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タバコ規制により米国で400万人近い人が死亡を回避

 喫煙者を減らすための公衆衛生キャンペーンやタバコ税の導入などのさまざまな対策によって、米国では過去50年間で約400万人の肺がんによる死亡が防がれたことが明らかになった。回避された肺がんによる死亡者数は、同期間に回避された全てのがん死の約半数を占めるという。 この研究は、米国がん協会(ACS)のFarhad Islami氏らによるもので、詳細は「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に3月25日掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「肺がんによる死亡を回避し得た人の推定数は膨大な数に上っている。これは、喫煙防止のための公衆衛生対策の推進が、肺がんによる早期死亡の低減に大きな効果を発揮してきたことを物語っている」としている。ただし一方で同氏は、「それにもかかわらず、肺がんは依然として米国におけるがん死の主要な原因であり、さらに、喫煙に起因する肺がん以外のがん、および、がん以外の喫煙関連疾患の罹患率や死亡率は依然として高いままだ」と、さらなる改善の必要性を強調している。 この研究では、1970~2022年の米国健康統計センター(NCHS)による全米での死亡データを利用して、年齢、性別、人種、調査年ごとに肺がんによる死亡数の予測値を算出した上で、その値から実際に発生していた肺がんによる死亡者数を差し引くという計算が行われた。その結果、この約50年間で385万6,240人(男性224万6,610人、女性160万9,630人)の肺がんによる死亡が回避されていたことが分かった。この数は、この間に回避された全てのがん死(750万4,040人)の51.4%を占めていた。 Islami氏は、「タバコ規制による喫煙の減少は何百万人もの命を救ってきたし、今後も何百万人もの人の命を救うことだろう。しかし、喫煙者をさらに減らし、喫煙関連疾患の死亡リスク抑制をより確実なものとするために、地域、州、国家レベルでのより強力な取り組みが必要とされている」と話している。また同氏は、喫煙リスクの高い集団に対して、そのような取り組みをより積極的に行うことの重要性も指摘。その理由の一つとして、例えば「教育歴が高校卒業以下の集団の喫煙率と肺がんによる死亡リスクは、大学を卒業した集団に比べて5倍高い」という事実を挙げている。 ACSに対して政策提言などのサポートを行っているACSがん対策推進ネットワークのLisa Lacasse氏は、「本研究の結果は、予防可能な死亡が依然として発生しているという事実を浮き彫りにしている」と論説。「喫煙者を減らし、最終的には米国民全員のタバコによる発がんという疾病負担を減らすためのアプローチの一環として、エビデンスに基づく喫煙防止策や禁煙プログラムの継続と、そのための資金の確保が、これまで以上に求められる」と同氏は述べ、タバコ税の引き上げを含めた包括的な禁煙政策の必要性を指摘している。

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熱中症の重症度が尿でわかる?

 昨年、5~9月に熱中症で搬送される人の数は過去最多を記録した。熱中症の重症度は、搬送先施設で血液検査により評価される。しかし、尿中の肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)も熱中症の重症度と相関するという研究結果が報告された。L-FABPは熱中症の生理学的重症度や予後を予測するツールになり得るという。日本医科大学救急医学教室の横堀將司氏、関西医科大学総合医療センター救急医学科の島崎淳也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月12日掲載された。 熱中症は、高温多湿環境下で体内の水分・塩分量のバランスが崩れ、体温調節機能や循環機能が破綻して発症する。熱中症に対する適切な介入と転帰の改善には重症度の迅速な評価が不可欠だが、救急外来(ER)であっても、血液検査では結果の確認に長い時間がかかる。このような背景から、熱中症の重症度の判断には、よりアクセスしやすい簡易迅速検査の開発が待たれていた。 L-FABPは、脱水による腎虚血性機能障害を反映する有望なバイオマーカーだ。近年、医療用検査キットにより、短時間でのL-FABP測定が可能になった。重度の熱中症では内臓の血流低下による虚血が伴うことから、研究グループは、その重症度を予測する指標としてこのL-FABPが適用できると考え、L-FABPの検査キットを用いた多施設の前向きコホート研究を行った。 研究には全国の三次救急医療センター10施設が参加し、2019~2021年の夏季に日本救急医学会の熱中症基準に従って「重症」と診断された、18歳以上の患者78名が組み入れられた。敗血症または感染症の疑われる患者は除外した。ERに搬送された78名の熱中症患者は、意識を取り戻す前に採血・採尿が行われた。血清サンプルは臨床検査値の測定に用いられ、多臓器不全評価(SOFA)スコア(0~24でスコアが高いほど重症度が高い)が決定された。尿サンプルは、検査キットを使用し半定性的なL-FABPの測定に用いられた。患者の転帰については、mRSスコア(0~6でスコアが高いほど予後が悪い)が用いられ、退院時、発症1カ月、発症3カ月で計測が実施された。 組み入れ時の患者の年齢は中央値で76歳、SOFAスコアは5.0(四分位範囲 IQR3.0~9.0)だった。患者はL-FABPの濃度に応じて、陰性群(N群;L-FABP<12.5ng/mL)、陽性群(P群;L-FABP≧12.5ng/mL)の2群に分けられた。 初期SOFAスコアはN群で4.0(2.0~7.0)、P群で6.0(4.0~9.3)であり、尿中L-FABP濃度が高かった群では初期SOFAスコアも高くなっていた(U検定、P=0.013)。退院時の転帰については、良好な転帰を示すmRS(0~2)の割合が、N群で62.1%、P群で38.8%であり、N群で有意に良好な転帰を示した(P=0.046)。発症後3カ月後には両群には有意な差は認められなかった(P=0.227)。なお、ROC解析により長期的な転帰を予測するためのカットオフ値は28.6ng/mL(AUC=0.732)と決定された。また、尿中L-FABP濃度と、脈拍数(r=0.300)および乳酸値(r=0.259)の間には弱い正の相関が認められた(各P<0.01)。 研究グループは、本研究について、「L-FABPの検査キットは、熱中症の重症度を予測するとともに、患者の転帰を反映するツールであることが示唆された。この検査キットは保険収載されており、侵襲性が低いことから、その有用性は高いのではないか」と述べた。また、想定される運用方法については、「搬送前に検査結果を特定することで、患者を三次救急医療センターに搬送するか否かの決定をタイムリーに行うことができるようになるだろう」と言及した。 本研究の限界点については、重症の症例に限定したこと、サンプルサイズ、高齢者が多かったことから一般化できない点などを挙げている。

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第259回 管理職のメンタルケア必読書か、フジ中居問題の第三者委員会報告書

しつこいようだが、前回予告した通り、今回もフジテレビ女性社員Aさんが元SMAPの中居 正広氏から受けた性暴力に関する第三者委員会(以下、同委員会)報告書について取り上げる。なお、第三者委員会報告書ではAさんについて、「女性A」と一貫して記述されているが、ほかの登場者が「氏」あるいは肩書で呼ばれていることとの対比に関して、筆者個人がその無機質な表記に違和感があったため、すべて「Aさん」に置き換えている。これは前々回、前回も同様である。これまでのあらすじ2023年6月2日に中居氏から性暴力を受けたAさんは心身に異常をきたし、間もなく都内の病院の消化器科に精神科併診で入院。7月末には自傷行為を起こして退院が延期となり、そこから精神科へ転科した。主治医から「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の診断を受けた。その後、同年8月11日まではAさんの被害申告内容をフジテレビ社内で“公式”に知っていた人物は健康相談室のC医師、同相談室の心療内科医D医師、アナウンス室長E氏、アナウンス室部長で女性管理職のF氏、編成制作局長G氏、人事局長H氏。しかし、G氏がもはや自分だけで抱えきれないとして、8月12日に当時の編成制作局管掌で専務取締役の大多 亮氏に報告。そのまま同日中に当時の代表取締役社長・港 浩一氏にも大多氏経由で報告が上がった。ついに噂のB氏が登場ここで“公式”と書いたのは、実はこの時点でAさん経由以外にこのことを知っていた人物がいたことが報告書で明らかになっているからだ。その人物は、当時の編成総局編成局編成戦略センター室長兼編成部長のB氏と編成総局編成局編成戦略センター編成部企画戦略統括担当部長のJ氏である。この2人は2023年7月12~13日にかけて加害者である中居氏から報告を受けていたのである。奇しくも7月13日はフジテレビ内の公式報告でE氏から局長クラスであるG氏、H氏に報告が上がった日でもある。このB氏は、週刊文春の報道で当初、Aさんと中居氏が2人きりになるようセッティングしたと誤報された人物でもある。ちなみに7月12~13日以前、性暴力事件が発生した直後からAさんと中居氏の間でショートメッセージサービス(SMS)でのやり取りがあったことも同報告書から明らかになっている。7月13日の中居氏とB氏のSMSでのやり取り内容が同報告書には赤裸々に記述されている。中居氏「B。また、連絡があり、接触障害(ママ・摂食障害と思われる)と鬱で入院。やりたい仕事もできず、給料も減り、お金も無くあの日を悔やむばかりと。見たら削除して。どうしよか。」B氏  「なかなかですね、、私から無邪気なLINEしてみましょうか??」このやり取りで「なかなか」なのは、むしろB氏の無神経さである。B氏、J氏とも中居氏から報告を受けた際にこの件を「プライベートな案件」と捉えたらしいが、摂食障害・うつで入院しているAさんへの配慮はみじんも感じられない。第三者委員会ではデジタル・フォレンジック調査も行っていることは1回目に紹介したが、これにより個人利用を含む関係者のスマートフォンやPCなどのデータが復元されている。提出者の中に中居氏はいないが、Aさん、B氏などは含まれている。調査結果ではSMSデータ427件が意図的に削除された痕跡があり、うち76.1%に当たる325件は、B氏が中居氏らこの件の関係者とやり取りしたデータである。B氏のSMS削除時期は2025年1月9日~2月10日にかけてである。報告書では、2024年12月に今回の事件が相次いで週刊誌で報道されたことを受け、フジテレビ社内で記者会見や調査委員会設置の検討が開始されたのが1月8日。翌日には中居氏が公式にお詫びコメントを公表し、「示談が成立したことにより、今後の芸能活動も支障なく続けられることになりました」との文言が大炎上。1月17日にはフジテレビによるクローズドな会見が猛烈な批判を浴び、これを受けてフルオープンの10時間半におよぶ2回目の会見が1月27日に行われ、その3日前に第三者委員会の1回目の会合が開かれている。こうしたタイムラインから考えれば、B氏が大量のSMSを削除した理由を「B氏自身の関与の隠蔽」以外に見いだすことは無理筋である。また、昨今の第三者委員会の調査では、デジタル・フォレンジックが行われるのは半ば常識であり、隠ぺい工作としても極めて稚拙と言わざるを得ない。報告書では中居氏はB氏らに「Aの心身の回復のために助けてほしい」と依頼したと述べたと記載されているが、これも中居氏には申し訳ないが、率直に言って「大事になって自分が窮地に陥らないようAの回復を急ぎたい」と解釈できてしまう。というのも、報告書ではAさんが法的措置や弁護士を立てた示談を検討し始めた旨を伝えられた中居氏が「対立構造になることを懸念する」「弁護士費用がかかる」「あくまでも協力しあうことが大事」「体調改善が第一のため、第三者は会社の中で話ができる人をたてたほうが健全」などとご都合主義の論理を並べているからである。ちなみにAさんと中居氏とのSMSのやりとりは、同報告書で「本事案後も、中居氏からAさんに対してSMSがきていたため、Aさんは、これに対応することが『耐えられず心が壊れた』旨を述べている」との記載から推測するに、中居氏が起点と思われる。以下はAさんから中居氏にSMSで伝えた内容(一部は要旨)の時系列である。「こういうことがあると、正直気持ちがついていけない」(2023年6月6日)「(6月2日の件は)自分の意に沿わないこと。そのとき泣いていた、怖かった。6月2日に食べた食事の具材でフラッシュバックする」(同年6月14日)「6月2日のことでショックを受け、仕事を休む」(同年6月15日)「6月2日がきっかけとなって食べられなくなった」(同年7月11日)「摂食障害と鬱で入院し、目標にしていた仕事ができなくなり悔しい。長期入院によって給与が減り入院代が増えることが苦しい。産業医や病院の医師も(中居氏を)訴えるべきと言っている。ただ、訴えれば中居氏のダメージも大きく、自分も仕事が出来なくなるため穏便に済ませたいと考えている。他方で自分の収入では高額な医療費を賄えないため治療費・入院費の支払いをしてほしい」(同年7月11日の数日後)これだけを読むと、なかには治療費の支払いを求めるAさんの心理を測りかねる人もいるかもしれないが、前々回も言及したようにAさんはC医師、D医師、E氏、F氏らに当初「(中居氏との共演は)かまわない。負けたくない」と精一杯の抵抗を見せていることなどから考えれば、メンタルが不調の中でも気丈に振舞おうとしていたと解釈するのがもっとも妥当と考える。これに対する中居氏は、見舞金を支払う旨を伝えているが、そこでわざわざ「贈与や税金等の関係からその範囲内で行いたい」とまで伝えている点に個人的には非常な不快感を覚えた。また、第三者委員会のヒアリングに中居氏が「Aさんの病気や入院が本当に本事案によるものなのかわからなかった、仕事や家族関係によるものかもしれないと思っていた」と述べているのは、前述のAさんのSMSの内容からすれば言い逃れにしか聞こえない。結局、治療費などの支払いに関しては、中居氏が見舞金として支払うと申し出たのに対し、Aさんは「何がベストなのか専門家や病院の先生と相談するので時間がほしい」「世間一般でいうお見舞金とは訳が違う、弁護士など第三者を入れて確実で誠実なやりとりになるのでは」などと伝え、態度を留保していた。しかし、中居氏がB氏に100万円の運搬を依頼し、7月下旬にB氏が半ば押しかけでAさんの病院に届けたものの、病院が一旦見舞品の中身を確認する決まりとなっており、病院の判断で返却されている。なお、報告書によると、当時のAさんは病状が悪化しており、中居氏への対応が大きな負担となっていたため、主治医らから中居氏からの連絡を一切断つことが回復に必要であるとの見解が示された。ちなみにこの時期は前述のAさんが自傷行為を行った時期とも重なる。結局2023年8月1日、Aさんは中居氏に対して、治療に専念したいので、退院できる日が来るまでは連絡を差し控えさせていただきたいという内容のSMSを送信。以後、Aさんから中居氏に連絡していないが、中居氏は同年9月中旬頃までの1週間に1回の頻度でAさんに対して一方的に送り続けたという。「歴史にIfがあれば…」的になってしまうが、実は報告書を読むと、8月以降の中居氏による一方的なSMS送信は避けられたかもしれない“チャンス“はあった。Aさんから中居氏への最後のSMS送信の前日、AさんはF氏とのやり取りで「B氏が中居氏のパシリとしておそらく現金が入ったものを持ってきたが、受け取らなかった」と伝えているからだ。B氏の関与を見て見ぬふり当時のフジテレビ社内の公式ルートでB氏はAさんの事件の情報共有者には入っていなかったことをF氏らは認識していたはず。実際、このやり取りでF氏は「なぜB氏が?」といぶかしんだものの、B氏と中居氏は仲が良いからぐらいの認識で、あまり気に留めなかったという。B氏の件は同日中にF氏からE氏とG氏にもメールで報告されたが、両者とも無反応だったと報告書には記述されている。もちろん第257回、第258回で取り上げてきたフジテレビ社内の動きを見れば、その可能性は低いかもしれないが、一般論としても「なぜ?」と思った時は真剣に立ち止まる重要性を想起させる。ましてAさんは心身ともに状況が悪化していた時期であり、E氏、F氏、G氏がここで事実上スルーしてしまったことは、メンタルが悪化している人への対応としては悔やまれる点である。結局、B氏とJ氏が直接G氏に中居氏との事件について自分たちが知っていることを報告したのは同年9月頃。この際にB氏はAさんと中居氏に認識の違いがあることなどを説明したが、見舞金配達のことなどは「とくに必要だとは思わなかった」と考えてG氏に報告せず、G氏はB氏らに事実関係の確認を含め何も質問をせず、「口外するな」とだけ指示。その後、G氏は港氏と大多氏にB氏とJ氏からの話を報告している。前回触れたように、8月下旬には港氏によるこの事件に対する対応方針が決定されているが、その中の1つ「情報漏えいしないよう、情報共有範囲は、港社長、大多氏、G氏、E氏、F氏、C医師、D医師に限定する」に抵触する事態が起きながら、上層部はこの事態に何ら具体的な対応はとっていない。とりわけG氏の対応はここでも極めて場当たり的である。Aさんは2023年9月上旬に退院して自宅療養に移行し、10月からの復帰を目ざしたものの心身の症状と体調の波が続き、同年10月からの復帰は困難となった。2023年12月19日の退院後の初回産業医面談で、Aさんは「職場に戻った時のことを想像できない」「毎日中居氏を目にするため、どうなるか想像できない、見るたびに思い出すだろう」「社屋に掲示されている中居氏のポスターを毎日見て番組に行かなければならない、その人を見ないことが重要」などと話をしていたという。しかし、港氏の方針決定時の「Aさんの生命の安全と(心身の)ケアを最優先にして、本人の意向を汲んで対応していく」という方針があったにもかかわらず、彼女のこうした意向はまったく上層部に伝わっていない。そもそも前々回も触れたように港氏、大多氏、G氏らはこの時点でC医師らから直接事情を聞くことがなかったからである。2023年9月上旬に中居氏が司会を務めていた同年4月開始の「まつもtoなかい」の継続是非について港氏、大多氏、G氏で協議が行われた。この時点では7月に10月番組改編に関する広告会社向けの説明会が終了していたことから、急な改編は関係者からの憶測を呼ぶだけでなく、Aさんを刺激してしまうのではないかとの理由から、中居氏の出演継続が決定している。まあ、この点は百歩譲っても、この3氏の理屈も一理ないとは言えない。しかし、報告書ではこの中居氏の出演継続の是非を検討する際に、中居氏本人からのヒアリングやAさんの意思確認を行わなかったこと、その是非すら検討されなかったことを批判的に捉えている。また、2024年4月改編に向けた広告会社向けの説明会開催直前の2023年12月にも「まつもtoなかい」を終了させるか否かの協議が前述の3氏で行われたが、この時も2023年9月の時と同様の理由で見送られている。しかもこの時は同時期に「まつも to なかい」で中居氏の相方の司会を務めるダウンタウンの松本 人志氏がやはり週刊文春が報じたトラブルで2024年1月に活動休止に追い込まれたにもかかわらず、番組名を変えるだけで中居氏を起用し続けた。最終的に中居氏の件も週刊文春が追い打ちをかけたのだが、こうしてみるとフジテレビは週刊誌報道で事態が明るみに出ないと何もしないと言われても仕方ない。ちなみにAさんと中居氏は、Aさんの代理人弁護士が中居氏に内容証明を送付したことから示談協議が始まったが、この際に中居氏の代理人弁護士K氏は、フジテレビが月額法律相談料を支払っており、Aさんも共演したことがある人物である。しかも、中居氏に仲介したのは前述のB氏である。Aさんは第三者委員会のヒアリングで「バラエティ部門、K弁護士及び中居氏が一体として感じられ、不快であった」旨を述べている。この示談は2024年1月に成立している。前述の退院後の産業医面談は月1回行われていたが、2024年4月の面談でAさんは「中居氏がフジテレビの番組に出演し続けており、社屋内に中居氏のポスターが貼ってあるため、復職はできるのだろうか」と訴えている。しかし、この訴えが上層部に拾い上げられることはなく、港氏が決定したAさんの意向尊重という方針は、ほぼ建前のままだった。結局、2024年7月にAさんは退職の表明、同月末に産業医同席でG氏も加わった面談で、G氏からの慰留提案を蹴ってAさんの退職は決定した。ちなみにこの場でもAさんは「中居氏の番組出演が継続しているのに自分は出られないこと、普通は(中居氏のことを)見なくて済むはずなのに。示談をしたのは中居氏との関係を終わらせたかったからである。区切りをつけたい、他局に入社していたらどんな未来があったか」といった話をしたが、G氏はこれに対し無言だったという。管理職のレベルが会社イメージに直結ここまでが概要である。しかし、港氏、大多氏もかなり呑気なのはもちろん、再三やり玉に挙げて申し訳ないが、このG氏の場当たりさは呆れを通り越すレベルである。もっともこれは単にフジテレビのG氏の問題だけではない。G氏のように自分の失点を防ぐために、場当たりで何も決断しない管理職は、どこの企業でもいそうな存在である。同時にAさんの事例はある種、異例のことのように思っている人もいるだろうが、社内外の人間関係のトラブルなどで社員が心身に不調をきたす事例は決して稀なことではないはずだ。つまるところ今回のフジテレビの問題の根っこを辿ると、他人事である企業なぞほぼ皆無だろう。結局、職場でのメンタルヘルスの重要性は叫ばれてはいるが、それを血肉に変えるかどうかは、各企業の方針とそれに基づく管理職教育とその徹底次第とも言える。その意味で今回の第三者委員会報告書は、管理職と呼ばれる人すべての“必読書”と考えている。一見すると医療に関係ないと思った人は多いかもしれないが、私が3回にわたって言いたかったのはそこに尽きる。

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4月25日 小児がんゴールドリボンの日【今日は何の日?】

【4月25日 小児がんゴールドリボンの日】〔由来〕「し(4)ょうに(2)がん」と「ゴ(5)-ルド」の語呂合わせからゴールドリボン・ネットワークが制定。ゴールドの由来は「子どもは、最も貴重な宝物である」という考えから金(ゴールド)にたとえ、シンボルマークに決定した。この日前後の土曜日には、「ゴールドリボン・ウォーキング」を開催し、小児がん経験者の体験談を通して、がん啓発などが行われている。関連コンテンツ学校がん教育.com部位別がんの5年相対生存率【患者説明用スライド】小児がん、定期的な症状スクリーニングで苦痛な症状が改善/JAMA生殖補助医療で生まれた子供のがんリスクは?小児がんの薬剤開発、何が進んだか、次に何をすべきか/日本小児血液・がん学会

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副作用の徐脈性不整脈、QT延長症候群を考えよう(1)【モダトレ~ドリルで心電図と不整脈の薬を理解~】第1回

副作用の徐脈性不整脈、QT延長症候群を考えよう(1)Question心房細動のリズムコントロール(洞調律化)を目的とした持参薬として、ジソピラミドまたはピルシカイニドを服用している患者の入院時の心電図波形が以下のようになっていました。ジソピラミド、ピルシカイニドそれぞれを服用していた場合、それらの影響はどのように推測されるでしょうか?画像を拡大する

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新年度スタート!4月中にやるべきたった1つのこと【研修医ケンスケのM6カレンダー】第1回

新年度スタート!4月中にやるべきたった1つのことさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1 回お届けする新企画です。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、みなさんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年4月22日で、住んでいる愛知県ではすっかり葉桜になった空に、もう夏の風を感じるそんな夜です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。今回は記念すべき本連載1本目!緊張しております(汗)3日坊主の私にとって「連載 !? 」というのが初めてお話をいただいた時にまず感じたことですが、いよいよスタートするなと身が引き締まる思いです。当時を懐かしみながら、あの時の自分へ何を話しかけるのか?みなさんの6年生としての1年間が少しでも良い思い出になる、そんなお力添えができるように頑張って参りますので、ぜひ応援のほどよろしくお願い申し上げます。愛知県で働く、九州男児!さてさて、今回は1本目早速スタートしていきたいのですが、まずはお前誰だよ、という方が多いかと思うので、簡単に自己紹介をさせていただきます。(研修医1年目の7月の写真。どこか初々しい)私、杉田研介と申します。現在は愛知県内で初期臨床研修医として働いています。私自身は生まれも育ちも九州で、大学も九州だったのですが、初期臨床研修ではご縁があって本州・愛知県へ出て参りました。大学内では学年代表を務め、学外では医学生のイベントにいろいろ顔を出したり、医療系ITでインターンをしていたり、そんな感じで過ごしていました。ちなみに受験したのは第118回医師国家試験です。将来は総合診療や救急といったプライマリケアの第一線で働く臨床医を志していますが、元々メディアにも興味があるので、今回のようにブログなりラジオなりで情報に携わるお仕事もできたらなと考えています。文章の口調がどこかラジオっぽいのは学生の頃に自分で番組を企画した、そんな名残です。走り出す準備、まずは1度勉強会をさあ、ようやく本編スタートなのですが、今月は4月。ついに最終学年、6年生。「医師国家試験が現実味を帯びてきた…」と感じている人も多いのではないでしょうか。かく言う私も、新学期前日の夕食で友人から「もう受験生だよね」と言われて、ため息とともに背筋が伸びたのを覚えています。しかし、「まだ」4月。「正直、どこか本気に感じない、なれない」という人もいると思います。焦らなくても大丈夫。4月は“走り出す準備”を整える時期です。4月にぜひ準備してほしいなと思うことはいろいろありますが、原稿のボリュームとも相談して1つだけ挙げろ、と言われたら「勉強会を実施する」コレです。次月以降でより詰めた話はするとして、国家試験対策(卒業試験も同様に。何ならより重要かも)で何から手をつけ始めるか、と問われたら「まずは今月中に1回でもいいから、誰かと一緒に勉強会してみて」そう回答します。読者のみなさまにおかれましてはすでにいつもの4人でやってます、という方もいらっしゃるかもしれませんが、勉強会といっても、勉強会でただ集まるだけでは終わってほしくないので、ぜひ耳を傾けてみてください。勉強会を実施する、その意義は次の3つあると考えています。自分の学習状況に責任を持つ誰かと会って話す、心の健康を保つアウトプットの絶好の機会になる1つひとつ考察しましょう。(5年生の時から勉強会を共にした4人でイタリアへ卒業旅行へ)自分の学習状況に責任を持つ1つ目の「自分の学習状況に責任を持つ」という言葉の背景には、人間は1人では脆い、という私なりの持論が投影されています。冒頭で、三日坊主の私です、と述べましたが、「継続することが大得意!」という方がよっぽど珍しいのかなと思っています。過去の試験対策でも「今度こそは講義があったその日から」と決心するも気付けば数日前、下手すれば前日の夜、なんて経験をされた方もいらっしゃいますよね。ところが2月頭に予定されている医師国家試験の試験範囲は実に膨大で、ちょっとやそっとの付け焼き刃では太刀打ちできませんし、運よく合格したとしても、控える臨床研修での不安が募るだけです。長期計画が難しいことは十二分にわかりますし、仮に長期計画を作ったとしても計画は変更する、そんなことを考えていたら計画を立てることすら面倒に感じて何も進まない、、、そんな負のループにはハマってほしくありません。勉強会という、誰かと会って強制的に自分の学習状況を客観視することができる状況を作ってしまうのは得策です。誰かと会って話す、心の健康を保つ2つ目は「誰かと会って話す、心の健康を保つ」です。医師国家試験は大学受験と違って競争試験ではないですが、試験は試験。特に大学生になって遊び方にも多様性がある中で勉強をし続ける、そんな難しさがあるのでは、なんて思ったりもします。医学を学ぶこと自体は楽しいことですが、試験勉強となると滅入ることだって珍しくありません。1人で勉強すること自体は欠かせませんが、1人だけで駆け抜けることは個人的にはオススメしません。勉強会なので勉強の話がメインになることはそうなのですが、誰かと会って話す機会とは、社会を成す人間にとって自然な時間だと思います。また時期が近づいたら触れようと思いますが、医師国家試験も最終的にはメンタルゲームなところがあります。アウトプットの絶好の機会になるさて最後は「アウトプットの絶好の機会になる」です。誰かと会って話す勉強会では、インプットを同時に行うよりも、勉強会メンバーの誰かにとってアウトプットの場となるように運営することがコツです。アウトプットの方法として定番なのは一般問題のように、一問一答形式での口頭試問です。これまでの定期試験でもよく実施してきたのではないでしょうか。もちろん、一問一答形式はアウトプットには欠かせないのですが、ぜひ6年生のみなさんには項目ごとに学習を深掘りしてほしいです。例えば脳梗塞に対する臨床問題を数題取り組むとして、勉強会メンバーのうち、Aさんは疫学・リスク因子、それらをカバーする公衆衛生、Bさんは臨床像・診断、Cさんは治療・予後について、といったように一口に脳梗塞といっても様々な側面から問題について考察してほしいです。医師国家試験ではある年は臨床問題の問題文中の設定が、その疾患の疾患らしさ、として翌年には一般問題として問われる。そのまた逆も然り、なんてことがよくあります。ここで重要なのが、多角的に疾患や問題に向き合ってきたか、ということです。複数人で問題に取り組むことで、自分1人で勉強してて気づくことがなかった視点からさらに学習が深まります。(笑い合い、時に議論し合ったあの時間も、今となっては良い思い出です)今月のまとめいかがだったでしょうか。記念すべき1回目、4月まず何から手をつける?として勉強会のすゝめを説いてきました。勉強会が1回でもできればまずはOK、そこから定期的に集まる機会に繋げる、繋げた勉強会は絶好のアウトプットの時間にする。これがポイントです。これまで勉強会の機会がなかった方にとってはハードルが高く感じるかと思いますが、一度腰を上げてみましょう。誰かがいますから。学内で難しければ学外に目を向けてみれば、そのサポートをするサービスは近年よく整ってきていますよ。さあ、ということで今月は一旦ここまで。導入や自己紹介があったので、具体的な学習方法まで言及できませんでしたが、次月以降で紹介して参りますので、ぜひお楽しみに!

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2年間のフレマネズマブ治療の有効性および継続性〜国内単一施設観察研究

 フレマネズマブの12週間に1回675mgを皮下投与した場合の長期的なアドヒアランスや有効性に関するリアルワールドデータは、依然として不足している。静岡赤十字病院の吉田 昌平氏らは、反復性片頭痛(EM)および慢性片頭痛(CM)に対する2年にわたるフレマネズマブ675mgの有効性およびアドヒアランスを評価し、治療中止理由の分析を行った。The Journal of Headache and Pain誌2025年3月11日号の報告。 対象は、静岡赤十字病院の頭痛センターに通院している患者のうち、2021年11月〜2022年6月にフレマネズマブの12週間に1回675mgを皮下投与する治療を行った15歳以上の患者。頭痛の頻度および重症度は、頭痛日誌を用いて記録した。観察期間は、治療開始後24ヵ月間までとした。治療中止理由は、フォローアップ時のカルテ記録より収集した。 主な結果は以下のとおり。・登録患者数は28例。内訳は、CM患者15例、EM患者13例。・CM患者のうち1例は、初回投与後に治療を中止したため除外した。・評価対象患者27例のうち、フレマネズマブ675mg治療が有効であった患者の割合は、70.4%(19例)であった。・観察期間終了までフレマネズマブ675mg治療を継続した患者の割合は44.4%(12例)。・2年間フレマネズマブ治療を継続した患者のうち、毎月頭痛カレンダーを更新していた患者は7例(CM患者:2例、EM患者:5例)。・ベースラインからの1ヵ月当たりの片頭痛日数の平均変化は、3ヵ月で−2.2、12ヵ月で−1.8、2年で−1.6±3.0であった。・25.9%(7例)の患者は、継続的な改善が認められたため、治療中止が可能であった。・効果不十分で治療中止に至った患者の割合は22.2%(6例)。・注射部位反応のため治療を中止した患者は1例(3.7%)のみ。・1例(3.7%)は、妊娠のため治療を中止した。・治療反応が不十分であった患者のうち3例は、フレマネズマブからエレヌマブに切り替えを行った。その後1例は、エレヌマブの効果が減弱し、フレマネズマブ4週間に1回225mg皮下投与に変更された。・2例は、ガルカネズマブへ切り替えられた。・すべての切り替え患者は、その効果により切り替えた薬剤で治療が継続された。・1例は、フォローアップ調査から脱落した。 著者らは「フレマネズマブ12週間に1回675mg皮下投与は、長期にわたり頭痛の頻度を効果的に減少させ、大幅な回復が認められた患者では、治療中止が容易になる可能性が示された」と結論付けている。

2190.

サブタイプ別転移乳がん患者の脳転移発生率、HER2低発現の影響は

 約1万8千例を含む大規模な転移乳がん患者コホートを対象に、サブタイプおよび治療ライン別の脳転移の有病率と累積発生率、またHER2低発現が脳転移発生率に及ぼす影響を評価した結果、すべてのサブタイプで治療ラインが進むごとに発生率が上昇し、HER2低発現は従来のサブタイプ分類における発生率に影響を及ぼさないことが示唆された。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のSarah L Sammons氏らによるJournal of the National Cancer Institute誌オンライン版2025年3月31日号への報告。 本研究では、電子カルテに基づく全国規模の匿名化データベースが用いられた。主要評価項目は脳転移の初回診断とし、HER2低発現を含む転移乳がんのサブタイプおよび治療ライン別に、脳転移の有病率および発生率を推定した。全身治療開始時に脳転移を有さなかった患者における脳転移リスクは、累積発症率関数を用いて推定した。すべてのp値は両側検定に基づき、p≦0.05を統計学的有意とした。 主な結果は以下のとおり。・1万8,075例の転移乳がん患者のうち、1,102例(6.1%)は初回治療開始時点ですでに1つ以上の脳転移を有していた。・残る1万6,973例における脳転移の累積発生率(60ヵ月時点)は、ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性で10%、HR+/HER2陽性で23%、HR陰性/HER2陽性で34%、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)で22%であった。・HR+/HER2陰性およびTNBCサブタイプにおけるHER2低発現の、脳転移発生率への影響はみられなかった。・すべての乳がんサブタイプにおいて、治療ラインが進むごとに脳転移の有病率は上昇していた。

2191.

症状のない亜鉛欠乏症に注意、亜鉛欠乏症の診療指針改訂

 「亜鉛欠乏症の診療指針2024」が2025年1月に発行された。今回の改訂は7年ぶりで、きわめて重要な8つの改訂点が診療指針の冒頭に明記され、要旨を読めば最低限の理解がカバーできる構成になっている。だが、本指針内容を日常診療へ落とし込む際に注意したいポイントがある。そこで今回、本指針の作成委員長を務めた脇野 修氏(徳島大学大学院医歯薬学研究部 腎臓内科分野 教授)に、亜鉛欠乏症の現状や診断・治療を行う際の注意点などについて話を聞いた。<2018年度版からの改訂点>・診断基準と検査について、アルカリフォスファターゼ低値を削除・採血タイミングについて言及・薬物治療について、亜鉛製剤の記述が追加・小児科、内科疾患に関する臨床的意義について、近年のエビデンスに基づき大幅改訂・摂取推奨量は、日本人の食事摂取基準2025年版を引用・国内での発生頻度について追記・リスクファクターとなる疾患について、メタアナリシスで証明されたもののみ記載・亜鉛過剰症について、耐用上限量を記載し、血清膵酵素の上昇に関する記載を削除症状がない潜在性亜鉛欠乏への診断・治療 国内の亜鉛欠乏潜在患者は全人口の10~30%と予想され、亜鉛不足が心筋梗塞の発症、COVID-19の発症/死亡、子癇症、骨粗鬆症、味覚異常のリスクファクターであることが疫学研究から明らかになっている。そのため、近年では症状を有する患者への治療のみならず、症状が顕在化していない患者の診断も喫緊の課題となっている。 亜鉛の血清/血漿基準値は80~130μg/dLで、亜鉛欠乏症と診断するには、亜鉛欠乏(60μg/dL未満)、潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL未満)の評価と共に、臨床症状・所見の有無、原因となる他疾患が否定されることが必要である。同氏は「亜鉛欠乏症状(皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡、食欲低下、発育障害、性腺機能不全、易感染性、味覚異常、貧血、不妊症)がない場合には亜鉛投与の適応にはならない点は注意が必要。一方、症状がある場合には積極的に投与してほしい」と強調した。しかし、実際には症状がみられない亜鉛欠乏症への亜鉛投与の価値が証明されつつあるため、「慢性肝疾患、糖尿病、炎症性腸疾患、腎不全のようにしばしば血清亜鉛低値を認める患者(潜在性亜鉛欠乏も含む)では、亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善することがあるため、“亜鉛欠乏症状が認められていなくても、亜鉛補充を考慮してもよい”と治療指針の項に示した」とし、「食欲が低下している、貧血、感染の疑いが見られた場合、原疾患の治療に難渋している場合にも低亜鉛の可能性があることから、亜鉛測定を検討してほしい」と説明した。 現在、亜鉛製剤には2024年3月に発売されたヒスチジン亜鉛(商品名:ジンタス錠)、酢酸亜鉛、ポラプレジンク(商品名:プロマックD錠ほか)があるが、低亜鉛血症で保険適用になっているものは、ヒスチジン亜鉛と酢酸亜鉛のみである。「ヒスチジン亜鉛は良好なコンプライアンスが期待でき、酢酸亜鉛よりも消化器症状が少ない特徴を持っている」と説明した。採血は1~2ヵ月を目処に、銅も考慮を 今回の改訂では、採血タイミングも盛り込まれた。これについて「現状、実臨床で血中濃度の評価が正しくされていないため、1~2ヵ月ごとに亜鉛を、数ヵ月に1回は銅を測定して薬剤継続可否の判断を行ってほしい。また、貧血症状を有している患者ではすでに鉄や銅を測定しているが、それでも改善しない場合には亜鉛測定に踏み込んでもらいたい」と述べた。亜鉛投与による有害事象の観点からも、「銅欠乏や鉄欠乏性貧血をきたすことがあるので、ルーチンで測定する必要はないが、数ヵ月に1回は血清亜鉛とともに、血算、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、フェリチン、血清銅を測定してほしい。亜鉛投与が適応となる患者であっても、投与数ヵ月のなかで症状の変化がみられない場合には、臨床症状が亜鉛欠乏によるものではないと判断し、亜鉛投与を中止する」といった判断が必要なことも強調した。極端な健康志向の食事療法は亜鉛不足のリスク 健康を意識した食事として、心血管疾患や糖尿病、認知症などに予防効果があるとされる地中海食やDASH食を想像するだろう。ところが、これらの食事療法で推奨される玄米や全粒粉、大豆などの植物由来製品には、亜鉛とキレートを形成するフィチン酸が多く含まれるため、亜鉛の吸収を阻害してしまうという。一方、亜鉛含有量が高い食材として牛赤身肉が推奨されるが、赤身肉の摂取はがん発症リスク、腎臓病などに悪影響を及ぼすことも報告されている。これらを踏まえて、同氏は「バランスのよい食事を心がけることが重要。実際にベジタリアンやヴィーガンでの亜鉛欠乏症が報告されている。そして、亜鉛は生体のなかでも筋肉に60%ほど分布していることを考慮すると、海産物(牡蠣、ホタテ、魚、海藻類)の摂取を意識するのが望ましい。その点で和食や地中海食はよいかもしれない」とコメントした。 最後に同氏は、「亜鉛は300種以上もの酵素や機能タンパクの活性中心に存在し、その意義が詳細に明らかにされている必須微量元素である。1961年に亜鉛欠乏症が報告されて以来、研究にも長い歴史を有しているが、その一方で“未完の大器”のような可能性を秘めている。7年ぶりの改訂では疫学研究や観察研究ではなく、さまざまな介入研究の結果を反映させることができたが、今後の課題として、糖尿病や腎不全、肝障害の発症抑制、慢性疾患に対する抗炎症作用としての亜鉛の効果(抗酸化酵素、増殖等)などに関する研究結果を発信していきたい」と締めくくった。 亜鉛などの微量元素は人間に内在する病的な因子として、決して忘れてはいけない存在である。なお、微量元素の恒常性の観点から、加齢や炎症疾患において近年注目されているセレンについても、「セレン欠乏症の診療指針2024」が同時に発刊されているので、合わせて一読されたい。

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米国出生率、中絶禁止導入州で上昇/JAMA

 米国において中絶禁止法を導入した州の出生率は、導入しなかった場合に予想される出生率より高く、とくに人種的マイノリティ、低学歴(大学卒業ではない)、低所得、未婚、若年、南部の州においてその差が大きかった。同国・ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のSuzanne O. Bell氏らが、出生証明書と国勢調査データを解析し報告した。このような超過出生は、社会サービスが最も脆弱で、母子の健康と福祉に関するアウトカムが最も不良な州で認められ、著者は、「既存の格差がさらに深刻化し、すでに逼迫している資源にさらなる負担をかける可能性がある」と指摘している。JAMA誌2025年4月15日号掲載の報告。中絶禁止法を導入した州の出生率を分析 研究グループは、2012~23年の全米50州およびコロンビア特別区(ワシントン)の出生証明書ならびに国勢調査データを用い、完全な中絶禁止または妊娠6週目以降の中絶禁止を法的に導入している米国14州*における、15~44歳(生殖可能年齢)の女性の出生率(1,000人当たりの出生数)の平均変化と絶対変化について、全体および州別、ならびに州内と州間で、年齢、人種・民族、婚姻状況、教育、保険加入別に、ベイズパネルデータモデルを用いて推定した。*:アラバマ、アーカンソー、ジョージア、アイダホ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、オクラホマ、サウスダコタ、テキサス、テネシー、ウェストバージニア、ウィスコンシン(アイダホ、ミズーリ、サウスダコタ、ウィスコンシン以外の州を南部とする)中絶禁止法導入後の出生率は、導入しなかった場合の予測値より高い 中絶禁止法を導入している14州全体では、生殖可能年齢の女性1,000人当たりの出生数が、期待値より1.01人(95%信用区間[CrI]:0.45~1.64)増加と推定され(予測値59.54に対し観測値60.55)、増加率は1.70%(95%CrI:0.75~2.78)、超過出生数2万2,180人に相当することが示された。 この結果は、州およびサブグループによってばらつきがみられ、期待値を上回る増加は、とくに南部の州、ならびに人種的マイノリティ(約2.0%)、未婚者(1.79%)、35歳未満(約2.0%)、メディケイド受給者(2.41%)、大学卒業未満(高校卒業2.36%、大学の学位なし1.58%)で顕著であった。 中絶禁止と出生率の州レベルでの関連性のばらつきの大部分は、各州における人種・民族、教育の違いに基づくものであることが示された。 著者は研究の限界として、出生率に影響を与える同時要因を考慮することが困難であること、限定的な個人レベルのデータがまだ入手できず、解析では2023年の暫定的な出生数集計データを使用したこと、出生時の妊娠週数に関する情報は集計データでは入手できないため、受胎コホートに基づく解析が不可能であったことなどを挙げている。

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再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症、tolebrutinibが障害進行リスク抑制/NEJM

 再発を伴わない二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者において、tolebrutinibによる治療はプラセボと比較し障害進行のリスクが低いことを、米国・クリーブランドクリニックのRobert J. Fox氏らHERCULES Trial Groupが、第III相二重盲検プラセボ対照試験「HERCULES試験」の結果で報告した。多発性硬化症(MS)では、経過中に徐々に神経学的症状の進行が生じることがあり、これは障害蓄積(disability accrual)と呼ばれている。現在のMSに対する疾患修飾療法は、再発とは関係のない障害蓄積に対する効果は限られており、その原因の一部は中枢神経系内での慢性、治療抵抗性の神経炎症にあると考えられている。tolebrutinibは、中枢移行性の高い経口ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬で、末梢および中枢神経系の両方の骨髄細胞(ミクログリアを含む)とB細胞を標的としている。これまで、再発を伴わないSPMSに対して承認された治療法はなかった。NEJM誌オンライン版2025年4月8日号掲載の報告。6ヵ月以上持続する障害進行をtolebrutinibとプラセボで比較 研究グループは、過去24ヵ月間に臨床的な再発がなく、過去12ヵ月間に神経学的症状進行の所見がみられ、総合障害度評価尺度(EDSS)(範囲:0~10.0、スコアが高いほど障害度合いが大きい)が3.0~6.5の18~60歳の再発を伴わないSPMS患者を、tolebrutinib群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回60mgを経口投与した。 主要エンドポイントは、6ヵ月以上持続する障害進行(EDSSスコアがベースラインから1.0以上増加[ベースラインスコアが5.0以下の場合]または0.5以上増加[ベースラインスコアが5.0超の場合]と定義)で、ITT解析を行った。tolebrutinib群で障害進行のリスクが低い 2020年10月23日~2023年1月12日に、計1,131例が無作為化された(tolebrutinib群754例、プラセボ群377例)。 追跡期間中央値133週間において、6ヵ月以上持続する障害進行が確認された患者の割合は、tolebrutinib群で22.6%、プラセボ群で30.7%であり、tolebrutinib群で有意に低かった(ハザード比:0.69、95%信頼区間:0.55~0.88、p=0.003)。 重篤な有害事象は、tolebrutinib群で15.0%、プラセボ群で10.4%に発現した。主なものは、tolebrutinib群ではCOVID-19肺炎、多発性硬化症の再発、COVID-19、肺炎、プラセボ群では肺炎と尿路性敗血症であった。死亡率は両群で同程度であった。 また、tolebrutinib群で4.0%、プラセボ群で1.6%の患者で、ALT値の正常範囲上限の3倍を超える上昇が認められた。

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tenecteplase、脳梗塞治療でアルテプラーゼと同等の効果

 急性期脳梗塞の治療薬として2月28日、米食品医薬品局(FDA)により承認された血栓溶解薬のTNKase(一般名テネクテプラーゼ〔tenecteplase〕)の有効性と安全性は、米国の大多数の病院で使用されている血栓溶解薬のアルテプラーゼと同等であるとする研究結果が報告された。テネクテプラーゼには、アルテプラーゼと比べて投与に要する時間が格段に短いというメリットもある。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのJustin Rousseau氏らによる本研究の詳細は、「JAMA Network Open」に3月12日掲載された。 Rousseau氏らの説明によると、米国では毎年約80万人が脳卒中を発症し、その原因のほとんどは血栓が脳への血流を遮断することで生じる脳梗塞だという。アルテプラーゼは、1996年にFDAにより承認された血栓溶解薬であるが、投与に時間がかかるという欠点がある。同薬剤の投与プロセスは、最初に投与量の10%程度を1〜2分で急速投与し、その後、1時間かけて点滴で投与するというものであり、治療の中断や遅延を引き起こす可能性があると研究グループは指摘する。 これに対し、テネクテプラーゼはわずか数秒の注射で投与される。テネクテプラーゼは、血栓による心筋梗塞の治療薬としてすでに市場に出回っているが、急性期脳梗塞に対しては適応外で使用されていた。 今回の研究でRousseau氏らは、2020年7月1日から2022年6月30日の間に急性期脳梗塞に対する治療としてテネクテプラーゼを投与された9,465人(平均年齢69.6歳、女性47.6%)とアルテプラーゼを投与された7万85人(平均年齢68.5歳、女性48.6%)を対象に、有効性と安全性を比較した。有効性の主要評価項目は、退院時の機能的自立性(修正ランキンスケール〔mRS〕スコア0~2点)、副次評価項目は、退院時に障害がないこと(mRSスコア0~1点)、自宅退院、退院時の自立歩行であった。安全性の評価項目は、治療後36時間以内の症候性頭蓋内出血(sICH)、院内死亡、ホスピスへの退院、および院内死亡とホスピスへの退院の複合とされた。 その結果、対象者全体では、有効性と安全性の評価項目についてテネクテプラーゼ群とアルテプラーゼ群の間に有意な差は見られないことが明らかになった。一方、血管内血栓回収療法(EVT)適応があったが血栓溶解療法のみを受けた患者の間では、アルテプラーゼ群と比べてテネクテプラーゼ群で、自宅退院のオッズが有意に高く(調整オッズ比1.26、95%信頼区間1.03〜1.53)、院内死亡(同0.63、0.47〜0.85)、および院内死亡とホスピスへの退院の複合(同0.78、0.62〜0.97)のオッズは有意に低かった。 研究グループは、テネクテプラーゼとアルテプラーゼの有効性と安全性は同等であるが、投与の容易なテネクテプラーゼを使用することでEVTをより迅速に受けられるようになるなど、急性期脳梗塞の治療の柔軟性が高まる可能性があると見ている。 Rousseau氏は、「急性期脳梗塞の治療では、『時は脳なり』と言われる。効果的な治療が遅れるほど死滅する脳細胞が増え、予後が悪くなるからだ。本研究結果は、テネクテプラーゼがアルテプラーゼによる従来の治療法に代わる安全で効果的な治療法であり、場合によっては患者の回復を早める可能性があることを示唆している」とサウスウェスタン医療センターのニュースリリースの中で述べている。

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遺伝性アルツハイマーへのgantenerumab、発症リスク低下に有効か

 最先端のアルツハイマー病治療薬が、実際にその進行を防ぐ可能性のあることが、小規模な研究で示された。脳内でアミロイドβ(Aβ)が過剰に産生される遺伝的変異を持ち、将来、アルツハイマー病を発症することがほぼ確実とされる試験参加者に、脳からAβを除去する抗Aβ IgG1モノクローナル抗体のガンテネルマブ(gantenerumab)を投与したところ、投与期間が最も長かった参加者ではアルツハイマー病の発症リスクが50%低下したことが示されたという。米ワシントン大学医学部のRandall Bateman氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Neurology」4月号に掲載された。 ガンテネルマブは元々、同じく抗Aβ抗体薬のソラネズマブ(solanezumab)とともに、2012年に開始された臨床試験(The Knight Family DIAN-TU-001、以下、DIAN-TU)において、優性遺伝性アルツハイマー病(DIAD)の発症予防や進行遅延に対する効果が検討されていた。対象は、DIAD発症予測年齢の15年前から10年後の間にある、無症状または認知機能の軽微な低下が認められるDIAD変異キャリアだった。 2020年の試験終了時点では、ガンテネルマブの認知機能低下に対する抑制効果については十分なエビデンスが得られなかったものの、Aβレベルの低下が確認されたことから、DIAN-TU試験参加者を対象に、オープンラベル継続投与試験(OLE試験)が実施されることになった。しかし2022年11月、ロシュ/ジェネンテック社は、ガンテネルマブに関する別の臨床試験において期待されていた結果が得られなかったことを理由に同薬の開発中止を決定した。これを受け、当初3年間の予定で開始されたOLE試験も、予定より早い2023年半ばに打ち切られた。OLE試験では、試験参加者は平均2.6年にわたる治療を受けた。 本研究結果は、このOLE試験の解析結果である。OLE試験には、2020年6月3日から2021年4月22日の間に18施設から73人が登録され、全員がガンテネルマブによる治療を受けた。試験の途中で13人が有害事象や疾患の進行により離脱し、47人(64%)が試験終了に伴い治療を中止した。最終的に、3年間の治療を完了したのは13人だった。 中間解析からは、ガンテネルマブによる治療期間が最も長かった22人では、認知症の重症度を評価する臨床認知症評価尺度の合計点(CDR-SB)の低下リスクが約50%低下する可能性のあることが示唆された(ハザード比0.53、95%信頼区間0.27〜1.03)。この結果は、アルツハイマー病の症状が現れる前にガンテネルマブにより脳からAβを除去することで、発症を遅らせられる可能性があることを意味する。しかし、DIAN-TUまたはOLE試験のどちらかでのみガンテネルマブによる治療を受けた53人では、認知機能低下に対するガンテネルマブの抑制効果は確認されなかった(同0.79、0.47〜1.32)。 Bateman氏は、「これはアルツハイマー病の遺伝リスクがある人の発症を予防できる可能性を示す最初の臨床的エビデンスとなり得る、大いに期待を持てる結果だ。近い将来、何百万人もの人々のアルツハイマー病の発症を遅らせることが可能になるかもしれない」と話している。また、米アルツハイマー病協会の最高科学責任者であるMaria Carrillo氏も、「これらの興味深い予備的研究の結果は、Aβレベルを下げることがアルツハイマー病の予防に果たす潜在的な役割を非常に明確に示唆している」とワシントン大学のニュースリリースの中で述べている。 ただし、抗Aβ抗体薬は高価であり、副作用のリスクも伴う。この小規模試験での脳浮腫の発生率は30%と、最初の臨床試験での発生率(19%)と比べて1.3倍に増加していた。

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低ホスファターゼ症の新たな歯科症状が明らかに―全国歯科調査

 子どもの歯は6歳前後で永久歯へと生え変わる。もしそれより早く乳歯が抜け落ちたとしたら、そこに別の病気が隠れているかもしれない。 低ホスファターゼ症(HPP)は、無治療では死に至ることもある遺伝性の骨系統疾患であり、乳歯の早期脱落といった歯科的問題を伴うことが多い。この度、日本人におけるHPPの歯科的所見の調査を目的とした全国調査が行われ、この疾患に関する新たな歯科所見が認められたという。本調査は大阪大学大学院歯学研究科小児歯科学講座の大川玲奈氏、仲野和彦氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月25日掲載された。 HPPは大きく、成人型・歯限局型などの軽症型、周産期重症型・乳児型などの重症型に分けられる。2015年に全身治療法が国内で承認されて以来、重症型HPPでも生命予後が改善されたが、歯が生えそろうまでの生存が困難であったことから、歯科症状に関しては分かっていないことが多い。大川氏らは、2013年、2018年にHPPの全国調査を実施している。3回目となる今回は、歯の早期脱落に対する不正咬合治療の必要性という観点からHPP患者の歯列と咬合に焦点を当てた全国歯科調査を実施することとした。 全国調査は、歯科を有する総合病院609施設に対して実施された。過去5年間にわたるHPP症例の診療の有無に関するアンケートを送付し、「有」と答えた施設に対して、その症例の歯科症状に関するアンケートを送付、回答してもらった。最終的に、アンケートにより得られた62名に、大阪大学歯学部附属病院の41名を加えた、103名のHPP症例を解析対象とした。 解析に含めた103名のうち47名が歯限局型(軽症型)、55名が非歯限局型(重症型)、1名の分類が不明だった。4歳未満での乳歯の早期脱落は全体で75名(73.5%)が報告され、内訳は歯限局型43名(43/47名、91.5%)、非歯限局型32名(32/55名、58.2%)だった。乳歯の早期脱落は、歯限局型で有意に発生しており(P<0.001)、最も多く脱落した部位は「下顎乳中切歯」だった。歯の形成不全は非歯限局型の40%で認められ、歯限局型(8.5%)と比較し有意に高い割合で発生していた(P<0.001)。 不正咬合は非歯限局型が歯限局型よりも多く、最も多く見られた種類は叢生(そうせい)だった。また、非歯限局型で多かった歯科症状として、口腔習癖(指しゃぶり、舌の突き出し)、摂食嚥下障害(噛まずに飲み込む、飲み物で食べ物を流し込む)が認められた。 著者らは本研究について、「HPPの重症度は様々であり、特に重症型のHPPでは歯の形成不全、不正咬合、口腔習癖、摂食嚥下障害が多く認められた。口腔習癖や摂食嚥下障害に関しては、乳切歯の脱落が原因の可能性もあり、患者には義歯の使用だけでなく、口腔機能の評価や機能訓練が推奨されることを示唆している。HPP患者には、疾患の重症度に応じた集学的治療法の確立が必要なのではないか」と述べた。 本研究の限界については、アンケートに回答しなかった施設にHPP症例が含まれていた可能性があること、アンケートで得られた回答の信頼性などを挙げている。

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第35回 尿管結石をどう見抜き、どう診るか【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)尿管結石らしさを的確に見積もれるようになろう!2)ベッドサイドで診断をつけよう!3)血管病変は常に意識することは忘れないようにしよう!【症例】52歳男性。高血圧、脂肪肝で近医のクリニックに受診している。朝方左側腹部の痛みがあり、目が覚めてしまった。その後、痛みが改善せず救急外来を独歩受診した。待合室で1度嘔吐あり。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/96mmHg脈拍96回/分(整)呼吸20回/分SpO299%(RA)体温36.4℃瞳孔3/3mm+/+尿管結石はいつ疑うかみなさんは、どんなときに尿管結石を疑いますか?たとえば、中年男性が「身の置き所のない」側腹部痛を訴えていたら、まず疑うでしょう。私自身は経験がありませんが、友人の何人かが本症にかかったことがあり、詳しく話を聞いてみると、みんな口を揃えて「あれは死ぬほど痛い!」と言っていました。救急外来では、尿管結石の症例によく遭遇しますが、本当に患者さんつらそうですよね。冷や汗をかきながら腰に手を当て、何とか楽な姿勢を探そうとするけれども、結局みつからない…そんな様子が典型的です。以前紹介したSTONE score(表1)にもあるように、嘔気や嘔吐、血尿、そして数時間以内に症状がピークに達することが尿管結石らしさを示す特徴です1)。表1 STONE score画像を拡大するただしその際、「尿管結石らしい症状」を示す、見逃してはならない他の疾患も同時に鑑別する必要があります(参考リンク:第19回 侮ってはいけない尿路結石)2)。鑑別すべき疾患については図にまとめましたが、とくに血管病変には注意が必要であることは、ぜひ意識しておきたいポイントです。図 尿管結石の鑑別診断尿検査は施行するかみなさんは、尿管結石を疑った際に尿検査を提出するでしょうか。尿管結石における尿潜血の感度・特異度は、それぞれ84%・48%とされており3)、尿検査のみで診断を確定できる「絶対的な指標」とは言えません。全国の医師を対象にしたあるアンケート調査によると、8,549人の医師の回答者のうち、82%の医師が「尿管結石を疑った際に尿検査を提出する」と回答しています4)。ただし、この設問では「尿管結石を疑った際に尿検査を提出しますか?」とだけ問われており、具体的な臨床状況の設定がなかったため、結果の解釈には注意が必要です。それでも、多くの医師が尿管結石を疑った際に尿検査を施行していることがうかがえます。尿検査は簡便で、かつ迅速に結果が得られるため、診断の補助として行われることが多いでしょう。ただし、重要なのは検査結果そのものよりも、検査前確率(pre-test probability)です。また、尿検査よりも優先して実施すべき、より有用な検査も存在します。腹痛診療における検査腹痛を訴える患者に対して実施すべき検査は何でしょうか。救急外来ではCT検査が多くオーダーされているのが実状ですが、これは決して悪いことではありません。ただし、超音波検査(US)が可能な環境であれば、まずはUSを行うべきでしょう。ベッドサイドで簡便に施行でき、被曝のリスクもありません。2025年に発表された『急性腹症ガイドライン2025第2版』でも、「急性腹症の画像診断で最初に行うべき形態学的検査は何か?」という問いに対して、「非侵襲性、簡便性、機器の普及度などの観点から、スクリーニング目的での超音波検査が第1選択であり、とくに妊婦や小児において推奨される」と記載されています5)。また、急性腹症に対して造影CT検査の適応を判断する上でも、まずUSを実施し、具体的な疾患を想起できるかどうかを評価することが重要です。目的意識なくCT検査を施行しても、その結果を適切に解釈することは困難です。造影剤アナフィラキシーは、以前に問題がなかった造影剤でも起こり得るため、無用な造影剤の使用は避けるべきです。検査は常に明確な目的を持って選択する必要があります。CHOKAI scoreの勧めSTONE scoreよりもお勧めしたいのが、日本発のscoreである「CHOKAI score」です(表2)6)。これはUS所見を含む7項目から構成されており、実臨床に即した評価が可能です。なかでも注目すべきは、US所見に重みが置かれている点であり、その点数配分からもその重要性がうかがえます。表2 CHOKAI score精度の高さも報告されており、実際の診療での有用性は高いと考えられます。ぜひ積極的に活用していただきたいscoreです。水腎症の有無を確認しつつ、大動脈の評価も併せて行えば、血管病変の見逃しも防げて万全でしょう。早期に尿管結石と判断できれば、除痛も迅速に行えるはずです。 1) Moore CL, et al. BMJ. 2014;348:g2191. 2) 坂本壮. 第19回 侮ってはいけない尿路結石【救急診療の基礎知識】 3) Luchs JS, et al. Urology. 2002;59:839-842. 4) 坂本壮. 臨床何でもコントラバシー. 日経メディカル. 2024. 5) 急性腹症診療ガイドライン2025 改訂出版委員会 編集. 急性腹症ガイドライン 2025 第2版. 医学書院.2025. 6) Fukuhara H, et al. Am J Emerg Med. 2017;35:1859-1866.

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学会という名の同窓会【Dr. 中島の 新・徒然草】(577)

五百七十七の段 学会という名の同窓会ゴールデンウィークが近づいてまいりました。まとまった休みが取れるのはありがたいのですが、その前後はかえって忙しくなってしまいます。さて、春の学会シーズン。学会というのは、単に最新知見を得る場というだけでなく、旧知の仲間たちと再会する機会でもあります。長く医療の世界に身を置いていると、あちこちで顔なじみが増えていくもので、そんな人たちと立ち話をするのも学会の楽しみの一つといえるでしょう。先日の学会でも、昔話に花が咲きました。ある40代の先生。休憩時間に私に尋ねてきました。「先生は、週2回の外来以外の日は何をしているんですか?」私が「オンライン英会話とかしてるよ」と答えると、彼は驚いたように「ええ、自己研鑽ですか?」と返してきました。中島「いやいや、研鑽とか、そんな立派なもんじゃなくて。昔から英語が苦手で悔しい思いもたくさんしてきたから、少しでも取り戻したいと思って……」そう正直に話しました。「先生もどう?」と誘うと、「考えておきます」とのこと。ちなみに、オンライン英会話の講師はフィリピン人の先生ですが、彼女らと話すと世界が広がった気になります。最近の殺人事件の話をすると「日本でも人が殺されたりするのか!」と驚かれました。「他の国に比べたら数が少ないだけで、日本でも殺人事件はありますよ」と答えておきましたが、きっと彼女らの見聞も広がったことでしょう。また別の50代の先生は、こう切り出してきました。「今度、○○病院に部長で行くんですけど、何かアドバイスをください」私は「おめでとう。症例を増やそうと思ったら、週に半日でもいいから近くの医療機関で外来をするといいよ」と伝えました。「そうすれば、自分がそこに行っていない日でも、脳外科の症例が来たら紹介してくれるからね」とも。すると彼は「なるほど、それは確かに理にかなってますね」と感心していました。私はさらに続けました。中島「あとね、若手にも他の病院の外来に行かせるといいよ。症例も増えるし、アルバイトに理解ある上司だと思われて一石二鳥よ!」彼は笑いながら「先生、策士ですね」と返してきました。「とはいえ、症例が少ない時は若手の論文指導ということになるんだけど、実はそいつが難しい。結局、部長先生が9割くらい書くつもりで指導しないと、なかなか形にはならんぞ」と話すと、「それが現実ですよね」と苦笑いされました。さらにもう一人、60代の旧友から声をかけられました。「中島、今はどないしとるんや」「定年後の生活をエンジョイしとるで」と私が答えると、彼は「俺なんか、定年後も別の病院で働いとるぞ」とのこと。「すごいなあ。でも、男の健康寿命って、たしか73歳くらいやったよな。倒れるまで働くつもりか?」と聞くと、「ホンマか! それは考えなあかんなあ」と、少し真剣な表情。この先生には「やりたいことがあったら今のうちにやっとけよ」とアドバイスしておきました。こういった立ち話のような短いやり取りでも、それぞれの生き方が垣間見えるのが、学会という場の面白さです。医師としての立場は違いますが、同じ時代を歩んできた仲間たちとの会話は、肩の力が抜けていて心地よいものですね。最後に1句花が咲く 春の学会 立ち話

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第8回 「スマホ習慣」が脳を救う?意外な研究結果

スマートフォンやパソコン、インターネットといった技術の普及に伴い、「生涯を通じたテクノロジーの利用が脳の機能を低下させるのではないか?」という「デジタル認知症仮説」と呼ばれる仮説が提唱されてきました。テクノロジーに依存することで、頭を使わなくなり、認知症リスクが高まるのではないかということが懸念されてきたのです。テクノロジー利用が認知症リスク低下と関連しかし、そんな懸念を覆すかもしれない研究結果が最近になり報告され、CNNなどのニュースでも報じられました1)。テキサス州2大学の研究チームがメタ分析という手法を用いて、テクノロジー利用と認知症リスクの関連について解析を行なった結果がNature Human Behavior誌に発表されたのです2)。この研究の中で、これまでに行われた研究57件(合計41万1,430人)のデータをレビューしたところ、スマホやパソコンなどのテクノロジー利用者は非利用者に比べ、認知障害(軽度認知障害や認知症の診断、認知機能テストにおける低スコア)のリスクが平均42%低いことと関連することが明らかになったのです。なお、対象とされた研究には、平均6年間観察した追跡研究20件が含まれ、参加者の平均年齢は68歳でした。また、教育水準や収入、さまざまなライフスタイルなどを調整してもこの関連は認められており、これらの違いによる結果ではないことが確認されています。すべての「スマホ利用」に当てはまるわけではないただし、この研究にも当然限界はあります。その1つは、この研究で、テクノロジーをどのような形で利用していたかの詳細が加味されていないことです。このため、研究結果がなんでもかんでもテクノロジー利用と認知機能との関連を保証するものではないといえます。当然、この結果は「無目的にスマホの画面をスクロールし続けること」を推奨するものではまったくありません。他の研究結果とも統合して考えると、テクノロジー利用がもし脳にプラスに働くとすれば、それは情報検索や文章作成、コミュニケーションなどの「能動的な活動」が認知予備力(cognitive reserve)を高める可能性が指摘できます。この「認知予備力」とは、脳が持つ情報処理や問題解決能力の「蓄え」のようなものです。知的な活動を通じて、この予備力を高めておくと、年を重ねてその「蓄え」を費やさなければならなくなっても脳の機能を維持しやすくなります。逆に、この予備力が十分にない場合には、蓄えがないため衰えのみが進んでしまい、将来的に認知症のリスクが高まる可能性があるということです。また、この研究の中ではソーシャルメディア単独の影響も見ていますが、その影響は研究間で一貫しませんでした。このため、一括りにスマホを使うといっても、ソーシャルメディアではうまくいかないのかもしれません。また、対象世代は「使い方を学ぶ努力」を必要とした世代であり、生まれた時からデジタル環境に囲まれた若年世代への研究結果の適用ができるかどうかはまた別問題です。目的を持った「適度な」デジタル活用を実用面に落とし込むと、高齢者自身がデバイス操作を学ぶ過程そのものが脳への刺激となる可能性もあります。仮に、すでに軽度認知障害がある人でも、トレーニングを通じて技術利用は十分可能であるといわれています。もしかすると、認知症予防や治療に役立つツールにもなりうるのかもしれません。いずれにせよ、「目的を持った適度なテクノロジー利用」が、おそらく最も有益なのでしょう。一方で、画面を見続けることで生じる目や首の疲労を感じるほど「過度に」使用する場合にはその有益性は失われ、むしろ損失のほうが大きくなることも懸念されます。結論として、適切なサポートのもとで高齢者がデジタルテクノロジーを日常生活に取り入れることは、認知機能低下に保護的に働く可能性があります。少なくとも、「デジタル認知症仮説」は、過度な利用がなければあまり心配する必要はないのかもしれません。しかし、どのようなものをどのような形で取り入れると真に効果が出るのかについては、今後も研究を続けていく必要があります。また、過度の利用による弊害についても、同時に評価を行っていく必要があるでしょう。 1) Rogers K. Technology use may be associated with a lower risk for dementia, study finds. CNN. April 14, 2025. 2) Benge JF, Scullin MK. A meta-analysis of technology use and cognitive aging. Nat Hum Behav. 2025 Apr 14. [Epub ahead of print]

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フェリチン値から必要のない鉄剤を見極めて中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第66回

 鉄欠乏性貧血の治療において、「いつまで鉄剤を続けるべきか」「どのような投与方法が最適か」というのは薬剤師による処方提案の重要なポイントです。今回の症例では、高齢患者さんの鉄剤服用の必要性を血液検査データから見極め、さらに適切な投与スケジュールについて最新の英国ガイドラインを参考に提案しました。とくに注目すべきは、鉄剤投与後のヘプシジン上昇が次の鉄吸収を阻害するメカニズムに基づいた「1日1回投与」や「隔日投与」の有効性です。新しい知見では、従来の「分2投与」から「隔日投与」へ変更することで、患者さんの服薬負担を減らしながらも同等かそれ以上の治療効果が期待できることが示されています。貧血が改善し、フェリチン値が十分な状態であれば、鉄剤の中止も視野に入れることができます。患者情報95歳、女性(外来患者)ADL自立、要介護1、デイサービスなど利用なし身長:145cm、体重:40kg基礎疾患高血圧、鉄欠乏性貧血、低カリウム血症服薬管理通院時は娘と来局、自己管理可能処方内容1.アムロジピンOD錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.エチゾラム0.5mg 1錠 分1 就寝前3.クエン酸第一鉄錠50mg 2錠 分2 朝夕食後4.アスパラカリウム錠 1錠 分1 朝食後処方提案までの経過この患者さんは、鉄欠乏性貧血に対してクエン酸第一鉄を服用中でしたが、「薬の粒が大きく服薬が困難」との相談があり、評価を実施しました。お薬手帳から少なくとも半年以上の鉄剤服用が確認できましたが、客観的な血液検査値による貧血状態は不明でした。検査データを確認したところ、以下の結果が得られました。<介入当初の採血結果>ヘモグロビン:12.8mg/dL(正常範囲内)平均赤血球容積:97.5(正常範囲内)フェリチン:203.5ng/mL(十分量の鉄貯蔵を示す)血清鉄:71μg/mL(正常範囲内)総鉄結合能:277(正常範囲内)これらの検査結果から、患者さんの鉄欠乏性貧血は改善し、貯蔵鉄も十分蓄積されていることが明らかになりました。なお、消化器症状(嘔気や便秘悪化)などの鉄剤による副作用はありませんでした。鉄剤の服用方法について調査したところ、英国消化器学会のガイドラインでは、分2投与より分1投与が推奨され、隔日投与も許容されていることも確認しました1)。鉄投与後にヘプシジンが上昇し、約24時間鉄吸収が低下するため、1日1回投与や隔日投与のほうが吸収効率が高いという新たな知見に基づく推奨です。処方提案とその後の経過服薬情報提供書を用いて、医師に以下の内容を提案しました。1.検査結果に基づく客観的評価フェリチン値が203.5ng/mLと鉄貯蔵が十分であるヘモグロビン値も12.8mg/dLと正常範囲内である2.服薬アドヒアランスの問題粒子径が大きく服用困難である患者の服薬負担軽減の必要性がある3.提案内容鉄欠乏性貧血の改善が認められるため、鉄剤の服用を中止または隔日投与に変更することで、服薬回数を減らして負担を軽減医師の診察で、提案内容と検査結果を踏まえ、フェリチン値も充足していることから鉄剤の服用継続の必要性がないと判断され、処方中止となりました。その後、患者さんからは動悸や息切れ、倦怠感などの貧血症状は報告されず、経過は良好です。服薬回数減少とともに服薬負担が軽減され、QOL向上に繋がりました。1)Snook J, et al. Gut. 2021;70:2030-2051.

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