サイト内検索|page:1430

検索結果 合計:35138件 表示位置:28581 - 28600

28581.

生体腎提供によって末期腎不全のリスクは高まるか/JAMA

 生体腎移植のドナーが末期腎不全(ESRD)を有するリスクは、適合健常非ドナーと比べ有意に高いが、非スクリーニング一般集団と比べると、絶対リスクの増加はわずかであることが明らかにされた。米国ジョンズ・ホプキンス大学のAbimereki D氏らが、米国の生体腎ドナー9万6,217例を追跡調査して報告した。これまで腎ドナーのESRDリスクについて、一般集団との比較は行われておりリスクが高いことが報告されていた。しかし、非スクリーニング一般集団という高リスク集団との比較は行われておらず、ドネーション後の後遺症をより適切に推定しうるスクリーニング健常非ドナーとの検討も十分ではなかった。著者は、「今回の結果は、生体腎提供を考えている人への検討材料の一助となるだろう」とまとめている。JAMA誌2014年2月12日号掲載の報告より。全米腎ドナー9万6,217例を最長15年追跡 研究グループは、ESRDのリスクについて、腎ドナーと健常非ドナーコホート(腎疾患リスクが低く、生体移植に対する支障がないことをスクリーニングで確認)を比較する検討を行った。また、人口統計学的(年齢、人種など)層別化による比較も行った。 被験者は、1994年4月~2011年11月に生体腎提供を行った全米9万6,217例の腎ドナーと、第3次全米健康栄養調査(NHANES III)の参加者2万24例(うち健常非ドナー参加者は9,364例)。後者の9,364例のデータから、前者と比較するために適合させた健常非ドナーコホート(9万6.217例)を作成した。メディケア&メディケイドセンターのデータからESRDの発症、維持透析開始、移植リスト登録、および生体もしくは死体腎移植を受けたかについて確認し、最長15.0年追跡し検討した(腎ドナー群7.6年、適合健常非ドナー群15.0年)。 主要評価項目は、ESRDの累積発生率と生涯リスクだった。推定生涯リスク、1万当たりドナー90、健常非ドナー14、一般集団326 追跡期間中、生体腎ドナーでESRDを発症したのは99例、発症までの期間はドネーション後平均8.6年(SD 3.6年)だった。一方、適合健常非ドナーでは36例※で、発症までの期間は登録後10.7年(SD 3.2年)だった。(※健常非ドナー9,364例におけるESRDイベント発生17例より算出) ドナー群の術後15年時点のESRD発症の推定リスクは、1万当たり30.8(95%信頼区間[CI]:24.3~38.5)、同期間の適合健常非ドナー群は3.9(同:0.8~8.9)だった(p<0.001)。 同様のドナーと適合健常非ドナー間の推定リスク差は、人種別にみた場合も有意な差がみられた。格差は黒人で最も大きく、ヒスパニックが続き,白人で最も小さかった。 また、生体腎ドナー群における累積発生率は、年齢によって有意差がみられた。50歳未満と比べて50歳以上で有意に高く(p<0.001)、また、累積発生率が最も低かったのは40~49歳群で1万当たり17.4、次いで18~39歳群29.4(対40~49歳群とのp=0.06)、50~59歳群54.6、60歳以上群70.2だった。累積発生率について、血縁の有無で有意差はみられなかった(p=0.15)。また追跡期間中の経時的傾向もみられていない(傾向p=0.92)。 一方、推定生涯リスクについてみると、1万当たり生体腎ドナー群は90、健常非ドナー群は14、非スクリーニング非ドナー(一般集団)では326であった。

28582.

日本発!イストラデフィリンに抗うつ効果~学習性無力感ラットでの実験

 イストラデフィリンが、脳内モノアミン伝達とは無関係なアデノシンA2A受容体活性の調節を介して、抗うつ様効果を発揮することがラットによる実験で明らかとなった。協和発酵キリン研究本部の山田 浩司氏らの検討によるもので、パーキンソン病の運動症状に加え、うつに対する新たな治療選択肢となる可能性が示唆された。Psychopharmacology誌オンライン版2月2日号掲載の報告。 アデノシンA2A受容体拮抗薬であるイストラデフィリンは、パーキンソン病動物モデルおよびパーキンソン病患者における運動機能障害を改善する。さらに、いくつかのA2A受容体拮抗薬は、強制水泳試験及び尾懸垂試験などでうつ病を誘発したげっ歯動物において、抗うつ様効果を発揮することがわかっている。 著者らは、学習性無力感モデルのラットを使って、うつ様行動に対するイストラデフィリンの効果を調査した。 主な結果は以下のとおり:・急性期・慢性期におけるイストラデフィリンの経口投与は、三環系抗うつ薬のデシプラミンと選択的セロトニン(5 -HT)再取り込み阻害薬であるフルオキセチンによる慢性治療に匹敵する有効性を示しながら、逃避不可能な電撃(IES)が引き起こす逃避のあきらめを有意に改善した。・A1受容体選択的拮抗薬のDPCPXではみられなかったが、A1/A2A受容体の非特異的拮抗薬であるテオフィリンと中等度の選択的拮抗薬であるCGS15943の両剤で、IESが引き起こす逃避のあきらめを改善した。・イストラデフィリンによる逃避反応の増強は、A2A特異的アゴニストであるCGS21680の局所注射(側坐核、尾状核被殻、視床下部の室傍核への局所注射)により効果が失われたが、A1特異的アゴニストであるR-PIAの側坐核への局所注射では、効果が失われなかった。・また、 5-HT2A/2C 受容体拮抗薬のメチセルジドやα2拮抗薬ヨヒンビン、またβ遮断薬のプロプラノロールのいずれも、イストラデフィリンによってもたらされた逃避反応の改善に影響を与えなかった。

28583.

StageII/III大腸がんでのD3郭清切除術「腹腔鏡下」vs「開腹」:ランダム化比較試験での短期成績(JCOG 0404)

 臨床的StageII/IIIの大腸がんに対して、日本のオリジナルであるD3リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下手術の有効性および安全性はいまだ明らかではない。JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)により、全生存期間について開腹手術に対する腹腔鏡下手術の非劣性を検討するランダム化比較試験が実施されているが、今回、D3郭清を伴う腹腔鏡下手術の短期成績における安全性および臨床的ベネフィットが報告された。Annals of surgery誌オンライン版2014年2月6日号に掲載。なお、主要評価項目の解析結果については2014年のうちに報告される予定。 本試験の対象は、腫瘍の主占居部位が盲腸、上行結腸、S状結腸または直腸S状部のいずれか、術前画像診断でT3またはT4(他臓器浸潤を除く)、N0-2、M0のすべてを満たす、などの適格基準を満たした大腸がん患者である。患者は術前にランダム化され、D3リンパ節郭清を伴う大腸切除術を受けた。安全性をパー・プロトコール・セットで解析した。 主な結果は以下のとおり。・2004年10月~2009年3月に1,057例を開腹手術群524例と腹腔鏡下手術群533例に無作為に割り付けた。・D3郭清は、開腹手術群では521例(99.4%)、腹腔鏡下手術群では529例(99.2%)で行われた。・開腹手術への移行は29例(5.4%)であった。・腹腔鏡下手術を受けた患者のほうが、手術時間が52分長かったが、手術の出血量は少なかった(各々p<0.001)。・腹腔鏡下手術では、術後の排ガスが早く、手術5日後の鎮痛薬の使用回数が少なく、また術後在院日数がより短かった。

28584.

オピオイドの慢性腰痛への短期効果

 慢性腰痛に対するオピオイドの使用が著しく増加しているが、利点とリスクは明らかになっていない。今回、2007年のコクランレビューがコロンビア・Hospital Pablo Tobon UribeのLuis Enrique Chaparro氏らによりアップデートされ、慢性腰痛の短期治療においてオピオイドはプラセボに比し疼痛をやや改善し、機能障害もわずかながら改善することが示された。著者は、「慢性腰痛に対するオピオイドの短期的な有効性のエビデンスは得られた。ただし、長期治療における有効性および安全性は不明のままである」とまとめている。Spine誌オンライン版2014年1月29日号の掲載報告。 研究グループは、成人の慢性腰痛に対するオピオイドの有効性を評価する目的でコクランレビューを最新版にアップデートした。 解析対象は、2012年10月までに発表された慢性腰痛に対するオピオイド非注射用製剤4週以上投与とプラセボまたはほかの治療(オピオイドを除く)を比較した無作為化比較試験15件(参加者合計5,540例)であった。 主な結果は以下のとおり。・トラマドール(商品名:トラマールほか)は、プラセボと比較して疼痛改善(標準化平均差[SMD]:-0.55、95%信頼区間[CI]:-0.66~-0.44)および機能障害改善(SMD:-0.18、95%CI:-0.29~-0.07)に優れていた。・ブプレノルフィン経皮吸収型製剤(商品名:ノルスパン)は、プラセボと比較して疼痛改善に優れていたが(SMD:-2.47、95%CI:-2.69~-2.25)、機能障害改善は認められなかった(SMD:-0.14、95%CI:-0.53~0.25)。・強オピオイド(モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、オキシモルフォン、タペンタドール)は、プラセボと比較して疼痛改善(SMD:-0.43、95%CI:-0.52~-0.33)および機能障害改善(SMD:-0.26、95%CI-0.37~-0.15)に優れていた。・1試験は、トラマドールとセレコキシブ(商品名:セレコックス)とで、疼痛改善効果はほとんど差がなかった。 ・2試験(272例)は、オピオイドと抗うつ薬とで、疼痛改善効果および機能障害改善効果に差がなかった。・解析対象となった試験の質は低~中等度で、脱落率が高く、機能障害改善に関する説明が限られていた。・重篤な副作用、依存または過剰摂取、合併症(睡眠時無呼吸、オピオイド誘発性痛覚過敏、性腺機能低下)は報告されなかった。

28585.

精神疾患におけるグルタミン酸受容体の役割が明らかに:理化学研究所

 理化学研究所 脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームの窪田 美恵氏らは、気分障害および統合失調症におけるグルタミン酸受容体のADAR2とRNA編集(RNA editing)の役割を明らかにした。両者の剖検脳から、気分障害および統合失調症ではADAR2発現の低下が認められ、同低下がAMPAグルタミン酸受容体でのRNA編集の減少と関連していることが示唆されたという。これらの所見を踏まえて著者は、「ADAR2発現低下によるAMPA受容体のRNA編集の効率が、精神疾患の病態生理に関与している可能性がある」と述べている。Molecular Brain誌2014年1月号の掲載報告。 AMPA(2-amino-3-(3-hydroxy-5-methyl-isoxazol-4-yl)-propanoic acid)/カイニン酸グルタミン酸受容体の前mRNAは転写後に修正される。RNA編集として知られるこの修正はADAR2(adenosine deaminase acting on RNA type 2)を介して行われ、受容体のアミノ酸配列と機能が変化する。気分障害や統合失調症で、グルタミン酸シグナルが関与していることは示唆されていたが、AMPA/カイニン酸受容体のRNA編集が病態生理学的に意味を持つのかについては明らかにされていなかった。 研究グループは、剖検脳(双極性障害例32例、統合失調症例35例、対照群34例)、凍結脳組織片(同11例、13例、14例とうつ病例11例)、またAdar2ノックアウトマウス脳を用いて、ADAR2の発現とRNA編集について調べた。 得られた主な知見は以下のとおり。・剖検脳において気分障害や統合失調症患者は、ADAR2発現が低下する傾向があることが判明した。ADAR2発現の低下は、AMPA受容体のR/G部位の編集減少と関連していた。・へテロ接合型Adar2ノックアウトマウス( Adar2+/-マウス)においても、AMPA受容体R/G部位の編集は減少していた。・ Adar2+/-マウスは、オープンフィールド試験で活動性が増加する傾向を示した。また、強制水泳試験では静止に対して抵抗する傾向を示した。また、アンフェタミン誘導の活動亢進もみられた。・野生型マウスと Adar2+/-マウスにおいて、AMPA/カイニン酸受容体拮抗薬(2,3-dihydroxy-6-nitro-7-sulfamoyl-benzo[f]quinoxaline)投与後、アンフェタミン誘導の活動亢進に有意差はみられなかった。・著者は、「これらの所見は、全体的に、ADAR2発現低下によるAMPA受容体のRNA編集の効率が、精神疾患の病態生理に関与している可能性を示唆するものである」とまとめている。関連医療ニュース 精神疾患のグルタミン酸仮説は支持されるか グルタミン酸作動性システムは大うつ病の効果的な治療ターゲット グルタミン酸トランスポーター遺伝子と統合失調症・双極性障害の関係

28586.

Mother(続編)【虐待】

虐待みなさんは、虐待の痛ましい現実を、テレビや新聞で見聞きするだけでなく、医療の現場でも遭遇することがあるかもしれません。虐待はなぜ起きるのでしょうか?もっと言えば、虐待はなぜあるのでしょうか?そして、虐待はどうすればいいのでしょう?今回は、虐待をテーマに、2010年に放映されたドラマ「Mother」を前号に引き続き取り上げます。そして、虐待の心理、危険因子、起源、対策について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。あらすじ主人公の奈緒は、30歳代半ばまで恋人も作らず、北海道の大学でひたすら渡り鳥の研究に励んでいました。そんな折に、研究室が閉鎖され、仕方なく一時的に地域の小学校に勤めます。そこで1年生の担任教師を任され、怜南に出会うのです。そして、怜南が実の母(仁美)から虐待されていることを知ります。最初は見て見ぬふりの奈緒でしたが、怜南が虐待されて死にそうになっているところを助けたことで、全てをなげうって怜南を守ることを決意し、怜南を「誘拐」します。怜南の実の母(仁美)の母性虐待をする実の母親(仁美)とは、どんな人なのでしょうか?怜南が生まれた当時、仁美は、虐待を報道するニュースを見て、「こんな親(虐待する親)、普通じゃない。人間じゃない」「怜南はママが一生大事にしてあげるからね」と怜南と夫を目の前に力強く言います。しかし、その後、間もなくして、不幸にも仁美は夫を亡くしてしまいます。仁美は女手一つで怜南を育てようとする中、ある近所の人(克子おばさん)が、怜南の子守り(ベビーシッター)を愛情深くして、支えてくれていました。克子おばさんは「仁美さんは頑張り屋さんだもの」と評価してくれて、子育ては何とかうまく続いていました。ところが、怜南が2、3歳の頃です。怜南はずっと母親を呼び続けたり、食器を投げるようになり、言うことを聞かなくなります。反抗期の始まりです。仁美は「ママ、怜南のことがうらましいな」「ママのことは誰もほめてくれないから」と弱音を吐きます。そして、追い打ちをかけるように、克子おばさんが病気療養のために、遠くに引っ越してしまったのです。それから状況は大きく変わっていきます。母性が「聖母」でなくなる時―閉鎖性仁美は、手一杯な仕事に加えて、遠くの保育園への怜南の送り迎えや怜南の反抗期によって、経済的にも身体的にも精神的にも余裕がなくなっていました。部屋の散らかり具合は、その余裕のなさを物語っています。仁美は、しつけがうまく行っていないことに気付いた友人から「父親がいないからかしらね」と嫌味を言われます。こうして、仁美はしつけを厳しくすることを決意します。そして、仁美のしつけは、最初は戸惑いながらも徐々にエスカレートしていきます。仁美が久々に友達の集まりに行こうとする時のエピソードです。その直前で怜南はお腹を痛がります。怜南は克子おばさんがいなくなった中、無意識のうちに体の症状を通して母親とのかかわりを求めていたのでした。しかし、仁美は苛立ち、思わず怒鳴り散らします。子どもとの2人きりの世界になると、他の養育者からの助けやフォローがないばかりか、他の誰かが見ているという客観的な視点が働きにくくなります(閉鎖性)。一生懸命に子育てをしているのに思い通りにならない時、2人きりのその世界で自分が神のように錯覚してしまい、無理やりに思い通りにしようとするのです。特に一人親で一人っ子の家庭は、2人きりの世界になりやすく、このリスクが高まります。しつけとは、本来、家族のルールであり、一貫しているはずのものです。しかし、仁美のしつけは、仁美の機嫌や独りよがりによって成り立っており、一貫していないのです。つまり、仁美の子育ては、母性が足りないばかりか、父性も足りなくなっていたのです。そこにあるのは、仁美の気分の浮き沈みによる恐怖と支配なのでした。仁美の母性は「聖母」ではなくなっていったのでした。虐待する母(仁美)の心理―脆弱性子育てに煮詰まる中、仁美は、新しい恋人(浦上)をつくります。そして、怜南に留守番をさせ、浦上と南国へ旅行に出かけてしまいます。そして、「ママが幸せだと怜南も嬉しいよね」と怜南に同意を求めるのです。怜南が幸せだと母親も嬉しいという発想ではないのです。浦上は遊び半分で怜南に虐待を始めます。仁美がやめるように言っても、浦上は聞き入れません。仁美は、精神的に追い詰められて、一時は怜南と無理心中をしかけます。しかし、その後は、虐待の日常に麻痺してしまいます。やがて、仁美も虐待をするようになり、怜南を凍え死にさせようともしました(表1)。ある時また、テレビから虐待の事件のニュースが流れます。その時、仁美は「フフフフッ」と不気味に笑い飛ばしているのです。その後に、仁美が奈緒から怜南を取り戻そうとするシーンでは、「(怜南は)私に会えなくて寂しがってるでしょ」「怜南は私のことが大好きなんです」と平然と言い放ちます。仁美は、虐待が常態化していた中、もはや自分自身を振り返ったり、自分自身に向き合ったりすることができなくなっているのでした。自己客観視する知的能力が低まっており、仁美の脆く弱い心が伺えます(脆弱性)。表1 虐待のタイプ怜南の場合身体的虐待体のあざ眼帯を巻く心理的虐待ペットのハムスターが知らない間に母親の恋人に殺されてしまう「汚い」と罵(ののし)られる真冬にゴミ袋に閉じ込められて、ゴミ置き場に放置されるネグレクト適切な食事が与えられない性的虐待母親の恋人に化粧やコスプレをさせられ、性的対象として弄ばれる虐待の危険因子―表2奈緒は、仁美に対面し、語りかけます。「あなたとあの子の間に何があってどうしてあんなことになったのか私には分かりません」「きっと100や1000の理由があって、その全てが正しくて全てが間違っていると思います」「母と子は、温かい水と冷たい水が混ざり合った川を泳いでいる」「抱きしめることと傷付けることの間に境界線はなくて、子どもを疎ましく思ったことのない母親なんていない」「子どもを引っぱたこうとしたことのない母親なんていない」「そんな母親を川の外から罵る者たちがまた1つ母親たちを追い詰め、溺れさせるんだと思います」と。このセリフから、虐待は、母親(養育者)だけのせいではないことに気付きます。それでは、虐待の危険因子として、養育者を取り巻く社会的な要因を挙げてみましょう。まず、仁美は、古いアパートに住み、アルバイト先のコンビニ店の制服をそのまま日常生活で使い回しており、生活の貧しさが伺えます(貧困)。また、町内会の役員の年配女性から面と向かって「あの子もあの子よねえ」「こんな親に育てられているから」「性格が歪んじゃって」と吐き捨てられます(偏見)。さらに、克子おばさんが引っ越してから、仁美は誰の手助けも得ることができません(孤立)。次に、虐待の危険因子となる子どもの要因を挙げてみましょう。仁美の虐待は、怜南の反抗期に端を発していました。一般的には、子どもが泣き止まなかったり、反抗的な態度をとることをきっかけに、しつけや体罰の名の元に虐待が行われるリスクが高まります。また、妊娠した芽衣(奈緒の義妹)は、子どもの心臓の障害が判明し婚約者が婚約破棄をすると、一時は中絶を決意しています。一般的に、ネグレクト(育児放棄)などの虐待は、「望まない子」「望めない子」として、中絶の延長線上にあります。子どもが身体的または精神的な障害を持っていると、虐待のリスクは高まることが統計上判明しています。表2 虐待の危険因子母親(養育者)社会子ども精神的な問題(脆弱性)子どもとの2人だけの世界(閉鎖性)子どもの実父の不在新しい恋人(夫)の存在貧困偏見孤立反抗的態度病弱などの身体的な問題知的障害などの精神的な問題子育てをあきらめる心理の源は?―ネグレクト(育児放棄)の進化心理学奈緒は、仁美に訴えかけます。「あなたがまだあの子を愛して心から抱き締めるなら私は喜んで罰を受けます」「道木怜南さんの幸せを願います」「たとえ何年かかっても少しずつ少しずつあなたとあの子の母と子の関係を取り戻して」と。ところが、仁美は「もう遅いわ」「あの子は私のことなんか」「好きじゃないって言われたの」「そんな子、死んだも同じ」と言い放ちます。また、雑誌記者(藤吉)に「欲しい人がいるなら上げてもいいかなって(考えました)」「私まだ29だし」「一からやり直せるかなって」「沖縄に行ったことあります?」「(怜南がかわいそうだった時の)辛いこととか忘れられるかなって」と語ります。虐待の1つに、この子育てをあきらめる心理、つまりネグレクト(育児放棄)があります。もともと健康的な母性を持っていた仁美の心の中では何が起きたのでしょうか?なぜネグレクト(育児放棄)をするのでしょうか?そもそもなぜネグレクト(育児放棄)はあるのでしょうか?ネグレクト(育児放棄)は、人間の歴史の中で普遍的な現象です。普遍的に存在し続けることには必ずそこに意味があると、前々号や前号の母性や父性の説明で触れました。普遍的に存在するネグレクト(育児放棄)の意味とは、母性や父性と同じように、私たち人間が手に入れた進化の産物の心理だからです。ここから、この心理の成り立ちを、大きく2つのポイントで進化心理学的に考えてみましょう。(1)生活困窮(貧困)の打開策1つ目は、ネグレクト(育児放棄)が生活困窮(貧困)の究極の打開策であるということです。人間の進化の歴史の中で、飢餓や病気による死は常に隣り合わせでした。そんな中、子育てをする女性(母親)は、生活が困窮した時、何人かいる子どもの中から、比較的に生命力の弱い子どもから順に子育てをあきらめました。生命力の弱い子どもとは、身体的または精神的に障害のある子どもや幼い子どもです。無理をして全ての子どもを救おうとすれば、全ての子どもが死んでしまうからです。他の子どもを救うため、見込みの低い子どもを犠牲にして、生活困窮を打開するのです。よって、特に生活が困窮し精神的にも余裕のない状況で、このネグレクト(育児放棄)の心理は、意識せず意図せずに高まります。この心のメカニズムを人間は進化の過程で獲得したと考えられます。そして、この心理が適切に働く遺伝子を持った種ほど、結果的によりたくさんの子孫を残しました。そして、その遺伝子を現在の私たちは受け継いでいる可能性があります。ネグレクト(育児放棄)は、かつて「間引き」「口減らし」「子捨て」と呼ばれ、現代の「赤ちゃんポスト」に引き継がれています。仁美のネグレクト(育児放棄)の心理を察知し、怜南が自ら「赤ちゃんポスト」を探すという残酷なシーンがありました。(2)新しい男性(父親)から養育援助を引き出す適応戦略2つ目は、ネグレクト(育児放棄)が新しい男性(父親)から女性(母親)への養育援助を促進することです。原始の時代、女性(母親)の生活困窮を最も引き起こすのは、養育援助をする男性(父親)がいないことです。つまり、子どもの実の父がいないことには、養育援助を当てにできず、子どもの生存率を極端に下げていました。そんな中、新しい男性(父親)ができると、養育援助の当てが得られます。しかし、新しい男性(父親)は、進化心理学的に、血縁関係のない子どもをおもしろく思いません。当然、この時点で男性(父親)による血縁関係のない子どもへの虐待のリスクは高まります。さらに、女性(母親)は、新しい男性(父親)からの愛(援助)を受けて将来の繁殖の機会を逃さないために、前の男性(父親)との子どもに見切りを立てる心理が高まります。これは、進化的な適応戦略の心理と言えます。最悪のケースは、仁美のように、ネグレクト(育児放棄)が心理的虐待や身体的虐待などの他の虐待に発展し、最終的に子殺しにつながっていきます。仁美が言った「(いなくなれば)一からやり直せる」というセリフは、これを端的に表しています。動物行動学では、ゴリラの子殺しが有名です。これは、新しくメスたちのハーレムに迎えられたオスゴリラがそれまでの育てられていた子どものゴリラを次々と殺していくという行動です。その理由は、子どもがいなくなることで、メスたちの発情が再開され、新しいオスゴリラは、自分の子どもをつくることができるからです。また、一部の霊長類に、妊娠中のメスが交尾相手とは別の新しいオスと出会うと流産する現象が知られています(ブルース効果)。これは、新しいオスによる子への攻撃(虐待)や子殺しに先手を打ち、メスが損失(コスト)を最小限にするように進化したと考えられています。よって、同じ霊長類である人間においても、子どもの実父の不在や新しい男性(父親)の存在は、それ自体で、生活困窮の状況と同じように、このネグレクト(育児放棄)の心理を意識せず意図せずに高めている可能性が考えられます。虐待は起きないものという神話仁美は、虐待によって怜南を殺しかけたのにもかかわらず、奈緒に「あなたに何が分かるの?(自分は悪くない)」と答えるなどして否認し続けてきました。しかし、とうとう逮捕され、「お母さん、これは立派な犯罪ですよ」と女性刑事に問い詰められます。その時、仁美はようやく事の重大さに気付きます。そして、うろたえながら「私を死刑にしてください」と言うのです。ここで、ネグレクト(育児放棄)の心理の源について誤解のないように協調します。ネグレクト(育児放棄)は、生活困窮や新しい男性(父親)の登場などの条件下で本能的な心理メカニズムとして発動しやすくなると紹介しました。しかし、だからと言って、モラルとして問題がないと言っているわけではありません。例えば、私たちが甘いもの(高カロリー食)をつい口にしてしまうのは生存のための本能です。だからと言って、甘いものを食べ過ぎて糖尿病になることを私たちは決して良しとはしないでしょう。大事なのは、むしろ逆に、ネグレクト(育児放棄)を含む虐待の心理の原因がはっきりしているからこそ、対策を万全にすることができると言うことです。さきほどの虐待の危険因子(表2)を踏まえれば、仁美の虐待を未然に防ぐことができたのではないかということです。虐待は起きないことを前提として美化するのではなく、虐待はある状況下で起こることを前提として直視し、早期に介入することがスタートラインです。虐待は起きないものという神話ができあがってしまうと、虐待があること自体を恥じたり、隠したりして、ますます早期介入が遅れてしまうからです。虐待の予防―ソーシャルサポート(表3)芽衣(奈緒の義妹)は、障害のある子どもを一時は中絶しようと決意しますが、最終的に出産します。さきほど中絶の延長線上には、ネグレクト(育児放棄)などの虐待があると説明しました。つまり、虐待をした仁美と比べた時、芽衣が出産を決意した最大の要因は、彼女の実家が裕福であり、母親や妹と同居しており、経済的にも身体的にも精神的にも余裕があることです。仁美のような状況の母親が、ネグレクト(育児放棄)などの虐待の心理を発動させないようにするためには、経済的、身体的、精神的な支援が必要です。身近なところでは、親や兄弟などの家族です。また、克子おばさんのような近所の親切な人や友人です。しかし、そういう人たちに恵まれていない時は、やはり社会からの支援(ソーシャルサポート)が必要です。例えば、経済的には、子育ての支援金です。身体的には、一時的に預けることのできる施設(ショートステイ)です。また、日本にではまだ一般的ではないですが、子守り(ベビーシッター)の制度化です。そして、心理的には、普段からの定期的な訪問、困った時には相談できる窓口で適切に声掛けができることです。さらには、妊娠した段階の母親への虐待予防のオープンな心理教育も効果が期待できます。表3 ソーシャルサポート例経済的サポート子育ての支援金身体的サポートショートステイ、ベビーシッターの制度化心理的サポート定期的な訪問、相談窓口、声掛け、虐待予防のための事前の心理教育虐待の予防の鍵―アロマザリング私たち人間の子育ては、もともと母親1人で行うものではありませんでした。原始の時代から、兄弟や親戚を含んだ大家族、もっと言えば地域全体で協力して行っていました(アロマザリング)。しかし、現代はどうでしょうか?文明の進歩や都市化という社会構造の変化によって、物質的には豊かになり、便利にもなりました。私たちはもはや昔ほど協力しなくてよくなりました。しかし、同時に、格差、核家族、一人親、一人っ子などの社会現象が生まれています。そして、これらの結果として、虐待が深刻化してきているように思われます。つまり、今こそ必要なのは、経済的、身体的な支え以上に、心理的な支えだということです。そして、そのために必要なのが家族のつながりや近所同士のつながりです。つまり、「家族力」や「地域力」です。これが、虐待の予防の鍵になるのではないかと思います。例えば、一人親だとしても自分の両親や兄弟からの協力を得ることです。また、子育てのコミュニティの輪をつくったり、地域の定期的なお祭りやスポーツなどのイベントで、交流を深めたりすることです。そのためには、行政の予算や専門家のアドバイスも必要です。虐待は、私たちの知恵による文明的な豊かさや便利さの代償(トレードオフ)のように思えてきます。しかし今こそ、この私たちの知恵による理性的な視点によって、私たちのあり方を見つめ直し、この困難を乗り越えていくことができるのではないでしょうか?1)奥山眞紀子:虐待を受けた子どものケア・治療、診断と治療社、20122)進化と人間行動:長谷川眞理子、長谷川寿一、放送大学教材、2007

28587.

エキスパートに聞く!「睡眠障害」Q&A Part2

睡眠薬の増量・減量のタイミング、治療効果判定で注意すべきポイントは?不眠症が慢性化すると、患者さんは不眠による日中の生活の質の低下を強く自覚するようになる。こうしたつらさから抜け出したいと望むあまり、不眠症にかかる以前に増して長く深く眠りたいと望むようになる。このため、寝床で眠れないでいた時間を補おうとだんだんと早く就床したり、遅くまで起床しないで過ごしたりするようになる。これにより、寝床で過ごす時間が長くなってくる。実質的に一晩に眠ることのできる生理的睡眠時間は成人で7時間、高齢になると6時間程度であるが、不眠症の患者さんは、だんだん早寝遅起きとなり寝床で8時間以上過ごしている場合が多い。こうなると、いくら薬剤を投与しても生理的睡眠時間を超えて眠らせることはきわめて困難になる。通常の問診で、何時間眠れているかについては尋ねるが、就床時刻や起床時刻について明確に尋ねない場合が多く、寝床で長く過ごしていることについては見過ごされがちである。寝床で過ごす時間が生理的な睡眠時間を超えていると、いくら薬剤を投与しても不眠は改善しない。徐々に薬剤が増えていき、多剤大量投与に結びつきやすい。このため、寝床で過ごす時間を、7時間以内に適切化しながら薬物療法を行う。このような治療を行っても、寝付けない、夜中に目が覚めるといった場合に、初めて睡眠薬の増量を考える。ただし、薬剤を増やす前に、睡眠習慣を守っているかを再度確認したい。生活習慣を適正化しながら薬物療法を行い、服薬していれば毎晩安定して眠ることができるようになることが第一の目標である。こうした安心感ができ、睡眠に対するこだわりがとれてきたら、徐々に減量していく。その際に、これまでの睡眠薬による睡眠時間分は差し引いて就床時刻と起床時刻を設定することがポイントである。たとえば、65歳以上の患者さんが睡眠薬を使用して7時間眠っていたとする。この年代の生理的夜間睡眠量はおよそ6時間であるため、1時間分は睡眠薬で眠らされていると考える。減量の前に、30分早起きすることで、寝床で過ごす時間を30分短くし、一方で薬剤投与量を半分にする。減量により患者さんが不安になることもあるため、徐々に減量することにより、この不安を軽減する。こうして、寝床で過ごす時間を適正化しながら、減量していくことが重要である。子供(思春期)の睡眠障害や、薬物療法の工夫について教えてください。子供(思春期)の不眠では成人とは異なり、遅い時刻まで寝つけず、いったん眠るとなかなか起床できないというパターンになりやすい。背景には、体内時計の遅れがあり、睡眠相後退型の概日リズム睡眠障害と呼ばれる。何とか眠らせることができれば起床もできるようになるのではと考えやすいが、睡眠薬で早くから眠らせても、起床困難は改善しないことが多い。こうした場合には、朝起きる時刻を少しずつ早くしていくことで、次第に夜に寝つく時刻が早くなっていくというように考えて治療に当たると良い。朝少しでも早く起こして、日光を浴びるように指導を行う。その際、起床時刻を早くするには時間がかかることを考慮し、1週間に30分から1時間を目標に起床時刻を早めていくとよい。体内時計がずれていることが原因なので、薬物療法を行う際は、鎮静系の薬剤で無理に眠らせるべきではない。メラトニン受容体作動薬のような薬剤を少量、少し早めの時刻に投与する。眠らせるというよりは、時差ボケを治すイメージで体内時計のずれを解消する。緊張して眠れないというケースでは、通常の睡眠薬の投与も考慮することがある。ただし、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系ともに、服用後になかなか眠れないでいるときに感情が不安定になることもあるので、用量設定と投与時刻に注意する必要がある。近年の検討で、非ベンゾジアゼピン系の薬剤が有効であるという報告もある。なお、不眠の背景には、思春期の精神疾患が隠れている場合もあるので、注意しながら観察し、可能性が疑われる場合は専門医に相談していただきたい。自己判断で薬を勝手にやめてしまう患者さんへの対応を教えてください。こういった患者さんは、連続的に服用すると “癖になる”と思い、少し眠ることができると次の晩は服薬をしない等のようになることが多い。服薬しているときは眠ることができるが、自己判断で薬を中断すると、薬を飲んでいない不安から緊張が高まりかえって眠れない。このようなことが繰り返されると、“やはり薬がやめられなくなるのではないか”と思い込むようになる。まず、このようなケースの治療の第一ステップとしては、“睡眠薬が1錠あれば安心して生活できる”と実感してもらうことである。先に述べたように、安心できるようになれば、次は半錠にし、最後は薬がなくても眠れるようにする、といった手順を根気よく患者さんに説明・指導していくことが望ましい。近年の報告では、適切な量を適切な生活習慣の中で服薬していれば、依存が起こる可能性は低いと報告されている。睡眠薬を次々に希望する患者さんへの対応を教えてください。こういった患者さんは、薬物に対する依存ではなく、誤った睡眠習慣が原因となっている場合が多い。不眠で苦しんでいるうちに、とにかく長時間眠らなくてはと考え、“早寝遅起き”になる人が多い。しかし、極端に長く床に入っているとかえって睡眠は浅くなり熟眠感が低下する。このような状態では、どんな睡眠薬を用いても熟眠感は得られない。かといって、患者が満足するよう、希望する睡眠時間を担保できる用量の睡眠薬を用いると、翌日の持ち越し効果により、日中のQOLが低下する。したがって、このようなケースでは生活指導をしながら、薬の減量や、現在の薬で満足できるよう指導する。それが難しい場合は精神科の医師への紹介を考慮する。なお、薬が効かないという患者さんの中には、本当に睡眠薬が効かない睡眠障害も隠れているということを念頭に置く必要がある。頻度として高いのは、レストレスレッグス症候群である。患者さんが下肢の異常感覚を自覚していないことや、眠れないために異常感覚が生じていると誤解していることもあるので、医師から積極的に症状を確認することが必要である。レストレスレッグス症候群の治療には、睡眠薬ではなくドパミン作動薬やGABA誘導体)などを用いる。また、周期性四肢運動障害による脚のぴくつきが原因で、睡眠が浅くなったり夜中に起きたりする場合もある。さらに、睡眠時無呼吸症候群やうつ病の可能性もある。これらは、早めに専門的な治療を行えば改善するので、疑わしいケースは専門医へ紹介していただきたい。《 内山 真氏 著書 》『睡眠のはなし(中公新書2014)』 『不眠症診療&マネジメントマニュアル(メディカ出版2013)』 『睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版(じほう2012)』 『別冊NHK きょうの健康 睡眠の病気(NHK出版2012)』 ※エキスパートに聞く!「睡眠障害」Q&A Part1はこちら

28588.

グルコキナーゼ遺伝子異常症(MODY2)を参考にした血糖コントロールレベルの検討(コメンテーター:景山 茂 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(177)より-

グルコキナーゼはヘキソキナーゼのアイソフォームの1つで、膵β細胞および肝細胞に存在する。ヘキソキナーゼのKmは0.1mmol/Lで、生理的条件下では最大速度で反応するのに対して、グルコキナーゼのKmは5.5mmol/L(99mg/dL)で、生理的な血糖の範囲でブドウ糖のリン酸化が調節されうる。また、グルコキナーゼにより産生されるG-6-Pの抑制を受けないことから、グルコキナーゼは膵β細胞においてグルコースセンサーの役割を果たしていると考えられる。 糖尿病には1型と2型以外に特殊な形として若年発症成人型糖尿病(maturity-onset diabetes of the young, MODY)が存在するが、この1つが、グルコキナーゼ遺伝子異常により生じるMODY2である。この疾患は生後1週間以内に高血糖を生じるとされているが、空腹時血糖は108~144mg/dL程度と軽度であり、生涯を通じて薬物治療を必要とすることは稀有である。MODY2では、インスリン抵抗性はなく、空腹時の脂質は正常、食後高血糖の程度も軽度という、2型糖尿病との相違が認められる。 細小血管障害は血糖コントロールとの関連が密接であり、グルコキナーゼ遺伝子異常症例は目標とすべき血糖コントロールレベルの参考になると思われる。一方、大血管障害の成因には高血圧、脂質異常症等々の因子が関与し、グルコキナーゼ遺伝子異常症例のインスリン抵抗性、血清脂質のプロファイルは2型糖尿病とは異なるので、得られた成績の解釈には注意が必要と思われる。

28589.

アトピー性皮膚炎、ブドウ球菌がバイオフィルム形成に関与

 アトピー性皮膚炎(AD)において、ブドウ球菌がバイオフィルム形成に関与しており、汗腺の閉塞に重要な役割を果たすことで炎症およびそう痒につながることが、米国・ドレクセル大学医学校のHerbert B. Allen氏らにより明らかにされた。ADにおける黄色ブドウ球菌の存在は20年以上前に報告されていたが、ADとの関連についてはなかなか確認されなかった。著者は、「これまでADは未知の環境要因とのダブルヒット現象であり、フィラグリン遺伝子に遺伝的異常が集約していると考えられてきた。今回の知見は、ADの環境的要因にはブドウ球菌と、そのバイオフィルムが関連しており、これが汗腺を閉塞していると確信する」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2014年1月22日号の掲載報告。 研究グループは本検討において、AD病変部でバイオフィルムを形成するバクテリア、およびそれらバイオフィルムの免疫システムが汗腺閉塞を引き起こす反応を、とくにToll様受容体2を評価して調べることを目的とした。 大学病院の皮膚科部門で、ADの特徴、ブドウ球菌との相関性および影響、バイオフィルムと関連している影響要因を検討した。AD患者の病変部と非病変部でルーチンの皮膚スワブを行い擦過標本作成と生検を行った。また、対照検体も入手し評価した。グラム染色、明視野顕微鏡、ヘマトキシリン・エオジン染色、過ヨウ素酸シッフ反応、コンゴレッド染色、光学顕微鏡検査などを行った。 主要評価項目は、ブドウ球菌性バイオフィルムとAD病因との関連であった。 主な内容は以下のとおり。・検討したAD患者は40例、対照検体は20例(炎症皮膚標本10例、健常皮膚標本10例)であった。・すべてのAD検体は、多剤耐性ブドウ球菌を有していた。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)42.0%、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)20.0%が優勢種属であった。・すべての分離株は、細胞外多糖とバイオフィルムに対して陽性反応を示した。85.0%が強力なバイオフィルム形成者であり、陽性反応がわずかであったものは15.0%であった。・PCR法によりバイオフィルム媒介遺伝子としてicaD遺伝子(93.0%)と、aap遺伝子(12.5%)が明らかになった。・検討では、皮膚組織における微生物同定、細胞外バイオマス生成、バイオフィルム形成、ブドウ球菌性バイオフィルムの存在についても調べた。過ヨウ素酸シッフ反応陽性、コンゴレッド染色陽性であった汗腺閉塞は、顕微鏡的組織検査で観察された。・Toll様受容体2は、AD病変皮膚(汗腺に最も近い)において活性化が認められた。同部位は、プロテアーゼ活性化受容体2を介したそう痒と、MyD88を介した海綿状態の発生に関与している可能性が示唆された。

28590.

統合失調症へのアリピプラゾール+リハビリ、認知機能に相乗効果:奈良県立医大

 統合失調症患者における認知機能障害を改善する手段に関する研究には、強い関心が寄せられている。奈良県立医科大学の松田 康裕氏らは、統合失調症患者に対する抗精神病薬治療と認知機能リハビリテーションとの相乗効果について調べた。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2014年2月10日号の掲載報告。 研究グループは、認知機能リハビリテーションの有効性について検討した無作為化試験や、裏付けのための準無作為化実験的試験の参加者で、統合失調症または統合失調感情障害と診断された患者を対象とし、認知機能リハビリテーションへのアリピプラゾールとリスペリドンとの影響について検討した。被験者(43例)を、(1)対照-リスペリドン(CR群、13例)、(2)リハビリテーション-リスペリドン(RR群、9例)、(3)対照-アリピプラゾール(CA群、10例)、(4)リハビリテーション-アリピプラゾール(RA群、11例)に分類し、リハビリテーション群の被験者は、コンピュータベースの認知エクササイズ(24セッション)をブリッジング(12セッション)とともに12週間受けた。ベースライン時と12週時点で、精神症状、認知機能および社会的機能の評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・認知機能リハビリテーションと抗精神病薬投与を2要因とした分散分析の結果、運動速度について有意な相互作用の効果があることが判明した。・作業記憶と運動速度は、CA群と比較してRA群において有意に向上した。・CR群とRR群の間には、有意な改善がみられなかった。・アリピプラゾール治療患者における認知機能リハビリテーションとの相乗効果は、運動速度の改善として観察された。・アリピプラゾール治療患者において、認知機能リハビリテーションは、作業記憶と運動速度を改善すると思われた。・今回の結果を確認するために、抗精神病薬投与と認知機能リハビリテーションの相乗効果について、さらなる研究が必要である。関連医療ニュース 統合失調症の寛解に認知機能はどの程度影響するか:大阪大学 統合失調症患者は処理速度が著しく低下、日本人でも明らかに:大阪大学 統合失調症患者へのセロトニン作動薬のアドオン、臨床効果と認知機能を増大

28596.

矯正するよりカバーしろ【Dr. 中島の 新・徒然草】(006)

六の段 矯正するよりカバーしろある晴れた日の午後。ひょんなキッカケで、某診療科の部長先生の愚痴を聞くことになってしまいました。若手医師の行いについてです。部長「彼、全然患者さんから頼まれた診断書を書きよらへんのよ」中島「それは大変ですね」部長「しゃーないから僕が彼の分も書いとるんや」中島「先生がですか!」という私も医事課に頼まれて、部下の溜め込んだ診断書をまとめて片付けることがあります。部長「彼に説教するよりもな、自分で書いた方が速いんや」中島「よ~くわかります、その気持ち!」いずこも同じみたいです。部長「何年かつきあってよくわかったで。彼、ちょっと脳の機能に欠けてるところがあるみたいなんや」中島「全然普通に見えますけど」部長「そうなんよ。人間的にはエエ奴やし、患者さんからの受けもいいし、よく勉強しよるし」中島「なるほど」部長「書類を書くのが極端に遅いというのをのけたら、言うことないんやけどな」書類が苦手で、どうやってあの難しい入学試験を突破して医学部に入ったのか、そして国試に受かったのか、それはまったく謎です。部長「まあ、僕が代わりに診断書作成をやったら済むことやからな」中島「矯正するよりカバーしろってわけですね」部長「おっ、ええこと言うやんか。まったくその通りやで!」中島「人間、中身を変えるのは不可能ですから」常人の何倍もの能力を持ちながら、どこか1点抜けてしまっている人。我々の業界には珍しくありません。大切なことは、抜けているところをお互いに補うことと、カバーしてくれた人に対して感謝の言葉を口にすることかな。

28597.

新薬が不承認となる最大の原因は有効性の欠如だった(コメンテーター:折笠 秀樹 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(176)より-

 米国FDAによる過去12年間の承認審査に関するレトロスペクティブ調査である。302件の新薬申請のうち151件(50%)はすんなり承認されたが、残る151件は書類の再提出を求められ、71件は最終的には承認、80件は不承認であった。本調査は再提出を求められた151件について、最終的に承認されたか否かの原因を探った。一発承認の要因について言及がなかったのは残念である。 どうして再提出をしても不承認となったかというと、それは有効性に致命傷のあった割合が有意に高かった(承認:28/71=39%、不承認:61/80=76%)。安全性においては両者に差はなかった(承認:37/71=52%、不承認:43/80=54%)。安全性の懸念が浮き彫りになることは申請時にはまずありえないので、これは当然な結果であると言える。 有効性といっても、不適切なエンドポイントの使用や成績が不良であったことが不承認の原因であった。循環器・神経内科領域で手こずっている実態も明らかになった。それは、がん領域などに比べエンドポイントが多様であることが原因と思われる。用量設定が不適切な場合も不承認につながりやすいようだった。 再提出を求められる場合には、最終的に承認されたにしても、上市が1年以上も遅れてしまっている。したがって、用量設定及びエンドポイント設定については、フェーズIII試験を開始する前に当局と事前相談したほうが良いだろう。

28598.

日本人も肺炎クラミジア感染で冠動脈疾患リスクが上がる~約5万人のコホート研究

 欧米では、肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)感染がアテローム性動脈硬化症と冠動脈疾患の危険因子と考えられている。しかし、日本人は欧米人に比べて冠動脈疾患リスクが低いため、日本人におけるエビデンスは非常に少ない。今回、日本人における肺炎クラミジア感染と冠動脈疾患リスクとの関連について、JPHCスタディ(厚生労働省がん研究班による多目的コホート研究)で検討した。その結果、肺炎クラミジア感染と冠動脈疾患リスクとの間に正の相関が認められた。Atherosclerosis誌オンライン版2014年1月23日号に掲載。 本研究は、JPHCスタディに参加した日本人男女4万9,011人のコホート内症例対照研究である。2004年末までに記録されたケース(冠動脈疾患196例、心筋梗塞155例)に対し、それぞれコントロールを選択し、血清肺炎クラミジアIgA抗体およびIgG抗体と冠動脈疾患リスクとの関連を調べた。 主な結果は以下のとおり。・肺炎クラミジアIgA抗体濃度は、冠動脈疾患、心筋梗塞と相関が認められた。・IgA抗体の最も高い四分位では最も低い四分位と比べ、冠動脈疾患リスクが2.29倍(95%CI:1.21~4.33)、心筋梗塞リスクが2.58倍(95%CI:1.29~5.19)であった。・IgG抗体では、この関連は認められなかった。

28599.

待機手術を受けた患者の3%が90日以上のオピオイド投与が必要だった/BMJ

 主要待機的手術を受けたオピオイド未使用患者のうち、約3%が術後90日間オピオイドを継続使用していたことが、カナダ・トロント総合病院のHance Clarke氏らによる住民ベースの後ろ向きコホート研究の結果、報告された。低年齢、低所得、糖尿病などを有するといった患者の特性や術式による長期オピオイド使用の傾向も明らかになり、著者は「今回の所見は、オピオイド治療を長期化させない患者群を特定し介入する根拠となるものだ」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年2月11日号掲載の報告より。66歳以上のオピオイド術前未使用患者3万9,140例について分析 本検討において研究グループは、オピオイド未使用で主要待機的手術を受ける患者の、術後長期オピオイド使用の発生率とリスク因子を明らかにすることを目的とした。 2003年4月1日~2010年3月31日の間に、カナダ・オンタリオ州の急性期病院で同手術(解剖学的部位として心臓、胸部、腹部、骨盤)を受けた66歳以上のオピオイド未使用患者3万9,140例を対象とした。 主要評価項目は、退院後オピオイド使用の継続(術後90日超、オピオイドが外来処方されていた患者と定義)であった。長期処方患者の傾向およびリスクの高い手術・術式も判明 3万9,140例のうち、退院後もオピオイドが処方されていた患者は49.2%(1万9,256例)であった。術後90日超処方されていたのは、3.1%(1,229例)であった。 多変量ロジスティック回帰モデルによるリスク補正後、低年齢、低所得世帯、特定の併存疾患(糖尿病、心不全、肺疾患)、術前に服用していた特定の薬物(ベンゾジアゼピン系、SSRI、ACE阻害薬)が、長期オピオイド使用の高リスクと関連していた。 手術手技のタイプにも、長期オピオイド使用との高い関連性が示された。Open法の根治的前立腺全摘除術を参照群として比較した結果、Open法および低侵襲法の胸部手術(肺切除)は有意にリスクが高かった。同オッズ比は、それぞれ2.85(95%信頼区間[CI]:2.03~3.28)、1.95(同:1.36~2.78)だった。対照的に、Open法および低侵襲法の主要婦人科系手術は有意にリスクが低かった。同オッズ比は、それぞれ0.73(同:0.55~0.98)、0.45(同:0.33~0.62)だった。

28600.

遅発性ジスキネジアが発現するD2受容体占有率は:慶應義塾大学

 慶應義塾大学の吉田 和生氏らは、統合失調症患者にみられる抗精神病薬使用後の遅発性ジスキネジア(TD)と、ドパミンD2受容体占有状況との関連について検討を行った。その結果、不随意運動を認めた例では、認めなかった例に比べて、ドパミンD2受容体占有レベルのトラフ値が有意に高く、強力なドパミンD2受容体阻害がTDのリスクを増大させる可能性が示唆されたという。Schizophrenia Research誌オンライン版2014年2月1日号の掲載報告。 研究グループは、統合失調症患者において抗精神病薬により誘発されるTDと、ドパミンD2受容体占有状況との関連を評価するため、Clinical Antipsychotic Trials in Intervention Effectiveness(CATIE)のデータベースを用いて検討を行った。CATIEのデータセットから、同研究の第I相試験でベースライン時の異常不随意運動評価尺度(Abnormal Involuntary Movement Scale:AIMS)スコアが0、かつその状態が6ヵ月以上維持されていた被験者218例を登録した。母集団薬物動態解析ならびに著者らが開発したD2予測モデルを用いて、血漿中抗精神病薬濃度に基づくAIMS評価日におけるドパミンD2占有レベルのピーク値およびトラフ値を推定した。また、AIMSスコア2以上の患者とスコア0の患者の推定ドパミンD2受容体占有レベルを、Mann-Whitney U検定を用いて比較した。 主な結果は以下のとおり。・被験者218例の投与状況は、リスペリドン投与症例78例、オランザピン投与症例100例、ジプラシドン(国内未承認)投与症例40例であった。・不随意運動を認めた被験者(23例)は、不随意運動を認めなかった被検者(195例)と比較して、推定ドパミンD2受容体占有レベルのトラフ値が有意に高かった(71.7±14.4% vs. 64.3±19.3%、p<0.05)。・一方、推定ドパミンD2受容体占有レベルのピーク値に関しては、両者の間で有意差は認められなかった(75.4±8.7% vs. 72.1±9.9%、p=0.07)。・3種類の薬剤別に解析を行ったところ、ドパミンD2受容体占有レベルのトラフ値およびピーク値に薬剤間での有意な差はみられなかったが、不随意運動を呈した被験者では一貫してその値が高値であった。・以上のように、抗精神病薬によるドパミンD2受容体の強力な阻害は、遅発性の不随意運動のリスクを高める可能性が示唆された。大規模試験にて確認することが求められる。関連医療ニュース ドパミンD2受容体占有率が服薬に影響?:慶應義塾大学 抗精神病薬で気をつけるべき横紋筋融解症 維持期統合失調症でどの程度のD2ブロックが必要か

検索結果 合計:35138件 表示位置:28581 - 28600