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発作性夜間ヘモグロビン尿症に経口治療薬が登場/ノバルティス

 ノバルティス ファーマは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の単剤経口薬イプタコパン(商品名:ファビハルタ)の発売と適正使用の推進に向けて都内でメディアセミナーを開催した。 PNHは、後天性の遺伝子異常により赤血球が補体の攻撃を受けやすくなるまれな血液疾患。わが国には約1,000例程度の患者が推定されている。進行は緩徐であるが、溶血発作を繰り返すことで血栓症や造血不全になることもあり、脳卒中や臓器障害といった重篤な合併症を引き起こすリスクがある。 イプタコパンは、新たな作用機序により、現在使われている補体C5阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られないPNH患者のヘモグロビン(Hb)値とQOLを改善する単剤で使用できる唯一の経口治療薬。血管内外の溶血を抑制し、Hb値を改善することでPNHの課題に対処するとともに、患者を輸血などの侵襲的な処置を伴う治療から解放する有効な治療選択肢として期待されている。本セミナーでは、PNHの診療ならびに今後の治療への展望、患者の体験談などが講演された。PNHの治療と課題 はじめに「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療と課題」をテーマに西村 純一氏(大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科 招聘教授)が講演を行った。 PNHは後天性のまれな造血器疾患であり、わが国に中等症以上の指定難病の受給者証所持者が約1,000例(軽症例も含めると約2,000例は推定される)おり、年々増加している。有病率はアジア圏で高く、診断時年齢はわが国では45歳であり、性差はない。 発症は、補体活性の制御不能により引き起こされ、補体第二経路が介在することが知られている。典型的な症状として、貧血・めまい、疲労、息切れ・呼吸困難、ヘモグロビン尿症、黄疸、腹痛、嚥下困難、男性機能不全などがみられる。そして、3大徴候として「溶血、血栓症、骨髄不全」がみられ、とくに骨髄不全の有無が、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群との鑑別でのメルクマールとなる。 PNHでは、慢性溶血によりNOが枯渇し、ヘモジデリンが腎臓尿細管に沈着するために腎機能が障害される。そのためにPNH患者の64%が慢性腎臓病(CKD)であり、21%がステージ3~5であるという報告もある1)。 また、血栓症についてPNHでは、血管内溶血などにより血栓症を合併する。その多くは静脈血栓症であるが、動脈血栓症も発症し、顆粒球のクローンサイズや溶血の程度が大きいほど血栓症リスクは増加する。 PNHの診断フローチャートによれば、溶血所見を確認後、PNHを疑う場合、フローサイトメトリー検査でPNHかそうでないかを診断する。 PNHの治療については、溶血が主体か(古典的PNH)、骨髄不全が主体か(骨髄不全型PNH)で分けて考えられている。骨髄不全が主体の場合、再生不良性貧血の診療が参照となる。一方、溶血が主体の場合、重症、中等症、軽症に分けて治療が行われる。 溶血の治療では、2010年に登場した補体C5阻害薬のエクリズマブから最新の補体B因子阻害薬のイプタコパンまで数種類の治療薬が現在使用できる(ただし抗補体療法は中等症[LDH値が正常の3倍以上、年に1~2回肉眼的ヘモグロビン尿症認知、腎障害、胸痛、腹痛などの症状あり]以上が適応)。 補体C5阻害薬の使用により、血管内溶血の抑制、貧血の改善、患者のQOLの改善、血栓症の予防、ステロイドの減量・中止、抗凝固薬の減量・中止、妊娠の管理ができるなどの効果が得られる。その一方で、持続性貧血の残存2)、輸血依存、疲労感などのQOL不良、治療薬に抵抗性のある患者への対応などの課題もある。 西村氏は「PNH患者のQOL向上のために、溶血に伴う持続性貧血だけでなく、疲労の改善も今後は考える必要がある」と語り、説明を終えた。イプタコパンは貧血に伴う疲労感の改善に期待される PNHに関して、患者の生命予後は良くなったが、患者のQOLの改善は課題とされている。そこで、イプタコパンがどういう効果を及ぼすか、また、今後の治療をどう考えるかについて「国際共同第III相試験の結果から考えるPNH治療の展望」をテーマに、植田 康敬氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科 学内講師)が、イプタコパンのAPPLY-PNH試験の概要を説明した。 イプタコパンの国際共同第III相試験のAPPLY-PNH試験では、主要評価項目として、無輸血で126~168日目にHb値がベースラインから2g/dL以上増加するか、無輸血で126~168日目にHb値12g/dL以上となるかの2項目が評価された。また、副次評価項目として輸血回避、FACIT-Fatigueスコア(日常生活および機能に疲労が及ぼす影響を評価する患者報告アウトカムの指標、がん患者で頻用されている)3)のベースラインからの変化量、網状赤血球数のベースラインからの変化量などが評価された。 試験デザインとして、補体C5阻害薬投与下で貧血を呈するPNH患者97例(日本人9例を含む)について、主要評価期(24週間)にはイプタコパン群62例(日本人6例を含む)と補体C5阻害薬群35例(日本人3例を含む)に分け実施、継続投与期(24週間)には全員がイプタコパンを投与された。 その結果、血液学的奏効ではHb値の改善はイプタコパン群が82.3%だったのに対し、補体C5阻害薬では2.0%だった。また、輸血回避(無輸血)はイプタコパン群が94.8%だったのに対し、補体C5阻害薬では25.9%だった。LDH値の対ベースライン比は、イプタコパン群と補体C5阻害薬はほぼ変わらなかった。これは、血管内溶血の抑制維持を示すものとされる。 副次評価項目であるFACIT-Fatigueスコアでは、イプタコパン群が8.59だったのに対し、補体C5阻害薬では0.31だった(点数が低いほど疲労が大きい)。また、臨床的ブレイクスルー溶血の発現はイプタコパン群が2例(3.2%)だったのに対し、補体C5阻害薬では6例(17.1%)だった。 安全性面について、主な副作用として両群ともに頭痛、悪心、関節痛が報告されているが、死亡などの重篤なものは報告されなかった。 48週後の効果についてもイプタコパン群は、血液学的奏効、輸血回避も効果が持続し、FACIT-Fatigueスコアも高いまま効果が保たれ、安全面でも24週時と同様の結果だった。 植田氏は、「PNH合併症の貧血からくる疲労感が、患者のQOLや予後不良4)、認知機能に大きな影響を与えている。PNHでは貧血だけでなく、この疲労感の改善も考える必要がある。今回発売されたイプタコパンが、今後、これらの患者の疲労感の改善を促し、経口薬という身体に負担の少ない治療によりQOLが改善することを期待する」と述べ、説明を終えた。 最後にPNH患者の体験談として、「当初は15分の徒歩通勤も大変だったこと、最初のころの点滴治療がつらかったこと、現在では経口薬の治療により活動的になったことなど」が語られた。 なお、イプタコパンは、2024年6月24日に製造販売承認を取得し、同年8月15日に薬価基準収載、発売されている。効能・効果は発作性夜間ヘモグロビン尿症。用法・用量は、通常、成人に1回200mgを1日2回経口投与。薬価は7万3,218.10円となっている。

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ICU入室期間、専門医療チームによる遠隔医療vs.通常ケア/JAMA

 集中治療室(ICU)に入室した成人重症患者では、通常ケアと比較して、専門医資格を持つ集中治療医が主導し現地の集学的医療チームと行う遠隔医療による毎日の集学的回診は、ICU入室期間(ICU LOS)を短縮せず、患者レベルおよびICUレベルのアウトカムにも改善を認めないことが、ブラジル・Hospital Israelita Albert EinsteinのAdriano J. Pereira氏らが実施した「TELESCOPE試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年10月9日号で報告された。ブラジルのICUのクラスター無作為化試験 TELESCOPE試験は、ICUにおける遠隔医療が重症患者の臨床アウトカムを改善するか評価することを目的とする非盲検クラスター無作為化対照比較試験であり、2019年6月~2021年4月の期間にブラジルの30ヵ所のICUで患者を登録した(ブラジル保健省などと提携した)。 専門医資格を有する集中治療医の主導による毎日の集学的回診が日常的に行われていない30ヵ所のICUを、月~金曜日に集中治療医が主導し現地の集学的医療チームと行う遠隔医療により集学的回診を行う群(遠隔ICU群、15施設)、または通常ケアを行う群(通常ケア群、15施設)に無作為に割り付けた。遠隔ICU群では、集中治療医主導の集学的遠隔回診のほか、ICUの能力に関する指標について議論するための月1回の監査とフィードバック会議を開催し、エビデンスに基づく臨床プロトコールが提供された。 司法関連の問題がある患者を除き、参加ICUに入室したすべての成人(年齢18歳以上)患者を対象とした。 主要アウトカムは、患者レベルでのICU LOS(ICU入室から退室[他の介護施設または病院への転院]またはICUでの死亡までの期間)とした。サブグループ解析でも差はない 1万7,024例(ベースライン期間1,794例[遠隔ICU群909例、通常ケア群885例]、介入期間1万5,230例[7,471例、7,759例])を登録した。全体の平均年齢は61(SD 18)歳、44.7%が女性で、SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア中央値は6点(四分位範囲:2~9)であり、45.5%が入室時に侵襲的機械換気を受けていた。 ベースライン評価で補正した平均ICU LOSは、遠隔ICU群が8.1(SD 10.0)日、通常ケア群は7.1(9.0)日と、両群間に有意な差を認めなかった(変化率:8.2%[95%信頼区間[CI]:-5.4~23.8]、群間差中央値:0日[-2~3]、p=0.24)。 感度分析および事前に規定されたサブグループにおいても、統計学的な有意差はみられなかった。副次アウトカムにも差はない 8項目の患者レベルの副次アウトカムにも両群間に有意差はなく、たとえば院内死亡率は遠隔ICU群が41.6%、通常ケア群は40.2%であった(オッズ比:0.93、95%CI:0.78~1.12)。また、ICUレベルの副次アウトカムにも差はなかった。 著者は、「遠隔医療の恩恵を受けるICUとはどのようなものかを含め、ICU患者のアウトカムを改善するための遠隔医療提供の最良のモデルは、いまだに定義されていない」としている。

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感染症学会ほか、コロナワクチン「高齢者の定期接種を強く推奨」

 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会は、10月21日に「2024年新型コロナワクチン定期接種に関する見解」を共同で発表した。3学会は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザより高く、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨している。本見解は、接種を検討する際の参考となる科学的根拠を提供している。 学会の見解によると、新型コロナワクチンは、世界では2020年12月からの1年間にCOVID-19による死亡を1,440万例防ぎ1)、日本では、もし新型コロナワクチンが導入されていなかったら、2021年2~11月の期間の感染者数は報告数の13.5倍、死亡者数は36.4倍に及んでいたと推定されている2)。また、2023年秋のXBB.1.5対応ワクチンは、日本の高齢者のCOVID-19による入院を44.7%減少させた3)ことが、過去の研究より判明している。 オミクロン株はXBB.1.5、JN.1、KP.3と数ヵ月ごとに変異し、変異のたびに免疫回避力が強まっている。そのため流行を繰り返しており、今冬には再び大きな流行が予想される。このような中、日本の高齢者は若年層に比べてCOVID-19に罹ったことのない人が多く、引き続きワクチンによる免疫の獲得が重要となる。高齢者のCOVID-19の重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上 2024年の流行では、高齢者のCOVID-19による入院が増え、高齢者施設の集団感染も続いている。国の死亡統計では、5類感染症移行後1年間のCOVID-19による死亡者数は2万9,336例で、新型コロナ出現前の60歳以上のインフルエンザ年間死亡者数1万908例より多く4)、COVID-19の疾病負荷は依然として大きい状況だ。 新型コロナワクチンの発症予防効果は、ウイルスの変異の影響もあり、数ヵ月で減衰するため、流行株に対応した新たなワクチンの接種が必要となる。日本では、2024年10月からJN.1対応ワクチンが新たに使用されている。なお、現在流行しているKP.3はJN.1の派生株で、JN.1対応ワクチンはKP.3に対しても一定の効果が期待される。 毎シーズン変異を繰り返すインフルエンザウイルスに対して、毎年新しいインフルエンザワクチンが高齢者に定期接種として使用されているように、新型コロナウイルスに対しても新たな流行株に対応した新型コロナワクチンを少なくとも年に1回は接種することが必要であるという。3学会は、高齢者には新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨している。ワクチンの利益とリスクの大きさを科学に基づいて正しく比較し、接種対象者自身が信頼できる医療従事者とよく相談して、接種するかどうかを判断することが望まれるという見解を示している。5種類のJN.1対応ワクチン、有効性・安全性のエビデンスを明記 定期接種として用いられるJN.1対応ワクチンは、ファイザーの「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」、モデルナの「スパイクバックス筋注」、武田薬品工業の「ヌバキソビッド筋注」、第一三共の「ダイチロナ筋注」、Meiji Seika ファルマの「コスタイベ筋注用」の5種類だ。いずれも有効な免疫誘導と安全性が臨床試験で確認されている。これらのワクチンはすべて一過性の副反応があるが、臨床試験ではワクチンと関連した重篤な健康被害は認められなかった。本見解には、各ワクチンの詳細なデータが記載されている。 なお、Meiji Seika ファルマのレプリコンタイプ(自己増幅型)の次世代mRNAワクチンである「コスタイベ筋注用」については、SNSなどで科学的根拠に基づかない情報が流布し、一部の人から強い懸念の声が挙がっている。この状況に対して本見解では、「自己増幅されるのはスパイクタンパク質のmRNAだけであり、感染力のあるウイルスや複製可能なベクターはコスタイベに含まれていません。また、被接種者が周囲の人に感染させるリスク(シェディング)はありません」と、安全性を裏付けるデータとともに提示している。■参考日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(概要版)1)Watson OJ, et al. Lancet Infect Dis. 2022;22:1293-1302.2)Kayano T, et al. Sci Rep. 2023;13:17762.3)長崎大学熱帯医学研究所. 新型コロナワクチンの有効性に関する研究(VERSUS study)〜国内多施設共同症例対照研究〜. 第11報.4)Noda T, et al. Ann Clin Epidemiol. 2022;4:129-132.

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GLP-1受容体作動薬が消化管の内視鏡検査に影響か

 上部消化管内視鏡検査(以下、胃カメラ)や大腸内視鏡検査では、患者の胃の中に食べ物が残っていたり腸の中に便が残っていたりすると、医師が首尾よく検査を進められなくなる可能性がある。新たな研究で、患者がオゼンピックやウゴービといった人気の新規肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)を使用している場合、このような事態に陥る可能性の高くなることが明らかになった。米シダーズ・サイナイ病院の内分泌学者で消化器研究者のRuchi Mathur氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 GLP-1受容体作動薬には胃残留物の排出を遅延させる作用があり、便秘を引き起こすこともある。このため、この薬の使用者では、全身麻酔を必要とする処置を受ける際に食べ物を「誤嚥」するリスクが増加する可能性のあることが指摘されている。Mathur氏らは、GLP-1受容体作動薬使用者では消化管に残留物が見られることがあり、それが内視鏡検査で鮮明な画像を得る上で障害になる可能性があると考えた。 そこでMathur氏らは、2023年1月1日から6月28日の間に胃カメラか大腸内視鏡検査、またはその両方を受けた過体重または肥満の患者209人のデータを後ろ向きに解析した。209人中70人がGLP-1受容体作動薬使用者(GLP-1群、平均年齢62.7歳、女性36人)、残りの139人は非使用者(対照群、平均年齢62.7歳、女性36人)であった。胃カメラのみを受けたのはGLP-1群23人、対照群46人、大腸内視鏡検査のみを受けたのはGLP-1群23人、対照群45人、両方の検査を受けたのはGLP-1群24人、対照群48人だった。 胃カメラのみを受けた対象者のうち胃残留物が認められた者の割合は、GLP-1群で17.4%(4人)であった。これに対し、対照群と、胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者で、胃残留物が認められた対象者はいなかった。 また、大腸内視鏡検査または胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者のうち、「腸管の準備が不十分」(便が残存しているなど腸管洗浄が不十分な状態)であった者の割合は、GLP-1群で21.3%(10/47人)に上ったのに対し、対照群では6.5%(6/93人)であった。 ただし、研究グループは良い知らせとして、GLP-1受容体作動薬使用の有無に関係なく、対象患者において誤嚥、呼吸困難、誤嚥性肺炎は発生しなかったことを挙げている。 それでも研究グループは、「胃や腸に食物や便が残留するリスクの上昇は憂慮すべきことだ」と注意を促す。なぜなら、そのような状態での内視鏡検査は、「病変の見逃しや患者の不満、処置のキャンセル、医療資源の浪費といった重大なリスク」をもたらすからだという。 研究グループは、「本研究結果は、内視鏡検査前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインの更新が必要かどうかを判断するために、さらなる研究が必要であることを示唆するものだ」との見方を示している。

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頬の内側の細胞を使った検査で寿命の予測が可能に?

 頬の内側を軽くこすって採取した口腔粘膜細胞を利用するCheekAgeと呼ばれる検査によって、寿命を予測できるようになる可能性があるとする研究結果が報告された。米ニューヨークの企業であるTally Health社とウェルカム・トラストの助成を受けて、Tally Health社計算生物学・データサイエンス部門の部門長であるMaxim Shokhirev氏らが実施したこの研究の詳細は、「Frontiers in Aging」10月1日号に掲載された。 CheekAge検査は「エピジェネティック・クロック」の一種で、頬の内側をこすって採取した細胞に含まれる特定のDNAメチル化の分析により、生涯を通じた環境や生活習慣が遺伝子の機能に影響を与える仕組み(エピジェネティクス)を調べるものである。DNAのメチル化は、エピジェネティクスの重要なメカニズムであり、遺伝子の塩基配列を変えることなくその働きに影響を与えるDNA領域での分子変化のことをいう。 この検査を開発しているTally Health社の研究者らによると、本研究では、DNAの特定のメチル化パターンは余命に関連している可能性が示されたという。Shokhirev氏は、「特定のメチル化の部位がこの関連に特に重要であり、特定の遺伝子やプロセスが、われわれのエピジェネティック・クロックで予測された死亡率と潜在的に関連している可能性のあることが明らかになった」と説明している。 Shokhirev氏らの研究は、英エジンバラ大学のロージアン出生コホート(Lothian Birth Cohorts)プログラムのデータに基づいたもの。このプログラムでは、1921年から1936年の間に生まれた1,513人(男性712人、女性801人)のスコットランド人の生活習慣、遺伝的特徴、健康状態を追跡している。研究参加者は3年ごとに血液細胞を用いたDNAメチル化の検査を受けた。検査では、参加者のゲノム上のおよそ45万カ所のメチル化の部位が分析された。最後に取得された参加者のメチル化データと死亡状況を組み合わせて、CheekAgeと死亡リスクの関連を評価した。 その結果、CheekAgeは縦断的データセットにおいて死亡率と有意に関連し、CheekAgeが1標準偏差上昇するごとに全死亡リスクが21%上昇することが示された。CheekAgeのパフォーマンスは、本研究で比較のためにテストした、血液データなどのデータセットで訓練された第一世代のどのクロックよりも優れていたという。 現在の標準的なエピジェネティクスの検査は血液ベースであるが、当然のことながら、血液を採取するよりも頬の内側を拭うだけのシンプルな検査の方が、患者にとっては抵抗が少ない。 Shokhirev氏らはまた、人がいつ死ぬかに関して最も重要な鍵を握っていると考えられるメチル化の部位についても検討した。その結果、そのような遺伝子部位はPDZRN4とALPK2で、前者はがんの抑制に、後者はがんと心臓の健康に関係していると考えられた。そのほかのメチル化部位は、骨粗鬆症や炎症、メタボリックシンドロームと関係しているという。 Shokhirev氏は、「今回の研究結果を踏まえれば、CheekAgeは血液検査の結果と一致しているようだ」と話す。同氏は、「頬の内側の細胞で訓練されたわれわれのエピジェネティック・クロックが、血液細胞のメチル化パターンを測定した際の死亡率を予測するという事実は、組織間で共通の死亡シグナルが存在することを示唆している。このことは、シンプルで非侵襲的な頬の粘膜を採取するこの検査が、老化の生物学的な仕組みの研究や調査における貴重な代替手段になり得ることを示唆している」と述べている。

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脳刺激療法で頭部外傷後の手や腕の機能が回復か

 脳卒中や外傷性脳損傷(TBI)で手や腕の機能を失った患者に対し、脳深部刺激療法(DBS)を施行することで一部の機能が回復する可能性のあることが、米ピッツバーグ大学物理療法学助教のElvira Pirondini氏らの研究で示された。この研究結果は、「Nature Communications」に10月1日掲載された。 DBSは、手術で脳に電極を植え込み、特定の活動を制御している脳領域に電気信号を送って刺激を与える治療法で、パーキンソン病による運動障害の治療目的で施行されることが多い。Pirondini氏は、「腕や手の麻痺は、世界の何百万人もの人々の生活の質(QOL)に大きな影響を与えている。現在、脳卒中やTBIを経験した患者に対する効果的な解決策はないが、脳を刺激して上肢の運動機能を改善するニューロテクノロジーへの関心が高まりつつある」と説明する。 脳損傷は、随意運動の制御に不可欠な脳領域である運動皮質と筋肉との間の神経接続を障害する可能性がある。これらの接続が弱まると、筋肉の効果的な活性化が妨げられ、腕や手の部分麻痺や完全麻痺などの運動障害が生じる。研究グループは、弱まった神経の接続を活性化させるためにはDBSが有効ではないかと考えた。DBSは、過去数十年にわたり、パーキンソン病などの神経疾患の治療に革命をもたらしてきた。 Pirondini氏らは、脳卒中患者の腕の機能を回復するために脊髄の電気刺激を使用して成功したピッツバーグ大学の別のプロジェクトからヒントを得て、運動制御の重要な中継ハブとして機能する運動性視床核と呼ばれる部分をDBSで刺激すると、物をつかむなど日常生活に不可欠な動作を回復できるのではないかとの仮説を立てた。 ただ、この脳領域へのDBSが実際に行われたことがなかったため、まずサルにDBSを施行する実験を行った。サルは人間と同様に、運動皮質と筋肉が神経経路を通じて連携しているため、実験対象として適当と考えられたのだという。その結果、刺激を加え始めるとすぐにサルの筋肉の活動性と握力が著しく改善することが確認された。不随意運動は認められなかった。 そこで、両腕に高度の麻痺をもたらした脳損傷に起因する腕の震えを改善する目的で、DBSの植え込み手術を予定していた人間のボランティアを対象に、サルの実験のときと同じ設定でDBSを行った。その結果、研究参加者にDBSの刺激を加えると、コップを取ろうと手を伸ばす、つかむ、持ち上げるといった動作を、刺激を加えなかった場合よりも効率的かつスムーズに行えるようになることが示され、人間でもDBSにより運動の範囲や強度が改善することが確認された。 論文の共著者でピッツバーグ大学てんかん・運動障害プログラムのJorge Gonzalez-Martinez氏は、「DBSは多くの患者にとって人生を変える治療法となってきた。DBSは世界中の数百万人もの人々に新たな希望を与える治療法だ」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 Gonzalez-Martinez氏らの研究グループは現在、DBSの長期的な効果を検証し、刺激を継続することでTBIまたは脳卒中の患者の腕や手の機能をさらに改善できるかどうかを確かめるための研究を行っている。

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後発品ロードマップが改訂、新目標は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第140回

後発医薬品の使用促進が新たなフェーズに入ったようです。2013年に策定された「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」が改訂され、名称も「安定供給の確保を基本として、後発医薬品を適切に使用していくためのロードマップ」と変更されました。厚生労働省は9月30日、さらなる後発品使用促進に向けた「ロードマップ」改訂版を発表した。数値目標についてはこれまで示してきた内容を記載。29年度末までに全都道府県で数量シェア80%以上を確保し、23年時点で56.7%だった金額シェアは65%以上に引き上げる。バイオシミラー(BS)も数量80%を占める成分数を、全体の60%以上にする。(2024年10月1日付 RISFAX)先発医薬品から後発医薬品に替えて後発医薬品の数量を増やそう! という2005年ごろのイケイケドンドンの時期は過ぎ、昨今の後発医薬品の流通状況やそれに関連する医療機関の対応などを踏まえて、今回のロードマップの名称変更に至ったのだろうと推察します。現状で使用促進だけを推奨すると各所からクレームが出るであろうという配慮もあるかもしれません。大きな変更として、新たにバイオ後続品(バイオシミラー)の使用促進を目的とした数量目標が設定されたことが挙げられます。ここで少しだけ、ロードマップと後発医薬品の今までの歩みについて触れたいと思います。さかのぼること17年ほど前の2007年6月、政府は医療費削減を目的とし、後発医薬品の数量シェアを2012年度までに30%以上にするという目標を閣議決定しました。厚生労働省は、2007年10月に「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」を策定し、患者さんや医療者が安心して後発医薬品を選択することができるよう取り組みましたが、その数値目標は未達成となりました。この状況を打破するべく、社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)で「後発医薬品のロードマップ」が策定され、診療報酬上の評価、患者さんへの情報提供、処方箋様式の変更、医療関係書の信頼性向上のための品質確保など、総合的な使用促進が図られました。その後もロードマップはそのときの状況に応じて細かな改訂を重ねてきています。バイオシミラーの数値が副次目標に今回の新目標では、がんなどの成長領域かつ高額な分野の医療費抑制で効果が高いと考えられる先行バイオ医薬品からバイオシミラーへの置き換えを促すために、バイオシミラーの数値目標も副次目標として設定されました。これを踏まえ、ロードマップの別添として、「バイオ後続品の使用促進のための取組方針」も策定されています。なお、数値目標は主目標として、医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品の数量シェアを2029年度末までにすべての都道府県で80%以上(旧ロードマップから継続)にするとあります。副次目標1は2029年度末までにバイオシミラーが80%以上を占める成分数を全体の60%以上にすると設定され、副次目標2は後発医薬品の金額シェアを2029年度末までに65%以上にすると設定されました。バイオシミラーに関しては、高額療養費制度の対象となることで患者さんが使用メリットを実感できないケースもあることなどから、今後の使用促進に向けて2024年10月スタートの長期収載品の選定療養を参考にしつつ「保険給付のあり方について検討を行う」方針であるとも付け加えられています。今回改訂されたロードマップには「2026年度末を目途に状況を点検し必要に応じ目標も在り方を検討」と記載があるので約2年の間にどの程度進んだのかを確認されるのでしょう。今年10月から長期収載品の選定療養が始まり、後発医薬品の使用はすでに増えているようですが、一方で安定供給への不安は払しょくされていません。今後、市場のニーズに応えられるだけの後発医薬品が供給されるのかという点が目標達成のポイントになると思われます。

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英語で「異なるケアレベルに移行する」は?【1分★医療英語】第153回

第153回 英語で「異なるケアレベルに移行する」は?《例文1》The patient has stabilized, so we are transitioning him to an alternate level of care.(患者の状態が安定したので、異なるケアレベルに移行します)《例文2》We need to discuss an ALOC option for Mrs. Johnson as she no longer requires acute hospital care.(ジョンソン夫人はもはや急性期の入院治療を必要としないので、ALOCの選択肢について話し合う必要があります)《解説》“We are transitioning him/her to an alternate level of care.”という表現は、患者のケアレベルを変更する際に使用される医療用語です。この文脈での“alternate level of care”とは、「現在の治療レベルとは異なる、より適切なケアレベルへの移行」を意味します。急性期病院でこの言葉を使う場合は、「患者が安定し、急性期治療が必要な状態を脱したために退院を待つフェーズに入った」ことを意味します。“alternate level of care”は略して“ALOC”とも呼ばれます。この概念は、患者の医療ニーズに適したケアを提供し、医療資源を効率的に利用するために、病院システム内で患者のケアレベルを適切に変更することを目的としています。“ALOC”は、急性期病院から亜急性期施設、リハビリテーション施設、長期療養型施設、在宅ケアなど、さまざまなレベルのケアへの変更を意味する可能性がありますが、一般的には急性期病院内で退院待機の間にケアのレベルを下げ、1日おきに診療するようなレベルへの変更を意図する際に用いられます。日本ではあまりなじみがないものかもしれません。医療現場では、患者の状態や利用可能な医療資源に応じて、適切なケアレベルを選択することが重要です。“alternate level of care”や“ALOC”を適切に使用することで、より効果的な患者ケアとリソース管理が可能になります。米国の臨床現場ではよく耳にする言葉として紹介しました。講師紹介

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スタチンが必要、でも継続できない患者の対処法【脂質異常症診療Q&A】第22回

スタチンが必要、でも継続できない患者の対処法Q22LDL-C 220mg/dLなのでスタチンでの治療を試みていますが、どのスタチンを投与してもLDL-Cはあまり下がりませんし、さらにどのスタチンでもCKが800~1,200U/Lに上昇するので、スタチンを継続できません。どのように対応すればよいでしょうか?

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関節炎を診るときの鑑別診断【1分間で学べる感染症】第13回

画像を拡大するTake home message関節炎を診る際には「急性・慢性」「単関節・多関節」の組み合わせで4つにカテゴリー分けをしたうえで診断を進める。皆さんは関節炎を訴える患者さんを診る際、どのように問診や検査を進めていきますか?今回は、関節炎をカテゴリーに分けてその特徴を学んでいきましょう。関節炎は、その臨床経過や関与する関節の数に基づいて分類され、この分類結果が診断や治療の方針決定に役立ちます。具体的には「急性」か「慢性」か、1つの関節だけに起こる「単関節炎」か、多くの関節に起こる「多関節炎」か、これらの組み合わせで4つのカテゴリーに分類します。I. 急性単関節炎急性単関節炎では、主な原因として細菌性関節炎、結晶誘発性関節炎、外傷性関節炎が考えられます。【細菌性関節炎】細菌性関節炎には非淋菌性と淋菌性があり、非淋菌性関節炎の原因菌としては一般的に黄色ブドウ球菌が最多で、それにβ溶血性連鎖球菌が続きます。また、頻度は高くないものの、高齢者や免疫抑制患者ではグラム陰性桿菌も考えられます。一方、淋菌性関節炎は性行為を介して感染し、移動性の関節痛がみられることが特徴です。【結晶誘発性関節炎】臨床上、細菌性と判断が難しいケースが多いです。痛風と偽痛風があり、偽痛風は、ピロリン酸カルシウムが関節に沈着し炎症を引き起こし、高齢者に多い傾向があります。【外傷性関節炎】外傷や過度の運動によるもの。このほかの急性単関節炎の鑑別としては、反応性関節炎や急性多関節炎の初期段階などが挙げられます。II. 急性多関節炎急性多関節炎では、主な原因として細菌性関節炎、ウイルス性関節炎が考えられます。【細菌性関節炎】感染性心内膜炎を含めた全身性の血行性感染や淋菌性関節炎などが含まれます。感染性心内膜炎は歯科治療歴や心雑音などを診断の手掛かりとします。また、淋菌性関節炎ではリスクのある性交渉歴がポイントとなります。全例ではないものの、移動性の関節痛がみられるのも特徴です。【ウイルス性関節炎】インフルエンザやCOVID-19などを含めた呼吸器感染症のほか、ヒトパルボウイルスB19感染では皮疹や小児との接触歴が重要な診断の手掛かりです。とくに急性HIV感染症はリスクが高く、早期の診断が重要です。また、肝炎ウイルスによるものも報告されており、輸血歴や性交渉歴、刺青がリスクファクターとして挙げられます。このほかの急性多関節炎の鑑別としては、慢性多関節炎の初期段階などが挙げられます。III. 慢性単関節炎慢性単関節炎では、まれであるものの抗酸菌性関節炎や大腿骨頭壊死、悪性腫瘍などが鑑別診断として考えられます。MRIによる画像診断やそのほかのリスクを考慮する必要があります。このほかに、慢性多関節炎の早期段階などが挙げられます。IV. 慢性多関節炎慢性多関節炎では、関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)、リウマチ性多発筋痛症を含めた自己免疫疾患をまず検討します。ほかには変形性関節症などが鑑別診断として挙げられます。そのほかの症状や身体所見、家族歴、各種スクリーニング検査などを総合的に判断し診断を進める必要があります。これらの4つのカテゴリーを大まかに理解しながら、さらなる追加問診や該当関節以外の身体所見を加えて、診断のための次なる検査をスムーズに進めていくようにしましょう。1)Earwood JS, et al. Am Fam Physician. 2021;104:589-597.2)Horowitz DL, et al. Am Fam Physician. 2011;84:653-660.3)McBride S, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:271-279.4)Lin WT, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2017;50:527-531.

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嚥下障害診療ガイドライン 2024年版[Web動画付] 第4版

6年ぶり大改訂で解説もCQも大幅アップデートの最新版登場!アルゴリズム、総論・CQなど、全編にわたって大改訂されました。総論には嚥下圧検査の解説が追加され、臨床実践のブラッシュアップが期待できます。CQは全13項目設定され、呼吸筋訓練、神経筋電気刺激療法、栄養管理などの近年の臨床課題にも対応しています。また、特設サイトで嚥下内視鏡検査・造影検査の動画を視聴でき、より実践に近い形で学ぶことができます。総合的かつ実践的なガイドラインとして進化し続けています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する嚥下障害診療ガイドライン 2024年版[Web動画付] 第4版定価3,960円(税込)判型B5判頁数108頁発行2024年9月編集日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会ご購入はこちらご購入はこちら

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第237回 血糖値に応じて働くか休む“スマート”インスリンを開発

血糖値に応じて働くか休む“スマート”インスリンを開発血中のブドウ糖濃度(血糖値)に応じて自ずと働くか休む賢いインスリンをNovo Nordiskの研究チームが開発し、低血糖を引き起こすことなく血糖値をほどよく下げうることがブタへの投与実験で確認されました1)。低血糖は糖尿病のイスリン治療の難題の1つです。ひとたび投与したインスリンはたとえ血糖値が正常化しても働き続け、血糖値を危険水準まで下げてしまう恐れがあります。それゆえインスリン投与量は血糖値を正常域にする範囲を超えないように調節する必要があります。しかし絶えず変化する血糖値にインスリン用量を合わせるのは難儀で、必要量よりちょっとばかり多めに投与しただけで低血糖が生じる恐れがあります。低血糖は軽~中等度でも不安、脱力、混乱などを招き、ひどければ意識消失や発作などの重症症状を引き起こし、最悪の場合死に至りさえします。低血糖を避けるために多くの糖尿病患者はインスリン用量を控えめにします。そうすると今度は血糖値が十分に下がらず、高血糖が続くことに起因する合併症が生じ易くなります。“素”のインスリンを使うのではなく、血糖値の変化に応じる仕組みを備えたインスリン治療なら低血糖の心配なく血糖値をよい頃合いに保てそうです。そのような付加価値付きのインスリンを作る試みは結構長い歴史があり、1970年代から続いています1)。血糖値上昇に応じてインスリンを放出する皮下投与ポリマーの開発がそういう取り組みのこれまでの主流でした。しかし糖が皮下に行き着くまでや皮下から血中へのインスリンの到達はより時間を要し、時宜にかなわないという欠点があります。それに、インスリンは皮下から一方的に放出されるのみで、ひとたび放出されたインスリンはもはや糖に応じることはなく働き続けるのみです。そこでNovo Nordiskはインスリンの放出をどうにかするのではなく、ブドウ糖に反応する仕組みを備えた賢いインスリンの開発に取り組み、その有望な成果を先週16日のNature誌の報告で披露しました。Novo Nordiskが開発した賢いインスリンはNNC2215と呼ばれ、血糖値に応じて働くか休むかが切り替わります。その切り替え機能はインスリン本体の両端についた2つの分子が担います。その1つはブドウ糖から生じる分子・グルコシドです。もう1つは大環状分子(macrocycle)で、その名のとおりいわばドーナツに似た環状構造をしています。血糖値が低いとグルコシドが大環状分子に収まってインスリンを不活性な状態に保ちます。一方、血糖値が高いとグルコシドではなくブドウ糖が大環状分子に収まり、インスリンは開放状態となって働けるようになります。ブタやラットで調べたところNNC2215の血糖値を下げる効果が認められました。特筆すべきことにブタへの投与実験では目下のインスリン治療で生じるような低血糖をどうやら生じずに済むらしいことが示されました。ただし、検討されたのは糖尿病患者の典型的な血糖値より広いブドウ糖濃度範囲でのNNC2215の活性です2)。今後の課題としてより狭い濃度範囲でのNNC2215の働きを調べる必要があります。また、安全性の検討も必要ですし、実用化されたとしてどれくらいの値段になるかも気になるところです。NNC2215の想定どおりの働きが示されて一安心とはいえまだ先は長く、Novo NordiskはNNC2215の最適化に取り組んでいます2)。参考1)Hoeg-Jensen T, et al. Nature. 2024 October 16. [Epub ahead of print]2)Smart insulin switches itself off in response to low blood sugar / Nature

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インフルワクチンの日本人の心不全に対する影響~PARALLEL-HF試験サブ解析/日本心不全学会

 呼吸器感染症に代表されるインフルエンザ感染は、心筋へウイルスが移行する直接作用、炎症惹起性サイトカイン放出による全身反応などによって心血管障害を及ぼす。また、プラークの不安定化、炎症による心拍数の不安定化への影響なども報告されているが、海外研究であるPARADIGM-HF試験1)が検証したところによると、インフルエンザワクチン接種が心不全患者の死亡リスク低下と関連する可能性を示唆している。 そこで筒井 裕之氏(国際医療福祉大学大学院 副大学院長)らはPARADIGM-HF試験に準じて行われた国内でのPARALLEL-HF試験2)の後付けサブ解析として『国内心不全患者のインフルエンザワクチン接種と心血管イベントの関連性』について検証、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のLate breaking sessionで報告した。なお、本研究はCirculation reports誌2024年9月10日号に掲載3)された。 本研究は、日本国内の左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)に対するサクビトリルバルサルタンの臨床試験であるPARALLEL-HF試験に登録された患者について、インフルエンザワクチンの接種率ならびに心血管イベントとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者223例のうち97例(43%)がインフルエンザワクチン接種を受けていた。・ワクチン接種群を非接種群と比較した場合の特徴として、高齢、BMI・収縮期血圧・eGFR低値があった。また、NYHA、LVEF、NT-proBNP、薬物治療について有意差はみられなかった。・ワクチン接種群の全死亡(調整ハザード比[HR])は0.83(95%信頼区間[CI]:0.41~1.68)、心肺またはインフルエンザに関連した入院/死亡は調整HRが0.80(95%CI:0.52~1.22)と低い傾向がみられた。・研究限界として、解析対象者が少数、ワクチン接種と予後との関連を解析している、ワクチンの詳細情報(種類、接種回数など)不十分などがあった。 日米欧の各診療ガイドラインでは“肺炎は心不全の増悪因子の1つ”と記されており、「日本国内では感染予防のため(クラスI、エビデンスレベルA)、米国では死亡率低下のためにreasonableである(クラスIIa、エビデンスレベルB)、欧州では心不全死亡低下のために[肺炎球菌ワクチンなども含めて]should be considered(クラスIIa、エビデンスレベルB)と推奨が記されている。接種目的は各国で異なるが欧米諸国の接種率は高い」と説明した。日本における心不全患者のインフルエンザワクチン接種率は国内の全体接種率が55.7%であることを見ても、低い傾向にあることが本研究より明らかになった。これを踏まえ、同氏は「本結果は海外のPARADIGM-HF試験のサブ解析と同様の結果を示した。現在、国内のHFrEF患者のインフルエンザワクチン接種率は不十分であるが、ワクチン接種による臨床的利益が期待できることが示された」と述べ、「ワクチン接種を推奨する医療の役割分担が不明瞭(かかりつけ医/一般内科/循環器専門医、クリニック/病院などの連携の必要性)、副反応による懸念、広報が不十分などの解決が喫緊の課題」と締めくくった。

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子供がコロナで入院すると子供も親も精神衛生に影響/国立成育医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連するスティグマは、抑うつ、不安、孤独感などの心身の苦痛を引き起こすことが世界的な問題となっている。しかし、COVID-19のスティグマと、それに関連する子供や親のメンタルヘルスへの影響を調査した研究はほとんどないのが現状である。 国立成育医療研究センター総合診療部の飯島 弘之氏らの研究グループは、COVID-19に感染した子供とその親に対して、COVID-19に関わるスティグマ(患者に対する「差別」や「偏見」)と、メンタルヘルスへの影響について調査を実施した。その結果、主観的スティグマがある子供と推定スティグマがある親は、1ヵ月後もメンタルヘルスにネガティブな影響がみられた。本研究結果は、Pediatrics International誌2024年1~12月号に掲載された。COVID-19に感染した親子は1ヵ月後も精神衛生に影響 対象は2021年11月~2022年10月までにCOVID-19に感染し、国立成育医療研究センターに入院した4~17歳の子供および0~17歳の子供の親。COVID-19に関わるスティグマとメンタルヘルス(抑うつ、不安、孤独感)に関する質問票調査を実施した。 対象者は47例の子供と111例の親で、そのうち入院中の調査では子供43例(91%)と親109例(98%)が質問票に回答し、1ヵ月後の追跡調査では、それぞれ38例(81%)と105例(95%)が回答した。 スティグマについては、隠ぺいスティグマ(ここでは覆い隠すことによって偏見や差別を回避しようとするスティグマのことを指す)と回避スティグマ(ここでは個人や集団が感染を回避しようとするスティグマのことを指す)についてそれぞれに、主観的スティグマと推定スティグマを確認するアプローチを採用した。メンタルヘルスを評価する質問として、抑うつ、不安、孤独について調査した。 主な結果は以下のとおり。【スティグマの保有】・入院中の調査では、COVID-19に感染した子供の79%、親の68%が高スティグマに該当し、1ヵ月後の調査でも、子供の66%、親の64%が高スティグマに該当していた。・推定スティグマの方が、主観的スティグマよりも、高スティグマグループの割合が高くなっていた。【メンタルヘルスへの影響】・子供の抑うつと孤独感、親の抑うつと不安は、いずれも、入院中と比べ、1ヵ月後の追跡調査で有意に低下していた。しかし、次のとおり、主観的スティグマがある子供と推定スティグマがある親においては、1ヵ月後においても、メンタルヘルスにネガティブな影響がみられた。(1)子供のスティグマと孤独感・抑うつとの関係・子供の主観的スティグマは、入院中の孤独感(平均差[MD]:2.32、95%信頼区間[CI]:0.11~4.52)と1ヵ月後の追跡調査での抑うつ(MD:2.44、95%CI:0.40~4.48)と関連していた。・推定スティグマは、メンタルヘルスとの間に有意な関係はみられなかった。(2)親のスティグマと抑うつ・不安・孤独感との関係・親の推定スティグマは、1ヵ月後の追跡調査で抑うつ、不安、孤独感と関連していた(MD:2.24[95%CI:0.58~3.89]、1.68[0.11~3.25]、1.15[0.08~2.21])。・主観的スティグマとメンタルヘルスとの間に有意な関係はみられなかった。 研究グループは、これらの調査結果から、「COVID-19に関連するスティグマは、退院後1ヵ月以上にわたって精神衛生に影響を及ぼし続けること、スティグマが精神衛生に与える影響は子供と親で異なることが示された」と結論付けている。

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BRCA1/2変異保有者の避妊薬使用、乳がんリスクとの関連/JCO

 生殖細胞系列BRCA1/2変異保有者において、ホルモン避妊薬が乳がんリスクを増加させるかどうかは不明である。今回、オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのKelly-Anne Phillips氏らの研究で、ホルモン避妊薬は、とくに長期使用で、BRCA1変異保有者の乳がんリスク上昇と関連することが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年10月2日号に掲載。 本研究では、4つの前向きコホート研究からプールされた観察データを用いて、避妊薬使用とBRCA1/2変異保有女性の乳がんリスクとの関連についてCox回帰を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・BRCA1変異保有者3,882人およびBRCA2変異保有者1,509人のうち、それぞれ53%および71%で1年以上の避妊薬使用歴があり、累積使用期間中央値はそれぞれ4.8年、5.7年だった。・BRCA1変異保有者488人とBRCA2変異保有者191人が、それぞれ追跡期間中央値5.9年と5.6年の間に乳がんを発症した。・BRCA1変異保有者では、現在/以前の使用とも1年以上の避妊薬使用歴は乳がんリスクと有意な関連はみられなかったが、使用歴ありは有意な関連がみられた。使用歴なしと比べたハザード比[HR](95%信頼区間[CI])は以下のとおり。 現在使用:1.40(0.94~2.08)、p=0.10 1~5年前に使用:1.16(0.80~1.69)、p=0.4 6~10年前に使用:1.40(0.99~1.97)、p=0.05 10年より前に使用:1.27(0.98~1.63)、p=0.07 使用歴あり:1.29(1.04~1.60)、p=0.02・避妊薬の累積使用期間が長いほど乳がんリスクが上昇し、1年増えるごとに3%(95%CI:1~5、p=0.002)のリスク上昇が推定された。・BRCA2変異保有者では、現在使用(HR:0.70、95%CI:0.33~1.47、p=0.3)および以前使用(HR:1.07、95%CI:0.73~1.57、p=0.7)とも乳がんリスクの上昇と関連していなかった。 これらの結果から、著者らは「BRCA1変異を有する女性における避妊薬の使用については、個々人のリスクとベネフィットを慎重に検討する必要がある」としている。

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日本人の牛乳・乳製品の摂取と不眠症との関連

 労働安全衛生総合研究所の佐藤 ゆき氏らは、日本人における牛乳や乳製品の習慣的な摂取と不眠症との関連を調査した。Nutrition and Health誌オンライン版2024年9月25日号の報告。 東日本で20〜74歳の6万633人(男性:2万2,721人、女性:3万7,912人)を対象に、コホート研究データを用いた横断的研究を実施した。牛乳、乳製品の摂取、睡眠状況、その他の生活習慣に関するデータは、自己記入式質問票を用いて収集した。牛乳、乳製品に関する質問は、全乳、低脂肪牛乳、チーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料を含め、摂取頻度(週1回未満、週1〜2回、週3〜6回、1日1回以上)を評価した。睡眠状況の評価には、アテネ不眠症尺度を用いた。 主な結果は以下のとおり。・ロジスティック回帰分析では、不眠症の調整オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)は、全乳摂取が1日1回以上の場合、週1回未満と比較し、統計学的に有意に低いことが示唆された(OR:0.91、95%CI:0.86〜0.96、p=0.001)。・女性では、同様の結果が認められたが(OR:0.90、95%CI:0.85〜0.97、p=0.002)、男性では認められなかった。・対照的に、乳酸菌飲料が週3〜6回の場合、週1回未満と比較し、不眠症のORが高かった。【全体】OR:1.20、95%CI:1.11〜1.29、p<0.001【男性】OR:1.36、95%CI:1.19〜1.55、p<0.001【女性】OR:1.13、95%CI:1.03〜1.24、p=0.009 著者らは「日本人を対象としたこの横断研究では、不眠症でない人ほど全乳を頻繁に摂取する傾向が見られた」と結論付けている。

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1次予防のICD装着患者に抗頻拍ペーシングは有効/JAMA

 近年、植込み型除細動器(ICD)の新たなプログラミング・ガイドラインが策定され、ICDの新技術の開発が進んでいるため、1次予防のICD装着患者における心室頻拍(VT)を停止させる方法としての抗頻拍ペーシング(ATP)の再評価が求められている。米国・ロチェスター大学のClaudio Schuger氏らAPPRAISE ATP Investigatorsは「APPRAISE ATP試験」において、1次予防として最新の不整脈検出プログラムを使用したICDを装着した患者では、電気ショックによる治療のみを行う方法と比較してショック作動の前にATPを1回行うアプローチは、全原因による初回ショック作動までの時間の相対リスクを有意に減少させ、適切なショック作動や不適切なショック作動が発生するまでの時間を改善することを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年10月3日号に掲載された。VT停止におけるATPの役割を評価する国際的な無作為化試験 APPRAISE ATP試験は、1次予防のICD装着患者において、最新のプログラムを用いてfast VTを停止させる際のATPの役割の評価を目的とする二重盲検無作為化臨床試験であり、2016年9月~2021年4月に北米、欧州、アジアの8ヵ国(日本を含む)の134施設で参加者を登録した(Boston Scientific Corporationの助成を受けた)。 対象は、年齢21歳以上、左室駆出率が35%以下であるため1次予防としてのICDが適応となる患者であった。被験者を、ATP+ショックを受ける群またはショックのみを受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、全原因によるショックが最初に作動するまでの時間とした。副次エンドポイントは、適切なショック(VTまたはVF[心室細動]に対して行われたショック)が最初に作動するまでの時間、不適切なショック(VT、VF以外のリズムに対して行われたショック)が最初に作動するまでの時間、全死因死亡、全原因によるショックが最初に作動するまでの時間と全死因死亡の複合であった。 本試験は、相対的マージンを35%とした同等性デザインで行われ、中間解析および同等性が証明されなかった場合の最終解析で優越性を評価した。ATP+ショック群の優越性を確認 2,595例(平均年齢63.9歳、女性22.4%)を登録し、1,302例をATP+ショック群に、1,293例をショック単独群に割り付けた。追跡期間中央値は、ATP+ショック群が38ヵ月、ショック単独群は41ヵ月だった。全体で644例が試験を完了せずに脱落した。 全原因によるショック作動は、ATP+ショック群で129例、ショック単独群で178例に発生し、Kaplan-Meier法による60ヵ月時の累積発生率の推定値は、それぞれ14.6%および19.4%であった。主要エンドポイントのハザード比(HR)は0.72(95.9%信頼区間[CI]:0.57~0.92)であり、同等性は確認されなかった。優越性解析では、ATP+ショック群のショック単独群に対する優越性が示された(p=0.005)。総ショック負荷には有意差がない 適切なショック(HR:0.73、95%CI:0.56~0.95)および不適切なショック(0.65、0.44~0.97)が最初に作動するまでの時間は、いずれもショック単独群に比べATP+ショック群でリスクが低かった。また、全死因死亡(1.15、0.94~1.41)および全原因によるショックが最初に作動するまでの時間と全死因死亡の複合(0.92、0.78~1.07)は、両群間に差を認めなかった。 ITT解析では、追跡期間中の100人年当たりの総ショック負荷は、ATP+ショック群が12.3、ショック単独群は14.9であり、両群間に統計学的な有意差はなかった(p=0.70)。 著者は、「ショック作動前に1回のATPを追加することにより、追跡期間中のショック負荷は改善しないものの、全原因によるICDのショック作動までの時間が有意に延長したため、1次予防のICD装着患者における第1選択の治療法として有効と考えられる」「これらのデータは、ATPは全原因によるショック作動の年間1%の絶対的減少をもたらすことを示しており、1次予防コホートにおいてICD器機を選択するための共同意思決定の際に考慮すべきである」としている。

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心血管疾患リスクの予測にはBMIよりも体丸み指数が有用

 過体重が人の心臓の健康に与える影響を予測する上では、「体丸み指数(body roundness index;BRI)」の方がBMIよりも優れた指標である可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。6年にわたって継続的にBRIが高かった人では低かった人に比べて、心血管疾患(CVD)リスクが163%高いことが示されたという。南京医科大学(中国)Wuxi Center for Disease Control and PreventionのYun Qian氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Heart Association」に9月25日掲載された。 2013年に提唱されたBRIは、ウエスト周囲径と身長を基に算出する腹部肥満の指標で、BMIやウエスト周囲径などよりも体脂肪や内臓脂肪の割合を正確に反映すると考えられている。一方、従来から使われているBMIは体重と身長のみから算出する。そのため、筋肉量が非常に多い人では値が高くなることもあり、肥満度の指標としては不正確だとして批判されることもある。 この研究では、CHARLS(中国の健康と退職に関する長期研究)の参加者9,935人を対象に、2011年から2016年の間のBRIの推移と2017年から2020年の間のCVD発症(脳卒中、心臓イベント)との関連を調査した。参加者の平均年齢は58.85±9.09歳で、男性5,263人、女性4,672人だった。2011年から2016年の間のBRIの推移に基づき、参加者を、低いBRIを維持していた群(低BRI群)、中程度の高さのBRIを維持していた群(中BRI群)、高いBRIを維持していた群(高BRI群)の3群に分類した。 その結果、低BRI群に比べて中BRI群と高BRI群ではCVDリスクがそれぞれ61%(ハザード比1.61、95%信頼区間1.47〜1.76)と163%(同2.63、2.25〜3.07)有意に上昇することが示された。このような有意なリスク上昇は、参加者の人口統計学的属性や病歴、血圧などの健康指標等を調整した後も認められた(ハザード比は同順で、1.22〔95%信頼区間1.09〜1.37〕、1.55〔同1.26〜1.90〕)。 こうした結果を受けてQian氏は、「われわれの研究により、BRIが6年間、中程度以上のレベルであった場合、CVDリスクが上昇する可能性のあることが示された。これは、BRIの値をCVD発症の予測因子として使用できる可能性があることを示唆している」と話す。同氏はさらに、「この結果は、肥満と高血圧、高コレステロール、2型糖尿病の相関関係によって説明できる。これらは全て、CVDのリスク因子だ。肥満は、心臓や心機能に影響を及ぼす可能性のある炎症やその他のメカニズムを引き起こすことも分かっている。本研究結果がCVDの予防にどのように応用できるかを確認し、完全に理解するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。

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関節リウマチは気管支拡張症リスクを高めるが、その逆は認められない

 遺伝的に予測された関節リウマチ(RA)と気管支拡張症リスクとの間には因果関係があるというメンデルランダム化(MR)研究の結果が「Frontiers in Medicine」に6月20日掲載された。RAは気管支拡張症リスクを高めるが、その逆の関係は認められなかったという。 RAと気管支拡張症の関連を示唆する報告はいくつかなされているが、因果関係は明らかになっていない。武漢第四病院(中国)のYuanyuan Li氏らは、FinnGenコンソーシアムからRAのゲノムワイド関連研究(GWAS)データを、IEU Open GWASプロジェクトから気管支拡張症のGWASデータをそれぞれ収集し、RAと気管支拡張症の関連を検討した。単変量メンデルランダム化(UVMR)解析には、主に逆分散加重(IVW)推定を用いた。加えて、双方向MR解析、再現MR解析、多変量MR(MVMR)解析、媒介分析、感度分析も行った。 UVMR解析の結果、RAは気管支拡張症リスクを高めることが示された(オッズ比1.18、P=2.34×10-6)。東アジア人集団などを対象として行った再現MR解析でも、RAは気管支拡張症リスクを上昇させるという結果が得られた。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とグルココルチコイドの処方を調整したMVMR解析でも、オッズ比はほぼ同様であった(それぞれ1.19、1.18)。媒介分析の結果、気管支拡張症に対するRAの影響の58%は免疫抑制剤を介したものと推定された。一方で、気管支拡張症を「曝露」、RAを「結果」とした双方向MR解析では、オッズ比(1.30)は有意ではなかった(P=0.0562)。 著者らは「RAは気管支拡張症のリスクを高めることが明らかになった。その影響が免疫抑制剤によって媒介されるというのは新しい知見である。逆に、気管支拡張症がRAのリスクを増加させるという証拠は見出せなかった」と結論。その上で「医療者は、RA患者が気管支拡張症を発症する可能性があることに留意すべきだろう。今後、RA患者が気管支拡張症を発症する根本的な機序を解明するためには、より総合的な研究が必要だ」と述べている。

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歯科患者の不安を客観的に評価できる質問票

 歯科治療を受ける患者の不安や恐怖の強さを、6種類の顔のイラストから選択してもらって客観的に評価する質問票が開発された。大阪歯科大学欠損歯列補綴咬合学講座の三野卓哉氏らによる研究によるもので、詳細は「The Journal of Advanced Prosthodontics」に8月20日掲載された。開発された質問票の信頼性や妥当性の検証結果も報告されている。 歯科治療に強い不安や恐れを抱く「歯科恐怖症」の有病率は、成人の5~22%と報告されている。歯科恐怖症では歯科受診の機会が少なくなり口腔疾患が進行してしまうというリスクばかりでなく、不安や恐怖のために痛みに対する感受性がより高くなったり、歯科医師の説明の理解がおろそかになったりすることも問題となる。また、医科においては、治療に伴う不安を評価するツール(例えば状態-特性不安尺度〔STAI〕)が確立され臨床に役立てられているが、歯科の日常診療で活用できる簡便な評価ツールは存在しない。 以上を背景として三野氏らは、歯科特異的な不安と恐怖を短時間で評価可能なツールの開発を試みた。他領域で使われている既存の4種類のツール(ビジュアルアナログスケールなど)を基に質問票の草稿を作成し、パイロット研究を実施。その結果、研究参加者の全てが「容易に回答できて感情を示しやすい」と評価した、「ウォン・ベイカー顔面疼痛評価尺度」というツールを利用することとした。この評価尺度は、不安や恐怖の強さを表した6種類の顔のイラストの中から、自分に最もマッチするものを選んでもらうというもの。質問項目により、歯科特性不安(不安を抱きやすい傾向)、歯科状態不安(一過性の不安)、歯科特性恐怖、歯科状態恐怖という4項目を評価可能な質問票とした。いずれもスコアが高いほど、不安または恐怖が強いと判定する。 この質問票の精度評価のため、岡山大学病院補綴歯科の外来でスケーリング(歯石除去)を受ける47人、およびインプラント治療を受ける25人を対象として実際に利用。医科の臨床で用いられている「状態-特性不安尺度(STAI)」の評価も同時に行い、両者の関連を検討した。またスケーリング群では、最初のスケーリングから2週間後に同様の手順で評価を行い、再現性を検討した。インプラント群では、手術前の説明日と手術当日、および抜糸日の計3時点で評価を行った。 結果について、まずスケーリング群での再現性に着目すると、加重カッパ係数が0.46~0.67の範囲であり、臨床的に十分と考えられた。STAIとの関連については、多くの指標では有意な正相関が確認された(歯科状態不安および歯科状態恐怖と特性不安の関連は有意水準未満)。 インプラント群においては、歯科特性不安を除く3指標は評価した3時点間で有意差が観察され、手術前の説明日や手術当日に比べて抜糸日にはスコアが低下していた。また、スケーリング群とインプラント群との比較では、全体的に後者のスコアの方が有意に高かった(歯科特性不安のみ有意差なし)。 これらの結果から、新たに開発された質問票は、歯科診療特異的な患者の不安や恐怖の強さを、患者自身の特性と歯科治療という状況とに分けて評価できると考えられた。著者らは、「この質問票は簡便に利用でき、臨床における許容範囲内の信頼性と妥当性を有している。歯科診療の個別化に役立ち、また歯科診療に伴う不安や恐怖に関する今後の研究に応用できるのではないか」と述べている。

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