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自己免疫疾患に対する心身症の誤診は患者に長期的な悪影響を及ぼす

 複数の自己免疫疾患を持つある患者は、医師の言葉にひどく傷つけられたときのことを鮮明に覚えている。「ある医師が、私は自分で自分に痛みを感じさせていると言った。その言葉は私をひどく不安にさせ、落ち込ませたし、今でも忘れられない」と患者は振り返る。 全身性エリテマトーデス(SLE)や血管炎などの自己免疫疾患では、一見すると疾患とは無関係に見える非特異的な心身の症状が複数現れ、診断が困難なことがある。そのような場合、医師は患者に、心身症、つまり症状が精神的なものである可能性を示唆することが多い。その結果、医師と患者の間に「誤解と意思疎通の食い違いに起因する隔たり」が生まれ、それが医療に対する患者の根深く永続的な不信感につながっていることを示した研究結果が、「Rheumatology」に3月3日掲載された。 この研究では、全身性自己免疫疾患(SARD)患者の2つのコホート(LISTENコホート1,543人、INSPIREコホート1,853人)に対する調査データを用いて、患者が医師に、症状を心身症または精神疾患と誤って診断された(以下、心身症・精神疾患の誤診)と感じることが、患者に与える長期的な影響を調査した。影響は、医療との関係(医師に対する信頼、ケアに対する満足度など)、医療に関わる行動(服薬アドヒアランス、症状報告の頻度や正確性など)、精神的ウェルビーイング(抑うつ、不安)の観点から評価した。 その結果、LISTENコホートで心身症・精神疾患の誤診を受けたことを報告した患者の80%超が、「誤診を受けたときに医師に対する信頼感が損なわれた」と回答し、55%はそのことが医師への長期的な不信感を生んだと回答していた。また、「誤診により自尊心が傷つけられた」と回答した患者も80%超に上った。さらに、72%は、誤診から数カ月または数年が経過したにもかかわらず、その経験を思い出すと動揺すると回答した。 心身症・精神疾患の誤診を受けた患者は、精神的ウェルビーイングが大幅に低く、抑うつや不安のレベルが高く、医療的ケアに対する満足度も全ての面で低いことも示された。さらに、このような誤診は医療に関わる行動にも悪影響を及ぼし、症状を過小報告する傾向や医療を回避する傾向の高いことが確認された。これらの行動は、受診時に再び同様の扱いを受け、症状を信じてもらえないかもしれないという不信感や恐れに起因するものであることが示唆された。ただし、服薬アドヒアランスとの間には関連が認められなかった。 一方、医師からは、「症状を心身症とすることで患者に引き起こされ得る長期的な問題については、あまり考えたことがなかった」や、「ガスライティング(心理的虐待)を受けたと感じる患者は、誰が何を言っても信用しなくなってしまう。患者に大丈夫だと納得させようとすると、『でも、前の医者もそう言ったけど、間違っていた』と言われる」と話したという。 論文の筆頭著者である、英ケンブリッジ大学のMelanie Sloan氏は、「多くの医師は、最初は説明のつかない症状に対して、心身症または精神的なものである可能性を示唆して患者を安心させようとする。しかし、こうした誤診は多くの否定的な感情を生み出し、生活、自尊心、ケアに影響を及ぼす可能性がある。このような悪影響は、正しい診断が下された後も解消することはあまりないようだ。われわれは、このような患者をもっと支援して精神的な傷を癒やし、臨床医がより早期の段階で自己免疫疾患の可能性を考慮するよう教育する必要がある」と話す。 自己免疫疾患患者として本研究に協力した論文の共著者の1人であるMichael Bosley氏は、「この種の誤診が長期にわたる精神的・感情的被害と医師に対する信頼の壊滅的な喪失につながる可能性があることを、より多くの臨床医が理解する必要がある。自己免疫疾患の症状が、このような普通ではない形で現れる可能性があること、また、患者の話を注意深く聞くことが、心身症や精神疾患の誤診が引き起こす長期的な害を避ける鍵であることを全ての医師が認識するべきだ」と付言している。

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中強度〜高強度の身体活動は脳の健康に有益

 体を動かすことは、脳に良い影響を与えるようだ。新たな研究で、中強度から高強度の身体活動でエネルギーを消費する人では、エネルギーの消費量が少ない人に比べて認知症、脳卒中、不安症(不安障害)、うつ病、睡眠障害を発症するリスクの低いことが明らかになった。復旦大学(中国)のJia-Yi Wu氏とJin-Tai Yu氏によるこの研究結果は、米国神経学会年次総会(AAN 2025、4月5〜9日、米サンディエゴ)で発表予定。 この研究でWu氏らは、7万3,411人の参加者(平均年齢56.08±7.82歳、女性55.72%)を対象に、活動量計で測定した7日間分の身体活動量および座位行動と精神神経疾患との関連を検討した。身体活動量は代謝当量(METs)として定量化し、3METs以上を中強度〜高強度の身体活動と見なした。例えば、ウォーキングや掃除などの中強度の身体活動は約3METsの消費、サイクリングなどのより激しい身体活動は、速度にもよるが、約6METsの消費に相当する。 解析の結果、中強度〜高強度の身体活動でエネルギーを消費していた参加者は、エネルギー消費量が少なかった参加者に比べて、認知症、脳卒中、不安症、うつ病、睡眠障害を発症するリスクが14~40%低いことが明らかになった。疾患を発症しなかった参加者での中強度〜高強度の身体活動による1日当たりのエネルギー消費量(1kg当たり)は平均1.22キロジュール(kJ)であったのに対し、認知症発症者では0.85kJ、睡眠障害発症者では0.95kJ、脳卒中発症者では1.02kJ、うつ病発症者では1.08kJ、不安症発症者では1.10kJだった。また、座位時間が長いほどいずれかの疾患の発症リスクが上昇し、座位時間が最も短い参加者と比べてリスクは5~54%高かった。 こうした結果を受けてWu氏はAANのニュースリリースの中で、「この研究結果は、脳の健康状態を向上させ、これらの疾患の発症リスクを低減させ得る、修正可能な因子としての身体活動と座位行動の役割を強調している」との見方を示す。同氏は、「人々に、中強度〜高強度の身体活動量をライフスタイルに組み込むよう促すことで、将来的には、これらの疾患の負担を軽減できることが期待できる」との見方を示している。 Wu氏はまた、「これまでの研究の中には、試験参加者の報告に基づき身体活動量を測定しているものもあった。それに対し、今回の研究では、非常に多くの参加者の身体活動量を、客観的な測定が可能なデバイスを用いて評価した。そのため、得られた結果は、リスク因子の評価や、これらの疾患に対する予防的介入策の開発に影響を及ぼすだろう」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第236回 はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省

<先週の動き> 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務 /国がん 3.2025年度の専攻医は過去最多の9762人、外科医が増加/専門医機構 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生 /保団連 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省日本国内で、はしか(麻しん)の患者報告が増加しており、注意が必要となっている。国立感染症研究所の調査によると、今年の患者数はすでに32人に達し、昨年の総患者数に迫る勢い。とくに、ベトナムへの渡航歴がある患者が多く報告されている。患者の年齢層は20~30代が中心で、全患者の7割近くを占めている。はしかは感染力が非常に強く、空気感染、飛沫感染、接触感染によって人から人へと伝播する。免疫のない人が感染すると、ほぼ100%発症すると言われており、発熱、咳、鼻水などの風邪のような症状や、発疹が現れる。重症化すると肺炎や中耳炎を合併し、脳炎を発症する場合もある。こうした状況を受け、厚生労働省と外務省は、国民に対し注意喚起を行っている。海外渡航を予定している人は、渡航先の流行状況を確認し、予防接種歴を確認することが推奨されている。予防接種を受けていない場合は、渡航前に接種を検討することが重要である。 参考 1) 麻しんについて(厚労省) 2) 海外における麻しん(はしか)に関する注意喚起(外務省) 3) 麻しん累積報告数の推移 2018年~2025年(第1~11週)(国立感染症研究所) 4) はしか患者報告相次ぐ 全国で32人 ベトナム渡航で感染か(毎日新聞) 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務/国がん国立がん研究センターは、大腸がんの死亡率低減に向け、全国統一の検診プログラム導入を提言する「大腸がんファクトシート」を公開した。ファクトシートによると、わが国における75歳以上の大腸がん年齢調整死亡率は、諸外国と比較して高い水準にある。1992年から導入された便潜血検査による対策型検診は、死亡率の減少に一定の効果をみせたものの、その減少幅は他国に比べて緩やかである。この要因として、住民検診、職域検診、人間ドックなど、多岐にわたる検診が混在し、精度管理指標の評価が困難であることが指摘されている。結果として、検診の効果が十分に発揮されていない可能性がある。提言では、検診プログラムの全国統一化、または全数把握システムの構築を求め、データの一元管理による精度管理の向上、受診率・精密検査受診率の向上が重要であると強調している。現状では、大腸がん検診の受診率は低迷しており、2023年度の住民検診受診率はわずか6.8%に止まる。また、職域検診など、法的根拠のない検診も存在し、データが十分に公表されていない点も課題となっている。ファクトシートでは、大腸がんの病態、罹患・死亡の動向、リスク要因、検診、治療、今後の対策など、多岐にわたる情報が網羅されている。とくに、日本人のリスク要因として「喫煙、飲酒、肥満、高身長」が挙げられ、食生活や運動習慣の改善が重要であることが示された。また、便潜血検査の有効性が改めて示される一方で、大腸内視鏡検査については、現在進行中の大規模試験の結果を踏まえた慎重な検討が必要とされている。国がんは、今後の対策として、日本人に適した予防法の確立、全国統一プログラムによる検診の実施、受診勧奨の強化、精度管理の徹底などを提言している。とくに、大腸内視鏡検査については、有効性の検証とともに、対象者、処理能力、精度管理、安全性、検査歴などの課題解決に向けた検討を求めている。 参考 1) 大腸がんファクトシート(国立がん研究センターがん対策研究所) 2) 大腸がん検診、全国統一のプログラム実施を 諸外国より高い死亡率 国がんがファクトシート公開(CB news) 3) 大腸がんの罹患数・死亡数低下に向け、まず住民検診、職域検診、人間ドック等に分かれている「がん検診データ」を集約し実態把握をー国がん(Gem Med) 3.2025年度の専攻医は過去最多の9,762人、外科医が増加/専門医機構日本専門医機構は、2025年度の専攻医採用数は過去最多の9,762人となる見込みであることを明らかにした。医学部定員の増加を背景に、全体として採用数は増加傾向にある。とくに、医師不足が深刻な外科では、前年度比56人増の863人と増加が顕著であった。耳鼻咽喉科も72人増と大幅な伸びを示した。一方、精神科、産婦人科、放射線科などでは減少がみられた。地域別では、東京近郊で増加傾向にあるが、医師不足が深刻な東北地方での増加は限定的。この地域偏在の解消に向け、2026年度からは新たなシーリング制度が導入され、医師不足地域との連携を促進する仕組みとなる。専門研修と並行して研究を目指す「臨床研究医コース」は、25人と増加に転じた。機構は、2026年度に研究奨励賞を創設するなど、研究医育成への支援を強化する方針を示している。また、機構では、医師の地域・診療科偏在を解消しつつ、質の高い専門医育成を目指すため、今後も制度の改善に取り組むとしている。 参考 1) 2025年度専攻医採用数一覧(日本専門医機構) 2) 来年度の専攻医数、過去最多に(Medical Tribune) 3) 新専門医目指す「専攻医」の2025年度採用は9,762名、外科専攻医が増加、東北地方での専攻医増は限定的-日本専門医機構(Gem Med) 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生/保団連マイナ保険証の利用を巡り、全国保険医団体連合会(保団連)が実施した調査で、医療機関の約9割で何らかのトラブルが発生していたことが明らかになった。トラブルの内容としては、氏名や住所の漢字が正確に表示されないケースが最も多く、次いでカードリーダーの接続不良や認証エラー、資格情報が無効となるケース、マイナ保険証の有効期限切れなどが報告されている。これらのトラブルにより、医療機関では窓口業務の負担が増加し、とくに高齢者を中心に、カードリーダーの使用が困難な患者や、使用方法を理解できない患者への対応に時間を要している。また、資格情報などの確認が取れるまで、患者に医療費を全額負担させるケースも発生している。保団連は、こうした状況を受け、トラブル時にバックアップとなる健康保険証の存続を訴えている。従来の保険証は、患者が医療機関を受診する際に資格を証明する重要な役割を果たしており、医療機関と患者の双方にとって有益であることが調査結果からも示唆されている。マイナ保険証の利用には、初診の患者の登録が簡単になる、資格情報の確認がオンラインで可能になるなどのメリットもある。しかし、トラブル発生時の対応に時間がかかることや、再診の患者が多い現状を考慮すると、マイナ保険証のメリットは限定的であるという指摘もある。さらに、マイナンバーカードのICチップに搭載されている電子証明書の有効期限は5年であり、2020年にマイナポイント事業でカードを作成した人の更新時期が迫っている。今後、電子証明書の失効によりマイナ保険証が利用できなくなる人が増加し、医療現場でのトラブルがさらに多発することが懸念されている。 参考 1) 保険証発行停止後の医療現場のマイナ保険証トラブルは? 8,000医療機関から回答(保団連) 2) マイナ保険証エラーで「いったん全額負担」1,720件 医療機関を全国調査したら「トラブルあった」9割(東京新聞) 3) マイナ保険証移行後にトラブル 9割の医療機関で 保団連の中間集計(CB news) 4) “マイナ保険証”使えず医療費「患者が全額負担」のケースも多数…保団連が現場トラブルの実態を報告(弁護士JP) 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ自民・公明・維新の3党は3月27日に、社会保障改革に関する協議体の2回目の会合を開き、OTC類似薬(市販薬と類似の医療用医薬品)の保険適用除外について、来週開催される次回の会合で議論することを決定した。維新の会の岩谷 良平幹事長は、会合後の記者会見で、主な議題は協議テーマの選定であり、1回目の会合に続きOTC類似薬の保険給付の見直しを提案したと説明。これに対し、自民・公明両党は改革案の提出を求め、岩谷幹事長は弊害や課題を整理し、協議を進める考えを示した。また、自民・公明両党は専門家を招いての議論を提案したが、維新の会は迅速な改革を主張し対立。結果として、次回の会合に専門家を招くことは見送られた。一方、日本医師会はOTC類似薬の健康保険からの適用除外に強く反対している。保険適用除外による患者の経済的負担増加や受診控えによる健康被害、薬の適正使用が困難になることを懸念している。とくに高齢者や基礎疾患を持つ患者への影響は大きく、医療費全体の増加も指摘した。ドラッグストア協会は、医療費抑制には理解を示しつつも、患者の負担増を懸念し、財源の活用方法を含めた議論を求めている。3党は今後、週1回のペースで協議を重ね、5月中旬までに一定の方向性をまとめる予定。しかし、専門家の参加や改革案の内容を巡り、早くも意見の隔たりが表面化しており、議論の行方は不透明である。 参考 1) 社保改革で実務者が初会合 自公維3党協議(日経新聞) 2) OTC類似薬の保険適用除外、3党で来週協議へ 専門家の出席巡り激しい応酬も 社会保障改革(CB news) 3) 社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化に強い懸念を表明(日医ニュース) 4) ドラッグストア協会 OTC類似薬の保険適用除外論議にコメント(ドラビズオンライン) 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省厚生労働省は、地域医療構想の実現を加速化するため、各都道府県に「推進区域」を設定する取り組みを進めており、新たに兵庫県の「東播磨構想区域」を推進区域に追加した。これにより、全都道府県から計74ヵ所の推進区域が出そろった。高齢化の進展に伴い、2025年度には、人口の大きなボリュームゾーンを占める「いわゆる団塊の世代」がすべて75歳以上の後期高齢者となる。これに伴い、今後、急速に医療ニーズが増加・複雑化することが予想される。地域医療構想は、こうした医療ニーズの増加・複雑化に対応できるような効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するために、各地域で進められている取り組みである。しかし、2025年度を目前に控えた現時点でも、地域医療構想の実現に向けた取り組みの進捗状況は地域によって大きなばらつきがある。具体的には、「病床の必要量と2025年の病床数見込みとの乖離があり、それに関する分析が進んでいない地域がある」「医療提供体制の課題解決に向けた工程表作成が進んでいない地域がある」といった状況となっている。さらに、すべての構想区域で、救急医療提供体制や医師確保など、医療提供体制に何らかの問題を抱えていることが判明している。そこで厚労省は、地域医療構想実現に向けた動きを加速化するため、2024年3月に、各都道府県におおむね1~2ヵ所ずつ「推進区域」を指定し、当該区域において「推進区域対応方針」を作成し、地域医療構想実現に向けた取り組みを加速化する方針を固めた。推進区域は、厚労省と都道府県とで調整し、データ特性だけでは説明できない病床数の差異や、再検証対象医療機関の対応状況、その他医療提供体制上の課題などを総合的に勘案して設定される。各都道府県は、2024年度中に、推進区域の地域医療構想調整会議で協議を行い、当該区域における将来のあるべき医療提供体制、医療提供体制上の課題、当該課題の解決に向けた方向性・具体的な取り組み内容を含む「区域対応方針」を策定し、それに基づく取り組みを推進することが求められる。また、推進区域のうち10~20ヵ所程度は「モデル推進区域」として指定され、厚労省による技術的・財政的支援が行われる。 参考 1) 地域医療構想における推進区域及びモデル推進区域の設定等について(厚労省) 2) 推進区域74ヵ所出そろう、兵庫の「東播磨」追加 25年の地域医療構想 モデル推進区域は16ヵ所(CB news) 3) 地域医療構想実現に向けた取り組みの加速化を目指す【推進区域】、兵庫県明石市、加古川市など含む「東播磨」区域を追加決定-厚労省(Gem Med)

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海外番組「セサミストリート」(続編・その1)【実はこだわりは能力だったの!?だから男の子に多いんだ!(自閉症の機能)】Part 1

今回のキーワード社会的コミュニケーションの障害共感性反復性システム化パターン・シーカー胎児期アンドロゲン仮説指比超男性脳自閉症は、子供の時からコミュニケーションがうまくできないと同時に、こだわりが強すぎるという特徴があります。それでは、なぜそうなってしまうのでしょうか? なぜ男の子に多いのでしょうか?今回は、海外番組「セサミストリート」のキャラクターの1人であるジュリアを取り上げます。このキャラクターを通して、まず自閉症の症状をまとめ、こだわりを機能として捉え直します。そして、有力な原因仮説をご紹介し、男の子(男性)にとても多いわけを解き明かしてみましょう。なお、現在の自閉症の正式名称は、自閉スペクトラム症(ASD、Autism Spectrum Disorder)です。この記事ではわかりやすさや呼びやすさを優先して、あえて自閉症という従来名称を用います。また、このキャラクターの動画は、公式チャンネルから見ることもできます。ちなみに今回は、海外番組「セサミストリート」を扱った記事の続編になります。本編については、関連記事1をご覧ください。自閉症とはどんなものなの?ジュリアは、オレンジの髪の毛でグリーンの目。エルモの幼なじみです。ただ、エルモのような普通の子供とはちょっと様子が違い、彼女は自閉症であると説明されます。それでは、自閉症とはどんなものなのでしょうか? まず、ジュリアの特徴を大きく2つ挙げて、自閉症の主な症状をまとめてみましょう。(1)コミュニケーションがうまくできないジュリアは、みんなで絵を描いている時、ビッグバードから何度も話しかけられますが、まるで無視しているかのように絵を描き続けます。ビッグバードが「ジュリアは僕のことをあまり好きじゃないみたい」と悲しそうに言うと、大人のアランが「ジュリアはねえ、何か聞かれてもすぐには答えられないことがあるんだよ」「ジュリアはあんまりしゃべらないんだ」とフォローします。しかし、しばらくすると、ジュリアは「あそぼ、あそぼ」と急に言い出し、笑い出します。気を利かせたアランが「鬼ごっこしたいみたいだね」とフォローします。一方で、アビーから「一緒に遊んでもいい?」と話しかけられた時は、ジュリアはアビーの方を見ないで、「一緒に遊んでもいい?」とオウム返しをしていました。このように、話しかけられても聞こえていなかったり、聞こえていても視線をあまり合わせず、意味がわからないためにうまく返事をしなかったり、逆に急にテンションが上がって独り笑いをしたり、一方的に話し続けたりする特徴は、自閉症の1つの特性、社会的コミュニケーションの障害です。簡単に言うと、コミュニケーションのやり取りがうまくできないことです。脳機能としてみると、これは生後から共感性がうまく発達しないことが挙げられます。共感とは、まさに共に感じて、相手と同じ気持ちになる心理です。これがないと、必然的に人への興味が出てこなくなります。すると、コミュニケーションをしようとせず、身振りも言葉もなかなか発達しなくなるのです。この詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)こだわりが強すぎるジュリアはいつもテンションが上がると、「ぼよん、ぼよん、ぼよん」と独り言を言いながら、両手をぶらぶら(ひらひら)させて動き回る癖があります。一方、いつもの読み聞かせの時間が、アランの急な用事で中止になった時、エルモたちは「しょうがないよね」と諦めますが、ジュリアだけは「おはなし!おはなし!」と聞き分けなく騒ぎ続け、パニックになります。また、消防車のサイレンの音が聞こえてきた時は、耳をふさぎ、具合が悪くなります。そして、体全体のハグが苦手なため、「指先だけハグ」をします。このように、同じ言葉や動きへの執着(常同)、習慣への固執(パターン行動)、そして特定の音や接触への敏感さ(感覚過敏)などの特徴は、自閉症のもう1つの特性、反復性です。簡単に言うと、こだわりが強すぎることです。脳機能としてみると、これは生後からシステム化の能力が発達しすぎていることが挙げられます。システム化とは、原因と結果のつながりのパターン(システム)を見つけ出そうとする心理です。そのために、五感が研ぎ澄まされてもいます。たとえば、「ネコ、ネコ、イヌ、ネコ、ネコ、イヌ、次は何が来るかな?」と言われて、クッキーモンスターが「ブタ!?」と当てずっぽうで答える一方、ジュリアは「ネコ」と即答し、「ジュリアはパターンを見つけるのがうまいね」とほめられます。つまり、こだわりは、パターンを見つけ出す能力でもあります。そんな彼らは、パターン・シーカーと呼ばれています1)。つまり、システム化は、パターンを見つけ出すと同時に、パターンにとらわれる(こだわりが強くなる)という二面性があるわけです。このシステム化と先ほどの共感性の詳細については、関連記事3をご覧ください。次のページへ >>

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海外番組「セサミストリート」(続編・その1)【実はこだわりは能力だったの!?だから男の子に多いんだ!(自閉症の機能)】Part 2

なんで自閉症になるの?自閉症は、コミュニケーションがうまくできない、こだわりが強すぎるという症状があることがわかりました。それでは、なぜそうなるのでしょうか?その答えは、胎児期に男性ホルモンが多すぎていたからです。これは、胎児期アンドロゲン仮説と呼ばれる有力な原因仮説です2)。アンドロゲンとは、男性ホルモンの総称です。その代表が、テストステロンです。もともと胎児のデフォルトは女性です。遺伝的に男性の場合は、胎児期に自らのY染色体の発現によって精巣からこの男性ホルモンを分泌して(ホルモンシャワー)、体と心(脳)を男性化させていきます。その量が多すぎるのが自閉症の原因だということです。実際の研究では、妊娠6ヵ月時に採取した羊水中の男性ホルモン濃度が高ければ高いほど、4歳時と8歳時のそれぞれの共感性の指数が低くなり、システム化の指数が高くなるという結果が出ています2)。これは、自閉症形質の発現を意味します。また、薬指の長さに対する人差し指の長さの比較(指比)の研究では、一般女性→一般男性→自閉症の人(男女とも)の順に人差し指が短くなっていくことが確かめられています3)。これは、胎児期の男性ホルモン濃度が高くなっていく順番と同じです。なお、自閉症は男女とも人差し指が同じくらい短くなることから、自閉症の発症には胎児期の男性ホルモンが相当影響していることが示唆されます。実際の臨床でも、胎児期に先天的に男性ホルモン(厳密にはテストステロンではなくデヒドロエピアンドロステロン)濃度が高い病態(先天性副腎過形成症)では、男女ともに顕著に人差し指が短くなっていることが確かめられています。そして、システム化の指数が高くなるという結果が出ています4)逆に、胎児期に男性ホルモン(テストステロン)濃度が低い病態(クラインフェルター症候群、アンドロゲン不応症)の男性は、人差し指が長くなっていることも確かめられています。さらに、自閉症の男性の精通の時期は平均よりも早くなる一方、自閉症の女性の初潮は平均よりも遅くなることもわかっています2)。逆に、自閉症の人はオキシトシン濃度(女性ホルモン)が平均を下回っていることもわかっています2)。オキシトシンは「絆ホルモン」とも呼ばれ、これが少ないと人とのコミュニケーションへの動機づけ(共感性)が低くなります。さらに、脳の画像研究においては、一般的に女性よりも男性の方が脳の非対称性が大きいことがわかっていますが、自閉症の人はその非対称性がさらに大きくなっていることもわかっています5)。以上より、自閉症とは、男性的な脳機能が過剰になった状態、つまり超男性脳とも呼ばれています。そして、だからこそ自閉症は男の子(男性)に多いのです。実際に自閉症の80%は男性です。ちなみに、ジュリアは、女の子の設定になっています。この多様性の時代、発症率が低い女の子(女性)をあえて自閉症のキャラクターにしたのでしょう。定型発達においても、システム化は、明らかに女の子よりも男の子が高いです。たとえば、男の子(男性)は、乗り物、仕組み(ルール)、戦い(スポーツ)、勝ち負けなど、ものや結論(結果)への興味が強いです。そして、成長すると、理屈っぽくなる分、女性ほど察しようとしないです。一方で、共感性は、明らかに男の子よりも女の子が高いです。たとえば、女の子(女性)は、ぬいぐるみ集め、人形遊び、料理、おしゃべりなど、人や関係性(プロセス)への興味が強いです。そして、成長すると、情緒的になる分、男性ほど説明しようとしないです。つまり、システム化とは、とくに男性にもともと備わっている能力であると言えます。そして、その能力が高まりすぎた状態を自閉症と呼んでいると言えます。それでは、システム化が高くなると、なぜ連動して共感性が低くなってしまうのでしょうか? 言い換えれば、なぜ自閉症はコミュニケーションの障害とこだわりはセットなのでしょうか?(次回に続く)1)ザ・パターン・シーカーpp.93-95:サイモン・バロン・コーエン、化学同人、20222)自閉症スペクトラム入門pp.134-135:サイモン・バロン・コーエン、中央法規、20113)指からわかる男の能力と病p.31、pp.100-101:竹内久美子、講談社α新書、20134)共感する女脳、システム化する男脳pp.186-187:サイモン・バロン・コーエン、NHK出版、20055)脳からみた自閉症p.129:大隅典子、講談社、2016自閉症についての関連記事大人の自閉症への対応のコツ結婚できない男【空気を読まない】[改訂版]<< 前のページへ■関連記事海外番組「セサミストリート」【子供をバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?(言語障害)】Part 1伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子供は言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 2ガリレオ【システム化、共感性】

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暗記しやすい! 医療現場の言いかえ英単語

医療者と患者の架け橋に~一般用語と専門用語をつなぐ単語帳~英語に自信がない学生・医療者は多いものです。そのような中で、英語を学ぼう、学び直そうという学生や医療者が増えています。医療英語を学ぶには、まずは医療英単語から覚える必要がありますが、暗記しやすいよう、また医療現場で役立つよう、医療者同士の会話で用いるプロフェッショナルな単語と、患者さんに用いる一般用語を並列して掲載しました。本書を用いて効率よく英単語を頭に入れていきましょう!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する暗記しやすい! 医療現場の言いかえ英単語定価3,300円(税込)判型四六判頁数126頁発行2025年3月編著山田 悠史マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科アシスタント・プロフェッサー/Medical English Hub(めどはぶ)代表ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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「乳腺外科医事件」再度の無罪判決と医療現場への示唆

手術直後の女性患者への準強制わいせつ罪に問われた執刀医が、逮捕・勾留・起訴された事件。一審では無罪判決となったが、控訴審では懲役2年の実刑判決が東京高裁より言い渡され、執刀医側の上告を受けて出された最高裁判決は「東京高裁への差戻し」。3月12日、この差戻審の判決が出され、無罪とした一審の判決が支持された。担当弁護人の1人である水沼 直樹氏が、これまでの経緯および裁判での争点と、このような事件を防ぐために医療現場でできる対応について解説する。1.患者側の主張と医師の主張2016年5月、30代の女性が右胸部の良性腫瘍摘出術を受けた後、担当医師が病室を訪れ、健側(左胸部)を舐める等のわいせつ行為をしたとして、準強制わいせつの疑いで逮捕・起訴されました。患者の左胸部から医師のDNAとアミラーゼが検出されています。患者は、術後に2回、同様の行為を受けたと主張している一方で、医師は術後せん妄による性的幻覚の可能性を指摘しています。2.争点と裁判所の判断(1)東京地裁(無罪):2019年2月、1)患者が「せん妄状態に陥っていた可能性は十分にあり、また、せん妄に伴って性的幻覚を体験していた可能性も相応にある」、2)術前の触診や、上級医とのマーキング時等の唾液飛沫により胸部にDNAやアミラーゼが付着した可能性が否定できない、としました(「乳腺外科医事件」裁判の争点参照)。(2)東京高裁(有罪):2020年7月、1)「せん妄に伴う幻覚は生じていなかった」、2)科学捜査研究所の検査担当者によるワークシートの記載事項の消去、上書き、書き換えには「意図的に鑑定結果をねつ造したとはうかがえず」、「DNA定量検査の結果が信用できないとも断じ難い」としました(「乳腺外科医事件」控訴審、逆転有罪判決の裏側参照)。(3)最高裁判決(破棄差戻):2022年2月、1)検察側証人の「見解は医学的に一般的なものではないことが相当程度うかがわれる」、2)DNA定量検査の正確性についてさらに審理する必要がある、としました(「乳腺外科医事件」最高裁判決を受けて参照)。3.差戻後控訴審(無罪)差戻後の東京高裁は、1)複数の専門家の証言から、麻酔薬等により術後せん妄による性的幻覚の可能性があるとした第一審の判断は不合理ではなく、2)DNA定量検査の値は信頼できるが、触診行為自体や触診時等に飛散した医師の唾液飛沫が患者の胸部に付着した可能性を否定できないとしました。※2025年3月25日、検察官は上告を放棄し、医師の無罪が確定しました。4.医療現場への示唆本件は、患者の術後せん妄による性的幻覚の可能性が認められました。その点で、医療現場では、せん妄・術後せん妄対策が重要となります。(1)せん妄は見落としやすい医療従事者によるせん妄患者の見落としが多いことが報告されています1)。医療従事者への研修・教育が重要です。(2)スクリーニング・アセスメントの実施せん妄対策が患者の予後に影響します。せん妄のスクリーニング、アセスメントを実施し、早期に医療介入しましょう2)。(3)患者・家族への説明せん妄を体験した患者や、せん妄状態に陥った患者を目の当たりにした家族の焦燥感は計り知れません。患者や家族に対してもせん妄教育を行うと良いでしょう。YouTube等にも専門家が制作した多くの啓発動画が存在しています。(4)回診・訪室の際の注意単独での回診は、あらぬ疑いをかけられたり、逆に心ならぬ医療従事者に犯行の機会を与えたりします。他方、常に2名体制で回診・ラウンドすることは現実的に難しいでしょう。そこで、せめて、術後間もないうちだけでも単独回診・巡回を回避することが大切だと考えられます。 1)Inouye SK, et al. Arch Intern Med. 2001;161:2467-73.2)小川朝生. せん妄 適確にアセスメントをし、せん妄を予防する. 看護科学研究 2017;15:45-9.講師紹介

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「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」改訂のポイント/日本胃学会

 2024年10月に「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」(日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会 編)が8年ぶりに改訂された。2000年の初版から4回の改訂を重ね、2024年版は第5版となる。2009年の改訂版ではH. pylori感染症の疾患概念が提起され、慢性胃炎患者に対する除菌が保険適用される契機となった。今回の2024年版は初めてMindsのガイドライン作成マニュアルに準拠して作成され、「1)総論、2)診断、3)治療、4)胃がん予防―成人、5)胃がん予防―未成年」という章立てで、CQ(クリニカル・クエスチョン)、BQ(バックグラウンド・クエスチョン)、FRQ(フューチャー・リサーチ・クエスチョン)から構成されている。 感染診断と除菌治療に関わる医師に向けた改訂ポイントとしては、「3)治療」の章の冒頭にフローチャートが追加され、通常の1~3次治療の流れとペニシリンアレルギーなどの特殊な除菌治療の流れが明確になった。また、 これまで標準的な1次除菌はプロトンポンプ阻害薬(PPI)もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)にβ-ラクタム系抗菌薬アモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた3剤併用療法だったが、 これまでにPPIベースの3剤併用療法に比してP-CABベースの3剤併用療法の除菌率が高いというエビデンスが集積したことを踏まえ、 本ガイドラインではP-CABであるボノプラザンを軸にした3剤併用療法が推奨となっている。 胃がん診療医や内科医が患者から聞かれることの多いH. pylori検査と胃がん予防効果の関連についてはどのように記載されているか。2025年3月12~14日に行われた第97回日本胃学会ではヘリコバクター学会との合同シンポジウムが行われ、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた青森県総合健診センター所長の下山 克氏が胃がん診療医向けに「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版の『胃がん予防』」と題した発表を行い、「4)胃がん予防―成人」の項目を中心に改訂点やポイントを紹介した。CQ3-1 無症候一般住民への血清抗H. pylori抗体検査and(/or)ペプシノゲン(PG)検査は、胃がん予防に役立つか?A. 無症候一般住民への血清H. pylori抗体検査andペプシノゲン(PG)検査によるリスク層別化検査は胃がん予防効果が期待されるが、エビデンス不足のため現時点での推奨提示は困難である。――エビデンスが不十分な場合、CQ自体をなくすことが多いが、重要な設問であるためにあえてCQとして残し、現状を解説することとした。実際、韓国のガイドラインでは同様の内容がガイドラインに掲載されなかった。H. pylori感染未検査者を対象とし、血清H. pylori抗体検査と除菌の胃がん死亡抑制効果を長期にみた研究は少なく、現状では推奨は出せないという判断となった。CQ3-2 血清抗H. pylori抗体検査and(/orペプシノゲン)検査は胃がん予防のため毎年必要か?A. 胃がん予防のために血清抗H. pylori抗体検査およびペプシノゲン(PG)検査を毎年行うことは推奨しない。【推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性:C】――職域の健診、人間ドックで毎年検査を受けているケースがしばしばあるが、多くの場合、H. pylori感染の確認・除菌が伴っておらず、正しい運用を徹底させることが基本となる。複数回測定することが胃がん予防につながるというエビデンスはなく、コスト面からも毎年の検査のような、繰り返すだけの実施は推奨されない。 また、血清抗体検査に関する注意点としては、測定キットの種類に違いがあることだ。少し前まではEIA法(Eプレート)が多く使われていたが、現在ではコストや利便性に勝るラテックス法が主流となっている。問題は測定法により抗体価の分布が異なることで、ラテックス法ではEプレートに比べてカットオフ以上の中に未感染者、既感染者が相当数含まれる。除菌後6年間の検査陽性率の推移を見ても、ラテックス法では6年後でも4割近くが陽性となるが、EIA法ではわずか2%程度だ。胃がんリスク検診においてはEIA法では分類基準となる抗体価として「陰性高値」を設定しているが、ラテックス法で陰性高値を設定することは誤りであることに留意してほしい。CQ3-3 一般住民への胃がん検診(X線、内視鏡検査)は胃がん診断だけでなく、一次予防に役立つか?A. 胃がん検診はH. pylori感染診断としても有用であり、一次予防効果が期待できるが、今後の検証が必要であり、現時点での推奨提示は困難である。――胃がん検診は、世界的に日本(X線、内視鏡検査)と韓国(内視鏡)でのみ行われている。胃がん検診が1次予防の役割も果たすのは、H. pylori感染胃炎患者を発見し、除菌治療につなげることである。H. pylori感染胃炎患者のほとんどが無症状で、H. pyloriの検査を受ける機会が少ないことから、健康な人が受ける胃がん検診とその画像は、感染の有無を知る貴重な機会となる。日本消化器がん検診学会では「胃X線検診のための読影判定区分」を公開しており、精検不要症例でもH. pylori感染が疑われる場合は「カテゴリー2」として区分し、必要に応じてH. pylori感染検査や除菌治療の情報提供などを行うよう推奨している1)。このように胃がん検診は一次予防効果が期待されるものの、現時点で胃がん死亡を減少させるというエビデンスは確立しておらず、今後の検証が必要な分野である。BQ1-4 内視鏡画像はH. pylori現感染の診断に有用か?A. 内視鏡画像によりH. pylori感染状態を分類できるため、現感染の診断に有用である。BQ1-5 胃X線画像はH. pylori現感染の診断に有用か?A. 胃X線画像はH. pylori現感染の診断に有用である。ただし、既感染胃の増加や、自己免疫性胃炎、PPI関連胃症の混在の可能性を考慮する必要がある。――H. pylori抗体検査の前提となる厚生労働省の指針では、胃がん検診の対象となるのは50歳以上(40歳以上も可)とされているにもかかわらず、一部の市町村や、少なくない企業健診では25~35歳から実施されている。胃がん罹患率が低い世代では、被曝をはじめとする検査のデメリットがメリットを上回ってしまう可能性がある。少なくとも胃がん検診がH. pylori感染の発見、除菌につながるものでなければならない。さらに内視鏡検査でH. pylori感染が診断されない、という問題もある。内視鏡検査で胃粘膜の状態を評価しない、要精査となった場合の内視鏡検査でもチェックされた部位のみを観察して胃粘膜を評価しない、といった意識での検査ではH. pylori感染が見落とされ、長い年月を経てからようやく診断されることもある。この点については内視鏡医の意識改革も期待したい。いずれにせよ、H. pylori感染の診断と除菌による慢性胃炎の治療と胃がんの一次予防が基本となる。BQ1-6 PPIやP-CABを使用している場合に感染診断・除菌判定は可能か?A. 尿素呼気試験(UBT)、迅速ウレアーゼ試験(RUT)、血清ペプシノゲン(PG)濃度はPPI、P-CABの影響を受けるので検査の2週間前から休薬して実施する。その他の診断法はPPI内服のまま実施できる。――以前はPPIを使用しているとほとんどの検査ができない状況だったが、その根拠となっていたエビデンスが古いもので、国内の現状に当てはまらない部分があった。PPIの影響を受けるエビデンスがある検査を挙げ、それ以外は実施可能であることを明記した。学会からの働きかけで、昨年10月には厚労省からガイドラインで実施可能とする検査についてはPPI内服中も検査の費用を算定できる旨の通達も出ている。 下山氏は「新ガイドラインでは、抗体検査に関するエビデンスなどの一般的な事項から、PPIと検査の関連など、新たなエビデンスを反映した項目までを網羅した。近年注目されているH. pylori以外のHelicobacteriについても触れている。ぜひガイドラインで最新の情報をキャッチアップしてほしい」とまとめた。

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ベネトクラクス、再発・難治マントル細胞リンパ腫に追加承認/アッヴィ

 アッヴィは、2025年3月27日、BCL-2阻害薬ベネトクラクス(商品名:ベネクレクスタ)について、再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫(MCL)に対する治療薬として国内における適応追加承認を取得した。 今回の承認は、再発難治MCLを対象としたベネトクラクスおよびイブルチニブの併用療法に関する海外第III相SYMPATICO試験1)および国内第II相M20-075試験2)の結果に基づいている。 MCLはリンパ節のマントル帯に由来するBリンパ球ががん化するB細胞リンパ腫の1つ。日本国内の患者数は約2,000例と報告されている。60歳代半で多く発症し、多くの場合、高齢者では2~3年、若齢者では約5年で、初回治療後の再発・再燃に至る。再発した場合、化学療法の効果は1次治療より劣り、急速な進行が認められることがある。

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限局型小細胞肺がん、CRT後のデュルバルマブ承認/AZ

 アストラゼネカは2025年3月27日、デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)について「限局型小細胞肺における根治的化学放射線療法後の維持療法」の適応で、厚生労働省より承認を取得したことを発表した。根治的化学放射線療法(CRT)後に病勢進行が認められない限局型小細胞肺がん(LD-SCLC)を対象とした免疫療法では、本邦初の承認となる。 本承認は、LD-SCLC患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「ADRIATIC試験」の結果1)に基づくものである。本試験において、デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して有意に死亡リスクが低下し(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.93、p=0.0104)、全生存期間(OS)中央値はデュルバルマブ群55.9ヵ月、プラセボ群33.4ヵ月であった。3年OS率はそれぞれ57%、48%と推定された。 また、デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して有意に無増悪生存期間(PFS)も改善し(HR:0.76、95%CI:0.61~0.95、p=0.0161)、PFS中央値はデュルバルマブ群16.6ヵ月、プラセボ群9.2ヵ月であった。2年PFS率はそれぞれ46%、34%と推定された。<今回追加された「効能又は効果」「用法及び用量」>・効能又は効果限局型小細胞肺における根治的化学放射線療法後の維持療法・用法及び用量〈限局型小細胞肺における根治的化学放射線療法後の維持療法〉通常、成人にはデュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを4週間間隔で60分間以上かけて点滴静注する。投与期間は24ヵ月間までとする。ただし、体重30kg以下の場合の1回投与量は20mg/kg(体重)とする。

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ベンゾジアゼピンによる治療はアルツハイマー病の重大なリスク因子なのか

 アルツハイマー病は、最も頻度の高い認知症である。ベンゾジアゼピン(BZD)は、不眠症やその他の睡眠障害の治療に最も多く使用されている治療薬であるが、BZDの長期的な使用は、認知機能低下と関連していることがいくつかの報告で示唆されている。ポルトガル・University of Beira InteriorのFilipa Sofia Trigo氏らは、BZDによる治療とアルツハイマー病発症との関連性を評価するため、システマティックレビューを実施した。NeuroSci誌2025年2月1日号の報告。 対象研究は、MEDLINE、Embaseのデータベースよりシステマティックに検索し、結果のナラティブ統合は、PRISMA-P 2020方法論に基づき実施した。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たしたコホート研究は、2件のみであった。・レトロスペクティブ研究では、BZDによる治療後にアルツハイマー病を発症する重大なリスクが認められた。・プロスペクティブ研究では、アルツハイマー病の有病率とBZDによる治療との関連は認められなかった。 著者らは「BZDによる治療がアルツハイマー病発症の重大なリスク因子であることは、最大規模の研究でのみ認められた。この関連性は、科学的根拠が乏しいことから、さらなる研究が必要である」と結論付けている。

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CEA中の超音波血栓溶解法、第III相試験の結果/BMJ

 頸動脈内膜剥離術(CEA)中の経頭蓋ドプラプローブを用いた超音波血栓溶解法(sonolysis)は、30日以内の虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作および死亡の複合エンドポイントの発生を有意に減少させたことが、欧州の16施設で実施された第III相無作為化二重盲検比較試験「SONOBIRDIE試験」の結果で示された。チェコ・ University of OstravaのDavid Skoloudik氏らSONOBIRDIE Trial Investigatorsが報告した。パイロット研究では、CEAを含むさまざまな治療中の脳卒中や脳梗塞のリスク軽減に、sonolysisは有用である可能性が示されていた。BMJ誌2025年3月19日号掲載の報告。内頸動脈狭窄70%以上の患者を対象に偽処置対照試験 研究グループは、NASCET法に基づきデュプレックス超音波検査で検出され、CT、MRIまたはデジタルサブトラクション血管造影により確認された、内頸動脈狭窄70%以上の患者を、sonolysis群または偽処置群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 sonolysisは、標準的な超音波装置と2MHz経頭蓋ドプラプローブを用いて行われ、超音波技師のみ非盲検下であった。 主要アウトカムは、無作為化後30日以内の虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作および死亡の複合とした。また、MRIサブスタディのエンドポイントは、CEA後24(±4)時間時点での脳スキャンにおける1つ以上の新たな虚血性病変の出現、新規虚血性病変の数などであった。安全性アウトカムには、有害事象、重篤な有害事象、およびCEA後30日以内の出血性脳卒中(くも膜下出血を含む)の発生率が含まれた。複合エンドポイントの発生は2.2%vs.7.6%、安全性も良好 2015年8月20日~2020年10月14日に1,004例(sonolysis群507例、対照群497例)が登録され、最初の登録患者1,000例の中間解析において有効性が認められたため、早期中止となった。1,004例の患者背景は、平均年齢67.9(SD 7.8)歳、女性312例(31%)で、450例(45%)が症候性頸動脈狭窄、平均頸動脈狭窄度は79.9(SD 8.9)%であった。 主要アウトカムのイベントは、sonolysis群で11例(2.2%)、対照群で38例(7.6%)に発生し、sonolysis群で有意に少なかった(リスク群間差:-5.5%、95%信頼区間[CI]:-8.3~-2.8、p<0.001)。 MRIサブスタディにおける新たな虚血性病変の検出率も、sonolysis群8.5%(20/236例)、対照群17.4%(39/224例)であり、sonolysis群で有意に低かった(リスク群間差:-8.9%、95%CI:-15~-2.8、p=0.004)。 感度分析の結果、30日以内の虚血性脳卒中に対するsonolysisのリスク比は0.25(95%CI:0.11~0.56)、一過性脳虚血発作に対するリスク比は0.23(0.07~0.73)であった。 sonolysisは安全性も良好であり、sonolysis群の94.4%の患者で術後30日以内に重篤な有害事象は認められなかった。

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局所進行頭頸部扁平上皮がんの維持療法、アテゾリズマブvs.プラセボ/JAMA

 高リスクの局所進行頭頸部扁平上皮がん(LA SCCHN)で集学的な根治的治療により病勢進行が認められない患者において、維持療法としてのアテゾリズマブはプラセボと比較して予後を改善しなかった。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のRobert Haddad氏らが、23ヵ国128施設で実施された第III相無作為化二重盲検比較試験「IMvoke010試験」の結果を報告した。LA SCCHNに対しては、手術、放射線療法、化学療法のいずれかを組み合わせた治療後、局所再発または遠隔転移のモニタリングが行われるが、予後不良であることから治療の改善に対する臨床的ニーズは依然として高かった。JAMA誌オンライン版2025年3月13日号掲載の報告。主要評価項目は医師評価による無イベント生存期間 研究グループは、複数種類の根治的治療後に病勢進行のないLA SCCHN(IVa/IVb期の口腔、喉頭、下咽頭を含む頭頸部扁平上皮がんまたはHPV陰性中咽頭がん、III期のHPV陽性中咽頭がん[AJCC Cancer Staging Manual第8版])で、18歳以上、ECOG PSが0~1の患者を、アテゾリズマブ群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付け、1,200mgを3週間ごとに最長1年間、または再発、病勢進行、許容できない毒性の発現または同意撤回が認められるまで投与した。 主要評価項目は治験責任医師評価による無イベント生存期間(EFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)と安全性であった。無イベント生存期間中央値59.5ヵ月vs.52.7ヵ月で差はなし 2018年4月3日~2020年2月14日に計406例が無作為化された(アテゾリズマブ群203例、プラセボ群203例)。ベースラインの患者背景は両群で類似しており、アテゾリズマブ群vs.プラセボ群でそれぞれ65歳未満が142例(70.0%)vs.155例(76.4%)、男性168例(82.8%)vs.174例(85.7%)、アジア人68例(35.6%)vs.61例(31.0%)、黒人1例(0.5%)vs.1例(0.5%)、白人121例(63.4%)vs.135例(68.5%)であった。 最終解析のクリニカルカットオフ日2023年9月27日(追跡期間中央値46.5ヵ月)において、治験責任医師評価によるEFS中央値は、アテゾリズマブ群59.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:46.8~推定不能)、プラセボ群52.7ヵ月(41.4~推定不能)であり、両群で差はなかった(ハザード比:0.94、95%CI:0.70~1.26、p=0.68)。 OSも両群で差はなく、24ヵ月OS率はアテゾリズマブ群82.0%、プラセボ群79.2%であった。 安全性については、新たな事象または予期せぬ事象は認められなかった。

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一人暮らしの認知症者は疎外されやすい?

 認知症者に対する社会的距離は、認知症の行動および心理的症状(BPSD)を有する一人暮らしの患者でより大きくなることが示唆された。この研究は東京都健康長寿医療センター研究所の井藤佳恵氏らによるもので、研究結果の詳細は「PLOS One」に1月22日掲載された。 認知症者とその介護者は、疾患へのスティグマ(「先入観に基づいてレッテルをはり、偏見をもち、差別する」という、一連の心と行動)による社会的排除に直面している。スティグマは、病気そのものが引き起こす苦痛よりもさらに大きな苦痛をもたらすことがあり、深刻な人権侵害であると言われている。 スティグマの研究では、スティグマを社会的距離(他の個人との望ましい親密さ、または距離の程度)で測定する方法がある。今回の井藤氏らの研究では、地域住民の認知症者に対する社会的距離がどのような要因によって変化するのかを検討した。 参加者は、オンライン調査会社に登録している国内、地域在住の40歳から90歳までの男女2,589人(平均年齢62.0±10.5歳、女性49.8%)である。この調査では、世帯形態、BPSDの有無の組み合わせが異なる4種類のビネットがあり、それぞれ80代の女性が正常老化から認知症を診断され、軽度、中等度、重度と進行していく様子が描かれていた(A〔家族と同居、BPSDなし〕、B〔家族と同居、BPSDあり〕、C〔独居、BPSDなし〕、D〔独居、BPSDあり〕)。参加者はいずれかひとつのビネットを受け取り、それぞれの病期で、社会的距離を測定するための質問に回答した。 その結果、全てのビネットで、認知症が進行するほど社会的距離が大きくなることが示された。また、すべての病期を通して、ビネットA「家族と同居、BPSDなし」の場合の社会的距離がもっとも小さく、ビネットD「独居、BPSDあり」の場合の社会的距離が最も大きかった。 社会的距離の差が最も大きかったビネットA「家族と同居、BPSDなし」とD「独居、BPSDあり」について、社会的距離に影響を与える要因を探索した。世帯収入、居住地域、認知症に関する知識、認知症患者との接触などを変数とする多変量分析を行った結果、軽度認知症段階では、「認知症に関する知識が多いこと」が社会的距離の縮小と関連していた(ビネットA〔95%信頼区間-0.28~-0.01、p=0.036〕、D〔同-0.26~-0.02、p=0.026〕)。「認知症患者との接触経験があること」は、認知症の全病期を通して、社会的距離の縮小と関連していた(ビネットA〔p=0.001~0.007〕、D〔p<0.001~p=0.006〕)。 井藤氏らは本研究について、「今回の結果は、スティグマに対する介入としての教育の有効性を示すと同時に、その限界をも示すものである。中等度以上の認知症者に対するスティグマに対しては、教育だけではなく適切な準備状況がある社会的接触が必要であり、特に、社会的排除のハイリスク群である、独居でBPSDを示す者に対する方策が重要」と述べている。また、著者らは本研究の限界について、「社会的望ましさのバイアスが働いた結果、参加者はスティグマを過小に報告した可能性がある」と付け加えている。

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極端な暑さは高齢者の生物学的な老化を早める

 極端な暑さは高齢者の生物学的な老化を加速させる可能性があるようだ。暑い日が多い地域に住む高齢者では、涼しい地域に住む高齢者に比べて、生物学的年齢が高いことが明らかになった。米南カリフォルニア大学(USC)老年医学分野のEunyoung Choi氏とJennifer Ailshire氏によるこの研究の詳細は、「Science Advances」に2月26日掲載された。 Choi氏は、「アリゾナ州フェニックスのような、厳重警戒レベルを超える暑さの日(90℉〔32℃〕以上)が年間の半分を占める地域に住む試験参加者は、暑い日が年に10日未満の地域に住む試験参加者と比較して、生物学的年齢が最大14カ月も進んでいた」とUSCのニュースリリースの中で述べている。 生物学的年齢とは、生年月日に基づく暦年齢とは異なり、体の細胞やシステムに基づく年齢であり、体が分子、細胞、システムレベルでどの程度うまく機能しているかを知るための指標となると研究グループは説明する。生物学的年齢が暦年齢より高いことは生物学的老化が進んでいることを意味し、死亡や病気のリスクが高くなるという。 この研究では、健康と退職に関する研究に参加した56歳以上の成人3,686人を対象に、居住地の暑さと生物学的な老化との関係が調査された。Choi氏らは、米国全土に居住している参加者からさまざまな時点で採取された血液検体を用いてDNAメチル化のパターンを解析し、それぞれの採血時点での生物学的年齢を推定した。また、米国立気象局(NWS)のデータから参加者の居住地近隣の「暑い日」の発生頻度を調べた。「暑い日」は、NWSの定める暑さ指数である、「警戒」(80〜90℉〔約27〜32℃〕)、「厳重警戒」(90〜103℉〔約32〜39℃〕)、「危険」(103〜124℉〔約39〜51℃〕)のいずれかに該当する日とした。生物学的年齢は、PCPhenoAge、PCGrimAge、DunedinPACEの3種類を用いた。 その結果、暑い日の日数は、短期(採血当日から過去7日間)、中期(採血当日から過去30〜60日間)、および長期(採血当日から過去1〜6年)の全ての時間枠と暑さ指数のレベルにおいて、PCPhenoAgeに基づく生物学的老化の加速と関連していることが明らかになった。例えば、採血当日から過去7日間における警戒レベルの暑い日の1単位増加は、PCPhenoAgeの1.15年分の加速と関連していた。警戒レベルの暑い日の1単位増加とは、ある時間枠において、警戒レベルの暑い日が0%(0日)から100%(全ての日)に増加することを意味する。同様に、採血当日から過去30日間、60日間、1年間、6年間での警戒レベルの暑い日の1単位増加は、それぞれPCPhenoAgeの1.08年、0.98年、1.66年、1.87年分の加速と関連しており、暑い日にさらされる期間が長くなるほど、生物学的老化の加速が進むことが示唆された。厳重警戒レベルの暑い日についても同様の関連が認められ、6年間での厳重警戒レベルの暑い日の1単位増加はPCPheoAgeの2.88年分の加速と関連していた。一方、PCGrimAgeとDunedinPACEについては、1年以上の長期的な時間枠でのみ、生物学的老化の加速との間に関連が認められた。 Ailshire氏は、「特に高齢者にとっては、暑さと湿気の組み合わせが問題だ。高齢になると汗のかき方が変化し、汗の蒸発による皮膚の冷却機能が低下していく」と説明する。同氏は、湿度の高い場所ではそのような皮膚の冷却効果が低くなることを指摘し、「自分の地域の気温と湿度を調べて、リスクがどの程度なのかを理解する必要がある」と述べている。 Ailshire氏らは今後、暑さに関連した生物学的老化を早める可能性のある他の要因や、この生物学的老化の加速が全体的な健康にどのように影響するのかを調査する予定だと話している。

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SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬は女性と高齢者に対しても有効か?(解説:住谷哲氏)

 SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬が、心不全や慢性腎臓病を合併した2型糖尿病患者の予後を改善することは多数のRCTおよびそのメタ解析の結果から明らかにされている1)。しかし、その有効性が性別および年齢によって異なるのかはこれまで明らかではなかった。そこで本論文では既報のRCTの結果を基に、MACEとHbA1cとを主要評価項目として、年齢×治療、性別×治療の交互作用interactionsの有無をネットワークメタ解析により推定した。 592試験がHbA1cの解析対象となり、そのうちでGLP-1受容体作動薬の9試験、SGLT2阻害薬の8試験がMACEの解析対象となった。性別でみると男性の比率が最も高かったのはSGLT2阻害薬エンパグリフロジンのEMPA-REG OUTCOME試験で71.5%であり、最も低かったのはGLP-1受容体作動薬デュラグルチドのREWIND試験で53.7%であった。また年齢でみると、SGLT1/2阻害薬sotagliflozin(国内未発売)のSOLOIST-WHF試験で68.7歳が最高齢であり、SGLT2阻害薬カナグリフロジンのCREDENCE試験が56.4歳で最も若かった。 結果は、SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の両薬剤ともに、HbA1cの低下およびMACEの減少に性別は有意な影響を及ぼさなかった。つまり性別を問わず両薬剤は有効であった。しかし年齢に関しては、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬とは異なる交互作用が認められた。HbA1cの低下については、SGLT2阻害薬では高齢者は若年者に比較して有意に小さく、逆にGLP-1受容体作動薬では高齢者は若年者に比較して有意に大きかった。MACEの減少については、SGLT2阻害薬では高齢者は若年者に比較して有意に大きく、逆にGLP-1受容体作動薬では高齢者は若年者に比較して有意に小さかった。これから考えると両薬剤のMACE減少効果とHbA1c低下作用とは関連がないことがわかる。 以上の結果から、MACE減少を期待するならば高齢者にはSGLT2阻害薬を、若年者にはGLP-1受容体作動薬の投与を積極的に考慮すべきだろうか? 注意すべきは、解析対象となった試験はすべて心血管イベントリスクのきわめて高い患者を対象としたCVOTであり、80歳以上の高齢者はほとんど対象に含まれていない点だろう。高齢者ではフレイルの有無が薬剤選択に影響することが少なくない。両薬剤ともに体重減少を伴うことが多い点は十分に考慮する必要がある。

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第255回 遺伝子検査会社の倒産に米加州・司法長官が警告、いったい何ごと?

消費者向け遺伝子検査の草分けとも言える米国・23andMeが3月23日、連邦破産法第11章の適用を申請したことを公表した。単純に言えば、倒産である。一時期はこの業界でもっとも脚光を浴び、同社が匿名化したデータを創薬に利用することを目的にグラクソ・スミスクラインと提携するなど新たな動きも創出していたが、最終的には今回のような結果となった。同社の創業自体は2006年で、2021年には米・ナスダックに上場も果たし、上場直後の株価は最高値で1株14.94ドル、時価総額は日本円で約9,000億円を記録したが、その後、金利上昇により資金調達が困難になったことなどから業績は低迷。株価はひたすら右肩下がりの下落を続け、2025年の2月段階では1株2ドルにまで落ち込んでいた。今回の発表によりすでに1株1ドル未満という状況である。以前の本連載でも触れたが、私も取材のために昨年、消費者向け遺伝子検査を初めて受けた。その時にすでに「これが継続的なビジネスになり得るのか」との疑問は感じていた。ざっくりいえば、個々人の遺伝子情報は生涯ほぼ変わらない。だから消費者にとって検査は一生に一度受ければ終わりで、食品や日用品と違い、リピート消費はあり得ないからだ。価格は安いものでは5,000円程度で受けられるものもあるが、多くは1万円以上である。こうなると比較的意識が高く経済的にも余裕がある人たちの中で一巡すればビジネスとしては終了である。23andMeの場合は、当初は自身の人種的先祖を知るサービスがウケて、かなり業績を伸ばした。移民国家で人種間を超えた婚姻が日常的なアメリカならではのサービスとも言える。しかし、日本のようにアメリカほど多民族ではない地域では、こうしたサービスの需要も見込みにくい。これを回避するならば、サブスク*ビジネス的に検査結果を基に消費者の健康管理に資するさまざまな付帯サービスを開発して提供することになるが、これは容易ではない。*:サブスクリプション:定額料金を支払うことで、一定期間、商品やサービスを利用できる仕組みご存じのように、こうした消費者向け遺伝子検査が調べているのは、遺伝子そのものではなく、「一塩基多型(SNP、スニップ)」である。これと疾患や健康に関する相関を調べた研究を基に疾患・健康リスクの判定している。そのため示された結果が天気予報ほどの信頼性もなく、必然的に付帯サービスも不確実性を含むことは避けられない。これでは幅広い消費者に魅力的なサービスを提供することはできないだろう。その意味では単に一般消費者を対象にした需要は、アメリカだけでなく日本でも先細りするのは必定である。実際に国内では当初、ヤフーやDeNA、DHCなどの大企業がこの領域に参入したが、2020年以降、相次いで撤退した。さて今回の23andMeの倒産により、同社は売却先の検討に入っているが、同社最大の資産は約1,400万人分とも言われる検査データであり、これがまったく異なる業態の企業に移管される可能性が現実味を帯びている。同社のプライバシーポリシーでは「ユーザーが同意しない限り個人を特定できるデータは第三者に販売しない」を謳ってきたが、今回のようなケースでは、これが貫けるわけではない。しかも、このプライバシーポリシーには「方針は予告なく変更される可能性がある」との記載もある。すでに23andMeが本社を置くカリフォルニア州の司法長官ロブ・ボンタ氏は、同社のサービス利用者に利用規約に基づくデータ削除を促す警告を発しているほどだ。そして同じリスクは、前述のような消費者向け遺伝子検査業界の低迷を考えれば、日本でも今後、現実のものになる可能性は否定できない。一応、日本国内ではこうした消費者向け遺伝子検査業者は、個人情報保護法を基に経済産業省が定めた「経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン」1)を遵守することが求められている。同ガイドラインでは匿名化した場合でも遺伝情報の第三者利用には同意が必要なことなどが定められてはいる。そして業者の多くは、検査申し込み利用者の個人情報と検査部門が有する匿名化された検査結果を別個管理し、利用者本人がID、パスワードをウェブ上で入力した時のみ両データが紐付けされるシステムを構築するなど、安全対策は講じている。とはいえ、23andMeの状況を見るにつけ、検査を受けたことがある私自身もやや不安には感じ始めている。参考1)経済産業省:経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン(平成 29 年3月 29 日[令和6年3月1日一部改正])

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botulism(ボツリヌス症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第23回

言葉の由来「ボツリヌス症」は英語で“botulism”といいます。この病名の語源はラテン語の“botulus”に由来し、これはなんと「ソーセージ」を意味する言葉です。病名に食品名とは奇妙な印象ですが、この名前は1820年代にドイツ南部で発生した「ソーセージ中毒」の集団発生に関連しています。当時はソーセージ製品の保存技術が未熟だったため、毒素が産生されやすい環境が整っていたのです。ドイツの医師ユスティヌス・ケルナーが、ソーセージを食べた後の中毒症状を詳細に記述し、これが最初の臨床的なボツリヌス中毒の記述となりました。ボツリヌス中毒の原因菌であるClostridium botulinumが同定されたのは、約80年後の1895年のことでした。ベルギーの小さな村で発生した葬儀の夕食会での集団食中毒をきっかけに、ゲント大学の細菌学教授、エルメンゲムが発見しました。なお、近代以前にも、ボツリヌス中毒が認識されていた可能性はあります。たとえば、10世紀のビザンチン帝国の皇帝レオ6世が血のソーセージの製造を禁止する勅令を出していたという記録があり、これは古代からこの種の食中毒の危険性が認識されていた可能性を示唆しています。また、現代でもこの食中毒は定期的に発生しており、日本では辛子蓮根や小豆ばっとう(小豆汁にうどんが入った東北地方の郷土料理)など、真空パック製品などを原因とするボツリヌス食中毒が報告されています。併せて覚えよう! 周辺単語神経毒neurotoxin食中毒food poisoning麻痺paralysis嫌気性菌anaerobesこの病気、英語で説明できますか?Botulism is a rare but serious illness caused by a toxin that attacks the body's nerves. It causes difficulty breathing, muscle paralysis, and can be fatal. The toxin is produced by bacteria called Clostridium botulinum bacteria, which can grow in improperly preserved food.講師紹介

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臨床背景で違いが出る手技、過失を問われるポイントは?【医療訴訟の争点】第10回

症例前回、患者の病態により左右されることの少ない定型化された機械的所作の手技の過失の有無等が争われた事案を紹介した。今回は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度など)に応じて手技内容が異なる手技の過失の有無が争われた東京地裁平成24年6月21日判決を紹介する。本件では、肝細胞がんに対するラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)の手技の過失が争われている。RFAについては、本件判決において、以下のものと整理されている。〔ラジオ波焼灼療法(RFA)〕腫瘍に穿刺した電極針から発生する高周波電流(ラジオ波)によって生ずる熱によって腫瘍を凝固壊死させる治療法。RFA装置は超音波画像上、穿刺状況を確認できるようになっているとともに、焼灼が進むと水分が蒸発して、インピーダンス(抵抗)値が上昇する。インピーダンス値により、焼灼がどの程度進んでいるのかを把握し、ロール・オフ(熱凝固が進むことにより水分が蒸発し、ラジオ波通電性が失われ電気抵抗値が最大になった状態)を判断し、ロール・オフになると自動的に出力がゼロになるように設計されている。局所再発を減らすためには、焼灼範囲に腫瘍の周囲5mmのセーフティ・マージンを確保する必要があり、そのため症例によっては複数回穿刺を行う。<登場人物>患者59歳(本件手術時)・男性他の医療機関にて肝内に腫瘍があるとの診断を受け、紹介により被告病院を受診。原告患者配偶者被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成14年(2002年)8月7日他の医療機関にて肝内に腫瘍があるとの診断を受け、紹介により被告病院を受診。肝細胞がんと診断された。9月4日肝細胞がん治療のためRFAを実施。平成15年(2003年)12月12日肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)実施平成16年(2004年)12月13日TAE実施平成17年(2005年)10月17日TAE実施10月25日動注化学療法実施11月22日動注化学療法実施平成18年(2006年)3月22日被告病院に入院3月23日S6およびS8領域の肝細胞がん治療のため、RFA(本件手術)実施。3月27日腹部CT検査実施3月29日上記CT検査の結果につき、放射線科医師より、遊離ガスが認められ、大腸穿孔が起きていると考えられる旨が消化器内科医師に報告された。午後11時頃、本件患者より腹痛が続いているとの訴えがあり、診察した医師は、腹膜炎を起こした可能性が高いと診断。3月30日腹膜炎治療のため開腹手術。4月21日肝不全により死亡。〔本件手術中の経過〕~〔司法解剖の結果(解剖所見)〕〔本件手術中の経過〕本件手術当時、患者の肝臓に残存していた腫瘍(肝細胞がん)は、S6領域に長径30mm(30mm×18mm)程度、S8領域に長径23mm(23mm×13mm)程度のものであった。執刀医は、局所麻酔の後、S8領域の肝細胞がんを焼灼するため、超音波画像下で展開時4cmなるRTC針を皮膚から約7cm穿刺し、半展開してロール・オフするまで3分22秒間焼灼した。その後、同箇所にて針を全展開してロール・オフするまで6分2秒間焼灼した。そして、熱凝固範囲を広げるため、針を閉じて約1cm引き抜き、再度針を全展開してロール・オフするまで5分40秒間焼灼した。続いて、S6領域の肝細胞がんを焼灼するため、超音波画像下で皮膚から約7cm穿刺し、RTC針を半展開してロール・オフするまで4分8秒間焼灼した。その後、同箇所にて針を全展開してロール・オフするまで5分1秒間焼灼し、熱凝固範囲を広げるため、針を閉じて約1cm引き抜き、針を全展開してロール・オフするまで5分51秒間焼灼した。そして、針を閉じて皮膚から1度抜き、再びS6領域の肝細胞がんに対して、先ほどとは別の位置から穿刺し、全展開して焼灼を試みたものの、5分経過時にエラーとなって停止したため、同箇所で再度ロール・オフするまで4分31秒間焼灼した。〔本件手術4日後(3月27日)撮影CT画像〕総焼灼部の長径は約90mmに及び、焼灼部全体の形は円形ではなくいびつであった。〔司法解剖の結果(解剖所見)〕『主要所見』欄の内部所見欄に「肝臓は黄色硬化著明で、肝硬変末期を呈する。右葉外側に球形の壊死巣を2ヵ所認め、底面において横行結腸が壊死巣の一つに開放されている。」『考察』欄に「医療行為そのものが直接的に死亡に結びついたとは考えにくい。」「熱凝固法で問題となった結腸への同治療法の波及による穿孔形成も、解剖において確認できる。ただし、この穿孔部は肝臓底面に接する壊死巣にほぼ連続しており、誤ってラジオ波を結腸に当てたというよりは、肝臓のがん組織に照射したものが辺縁部において一部結腸を巻き込んだ様相を呈している」との記載。実際の裁判結果本件裁判では、穿刺箇所の過誤または穿刺経路の過焼灼の有無について争われたが、裁判所は、以下のとおり、いずれも過誤は認められないと判断した。1. 穿刺箇所の過誤について原告は、本件手術で使用された器具の構造上、焼灼範囲は4cm程度にしかならず、また、ほかに焼灼範囲が広範囲となる原因は見当たらないのであるから、焼灼範囲が広範囲となった原因は、穿刺箇所の過誤以外には考え難い旨主張した。しかし、裁判所は、RFA装置は手技者が超音波画像において腫瘍と針の位置を常に視認することが可能であることを指摘し、「手技者は、位置断面図を映し出す超音波画像上、腫瘍(目的部位)と針の両方を確認でき、手技者はその画像上でリアルタイムに針の肝臓への刺入から腫瘍までの到達を視認することが可能なのであるから、目的部位以外を穿刺することは通常は考え難い」とした。また、本件では、本件手術4日後(3月27日)撮影CT画像において、総焼灼部の長径は約90mmに及び、焼灼部全体の形は円形ではなくいびつであったという事情があり、本件手術に使用された器具の構造上、通常は、焼灼範囲は4cm程度にしかならないのに、焼灼範囲が広範囲に及んでいるという事情があった。原告はこの点を指摘し、穿刺箇所に過誤があったと主張した。しかし、裁判所は、焼灼範囲について球形に近い凝固形状を形成することからすると、本件のような広くいびつな焼灼範囲が生じたことは説明できないこと、長径30mmあるS6領域の腫瘍の最下辺部または腫瘍の存在しない箇所に穿刺しない限りは、焼灼部位が大腸(または肝臓の最下端)にまで広がることは考え難く、そのような極めて重大、明白な過誤を犯すことは、特段の事情がない限り想定し難いことを指摘し、過誤を否定した。2. 穿刺経路の過焼灼の有無について原告は、患部から針を抜く際に焼灼し過ぎれば、焼灼範囲が広範囲となるのであるから、本件において焼灼範囲が広範囲となったと主張した。これに対し、裁判所は、RFA装置は、超音波画像上、穿刺状況を確認できるようになっているとともに、インピーダンス値が表示され、この値により、焼灼がどの程度進んでいるのかを把握し、ロール・オフを判断し、ロール・オフになると自動的に出力がゼロになるように設計されているのであるから、その構造上、過焼灼が生ずる可能性は認め難いとした。注意ポイント解説本件は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が異なる手技の過失の有無が争われた事案である。裁判所は、上記のとおり、治療対象の腫瘍の位置や大きさ、術後の画像所見、司法解剖の結果などから、原告の主張するとおりの手技の過誤が認められるかを判断している。そして、本件では、使用されたRFA装置が、RTC針が刺入される角度と同じ角度で超音波画像上にニードルマークを表示させることができ、実際にRTC針がニードルマークに沿って目的部位(腫瘍)に向かって進んでいるかどうか、針先が目的部位に到達しているかどうかといった穿刺状況を、超音波画像上で確認することができるものであったため、「目的部位以外を穿刺することは通常は考え難い」とされた。しかしながら現状では、このような装置を用いての手技や術中画像が存在するケースは多くなく、一般的には、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に照らして過誤を来たしやすい手技か、手術記録や術後の経過・検査結果等が過誤のあった場合のものと整合するか等の点から、過誤の有無が判断されることとなる。このため、本件では過誤は否定されているが、注意を怠れば過誤を来たしやすい手技である場合(注意を尽くしていても不可避の合併症と説明できない場合)や、術後の画像所見が手技に過誤があった場合に生じるものと整合する場合などには、過誤があるとの判断がなされることとなる。なお、本件では、術後CT画像等において焼灼範囲が広範囲に及んでいた原因を特定できないこととなるが、これに関し、裁判所は、以下の点を指摘し、「焼灼範囲が広範囲に及んだ原因が特定できないことを理由に、穿刺箇所の過誤があったものと推認することは、やはり許されないというべき」とした。焼灼対象となる肝臓の状況によって例外があり得ないものとまで考えることはできないこと。たとえば、RFAやTAEによる血流の低下や熱伝導の抵抗の低下が原因である可能性も否定はできないこと。本件の司法解剖の結果によっても、穿刺箇所の過誤を示唆するような点は見当たらず、むしろ、「誤ってラジオ波を結腸に当てたというよりは、肝臓のがん組織に照射したものが辺縁部において一部結腸を巻き込んだ様相を呈している」と指摘されていること。上記は、過誤以外の原因により、このような術後所見を来たしうることを、過誤の有無の判断における一つの考慮要素としているものといえる。医療者の視点本件のように、医療手技の適切性が問われるケースでは、手技の選択や実施において、医療者がどのような判断を行い、どのようにリスクを管理していたかが重要になります。手技には、標準的なプロトコルがあるものの、患者ごとの病態に応じて適応や実施方法を調整する必要があります。そのため、術前の計画立案、手技中の慎重な対応、術後の経過観察が不可欠となります。とくに、侵襲的な手技では、術者の経験や技術だけでなく、使用する機器の特性、術中のモニタリング、患者の解剖学的特徴など、多くの要因が結果に影響を与えます。たとえば、穿刺系の手技では、解剖学的な個人差や病態による組織の変化が予期しない合併症の要因となることがあり、慎重な画像評価とリアルタイムのフィードバックが求められます。また、医療機器を用いる治療では、隣接組織への影響を十分に考慮し、適切な出力設定やエネルギー制御を行うことが重要です。さらに、医療訴訟の観点からは、手技前のリスク説明と手技後のフォローアップも重要です。とくに、偶発的な合併症が発生しうる手技では、患者や家族に対し、そのリスクや対応策を明確に説明し、納得を得るプロセスが不可欠です。また、術後に異常所見が見られた場合、その原因を正確に特定し、適切な対応を迅速に行うことが求められます。本件の裁判では、手技自体の過誤は認められませんでしたが、医療者としては、手技の安全性を高めるための努力を継続することが重要です。事前の十分な準備、術中の精度の高い対応、術後の適切なフォローアップにより、医療の質を向上させ、患者の安全を確保することが、臨床医に求められる役割といえます。Take home message行われた手技が患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に照らして過誤を来たしやすいものか、術後の経過・検査結果等が過誤のあった場合のものと整合するか(過誤以外の原因による症状・経過であるか)等から、手技の過誤の有無が判断される。不可避の合併症であること、または、過誤以外の原因による術後経過であることを説明できるかがポイントとなる。キーワード病理解剖・AI(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)患者の死亡事案においては、司法解剖が行われるケース以外にも、家族の同意を得て、病理解剖やAIが行われることがある。それらが行われている場合、その結果は、死因の究明、病態進行の確認、他の原因疾患の有無などの確認で活用されるものであるが、医療紛争となった場合においては、過失や因果関係の判断でも用いられる。

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