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再発/転移上咽頭がんの1次治療、nab-TPC vs.GC/BMJ

 再発または転移のある上咽頭がんの1次治療において、nab-パクリタキセル+シスプラチン+カペシタビン(nab-TPC)療法はゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法と比較し優れた抗腫瘍効果と良好な安全性プロファイルを示したことを、中国・中山大学がんセンターのGuo-Ying Liu氏らが中国の4施設で実施した第III相無作為化非盲検比較試験の結果で報告した。著者は、「nab-TPC療法は再発または転移のある上咽頭がんに対する1次治療の標準治療と考えるべきであるが、全生存期間(OS)に対する有益性の確認には、より長期間の追跡調査が必要である」とまとめている。BMJ誌2024年6月19日号掲載の報告。主要評価項目はIRC評価によるPFS 研究グループは2019年9月~2022年8月に、18歳以上で全身性の化学療法による治療歴がない、ECOG PSが0または1の再発または転移のある上咽頭がん患者81例を、nab-TPC群(41例)およびGC群(40例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 nab-TPC群では、1サイクルを3週間としてnab-パクリタキセル200g/m2を1日目に、シスプラチン60mg/m2を1日目、カペシタビン1000mg/m2 1日2回を1~14日目に、最大6サイクル投与し、その後はカペシタビンによる維持療法を病勢進行、許容できない毒性あるいは同意撤回まで最大2年間行った。 GC群では、1サイクルを3週間としてゲムシタビン1g/m2を1日目および8日目に、シスプラチン80mg/m2を1日目に、最大6サイクル投与し、その後はベストサポーティブケアを行った。 主要評価項目は、ITT集団における独立審査委員会(IRC)評価による無増悪生存期間(PFS、無作為化からRECIST v1.1に基づく病勢進行または死亡までの期間)、副次評価項目はOS、奏効率(ORR)および安全性であった。最新解析において、PFSは11.9ヵ月vs.7.6ヵ月、ORRは83% vs.63% 事前に規定された中間解析(2022年10月31日)の結果、追跡期間中央値15.8ヵ月において、IRC評価によるPFS中央値はnab-TPC群11.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.7~12.9)、GC群7.7カ月(6.5~9.0)であり、nab-TPC群で有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.43、95%CI:0.25~0.73、p=0.002)。このことから、独立データモニタリング委員会により試験の早期中止が決定された。 2023年6月3日の最新解析では、IRC評価によるPFS中央値はnab-TPC群11.9ヵ月(95%CI:10.0~13.8)、GC群7.6ヵ月(6.6~8.7)であった(HR:0.39、95%CI:0.24~0.65、p<0.001)。 OSについては、データが未成熟であった。ORRはnab-TPC群83%(34/41例)、GC群63%(25/40例)であり(p=0.05)、奏効期間はそれぞれ10.8ヵ月、6.9ヵ月であった(p=0.009)。 Grade3または4の治療関連有害事象はnab-TPC群よりGC群で高く、主なものは白血球減少症がそれぞれ10%(4/41例)vs.33%(13/40例)(p=0.02)、好中球減少症15%(6/41例)vs.40%(16/40例)(p=0.01)、貧血2%(1/41例)vs.20%(8/40例)(p=0.01)であった。両群とも治療に関連した死亡は報告されなかった。

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脳梗塞発症後4.5~24時間、tenecteplase vs.標準治療/NEJM

 大血管閉塞による脳梗塞で、ほとんどが血管内血栓除去術を受けていない中国人患者に対する発症後4.5~24時間のtenecteplase投与は、標準治療と比較して、90日後に機能障害を有する患者の割合が少なく生存率は同程度であった。中国・首都医科大学のYunyun Xiong氏らが、同国58施設で実施した第III相無作為化非盲検評価者盲検試験「TRACE-III試験」の結果を報告した。tenecteplaseは、脳梗塞発症後4.5時間以内の脳梗塞急性期に対する有効な血栓溶解薬であるが、発症後4.5時間以降の有効性に関するデータは限られていた。NEJM誌オンライン版2024年6月14日号掲載の報告。90日後のmRSスコア0または1の割合を比較 研究グループは、年齢18歳以上、最終健常確認時刻から4.5~24時間の脳梗塞で、発症前の修正Rankinスケール(mRS)スコア0または1(範囲:0[障害なし]~6[死亡])、NIHSSスコア6~25(範囲:0~42、高スコアほど重度の神経学的障害を示す)、中大脳動脈M1/M2部または内頸動脈の閉塞を有し、灌流画像で救済可能組織が確認され、血管内血栓除去術を受けることができない患者を、tenecteplase群または標準治療群に無作為に割り付けた。 tenecteplase群では0.25mg/kg(最大25mg)を5~10秒間で静脈内投与し、標準治療群では治験責任医師の判断で抗血小板療法を行った。 有効性の主要アウトカムは、ITT集団における90日後のmRSスコア0または1で定義される機能障害なしの割合であり、安全性のアウトカムは治療後36時間以内の症候性頭蓋内出血、全死因死亡などであった。アウトカムの評価は各施設の認定臨床医が盲検下で行った。主要アウトカムはtenecteplase群が有意に良好も、症候性頭蓋内出血は増加 2022年1月~2023年11月に1,469例がスクリーニングを受け、このうち516例が登録された(tenecteplase群264例、標準治療群252例)。救済治療として血管内血栓除去術が行われた患者は2%未満(tenecteplase群4例,標準治療群5例)であった。 90日後のmRSスコアが0または1の患者の割合は、tenecteplase群33.0%、標準治療群24.2%で、tenecteplase群において高かった(相対比率:1.37、95%信頼区間[CI]:1.04~1.81、p=0.03)。 治療後36時間以内の症候性頭蓋内出血はtenecteplase群で8例(3.0%)、標準治療群で2例(0.8%)に発生した(相対比率:3.82、95%CI:0.82~17.87)。90日時点の全死因死亡率はそれぞれ13.3%、13.1%であった。

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血糖コントロールには夕方から夜の運動が最適

 血糖コントロールを目的に運動をするなら、夕方から夜間にかけて行う方が良いことを示唆するデータが報告された。グラナダ大学(スペイン)のJonatan Ruiz氏らが行った観察研究の結果であり、詳細は「Obesity」に6月10日掲載された。 中~高強度の身体活動(MVPA)が高血糖の改善に有用であることはよく知られている。また近年、運動をいつ行うかによって、血糖値に異なる影響が生じる可能性を指摘する研究報告が増えてきている。しかしそれらの研究は空腹時血糖しか評価していないなどの限界点があり、運動を行う時間帯と血糖コントロールとの関連にはまだ不明点が多い。そこでRuiz氏らは、三軸加速度計と連続血糖測定(CGM)を用いて、人々の身体活動と血糖変動を14日間にわたり評価し、両者の関連性を横断的に検討した。 研究参加者は、過体重または肥満(BMI25~40)で、血糖、血圧、血清脂質のいずれか一つ以上に異常のある30~60歳の成人186人(平均年齢46.8±6.2歳、女性50%、BMI32.9±3.5)。血糖降下薬使用者は除外されている。三軸加速度計の記録に基づき、MVPAが行われていた時間全体の50%以上が6~12時の間であった場合は、その日は「運動を朝に行った」と定義。同様に、12~18時にMVPAの50%以上が記録されていた場合は「運動を午後に行った」、18~24時に記録されていた場合は「夜間に行った」と定義した。また、MVPAに該当する記録がない場合は、その日は「非活動的だった」と定義した。なお、MVPAの時間帯が分散していて、どのタイミングも50%以上に至らない場合は「特定されない時間に運動を行った」とした。 CGMデータとの関連を解析した結果、夜間に運動を行った日は非活動的だった日と比較して、24時間の平均血糖値、および昼間と夜間それぞれの平均血糖値がいずれも有意に低かった(平均差が24時間では-1.28mg/dL〔95%信頼区間-2.16~-0.40〕、昼間は-1.10mg/dL〔同-2.02~-0.18〕、夜間は-2.14mg/dL〔-3.47~-0.81〕)。それに対して午後に運動を行った日は昼間の血糖値が、非活動的だった日と有意差がなかった。さらに午前に運動を行った日は、24時間および昼間/夜間のいずれの平均血糖値も、非活動的だった日と有意差がなかった。 高血糖を有する人(111人)のみでの解析では、より大きな差が認められた。例えば24時間の平均血糖値は、夜間に運動を行った日は非活動的だった日と比較して-2.15mg/dL(-3.29~-1.01)の差があり、午後に運動を行った日は-1.49mg/dL(-2.57~-0.40)の差だった。午前に運動を行った日は全体解析と同様、非活動的だった日と有意差がなかった。 本研究には関与していない米カンザス大学医療センターのRenee Rogers氏は、「現在、慢性疾患に対する運動処方を個別化する動きが進んでいる。そうした中で発表されたこの報告は、患者に対してただ単に『もっと運動しなさい』と指示するだけでなく、できるだけ頻繁に、かつ、血糖コントロールを意図する場合は、なるべく夕方から夜間にかけて運動するよう指導した方が良い可能性を示している」と述べている。

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メンタルヘルスに長期的影響を及ぼす小児期逆境体験

 3万人弱の日本人を対象とした横断調査から、小児期に受けた虐待、いじめ、経済的困難といった逆境体験は、成人期のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていることが明らかとなった。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の西大輔氏、佐々木那津氏らによる研究の成果であり、「Scientific Reports」に5月26日掲載された。 従来、小児期逆境体験(adverse childhood experience;ACE)として虐待や家庭の機能不全が検討されてきたが、最近では学校でのいじめ、慢性疾患、自然災害なども含まれるようになっている。ACEは成人後のメンタルヘルスの問題につながる可能性が指摘されているものの、広義のACEの長期的影響を検討した研究は少ない。また、ACEに関する研究は米国のものが多いことから、日本人を対象とした研究が求められている。 そこで著者らは、「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」より、2022年9月のオンライン調査データを用いて、ACEと成人期のメンタルヘルスとの関連を検討した。対象者は18~79歳とし、経験したACEの種類と数について、15項目の質問票「ACE-J」により評価した。また、「K6」という尺度により心理的苦痛を評価し、合計得点が13点以上だった人を「心理的苦痛が強い」と判定した。 解析対象は計2万8,617人(平均年齢48±17.1歳、男性48.9%)であり、15のACEのうち1つ以上のACEを経験していた人の割合は75%に上った。経験割合が多かったACEは、心理的ネグレクト(38.5%)、貧困(26.3%)、学校でのいじめ(20.8%)だった。経験したACEの数は平均1.75±1.94であり、14.7%の人が4つ以上のACEを経験していた。女性は男性と比べ、ACEの数が有意に多く(1.85対1.65)、性的虐待の経験割合が有意に高かった(6.9%対1.8%)。年齢層別には、貧困の経験割合は50~64歳で29%、65歳以上で40%、学校でのいじめは若年層で21~27%、65歳以上で10%だった。 また、心理的苦痛が強いと判定された人は全体の10.4%だった。ACEの経験数が増加するほど心理的苦痛が強い人の割合が高まり、18~34歳かつACEの数が4つ以上で、その割合が最も高かった(40.7%)。ACEの数が同じ場合、若年層は高齢層と比較して心理的苦痛が強い人の割合が有意に高かった。 次に、ロジスティック回帰分析を用い、背景の差(年齢、性別、婚姻状況、世帯収入など)を統計学的に調整して検討したところ、全てのACEは、心理的苦痛が強いことと有意に関連していることが明らかとなった。具体的なオッズ比(95%信頼区間)は、学校でのいじめが3.04(2.80~3.31)、慢性疾患による入院が2.67(2.29~3.10)、自然災害が2.66(2.25~3.13)だった。また、ACEの数が4つ以上の人では、1つもない人と比較したオッズ比が8.18(7.14~9.38)に上った。 今回の研究の結果から著者らは、「ACEはメンタルヘルスに長期的な影響を及ぼしていた」と総括し、ACEを減らすためのさらなる研究と対策の必要性を指摘している。

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ポスト・パンデミック期:コロナ抗ウイルス薬は無効?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

ポスト・パンデミック期におけるコロナ抗ウイルス薬の実態 2023年夏以降、コロナ感染症はポスト・パンデミックの時代に突入した。この時期に注目されているのが間断なく継続しているウイルスの遺伝子変異に対して、オミクロン株以前のパンデッミク期に開発された抗ウイルス薬が、その効果を維持しているかどうかという点である。 今回論評するHammond氏らの論文は、2021年8月から2022年7月にかけて、播種しているコロナウイルスがデルタ株からオミクロン株に切り替わりつつある過渡期に集積された症例を対象としたものである。Hammond氏らはこれらの対象をもとに3-キモトリプシン様プロテアーゼ阻害薬ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック、本邦承認:2022年2月10日、5日分の薬価[成人]:9万9,000円)に関するEPIC-SR試験(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in Standard-Risk Patients trial)の結果を報告した。 ニルマトレルビルの効果に関する最初の大規模臨床試験であるEPIC-HR試験(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in High-Risk Patients trial)は、ワクチン未接種でコロナ感染による重症化リスクを少なくとも1つ以上有する非入院成人コロナ感染者を対象として施行された(Hammond J, et al. N Engl J Med. 2022;386:1397-1408.)。EPIC-HR試験はEPIC-SR試験とは異なり、2021年7月から12月にかけてデルタ株優勢期に集積されたデータを基にした解析であることに注意する必要がある。EPIC-HR試験の結果、重症化リスクを有するワクチン未接種患者において、ランダム化から1ヵ月以内のニルマトレルビル投与による入院/死亡予防効果は非常に高く、87.8%であることが示された。しかしながら、EPIC-HR試験ではワクチン未接種のコロナ感染者を対象としていたため実際の臨床現場、すなわち、Real-Worldでの状況を十分に反映していない可能性があった。そこで、EPIC-SR試験では重症化リスクを有さないワクチン未接種者(1年以上前のワクチン接種者を含む)に加え、重症化リスクを少なくとも1つ以上有するワクチン接種者を対象としてニルマトレルビルの臨床効果が検討された。その結果、ニルマトレルビル投与によって症状緩和までの時間、コロナ関連入院/死亡率はプラセボ群に比べ有意差はなく、ニルマトレルビルはオミクロン株が主流を占める現在の臨床現場では、ワクチンの予防効果を相加的に上昇させるものではないことが判明した。 同様の結果はRNA-dependent RNA polymerase(RdRp)阻害薬として開発されたモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル、本邦承認:2021年12月24、5日分の薬価[成人]:9万4,000円)においても報告されている。ワクチン未接種者におけるモルヌピラビルの投与28日以内のコロナに起因する入院/死亡予防効果は31%であった(MoVe-OUT Trial, Jayk Bernal A, et al. N Engl J Med. 2022;386:509.)。この値はニルマトレルビルとの直接比較で得られたものではないが、値としてはニルマトレルビルの予防効果に比べ低いものと考えてよい。さらに、ワクチン接種者におけるモルヌピラビルの入院/死亡予防効果は、ほぼゼロであり(PANORAMIC Study, Butler CC, et al. Lancet. 2023;401:281-293.)、モルヌピラビルを実際の臨床現場で投与する医学的必然性がないことが判明した。以上のような結果を踏まえ、2023年2月25日、欧州医薬品庁(EMA)は実際の臨床現場でのモルヌピラビルの使用中止を勧告した(https://www.sankei.com/article/20230225-VRWSG7G2DJMWDI2TA3WTWIK7KI/)。EMAの勧告を受け、欧州、米国、豪州などの先進諸国ではモルヌピラビルは実際臨床の現場で投与されなくなっている。本邦でもEMAの勧告に従うべきであろう。 RdRpとして重要な薬物としてコロナ・パンデミック初期の2020年に開発されたレムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用100mg、本邦承認:2020年5月7日、5日分の薬価[成人]:27万9,000円)が存在する。本邦においては、レムデシビルは重症化因子を有する軽症から重症までのコロナ感染症に対して投与でき、コロナ・パンデミックの制御に対して多大の貢献をしてきた。しかしながら、レムデシビルがオミクロン派生株によるポスト・パンデミック期においても有効であるか否かに関しては十分なる検証がなされていない。 本邦の塩野義製薬が開発したエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)はニルマトレルビルと同様にMain protease阻害薬である。本剤に関し、厚労省は2022年6月22日に臨床効果が不十分との理由で一度承認を見送ったが、最終的には2022年11月22日に緊急承認した(5日分の薬価[成人]:5万2,000円)。緊急承認であるので、その後1年以内に有効性に関する総括的データの提出が義務付けられており、承認後も臨床治験が続行されている(SCORPIO-SR試験、SCORPIO-HR試験)。臨床治験の対象は初期のオミクロン株(BA.1、BA.2)優勢期に集積された。それ故、BA.2以降の多数の派生株に対しても真に阻害作用を有するかは確実ではない。本論評で取り上げたニルマトレルビルのオミクロン株に対する増殖抑制作用が適切なワクチン接種者においては否定されつつある現在、それと同様の作用を有するエンシトレルビルを臨床現場で使用することは費用対効果の面からは問題がある。以上まとめると、オミクロン株のBA.2を源流とする多数の派生株(2024年5月現在、KP.3、JN.1、XDQ.1など)が重要な位置を占めるポスト・パンデミック期において、パンデミック期に開発された高価な抗ウイルス薬を安易に投与することは、医学的ならびに費用対効果の面から慎むべきだと論評者は考えている。とくに、2023年秋にXBB1.5対応1価ワクチンを接種した人がBreak-through感染を起こした場合には、抗ウイルス薬を追加投与したとしても重症化予防の上乗せ効果は期待できない。一方、この1年以内に適切なワクチンを接種していない人がコロナに感染した場合には、内服抗ウイルス薬としてニルマトレルビルを投与することは、臨床的に間違った判断ではないと考えている。ポスト・パンデミック期において抗ウイルス薬の効果を規定する遺伝子変異 抗ウイルス薬はワクチン、モノクローナル抗体薬とは異なりS蛋白を標的とするものではなく、ウイルスのOpen reading frame (ORF)-1aに遺伝子座を有するMain proteaseあるいはORF-1bに遺伝子座を有するRdRpを標的としたウイルス増殖抑制薬である。オミクロン株にあってはORF-1aならびにORF-1bにMain proteaseとRdRpの作用を修飾する遺伝子変異の存在が報告されており(Main protease:P3395H変異、RdRp:P314L変異など)、それらが抗ウイルス薬の効果にどのような影響を及ぼすかは重要な問題である。これらの問題については、オミクロン株の初期株であるBA.1(BA.1.1を含む)、BA.2(BA.2.12.1、BA.2.75を含む)、BA.4、BA.5を対象として試験管内で検討され、ニルマトレルビル、モルヌピラビル、レムデシビルの抗ウイルス作用は共に維持されていることが証明されている(Takashita E, et al. N Engl J Med. 2022 ;387:468-470.、Takashita E, et al. New Engl J Med 2022;387:1236-1238.)。しかしながら、これらの検討はあくまでも試験管内のものであり、実地臨床面でのオミクロン初期株に対する抗ウイルス効果が証明されているわけではない。さらに、現在世界を席巻しているBA.2からの種々の派生株に対する抗ウイルス薬の試験管内ならびに臨床的抑制効果は検証されておらず、今後、喫緊の課題として取り組む必要がある。エンシトレルビルに関しては、先行3剤に比べ臨床効果に関する検証レベルが低いことも追記しておきたい。

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魚の骨が喉に刺さった【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第16回

救急外来には、喉に魚の骨が刺さったという主訴で受診する患者さんが時々います。魚骨の研究では、魚骨が刺さる部位で最も多いのは扁桃(69%)です1)。プライマリケア医が診察して対処できるのは中咽頭(図1)までの範囲で、それより深い場合は喉頭ファイバーや上部消化管内視鏡を用いて除去する必要があります。今回は、プライマリケア医が何をどこまで行い、どういったときに専門科に紹介する必要があるかを解説します。図1 頭頚部の構造画像を拡大する<症例>48歳、男性主訴喉に魚の骨が刺さった。夕食にタイを食べていたところ、喉に痛みが出現した。水を飲んだりして工夫をしたが改善しないため受診した。このような患者さんが来院したら、皆さんはどうしますか? すぐに耳鼻科に行ってもらうというのも間違いではないですが、今回は自分で対応する方向で検討してみましょう。(1)魚の種類を把握するまず魚の種類を把握しましょう。咽頭異物を生じる魚の頻度は、ウナギ(11.9%)、サケ(11.9%)、アジ(10.8%)となっています。上位の魚の多くは骨が細くて柔らかく、中咽頭に刺さる可能性が高いです。一方、タイなど大きな魚の骨は固くて太く、中咽頭では刺さらずに下咽頭や食道で刺さる可能性が高くなります2)。消化管を穿孔するリスクがあるためより慎重な精査が必要です。今回の症例はタイであるため、太い骨かつ下咽頭より以遠に骨がある可能性が高いです。(2)口腔内を診察する基本的に風邪症候群の際に咽頭を診察するのと変わりなく、舌圧子を用いて診察します。しかし、魚骨を発見した際に魚骨を除去するためには片方の手が空いている必要があります。ペンライトを使用すると片方の手がふさがるため、ヘッドライトがあると便利です。また別の方法として喉頭鏡で舌を圧迫して視野を確保する方法があります(図2)。魚骨を取る器具は、骨がつまめれば何でも大丈夫です。私はよく長攝子を用いています。本症例は咽頭を診察しましたが骨はありませんでした。図2 喉頭鏡で舌を圧迫(3)内視鏡またはCTを実施この場合、下咽頭から下に魚骨が刺さっている可能性が出てきます。舌圧子では視認が困難で、上部消化管内視鏡や喉頭ファイバーが必要になるためコンサルトを考えます。ただし、一度刺さった骨が自然に脱落することがあり、抜けた後の刺激であたかもまだ骨が残っているような症状を生じることがあるため、コンサルトするにしても本当に骨があるかどうか確認する必要があります。CT検査が除外に有用で、感度は100%近いと報告があります3)。本症例はCTを撮影したところ図3のように骨が見つかったため、耳鼻科にコンサルトして喉頭ファイバーで除去されました。図3 CTで骨を確認上記が基本的なマネジメントになります。プライマリケア医が行うのは(1)と(2)だと思います。(2)で解決できなければ、日中であれば対応できる耳鼻科の受診を勧めてください。魚骨が残っている?咽頭を調べても骨が見つからないけれども喉に違和感があると訴える患者では、マネジメントに迷うことがあります。日中であれば耳鼻科受診を勧めるのですが、夜間ですぐにCTが撮れない場合や、小児でむやみにCTを撮ることは勧められない場合もあります。報告によると、魚骨の3割程度は自然脱落し、脱落しやすいのは横向きに刺さった骨だそうです2)。基本的に、細い骨が横、太く固い骨が縦に刺さりやすいといわれています。よって私は、「魚骨が刺さった」と訴える患者を診察した場合、アジなどの骨が細い魚で、違和感程度で水を問題なく飲める場合は、脱落した可能性が高いと考えます。翌日も症状が持続する場合は耳鼻科受診を勧めています。1)Swain SK, et al. Science Direct. 2017;18:27-30.2)Shishido T, et al. PLoS One. 2021;16:e0255947.3)Debasis D, et al. Emerg Med J. 2007;24:48-49.

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言ってませんか?必要以上に責める「なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?」【もったいない患者対応】第9回

言ってませんか?必要以上に責める「なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?」登場人物<今回の症例>40代男性発熱、上気道症状あり、自宅近隣のクリニックで総合感冒薬と解熱薬を処方され、経過観察されていた。症状が改善しないため、当院受診体温38.2℃、SpO2 92%(room air)<胸部単純X線検査を行ったところ、肺炎像が認められました>先生、いかがでしょうか?いやぁこれ、肺炎ですよ。なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?え…肺炎?重症ですか?重症も何も…。これ入院が必要ですよ!えぇっ、近くの先生はただの風邪だって言ってましたよ!?これで風邪って言ったんですか?…信じられないな。もっと早くうちに来てくれたら入院せずに外来でも治療できたと思うんですけどねぇ。そんな…。【POINT】上気道炎として経過観察されていた患者さんが、肺炎を併発してしまったようですね。胸部X線では、誰が見てもわかるような肺炎像。唐廻先生も、「軽症の段階で受診していれば外来治療もできたのに」という思いから、「なんでこんなふうになるまで受診しなかったのか」と思わず声を荒げてしまいました。どうやら前医に対しても怒りがあるようですね。しかしこの説明、絶対にNG!です。責める言葉はかえって自分の信頼を落とす今回の唐廻先生の説明には2つの問題点があります。1つ目は、「こんなふうになるまでなぜ受診しなかったのか?」と言って患者さんを責めると、修復不能なほどに患者さんとの信頼関係が崩れる危険性があることです。患者さんのなかには、軽い症状でも心配だから病院に行っておく、という人から、しばらく我慢して悩んだ末に受診する、という人まで、“受診のハードル”に個人差があります。症状を悪化させてやってくる患者さんは後者に多く、散々迷った挙げ句、重い腰を上げて病院を受診することも多いでしょう。受診するときは、症状が悪化していることを自分でも認識しているでしょうし、恐怖心を抱いている可能性もあります。今回のケースのように他院に通院していた患者さんの場合は、病院を替えることに対して引け目を感じている可能性もあるでしょう。そんな心理状態の患者さんに対し、「なぜもっと早く来なかったのか」と責め立てると、患者さんをより一層追い込むことになります。すでに起きてしまった過去を非難しても、何も解決しません。患者さんには、これからどういう治療を行うべきか今後、体にどんなことが起こりうるかといった、先のことを伝える必要があります。「今後同じようなことが起きたときにどうすればいいか」を考えるのももちろん大切なことですが、初診時での優先順位は低いでしょう。適切な治療を行って病態が改善し、患者さんの不安がある程度軽くなったタイミングで伝えればよいことです。後医は名医。「後出しじゃんけん」で前医を批判しないこと2つ目の問題点は、唐廻先生の説明が前医への批判につながることです。今回のように、近隣の医療機関で治療中の患者さんが自院を受診されたケースで「なぜこんなふうになるまで放っておいたのか」と言ってしまうと、患者さんは「前医の治療方針が間違っていたのか」「前医は自分の肺炎を見逃して、風邪だと誤診していたのか」と、前医に対して不信感を抱く可能性があるのです。ひとたび不信感を抱いてしまうと、二度とその医療機関に通うことができなくなるかもしれません。“後医は名医”という言葉をご存じでしょうか?後から診る医師は、病態の経時的変化や、治療に対する反応など、最初に診察した医師よりはるかに多くの情報を得たうえで患者さんを診察するため、正しい診断に至りやすく“名医”になりやすい、という意味です。医師としての能力に差はなくても、単に後から診察するだけで、すでに大きなヒントをもらった状態なのです。また、この言葉は、前医がたどり着けなかった答えに後医がたどり着いても、前医を非難してはならない、という戒めの言葉としても使われます。当然ながら、経過観察中に予想外の速度で病態が悪化するようなタイプの病気もあります。前医がどれだけ腕の良い医師であっても、今回のような事態を防げないことはあります。今回、患者さんの目の前で前医を批判してしまった唐廻先生は、こうした診断プロセスの難しさを認識していない点でも、未熟だと言わざるをえないでしょう。これでワンランクアップ!先生、いかがでしょうか?レントゲンの結果ですが、肺炎を併発しているようです。えぇっ!近くの先生はただの風邪だって言ってましたよ!? 肺炎を見逃したんですか?おそらくその先生が診られたときは、風邪という判断でよかった※1のだと思いますよ。肺炎のように急激に悪化するような病気は、軽い段階では見つけるのが難しいこともあるんです※2。※1:まずは前医への不信感を取り除こう。※2:理由も伝えると納得してもらいやすい。そんなに急に悪くなるものなんですか?前回風邪だと言われたのなら、そのときからいままでの間に肺炎が一気に悪くなったことが推測できますね※3。もしいまの状況で診ていれば、前の先生もきっと肺炎だと診断するでしょう。※3:あくまでも冷静に経過を伝える。

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高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024

高齢者に関わるすべての医療介護福祉専門職へ!超高齢社会を迎えたわが国では、CGAによる包括的・全人的な評価と、それに基づいた個別化された医療・ケアの提供が求められている。多職種協働により取り組む必要があり、CGAはその共通言語となる。本ガイドラインは、医師だけではなく高齢者に関わる医療介護福祉関係の多職種向けに作成した。診療やケアに幅広く活用いただきたい。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024定価1,980円(税込)判型B5判頁数102頁発行2024年6月編集長寿医療研究開発費「高齢者総合機能評価(CGA)ガイドラインの作成研究」研究班日本老年医学会国立長寿医療研究センターご購入はこちらご購入はこちら

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第219回 女子医大のXデー近づく?警視庁の家宅捜索の次は、卒業生の教員への採用・昇格に寄付金要請、推薦入試での寄付金受け取りも発覚

「日高山脈襟裳十勝国立公園」が全国35番目の国立公園として誕生こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週、個人的に興味深いニュースがありました。6月25日、北海道の日高山脈地域が「日高山脈襟裳十勝国立公園」として、全国35番目の国立公園として指定されたのです。これまでの「日高山脈襟裳国定公園」を格上げし、名称に「十勝」を追加しての指定です。陸域の面積は国定公園からおよそ2.4倍の25万ヘクタールとなり、国内最大規模の国立公園となりました。この地域は元々登山道が少なく、手つかずの自然が残っています。国立公園化によって、その環境や景観の保全に今まで以上に力が入れられることは喜ばしいと思います。日高山脈での最高峰は日本百名山でもある幌尻岳(標高2,052m)ですが、私がかつて登って強烈な印象を残したのはカムイエクウチカウシ山(1,979m)です。札内川の八ノ沢を遡行して頂上直下の八ノ沢カールにテントを張ったのですが、そこはその10年ほど前に福岡大学のワンダーフォーゲル部のパーティーがヒグマに襲われ、3人が亡くなった現場でもありました。就寝前に爆竹を大量に鳴らして近くにいるであろうヒグマに逃げてもらうのですが、それでも夜はほとんど眠れず、テントから出てトイレにも行けなかったことを覚えています。振り返ると、当時は北海道でもヒグマの被害は山がほとんどで、都市部や町中で起こることは稀だったと思います。ヒグマに限った話ではありませんが、日本において獣とヒトの境界がこの数十年のあいだにとても曖昧になってきています。日高の国立公園化が北海道の今後のヒグマの生息にどんな影響を及ぼすのか、とても気になります。またまた金絡みの不祥事、“がめつさ”の背景には大学の経営状況の厳しさも影響かさて今回は、再び東京女子医科大学(東京都新宿区)の問題を取り上げたいと思います。またまたいろいろな金絡みの問題が発覚し、文部科学省を呆れさせているようです。6月17日、東京女子医大が卒業生の教員への採用や昇格の際に、同窓会組織である至誠会への寄付を評価対象としていたことが判明し、全国紙やNHKなどが一斉に報じました。さらに約1週間後の6月23日には、同大が医学部卒業生の子女らを対象にした推薦入試において受験生の親族から寄付金を受け取っていたことも発覚、こちらも全国ニュースとなりました。東京女子医大については、本連載の「第207回 残された道はいよいよ身売りか廃校・学生募集停止か? ガバナンス崩壊、経営難の東京女子医大に警視庁が家宅捜索」でも書いたように、勤務実態のない職員に至誠会から給与が支払われていたとして、今年3月、警視庁は一般社団法人法の特別背任容疑で、大学本部や至誠会代表理事を兼ねていた岩本 絹子・東京女子医大理事長の自宅などを家宅捜索しています。今回も金絡みの不祥事です。その“がめつさ”の背景には、大学が置かれた厳しい経営状況も影響しているようです。医学部卒業生の教員への採用、内部昇格に至誠会への寄付額を考慮まず教員人事の件ですが、6月17日付の東京読売新聞の報道によれば、東京女子大が医学部卒業生の教員への採用、内部昇格にあたり、同窓会組織である至誠会への寄付額を考慮していたことがわかった、とのことです。記事によれば、同大は寄付の実績が「評価に影響する」と学内に通知しており、昨年までの5年間で約40人が申請前後に寄付(10万~80万円)をしていたとのことです。同記事は、「同大理事会は2018年5月、卒業生が教授や准教授、講師、准講師の役職への就職や昇格を志願する際、至誠会が個々の卒業生に発行する『活動状況報告書』を評価対象とすることを新たに決定した。具体的な手続きは翌6月、医学部学務課名で学内に通知され、留意事項には『寄付などの状況を鑑み、活動が認められない場合は評価に影響します』と記されていた」と書いています。つまり、東京女子医大のOGが、学内で出世していくためには、OG会組織である至誠会への寄付も必要だったということです。研究実績や診療技術とはまったく関係ない基準で教授などを選んでいたとは……。いやはやです。この仕組みは、岩本理事長が至誠会の代表理事を務めていた2018年(当時岩本氏は同大副理事長、2019年から同大理事長)にスタートさせていました。至誠会は昨年4月、代表理事を務めていた岩本同大理事長を解任、10月には昇格などに至誠会への寄付金などを考慮するこの制度を撤廃しています。なお、文部科学省は同大に対し、寄付を人事に反映させた経緯や運用実態について調査を行い、詳細を報告するよう求めたとのことです。医学部卒業生の子女らを対象にした推薦入試で受験生の親族から寄付金を受け取るもう1つの不祥事は、推薦入試がらみで起きていました。6月23日付の東京読売新聞によれば、東京女子医大が、医学部卒業生の子女らを対象にした推薦入試で、受験生の親族から寄付金を受け取っていたのです。さらに、出願資格を審査した至誠会も寄付を受け取っていました。同記事によれば、問題の入試は、「3親等以内に至誠会の会員(卒業生)か準会員(在校生)がおり、同会の推薦を受けた生徒」が対象で、この制度も2018年に始まっていました。毎年、9月初め頃に推薦依頼の受付を開始し、筆記と面接試験を行い、同大に推薦する受験生を10人程度選び、11月に試験を行うという流れでした。同記事は、「同大は18~22年、推薦審査の受付開始約1ヵ月前の8月から合格発表の12月初旬に、少なくとも生徒8人の親族から計1,630万円の寄付を受領。同会も同時期に同18人の親族から計1,800万円の寄付を得ていた。4人の親族は双方に寄付していた」「19、20、22年の推薦審査では、寄付額を『貢献度』として点数化し、面接や筆記などの結果と合わせた得点表が作成されていた」と書いています。なお同記事によれば、「18~22年の5年間で、生徒計57人が至誠会に審査を申請。7割弱の39人が大学に推薦され、最終的に37人が合格した。合格率は95%だった」そうです。なお、昨年4月に岩本理事長が至誠会の代表理事を解任されたことをきっかけに、今年度から子女枠の推薦入試に至誠会が関与しない仕組みに変更されたとのことです。かつて一部の私立医大の入試では高額の寄付金が当たり前でしたが、2002年10月1日の文部科学事務次官通知(私立大学における入学者選抜の公正確保等について)で、私大の入学に関して寄付金を収受することなどを禁止しています。同省は、この問題についても同大に調査結果を報告するよう求めたとのことです。すべてが現在の岩本理事長がらみで起きた問題それにしても、3月の警視庁の家宅捜索といい、今回の女子医大OGの教員人事での至誠会への寄付実績の評価や推薦入試での寄付金の受け取りといい、東京女子医大のガバナンス不全は相当なものだと感じます。すべてが現在の岩本理事長がらみで起きていることも問題だと言えます。同大は同窓会組織から勤務実態のない元職員に給与が不正に支払われていたとされる問題などを調べるため、第三者委員会を設置、7月末にも報告をまとめる予定とのことです。その報告内容や大学の対応如何によっては、文科省も相当厳しい態度で臨まざるを得なくなるかもしれません。東京女子医大病院の病床稼働率はわずか50.7%東京女子医大の令和5年度事業報告書(速報版)によれば、稼ぎ頭であるはずの本院、東京女子医科大学病院(1,190床)の1日外来患者数は、令和3年度が2,862人、令和4年度が2,705人、令和5年度が2,538人と減少傾向でした。そして何よりも衝撃的なのが病床稼働率です。令和3年度が61.7% (1,193床)、令和4年度が53.2% (1,193床)、令和5年度が50.7%(1,190床)と、もはや半分しか病床が稼働していないのです。想像ですが、いろいろな報道の影響で紹介も含めて患者が来ないことに加え、看護師をはじめとする職員不足で病棟を開けたくても開けられない、という事情もあるのではないでしょうか。なお、大学全体の事業活動収支計算書によれば、医業収入は全体で693.8億円、予算比91.6%でした。特定機能病院の再承認はさらに遠のき、私学助成金も減額される可能性も女子医大は2014年に起こったプロポフォール過量投与事件によって、2015年に特定機能病院の承認が取り消されて以降、再承認されていません。今回の大学人事や推薦入試での不正によって、特定機能病院の再承認はさらに遠のき、加えて私学助成金(私立大学等経常費補助金)も大幅に減額される可能性もあります(令和5年度で総額20億円)。仮にそうなれば、病院経営、大学経営に対するダメージは計り知れないでしょう。私がカムイエクウチカウシ山に登った当時、東京女子医大と言えば、他大学からスター教授をヘッドハントして臓器別センターを次々と開設、イケイケドンドンの医大でした。それが半世紀近くを経てのこの凋落ぶり。50%の病床稼働率を80%、90%に持っていくのは、どんな優秀な経営者であっても相当難しいことです。仮に東京女子医大にXデーが来て、理事長や経営陣が変わったとしても、その先行きの不透明感が一気に弱まることはないと思います。

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片頭痛女性における頭痛重症度と炭水化物品質指数との関係〜横断的研究

片頭痛女性における炭水化物品質指数(CQI)と頭痛の重症度、障害、持続期間との関連を調査するため、イラン・テヘラン医科大学のHaniyeh Jebraeili氏らは、横断的研究を行った。Nutritional Neuroscience誌オンライン版2024年5月28日号の報告。 18〜45歳の女性266例を対象に、147項目の食品摂取頻度質問票(FFQ)を用いて、調査を行った。CQIの定義には、食物繊維摂取量、食事のグリセミックインデックス(DGI)、全粒穀物/全穀物比、固形炭水化物/全炭水化物比の4つの基準を用いた。対象患者から、身体測定、ビジュアルアナログスケール(VAS)、片頭痛評価尺度(MIDAS)、頭痛の持続期間を収集し、評価した。 主な結果は以下のとおり。・CQIの高アドヒアランス群は、低アドヒアランス群と比較し、中程度の頭痛(オッズ比[OR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.21〜0.94、p=0.03)、重度の疼痛(OR:0.39、95%CI:0.18〜0.82、p=0.01)のORが低かった。・潜在的な交絡因子で調整したのち、CQIのアドヒアランスが最も高い群は、最も低い群と比較し、重度の疼痛が78%低下(OR:0.22、95%CI:0.09〜0.55、p=0.01)、中程度の疼痛が63%低下した(OR:0.37、95%CI:0.16〜0.84、p=0.01)。・CQIの高アドヒアランス群は、頭痛の持続時間のORが低かった(OR:0.54、95%CI:0.31〜0.96、p=0.03)。・交絡因子で調整したのちでも(OR:0.59、95%CI:0.35〜1.002、p=0.05)、有意な関連性が維持された(p<0.05)。・交絡因子を調整したにも関わらず、CQIとMIDASスコアとの有意な関連は認められなかった(p>0.05)。 著者らは、「CQIのアドヒアランスが高いほど、片頭痛患者の重症度および頭痛の持続時間の軽減が認められた。これらの結果を確認するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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リブテンシティ、臓器移植における難治性のCMV感染症にて承認取得/武田

 武田薬品工業は2024年6月24日付のプレスリリースにて、「リブテンシティ錠200mg」(一般名:マリバビル)について、「臓器移植(造血幹細胞移植も含む)における既存の抗サイトメガロウイルス療法に難治性のサイトメガロウイルス(CMV)感染症」を効能または効果として、厚生労働省から製造販売承認を取得したと発表した。 本承認は、SOLSTICE試験(海外第III相非盲検試験)および国内第III相非盲検試験の結果に基づくものである。SOLSTICE試験(リブテンシティ群235例、既存の抗CMV治療群117例)において、リブテンシティは、主要評価項目である投与開始後8週時点のCMV血症消失※1において既存の抗CMV治療群と比較して統計学的に有意な差が検証された1)。副作用発現頻度は60.3%(141/234例)であった1)。また、国内第III相非盲検試験においては、本剤が投与された41例のうち既存の抗CMV治療に難治性※2のCMV感染・感染症を有する3例において、主要評価項目である投与開始後8週時点のCMV血症消失※3の割合は33.3%(1/3例)で、本剤が投与された41例の全体の副作用発現頻度は36.6%(15/41例)であった2)。<製品概要>販売名:リブテンシティ錠200mg一般名:マリバビル効能又は効果:臓器移植(造血幹細胞移植も含む)における既存の抗サイトメガロウイルス療法に難治性のサイトメガロウイルス感染症用法及び用量:通常、成人にはマリバビルとして1回400mgを1日2回経口投与する製造販売承認年月日:2024年6月24日製造販売元:武田薬品工業株式会社※1 5日以上の間隔を空けて2回連続して採取した検体において、血漿中CMV DNA濃度が定量下限未満(137 IU/mL未満)であることが確認された場合と定義※2 既存治療に対して遺伝子型耐性を有するサブグループを含む※3 5日以上の間隔を空けて2回連続して採取した検体において、血漿中CMV DNA濃度が定量下限未満(34.5 IU/mL未満)であることが確認された場合と定義

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高齢者の重症低血糖には治療の脱厳格化も重要/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17~19日の日程で、東京国際フォーラムをメイン会場として開催された。 糖尿病患者への薬物治療では、時に重症低血糖を来し、その結果、さまざまな合併症や死亡リスクを増加させる可能性がある。また、低血糖でも無自覚性のものは夜間に起こると死亡の原因となるなど注意が必要となる。 そこで本稿では、「シンポジウム29 糖尿病治療に伴う低血糖・ライフステージごとの特徴」で発表された「高齢者の糖尿病治療における低血糖」(演者:杉本 研氏[川崎医科大学総合老年医学 教授])の概要をお届けする。高齢者糖尿病は低血糖の自覚症状が乏しい 2023年に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が日本老年医学会と日本糖尿病学会の共同編集で発行され、杉本氏はこのガイドラインに沿って講演を行った。 同ガイドラインでは、QI-8「高齢者糖尿病の低血糖にはどのような特徴があるか?」で今回のテーマに関する事項が触れられている。低血糖の代表的な症状であるめまいや倦怠感については、高齢者では症状を自覚しにくいこと(無自覚性低血糖)、重症低血糖を起こしやすいこと、低血糖が認知症、転倒などのリスクとなり、大小血管障害の危険因子となることが記されている。とくに認知症と低血糖の関係については、認知症があると低血糖になるという側面と、低血糖があると認知症が進むという側面がある1)。そのため高齢者では血糖値は低すぎても、高すぎても問題となる。 低血糖とフレイルの関係については、低血糖が1回以上ある患者では、転倒は1.7倍、骨折は1.8倍にリスクが上がる2)こと、また低血糖はフレイル発症と関わるため、フレイル予防においても低血糖の防止が必要である。フレイルのある糖尿病患者に厳格な血糖マネジメントは必要かという点では、厳格な血糖マネジメントをしても合併症や死亡が抑制できず、重症低血糖がさらに増えることから、フレイルのある高齢者では厳格なマネジメントは必要ないとされている。そのため、高齢者糖尿病の血糖のマネジメント目標は、認知機能やADL、さらには多疾患併存状態がないかを評価したうえで設定することが推奨されている。 そのほか、重症低血糖を防ぐためには連続血糖測定(CGM)を用いた血糖マネジメントを提案すること、また血糖降下薬の選択では、SU薬、グリニド薬、超速効・速効型インスリンは重症低血糖を起こすリスクがあるため、これらの薬剤を選択する場合には低血糖に留意しながら慎重に使用する必要があることを指摘した。高齢者の重症低血糖の因子は、「70歳以上」「認知症」「CKD」など 多疾患併存疾患(multimorbidity)の患者の実態について、低血糖をターゲットに調べてみると、75歳以上で4つ以上の併存疾患がある患者で発生割合が非常に多かった一方で、重症低血糖は0.6%と多くはなかったという。 重症低血糖を起こす因子としては、「70歳以上」「認知症」「慢性腎不全(CKD)」「心不全」「悪性腫瘍」「骨折」などが挙げられている。薬剤としては「SU薬」「インスリン」「グリニド薬」「BOT療法」のほか、3剤以上の経口血糖降下薬の併用も危険因子とされている。さらに10剤以上処方されていると重症低血糖が起こるリスクも上がることからに、ポリファーマシーへの介入が低血糖の発生予防に寄与すると考えられる。 さらにアメリカ糖尿病協会(ADA)の指針についても触れ、血糖マネジメントが難しい患者、たとえば認知機能やADLの低下している患者や介護施設に入所している患者などに対しては、そもそもHbA1cの目標値を設定せず、低血糖や症候性高血糖を避けるよう求められていると説明するとともに、「治療の単純化、脱厳格化を考慮することが必要」と触れた。高齢糖尿病患者では治療の「単純化」と「脱厳格化」を考える 治療の単純化について、たとえばインスリンであれば持効型インスリンへの切り替えや注射のタイミングを睡眠前ではなく、朝に注射するように変更するなどの工夫が参考となる。 重症低血糖後の治療の脱厳格化についての研究では、5割近くのSU薬処方者が脱厳格化しているという報告があり、その実施数も増加してきている。脱厳格化する患者モデルとしては、ADLが低下している患者、CKD、うつ病、転倒の既往がある患者では実施率が高いとされ、以後の重症低血糖を減少させることにつながると考えられる。 さらに台湾の研究では、在宅サービスがあること、服薬アドヒアランスが良いと低血糖は起こりにくく、処方薬剤が5剤以上ある高齢者では在宅サービスにより介入することが低血糖発生回避につながるメリットとなることが報告されている。 最後に杉本氏は、「単に血糖値を下げるのではなく、低血糖を起こさない治療が高齢の糖尿病患者には重要であり、重症低血糖は認知症やフレイルと相互に関係している危険因子であるので、個々の患者評価が重要となる。高齢者ではHbA1cの目標値を設定する際には認知機能やADLの評価が不可欠であり、また低血糖の既往者などでは、CGMを使用してモニタリングし、TBR(Time below range:血糖が70mg/dL未満で推移する時間の割合)を減らすことが推奨される。重症低血糖の既往がある高齢患者では脱厳格化を行うことが重要な治療介入となり、ポリファーマシーに留意し、低血糖を生じやすい薬剤を中心に減薬を考慮することが必要」と述べ、講演を終えた。

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手術部位感染予防、ポビドンヨードvs.クロルヘキシジン/JAMA

 心臓手術または腹部手術後の手術部位感染(SSI)の予防において、術前の皮膚消毒薬としてのポビドンヨードのアルコール溶液はクロルヘキシジングルコン酸塩のアルコール溶液に対し非劣性で、心臓と腹部の手術のいずれにおいてもSSI発生率に有意な差はないことが、スイス・バーゼル大学のAndreas F. Widmer氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年6月17日号で報告された。スイス3施設のクラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験 本研究は、スイスの3つの大学病院で実施したクラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験であり、2018年9月~2020年3月の期間に患者を登録した(スイス国立科学財団[SNSF]の助成を受けた)。 心臓または腹部の待機的手術が予定されている成人患者を対象とした。各施設は、連続18ヵ月間にわたり、毎月、ポビドンヨードまたはクロルヘキシジングルコン酸塩のいずれかのアルコール溶液を使用する群(クラスター)に無作為化された。治療の割り付け情報は、アウトカムの評価者や各施設の責任医師、統計解析の担当者などにはマスクされたが、試験薬の固有の色の違いのため患者と外科医のマスクは不可能だった。 主要アウトカムは、腹部手術後30日以内のSSIと心臓手術後1年以内のSSIの発生とした。非劣性マージンは2.5%に設定した。SSI発生率:5.1% vs.5.5% 3,360例を登録し、ポビドンヨード群に1,598例(26クラスター)、クロルヘキシジングルコン酸塩群に1,762例(26クラスター)を割り付けた。平均年齢は、いずれの群も65.0歳で、女性はそれぞれ32.7%および33.9%であった。 SSIは、ポビドンヨード群で1,570例中80例(5.1%)、クロルヘキシジングルコン酸塩群で1,751例中97例(5.5%)に発生し、群間差は0.4%(95%信頼区間[CI]:-1.1~2.0)であり、CIの下限値は事前に規定した非劣性マージン(-2.5%)を超えておらず、ポビドンヨード群はクロルヘキシジングルコン酸塩群に対して非劣性であった。 クラスタリングで補正しても結果は同様であった。また、クロルヘキシジングルコン酸塩群に対するポビドンヨード群の未補正の相対リスク(RR)は0.92(95%CI:0.69~1.23)だった。SSIの3種の深さでも、有意な差はない 心臓手術におけるSSI発生率はポビドンヨード群で高く(4.2% vs.3.3%、RR:1.26、95%CI:0.82~1.94)、腹部手術では同群で低かった(6.8% vs.9.9%、0.69、0.46~1.02)が、いずれも有意な差を認めなかった。 また、SSIの深さ別の解析では、表層切開創(ポビドンヨード群2.1% vs.クロルヘキシジングルコン酸塩群1.7%、RR:1.22、95%CI:0.74~2.01)、深部切開創(1.0% vs.1.2%、0.84、0.43~1.63)、臓器・体腔(1.9% vs.2.3%、0.81、0.51~1.30)のいずれにおいても、SSI発生率に関して両群間に有意な差はなかった。 著者は、「本試験では、退院後の患者の追跡調査がきわめて良好で、アウトカムが適切に特定されたことが重要である」と述べつつ、「2021年のメタ解析では、ポビドンヨードは整形外科手術や腹部手術に適しているが、帝王切開にはあまり適さない可能性があるとの仮説が提示され、外科的介入の種類も消毒薬の効果に影響を及ぼす可能性が示唆されている」と指摘している。

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生活習慣の改善でアルツハイマー病の進行が抑制か

 食事や運動などの健康的な生活習慣を組み合わせて取り入れることが、軽度認知障害(MCI)や初期の認知症の患者の認知機能維持に役立つことが、米国の非営利団体である予防医学研究所(Preventive Medicine Research Institute)所長のDean Ornish氏らが実施したランダム化比較試験(RCT)で示された。このRCTでは、健康的な食事、定期的な運動、ストレスマネジメントなどを組み合わせた生活習慣改善プログラムを受けた患者の約71%で認知症の症状が安定、または薬剤を使わずに改善していた。それに対し、こうした生活習慣の改善を行わなかった対照群では約68%の患者で症状の悪化が認められたという。この試験の詳細は、「Alzheimer’s Research and Therapy」に6月7日掲載された。Ornish氏らは、「生活習慣の改善が認知症やアルツハイマー病の進行に影響を与えることを示した研究は、これが初めてだ」と説明している。 Ornish氏らはこのRCTで、MCIまたは初期のアルツハイマー型認知症と診断された51人を登録し、生活習慣を改善するプログラムを受ける群と対照群のいずれかにランダムに割り付けた。生活習慣改善プログラムは、以下の4つの要素で構成されていた。1)有害な脂質や精製された穀類、アルコール、甘味料の摂取を抑え、ホールフード(加工や精製をしないか極力抑えた野菜や果物、穀類、魚など)と植物性食品を中心としたプラントベース食を基本とする食事の摂取、2)低強度の筋力トレーニングを週に3回以上と有酸素運動を1日に30分以上実施、3)瞑想やストレッチ、呼吸法、誘導イメージ療法などによるストレスマネジメントを1日1時間実施、4)患者とそのパートナーのためのサポートグループの1時間の活動を週3回実施。 その結果、20週間後の時点で、Clinical Global Impression of Change(CGIC)での認知機能の評価において、生活習慣改善プログラム群では17人(約71%)が改善か状態を維持していると評価されたのに対し、対照群では17人(68%)が最小限〜中等度の悪化と評価されたことが明らかになった。また、認知機能とアミロイドタンパク質などのアルツハイマー病の血中マーカーの双方において、生活習慣改善プログラム群と対照群の間に有意差が認められた。例えば、生活習慣改善プログラム群ではアミロイド値の改善が認められたが、対照群では同値は悪化していた。さらに、生活習慣改善プログラムの遵守度が高いほどアミロイド値の低下の幅も大きくなることが示された。このほか、生活習慣改善プログラム群ではアルツハイマー病リスクを高める微生物が有意に減少し、アルツハイマー病に対して保護的に働く可能性が指摘されている微生物が増加していることも確認されたという。 Ornish氏は、「今回のRCTの結果は極めて心強いものであり、慎重に受け止めてはいるが楽観視している。この結果は、多くの人々に新たな希望と選択肢をもたらすことになるかもしれない」と話す。 このRCTの参加者の一人は、以前は1冊の本を読み終えるのに何週間もかかっていたが、RCT終了後は3~4日で読み終えることができ、しかも読んだ内容のほとんどを覚えていたという。また、自身の資金や退職後の生活を管理する能力を取り戻した元経営者の参加者もいた。さらに、ある女性参加者は、それまで5年間にわたってできていなかった家業の財務レポートを、現在では正確に作成できるようになったと話している。 今回のRCTに参加した米マサチューセッツ総合病院McCance Center for Brain HealthのRudolph Tanzi氏は、「アルツハイマー病の新たな治療法は切実に求められている。バイオファーマ企業はアルツハイマー病の治療薬を開発するために数十億ドルもの資金を投じてきたが、過去20年間に承認に至ったアルツハイマー病治療薬はわずか2剤だけだ。このうちの1剤は、最近、市場から回収され、もう1剤は効果が限定的で価格は極めて高く、脳浮腫や脳出血などの重篤な副作用を引き起こすこともある」と指摘。「それに対して、今回の試験で実施した集中的な生活習慣の改善は、わずかな費用で認知機能と日常生活機能の改善をもたらすなど、良い効果しかないことが示された」と述べている。

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果汁100%ジュースの摂取は体重増加と関連

 果汁100%ジュースの摂取は、小児と成人ともに体重増加と関連する可能性があることを示したレビューが、「JAMA Pediatrics」に1月16日掲載された。 トロント大学(カナダ)のMichelle Nguyen氏らは、小児および成人における果汁100%ジュースの摂取と体重との関連を評価した研究を特定するため、システマティックレビューを行った。 小児を対象とした17件の研究を解析した結果、果汁100%ジュースを1日当たり1杯(237mL)追加するごとに、BMIが0.03高くなることが判明した。成人を対象とした研究は25件抽出された。エネルギー摂取量を調整していないコホート研究では体重増加(0.21kg)との関連が認められた一方、エネルギー摂取量を調整していた研究では反対の結果が得られた(-0.08kg)。成人を対象としたランダム化比較試験では、果汁100%ジュースの摂取と体重との有意な関連は認められなかった。 著者らは、「今回の結果は、カロリーの過剰摂取と体重増加を防ぐために果汁摂取量を制限するガイドラインを支持するものである。果汁100%ジュースと体重に関するさらなる試験が望まれる」と述べている。 著者数人は、さまざまな医療団体との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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2つの変異を持つインフルエンザウイルス、タミフルが効きにくい可能性も

 米国の保健当局が、米国内で2つの変異を併せ持つH1N1インフルエンザウイルスの感染者が2例、確認されたことを報告した。米疾病対策センター(CDC)の研究グループによると、この変異株は、ウイルス表面のタンパク質であるノイラミニダーゼの2カ所に変異(I223VとS247N)を持ち、代表的な抗インフルエンザウイルス薬であるオセルタミビル(商品名タミフル)の効果を減弱させる可能性があるという。このインフルエンザウイルスの二重変異株に関する研究グループの分析結果は、CDCが発行する「Emerging Infectious Diseases」7月号に掲載された。 この最新の分析結果は、2024年3月に香港の研究グループが「The Lancet」に発表した、これら2つの変異がオセルタミビルへの耐性を高めている可能性があることを示した報告書に続くものだ。CDCの研究グループによる実験では、この二重変異株のオセルタミビルに対する感受性は、これまでのいくつかのインフルエンザウイルスの変異株と比べて最大で16倍低いことが示された。 ただしCDCは、現時点ではパニック状態になる必要はないとの見解を示している。CDCのスポークスパーソンはCBSニュースの取材に対して、「この二重変異株は、より新しい薬であるバロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ)などのオセルタミビル以外の抗インフルエンザウイルス薬に対する感受性は保持していた。そのため、直ちに現在の臨床判断を変える必要性はない」と話すとともに、ワクチン接種はこの二重変異株に対しても保護効果があるとしている。 CDCの報告書によれば、「この二重変異株は、複数の大陸の国々に急速に広がっている」ものの、現時点ではまだまれだという。二重変異株は、2023年5月にカナダのブリティッシュコロンビア州の症例で初めて確認されて以降、アフリカ、アジア、欧州、北米、オセアニアから総計101症例が報告されているとCBSニュースは報じている。米国の2症例は、2023年の秋から冬にかけてコネチカット州保健局とミシガン大学の研究室で検出された。 CDCのスポークスパーソンは、「次のシーズンにこの二重変異株がどの程度流行するかは不明だ。同ウイルスの感染拡大と進化の状況について監視を続けることが重要だ」と話している。 CDCによると、オセルタミビルは最も広く使用されている抗インフルエンザウイルス薬である。2023年に「Pediatrics」に発表された研究によると、小児に処方される抗インフルエンザウイルス薬の99.8%をオセルタミビルが占めているという。また、CBSニュースは、2024年に酪農場で発生し、現在も流行が続いている鳥インフルエンザに感染した人の治療にもオセルタミビルが使用されていると報じている。

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心房細動とその合併症の生涯リスクの2000~22年における経時的変化:デンマークの一般住民を対象とした全国規模のコホート研究(解説:原田和昌氏)

 これまで心房細動発症後の患者ケアでは脳卒中リスクに最も焦点が当てられてきた。しかし、脳卒中だけでなく心不全、心筋梗塞などの心房細動合併症の長期的な影響についても知る必要がある。心房細動の生涯リスクの経時的変化と、心房細動発症後の合併症の生涯リスクの経時的変化を、DOAC上市前後のコホートで調べた。 2000年1月1日から2022年12月31日までのデンマークの一般住民を対象とした全国規模の登録研究において、45歳以上の心房細動を有しない350万人(女性51.7%)が、心房細動の発症、転居、死亡、または調査の終了のいずれか早い時点まで追跡された。心房細動を発症したが合併症のない36万2,721人(女性46.4%)について、心不全、脳卒中、または心筋梗塞の発症を追跡した。主なエンドポイントは心房細動の生涯リスクと、心房細動発症後の合併症の生涯リスクである(2000~10年と2011~22年を比較した)。 心房細動の生涯リスクは、2000~10年の24.2%から2011~22年の30.9%へと増加した(差:6.7%、95%CI:6.5%〜6.8%)。心房細動発症後、最も頻度の高い合併症は心不全であり、その生涯リスクは2000~10年で42.9%、2011~22年で42.1%(-0.8%、-3.8%〜2.2%)であった。脳卒中、心筋梗塞がこれに続いた。心房細動発症後の脳卒中および心筋梗塞の生涯リスクは、脳卒中で22.4%から19.9%(-2.5%、-4.2%~-0.7%)、心筋梗塞で13.7%から9.8%(-3.9%、-5.3%~-2.4%)とわずかに減少した。男女で差を認めなかった。 心房細動の生涯リスクは、20年間の追跡調査で増加した。心房細動診断後の残りの人生で、約5人に2人が心不全を発症し、5人に1人が脳卒中を発症した。これらはDOACの時代になってもわずかしか改善していない。心房細動の生涯リスクの増加は検出感度の上昇や社会の高齢化、心不全や心筋梗塞後における寿命の延長が寄与している可能性がある。 デンマークでは85%以上の心房細動患者が経口抗凝固薬を開始され、2年後の継続率が85%以上である。虚血性脳卒中の生涯リスクに限れば16.1%から10.8%(-5.2%、-6.7%~-3.8%)に減少していたが、これはわが国のANAFIE registryにおける、脳卒中または全身性塞栓症の発現割合(/100人・年)の経口抗凝固薬非投与群2.00、DOAC承認用量投与群1.40に相当するものと考えられる。この研究の結果から、危険因子や体重への介入、リハビリテーション、抗凝固薬以外の薬の開発など、心房細動発症後の脳卒中のリスク低下と心不全の予防を目指したさらなる治療戦略が必要と考えられる。

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おいしいスイカの怖い話(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者 最近、血糖が高くて…医師 何か、はまっているものとかありませんか?患者 そうですね…スイカが大好きで、塩を少しだけかけて食べています。医師 なるほど。スイカは水っぽいのであまり血糖が上がらないと思っている人も多いですね。けど、このくらいの1切れで、ごはん半分のカロリー、糖質は20gくらいあるのでコップ1杯のジュースと同じですね。画 いわみせいじ患者 えっ、そうなんですか。3切れ、いやもっと食べていました。塩をかけたら血糖が下がるかと思って…(気づきと勘違い)。医師 ハハハ…塩をかけても糖分の量は変わりません。対比効果で甘くなりますけどね。患者 了解です。スイカの食べ過ぎには気を付けます。ポイントスイカ1切れ(約200g、炭水化物≒20g)でも血糖が上がりやすいことをわかりやすく説明します。Copyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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英語で「悔いはない」は?【1分★医療英語】第137回

第137回 英語で「悔いはない」は?《例文1》I have no regrets about the choices I have made.(私は自分の選択に後悔はありません)《例文2》Try everything you can and leave no regret behind.(やれることはすべてやって、悔いを残さないようにしなさい)《解説》「悔いを残さない」という表現は、日常会話、医療現場のさまざまな場面で使われます。私は終末期のがんの子供を持つ親と話すときに、往々にして“we left no stones unturned”という表現を使います。このような状況では、適切な声掛けというのは難しいのですが、「できることはすべてやりました(悔いはありません)」というメッセージは、残される家族の心的負担を少しでも減らせるのではと思います。この表現は古代ギリシャの逸話に由来し、「宝物を探すためにすべての石を引っくり返した」という意味から来ているそうです。類似表現としては、“have no regret”や“leave no regret”があります。文脈次第ですが、《例文1》《例文2》のように、前者は過去の事象に対して、後者は未来の事象に対して使用することが多い印象です。講師紹介

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4週間隔投与も可能なアトピー性皮膚炎抗体薬「イブグリース皮下注250mgオートインジェクター/同シリンジ」【最新!DI情報】第18回

4週間隔投与も可能なアトピー性皮膚炎抗体薬「イブグリース皮下注250mgオートインジェクター/同シリンジ」今回は、抗ヒトIL-13モノクローナル抗体製剤「レブリキズマブ(遺伝子組換え)注射液(商品名:イブグリース皮下注250mgオートインジェクター/同シリンジ、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、状態に応じて4週間隔の投与も可能なアトピー性皮膚炎抗体薬であり、患者の利便性向上が期待されています。<効能・効果>既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎の適応で、2024年1月17日に製造販売承認を取得し、2024年5月31日より販売されています。原則として、本剤投与時はアトピー性皮膚炎の病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用し、保湿外用薬は継続使用します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、レブリキズマブ(遺伝子組換え)として初回および2週後に1回500mg、4週以降は1回250mgを2週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて、4週以降は1回250mgを4週間隔で皮下投与することができます。<安全性>重大な副作用として、重篤な過敏症(0.2%)があります。その他の副作用としてアレルギー性結膜炎、結膜炎(5%以上)、注射部位反応、好酸球増加症(1~5%未満)、角膜炎、春季カタル、帯状疱疹(0.1~1%未満)があります。本剤は、寄生虫感染に対する生体防御機能を減弱させる可能性があるため、本剤を投与する前に寄生虫感染の治療を行う必要があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、アトピー性皮膚炎の病態において重要な役割を担うIL-13の働きを抑えることで、症状を改善します。ステロイドなどの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間行っても十分な効果が得られない患者さんに使用されます。2.この薬を投与中も保湿外用薬を併用してください。3.この薬は、免疫系に作用することから、感染症(寄生虫感染を含む)を悪化させる可能性があります。4.この薬を投与中に「いつもと何か違う」と感じることがあれば、速やかに医師または薬剤師に相談してください。5.症状が良くなっても自分の判断でこの薬を中止せず、主治医とよく相談してください。<ここがポイント!>アトピー性皮膚炎(AD)は、多因子疾患であり、増悪と寛解を繰り返す慢性の炎症性皮膚疾患です。ADそのものを完治する治療法はありませんが、早期寛解導入と長期寛解維持が基本的な考え方です。薬物治療には外用療法が必須であり、主にステロイド外用薬やタクロリムス外用薬、デルゴシチニブ外用薬、ジファミラスト外用薬が用いられます。適切な外用治療で効果不十分な場合は、全身療法薬としてヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体(商品名:デュピルマブ)やヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体(同:ネモリズマブ)、JAK阻害薬(同:バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)が使用されます。本剤は、抗ヒトIL-13に結合するIgG4モノクローナル抗体で、既存治療で効果不十分なADに適応があります。原則として、本剤投与時には病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用し、保湿外用薬の使用を継続します。投与は2週間隔ですが、状態に応じて4週(3回目)以降は4週間隔に変更することができます。既存治療で効果不十分な日本人AD患者を対象としたステロイド外用薬併用国内第III相試験(KGAL試験)において、投与16週時のIGA(0/1)およびEASI-75達成率はそれぞれ、33.4%(プラセボ群との差:27.3[95%信頼区間:17.5~37.0]、p<0.001)および51.2%(プラセボ群との差:37.6[26.2~49.0]、p<0.001)であり、プラセボ群に対する本剤の優越性が確認されています。

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