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早期TN乳がん術前療法におけるペムブロリズマブ投与時刻とpCRの関連/日本臨床腫瘍学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与時刻が治療効果と関連する可能性が示唆されているが、乳がんにおけるエビデンスは限られている。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)では、早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の術前療法におけるペムブロリズマブの投与時刻と病理学的完全奏効(pCR)の関連について後ろ向きに検討した2つの単施設研究の結果を、国立がん研究センター中央病院の齋木 琢郎氏とがん研究会有明病院の久野 真弘氏がそれぞれ発表した。投与が1時間早まるごとにpCR達成のオッズが1.5倍に~国立がん研究センター中央病院 齋木氏 齋木氏らは、2022年8月~2025年8月に国立がん研究センター中央病院でKEYNOTE-522レジメンによる術前療法を受け、その後手術を受けたTNBC患者102例を後ろ向きに検討した。投与時刻はペムブロリズマブ投与完了時刻とした。主な結果は以下のとおり。・投与時刻の中央値は午後12時48分(範囲:午前10時13分~午後3時40分)であった。・102例中53例(52.0%)がpCRを達成した。・単変量解析では、組織学的グレード3、核グレード3、ペムブロリズマブ投与時刻の中央値がpCRと有意な関連が認められた。・多変量解析では、組織学的グレード3、投与時刻の中央値がpCRと有意な関連がみられた。調整オッズ比は1.007(1分早まるごと)であり、これは投与が1時間早まるごとにpCR達成のオッズが1.5倍(1.00760)高まることを示す。・各薬剤(ペムブロリズマブ、カルボプラチン、パクリタキセル、AC)の相対用量強度と投与時刻に有意な関連はみられなかった。 齋木氏は「本結果は、ペムブロリズマブを早い時刻に投与することが、pCRの達成率向上に関連する可能性を示唆しているが、カットオフ値は見いだせなかった」とまとめ、午後の投与が良好であった、あるいは差がなかったという結果を示した先行研究との違いについては、「先行研究のコホートでは主に午後に投与していたのに対し、われわれのコホートは主に午前中に投与していたことがこの違いを説明するかもしれない」と考察した。適切なカットオフ時刻ならびに治療のどのフェーズに注目するかを後ろ向きに検討~がん研究会有明病院 久野氏 久野氏らは、ペムブロリズマブの投与時刻とpCRの関連を、とくに治療フェーズの影響に注目して検討した。2022年10月~2024年12月にがん研究会有明病院でKEYNOTE-522レジメンによる術前療法を開始したTNBC患者99例を後ろ向きに検討した。ペムブロリズマブの投与開始時刻を電子カルテから抽出、4つのフェーズ(全サイクル、初回サイクル、カルボプラチン+パクリタキセルフェーズ、アントラサイクリンフェーズ)についてROC解析を行い、最適なカットオフ値を決定した。主な結果は以下のとおり。・99例中65例がpCRを達成した。・全サイクルにおける投与開始時刻の分布を見ると、pCR群とnon-pCR群の間で有意な差は認められなかった。ROC曲線から導き出された時刻(正午)をカットオフ値として適用しても両群間でpCR率に差はなかった。・4つの治療フェーズで投与開始時刻とpCRの関連を調べたところ、カルボプラチン+パクリタキセルフェーズのみが午前11時のカットオフ値でpCR率と有意な関連を示し、午前11時より早い時刻で開始した群は95.2%(20/21例)、遅い時刻で開始した群は57.7%(45/78例)であった(p=0.0007)。内的妥当性に関してはMaxstat解析とBootstrap(1,000回)を施行し、安定性を確認した。早い時刻で開始した群と遅い時刻で開始した群の背景因子は、Ki-67値を除いてバランスが取れていた。・多変量解析において、カルボプラチン+パクリタキセルフェーズにおける投与開始時刻とpCRの関連は、Ki-67値および生殖細胞系列BRCA病的バリアントの有無を調整後も維持された。腫瘍浸潤リンパ球データが利用可能なサブセット(63例)では関連が有意ではなくなったが、早い時刻で開始した群が8例と症例数は限られていた。 久野氏は「全サイクルを通じたペムブロリズマブの投与開始時刻はpCRと関連していなかったが、カルボプラチン+パクリタキセルフェーズにおいて午前11時より早いペムブロリズマブ投与開始は高いpCR率と関連している可能性が示唆された。あくまで単施設後ろ向き研究のため、外的妥当性や前向き研究のデータが必要である」とまとめた。2つの研究の違い 2演題の発表後における質疑応答で、齋木氏は2つの研究の違いについて「久野先生の解析手法は先行研究の手法を踏襲し、科学的なアプローチだが、われわれの研究の目的は投与タイミングの重要性を結論付けることではなく、その重要性を探索することであった」と述べた。久野氏は「pCRに対する投与時刻の効果を評価する手法が異なっていた。われわれはROC曲線(Youden index)などの解析手法を用いて最適なカットオフ値を決定したのに対し、齋木先生は1時間ごとの変化がpCRのオッズ比に与える影響を解析していた」と説明し、「手法は異なるが共に後ろ向き研究を行っているので、今後ぜひ協力したい」と呼びかけた。

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テストステロン補充療法は膝関節全置換術後の合併症リスクを高める?

 米国でテストステロン補充療法(TRT)の利用者が急増する中、膝関節全置換術(TKA)を受ける患者にとっては、このホルモンがより高いリスクをもたらす可能性があるようだ。新たな研究で、手術前の1年以内にTRTを受けていた患者は、術後に感染症、血栓、腎障害、肺炎、膝関節の不安定性などの合併症の発症リスクが高いことが示された。米Hospital for Special Surgeryの整形外科医であるBrian Chalmers氏らによるこの研究結果は、米国整形外科学会(AAOS)年次総会(AAOS 2026、3月2〜6日、米ニューオーリンズ)で発表された。 研究グループによると、テストステロン補充療法の処方件数は2019年の730万件から2024年には1100万件超へと増加している。男女ともに、健康的な老化の促進、筋肉・骨の増強、性欲の改善を目的としてこのホルモンを使用しているという。一方で、テストステロンは、血栓形成や免疫機能、骨代謝にも影響するため、手術後の回復を複雑にする可能性がある。Chalmers氏は、「テストステロンを使用する人がかつてないほど増えており、また、TKAの件数は2030年までに年間100万件を超えると予測されている。そこでわれわれは、TRTが術後の患者に与える影響についてより深く調べることにした」とニュースリリースでコメントした。 今回の研究では、米国の電子カルテ全国データベース(TriNetX)のデータを用いて、2020年2月以前にTKAを受け、術後5年間の追跡データがそろう成人1万3,250人を対象に、TKA前のTRTと術後合併症との関連を検討した。 その結果、術後90日時点において、TRTを受けた群と受けていない群の合併症の発生率は、肺塞栓症で1.6%と1.2%、肺炎で3.3%と1.9%、急性腎障害で4.2%と2.9%、敗血症で1.9%と1.1%であった。また、術後1年時点では、肺塞栓症で2.6%と2.0%、深部静脈血栓症で4.5%と3.3%、心血管関連イベントで3.0%と2.4%、肺炎で6.0%と4.0%、急性腎障害で7.9%と5.2%、敗血症で2.4%と0.9%であり、TRT群での合併症の発生率は高いままだった。さらに、人工関節そのものに関わる合併症のリスクも高まっており、術後5年にわたって関節感染症、骨折、インプラントの緩み、膝の不安定性、再手術の発生率が高いことが示された。 研究グループは、「テストステロンは血栓リスクの上昇と関連することが知られているが、このホルモンがTKAにどのように影響するかを解明するには、さらなる研究が必要だ」と指摘している。研究グループの一員である米ワイル・コーネル・メディスンのArsen Omurzakov氏は、「本研究から、テストステロンは、骨が時間をかけて自然に再構築される過程にも影響を与えることが示唆された」とプレスリリースで述べている。Arsen Omurzakov氏の双子の兄弟で、同じく研究グループの一員である米ケース・ウェスタン・リザーブ大学のArgen Omurzakov氏は、「テストステロン値は免疫系だけでなく、免疫系・治癒・その他の重要な生体機能に関わるマイクロバイオームにも影響する可能性がある」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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意欲低下と抑うつの併存、高齢者の多面的フレイルと関連か

 高齢者のフレイルは身体機能だけでなく、認知、社会、口腔など多面的な側面を持つことが知られている。今回、地域在住高齢者を対象とした研究で、意欲低下(アパシー)と抑うつ症状はいずれも身体・認知・社会フレイルと関連し、両者を併存する場合には口腔を含む多面的フレイルとの関連が示唆された。研究は、島根大学医学部内科学講座内科学第三の黒田陽子氏、同大学地域包括ケア教育研究センター(CoHRE)の安部孝文氏らによるもので、詳細は2月6日付で「Geriatrics & Gerontology International」に掲載された。 日本の超高齢社会では健康寿命の延伸が重要課題であり、フレイルは加齢に伴う生理的予備能の低下によりストレスへの抵抗力が弱まった状態で、要介護や転倒、入院、死亡などと関連することが知られている。日本では多面的評価を可能とする「後期高齢者の質問票(Questionnaire for Medical Checkup of the Old-Old:QMCOO)」が導入されたが、各フレイル領域との関連、とくに情動機能との関係は十分に検討されていない。抑うつはフレイルとの関連が報告されている一方、アパシーとフレイルの関連や両者の違いは不明な点が多い。本研究は、地域在住高齢者を対象に、アパシーと抑うつ症状を独立して評価し、身体・口腔・認知・社会の各フレイル領域との関連を明らかにすることを目的とした。 本研究は、2024年のShimane CoHRE Studyに参加した島根県雲南市在住の75歳以上の高齢者465人を対象とした横断研究として実施された。アパシーは日本語版Starkstein Apathy Scale(やる気スコア)で16点以上、抑うつ症状はSelf-rating Depression Scaleで40点以上を基準に定義した。フレイルは、身体・認知・社会・口腔の各領域についてQMCOOを用いて評価した。解析では、年齢、性別、BMI、Multimorbidityで調整したロジスティック回帰分析を行った。 参加者の年齢中央値は78歳(四分位範囲76.0~82.0)、女性は約半数(49.7%)を占めた。参加者におけるアパシー、抑うつ症状、および両者の併存の有病割合は、それぞれ30.8%、29.9%、14.6%であった。二変量解析では、アパシー群は非アパシー群と比べて認知的フレイル(特に時間の見当識障害)や社会的フレイル(相談相手の不在など)の割合が高く、抑うつ症状群では身体機能低下を中心とした身体的フレイルとの関連が目立った。 多変量解析では、アパシーおよび抑うつ症状はいずれも身体的フレイル、運動習慣の欠如、認知的フレイル、記憶障害、社会的交流の不足と独立して関連していた。さらに、アパシーは時間の見当識障害、社会的フレイル、閉じこもり、相談相手の不在と関連し、抑うつ症状は咀嚼機能低下や身体機能低下との関連が特徴的であった。 また、アパシーと抑うつ症状の併存群では口腔・身体・認知・社会のすべてのフレイル領域と有意な関連が認められた。 著者らは、アパシーと抑うつ症状は共通して身体的・認知的フレイルと関連する一方、アパシーは特に社会的フレイルとの関連が示唆されたと結論づけている。また、「両者が併存する場合には口腔領域を含む複数のフレイル領域と関連し、多面的な脆弱性が強まる可能性がある。フレイル予防には情動機能の評価と個別化された対応が重要であり、因果関係の解明には今後の縦断研究が求められる」と述べている。 なお、本研究の限界として、横断研究デザインのため因果関係を検討できない点や自己報告によるバイアス、QMCOOのみでのフレイル評価、健診受診者に限定された集団による一般化可能性の制限などを挙げている。

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62万人の解析で見えてきた、日本人のバレット食道リスクとは

 「バレット食道」は、胃酸などの逆流によって食道の粘膜が本来とは異なるタイプの細胞(円柱上皮)に置き換わる状態を指す。この状態は、将来的に食道腺がんの発生母地になることが知られている。今回、日本人約62万人の大規模データを解析した研究から、胃食道逆流症(GERD)や食道裂孔ヘルニアなどが、日本人におけるバレット食道のリスク因子である可能性が示された。研究は、静岡県立総合病院消化器内科の平田太陽氏、静岡社会健康医学大学院大学の菅原照氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏らによるもので、詳細は2月6日付で英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。 近年、欧米を中心に食道腺がんの増加が報告されており、その主要な前段階とされるバレット食道への関心が高まっている。日本を含む東アジアでは、長い範囲に及ぶ長区域バレット食道(LSBE)や、それを背景とした食道腺がんは従来まれと考えられてきたが、近年は増加傾向が指摘されている。これまで、バレット食道のリスク因子として、高齢、男性、肥満、喫煙に加え、GERDや食道裂孔ヘルニアなどが報告されてきた一方、ヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)感染は保護的に働く可能性も示唆されている。しかし、生活習慣やピロリ菌の疫学は欧米と日本で異なり、日本人集団における大規模な検証は限られていた。そこで本研究では、日本人一般集団62万人超のデータを用い、バレット食道の発症率とリスク因子を検討した。 健康保険請求データや健診情報などを統合した静岡県市町国保データベース(SKDB)を用い、後ろ向きコホート研究を実施した。対象は2012年4月~2021年9月に市町村国保へ加入し、12カ月以上の連続加入が確認され、バレット食道の既往がない個人とした。新規発症は保険請求データで定義し、年齢、性別、併存疾患、生活習慣、GERDや食道裂孔ヘルニア、ピロリ菌感染歴、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)、ならびにヒスタミン-2受容体拮抗薬(H2RA)などの酸分泌抑制薬の使用を調整した、時間の経過を考慮して発症リスクを評価する統計手法(Cox比例ハザードモデル)を用いて解析した。 本研究の最終的な解析対象は62万125人となり、追跡期間の中央値は6.2年だった。観察期間中に1,577人がバレット食道と診断され、新規発症率は10万人年あたり46.4例だった。 まず1つずつの因子との関連を検討し(単変量解析)、そのうえで複数の要因を同時に調整した解析(多変量解析)を行った。GERDと酸分泌抑制薬使用は互いに関連が強い(強力な酸分泌抑制薬であるPPI/P-CABはGERDの第一選択薬である)ため、両者を別々に含めた2つの解析モデルで検討した。その結果、年齢(50~79歳)、男性、末梢血管疾患、肝疾患、食道裂孔ヘルニア、ならびにGERDまたはPPI/P-CAB使用が一貫して発症リスクの上昇と関連していた。一方、ピロリ菌感染歴やH2RA使用については、モデルによって関連の有無が異なった。なお、酸分泌抑制薬使用やピロリ菌感染歴がリスク上昇と関連した点について著者らは、薬やピロリ菌そのものが直接リスクを高めると単純に解釈すべきではないとし、背景にあるGERDの重症度や、ピロリ菌除菌後の胃酸分泌の変化などが影響している可能性を指摘している。また、身体活動は単変量解析では関連したものの、多変量解析では有意差を示さなかった。 著者らは、「バレット食道の発症リスク因子について、本研究においては肥満や喫煙、飲酒といった生活習慣因子は他の要因を調整すると明確な関連は認められず、GERDや食道裂孔ヘルニアなどの逆流関連因子の影響がより重要である可能性が示唆された」と述べている。これらの結果は、日本人における内視鏡サーベイランスの対象選択に新たな視点を与える可能性があるとしている。 本研究での発症率(10万人年あたり46.4例)は、数値上は欧米の報告と同程度だが、診断基準の違いに注意が必要である。日本では、全長の短い短区域バレット食道(SSBE)が主流で、内視鏡医の判断で1cm未満の非常に短いものまで診断に含まれることがある。一方、欧米では一般に1cm以上の長さと組織検査による確認という厳格な基準が用いられる。そのため、発症率やリスク因子の単純な国際比較には慎重な解釈が求められる。 なお、本研究の限界として、診断は保険請求データに基づいており、組織学的情報が含まれていない点や、短区域バレット食道(SSBE)と長区域バレット食道(LSBE)の区別ができない点、診断漏れの可能性などが挙げられる。また、家族歴や遺伝的素因といった臨床情報や、ピロリ菌感染状態(現在感染か除菌後かなど)を詳細に評価できていない点も限界である。さらに、本研究は観察データに基づくものであるため、因果関係を断定することはできない。

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第38回 交通事故の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)外傷は受傷機転を意識しよう!2)ショックの初動を理解しよう!3)ショックの鑑別に「初動を変える原因」を1度は考えよう!【症例】63歳男性。軽自動車を運転中、スピードはそれほど出ていなかったものの、電柱に追突した。目撃した通行人が救急要請。●受診時のバイタルサイン意識1/JCS血圧80/48mmHg脈拍108回/分(整)呼吸24回/分SpO293%(RA)体温36.5℃瞳孔3/3mm +/+既往歴心筋梗塞ショックの原因今回の症例、皆さんであればどのように対応するでしょうか。交通事故の傷病者ですから、外傷に伴う出血などを念頭に精査するでしょうか。少なくとも血圧の低下、頻脈を認めショックであることはすぐにわかると思います。外傷の初期診療としては、JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)などにのっとって、まずABC(気道・呼吸・循環)の安定化を図ります。大量出血の可能性のある胸腹部外傷や骨盤骨折などを念頭に対応することになりますが、今回の症例では、目撃者情報からも、高エネルギー外傷ではなく、本人にも明らかな疼痛の訴えはありませんでした。ショックは大きく、(1)血液分布異常性ショック(Distributive shock)、(2)循環血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)、(3)心原性ショック(Cardiogenic shock)、(4)閉塞性ショック(Obstructive shock)に分類されます。このうち頻度が高いのは、(1)の血液分布異常性ショック、とくに敗血症性ショックでしょう1,2)(表1)。一方で、今回のような外傷では、当然ながら出血に伴う(2)循環血液量減少性ショックも考える必要があります。表1 ショックの原因@ER画像を拡大するショックの鑑別:評価すべきHi-Phy-Vi細かな原因まで同定できなくても、病態として4つのうちどれに該当するのかは、病歴(History)、身体所見(Physical examination)、バイタルサイン(Vital signs)を意識して評価すれば、おおよそ見当をつけることができます。最低限、以下の事項は迅速に確認しましょう。病歴では、今回のような外傷や吐下血、血便などのエピソードがあれば、出血に伴う(2)循環血液量減少性ショックを考えます。数時間から数日の経過で発症し、とくに発熱など感染を示唆する所見があれば、敗血症に代表される(1)血液分布異常性ショックを考えます。また、胸痛や呼吸困難などの症状が突然、あるいは急性に出現し、ショック徴候を伴う場合には、(3)心原性ショックだけでなく、(4)閉塞性ショックも念頭に置く必要があります。身体所見では、頸部や皮膚所見に注目します。(1)と(2)では、絶対的あるいは相対的に血管内ボリュームが不足するため、頸静脈は臥位でも虚脱していることが多いです。その一方で、(3)や(4)では頸静脈怒張を認めることがあります。バイタルサインでは、多くの場合、頻呼吸、頻脈、血圧低下を認めますが、脈圧にも注目しましょう。脈圧が収縮期血圧の25%未満であれば、心拍出量低下が示唆され、心原性ショックを考える手がかりになります。超音波が使用可能であれば、RUSH(Rapid Ultrasound in Shock)プロトコルなどを用いて、ショックの鑑別を体系的に評価しましょう。超音波は術者の技量に依存しますが、だからこそ普段から意識して技術を磨き、ショック患者に対しても迅速かつ自信を持ってプローブを当てられることは大きな強みになります。FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)陰性を確認するだけで安心してはいけません。1度は早期に考慮すべきショックの原因多くのショックは、細胞外液投与を行い、それでも目標血圧を達成できなければノルアドレナリンなどの昇圧薬を用いることで、ある程度バイタルサインを安定化させることができます。しかし、それだけでは対応できないショックの原因もあります。私は表2の5つを意識しています。表2 ショックの「初動を変える原因」(1)アナフィラキシーアナフィラキシーの治療はアドレナリンが第1選択です。成人であれば、大腿外側に0.5mgを筋注します。細胞外液投与も必要ですが、アドレナリンを早期かつ適切に投与できるかどうかが予後を左右します。(2)出血外傷や消化管出血による大量出血では、細胞外液投与だけでは対応できません。失っているのは血液ですから、細胞外液は過量にならないよう注意しつつ、輸血を早期に考慮する必要があります。(3)中毒中毒では、解毒薬や拮抗薬が存在する場合があります。頻度は高くありませんが、通常のショックとは反応が異なると感じた場合には、鑑別として意識しておくとよいでしょう。(4)閉塞性ショックショックの4分類の1つですが、決して頻度は高くありません(表1)。しかし、脱気や心膜穿刺などの処置が必要になるため、必ず1度は考える必要があります。(5)ショック+徐脈ショックでは通常、頻脈になります。それにもかかわらず、血圧低下やショック徴候を認めているのに徐脈である場合には、表3のような病態を考える必要があります。とくに、高K(カリウム)血症、徐脈性不整脈、下壁梗塞では迅速な対応が求められます。心電図と血液ガス検査は早期に確認しましょう3)。表3 ショック+徐脈今回の症例では、来院後に身体所見をくまなく確認したところ、下腹部から臀部、さらに下腿にかけて皮疹を認め、強制呼気で喘鳴を聴取しました。そうです。原因は「アナフィラキシー」だったのです。アナフィラキシーに伴う意識消失とショックによって事故を起こしていたのでした。外傷後であり、さらに心筋梗塞の既往もあったため、現場の救急隊はショックの原因として出血や心原性は考慮していたものの、アナフィラキシーは鑑別に挙がらず、皮疹の存在にも気付いていませんでした。アナフィラキシーでは、約10%で皮疹を認めないとされますが、多くの症例では皮膚症状を伴います。ただし、疑って皮膚所見を探しにいかなければ、その存在に気付かないことも少なくありません。急性発症の皮膚症状に加えて、呼吸器症状(喘鳴など)、循環器症状(失神など)、消化器症状(嘔気・嘔吐、腹痛など)を認める場合には、1度はアナフィラキシーの可能性を意識し、病歴と身体所見を丁寧に評価しましょう。 1) Standl T, et al. Dtsch Arztebl Int. 2018;115:757-768. 2) Cecconi M, et al. Intensive Care Med. 2014;40:1795-1815. 3) 坂本 壮. 救急外来ただいま診断中 第二版. 中外医学社. 2024.

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HER2陽性乳がんの新規経口薬「ツカイザ錠50mg/150mg」【最新!DI情報】第60回

HER2陽性乳がんの新規経口薬「ツカイザ錠50mg/150mg」今回は、HER2チロシンキナーゼ阻害薬「ツカチニブ(商品名:ツカイザ錠50mg/150mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんの治療薬であり、抗HER2療法に抵抗性を示した患者や脳転移のある患者の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんの適応で、2026年2月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>トラスツズマブ(遺伝子組換え)およびカペシタビンとの併用において、通常、成人にはツカチニブとして1回300mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、重度の下痢(10.6%)、肝機能障害(高ビリルビン血症[21.9%]、AST増加[20.0%]、ALT増加[20.0%])、間質性肺疾患(頻度不明)があります。その他の副作用(5%以上のもの)として、下痢(72.6%)、手足症候群(64.9%)、悪心(52.1%)、疲労(36.0%)、口内炎(26.8%)、嘔吐(25.3%)、食欲減退(20.9%)、感染症(眼、耳、上咽頭、上気道、気管支、皮膚、爪、爪床、尿路、膣、限局性)、貧血、好中球減少症、白血球減少症、血小板減少症、低カリウム血症、末梢性ニューロパチー(末梢性運動ニューロパチー、末梢性感覚ニューロパチー)、味覚障害(味覚不全)、頭痛、鼻出血、腹痛、消化不良、口腔障害(口腔内出血、口腔内痛、口腔内不快感、口内乾燥)、爪の障害(爪甲脱落症、爪甲剥離症、爪線状隆起、爪破損、陥入爪、爪変色、爪ジストロフィー、爪痛、爪毒性)、皮膚乾燥、皮膚色素過剰、爪囲炎、そう痒症、脱毛症、斑状丘疹状皮疹、筋骨格痛(筋肉痛、骨痛、関節痛、顎痛、頚部痛、胸痛、背部痛、四肢痛)、血中クレアチニン増加、無力症、体重減少(いずれも5%以上)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、HER2チロシンキナーゼ阻害薬であり、化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんに用いられます。2.トラスツズマブ(遺伝子組換え)およびカペシタビンと併用して使用されます。3.咳、息切れ、息苦しさ、発熱などが現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。4.妊婦または妊娠している可能性のある人は医師に相談してください。5.妊娠する可能性のある女性は、この薬の投与期間中および最終投与後1週間は適切に避妊してください。<ここがポイント!>乳がんは、日本人女性において最も発生頻度の高いがんであり、そのうちHER2陽性乳がんは全体の約15~20%を占めています。HER2陽性乳がんは、HER2陰性乳がんと比較して、診断時に進行した病期で発見されることが多く、若年者に多く認められるほか、進行が速く、転移や再発のリスクが高いことが知られています。HER2は膜貫通性のチロシンキナーゼ受容体であり、その過剰発現や遺伝子増幅は腫瘍細胞の増殖を促進する重要な因子です。近年、抗HER2抗体薬やチロシンキナーゼ阻害薬などHER2を標的とした医薬品の開発により、HER2陽性乳がんの予後は大きく改善されました。しかしながら、多くの症例において抗HER2療法後に疾患の進行(PD)を認め、進行後の標準的な治療戦略はいまだ確立されていないのが現状です。ツカチニブエタノール付加物は、HER2を選択的に阻害する低分子チロシンキナーゼ阻害薬です。本剤は、HER2チロシンキナーゼのリン酸化を選択的かつ可逆的に阻害することで、腫瘍細胞の増殖・生存に関与する下流のシグナル伝達経路を抑制すると考えられています。化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能または再発乳がんを適応症とし、既存の抗HER2療法に抵抗性を示す患者や脳転移を有する患者に対する新たな治療選択肢となります。本剤は、トラスツズマブおよびカペシタビンと併用して使用します。治療歴のある切除不能な局所進行または転移・再発HER2陽性乳がん患者を対象とした海外第II相試験(HER2CLIMB:ONT-380-206試験[カペシタビンとトラスツズマブを併用、脳転移がある患者を含む])において、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、本剤群7.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.5~9.6)、対照群5.6ヵ月(95%CI:4.2~7.1)であり、本剤群では対照群と比較してPFSが延長し、統計的に有意にPDまたは死亡のリスクが46%減少しました(層別ハザード比:0.54[95%CI:0.42~0.71]、p<0.00001[有意水準(両側):0.05])。また、治療歴のある切除不能な局所進行または転移・再発HER2陽性乳がん患者66例(日本人患者53例)を対象とした国際共同第II相試験(HER2CLIMB-03:MK-7119-001試験[カペシタビンとトラスツズマブを併用])において、主要評価項目である日本人集団の奏効率は35.4%(90%CI:24.0~48.3)で、90%CIの下限が事前に規定した閾値である20%を上回っていたことから帰無仮説は棄却され、日本人に対する本剤+トラスツズマブ+カペシタビン併用療法の有効性が示されました。

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肺塞栓症の鑑別【日常診療アップグレード】第53回

肺塞栓症の鑑別問題45歳男性。2日前から間欠的に胸痛があり救急外来を受診した。痛みの持続は数分間で、発熱や咳、悪寒、下肢の腫脹はない。痛みは深呼吸で悪化する。既往歴はとくになし。薬剤歴はない。バイタルサインは体温36.8℃、血圧136/76mmHg、脈拍数88/分、SpO2 98%(室内気)である。肺塞栓症の可能性が低いため、肺塞栓症に関する追加検査は行わなかった。

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薬局と連携しよう【非専門医のための緩和ケアTips】第121回

薬局と連携しよう在宅緩和ケアではさまざまな専門職が患者の療養を支えています。薬剤師も重要な役割を担っていますが、医師が薬剤師との連携の仕方を学ぶ機会は多くはありません。今日の質問先日、調剤薬局の薬剤師から、訪問薬剤指導について案内がありました。重要な取り組みだと思うのですが、実際にどのように連携すればよいのかイメージが湧きません……。緩和ケアにおける薬剤師の役割は非常に大きく、日本緩和医療薬学会という専門学会があり、緩和薬物療法認定薬剤師という認定資格も設けられています。薬剤師と医師が上手に連携するために、私が感じていること、意識していることをお話しします。薬剤師が関わることで、緩和ケアにおける薬物療法の安全性と質が向上します。安全性では、緩和ケアの患者は腎・肝機能が低下していたり、高齢者だったりと用量調整が必要なことが多くあります。また、多剤併用で薬物相互作用に気を付ける必要があるケースも多くあります。薬剤師は、医師が処方した薬剤について、患者に期待される効果が安全に得られるよう確認してくれます。質の向上では、患者が内服しやすい剤形を提案したり、飲み忘れを防ぐ服薬カレンダーを工夫したりといったことがあります。こうしたことを医師1人で行うのは難しく、実務経験を通じて培った、きめ細かさが求められる分野です。医師はあまり意識しませんが、薬剤師の重要な役割として、薬剤の流通管理があります。医師が処方しても、実際の薬剤が地域の薬局になければ患者には届きません。できるだけ早く薬がほしい状況にもかかわらず、医薬品卸業者に発注してから、となると時間を要します。このような状況では、在宅療養を希望する患者でも「薬剤が提供できない」という理由で入院が必要になります。今回の質問のように地域の在宅緩和ケアを支える薬局は、こうしたことがないよう、在宅医療で使用する薬剤が適切に患者に届くよう、薬剤の在庫管理を行っています。今後さらに薬剤師に期待される役割は、ケアのコミュニケーションに参加してもらうことです。患者の価値観や希望に沿った医療とケアを提供するうえで、各職種が支援者として関わり、患者にとっての最善を共に考えることが求められています。私が研修医だったころは、薬剤師がベッドサイドに行く光景は見たことがありませんでした。しかし、今は薬剤師がどんどん患者と接点を持つようになっています。緩和ケアで重要な役割を持つ薬剤師と相互理解を図り、良い関係を築ける医師が必要ですし、私もそうした医師を育成できるよう取り組んでいます。ぜひ、良い連携を築きながら、質の高い緩和ケアを提供できるよう、取り組んでいきましょう。今日のTips今日のTips診療している地域の薬剤師とネットワークを構築すると、在宅緩和ケアの質も向上します。

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子どものこころの診療-小児科医が挑む子どものこころの臨床

「子どものこころ」の問題に小児科医、精神科医が連携して挑む「小児診療 Knowledge & Skill」第4巻「子どものこころ」の問題は社会状況の変化に伴い、年々その重要性が高まっている。小児科外来では「こころ」の健康に関する臨床機会が増加しているが、「こころ」の診療は専門性が高く多岐にわたる知識と技術が求められる。小児科、精神科の連携は必須であり、本書は「子どものこころ」の臨床に携わる小児科医と精神科医のエキスパートによる、それぞれの専門性を活かした最新の知見を詳解。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する子どものこころの診療-小児科医が挑む子どものこころの臨床定価8,800円(税込)判型B5判(並製)頁数320頁発行2026年3月総編集加藤 元博(東京大学)専門編集田中 恭子(順天堂大学)共同編集者岡田 俊(奈良県立医科大学)/金生 由紀子(全国療育相談センター)/石﨑 優子(関西医科大学)/永光 信一郎(福岡大学)ご購入はこちらご購入はこちら

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第313回 臨床試験でデクスメデトミジンがアルツハイマー病関連タンパク質除去を促進

脳の老廃物処理機能を後押しして、アルツハイマー病と関連するタンパク質がより除去されるようにする薬の組み合わせの効果が臨床試験で裏付けられました1,2)。「一線を画す進歩であり、神経変性疾患患者を助けうることに留まらず、健康な人が脳の機能を最大限にするのにも役立つかもしれない」とアミロイドβ(Aβ)検出化合物を研究するハーバード大学の准教授Shiju Gu氏は今回の成果を評しています。脳は代謝で生じる老廃物を血管に沿って流れるグリンパティック系を介して排出します。グリンパティック系からリンパ系へと運ばれた老廃物は、次に血液に至って処分されます。グリンパティック系はアルツハイマー病関連タンパク質のAβやタウの除去を促すことがげっ歯類の検討で示されています。その働きは睡眠中にとくに盛んで、睡眠不足はAβやタウの除去を滞らせます。ヒトの脳にもグリンパティック機能があり、やはり睡眠中に活動し、睡眠中にAβやタウが脳から排出されることに一役買っていることが神経画像解析で判明しています。残念なことにグリンパティック系は老化で衰え、アルツハイマー病ではとくに不調になるようです。一方幸いにも、脳の青斑核(LC)から伸びる神経のノルアドレナリンの働きを制するいくつかの手段で、睡眠中のグリンパティック機能を高めうることも示されています。たとえば、外科処置の際の鎮静によく使われるα2アドレナリン作動薬デクスメデトミジンは、LCの活動を抑制することでグリンパティック機能を高めることがげっ歯類の検討で示されています3)。デクスメデトミジンにはアルツハイマー病を模すマウスの認知機能低下を遅らせる効果もあります4)。そこで米国の製薬会社Applied Cognitionに勤めるPaul Dagum氏らは、ヒトではどうかを試すべく臨床試験でデクスメデトミジンのグリンパティック機能やAβとタウの除去への作用を調べることにしました。試験には平均年齢60歳の19人が参加し、試験室で寝ないで1晩を過ごした後にデクスメデトミジンと同剤につきものの副作用である低血圧を防ぐα1アドレナリン作動薬ミドドリンの投与を受けました。Applied社はその組み合わせをACX-02という名称を付けて開発しています。被験者には1週間後に再び試験室で一晩を寝ないで過ごしてもらいます。しかしその後が1回目の徹夜とは違い、ACX-02ではなくプラセボが投与されました。プラセボ投与との比較の結果、喜ばしいことにげっ歯類での検討と同様の効果が示されました。すなわちACX-02はグリンパティック機能を高めてAβとタウが脳から血液へと排出されるのを促す効果がありました。アルツハイマー病治療として承認済みのアミロイド除去抗体と違って、ACX-02ならAβとタウの両方の除去を促せそうであり、認知機能により有益かもしれません。Dagum氏らのチームは初期アルツハイマー病患者を募る試験でACX-02に一層の取り柄があるかどうかを調べるつもりです。パーキンソン病などの異常に折りたたまれた(ミスフォールド)タンパク質の蓄積による他の脳疾患にもACX-02は役立つかもしれません。もっというと、寝不足後の注意欠如の解消にも使えるかもしれない、と研究チームの1人は言っています2)。 参考 1) Dagum P, et al. Pharmacological enhancement of glymphatic function in humans increases the clearance of Alzheimer’s disease-related proteins. medRxiv. 2026 Mar 12. 2) The brain's cleaning system can be boosted to rid Alzheimer's proteins / NewScientist 3) Hablitz LM. et al. Sci Adv. 2019;5:eaav5447. 4) Ma K, et al. Drug Des Devel Ther. 2024;18:5351-5365.

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日本の成人血液腫瘍の5年純生存率の推移:2000~14年(CONCORD-3)

 日本における成人血液腫瘍患者の5年純生存率(net survival)は2000~14年に全体的に改善し、その改善は高齢患者よりも若年患者においてより顕著であったことが、世界的ながん生存率調査を目的としたCONCORD-3プログラムの日本人データを用いた分析により示された。国立病院機構 四国がんセンターの吉田 功氏らがJapanese Journal of Clinical Oncology誌2026年3月号で報告した。 本研究では、国内16の地域がん登録データから2000~14年に骨髄系またはリンパ球系悪性腫瘍と診断され、2014年12月31日まで追跡された成人患者(15~99歳)のデータを分析した。Pohar-Perme法を用いて年齢層および形態学的サブタイプごとの5年純生存率を推定し、International Cancer Survival Standard(ICSS)の重み付けを用いて年齢を調整した。 主な結果は以下のとおり。・骨髄系腫瘍の5年純生存率は、15~44歳の患者では2000~04年の57.3%から2010~14年の72.3%へ、45~54歳の患者では同期間に41.9%から61.3%へ有意な改善が認められた。・リンパ球系腫瘍では全年齢層で5年純生存率が改善したが、高齢患者における改善はそれほど顕著ではなかった。・骨髄増殖性腫瘍、古典的ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫では、5年純生存率が10%以上改善した。びまん性B細胞リンパ腫および急性骨髄性白血病では、中程度の改善が認められた。

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KRAS G12C変異陽性大腸がん、ソトラシブ+パニツムマブのアジア人・長期の有用性(CodeBreaK 300/101)/日本臨床腫瘍学会

 既治療のKRAS G12C変異陽性の転移大腸がん(mCRC)において、選択的KRAS G12C阻害薬ソトラシブと抗EGFR抗体パニツムマブの併用療法は、第III相CodeBreaK 300試験および第Ib相CodeBreaK 101試験において有用性が示され、すでに米国と日本において承認されている。今回、本レジメンのアジア人に対する有用性と、長期にわたる臨床的ベネフィットが確認された。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2026)において九州がんセンターの江崎 泰斗氏がアジア人サブグループ解析の結果を、国立がん研究センター東病院の久保木 恭利氏が両試験を統合した長期生存解析の結果を報告した。 江崎氏らは、ソトラシブ960mg(連日)+パニツムマブ6mg/kg(2週間ごと)の投与を受けた両試験のアジア人15例(アジア人群)とその他地域の参加者(その他群)78例を対象に、有効性と安全性を比較する事後解析を実施した。試験デザインは、CodeBreaK 300試験が治療歴を有するKRAS G12C変異陽性mCRC患者を対象にソトラシブ+パニツムマブと既存治療を比較したランダム化試験であり、CodeBreaK 101試験が用量探索と有効性、安全性を評価した多施設共同試験である。評価項目には、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、安全性が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・ORRはアジア人群で33%(95%信頼区間[CI]:12~62)、その他群で29%(95%CI:20~41)であり、アジア人においても高い奏効が示された。・病勢コントロール率(DCR)はアジア人群で87%(95%CI:60~98)、その他群で79%(95%CI:69~88)であった。・PFS中央値はアジア人群で8.3ヵ月(95%CI:2.8~推定不能)、その他群で5.7ヵ月(95%CI:4.2~7.4)であった。・OS中央値はアジア人群で15.2ヵ月(95%CI:8.7~推定不能)、その他群で12.6ヵ月(95%CI:10.7~18.4)であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現率はアジア人群で20%、その他群で39%であり、アジア人において低い傾向が認められた。アジア人群における主なTRAE(20%以上)は、ざ瘡様皮膚(53%)、発疹(40%)、低マグネシウム血症(33%)、下痢(27%)であった。 久保木氏らは、両試験においてソトラシブ+パニツムマブによる治療を受けた患者93例を対象に、2年OS、後治療、安全性の解析を行った。CodeBreaK 300試験の追跡期間中央値は28ヵ月、CodeBreaK 101試験は38ヵ月だった。 主な結果は以下のとおり。・統合解析におけるOS中央値は13.2ヵ月(95%CI:10.8~15.2)であり、既存の標準治療であるトリフルリジン・チピラシルやレゴラフェニブと比較して臨床的に意義のある改善が示された。・2年OS率は23%(95%CI:14.5~32.3)で、生存曲線は後方でプラトーを形成しており、一部の患者で長期生存が得られる可能性が示唆された。・長期フォローアップにおいても新たな安全性の懸念は認められず、毒性は管理可能であった。・後治療を受けた患者は53%であり、患者の3分の1は、試験終了後にトリフルリジン・チピラシルまたはレゴラフェニブを投与された。 江崎氏は「以上の結果から、ソトラシブ+パニツムマブ併用療法は、アジア人を含むKRAS G12C変異陽性の既治療mCRC患者に対して、一貫して良好な有効性と安全性を示すことが確認された」。久保木氏は「本レジメンは長期にわたって有用であり、化学療法抵抗性KRAS G12C変異大腸がん患者における標準治療としての位置付けが確認された。現在、本レジメンの1次治療としての有効性を検証する第III相試験(CodeBreaK 301試験)が進行中であり、さらなる治療の進展に期待する」とまとめた。

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待機的PCIの実施率、国内で4倍以上の地域格差~J-PCIレジストリ/日本循環器学会

 日本国内における待機的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の実施件数には、依然として地域ごとに4倍以上の大きな格差が存在し、人口、面積当たりのPCI実施可能施設の密度が過剰介入に関連している可能性が、J-PCIレジストリを用いた大規模解析より示唆された。齋藤 佑一氏(千葉大学医学部附属病院 循環器内科)が3月20~22日に開催された第90回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies 4にて報告した。 2013年のDPCデータを用いた先行研究では、急性心筋梗塞(AMI)に対する人口10万人当たりのPCI実施件数は全国で比較的均一であった一方、安定冠動脈疾患(安定狭心症)に対する待機的PCIの実施件数には顕著な地域差があることが示されていた。その後、2018年診療報酬改定によるPCIでの虚血評価の義務化の導入や、2019年のISCHEMIA試験の結果報告1)など、PCIを取り巻く環境が変化している。しかし、最新の臨床現場における地域差の実態やその要因は十分に解明されていなかった。 そこで同氏らは、全国規模のPCIレジストリであるJ-PCIデータを用い、現代の日本におけるPCI実施パターンと地域差の要因を評価。2019年と2023年のPCI症例を対象に、AMIおよび非AMI症例の10万件当たりの実施件数を47都道府県ごとに比較した。さらに、各都道府県のPCI実施施設の密度(人口当たりおよび面積当たり)と、非AMI/AMI実施比率との関連、ならびにPCI施設の地域体制の関連性について検証した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は2019年および2023年に登録された49万4,746件のPCI症例であった。・AMIに対するPCI実施件数は、2019年、2023年ともに全国で比較的均一であった。・一方で、非AMIに対する待機的PCIの実施件数には大きな地域差が認められ、2019年で最大4.0倍、2023年では最大4.2倍の格差が存在していた。2019年の実施件数上位の都道府県は滋賀県、京都府、徳島県で、下位は秋田県、新潟県、岩手県であった。2023年も同様の傾向がみられ、上位は滋賀県、京都府、徳島県、下位は秋田県、岩手県、山梨県であった。・2019年から2023年にかけて、AMIの人口10万人当たりのPCI実施件数は増加傾向にあったが、非AMIのPCI数は減少しており、非AMI/AMI比は有意に低下した(2.99±0.80から2.45±0.69に減少、p<0.001)。・潜在的なメカニズムとして、人口10万人当たりあるいは面積1,000km2当たりのPCI実施可能施設数(施設密度)が高い地域ほど、非AMI/AMI比が高いという正の相関が認められた。 本研究の限界として、AMI後の段階的PCIが非AMI群に含まれている可能性があること、観察研究のため因果関係の特定には限界があることを挙げた。 同氏は、「日本では、緊急を要するAMI治療の提供体制は全国的に比較的均一だが、待機的PCIの実施件数には4倍以上の地域格差が依然として残っている。この格差は、各地域のPCI実施施設の密度に関連している」と指摘。そのうえで、「今後の医療政策は、適切なPCIの実施をさらに促進しつつ、持続可能な心血管治療体制を維持するバランスが求められる」と結論付けた。日本循環器学会(JCS)学術集会まとめページはこちら

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日本のアルツハイマー病患者における介護者負担と神経精神症状との関係

 地域在住のアルツハイマー病患者を対象とした先行研究では、認知症における重度の神経精神症状(NPS)と介護負担との関連が報告されている。鹿児島県・あいらの森ホスピタルの永田 智行氏らは、日本における地域在住のアルツハイマー病患者の家族介護負担、認知症のNPS、介護サービスの利用状況の現状を調査した。Psychogeriatrics誌2026年3月号の報告。 地域在住のアルツハイマー病患者の同居家族介護者を対象に、2023年11月13~27日にウェブベースの質問票を用いて調査を実施した。パネルデータに登録された8,108人の参加者の中から、705人の家族介護者(年齢範囲:19~79歳)を抽出した。参加者は、神経精神医学的評価尺度(Neuropsychiatric Inventory-Brief Questionnaire)の日本語版に回答した。 主な結果は以下のとおり。・家族介護者の平均年齢は、54.6±11.5歳、男性の割合が56.9%であり、84.0%がアルツハイマー病の親または義理の親を介護していた。・アルツハイマー病患者の平均年齢は、84.2±8.8歳、男性の割合が26.2%であった。NPSを有する患者は90.6%、そのうち73.4%に多動性(焦燥、脱抑制、易刺激性、異常な運動行動)が認められた。・NPSを有する患者の介護者による週当たりの平均介護時間は、NPSのない患者の場合と比較し、長かった(24.1±22.1時間vs.17.6±14.0時間)。・NPSを有する患者の介護者では、NPSのない患者の介護者よりも、看護ケア支援サービスへの不満が高かった。・多動性のマネジメントのために、介護者の11.3%が投薬を行い、11.5%が患者を静かな環境に移動させた。一方、16.6%の介護者は対処方法がなかった。・多動性への対応として「投薬を行った」と回答した介護者のうち、32.1%が介護スタッフまたは医療従事者を呼んで経口薬を投与し、18.9%が患者を医療機関に連れて行き、注射または点滴治療を受けさせていた。 著者らは「NPSを有するアルツハイマー病患者の介護は、NPSのない患者と比較し、介護期間の延長、看護ケアサービスの利用率の高さ、看護ケア支援サービスへの不満との関連が認められた」としている。

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年収2,000万円以上の割合は? 地域・診療科による違いは?/医師1,000人アンケート

 ケアネットでは、2026年3月に会員医師1,000人(男性883人、女性117人)を対象として「年収に関するアンケート」を実施した。その結果、1,000万~2,000万円の割合は58.0%、2,000万円以上の割合は24.0%であり、8割超が1,000万円以上であった。最も多い年収帯は2,000万~2,500万円 全体で最も多い年収帯は2,000万~2,500万円(全体の13.7%)で、次点が1,400万~1,600万円(13.3%)であった。2016年に実施した調査結果と比較すると、1,000万円以下、1,000万~2,000万円、2,000万円以上の割合は、2016年がそれぞれ21.2%、58.8%、20.0%であったのに対し、2026年がそれぞれ18.0%、58.0%、24.0%であり、やや年収の上昇傾向がみられたが、大きな変化はなかった。 年代別にみると、46~55歳、56~65歳のうち2,000万円以上と回答した割合は、いずれも35.0%となった。35歳以下で1,000万円以上の割合は75.0%であった。2,000万円以上は男性26.0%、女性8.5% 男女別にみると、昨年度の年収が1,000万円以上と回答した割合は男性が84.4%であったのに対し、女性は63.2%であった。2,000万円以上に絞ると、それぞれ26.0%、8.5%であった。地域別の傾向は? 地域別にみた昨年度の年収が2,000万円以上の割合は、以下のとおり。・北海道・東北(113人):31.0%・関東(298人):24.8%・中部(161人):24.8%・近畿(214人):23.8%・中国(61人):18.0%・四国(34人):11.8%・九州・沖縄(119人):21.0%診療科別の傾向は? 診療科別にみた昨年度の年収が2,000万円以上の割合は、以下のとおり(30人以上の回答が得られた診療科を抜粋)。・脳神経外科(37人):40.5%・循環器内科(67人):38.8%・消化器外科(34人):32.4%・精神科(78人):29.5%・消化器内科(53人):28.3%・放射線科(32人):28.1%・整形外科(55人):23.6%・神経内科(30人):23.3%・内科(197人):21.8%・呼吸器内科(34人):20.6%・糖尿病・代謝・内分泌科(31人):16.1%・小児科(52人):11.5% その他、詳細な年収分布については、以下のページで結果を発表している。医師の年収に関するアンケート2026【第1回】昨年度の年収

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乳がんオリゴ転移、今わかっていること・いないこと/日本臨床腫瘍学会

 乳がんオリゴ転移については、手術や放射線療法などの局所療法が検討されるが、その有効性についての報告は多くが後方視的検討であり、どのような患者にどの治療を選択すべきかについて明確なコンセンサスは得られていない。第23回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2026)において、東京科学大学病院の石場 俊之氏が「乳オリゴ転移の今とJCOG2110(OLIGAMI試験)の可能性」と題した講演を行い、近年の研究結果と現在患者登録中のOLIGAMI試験の概要について解説した。オリゴ転移に局所療法を行うべきか? オリゴ転移とは、「転移巣の数が少なく腫瘍径が小さく(5個以下で同一臓器に必ずしも限定しない)、局所療法により完全奏効(CR:Complete Response)となる可能性がある状態」と定義され1)、新規に診断される転移乳がんの1~10%程度と考えられている2)。 オリゴ転移に対する局所療法としては、手術、ラジオ波焼灼療法(RFA)、放射線療法(寡分割照射、体幹部定位放射線治療[SBRT])などが考えられるが、「乳診療ガイドライン2022年版」3)では外科的切除は推奨されておらず、SBRTについては「症例を選択したうえで考慮してもよい」という記述となっている。 一方で、2025年のSt. Gallen国際乳がんコンセンサス会議では乳がんオリゴ転移への局所療法介入に対して87.1%の専門家が「同意する」と回答し、日本のJCOG乳がんグループへのアンケートでも81%が「転移が限局していて初期薬物療法に感受性が高い場合に検討する」と答えるなど、実地臨床では局所療法の併用が広く模索されている。 2つの臨床試験結果からみえてきたこと 近年、乳がんオリゴ転移を対象とした前向き無作為化試験が世界中で実施されている。石場氏は2つの試験に着目し、その結果について解説した。4個以下の乳がんオリゴ転移を対象としたNRG-BR002試験では、標準的な全身薬物療法に局所療法(定位照射または手術)を追加しても、無増悪生存期間(PFS)の改善は認められなかった。この理由として、同氏は、無作為化前の薬剤の規定がなく全身薬物療法の強度に群間差があった可能性、患者選定について「登録時の60日以内のオリゴ転移」との規定のみでPETが必須でなく、もともと多発転移であったinducedオリゴ転移や全身療法中に一部の病変のみが増悪したoligoprogressionの症例が含まれていた可能性を指摘した。 乳がんおよび肺がんのoligoprogressionを対象としたCURB試験では、肺がん患者においてはSBRTによりPFS改善が認められたが、乳がん患者では差がみられなかった。石場氏は、PDとなった症例の約6割で新規の病変が出現している点が、乳がん患者でベネフィットが得られない要因ではないかと述べた。OLIGAMI試験のデザインとその意義 上記のような乳がんオリゴ転移の特徴を踏まえ、現在進行中のJCOG2110(OLIGAMI試験)では、以下の基準が設けられている4)。・対象:3個以下のオリゴ転移、各オリゴ転移の大きさ≦5cm(脳転移≦2cm)※de novoオリゴ転移に限定し、PETを必須とする・12週間の全身薬物療法で、薬物への反応性のある症例のみを無作為化・割付調整因子:施設、オリゴ転移個数、サブタイプ分類、転移時期・試験群:全身薬物療法継続群、根治的局所療法(放射線療法または手術後に全身薬物療法を再開)群・主要評価項目:全生存期間 石場氏は、同試験を実施する意義として、ポジティブな結果が出た場合は、乳がんオリゴ転移に対する局所療法を積極的に推奨することができ、現在統一されていない患者選択基準、局所療法の選択に関するコンセンサスが得られることを挙げた。また、もしネガティブな結果となったとしても、無用な局所療法を避けることができ、特定の集団でのみ有効性が認められた場合はさらなる研究につなげることができるとした。 さらに本試験の大きな特徴として、ctDNA(血中循環腫瘍DNA)を用いた微小残存病変(MRD)解析の附随研究が組み込まれている。局所療法介入前後のctDNA動態をモニタリングすることで、分子レベルでの微小転移の有無と局所療法の効果判定、さらには再発の早期検知に関する有用性が明らかになることが期待される。 同試験は現在も患者登録中で、最後に石場氏は「対象の患者さんがいらっしゃれば、ぜひJCOG参加施設にご連絡いただきたい」として、講演を締めくくった。

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早期肺がん肺葉切除、VATS vs.開胸/Lancet

 英国・ブリストル大学のRosie A. Harris氏らは、早期非小細胞がん(NSCLC)患者の治療において、ビデオ補助胸腔鏡手術(VATS)による肺葉切除術は開胸手術と比較して、無病生存(DFS)を損なわずに全生存(OS)を改善するとのエビデンスをメタ解析の結果で示した。VATSは、現在、早期肺がんにおける肺葉切除術の最も一般的な術式であるが、生存率の検証において十分な検出力を持つ単一の試験が存在せず、開胸手術との腫瘍学的同等性は依然として仮説の域を出ないとされている。Lancet誌2026年3月21日号掲載の報告。2000年以降の無作為化試験のメタ解析 研究グループは、早期肺がんの肺葉切除術におけるVATSと開胸手術の有用性を比較する目的で、無作為化試験の個別患者データを用いたメタ解析を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]の助成を受けた)。 医学関連データベースで、2000年1月1日~2025年6月13日に発表された論文を検索した。年齢18歳以上の早期NSCLC患者においてVATSと開胸手術を比較し、死亡および再発のデータを収集した無作為化対照比較試験を解析の対象とした。 主要評価項目はOS率、副次アウトカムはDFS率とした。3件の試験の1,185例の個別患者データを解析 3件の論文(Bendixenらによるデンマークの研究[PLEACE試験]、Longらによる中国の研究、Limらによる英国の研究[VIOLET試験])を解析に含めた。参加者は合計1,185例で、VATS群が586例(年齢中央値64.0歳、女性50%)、開胸手術群が599例(64.8歳、49%)だった。 各研究の追跡期間中央値は、Bendixenらの試験が9.5年、Longらの試験が5.2年、Limらの試験が3.8年であった。対象とした肺の原発巣の臨床病期は、Bendixenらの試験がStage1であったのに対し、Longらの試験とLimらの試験はStage1および2だった。 治療群別の完全切除(R0)の達成率は、VATS群が98%、開胸手術群も98%であった。術後補助療法の施行率はそれぞれ30%および29%だった。VATS優先の重要性を示す知見 OS率の統合ハザード比(HR)は0.79(95%信頼区間[CI]:0.65~0.96)であり、開胸手術群に比べVATS群で有意に良好であった。一方、DFS率の統合HRは0.91(95%CI:0.75~1.12)と、両群間に有意な差はみられなかった。OS率、DFS率とも、統計学的な異質性は認めなかった。 著者は、「VATSによる肺葉切除術が広く普及している背景には、術後の疼痛軽減、合併症の減少、入院期間の短縮、より迅速な身体機能の回復、術後の生活の質の向上などの既知の非腫瘍学的利点があるが、本研究の結果は、これに長期的な全生存率の優位性を加えた」「これらの知見は、早期NSCLCの外科的切除術の術式の選択では、技術的に実行可能であれば、VATSを優先することの重要性を強く主張するものである」としている。

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コラーゲンサプリ、皮膚と関節の健康に有益な可能性

 コラーゲンのサプリメント(以下、サプリ)には、皮膚の健康を改善し、加齢による変形性関節症の痛みを軽減するなど、一定の効果があることが、新たなエビデンスレビューで明らかになった。コラーゲンサプリを摂取している間は皮膚の弾力性と水分量が改善し、変形性関節症による痛みやこわばりも緩和されることが示された。サプリによるこのような効果は、摂取期間が長いほど大きくなることも確認されたという。英アングリア・ラスキン大学公衆衛生学分野のLee Smith氏らによるこの研究結果は、「Aesthetic Surgery Journal Open Forum」に1月30日掲載された。Smith氏は、「コラーゲンは万能薬ではないが、継続的に摂取することで、特に皮膚や変形性関節症に対して信頼できる効果がある」と述べている。 コラーゲンは、皮膚、腱、軟骨、骨などの結合組織に存在するタンパク質であり、人体に存在するタンパク質全体の最大30%程度を占める。研究グループによると、コラーゲンサプリ市場は急成長中である。2021年の市場価値は約20億ドル(1ドル158円換算で約3160億円)と見積もられ、今後数年間で約6%の成長が見込まれている。こうした市場拡大とともに、コラーゲンの健康効果に関する研究も急増している。 今回のSmith氏らの研究は、過去の研究データを全て集約し、事実と誤解を整理することを目的とした初のアンブレラレビューである。解析対象は、7,983人の患者が参加した113件のランダム化比較試験を含む、16件のシステマティックレビューであった。 解析の結果、コラーゲンは、皮膚の状態や変形性関節症に効果があることに加え、筋肉量や筋肉・腱の健康に対する改善効果もわずかながら認められ、健康的な老化に一定の役割を果たす可能性が示唆された。一方で、運動後の筋肉を回復させる効果や筋肉痛を軽減する有意な効果は認められず、コラーゲンは即効性のあるスポーツ用サプリと見なすべきではないことも示唆された。さらに、歯周病や、コレステロール値、血圧、血糖値などの代謝関連の指標を改善する効果については結果が一貫せず、明確な結論は導き出されなかった。 Smith氏は、「これらの結果は、健康的な老化に関する重要な分野でコラーゲンサプリの明確な利益を示す一方で、その利用にまつわるいくつかの神話を打ち消すものだ」とコメントしている。同氏はさらに、「この研究は、情報に基づく指針を公衆に提供し、今後の研究をより適切に設計する上で重要な一歩となる。長期的な健康アウトカム、最適な摂取量、コラーゲンの原料の違いなどを検証する、より質の高い臨床試験が必要だ」と付け加えている。

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物質使用障害(SUD)のリスク低減にGLP-1受容体作動薬は有効か(解説:小川大輔氏)

 物質使用障害(SUD:Substance Use Disorder)は、特定の物質の使用を制御できなくなり、健康上の問題や社会生活への支障があっても使用を続けてしまう慢性・再発性の疾患である。アルコール(お酒)やタバコ(ニコチン)のほか、処方薬(睡眠導入剤、鎮痛剤など)、覚醒剤、大麻、コカイン、オピオイドなど、脳に作用するさまざまな物質によって引き起こされる。 今回、GLP-1受容体作動薬と米国退役軍人の糖尿病患者におけるSUDリスクの関係を調査した研究結果が発表された1)。電子カルテのデータを用いて、各種SUDの新規発症と、既存SUD患者の臨床アウトカム(救急外来、入院、死亡、過量摂取、自殺念慮・試み)を調査したところ、GLP-1受容体作動薬の使用は新規および既存のSUDのリスク低減に関連している可能性が報告された。 この研究により、GLP-1受容体作動薬はSUDの予防と治療の両面で有望な役割を果たす可能性が示唆された。しかし、対象が米国退役軍人という特定集団に限定されるため一般化には注意しなければならない。またSGLT2阻害薬を比較薬とした観察研究であるため、今後さらなる臨床試験が必要である。 SUDの治療は、単に物質の使用をやめるだけでなく、心身の健康や社会生活の回復を目指す多角的なアプローチが必要である2)。それはSUDが「意志の弱さ」から生じるものではなく、脳の機能が変化した疾患であるからである。SUDは専門的な治療と継続的なサポートが不可欠な疾患であり、GLP-1受容体作動薬はその治療の一助になるかもしれない。

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手術不能進行胃がんに対する初期治療と維持療法における免疫チェックポイント阻害薬の有用性と日本の課題について(解説:上村直実氏)

 食道胃接合部腺がんを含む手術不能進行胃がんに対する初期薬剤治療は、CAPOX療法などの代謝拮抗薬(フッ化ピリミジン系)とプラチナ製剤の併用療法が標準治療となっていたが、最近、遺伝子診断の進歩と免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や新たな分子標的薬の登場により劇的に変化している。 日本胃学会が遺伝子診断に関するバイオマーカーとして推奨しているのは、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、Programmed cell Death Ligand 1(PD-L1)、マイクロサテライト不安定性/ミスマッチ修復(MSI/MMR)、Claudin(CLDN)18の4検査である。なかでも、HER2蛋白の有無により初期治療が選別されている。すなわち、HER2陽性胃がんに対しては抗HER2抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加した3剤併用レジメンが初期治療の第1選択となり、さらにICIを追加した4剤併用療法も使用されつつある。一方、胃がんの80%以上を占めるHER2陰性胃がんに対しては、標準化学療法にニボルマブやペムブロリズマブなどのICIを加えた、化学療法と免疫療法による3剤併用治療が標準的な初期治療として確立している。さらに、血管新生阻害薬(VEGFR阻害薬:ベバシズマブ)やCLDN18陽性胃がんに対してはCLDN18を標的とした抗体薬(ゾルベツキシマブ)も承認されている。 今回、中国の多施設共同研究として、HER2陰性切除不能胃がんに対する初回治療としてCAPOX+ICI(camrelizumab)の3剤併用療法を行った後、維持療法としてCAPOX単独、camrelizumab単独およびcamrelizumab+血管新生阻害薬(apatinib)の3群について有用性の指標としての全生存期間(OS)と安全性を比較した結果、camrelizumabを用いた群のOSがCAPOX単独群に比べて有意に延長した。維持療法にニボルマブやペムブロリズマブを使用すると化学療法単独に比べてOSが延長するとした以前の報告を支持するものであった。しかし、apatinibの追加はcamrelizumab単独群と比較してOSの延長がなく、有害事象が増加した結果、ICIに血管新生阻害薬を併用する意義は高くないことが示唆された(BMJ誌2026年3月12日号)。 今後、ICIを含めた最適な維持療法の確立が期待される。 最後に、わが国における手術不能進行がんに対する薬物療法に関する課題を述べておく。1つは、個別化医療推進に伴う課題であり、分子標的薬など新規薬剤の薬価の高騰および、治療レジメンを選択するためのHER2などのバイオマーカーの検査およびコンパニオン診断薬のコストである。国民皆保険制度による国の負担がこれ以上大きくなると、保険制度自体の存続が困難となる可能性が危惧される。次は、最近の臨床研究、とくに高精度のRCTに関する日本からの発信はがんセンター中心に限られつつあるのに対して、中国や韓国からの報告の多さが顕著となっている点である。今回の研究も中国の75施設が共同で行ったRCTであるが、現在の日本では多施設共同RCTの実施自体が難しいことから、この分野においてさらに遅れていく可能性も危惧される。

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