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胃がんの家族歴陽性者に対する除菌は胃がんの発生を抑制する―除菌判定が重要(解説:上村直実氏)-1202

 ピロリ菌の除菌による胃がんの抑制効果は世界中でのコンセンサスが形成されており、WHOも胃がん予防のための除菌治療を推奨している。しかし、除菌による胃がん抑制効果が一様でないことから、臨床現場で除菌成功者にも胃がんが発見されることがよく経験され、日本ではこの除菌後胃がんに対する対処法が大きな課題となっている。今回、胃がんの発症リスクが高いとされている胃がんの家族歴陽性者を対象として、除菌治療による胃がん発生抑制効果を検討した韓国におけるRCTの結果がNEJM誌に報告されている。 欧米における「胃がん」とは「進行胃がん」を意味しており致死的な疾患とされているが、国民皆保険制度と共に内視鏡診療技術が発達しているわが国では、内視鏡手術可能な早期の胃がんが発見されることから胃がんは治癒可能な疾患とされている。したがって、除菌による胃がん予防に関する臨床研究に関しては、世界において胃がんの多発国で、かつ胃がんを早期に発見できる消化器内視鏡診療体制を有する日本や韓国における臨床的検討が非常に重要である。 今回の報告で重要なメッセージが2点ある。第1は、除菌による胃がんの抑制効果は明らかであるが、除菌治療を行っても除菌に失敗すると胃がんのリスクをまったく軽減できないことを明らかにし、治療後に除菌の成否を正確に判定することが重要であることを明確に示した点である。診療現場において除菌治療のみを行って除菌判定を怠ることは厳に慎むべき態度である。第2に、日本と同様に早期胃がんに対する内視鏡的診断能力の高い韓国において定期的内視鏡検査(2年ごと)により胃がんは早期発見が可能であり、胃がん死をほぼ完全に予防できることを示している点である。わが国においても、除菌成功後の定期的内視鏡検査により除菌後胃がんを早期に発見できるとする報告は多いが、除菌後のすべての患者に対して定期的内視鏡検査を実践するためにはマンパワーやコスト面など種々の課題が存在すると思われる。今後、胃がん死を撲滅するため、日本では人間ドックを含む胃がん検診と保険診療を組み合わせた方策を模索するべきであろう。

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異時性胃がんの予防に対するピロリ除菌治療(解説:上村直実氏)-834

 ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染と胃がんとの関連については、胃がん患者の99%が感染陽性ないしは感染の既往者であり、未感染者に胃がんが発症することは非常にまれであることが確認されている。一方、H. pylori感染者に対する除菌による胃がん予防効果は完全ではなく、最近の診療現場では頻繁に除菌後胃がんに遭遇するようになっている。 最も胃がんのリスクが高い早期胃がん内視鏡的切除後の胃粘膜における除菌による異時性胃がんの抑制効果については、最初に日本人を対象とした非RCT1)が1997年に報告され、2008年のオープンラベルRCT2)により有意な抑制効果が再確認された。その後、これに相反して有意な胃がん抑制効果を認めないコホート研究3)などの結果も報告されていたが、報告されていたRCTを用いたメタ解析4)により有意な抑制効果を認めた結果、除菌による抑制効果は確かにあるものの完全ではないという意見が世界のコンセンサスに達している。 今回、韓国で行われた早期胃がんの内視鏡的切除後の除菌治療による異時性胃がんの有意な抑制効果を示すRCTがNEJM誌に報告された。最初に同様の成績を報告した筆者からすると、本研究結果が新規性にやや欠ける点や単一施設における研究であるにもかかわらずNEJM誌に掲載されたのは、従来のエビデンスと異なる研究デザインすなわちプラセボ対照の無作為化比較試験であったからと思われた。ほぼ世界的なコンセンサスが得られている結論を科学的に十分な研究デザインにより再確認できた点が評価されたものと推測された。 H. pylori感染胃炎に対する除菌治療が世界で唯一保険適用となっている日本では、今後、除菌された胃粘膜にさえ発症する胃がんの中でも進行の速いタイプの胃がん(未分化型胃がん)の特徴や発症過程を解明することが喫緊の課題となっている。

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早期胃がん切除後のピロリ除菌は有益か/NEJM

 早期胃がんまたはハイグレード腺腫で内視鏡的切除を受けた患者に対し、抗菌薬によるヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)の除菌治療はプラセボと比較して、1年以降に評価した異時性胃がんの発生リスクは低く、3年時に評価した胃体小彎の腺萎縮についても改善効果があることが示された。韓国・国立がんセンターのIl Ju Choi氏らが、470例を対象に行った前向き二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果で、NEJM誌2018年3月22日号で発表した。これまで、H. pylori除菌治療による、組織学的改善や異時性胃がんの予防に関する長期的効果は不明だったという。異時性胃がんの発生と胃体部小彎の腺萎縮の程度を比較 研究グループは、早期胃がんまたはハイグレード腺腫で内視鏡的切除を行った470例を、無作為に2群に分け、一方には抗菌薬によるH. pylori除菌治療を行い、もう一方にはプラセボを投与した。 主要評価項目は2つで、(1)追跡1年以降に内視鏡検査で認められた異時性胃がんの発生、(2)追跡3年時点における胃体部小彎の腺萎縮の程度のベースラインからの改善とした。治療群の半数で胃体部小彎腺萎縮が改善 被験者のうち修正intention-to-treat解析の対象者は、治療群が194例、プラセボ群が202例の計396例だった。平均年齢は、治療群59.7歳、プラセボ群59.9歳、男性がそれぞれ72.7%、77.7%を占めた。飲酒者は55.2%、63.4%、喫煙者は41.2%、37.6%。 中央値5.9年の追跡期間中に、異時性胃がんを発生したのは、プラセボ群が13.4%(27例)だったのに対し、治療群は7.2%(14例)だった(ハザード比:0.50、95%信頼区間:0.26~0.94、p=0.03)。 組織学的解析を行ったサブグループ327例において、胃体部小彎における腺萎縮の程度についてベースラインからの改善が認められた患者の割合は、プラセボ群15.0%だったのに対し、治療群は48.4%と大幅に有意に高率だった(p<0.001)。 重篤な有害事象は認められなかったが、軽度の薬剤性有害事象(味覚変化、下痢、めまいなど)については、治療群の頻度が有意に高かった(42.0% vs.10.2%、p<0.001)。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第23回

第23回:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 消化器病領域で遭遇する頻度が多い疾患の1つに消化性潰瘍が挙げられますが、その原因のほとんどが、ヘリコバクター・ピロリ菌感染とNSAIDsの使用によるものと言われています。ヘリコバクター・ピロリ菌には日本人の約50%弱が感染していると言われ、がんの発生にも関与しているため、どのような人にどのような検査・治療を行うべきかを理解しておくことが重要です。 除菌治療に関連して、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)などの新しい治療薬も販売されていますが、日本での除菌適応は「H. pylori 陽性の胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」で、胃炎の場合には上部消化管内視鏡での確認が必須となっていることに注意が必要です。いま一度、既存の診断と除菌治療戦略について知識の整理をしていただければ幸いです。 タイトル:消化性潰瘍とH. pylori感染症の診断とH. pylori除菌治療について以下、 American Family Physician 2015年2月15日号1)より一部改変H. pyloriはグラム陰性菌でおよそ全世界の50%以上の人の胃粘膜に潜んでいると言われ、年代によって感染率は異なる。十二指腸潰瘍の患者の95%に、胃潰瘍の患者の70%の患者に感染が見られる。典型的には幼少期に糞口感染し、数十年間持続する。菌は胃十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫、腺がんの発生のリスクとなる。病歴と身体所見は潰瘍、穿孔、出血や悪性腫瘍のリスクを見出すためには重要であるが、リスクファクターと病歴、症状を用いたモデルのシステマティックレビューでは機能性dyspepsiaと器質的疾患を、明確に区別できないとしている。そのため、H. pyloriの検査と治療を行う戦略が、警告症状のないdyspepsia(胸やけ、上腹部不快感)の患者に推奨される。米国消化器病学会では、活動性の消化性潰瘍や消化性潰瘍の既往のある患者、dyspepsia症状のある患者、胃MALTリンパ腫の患者に検査を行うべきとしている。現在無症状である消化性潰瘍の既往のある患者へ検査を行う根拠は、H. pyloriを検出し、治療を行うことで再発のリスクを減らすことができるからである。H. pyloriを検出するための検査と治療の戦略は、dyspepsiaの患者のほか、胃がんのLow Risk群(55歳以下、説明のつかない体重減少や進行する嚥下障害、嚥下痛、嘔吐を繰り返す、消化管がんの家族歴、明らかな消化管出血、腹部腫瘤、鉄欠乏性貧血、黄疸などの警告症状がない)の患者に適当である。内視鏡検査は55歳以上の患者や警告症状のある患者には推奨される。H. pyloriの検査の精度は以下のとおりである。<尿素呼気試験>感度と特異度は100%に達する。尿素呼気試験は除菌判定で選択される検査の1つであり、除菌治療終了から4~6週間空けて検査を行うべきである。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、検査の少なくとも2週間前からは使用を控えなければならず、幽門側胃切除を行った患者では精度は下がる。<便中抗原検査>モノクローナル抗体を用いた便中抗原検査は、尿素呼気試験と同等の精度を持ち、より安くて簡便にできる検査である。尿素呼気試験のように便中抗原検査は活動性のある感染を検出し、除菌判定に用いることができる。PPIは検査の2週間前より使用を控えるべきだが、尿素呼気試験よりもPPIの使用による影響は少ない。<血清抗原>血清抗原検査は血清中のH. pyloriに特異的なIgGを検出するが、活動性のある感染か、既感染かは区別することができない。そのため除菌判定に用いることはできない。検査の感度は高いが、特異的な検査ではない(筆者注:感度 91~100% 特異度 50~91%)2)。PPIの使用や、抗菌薬の使用歴に影響されないため、PPIを中止できない患者(消化管出血を認める患者、NSAIDsの使用を続けている人)に最も有用である。<内視鏡を用いた生検>内視鏡検査による生検は、55歳以上の患者と1つ以上の警告症状のある患者には、がんやその他の重篤な原因の除外のために推奨される。内視鏡検査を行う前の1~2週間以内のPPIの使用がない患者、または4週間以内のビスマス(止瀉薬)や抗菌薬の使用がない患者において、内視鏡で施行される迅速ウレアーゼテストはH. pylori感染症診断において精度が高く、かつ安価で行える。培養とPCR検査は鋭敏な検査ではあるが、診療所で用いるには容易に利用できる検査ではない。除菌治療すべての消化性潰瘍の患者にH. pyloriの除菌が推奨される。1次除菌療法の除菌率は80%以上である。抗菌薬は地域の耐性菌の状況を踏まえて選択されなければならない。クラリスロマイシン耐性率が低い場所であれば、標準的な3剤併用療法は理にかなった初期治療である。除菌はほとんどの十二指腸潰瘍と、出血の再発リスクをかなり減らしてくれる。消化性潰瘍が原因の出血の再発防止においてはH. pyloriの除菌治療は胃酸分泌抑制薬よりも効果的である。<標準的3剤併用療法>7~10日間の3剤併用療法のレジメン(アモキシシリン1g、PPI、クラリスロマイシン500mgを1日2回)は除菌のFirst Lineとされている。しかし、クラリスロマイシン耐性が増えていることが、除菌率の低下に関連している。そのため、クラリスロマイシン耐性のH. pyloriが15%~20%を超える地域であれば推奨されない。代替療法としては、アモキシシリンの代わりにメトロニダゾール500mg1日2回を代用する。<Sequential Therapy(連続治療)>Sequential TherapyはPPIとアモキシシリン1g1日2回を5日間投与し、次いで5日間PPI、クラリスロマイシン500mg1日2回、メトロニダゾール500mg1日2回を投与する方法である。全体の除菌率は84%、クラリスマイシン耐性株に対して除菌率は74%である。最近の世界規模のメタアナリシスでは、sequential therapyは7日間の3剤併用療法よりも治療効果は優れているが、14日間の3剤併用療法よりも除菌率は劣るという結果が出ている。<ビスマスを含まない4剤併用療法>メトロニダゾール500mg1日2回またはチニダゾール500mg1日2回を標準的な3剤併用療法に加える治療である。Sequential Therapyよりも複雑ではなく、同様の除菌率を示し、クラリスロマイシンとメトロニダゾール耐性株を有する患者でも効果がある。クラリスロマイシンとメトロニダゾールの耐性率が高い地域でも90%にも及ぶ高い除菌率であるが、クラリスロマイシンを10日間服用する分、sequential therapyよりも費用が掛かってしまう。除菌判定H. pyloriの除菌判定のための尿素呼気試験や便中抗原の試験の適応は、潰瘍に関連したH. pylori感染、持続しているdyspepsia症状、MALTリンパ腫に関連したH. pylori感染、胃がんに対しての胃切除が含まれる。判定は除菌治療が終了して4週間後以降に行わなければならない。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Fashner J , et al. Am Fam Physician. 2015;91:236-242. 2) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会.H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 改訂版

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早期胃がんに対するデルタ吻合での完全腹腔鏡下幽門保存胃切除術の成績

 早期胃がんに対する小開腹創からの手縫い吻合による腹腔鏡補助下幽門保存胃切除術(LAPPG)については、実行可能性、安全性、術後のQOL向上がすでに確立されている。今回、がん研有明病院消化器外科の熊谷 厚志氏らは、体内デルタ吻合手技を用いた完全腹腔鏡下幽門保存胃切除術(TLPPG)を受けた胃中部の早期胃がん患者60例の短期手術成績を検討した。その結果、手縫い噴門幽門吻合によるLAPPGより手術時間が長い傾向はあったものの、体内デルタ吻合によるTLPPGは安全な術式であると報告した。Gastric Cancer誌オンライン版2014年1月31日号に掲載。 著者らは、リンパ節郭清と胃の授動後、術中内視鏡下に腫瘍位置を確認し、その後、幽門輪から5cm(遠位切開線)とDemel線のすぐ近位(近位切開線)を切開した。切開後、リニアステープラーを用いてデルタ型体内噴門幽門吻合を行った。 主な結果は以下のとおり。・術中合併症や開腹術への変更はなかった。・平均手術時間は259分、平均出血量は28 mLであった。・12例(20.0%)でClavien-Dindo 分類でグレードIIの術後合併症が発生した。最も多い合併症は胃内容うっ滞であった(6例、10.0%)。・グレードIII以上の重篤な合併症の発生率は1.7%であった。1例のみ、術後の腹腔内出血に続き多臓器不全を起こしたため、再手術および集中治療を必要とした。

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上部早期胃がんに対する最適な術式を検討:日本での多施設後ろ向き研究

 上部早期胃がん治療における手術にはさまざまな術式がある。大阪大学消化器外科の益澤 徹氏(現大阪警察病院)らは、上部早期胃がん203例における記録から、胃全摘術後Roux-en-Y型食道空腸吻合術(TG-RY)、噴門側胃切除術後食道胃吻合術(PG-EG)、噴門側胃切除術後空腸間置術(PG-JI)の3つの術式を比較し、最適な術式を検討した。World Journal of Surgery誌オンライン版2013年12月6日号に掲載。 著者らは、13医療機関から上部早期胃がん203例の医療記録を収集し、臨床的特徴や周術期および長期アウトカムについて、TG-RY、PG-EG、PG-JIの3群間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・TG-RYは122例、PG-EGは49例、PG-JIは32例で施行された。・腫瘍は、PG-EG群とPG-JI群よりもTG-RY群で大きかった。・未分化型腺がんは、PG-EG群よりもTG-RY群で多い傾向がみられた。・手術時間は、PG-JI群とTG-RY群よりPG-EG群で短かった。・入院期間や術後早期の合併症は3群間で差がなかった。・胃切除に関連する症状は、つかえ感と胸やけはPG-EG群で多い傾向があり、一方、ダンピング症候群と下痢はTG-RY群で多かった。・術後の体重減少は3群間で差はなかったが、血清アルブミンおよびヘモグロビンは、TG-RY群で低い傾向があった。 これらの結果から、著者らは「長期生存が期待される上部早期胃がんでは、TG-RYよりもPG-EGやPG-JIを施行すべき」と結論している。

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早期胃がん術後の抗がん剤副作用で死亡したケース

癌・腫瘍最終判決判例タイムズ 1008号192-204頁概要53歳女性、胃内視鏡検査で胃体部大弯に4~5cmの表層拡大型早期胃がん(IIc + III型)がみつかり、生検では印環細胞がんであった。胃2/3切除およびリンパ節切除が行われ、術後に補助化学療法(テガフール・ウラシル(商品名:UFT)、マイトマイシン(同:MMC)、フルオロウラシル(同:5-FU))が追加された。ところが、5-FU®静注直後から高度の骨髄抑制を生じ、術後3ヵ月(化学療法後2ヵ月)で死亡した。詳細な経過患者情報とくに既往症のない53歳女性経過1992年3月6日背中の痛みを主訴に個人病院を受診。3月18日胃透視検査で胃体部大弯に陥凹性病変がみつかる。4月1日胃内視鏡検査にて、4~5cmに及ぶIIc + III型陥凹性病変が確認され、生検でGroup V印環細胞がんであることがわかり、本人にがんであることを告知の上、手術が予定された。4月17日胃2/3切除およびリンパ節切除術施行。術中所見では漿膜面にがん組織(のちに潰瘍瘢痕を誤認したものと判断された)が露出していて、第2群リンパ節にまで転移が及んでいたため、担当医師らはステージIIIと判断した。4月24日病理検査結果では、リンパ節転移なしと判定。4月30日病理検査結果では、早期胃がんIIc + III、進達度m、印環細胞が増生し、Ul III-IVの潰瘍があり、その周辺にがん細胞があるものの粘膜内にとどまっていた。5月8日病理検査結果では前回と同一で進行がんではないとの報告。ただしその範囲は広く、進達度のみを考慮した胃がん取り扱い規約では早期がんとなるものの、すでに転移が起こっていることもあり得ることが示唆された。5月16日術後経過に問題はなく退院。5月20日白血球数3,800、担当医師らは術後の補助化学療法をすることにし、抗がん剤UFT®の内服を開始(7月2日までの6週間投与)。6月4日白血球数3,900、抗がん剤MMC® 4mg投与(6月25日まで1週間おきに4回投与)。6月18日白血球数3,400。6月29日抗がん剤5-FU® 1,250mg点滴静注。6月30日抗がん剤5-FU® 1,250mg点滴静注。7月1日白血球数2,900。7月3日白血球数2,400、身体中の激痛が生じ再入院。7月4日白血球数2,200、下痢がひどくなり、全身状態悪化。7月6日白血球数1,000、血小板数68,000。7月7日白血球数700、血小板数39,000、大学病院に転院。7月8日一時呼吸停止。血小板低下が著しく、輸血を頻回に施行。7月18日死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.リンパ節転移のないmがん(粘膜内がん)に補助化学療法を行った過失診療当時(1992年)の知見をもってしても、表層拡大型IIc + III早期胃がん、ステージI、リンパ節、腹膜、肝臓などのへの転移がなく外科的治癒切除を行った症例に、抗がん剤を投与したのは担当医師の明らかな過失である。しかも、白血球数が低下したり、下痢がみられた状態で抗がん剤5-FU®を投与するのは禁忌であった2.説明義務違反印環細胞がん、表層拡大型胃がんについての例外的危険を強調し、抗がん剤を受け入れざるを得ない方向に誘導した。そして、あえて危険を伴っても補助化学療法を受けるか否かを選択できるような説明義務があったにもかかわらず、これを怠った3.医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務を怠った病院側(被告)の主張1.リンパ節転移のないmがんに補助化学療法を行った過失術中所見ではがん組織が漿膜面まで明らかにでており、第2群のリンパ節に転移を認めるのでステージIIIであった。病理組織では摘出リンパ節に転移の所見がなく、肝臓などに肉眼的転移所見がみられなかったが、それで転移がなかったとはいえない。本件のような表層拡大型早期胃がんはほかの胃がんに比べて予後が悪く、しかも原発病巣が印環細胞がんという生物学的悪性度のもっとも強いがんであるので、再発防止目的の術後補助化学療法は許されることである。白血球数は抗がん剤の副作用以外によっても減少するので、白血球数のみを根拠に抗がん剤投与の適否を評価するべきではない2.説明義務違反手術で摘出したリンパ節に転移がなく、進達度が粘膜内ではあるが、この結果は絶対的なものではない。しかも原発病巣が生物学的悪性度のもっとも強い印環細胞がんであり、慎重に対処する必要があるので、副作用があるが抗がん剤を投与するかどうか決定するように説明し、患者の同意を得たので説明義務違反はない3.医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務1980年以降に早期胃がんに対して補助化学療法を行わないとの考えが確立したが、担当医師ががん専門病院に勤務していたのは1970~1980年であり、この当時は抗がん剤の効果をみるために早期胃がんに対しても術後補助化学療法治療試験が盛んに行われていた。したがって、早期胃がんに対して補助化学療法を行わないとの考えを開業医レベルの担当医師に要求するのは無理である裁判所の判断1. リンパ節転移のないmがんに補助化学療法を行った過失担当医師らは肉眼所見でがん組織が漿膜面まで露出していたとするが、これは潰瘍性瘢痕をがんと誤認したものである。また、第2群のリンパ節に転移を認めるステージIIIであったと主張するが、数回にわたって行われた病理検査でがんが認められなかったことを優先するべきであるので、本件は進行がんではない。したがって、そもそも早期がんには不必要かつ有害な抗がん剤を投与したうえに、下痢や白血球減少状態などの副作用がみられている状況下では禁忌とされている5-FU®を、常識では考えられないほど大量投与(通常300~500mgのところを1,250mg)をしたのは、医師として当然の義務を尽くしていないばかりか、抗がん剤の副作用に対する考慮の姿勢がみじんも存在しない。2. 説明義務違反説明義務違反に触れるまでもなく、担当医師に治療行為上の重大な過失があったことは明らかである。3. 医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務を怠った。担当医師はがん専門病院に勤務していた頃の知見に依拠して弁解に終始しているが、がん治療の方法は日進月歩であり、ある知見もその後の研究や医学的実践において妥当でないものとして否定されることもあるので、胃がんの治療にあたる以上最新の知見の修得に努めるべきである。原告側合計6,733万円の請求を全額認定考察この判例から得られる教訓は、医師として患者さんの治療を担当する以上、常に最新の医学知識を吸収して最良の医療を提供しなければならないということだと思います。いいかえると、最近ようやく臨床の現場に浸透しつつあるEBM(evidence based medicine)の考え方が、医療過誤かどうかを判定する際の基準となる可能性が高いということです。裁判所は、以下の知見はいずれも一般的な医学文献等に掲載されている事項であると判断しました。(1)mがんの再発率はきわめて低いこと(2)抗がん剤は胃がんに対して腫瘍縮小効果はあっても治療効果は認められないこと(3)印環細胞がん・表層拡大型胃がん、潰瘍型胃がんであることは再発のリスクとは関係ないこと(4)抗がん剤には白血球減少をはじめとした重篤な副作用があること(5)抗がん剤は下痢の症状が出現している患者に対して投与するべきでないことこれらの一つ一つは、よく勉強されている先生方にとっては常識的なことではないかと思いますが、医学論文や学会、症例検討会などから疎遠になってしまうと、なかなか得がたい情報でもあると思います。今回の担当医師らは、術中所見からステージIIIの進行がんと判断しましたが、病理組織検査では「転移はないmがんである」と再三にわたって報告が来ました。にもかかわらず、「今までの経験」とか「直感」をもとに、「見た目は転移していそうだから、がんを治療する以上は徹底的に叩こう」と考えて早期がんに対し補助化学療法を行ったのも部分的には理解できます。しかし、われわれの先輩医師たちがたくさんの症例をもとに築き上げたevidenceを無視してまで、独自の治療を展開するのは大きな問題でしょう。ことに、最近では医師に対する世間の評価がますます厳しくなっています。そもそも、総務庁の発行している産業分類ではわれわれ医師は「サービス業」に分類され、医療行為は患者と医療従事者のあいだで取り交わす「サービスの取引」と定義されています。とすると、本件では「自分ががんの研修を行った10~20年前までは早期胃がんに対しても補助化学療法を行っていたので、早期胃がんに補助化学療法を行わないとする最新の知見を要求されても困る」と主張したのは、「患者に対し10~20年前のまちがったサービスしか提供できない」ことと同義であり、このような考え方は利用者(患者)側からみて、とうてい受容できないものと思われます。また、「がんを治療する以上は徹底的に叩こう」ということで5-FU®を通常の2倍以上(通常300~500mgのところを1,250mg)も使用しました。これほど大量の抗がん剤を一気に投与すれば、骨髄抑制などの副作用が出現してもまったく不思議ではなく、とても「知らなかった」ではすまされません。判決文でも、「常識では考えられないほど抗がん剤を大量投与をしたのは、抗がん剤の副作用に対する考慮の姿勢がみじんも存在しない」と厳しく批判されました。「医師には生涯教育が必要だ」、という声は至るところで耳にしますが、今回の事例はまさにそのことを示していると思います。日々遭遇する臨床上の問題についても、一つの考え方にこだわって「これしかない」ときめつけずに、ほかの先生に意見を求めたり、文献検索をしなければならないと痛感させられるような事例でした。癌・腫瘍

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プロトンポンプ阻害薬の3剤併用によるヘリコバクター・ピロリ除菌療法に係る追加適応を、製薬9社が共同申請

武田薬品工業、アストラゼネカ、田辺三菱製薬、エーザイの4社が、1日、各社が日本において製造・販売しているプロトンポンプ阻害薬(3成分・4ブランド)について、アモキシシリン水和物(一般名)、及びクラリスロマイシン(一般名)またはメトロニダゾール(一般名)を用いた3剤併用による胃MALTリンパ腫、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃、および特発性血小板減少性紫斑病におけるヘリコバクター・ピロリの除菌療法に係る効能・効果追加を、協和発酵キリン、アステラス製薬、大正製薬、アボット ジャパン、塩野義製薬を含む3剤併用療法に係る9社が共同で申請したことを発表した。日本では、ヘリコバクター・ピロリ除菌療法の保険適用上の対象疾患は胃潰瘍または十二指腸潰瘍に限定されている。2008年12月に、日本ヘリコバクター学会は、「胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、早期胃癌の内視鏡的治療後の異時性胃癌発生抑制に対して、3剤併用療法が有効であることは、多くの臨床研究等によって確認されている」として、これら3疾患におけるヘリコバクター・ピロリ除菌療法の早期承認を求める要望書を厚生労働大臣に提出していた。これを受けて、関連する各社は、平成11年(1999年)2月1日付研第4号、医薬審第104号「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて」に基づき、公知の文献等を科学的根拠として、医薬品製造販売承認事項一部変更の申請に至ったという。詳細はプレスリリースへhttp://www.takeda.co.jp/press/article_35226.html

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