サイト内検索|page:5

検索結果 合計:299件 表示位置:81 - 100

81.

処置後の予防的抗菌薬【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q25

処置後の予防的抗菌薬Q25症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗った。縫合し、ドレッシング材で被覆もしたぞ。あとは…創部の感染予防に抗菌薬を処方しないとな。何を処方しよう?

82.

第117回 なぜその情報が必要か―安倍氏銃撃事件から医療者や報道陣が学ぶべきこと

参議院選挙最中の7月8日、奈良県奈良市の近鉄大和西大寺駅前で選挙応援中だった安倍 晋三元首相が凶弾に倒れた。殺人未遂(後に殺人に切り替え)の現行犯で逮捕された容疑者は、母親が宗教団体に入信し、その寄付が原因で家庭が崩壊。この団体と安倍元首相が親しいと考え、安倍元首相を標的にしたとしている。安倍元首相は現場で応急処置後に救急車とドクターヘリを使って奈良県立医科大学(以下、奈良医大)高度救命救急センターに搬送されたが、同日午後5時3分、死亡が確認された。日本国内では明治期の内閣制採用以降これまで64人の首相経験者がいるが、在任中あるいは退任後に殺害されたのは、安倍氏を含め7人。第二次世界大戦後では安倍氏が初めてである。今回、この件を医療・報道の側面から振り返りたい。まず、事件が発生したのは8日午前11時31分ごろ。奈良県選挙区の自由民主党公認候補の応援演説のため、奈良県入りした安倍氏は近鉄大和西大寺駅前の横断歩道中ごろにあるカードレールで囲まれた安全地帯で午前11時29分ごろから演説を開始。その直後、背後の車道に侵入してきた容疑者が安倍氏の背後約3mの距離から自作銃で発砲し、爆音と白煙が発生。一瞬後方を振り返った安倍氏だったが、容疑者がすぐさま2発目を発射した直後、避難するかのようにうずくまったまま倒れ込んだ。その後のタイムラインは以下のようになる。▽午前11時31分:奈良市消防局に通報▽午前11時32分:救急隊出動▽午前11時36分:消防局がドクターヘリを要請▽午前11時37分:救急隊などが現場に到着▽午前11時54分:現場から安倍元首相を搬送開始▽午後 0時 9分:平城京跡歴史公園で搬送をドクターヘリに引き継ぐ▽午後 0時20分:ドクターヘリが奈良県立医科大学到着安倍元首相が搬送される直前、現場の写真がネット上に公開されているが、そこで写っていた安倍元首相の顔面は蒼白。当時、駆け付けた現場近くのクリニックの医師の証言では、すでに看護師と思われる女性が心臓マッサージ中で自発呼吸はなく、ほぼ心肺停止状態。眼球結膜が真っ白でかなり出血していると考えられ、瞳孔も開きかけていたという。さらに周囲の呼びかけにはすでに反応がなく、痛覚を確認するための爪床刺激にも反応はなかった。この医師は、クリニックにあった自動体外式除細動器(AED)を装着させるも、解析の結果、適応はないと判断されたと語っている。適応がないということはすでに心停止ということになる。そこで心臓マッサージが再開されたという。同時に脳に血流が少しでも行くように医師が下肢挙上を行った。その後は上記のタイムライン通り。死亡確認後に行われた奈良医大による記者会見で、高度救命救急センター長で教授の福島 英賢氏が語った内容を箇条書きにする。救急隊接触時・搬送時にすでに心肺停止状態右頸部に約5cm間隔で2ヵ所の銃創らしきもの、左肩に射出口らしき傷処置中に体内から弾丸は未発見心臓および大血管の損傷による心肺停止と推定心室にも損傷対応は外来処置室で実施処置内容は蘇生的開胸による胸部止血と輸血輸血量は100単位以上一部止血をできたところもあったが、凝固能が失われさまざまなところから出血死因は失血死奈良県警が同日午後10時40分から翌日早朝にかけて約6時間半にわたって行った司法解剖の結果では、銃弾による傷は首と左上腕部の計2カ所。奈良医大の会見で射出口の可能性があると説明されていた左肩は射入口で、右頸部の銃創と思われた2か所のうち、片方については県警の司法解剖では銃創であるかは判別できなかったという。そのうえで死因は「左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷にもとづく失血死」とされている。前述の奈良医大の会見での質疑については、SNS上で医療関係者を中心に“質問内容が稚拙”と批判も多かった。この印象はほぼ私も同じだが、その一部を改めて振り返り論評を加えたい。まず、記者と福島氏との間では同じようなやり取りが何度か繰り返されている。 記者A 無くなられた時間は5時3分ということですが、家族が到着されていたのは確か5時過ぎだったような気がするのですが、到着されていた時はすでにお亡くなりになられていたということでしょうか?福島氏救急隊接触時からずっと心肺停止状態であられました 記者B 今回、撃たれた現場で即死したという理解でよろしいでしょうか?福島氏撃たれた現場で心肺停止状態になったという表現になるかと思います 記者C 搬送された時点で手遅れという言い方をしてもよろしいでしょうか?福島氏すでにかなり大きな怪我があったことには違いありませんので、一般的にはそういうご理解になるのかもしれませんが、われわれとしては心肺停止状態ということで対応しています 当初の報道では救急隊の現場到着時に意識があったとも伝えられていたが、前述の現場で対応した医師の証言や会見を聞く限りでは、救急隊到着時から心肺停止状態だったことは間違いないようである。意識があったという報道は、おそらく銃撃のまさに直後の周囲の呼びかけに対してだったのだろう。本サイトの読者に対しては釈迦に説法だが、心停止、自発呼吸の停止、瞳孔散大の3点を医師が確認して死亡と判定されるまでは、心肺停止と定義されることが多い。一般人からすると、この状態は「死亡判定を受けていない事実上の死体」と捉えられがちで、海外の一部ではこの状態では報道上死亡扱いをすることも少なくない。その点で実は日本の報道のほうがきわめて厳格な扱いをしている。にもかかわらず、会見で上記のようなちぐはぐな応答が散見されたのは、おそらく記者の配置上の問題だろう。この「死亡」と「心肺停止」の定義について最も敏感と思われるのが、事件、事故、災害時を担当する社会部の警察担当記者、あるいは科学部記者。しかし、今回の事件の重大さを考えれば警察担当記者はおそらく奈良県警察本部に詰めていただろうし、事件時に科学部記者が出動することは少ない。つまり奈良医大の会見では、そのどちらでもない記者が大勢を占めていただろうと推定される。それゆえのちぐはぐさが上記のやり取りには表れていると思う。なお、SNS上では奈良医大に到着した昭恵夫人の様子を聞き出そうとしたかのような質問をした記者と、そのことには触れなかった福島氏のやり取りについて記者を批判しているケースが少なくない。私個人としてはどちらの立場も正しいと敢えて言及しておきたい。記者は聞けることは、真空ポンプで空気を吸い取るがごとくすべて聞くのが鉄則。初めから「どうせ答えてもらえないだろうから」と尻込みする記者は記者とは言えない。一方で患者を治療した際の医学的側面のみを語り、みだりにプライバシーや推定を語らない福島氏の立場も医療従事者として当然かつ正しい在り方である。メディア全般に不信感を持つ人にとってはこの評価は「身内びいき」と思われるかもしれないが、取材とは例えは悪いが「狐と狸の化かし合い」が常である。そのうえでこのやり取りの記者側の意図を私なりに推測すると、単純にどれだけ搬送時の安倍氏の状態がどれだけ深刻なものだったかを知りたかったということだろう。たぶん私が会見場にいたら、回答が得られたかどうかは別にして搬送時の推定失血量を聞いただろう。銃創の場合、発生から10分以内に開胸が行える医療機関への搬送ができるか否かが救命のカギを握る。また、循環血液量の30%以上の出血があれば生命の危機となる。以前官邸ホームページで公開されていた安倍氏の身長は175cm、体重は70kgだったことから、おおよその循環血液量は体重の約13分の1である5.8L。約1.7Lの出血で致命的だ。会見時に福島氏が説明した輸血量100単位以上について、記者から100単位以上とは何mLか問われ、福島氏は現時点でわからないと回答をしている。これはたぶん輸血したのが赤血球濃厚液(1単位140mL)、濃厚血小板液(10単位約200mL)、新鮮凍結血漿液(1単位約120mL)が入り混じって使われたからだろうと推察される。100単位を単純計算すれば、赤血球濃厚液換算で14L、濃厚血小板換算で2L、新鮮凍結血漿液で12Lとなる。治療時間5時間ということを加味しても搬送時点ですでに生命の危機の失血量だったことはほぼ確実と言って良いだろう。ちなみに事件発生当初、搬送時に意識があったと誤報(あくまで結果論だが)されたこともあり、私個人はなぜ奈良医大に搬送したのだろうと考えていた。もちろん奈良県内で重篤な患者を受け入れる三次救命救急施設3ヵ所のうち、ドクターヘリも有している奈良県立医科大学附属病院高度救命救急センターが最高位にあることから考えれば、常道ではある。ただ、繰り返しになるが銃創は発生から10分以内に開胸が行える医療機関への搬送が救命の鉄則。そうした中で同県内の三次救命救急施設3ヵ所のうち奈良県立病院機構奈良県総合医療センター救急・集中治療センターが現場から車で15分ほどだったことから、当初は私は上記のように思った。しかしながら、前述の奈良医大の会見を聞けば、極端な言い方をすれば事件現場で開胸して止血・輸血でも行わなければ、救命の可能性を見いだすことは難しかっただろうと考えた。また、輸血量からしても奈良医大のほうがそのストックが多かったと考えられるので、その点からも最終的には合点がいった。また、奈良医大の会見で、ある記者が心臓への損傷が疑われる際のAED使用や心臓マッサージを行うことの是非について尋ね、福島氏が一般論として正しい処置だと答えた件について、SNS上では記者に向けてやや批判めいた言説が目立つ。これは福島氏の答え次第では現場で処置した人が非難されかねないことを危惧した言説だろう。ただ、一般人ならば心臓に損傷の可能性がある時に本当にこうした処置をしていいものか悩むのはある意味当然である。というか、一般人はそうした知識がほとんどない。そうしたことを加味すれば、このやり取りは一般人に応急措置に対する知識を普及する上では有用なものだったと個人的には考えている。一方、今回の事件に関して私が1つだけ完全にNGと思った報道人の言動がある。安倍元首相に関する著作もある元民放記者が安倍氏の死亡時刻の1時間半ほど前に「安倍さんがお亡くなりになった」とのタイトルでSNSに投稿を行ったことだ。当然ながらこの投稿は批判されたが、元記者は正式な死亡発表後に「(投稿した時点で)家族にもすでに情報が伝わっていた」と強弁。しかし、最終的には提供された情報が誤っていた(その時点で家族は知らされていなかった)として謝罪している。そもそも人一人の死を外部にどのように伝えるかは例え公人でもあっても相当な慎重さが必要である。まして元民放記者の投稿時点で安倍元首相の妻である昭恵夫人は奈良に向けて移動中で、報道でも移動状況が逐次報じられていた。元民放記者はSNS投稿時点ですでに昭恵夫人が奈良に到着済みと聞いていたとの弁解を後に投稿していたが、リアルタイムの報道で得られる情報すら確認できていなかったのはお粗末としか言いようがない。元民放記者本人が弁解として書いていた「『確認された情報は出来るだけ早く報道する』というジャーナリズムの基本に立ち返って」という点は完全には否定しないが、たとえ家族の死亡確認後であってもそれをいつ報じるかの判断は各方面への影響を考えると容易ではない。一例を挙げると、公人の死去の報道は株式市場に影響を与えることもある。報道というのはそうしたことなども多角的に踏まえて行う仕事であり、いかように元民放記者が弁解しようが今回の行動は唾棄に値する。すでに一部の人はSNS上で見聞きしているかもしれないが、安倍氏の容体については当日の午後2~3時に「蘇生はほぼ不可能」という情報が永田町界隈に駆け回っていたことを一部の記者が死亡の公表後に明らかにしている。これは確かに事実で、筆者も耳にしている。しかしながら、例え家族による死亡確認後であってもそれを公にすることは、報道人としての確実な事実確認に加え、社会的にも心理的にも、いくつものハードルを超えなければならない。そのためこの元記者のような言動には私個人は驚きを隠せないのが本音ではある。

83.

創部の縫合後の処置【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q24

創部の縫合後の処置Q24症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗ったぞ。縫合自体は、過去と大きく変わりはないな。なんとか終えたぞ。処置後の創部は浸出液多いな。ガーゼと包帯で固定がよかったかな。乾燥させるとよいって習った気がするけども、合っていたかな?

84.

第117回 医師法違反は手術だけではない!工学技士に手術をさせた病院が研修すべき「もう一つのこと」

安倍元首相の医療政策を振り返るこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は安倍 晋三元首相が銃撃されて亡くなったり、参議院選挙で自民党が大勝したりと、さまざまなことが起こりました。安倍元首相の政権は合計8年8ヵ月と長期に渡りましたが、医療政策の面でもいくつかのエポックメーキングな改革を行っています。大きなところでは、「医師の働き方改革」があります。2017年3月に安倍晋三元首相の肝煎りで策定された「働き方改革実行計画」が、医師の働き方改革の先鞭をつけたことは記憶に新しいところです。個人的にもう一つ挙げるとすれば「オンライン診療の定着」でしょうか。きっかけは、2016年11月の第2回未来投資会議における安倍元首相の「ビッグデータや人工知能を最大限活用して『遠隔診療』や『予防・健康管理』を推進する」という発言でした。翌2017年には「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)、「未来投資戦略2017」、「規制改革実施計画」に遠隔診療推進の内容が盛り込まれ、2018年の診療報酬改定でのオンライン診療項目の新設につながりました。とはいうものも、安倍元首相自身は自民党内でもイデオロギー的に保守的色彩がとくに強く、医療提供体制の抜本的な改革にまでは踏み込んでいなかった印象です。経済産業省の官僚を重用し、未来投資会議などで医療の産業化政策がいくつか提案されましたが、最終的に実を結んだ政策は多くはありません。あえて言えば、地域医療連携推進法人の制度ですが、これも当初の構想(非営利ホールディングカンパニー型制度)とは全く異なる制度に落ち着いています。今回の参院選で与党が改選過半数を獲得したことで、岸田 文雄首相は当面の安定的な政権運営の基盤を確保した、と言われています。本連載でも度々書いてきたように、これから財務省主導の医療政策が、医療提供体制改革の“本丸”(病院の再編や、かかりつけ医の制度化など)に、どこまで切り込んでいくかが注目されます。臨床工学技士が手術時に患者の皮膚縫合さて今回は、6月末に発覚した千葉市美浜区の市立海浜病院(吉岡 茂院長、293床)において臨床工学技士が手術時に患者の皮膚縫合を行っていた事件について書いてみたいと思います。事件は千葉市が6月29日、市立海浜病院で2021年7月に行った手術で医師資格を持たない臨床工学技士が執刀医の指示で患者の皮膚の縫合を行っていた、と明らかにしたことで発覚しました。患者に健康被害は出ていませんが、同病院は今年3月に患者に謝罪し、執刀医と臨床工学技士を訓告処分としています。千葉日報や朝日新聞などの報道によれば、同病院で昨年7月に行われたペースメーカーの交換手術において、左側胸部を縫合する際、執刀医が臨床工学技士に「少し縫合してみるか」と声を掛け、執刀医と技士が立ち位置を交代。皮膚の縫合の最後の1針分ほどを任せました。臨床工学技士はうまく縫合できず、最終的に執刀医が縫合したとのことです。臨床工学技士はペースメーカーの作動確認のために立ち会っていました。術後、看護師から報告を受けた看護師長や執刀医、心臓血管外科統括部長が話し合った結果、重大事案ではないと判断し、医療事故対策を担当する同病院の医療安全室への報告は見送っていました。しかし、今年1月、市への情報提供制度である「市長への手紙」に匿名の情報提供があり、無資格での縫合が発覚しました。同病院では外部有識者を交えた医療事故検討委員会を2月に設置し、事実関係を調査していました。その後、3月に患者に説明と謝罪を行い、4月28日付で執刀医と臨床工学技士を訓告の処分にしたとのことです。医師以外も医療行為を行うことができると勝手に誤認同病院の聞き取り調査に執刀医は、「ペースメーカーを埋め込む深さがどのくらいか学んでほしかった」と説明。医療法改正などによるタスクシフト推進策などにより、医師以外も医療行為を行うことができると勝手に思い込んでいたとのことです。29日に開かれた記者会見で吉岡茂院長は「臨床工学技士が医療行為を行ったことを重く受け止めており、市民や患者におわびする」と謝罪。その一方で「顧問弁護士らから刑事罰に当たらないとの見解をもらっている」として、今回の事案は医師法違反に該当しない旨を強調したとのことです。2021年の医療法等改正で医療関係職種の業務範囲は拡大したが執刀医は医療法改正などによるタスクシフト推進策などにより、医師以外も医療行為を行うことができると勝手に誤認していたとのことですが、もしそれが事実ならば、現場の医師は法律知識もないままに漠然と医療行為を行っていたことになります。確かに、2021年5月に成立した医療法等改正によって、タスクシフト・シェアを推進するため医療関係職種の業務範囲が拡大されてはいますが、そこにはもちろん臨床工学技士による皮膚縫合は含まれていません。本連載でも「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」で詳しく書きましたが、臨床工学技士について新たに認められた業務は以下です。手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療における▼静脈路確保と装置や輸液ポンプ・シリンジポンプとの接続▼輸液ポンプ・シリンジポンプを用いた薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る)投与▼当該装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続された静脈路の抜針・止血心・血管カテーテル治療における生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるための当該負荷装置操作手術室での鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持、術野視野を確保するための内視鏡用ビデオカメラ操作クラークなどに「予診」業務を行わせるのも医師法違反の可能性同病院は再発防止のため、5月から職員全員を対象に、医師法など法律を周知徹底するための研修を毎月実施しているそうです。この事件、「うちは手術なんて任せないので無関係」と思っている医療機関は少なくないと思いますが、実際には医師法違反スレスレの医療行為を行っているところは意外に多いようです。その背景にあるのが、診療報酬の医師事務作業補助体制加算です。この加算を取るため、全国の医療機関(病院、有床診療所)において医師事務作業補助者・クラーク体制が導入されています。医師事務作業補助体制加算における、医師事務作業補助者の業務範囲は細かく決められていますが、多くの病院できわめて「危うい」業務をさせているケースもあると聞きます。医師が行っている業務には、法律上、医師免許を持つ医師しか行えない「医行為」と、そうでないものがあります。そして、医師の業務を別の分け方で二分すると、メスや注射、薬剤、放射線などで患者の体に侵襲を加える「侵襲的業務」(今回の事件の皮膚縫合)と、診察や診断書発行など侵害を加えない「非侵襲的業務」に分かれます。体に侵襲を加えない「非侵襲的業務」、つまり、医師が行う事務的に見える行為の中にも「医行為」があります。代表的な行為が問診です。問診は「医行為」なので医師しか行えません。医師以外のものが 患者の症状について情報収集をするのは「予診」と位置付けられ、あくまでも医師の問診の前に行うものです。看護師が「予診」を行うのは法律上「診療の補助」として認められていますが、それ以外の職種については現在明確に許可されてはいません。というわけで、看護師でなくクラークなどに「予診」業務を行わせることも、医師法違反の可能性があるということになります。この他にも「あらかじめ業務規程に明記されていない代行業務は行えない」など、医師事務作業補助には細かなルールがあります。千葉海浜病院は、医師法など法律を周知徹底するための研修を行うようになった、とのことですが、どうせ研修を行うなら、医師事務作業補助体制加算における医師事務作業補助者の業務範囲についても、しっかりと研修を行っておくことをお勧めします。

85.

創部の消毒【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q23

創部の消毒Q23症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのもためらわれるため、自分で縫ってみる。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗ったぞ。あとは…縫合前に消毒か?「看護師さん、ポビドンヨードある?」

86.

オンデキサの臨床的意義とDOAC投与中の患者に伝えておくべきこと/AZ

 アストラゼネカは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤オンデキサ静注用200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組み換え]、以下:オンデキサ)を発売したことをうけ、2022年6月28日にメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、はじめに緒方 史子氏(アストラゼネカ 執行役員 循環器・腎・代謝/消化器 事業本部長)により同部門の新領域拡大と今後の展望について語られた。 AstraZeneca(英国)とアレクシオン・ファーマシューティカルズが統合したことで、今後多くのシナジーが期待されるが、今回発売されたオンデキサはその象徴的なものであると考えている。同部門では、あらゆる診療科に情報提供を行っているため、オンデキサの処方が想定される診療科だけでなく、直接作用型第Xa因子阻害剤を処方している診療科にも幅広く情報提供が可能である。オンデキサが必要な患者さんに届けられるよう、認知拡大や医療機関での採用活動に注力していきたいと述べた。オンデキサは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤 続いて、国立病院機構 九州医療センター 脳血管・神経内科 臨床研究センター 臨床研究推進部長 矢坂 正弘氏による国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤における臨床的意義と今後の展望が語られた。 心房細動などにより心臓内でできた血栓が脳に詰まることで生じる脳卒中を心原性脳塞栓症という。心原性脳塞栓症は再発率が高いことから、発症リスクの高いCHADS2スコア1点以上の患者では、直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与による予防治療が推奨されている1)。DOACは従来の抗凝固薬であるワルファリンに比べ脳梗塞予防効果は同等かそれ以上、大出血発症リスクは同等かそれ以下とされるが、時には生命を脅かす出血あるいは止血困難な出血に至ることもあるため、投与中は出血時の止血対応が重要となる。出血時の対応として中和剤が使用されるが、これまでDOACのうち中和剤があるのはダビガトランのみで、直接作用型第Xa因子に対する中和剤はなかった。今回発売されたオンデキサは、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤である。オンデキサ投与の有効性と安全性 オンデキサはヒト第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質で第Xa因子のデコイとして作用し、第Xa因子阻害剤に結合してこれらの抗凝固作用を中和する作用をもつ。 第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、エノキサパリン)投与中の第Xa因子活性抑制下で急性大出血を発現した患者を対象にした試験では、評価可能であった有効性解析集団のうちエノキサパリン投与例を除く全体集団324例において79.6%(95%信頼区間[CI]:74.8~83.9%)の患者でオンデキサによる有効な止血効果が得られた。正確な95%CIの下限値が50%を上回ったため、オンデキサによる止血効果が認められた2)。副作用の発現割合は11.9%(57/477例)であり、主な副作用は虚血性脳卒中1.5%(7例)、頭痛1.0%(5例)、脳血管発作、心筋梗塞、発熱、肺塞栓症が各0.8%(各4例)であった2)。DOAC投与中の患者に伝えておくべきこと 止血を適切に行うためには、患者さんが服薬中のDOACを特定しそれに対する中和剤を投与することが重要である。そのため、医療機関と調剤薬局が協力して、DOAC服薬の患者さんに対して、最新のお薬手帳や抗凝固薬のカードを持ち歩いてもらうことや、自身の病名や服薬中の薬剤を家族と共有してもらうことの重要性を伝えていく必要がある、と締めくくった。

87.

異物の評価【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q22

異物の評価Q22症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのも気が引ける…。初期研修ぶりだけど、自分で縫ってみるか。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗ったぞ。洗いながら異物がないことも確認したし、金属やガラス片くらいしかレントゲンで写らないから、これ以上の評価の方法はないよな?

88.

創部の洗浄【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q21

創部の洗浄Q21症例とくに既往のない28歳男性、左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのもためらわれるため、自分で縫ってみる。非滅菌手袋もつけたし、1%リドカインで皮線上皮下1回局注法で麻酔したぞ、よし、創部を洗おう。ここの夜間診療所には洗えるもの何かあったかな?

89.

創部の麻酔【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q20

創部の麻酔Q20症例とくに既往のない28歳男性、左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのもためらわれるため、自分で縫ってみる。非滅菌手袋もつけたし、1%リドカインで指神経ブロックしなきゃな。どこに何回局注するんだっけ?

90.

縫合時の手袋【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q19

縫合時の手袋Q19症例自宅近くの夜間診療所で当直バイト中のこと。とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、受診3時間前に自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。深さ3~4mm程度、長さ20mm程度で、明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのも気が引ける…。初期研修ぶりだけど、自分で縫ってみるか。さて、看護師さんにどんな手袋を用意してもらうべきか?

91.

縫合のgolden time【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q18

縫合のgolden timeQ18症例自宅近くの夜間診療所で当直バイト中のこと。とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、受診3時間前に自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。深さ3~4mm程度、長さ20mm程度で、明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのも気が引ける…。初期研修ぶりだけど、自分で縫ってみるか。19時間以内1)なら大丈夫と習った気がするけど、単純な創閉鎖は受傷何時間以内なら可能だったかな?

92.

オンデキサ発売、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤/アレクシオンファーマ・アストラゼネカ

 アストラゼネカは5月25日付のプレスリリースで、アレクシオンファーマが製造販売承認を取得したオンデキサ静注用 200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組換え]、以下:オンデキサ)の販売を開始したことを発表した。オンデキサ投与後12時間で患者の79.6%に有効な止血効果 直接作用型第Xa因子阻害剤は、血栓が形成されないよう血液の凝固を防ぐ一方で、生命を脅かす重大な出血のリスクを高める可能性がある。しかし、大出血を起こした直接作用型第Xa因子阻害剤を服用している患者に対して中和剤はこれまでなく、高いアンメットニーズが存在していた。 オンデキサは、血液凝固に関与するヒト血液凝固第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質であり、国内で唯一第Xa因子阻害剤に結合し、その抗凝固作用を速やかに中和する作用をもつ薬剤として承認された。 オンデキサ承認の根拠となった国際共同第IIIb/IV相14-505(ANNEXA-4)試験では、直接作用型第Xa因子阻害剤の投与を受けており、急性の大出血を起こした患者を対象に、オンデキサの有効性(第Xa因子阻害剤の抗第Xa因子活性の中和効果、および止血効果)と安全性が評価された。 オンデキサ承認の根拠となったANNEXA-4試験の主な結果は以下の通り。・オンデキサはいずれの第Xa因子阻害剤を投与した患者でも、本剤を静脈内投与後には抗第Xa因子活性を速やかかつ有意に低下させた。・オンデキサ投与後12時間の時点で患者の79.6%(258/324例)に有効な止血効果が確認された。・オンデキサの副作用の発現頻度は、11.9%(57/477例)で、主な副作用は、虚血性脳卒中1.5%(7/477例)、頭痛1.0%(5/477例)、脳血管発作、心筋梗塞、肺塞栓症、発熱各0.8%(4/477例)、脳梗塞、塞栓性脳卒中、心房血栓症、深部静脈血栓症、悪心各0.6%(3/477例)であった。 オンデキサは、第Xa因子阻害剤であるアピキサバンまたはリバーロキサバン投与中に大出血を起こした患者に対する中和剤として、2018年5月に米国食品医薬品局より迅速承認制度による承認を受け、2019年4月に欧州委員会から条件付き承認を取得した。日本でオンデキサは、2019年11月19日付で希少疾病用医薬品に指定されている。

93.

口腔の傷(歯牙や舌、頬粘膜損傷)に対する縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第10回

第10回 口腔の傷(歯牙や舌、頬粘膜損傷)に対する縫合処置《解説》今回は幸いキズモンスターの発生前に正しい処置をすることができました。詳細は後述しますが、歯牙損傷がある場合は先に歯科受診を勧めることもあります。口腔内の傷について、食物が残留しやすい場所であることを考えると、目安として2cm以上の創は縫合を検討しましょう。2cm以下の場合、止血が得られていれば自然治癒が期待できます。それでは、部位による処置について簡単に解説していきます。(1)舌損傷浅い創でも出血が持続することがあります。粘膜と筋層を大きめに4−0、5−0の吸収糸で緩めに縫合しましょう。縫合糸を締め込むと舌浮腫になり、断裂や壊死の原因となります。(2)頬粘膜損傷必ず耳下腺管、顔面神経損傷の有無と、異物の有無を確認しましょう。耳下腺管の損傷を疑う所見自覚症状に乏しいとしても、創部からの唾液とおぼしき滲出液を持続的に見て、滲出液のアミラーゼ値を調べて高値であるかどうかを確認します。顔面神経の損傷を疑う所見顔面神経頬枝は耳下腺管とほぼ平行に走行しています。口角や上口唇を引き上げる動作を担っており、損傷している場合は口唇が下垂して鼻唇溝が消失したり、口笛を吹くように口をすぼめたときに左右差があったりするので、確認しましょう。上記を疑う場合は可及的速やかに形成外科へ紹介すべきです。粘膜のみの損傷であれば4−0、5−0の撚り糸の吸収糸を大きめにかけて最小限の縫合を行います。貫通創の場合は、筋層を含む皮下組織と表皮を縫合し、口腔内はまばらに縫合しましょう。縫合時に耳下腺の開口部(乳頭部)を損傷しないように注意しましょう(下図参照)。硬口蓋、軟口蓋損傷は上皮化良好な場合が多いです。口蓋刺創の場合、外見上の傷はわずかでも頭蓋内などに達している可能性を常に念頭に置く必要があります。図:耳下腺周囲の解剖図(3)歯牙損傷欠けたり抜けたりした歯がある場合は、捨てずに元の場所に整復した後、隣接歯牙とワイヤーなどで応急的な固定処置を行っておき、歯科処置を依頼しましょう。受診相談時に歯牙損傷を疑う場合は、その時点で歯科のある病院を勧めるのが良いでしょう。永久歯が完全脱臼した場合、予後は歯槽骨外に置かれていた条件と時間に直接相関します。乳歯が脱落した場合、発育中の後継永久歯が損傷される危険性があれば再植はしないのですが、判断は歯科口腔外科でしてもらいましょう。脱落歯は保存溶液に入れて、できるだけ早く歯科口腔外科を受診してもらいましょう!保存溶液は、望ましい順に、1.移植臓器輸送用溶液2.細胞培養用培地3.冷たいミルク(ロングライフミルクや低脂肪乳を除く)4.生理食塩水となっています1)。参考1)日本外傷歯学会. 歯の外傷治療ガイドライン 改訂版. 2012.波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.安瀬 正紀監修, 菅又 章編. 外傷形成外科―そのときあなたは対応できるか. 克誠堂出版;2007.Frank H. Netter著, 相磯 貞和訳. ネッター解剖学アトラス 原著第4版. 南江堂;2007.

94.

世界血栓デーWEB講演会の開催について【ご案内】

 世界血栓症デーとは、国際血栓止血学会(ISTH)が「血栓症に関する正しい知識を広め、血栓症に起因する障害や死亡を減らす」ことを目的に制定したものである。一般社団法人日本血栓止血学会では日本における血栓症の啓発活動の一環として取り組んでおり、2022年度最初の世界血栓症デーWEB講演会として2022年5月17日(火)に『がん関連血栓症:がんと血栓の新たな関係』をテーマとしてWEB開催する。今回の講演内容は医療関係者を対象としているが、誰でも無料で視聴可能である。 開催概要は以下のとおり。【日時】2022年5月17日(火) 19:00~20:30【参加条件】登録方法:オンライン参加登録が可能(下記URLからお申込み可能)https://coubic.com/morishita/622935参加費:無料【テーマ】『がん関連血栓症:がんと血栓の新たな関係』-perspective of cancer-associated thrombosis-司会:向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター成人病ドック科)1.「がん関連血栓症の成因と病態」森下 英理子氏(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 金沢大学附属病院血液内科)2.「がん関連脳卒中-動脈塞栓症の新展開」野川 茂氏(東海大学医学部付属八王子病院脳神経内科)3.「がん治療関連血栓症とその対応」向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター成人病ドック科)4.質問・討論【主催】一般社団法人 日本血栓止血学会【お問い合わせ】WTD講演会担当E-mail:kanazawa.u.hoken.morishita@gmail.com

95.

AF患者へのXIa因子阻害薬asundexian、出血リスクは?(PACIFIC-AF)/Lancet

 心房細動患者に対し、新規開発中の第XIa因子(FXIa)阻害剤asundexianの20mgまたは50mgの1日1回投与は、アピキサバン標準用量投与に比べ、ほぼ完全なin-vivoのFXIa阻害を伴い、出血を低減することが示された。米国・デューク大学のJonathan P. Piccini氏らが、日本や欧州、カナダなど14ヵ国93ヵ所の医療機関を通じ約800例を対象に行った第II相無作為化用量設定試験「PACIFIC-AF試験」の結果を報告した。心房細動の脳卒中予防のための直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の使用は、出血への懸念から制限されている。asundexianは、止血への影響を最小限とし血栓症を軽減する可能性が示唆されていた。Lancet誌2022年4月9日号掲載の報告。CHA2DS2-VAScスコアが男性2以上、女性3以上を対象に用量設定試験 研究グループは、心房細動患者におけるasundexianの最適用量を決定すること、および出血の発生率をアピキサバンの発生率と比較するため、心房細動患者でCHA2DS2-VAScスコアが2以上の男性または3以上の女性で出血リスクが高い45歳以上を対象に試験を行った。 被験者をウェブ自動応答システムで無作為に3群に分け、試験開始前からのDOAC服用の有無により層別化し、asundexian 20mg、50mg(いずれも1日1回)、アピキサバン5mg(1日2回)をそれぞれ投与し、出血リスクを比較した。ダブルダミーデザイン法を用いてマスキングが行われ、被験者は試験薬とプラセボの両者を受け取った。 主要エンドポイントは、国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血または臨床的に重大な非大出血の複合エンドポイントで、試験薬を1用量以上服用した全被験者を対象に評価した。主要エンドポイントの発生率比、20mg群0.50、50mg群0.16 2020年1月30日~2021年6月21日の期間に862例が登録され、755例が無作為化を受けた。そのうち試験薬を全く服用しなかった2例を除く、753例(asundexian 20mg群249例、同50mg群254例、アピキサバン群250例)を対象に解析した。 被験者の年齢中央値は73.7歳(SD 8.3)、女性が309例(41%)、216例(29%)が慢性腎臓病(CKD)を有し、平均CHA2DS2-VAScスコアは3.9(SD 1.3)だった。 asundexian 20mg群では、FXIa活性がトラフ値で81%、ピーク値で90%阻害され、同50mg群ではそれぞれ92%と94%が阻害された。 主要エンドポイントのアピキサバン群(発生6件)に対する発生率比は、asundexian 20mg群(3件)が0.50(90%信頼区間[CI]:0.14~1.68)、同50mg群(1件)が0.16(0.01~0.99)、asundexian群統合(4件)では0.33(0.09~0.97)だった。 有害事象の発現頻度は3群間で同等であり、asundexian 20mg群118件(47%)、同50mg群120件(47%)、アピキサバン122件(49%)だった。

96.

非重症コロナ入院患者の心肺支持療法離脱に有用な治療法は?/JAMA

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の治療において、治療量のヘパリンにP2Y12阻害薬を上乗せしても、ヘパリン単独療法と比較して21日以内の心肺支持療法離脱日数(organ support-free days)は増加しなかった。米国・NYU Grossman School of MedicineのJeffrey S. Berger氏らが、ブラジル、イタリア、スペイン、米国の病院60施設で実施した非盲検並行群間比較ベイズ流適応型無作為化試験「Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines 4 Acute:ACTIV-4a」の結果を報告した。非重症のCOVID-19入院患者に対するヘパリン療法は、マルチプラットフォーム無作為化比較試験で生存日数や心肺支持療法離脱日数を増加することが示されたものの、患者の24%が死亡または集中治療を必要としたことから、この集団における追加治療が検討されていた。JAMA誌2022年1月18日号掲載の報告。ヘパリン+P2Y12阻害薬またはヘパリン単独に無作為化 研究グループは、2021年2月26日~6月19日の期間に、COVID-19で入院後72時間以内の患者で集中治療室(ICU)への入室は不要の非重症患者562例を、治療量のヘパリン+P2Y12阻害薬併用群(P2Y12阻害薬群、293例)、または治療量のヘパリン単独群(標準治療群、269例)に1対1の割合で無作為に割り付け、14日間または退院のいずれか早い日まで投与した。P2Y12阻害薬としてはチカグレロルが推奨されたが、クロピドグレルやプラスグレルの使用も認められた。90日間の最終追跡日は、2021年9月15日であった。 主要評価項目は、21日間における心肺支持療法離脱日数で、院内死亡(-1)と退院まで生存した患者については21日目までに呼吸/心臓系の心肺支持療法を受けなかった日数(範囲:-1~21日、スコアが高いほど心肺支持療法が少なくアウトカム良好を示す)を組み合わせた順序尺度で評価した。安全性の主要評価項目は、国際血栓止血学会により定義された28日までの大出血とした。ヘパリン+P2Y12阻害薬で、心肺支持療法離脱日数は改善せず、大出血リスクは3倍 無作為化された全562例(平均年齢52.7歳[SD 13.5]、女性41.5%)が試験を完遂し、87%が1日目に治療量のヘパリン投与を受けた。P2Y12阻害薬群では、63%がチカグレロル、37%がクロピドグレルを投与された。 心肺支持療法離脱日数の中央値は、P2Y12阻害薬群で21日(IQR:20~21)、標準治療群で21日(IQR:21~21)であった(補正後オッズ比[OR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.55~1.25、無益性の事後確率[オッズ比<1.2と定義]=96%)。死亡または心肺支持療法を必要とした患者の割合は、P2Y12阻害薬群(75例、26%)が標準治療群(58例、22%)より高かった(補正後ハザード比[HR]:1.19、95%CI:0.84~1.68、p=0.34)。 大出血は、P2Y12阻害薬群6例(2.0%)、標準治療群2例(0.7%)に認められた(補正後OR:3.31、95%CI:0.64~17.2、p=0.15)。

97.

DOAC間の比較研究の意味は?(解説:後藤信哉氏)

 いわゆるDOACは、ほぼ同時に4種類が認可承認された。トロンビン阻害薬ダビガトランが少し早く、日本のエドキサバンが最後だが、ほぼ同時と言っていい。いずれの薬剤も特許期間内にある。各メーカーは工夫を凝らしてランダム化比較試験を計画した。売上から見れば、世界的にはリバーロキサバンとアピキサバンが他剤を大きく上回っている。両者を比較するランダム化比較試験は特許期間中には無理であろう。アピキサバンのARISTOTLE試験は比較的リスクの低い症例群を対象とした。リバーロキサバンのROCKET-AF試験は2次予防などリスクの高い症例が対象であった。両試験を見ると、アピキサバンの出血合併症がリバーロキサバンより少ない気がする。 世界にアピキサバンは安全らしい空気があるときに、非ランダム化比較試験にてアピキサバンとリバーロキサバンを比較するのは危険である。本研究は、後ろ向きのデータベース解析にて65歳以上の心房細動症例におけるアピキサバンとリバーロキサバンの重篤な出血合併症の発症実態を比較した。非ランダム化比較試験にて2つの薬剤の有効性と安全性の評価を行ってはいけない。後ろ向きのコホートにて2つの薬剤の有効性、安全性を比較してはいけない。本研究はやってはいけないことを2つしている。本研究は保険データベースであるため、独立イベント委員会がイベント評価しているわけではない。出血が多そうに思える薬剤を使用していると、実際に出血は多くなってしまう。 本研究のデータサイズは大きい(リバーロキサバン22万7,572例vs.アピキサバン35万3,879例)。サンプルサイズが大きくなればバイアスは取り除けるだろうか? 本研究にて示唆された結果をランダム化比較試験にて検証することは期待し難い。結果の解釈の難しい研究である。

98.

CPと表記される医療用語が15種類…「誤解を招く医療略語」の解決に役立つポケットブレインとは?

 電子カルテの普及により多職種間で患者情報を共有しやすくなり、紙カルテ時代とは比にならないくらい業務効率は改善したー。はずだったのだが、今度は医療略語の利用頻度の増加による『カルテの読みにくさ』という新たな課題が浮上している。 医療略語は忙しい臨床現場で入力者の負担軽減に寄与する一方で、略語の多用や種類の増加が、職種間での情報共有における新たな弊害になっている可能性がある。また、診療科や職種により医療略語の意味が異なるため、“医療事故”のリスク因子にもなりかねない。増加の一途をたどる医療略語に、医療現場はどう対処していけばよいのだろうか。 そんな医療略語の課題解消に乗り出したのが、病院向け経営支援システムを扱うメディカル・データ・ビジョン株式会社だ。同社は医療IT企業の強みを生かし、医療略語辞書アプリ『ポケットブレイン』を昨年12月7日にリリースした。本アプリは電子カルテに書かれた英字略語を検索できる臨床現場支援ツールで、これを使えばカルテや各種検査レポートで分からない医療略語に遭遇した際、スマートフォンでサクサク検索できる。その開発者で医師の加藤 開一郎氏が昨年12月17日に記者会見を開き、医療略語の現状やアプリの開発経緯とその意義を語った。CPと略語表記されうる医療用語は15種類 医療略語は“さまざまな意味に解釈し得る”がゆえに誤解を招くものが存在する。加藤氏はその理由を「識別性の低さ」と話し、その一例として英字2文字で15種類もの意味を持つ『CP』を挙げた。≪CPと略語表記されうる医療用語≫・カプセル・ケアプラン・CP療法・大腸ポリープ・クロラムフェニコール・セルロプラスミン遺伝子・口蓋裂・脳性麻痺・毛細管圧・皮膚型ポルフィリン症・収縮性心外膜炎・半規管麻痺・臨床心理士・Child-Pugh分類・慢性動脈周囲炎 一方で、同氏は“略語の不統一”という問題も指摘している。これは、事実上は同じ物を指しているにもかかわらず、複数の医療略語が存在することだ。「上部消化管内視鏡検査」をその最たる例として挙げ、「学会でも略語表記の統一をアナウンスはされているが、現場ではさまざまな略語が使用されている」とコメントした。≪上部消化管内視鏡検査を意味して記載された略語≫*1)EGD:esophagogastroduodenoscopy2)GS:gastroscopy3)GIF:gastrointestinal fiber4)GF:gastric fiber5)GFS:gastlic fiber scopy6)ES:endscopy*:出典:ポケットブレイン説明資料医療略語の出現速度に書籍が追いついていない また、同氏は医師の働き方改革についても言及し、「医師の働き方改革と言われる一方で、内科、外科、救急医の減少傾向に歯止めがかからない。心ある医療者がかろうじて現場に踏みとどまっているのが現状だ。とにかく、医師・看護師の業務負担を減らすため、事務的な業務は積極的に事務職への代行を推進する必要がある。しかし、カルテを読む難しさがそれを阻んでおり、その大きな原因が英字略語や英語表記にあると考える。本アプリを開発した目的の1つは医師の業務代行にある」と強調した。 現在、医療略語に関する書籍は多数出版されているが、書籍でページをめくり医療略語を探すのは物理的に時間を要する。さらに、医療略語の出現速度に書籍の改訂ペースが追いついていない。片や、ネット検索は英字略語のみでは適切な情報に辿り着かず、適切な日本語との組み合わせ検索というもうひと手間が必要である。「それらの問題を解決したのが本アプリ『ポケットブレイン』」と同氏はコメント。 ポケットブレインは毎日情報が更新される成長型アプリで、未収載略語の追加・修正依頼、古い略語の削除等の依頼等、ユーザとの双方向性を重要視している。また、重要な機能の1つに“略語の属性情報”と“補足情報”がある。属性情報が分かることにより、目の前のカルテに書かれている英字略語に対し、その和訳を当てはめて良いかどうかの判断が可能となる。これにより医師以外の職種にも汎用性が高い仕様になっている。医療用語は医療を行うための共通言語 現在、日本医療機能評価機構の病院機能評価の機能種別版評価項目<3rdG:Ver2.0>において“略語の標準化”もポイントになっている。そのため、各病院独自のデータベースを構築する施設もあれば、略語の使用を登録制にしている病院もあるという。これを踏まえ、「同社は病院の業務スマホ向け版ポケットブレインの準備を進め、各病院の略語集にも対応していく予定」だという。 医療略語に限らず、医療用語は医療を行うための共通言語であり、インフラと言っても過言ではない。職種を超えた情報共有が求められる今日、カルテを早く正確に読める対策が求められる。 なお、本アプリに関連する連載をCareNet.comにて公開している。「知って得する!?医療略語」

99.

頭皮の傷(裂創)の縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第8回

第8回 頭皮の傷(裂創)の縫合処置外来で意外とよく見かける頭の傷。頭皮は血流が豊富なため傷が浅くても結構出血するので、外来に慌てて駆け込んでくる患者さんがよくいます。しかし、頭部は皮膚が厚く毛包脂腺系に富むので、全身の皮膚の中で最も良好な創傷治癒機転が働く部位でもあります。つまり治りやすいので、慌てず落ち着いて処置していきましょう!ただ、頭を打っている場合は頭蓋内病変も心配です。まずは頭部への衝撃による頭蓋内病変の有無を速やかに判定し、その疑いがあれば直ちに脳外科専門医に紹介をしましょう。外来では、それらを否定してから創部の処置を行います。次に、大まかに創部の状態をチェックして、縫合が必要かどうか、局所麻酔が必要かどうかを考えましょう。擦過傷であれば、第2回に解説した対応で問題ありません。皮膚や浅い皮下組織までの損傷なら、ちゃんと毛が生えます。頭皮の欠損が大きい場合は形成外科に紹介してくださいね。頭皮縫合のポイントは「帽状腱膜」の状態を見極めることさて、よくある頭部の外傷は裂創です。今回は頭皮裂創の縫合処置をメインに解説します。毎度のことですが、最初は局所麻酔と洗浄を行いましょう。創傷処置の基本は洗浄です! 剃毛は必要ありません!! もしどうしても剃毛する場合は、周囲5mm程度にしましょう。剃毛後は粘着テープで周囲の髪を除去します。挫滅した組織をトリミングする際は最小限にとどめ、楔状(右図参照)に行いましょう。洗浄と局所麻酔については前の記事(第2回、第3回)を参照してください。頭皮の縫合を行うに当たって、できれば見極めてほしいポイントが、「帽状腱膜まで切れているのかどうか?」です。処置方法は、帽状腱膜の処置が必要かどうかで大まかに分けられます。(1)帽状腱膜の状態を確認創部がどのくらいの深さか判定するためには、まず頭皮の解剖学を理解していないといけませんね。表皮から順にSCALPの頭文字になっています(下図参照)。皮膚~皮下組織~棒状腱膜は密に結合しているため、まとまって骨膜から剥がれて出血していることが多いです。帽状腱膜(下図参照)は、皮下組織より深層、骨膜上に存在しています。前方では前頭筋、後方では後頭筋、側方では上耳介筋、側頭筋膜にそれぞれ移行する横方向に強靭な線維性組織で、この表層に主要血管と神経が走行しています。そのため、帽状腱膜が損傷している場合は出血量が多いことがあるのです。帽状腱膜の縫合が必要な場合帽状腱膜が破れていたら、しっかり縫合することがその後の止血や瘢痕(はんこん)予防に重要となります。骨膜が見えている、もしくはすぐ硬い骨が触れるような場合、帽状腱膜が破れている可能性が高いです。太めのナイロン糸(4−0)でしっかり縫合しましょう。出血源となっていることも多いため、ここをしっかり縫合することである程度の出血をコントロールできるはずです。腱膜を寄せるのが緊張で難しい場合は、帽状腱膜下を少し剥離するとよいです。帽状腱膜の縫合が不要な場合比較的浅い傷で、毛包や脂肪層が見える範囲にとどまっている場合、出血は圧迫止血のみでコントロールできることが多いです。無闇に電気メスやバイポーラで止血すると毛包を傷つけてしまうので気を付けてください。縫合は、後に解説する表面縫合のみで対応します。(2)帽状腱膜がどれかわからなかったら…帽状腱膜は慣れていないと同定しづらいこともあります。その場合、皮膚から帽状腱膜まで大きく組織を取って縫合するやり方もあります。出血が多い場合は、このように大きく針糸をかけて強めに縫合します。残ってしまった瘢痕は髪の毛で隠せます。縫合の緊張が強過ぎて創縁が壊死してしまった場合は、抜糸後に軟膏処置などを行う必要があります。(3)頭皮の表面縫合について帽状腱膜の処置が終わったら、表皮を縫合しましょう。前回、頭皮に真皮縫合は必要ないと説明しました。真皮縫合を行うと、毛包を損傷し瘢痕性脱毛の原因となります。右図のように真皮浅層から中層を通すように表面縫合を行います。後に記載するステープラー縫合もいいと思います。(4)ステープラー縫合について毛包を損傷しにくいという点で、ステープラー縫合は頭皮の表面縫合に有用です。ただ、寝転がる際に当たる部分などは日常生活で患者さんが苦痛に感じることもあるので注意しましょう。小児の頭部裂創に対して皮膚接着剤を使う方法がある?泣き叫ぶ子供を押さえつけて局所麻酔して縫合して…とは非常に困難ですよね。そこで、止血ができた比較的浅い(皮下組織程度)裂創に対して、ダーマボンドを使う方法があります。創部を寄せるように髪の毛をくっつけるのです。もちろん、処置の前に創部をしっかり洗浄して水分は拭き取ること! ダーマボンドが傷に入らないよう、気をつけて行ってくださいね。参考1)Brosnahan J. Evid Based Nurs. 2003;6:17.2)夏井 睦. ドクター夏井の外傷治療裏マニュアル. 三輪書店;2007.3)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.4)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.5)横田 和典 編.PEPARS(ペパーズ)177 当直医マニュアル形成外科が教える外傷対応.全日本病院出版会;2021.6)山本 有平 編.PEPARS(ペパーズ)14 縫合の基本手技<増大号>.全日本病院出版会;2007.7)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.8)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

100.

手術室の会話【Dr. 中島の 新・徒然草】(399)

三百九十九の段 手術室の会話手術室ではどんな会話がなされているのか? 実際のところは、人によっていろいろです。脳外科を例にとると、一般に開頭 → マイクロ(顕微鏡操作)→ 閉頭といった手順で手術が進みます。我々のところでは、開閉頭のときには3人くらい、マイクロの時は術者と助手の2人で手術を行っています。開頭の時はテンションが上がっているので、「モノポーラ!」「筋鈎ください、大きいやつ」と、やたら元気です。逆に閉頭になるとテンションが落ちてしまうので、黙って手を動かしているだけになってしまいます。それぞれに個性が出るのはマイクロの時です。最小限の事しか言わない術者もいれば、ずっとしゃべり続けている人もいます。私なんかは後者のほうです。というのは、自分の頭の中にあることを常に言葉にしていると助手も直介(清潔ナース)も突発的な事に対処しやすいような気がするからです。中島「なんだか術野に血が垂れてきて嫌だな。ちょっと止血しとこうか。急がば回れで、結局は時間の節約になるしね。そもそもどこから出てるのかな。硬膜か。硬膜を焼いとこか。面倒と思わず親の仇みたいに止血しといたほうがエエわけよ。とはいえ、程度の問題があるからな。ほどほどにしておいて、後は堰き止めておこうぜ。こういう時はベンシーツより捌きガーゼのほうがよく血を吸ってくれるからな。その糸の下に突っ込んでおいてくれるか。そやそや、ナーイス!」助手「……」なんだかしゃべりすぎですね。中島「このちんまい血管が動脈瘤に張り付いていて難儀やな。張り付くというか、壁に埋もれてるんとちゃうかな。これを剥がそうとして動脈瘤から出血させるわけにもイカンし。かといってテンポラリー(一時遮断)もどうかと思うな。かなり動脈硬化がきつそうやからな。とりあえずテンポラリークリップはそこに並べといてね。1本やなくて3本お願いします。親動脈だけで止まらんときは3点遮断せんといかんからね。それともテンタティブ(仮)をかけてから剥がそうか。そっちのほうが無難やな。そうしよ、そうしよ! でも万一、途中で破れたときに備えて、先生の吸引は6Mな。それと出血した時のテンポラリーは大きいほうから渡してね」助手「(直介に)6Mの吸引管ください」こっちもしゃべりすぎかも。でも、頭の中にある事を全部吐き出しておくと、周囲の人も準備や対処がしやすいのではないでしょうか。実際のところ、出血してから慌てて怒鳴ったりしたら収拾がつかなくなります。術者「出血や出血や、出血したぞ! 早いことテンポラリーをくれ! 何やっとんねん、これ小さ過ぎるやないか! おい、術野が見えへんぞ。ちゃんと吸引せんかい!」助手「すいません、吸引管が詰まりました」術者「阿呆! そんな細い吸引管やったら詰まるに決まっとるやないか! 太いのに代えておけよ!」助手「す、すみません」(泣)こんなに怒られたら助手もうろたえてしまいます。慌てて吸引しようとして、血液だけでなく組織まで吸い込んでしまったら目も当てられません。あと、普段からしゃべりながら操作すると、自分が今からやろうとしていることを周囲に宣言することになるので、やりかけた操作を途中でやめてしまうことがなくなります。途中で操作をやめる時には、やめるだけの理由を言葉にしなくてはなりません。中島「このくも膜の切れ端がビラビラして鬱陶しいから切っておこか。まあ、このくらいでエエやろ。そんなに律儀に切らんでも十分見えるようになったからな」こんな感じですね。ということで手術室の会話。読者の皆さんのところではどのようにされているでしょうか? きっと個性いろいろでしょうね。最後に1句 手術室 脳と口を 直結す

検索結果 合計:299件 表示位置:81 - 100