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進行・再発子宮体がんの新たな治療選択肢/AZ

 アストラゼネカは、2024年12月13日に「イミフィンジ・リムパーザ適応拡大メディアセミナー ~進行・再発子宮体がん治療における免疫チェックポイント阻害剤・PARP阻害剤の新たな可能性~」と題したメディアセミナーを開催した。 進行・再発子宮体がんにおける新たな治療選択肢として、イミフィンジ(一般名:デュルバルマブ)は「進行・再発の子宮体」、リムパーザ(一般名:オラパリブ)は「ミスマッチ修復機能正常(pMMR)の進行・再発の子宮体におけるデュルバルマブ(遺伝子組換え)を含む化学療法後の維持療法」をそれぞれ効能または効果として、本年11月22日に厚生労働省より承認を取得している。 セミナーでは、東京慈恵会医科大学産婦人科学講座 主任教授の岡本 愛光氏、同じく講師/診療医長の西川 忠曉氏が、進行・再発子宮体がん治療における現状と課題、デュルバルマブとオラパリブの臨床成績のポイントについて語った。進行・再発子宮体がん治療における現状と課題 岡本氏からは、子宮体がん治療における現状と課題が述べられた。子宮体がんの発生は40代後半から増加し50〜60代をピークとし、日本では年間約1万7,800例が診断され約2,800例が死亡している。組織型の分類では約8割が類内膜がんであり、早期の場合は比較的予後は良好であるが進行期は予後不良、5年生存率についてはStageIVで21.0%と推定されている。子宮体がんとミスマッチ修復 子宮体がんの分類は、分子遺伝学分類が行われるようになってきている。WHO分類(第5版)では、類内膜がんをPOLE-ultramutated、MMR-deficient、p53-mutant、非特異的分子プロファイル(NSMP)に区分する、分子遺伝学的分類が採用されている。 ミスマッチ修復(MMR)については、状態により免疫療法の反応性が異なるといわれており、海外のガイドラインでは、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を検討している子宮体がん患者に対してMMR欠損の検査を推奨している。 MMR機能はDNA複製の際に生じる相補的ではない塩基対合(ミスマッチ)を修復するものであり、MMR機能が低下した状態をMMR deficient(dMMR)、機能が保たれた状態をMMR proficient(pMMR)と表現している。dMMR細胞では腫瘍変異負荷(TMB)が高くICIが奏効しやすいといわれているが、pMMR細胞ではICIの効果は限定的であるとの報告がある。DUO-E試験における臨床成績 子宮体がん治療の第1選択は手術療法であるが、再発リスクが中・高リスク群では術後補助療法が行われる。ICIは、進行・再発例であり化学療法で増悪した症例に使用されるため1次治療で用いることはできなかったが、デュルバルマブとオラパリブの適応拡大により1次治療としての選択肢が増えたことになる。 西川氏は、新たに診断された進行または再発子宮体がん患者を対象とし、デュルバルマブおよびオラパリブの有用性を検討したDUO-E試験について解説した1)。本試験は、白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法群(カルボプラチン+パクリタキセル:TC群)、化学療法(TC)とデュルバルマブ併用療法の後、デュルバルマブとオラパリブによる維持療法を行うDUO-E Triplet群、デュルバルマブによる維持療法を行うDUO-E Doublet群の3群で比較検討された。 患者背景について、アジア人が約3割であった。西川氏は、組織型では多くの試験で除外されることが多いがん肉腫が約5%程度含まれており、再発例は約半分、ICIが奏効しやすいとされるdMMRは約2割であった、とコメントした。 主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、TC群9.6ヵ月に対し、DUO-E Triplet群15.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.43~0.69、p<0.0001)、DUO-E Doublet群10.2ヵ月(HR:0.71、95%CI:0.57~0.89、p=0.003)と優越性が検証された。 サブグループ解析ではMMR状態別のPFSについて検討が行われ、pMMR集団では、DUO-E Triplet群はTC群と比較してHRが0.57(95%CI:0.44~0.73)、DUO-E Doublet群はTC群と比較してHRが0.77(0.60~0.97)であり、DUO-E Doublet群と比較したDUO-E Triplet群のHRは0.76(0.59~0.99)であった。 dMMR集団では、DUO-E Triplet群はTC群と比較してHRが0.41(95%CI:0.21~0.75)、DUO-E Doublet群はTC群と比較してHRが0.42(0.22~0.80)であり、DUO-E Doublet群と比較したDUO-E Triplet群のHRは0.97(0.49~1.98)であった。本解析に対し西川氏は、「ICIが効きやすいdMMR集団ではオラパリブを併用しなくても有効性が認められた」とコメントした。 また、安全性に関して、Grade3以上の有害事象の発現率は、全試験期間ではDUO-E Triplet群67.2%、DUO-E Doublet群54.9%、TC群56.4%であり、維持療法期ではDUO-E Triplet群41.1%、DUO-E Doublet群16.4%、TC群16.6%であった。同氏は「新たな有害事象はなかったが、これまでと同様にICIによる免疫関連有害事象(irAE)やオラパリブの骨髄抑制による好中球減少症などに注意が必要だ」と付け加えた。本結果の意義と今後の展望 最後に西川氏は、「これまでの薬物療法では予後が悪かった進行・再発の子宮体がんにおいて、患者の免疫原性が活発なタイミングである1次治療にICIが使えることに意義がある。今回の適応拡大は、進行・再発の子宮体がんの1次治療における初めてのICIやPARP阻害薬を用いた複合免疫療法によるパラダイムシフトの始まりであり、それに伴い2次治療戦略の再検討も必要ではないか。分子遺伝学分類に基づく治療戦略をどのように組み立て、患者へ最大限のメリットを届けるか、という課題に向き合っていきたい」と締めくくった。

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複雑CAD併存の重症AS、FFRガイド下PCI+TAVI vs.SAVR+CABG/Lancet

 重症大動脈弁狭窄症(AS)に複雑冠動脈疾患(CAD)を併存する患者において、血流予備量比(FFR)ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)+経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は、外科的大動脈弁置換術(SAVR)+冠動脈バイパス術(CABG)に対して非劣性であることが示された。カナダ・マギル大学ヘルスセンターのElvin Kedhi氏らTCW study groupが、初となる経皮的治療と外科治療を比較した国際多施設共同前向き非盲検無作為化非劣性検証試験「TCW試験」の結果を報告した。重症AS患者では、閉塞性CADを併存していることが多い(~50%)。ESC/EACTSガイドラインでは、SAVR+CABGが推奨されている。一方、FFRガイド下PCIおよびTAVIが有効な治療選択肢となりうることも示されていた。Lancet誌オンライン版2024年12月4日号掲載の報告。治療後1年時点の複合エンドポイントを評価 TCW試験は、欧州の18施設(オランダ6、スペイン2、フランス2、ポーランド2、オーストリア1、チェコ1、ドイツ1、ギリシャ1、ポルトガル1、スロバキア1)で行われた。被験者は、70歳以上の重症ASかつ複雑CADで、on-site Heart Teamにより経皮的または外科的手術が施行可能と判断された患者。施設層別無作為化置換ブロックサイズ法を用いたコンピュータ生成シーケンス法により、1対1の割合で無作為にFFRガイド下PCI+TAVI群またはSAVR+CABG群に割り付けられた。 主要エンドポイントは、治療後1年時点の全死因死亡、心筋梗塞、障害を伴う脳卒中、臨床的に推奨される標的血管の血行再建、弁の再置換、生命を脅かすまたは障害を伴う出血の複合であった。 試験は、非劣性(マージン15%)を検定し、非劣性が検証された場合は優越性を検定した。主要解析および安全性解析は、ITT集団を対象として行った。群間リスク差-18.5、FFRガイド下PCI+TAVIの非劣性が検証 2018年5月31日~2023年6月30日に、172例が登録された(91例がFFRガイド下PCI+TAVI群、81例がSAVR+CABG群)。平均年齢は76.5歳(SD 3.9)、男性が118例(69%)、女性が54例(31%)であった。心リスク因子は両群間でバランスが取れており、SYNTAXスコアの中央値は12.0(四分位範囲:9.0~17.0)で、44/157例(28%)のみが中~高スコアを有し、128/169例(76%)が多枝CAD(2枝以上)を呈していた。 主要複合エンドポイントのアウトカムについて、FFRガイド下PCI+TAVI群(4/91例[4%])はSAVR+CABG群(17/77例[23%])に比べて良好な結果を示し(群間リスク差:-18.5[90%信頼区間[CI]:-27.8~-9.7])、非劣性が検証された(非劣性のp<0.001)。 FFRガイド下PCI+TAVI群のSAVR+CABG群に対する優越性も検証された(ハザード比:0.17[95%CI:0.06~0.51]、優越性のp<0.001)。主に全死因死亡(0/91例[0%]vs.7/77例[10%]、p=0.0025)、生命を脅かす出血(2/91例[2%]vs.9/77例[12%]、p=0.010)によるところが大きかった。

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EGFR陽性NSCLCの1次治療、オシメルチニブ+化学療法のアジア人データ(FLAURA2)/ESMO Asia2024

 2024年6月にオシメルチニブの添付文書が改訂され、EGFR遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療として、オシメルチニブと化学療法の併用療法が使用可能となった。本改訂は、オシメルチニブと化学療法の併用療法とオシメルチニブ単剤を比較する国際共同第III相無作為化比較試験「FLAURA2試験」1)の結果に基づくものである。欧州臨床腫瘍学会アジア大会(ESMO Asia2024)において、アジア人集団の治療成績が、国立台湾大学病院のJames Chih-Hsin Yang氏により報告された。試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験対象:EGFR遺伝子変異陽性(exon19欠失/L858R)でStageIIIB、IIIC、IVの未治療の非扁平上皮NSCLC成人患者557例(アジア人333例)試験群:オシメルチニブ(80mg/日)+化学療法(ペメトレキセド[500mg/m2]+シスプラチン[75mg/m2]またはカルボプラチン[AUC 5]を3週ごと4サイクル)→オシメルチニブ(80mg/日)+ペメトレキセド(500mg/m2を3週ごと)(併用群、279例[アジア人169例])対照群:オシメルチニブ(80mg/日)(単独群、278例[アジア人164例])評価項目:[主要評価項目]RECIST 1.1による治験担当医師評価に基づく無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)など アジア人集団における主な結果は以下のとおり。・併用群、単独群の年齢中央値はいずれの群も61歳で、女性の割合はそれぞれ62%、57%であった。EGFR遺伝子変異の内訳は、exon19欠失変異がそれぞれ53%、61%で、L858R変異がそれぞれ46%、38%であった。中枢神経系(CNS)転移はそれぞれ47%、42%に認められた。・治験担当医師評価に基づくPFS中央値(データカットオフ:2023年4月3日)は、併用群25.5ヵ月(全体集団:25.5ヵ月)、単独群19.4ヵ月(同:16.7ヵ月)であった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.51~0.94)。・盲検下独立中央判定によるPFS中央値(データカットオフ:2023年4月3日)は、併用群33.2ヵ月(全体集団:29.4ヵ月)、単独群24.7ヵ月(同:19.9ヵ月)であった(HR:0.72、95%CI:0.52~1.01)。・OS中央値(データカットオフ:2024年1月8日)は、併用群40.5ヵ月(全体集団:未到達)、単独群38.3ヵ月(同:36.7ヵ月)であった(HR:0.80、95%CI:0.57~1.12)。・治験担当医師評価に基づくORRは併用群84%(全体集団:83%)、単独群76%(同:75%)であった。・DOR中央値は併用群24.0ヵ月(全体集団24.0ヵ月)、単独群18.0ヵ月(同:15.3ヵ月)であった。・Grade3以上の有害事象は併用群67%、単独群24%に発現した(いずれの群でもGrade4/5の間質性肺疾患/肺臓炎は発現なし)。・オシメルチニブの中止に至った有害事象は、併用群10%、単独群7%に発現した。・アジア人集団において、併用群で最も多くみられた有害事象は貧血であった(アジア人集団:50%、全体集団:12%)・併用群の間質性肺疾患/肺臓炎の発現率は、アジア人集団(4%)と全体集団(3%)で同様であった。 本結果について、Yang氏は「オシメルチニブと化学療法の併用療法は、アジア人においてもEGFR遺伝子変異陽性の進行NSCLCに対する1次治療の選択肢の1つとなることが支持される」とまとめた。

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切除不能肝細胞がん、アテゾ+ベバがTACEの代替となる可能性/ESMO Asia2024

 切除不能肝細胞がんにおいて、Intermediate Stage(中間期)における標準療法は塞栓療法(主にTACE療法)である。しかし、一部でTACE療法が適さない患者が存在し、その場合は全身療法が推奨となる。一方、既報のIMbrave150試験において、当時の標準化学療法のソラフェニブに対し、アテゾリズマブ+ベバシズマブが有意に予後を改善したことが報告されている。こうした背景から、切除不能な肝細胞がん患者におけるアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法のTACE療法に対する代替可能性を検討するREPLACEMENT試験が計画された。欧州臨床腫瘍学会アジア大会(ESMO Asia2024)において公立松任石川中央病院の山下 竜也氏が全生存期間(OS)を含む本試験の最終解析結果を発表した。・試験デザイン:多施設単群第II相試験・対象:切除不能肝細胞がん(Intermediate Stage、腫瘍個数+最大腫瘍径[cm]>7[移植不適]、TACE治療歴なし、Child-Pugh A)・試験群:アテゾリズマブ1,200mg+ベバシズマブ15mg/kg、3週ごと点滴静注・評価項目:[主要評価項目]mRECISTに基づく無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]RECIST v1.1に基づくPFS、奏効率(ORR)、奏効期間(DFS)、OS、安全性 主な結果は以下のとおり。・2020年12月~2021年9月、74例が登録された。年齢中央値は74歳(SD 41~89)。65例(88%)が男性、CP-A5が49例(66.2%)、腫瘍個数+最大腫瘍径(cm)>11が25例(33.8%)だった。2024年3月31日のデータカットオフ時点で、追跡期間中央値は33.6ヵ月であった。・主要評価項目であるmRECISTに基づくPFSは9.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.1~10.2)であった。6ヵ月PFS率は66.8%(95%CI:54.7~76.4)であり、主要評価項目を達成した。・OS中央値は33.8ヵ月(95%CI:22.6~未到達)であった。・ORRは40.5%(95%CI:29.3~52.6)であった。・74例中65例(87.8%)がPFSイベントを経験し、61例(82.4%)が次治療を受けた。・Gradeを問わない治療関連有害事象は93.2%に発現した。Grade3/4の事象は33.8%に発生した。Grade3以上で多かったものは高血圧(18.9%)と蛋白尿(10.8%)であった。 山下氏らは「アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は、Intermediate Stageの切除不能肝細胞がんでTACE不適例に対して臨床的に有意義な有効性を示した。安全性および忍容性は、既知のプロファイルと一致していた。本研究の結果により、同レジメンはTACE不適患者の代替治療となる可能性があると考えられる」とまとめた。

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対象患者選択の重要性を再認識させられた研究(解説:野間重孝氏)

 本研究はコルヒチンの虚血性心疾患に対する2次効果を検討した3つ目の研究に当たる。今回の研究に先行する2つの研究については次に示すので、ぜひご一読されたい。これは、評者自身が過去2回にわたり論文評を担当しており、内容が重複してしまう可能性があるためである。この点について、すでにご存じの方にはご容赦いただきたい。大抵の方々にとっては虚血性心疾患とコルヒチンの関係そのものに首をかしげる向きがあると考えるが、そのあたりについても評では簡単にではあるが解説した。1. COLCOT試験Tardif JC, et al. N Engl J Med. 2019;381:2497-2505.ジャーナル四天王「低用量コルヒチン、心筋梗塞後の虚血性心血管イベントを抑制/NEJM」論文評(CLEAR!ジャーナル四天王)「今、心血管系疾患2次予防に一石が投じられた」2. LoDoCo試験Nidorf SM, et al. N Engl J Med. 2020;383:1838-1847.ジャーナル四天王「コルヒチンで慢性冠疾患の心血管リスクが低下/NEJM」論文評(CLEAR!ジャーナル四天王)「コルヒチンの冠動脈疾患2次予防効果に結論を出した論文」 この2つの研究では、いずれにおいてもコルヒチンが虚血性心疾患の予後改善に寄与すると結論されている。ところが、今回のCLEAR試験では効果なしと判定された。この背景には患者選択とプロトコールが関係しているのではないかと考えたので、以下に整理しておきたい。1. COLCOT試験登録前30日以内(平均18.5日)に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受け、強化スタチン療法を含むガイドラインに準拠した治療を受けている成人患者。2. LoDoCo2試験2014年8月4日~2018年12月3日の間に血管造影で肝疾患が確認され、6ヵ月以上安定している35~82歳の慢性冠動脈疾患患者。3. CLEAR試験ST上昇型急性心筋梗塞に対して経皮的冠動脈再建術を受けた患者で、EF<45%、糖尿病、多枝病変、心筋梗塞の既往、または60歳以上のいずれかの危険因子を有する患者。 主要エンドポイントの違いについても言及すべきだろうが、各試験とも表現は違うもののほぼ同じ事柄を挙げているので、ここではあえて問題にしないこととする。 正直なところ、評者はLoDoCo2試験の結果をみて、コルヒチンの冠動脈治療薬としての有用性が証明されたと書いたが、それは早計だったと反省している。臨床試験ではその対象が非常に大きな役割を果たす点に、もっと注目すべきであると改めて思い知らされた教訓を得たと感じている。 3試験の結果を振り返ってみると、LoDoCo2試験ではハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.83(p<0.001)と大きな差が出たのに対し、COLCOT試験では確かに差は出たもののHR:0.77、95%CI:0.61〜0.96と、確かに差はついたもののそれほど大きな差はみられなかった。そして、今回ST上昇型心筋梗塞後の患者を対象とした場合、とうとう差がみられないという結果に終わった。LoDoCo2試験が心筋梗塞患者を対象としていない点を考慮すると、急性心筋虚血を引き起こす血管損傷の有無が、試験結果の差異を生じさせた要因である可能性が示唆される。 言うまでもなく、コルヒチンは現在使用できる最も強力な消炎剤の1つである。冠動脈疾患は複合的な疾患であるが、動脈硬化と炎症の関係は盛んに論じられてはいるものの、コルヒチンが従来問題視されている危険因子と直接関係するというデータは存在しない。すると心筋梗塞と動脈の炎症との関係を考えなければならないだろう。心筋梗塞の急性期においては梗塞部位の修復と壊死組織の排除が最も重要であり、そこでは炎症が大変効果的に働いているのである。この現象は心筋梗塞に限らず、切創など身体の一部が損傷した場合にもみられる修復過程の第1段階で炎症が重要な役割を果たすことから、容易に理解できる。心筋梗塞急性期にコルヒチンを投与することはこの一連の修復過程を邪魔する、もしくは不完全なものにする可能性があるのではないか。だから、一応の鎮静を得た後とはいえ心筋梗塞後の患者にコルヒチンを投与開始したCOLCOT試験では、それほど良い成績が出ず、梗塞の関係しない患者を対象としたLoDoCo2試験では、好結果が得られたのではないだろうか。 動脈硬化炎症説はごく当たり前のように語られるようになったが、実際には動脈硬化の実際のメカニズムは解明されたわけではない。また急性心筋梗塞からの血管修復過程と動脈硬化の関係については、ほとんど何もわかっていない状態であることも知っておきたい。今回の試験のように心筋梗塞の既往、経皮的冠動脈再建術の既往、糖尿病などの他の多くの危険因子を有する患者に対する効果を論ずるのは大変難しいと言わざるを得ない。ただし、こうした患者群においても、マイナスの効果が確認されなかった点は重要である。 ただ、コルヒチンに動脈硬化の進展予防効果が期待できるということが喧伝されても実際にコルヒチンを使用した医師は、読者の皆さんも含めてほとんどいなかったのではないかと思う。コルヒチンという薬剤はリウマチ専門医でも扱い慣れた医師は少なく、治療安全域が非常に狭い薬剤である。コルヒチンが冠動脈疾患治療のメジャーな薬剤となることは、よほど大きな転換点がなければ難しいのではないかと思う。

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米医療保険会社CEO射殺事件について【Dr. 中島の 新・徒然草】(560)

五百六十の段 米医療保険会社CEO射殺事件について12月半ばになってもまだ紅葉が綺麗です。紅葉のまま年を越してしまうのでしょうか?さて、2024年12月4日のこと。アメリカの民間医療保険会社、ユナイテッドヘルスケアCEOのブライアン・トンプソン氏がニューヨークの路上で射殺される事件が発生しました。現場には「deny(否定)」「delay(遅延)」「depose(追放)」と記された薬莢が残されており、これは『Delay, Deny, Defend』という本のタイトルをもじったものではないかと考えられています。同書は民間医療保険会社の実態を暴露したもので、タイトルは保険請求に対する支払いの遅延や拒否、裁判での徹底抗戦といった彼らの行動を端的に示したものです。この薬莢メッセージから、今回の事件は医療費の支払いを巡るトラブルが原因と推測されました。12月9日、犯人とされるルイジ・マンジョーネ容疑者がペンシルベニア州のマクドナルドで逮捕されました。彼の所持品からは、犯行に使われた銃と手書きの犯行声明(マニフェスト)が見つかったと報じられています。この26歳の容疑者はペンシルベニア大学を卒業した裕福な青年ですが、背中の手術からしばらくして行方不明となり、家族から捜索願が出されていました。すぐに思い付くのは、ユナイテッドヘルスケアが支払いを渋ったのではないかということですが、実のところ彼はユナイテッドヘルスケアの加入者ですらなかったそうです。詳しい動機は今後の裁判で明らかになることでしょう。私は英語の勉強のため、YouTubeで英語ニュースをよく見ますが、この事件についても関連する動画をいくつか視聴しました。とくに驚かされたのはコメント欄です。そこには、民間医療保険会社に対する恨み辛みがあふれていました。いくつか例を挙げましょう。事前承認制度のせいで、30分の治療に対する支払い同意を得るために、毎日苦しみながら数ヵ月を無駄にした。製薬会社、そしてFDA(米国食品医薬品局)も保険会社と結託している。最大の問題は、政治家たちが医療保険会社と癒着していることだ。健康保険会社は、仲介業者というよりも医療への障壁だ。フロリダ州のある女性は、保険請求を拒否された後「次はあんたらの番よ」と電話で発言し、逮捕された。最後の女性のケースは別のニュースにもなっています。こうした怒りが噴出する背景には、主に2つの要因があると思います。1つはアメリカの医療費の高さです。たとえば、あるアメリカ人YouTuberが「本国でのおたふく風邪の治療で200万円かかった」と憤っていました。また、私の甥も以前、アメリカで大学生活を送っている時に自転車事故に遭い、救急室へ運ばれたことがあります。幸い当日帰宅できましたが、その際の医療費は4万ドル(約600万円)。保険に入ってはいたものの、相当な自己負担になったのではなかったかと思います。もう1つは保険会社の支払い渋りです。今回の事件後、医療保険各社のホームページからCEOの名前や顔写真が一斉に削除されたといいますが、それぞれに自覚があるのでしょう。何かと批判されることの多い日本の医療制度や保険制度ですが、アメリカと比較すれば優れている部分がたくさんあるものと思われます。とはいえ、わが国の医療制度や保険制度、これからも少しずつ改善を続けながら維持し続けるべきだと、改めて感じさせられた次第です。最後に1句冬紅葉(ふゆもみじ) 異国のニュース 意味深し

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mumps(ムンプス、おたふく風邪)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第17回

言葉の由来ムンプスは英語で“mumps”で、「マンプス」に近い発音になります。なお、耳下腺は英語で“parotid gland”で、耳下腺炎は“parotitis”といいます。英語での“mumps”は日本語での「おたふく風邪」のように、医療者以外でも一般的に広く使われる言葉です。“mumps”の語源は諸説あります。1つの説によると、“mumps”という病名は1600年ごろから使用され始め、「しかめっ面」を意味する“mump”という単語が複数形になったものとされています。ムンプスが引き起こす耳下腺の腫れと痛み、嚥下困難などの症状による独特の顔貌や表情からこの名前が付いたと考えられています。もう1つの説は、ムンプスでは唾液腺の激しい炎症で患者がぼそぼそと話すようになることから、「ぼそぼそ話す」を意味する“mumbling speech”が元になって“mumps”と呼ばれるようになったというものです。日本語の「おたふく風邪」も、耳下腺が腫れた様子が「おたふく」のように見えることに由来します。いずれの呼び方も、特徴的な見た目や症状から病気の名前が付けられたことがわかりますよね。ムンプスは古代から知られており、ヒポクラテスが5世紀にThasus島での発生を記録し、耳周辺の痛みや睾丸が腫脹することも記載しています。近代では、1790年に英国のロバート・ハミルトン医師によって科学的に記述され、第1次世界大戦期間中に流行し兵士たちを苦しめました。1945年に初めてムンプスウイルスが分離され、その後ワクチンが開発されたことで予防可能な疾患になりました。併せて覚えよう! 周辺単語耳下腺炎parotitis精巣炎orchitis卵巣炎oophoritis無菌性髄膜炎aseptic meningitisMMRワクチンMeasles, Mumps, and Rubella vaccineこの病気、英語で説明できますか?Mumps is a contagious viral infection that can be serious. Common symptoms include painful swelling of the jaw, fever, fatigue, appetite loss, and headache. The MMR vaccine offers protection from the virus that causes mumps.講師紹介

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その2)【なんで統合失調症は「ある」の?(統合失調症の機能)】Part 1

今回のキーワードお告げ(幻聴)罰当たり(被害妄想)集団統合機能集団統合仮説伝承の心理イデオロギー前回(後編・その1)、宗教体験と統合失調症は表裏一体であることがわかりました。そして、宗教体験は、統合失調症と同じ心理現象(幻覚妄想)のプラス面を見ているだけであることもわかりました。そして、統合失調症は、宗教に関連した何らかの存在理由があることをご提示しました。それでは、なぜ統合失調症は「ある」のでしょうか?今回(後編・その2)は、前回に取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、進化精神医学の視点から、統合失調症の機能に迫ります。統合失調症の機能って何?映画版に登場するカーモディさんについても、ドラマ版に登場するナタリーについても、注目する点は、お告げ(幻聴)によって結果的に使命感に目覚め、自らを導いていることです。そして、罰当たり(被害妄想)の断定によって結果的に周りに言うことを聞かせ、集団を導いていることです。ここで重要なことは、幻覚は幻視ではなく、幻聴である必要があります。幻視だと、言語化する手間がかかるため、お告げほど効果的に集団を導くことが難しくなるからです。だからこそ、統合失調症の典型的な幻覚は、幻視ではなく幻聴だと言えます。つまり、彼女たちは、幻聴と被害妄想を主症状とする統合失調症を発症していることで、結果的にみんなの気持ちを1つにして、ある意味リーダーシップを発揮していることになります。ただし、これは現代のリーダーシップ(マネジメント)ではなく、あくまで原始の時代のリーダーシップです。この原始の時代とは、人類が抽象的な思考(概念化)をするようになった約10万年前から、文明社会が生まれる約1万数千年前までの期間に遡ります。この原始の時代の生活環境は、まさに「ミスト」の世界観です。そこは、現代と違って、猛獣がうろつき、飢餓や災害に無力です。現代のように科学の知識によって、自然の仕組みを理解して、その先を予測して、コントロールすることができません。このような自然の脅威の中で生き残って子孫を残すには、より多くの人たちがまとまって協力する必要があります。そんな時に現れたのが、カーモディさんやナタリーのような統合失調症を発症した「救世主」(リーダー)だったでしょう。彼らこそが、より多くの人数の部族集団をまとめることができたでしょう。これが、統合失調症が存在する理由であり、統合失調症の起源であると考えられます。進化精神医学的に考えれば、統合失調症は原始の時代にこの集団の統合という特別な役割を担うために進化した心理機能であるという仮説が立てられます。名付けるなら、この機能は「集団統合機能」、この仮説は「集団統合仮説」です。つまり、神のお告げ(幻聴)と罰当たりの境地(被害妄想)は、部族をまとめるために必要であったというわけです。もちろん、カーモディさんやナタリーのように、神の怒りを鎮めるという口実で生け贄を差し出そうとするなど、とんでもない人権侵害であり、まったくもって不合理です。しかし、結果的にその集団はこれ以上なくまとまっていきました。そもそも、原始の時代に人権などありません。人権尊重は、個人主義が広がった現代ならではの発想であり、価値観です。次のページへ >>

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その2)【なんで統合失調症は「ある」の?(統合失調症の機能)】Part 2

なんで現代では統合失調症はリーダーシップを発揮できなくなったの?それでは、現代ではなぜ統合失調症はリーダーシップ(集団統合機能)を発揮できなくなったのでしょうか?その答えは、社会構造(環境)の変化です。統合失調症自体はほとんど何も変わっていないでしょう。変わったのは、社会構造の方です。どういうことでしょうか?約1万数千年前の農耕牧畜革命で文明社会が生まれ、合理的なものの考え方(合理的思考)が芽生えていきした。すると、その分、統合失調症の集団統合機能は、不合理であるため、通じにくくなっていったでしょう。それでも、シャーマンや巫女など特別な立場で、社会に溶け込んでいました。さらに時代は進み、約200年前の産業革命で科学が発展し、合理主義が広がっていきました。当時の哲学者ニーチェが言ったように、神は死んだのでした。すると、統合失調症を発症した人たちは、もはや「神のお告げが聴こえる」「悪魔が囁いている」とは言わなくなり、代わりに「頭の中のスピーカーが命令してくる」「怖い人たちの話し声が聞こえてくる」と言うようになりました。また、もはや「罰を受ける」「悪魔に操られる」とは言わなくなり、代わりに「闇の組織に狙われている」「電磁波で攻撃される」と言うようになりました。つまり、当時の社会構造(文化)の変化によって、統合失調症の幻覚妄想の表現も変わってしまったのでした。これは、語られる内容は、その時代のその社会(文化)によって、より適応的な意味づけや解釈がされ、変化していくという伝承の心理からも説明ができます。社会をまとめるのは、もともと神の存在(原始宗教)という伝承だったわけですが、現代では合理主義や個人主義がもととなった民主主義というイデオロギー(これもまた伝承)に取って変わってしまったというわけです。この詳細については、関連記事1をご覧ください。実際に、未開の部族の原始宗教においては、部族の長が預言者(シャーマン)を兼務し、宗教儀式を行っていることが多かったという調査結果が報告されています1,2)。ただ、よくよく考えれば、実はこの状況はその長がシャーマンそのものであり、統合失調症を発症していた可能性も示唆されます。古代日本の卑弥呼が呪術に長けていたことからもわかるでしょう。このことからも、もともと宗教、リーダーシップ(集団統合機能)、そして統合失調症はともに密接に関わっていることがわかります。つまり、宗教とは、もともとは統合失調症の集団統合機能が伝承によって体系化され、現代的にアレンジされたものであると言えます。宗教の起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。現代の社会構造では、統合失調症の集団統合機能は、もはや完全に不合理なものとして「心の病」と見なされるようになりました。ただし、宗教体験として語られる場合に限っては社会的に受け入れられ続けました。ちなみに、この集団統合機能のメカニズムが現代で悪用されたものが、マインドコントロールです。この詳細については、関連記事3をご覧ください。実は、今回の「集団統合仮説」によって解ける統合失調症の謎があります。そして、その謎解きは、同時にこの仮説の根拠にもなります。どういうことでしょうか?次回に、詳しく解説します。1)「日本大百科全書(ニッポニカ)「原始宗教」の意味・わかりやすい解説」:小学館2)「ヌアー族の宗教 下」p.223、p.230、p.232:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、1995<< 前のページへ■関連記事昔話「うらしまたろう」(その2)【隠された陰謀とは?そして精神医学的に解釈するなら?(シン浦島太郎)】Part 2ミスト(前編)【信じ込む心(宗教)】ミスト(中編)【マインドコントロール】

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第127回 年賀状出荷「急減」!そろそろ年賀状じまい?

年賀状発行枚数減少2024年10月1日から、50gまでの定形郵便物(一般的な手紙)に貼付する郵便切手が110円に、はがき代は85円に値上がりしました。燃費も高くなっており、郵便事業の業績は芳しくなく、やむを得ない決断のようです。アベノミクスの時代からデフレ脱却を掲げてきて、当時から円安も進んでいますので、私みたいな中堅のオジサンにとっては体感物価2倍の時代に入ってきました。たとえば、かつて10円で買えた“うまい棒”が、いまや15円に。わずか数円の変化でも積み重なると生活の実感は大きいものです。昨年は年賀はがき1枚63円だったものが85円ですから、もうこれを機に年賀状じまいに踏み切る人が増えるのではないでしょうか。年賀状の発行枚数は、ピーク時の2003年(約44億6,000万枚)から、2024年には約10億7,000万枚と、約4分の1にまで減少しています。単純計算すると国民1人当たり約10枚程度となり、かつての「年賀状は何十枚も書くもの」という常識は、もはや過去のものとなりつつあります。年賀状の文化が衰退していることは明らかです。年賀状だけの関係が断たれる私が高校・大学の頃は、LINEなんてものはなかったのですが、その後、近い友人はLINEでやりとりするようになりました。「もうLINEであけおめすればいいんじゃね?」という風潮がありますよね。しかし、LINEは知らないが年賀状だけのやりとりを続けていた友人…っているじゃないですか。そもそもそれを友人と定義するかどうかはともかくとして、年賀状が最後の綱だった、みたいな。そんな関係。「年賀状だけの友人」として独特の存在感があります。ここ数年で、年賀状じまいを宣言する人が増えてきました。「これを最後に、年賀状は控えます」といった挨拶が添えられた年賀状を受け取ると、一抹の寂しさを感じるものです。もちろん、年賀状をやめることで生じる心理的な距離感は、普段連絡を取り合わない相手であればさほど影響はないかもしれません。それでも、年賀状が唯一のつながりだった場合、その関係が断たれることは、どこか心に引っかかるものがあります。年賀状じまいは明言しないものの、出しても返事がめっきり来なくなった人もいます。私も、だんだんと全体の枚数が減ってきました。そのうち、私も年賀状じまいすることになるのでしょうか。生成AIに上記について相談したら、「たとえ年賀状を出さなくなったとしても、その本質的な意味である『感謝や挨拶の気持ち』を大切にすることが重要ではないでしょうか」と返ってきました。はい、そのとおりです、ド正論。

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アルツハイマー病最新治療薬の認知機能改善に対する有効性比較

 近年、新たなアルツハイマー病治療薬が登場し、臨床試験において認知機能および臨床症状に対する有望な結果が得られている。しかし、多くの薬剤の中から最も効果的な治療オプションを選択することについては、依然として議論が続いている。中国・西安交通大学のWeili Cao氏らは、新規アルツハイマー病治療薬の有効性を比較し、それらの薬剤をランク付けするために、ネットワークメタ解析を実施した。Neuroscience誌2025年1月号の報告。 各種データベース(PubMed、Web of Science、Cochrane LIbrary、gov)より、2020〜24年に公表されたランダム化比較試験をシステマティックに検索し、ランダム効果ネットワークメタ解析を実施した。アルツハイマー病評価尺度の認知サブスケール(ADAS-cog)、臨床認知症評価尺度(CDR-SB)、認知症患者における日常生活動作評価尺度(ADCS-ADL)などのいくつかの主要指標について、比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・ADAS-cogの改善において、プラセボよりも有効であった薬剤は、次のとおりであった。【GV-971】MD:−2.36、95%CI:−5.08〜0.35【レカネマブ】MD:−2.00、95%CI:−5.25〜1.26【ドナネマブ】MD:−1.45、95%CI:−4.70〜1.81【masupirdine】MD:−0.83、95%CI:−3.49〜1.84・CDR-SBにおいては、レカネマブがより有効であった(MD:−3.11、95%CI:−5.23〜−0.99)。・ADCS-ADLにおいて、ドナネマブはプラセボと比較し、より有効であった(MD:−3.26、95%CI:1.48〜5.05)。・SUCRA値の比較では、GV-971は、ADAS-cog(76.1%)およびBPSD評価尺度NPI(68.7%)において優れた治療効果が認められ、レカネマブは、他の薬剤よりもCDR-SBスコアの改善に有効であった(98.1%)。・ドナネマブは、ADCS-ADLスコアの低下に対し最も有望な薬剤である可能性が示唆された(99.8%)。・ミニメンタルステート検査(MMSE)に対するmasupirdineの有効性は、他の薬剤よりも有意に良好であった(80.7%)。 著者らは「ドナネマブおよびレカネマブは、ADCS-ADLおよびCDR-SBにおいて優れた有効性が確認された。また、GV-971は、ADAS-cogおよびNPIの改善に最適な選択肢である可能性が示唆された」と結論付けている。

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レムデシビルの添付文書改訂、「重度の腎障害患者への投与は推奨しない」を削除

 新型コロナウイルス感染症治療薬であるレムデシビル(商品名:ベクルリー)の添付文書の改訂について、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページ上に12月16日掲載された。レムデシビル添付文書「重度の腎機能障害の患者投与は推奨しない」削除 今回のレムデシビルの添付文書改訂では、「特定の背景を有する患者に関する注意」の「腎機能障害患者」の項目で、「重度の腎機能障害(成人、乳児、幼児及び小児はeGFRが30mL/min/1.73m2未満、正期産新生児(7日~28日)では血清クレアチニン1mg/dL以上)の患者投与は推奨しない。治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を考慮すること」という記載が削除された。また、「薬物動態」の項目では、腎機能障害患者におけるレムデシビルの薬物動態データが追記された。 レムデシビルの添付文書改訂において、COVID-19で入院した重度の腎機能障害患者(eGFR30未満)を対象とした海外第III相試験(GS-US-540-5912試験)および腎機能の程度別被験者(eGFR15未満、15以上30未満、30以上60未満、60以上90未満、90以上)を対象とした海外第I相試験(GS-US-540-9015試験)の試験成績を得られたことから、改訂可能と判断された。 なおレムデシビルについて、欧州では2023年6月、米国では2023年7月に、透析を受けている患者を含む重度の腎機能障害を有するCOVID-19患者の治療薬として承認されており、全ステージの腎疾患に対して使用可能である。

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エンシトレルビルとモルヌピラビル、妊婦禁忌の注意を強化/PMDA

 医薬品医療機器総合機構(PMDA)は12月17日、新型コロナウイルス感染症治療薬のエンシトレルビル フマル酸(商品名:ゾコーバ錠)およびモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル)について、妊娠する可能性のある女性への投与における適正使用のお願いを発出した1)。 新型コロナウイルス感染症の経口抗ウイルス薬であるエンシトレルビルおよびモルヌピラビルは、催奇形性リスクを有することから、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌とされている。一方で、各薬剤の投与後に妊娠が判明した症例の報告が現在も継続している。これまでに、エンシトレルビルで54例、モルヌピラビルで19例が報告されている。 今回公表された「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」には、以下のとおり記載している。妊娠する可能性のある女性への投与に際しての注意事項 妊娠する可能性のある女性への投与に際しては、本剤投与の必要性を十分に検討すること。また、投与が必要な場合には、次の注意事項に留意すること。●本剤投与開始前に十分な問診により患者が妊娠していないこと及び妊娠している可能性がないことを確認すること。●次の事項について、本剤投与開始前に患者に説明すること。・妊娠中に本剤を服用した場合、胎児に影響を及ぼす可能性があること。・本剤服用中に妊娠が判明した又は疑われる場合は、直ちに服用を中止すること。・本剤服用中及び最終服用後2週間(ゾコーバ錠)又は4日間(ラゲブリオカプセル)における妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに医師、薬剤師等に相談すること。 これらの注意事項の確認とともに、製造販売業者が周知している薬剤服用時の事前のチェックリスト(医薬品リスク管理計画書[RMP]医療従事者向け資材)および処方された女性患者と家族向けの資材(RMP患者向け資材)の活用を促している2~5)。 また厚生労働省は同日に、上記の内容について、両剤の添付文書の重要な基本的注意の項目に追記する改訂指示を発出した。

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SGLT2阻害薬やMR拮抗薬などで添文改訂指示/厚労省

 2024年12月17日、厚生労働省はSGLT2阻害薬やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)などに対して、添付文書の改訂指示を発出した。ケトアシドーシスの持続に注意 SGLT2阻害薬はこれまでにもケトアシドーシスに関連した注意喚起がなされていたが、投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関連する症例が集積し、現行の注意喚起からは予測できない事象と結論付けられたことから、重要な基本的注意の項に「本剤を含むSGLT2阻害薬の投与中止後、血漿中半減期から予想されるより長く尿中グルコース排泄及びケトアシドーシスが持続した症例が報告されているため、必要に応じて尿糖を測定するなど観察を十分に行うこと」が新たに追記される。 対象医薬品は以下のとおり。・エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)・ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(同:フォシーガ)・イプラグリフロジン L-プロリン(同:スーグラ)・カナグリフロジン水和物(同:カナグル)・トホグリフロジン水和物(同:デベルザ)・ルセオグリフロジン水和物(同:ルセフィ)MR拮抗薬、禁忌が一部変更に MR拮抗薬のエプレレノン(商品名:セララ)とエサキセレノン(同:ミネブロ)はカリウム貯留作用により高カリウム血症を誘発する可能性がある薬剤であるため、ヨウ化カリウムとの併用が禁忌となっている。しかし、両剤を服用中の患者において、現行では放射線による内部被爆の予防・低減のためにヨウ化カリウムを使用できないことから、「放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防・低減に使用する場合」については、禁忌の項から除外され、併用禁忌から併用注意に変更される。同様に、ヨウ化カリウムの添付文書もエプレレノンとエサキセレノンを併用禁忌から併用注意へ変更される。

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慢性B型肝炎への低分子干渉RNA薬xalnesiran、抗原消失率は?/NEJM

 ヌクレオシド/ヌクレオチドアナログ(NA)療法でウイルス学的抑制が得られている慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者において、xalnesiranと免疫調節薬の併用療法は高頻度に治療終了後24週時のHBV表面抗原(HBs抗原)の消失をもたらしたが、Grade3または4の有害事象が半数の患者に認められた。中国・南方医科大学のJinlin Hou氏らPiranga Study Groupが、海外第II相多施設共同無作為化非盲検アダプティブプラットフォーム試験「Piranga試験」の結果を報告した。xalnesiranは、HBVゲノムの保存領域を標的とし複数の転写産物を抑制する低分子干渉RNA薬で、免疫調節薬併用の有無にかかわらず慢性HBV感染患者に対する有効性が示されている。今回は、免疫調節薬として、肝臓で選択的に活性化されるToll様受容体7(TLR7)アゴニストのruzotolimod、またはペグインターフェロン アルファ-2a(PEG-IFNα-2a)とxalnesiranの併用、xalnesiran単剤の有効性と安全性が評価された。NEJM誌2024年12月5日号に掲載の報告。xalnesiran単剤または免疫調節薬併用をNA療法と比較 研究グループは、12ヵ月以上前からNA単剤療法を受け、スクリーニングの6ヵ月以上前からHBV DNAが20 IU/mL未満の18~65歳の慢性HBV肝炎患者を、xalnesiran 100mg(第1群)、同200mg(第2群)、xalnesiran 200mg+ruzotolimod 150mg(第3群)、xalnesiran 200mg+PEG-IFNα-2a 180μg(第4群)、NA療法単独群(第5群)の5群に無作為に割り付けた。 xalnesiranは4週ごとに48週間皮下投与、ruzotolimodは13~24週時および37~48週時に隔日経口投与、PEG-IFNα-2aは週1回48週間皮下投与した。NA療法は、すべての群で全例、中止基準を満たすまで継続した。 有効性の主要エンドポイントは、48週間の治療終了後24週時点におけるHBs抗原消失(HBs抗原値が検出限界[0.05 IU/mL]未満と定義)、副次エンドポイントは、HBs抗原セロコンバージョンなどとし、安全性についても評価した。 本試験は各群約30例を目標症例数として2020年7月5日~2021年11月29日に登録が行われ、計160例が無作為化された(試験完了は2021年2月22日~2023年10月2日)。HBs抗原消失率は、xalnesiran単独3~7%、ruzotolimod併用12%、PEG-IFNα-2a併用23% 投与開始前に試験を中止した第5群の1例を除く159例が解析対象となった(第1~5群でそれぞれ30例、30例、34例、30例、35例)。 主要エンドポイントを達成した患者の割合は、第1群7%(95%信頼区間:1~22)、第2群3%(0~17)、第3群12%(3~28)、第4群23%(10~42)、第5群0%(0~10)であった。 治療終了後24週時点におけるHBs抗原セロコンバージョンは、第1~5群においてそれぞれ3%、0%、3%、20%、0%に認められた。HBs抗原が消失、セロコンバージョンが得られた患者は、スクリーニング時のHBs抗原値が1,000 IU/mL未満の患者のみであった。 Grade3または4の有害事象は、第1~5群においてそれぞれ17%、10%、18%、50%および6%に発現し、最も頻度の高い事象はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)上昇であった。

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経口SERDのimlunestrant、ER+/HER2-進行乳がんのPFSを改善(EMBER-3)/NEJM

 エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性(ER+/HER2-)進行乳がん患者において、ESR1(ERαをコードする遺伝子)変異陽性の患者では、imlunestrant単剤療法が標準内分泌療法よりも無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが示され、被験者全集団では、imlunestrant+アベマシクリブ併用療法がimlunestrant単剤療法よりもPFSを有意に延長したことが示された。米国・メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのKomal L. Jhaveri氏らEMBER-3 Study Groupが、第III相非盲検無作為化試験「EMBER-3試験」の結果を報告した。imlunestrantは次世代の脳内移行性の高い経口選択的ER分解薬(SERD)で、ESR1変異陽性乳がんにおいても持続的にERを阻害する。NEJM誌オンライン版2024年12月11日号掲載の報告。imlunestrant単剤、標準内分泌療法、imlunestrant+アベマシクリブ併用を比較 EMBER-3試験では、アロマターゼ阻害薬単剤またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中もしくは治療後に病勢進行が認められたER+/HER2-進行乳がん患者において、imlunestrant単剤治療およびアベマシクリブとの併用治療の有用性を検討した。 被験者は、imlunestrant単剤療法(1日1回400mg、imlunestrant群)、標準内分泌療法(治験医師がエキセメスタンまたはフルベストラントから選択、標準内分泌療法群)、imlunestrant(1日1回400mg)+アベマシクリブ(1日2回150mg)併用療法(imlunestrant+アベマシクリブ群)に、1対1対1の割合で無作為化された。 主要評価項目は、治験医師評価によるPFSで、ESR1変異陽性患者および全集団においてimlunestrant群と標準内分泌療法群を比較し、また全集団においてimlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群を比較した。imlunestrant単剤、さらにimlunestrant+アベマシクリブ併用でPFS延長 2021年10月~2023年11月に、22ヵ国195施設で874例が無作為化された(imlunestrant群331例、標準内分泌療法群330例[292例がフルベストラント投与]、imlunestrant+アベマシクリブ群213例)。全患者の年齢中央値は61歳(範囲:27~89)、55.5%に内臓転移があり、59.8%がCDK4/6阻害薬による治療歴を有していた。ESR1変異陽性患者は計256例(imlunestrant群138例、内分泌療法群118例)。 主要解析(データカットオフ日:2024年6月24日)時点で、計183例が治療継続中であった(imlunestrant群65例[19.6%]、標準内分泌療法群43例[13.0%]、imlunestrant+アベマシクリブ群75例[35.2%])。 ESR1変異陽性患者256例において、PFS中央値はimlunestrant群5.5ヵ月、標準内分泌療法群3.8ヵ月。19.4ヵ月時点の推定RMST(restricted mean survival time)は、imlunestrant群7.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.8~9.1)、標準内分泌療法群5.4ヵ月(4.6~6.2)であった(群間差:2.6ヵ月、95%CI:1.2~3.9、p<0.001)。全集団(imlunestrant群と標準内分泌療法群の計661例)では、PFS中央値はimlunestrant群5.6ヵ月、標準内分泌療法群5.5ヵ月であった(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.87、95%CI:0.72~1.04、p=0.12)。 imlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の計426例(各213例)におけるPFS中央値は、それぞれ9.4ヵ月と5.5ヵ月であった(HR:0.57、95%CI:0.44~0.73、p<0.001)。同解析の結果は、ほとんどの患者サブグループ(ESR1変異あり/なし、PI3K経路変異あり/なし、CDK4/6阻害薬による治療歴ありなど)で類似していた。 Grade3以上の有害事象の発現率は、imlunestrant群17.1%、標準内分泌療法群20.7%、imlunestrant+アベマシクリブ群48.6%であった。主なGrade3以上の有害事象は、imlunestrant群と標準内分泌療法群では、貧血(2.1%、2.8%)、好中球減少症(2.1%、1.9%)であり、imlunestrant+アベマシクリブ群では、好中球減少症(19.7%)、下痢(8.2%)、貧血(7.7%)であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「imlunestrant単剤およびアベマシクリブとの併用における毒性は、低Gradeが多かった。imlunestrant単剤およびアベマシクリブとの併用は、ER+/HER2-進行乳がんで内分泌療法中に病勢進行が認められた患者において、経口分子標的治療の選択肢となることが示された」と述べている。

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BCMA標的CAR-TのICAHTに対する幹細胞ブースト療法の有用性/ASH2024

 免疫エフェクター細胞関連造血毒性(ICAHT)は、CAR-Tをはじめとする免疫療法による血球減少を引き起こし、感染症などのリスクとなる。KarMMa-1試験、CARTITUDE試験といった多発性骨髄腫の国際研究では、CAR-T投与早期(30日以内)に90%前後で好中球減少が発現し、それ以降も50%程度の割合で発現が続くと報告されている。 そのような中、CAR-T細胞療法を受けた再発・難治多発性骨髄腫(R/R MM)におけるICAHTの臨床経過と、ICAHTに対する自己幹細胞ブースト療法の効果を確認する後ろ向き試験が行われた。研究結果が米国・ウィスコンシン医科大学のKiritika Yadav氏により、第66回米国血液学会(ASH)で発表された。 対象はBCMA標的CAR-T細胞療法(ide celまたはcita cel)を受けたR/R MM患である。血球減少の定義は好中球≦1,000/mL、血小板≦50x109/L、ヘモグロビン≦9g/dL。ICAHTはCAR-T細胞投与後21日、3ヵ月、6ヵ月の時点で評価された。評価項目は、血球数回復、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)であった。 主な結果は以下のとおり。・全体で159例が登録された。・患者の年齢中央値は65歳、FISHまたはPET高リスクが77%、自家造血幹細胞移植(ASCT)実施が87%、前治療ライン数中央値は5、髄外病変あり28%、サイトカイン放出症候群(CRS)は85%、ICANSは12%に発現していた。・評価症例154例中89例でICAHTが発現した。・ICAHTの発現は21日後の58%(89例/154例)から3ヵ月後28%、6ヵ月後17%と時間とともに減少した。・ICAHTのリスク因子は、ASCT≧2回、前治療歴≧5ライン(対4ライン p=0.002)、ベースライン時の血小板数≦146×109/L(対194×109 p=0.005)、FISHまたはPET高リスク(p=0.012)、ICANS発現(p=0.006)、トシリズマブ使用(p=0.013)であった。・ICAHT発現82例(自家幹細胞保存症例)のうち、重度の血球減少のため自己幹細胞ブースト療法を受けた患者は22例(27%)であった。・自己幹細胞ブースト療法の投与期間中央値はCAR-T投与後52日間であった。・自己幹細胞ブーストを受けた患者の血球数は早期(CAR-T療法21日後)においては低値であったが、3ヵ月および6ヵ月後にはには受けない患者よりも大きく改善した。 Yadav氏は、重症ICAHT発現患者に対する自己幹細胞ブースト療法の恩恵を明らかにするためには、さらなる研究が必要だと述べた。

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ATTR型心アミロイドーシスにおいてブトリシランは全死亡を低下させQOLを維持する(解説:原田和昌氏)

 ATTRアミロイドーシスは、単量体がミスフォールドされたトランスサイレチン(TTR)がアミロイド線維として心臓、神経、消化管、筋骨格組織に沈着することで引き起こされる疾患で、心臓への沈着により心筋症が進行する。ATTR型心アミロイドーシスの治療薬としては、TTR安定化薬のタファミジスが承認されている(ATTR-ACT試験)。また、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)の適応を取得しているsiRNA静脈注射剤のパチシラン(3週に1回投与)により、ATTR型心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力が維持されることが報告された(APOLLO-B試験)。さらに、高親和性TTR安定化薬であるacoramidisのATTR型心アミロイドーシスに対する有効性が報告されている(ATTRibute-CM試験)。 ブトリシランはパチシランと同様のsiRNA製剤(3ヵ月に1回皮下注射)であるが、異なるドラッグ・デリバリー・システムを有する。パチシランは肝臓にsiRNAを到達させるのに脂質ナノ粒子を用いるのに対し、ブトリシランはGalNAcという構造にて肝細胞内に取り込まれるよう設計されている。ブトリシランはすでにTTR-FAPの適応を取得しているが(HELIOS-A試験)、トランスサイレチン型心アミロイドーシス患者において、ブトリシランによる治療はプラセボと比較して全死因死亡および心血管イベントのリスクを低下させ、機能的能力とQOLを維持することが、英国のFontana氏らの無作為化二重盲検試験(HELIOS-B試験)にて示された。 ATTR型心アミロイドーシスと診断され臨床的心不全を有する患者655例にブトリシランまたはプラセボを無作為に割り付け、12週ごとに最長36ヵ月間投与を行い有効性と安全性を評価した。有効性のエンドポイントは全集団および単独療法集団(ベースラインでタファミジス非投与の患者)で評価した。ブトリシラン群は、プラセボ群と比較して全死因死亡および心血管イベントの再発リスクが有意に低下した(全集団HR:0.72、95%CI:0.56~0.93、単独療法集団HR:0.67、95%CI:0.49~0.93)。また、42ヵ月間の全死因死亡リスクが低下した(HR:0.65、95%CI:0.46~0.90)。ブトリシラン群はプラセボ群と比較して、6分間歩行テストの移動距離の短縮やKCCQ-OSスコアの低下が少なかった。同様のベネフィットは全集団でも単独療法集団でも観察された。有害事象の発現頻度は、両群で類似しており、重篤な有害事象の発現率はブトリシラン群62%、プラセボ群67%であった。 ATTR型心アミロイドーシスは予後不良の疾患で生存期間の中央値は診断から2~6年とされているが、本試験における42ヵ月の生存率はタファミジス投与、非投与を問わず約80%であった。ATTR型心アミロイドーシス治療において、値段の問題はあるが、もはやTTR安定化薬かRNA干渉薬かではなく、早期診断と併用治療で寿命を全うすることを目指す方針としてもよいのかもしれない。

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