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NSAIDsがC. difficile感染症を悪化させる機序とは

 多くの人々に鎮痛薬や抗炎症薬として使用されている非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)は、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile;C. difficile)への感染により生じる消化管感染症(C. difficile感染症;CDI)を悪化させることが報告されている。こうした中、マウスを用いた研究でこの機序の解明につながる結果が得られたことを、米ペンシルベニア大学のJoshua Soto Ocana氏らのグループが発表した。詳細は、「Science Advances」に7月21日号に掲載された。 C. difficileは世界の抗菌薬関連下痢症の主要な原因菌である。CDIは、軽度の下痢から複雑な感染症まで多様な症状を引き起こし、死亡の原因になることもある。先行研究では、インドメタシンやアスピリン、ナプロキセンといったNSAIDsが、CDI患者だけでなく、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患(IBD)の患者の消化管に有害な影響を与えることが示されていた。 また、長期間のNSAIDsの使用は、胃潰瘍や小腸壁の出血および穿孔といったさまざまな問題を引き起こすことがある。その理由には、NSAIDsによるシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害が関与しており、そのプロセスによって炎症や痛みが抑制される一方で、上部消化管の粘膜機能が障害される可能性が示唆されている。さらに、NSAIDsが、本来の標的とは異なる細胞内小器官のミトコンドリアと相互作用して脱共役を起こし、ATP産生を低下させるなど、ミトコンドリアの機能を阻害するオフターゲット効果を持つことを示した研究報告もあるという。 研究グループは今回、in vitroおよびCDIマウスを用いた研究で、NSAIDsの一種であるインドメタシンの存在下で大腸上皮細胞の透過性を評価し、NSAIDsがどのようにCDIを悪化させるのかを明らかにしようと試みた。 その結果、インドメタシンとC. difficile由来の毒素の両方が上皮細胞のバリア透過性と炎症性細胞死を増加させることが明らかになった。この効果は相乗的であり、毒素とインドメタシンの両方が細胞透過性を高める作用は、それぞれ単独で作用した場合よりも大きかった。また、インドメタシンは、大腸の粘膜細胞のミトコンドリアにオフターゲット効果を与えて、C. difficile由来の毒性によるダメージを大きくする可能性のあることも示された。ただし、動物実験の結果が必ずヒトに当てはまるとは限らない。 論文の上席著者で、米ペンシルベニア大学病理診断学助教のJoseph Zackular氏は、「われわれの研究は、CDI患者にとってNSAIDsが臨床的に問題となることをさらに示したものだ。なぜNSAIDsとC. difficileの二つが組み合わさるとこのような有害な影響がもたらされるのか、その理由を解明するための一助となる知見が得られた」と述べている。 Zackular氏はさらに、「この知見は、C. difficile感染時のミトコンドリアの機能への影響について理解を深めるための研究の第一歩となるものだ。今回の研究から得られたデータはまた、NSAIDsを介したミトコンドリア脱共役が、小腸損傷やIBD、大腸がんといった他の疾患に与える影響についての有用な情報となる可能性がある」との見方を示している。 なお、本研究は、米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて実施された。

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臨床試験の結果が非有意のときは尤度比を活用してみましょう(解説:折笠秀樹氏)

 結果の信ぴょう性はよく統計学的有意性で判定します。つまり、結果のP値が0.05(5%)より小さければ統計学的有意と判定します。これはネイマン・ピアソン流の方法です。もう1つの流派にベイズ流というのがあります。ベイズ流ではP値の代わりに、尤度比(ベイズ流ではベイズ因子と呼ぶ)を用います。本論文は、この尤度比を使えば、とりわけ非有意の結果の程度がつかめることを示しました。 差がないという仮説(帰無仮説HN)と、差があるという仮説(対立仮説HA)があるとします。HNの可能性をHAの可能性で割った値、それが尤度比(LR)です。LR=1であれば、どちらも五分五分、LR<1ならHAの可能性のほうが高く、LR>1ならHNの可能性が高いわけです。臨床試験の結果数字から、このLRは算出できます。Web上に電卓も用意されています(https://medresearch.shinyapps.io/Bayesian_re-analysis/)。結果指標は、比(ハザード比など)でも差(平均差など)でも大丈夫です。 169件の非有意だった臨床試験で計算してみたようです。その結果、LR<1が15件(8.9%)もありました。結果は非有意なのに、LR値からは差があると思われたのです。それはなぜかというと、結果は差ありの方向だが、症例数不足で非有意になったと想像されます。 P=0.5とP=0.1の結果がどれだけ違うのか、正直よくわかりません。この尤度比を使うと、差はないのか、それとも差はあるのか、どちらがもっともらしいかがわかります。尤度比LRは(差なし÷差あり)の可能性の比なので、LR=1,000だと差なしの可能性が1,000倍も高く、まったく見込みなしとわかります。LR=10であれば、わずか10倍高いだけなので、惜しい結果だとわかります。先験研究なども加味すると、差があるというのが正しいかもしれないとも考えられるのです。この先験情報(事前情報ともいいます)を加味できるのも、ベイズ流の特徴です。ちなみに、先験情報では90%の差はあるだろうということなら、LR=10でも結果は五分五分という計算になります。まだ見捨てるのは早いわけです。 この尤度比ですが、通常のP値とはほとんど関係ないことも示されました。解釈が難しいP値に代わるこの尤度比ですが、とくに非有意の結果のとき、活用の余地があると思います。先験情報を加味してもこの結果では先に進めそうもないのか、それとも先へ進めてよいか、これを判断する一助となるのです。

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うつ病と炎症性腸疾患との関連~メタ解析

 うつ病または抑うつ症状の既往歴のある患者は、炎症性腸疾患(IBD)リスクが高いといわれている。イタリア・Humanitas UniversityのDaniele Piovani氏らは、うつ病または抑うつ症状とその後の新規IBD(クローン病、潰瘍性大腸炎)発症との関連を調査するため、縦断的研究を実施した。その結果、うつ病歴を有する患者は、たとえ診断から数年たっていたとしても、軽度から中程度のIBDリスクが上昇する可能性が示唆された。Inflammatory Bowel Diseases誌オンライン版2023年6月10日号の報告。 うつ病または抑うつ症状とその後の新規IBD発症との関連を調査した研究を、MEDLINE/PubMed、Embase、Scopusよりシステマティックに検索した。検証されて評価尺度によりうつ病または抑うつ症状の確定診断に至った研究も対象に含めた。診断バイアスと逆因果関係に関する懸念を制御し、うつ病または抑うつ症状とアウトカムとの関係を評価するため、報告された最長タイムラグに対応した推定値を算出した。独立した2人の研究者が、データを抽出し、各研究のバイアスリスクを評価した。最大限に調整された相対リスク(RR)推定値は、ランダム効果モデルおよび固定効果モデルを用いて、算出した。 主な結果は以下のとおり。・5,307件の研究のうち、13件(900万例、コホート研究:8件、ネステッドケースコントロール研究:5件)が適格基準を満たした。・うつ病は、クローン病(RRランダム:1.17、95%信頼区間[CI]:1.02~1.34、7研究、1万7,676例)および潰瘍性大腸炎(RRランダム:1.21、95%CI:1.10~1.33、6研究、2万8,165例)との有意な関連が確認された。・プライマリ研究では、関連する交絡因子が考慮された。・うつ病または抑うつ症状からIBD発症までの期間は、平均すると数年を要した。・重要な異質性、出版バイアスは見当たらなかった。・サマリ推定値は、バイアスリスクが低く、結果は多重感度分析で確認した。・時間経過による関連性の低下については、明確な結論に至らなかった。・これらの因果関係を明らかにするためには、さらなる疫学やメカニズムの研究が求められる。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるミリキズマブの有用性(解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療に関しては、従来、軽症から中等症に対する第一選択薬としては5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が用いられ、効果不十分な場合にはステロイド経口剤や免疫調整薬の併用が一般的であったが、最近、生物学的製剤や低分子化合物の出現により、ステロイド依存性ないしは不応性を含む難治性のUC患者に対する薬物治療が大きく変化している。すなわち、抗TNFα抗体薬、インターロイキン(IL)阻害薬、インテグリン阻害薬、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬など、新規の薬剤が次々と出現して難治性のUCが次第に少なくなってきている。しかしながら、UC症例の中にはこれらの新規薬剤でも十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者も少なくないため、さらに新たな作用機序を有する治療薬の開発が求められているのが現状である。 今回、新たなIL阻害薬であるミリキズマブに関して、既存治療で効果不十分な中等症から重症のUC患者を対象とした寛解導入試験と引き続き施行された寛解維持試験の結果、ミリキズマブの有効性と安全性が示された研究結果が2023年6月のNEJM誌に掲載された。 ミリキズマブの特徴として、本剤がターゲットとするIL-23-p19は、本邦ですでに承認されているIL-12/23-p40モノクローナル抗体であるウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)と同じIL-12ファミリーに属する炎症性サイトカインであるが、IL-23のp19サブユニットに対してのみ特異的に結合して大腸粘膜の炎症を抑えることから、感染症や悪性腫瘍の発生リスクを軽減する可能性が期待される。 なお、ミリキズマブは2023年3月に本邦で薬事承認を取得して、5月に薬価収載されている(商品名:オンボー)。今回、NEJM誌に掲載された国際共同治験の成績が発表される前に薬事承認されていることは驚きであるが、今後は国際共同治験の結果がトップジャーナルに掲載される前に保険適用の承認を取得する薬剤が増加する可能性があるのかもしれない。 一方、難治性のUCに対する薬物療法に対して臨床現場からの要望としては、「既存治療で効果不十分な中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入・寛解維持に対する有用性と安全性」により保険適用が承認されている新規薬剤それぞれの具体的な使用方法に関するエビデンスが期待されている。

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炎症性腸疾患の患者は脳卒中リスクが高い

 炎症性腸疾患(IBD)患者は脳卒中リスクが高いことを示唆するデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のJiangwei Sun氏らの研究によるもので、詳細は「Neurology」に6月14日掲載された。この研究結果はIBDと脳卒中との間に因果関係が存在することは示していないが、「IBD患者と医師はそのリスクを認識しておく必要がある。IBD患者の脳卒中リスク因子のスクリーニングとその管理は、緊急の臨床課題であるかもしれない」とSun氏は述べている。 この研究の対象は、1969~2019年にスウェーデンで、生検によって診断されたIBD患者8万5,006人(クローン病2万5,257人、潰瘍性大腸炎4万7,354人、未分類のIBD1万2,395人)と、年齢、性別、居住地域が一致するIBDでない一般住民40万6,987人。平均12年追跡して、脳卒中リスクを比較検討した。 追跡期間中の脳卒中発生件数は、IBD群では3,720件(1万人年当たり32.6)、非IBD群では1万5,599件(同27.7)だった。肥満や高血圧、心疾患などの脳卒中リスクに影響を及ぼし得る因子を調整後、IBD群は非IBD群に比べて13%ハイリスクであることが分かった〔調整ハザード比(aHR)1.13(95%信頼区間1.08~1.17)〕。 脳卒中のタイプ別に見ると、IBD群でのリスク上昇は虚血性脳卒中でのみ認められ〔aHR1.14(同1.09~1.18)〕、出血性脳卒中のリスク差は非有意だった〔aHR1.06(0.97~1.15)〕。虚血性脳卒中のリスク上昇は全てのIBDサブタイプで認められた。調整ハザード比は以下の通り。クローン病1.19(1.10~1.29)、潰瘍性大腸炎1.09(1.04~1.16)、未分類のIBD1.22(1.08~1.37)。また、脳卒中のリスク差はIBD診断から25年経っても存在しており、Sun氏によると、「それまでの間にIBD患者93人につき1人の割合で、脳卒中イベントがより多く発生していたと計算される」という。 この研究では、遺伝的背景の影響も考慮された。ほかの多くの疾患と同様に、IBDや脳卒中も遺伝的因子が発症リスクに関与していることが知られている。そこで、IBD群の患者のきょうだいの中で、IBDや脳卒中の既往のない10万1,082人を比較対象とする解析が行われた。その結果、IBD群はそのきょうだいと比べても、脳卒中リスクが11%高いことが明らかになった。 以上より著者らは、「IBD患者はIBDのサブタイプにかかわりなく、脳卒中、特に虚血性脳卒中のイベントリスクが高い。リスク差はIBD診断後25年が経過しても続いていた。これらの知見は、IBDの臨床において、患者の脳卒中イベントリスクを長期間にわたって留意する必要のあることを意味している」と結論付けている。 一方、研究の限界点としては、本研究は前述のように1969~2019年にIBDと診断された患者を対象としているが、この間にIBDや脳卒中の診断方法・基準が変化しており、それが解析結果に影響を及ぼした可能性を否定できないことが挙げられるという。また、解析対象者の脳卒中リスクに影響を及ぼし得る、食事・喫煙・飲酒などの既知のリスク因子の全てを把握して調整できたわけではないとも追記されている。

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潰瘍性大腸炎へのミリキズマブ、導入・維持療法で有効性示す/NEJM

 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎患者において、ミリキズマブはプラセボよりも、臨床的寛解の導入・維持に有効であることが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのGeert D'Haens氏らが行った2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(導入療法試験と維持療法試験)で示された。一方で、ミリキズマブ群では少数の患者ではあるが、帯状疱疹などの日和見感染症およびがんの発生も報告されている。ミリキズマブはIL-23p19を標的とするヒト化モノクローナル抗体で、第II相試験で潰瘍性大腸炎の治療における有効性が示されていた。NEJM誌2023年6月29日号掲載の報告。導入療法試験で反応した患者に対し、維持療法試験を実施 研究グループは、中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎の成人患者におけるミリキズマブの有効性と安全性を評価する、2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(導入療法試験[LUCENT-1、12週、2018年6月18日~2021年1月21日]と維持療法試験[LUCENT-2、40週、2018年10月19日~2021年11月3日])を行った。 導入療法試験(34ヵ国383施設で実施)では、被験者を3対1の割合で無作為に割り付け、ミリキズマブ(300mg)とプラセボの静脈内投与を4週ごと12週間行った。続く維持療法試験(34ヵ国367施設で実施)では、導入療法に反応した患者を2対1の割合で無作為に割り付け、それぞれミリキズマブ(200mg)とプラセボの皮下投与を4週ごと40週間行った。 主要エンドポイントは、導入療法試験の12週時点、維持療法試験の40週時点(全体の52週時点)の臨床的寛解だった。副次エンドポイントは、臨床的反応、内視鏡的寛解、便意切迫の改善などとした。 導入療法試験で反応のなかった被験者については、維持療法試験の最初の12週間に、延長導入療法としてミリキズマブの非盲検投与を行った。また、安全性の評価も行った。ミリキズマブ投与の1,217例中8例でがん発生 合計1,281例が導入療法試験で無作為化され、うちミリキズマブに反応した544例が維持療法試験で無作為化された。 導入療法試験12週時点の臨床的寛解が認められた患者の割合は、ミリキズマブ群(24.2%)のほうがプラセボ群(13.3%)よりも有意に高率だった(p<0.001)。また、維持療法試験の40週時点でも、それぞれ49.9%、25.1%と、ミリキズマブ群で有意に高率だった(p<0.001)。 両試験において、すべての主な副次エンドポイントの結果が、プラセボ群よりもミリキズマブ群で良好であった。 一方、有害事象については、上咽頭炎と関節痛がミリキズマブ群でプラセボ群より高率だった。両試験の対照期間・非対照期間(非盲検延長導入療法期・維持療法期を含む)にミリキズマブ投与を行った1,217例のうち、15例で日和見感染症(帯状疱疹6例を含む)、8例でがん(大腸がん3例を含む)の発生が報告された。導入療法試験のプラセボ群では、帯状疱疹が1例報告されたが、がんの発生は認められなかった。

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難治性クローン病の寛解導入と寛解維持に対するウパダシチニブの有用性(解説:上村直実氏)

 慢性かつ再発性の炎症性腸疾患であるクローン病(CD)の治療に関しては、病気の活動性をコントロールして患者の寛解状態をできるだけ長く保持し、日常生活のQOLに影響する狭窄や瘻孔形成などの合併症の治療や予防が非常に重要である。すなわち、十分な症状緩和と内視鏡的コントロールを提供する新しい作用機序の治療法が求められる中、最近、活動性とくに中等症から重症のCDに対しては、生物学的製剤により寛解導入した後、引き続いて同じ薬剤で寛解維持に対する有用性を検証する臨床試験が多く施行されている。今回は、CDの寛解導入および寛解維持療法における経口選択的低分子のJAK阻害薬であるウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)の有効性を示すRCTの結果が、2023年5月のNEJM誌に報告された。ウパダシチニブの導入療法および維持療法の主要評価項目である臨床的寛解および内視鏡的効果に関して、プラセボより有意に優れた結果を示すと同時に安全性に関しても許容範囲であった。この報告と同時に米国FDAは難治性CDの寛解導入と寛解維持を目的としたウパダシチニブを承認している。 リンヴォック錠は1日1回投与の経口薬で、わが国でも2020年に難治性の関節リウマチ(RA)に対して保険収載され、その後も2021年には関節症性乾癬およびアトピー性皮膚炎、2022年には強直性脊椎炎に対する治療薬として適応追加が承認されている。CDについては2023年6月26日、既存治療で効果不十分な中等症から重症の活動期CDの寛解導入および維持療法の治療薬として適応追加が承認された。 このように難治性CDに対しては潰瘍性大腸炎(UC)と同様にさまざまな生物学的製剤が開発されているが、一般臨床現場で注意すべきは重篤な感染症である。今回のJAK阻害薬であるウパダシチニブ、トファシチニブおよびフィルゴチニブは、わが国でもRAなどに対して比較的長い間使用されているが、自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化はよく知られており、感染症および悪性疾患の発生には留意する必要がある。とくに、本研究でも述べられているように、JAK阻害薬には血管血栓症や帯状疱疹の発生リスク上昇の可能性も報告されており、薬理作用に精通した長期的な患者管理が重要であろう。

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ウパダシチニブ、中等~重症クローン病に有効/NEJM

 中等症~重症のクローン病患者において、ウパダシチニブによる寛解導入療法および維持療法はプラセボと比較し優れることが、43ヵ国277施設で実施された第III相臨床開発プログラム(2件の寛解導入療法試験「U-EXCEL試験」「U-EXCEED試験」と1件の維持療法試験「U-ENDURE試験」)の結果で示された。米国・Mayo Clinic College of Medicine and ScienceのEdward V. Loftus氏らが報告した。ウパダシチニブは経口JAK阻害薬で、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、関節症性乾癬、アトピー性皮膚炎および強直性脊椎炎に対して承認されており、クローン病治療薬としても開発中であった。NEJM誌2023年5月25日号掲載の報告。ウパダシチニブvs.プラセボ、寛解導入療法と維持療法の有効性および安全性を比較 研究グループは、中等症~重症のクローン病で18~75歳の患者を対象とし、「U-EXCEL試験」では1剤以上の既存治療または生物学的製剤で効果不十分または不耐容の患者を、「U-EXCEED試験」では1剤以上の生物学的製剤で効果不十分または不耐容の患者を、ウパダシチニブ45mg群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回12週間投与する寛解導入療法試験を行った(二重盲検期)。さらに、両試験において臨床的奏効が認められた患者は、維持療法試験「U-ENDURE試験」に移行し、ウパダシチニブ15mg、同30mgまたはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、1日1回52週間の投与を受けた。 主要エンドポイントは、寛解導入療法(12週)、維持療法(52週)のいずれにおいても、臨床的寛解および内視鏡的改善とした。臨床的寛解は、クローン病活動指数(CDAI、スコア範囲:0~600、高スコアほど疾患活動性が重症であることを示す)のスコアが150点未満と定義した。内視鏡的改善は、中央判定による簡易版クローン病内視鏡スコア(SES-CD、スコア範囲:0~56、高スコアほど重症度が高いことを示す)が、ベースラインから50%超減少(ベースラインのSES-CDが4点の患者ではベースラインから2点以上の減少)と定義した。 U-EXCEL試験では526例、U-EXCEED試験では495例、U-ENDURE試験では502例が各群に無作為に割り付けられた。臨床的寛解、内視鏡的改善ともにウパダシチニブが有意に優れる 臨床的寛解を達成した患者の割合(ウパダシチニブ45mg群vs.プラセボ群)は、U-EXCEL試験で49.5% vs.29.1%、U-EXCEED試験で38.9% vs.21.1%、同じく内視鏡的改善は、U-EXCEL試験で45.5% vs.13.1%、U-EXCEED試験で34.6% vs.3.5%であり、プラセボ群と比較してウパダシチニブ45mg群で有意に高かった(すべての比較でp<0.001)。 また、U-ENDURE試験の52週時において、臨床的寛解を達成した患者の割合はウパダシチニブ15mg群37.3%、同30mg群47.6%、プラセボ群15.1%、同じく内視鏡的改善はそれぞれ27.6%、40.1%、7.3%であり、いずれもウパダシチニブの両用量群がプラセボ群より有意に高かった(すべての比較でp<0.001)。 安全性については、帯状疱疹の発現率は、ウパダシチニブ45mg群および30mg群がプラセボ群より高く、肝障害ならびに好中球減少症の発現率は、ウパダシチニブ30mg群が他の維持療法群より高かった。消化管穿孔が、ウパダシチニブ45mg群で4例、ウパダシチニブ30mg群ならびに15mg群で各1例に発現した。

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5月19日 IBDを理解する日【今日は何の日?】

【5月19日 IBDを理解する日】〔由来〕「世界IBDデー」に准じ、クローン病や潰瘍性大腸疾患などの「炎症性腸疾患」(IBD)への理解促進のため、IBDネットワークとアッヴィの共同で2013年に制定。関連コンテンツクローン病【希少疾病ライブラリ】潰瘍性大腸炎【希少疾病ライブラリ】IBD【診療よろず相談TV】IBDの新規経口薬ozanimod、潰瘍性大腸炎の導入・維持療法に有効/NEJM潰瘍性大腸炎患者の大腸がんリスク、時間の経過で変化?/Lancet

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第156回 コロナで収益を得た製薬企業が次々と買収発表、思わずうなる戦略とは

国際的な製薬大手企業による企業買収が再び活発化している。3月13日に米・ファイザー社ががんの抗体薬物複合体(ADC)技術を有するシージェン社を約430億ドル(約5兆7,000億円)で買収すると発表。さらに4月16日には米・メルク社もベンチャーで自己免疫疾患治療薬を手がけるプロメテウス社を約108億ドル(約1兆4,500億円)で買収すると発表した。両社が現在抱える事情はほぼ似通っている。まず、共に新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)パンデミックで特需を経験した。ファイザー社はご存じのように新型コロナワクチン(商品名:コミナティほか)、経口新型コロナ治療薬のニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)の売上が伸長した。2022年の売上高は、前年比23%増収の1,003億3,000万ドル(約13兆4,400億円)と、前年に引き続き製薬企業で世界1位となっただけでなく、製薬企業史上初の1,000億ドルプレーヤーとなった。この売上高の6割弱はコロナワクチンと治療薬で占められている。一方の米・メルク社も2022年度売上高が前年比22%増収の592億8,300万ドル。前年からの増収分の44%は、新型コロナ治療薬のモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)の売上伸長が占める。この両者のコロナ関連特需が今後急速にしぼんでいくことは確実である。実際、ファイザー社はすでに2023年通期で、コロナ関連売上高が約60%減少するとの予想を発表している。またメルク社のモルヌピラビルはニルマトレルビル/リトナビルに比べ、効果が劣ることが各種の研究で明らかにされつつあるため、治療選択肢としてのプライオリティは、今後、一層低下していくことは避けられない。さらに両社に共通するのがコロナ関連以外の主力品の特許権失効である。ファイザー社の場合、コロナ関連を除いた売上筆頭製品が抗凝固薬のアピキサバン(商品名:エリキュース)の約65億ドル(約8,700億円)。その特許権は2025~26年にかけて失効すると言われており、もう目前に迫っている。経口薬の場合、アメリカなどではジェネリック医薬品登場から半年程度で先発品市場の約7割がジェネリック医薬品に置き換わるのが一般的だ。ファイザー社にとって事態は深刻である。前述のシージェン社は現在ADC技術を利用したがん治療薬で年間20億ドル程度の売上があるため、これをファイザー社の巨大販路で売上を伸長させ、ファイザー社側としてはアピキサバンの特許権の失効に伴う急速な売上減の穴埋めにしようという腹積もりなのだろう。一方、メルク社の売上高の筆頭は、ご存じの免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の209億ドル(約2兆8,000億円)。実に現在のメルク社の総売上高の約3分の1を占める。そのペムブロリズマブのアメリカでの特許権失効見込みは2028年である。私が今回やや驚いたのはこのメルク社の買収決断である。まず、特許権の失効まではまだ5年はある。かつ、注射剤のペムブロリズマブは抗体医薬品であり、いわゆるバイオ医薬品のジェネリックは「バイオシミラー」と称されるが、経口の低分子薬に比べ、開発難易度も高い。確かにペムブロリズマブの特許権失効後は同薬のバイオシミラーが登場すると思われるが、現状はアメリカですらバイオシミラーの普及が進まず、先発品市場の20%程度しか市場を奪えていない。にもかかわらず、日本円にして1兆円を超える金額を使い、まだ市場投入製品がないプロメテウス社を買収するのは何ともすごい決断と言わざるを得ない。ただ、よくよく考えれば、この決断は一つひとつが頷けてしまう。まず、アメリカでは近年、バイオシミラーの浸透をより容易にする規制変更の動きがある。オール・オア・ナッシング的に急激な政策決定が進みやすいアメリカの特性を考えれば、今後、バイオシミラーが急速に浸透する可能性はある。また、もしペムブロリズマブの特許権失効時にバイオシミラーの市場侵食が現状の20%程度だったとしても、もともとの売上高が巨大過ぎるため、日本円換算で4,000億円ほどの売上喪失となり、メルク社はかなり打撃をこうむることになるのは確かである。その意味で、この段階から手を打つというのも方策としてはあり得る。とりわけ近年の新薬開発の所要期間、開発費、開発難易度が年々増していることを考えればなおさらだ。そしてプロメテウス社が現在開発中の新薬候補は、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患(IBD)に対する抗体医薬品。この領域は近年、市場拡大中である。この新薬候補の開発段階は現在第II相試験。今後順調に開発が進めば、3~5年後の2026~28年に上市となるはず。そうすると、ペムブロリズマブの特許権失効への備えとしては時期的にも間に合うだろう。さらにIBDのような自己免疫性疾患の抗体医薬品は、ほかの自己免疫性疾患への適応拡大が容易なことは、アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)などの例を見れば明らか。つまりプロメテウス社は今後、全世界で数千億~1兆円規模の売上高を生み出す可能性を秘めているというわけだ。たしかに不確定要素はあるものの、現状からロジカルにさまざまな想定をすると1兆円の買収は十分割に合う可能性がある。すでに四半世紀近く製薬業界を眺めている自分も、一瞬、発表内容をぎょっとして受け止めたが、中身を考えるほど久々にうならされる買収発表だった。ただ、このニュースに接して、あえて残念と思うことがあるとするならば、それは日本の製薬企業の多くが、このような大胆かつ機動的な戦略が取れないことである。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるetrasimodの有用性(解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療に関して、基準薬である5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤に変化はないが、有害事象が危惧されているステロイドは総使用量と使用期間が可能な限り控えられるようになり、新たな生物学的製剤や低分子化合物の分子標的治療が主流になりつつある。抗TNF-α抗体薬、インターロイキン阻害薬、インテグリン阻害薬、ヤヌスキナーゼ阻害薬などの開発により難治性のUCが次第に少なくなってきているものの、いまだに十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される重症患者も少なくなく、新たな治療薬の追加が求められている。 今回、ozanimodに続く2番目の低分子スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬であるetrasimodの活動性UCに対する有効性と安全性を示す研究結果が、2023年3月のLancet誌に掲載された。本試験の維持療法部分のデザインは、通常の導入試験において寛解できた症例を対象とするResponder re-randomisation designではなく、寛解導入試験開始時の割り付けのままで維持療法終了時まで一貫して評価するTreat through designを採用している点が特徴的であり、今後、論議される点と思われる。 本試験の主要評価項目である活動性UCの臨床的寛解導入率および寛解維持率がプラセボに比べて統計学的に有意に高いことが示されているが、実薬の寛解導入および維持率は25%ないしは33%程度であり、対象の70%くらいの症例にとっては著明な効果が得られたとはいえない結果である。すなわち、臨床現場において従来の治療に抵抗性の重症UC患者に対してetrasimodを使用しても、十分な寛解効果を得ることができない患者が多く存在することを意味している。次々と開発されている分子標的治療薬の臨床治験の結果は、ほぼ同様の寛解率が報告されており、有効性の高い新規薬剤のさらなる開発が希求されている。 一方、安全性に関して本薬剤は免疫能低下の有害事象が少なく、重篤な感染症のリスク上昇を伴う他の新規治療薬とは異なる利点を有している。さらに、UC患者に使用される薬剤は長期使用が必要であるため、今後、長期使用の有用性と安全性に関する成績が必須であり、そのためには日本でも全国的な患者データベースの構築が待たれる。 最後に、これだけ高価な分子標的治療薬が次々と出現するたびに、学会発の診療ガイドラインに新たな選択肢として追記されるが、プラセボ対照試験ではなく市販後の新規薬剤同士の試験により、実際の臨床現場で困っている患者個人個人にとって適切な生物学的製剤や低分子化合物の選択を可能とするエビデンスが必要と思われる。

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etrasimod、中等~重症の活動期UCの導入・維持療法に有効/Lancet

 開発中のetrasimodは、中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎(UC)の導入および維持療法として有効であり、忍容性も良好であることが示された。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のWilliam J. Sandborn氏らが、2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。etrasimodは、1日1回経口投与のスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体モジュレーターであり、S1P受容体サブタイプの1、4および5を選択的に活性化し(2、3は活性化しない)、UCを含む免疫系疾患の治療のために開発が進められている。今回の結果を踏まえて著者は、「etrasimodは独自の組み合わせでUC患者のアンメットニーズに応える治療オプションとなる可能性がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年3月2日号掲載の報告。2つの試験で導入療法と維持療法としての有効性・安全性を評価 2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ELEVATE UC 52試験」と「ELEVATE UC 12試験」は独立して行われた。 被験者は、中等症~重症の活動期UCで、1つ以上の承認されたUC治療効果が不十分または減弱が認められる、もしくは不耐の成人患者であり、無作為に2対1の割合で、etrasimodを1日1回2mgまたはプラセボを経口投与する群に割り付けられた。ELEVATE UC 52試験の患者は40ヵ国315施設から、ELEVATE UC 12試験の患者は37ヵ国407施設から登録された。無作為化では、生物学的製剤またはJAK阻害薬の既治療有無、ベースラインでのコルチコステロイド使用有無、およびベースラインの疾患活動性(修正Mayoスコア[MMS]4~6 vs.7~9)で層別化が行われた。 ELEVATE UC 52試験は、12週の導入療法期間+40週の維持療法期間からなる治療を完了するデザインで構成された。ELEVATE UC 12試験では、12週時に独自に導入療法を評価した。 主要な有効性エンドポイントは、ELEVATE UC 52試験では12週時と52週時に、ELEVATE UC 12試験では12週時に、臨床的寛解を示した患者の割合であった。安全性は両試験で評価された。臨床的寛解を達成した患者の割合はetrasimod群で有意に高率 ELEVATE UC 52試験の患者は2019年6月13日~2021年1月28日に登録され、ELEVATE UC 12試験の患者は2020年9月15日~2021年8月12日に登録された。それぞれ821例、606例の患者がスクリーニングを受け、433例、354例の患者が無作為化を受けた。 ELEVATE UC 52試験の完全解析セットでは、etrasimod群に289例、プラセボ群に144例が割り付けられ、ELEVATE UC 12試験の同セットでは、238例、116例が割り付けられた。 ELEVATE UC 52試験で、臨床的寛解を達成した患者の割合は、12週の導入期間終了時(74/274例[27%]vs.10/135例[7%]、p<0.0001)、および52週時(88/274例[32%]vs.9/135例[7%]、p<0.0001)のいずれにおいても、プラセボ群と比較してetrasimod群で有意に高かった。 ELEVATE UC 12試験で、12週の導入期間終了時に臨床的寛解を達成した患者は、プラセボ群17/112例(15%)に対して、etrasimod群は55/222例(25%)であった(p=0.026)。 有害事象は、ELEVATE UC 52試験ではetrasimod群206/289例(71%)、プラセボ群81/144例(56%)、ELEVATE UC 12試験ではetrasimod群112/238例(47%)、プラセボ群54/116例(47%)で報告された。死亡や悪性腫瘍の報告例はなかった。

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TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」【下平博士のDIノート】第113回

TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」今回は、チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬「デュークラバシチニブ錠(商品名:ソーティクツ錠6mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、TYK2を選択的に阻害する世界初の経口薬で、既存治療で効果が不十分であった患者や、副作用などにより治療継続が困難であった患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日に発売されました。光線療法を含む既存の全身療法(生物学的製剤を除く)などで十分な効果が得られず皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ場合や、難治性の皮疹や膿疱を有する場合に使用します。<用法・用量>通常、成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。なお、本剤使用前には結核・B型肝炎のスクリーニングを行い、24週以内に本剤による治療反応が得られない場合は、治療計画の継続を慎重に判断します。<安全性>国際共同第III相臨床試験(IM011-046試験)において、本剤投与群の22.0%(117/531例)に臨床検査値異常を含む副作用が発現しました。主なものは、下痢2.6%(14例)、上咽頭炎2.4%(13例)、上気道感染2.3%(12例)、頭痛1.9%(10例)などでした。なお、重大な副作用として、重篤な感染症(0.2%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となる酵素の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体がだるい、咳が続くなどの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選び、高温や長時間の入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>本剤は、TYK2阻害作用を有する世界初の経口乾癬治療薬です。TYK2はヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーの分子ですが、本剤のようなTYK2だけを選択的に阻害する薬剤は比較的安全に使用できるのではでないかと期待されています。乾癬の治療としては、副腎皮質ステロイドやビタミンD3誘導体による外用療法、光線療法、シクロスポリンやエトレチナート(商品名:チガソン)などによる内服療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在、乾癬に適応を持つ生物学的製剤は下表のとおりです。また、同じ経口薬としてPDE4阻害薬のアプレミラスト(同:オテズラ)が「局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬」の適応で承認されています。臨床試験において、本剤投与群ではアプレミラストを上回る有効性を示しており、この点が評価されて薬価算定では40%の加算(有用性加算I)が付きました。安全性では、結核の既往歴を有する患者では結核を活動化させる可能性があるため注意が必要です。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。TYK2阻害薬は自己免疫疾患に対する新規作用機序の薬剤であり、今後の期待として潰瘍性大腸炎や全身性エリテマトーデスなどの幅広い疾患に適応が広がる可能性があり、注目されています。

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潰瘍性大腸炎治療で経口投与可能なα4インテグリン阻害薬「カログラ錠120mg」【下平博士のDIノート】第107回

潰瘍性大腸炎治療で経口投与可能なα4インテグリン阻害薬「カログラ錠120mg」今回は、α4インテグリン阻害薬「カロテグラストメチル錠(商品名:カログラ錠120mg、製造販売元:EAファーマ)」を紹介します。本剤は、経口投与可能な潰瘍性大腸炎治療薬であり、新たな寛解導入療法の選択肢として期待されています。<効能・効果>中等症の潰瘍性大腸炎(5-アミノサリチル酸製剤による治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2022年5月25日に薬価収載され、5月30日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはカロテグラストメチルとして1回960mg(8錠)を1日3回、食後に経口投与します。8週間投与しても、臨床症状や内視鏡所見などによる改善効果が得られない場合は、本剤の継続の可否も含めて治療法を再考します。なお、本剤と同一の機序を有する他剤において、進行性多巣性白質脳症(PML)の発現が報告されています。発現リスクを低減するため、投与期間は6ヵ月までとし、6ヵ月以内に寛解に至った場合はその時点で投与を終了します。本剤による治療を再度行う場合は、投与終了から8週間以上の間隔を空けます。<安全性>第II相試験および第III相試験の併合解析において、臨床検査値異常を含む副作用は、本剤投与群259例中48例(18.5%)で報告されました。主な副作用は、上咽頭炎5例(1.9%)、白血球数増加(4例)、頭痛、血中乳酸脱水素酵素増加各3例(1.2%)、腹部不快感、肝機能異常、発疹、関節痛、発熱各2例(0.8%)などでした。なお、重大な副作用として、進行性多巣性白質脳症(頻度不明)が設定されています。本剤投与中または投与終了後に意識障害、認知障害、麻痺症状(片麻痺、四肢麻痺)、言語障害などの症状が現れた場合は、MRIによる画像診断および脳脊髄液検査を行うとともに、投与を中止し、適切な処置を行います。<患者さんへの指導例>1.本剤は、過剰な免疫反応を抑えて腸管の炎症を抑えることで、潰瘍性大腸炎の症状を改善します。2.感染症にかかりやすくなったり悪化したりする場合があります。発熱、寒気、体がだるいなどの症状が現れた場合はご連絡ください。3.痙攣、意識の低下、意識の消失、しゃべりにくい、物忘れをする、手足の麻痺などの症状が現れた場合はご連絡ください。<Shimo's eyes>潰瘍性大腸炎は慢性の炎症性疾患であり、炎症が生じて症状が現れる「活動期」と症状が治まっている「寛解期」を繰り返すため、長期に渡る薬物療法が必要です。活動期の寛解導入治療として、軽症~中等症では経口5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が第1選択薬として広く使用されていて、効果不十分の場合は局所製剤(坐剤、注腸剤)の併用や経口ステロイド薬が用いられます。難治例では血球成分除去療法や免疫抑制薬、抗体製剤(抗TNFα抗体製剤、抗α4β7インテグリン抗体製剤、抗IL-12/23p40抗体製剤など)、あるいはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬などが選択されます。本剤は、世界初の経口投与可能なα4インテグリン阻害薬であり、α4β1インテグリン、α4β7インテグリンの双方に作用し、大腸粘膜の病変部位に認められる炎症性細胞の過度な集積・浸潤を抑制することで、潰瘍性大腸炎の症状を抑えます。5-ASA製剤による適切な治療を行っても疾患に起因する明らかな臨床症状が残る中等症の患者に投与されます。活動期の炎症を抑える寛解導入療法に用いられる薬剤であり、再燃を防ぐ維持療法としては使用できないことに注意が必要です。なお、本剤と他の免疫抑制薬の併用について臨床試験は実施されていないので併用を避ける必要があります。既存のインテグリン阻害薬としては、中等症~重症患者に使用される抗α4β7インテグリン抗体製剤のベドリズマブ点滴静注用(商品名:エンタイビオ)があります。点滴を受けることが負担となっている患者にとって、本剤は大きなメリットがあると考えられます。服薬指導では、本剤はリンパ球の遊走を阻害するため、感染症に対する免疫能に影響を及ぼす可能性があるので、感染症の兆候が現れたらすぐに連絡するように伝えましょう。1回8錠を1日3回、つまり1日24錠を服用しなければならないので、アドヒアランス低下にも注意が必要です。

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中等症以上のクローン病に対する維持療法におけるリサンキズマブの有用性:第III相試験の結果 (解説:上村直実氏)

 クローン病の治療においては、病気の活動性をコントロールして患者の寛解状態をできるだけ長く保持し、日常生活のQOLに影響する狭窄や瘻孔形成などの合併症の治療や予防が非常に重要である。最近、活動性とくに中等症から重症のクローン病に対しては、生物学的製剤により寛解導入したのち、引き続いて同じ薬剤で寛解維持に対する有用性を検証する臨床試験が多い。 今回、アジアも含めた44ヵ国で行われた国際共同試験でIL-23 p19阻害薬であるリサンキズマブの静脈内投与によりクローン病の寛解導入に有用性を示す結果を得たADVANCE試験とMOTIVATE試験において臨床効果が認められた患者を対象としてリサンキズマブ皮下投与の52週間維持療法の有効性と安全性を検証した第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(FORTIFY試験)の結果が2022年5月のLancet誌に掲載された。 本研究におけるクローン病の病勢を評価する方法は先行したADVANCE試験と同じく厳密なものである。52週目の内視鏡的改善度を主要評価項目として、従来から使用されているクローン病活動指数(CDAI)と便の回数や腹痛の回数など患者の訴えに加えて炎症性バイオマーカーである高感度CRPと便中カルプロテクチンを用いている。厳密な内視鏡的な評価によって寛解維持における有用性が確認されたことは、クローン病治療で重要な寛解維持の期間をできるだけ長く保ち、生活のQOLを高めることにつながる可能性を示唆する点で重要である。今後、クローン病や潰瘍性大腸炎に対する寛解維持療法の有用性を検証する場合には臨床的寛解に加えて内視鏡検査と生検による組織学的検査および炎症性バイオマーカーが必須となると思われる。 安全性に関して炎症性腸疾患や慢性関節リウマチなど自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化が周知されつつあるが、同類の薬剤として先行してクローン病の治療に用いられているウステキヌマブの臨床治験の経過中に前立腺などのがんが認められたとの報告もあり、生物学的製剤の長期使用に関しては感染症および悪性疾患の発生には十分に注意する必要がある。

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中等症から重症のクローン病の寛解導入に対するリサンキズマブの有用性:第III相試験の結果(解説:上村直実氏)

 クローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の治療は生物学的製剤の出現により大きく変化している。しかし、中等度以上の活動性を有するクローン病症例の中には、生物学的製剤の効果が得られない患者、時間の経過と共に効果が消失する患者、あるいは副作用により治療が中断される患者が少なくなく、いまだに新たな作用機序を有する治療薬の追加が求められているのが現状である。 わが国で乾癬などに対して2019年から承認され使用されている、IL-23p19阻害薬のリサンキズマブのクローン病寛解導入に対する有用性を明らかにした第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(ADVANCE試験とMOTIVATE試験)の結果が、2022年5月のLancet誌に掲載された。この2つの試験は適格条件の違いがあるものの、従来型の治療ないしは生物学的製剤の効果が不十分であった中等度以上の活動性クローン病患者を対象としたRCTで、12週後のリサンキズマブ群の臨床的寛解率と内視鏡的奏効率がプラセボ群に比して有意に高率であり、一方、有害事象の発生率はプラセボと同等であったと報告されている。この結果は、既存の生物学的製剤を用いても寛解導入に難渋している患者に対する大きな福音と思われる。 最近、クローン病治療に関する臨床研究におけるエンドポイントは、従来のクローン病活動指数(CDAI)に加えて内視鏡的効果を主要評価とするものが主流となりつつある。すなわち、クローン病治療のパラダイムシフトを反映し、再発リスクの低減、入院率の低下、ステロイドフリーの増加、腸管切除の減少など長期的な予後の改善に関連する内視鏡的治癒を治療目標とする試験が増えている。本研究はCDAI、便の回数、腹痛スコア、および全患者の中央判定による内視鏡的評価を網羅しており、今後、評価方法のモデルとなるかもしれない。 一方、リサンキズマブの臨床的寛解率は40%であり、今後、反応性の予測因子に関する分析が重要である。IL-12とIL-23を標的とするデュアル阻害剤であるウステキヌマブと異なり、リサンキズマブはIL-23p19に対する選択的なモノクローナル抗体である。リサンキズマブの有効性と安全性を検証するために、異なる作用機序を有する他の生物学的製剤と比較する試験が必要であり、現在進行中であるリサンキズマブとウステキヌマブの効果を検討する試験(SEQUENCE、NCT04524611)の結果が注目される。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法における低分子医薬品ウパダシチニブの有用性 (解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療は生物学的製剤や低分子化合物の出現により大きく変化している。すなわち、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬ベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブやフィルゴチニブなど新規薬剤の出現で難治性UCが次第に少なくなってきている。しかし、中等度以上の活動性を有するUC症例の中にはいまだに十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者が少なくなく、次々に新たな作用機序を有する治療薬の追加が求められているのが現状である。 今回、新たな経口低分子化合物でJAK1選択的阻害薬であるウパダシチニブの中等度から重度UC患者を対象とした2本の寛解導入試験と引き続き施行された寛解維持試験の結果、UCの寛解導入および寛解維持に対するウパダシチニブの有効性と安全性が示された論文が2022年5月のLancet誌に掲載された。 本研究で特記すべきは有用性を検証した評価項目である。従来の臨床研究において病勢の推移に使用されてきたMayoスコア(排便回数、血便、内視鏡的粘膜所見、医師による全般評価)から主観性の高い医師による全般評価を除き内視鏡的所見と組織学的所見の評価に重点を置いたAdapted Mayoスコアを用いて、さらに粘膜の炎症状態を把握する高感度CRPと便中カルプロテクチンや患者の治療方針に影響する腸管切迫感や腹痛を新たに含む評価としている。客観的で厳密なアウトカムの評価は、試験結果の信ぴょう性を高くして、一般診療現場における有用性を期待できるものとなり、今後の臨床試験での評価モデルとなる可能性が示唆された。 JAK阻害薬であるウパダシチニブ、トファシチニブおよびフィルゴチニブは、わが国の一般診療で慢性関節リウマチ(RA)に対して比較的長い間使用されているが、UCやRAなど自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化はよく知られており、長期使用に関しては感染症および悪性疾患の発生には留意する必要がある。そのほか、血管血栓症や帯状疱疹の発生リスク上昇の可能性、進行性多巣性白質脳疾患(PML)の発現も報告されており、薬理作用に精通した患者管理が重要である。

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ウパダシチニブ、中等~重症の潰瘍性大腸炎に高い有効性/Lancet

 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎(UC)の治療において、経口選択的ヤヌスキナーゼ1(JAK1)阻害薬ウパダシチニブはプラセボと比較して、導入療法および維持療法として高い有効性と優れた安全性を有し、有望な治療選択肢となる可能性があることが、イタリア・University Vita-Salute San RaffaeleのSilvio Danese氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2022年6月4日号で報告された。3つの無作為化試験の第III相試験 本研究は、2つの導入療法試験(U-ACHIEVE substudy 2[UC1]、U-ACCOMPLISH[UC2])と、1つの維持療法試験(U-ACHIEVE substudy 3[UC3])から成る二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、UC1に39ヵ国199施設が、UC2に40ヵ国204施設が参加し、これらの試験で臨床的改善(Adapted Mayoスコアに基づく)が達成された患者を対象とするUC3には35ヵ国195施設が参加した(AbbVieの助成を受けた)。 導入療法試験では、年齢16~75歳で、少なくとも90日間が経過した中等症~重症の活動期UC患者(Adapted Mayoスコア:5~9、内視鏡サブスコア:2~3)が、ウパダシチニブ(45mg、1日1回)またはプラセボの経口投与を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。維持療法試験では、導入療法試験で8週後に臨床的改善が達成された患者が、ウパダシチニブ15mg、同30mg、プラセボの経口投与を受ける群に、1対1対1の割合で再び無作為に割り付けられ、52週の投与が行われた。 主要エンドポイントは、導入療法試験は8週後、維持療法試験は52週後の臨床的寛解(Adapted Mayoスコア≦2、Mayo排便回数サブスコア[SFS]≦1でベースラインより多くない、直腸出血スコア[RBS]=0、内視鏡サブスコア≦1で粘膜の脆弱性を伴わない)とされた。臨床的寛解:UCIは26%、UC2は33%、UC3は42%/52% UC1では、2018年10月~2020年9月の期間に、ウパダシチニブ45mg群に319例、プラセボ群に155例が、UC2では、2018年12月~2021年1月の期間に、それぞれ345例および177例が割り付けられた。UC3では、導入療法で8週後に臨床的改善が得られた451例(第IIb相試験から21例、UC1から278例、UC2から152例)が登録され、ウパダシチニブ15mg群に148例、同30mg群に154例、プラセボ群には149例が割り付けられた。 導入療法試験で臨床的寛解が達成された患者の割合は、ウパダシチニブ45mg群(UC1:26%[83/319例]、UC2:33%[114/341例])がプラセボ群(UC1:5%[7/154例]、UC2:4%[7/174例])に比べ、統計学的に有意に高かった(補正後群間差:UC1:21.6%、95%信頼区間[CI]:15.8~27.4、p<0.0001、UC2:29.0%、23.2~34.7、p<0.0001)。 また、維持療法試験で臨床的寛解が達成された患者の割合は、ウパダシチニブ群(15mg群:42%[63/148例]、30mg群:52%[80/154例])がプラセボ群(12%[18/149例])に比し、統計学的に有意に優れた(補正後群間差:プラセボ群と15mg群の比較: 30.7%、95%CI:21.7~39.8、p<0.0001、プラセボ群と30mg群の比較:39.0%、29.7~48.2、p<0.0001)。 UC1で報告の頻度が高かった有害事象は、鼻咽頭炎(ウパダシチニブ45mg群5% vs.プラセボ群4%)、クレアチンホスホキナーゼ値上昇(4% vs.2%)、ざ瘡(5% vs.1%)であった。UC2では、ざ瘡(7% vs.2%)の報告が多かった。また、2つの導入療法試験のいずれにおいても、重篤な有害事象(UC1:3% vs.6%、UC2:3% vs.5%)および投与中止の原因となった有害事象(UC1:2% vs.9%、UC2:2% vs.5%)の発現率は、ウパダシチニブ45mg群よりもプラセボ群で高かった。 UC3では、潰瘍性大腸炎の悪化(ウパダシチニブ15mg群13% vs.同30mg群7% vs.プラセボ群 30%)、鼻咽頭炎(12% vs.14% vs.10%)、クレアチンホスホキナーゼ値上昇(6% vs.8% vs.2%)、関節痛(6% vs.3% vs.10%)、上気道感染症(5% vs.6% vs.4%)の報告が多かった。また、重篤な有害事象(7% vs.6% vs.13%)と投与中止の原因となった有害事象(4% vs.6% vs.11%)の発現率は、いずれも2つの用量のウパダシチニブ群がプラセボ群に比べ低かった。 がん、中央判定による主要有害心血管イベント、静脈血栓塞栓症の報告はまれで、治療関連死はみられなかった。 著者は、「ウパダシチニブは経口投与の低分子化合物であるため、服薬順守の向上や免疫原性がないことなど、生物学的治療にさまざまな利益を付加する可能性がある」としている。

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抗TNFα抗体製剤治療中のIBD患者、2回目の新型コロナワクチン接種後の免疫応答が低下

 抗TNFα抗体製剤は、炎症性腸疾患(IBD)などの免疫介在性炎症性疾患の治療に頻繁に用いられる生物学的製剤の1つだ。これまで抗TNFα抗体製剤は、肺炎球菌やインフルエンザワクチン接種後の免疫応答を減弱させ、重篤な呼吸器感染症リスクを増加させることが知られていた。しかし、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)ワクチンに対するデータは不足していた。英国・Royal Devon and Exeter NHS Foundation TrustのSimeng Lin氏らは、インフリキシマブ(抗TNFα抗体製剤)またはベドリズマブ(腸管選択的抗α4β7インテグリン抗体製剤)で治療中のIBD患者において、2回目の新型コロナウイルスワクチン接種後の抗体濃度やブレークスルー感染の頻度を比較した。Nature Communications誌2022年3月16日号の報告。 研究グループは、2020年9月22日~12月23日の間に、英国の92医療機関に来院したIBD患者7,226例を連続して登録した。そのうち新型コロナウイルス感染歴のないインフリキシマブ治療中の2,279例とベドリズマブ治療中の1,031例を対象とした。被験者はファイザー製BNT162b2ワクチン、アストラゼネカ製ChAdOx1 nCoV-19ワクチンのいずれかを接種し、2回目のワクチン接種から14~70日後に抗体が測定された。 主な結果は以下のとおり。・2回目のBNT162b2ワクチン接種後、インフリキシマブ治療群はベドリズマブ治療群と比べて抗SARS-CoV-2スパイク(S)受容体結合ドメイン(RBD)抗体の幾何平均濃度(SD)が低く、半減期が短かった(566.7 U/mL[6.2]vs.4,555.3 U/mL[5.4]、p<0.0001、26.8日[95%CI:26.2~27.5]vs.47.6日[45.5~49.8]、p<0.0001)。・ChAdOx1 CoV-19ワクチンでも同様に、インフリキシマブ治療群はベドリズマブ治療群と比べて抗S RBD抗体の幾何平均濃度が低く、半減期が短かった(184.7 U/mL[5.0]vs.784.0 U/mL[3.5]、p<0.0001、35.9日[34.9~36.8]vs.58.0日[55.0~61.3]、p<0.0001)。・新型コロナウイルスのブレークスルー感染は、インフリキシマブ治療群はベドリズマブ治療群と比べて頻度が高かった(5.8%[201/3,441]vs.3.9%[66/1,682]、p=0.0039)。・ワクチン接種前に新型コロナウイルス感染歴がある患者では、治療薬にかかわらず、より高く持続した抗体レベルが認められた。 著者らは「抗TNFα抗体製剤で治療中の、リスクを有する患者においては、個々に適したワクチン接種スケジュールの検討が必要な可能性がある」と述べた。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法における低分子医薬品ozanimodの有用性(解説:上村直実氏)

 選択的スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節薬ozanimodの潰瘍性大腸炎(UC)に対する有用性を検証した第III相臨床試験の結果、中等度から重度UCの寛解導入および寛解維持に有効性を認めたことがNEJM誌に掲載された。選択的S1P受容体調整薬ozanimodはUC患者の大腸粘膜へのリンパ球の浸潤を抑えることで炎症を抑制する効果が期待されている新規の低分子医薬品である。UCは特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、現在の患者数は約18万人である。UCに対する薬物治療については、5-ASA製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されているが、最近、ステロイドの長期投与に伴う副作用や依存性の懸念が強まり、ステロイドからの離脱や減量を目的として生物学的製剤や低分子医薬品の開発が盛んに行われている。すなわち、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬vedolizumab、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬フィルゴチニブ、今回のozanimodなど新規薬剤の有用性を示す試験結果が報告されて次々と上市されている。今後、さらなる難治性のUCに対しては生物学的製剤と低分子医薬品の併用の有用性と安全性の検証が必要となることも予測される。 ozanimodを含めてUCに対する有用性と安全性を検証する臨床試験の研究デザインは国際間多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験でほぼ一致しているが、最近のアウトカムは、一昔前の下痢や血便回数などの臨床的改善度のみでなく内視鏡を用いた肉眼的な粘膜治癒に加えて生検組織に好中球浸潤を認めないといった厳密なものに代わっている。したがって、試験結果の信憑性は高く、一般診療現場における有用性も十分に期待できるようになっている。 一方、薬剤の効果があればあるほど副作用ないしは安全性に関しては注意が必要となる。UCやリウマチなど自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化はよく知られているが、まれなものとして重篤なウイルス性脳疾患である進行性多巣性白質脳疾患(PML)の発現も報告されている。さらに市販後数年経過して心血管血栓症や死亡リスクの上昇が判明した事案の報告もあり、観察期間が限定されている臨床試験では検証できない長期使用の安全性については市販後に注意深く検証されるべきであり、今後、市販後の長期安全性に関する精緻な検証体制が重要である。

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