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コロナ禍において、5歳児に4ヵ月の発達遅れ/京大ほか

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより、学校や保育施設が閉鎖され、多くの乳幼児・子供が影響を受けた。これまで手薄だった未就学児を対象として、コロナ禍の影響を調査した京都大学医学研究科助教・佐藤 豪竜氏らによる研究結果が、JAMA Pediatrics誌オンライン版2023年7月10日号に掲載された。 研究者らは新型コロナ流行前から行っていた研究対象を再調査することで、コロナの影響を調べた。首都圏のある自治体の全認可保育所(小規模含む)に通う1歳または3歳の乳幼児887例に対し、2017~19年に1回目の調査、2年後に2回目の調査を行った。データは2022年12月8日~2023年5月6日に解析された。 追跡期間中にコロナ禍を経験した群とそうでない群の間で、3歳または5歳時(各年4月1日時点の年齢)の発達を比較した。乳幼児の発達は「KIDS乳幼児発達スケール」1)を用いて保育士が評価した。分析では、子供の月齢、性別、1回目調査時の発達、保育園の保育の質、保護者の精神状態、出生時体重、家族構成、世帯所得、登園日数などの影響が考慮された。 主な結果は以下のとおり。・5歳時点でコロナ禍を経験した群は、そうでない群と比べて平均4.39ヵ月の発達の遅れが確認された。一方、3歳時点で経験した群では明確な発達の遅れはみられず、むしろ運動、手指の操作、抽象的な概念理解、対子供社会性、対成人社会性の領域では発達が進んでいた。また、コロナ禍で、3歳、5歳ともに発達における個人差・施設差が拡大していることも明らかになった。・質の高い保育を提供する保育園に通っていた子供は、コロナ禍においても3歳時点の発達が良い傾向にあった。一方、保護者が精神的な不調を抱える家庭の子供は、コロナ禍における5歳時点の発達の遅れが顕著だった。 研究者らは、本研究で3歳と5歳で対照的な結果が示された点について、コロナ禍で保護者の在宅勤務が増え、より幼い年齢の子供は大人とのやり取りを通してさまざまなことを学ぶため、大人との1対1のコミュニケーションが発達において重要であり、在宅勤務によって保護者が子供と密に接する時間が増えたことで、コロナ禍が3歳児の発達にポジティブな影響を与えた可能性がある。一方、5歳児は発達段階において社会性を身に付ける時期で他者との交流が重要であり、コロナ禍によって保護者以外の大人やほかの子供と触れ合う機会が制限されたことが発達に負の影響を与えた可能性がある、とコメントしている。 また研究の限界として、一自治体のみのデータであること、観察できていない違いがあった場合には結果にバイアスが生じている可能性があることを挙げている。さらに、今回の研究でみられた発達の遅れはあくまで一時的なものであり、長期的な影響に関してはさらなる調査が必要だ、とまとめている。

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第156回 新型コロナ感染、全国で徐々に増加 43都道府県で前週を上回る/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ感染、全国で徐々に増加 43都道府県で前週を上回る/厚労省2.オンライン診療の実績、4割が「不眠症」偏りを懸念/厚労省3.日本の病院の4割が洪水浸水想定区域内に立地/日本病院会4.電子処方箋システムの導入進捗率わずか2%/厚労省5.病院でレジオネラ症集団感染2人死亡、空調設備が感染源か/宮城県6.カテーテル治療後の患者死亡問題、外部機関による調査を開始/神戸徳洲会病院1.新型コロナ感染、全国で徐々に増加 43都道府県で前週を上回る/厚労省厚生労働省によると、全国約5,000の定点医療機関から10日~16日までの新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は計5万4,150人で、1ヵ所当たりの平均は11.04人だった。前週比では20.8%増加し、43都道府県で前週を上回った。とくに西日本を中心に感染が広がっている傾向がみられる。新たな入院患者数は6,952人で前週から増加しており、感染の広がりに警戒が必要とされている。夏場の人の移動やイベントの増加により、さらなる感染拡大が懸念されている。専門家は亜型ウイルスの広がりに注意し、高齢者や基礎疾患を持つ人への感染リスクを低減する対策が重要だと指摘している。参考1)コロナ定点、前週比1.20倍=43都道府県で増加-厚労省(時事通信)2)新型コロナ、全国でじわじわ増加 専門家に聞く夏場の注意点は?(朝日新聞)3)コロナ感染、定点で拡大 1機関あたり10人超、5類移行後で初(日経新聞)2.オンライン診療の実績、4割が「不眠症」偏りを懸念/厚労省厚生労働省は、7月20日に中央社会保険医療協議会(中医協)「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、オンライン診療について検討した。この中で、オンライン診療の実績において再診料や外来診療料の傷病名の約4割が「不眠症」であり、初診料でも2割超を占めることが明らかとなり、オンライン診療の使い方が偏っている可能性を指摘する声も上がった。また、患者の近くに看護師がいる場合(D to P with N)のオンライン診療を推進する意見が相次いだ。D to P with Nのケースでは看護師の介在により予測範囲内の治療や新たな症状への検査が可能で、とくに離島や地方でのオンライン診療に有効とされている。厚労省では、オンライン診療について適切な評価を検討し、看護師の活用方法についても具体的に検討を行いたいとしている。参考1)オンラインでの再診の約4割が「不眠症」 対面診療が5割未満の医療機関で(CB news)2)患者の近くに看護師がいるオンライン診療推進「検討」中医協・分科会で厚労省(同)3)令和5年度 第4回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省)3.日本の病院の4割が洪水浸水想定区域内に立地/日本病院会日本病院会によると、全国の主な病院の約40%が河川氾濫による洪水浸水想定区域内に立地していることが判明した。近年の豪雨災害では、浸水被害を受けた病院の医療体制が継続できないケースが増えている。そのうち、5メートル以上の深さを想定した浸水区域内に立地している病院は11施設存在していた。厚生労働省では、浸水対策に取り組む医療機関に補助制度を設け、病院を守る取り組みを支援している。災害拠点病院の中には、止水板を設置して浸水を防ぐなど、独自の対策を講じる病院もある。厚労省は補助制度の周知を広め、多くの医療機関で浸水対策が進むよう促している。参考1)病院の4割が洪水浸水想定区域内に、11施設は5m以上…豪雨で被災するケース相次ぐ(読売新聞)2)浸水被害も含めた、新たな医療機関の事業継続計画(BCP)策定に資する研究(厚労省)4.電子処方箋システムの導入進捗率わずか2%/厚労省今年の1月から全国で本格的に導入が始まった電子処方箋システムについて、導入している医療機関や薬局がわずか2%に止まり、目標達成は厳しい状況となっていることが判明した。厚生労働省の資料によると、全国の医療機関・薬局のうち約2万3千ヵ所に対して、導入済みはわずか4,690ヵ所で、そのほとんどが薬局となっていた。医療機関で電子処方箋の導入が進まない理由として、医療従事者の資格証明書「HPKIカード」の発行に時間がかかっているほかに、医療機関側の導入費用の負担が大きいため導入を見送っていることや、利点が周知されていない状況がある。その一方で、利用申請を完了させた医療機関や薬局は計5万5,999ヵ所であり、そのうち実際に運用開始しているのは計4,870ヵ所。運用は「マイナ保険証」への対応に必要なオンラインの資格確認システムを活用しており、患者本人の同意を得られれば複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された医薬品の情報が参照できる。政府は2025年3月までに電子処方箋の普及を目指しており、第2フェーズで普及を加速する計画だが、オンライン資格確認システムの運用には問題も相次いでいる。参考1)電子処方せん対応の医療機関・薬局についてのお知らせ(厚労省)2)電子処方箋、導入わずか2%=運用半年、実績伸び悩む-厚労省「目標達成、厳しい」(時事通信)3)電子処方箋システム、計5.6万ヵ所が利用申請 厚労省集計、運用開始は計4,870ヵ所(CB news)5.病院でレジオネラ症集団感染2人死亡、空調設備が感染源か/宮城県宮城県大崎市の永仁会病院でレジオネラ症に感染した患者6人が集団発生し、そのうち80代の男性患者と40代の女性患者の2人が死亡した。感染の原因は空調設備にみつかったレジオネラ属菌で、2基の冷却塔からは通常の目安よりも最大97万倍の濃度の菌が検出された。宮城県で初の集団感染として、感染に注意するよう専門家は呼びかけている。レジオネラ菌は湿気の多い場所に多く生息しており、今年になって2月に老舗の温泉旅館でも検出され全国で報道されており、医療機関や介護施設でも設備機器の適切なメンテナンスが必要となる。参考1)レジオネラ菌による感染症の発生について(永仁会病院)2)病院でレジオネラ菌に空気感染か、2人目の死者…大崎市の永仁会病院(読売新聞)3)宮城の病院でレジオネラ菌、2人死亡1人重症 目安値の68万~97万倍(産経新聞)4)病院の患者6人がレジオネラ菌に感染 大崎(NHK)6.カテーテル治療後の患者死亡問題、外部機関による調査を開始/神戸徳洲会病院兵庫県神戸市の神戸徳洲会病院にて、特定の男性医師が行ったカテーテル治療の後に複数の患者が死亡したとされる問題で、病院は内部調査委員会を立ち上げ、さらに外部の専門家による調査を依頼することを発表した。カルテの記載不備や患者の死亡後の報告体制に問題があったことが判明しており、治療を受けた患者数は約100人に上るとされている。病院では医療事故による過失を含めて調査を進めるとしている。参考1)今回の一連の報道につきまして(神戸徳洲会病院)2)「カテーテル治療後に死亡」告発、神戸徳洲会病院が外部調査へ(読売新聞)3)カテーテル後に複数患者死亡 病院 第三者機関の検証を依頼へ(NHK)4)「カテーテル治療後に複数死亡」外部に検証依頼へ 神戸徳洲会病院の調査委「妥当性を検討していく」(神戸新聞)

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スタチン、ゾコーバなど、重大な副作用追加で添付文書改訂/厚労省

 厚生労働省は7月20日、HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有する医薬品(スタチン)、エンシトレルビルなどの添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有する医薬品 国内副作用症例において、スタチンと重症筋無力症との因果関係が否定できない症例が認められた。また、公表文献において、スタチンの再投与で重症筋無力症の症状が再発した症例、スタチンの中止で重症筋無力症の症状が消失した症例など、スタチンと重症筋無力症との因果関係が否定できない症例が報告されていることを踏まえ、改訂が適切と判断された。<改訂点>1.「特定の背景を有する患者に関する注意」(新記載要領)または「慎重投与」(旧記載要領)の項に「重症筋無力症又はその既往歴のある患者」を追記2.「重大な副作用」の項に「重症筋無力症」を追記<該当医薬品>(1)アトルバスタチンカルシウム水和物(商品名:リピトール錠 ほか)(2)シンバスタチン(リポバス錠 ほか)(3)ピタバスタチンカルシウム水和物(リバロ錠 ほか)(4)プラバスタチンナトリウム(メバロチン錠 ほか)(5)フルバスタチンナトリウム(ローコール錠 ほか)(6)ロスバスタチンカルシウム(クレストール錠 ほか)(7)アムロジピンベシル酸塩・アトルバスタチンカルシウム水和物(カデュエット配合錠1~4番 ほか)(8)エゼチミブ・アトルバスタチンカルシウム水和物(アトーゼット配合錠LD/HD ほか)(9)エゼチミブ・ロスバスタチンカルシウム(ロスーゼット配合錠LD/HD)(10)ピタバスタチンカルシウム水和物・エゼチミブ(リバゼブ配合錠LD/HD)エンシトレルビル フマル酸(ゾコーバ錠) アナフィラキシー関連の国内症例として3例が報告されており、うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例は1例(死亡0例)であった。しかし、異物である本剤に対するアナフィラキシーの発現は潜在的リスクとして自明であり、緊急承認品目として遅滞ない安全対策措置が重要と、さらなる症例集積を待たずに改訂が判断された。<改訂点>「重大な副作用」の項に「アナフィラキシー」を追記 このほか、チルゼパチド(マンジャロ皮下注)の重大な副作用の項に「アナフィラキシー、血管性浮腫」が追加。ミノサイクリン(ミノマイシンカプセル ほか)の重大な副作用の項「全身性紅斑性狼瘡(SLE)様症状の増悪」を「ループス様症候群」へ変更し、長期投与例における当該事象の発現に関する注意喚起が追加された。

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第169回 調剤業務の外部委託、医師は賛成?反対?

新型コロナウイルス感染症の5類移行をきっかけに各学会も、懇親会も含めたフル開催が復活してきた。私自身は今年度としては初めて7月16~17日に神戸で開催された第16回日本在宅薬学会学術大会に参加してきた。同学会の名称を初めて聞く人のために簡単に説明すると、今回の開催回数からもわかるように設立は2009年12月と比較的新しい。理事長は大阪大学医学部卒で、現在は医療法人嘉健会・思温病院理事長も務める医師の狭間 研至氏である。同学会のホームページでは設立目的を「薬剤師の職能拡大・薬局の機能拡張を通じて、多職種連携・情報共有を基盤とした超高齢社会における新しい地域医療システムを構築し、広く社会に貢献すること」と記述している。「なぜ医師が薬剤師の職能拡大の学会を?」と思う人もいるかもしれない。詳しくは薬局新聞社から出ている狭間氏の著書「『外科医、薬局に帰る』~超高齢社会における新しい医療環境を目指して~」(実は初版ではサブタイトルが「浪花のあきんどクターの“医薬協業”への挑戦」となっている)に譲りたいが、狭間氏の実家は同学会理事で薬剤師でもある母親の狭間 紀代氏が1975年に開局した漢方相談を主業務とする薬局だった。後の医薬分業の進展に伴い実家は店舗を増やして保険調剤業務がメインとなる。狭間氏自身は、こうした薬局の変化について、街角の医療相談とそれに基づく一般用医薬品(OTC)の販売が中心となってきた1990年代半ばまでの薬局形態を「薬局1.0」、1990年代半ば以降の急速な医薬分業の進展によりOTC販売よりも処方箋調剤に中心が置かれるようになった形態を「薬局2.0」と称している。念のため解説すると、こうした「×× 〇.0」的な表現は、アメリカのメディア企業オライリー・メディアの創設者ティム・オライリーが、Webを通じて誰もが情報発信できるようになった時代を「Web 2.0」、それ以前を「Web 1.0」と定義したのが始まりで、今では多方面で使われている。狭間氏が医学部を卒業し、医師として実地臨床に携わるようになった頃がまさに「薬局2.0」時代の到来初期。その際、実家の薬局に勤務する薬剤師の研修に携わるようになり、薬剤師が学んだ知識が現実の薬局現場では十分に発揮されていないと感じたことをきっかけに薬局経営に携わるようになった。現在、実家はファルメディコ株式会社と改組し、大阪府と兵庫県の9店舗の薬局で外来の保険調剤と在宅業務に取り組み、狭間氏は同社の代表取締役社長も務めている。狭間氏が薬局で薬剤師の職能が必ずしも十分に生かされていないと考える点とは、現実の薬局業務では処方箋に基づく調剤を行い、カウンター越しにそれを渡して「お大事に」で終わりがちであることを指している。薬剤師が薬学部で学んだ薬物動態などは服薬が始まってからのことであり、本当の勝負どころは服薬後であるにもかかわらず、そこには十分に手が届いていないということである。私が狭間氏の講演を初めて聞いたのは2014年。日本在宅薬学会とは別の学会である。率直に当時の感想を言ってしまうと、「何を言い出すのか、この先生は」というものだった。この時、狭間氏は自社の薬剤師が便秘薬を処方した在宅患者を訪問した際、「お通じどうですか?」と尋ね、「少し軟らかいかな」と答える映像を流しながら、この場合なら便秘薬を減量するなどの対処が必要と述べ、「薬剤師の本来業務とは患者に薬を渡した後のフォローアップ」と主張した。恥ずかしながら、私はこの時初めて日本在宅薬学会の存在を知り、狭間氏の講演の途中から耳だけは講演に向けながら、スマートフォンで同学会を検索し、薬剤師向けに血圧・呼吸・脈拍・体温・意識レベル・尿量といったバイタルサインチェックの講習会もやっていることを知った。ちなみに狭間氏は前述の「薬局2.0」の一つ先として、保険調剤薬局の数が飽和状態に達する中で、主張する“患者に薬を渡した後のフォローアップを主業務とする薬局の姿”を「薬局3.0」と定義付けていた。もちろんこの主張や取り組みには間違いはなく、むしろ極めて正しい。ただ、医療界の構図を考えた際に火種を生むことは、医療に少し詳しくなればすぐわかることである。薬剤師が処方後の患者への関与を強化することは、一部の医師、はっきり言えば、日本医師会が面白く思わないことは容易に想像がつく。その意味で私の第一印象は「こんなことをはっきりと公言して大丈夫なのだろうか」と言い換えてもいい。ただ、これを機に興味を持った私は同学会に通い始めることになる。そしてその後、あちこちに引っ張りだこの狭間氏とは同学会以外でも遭遇するようになったが、どこでもこのことを主張し続けていた。時には講演冒頭に「AKY(あえて空気を読まず)」と、やや自虐的にも受け取れる表現を付け加える「配慮」もしながらだ。そして最終的にこの主張は、2020年9月から施行された改正薬剤師法と改正薬機法で、薬剤師による薬剤交付後の服薬フォローアップを努力義務から義務化へと明文化したことで実現した。もう1つ狭間氏が先鞭的な旗振り役になって“実現した”と言うべきものがある。それは薬局で薬剤師以外が担ってもよい補助業務の明示化、2019年4月2日付の厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長名発出の通知「調剤業務のあり方について」(通称「0402通知」)。これも前述の薬剤師の主業務は服薬後のフォローアップという主張がベースにある。厚生労働省も2015年に公表した「患者のための薬局ビジョン」で「対物業務から対人業務へ」とのキーワードを掲げていたが、現実の薬剤師業務では調剤室内での医薬品のピッキング作業などに日常的に忙殺されることが少なくない。しかし、同学会では0402通知が発出される前年には薬剤師以外が担える業務を担う「薬局パートナー」の検定試験を開始している。こうした一連の動きを横目で眺めてきた自分としては、医師でありながら実家の薬局の経営に携わるという絶妙に「地位」も「現場感覚」も備えた狭間氏の立ち位置と、「AKY」に代表されるような、言葉は悪いが「ヌルヌルと各所に入り込む」、まさに著書の初版サブタイトル、商人とドクターを掛け合わせた「浪花のあきんどクター」としての戦略家の一面が、「一念岩をも通す」を可能にしたのではないかと思っている。もちろんこうした狭間氏の動きを不愉快に思っている勢力は、薬剤師の世界にですら存在することは、私自身百も承知しているし、狭間氏とすべての主張が一致するわけではない。しかし、私見で恐縮だが、医療従事者の中でも真面目でおとなし過ぎ、結果として行政からの「やらされ感」が多い薬剤師の世界では、必要な「デストロイヤー」だと思うのである。さてその狭間氏は肝となる主張を体現すべく、次の手に打って出ている。それは2年前から唱え始めた調剤業務の外部委託というやや奇想天外なものだ。要は一部の薬局で調剤業務(対物業務)を担い、その他の薬局が服薬後のフォローアップという対人業務に必要な時間をさらに捻出しようというもの。さらにその背景には、薬局業界では中小薬局が8割を占め、機械化による対物業務の効率化への投資が経済的に困難という現実を踏まえている。しかも、内閣府の国家戦略特別区域(特区)で行う規制改革アイデアとして、ファルメディコがこの外部業務委託を提案していたことが4月に明るみに出た。5月にはその実証を行うため、ファルメディコをはじめとする22社が参加した「薬局DX推進コンソーシアム」を設立。今回の日本在宅薬学会ではこれに関する緊急シンポジウムも開催された。もっともまだ現実には動き出していないこともあり、シンポジウムの内容はアウトラインだけで、個人的にはやや肩透かしの感もあった。この件に関して、薬剤師業界の総本山ともいえる日本薬剤師会は「責任の所在が曖昧になる」と猛烈な反対姿勢を示している。とはいえ、もしこの特区での実証事業が認められ、現実的にことが動き出せば、薬剤師会は置いてきぼりになりかねない。この特区事業は大阪市のみで行うことを前提に申請されており、日本薬剤師会の地元下部組織である大阪府薬剤師会にとっては横目では眺めていられない事態だ。今回の学会後の理事長会見で狭間氏は「(大阪府薬剤師会の)席は空けている」と語っていたが、大阪府薬剤師会はどう出るか? これまで私が眺めてきたデストロイヤー狭間氏の4の字固め(これがわかる人は相当古い世代だろうが)で最終“勝利”となるのか? すでに私自身はこの行方を大方予想しているが、当面目が離せないことは確かである。

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ウイルス感染時の発熱による重症化抑制、腸内細菌叢が関係か/東大ほか

 これまで、ウイルスに感染した場合に外気温や体温が重症度に及ぼす影響は明らかになっていない。そこで、東京大学医科学研究所の一戸 猛志准教授らの研究グループは、さまざまな温度条件で飼育したマウスに対し、ウイルスを感染させた場合の重症度を解析した。その結果、体温の上昇によりウイルスに対する抵抗性が高まり、血中胆汁酸レベルが上昇した。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の血液についても解析した結果、軽症患者は中等症患者と比較して血中胆汁酸レベルが高かった。これらのことから、発熱により腸内細菌叢が活性化し、2次胆汁酸産生を介してウイルス感染症の重症化が予防されることが示唆された。本研究結果は、Nature Communications誌2023年6月30日号に掲載された。 外気温や体温がウイルス感染後の重症度に及ぼす影響を解析するため、マウスを4℃、22℃、36℃条件下で7日間飼育した。このマウスにインフルエンザウイルスまたは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を経鼻的に感染させ、体温、体重、生存などへの影響を検討した。また、22℃、36℃で飼育したマウスの血清メタボローム解析を実施した。さらに、COVID-19患者を重症度で分類し(軽症、中等症I/II)、血液を解析した。 主な結果は以下のとおり。・36℃条件下で飼育したマウスの基礎体温は、38℃を超えた。・36℃条件下で飼育したマウスは、4℃、22℃条件下で飼育したマウスと比較して、インフルエンザウイルス、SARS-CoV-2に対して高い抵抗性を示し、感染後の生存率が有意に改善した。・36℃条件下で飼育したマウスは、4℃、22℃条件下で飼育したマウスと比較して、1次胆汁酸のコール酸、2次胆汁酸(腸内細菌によって産生)のデオキシコール酸(DCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)の血中濃度が有意に高かった。・22℃条件下で飼育したマウスに、通常の水道水またはDCA、UDCAを添加した水道水を与え、インフルエンザウイルスを経鼻的に感染させたところ、DCAやUDCAを与えた群では、肺のウイルス量や好中球数が減少し、感染後の生存率が有意に改善した。・COVID-19中等症I/II患者は、軽症患者と比較して、血漿中の重症化マーカーであるフィブリノーゲン濃度が有意に高かった。一方、胆汁酸の一種であるグリシン抱合型コール酸(GCA)について、中等症I/II患者は軽症患者と比較して、血漿中濃度が有意に低かった。 著者らは、「発熱による腸内細菌叢の活性化は、血中および腸内の胆汁酸レベルを上昇させ、インフルエンザウイルス、SARS-CoV-2感染後のウイルス複製および有害な炎症反応を抑制することが示された。COVID-19中等症I/II患者の血漿において、特定の胆汁酸が減少するという知見は、症状発現の差異に関する洞察を与え、COVID-19の転帰を緩和するためのアプローチを可能とするかもしれない」とまとめた。また、「これらの知見を活かして、今後は高齢者がインフルエンザやCOVID-19で重症化しやすくなるメカニズムの解明や、宿主とウイルスの共生メカニズムの解明、胆汁酸受容体を標的としたウイルス性肺炎の重症化を抑える治療薬の開発に向けた研究を推進する予定である」としている。

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第170回 相変わらずグダグダの岡山大病院、眼科で不正徴収発覚も検査の具体名公表せず。健康保険法違反、臨床研究指針逸脱の可能性も

謎が多く、首を傾げざるを得ない不透明な事件こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBも後半戦に突入したこの週末は、埼玉県の高校野球ファンの友人に同行して、上尾市にあるUDトラックス上尾スタジアムまで県大会3回戦の試合を観戦してきました。観戦した東京農大三高校対松山高校、熊谷商業対所沢高校の試合は3回戦ながらそれぞれ見ごたえある投手戦で楽しめました。しかし、おそらく40度は超えていたであろう観戦席の暑さには参りました(この日は埼玉や群馬など関東内陸部で軒並み39度を観測)。毎年、埼玉の県大会は何試合か現地で観戦しているので、暑さはそれなりに覚悟していたのですが、16日は桁違いでした。選手も大変そうで、ベンチに直射日光が当たっていた1塁側の農大三高では、試合中に何人の選手の足がつっていました。この先、温暖化が今以上に進むと、夏の全国高等学校野球選手権大会も地方大会から開催方法を真剣に考えなければならないかもしれません(朝5時試合開始とか)。選手だけではなく、観戦する側にとっても暑さはそれこそ死活問題になってきています。さて、今回は7月5日のNHKの報道で明らかになった岡山大学病院眼科で起きた検査費用の不正徴収について書いてみたいと思います。報道を読む限りでは、どうも謎が多く、首を傾げざるを得ない不透明な事件です。「目の中の液体を採取して病原体の有無を調べる検査」で3万円自費徴収7月5日、NHKは「岡山大学病院が、眼科で治療を受けていた複数の患者に対し、本来は病院が負担するべき検査費用を支払わせていたことが、関係者への取材で分かった」と報じました。NHKの報道によれば、岡山大病院は今年1月、眼科で治療を受けていた70代の患者に対し、目の中の液体を採取して病原体の有無を調べる検査を実施。この検査は大学病院が研究目的で行ったもので、本来費用は全額病院が負担するべきでしたが、3万円あまりの検査費用を全額患者に請求し、支払わせていたとのことです。患者から指摘を受けた大学病院は、不適切な請求だったことを認め、6月に検査費用を全額返金。その他にも不正徴収していた患者は20人以上おり、やはり返金したとのことです。なお、最初のNHK報道では「研究目的」とされていた検査は、その後「補助的検査」であったと岡山大病院は訂正しました。何か臭いますね。患者23人、総額は124万円NHKの報道を受け、各メディアも動き、岡山大病院は7月6日に眼科外来で患者23人の検査費用を誤徴取していたことが判明した、と正式に発表しました。岡山大病院が病院のウェブサイトに掲載したお詫びの文書、「岡山大学病院における検査費用の誤徴取について」によれば、自費診療で行った検査は診断の補助的検査として実施した検査で、「全額本院負担とすべきであった」として、誤って徴収していた患者23人にはすべて返金手続きを取った、とのことです。同病院は「今回の事例は、医師の保険診療への理解不足、患者さんへの説明不足等が招いたこと」として「患者さんやそのご家族、また地域の皆さまに、ご迷惑とご心配をおかけしましたことは深くお詫び申し上げます」と謝罪しています。なお、各紙報道等によれば、不正徴収が行われていたのは2019年4月~2023年2月で、目の炎症を調べる補助的な検査の費用として1人につき数万円程度徴収、総額は124万円に上っていました。1月下旬に受診した患者から大学宛に「全額負担はおかしいのではないか」との訴えがあり、病院側が調査を進めていました。NHK報道等で明るみに出たことで、7月6日の公表と相成ったわけです。「補助的な検査」とは何の検査だったのか?この報道を読んで、いくつかの疑問点が浮かんできました。一つ目は、「補助的な検査」とは何の検査だったのか、自費を徴収された患者の疾患は何だったのか、という点です。岡山大病院はWebサイトにわざわざ「お詫び文」を掲載しながら、肝心なその点について詳細を何も書いていません。NHKも各紙報道もその点について詳しく書いていません。岡山大病院が敢えて公にしていないと考えられます。これでは「私、ある悪いことをしました。ごめんなさい」と言ってるだけです。悪いことは何なのか、どう悪かったのか説明しないのでは、謝罪とは言えないのではないでしょうか。検査名や検査機器を隠さなければならない理由が何かあるのでは、と勘ぐってしまいます。本当に「補助的検査」だったのか?二つ目は、NHK報道で最初「研究目的」とされていた検査を、その後「補助的検査」と岡山大病院が訂正している点です。前田 嘉信病院長のコメントでもわざわざその点に言及しています。本当に「補助的検査」だったのでしょうか。実際には研究目的の検査で、しかも研究だという同意を患者から取っていなかったとしたら、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省による「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)に抵触してしまいます。大学病院という研究機関にあって、この指針違反は重大な問題です。「患者さんへの説明不足等が招いたこと」と岡山大病院自身が謝罪している点も気になります。具体的な検査内容や検査機器、患者の疾患名がわからないとそんなことまで勘ぐってしまいます。保険診療と併せての自費検査は混合診療なのでは?三つ目は、保険診療と併せての自費検査は混合診療に該当し、健康保険法違反ではないかということです。保険診療においては基本的に、評価療養や選定療養などで定められた診療等について保険外療養費制度を活用する以外、自費診療との”混合”を認めていません。23人もの患者に堂々と混合診療を提供していたとは驚きです。岡山大病院は今年5月に中国四国厚生局長に報告書を提出したそうですが、仮に混合診療と判定されれば何らかの行政処分が下るはずです。自費徴収したお金はどこに流れていたのか?四つ目は、自費徴収したお金はどこに流れていたか、です。報道等では、発覚のきっかけとなる診療を担当した医師は、眼科で独自に料金を徴収、病院の正規の領収書とは別に、眼科独自の領収書も発行していたとのことです。眼科の医師が自分のポケットに入れていたのか、あるいは病院の会計に入れてたのか…。そもそも、保険外療養費制度を活用するにしても、病院の会計窓口ではなく、診療科の窓口で医師が自費の料金を徴収するなんて聞いたことがありません。「医師の保険診療への理解不足」と岡山大病院は説明していますが、本当にそうなのでしょうか。国立大学病院の診療行為で得たお金が民間企業へ?というわけで、岡山大病院の広報に問い合わせてみたという、知人の記者に何があったのか聞いてみました。彼によれば、岡山大病院は検査名や患者の疾患名の公表を頑なに拒んでおり、検査名、疾患名はわからなかったそうです。「とくに疾患名は患者さんのプライバシーもある」と言われたとのこと。医師が徴収していた「自費分については、検査機器のメーカーに全額行っていた」と答えたそうです。国立大学病院の診療行為で得たお金が民間企業へ?それが事実なら、それはそれで大きな問題です。検査機器メーカーも現時点で公表されていません。ガバナンス不全が際立つ岡山大病院岡山大病院(と同大医学部)の不祥事については、本連載では「第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず」でも書きましたが、その他にもいくつかの事件で世間を騒がせてきました。まず、新型コロナ関連の交付金の過大受給です。岡山大病院は、新型コロナの入院患者を受け入れる病床を確保した医療機関を補助するための「空床補償」と呼ばれる交付金を、実際よりも高額な病床の単価で申請し、2022年度までの2年間で、合わせて19億円余りを過大に受給していたことが判明しています。その他、岡山大前学長の槇野 博史氏のスキャンダルとして、「2,000万円の私的流用」と「3億円不正経理」が2023年2月14日付の週刊誌「FLASH」ですっぱ抜かれています。同記事は、「槇野氏は、岡山大学病院長時代、約2,000万円もの大学のお金を自身の趣味である写真に注ぎ込んだ。監査法人が2022年6月3日に3億円の不正経理を指摘しているにもかかわらず、大学はこのことを公表していない」と書いています。「FLASH」はまた、2023年3月7日付の「岡山大学病院『がん患者の半数が放り出される』異常事態に…シーメンス社と結んだ250億円契約を白紙撤回」と題する記事で、岡山大学病院がシーメンスヘルスケア社と交わしていた放射線治療装置、診療棟建設、機材の維持管理等の契約を2021年8月に突如白紙撤回した事件についても書いています。同記事は、この白紙撤回も槇野氏の判断で行われたと書いています。こう見てくると、旧六医大の一つで歴史ある岡山大医学部、岡山大病院ですが、ガバナンスに相当問題がありそうです。「患者さんの信頼にこたえられるような病院づくりをしてまいる所存でございます」と、今回の事件で前田病院長は殊勝なコメントしていますが、眼科の不正徴収について検査名、機器メーカーを公表しない、できないという事実だけでも、相変わらず「信頼」からは程遠い病院だなと思いました。

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コロナ罹患後症状における精神症状の国内レジストリ構築、主なリスク因子は?/日本精神神経学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行はすでに3年以上経過しているが、流行が長期化するほど既感染者が増加し、コロナ後遺症(コロナ罹患後症状、Long COVID)のリスクも上がる。コロナ後遺症は、倦怠感や認知機能障害といった精神神経障害が年単位で持続する場合もある。 国立精神・神経医療研究センターの高松 直岐氏らの研究チームは、こうしたコロナ後遺症の病態解明と新規治療法開発につなげるため、COVID-19感染後の精神症状を有する患者レジストリの構築を実施している。中間解析の結果、コロナ後遺症による有意な心理社会的機能障害の予測因子は、退職経験、主婦層、COVID-19罹患への心配や抑うつが中等度以上、ワクチン接種2回以下であることが示された。6月22~24日に横浜にて開催された第119回日本精神神経学会学術総会にて、高松氏が発表した。 本レジストリ、PSCORE-J(Psychiatric Symptoms for COVID-19 Registry Japan)の研究の正式名称は「COVID-19感染後の精神症状を有する患者レジストリの構築と病態解明及び新規治療法の開発に資する研究」。同センターの久我 弘典氏が研究代表を務める。COVID-19急性期患者(前向き)と過去にCOVID-19に感染した患者(後ろ向き)で16歳以上の人を対象に登録目標数1,000例とした、国内の多施設共同研究である。対象者に、頭部MRIや血液検査、認知機能検査(MOCA-J)、罹患後症状の重症度評価(CGI-S)などの医師による診察、および、スマートフォンを使って患者が自己回答する心理検査(ePRO)を定期的に実施した。対象者への「新型コロナウイルス後遺症の影響で、日常的な生活がこれまでと明らかに違いますか?」という質問で、当てはまる人をケース群、当てはまらない人をコントロール群とした。 本研究の医師の診察による予備的解析結果は以下のとおり。・ケース群43例、コントロール群29例の計72例が解析された。ケース群は女性67%、平均年齢44.9歳(SD 11.9)、コントロール群は女性66%、平均年齢42.1歳(SD 9.7)。・コロナ後遺症の重症度を臨床全般印象重症度スコアCGI-S(スコア範囲:1[正常]~7、スコアが高いほど重症)で評価したところ、コントロール群は29例すべて正常(1点)であったが、ケース群では、精神疾患の境界線上(2点)1例、軽度(3点)13例、中等度(4点)10例、顕著(5点)8例、重度(6点)10例であった。・抑うつをPHQ-9スコアで評価したところ、コントロール群は大半が正常だったのに対し、ケース群はCGI-Sで評価された重症度に比例してPHQ-9の重症度が高くなった。・ケース群では女性のほうが男性よりも有意に重症度が高い人が多かった。 ePROを使った患者アンケートでは、コントロール群115例、ケース群121例の計236例の結果が得られた。この回答を多変量解析し、コロナ後遺症による心理社会的機能障害の予測因子とオッズ比(OR)を推定した。主な結果は以下のとおり。・「COVID-19による退職経験がある」はOR:44.9、95%信頼区間[CI]:5.66~355.1(p<0.001)であった。・「主婦である」はOR:83.3、95%CI:3.15~2204.3、p=0.008であった。・「COVID-19感染が心配である(中等度)」はOR:11.9、95%CI:1.48~96.2、p=0.020、「同(重度)」はOR:56.1、95%CI:5.97~527.3、p<0.001であった。・「抑うつ(PHQ-9スコア)が中等度」はOR:7.02、95%CI:1.76~28.0、p=0.006、「同(重度)」はOR:12.3、95%CI:2.53~60.2、p<0.001であった。・「ワクチン接種が2回以下」はOR:14.2、95%CI:3.77~53.7、p<0.001であった。 高松氏は、本結果の制限として、対象者が国立機関の精神科を受診した比較的重症度の高い集団であるため、現時点では本邦の全体集団を表すものではないことを挙げつつ、今後の展望としてさらに被験者のリクルートを拡大する意向を示した。

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添付文書改訂:アメナリーフに再発性単純疱疹が追加/ミチーガが在宅自己注射可能に ほか【下平博士のDIノート】第125回

アメナリーフに再発性の単純疱疹が追加<対象薬剤>アメナメビル(商品名:アメナリーフ錠200mg、製造販売元:マルホ)<改訂年月>2023年2月<改訂項目>[追加]効能・効果再発性の単純疱疹[追加]効能・効果に関連する注意単純疱疹(口唇ヘルペスまたは性器ヘルペス)の同じ病型の再発を繰り返す患者であることを臨床症状および病歴に基づき確認すること。患部の違和感、灼熱感、そう痒などの初期症状を正確に判断可能な患者に処方すること。<Shimo's eyes>本剤の適応症はこれまで帯状疱疹のみでしたが、2023年2月から「再発性の単純疱疹」が追加されました。帯状疱疹の場合は1日1回2錠を原則7日間投与ですが、再発性の単純疱疹では1回6錠の単回投与となります。初発例は適応になりません。用法・用量に関連する注意には「次回再発分の処方は1回分に留めること」とあり、患者さんの判断で服用するPIT(Patient Initiated Therapy)分を前もって1回分処方することができます。患者さん自身が単純疱疹の症状の兆候を認識した際に速やかに服用することで、早期の対応が可能となります。パキロビッド:パック600と中等度腎機能障害用のパック300が承認<対象薬剤>ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック600/同300、製造販売元:ファイザー)<承認年月>2022年11月<改訂項目>[変更]医薬品名、規格パキロビッドパック600、同300が承認<Shimo's eyes>パキロビッドパックは、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)に続く、2番目の新型コロナウイルス感染症の経口薬として2022年2月に承認されました。2023年3月21日以前は、登録センターに登録することで特定の医療施設に配分されていました。今回パキロビッドパック600/同300が薬価収載され、2023年3月22日以降は一般流通されています。パキロビッドパック600は従来のパキロビッドパックと同等の製剤で通常用のパッケージです。一方、パキロビッドパック300は中等度の腎機能障害(eGFR30mL/min以上60mL/min未満)の患者さん用のパッケージです。600と300はブースターであるリトナビルの投与量は同じですが、抗ウイルス薬であるニルマトレルビルが300では半分の量になっています。ミチーガ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ネモリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ミチーガ皮下注用60mgシリンジ、製造販売元:マルホ)<在宅自己注射の保険適用日>2023年6月1日<改訂項目>[追加]重要な基本的注意自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認したうえで、医師の管理指導のもと実施すること。自己投与の適用後、本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、ただちに自己投与を中止させ、医師の管理のもと慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、医療施設へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。[追加]薬剤交付時の注意患者が家庭で保管する場合は、光曝露を避けるため外箱に入れたまま保存するよう指導すること。<Shimo's eyes>本剤は、4週間の間隔で皮下投与する抗体医薬品のアトピー性皮膚炎治療薬として2022年8月に発売され、2023年6月から在宅自己注射が可能となりました。近年、新しい作用機序のアトピー性皮膚炎治療薬が続々と開発されています。経口薬としては、関節リウマチへの適応から始まったJAK阻害薬、本剤のような抗体医薬品、外用薬ではPDE4阻害薬が発売され、難治性の患者さんにも選択肢が増えています。RA系阻害薬:妊娠禁忌について再度注意喚起<対象薬剤>RA系阻害薬<改訂年月>2023年5月<改訂項目>[新設]妊娠する可能性のある女性、妊婦妊娠する可能性のある女性に投与する場合には、本剤の投与に先立ち、代替薬の有無なども考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、ただちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。妊娠が判明したまたは疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。<Shimo's eyes>RA系阻害薬に関しては、2014年9月に妊婦や妊娠の可能性がある女性には投与しないこと、投与中に妊娠が判明したらただちに中止することなどが注意喚起されていましたが、それ以降も妊娠中のRA系阻害薬投与により、胎児や新生児への影響が疑われる症例(口唇口蓋裂、腎不全、頭蓋骨・肺・腎の形成不全、死亡など)が継続的に報告されていました。医師が妊娠を把握せずにRA系阻害薬を使用していた例が複数存在していたため、RA系阻害作用を有する降圧薬32成分(ACE阻害薬、ARB、レニン阻害薬、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)の添付文書改訂が指示されました。

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第172回 long COVIDと関連する遺伝子領域を同定

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)と関連する6番染色体の遺伝子領域が見つかりました。16ヵ国での24試験のlong COVID患者6千人超(6,450人)とそうでない約110万人(1,09万3,995人)が全ゲノム関連解析(GWAS)で検討され、ほぼどの組織でも発現することが知られる転写因子FOXP4の遺伝子領域rs9367106地点の塩基がシトシン(rs9367106-C)の人のlong COVIDの発現率はそうでない人に比べて1.6倍高いことが示されました1,2)。rs9367106地点とlong COVIDの関連はFOXP4遺伝子発現の変化を介するらしく、遺伝子発現データベースGTExを解析したところrs9367106-Cの代理役rs12660421-Aと肺や脳の視床下部のFOXP4遺伝子発現亢進の関連が認められました。先立つ研究でFOXP4とCOVID-19重症度の関連が示されています。今回の研究でも同様の結果が得られており、COVID-19重症度がlong COVID発生におそらく一枚かむことがさらに裏付けられました。ただし、FOXP4遺伝子座とlong COVIDの結び付きはより強く、重症度だけで説明がつくものではなく、重症度とは独立したFOXP4とlong COVIDの関連がどうやら存在するようです。long COVIDの快復のほどは?世界の少なくとも6,500万人がlong COVIDを患っており、その数は日々増えています3)。頭痛、疲労、脳のもやもやなどの症状を特徴としますが、long COVIDの定義はいまだに議論されています。上述したような遺伝子解析の成果が出始めてはいるもののlong COVIDの生理学的な仕組みもこれから調べていく必要があります。しかしわかってきたこともあります。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が世界に広まり始めてから3年以上が過ぎ、long COVID患者のどれほどが快方に向かうかの目安となる試験結果2つがこの5月に報告されています。5月25日にJAMA誌に掲載された報告では米国の成人約1万人が調べられ、感染から6ヵ月時点でlong COVIDだった人の3人に1人が9ヵ月時点ではlong COVIDを脱していました4)。その約1週間後の5月31日にBMJ誌に掲載された別の報告はワクチン普及前にSARS-CoV-2感染した成人約千人の追跡結果です。それら感染者のうち5人に1人を超える22.9%は感染から6ヵ月経っても不調が続いていましたが、1年後のその割合は5人に1人に満たない18.5%に低下しました5)。2年後の不調患者の割合は17.2%であり、1年後とあまり変わりませんでした。すなわち感染から1年経つと不調の解消は頭打ちとなるようです。感染から1年後までは快方がより期待できるものの1年を過ぎるといよいよ慢性病態に陥るとBMJ報告の著者は言っています6)。参考1)Genome-wide Association Study of Long COVID. July 01 2023. medRxiv.2)Gene linked to long COVID found in analysis of thousands of patients / Nature3)Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol. 2023;21:133-146.4)Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.5)Ballouz T, et al. BMJ. 2023;381:e074425.6)Long COVID: answers emerge on how many people get better / Nature

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感染防御対策が徹底した職場ほど独身者の恋愛活動が活発

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で、感染防止対策をより厳格に行っていた職場ほど、独身の人の恋愛活動が活発に行われていたことが明らかになった。産業医科大学環境疫学研究室の藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Public Health」に2月16日掲載された。 COVID-19パンデミック発生後、外出自粛などのために社会的交流が少なくなり、「孤独」が公衆衛生上の問題としてクローズアップされてきた。若年者や独身者において、より孤独感が強まったとする研究報告も見られる。独身者では、新たな恋愛関係を構築することで孤独感が抑制されると考えられるが、パンデミックによりそのハードルがより高くなったとも言える。例えば、労働者の場合は職場がパートナーとの出会いの場となることが少なくないが、在宅勤務の奨励をはじめとするさまざまな対策によって、出会いの機会が減った。 一方で、孤独感が募りがちな状況下では、その孤独感を解消しようとする目的のために、独身者の恋愛活動が活発になった可能性も考えられる。藤野氏らはその可能性を、産業医科大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」のデータを用いた縦断的研究により検証した。 2020年12月に、インターネット調査パネル登録者を対象にアンケート調査を行い、20~65歳で独身の労働者2万7,036人から有効回答を得た。これをベースライン調査として、その1年後の2021年12月に追跡調査を実施。1万8,560人(68.7%)が回答した。 追跡調査では、この1年間で「恋愛パートナーを探す活動を行ったか?」、「新しい恋愛パートナーができたか?」という二つの質問を行い、その回答内容と、職場での感染防御対策の厳格さとの関連を検討した。感染防御対策の厳格さは、職場で取られている対策(在宅勤務の奨励、出勤前の体温測定の推奨、マスク常時着用、パーテーション設置、屋内での飲食禁止など7種類)の実施状況、および、「勤務先の感染防御対策は十分だと思うか?」との質問(強い否定~強い同意の四者択一で回答)により評価した。 追跡調査回答者の約6割が男性だった。恋愛活動と感染防御対策との関連の解析に際しては、年齢、性別、婚姻状況(未婚、離婚、死別)、職種、収入、教育歴、飲酒・喫煙習慣、主観的健康観、勤務先の従業員数などの影響を統計学的に調整。解析の結果、職場で実施された感染防御対策の種類が多いほど(傾向性P<0.001)、および、勤務先の感染防御対策が十分だと感じているほど(傾向性P=0.003)、「恋愛パートナーを探す活動を行った」割合が高いという有意な関連が認められた。さらに、実際に「新しい恋愛パートナーができた」割合についても、感染防御対策の種類が多いほどその割合が高いという有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。 このような関連が生じた背景について著者らは、以下のように三つの可能性を考察として述べている。第一に、感染防御対策が厳格に行われている職場で働く人では、感染リスクをコントロールできるという自己効力感が高まり、恋愛行動に積極的になること。第二に、感染防御対策が厳格であることで職場での接触の機会が減り、それを補うために恋愛活動への意欲が高まること。第三に、感染防御対策を徹底した会社は、社員同士の交流を推進する活動も推進していた可能性が高いこと。 以上を基に論文の結論は、「COVID-19パンデミック下で、職場の厳格な感染防御対策の実施とそれに対する満足感が、恋人のいない独身者の恋愛を後押ししたと考えられる。独身者は孤独のリスクが高いが、しっかりとした感染防御対策を取った上で恋愛パートナーとの関係を築くことが、精神的な健康の維持に重要な要素となるのではないか」と記されている。

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第168回 コロナワクチン接種に悩む友人の“例え”が衝撃的だった話

先週、沖縄での新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)について触れたが、この秋からのワクチン接種に関して厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会は6月16日、オミクロン株XBB.1系統に対応した新しい1価ワクチンを使用する方針を了承。これに応じて7月7日、ファイザー、モデルナの両社はオミクロン株XBB.1.5系統対応の1価ワクチンの承認事項一部変更(通称・一変)を申請した。さすがに抗原タンパク質の設計変更が容易なメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンだと、こうも迅速に対応が可能なのだと個人的には改めて驚いている。もちろん一変なので改めて臨床試験を行う必要はないが、前述の6月16日の分科会ではモデルナが実施した予備的臨床試験の結果も報告されている。この予備的臨床試験は18歳以上ですでにワクチンを4回接種済み、かつBA.4/5用の追加接種から3ヵ月以上を経た101人を2群に分け、5回目の追加接種としてXBB.1.5系統対応1価ワクチンとBA.4/5+XBB.1.5系統対応の2価ワクチンを接種して比較したもの。それによると、接種後の中和抗体価の変化は、XBB.1.5系統に対しては1価ワクチンで16.6倍、2価ワクチンで11.6倍、XBB.1.16系統に対しては1価ワクチンで10.2倍、2価ワクチンで9.3倍、いずれも上昇したとの結果だ。過去のオミクロン株BA.1対応あるいはBA.4/5対応の時の中和抗体価上昇に関する臨床試験の際も、やはりこれらに対応した1価と武漢株を含む2価のワクチンでは1価ワクチンのほうが中和抗体価の上昇がより高いことが確認されている。しかし、念のためと称して2価ワクチンが採用されたことを考えれば、今回はこの経験が生かされていると言えるかもしれない。さて問題はここからだ。もはや新型コロナワクチンに関しては、感染予防、発症予防、重症化予防でも一定の有効性が認められることに医学的にほぼ異論はないと考えるのが一般的である。一部にそうではない意見があることはもちろん承知しているが、誤解を恐れずに言えばそれはノイズである。しかし、すでに多くの国民が「コロナ禍」、そして相次ぐ「ワクチンの追加接種」に疲弊しているのは確かだろう。実際、今春の接種が開始された直後から知人・友人から「まだワクチンを接種したほうが良いの?」と相談を受けることが増えた。これに対して、私はまずはかかりつけ医がいるかどうかを確認し、「いる」と答えた人には「先生は何と言っている?」と聞き返している。偶然にもそうしたケースはいずれも「先生は『接種したほうが良いよ』と言っているよ」との答えが返ってきたので、「俺もそう思うよ」と言うと、だいたい話は終わる。これに対して「いない」と答えてくる人はやや対応が面倒になる。この際には私はまず「データ上は有効性が明らかなので、できるだけ接種したほうが良いと思うよ」と答える。ただ、これで終わることはまずない。一番多い反応は「なんか打つたびに熱が出るし、しんどいよ」というもの。まあ、気持ちはわからないわけではない。だが、私はそうは答えない。というのも、過去4回の接種で私は自覚できる副反応らしきものを経験していないからだ。そこでとりあえずは「俺は次回も打つよ」とだけ答えている。これに対する反応は実にまちまちだ。列挙するとこんな感じだ。「ふーん」「うーん、もう一度考えてみるか」「まあ、タダのうちは打っとくか」「本当に物好きだよね」「出ました。ワクチン男」「お前、今にワクチンで死ぬんじゃない?」最後の3つは大きなお世話と言いたいところだ。そのような中で1人だけ興味深いことを口にした友人がいた。彼はワクチン接種後の死亡事例の中で、ワクチン接種との因果関係が否定できないとして国の健康被害救済制度の認定を受けた事例があることを挙げて、とことん食い下がってきた。私はどの医薬品、ワクチンでも副作用・副反応はゼロにならないこと、その中でごく少数とは言え、極めて不幸な結果になってしまう事例は完全には避けられないことなどを話した。まあ、定型のやり取りと言えばそれまでかもしれない。約1時間の電話でのやり取り後に妙な沈黙となった。正直、私自身かなり疲れてしまって、それ以上何かを言う気にもなれなかった。その沈黙を破ったのは友人のほうだった。「まあ、俺の父親の件みたいなものか」一瞬、混乱した。彼の父親は今から10年以上前に交通事故で亡くなっている。新型コロナワクチンとは何も関係ない。「え、何が?」と私が問うと彼は次のように答えた。「いやさ、父親が交通事故で死んだのは知ってるよね。もちろん父親をはねた運転手に対する恨みは今でもあるよ。でもさ、父親が交通事故で死んだからって自動車を世の中から廃止しろとは言わないよ。ワクチンもそんなものかなと。さっきからワクチンの有効性についてはコンセンサスがあるって言ってたじゃん。確かに報道で医師がこのワクチンのことについて言及する時も多くは打ったほうが良いと言うよね。それはそうなんだろう。ただ、どうしてもごく少数の不幸な事例は出てしまう。かといってこのワクチン接種を止めろと言うならば、それは俺が自動車を全廃しろと言うくらいナンセンスかもね、ということよ」何気ない会話かもしれないが、私は彼のこの発言にかなり圧倒されてしまった。言葉を仕事にしながら、自分はこうした表現は思いつかなかったからだ。結局、彼はひとしきりそう言うと「まあ、もう一度じっくり考えてみるわ」と言って電話を切った。さて国は、そして報道は、このもはやコロナ禍は終わったかのような空気が漂う中で、この秋から始まる予定のXBB系統の新ワクチンの接種を推進するためにどのような言葉を選択していくのだろう。報道の片隅に身を置く立場として、この友人の言葉を私自身はこの1週間反芻している。参考(1)厚生労働省:第47回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料

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円安に負けず、お得に海外旅行に出かけよう!【医師のためのお金の話】第70回

ようやく日本でも、新型コロナウイルス感染症の規制が緩和されました。世界に遅れること約1年。最後尾での規制緩和ですが、ようやくコロナ禍前のように気軽に海外旅行に行けるようになりました。新型コロナウイルス感染症のために海外旅行に行けない状況はなくなりましたが、別の理由で海外旅行の敷居は高いです。その理由とは、もちろん急激に進行した円安。もともと日本円の購買力低下は、静かに進行していました。しかし、2022年になってから、目に見える形で円安が進行しました。残念ながら、主要通貨の中で日本円よりも弱い通貨は存在しません。日本円の実力を示す実質実効為替レートは、50年前の1970年代前半レベルにまで落ち込んでいます。ようやく新型コロナウイルス感染症の制限がなくなったと思ったら、海外旅行が辛くなるほど日本円の購買力が落ちていた…。笑えない状況ですが、やはり海外旅行に出かけて新しい体験をしたいですね。円安に負けず海外に行く方法を考えてみましょう。3年ぶりの海外は驚きの連続だった!今年のゴールデンウイークに、私は2週間ほど東ヨーロッパに旅行しました。コロナ禍が始まった2020年3月のタイ旅行以来、初めての海外旅行だったのでとても新鮮でした。そして3年振りの海外は、日本国内とまったく異なる風景で驚きの連続でした。まず、マスクをしている人が皆無です。コロナ禍の痕跡は「keep distance」という張り紙をところどころで見かける程度。コロナ? 何それ? といった感覚で、日本とのギャップに驚きました。唯一マスクをしていたのは、航空会社の客室乗務員だけでした。マスク姿を見かけないだけではありません。航空機の搭乗券がほぼなくなっていることにも驚きました。スマホのQRコードをかざすだけで搭乗です。入出国審査も自動化ゲートがメジャーでした。現地通貨も使用機会がありません。クレジットカードのみでほぼOK。いまだにクレジットカードお断りの店が少なくない日本との格差に、ただただ驚くばかりでした。そして非接触型(コンタクトレス)決済ではないクレジットカードは使い物にならず、骨董品扱いでした。最大の衝撃は、アジア系のほとんどの人たちは、韓国もしくは中華系だったことです。ポーランド、チェコ、ハンガリーで2週間の間に会った日本人は皆無でした。私たちにとって、海外旅行はかなりハードルが上がってしまったのかもしれません。格安に海外旅行をする方法私たち日本人にとって、今の円安状況が海外旅行のハードルを上げていることは事実でしょう。しかし、海外旅行は高いからといって、ただただ指をくわえているのは避けたいところです。お得に海外旅行に行く方法を考えてみましょう。旅行の時期を考える航空機のチケットや宿泊施設の価格は、時期や曜日によって大きく異なります。最も旅行費用を抑えることができるのは、日本発着の時期を閑散期にすることでしょう。しかし、医師は時間的融通の利きにくい職種。長期休暇を取得できる時期は限られています。次善の策として、日本を発着する曜日を数日ずらして混雑しない平日を検討しましょう。私はゴールデンウイーク期間中に海外旅行をしましたが、2日ほど日本発着をずらしただけで、大幅に航空機費用を削減できました。少しマイナーな目的地を選ぶ人気のある観光地や都市は高価になる傾向にあります。一方、あまり知られていない観光地を選ぶと、旅行費用を節約できます。東ヨーロッパのプラハやブダペストは、パリやロンドンほど人気の観光地ではないので、リーズナブルな価格で旅行できました。フライトの価格を比較するスカイスキャナーやGoogle flightなどの価格比較サイトやアプリを利用すると、複数の航空会社のフライト価格を一括して比較できます。最安値のフライトを簡単に見つけることができるのでお勧めの方法です。できるだけ早い時期に予約する航空業界やホテル業界では、レベニューマネジメントという手法でフライト価格や宿泊価格を決めています。端的に言うと、顧客の需要に応じて商品やサービスの料金を変動させる価格決定手法です。一般的には、早い時期に予約すればするほど、フライト価格や宿泊価格は安価です。半年前から予約可能なケースが多いので、この時期に予約すると安価で済むケースが多いです。ちなみに、今年のゴールデンウイーク旅行は、2022年12月に予約しました。地元レストランはGoogle mapを利用しよう!海外旅行では、地元レストランの食事も楽しみの1つです。しかし、日本語メニューは期待できません。しかし、英語メニューで十分かというと、そういうわけでもありません。英訳の精度が低いため、予想外の食事が出てくるケースが多いのです。そのような時に役立つのがGoogle mapです。Google mapの店舗紹介では、大量の食事の画像がアップされています。たくさんオーダーされているメニューほどたくさんの画像がアップされているので、人気メニューも一目瞭然です。オーダーするときには、Google mapの画像を店員に指し示すだけでOK。面倒なメニュー解読も必要ありません。もちろんGoogle mapでお店にも間違いなくたどり着けます。海外旅行ではGoogle mapは必需品といえるでしょう。ここまで述べてきたように、海外旅行も日々進化しています。ちょっとした工夫と便利なアプリ利用を組み合わせることで、お得な海外旅行が可能です。チャンスがあれば、夏休みは海外に行きたいものですね!

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COVID-19関連の嗅覚・味覚障害はパンデミック初期の6%に減少

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの初期には、嗅覚や味覚の障害が罹患時の特徴的な症状の一つとして位置付けられていた。しかし、もはやそうではないことが明らかになった。現在ではCOVID-19罹患者に嗅覚・味覚障害を生ずる割合は、パンデミック初期のわずか約6~7%だという。米バージニア・コモンウェルス大学のEvan Reiter氏らの研究によるもので、詳細は「Otolaryngology-Head and Neck Surgery」に5月26日掲載された。 Reiter氏らはこの研究に、パンデミック発生以来、新型コロナウイルス検査が陽性と判定された700万人以上の患者の経過が記録されているデータベースを用いた。2020年4月27日~6月18日をベースラインとして、COVID-19発症後2週間以内に患者が嗅覚・味覚障害を訴えるオッズ比(OR)を算出。すると、アルファ株が主流となった時期はOR0.744、デルタ株が主流となった時期はOR0.637と、嗅覚・味覚障害を訴える患者が経時的に減少していた。 そしてさらに2022年以降、オミクロン株が主流になると、オミクロンKでOR0.139、オミクロンLでOR0.079、オミクロンCでOR0.061、オミクロンBではOR0.070と、オッズ比がより低下してきていた。Reiter氏は、「パンデミックの初期には、嗅覚と味覚の喪失がCOVID-19の一般的な症状と考えられていた。PCR検査を行える件数が限られていた時期、多くの医師がその症状を頼りに診断していた。しかしわれわれの研究結果は、嗅覚・味覚障害の有無がもはやCOVID-19診断の信頼できる指標ではないことを示している」と解説。続けて、「つまり今では、体調が不良でも嗅覚・味覚障害がないからといってCOVID-19の可能性を除外することはできず、反対に嗅覚・味覚障害があるからといってCOVID-19だと断定もできない」と話している。 COVID-19罹患時に嗅覚・味覚障害を生ずる人が減少している理由について、研究者らは「詳細は不明だが、人々の免疫力が高まっていることが関係している可能性がある」としている。Reiter氏は大学発のリリースの中で、「ワクチン接種、またはウイルスに一度感染することは、一般的には次に感染した際の重症度を軽減する」と述べている。 ただ、同氏は「パンデミック初期に比べればはるかに少なくなったとはいえ、現在でもCOVID-19のために嗅覚・味覚障害を生じている患者が依然として存在している。嗅覚・味覚障害はそれ自体が生活の質を大きく下げるとともに、健康的な食生活の妨げともなる」とし、COVID-19に伴う嗅覚・味覚障害がいまだ重要な問題であることを指摘。同氏は、「幸いなことに、この症状に苦しむ人々に対する効果的な治療法を見つけるため、現在多くの研究が行われている」と付け加えている。 なお、この研究には、医学研究を支援している財団であるMEDARVA財団が資金を提供した。

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睡眠、労働、食事…世界の人々の24時間の使い方が明らかに

 世界中の人々が1日をどのように過ごしているかが明らかになった。子どもから高齢者まで全ての人を平均すると、9時間以上は睡眠または就床していて、その他の時間の多くを自分自身のために使っているという。マギル大学(カナダ)のEric Galbraith氏らの研究によるもので、詳細は「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に6月12日掲載された。 この研究では、世界銀行、ユニセフ、経済協力開発機構(OECD)などのデータを用いて、世界人口の約60%を占める58カ国に暮らす人々が、1日をどのように過ごしているのかを分析した。また、これとは別に国際労働機関(ILO)のデータを基に、世界人口の約86%を占める139カ国に暮らす人々の経済活動についても、同様の分析を行った。なお、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる混乱の影響を除外するため、分析対象は2000~2019年のデータとした。それらのデータには、人々の行動が延べ3,956種類に分けて報告されていた。これを、大きく8種類に分け、さらに24種類に細分化した上で、収集された人々の行動に関するデータを再分類し、その行動に使われた時間の平均を算出するという作業を行った。 前者の分析の結果から、人々はベッドや布団の上で最も長い時間を過ごしていることが分かった。その時間は9.1時間に及ぶ。これは世界の成人の睡眠時間の平均として報告されている7.5時間より長いが、この差の理由について著者らは、本研究の分析対象には子どもも含まれていること、および、ベッドや布団の上で眠らずにほかのことをしている人がいるためではないかとしている。Galbraith氏によると、分析対象には11時間の睡眠を取る子どもも含まれていたという。 起きて活動している時間(約15時間)のうち9.4時間は自分自身のための行動に費やされていた。そのうち約6時間半は、読書、テレビ、ゲーム、スポーツ、散歩、社交活動などであり、社交活動は4.6時間であって、就床時間以外の31%を占めていた。自分自身のために使われる時間の中でその他の時間には、健康管理、身だしなみを整えることなどが行われていた。 また、活動している時間のうち3.4時間は自分自身のためではなく、社会活動のためのエネルギー産生、食料生産、公共スペースの掃除など、他者にも影響を及ぼす行動に充てられていた。残り2.1時間は自分の意思ではなく、法律や社会制度などに基づいて規定される行動に使われていた。 一方、後者の経済活動に着目した分析からは、収入を得るためや家庭内労働に約2.6時間(158分)が充てられていることが分かった。これは1日の約11%、活動している時間の約6分の1に相当する。一見少ないように感じるが、世界人口の平均ではなく、労働人口(15~64歳の約66%)の平均では、週当たり41時間の労働に相当する。 経済活動として食料の提供には52分かかっていた。ただしそのうち44分は食料生産活動であり、食品加工が3分、食事の支度は5分に過ぎなかった。このほか、ヘルスケアに使われる時間は4分であることも分かった。 これらの結果についてGalbraith氏は、「文化や収入次第で時間の使い方は大きく異なる。例えば高所得国に比べてそうでない国の人々は、農業に多くの時間を割いている。また、食事に充てる時間は30分からその3倍の範囲に分布していた。ただ、場所の移動に費やす時間などはほとんど差がみられなかった」と述べている。

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COVID-19罹患後症状の追跡調査(解説:小金丸博氏)

 COVID-19に罹患した一部の患者にさまざまな罹患後症状(いわゆる後遺症)を認めることがわかってきたが、その原因やメカニズムはまだ解明されておらず、効果的な介入方法も確立していない。罹患後症状はpost COVID-19 condition、long COVID、post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)などと呼ばれ、WHOは「新型コロナウイルスに感染した人にみられ、少なくとも2ヵ月以上持続し、他の疾患による症状として説明できないもの」と定義している。罹患後症状の種類や有病率、長期経過の把握は、治療方法や介入方法を検討するための臨床試験の設計につながる有益な情報となる。 今回、COVID-19罹患2年後までの健康状態の変化を追跡したスイスの人口ベース前向き縦断コホート研究の結果がBMJ誌2023年5月31日号に報告された。感染者と未感染者を比較していることが本研究の特徴の1つである。患者の訴える症状がCOVID-19に関連する症状かどうかを判断することは難しいが、未感染者と比較することで統計学的に評価することが可能となっている。時間の経過とともに症状の重症度や健康障害は軽減していたが、罹患24ヵ月後の時点で感染者の18.1%(95%信頼区間:14.8~21.9)にCOVID-19関連症状を認めた。罹患6ヵ月後の時点で頻度の高かった罹患後症状と思われる症状は、味覚・嗅覚の変化(9.8%)、労作後倦怠感(9.4%)、集中力低下(8.3%)、呼吸困難(7.8%)、記憶障害(5.7%)、疲労(5.4%)などであった。 COVID-19罹患後症状の長期的な転帰を評価した過去の研究の多くは入院患者などに限定した集団を対象としており、さまざまな重症度のCOVID-19の症状や回復経過のばらつきを完全には反映していない可能性があった。本研究では疾患の重症度では対象を限定せず、幅広く解析対象に組み込んでいることが特徴である。ただし、18歳以上の成人、ワクチン未接種者、初回感染である者などに対象を限定しており、小児やワクチン接種者での罹患後症状の経過については判断できない。とくに現在はワクチン接種者が数多く存在するようになっており、ワクチン接種が罹患後症状にどのような影響を与えるかは興味ある点である。 本研究では解析されていないが、抗ウイルス薬の投与が罹患後症状の予防に有効であることが報告されてきている。重症化防止のみならず、罹患後症状の予防という観点は、今後の抗ウイルス薬投与の方針を決めるうえで重要な要素になると考える。

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コロナ緊急事態宣言中、急性疾患の院内死亡率は1.7倍に

 新型コロナウイルス感染流行は、医療機関の救急外来受け入れや入院の制限など、他疾患の患者にも大きな影響を与えた。日本国内のこれまでの感染流行時において、その影響はどの程度であったのか。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院の阿部 計大氏らによる研究がJAMA Network Open誌2023年6月22日号に掲載された。 研究者らは、最初の緊急事態宣言期間(2020年4月7日~5月14日)の前後における「ACSC」(=Ambulatory Care-Sensitive Conditions:プライマリ・ケアの適切な介入により、重症化による入院を予防できる可能性のある疾患群)の患者の転帰を比較した。期間前は2015年1月1日~2019年12月31日、期間後は2020年1月1日~12月31日とし、日本全国242の急性期病院の退院サマリーデータを用いた。データ解析は2022年8月16日~12月7日に行われた。 主要アウトカムはACSC疾患の入院数、院内死亡数、院内死亡率であった。院内死亡数は病院到着後24時間以内と以降に分けられた。日本ではACSCの定義が確立されていないため、英国国民保健サービスの定義を使用し、全体解析と合わせ、慢性疾患(喘息やうっ血性心不全など)、急性疾患(脱水症や胃腸炎など)、ワクチンで予防可能な疾患(細菌性肺炎など)に分けて解析した。 主な結果は以下のとおり。・期間中に2万8,321例のACSC関連入院があり、男性1万5,318例(54.1%)、年齢中央値76(四分位範囲[IQR]:58~85)歳だった。2万4,261例が期間前、4,060例が期間後だった。・院内死亡数は2,117例(7.5%)であった。全体の入院件数は減少(発生率比[IRR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.75~0.94)しており、慢性疾患(IRR:0.84、95%CI:0.77~0.92)、ワクチンで予防可能な疾患(IRR:0.58、95%CI:0.44~0.76)で減少した。・一方、急性疾患では院内死亡数(IRR:1.66、95%CI:1.15~2.39)および24時間以内の院内死亡数(IRR:7.27×106、95%CI:1.83×106~2.89×107)が増加した。急性疾患は院内死亡率も増加し(IRR:1.71、95%CI:1.16~2.54)、24時間以内の院内死亡率も全体(IRR:1.87、95%CI:1.19~2.96)、急性疾患(IRR:2.15×106、95%CI:5.25×105~8.79×106)、ワクチンで予防可能な疾患(IRR:4.64、95%CI:1.28~16.77)で増加した。 研究者らは「パンデミック中にACSC関連の入院が全体的に減少したことは、日本や他国で行われた先行研究と一致している。医療現場での感染の恐れ、プライマリ・ケアへのアクセスの減少、医療を求める行動の変化などがこの説明となり得る。さらにワクチン接種キャンペーンなどの予防策が、ワクチンで予防可能な疾患による入院減少に寄与した可能性がある。しかし、急性疾患の院内死亡数と院内死亡率の増加は懸念され、入院後24時間以内の死亡リスク増加は適切な医療サービスを利用することが遅れた可能性を示唆している。今後は急性期の患者にとって必要不可欠な医療サービスの継続性と利用しやすさを確保する努力が極めて重要である」としている。

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オミクロン株(XBB.1.5)に対応した追加免疫に関する承認事項一部変更申請/モデルナ

 メッセンジャーRNA(mRNA)治療薬とワクチンのパイオニアであるバイオテクノロジー企業 Moderna(米国)の日本法人モデルナ・ジャパンは2023年7月7日、「スパイクバックス筋注」において、12歳以上を対象にオミクロン株(XBB.1.5)に対応した追加免疫用1価ワクチンとして厚生労働省に承認事項一部変更申請を行ったことを発表した。 Modernaは、6月に開催された米国食品医薬品局(FDA)の諮問会議VRBPACにおいて、オミクロン株の派生型であるXBB.1.5、XBB.1.16およびXBB.2.3.2などのXBB亜系統に対して免疫応答を示すXBB.1.5対応の1価ワクチンに関する予備的な臨床データを発表している。 モデルナ・ジャパン代表取締役社長の鈴木 蘭美氏は、「今回承認事項一部変更を申請したModernaのワクチンは、現在流行しているオミクロン株の派生型であるXBB.1.5に対応している。新型コロナウイルス感染症は、日本の公衆衛生にとって引き続き警戒が必要であり、とくに高齢者や基礎疾患がある重症化リスクが高い人への接種が推奨される。この重要なワクチンを一刻も早く皆さまへ届けられるよう、引き続き厚生労働省と協力していく」としている。

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ワクチン別、デルタ/オミクロン期の重症化抑制効果/BMJ

 米国退役軍人の集団において、デルタ株およびオミクロン株の優勢期で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して30日以内の人を対象に、ワクチン接種の回数や種類と、入院や死亡などの重症アウトカムとの関連性を調べた後ろ向きコホート研究が、米国・Lieutenant Colonel Charles S. Kettles VA Medical CenterのAmy S. B. Bohnert氏らにより実施された。本研究の結果、ワクチンの種類にかかわらず、未接種者よりも接種者のほうが重症化率や死亡率の低下が認められた。また、mRNAワクチンに関しては、ファイザー製よりもモデルナ製のほうが高い効果が得られることが示唆された。BMJ誌2023年5月23日号に掲載の報告。 本研究の対象となったのは、デルタ株流行期(2021年7月1日~11月30日)およびオミクロン株流行期(2022年1月1日~6月30日)において、SARS-CoV-2感染が初めて記録された退役軍人会に所属する18歳以上の27万9,989例で、平均年齢59.4歳(SD 16.3)、男性87%であった。なお、対象者は試験登録以前の18ヵ月以内にプライマリケアを受診していない人に限られた。対象者が接種した新型コロナワクチンは、ファイザー/ビオンテック製(BNT162b2)、モデルナ製(mRNA-1273)、ヤンセンファーマ/ジョンソン・エンド・ジョンソン製(Ad26.COV2.S)のいずれかで、異なる種類のワクチンの組み合わせは除外した。主要評価項目は、SARS-CoV-2陽性判定から30日以内での入院、ICU入室、人工呼吸器の使用、死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・デルタ株流行期では、9万5,336例が感染し、47.6%がワクチン接種を1回以上受けていた。2回接種は3万5,994例(37.8%)、3回接種は1,691例(1.8%)。・オミクロン株流行期では18万4,653例が感染し、72.6%がワクチン接種を1回以上受けていた。2回接種は5万6,911例(30.8%)、3回接種は5万6,115例(30.4%)。・デルタ株流行期では、mRNAワクチン2回接種は、ワクチン未接種と比較して、重症アウトカムの発生率低下と関連していた。入院 調整オッズ比(OR):0.41(95%信頼区間[CI]:0.39~0.43)、ICU入室 OR:0.33(95%CI:0.31~0.36)、人工呼吸器 OR:0.27(95%CI:0.24~0.30)、死亡 OR:0.21(95%CI:0.19~0.23)。・オミクロン株流行期では、mRNAワクチン2回接種は、ワクチン未接種と比較して、重症アウトカムの発生率低下と関連していた。入院 OR:0.60(95%CI:0.57~0.63)、ICU入室 OR:0.57(95%CI:0.53~0.62)、人工呼吸器 OR:0.59(95%CI:0.51~0.67)、死亡 OR:0.43(95%CI:0.39~0.48)。・さらに、オミクロン株流行期でmRNAワクチン3回接種は、2回接種と比較して、入院OR:0.65(95%CI:0.63~0.69)、ICU入室 OR:0.65(95%CI:0.59~0.70)、人工呼吸器 OR:0.70(95%CI:0.61~0.80)、死亡 OR:0.51(95%CI:0.46~0.57)となり、すべてのアウトカムの発生率低下と関連していた。・ヤンセン製ワクチンは、ワクチン未接種と比較して転帰が良好であったが(オミクロン期における入院 OR:0.70[95%CI:0.64~0.76]、ICU入室 OR:0.71[95%CI:0.61~0.83])、mRNAワクチン2回投与と比較して、入院およびICU入室の発生率が高かった(オミクロン期における入院 OR:1.16[95%CI:1.06~1.27]、ICU入室 OR:1.25[95%CI:1.07~1.46])。・ファイザー製ワクチンは、モデルナ製ワクチンと比較して、より悪いアウトカムと関連している傾向が示された。オミクロン期で3回接種の場合、入院 OR:1.33(95%CI:1.25~1.42)、ICU入室 OR:1.21(95%CI:1.07~1.36)、人工呼吸器 OR:1.22(95%CI:0.99~1.49)、死亡 OR:0.97(95%CI:0.83~1.14)。・オミクロン株流行期でmRNAワクチン接種を3回受けた人では、最後のワクチン接種からの期間が7~90日よりも91~150日のほうが、より悪いアウトカムと関連していた。入院 OR:1.16(95%CI:1.07~1.25)、死亡 OR:1.31(95%CI:1.09~1.58)。 著者らは、「重症アウトカムを起こした患者の割合は、デルタ期よりもオミクロン期のほうが低かったが、ワクチン接種のステータスと結果については、2つの期間で同様のパターンが観察された。この結果は、治療薬がより普及していても、新型コロナの感染予防だけでなく重症化や死亡リスクを低減するための重要なツールとして、ワクチン接種が引き続き重要であることを裏付けている」とまとめている。

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第155回 史上初の7月に継続するインフルエンザ流行、コロナ禍で免疫低下か/厚労省

<先週の動き>1.史上初の7月に継続するインフルエンザ流行、コロナ禍で免疫低下か/厚労省2.急性期充実体制加算について議論、地域格差や医療体制の影響を懸念/中医協3.2022年度の労災補償状況:精神障害に関する労災、医療・福祉が最多/厚労省4.製薬業界と診療側が対立-薬価と安定供給問題で/中医協5.人件費の高騰やコロナの影響で2022年度の決算は減少、先進医療にも影響/国立大学病院6.返上相次ぐマイナンバー、個人情報保護委員会が立ち入り検査へ/デジタル庁1.史上初の7月に継続するインフルエンザ流行、コロナ禍で免疫低下か/厚労省厚生労働省の発表によると、インフルエンザの流行が史上初めて7月にも続いていることや、コロナ禍による免疫低下が影響している可能性があることが判明した。7月7日に発表された都道府県別のインフルエンザ患者数では、1医療機関当たりの患者数では、鹿児島県が20.07人と最も多く、宮崎県が7.34人、長崎県5.26人、熊本県3.99人と九州で感染が広がっていた。一方、新型コロナウイルスの感染状況では、沖縄県に次いで鹿児島県が全国で2番目に感染者数が多く、数の増加が報告されている。専門家らは、手洗いやうがいなど基本的な対策の徹底を呼びかけている。参考1)2023年7月7日 インフルエンザの発生状況について(厚労省)2)2023年7月7日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等について(同)3)新型コロナ 定点把握で全国2番目 インフルエンザは全国最多(NHK)4)インフルエンザ、史上初めて7月もなお流行…コロナ禍で免疫低下が影響か(読売新聞)2.急性期充実体制加算について議論、地域格差や医療体制の影響を懸念/中医協厚生労働省は、7月6日に中央社会保険医療協議会の入院・外来医療等の調査・評価分科会を開催した。この中で2022年度の診療報酬改定で新設された「急性期充実体制加算」の届け出が42都道府県の病院からあったことを明らかにした。急性期充実体制加算は、急性期一般入院料1の病院が整備する高度で専門的な急性期医療の評価として導入されたもので、急性期一般入院料1の病院の占める割合では、島根県が最も高い割合で取得していた。しかし、5つの県では届け出がなく、地域ごとにばらつきがあると指摘されている。また、総合入院体制加算から急性期充実体制加算への移行に伴って、小児・周産期・精神科入院医療の体制が縮小する可能性が懸念されており、地域医療の影響について、引き続き注視する必要があるとしている。参考1)令和5年度第3回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(中医協)2)急性期充実体制加算、42都道府県で届け出 22年9月時点、厚労省集計(CB news)3)総合入院体制加算から急性期充実体制へのシフトで地域医療への影響は?加算取得病院の地域差をどう考えるか-入院・外来医療分科会(Gem Med)3.2022年度の労災補償状況:精神障害に関する労災、医療・福祉が最多/厚労省厚生労働省が公表した2022年度の労災補償状況によると、精神障害に関する労災の請求件数と支給決定件数では「医療、福祉」が最も多かったことが明らかになった。精神障害に関する労災の請求件数は2,683件で、そのうち「医療、福祉」が624件と最も多く、支給決定件数も「医療、福祉」の164件が最多だった。一方で、過労死ライン未満の事案での労災認定が増加していることも報告された。労働時間以外の要因も考慮する改正基準の影響で、過労死ラインを下回る事案でも認定されるケースが増えたと考えられる。脳・心臓疾患や精神障害に関する労災の認定件数は増えており、労働時間以外の要素も総合的に評価されるようになったことも要因。精神障害の労災認定件数は最も多く、2022年度に2,683件の申請があり、そのうち710件が認定されている。参考1)令和4年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(厚労省)2)精神障害の労災請求・支給「医療、福祉」が最多 厚労省が22年度の補償状況を公表(CB news)3)過労死ライン未満、労災認定が増加 基準見直し影響か 精神障害での認定は最多(朝日新聞)4.製薬業界と診療側が対立-薬価と安定供給問題で/中医協厚生労働省は、7月5日に薬価について協議する中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会を開催し、来年度の薬価改定に向けて、本格的な議論に着手した。この中で、製薬業界からは医薬品の安定供給に向けた薬価下支えの充実を求めた。一方、診療側の長島委員からは、後発医薬品の安定供給は企業の品質管理やガバナンスの問題であり、薬価維持だけでは解決しないと指摘。また、森委員も安定供給は当たり前のことで評価すべきではないと述べた。支払側の松本委員も、薬価下落の原因は卸の納品価格の低さであり、薬価差は国民に還元すべきであると主張した。業界側は不採算品再算定や基礎的医薬品の対象範囲拡充などを求め、安定供給を重視した制度改革を訴えた。ただし、診療側と支払側はエビデンスに基づく議論を求め、具体的なデータや長期トレンドの分析を要望した。業界や診療側の意見の食い違いや課題の解決に向けた具体的な方策については、さらなる議論が見込まれる。参考1)中央社会保険医療協議会 薬価専門部会 議事次第(中医協)2)薬価下支えする仕組み「充実を」日薬連 中医協・部会(CB news)3)中医協 薬価下支え求める業界に診療側「安売りが原因」「安定供給は評価するものでない」厳しい声飛ぶ(ミクスオンライン)5.人件費の高騰やコロナの影響で2022年度の決算は減少、先進医療にも影響/国立大学病院国立大学病院が昨年度、全国の医療機関に医師を派遣し、兼業や副業の形態で医療活動を行っていたことを国立大学病院長会議が明らかにした。しかし、医師の時間外労働に関する規制を受けて、国立大学病院は兼業先を含めた時間外労働が上限を超える医師がいると予想し、規制に対応するための申請を行う予定。一方、国立大学病院全体の2022年度の決算は、経常利益は前期比で336億円減の386億円と減少し、経常利益率も低下していることが明らかになった。収益は215億円増加したものの、人件費や診療経費の増加により費用は552億円増え、経常利益率は2.5%に減少していた。コロナ補助金の影響で赤字にはならなかったものの、光熱費の増加や物価上昇の影響で利益の確保が困難となったためと考えられている。2023年度の見通しでは、コロナ補助金や診療報酬の特例の廃止や働き方改革による費用負担の増加が予想され、事業の継続が困難となってきており、医療機器の更新にも影響が出ており、耐用年数を超えて使用されている資産が多く、先進医療の提供にも影を落とす可能性が指摘された。参考1)国立大、計9,628医療機関に医師派遣 22年度、国立大学病院長会議(CB news)2)国立大学病院、2022年度の経常利益は2.2ポイント減(日経ヘルスケア)6.返上相次ぐマイナンバー、個人情報保護委員会が立ち入り検査へ/デジタル庁デジタル庁によれば、マイナンバーカードの本人希望による返納件数は先月1ヵ月間で約2万件だった。これは平成28年1月以降の7年間での累計返納件数のうちの一部とされ、返納の理由には引っ越しに伴う再発行や在留期間の短縮などが含まれている。河野デジタル大臣は、カードの自主返納がリスク軽減につながるわけではないとし、マイナンバー制度の理解を求めている。また、河野氏は、マイナンバーの誤登録問題に関して、デジタル庁が個人情報保護委員会の立ち入り検査を受ける方針であることを認めた。問題は、公的給付金の受取口座に他人のマイナンバーが登録されたことであり、河野氏は「適切に対応する」と述べた。デジタル庁は問題について報告書を提出し、個人情報保護委員会は詳細な把握を目指して検査を行う予定。また、マイナンバーに関するトラブルに対しても行政指導を検討しているという。参考1)マイナカード 先月の本人希望の返納件数 約2万件 デジタル庁(NHK)2)河野デジタル相「適切に対応」 マイナ巡り立ち入り検査(日経新聞)3)河野太郎デジタル相、マイナカード「自主返納せず確認を」(神奈川新聞)

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第167回 首都圏に漂う“コロナ第9波は沖縄県特有”という幻想

非常に嫌な雰囲気だと思う。全国での新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者が増加傾向にある件だ。感染症法上の5類移行により、現在の新型コロナ感染者報告は定点医療機関で行われているのは周知のこと。その数字を参照すると、全国の定点当たりの感染者報告数は、5類移行直後の5月8~14日の2.63人以降はじわじわと増加を続け、最新の6月19~25日では6.13人にまで達している。とりわけ増加傾向が顕著なのは沖縄県。同県の定点当たりの感染者数は、6月19~25日は39.48人で全国平均(6.13人)の6倍以上、すでに第8波のピークを越えたとの指摘もある。一部の民間検査センターでは、検査陽性率が5割に達するとも報じられており、この数字すら氷山の一角に過ぎないことがわかる。これまでのコロナ禍を振り返っても、沖縄県は日本国内でも最も新型コロナが流行しやすい地域の1つだが、その背景には活動性の高い若年人口比率が都道府県別で最も高く、これに対しワクチン接種率は都道府県別で最低などの事情があると思われる。以下は私個人の感覚に過ぎないのだが、コロナ禍の中で沖縄県での感染流行を話題にすると、友人・知人の多くはそれを「沖縄県特有のこと」と捉えがちと感じている。数日前にも友人との会話で今の感染状況が話題になったが、彼は「まあ、沖縄県とは距離があるし、即座に本州には波及しないでしょう」と言ってのけた。確かに前述のような人口構成比などに限らず、これまで抱えてきた歴史や風俗習慣の点でも沖縄県は独特である。これに加え、とくに首都圏在住者からすれば、物理的に離れていることも「沖縄県特有」との言葉で片付けられがちな大きな理由なのだろう。さらに友人は「そもそもたくさんの島が散らばっていて人口規模も小さいからさ」と言っていた。確かにこの友人が言うとおり、沖縄県の人口は約143万人で、都道府県別人口順位では真ん中より下の第25位。ただ、人口密度で見ると、全国第8位となる。ちなみに人口密度第10位までの都府県で、政令指定都市を含まないのは沖縄県だけである。その意味ではこの辺も沖縄県で新型コロナの感染が拡大しやすい要因の1つだろう。そして同じく友人が口にした「距離がある」のもそのとおりだが、今や一般人が「高嶺の花」と思わないコストで足を運べる時代だ。その証拠に沖縄県文化観光スポーツ部 観光政策課が公表している同県年間入域観光客数は、コロナ禍前の2019年度が1,016万3,900人。同県人口の約8倍で、うち7割以上が日本人である。コロナ禍でこの数字は大きく減ったとはいえ、2022年度は677万4,600人まで回復している。2022年度は外国人観光客数があまり回復していないため、このうちの97%が日本人、なおかつ半数弱が東京方面からである。この状況で、容易に時空を超える性質が最大の特徴である感染症が紛れ込めば、どうなるかは少し想像力を働かせればわかることだ。さらに付け加えれば、沖縄県外との行き来は多くが3密空間の代表格と言える航空機である。その意味で、沖縄県での感染流行を対岸の火事と思って眺めている間に、いきなり自分の背後から火の手が上がるというシナリオは、「とりあえず可能性がある」という程度の確率の低いものではないはず。少なくとも私自身、この状況を受けて行動制限まではしていないが、マスクを着用する局面(現在屋外では原則外している)は増やして対応している。

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