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手術前でもGLP-1受容体作動薬の使用は安全?

 オゼンピックやウゴービなどのGLP-1受容体作動薬を使用している患者が、全身麻酔や鎮静を伴う手術の前に同薬を使用すると、胃の中の残存物を手術中に誤嚥し、窒息する危険性があるとして、手術前に同薬を使用することの安全性に対する懸念が高まりつつある。こうした中、そのような危険性はないことを明らかにしたシステマティックレビューとメタアナリシスの結果が報告された。この研究では、GLP-1受容体作動薬使用患者における胃排出の遅延は36分程度であり、手術中に危険をもたらすほどではないことが示されたという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のWalter Chan氏らによるこの研究結果は、「The American Journal of Gastroenterology」6月号に掲載された。 Chan氏は、「GLP-1受容体作動薬は消化管の運動(胃の蠕動運動)に影響を及ぼすものの、その影響力は、これまで考えられていたほど大きくはない可能性がある」と述べ、「誤嚥の潜在的なリスクを最小化するために、麻酔や鎮静が必要な手術・処置の前の1日間は固形食を控えるなどの軽微な予防策を講じれば、GLP-1受容体作動薬の使用を続けても安全性に問題はないように思われる」と述べている。 研究グループは、手術前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインはまちまちだと指摘する。米国麻酔科学会(ASA)は、患者は選択的手術や処置の前には、最長で1週間、GLP-1受容体作動薬の使用を中止するよう推奨している。一方、米国消化器病学会(AGA)は、固形食の摂取を控えるなどの標準的な術前予防措置を講じた上で予定通りの手術を行うことを勧めている。このように、GLP-1受容体作動薬使用患者の周術期のケアについては統一見解が得られておらず、また確定的なデータも欠如しているのが現状である。 Chan氏らは今回、胃排出能を測定した15件のランダム化比較試験(RCT)のデータを解析した。これらのRCTのうち、胃排出シンチグラフィーにより胃排出能が評価されていた5件のRCT(解析対象者247人)を対象に解析した結果、胃内容物が半減するまでの時間(平均)は、GLP-1受容体作動薬群で138.4分であったのに対し、プラセボ群では95.0分であり、統合された平均差は36.0分であることが明らかになった。一方、残りの10件のRCT(解析対象者411人)ではアセトアミノフェン法を用いて胃排出能の評価を行っていた。これらのRCTを対象にした解析でも、アセトアミノフェンの薬物動態のパラメーター〔血中濃度が最大に達するまでの時間(Tmax)、4時間後および5時間後の薬物血中濃度時間曲線下面積(AUC)〕について、GLP-1受容体作動薬群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった。また、胃排出の遅延が原因で「肺誤嚥を経験した研究参加者はいなかった」と研究グループはブリガム・アンド・ウイメンズ病院のニュースリリースで説明している。 研究論文の筆頭著者である同病院のBrent Hiramoto氏は、「本研究結果に基づき、内視鏡的処置を受けるGLP-1受容体作動薬使用者に対しては、ガイドラインの内容を、『GLP-1受容体作動薬による治療を継続し、手術の前日には流動食のみを摂取し、麻酔を伴う手術前の絶食に関する標準的な指針に従うべきである』という内容に更新することを勧めたい。固形食の摂取に関するより多くのデータが得られるまでは、治療を継続しながら流動食を取るという保守的なアプローチが望ましい」と述べている。

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子どものスクリーンタイム削減に親がすべきこととは?

 常にスマートフォン(以下、スマホ)を手にしている子どもに対してフラストレーションを抱えている親にとって心強い研究結果が明らかになった。子どもをスマホやダブレット、テレビなどのスクリーンベースのデバイス(以下、デバイス)から引き離すことは可能なことが、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のグループによる研究で示されたのだ。同研究では、食事中や就寝時にデバイスの使用を禁止すること、親自身が適切にデバイスを使用する姿を子どもに見せることの2つの実践が最も効果的であることが示されたという。この研究の詳細は、「Pediatric Research」に6月5日掲載された。 論文の筆頭著者である、UCSFベニオフ小児病院の小児科医であるJason Nagata氏は、「この研究結果は、親がトゥイーン(8〜12歳の子ども)やティーンに使える具体的な戦略を示しているという点で心強い。その戦略とは、スクリーンタイムに制限を設けること、子どものデバイスの使用状況の把握に努め、寝室にいる間や食事の時間にはデバイスの使用を禁じることだ」と話す。さらに「子どもに説教している親自身も、これらのことを実践するよう心がけるべきだ」と付け加えている。 Nagata氏らは、米国の思春期の脳の発達に関する研究(ABCD研究)の参加者のうち約1万人の12~13歳の子どものデータを分析した。ABCD研究では、親が「わが子はデバイスを使いながら眠りにつく」などの項目についてどの程度当てはまるのかを、1(全く当てはまらない)から4(強く当てはまる)までの4段階で回答していた。その後、親の評価により子どもの1日のスクリーンタイムをどの程度予測できるのかを調べた。なお、この年代の子どもを対象に選んだ理由についてNagata氏は、「スマホやソーシャルメディアを利用する機会が増える時期であり、その後の習慣を形作る時期でもあるため、思春期が始まったばかりの頃の子どもを対象に調べたいと考えた」とUCSFのニュースリリースの中で説明している。 その結果、子どもの就寝時のデバイスの使用は、1日当たりのスクリーンタイムの1.60時間の増加と関連することが明らかになった。同様に、食事中のデバイスの使用と、親が子どもと一緒にいるときにもデバイスを使用する「悪い手本」である場合も、スクリーンタイムはそれぞれ1.24時間と0.66時間の増加に関連していた。 一方で、食卓や寝室でのデバイスの使用を禁止するルールを設けることは、子どもの1日当たりのスクリーンタイムの1.29時間の減少につながっていた。また、食事中や就寝時の子どものデバイスの使用状況を監視することも効果的で、1日当たりのスクリーンタイムは平均で0.83時間減っていた。このほか、効果がない対策があることも分かった。デバイスの使用を「ご褒美」や「罰」として用いている親の子どもでは、1日当たりのスクリーンタイムが平均で0.36時間長かった。 Nagata氏は、「子どものデバイスの使用時間を減らすために親にできることの中で最も重要なのは、寝室でのデバイスの使用を禁止することかもしれない。就寝時のスクリーンタイムによって思春期早期の健康や発達に不可欠な睡眠時間が減ってしまう。親は、子どもの寝室にはデバイスを置かないこと、夜間にはデバイスの電源や通知をオフにすることを検討するのが良いだろう」と話している。

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初回禁煙治療をバレニクリンまたは併用ニコチン代替療法で行い失敗した場合の有効な次の手だて(初期治療薬剤の用量アップ?)(解説:島田俊夫氏)

 タバコは「百害あって一利なし」といわれています。この言葉は耳にたこができるほど聞いているけれど禁煙成功率は相変わらず低い1,2)。喫煙は自分のみならず他人をも巻き込む悪習です。元気で長生きしたければ病気になるリスクを減らすことが最善の策です。米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのPaul M. Cinciripini氏らが、二重盲検ランダム割り付けによる6週間の禁煙初期治療に失敗した対象者を継続/増量/切り替えの3群にランダムに再割り付けを行った治療継続6週後の研究成果を、JAMA誌オンライン版2024年5月2日号に報告しました。これまで初期治療失敗者を継続し、再治療目的の割り付けにより治療効果を検証した研究はごく少なくコメントします。研究概略参加者(Paticipants) 2015年6月〜2019年10月にテキサス州ヒューストン地域の禁煙志願者490例(適用基準:18~75歳、1日5本以上喫煙、呼気CO濃度6ppm以上)をメディア広告により募集し、ランダムにバレニクリン群(V群)、併用ニコチン置換療法群(CN群)に割り付けた。介入および研究デザイン初期治療 V群(バレニクリン2mg/日+Placebo CNRT)かCN群(CNRT[21mg-Patch+2mg-lozenges]+Placeboバレニクリン)のいずれかにランダム割り付けした(1相)。初期治療禁煙成功群はV群、CN群ともにそのまま継続、禁煙失敗例は6週後に再ランダム割り付けした(2相)。初期治療失敗群は両群ともそれぞれ増量V群(3mgバレニクリン+Placebo CNRT)、継続V群(2mgバレニクリン+Placebo CNRT)、切り替えV群(V→CN)(CNRT[21mg pactch+2mg lozenges]+Placeboバレニクリン)、CN群:継続CN群(CNRT[21mg pactch+2mg lozenges]+Placeboバレニクリン)、増量CN群(CNRT[two 21mg patches+2mg lozenges]+Placeboバレニクリン)、切り替えCN群(CN→V)(2mgバレニクリン+Placebo CNRT)に割り付けた。再評価V群 現状継続群、増量群、切り替え群(CN群)CN群 現状継続群、増量群、切り替え群(V群)とくに初回禁煙治療失敗後の治療による禁煙率の改善評価 12週の治療終了時の7日禁煙率:自己申告による7日禁煙と生化学的に検証した呼気CO濃度6ppm未満で評価。その結果、V群の失敗例では用量増加群で現状継続群との比較で禁煙率の改善を認め、CN群の失敗例では用量増加群と切り替え群で禁煙率の改善を認めた。コメント 代表的な現行のV療法、CN療法によるRCTデザインによる1相の6週間での治療効果を評価後、禁煙失敗例(2相)に対してランダムに再割り付け後に、治療法を現行継続、増量、切り替えに変更して禁煙成功率の改善状況を分析しました。両群いずれにおいても用量を増加すれば改善することが判明しましたが、CN群ではV群への切り替えで効果が確認されたが逆は真ならずで、V群をCN群に切り替えても効果はありませんでした。 今回の研究から、副作用の心配も多少ありますが、治療開始時の用量設定をもう少し高用量にすることが禁煙率アップにつながることを示唆しています。 初回治療が失敗でも諦めず、用量増加により禁煙率の改善が期待できることを確認した意義は大きく、禁煙を望む者に勇気を与える結果ではないでしょうか。

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連絡ノートの活用【Dr. 中島の 新・徒然草】(535)

五百三十五の段 連絡ノートの活用ついに大阪では、2024年6月21日に梅雨入りしたようです。平年に比べると15日も遅いのだとか。農作物などにも影響が出るかもしれませんね。さて、私がよく入院患者さんにお勧めしていることの1つに、連絡ノートの活用ということがあります。患者さんやご家族が、医療スタッフに何かを言っても、なかなか全員に伝わらないことも多々あることでしょう。たとえば「こういうことに気を付けてほしい」ということを看護師のAさんに言ったとしても、それがBさんやCさんに伝わっているかは甚だ疑問です。本来はそういった情報共有のためにカルテがあるわけですが、令和の電子カルテの記載量は膨大で、大切な情報が埋もれがち。そうした時に役立つのが簡単な連絡ノート。私も自分の身内が入院するときには、連絡ノートを持っていって枕元に置いています。そのノートに、こちらから病院への連絡事項を書いておくと便利。そうすると担当の看護師さんだけでなく、部屋に出入りする病棟スタッフ全員が見て、必要に応じて返事を書いてくれます。また「○○を持ってきてください」のような病院側から患者側への連絡も書いてもらうと連絡ミスが起こりません。このように病院・患者双方から好評な連絡ノートですが、あまり普及しているとはいえない気がします。入院経験のある患者さんやご家族には「こっちの言ったことが伝わらない」「周知徹底してほしい」と言われることが多いのですが、そういう時にお勧めするのが連絡ノート。残念なことに、実際にやってみてその経験を私に伝えてくれた人は、今のところ皆無です。これまで身内の入院で数多くの連絡ノートを使ってきましたが、今でもそれを見ると当時の出来事が蘇ってきます。読者の皆さまもご自身で試したり、友人や患者さんに勧めたりしてみたらいかがでしょうか?このようなちょっとした工夫で、ずいぶんコミュニケーションが良好になることと思います。ということで最後に1句梅雨入りや 伝わる心 ノートにて

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ASCO2024 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介はじめにASCO2024の年次総会(5月31日~6月4日)は、今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年までと同様に現地参加はパスして(円安と米国のインフレ問題があり、現地参加は費用的に無理があります)、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年は14演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫関連4演題、多発性骨髄腫関連6演題、白血病/骨髄増殖性腫瘍(MPN)関連4演題を紹介します。悪性リンパ腫関連Upfront allo-HSCT after intensive chemotherapy for untreated aggressive ATL: JCOG0907, a single-arm, phase 3 trial. (Abstract #7001)本演題は日本のJCOGからの発表で、ATLに対するアップフロントの同種移植の前向き試験の成績をまとめたものである。研究開始当初は、55歳以下で骨髄破壊的前処置(MAST)を行う患者のみをエントリー基準としたが、2014年9月以降は56~65歳の患者に対し骨髄非破壊的前処置(RIST)も許容された。2010年9月~2020年6月に110例の患者(72例:急性型、27例:リンパ腫型、10例:予後不良慢性型、1例:その他)がエントリーされ、92例が移植を受けた。41例がプロトコルどおりの治療を受け、51例はプロトコル治療外での移植であった(アップフロント同種移植は76例となった)。主要評価項目の3年OS(110例)は44.0%(90%CI:36.0~51.6)であり、仮説にメットした。プロトコル治療を受けた41例のうち、治療関連死(TRD)は血縁ドナー16.7%、非血縁ドナー20.7%であった。また、死亡した70例の死亡原因は、ATL 34例、TRD 30例、その他6例であった。結論として、ATLに対するアップフロント同種移植はアグレッシブATLに対し1つの治療オプションとなりうるが、生存期間の延長に関しては不明とされた。以下の3題はマントル細胞リンパ腫(MCL)に関する演題です。MCLは、悪性リンパ腫の中では比較的まれな疾患で、中悪性度に分類されますが、インドレントな経過を示す症例もあります。また、従来の免疫化学療法だけでは治癒が難しく、最近では、分子標的薬のBTK阻害薬やBCL-2阻害薬の有用性が示されています。Benefit of rituximab maintenance after first-line bendamustine-rituximab in mantle cell lymphoma. (Abstract #7006)初発MCLに対し、BR(ベンダムスチン-リツキシマブ)療法の後のR維持療法(RM)の意義については、PFS・OSを延長しない(Rummel, et al. ASCO 2016)、PFS・OSを延長する(Martin, et al. JCO 2023)という異なるデータが示されてきた。本研究では、米国で大規模な観察研究が実施され、RMの意義が検証された。BR療法(自家移植なし)後3ヵ月時点でPRあるいはCRの患者がエントリーされ、RM実施の有無で、無イベント(再発、次治療開始、死亡)率(EFS)が比較された。さらに、次治療開始例の無イベント率(EFS2)も比較された。613例がエントリーされ、318例がRMを受け、295例がRMを受けなかった。RM群では年齢が若く(69歳vs.71歳)、男性の割合が高く(78% vs.69%)、進展期の割合が高かった(95.2% vs.89.0%)が、リスク因子(MIPI)、組織型、Ki-67、TP53変異、複雑型染色体異常、BR療法の実施年代、BR療法の効果には差を認めなかった。追跡期間中央値が61.3ヵ月の時点で、RM群で有意にEFS(47.1ヵ月vs.29.7ヵ月)、EFS2(89.1ヵ月vs.48.3ヵ月)、OS(136.1ヵ月vs.74.3ヵ月)の延長を認めた。BR療法によりCRが得られた患者においても、RMにより有意にEFS、EFS2、OSの延長が示された。以上より、初発MCLに対するBR療法後のRMの有用性が明らかとなった。Efficacy and safety of ibrutinib plus venetoclax in patients with mantle cell lymphoma (MCL) and TP53 mutations in the SYMPATICO study. (Abstract #7007)SYMPATICO試験はMCL患者に対するイブルチニブ+ベネトクラクス(I-V)の効果を検証した試験であり、再発・難治(R/R)MCLに対しイブルチニブ+プラセボと比較した第III相試験では、有意にI-VのPFSがI単剤よりも延長することが報告されている(Wang M, et al. ASH 2023)。本発表では、R/R MCLに対するI-V療法の第I相試験、上記の第III相試験、また、初発MCLに対する第II相試験にエントリーされたTP53変異を有するMCL患者に対するI-V療法の効果が報告された。合計74例の患者(初発:29例、R/R:45例)が解析対象となり、年齢中央値67歳、HighリスクMIPI 43%、bulky 36%、骨髄浸潤64%、脾腫39%であった。治療期間中央値が40.1ヵ月時点で、PFS中央値20.9ヵ月、全奏効率84%、CR率57%、OS中央値47.1ヵ月であった。PFSは初発とR/Rにて差を認めなかった。I-V併用療法は、TP53変異陽性のHighリスクMCL患者にも有用であることが示された。Glofitamab monotherapy in patients with heavily pretreated relapsed/refractory (R/R) mantle cell lymphoma (MCL): Updated analysis from a phase I/II study. (Abstract #7008)CD20XCD3の二重特異性抗体であるglofitamab(Glof)単剤でのR/R MCLに対する臨床試験のフォローアップ(中央値:19.6ヵ月)のデータが報告された。Glofは固定期間(約8.5ヵ月間)の治療である。Glof治療を受けた60例のR/R MCL患者が解析された。前治療のライン数は2(1~5)、73.3%が最終治療に抵抗性、前治療にBTK阻害薬の投与を受けた31例中29例がBTK阻害薬に抵抗性であった。Glofは、中央値12サイクル投与され、全奏効率85.0%、CR率78.3%であり、CRが得られた患者の治療奏効期間(DOCR)の中央値は15.4ヵ月であった。とくに、BTK阻害薬の前治療歴のある患者の全奏効率は74.2%、CR率71.0%であり、DOCRは12.6ヵ月であった。R/R MCLの治療、とくにBTK阻害薬に抵抗性の患者に対し、Glofは有望な治療薬であることが示された。多発性骨髄腫関連今年の多発性骨髄腫(MM)の演題は、初発MMに対する4剤併用の試験の3演題とR/R MMに対するCAR-T細胞治療の3演題を紹介します。Phase 3 study results of isatuximab, bortezomib, lenalidomide, and dexamethasone (Isa-VRd) versus VRd for transplant-ineligible patients with newly diagnosed multiple myeloma (IMROZ). (Abstract #7500)移植非適応初発MM患者に対するVRd-Rd療法とIsaVRd-IsaRd療法を比較した第III相試験(IMROZ試験)の結果が報告された。80歳以上は除外され、VRd-Rd療法に181例、IsaVRd-IsaRd療法に265例が割り当てられた。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はCR率、MRD陰性率、VGPR以上率、OSであった。追跡期間中央値59.7ヵ月時点でのPFSは、54.3ヵ月vs.未達(HR:0.596)、CR率は64.1% vs.74.7%、MRD陰性CR率は40.9% vs.55.5%と、いずれもIsaVRd-IsaRd療法の有効性が優れた。Isa併用によりVRdのRDIの低下は認めず、安全性も問題とはならなかった。Phase 3 randomized study of isatuximab (Isa) plus lenalidomide and dexamethasone (Rd) with bortezomib versus IsaRd in patients with newly diagnosed transplant ineligible multiple myeloma (NDMM TI). (Abstract #7501)移植非適応初発MM患者に対するIsaRd(12サイクル)-IsaR療法とIsaVRd(12サイクル)-IsaVR(6サイクル)-IsaR療法を比較した第III相試験(BENEFIT/IFM2020-05試験)の結果が報告された。対象患者は65~79歳のnon-frail患者であった。両群135例ずつの患者が割り当てられた。主要評価項目は18ヵ月時点のMRD陰性率(NGS:10-5)であった。結果、MRD陰性率は26% vs.53%と、有意にボルテゾミブを追加した治療の効果が優れた。ただし、24ヵ月時点のPFS、OSは差を認めなかった。また、治療継続率には差を認めず安全性には問題がなかった。本研究では、主要評価項目でIsaVRd-IsaVR-IsaR療法が優れたため、対象の患者には本治療法が新たな標準療法となる可能性が示された。Daratumumab (DARA) + bortezomib/lenalidomide/dexamethasone (VRd) in transplant-eligible (TE) patients (pts) with newly diagnosed multiple myeloma (NDMM): Analysis of minimal residual disease (MRD) in the PERSEUS trial. (Abstract #7502)移植適応初発MM患者に対するDVRd療法とVRd療法、その後、DRとRによる維持療法を比較したPERSEUS試験の維持療法期のMRD陰性率についての結果が報告された。DVRd-DR群に355例、VRd-R群に354例が割り付けられた。治療開始後、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点のMRD陰性率(10-5)は、それぞれ65.1% vs.38.7%、72.1% vs.44.9%、74.6% vs.46.9%とDara併用群で有意に高い割合であり、また、経時的に陰性率の上昇を認めた。移植適応MM患者に対するDRによる維持療法の意義が示された。MRD陰性を持続できた患者のPFS、OSがどうなるか本試験の長期フォローアップの結果が注目される。Efficacy and safety of ciltacabtagene autoleucel±lenalidomide maintenance in newly diagnosed multiple myeloma with suboptimal response to frontline autologous stem cell transplant: CARTITUDE-2 cohort D. (Abstract #7505)自家移植治療(±地固め)を受けた後CRに到達しなかったMM患者を対象に、Cilta-Cel治療単独(最初の5例)とCilta-Cel治療21日以降から最長2年間レナリドミドを併用した12例の安全性、有効性が検証された。主要評価項目はMRD陰性率(10-5)であった。MRD評価が行えた15例中12例(80%)でMRD陰性が達成され、MRD陰性達成までの期間の中央値は1ヵ月であった。追跡期間の中央値が22ヵ月時点で、奏効期間の中央値は未到達、18ヵ月時点のPFSは94%(17例中16例)であった。CRSは14例でみられたが、すべてG1/2であった。ICANSは1例(G1)でみられた。また、レナリドミド併用による遷延する血球減少の有害事象の増加はみられていない。自家移植後にCRが得られない患者へのCilta-Celの投与は深い奏効が望める治療法である。Ciltacabtagene autoleucel vs standard of care in patients with functional high-risk multiple myeloma: CARTITUDE-4 subgroup analysis. (Abstract #7504)1~3ラインの前治療歴のあるR/R MM患者に対するCilta-Celと標準治療を比較したCARTITUDE-4試験に参加した患者(初期治療開始後18ヵ月以内に再発を認めたFunctional Highリスク患者を含む)の中で、セカンドラインでの治療効果を post hoc解析し、PFS、CR率、MRD陰性率を比較している。全体では、未到達vs.17ヵ月、71% vs.35%、63% vs.19%であり、Functional Highリスク患者では、未到達vs.12ヵ月、68% vs.39%、65% vs.10%であった。標準治療と比較し、Cilta-Celの有意な有効性が示された。R/R MM患者(とくにFunctional Highリスク患者)に対する早いラインでのCilta-Celの有用性が認められた。Impact of extramedullary multiple myeloma on outcomes with idecabtagene vicleucel. (Abstract #7508)髄外腫瘤(EMD)を有するMM患者に対するIde-Celの効果は不明である。Ide-Cel治療を受けた351例のR/R MM患者のうち、84例(24%)にEMDを認めた。EMD患者とEMDを有さない(Non-EMD)患者での患者背景で差を認めた因子は、年齢(62歳 vs.66歳)、PS 0-1(78% vs.89%)、ペンタドラッグ抵抗性(46% vs.32%)、リンパ球除去前の血清フェリチン値(591 vs.242)、CRP(2.1 vs.1.0)であった。治療効果は、全奏効率(@Day30)58% vs.69%(p=0.1)、全奏効率(@Day90)52% vs.82%(p<0.001)、PFS 5.3ヵ月vs.11.1ヵ月(p<0.0001)、OS 14.8ヵ月 vs.26.9ヵ月(p=0.0064)であった。また、EMD患者では、血球減少が多く認められた。EMDはIde-Cel治療の効果がNon-EMD患者と比較し、明らかに不良であることが示された。白血病/MPN関連Ponatinib (PON) in patients (pts) with chronic-phase chronic myeloid leukemia (CP-CML) and the T315I mutation (mut): 4-year results from OPTIC. (Abstract #6501)OPTIC試験の4年のフォローアップが報告された。OPTIC試験は、2剤以上のTKI治療抵抗性を有するか、T315I変異を有するCP-CML患者をポナチニブ45/30/15mgで開始し、IS-PCRが1%以下で45/30mg開始群は15mgに減量する治療法の有効性、安全性を検討した試験である。23.8%の患者がT315I変異を有していた。4年時点でのIS-PCRが1%以下率、PFS、OSを比較した。45mg→15mgの投与法で、T315I変異を有する患者で最も、IS-PCRの低下、PFSの延長がみられた。動脈閉塞の合併症率は同等であり、本試験の対象となった患者(とくにT315I変異を有する患者)に対しては、有効性、安全性の面から45mg→15mgのポナチニブの投与法が推奨される。A retrospective comparison of abbreviated course “7+7” vs standard hypomethylating agent plus venetoclax doublets in older/unfit patients with newly diagnosed acute myeloid leukemia. (Abstract #6507)メチル化阻害薬+ベネトクラクス(VEN)の併用治療は、通常の化学療法の実施が難しいfrail AML患者の標準療法となっている。VENの投与期間を28日/サイクルから短縮することで骨髄抑制は軽減されるが、有効性が失われないかどうかは不明である。VENの投与期間を7日間に短縮した7+7を実施したフランスの患者82例と通常の21~28日で投与したMDACC(USA)の患者166例をレトロスペクティブに比較した。CR+CRi率、CR率は両治療法で差を認めなかったが、CRに到達するためのサイクル数は7+7治療で、1サイクル多かった(2 vs.1サイクル)。OS中央値は11.2ヵ月 vs.10.3ヵ月、2年OSは28% vs.34%で差を認めなかった。8週時点での死亡率は6%と16%で有意に7+7で少なく、また、血小板輸血も少なかった。以上より、7+7の投与期間は、有効性、安全性の面でも十分に許容されると思われた。Updated safety and efficacy data from the phase 3 MANIFEST-2 study of pelabresib in combination with ruxolitinib for JAK inhibitor treatment-naive patients with myelofibrosis. (Abstract #6502)pelabresib(PELA)は新規のBET阻害薬であり、骨髄線維症(MF)の遺伝子発現を抑制する。MANIFEST-2試験はJAK阻害薬治療を受けたことがないMF患者に対するルキソリチニブ(Rux)+PELA(214例)とRux+プラセボ(216例)を比較した第III相比較試験である。DIPSSスコアがInt-1以上のMF患者が対象であり、主要評価項目は24週時点での脾臓体積の35%減少(SVR35)率であり、副次評価項目として症状スコア(TSS)の改善を検討している。結果、Rux+PELA群でSVR35率が65.9%(vs.35.2%)と、有意に多くの患者で脾腫の縮小が認められた。また、Rux+PELA群で、脾腫の縮小は早くみられ、その効果は長く維持された。TSSの改善も、Rux+PELA群で良い傾向が示された。また、貧血、骨髄線維化の改善がRux+PELA群で有意に多くみられた。有害事象としては、血小板減少と下痢がやや多かったが、総じてRux単独と変わりなかった。MFに対し、Rux単独と比較し、Rux+PELA併用が有効であることが示されている。ASC4FIRST, a pivotal phase 3 study of asciminib (ASC) vs investigator-selected tyrosine kinase inhibitors (IS TKIs) in newly diagnosed patients (pts) with chronic myeloid leukemia (CML): Primary results. (Abstract #LBA6500)初発CML患者に対し、既存のTKIとアシミニブ(ASC)を比較した第III相試験(ASC4FIRST試験)の最初の解析結果がLBAにて報告された。TKIの種類はランダム化前に主治医と患者の判断で選択された(IS-TKI)。また、ランダム化前に2週間以内であれば、TKIの服用が許容された。本試験の目的は、48週時点でのASC群のMMR達成率がIS-TKI群と比較して優れていることを示すことであった。ASC群に201例、IS-TKI群に204例(IM:102、第2世代[2G]:102[NI:48%、DA:41%、BO:11%])がエントリーされた。結果、48週時点のMMR達成率はASC群67.7%、IS-TKI群49.0%であり、有意にASC群で優れた。データカットオフ時点での治療薬の継続率は、ASC群86%、IM群62%、2G群75%であり、中止理由として、効果不十分が6%、21%、10%、有害事象が5%、11%、10%であった。以上の結果より、ASCは既存のTKIと比較し、初発CML患者に対する有効性、安全性に優れていることが示された。おわりに以上、ASCO2024で発表された血液腫瘍領域の演題の中から14演題を紹介しました。過去3年間のASCO2021、2022、2023では10演題ずつを紹介しましたが、今年発表された演題もこれまでと同様に、今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2025にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、さらに円安が続く今日この頃[笑])。

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第102回 医学論文を「食わせる」ことが可能なAIが爆誕

AIの進歩が著しいほんの1年前、「ChatGPTって知っている?」と聞くだけで「生成AIに詳しいんだね!」という反応が返ってきました。しかし今では、生成AIの進歩がまるで新幹線のように加速しています。当初、カメの速度だったものが、今や新幹線並みの速さです。生成AIの最終目的地は、論文の執筆やシステマティックレビュー、メタ解析など高度な作業を代行することですが、現段階ではまだそのレベルには達していません。しかし、論文を読み込む能力は飛躍的に向上し、「複数の論文PDFをアップロードして解析する」ことが現実的になってきています。複数のPDFをアップロード多くの人が使っているChatGPTのGPT-4oも、添付ファイルとして複数のPDFをアップロードすることは可能です。ただし、解釈にはウェブ検索が含まれることがあり、アップロードされた文章のみを統合して解釈する柔軟性には限界があります。これはPerplexityなどの他のAIツールでも同様です(図1)。画像を拡大する図1. GPT-4oとPerplexity:複数のPDFを併せて解釈することは困難NotebookLMとClaude 3.5 Sonnetが登場最近、GoogleのNotebookLMという「複数ファイルを読み込めるツール」が一般ユーザーにも提供されるようになりました。NotebookLMは、複数の論文を同時に分析し、それらの内容を正確に要約してアウトプットすることができます(図2)。簡単に書くと、「医学論文を食う」AIです。画像を拡大する図2. NotebookLMGoogleは現在Geminiというオープンモデルを公開していますが、複数のPDFをアップロードしても、それぞれの内容を順番に解説することはできても、「まとめて煮込む」ことはできません。NotebookLMは、アップロードされたファイルのみを参照するため、偽情報を食わせない限り、情報の正確性は高いです。また、インターネットを参照しないため、ネット上の誤情報を引っ張ってくるハルシネーションも起こりません。NotebookLMは、一度のタスクで最大49件の論文PDFを解析できます。システマティックレビューが瞬時に行える可能性を秘めているわけです。自身の研究テーマの最新論文をすべて「食わせる」ことも可能ですし、診療している疾患のガイドラインをすべて投入することも可能です。ただし、大きなPDFは一度に読み込めないため、PDF分割アプリで分割する必要があります。さらに、解析した内容をメモとして保存することもできます。私も現在20個近いメモを作成し、調べ物をする際に活用しています。これまで「論文読み込み」の分野ではClaude 3が高精度な回答を提供してくれました。論文PDFをアップロードして「要約してください」と依頼すると、詳細な要約が得られる時代でしたが、今や「全訳してください」と入力すると、すべての文章を日本語で返してくれるようになりました。最近、そのClaude 3の上位モデルである、Claude 3.5 Sonnetが爆誕しました。Claude 3 Opusを上回りながら、デプロイのコストが低く、回答時間が倍速になりました。また、Artifactsというアウトプットを視覚化するツールも導入されました。たとえば、論文PDFを読み込ませて、ウェブサイトやスライドに使えそうなデザインにアウトプットすることが可能です(図3)。まだ新しい機能であり、思いどおりのデザインに仕上がるとは限りませんが、可能性は広がっています。画像を拡大する図3. Claude 3.5 SonnetのArtifacts:クロファジミンの副作用の論文を複数アップロードしてアウトプット

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置かれている状況を的確に把握する【国試のトリセツ】第46回

§4 実臨床リアリティ置かれている状況を的確に把握するQuestion〈108H23〉3歳の男児。嗄声と喘鳴とを主訴に母親に連れられて来院した。2日前から発熱、鼻汁および嗄声が出現し、本日夕方から吸気性喘鳴と犬吠様咳嗽を認めたため小児科を受診し、その後耳鼻咽喉科を紹介された。陥没呼吸やチアノーゼは認めない。SpO298%(room air)。まず行うべき検査はどれか。(a)頸部CT(b)後鼻鏡検査(c)頸部超音波検査(d)喉頭内視鏡検査(e)副鼻腔X線撮影

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統合失調症とうつ病の治療ガイドライン普及が睡眠薬処方に及ぼす影響

 信州大学の中村 敏範氏らは、「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」が、日本における統合失調症およびうつ病に対する、精神科医による睡眠薬の処方や処方する睡眠薬の種類に及ぼす影響を調査した。これは、精神疾患の治療ガイドラインによる教育が、精神科医の睡眠薬処方に及ぼす影響を評価した、初めての研究である。BMC Psychiatry誌2024年5月29日号の報告。 EGUIDEプロジェクトは、日本における統合失調症とうつ病のエビデンスに基づく臨床ガイドラインに関する、全国的なプロスペクティブ研究である。2016〜21年にEGUIDEプロジェクト参加施設から退院した患者を対象に、臨床データと処方データを用いて、睡眠薬の処方状況を調査した。EGUIDEプロジェクトに参加している精神科医から処方された患者と参加していない精神科医から処方された患者における、睡眠薬の処方率および各タイプの睡眠薬の処方率を比較した。睡眠薬のタイプは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬、非ベンゾジアゼピン受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬に分類した。EGUIDEプロジェクトが睡眠薬処方に及ぼす影響を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、統合失調症患者1万2,161例、うつ病患者6,167例。・EGUIDEプロジェクトに参加した精神科医は、統合失調症患者およびうつ病患者に対し、睡眠薬、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方率が有意に低かった(各々、p<0.001)。 著者らは「EGUIDEプロジェクトは、睡眠薬の処方、とくにベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方率削減に、重要な役割を果たしていると考えられる。本結果は、EGUIDEプロジェクトが治療行動の改善に寄与する可能性を示唆している」としている。

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外科医不足をどう乗り越えるか~女性医師が超党派議員の勉強会で講演

 2024年6月、超党派の女性議員が主催するクオータ制(人種や性別、宗教などを基準に一定の比率で人数を割り当てる制度。狭義には女性に一定の議席を割り振る制度)勉強会に、大阪医科薬科大学一般・消化器外科の河野 恵美子氏が招かれ、「女性外科医を取り巻く問題」について講演を行った。講演後には自民党の野田 聖子氏、立憲民主党の辻元 清美氏、公明党の竹谷 とし子氏ら、出席した女性議員と意見交換を行った。 河野氏「医療機関に勤務する外科医は年々減少し、平均年齢は50歳を超えており1)、2024年度に外科領域の研修プログラムに登録した専攻医数は13の都道府県で5人以下だった2)。外科医不足は現在進行系で悪化しており、これまでなら診断から1ヵ月以内に手術を受けられたものが数ヵ月待たねばならない、緊急手術に対応できない、といったことがすでに起こり始めている。また、高齢化に伴いがん患者が増加し、手術の総件数は増えており、外科医不足はさらに悪化することが予測される。一方、外科医の総数に占める女性医師の割合は少しずつ増加しており、外科医不足対策には若手医師や女性医師が働き続けられる労働環境の整備が急務となっている。 私自身も参加した2013~17年における「日本における男性と女性の消化器外科医の短期手術結果の比較調査」(2022年にBMJ誌に掲載)3)では、医師の性別ごとの手術成績を比較した。結果、性別によって手術成績は変わらなかった。海外にも同様のテーマの研究報告が複数あり、私の知る限り、性別ごとにみた手術結果は同等、もしくは女性医師のほうが成績が良いというものだった。こうした事実にもかかわらず、なぜ外科領域において女性医師が指導的立場に就くことが少ないのか。現在日本外科学会の指定・認定施設は約1,200あるが、女性の代表者は12人とわずか1%に過ぎない。 女性医師が指導的立場に就けない理由は複数あると考えられるが、まずは妊娠・出産によって仕事が継続できなくなることがあるだろう。女性外科医の年齢別就業数をみると30~34歳をピークとして急激に低下している。さらに見逃せないのが経験とチャンスの差だ。私たちの研究グループでは、手術の種類別に外科医1人当たりの執刀数の男女別の検討も行った4)。結果として、女性外科医は医師登録後最初の2年間の虫垂切除術と胆嚢摘出術を除き、すべての年で6種類の手術すべての経験数が少ない傾向にあった。とくに低位前方切除術(27~29歳)は男性医師が女性医師の6.75倍、膵頭十二指腸切除術(30~33歳)は同22.2倍など、難易度の高い手術ほど経験数の男女差が開く傾向が認められた。つまり、女性外科医は男性外科医と比較して手術、とくに難易度の高い手術を任せてもらえていない。これは妊娠出産だけでは説明がつかない格差だ。結果として手術経験数が問われる専門医取得が遅くなる、または取得・維持自体が困難になり、組織の中で指導的立場に上がれない構造が明らかになった。 では、何を優先して改革を進めるべきか。まずは働き方改革だろう。昨年消化器外科学会が会員に対して行ったアンケート5)では、3,000人弱の回答者のうち2割近くが週70時間以上勤務しており、今年から医師の働き方改革が始まっても大きくは改善していないことが予想される。さらに主な育児の担い手として、男性医師の96.3%が「配偶者」と回答したのに対し、女性医師の76.3%が「自分」と回答した。雇用形態も男性医師が常勤中心であるのに対し、子供を持つ女性医師は2割以上が非常勤と差があり、家事育児の負担が女性に偏っている状況が明らかになった。この状態を是正しなければならない。 私自身も子供を育てながら常勤医を続けてきたが、夫の協力があっても過労で倒れるくらい過酷なものであり、周囲の多くの女性医師がキャリアを断念するのも目にしてきた。外科医を増やし、タスクシフトを進めて勤務時間を減らし、女性医師だけでなく、男性医師も過度な負担なく働き続けられる環境をつくらねばならない。急性期病院の集約化や急性期医療に対するメリハリの付いた診療報酬体系の改革も必要だろう。 さらに意識改革も重要だ。男性が稼ぎ主となることを前提とした公的年金・税制度の改革は政治にしかできないことであり、多くの人の意識改革にもつながるため、ぜひとも早急に実現してほしい。女性の活躍なくして医療はもちろん、国全体の発展もあり得ない。」 講演後には参加した女性議員より「医療における男女格差についてデータ化、論文化し、トップジャーナルに掲載されたことは素晴らしい。問題は可視化されてはじめて議論できるようになる」「海外では大手企業の取締役に一定数の女性を入れることを義務付けるクオータ制を採用する国も多く、日本でも東証プライム上場企業に対し女性役員比率30%という数値目標が掲げられている。医療機関でも施設認定などの際に意思決定層の女性比率を要件とするのも1つのアイデアではないか」「ジェンダーバイアスをなくすための研究に予算を取るべきだ」といった意見・感想が寄せられた。 河野氏は「2023年、日本消化器外科学会学会総会では、男女共同参画を推進する『函館宣言』が発出された。時代は確実に変わりつつある。男女や世代で分断するのではなく、問題が山積した今の医療制度をどう変えたらよいのか、みんなで考える機運を盛り上げたい」とまとめた。

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「生活習慣病管理料」算定に適した指導・効率的な方法は?

 6月の診療報酬改定後もなお話題になっている、生活習慣病に係る医学管理料の見直し。今回の改定では、▽生活習慣病管理料(II)の新設(検査などを包括しない生活習慣病管理料 II[330点、月1回])▽生活習慣病管理料の評価および要件の見直し(療養計画書の簡素化、電子カルテ情報共有サービスの活用など)▽特定疾患療養管理料の見直し(対象疾患から生活習慣病である糖尿病、脂質異常症、高血圧症が除外)といった点が変更された1)。とくに高血圧症などの生活習慣病患者に対し、これまでの特定疾患療養管理料に近い点数を生活習慣病管理料で算定していくためには、療養計画書の作成、診療ガイドラインに基づいた疾患管理、リフィル処方箋に関する掲示、多職種連携推奨…といった要件が多く、今回の改定による医師の負担増は免れない。そこで今回、谷川 朋幸氏(CureAppメディカル統括取締役/聖路加国際病院 医師)は患者を効果的な生活改善へと導き、医師が効率的に療養計画書を作成するために、高血圧治療補助アプリを活用した打開策をCureApp主催メディアセミナーにて紹介した。生活習慣病患者への算定、改訂前より10点減点 これまでも生活習慣病管理料自体は存在していたが、特定疾患療養管理料と違い、療養計画書の作成や患者へ署名を求める点などがハードルとなり、生活習慣病管理料の算定件数割合は特定疾患療養管理料に比してたった数%に留まっていた。それが今回の改定では、政府が“効率的で効果的な疾患管理”を推進するために、従来の療養計画書を簡素化させたり、毎月受診の要件を廃止したりといった歩み寄りをしたうえで、生活習慣病患者の管理料を新たな生活習慣病管理料(I)および(II)へと変更した。その結果、200床未満の施設で生活習慣病管理料を算定する場合、以下のような追加業務が発生することになる。・療養計画書により丁寧な説明を行い、同意を得た証拠として患者から署名をもらうこと・計画書の写しを診療録に添付しておくこと・継続して算定する場合、内容に変更がなくともおおむね4ヵ月に1回以上は計画書を交付すること そして、診療報酬改定後に生活習慣病管理料(II)を算定すると、1診療につき333点(オンライン診療は290点)と改訂前に比べ10点近くもの減点となるため、これまでの生活習慣病患者への算定に対し発生するマイナス部分をどのように補填するかは大きな問題である。ここで谷川氏は「CureApp HT高血圧治療補助アプリ(以下、本アプリ)を活用することで、新設したプログラム医療機器等指導管理料(90点)などを算定2)できるため、むしろプラスに転じることが可能。また、患者さんにとっても指導内容が充実するため、本アプリの活用は医療者・患者さん双方にとって生活習慣病管理料(II)の穴埋め以上の効果をもたらすことができる」と説明した。電カルとの連携、患者の生活習慣見える化とカルテ入力に効果 本アプリに関連するその他のメリットとして、「患者さんに対し、生活習慣病の管理記録を簡単に作成できるツールを提供できると共に、生活習慣の改善(減量・減塩ができる、薄味に慣れるなど)が患者さんのみならず家族にも影響を及ぼし、降圧作用以外のベネフィットとなる」とコメントした。一方で、医師にとっては本アプリと電子カルテを連携させることでカルテ入力の負担軽減につながる点がポイントになる。「生活習慣指導について、内科系医師の86.0%は必須と考える一方で“うまくいっている”と回答したのは39.5%と半数に留まっていた。このギャップが生まれた理由として、患者さんの生活習慣を見える化することができない点が医師らの課題として挙がったが、本アプリを導入している医師らはアプリが生活習慣管理の動機付けにぴったりであり、なおかつ生活習慣の見える化にも有効と回答している」と話した。生活習慣改善の継続に寄り添える だが、生活習慣の改善は口で言うほど実際にその継続は容易ではない。患者が自力で改善させるとなると2人に1人は継続できないという報告3)もあるようだ。このような現状を踏まえ、CureAppは健康的な生活習慣を身に付けながら高血圧治療に取り組むためのプログラム『CureApp HT 血圧チャレンジプログラム』*を6月から新たにスタートさせている。このプログラムを開始するにあたり、患者アプリの情報を基に療養計画書(患者レポート)を作成できる機能を医師側のアプリに実装させており、「これまで敬遠されがちな事務作業の効率化はもちろん、医師の指導内容が可視化されて患者さんにとってもわかりやすいレポートが作成される」と同氏はコメントした。*高血圧治療補助アプリと医師による診察のほか、アプリで入力した取り組み内容を可視化できる患者レポート・療養計画書の同時作成や『血圧チャレンジキット』と称した「みんなのレシピ集(減塩レシピ)」や「CureApp血圧チャレンジプログラム スタートブック」の配布に加え、血圧計購入支援などのカスタマーサポートサービスを受けることができるプログラム4) 最後に谷川氏は、「今回の取り組みが患者さんと医療現場の双方にとって価値のあるものになることを目指している。次回2026年の診療報酬改定に向けて、医療DX推進の流れは強化されるだろう。日常診療により溶け込み、なくてはならないシステムとなるよう進化を続けたい」とも説明した。

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オシメルチニブのEGFR陽性NSCLC1次治療、化学療法との併用で添付文書を改訂/AZ

 アストラゼネカは2024年6月25日、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)の「用法及び用量に関連する注意」などにおける記載を変更し、電子化された添付文書(電子添文)を改訂したと発表した。EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん(NSCLC)治療薬としてオシメルチニブと化学療法との併用療法が可能となる。 今回の改訂は、EGFR変異陽性NSCLC1次治療におけるオシメルチニブと化学療法の併用治療とオシメルチニブ単剤治療を比較した第III相FLAURA2試験の結果に基づくもの。試験の結果、同剤と化学療法の併用が可能と判断された。 FLAURA2試験ではオシメルチニブと化学療法の併用がオシメルチニブ単剤に対し、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した(ハザード比:0.62、95%信頼区間:0.49~0.79、p<0.0001)。 EGFR変異陽性NSCLCの1次治療において、オシメルチニブ投与により臨床転帰は改善するものの、大部分の患者では病勢進行が認められる。オシメルチニブの耐性化を抑制できるより有効性・安全性の高い治療法が求められるなか、オシメルチニブ併用療法群は単剤療法を上回るPFSが認められたこととなる。 「用法及び用量に関連する注意」の改訂「他の抗悪性腫瘍剤との併用について、有効性及び安全性は確立していない」の記載を削除し、「本剤を他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合、併用する他の抗悪性腫瘍剤は「17.臨床成績」の項の内容を熟知し選択すること」に変更。

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D型肝炎へのbulevirtide、PEG-IFN上乗せが有効/NEJM

 慢性D型肝炎に対して、bulevirtide+ペグインターフェロン アルファ-2a(PEG-IFNα-2a)の併用療法はbulevirtide単独療法と比べて、治療後24週時点のD型肝炎ウイルス(HDV)RNA陰性化率の評価において優れることが示された。フランス・パリ・シテ大学のTarik Asselah氏らが第IIb相非盲検無作為化試験の結果を報告した。bulevirtide単独療法は慢性D型肝炎患者におけるウイルス学的奏効をもたらすことが、第III相試験において示されている。また、PEG-IFNα-2aは本疾患へ適応外使用されているが、両薬の併用によりウイルス学的抑制が強化され、慢性D型肝炎患者の投与期間を限定した治療となりうるのかは明らかにされていなかった。NEJM誌オンライン版2024年6月6日号掲載の報告。治療終了後24週時点のHDV RNA陰性化率を評価 研究グループは、PCRによりHDV RNA陽性、スクリーニング時のALT値が正常上限値の1倍超10倍未満である18~65歳の慢性D型肝炎患者を、以下の4群に1対2対2対2の割合で無作為に割り付けた。(1)PEG-IFNα-2a(180μg/週)を48週間皮下投与(PEG-IFNα-2a単独群)、(2)bulevirtide 2mg/日の96週間皮下投与+前半48週間はPEG-IFNα-2a(180μg/週)を皮下投与(bulevirtide 2mg+PEG-IFNα-2a併用群)、(3)bulevirtide 10mg/日の96週間皮下投与+前半48週間はPEG-IFNα-2a(180μg/週)を皮下投与(bulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群)、(4)bulevirtide 10mg/日を96週間皮下投与(bulevirtide 10mg単独群)。 すべての患者が、治療終了後48週間フォローを受けた。 主要エンドポイントは、治療終了後24週時点のHDV RNA陰性化率とした。主要比較は、bulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群vs.bulevirtide 10mg単独群で行われた。HDV RNA陰性化率はbulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群46%、bulevirtide 10mg単独群12% 175例が無作為化され、治療を受ける前にPEG-IFNα-2a単独群に割り付けられた1例が同意を撤回。PEG-IFNα-2a単独群24例、bulevirtide 2mg+PEG-IFNα-2a併用群50例、bulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群50例、bulevirtide 10mg単独群50例が割り付けられた治療を受けた。 患者の人口統計学的およびベースライン特性は、おおむね治療群間でバランスがとれていた。男性・白人が多く、平均年齢は41歳。約3分の1の患者が肝硬変に罹患。ほぼ全員(97%)がHDV遺伝子型1型で、79%がHBV遺伝子型D型であった。また84例(48%)は過去にIFN療法を受けていた。 治療終了後24週時点でHDV RNA陰性化率は、PEG-IFNα-2a単独群17%、bulevirtide 2mg+PEG-IFNα-2a併用群32%、bulevirtide 10mg+PEG-IFNα-2a併用群46%、bulevirtide 10mg単独群12%であり、主要比較の群間差は34%ポイント(95%信頼区間:15~50、p<0.001)であった。 治療終了後48週時点のHDV RNA陰性化率は、それぞれ25%、26%、46%、12%であった。 最も多くみられた有害事象は、白血球減少症、好中球減少症および血小板減少症であったが、有害事象の大半はGrade1または2だった。

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慢性硬膜下血腫の穿頭ドレナージ術、洗浄なしvs.あり/Lancet

 慢性硬膜下血腫に対する穿頭ドレナージ術について、硬膜下洗浄を行わない場合(洗浄なし群)の6ヵ月以内の再手術率は、行った場合(洗浄あり群)より6.0%ポイント高率であり、洗浄なし群の洗浄あり群に対する非劣性は示されなかったことを、フィンランド・ヘルシンキ大学のRahul Raj氏らFinnish study of intraoperative irrigation versus drain alone after evacuation of CSDH(FINISH)試験グループが報告した。慢性硬膜下血腫に対する穿頭ドレナージ術には、アクセス用穿頭孔の作成、硬膜下腔の洗浄、硬膜下ドレーンの挿入という3つの要素が含まれる。硬膜下ドレーンの有益性は確立されているが、硬膜下洗浄の治療効果は検討されていなかった。結果を踏まえて著者は、「機能的アウトカムや死亡率について群間差がなかったことを考慮すると、硬膜下洗浄を行うことを支持するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年6月6日号掲載の報告。術後6ヵ月以内の再手術率を評価、非劣性マージン7.5% FINISH試験はフィンランドの5つの脳神経外科ユニットで実施された、研究者主導の実践的多施設共同無作為化並行群間非劣性試験であり、穿頭ドレナージを要する慢性硬膜下血腫を有する18歳以上の成人を登録して行われた。 被験者は、硬膜下洗浄を行う穿頭ドレナージ群(洗浄あり群)または硬膜下洗浄を行わない穿頭ドレナージ群(洗浄なし群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。コンピュータ生成ブロック無作為化法(4、6、8ブロックサイズ)が用いられ、試験地による層別化も行われた。 脳神経外科医および手術室スタッフを除き、すべての患者およびスタッフは治療割り付けが盲検化された。 両群ともに、穿頭孔は血腫厚が最大の部位に開けられ、硬膜下腔を洗浄せずに硬膜下ドレーンを挿入、または硬膜下腔を洗浄したうえで硬膜下ドレーンを挿入。ドレーンは48時間留置された。 再手術、機能的アウトカム、死亡および有害事象を、手術後6ヵ月間記録し評価した。主要アウトカムは、6ヵ月以内の再手術とし、非劣性マージンは7.5%で設定した。非劣性を結論付けるためには重要な副次アウトカムの達成も求められた。重要な副次アウトカムは、6ヵ月時点の機能的アウトカムが不良(すなわち修正Rankinスケールスコア4~6、スコア範囲:0[症状なし]~6[死亡])であった被験者の割合および死亡率であった。主要アウトカムおよび重要な副次アウトカムの解析評価はいずれもITT集団およびper-protocol集団で行われた。群間差6.0%ポイントで洗浄なし群の非劣性は示されず 2020年1月1日~2022年8月17日に1,644例が適格性の評価を受け、589例(36%)が無作為化され、割り付けられた治療を受けた(洗浄なし群295例、洗浄あり群294例、女性165例[28%]、男性424例[72%])。6ヵ月フォローアップは、2023年2月14日まで延長された。 ITT解析では、再手術が必要となった被験者は洗浄なし群54/295例(18.3%)、洗浄あり群37/294例(12.6%)であった(群間差:6.0%ポイント、95%信頼区間:0.2~11.7、p=0.30、試験地補正済み)。 修正Rankinスケールスコア4~6の被験者の割合(洗浄なし群37/283例[13.1%]vs. 洗浄あり群36/285例[12.6%]、p=0.89)、死亡率(18/295例[6.1%]vs.21/294例[7.1%]、p=0.58)のいずれも両群間で有意差は認められなかった。 主要ITT解析の結果は、per-protocol解析でも実質的に変わらなかった。 有害事象の発現件数は両群間で有意差はなく、最も多くみられた重篤な有害事象は全身性感染(洗浄なし群26/295例[8.8%]vs.洗浄あり群22/294例[7.5%])、頭蓋内出血(13/295例[4.4%]vs.7/294例[2.4%])、てんかん発作(5/295例[1.7%]vs.9/294例[3.1%])であった。

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男女平等が進むと男性の肉の摂取頻度が増える?

 男女平等が進んでいる国では、男性の肉の摂取頻度が女性よりも増える傾向にあることが、新たな研究で明らかになった。この現象は、主に北米とヨーロッパの豊かな国で見られ、中国やインド、インドネシアのような、国土は広いが経済的に豊かではない国では見られなかったという。工場式畜産の撲滅を目指す非営利家畜保護団体のMercy for Animalsから資金提供を受けてチューリッヒ大学(スイス)心理学教授のChristopher Hopwood氏らが実施したこの研究の詳細は、「Scientific Reports」に6月13日掲載された。 Hopwood氏らは今回、長年の統計データをベースに研究に着手した。そのデータとは、「ほぼどの国でも、男性は女性よりもよく肉を食べる傾向がある」というものである。しかし、男女間の平等が進めば肉の摂取に見られる男女差も縮まるのだろうか? この答えを得るためにHopwood氏らは、2021年に北米、南米、ヨーロッパ、およびアジアの23カ国から2万802人が参加した調査データの分析を行った。調査では、参加者が自分のジェンダーと肉の摂取頻度を報告していた。 その結果、中国、インド、インドネシアを除くその他の国では、男性の肉の摂取頻度は女性よりも高いことが明らかになった。また、その国の平均所得水準が上がるにつれて、男女ともに、肉の摂取頻度が高くなることも示された。これらの結果についてHopwood氏らは、「肉は植物性食品に比べ、生産・購入コストが高いので、この結果は理にかなっている」と述べている。 しかし、驚くべきことに、男女間の肉の摂取頻度の差は、男女間の平等が縮まるにつれて広がることも示された。この理由について研究グループは、「より裕福で男女が平等な国では、男性が食事の選択をコントロールできる機会が増え、その結果、肉を選ぶことが増えているのではないか」との考えを示している。そして、この傾向について、「先進国では、経済力の豊かさから男性が肉を選ぶ機会が増え、それが男性での肉の消費量の増加につながっているのであり、女性の肉の消費量が少ないことが原因ではない可能性が高い」と述べている。研究グループはさらに、「男女間の平等が進んだ裕福な国の男女は、自分の好みに従って肉を多く食べたり、あるいは控え目に食べるようにしたりしている可能性がある」との見方も示している。 Hopwood氏らは、これらの新たな知見に基づき、肉の消費量を減らす努力は、ジェンダーや性自認を考慮し、「男性の肉の消費量削減に焦点を当てる」ことが望ましいとの考えを示している。

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超加工食品の利便性・時短性のとりこになる危険に警鐘を鳴らす!(大規模コホート研究)―(解説:島田俊夫氏)

超加工食品に関する論文の見解の流れ 超加工食品に関する報告によれば、総じて全死因死亡(全死亡)リスクを高めるとの結論で一致しています1,2)。ただし、これまでのところ心血管疾患に関しては、リスクを高めることは全面的に肯定されているわけではありません(当論文において有意差を認めていないが否定するものではありません)。 食事を楽しむことができないような忙しい生活の中で、利便性や時短性に優れた超加工食品が重宝される傾向はわからないわけではありませんが、超加工食品への極端な嗜好は健康長寿と相反しており、将来の健康に懸念を抱かざるを得ません。 最近、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のZhe Fang氏らが、30年超えの長期にわたる医療従事者対象の男女別の2コホート研究から超加工食品の問題点を取り上げました。食事評価を繰り返したデータを担保する大規模コホート研究に基づく、超加工食品の全死亡への影響を仔細に検討した論文がBMJ誌2024年5月8日号に掲載されました。大規模かつ長期間にわたり追跡されたコホートデータに基づく信頼性の高い論文は数少なく、本論文についてコメントします。本論文概要 本研究では、米国11州の女性正看護師コホートと同国50州の男性医療従事者コホート中、心血管疾患・糖尿病歴のない女性7万4,563例と男性3万9,501例(計:11万4,064例、男/女比:0.53)を対象として、超加工食品摂取(4年ごとに実施された食物摂取頻度調査を使用)と死亡の関係を中心に調査・検討した。主要アウトカム:全死亡、副次アウトカム:がん、心血管死、その他による死亡として、多変量Cox比例ハザードモデルを用い超加工食品摂取量との関連を分析した。超加工食品の最低四分位数群vs.最高四分位数群比較では、全死亡リスクは最高四分位数群で4%有意に高かった。がん、心血管疾患に関しては、有意差はなかった。その他の死亡に関しては9%有意に高かった。 超加工食品サブグループ別解析では、肉/鶏肉/魚介類ベースの調理済みインスタント食品(加工肉)が全死亡と最も強い関連(HR:1.13、95%CI:1.10~1.16、傾向のp<0.001)を示し、砂糖または人工甘味料入り飲料(1.09、1.07~1.12)、乳製品ベースのデザート(1.07、1.04~1.10)、超加工パン・朝食用食品(1.04、1.02~1.07)(ただし、全粒穀物を除く)も、全死亡リスクの増加に関連していた。コメント 超加工食品は利便性と時短性から多忙な生活の中では重宝され、多くの人に愛され、利用されていると考えると恐ろしい気持ちがします。食事による健康被害が超加工食品により起こっていることが多数報告されており、その評価の信ぴょう性も高まっています。食物は自然の状態に近い形(whole food)で食べるのが健康的であると考えるのがごく自然です。健康を犠牲にする可能性が高い超加工食品の持つ利便・時短といった魅力のとりこになるのはきわめて危険です。ただちにやれることは、超加工食品の魅力のとりこになることを回避する理解・努力が必要だと考えます。命を削って利便性や時短性の犠牲になるのを回避する努力がいかに大事か、自問自答してください。この論文は超加工食品の利便性・時短性の背後に潜む健康被害に警鐘を鳴らす論文として素直に受け止めましょう。

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寄り道編(3)人工冬眠【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第52回

※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事61巻5号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(3)人工冬眠Questionクロルプロマジンの適応にある「人工冬眠」はどのような使い方をする?

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親の経営するクリニック、継ぐべきか?【Dr.大塚の人生相談】

13年目の医師です。整形外科で勤務医をしています。父が整形外科の開業医をやっており、周りは僕が父の跡を継ぐものだと思ってます。ただ、父は継げとか言うことはありません。まだ、自分が開業医になる目標などは持てていません。父に自分に継がせる意向があるかを確かめたほうがいいでしょうか?(今回の相談者:えにぐまさん)ぼくは、医者の子供には「2種類のタイプ」があると思っています。親の背中に憧れて医者になるタイプと、親の背中に絶望して医者にだけにはならないタイプです。まず、前者。前者の家庭は、良好な親子関係が多いと思います。親が子供に進路を強要することはまずありません。子は、親が医者として働く姿を見て、ごくごく自然と医者になることが多いように感じます。また、母親の理解もあり、お父さんの働く姿を子供の前で悪く言いません。もちろん、不満もあるでしょう。昭和の医者なんて、ブラックな環境が当たり前でしたから、お母さんもだいぶ我慢してきたはずです。しかし、心の何処かで医者である夫を尊敬しています。そういう空気が家庭内に溢れていると、子供は誰から言われることなく医者の道を志します。一方の後者、親の背中に絶望して医者だけにはならないタイプは多数のパターンがあります。親子関係が悪いところもあるでしょうが、すべてがすべてそういうわけではないでしょう。親子仲良しでも「医者にだけはぜったいにならない」と公言する医者の子供はいます。これは病院でがんばって働いていても、家でかっこいい姿を子供にみせられなかった親に多いと思います。全力で臨床やってクタクタになって帰ってきて、休みの日は死んだように寝る。その姿を見た子供は、「医者、しんどそう」と思いがちです。実際は、仕事が楽しかったりするんですけどね……。さて、相談者さんのお父さんは、ご本人さんになにも言わないタイプなんでしょうね。医者になると決めたときも、親御さんはなにも言わなかったんじゃないでしょうか?でも、お父さんはあなたが医者になることを心から喜んでいたはずです。今回のご相談の件に関しても、直接相談したところで、病院を継ぐかどうかは自分の好きなように決めたら良い、と応えるんじゃないのかしら。そうなるとあなたは混乱するわけです。どっちが父親が喜ぶかな、と。ここで親の気持ちを言ってしまうと、あなたのお父さんはあなたが病院を継いでくれたら少なからず嬉しい。でも、あなたのやりたいことを差し置いてまで、自分の病院を継いでほしくない。お父さんの一番の願いはきっと、あなたが医者という仕事を楽しんでやっていることと、その姿を見ること。病院を継いだとしても、「留学もしたかったなぁ」とか「もう少し技術を磨いておきたかったなぁ」なんていう後悔する姿を見たくはないはず。いろんなことに挑戦して、楽しんで、結果としてお父さんの病院を継ぐのがあなたの目標になったときに、開業したら良いんだと思います。ただね、親もいつまで元気でいるかわかりません。お父さんを喜ばせたいと思うあなたの気持ちは文章から伝わってきます。お父さんがお元気なうちに、いろいろ話しておくことは大事なんじゃないかなぁ。改まって「病院継いで欲しいの?」なんて聞かなくても、自分の仕事について少しでも話してあげたら、お父さんはすごく喜ばれると思います。

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植物の誤食、わが国で最も死亡例が多いのは?【これって「食」中毒?】第2回

今回の症例年齢・性別59歳・男性患者情報高血圧症に対してアジルサルタン40 mg/日が処方されていた。ある日、自宅の庭に生えていた植物の葉を「ギョウジャニンニク」と判断して、おひたしにして食べた。摂取3時間後より激しい嘔吐・下痢を繰り返したが、自宅で様子をみていた。次第に、全身状態が悪化して体動困難となった。たまたま訪れた友人にトイレの近くで倒れているのを発見されて、摂取36時間後に救命救急センターに搬送された。初診時は気道開通、呼吸数24/分、SpO2 97%(室内気)、血圧78/42 mmHg、心拍数122 bpm(整)、意識レベルJCS 10、体温36.2℃であった。末梢の冷汗および乏尿を認めた。腹部はやや膨満し、全体に圧痛を認め、腸蠕動音は減弱していた。検査値・画像所見末梢血では、WBC 2.88×103/µL、Hb 16.6g/L、Ht 50%、PLT 34.6×103/µL。生化学検査では、T-Bil 1.4mg/dL、AST 368IU/L、ALT 122IU/L、AMY 146IU/L、BUN 29.8mg/dL、Cr 2.80mg/dL、Na 136mmol/L、K 3.0mmol/L、Glu 63mg/dL、動脈血液ガス(室内気)では、pH 7.18、PaO2 82.4mmol/L、PaCO2 32.6mmol/L、HCO3- 11.2mmol/L、BE -8.4mmol/Lであった。心電図では、洞性頻脈を認めた。腹部CTでは、下大静脈の虚脱および小腸の浮腫を認めた。問題

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第218回 2040年に向けさまざまな改革が本格始動、「骨太の方針2024」から見えてくる医療提供体制の近未来像

日本医師会会長選、松本氏大勝で2期目に突入こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。任期満了に伴う日本医師会の会長選は6月22日に投開票が行われ、現職の松本 吉郎氏が元副会長の松原 謙二氏を破り、再選を果たしました。投票総数378票で、松本氏334票、松原氏38票という、前回を上回る圧勝でした。エムスリーなどの報道によれば、選挙後に都内で開いた報告会で松本氏は、「財務省などから本当に強大な圧力がかかっており、多くの課題を抱えている。それに打ち勝つには、これまで以上に私ども役員がもっとしっかりと頑張って、先生方とも共闘して事に当たらなければ、本当に日本の医療が壊れてしまうと思う」と述べたとのことです。本連載の前回「第217回 迫る日医会長選、『もう日医の力は昔ほどではない』と元自民党医系議員、松本会長は再選後も“茨の道”か?」でも書いたように、財務省が提案してくるさまざまな政策に加え、秋にかけて激しさを増す政局にも翻弄される、まさに“茨の道”のスタートと言えそうです。2040年ころまでの医療政策の中心課題が盛り込まれた「骨太の方針2024」さて、今回は、6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(骨太の方針2024)1)について書いてみたいと思います。今国会で成立した改正政治資金規制法を巡る与野党の激しい攻防の陰に隠れる形となり、例年に比べ、一般紙の報道は地味な印象でした。しかし、診療報酬・介護報酬の同時改定も終わり、新たな地域医療構想の検討も進む中、今回の「骨太」には、2040年頃までの医療政策の重点課題が盛り込まれています。ここでは医療提供体制関連の項目を中心に見てみたいと思います。かかりつけ医機能が発揮される制度整備と地域医療連携推進法人に言及、連携推進法人は4年連続で記述「骨太の方針2024」において医療や社会保障関連の内容は、主に「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」の「主要分野ごとの基本方針と重要課題(1)全世代型社会保障の構築」に書かれています。医療提供体制については、「国民目線に立ったかかりつけ医機能が発揮される制度整備、地域医療連携推進法人・社会福祉連携推進法人の活用、救急医療体制の確保、持続可能なドクターヘリ運航の推進や、居住地によらず安全に分べんできる周産期医療の確保、都道府県のガバナンスの強化を図る。地域医療構想について、2025年に向けて国がアウトリーチの伴走支援に取り組む」と、かかりつけ医機能が発揮される制度整備と地域医療連携推進法人に言及。本連載の「第214回 岸田首相、初夏の山形・酒田へ。2024年度から制度テコ入れの地域医療連携推進法人に再び脚光」でも予想したように、地域医療連携推進法人については4年連続の記述となり、同制度に対する国の期待を改めて感じ取ることができます。2040年頃を見据えた新たな“地域医療構想”の概要を年末までに現在検討が進む次なる地域医療構想については、「2040年頃を見据えて、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大や現役世代の減少等に対応できるよう、地域医療構想の対象範囲について、かかりつけ医機能や在宅医療、医療・介護連携、人材確保等を含めた地域の医療提供体制全体に拡大するとともに、病床機能の分化・連携に加えて、医療機関機能の明確化、都道府県の責務・権限や市町村の役割、財政支援の在り方等について、法制上の措置を含めて検討を行い、2024年末までに結論を得る」と明記、2040年頃を次の目標年に置いて、かかりつけ医機能や医療・介護連携についても盛り込んだ新たな”地域医療構想”(仮称)の概要を2024年末までに決めるとしています。かかりつけ医機能が発揮される制度整備に加え、次なる地域医療構想も2024年中にその概要が固まるわけで、医療関係団体にとって、今年がとても重要な年となることがこうした記述からも見て取れます。医師の偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージも年末までに策定昨年の「骨太の方針」と比べた大きな変化は、医師の偏在解消対策についての記述が以下のような長文で入ったことでしょう(昨年は「実効性のある医師偏在対策」という文言のみ)。「医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在の是正を図るため、医師確保計画を深化させるとともに、医師養成過程での地域枠の活用、大学病院からの医師の派遣、総合的な診療能力を有する医師の育成、リカレント教育の実施等の必要な人材を確保するための取組、経済的インセンティブによる偏在是正、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法を組み合わせた取組の実施など、総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定する」。医師偏在については、本連載の「第208回 『地域ごとの医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代に入ってきた』と武見厚労大臣、地域偏在、診療科偏在の解消に向け抜本策の検討スタート」で、武見 敬三厚生労働大臣が、規制の導入も視野に入れて医師偏在解消の具体策をまとめる方針を示した、と書きましたが、その意気込みがそのままこの長文につながった感じです。「骨太」に書かれた対策は“ごった煮”感もありますが、とにかくあらゆる手立てを尽くして医師偏在を解消するということのようです。これもまた「2024年末までに策定する」となっているのもポイントです。なお、1点気になったのは、「経済的インセンティブによる偏在是正」の文言が入っていることです。こちらは、本連載の「第209回 これぞ財務省の執念?財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も」で書いた、診療報酬への地域別単価導入と思われますが、財務省が(言葉を少し変えて)するりと潜り込ませたのでしょう。2024年末までにまとめられるという「総合的な対策のパッケージ」の内容に注目したいと思います。医療・介護DXについてはマイナ保険証を柱とする従来方針を改めて強調その他の医療関連の重要項目としては「DX」があります。「第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現」の中の「3.投資の拡大及び革新技術の社会実装による社会課題への対応」の「(1)DX」で、医療・介護DXについて言及、「政府を挙げて医療・介護DXを確実かつ着実に推進する。このため、マイナ保険証の利用の促進を図るとともに現行の健康保険証について2024年12月2日からの発行を終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する。『医療DXの推進に関する工程表』に基づき、『全国医療情報プラットフォーム』を構築するほか、電子カルテの導入や電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX、PHRの整備・普及を強力に進める。調剤録等の薬局情報のDX・標準化の検討を進める」と、マイナ保険証をベースとして、全国医療情報プラットフォームを構築するという従来方針を改めて強調しています。今年の「骨太の方針」は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化するという目標を盛り込みつつも、具体的な数値目標は設けられておらず、踏み込みが甘いとの見方がもっぱらです。また、岸田 文雄首相は「骨太の方針」を閣議決定した直後の記者会見で、物価高対策として電気・ガス代の補助や年金世帯への給付金支給を表明、「政府の歳出改革は一貫性を欠く」(6月22日付日本経済新聞)との批判もあります。とは言え、医療提供体制に関する項目については、「かかりつけ医機能」「次期地域構想」「医師偏在対策」「医療介護DX」とそれぞれの整合性が取れており、近未来を俯瞰する上では参考になる内容となっています。時間があれば、ご一読をお勧めします。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2024/内閣府

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塩分の多量摂取はアトピー性皮膚炎のリスク?

 ナトリウムの多量摂取はアトピー性皮膚炎のリスクと関連しているのか。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のBrenda M. Chiang氏らは、これまでほとんど明らかにされていない食事とアトピー性皮膚炎との関連性について、一般住民を対象とした大規模コホート研究で、食事によるナトリウム摂取量の増加とアトピー性皮膚炎の関連性を調べた。その結果、ナトリウム摂取量が増加するとアトピー性皮膚炎の罹病リスクが上昇した。著者らは「食事によるナトリウム摂取量を制限することが、アトピー性皮膚炎に対する費用対効果が高く低リスクの介入となる可能性が示唆された」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年6月5日号掲載の報告。 研究グループは、尿中ナトリウム量をバイオマーカーとした食事による推定ナトリウム摂取量と、アトピー性皮膚炎の関連を横断研究で調べた。英国のUK Biobankに登録された成人(37~73歳)を対象として、2006年3月31日~2010年10月1日に採取された単一スポット尿サンプルを用いて24時間尿中ナトリウム排泄量を調査した。主要アウトカムは、電子医療記録の診断・処方コードに基づく、アトピー性皮膚炎または活動性アトピー性皮膚炎であった。年齢、性別、人種・民族、社会的格差(タウンゼント剥奪指標)、教育レベルで補正した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、関連性を検討した。データ解析は2022年2月23日~2024年3月20日に実施した。 主な結果は以下のとおり。・対象は21万5,832例(年齢[平均値±標準偏差]56.52±8.06歳、女性54.3%)であった。・推定24時間尿中ナトリウム排泄量(平均値±標準偏差)は3.01±0.82g/日であり、アトピー性皮膚炎の診断例は1万839例(5.0%)であった。・多変量ロジスティック回帰分析において、推定24時間尿中ナトリウム排泄量の1g増加は、アトピー性皮膚炎(補正後オッズ比[aOR]:1.11、95%信頼区間[CI]:1.07~1.14)、活動性アトピー性皮膚炎(同:1.16、1.05~1.28)、およびアトピー性皮膚炎重症度(同:1.11、1.07~1.15)と、いずれも正の関連を示した。・米国国民健康栄養調査の1万3,014例を対象とした検証コホートでは、食事思い出し法を用いて推算した食事によるナトリウム摂取量の1g/日増加は、アトピー性皮膚炎のリスク上昇と関連していた(aOR:1.22、95%CI:1.01~1.47)。

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