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第168回 インフルエンザ感染者、前週比1.48倍に増加、愛媛県で警報発令/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザ感染者、前週比1.48倍に増加、愛媛県で警報発令/厚労省2.2024年度診療報酬改定、人材確保と働き方改革が重点/中医協3.脳死判定者数、累計1,000例を達成、移植待機患者の課題も/JOT4.GLP-1ダイエットの安全性を懸念「禁止すべき」/日本医師会5.2023年度研修医マッチング率、前年度比で0.3ポイント上昇/厚労省6.2021年度の国民医療費、初の45兆円突破、高齢者医療費が6割以上/厚労省1.インフルエンザ感染者、前週比1.48倍に増加、愛媛県で警報発令/厚労省厚生労働省は10月27日、全国の定点医療機関からの報告に基づき、インフルエンザの感染者数が前週比1.48倍の約54万4,000人に増加したと発表した。とくに愛媛県では1医療機関当たりの感染者数が最も多い39.90人となり、「警報」の基準を超えていた。千葉県と埼玉県も警報の基準に迫る感染者数を記録している。全国の教育施設で、休校や学級閉鎖となった施設は合計3751施設にのぼる。2020年の新型コロナウイルスの流行以降、インフルエンザの流行規模は縮小していたが、免疫の低下などの影響で感染が広がっているとみられている。厚労省は、マスクの着用や手洗いなどの基本的な感染対策の徹底を呼びかけている。参考1)インフルエンザの患者数 前週比1.5倍に 増加傾向続く(NHK)2)インフル感染者数、前週比1.48倍 推計54万人 愛媛で「警報」(毎日新聞)2.2024年度診療報酬改定、人材確保と働き方改革が重点/中医協10月に入り、中央社会保険医療協議会(中医協)では、医療従事者の処遇改善を巡る議論が活発化している。物価高に対して賃上げ対応ができないため、医療・介護分野から人材の流出によって、地域医療の存続が危機にさらされている。看護職員に対しては、昨年10月に3%程度(月額平均1万2,000円相当)給与を引き上げる「看護職員処遇改善評価料」を新設したが、薬剤師などは対象外となっていた。一方、厚生労働省は2024年度の診療報酬改定に向けて、人材確保や働き方改革を重点課題として提案。とくに看護師や准看護師の求人倍率が「全職種」を上回る状況が指摘され、地方における医療の確保が重要な課題となっている。参考1)来年度の診療報酬改定 “処遇改善し人材確保など重点” 厚労省(NHK)2)医療従事者の処遇改善の議論始まる、中医協で 人材流出「地域医療の存続に関わる」と日医委員(CB news)3)改定基本方針の重点課題に「人材確保」、厚労省案「他産業の賃上げに追いつかず、状況悪化」(同)4)医療従事者の給与アップ財源を「診療報酬引き上げ」に求めるか、「医療機関内の財源配分」(高給職種→低い給与職種)に求めるか-中医協総会(Gem Med)3.脳死判定者数、累計1,000例を達成、移植待機患者の課題も/JOT日本臓器移植ネットワーク(JOT)は28日、国内の脳死判定が累計1,000例に、臓器移植法施行から26年で達成したと発表した。当初は脳死判定は伸び悩んでいたが、2010年の法改正によって、本人の意思が不明でも家族の承諾で臓器提供が可能になったことが、増加の大きな要因となっている。また、同法改正で15歳未満の子供からの提供も認められるようになった。累計1,000例目は、中国・四国地方の病院に脳出血で入院していた60代男性が、家族の承諾を得て脳死と判定された例である。今年に入り、脳死提供数は過去最多の100件となっている。しかし、欧米諸国との比較では、国内の提供者数は依然として少なく、移植を希望する患者の待機期間が長引く課題が続いている。JOTの公表資料によれば、都道府県別の脳死下の臓器提供件数にはばらつきがあり、提供の意思を積極的に生かす地域が多いと指摘されている。また、移植を希望してJOTに登録している患者数は、9月末時点で約1万5千人以上おり、昨年は待機中の429人が亡くなっている。参考1)脳死判定、累計1,000例に 臓器移植法施行から26年(共同通信)2)脳死臓器提供1,000例目は60代男性…法施行から26年、欧米と比べドナー少なく(読売新聞)3)脳死下の臓器提供、救急医学の専門家「提供の意思を生かせる体制作りを」(同)4.GLP-1ダイエットの安全性を懸念「禁止すべき」/日本医師会日本医師会は10月25日に開いた記者会見で、急増する「GLP-1ダイエット」に関して懸念を明らかにした。近年、糖尿病の治療にGLP-1受容体作動薬が承認され、臨床で用いられるようになったが、食欲抑制の副作用を用いてダイエット療法を行うため、個人輸入を行ったり、自由診療を行う医療機関を受診する患者が増えている。医師会は、臨床試験で示されている一部の副作用、とくに吐き気や下痢などがある上、GLP-1ダイエットの長期的な効果や安全性に関するデータがまだ不十分であることを指摘し、「GLP-1ダイエットを試みる際には、専門家のアドバイスや監督のもとで行うことが非常に重要である」と強調した。さらに、GLP-1ダイエットが一般の人々の間で流行する前に、適切なガイドラインや教育の提供が必要であるとの考えを示した。医師会の声明には、健康や美容目的で新しいダイエット方法を追求する中で、安全性と効果についての十分な情報を持って選択することが重要であり、不適正な処方によって出荷調整するメーカーが出現するなど、糖尿病治療に影響が出ているため、「禁止すべき」と見解を明らかにした。参考1)糖尿病治療薬等の適応外使用について(日本医師会)2)GLP-1ダイエット「禁止すべき」-日医会見で見解(日本医事新報)3)ダイエットのために糖尿病治療薬、日医が懸念「入手困難」な医療機関も(CB news)4)「糖尿病治療薬でダイエット」が横行か 品薄で薬が必要な人に届かない…専門家が「罪深い」と語る理由(東京新聞)5)日医・宮川常任理事 GLP-1ダイエット「処方ではない」 適応外使用で顕在化しない副作用に警鐘(ミクスオンライン)5.2023年度研修医マッチング率、前年度比で0.3ポイント上昇/厚労省厚生労働省は、10月26日に2023年度の研修医マッチングの結果を公表した。全国の研修医受け入れ能力の拡大に伴い、受験者全体の約98.5%が希望する施設とマッチングした。これは前年度に比べて0.3ポイントの上昇で、マッチング率の向上が続いている。とくに注目されるのは、地方都市や過疎地域でのマッチング率の上昇であり、これまでは地方都市や過疎地では研修医の確保が難しく、医師不足が深刻な問題となっていた。しかし、今年度は都市部と地方都市でのマッチング率の差が縮小。過疎地域では、地域医療の充実を目指す取り組みやインセンティブの提供などが奏功したと分析されている。一方、都市部では引き続き高いマッチング率が維持されているが、一部の大学病院や指定都市での競争率が高まる傾向がみられ、研修の質や研修施設の評価、将来のキャリアパスなどが受験者の選択に影響しているとの声もある。マッチング結果を受け、医学教育の関係者や自治体は、今後の研修医制度のさらなる充実や地域医療への取り組みを強化する方針を示している。参考1)令和5年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします(厚労省)2)医師臨床研修マッチングの内定者数が減少 厚労省が23年度の結果を公表(CB news)3)市中病院にマッチした医学生は64.2% マッチング最終結果、フルマッチは21校(日経メディカル)6.2021年度の国民医療費、初の45兆円突破、高齢者医療費が6割以上/厚労省厚生労働省は、2021年度の国民医療費が前年度比4.8%増の45兆359億円となり、初めて45兆円を突破したことを発表した。医療費の増大の要因としては、新型コロナウイルス関連の医療費や、医療技術の進展、高齢化の進行が主な要因とみられる。1人当たりの医療費も前年度比で5.3%増の35万8,800円となり、とくに0~14歳の年齢層での増加が顕著だった。年齢別の医療費では、65歳以上が全体の約60.6%を占めるなど、高齢者の医療費が大きなシェアを占めていた。また、傷病別では、循環器系の疾患の医療費が全体の約19%と最も多かった。20年度は新型コロナウイルスの感染拡大による受診控えや、感染症の流行減少などで医療費が減少したが、21年度には再び増加に転じた。医療費の財源については、保険料が全体の半数、国費などの公費が全体の38%を占めていた。参考1)令和3(2021)年度 国民医療費の概況(厚労省)2)令和3年度の国民医療費は45兆359億円で過去最高(社会保険研究所)3)国民医療費は45兆円超 21年度確定値、コロナ対応で増-厚労省(時事通信)4)国民医療費、21年度4.8%増の45兆円 過去最高を更新(日経新聞)5)国民医療費が初の45兆円超え、1人あたり5.3%増の35万8,800円…21年度(読売新聞)

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関節形成術の感染予防、バンコマイシン追加は有効か/NEJM

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌が確認されていない関節形成術を受ける患者において、セファゾリンによる標準的な周術期抗菌薬予防投与にバンコマイシンを追加しても手術部位感染予防効果は改善しないことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のTrisha N. Peel氏らが、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Australian Surgical Antibiotic Prophylaxis trial:ASAP試験」の結果を報告した。現行ガイドラインでは、関節形成術における感染予防としてセファゾリンや第2世代セファロスポリン系抗菌薬の投与が推奨されているが、MRSAやメチシリン耐性表皮ブドウ球菌の感染は予防できない恐れがある。バンコマイシンの追加で手術部位感染が減少する可能性があるが、有効性および安全性は不明であった。NEJM誌2023年10月19日号掲載の報告。術後90日以内の手術部位感染の発生を評価 研究グループは、関節形成術を受ける18歳以上の患者で、MRSAの感染/コロニー形成が証明されていない、またはその疑いがない患者を、セファゾリンによる標準的な周術期抗菌薬予防投与に加えて、バンコマイシン1.5g(体重50kg未満の患者では1g)を静脈内投与する群(バンコマイシン群)または生理食塩水を投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、術後90日以内のすべての手術部位感染(表層切開創、深部切開創および臓器/体腔感染)の発生。安全性アウトカムは、急性腎障害、抗菌薬に対する過敏反応、180日死亡などであった。 2019年1月15日~2021年10月29日に4,239例が無作為化された(新型コロナウイルス感染症の流行により手術が長期にわたり中断されたため、計画された4,450例の98.0%に当たる4,362例が登録された時点で試験終了となった)。 4,239例中、割り付けられて手術を受けた4,113例(膝関節形成術2,233例、股関節形成術1,850例、肩関節形成術30例)が修正ITT集団に組み入れられた。バンコマイシン上乗せの有効性は認められず、膝関節形成術ではむしろ感染が増加 修正ITT集団4,113例において、手術部位感染はバンコマイシン群で2,044例中91例(4.5%)、プラセボ群で2,069例中72例(3.5%)に発生し、相対リスクは1.28(95%信頼区間[CI]:0.94~1.73、p=0.11)であった。 膝関節形成術における手術部位感染の発生率は、バンコマイシン群5.7%(63/1,109例)、プラセボ群3.7%(42/1,124例)、相対リスクは1.52(95%CI:1.04~2.23)であった。一方、股関節形成術における手術部位感染の発生率はそれぞれ3.0%(28/920例)、3.1%(29/930例)、相対リスクは0.98(95%CI:0.59~1.63)であった。 有害事象は、バンコマイシン群で2,010例中35例(1.7%)、プラセボ群で2,030例中35例(1.7%)に発現した。過敏反応はそれぞれ24例(1.2%)、11例(0.5%)(相対リスク2.20、95%CI:1.08~4.49)、急性腎障害は42例(2.1%)および74例(3.6%)(相対リスク0.57、95%CI:0.39~0.83)に認められた。

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第183回 肺炎球菌ワクチン、接種率向上のため専門家が政府に訴えていること

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するオミクロン株XBB.1.5対応ワクチンの接種が9月20日に開始され、1ヵ月超が経過した。首相官邸のHPで公開されている接種率は、10月17日時点で5.8%、65歳以上の高齢者のみで見ると15.2%。数字だけを見ればあまり高くないが、自治体のサイトでは予約に難渋する。もう90歳近い実家の両親も「11月上旬まで予約が入らなかった」とぼやいていた。その意味では今はそれほど高くない接種率も徐々に上昇してくるだろうと考えられる。一方、この時期からすでにインフルエンザも流行し、こちらのワクチンもなかなか予約が取りづらいという。そして今後のことを考えると、とくに65歳以上の高齢者では小児並みと言えばやや大げさになるが、ワクチン接種スケジュールが複雑になってくる可能性がある。まず、現在の新型コロナワクチンは、定期接種化に向けた議論がすでに始まっているが、高齢者については定期接種になる可能性が高い。また、先日、60歳以上の高齢者を対象としたRSウイルスワクチンが承認されたばかり。これも当然ながら今後は定期接種化が視野に入ってくるはずだ。つまり将来的に高齢者では既存の定期接種であるインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンにこれらも加えた4種類のワクチン接種が将来的に求められることを視野に入れておかねばならない。この中で比較的地味な存在が肺炎球菌ワクチンである。ここでは釈迦に説法だが、肺炎球菌は市中の細菌性肺炎の最大の起炎菌で血清型は約100種類、うち病原性がとりわけ高いのは主に8種類。肺炎球菌に感染すると、肺炎を発症するに留まらず、髄液や血液から肺炎球菌が検出される髄膜炎や菌血症を起こした侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に至れば、死亡リスクが上昇する。IPDは感染症法上5類に分類されているが、全数把握対象となっており、国立感染症研究所感染症疫学センターによる2017年の感染症発生動向の集計では致命率は6.08%。成人(そのほとんどが高齢者)ではこれが19%との報告もある。新型コロナの最新の致命率が60代以下では0.1%未満、最も高い90代以上でも2.60%という現実を考えれば、明らかにIPDはよりタチが悪いとも言うことができるだろう。前述の同センターのデータでは、国内全体の人口10万人当たりのIPD報告数は2.467人だが、5歳未満の小児では9.369人、65歳以上の高齢者では5.341人と、この2つの年齢層で極端に高くなる。このため日本での肺炎球菌ワクチン接種は、2013年4月から生後2ヵ月以上5歳未満の小児(最大接種回数4回)、2014年10月から65歳の高齢者、60~64歳で基礎疾患がある人(接種回数1回)を対象に定期接種がスタートした。このうち65歳超の高齢者については、同年以降、経過措置として毎年70~100歳までの5歳刻みの年齢になる人を定期接種の対象者に加え、現在まで継続している。当初、小児への使用ワクチンは、7種類の血清型に対応した沈降7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7、商品名:プレベナー7)が用いられたが、その7ヵ月後には沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13、商品名:プレベナー13)に切り替わり、高齢者では23種類の血清型に対応した23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(PPSV23、商品名:ニューモバックスNP)が用いられている。このほかには定期接種には用いられていないものの、沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15、商品名:バクニュバンス)がある。ちなみにワクチンマニアを自称する私の場合、任意接種でPCV13を接種済みである。しかし、とりわけ高齢者での接種率は芳しくない。2019~21年の接種率は13.7~15.8%。もっともこの接種率は、分母となる推計対象人口から過去に接種済みの人を除いていないため、実際の接種率よりは低めの数字と言われている。しかし、現実の接種率がこの2倍だとしても、高齢者のインフルエンザワクチン接種率50%超と比べて明らかに見劣りする。さらに付け加えれば、2022年度から接種勧奨が再開されたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、その前年の2021年度の3回目接種の接種率ですら26.2%。つまり肺炎球菌ワクチンの接種率は、HPVワクチン並みに低いのが現状である。実際、定期接種開始時に定められた前述の高齢者向けの経過措置は当初5年間限定の予定だったが、2018年10月の厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会で、低接種率に対する懸念が寄せられ、2019年からさらに経過措置を5年間延長することが決定した。まさに現在の2023年度は延長された経過措置の最終年度に当たるが、それでもなお接種率が十分とは言えない。専門家が考える2つの理由東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授の舘田 一博氏は、低接種率の要因の1つとして接種対象者の仕組みが複雑であることを挙げる。「高齢者を対象にした肺炎球菌ワクチンの定期接種は、公的補助が生涯1回のみにもかかわらず、毎年65歳以上を起点に、70歳、75歳など5歳刻みの人が公費補助対象となるのは一般的には非常にわかりにくい。1回通知が来たくらいでは忘れる人もいるだろうし、それを逃すと次は5年後になると、高齢者では接種機会を事実上失ってしまうことにもなりかねない」この5年刻みという制度は、(1)肺炎球菌ワクチンの抗体価持続期間が5年前後(2)行政上の予算支出の最小化、が理由と言われる。このほかに低接種率の要因と考えられるのが法的位置付けだ。予防接種法で定める定期接種は、集団免疫獲得を念頭に法的な接種努力義務、自治体の勧奨、全額公費負担があるA類疾病、個人的な予防を重視し、接種の努力義務と自治体の勧奨(自治体によって行っている場合もあり)がなく、費用が一部公費補助のB類疾病がある。肺炎球菌ワクチンは後者で公的関与・支援が薄い。B類にはインフルエンザもあるが、こちらの場合は毎年流行する特性ゆえにメディアでの報道も含めて接種の呼びかけがあり、接種者の自己負担額は政令指定都市20都市でみると、おおむね1,500円前後(最低は京都市の75歳以上限定の1,000円、最高は横浜市、川崎市の2,300円)。これに対し、肺炎球菌はインフルエンザほど一般人には知られておらず、接種者の自己負担額も4,500円前後とインフルエンザワクチンの約3倍(最低は横浜市の3,000円、最高は仙台市の5,000円)。その意味で疾患・ワクチンの知名度と経済的負担で不利である。こうしたことを踏まえて日本感染症学会などの23学術団体で構成される予防接種推進専門協議会は2022年9月に厚生労働省健康局長宛に高齢者での肺炎球菌ワクチン接種に関して、努力義務や接種勧奨の要件を再検討するよう要望書を提出している。舘田氏は「これまで5歳刻みの接種対象者で10年実施しても接種率が十分とは言えない現状を鑑みれば、今後、経過措置を延長するとしても65歳以上の任意の時期に1回接種可能など、制度運営に柔軟性を持たせたほうが接種率向上につながりやすいだろう」との見解を示す。これらはいわば一般生活者目線で考えた低接種率の要因だが、医療従事者から見ても接種対象者が5年刻みはやや複雑である。さらに医師側からすると市販の肺炎球菌ワクチンが3種類ありながら、高齢者の定期接種での使用はPPSV23のみという点はわかりやすい反面、これまた柔軟性に欠けるとの指摘もある。たとえば高齢者よりも小児の受診者が多い開業医などではPCV13で在庫を統一できれば効率的だが、現状ではそうはいかない。結果として、これも低接種率に拍車をかけているとの声もある。この使用ワクチンの違いは、PPSV、PCVそれぞれの長所短所に起因している。現状のPPSVはPCVよりも対応血清型が多いが、免疫原性で見ると逆にPPSVよりもPCVのほうが高い。このため免疫細胞が未熟な小児では、PPSVで十分な免疫応答が得られず、PCVが用いられているという事情がある。さらに海外の高齢者向け肺炎球菌ワクチン接種プログラムでは、アメリカやイタリアのように最初にPCV13接種で高い抗体価を獲得後にPPSV23接種で広範囲な血清型に対する抗体を獲得する連続接種が推奨されている事例もある(このうちアメリカは連続接種の代替として日本未承認の20価PCVの接種も推奨)。この点について舘田氏は次のように語る。「PPSV23は対応血清型以外にも使用経験が長く、より安全性が確保されている利点はある。とはいえPCV13やPCV15でもIPDリスクが高い血清型は十分にカバーされ、両ワクチンに共通する血清型に対する抗体価はPCVのほうがやや高く、PCVはPPSVにはない免疫記憶効果もある。ただし、一部の国のように両者の連続接種を行えば、接種体制が複雑になる。これらを考慮すれば、高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種では、まずは接種率の上昇を目標に、3種類のどれかを接種すれば良いとする運用のほうが妥当ではないか」冒頭で触れたように、今後、高齢者で使用できるワクチンの種類の増加は必至の情勢だ。前述したようにRSウイルスワクチンだけではなく、昨今は新たに使えるようになった帯状疱疹ワクチンに対する啓蒙も盛んに行われ、接種希望者に独自の助成をしている自治体もある。さらに新型コロナワクチンで利用されたメッセンジャーRNA技術の実用化で、これを利用した新たなワクチンの開発競争も激化してくる。舘田氏は「(製薬企業の)ビジネスの観点に単純に流されるのではなく、公衆衛生と公的予算の枠内でのコストパフォーマンスを念頭に、より厳密にどのワクチンが必要かつ優先されるか、という位置付けを国、学会、企業が真剣に考える時期が到来している」と語っている。その意味では、こと肺炎球菌ワクチンに関しては、行政上のコストパフォーマンスに基づく現状の接種体制が接種率向上の最大の阻害要因と言えるかもしれない。

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新型コロナによる多臓器不全のメカニズム、iPS細胞由来オルガノイドで解明/阪大ほか

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染によって起きる特徴的な症状の1つとして全身の血管で血栓が形成され、多臓器不全につながることは知られていたが、そのメカニズムについては明らかではなかった。大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(WPI-PRIMe)の武部 貴則氏ほか、東京医科歯科大学、タケダ-CiRA共同研究プログラム(T-CiRA)、滋賀医科大学、名古屋大学の共同研究グループは、ヒトiPS細胞由来の血管オルガノイド※1を作成し、それを用いたin vitroおよびin vivo実験で、補体代替経路※2と呼ばれる分子経路群が血管炎や血栓の原因となりうることを発見した。さらに、補体代替経路を増幅するD因子に着目し、D因子を阻害する半減期延長型抗D因子抗体を用いることで、SARS-CoV-2感染モデルの血管炎症状の軽減に成功した。本研究結果は、Cell Stem Cell誌2023年10月5日号に掲載された。 COVID-19が重症化すると、免疫細胞や血小板が活性化し血栓の形成が促進され、サイトカインストームを引き起こす。研究グループは、SARS-CoV-2感染による血管炎、血栓形成が生じる過程の詳しいメカニズムを解明するため、SARS-CoV-2感染によって生じる血管炎に類似した症状を再現することが可能なヒトiPS細胞由来血管オルガノイドモデルを開発することに成功した。それを用いてin vitroおよびin vivoで実験を行った。 主な結果は以下のとおり。・オルガノイドを用いたin vitro感染実験による網羅的遺伝子発現解析や、重症患者の血液検体の網羅的タンパク質発現解析データなどから、補体代替経路が血管炎の症状が強い人でとくに上昇していることを認めた。・オルガノイドを事前に移植し、ヒトのSARS-CoV-2感染状態を模倣する血管を再構成した動物を用いて、補体代替経路を薬理学的に阻害することで、血管炎・血栓形成の症状を緩和できることを発見した。・上記の結果から、補体代替経路を阻害する薬剤があれば、血管炎の治療につながる可能性があると仮説を立て、補体代替経路の構成成分でもあるD因子に着目し、網内系に移行した抗体がリサイクルされる仕掛けを施した半減期延長型抗D因子抗体を用いて効果を評価した。・サルのSARS-CoV-2感染モデル試験を用いて、抗D因子抗体が血管炎に重要な経路を阻害することで、補体の活性化を抑制し、免疫反応を弱め、血管保護効果を示すことを実証した。 本研究では、SARS-CoV-2感染によって生じる血管炎の症状を再現するヒト血管オルガノイドによって再現した、新しい疾患モデルが確立された。これにより、SARS-CoV-2をはじめ血管に病変が出るさまざまなウイルスによる感染症の研究への有効活用が期待される。また、COVID-19重症患者データと感染症モデルを組み合わせることにより、補体代替経路を起点とする血管炎のメカニズムを解明した。本成果により、補体代替経路を指標とした診断技術の構築や、血管炎・血栓形成を予防する新たな治療薬の開発につながることが期待される。※1 オルガノイドとは、幹細胞の自己組織化能力を活用して創出される、臓器あるいは組織の特徴を有する立体組織のこと。※2 補体は、抗体が異物を捉えた後に、抗体の働きを補う役割をする。補体の活性化の経路にはいくつかあり、補体代替経路は抗体がまだ作られていない場合の緊急の経路と考えられている。

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EGFR変異陽性NSCLCに対するオシメルチニブへのラムシルマブ上乗せは有用か?(OSIRAM-1)/ESMO2023

 第1世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)とVEGF阻害薬ラムシルマブの併用はEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に有用であることが報告されているが、第3世代EGFR-TKIとの併用の有用性は明らかになっていない。そこで、第3世代EGFR-TKIのオシメルチニブとVEGF阻害薬ラムシルマブの併用療法の有用性を評価するOSIRAM-1試験が実施された。本試験の結果を北里大学病院/神奈川県立がんセンターの中原 善朗氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で発表した。試験デザイン:国内第II相無作為化比較試験対象:未治療のEGFR遺伝子変異(exon19欠失変異、L858R変異)を有する進行NSCLC患者122例(症候性の脳転移を有する患者は除外)試験群:オシメルチニブ(80mg、1日1回)+ラムシルマブ(10mg/kg、隔週)を病勢進行または許容できない毒性の発現まで(併用群:59例)対照群:オシメルチニブ(同上)を病勢進行または許容できない毒性の発現まで(単独群:63例)層別化因子:性別、EGFR遺伝子変異の種類評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づくPFS[副次評価項目]奏効率、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2018年11月~2020年4月に122例の患者が組み入れられ、追跡期間中央値は36.0ヵ月であった。・BICRに基づくPFS中央値は併用群20.0ヵ月、単独群24.0ヵ月であり、有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:1.054、95%信頼区間[CI]:0.674~1.648、p=0.82)。・BICRに基づくPFSのサブグループ解析(post-hoc解析)において、75歳以上(HR:0.688、95%CI:0.250~1.895)、L858R変異(同:0.821、0.388~1.740)、脳転移あり(同:0.655、0.296~1.451)の集団で併用群が良好な傾向を示した。・併用群の治療期間中央値は、オシメルチニブが571日であったのに対し、ラムシルマブは140日であった。・Grade3以上の主な有害事象(いずれかの群で10%以上)は、CK上昇(併用群:1.7%、単独群:12.9%)、好中球数減少(それぞれ10.2%、3.2%)、高血圧(それぞれ16.9%、1.6%)であった。・血小板数減少(併用群:55.9%、単独群27.4%)、好中球数減少(それぞれ30.5%、25.8%)が併用群に多く認められ、ラムシルマブの治療中止に至った(血小板数減少による中止:14例、好中球数減少による中止:11例)。 本結果について、中原氏は「本試験において、オシメルチニブへのラムシルマブ上乗せの効果は認められなかったが、脳転移を有する患者においてPFSが改善する傾向がみられた。本試験ではラムシルマブ投与期間が想定よりかなり短く、併用療法による血小板数減少・好中球数減少に加え、新型コロナウイルス感染症のパンデミック期と重なったことで、隔週の来院が求められる併用群のラムシルマブ投与に悪影響が及んだ可能性がある」とまとめた。

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抗インフル薬、国内で最も処方頻度が高いのは?/NCGM国府台病院

 国立国際医療研究センター(NCGM)国府台病院総合内科の酒匂 赤人氏らの研究グループと国立国際医療研究センター病院は共同でわが国の全国規模のインフルエンザ診療の実態を調べ、その結果を報告した。 研究報告によると2017年度の抗インフルエンザ薬処方人数は1,339万例で、薬剤費は480億円。2018年度では処方患者数の約38%を20歳未満が占め、5~9歳では4例に1例が処方された計算だった。PLoS One誌2023年10月4日号の報告。世界的には特有な日本の抗インフルエンザ薬の処方実態 わが国には抗インフルエンザ薬としてザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、ペラミビル、バロキサビルなどが承認・使用されている。世界的にはインフルエンザ迅速検査で陽性となった場合、若年で持病などがなければ治療薬の処方はされないが、わが国では抗インフルエンザ薬がこうした若く持病のない患者にも処方されている。これはわが国特有の状況とされるが、全国的な抗インフルエンザ薬の処方実態に関するデータは不足している。そこでリアルワールドデータを解析することで、わが国の抗インフルエンザ薬の使用状況を明らかにすることを目的に研究が行われた(アマンタジン、ファビピラビルは本研究では対象外)。 方法としてわが国の個々の患者の性別、年齢、受けた検査、処方、手術などのデータが含まれるレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database:NDB)を解析し、2014~20年度のNDBオープンデータを用いて記述疫学研究を実施した。その際、抗インフルエンザ薬を処方された年間患者数、処方された薬剤、患者の年齢・性別分布、薬剤費、地域格差を推定した。 主な結果は以下のとおり。・2014~19年に抗インフルエンザ薬が処方された患者数は年間670~1,340万例。・薬剤費は年間223~480億円と推定される。・インフルエンザ迅速抗原検査は2,110〜3,200万件実施され、その費用は301〜471億円だった。・2017年に最も処方頻度の多かった抗インフルエンザ薬はラニナミビル(48%)、オセルタミビル(36%)の順だった。・2018年は新たに登場したバロキサビルが40.8%を占めた。・新型コロナウイルス感染症の流行後、2020年に抗インフルエンザ薬を処方された推定患者数はわずか1万4,000例にまで減少した。・2018年、抗インフルエンザ薬が処方された37.6%が20歳未満の患者であったのに対し、65歳以上の患者は12.2%であった。・入院患者への抗インフルエンザ薬の処方は1.1%で、年齢が高くなるにつれて割合が増加し、入院中に抗インフルエンザ薬が処方されるのは女性よりも男性のほうが多かった。 今回の研究結果を踏まえ、酒匂氏らのグループは「わが国におけるインフルエンザの臨床管理の実態を明らかにしたうえで、今後は抗インフルエンザ薬を積極的に処方することについて臨床的・経済的側面を評価する必要がある」と展望を述べている。

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年齢別、コロナ後遺症の発生頻度

“コロナ後遺症(罹患後症状)”どのくらいの頻度で報告されている?[年齢別]6.0%およそ新型コロナウイルス感染後、3ヵ月以上続く何らかの症状があった人の割合20人に1人5.0%4.7%およそ30人に1人3.8%4.0%およそ40人に1人およそ45人に1人3.0%2.7%2.3%2.0%およそ125人に1人およそ1.0%500人に1人およそ330人に1人0.2%0.3%0~5歳6~11歳0.8%0.0%12~17歳18~34歳35~49歳50~64歳65歳以上出典:CDC「Update: Epidemiologic Characteristics of Long COVID」2023 Sep 12.米国の「2022 National Health Interview Survey」データよりCopyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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医師が不足を痛感している医薬品は?緊急アンケート結果/日本医師会

 医薬品不足が止まらない。厚生労働省は9月29日に『鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼』の事務連絡を出し、各医療機関、薬局および医薬品卸売販売業者に対して現況の周知を依頼する事態が起きている。医療ジャーナリストの村上 和巳氏もこの医薬品不足が処方医においても他人事ではないことを訴え、CareNet.comの連載『第182回:鎮咳薬・去痰薬不足、医師が知っておきたい“患者対応Q&A”』で取り上げて、昨今の医薬品不足の背景や今後の見込みなど、患者が処方医に尋ねそうな質問と模範回答を10項目列挙している。そのくらい、今の医薬品不足が薬剤師や医薬品卸売販売業者による努力だけでは立ち行かず、処方医の協力が必要な問題にまで発展しているのである。 そこで、日本医師会もこの異例の状況に動き出し、現状不足している医薬品や流通偏在などを把握し、国や対象業界団体に対して改善要望などを働き掛けるため、8月9日~9月30日の期間に『医薬品供給不足 緊急アンケート』を実施。その結果報告を10月6日の記者会見で説明した。本アンケートの対象者は日本医師会員および地域医師会員で、医療機関6,773施設(9月30日時点)から回答が得られた。入手困難な医薬品の有無については、院内処方を行っている医療機関の90.2%が「入手困難である」と回答し、全国で医薬品が困窮していることが明らかになった。 入手困難と挙がった上位10品は以下の通り。―――1.メジコン錠15mg2.トルリシティ皮下注0.75mgアテオス3.オーグメンチン配合錠250RS4.PL配合顆粒5.フスコデ配合錠6.アストミン錠10mg7.アスベリン錠208.ムコダイン錠250mg9.トランサミン錠250mg10.カロナール錠200――― この結果を受け日本医師会は、「上位を去痰薬や鎮咳薬が占め、入手困難な理由は需要増による限定出荷が原因、この傾向は先発品のみならず後発品・長期収載品においても同様の傾向」と分析した。また、本アンケートで院内処方において「入手困難」として回答のあった2,096品目のうち、日本製薬団体連合会の調査で各医薬品製造企業が「通常出荷」として回答していたのは670品目であった点について、“通常出荷”の定義が非常にあいまいであることを批判している。宮川 政昭氏(日本医師会 常任理事)は「新型コロナウイルス感染症や新型インフルエンザなどの感染症が同時流行した場合、医薬品の需要が非常に高まる。一方で、在庫の余剰生産は難しくなることは明らかであり、医薬品業界は世情や医薬品の在庫状況などを踏まえたうえで対策を立てるべき」とコメントした。 このほか、医薬品卸売販売業者に発注した医薬品の納入状況については、「発注しても納品されない」状況にあると49.7%が回答し、院外薬局からの医薬品在庫不足に関する連絡の有無に関しては、「疑義照会なども含めた医薬品不足の連絡があった」と回答した割合は74.0%であった。 今後も不足する医薬品の流通改善の目途は立たず、さらに限定出荷の品目が増加する可能性もあるため、宮川氏は「企業の出荷情報だけではなく、医療現場の供給情報についても定期的に調査する必要がある」としている。

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第167回 インフルエンザの早期流行、全国の患者数が急増、早期対応を/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザの早期流行、全国の患者数が急増、早期対応を/厚労省2.利用が低迷する「マイナ保険証」救急医療と生活保護での活用拡大を/政府3.がん治療と仕事の両立、半数以上が困難感/内閣府4.医療・介護連携、主治医もサービス担当者会議に参加を/中医協5.乳幼児健診の公費支援拡大、5歳児と新生児スクリーニングが焦点に/政府6.県立総合病院、患者検体の取り違えで前立腺摘出の医療ミス/静岡県1.インフルエンザの早期流行、全国の患者数が急増、早期対応を/厚労省厚生労働省および国立感染症研究所によると、第41週のインフルエンザ患者報告数が全国平均で1医療機関当たり11.07人となり、注意報基準の10人を超えた。この数字は過去10年で最も早い時期に注意報基準を超えたもので、とくに沖縄、千葉、埼玉などの都道府県で患者数が急増している。感染症専門家は、例年12月以降にこの水準に達することが多いため、今年の流行が異例であると指摘。とりわけ若い世代での感染が多いことから、高齢者での患者数も増加する可能性が高いとの見解を示している。一方、都内のクリニックではインフルエンザの患者が急増し、予防接種の予約が殺到している。特定のクリニックでは、3人に1人以上の患者がインフルエンザに感染しているとの報告もある。この急増を受けて、ワクチンの予防接種が例年よりも早く開始され、多くの市民が接種を受けている。高齢者施設では、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、インフルエンザの流行に対する警戒を強めている。施設内での感染対策は徹底されており、家族の面会制限や職員の定期的な抗原検査などが実施されている。施設関係者は、ワクチン接種を前倒しで行い、予防策を徹底するとともに、感染が確認された場合の迅速な対応を強調している。参考1)インフルエンザの発生状況について(厚労省)2)インフルエンザ患者報告数、全国で注意報レベルに 厚労省が第41週の発生状況を公表(CB news)3)インフルエンザ患者 1医療機関当たり11.07人 注意報基準超える(NHK)2.利用が低迷する「マイナ保険証」救急医療と生活保護での活用拡大を/政府政府はマイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」の活用を拡大する方針を固めている。2024年10月には、救急患者が意識不明の際、その医療情報を同意なしで閲覧・活用することができるようになる。また、2024年3月からは、生活保護受給者の「医療扶助」にもマイナカードが活用される予定で、従来の医療券から切り替えられる。マイナ保険証の利用はまだ低迷しており、誤登録トラブルも相次いで発覚している。とくに他人情報の誤登録やマイナトラブルが影響して、実際の利用率は4.7%に止まっている。政府はこれらの問題を解決し、マイナ保険証を全国民に浸透させるための取り組みを続けているが、多くの課題が残されている。参考1)救急時、同意なく情報閲覧の方針 マイナ保険証で政府、24年にも(共同通信)2)来春からマイナカードで受診把握 生活保護受給者に(同)3.がん治療と仕事の両立、半数以上が困難感/内閣府がん治療と社会生活の両立が困難であると感じる人は、国内で半数以上に上ることが、内閣府の最新の世論調査で明らかになった。とくに治療を受けながら働くのは難しいと考える人が53.5%、また、仮にがんになった場合、治療や検査のために2週間に1度は病院に通う必要がある状況で、働き続けられる環境だと感じていない人は54%に達していた。両立が困難と感じる主な理由として、体力的な問題が28.4%と最も高く、次いで代わりの人材の不足や職場の理解の不足が挙げられた。また、がんの緩和ケアについての意識も調査され、治療開始時からの緩和ケアの必要性を感じる人は49.7%に止まり、2007年の調査開始以降初めて半数を切った。緩和ケアは、がん患者の心身の痛みをやわらげるためのもので、診断時からの提供や周知が国のがん対策の指針とされている。これらの結果を受け、厚労省は引き続き治療と仕事の両立や緩和ケアの提供体制の整備、およびその周知を進めるとの意向を示している。参考1)「がん対策に関する世論調査」の概要(内閣府)2)がん治療と両立困難53%、検診率も低下 内閣府調査(日経新聞)3)「がん治療と仕事の両立は困難」と感じている人は半数以上に(NHK)4.医療・介護連携、主治医もサービス担当者会議に参加を/中医協厚生労働省は、10月20日に開かれた中央社会保険医療協議会の総会で、医師と介護支援専門員(ケアマネジャー)の連携を強化するために、「介護保険のサービス担当者会議へ医師の出席」の義務化を提案した。ケアマネジャーや介護保険の利用者は、サービス担当者会議へ主治医の参加を強く希望しているが、実際の主治医の会議参加率は、地域包括診療料の取得施設で54.0%、取得していない施設では33.9%に止まっている。厚労省は、より的確で質の高い診療機能を評価するために設けられた「機能強化加算」の加算要件に、サービス担当者会議への参加を条件とする提案をしていたが、これに対しては、多様な「意味のある連携」の形があるため、特定の形式に固執することは適切でないとの意見も出されていた。今後、来春の改定に向けて、真の医療・介護連携を実現するために、具体的な施策や取り組みが今後議論される見込み。参考1)個別事項(その3)医療・介護・障害福祉サービスの連携(中医協)2)サービス担当者会議「医師の参加」を必須要件に 「かかりつけ医機能」の報酬、支払側委員(CB news)3)「意味のある医療・介護連携」が重要、「サービス担当者会議への出席」などを機能強化加算等の要件に据えるべきか-中医協総会(1)(Gem Med)5.乳幼児健診の公費支援拡大、5歳児と新生児スクリーニングが焦点に/政府政府は、乳幼児健診における5歳児の健診を公費支援の対象とする方向で検討を進めている。これまで1歳半と3歳児の健診は公費で実施されており、5歳児健診の公費支援導入は、3歳までにみつからなかった発達障害の早期発見を目的としている。また、患者家族の会からは、新生児スクリーニングにSMA(脊髄性筋萎縮症)を対象疾患に追加する要望が提出された。この検査は生後4日頃の新生児の血液を調べるもので、自治体ごとに実施状況に差があるため、全国一律に公費で実施するよう求められている。政府はこれらの健診・スクリーニングの公費支援拡大を通じて、乳幼児期の健康管理の強化を目指している。参考1)「全国一律、全額公費を」 新生児スクリーニング検査の拡大を要望(朝日新聞)2)乳幼児健診、5歳児も公費支援対象に 経済対策に明記へ(日経新聞)6.県立総合病院、患者検体の取り違えで前立腺摘出の医療ミス/静岡県静岡市葵区の静岡県立総合病院で7月に発生した医療ミスが明らかにされた。同病院は、前立腺がんの疑いで行われた検査の際、2人の患者の検体を取り違えてしまい、悪性腫瘍がなかった60代の男性の前立腺を誤って全摘出。一方、悪性腫瘍を持つ80代の男性の治療開始が5ヵ月遅れる結果となった。このミスは、4月に2人の患者が同じ手術室で連続して行われた生体検査(生検)の際に発生。60代の男性は、誤ったデータに基づいて手術を受け、後の病理検査で摘出組織が良性であることが判明。DNA鑑定により、80代の男性との検体取り違えが確認された。60代の男性は手術後に尿漏れなどの症状が出現し、現在も病院での健康管理が続いている。一方、80代の男性は、ホルモン療法を受けている状態。同院は、2人の患者および家族に対して謝罪。再発防止策として、連続での生検を行う場合は患者ごとに部屋を分ける措置や患者のリストバンドと検体容器のバーコード照合などの新しいマニュアルを導入することを明らかにした。参考1)静岡県立総合病院において発生した医療事故について(静岡県)2)県立病院で患者取り違え 前立腺摘出する医療ミス(NHK)3)患者検体取り違え 良性の前立腺摘出 静岡県立総合病院で医療ミス(静岡新聞)

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第182回 鎮咳薬・去痰薬不足、医師が知っておきたい“患者対応Q&A”

前々回の本連載で取り上げた鎮咳薬・去痰薬の不足について、厚生労働省が対策に乗り出したことで、メディア各社も盛んに報じている。それに伴い私のところにもメディア各社、さらには友人・知人からまでこの問題について問い合わせが増えている。しかし、中には疲れるような質問も。そこで今回は彼らからの問い合わせに対する私の回答を公開する。「本当にこんなこと言っているの?」という部分もあるかもしれないが、多少の文言の違いはあってもほぼ同様のことを言っている。調剤薬局では、咳止め薬や去痰薬など、とくにかぜ薬が不足していると伝えられています。「患者が増えているから」以外に不足する要因はあるものでしょうか?まず大前提として、現在、これまで咳止め薬や去痰薬を製造していた製薬企業の一部で、こうした薬の供給が停止しています。原因は供給を停止した複数の製薬企業の工場で製造不正が発覚し、その改善対策に追われているからです。にもかかわらず、現在はこうした薬が必要になる患者が増えています。主な原因はインフルエンザの季節外れの流行が続いていたからです。一方でコロナ禍の影響もあると思われます。新型コロナの登場以降、皆さんは風邪のような症状があったら、「まさかコロナ? いやインフルエンザ? それともただの風邪?」と不安になりませんか? その結果、近くの医療機関に行ったりしてませんか? この結果、今まで以上に風邪様症状の患者さんの受診が増えています。そして、コロナ、インフル、風邪のいずれかだとしても「今の症状を治す薬が欲しい」と思ったり、医師に言ったりしますよね? もちろん医療機関の医師も患者の症状を少しでも良くしたいと思い、咳止め薬や去痰薬を処方します。その結果、元々足りない薬の需要がさらに増加するという悪循環に入ってしまいました。現在不足している薬、今後不足しそうな薬のなかで、欠品や出荷調整による患者への影響が最も深刻な薬は何でしょうか?どれが最も深刻かは一言では言えません。ですが、皆さんが抗生物質と呼ぶ抗菌薬や高血圧症、コレステロールが高くなる脂質異常症、糖尿病など比較的ありふれた病気の治療薬の一部も現在供給停止となっています。今後はどのような薬の供給が深刻になるかは、とても予想ができません。これを予想するのは星占い以上にあてになりません。とくにジェネリック医薬品(GE)で数千品目もの供給不安定が起き、それが長期化していると聞きます。なぜでしょうか?現在、日本は世界でほぼ最速と言えるほど少子高齢化が進行しています。高齢になれば必然的に身体機能が衰え、公的な医療や介護が必要になります。その結果、社会保障費が増大し、国の財政を圧迫しつつあります。国はその解決策として、新薬の特許失効後に登場する同一成分で安価なGEの使用促進策を次々と打ち出しました。その結果、現在ではGEのある医薬品成分では、流通量の8割がGEに置き換わりました。しかし、このGEを製造する複数の企業で、2020年末以降、相次いで製造にかかわる不正が発覚しました。これらの企業では業務停止などの行政処分を受けた会社も複数存在します。行政処分を受けた会社は現在改善に向けてさまざまな取り組みを行っています。概してこうした取り組み改善があっても、工場が正常化するには2~3年はかかります。そのため供給不安が続いています。一部の工場が停止しているならば、ほかのGE企業などで増産に取り組めば解決するのではないですか?まず新薬を中心とする製薬企業が抱えている品目は、多くとも数十品目です。ただし、工場では1つの製造ラインで特定の1品目を年中製造していることがほとんどです。これに対し、GE企業は1社で数百品目、日本トップクラスのGE企業は800~900品目を全国にある5~6ヵ所の工場で製造しています。結局、GE企業では1つの製造ラインで何十品目も製造しています。あるGE企業の工場では1つの製造ラインを1週間に6回も切り替えて異なる薬を製造しています。この6回の切り替えで、製造する薬が季節によって異なることもあります。ざっくりした表現をすると、GE企業の製造体制はもともとが自転車操業のようなもので、余力が少ないのです。しかも、直近で行政処分などを受けていないGE企業の工場は、少ない余力分もフル稼働させている状態です。この状況で増産しろと言うのは、過重業務で平均睡眠時間3時間の人にさらに睡眠時間を削って働けというようなものです。現代ではこれを「パワハラ」と言います。GE企業が工場を新設し、製造ラインも1ライン1品目にすることは無理ですか?理論的には可能かもしれませんが、現実には不可能です。まず、日本のGE企業はトップクラスですら、毎年の純利益は100億円超です。ところが最新鋭の工場建設には200~300億円はかかります。そうそう簡単に工場建設はできません。しかも、工場建設はそれだけで数年、完成後フル稼働に至るまでには最大5年はかかると言われています。また、800~900品目をすべて1ライン1品目で製造するのはナンセンスです。GE企業各社がその体制にするならば、日本の国土の何%かがGE企業の工場で占められることにもなりかねません。その結果、最悪は地価高騰など国民生活に悪影響が及ぶかもしれません。薬局間、あるいは医薬品卸の間で、“薬の争奪戦”が起きているとの噂を聞きましたこのような状況になってから製薬企業から卸企業、卸企業から薬局・医療機関の各取引では、過去数ヵ月の取引実績に応じて納入量が決まるようになっています。また、製薬企業はすべての医薬品卸と取引しているわけではなく、慣行的に取引卸を絞り込んでいます。このため卸同士ではあまり激しい争奪戦はないと見て良いでしょう。一方、医薬品卸から購入する薬局同士では、それなりに争奪戦があると言えます。ただ、それは一般で考えるような血で血を争うようなものではありません。今お話ししたように、納入量は直近の取引実績が基準になるからです。このため過去約3年の薬不足を経験した薬局側では、医薬品卸に薬を発注する際にいつもよりやや早めに、やや多めの量を発注しがちになっています。そしてこの医薬品卸と薬局との取引では、大手薬局チェーンのほうが中小薬局よりも有利です。皆さんも、もしモノを売っている立場ならば毎回大量に買ってくれるお客さんを優遇しますよね? これと当たり前の原理が働いています。ただし、大手薬局チェーンでは薬があふれかえり、中小薬局では棚が空っぽというイメージを抱くなら、それは違います。現在は全国的に不足している状況です。製薬企業、医薬品卸の現場の方々が、今、最も苦労していることとは何でしょうか?四方八方から「何とかしてくれ」と言われることです。GE企業の人については、前述したとおりで工場のフル稼働が続いています。ある種大変なのは医薬品卸の皆さんです。彼らは自分の会社で薬を製造しているわけではないので、「ない袖は振れぬ」です。ある日の業務が、医療機関や薬局に発注を受けた薬を納入できないことを伝える「未納案内書」のFAX送信だけで終わったということもあるようです。医薬品卸の若い社員の中には、この状況に疲れて退職する人も増えていると聞きます。薬局のほうがより大変とも耳にしますその通りです。たぶんこの問題の初期から最前線に立たされ、患者や医療機関から「何とかしてほしい」と言われ続けてきたのが薬局の薬剤師です。この問題が始まった当初は医師や患者も“なぜいつもの薬がないのか”が理解できず、薬局の薬剤師が説明しても「?」という感じの反応をされたという愚痴をたくさん聞かされました。昨今はこの咳止め薬や去痰薬の問題が報じられているので、理解は進んでいるようです。しかし、それでもまだこの問題に対する温度差はあるようです。たとえば、ある薬剤師は医師から来た処方箋に記載されたある薬の在庫がないため、電話をして同じ効き目の別の薬に代えてもらったそうなのですが、その翌日から1ヵ月もの間、同じ医師から6回もこの薬が記載された処方箋が発行され、その度に電話をしなければならなかったそうです。また、別の薬剤師も同様に処方箋に記載された薬の在庫がないため、処方元の医師に変更をお願いしたところ、「そんなことこっちには関係ない!」と怒鳴られ、電話を切られたそうです。今冬のインフル流行期、薬不足の問題は好転しているでしょうか?より深刻化しているでしょうか?不足する薬が安定的に供給されるようになるのはいつ頃でしょうか?まず、1番目の質問に回答すると、「わかりませんが、より深刻化している可能性は大いにあります」。2番目の質問には「わかりません」としかお答えのしようがありません。これ以外で何かポジティブな回答を明言する人がいたら、ぜひそのご尊顔を拝したいものです。今現在の咳止め薬や去痰薬不足に対して一般人ができる防御策はありますか?何よりも皆さんがなるべく病気にならないよう体調管理に努め、インフルエンザや新型コロナのワクチンはできるだけ接種しておくことが望ましいです。とくに風邪様症状の場合は今まで以上に受診すべきか否かを真剣に考えるべきです。私の周囲の医師は、より具体的に「20~30代で基礎疾患もない人は風邪様症状でも受診は控え、自宅で静養することが望ましいでしょう。そのためには、自宅に新型コロナの抗原検査キットと解熱薬を予め購入して備蓄しておくこと」と言っています。ちなみに新型コロナの抗原検査キットは、感染直後では本当は感染していても陰性となることがしばしばあります。最低でも3回分用意して、3日連続で検査しましょう。ちなみに私事で言うと5日分を常に備蓄し、出張時も持ち歩いています。この結果が陽性・陰性のいずれでも1週間程度、外出は控えてください。この間は友達とお茶をしに行く、飲み会に行くなどもってのほかです。もちろん基礎疾患がある人や高齢者、自宅で静養して4日ほど経過しても症状が改善しない人は受診をお勧めします。ただ、その場合は発熱患者などを診察してくれるかどうか、行こうとしている医療機関に事前に電話で確認しましょう。「確かに自分は若いし、基礎疾患もないけど、咳止め薬や去痰薬は病院でもらうほうが安いし」という人。そう言うあなたは今の薬不足の原因を作っている1人です。このような感じだが、皆さんならどうお答えしますか?

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第185回 ヘモグロビンの血液外での働きが判明~軟骨細胞が生き延びるのに必要

ヘモグロビンの血液外での働きが判明~軟骨細胞が生き延びるのに必要酸素を携えたタンパク質ヘモグロビンが大量に巡って血液を赤く染めています。血流のヘモグロビンは赤血球の中にあって酸素を遠方まで運ぶ役割を担うことがよく知られていますが、赤血球以外あるいは血流の外でのヘモグロビンの働きはよくわかっていませんでした。しかしついにヘモグロビンの赤血球以外での働きの1つが中国の研究者などによって突き止められました。軟骨を作る細胞である軟骨細胞が低酸素への対応として自前でヘモグロビンを作り、酸素が少ない環境で生きるための仕組みの一端を担うことがその研究で示されました1)。先立つ研究でドーパミン放出神経細胞、肺胞上皮細胞、免疫細胞(マクロファージ)、網膜色素上皮細胞などの赤血球以外のいくつかの細胞でのヘモグロビンの発現がすでに確認されています。しかしそれらの細胞でのヘモグロビンの役割の確かな裏付けは得られていませんでした。若いマウスの骨の発育の研究をしていた中国の病理学者Feng Zhang氏はその成長板(growth plate)に見慣れない軟骨細胞の塊があることを発見します。2017年のことです2)。それらの細胞は赤血球によく似た形をしていただけでなく、ヘモグロビンも豊富に携えていました。赤血球によく似たそれらの謎めいた細胞の一団は成長板で何をしているのか? Zhang氏は細胞生物学者Qiang Sun氏らと協力してその答え探しに乗り出します。骨を伸ばす原動力である成長板は酸素が乏しく、血液も届きません。にもかかわらず成長板の軟骨細胞は忙しく分裂しており、酸素が少なくてもやっていける何らかの仕組みを備えているようなのです。その仕組みにヘモグロビンが寄与しているかもしれないとチームは想定し、機能するヘモグロビンが枯渇したマウスを観察しました。すると成長板で大量の軟骨細胞が息絶えていました。続いて軟骨細胞に限ってヘモグロビンを枯らしたところやはり成長板の軟骨細胞が多く死にました。ヘモグロビンは酸素が乏しくても軟骨細胞が生きていけるようにする仕組みの一端をどうやら担うようです。それを裏付ける研究として、ヘモグロビンを欠く軟骨細胞は酸素が乏しいと大量に死に、ヘモグロビンを正常に備える軟骨細胞は酸素を放出してより生き延びるという結果が得られています。興味深いことにヘモグロビンは軟骨細胞内でサラダドレッシングの油滴のような相分離の様相を呈する膜のない凝集体(condensate)を形成していました。ヘモグロビンの端を少し切ってみる実験の結果によるとヘモグロビンの凝集体は行き当たりばったりではなく筋書きに沿って形成されるようです。ヘモグロビンの凝集はどうやら軟骨細胞に限ったことではなさそうであり、網膜色素上皮や緑内障の細胞では粒状のヘモグロビンの分布が確認されています。一定の条件でヘモグロビンは凝集体を形成するという考えをそれらの観察結果は示しています。細胞がヘモグロビン凝集体をどう扱っているかは今後調べる必要がありますが、不足しがちな酸素を周囲から吸収して小さくまとめてより多く貯蔵する働きがあるのかもしれません2)。酸素を盛んに消費するかあるいは血管が通っていなくて酸素が乏しい組織の細胞の長期の需要に応じてヘモグロビンに蓄えられた酸素が使われるのではないかとZhang氏らは示唆しています1)。若さ同様に成長板は短命です。人の成長板は生まれる前に作られ、思春期ごろに消滅します。しかし軟骨細胞は体のあちこちで生涯にわたって存続します。関節はその1つで、軟骨細胞はそこで軟骨組織を維持する役割を果たしています。実際、ヒトの膝関節軟骨組織の観察でヘモグロビン保有構造が検出されています。軟骨のような成長板以外の場所でもヘモグロビンが低酸素下での細胞生存に貢献しているかどうかはわかっておらず、今後調べる必要があります。また、低身長症などの骨の発達に支障を来す病態の数々に軟骨細胞でのヘモグロビン不足が寄与しているかもしれません。今回の成果をきっかけにしてさまざまな研究が始まるだろうとテキサス大学の歯や骨の研究者・小野 法明(Noriaki Ono)氏はScience誌に話しています2)。参考1)Zhang F, et al. Nature. 2023 Oct 04. [Epub ahead of print]2)More than red blood cells depend on hemoglobin, surprising study of cartilage reveals / Science

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感染対策の体温報告や出張制限は「不当な扱い」と捉えられがち

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に職場で実施された対策の中で、毎日の体温測定の結果報告や出張制限などは、労働者から「不当な扱い」と捉えられがちだったことが分かった。産業医科大学第2内科の塚原慧太氏、同大学環境疫学研究室の藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Occupational and Environmental Medicine」に7月7日掲載された。著者らは、「パンデミックが長期化して職場では対策疲れが生じている。Withコロナとなった今、労働者にあまり負担をかけずに持続可能な感染対策を策定する必要があり、本研究の結果を生かせるのではないか」と語っている。 この研究は、同大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」の一環として実施された。CORoNaWork研究はインターネットアンケートによる全国規模の前向きコホート研究で、ベースラインデータは2020年12月の国内第3波の時期に取得されている。今回の研究では、その1年後に当たる2021年12月の第6波で行われた追跡調査のデータが解析された。アンケートの内容は、毎日の体温測定結果の報告、出張の制限、リモートワークの推奨など9項目の対策について、「勤務先で実施しているか?」、および、「感染対策の目的で、職場で不当な扱いを受けたことがあるか?」などの質問項目で構成されていた。 解析対象者数は1万8,170人(平均年齢48.5±9.8歳、男性57.2%)で、56.4%が既婚であり、職種はデスクワーク中心が51.4%と最多であって、対人応対中心が24.5%、身体労働中心が24.1%。年収は500万円未満が38.5%、500~700万円未満21.3%、700~900万円未満17.2%、900万円以上が23.0%。勤務先の従業員数は10人未満が23.6%、10~50人未満が16.3%、50~1,000人未満が34.9%、1,000人以上が25.2%。教育歴は専門学校・短大・大学卒以上が72.9%、高校卒が25.8%、中学卒が1.3%。 職場で行われていた感染対策の実施率は、高いものから順に、「マスク着用」77.1%、「体調不良時の出勤自粛」73.5%、「接待などの制限」69.6%、「毎日の体温測定結果の報告」61.8%、「パーテーション設置、机の配置の変更などの環境整備」56.9%、「対面での面談の制限」53.3%、「出張の制限」52.9%、「訪問の制限」44.3%、「リモートワークの推奨」29.3%。 「職場で不当な扱いを受けた」と回答したのは、全体の1.5%に当たる276人だった。そのように回答した労働者の勤務先の感染対策実施率は、上記9項目全て、全体平均より高値だった。 次に、9項目の感染対策それぞれについて、それを実施していない職場の労働者を基準とし、対策を実施している職場の労働者が「不当な扱いを受けた」と回答するオッズ比(OR)を検討。交絡因子(年齢、性別、職種、勤務先の従業員数、収入、教育歴、婚姻状況)を調整後、毎日の体温測定結果の報告〔OR1.43(95%信頼区間1.02~2.02)〕や、訪問の制限〔OR1.43(同1.02~2.01)〕という対策の実施は、有意なオッズ比上昇と関連していた。また、出張の制限はわずかに非有意ながら、オッズ比は1.45(同0.99~2.10)と高かった。 一方、接待などの制限〔OR0.52(0.35~0.79)〕と、体調不良時の出勤自粛〔OR0.62(0.42~0.90)〕は、オッズ比の有意な低下と関連していた。そのほかの対策は有意な関連がなかった。 以上より著者らは、「職場での感染対策の中には、労働者の負担を増やすものと減らすものがある。この知見は、感染症拡大リスクが存在する状況において、労働者が心身ともに健康な状態で働く環境を整備するために有用と考えられる」と述べている。なお、毎日の体温測定が不当な扱いと捉えられやすいことの理由として、「勤務時間外で自宅にいる時に、しかも多忙な朝に勤務先の指示に従い体温を測定して、その結果を報告しなければいけないことが、ストレスとなりやすいのではないか」との考察が加えられている。

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第166回 医師の過重労働、年間残業時間960時間超過は依然2割/厚労省

<先週の動き>1.医師の過重労働、年間残業時間960時間超過は依然2割/厚労省2.ジェネリック薬の供給不安解消へ、企業の貢献度評価を提案/厚労省3.コロナ補助金を除くと公立病院の経営状況、19年度より大幅な悪化/全自病4.医療広告は規制強化へ、違反事例の解説書の新版リリース/厚労省5.医療用大麻解禁へ、不正使用には7年以下の懲役/厚労省6.国立がん研究センターの不正謝礼問題、元医長は再逮捕、病院は対策を強化1.医師の過重労働、年間残業時間960時間超過は依然2割/厚労省厚生労働省は10月12日に「医師の働き方改革の推進に関する検討会」を開き、医師の勤務実態調査の結果を公表した。来年度から本格化する医師の働き方改革では、時間外や休日労働の上限が年間960時間となるが、調査の結果、年間960時間を超える医師は4年前より減少したものの、依然として2割に上ることが判明した。医師の労働時間短縮計画の評価申し込みに関しては、医療機関からの受審申し込みが9日時点で471件に上り、約3割の評価が終了している。参考1)第18回医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料(厚労省)2)令和5年版 過労死等防止対策白書(同)3)医師の時間外労働 年間960時間超が2割 去年の勤務実態調査(NHK)4)過労死白書“労働時間が長くなるほど うつ病などの割合増加”(同)2.ジェネリック薬の供給不安解消へ、企業の貢献度評価を提案/厚労省厚生労働省は、2023年10月11日に開催した「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」で、後発医薬品(ジェネリック薬)の安定供給に関する中間報告を公表した。この報告では、各製薬企業の供給体制を可視化するための仕組み作りが強調され、後発薬の供給状況や、安定供給への貢献に関する情報の公開を企業に求めている。具体的には、企業が自社製品の出荷状況や停止・回収事例、緊急時の対応としての生産能力などの情報を公開することが提案されている。さらに、少量多品種生産という後発薬産業の構造的課題を解消するための対策として、製造ラインの増設手続きの簡素化や不要な製品の整理、新規参入を抑制する方針も盛り込まれている。一連の取り組みは、2020年以降、後発薬の供給が不安定になっている現状を受けて進められており、有識者検討会では、企業の貢献度を評価し、その結果を薬価制度などに反映させる方針を明らかにした。参考1)後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会 中間取りまとめ(厚労省)2)後発薬「企業の供給力、評価を」 厚労省検討会(日経新聞)3)ジェネリック医薬品の供給不足解消へ…多数メーカーの「少量多種」生産を集約、厚労省会議が対策案(読売新聞)4)後発薬の安定供給、企業の貢献度を評価へ めりはり付けも、厚労省検討会が中間まとめ(CB news)3.コロナ補助金を除くと公立病院の経営状況、19年度より大幅な悪化/全自病国による新型コロナウイルスに対応する医療機関への支援が見直しの影響が懸念される中、全国自治体病院協議会は、記者会見で新型コロナウイルスの流行前の2019年度と比較して、公立病院の収支状況が悪化していることを明らかした。全自病が、今年7月19日~9月1日に行ったアンケート調査によると、2019年度と比較して、重点・協力医療機関や病床割り当て病院以外の公立病院の収支状況が悪化していた。その一方で、コロナ関連の補助金を支給された重点医療機関の収支状況は補助金により一時的に改善されているものの、補助金を除くと悪化することが判明した。2022年度の医業損益は、3,079億円の赤字で、19年度の2,005億円の赤字を上回っていた。10月以降に行われる「病床確保料」の上限をほぼ2割減らし、重症や中等症IIの患者に支給対象を限定するなどの補助金の大幅な減額や打ち切りが与える影響を危惧する声が高まっている。参考1)10月以降のコロナ対応に懸念表明、全自病会長 病床確保料や診療報酬の特例縮小で(CB news)2)重点・協力医療機関以外の公立病院の収支状況悪化 全自病調査、コロナ補助金打ち切りの影響を危惧(同)4.医療広告は規制強化へ、違反事例の解説書の新版リリース/厚労省厚生労働省は、不適切な医療ウェブ広告に対処するため、10月に「医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(第3版)」を公開した。新たな解説書には、規制の内容や、実際に問題とされる事例がイラスト付きで紹介されている。厚労省は、2017年に医療に関する広告規制の見直しを行い、ウェブ上の情報提供も規制の対象とした。厚労省は、この解説書を通じて、どのような広告が不適切で、どのように改善すれば良いかを示している。国民生活センターは、広告をきっかけに高額な美容医療サービスに関する相談件数が年々増加しているとして、注意を呼びかけている。参考1)医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書[第3版](厚労省)2)ウェブ上の医療広告、違反事例の解説書を公開 厚労省(womAn‘s LABO)3)「どういった医療WEB広告が不適切で、どう改善すれば良いか」を詳説した解説書をさらに改善・充実-厚労省(Gem Med)4)「今やらなければ」不安あおる美容医療契約の相談増 注意を(NHK)5.医療用大麻解禁へ、不正使用には7年以下の懲役/厚労省10月11日に開かれた自民党厚生労働部会で、厚生労働省は大麻草由来の成分を使用した医薬品の使用を可能とする大麻取締法の改正法案を提示し、了承された。今月20日に臨時国会に法案は提出される予定。今回の法改正により、これまでわが国で禁止されていた大麻草由来の医薬品の使用が解禁されることになる。 欧米では、抗てんかん薬などとしての価値が高まる中で、その使用が認められてきた。政府は乱用の防止策として、大麻取締法の範疇に「テトラヒドロカンナビノール(THC)」など依存性のある成分を位置付け、不正使用・所持に対する罰則として「7年以下の懲役」が設けられることとなった。一方、医薬品以外の目的での大麻草栽培には免許が必要となり、2種類の免許が設けられる見通し。さらに、一部のCBD製品には微量のTHCが含まれるため、残留限度値が設定される予定。参考1)医療用大麻の解禁、改正法案提出へ 大麻使用罪は7年以下の懲役(朝日新聞)2)大麻取締法、改正案を了承 自民、医薬品の使用可能に(東京新聞)3)自民・厚労部会「医療用大麻」使用可能とする法案を部会で了承(TBS NEWS)6.国立がん研究センターの不正謝礼問題、元医長は再逮捕、病院は対策を強化国立がん研究センター東病院の医療機器選定を巡る汚職事件で、元医長が贈賄側との「市販後調査」報告書に関連する不正な契約の疑いで再逮捕された。同医師は、医療機器メーカー「ゼオンメディカル」からの謝礼として約150万円を受け取っていたとされる。調査報告書には多数の誤記載があり、実際の症例や施術内容と異なる記載が確認された。同センターでは、機器の選定や使用に関して、現場の幹部が大きな権限を持っており、外部の専門家によるチェックの強化が求められている。同センターは、医療機器選定のプロセスに問題があったとしており、今後の対策として、業者との直接の連絡を禁止するなどの措置を取ることを公表した。参考1)「今にして思えば不自然」だった…再逮捕された国立がん研元医長が贈賄側と交わした「契約」(東京新聞)2)調査報告書に多数の誤記載 別の収賄容疑で元医長再逮捕-がん研究センター汚職・警視庁(時事通信)3)がんセンター汚職、医療メーカーが製品調査代行…「みなしPMS」で元医長に謝礼支払いか(読売新聞)

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第181回 「3た論法」と思しきエンシトレルビルの最新データ

ちょうど約1ヵ月前、薬剤師の祭典とでも言うべき日本薬剤師会学術大会が和歌山市で開催された。私は毎年、同大会に参加しており、顔見知りの薬剤師も多い。今回、そうした薬剤師に会うたびに、私は半ばあいさつ代わりにあることを尋ねていた。「〇〇って処方出てる?」その質問をすると、クールな表情のまま「ああ、そこそこに出てますよ」と言う人もいれば、ある人はニヤリとしながら「まあ出ていることは出ていますね」と答えてくれた。〇〇とは何か? ずばり国産の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬であるエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)のことである。新型コロナのパンデミックで登場した治療薬は、ほとんどが外資系製薬企業からの導入品だが、これだけは薬機法改正で創設された緊急承認制度の第1号の国産治療薬として2022年11月に承認された。あれから間もなく1年が経つので、現場の実感を聞きたいというのが、このことを片っ端から尋ねた意図だった。「それならば医師に聞けばいいだろう」という声も聞こえてきそうだが、私の周囲の医師では、感染症の非専門医を含め、まったくと言って良いほど処方事例を聞かない。ご存じのように緊急承認時のデータは有効性がクリアに証明されたとは言えず、医師の間で評価が二分し、私の周りにはたまたま懐疑的な医師が多い。しかし、一説ではエンシトレルビルは新型コロナ経口薬の市場シェアで過半数を超えるとも伝わる。だからこそ、このギャップが何なのかを知りたかった。エンシトレルビルも含め、新型コロナの経口薬は外来処方が中心となるので、この辺の事情を薬局薬剤師に聞くのはあながち間違いではないだろうと考えたのだ結局、尋ねた薬剤師の答えを総合すると、そこそこ以上に処方はされていることはわかった。そしてこの質問を一番目に尋ねた薬剤師が重要な“ヒント”をくれた。「出ていることは出ているんですが、だいたい特定の医師の処方箋に集中してますね。ああ、もちろん感染症の専門医とかではなく、いわゆる一般内科医ですよ」彼にこの話を聞いてからは、「出てますよ」と答えた薬剤師には「処方元はどんな医師?」と尋ねるようにしたところ、ほぼ全員が処方元は特定の医師に集中しがちと答えてくれた。良いか悪いかは別にして、どうやら私はある種“偏った”環境にいるようだ(「それはあなたが偏っているから」との声も聞こえてきそうだが…)。そして私は無理を承知で、薬剤師の目から見た「処方感」、要は効果のほども尋ねてみた。この質問には「うーん、効いてるんですかね?」「よくわからないです」「目先の評価として3た論法(使った、治った、効いた)で言えば効いたことになるでしょうかね」と、何ともはっきりしない。関西地方のある薬剤師は、「そもそもこの薬を処方された患者さんは若い人が中心で、中には初めてお薬手帳を作ったという人もいるくらい。しかも、5日分の飲み切り終了ですから、処方された患者さんが再来することはないので、効いているかどうか確認のしようがないですよ」と話してくれた。まあ、ごもっとも。これは薬剤師だけでなく処方した医師も同じではないだろうか?そうした中で臨床実感ではないが、関東圏のある薬剤師が話してくれた事例は興味深かった。彼が話してくれたのは、在宅の認知症高齢者へのエンシトレルビルの処方事例。最初に聞いたときは「え?」となった。新型コロナは「高齢」が重症化の最大のリスクファクター。このため経口薬では、重症化予防効果のエビデンスがあり、適応上も重症化リスクがある人向けのモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)のいずれかが優先されるはずだ。このうちエビデンス上、重症化予防効果の数字上が高いのはニルマトレルビル/リトナビルのほうだが、併用禁忌薬が多いため使えないケースが少なくないことは良く知られている。しかし、この併用禁忌薬の多さは同じ作用機序であるエンシトレルビルも同じこと。ということは、この薬剤師が話してくれたケースは、ニルマトレルビル/リトナビルも処方できるはずで、医学的にもそのほうが妥当だと思われる。そう問うと、彼は「単純ですよ。分1(1日1回)なので、高齢者ではそのほうがアドヒアランスを確保しやすいですから。とくにこのケースは認知症ですからね」との答え。エビデンスを単純に当てはめられないという意味で、これは妙に納得がいった。もっとも、結果として知りたかった臨床実感は何ともぼんやりしたものしかないまま終わってしまった。そして後日、実際の専門医にも話を聞く機会があったが、そこでも実際の処方は数例で効果を判断できるレベルではないと告げられ、今も「詰んだ」状態である。ちょうど同じころ、塩野義製薬が重症化リスク因子のある患者での治療選択肢になりうる可能性があるとのデータをプレスリリースした。これは重症化リスク因子がある軽~中等症の新型コロナ入院患者で3日間以上レムデシビルを投与し、十分な抗ウイルス効果が確認されなかった21人(平均年齢78.0歳、ワクチン接種率76.2%)に対し、エンシトレビルの5 日間投与を行ったというもの。この結果、エンシトレルビル投与終了翌日までに66.7%の患者でウイルスクリアランス(鼻腔内抗原量

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有病率の高い欧州で小児1型糖尿病発症とコロナ感染の関連を調査(解説:栗原宏氏)

特徴・新規に出現したウイルスと自己抗体の関連を示した・追跡期間が長く、感染と自己抗体の発現の前後関係を区分できている・SARS-CoV-2抗体以外に、その他の呼吸器感染代表としてインフルエンザ抗体も調査・インフルエンザは著減しており、SARS-CoV-2の影響がメインと考えられる限界・対象は遺伝的ハイリスク群。かなり特殊で結果が一般化しづらい・日本国内での発症率は調査地域である欧州よりも格段に低い・因果関係が逆である可能性:自己抗体が発現する子供がコロナに感染しやすい? 本研究で対象となっている小児1型糖尿病は、発症率に人種差があり白人に非常に多い。欧州全般に発症者は多く、とくに多い北欧諸国、カナダ、イタリアのサルディニアでは年間約30/10万人と日本(1.4~2.2/10万人)に比して10倍以上の違いがある。1歳ごろに膵島細胞への自己抗体が発生するピークがあり、10年以内に臨床的な糖尿病を発症する。自己抗体の発生原因は不明ながら、呼吸器系ウイルス感染が関与している可能性があるとされている。 本研究はPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータが使用されている。2018年2月~2021年3月のCOVID-19拡大前からパンデミック期にかけて、欧州5ヵ国の複数施設で、遺伝的に1型糖尿病リスクが高い乳児(4~7ヵ月)1,050人を対象として、SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体の発現の時間的関係を明らかにするために実施されたコホート研究である。このうち、実際に対象となったのは885人である。 本研究は、SARS-CoV-2という新規に出現した疾患と自己抗体の出現との関連を自己抗体発現の可能性が高い乳児を対象として調査した点が特徴である。性別、年齢、国に調整後のSARS-CoV-2抗体陽性例における膵島自己抗体陽性のハザード比は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、P=0.002)となっており、遺伝子的ハイリスク群ではSARS-CoV-2感染はリスク因子であることが示されたことは意義が大きいと思われる。 SARS-CoV-2抗体出現後に自己抗体が発現する割合が有意に高いことが示された。一方、他のウイルス感染評価目的に実施されたインフルエンザA(H1N1)抗体では自己抗体発現はなかった。少なくともこの対象群においては、呼吸器系ウイルス全般で自己抗体が出現するわけではないことが示唆された。 自己抗体の出現がすぐさま臨床的1型糖尿病発症を意味するわけではない点には留意が必要である。SARS-CoV-2感染と膵島自己抗体出現には関連があるが、感染後の短期間での急激な糖尿病発症率の増加には影響しない可能性が高い。将来的な1型糖尿病発症率については当該地域でフォローが必要である。 前述のとおり、小児1型糖尿病は遺伝子的な問題で人種差が大きい。本研究はその中でもさらに遺伝子的なハイリスク群を対象としており、その結果は広く一般化できるものではない。日本国内では比較的まれな疾患であり、SARS-CoV-2感染の影響は非常に小さいと推測されるが、否定しうるものでもない。今後の本邦での小児1型糖尿病の発症率の推移をみていく必要がある。

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第66回 10ヵ月流行し続けるインフルエンザ

新型コロナは収まりつつあるが…Unsplashより使用インフルエンザの陽性が増えてきましたよね。「新型コロナかなと思って測定したらインフル陽性」というパターンがまたまたやってきました。新型コロナの定点医療機関当たりの感染者数は全国平均で8人台になっていますので、ひとまず足元の波は越えたかなと思われます1)。さて、現在、昨シーズンから一度も途切れることなくインフルエンザの流行期が続いています(図)2)。「10ヵ月連続流行期」というのは、1999年以降、初めてのことなので、現場としてはもう戸惑うしかありません。一体何が起こっているのか。図. インフルエンザの定点医療機関当たりの報告数(全国)推移(参考2を基に筆者作成)インフルエンザが流行する理由昨シーズンのインフルエンザが春まで継続して流行していたことから、現在発熱者に対しては両方の検査を行っている医療機関が多いかと思います。当院は、同じ検体を使って新型コロナは抗原定量検査、インフルエンザは抗原定性で検査していますが、病院によってはマルチプレックスPCR検査や、同時抗原検査キットなどを適用しているところもあるかもしれません。そのため、検査自体が行われやすいため、見かけの陽性者数が多い可能性があります。とはいえ、例年と比べると流行曲線の立ち上がりが早く、間違いなくインフルエンザの陽性者が増えてきているのは現場でも実感されるところです。多い年では、定点医療機関当たり50~60人というのがインフルエンザの恒例でしたから、定点医療機関当たり10人台だった昨シーズンの波は、ウイルス側としては不完全燃焼だったでしょう。ずっと私たちは感染対策を続けてきたため、「5類感染症」に移行してから、どのウイルス感染症もこれまでの常識が歪められつつあります。いつか落ち着くでしょうが、しばらく流行曲線が乱高下する時代と向き合うのかもしれません。参考文献・参考サイト1)内閣官房:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて2)厚生労働省:インフルエンザの発生状況

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鎮咳薬や去痰薬がひっ迫、国が節度ある処方・在庫確保を求める【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第119回

医薬品の流通不安や在庫不足がこんなに長く大変なものになるとは思ってもみませんでした。とくに鎮咳薬や去痰薬の品薄状態は顕著で、もう薬局の努力だけではどうにもならない状態まできています。その流通問題に関して、厚生労働省が9月29日に通知を発出しました。内容としては、鎮咳薬や去痰薬が安定的に供給されるまでの間、以下3点を各所にお願いする内容になっています。1.鎮咳薬(咳止め)・去痰薬については、初期からの長期での処方を控えていただき、医師が必要と判断した患者へ最小日数での処方に努めていただきたいこと。また、その際に残薬の有効活用についても併せて御検討いただきたいこと。2.薬局におかれては、処方された鎮咳薬(咳止め)・去痰薬について、自らの店舗だけでは供給が困難な場合であっても、系列店舗や地域における連携により可能な限り調整をしていただきたいこと。3.鎮咳薬(咳止め)・去痰薬について、必要な患者に広く行き渡るよう、過剰な発注は控えていただき、当面の必要量に見合う量のみの購入をお願いしたいこと。医師や薬剤師などに対して、過剰な処方や在庫確保、発注は控えるようにという通知です。この通知で節度ある処方や在庫確保となり、この混乱が少しでも落ち着けばよいのですが、そんなに甘くもないだろうなとも思います。今回の通知の前提として、「新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの感染症の拡大に伴い鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の需要が増加しており、製造販売業者からの限定出荷が生じている」と記されています。また、その具体的な数字も出されていて、「主要な鎮咳薬(咳止め)の供給量については、新型コロナウイルス感染症の流行以前の約85%まで生産量が低下しており、また主要な去痰薬の供給量については、新型コロナウイルス感染症の流行以前と同程度ではあるものの、メーカー在庫が減少している状況」とあります。え? ちょっと待って、と思いませんか? 今回のお願いの前提となっている「生産量がコロナ禍の前より減少している」という点に少し驚きました。需要が増えているから不足しているとばかり思っていましたが、生産量自体が減っているというのはちょっと意外です。今回の医薬品の流通問題は、先発医薬品も後発医薬品も含む薬価制度などの医薬産業の構造の問題である可能性もあります。その場合、今回の通知で節度ある行動がとられたとしてもその生産量は増えないと思われ、薬価の変更や薬価制度の見直しなどの抜本的な対応がとられない限り、残念ながらこの供給不足は解決しないだろうと想像します。また一方で、後発医薬品については、後発品調剤体制加算や後発品使用体制加算などに関する臨時的な取り扱いを延長するという通知「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が発出されました。実績要件である後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に算出対象から除外しても差し支えない、とするものです。今回の延長は前回と同様ですが、後発医薬品の供給停止や出荷調整が続いており、代替の後発品の入手が困難な状況となっていることを踏まえたものであるとされています。この後発医薬品の供給停止や出荷調整が始まって2年以上が経過し、この通知の延長は今回で3回目です。10月1日以降に除外対象となる医薬品は、2023年6月1日時点で医政局医薬産業振興・医療情報企画課に供給停止に関する報告があった85成分980品目で、今回示した供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品を除外しても差し支えないとしています。また、これまでと同様に、一部の成分の品目のみの除外は認められないこと、1ヵ月ごとに適用できること、加算などの施設基準を直近3ヵ月の新指標の割合の平均を用いる場合は当該3ヵ月にこの取り扱いを行う月と行わない月が混在しても差し支えない、などの注意点がありますので注意が必要です。加算算出方法の臨時的な取り扱いの延長などは助かりますが、やはり一番に望むことは適切な量の医薬品が安定的に流通することです。医薬品の流通問題については各所で議論されていますが、抜本的かつ効果的な対策が早急にとられることを切に願います。

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コロナ罹患後症状の患者、ワクチン接種で症状軽減か?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種は、COVID-19の重篤化を予防する。しかし、コロナ罹患後症状を有する患者に対するコロナワクチン接種が罹患後症状や免疫応答、ウイルスの残存に及ぼす影響は不明である。そこで、カナダ・Montreal Clinical Research InstituteのMaryam Nayyerabadi氏らの研究グループは、コロナ罹患後症状を有する患者を対象にコロナワクチンの効果を検討し、コロナワクチンは炎症性サイトカイン/ケモカインを減少させ、コロナ罹患後症状を軽減したことを明らかにした。本研究結果は、International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2023年9月15日号に掲載された。ワクチン接種はコロナ後遺症を軽減させる可能性 研究グループは、コロナ罹患後症状(世界保健機関[WHO]の定義※に基づく)を有する患者83例を対象とした前向きコホート研究を実施した。対象患者のコロナワクチン接種前後の罹患後症状数、罹患後症状を有する臓器数、心理的幸福度(WHO-5精神健康状態表[WHO-5]に基づく)を評価した。また、全身性炎症のバイオマーカーや血漿中のサイトカイン/ケモカイン量、血漿中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗原量、SARS-CoV-2由来のタンパク質に対する抗体量なども評価した。本記事では、組み入れ時にコロナワクチン未接種であった39例を対象に、ワクチン接種前後に評価した縦断的解析の結果を示す。※新型コロナウイルスに罹患した人にみられ、少なくとも2ヵ月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないもの。 コロナ罹患後症状を有する患者を対象にワクチンの効果を検討した主な結果は以下のとおり。・ワクチン接種前後のコロナ罹患後症状数(平均値±標準偏差[SD])は、ワクチン接種前が6.56±3.1であったのに対し、ワクチン接種後は3.92±4.02であり、有意に減少した(p<0.001)。また、罹患後症状を有する臓器数(平均値±SD)はワクチン接種前が3.19±1.04であったのに対し、ワクチン接種後は1.89±1.12であり、こちらも有意に減少した(p<0.001)。・WHO-5スコア(平均値±SD)は、ワクチン接種前が42.67±22.76であったのに対し、ワクチン接種後は56.15±22.83であり、心理的幸福度が有意に改善した(p<0.001)。・コロナワクチン接種後において、16種類のサイトカイン/ケモカイン量がワクチン接種前と比較して有意に減少した。・ワクチン接種前において、血漿中からSARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質とヌクレオカプシド(N)タンパク質がそれぞれ17.9%(7/39例)、38.5%(15/39例)に検出されたが、ワクチン接種前後において、血漿中濃度に有意な変化はみられなかった。・ワクチン接種前において、Sタンパク質、Nタンパク質、Sタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に対するIgG抗体およびIgM抗体が検出された。ワクチン接種後において、Nタンパク質に対する血中のIgG抗体、IgM抗体の濃度が有意に減少したが、Sタンパク質、RBDに対する血中のIgG抗体の濃度は有意に増加した。 本研究結果について、著者らは「コロナ罹患後症状を有する患者は、コロナ罹患後症状に関連する炎症反応が亢進していることが示され、コロナワクチン接種は炎症反応を低下させることによってコロナ罹患後症状を軽減させる可能性が示された。また、コロナ罹患後症状を有する患者には、ワクチン接種とは関係なくウイルス産物が検出される患者が存在し、炎症の持続に関与している可能性がある」とまとめた。

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モデルナのインフル・コロナ混合ワクチン、第I/II相で良好な結果

 米国・Moderna社は10月4日付のプレスリリースにて、同社で開発中のインフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する混合ワクチン「mRNA-1083」が、第I/II相臨床試験において良好な中間結果が得られたことを発表した。同ワクチンは、インフルエンザおよびCOVID-19に対して強い免疫原性を示し、反応原性および安全性プロファイルは、すでに認可されている単独ワクチンと比較して許容範囲内であった。本結果を受けて、mRNA-1083は第III相試験に進むことを決定した。 第I/II相臨床試験「NCT05827926試験」は観察者盲検無作為化試験で、混合ワクチンmRNA-1083と、50~64歳への標準用量のインフルエンザワクチン(Fluarix)、および65~79歳への強化インフルエンザワクチン(Fluzone HD)とを比較し、安全性と免疫原性を評価した。また両年齢層において、mRNA-1083と、2価の追加接種用COVID-19ワクチン(Spikevax)とも比較して評価した。 主な結果は以下のとおり。・mRNA-1083は、4価インフルエンザワクチンと同等以上の赤血球凝集抑制抗体価が認められた。50~64歳へのmRNA-1083はFluarixと比較して、インフルエンザウイルスA型およびB型の全4株について、幾何平均力価(GMT)比が1.0以上だった。65~79歳へのmRNA-1083もFluzone HDと比較して、GMT比が1.0以上だった。・mRNA-1083は、Spikevax 2価ワクチンと同等のSARS-CoV-2中和抗体価が認められた。Spikevaxに対するmRNA-1083のGMT比は、50~64歳で0.9以上、65~79歳で1.0以上だった。・mRNA-1083投与後に報告された局所および全身性の副反応は、COVID-19単独ワクチン投与群と同程度だった。副反応の大部分は重症度がGrade1/2であった。・Grade3の局所/全身反応は、50歳以上の参加者の4%未満で報告された。・mRNA-1083については、単独ワクチンと比較して安全性に関する新たな懸念は確認されなかった。 同社は、2023年にmRNA-1083の第III相試験を開始する予定であり、2025年に本混合ワクチンの承認を目標としている。

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医療従事者、職種ごとの自殺リスク/JAMA

 米国の非医療従事者と比較した医療従事者の自殺のリスクについて、正看護師、医療技術者、ヘルスケア支援従事者の同リスクが高いことを、米国・コロンビア大学のMark Olfson氏らがコホート研究の結果で報告した。歴史的に医師の自殺リスクは高かったが、この数十年で減少した可能性が指摘されていた。一方で、他の医療従事者の自殺リスクに関する情報は、依然として不足していた。今回の結果を踏まえて著者は、「米国の医療従事者のメンタルヘルスを守るため、新たな計画への取り組みが必要である」とまとめている。JAMA誌2023年9月26日号掲載の報告。26歳以上の184万2,000人について解析 研究グループは、2008年の米国コミュニティ調査(American Community Survey:ACS)を国民死亡記録(National Death Index:NDI)に連携させた米国コミュニティ間の死亡率格差(Mortality Disparities in American Communities:MDAC)データを用い、26歳以上の雇用されているACS参加者184万2,000人を同定し解析した。調査期間は、2019年12月31日まで。 主要アウトカムは、年齢および性別で標準化した自殺率で、6つの医療従事者グループ(医師、正看護師、その他の医療診断または治療従事者、医療技術者、ヘルスケア支援従事者、社会/行動ヘルスワーカー)および非医療従事者について推定した。Cox比例ハザードモデルを用い、年齢、性別、人種/民族、配偶者の有無、教育、居住地(都市部または地方)で調整後、非医療従事者に対する医療従事者の自殺に関するハザード比(HR)を算出した。ヘルスケア支援従事者、正看護師、医療技術者で自殺のリスクが上昇 10万人(年齢中央値44歳[四分位範囲[IQR]:35~53]、女性32.4%[医師]~91.1%[正看護師])当たりの年間標準化自殺率は、ヘルスケア支援従事者21.4(95%信頼区間[CI]:15.4~27.4)、正看護師16.0(9.4~22.6)、医療技術者15.6(10.9~20.4)、医師13.1(7.9~18.2)、社会/行動ヘルスワーカー10.1(6.0~14.3)、その他の医療診断または治療従事者7.6(3.7~11.5)、非医療従事者12.6(12.1~13.1)であった。 非医療従事者に対する自殺の調整後HR(aHR)は、医療従事者全体が1.32(95%CI:1.13~1.54)、ヘルスケア支援従事者が1.81(1.35~2.42)、正看護師が1.64(1.21~2.23)、および医療技術者が1.39(1.02~1.89)で増加したが、医師は1.11(0.71~1.72)、社会/行動ヘルスワーカーは1.14(0.75~1.72)、その他の医療診断または治療従事者は0.61(0.36~1.03)で増加しなかった。 なお、著者は研究の限界として、死亡率のデータは2019年に終了しており新型コロナウイルス感染症時代の自殺リスクを反映していないこと、ICD-10の臨床修正コードに基づく死亡データは自殺死を正確に分類していない可能性があること、個々の調査の回答の正確性を検証する手段がないこと、ACSは雇用前の自殺未遂や精神障害など重要な自殺のリスク因子を調べていないこと、などを挙げている。

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