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造影剤投与直後のアナフィラキシーショックで死亡したケース

放射線科最終判決平成15年4月25日 東京地方裁判所 判決概要左耳前部から頸部の蜂窩織炎疑いで、大学病院を受診した39歳男性。腫瘍の可能性もあるということで、CT検査(単純・造影)が行われた。ところが、造影剤オプチレイ®320を注入直後にアナフィラキシーショックを起こし、ただちに救急蘇生が行われたが心拍は再開せず、約10時間後に死亡した。詳細な経過患者情報昭和36年7月28日生の男性経過平成12年4月29日喉の痛みがあり、近医診療所を休日受診して抗菌薬セファクロル(商品名: ケフラール)を処方される。5月1日大学病院内科を受診し、扁桃周囲膿瘍を指摘され、同院耳鼻科へ紹介受診となる。所見咽頭部発赤。口蓋扁桃は白苔、腫脹あり。頸部リンパ節触知。血液検査結果WBC 10,010(好中球70.3、リンパ球18.8、単球6.0、好酸球1.3、好塩基球0.9)、RbC 529万、Hb 15.1、Ht 47.5、CRP 8.3、総蛋白8.8g/dL急性扁桃炎の診断で、抗菌薬としてフロモキセフナトリウム(同: フルマリン)、クリンダマイシン(同: ダラシンS)の点滴静注を5日間行うとともに、経口抗菌薬セフポドキシムプロキセタル(同: バナン)、消炎鎮痛薬ロキソプロフェンナトリウム(同: ロキソニン)、胃炎・胃潰瘍薬レバミピド(同: ムコスタ)およびジクロフェナクナトリウム(同: ボルタレン)坐薬3コを処方。5月6日内服処方5日分(抗菌薬ファロムペネムナトリウム(同: ファロム)、ムコスタ®)、鎮痛薬頓用(ロキソニン®5錠)にていったん終診。平成12年8月22日左耳前部が腫れてくる。9月1日左耳前部の腫れで口が開けられなくなったため、大学病院内科をへて耳鼻科に紹介受診となる。所見発熱なし。鼻腔・口腔内に異常所見なし。左耳前部皮下組織全体が腫脹しているが、明らかな腫瘤なし。薬剤アレルギーなし。血液検査結果WBC 9,320(好中球45.1、リンパ球29.0、単球45.8、好酸球16.7、好塩基球1.4)、RbC 441万、Hb 13.3、Ht 39.1、plt 42.5万、CRP 0.3以下、総蛋白7.4、GOT 16、GpT 29、Na 141、K 4.9、Cl 106「蜂窩織炎疑い」と診断するが、ほかに膿瘍、腫瘍も疑われるため、9月5日のCT検査(単純・造影)を予約した。抗菌薬スパラフロキサシン(同: スパラ)を5日分処方。平成7年6月10日14:20放射線科CT検査室入室。14:23単純CT撮影。担当医師はモニターで左側頭部~下顎部皮下に索状の高吸収域所見を確認。炎症や腫瘍も否定できないと診断。14:30以下の問診を行う(ただし記録には残されていない)。医師:「大変情報量の多い検査となります。造影剤を使うにあたって、いくつかお尋ねします」患者:「はい、わかりました」医師:「今日は食事を抜いてきましたか?」患者:「抜いてきました」医師:「今まで造影剤を使う(注射をする)検査をしたことありますか?」患者:「ありません」医師:「今まで食べ物や薬で蕁麻疹などのアレルギーが出たり、気分が悪くなったりしたことありますか?蕁麻疹が出やすいということはないですか?花粉症があったり、喘息といわれたことはないですか?」患者:「ありません」14:40左腕の前腕から注射針を入れ、逆流を確認。造影剤のシリンジに延長チューブで接続。インジェクターのスイッチを操作し、ヨードテストもかねて少量の造影剤(非イオン性ヨード造影剤オプチレイ®320)を注入し、血管外漏出が無いこと、何ら変化が無いことを確認。医師:「これでとくに症状の変化がなかったら、今度は連続してお薬を入れていきます。お薬を入れていくと、体の中がポーっと熱くなってきます。これはお薬が全身にまわっている証拠で、誰でもそうなりますので心配ありません。もし、熱くなる以外に気持ち悪くなったり、胸が苦しくなったり、咳が出たり、鼻がムズムズしたりするようなことがあったら、すぐにいってください。マイクが付いていて、外に聞こえるようになっています」14:40造影剤注入開始。担当医師は50cc位注入するまで(約1分間)は傍につきそう。医師:「とくに変わりないですか?」患者:「変わりない」造影剤を70cc注入したところで(10~20秒)「頭が痛い」「気持ち悪い」と訴えたので、ただちにCT検査室に入り造影剤の注入を中止。会話ができることを確認し、容態の変化がないか観察しつつ、医師・看護師の応援を要請。フルクトラクト®点滴、ヒドロコルチゾン(同: ソル・コーテフ)1,000mg静注、まもなく呼び掛けても嘔吐をくり返し返答が鈍くなる。14:45自発呼吸低下、麻酔科医による気管内挿管(咽頭はやや蒼白で浮腫があり、声門は閉じていた)。心臓マッサージ開始。15:15除細動200J、1~2分後に300J。自己心拍は反応せず、瞳孔散大。15:45Iabp挿入。16:05ICUへ搬送し蘇生を継続。9月6日01:05死亡確認。当事者の主張検査前の問診について患者側(原告)の主張検査の適応有無を判断するための情報を得る重要な問診を怠ったことにより、検査の適応に関する必要な情報を得られず、その結果適応のない検査を行い死亡させた。病院側(被告)の主張検査前に、造影剤の使用経験がないこと、アレルギーを疑わせる既往歴がないことを問診できちんと確認した。造影剤投与を避けるべき事情の有無患者側(原告)の主張もともと患者には、造影剤慎重投与とされている花粉症、金属アレルギーの体質を有し、しかも血液検査で好酸球増多がみられたので、緊急性のない造影剤投与を避けるべきであった。しかも父親が造影剤による副作用で死亡したという家族歴からみて、父親の遺伝子を受け継いだ患者についてもヨード造影剤に過敏症があったはずであり、造影剤投与を避けるべきであった。病院側(被告)の主張患者には花粉症および金属アレルギーはない。好酸球増多の所見は確かにあるものの、アレルギー疾患であったとはいえない。そして、造影剤の医薬品添付文書には、花粉症、金属アレルギー、好酸球増多ともに、慎重投与の項目に挙げられていない。父親の死亡は、造影剤投与前に起きたため、造影剤によるアレルギー(アナフィラキシー)ではない。検査前の症状および所見からすれば腫瘍の可能性も否定できないため、造影剤を用いた検査は必要であり、造影剤の副作用が出現した場合には迅速かつ必要な処置ができる体制を整えたうえで検査を行った。救急処置が遅れたかどうか患者側(原告)の主張大学病院でありながらエピネフリンなどの救急薬剤の準備はなく、放射線医や麻酔医、看護師などにただちに応援を求めることができる連絡体制も不十分なまま検査を行った。そして、造影剤による副作用が現われた段階で、ただちに造影剤の注入を中止し、顔面浮腫、嘔吐などのショック症状がみられた時点でエピネフリンを投与し気道確保を行うべきなのに、対応が遅れたために死亡した。病院側(被告)の主張担当医師は造影剤が50mL位注入されるまで患者のそばにいて副作用の出現がないことを確認し、「頭が痛い」という訴えをもとに造影剤による副作用を疑って注入を中止している。この段階で患者の意識は清明で脈拍もしっかりしていた。その後応援医師、看護師も駆けつけ、嘔吐による気管内誤嚥を防ぐための体位をとり、輸液、ソル・コーテフ®1,000mgの静注を行った。その後自発呼吸の低下、脈拍微弱がみられたので、ただちに気管内挿管およびエピネフリンの気管内投与などを行い、救急蘇生としては必要にして十分であった。裁判所の判断検査前の問診について非イオン性ヨード造影剤にはショックなどの重篤な副作用が現れる場合もあること、副作用の発生機序が明らかではなく、副作用の確実な予知、予防法は確立されていないこと、他方で、ある素因を有する患者では副作用が発現しやすいことがある程度わかっており、問診によって患者のリスクファクターの有無を事前に把握することは、副作用発現を事前に回避し、または副作用発現に対応するために非常に重要な意味をもつ。そのため問診を行うにあたっては、問診の重要性を患者に十分に理解させたうえで、必要な事項について具体的かつ的確な応答を可能にするように適切な質問をする義務がある。担当医師は、CT検査室内において3~4分程度で、患者に対する必要にして十分な問診を行い、造影剤を注射したと供述する。しかし被告病院の外来カルテには、耳鼻咽喉科において問診を行い検査の適応があることを確認した旨の記載は一切なく、さらに耳鼻咽喉科から放射線科に対する「放射線診断依頼票」にもその旨の記載はない。また、担当医師が行ったとする問診、その結果などについても、まったく記録にとどめていない。つまり患者に問診の重要性を理解させ、必要な事項について具体的にかつ的確な応答を可能にする十分な問診を実施したのかは大いに疑問であるといわざるを得ない。したがって、検査前に問診をまったく行っていないという、重大な過失が認められる。造影剤投与を避けるべき事情の有無患者は平成11年8月25日、近医でアレルギー性鼻炎と診断をされ、薬を処方されている。また、歯科医院に診療を申し込む際の問診票に、自ら特異体質、アレルギーはないと記載した。患者が花粉症ないしアレルギー性鼻炎であるからといって、造影剤投与を避けるべきであるとは認められない。また、好酸球数は、平成12年5月1日の1.3%から、同年9月1日の検査では16.7%へと上昇しているが、造影剤の禁忌、原則禁忌、慎重投与などのいずれの注意事項にも該当せず、造影剤の使用を避けるべき事情があったとはいえない。なお、患者の父親については、平成3年6月12日大学病院外科外来で検査を施行中、造影剤を注入する前に容態急変を生じ、その後心停止をくり返して3日後の6月15日に死亡した。そのため遺族は、造影剤を使用したために急変を生じたと認識していたが、実際には造影剤の副作用で死亡したわけではない。一方、担当医師は、患者の父親が造影剤の検査で死亡した可能性があるということがわかっていれば、造影剤を使用する検査は実施しなかったであろうと供述している。一般的に気管支喘息、発疹、蕁麻疹などのアレルギーを起こしやすい体質については、本人のみならず、両親および兄弟の体質をも問題にすることが多いため、造影剤投与が禁忌とされている「ヨードまたはヨード造影剤に過敏症の既往歴」についても、本人のみならず両親および兄弟にそのような既往歴があるかどうかが重要である。したがって、患者の父親が造影剤を投与する予定の検査直後に死亡したことは、たとえ造影剤の副作用で死亡したわけではなくとも、患者に造影剤を使用するか否か慎重に検討すべき事由に当たる。したがって、担当医師が慎重な問診を行っていれば、父親が造影剤の検査の際に(結果的には造影剤とは関係はなかったが)容態急変を起こして死亡したことを答えていて、患者にも造影剤によるアレルギーを疑う所見となり得たであろう。しかも当時の患者は、蜂窩織炎があったといってもただちに生命の危険を生ずるような疾患ではなく、その症状も改善傾向にあり、検査の必要性は必ずしも高くはなかった。したがって、きちんと問診をとっていれば父親が造影剤に絡んで死亡したことを突き止め、検査を中止することができたはずである。原告側合計7,393万円の請求に対し、5,252万円の支払い命令考察造影剤によるアレルギーについては、皮膚の発疹程度で済む軽症例から、心肺停止へと至る劇症型まで、さまざまなタイプがあります。このような副作用を少しでも減らすために、過去にはテストアンプルを用いて予備テストを施行していた時期もありました。ところが、少量の造影剤であってもショック状態となるケースがあることや、事前にアレルギー無しと判定されたケースに実際に投与してショックが発生した例も報告されたことから、平成12年から医薬品メーカー側も造影剤へのテストアンプル添付を中止するようになりました。このような事実は、検査にたずさわる医師・診療放射線技師の間ですでに常識化していることですし、当然のこととして、アレルギーの有無を確認する問診は必ず行っていると思います。本件でも、担当医師は検査前にあれこれと詳しく質問したと裁判所で証言したうえで、その旨を陳述書に記載して裁判所に提出しました。おそらく、実際にも陳述内容に近いやりとりがあった可能性がきわめて高いと(同じ医師の立場からは)思います。ところがです。裁判所はそのような医師と患者のやりとりを示す「文書」が診療録にないことを理由に、「検査前に問診をまったく行っていないという、重大な過失が認められる」などという信じられない判断に至り、担当医師は圧倒的不利な立場に立ちました。そして、判決に至る思考過程として、「蜂窩織炎のような直接生命に関わらない病気で、健康な39歳男性が死亡したのは不可抗力ではなく、無謀な検査を強行した医師が悪い」といわんばかりの内容でした。医師の側からみれば、単純CTで患部には高吸収域の策状物がみえ、腫瘍の可能性を否定するために行った造影剤投与でした。もしこのときに造影剤投与を行わずに、腫瘍性病変を見逃す結果となっていたら、それはそれで医療ミスと追求されることにもつながります。したがって、今回の造影剤投与は医師の裁量権の範囲内にあるといって良いと思われるだけに、裁判官のいう問診義務違反が本当に存在するのかどうか、きわめて疑問です。確かに説明内容が文書のかたちでは残されておらず、入院ではなく外来で施行した検査のためご遺族への説明もなかったと思います。だからといって、まったく何も説明せずにいきなり造影剤を注入することなど、常識的にはあり得ないと思います。それでもなお、問診記録が残っていないから問診をしていない重大な過失があるなどと判断するのは、はじめから「医師が悪い」と決めつけた非常に危険な考え方ではないかと思います。さらに不可解なのは、ご遺族が裁判過程で「患者の父親も造影剤で死亡した」という間違った主張を展開し始め、その主張に裁判官までもがかなり引きずられていることです。実際には、患者の父親が別の大学病院で、造影剤注入の検査が予定された時に、造影剤注入前に容態が急変し、心停止をくり返して死亡したという経過でした。つまり造影剤はまったく関係ない(投与すらしていない)にもかかわらず、ご遺族は「父親も造影剤で死亡したのだから、造影剤のアレルギーは遺伝である」と誤認していたということです。これに対する裁判所の考え方は次の通りです。ご遺族が「父親も造影剤で死亡した事実がある」と誤認していたくらいだから、この死亡した患者も当然そのように誤認していたはずだ担当医師がその誤認した事実を聞き出していれば、造影剤投与を見合わせていた可能性が高いよって死亡することはなかったはずだこのような論理展開には、明らかな飛躍があることは明白でしょう。もし本当にこの患者が「父親が造影剤で死亡した」と誤って認識していたのならば、自分にも造影剤を注射されると聞いた段階で不安になり、医師に申告すると考えるのが自然ではないでしょうか。ありもしない仮定を並び立てて、無理矢理医師の過失を認定したように思えてなりません。もちろん、医師の側にも反省すべき点があります。それは何といっても、問診をはじめとする患者への説明内容をきちんと記録に残しておかなかったことです(簡単な予診票でも代用できたと思います)。とくに侵襲的な検査(CT、内視鏡、血管造影、経皮的な生検など)の場合には、結果が悪い(もしくは患者の期待通りにいかない)と、事前説明をめぐって「言った・言わない」のトラブルになる事例が非常に増えています。このような説明内容を、その都度、細大漏らさずカルテに記載するのは、時間的に非常に困難と思われますので、あらかじめ必要にして十分な説明を記入した説明文の雛形を作成しておくことが望まれます。そして、患者に対して説明した事項にはチェックを入れ、担当医師のサインと患者のサインを記入し、カルテにそのコピーを残しておけば、あとから第三者にとやかくいわれずにすむことになります。このような対処方法は、小手先だけの訴訟対策のようにも受けとられがちですが、医師に対する世間の眼が非常に厳しい昨今の状況を考えると、いつ先生方が同じような事例で不毛な医事紛争に巻き込まれてもまったく不思議ではありません。この機会にぜひとも、普段の診療場面を振り返っていただいたうえで、先生方独自の対応策を検討されてはいかがでしょうか。放射線科

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重症薬疹

薬剤性とウイルス性の発疹症の鑑別法について教えてください。これは難しい質問です。薬剤によって出来る発疹とウイルスによって出来る発疹はメカニズムが似ています。薬剤もウイルスもMHC(主要組織適合遺伝子複合体)を介してT細胞に抗原認識されるという点では同じであり、実際の鑑別も簡単ではありません。ただ、ウイルスには流行がありますし、麻疹風疹などウイルスでは抗体価が上がります。鑑別では、これらの情報を有効活用すべきだと思います。重症薬疹の、ごく初期の場合の見分け方を教えてください。初期段階での重症化予測については盛んに研究を行っているものの、まだ結論にはたどり着かない状態です。“軽く見える薬疹が2日後に非常に重症になる”といった症例を臨床の場でも経験することがあります。実際、初期であればあるほど見分けは難しく、大きな問題です。しいてコツをあげれば、思い込みを捨てて経過を良く観察する事でしょう。経過を良く見ていると、問題の発疹の原因や悪化要因となっている病気の本態やその赴く方向・勢いが顕になり、おかしいと点に気づくようになります。そこが非常に大事な点だと思います。重症化する薬疹の診断基準や早期診断の項目で、とくに重要な項目はありますか?粘膜疹と高熱の発現は重要です。とくに熱については、高熱がなければウイルス関与の薬疹ではない事が多いといえます。いずれにせよ、この2項目が出た場合は、注意しなければいけないと思います。また一般検査では、白血球増多と白血球減少のどちらも要注意で、血液像で核左方移動を伴う好中球増多がるのなのか、異形リンパ球の出現とその増加があるのか、また特殊検査になりますがTh2の活性化を示唆する血清TARC値の上昇が見られるのかも、薬疹の病型・重症度・病勢を推定・判定する上で重要です。マイコプラズマ感染症に続発する皮疹と薬疹を鑑別する方法はありますか?この2つはきわめて似ています。しかしながら、マイコプラズマに続発する場合は、気道が障害される傾向がありますし、胸部所見からの情報も得られます。また子供よりも大人の方が鑑別難しい症例が多いといえます。これも一番のコツは経過をじっと観察し、通常の定型的薬疹と違うことに気づくことだと思います。同じ薬剤でも薬疹の臨床型には個人差があるが、その要因を知りたい。難しい質問ですが、その患者さんの持っている免疫応答性とそれに影響を及ぼす遺伝的・非遺伝的な各種要因に関係した患者さんの持っている特性などが影響するのでしょう。SJSからTENへの移行とありますが、病理組織学的に両者は別疾患と聞いたことがあります。疾患連続性について御教授ください。これにはいろいろな意見があります。SJSは、通常SJSの発疹の拡大と病勢の伸展・進行によりTENに移行します。しかし、TENの場合、SJSを経ないで現れるものもあります。そのため、現時点ではSJSからTENに移行するものは一群として考えているといってよいと思います。免疫グロブリンは、軽症でも粘膜疹があれば早期投与した方が良いのでしょうか?免疫グロブリンを用いるのは、通常の治療で治らない場合と明らかにウイルス感染があるなど免疫グロブリンの明らかな適応がある場合などに限ります。このような症例を除いては、早期に使わないのが原則だと考えます。また、高価であり保険の問題もありますので、当然ながら安易な処方は避けるべきでしょう。AGEPにおける、ステロイド投与適応の指標は?AGEPには原因薬を中止して治る例とそうでない例があります。ステロイド適応は原因薬をやめて治らない場合ですね。なお、AGEPの場合は、TENやSJSとは異なり比較的低用量のステロイドでも治る症例があることに留意すべきものと思われます。初期に判断が難しい際には、全身ステロイドは控えるべきですか?判断が困難な場合は、第一の選択肢は、まず専門医に紹介するべきでしょう。中途半端な治療の後、悪化してわれわれの施設に来られる患者さんも少なくありません。こういった医療が最も良くないといえるでしょう。そういう意味で、病気に寄り添い、責任を持ってとことん病気を見切ることが重要です。その経過中に無理だと判断したら専門の医師に紹介した方が良いといえます。重症薬疹の原因薬剤として意外なもの(あまり認識されていないもの)はありますか?抗痙攣薬、消炎鎮痛解熱薬(NSAIDs)、抗菌薬、痛風治療薬などが原因薬としてよく取り上げられますが、どんな薬剤でも起こり得ると思った方が良いと思います。被疑薬の特定が困難である場合、治療のために全て薬剤を中止することが多いですが、どのように因果関係を証明したらよいでしょうか?とくに多剤内服中の方について病気の程度によりますが、軽くて余裕があれば、怪しい薬剤から抜いていって、良くなったらその薬剤が原因である可能性が高いわけです。一方、薬疹の進行が激しく一刻の猶予もない場合は、すべて中止したほうが良いと考えます。そして、その症状が治るか収まるかして、ステロイドなどの治療薬を中止できるか、ある程度まで減量できた時に、推定される原因薬剤を用いて、患者さんの末梢血に由来するリンパ球の刺激培養(in vitroリンパ球刺激試験)を実施し、出来れば、in vivoのパッチテストも行い、原因薬を診断・推定することは今後の予防という視点からも重要です。

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若年性特発性関節炎患児へのMMRワクチンブースター接種、安全性を確認/JAMA

 若年性特発性関節炎(JIA)患児への弱毒生麻疹・流行性耳下腺炎・風疹(MMR)ワクチンのブースター接種について、疾患活動性を悪化することなく免疫獲得に結びつくことが、オランダ・ユトレヒト大学ヴィルヘルミナ小児病院のMarloes W. Heijstek氏らによる多施設共同無作為化試験の結果、示された。オランダではMMRブースターの定期接種(NIP)は9~10歳時に行われる。しかしMMRワクチンの安全性について、小規模の先行試験においてワクチンの風疹要因が関節炎を引き起こすことが示されていた。JAMA誌2013年6月19日号掲載の報告。疾患活動性への影響と免疫獲得を評価 研究グループは、JIA患児、とくに免疫抑制の治療を受けている患児について、MMRワクチンのブースター接種が疾患活動性に影響をもたらすのか、および免疫獲得について明らかにすることを目的とした。 多施設共同無作為化試験は、オランダの5つの大学病院からJIA患児を登録してオープンラベルにて行った。被験児に無作為にアプローチできるように、またルーチン予防接種を控えることを回避するために、4~9歳児のMMRワクチンのブースター未接種のJIA患児137例を対象とした。被験児はMMRブースター接種(追加接種)群68例、非接種群(対照群、69例)に割り付けられ、ブースター接種後3ヵ月、12ヵ月時点の血清型カバー率、MMR特異的抗体価について評価を受けた。 被験児は生物学的製剤を服用していた場合は、接種前に投与を中止(半減期5回分)した。また疾患活動性は、線形混合モデルを用いて、若年性関節炎疾患活動度スコア(JADAS-27)の0(低活動度)~57(高活動度)で評価した。スコア差の同等性マージンは2.0だった。生物学的製剤服用児についてはさらに大規模な検討が必要 無作為化を受けた137例のうち、131例(MMR追加接種群63例、対照群68例)が修正intention-to-treat(ITT)解析を受けた。このうちメトトレキサートを服用していたのは60例(うちMMR追加接種群29例)、生物学的製剤(TNF阻害薬、IL-1阻害薬)の服用児は15例(うちMMR追加接種群は6例、3例)だった。 追跡完了までの疾患活動性は、両群で差はなく同等性が確認された。各群のJADAS-27スコアは、MMR追加接種群2.8(95%信頼区間[CI]:2.1~3.5)、対照群2.4(同:1.7~3.1)であり、差は0.4(95%CI:-0.5~1.2)だった。 12ヵ月時点の血清型カバー率は、MMR追加接種群のほうが高かった(麻疹:100%対92%、耳下腺炎:97%対81%、風疹:100%対94%)。抗体価もMMR追加接種群が有意に高かった(麻疹:1.63対0.78 IU/mL、p=0.03/耳下腺炎:168対104 RU/mL、p=0.03/風疹:69対45 IU/mL、p=0.01)。 メトトレキサートと生物学的製剤は免疫反応に影響を及ぼさなかったが、若干名の患者については不明確な点もあった。 上記の結果を踏まえて著者は、「初回予防接種を完了しているJIA患児に対するMMRワクチンのブースター接種は、非ブースター接種群との比較で、JIA疾患活動性を悪化することなく免疫獲得に結びついた」と結論。そのうえで「生物学的製剤を用いている患者についてのMMRワクチンの影響について、より大規模な試験が必要である」とまとめている。

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「内科で遭遇する皮膚疾患」に関するアンケート結果 part 2

Q1皮膚疾患を診療する上で困っていることがありましたら教えてください<診断・治療について>「このほくろは大丈夫ですか」と聞かれることが多いが、皮膚科医へわざわざ紹介すべきか、経過観察でよいかの判断がつかない。 患者さんとしては、受診したついでに質問されていることなので、それを全例「皮膚科へ行ってください」では患者さんのニーズにこたえていないと思う。しかし実際のところ判断がつかないので「大丈夫です」とも言えない。(勤務医・内科)ステロイドを使用するかどうか迷う時がある。(勤務医・内科)どういう湿疹や病状なら皮膚科に紹介すべきか悩む。(開業医・内科)患者さんから皮膚科医の処方の継続を依頼されるが、薬剤の中止や変更の判断が困る。(開業医・内科)感染性の皮膚疾患が診断できなくて、困っている。(勤務医・内科)緊急性の有無がよく分からない。(開業医・内科)黒色の色素斑が、悪性なのかどうか聞かれることがあるが、難しい。かといって、すべてを紹介するわけにもいかず、悩むことが多い。(開業医・内科)初期の病状は何とかなるが、しばらくたってからの皮膚病変をどのようしたらよいかわからない。(開業医・内科)他の医師で比較的安易にステロイド含有剤を内服処方しているので、離脱が大変である。(開業医・内科)皮膚科と違い、内科では、外来でKOHなど迅速に検査することができず、白癬として抗真菌薬を処方すべきか、ステロイド外用薬を処方すべきなのか、悩むことがある。(勤務医・内科)風疹などの感染症との鑑別。とくにウィルス性のカゼや溶連菌などで出てくる皮疹との鑑別。また、薬疹が疑われる場合の原因物質の究明。(開業医・内科)薬疹の原因薬剤が最終的に絞りきれない症例がある。(勤務医・内科)蕁麻疹と思われるが長期化している症例や受診時には皮疹が消失している症例がある。(勤務医・内科)<患者さんについて>あきらかに皮膚科的専門性のある疾患で、皮膚科受診を勧めるも、行きたがらないこと。(開業医・内科)皮膚に関して相談されたときは基本的に皮膚科に紹介している。ところがなぜか患者は”皮膚が悪いのは内臓から来ているのではないか”と内科を先に受診されることがままあり、困っている。(勤務医・内科)皮膚科受診を勧めても、当方での治療を希望される方が少なからずいる。今のところ大きなミスはないが、やはり専門医に行ってほしい。(開業医・内科)<その他>気軽に相談できる皮膚科医がそばにいない。(開業医・内科)当院は、総合病院でないため皮膚科医が在籍しない。外来患者で診断に困る場合や難治性の場合には他院の皮膚科専門医に紹介できるが、入院の場合には紹介しにくい。出来るだけ自分自身の診断能力の向上に努めているが限界がある。(勤務医・内科)疥癬など、急いで診断治療しないといけない疾患や薬疹を疑った時など、皮膚科にすぐコンサルトできる時は良いが、できないときに困る。(勤務医・内科)

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エキスパートに聞く!「内科医がおさえるべき皮膚診療ポイント」Q&A part2

CareNet.comでは『内科で診る皮膚疾患特集』を配信するにあたり、事前に会員の先生より質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、三橋善比古先生にご回答いただきましたので、全2回でお届けします。患者さんから黒色の色素斑が良性か悪性か聞かれ、判断が難しいことがあります。すべてを皮膚科専門医に紹介するわけにもいかず困ります。どのように対処したらよいでしょうか?黒色の悪性皮膚疾患の代表は悪性黒色腫と考えます。臨床診断の目安としてABCDE基準を紹介します。Aはasymmetry、非対称性かどうかです。鑑別対象になる良性の色素細胞性母斑は、同じ速度でゆっくりと拡大するので円型が基本です。悪性黒色腫は拡大する速度が方向によって異なるので非対称性になることが多いのです。Bはborder、境界が明瞭でないことです。一方、母斑は明瞭であることが多いのです。Cはcolor、色調です。母斑は均一ですが、悪性黒色腫は黒色調にムラがあるほか、脱色素を生じて白い部分や、炎症のため赤いところなど、多彩な色調になるのです。Dはdiameter、直径です。母斑は先天性のものを除けば小さいものが多く、手掌と足底では4mm以下、それ以外では6mm以下がほとんどです。この大きさを超えたものは悪性黒色腫の可能性があります。最後のEはElevation、隆起に注意します。ただ、母斑も真皮内の母斑細胞が増加するとドーム状に隆起しています。平坦だった色素性病変が隆起してきたら、急速に細胞増殖が生じていると考えられます。悪性黒色腫の徴候です。基底細胞癌も黒色の悪性腫瘍です。中高年者の顔面や体の正中部に好発します。角化がみられず、表面がつるっとしています。良性で、中高齢者に好発する脂漏性角化症(老人性疣贅)と区別する必要があります。脂漏性角化症は角化していて、表面がくすんだ感じがあります。悪性黒色腫と色素細胞性母斑、基底細胞癌と脂漏性角化症は、ダーモスコピー検査で区別できることが多いです。慣れてくれば、基底細胞癌は直径1~2mm程度でも疑うことができるようになります。2種の塗り薬の重ね塗りはどんな場合に意味があるのでしょうか?外用薬の重ね塗りは、外用薬の相乗効果を期待して行われます。保湿薬とステロイド薬、ステロイド薬と亜鉛化軟膏などの組み合わせがあります。前者は乾燥皮膚で湿疹もみられるときに、乾燥した面に保湿薬を塗り、その後、湿疹性変化が見られる部分にステロイド薬を塗ってもらいます。相乗効果のほか、ステロイド薬の塗り過ぎを防ぐ効果も期待できます。後者は湿潤した湿疹性病変に、まずステロイド薬を塗り、その上に亜鉛化軟膏をかぶせて滲出液を軽減する効果を期待します。一方、2回塗ることは、患者には時間や労力の負担になり、コンプライアンスを下げる欠点があります。そのため、初めから2種類の外用薬を混合して処方することがあります。こちらの欠点は、組み合わせによってはpHや組成に変化を来して、期待した効果が得られなくなる可能性があることです。食物アレルギーと皮膚疾患にはどのような関連があるのでしょうか?食物アレルギーはI型アレルギーです。I型アレルギーの皮膚症状は蕁麻疹です。したがって、食物アレルギーでは蕁麻疹を生じ、重篤な場合はショックを引き起こします。一方、アトピー性皮膚炎でも食物の関連が指摘されています。しかし、アトピー性皮膚炎の皮膚病変は湿疹です。湿疹はIV型アレルギーで生じます。したがって、アトピー性皮膚炎における食物の関与は、単純なI型アレルギーとしてではないと考えられます。ただし、アトピー性皮膚炎患者が純粋な食物アレルギーを合併していることがあります。そのような、合併ではないアトピー性皮膚炎に対する食物の関与は、I型アレルギーの特殊型である遅延相反応や、IV型アレルギーの特殊型であるTh2型反応などで生じている可能性があります。これらの反応では、純粋なI型アレルギーのように蕁麻疹やショックを生じることはありません。分子標的薬の副作用対策とその予防法について教えてください薬剤がいったん体内に入った後で全身に生じる副作用は、従来は薬疹と呼ばれ、その対応は当該薬剤を中止することでした。中止する理由は、皮膚に生じた症状はアレルギーや中毒によるもので、そのまま薬剤摂取を続けると、いずれ障害は体内の全臓器に波及する可能性があると考えられるためでした。ところが、分子標的薬登場後、この考えを修正する必要が出てきました。分子標的薬は特定の分子を標的にしているため、アレルギーや中毒ではなく、作用の一つとして皮膚に症状が現れることが多いのです。ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)、エルロチニブ塩酸塩(同:タルセバ)などのEGFR阻害薬の場合は、EGFRが毛嚢細胞に大量に発現しているため、薬の作用として毛嚢を破壊し、その結果、毛嚢炎、ざ瘡、ざ瘡様発疹などと表現される皮膚病変を生じます。この場合、皮膚病変は薬の効果の一つと考えることもできます。そのため、中止する必要はないことになります。薬疹ではなく、皮膚障害と呼んで区別しているのはこのためです。皮膚病変を対症的に治療して、我慢できる程度であれば原疾患の治療を続けることになります。ところが、ここで大きな問題があります。このような分子標的薬も、従来通りのアレルギー性の薬疹を起こすことがあることです。中毒性表皮壊死症(TEN)やStevens-Johnson症候群などの重篤な病型も報告されています。発疹出現時、各分子標的薬に特有の皮膚障害か従来の薬疹かを区別することが大事です。これは、時に皮膚科専門医にも難しいことがあります。生検してはいけない皮膚病変にはどのようなものがあるのでしょうか?生検してはいけない皮膚病変はないと思います。生検のデメリットと生検で得る可能性がある情報のどちらが大きいかで決定するべきです。たとえば悪性黒色腫は生検すべきではない、とする考えがあります。しかし、生検しなければ診断できないことがあります。また、治療を決定するための深さを知るためには生検が必要です。悪性黒色腫が考えられるときの生検は、できる限り、病変内を切開するincisional biopsyではなく、病変全体を切除するexcisional biopsyを行います。また、生検の結果、悪性黒色腫の診断が確定することを考えて、1ヵ月以内に拡大切除ができることを確認しておきます。血管肉腫も必要最小限の生検にとどめるべき疾患です。生検によって転移を促進する可能性があります。しかし、診断確定のための生検は必要です。治療する環境を整えてから生検するのがよいでしょう。爪の生検は悪性疾患が考えられるときや、炎症性疾患でも、診断確定することで大きな利益がある場合にとどめるべきです。爪に不可逆的な変形を残す可能性があることをよく説明して、患者の同意を得て行うことが必須です。前胸部の生検は大きな瘢痕を残したり、ケロイド発生の危険性があります。組織検査のメリットがあるかどうか考え、患者に説明してから行うべきでしょう。

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エキスパートに聞く!「内科医がおさえるべき皮膚診療ポイント」Q&A part1

CareNet.comでは『内科で診る皮膚疾患特集』を配信するにあたり、事前に会員の先生より質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、三橋善比古先生にご回答いただきましたので、全2回でお届けします。皮膚科専門医に紹介すべき疾患の見分け方、緊急性のある皮膚疾患の見分け方のポイントがあれば教えてください。発熱がある場合は緊急性があることが多いと思います。皮膚所見では、全身が赤い紅皮症状態、水疱形成や粘膜症状がある例が重症疾患のことが多いと思います。数日間観察して悪化傾向があれば、その後も悪化することが考えられるので紹介すべきです。この悪化傾向は必ずしも面積の拡大を意味しません。中毒疹は体幹に始まり、軽快するときに四肢に拡大していくことが多いのです。面積が拡大しているので悪化していると解釈されることが多いですが、実際は軽快していることもあります。この場合、色調や浸潤に注意すると、面積は拡大しても赤みが薄くなって浸潤が改善していることがあります。これは軽快の徴候です。プライマリ・ケアで注意すべき皮膚疾患はどのようなものがあるでしょうか?湿疹・皮膚炎群、蕁麻疹、表在性白癬で、全皮膚疾患患者の半分程度を占めるとされています。これらの疾患に対応できればかなりの部分をカバーできると思われます。白癬を疑うケース:内科外来では顕微鏡やKOH検査ができません。そのような場合、どのように対処すべきでしょうか? まず抗真菌薬を処方すべきか、ステロイド外用薬を処方すべきかなど悩みます。皮膚科でKOH検査を行っても湿疹か白癬か判別できないことがあります。このような場合は、必ず後日再来する約束をしてステロイド薬の外用を行い、再度、真菌鏡検を行って診断を確定することがあります。この場合、ステロイド薬外用は、湿疹性病変を治療することで白癬病変を明瞭化すること、かゆみを取り除くという意味があります。真菌鏡検ができないときはこの手は使えませんので、まず抗真菌薬を外用する方がよいと思います。ステロイド外用で真菌病変が悪化してしまうことを避けるためです。蕁麻疹について:受診時には皮疹が消失している症例にはどのように対処したらよいでしょうか?蕁麻疹は膨疹を特徴とする疾患です。膨疹は短時間で出没することが特徴です。出たり消えたりしているわけです。全体としては続いていることもあるし、全体が消えてしまうこともあります。従って、診察の時に発疹がまったくないことは珍しくありません。むしろこれが、他の疾患ではみられない蕁麻疹の特徴です。蕁麻疹はアレルギー性のほか、運動誘発性、寒冷、温熱、コリン性など原因は多彩です。蕁麻疹の治療は、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬の内服が第一選択です。ステロイド外用はあまり意味がありません。もし外用薬を処方する場合は、ジフェンヒドラミン(商品名:レスタミンコーワクリーム)などのステロイドを含まないものがよいでしょう。複数の皮膚病変が合併している場合の対処法について教えてください。複数の皮膚病変の合併と聞いて、真っ先に、水虫(足白癬)に細菌の二次感染が合併している状態を思い出しました。このような患者は、これから暑くなってくると毎日のように来院されます。また、足白癬の治療のための外用薬による接触皮膚炎を合併している患者もおられます。これら3疾患を併発していることもあります。このようなときの治療は、後で生じたものから治療するという原則があります。白癬に細菌感染では、細菌感染から治療します。接触皮膚炎を合併していたら、まず接触皮膚炎を治療します。原則にこだわるよりも、急を要するものから治療すると考えるのがいいかも知れません。いずれにしても、白癬の治療は最後でよいのです。

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慢性蕁麻疹の血小板活性化、重症度と相関

 慢性蕁麻疹と血小板活性化との関連について、これまで十分に検討した報告はほとんどみられていない。インド・医学教育研究大学院ジャワハル研究所(JIPMER)のLaxmisha Chandrashekar氏らは、健康な対照との比較による横断的研究を行った。その結果、慢性蕁麻疹患者における血小板活性化は有意で、とくに自己反応性を有する患者で顕著であったことを報告した。Platelets誌オンライン版2013年4月15日号の掲載報告。 研究対象は、慢性蕁麻疹患者45例と、年齢・性をマッチさせた健康な対照45例であった。蕁麻疹重症度スコアを用いて、疾患重症度を評価し、患者群の被験者については全員に自己血清皮内検査(autologous plasma skin test:APST)を行った。 血小板数および指標は、血液自動レーザー光分析器によって算定した。また全被験者について、血小板凝集能と血漿可溶性P-セレクチン値を評価した。 主な結果は以下のとおり。・対照群と比較して慢性蕁麻疹患者群では、平均血小板容積(MPV)と血小板分布幅(PDW)の値が有意に高いことが観察された。・血小板凝集能と血漿可溶性P-セレクチン値は、対照群と比較して慢性蕁麻疹患者群で有意に高かった。・蕁麻疹重症度スコアは、血小板凝集能と血漿可溶性P-セレクチン値と明らかな関連性が認められた。・APST陽性患者はAPST陰性患者との比較において、血小板凝集能と血漿可溶性P-セレクチン値が有意に高かった。血小板活性化は自己免疫反応を有する群でとくに有意であった。

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生年月日でわかるあなたの風疹感染リスク! ワクチン接種済んでますか?

現在、大都市を中心に風疹の感染拡大が懸念されている。国立感染症研究所の発表によれば5月1日現在で5,442人(2012年では2,392人)の患者が報告され、昨年の2倍以上の感染者が確認されている。とくにワクチン接種を受けていない20~50代の成人を中心に感染が拡大、厚生労働省が中心となり、今後さまざまな施策が準備、施行される予定である。今回、この風疹の感染拡大とその対応について大曲 貴夫氏に話を聞いた。今回の風疹流行の原因について教えてください風疹は、実は2011年頃からじわじわと患者数は増えてきていました。原因としては、ワクチン未接種の免疫がない方が、人口密集地域で感染し、一気に拡大したと考えられています。現在、広くワクチン接種が呼びかけられていますが、接種のモデルタイプはどのような方ですか?やはりワクチン接種歴がないとされる20~50代の成人の方(とくに男性)です(図)。母子手帳などで過去のワクチン接種の正確な確認ができない場合は、未接種と考えてワクチン接種をした方がいいでしょう。よく、家族の方が、「子どもの頃に風疹をした」と言っていても、風疹かどうか曖昧な場合がほとんです。罹患した確実な証拠がない、あるいはワクチンの接種歴が分からないのであれば、まずはワクチンを接種すべきと考えた方がよいと思います。生年月日ごとの風疹含有ワクチンの定期接種の状況画像を拡大する風疹が引き起こす、成人や妊婦への影響について教えてください成人の方であれば、発疹、発熱、リンパ節の腫れなどが現れます。風疹は飛沫感染するために、他人に感染させないように症状が軽くても会社や学校を休まねばなりません。また、特に妊婦さん(妊娠24週頃まで)が、風疹に感染すると胎児の死亡、流早産につながったり、先天性風疹症候群を発症し、胎児が心疾患や難聴、白内障などの障害を持った状態で生まれてきます。そのため、妊婦さんやこれから妊娠を希望される方には、特に気をつけてもらいたいと思います。妊娠予定の方は、パートナーと共にワクチン接種を受け、その周囲の人も風疹にならないための配慮が必要です。現行のワクチン接種の問題点について教えてください現在の風疹ワクチンの接種については、大きく3つの問題があります。1つ目はワクチン接種の診療科の問題、2つ目は接種するワクチンの問題、3つ目は経済的な問題です。1つ目の問題は、どの診療科でワクチンを接種するかです。小児科が推奨されていますが、小児科に成人の方が集中する事態も問題であり、かといって一般内科のクリニックには、風疹ワクチンが用意されていないのが実情ではないでしょうか。地域の基幹病院などが推奨されますが、多忙な社会人が受診しやすい夜間や週末の診療はしていないところが多いです。もう少し接種へのアクセスがよくなればということが挙げられます。例えば東京都では、医療機関案内サービス「ひまわり」などで情報の提供を行っています。2つ目の接種するワクチンの問題ですが、風疹ワクチンだけではなくMRワクチンでも良いというのは、実はあまり知られていません。どちらかが自院に用意されているのであれば、接種を希望する方に勧めた方がよいということです。 過去に麻疹になったことがあったり、ワクチン接種済みの方が追加接種となっても、特に問題はありません。どちらもしっかり免疫をつけることができる、そして費用的にもお得です。3つ目は経済的な問題です。現在、各自治体が風疹への問題意識を持ってワクチン接種の助成を行っています。これは良い施策だと思いますが「妊娠を希望する女性とその配偶者」というように、非常に狭い枠での助成となっています。財政的な問題もあると思いますが、インフルエンザの予防接種並みに気軽に接種できるくらいまで、財政支援などの対応をいただきたいと思います。今後、地域の医療従事者が貢献できることを教えてください1つには、地域のワクチン対象者への啓発と誘導です。風疹の問題点は、飛翔感染で多くの人にも感染させることです。自分だけでなく、家庭、職場、学校でも迷惑をかけるということを、医療従事者が、何度も繰り返し説明していくことでワクチン接種の重要性を伝えていく必要があります。とくに妊娠適齢の女性の方は、先天性風疹症候群について詳しく知りません。今、ワクチン接種しておかないとどうなるのか、メリット・デメリットを含めて医療従事者が、外来の機会を通じて説明して、接種ができる医療機関へ誘導していくことが大事だと考えます。もちろん国立国際医療センター病院では、ワクチンを常備していますので、こうした医療機関を医療従事者が知っておくことも大切です。次は、ワクチン接種へのアクセス改善と接種時の問題発生への備えです。理想的には、なるべく多くの医療機関にワクチンを揃えてもらいたいと思います。また、ワクチン接種の時に、何らかの副反応が起る可能性もあります。一般的には発疹、紅斑、発熱などですが、重大な副反応であるアナフィラキシー様症状が出た場合の対応手順と緊急搬送先の確認など、再度チェックしていただきたいと思います。最後に風疹対策は、今行うことで先天性風疹症候群を防ぎ、子どもの未来を救うことになります。この点を医療に携わる方は意識していただければと思います。国立感染症研究所 風疹 参考 東京都感染症情報センター「ストップ 風疹」 参考 東京都医療機関案内サービス「ひまわり」 

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難治性の慢性特発性蕁麻疹、オマリズマブで症状改善/NEJM

 慢性特発性蕁麻疹(chronic idiopathic/spontaneous urticaria)で抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1拮抗薬)の高用量投与でも症状が改善されない患者について、抗IgEモノクローナル抗体オマリズマブの投与により症状が改善されたことが、ドイツ・Charite-UniversitatsmedizinのMarcus Maurer氏らによる第3相多施設共同無作為化二重盲検試験の結果、報告された。慢性特発性蕁麻疹患者の多くが、抗ヒスタミン薬の高用量投与でも症状が改善しない。抗IgE抗体オマリズマブ(商品名:ゾレア、本邦での適応は気管支喘息)の有効性については第2相試験で示され、本試験では有効性と安全性が検討された。NEJM誌オンライン版2013年2月24日号掲載報告より。323例をオマリズマブ75mg、150mg、300mg群とプラセボ群に割り付け検討 第3相試験は、成人および12歳以上の中程度~重度の慢性特発性蕁麻疹患者(抗ヒスタミン薬治療が無効)を対象とした28週間にわたるオマリズマブ治療の有効性と安全性を検討することを目的とした。 466例の患者がスクリーニングを受け、323例(42.5±13.7、76%が女性、平均体重82.4±21.9kg)が3つの皮下注治療(75mg、150mg、300mg)群またはプラセボ群に無作為化された。治療は4週間隔で行われた。12週の治療期間終了後、16週間にわたって追跡が行われた。 主要有効性アウトカムは、かゆみ重症度スコアのベースラインからの変化で週単位で評価が行われた(範囲:0~21週、最高スコアが最も重症度が高いことを示す)。150mg、300mg群で有意に症状が改善、重大有害イベントは300mg群が高い ベースラインのかゆみ重症度スコアは、年齢階層や性別、体重、罹患期間など、全4群において14階層群から得ていた。 12週時点において、プラセボ群のスコアのベースラインからの変化は、平均-5.1±5.6であり、75mg群は-5.9±6.5(p=0.46)、150mg群は-8.1±6.4(p=0.001)、300mg群は-9.8±6.0(p<0.001)であった。また同時点での、事前特定の副次アウトカムについてはほとんどが同等性を示した。有害事象の頻度も同程度であった。 重大な有害イベントの発生は概して低かったが、300mg群(6%)で、プラセボ群(3%)や75mg群および150mg群(いずれも1%)よりも高率だった。

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難治性の慢性特発性蕁麻疹患者、ピロリ菌除菌療法で約3割が症状消失

 抗ヒスタミン薬が無効の慢性特発性蕁麻疹(CU)患者について、ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori、以下 ピロリ菌)感染症の除菌療法がベネフィットをもたらす可能性が、イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学のE. Magen氏らによる検討の結果、報告された。British Journal of Dermatology誌オンライン版2013年1月21日号の掲載報告。一部のCU患者では抗ヒスタミン薬の常用量投与に耐性を示す。一方、最近の研究報告で、慢性特発性蕁麻疹とピロリ菌感染症との関連が報告されていた。 研究グループは、ピロリ菌感染症の根治がCU患者の抗ヒスタミン薬耐性状況を改善可能かについて調べた。 CU患者の症例を後ろ向きにレビューし、蕁麻疹活性スコア(UAS)の記録と、ピロリ菌感染症について13C-urea breath test(13C-UBT)を行った。 初回投与量の4倍の抗ヒスタミン薬での8週治療にもかかわらずCU改善がみられない患者は難治性CU群とし、反応がみられた患者は反応CU群とした。 難治性CUで13C-UBT陽性の患者に対し、アモキシシリン1g・クラリスロマイシン500mg・オメプラゾール20mgを1日2回、14日間投与した。 CUにおけるピロリ菌除菌の効果は、UASにて評価した(3剤投与開始後のベースライン、8、16、28週時点で評価)。 主な結果は以下のとおり。・難治性CU患者46例のうち、29例(63%)が13C-UBT陽性であった。・29例のうち、18例がピロリ菌感染症の除菌を受けた(サブグループA)。11例は3剤併用療法を辞退した(サブグループB)。なお46例のうち17例は13C-UBT陰性であった(サブグループC)。・サブグループAにおいて、UASはベースラインの5.29±0.94から、8週時点3.62~0.96(p=0.03)、16週時点1.43±0.41(p

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世界の死因は過去20年で大きく変化、心疾患やCOPD、肺がんなどが主因に/Lancet

 1990~2010年の20年間の世界の死因別死亡率の動向について、米国・Institute for Health Metrics and EvaluationのRafael Lozano氏らがGlobal Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study 2010(GBD2010)の系統的解析を行い報告した。Lancet誌2012年12月15/22/29日合併号掲載の報告。世界の死因で感染症などは大幅に減少 GBD2010において研究グループは、世界187ヵ国から入手可能な死因に関わるあらゆるデータ(人口動態、言語剖検、死亡率サーベイランス、国勢調査、各種サーベイ、病院統計、事件・事故統計、遺体安置・埋葬記録)を集め、1980~2010年の年間死亡率を235の死因に基づき、年齢・性別に不確定区間(UI)値とともに算出し、世界の死因別死亡率の推移を評価した。 その結果、2010年に世界で死亡した人は5,280万人であった。そのうち最大の統合死因別死亡率(感染症・母体性・新生児期・栄養的)は24.9%であったが、同値は1990年の34.1%(1,590万/4,650万人)と比べると大幅に減少していた。その減少に大きく寄与したのが、下痢性疾患(250万人→140万人)、下気道感染症(340万人→280万人)、新生児障害(310万人→220万人)、麻疹(63万人→13万人)、破傷風(27万人→6万人)の死亡率の低下であった。 HIV/AIDSによる死亡は、1990年の30万人から2010年は150万人に増加していた。ピークは2006年の170万人であった。 マラリアの死亡率も1990年から推定19.9%上昇し、2010年は117万人であった。 結核による2010年の死亡は120万人であった。2010年の世界の主要死因は、虚血性心疾患、脳卒中、COPD、下気道感染症、肺がん、HIV/AIDS 非感染症による死亡は、1990年と比べて2010年は800万人弱増加した。2010年の非感染症死者は3,450万人で、死亡3例のうち2例を占めるまでになっていた。 また2010年のがん死亡者は、20年前と比べて38%増加し、800万人であった。このうち150万人(19%)は気管、気管支および肺のがんであった。 虚血性心疾患と脳卒中の2010年の死亡は1,290万人で、1990年は世界の死亡5例に1例の割合であったが、4例に1例を占めるようになっていた。なお、糖尿病による死亡は130万人で、1990年のほぼ2倍になっていた。 外傷による世界の死亡率は、2010年は9.6%(510万人)で、20年前の8.8%と比べてわずかだが増加していた。その要因は、交通事故による死亡(2010年世界で130万人)が46%増加したことと、転倒からの死亡が増加したことが大きかった。 2010年の世界の主要な死因は、虚血性心疾患、脳卒中、COPD、下気道感染症、肺がん、HIV/AIDSであった。そして2010年の世界の早期死亡による生命損失年(years of life lost:YLL)に影響した主要な死因は、虚血性心疾患、下気道感染症、脳卒中、下痢性疾患、マラリア、HIV/AIDSであった。これは、HIV/AIDSと早期分娩合併症を除き1990年とほぼ同様であった。下気道感染症と下痢性疾患のYLLは1990年から45~54%減少していた一方で、虚血性心疾患、脳卒中は17~28%増加していた。 また、主要な死因の地域における格差がかなり大きかった。サハラ以南のアフリカでは2010年においても統合死因別死亡(感染症・母体性・新生児期・栄養的)が早期死亡要因の76%を占めていた。 標準年齢の死亡率は一部の鍵となる疾患(とくにHIV/AIDS、アルツハイマー病、糖尿病、CKD)で上昇したが、大半の疾患(重大血管系疾患、COPD、大半のがん、肝硬変、母体の障害など)は20年前より減少していた。その他の疾患、とくにマラリア、前立腺がん、外傷はほとんど変化がなかった。 著者は、「世界人口の増加、世界的な平均年齢の上昇、そして年齢特異的・性特異的・死因特異的死亡率の減少が組み合わさって、世界の死因が非感染症のものへとシフトしたことが認められた。一方で、サハラ以南のアフリカでは依然として従来死亡主因(感染症・母体性・新生児期・栄養的)が優位を占めている。このような疫学的な変化の陰で、多くの局地的な変化(たとえば、個人間の暴力事件、自殺、肝がん、糖尿病、肝硬変、シャーガス病、アフリカトリパノソーマ、メラノーマなど)が起きており、定期的な世界の疫学的な死因調査の重要性が強調される」とまとめている。

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【寄稿】トピックス「舌下免疫療法」

概説花粉症を含むアレルギー性鼻炎はI型アレルギーであり、その治療の基本はアレルゲンの除去、回避である。しかし完全に行うことは不可能であり、エビデンスも少なくARIA(Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma)ガイドラインでは推奨度Dである1)。このため、抗原特異的治療としてアレルゲン免疫療法(SCIT)が唯一、アレルギー疾患に対する根本的な治療法であり、治癒させうる治療法である。SCITは1911年にNoonが初めて行って以来2)、現在まで続いている。国際的にSCITはアレルギー専門医になくてはならない治療法であり、高い効果が示されている。しかし、アナフィラキシーをはじめとする種々の全身的副作用のため、本邦では一般的治療法にはなっていないのが現状である。このSCITの副作用を減少させるため、欧米では抗原投与ルートを変更させた代替免疫療法(局所アレルゲン免疫療法)がかなり以前より行われている。その中で最も注目を浴びているのが舌下免疫療法(SLIT)であり、1990年に初めてTariらによって報告された3)。日本では2000年より日本医科大学耳鼻咽喉科により臨床試験が行われ、2010年からスギ花粉症に対し、2012年からダニ通年性アレルギー性鼻炎、喘息に対して開発治験が始められた。理論・機序SLITの効果発現機序では局所の免疫誘導が最も考えやすいが、現在まで効果発現機序の検討は少ない。1999年のSLIT開始早期での末梢血単核細胞(PBMC)の活性化は、少なくとも舌下した抗原の免疫誘導が全身に生じたことを示している。またSCITでの報告と同じく、全身性の制御性T 細胞がその有効性を左右していると考えられている4)。現在まで千葉大学のグループのスギ花粉症に対する臨床効果もほぼ同等であるが、効果発現機序としてスギ特異的T細胞クローンの減少を報告している5)。また、日本医科大学と三重大学グループの試験では、SLITにおいても誘導性制御性T細胞Tr1が誘導され、SLITの効果発現機序の根幹であることが示唆された6)。今後、症例数を増加させた同様の検討あるいは局所リンパ節などの検討から、SLITの効果発現機序をさらに明らかにしなければならない。実際の方法・手技・対象1 SLITの方法国際的な報告を受け、日本特有のスギ花粉症に対してSLITを適応させるべく、2000年より日本医科大学倫理委員会の承認を受け、SLITをスギ花粉症患者に対して行った7)。2 投与スケジュール投与スケジュールは、1週目から4週目までは毎日、5週目では最高濃度20滴を1週間のうち2回、6週目以降は季節を通じて1週間に1回、抗原エキス2,000 JAU/mLを20滴舌下に投薬した(表1)。これは国際的に初めてSLITを開始したフランスのStallergenesの液剤プロトコールであり、当時としては標準的なものである。しかし、現在治験が行われているスギ花粉症に対するSLIT治験TO-194SLでは開始濃度は200JAU/mLであり、また投与は最後まで毎日行うスケジュールとなっている。表1 抗原エキス舌下投与スケジュール画像を拡大する成績および長期予後<スギ花粉症に対するSLITの効果>2005年には、スギ・ヒノキ花粉飛散は約12,000個/cm2/シーズンと大量飛散の年であった。今までのランダム化されていない比較研究ではなく、エビデンスの作成として56症例(実薬35症例、プラセボ21症例)でのプラセボ対照の二重盲検比較試験(RCT)を行った。今までの薬物療法との比較研究では、症状スコアではSLITは薬物療法と有意差がなかったが、症状薬物スコアではSLIT群が有意に低く、薬物療法より効果を示していた。2005年のRCTでは、国際的な評価を得ているSLITがスギ花粉症においてもプラセボより有意に症状スコア(図1)、QOLスコア(図2)を下げたことが示された8)。図1 症状スコアの推移画像を拡大する図2 QOLスコアの変化画像を拡大する長期予後はまだまだデータが少ないが、施行後3年の症状軽快を示すデータ、他の抗原感作を抑制するというSCITと同じようなデータが出つつある9)。今後、さらに長期予後のデータを収集しなければならない。注意事項副作用は少数であるが確認された。もちろん、重篤なアナフィラキシーや喘息発作はないが、抗原投与時の舌や口腔の痒み・しびれ感、鼻汁増加、皮膚の痒み、蕁麻疹が合わせて10%程度の頻度で認められた(図3)。また口腔底の腫脹は通常では認められない高度のものも存在し、その場合の施行継続/休止/停止などの決定にはアレルギー診療での対処が求められる。今回の症例数は少なく絶対的な安全性の根拠にはならないが、過去の国際的な報告も併せ、注射との実際的な関係を考えても高度な副作用は少ないことが示唆される。図3 口腔底の腫脹展望と今後の方向性欧米ではすでにこの舌下免疫療法が一般的な治療となっていて、フランスのStallergenes、デンマークのALK ABELLOなどすでに製剤としてのSLIT製品があり、その一般臨床への応用が各国で始まっている。日本における開発は、日本アレルギー学会の「アレルゲンと免疫療法専門部会」(部会長:増山敬祐)のもとで始まっている。日本での抗原製品の作成としては、先に述べたスギ花粉症に対する舌下用抗原エキスの開発が鳥居薬品により進められ、評価最終年が2012年であった。薬価収載は2013年秋以降になると予想されている(編集部注:2012年12月25日承認申請)。また、検討会でも海外での製材導入が検討されたが、StallergenesとALK ABELLOの舌下用ダニ抗原エキスが日本企業と連携し、開発を進めることが決定され、臨床試験が2012年秋から開始される予定である。日本ではまだまだ施行例が少なく、重篤な副作用はないが、施行にあたってはアレルギー学、免疫学の知識が不可欠であり、使用を試みる医師に対しての勉強会・講習会などの開催が必要だと考える。引用文献1) ARIA Workshop Group. A Allergy Clin Immunol. 2001;108:s147-s334.2)Noon L. Lancet. 1911;1:1572-1574.3)Tari MG, et al. Allergol Immunopathol (Madr). 1990;18:277-284.4)Ciprandi G, et al. Allergy Asthma Proc. 2007;28:574-577.5)Horiguchi S, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2008;146:76-84.6)Yamanaka K, et al. J Allergy Clin Immunol. 2009;124:842-845.7)Gotoh M, et al. Allergol Int. 2005;54:167-171.8)Okubo K, et al. Allergol Int. 2008;57:265-275.9)Di Rienzo V, et al. Clin Exp Allergy. 2003;33:206-210.

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聖路加GENERAL【Dr.衛藤の皮膚科疾患アーカイブ】(上巻)

第1回「蕁麻疹」第2回「アトピー性皮膚炎」第3回「痛い皮膚疾患①-感染症-」第4回「痛い皮膚疾患②-炎症-」 第1回「蕁麻疹」皮膚疾患は“痒い”“痛い”“症状がない”のどれかに分類されますが、「蕁麻疹」や「アトピー性皮膚炎」には日常診療でよく遭遇する反面、専門医でないと鑑別の難しい、一見症状が似ている重症疾患が隠れている場合があり、それらを見分けることが重要になります。豊富な症例をとおして、蕁麻疹やアトピー性皮膚炎と重症疾患との見分け方、診断と治療、ステロイド等薬剤の使い方、専門医へ送る判断基準などを解説します。最初の症例は、仕事が忙しく、数ヶ月寝不足が続いている32歳の女性。全身に瘙痒性皮疹が出現。蕁麻疹の原因は、ストレス、疲労、物理的な刺激など、非アレルギー性の因子によるものが多いことがわかっています。蕁麻疹は、マスト細胞がなんらかの刺激によりヒスタミンを出すことで発症します。なにがその刺激の原因になるのか、またそのヒスタミンによってどのような症状として現れるかはさまざまです。急性のもの、皮膚描記症、薬剤性蕁麻疹、蕁麻疹様血管炎などについて、具体的な症例を提示しながら紹介します。また、近年話題になった茶のしずく石鹸による小麦アレルギーについても解説します。第2回「アトピー性皮膚炎」アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下することで発症すると考えられています。近年、そのバリア機能に関係するタンパク質として、フィラグリンが注目されています。また、症状の程度を表す指標として、最近用いられるようになったTARC検査について紹介します。アトピー性皮膚炎の中には、バリア機能が正常なものもあります。また、治療に使うステロイド薬が原因で皮膚炎を起こすようなケースもあります。他に、類似した痒い疾患として、小児にみられる脂漏性皮膚炎、疥癬や、菌状息肉症などの怖い疾患との鑑別についても解説します。また、ステロイド軟膏の塗り方など基本的なことについても紹介します。第3回「痛い皮膚疾患①-感染症-」今回から「痛い」疾患について解説します。痛い皮膚疾患は、まず感染症を考えます。最初の症例は、38歳の男性。毎年夏になると趾間がじくじくして痒いという症状がありましたが、ずっと放置していました。ゴルフに行った翌日、足背が腫れて熱を持ち、痛くなってきたため受診しました。発熱もあることから感染症を疑い検査した結果、水虫から二次感染を起こした蜂巣炎であることがわかりました。足の水虫は万病の元と言われているように、水虫が原因でさまざまな疾患を発症することがあるので、要注意です。他にも、歯磨きから感染することなどもあります。更に、もっと重度な壊死性筋膜炎やうっ滞性皮膚炎などについて、具体的な症例を提示しながら詳しく解説します。第4回「痛い皮膚疾患②-炎症-」今回は炎症性のものを見ていきます。最初の症例は40歳女性。一週間前から誘因なく右腋窩に痛みと鶏卵大の紅班が出現し、受診しました。全身症状としては倦怠感と軽い発熱があり、病歴をとっていくと潰瘍性大腸炎にて治療中ということで、この方はSweet病と診断されました。最近では炎症性腸炎に伴うSweet病も増えています。痛い発疹で明らかな感染が見られなかったり結節性紅班にも当てはまらない場合に考えたい病気の一つであり、重い内臓疾患を合併する場合もあるので、注意が必要です。他にも見落としてはならない結節性紅班や血管炎の診断のポイントや、軽視してはならない重症薬疹について詳しく解説していきます。

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Dr.岡田のアレルギー疾患大原則

第8回「喘息(前編)」第9回「喘息(後編)」第10回「アトピー性皮膚炎」第11回「じん麻疹・血管性浮腫・接触性皮膚炎」 第8回「喘息(前編)」喘息の基本は、慢性の気道炎症→気道過敏症→気道狭窄→喘息発作。長期コントロールは気道炎症を抑える抗炎症剤、発作が起こってしまったら炎症がおさまるまでとりあえず気管支拡張剤で呼吸を維持するのは常識ですが、炎症を抑えるためにステップアップすることばかりでなく、副作用も無視できません。そこで、もう一歩奥に踏み込んで、アレルギー、鼻炎、GERDなどを含めた慢性炎症の原因について考えていきます。 前編では、いつもの外来ですぐに役立つ、毎回聞く6つの質問、ピークフローがどうして必須なのか、GINA2006、JGL2006の具体的な利用法、ロイコトリエン抑制剤の効果が得られやすい患者群と吸入性ステロイドを使うべき患者の特徴などを解説します。第9回「喘息(後編)」喘息の長期コントロールには気道炎症を抑える抗炎症剤を用います。しかし、患者さんから「ステロイドはちょっと…」と言われたときはどうしていますか? また折角処方しても実際使ってもらえないのでは意味がありません。後編では、吸入ステロイドの副作用に関してデータを一つひとつ示しながら、医師も患者も納得して使えるように詳しく説明していきます。 さらに、抗ロイコトリエン剤が有効な症例の選び方、アスピリン喘息の解説、喘息治療の落とし穴=Vocal Cord Dysfunctionの症例呈示に加えて、ヨーロッパで常識になってきているシングルインヘーラー療法まで紹介します。第10回「アトピー性皮膚炎」ステロイドクリームの強さの分類が、アメリカと日本とフランスでは全く違うことをご存じでしょうか。日本では5段階中2番目のベリーストロングに分類されている「フルメタ」が、アメリカでは7段階中4番目と、真ん中より下になります。このような例からも分類に固執して部位ごとに外用薬を何種類も処方したり、症状によって毎回種類を変えるのではなく、塗り方と回数を調節してみる方が効果があることがわかります。 今回は簡単なステロイドの使い方はもちろん、ワセリンが加湿剤ではなく保湿剤であることを認識した上での使い方、また、注意が必要な感染症であるとびひ、ヘルペス、真菌症などについて解説します。 できてしまったアトピーは、先ずシンプルに一度治してしまいましょう!第11回「じん麻疹・血管性浮腫・接触性皮膚炎」大人の慢性じん麻疹は、食物アレルギーに因る確率はわずか1%未満で、原因としては自己免疫、ストレス、感染症など様々な因子に関連していることが多いです。しかし、いつ、どこまで検索すればよいのか迷うことはないでしょうか。今回は、すべての原因を一つの図にして、患者さんが納得できる説明方法と実践的な治療法を紹介します。また、複雑な病態を診断する上で無意識に行っているパターン認識、Aphorism(定石集)、分析の考え方も整理します。 接触性皮膚炎は、アレルギー性と刺激性の区別を発症時間、症状、病態でひとつの表にすると鑑別が容易になります。数少ない実地臨床で高頻度に出会う「非I型(IV型)アレルギー=接触性皮膚炎」をマスターすれば、大原則の総仕上げです!

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新規ワクチン導入は既存ワクチン接種に影響を及ぼさない

 国の予防接種プログラムへの新規ワクチン導入に際しては、その効果や保健医療制度への影響について異議を唱える声が聞かれる。とくに既存ワクチン接種への影響について疑念を持つ向きがある。カナダ・マックマスター大学のShearer JC氏らは、新規ワクチン導入の既存ワクチン接種への影響について187ヵ国の状況を調べた。Vaccine誌オンライン版2012年10月22日号の掲載報告。 予防接種システムの実行についてDTPワクチン接種を代替指標とし、新規ワクチンの導入が、乳児の既存予防接種プログラムであるDTPの3回接種の変化と関連するかを調べた。 DTPワクチン3回接種について、多変量国家間縦断混合効果モデルを利用して解析した。 主な結果は以下のとおり。・1999~2009年の187ヵ国のDTPワクチン3回接種について調査した。・DTPワクチン3回接種を制御する因子として、肝炎ウイルスワクチン、Hibワクチン、ロタウイルスワクチンとの間でごくわずかな関連が見つかった。・むしろ、接種頻度や接種率の変動は、国の発展や保健医療制度の変数(武力紛争、出産前ケアサービス範囲、乳児死亡率、個人負担の割合、1人当たりの総医療費用を含む)と関連していた。・新規導入ワクチンによるDTPワクチン3回接種への影響は認められなかった。新規ワクチンの導入や混合ワクチンの導入にあたっては、免疫獲得や保健医療制度への影響をモニタリングすべきである。

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5価ロタウイルスワクチンの有効性、1回接種88%、2回接種で94%に

 5価ロタウイルスワクチン(RV5、商品名:ロタテック)について、3回接種を完了していなくても、ロタウイルス胃腸炎に対し有効性を示すことが報告された。米国・OptumInsight EpidemiologyのWang FT氏らが、3回接種を完了しなかった乳児を追跡した結果で、著者は「規定接種を完了しなかった場合のベネフィットを考えるうえで意義ある結果が得られた」と述べている。Pediatr Infect Dis J誌オンライン版2012年9月25日号の掲載報告。 大規模な国民健康保険金請求データベースを利用して、2コホートの乳児[RV5とジフテリア・破傷風・百日咳混合ワクチン(DTaP)との同時接種を受けた乳児、DTapのみ接種の乳児]を、2007~2008年のロタウイルス・シーズン(1月1日~5月31日)間に追跡し、ロタウイルス胃腸炎またはあらゆる原因による胃腸炎で医療機関を受診した症例を特定した。 RV5の初回接種児、2回接種児のワクチンの有効性について、入院、救急外来受診、外来受診の減少を推定評価した。 主な結果は以下のとおり。・RV5初回接種児は4万2,306例、比較群のDTaP初回接種児は2万8,417例であった。RV5の2回接種児は4万3,704例、DTaPの2回接種児は3万1,810例であった。・RV5の1回接種による、ロタウイルス胃腸炎入院と救急外来受診に対する有効性は88%であった。全原因による胃腸炎入院と救急外来受診については44%であった。・RV5の2回接種による、ロタウイルス胃腸炎入院と救急外来受診に対する有効性は94%であった。全原因による胃腸炎入院と救急外来受診については40%であった。関連医療トピックス ・ロタウイルスの血清型と流行【動画】 ・子どもの問題行動に対する行動予防モデルSWPBISの影響 ・学校でのワクチン接種プログラムに対し、多くの開業医が自院経営面への影響を懸念

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『ボストン便り』(第42回)「神奈川県不活化ポリオワクチン政策の顛末」

星槎大学共生科学部教授ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー細田 満和子(ほそだ みわこ)2012年10月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。紹介:ボストンはアメリカ東北部マサチューセッツ州の州都で、建国の地としての伝統を感じさせるとともに、革新的でラディカルな側面を持ち合わせている独特な街です。また、近郊も含めると単科・総合大学が100校くらいあり、世界中から研究者が集まってきています。そんなボストンから、保健医療や生活に関する話題をお届けします。(ブログはこちら→http://blog.goo.ne.jp/miwakohosoda/)*「ボストン便り」が本になりました。タイトルは『パブリックヘルス 市民が変える医療社会―アメリカ医療改革の現場から』(明石書店)。再構成し、大幅に加筆修正しましたので、ぜひお読み頂ければと思います。●不活化ポリオワクチン接種のスタート2012年9月1日から、ポリオの予防接種は、それまでの生ポリオワクチンから、不活化ポリオワクチンに転換しました。今まで受けてきた、生/不活化ワクチンの数によって、今後受けなくてはならない不活化ワクチンの数は様々になります。さらに11月からは、不活化ポリオワクチンとDPT(ジフテリア、百日咳、破傷風混合ワクチン)を合わせた4種混合が導入されます。また、現在は任意接種のインフルエンザ菌b型(ヒブ)や肺炎球菌、B型肝炎、ロタウイルスなども定期接種にすべきという意見も強くあり、自費で接種を希望される保護者も少なくありません。このようにしてワクチン接種のスケジュールはますます複雑になってきますが、確実に予防接種が遂行されるようにと、各地の自治体は保護者に対する説明や広報の活動を行っています。行政職員達の忙しさは容易に想像されますが、ただし、いままでも地方自治体は、生ポリオワクチンに対する危惧からの接種拒否や接種控えがおこり、接種率が低下するという問題に直面し、職員は対応に苦慮していました。この背景は、いままでの「ボストン便り」で何度も触れたように、ポリオの会や一部の小児科医の働きかけによって、生ポリオワクチンにより100万人に3~4名程度(公式には1.4人)が実際にポリオに罹患してしまうこと、それを避けるためには不活化ワクチンを接種するという方法がとられることが、広く知られるようになってきたからです。こうして、安全性の高い不活化ポリオワクチンを子どもに受けさせたいと思う親御さんが増えたのです。一部の医療機関で個人輸入として使用されていた不活化ポリオワクチンは有料で、医療機関によっても異なりますが1回4,000円から6,000円で、3回受けると12,000円から18,000円になります。生ワクチンなら公費で無料なのにもかかわらず、多くの親御さんたちが有料の不活化ワクチンを選んできました。安全なワクチンを受けたいという当然の事を主張する保護者に対して、これまでほとんどの行政は、「生ワクチンを打ってください」とか、「もう少しで不活化になります」と苦し紛れで対応してきました。しかし、こうした事からやっと解放されると、忙しさの中で職員達はむしろ喜んでいるのではないかとも推察されます。しかし、このような対応をせずに、不活化を希望する親御さんに対しては、それを提供できる体制を整えてきた自治体があります。神奈川県です。神奈川県では黒岩祐治知事の決断で、2011年末から、不活化ポリオワクチン体制を独自に整えてきました。これは国が不活化ポリオワクチンに切り替えたために2012年8月31日をもって終了しましたが、ここではその動きを振り返ってみたいと思います。●神奈川県知事の決断神奈川県では従来、生ポリオワクチンの接種率は100%に近く、毎年約8万人が接種していました。ところが、2011年10月の時点で、1万7000人が無接種という事態に陥りました。黒岩氏はこの急激な接種率の低下を、生ポリオワクチンによってポリオに罹ることを恐れた親御さんたちの気持ちだと受けとめました。さらに黒岩氏は、かつて厚生労働省の予防接種部会の構成員を務めたこともあり、世界の感染症状況にも関心が高く、当時、中国の新疆ウイグル地区で野生株由来のポリオの集団感染が報告されたことにも危機感を持っていました。ポリオは、世界で99%は解消されましたが、あと1%の壁がなかなか破れず、いまだ撲滅されていない感染症なのです。万が一にでもポリオが発生したら大変なことになってしまいます。そこで黒岩氏は、当時国内未承認であった不活化ポリオワクチン接種を、県独自の判断として実施することを決断したのです。ところが、この黒岩氏の決断に対して、厚生労働大臣である小宮山洋子氏は、2011年10月18日の閣議後の記者会見において、「望ましいと思っていない」と批判しました。「国民の不安をあおって、生ワクチンの接種を控えて免疫を持たない人が増える恐れがある」と。こうして国と県とでワクチン政策に関する対立が起こった形になりました。確かに、中国で集団感染が報告されるように、ポリオは未だ終わっていない世界の大問題ですから、ワクチン未接種の子どもたちがいたら大変なことが起きる、という小宮山氏の発言は大いにうなずけるものがあります。しかし、ポリオを発症する危険性のある生ワクチンを接種すべきいうことは、どうしても理解できません。なぜなら、予防接種によってポリオに罹ることのない不活化ワクチンがあるからです。どうして接種控えをしているのかというと、親は、万にひとつでも、生ワクチンでポリオを発症するようなことがあったら子どもに申し訳ないと思うからです。この不活化ワクチンを望む親御さんたちの気持ちは、黒岩氏には届いていても、小宮山氏には届いていないようでした。●神奈川県職員の奔走神奈川県が独自に不活化ポリオワクチンの接種をすると決めても、県職員の足並みは必ずしも揃っていたわけではありませんでした。当時の状況を良く知る方の話によると、当初、県立病院に入院している重症の子どもだけを対象に接種するということでお茶を濁そうとしていた職員もいたといいます。しかし、実務の担当者は、知事の熱意と「お母さん達からの心の叫び」に応えるために、急ピッチで準備をしました。ここでは、こうした県職員の方々へのヒアリングを基に、神奈川県における不活化ポリオワクチン体制について、ワクチンの確保、医師の確保、そして場所の確保という観点からみてみます。まず、ワクチンの確保についてです。不活化ポリオワクチンは、当時は国の薬事承認や国家検定をまだ受けていない未承認薬でした。よって医師たちは「薬監証明」を取って、未承認薬の不活化ポリオワクチンを輸入し、子どもたちに接種していました。この「薬監証明」は、医師が個人でとることはできても、県がとって輸入するということは、制度上できないものです。そこで、県の担当者は、厚生労働省の担当者と交渉した結果、解決策を見出しました。それは、神奈川県で接種に携わる医師の名簿を作成し、その医師がワクチンを使うということで厚生労働省から「薬監証明」を出してもらうという仕組みです。このエピソードから、厚生労働省は、表向きの制度論上は不活化ポリオワクチンに渋い顔をしていたものの、運用上は生ワクチンからの切り替えを容認していたことがうかがえます。次に、医師の確保についてです。担当者は、神奈川県立こども医療センターと上足柄病院から、接種をしてくれる医師を出してもらい、県立病院機構に非常勤職員として所属してもらうことにしました。ただし県立子ども医療センターは、ここが最後の砦という感じの重症のお子さんがたくさんいらっしゃるので、なかなか医師を出してはくれませんでした。しかし、比較的高齢の医師達に非常勤で来てもらうということで、やっと最後には合意を取り付けることができました。この県立病院機構の非常勤の医師達が、不活化ポリオワクチンを輸入するということで「薬監証明」をとり、接種できる体制にしました。最後に場所の確保についてです。予防接種の場所として、県の4か所の保健福祉事務所が使われることになりました。その際は、具体的な手順の調整が大変だったといいます。どんな順路にするか、エレベーターや階段は十分に行き来できるスペースがあるか、きょうだいを連れてくる人もいるだろうから、その子たちが待っている場所はどうするかなど。あらゆる可能性を考えて、接種場所の準備をしたということでした。このようにして整備されてきた不活化ポリオワクチン接種体制ですが、接種価格についても議論になりました。その結果、安易に無料化しない、ということで1回6,000円になりました。それは、神奈川県内で独自に不活化ポリオワクチンの接種を行っている医師達に配慮するためです。医師達は補償などのことも含めて、自分でリスクを考えつつ、赤ちゃんのために不活化ワクチンを個人輸入してきました。そこに県が無料でポリオワクチンを接種する事にしたら、医師達は受診してくれる子どもたちを失うことになります。不活化ワクチンを有料で提供するのは、「県も独自にドロをかぶってやる」という県の姿勢を示すためにも必要だったのです。●不活化ポリオワクチンの開始不活化ポリオワクチンの予約は2011年12月15日から開始され、2012年3月31日で終了しました。この間に申し込みをした予防接種希望者は、5,647人でした。申し込みの取り消しも3,033人いましたので、実際に接種をした数は2,614人でした。この2,614人の接種希望者が、不活化ワクチンを1回ないしは2回接種したので、合計の接種実施回数は4,036回となりました。この4,036回の接種の裏には、さまざまなドラマがありました。不活化ポリオワクチンの接種は、2012年1月から始まりましたが、インフルエンザが大流行したので、1月と2月は1日に25人くらいしか接種できませんでした。その結果、4月の中旬の時点では、848人の接種しか終わっていませんでした。そこで4月中旬以降は、7か所に接種場所を増やして、1日60人くらいのペースで対応してきました。また、初めてのことなので接種前の問診は時間をかけてやったといいます。さらに接種した後も会場で30分は休んでもらうようにしました。もちろん小さな子が30分飽きずに待っていられるような遊び場も会場に設置しました。4月のある日、平塚市の不活化ポリオワクチンの接種会場を訪ねました。ゆったりとしたスペースで、保護者の方が安心した様子でワクチンを赤ちゃんに受けさせていました。半数以上の方がカップルで来ていて、子どもの健康に父親も母親も一緒に取り組んでいこうとしている様子がうかがえました。●独自体制の不活化ポリオワクチンを終えて神奈川県の不活化ポリオワクチン提供体制の整備は、市町村や医師達にもさまざまな影響を与えました。市町村は、国の意向に従って生ポリオワクチンを推進することになっていますから、神奈川県の独自の動きに対して戸惑いを隠せないことは明らかです。そこで神奈川県では、市町村に「迷惑がかからないように」気を付けてきたそうです。市町村の推奨する生ワクチンに不安のある方だけを対象に、その方々の受け皿として生ポリオワクチンを提供するという姿勢を貫き、市町村の保健行政を「邪魔しない」ことを示しました。また、神奈川県内では、県が不活化を始めた事でやりやすくなったと考えて、民間の病院や診療所でも不活化ポリオワクチンを輸入して提供するところが増えてきました。この影響は、県の不活化ワクチンの体制に影響を及ぼしました。わざわざ遠い県の施設に行くまでもなく、近くのクリニックで受けられるようになったからと、予約のキャンセルが相次いだのです。すべてがこの理由という訳ではありませんが、最終的には、3,033人が申し込みの取り消しをしました。価格がほぼ同じならば、県の施設でも近くのクリニックでも同じという事で、保護者は利便性を選んだのでしょう。県の当初のもくろみ通り、民間の医療機関への配慮が生きてきた訳です。一連の不活化ワクチン接種において、ワクチンの安全性が問題になったという報告や重篤な副反応の報告は1例もありませんでした。●ワクチン問題は終わらない今回、全国的に公費での不活化ワクチンが導入されることになりましたが、ワクチン問題はこれで終わったわけではありません。二つの点から指摘したいと思います。ひとつ目は、予防接種の受け手の側の問題です。お母さんたちは、赤ちゃんのリスクを減らそうとして生ワクチンを避けて不活化ワクチンを求めましたが、せっかく予約をとったからといって、赤ちゃんに38度の熱があっても予防接種を受けにくるお母さんもいたといいます。担当者がいろいろ説明すると、「いいから打てよ」「ごちゃごちゃ言ってないで、黙って打てよ」などと言われることもあったといいます。体調がよくないのにワクチンを打ったとしたら、赤ちゃんにとってのリスクが逆に高まってしまうことが、なかなか理解されないのでしょう。不活化ポリオワクチンが始まり、やがて4種混合が加わり、現在の任意接種も次々に法定接種化しそうな状況の中で、ワクチンや健康一般に対する保護者の持つ知識や情報は、限りなく重要なものになってきます。言われたことに従う、話題になっているから飛びつく、ということでは子どもの健康は守れません。親御さん達には、自分が守るのだという自覚を持って、ワクチンの効果もリスクも勘案した上で、判断できるようになる必要があると思います。これはヘルスリテラシーといわれるもので、今後、保護者の方がヘルスリテラシーの重要性に気づき、学んでゆくことが課題になると思われます。ふたつ目は、ワクチン行政の問題です。なぜ10年以上も前から、多くの感染症専門家が生ポリオワクチンから不活化ポリオワクチンへ移行すべきと表明していながらも、なかなか変わらなかったのか、ということを明らかにしなくてはなりません。その原因を放置していては、また同じことが起きるでしょう。また、国産の4種混合ワクチンが開発されたとのことですが、症例数が十分であったかなど、審査の経緯に対する疑問の声も上がっています。この点に関しては、機会を改めて検証してみたいと思います。●地域から変わることへの期待「行政や国の対応に、このやり方がベストというものはない」と、神奈川県の担当者はおっしゃっていました。また、「大変でしたけど、今となってはいい経験でした」とも。それは、これまで医療は国が音頭をとってすることが多いと思っていたけれど、地域でできる事も多い、ということが分かったからでした。地域の住民に応えるためには、地域行政は独自に動くべきなのだ、という意識を行政職員が持つことはとても貴重だと思います。この方は、インタビューの最後にこのようにおっしゃっていました。「これ(不活化ポリオワクチン:筆者挿入)は『誰も反対できない話』なんです。みんな、早く不活化にするように思っているんです。それはお母さんたちの心の叫びだからです。この叫びの声に応えたいんです。神奈川は、知事がいたからできたんです。黒岩さんでなければできなかったでしょうね。すごい知事が来たもんで、部下はきついですけどね。」住民と近い場所にいる地域の行政が、住民の気持ちに沿った政策をすべきと声をあげて、自ら動いてゆくことで、国を動かすような大きな力となってゆくことがあるでしょう。これからの地域の動きへの期待は高まり、目が離せません。謝辞:本稿の執筆に当たっては、神奈川県の職員の方々に貴重なお話をうかがい、資料提供をして頂きました。この場を借りて御礼を申し上げます。また、ナビタスクリニックの谷本哲也医師には、医学的な表記を監修して頂き、感謝いたします。略歴:細田満和子(ほそだ みわこ)星槎大学教授。ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー。博士(社会学)。1992年東京大学文学部社会学科卒業。同大学大学院修士・博士課程の後、02年から05年まで日本学術振興会特別研究員。コロンビア大学公衆衛生校アソシエイトを経て、ハーバード公衆衛生大学院フェローとなり、2012年10月より星槎大学客員研究員となり現職。主著に『「チーム医療」の理念と現実』(日本看護協会出版会)、『脳卒中を生きる意味―病いと障害の社会学』(青海社)、『パブリックヘルス市民が変える医療社会』(明石書店)。現在の関心は医療ガバナンス、日米の患者会のアドボカシー活動。

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DTaPワクチン5回接種後のワクチン効果持続期間は?

 ジフテリア・破傷風・無細胞性百日咳(DTaP)混合ワクチンの5回目接種後、その効果は時間経過に伴い低下し、1年経過するごとに百日咳に罹患するリスクは平均42%増加することが報告された。米国・Kaiser Permanente Vaccine Study CenterのNicola P. Klein氏らがケースコントロール試験の結果、明らかにした。米国では、小児に対し、DTaPワクチンの5回接種を行っているが、5回接種後のワクチン効果の持続期間については不明だった。NEJM誌2012年9月13日号掲載の報告。百日咳が確認された277例と、そのコントロール群2種を比較研究グループは、米国カリフォルニア州の健康保険プラン「Kaiser Permanente Northern California」の加入者で、2006~2011年にDTaPの5回接種を受けており、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)検査を受けた子どもを対象にケースコントロール試験を行った。PCRで百日咳の陽性が確認された277例と、そのコントロール群として、(1)DTaPワクチンの5回接種を受けたPCR陰性の小児3,318例、(2)年齢や性別、人種などをマッチングさせた小児6,086例を設定し、比較した。なお、調査期間中の2010年には大規模発生が起きており、その対象児も含まれている。百日咳に対する防御能は5年間で減弱結果、PCR陽性群はPCR陰性群やマッチング群に比べ、DTaPワクチン5回目接種を受けてから、より長い日数が経過していた(それぞれ、p<0.001、p=0.005)。DTaPワクチン5回目接種を受けてから、時間の経過とともにPCR陽性者の割合は増加し、接種後1~2年で2.4%、3~4年で10.4%、6~8年で18.5%だった。PCR陽性群とPCR陰性群を比較した場合、DTaPワクチン5回目接種を受けてから1年経過するごとに、百日咳罹患に関するオッズ比は1.42(95%信頼区間:1.21~1.66)と、同罹患リスクは毎年42%増加することが示された。著者は、「DTaPワクチン5回接種後、百日咳に対する防御能は5年間で減弱した」と結論している。

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無細胞百日咳を含む混合ワクチンの熱性痙攣リスク、てんかんリスクは?

ジフテリア・破傷風・無細胞百日咳/ポリオ/ヘモフィルスインフルエンザb型菌(DTaP-IPV-Hib)混合ワクチンの接種後リスクについて、接種当日の熱性痙攣のリスクが、3ヵ月齢での接種第1回目、5ヵ月齢での接種第2回目当日のリスクは4~6倍に増大することが報告された。しかし、絶対リスクは小さく、てんかんのリスクについては増大は認められなかった。デンマーク・Aarhus大学のYuelian Sun氏らが、約38万人の乳幼児について行ったコホート試験の結果、明らかにしたもので、JAMA誌2012年2月22・29日号で発表した。これまで、全細胞百日咳ワクチンは熱性痙攣リスクを増大することが知られていたが、無細胞百日咳ワクチンについての同リスクとの関連は明らかではなかった。ワクチン接種後の熱性痙攣リスクと初回接種後てんかんリスクを評価研究グループは、デンマークで2003年1月1日~2008年12月31日に生まれた37万8,834人を対象に、2009年末まで追跡調査を行った。主要アウトカムは、生後3ヵ月、5ヵ月、12ヵ月で接種されるDTaP-IPV-Hibワクチン接種後7日以内(0、1~3、4~7日)の熱性痙攣発症と、初回ワクチン接種後のてんかんの発症(ハザード比)についてであった。自己対照ケースシリーズ法(SCCS)を用いて、相対罹患率を割り出した。結果、被験者のうち、生後18ヵ月以内に熱性痙攣を発症したのは7,811人だった。そのうち初回ワクチン接種後7日以内に発症したのは17人(0.8人/10万人・日)、第2回接種後の同発症は32人(1.3人/10万人・日)、第3回接種後の同発症は201人(8.5人/10万人・日)だった。初回ワクチン接種当日の熱性痙攣リスクは6倍、第2回接種当日の同リスクは4倍に全体として、ワクチンの1~3回接種後7日以内の熱性痙攣発症リスクは、参照コホートと比べて有意な増大は認められなかった。しかし、初回ワクチン接種当日(ハザード比:6.02、95%信頼区間:2.86~12.65)、第2回接種当日(同:3.94、2.18~7.10)で同リスクは有意に増大することが認められた。ただし、第3回接種当日の同発症リスクの増大はみられなかった。SCCSによる分析結果も、同様だった。てんかんの発症については、7年間の追跡調査期間中、ワクチン非接種群で131人、ワクチン接種群で2,117人の発症が認められた。ワクチン接種後3~15ヵ月に、てんかんであると診断されたのは813人(1,000人・年当たり2.4)、その後に診断されたのは1,304人(同1.3)だった。接種群と非接種群との比較で、てんかん発症リスクは、ワクチン接種後3~15ヵ月では低く(ハザード比:0.63、95%信頼区間:0.50~0.79)、その後は同等だった(同:1.01、0.66~1.56)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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