと、友人の脳神経内科医に聞いて初めてわかった。 現代のアルツハイマー病の診断には、臨床診断と脳病理(髄液かアミロイドペット)が必要である。しかし、かかりつけ医では髄液検査やアミロイドペットはなく、かかりつけ医から専門医へのルートには壁があった。本研究により、壁がなくなり、道が広がったといえる。国際アルツハイマー病学会でも血液バイオマーカーの話題で持ちきりだったとのことである。アルツハイマー病の診断学は、恐るべき速度で正確さを獲得している。ここには「あいまいもまたいい」などと言う余地はなさそうである。

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長期収載品の選定療養が10月から開始、生活保護受給者も対象?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第137回

2024年10月から「長期収載品の選定療養(以下、選定療養)」が始まります。これは、後発医薬品のある先発医薬品(いわゆる長期収載品)と後発医薬品の差額の4分の1相当を患者さんが自己負担する仕組みです。長期収載品を希望する患者さんが、「その薬剤ごとに差額が発生し、自己負担が増える」と聞くと、どういう仕組み? どのくらい負担が増えるの? など疑問に思うと考えられます。今一度確認しておきましょう。現在、後発医薬品の使用割合がかなり増えているので、現行で長期収載品を希望している患者さんはそれほど多くはないとは思いますが、今までどおり長期収載品を希望できるのか、どのような場合に負担が増えるのか、そしてどの薬剤でいくら負担が増えるのか、という点がポイントになりそうです。まず、2024年10月以降は処方箋様式が変更になります。現行の後発医薬品への変更不可欄が「変更不可(医療上必要)」「患者希望」の2つに分かれます。まず、「変更不可(医療上必要)」欄にチェックが付く場合ですが、医療上の必要性がある場合、というのは疑義解釈にて以下のように定義されています。(1)効能効果に差異がある場合(2)治療効果に差異があると医師が判断する場合(3)ガイドラインにおいて、後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合(4)後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化ができないなど、剤形上の違いにより、長期収載品を処方する医療上の必要があると判断する場合疑義解釈では「使用感については医療上の必要性としては想定していない」とされているため、使用感を理由に長期収載品を希望する場合は選定療養の対象になり、患者負担が増えます。また、患者さんが長期収載品を希望する場合は、「患者希望」欄にチェックが付きます。こちらはもちろん選定療養の対象になるため患者負担が増えますが、今までどおり長期収載品を希望することはできます。また、8月21日に追加の疑義解釈が出され、以下のような追加の解釈が明らかになりました。10月1日より前に処方され、10月1日以降に薬局に持ち込まれた処方箋については制度施行前の扱いとなる生活保護受給者に対して長期収載品の処方を行うことに医療上必要があると認められる場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象となる生活保護受給者が、医療上必要があると認められないにもかかわらず、その嗜好などから長期収載品を希望した場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象とはならず、生活保護法(第34条第3項)に基づき、長期収載品を調剤せずに後発医薬品を調剤する(結果として、生活保護受給者からは長期収載品の選定療養による「特別の料金」を徴収することはない)今回の選定療養の対象になる薬剤は、後発医薬品が上市から5年以上経過したもの、または後発医薬品の置換率が50%以上となった薬剤で、1,095品目です。対象になる薬剤は2024年4月に事務連絡で発出されています。後発医薬品の発売後5年未満かつ置換率50%未満の先発医薬品は選定療養の対象外になるということになりますが、実際に調べてみると対象外の成分は全体の3%ほどですので、ほぼすべての長期収載品が対象となる(=その長期収載品を希望すると差額が増える)と考えてよさそうです。この選定療養の運用開始により、今まで長期収載品を希望していた患者さんが「負担が増えるくらいなら後発医薬品でもいいや」と、後発医薬品に変更するケースが増えそうです。総じて後発医薬品の使用割合がさらに上がることは間違いないでしょう。しかしながら、後発医薬品の安定供給の課題が残っていることは事実です。まずは安定供給が先なのでは…とこの順序に不安を感じずにはいられません。

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認知症は夏に悪化する!?脳の夏バテに注意【外来で役立つ!認知症Topics】第21回

脳の夏バテも彼岸まで診療所を10年前に開業して、それまでよりたくさんの認知症の患者さんを診るようになった。その頃から、7~9月にかけて「この頃、具合が悪い、進行した」という介護者からの訴えが多いことに気づき始めた。具体的には、「繰り返しの質問が増えた、亡くなった人が今そこにいるかのような発言をする、また自宅にいながら家に帰るという発言・行動など」である。そこで理由を考えても、これというものはなかった。ところが、1、2ヵ月後に診察すると、大多数のケースで、「元に戻ったみたい」と介護者はおっしゃる。これを2、3年繰り返したときに「こうしたケースは、どうも9月下旬には改善するようだ」と思った。加えて、毎年夏には当院の患者さんの少なくとも3、4人、多いと10人以上が熱中症で、救急受診や入院することも繰り返し経験するようになった。こうしたケースもまた、9月下旬にはほぼなくなる。こうした人には共通する3つの特徴があった。極端な寒がり(重ね着、エアコン切り、窓閉め)、水分を飲まない、でも汗はダラダラである。なお救急医療の資料では、熱中症で救急搬送される人は毎年約10万人いる。そのうち7月と8月の搬送が大部分を占め、とくに梅雨寒から急に暑くなる梅雨明け1週間が最多だそうだ。こうした経験から、「認知症者は認知・精神機能や行動面の悪化という脳の夏バテの症状を示しやすいのでは? また多くは可逆的で、涼しくなる9月下旬、彼岸の頃には改善するようだ」と考えた。そして医学的には次の2点を確認したいと思った。つまり認知症者は夏の間、1)熱中症を呈しやすいのか?、2)熱中症に至らなくても認知・精神機能等が悪化しやすいのか? である。ところで熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態をいう。その結果、めまいや吐き気、失神など多彩な症状が出て、死亡することさえある。認知症者がこうなる背景はなんだろうか。喉が渇かない、暑くないまず高齢者一般では、喉の渇きに鈍感になる。それが認知症では顕著のようだ。確かに乾かないという人は、水分を飲むように勧めても、まず実行してもらえない。また水分の出納やホルモン反応に関わる腎機能が低下する。さらに脳では、認知症者において、温度に関する脳の反応に異常があると報告されている1)。つまり対象としたアルツハイマー病患者の78%に過敏な温度感覚が認められたとある。また患者の脳においては、温度調節の恒常性に関わる右の島回と側頭葉前方からなる神経回路に異常があるとしている。認知症者と高温の医学的な関係外界が高温になると高齢者では認知機能低下が起こるという報告がある2)。とすると、上記の脳の夏バテは確かな現象のようだ。とくに環境科学領域では、これが緑地の減少と大気汚染と結びつけられ、これら3者の相乗効果が指摘されている。ところで2017年にLancet誌は、大気汚染を認知症の危険因子として示した。当初は不思議だったが、こういうことかもしれないと思った。英国の救急部門における認知症者の入院と外気温との関係を示した報告があった3)。それによれば、外気温が17℃以上なら、1℃高まるたびに入院数は4.5% (95%信頼区間[CI]:2.9~6.1) 増えるとされる。驚いたのは、このまま温暖化が続くと、2040年には300%も上昇するとの記述である。中国から高温と認知症者の死亡を調査した大規模調査4)が最近発表されている。対象は13万人余り、年齢は82.5±22.5歳、女性55.1%。定義として、猛暑日の夜間の温度の閾値を24.5℃、昼間の温度の閾値を33.3℃とした。夜間が24.5℃以上だと死亡の相対リスクが1.38(95%CI:1.22~1.55)になる。また昼間に33.3℃以上では1.46(95%CI:1.27~1.68)になる。さらに、女性、75歳以上、低学歴だと危険性が高いとしている。認知症者の熱中症対策大切なことは、環境温度を下げること、そして十分な水分摂取である。ところが既述のように認知症、とくにアルツハイマー病者は異常に寒がり、喉が渇かないから、少々勧めても聞いてもらえない。前者に対しては、どうしてもエアコンがだめなら、せめて窓開け、また直接本人に当たらないような扇風機の送風を勧める。ご家族には、気付いたらすぐに薄着にさせ、また冷やしたペットボトルを数分間以上握り締めてもらうように伝えておく。これは夏の間、たびたびテレビでも紹介される体温低下法である。手掌や足の裏には、動静脈吻合と呼ばれる動脈と静脈を直接結ぶ血管部位があり、そこへの冷却刺激で深部体温が下がるとされる。アルツハイマー病者に対して、水分は水に限らないと説明する。お茶、紅茶、コーヒー、ジュース、またスイカなど果物も良いと言う。なお、よくある質問に、「ビールはどうか?」がある。言うまでもなく、「ビールは脱水作用のためかえって悪いよ」と答えている。参考1)Fletcher PD, et al. Pain and temperature processing in dementia: a clinical and neuroanatomical. Brain. 2015;138:3360-3372.2)Zhou W, et al. The effects of heatwave on cognitive impairment among older adults: Exploring the combined effects of air pollution and green space. Sci Total Environ. 2023;904:166534.3)Gong J, et al. Current and future burdens of heat-related dementia hospital admissions in England. Environ Int. 2022;159:107027.4)Gao Y, et al. Heat Exposure and Dementia-Related Mortality in China. JAMA Netw Open. 2024;7:e2419250.

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英語で「試行錯誤」は?【1分★医療英語】第147回

第147回 英語で「試行錯誤」は?《例文1》Finding the right dosage was a hit and miss process.(適切な投薬量を見つけるのは、当たり外れのあるプロセスでした)《例文2》This cancer protocol was refined through an iterative process.(この「がんプロトコール」は反復プロセスを通じて洗練されました)《解説》“trials and errors”(試行錯誤)は、「何度も試しては失敗し、その経験から学びながら、最適な解決策を見つけるプロセス」を指します。医療現場においては、新しい治療法や診断法を開発する過程で頻繁に使われる表現です。たとえば、新しい治療法の開発中、医療チームが何度も試行と失敗を重ねて効果的な治療法を見つけることがあります。また、複雑な症例を診断するには、さまざまな種類の検査が必要になることも多く、そのような状況を適切に説明することは患者の診療への理解度を高めるために重要です。「試行錯誤」に類似した表現としては、“hit and miss”(当たり外れ)という表現があり、これは「成功と失敗が混在して起こるプロセス」を示します。たとえば、「適切な投薬量を見つける」ときには、成功と失敗が混在するプロセスになるため、こうした場合は“hit and miss”が使われることが多くなります。“iterative process”(反復プロセス)は、「繰り返し改善を行うアプローチ」を指し、「治療計画などが複数の実践を通じて洗練されていく」というような状況を説明するときに役立ちます。講師紹介

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第231回 コウモリが減って乳児死亡が増加

コウモリが減って乳児死亡が増加米国のコウモリが謎多き真菌感染症でおよそ20年前に大量に死に始め、その数が大幅に減っています。Science誌に報告された新たな解析1)によると、コウモリの激減で人間も知らぬ間に思いもよらぬ影響を受けていたようです。その影響とは乳児の死亡率上昇です。農家にとってコウモリはただで害虫を駆除してくれる貴重な存在です。害虫を含む昆虫をコウモリが一晩で捕食する量は実に自分の体重の40%かそれ以上に達します。コウモリのその無償の奉仕は1年間当たり少なく見積もって37億ドル、多ければ530億ドルもの価値を生み出していると推定されています2)。米国でのコウモリの大量死は、欧州から紛れ込んだPseudogymnoascus destructansと呼ばれる真菌が広まって、同国の北東部で2006年に始まりました3)。冷温を好むP. destructansは冬眠中のコウモリの鼻のあたりで増えて鼻を白くします。それゆえコウモリのP. destructans感染症は白鼻症候群(White-nose syndrome:WNS)と呼ばれます。WNSの主な害は、餌の乏しい時期にコウモリを冬眠から早く目覚めさせてしまうことです。WNSで目覚めてしまったコウモリは寒さゆえカロリーを多く摂取する必要がありますが、いかんせん捕食がままならず、たいてい冬を生きて越すことができません。WNSの破壊力は凄まじく、わずか7年で500万匹を超える北米のコウモリがそのせいで死んでいます。その激減は“風が吹けば桶屋が儲かる”とは反対の悪い影響を巡り巡ってヒトの健康にもたらしたようです。新たな解析によると、捕食者であるコウモリがWNSで減ったことでまずは昆虫が増え、続いて農家は殺虫剤をおよそ31%多く使うようになりました。その殺虫剤使用の増加と並行し、コウモリが大量死した地域では環境毒素の指標としてよく使われる乳児死亡率が平均およそ8%上昇していました。殺虫剤やその他の農薬とヒトの健康への害の関連の裏付けがいくつか存在します。政府は及ぼしうる害を検討したうえでそれら農薬の使用を許可しています。それでも農業従事者や世間の人は農地からの浮遊や地下水に混入した農薬成分を被るかもしれません。殺虫剤はコウモリほど害虫予防に役に立たず、むしろ経済的損失をどうやら招いたことも新たな解析で示唆されています。農作物は質が低下したらしく、その販売収入は29%低下しました。その結果、コウモリが大量死した地域の農家は2006~17年に殺虫剤の費用と減収で合わせて269億ドル損したと推定されました。また、乳児の過剰な死亡は124億ドルの損失を招いたと推定され、コウモリ大量死地域は2006~17年に乳児の死亡と農家の損を合わせて394億ドル損したようです。コウモリが昆虫を抑え込めなくなることが強いる莫大な社会的負担に比べ、コウモリを保つための費用はそれほどかからないでしょう。自然の価値をもっと知ってその保護政策に活かしていく必要があると今回の解析の著者のEyal Frank氏は言っています4)。今回の解析をただ1人で行ったFrank氏によると、コウモリのいくらかの群れが回復し始めている兆しはあるものの、元どおりに増えるまでには数十年かかりそうです。Frank氏の所属団体はコウモリの冬眠場所に昆虫がより集まるように明かりをつけ、コウモリが十分食べられるようにする取り組みをしています5)。また、廃鉱の空調を調節してコウモリのねぐらとして好ましい温度になるようにする検討も他の自然保護団体が始めています。参考1)Frank EG. Science. 2024;385:eadg0344.2)Boyles JG, et al. Science. 2011;332:41-42.3)Loss of bats to lethal fungus linked to 1,300 child deaths in US, study says / Guardian 4)The collapse of bat populations led to more than a thousand infant deaths / Eurekalert 5)My jaw dropped’: Bat loss linked to death of human infants / Science

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高齢者の単純性虫垂炎、最適な治療は?

 高齢者における急性単純性虫垂炎の最適な治療戦略を検討した2万人以上の高齢者を対象としたコホート研究により、即時虫垂切除(入院後1日以内)が非手術的管理より院内死亡率が低いことが示された。また、遅延虫垂切除(入院後1日超)は院内死亡率および合併症発生率が高かった。米国・University of Southern CaliforniaのMatthew Ashbrook氏らが、JAMA Network Open誌2024年8月26日号で報告した。 本研究は、米国における退院患者の約20%の診療報酬データベースであるNational Inpatient Sampleデータから、2016年1月1日~2018年12月31日に単純性虫垂炎と診断された65歳以上の患者データを使用した後ろ向きコホート研究である。患者を非手術的管理、即時虫垂切除、遅延虫垂切除の3群に分類し、院内死亡率、院内合併症発生率などの臨床アウトカムについて、フレイルと非フレイルに分けて評価した。 主な結果は以下のとおり。・計2万4,320例が同定され(年齢中央値:72歳[四分位範囲:68~79]、女性:50.9%)、7,290例(30.0%)がフレイルに分類された(フレイルインデックスで評価)。・全体の院内死亡率は1.4%、合併症発生率は37.3%であった。・多変量解析により、フレイル患者における院内死亡率は、非手術的管理(オッズ比[OR]:2.89、95%信頼区間[CI]:1.40~5.98、p<0.001)と遅延虫垂切除(OR:3.80、95%CI:1.72~8.43、p<0.001)とも即時虫垂切除より高かった。・非フレイル患者における合併症発生率は、即時虫垂切除が非手術的管理より高く(OR:0.77、95%CI:0.64~0.94、p=0.009)、遅延虫垂切除より低かった(OR:2.05、95%CI:1.41~3.00、p<0.001)。 単純性虫垂炎の高齢者を対象としたこの研究では、フレイルと非フレイルによってアウトカムが異なっていた。著者らは「高齢者の急性単純性虫垂炎には即時虫垂切除が好ましい可能性が示唆された」としている。

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患者負担を軽減する世界初の肺胞蛋白症治療薬/ノーベルファーマ

 ノーベルファーマは、世界初の肺胞蛋白症治療薬サルグラモスチム(商品名:サルグマリン吸入用250μg)について本社でプレスセミナーを開催した。 肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、酸素と二酸化炭素をガス交換する肺胞に蛋白様物質が貯留する希少疾患の総称。酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、うまく酸素が体に取り込めなくなるため、呼吸困難、咳や痰、発熱、体重減少などの症状がある。PAPのうち、免疫細胞の過剰産出に起因する自己免疫性PAPが90%を占め、国内に約730~770例の患者が推定されている。 従来の治療法では、全身麻酔下で老廃物を洗い出す区域肺洗浄か全肺洗浄のみであり、患者の身体的負担、治療時間、限定された専門施設など治療上の課題があった。 サルグラモスチムは、肺胞マクロファージに直接作用し、成熟を促すことで、老廃物の分解を促進する薬剤であり、患者にとって新たな治療の選択肢となる。自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)と先天性肺胞蛋白症(CPAP)は2015年に指定難病の指定を受けている。 セミナーでは、サルグラモスチムの特徴、効果の実際、治療を受けての患者の感想などが説明された。患者を全身麻酔下の治療から解放する画期的治療法 「世界初の自己免疫性肺胞蛋白症に対する薬物療法-サルグマリン吸入療法の何処が画期的なのか?-将来の展望」をテーマに中田 光氏(新潟大学医歯学総合病院高度医療開発センター先進医療開拓分野 特任教授)が、PAPの診療、サルグラモスチムの特性と従来の治療との違い、今後の展望などを説明した。 PAPとは、老廃物がゆっくりと肺胞を埋め尽くす疾患で、年間発症200例程度あるが、呼吸器の専門医ではよく知られている疾患。肺胞腔内に溜まるサーファクタント由来の老廃物は、血漿や肺由来のタンパク質、リン脂質、コレステロールなどであり、中でもタンパク質が多く溜まることから本症の名前が付いたとされる。 APAPの病因は、患者の肺にある抗GM-CSF自己抗体であり、肺胞マクロファージの成熟を阻害することで発生するとされている。 症状としては、相当呼吸が苦しくなるというものではなく、正常に呼吸できるときとそうでないときがまばらに生じ、病状が進行すると酸素の取り込みができず呼吸が重くなり、酸素の供給量を増やしても改善されない。 今回承認されたサルグラモスチム(GM-CSF)は、顆粒状マクロファージコロニー刺激因子の人工タンパク(分子量は15,000)で、吸入器を使用して細かい霧を口腔から吸う治療薬で、吸入器から出る粒子は3~5ミクロンの大きさとなる。 薬効機序として、肺胞に到達後、一部は自己抗体に結合するほか、肺胞マクロファージ受容体にたどり着き、機能を賦活化する仕組みで、細胞表面の受容体に結合することで、細胞増殖や成熟、機能維持に効果を発揮する。 また、サルグラモスチムが画期的な治療薬であることから、画期性加算の対象となった。その理由として、既存の治療では、全身麻酔下で10~20Lの生理食塩水で肺の洗浄をするしかなかった治療から吸入だけで肺の老廃物の処理、呼吸機能の改善が期待できること、APAPで肺胞機能が改善された世界初の治療薬であること、広い安全性を有し、通常の使用量を超える量でも安全性が確認されていることが挙げられている。 最後に中田氏は、「サルグラモスチムがマクロファージや好中球などの機能を高め、生体防御に貢献している働きから緑膿菌感染症、肺MAC症、ウイルス性肺炎、肺アスペルギルス症などにも適用拡大ができる可能性がある」と展望を語り、説明を終えた。肺活量が落ちる前に積極的にGM-CSF吸入療法の使用を 「自己免疫性肺胞蛋白症の克服に向けて-GM-CSF吸入療法の重要性」をテーマに石井 晴之氏(杏林大学医学部呼吸器内科 主任教授)が、サルグラモスチムの概要や効果について説明した。 初めに自験例のAPAPの症例を示し、酸素がうまく肺に取り入れないことで予後が悪いと窒息死することを説明。最近では新型コロナウイルス感染症との鑑別診断が難しいという。『肺胞蛋白症診療ガイドライン2022』では、3段階の重症度に合わせた治療指針が示されている。 重症度(DSS)と治療は以下のとおりである。・軽症:DSS1、2/動脈血酸素分圧はPaO2≧70→治療は慎重な経過観察・中等症:DSS3/動脈血酸素分圧は70>PaO2≧60→治療は対症療法(去痰薬、鎮咳薬など)またはサルグラモスチム吸入療法・重症:DSS4/動脈血酸素分圧は60>PaO2≧50DSS5/動脈血酸素分圧は50>PaO2→治療は区域洗浄、対症療法、長期酸素療法、サルグラモスチム吸入療法 今回発売されたサルグラモスチム吸入療法では、1日250μg(1バイアル)を12回(24週間)繰り返して治療を行う(吸入は3秒周期で吸気・息止・呼気を繰り返す)。そして、その効果については、プラセボと比較し、有意に肺の酸素化の改善を示し、肺CT所見以外でもLDH、KL-6、SP-Aも有意に改善していた1)。 また、先に講演した中田氏らが実施した特定臨床研究PAGEIIにも触れ、最重症例を含めた30例について、ベースラインから24週にわたる肺胞気動脈血酸素分圧較差の変化をみたところ、サルグラモスチム吸入療法により標準偏差で平均-12.8mmHg±10.7mmHg下がったという2)。 安全面については、副作用として赤血球・白血球の増多、咳嗽、発声障害、頭痛、尿中陽性などが報告されたが重篤なものはなかった。 最後に石井氏はまとめとして「世界初の承認された薬物療法であり、重症度3~5には積極的に導入すべきであること、肺活量が落ちると効果が下がるので%VCが80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入すべきであること、そして患者さんには禁煙の重要性を指導すべきである」と4項目を挙げ、説明を終えた。GM-CSF吸入療法をしてわかった患者目線の吸入時のポイント APAPの患者として小林 剛志氏(日本肺胞蛋白症患者会 代表)が、「GM-CSF製剤吸入療法の経験談 未来に向けての願い」をテーマに、現在進行形の実体験を語った。 小林氏は、医療機関に勤務する臨床工学技士であり、医学の知識がある。症状は2006年ごろに運動時の息切れ、運動パフォーマンスの低下から始まり、約4ヵ月後にPAPと確定診断されたという。 当初、治療では、全身麻酔下での肺洗浄が行われていたが、2008年からGM-CSF吸入療法を開始した。途中1回の両肺洗浄(2012年)を経て、継続している。吸入治療を経験し、小林氏が気付いたこととして、吸入に際しては「毎日30分吸入」、「臥位で吸入」、「腹式呼吸→胸式呼吸の順」という3点がしっかりと吸入できると提案した。 おわりに小林氏は、患者がもつ本症への不安として「患者ならば誰でも処方してもらえるのか、治療を受けられる施設(現在12程度施設)は今後広がるのか、GM-CSF吸入療法が有効でない場合の対応などがある」と示唆し、今後の患者の願いとして薬剤の冷蔵保管、調剤の煩雑さ、吸入器具の清潔、薬価などの課題解決への期待を寄せた。

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日本人高齢入院患者のせん妄軽減に対するスボレキサントの有用性~ランダム化試験

 高齢入院患者において頻繁にみられるせん妄は、早急なマネジメントを必要とするだけでなく、認知症、施設入所、死亡率など長期的なリスクに影響を及ぼす可能性がある。せん妄は、睡眠障害と関連しているといわれており、特定の睡眠導入薬によりせん妄が軽減する可能性が示唆されている。順天堂大学の八田 耕太郎氏らは、せん妄リスクの高い高齢入院患者を対象に、せん妄軽減に対するオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントの有用性を評価した。JAMA Network Open誌2024年8月1日号の報告。 2020年10月22日~2022年12月23日、日本の医療機関50施設において二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化臨床試験を実施した。研究対象集団は、せん妄リスクが高く、急性疾患または待機的手術のために入院した65~90歳の日本人高齢者。データ分析は、2023年1月23日~3月13日に実施した。対象患者は、入院中に最大7日間のスボレキサント15mg/日就寝前投与を行うスボレキサント群またはプラセボ投与を行う対照群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要エンドポイントであるせん妄は、入院中にDSM-Vの基準に従い診断した。両群間におけるせん妄発生の違いを分析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は203例、スボレキサント群101例(平均年齢:81.5±4.5歳、男性:52例[51.5%]、女性:49例[48.5%])、対照群102例(平均年齢:82.0±4.9歳、男性:45例[44.1%]、女性:57例[55.9%])であった。・せん妄が発生した患者は、スボレキサント群で17例(16.8%)、対照群で27例(26.5%)であった(差:−8.7%、95%信頼区間:−20.1〜2.6、p=0.13)。・有害事象は、両群間で同様であった。 著者らは「せん妄リスクの高い高齢入院患者に対するスボレキサント投与は、対照群と比較し、せん妄発生率が低かったが、統計学的に有意な差は認められなかった。今後は、とくに過活動性を伴うせん妄の軽減に対するスボレキサントの有用性を評価するために、さらなる研究が求められる」としている。

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心不全・2型糖尿病合併CKDへのフィネレノン~約1万9千例の解析/ESC2024

 米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMuthiah Vaduganathan氏らの研究グループは、左室駆出率(LVEF)40%以上の心不全(HFpEF/HFmrEF)患者を対象としてフィネレノンの有用性を検討した1試験、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者を対象としてフィネレノンの有用性を検討した2試験の計3試験のメタ解析を実施した。その結果、フィネレノンは全死亡、心不全による入院、複合腎イベントのリスクを低下させ、心・腎・代謝(CKM)症候群へのフィネレノンの有用性が示唆された。本研究結果は、8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)で発表され、Nature Medicine誌オンライン版2024年9月1日号に同時掲載された。  本研究は、フィネレノンに関するHFpEF/HFmrEF患者を対象とした1試験(FINEARTS-HF)、2型糖尿病を合併するCKD患者を対象とした2試験(FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD)の参加者1万8,991例を対象とした。主要評価項目は心血管死、副次評価項目は全死亡、心不全による入院、複合腎イベント(eGFR 50%以上低下、腎不全、腎死)などとした。 主な結果は以下のとおり。・HFpEF/HFmrEF、2型糖尿病、CKDのうち1つのみ(すなわちHFpEF/HFmrEFのみ)を有する割合は10.4%(1,974例)、2つを有する割合は77.5%(1万4,710例)、3つを有する割合は12.1%(2,307例)であった。・主要評価項目の心血管死はプラセボ群5.0%(471例)、フィネレノン群4.4%(421例)に認められ、両群間に有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.78~1.01、p=0.076)。しかし、事前に規定された感度分析として、原因不明の死亡も含めて解析すると、フィネレノン群で有意なリスク低下がみられた(同:0.88、0.79~0.98、p=0.025)。・全死亡はプラセボ群12.0%(1,136例)、フィネレノン群11.0%(1,042例)に認められ、フィネレノン群で有意なリスク低下がみられた(HR:0.91、95%CI:0.84~0.99、p=0.027)。・心不全による入院についても、フィネレノン群で有意なリスク低下がみられた(HR:0.83、95%CI:0.75~0.92、p<0.001)。・複合腎イベントについても、フィネレノン群で有意なリスク低下がみられた(HR:0.80、95%CI:0.72~0.90、p<0.001)。

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mRNAコロナワクチン後の心筋炎、心血管合併症の頻度は低い/JAMA

 従来型の心筋炎患者と比較して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に心筋炎を発症し入院した患者は心血管合併症の頻度が高いのに対し、COVID-19のmRNAワクチン接種後に心筋炎を発症した患者は逆に心血管合併症の頻度が従来型心筋炎患者よりも低いが、心筋炎罹患者は退院後数ヵ月間、医学的管理を必要とする場合があることが、フランス・EPI-PHAREのLaura Semenzato氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月26日号で報告された。フランスのコホート研究 研究グループは、COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎および他のタイプの心筋炎に罹患後の心血管合併症の発生状況と、医療処置や薬剤処方などによる疾患管理について検討する目的でコホート研究を行った。 フランス国民健康データシステムを用いて、2020年12月27日~2022年6月30日にフランスで心筋炎により入院した12~49歳の患者4,635例のデータを収集した。 これらの患者を、ワクチン接種後心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種から7日以内、558例[12%])、COVID-19罹患後心筋炎(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2[SARS-CoV-2]感染から30日以内、298例[6%])、従来型心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種やSARS-CoV-2感染とは関連のない心筋炎、3,779例[82%])に分類した。 主要アウトカムは、初回入院から18ヵ月間における心筋心膜炎による再入院、心筋心膜炎以外の心血管イベント、全死因死亡と、これらのイベントの複合アウトカムとし、退院後の医療管理(心臓画像検査、心血管治療[β遮断薬、レニン-アンジオテンシン系作用薬]、冠動脈検査[冠動脈造影、CT検査]、トロポニン検査、ストレス検査など)についても評価を行った。再入院と他の心血管イベントにも差はない ワクチン接種後心筋炎群は、COVID-19罹患後心筋炎群および従来型心筋炎群に比べ年齢が若く(平均年齢25.9[SD 8.6]歳、31.0[10.9]歳、28.3[9.4]歳)、男性が多かった(84%、67%、79%)。 18ヵ月時の複合アウトカムの標準化発生率は、従来型心筋炎群が13.2%(497/3,779例)であったのに比べ、ワクチン接種後心筋炎群は5.7%(32/558例)と低く(重み付けハザード比[wHR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.36~0.86)、COVID-19罹患後心筋炎群は12.1%(36/298例)であり同程度だった(1.04、0.70~1.52)。 心筋心膜炎による再入院(ワクチン接種後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:wHR 0.75[95%CI:0.40~1.42]、COVID-19罹患後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:1.07[0.53~2.13])および心筋心膜炎以外の心血管イベント(0.54[0.27~1.05]、1.01[0.62~1.64])は、いずれも差を認めなかった。 全死因死亡は、ワクチン接種後心筋炎群が1例(0.2%)、COVID-19罹患後心筋炎群が4例(1.3%)、従来型心筋炎群は49例(1.3%)でみられた。医療処置、薬剤処方の頻度は従来型心筋炎群と同様 ワクチン接種後心筋炎群およびCOVID-19罹患後心筋炎群の退院から18ヵ月間の医療処置(心臓画像検査、トロポニン検査、ストレス検査)および薬剤処方の標準化された頻度は、従来型心筋炎群と同様の傾向を示した。 著者は、「これらの知見は、現時点および将来にmRNAワクチンを推奨する際に考慮すべきと考えられる」としている。

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翌日の記憶に備えて睡眠中にニューロンが「リセット」

 新しい記憶を作るためには夜間の良質な睡眠が不可欠であることが、米コーネル大学神経生物学および行動科学分野のAzahara Oliva氏らによる新たな研究で示された。日中の記憶を保存したニューロン(神経細胞)は睡眠中にリセットされるのだという。研究の詳細は、「Science」に8月15日掲載された。Oliva氏は、「このメカニズムによって脳は同じリソース、同じニューロンを翌日の新しい学習のために再利用することができる」と言う。 何かを学んだり、新しい経験をしたりすると、人間の記憶を作り出す機能に不可欠な脳領域である海馬のニューロンが活性化され、そうした出来事が記憶として保存される。ニューロンは睡眠中も同じ活動パターンを繰り返し、大脳皮質と呼ばれるより大きな脳領域へとその記憶を転送する。では、海馬の全てのニューロンを使い切ることなく新しい出来事を学び続けられるのは、どうしてなのか。Oliva氏らはその疑問を解くために、マウスを用いた実験を行った。 Oliva氏らは、マウスの海馬に電極を埋め込み、学習中と睡眠中のマウスのニューロンの活動を記録した。その結果、その日の記憶を保存したニューロンは、その記憶を大脳皮質に送り込んだ後、リセットされることが判明した。海馬は、CA1、CA2、CA3の3つの領域に分けられる。CA1領域とCA3領域については研究が進んでおり、時間と空間に関わる記憶の符号化(外部情報を記憶として保存するプロセス)に関わっていることが明らかになっているが、CA2領域については不明な点が多かった。しかしこの研究から、CA1領域とCA3領域は、CA2領域の指示により睡眠中にリセットされることが示唆された。 Oliva氏はコーネル大学のニュースリリースの中で、「われわれは、睡眠中に海馬が別の状態になることに気付いた。それは、全てが静まり返った状態だ。それまで非常に活発だったCA1領域とCA3領域が突然静かになったのだ。これは記憶のリセットであり、この状態はCA1領域とCA3領域の間に位置するCA2領域によって引き起こされていた」と説明する。 さらに、脳に存在する介在ニューロンの中の2種類のサブタイプが、並列する回路で異なる役割を果たしていることも判明した。それらの回路の1つは記憶の維持を担当し、もう1つは記憶をリセットする役割を担っているという。 Oliva氏らは、「全般的に見ると、今回の研究から得られた知見は、全ての動物の脳の健康に睡眠が極めて重要である理由の説明に役立つものである」と述べている。また、この新たな発見は、今後の研究で、記憶の固定化のメカニズムを応用することで記憶力を高めるツールを見つけ出す助けとなる可能性がある。さらに、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のようなネガティブな記憶によって引き起こされる問題や、アルツハイマー病のような記憶障害を治療する新しい方法の基礎の構築につながる可能性もある。

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AIにより自閉症の早期発見が可能?

 人工知能(AI)モデルにより、自閉症スペクトラム障害(ASD)を発症する可能性が高い小児を見つけ出せる可能性のあることが、カロリンスカ研究所(スウェーデン)女性・小児保健部門のKristiina Tammimies氏らによる研究で明らかになった。Tammimies氏らによると、このAIモデルは、広範な評価や臨床試験をせずに2歳以下の小児から簡単に得られる医療データを用いてASDに特有のパターンを探し出すもの。実際に、1万2,000人弱の小児のデータを用いてテストしたところ、ASD児の約80%を特定できたという。この研究結果は、「JAMA Network Open」に8月19日掲載された。 この研究でTammimies氏らは、Simons Foundation Powering Autism Research for Knowledge(SPARK)データベースの、ASDのある児とない児1万5,330人ずつ(計3万660人、平均月齢106カ月、男児63.5%)のデータセットを用いて、ASDを予測するためのAIモデルを構築した。このモデルは、対象者が24カ月未満時に親が報告した、簡単に得られる情報の中から28個の指標を選び出し、これをもとに4つの機械学習アルゴリズム(ロジスティック回帰、決定木、ランダムフォレスト、XGBoost)を用いて構築された。 テストデータを用いてそれぞれのモデルの予測能を検証したところ、最も優れているのはXGBoostモデルであることが判明した(ROC曲線下面積0.895、感度0.805、特異度0.829、陽性的中率0.897)。Tammimies氏らはこのモデルをAutMedAIと名付けた。また、予測には、児が初めて笑った月齢、初めて短文を話した月齢、偏食の問題の存在の3つの因子が強い影響を及ぼすことも判明した。別の検証コホート1万1,936人を用いて検証したところ、モデルはASD児の78.9%(8,262人)を正確にASDであると判定した。 研究グループは、ASDの早期診断は重要だと強調する。なぜなら、ASDに対する効果的な治療や介入を早く受ければ受けるほど、良好な転帰が望めるからだ。論文の筆頭著者であるカロリンスカ研究所のShyam Rajagopalan氏は、「この研究結果は、比較的限定的で容易に入手できる情報からASDの可能性がある個人を特定できることを示している点で重要だ」と話す。その上で、「この予測モデルにより早期診断と介入の条件が劇的に変化し、最終的には多くの人々とその家族の生活の質が向上する可能性がある」と話している。 研究グループは目下、考慮するパラメーターに遺伝情報を追加する可能性も含め、AIプログラムをさらに改良する作業を進めている。Tammimies氏は、「このモデルが臨床現場に導入できるほど信頼の置けるものであることを保証するためには、厳密な作業と慎重な検証が必要だ。ただし、一つ明確にしておきたいのは、われわれが目指しているのこのモデルを医療にとって価値ある診断ツールにすることであり、ASDの臨床評価に取って代わることを意図したものではないということだ」と話している。

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歯周ポケットなどの歯科健診項目は嚥下機能と関連

 75歳以上の日本人高齢者を対象に、歯科健診の結果と嚥下機能との関連を調べる縦断的研究が行われた。その結果、歯周ポケットの深さが4mm以上、硬いものが噛みにくいこと、水やお茶でむせること、口が乾くことは、将来の嚥下機能低下と関連することが明らかとなった。朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野の岩井浩明講師、友藤孝明教授らによる研究であり、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。 加齢に伴う筋肉量の減少などにより、嚥下機能は低下する。また、ストレスや抑うつなどのメンタルヘルスの問題も嚥下機能低下のリスクであるとされる。口腔の健康状態に関しては、唾液の分泌、残存歯数、歯周病菌などと嚥下機能との関連が報告されている。しかし、口腔に関するどのような要因が、嚥下機能低下につながるのかは明らかになっていない。 そこで著者らは、2018年4月から2019年3月に岐阜県内の4つの市で歯科健診を受診した75歳以上の地域住民を2020年4月から2021年3月まで追跡し、歯科健診項目と2年後の嚥下機能低下との関連を検討した。歯科医師による歯科健診として、嚥下機能、残存歯数、虫歯の有無、歯周ポケットの深さなどを評価した。反復唾液嚥下試験を行い、嚥下回数が30秒間に3回未満の場合を嚥下機能低下と判定した。また、自記式質問票を用いて、硬いものが噛みにくいか、お茶や水でむせるか、口が乾くかどうかや、喫煙習慣などについても調査した。 ベースライン時に嚥下機能が低下していた人などは除き、解析対象者は3,409人(ベースライン時の平均年齢81歳、男性42%)だった。 2年後に嚥下機能低下と判定された人は429人(13%)だった。ベースライン時と比べて2年後の方が、高血圧(61%対64%)、糖尿病(35%対38%)、運動器障害(75%対78%)、要支援・要介護認定(11%対22%)を有する人の割合は有意に高く、残存歯数20本以上の人(67%対62%)の割合は有意に低かった。一方、虫歯のある人(26%対25%)、歯周ポケット4mm以上の人(66%対68%)、硬いものが噛みにくい人(24%対25%)、お茶や水でむせる人(21%対22%)、口が乾く人(30%対32%)の割合については、有意差は認められなかった。 次に、嚥下機能低下と関連する因子を多変量ロジスティック回帰により解析した。その結果、男性(オッズ比0.772、95%信頼区間0.615~0.969)、81歳以上(同1.523、1.224~1.895)、要支援・要介護認定(同1.815、1.361~2.394)、歯周ポケット4mm以上(1.469、1.163~1.856)、硬いものが噛みにくいこと(同1.439、1.145~1.808)、お茶や水でむせること(同2.543、2.025~3.193)、口が乾くこと(同1.316、1.052~1.646)が、2年後の嚥下機能低下と有意に関連していることが明らかとなった。 今回の研究結果に関して、嚥下機能が低下すると元の状態に戻ることは困難であることから、著者らは「歯科健診を通じて、嚥下機能低下を予防するための早期スクリーニングを行うこと」の重要性を指摘している。また、「嚥下機能低下と関連する因子が見つかった人には、早期の歯科的介入が必要となる可能性がある」と述べている。

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第209回 医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省

<先週の動き>1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省厚生労働省は2024年9月5日、医師の地域・診療科偏在を是正するために「医師偏在対策推進本部」を設置し、9月5日に初会合を開催した。武見 敬三厚労相は冒頭で、「医師偏在の解消なしには、国民皆保険制度の維持は困難だ」と述べ、医師偏在問題に対する強い危機感を示した。本部は年末までに、経済的インセンティブや規制的手法を含む総合的な対策パッケージを策定する予定。会合では、主に「医師確保計画の深化」「医師の育成と配置」「実効的な医師配置」の3つの柱に基づき議論が進められた。とくに、医師少数区域での医師確保を目指し、若手医師や医学生に対する地域医療への理解促進や研修制度の見直しなどが検討されている。また、外来医師が多い都市部での新規開業を制限するため、規制的手法も導入される可能性がある。さらに、美容医療への若手医師の流出を抑えるため、公的保険診療の経験をクリニック開業の条件とする案も議論された。とくに美容外科などの分野で若手医師が急増している現状を踏まえ、保険外診療のみに依存する医療機関の乱立を防ぐ狙いがある。対策推進本部では、地方の医療機関への財政支援や医師が少ない地域への医師派遣制度の強化なども進める予定。都道府県が策定する医師確保計画に基づき、地域ごとの医師の需給バランスを見極めながら対策を推進する。今後、さらに具体的な議論が進み、年末には法改正も視野に入れた包括的な対策が発表される見通し。参考1)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案 主な論点(同)3)美容クリニック開業に規制案 公的医療の経験必要に(日経新聞)4)外来医師多数区域における新規開業への規制的手法などを議論 厚生労働省「医師偏在対策推進本部」が始動(日経メディカル)5)医師偏在「もはや待ったなし」 厚労省、是正に向け部局横断会議(毎日新聞)2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府2024年9月2日に政府は、認知症施策の基本計画案を発表した。計画の中心には「認知症になっても希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という新たな認知症観が据えられ、その浸透を進めることが重点目標とされた。これにより、認知症の人を「支える対象」とする従来の考え方から、共に支え合う社会を目指す方針へと転換する。また、この計画は、認知症基本法に基づく初めての施策であり、2029年度までを計画期間とし、5年ごとに見直しを行う予定。計画案では、認知症になった後も、できることややりたいことがあるという前提を掲げ、偏見の解消を目指す。「ピアサポート活動」を推進し、認知症当事者が支え合う仕組みや、学校現場での教育活動なども盛り込まれた。また、当事者の意思を尊重し、地域での生活を支えることが重要視されている。さらに、重点目標として「当事者の意思尊重」「地域での安心した生活」「新技術の活用」が挙げられ、認知症の人が他者と支え合いながら住み慣れた地域で暮らせる社会を目指す。具体的な施策として、若年性認知症の人の就労支援強化や地域のバリアフリー化推進、認知症サポーターの養成などが含まれている。計画は今月下旬にも閣議決定され、各自治体においても地域の実情に応じた計画の策定が進められる。これにより、認知症の人々が、社会の一員として共に生きるための施策が強化される見通し。参考1)認知症施策推進基本計画[案](内閣府)2)「認知症でも自分らしく」 政府重点目標、基本計画案(日経新聞)3)希望を持って生きる「新しい認知症観」 基本計画案を了承(毎日新聞)4)「新しい認知症観」で社会参画促す 認知症基本計画 閣議決定へ(朝日新聞)5)認知症施策推進基本計画案、当事者らの参画を強調 認知症カフェなどでの交流促す 政府(CB news)6)「新しい認知症観」を明示 国の基本計画固まる(福祉新聞)3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省厚生労働省は、2022年に実施した国民健康・栄養調査の結果を公表した。これによると、20歳以上の喫煙率は14.8%と過去最低を記録した。前回の2019年の調査結果の16.7%を下回り、2003年以降の最低値を更新したが、政府が「健康日本21(第2次)」で掲げた目標の12%には届いていない。男女別の喫煙率は、男性が24.8%、女性が6.2%で、いずれも過去最低だった。とくに男性では30代が35.8%、女性は40代が10.5%と高い傾向がみられた。喫煙者のうち、たばこを止めたいと考えている人は全体の25%で、男性では21.7%、女性では36.1%が禁煙を希望している。今後、厚労省は、喫煙を止めたい人への治療支援をさらに充実させる方針を示している。また、「受動喫煙の機会がある」と答えた人の割合も減少しており、とくに飲食店や遊技場では規制強化により半減し、それぞれ14.8%、8.3%となった。一方、路上や職場での受動喫煙は依然として高く、路上では23.6%、職場では18.7%と報告されている。この調査は2022年11~12月にかけて、全国約2,900世帯を対象に実施された。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年と2021年の調査は中止され、今回は3年ぶりの調査となった。厚労省は今後も、規制強化と禁煙支援の充実を進めることで、喫煙率のさらなる低下を目指す考えを強調している。参考1)令和4年「国民健康・栄養調査」の結果(厚労省)2)喫煙率14.8%、過去最低 国民健康・栄養調査(日経新聞)3)「喫煙率」14.8% 厚労省2022年の調査 2003年以降で最も低く(NHK)4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省9月3日に厚生労働省は「医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料」を事務連絡で発出した。2024年10月から導入される「医療DX推進体制整備加算」では、マイナンバーカードによる保険証(マイナ保険証)の利用率に基づき、医療機関が算定する新たな評価制度がスタートする。資料によれば、この加算の算定基準となるマイナ保険証の利用率が、翌月に適用されることを明確にした。医療機関は、毎月中旬に社会保険診療報酬支払基金からメールで通知される利用率を基に、翌月1日から加算の算定が可能になる。この加算は、マイナ保険証利用率に応じて3区分に分類され、医療機関ごとの利用率が基準値を満たしている場合、施設基準の再届け出は不要とされる。ただし、利用率が基準に満たない場合は加算が算定できないことも示されている。さらに、利用率は2~5ヵ月前までの期間で「最も高い数値」を選択して算定できる柔軟な対応が可能となる。医療DX推進体制整備加算は、診療情報や処方箋情報の電子化、患者の医療情報の共有を促進する取り組みであり、医療の質と効率を高めることを目指す。2024年10月からの基準値は、最も高い加算(11点)を受けるためには15%以上の利用率を求め、来年1月以降は30%以上が必要となる。その他の区分も利用率に応じた基準が設けられている。さらに、今回の加算見直しでは、利用率の基準を確認できる仕組みが強化され、支払基金のポータルサイトを通じて、医療機関が確認できるようになっている。2025年4月以降の利用率基準も今後の状況を踏まえて再評価される予定であり、今後も医療機関の対応が重要視される。参考1)医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)(厚労省)2)通知のマイナ利用率、翌月に適用 DX加算で医療課(MEDIFAX)3)医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率は「自院に最も有利な数値」を複数月から選択適用可能な点など再確認-厚労省(Gem Med)5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省2025年に向けて地域の病床機能の再編や地域ごとの医療体制を整備するために取り組んできた地域医療構想を見直すために、厚生労働省は、新たに2040年に向けて立ち上げた「新たな地域医療構想に関する検討会」で、2040年に向けた新たな地域医療構想の方向性を示した。とくに85歳以上高齢者の救急医療や在宅医療の需要増加に対応するため、現行の二次医療圏よりも小規模な地域単位での医療提供体制を強化することが求められている。日本病院会も、二次医療圏の見直しを提言し、今後意見書を提出する予定。新たな地域医療構想の議論では、現行の考え方を継続する部分と新しい要素を組み込む部分を区別しながら進めるべきという意見が出されている。各都道府県が策定するガイドラインについて、国は細部を厳格に定めず、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められている。9月5日に開かれた社会保障審議会医療部会では、市立病院の再編や経営支援、在宅医療や外来医療を含む包括的な地域医療体制の整備が提案された。また、現行の病床機能報告制度や病床数の不足が指摘されている回復期病床の見直しも求められている。精神科医療の組み込みやかかりつけ医機能報告制度に関する議論も進められ、これらを踏まえた新たな医療構想の実現が目指されている。2040年には後期高齢者の増加に伴い、介護・福祉との連携も重要視され、内科系の急性期医療や救急医療の需要が高まることが予想されている。とくに85歳以上の救急搬送件数は、2020年から2040年にかけて75%増加する見通しであり、ADL(活動能力)の低下を防ぐため、早期のリハビリ提供が重要になる。加えて、在宅医療の需要も同時期に62%増加すると予想され、24時間対応の体制構築やオンライン診療の活用が課題とされた。新たな地域医療構想では、入院医療だけでなく外来医療や在宅医療も対象とし、長期的に地域における医療提供体制を見直す方針が示された。また、医療圏を越えて一定の症例や医師の集約を進め、高度医療の提供体制を強化することも検討されている。過疎地域では医療機能の維持が重要視され、医師の派遣やICTの活用を通じて地域の医療提供力を高めることが求められている。今後、年末までに具体的な対策が取りまとめられ、2025年度からの実施を目指す。参考1)新たな地域医療構想の検討状況について(厚労省)2)2040年ごろを見据えた新しい地域医療構想の方針を提示 医療圏より小さい範囲で在宅医療の提供体制の検討を(日経メディカル)3)新たな地域医療構想、「2次医療圏」見直しを 日病(MEDIFAX)4)新たな地域医療構想論議、「現行の考え方を延長する部分」と「新たな考え方を組み込む部分」を区分けして進めよ-社保審・医療部会(Gem Med)6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府政府は、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担について、3割負担の対象範囲を拡大する方針を検討している。これは、2024年に改定予定の「高齢社会対策大綱」に盛り込まれ、高齢化に伴う医療費の膨張に対応するための措置として進められる。現在、75歳以上の高齢者は原則1割自己負担だが、一定の所得がある場合は2割、さらに現役並みの所得がある場合には3割を負担している。今回の改定では、この3割負担の適用範囲が広がる可能性がある。政府は2023年12月に決定した社会保障改革の工程表で、この負担増を検討課題として挙げており、2028年度までに「現役並み所得」の判断基準を見直す計画を示している。医療費の膨張を抑制するため、負担を増やす一方で、負担増に対する国民の反発も懸念され、今後の議論は難航する可能性がある。さらに、内閣府は、高齢者の就労を促進するための「在職老齢年金制度」の見直しも提言。具体的には、働く高齢者が一定以上の所得を得た場合に年金受給額を減らす現行の制度を見直し、就労を支援する方向での改革を進めるとされている。また、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の引き上げなど、私的年金制度の拡充も検討中であり、これらも大綱に含まれる予定。この改定案は、2024年内に閣議決定される見通しで、今後のわが国の高齢社会に対応する医療制度の持続性を高めるための重要な議論となる。参考1)高齢社会対策大綱の策定のための検討会 報告書[案](内閣府)2)75歳以上医療費、3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱(日経新聞)3)政府が75歳以上の医療費3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱案に明記、制度持続狙い(産経新聞)

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第77回 ポアソン分布とは?【統計のそこが知りたい!】

第77回 ポアソン分布とは?ポアソン分布(Poisson distribution)は、まれな事象が起こる回数の確率分布を表す確率分布です。たとえば、1ヵ月間当たりの交通事故の発生件数や国道1km当たりのレストラン数などがポアソン分布に従うことがあります。では、身のまわりでよくある確率の問題で考えてみましょう。(1)ある交差点で1ヵ月間に起きる交通事故の死者数が平均1.2人であるとき、1ヵ月間の死者の数が0人である確率は?(2)国道200km当たりのレストラン数は10軒であるとき、国道1km当たりのレストラン数が1軒以上ある確率は?これらのテーマは、時間(たとえば1日当たり)、距離(たとえば1km当たり)などある一定区間の中で、偶然起こる事象の確率を考える問題です。ポアソン分布は、このように一定の長さの期間や距離において、ごくまれに起こる事象の数の分布です。前回第76回「二項分布とは?」で解説した二項分布と違って、nは必要ありません。たとえば交差点での交通事故の件数は極めてまれですが、その対象となる運転者や通行人のnはとても大きく、日々変化するなどで決められないのが通常です。このように、ポアソン分布は起こる確率の低い事象に対する分布であり、別名「少数の法則」とも呼ばれています。■ポアソン分布における確率分布と確率の求め方(1)の事例でポアソン分布を作成し、ポアソン分布を用いて確率分布を求めてみましょう。二項分布では、ある事象の起こる確率をP、この事象の試行回数をn回としてX回起こる確率を求めました。しかし、この(1)の事例ではPやnはわかりません。わかっているのは平均の1.2人のみです。この例では二項分布は適用できません。この問題を解決してくれるのがポアソン分布です。ある事象における平均値をmとします。この事象がX回起こる確率をP(X)で表すと、ポアソン分布におけるP(X)は次の公式によって求められます。ただ、この式の計算は煩雑なので、Excel関数によって計算してみましょう。算出された確率分布(表1)とそのグラフ(図1)を示します。表1 ポアソンの確率分布(左)図1 ポアソンの確率分布グラフ(右)画像を拡大するポアソン分布を用いて(1)の事例の確率を求めます。ある交差点で1ヵ月間に起きる交通事故の死者数が平均1.2人であるとき、1ヵ月間の死者の数が0人である確率は、上記の確率分布表より、0.3012(約30%)となります。それでは次にある交差点で1ヵ月間に起こる事故の件数が2、3、4、5件として、ポアソン分布のグラフを作成してみましょう(件数のことを“μ”と呼びます。この場合μ=2、3、4、5件となります)表2 ポアソンの確率分布の比較表(左)図2 ポアソンの確率分布の比較グラフ(右)画像を拡大する事故の件数(μ)が大きくなるほどグラフは右側へスライドし、右に裾を引いているグラフがだんだん左右対称に近付いていることがわかります。ポアソン分布はμが大きくなるにつれて、正規分布に近付いていきます。■二項分布とポアソン分布の比較前回第76回で適用したコイントスの事例をポアソン分布で計算してみましょう。「オモテの出る確率が0.5のコインを3回投げたとき、オモテが2回以上出る確率は?」でした。ポアソン分布は平均値を用いますので、この事例における平均値をまず算出します。平均値はn×Pで求められますので、平均値=n×P=3×0.5=1.5となります。Excel関数より下記のようになります。X=2の場合 =POISSON(X,m,0)→POISSON(2,1,5,0)→0.2510X=3の場合 =POISSON(X,m,0)→POISSON(3,1,5,0)→0.1255以上からオモテが2回以上の確率は、0.2510+0.1255=0.3765となり、二項分布における確率は0.5で、ポアソン分布の0.3765と異なる値となりました。ポアソン分布は別名「少数の法則」というように確率が低い事象についての確率分布ですので、50%の確率がある事象については、ポアソン分布を当てはめることに無理があったということになります。医療の領域でポアソン分布は、疫学調査における疾患発生率の推定にも用いられます。たとえば、ある地域におけるある疾患の発生数が、1年間平均で10例だった場合、その疾患の発生数はポアソン分布に従うことがあります。このとき、ポアソン分布の式を使って、ある年にその疾患にかかる人数が5例以下である確率を求めることができます。■二項分布とポアソン分布を使い分けるときの注意点二項分布とポアソン分布は、いずれも離散確率分布ですが、使い分けには以下のような注意点があります。まず、二項分布は、試行回数が固定された独立な試行で成功確率が一定の場合に適用されます。一方、ポアソン分布は、時間や面積などの連続的な空間において、単位時間当たりや単位面積当たりに発生する現象のような、成功回数がまれである(平均値が小さい)場合に適用されます。つまり、二項分布は、離散的な試行で確率を求める場合に適しており、ポアソン分布は、連続的な現象で発生回数がまれな場合に適しています。また、ポアソン分布は、平均値が大きくなると正規分布に近付くため、平均値が大きい場合には正規分布を用いることが一般的です。たとえば、ある病院において、手術中に合併症が生じる確率が0.1%(成功率が99.9%)であるとして、その手術を10回実施する場合、二項分布を用いて、2回以上合併症が生じる確率を求めることができます。一方、ある病院における1日当たりの入院患者数が、平均で5人である場合、ポアソン分布を用いて、ある日に入院患者が3人来る確率を求めることができます。以上のように、二項分布とポアソン分布は、適用する現象が異なるため、使い分けには注意が必要です。次回は「4種類あるエラーバー」について解説します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第56回 正規分布とは?第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?第58回 標準正規分布とは?

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