255.
カミナリ喘息呼吸器内科医として、研修医の方々に「雷やストレスは気管支喘息を悪化させるリスク因子なんだよ」と薀蓄(うんちく)を酒の肴に語ることがあります。「本当なんですか?」と言われて、「あれ、どうだったっけ?」と思い、調べなおしてみました。結論としては、雷によってある程度の気管支喘息の悪化が観察されるようです。今回紹介する論文以外にも、過去にいくつか報告があります(J Epidemiol Commun Health. 1997;51:233-238)。Dales RE, et al.Dales RE, et al.The role of fungal spores in thunderstorm asthma.Chest. 2003;123:745-750.この研究は雷による気管支喘息、すなわち「カミナリ喘息」について入院した小児に基づいて報告されたものです。東オンタリオ小児病院のデータを用いて解析されました。雷雲が観察された日(151日)は、そうでなかった日(919日)と比較して、1日あたりの気管支喘息による受診が8.6人/日から10人/日と15%増加しました(p<0.05)。また、真菌の飛散胞子は雷雲が観察された日では約2倍に増えていたと報告されました(不完全菌類が1,512/m3から2,749/m3に増加)。真菌のほとんどがクラドスポリウムでした。また、担子菌類も雷雲が観察された日に有意に多かったそうです。過去の試験では、悪天候によって数倍から10倍という喘息発作の頻度の増加がみられたという報告もあるのですが、現時点ではこの東オンタリオ小児病院の15%程度の増加というのが現実的に妥当なデータだろうと考えられています。ただ、雷、雨、風のすべての因子を独立して検証することは気象学的に不可能ですので、雷単独が気管支喘息を悪化させるかどうかはわかりません。雨や雷といった悪天候の場合、花粉や真菌は雨とくっついて大気中から減るというイメージがあります。飛散量が確実に増えるのか減るのか、まだまだ議論の余地があります。しかし強い風によって飛散量が増えるため、悪化するのではないかという見解(Lancet. 1985; 2:199-204)があるだけでなく、悪天候の前の日が“晴れ”だった場合、舞い上がったアレルゲンが雨とともに落下してくるといわれています。そのため、雨であろうとアレルゲンが一時的に増えることがあります。とくに、小雨のときは上空から落下してくる雨粒が途中で蒸発してしまい、花粉や真菌だけが地表に落下してくると考えられています。