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日本人双極症と関連する遺伝子をゲノム解析で同定

 双極症は、躁/軽躁状態と抑うつ状態の間での気分変動を特徴とする精神疾患である。双極症には、シナプス遺伝子のエクソン領域と重複するまれな病原性遺伝子コピー数変異(CNV)と関連している。しかし、双極症に関連するシナプス遺伝子のCNVを包括的に調査した研究は、これまでになかった。名古屋大学の中杤 昌弘氏らは、エクソン領域に限定せず、日本人集団におけるシナプス遺伝子と重複するまれなCNVと双極症との関連を評価した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年10月15日号の報告。 双極症患者1,839例、対照群2,760例を対象に、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)を用いて、CNVを検出した。シナプス遺伝子と重複するまれなCNVを特定するため、シナプス遺伝子オントロジー(SynGO)データベースを用いた。遺伝子ベース解析を用いて、双極症患者と対照群における頻度を比較した。双極症に関連するシナプス遺伝子セット解析を行った。有意水準は、偽陽性率(false discovery rate:FRD)を10%に設定した。 主な結果は以下のとおり。・RNF216遺伝子と双極症との有意な関連が認められた(オッズ比:4.51、95%信頼区間:1.66〜14.89、FRD<10%)。・RNF216遺伝子に対応する双極症関連CNVは、7p22.1微小重複症候群において原因と考えられている領域(minimal critical region)と一部重複していた。・さらに、遺伝子セット解析を行い、シナプス後膜の不可欠な構成要素にかかわる遺伝子群が双極症と関連することも発見した。・GRM5遺伝子のイントロン領域と重複するCNVは、双極症患者と対照群との間で有意な関連が認められた(p<0.05)。 著者らは「本検討により、RNF216遺伝子およびシナプス後膜関連遺伝子のCNVと双極症リスクとの関連が示唆された」とし「ゲノム解析の結果を活用することで、双極症の病態解明や個別化医療の実現に寄与することが期待される。将来、早期のリスク評価と予防的介入により、患者のQOL向上につながる可能性がある」と結論付けている。

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2050年までの早期死亡改善に必要なことは?/Lancet

 2050年までに世界の年間の早期死亡(70歳未満の死亡)の割合を半減させ、全年齢層で生活の質(QOL)を向上させることは可能と考えられるが、高パフォーマンス国と中パフォーマンス国が早期死亡の改善率を維持または加速度的に上昇させるためには、子供と成人の健康に対する多額の投資を要することが、ノルウェー・ベルゲン大学のOle F. Norheim氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年11月20日号に掲載された。10地域と人口の多い30ヵ国のクロスカントリー分析 研究グループは、2050年までの早期死亡率の半減は可能かの検証を目的に、70歳に至る前の死亡率の大きなばらつきと、過去50年間(1970~2019年)のその傾向を、世界の10の地域と最も人口の多い30ヵ国で比較するクロスカントリー分析を行った(ノルウェー開発協力局[NORAD]などの助成を受けた)。 早期死亡の割合(probability of premature death:PPD)に関するすべての分析には、国際連合(UN)世界人口推計(World Population Prospects)2024年版の生命表を用いた。これらの生命表から、1年ごとの年齢別死亡率を用いて性別、国別、年別の死亡の割合を算出した。70歳未満の死亡率は半世紀で56%から31%に減少 世界全体のPPDは、1970年の56%から2019年には31%に減少したが、紛争や社会的不安定、HIV/AIDSにより逆に増加した国もあった。また、成人と比較して子供の死亡率は、より迅速に低下していた。 1970~2019年の半世紀に、31年以内にPPDの半減を達成したのは、世界のすべての国のうちでは34ヵ国で、人口の多い上位30ヵ国のうちでは7ヵ国(バングラデシュ[半減に要した期間:1991~2022年]、イラン[1983~2006年]、中国[1970~2001年]、ベトナム[1972~1995年]、韓国[1992~2011年]、イタリア[1983~2012年]、日本[1970~2001年])であった。人口が多く、最近の改善率が良好な国は7ヵ国 人口の多い上位30ヵ国のうち、2010~2019年の期間に年平均値(2.2%)を超える改善率を達成したのは7ヵ国(韓国[3.9%]、バングラデシュ[2.8%]、ロシア[2.7%]、エチオピア[2.4%]、イラン[2.4%]、南アフリカ共和国[2.4%]、トルコ[2.3%])であった。この状況が持続すれば、2050年までにPPDが半減する可能性があると考えられた。 著者は、「早期死亡を減少させることで、より多くの人々が健康で長生きできるようになると考えられるが、寿命の延長に伴って慢性疾患の罹患期間が長期化する人々が増えるため、慢性疾患の罹患率を抑制するための投資も必要となるだろう」としている。

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HER2+乳がん術前補助療法のde-escalation、トラスツズマブ+ペルツズマブ+nab-パクリタキセルが有望(HELEN-006)/Lancet Oncol

 HER2+早期乳がんに対する術前補助療法において、トラスツズマブ+ペルツズマブにドセタキセル+カルボプラチンを併用した標準レジメンより、トラスツズマブ+ペルツズマブにnab-パクリタキセルを併用したde-escalation治療のほうが有用な可能性が示唆された。中国・The Affiliated Cancer Hospital of Zhengzhou University and Henan Cancer HospitalのXiu-Chun Chen氏らが、多施設共同無作為化第III相HELEN-006試験において主要評価項目である病理学的完全奏効(pCR)の最終解析結果を報告した。The Lancet Oncology誌オンライン版2024年11月26日号に掲載。・対象: 18~70歳、StageII/IIIの未治療浸潤性HER2+乳がん患者・試験群:nab-パクリタキセル(125mg/m2、1、8、15日目)+トラスツズマブ(負荷量8mg/kg、維持量6mg/kg)+ペルツズマブ(負荷量840mg、維持量420mg)を3週ごと6サイクル投与・対照群:ドセタキセル(75mg/m2、1日目)+カルボプラチン(AUC6、1日目)+トラスツズマブ(負荷量8mg/kg、維持量6mg/kg)+ペルツズマブ(負荷量840mg、維持量420mg)を3週ごと6サイクル投与・主要評価項目:pCR(ypT0/is ypN0)(modified ITT) 主な結果は以下のとおり。・2020年9月20日~2023年3月1日に689例を無作為に割り付けた(nab-パクリタキセル群343例、ドセタキセル+カルボプラチン群346例)。689例全例がアジア人女性で、 669例(nab-パクリタキセル群332例、ドセタキセル+カルボプラチン群337例)が1回以上の試験治療を受けた。年齢中央値は50歳(四分位範囲:43~55)、追跡期間中央値は26ヵ月(同:19~32)だった。・pCR例は、nab-パクリタキセル群が220例(66.3%、95%信頼区間[CI]:61.2~71.4)、ドセタキセル+カルボプラチン群が194例(57.6%、95%CI:52.3~62.9)だった(複合オッズ比:1.54、95%CI:1.10~2.14)。 ・Grade3/4の有害事象は、nab-パクリタキセル群で100例(30%)、ドセタキセル+カルボプラチン群で128例(38%)に認められ、多かったGrade3/4の有害事象は悪心(nab-パクリタキセル群、ドセタキセル+カルボプラチン群の順に22例、76例)、下痢(25例、55例)、神経障害(43例、8例)であった。 ・重篤な薬剤関連有害事象は、nab-パクリタキセル群で3例、ドセタキセル+カルボプラチン群で5例に報告され、両群とも治療関連死亡は報告されなかった。  著者らは、「この結果は、HER2+早期乳がんに対する術前補助療法において、トラスツズマブおよびペルツズマブとnab-パクリタキセルの併用が標準レジメンより利点がある可能性を示唆するものであり、この新しい併用療法がこの患者集団における術前補助療法の新たな標準療法を確立する可能性を示唆する」としている。

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心不全のない心筋梗塞後の患者にβ遮断薬の処方は不要?

 β遮断薬は、心筋梗塞を経験した多くの人にとって頼りになる薬である。しかし、スウェーデンの新たな研究により、心筋梗塞から回復し、心機能が正常に保たれている患者には、この薬による治療は必要ない可能性のあることが明らかになった。この研究では、心筋梗塞後に左室駆出率が保たれている患者に対するβ遮断薬による治療は、患者の抑うつ症状の軽度な増加と関連することが示された。詳細は、「European Heart Journal」に10月3日掲載された。論文の筆頭著者であるウプサラ大学(スウェーデン)心臓心理学分野のPhilip Leissner氏は、「それだけでなく、この患者群にβ遮断薬を投与しても、生命維持には役立たない」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 心臓専門医は数十年にわたり、心臓病の治療薬としてβ遮断薬に頼ってきた。この薬は、アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンが心臓のβ受容体に結合するのを防ぐことで、血圧や心拍数などを抑える作用を持つ。しかし、近年、医療の進歩により心筋梗塞から回復した患者に対する医薬品の選択肢が増えたことを受け、β遮断薬の使用は疑問視されるようになっている。Leissner氏らは、これは特に、心筋梗塞から回復後に左室駆出率が保たれている患者に当てはまると話す。同氏らは、2024年4月に発表した論文において、この種の患者に対するβ遮断薬による治療は不要であると結論付けている。 今回の研究では、これらの患者に対するβ遮断薬による治療は害となる可能性さえあることが判明した。Leissner氏らは、心筋梗塞後にβ遮断薬(メトプロロール、ビソプロロール)か、それ以外の薬を処方された心不全のない患者806人のデータを用いて、β遮断薬の投与が患者が報告する抑うつおよび不安の症状に及ぼす影響を調査した。患者は、入院時と2回の追跡調査時(心筋梗塞から6〜10週間後と12〜14週間後)に、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を用いて抑うつと不安に関する評価を受けていた。 解析の結果、β遮断薬による治療は、1回目の追跡調査時(β=0.48、95%信頼区間0.09〜0.86、P=0.015)、および2回目の追跡調査時(β=0.41、95%信頼区間0.01〜0.81、P=0.047)の両方で、抑うつ症状に負の影響を与えることが示された。一方、不安に対する影響は認められなかった。さらに、研究開始前にすでにβ遮断薬を使用していた患者では、抑うつリスクがさらに高まることも示された。この結果は、β遮断薬の使用と抑うつ症状との間に用量反応関係があることを示唆している。 研究グループは、「β遮断薬による治療を受けた心不全のない心筋梗塞生存者では、抑うつ症状の重症度にわずかな増加が認められた」と結論。「これまでの研究で、β遮断薬の使用により、抑うつ、不眠症、さらには悪夢を見るリスクが高まることが分かっているので、この結果に驚きはなかった」と述べている。 Leissner氏は、「かつてはほとんどの医師が、心不全のない患者にもβ遮断薬を処方していた。しかし、その根拠はもはやそれほど明確なものではなく、再検討が必要だ」と指摘する。さらに同氏は、「心筋梗塞を経験した患者の中には、抑うつリスクが高いと考えられる人もいる。β遮断薬が心臓に良い効果をもたらさないのであれば、そのような患者に対する同薬の処方は不必要である」と述べている。

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ビタミンDサプリで肥満高齢者の血圧低下

 高齢の肥満者がビタミンDサプリメントを摂取すると、血圧を下げられる可能性のあることが報告された。ただし、推奨される量よりも多く摂取したからといって、上乗せ効果は期待できないようだ。ベイルート・アメリカン大学医療センター(レバノン)のGhada El-Hajj Fuleihan氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of the Endocrine Society」に11月12日掲載された。 ビタミンDレベルが低いことが高血圧のリスクと関連のあることを示唆する研究報告があるが、その関連を否定する報告もあり、結論は得られていない。これを背景としてFuleihan氏らは、ビタミンDレベルが低下していて、血圧が高いことの多い肥満高齢者を対象とするランダム化比較試験を行った。 血清ビタミンDレベルが10~30ng/mLで、BMIが25超の過体重から肥満(日本ではBMI25以上は全て肥満)に該当する65歳以上の高齢者221人をランダムに2群に分け、1群にはビタミンDを600IU、他の1群には3,750IU投与し血圧への影響を評価した。研究参加者は平均年齢71.1±4.7歳、女性55.2%、BMI30.2±4.4であり、143人(64.7%)が高血圧(130/80mmHg以上)だった。なお、米国ではビタミンDの摂取量として、通常1日当たり600IU(約15μg)が推奨されている。 介入から1年後、収縮期血圧は全体平均で3.5mmHg有意に低下していた(P=0.005)。これをビタミンDの用量別に見ると、高用量群では4.2mmHg有意に低下していたのに対して(P=0.023)、低用量群の低下幅は2.8mmHgであり非有意だった(P=0.089)。同様に拡張期血圧に関しても、全体平均で2.8mmHg有意に低下し(P=0.002)、高用量群でも3.02mmHgの有意低下(P=0.01)、低用量群では2.6mmHg低下と有意水準未満の変化だった(P=0.089)。 ベースライン時のBMIで層別化(30以下/超〔30以上は米国における肥満に該当〕)すると、BMI30以下の過体重者(55.2%)ではビタミンDの用量にかかわらず収縮期/拡張期血圧に有意な変化が見られなかった。BMI30超の肥満者(44.8%)では、ビタミンD高用量群では収縮期血圧(P=0.006)と拡張期血圧(P=0.02)がともに有意に低下していたが、低用量群では収縮期血圧のみが有意に低下していた(P=0.024)。 多変量線形混合モデルによる解析の結果、介入後の収縮期血圧はベースライン時の収縮期血圧(β=0.160、P<0.0001)とBMI(β=0.294、P=0.055)によって予測され、ビタミンDの投与量の違い(β=0.689、P=0.682)は有意な予測因子でなかった。 これらの結果を基にFuleihan氏は、「ビタミンDサプリメントは、高齢、肥満、ビタミンDレベルが低いなどに該当する、特定のサブグループの血圧を下げる可能性があることが分かった。ただし、推奨量以上に摂取したとしても、血圧への上乗せ効果は得られないと考えられる」と述べている。

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猛暑は植え込み型除細動器装着者の心房細動リスクを高める

 心臓に問題を抱える数多くの米国人が、心拍を正常化して心イベントを予防する小型の植え込み型除細動器(ICD)を使用している。しかし、極端に暑い日には、より気温が低い日と比べて、ICD装着者が不整脈の一種である心房細動(AF)を起こすリスクが約3倍に上昇することが新たな研究で示された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院環境保健学のBarrak Alahmad氏らによるこの研究は、米国心臓協会年次学術集会(AHA 2024、11月16~18日、米シカゴ)で発表された。 専門家らは、気候変動によって気温が摂氏38度に達する日が増えるにつれて、この脅威は高まる可能性があると指摘している。AHAに協力する専門家の一人で、今回の研究には関与していない米ケース・ウェスタン・リザーブ大学教授のSanjay Rajagopalan氏は、「著しい気温上昇のリスクがある地域に住んでいて、影響を受けやすい人は、この研究結果に留意し、必ず適切な予防策を取って涼しさを保ち、水分補給を行うよう心がけてほしい」と話している。 Rajagopalan氏は、「これは、ICDで検出されたAFと気温の急上昇との関連を示した最初の研究かもしれない」とAHAのニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、「この研究結果は、外気温と心血管の健康の関連について検討した最近の研究に続くものだ。高齢化と肥満の増加に伴い一般人口でのAFの有病率が上昇しつつあることを考慮すると、今後は、気温上昇にも対処する必要があるかもしれない」と話している。 Alahmad氏らは今回の研究で、2016~2023年にICDまたは両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)の植え込み術を受けた2,313人の患者データを調べた。植え込み術を受けた際の患者の平均年齢は約70.6歳で、男性の割合は78%だった。対象者には肥満者が多く、またほとんどの患者に心筋症(心臓のポンプ機能が低下する疾患)があった。Alahmad氏らは、ICDやCRT-Dで検出された初発AFを調べ、外気温との関連について検討した。 その結果、AFの発生リスクを最も低下させると考えられる「至適外気温」は比較的低く、摂氏5度から8度と推定された。一方、外気温が極端に高い日には、ICDやCRT-D装着者のAFリスクが大幅に上昇することが確認された。例えば、理想的な外気温のときと比べると、摂氏39度、40度、41度の日には、これらのデバイス装着者のAF発生リスクが同順で、2.66倍、2.87倍、3.09倍に上昇していた。また、AFの発生数は、早朝(0時〜7時)よりも就労時間中(8時〜17時)に多く、週末よりも平日に多いことも示された。さらに研究を進めた結果、30分以上続くAF発作に関しても、同様の傾向が認められた。 共同研究者の一人で、米マサチューセッツ総合病院の心臓電気生理学者であるTheofanie Mela氏は、「不整脈がもたらす負担を最小限に抑えるため、この研究結果の根底にある生理学的なプロセスを理解し、AFを引き起こす状態を回避することに注力する必要がある」とAHAのニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、「その一方で、患者には極端な温度の環境を避けること、エアコンを使用して体が極端な暑さによる強いストレスを受けないようにすることを勧める」と助言している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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“Fantastic Four”の一角に陰り:心筋梗塞例にミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は無効(解説:桑島巌氏)

 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬の4つは心不全の治療薬におけるFantastic Fourとして広く宣伝されてきた。しかし本論文は、その一角を成すMRAの1つスピロノラクトンが心筋梗塞後の心血管死や心不全悪化に対しての効果はプラセボ群と差がなく、有用性を認めなかったという結果を示した。 心不全、収縮機能が低下した心筋梗塞例に対してスピロノラクトンやエプレレノンが死亡率を減少させることは、すでにRALES研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 1999;341:709-717.)やEPHESUS研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 2003;348:1309-1321.)などで証明されている。しかし今回発表されたCLEAR研究では、心筋梗塞後の症例に対してのスピロノラクトンの有用性は証明できなかった。 スピロノラクトンに有意な有効性を認めなかった最大の要因は、イベント数が少ないことによる検出力不足である。本研究の対象者は心筋梗塞後に冠動脈インターベンション(PCI)を受けた症例であり、ほとんどの例でステント(96%)や、抗血小板薬(97%)やスタチン(97%)などによる厳格な再発予防治療を受けており、心血管イベント発症率は低いのは当然である。この点、RALES研究やEPHESUS研究の時代とは背景が大きく異なっている。 また本研究ではKillip II以上の心不全症例が含まれていないことも、スピロノラクトンの有用性を示すことができなかった一因であろう。 約7,000例規模の試験において有効性を認めなかったことは、実臨床においても心不全を合併しない心筋梗塞例に漫然とMRAを処方することは避けるべきとのメッセージである。

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英語で「呼吸音は正常です」は?【1分★医療英語】第159回

第159回 英語で「呼吸音は正常です」は?《例文1》Despite the patient's prolonged cough, the lungs were clear to auscultation bilaterally.(患者の長引く咳にもかかわらず、呼吸音は両側正常でした)《例文2》The physical exam showed that the lungs are clear to auscultation, ruling out any respiratory distress.(身体検査では 肺は聴診で異常がなく[呼吸音は正常であり]、呼吸困難が除外されました)《解説》今回は、身体診察の所見についての英語表現を解説します。英語でカルテに記載したり、医療者にプレゼンしたりする際には、日本語と同様に「肺の聴診音は清」というような表現法が使われます。そのため「清」を表す“clear”、そして聴診の“auscultation”を用いて“clear to auscultation”というように記載されます。ちなみに、米国の医療現場では略語が使われることも多く、カルテでは多くの所見が略語で記載されています。最近の流れでは「意味がわかりにくい略語はやめよう」という動きもありますが、いまだに多くの略語が使用されているのが現状です。今回の“clear to auscultation”も例外ではなく、カルテなどでは“CTA”もしくは“CTAB”と記載されることが多いです。“CTAB”の「B」は“bilaterally”「両側」という意味ですので、“Lungs CTAB”とあれば「肺聴診音は両側清」という意味になりますね。ちなみにラ音は“rale”と記載されます。いびき音は“rhonchi”、喘鳴音は“wheeze”です。せっかくの機会なので英語の呼吸音をまとめて覚えてしまいましょう。講師紹介

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新たな筋萎縮性側索硬化症治療薬「ロゼバラミン筋注用25mg」【最新!DI情報】第28回

新たな筋萎縮性側索硬化症治療薬「ロゼバラミン筋注用25mg」今回は、筋萎縮性側索硬化症用剤「メコバラミン(商品名:ロゼバラミン筋注用25mg、製造販売元:エーザイ)」を紹介します。本剤は、治療薬が限られている筋萎縮性側索硬化症の新たな選択肢として、運動機能の低下抑制が期待されています。<効能・効果>筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得し、11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人には、メコバラミンとして50mgを1日1回、週2回、筋肉内に注射します。本剤の投与開始にあたっては、医療施設において、必ず医師または医師の直接の監督の下で行います。在宅自己注射は、医師がその妥当性を慎重に検討し、患者またはその家族が適切に使用可能と判断した場合にのみ適用されます。<安全性>重大な副作用には、アナフィラキシー(頻度不明)があります。本剤の臨床試験ではアナフィラキシーの副作用報告はありませんでしたが、低用量メコバラミン製剤でアナフィラキシーが報告されています。その他の副作用は、白血球数増加、注射部位反応(いずれも1%以上)、発疹、頭痛(いずれも1%未満)、発熱感、発汗(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.筋委縮性側索硬化症(ALS)の進行によって生じる運動機能の低下を抑制する薬です。2.1日1回、週2回、筋肉内に注射します。3.注射は、医療関係者や医師の指導を受けた上で、患者本人またはご家族が行うことができます。4.在宅自己注射のために処方された薬剤の入ったバイアルは、処方された際に入っていた外箱や遮光した箱に入れた状態で保管してください。5.自己判断で使用を中止したり、量を加減したりせず、医師の指示に従ってください。<ここがポイント!>筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンが変性する進行性の難治性神経変性疾患です。症状は一般的に四肢の筋力低下から始まり、構音障害(発音困難)や嚥下障害が生じます。発症から2〜4年で呼吸筋麻痺による呼吸不全に進行し、人工呼吸器の装着で延命が可能ですが最終的には死に至ります。治療薬としては、ALSの機能障害の進行を抑制するリルゾールやエダラボンが使用されていますが、現在のところ確立された根治療法はありません。メコバラミンは、活性型ビタミンB12の一種であり、末梢神経障害やビタミンB12欠乏症による巨赤芽球性貧血の治療薬として使用されてきました。一方、以前より高用量のメコバラミンがALS患者に対し有効である可能性が示唆されていました。このため、エーザイはALS患者を対象に治験を実施し、2015年5月に新薬承認申請を行いましたが、追加試験が必要と判断されて2016年3月に申請を取り下げました。その後、医師主導治験として実施された高用量メコバラミンのALS患者に対する第III相試験において、高用量メコバラミンの有効性、安全性および忍容性が確認されたことから、再度承認申請が行われました。ALSに対するメコバラミンの作用機序の詳細は解明されていませんが、ホモシステイン誘発細胞死の抑制によるものと考えられています。孤発性または家族性ALS患者を対象とした医師主導の国内第III相試験(国内763試験)において、主要評価項目であるベースラインから治療期16週目までの日本語版改訂ALS Functional Rating Scale(ALSFRS-R)の合計点数の変化量は、プラセボ群が-4.6、本剤50mg群が-2.7でした。群間差(本剤50mg群-プラセボ群)は2.0(95%信頼区間:0.4~3.5、p=0.012)であり、本剤50mg群のプラセボに対する優越性が検証されました。

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第243回 ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連

ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連勃起不全(ED)薬としてよく知られるタダラフィルやシルデナフィル使用と死亡、心血管疾患、認知症の減少との関連がテキサス大学医学部(UTMB)のチームの研究で示されました1,2)。タダラフィルとシルデナフィルはどちらもPDE5阻害薬であり、血流改善・血圧低下・内皮機能向上・抗炎症作用により心血管の調子をよくすると考えられています。それら成分は肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療にも使われ、タダラフィルは前立腺肥大症に伴う下部尿路症状の治療薬としても発売されています。UTMBのDietrich Jehle氏らの今回の研究は世界中の2億7,500万例超の臨床情報を集めるTriNetXに収載の米国男性5千万例の記録を出発点としています。それら5千万例から、ED診断後のタダラフィルかシルデナフィル処方、または下部尿路症状診断後のタダラフィル処方があった40歳以上の男性が同定されました。3年間の経過を比較したところ、タダラフィルかシルデナフィルが処方されたED患者は、非処方患者に比べて死亡、心血管疾患、認知症の発生率が低いことが示されました。具体的には50万例強の解析で以下のような結果が得られており、血中でより長く活性を保つタダラフィルがシルデナフィルに比べて一枚上手でした。全死亡率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは24%低下心臓発作発生率タダラフィルは27%低下、シルデナフィルは17%低下脳卒中発生率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは22%低下静脈血栓塞栓症(VTE)発生率タダラフィルは21%低下、シルデナフィルは20%低下認知症発生率タダラフィルは32%低下、シルデナフィルは25%低下下部尿路症状患者のタダラフィル使用は一層有益でした。40歳以上の下部尿路症状患者100万例超のうち、タダラフィル使用群の死亡、心臓発作、脳卒中、VTE、認知症の発生率はそれぞれ56%、37%、35%、32%、55%低くて済んでいました。やはり米国のED男性を調べた別の観察試験3,4)でもPDE5阻害薬やタダラフィルと死亡や心血管疾患の減少の関連が示されています。今春2月にClinical Cardiology誌に結果が掲載されたその1つ3)ではEDと診断されてタダラフィルが処方された男性8千例強(8,156例)とPDE5阻害薬非処方の2万例強(2万1,012例)が比較され、タダラフィル使用群の心血管転帰(心血管死、心筋梗塞、冠動脈血行再建、不安定狭心症、心不全、脳卒中)の発生率がPDE5阻害薬非使用群に比べて19%低いことが示されました。また、タダラフィル使用患者の死亡率は44%低くて済んでいました。タダラフィルと心血管転帰の発生率低下の関連は用量依存的らしく、同剤の使用量が上位4分の1の患者は心血管転帰の発生率が最小でした。有望ですがあくまでもレトロスペクティブ試験の結果であり、次の課題として男性と女性の両方でのプラセボ対照無作為化試験が必要だと著者は言っています3)。参考1)Jehle DVK, et al. Am J Med. 2024 Nov 10. [Epub ahead of print]2)Study finds erectile dysfunction medications associated with significant reductions in deaths, cardiovascular disease, dementia / The University of Texas Medical Branch 3)Kloner RA, et al. Clin Cardiol. 2024;47:e24234.4)Kloner RA, et al. J Sex Med. 2023;1:38-48.

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ワクチン同時接種、RSV+インフルエンザ/新型コロナの有効性は?

 高齢者における呼吸器疾患、とくにRSウイルス(RSV)、インフルエンザ、新型コロナ感染症は重症化リスクが高く、予防の重要性が増している。mRNA技術を用いたRSVワクチンとインフルエンザワクチン(4価)または新型コロナワクチンの同時接種の安全性と免疫原性を評価した研究結果が、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年11月25日号に掲載された。 本研究は、50歳以上の健康な成人を対象とし、2部構成でそれぞれ下記の3群に分けて接種した。主要評価項目は同時接種群の単独接種群に対するRSVの免疫反応(Geometric Mean Ratio:GMRの95%信頼区間[CI]>0.667、血清反応率の差の95%CI>-10%)と安全性の非劣性だった。【パートA】2022年4月1日~6月9日:1,623例1)RSVワクチン(mRNA-1345:モデルナ)+インフルエンザワクチン(4価):685例(42%)2)RSVワクチン+プラセボ:249例(15%)3)インフルエンザワクチン+プラセボ:689例(42%)【パートB】2022年7月27日~9月28日:1,681例1)RSVワクチン+新型コロナワクチン(mRNA-1273.214:モデルナ):564例(34%)2)RSVワクチン+プラセボ:558例(33%)3)新型コロナワクチン+プラセボ:559例(33%) 主な結果は以下のとおり。・【パートA】RSV-Aに対する抗体価の比較では、併用群の単独群に対するGMRは0.81(95%CI:0.67~0.97)、血清反応率の差は-11.2%(95%CI:-17.9~-4.1)であった。・【パートB】RSV-A に対する抗体価の比較では、併用群の単独群に対するGMRは0.80(95%CI:0.70~0.90)、血清反応率の差は-4.4%(95%CI:-9.9~1.0)であった。・同時接種の安全性プロファイルは、単独接種の場合とおおむね一致した。・接種後7日以内の局所反応(注射部位の痛みなど)や全身反応(倦怠感、頭痛など)は軽度から中等度が大半だった。深刻な副反応や接種に関連した死亡例は報告されなかった。 研究者らは「RSVワクチン+インフルエンザワクチン、またはRSVワクチン+新型コロナワクチンの同時接種は、50歳以上の成人において、各ワクチンの単独接種と比較して許容できる安全性プロファイルを示し、ほとんどの場合で免疫反応は非劣性だった。ただし、RSVワクチン+インフルエンザワクチンにおける血清反応率の差は、非劣性の基準を満たさなかった。全体として、これらのデータは、この集団における同時接種を支持するものであり、本研究の継続でより長期の評価がされる」とした。

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自覚症状に乏しい糖尿病性腎症に早く気付いて/バイエル

 バイエルは、11月14日の「糖尿病の日」に合わせ、糖尿病と合併症に関する啓発イベントを開催した。イベントでは、糖尿病専門医による糖尿病に関するプレスセミナーとお笑いコンビ「ガンバレルーヤ」をゲストに迎えての市民向けの疾患啓発が行われた。糖尿病の合併症の腎臓病では透析導入になりやすい 「糖尿病と合併症ってどんな病気? 患者さん中心の医療について考える」をテーマに坊内 良太郎氏(国立国際医療研究センター 糖尿病研究センター/糖尿病内分泌代謝科)が、糖尿病の病態、診療、合併症を抑えるポイントを解説した。 わが国の糖尿病と疑われる人の数は約2,000万人にのぼり、国民の5~6人に1人は糖尿病の危険があるとされる国民病となっている。 糖尿病は「インスリンの作用不足により起こる血糖値が高い状態が続く疾患」であり、診断では空腹時血糖値が126mg/dL以上、食後血糖値、ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dL以上あれば糖尿病が強く疑われ、再度の検査で確定診断となる。また、健康診断などでよく話題になるHbA1cも6.5%以上は糖尿病が強く疑われる指標となる。 糖尿病にはI型、II型、妊娠、そのほか(薬剤性、肝臓疾患など)の4種類があり、その症状として「のどの渇き、水分の多飲」「日中・夜間の頻尿」「疲れやすい」「体重減少」などがある。そして、これらの症状は自覚症状に乏しく放置しがちであり、医療機関を受診しないことで合併症のリスクが高まる。 糖尿病合併症では、脳卒中、心筋梗塞、壊疽(神経障害)などの大血管障害と網膜症、腎症、神経障害などの細小血管障害がある。また、併存症として肺炎などの感染症、肝臓・膵臓などの悪性腫瘍、歯周病なども糖尿病患者では起こりやすく、重症化しやすい。 とくに糖尿病性腎症は、慢性腎臓病(CKD)の代表的な疾患であり、病期がかなり進行するまで自覚症状に乏しいために、診断がされたときには腎不全で透析導入になるケースが多い。実際、日本透析医学会の調査では、糖尿病性腎症は透析導入の約4割を占めていると報告されている。糖尿病合併症の抑制には血糖、血圧、脂質の厳格な管理が求められる 現在、日本糖尿病学会では、診療ガイドラインなどで糖尿病治療の目標として、「健康な人と変わらない寿命と生活の質(QOL)の達成」を示している。糖尿病の根治が難しい以上、合併症を抑えることが重要となる。 糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法だが、これでも効果が不十分な場合に薬物療法が追加される。いずれも患者の自主的な取り組みなしには成功しない治療である。また、HbA1cを7%未満に抑えれば網膜症や腎症の悪化リスクを抑えことができるという研究報告1)のほか、血圧を130/80mmHg未満に抑えたり、LDLコレステロールを適切に管理したりすれば合併症のリスク低減が期待できるため、ガイドラインなどで推奨されている。そのほか、わが国のJ-DOIT3の研究結果から血糖、血圧、脂質の厳格な管理が糖尿病の合併症予防につながり、とくに脳血管合併症や腎症に効果があるとされている2)。 最後に坊内氏は、糖尿病やCKDの治療において大切なこととして、「医師やメディカルスタッフとのコミュニケーションが重要である。共同意思決定(SDM)として治療のゴールを決めるために、患者さんが価値観や好みをきちんと医師などに伝えることで、患者さん個々に合った治療法の提案をすることができる」と語り、講演を終えた。 この後開催された疾患啓発イベント「体験型ボードゲームで学ぶ糖尿病と合併症 ~腎臓の声に耳を傾けよう~ in 丸の内」のオープニングイベントでは、先の講演者の坊内氏が糖尿病の3大合併症として、網膜症、腎症、神経障害を挙げたうえで、糖尿病性腎症はかなり進行するまで自覚症状に乏しいことに言及。「定期的な検査、とくに尿検査を行い、このイベントのタイトルにもなっている『腎臓の声』にしっかり耳を傾けよう」と呼びかけ、ゲストのガンバレルーヤの2人は「自覚症状が出にくいからときちんと病院に行って定期的に検査を受けることが大事なんですね」と早期発見の大切さに納得していた。また、会場では、特大サイズのボードゲームが人気で、多くの参加者が糖尿病とその合併症について学んでいた。

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飽和脂肪酸摂取量がアルツハイマー病リスクと関連

 食事中の脂肪摂取とアルツハイマー病との関連は、観察研究において議論の余地のある関係が示されており、その因果関係も不明である。中国・北京大学のYunqing Zhu氏らは、総脂肪、飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取がアルツハイマー病リスクに及ぼす影響を評価し、その因果関係を調査した。The British Journal of Psychiatry誌オンライン版2024年10月11日号の報告。 UKバイオバンクとFinnGenコンソーシアムから得られたゲノムワイド関連研究(GWAS)の要約統計を用いて、2サンプルメンデルランダム化分析を実施した。UKバイオバンクの各種脂肪摂取の研究には、5万1,413例が含まれた。FinnGenコンソーシアムの遅発性アルツハイマー病(4,282例、対照群:30万7,112例)、すべてのアルツハイマー病(6,281例、対照群:30万9,154例)のデータを分析に含めた。さらに、炭水化物とタンパク質の摂取量とは無関係の影響を推定するため、多変量メンデルランダム化(MVMR)分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・総脂肪、飽和脂肪酸の摂取量の標準偏差当たりの遺伝的に予測される増加率は、遅発性アルツハイマー病で、それぞれ44%(オッズ比[OR]:1.44[95%信頼区間[CI]:1.03〜2.02])、38%(OR:1.38[95%CI:1.002〜1.90])高いこととの関連が認められた(p=0.049)。・MVMR分析でも、この関連性は有意なままであった(総脂肪のOR:3.31[95%CI:1.74〜6.29]、飽和脂肪酸のOR:2.04[95%CI:1.16〜3.59])。・MVMR分析では、総脂肪および飽和脂肪酸の摂取は、すべてのアルツハイマー病リスク上昇との関連が認められた(総脂肪のOR:2.09[95%CI:1.22〜3.57]、飽和脂肪酸のOR:1.60[95%CI:1.01〜2.52])。・多価不飽和脂肪酸の摂取量は、遅発性アルツハイマー病およびすべてのアルツハイマー病との関連が認められなかった。 著者らは「食事中の総脂肪摂取、とくに飽和脂肪酸の摂取は、アルツハイマー病リスクに寄与し、その影響は他の栄養素とは無関係であることが示唆された。食事中の飽和脂肪酸摂取量を減らすことは、アルツハイマー病の予防戦略およびマネジメントに役立つであろう」と結論付けている。

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虚血性心筋症の心室頻拍、カテーテルアブレーションは有効か/NEJM

 虚血性心筋症で心室頻拍を有する患者において、抗不整脈薬治療と比較してカテーテルアブレーションによる初期治療は、複合エンドポイント(全死因死亡、心室頻拍発作、適切な植込み型除細動器[ICD]ショック、内科的治療を受けた持続性心室頻拍)のイベントリスクを有意に低下したことが、カナダ・ダルハウジー大学のJohn L. Sapp氏らVANISH2 Study Teamが実施した「VANISH2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年11月16日号で報告された。欧米3ヵ国の医師主導型無作為化試験 VANISH2試験は、3ヵ国(カナダ、米国、フランス)の22施設で実施した医師主導の非盲検(エンドポイントのイベント判定は盲検下)無作為化試験であり、2016年11月~2022年6月に患者を登録した(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成を受けた)。 心筋梗塞の既往があり、臨床的に重要な心室頻拍(心室頻拍発作、適切なICDショックまたは抗頻拍ペーシングの実施、緊急治療により停止した持続性心室頻拍と定義)を有する患者416例を登録した。これらの患者を、カテーテルアブレーションを受ける群に203例(平均[±SD]年齢67.7±8.6歳、男性95.1%)、抗不整脈薬治療を受ける群に213例(68.4±8.0歳、92.5%)を無作為に割り付けた。 全例がICDを装着していた。カテーテルアブレーションは無作為化から14日以内に施行し、抗不整脈薬治療は事前の規定に従ってソタロールまたはアミオダロンを投与した。 主要エンドポイントは、追跡期間中の全死因死亡と、無作為化から14日以降の心室頻拍発作・適切なICDショック・内科的治療を受けた持続性心室頻拍の複合とした。死亡、心室頻拍発作、ICDショックには差がない 追跡期間中央値4.3年の時点で、主要エンドポイントのイベント発生率は、抗不整脈薬群が60.6%(129/213例)であったのに対し、カテーテルアブレーション群は50.7%(103/203例)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.58~0.97、p=0.03)。 追跡期間中の全死因死亡(カテーテルアブレーション22.2% vs.抗不整脈薬群25.4%、HR:0.84[95%CI:0.56~1.24])、無作為化から14日以降の心室頻拍発作(21.7% vs.23.5%、0.95[0.63~1.42])、無作為化から14日以降の適切なICDショック(29.6% vs.38.0%、0.75[0.53~1.04])には両群間に差を認めず、無作為化から14日以降の内科的治療を受けた持続性心室頻拍(4.4% vs.16.4%、0.26[0.13~0.55])はカテーテルアブレーション群で少なかった。重篤な非致死的有害事象の頻度は同程度 重篤な非致死的有害事象は、カテーテルアブレーション群28.1%(57例)、抗不整脈薬群30.5%(65例)で発現した。また、カテーテルアブレーション群では、術後30日以内の有害事象として死亡が2例(1.0%)で発生し、非致死的有害事象は23例(11.3%)に認めた。抗不整脈薬群では、抗不整脈薬に起因する有害事象として肺毒性による死亡が1例(0.5%)で発生し、非致死的有害事象は46例(21.6%)に発現した。 著者は、「これまでの研究で、カテーテルアブレーションと抗不整脈薬治療は心室頻拍の再発とICDショックのリスクを減少させることが知られているが、両方とも有害事象を伴い、有効性は完全ではないため、これらの治療法をいつ使用するかが重要な臨床的判断となる」「初期治療として薬物を使用し、薬物療法が無効であればアブレーションを行うというのが一般的な方法であり、現行のガイドラインにも合致する」としている。

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妊娠中のビタミンD摂取は子どもの骨を強くする

 妊娠中のビタミンDの摂取は、子どもの骨と筋肉の発達に良い影響をもたらすようだ。英サウサンプトン大学MRC Lifecourse Epidemiology CentreのRebecca Moon氏らによる研究で、妊娠中にビタミンDのサプリメントを摂取した女性の子どもは、摂取していなかった女性の子どもに比べて、6〜7歳時の骨密度(BMD)と除脂肪体重が高い傾向にあることが明らかにされた。この研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」11月号に掲載された。Moon氏は、「小児期に得られたこのような骨の健康への良い影響は、一生続く可能性がある」と話している。 ビタミンDは、人間の皮膚が日光(紫外線)を浴びると生成されるため「太陽のビタミン」とも呼ばれ、骨の発達と健康に重要な役割を果たすことが知られている。具体的には、ビタミンDは、丈夫な骨、歯、筋肉の健康に必要なミネラルであるカルシウムとリン酸のレベルを調節する働きを持つ。 今回の研究では、妊娠14週未満で単胎妊娠中の英国の妊婦(体内でのビタミンDの過不足の指標である血液中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が25~100nmol/L)を対象に、妊娠中のビタミンD摂取と子どもの骨の健康との関連がランダム化比較試験により検討された。対象とされた妊婦は、妊娠14~17週目から出産までの期間、1日1,000IUのコレカルシフェロール(ビタミンDの一種であるビタミンD3)を摂取する群(介入群)とプラセボを摂取する群(対照群)にランダムに割り付けられた。これらの妊婦から生まれた子どもは、4歳および6~7歳のときに追跡調査を受けた。 6〜7歳時の追跡調査を受けた454人のうち447人は、DXA法(二重エネルギーX線吸収法)により頭部を除く全身、および腰椎の骨の検査を受け、骨面積、骨塩量(BMC)、BMD、および骨塩見かけ密度(BMAD)が評価された。解析の結果、介入群の子どもではプラセボ群の子どもと比較して、6〜7歳時の頭部を除く全身のBMCが0.15標準偏差(SD)(95%信頼区間0.04~0.26)、BMDが0.18SD(同0.06~0.31)、BMADが0.18SD(同0.04~0.32)、除脂肪体重が0.09SD(同0.00~0.17)高いことが明らかになった。 こうした結果を受けてMoon氏は、「妊婦に対するビタミンD摂取による早期介入は、子どもの骨を強化し、将来の骨粗鬆症や骨折のリスク低下につながることから、重要な公衆衛生戦略となる」と述べている。 では、妊娠中のビタミンD摂取が、どのようにして子どもの骨の健康に良い影響を与えるのだろうか。Moon氏らはサウサンプトン大学のニュースリリースで、2018年に同氏らが行った研究では、子宮内の余分なビタミンDが、「ビタミンD代謝経路に関わる胎児の遺伝子の活動を変化させる」ことが示唆されたと述べている。さらに、2022年に同氏らが発表した研究では、妊娠中のビタミンD摂取により帝王切開と子どものアトピー性皮膚炎のリスクが低下する可能性が示されるなど、妊娠中のビタミンD摂取にはその他のベネフィットがあることも示唆されているという。

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喘息は子どもの記憶能力に悪影響を及ぼす

 子どもの喘息は記憶能力の低下と関連し、特に、喘息を早期発症した子どもではその影響が顕著であることが、米カリフォルニア大学デービス校心と脳センターのSimona Ghetti氏らによる研究で示唆された。この研究結果は、「JAMA Network Open」に11月11日掲載された。Ghetti氏らは、「この研究は、子どもの喘息と記憶能力の問題との関連を示した初めてのものだ」と述べている。 米国では、子どもの喘息患者数は460万人程度と見積もられている。論文の筆頭著者である同大学デービス校心理学分野のNicholas J. Christopher-Hayes氏は、「幼少期は記憶能力、より一般的には認知能力が急速に向上する時期だ。子どもに喘息があると、その向上が遅れることが考えられる」と大学のニュースリリースで述べている。 この研究では、9歳から10歳の子ども約1万1,800人を登録して2015年に開始された、思春期脳認知発達(Adolescent Brain Cognitive Development;ABCD)研究の観察データを用いて、喘息が記憶能力に及ぼす影響が縦断的および横断的に検討された。 縦断的な分析では、喘息のある子どもおよび喘息のない子ども(対照群、平均年齢9.89歳、男子51%)237人ずつが対象とされた。喘息のある子どものうち、135人(平均年齢9.90歳、男子56%)は試験開始時に、102人(平均年齢9.88歳、女子53%)は2年後の追跡調査時に、親により喘息のあることが報告されていた(それぞれ、早期発症群、後期発症群)。分析の結果、主要評価項目としたエピソード記憶(個人が経験した出来事に関する記憶)は全体的に向上していたものの、早期発症群では対照群に比べてその向上率が有意に低かったことが明らかになった。後期発症群と対照群との間に有意な差は認められなかった。 横断的な分析では、研究期間のいずれかの時点で喘息があった子ども(1,031人、平均年齢11.99歳、男子57%)と喘息歴のない子ども(1,031人、平均年齢12.00歳、女子54%)が対象とされた。分析の結果、喘息のある子どもでは喘息のない子どもに比べて、エピソード記憶、副次評価項目とした処理速度、抑制力、注意力の全ての指標において、スコアが有意に低いことが示された。 こうした結果を受けてGhetti氏は、「この研究結果は、子どもの認知能力を低下させ得る原因として喘息を考慮することの重要性を強調している」と話す。同氏はさらに、「喘息だけでなく、糖尿病や心臓病などの慢性疾患が子どもの認知能力に問題が生じるリスクを上昇させ得ることに対する認識は高まりつつある。リスクを高める要因やその保護要因について理解する必要がある」と述べている。 研究グループは、本研究で認められたような記憶能力の低下は、長期的な影響を及ぼす可能性があるとの見方を示し、高齢者の喘息が、認知症やアルツハイマー病のリスク増大と関連付けられていることを指摘する。Christopher-Hayes氏は、「喘息は、子どもが大人になってから認知症のようなより深刻な病気を発症するリスクを高める可能性がある」と話す。研究グループはまた、このような記憶能力の低下は、喘息による長期にわたる炎症、あるいは喘息発作による脳への酸素供給の度重なる中断が原因となっている可能性があると推測している。

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トリプルネガティブ乳がんの治療にDNAワクチンが有望か

 悪性度が高く、治療も困難なトリプルネガティブ乳がんの女性に新たな希望をもたらす可能性のある、DNAワクチンに関する第1相臨床試験の結果が報告された。ワクチンを接種した18人の患者のうち16人が、接種から3年後もがんを再発していないことが確認されたという。米ワシントン大学医学部外科分野教授のWilliam Gillanders氏らによるこの研究の詳細は、「Genome Medicine」に11月14日掲載された。 トリプルネガティブ乳がんは、他のタイプの乳がんの典型的な原因である、ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)とHER2(ヒト上皮成長因子受容体2)がいずれも陰性であるため、これらの受容体を標的にした治療法が効かない。そのため、手術、化学療法、放射線療法などで対処するより他ないのが現状である。全米乳がん財団によると、米国で発生する乳がんの約10〜15%はトリプルネガティブ乳がんであるという。 今回の試験は、補助化学療法後もがんが残存している非転移性トリプルネガティブ乳がん患者18人を対象に実施された。このような患者は、がんを外科的に切除した後も再発リスクが高いという。研究グループは、患者のがん細胞と健康な組織を比較・分析し、それぞれの患者のがんに特有の遺伝子変異を特定した。このような遺伝子変異により、がん細胞では変異したタンパク質(ネオアンチゲン)が生成される。ネオアンチゲンは、免疫系によって異物として認識されるため、健康な組織に影響を与えることなく、変化したタンパク質のみを認識して攻撃するように免疫系を訓練できる可能性がある。 研究グループは、自分たちで設計したソフトウェアを用いて、患者のがん細胞内で生成され、強力な免疫反応を引き起こす可能性が最も高いと目されるネオアンチゲンを選び出し、その情報(設計図)をDNAワクチンの中に組み込んだ。対象者のそれぞれのワクチンには、平均11個(最小4個から最大20個)のネオアンチゲンの情報が含まれていた。対象者は、1回4mgのDNAワクチンを計3回(1日目、29±7日目、57±7日目)接種した。 その結果、ワクチン接種後に生じた有害事象は比較的少なく、認容性は良好であることが示された。また、Enzyme-Linked ImmunoSpot(ELISpot)アッセイおよびフローサイトメトリーによる測定の結果、18人中14人でネオアンチゲン特異的T細胞応答が誘導されたことが確認された。中央値36カ月間の追跡期間における対象者の無再発生存率は87.5%(95%信頼区間72.7〜100%)であった。 Gillanders氏は、「この試験の結果は予想以上に良かった」と話す。研究グループが、標準治療のみで治療されたトリプルネガティブ乳がん患者の過去のデータを分析したところ、治療から3年後も無再発で生存していた患者の割合は約半数と推測されたという。同氏は、「われわれは、このネオアンチゲンワクチンの可能性に興奮している。この種のワクチン技術をより多くの患者に提供し、悪性度の高いがんに罹患した患者の治療成績の向上に貢献できることを期待している」と話している。 ただし、研究グループは、今後はより大規模な臨床試験でこのワクチンの有効性を証明する必要があると述べている。Gillanders氏は、「この種の分析に限界があることは承知している。しかし、われわれはこのワクチン戦略を追求し続けており、標準治療とワクチン接種による併用療法と標準治療のみの場合の有効性を直接比較するランダム化比較試験を現在も行っている最中だ。現時点では、併用療法に割り当てられた患者で確認されている結果に勇気付けられている」と述べている。

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前立腺肥大症治療薬のタダラフィルが2型糖尿病リスクを抑制

 前立腺肥大症(BPH)の治療に用いられているタダラフィルが、2型糖尿病(T2DM)発症リスクを低下させる可能性が報告された。京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野の高山厚氏らによる研究の結果であり、論文が「Journal of Internal Medicine」に9月17日掲載された。 タダラフィルはホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5i)と呼ばれるタイプの薬で、血管内皮細胞からの一酸化窒素の放出を増やして血管を拡張する作用があり、BPHのほかに勃起障害(ED)や肺高血圧症の治療に用いられている。近年、T2DMの発症に血管内皮機能の低下が関与していることが明らかになり、理論的にはPDE5iがT2DMリスクを抑制する可能性が想定される。ただし、そのエビデンスはまだ少ない。これを背景として高山氏らは、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)し、観察研究でありながら介入効果を予測し得る、ターゲットトライアルエミュレーションによる検証を行った。 研究には、日本の人口の約13%をカバーする医療費請求データベースの情報を用いた。2014年5月~2023年1月にBPHと診断され、タダラフィル(5mg/日)の処方、またはα遮断薬の処方の記録がある40歳以上の男性患者から、糖尿病の既往(診断、血糖降下薬の処方、HbA1c6.5%以上の検査値で把握)、タダラフィルとα遮断薬の併用、薬剤使用禁忌症例などを除外。タダラフィル群5,180人、α遮断薬群2万46人を特定し、T2DMの発症、処方中止・変更、死亡、保険脱退、または最長5年経過のいずれかに該当するまで追跡した。なお、α遮断薬はBPH治療薬として広く使われている薬で、T2DMリスクには影響を及ぼさないとされている。 ベースライン時点において、タダラフィル群の方がわずかに若年でHbA1cが低かったものの有意差はなく、その他の臨床指標もよく一致していた。追跡期間は、タダラフィル群が中央値27.7カ月、α遮断薬群は同31.3カ月だった。T2DMの発症率は、タダラフィル群では1,000人年当たり5.4(95%信頼区間4.0~7.2)、α遮断薬群は同8.8(7.8~9.8)と計算され、タダラフィルの処方はT2DM発症リスクの低下と関連していた(リスク比〔RR〕0.47〔0.39~0.62〕、5年間の累積発症率差-0.031〔-0.040~-0.019〕)。 前糖尿病(HbA1c5.7%以上)に該当するか否かで二分した上での解析(前糖尿病ではRR0.49〔0.40~0.69〕、HbA1c5.7%未満ではRR0.34〔0.20~0.63〕)や、肥満(BMI25以上)の有無で二分した解析(肥満ではRR0.61〔0.43~0.80〕、非肥満ではRR0.38〔0.24~0.62〕)でも、全てのサブグループで全体解析同様の結果が示された。また、感度分析として、T2DM発症の定義などを変更した15パターンでの解析を行ったが、結果は一貫していた。 著者らは、保険非適用のPDE5i処方(ED治療目的)が把握されていないことや残余交絡が存在する可能性などを研究の限界点として挙げた上で、「BPH男性の治療におけるタダラフィルの処方はα遮断薬の処方と比較して、T2DM発症リスクの低下と関連しているようだ。この関連のメカニズムを明らかにし、同薬のメリットを得られる集団の特徴をより詳細かつ明確にする必要がある」と述べている。

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GLP-1受容体アゴニストの減量に対する長期の効果と糖尿病予防効果の強固さ(解説:名郷 直樹氏)

 GLP-1受容体アゴニストを72週投与し、体重減少を1次アウトカムとした二重盲検ランダム化比較試験SURMOUNT-1研究1)の対象者に対し、176週まで治療を継続し、さらに治療中止後に17週の追跡を追加した2次解析結果の報告である2)。 BMI 30以上、または糖尿病以外の肥満関連のリスクを持つBMI 27以上の肥満者を対象として、チルゼパチド5mg、10mg、15mgの週1回投与とプラセボを比較して、176週後、193週時点の体重変化と糖尿病の発症をアウトカムに設定している。 176週時点で、チルゼパチド群の体重の平均変化率は、5mg投与群で-12.3%、10mg投与群で-18.7%、15mg投与群で-19.7%に対し、プラセボ群では-1.3%である。それぞれの変化率の差は、5mg用量で-11.1%(95%信頼区間[CI]:-14.4〜-7.8)、10mg用量で-17.5%(95%CI:-23.6〜-11.3)、15mg用量で-18.4%(95%CI:-22.2〜-14.7)と報告されている。 2型糖尿病の診断を受けた患者は、176週時点でチルゼパチド群1.3%、プラセボ群13.3%、ハザード比0.07(95%CI:0.0~0.1)、さらに治療中止の17週後でもハザード比0.12(95%CI:0.1~0.2)と同様の結果である。 統計学的には仮説生成的解析である2次解析の結果とはいえ、体重の変化率の差で10%を超える効果があり、投与量の増加に比例した効果の増大を示す量反応関係も示されており、3年程度の長期にわたる効果も十分認められると解釈できる結果である。 また糖尿病と診断された患者の率も、176週時点のハザード比で0.07、95%CIの上限でも0.1、同様に17週の治療中止後でもハザード比0.12、95%CIの上限でも0.2と大きな効果を示している。その反面、量反応関係では、投与量の増加に対する効果の増大は示されていないが、95%CIの上限でもハザード比0.2という大きな効果は、この結果の妥当性を強固なものにしている。 統計学的な解釈としては、1次アウトカムの結果以外は仮説生成的であるというのが一般的であるが、この論文で示された2次解析結果は、体重減少の変化率に対する量反応関係を伴う大きな効果と、糖尿病診断減少の大きな効果を考えれば、BMIが30を超える高度肥満者、高リスクのBMI 27を超える対象に対する臨床的な効果は、十分妥当な結果と言っていいと思われる。ただ、より痩せを志向する日本の現状では、その適用が軽度の肥満やむしろ痩せの人に拡大されることに注意が必要かもしれない。

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