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妊娠に関連した心血管疾患が米国で増加

 米国では妊婦の心血管疾患(CVD)リスク因子およびCVDの有病率が上昇してきており、妊娠中や出産後にCVDの合併症を起こす女性も増加している実態が報告された。米マサチューセッツ総合病院のEmily Lau氏らの研究の結果であり、詳細は「Circulation」10月14日号に掲載された。 研究者らは背景説明の中で、妊産婦死亡の3分の1以上をCVDが占めており、CVDは妊娠を契機に発症する主要な疾患であるとしている。そしてLau氏は、「われわれの研究結果は、リアルワールドにおいて妊娠関連のCVDが増加しているという憂慮すべき傾向を示しており、妊娠前から産後にかけての期間が、妊婦に対してCVD一次予防を実施する重要な機会であることを強調している」と述べている。 この研究では、2001〜2019年にわたるプライマリケアの電子カルテデータを用いて、妊婦の妊娠時点でのCVDリスク因子とCVDの有病率、および産後1年目までの妊娠関連CVD合併症(妊娠高血圧症候群、主要心血管イベント、死亡の複合アウトカム)の発生率の推移を解析した。解析対象女性は3万8,996人(妊娠時の年齢32±5歳)で、5万6,833件の妊娠が記録されていた。 妊婦のCVDリスク因子のうち、肥満有病率は2001年の2%から2019年に16%へと増加し、高血圧は3%から12%、脂質異常症は3%から10%、糖尿病は1%から3%へと、全て有意に増加していた。また、CVDの有病率は前記期間全体では4%であり(年齢で調整すると8%)、やはり経年的に有意に増加していた。 同様に、妊娠関連CVD合併症の発生率も期間全体で8,290件(15%)であり(年齢調整後17%)、経年的に有意に増加していた。妊娠関連CVD合併症は産後よりも妊娠中に多く発生しており(8,290件中7,000件)、妊娠高血圧症候群が多数を占めていた(6,539件)。妊娠関連CVD合併症は、妊娠時点でCVDリスク因子やCVDを有している女性で多く発生していた。具体的に発生率を比較すると、高血圧の有無では23%対5%、脂質異常症の有無では13%対10%、糖尿病の有無では6%対3%、CVDの有無では10%対3%であった。 ボランティアとして米国心臓協会(AHA)会長を務めるStacey Rosen氏はこの研究報告に関連して、「CVD合併症のリスク因子の大半は、生活習慣の改善や薬の服用によって対処可能だ。しかし、多くの女性が、自分がそれらの疾患を抱えていることを知らずにいる」と指摘している。また、「妊娠前から出産後までは、心臓の健康に良い行動を起こす貴重な機会であり、その行動が将来にわたってCVDの予防と長期的な健康維持に役立つ」と付け加えている。なお、同氏は本研究に関与していない。

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術中血圧管理の個別化は可能か?―IMPROVE-multi試験と今後の展望(解説:三浦伸一郎氏)

 術中低血圧は、術後に急性腎障害や心筋傷害などの臓器不全発症のリスクを高める研究が多く報告されてきた1)。したがって、術中・周術期の血圧管理には、臓器保護の面から見るときわめて重要なテーマであり、各々の患者の術前血圧などから目標を定めるという個別化医療が検討されている。しかし、血圧の最適化によって低血圧は減少するが、術後合併症も減少したという報告は限られている2)。術中の血圧管理は可能であるが、どの程度、臨床的改善に直結するかは不明であった。 最近報告されたIMPROVE-multi試験では、高リスク腹部手術患者を対象に、術前夜間の平均動脈圧に基づいた個別目標と従来のMAP65mmHg以上管理を比較したが、主要複合アウトカムに有意差を認めなかった3)。この結果は、臨床的に、個別の術中目標血圧を設定することが必ずしも正しくはないことを示唆していた。一方、今後、術中低血圧リスクの高い患者を特定し、それらの患者に対してのみ選択的に血圧維持管理を導入する戦略は検討すべき事項である。また、今後の研究では血圧値のみでなく、低血圧の持続時間や血管反応性など複数パラメータを統合した指標を用いた臨床研究が必要となる。さらに、近年ではAIによる術中低血圧のリアルタイム予測モデルの活用も進んでおり、低血圧が発生する前に介入できる予測管理の実現が期待されている4)。 以上より、術中血圧管理は、依然として重要な課題である。エビデンスの構築には、どのような患者に対して、どの血圧目標を設定し、どのように介入すべきかという戦略を明確に設定する。したがって、個別の血圧管理には、その効果的なサブグループを明確にし、そのうえで実装できるプロトコルを構築することが臨床応用へ重要である。

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第269回 2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省

<先週の動き> 1.2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省 2.インフルエンザ12週連続増加 5県で警報レベル、過去2番目の早さで流行拡大/厚労省 3.医師少数区域を再定義、へき地尺度の導入で支援対象を拡大/厚労省 4.大学病院の医師処遇改善へ、給与体系見直しと研究時間確保に向け取りまとめ/政府 5.12月2日からマイナ保険証へ全面移行 期限切れ保険証は3月末まで有効に/厚労省 6.高齢者3割負担拡大も議論加速へ、金融所得の保険料反映が本格化/政府 1.2026年度改定の主戦場は外来診療 かかりつけ医機能報告制度が“新たな物差し”に/財務省2026年度の診療報酬改定に向け、財務省が「診療所・調剤薬局の適正化」を強く打ち出し、開業医を巡る環境が一段と厳しくなりつつある。焦点は、今年度スタートした「かかりつけ医機能報告制度」を土台に、機能を十分に果たしていない診療所の報酬を減算し、機能を発揮する診療所に評価を集中させる方向性だ。具体的には、報告制度上の「1号機能」を持たない医療機関の初診・再診料を減算し、【機能強化加算】【外来管理加算】は廃止、【地域包括診療料・加算】は認知症地域包括診療料などと統合し、発展的改組という案が財政制度等審議会で示されている。かかりつけ医機能報告制度では、研修修了や総合診療専門医の有無、17診療領域・40疾患の1次診療対応、患者からの相談対応などを「1号機能」として毎年報告し、時間外診療・在宅・介護連携などを「2号機能」として申告する。かかりつけ医機能報告制度は今年度始まったばかりで、初回報告が2026(令和8)年1月頃に予定されている。その結果が今後の加算要件・減算判定の「物差し」となる可能性が高い。これにより、機能強化加算と地域包括診療料などの加算要件が報告制度と整合的に整理される可能性がある。財務省は、診療所は過去に「高い利益率を維持してきた」とし、物価・賃上げ対応は病院に重点配分すべきと主張する一方、無床診療所などの経常利益率は中央値2.5%、最頻値0~1%と低水準であり、インフレ下で悪化しているとの日本医師会のデータも示されている。日本医師会の松本 吉郎会長は、開業医の高収入イメージを強調する財務省資料は「恣意的」と強く批判し、補助金終了後の厳しい経営実態を踏まえた「真水」の財源確保と十分な改定率を求めている。開業医にとって当面の実務ポイントは、「報告制度への対応」ならびに「収益構造の見直し」となる。まず、報告制度は、自院がどの診療領域・疾患まで1次診療を担うか、相談窓口としてどこまで責任を負うか、時間外・在宅・介護連携をどう位置付けるかを棚卸しするツールと捉えたい。1号機能の対応領域が限定的であれば、今後の診療報酬上の評価が縮小しかねない。研修修了者の配置や、地域包括診療料・生活習慣病管理料・在宅医療の組み合わせも含め、自院の「かかりつけ医像」を描き直す必要がある。同時に、機能強化加算・外来管理加算への依存度が高いクリニックは要注意となる。これらが縮小・廃止された場合に備え、地域包括診療料・加算への移行、逆紹介の受け皿としての役割強化、連携強化診療情報提供料や在宅関連の評価、オンライン診療(D to P with Nなど)の活用など、収益を強化する戦略が求められる。今年度始まったばかりの「かかりつけ医機能報告制度」、どのように対応するかが、次期改定以降の経営戦略の出発点になりそうだ。 参考 1) かかりつけ医機能報告制度にかかる研修(日本医師会) 2) かかりつけ医「未対応なら報酬減」 財務省、登録制にらみ改革提起(日経新聞) 3) 日医・松本会長 財政審を批判「医療界の分断を招く」開業医の高給与水準は「恣意的にイメージ先行」(ミクスオンライン) 4) 機能強化加算と地域包括診療料・加算を「かかりつけ医機能報告制度」と対応させ整理か(日経メディカル) 2.インフルエンザ12週連続増加 5県で警報レベル、過去2番目の早さで流行拡大/厚労省インフルエンザの感染拡大が全国で続いており、厚生労働省が発表した最新データでは、11月3~9日の1週間の患者数が1医療機関当たり21.82人と、前週の約1.5倍で12週連続の増加となった。注意報レベル(10人)を大きく上回り、宮城県(47.11人)、埼玉県(45.78人)など5県で警報レベル(30人)超。東京都も都独自基準で警報を発表した。全国で3,584校が休校・学級閉鎖となり、前週比1.5倍以上の増加と、教育現場での感染も拡大している。今年の流行は例年より1ヵ月以上早く、過去20年で2番目の早さ。近畿地方・徳島県でも注意報レベルに達する地域が急増し、地域差を超えて全国的に拡大している。クリニックでもワクチン接種希望者が急増しており、現場からは「1~2ヵ月早い流行」との声が上がる。流行の背景には、近年のインバウンドの増加に加え、各地で開催されるイベントや大阪万国博覧会など国際的な催事により、海外からのウイルス流入が増えた可能性が指摘されている。一方、新型コロナウイルスは全国で1医療機関当たり1.95人と前週比14%減で減少傾向にあるが、感染症専門家は「別系統のインフルエンザ流行やコロナ再増加もあり得る」とし、 来年2月までの警戒を継続すべきと警鐘を鳴らしている。厚労省でも引き続き、「手洗い・マスク・換気」など基本的感染対策の徹底を呼びかけている。 参考 1) 2025年 11月14日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) インフルエンザ感染者が前週の1.46倍、感染拡大続く…新型コロナは減少(読売新聞) 4) インフルエンザ患者数は8.4万人に 万全な感染予防を(ウェザーニュース) 5) インフルエンザ流行警報、全国6自治体が発令…首都圏・東北で拡大(リセマム) 3.医師少数区域を再定義、へき地尺度の導入で支援対象を拡大/厚労省厚生労働省は、11月14日に開かれた「地域医療構想・医療計画等に関する検討会」で、次期医師確保計画(2025年度以降)で用いる医師偏在指標の見直し案を提示した。現行指標が抱える「地理的条件を十分に反映できない」という課題を踏まえ、人口密度、最寄り2次救急医療機関までの距離、離島・豪雪地帯といった条件を数値化し「へき地尺度(Rurality Index for Japan:RIJ)」を併用し、医師少数区域を再定義する方針。具体的には、現行の医師偏在指標で下位3分の1に該当する区域に加え、中位3分の1のうちへき地尺度が上位10%の区域を「医師少数区域」に追加する案が示された。RIJは(1)人口密度、(2)2次救急病院への距離、(3)離島、(4)特別豪雪地帯の4要素により構成され、へき地度の高い地域では、医師が対応すべき診療範囲が広がる傾向が明確になっている。構成員からは、地理的要素を反映できる点についておおむね評価が示され、一方で「算定式が複雑で現場への説明が難しい」との懸念も上がった。また、全国の医師数自体は増加しているため、偏在指標の下位3分の1基準を固定的に運用すると、多くの都道府県が基準外となる可能性も指摘された。厚労省は、次期計画では医師偏在指標とへき地尺度の双方を踏まえ、都道府県が「重点医師偏在対策支援区域」を設定し、医師確保に向けた重点支援を行う仕組みを強化する方針である。支援対象医療機関の選定においても、へき地医療・救急医療・在宅医療など地域の医療提供体制上の役割を考慮し、地域医療対策協議会および保険者協議会の合意を前提とする。医師偏在は、都市部と地方の医療格差を生み、地域住民のライフラインに影響するため政策課題である。今回の指標見直しは、「人数ベースの偏在」から「地理的ハンディキャップを加味した偏在」へと視点を転換する試みといえ、へき地を抱える地域にとっては実態に即した区域指定につながる可能性が高い。今後は、新指標の丁寧な説明と自治体の運用力が問われる局面となる。 参考 1) 医師確保計画の見直しについて(厚労省) 2) 医師偏在指標に「へき地尺度」併用へ 地域医療構想・医療計画検討会(CB news) 4.大学病院の医師処遇改善へ、給与体系見直しと研究時間確保に向け取りまとめ/政府高市 早苗総理大臣は11月10日の衆院予算委員会で、大学病院勤務医の給与水準や研究時間の不足が深刻な問題となっている現状を受け、「年度内に大学病院教員の処遇改善と適切な給与体系の方針をまとめる」と表明した。自民・維新の連立合意書に基づくもので、教育・研究・診療を担う大学病院の機能強化を社会保障改革の重要項目として位置付ける。質疑では、日本維新の会の梅村 聡議員が、53歳国立大学外科教授の手取りが33万円という給与明細を示し「収入確保のため土日や平日昼にアルバイトせざるを得ず、研究・教育に時間を割けない」と窮状を訴えた。医局員12人中常勤4人、非常勤8人で外来・手術を回す実態も示され、高市首相は「このままでは人材流出につながる」と強い危機感を示した。松本 洋平文部科学大臣は、国公私立81大学病院の2024年度の経常赤字が508億円に達し、診療偏重で教育・研究が圧迫されている現状を説明。大学病院の本来的な機能が損なわれているとの認識を共有した。大学の研究力低下も指摘され、自然科学系上位10%論文数が20年前の世界4位から13位へ後退したこと、医療関連貿易赤字が1990年の約2,800億円から2023年には4兆9,664億円に拡大したとのデータも示された。高市総理はこれらを受け、「大学に対する基盤的経費は必要な財源を確保する」とし、研究開発と人材育成は国の成長戦略そのものであると強調した。さらに、社会保障改革の議論の中で、高齢者層が多く負担する税(例:相続税)を含む財源の再設計についても「1つの提案として受け止める」と前向きな姿勢を見せた。今回の議論は、大学病院の経営改善だけでなく、診療・教育・研究の三位一体機能を再建し、医師の働き方・キャリア形成、ひいてはわが国の医学研究力の立て直しに直結する政策課題として位置付けられつつある。 参考 1) 高市首相、大学病院教員の処遇改善「年度内に方針」人材流出の懸念も表明(CB news) 2) 高市首相 「大学病院勤務医の適切な給与体系の構築含む機能強化」に意欲 経営状況厳しく(ミクスオンライン) 5.12月2日からマイナ保険証へ全面移行 期限切れ保険証は3月末まで有効に/厚労省12月2日から従来の健康保険証が廃止され「マイナ保険証」へ完全移行する中、厚生労働省は移行期の混乱回避を目的に、2026年3月末まで期限切れ保険証の使用を認める特例措置を全国の医療機関に通知した。昨年12月に保険証の新規発行が停止され、最長1年の経過措置が終了するため、12月1日をもって協会けんぽ・健保組合加入者約7,700万人の従来の保険証は形式上すべて期限切れとなるが、資格確認さえできれば10割負担を求めない。すでに7月に期限切れとなった後期高齢者医療制度・国保加入者に続き、今回の通知で全加入者が特例の対象となった。厚労省は医療機関に対し、期限切れ保険証を提示した患者がいた場合、保険資格の確認後、通常の負担割合でレセプト請求するよう要請。一方で、特例は公式な一般向け周知は行わず、原則は「マイナ保険証」または自動送付される「資格確認書」で受診する体制へ移行する方針は変わらない。資格確認書は保険証の代替として使用可能だが、「資格情報のお知らせ」とは異なり、後者では受診できない点を現場で説明する必要がある。背景には、周知不足による混乱リスクがある。国保で期限切れ直後の8月、18.5%の医療機関が「期限切れ保険証の持参が増えた」と回答しており、12月以降は同様の事例が増加することが確実視されている。さらに、マイナ保険証の利用率は10月時点で37.1%にとどまり、若年層や働き盛り世代では周知が届いていない。「期限を知らない」「カードを持ち歩かない」「登録方法を把握していない」といった声も多く、受診機会の確保には医療機関による実務的な対応が不可欠となる。マイナ保険証は、診療・薬剤情報の参照、限度額適用の自動反映、救急現場での活用など医療的メリットが期待される一方、制度への不信も根強く利用が伸びない。完全移行の初動は、現場負担の増加が避けられないが、厚労省は年度末までの特例運用を「移行期の安全策」と位置付けている。医療機関は、資格確認の確実な運用、窓口の説明強化、患者への資格確認書の案内など、年末から春にかけての実務準備が求められる。 参考 1) マイナ保険証を基本とする仕組みへの移行について(厚労省) 2) 「マイナ保険証」完全移行へ、26年3月末までは従来保険証でも使える特例措置…厚労省が周知(読売新聞) 3) 従来の健康保険証、期限切れでも10割負担にならず 26年3月まで(毎日新聞) 4) 12月1日で使えなく…ならない「紙の保険証」 政府が「特例」認めて来年3月末まで使用OK 周知不足で混乱必至(東京新聞) 6.高齢者3割負担拡大も議論加速へ、金融所得の保険料反映が本格化/政府政府・与党内で社会保障制度改革の議論が一気に加速している。最大の論点は、医療・介護保険料の算定に「金融所得」を反映させる新たな仕組みの導入である。現行制度では、上場株式の配当や利子収入などの金融所得は、確定申告を行った場合のみ保険料に反映される。一方、申告を行わない場合は算定から完全に外れ、金額ベースで約9割が把握されない状況だ。厚生労働省や各自治体は確定申告されていない金融所得を把握する手段がなく、「同じ所得でも申告の有無で負担が変わるのは不公平」との指摘が続いていた。これを受け、厚労省は証券会社などが国税庁へ提出する税務調書を活用し、市町村が参照できる「法定調書データベース(仮称)」を創設する案を提示。自民党および日本維新の会も協議で導入の方向性に一致しており、年末までに一定の結論をまとめる見通しだ。上野 賢一郎厚生労働大臣も「前向きに取り組む」と明言しており、制度化に向けた動きが本格化している。同時に議論が進むのが高齢者の医療費自己負担(現役並み所得の3割負担)の拡大である。現行では、単身年収383万円以上などの比較的高所得層が対象だが、高齢者の所得増や受診日数減少を踏まえ、基準の見直しを求める意見が厚労省部会で相次いだ。一方で「高齢者への過度な負担増」への懸念も根強く、慎重な検討が必要との声も大きい。加えて、自民・維新協議では「OTC類似薬」の保険適用見直しも初期の重要論点となっている。湿布薬や風邪薬など市販薬と効果が重複する医薬品を保険給付外とする案だが、利用者負担の増加や日本医師会などの反対もあり調整は難航が予想される。超高齢社会において、医療・介護費の伸びを抑え現役世代の負担をどう軽減するかは避けて通れない課題である。金融所得の把握強化と高齢者負担の見直しという2つの柱は、今後の社会保障制度改革の中核テーマとなり、年末に向けて政策の具体像が示される見込みだ。 参考 1) 社会保障(2)(財務省) 2) 社会保障制度改革 “新たな仕組み導入へ検討進める” 厚労相(NHK) 3) 金融所得、保険料に反映 厚労省検討 税務調書を活用(日経新聞) 4) 社会保障改革めぐる自民・維新の協議 どのテーマでぶつかる? OTC類似薬、高齢者の負担増、保険料引き下げ(東京新聞)

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第91回 カイ2乗検定のイエーツの補正とは?【統計のそこが知りたい!】

第91回 カイ2乗検定のイエーツの補正とは?カイ2乗検定は、2つのカテゴリーデータ変数間の関連性を調べる際に頻繁に用いられます。観察されたデータと期待されるデータの差異を測定することにより、異なるグループ間での比率の差が偶然によるものかどうかを判断します。しかし、カイ2乗検定を行う際には、データの特性に応じて「イエーツの補正」と呼ばれる調整を加える必要があるケースもあります。そこで、今回はこのイエーツの補正について解説します。■イエーツの補正とは何か?「イエーツの補正(Yates' correction)」は、主に2×2の分割表(2行2列の表)において使用される補正方法です。この補正は、フランク・イエーツによって提案され、小さなサンプルサイズでのカイ2乗検定の結果が過剰に有意になる(Type I errorを起こしやすい)問題を軽減するために使用されます。■どのような場合に必要か?具体的には、各セルの期待値が5未満の場合、カイ2乗検定の結果が不正確になる可能性があります。とくに、総サンプル数が小さいと、この問題は顕著になります。イエーツの補正を施すことで、この問題を避けることができます。補正後の統計値は、実際の統計値に比べて少し保守的な結果となりますが、より信頼性の高い解釈が可能になります。■補正の方法具体的には、カイ2乗検定の計算において、観察値と期待値の差から0.5を引いた値の2乗を期待値で割ることにより補正されます。この補正により、小さいサンプルサイズでの統計的な偶然の影響を緩和し、より正確な判断を下すことが可能になります。たとえば、ある薬が副作用を引き起こすかどうかを調べる研究で、副作用があったと報告されたのは10人中2人、副作用がなかったと報告されたのは90人中5人だったとします。この場合、カイ2乗検定を直接適用すると、副作用の有無に差があるようにみえるかもしれませんが、イエーツの補正を適用すると、その差は統計的に有意ではないと結論付けることができるかもしれません。■具体例抗がん剤Yを投与したとき、効果がある患者と効果がない患者がいることがわかりました。さらに、それには遺伝子のある部分が特殊な型であるかどうかが疑われています。そこで、抗がん剤Yの効果あり・なしとその患者の遺伝子が特殊型であるかどうかを調べました。抗がん剤Yの効果あり・なしに遺伝子特殊型が影響しているかを有意水準5%で確かめました。表1は表側項目に遺伝子のある部分が特殊型か普通型を配置し、表頭項目に効果ありなしを配置した2×2の分割表(2行2列の表)の実測度数と期待度数です。表1 事例の実測度数と期待度数イエーツの補正を施さずにカイ2乗検定(独立性の検定)を適用した場合、p値<0.05より、抗がん剤Yの効果あり・なしに遺伝子特殊型が影響しているという結果になります。しかしながら、期待度数に5以下があるので、イエーツの補正を適用します(表2)。表2 事例の独立性検定とイエーツの補正イエーツの補正を適用した結果、「p値>0.05より、抗がん剤Yの効果あり・なしに遺伝子特殊型が影響しているとはいえない」という結果になりました。カイ2乗検定はよく用いられる統計的検定手法ですが、サンプルサイズが小さい場合はイエーツの補正を適切に行うことで、その精度を向上させることが可能です。臨床試験の結果を解釈する際には、このような統計的考慮が必要であるという理解が大切です。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第21回 カイ2乗検定とは? その1第22回 カイ2乗検定とは? その2第70回 カイ二乗分布とは「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決!一問一答 質問24 カイ2乗検定とは?

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英語で「足の指」を数えるには?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第39回

医学用語紹介:足の指 digits過去に「手の指」の英語について解説しました。今回は「足の指」です。「足の指」は、正式には手の指と同じdigitという用語で表現します。親指から順に1st digit(第1趾)~5th digit(第5趾)と数えるところも同様です。しかし、この呼び方は患者さんにとってはなじみがありません。では、どう言い換えればよいでしょうか?講師紹介

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大規模災害時の心理的支援、非精神科医ができること【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第10回

大規模災害時の心理的支援、非精神科医ができること地震の後の津波で自宅が流され、ご家族を亡くされた避難者が、食事も取らず憔悴しきっています。「私も一緒に死にたかった。誰とも話したくない」と訴えている時、避難所を管理する医師として、何ができるでしょうか?大規模災害時の医療支援では、身体的な疾患への治療が優先されがちですが、被災者が抱える精神的な苦痛も決して見過ごすことはできません。避難所には「死」の情報があふれ、家族や住居を失った人々は、急性ストレス反応、不眠、抑うつなど多彩な心理的症状を呈します。精神科専門医が診察できれば理想的ですが、急性期には非精神科医が心理的ケアを担わざるを得ない場面が少なくありません。本稿では岡山大学病院精神科神経科の協力を得て、「専門家でなくともできるアプローチ」を概説します。特殊な技法より「寄り添う姿勢」災害直後の被災者は強い不安と混乱の中にあり、見知らぬ医療者に心を開くことは容易ではありません。落ち着いた声掛け、丁寧な自己紹介、プライバシーの尊重といった基本的な配慮は大前提です。そのうえで、医師としては「診断」よりも「寄り添い」を重視します。すぐに励ましたり「頑張って」と声を掛けるのではなく、まずは話を聴く姿勢が重要です。「大切な方を亡くされて本当につらいですね」「そのお気持ちは自然なことです」と、感情を否定せず受け止める言葉を心掛けましょう。災害後の心理的反応は時間とともに変化し、約75%は自然回復が期待できます1)。傾聴と共感は非精神科医でも実践可能であり、感情を言語化して受け止めるだけでも、被災者の気持ちは整理されやすいとされています。安全の確保「死にたい」という発言は軽視せず、真剣に受け止める必要があります。一人で抱え込まず、看護師・ボランティア・行政職員などチームで対応し、記録を残して支援を引き継ぎましょう。まず優先すべきは、ご本人の安全と安心の確保です。被災者を一人にせず、落ち着くまで信頼できる人が付き添い、孤立を防ぎます。また、刃物や紐など危険物が周囲にないか確認することも忘れないようにしましょう。身体と精神の休息環境の整備生活リズムの安定は、心理的な安定に直結します。食事・睡眠・休息の確保は心身の回復に不可欠です2)。とくに睡眠障害への対応は重要であり、静かな環境、カフェイン制限、朝の光を浴びることなどの生活指導が有効です。さらに、社会的つながりを整えることも大切です。避難所での役割を持つことや住民同士の交流は、自己肯定感を回復させます。これらは集団精神療法的な効果を持ち、PFA(Psychological First Aid)の「見る」「聞く」「つなぐ」の考え方にも通じます3)。限界を意識し、医療従事者のメンタルヘルスも確保非精神科医の役割は「初期対応」と「つなぎ」です。専門的介入が必要と判断した場合は、速やかに地域の精神保健福祉センターや保健所に連絡しましょう。災害派遣精神医療チーム(DPAT)が活動していれば、専門的な支援や処置を行ってくれます。支援に当たる医療従事者自身も、同僚の喪失や過重労働、燃え尽き、自責感といった心理的問題を抱えることがあります。「自分は大丈夫」と考える人は多いですが、セルフケアには限界があるため、チームでのケアが不可欠です4)。業務ローテーションの導入、役割分担の明確化、ストレスチェックや相談体制の整備、被災現場でのシミュレーション、業務の意義付けなど、組織として体制を整えることが重要です。避難所では、突然の喪失や過酷な環境により、強い悲嘆や自殺念慮を訴える人が現れることがあります。非精神科医による対応には限界がありますが、専門医がすぐに介入できない状況でも、避難所を管理する医師にできることは多くあります。基本的な心理的ケアを理解し、寄り添い、安全を確保し、生活リズムを整えること。それだけでも被災者の重症化を防ぎ、自然回復を促進する大きな支えとなります。被災者に対して意識すべきポイント安全確保・安心感の提供声掛け、自己紹介、プライバシーの確保など傾聴と共感感情の言語化、共感の声掛けなど社会的つながりの整備他者との交流、役割の付与などその他食事、睡眠、休息の確保、リラクゼーションの紹介など 1) Norris FH, et al. Looking for resilience: understanding the longitudinal trajectories of responses to stress. Soc Sci Med. 2009;68:2190- 2198. 2) Liang L, et al. Everyday life experiences for evaluating post-traumatic stress disorder symptoms. Eur J Psychotraumatol. 2023;14:2238584. 3) 世界保健機関、戦争トラウマ財団、ワールド・ビジョン・インターナショナル. 心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド. (2011)世界保健機関:ジュネーブ. (訳:国立精神・神経医療研究センター、ケア・宮城、公益財団法人プラン・ジャパン, 2012). 4) Brooks SK, et al. Social and occupational factors associated with psychological distress and disorder among disaster responders: a systematic review. BMC Psychol. 2016;4:18.

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症候からわかる irAE逆引きマニュアル

症状(+検査)→診断(病名)→治療でirAEを適切に処置!本書は、近年注目を集めている免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に伴って起こる副作用「免疫関連有害事象(irAE)」への実践的な対応法をまとめた医療従事者向けの実用書です。ICIの登場によってがん治療は大きく進歩しましたが、その一方で、副作用であるirAEへの理解と適切な対応が求められるようになっています。本書で取り上げている「irAE逆引きマニュアル」は、著者が独自に作成したものです。前半では、症状からirAEの可能性を推定できる構成後半では、主なirAEごとに症状・検査・重症度別の治療や経過観察のポイントを原則1ページに整理しています。症状から疑われる疾患をすぐに確認でき、診断から検査・治療までの流れをひと目で把握できる実用的なツールです。現場での判断力と対応力を支える1冊として、幅広い医療職の方におすすめしたい書籍です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する症候からわかる irAE逆引きマニュアル定価4,950円(税込)判型A5判頁数183頁発行2025年11月著者野口 哲男(市立長浜病院呼吸器内科/呼吸器ドクターN)ご購入はこちらご購入はこちら

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高市早苗内閣が発足、社会保障政策の行方は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第160回

自民党の高市 早苗氏が10月の臨時国会で第104代首相に指名されました。女性初の総理大臣誕生ということで、物価高やら円安やらの暗い日常に少し新しい時代の光が差し込んだかなという気がします。普段あまり政治に興味がなくても、決選投票や所信表明演説などを見た人は多いのではないでしょうか。自民党が与党であることに変わりはありませんが、公明党が連立から離脱し、自民党と日本維新の会による新しい連立政権が誕生し、その合意文書が発表されました。その中に、社会保障に関連するワードがいくつかあったりするなど、じわじわと医療にも変化の足音が聞こえています。合意文書の中の、社会保障政策の項に記載されたのは以下の文書です。「OTC類似薬」を含む薬剤自己負担の見直し、金融所得の反映などの応能負担の徹底など、25年通常国会で締結したいわゆる「医療法に関する3党合意書」および「骨太方針に関する3党合意書」に記載されている医療制度改革の具体的な制度設計を25年度中に実現しつつ、社会保障全体の改革を推進することで、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくことを目指す。社会保障関係費の急激な増加に対する危機感と、現役世代を中心とした過度な負担上昇に対する問題意識を共有し、この現状を打破するための抜本的な改革を目指して、25年通常国会より実施されている社会保障改革に関する合意を引き継ぎ、社会保障改革に関する両党の協議体を定期開催するものとする。OTC類似薬の保険給付見直しについては、維新との合意も踏まえ、「骨太方針2025」で年末の予算編成に向けた議論を行うことが確定済みと言われています。自民・維新の連立協議の中でも、2025年度中に「骨太方針2025」を軸にした「具体的な制度設計」を実現するように動いていきそうです。維新が「現役世代の負担軽減を目的とした社会保障改革」を連立交渉で強く主張したと報じられており、OTC類似薬の保険給付見直しはその柱と言われています。維新は、市販薬とほぼ同様の効果の湿布薬や花粉症薬などの処方薬を保険給付から外すことで、医療費を年間数千億~1兆円規模で削減できるとしています。確かに、非常にわかりやすいですよね。OTC類似薬見直しは確実に進んでいくと思われます。また、「赤字に苦しむ医療機関や介護施設への対応は待ったなし」として、報酬改定の時期とは関係なく、これらの施設に補助金を支給する方針を示しました。しかしながら、一般的な話として、医療費増額につながる施策(医療機関や介護施設への補助など)と削減する施策(OTC類似薬の保険給付見直しなど)をどう両立させるのでしょうか。また、OTC類似薬の保険給付見直しの反対勢力である日本医師会は選挙で自民党を長年支えてきた組織です。この相反する事象をどうさばいていくのか、今後の政権運営に目が離せません。

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がん患者のメンタル問題、うつ病と不安障害で発症期に差

 がん患者におけるうつ病と不安障害の発症率と時間的傾向を明らかにした研究結果が、International Journal of Cancer誌オンライン版2025年8月29日号に発表された。九州大学の川口 健悟氏らは日本の14の自治体から収集された診療報酬請求データを用いて、がん診断後、最大24ヵ月間の追跡期間中にうつ病と不安障害を発症した例について調査した。 2018年4月~2021年3月に新たにがんと診断された2万2,863例を対象とした。粗発症率を算出し、ポアソン回帰分析を用いて月別発症率と時間的傾向を可視化した。全患者を対象とした分析と、性別、年齢、治療法、がんの種類別の分析が行われた。 主な結果は以下のとおり。・うつ病の全体的な粗発症率は1,000人月当たり3.36、不安障害は同3.11であることが明らかになった。・うつ病と不安障害ではピークを迎える時期が異なっていた。うつ病の発症はがん診断後2ヵ月頃にピークを迎え、不安障害は診断された月にピークを迎えた。・女性や化学療法を受けている患者では、うつ病と不安障害の両方で発症率が高いことが示された。がんの種類別では、膵臓がん患者が両疾患において最も高い発症率を示した。 研究者らは「うつ病と不安障害はがん治療への遵守率、生活の質、生存率などに悪影響を及ぼすことが知られているが、これらの発症時期を特定することで、より効果的な介入時期を計画できる可能性がある。とくに、不安障害は診断直後に、うつ病は診断から2ヵ月後頃に注意が必要であることが示された。また、女性患者、化学療法を受ける患者、膵臓がん患者などのハイリスク群に対しては、より積極的なメンタルヘルスのスクリーニングとサポートが必要かもしれない。今後は、これらの知見に基づいたハイリスク期間における的を絞った介入プログラムの開発と評価が期待される」とした。

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週末まとめて歩くvs.日々歩く、メタボ予防効果が高いのは?

 わが国では健康増進のために1日8,000歩以上歩くことが推奨されているが、1日平均歩数が同じ場合、週末にまとめて歩く人と日々歩く人で効果は同等なのだろうか。今回、愛媛大学の山本 直史氏らは、中高年の日本人において連続した7日間の歩数を調査し、メタボリックシンドロームとの関連を検討した結果、8,000歩以上の日数の割合より、7日間の総歩数がメタボリックシンドロームとの関連が強い一方、1日平均歩数が8,000~10,000歩の人では、8,000歩以上達成した日数の割合が高いほどメタボリックシンドロームのリスクが低いことが示唆された。Obesity Research & Clinical Practice誌オンライン版2025年11月2日号に掲載。 本研究は、愛媛県東温市で進行中の前向きコホート研究である東温スタディの一環として実施された横断的解析(1,723例)と5年間の前向き解析(977例)である。まず、ベースライン時に連続7日間の歩数を歩数計で測定し、1日平均歩数について6,000歩未満、6,000~7,999歩、8,000~10,000歩、10,000歩超に分類した。さらに各カテゴリーを8,000歩/日以上だった日数の割合によって高頻度群と低頻度群に分けた。潜在的交絡因子を調整したロジスティック回帰分析により、メタボリックシンドロームの有病率および5年発症率との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・横断的および5年間の縦断的解析のいずれも、1日平均歩数が多い(すなわち7日間の総歩数が多い)カテゴリーほどメタボリックシンドローム発症のオッズが低いという一貫した関連が認められた(傾向のp<0.05)。・8,000歩以上の日の頻度が高いこともメタボリックシンドロームリスクが低いことと関連していたが、1日平均歩数で調整後に減弱した。・横断的・縦断的解析のいずれも、8,000~10,000歩/日のカテゴリーにおいて、高頻度群は低頻度群より一貫してメタボリックシンドローム発症のオッズが低かった。 著者らは「これらの結果は、総歩数の重要性を示すとともに、8,000~10,000歩/日という特定の範囲において活動頻度がさらなる役割を果たす可能性を示唆する」と考察している。

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日本人EGFR陽性NSCLC、アファチニブvs.オシメルチニブ(Heat on Beat)/日本肺学会

 オシメルチニブは、EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の標準治療として用いられている。ただし日本人では、オシメルチニブの有用性をゲフィチニブまたはエルロチニブと比較検証した「FLAURA試験」1,2)において、有効性が対照群と拮抗していたことも報告されている。そこで、1次治療にアファチニブを用いた際のシークエンス治療の有用性について、1次治療でオシメルチニブを用いる治療法と比較する国内第II相試験「Heat on Beat試験」が実施された。第66回日本肺学会学術集会において、本試験の結果を森川 慶氏(聖マリアンナ医科大学 呼吸器内科)が報告した。なお、本試験の結果は、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)でも報告されている(PI:帝京大学腫瘍内科 関 順彦氏)。・試験デザイン:国内第II相無作為化比較試験・対象:未治療のStageIIIB/IIIC/IVのEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者100例・試験群(アファチニブ群):アファチニブ→病勢進行時の再生検でEGFR T790M変異が認められた場合にオシメルチニブ 50例(解析対象:47例)・対照群(オシメルチニブ群):オシメルチニブ 50例(解析対象:48例)・評価項目:[共主要評価項目]3年全生存(OS)率、免疫学的バイオマーカー探索[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、OSなど 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者の年齢中央値は、アファチニブ群70歳(範囲:43~87)、オシメルチニブ群72歳(48~88)、非喫煙者の割合はそれぞれ46.8%、45.8%であった。EGFR exon21 L858R変異がそれぞれ48.9%、47.9%であった。・ORRはアファチニブ群63.8%(CR:1例)、オシメルチニブ群62.5%(CR:3例)であった。・3年OS率はアファチニブ群54.7%、オシメルチニブ群57.5%であり、主要評価項目は達成されなかった(p=0.64)。・OS中央値はアファチニブ群38.8ヵ月、オシメルチニブ群未到達であった(ハザード比[HR]:1.15、95%信頼区間[CI]:0.64~2.05)。・PFS中央値はアファチニブ群16.7ヵ月、オシメルチニブ群14.5ヵ月であった(HR:1.17、95%CI:0.72~1.90)。・EGFR遺伝子変異の種類別にみたPFS中央値、OS中央値は以下のとおりであった(アファチニブ群vs.オシメルチニブ群[HR、95%CI]を示す)。【exon19欠失変異】 PFS中央値:18.3ヵ月vs.33.6ヵ月(HR:1.62、95%CI:0.75~3.48) OS中央値:未到達vs.未到達(HR:1.16、95%CI:0.42~3.20)【exon21 L858R変異】 PFS中央値:13.9ヵ月vs.10.6ヵ月(HR:0.88、95%CI:0.43~1.79) OS中央値:35.9ヵ月vs.未到達(HR:1.21、95%CI:0.54~2.70)・有害事象は、アファチニブ群では下痢、ざ瘡様皮膚が多かった。下痢の発現割合(全Grade/Grade3以上)はアファチニブ群91.5%/29.8%、オシメルチニブ群31.3%/6.3%であり、ざ瘡様皮膚はそれぞれ68.1%/10.6%、43.8%/2.1%であった。一方、オシメルチニブ群では肺臓炎が多く、発現割合はそれぞれ10.6%/2.1%、20.8%/6.3%(オシメルチニブ群のGrade3以上はいずれもGrade5)であった。・有害事象で1次治療が治療中止に至った患者のうち、2次治療に移行した患者の割合はアファチニブ群70.0%(7/10例)、オシメルチニブ群35.7%(5/14例)であった。・2次治療を受けた患者の割合は、アファチニブ群74.5%、オシメルチニブ群54.2%であった。2次治療の内訳は以下のとおりであった。【アファチニブ群】 化学療法20.0% 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)±化学療法42.9% オシメルチニブ±化学療法31.4% オシメルチニブ以外のEGFR-TKI±化学療法5.7%【オシメルチニブ群】 化学療法23.1% ICI±化学療法53.8% オシメルチニブ±化学療法3.8% オシメルチニブ以外のEGFR-TKI±化学療法19.3%・アファチニブ群の病勢進行時の再生検検体でEGFR T790M変異が認められた割合は、組織検体19.2%(5/26件)、リキッドバイオプシー検体20%(4/20件)であった。・末梢血中の種々の免疫細胞を評価し、Th7RおよびTh2フラクションのみがPFSおよびOSとの相関を認めた。オシメルチニブ群では、Th7R高値、Th2低値で予後が良好な傾向にあったが、この傾向はアファチニブ群では認められなかった。バイオマーカー別のオシメルチニブ群のPFS中央値、OS中央値は以下のとおり。【免疫バイオマーカー:Th7R高値vs.低値】 PFS中央値:33.1ヵ月vs.6.7ヵ月(p<0.01) OS中央値:未到達vs.40.5ヵ月(p=0.29)【免疫バイオマーカー:Th2高値vs.低値】 PFS中央値:6.0ヵ月vs.30.6ヵ月(p=0.02) OS中央値:30.2ヵ月vs.未到達(p<0.01) 本結果について、森川氏は「主要評価項目の3年OS率は達成されなかった。その要因の1つとして、EGFR T790M変異の検出が低く、かつT790M変異陽性症例でのオシメルチニブ投与期間も想定より短かったため、シークエンス治療(アファチニブ→オシメルチニブ)が有効であった症例が少なかったことが考えられる」と考察した。また「オシメルチニブはホストの免疫状態によって治療効果が大きく影響を受ける可能性があり、Th7Rなどの免疫バイオマーカーがオシメルチニブの治療効果予測に関与する可能性がある」と述べた。

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アルツハイマー病に伴うアジテーションを軽減する修正可能な要因は

 アルツハイマー病患者の興奮症状に影響を与える介護者、環境、個々の因子を包括的に評価し、修正可能な因子を特定するため、中国・上海交通大学のXinyi Qian氏らは、本研究を実施した。Dementia and Geriatric Cognitive Disorders誌オンライン版2025年9月22日号の報告。 対象は、2022年10月〜2023年6月に上海精神衛生センターより募集した、参加者220例(アルツハイマー病患者110例とその介護者)。対象患者から、人口統計学的情報、生活習慣、病歴、ミニメンタルステート検査(MMSE)や老年期うつ病評価尺度(GDS)などの神経心理学的検査のデータを収集した。介護者から、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI)、環境要因に関する質問票、ハミルトンうつ病評価尺度およびハミルトン不安評価尺度などの感情状態の評価に関するデータを収集した。アジテーション症状の重症度評価には、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)を用いた。グループ間の差および潜在的な要因と興奮症状との関連性についても分析した。 主な結果は以下のとおり。・アルツハイマー病患者110例のうち、アジテーション症状を示した患者は56.36%であった。・アジテーション症状を有する患者は、男性患者が多い(p=0.012)、女性介護者が多い(p=0.003)、中庭や庭園が見える部屋へのアクセスが少ない(p=0.007)、MMSEスコアが低い(p=0.005)、GDSスコアが低い(p=0.012)といった特徴が認められた。・変数調整後、アジテーション症状に対する保護因子として、中庭や庭園が見える部屋へのアクセス(オッズ比[OR]=0.256、p=0.042)、男性介護者(OR=0.246、p=0.005)、MMSEスコアが高い(OR=0.194、p=0.007)であることが示唆された。・男性介護者の存在は、アジテーション症状の発生率の低下との関連が認められた。 著者らは「生活環境の改善、男性介護者の増加、介護者支援の強化、早期認知機能介入は、アルツハイマー病に伴うアジテーションを軽減する可能性がある」と結論付けている。

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1型糖尿病妊婦、クローズドループ療法は有効/JAMA

 1型糖尿病の妊婦において、クローズドループ型インスリン注入システムの利用(クローズドループ療法)は標準治療と比較して、妊娠中の目標血糖値(63~140mg/dL)達成時間の割合(TIR)を有意に改善させたことが、カナダ・カルガリー大学のLois E. Donovan氏らCIRCUIT Collaborative Groupが行った非盲検無作為化試験「CIRCUIT試験」の結果で示された。高血糖に関連した妊娠合併症は、1型糖尿病妊婦では発生が半数に上る。クローズドループ療法による血糖コントロールの改善は妊娠中以外では確認されているが、妊娠中の試験は限られていた。著者は、「今回の結果は、1型糖尿病妊婦へのクローズドループ療法の実施を支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年10月24日号掲載の報告。妊娠16~34週における妊娠特異的TIRを評価 CIRCUIT試験は、妊娠中のクローズドループ療法の有効性の評価を目的とし、2021年6月~2024年7月に、カナダとオーストラリアにある妊娠糖尿病専門クリニック14施設で1型糖尿病妊婦を登録して行われた(追跡調査は2025年3月に完了)。 被験者は、クローズドループ療法群または標準治療群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 クローズドループ療法群には、Control-IQインスリンポンプ(Tandem製)が提供され、妊娠中の使用の推奨事項(1日24時間の最低目標血糖値[112.5~120mg/dL:睡眠時]の使用、運動時のより高値のオプション値の使用など)が提示された。妊娠20週後は、それより1~2週間前の平均的な自動基礎インスリン投与量よりも約20%高い基礎インスリン投与量をプログラムすることが推奨された。 標準治療群には、持続血糖モニタリングに関する教育と機器が提供され、無作為化前のインスリン投与法(従来インスリンポンプ[Medtronic製MiniMed、Tandem製Basal-IQ]やインスリン頻回注射療法)が継続された。 両群の被験者は全員、妊娠糖尿病ケアチームからインスリン投与量に関するサポートを、試験地の標準治療に従って受けた。 主要アウトカムは、妊娠16~34週に持続血糖モニタリングで計測された妊娠特異的TIR(目標血糖値は63~140mg/dL)とした。クローズドループ療法群65.4%、標準治療群50.3%で有意差 94例が登録され、無作為化前に妊娠喪失を経験した3例を除く91例が無作為化された。主要解析には、クローズドループ療法に割り付けられた2例(妊娠20週未満で流産)と標準治療群に割り付けられた1例(無作為化後に試験離脱・データ提出拒否)を除く88例(平均年齢31.7[SD 5.2]歳、妊娠初期のHbA1c値7.4%[SD 1.0])が包含された。 妊娠16~34週における妊娠特異的TIR(平均値)は、クローズドループ療法群65.4%、標準治療群50.3%であった(補正後平均群間差:12.5%ポイント、95%信頼区間:9.5~15.6、p<0.001)。 妊娠中の重症低血糖エピソードはクローズドループ療法群1例で報告された。糖尿病性ケトアシドーシスはクローズドループ療法群で2例、標準治療群で1例が報告された。

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開発中の経口パラチフスA菌ワクチン、有効性・安全性を確認/NEJM

 パラチフスA菌(Salmonella enterica serovar Paratyphi A[S. Paratyphi A])は年間200万例を超える腸チフスの原因となっている。現在承認されたワクチンはなく、いくつかのワクチンが開発中である。その1つ、経口投与型の弱毒生パラチフスA菌ワクチン(CVD 1902)について、英国・オックスフォードワクチングループのNaina McCann氏らVASP Study Teamは、同国の健康ボランティア成人を集めて、制御されたヒト感染モデル(controlled human infection model)を用いた第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照試験を行い、CVD 1902の2回投与により、安全性への懸念を伴うことなくパラチフスA菌に対する防御能獲得に結び付いたことを報告した。NEJM誌2025年10月29日号掲載の報告。CVD 1902を14日間隔で2回投与、チャレンジ試験で有効性、安全性などを評価 試験は英国内6ヵ所(オックスフォード、バーミンガム、サウサンプトン、ブリストル、シェフィールド、リバプール)の研究センターで、腸チフスの既往がない18~55歳の健康ボランティアを集めて行われた。ボランティアにはオンライン質問票への回答が求められ、電話インタビューで受診歴が確認された後、対面調査で詳細な参加資格の評価が行われた。参加者の募集と追跡調査は各センターで行われ、パラチフスA菌の経口チャレンジ試験はオックスフォードで行われた。 被験者は、CVD 1902を14日間隔で2回投与を受ける群またはプラセボの投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。2回目の投与から28日後に、パラチフスA菌の経口チャレンジ試験が行われた。 主要エンドポイントは、チャレンジ試験後14日以内のパラチフスA菌感染症の診断とされた。副次エンドポイントは、安全性および免疫原性などであった。O抗原に対する血清IgG、IgA反応を誘導、ワクチンの有効率は69% 2022年4月~2023年11月に健康ボランティア1,589例が適格性について評価された。うち171例が対面調査でスクリーニングを受け、72例が無作為化された(CVD 1902群35例、プラセボ群37例)。被験者の年齢中央値は32歳(範囲:20~54)、46%が女性であった。チャレンジ試験は、CVD 1902群34例、プラセボ群36例が受けた(各群1例が初回投与後に試験を離脱)。 有害事象の発現数は両群で類似しており、ワクチン関連の重篤な有害事象は確認されなかった。 CVD 1902は、パラチフスA菌のO抗原に対する血清IgG反応および血清IgA反応を誘導したことが認められた。プラセボ群では、血清IgGおよびIgAの力価上昇は認められなかった。 ITT集団(70例)において、チャレンジ試験後14日以内のパラチフスA菌感染症の診断率は、CVD 1902群21%、プラセボ群75%であり(p<0.001)、ワクチンの有効率は73%(95%信頼区間[CI]:46~86)であった。per-protocol解析(プラセボ群に割り付けられたがワクチン2回投与を受けた1例をCVD 1902群に組み込み解析)では、ワクチンの有効率は69%(95%CI:42~84)であった。

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筋力が強ければ肥満による健康への悪影響を抑制できる可能性

 肥満による健康への悪影響を、筋力を鍛えることで抑制できる可能性を示唆するデータが報告された。米ペニントン・バイオメディカル研究センターのYun Shen氏らの研究の結果であり、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月15日掲載された。 この研究からは、肥満関連の健康障害の発生リスクだけでなく早期死亡リスクも、握力が高いほど低いことが示された。Shen氏は、「握力は測定が容易であり、リスクのある介入すべき対象者を早期に低コストで見いだすことができる。そしてわれわれの研究の結果は、握力に基づき評価した筋力の低下が、肥満関連健康障害の鋭敏な指標であることを示している」と語っている。 Shen氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究であるUKバイオバンクのデータを用いて行われた。UKバイオバンク参加者のうち、BMI30以上(アジア人は28以上)であり、かつウエスト周囲長や体脂肪率などのBMI以外の肥満関連指標に異常がありながら、肥満関連健康障害は生じていない人を「前臨床的肥満」と定義。これに該当する9万3,275人を握力の三分位数に基づき3群に分類したうえで、平均13.4年間追跡して、肥満関連健康障害の発症や死亡のリスクを比較した。解析に際しては、交絡因子(年齢、性別、人種、血清脂質、血圧、HbA1c、eGFR、CRP、喫煙・飲酒・食事・運動・睡眠習慣、教育歴、雇用状況、高血圧・高血糖・脂質異常症治療薬、糖尿病家族歴など)の影響を統計学的に調整した。 握力の最も弱い第1三分位群を基準とする解析の結果、握力が高い群は肥満関連健康障害や死亡リスクが有意に低いことが示された。例えば、追跡期間中の最初の肥満関連健康障害の発症リスクは、握力の最も高い第3三分位群は調整ハザード比(aHR)0.80(95%信頼区間0.79~0.82)、握力が中程度の第2三分位群もaHR0.88(同0.87~0.90)であり、それぞれ20%、12%のリスク低下が認められた。また、追跡期間中に二つ目の肥満関連健康障害が発症するリスク、その後に死亡するリスクなどについても、握力が高いほど有意に低かった。 さらに、握力の1標準偏差(SD)の差とそれらのリスクとの関連を検討した結果、やはり握力が高いことによるリスク低下が認められた。例えば、肥満関連健康障害の発症を経ずに死亡するリスクは、1SD高いごとに9%有意に低下していた(aHR0.91〔0.85~0.97〕)。 これらを性別や喫煙状況、人種で層別化した解析の結果、握力が高いことによるリスク低下は、女性、非喫煙者、黒人でより顕著に認められた。 研究者らは、「過剰な脂肪蓄積に伴う慢性炎症の影響が、筋肉量が多いことによって抑制される可能性がある。われわれの研究結果は、前臨床的肥満において筋肉量と筋力を向上することの重要性を強調するものと言える」と述べている。ただし本研究は関連性のみを示すものであり、因果関係の存在を示すものでないことから、「この知見の検証のため、さらなる研究が必要」と付け加えている。

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がん患者の死亡の要因は大血管への腫瘍の浸潤?

 がん患者の命を奪う要因は、がんそのものではなく、腫瘍細胞や腫瘍が体内のどこに広がるかであることを示した研究結果が報告された。腫瘍が主要な血管に浸潤すると血液凝固が起こり、それが臓器不全につながる可能性のあることが明らかになったという。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのMatteo Ligorio氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に10月16日掲載された。 Ligorio氏らは、これが、がんが進行するとすぐに死亡する患者がいる一方で、がんが全身に転移していても生き続ける人がいる理由だと述べている。Ligorio氏は、「われわれが解明しようとしていた大きな疑問は、がん患者の命を奪うものは何なのか。なぜがん患者は、6カ月前でも6カ月後でもなく、特定の日に死亡するのかということだった」と同医療センターのニュースリリースの中で述べている。 米国では毎年約60万人ががんで命を落としている。Ligorio氏は、「だが実際のところ、何が彼らの命を奪うのかは不明だ」と語る。今回の研究でLigorio氏らは、大腸がん、肺がん、卵巣がん、肝臓がん、膵臓がんにより死亡した108人の患者の症例を分析した。そのうちの92人から採取した3,382枚のスライドを調査した結果、81人(88%)で、静脈や動脈、心腔内に腫瘍塞栓が確認された。また、有効なCT画像が入手できた101人(93%)の画像の解析から、60人(59%)で大血管浸潤の兆候が確認された。 次に、ホスピスに入院している末期患者31人(固形がん患者21人、その他の疾患の患者10人)を対象に、患者の健康状態の変化に応じて血液を採取しながら追跡し(平均追跡期間37.8日)、死亡時に剖検で大血管を検査した。その結果、他の原因で死亡した患者と比べて、がんで死亡した患者では、血管壁や内腔へ腫瘍が浸潤していた人が多いことが明らかになった。CT検査も実施された数例では、これらの悪性腫瘍は患者が死亡する数週間または数カ月前から存在していたことが示された。さらに、血液サンプルの解析からは、死の直前に血流中のがん細胞の数が急増していたことも明らかになった。 以上の結果から研究グループは、がん患者が死亡する理由として、腫瘍が大血管に浸潤すると、腫瘍片が血流に放出され、血液が凝固しやすくなって血栓が形成され、それが臓器への血流を遮断して多臓器不全を引き起こし、最終的には死に至るという新たな理論を打ち立てた。この理論を検証するため、Ligorio氏らは1,250人のドイツ人がん患者のCT画像を解析した。その結果、患者のほとんどにおいて、腫瘍が大血管に浸潤していることが確認された。 Ligorio氏らは現在、腫瘍の血管への広がりを抑制する治療ががん患者の生存期間の延長につながるのかどうかを調べる臨床試験を準備しているところだという。本論文の筆頭著者であるサウスウェスタン医療センターのKelley Newcomer氏は、「大血管に近付いている腫瘍を治療するための手術や放射線治療が、がん患者の診断、管理、治療の方法を一変させる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。

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第288回 日本で異常事態の “ある感染症”、その理由と対策法とは

INDEXつい気になった別の感染症の発生動向流行ウイルスは輸入型、ワクチン対象者拡大がカギ?つい気になった別の感染症の発生動向先日、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関する記事を執筆した際、国立健康危機管理研究機構が発表している感染症発生動向調査週報を参照したのだが、その際、ちょっと気になることがあったので、今回はそのことについて触れてみたい。私個人は仕事柄というか生まれつき、さまざまなことに興味を持つ性分である。悪く言えば「熱しやすく冷めやすい」、酷評すれば「何かをやらねばならない時につい横道に逸れてしまいがち」だ。前述の時もついついSFTS以外の全数報告感染症のデータをまじまじと眺めてしまった。その時に気になったのが、今年の麻疹の発生動向である。最新の第44週(10月27日~11月2日)までの全国での累計感染者数は232例。コロナ禍前年の2019年の流行時に年間744例が報告されたこともがあったが、それ以後の最多は2024年の45例であり、今年は明らかに異常事態である。第44週までの感染者報告の多い地域は、神奈川県の40例、東京都の30例、茨城県・千葉県・福岡県の各22例などである。厚生労働省もこの点に危機感を持ったのか、健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課長と予防接種課長の連名通知(感感発1003第1号、感予発1003第1号)「麻しん及び風しんの定期接種対象者に対する積極的な接種勧奨等について(依頼)」1)を10月3日付で発出した。同通知では令和6年度(2024年4月1日~2025年3月31日)のワクチン定期接種対象者の接種率が第1期は92.7%、第2期は91.0%であることにも言及している。ご存じのように感染力が強い麻疹の基本再生産数から算出される集団免疫獲得に必要なワクチン接種率は95%以上であり、厚生労働省の「麻しんに関する特定感染症予防指針」2)でもこの目標を掲げているが、現時点では達成できていない。都道府県別の接種率を見ると、95%以上を達成しているのは第1期で福島県の95.1%のみ。感染報告数トップ2の神奈川県は94.8%、東京都は94.3%とわずかに届かない。第2期では95%以上の都道府県はなく、最高でも94.2%にとどまる。全国的な動向を俯瞰すると、東高西低で九州・沖縄地方では第1期段階でも接種率90%未満の県が散見される。そして前出の通知では、厚生労働省側が文部科学省を通じ学校などでの接種勧奨に注力していることもわかる。率直に言って、95%という目標を実現するのは並大抵の労力では実現しえない。たとえて言うならば、100点満点のテストで平均50点の人を平均60点に引き上げるよりも、平均90点の人を平均95点に引き上げるほうが実際にはかなり困難なのと同じだ。各方面から接種勧奨という、半ば砂地に水をまくような努力を繰り返してようやく達成できるかどうかと言える。ただ、これをやらねば現状の維持すら難しいのは、多くの人が理解できるだろう。流行ウイルスは輸入型、ワクチン対象者拡大がカギ?一方、東京都感染症情報センターが公表している最新の麻疹流行状況3)を参照すると、麻疹流行のセキュリティーホールらしきモノが見えてくる。それを端的に示しているのが、推定感染地域も含む遺伝子型検査結果だ。麻疹ウイルスは20種類以上の遺伝子型が知られており、日本の土着株は遺伝子型D5だが、この結果を見れば現在D5は検出されていない。そもそも長きにわたって国内でD5検出事例はなく、それがゆえに日本は世界保健機関(WHO)から麻疹排除国として認定されている。そして東京都の遺伝子型検査結果からは、今の国内流行の主流となっているのは、アフリカや欧州を中心に確認されている遺伝子型B3と南アジア・東南アジアを中心に確認されている遺伝子型D8、つまり輸入例である。加えて推定感染地域として目立つのがベトナムだ。現在、日本とベトナムの人的交流はかなり活発である。日本政府観光局の公表データによると、2024年の訪日ベトナム人推計値は62万1,100人、これに対しベトナムを訪れた日本人は約70万人である。また、訪日ベトナム人は観光や商用目的の一時滞在ばかりではなく、技能実習や特定技能での労働目的も多いことは周知の事実である。出入国在留管理庁の公表数字では、2024年末現在、技能実習21万2,141人、特定技能13万3,478人を含む63万4,361人の在留ベトナム人がいる。この人数は在留外国人の国籍別で第2位だ。そのベトナムだが、WHOの報告では約5年おきに麻疹の流行が起き、最新の流行は昨年から今年にかけてである。この背景にはコロナ禍中のワクチンの在庫不足で小児の麻疹ワクチン接種率が2023年には82%まで落ち込んだことが大きく影響しているようだ。また、ベトナム国内では年齢層や居住地域によるワクチンギャップも指摘されている。このような事情や、ベトナム人に限らず日本国内で就労する外国人は当面増えることはあっても減ることはないことを考え合わせれば、従来の枠にとどまらない麻疹流行対策も浮かんでくるはずだ。具体的には技能実習や特定技能での来日者やその雇用主へのワクチン接種の積極的勧奨、さらにはそうした労働者が多い企業に関わる産業医などへの啓発である。場合によっては、雇用主に対しこうした来日者へのワクチン接種費用の一部公的助成などの施策も考えられる。このように書くと、いわゆる「日本人ファースト」的な人たちからは「公費で外国人に…」とお叱りを受けそうだが、これは日本の公衆衛生のためでもあり、また来日した人たちの母国への国際貢献や意識改革などにもつながる良策だと思うのだが。 1) 厚生労働省:麻しん及び風しんの定期接種対象者に対する積極的な接種勧奨等について(依頼) 2) 厚生労働省:麻しんに関する特定感染症予防指針 3) 東京都感染症情報センター:麻しんの流行状況(東京都 2025年)

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骨粗鬆症治療薬、いつまで続ける?【こんなときどうする?高齢者診療】第15回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回は薬の中止・漸減について、サロンメンバーの質問に答える形で一緒に学んでいきましょう。高齢者施設で働いている医師です。施設入所のタイミングで内服薬を整理するようにしています。骨粗鬆症治療薬を中止するか、入所後も継続するか判断に迷うことが多いです。どのように考えるとよいでしょうか?骨粗鬆症治療薬を服用している高齢者は多く、外来・入院などどのセッティングでも悩ましいものです。今回は、使用頻度の高いビスホスホネート製剤を想定して考えてみましょう。ビスホスホネート、中止か継続か?判断するための情報を集める高齢者が、長期間にわたって同じ薬を服用していることは多いものです。今の患者の状態から継続や中止の判断をするために、3つのアセスメントをおすすめします。1:骨折リスク骨粗鬆症治療薬は、骨折歴のみで処方開始されていることもまれではありません。しかし、骨折リスクが低い場合や、すでに5年以上服用している場合は、薬を一定期間中断し骨密度をモニターする期間を作るdrug holidayも考慮すべきです。施設入所時のカルテでは、どのような背景で処方されたのかわからないことも多いはずです。ですから、改めてDXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)やFRAX®(Fracture Risk Assessment Tool)などを使って、骨折リスクを定量的に評価しなおすこと(例:FRAX®による10年間の骨折確率算出、腰椎・大腿骨近位部のDXA測定によるT値評価)で、今後もこの患者に薬が必要なのかを検討する信頼度の高い情報になります。2:予後ビスホスホネート製剤は効果発現まで約12カ月を要するため、最低でも1年以上の生命予後が見込めるかどうかの評価が重要です。1)その方の生命予後および身体機能予後の評価なくして、骨粗鬆症薬を飲み続けるメリットを推定することはできません。3:アドヒアランス、腎機能、そして副作用ビスホスホネート製剤は空腹時に多量の水で服用し、服用後30分~1時間は横にならないなどの制約があるため、認知機能が正常な方でも服薬アドヒアランスが低下しやすい薬です。施設入所に伴って環境が変わっても服用を続けられるのか。継続するとしたら患者の認知機能や服薬アドヒアランスに関するアセスメントが必要です。また腎機能(一般的にeGFR 35 mL/min/1.73m2未満では投与禁忌)や胃の逆流症状の有無といった内服を継続できる身体的な条件が揃っているのかも確認しなければ、継続がかえって害になる可能性があります。また、長期使用に伴う副作用(顎骨壊死、非定型大腿骨骨折など)のリスクも評価する必要があります。がんの骨転移やカルシウム血症など個別に考慮が必要な場合はありますが、ここに挙げたポイントを評価すると、継続か中止かの判断が容易になるでしょう。内服薬の重要度を整理するビスホスホネートに限らず減薬を考えるタイミングでは、必要な薬と、中止してもいい薬、中止すべき薬を整理することが必要です。ここで、薬の重要度・必要度を分類するツール「VIONE」2)を紹介しましょう。薬を5つのクラスに分けることで、減らす/中止する薬を選ぶときの目安になります。VIONE画像を拡大する今回のケースでいうと、この患者にとってビスホスホネートがI(骨粗鬆症による骨折を防ぐことによる身体機能維持・QOLの維持向上に重要な薬)にあてはまるのか、あるいはE(診断や使用理由が不明瞭な薬)に該当するのかを考えるために、骨折リスク評価をおすすめしたということです。ちなみに、漸減/中止する際も、Start low(少量減量),Go slow(ゆっくり、漸減),Stand by(様子を見てみる、経過をよく観察)の原則は変わりません。(第5回)一度に減量するのは1剤か2剤までと考えて、このツールで内服薬を整理することで、どの薬を減量するのか優先順位を決めやすくなります。どのような薬でも、処方されたときと中止・漸減を考慮するときでは、患者の身体的条件、予後、環境条件のすべてが変わっています。VIONEを使って、ターゲットを絞って効果的な減薬・中止につなげましょう。 ※今回のトピックは、2022年8月度、2024年度3月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でより詳しい解説やディスカッションをご覧ください。 1) Deardorff WJ, et al. JAMA Intern Med. 2022;182(1):33-41. 2) Constantino-Corpuz JK, et al. Fed Pract. 2021;38(7):332-336.

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11月14日 アンチエイジングの日【今日は何の日?】

【11月14日 アンチエイジングの日】 〔由来〕 「いい(11)とし(14)」(良い歳)と読む語呂合わせから、アンチエイジングネットワークが2007年に制定。生活習慣病を予防する予防医学の定着と、年齢を経ても「見た目の若さ」を保ち続ける方法の認知拡大が目的。関連コンテンツ 継続のコツ ~筋トレ編~【Dr. 中島の 新・徒然草】 未来の自分への最高の投資は「食事」にあり!科学が解き明かす“健康的な加齢”の秘訣【NYから木曜日】 治療ワクチンで超高齢社会を乗り越える!~医療の2050年問題解決に向けて 眠気の正体とは?昼間の眠気は異常?/日本抗加齢医学会 世界初の軟骨伝導集音器、補聴器との違いや利便性とは

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高齢者機能評価は負担ばかりで利益がない!? 【高齢者がん治療 虎の巻】第4回

<今回のPoint>GAは、入退院支援加算+総合機能評価加算の枠組みで診療報酬に組み込める多職種連携を広げることでほかの加算と組み合わせが可能診療報酬は、GAを評価・活用し“行動につなげる”ことではじめて得られる―診療報酬という視点から考えるGAの価値―高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)に関する講演をすると、毎回のように次の質問をいただきます。「どれくらい時間がかかるのか?」「誰が、いつ行うべきか?」「評価結果をどう活かすのか?」そして―「診療報酬になるのか?」GAを実施していない施設では、「たとえ評価表への記載だけなら数分で終了します」と言われても、結果の評価・記録・共有・多職種連携のすべてが現場にとって“負担増”に見えるのが現実です。そのため、「もし診療報酬で評価されるなら…」と考えるのは自然なことかもしれません。今回は、GAがどのように診療報酬上の加算として位置付けられるか、実例を交えて私見をご紹介します。GA評価の基本は「入退院支援加算+総合機能評価加算」令和6年度診療報酬改定1)では、GAとの親和性が高い以下の加算が整理されています。●入退院支援加算・入院時支援加算・入退院支援加算1(700点)「退院困難な要因(悪性腫瘍含む)を有する入院中の患者であって、在宅での療養を希望するもの」に対して入退院支援を行った場合。・入院時支援加算1(240点)/ 入院時支援加算2(200点)入院前に患者の栄養状態・併用薬などを確認し、療養支援計画書を作成した場合。これらは、すでに多くの急性期病院で標準的に運用されている加算です。さらにこれらの加算に追加してGAを行うことで、以下の算定が可能です。・総合機能評価加算(50点)65歳以上、もしくは40~64歳の悪性腫瘍の患者に対し「身体機能や退院後に必要となりうる介護サービス等について総合的に評価を行った上で、当該評価の結果を入院中の診療や適切な退院支援に活用する」場合この加算の要件としては、GAで得られた情報を患者および家族に説明し、診療録に記載する必要がありますが、日常的にGAを導入している施設では、すでにこれらを満たす体制が整っていることが多いはずです。「たった50点」で終わらせない多職種連携ここで、「50点だけ?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際にはGAを起点に多職種の支援に展開することで、ほかの加算の可能性も大きく広がります。たとえば、日本老年医学会のCGA72)では、評価で「否」と答えた項目に対して、次のアクションが提示されており、評価から介入への流れが可視化されています(表1)。GAという“点”を多職種につなげて“線”にすることで、より価値が出る、ということですね。(表1)画像を拡大する症例で考える:実際にどこまで加算できるか?第1、2回提示の症例をもとに、加算の可能性を検討してみます。<症例>(第1回、第2回と同じ患者)88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望。既往に高血圧、糖尿病、軽度の認知機能低下があり、PSは1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。告知後、看護師が待合でG8(Geriatric8)を実施したところ、スコアは10.5点(失点項目:年齢、併用薬数、外出の制限など)。改訂長谷川式簡易知能評価(HDS-R)は20点で認知症の可能性あり。多職種カンファレンスでは、免疫チェックポイント阻害薬の単剤投与を提案。薬剤師には併用薬の整理を、MSWには家庭環境の支援を依頼し、チームで治療準備を整えることとした。(表2)画像を拡大する表2を踏まえ、本症例で実際に見込める加算「入退院支援加算」+「入院時支援加算」+「総合機能評価加算」GAの結果をもとに入院診療計画書・療養計画書を作成する→計950~990点 上記を基本とし、GAM(GA guided management)として多職種連携することで、本症例は下記について追加で算定できる可能性があります。 多職種カンファレンスを実施し意思決定支援等を行う→「がん患者指導管理料 (イ) 500点」 薬剤師に併用薬の整理を依頼→「薬剤総合評価調整加算 100点」(退院時1回)および「薬剤調整加算 150点」 外出の制限がありリハビリテーション依頼→「がん患者リハビリテーション料(1単位)205点」 G8の点数が低く、栄養状態に脆弱性あり→「栄養食事指導料1 260点」合計:2,165~2,205点いかがでしょうか。単体の50点加算にとどまらず、GA結果を起点にGAMを展開すれば、複数の加算を組み合わせることが可能です。総合機能評価加算は入退院支援加算への追加であり、その内容が入院もしくは退院支援に使用されることが必要です。よって、少なくとも関係学会でのガイドラインに則して評価ツールが利用され、その結果に応じた対応をすることで入院中もしくは退院後の生活支援につながることが期待されています。重要なのは、「GAを実施して記録した」だけでは加算にはならないということです。なお、診療報酬の算定については施設によって要件が異なることをご理解いただくとともに、各評価の算定要件は必ずご確認のうえ運用ください 。1)厚生労働省:令和6年度診療報酬改定について 2)日本老年医学会:高齢者診療におけるお役立ちツール 講師紹介

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