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がん関連適応の肝切除、トラネキサム酸で周術期合併症が増加/JAMA

 がん関連適応の肝切除を受ける患者において、トラネキサム酸は出血または輸血を減少させず周術期合併症を増加させることが示された。カナダ・Sunnybrook Health Sciences CentreのPaul J. Karanicolas氏らHPB CONCEPT Teamが、多施設共同無作為化プラセボ対照試験「HeLiX試験」の結果を報告した。トラネキサム酸は多くの種類の手術で出血および輸血を減少させることが知られているが、がん関連適応の肝切除を受ける患者における有効性は明らかにされていなかった。JAMA誌オンライン版2024年8月19日号掲載の報告。プラセボ対照無作為化試験で術後7日間の赤血球輸血を評価 研究グループは、トラネキサム酸がプラセボとの比較において肝切除後7日間の赤血球輸血を減らすか否かを調べた。2014年12月1日~2022年11月8日に、肝胆膵手術専門の3次医療センター(カナダ10施設、米国1施設)で被験者を募り、術前麻酔開始時にトラネキサム酸(1gボーラス投与後、8時間かけて1gを点滴投与)またはマッチングプラセボを投与し90日間追跡調査した。 主要アウトカムは、術後7日以内の赤血球輸血とした。 適格基準を満たし試験参加に同意したがん関連適応の肝切除を受けるボランティア患者1,384例が無作為化を受けた。被験者、手術担当医、データ収集者は割り付けについて盲検化された。輸血発生と術中の出血量に有意差なし、合併症はトラネキサム酸群で高率 主要解析には被験者1,245例が組み入れられた(トラネキサム酸群619例、プラセボ群626例)。平均年齢は63.2歳、女性39.8%、大腸がん肝転移の診断患者56.1%で、周術期の特性は群間で類似していた。 赤血球輸血は、トラネキサム酸群16.3%(101例)、プラセボ群14.5%(91例)で発生した(オッズ比[OR]:1.15[95%信頼区間[CI]:0.84~1.56]、p=0.38、絶対群間差:2%[95%CI:-2~6])。 手術中の出血量(トラネキサム酸群817.3mL、プラセボ群836.7mL、p=0.75)、7日間の推定総出血量(それぞれ1,504.0mL、1,551.2mL、p=0.38)はいずれも両群間で同程度であった。 トラネキサム酸投与を受けた被験者は、プラセボ投与を受けた患者と比較して、合併症の発現頻度が有意に高かった(OR:1.28[95%CI:1.02~1.60]、p=0.03)。静脈血栓塞栓症の発現頻度に有意差は認められなかった(OR:1.68[95%CI:0.95~3.07]、p=0.08)。

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第224回 女性の生理をより楽にする環境に優しいナプキンを開発

女性の生理をより楽にする環境に優しいナプキンを開発生理出血をゲル状に固めて漏らさず留め、圧迫しても血を放出せずに保持し続けうる天然素材の生分解性粉末(バイオポリマー)を米国のバージニア工科大学のチームが開発しました1,2)。現行のナプキンやおむつなどで吸収剤として使われているポリアクリル酸(PAA)は埋め立て環境でほとんど分解しませんが、今回開発されたバイオポリマーは生分解性です。また、一旦収容した血の逆戻りや不快な蒸れを防ぐ作用はどうやらPAAを上回るようであり、そのバイオポリマー入りの生理用品なら環境への負担減少に加えて女性はより心安く生理期間を過ごせるようになりそうです。生理は生まれながらの体の営みですが、生理に対する偏見や支援の欠如が女児や女性を相当生き難くしています。生理は10~14歳ぐらいで始まり、その後たいてい1ヵ月ごとに繰り返され、3~7日ほど続きます。生理が停止するのは50歳ぐらいで、生涯の生理回数の中央値は451回です。女性は生涯に多ければ1万5,000個もの使い捨ての生理用品を使います。それほどに需要の大きな製品であるにもかかわらず生理用品は過去100年間にあまり進歩していません。使い捨てのナプキンは1888年、タンポンは1933年、出血を膣内で止める月経カップは1937年に開発されました。生理用ナプキンの使用中に漏れたり、月経カップの交換時に血が溢れたりするなどの気苦労や余計な手間のせいで女性はいらぬ引け目を感じ、思うように振る舞えなくなるかもしれません。バージニア工科大学のBryan Hsu氏のチームのバイオポリマーは、生理中の女性のそのような厄介事を取り払って生活の質を改善することを目指して開発されました。バイオポリマーはアルギン酸とグリセロールでできており、出血を吸収して凝固させます。膣を模す人工物とより調達が容易な月経血代替品のブタ血液を使って検討したところ、バイオポリマーや市販品のセルロース充填材はPAAに比べて血液をより多く吸収しました。また、圧迫や接触を模す検査をしたところ、セルロース充填材はほぼすべての血を放出してしまったのに対してバイオポリマーは最も多く血を保持しました。PAAはバイオポリマーの半量ほどを保持しました。バイオポリマーは月経カップの充填剤として使うことで、取り外しのときの血の漏出の心配を減らすこともできそうです。バイオポリマー入りの綿を内側に配した月経カップとそうでない月経カップをどっちがどっちだかわからない5人に人工膣から外してもらったところ、前者はほぼ血の漏出なしで済み、後者は常に漏出しました3)。バイオポリマーの成分の1つであるアルギン酸は海藻に含まれることで知られ、傷の止血パッドに使われることがあります。アルギン酸はカルシウムを頼りに架橋を形成してゲル状に固まります。血と混じるとアルギン酸の粘性が増して血がゲル状に固まるのは、血液に含まれるカルシウムを介した架橋のおかげのようです2,3)。バイオポリマーのもう1つの成分であるグリセロールは、どうやらポリマーがだまになるのを減らして血とポリマーの接触を促すことで、血をより吸収できるようにします。今回の研究成果を契機に生理の手当てのための新たな素材の開発が進み、ひいては女性の健康に技術や科学の目がより向けられるようになることを望むとHsu氏らは述べています。参考1)Bataglioli RA, et al. Matter. 2024 July 10. [Epub ahead of print]2)New period product offers progress in women’s health / Eurekalert3)Menstrual pads that turn blood solid could reduce the risk of leaks / NewScientist

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心筋梗塞の後追いをする脳卒中治療―カテーテルインターベンション時代に備えたほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞の原因が冠動脈の閉塞血栓とわかった後、各種の線溶薬が開発された。30日以内の心血管死亡率の減少を明確に示したストレプトキナーゼにはフィブリン選択性がなかった。線溶を担うプラスミンは強力かつ汎用的なタンパク質分解酵素である。血栓となっているフィブリンのみならず、全身循環するフィブリノーゲンも分解してしまった。循環器でもフィブリン選択性の高いt-PAは、ストレプトキナーゼより出血リスクが少ない可能性のある薬剤として期待された。t-PAの分子を改変して、持続投与不要とする分子などが多数開発された。しかし、線溶薬による血栓溶解はいつ起こるかわからない。冠動脈造影に通暁していた循環器内科医は、速やかに自らの手で確実に再灌流できる冠動脈インターベンションに治療の基本をシフトした。再灌流時に心室頻拍などの致命的イベントが起こるため、搬送中のt-PAも推奨されない。心筋梗塞治療では、特殊な場合以外にはt-PAなどの線溶薬の需要はほぼなくなった。 脳梗塞の発症メカニズムは心筋梗塞に類似している。脳血管の血栓性閉塞による急性虚血が病態である。早期の再灌流が予後を改善することも心筋梗塞に類似している。しかし、循環器医がはるか以前から冠動脈造影を日常的に行っていたのと異なり、心臓ほど動かない脳の血管の形態はMRIなどにて体外から評価可能であった。循環器医が日常的冠動脈造影からPCIに移行できたほど容易に、脳卒中治療は血管内治療に移っていない。本研究では古典的な線溶薬t-PAであるアルテプラーゼと、分子を改変したreteplaseの有効性と安全性が比較された。確かに両者に差はあった。しかし、循環器の世界にて心筋梗塞治療の変遷を見てきた筆者からすると、有効性指標の到達率は両方とも70%程度であり、両方とも数%に頭蓋内出血を起こしている。歴史的プロセスはまだまだ必要かもしれないが、自らの治療中に症状が消失し、出血も少ない血管インターベンションに移行するのは必然だと思う。過去の先例があるので、経過は早いかもしれない。脳卒中の専門医であれば血管インターベンション医になるほうがよいと私は思う。

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歯の外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第15回

今回は歯の外傷の対処法についてです。「内科医が歯を診るの?」と思われるかもしれませんが、施設でも救急外来でも転倒して歯がぐらついている、歯が抜けてしまった、という症例はたまに経験します。しかし、医師が歯について勉強することは、恐らく学生以降あまりありません。かくいう私も、外傷で搬送されてきた前歯が抜けかけている患者さんを歯科にコンサルトする際に、「右の上の前歯がぐらぐらしていて…」という専門用語の出てこない説明しかできませんでした。医師であればやはり専門用語をある程度理解し、緊急性がどの程度あるかを判断してコンサルトする必要があると実感しました。とはいえ、歯科領域は医師が学ぶ機会は乏しいので、今回は主に歯についての基本的な知識と、プライマリケア医が困る機会が多いであろう歯肉からの出血に対する簡易な対処法を示します。なお、今回の用語と治療は日本外傷歯科学会のガイドラインに沿って行います1)。<症例>78歳、男性施設入所中、転倒し、顔面を打撲した。本人はけろっとしているが口腔内から出血しており往診依頼。歯は入れ歯などではなく、全部自分のものである。歯の名称頭部は大丈夫と判断したという前提で口腔内を診察していきます。まず、歯の名称からおさらいしましょう。図1 歯の名称画像を拡大する必ずしも覚える必要はありませんので、診察する際にインターネットなどで調べてください。この患者さんは上の右の前歯とその横の歯の歯肉から出血がありました。これは「上顎右側中切歯と側切歯」に該当します。歯の解剖私は広島大学卒業で、学生時代に細胞の絵を描いて説明する授業がありました。卒業生はわかると思いますが、絵心のない人は非常に苦労します。重要なのは絵の上手さではありませんでしたが、歯の絵を描いた際に、歯も複雑なのだなと思った記憶があります。さて下記がその歯の解剖です。図2 歯の解剖画像を拡大する「破折」と「露髄」歯が欠損したときの重要なワードは破折と露髄です。「歯が折れたときの正式名称は?」と聞かれて答えられる医師はあまり多くはないかもしれませんが、歯が割れたり、折れたりすることを破折と表現します。この患者を診察すると、上顎右側中切歯が欠損していましたので、「上顎右側中切歯の破折」と表現します。では露髄とは何でしょうか。これは歯髄という神経が破折によって見えることです。歯が欠損した場合、この歯髄が見えるかどうかが非常に重要になります。というのも、この部位は感染に弱く、可能な限り早くセメントなどで保護する必要があるからです。よって、露髄の情報も加えて「上顎右側中切歯の露髄を伴う破折」となります。歯が抜ける?ぐらぐらする?この患者さんの上顎右側側切歯はぐらぐらして少し飛び出していまました。ではこれはどのような表現でしょうか? 図3を参照してください。図3 歯の脱臼画像を拡大する歯を打撲したことを「振とう」、ぐらぐらしていることを「亜脱臼」、飛び出していることを「挺出性脱臼」、めり込んでいることを「陥入(埋入)」、完全に抜けていることを「完全脱臼」と表現します。本症例では、上顎右側中切歯は振とう、上顎右側側切歯は挺出性脱臼になります。この患者について歯科に電話で相談したところ、そのまま歯科受診となりました。その後、中切歯はセメントで処置を受け、側切歯は抜歯されました。歯肉からの出血次に、歯肉からの出血について紹介します。歯が抜けると出血することが多いです。その際に抗凝固薬を飲んでいるとなかなか止血しないことがあります。基本は圧迫止血になりますが、それでも止血しない場合はボスミンガーゼや局所止血剤を用いて圧迫止血を行います。これでほぼ止まりますが、それでも止まらない場合は縫合が必要になります。自力で縫合できればよいのですが、難しい場合は歯科に相談しましょう。ただ、ボスミンガーゼや局所止血剤を用いても止まらない場合は、高度の凝固異常がある可能性があるため、歯科に相談するとともに血液検査で凝固障害の有無を調べましょう。すでに抜けていた場合歯が完全脱臼してしまっている場合は、歯を生理食塩水か牛乳につけましょう。また、歯が汚れていたとしても磨いたりしてはいけません。歯の周囲には生着するために必要な歯根膜があり、磨くことで歯根膜を障害してしまうからです。水で洗う程度にしてください。以上が歯科に関する基礎知識のおさらいでした。歯はどうしても学ぶ機会が乏しいので、コンサルトするときの参考にしてください。1)日本外傷歯科学会. 歯の外傷治療のガイドライン. 2023.

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第Xa因子阻害薬投与中の頭蓋内出血、アンデキサネットvs.通常治療/NEJM

 第Xa因子阻害薬投与中の頭蓋内出血患者において、アンデキサネット アルファ(以下、アンデキサネット)は通常治療と比較して優れた止血効果を示し血腫拡大を抑制したが、虚血性脳卒中を含む血栓イベントと関連していた。カナダ・マクマスター大学のStuart J. Connolly氏らANNEXA-I Investigatorsが報告した。第Xa因子阻害薬投与中の急性頭蓋内出血患者は、血腫が拡大するリスクを有している。アンデキサネットは第Xa因子阻害薬の抗凝固作用を中和する薬剤であるが、血腫拡大に対する効果は十分検討されていなかった。NEJM誌2024年5月16・23日号掲載の報告。内服後15時間以内に発症した頭蓋内出血症例で、アンデキサネットと通常治療を比較 ANNEXA-I試験は、23ヵ国131施設で実施した第IV相無作為化非盲検比較試験。 研究グループは、経口第Xa因子阻害薬で治療中に頭蓋内出血を発症(無作為化前15時間以内に内服)した18歳以上の成人患者を、アンデキサネット群と通常治療(プロトロンビン複合体濃縮製剤[PCC]など)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは止血効果で、次の基準をすべて満たすことと定義した。ベースラインから12時間後の血腫体積の変化が20%以下(優れた止血効果)または35%以下(良好な止血効果)、12時間後のNIHSSスコアの増加が7点以下(スコア範囲:0~42、スコアが高いほど神経学的重症度が高い)、投与後3~12時間における救援療法(アンデキサネット、PCC、血腫除去術など)がない。 安全性エンドポイントは、血栓イベントおよび死亡であった。 2019年6月6日~2023年5月27日に計550例が無作為化され、このうち同意が得られなかった20例を除く530例(アンデキサネット群263例、通常治療群267例)がデータベースに含まれた。 本試験は2023年5月31日、当初登録された452例を対象に実施した有効性に関する事前規定の中間解析で有効性の基準を満たしたことから、データ安全性モニタリング委員会の勧告により早期に中止された。したがって、452例の中間解析を有効性の主要解析とし、データベースの530例が安全性解析対象集団となった。止血効果は67.0% vs.53.1%、血栓イベント発現率は10.3% vs.5.6% 患者背景は両群で類似していたが、心房細動を有する患者はアンデキサネット群が通常治療群よりやや多かった(90.2% vs.84.2%)。途中でプロトコールが変更されたことから、硬膜下出血またはくも膜下出血の患者が、アンデキサネット群で22例(9.8%)、通常治療群で12例(5.3%)含まれた。通常治療群では、195例(85.5%)にPCCが投与された。 主要エンドポイントの止血効果は、アンデキサネット群で67.0%(150/224例)、通常治療群で53.1%(121/228例)に認められた(補正後群間差:13.4%、95%信頼区間[CI]:4.6~22.2、p=0.003)。 副次エンドポイントである抗第Xa因子活性のベースラインから投与1~2時間における最低値までの低下率中央値は、アンデキサネット群で94.5%、通常治療群で26.9%であった(p<0.001)。 血栓イベントは、アンデキサネット群で10.3%(27/263例)、通常治療群で5.6%(15/267例)に発現した(群間差:4.6%、95%CI:0.1~9.2、p=0.048)。虚血性脳卒中はそれぞれ17例(6.5%)、4例(1.5%)に認められた。30日時の修正Rankinスケールスコアや30日死亡率については、両群間で有意差はなかった。

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がん関連DVTに対するエドキサバン長期投与のネットクリニカルベネフィット、サブグループ解析(ONCO DVT)/日本循環器学会

 昨年8月欧州心臓学会(ESC)のHot Line SessionでONCO DVT Study1)“の試験結果(がん関連下腿限局型静脈血栓症[DVT]におけるエドキサバンの長期投与の有効性を示唆)が報告されて話題を呼んだ。今回、その続報として西本 裕二氏(大阪急性期・総合医療センター心臓内科)らが、サブグループ解析(事後解析)結果について、第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Trials 2で報告した。 ONCO DVT Studyは日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験である。下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付け、主要評価項目として症候性のVTE再発またはVTE関連死を評価した。主要評価項目は12ヵ月群では1.2%、3ヵ月群では8.5%に発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。一方、主な副次評価項目である12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)は12ヵ月群では10.2%、3ヵ月群では7.6%で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。 この結果を基に、今回はエドキサバンの長期投与による出血リスク増加の懸念を検証することを目的として、12ヵ月の血栓性イベント(症候性VTE再発またはVTE関連死)と大出血イベントを複合した全臨床的有害事象(NACE:net adverse clinical events)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・12ヵ月群296例、3ヵ月群305例の計601例のITT解析対象集団を事後解析した。・NACEの発生率は、12ヵ月群では296例中30例(10.1%)、3ヵ月群では305例中42例(13.8%)であった(OR:0.71、95%CI:0.43~1.16)。・12ヵ月群のネットクリニカルベネフィットを算出すると3.6%(95%CI:-1.5〜8.8%)で、有意差がないことが示された。・事前に規定したサブグループでは、血小板減少患者では3ヵ月群で、がん転移を有する患者では12ヵ月群でNACEの発生率が低かった。・それぞれのイベントの重みを考慮し、探索的に大出血イベントに重みを加えて12ヵ月群のネットクリニカルベネフィットを算出すると、0.5の重みで4.8%、2.0の重みで0.7%であった。・また、NACEに血栓性イベントとして無症状VTE再発を加え、出血性イベントして臨床的に意義のある非大出血を加えて検証したところ、12ヵ月群のNACEの発生率が有意に低く(OR:0.67、95%CI:0.47~0.97)、ネットクリニカルベネフィットは7.8%(95%CI:0.8~14.9)であった。また出血イベントに0.5の重みを加えるとネットクリニカルベネフィットは10.1%、2.0の重みでは3.1%であった。 西本氏は「DVTを有するがん患者において12ヵ月群のほうがNACEの発生率が数値的に低かったが、ネットクリニカルベネフィットは12ヵ月群と3ヵ月群で有意差がなかった。サブグループ解析からは、血小板減少患者とがん転移を有する患者でNACEに対する異なる影響が認められた」とコメントした。 なお、本研究の限界として、非盲検であること、対象患者の多くが無症候性の下腿限局型DVTであること、本研究における治療アドヒアランスが高くないこと、そして最も重要な点として、12ヵ月のエドキサバン治療における大出血増加の懸念を検証することを目的として事後解析した点が示された。

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「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン」13年ぶりの改訂/日本循環器学会

 日本循環器学会、日本心臓病学会、日本小児循環器学会の合同ガイドライン『心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングに関するガイドライン』が、2011年以来の13年ぶりの改訂となった。3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会で、本ガイドラインの合同研究班班長である今井 靖氏(自治医科大学 臨床薬理学部門・循環器内科学部門 教授)が、ガイドライン改訂の要点を解説した。 本ガイドラインは2006年に初版が刊行され、2011年に改訂版が公表された。当時、遺伝子解析の大半は研究の範疇に属し、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に沿って実施されていた。その後、2021年の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」により、他の医学系研究指針と統合され、ヒト遺伝子情報が他の医学・生命科学の情報と同列に扱われるようになった。さらに最近では、診療として実施される遺伝学的検査が大幅に増加しており、がんなどの他の診療分野での遺伝学的検査の普及と並行し循環器疾患においても今後さらに適応が増加することは必至と考えられる。今回の改訂はこれらの状況を踏まえて行われた。 2024年改訂版では、総論において、遺伝学的検査の指針・目的、遺伝学的検査の方法・実施体制、診療・遺伝カウンセリング、周産期における対応・妊娠前のプレコンセプションケアについて追加した点が、前版と大きく異なると今井氏は述べた。 日常診療で遺伝学的検査を行う指針として、日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」や「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(2023年改訂)」に則している。また、遺伝学的検査によって得られる情報は、とくに慎重な配慮を要する個人情報であるため、個人情報保護法などの法令の趣旨に則するように記述・改訂されている。遺伝学情報の特徴 遺伝学情報には以下のような特徴があり、これらを理解したうえで患者に説明し理解を促すことが必要となる。・生涯変化しないこと。・血縁者間で一部共有されていること。・血縁関係にある親族の遺伝型や表現型が比較的正確な確率で予測できること。・非発症保因者(将来的に病的バリアント[変異]に起因する疾患を発症する可能性はほとんどないが、当該病的バリアント[変異]を有しており、次世代に伝える可能性のある者)の診断ができる場合があること。・発症する前に将来の発症の可能性についてほぼ確実に予測することができる場合があること。・出生前遺伝学的検査や着床前遺伝学的検査に利用できる場合があること。・不適切に扱われた場合には、被検者および被検者の血縁者に社会的不利益がもたらされる可能性があること。・曖昧性が内在していること(曖昧性とは、結果の病的意義の判断が変わりうること、症状、重症度などに個人差があること、調べた遺伝子が原因ではなく、未知の他の原因による可能性などがある)。遺伝学的検査の対象と目的 遺伝学的検査を行うためのワークフローとして、対象と目的の整合性を確認しておく必要がある。検査を受ける対象は、患者本人または血縁者、発症患者または非発症者の場合がある。また、遺伝学的検査を行う目的として、以下のものが挙げられている。・病因診断を目的とした原因の同定。・精微な層別化による疾患の病型分類。・分類された病型に基づく病態管理と治療法選択。・病態進展の理解と疾患予後の予測。・突然死を含む急性イベント発症の予防。・未発症者の発症予防や早期診断・早期介入。 遺伝学的検査の目的に応じた検査が重要となり、循環器診療部門と遺伝子医療部門が協同して実施する必要がある。検査を行う際の留意点として、検査対象者は通常は採血の負担しかないため身体的侵襲は少ないが、検査をしても異常が検出できないこともある。また、患者自身やその血縁者に遺伝子異常が見つかった場合、今後の病状が急激に悪化していくことなどのリスクを持ち合わせていることに対して、心理的負担を生じる可能性がある。一方で、早期の診断によって治療介入できる可能性もある。遺伝子解析の手法 遺伝子解析の手法として、次世代シーケンス(NGS)法が近年急速に進歩した。この技術により、候補となる遺伝子をまとめて解析するパネル解析や、全エクソーム解析法や全ゲノム解析法も可能となっている。また、小児を対象とした新生児マススクリーニングも先天性疾患の検出に有用なアプローチである。染色体異常については、染色体検査(G分染法)やFISH法によって確認することができる。 診療用に供する検体検査は、平成30年度改正医療法等に従い、保険診療での検査として行う場合(S006-4遺伝学的検査)は医療機関の検査部門、ブランチラボや衛生検査所で実施することとなった。これは研究所・大学の研究室などでのゲノム・遺伝子解析研究として実施されるものとは明確に区別することとなっている。保険収載されている遺伝子学的検査 現在、循環器領域で保険収載されている遺伝学的検査は、3,880点のものがFabry 病、Pompe病、家族性アミロイドーシス、5,000点のものが肥大型心筋症、家族性高コレステロール血症、CFC症候群、Costello症候群、Osler 病、先天性プロテインC欠乏症、先天性プロテインS欠乏症、先天性アンチトロンビン欠乏症、8,000点のものが先天性QT延長症候群、Noonan症候群、Marfan症候群、Loeys-Dietz症候群、家族性大動脈瘤・解離、EhlersDanlos 症候群(血管型)、Ehlers- Danlos症候群(古典型)、ミトコンドリア病となっている。遺伝カウンセリング 遺伝カウンセリングは、「疾患の遺伝学的関与について、その医学的影響、心理学的影響、および家族への影響を人々が理解し、それに適応していくことを助けるプロセス」と定義される。遺伝要因は不変であるため、自身のコントロールが及ばない。さらには、その遺伝要因によって、突然死などの重篤なものを含むさまざまな症状が、一般集団よりはるかに高い確率で起こりうるという脅威にさらされることとなる。そのような状況の患者や家族に生じうる、否認、怒り、疾患への脅威、コントロール感の喪失などのさまざまな心理的影響への対応が求められる。心理社会的課題に、患者や家族が対処する能力を身につけられるよう具体的な対処方法を提示するとともに、エンパワーメントや自己効力感の向上を目的に実施される。 遺伝カウンセリングのための専門職種である臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、遺伝看護認定看護師とともに循環器系の医師が協力して遺伝子検査を進め、より良い形で患者へ情報提供することが考えられる。遺伝カウンセリングについては、保険収載されている検査においてのみ診療報酬が設定されているため、未発症者の遺伝子解析や研究で行われる遺伝子解析に対してのカウンセリングは対象外となっている。このような点が今後改善されることを強く望むと今井氏は述べた。周産期の女性に対する対応 今井氏が今回のガイドラインでとくに力を入れた点として挙げたのが、周産期に対する対応である。若年の患者における先天性心疾患やQT延長症候群のような遺伝性疾患があるが、そのような女性患者の妊娠前の遺伝カウンセリングは重要で、思春期の段階から行っていく必要がある。妊娠出産に関する可能性や、次世代にどのように遺伝するかといったプレコンセプションケアも重視しなければならない。本ガイドラインでは、各疾患群の妊娠前遺伝カウンセリングをまとめている。今井氏によると、現在日本では思春期から20代の対象者について、カウンセリングが必ずしも十分にできていない状況にあるため、患者へのカウンセリングの可能性について検討してほしいと訴えた。疾患ごとに推奨事項を確認できる巻末付表 講演の後半では、疾患ごとにガイドラインに沿った解説がなされた。本ガイドラインの巻末付表に「循環器遺伝医療の実践」を設け、各疾患に関して、循環器遺伝医療における推奨事項を簡単に参照できるポケットガイドを付けている。この表では、疾患名、原因遺伝子、浸透率、推奨事項として発端者への介入や血縁者のスクリーニング・サーベイランス・介入が端的に示されている。 今井氏は最後に多遺伝子因子疾患について述べた。本ガイドラインでは単一遺伝子のみに言及してきたが、たとえば冠動脈疾患については、遺伝子の多型の組み合わせで示されるPolygenic risk score(多遺伝子リスクスコア)によって、低リスクと高リスクの集団の予測ができる。また、高遺伝リスク群であっても生活習慣リスクを低減することで、リスクを相殺する可能性も示されている。このような多遺伝子因子疾患の解析は、心房細動、血管炎、末梢動脈疾患にも応用可能とされ、今後の臨床利用が期待されるという。

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巨星、墜つ!【Dr. 中島の 新・徒然草】(522)

五百二十二の段 巨星、墜つ!暑さ寒さも彼岸まで。大阪では、つい先日まで車のフロントガラスが凍ったりしていました。ようやくお湯で溶かす必要もなくなりホッとしています。皆さまの地方ではいかがでしょうか。さて、私にとって最近の最大のニュースは、脳神経外科の巨星、福島 孝徳先生が亡くなったことです。2024年3月19日、享年81歳とのこと。今回は少し福島先生のお話をしたいと思います。私が初めて福島先生の手術を見たのは1980年代後半のことでした。小さな開頭で無血の術野での綺麗な手術はまさに神業!その福島先生が米国に渡ったのは1990年代早々です。実は縁あって、1994年にピッツバーグのAllegheny General Hospitalの福島先生を訪ねたことがありました。というのも、留学先のアメリカの研究室の同僚で脳神経外科のレジデントが、福島先生に弟子入りしたいと希望していたからです。「病院見学を兼ねて、Alleghenyで行われる研究会に出席するんだけど、お前も一緒に行くか?」と尋ねられて二つ返事で行くことにしました。実際にお会いした福島先生はやたら明るい人で、ずっと上機嫌でしゃべっておられたことを思い出します。その研究会でも驚くべき手術を披露し、アメリカの脳外科医たちの賞賛を浴びていました。先日、部屋を片付けていたら、この時にわれわれ夫婦と福島先生の3人で撮影した写真が出てきたのです。もう30年も前のこと、当然ながら全員若い!今でもわが家の家宝となっています。その後、福島先生は時々日本に帰ってきては、カダバー・ディッセクション(cadaver dissection;解剖)を行ったり、複数の手術を同時並行にこなしたりしては颯爽と去っていきました。よく他の診療科の先生に「福島先生の手術はどこがすごいのですか?」と尋ねられます。あくまでも私の感想ですが、「ここがすごい!」というところを以下に述べましょう。10円玉~500円玉くらいの小さな開頭での手術操作同じ手術をするにしても、私の場合は手のひらくらいの開頭になってしまいます。ほとんど出血のない手術野顕微鏡操作では「1滴の出血もなく手術を行っているのではないか」と思わされることがしばしばありました。シャープディッセクション(sharp dissection;鋭的剥離)くも膜を裂く操作ではなく、くも膜を切るという操作で剥離することの提唱者です。今でこそ、この操作は広く行われていますが、1980年代に初めてビデオで見たときは衝撃でした。確かな解剖学的知識しゃべりながら手術をしておられることが多いのですが「ここを切ると腫瘍が……ほら、ちゃんと出てきましたよ!」という発言に、ギャラリーの1人として驚いたものです。そんな所に腫瘍があるとは! 恥ずかしながら私は予想していませんでした。独自の手術器械いつぞやご本人が考案した器械について熱く語っておられました。お箸みたいな棒ですが、そのお尻のところにピラッとした金属の尻尾がついているものです。「術者が止血箇所にこの先端を持っていって保持するんだ。それで助手がヒラヒラのところにモノポーラで通電したら先端がぶれずに正確に焼灼することができるから」ということでした。その器械が現存するのかどうか私は知りませんが「なるほど理に適っているなあ」と思った記憶があります。特筆すべきはその人柄で、いつも若々しく前向きで、後進を育てようと一生懸命でした。「僕は実年齢より15歳若いんだ」と仰っていた表情を思い出します。福島 孝徳先生の全盛期の手術をリアルタイムで見る機会のあったわれわれは、本当に幸せ者でした。不世出の脳神経外科医のご冥福をお祈りいたします。最後に1句神業が 天に召された 彼岸過ぎ

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洗剤誤飲【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第11回

異物誤飲は救急外来で遭遇する機会の多い疾患の1つです。高齢者の義歯が取れて飲み込んでしまった、コップに洗剤を入れていたことを忘れてそれを飲んでしまった…など。わが国の誤飲頻度の正確なデータはありませんでしたが、単施設での報告によると65歳以上の高齢者の頻度が多く、1位:薬剤の包装紙、2位:義歯、3位:魚骨でした1,2)。一方、消費者庁によると2020年度の65歳以上の高齢者の誤飲・誤食の事故情報は318件寄せられており、医薬品の包装シート、義歯・詰め物、洗剤や漂白剤が多いそうです3)。洗剤や漂白剤を誤飲してしまったときの対処法を記載した医学書やレビューは少ないため、実際に私も救急外来で「誤って洗剤を飲んでしまったが、かかりつけ医に相談したところ救急外来を受診するよう指示されたので来た」という話を聞くことがあります。私は年に数回「誤って洗剤を飲んでしまった」という電話相談もしくは診察をすることがありますが、私の経験では成人が洗剤や漂白剤を誤飲したとしても何か特別な処置が必要なケースは限られていて、ほとんどが何もすることなく終わっています。だからといって全部大丈夫というわけではないため、日本石鹸洗剤工業会の「誤飲・誤用の応急処置(公益財団法人 日本中毒情報センター監修)」を参考に、私の診療過程を症例をもとに紹介します。なお、今回は認知症のない成人で台所用洗剤に重点を置きます。<症例>70歳女性主訴誤って台所用洗剤を飲んだ。昼の12時ごろ台所のコップに入っていた水を飲んだところ変な味がした。娘に確認したところコップを洗剤につけて茶渋を取っていたとのこと。口腔内に違和感があるため受診。既往歴高血圧上記は救急外来にフラッとやって来た患者さんです。順を追って対処しましょう。(1)バイタルサイン、嘔吐の有無の確認こういった洗剤などの誤飲で問題になってくるのは、嘔吐して誤嚥してしまうことです。洗剤は当然飲むものではなく、強い味や香りのため飲めたものではありません。万が一飲んでしまった場合、その味や香りで嘔吐して誤嚥することがあります。そのため、まずは誤嚥性肺炎を生じていないか確認しましょう。この患者さんは、嘔吐もなく、SpO2は室内気で98%でした。(2)洗剤の種類の確認台所用洗剤の種類は大きく分けて合成洗剤、食器洗い機専用洗剤、台所用石けん、台所用漂白剤(塩素系)、台所用漂白剤(酸素系)、クレンザーとなります。いずれの中毒量(マウス)は液状だと5mL/kgとなっています。体重が50kgの人だと250mL程度になりますが、原液を10mL飲むのも困難であり、私は意識がはっきりしている人で大量の原液を誤飲した症例の経験はありません。しかし、洗剤の誤飲は少量であれば問題にならないのかというとそうでもありません。第9回の化学眼外傷のときに紹介したとおり、強い酸性orアルカリ性の物質の場合は強い粘膜障害が生じる懸念があります。それらを誤飲した場合は、腐食性食道炎が生じ食道穿孔などが生じるリスクがあり、内視鏡検査や入院治療が必要になり注意が必要です4,5)。本症例は、茶渋をとるために強アルカリ(pH11.0~12.0)の次亜塩素酸塩配合の台所用漂白剤(キッチンハイター)を入れていたそうです。(3)誤飲状況の詳細と症状を確認では、強アルカリの物質を誤飲してしまった場合、すべて消化器内科を受診して入院が必要なのでしょうか? そんなことはありません。腐食性食道炎を生じるには、それなりの量が必要です。何mL飲めば生じる可能性が上がるという根拠は見つかりませんでしたが、先述のとおり洗剤は通常飲めないようにできています。ハイターの臭いをかいだことがあればわかると思いますが、あの匂いのものを間違えてごくごく飲むのはかなり無理があります。私は味わったことがないですが、誤飲した人に聞いたところ「苦いけど苦いとも言えない味、刺激が強い」とのことでした。意識がある人が飲めるものではありません。実際に腐食性食道炎を生じている患者が強酸性or強アルカリ性の物質を摂取した理由は自殺が最も多く、私が和文文献を探していて唯一自殺以外であったのが「酩酊状態の誤飲」でした4-6)。また症状としては、粘膜障害が生じるため咽頭痛、嗄声、嘔吐、心窩部痛が2~3時間以内に急激に生じます。今回の症例の場合、水で薄めたハイターをコップに入れていて、患者は一口飲んで吐き出したので飲んだには飲んだがほんの少しだけでした。症状としては口に苦い感じがするとのことでした。飲んだ量も少なく、濃度も薄い、さらに症状もほとんどありません。1時間ほど外来で経過をみましたが何もないため経過観察としました。治療に関しては、今回のようなケースではとくにすることはありません。少量誤飲してすぐの状態であれば、口をゆすいだ後に水を飲んでもらうくらいです。昔から食器用洗剤を誤飲した場合は牛乳がよいと言われていますが、効果のほどは定かではありません。プロトンポンプ阻害薬やアルギン酸を粘膜保護を目的に投与している施設もありますが、今回のようなほぼ無症状の人に対して投与する明確な根拠はありません。少なくとも私は中性洗剤の場合であれば処方はせず、帰宅後に何らかの症状が出現すれば再診としています。今回のような粘膜障害を生じうる洗剤を飲んだ場合は症状に合わせて3日分処方することもありますが、もし電話相談で「ハイターを飲んでしまった。症状はない」という相談が来たときに、プロトンポンプ阻害薬とアルギン酸を処方するために受診させたりはしません。今回は、台所用洗剤の誤飲に重点を置いて紹介しました。まとめますと、「意識がはっきりしている人が洗剤を誤飲したとして、大量に誤飲した可能性は低いためさほど恐れることはない」ということです。特殊なものを除き、家庭にあるほとんどの洗剤は同じストラテジーで対処できます。ただし、強い症状(嚥下時痛、嗄声、心窩部痛など)があれば内視鏡や胃洗浄などを行いますので、高次医療機関に相談してください。教科書や論文のレビューが少ないテーマなので経験がない人は不安になるかもしれませんので参考になればと思います。1)岡 陽一郎ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2007;68:2449-58.2)山本 龍一ほか. 埼玉医科大学雑誌. 2010;37:11-14. 3)消費者庁:高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう! 4)松村 英樹ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2015;76:714-719.5)De Lusong MAA, et al. World J Gastrointest Pharmacol Ther. 2017;8:90-98. 6)佐藤 雄亮ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2008;69:1658-1662.

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外傷の処置(7)消化管出血へのトラネキサム酸【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q97

外傷の処置(7)消化管出血へのトラネキサム酸Q97前回に続き、トラネキサム酸関連で話題をもう1つ。外勤先の診療所に黒色便を主訴として76歳男性が受診した。ピロリ菌除菌歴があるが、その後の内視鏡フォローはされていない。最近、元々の腰痛が増悪し、近医でNSAIDs定期内服が始まっていたようだ。粘膜保護薬程度で、制酸薬の内服はない。バイタルサインは安定しており、身体所見上貧血を示唆する所見はないようだ。後方医療機関に送る上で、前投薬はどうしようか。

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外傷の処置(6)外傷へのトラネキサム酸【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q96

外傷の処置(6)外傷へのトラネキサム酸Q96前回、鼻出血に対するトラネキサム酸の使用について触れた。今回は外傷への使用を取り上げる。出血リスクのある外傷患者に対して、どれぐらい早くトラネキサム酸を投与するべきだろうか。

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外傷の処置(5)鼻出血【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q95

外傷の処置(5)鼻出血Q95冬の時期に某山奥の診療所で当直中、雪が吹き荒れる夜間に20代男性が鼻出血で受診した。とくに既往歴や内服歴はなく、易出血性の家族歴もない。気道閉塞を示唆する症状や所見、呼吸困難もない。バイタルサインも安定している。鼻鏡で評価すると、右鼻腔に露出血管、出血がみられ、前方出血のようだ。用手圧迫、1,000倍希釈アドレナリン+4%リドカインを染み込ませたガーゼ挿入による止血を試みたが、出血が続いている。次に行うとしたらガーゼパッキングか。その前に、何かほかに手立てはあるだろうか。

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無症候性心房細動の脳卒中予防、アピキサバンvs.アスピリン/NEJM

 無症候性の心房細動患者への経口抗凝固療法について、アピキサバンはアスピリンと比較し、脳卒中または全身性塞栓症を減少するが大出血が増加したことを、カナダ・マクマスター大学のJeff S. Healey氏らが、欧米16ヵ国247施設で実施された無作為化二重盲検比較試験「Apixaban for the Reduction of Thrombo-Embolism in Patients with Device-Detected Subclinical Atrial Fibrillation trial:ARTESIA試験」の結果で報告した。無症候性心房細動は、持続時間が短く無症状であり、通常はペースメーカーまたは除細動器による長期的な連続モニタリングによってのみ検出可能である。また、脳卒中のリスクを2.5倍増加するが、経口抗凝固療法による治療効果は不明であった。NEJM誌オンライン版2023年11月12日号掲載の報告。主要有効性アウトカムは脳卒中または全身性塞栓症 研究グループは、ペースメーカー、植込み型除細動器または心臓モニターによって検出された6分~24時間持続する心房細動を有し、CHA2 DS2-VAScスコア(範囲:0~9、スコアが高いほど脳卒中リスクが高いことを示す)が「3以上かつ55歳以上」、または「75歳以上」、あるいは「他のリスク因子のない脳卒中既往」の患者を、アピキサバン群(5mgを1日2回[または製品ラベル表示に準じて2.5mgを1日2回]投与)またはアスピリン群(81mgを1日1回投与)に無作為に割り付け追跡評価した。無症候性心房細動が24時間以上持続、または臨床的な心房細動を認めた場合は、試験薬の投与を中止し抗凝固療法が開始された。 有効性の主要アウトカムは、脳卒中または全身性塞栓症とし、ITT集団(無作為化されたすべての患者)で解析した。安全性の主要アウトカムは、国際血栓止血学会(ISTH)の定義に基づく大出血とし、on-treatment集団(無作為化され試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者、理由を問わず試験薬の投与を中止した場合は5日後に追跡調査を打ち切り)で解析した。脳卒中または全身性塞栓症リスク、アピキサバン群で37%低下 2015年5月7日~2021年7月30日に、計4,012例がアピキサバン群(2,015例)またはアスピリン群(1,997例)に割り付けられた。平均年齢(±SD)は76.8±7.6歳、CHA2 DS2-VAScスコアは3.9±1.1、女性は36.1%であった。 平均追跡期間3.5±1.8年において、脳卒中または全身性塞栓症の発生は、アピキサバン群55例(0.78%/人年)、アスピリン群86例(1.24%/人年)であった(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.45~0.88、p=0.007)。 on-treatment集団における大出血の発現頻度は、アピキサバン群1.71%/人年、アスピリン群0.94%/人年であった(HR:1.80、95%CI:1.26~2.57、p=0.001)。致死的出血は、アピキサバン群5例、アスピリン群8例であった。

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アスパラギナーゼ過敏症でも使用可能なALL治療薬「オンキャスパー点滴静注用3750」【最新!DI情報】第3回

アスパラギナーゼ過敏症でも使用可能なALL治療薬「オンキャスパー点滴静注用3750」今回は、抗悪性腫瘍酵素製剤「ペグアスパルガーゼ(商品名:オンキャスパー点滴静注用3750、製造販売元:日本セルヴィエ)」を紹介します。本剤はアスパラギナーゼ製剤に過敏症を示す患者でも使用可能な急性リンパ性白血病および悪性リンパ腫治療薬であり、2週間間隔の投与によって利便性の向上につながることが期待されています。<効能・効果>本剤は、急性リンパ性白血病および悪性リンパ腫の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得し、10月2日より販売されています。<用法・用量>ほかの抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、ペグアスパルガーゼとして、22歳以上の患者では1回2,000国際単位/m2(体表面積)を2週間間隔で点滴静脈内投与します。21歳以下の患者では、体表面積0.6m2以上の場合は1回2,500国際単位/m2(体表面積)を、体表面積0.6m2未満の場合は1回82.5国際単位/kg(体重)を2週間間隔で点滴静脈内投与します。なお、投与の際は、調製後の希釈液を1~2時間かけて投与します。<安全性>国内第II相SHP674-201試験の第1パートおよび第2パートにおいて、26例中26例(100%)に副作用が認められ、主なものは血中フィブリノゲン減少19例(73.1%)、白血球数減少およびアンチトロンビンIII減少が各15例(57.7%)、血小板数減少14例(53.8%)、発熱性好中球減少症および貧血が各11例(42.3%)、嘔吐、低蛋白血症および脱毛症が各10例(38.5%)などでした。重大な副作用として、過敏症、膵炎、出血、血栓塞栓症、肝機能障害、骨髄抑制、感染症、脂質異常症、高血糖、中枢神経障害が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、がん細胞の増殖に必要なアミノ酸を分解し、がん細胞のタンパク合成を阻害して増殖を抑えます。2.副作用を確認するため、使用前および使用中に血液検査を実施します。3.けいれん発作、失神などの中枢神経障害が現れることがあるので、この薬の使用中は、自動車の運転など危険を伴う機械を操作する際には注意してください。<ここがポイント!>急性リンパ性白血病(ALL)を含む一部の腫瘍細胞では、アスパラギンを合成できないため細胞外からの取り込みを必要とします。わが国でALL治療に使用されるL-アスパラギナーゼ(L-Asp)製剤は、細胞外のL-アスパラギンを分解し、アスパラギン要求性腫瘍細胞を栄養欠乏状態にして効果を発揮します。しかし、過敏症の発生頻度が高く、治療上の重要な問題になることがあります。本剤は、大腸菌由来L-Aspをポリエチレングリコール(PEG)で化学修飾して免疫原性を弱めた薬剤です。L-Asp製剤に過敏症を示す患者を救済することなどを背景に、厚生労働省による「未承認薬・適応外薬検討会議」で開発が必要な薬剤と判断されました。PEG化による半減期延長製剤で、2週間間隔の投与が可能です。2023年2月末時点で、世界70ヵ国で承認されており、多くの国でALLの標準治療薬として使用されています。未治療のB前駆細胞性急性リンパ性白血病患者23例(1~21歳)を対象としたSHP674-201試験第2パートにおいて、主要評価項目である初回投与14日後における血中アスパラギナーゼ活性値≧0.1 IU/mL達成率は100%でした。副次評価項目である1年無イベント生存率は100%で、1年全生存率も100%でした。探索的評価項目である寛解導入療法期終了後の完全寛解率は30.0%(6/20例)、奏効率は100%で、早期強化療法期終了後ではそれぞれ47.6%(10/21例)、100%でした。本剤により、アナフィラキシーを含む過敏症が現れることがあるので、過敏症を軽減するために、本剤の使用開始30~60分前に解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ホルモン剤などを使用することがあります。

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心理的安全性の確保【Dr. 中島の 新・徒然草】(501)

五百一の段 心理的安全性の確保こないだ2023年が始まったと思ったら、もう11月です。年を取るとともに時間の過ぎるのが速くなりました。そろそろ年賀状の準備を始めなくてはなりません。さて、広島で行われた国立病院総合医学会では、医療安全のシンポジウムで「医療従事者の心理的安全性を確保するための工夫」というタイトルで話をしました。これは座長からの「医療安全+心理的安全性」というテーマで発表してほしいというリクエストに応えたものです。私にとっての最大の医療安全は「大過なく脳外科手術を終える」ということに尽きます。その一方で、心理的安全性という言葉には馴染がなかったので自分なりに調べました。以下、医療安全と心理的安全性について学会で述べた事を説明しましょう。脳神経外科手術における優先順位というのは、1: 麻痺や意識障害などの後遺症を出さない2: 動脈瘤クリップや腫瘍摘出などの目的を達する3: 速い手術ということになるかと思います。手術は「山頂にある宝物を持って帰る」というミッションにたとえることができます。宝物を目指す途中で遭難するのは論外、まずは無事に帰って来ることが最も大切です。とはいえ、やはり帰った時に宝物を持っていなかったらガッカリすることでしょう。もちろんサッと行ってサッと無事に帰り、目的も達成するに越したことはありません。つまり「遭難せずに宝物をスムーズに持って帰るミッション」という意味で「後遺症を出さずに目的を達する速い手術」が望まれるわけです。が、遭難しないことが最優先なので、時には勇気ある撤退も必要になることでしょう。で、これらを達成するために私がやっていることは、1: 他人様のアドバイスに耳を傾けること2: 多くの人の協力を得ることです。実例を挙げましょう。私が顕微鏡手術をしていると手術室に置かれた巨大モニターを見ている人たちから、「中央じゃなくて、左側の血管に吻合したほうがいいんじゃないですか」とか「今の針糸は内膜を捉えていないのでは?」とか、結構、言われ放題。わざわざ声に出すくらいですから、いちいちもっともな意見で、大いに参考にしています。「六十にして耳順う」とはよく言ったもの。また、先日の巨大腫瘍の摘出なんかは、被膜の剥離と腫瘍摘出で疲労困憊。途中でほかの術者に代わってもらいました。その術者も出血の多さに4時間ほどで戦意喪失。さらに別の術者に代わってもらい、ようやく全摘できました。何人掛かりでやろうが、何時間掛かろうが、結果が良ければそれで良しです。このように遠慮なくアドバイスしたり交代したりすることができる、というのが心理的安全性というものだろうと思います。心理的安全性というのは、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が1990年代に言い出した概念だそうです。彼女は「率直に議論しても人間関係が壊れないチーム」を心理的安全性の高い組織だと言います。最近になって心理的安全性という言葉が流行り出したのは、ピョートル・フェリクス・グジバチさんの影響かもしれません。彼は、あのGoogleでの研究「プロジェクト・アリストテレス」で心理的安全性の高いチームが生産性も高かったということを見出しました。グジバチさんはポーランド生まれですが、千葉大学にいたことがあるそうで、日本語もペラペラです。YouTubeでグジバチさんがしゃべっているのを見ると、「心理的安全性の高い組織には残酷な率直さがある」と発言していました。彼は、例として「チャック開いてますよ」という指摘を挙げています。確かにこのようなことを言われるのは恥ずかしいですが、指摘されなかったら大変なことになってしまいます。もっとも私なんかは関西人なので、もし「チャックが開いてるよ」と言われたら、「風に当てて冷やしていたんや」と返してしまうかもしれません。ともあれ、こういった率直なコミュニケーションはいろいろな場面で大切だと思います。さらに私が心掛けているのは、手術室での麻酔科医とのコミュニケーションです。かなり出血していると思えば「体感で500mLは出ています。必要なら遠慮なく輸血してください」と言うことにしています。大量出血している時なんかは出血量のカウントが追いついておらず、麻酔科医が事態を把握できていないことがあるので、早めに声を掛けておくべきですね。また、長時間になってしまった手術では、麻酔科医に「もう先が見えてきました」とか「もう少し止血したら閉頭にかかります」とか、そういう声掛けをしておくと全体にスムーズに進行するものと思います。ということで、学会では私を含めて3人の演者によるシンポジウム形式のセッションでしたが、皆が心の中で感じていたことだったのか、思いがけず質疑応答も盛り上がりました。もちろん心理的安全性の高い組織といっても、「なあなあ」に陥ってしまってはなりません。やはり、高く明確な目標を掲げて皆で頑張る、ということが大切ですね。ということで最後に1句霜月や チャックが開き 冷えすぎだ

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新クラスの血友病A治療薬「オルツビーオ」製造販売承認を取得/サノフィ

 サノフィは2023年9月25日付のプレスリリースで、高い血液凝固第VIII因子活性を長く維持するファースト・イン・クラスの高活性維持型血液凝固第VIII因子製剤オルツビーオ(一般名:エフアネソクトコグ アルファ[遺伝子組換え])の製造販売承認を取得したことを発表した。オルツビーオは世界初で唯一の血友病A治療薬 血友病Aは生涯続く希少疾患で、血液凝固因子の欠乏により血液が凝固する機能が損なわれ、関節における過度の出血や自然出血により関節障害や慢性疼痛が現れ、生活の質(QOL)が損なわれる恐れがある。血友病Aの重症度は血液中の凝固因子活性レベルで評価され、出血リスクと血液凝固因子活性レベルは逆相関の関係にある。 オルツビーオの効能・効果は「血液凝固第VIII因子欠乏患者における出血傾向の抑制」であり、本剤は、週1回の投与でその活性を週の大半にわたり正常~ほぼ正常範囲(40%超)に高く維持することができる、世界初で唯一の血友病A治療薬である。12歳以上の重症血友病A患者に対して、従来の血液凝固第VIII因子製剤による定期補充療法と比べ、有意に出血を減少させた。また、成人および小児の血友病Aにおける定期補充療法、出血時補充療法、ならびに周術期管理に使用できる。基本の用量は50IU/kgである(年齢や臨床状態、活動レベルによらず、あらゆる患者に対して適用)。 今回の承認は、NEJM誌に掲載された12歳以上の重症血友病A患者を対象としたピボタル第III相XTEND-1試験(結果)と、12歳未満の小児患者を対象としたXTEND-Kids試験(結果)を含む、重症血友病A患者から得られた良好な試験結果に基づく。 XTEND-1試験において、オルツビーオの週1回投与による定期補充療法は主要評価項目を達成し、重症血友病Aにおいて優れた出血抑制効果を示し、年間出血率(ABR)の平均値は0.71(95%CI:0.52~0.97)、ABRの中央値は0.00(Q1,Q3:0.00,1.04)であった。また、オルツビーオは重要な副次評価項目を達成し、前治療の既存の血液凝固第VIII因子製剤による定期補充療法との患者内比較でABRが77%減と有意な減少を示した(95%CI:58~87、p<0.001)。オルツビーオは血友病患者の生活のイメージを大きく変える新薬 小児を対象としたXTEND-Kids試験の最終結果では、オルツビーオの週1回投与を52週間受けた12歳未満の小児(73例)におけるABRの平均値は0.6(95%CI:0.4~0.9)、ABRの中央値は0(Q1,Q3:0.0,1.0)であった。XTEND-Kids試験の詳細な結果は、7月に開催された国際血栓止血学会(ISTH)年次総会で発表された。試験全体を通してオルツビーオの安全性プロファイルは確立されており、本剤の投与後に血液凝固第VIII因子に対するインヒビターの発現は認められず、発現頻度が10%以上の副作用は頭痛と関節痛であった。 サノフィの代表取締役社長である岩屋 孝彦氏は、「オルツビーオの承認取得は、血友病A患者にとって大きな前進となる。オルツビーオは、週1回の投与で1週間の大半にわたり血液凝固因子の高い活性レベルを維持できる医薬品であり、患者や医師が抱く血友病患者の生活のイメージが大きく変わる。サノフィは、オルツビーオをはじめとする革新的な数々の治療薬をさらに前進させ、世界中の希少血液疾患の患者の治療にパラダイムシフトを起こし、標準治療の変革をもたらせるよう尽力する」としている。 オルツビーオは、米国で2023年2月に承認されており、2017年8月にオーファンドラッグ、2021年2月にファストトラック、2022年5月には血液凝固第VIII因子製剤として初のブレークスルーセラピー(画期的治療薬)に指定されている。欧州では2019年6月にオーファンドラッグに指定され、2023年5月に承認申請している。

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鼻血(鼻出血)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第6回

皆さんは鼻血が出たことはありますか? 60%程度の人が人生で一度は鼻血を経験するそうです1)。私は幼少期にしょっちゅう鼻血を出していましたので、3人に1人は鼻血を出したことがないというのは驚きでした。鼻血は、鼻をいじったり鼻をかんだりしたときの外傷でよく生じますが、何もしなくても出てくることがあります。私が鼻血を出したときは、親か先生から「鼻の根元を押さえ、天を仰ぎ、首の根本を押さえる」という指導を受けました。鼻血が後咽頭に流れ込み、口に血液の味が広がったのを今でも覚えています…。さて、この処置は現在では不適切とみなされています。なぜ、このような止め方が広まったのかは調べてみてもわかりませんでした。ご存じの方がいらっしゃったらぜひ教えてください。鼻血はいつ何時遭遇してもおかしくありません。たとえば「診療所の待合室でいきなり鼻血が出た患者に対処を求められる」などもあり得ます。私は内科の診療所で鼻血を診たことはありませんが、南のとある島の病院で経験した症例をもとに対処法を紹介します。ちなみに、耳鼻科を受診するには車で2時間の距離にある総合病院に行かなくてはならない施設でした。<症例>32歳男性受診2時間前にとくに誘因なく左の鼻から血が流れてきた。ティッシュを詰めたところ出血が止まったが、ティッシュを取り除いたら再出血した。それを3回繰り返したため受診。バイタル:特記事項なしティッシュを左鼻に詰めている。上記のような患者が受診した場合の対処法を順を追って確認しましょう。(1)ABC(気道、呼吸、循環)の確認鼻血で窒息やショック? と思う人もいらっしゃるかもしれません。確かに一般的な鼻血であれば窒息やショックになることはありませんが、出血源が動静脈奇形や動脈瘤である場合、大量出血により気道や循環が危機にさらされることがあり得ます2,3)。私も動静脈奇形で大量出血した一例を経験したことがありますが、明らかに出血量や勢いが通常の鼻血とは違いました。たとえるなら、通常の鼻血が「タラタラ」であれば、ショックや窒息を起こす鼻血は鼻から滝のように出血し、数分で膿盆からあふれるほどです。この場合、気道確保や特殊な処置が必要になるのですが、今回のテーマは一般的な鼻血についてですので割愛します。ただし、鼻血でも気道と循環の異常を来しうるということは知っておいてください。今回の症例は気道や循環に問題はありませんでした。(2)出血部位の特定出血部位が左か右か、前か後かを判断しましょう。鼻血の80~90%はキーゼルバッハ部位という血流が豊富な部位で生じます(図1)4)。キーゼルバッハ部位は、外鼻孔に指を入れた少し先の部分であり、内側(鼻中隔側)で触知することができる硬い隆起です。距離的にティッシュを詰めることは止血につながると思われますが、結局止血したとしてもティッシュだと乾燥してしまい、除去するときに固まった血液(かさぶた)がはがれて再出血する印象があるのでお勧めはしません。図1 鼻の内側今回の症例は左の鼻から出血していましたが、ティッシュを取り除いたら再出血してしまい、出血部位は同定できませんでした。もし出血部位がわからなくても、次の手技に進みましょう。圧倒的に前方出血が多いため、まずは前方出血に準じて対応するのがよいと考えます。出血部位がわからなくても、後述する圧迫止血やガーゼパッキングを施行して問題はありません。ちなみに、出血部位を正確に把握する必要があるのは焼却術など出血部位に対する処置を行うときです。狭い鼻腔内で出血部位を把握するにはスキルと経験が必要ですので、非専門医が必ずしも同定する必要はないでしょう。(3)圧迫止血の手法の確認患者さんが行った止血方法の確認をすることは非常に重要です。昨今は「鼻の根元を押さえ、天を仰ぎ、首の根本を押さえる」患者さんはさすがにもういませんが、鼻根部(鼻骨)を押さえてくる人(図2)はまれにいて、これは気を付けないと見落とすことがあります。鼻翼を指全体で覆うように挟みましょう(図3)。図2 誤った圧迫止血(鼻骨を押さえている)図3 正しい圧迫止血(鼻翼を指全体で押さえている)圧迫は15分間しっかりと行います。よくある鼻血が止まらない理由として、血が止まったのを確認したくて数分で圧迫を解除してしまう、圧迫を解除した後に鼻をかんでしまう、などがあります。この症例は5分程度で圧迫を解除していたので、15分ほど圧迫してもらったところ止血を得ました。鼻をかまないようにして、再出血した場合は再度圧迫を行い、それでも止まらない場合は受診するよう指導しました。(4)ガーゼパッキングでは、適切な圧迫方法で止血できない場合はどうしましょうか? その場合はガーゼパッキングを行います。私はT&Aマイナーエマージェンシーコースで種々の場所で指導するのですが、パッキングの方法や使用する薬剤は地域によって異なっています。ですので、今回は私が慣れているコメガーゼとアドレナリン外用液(商品名:ボスミン外用液0.1%)+軟膏(白色ワセリン)を使用した方法を紹介します。まずはコメガーゼを用意します。コメガーゼがなければ、ガーゼを図4のように切って作成する方法もあります。図4 コメガーゼの作り方(幅は3cmくらい)次に薬剤を作成します。ボスミン外用液0.1% 2mL+生理食塩水18mLを混ぜ、1万倍希釈アドレナリン液20mLを作成します。コメガーゼにそれを浸した後、防水シーツの上に置いて軟膏を塗ります。軟膏を塗る理由は、ガーゼパッキングをして時間が経った後、ガーゼが乾燥していると抜去するときにとても痛いからです。それではガーゼパッキングを開始しましょう。今回は鼻用攝子と鼻鏡を用いてガーゼを挿入する方法を説明します。まず、鼻鏡と鼻用攝子の持ち方を確認しましょう(図5)。図5 鼻鏡と鼻用攝子の持ち方画像を拡大する1枚目のガーゼを挿入していきます。図1のように鼻腔内は入り口が狭く、内腔は広いので、それをイメージしながらガーゼを挿入しましょう。今回はT&Aマイナーエマージェンシーコースの鼻模型を使用して解説します。まず、図6のように鼻孔を開きます。その際に左手の甲を患者の右頬に当てると固定しやすいです。図6 鼻腔を開く画像を拡大する次に、ガーゼを攝子で挟みましょう。鼻用攝子で2つ折の間を把持し、先端の余ったガーゼを折り返すことで攝子の先端がガーゼで覆われ、より粘膜損傷が起こりにくくなります(図7)。図7 攝子の先端をガーゼで覆う

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がん患者の血栓症再発、エドキサバン12ヵ月投与が有効(ONCO DVT)/ESC2023

 京都大学の山下 侑吾氏らは、下腿限局型静脈血栓症 (DVT)を有するがん患者に対してエドキサバンによる治療を行った場合、症候性の静脈血栓塞栓症(VTE)の再発またはVTE関連死の複合エンドポイントに関して、12ヵ月投与のほうが3ヵ月投与よりも優れていたことを明らかにした。本結果はオランダ・アムステルダムで8月25~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology(ESC、欧州心臓学会)のHot Line Sessionで報告され、Circulation誌オンライン版2023年8月28日号に同時掲載された。 抗凝固療法の長期処方は、血栓症の再発予防にメリットがある一方で出血リスク増加が危惧されており、その管理方針には難渋することが多いが、日本国内だけではなく世界的にもこれまでにエビデンスが乏しい領域であった。とくに、比較的軽微な血栓症を有するがん患者における抗凝固薬の使用については、ガイドラインでも投与期間を含めた明確な治療指針については触れられていない現状があることから、同氏らはがん患者における下腿限局型DVTに対する抗凝固療法の最適な投与期間を明らかにする大規模なランダム化比較試験を実施した。 本研究は日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験で、下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付けた。主要評価項目は12ヵ月時点での症候性VTEの再発またはVTE関連死の複合エンドポイントで、主な副次評価項目は12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)とした。 主な結果は以下のとおり。・2019年4月~2022年6月までの601例がITT解析対象集団として検討された。エドキサバン12ヵ月群には296例、3ヵ月群には305例が割り付けられた。・対象者の平均年齢は70.8歳で28%が男性だった。全体の20%がベースライン時点でDVTの症状を呈していた。・症候性のVTE再発またはVTE関連死は、エドキサバン12ヵ月群で296例中3例(1.0%)、エドキサバン3ヵ月群で305例中22例(7.2%)発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。・大出血は12ヵ月群では28例(9.5%)、3ヵ月群では22例(7.2%)で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。・事前に指定されたサブグループは、主要評価項目の推定値に影響を与えなかった。 山下氏は、「がん患者では軽微な血栓症でもその後の血栓症悪化のリスクが高い、というコンセプトを証明した試験であり、下腿限局型DVTを有するがん患者においては、抗凝固療法による再発予防がなければ、その後の再発リスクは決して低くはないことが示された」とまとめた。一方で、「統計学的な有意差は認めなかったが、抗凝固療法に伴う出血リスクも決して無視することはできないイベント率であり、本研究の結果を日常臨床に当てはめる際には、やはり血栓症リスクと出血リスクのバランスを考慮したうえで、患者個別レベルでの検証が必要であり、とくに出血リスクの推定が重要であると考えられる。同研究からさまざまなサブ解析を含めた検討が共同研究者により開始されているが、今後それらの検討結果を含めてさらなる検証を続けたい」と述べた。 最後に、「本研究は、がん関連血栓症を専門とする数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における大きな研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、そのような貴重な取り組みに関与させていただいた1人として、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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TTP診療ガイド2023改訂のポイント~Minds方式の診療ガイドラインを視野に

「血液凝固異常症等に関する研究班」TTPグループの専門家によるコンセンサスとして2017年に作成され、2020年に部分改訂された、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診療ガイドライン、『血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド2023』が7月に公開された。2023年版では、Minds方式の診療ガイドラインを視野に、リツキシマブに対してclinical question(CQ)が設定され、エビデンスや推奨が掲載された。主な改訂ポイント・リツキシマブの推奨内容の追加・変更とCQの掲載・カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択に・抗血小板薬、FFP輸注に関する記述を追加・FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述を追加・増悪因子に関する記述を追加リツキシマブを後天性TTPの急性期、寛解期にも推奨 難治例を中心に広く使用されているリツキシマブであるが、2023年版では、後天性TTPの急性期に投与を考慮しても良い(保険適用外、推奨度2B)としている。ただし、とくに初回投与時のインフュージョンリアクションに注意が必要としている。また、難治例、早期再発例(推奨度1B)や寛解期(保険適用外)でのリツキシマブ使用についての記載も追加された。再発・難治例では、治療の効果と安全性が確認されており、国内で保険適用もあることから推奨するとし、後天性TTPの寛解期では、ADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良いとした。リツキシマブの使用に関するCQを掲載 上述のとおり、2023年版ではリツキシマブの使用に関する記載が大幅に追加されたが、さらに巻末には、リツキシマブの急性期、難治例・早期再発例、寛解期における使用に関するCQも掲載されている。これらのCQに対するAnswerおよび解説を作成するに当たり、エビデンス収集のため、2022年1月7日時点で過去10年間にPubMedに登録されたTTPに関するリツキシマブの英語論文の精査が行われた。各CQに対する解説では、国際血栓止血学会TTPガイドライン2020などのガイドラインや臨床試験、システマティックレビュー、症例報告の有効性に関する報告を詳細に紹介したうえで、各CQに対し以下のAnswerを記載している。・後天性TTPの急性期に、リツキシマブ投与を考慮しても良い(推奨度2B)(保険適用外)・後天性TTPの再発・難治例にリツキシマブ投与を推奨する(推奨度1B)・後天性TTPの寛解期にADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良い(推奨度2B)(保険適用外)カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択として記載 2023年版では、カプラシズマブが2022年9月に日本でも販売承認されたことが報告された。本ガイドでは、カプラシズマブを推奨度1Aの後天性TTP急性期の治療としている。投与30日以降もADAMTS13活性が10%を超えない場合は、追加で28日間継続可能であること、ADAMTS13活性著減を確認する前に開始可能であるが、活性が10%以上でTTPが否定された場合は速やかに中止すべきであることが述べられている。その他の治療に関する改訂ポイント(抗血小板薬、FFP輸注) 急性期の治療として用いられる抗血小板薬(推奨度2B)については、血小板とvon Willebrand因子(VWF)を中心とした血小板血栓によってTTPが発症することからTTP治療に有効である可能性があるとしたが、急性期での使用により出血症状が認められたとの報告、チクロピジンやクロピドグレルの使用はTTP患者では避けられていること、アスピリンとカプラシズマブの併用は出血症状を助長する可能性があり避けるべきである等の内容が加えられた。先天性TTPの治療へのFFP輸注の使用(推奨度1B)の記載についても追加がなされた。国際血栓止血学会のTTPガイドラィンで推奨する用量(10~15mL/kg、1~3週ごと)は日本人には量が多く困難な場合があることや、長期的な臓器障害の予防に必要なFFPの量は現状では明らかではない等の内容が加えられた。TTPの診断に関する改訂ポイント ADAMTS13検査やインヒビター検査は結果が得られるまで時間がかかり、TTP治療の早期開始の妨げになっている。そこで、2023年版では、ADAMTS13活性著減の予想に用いられる、FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述が追加された。これら2つのスコアリングシステムについて、ADAMTS13活性著減を予測するが、血栓性微小血管症(TMA)が疑われる症例においてのみ用いられるべきことを明示した。増悪因子に関する記述を追加 2023年版では、TTP発作を誘発する因子についての項目が加えられた。増悪因子として、出生直後の動脈管の開存、ウイルス/細菌感染症、妊娠およびアルコール多飲などが知られており、妊娠期にはFFP定期輸注を行うことが、妊娠管理に不可欠と考えられるとした。

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患者情報から治療期間を評価して、漫然投与薬の中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第54回

 今回は、長期服用薬の治療期間を疑問に思い、患者情報を収集し直して漫然投与となりがちな薬剤の必要性を再考した症例を紹介します。副作用などの問題がなくても、治療の適応があるのかどうかを定期的に考える機会は必要です。急性疾患で処方された薬剤がいつまで必要なのか、慢性疾患であれば処方時点と現在で治療内容が妥当であるのか否かを、薬剤師の視点で評価しましょう。患者情報85歳、女性(施設入居)基礎疾患アルツハイマー型認知症介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム錠30mg 3錠 分3 毎食後2.トラネキサム酸錠250mg 3錠 分3 毎食後3.五苓散エキス顆粒 3包 分3 毎食後4.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは半年前の施設入居時から上記の処方薬を服用していました。処方監査を実施していた薬剤師が、採血結果もなく、病歴も認知症のみなのになぜ止血剤および鉄剤を飲んでいるのか不明であったため、基礎疾患や治療経過を収集する治療計画(Care plan)を立案しました。当然、出血既往があると予測はつきますし、そのための貧血治療と考えるのが妥当ですが、いつ・どこの・どの程度の出血なのか明確でないことに違和感がありました。担当薬剤師へ情報を引き継ぎ、担当薬剤師が施設訪問時に看護師と入居前に入院していた病院の看護サマリーと診療情報提供書を確認しました。すると、繰り返す転倒から慢性硬膜下血腫が生じ、1年前に穿頭血腫ドレナージ術を施行していたことがわかりました。術後の再出血予防および血腫サイズの縮小などを目的に現行の治療薬が処方され、クエン酸第一鉄もそのときの採血結果をもとに追加されていました。そこで現在の主治医が外科医であることから現行薬の必要性を相談することにしました。医師への相談と経過主治医に電話で、長期的に現行薬を服用していて服薬アドヒアランスは維持されていることを伝えたうえで、病歴の聴取、今後の脳外科受診などの予定について確認しました。また、今後の治療方針も確認しました。主治医は病歴を把握していたものの、現行薬を今後どうするかについては保留中だったそうで、前回の術後頭部CT画像の確認から現行薬の必要性はないだろうという返答がありました。また、貧血治療も採血予定(Hb、フェリチン、TIBC、MCVなど)を組んだので、そこで鉄剤の中止を検討するとのことでした。最後に医師より、長期服用薬の評価は緊急性がなければ後回しになってしまうことが多いので、こういうアシストはとても助かるとお礼がありました。患者さんは現在も施設で転倒もなく、出血イベントも起きずに生活しています。鉄剤もその後の採血結果で異常所見はなく、治療は終了となりました。薬が終了したことで本人の服薬負担も看護師の与薬負担も減らすことができました。このように、病歴確認と見直しを行い、漫然投与となりがちな薬剤について今一度治療の適応があるのかどうか考える機会は必要です。治療継続の必要可否について確認する薬剤師のアプローチも多剤併用を予防するポジティブアクションに繋がると実感しました。

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