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日本人高齢者におけるうつ病、認知症、死亡リスクの関係〜JAGES縦断的研究

 日本人高齢者を対象とした全国コホートに基づき、中国・広東薬科大学のShan Wu氏らは、うつ病、認知症、すべての原因による死亡率の関連および用量反応関係を調査した。The Journals of Gerontology. Series B, Psychological Sciences and Social Sciences誌オンライン版2024年5月23日号の報告。 2010〜19年に実施された日本老年学的評価研究(JAGES)の65歳以上の参加者4万4,546例を対象に縦断的研究を実施した。抑うつ症状は老年期うつ病評価尺度(GDS-15)、認知症は公的な長期介護保険(LTCI)を用いて評価した。うつ病の重症度が認知症の発症率およびすべての原因による死亡率に及ぼす影響を評価するため、Fine-gray modelおよびCox比例ハザードモデルをそれぞれ用いた。認知症を介したうつ病とすべての原因による死亡率との関連性の評価には、因果媒介分析(CMA)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・軽度および重度の抑うつ症状は、いずれも認知症累積発症率およびすべての原因による死亡率と関連しており、とくに重度の抑うつ症状で関連が認められた(p<0.001)。・認知症の多変量調整ハザード比(HR)は、非うつ病患者と比較し、軽度うつ病患者で1.25(95%信頼区間[CI]:1.19〜1.32)、重度うつ病患者で1.42(95%CI:1.30〜1.54)であった(p for trend<0.001)。・すべての原因による死亡率の多変量調整HRは、非うつ病患者と比較し、軽度うつ病患者で1.27(95%CI:1.21〜1.33)、重度うつ病患者で1.51(95%CI:1.41〜1.62)であった(p for trend<0.001)。・年齢が若いほど、うつ病は認知症およびすべての原因による死亡率に強い影響を及ぼした。・認知症は、うつ病とすべての原因による死亡率の関連性を有意に媒介していることが示唆された。 著者らは「認知症や早期死亡を予防するために、重度のうつ病を標的とした介入は効果的な戦略となる可能性が示唆された」としている。

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T1N0のHER2+乳がんへの術後トラスツズマブ、生存ベネフィットは

 腫瘍径が小さく、リンパ節転移のないHER2陽性乳がん患者において、化学療法の有無にかかわらず術後トラスツズマブ療法が無浸潤疾患生存期間(iDFS)を有意に改善することが、米国臨床腫瘍学会のデータベースを用いた多施設共同後ろ向き解析により示された。米国・オハイオ大学のKai C. C. Johnson氏らによるNPJ Breast Cancer誌2024年6月19日号への報告より。 米国臨床腫瘍学会のCancerLinQデータベースを用いて、2010~21年の間に診断され、局所療法のみまたは局所療法+術後トラスツズマブ療法(+/-化学療法)を受けたT1a~c、N0のHER2陽性乳がん患者の生存転帰が比較された。主要評価項目はiDFSと全生存期間(OS)であった。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした1,184例のうち、436例は局所療法のみ、169例は術後トラスツズマブ単剤療法、579例は術後トラスツズマブ+化学療法を受けていた。・ベースライン特性は3群でバランスがとれており、年齢中央値が60.4(18.9~95.4)歳、ホルモン受容体陽性が54.9%、T1mic:1.2%/T1a:17.1%/T1b:27.4%/T1c:51.9%であった。・単変量解析の結果、化学療法の有無にかかわらず術後トラスツズマブ療法を受けた場合、iDFS(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.003)およびOS(0.63、0.41~0.95、p=0.023)の有意な改善が認められ、多変量解析においても有意な改善が認められた。・3群単変量解析の結果、局所療法のみと比較して術後トラスツズマブ単剤療法(HR:0.51、95%CI:0.33~0.79、p=0.003)および術後トラスツズマブ+化学療法(0.75、0.58~0.97、p=0.027)でiDFSの有意な改善が認められた。・サブグループ解析の結果、T1b/T1cの患者ではiDFSとOSのいずれにおいても明らかなベネフィットがみられたが、T1aの患者ではみられなかった。

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局所進行食道がんの術前補助療法、3剤併用がOSを改善/Lancet

 局所進行食道扁平上皮がん(OSCC)の術前補助療法において、シスプラチン+フルオロウラシルによる2剤併用化学療法(NeoCF)と比較して、これにドセタキセルを追加した3剤併用化学療法(NeoCF+D)が全生存率を有意に改善し、日本における新たな標準治療となる可能性がある一方で、NeoCFに比べNeoCF+放射線(NeoCF+RT)では全生存率の有意な改善効果を認めないことが、国立がん研究センター中央病院の加藤 健氏らが実施した「JCOG1109試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年6月11日号に掲載された。日本の44施設の無作為化第III相試験 JCOG1109試験は、日本の44施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2012年12月~2018年7月に参加者を募集した(日本医療研究開発機構[AMED]などの助成を受けた)。 年齢20~75歳、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)が0または1で、未治療の局所進行OSCC(StageIB、II、III[T4は含まない])の患者601例を登録し、NeoCF群に199例(年齢中央値65歳[範囲:38~75]、女性11%)、NeoCF+D群に202例(64歳[41~75]、12%)、NeoCF+RT群に200例(65歳[30~75]、14%)を無作為に割り付けた。 NeoCF群ではCF療法を2コース、NeoCF+D群ではCF+D療法を3コース、NeoCF+RT群ではCF療法を2コース施行後に総線量41.4Gyの放射線照射を行った。引き続き、全例で食道切除術と局所リンパ節郭清を実施した。 主要評価項目は、ITT集団における全生存率とした。無増悪生存率、客観的奏効率、病理学的完全奏効率も良好 追跡期間中央値50.7ヵ月の時点における3年全生存率は、NeoCF群が62.6%(95%信頼区間[CI]:55.5~68.9)であったのに対し、NeoCF+D群は72.1%(65.4~77.8)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.68、95%CI:0.50~0.92、p=0.006)。一方、NeoCF+RT群の3年全生存率は68.3%(95%CI:61.3~74.3)であり、NeoCF群の62.6%(55.5~68.9)に比べ有意な差を認めなかった(HR:0.84、95%CI:0.63~1.12、p=0.12)。また、全生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で5.6年であった。 3年無増悪生存率は、NeoCF群の47.7%(95%CI:40.6~54.4)に比べNeoCF+D群は61.8%(54.7~68.1)と良好であった(HR:0.67、95%CI:0.51~0.88)。無増悪生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で2.7年だった。 測定可能病変を有する患者における客観的奏効率は、NeoCF群の42.4%(95%CI:30.3~55.2)と比較して、NeoCF+D群は76.4%(64.9~85.6)と高率であり、病理学的完全奏効の割合も、NeoCF群の2.0%(95%CI:0.6~5.1)に対しNeoCF+D群は19.8%(14.5~26.0)と良好だった。手術前後の安全性プロファイルはNeoCF+Dで比較的管理しやすい Grade3以上の発熱性好中球減少は、NeoCF群で193例中2例(1%)、NeoCF+RT群で191例中9例(5%)に発現したのに比べ、NeoCF+D群では196例中32例(16%)と頻度が高かった。また、術前補助療法の中止の原因となった治療関連有害事象は、NeoCF群(8/199例[4%])およびNeoCF+RT群(12/200例[6%])に比べNeoCF+D群(18/202例[9%])で高頻度であった。術後補助療法期間中の治療関連死は、NeoCF群で3例(2%)、NeoCF+D群で4例(2%)、NeoCF+RT群で2例(1%)に認めた。 Grade2以上の術後の肺炎、食道吻合部漏出、反回神経麻痺が、NeoCF群で185例中それぞれ19例(10%)、19例(10%)、28例(15%)に、NeoCF+D群で183例中18例(10%)、16例(9%)、19例(10%)に、NeoCF+RT群で178例中23(13%)、23例(13%)、17例(10%)に発現した。術後の院内死亡は、NeoCF群3例、NeoCF+D群2例、NeoCF+RT群1例であった。 著者は、「手術前後のNeoCF+D群の安全性プロファイルは、NeoCF群やNeoCF+RT群よりも管理しやすいものであった。本試験の目的は、NeoCF+D群とNeoCF+RT群の直接比較ではなく、この2つの群の優越性を認めた場合に、より大規模な比較試験に進む計画であった」と述べたうえで、「各治療群のリスクとベネフィットを明らかにするには、より長期の追跡による最新のデータの解析が必要である」としている。

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新たな男性用避妊ジェル、第2相試験で有望な結果

 新しいジェル状のホルモン剤が男性用の避妊法として有望な可能性を示した第2相試験の結果が報告された。2種類のホルモン剤を組み合わせたこの避妊ジェルは、ホルモン剤をベースにした他の実験的な男性用避妊薬よりも短期間で精子の生産を抑制することが示されたという。米国立衛生研究所(NIH)の避妊薬開発プログラム主任であるDiana Blithe氏らによるこの研究は、米国内分泌学会(ENDO 2024、6月1〜4日、米ボストン)で発表された。Blithe氏は、「男性にとって、安全で効果が高く、可逆的であることが確実な避妊法の開発は、アンメットニーズである」と述べている。 この試験では、222人の男性がこの新しい避妊ジェル5mLを1日1回、3週間以上にわたって両肩甲骨に塗布した。このジェルは、プロゲスチン(合成黄体ホルモン)の一種であるセゲステロン酢酸エステル8mgと、男性ホルモンのテストステロン74mgを含有する。セゲステロン酢酸エステルは、避妊リングのAnnoveraの成分である。研究グループは、4週間ごとに検査で精子濃度を調べ、精子生産の抑制を評価した。避妊効果があると見なされる精子濃度の閾値は100万個/mL以下であるという。 その結果、86%の男性が、ジェルの使用開始から15週目までに避妊効果のある精子濃度を達成したことが明らかになった。この濃度を達成するまでの期間中央値は8週間であり、研究グループの予想よりも早かったという。Blithe氏は、注射による男性ホルモン避妊薬に関する先行研究では、精子の生産が抑制されるまでの期間中央値は9週間から15週間だったと説明している。 以上の結果を踏まえてBlithe氏は、「精子生産抑制までの期間が短くなれば、潜在的なユーザーがこの避妊薬に対して抱く魅力が増し、受容性も高まるかもしれない」と述べている。 Blithe氏は、「いくつかのホルモン剤が男性の避妊に有効であることは示されているが、精子生産抑制の開始が遅いことが問題だった」と指摘し、本研究で用いたジェルには2種類のホルモン剤が配合されているため、効果がより速く現れ、必要なテストステロンの量も少なくて済むと説明している。同氏によると、この避妊ジェルを毎日使用しても、血中のテストステロン濃度は生理的範囲内に保たれ、性機能やその他のアンドロゲン依存の活動は正常なままで維持されるという。 Blithe氏らは今後も研究を続け、この避妊ジェルの有効性と安全性、受容性、治療中止後の生殖能力の回復についての調査を進める予定であると話している。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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抗肥満薬使用時に推奨される食事療法

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)を中心とする抗肥満薬を使用する際の栄養上の推奨事項をまとめた論文が、「Obesity」に6月10日掲載された。米イーライリリー社のLisa Neff氏らの研究の結果であり、同氏は「本報告は、抗肥満薬による治療を行う臨床医に対して、最適な栄養と介入効果を患者にもたらすための知識とツールを提供することを目指した」と語っている。なお、イーライリリー社は米国において、GLP-1RAであるチルゼパチドを抗肥満薬「zepbound」として販売しており、国内でも承認申請中。 近年、体重が15%以上も減ることもあるGLP-1RAが肥満治療に用いられるようになり、さらに新たな作用機序による抗肥満薬の開発も進められている。これらの薬剤により食事摂取量が減少すると、栄養バランスが崩れて微量栄養素が不足するなどのリスクも生じる。現状において、抗肥満薬治療を受けている患者の最適な食事スタイルに関するエビデンスは少ない。しかし、減量・代謝改善手術後の患者や超低カロリー食による減量中の患者の食事療法に関しては、一定のエビデンスが蓄積されてきている。Neff氏らは、文献検索によりそれらの報告をレビューすることで、抗肥満薬使用中の食事療法に関する推奨事項を総括した。 主な推奨事項は以下のとおり。・エネルギー量:個別に設定する必要があるが、通常は女性1,200~1,500kcal/日、男性1,500~1,800kcal/日。・タンパク質:通常は体重1kg当たり1.5g以下だが、1日に60~75g以上は確保するために、人によっては1.5g/kgを超える量が必要なこともある。推奨される食品は、豆類、魚介類、赤肉、鶏肉、低脂肪乳製品、卵など。・炭水化物:総摂取エネルギー量の45~65%で、添加糖は10%未満とする。全粒穀物、果物、野菜、乳製品などが推奨される。・脂質:総摂取エネルギー量の20~35%で、飽和脂肪酸は10%未満とする。ナッツ、種子、アボカド、植物油、脂肪分の多い魚などが推奨される。抗肥満薬使用に伴う消化器症状を来しやすくなることがあるため、揚げ物や高脂肪食品を避ける。・食物繊維:女性は21~25g/日、男性は30~38g/日。果物、野菜、全粒穀物などが推奨される。食事のみではこの推奨量を満たすことができない場合は、サプリメントの利用を検討。・水分:2~3L/日を摂取。水、低カロリー飲料、低脂肪乳製品などが推奨され、カフェイン入り飲料は控えるか摂取しない。 このほかに、微量栄養素の不足が生じないように、マルチビタミンやカルシウム、ビタミンDなどのサプリメントを適宜摂取することを推奨している。また臨床医に対する推奨として、抗肥満薬使用中の患者では栄養状態のモニタリングの必要があると記している。 本研究には関与していない米エモリー大学のJessica Alvarez氏は、「減量効果のみに焦点を当てた肥満治療は不完全だ。本論文は、抗肥満薬による治療に際して徹底した栄養評価を行う必要性を述べた重要なガイドと言える。抗肥満薬の使用中には、適切な栄養を確保して栄養失調を避け、筋肉量の減少を防ぐため、何をどれだけ食べるべきかといった詳細な患者指導が求められる」と語っている。

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心臓足首血管指数は心不全の予後と関連

 動脈硬化の指標とされる心臓足首血管指数(cardio-ankle vascular index;CAVI)は、心不全入院患者の予後と有意に関連するという研究結果が発表された。東邦大学大学院医学研究科循環器内科学の木内俊介氏らが日本人患者を対象に行った研究であり、「Journal of Clinical Medicine」に5月6日掲載された。 大動脈は「Windkessel効果」と呼ばれる機能を持ち、収縮期に左室から拍出された血液の一部は大動脈に蓄えられ、その血液は拡張期に末梢に送り出される。この血管機能の破綻は心不全の一因とされるが、血管機能障害と心不全の予後との関係は完全には解明されていない。また、心不全の治療は進歩しているものの、心不全患者の死亡率や再入院率は低下しておらず、適切な予後の評価と治療が重要となる。 そこで著者らは、2012年1月から2018年7月に東邦大学医療センター大森病院に入院後、退院して1年間追跡できた心不全患者214人を対象とする後方視的研究を行った。血圧は入院時と退院時に測定され、CAVIは心不全の改善後に評価された。心血管死亡または心不全による再入院を主要有害心イベント(major adverse cardiac event;MACE)と定義し、退院後1年間のMACE発生に関連する因子を調査した。 その結果、MACE発生群(57人)はMACE非発生群(157人)と比べて、退院時の平均年齢が高く(70.9±10.1歳対64.2±13.9歳)、男性の割合が低く(56.1%対73.2%)、BMI平均値が低く(21.4±5.0対23.8±4.9)、心不全の既往歴(42.1%対21.7%)と慢性腎臓病の既往歴(82.5%対51.0%)のある人の割合が高いなどの特徴が認められた。 また、MACE発生群の方が、入院時の胸部X線による心陰影および経胸壁心エコーによる左室サイズが有意に大きく、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の割合が有意に高かった。入院時の収縮期血圧、拡張期血圧は両群間で有意差はなかったが、CAVIに有意差が認められた。MACEリスクとの関連について、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析を行った結果、CAVIはMACE発生の独立予測因子であることが明らかとなった(モデル1:ハザード比1.33、95%信頼区間1.05~1.68、モデル2:同1.31、1.07~1.60)。 さらに、ROC曲線から、MACE発生を予測するCAVIのカットオフ値は9.0であることが示された(感度0.554、特異度0.754、AUC 0.66)。このカットオフ値を用いて生存曲線を比較すると、CAVI高値群は低値群と比べて、MACE発生率が有意に高かった。MACEのうち、心血管死亡率についてはCAVI高値群と低値群で有意差は示されなかったが、心不全による再入院率では有意差が認められた。 以上の結果から著者らは、「CAVI高値は心不全の予後不良と関連するため、これらの患者にはより慎重な治療が必要だ」と述べている。また、今回の研究は後方視的研究であり、患者のQOLや生活環境、看護ケアなどは評価していないと説明し、より大規模な前向き研究の必要性を指摘している。

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経口選択的心筋ミオシン阻害薬aficamtenは症候性の閉塞性肥大型心筋症患者の最高酸素摂取量を有意に増加する(解説:原田和昌氏)

 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)患者の運動耐容能低下、および運動を制限する症状の主な決定因子の1つは、左室流出路狭窄による心内圧上昇である。経口選択的心筋ミオシン阻害薬aficamtenは、心筋の過収縮を抑制することで左室流出路圧較差を減少させる。SEQUOIA-HCM試験は症候性HOCMを有する成人を、aficamtenまたはプラセボに無作為に割り付けた第III相二重盲検試験である。PIのMaron MS氏はMaron BJ先生の息子さんである。 主要エンドポイントは最高酸素摂取量のベースラインから24週までの変化量で、心肺運動負荷試験にて評価した。副次的エンドポイントは24週までのKCCQ-CSSの変化量、NYHA機能分類の改善、バルサルバ手技後の圧較差の変化量、バルサルバ手技後の圧較差30mmHg未満、中隔縮小治療の適応の有無、およびこれらの12週までの変化量、24週での心肺運動負荷時の総仕事量の変化であった。 平均年齢は59.1歳、59.2%が男性であり、ベースラインの安静時左室流出路圧較差の平均値は55.1mmHg、左室駆出率の平均値は74.8%であった。24週で最高酸素摂取量の変化量の平均値は、aficamten群1.8mL/kg/分、プラセボ群0.0mL/kg/分であった(群間差のp<0.001)。β遮断薬の有無でaficamtenの効果に差はなかった。副次的エンドポイントはすべてaficamten群でプラセボ群よりも有意に改善し、有害事象の発現率は同程度であった。NT-proBNP値はプラセボ群と比較してaficamten群で有意に低下した。 閉塞性肥大型心筋症にはmavacamtenがFDA承認されているが、aficamtenは結合部位が異なり選択性が高いという。また、半減期が短いため用量が漸増しやすく、効果消失もより短期間である。EFの過度の低下は認められていないが、一部NYHA 機能分類の改善に乏しい患者が存在することには、注意が必要である。ちなみに「ミオシン調整薬」であるmavacamtenのHFpEFに対する第II相試験が、すでに始まっている。

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昔と変わったメーカーや卸とのお付き合い【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第133回

薬局で関わる人といえば、医療機関のスタッフさんや患者さん、医薬品卸さんや製薬メーカーのMRさんなどがいますよね。医療機関のスタッフさんや患者さんは、薬局にとってはお客さんでもあるので、大事に丁寧に対応する薬局が多いと思いますが、卸さんや製薬メーカーのMRさんへの対応というのが、薬局の本性が出るというか、社会人としての対応が試される場面ではないかと思います。その卸さんや製薬会社との関係や対応について、昨今変化が生じています。今回は、直近で話題になった2件を紹介します。まず、「1社流通」についてです。製薬企業による取引卸の絞り込みや1社流通をめぐり、新たな「流通改善ガイドライン」で丁寧な情報提供の必要性が盛り込まれたのちも、現場の不満は止まらない状況だ。日本病院薬剤師会が15日に都内で開いた通常総会では、そもそも取引卸を限定することが医療機関へ十分に伝わっていないうえ、製品ごとの取扱卸が「わかりにくい」と訴える声が噴出。どこに注文すればいいかウェブで検索できるよう、メーカーが取扱卸の情報を「自社サイトですみやかに公表してほしい」と求める意見が出た。(2024年6月17日付 RISFAX)2019年ごろから、外資の製薬メーカーを中心に、製薬メーカー主導による卸の絞り込みが始まっています。実際にその影響を受けている薬局や医療機関もあるでしょう。薬局としては、リスクヘッジになったり価格交渉の手段になったりするので、複数の卸さんから購入できたほうがよいに決まっています。このような状況を受け、厚生労働省は2024年3月に流通改善ガイドラインを改訂しました。1社流通を禁止するとはなりませんでしたが、「1社流通を行うメーカーは、自らまたは卸と協力して医療機関や薬局に対して丁寧に情報提供を行うこと」と注意を呼びかけました。しかしながら、昨今の医薬品供給不安も重なり、医療機関や薬局からは「わかりにくい」「調べるのに時間がかかっている」などと不満の声が上がっています。どの卸からでも買えるという状況は、メーカー側にとっては負担があるため、1社流通がなくなるとは思えませんが、情報提供体制の整備などはぜひ進めてほしいなと思います。次に、公正競争規約(公競規)違反についてです。医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(卸公取協)より、2023年度に2件の違反があったことが発表されました(2024年6月3日付 日刊薬業より)。卸社長が知人の医療従事者を利害関係者として認識できずにコンサートチケットの無償提供を行った。卸のMSが、無償で医療機関に対し開業支援や勉強会などのコンサルティング業務に当たった。この2つの事例は、6段階ある措置のうち最も軽い「注意」とされ、協議会が当該企業に注意が行われました。また、この他にも、薬局などが医薬品の返品時に備え、どの卸から購入した製品かを分別する「シール貼り」をMSにやらせたという報告、お中元やお歳暮の買い出しの手伝い、輸液などの棚上げなどについて、MSやMRに依頼したという報告も上がっているようです。これらは依頼された側が断ったことで措置を講ずるまでには至りませんでした。いわゆる、薬局と卸さんとの関係、薬局と製薬メーカーとの関係において、無理な取引やお願いを強いていることなどはありませんか? 薬局での対応は、実はいろんな人に見られていて、公競規違反として罰せられることがありますので注意が必要です。

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「生活習慣病の療養指導計画」の減量目標の設定にとまどっている患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第47回

■外来NGワード「体重を減らしなさい」(あいまいな設定)「もっと食事に気を付けなさい」(あいまいな食事療法)「間食を止めなさい」(達成不可能な行動目標の設定)■解説2024年6月1日から診療報酬が改定となり、糖尿病・高血圧・脂質異常症が特定疾患療養管理料の対象疾患から除外され、「生活習慣病管理料(II)」となりました。外来の診察の中で、管理目標(体重、HbA1c、血圧、脂質)を各学会の診療ガイドラインなどに従って決定し、個々の患者さんに応じた目標設定や生活指導を行い、診察終了後に療養計画書を渡し、署名(サイン)してもらうことになります。ただし、在宅自己注射指導管理料などを算定している患者さんは除きます。具体的な減量目標や行動目標を患者さんとともに設定することが、生活習慣病の療養指導につながります。また、管理目標や行動目標を設定する手順をフォーマット化しておくことで、医師の負担軽減にもつながります。生活習慣病の療養指導計画について説明した後、肥満を伴う生活習慣病患者の場合、減量目標を設定します。3%減、5~10%減、10~15%減、15%減以上など目的に応じて設定を変えます。まずは、「目標とする体重はどれくらいですか?」と理想とする大きな減量目標を尋ねます。その減量目標がすぐに達成不可能と考えられる場合には、3ヵ月とか期限を区切り、現実的な減量目標を再設定します。そして、その減量目標を達成するために必要なエネルギー摂取量の減少の目安について説明します。古くは1ポンド(約450g)減で3,500kcal減のエネルギー収支とする“Wishnofsky's rule”というのがありますが、たまに食べ過ぎることもあるので「3ヵ月で3kg減なら300kcal減」(2kg減なら200kcal減、1kg減なら100kcal減)と伝えおくと、何をすればよいか患者さんもイメージしやすくなります。このように患者さんに尋ねながら、目標を患者さんと共に計画を立てることで、治療の満足度も上がります。■患者さんとの会話でロールプレイ医師〇〇さん、今年の6月から国の診療報酬が改定となり、「療養指導計画」を作ることになりました。患者「療養指導計画」、それは何ですか?医師これです。(療養指導計画をみせながら)今からいくつか質問していきますね。患者いいですよ。先生も大変ですね。(気遣ってくれる言葉)医師いえいえ、ありがとうございます。最初の質問は、目標とする体重はいくつくらいですか?(減量目標の設定)患者そうですね。今は70kgですが、若い頃は痩せていたので…50kg台にはなりたいです。医師なるほど。それはいいですね。大きな目標はそれにして、3ヵ月だとどうですか?(期間を限定する)患者3ヵ月ですか…(少し考えてから)それなら、2kg減にします。医師それは、いい目標ですね。2kg減量すれば、血液検査の結果も良くなると思いますよ。(肥満体重の3%減の効果を説明)患者そうですか。それなら頑張らなきゃ…。医師3ヵ月で2kg減なら、1日当たり200kcal減らすといいですよ。(食事制限の目安を提示)患者なるほど。200kcal減ですか…。ご飯は気を付けているし、やっぱり間食ですかね。(気付きの言葉)医師それでしたら、「間食を控える」ことを目標にしましょうか。次回は、間食を控える工夫についてお話ししますね。患者はい。頑張って、やってみます。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「目標とする体重はいくらくらいですか?」(大きな減量目標の設定)「3ヵ月なら、どのくらいの減量目標になりますか?」(現実的な減量目標の再設定)「3ヵ月で3kg痩せるなら、1日当たり300kcal減するといいですよ!」(減らすべきエネルギー量の提示) 1)Ryan DH, et al. Curr Obes Rep. 2017;6:187-194.2)WISHNOFSKY N. Metabolism. 1952;1:554-555.3)坂根直樹編著. 朝晩ダイエットでスマートライフ.2023;東京法規.

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「良かった!」と言われる教育講演やメンタルヘルス研修のコツ【実践!産業医のしごと】

産業医には、衛生委員会やメンタルヘルス研修など、多岐にわたる契約企業に対する教育活動の機会があります。そのうちの1つである「衛生講話」は、産業医が健康管理や衛生管理を目的に、安全衛生委員会で行う短時間の研修です。衛生講話には法的な実施義務はなく、事業所で独自に行う活動です。私も契約企業から毎月の衛生講話の依頼を受けており、最初は毎月何を話すか悩むこともありました。効果的な教育内容を提供するためには、適切な教育設計が重要です。そこで今回は、教育効果を高めるためのポイントや、忙しい中でも効率的に資料を作成する方法を紹介します。1. 教育活動は産業医を知ってもらう「チャンス」産業医が教育活動を行う機会は多く、代表的なものには安全衛生委員会、新入社員研修、ラインケア研修、労働衛生教育などがあります。産業医の通常活動である相談や面談は個別対応が多いため、実際に接するのは全社員の数%、ということが多いでしょう。一方で、教育は多くの社員に情報を伝える絶好の機会です。職場全体の安全意識やヘルスリテラシーを向上させるためには、教育研修の機会を積極的に活用することが重要です。教育活動には、資料作成などの準備が必要ですが、産業医を知ってもらう良い機会でもあります。産業医活動は予防医学であり、教育を通じて職場全体に健康や安全の重要性を伝えることができます。このチャンスを逃さないようにしましょう。2. ポイントは「計画」と「設計」効果的な教育には、事前の「計画」と「設計」が欠かせません。以下のステップを踏んで資料を作成しましょう。1)受講者は「誰か」まず、受講者がどのような人なのかを考えます。受講者の中には業務命令で参加する人も多く、モチベーションの低い人もいます。また年齢や性別、役職などによっても、話の内容は変わります。受講者のニーズを意識するためにも、対象者の分析は重要です。2)受講者は「何を」知りたいか産業医が伝えたいことを一方的に話すだけでは、学習効果は高まりません。受講者が「自分に関係のある内容だ」と感じることで、講義への興味やモチベーションが高まります。とくに業務命令で参加するモチベーションの低い受講者に対しては、彼らが直面する具体的な課題や問題を取り上げ、それに対する解決策を提示することで、講義の価値を感じてもらうことができます。3)受講者に「どうなって」ほしいのか教育の目的と具体的な学習のゴールを設定します。ゴールとは、「何を、どのような条件で、どれくらいできるようになるか」を考えることです。たとえば、睡眠に関する教育を行う場合、受講者に知識を得てもらうよりも、「自らの睡眠を改善する行動をとれるようになる」ことをゴールに設定します。その場合、研修の初めに「睡眠をチェックした結果を振り返りながら、最後に良い睡眠のための行動目標を1つ決めましょう」と具体的なゴールを設定しておくと、受講者が研修を通じて何を考えるべきかが明確になります。4)受講者にも「参加」してもらう効果的な研修を行うためには、アクティブラーニングの導入が重要です。アクティブラーニングとは、参加者が主体的に学習に関与する教育手法であり、学習効果を高める効果があるとされています。受動的な講義よりも、研修の中にグループディスカッションやロールプレイングといった受講者が参加するステップを入れることで、高い学習効果をもたらします。時間の制約などで受動的な講義になる場合にも、簡単なアクティブラーニングを入れる工夫をしましょう。講義中に質問を投げ掛けてグー・チョキ・パーの3択で回答してもらう、考えを1分で紙に書いてもらう、隣の人と話し合う・意見交換する、などのステップを取り入れるだけでも大きな効果があります。より具体的には、糖尿病の衛生講話をする場合であれば、「1日の必要カロリーを計算してもらう」「おにぎり1個に必要なウォーキング時間を3択で回答してもらう」などのアクティブラーニングを取り入れることで、参加者が積極的に学び、学習内容が定着しやすくなります。3. 信頼できる「ネタ元」を確保する毎月衛生講話の資料を作成するのは大変ですが、信頼できる情報源を活用することで効率化できます。厚生労働省や学会のサイト、製薬会社や医師向け情報サイトなど、信頼性の高い情報源を利用しましょう。また、健康教育や労働衛生教育に関する資料を提供している書籍や研修会を活用することも有効です。たとえば、『使える! 健康教育・労働衛生教育65選』(森 晃爾 編、日本労務研究会、2020年)という書籍には、版権フリーで使用できるパワーポイントデータが収載されています。また、産業医アドバンスト研修会のサイトでは、産業医のスキルアップのためのオンライン勉強会として、毎月衛生講話の資料が提供されています。これらのリソースを活用することで、資料作成の手間を省くことができます。まとめ産業医として効果的な労働衛生教育を行うことは、幅広い労働者に予防活動を提供するために重要です。しかし、教育の準備が不十分であれば、ゆですぎた麺のように歯応えがなく、がっかりされるかもしれません。一方で、教育の質を向上させる工夫を続けることで、皆が「この産業医、頼りになるな!」と思ってくれるはずです。皆さんと一緒に、良い教育を通じて、労働者の健康と安全を守っていきましょう!参考柴田 喜幸. 産業保健スタッフのための教え方26の鉄則 イケてる健康教育はインストラクショナルデザインで作る!. 中央労働災害防止協会;2020.

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英語で「絶飲食」は?【1分★医療英語】第136回

第136回 英語で「絶飲食」は?《例文》患者 I am hungry, Can I eat something?(おなかがすいたのですが、何か食べてもいいですか?)看護師The doctor instructed you to be on NPO for the procedure this afternoon.(この午後の検査のために、医師から絶飲食の指示がありました)《解説》今回は“NPO”という表現の解説です。元々はラテン語で“nil per os”を指し、英語では“nothing by mouth”が同じ意味になります。直訳では「口から何も入れない」つまり「絶飲食」という意味です。米国の医療現場ではこれを略した“NPO”(エヌピーオー)という用語を頻繁に使います。手術、全身麻酔の前や経口摂取が困難で輸液のみで管理したいときに、「“NPO”にしましょう」というように使われます。「彼は絶飲食です」と伝えたいときには、“He is on NPO”というように“on”を用います。補足ですが、《例文》の“procedure”という単語は、医療の領域においては広く「手技を用いるもの」全般を指します。ですので、胃カメラ、生検、手術などは全部“procedure”で表すことが可能です。講師紹介

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悪寒戦慄の重要性【とことん極める!腎盂腎炎】第3回

悪寒戦慄ってどれくらい重要ですか?Teaching point(1)悪寒戦慄は菌血症を予測する症状である(2)重度の悪寒戦慄をみたら早期に血液培養を採取すべし《今回の症例》基礎疾患に糖尿病と高血圧、脂質異常症がある67歳女性が半日前に発症した発熱と寒気で救急外来を受診した。トリアージナースより、体温以外のバイタルは落ち着いているが、ガタガタ震えていて具合が悪そうなので準緊急というより緊急で診察をしたほうがよいのでは、という連絡を受け診察開始となった。症状としては頭痛、咽頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、下痢、腰痛などの症状はなく、悪寒戦慄と全身の痛み、倦怠感を訴えていた。general appearance:ややぐったり、時折shiveringがみられる意識清明、体温:39.4℃、呼吸数:18回/分、血圧:152/84mmHg、SpO2 99%、心拍数:102回/分頭頸部、胸腹部、四肢の診察で目立った所見はない。簡易血糖測定:242mg/dLqSOFAは陰性ではあるが、第1印象はぐったりしていて、明確な悪寒と戦慄がある。診察上は明確な熱源が指摘できない。次にどうするべき?1.悪寒戦慄は菌血症の予測因子である菌血症は、感染症の予後不良因子であり、先進国の主要な死因の上位7番目に位置する疾患である1)。具体的には、市中感染型菌血症の1ヵ月率は10~19%、院内血流感染症の死亡率は17~28%である2)。したがって菌血症の早期予測は、迅速な治療開始を助け、臨床転帰の改善につながるため重要である。そして悪寒や戦慄、いわゆる“chill”は発熱以外で菌血症の鑑別かつ有効な予測因子として報告がある唯一の症状である。では悪寒はどれくらい菌血症を予測できるのだろうか?まとめて調べた文献によると3)、発熱がある患者:陽性尤度比(LR+)=2.2、陰性尤度比(LR−)=0.56発熱がない患者:LR+=1.6、LR−=0.84といわれている。そして徳田らの報告4)では、shaking chill(厚い毛布にくるまっていても全身が震え、寒気がする悪寒):LR+=4.7moderate(非常に寒く、厚手の毛布が必要な程度の悪寒):LR+=1.7mild(上着が必要な程度の悪寒):LR+=0.61のように悪寒の重症度がより菌血症に関連することを報告されている。したがって、悪寒や戦慄の病歴聴取は重要だが、shaking chillかどうかまで踏み込んでの病歴聴取が望ましいといえる。さらに、悪寒のあと2時間以内が血液培養が陽性になりやすいという報告5)もあるので、悪寒や戦慄をみかけたらすかさず血液培養を採取するのがおすすめだ。なお、腎盂腎炎においても悪寒は菌血症の予測因子といわれている6)が、何事にも例外はあり、インフルエンザで悪寒を経験した読者もいるであろう。悪性リンパ腫や薬剤熱でも悪寒は来すので過信は禁物となる。2.悪寒戦慄は腎盂腎炎診療でも大事な症状である腎臓は血流豊富な臓器であり、急性腎盂腎炎において42%で血液培養が陽性になるといわれている7)。そして側腹部痛か叩打痛があり、膿尿か細菌尿があれば腎盂腎炎は適切な鑑別診断といえるが8)、腎盂腎炎は下部尿路症状(排尿時痛、頻尿、恥骨部の痛み)、上部尿路症状(側腹部痛やCVA叩打痛陽性)を来す頻度は多いとはいえない。実地臨床では悪寒戦慄、ぐったり感(toxic appearance)、嘔気や倦怠感という症状が主訴になる腎盂腎炎は少なくなく、その場合は血液培養が腎盂腎炎の診断に役立つ8)。合併症のない腎盂腎炎における血液培養に関しては議論の分かれることではあるが9,10)、それは腎盂腎炎の検査前確率が高いという臨床状況においての話であり、前述のように尿路症状がなく悪寒戦慄やぐったり感(toxic appearance)がメインでの場合は敗血症疑いであれば1h bundleの達成、すなわち感染症のfocus同定とバイタルの立て直しと血液培養採取と抗菌薬投与を早急に行わなければならない11)。また、菌血症疑いの状況であっても血液培養の取得は必要になる。したがって悪寒戦慄のチェックは重要であるといえる。3.菌血症の疫学を抑える菌血症の頻度が多い疾患はどのようなものだろうか?血液培養で何が陽性になったか、患者の基礎疾患や症状にもよるが全体的な頻度としては尿路感染症22〜31%、消化管9〜11%、肝胆道7〜8%、気道感染(上下含む)9〜20%、不明18〜23%が主な頻度となる12-14)。このデータと各感染症の臨床像から考えるに、明確な随伴症状やfocusがなく悪寒戦慄があり、菌血症を疑う患者で想定すべきは尿路感染、胆道系感染、血管内カテーテル感染といえるだろう。逆に肺炎は発熱の原因としては頻度が高いが血液培養が陽性になりにくい感染症であり、下気道症状がなく症状が発熱と悪寒のみの状況であれば肺炎の可能性はかなり低いと考えられる。4.血液培養採取のポイントを抑える血液培養の予測ルールに関してはShapiroらのルールの有用性が報告されている。やや煩雑だが2点以上で血液培養の適応というルールである。特異度は29〜48%だが、感度は94〜98%と高く外的妥当性の評価もされているのが優れている点になる(表)15,16)。画像を拡大するその他、簡易的なものとしては白血球の分画で時折みられるband(桿状好中球)が10%以上(bandemia)であれば感度42%、特異度91%、オッズ比7.15で菌血症を予測するという報告もある2)。そのためbandemiaがあれば血液培養採取を考慮してもよいと思われる。1)Goto M, Al-Hasan MN. Clin Microbiol Infect. 2013;19:501-509.2)Harada T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:22753)Coburn B, et al. JAMA. 2012;308:502-511.4)Tokuda Y, et al. Am J Med. 2005;118:1417.5)Taniguchi T, et al. Int J Infect Dis 2018;76:23-28.6)Nakamura N, et al. Intern Med. 2018;57:1399-1403.7)Kim Y, et al. Infect Chemother. 2017;49:22-30.8)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.9)Long B, Koyfman A. J Emerg Med. 2016;51:529-539.10)Karakonstantis S, Kalemaki D. Infect Dis(Lond). 2018;50:584-5911)Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:e1063-e1143.12)Larsen IK, et al. APMIS. 2011;119:275-279.13)Pedersen G, et al. Clin Microbiol Infect. 2003;9:793-802。14)Sogaard M, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:61-69.15)Shapiro NI, et al. J Emerg Med. 2008;35:255-264.16)Jessen MK, et al. Eur J Emerg Med. 2016;23:44-49.

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第220回 1型糖尿病患者が細胞移植治療でインスリン頼りを脱却

1型糖尿病患者が細胞移植治療でインスリン頼りを脱却幹細胞から作るVertex Pharmaceuticals社の膵島細胞VX-880移植治療の有望な第I/II相FORWARD試験結果がこの週末の米国糖尿病協会(ADA)年次総会で報告されました。VX-880が投与された1型糖尿病(T1D)患者のインスリン使用が減るか不要となっており、1回きりの投与でインスリンに頼らずとも済むようになる可能性が引き続き示されています1,2)。最近の調査結果によると、先進の技術使用にもかかわらず、T1D患者の6%ほどが低血糖の自覚困難で誰かの助けを要する深刻な低血糖を繰り返し被っています3)。低血糖はT1D患者にしばしば認められます。しかしT1D患者は時と共にその自覚が困難になることがあり、その症状を感じられなくなる恐れがあります。自覚なく治療されずじまいの低血糖はやがて混乱、昏睡、発作、心血管疾患などの深刻な低血糖イベント(SHE)を招き、下手すると死に至ります。FORWARD試験は先立つ1年間のSHE回数が2回以上で、低血糖の自覚が困難なT1D患者を募って実施されています。当初の被験者数は17例でしたが、良好な結果が得られていることを受けてさらに約20例が試験に加わることになっています。当初の予定人数の17例はすでに組み入れ済みで、そのうち14例はVX-880投与に至っています。VX-880はヒト幹細胞から作られる膵島細胞を成分とし、試験では被験者の肝門脈に注入されました。VX-880が投与された14例のうち、目標用量(full dose)が1回きり投与された12例の経過は良好で、全員に膵島細胞が定着しました。投与前には生来のインスリン分泌の指標であるCペプチドが空腹時に検出できませんでしたが、VX-880投与後90日までに糖に応じたインスリン生成が確認されています。12例中11例はインスリン投与が減るか不要になりました。経過180日を過ぎた10例のうち7例はインスリン投与が不要となり、2例は日々のインスリン使用がおよそ70%少なくて済むようになりました。最終観察時点で12例全員のHbA1cは米国糖尿病協会(ADA)が掲げる目標である7%未満に落ち着いており、常時測定の糖濃度は70%超のあいだ目標範囲である70~180mg/dLに収まっていました。少なくとも1年間が経過した3例はSHEなしで90日目以降を過ごせており、インスリンに頼ることなくHbA1c 7%未満を達成しています。主だった血糖指標一揃いの大幅な改善、SHEの抑制、インスリン投与頼りの脱却の効果をみるに、VX-880はT1Dの治療を根底から変え、患者の負担を大幅に軽減しうると試験医師の1人Piotr Witkowski氏は言っています2)。玉に瑕なことにVX-880投与患者は免疫抑制治療を続ける必要があります。VX-880で備わった膵島細胞を守って免疫に排除されずに居続けられるようにするためです。そこでVertex社は免疫抑制治療不要の細胞治療VX-264の開発も進めています。VX-264はVX-880に免疫から守る覆いをつけたものであり、VX-880と同様に第I/II相試験が進行中です4)。参考1)Expanded FORWARD Trial Demonstrates Continued Potential for Stem Cell-Derived Islet Cell Therapy to Eliminate Need for Insulin for People with T1D / PRNewswire2)Vertex Announces Positive Results From Ongoing Phase 1/2 Study of VX-880 for the Treatment of Type 1 Diabetes Presented at the American Diabetes Association 84th Scientific Sessions / BUSINESS WIRE 3)Sherr JL, et al. Diabetes Care. 2024;47:941-947.4)NCT05791201(ClinicalTrials.gov)

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日本における入院患者のせん妄に対する新規睡眠導入薬の予防効果〜レトロスペクティブコホート研究

 新規睡眠導入薬であるラメルテオン、スボレキサント、レンボレキサントなどは、せん妄の高リスク患者の予防に有用であることが示唆されている。しかし、入院患者において、すべての新規睡眠導入薬のせん妄予防効果を同時に評価した研究は、これまでなかった。久留米大学の逸見 竜次氏らは、精神疾患以外で一般内科および外科に入院し、不眠症のリエゾン介入を受けた患者を対象に、睡眠導入薬の使用とせん妄予防との関連を明らかにするため、本研究を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2024年6月3日号の報告。 精神疾患以外で一般内科および外科に入院し、不眠症の相談・リエゾンのために精神科医のコンサルトを受けた患者を対象に、レトロスペクティブコホート研究を実施した。せん妄の診断は、精神科専門医がDSM-Vを用いて行った。せん妄発症と関連する因子として、睡眠導入薬の種類、年齢、性別、せん妄リスク因子を診療記録よりレトロスペクティブに調査した。せん妄発症のリスク因子は、多変量ロジスティック回帰分析による調整オッズ比(aOR)として算出した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象患者710例のうち、257例(36.2%)がせん妄を発症した。・スボレキサント(aOR:0.61、95%信頼区間[CI]:0.40〜0.94、p=0.02)、レンボレキサント(aOR:0.23、95%CI:0.14〜0.39、p<0.0001)の使用は、せん妄発症リスクを有意に低下させた。・ベンゾジアゼピン(aOR:1.90、95%CI:1.15〜3.13、p=0.01)の使用は、せん妄リスクを有意に増加させた。・ラメルテオン(aOR:1.30、95%CI:0.84〜2.01、p=0.24)およびZ薬(aOR:1.27、95%CI:0.81〜1.98、p=0.30)は、せん妄リスクとの有意な関連が認められなかった。 著者らは、「さまざまな疾患により入院している患者のせん妄予防に対し、スボレキサントとレンボレキサントの使用が有用である可能性が示唆された」としている。

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医師が年収アップのために行っていることは?/医師1,000人アンケート

 ケアネットでは、2月20日(火)に会員医師1,004人を対象に、「年収に関するアンケート」を実施した。その中で、自身のワークライフバランスの希望や、年収を増やすために行ったこと/行っていることについて尋ねた。 調査では、年収とワークライフバランスの希望について、(1)勤務時間は大きく増えてもよいので、年収を大きく増やしたい、(2)勤務時間は少し増えてもよいので、年収を少し増やしたい、(3)年収は少し減ってもよいので、勤務時間を少し減らしたい、(4)年収は大きく減ってもよいので、勤務時間を大きく減らしたい、の4つから最も近いものを選んでもらった(以下、それぞれ「勤務時間大きく増/年収大きく増」、「勤務時間やや増/年収やや増」、「勤務時間やや減/年収やや減」、「勤務時間大きく減/年収大きく減」)。年収を増やすために行ったこと/行っていることはフリーコメントで記載してもらった。年収3,000万円以上はさらに大きく年収アップを希望 全体では、「勤務時間大きく増/年収大きく増」が11%、「勤務時間やや増/年収やや増」が47%、「勤務時間やや減/年収やや減」が38%、「勤務時間大きく減/年収大きく減」が3%で、約60%の医師が年収アップを優先していた。「勤務時間大きく増/年収大きく増」を最も多く希望していたのは、最高年収帯であった年収3,000万円以上の医師(20%)であった。年代別では、年代が上がるほど勤務時間の減少を希望していた。「勤務時間大きく増/年収大きく増」は男性で顕著 男女別にみると、男性では「勤務時間大きく増/年収大きく増」が12%、「勤務時間やや増/年収やや増」が48%、「勤務時間やや減/年収やや減」が36%、「勤務時間大きく減/年収大きく減」が4%であった一方、女性ではそれぞれ5%、43%、49%、3%であり、男女差が明確になった。男性のほうが「勤務時間大きく増/年収大きく増」を望む傾向は、どの年代でも同様であった。「勤務時間大きく増/年収大きく増」を最も希望するのは総合診療科 病床数別では、「勤務時間大きく増/年収大きく増」および「勤務時間やや増/年収やや増」と回答したのは、20床未満が51%、20床以上が61%であった。勤務先別では、一般診療所が55%、一般病院が57%、大学病院が73%であった。「勤務時間大きく増/年収大きく増」と回答した割合が多かった診療科は、総合診療科(36%)、呼吸器外科(25%)、耳鼻咽喉科(24%)であった。年収を増やすために行ったこと/行っていることは? 最後に、これまで年収アップのために行ったこと/行っていることをフリーコメントで回答してもらった。残業やアルバイトが圧倒的に多かったが、長期的な年収アップを目指して資格取得や留学、技術習得に励むなど、多岐にわたる回答が寄せられた。また、人脈を広げたり、外勤先のスタッフ/職員との関係を良好に保ったりするなど、人間関係の重要性も伺えた。 その他、年代ごとの男女別、病床数別、勤務先別などの詳細な年収分布については、以下のページで結果を発表している。医師の年収に関するアンケート2024【第5回】ワークライフバランス

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米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)※は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。全166ページの報告書となっている。本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。 本定義によると、「Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する」としている。 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。主な症状は以下のように記載されている。・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。 報告書によると、新たなLong COVIDの定義は、臨床ケアと診断、医療サービス、保険適用、障害給付、学校や職場の宿泊施設の適格性、公衆衛生、社会サービス、政策立案、疫学とサーベイランス、民間および公的研究、とくに患者とその家族や介護者に対する一般の認識と教育など、多くの目的に適用できるという。※NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

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重症敗血症へのβ-ラクタム系薬投与、持続と間欠の比較(BLING III)/JAMA

 重症敗血症患者に対するβ-ラクタム系抗菌薬による治療では、間欠投与と比較して持続投与は、90日の時点での死亡率に有意差を認めないことが、オーストラリア・Royal Brisbane and Women's HospitalのJoel M. Dulhunty氏らが実施した「BLING III試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年6月12日号で報告された。7ヵ国104のICUで無作為化第III相試験 BLING III試験は、7ヵ国の104の集中治療室(ICU)で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2018年3月~2023年1月に参加者を登録し、2023年4月に90日間の追跡を完了した(オーストラリア・国立保健医療研究評議会などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、ICUに入室し、無作為化前の24時間以内にタゾバクタム・ピペラシリンまたはメロペネムの投与を開始した敗血症患者7,031例(平均年齢59[SD 16]歳、女性35%)を登録し、処方された抗菌薬を持続静注する群に3,498例、間欠静注する群(対照群)に3,533例を無作為に割り付け、担当医が決定した期間またはICU退室のいずれか早い期日まで投与した。 主要アウトカムは、無作為化から90日以内の全死因死亡とした。90日死亡率、持続投与群24.9% vs.間欠投与群26.8%で有意差なし 最も頻度の高い主要感染部位は肺(4,181例、59.5%)で、次いで腹腔内(916例、13.0%)、血液(562例、8.0%)、泌尿器(380例、5.4%)の順であった。投与期間中央値は、持続投与群が5.8日(四分位範囲[IQR]:3.1~10.2)、間欠投与群は5.7日(3.1~10.3)だった。 90日以内に、持続投与群の3,474例中864例(24.9%)、間欠投与群の3,507例中939例(26.8%)が死亡し(絶対群間差:-1.9%[95%信頼区間[CI]:-4.9~1.1]、オッズ比[OR]:0.91[95%CI:0.81~1.01])、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.08)。 事前に定義した5つのサブグループ(肺感染[あり、なし]、β-ラクタム系抗菌薬の種類[タゾバクタム・ピペラシリン、メロペネム]、年齢[65歳未満、65歳以上]、性別、APACHE IIスコア[25点未満、25点以上])のいずれにおいても、90日死亡率に関して持続投与群と間欠投与群に有意な差はなかった。臨床的治癒率は持続投与群で良好 副次アウトカムである14日の時点までに臨床的治癒を達成した患者は、間欠投与群が3,491例中1,744例(50.0%)であったのに対し、持続投与群は3,467例中1,930例(55.7%)と有意に良好であった(絶対群間差:5.7%[95%CI:2.4~9.1]、OR:1.26[95%CI:1.15~1.38]、p<0.001)。 また、他の3つの副次アウトカム(14日以内の新規感染/菌定着/多剤耐性菌またはClostridioides difficile感染、全死因によるICU内死亡、全死因による院内死亡)は、いずれも両群間に有意な差を認めなかった。 有害事象は、持続投与群で10件(0.3%)、間欠投与群で6件(0.2%)発生した。このうち重篤な有害事象は持続投与群の1件で認めた脳症で、誤嚥性肺炎と心停止をもたらし、敗血症性ショックで死亡した。このイベントは、担当医によってメロペネムに関連する可能性があると評価された。 著者は、「効果推定値のCIには、この患者集団におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与には重要な効果がない可能性と、臨床的に重要な有益性がある可能性の両方が含まれる」としている。

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軽い健康問題なら薬剤師による治療が低コストの選択肢に

 薬剤師が軽症の疾患を治療できるようにすることで、患者の治療費を抑えられるとともに、より多くの人が医療にアクセスできるようになり、何百万ドルもの医療費を削減できる可能性のあることが、米ワシントン州立大学薬物療法学准教授のJulie Akers氏らの研究で示された。研究結果は、「ClinicoEconomics and Outcomes Research」に5月3日掲載された。 この研究で検討の対象となった米ワシントン州では、1979年以降、医師から特定の医薬品を処方および投与する許可を得た薬剤師には、患者を治療する法的権利が認められている。薬剤師はその教育の一環として、日常的によく見られる疾患の臨床評価の研修を受けており、OTC医薬品(市販薬)で治療可能な疾患についての助言を行っている。薬剤師が関与できるレベルをさらに上げて、患者を治療する権利である「処方権」を与えれば、薬剤師は、OTC医薬品では不十分な場合に医療用医薬品を処方することも可能になる。 Akers氏らは今回の研究で、2016~2019年にワシントン州の46の薬局で計175人の薬剤師から治療を受けた496人の患者のデータを分析した。同氏らは、患者が薬局を受診した30日後に追跡調査を行い、治療効果を評価した。次に、同様の疾患で診療所や緊急医療クリニック(urgent care clinic)、救急救命室(ER)を受診し、医師による治療を受けた患者の保険データと比較した。患者が治療を求めた原因として最も多かったのは、避妊、喘息、尿路感染症、アレルギー、頭痛の順であった。 その結果、検討したほぼ全ての軽症疾患で、薬局での治療が有効であることが明らかになった。また、軽症疾患は、診療所や緊急医療クリニックの医師が治療するよりも薬局で治療した方が、治療費が平均で約278ドル(1ドル155円換算で約4万3,000円)低くなると推定された。具体的な例を挙げると、合併症のない尿路感染症に対して抗菌薬による治療を行った場合の平均的な費用は、診療所の医師による治療では約121ドル(同約1万8,800円)、ERでの治療では約963ドル(同約14万9,300円)であったが、薬局での治療であれば30ドル(同約4,700円)だった。本研究の3年間の調査期間において、通常の医療機関で治療された全ての軽症疾患が地域の薬剤師によって治療されていた場合、医療費は推定2300万ドル(同約36億5500万円)節約できたものと推算された。 こうした結果を踏まえた上でAkers氏らは、「薬剤師に軽症疾患を治療する権限を与えることは、農村部などの医師へのアクセスが限られている地域に恩恵をもたらす可能性がある」と結論付けている。 Akers氏は、「薬剤師は、特に地域の外来医療において、われわれの州および国が抱える医療アクセスの問題の一部に実行可能な解決策をもたらす」と言う。その上で、「薬剤師はこの仕事ができるように訓練を受け、それを行う資格を持っているが、残念なことに十分に活用されていない場合が多い。しかし薬剤師は、患者がいかに早く医療にアクセスできるかに大きな影響を与え得る。患者が早い段階で医療にアクセスできれば、疾患の複雑化や進行を最小限に抑えられる可能性がある」と付け加えている。 Akers氏はさらに、「われわれは、治療へのアクセスが得られずに苦労している患者が徐々に増えていくのを目の当たりにしている。過去数十年の間、緊急医療クリニックや救急外来などでの医療サービスが不必要な患者がそうしたサービスを利用するのを見てきた」と言う。もし、より多くの州、あるいは連邦政府がこのアプローチを受け入れれば、人々は、薬局でワクチンを接種するのと同じように、この種の医療サービスも薬局に期待できるようになるのではないかとの展望をAkers氏らは示している。 今後の研究では、薬局の医療費請求への移行の支援について検討する予定であるという。Akers氏らは、そのような支援があれば経済的に治療費の自己負担が難しい人々の医療へのアクセスが大幅に向上する可能性があるとの見方を示している。

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睡眠時無呼吸は将来の入院リスクと関連

 睡眠時無呼吸を有する50歳以上の人では症状がない人に比べて、将来、病気で入院するオッズが21%高いことが新たな研究で明らかになった。この研究を実施した米フロリダ大学医学部のChristopher Kaufmann氏は、「この結果は、過体重、健康不良、うつ病といった医療サービス利用の増加に寄与する可能性のある因子を考慮した後でも変わらなかった」と話している。この研究結果は、米国睡眠学会および睡眠研究学会の年次総会(SLEEP 2024、6月1〜5日、米ヒューストン)で発表され、要旨が「Sleep」5月増刊号1に掲載された。 睡眠時無呼吸は、睡眠中に呼吸停止が繰り返し起こることで眠りが妨げられる症状を指し、閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸に大別される。症例が多いのは閉塞性睡眠時無呼吸であり、睡眠中に空気の通り道である上気道が閉塞して呼吸が停止することで発生する。睡眠時無呼吸を未治療でおくと、高血圧、冠動脈疾患、心房細動、脳卒中、2型糖尿病などの健康問題を招く恐れがあることが知られている。 Kaufmann氏らの研究では、加齢に伴い生じる健康問題に関する研究であるHealth and Retirement Studyの2016年と2018年の調査に参加した50歳以上の成人2万115人のデータが分析された。調査参加者は、2016年の調査で睡眠時無呼吸も含めた睡眠障害の有無について、2018年の調査では、その後の医療サービスの利用(入院、在宅医療、ナーシングホームの利用など)の有無について尋ねられていた。参加者の11.8%が睡眠時無呼吸を有していることを報告していた。 人口統計学的属性やBMI、健康状態、抑うつ症状の有無で調整して解析した結果、2016年の時点で睡眠時無呼吸を有していた人では有していなかった人に比べて、2018年に医療サービスの利用を報告するオッズが21%有意に高いことが明らかになった(調整オッズ比1.21、95%信頼区間1.02〜1.43)。医療サービスの中では、入院のオッズが有意に高かったが(同1.21、1.02〜1.44)、在宅医療の利用に有意差は認められなかった(同1.23、0.99〜1.54)。 Kaufmann氏は学会のニュースリリースの中で、「われわれの研究では、睡眠時無呼吸を有する50歳以上の人では有していない人に比べて、将来的に医療サービスを利用する可能性の高いことが示唆された」と述べた上で、「睡眠時無呼吸に対処することは、個人の健康状態を改善するだけでなく、医療資源への負担を軽減し、より効率的かつ効果的な医療提供につながる可能性がある」との考えを示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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日本の大学生の2割がロコモ

 日本の大学生400人以上を対象とした研究の結果、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の有病率が20%を超えていることが示された。また、ロコモと関連する要因は男性と女性で違いがあることも明らかとなった。国際医療福祉大学理学療法学科の沢谷洋平氏、同大学医学部老年病学講座の浦野友彦氏らによる研究であり、「BMC Musculoskeletal Disorders」に5月10日掲載された。 ロコモは、運動器の障害により起立や歩行などの移動機能が低下した状態であり、ロコモが進行すると最終的には介護が必要となる。若年者にも一定の割合でロコモの兆候が見られると報告されているが、10代~20代の若年者を対象とする研究は不足している。また、男性と女性では筋力や体格に違いがあるため、ロコモと関連する要因も性別により異なる可能性がある。 そこで著者らは、医療・福祉を学ぶ大学生413人(平均年齢19.1±1.2歳、男性192人)を対象とする横断研究を2023年4月~7月にかけて実施。日本整形外科学会の基準に準拠し、立ち上がりテスト(下肢筋力)、2ステップテスト(歩幅)、ロコモ25(体の状態・生活状況)の3つの「ロコモ度テスト」を行い、ロコモが始まっている「ロコモ度1」、ロコモが進行した「ロコモ度2」、ロコモがさらに進行して社会参加に支障をきたしている「ロコモ度3」に該当するかどうかを判定した。筋骨格系・身体組成の評価や、身体活動・栄養摂取習慣の調査などを行い、ロコモと関連する要因を男女別に検討した。 その結果、413人中86人(20.8%)がロコモと判定され、そのうちロコモ度1が83人、ロコモ度2が3人だった。性別の内訳は男性が31人(16.1%)、女性が55人(24.9%)であり、ロコモの有病率は女性の方が有意に高かった。 男性では、ロコモの人とロコモでない人の間で、片脚立ち(5秒以上)ができない人の割合および位相角(骨格筋の質の指標)に有意な差が見られた。一方、女性の場合は、体脂肪量、体脂肪率、骨格筋量指数(SMI)、運動器の痛み、握力に有意差が認められた。 次に、ロコモであることを従属変数、ロコモの人とロコモでない人で有意差のあった項目(女性の体脂肪量は除外)を独立変数とする二項ロジスティック回帰分析を行い、ロコモと関連する要因を解析した。その結果、男性では片脚立ちができないこと(オッズ比7.326、95%信頼区間2.035~26.370)、女性では運動器の痛み(同2.985、1.546~5.765)および高い体脂肪率(同1.111、1.040~1.186)が、ロコモと有意に関連していることが明らかとなった。 今回の研究で20.8%の人がロコモに該当したことから、若年期よりロコモの予防策を実施し、健康寿命を延ばすことの重要性が示された。著者らは、生活習慣の質はロコモの関連要因として示されなかったことを挙げ、中高年者との違いにも言及している。若年者のロコモの予防策として、「男性ではバランス能力を高めること、女性では体幹の筋肉を強化することが効果的である可能性がある」とし、さらに、「運動器の痛みについて整形外科専門医に相談し、適切な治療を受けることも重要だ」と述べている。

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