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ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン、流行中の各変異株に有効

 2023年9月に欧米諸国や日本で承認となったファイザーのオミクロン株XBB.1.5対応新型コロナワクチン(BNT162b2 XBB.1.5)の効果を検証するため、ドイツ・Hannover Medical SchoolのMetodi V Stankov氏らの研究チームは、本ワクチン30μgを接種した医療従事者53人について、接種から8~10日後の免疫応答を解析した。その結果、すべての接種者において抗スパイクIgG抗体が大幅に増加し、現在流行しているSARS-CoV-2の各系統に対する強力な中和反応が誘発されたことが示された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年11月20日号掲載の報告。 本調査では、対象者の65人の医療従事者のうち、2023年9月にファイザーのオミクロン株XBB.1.5対応ワクチンを接種した53人について免疫応答をモニタリングし、接種から8~10日後を解析した。65人中43人(66%)が過去に4回以上のワクチン接種を受けており、19人(29%)がBA.4/5対応2価ワクチンの接種を受けていた。53人(82%)がSARS-CoV-2感染を経験していた。擬似ウイルス中和試験にて、SARS-CoV-2の8系統(起源株、B.1、BA.5、XBB.1.5、XBB.1.16、EG.5.1、XBB.2.3、BA.2.86)に対する中和反応を解析した。 主な結果は以下のとおり。・XBB.1.5対応ワクチンの接種により、起源株へのIgG抗体は2~9倍、オミクロン株BA.1へのIgG抗体は3~6倍に有意に増加した(p<0.001)。・XBB.1.5対応ワクチン接種後、受容体結合ドメインに結合するメモリーB細胞の総割合は、有意に増加した(平均頻度0.88%、p<0.0001)。全体として42.3%の増加がみられ、うち90.4%は交差反応性メモリーB細胞の増加によるものであった。・XBB.1.5対応ワクチン接種前の中和反応率は、B.1で100%、BA.5で91%、XBB.1.5で55%、EG.5.1で43%、BA.2.86で77%であった。・XBB.1.5対応ワクチン接種後、B.1の中和反応率は100%のままだったが、そのほかすべての変異株で中和反応率が増加した。とくに、XBB.1.5で44倍、XBB.1.16で32倍、EG.5.1で34倍、XBB.2.3で48倍、BA.2.86で17倍の増加を示した。・XBB.1.5対応ワクチン接種前、IFN-γ陽性CD4T細胞およびCD8T細胞のスパイクタンパクに反応する頻度は比較的低かったが、接種後は、起源株およびXBB.1.5に対するIFN-γ陽性CD4T細胞の頻度が有意に増加した(p=0.026、p<0.0001)。XBB.1.5に反応するCD8T細胞でも有意な増加が認められた(p=0.0225)。TNF-αの有意な増加は認められなかった。・中和活性がワクチン接種後から次第に低下し、ウイルスが免疫逃避する可能性がある一方で、T細胞媒介の免疫反応はより持続的で強固だと考えられる。

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コロナ・インフル同時迅速検査キットを発売/Meiji Seika・ロート

 Meiji Seika ファルマは12月5日付のプレスリリースにて、ロート製薬が10月13日に製造販売承認を取得した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)・インフルエンザウイルス抗原迅速検査キット「チェックMR-COV19+Flu」を発売したことを発表した。 本検査キットはイムノクロマト法によるもので、特別な測定機器を必要とせず、鼻咽頭ぬぐい液および鼻腔ぬぐい液中のSARS-CoV-2抗原、A型インフルエンザウイルス抗原およびB型インフルエンザウイルス抗原を同時検出することができる。1つのキットで15分(陽性の場合は3~15分)と、迅速かつ簡便に検査を行うことができ、診断時間の短縮と負担軽減につなげる。本製品の測定原理は金コロイドクロマト免疫測定法。有効期限は24ヵ月で、1パッケージに10テスト分を包装。 Meiji Seika ファルマは、ロート製薬と締結した販売提携契約に基づき、本製品の国内での流通、販売、プロモーションを行う。

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第74回 鼻咽頭スワブの「折損」、学会から啓発

日本小児科学会からのInjury Alert(傷害速報)Unsplashより使用日本小児科学会から定期的に更新される「Injury Alert(傷害速報)」で、気になる症例がありました1)。あるクリニックの午前外来に、発熱で受診した1歳2ヵ月の男児がいました。新型コロナ、インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス…いろいろな病原微生物を疑う必要があります。となると、当然ながら鼻咽頭スワブによる検査が必要になるわけですが、多くの場合、母親が抱っこし、看護師が頭を固定した状態で、医師がすばやくスワブを鼻腔に挿入することになります。今回の症例では、患児が暴れることはなかったそうですが、綿棒が途中で折れ、引き抜いたときには先っぽが鼻腔に残ってしまったそうです。すぐに高次医療機関の耳鼻咽喉科へ紹介されました。折れた綿棒の先は中鼻道にあり、外来での摘出を試みたものの、摘出困難な状況でした。そのため、全身麻酔のもと、直視鏡で異物をカメラ越しに確認し、ニシハタ氏鋭匙鉗子によって摘出されました。とくに合併症なく、翌日退院となっています。綿棒の安全性と脆弱性はトレードオフ鼻咽頭スワブの先にある綿棒は、安全性と脆弱性がトレードオフの関係になっています。つまり、安全を重視するのであれば綿棒の脆弱性が増し、簡単に折れないようにカチコチにすれば安全性に懸念が生じるということです。そのため、グニャリと曲がってしまうと、力を入れる方向によっては折れ曲がってしまうことがあるわけです。成人でも同様の報告があり、「Dr. 倉原の“おどろき”医学論文」で過去に紹介しています。その症例は、協力が得られにくい基礎疾患がある患者だったため、「すみやかに拭い検査を実施しなければならない」という小児例と類似した状況でした。鼻腔にスワブを挿入する場合、上咽頭に到達させるため、迷入を避けるために口蓋と平行に鼻腔底に沿わせて挿入する必要がありますが、もしこれが頭側に迷入した場合、先端が折れて鼻腔異物になるリスクがあります。こういった鼻腔異物を回避するための策として、以下の4点がInjury Alertで啓発されています。(1)不測の動きに備えて児の頭部をしっかり固定する(2)綿棒の挿入は必ず鼻腔底に沿わせる(3)綿棒の挿入に少しでも抵抗がある時は反対側の鼻腔で行う(4)後咽頭に達する最低限の長さで綿棒を把持する参考文献・参考サイト1)日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. Injury Alert(傷害速報). No. 133 新型コロナウイルス抗原検査キットによる鼻腔異物

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コロナ罹患後症状におけるワクチン有効性、3回接種で73%/BMJ

 感染前の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種と、罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC)の診断を受けるリスクの低下には強い関連性があることが、スウェーデン・ヨーテボリ大学のLisa Lundberg-Morris氏らが、スウェーデン住民約59万例を対象に行った住民ベースコホート試験「Swedish Covid-19 Investigation for Future Insights-a Population Epidemiology Approach using Register Linkage:SCIFI-PEARLプロジェクト」の結果で示された。著者は「試験の結果は、PCCの集団的負荷を軽減するために、ワクチン接種の重要性を強調するものである」と述べている。BMJ誌2023年11月22日号掲載の報告。ワクチンのPCC有効性、年齢、性別、合併症など補正して推定 COVID-19ワクチンの初回接種(2回)+ブースター接種の計3回の接種によるPCCへの有効性を調べる試験は、2020年12月~2022年2月にスウェーデンで最も大きな2地域(ストックホルム地域[県]、ヴェストラ イェータランド地域[県])で登録された18歳以上のCOVID-19患者58万9,722例を対象に行われた。 被験者について、初回感染から死亡、国外への移住、ワクチン接種、再感染、PCCの診断(ICD-10診断コードU09.9)のいずれかのイベントが発生するまで、またはコホート試験終了(2022年11月末)まで追跡した。感染前にCOVID-19ワクチン接種を1回以上受けた人は、ワクチン接種済みとみなした。 主要アウトカムは、PCCの臨床診断。PCCに対するワクチンの有効性は、年齢、性別、併存疾患(糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、精神疾患)、2019年の医療サービス利用回数、社会経済的要因、感染時の優勢ウイルス変異で調整したCox回帰分析で推定した。ワクチン3回以上接種者のPCC有効性は73% COVID-19を発症して追跡期間中にPCCと診断されたのは、ワクチン接種者29万9,692例のうち1,201例(0.4%)だったのに対し、ワクチン未接種者29万30例では4,118例(1.4%)だった。 感染前のCOVID-19ワクチン1回以上接種者は、未接種者に比べ、PCC発症リスクが低かった(補正後ハザード比:0.42、95%信頼区間:0.38~0.46)。PCC発症予防に関するCOVID-19ワクチン有効性は58%だった。 感染前のワクチン接種者のうち、1回接種者は2万1,111例、2回接種者は20万5,650例、3回以上接種者は7万2,931例だった。PCCに対するワクチン有効性は、1回接種者21%、2回接種者59%、3回以上接種者73%だった。

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第190回 財務省調査に続き医療経済実態調査も診療所黒字の結果に、病院・診療所の「分断」をここまで広げてしまった張本人とは?

厚労省改定骨子案、「医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者」の賃上げの必要性を強調こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。厚生労働省は11月29日、2024年度診療報酬改定の基本方針の骨子案を社会保障審議会の医療部会と医療保険部会に示しました。両部会で出た意見を踏まえ、同省はまもなく年内にも基本方針案を提出する予定です。厚労省の骨子案では、24年度改定の基本的視点として次の4つが挙げられました。(1)現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進(2)「ポスト2025」を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進と、医療DXを含む医療機能の分化・強化、連携の推進(3)安心・安全で質の高い医療の推進(4)効率化・適正化による医療保険制度の安定性・持続可能性の向上このうち、1)の「人材確保・働き方改革等の推進」が重点課題に位置付けられています。「医療分野では賃上げが他の産業に追い付いていない状況にある」として、「医療現場を支えている医療従事者の人材確保のための取組を進めることが急務」と指摘、「その際、特に医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者の賃金の平均は全産業平均を下回っており、また、このうち看護補助者については介護職員の平均よりも下回っていることに留意した対応が必要」としました。「医師、歯科医師、薬剤師及び看護師“以外”の医療従事者」の賃上げを特に強調した点は画期的だと言えます。世間では医療業界全体を高給と捉えがちですが、看護助手や放射線技師、理学療法士・作業療法士などの給与水準は決して高くはなく、それが人材不足にもつながっているからです。12月3日付の日本経済新聞朝刊は、「医療従事者の賃上げ促す」という記事で、厚労省と財務省が医師・看護師・薬剤師以外のコメディカルの賃上げに向けて調整に入ったと報じています。 医療経済実態調査においても「診療所が儲かっている」実態が明らかにというわけで、来年の診療報酬改定を巡っては、財務省と日本医師会をはじめとする医療関係団体とのバトルが日に日に激しさを増しています。その経緯は本連載の「第187回 診療報酬改定シリーズ本格化(前編)」、「第188回 同(後編)」でも詳しく書きました。11月24日には診療報酬の改定に合わせて2年に1度行われる医療経済実態調査の結果も公表され、さらに混迷の度合いが増しています。財務省の調査と同様、医療経済実態調査においても「診療所が儲かっている」実態が明らかになったためです。財務省調査では診療所の経常利益率2022年度8.8%で他産業を大きく上回る先に公表された財務省の数字をおさらいしておきましょう。11月1日の財政制度等審議会・財政制度分科会で財務省が示したのは、全国38都道府県のおよそ2万2,000の医療法人における2020〜2022年度の経営状況を、財務局を活用して調査した結果です。病床を持たず診療所のみを運営する1万8,207の医療法人の平均の経常利益率は20年度3.0%、21年度7.4%、22年度8.8%と改善が目立っており、全産業3.4%、サービス産業3.1%を大きく上回る、としました。こうした実情を踏まえ、財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会は、11月20日に2024年度の予算編成に向けた意見書(令和6年度予算の編成等に関する建議、通称「秋の建議」)をとりまとめ、鈴木 俊一財務相に提出しました。その中で診療報酬の改定については11月1日の主張と同様「本体マイナス改定」が適当だとし、とくに診療所に入る報酬単価を5.5%程度引き下げるよう求めました。医療経済実態調査では一般診療所の2022年度の利益率は8.3%の黒字一方、11月24日に公表された医療経済実態調査では、医療法人の一般診療所の2022年度の利益率は8.3%の黒字で、コロナ補助金を含めると9.7%の黒字でした(ちなみに個人の診療所の利益率は32.0%の黒字)。財務省が示した数字とほぼ同じ結果です。コロナ報酬特例やワクチン接種による収益が大きく影響したとみられています。かたや病院ですが、国公立を含む一般病院の2022年度の利益率は6.7%の赤字で、新型コロナ関連の補助金を含めてやっと1.4%の黒字でした。うち公立病院は19.9%の赤字でした。水道代、光熱費など物価の高騰が影響したとしています。2020年度についてもコロナ補助金を除くと6.9%の赤字となっていました。「収益が下がれば赤字施設の割合がさらに増え、地域の医療提供体制が維持できなくなる」と日医財務省の調査結果に対して、日本医師会の松本 吉郎会長は11月2日の記者会見で、「この3年間はコロナ禍の変動が顕著であり、とくにコロナ特例による上振れ分が含まれている。そもそもコロナ禍で一番落ち込みが厳しかった2020年をベースに比較すること自体がミスリードであり、儲かっているという印象を与える恣意的なものである」と反論しました。しかし、医療経済実態調査においても同様の結果が出てしまっては、政府も改定財源の配分について相応の考慮が必要になりそうです。なお、12月1日に開かれた中央社会保険医療協議会総会では、支払側と診療側が医療経済実態調査の結果に対する見解を示しています。m3.comなどの報道によれば、支払側(健康保険組合連合会理事の松本 真人氏)は「医療機関の経営は総じて堅調だ」と述べたのに対し、診療側(日本医師会常任理事の長島 公之氏)は「医療機関等はコロナ前と比較しても厳しい経営を強いられている。2024年度診療報酬改定が担う役割は非常に重要。さらに収益が下がることがあれば、赤字施設の割合がさらに増え、地域の医療提供体制が維持できなくなる。経営基盤が脆弱な診療所の倒産が相次ぐ恐れがある」と述べています。病院と診療所の利益率の違いこそが「分断」そのものでは?ところで、日本医師会の松本会長は、11月15日に四病院団体の幹部とともに合同記者会見に臨んだ際、「財務省による医療界を分断するような動きがある」と述べていますが、そもそも、現在の病院と診療所の利益率の大きな違いこそが「分断」そのものといえるのではないでしょうか。財政審分科会長代理の増田 寛也氏は、秋の建議公表後の11月20日の記者会見で「日本医師会と財務省の戦いだと矮小化して捉えられると本質を見誤る。足元の経営状況が良好な診療所の収益を守るのか、それとも勤労者の賃上げやそれに伴う生活を守るのかという大きな文脈の中で検討する必要がある」と語りました。診療報酬には国民が払った保険料と税金が入っています。診療報酬を上げるということは、そのまま国民に負担増を強いることでもあります。診療所院長の平均年俸は2,500〜3,000万円と言われていますが、国民に負担増を強いつつその年俸レベルを上げるというのはいかがなものでしょう。増田氏の指摘は正鵠を得たものと言えるでしょうか。病院を二の次に、中医協で診療所を最優先してきた日医診療所と病院の間になぜこのような「分断」が起きてしまっているのでしょうか。振り返ってみると、そもそも中医協の診療側委員に病院代表者が日医の推薦に関係なく入ることになったのが2007年と非常に遅かったことが多分に影響しているでしょう。今でこそ、日本医師会と病院団体は仲が良い関係と言われていますが、2007年以前は、中医協の診療側委員の病院代表者は日医の推薦がなければなれませんでした。つまり、それまでの中医協の診療側の意向は、日医(主として診療所経営者)の考えが最優先されていたのです。さらに言えば、そのもう一昔前は、公立・公的病院が会員病院に多かった日本病院会は日本医師会と仲が悪く、病院の診療報酬が割りを食っていた時代もありました。分断はそのころからじわりじわりと進み、今の利益率の大きな差に至っているわけです。医療関係団体は物価高騰と賃上げの動きを背景に、診療所、病院関係なく診療報酬の大幅引き上げを求めていますが、今こそ、長年の「分断」解消に向けて、診療所は下げ、病院は上げる、さらには医師・看護師・薬剤師以外のコメディカルを大幅に賃上げする、といった、“メリハリ”のついた改定が求められているのではないでしょうか。

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コロナ緊急事態宣言は国内大学生の抑うつレベルに影響を及ぼさなかった?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での大学生の抑うつレベルの推移を解析した結果、計4回発出された緊急事態宣言は、大学生の抑うつレベルに有意な影響を及ぼしていなかった可能性を示すデータが報告された。むしろ、4月の新年度のスタートが、大学生の抑うつレベルに影響を与えていることが確認されたという。名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野の白石直氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of General Psychiatry」に10月10日掲載された。 大学生の抑うつ状態にある割合は、一般人口に比べて高いことが知られている。例えば一般人口におけるうつ病の有病率は13%という報告があるのに対して、大学生では32%という報告が見られる。COVID-19パンデミックが人々に強いストレスを与えたことが多くの研究から明らかになっており、大学生のうつレベルもより高まっていた可能性が考えられる。白石氏らは、緊急事態宣言発出時に講義がリモートで行われるなど特異な環境にあったタイミングで、大学生の抑うつレベルが特に上昇していたのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。学年度が切り替わる新年度のタイミングの抑うつレベルへの影響も、併せて検討した。 この研究は、大学生のメンタルヘルス上の問題を、モバイルアプリを用いた認知行動療法(CBT)で予防し得るかを検証するために、パンデミック前からスタートしていた無作為化比較試験「ヘルシーキャンパストライアル(HCT)」のデータを二次的に解析するという手法で行われた。HCTでは、国内5大学の学生が参加し、2018年度後期(秋)に最初のコホートが設定され、その後、2019年度前期(春)/後期(秋)、2020年度前期/後期、2021年度後期という計6件のコホートが組まれた。各コホートの最初の8週間はアプリを用いたCBTによる介入が行われ、その後52週目まで(スタートから1年間)は追跡期間とされた。 HCT参加者は、介入期間は毎週、追跡期間は4週ごとにPHQ-9という指標(27点満点でスコアが高いほど抑うつ症状が強いと判定される)により、抑うつレベルの経時的な変化が評価された。なお、研究参加の適格基準は、年齢が18~39歳の大学生または大学院生でスマートフォンを所有していること。PHQ-9スコアが15点以上または10~14点で希死念慮がある学生、およびメンタルヘルス上の問題のため受療中の学生は除外されている。6件のコホート全体の参加者数は1,626人であり、平均年齢は21.5歳で男子学生がやや少なかった(性比0.74)。 研究ではまず、パンデミック下の緊急事態宣言に着目した検討が行われた。4回の緊急事態宣言発出後に顕著なPHQ-9スコアの上昇が認められたのは、2020年度後期コホートにおける28~32週時点(3回目の緊急事態宣言発出後)のみであり、24週目が5.3点であるのに対して28週目は5.8点、32週目は6.0点と推移していた。ただ、各年度の後期にスタートしたコホートの28~32週は、翌年の4月ごろに該当する。よってこのタイミングでのPHQ-9スコアの上昇は、緊急事態宣言発出の影響のみでなく、新年度がスタートした直後であることの影響も考えられた。 次に、前期スタートのコホート3件(1,104人)、後期スタートの3件(522人)をそれぞれ統合して全体を2群に分け、PHQ-9スコアの推移を解析。その結果、前期スタート群のPHQ-9スコアは、全期間を通して4週ごとに0.02点(95%信頼区間―0.03~―0.01)ずつ有意に低下していた(P=0.008)。それに対して後期スタート群では、中断時系列分析により、新年度スタート時期の28週目までは4週ごとに0.07点(同0.02~0.11)ずつ上昇する傾向が見られた(P=0.12)。ところが、その傾向は急に中断され、28週目時点で0.60点(0.42~0.78)抑うつレベルが悪化したことが推定された(P<0.001)。28週を超えると4週ごとに0.16(―0.21~―0.10)ずつ低下していた(P=0.003)。 以上の結果から著者らは、「当初の仮説に反して、緊急事態宣言発出による大学生のうつレベル上昇は確認されなかった。一方で学年度が切り替わるタイミングで、大学生のメンタルに大きなストレスが加わることが示唆された」と総括している。 なお、COVID-19パンデミックが大学生のメンタルヘルスを悪化させたとする国内発の先行研究が複数存在する。緊急事態宣言発出の影響に焦点を当てた今回の研究が、それらとは異なる解釈が可能な結果となった理由について、以下のような考察が述べられている。先行研究では同一対象への継続的な調査でなく、パンデミック後の調査にはメンタルへの影響を強く感じた学生がより積極的に回答していた可能性があり、また、調査を行うタイミングが年度替わりを考慮せずに設定されていたことの影響もあるのではないかとのことだ。一方、本研究にも、交絡因子の調整が十分でないことや、新年度のスタートは花粉症の時期であるため、その症状がメンタルに影響を及ぼしていた可能性も否定できないといった限界点があるとしている。

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COVID-19後の嗅覚・味覚障害は3年で回復へ

 軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患し、嗅覚障害や味覚障害を経験している人にとって朗報となる研究結果が発表された。COVID-19パンデミック初期に軽症のCOVID-19に罹患した人を3年間追跡したこの研究によると、罹患者と非罹患者との間での嗅覚障害と味覚障害の有病率は、罹患から3年後では同等であることが明らかになった。トリエステ大学(イタリア)のPaolo Boscolo-Rizzo氏らによるこの研究結果は、「JAMA Otolaryngology-Head and Neck Surgery」に11月9日掲載された。 Boscolo-Rizzo氏らは、軽症のCOVID-19に罹患した88人(症例群)と新型コロナウイルスのRT-PCR検査で陰性と判定された88人(対照群)の計176人(両群ともに、試験登録時の年齢中央値49歳、女性58.0%)を対象に、試験登録から1、2、3年後の患者の自己報告による嗅覚障害と味覚障害の有病率を比較した。なお、軽症のCOVID-19とは、臨床評価でも画像検査でも下気道疾患の所見が認められず、酸素飽和度が94%以上の場合と定義された。 症例群でのCOVID-19急性期と、罹患から1、2、3年後時点での嗅覚・味覚障害の有病率は、それぞれ64.8%、31.8%、20.5%、15.9%だった。症例群でのCOVID-19罹患から1、2、3年後時点での嗅覚障害の有病率は、それぞれ40.9%、27.3%、13.6%、対照群の有病率は10.2%だった。罹患から2年後時点での両群の絶対差は17.1%(95%信頼区間4.7〜29.4%)と有意だったが、3年後時点での絶対差は3.4%(−7.3〜14.1%)と有意ではなくなった。 一方、症例群での罹患から1、2、3年後時点での味覚障害の有病率はそれぞれ26.1%、13.6%、11.4%、対照群の有病率は10.2%だった。罹患から2年後時点での両群の絶対差は3.4%(95%信頼区間−7.3〜14.1%)、3年後時点での絶対差は1.1%(−9.2〜11.4%)といずれも有意ではなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、これまでCOVID-19罹患後の嗅覚障害と味覚障害の精神身体的評価に関するデータはなかった点を強調し、「この研究により、症例群でのCOVID-19罹患から3年後時点での嗅覚障害の有病率は対照群と同等であり、また、罹患から2年後および3年後の時点での味覚障害の有病率に関しても、両群間で同等であることが明らかになった」と結論付けている。 研究グループは、「今回の研究結果は、COVID-19に罹患して嗅覚障害や味覚障害に悩まされている患者にとって喜ばしいニュースとなるはずだ」との見方を示す。そして、「COVID-19罹患者で嗅覚障害が生じている人でも、感染から3年が経過すればその障害から回復するようなので、安心してほしい」と話している。

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パンデミックで急性アルコール中毒による救急搬送が有意に減少

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最中に、急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に減少していたことが明らかになった。住民の飲酒量が多いことで知られる高知県のデータを解析した結果であり、高知大学医学部環境医学の南まりな氏、災害・救急医療学の宮内雅人氏らによる論文が、「Alcohol」に9月20日掲載された。 COVID-19パンデミックにより人々の生活が一変し、それにより救急搬送される患者の傾向にも変化が生じている。例えば交通事故による外傷が減り、ストレスが発症に関与しているたこつぼ心筋症が増えたことなどが報告されている。一方、飲酒行動に関しては、飲食店の時短営業や入店制限などによる飲酒機会の減少と、ストレス負荷による自宅での飲酒量の増大という相反する影響が考えられるが、南氏らが2020年春というパンデミック初期に高知県で行った研究では、急性アルコール中毒による救急搬送が減少していたことが明らかになっている。今回の研究では、パンデミックが長期化した以降もそのような傾向が継続しているのか否かを検証した。 この研究には、高知県救急医療・広域災害情報システム「こうち医療ネット」のデータが用いられた。2019~2021年の救急搬送の記録12万49件のうち、データ欠落、および急性アルコール中毒患者が発生していない10歳未満と80歳以上を除外した6万2,138件を解析対象とした。このうち926件(1.5%)が急性アルコール中毒によるものだった。 年次推移を見ると、2019年は2万2,289件中412件(1.9%)が急性アルコール中毒によるもので、2020年は1万9,775件中268件(1.4%)、2021年は2万74件中246件(1.2%)だった。全体として、急性アルコール中毒による救急搬送は、性別で比較した場合は男性に多く(66.1%)、年齢層では20代が最も多くを占めていた(37.2%)。 ポアソン回帰モデルにて、2019年を基準とする急性アルコール中毒による救急搬送件数の発生率比(IRR)を検討すると、2020年はIRR0.78(95%信頼区間0.67~0.91)と有意に低く、2021年もIRR0.73(同0.63~0.86)であり有意に低値だった。つまり、パンデミック初期に認められた急性アルコール中毒による救急搬送件数の減少は、パンデミックが長期化した2年目にも継続していたことが明らかになった。 著者らは本研究について、救急搬送以外の手段で受診した急性アルコール中毒患者も存在する可能性があること、県民の酒量が多く飲酒に寛容な高知県での調査であり、解釈の一般化が制限されることなどの留意点を挙げている。ただし後者については、「研究の限界点であると同時に、特異な飲酒文化で得られた貴重なデータでもある」と述べている。また、「パンデミックによって急性アルコール中毒による救急搬送が減少したという事実は、換言すれば、パンデミック以前の人々の飲酒行動に問題があったことを示唆している」との考察を加えている。

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医師数が少なく検査機器数が多い日本の医療/OECD

 経済協力開発機構(OECD/本部:フランス・パリ)から加盟38ヵ国に関する医療レポートが、11月7日に公表された。レポートでは、新型コロナ感染症(COVID-19)が与えた各国への影響のほか、医療費、医療の質などに関する内容が記載されている。わが国は、平均寿命はOECDの中で84.5歳と1番長いが、受診率の多さ、医師数、電子化の遅れなど他の国との差もあり、今後の課題も提示されている。 以下に概要を示す。【COVID-19禍での国民の健康状態について】・2020~22年のCOVID-19での10万人当たり死亡率は、ノルウェー、インドが同順で38人、ニュージーランドが45人、わが国が46人と4番目に低かった。・2020年は平均余命が伸びた半面、21年は0.1歳短くなった。・COVID-19初期(2020年)には17%の人がうつの症状を訴えていた。・自殺者は2020年に10万人当たり15.4人だった(参考:2019年14.6人)。【医療支出の現状と今後について】・2022年または直近年のGDPに占める医療支出の割合は、アメリカの16.6%、ドイツの12.7%、フランスの12.1%に次いで、わが国は11.5%と4番目に多かった。・2021年の政府支出に占める公的医療費支出の割合は、わが国が22%と1番高く、アメリカ、イギリス、アイルランドが21%と続いた。・2021年の受診回数は、韓国15.7回が1番多く、わが国は11.1回と2番目に多く、スロバキアが11.0回と続いた。OECDの平均受診回数は6.0回だった。・2021年の高齢化率は、65歳以上の人口割合で、わが国は28.9%と1番高く、次いでイタリアの23.6%、ギリシャの22.8%と続いた。OECDの高齢者割合の平均は18.0%だった。【医療資源の活用について】・2021年の1,000人当たりの病床数は、韓国の12.8床が1番多く、次いでわが国の12.6床、ブルガリアの7.9床と続いた。OECDの平均病床数は4.3床だった。・2021年の病院支出における内訳では、OECDの平均では入院が64%、日帰りが6%、外来が24%、介護が3%、その他が3%だった。これに対しわが国は、入院が63%、日帰りが1%、外来が23%、介護が10%、その他が3%と介護の割合が高かった。・2021年の平均在院日数は、韓国が18.5日と1番多く、次いでわが国が16.0日、ハンガリーが9.7日と続いた。OECDの平均在院日数は7.7日だった。・2019年または直近年の人口100万人当たりのCT、MRIなどの医療機器数は、わが国が1番多く178台、次いでオーストラリアが88台、アメリカが86台と続いた。OECDの平均医療機器台数は48台だった。・2021年の医師数は、1,000人当たりでギリシャが1番多く6.3人、次いでポルトガルの5.6人、オーストリアが5.4人と続いた。わが国は5番目に少なく2.6人だった。また、OECDの平均医師数は3.7人だった。【予防医療について】・2021年または直近年の喫煙率を男女合わせた数字でみると、インドネシアが1番多く33%、次いでブルガリアが29%、トルコが28%と続いた。わが国は男性27%、女性8%で、OECDの平均喫煙率は、男性20%、女性12%だった。・2021年または直近年の乳がん検診率(50~69歳女性)は、デンマークが1番多く83%、次いでフィンランドとポルトガルが82%と続き、わが国は45%だった。OECDの平均受診率は54%だった。【医療へのアクセスとデジタル化について】・2021年または直近年の医療での自己負担額割合は、トルコとクロアチアが1番低く1.4%、次いでコロンビアが1.7%と続き、わが国は2.4%だった。OECDの平均の医療での自己負担額割合は3.3%だった。・2021年の開業クリニックにおける電子カルテ利用率は、クロアチアが1番低く3%、次いでポーランドとスイスが30%と続き、わが国は42%と5番目に低かった。OECDの平均開業クリニックにおける電子カルテ利用率は93%で、欧米、とくに北欧の利用率はほぼ100%だった。

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世界初のsa-mRNAコロナワクチンが国内承認/CSL・Meiji Seika

 CSL Seqirus社(オーストラリア、メルボルン)とMeiji Seika ファルマは、2023年11月28日に、自己増幅型メッセンジャーRNAワクチン(sa-mRNA、レプリコンワクチンとも呼ばれる)である「コスタイベ筋注用」(ARCT-154)について、「SARS-CoV-2による感染症の予防」を適応とした成人の初回免疫および追加免疫における国内製造承認を取得した。CSL Seqirus社のファミリー企業のCSLベーリングが11月29日付のプレスリリースで発表した。本ワクチンは、世界で初めて承認を受けたsa-mRNAワクチンとなる。この次世代ワクチンは、日本ではMeiji Seika ファルマが商業化を行う。なお、今回承認を取得したのは新型コロナウイルスの従来株対応1価ワクチンで、現在の流行株とは異なるため供給されない。 標準的なmRNAワクチンは、免疫システムがCOVID-19を認識し、体内の細胞に特定のタンパク質を産生するよう指示し、免疫応答を刺激して、将来の感染を認識してこれと闘うための設計図を残すことによって感染症を予防するものだ。一方、本ワクチンで初めて用いられたsa-mRNAの特徴は、体内でmRNAのコピーを作ることにより、ワクチンに含まれるmRNAの相当量よりも多くのタンパク質を産生できることにある。この技術には、mRNAの量を大幅に抑えながら、細胞性免疫応答を増強して保護期間を延ばすことができる可能性があるという。 今回の承認は、ベトナムで被験者1万6千例を対象に実施した有効性試験やMeiji Seika ファルマが日本で実施した追加免疫試験を含め、ARCT-154を用いた複数の試験で有望な臨床データが得られたことに基づいている。18歳以上の被験者を対象に「コスタイベ筋注用」を評価した追加免疫試験では、既存のワクチンと比較して、sa-mRNAワクチンが起源株およびオミクロンBA.4/5変異株に対して強い免疫応答を起こすことが示された。また、「コスタイベ筋注用」では必要な用量は5μgで、既存のワクチンと比較して大幅に少なくなっている。 「コスタイベ筋注用」は、Arcturus Therapeutics社のワクチンプラットフォーム「LUNAR」を使用している。CSL Seqirus社は、インフルエンザおよびCOVID-19等の呼吸器ウイルス疾患に対する新規mRNAワクチンや、パンデミック対策の開発におけるArcturus Therapeutic社の独占的グローバルパートナー。 Meiji Seika ファルマとCSLはARCALIS, Inc.と協力し、福島県南相馬市の製造施設で、日本におけるsa-mRNAワクチンを一貫して製造できる体制を構築している。

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石灰化大動脈弁狭窄症に、非侵襲的超音波療法は可能か/Lancet

 石灰化大動脈弁狭窄症は、一般に外科的または経カテーテル的な大動脈弁置換術(AVR)による治療が行われているが、重度の合併症や限られた余命のために適応とならない患者が多く、代替治療として非侵襲的治療法の可能性が示唆されている。フランス・パリ・シテ大学のEmmanuel Messas氏らは、大動脈弁の弁尖を修復する超音波パルスを照射する革新的な技術である非侵襲的超音波療法(NIUT)の評価を行い、安全かつ実行可能であることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年11月13日号で報告された。欧州3施設の前向きコホート研究の6ヵ月データ 研究グループは、経胸壁的にNIUTを行う装置(Valvosoft device、Cardiawave製)の安全性と、石灰化した弁組織を軟化させることによる弁機能の改善効果を評価する目的で、前向き単群コホート研究を行った(Cardiawaveの助成を受けた)。 3ヵ国(フランス、オランダ、セルビア)の3つの施設で、新型コロナウイルス感染症の流行による中断を挟んだ2019年3月13日~2022年5月8日の期間に、高リスクの40例を登録した。 対象は、重度の症候性大動脈弁狭窄症(二尖弁を含む)を有し、外科的大動脈弁置換術(SAVR)および経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVR)の適応とならない成人患者であった。 主要エンドポイントは、30日以内の治療に関連した死亡および弁機能の改善とした。今回は6ヵ月後のデータの解析結果を報告した。 対象となった40例(平均年齢83.5[SD 8.4]歳、女性50%)のSociety of Thoracic Surgeons(STS)の平均スコアは5.6(SD 4.4)%であり、重度の合併症(冠動脈疾患45%、頸動脈疾患28%、うっ血性心不全30%、慢性腎臓病40%、不整脈55%)を伴っていた。2例で二尖弁を認めた。30日以内の治療関連死亡はない、弁機能も有意に改善 30日以内の治療に関連した死亡は発現しなかった。3例で、それぞれ1週間後、3.5ヵ月後、5.5ヵ月後に、Valvosoftを用いて追加のNIUTを施行したが、これらの患者は6ヵ月後の時点でも生存していた。また、生命を脅かすイベントおよび脳血管イベントの報告はなかった。 6ヵ月(180日)時点での全生存率は72.5%(95%信頼区間[CI]:56.0~83.7)であった。1例の死亡が188日目に追加で報告された。ミニメンタルステート検査(MMSE)で認知機能障害を検出した患者はいなかった(平均MMSEスコア:ベースライン24.2点、退院時24.5点、30日時26.0点)。188日目に、1例で非ST上昇型心筋梗塞を認めた。 弁機能の改善は6ヵ月間を通じて確認され、平均大動脈弁口面積(AVA)はベースラインの0.58(SD 0.19)cm2から追跡時には0.64(SD 0.21)cm2へと10%増加し(p=0.0088)、平均圧較差は41.9(SD 20.1)mmHgから38.8(17.2)mmHgへと7%低下した(p=0.024)。 6ヵ月時に、NYHA心機能分類クラスが25例中17例(68%)で改善し、7例(28%)で安定化していた。また、これらの患者ではカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)スコアが48.5(SD 22.6)点から64.5(SD 21.0)点へと33%改善した(有意差なし)。 1例で重篤な治療関連有害事象を認めた。この患者は97歳で、不快感を和らげるためにモルヒネ(1mg)を静脈内投与したところ、徐呼吸の結果として末梢酸素飽和度(SpO2)が一過性に89%に低下した(処置により迅速に回復し、6ヵ月の時点で生存)。非重篤な有害事象として、痛み、治療中の不快感、一過性の不整脈などがみられた。 著者は、「今回の初期結果は有望であり、より大規模の臨床試験で確認する必要がある」とし、「このNIUTの方法は、さらに最適化を進める必要があり、より多くの患者で安全性を確認した後、たとえば(1)中等度または無症候性の石灰化大動脈弁狭窄症でSAVRまたはTAVRを延期するため、(2)重度に石灰化した弁に対するTAVRの前処置として、評価される可能性がある」と指摘している。

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第一三共のXBB.1.5対応mRNAコロナワクチン、一変承認取得

 第一三共は11月28日付のプレスリリースにて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するオミクロン株XBB.1.5対応1価mRNAワクチン「ダイチロナ筋注」(DS-5670)について、追加免疫における製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。本ワクチンが特例臨時接種に使用されるワクチンとして位置付けられ次第、厚生労働省との供給合意に基づき、国産初のmRNAワクチンとして供給を開始し、2023年度中に140万回分を供給する予定。 厚労省が11月27日に公表した資料(一変承認前の情報)によると、本ワクチンは、既SARS-CoV-2ワクチンの初回免疫完了者(12歳以上)に対する、「追加免疫」として使用することができる。季節性インフルエンザワクチンの取扱いと同様に、冷蔵(2~8℃)での流通・保管が可能となるため、医療現場での利便性の向上が期待される。外箱開封後は遮光して保存し、有効期間は7ヵ月となっている。 ダイチロナ筋注は、同社が開発した新規核酸送達技術を活用し、新型コロナウイルススパイク蛋白質の受容体結合領域(RBD)を標的としたCOVID-19に対するmRNAワクチンだ。本ワクチンの研究開発および生産体制整備は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「ワクチン開発推進事業」および厚生労働省の「ワクチン生産体制等緊急整備事業」の支援を受けて実施している。

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コロナワクチン、2024年度より65歳以上に年1回の定期接種へ/厚労省

 国内の新型コロナウイルスワクチン接種について、厚生労働省は11月22日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会と同分科会予防接種基本方針部会を開催し、2023年度末に「特例臨時接種」を終了し、2024年度以降は、65歳以上の高齢者を対象に「定期接種」として実施する方針を了承した。基礎疾患を有する60~64歳については重症化リスクも考慮し、重症化予防を目的とした接種を行う。65歳以上のコロナワクチン定期接種スケジュールは秋冬に毎年1回 2024年度以降の新型コロナワクチン接種については、個人の重症化予防により重症者を減らすことを目的とし、インフルエンザと同様の予防接種法のB類疾病に位置付けたうえで、法に基づく定期接種として65歳以上の高齢者等を対象に実施する。 65歳以上の高齢者を対象にした新型コロナワクチン定期接種のスケジュールは、秋冬に毎年1回となる。ワクチンに含むウイルス株は、流行の主流であるウイルスの状況やワクチンの有効性に関する科学的知見を踏まえて選択し、当面の間、毎年見直される。 なお、2024年度以降は、新型コロナワクチンはほかのワクチンと同様に一般流通が行われる見込みであり、65歳以上の定期接種の対象者以外であっても、任意接種として接種の機会を得ることができる。ワクチン価格は現時点で決まっていない。 本方針について分科会の委員らからは、特例臨時接種が終了し、自己負担が生じることについて、ワクチン価格がインフルエンザワクチンよりも高額になることが予想され、経済的負担を理由に接種できず、感染した際に重症化することを懸念する意見が上がった。接種を希望する者が安心して接種できるよう、国費等の支援による接種費用の負担軽減を訴えた。

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第172回 働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会

<先週の動き>1.働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会2.賃上げか負担軽減か、診療報酬改定を巡って議論が白熱/中医協3.医療機能情報提供制度の見直し、スマホ対応と多言語サポート/厚労省4.健康リスクに配慮した「飲酒ガイドライン案」を発表/厚労省5.薬のネット販売全面解禁へ、2025年から規制緩和/厚労省6.医師確保プログラム「842万円の違約金は違法」とNPOが提訴/山梨県1.働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会日本救急医学会は、医師の働き方改革に伴う救急医療の人材不足とその対策に関する要望書を厚生労働大臣に提出した。来年度から始まる「働き方改革」では、勤務医に対して労働基準法に基づく休日や時間外労働の上限規定が適用されることになっており、救急医療に従事する医師が不足し、医療体制の維持が困難になる恐れがあると指摘している。同学会は、日本の救急医療が医療者の自己犠牲により支えられてきたと述べ、働き方改革による医師不足を解消するためには、診療報酬の改定などの支援が必要だと訴えている。また、地元の医師会との連携を強化し、救急の専門医を地域の拠点病院に集約することで、効率的な救急医療体制の構築を求めている。一方、NPO法人「EMアライアンス」による調査では、救急医の約1割が深刻な燃え尽き症候群に陥っていることが明らかになった。この調査結果では、救急医療の心理的ストレスの高さと、医師の健康問題に注目が集まった。とくに若手医師や睡眠不足を抱える医師にとって、救命救急センターでの勤務が、燃え尽き症候群と高い関連性を持つことが指摘されている。救急医療の質と持続可能性を確保するためには、医師の働き方改革を通して医師の健康にも配慮する必要がある。提言では、救急医療の現場で働く医師の声を反映した、包括的な対策が必要であると指摘している。参考1)地域救急医療への影響を鑑みた医師の働き方改革に関する提言(日本救急医学会)2)医師の働き方改革 日本救急医学会が支援求める要望書提出(NHK)3)救急医の1割、深刻な燃え尽き症候群か 睡眠不足も関連?NPO調査(朝日新聞)4)1割が深刻な燃え尽き症候群とのデータも 救急医の激務、解決策は?(同)2.賃上げか負担軽減か、診療報酬改定を巡って議論が白熱/中医協厚生労働省は、11月24日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会において、昨年度の医療経済実態調査の結果を明らかにした。その結果、病床数が20床以上の一般病院は、物価高騰の影響で経営が悪化していたが、新型コロナ患者の受け入れに対する国の補助金を含めると、収支は黒字に転じていた。具体的には、一般病院の収支は平均で2億2,424万円の赤字であったが、補助金を含めると4,760万円の黒字となっていた。国公立病院は、平均で7億8,135万円の赤字で、補助金を含めても赤字だが、医療法人が経営する民間病院は補助金を含めると6,399万円の黒字に転じていた。一方、病床が19床以下の一般診療所は、補助金を除いても医療法人が経営する診療所で1,578万円、個人経営の診療所では3,070万円と、いずれも黒字。厚労省は、とくに一般病院の収益が厳しい結果となったことを指摘し、今年度はさらに利益率が悪化している可能性を述べている。日本医師会などは、医療職や介護職員の賃上げが必要だとして「本体」部分の引き上げを求めているが、財務省は保険料負担の軽減を目指し、逆に引き下げを主張している。武見 敬三厚生労働大臣は、新型コロナが「5類」に分類され、補助金や診療報酬の加算措置が大きく見直されていることに言及し、年末に向けて医療機関の経営状況を踏まえ、賃上げや物価高騰、感染症対策などの新たな課題に対応できる診療報酬改定に努力する意向を示している。参考1)第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(厚労省)2)来年度の診療報酬改定 年内決定に向け 議論活発化へ(NHK)3)「一般病院」昨年度収支 黒字 コロナ患者受け入れ補助金含めて(同)4)一般病院・診療所、コロナ補助で黒字 22年度厚労省調査(日経新聞)3.医療機能情報提供制度の見直し、スマホ対応と多言語サポート/厚労省厚生労働省は、患者が適切な医療機関を選択できるよう支援する「医療機能情報提供制度」を見直すため、11月20日に「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」を開催した。現在、各都道府県ごとに情報提供されている医療情報ネットが刷新され、2024年4月からは全国統一システムの運用を開始されることが明らかとなった。また、かかりつけ医機能を含め、国民・患者の医療機関の適切な選択を支援するよう、スマートフォン対応も予定されている。新しいシステムでは、医療機関の基本情報や医療サービス内容、治療結果のほか、高齢者や障害者向けの情報も提供される。さらに、英語・中国語・韓国語での情報提供も行われ、用語解説も整備される予定。医療機関は、毎年1~3月に定期報告を行い、基本情報に変更があった場合は都道府県に報告することが求められる。また、「かかりつけ医機能」の情報も提供され、患者は自宅近くの医療機関を選択しやすくなる。全国統一システムへの移行により、情報提供の内容も新しくなり、利用者がより使いやすい仕組みが提供されることが期待されているほか、2025(令和7)年度から発足するかかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けて、今後も情報提供項目改修が行われていく見込み。参考1)医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について(厚労省)2)国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討について(同)3)医療情報ネット、来年1月から新たな報告に 全国統一の情報提供4月開始、スマホ対応(CB News)4)医療情報ネットを「より使いやすい仕組み」に2024年度リニューアル、今後「かかりつけ医機能」情報も充実-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4.健康リスクに配慮した「飲酒ガイドライン案」を発表/厚労省11月22日に厚生労働省は、アルコール健康障害対策基本法に基づいて、検討を重ねてきた「飲酒ガイドライン案」を発表し、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及と健康障害の防止を目指すことを明らかにした。指針は、年齢や体質に応じた飲酒量の留意点を提案し、純アルコール量での飲酒管理を重視している。とくに高齢者や若年層、アルコール分解能力が低い人々には、飲酒による健康リスクが高いと警告している。ガイドライン案では、純アルコール量の計算方法が示され、疾患ごとのリスクに応じて、少量の飲酒でも注意が必要としている。政府の「健康日本21(第3次)」計画では、1日の純アルコール摂取量を男性40g、女性20g以上と定め、60g以上の過度な飲酒や、不安・不眠解消のための飲酒、他人への強要を避けるよう勧めている。また、健康への配慮として、飲酒量の事前設定、飲酒時の食事摂取、水分補給、週に無酒日を設けることなどが推奨されている。そのほか、最近では、アルコール摂取量の自己管理を促進するため、スマートフォンアプリを利用した記録方法も普及している。ガイドラインに対する反応はさまざまで、個々の許容量に基づく飲酒量の調整を提案する声や、健康意識の高い人々にとって有益だとする意見があり、専門家は、多量飲酒時の水分摂取の重要性を強調し、飲み方の工夫を勧めている。参考1)健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)(厚労省)2)国内初の飲酒ガイドライン案「男性40g、女性20g以上はリスク」(毎日新聞)3)国として初の飲酒ガイドライン案 ビール1杯で高まる大腸がんリスク(朝日新聞)4)飲酒リスク、初指針で周知 年齢や体質に応じ留意点(日経新聞)5)お酒の望ましい量は?「飲酒ガイドライン」厚労省が案まとめる(NHK)5.薬のネット販売全面解禁へ、2025年から規制緩和/厚労省厚生労働省は、薬のネット販売に関する規制を大幅に緩和する方針を固めた。これにより、ほぼすべての薬がインターネットで購入可能になる見込み。とくに「要指導医薬品」について、これまでは対面販売が義務付けられていたが、ビデオ通話による服薬指導を条件に非対面での購入が認められるようになる。この変更は2025年以降に実施される予定。市販薬のネット販売は、2014年から一部が販売可能になり、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、さらに拡大されていた。今回の規制緩和により、市販薬のほぼすべてがネットでの購入が可能となり、患者の利便性が大幅に向上すると期待されている。ただし、緊急避妊薬など対面での情報提供が必要な薬や乱用のリスクがある薬については、20歳未満の大量購入を禁止するなどの規制が維持される。厚労省は、この方針について専門家の会議で議論し、医薬品医療機器法の改正を目指している。現在、オンライン服薬指導による安全性の確保と利便性の向上を両立させるための仕組み作りが進められている。参考1)対面販売必要な薬 薬剤師のビデオ通話でネット販売検討 厚労省(NHK)2)市販薬ネット販売、全面解禁へ ビデオ通話での指導条件(日経新聞)3)薬のネット販売全面解禁へ、利点や注意点は?(同)6.医師確保プログラム「842万円の違約金は違法」とNPOが提訴/山梨県東京のNPO法人「消費者機構日本」は、山梨県が医師不足対策として2019年に開始した医師確保プログラムについて消費者契約法に違反するとして山梨県を11月21日に提訴した。このプログラムは、医学部学生が県内の医療機関で9年間勤務することを条件に、学費の返済を免除する内容。しかし、2021年に導入された新条項では、勤務期間を満たさない場合に最大842万円の違約金を課すことになり、この違約金条項が消費者契約法に違反するとして山梨県を提訴した。NPO法人側は、学費返済だけで十分であり、違約金は不当に高額だと主張している。一方、山梨県は、違約金が必要な措置であると反論し、プログラムの早期離脱が県に追加コストをもたらすとして長崎 幸太郎山梨県知事は争う姿勢を示した。この訴訟は、地域医療の充実を目指す県側の政策と、その実施方法の法的・倫理的妥当性を巡って議論を提起しており、違約金条項導入後、山梨大学や北里大学などから約115人の学生がプログラムに参加しており、今後の訴訟の動向が注目されている。参考1)山梨県の医学部学費貸与、「違約金840万円は違法」 NPOが提訴(朝日新聞)2)医師不足解消を図る山梨県の制度 “違約金は違法”と提訴(NHK)3)山梨県の医師確保プログラム、9年間勤務できなければ最大842万円の違約金…適格消費者団体が差し止め求め提訴(読売新聞)4)医師確保事業巡り 都内の消費者団体が県を提訴 長崎知事は争う姿勢示す 山梨県(山梨放送)

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コロナ入院患者へのビタミンC投与、有効性認められず/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者へのビタミンC投与は、心肺支持療法離脱日数や生存退院を改善する可能性は低い。カナダ・Sunnybrook Health Sciences CentreのNeill K. J. Adhikari氏らの研究グループ「The LOVIT-COVID Investigators」が、2件の前向き調和型無作為化比較試験の結果を報告した。JAMA誌2023年11月14日号掲載の報告。ビタミンCを6時間ごとに静脈投与 ビタミンCがCOVD-19患者のアウトカムを改善するかどうかを評価した2件の試験は、2020年7月23日~2022年7月15日に、世界4大陸で、集中治療室(ICU)で心肺支持療法を受けている重症患者(90ヵ所で登録)と非重症患者(40ヵ所で登録)を対象に行われた。被験者は無作為に2群に割り付けられ、一方にはビタミンCを、もう一方にはプラセボを6時間ごとに96時間(最大16回)静脈投与した。 主要アウトカムは、心肺支持療法離脱日数(ICUで最長21日間心肺支持療法離脱で生存と定義)と生存退院の複合とした。同アウトカムの範囲は、院内死亡(-1)~心肺支持療法離脱で生存(22)で評価した。 主要解析は、ベイジアン累積ロジスティックモデルを用いて行った。オッズ比(OR)1超の場合は有効性(生存の改善、心肺支持療法離脱日数の増加、またはその両方)を、1未満の場合は有害性を、1.2未満では無益性を示すものとした。有害性・無益性の統計学的基準を満たし、試験中止に 本試験は、有害性と無益性が統計学的基準を満たした時点で、登録が打ち切られた。 主要アウトカムが得られたのは、重症患者1,568例(ビタミンC群1,037例、対照群531例、年齢中央値60歳[四分位範囲[IQR]:50~70]、女性35.9%)、非重症患者1,022例(456例、566例、62歳[51~72]、39.6%)だった。 重症患者において、心肺支持療法離脱日数中央値はビタミンC群7日(IQR:-1~17)、対照群10日(-1~17)で(補正後比例OR:0.88、95%信用区間[CrI]:0.73~1.06)、事後確率は8.6%(有効性)、91.4%(有害性)、99.9%(無益性)だった。 非重症患者においても、心肺支持療法離脱日数中央値はビタミンC群22日(IQR:18~22)、対照群は22日(21~22)で(補正後比例OR:0.80、95%CrI:0.60~1.01)、事後確率は2.9%(有効性)、97.1%(有害性)、99.9%超(無益性)だった。 重症患者の生存退院率についても、ビタミンC群61.9%、対照群64.6%で(補正後OR:0.92[95%CrI:0.73~1.17])、有効性の事後確率は24.0%だった。非重症患者の生存退院率も、それぞれ85.1%、86.6%で(0.86[0.61~1.17])、有効性の事後確率は17.8%だった。

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パクスロビドのCOVID-19罹患後症状の予防効果に疑問符

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として知られるパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)のCOVID-19の罹患後症状(post-COVID-19 conditions;PCC)に対する効果に疑問を投げかける研究結果が報告された。COVID-19の重症化リスクや死亡リスクが高い患者に処方されることが多い抗ウイルス薬のパクスロビドを投与された患者と投与されなかった患者の間で31種類のPCCについて比較したところ、肺塞栓症・静脈血栓塞栓症以外はリスクが同等であることが示されたのだ。米Veterans Affairs Puget Sound Health Care Systemおよび米ワシントン大学消化器学分野のGeorge Ioannou氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に10月31日掲載された。 Ioannou氏らは、米国退役軍人健康管理局の記録から、COVID-19罹患に対してパクスロビドによる治療を受けた9,593人の退役軍人(年齢中央値66歳、ワクチン未接種率17.2%)を特定した。これらの退役軍人は、2022年1月1日から同年の7月31日までの間にCOVID-19の診断を受け、重症化リスクは高いが入院には至っていなかった。さらに、COVID-19に罹患したがパクスロビドによる治療は受けていない9,593人を対照として選出し、両群で、治療開始またはそれに相当する日から31日後と180日後時点におけるPCCの累積発生率を比較した。PCCは、心臓、肺、腎臓、消化器系、脳、筋肉に生じる問題、抑うつや不安神経症のような気分障害、倦怠感や勃起不全のような一般的な問題など31種類が対象とされた。 その結果、ほとんどのPCCのリスクについて、PCC別に検討しても、臓器系で分類して検討しても、パクスロビド群と対照群との間に有意な差は認められないことが明らかになった。ただし、肺塞栓症・静脈血栓塞栓症については、パクスロビド群の方が対照群よりもリスクが有意に低いことが示された(サブハザード比0.65、95%信頼区間0.44〜0.97)。この結果についてIoannou氏は、「肺塞栓症と静脈血栓塞栓症は、PCCのことが知られていなかったパンデミック初期においてさえも、COVID-19罹患後に認められる症状として、常に新型コロナウイルスと関連付けられてきたものだ」と説明している。 Ioannou氏は、「COVID-19に罹患したが基本的には健康な人が、長期的な症状を予防する目的でパクスロビドを服用しても無駄な可能性が示唆された。このような目的でパクスロビドを服用している人は、服用を考え直した方が良いだろう」と述べている。 本研究には関与していない、米マウントサイナイ病院の内科医であるFernando Carnavali氏は、「これらの結果から、PCCが必ずしもCOVID-19の重症度と関係しているわけではなく、感染による微妙な影響によって引き起こされていることがうかがわれる」と話す。同氏は、「Cell」10月26日号に掲載された米ペンシルベニア大学の研究報告において、ブレインフォグなどの神経や認知機能に関わるPCCがセロトニンレベルの低下と関連し、セロトニンレベルの低下は感染後に腸内に残存する新型コロナウイルスに起因する可能性が示唆されたことを指摘し、「もし、PCCが腸内の残存ウイルス粒子により引き起こされているのであれば、パクスロビドのような抗ウイルス薬の効果には疑問符が付く」と述べている。 Carnavali氏は、PCCに関する相反するデータに混乱を覚える人は、主治医や専門医に相談することを勧めている。「PCCに関する研究と治療はいまだ初期段階にある。それゆえ、相反する情報が報告されるのは当然のことだし、この状況は、今後もしばらく続くだろう。必要なのは、自分のために情報を整理してくれる人だ」と述べている。

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第190回 コロナ経口薬投与患者の5人に1人がリバウンド

コロナ経口薬投与患者の5人に1人がリバウンドファイザーのコロナウイルス感染症(COVID-19)の経口薬ニルマトレルビル・リトナビル(日本での商品名:パキロビッドパック)は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテアーゼ(Mpro)を阻害してSARS-CoV-2の複製を食い止めます。軽~中等度のCOVID-19患者の入院や死亡が同剤で減ることが無作為化試験や観察試験で確認されており、今年5月に米国FDAは重症化リスクが高い軽~中等度COVID-19成人患者の治療に同剤を使うことを本承認しました1)。ニルマトレルビル・リトナビルは2年ほど前の2021年12月に本承認に先立って取り急ぎ認可されており、今では広く使われるようになっています。その普及に伴い、当初に比べてニルマトレルビル・リトナビルは感染再発(リバウンド)をより生じやすいことを示唆する報告が増えています。しかしこれまでの試験での検査や症状の把握は回数が少なくて期間も短く、それにウイルス培養のデータもなく、ニルマトレルビル・リトナビル使用に伴うリバウンドの正確な推定には至っていません2)。そこでMass General Brighamのチームはより正確な結果を得るべく、昨年2022年3月から今年2023年5月の外来のCOVID-19患者127例を繰り返し検査してリバウンド状況を詳しく調べました。それら127例のうち72例にニルマトレルビル・リトナビルが5日間投与されました。残り55例は非投与です。リバウンドはSARS-CoV-2がひとまず検出されなくなった後に培養でSARS-CoV-2が再び検出されること、またはSARS-CoV-2が基準(4.0 log10 copies/mL)未満にいったん減った後に増えた状態をしばらく維持することとみなされました。そのリバウンドがニルマトレルビル・リトナビル投与患者72例のうち15例(20.8%)に認められました3)。それら15例のうち13例は何らかの症状を伴い、7例はより明確に発症し(点数が大きいほど負担が大きいことを意味する下限0で上限30の症状検査値が3点以上上昇)、2例はまったくの無症状でした。ニルマトレルビル・リトナビル非投与55例でのリバウンドは少なくわずか1例(1.8%)のみでした。リバウンドはもっぱら高齢患者や免疫抑制患者に生じました。それは合点がいくことですが、奇妙なことにワクチン接種回数が多い人がリバウンドをより被っていました。つまりワクチンのリバウンド予防効果は認められませんでした。また、興味深いことにニルマトレルビル・リトナビル投与を遅くに始めた患者に比べてより早くに開始した患者にリバウンドがより多く認められました。著者が自覚しているとおり試験は被験者数が少ないという欠点があります。また、ニルマトレルビル・リトナビルが投与されなかった患者は悪化のリスクが低く、そもそもがリバウンドを生じ難かったのかもしれないという試験の設計上不可避な偏りが生じていたかもしれません2)。ニルマトレルビル・リトナビルはリバウンドをどうやら生じやすくするかもしれませんが、先行きが心配な患者の命を救い、入院や死亡を防ぐ効果的な薬であることに変わりはないと著者は言っています4)。著者がそう言うように同剤は軽~中等度COVID-19の治療手段として不可欠なだけにリバウンドを封じる手段を見つけることは大きな意義があります。そのためにはニルマトレルビル・リトナビルとリバウンドを関連付ける仕組みの解明が必要です。さしあたりかなり確からしい説明として、5日間の投与期間が実は不十分でリバウンドを招いているのではないかとの指摘があります2)。より長期間の投与の検討は始まっており、たとえばフランスの研究所ANRS Emerging Infectious Diseasesは免疫抑制患者へのニルマトレルビル・リトナビル10日間投与と5日間投与の比較試験を実施しています5)。また、リバウンド患者へのニルマトレルビル・リトナビル再投与の試験も進行中です6)。日本で承認済みの塩野義製薬の経口薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)は今のところリバウンドが少なくて済んでいるようです。欧州の学会で最近発表された試験解析によると、半減期が長い同剤治療患者のPCR検査で認められたウイルスRNAリバウンド率は7.8%、プラセボ群では4.7%でした7)。参考1)Pfizer’s PAXLOVID Receives FDA Approval for Adult Patients at High Risk of Progression to Severe COVID-19 / BUSINESS WIRE2)Cohen MS, et al. Ann Intern Med. 2023 Nov 14. [Epub ahead of print]3)Edelstein GE, et al. Ann Intern Med. 2023 Nov 14. [Epub ahead of print] 4)One in five patients experience rebound COVID after taking Paxlovid, new study finds5)OPTICOV試験(ClinicalTrials.gov)6)NCT05567952(ClinicalTrials.gov)7)ECCMID 2023: Shionogi to Present Data Showing COVID-19 Symptom Recurrence is Not Associated with Ensitrelvir Treatment / BUSINESS WIRE

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侵襲的⼈⼯呼吸を要したCOVID-19患者は退院半年後も健康状態が不良

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化してICUで長期にわたる侵襲的人口呼吸(IMV)を要した患者は、退院後6カ月経過しても、身体的な回復が十分でなく、不安やふさぎ込みといった精神症状も高率に認められることが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野の春日井大介氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に9月4日掲載された。 IMVの離脱後には身体的・精神的な後遺症が発生することがある。COVID-19急性期にIMVが施行された患者にもそのようなリスクのあることが、既に複数の研究によって明らかにされている。ただし、それらの研究の多くはICU退室または退院直後に評価した結果であり、かつ評価項目が限られており、COVID-19に対するIMV施行後の長期にわたる身体的・精神的健康への影響は不明。春日井氏らは、同大学医学部附属病院ICUに収容されたCOVID-19患者を対象とする前向き研究により、この点を検討した。 2021年3~9月に同院ICUにてIMVが24時間以上施行された患者から、18歳未満、気管挿管がなされなかった患者、ICU死亡などを除外した64人を研究対象とした。なお、酸素投与量が4L/分未満となった時点で、ICUからCOVID-19一般病棟に転棟されていた。64人全員についてICU退室時に身体機能と精神症状が評価された上、32人は退院時にもそれらが評価された。さらに全員に対して退院6カ月後に、健康状態を確認するためのアンケートを郵送し、42人から回答を得た。 解析対象者の主な特徴は、年齢中央値60歳(四分位範囲52~66)、男性85.9%で、ICU患者の重症度の指標であるSOFAは同10(8~11)、APACHE IIは21(19~24)、IMV施行期間は9日(6~15)だった。IMV施行期間9日以下/超で二分し比較すると、年齢、男性の割合、BMI、基礎疾患有病率、SOFA、APACHE II、および腎機能、炎症マーカー、凝固マーカーなどには有意差はなかった。ただし、IMV施行期間9日超の群(以下、長期IMV群)は、体外式膜型人工肺(ECMO)や気管切開の施行率と、肺のダメージを表すKL-6が高く、鎮静期間が長いという有意差があった。 ICU退室時点の状態を比較すると、長期IMV群は、MRCという全身の筋力を評価するスコアが低く(60点満点で51対60点)、握力が弱い(10.6対18.0kg)という有意な群間差が見られた。抑うつや痛み、倦怠感などの9種類の身体的・精神的症状を評価するESASというスコアには、有意差がなかった。 退院時の状態については、MRCスコアはICU退室時と同様に長期IMV群の方が有意に低かった(56対60点)。一方、ICU退室時には有意差がなかったESASスコアは、長期IMV群が高値で有意な群間差が認められた〔90点満点で17対4点(ESASはスコアが高いほど状態が良くないことを意味する)〕。 退院6カ月後の状態は、EQ-5D-5LというアンケートとEQ-VASという指標で評価。その結果、EQ-5D-5Lでは5項目の評価項目(移動の程度、身の回りの管理、普段の活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込み)のうち、痛み/不快感を除く4項目は全て長期IMV群の方が不良であることを示し、総合評価(0.025~1の範囲で評価)にも有意差が存在した〔0.82対0.89(P=0.023)〕。また、0~100の範囲で健康状態を自己評価するEQ-VASでも有意差が確認された〔80対90(P=0.046)〕。 著者らは、「本研究には、単一施設の研究でありサンプル数が十分でないといった限界点がある」とした上で、「COVID-19急性期に長期間IMVを要した患者は退院時に十分回復しておらず、さらに6カ月後にも健康状態の改善が不十分だった。重症COVID-19患者に対しては長期間のフォローアップと、積極的かつ学際的な治療アプローチが必要と考えられる」と述べている。

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重症コロナ患者に対するスタチンとビタミンCの治療効果、対照的な結果に

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者を対象に、広く使用されている安価なスタチン系薬のシンバスタチンとビタミンCのそれぞれの有効性を調べた2件の臨床試験で、大きく異なる結果が示された。これらの試験は感染症の患者を対象とした進行中の国際共同研究「REMAP-CAP(Randomised, Embedded, Multi-factorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia)」の一環で実施され、スタチン系薬に関する試験の詳細は「The New England Journal of Medicine(NEJM)」、ビタミンCに関する試験の詳細は「Journal of the American Medical Association(JAMA)」にいずれも10月25日掲載されるとともに、欧州集中治療医学会(ESICM 2023、10月21~25日、イタリア・ミラノ)でも発表された。 シンバスタチンの臨床試験には13カ国、141施設の病院からCOVID-19重症患者が参加し、最終的に2,684人のデータが解析された。その結果、シンバスタチンはCOVID-19重症患者の集中治療室(ICU)での臓器サポートを要する日数の短縮に95.9%の確率で寄与し、90日時点での生存率向上に91.9%の確率で寄与することが明らかになった。研究グループの計算によると、この結果は、同薬を投与した33人のうち1人の命が救われることに相当するという。 REMAP-CAPのシンバスタチンの試験を主導した英クィーンズ大学ベルファストのDanny McAuley氏は、米国での研究のスポンサーとなったGlobal Coalition for Adaptive Research(GCAR)のニュースリリースで、「この結果は、シンバスタチンによる治療がCOVID-19重症患者の転帰を改善する可能性が高いことを示しており、実に心強いものだ」とした上で、「この研究は、各国の医療専門家がCOVID-19患者に対する治療を向上させる上で助けとなるだろう」と述べている。 一方、COVID-19重症患者に対する高用量ビタミンCの有効性については、2件の臨床試験(LOVIT-COVIDとREMAP-CAP)を組み合わせて検討された。対象は、20カ国のCOVID-19による入院患者2,590人で、重症患者と非重症患者の双方が含まれていた。その結果、ビタミンCが臓器サポートを要する日数の短縮や生存に寄与する可能性は低いことが示された。 ビタミンCに関する試験の共同代表である、サニーブルック・ヘルスサイエンスセンター(カナダ)のNeill Adhikari氏は、「この結果は、COVID-19入院患者に対するビタミンCの使用は控えるべきことを示している」と述べている。また、本試験の別の共同代表である、シャーブルック大学(カナダ)のFrancois Lamontagne氏は、「現時点で利用可能な治療法のうち、患者にとって有益性がなく、かえって有害な影響を与え得る治療法を特定し、それを中止することには健康と経済の両面でメリットがある。今回の臨床試験の結果はその重要性を示したものだ」と述べている。 REMAP-CAPの米国の研究責任者で米ピッツバーグ医療センター(UPMC)集中治療医学部長のDerek Angus氏は、「REMAP-CAPから2つの結果が論文として同時に掲載されたことは、REMAP-CAPが複数の介入方法を効率的に評価できることの証しともいえる」と説明。「この恐ろしいパンデミックを通じて、われわれは治療に関するいくつかの大きな疑問に迅速に対処するための新しい方法を開拓し、今いる患者の治療に取り組み、将来、より機敏に対応するための準備をしてきた」と述べている。

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第186回 妊婦禁忌のコロナ薬を処方、その理由が独自取材で明らかに

11月14日、日本感染症学会 、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会、日本医師会、日本薬剤師会の5団体が医療従事者向けに「妊婦にとって禁忌とされている新型コロナウイルス感染症治療薬の処方並びに調剤に関する合同声明文」を発表した。要は新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の経口治療薬で催奇形性があるとされているモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、エンシトレルビル(同:ゾコーバ)について、再三の注意喚起が行われながら現在でも処方後に妊娠が判明した事例が報告されていることを受け、改めて注意喚起を促した声明文である。従来のこの手の声明文と異なり、今回の声明文はお堅い表現も用いずに極めて平易な文章で書かれている。しかも、「新型コロナウイルス感染症の治療を受けられる女性の患者さんへ お薬を飲むまえに、もう一度確認を!」という日本感染症学会、日本化学療法学会、日本産科婦人科学会による患者向け文書も作成されている。その最後には以下のように記述されている。「新型コロナウイルス感染症に罹患され、そのお薬を内服したいというお気持ちもあると思いますが、あとでつらい思いをすることがないように、妊娠可能な世代の女性の患者さんにおかれましては、問診や調剤前、チェックリスト使用の時には妊娠の可能性はない、と申告されたとしても、内服前には、もう一度、最近数ヵ月間のことをよく思い出し、妊娠の可能性につき、思い当たる節がある場合には内服を控えるようにしてください。その場合には、お薬を保管しないで、ご自身で破棄するか、薬剤師に戻してください」最悪のケースとして異例とも言える患者自身による破棄まで言及している点からして、相当に危機感が強いのだろう。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策本部と医薬局医薬安全対策課も同日付の都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)宛の事務連絡で、声明文の周知依頼を行っている。では、実際どれだけこうした事例があるのだろうか?エンシトレルビルについては緊急承認に基づく使用成績調査が課されており、10月15日までに妊婦への投与は疑い6例を含む32例が報告されている(この間の推定投与患者数84万1,646例)。一方、モルヌピラビルについては、MSD広報部門は「国内で妊婦に投与された事例があることは当社でも把握しているものの、例数は非開示」としている。ただし2023年1月4日に開催された薬事・食品衛生審議会(医薬品等安全対策部会安全対策調査会)において、国内で特例承認を受けた2021年12月24日から一般流通開始前の2022年9月15日までに数例あることが明らかにされている(この間の投与実績は61万9,621例)。ざっくり言えば、数万件に1件の割合で妊婦への処方事例が起きている計算になる。頻度としては少ないことになるだろうが、実際に胎児に影響が出れば、出生児にとっては生涯にわたって影響する可能性があるため、重大な問題だろう。とはいえ、これらの薬剤投与後に妊娠が発覚したケースは、製薬企業作成のチェックリストを使用せずに投与してしまった事例がごく一部にあるものの、声明文にあるように大半はこうしたチェックを経ても防げなかった事例である。ある意味、打つ手なしとも言えそうだが、まだやるべきことは残されていると個人的には思っている。というのも、モルヌピラビルに関してはアメリカで医療提供者向けに「Healthcare Provider Action」と題して「Assess whether an individual of childbearing potential is pregnant or not, if clinically indicated」と表記してある。直訳すれば「臨床上の兆候があれば、妊孕性のある女性での妊娠の有無を評価すること」となるが、事実上、必要に応じて妊娠検査を行うよう求めていると十分に解釈できるものだ。しかし、国内ではモルヌピラビル、エンシトレルビルとも添付文書やインタビューフォームにこうした記載はなく、投与前のチェックリストに「妊娠初期の妊婦では、妊娠検査で陰性を示す場合があります」と記載するに留まっている。アメリカと同様の記載がないことについて、MSD広報部門は「通常、添付文書の作成は規制当局と検討が行われますが、本剤の承認申請時の規制当局との添付文書の検討において、(国内の添付文書では)妊娠検査等の記載が必要であるという指示等は受けていないという背景がございます」と回答した。ただ、個人的にはアメリカでのモルヌピラビルの例にならった表現やより明確に事前に妊娠検査を行うよう記述することが望ましいのではないかと思う。それでも妊婦へ誤って処方してしまうケースはゼロにはならないだろうが、前述したように、たとえ1例でも重大なことである以上、やって損はないと思う。この点について当事者である行政、企業に尋ねてみたところ、次のような回答が返ってきた。「添付文書の記載を変更する予定は今のところありません。禁忌という形で注意喚起しておりますので、その中で医療現場が必要に応じて対応していただけていると思っております。また妊娠検査も妊娠週数4~5週間以降でやっと尿検査などでわかるようなものと認識しております」(厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課)「MSDでは妊婦さんへの投与について注意喚起するために、医療関係者向けの文書や投与前のチェックリストなどを作成し、適正使用の推進に努めているところでございます。また、今後の添付文書等の改訂についてですが、現時点では予定はありませんが、引き続き今後の状況を確認しながら、適正使用の推進に向けて必要な対応を行ってまいります」(MSD広報部門)「妊娠検査の必要性に関する添付文書への記載も含め、妊婦への投与を防ぐための取り組みについては、さまざまな検討は行っております。ただ、現時点で添付文書に妊娠検査の必要性を記載するということは決まっておりません」(塩野義製薬広報部)確かにチェックリストの記載を見れば、本来、妊娠検査を含む対応は医療現場でやっていてしかるべきと思える面はある。しかし、ここまで各方面が繰り返し注意喚起を行わなければならない現状となっている以上、とくに厚生労働省にはもう一歩踏み込んでもらっても良さそうな気がするのだが。

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