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潰瘍性大腸炎に対するベドリズマブとアダリムマブの臨床的寛解効果は?(解説:上村直実氏)-1135

 潰瘍性大腸炎(UC)は国の特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、現在、国内に16万人以上の患者が存在している。UCの治療に関しては、最近、腸内フローラの調整を目的とした抗生物質や糞便移植の有用性が報告されつつあるが、通常の診療現場で多く使用されているのは薬物療法である。寛解導入および寛解維持を目的とした基本的な薬剤である5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、初発や再燃時など活動期に寛解導入を目的として用いるステロイド製剤、ステロイド抵抗性および依存性など難治性UCに使用する免疫調節薬(アザチオプリン、シクロスポリンAなど)と生物学的製剤が使用されているのが現状である。 分子生物分野の進歩とともに、患者数が増加しているIBD(クローン病とUC)に対する生物学的製剤が次々と開発されている。日本の保険診療で最初に承認された薬剤は抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ)であるが、その後、作用機序の異なる抗α4β7インテグリン抗体製剤(ベドリズマブ)、JAK阻害薬(トファシチニブ)、ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤(ウステキヌマブ)が開発され多くの臨床研究結果が報告されている。今回、中等症から重症の活動期UCの治療において、ベドリズマブはアダリムマブに比べて、臨床的寛解導入および内視鏡的改善の達成に関して優れた効果を示した国際共同第III相臨床試験(VARSITY試験)の結果がNEJM誌に発表された。 活動期UCに対する寛解導入および寛解維持効果を検証する目的で投与開始から52週後の臨床的寛解を主要アウトカムとした抗α4β7インテグリン抗体製剤と抗TNF-α抗体製剤とのガチンコ勝負の直接比較で注目されていた試験である。試験の結果、ベドリズマブ群とアダリムマブ群の52週時の臨床的寛解はそれぞれ31.3%と22.5%であり、前者の寛解率が統計学的に有意に高かった。しかし、ステロイドなしの症例では逆に12.6%と21.8%とアダリムマブ群の臨床的寛解率の方が高率であった。筆者らが記述しているように、2つの薬剤を比較するためにはこのような直接比較試験が必要であるという意見に大賛成で、日本人を対象として市販されている2つの薬剤の直接比較試験が行われることが期待される。

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ウステキヌマブ(ステラーラ)は潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法にも有効(解説:上村直実氏)-1134

 潰瘍性大腸炎(UC)は国の特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、最近の全国調査によると16万人以上の患者が存在している。本疾患に対する薬物治療については、寛解導入および寛解維持を目的として5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されている。なかでも抗TNF-α抗体製剤と異なる作用機序を有する分子標的薬が次々と開発され、さまざまな検証試験が行われている。 今回、ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤であるウステキヌマブが中等症~重症のUCに対する寛解導入(静脈内投与)および寛解維持療法(皮下投与)として有用性を示す国際共同第III相臨床試験(UNIFI試験)の結果がNEJM誌に発表された。実薬とプラセボ8週間投与で寛解導入成功率と44週後の寛解維持率はそれぞれ15% vs.5%と44% vs.24%であり、プラセボに対して統計学的に有意な有効性を示したことから、難治性UCに対して抗TNF-α抗体製剤と異なる作用機序の新たな生物学的製剤として期待される結果となっている。 なお、日本の保険診療において、ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)は活動性難治性クローン病の寛解導入薬として薬事承認を取得してすでに保険適用となっているが、このUNIFI試験のデータに基づいてUCに対する適応追加として薬事承認が申請されている。しかし、本試験において、52週間の投薬期間中、ウステキヌマブの投与を受けた825例中7例に前立腺などのがんが認められた点は安全性の面から慎重に検討されるべき事案と考えられる。

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潰瘍性大腸炎、非侵襲性マーカーに新知見

 潰瘍性大腸炎(UC)において、内視鏡検査は侵襲的であり、症状を悪化させることもある。そのため、代わりとなる信頼性の高い非侵襲性マーカーが求められてきた。今回、韓国・釜山大学校のDae Gon Ryu氏らは、糞便マーカーである便中カルプロテクチン(Fcal)と免疫学的便潜血検査(FIT)がUCの内視鏡的活動度とよく相関することを確認した。また、便中カルプロテクチンは内視鏡的活動度の予測、免疫学的便潜血検査は粘膜治癒の予測に有用である可能性が示された。Medicine(Baltimore)誌2019年9月号に掲載された報告。 試験期間は2015年3月~2018年2月まで。期間中に、大腸内視鏡検査、便中カルプロテクチン、免疫学的便潜血検査を受けたUC患者128例から得た合計174件の結果を、後ろ向きに評価した。このうち、診断不明の6件、内視鏡検査日に糞便検体未提出の15件は除外された。 評価した項目は、各糞便マーカーと内視鏡的活動度の相関および予測精度、粘膜治癒を評価するうえでの各糞便マーカーの感度、特異度、陽性/陰性的中率であった。内視鏡的活動度はMayo内視鏡スコア(MES)、内視鏡的重症度指数(UCEIS)の両方により評価し、予測精度はROC曲線下面積(AUC)により評価した。また、MES 0かつUCEIS 0~1を粘膜治癒と定義した。 各糞便マーカーと内視鏡的活動度は、いずれも統計的に有意な相関を示した(MES Fcal:r=0.678、p<0.001、FIT:r=0.635、p<0.001、UCEIS Fcal:r=0.711、p<0.001、FIT:r=0.657、p<0.001)。 便中カルプロテクチンは免疫学的便潜血検査より、内視鏡的活動度の予測精度で統計的に優れていた(MES AUC:0.863 vs.0.765、p<0.001、UCEIS AUC:0.847 vs.0.757、p<0.001)。一方、粘膜治癒を評価する感度は、免疫学的便潜血検査のほうが便中カルプロテクチンよりも優れていた(MES:98.0% vs.78.4%、UCEIS:94.9% vs.74.6%)。 これらの結果から研究グループは、便中カルプロテクチンは、活動期のUC患者において粘膜病変の活動性および治療反応性評価に使用できる可能性があり、免疫学的便潜血検査は、粘膜治癒後のUC患者において、再発モニタリングに使用できる可能性がある、との見解を示した。

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加齢や疲労による臭い、短鎖脂肪酸が有効

 2019年9月11日、「大腸劣化」対策委員会が主催するメディアセミナーが開催され、松井 輝明氏(帝京平成大学健康メディカル学部 教授)が「『大腸劣化』を防ぐ短鎖脂肪酸のパワーについて」講演を行った。セミナー後半では沢井 悠氏(株式会社サイキンソー)、関根 嘉香氏(東海大学理学部化学科 教授)2名の専門家がそれぞれの視点から腸内細菌叢の重要性を語った。大腸劣化の予防には短鎖脂肪酸 大腸劣化とは、『大腸に多く存在する腸内フローラが、偏った食生活やストレス・睡眠不足などによって老廃物や有害物質が作られることで正常な機能が保てなくなり、最終的には大腸がんなどの大腸疾患のみならず全身の健康リスクにまで発展すること』を意味する。 腸内フローラには数千種類以上、数百兆個以上の種々の菌が存在し、善玉菌優位のバランス(善玉菌、悪玉菌、日和見菌それぞれの比率が2:1:7の状態)保持が必要とされる。しかし、無理なダイエットによる炭水化物制限による食物繊維不足、過度な動物性タンパク質摂取や食の欧米化進展という近年の日本人の偏った食文化が、悪玉菌へ餌を供給するとともに悪玉菌優位の環境をもたらし、最終的には腸内劣化により大腸がんなどの発症を招いてしまう。 そこで、松井氏はこのリスクを回避する方法として、善玉菌の餌となる短鎖脂肪酸を増やすコツとそのメカニズムについて解説した。短鎖脂肪酸とは、ビフィズス菌や酪酸菌が水溶性食物繊維などを食べた際に産生される物質で、酢酸や酪酸などを示し、腸内環境を弱酸性にして善玉菌が発育しやすい環境へ整える。ビフィズス菌から産生される酢酸には整腸作用、免疫力向上、血中コレステロール低下などの作用が期待でき、酪酸菌から産生される酪酸には、大腸のバリア機能強化や、大腸を動かすエネルギーの産生作用がある。これを踏まえ、同氏は「善玉菌の餌となるオリゴ糖、イヌリン、大麦や海藻類を積極的に取ることが重要」と述べ、穀物摂取量低下による食物繊維不足に危機感を示した。 短鎖脂肪酸の増加には食物繊維の摂取が有用であることについて、同氏は山口県岩国市で実施された臨床試験(水溶性食物繊維を多く含むスーパー大麦グラノーラを1ヵ月間、毎日摂取する試験)を例示し、「排便量や便の性状だけではなく、肌の状態や睡眠状態の改善もみられた。腸内環境の整備が整腸作用だけに留まらず、全身の健康に貢献することを示唆する結果が得られた」とコメントした。4人に1人が大腸劣化の可能性 腸内細菌叢の検査キットを開発・販売する沢井氏は「日本人の腸内フローラについて」を講演。同氏は「当社の検査結果を集計したところ、40代以降の4人に1人は大腸劣化の疑いがあることが明らかとなった。ただし、腸内フローラの多様性については、20代で低かった」とコメントし、加齢だけが大腸劣化の原因ではないことを明らかにした。疲労臭はビフィズス菌で解決 「腸内細菌叢と体臭の関係について」について講演した関根氏によれば、人間が放出するガスには皮膚ガスと呼ばれるものがあり、判明しているだけでも300種を超える。皮膚ガスの放散経路には、「表面反応由来」「皮膚腺由来」「血液由来」の3経路があり、表面反応由来の加齢臭は皮脂の酸化が原因のため、洗って落とすことができる。しかし、血液由来のダイエット臭(アセトン)や疲労臭(アンモニア)は洗っても落とすことができない。 では、どのように血液由来の臭いを減らせば良いのだろうか? 疲労臭の主成分アンモニアの血中濃度は、腸内細菌の改善によって減らせることが明らかになっている。そこで、関根氏らはラクチュロース(牛乳に含まれる乳糖を原料として作られる二糖類。大腸に到達後、ビフィズス菌の餌になる)の摂取試験を行い、「ビフィズス菌数の増加に伴う皮膚からのアンモニア放散量の減少を示唆した」という。この研究によって、腸内環境の改善で疲労臭が軽減できることを世界で初めて見いだした同氏は「これから体臭に関する新たな知見も報告する予定」と締めくくった。

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中等症~重症潰瘍性大腸炎、ベドリズマブvs.アダリムマブ/NEJM

 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎(UC)の治療において、ベドリズマブはアダリムマブに比べ、臨床的寛解および内視鏡的改善の達成に関して優れた効果を発揮するが、副腎皮質ステロイドなしの臨床的寛解には差がないことが、米国・マウントサイナイ医科大学のBruce E. Sands氏らが行ったVARSITY試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2019年9月26日号に掲載された。生物学的製剤はUCの治療に広く使用されているが、炎症性腸疾患(IBD)患者でこれらの製剤を直接比較した試験は少ないという。ベドリズマブは、腸管選択的に作用し、α4β7インテグリンに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体である。34ヵ国245施設が参加、52週時の臨床的寛解を評価 本研究は、34ヵ国245施設が参加した二重盲検ダブルダミー実薬対照第IIIb相試験であり、2015年7月~2019年1月の期間に実施された(Takedaの助成による)。 対象は、年齢18~85歳の中等症~重症の活動期UC患者であった。中等症~重症は、Mayoスコア(0~12点、点数が高いほど重症)が6~12点で、内視鏡的サブスコア(0~3点)が2点以上、結腸の病変が15cm以上であり、スクリーニングの3ヵ月以上前に確定診断された患者と定義された。また、安全性以外の理由で腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬(アダリムマブを除く)の投与が中止となった患者も、25%を上限に登録可能とされた。 被験者は、ベドリズマブ(300mgを1日目および2、6、14、22、30、38、46週目に静注)+プラセボ(皮下注)を投与する群、またはアダリムマブ(1回40mgを1週目に合計160mg、2週目に合計80mgを皮下注し、その後50週まで2週ごとに40mgを皮下注)+プラセボ(静注)を投与する群に無作為に割り付けられた。両群とも用量漸増は不可とされた。 主要アウトカムは、52週時の臨床的寛解とした。臨床的寛解は、Mayoスケールの合計が2点以下で、Mayoスケールを構成する4項目のサブスコア(0~3点)がいずれも1点を超えない、と定義された。主要アウトカム達成割合:31.3% vs.22.5% 771例が登録され、ベドリズマブ群に385例(平均年齢40.8±13.7歳、男性60.8%)、アダリムマブには386例(40.5±13.4歳、56.0%)が割り付けられた。このうち769例が無作為化の対象となり、1回以上の薬剤の投与を受けた(ベドリズマブ群383例、アダリムマブ群386例)。 52週時に臨床的寛解が得られた患者の割合は、ベドリズマブ群がアダリムマブ群よりも高かった(31.3% vs.22.5%、群間差:8.8ポイント、95%信頼区間[CI]:2.5~15.0、p=0.006)。TNF阻害薬の投与歴のない患者における、臨床的寛解の達成割合の群間差は9.9ポイント(95%CI:2.8~17.1)、投与歴のある患者では4.2ポイント(-7.8~16.2)であった。 また、内視鏡的改善もベドリズマブ群のほうが良好であった(39.7% vs.27.7%、11.9ポイント、5.3~18.5、p<0.001)。TNF阻害薬の投与歴のない患者における内視鏡的改善の達成割合の群間差は13.6ポイント(95%CI:6.0~21.2)、投与歴のある患者では5.5ポイント(-7.7~18.8)であった。 副腎皮質ステロイドなしでの臨床的寛解は、ベドリズマブ群が12.6%、アダリムマブ群は21.8%で認められた(群間差:-9.3ポイント、95%CI:-18.9~0.4)。TNF阻害薬の投与歴のない患者における、副腎皮質ステロイドなしでの臨床的寛解の達成割合の群間差は-6.8ポイント(95%CI:-18.1~4.5)、投与歴のある患者では-18.1ポイント(-44.2~10.0)であった。 曝露歴で補正した感染症の発生率は、100人年当たりベドリズマブ群が23.4件、アダリムマブ群は34.6件であり、重篤な感染症の発生率は100人年当たりそれぞれ1.6件および2.2件であり、いずれもベドリズマブ群で少なかった。 著者は「2つの薬剤の個別の臨床試験で有効性を比較するのは困難であり、本試験のような直接比較試験の必要性がいっそう浮き彫りとなった」としている。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法にウステキヌマブが有効/NEJM

 中等症~重症の潰瘍性大腸炎に対する寛解導入療法および維持療法として、分子標的薬ウステキヌマブ(インターロイキン12/23のp40サブユニットに対するモノクローナル抗体)がプラセボとの比較において有効であることが明らかにされた。米国・マウントサイナイ医科大学のBruce E. Sands氏らが、国際共同第III相臨床試験「UNIFI試験」の結果を報告した。潰瘍性大腸炎は慢性の炎症性腸疾患(IBD)で、日本では指定難病とされている。現行の推奨療法は臨床効果に乏しく、感染症やがん罹患のリスクが高いことが知られている。ウステキヌマブは、同じくIBDに分類されるクローン病において、既存治療で効果不十分な活動期症例における有効性が確認されていたが、潰瘍性大腸炎における寛解導入療法および維持療法としての有効性は不明であった。NEJM誌2019年9月26日号掲載の報告。中等症~重症の潰瘍性大腸炎961例で、8週間の寛解導入療法と44週間の維持療法を評価 UNIFI試験では、既存治療で効果不十分または忍容性のない中等症~重症の潰瘍性大腸炎患者を対象に、8週間の寛解導入療法および44週間の維持療法としてのウステキヌマブの有効性および安全性を評価した。2015年8月~2018年8月に、世界各地の244施設において1プロトコルの下で行われた。 潰瘍性大腸炎患者計961例を寛解導入試験として、ウステキヌマブ6mg/kg静脈内投与群(322例)、ウステキヌマブ130mg静脈内投与群(320例)またはプラセボ群(319例)に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。また、寛解導入試験で臨床的寛解を達成した523例を維持試験として、ウステキヌマブ90mgを12週ごとに皮下投与する群(172例)、90mgを8週ごとに皮下投与する群(176例)またはプラセボ群(175例)に1対1対1の割合で無作為に割り付け評価した。 潰瘍性大腸炎患者の寛解導入試験の主要評価項目は8週時の臨床的寛解とし、寛解維持試験の主要評価項目は44週時の臨床的寛解とした。臨床的寛解は、Mayoスコア(0~12、スコアが高いほど重症)が2以下、かつ4項目のいずれのサブスコア(0~3)も1を超えない、と定義した。潰瘍性大腸炎の臨床的寛解達成、寛解導入療法で約15% vs.5%、維持療法で約38~44% vs.24% 寛解導入試験において8週時点で臨床的寛解を達成した潰瘍性大腸炎患者の割合は、ウステキヌマブ130mg群15.6%、6mg/kg群15.5%で、プラセボ群の5.3%と比較しいずれも有意に高かった(いずれもp<0.001)。 臨床的寛解を達成し寛解維持試験で無作為化された潰瘍性大腸炎患者における44週時点の臨床的寛解達成率は、ウステキヌマブ90mg 12週ごと皮下投与群が38.4%、同8週ごと皮下投与群が43.8%であり、プラセボ群の24.0%と比較して有意に高かった(それぞれp=0.002、p<0.001)。 重篤な有害事象の発現率は、ウステキヌマブ群とプラセボ群とで類似していた。52週間の投薬期間中、ウステキヌマブの投与を受けた825例において、死亡2例(急性呼吸促迫症候群1例、食道静脈瘤による出血1例)、がん7例(前立腺がん、結腸がん、乳頭状腎細胞がん、直腸がんが各1例、非黒色腫皮膚がん3例)が認められた。プラセボ群319例では死亡例はなく、がん(精巣がん)が1例に発生した。

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潰瘍性大腸炎の炎症の程度を便で診断

 2019年6月26日、アルフレッサ ファーマ株式会社は、体外診断用医薬品として潰瘍性大腸炎(以下「UC」と略す)の病態把握の補助に使用されるカルプロテクチンキット「ネスコートCpオート」が、6月5日に製造販売承認を取得したことを機に、都内で「潰瘍性大腸炎の治療継続における課題とは」をテーマにプレスセミナーを開催した。潰瘍性大腸炎患者に有用な診断キット セミナーは、日比 紀文氏(北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療[IBD]センター長)の司会により進行し、同氏は「潰瘍性大腸炎は全世界で500万人の患者が推定され、わが国はアメリカについで患者数が多い国である。潰瘍性大腸炎は現在も原因不明の疾患であり、主な症状は、持続反復する下痢、血便、頻回のトイレなどがあり、活動期と寛解期を繰り返すのが特徴。治療では、5SAS製剤、JAK阻害薬などが使用されている。潰瘍性大腸炎の適切な治療では、病態の正確な把握が必要だが内視鏡検査が広く行われている。しかし、内視鏡検査は侵襲性が高く、患者負担も大きいため、非侵襲性の検査が長らく待たれていた。今回製造販売承認されたネスコートCpオートであれば10分で測定ができ、外来でも有用だと期待しているし、患者にも身体・経済面でメリットがある」と潰瘍性大腸炎の疾患概要と本診断キット開発の意義を説明した。潰瘍性大腸炎治療の要は適切なモニタリング つぎに、講演として「潰瘍性大腸炎診療~便中カルプロテクチン測定の展望と課題~」をテーマに、久松 理一氏(杏林大学医学部 第三内科学教室 消化器内科 教授)がレクチャーを行った。 久松氏は、はじめに潰瘍性大腸炎の病態、症状を詳説し、とくに症状について、直腸に炎症があると残便感が消えず、絶えず下痢や腹痛におびやかされる状態になること、10代後半の若年から発症し、進学や就職など大切なライフイベントと重なることもあり、潰瘍性大腸炎は患者の生活の質や活動領域を著しく悪化させることを説明した。 治療では、患者の将来を見据え、大腸全摘の回避と大腸がんへのリスクを軽減する必要がある。先述の治療薬を使用して再燃する活動期の寛解導入療法と寛解期の寛解維持療法が行われる。そして、治療で重要なのが、適切なモニタリングであり、内視鏡検査が病勢評価のゴールドスタンダードとして使用されている。 しかし、内視鏡検査は、さまざまな患者負担があり、安全かつ簡易に内視鏡と相関するバイオマーカーの開発が望まれてきたと開発までの経緯を説明した。潰瘍性大腸炎の診断が外来の待ち時間でわかる こうした要望により開発されたのが「ネスコートCpオート」であり、これは便中のカルプロテクチンを測定し、検出された濃度により活動期と寛解期を把握するものである。カルプロテクチンは、主に好中球から分泌されるカルシウム結合タンパクで、腸内に炎症が起こると、腸壁から浸潤した白球血とともに糞便に入り体外に排出される。便中のカルプロテクチンは室温で5~7日程度安定し、その濃度と内視鏡的活動性は高い相関を示すという。検査は、患者より採取した便を検査することで、10分でカルプロテクチン濃度が測定できる。とくに便中のカルプロテクチン濃度は臨床症状が出現する前から上昇することから、再燃時の事前予測にも活用できる可能性もある。また、欧米ではカルプロテクチン測定は、すでにIBD(炎症性腸疾患)の診断・活動性評価に使用されているという。 今後の展望として、同氏は「外来の待ち時間で測定が完了し、医療側も新しい機器をそろえる必要のないこの診断キットは、軽症の潰瘍性大腸炎患者のモニタリングとして内視鏡検査を減らすことができる。主治医は患者と検査結果を見ながら治療方針を決めていくことができるようになる」と期待を寄せ、レクチャーを終えた。 なお、本製品は、現在保険申請の準備中である。

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潰瘍性大腸炎治療の高度化に対応する方法とは

 2015~16年に行われた全国疫学調査1)によると、潰瘍性大腸炎の全国有病者数は推計22万人であり、クローン病(推計7.1万人)と合わせると29万人を超える。炎症性腸疾患(IBD)は、もはや“common disease”と言えるのかもしれない。 2019年5月、ファイザー株式会社が「潰瘍性大腸炎とチーム医療の重要性」をテーマに、都内にてセミナーを開催した。併せて、新しくオープンした潰瘍性大腸炎に関する情報提供サイト「UC tomorrow」の紹介が行われた。治療は進歩しているが、治療選択は容易でない セミナーでは、伊藤 裕章氏(医療法人錦秀会 インフュージョンクリニック 院長)が「潰瘍性大腸炎診療の歩み」について講演を行った。 潰瘍性大腸炎は指定難病だが、国は「難病の医療提供体制の在り方の基本理念2)」として、「診断後はより身近な医療機関で適切な医療を受けることができる体制」が望ましいと示しており、非専門医が診る機会も増えている。これに対し同氏は、「潰瘍性大腸炎の治療は高度化しており、たとえ消化器内科医であっても、必ずしも適切な治療選択ができるとは限らない」と、治療の難しさを指摘した。新薬登場も、揺るがないステロイドの立ち位置 潰瘍性大腸炎の治療は、2010年に抗TNF-α抗体製剤インフリキシマブ(商品名:レミケード)が承認されて以降、バイオ医薬品も1つの選択肢となり、2018年には抗α4β7インテグリン抗体製剤ベドリズマブ(同:エンタイビオ)、JAK阻害薬トファシチニブ(同:ゼルヤンツ)など、新しい作用機序を持つ新薬が発売されている。 一方で、ステロイドはいまだに重要な位置を占めているという。同氏は、「ステロイドの使用は全身的な副作用につながるため、できるだけ早くやめるべき。維持療法のゴールは、ステロイドがない状態での寛解維持だ。ステロイドの離脱にはチオプリン製剤が有用である」と注意を促した。患者個別の対応をするためにはチーム医療が不可欠 新薬についてはまだエビデンスが十分でないため、優先的な使用は推奨されていない。バイオ医薬品は患者への経済的・身体的負担が大きいこと、JAK阻害薬は経口投与可能だが、胎盤を通過しやすいため若年女性への投与には注意を要するなど、それぞれの薬剤に考慮すべき点がある。まずは従来使用されている薬から開始して、患者の年齢、性別、重症度などを考慮し、希望によってはバイオシミラーの使用も検討するなど、個別の対応が求められる。 最後に同氏は、「患者さんは不安を抱えながら治療を受けていることを念頭に置き、情報を共有したうえで治療を進めていくことが重要。一方的な治療は、薬の効果が十分に得られなくなったり、他の薬による副作用がこの薬のせいだと思い込まれたりする恐れがある。そういったことを防ぐためにも、医師、看護師、メディカルスタッフそれぞれが高い専門性を持ち、チームとして総合的なケアを行うことが不可欠だ」とまとめた。 同氏が院長を務めるインフュージョン・クリニックでは、患者の意思決定支援や自己管理能力の向上に積極的に取り組んでおり、アプリを使った遠隔診療システムなども導入しているという。潰瘍性大腸炎の疾患啓発サイトをリリース 講演後、湯井 篤志氏(ファイザー株式会社 炎症・免疫部門)により、伊藤氏らが監修を行った潰瘍性大腸炎に関する情報提供サイト「UC tomorrow」が紹介された。 本サイトは、潰瘍性大腸炎の患者や家族に向けた疾患啓発・説明サイトとして構成され、主なコンテンツは「病気を知る」「治療を知る」「医師への相談シート」の3つ。疾患や治療方法などの基本情報をQ&A方式で掲載し、疾患理解や治療ステージに応じた治療選択肢の認知向上を促す。医師と患者のコミュニケーションが円滑に進むように「治療目標の重要性」を伝えるページもある。 サイト名には、潰瘍性大腸炎の患者・家族が「未来(明日)を前向きに生活できるように」という思いが込められている。

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小児の潰瘍性大腸炎、ステロイドフリー寛解予測因子とは/Lancet

 新たに潰瘍性大腸炎(UC)と診断された小児患者において、52週時のステロイドフリー(メサラジン単独療法)寛解の予測に、初期の臨床的活動性および4週までの治療反応が有用であることが、米国・コネチカット小児医療センターのJeffrey S. Hyams氏らによる検討の結果、明らかにされた。新たに診断された小児UCについては、エビデンスベースのアウトカムデータの不足が、作成された治療計画に不確実性をもたらしている、として問題視されていた。著者は、「個別的な臨床的/生物学的特性を明らかにすることで、確固たるUC治療方針の提示につながることが示された」と述べている。Lancet誌オンライン版2019年3月29日号掲載の報告。4~17歳の新規UC患者で52週時のステロイドフリー寛解を評価 研究グループは、UC小児患者を対象に、治療前の臨床的因子やトランスクリプトームおよび微生物因子により、疾患経過を予測できるかを検証するため、多施設共同発端コホート研究「The predicting response to standardized pediatric colitis therapy study:PROTECT研究」を行った。 アメリカとカナダの29施設で、新たにUCと診断された4~17歳の小児患者(小児用活動性指標のPUCAIスコア≧10)を登録し、免疫調整薬(チオプリン)/抗TNFα療法へ段階的に切り替えるための事前に決められた基準に従い、メサラジンまたはステロイドを投与する標準治療を行った。また、治療前にRNAシーケンシングにより直腸の遺伝子発現を、16Sシーケンシングを用いて直腸および糞便の微生物叢を調べた。 主要評価項目は、52週時でのステロイドフリー寛解(メサラジン以外の治療なし)とし、ロジスティック回帰モデルを用いて要因と主要アウトカムとの関連性を評価した(per-protocol解析)。4週までの臨床的寛解がステロイドフリー寛解の予測に重要 2012年7月10日~2015年4月21日に467例が登録され、428例が薬物療法を開始した。このうち52週時に評価が可能だったのは400例(93%)で、386例(90%)が試験を完遂した。 52週時のステロイドフリー寛解率は38%(150/400例)で、うち147例(98%)がメサラジンを内服しており、3例(2%)は何も内服していなかった。400例中74例(19%)が免疫調整薬単独投与、123例(31%)が抗TNFα療法、25例(6%)が結腸切除へ治療を変更していた。 ベースラインの臨床的重症度が低く、ヘモグロビン高値、4週時の臨床的寛解が、52週時でのステロイドフリー寛解達成と関連していた(386例、ロジスティックモデルのROC曲線下面積[AUC]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.65~0.75、特異度77%[95%CI:71~82])。 274例の独立コホートでベースライン重症度と4週時の寛解について検証した結果、臨床的な予測因子を調整後、抗菌ペプチド遺伝子シグネチャー(オッズ比[OR]:0.57、95%CI:0.39~0.81、p=0.002)、ルミノコッカス属の存在度(OR:1.43、95%CI:1.02~2.00、p=0.04)、Sutterella(OR:0.81、95%CI:0.65~1.00、p=0.05)が52週時のステロイドフリー寛解と関連することが確認された。

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原発性硬化性胆管炎〔primary sclerosing cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)は、小胆管周囲にonion-skin様の結合織に囲まれる炎症により特徴付けられる肝の慢性炎症である。結合織の増加により胆管は狭窄、閉塞を起こし、胆汁うっ滞を来し、閉塞性黄疸となり、最終的には肝硬変、肝不全に進展する。PSCの発症・進展には、自己免疫機序が深く関わることが推定されているものの、血清学的に特異的な免疫指標は残念ながら同定されておらず、病因は現在も不明である。■ 疫学2012年の全国疫学調査によると、国内症例数は2,300名前後、人口10万人当たりの有病率は0.95程度と推測されている。しかし、欧米諸国で近年発症率の増加が報告されていること、画像検査の進歩により診断率が向上していることにより、実際の患者数はもう少し多いことが推察される。患者は、男性にやや多く、20代と60代の二峰性を示す。わが国では肝内・肝外胆管両者の罹患症例が多く、潰瘍性大腸炎の罹患合併が34%で、とくに若年者に高率である。また、胆管がんの合併を7.3%に認めている。■ 病因PSCには炎症性腸疾患との関連が認められており、欧米ではPSC患者の80%で合併がみられるが、わが国ではその頻度は低く、とくに高齢者では合併例は少ない。潰瘍性大腸炎患者の約5%とクローン病患者の約1%がPSCを発症する。こうした関連性といくつかの自己抗体(例:抗平滑筋抗体、核周囲型抗好中球抗体[pANCA])の存在から、免疫を介した発生機序が示唆されている。T細胞が胆管の破壊に関与するとみられることから、細胞性免疫の障害が示唆されている。家系内で集積傾向がみられ、自己免疫疾患との相関もしばしば報告され、HLAB8およびHLADR3を有する人々での頻度がより高いことから、遺伝的素因の存在が示唆されている。遺伝的素因のある人々では、おそらく原因不明の誘因(例:細菌感染、虚血性の胆管傷害など)によってPSCが引き起こされると考えられている。■ 症候病初期には無症状で、偶然の機会に胆道系酵素の上昇などで発見されることもある。発症は通常潜行性で、進行性の疲労や掻痒感が認められる場合が多い。約10~15%の症例では、右上腹部痛と発熱を認める。診断時の症状についての全国アンケート調査では、黄疸28%、掻痒感16%が認められるとの報告がある。病態が進行すれば、脂肪便、脂溶性ビタミン欠乏を来す場合があり、持続性の黄疸により病態は進行し、肝硬変の症状を呈する。約75%の症例で症状を伴う胆石や総胆管結石症を伴うことが報告されている。なお、一部の症例では晩期まで無症状のまま経過し、肝脾腫、肝硬変の状態で診断される場合もあるが、本疾患は緩徐ながら確実に進行し、末期には非代償期肝硬変に至る。診断から肝不全に至るまでの期間は、約12年とされている。なお、合併が多い炎症性腸疾患とは独立した経過をたどり、潰瘍性大腸炎はPSCに数年遅れて発現するケースがあり、合併が認められた場合、潰瘍性大腸炎は比較的軽症の経過をとる傾向があるとされている。結腸全摘術を施行された場合でも、PSCの経過には変化がないことが報告されている。そのほか、PSCと炎症性腸疾患両者が存在すると大腸がんのリスクが上昇し、このリスクはPSCに対して肝移植を施行しても変わらないことが報告されている。■ 予後わが国の全国調査によれば、肝移植なしの5年生存率は75%とされている。肝移植症例では、とくに近親者からの移植症例で再発が高頻度であるとの報告がある。早期症例では、肝硬変に至るまでの期間は15~20年とされているが、8~10%の症例では胆管がんの合併があるので注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)確定診断に至る臨床的特異的マーカーは存在せず、また、肝生検でも確定診断は困難である。診断は、肝内外胆管病変の画像診断によるが、類似の画像所見を示す疾患、とくに自己免疫性膵炎(AIP)に伴う胆管炎との鑑別が重要である。診断に当たっては、以下の臨床像に十分留意する。(1)胆汁うっ滞に基づく腹痛、発熱、黄疸などの症状、(2)炎症性腸疾患、とくに潰瘍性大腸炎の存在、(3)6ヵ月以上持続する胆道系酵素、AlPの正常上限2~3倍以上の持続上昇。 また、画像所見や超音波検査では、(1)散在する胆管内腔の狭窄と拡張、(2)散在する胆管壁肥厚に留意が必要となる。そして、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では(1)肝内外胆管の散在する輪状、膜状、帯状狭窄および憩室様突出、数珠状狭窄、(2)肝内外胆管の毛羽立ち、刷子縁様の不整像、(3)肝内胆管分枝像の減少、(4)肝外胆管狭窄に符合しない肝内胆管拡張、などの特徴的所見が認められ、ERCP施行によりこれら所見はより明確になる(図1、2)。(図1、2入る)画像を拡大する画像を拡大するなお、診断確定に当たっては、以下の(1)~(9)の疾患の除外が重要であり、IgG4関連硬化性胆管炎の鑑別も重要である(下に挙げた厚生労働省研究班の診断基準を参照)。(1)IgG4関連硬化性胆管炎、(2)胆道感染症による胆管炎、(3)胆道悪性腫瘍、(4)胆管結石、(5)腐食性硬化性胆管炎、(6)先天性胆道異常、(7)虚血性胆管狭窄、(8)胆道外科手術後状態、(9)floxuridine動注による胆管障害。病変の広がりにより、1)肝内型、2)肝外型、3)肝内外型に分類される。2016年原発性硬化性胆管炎診断基準厚生労働省難治性肝・胆道疾患に関する調査研究班(滝川班)【原発性硬化性胆管炎の疾患概念】原発性硬化性胆管炎は病理学的に慢性炎症と線維化を特徴とする慢性の胆汁うっ滞を来す疾患であり、進行すると肝内外の胆管にびまん性の狭窄と壁肥厚が出現する。病因は不明である。胆管上皮に強い炎症が惹起され、胆管上皮障害が生ずる。診断においてはIgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、悪性腫瘍を除外することが重要である。わが国における原発性硬化性胆管炎の診断時年齢分布は2峰性を呈し、若年層では高率に炎症性腸疾患を合併する。持続する胆汁うっ滞の結果、肝硬変、肝不全に至ることがある。有効性が確認された治療薬はなく、肝移植が唯一の根治療法である。【原発性硬化性胆管炎の診断基準】IgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、胆管がんなどの悪性腫瘍を除外することが必要である。A.診断項目I.大項目A. 胆管像1)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認める。2)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認めない。B. アルカリフォスファターゼ値の上昇II.小項目a. 炎症性腸疾患の合併b. 肝組織像(線維性胆管炎/onion skin lesion)B.診断上記による確診・準確診のみを原発性硬化性胆管炎として取り扱う。*IgG4関連硬化性胆管炎は、“Clinical diagnostic criteria of IgG4-related sclerosing cholangitis 2012”(Ohara H,et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2012;19:536-542.)により診断する。**2次性硬化性胆管炎は以下の通りである(Nakazawa T, et al. World J Gastroenterol. 2013;19:7661-7670.)。先天性カロリ病Cystic fibrosis慢性閉塞性総胆管結石胆管狭窄(外科手術時の損傷によるもの、慢性膵炎によるもの)Mirizzi症候群肝移植後の吻合狭窄腫瘍(良性、悪性、転移性)感染性細菌性胆管炎再発性化膿性胆管炎寄生虫感染(cryptosporidiosis、microsporidiosis)サイトメガロウイルス感染中毒性アルコールホルムアルデヒド高張生理食塩水の胆管内誤注入免疫異常好酸球性胆管炎AIDSに伴うもの虚血性血管損傷外傷後性硬化性胆管炎肝移植後肝動脈塞栓肝移植後の拒絶反応(急性、慢性)肝動脈抗がん剤動注に関連するもの経カテーテル肝動脈塞栓術浸潤性病変全身性血管炎アミロイドーシスサルコイドーシス全身性肥満細胞症好酸球増加症候群Hodgkin病黄色肉芽腫性胆管炎通常、肝生検は診断に必須ではないが、施行した場合には、胆管増生、胆管周囲の線維化、炎症、および胆管の消失が認められる。疾患が進行するにつれて、胆管周囲の線維化が門脈域から拡大していき、最終的には続発性胆汁性肝硬変に至る。なお、小児症例では、自己免疫性肝炎との鑑別が困難な症例が多数存在することに、注意が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確立された治療法は現在なく、進行した場合は、肝移植が唯一の治療法となる。通常、無症状の患者はモニタリング(身体診察と肝機能検査を年2回など)のみで経過観察する。ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ[5mg/kg、1日3回、経口、最大15mg/kg/日])は、掻痒を緩和し、生化学マーカー値を改善し、現在第1選択薬となっており、2012年の全国調査でも81%の症例で投与されているが、残念ながら、生存率は改善できない。脂質異常症の治療薬であるベザフィブラート(同:ベザトール)のPSCに対する有効性も報告されているが、報告では胆道系酵素の改善のみで、組織学的な改善や画像診断上の改善を促すものではないが、ウルソデオキシコール酸治療で十分な効果が得られなかった症例でも一定の改善効果がある点が注目されている。慢性胆汁うっ滞および肝硬変に至った場合には、支持療法が必要である。細菌性胆管炎の発症時には、抗菌薬が必要であり、必要に応じて治療的ERCPも施行する。単一の狭窄が閉塞の主な原因と考えられる場合(優位な狭窄、約20%の患者にみられる)は、ERCPによる拡張術(腫瘍の確認のための擦過細胞診も行う)とステント留置術により症状を緩和することができる。PSC患者では、肝移植が期待余命を延長する唯一の治療法であり、治癒も可能である。繰り返す細菌性胆管炎または肝疾患末期の合併症(例:難治性腹水、門脈大循環性脳症、食道静脈瘤出血)には、肝移植が妥当な適応である。脳死肝移植が少ない本邦では生体肝移植が主に行われているが、生体肝移植後PSCの再発率が高い可能性が、わが国から報告されている。4 今後の展望診断に有用な臨床マーカーの確立、病態の解明とそれに基づいた治療法の確立が大きな課題である。5 主たる診療科消化器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 原発性硬化性胆管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nakazawa T, et al. J Gastroenterol. 2017;52:838-844.2)Chapman R,et al. Hepatology. 2010;51:660-678.公開履歴初回2019年4月9日

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第15回 内科からのエリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Campylobacter coli属・・・11名全員Salmonella Enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス)・・・1名Escherichia coli(大腸菌)・・・1名Arcobacter属・・・1名Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)・・・1名腹痛、下痢、鶏肉から 奥村雪男さん(薬局)カンピロバクター属が原因菌と予想されます。下痢と腹痛から市中腸管感染症で、加熱不十分の鶏肉を食べたこと、検査はおそらくグラム染色だったのではないでしょうか。カンピロバクターのグラム染色での感度は30%程度のようですが、特異度が高いので確定診断に至ったのだと考えます。カンピロバクターは一般的には補液などの対症療法で自然軽快することがほとんどとされていますが、早期治療による菌の排出期間短縮と症状軽減があったとの報告があります1)。キノロン系薬剤への耐性化が進んでいるため、マクロライド系薬剤が第一選択であり、下記が推奨されています1)。クラリスロマイシン経口 1回200mg 1日2回 3~5日間アジスロマイシン経口 1回500mg 1日1回 3~5日間エリスロマイシン経口 1回200mg 1日4回 3~5日間Q2 患者さんに確認することは?どのような検査をしたか わらび餅さん(病院)できればどのような検査をしたか聞きます。培養ではっきり菌を特定するには、通常は数日かかるからです。下痢と腹痛が主訴ですが、可能なら血便など重症だと判断する情報があるのか聞きたいです。潰瘍性大腸炎の可能性も? 中堅薬剤師さん(薬局)併用薬と副作用歴です。また、可能であれば潰瘍性大腸炎の除外診断を医師がしているかどうかも確認したいです。今回は検査結果があるので可能性はあまりないと思いますが、開業医が第六感で「感染性腸炎」と誤診し、潰瘍性大腸炎が重症化することが非常に多い、と広域病院の消化器科医の講演を聞いたことがあります。必要に応じて、潰瘍性大腸炎の可能性も考慮して対応することが重要だと考えます。併用薬について 荒川隆之さん(病院)併用薬を必ず確認します。エリスロマイシンはCYP3A4で代謝される薬剤と併用した場合、併用薬の代謝が阻害され血中濃度が上昇する可能性があります。また、P糖タンパクを介して排出される薬剤と併用した場合、併用薬剤の排出が阻害され血中濃度が上昇する可能性があります。ピモジドなどの併用禁忌の確認 奥村雪男さん(薬局)エリスロマイシンはマクロライド系抗菌薬の中でもCYP3A4 阻害作用が強いので、ピモジドなどの併用禁忌薬剤を服用していないか確認します。マクロライド系抗菌薬のCYP3A4阻害様式はMBI(Mechanical based inhibition)で、服用開始から数日程度で阻害作用が最大になり、服用終了から数日程度で阻害作用は消失すると考えられます2)。そのため、服薬終了後も併用薬に注意が必要です。自炊かどうか 児玉暁人さん(病院)可能なら鶏肉をどこで食べたか確認します。飲食店なのか自宅で自炊をしてなのか。一人暮らしで自炊しているのであれば、しっかり加熱する、二食肉は他の食品と調理器具や容器を分けて処理や保存を行う、食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱う、食肉に触れた調理器具などは使用後洗浄・殺菌を行うなどのアドバイスができるかもしれません。Q3 疑義照会する?する・・・5人エリスロマイシンの用量 キャンプ人さん(病院)エリスロマイシンの1 回用量が多いように思うので、確認します。ガイドラインでは1回200mg 1日4回 3~5日間1)とされています。重症でなければ自然軽快する場合が多い 清水直明さん(病院)カンピロバクター腸炎の場合、重症でなければ抗菌薬の投与なしで自然に軽快する場合がほとんどです。処方医と信頼関係ができていれば、説明した上で「抗菌薬は不要かもしれません」と提案するでしょう。他剤への変更 JITHURYOUさん(病院)本症例は、重症感がなくカンピロバクター自体は自然軽快することが多いため、抗菌薬は不要ではないかと感じます。それでも医師が抗菌薬は必要だとするなら、現時点で消化器症状があるのでクラリスロマイシンに変更提案します。エリスロマイシンより消化器作用が少ないこと、添付文書上の適応のためです。併用薬がある場合には、相互作用の少ないアジスロマイシンに変更提案します。可能なら抗菌薬処方なしにもっていきたいです。しない・・・6人3日間投与は適切 中堅薬剤師さん(薬局)ガイドラインには、カンピロバクターは世界的にキノロン系薬の耐性化が進んでおり、マクロライドを第一選択にすると記載されています1)が、マクロライド耐性も問題化しつつあるようなので、まず3日間投与は適切ではないでしょうか。エンピリック処方かどうか わらび餅さん(病院)患者さんの聞き取りを踏まえ、カンピロバクターと予想した上でのエンピリック処方だと判断できれば、疑義照会しません。ただし、原因菌と特定されていればエリスロマイシンの用法を確認します。もし、アドヒアランスなどを考慮して用法を1日3回としていたら、アジスロマイシン1日1回でもよいのでは、と聞ければ聞きます。海外での使用例やPAE※も考慮 ふな3さん(薬局)エリスロマイシンは半減期が1.5時間程度と短めのため、1日3回ではちょっと不安ですが、カンピロバクターへの適応はないものの米国などでは1,000mg/2×などの処方もあるようです。PAEも期待できることから、疑義照会はしないと思います。※post-antibiotic effect。血中や組織中から抗菌薬が消失しても、一定期間、病原菌の増殖が抑制される効果1日3回が難しければ処方提案 児玉暁人さん(病院)エリスロマイシンの1回量が多く、回数も3回ですが、適宜増減の範囲内と考え、疑義照会はしません。ただし、1日3回の内服が難しそうであればクラリスロマイシン1回200mg 1日2回 3日分の処方提案をします。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?しっかり飲みきること キャンプ人さん(病院)指示されている期間しっかり服用することです。また、エリスロマイシンのモチリン様作用(消化管運動亢進作用)により、消化管の蠕動運動が活発になることを説明しておきます。服用時間について ふな3さん(薬局)1回目の分はすぐに飲み始めること。2回目は6時間程度あけて服用。1日3回、3日間飲みきることを伝えます。下痢についての説明 清水直明さん(病院)「今回、下痢止めは出されていませんが、下痢止めを服用しなくても数日で回復してくると思います。治りを遅くすることがあるので、市販の下痢止めは服用しないでください。」脱水に注意 JITHURYOUさん(病院)現時点で重症感はなさそうですが、水分補給して脱水に注意し、安静にするよう伝えます。はっきりと重症化しないとはいえませんが、年齢的に考えてみても整腸剤だけで経過観察でもよかったかもしれませんね。他院受診時にお薬手帳を持参 奥村雪男さん(薬局)今回の抗菌薬は服薬終了後も数日間程度飲み合わせに注意が必要なので、他院にかかる場合はお薬手帳を持参することを伝えます。Q5 その他、気付いたことは?ボツリヌス毒素の可能性も? ふな3さん(薬局)「古いパックの食品も疑われた」という言葉から、ボツリヌス毒素の疑いもあったのかもしれません。また、カンピロバクターからのギランバレー症候群の発症のリスクもあるため、下記のような症状が出たら、すぐに医師に連絡するよう伝えたいです。口内乾燥、嚥下困難、複視、視力低下(ボツリヌス中毒)四肢の脱力(ボツリヌス中毒、ギランバレー)エリスロマイシンの処方意図 柏木紀久さん(薬局)今回の症例はあまり抗菌薬の必要性を感じませんが、排菌の促進や消化管運動の促進を期待して3日分の処方かな?と思いました。ギランバレー症候群と菌血症 奥村雪男さん(薬局)カンピロバクター感染症の合併症に、ギランバレー症候群と菌血症が知られています。0.1%以下でギランバレー症候群の報告があり、感染後2~3週後に発症するようです3、4)。発症はまれなので不安をあおらないように伝えません。菌血症は1%程度に報告があり4)、高齢者に多いようです。若年では検査陽性になるころには自然治癒するようで、あまり心配ないかもしれませんが、知識として持っておく必要があると思います。後日談(担当した薬剤師から)調剤した日の閉局間際に「薬を飲んだら、余計にお腹の調子が悪くなりました。どうしたらいいですか?」と電話がかかってきました。実は、薬を渡すときにモチリン様作用の説明をするのを忘れていたことに気付きました。「原因の菌を退治するだけでなく、胃腸の動きを活発にさせる作用もあるお薬ですので、自然とその症状は治まります。菌の排出も早まりますので、辛抱して内服を続けてください」と返事をしました。無事治療が終了したのか、後日の来局はありませんでした。1)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―. 一般社団法人日本感染症学会、2016.2)鈴木洋史監. これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの基本と実践. 東京、じほう、2014.3)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.4)酒見英太監. ジェネラリストのための内科診断リファレンス. 第1版. 東京、医学書院、2014.[PharmaTribune 2017年6月号掲載]

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潰瘍性大腸炎〔UC : ulcerative colitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義潰瘍性大腸炎は、クローン病とともに炎症性腸疾患の1つで、主に粘膜および粘膜下層を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する大腸の原因不明のびまん性非特異性炎症である。■ 疫学欧米に多く、白人とくにユダヤ系での発症が多いとされる。日本を含めた東アジアでも増加の一途をたどっている。難病であることから、わが国では指定難病に指定されており、患者数は20万人以上とされ、さらに毎年1万人程度増加している。性差はみられず、発症年齢は10代後半~30代に多く、25~29歳にピークがみられる。■ 病因発症原因はいまだ不明であるが、研究は飛躍的に進み、これまでの免疫学的な研究をはじめ、近年「genome-wide association study(GWAS)」により160以上の疾患関連遺伝子が特定され、また発症に関連する腸内細菌についても多くのことがわかり始めている。遺伝的素因、環境因子を背景に腸内細菌の影響の存在のうえで免疫異常を来し、腸管での免疫寛容が破綻することで慢性腸炎を誘導する。潰瘍性大腸炎ではクローン病とは対照的に、喫煙者の発症リスクは低い。発症自体とストレスの関連性は立証されていない。■ 症状主症状は粘血便(40%)、下痢(40%)、腹痛(30%)で、発熱や出血に伴う貧血もみられる。合併症は長期経過例での発がん、腸管外合併症として原発性硬化性胆管炎、仙腸関節炎や強直性脊椎炎などの関節炎、結節性紅斑や壊疽性膿皮症などの皮膚病変などがある。また、重症例では血栓傾向を認め、静脈血栓症のリスクがある。■ 分類治療法を選択するうえで、病期・病型(病変の広がり)・重症度を分類することが重要である。活動期か寛解期か、活動期であれば重症度(軽症〔63%〕・中等症〔28%〕・重症〔3%〕)(表1)および内視鏡所見(軽度・中等度・強度)(図1)はどうか、そして病型(直腸炎型〔22%〕、左側大腸炎型〔27%〕、全大腸炎型〔38%〕、右側あるいは区域性大腸炎)によっては局所製剤の適応を考慮することとなる。そのほか、臨床経過により再燃寛解型、慢性持続型、急性劇症型、初回発作型に分類される。難治性潰瘍性大腸炎の定義は、厳格なステロイド療法にありながらステロイド抵抗例あるいはステロイド依存例、またステロイド以外の厳密な内科治療下にありながら、再燃を繰り返すか慢性持続型を呈するものとされる。画像を拡大する画像を拡大する■ 予後治療介入の影響があるため、潰瘍性大腸炎の自然史は不明な点が多いが、炎症性腸疾患の自然治癒率は10%とされる。また、長期経過において50%は病状が安定していく。全大腸切除率は、欧米のコホート研究では発症1年で10%、2年目で4%、以降1年ごとに1%増加し、わが国では10年後の累積手術率は15%、とくに全大腸炎型では40%と高率である。死亡率についてはメタ解析によると、標準化死亡率は1.1で一般と差がない。炎症型発がんに起因する大腸がんの発生は、発症8年で1.6%、20年で8%、30年で18%と増加し、全大腸炎型に多いが、治療の進歩により近年では発がん率が減少しているとする報告もある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断において最も重要なのが、病歴の聴取である。慢性の下痢・粘血便で潰瘍性大腸炎を疑い、病歴や細菌検査などで腸結核やアメーバ性大腸炎を含めた感染性腸炎・放射線照射性大腸炎・薬剤性大腸炎・虚血性大腸炎などを除外する。次に大腸内視鏡検査を行い、特徴的な病変を確認し生検を併用する。内視鏡所見では、直腸から連続する全周性・びまん性の活動性炎症を認め、粘膜浮腫による血管透見消失から細顆粒状粘膜、膿性粘液が付着し、易出血性、びらん・潰瘍形成、広範な粘膜の脱落と炎症の強度が上がる。病理組織検査では、慢性炎症の所見があるかないかで炎症性腸疾患か否か判別し、そうであれば潰瘍性大腸炎かクローン病かを検討する。これらの所見で総合的に判断するが、クローン病や腸型ベーチェットの鑑別も重要である。診断の確定は診断基準(表2)に照らし合わせて行う(図2)。画像を拡大する画像を拡大する「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(鈴木班).平成29年度分担研究報告書.潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 平成29年度改訂版 別冊.2018.3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療は、寛解導入療法とその後の寛解維持療法の双方を考えながら選択していく。厚生労働省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(鈴木班)の潰瘍性大腸炎治療指針を示す(表3)。寛解導入療法は、臨床的重症度と病型によって選択される(図3)。重症例や全身状態が不良な中等症では、入院のうえ、全身管理を行いながら治療をする。近年、重症例や難治例に対しタクロリムス(商品名:プログラフ)やインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)、ゴリムマブ(同:シンポニー)(図4)、さらには2018年にトファシチニブ(同:ゼルヤンツ)、ベドリズマブ(同:エンタイビオ)と新たな治療の選択肢が増えたが、効果不十分な場合に次々と別の治療法を試すのには慎重であるべきで、外科治療のタイミングを誤らないようにすることが重要である。画像を拡大する「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(鈴木班).平成29年度分担研究報告書.潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 平成29年度改訂版 別冊.2018.画像を拡大する「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(鈴木班).平成29年度分担研究報告書.潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 平成29年度改訂版 別冊.2018.画像を拡大する「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(鈴木班).平成29年度分担研究報告書.潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 平成29年度改訂版 別冊.2018.重症例やステロイド抵抗例・依存例つまり難治例において、タクロリムスやインフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、シクロスポリン、トファシチニブ、ベドリズマブを使用する際は、専門施設での施行が望ましい。ステロイド、抗TNFα抗体や免疫調節薬を使用する際は、肝臓学会のガイドラインに沿ってHBV再活性化に対するサーベイランスが必要である。また、入院中の絶食は治療効果に影響しないばかりでなく栄養状態の悪化を招き、回復の遅延や術後合併症のリスクとなるため、大量出血や高度な腹痛などの超急性期以外は安易に選択するべきではない。維持治療においては、十分量を長期に使用することが重要で、いずれの維持治療においても薬剤中止後1年で50%が再燃するため、特段の事情がない限りは中止するべきではない。また、再燃の最大のリスクは、服薬アドヒアランスの低下であり、十分な服薬指導と定期的な確認が重要である。1)5アミノサリチル酸(5-ASA)製剤サラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリンほか)、メサラジン(同:ペンタサ、アサコール、リアルダ)が、わが国で使用できる5-ASA製剤である。炎症性腸疾患治療の基準薬であり、50~80%の寛解導入効果がある。また、寛解維持にも優れ、十分量を長期に使用することが重要である。4g/日以上の高用量導入が可能になり、ステロイドの投与を避けられる症例が増えた。まれに導入後・増量後に発熱・下痢を来すことがあるので5-ASAアレルギーを疑い、5-ASAでの維持が困難な場合は、後述の免疫調節薬にて維持治療を行うことになる。分割投与よりも1回または2回での投与のほうが、服薬アドヒアランスのみならず効果としても優れる可能性があり、2g/日では分1投与が認められている。また、リアルダは4.8g/日の1回投与製剤であり、より高用量の投与ができかつアドヒアランスの面でも有用である。直腸病変や遠位大腸病変には局所製剤の単独ないし併用が有用である。2)ステロイド寛解導入療法として中心的な薬剤であり、十分量の5-ASA製剤で効果不十分 な場合はステロイドの全身投与を行う。短期的には84%で有効である。しかし、離脱率は50%のみで、30%は手術、20%はステロイド依存となっていた。中等症では30~40mg経口投与を行い、1~2週間で効果判定を行う。重症潰瘍性大腸炎においては、ステロイド1~1.5mg/kgの静注療法を行うことで、約半数で寛解導入が可能である。さらに増量したとしても効果の増強は認めず副作用の危険のみが増すことが知られている。ステロイドが無効または効果不十分な場合は、ステロイド抵抗例として難治例の治療を行うことになる。維持療法としてのエビデンスはなく、寛解導入後は3~4ヵ月を目安に漸減・中止し、5-ASA製剤等での寛解維持療法へ移行する。漸減中の再燃または中止後早期の再燃を認める場合は、ステロイド依存例として免疫調節薬での寛解維持療法を行うことが望ましい。坐剤や注腸といった局所製剤は5ASA製剤が第1選択とされるが、ブデソニド注腸フォーム剤(同:レクタブル注腸フォーム)は他の注腸製剤より忍容性が高く、またブデソニドであるためステロイドによる副作用も軽減できるとされる。3)免疫調節薬アザチオプリン〔AZA〕(同:イムラン、アザニン)、メルカプトプリン〔6-MP〕(同:ロイケリン/保険適用外)。効果発現に1~3ヵ月を要するため、急速な寛解導入には向かず、主に寛解維持治療に使用する。約60%の良好な寛解維持率を認め、ステロイド減量効果も明らかとなっておりステロイド依存例の寛解維持治療に重要である。不耐症例があるため、導入初期は短期間でのモニタリングが必要である。適正投与量は個体によって異なるため、少量から開始し、WBC 3,000~4,000/μL程度への減少を目安にAZA 2~2.5mg/kg、6-MP 1~1.5mg/kgを目処に増量を試みる。感染症のリスクは、ステロイドに比較すると低い。4)タクロリムス(同:プログラフ)化合物としてはまったく異なるが、シクロスポリンと同様にカルシニューリン阻害剤として作用し、IL-2やIFN-γなどのサイトカイン産生を抑制する。わが国で開発された薬剤で、中等症~重症の潰瘍性大腸炎においてRCT(無作為化比較試験)で68%と高い改善率が認められた。添付文書の導入法では、目標血中トラフに到達するのに比較的長期間を要するため、専門施設を中心に速やかに上昇させる工夫がなされている。食前や絶食下での経口投与、高用量導入、また一部施設では持続静注によって急速に血中濃度を上昇させ、速やかな効果発現を得ている。寛解維持効果も示唆されているが、原則として3ヵ月を目安に中止するため、寛解導入後は免疫調節薬での寛解維持が望ましい。5)シクロスポリン(同:サンディシュン、ネオーラル / 保険適用外)タクロリムス同様カルシニューリン阻害剤として作用する。シクロスポリン持続静注は、ステロイド抵抗性の重症潰瘍性大腸炎に対し有効率は70~80%と高いが、長期成績は3年後の手術率50%、7年後88%と不良で、シクロスポリンで寛解導入した場合は、寛解維持に免疫調節薬が必要である。タクロリムスと異なり腸管からの吸収が安定しないため、経口投与での血中濃度の維持が困難であり、シクロスポリンでの寛解維持はできない。6)抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブ〔レミケード®〕、アダリムマブ〔ヒュミラ®〕、ゴリムマブ〔シンポニー®〕)寛解導入および寛解維持に用いる。大規模なRCTの結果、抗TNFα抗体であるインフリキシマブがクローン病、関節リウマチなどに続き、認可された。既存治療抵抗性の中等症~重症潰瘍性大腸炎に対し、導入8週で69%の有効率、38.8%の寛解導入率を認め、30週で34%の寛解維持効果を示した。クローン病と同様に5mg/kgを0週、2週、6週で投与し、以降は8週毎の投与となる。潰瘍性大腸炎においては、効果減弱の際の倍量投与は認められていない。また、2013年6月ヒト抗体のアダリムマブが、潰瘍性大腸炎にも認可され、初回は160mg、2週後に80mg、以降は2週毎に40mgの皮下注射を行うが、これは自己注射が可能である。さらに2017年3月に4週間毎の皮下注射製剤であるヒト抗体のゴリムマブが適用追加となった。いずれの薬剤も導入前に胸部単純X線検査(必要に応じて胸部CT検査)、ツ反、IFN-γ遊離試験(IFN-γ release assay 〔IGRA〕: クオンティフェロン、TSPOTなど)で結核の感染を否定する必要がある。7)JAK阻害薬(トファシチニブ〔同:ゼルヤンツ〕)寛解導入および寛解維持に用いる。シグナル伝達分子をターゲットとした経口JAK阻害薬である。低分子化合物で、抗体製剤ではないため抗薬物抗体の産生による効果減弱は回避でき、また製造コストの抑制も可能である。既存治療抵抗性の潰瘍性大腸炎に対する第3相試験において、8週で約60%の改善率と18%の寛解導入率という有効性が示され、2018年5月に潰瘍性大腸炎に対して適用拡大となった。寛解維持率は、寛解導入試験で有効性を示した症例で52週の時点で34~40%の症例で寛解維持が得られた。なお、抗TNFα抗体製剤未使用例では寛解導入率25%で無効・効果減弱・不耐例では12%で、寛解維持率はそれぞれ5mg1日2回で27%、41%、10mg1日2回で37%、45%であった。投与法は1回10mgを1日2回、8週間投与し、効果不十分な場合はさらに8週間投与が可能である。寛解維持療法としては1回5mgを1日2回投与だが10mgを1日2回に増量することができる。なお、治験ではアジア人の比較的高齢者においてヘルペス感染症の発症が多く、注意が必要である。8) 抗α4β7インテグリン抗体(ベドリズマブ〔同:エンタイビオ〕)炎症細胞の腸管へのホーミングを阻害することで、炎症を抑制する。潰瘍性大腸炎に対する第3相試験であるGEMINI 1で47%の改善率と17%の寛解導入効果、52週において40~45%の寛解維持効果が示され、2014年に欧米で承認・発売となった。わが国においても臨床試験が行われ、2018年7月に承認された。300mgを0週、2週、6週で投与し、以降は8週毎の投与となる。腸管選択性が高いため、全身の免疫への影響が低いと考えられており、安全性に期待されている。薬理機序上効果発現はやや遅い印象があるが、寛解維持率が高く寛解維持療法における新たな選択肢として期待される。9)血球成分除去療法わが国で開発された白血球除去療法は、ステロイド抵抗例・依存例で保険適用とされ、使用されている。高用量のステロイドを要するような症例では、白血球除去療法を併用することで、より高い効果が期待でき副作用も少ないことが報告されている。しかし、海外での質の高いエビデンスは少ない。10)外科治療大腸穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症、重症・劇症で内科治療抵抗例、大腸がんおよびhigh grade dysplasia合併例では摘出手術の絶対的手術適応である。相対的手術適応例は、内科治療では寛解維持困難でQOLが保てない、または薬剤不耐などの難治例、内科治療抵抗性の壊疽性膿皮症など腸管外合併症例、狭窄や瘻孔、low grade dysplasiaなどの大腸合併症例である。術式は、大腸全摘・回腸嚢肛門吻合術(IAA)や大腸全摘・回腸嚢肛門管吻合術(IACA)が標準術式である。術後に回腸嚢炎を合併することがある。多くの報告で術後のQOLを評価しているが、いずれも術後数年でのQOLは良好である。4 今後の展望現在、創薬業界では生物製剤をはじめ分子標的薬が花盛りであり、炎症性腸疾患の分野も同様である。インフリキシマブが口火を切った炎症性サイトカインをターゲットとした抗体製剤や、接着分子をターゲットとし病原性リンパ球の腸管へのホーミングを阻害し動態制御を行うことで腸炎を抑制する薬剤、また造血幹細胞移植などが注目されている。新薬の許認可において、これまでいわゆるドラッグ・ラグがあり、有効な薬剤が欧米で使用可能でも、わが国で認可されるのが数年先となるようなことも少なくなかった。しかし近年、炎症性腸疾患の分野においては、多くが国際共同治験となり、ドラッグ・ラグは解消される方向へ向かっている。クローン病でも多くの治験が行われているが、潰瘍性大腸炎に対する今後の展開について述べる。現在臨床試験中あるいは終了している薬剤は、以下のようなものがある。炎症性サイトカインを標的とした薬剤としてJAK阻害薬が開発されている。承認されたトファシチニブに引き続いてJAK1選択性を高めた第二世代のJAK阻害薬であるフィルゴチニブやウパダシチニブなどが開発中である。クローン病において承認された抗IL12/23 p40抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)は、潰瘍性大腸炎においても臨床試験が進んでおり、また抗IL23 p19抗体であるリサンキツマブやミリキツマブなども臨床試験が進んでいる。腸炎惹起性リンパ球の動態制御を目的とした薬剤も多数開発されている。抗α4β7インテグリン抗体であるベドリズマブに続き、AJM300は、わが国で開発された経口低分子化合物でα4インテグリンを阻害する。102例の潰瘍性大腸炎を対象とした第2相試験で、8週後の有効率62.7%、寛解率23.5%と有意に有効性を示した。低分子化合物であるため低コストで生産でき、抗体製剤のように免疫原性や効果減弱といったリスクを回避できる可能性がある。現在第3相試験中である。皮下注射製剤の抗MAdCAM抗体であるPF-00547659は、消化管組織中に発現するMAdCAMに結合し、インテグリンとの結合を阻害する。潰瘍性大腸炎に対する第2相試験TURANDOTで、12週の寛解率24%と有意な結果が報告された。S1Pおよびその受容体の1つであるS1P1受容体は、リンパ球の二次リンパ組織からの移出に必須の分子であるが、S1P受容体アゴニストはS1P1受容体を強力かつ長期に内在化させることで、リンパ球の動態制御を行い、炎症を抑制する。S1P1およびS1P5受容体に作用するRPC1063が、潰瘍性大腸炎に対する第2相試験TOUCHSTONEにおいて、8週で16.4%の寛解率、58.2%の有効率を示し、現在第3相試験へと移行している。その他、ブデソニドは、ステロイドの全身性の副作用の軽減を目的に、肝臓で速やかに代謝されるようデザインされた局所作用型のステロイドであり、欧米では一般に使用されているが、前述のようにわが国でもクローン病に対する経口薬に続き、本症で経肛門投与のフォーム薬が承認・発売された。また近年、腸内細菌研究の急速な進歩によってプロバイオティクスも再度注目されている。さらに、c.difficile関連腸炎において高い有効性を示し、欧米で認可された糞便微生物移植も炎症性腸疾患への応用が試みられているが、まだ有効性や投与法などに関する十分な大規模データは不足しているのが現状である。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 潰瘍性大腸炎(一般向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本炎症性腸疾患学会(医療従事者向けの研究情報)CCFA - Crohn's and Colitis Foundation of America(米国のIBD団体のサイト:一般利用者向けと医療従事者向けの情報)ECCO - European Crohn's and Colitis Organisation(欧州のIBD団体のサイト:医療従事者向けの研究・診療情報)東京医科歯科大学 潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター(一般利用者向けの情報)厚生労働省 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(一般向けと医療従事者向けのまとまった情報、最新の診断指針・治療指針が公開されている。会員登録をすると「一目でわかるIBD」の閲覧やe-learningも可能)患者会情報IBDネットワーク(IBD患者と家族向けの情報)1)「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(鈴木班).平成29年度分担研究報告書.潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 平成29年度改訂版 別冊.2018.2)日本消化器病学会.炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2016. 南江堂; 2016.3)渡辺守 編. IBD(炎症性腸疾患)を究める. メジカルビュー社; 2011.4)炎症性腸疾患(第2版)-病因解明と診断・治療の最新知見. 日本臨牀社;2018.公開履歴初回2013年07月04日更新2018年08月28日

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添付文書改訂:ゼルヤンツ錠/トレリーフ錠/リムパーザ錠【下平博士のDIノート】第7回

ゼルヤンツ錠5mg画像を拡大する<使用上の注意>過去の治療において、ほかの薬物療法(ステロイド、免疫抑制薬または生物製剤)による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与します。<用法・用量>導入療法では、通常、成人に、トファシチニブとして1回10mgを1日2回、8週間(効果不十分な場合はさらに8週間)投与し、維持療法では1回5mgを1日2回経口投与します。なお、維持療法中に効果が減弱した患者、過去の薬物治療において難治性の患者(TNF阻害薬無効例など)では、1回10mgを1日2回投与することができます。感染症リスクの増加が予想されるので、本剤とTNF阻害薬などの生物製剤や、タクロリムス、アザチオプリンなどの強力な免疫抑制薬(局所製剤以外)との併用はできません。<Shimo's eyes>関節リウマチ治療薬として用いられてきたJAK阻害薬のトファシチニブに、国の指定難病である潰瘍性大腸炎の適応が追加されました。潰瘍性大腸炎の国内患者数は、2016年までの10年間で約1.9倍に増えました。2016年11月にメサラジン錠(商品名:リアルダ錠1200mg)、2017年12月にブデソニド(同:レクタブル2mg注腸フォーム)が相次いで発売され、海外で広く使用されているベドリズマブ(同:エンタイビオ点滴静注)も2018年7月に承認取得しています。治療選択肢が増えることにより、治療の目標となる寛解導入や寛解維持が以前より容易になることが期待されます。また、個々の患者さんの症状・生活習慣・経済状況などに合わせた治療で、より患者さんのQOL向上が見込めるでしょう。トレリーフ錠/OD錠25mg画像を拡大する<用法・用量>通常、成人にゾニサミドとして、1日1回25mgを経口投与します。<Shimo's eyes>ゾニサミドはもともと抗てんかん薬として開発され、のちにパーキンソン病治療薬として開発された薬剤です。抗てんかん薬としてはエクセグランの商品名で、パーキンソン病治療薬としてはトレリーフの商品名で、効能・効果と用法・用量を区別して発売されています。レビー小体型認知症のパーキンソニズムは、パーキンソン病のパーキンソニズムと原因や症状が同じであることから開発が進められ、追加承認となりました。ゾニサミドは、ドパミンレベルを上昇させることで、レボドパの抗パーキンソン作用を増強・延長し、レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムを改善します。通常、レボドパ含有製剤との併用療法で使用されると予想できます。レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムを適応症とする初めての薬なので、患者さんの新たな選択肢として治療への貢献が期待されます。リムパーザ錠100mg/150mg画像を拡大する<使用上の注意>(1)本剤の術前・術後薬物療法としての有効性および安全性は確立していません。(2)アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬およびタキサン系抗悪性腫瘍薬を含む化学療法歴のある患者を対象とします。(3)承認された体外診断薬などを用いた検査により、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異(病的変異または病的変異疑い)を有することが確認された患者に投与します。<用法・用量>通常、成人にはオラパリブとして300mgを1日2回、経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。100mg錠と150mg錠の生物学的同等性は示されていないため、300mgを投与する際に100mg錠を使用することはできず、100mg錠は減量時のみ使用します。<Shimo's eyes>オラパリブは、DNA損傷応答(DDR)機能を標的とした新規の作用機序を持つ、世界初のPARP阻害薬です。DNAの相同組換え修復機構が機能していないがん細胞に対して特異的に細胞死を誘導します。もともとは白金系抗悪性腫瘍薬感受性の再発卵巣がん治療薬として発売されましたが、今回の適応追加により、国内で初めて、BRCA遺伝子陽性の遺伝性乳がん治療薬として使用されることになりました。BRCA遺伝子は、アンジェリーナ・ジョリーさんが陽性であったことでも知られています。本剤は、悪心・嘔吐が高頻度で認められているため、服薬指導の際に、脱水が起こらないように水分補給や食事の工夫などのアドバイスができるとよいでしょう。

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過敏性腸症候群は炎症性腸疾患よりもうつ病が重症化しやすい

 過敏性腸症候群(IBS)患者は炎症性腸疾患(IBD)患者と比べて併存しているうつ病や不安の重症度が高いことが、中国・中日友好医院のQin Geng氏らの研究によって明らかになった。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2018年5月4日号に掲載。過敏性腸症候群のうつ病は炎症性腸疾患と比べて重症度が高い IBSやIBDといった慢性胃腸疾患の患者では、うつ病が併存している割合が高いが、IBSとIBDで一貫性のある結果は認められていない。そのため、本研究では、IBSおよびIBD患者におけるうつ病の有病率や重症度について検討した。 PubMed、PsycINFO、Embase、Cochrane Library、Wan Fang、SinoMed、Chinese National Knowledge Infrastructureを使用して、2017年9月12日までのデータについて体系的な文献探索を行い、比較解析のためのIBS患者とIBD患者を抽出した。さらに、ランダム効果モデルによって併存したうつ病の標準化平均差(standardized mean difference:SMD)とオッズ比を算出したほか、今回の解析に用いた研究から併存した不安に関するデータを抽出し、メタ解析を行った。メタ解析の質の評価はNewcastle-Ottawa Scale(NOS)を用いて行った。 過敏性腸症候群患者と炎症性腸疾患患者のうつ病の有病率や重症度を検討した主な結果は以下のとおり。・IBS患者1,244名とIBD患者1,048名が22件の研究から抽出された。・うつ病の有病率は、IBS群とIBD群で有意差はなかった(研究数10件、OR=1.18、95%CI:0.87~1.60、p=0.29)。・IBS群は、IBD群と比べて、以下の症状の重症度が高かった。 うつ病(pooled SMD=0.18、95%CI:0.04~0.33、p=0.01) 不安(pooled SMD=0.31、95%CI:0.14~0.49、p=0.0006)・22件中16件の研究が、NOSにより「質が高い」と評価された。

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潰瘍性大腸炎にはチーム医療で対抗する

 2018年7月2日、ファイザー株式会社は、同社が販売するJAK阻害剤トファシチニブ(商品名:ゼルヤンツ)が、新たに指定難病の潰瘍性大腸炎(以下「UC」と略す)への適応症追加の承認を5月25日に得たのを期し、「潰瘍性大腸炎の治療法の現在と今後の展望について」と題するプレスカンファレンスを行った。カンファレンスでは、UC診療の概要、同社が全世界で実施したUC患者の実態調査「UC ナラティブ(Narrative)」の結果などが報告された。※トファシチニブは、2013年に関節リウマチの治療薬として発売されている治療薬は特定標的を対象にした免疫抑制のステージへ はじめに「もはや“難病”ではない炎症性腸疾患の治療法の進歩とチーム医療の役割」をテーマに日比 紀文氏(北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療[IBD]センター長)が、UC診療の概要とチーム医療の重要性を説明した。 患者実数では20万人を超えるとも言われているUCは、若年発症が多く、炎症が慢性に持続するため患者のQOLを著しく低下させる。また、UCは現在も根治する治療法がなく、患者の多くは再燃と寛解を繰り返しつつ、再燃の不安を持ち日常生活を送っている。 UCの病因は現在も不明で遺伝、腸内細菌、環境因子などの要因が指摘されている。発症すると粘血便、下痢、腹痛が主症状として見られる。 治療では、従来5-ASA製剤、副腎皮質ステロイドなどを使用して寛解導入が行われ、同じく5-ASA製剤、6MP/AZA製剤などを使用して寛解維持が行われてきた。現在も5-ASA製剤が第1選択薬であることには変わりないが、近年では疾患の免疫抑制を主体とした抗TNFα抗体、抗IL12/23抗体、抗α4β7抗体、JAK阻害剤などの新しい治療薬も登場している。とくに炎症を起こすサイトカインを標的する抗TNFα抗体やJAK阻害剤などの新しい治療薬は、「初めて特定標的に対する治療となり、治療にパラダイムシフトをもたらす」と同氏は期待を寄せる。 また、治療に際しては、「速やかな寛解導入と長期間の安全な寛解維持のためにチーム医療が重要だ」と同氏は提案する。患者を中心に医師、看護師、薬剤師による治療の提供はもちろん、家族、友人、患者の社会関係者(会社や学校など)などもチームに取り込み、疾患への理解とサポートを行う必要があるという。実際にチーム医療の成果として、当院では「医療職種の特性を生かした分担と連携によるきめ細かな治療のため、難治性UCやクローン病は激減した」と同氏は自身の体験を語る。 今後、治療薬として「サイトカインを標的にしたもの」「免疫細胞の接着・浸潤を抑制するもの」「腸内微生物を調節するもの」「再生・組織修復をするもの」などの研究開発が求められるとした上で、「こうした治療薬が、患者の寛解導入・維持をより容易にし、患者が普通の日常生活を送ることができるようになる。そのためにも患者個々に合わせた手厚いチーム医療が必要で、結果としてUCが難病ではなくなる日が来る」と同氏は展望を語り、レクチャーを終えた。UC患者は医療者に遠慮している 続いて、渡辺 憲治氏(兵庫医科大学 腸管病態解析学 特任准教授)が、「潰瘍性大腸炎実態調査『UCナラティブ』の結果について」をテーマに、結果の概要を解説した。 「UCナラティブ」とは、UC患者とUCの診療をしている医師を対象に、UCに罹患している人々がどのような影響を疾患から受けているかを調査する活動。今回、全世界10ヵ国より患者2,100例、医師1,454例にオンライン調査を実施し、その結果を報告した(調査期間:患者は2017年11月21日~2018年1月9日、医師は2017年11月29日~12月20日)。 患者は、UCと確定診断され、過去12ヵ月以内に医師の診察を受け、UCの治療薬として2種類以上を服用している患者が選ばれたほか、医師では消化器専門の内科医・外科医で、毎月5人以上のUC患者を診察(同時に10%の患者に生物学的製剤を投与)している医師が対象とされた。 アンケート結果について、患者に「UCを患っていなければもっと成功したか」と聞いたところ、68%が「そう思う」と回答。医師に「UCを発症していなければ担当患者は人間関係のアプローチが違ったか」と聞いたところ63%が「そう思う」と回答し、同様に「別の仕事や進学を選んでいたか」を聞いたところ51%が「別の仕事や進学の選択をした」と回答し、UCは患者の人生などに影を落とす疾患であると認識していることがわかった。 患者から医師に理解して欲しいUCの経験については「生活の質への影響」(35%)「日常の疲労感」(33%)「精神衛生面への影響」(30%)の順で多く、医師が患者と話し合うトピックスについては「治療オプションの利益とリスク」(75%)「副作用への懸念」(75%)「患者のアドヒアランス」(69%)の順で多く、両者の間にギャップがあることが明らかになった(いずれも複数回答)。また、患者から医師に「気兼ねなく心配や不安を話すことができるか」との質問では、81%が「できる」と回答しているものの、その内の44%の患者は「医師に多くの質問をすると、扱いにくい患者と見られて、治療の質に悪影響を及ぼすのではないかと心配」とも回答している。 最後に同氏は、「今回のアンケート結果を踏まえ、患者と医師の視点、意識の違いを知ることで、今後の日常臨床に活かしていきたい。UCは、患者に身体的・精神的影響を及ぼし、社会に機会損失をもたらす。患者には、周囲のサポートと理解が必要である。また、医師との間では、十分なコミュニケーションが大切であり、患者を中心にしたチーム医療を推進することで、患者の人生を満足させるべく、患者と医師が同じ目標に向かう協力者となってもらいたい」と思いを語った。トファシチニブの概要 トファシチニブは、炎症性サイトカインのシグナル伝達を阻害し、炎症を抑える薬剤。効果として第III相国際共同試験(1094試験)では、プラセボ群とトファシチニブ群(10mg1日2回)の比較で、寛解率がプラセボ群8.2%に対し、トファシチニブ群は18.5%と優越性が示された。安全性では、重篤な副作用、感染症などの発現はないものの、アジア人には帯状疱疹の発現がやや高い傾向があった。なお、本剤に起因する死亡例はなかった。注意すべき副作用としてリンパ球数減少、好中球数減少、貧血などが示されている。【効能・効果】 中等症から重症のUCの寛解導入および維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)【用法・容量】・導入維持療法では、通常、成人に1回10mgを1日2回8週間にわたり経口投与。 効果不十分な場合はさらに8週間投与。・寛解維持療法では、通常、成人に1回5mgを1日2回経口投与。効果減弱など患者の状態により1回10mgを1日2回投与にすることもできる。【その他】 適応症追加後3年間、全例調査を実施■参考ニュースリリース ファイザー株式会社ゼルヤンツ、潰瘍性大腸炎の適応症を追加潰瘍性大腸炎患者さんの生活実態調査■関連記事希少疾病ライブラリ 潰瘍性大腸炎

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生物学的製剤の早期導入で寛解を目指す

 冒頭では、イミュノロジー グローバルマーケティング&コマーシャルオペレーションズ ヴァイス・プレジデントのティアゴ・ロドリゲス氏が、「アッヴィの免疫領域におけるこれまでの貢献、これからの取り組み」について語り、ヒュミラ(一般名:アダリムマブ)発売10周年を記念し、自己注射時の負担軽減を目的に開発された、新しいペン型デバイスを、世界で初めて日本で導入したことを発表した。現在も、安全性を確保したうえで効果を高めることができないかと考え、多くの国・適応を対象に生物学的製剤の臨床試験を続けているという。 講演では、「各疾患領域における生物学的製剤の役割と今後の展望」について、領域別(関節リウマチ・消化器・皮膚)で3人の演者がレクチャーを行った。共通していた内容は、この10年で難治性疾患の治療が劇的に変わったということ、そして、生物学的製剤は早期に導入されるほど、寛解率が上がるということであった。安全性などへの懸念により、早期導入が進まない現状 初めに、竹内 勤氏(慶應義塾大学 医学部 リウマチ・膠原病内科 教授)が、関節リウマチ領域について説明した。生物学的製剤による治療は、関節破壊の進行抑制、労働生産性の改善などといった効果を発揮する。しかし、すでに破壊された関節は元に戻らないため、発症後どの段階で生物学的製剤を導入するかが重要であり、2~3年以内の導入が望ましいという。同氏は、「早期導入が進まない原因として、医師が安全性を憂慮し過ぎていることが考えられる。データはたくさんあるので、医師は有効性・安全性などについて積極的に正しい知識を習得し、必要な患者さんには生物学的製剤を導入してほしい」と語った。 続いて、日比 紀文氏(北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター センター長)が、消化器領域について講演を行った。同氏は、「生物学的製剤は、難治性の炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)にパラダイムシフトを起こした」とその衝撃を表現した。かつては、薬物治療が無効な場合、大腸全摘の選択肢しか残されていなかった。しかし、生物学的製剤の登場で、難治性の炎症性腸疾患は激減し、寛解導入・寛解維持は容易になったという。同氏は、「今後、患者は多くの選択肢から適切な治療を選ぶことができ、体調の悪化による活動制限から解放され、通常の日常生活を送ることが可能になるだろう」と展望を述べた。発症後、時間が経つほど苦痛は蓄積する 最後に、小林 里実氏(社会福祉法人聖母会 聖母病院皮膚科 部長)が、乾癬を中心に、皮膚科領域への期待を語った。乾癬は、重症化すると関節破壊を起こすことがあり、QOLの低下はがんにも匹敵する1)という。乾癬治療は、2010年に抗TNF製剤が登場して以降、劇的に変化し、生物学的製剤による治療で、PASIスコア(乾癬の面積と重症度の指標)が90%以上改善する例も見られるようになった。しかし、小林氏は、PASIスコアが0になったからといって、生活の質が完全に回復するわけではないことを指摘した。同氏は、「乾癬は、発症後の身体的・精神的な苦痛が大きく、それらは蓄積され、経験として残る。早期の適切な治療がもっとも重要だ」と強調した。 講演の後には、生物学的製剤によって疾患の苦しみから解放された患者や患者の家族らがパネルディスカッションを行った。「これからの10年は、難治性疾患の苦しみで社会に出られなかった患者たちが、生物学的製剤の力を借りて社会に戻っていける時代だ」と締めくくった。

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病気があっても働き続けられる職場作り

『事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン』を更新 厚生労働省は、2018年4月24日に『事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン』(2016年2月作成)に、難病に関する留意事項、企業・医療機関連携のためのマニュアルなどを追加・更新したガイドラインを発表した。 このガイドラインは、事業場が、がん、脳卒中などの疾病を抱える患者に対し、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と職業生活が両立できるようにするため、事業場における取組などをまとめたもの。「勤務状況を主治医に提供する際の様式例」などの様式例集のほか、支援制度、支援機関の情報、「企業・医療機関連携マニュアル」などが掲載されている。がん、脳卒中、肝疾患に難病を追加 今回、従来の留意事項の疾患である、がん、脳卒中、肝疾患に難病が追加された。「難病」については、「発病の機構が明らかでなく、治療法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなる疾病を指す」と定義し、就労世代に多い主な難病として「潰瘍性大腸炎、クローン病」「全身性エリテマトーデス」「パーキンソン病」を挙げ、疾患概要を説明している。 また、難病に共通してみられやすい症状として「全身的な体調の崩れやすさ-気力・体力の低下、疲れやすさなど」「発熱」「労作時の動悸・息切れ、筋力低下など」を示すとともに、これらに対して本ガイドラインでは、「難病治療の特徴を踏まえた対応」「メンタルヘルスへの配慮」「難病に対する不正確な理解・知識に伴う問題への対応」を企業などに求め、啓発している。■参考厚生労働省 治療と仕事の両立について■関連記事希少疾病ライブラリ 

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民谷式 内科系試験対策ウルトラCUE Vol.3

第9回  消化器(肝胆膵) 第10回 消化器(消化管) 第11回 感染症 第12回 呼吸器 内科系試験に対応した全3巻の基本講座の第3巻です。試験内容が異なる認定内科医と総合内科専門医試験ですが、学生の頃に学んだことを復習するというスタートラインは同じ。全13領域で出題頻度の高いテーマを、わかりやすいシェーマと明快な講義で総復習しましょう。題名の「CUE」は放送業界用語の「キュー」、『臨床的有用性』(Clinical Utility)、そしてパーキンソン病医療における「CUE」から来ています。つまり、「動こうとしてもはじめの一歩が踏み出せない状態」に対して、このレクチャーが試験勉強を始める一歩を踏み出すきっかけになってほしいという思いです。講師の民谷先生の実臨床経験を組み込んだクリアな解説は、とても役に立ちます。専門外や苦手科目からチェックして、次のステップへ進んでください。第9回 消化器(肝胆膵)出題数の多い消化器領域は、まずは民谷式の解剖図を用いて肝臓の病態や疾患を解説します。ミクロの視点で疾患を整理していくと、長い臨床問題を論理的な筋道を追いながらスムーズに解いていけるようになります。また、この領域でとくに出題が多いのはIgG関連疾患。試験に役立つポイントが丸わかりです。第10回 消化器(消化管) 出題数の多い消化器領域の消化管領域について取り上げます。まずは消化管の壁断面をおさらいしてから、それぞれの疾患について掘り下げていきます。クローン病と潰瘍性大腸炎、マロリー・ワイス症候群と特発性食道破裂。症状が似たの疾患の区別も、民谷式オリジナルシェーマを用いた解説ですんなりと頭に入ります。第11回 感染症 感染症の領域では、原因微生物・薬理学・臨床症状を総合して理解することが大切になります。民谷式でわかりやすくまとめた表で一つひとつ整理していくと、長い臨床問題を短い時間で解くためのポイントがわかっていきます。さらにどの抗菌薬がどこまでカバーしているかをまとめた表は、試験に必ず役に立ちます。第12回 呼吸器 呼吸器領域では、肺の疾患を中心におさらいしていきます。民谷式オリジナルの簡略化したシェーマでまずは全体の流れを掴みます。臨床問題では、低酸素血症と二酸化炭素が不足している状態をしっかり分けて考えることが、問題文を読み解くヒントになります。

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直腸に泡で留まる潰瘍性大腸炎治療薬

 2018年2月8日、EAファーマ株式会社とキッセイ薬品工業株式会社は、2017年12月に潰瘍性大腸炎治療薬 ブデソニド(商品名:レクタブル 2mg注腸フォーム)が発売されたことを機に潰瘍性大腸炎(以下「UC」と略す)に関するメディアフォーラムを開催した。 フォーラムでは、「進歩し続ける潰瘍性大腸炎(UC)治療~病態に応じた適切な治療法の確立に向けて~」をテーマに日比 紀文氏(北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター センター長)を講師に迎え、同症の治療の最前線が講演された。増加し続ける炎症性腸疾患の患者 原因不明かつ根本的な治療法がない炎症性腸疾患(IBD)は、わが国では年々患者数が増加傾向にあり、2014年度で22万人超の患者がいるとされる(医療受給者証・登録者証交付件数より算出)。そのうち約18万人がUCの患者であり、アメリカに次いで多い患者数だという。また、UCは、患者に幅広い年齢分布を持つ疾患であり、近年では高齢の患者が増加している。 UCは、粘血便、下痢、腹痛を主症状とし、大腸をスポットにした疾患であり、寛解と再燃を繰り返すのが特徴である。そのため治療では、速やかに炎症を抑える寛解導入と長期間安全に再燃・炎症抑制を行う寛解維持が行われる。潰瘍性大腸炎の治療のポイント UCの治療薬は、1995年まで炎症抑制のために副腎皮質ステロイドと5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)のサラゾスルファピリジン、メサラジンが使われ、寛解の維持には5-ASA製剤と免疫調節薬のメルカプトプリン(6MP)/アザチオプリン(AZA)が使われてきた。その後、治療薬の進歩もあり、現在では抗TNFα抗体、CsA/FK506、白血球除去療法、ブデソニド、抗α4β7抗体、JAK阻害薬が寛解導入に、抗TNFα抗体、抗α4β7抗体、JAK阻害薬が寛解維持に使用されるようになっている。これらは、患者の重症度に応じて選択されるが、「UCの基本的治療薬は現在も5-ASA製剤であり、錠剤や坐剤などに進化した同剤をいかに的確に使用するかが重要だ」と同氏は指摘する。 また、「UCでは、ステロイドの有効性を高め、副作用をいかに軽減するかがポイントになる」と語る。とくに直腸の炎症の有無が、便回数や血便などの症状に大きく関与することから、「ブデソニドのような局所へのステロイド投与は、治療効果を高めることができる」と同氏は説明する。同剤は、有効成分が泡状となり腸内に長時間滞留することで効果を発揮し、肝臓ですぐに代謝されることで全身の副作用の低減が期待されている。また、立位でも投与可能で、持ち運びも便利なことから、症状悪化時の患者のADL改善に寄与すると期待が持たれている。 次に、長期間の寛解維持のためチオプリン剤の有効性、安全性の向上について説明。アジア人では、骨髄抑制や脱毛などが欧米人と比較し、多いことが報告されているが、NUDT15遺伝子の異常チェックにより、ある程度の副作用予測はできると語った。ステロイド抵抗例、依存例への治療では 治療患者全体の30%に起こるステロイド抵抗例、依存例への治療については、インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNFα抗体、タクロリムス、白血球除去療法の3つの対策が示され、治療時のポイントが説明された。とくに抗TNFα抗体では、中止後の再燃と再燃時の再投与の問題について、中止後の再燃は1年で40%以下であること、再開後も70~90%で有効であることが示された。タクロリムスとの薬剤選択では、有効性も安全性もほぼ同等だが、抗TNFα抗体では保険適用や高い薬価が、タクロリムスでは副作用の問題もあることなども付言された。また、白血球除去療法では、有効性と安全性の報告が出てきつつあるが、治療法の煩雑さや効果で薬剤よりも弱い点があるなど課題も指摘された。 最後に日比氏は、「2017年に登場した抗TNFα抗体であるゴリムマブ、1日1回服用の5-ASA製剤メサラジン、そして、今回のブデソニド注腸フォームと日々治療薬は進歩し、来年には免疫細胞の接着・浸潤を抑制する新しい形の治療薬の市販も予定されている」と新薬を紹介した後で、「こうした治療薬の進歩で、寛解導入も維持も以前と比べて容易となり、患者は通常の生活を送れるようになりつつある。今後は、根本治療も視野に入れていきたい」と希望を語り、レクチャーを終えた。

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再発性ディフィシル感染症に対する糞便移植-経口カプセル投与は有効か-(解説:小金丸博氏)-788

 クロストリジウム・ディフィシルは抗菌薬関連下痢症の原因となる主要な細菌である。クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)は、治療によりいったん改善しても約20%で再発し、再入院や医療費増加の原因となることが知られている。また1度再発した患者のうち、40~65%がさらなる再発を経験する。再発を繰り返すCDIの治療アルゴリズムはまだ確立していないが、近年、糞便移植の有効性が数多く報告され注目を集めている。 本研究は、再発性CDI患者を対象に、便細菌叢の投与経路による有効性の違いを検討した非盲検ランダム化非劣性試験である。少なくとも3回以上CDIを繰り返した18~90歳の患者を対象とし、経口カプセルで投与する群と大腸内視鏡で投与する群に分けて、治療効果、有害事象発生率、患者不快感などを評価した。慢性下痢症、炎症性腸疾患、がんで治療中の患者などは対象から除外された。1回の糞便移植で12週後にCDI再発を予防できたのは、経口カプセル投与群、大腸内視鏡投与群ともに96.2%であり、経口カプセル投与群の大腸内視鏡投与群に対する非劣性が示された(群間差:0%、片側95%信頼区間:-6.1%~無限大、p<0.001)。また、経口カプセル投与群では「まったく不快でない」と回答した人の割合が、大腸内視鏡投与群と比較し有意に高率だった。 糞便移植とは、健常者の便に含まれる腸内細菌叢を患者に投与することで正常な腸内環境を復元し、腸炎の治癒を図る治療法である。本研究では、再発性CDIに対する治療法として、経口カプセルによる糞便移植が大腸内視鏡投与と同等の高い有効率を示した。カプセル製剤にすることで経口投与が可能となり、患者の心理的、肉体的負担を軽減できるのは大きなメリットである。再発性CDIに対する糞便移植の有効性については評価が定まりつつあるが、投与経路、長期安全性、ドナーの選定方法など未解決な部分も存在するため、今後のさらなる研究が待たれる。 CDIに対する糞便移植は、日本ではまだ一般的でなく、保険適用にもなっていない。しかしながら、再発性CDIに対する高い有効性は魅力的であり、利便性や安全性が高まれば、治療方法の1つとして日本でも広がる可能性が十分あると考える。■「糞便移植」関連記事糞便移植は潰瘍性大腸炎の新たな治療となるか/Lancet

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