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既往帝王切開、多面的介入で周産期合併症が減少/Lancet

 帝王切開分娩歴が1回の女性において、分娩方法の選択を支援しベストプラクティスを促進する多面的な介入により、帝王切開分娩や子宮破裂の発生率が増加することなく、主要な周産期合併症および妊産婦合併症の罹患率が有意に減少した。カナダ・ラヴァル大学のNils Chaillet氏らが、多施設共同クラスター無作為化非盲検比較試験「PRISMA試験」の結果を報告した。帝王切開分娩歴のある女性は、次の妊娠で難しい選択に直面し、再度帝王切開分娩を行うにしても経膣分娩を試みるにしても、いずれも母体および周産期合併症のリスクがあった。Lancet誌2024年1月6日号掲載の報告。意思決定支援やベストプラクティスなどの介入群vs.非介入(対照)群 研究グループはカナダ・ケベック州の公立病院40施設を、1年間のベースライン期間後にブロック無作為化法により医療レベル(地域病院、基幹病院、3次病院)で層別化して介入群と非介入(対照)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 介入群には、帝王切開分娩歴のある女性の分娩期ケアに対するベストプラクティスに関する研修や臨床ツール(陣痛モニタリングの臨床アルゴリズムと改良パルトグラフ、分娩方法に関する意思決定支援ツール)の提供を行い、ベストプラクティスの実施、経膣分娩の可能性や超音波検査による子宮破裂リスクの推定などを実施することとした。対照群は介入なしとした。実施期間は5~8ヵ月で、介入期間は2年であった。 主要アウトカムは、死亡を含む主要周産期合併症(分娩時または新生児死亡、Apgarスコア5分値4未満、代謝性アシドーシス、重症外傷、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症、痙攣発作、侵襲的人工呼吸、重大な呼吸器疾患、壊死性腸炎、低酸素性虚血性脳症、新生児敗血症、昇圧剤を要する低血圧)の複合リスクとし、帝王切開分娩歴が1回のみで、参加施設で出産し、新生児の在胎週数が24週以上、出生時体重500g以上の単胎妊娠の女性を解析対象とした。介入群で主要周産期合併症、母体の主要合併症が有意に減少 2016年4月1日~2019年12月13日に分娩した適格女性は、2万1,281例であった(介入群1万514例、対照群1万767例)。追跡不能例はなかった。 主要周産期合併症罹患率は、対照群ではベースライン期間の3.1%(110/3,507例)から介入期間は4.3%(309/7,260例)に増加したが、介入群では4.0%(141/3,542例)から3.8%(265/6,972例)に減少し、介入群において対照群と比較しベースライン期間から介入期間の主要周産期合併症罹患率の有意な減少が認められた(補正後オッズ比[OR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.52~0.99]、p=0.042、補正後絶対群間リスク差:-1.2%[95%CI:-2.0~-0.1])。介入の効果は、病院の医療レベルにかかわらず同等であった(交互作用のp=0.27)。 母体の主要合併症(妊産婦死亡、子宮摘出、血栓塞栓症、4日以上のICU入室、急性肺水腫、心原性ショック、敗血症、内臓損傷、子宮破裂)の罹患率も、対照群と比較して介入群で有意に減少した(補正後OR:0.54、95%CI:0.33~0.89、p=0.016)。 軽度の周産期合併症および母体合併症の罹患率、帝王切開分娩率、子宮破裂率については、両群間で有意差は確認されなかった。

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2次観察分析としてこういった観点はいかがなものか?(解説:野間重孝氏)

 今回の研究は、著者らのグループが2018年にLancet誌に発表したHigh-STEACS試験の関連観察研究である。正直に言って論点がわかりにくく、論文を誤解して読んだ方が多かったのではないかと心配している。 著者らはHigh-STEACS試験において、急性冠症候群(ACS)を疑われた患者に対して、トロポニンIの高感度アナリシスを用いることにより、より多くの心筋障害患者を同定することができたのだが、標準法を用いた場合と1年後の予後に差がなかったことを示した。この論文はジャーナル四天王でも取り上げられたのでお読みになった方も多いと思うが、当時の論調では著者ら自身、そこまで言い切ってよいものか迷いが見られていたのだが、本論文でははっきり「心イベントが有意に減少することはなかった」という表現で断定している。分析法とカットオフ値が確定したことが要因だったのではないかと推察する。 本研究はHigh-STEACS試験の2次観察分析で、今回は非虚血性と診断された高感度アッセイによる再分類患者の5年後の予後を調査したものである。心筋梗塞と診断された患者の予後は高感度アッセイの結果とは関係がなかった一方、非虚血性心筋障害の患者では再分類され、適切な治療を受けた患者の予後が良かったとしたもので、高感度アッセイは非虚血性心筋障害を発見し、適切な治療を施すことに貢献できるのではないかとしている。やや乱暴な解釈の仕方をすると、「心筋梗塞を診断するためには標準法で十分であり、高感度アッセイはその他の心筋障害を見つけ出すことにこそ寄与する」と言っていると言えなくもない。 現在、心筋梗塞のバイオマーカーとしてはCK-MB、トロポニンT&I、H-FABP、ミオシン軽鎖が使用されており、一時はCK-MBが最も一般的な検査項目だったが、Universal Definition以来、現在ではもっぱらトロポニンが使用されている。なお、CK-MBは連続測定することにより梗塞のサイズの推定が行われていた時期もあったが、現在では行われていない。 ところが検査というのは皮肉なもので、感度が上がると本来検出されない濃度のものまでが検出されて問題にされるようになる。心筋トロポニンは確かに心筋に特異的なタンパク質であるが、敗血症、腎不全、肺塞栓症、心不全、外科的治療後、SARS-CoV-2感染症など、さまざまな非心疾患でも心筋の障害が惹起されることによりわずかな上昇を示すことが知られている。何回か測定し、測定値にはっきり高低がつけば虚血性、ほぼ同じ値を示せば非虚血性と判断できるが、できるだけ早い判断が求められる救急の現場にはそのようなやり方は通用しないだろう。 これは国情の違いということになるのだろうが、わが国(米国においても同じだが)においては、臨床症状、諸検査からACSが強く疑われた場合は、血液検査の結果がすべて出そろうのを待つことなく緊急カテーテル検査が行われるのが常識となっており、それに対応できない組織は第3次救急施設には認定されない。虚血性心疾患ではonset-to-balloon timeがすべてを決めると言っても過言ではないからである。その意味でACSが強く疑われる患者を2次救急施設に留め置くことは厳に控えるべきで、ただちに3次施設に搬送することが望ましい。 高感度アッセイを行うことにより諸疾患に伴う心筋障害を発見し、より適切な治療を行うという主旨にはまったく異論はないが、それをACSの診断・治療と絡めて論ずるのは適当とは言えないと考えるものである。さらに付け加えることをお許しいただけるならば、SARS-CoV-2による心筋炎は大変話題になったが、この診断にトロポニン測定がぜひ必要だったとは言えない。それぞれの疾患にはその主流となる診断・治療の流れがあり、トロポニン測定はその手助けにはなるであろうが、決して主流ではない。大きな臨床研究が行われた場合、その追跡調査や2次観察研究が行われるのは自然の流れではあるが、今回の研究についてはこのような一流誌に掲載される性格のものではなかったのではないかというのが、評者の偽らざる感想である。

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日本人コロナ患者で見られる肥満パラドックス

 日本人では、肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク因子ではない可能性を示唆するデータが報告された。肥満ではなく、むしろ低体重の場合に、COVID-19関連死のリスク上昇が認められるという。下関市立市民病院感染管理室の吉田順一氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Medical Sciences」に9月11日掲載された。 古くから「肥満は健康の敵」とされてきたが近年、高齢者や心血管疾患患者などでは、むしろ太っている人の方が予後は良いという、「肥満パラドックス」と呼ばれる関連の存在が知られるようになってきた。COVID-19についても同様の関連が認められるとする報告がある。ただし、それを否定する報告もあり、このトピックに関する結論は得られていない。吉田氏らは2020年3月3日~2022年12月31日までの同院の入院COVID-19患者のデータを用いて、この点について検討した。 解析対象は1,105人でほぼ全員(99.3%)が日本人であり、半数(50.1%)が男性だった。主要評価項目は入院から29日以内の全死亡(あらゆる原因による死亡)とし、副次的評価項目として侵襲的呼吸管理(IRC)の施行を設定。年齢、性別、BMI、体表面積、ワクチン接種の有無、レムデシビル・デキサメタゾンの使用、化学療法施行、好中球/リンパ球比(NLR)などとの関連を解析した。なお、IRCは酸素マスクによる5L/分以上での酸素投与にもかかわらず、SpO2が93%未満の場合に施行されていた。また、年齢、BMI、NLRなどの連続変数は、ROC解析により予後予測のための最適な値を算出した上で、年齢は72.5歳、BMIは19.6、NLRは3.65をカットオフ値とした。 入院後29日目までに死亡が確認された患者は32人(2.9%)であり、COVID-19による死亡が20人、細菌性肺炎7人、心血管イベント3人、および敗血症性ショック、尿路感染症が各1人だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別に死亡者数をプロットすると、死亡者数のピークはBMI11~15の範囲にあり、BMI22にも小さなピークが認められた。多変量解析から、死亡リスク低下に独立した関連のある因子として、BMI19.6超(P<0.001)とレムデシビルの使用(P=0.040)という2項目が特定された。反対に、年齢72.5歳超(P<0.001)、化学療法施行中(P=0.001)、NLR3.65超(P=0.001)は、死亡リスクの上昇と有意に関連していた。 IRCが施行されていたのは37人(3.3%)だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別にIRC施行者数をプロットすると、BMI11~25の範囲で施行者数の増加が認められた。多変量解析から、IRC施行リスクの上昇と有意な関連のある因子として、年齢72.5歳超(P=0.031)、デキサメタゾンの使用(P=0.002)、NLR3.65超(P=0.048)が特定された。IRC施行リスクの低下と有意な関連のある因子は抽出されなかった。 著者らは、BMI19.6以下がCOVID-19患者の全死亡リスク増大に独立した関連があるという結果を基に、「日本人COVID-19患者で認められる肥満パラドックスは、BMI高値が保護的に働くというよりも、BMI低値の場合にハイリスクである結果として観察される現象ではないか」との考察を述べている。また、レムデシビルが死亡リスク低下の独立した関連因子である一方、デキサメタゾンがIRC施行リスク上昇の独立した関連因子であったことについては、「サイトカインストームに伴う呼吸不全にデキサメタゾンが使用された結果であり、同薬がIRC施行リスクを高めるわけではない」と解説している。

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第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中

生成AIを活用して作った 「ブラック・ジャック」の新作が発表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週(11月23日)発売の週刊少年チャンピオンに、「ブラック・ジャック」の新作が発表されました。手塚治虫の漫画、「ブラック・ジャック」については、1ヵ月前、本連載の「第185回 六本木で開催中の『ブラック・ジャック展』で考えた、“黒い医者”たちと医療・医師の普遍性」でも取り上げました。この時、OpenAIの「GPT-4」やStability AIの「Stable Diffusion」などの生成AIを活用して「ブラック・ジャック」の新作を制作する試みが進行中だと書いたのですが、その新作がいよいよ発表されたのです。ということで、週刊少年チャンピオンを買おうと近所の書店に出掛けたのですが、どこにもありません。近所のコンビニも数軒覗いたのですが、やはり在庫がありません。書店もコンビニも、少年誌で置いてあったのは少年ジャンプと少年マガジンばかり。発行部数・流通量が少ない雑誌はこうまで手に入りにくいものかと驚いた次第です。ちなみに漫画雑誌の新刊はアマゾンでは冊子版は流通しておらず、電子版(Kindle)でしか読めないようです。半ば諦めていたところ、たまたま出先のコンビニに飲み物を買いに入ったところ、1冊だけ週刊少年チャンピオンが残っており、なんとか現物を入手することができました。「ブラック・ジャック」掲載を見越して発行部数や流通量にもAIを活用してほしかった…、と思いました。手塚 治虫氏の長男、手塚 眞氏が中心となった「TEZUKA2023プロジェクト」による「ブラック・ジャック」の新作、「機械の心臓-Heartbeat Mark II」(33ページの読み切り)ですが、大学のAI研究者や有名映画監督も入った大プロジェクトの割に、作品はこの程度かと少々肩透かしをくらった、というのが正直な感想です。AIといえども、やはり“神様”には勝てないのだな、と思った次第です。エクソソーム療法、「将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と日本再生医療学会が提言さて、今回は、一部で話題となっている「エクソソーム療法」について書いてみたいと思います。11月10日の厚生労働省の再生医療等評価部会で、日本再生医療学会はエクソソーム療法が美容クリニックなどの自由診療で広がっている現状を踏まえ、「将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と提言しました。「エクソソーム療法で死亡例が出ている」といった情報も一部に流れているようです。この情報はデマの可能性もあり、業界は混乱に陥っています。美容やアンチエイジングを目的に他家細胞由来の細胞培養上清液やエクソソームを自由診療で投与エクソソームは、直径100nm程度の細胞外小胞(EVs:Extracellular Vesicles)と呼ばれるものの1種です。EVsは細胞が分泌する物質で、組織の再生を促す成長因子や細胞間の情報伝達物質を含んだエクソソームなどからなっており、医療分野での活用が期待されています。国内でも、美容やアンチエイジングを目的に、他家細胞由来の細胞培養上清液や、上清液から抽出したとされるエクソソームを自由診療で投与する医療機関が増えています。これらを通称「エクソソーム療法」と呼んでいます。もっとも、有効性や安全性が確認され、治療法として承認されているものはまだありません。インターネットで「エクソソーム療法」を検索すると、数多くの自由診療クリニックがヒットします。それらのクリニックでは、エクソソームを含んだ幹細胞由来の細胞培養上清液やエクソソームについて、皮膚の再生、創傷治癒の促進、老化防止、疲労回復、ED(勃起不全)改善などに効果ありと、まるで万能の不老薬のように宣伝しています。再生医療等安全性確保法の対象外のため提供計画の提出、副作用などの報告の義務なし11月10日の厚生労働省の再生医療評価部会で、日本再生医療学会の岡野 栄之理事長(慶應義塾大学医学部 生理学教室 教授)は、「再生医療という名目で、多くのクリニック等で自由診療として行われている現状や、感染症のリスク等を鑑み、製造過程等を含めて、将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と主張しました。同学会は、2023年10月27日、「再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直しに関する提言」を行い、エクソソームを含むEVsを再生医療新法の対象とするよう提言していますが、それを改めて再生医療評価部会の場ででも訴えたわけです。背景には、老化防止をうたう美容クリニックなどにおいて自由診療によるエクソソーム療法が急拡大していることがあります。現状、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり、細胞には当たらないと整理されており、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)の対象外となっています。同法が施行されたのは2014年、主に自由診療でがん免疫療法(自家の免疫細胞を培養し投与)を行っていた医療機関における安全性確保のためでした。この時はEVsによる治療自体がまだ認知されておらず、規制対象にはなりませんでした。そのため、現在、細胞培養上清液やエクソソームを医療機関で投与する際、同法で定められた認定再生医療等委員会の審査や再生医療等提供計画の提出、副作用の報告といった煩雑な手続きは課せられません。これがエクソソーム療法の急拡大につながっているわけです。「交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」しかし、EVsは、「主に細胞から調製されるという点において細胞加工物と類似のリスクを有しており、交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」(再生医療等評価部会・岡野氏資料より)ことから、日本再生医療学会は「科学的根拠に基づき、グローバルスタンダードに則ったEVs治療の開発を進めるために、産学官の協力が必要である。EVsの定義、効能、品質管理に基づいた安心、安全なEVsの治療応用のガイドライン作成は急務であり、その為に、何らかの班研究あるいはワーキング・グループ等を構築し、問題点の精査が必要」と提言したわけです。再生医療抗加齢学会が「幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表ところで、日本再生医療学会がエクソソーム療法の規制の必要性を求める2週間ほど前、「エクソソーム投与後に死亡」との情報が一部に流れ、関係者が色めき立ちました。情報の出どころは再生医療抗加齢学会。10月11日、同学会の森下 竜一理事長(大阪大学大学院 医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)が、同学会のウェブサイトで「幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について」というタイトルで声明を出したのです。声明は、「当学会では、幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」として、「幹細胞培養上清液及びエクソソームの静脈投与につきましては、医療水準として未確立の療法であり、その有効性・安全性について、エビデンスに基づく十分な検討をお願いいたします」と注意喚起をしました。前述したように、エクソソーム療法は再生医療等安全性確保法の対象外のため、仮に死亡事例が発生しても医療機関は同法に則って報告する義務はありません。ということは、そうした事例を国が把握することもできません。ということで、関連学会が注意喚起することはそれなりに意味のあることです。11月9日付のリスファクスも再生医療抗加齢学会の死亡事案の声明を受け、「エクソソーム創薬、死亡事案で規制急務」というニュースを掲載しています。ただ、その記事では、「学会は本紙に『事案』は会員外の施設と回答し、詳細や施設名は開示していない」としています。「死亡例」は本当にあったのか?噂になった医療機関、学会、厚労省も否定学会が「死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表したにもかかわらず、どこの施設での事象かわからないという状況は、再生医療やエクソソーム療法に携わる関係者に少なからぬ混乱を巻き起こしているようです。「死亡はデマではないか?」という声も聞こえてきます。11月15日付の日経バイオテクは「『エクソソームの投与後に死亡』の噂を追う」と記事を掲載しています。同記事は、「同学会(再生医療抗加齢学会)によれば、学会の会員や会員企業は死亡事例に関係しておらず、外部から寄せられた情報だと言います。噂で名前が挙がっている自由診療の医療機関や、自由診療でエクソソームの投与を手掛ける医師などにも当たってみましたが、『そうした事例は無い』『全く知らない』と否定されました。(中略)。さらに、日本再生医療学会も、本誌に対して『死亡事故があったとは考えていない』とコメント。厚生労働省の関係者も『正直、分からないというのが本音だ。情報の出所が把握できていない』と話していました」と書き、取材時点で死亡事例の情報は確認できなかったとしています。学会同士の対立説、関連企業に対する牽制説も仮に「死亡」がガセ情報だとしたら、一体背後で何が起こっているのでしょうか。真偽のほどはわかりませんが、日本再生医療学会の関係者と再生医療抗加齢学会の関係者の対立説や、幹細胞培養上清液やエクソソームを製造する企業(学会幹部が株を保有している企業もあると聞きます)への牽制説も流れているようです。エクソソーム療法の規制や注意喚起が必要だ、という点は理解できます。しかし、仮にも学会という組織が情報の裏も取らないで「死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表することは、無責任過ぎるのではないでしょうか。無用な混乱は、再生医療に携わる医療機関や企業の信頼性にも影響します。再生医療抗加齢学会は早急に「死亡情報」の“エビデンス”を開示するべきです。もし虚偽情報だったなら、早急に訂正を出すべきではないでしょうか。

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小児感染症に対する抗菌薬、多くはもはや効果を見込めず

 薬剤耐性菌の増加に伴い、一般的な小児感染症の治療において長らく使用されてきた抗菌薬の多くがもはや効果を失っていることが、新たな研究で明らかにされた。論文の筆頭著者であるシドニー大学(オーストラリア)感染症研究所のPhoebe Williams氏は、「抗菌薬の使用に関する世界的なガイドラインにこの結果を反映させる必要がある」と述べるとともに、乳幼児や小児用の新しい抗菌薬の開発に重点を置くべきだと呼び掛けている。この研究結果は、「The Lancet Regional Health - Southeast Asia」に10月31日掲載された。 世界保健機関(WHO)は、薬剤耐性菌の増加を世界的な公衆衛生上の脅威のトップ10に位置付けている。世界全体では、毎年約300万人の新生児が敗血症を発症し、57万人が死亡しているが、その原因の多くは薬剤耐性菌に有効な抗菌薬がないことである。 Williams氏は、「薬剤耐性菌の問題は他人事ではなく、すぐそこに差し迫っている脅威だ。薬剤耐性菌は、われわれが考えている以上のスピードで増加している。多剤耐性の侵襲性感染症や年に何千人もの子どもの死亡を食い止めるためには、新しい解決策が早急に必要だ」と主張する。 Williams氏らの今回の研究は、東南アジアおよび太平洋地域の低・中所得世帯の子どもに処方された、経験に基づく抗菌薬治療がどの程度有効であるのかを検討したもの。研究グループは、システマティックレビューにより抽出した、11カ国で収集された6,648の細菌分離株の感受性データを使用してパラメーター化した、WISCA(weighted incidence syndromic combination antibiogram)と呼ばれる薬剤感受性のデータベースを構築。これにより、新生児と小児の敗血症や髄膜炎に対する治療において、WHOが推奨する特定の抗菌薬(アミノペニシリン、ゲンタマイシン、第3世代セファロスポリン、カルバペネム)がどの程度有効であるか(coverage)を推定した。 その結果、新生児の敗血症/髄膜炎に対して、アミノペニシリンは26%、ゲンタマイシンは45%、第3世代セファロスポリンは29%、カルバペネムは81%有効であることが示された。一方、小児の敗血症と髄膜炎に対しては、アミノペニシリンはそれぞれ37%と62%、ゲンタマイシンは39%と21%、第3世代セファロスポリンは51%と65%、カルバペネムは83%と79%有効であった。 こうした結果を受けてWilliams氏は、「小児や新生児に対する新たな抗菌薬による治療法の研究に、資金を優先的に投入する必要がある」との見解を示す。「抗菌薬に関する臨床研究は成人に焦点が当てられることが多く、小児や新生児は置き去りにされている。そのため、小児や新生児に対する治療法の選択肢は少なく、新しい治療法に関するデータも極めて限定的だ」と指摘する。 論文の上席著者で、アンコール小児病院(カンボジア)のカンボジア・オックスフォード・メディカルリサーチユニットのディレクターを務めているPaul Turner氏は、「この研究により、小児の重篤な感染症治療に有効な抗菌薬について、その利用可能性に関する重要な問題が浮き彫りになった。また、薬剤耐性菌の拡大状況をモニタリングするために、質の高い検査データが必要であることも明示した」と述べている。

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頻脈を伴う敗血症性ショック、ランジオロールは無益/JAMA

 頻脈を伴う敗血症性ショックでノルアドレナリンによる治療を24時間以上受けている患者において、ランジオロール点滴静注は標準治療と比較し、無作為化後14日間のSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコアで評価される臓器不全のアウトカムを改善しなかった。英国・University Hospitals Birmingham NHS Foundation TrustのTony Whitehouse氏らが、医師主導の多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験「Study into the Reversal of Septic Shock with Landiolol:STRESS-L試験」の結果を報告した。敗血症性ショックは、アドレナリン作動性ストレスにより心臓、免疫、炎症、代謝経路に影響を与える。β遮断薬は、カテコールアミン曝露の悪影響を軽減する可能性があり、最近のメタ解析で、敗血症性ショック患者においてβ遮断薬による死亡率の低下が示されていた。しかし著者は本試験の結果を受けて、「敗血症性ショックに対してノルアドレナリンで治療されている患者の頻脈管理に、ランジオロールを用いることは支持されない」とまとめている。JAMA誌2023年11月7日号掲載の報告。ランジオロールvs.標準治療、SOFAスコアおよび死亡率等を比較 研究グループは、英国国民保健サービス(NHS)急性期病院の集中治療室40施設において、コンセンサス基準(Sepsis-3)により敗血症性ショックと診断され、24時間以上(72時間未満)のノルアドレナリン(0.1μg/kg/分)投与を受け、頻脈(心拍数95/分以上)を有する18歳以上の成人患者を、ランジオロール群および標準治療群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化後14日時点の平均SOFAスコア、副次アウトカムは28日および90日死亡率、有害事象の件数などであった。 本試験は、ランジオロール群で有害性が示唆されたため、独立データモニタリング委員会の勧告により2021年12月15日に早期中止となった。2018年4月19日~2021年12月15日に無作為化された患者は、予定された340例のうち126例(37%)にとどまった(ランジオロール群63例、標準治療群63例)。126例の患者背景は、平均年齢55.6歳(95%信頼区間[CI]:52.7~58.5)、男性58.7%であった。平均SOFAスコアに有意差なし、28日および90日死亡率はランジオロール群で上昇 SOFAスコア(平均値±SD)は、ランジオロール群8.8±3.9、標準治療群8.1±3.2、平均群間差は0.75(95%CI:-0.49~2.0、p=0.24)であった。 無作為化後28日死亡率は、ランジオロール群37.1%(62例中23例)、標準治療群25.4%(63例中16例)(絶対群間差:11.7%、95%CI:-4.4~27.8、p=0.16)、90日死亡率はそれぞれ43.5%(62例中27例)、28.6%(63例中18例)(15%、-1.7~31.6、p=0.08)であった。 有害事象の発現率は、ランジオロール群17.5%(63例中10例)、標準治療群12.7%(63例中8例)で、両群間に有意な差はなかった。しかし、重篤な有害事象の発現率は、ランジオロール群25.4%(63例中16例)に対し、標準治療群では6.4%(63例中4例)で有意差がみられた(p=0.006)。1つ以上の有害事象を発現した患者数については両群で差はなかった。

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急性感染症での安全性、CFPM vs.TAZ/PIPC/JAMA

 先行研究でセフェピム(CFPM)は神経機能障害を、タゾバクタム・ピペラシリン(TAZ/PIPC)は急性腎障害を引き起こす可能性が指摘されている。米国・ヴァンダービルト大学医療センターのEdward T. Qian氏らは「ACORN試験」において、急性感染症で入院した成人患者を対象に、これら2つの抗菌薬が神経機能障害または急性腎障害のリスクに及ぼす影響を評価し、タゾバクタム・ピペラシリンは急性腎障害および死亡のリスクを増加させなかったが、神経機能障害のリスクはセフェピムのほうが高かったことを報告した。研究の成果は、JAMA誌2023年10月24・31日の合併号に掲載された。米国の単施設の実践的な無作為化試験 ACORN試験は、セフェピムとタゾバクタム・ピペラシリンの安全性の評価を目的に、ヴァンダービルト大学医療センターの救急診療部(ED)または集中治療室(ICU)に入院した感染症疑いの成人患者を対象に行われた実践的な非盲検無作為化試験であり、試験期間は2021年11月~2022年10月であった(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、来院後12時間以内にEDまたはICUで医師により抗緑膿菌セファロスポリン系またはペニシリン系の抗菌薬がオーダーされた患者を、セフェピムまたはタゾバクタム・ピペラシリンを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、14日目までの急性腎障害の最重度の病期または死亡とし、5段階(0[急性腎障害なしの生存]~4[死亡])の順序尺度で評価した。副次アウトカムは、14日目の時点での主要有害腎イベント(死亡、新規腎代替療法、持続性腎機能不全などの複合)と、14日目までのせん妄および昏睡のない生存日数で評価した神経機能障害であった。セフェピムの神経毒性、腎機能低下や敗血症で多いとの報告も 2,511例を主要アウトカムの解析の対象とした。年齢中央値は58歳(四分位範囲[IQR]:43~69)、42.7%が女性であった。94.7%はEDでの登録で、77.2%は登録時にバンコマイシンの投与を受けており、来院から登録までの時間中央値は1.2時間(IQR:0.4~3.5)、54.2%が敗血症で、最も多く疑われた感染源は腹腔内と肺であった。セフェピム群に1,214例、タゾバクタム・ピペラシリン群に1,297例を割り付けた。 最重度の急性腎障害または死亡は、セフェピム群ではステージ3の急性腎障害が85例(7.0%)、死亡が92例(7.6%)で、タゾバクタム・ピペラシリン群ではそれぞれ97例(7.5%)、78例(6.0%)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.80~1.13、p=0.56)。 14日目の時点での主要有害腎イベントは、セフェピム群が124例(10.2%)、タゾバクタム・ピペラシリン群は114例(8.8%)で発生し、両群間に有意差はなかった(絶対群間差:1.4%、95%CI:-1.0~3.8)。 14日以内にせん妄および昏睡のない平均生存日数は、タゾバクタム・ピペラシリン群が12.2(SD 4.3)日であったのに対し、セフェピム群は11.9(SD 4.6)日と短かった(OR:0.79、95%CI:0.65~0.95)。また、14日目までに、セフェピム群の252例(20.8%)とタゾバクタム・ピペラシリン群の225例(17.3%)が、せん妄または昏睡を経験した(絶対群間差:3.4%、95%CI:0.3~6.6)。 著者は、「セフェピムは、血液脳関門を通過し、γ-アミノ酪酸受容体に対して濃度依存性の阻害作用を示し、症例集積研究やコホート研究において昏睡、せん妄、脳症、痙攣などの神経毒性を伴うことが報告されている。また、セフェピムによる神経毒性は、腎機能が低下している患者や、敗血症のような血液脳関門が障害された病態の患者で、より高頻度に発現するとの報告がある」と指摘している。

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再発性UTIに高周波電気療法が有効性を示す

 米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのPhilippe Zimmern氏らの研究で、再発性尿路感染症(UTI)に対する治療法の有効性が示された。この治療法は、高周波電気療法(electrofulguration)と呼ばれるもので、炎症を伴う感染した膀胱組織に電気刺激を加えて破壊する。研究では、再発性UTIに苦しんでいる多くの女性でこの治療法の効果が確認された。詳細は、「The Journal of Urology」10月号に掲載された。 一部の高齢女性は膀胱炎などのUTIの再発を繰り返し、そのたびに抗菌薬の処方を受けている。しかし、抗菌薬を継続的に、あるいは繰り返し使用すると耐性菌が増加し、UTIの治療がますます難しくなることがある。こうした状況が、敗血症として知られる危険な血液感染を招き、膀胱の外科的な切除に至る場合もある。 論文の上席著者であるZimmern氏は、別の研究グループによる動物を用いた研究論文を読んだことがきっかけで、UTIに高周波電気療法を試すことを思い付いたという。その研究では、膀胱の感染症では、まず膀胱の表面が細菌感染による攻撃を受け、より深い層に細菌が付着すること、また、そのようにして付着した細菌はバイオフィルムを形成することで自身を保護し、膀胱内に残存することなどが示されていた。Zimmern氏は、「細菌が膀胱内に存在することが証明されれば、高周波電気療法がこれらの患者に対する決定的な治療法になり得るという考えが浮かんだ」と言う。なお、米国立衛生研究所(NIH)の情報によると、高周波電気療法は、以前から膀胱の腫瘍を焼灼して切除する治療法として用いられている。 今回の研究でZimmern氏らは、2006~2012年に再発性UTIに対して高周波電気療法による治療を受け、その後5年以上にわたって経過が追跡された閉経後女性96人(年齢中央値64歳)の医療記録を調べた。追跡期間中央値は11年だった。 その結果、対象女性の72%が追跡期間中に臨床的治癒(年間のUTI再発が0~1回)に至り、22%はUTIが改善した(年間のUTI再発が3回未満)と判定された。治療の効果が認められなかった対象女性は6%だった。また、抗菌薬の継続投与を必要とした女性の割合は、高周波電気療法を受ける前の時点では74%に上っていたが、最終フォローアップ受診時にはわずか5%にまで低下していた。 Zimmern氏は、「膀胱に侵入する細菌は、種類が多様な上に組織への付着能力も異なっており、非常に複雑だ。われわれは、そうしたことを解明する必要がある」と語る。同氏はさらに、「興味深いことに、半数の女性には感染が認められない」と話す。同氏が関わっている別の進行中の研究では、こうした慢性的な感染に至らない女性で何が起こっているのか、またそのような女性はどのように慢性的な感染から保護されているのかを調べているのだという。 米ノースウェル・ヘルス泌尿器科のLouis Kavoussi氏は、標準治療に代わってこの種の治療法を患者に勧めるべきかどうかについて慎重な姿勢を示している。同氏は、「今後、追加の研究を行う価値があるかどうかを問われれば『イエス』と答えるが、高周波電気療法が万能の治療法、あるいは標準治療となる見込みはまずないだろう」と話す。 Kavoussi氏は、今回の研究参加者には高周波電気療法の後に長期間にわたって抗菌薬も処方されていた点を指摘し、「このことが治癒に大きく寄与した可能性がある」との見方を示している。

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HER2+胃がん1次治療、ペムブロリズマブ上乗せでPFS改善(KEYNOTE-811)/Lancet

 未治療の転移のあるHER2陽性胃・食道胃接合部腺がん患者において、1次治療であるトラスツズマブおよび化学療法へのペムブロリズマブ上乗せ併用は、プラセボと比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、とくにPD-L1陽性(CPS 1以上)患者で顕著であった。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのYelena Y. Janjigian氏らが、20ヵ国168施設で実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「KEYNOTE-811試験」の第2回および第3回の中間解析結果を報告した。KEYNOTE-811試験の第1回中間解析では、奏効率に関してペムブロリズマブ群のプラセボ群に対する優越性が示されていた。Lancet誌オンライン版2023年10月20日号掲載の報告。主要評価項目はPFSとOS 研究グループは、未治療の局所進行または転移のあるHER2陽性胃・食道胃接合部腺がんで、RECIST v1.1による測定可能病変を有しECOG PSが0または1の18歳以上の患者を、ペムブロリズマブ群またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。層別因子は、地域、PD-L1 CPSおよび医師が選択した化学療法であった。 両群とも、トラスツズマブおよび、フルオロウラシル+シスプラチンまたはカペシタビン+オキサリプラチンとの併用下で、3週ごとに最大35サイクル、または病勢進行、許容できない毒性発現、治験責任医師の判断または患者の同意撤回による中止まで投与した。 主要評価項目は、PFSおよび全生存期間(OS)で、ITT解析を行った。安全性は、無作為化され1回以上投与を受けたすべての患者を対象に評価した。ペムブロリズマブ群でPFSは有意に延長、OSは延長するも有意水準を満たさず 2018年10月5日~2021年8月6日の期間に計698例がペムブロリズマブ群(350例)またはプラセボ群(348例)に割り付けられた。564例(81%)が男性、134例(19%)が女性であった。第3回中間解析時は、投与を受けたペムブロリズマブ群350例中286例(82%)、プラセボ群346例中304例(88%)が投与を中止しており、そのほとんどは病勢進行によるものであった。 第2回中間解析(追跡期間中央値:ペムブロリズマブ群28.3ヵ月[四分位範囲[IQR]:19.4~34.3]、プラセボ群28.5ヵ月[20.1~34.3])において、PFS中央値はそれぞれ10.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:8.6~11.7)、8.1ヵ月(7.0~8.5)であり(ハザード比[HR]:0.72、95%CI:0.60~0.87、p=0.0002[優越性の有意水準:p=0.0013])、OS中央値は20.0ヵ月(95%CI:17.8~23.2)、16.9ヵ月(15.0~19.8)であった(HR:0.87、95%CI:0.72~1.06、p=0.084)。PD-L1発現がCPS 1以上の患者では、PFS中央値はペムブロリズマブ群10.8ヵ月、プラセボ群7.2ヵ月であった(HR:0.70、95%CI:0.58~0.85)。 第3回中間解析(追跡期間中央値:ペムブロリズマブ群38.4ヵ月[IQR:29.5~44.4]、プラセボ群38.6ヵ月[30.2~44.4])では、PFS中央値はそれぞれ10.0ヵ月(95%CI:8.6~12.2)、8.1ヵ月(7.1~8.6)であり(HR:0.73、95%CI:0.61~0.87)、OS中央値は20.0ヵ月(95%CI:17.8~22.1)、16.8ヵ月(15.0~18.7)であった(HR:0.84、95%CI:0.70~1.01)。OSは有意性の水準を満たさなかったが、その後の治療がOSの評価に影響を与える可能性があることから、事前に規定された最終解析計画は変更せず試験は継続されている。 Grade3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で350例中204例(58%)、プラセボ群で346例中176例(51%)に発現した。死亡に至った治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で4例(1%)(肝炎、敗血症、脳梗塞、肺炎が各1例)、プラセボ群で3例(1%)(心筋炎、胆管炎、肺塞栓症が各1例)に認められた。すべての治療関連有害事象で最も多く見られたのは、下痢(ペムブロリズマブ群165例[47%]、プラセボ群145例[42%])、悪心(それぞれ154例[44%]、152例[44%])、貧血(109例[31%]、113例[33%])であった。

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大手術後の炎症を阻害すると...(解説:後藤信哉氏)

 コルヒチンは歴史の長い抗炎症薬である。LoDoCo(Low Dose Colchicine)試験にて冠動脈疾患の二次予防効果が証明されて、循環器内科領域に注目されることになった。多くの循環器疾患に炎症が関与する。各種のがん治療などの非心臓疾患の手術時の心房細動の発症予防効果の有無が本研究にて検証された。非心臓性手術後の心房細動と心筋梗塞の発症例では炎症マーカーの高値が報告されている。そこで、本研究では強力な抗炎症薬であるコルヒチンに、非心臓の大手術時の心房細動および心筋障害発症予防効果の有無がランダム化比較試験により検証された。 非心臓の大手術症例へのコルヒチンの使用は、一見とっぴに見える。しかし、術中・術後の心房細動、心筋障害が炎症により引き起こされているのであれば、抗炎症薬を用いたランダム化比較試験実施には意味がある。3,209例を対象としたランダム化比較試験の結果は信頼できる。コルヒチンの抗炎症効果が発現されていることは、コルヒチン群の感染と敗血症の増加により確認されている。コルヒチンの副作用である消化管障害もコルヒチン群で増えている。 臨床試験の実施については英国・オックスフォード大学、米国・ハーバード大学、デューク大学が長けているが、カナダ・マクマスター大学も引けを取らない。ランダム化比較試験による臨床的仮説の検証研究では、日本はとても追い付けない。個別最適化医療の理論化と実践では是非、先行したいものだ。

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髄膜炎菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第16回

ワクチンで予防できる疾患髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は、飛沫感染で伝播し、侵襲性感染症として、菌血症、髄膜炎を伴わない敗血症、髄膜炎、髄膜脳炎の4つの病型に分けられる。とくに重篤な侵襲性髄膜炎菌感染症は、髄液または血液などの無菌部位から検出され、2~10日間の潜伏期間の後、突発的に発症する。点状出血が眼球結膜や口腔粘膜、皮膚に認められ、出血斑が体幹や下肢に認められるという重篤な感染症を引き起こす。髄膜炎では、頭痛、発熱、痙攣、意識障害を来す。敗血症では発熱、悪寒、重症化すると汎発性血管内凝固症候群(DIC[ウォーターハウス・フリードリヒセン症候群])に進展することがある。「髄膜炎菌性髄膜炎」は感染症法において5類感染症である。この菌は1887年にWeichselbaumによって、急性髄膜炎を発症した患者の髄液から初めて分離されている。菌は莢膜を有するグラム陰性の双球菌で、ヒト以外からは分離されず、自然界の条件では生存できない。患者のみならず、健常者の鼻咽頭からも分離されている(保菌者)。髄膜炎菌には、13以上の異なる種類(血清群)がある。このうち主にA群、B群、C群、Y群、W-135群の5種類が感染の原因となる。国内の2013年4月〜2017年10月までに届け出があった侵襲性髄膜炎菌感染症の160例の血清群では、Y群が1番多く、次にB群が多かった1)。わが国の侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の好発年齢は、0~4歳の乳幼児と10代後半の思春期、40~70代前半に多く、男女比はほぼ3:2である。はっきりとした季節性は認めないが、11月~3月の報告数がやや多い。2013年以降の侵襲性髄膜炎菌感染症の致命率は15.0%(24/160)である1)。髄膜炎菌感染症は、人と人が近い距離で、長時間集まる場所で感染が広まりやすい。そのため、学生や職場の寮、クラブ活動での合宿など、狭い空間での共同生活で感染リスクが高まる。国内においては、高校の寮内での集団感染が報告されている。また、髄膜炎菌は、唾液を介して感染するため、食器類の共有、ペットボトルの回し飲み、キスなどで感染するリスクがある。海外では、アフリカ中部の「髄膜炎ベルト」と呼ばれる地域では髄膜炎菌感染症が流行し、米国、オーストラリア、英国、カナダなどの先進国でも散発的に患者が発生している。そのため、同地域へ渡航や留学する際は予防接種を求められることがある。ワクチンの概要髄膜炎菌による感染症は、診断に時間を要したり、急速に進展すると治療が遅れたりする可能性が高いため、ワクチンの接種によってあらかじめ予防しておくことが重要である。国内で承認されているワクチンは、不活化ワクチンである4価髄膜炎菌ワクチンのメンクアッドフィ(商品名)である(図)。髄膜炎菌の血清群A、C、W-135およびYに起因する侵襲性髄膜炎菌感染症を予防に用いる。画像を拡大する日常診療で役立つ接種ポイント髄膜炎菌に感染するリスクは、先述のように学生寮など共同生活を行っている場所や参加者の多い国際的な大会、会議など多くの人が集うイベント、イスラム教の聖地巡礼など、人が集うことである。国内の患者には海外渡航歴がないことも多く、国内でも感染する疾患であるとの認識が必要である。入学、入寮、合宿などの集団生活が始まる前の春休みや夏休みや髄膜炎菌が流行している地域への海外渡航・留学前は、とくに感染のリスクが高くなるため、そのような機会がある人には、疾患の説明とワクチンで予防できることを説明すると良い。●髄膜炎菌ワクチンをお勧めする人2)(1)髄膜炎流行地域へ渡航する人(2)学校の寮などで集団生活を送る人または送る予定の人(3)大勢の人の集まるところに行く予定の人(ユースのキャンプ、コンサート、スポーツ観戦など)(4)HIV、無脾症、補体機能不全などハイリスクな状態の人今後の課題・展望侵襲性髄膜炎菌感染症のアウトブレイクなどにより、米国、カナダ、オーストラリア、英国では、4価髄膜炎菌ワクチンが定期接種として導入されている。今後、人の移動と交流が活発になり、集団での活動が盛んになると、国内での感染者が増加することが予測される。上記の「髄膜炎菌ワクチンをお勧めする人」に当てはまる人は、感染の可能性があるため、ワクチンで予防していただきたい。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)1)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 月報Vol.39,No.1(No.455)【2018年1月発行】侵襲性髄膜炎菌感染症 2013年4月~2017年10月2)こどもとおとなのワクチンサイト 髄膜炎菌ワクチン3)医薬品インタビューフォーム「メンクアッドフィ筋注」4)「メンクアッドフィ筋注」添付文書講師紹介

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国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」【下平博士のDIノート】第129回

国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」今回は、人工妊娠中絶用製剤「ミフェプリストン・ミソプロストール(商品名:メフィーゴパック、製造販売元:ラインファーマ)」を紹介します。本剤は、国内で初めて承認された経口の人工妊娠中絶薬であり、中絶を望む女性にとって身体的にも精神的にも負担が少ない薬剤と考えられます。<効能・効果>子宮内妊娠が確認された妊娠63日(妊娠9週0日)以下の者に対する人工妊娠中絶の適応で、2023年4月28日に製造販売承認を取得し、5月16日より販売されています(薬価基準未収載)。本剤を用いた人工妊娠中絶に先立ち、本剤の危険性および有効性、本剤投与時に必要な対応を十分に説明し、同意を得てから本剤の投与を開始します。なお、異所性妊娠に対しては有効性が期待できません。<用法・用量>ミフェプリストン錠1錠(ミフェプリストンとして200mg)を経口投与し、その36~48時間後の状態に応じて、ミソプロストールバッカル錠4錠(ミソプロストールとして計800μg)を左右の臼歯の歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置します。30分後も口腔内に錠剤が残っている場合は飲み込みます。ミフェプリストン投与後に胎嚢の排出が認められた場合、子宮内容物の遺残の状況を踏まえてミソプロストールの投与の要否を検討します。<安全性>国内第III相試験において1%以上に認められた副作用は、下腹部痛、悪心、嘔吐、下痢、発熱、悪寒でした。重大な副作用として、重度の子宮出血(0.8%)のほか、感染症、重度の皮膚障害、ショック、アナフィラキシー、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、妊娠9週以下の人に対する人工妊娠中絶の薬です。妊娠の継続に必要な黄体ホルモンの働きを抑える薬剤と、子宮収縮作用により子宮内容物を排出させる薬剤を組み合わせたパック製剤です。2.この薬の投与後は下腹部痛や子宮出血が現れて一定期間継続します。まれに重度の子宮出血が生じて貧血が悪化することがあるため、自動車の運転などの危険を伴う機械操作を行う場合は十分に注意してください。3.服用後、2時間以上にわたって夜用ナプキンを1時間に2回以上交換しなければならないような出血が生じた場合、発熱、寒気、体のだるさ、腟から異常な分泌物などが生じたときは速やかに医師に連絡してください。4.授乳中に移行することが知られているので、授乳をしている場合は事前にお伝えください。5.子宮内避妊用具(IUD)またはレボノルゲストレル放出子宮内システム(IUS)を使用中の人はこの薬の投与を受ける前に除去する必要があります。<Shimo's eyes>本剤は、国内で初めて承認された人工妊娠中絶のための経口薬です。これまで妊娠初期の中絶は掻把法や吸引法によって行われてきましたが、今回新たに経口薬が選択肢に加わりました。ミフェプリストンとミソプロストールの順次投与による中絶法は、世界保健機関(WHO)が作成した「安全な中絶−医療保険システムにおける技術及び政策の手引き−」で推奨されており、海外では広く使用されています。使用方法は、1剤目としてミフェプリストン錠1錠を経口投与し、その36~48時間後にミソプロストール錠4錠をバッカル投与します。ミフェプリストンはプロゲステロン受容体拮抗薬であり、プロゲステロンによる妊娠の維持を阻害する作用および子宮頸管熟化作用を有します。ミソプロストールはプロスタグランジンE1誘導体であり、子宮頸管熟化作用や子宮収縮作用を有します。両剤の作用により妊娠の継続を中断し、胎嚢を排出します。国内第III相試験では、投与後24時間以内の人工妊娠中絶が成功した患者の割合は93.3%で、安全性プロファイルは認容できるものでした。本剤投与後に、失神などの症状を伴う重度の子宮出血が認められることがあり、外科的処置や輸血が必要となる場合があります。また、重篤な子宮内膜炎が発現することがあり、海外では敗血症や中毒性ショック症候群に至り死亡した症例が報告されていることから、異常が認められた場合に連絡を常に受けることができる体制や、ほかの医療機関との連携も含めた緊急時に適切な対応が取れる体制で本剤を投与することが求められています。併用禁忌の薬剤として、子宮出血の程度が悪化する恐れがあるため、抗凝固薬(ワルファリンカリウム、DOAC)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル硫酸塩、EPA製剤など)があります。また、ミフェプリストンの血漿中濃度が低下し、効果が減弱する恐れがあるため、中~強程度のCYP3A誘導剤(リファンピシン、リファブチン、カルバマゼピン、セイヨウオトギリソウ含有食品など)も併用禁忌となっています。本剤の承認申請が行われた2021年12月以降、社会的に大きな関心を集めました。厚生労働省が承認にあたってパブリックコメントを実施したところ1万1,450件もの意見が寄せられ、そのうち承認を支持する意見が68.3%、不支持が31.2%でした。欧米では経口薬による人工妊娠中絶法は30年以上前から行われていて、先進国を中心に主流になりつつあります。中絶を望む女性は、健康上の懸念がある、性的暴力を受けた、若すぎる、経済的に困窮している、パートナーの協力を得られないなどさまざまな背景があります。わが国では現在、薬局やインターネットで購入することはできませんが、多くの議論を経て、中絶を望む人たちにとって、医学的にも精神的にも寄り添うことのできるシステムが構築されることが望まれます。

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コルヒチン、心臓以外の胸部手術で心房細動を予防せず/Lancet

 主要な非心臓胸部手術を受けた患者において、コルヒチンは臨床的に重大な周術期心房細動(AF)および非心臓術後の心筋障害(MINS)の発生を有意に低下しないばかりか、ほとんどは良性だが非感染症性下痢のリスクを増大することが示された。カナダ・Population Health Research InstituteのDavid Conen氏らが、コルヒチンの周術期AF予防について検証した国際無作為化試験「COP-AF試験」の結果を報告した。炎症性バイオマーカー高値は、周術期AFおよびMINSリスク増大と関連することが知られている。これらの合併症の発生を抗炎症薬のコルヒチンが抑制する可能性が示唆されていた。Lancet誌オンライン版2023年8月25日号掲載の報告。11ヵ国45施設で無作為化プラセボ対照試験 COP-AF試験は、11ヵ国(オーストリア、ベルギー、カナダ、中国、コロンビア、イタリア、マレーシア、パキスタン、スペイン、スイス、米国)の45施設で行われた研究者主導の無作為化プラセボ対照試験。低用量コルヒチンが主要な非心臓胸部手術後の周術期AFおよびMINSの発生予防に有効であるかを評価した。 主要な非心臓胸部手術を受ける55歳以上の患者(全身麻酔で施術し術後少なくとも1泊の入院が予想される)を、無作為に1対1の割合で、経口コルヒチン0.5mgを1日2回またはマッチングプラセボを投与する群に割り付け、術後4時間以内に投与を開始し10日間継続した。 無作為化はコンピュータ・ウェブベースシステムを用いて行い、施設による層別化を行った。医療ケア提供者、患者、データ収集担当者、評価者は治療割り付けをマスクされた。 主要アウトカムは2つで、フォローアップ14日間の臨床的に重大な周術期AFおよびMINSの発生であった。主な安全性アウトカムは敗血症または感染症の複合、および非感染性下痢とした。すべての解析で、intention-to-treat解析を原則とした。周術期AFとMINSの発生は有意差なし、一方で非感染性下痢が3.64倍 2018年2月14日~2023年6月27日に、3,209例(平均年齢68歳[SD 7]、男性1,656例[51.6%])が登録された。 臨床的に重大な周術期AFの発生は、コルヒチン群103/1,608例(6.4%)、プラセボ群120/1,601例(7.5%)であった(ハザード比[HR]:0.85[95%信頼区間[CI]:0.65~1.10]、絶対リスク減少[ARR]:1.1%[95%CI:-0.7~2.8]、p=0.22)。 MINSの発生は、コルヒチン群295/1,608例(18.3%)、プラセボ群325/1,601例(20.3%)であった(HR:0.89[95%CI:0.76~1.05]、ARR:2.0%[95%CI:-0.8~4.7]、p=0.16)。 また、敗血症または感染症の複合の発生は、コルヒチン群103/1,608例(6.4%)、プラセボ群83/1,601例(5.2%)であった(HR:1.24[95%CI:0.93~1.66])が、非感染性下痢は、コルヒチン群(134/1,608件[8.3%])がプラセボ群(38/1,601件[2.4%])よりも多く認められた(HR:3.64[95%CI:2.54~5.22])。

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高齢COVID-19患者の退院後の死亡および再入院のリスク(解説:小金丸博氏)

 今回、65歳以上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の退院後の長期にわたる転帰を調査した米国の後ろ向きコホート研究の結果が、BMJ誌2023年8月9日号に報告された。高齢者におけるCOVID-19の急性期症状や短期的な転帰についてはよく研究されているが、長期的な転帰については十分判明していなかった。本研究ではインフルエンザの退院患者を対照群として選択し比較した。その結果、COVID-19患者の退院後の全死因死亡リスクは30日時点で10.9%、90日時点で15.5%、180日時点で19.1%であり、インフルエンザ患者と比較して高率だった。再入院のリスクは30日時点で16.0%、90日時点で24.1%でありインフルエンザ患者より高率だったが、180日時点では30.6%で同等だった。再入院は心肺機能の問題で入院することが多く、再入院時の初期診断としては敗血症(セプシス)、心不全、肺炎の順に多く認めた。 本研究では、COVID-19関連の入院後に退院した65歳以上の高齢者では、退院後180日以内の死亡リスクが過去のインフルエンザ対照群と比較して高いことが示された。インフルエンザの重症度は流行株による違いが大きいことが知られており、比較対象とするシーズンによって結果が異なることが予想されるものの、入院を要したCOVID-19が高齢患者に与えるダメージが大きいことは現場で感じる感覚と合致する。両群の死亡リスクの増加の違いは主に退院後30日以内の違いによって引き起こされているようであり、COVID-19のほうがより急性感染症として重篤であることや血栓塞栓症などの合併症を多く引き起こすことが理由として考えられる。 COVID-19関連の退院後の死亡リスクはパンデミックの過程で大幅に減少していた。抗ウイルス薬、ステロイドの投与といった有効な治療法の確立、重症化予防が期待できるワクチン接種など、治療や予防の進歩が寄与した可能性が高いと思われる。そのほか、コロナウイルスの変異に伴う毒性の変化も死亡リスク減少の理由として考えられる。 高齢者は高血圧や糖尿病など基礎疾患を有することが多く、COVID-19に罹患した場合、入院が必要となることも多い。入院中の急性期の治療はもちろん大切だが、高齢者では退院後の死亡率、再入院率が高いことを認識し、退院後も継続的に経過観察することが重要と考える。

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既治療のHR+/HER2-転移乳がんへのSG、OSを改善(TROPiCS-02)/Lancet

 sacituzumab govitecan(SG)は、ヒト化抗Trop-2モノクローナル抗体と、トポイソメラーゼ阻害薬イリノテカンの活性代謝産物SN-38を結合した抗体薬物複合体。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のHope S. Rugo氏らは、「TROPiCS-02試験」において、既治療のホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療では、本薬は標準的な化学療法と比較して、全生存期間(OS)を有意に延長し、管理可能な安全性プロファイルを有することを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年8月23日号で報告された。9ヵ国の非盲検無作為化第III相試験 TROPiCS-02試験は、北米と欧州の9ヵ国91施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2019年5月~2021年4月に患者を登録した(Gilead Sciencesの助成を受けた)。 対象は、HR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんで、内分泌療法、タキサン系薬剤、CDK4/6阻害薬による治療を1つ以上受け、転移病変に対し2~4レジメンの化学療法を受けており、年齢18歳以上で全身状態が良好な(ECOG PS 0/1)患者であった。 被験者を、sacituzumab govitecan(10mg/kg、21日ごとに1日目と8日目)または化学療法の静脈内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。化学療法群は、担当医の選択でエリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれかの単剤投与を受けた。 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS、すでに発表済みで、本論では報告がない)で、主な副次評価項目はOS、客観的奏効率(ORR)、患者報告アウトカムであった。 543例を登録し、sacituzumab govitecan群に272例(年齢中央値57歳[四分位範囲[IQR]:49~65]、男性2例)、化学療法群に271例(55歳[48~63]、3例)を割り付けた。全体の進行病変に対する化学療法のレジメン数中央値は3(IQR:2~3)で、86%が6ヵ月以上にわたり転移病変に対する内分泌療法を受けていた。ORR、全般的健康感/QOLも良好 追跡期間中央値12.5ヵ月(IQR:6.4~18.8)の時点で390例が死亡した。OS中央値は、化学療法群が11.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.1~12.7)であったのに対し、sacituzumab govitecan群は14.4ヵ月(13.0~15.7)と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。生存に関するsacituzumab govitecan群の有益性は、Trop-2の発現レベルに基づくサブグループのすべてで認められた。 また、ORRは、化学療法群の14%(部分奏効38例)と比較して、sacituzumab govitecan群は21%(完全奏効2例、部分奏効55例)と有意に優れた(オッズ比[OR]:1.63、95%CI:1.03~2.56、p=0.035)。奏効期間中央値は、sacituzumab govitecan群が8.1ヵ月、化学療法群は5.6ヵ月だった。 全般的健康感(global health status)/QOLが悪化するまでの期間は、化学療法群が3.0ヵ月であったのに対し、sacituzumab govitecan群は4.3ヵ月であり、有意に良好であった(HR:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.0059)。また、倦怠感が悪化するまでの期間も、sacituzumab govitecan群で有意に長かった(2.2ヵ月 vs.1.4ヵ月、HR:0.73、95%CI:0.60~0.89、p=0.0021)。 sacituzumab govitecanの安全性プロファイルは、先行研究との一貫性が認められた。sacituzumab govitecan群の1例で、治療関連の致死的有害事象(好中球減少性大腸炎に起因する敗血症性ショック)が発現した。 著者は、「これらのデータは、前治療歴を有する内分泌療法抵抗性のHR+/HER2-の転移乳がんの新たな治療選択肢としてのsacituzumab govitecanを支持するものである」としている。なお、sacituzumab govitecanは、米国では2023年2月、EUでは2023年7月に、内分泌療法ベースの治療と転移病変に対する2つ以上の全身療法を受けたHR+/HER2-の切除不能な局所再発または転移のある乳がんの治療法として承認されている。

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米国での誤診による深刻な被害の実態が明らかに

 毎年約79万5,000人の米国人が、誤診により死亡したり永続的な障害を被っていることが、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部のDavid Newman-Toker氏らによる研究で示された。この研究結果は、「BMJ Quality & Safety」に7月17日掲載された。 Newman-Toker氏は、「プライマリケア、救急外来などの特定の臨床現場で発生した誤診に焦点を当てた研究はこれまでにも実施されていたが、複数の医療現場にまたがる深刻な被害の総計は調査されておらず、その推定値には年間4万件から400万件の幅があった。われわれの研究では、疾患別の誤診と被害発生率を基に損害の総計を推定した点で注目に値する」と話す。 Newman-Toker氏らは今回、米国内の特定の疾患の発生件数に、その疾患の患者のうち誤診による深刻な被害(死亡、または永続的な障害)が生じた者の割合を掛け合わせることで、その疾患に関して生じた被害の大きさを割り出した。その後、血管イベント、感染症、がんの3つの領域(Big 3領域)の主要な15種類の疾患について同様の計算法を適用し、得られた結果を合計して、国内全体での誤診や被害に関する推定値を算出した。次いで、この測定値の妥当性を検討するために、さまざまな仮定を立てて分析を行い、推定値を出すために選択した手法などの影響を評価し、さらに、独立したデータ源や専門家のレビューとの比較も行った。 その結果、米国では毎年、血管イベントが600万件、感染症が620万件、がんが150万件発生しており、これらの3領域における重み付けされた誤診率は11.1%、被害発生率は4.4%と計算された。疾患全体での誤診率は、心筋梗塞での1.5%から脊椎膿瘍での62%まで、疾患により大きな開きがあった。誤診により生じた深刻な被害が最も多かったのは、脳卒中だった。 Big 3領域以外の全ての疾患に対象を広げると、米国全体で誤診に関連する深刻な被害が年間79万5,000件(推定範囲59万8,000~102万3,000件;死亡37万1,000件、永続的な障害42万4,000件)生じているものと推定され、医療現場全体にわたる深刻な被害状況が浮き彫りになった。この結果は、外来診療所や救急外来、入院治療での誤診に焦点を当てた複数の先行研究において報告されたデータと一致していた。15種類の疾患は全体の深刻な被害の50.7%を占め、深刻な被害が生じる頻度の高い上位5つの疾患(脳卒中、敗血症、肺炎、静脈血栓塞栓症、肺がん)が全体の38.7%を占めていた。 以上の結果を踏まえて研究グループは、「誤診率の高い疾患に最優先で対処すべきだ」と主張する。Newman-Toker氏は、「疾患に焦点を当てたアプローチにより誤診を予防・軽減することで、このような被害を大幅に減らせる可能性がある。脳卒中、敗血症、肺炎、肺塞栓症、肺がんの誤診を半減させることで、後遺障害と死亡の発生件数を年間15万件減らせるはずだ」と話す。 ジョンズ・ホプキンス大学では、すでに脳卒中の見逃しに対処するための解決法を開発して使い始めているという。その解決法とは、第一線の臨床医のスキルを向上させるためのバーチャル患者シミュレーターや、専門医が遠隔操作で臨床医の脳卒中診断を支援するための、ビデオゴーグルや携帯電話を介したポータブル眼球運動計測装置などである。また、診断プロセスの一部を自動化するコンピューターベースのアルゴリズムや、パフォーマンスを測定し、質の向上に関するフィードバックを提供するダッシュボードなども導入されている。 Newman-Toker氏は、「このような取り組みに必要な資金は、いまだ十分でない」と指摘する。同氏は、「われわれが直面している公衆衛生危機の中では、誤診の削減のために投入される資金が最も少ない。高い精度で確実な診断を行い、誤診による予防可能な被害をゼロにすることを目指すのであれば、そのための努力に投資し続ける必要がある」と述べている。

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12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」【下平博士のDIノート】第127回

12歳から使用可能な経口の円形脱毛症治療薬「リットフーロカプセル50mg」今回は、JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬「リトレシチニブ(商品名:リットフーロカプセル50mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、12歳以上の小児から使用できる円形脱毛症治療の経口薬であり、広い患者におけるQOL向上が期待されます。<効能・効果>円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。本剤投与開始時に、頭部全体のおおむね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与します。<用法・用量>通常、成人および12歳以上の小児には、リトレシチニブとして50mgを1日1回経口投与しますなお、本剤による治療反応は、通常投与開始から48週までには得られるため、48週までに治療反応が得られない場合は投与中止を考慮します。<安全性>1%以上に認められた臨床検査値異常を含む副作用として、悪心、下痢、腹痛、疲労、気道感染、咽頭炎、毛包炎、尿路感染、頭痛、ざ瘡、蕁麻疹が報告されています。なお、重大な副作用として、感染症(帯状疱疹[0.9%]、口腔ヘルペス[0.8%]、単純ヘルペス[0.5%]、COVID-19[0.2%]、敗血症[0.1%]など)、リンパ球減少(1.6%)、血小板減少(0.3%)、ヘモグロビン減少(0.2%)、好中球減少(0.2%)、静脈血栓塞栓症(頻度不明)、肝機能障害(ALT上昇[0.9%]、AST上昇[0.5%])、出血(鼻出血[0.5%]、尿中血陽性[0.1%]、挫傷[0.1%]など)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脱毛の原因となる免疫関連の酵素の働きを抑えることで、円形脱毛症の症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体のだるさ、咳の継続などの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。妊娠する可能性のある人は、この薬を使用している間および使用終了後1ヵ月間は、適切な避妊を行ってください。5.ふくらはぎの色の変化、痛み、腫れ、息苦しさなどの症状が現れた場合は、すぐに医師にご連絡ください。<Shimo's eyes>円形脱毛症は、ストレスや疲労、感染症などをきっかけとして、自己の免疫細胞が毛包を攻撃することで脱毛症状が起こる疾患です。急性期と症状固定期(脱毛症状が約半年超)に分けられ、急性期で脱毛斑が単発または少数の場合には発症後1年以内の回復が期待できます。一方、急性期後に自然再生が認められず、脱毛症状が継続する重症の円形脱毛症では回復率は低いとされ、診療ガイドラインには局所免疫療法や紫外線療法などの治療が記載されていますが、より簡便で効果的な治療法が求められていました。本剤は、JAK3および5種類のTECファミリーキナーゼを不可逆的に阻害する共有結合形成型の経口投与可能な低分子製剤です。円形脱毛症の病態に関与するIL-15、IL-21などの共通γ鎖受容体のシグナル伝達をJAK3阻害により強力に抑制し、CD8陽性T細胞およびNK細胞の細胞溶解能をTECファミリーキナーゼ阻害により抑制することで治療効果を発揮します。全頭型および汎発型を含む円形脱毛症を有する患者を対象とした国際共同治験(ALLEGRO-2b/3、ALLEGRO-LT)で、本剤投与群は、24週時のSALT≦20(頭部脱毛が20%以下)達成割合はプラセボと比較して統計的に有意な改善を示しました。なお、円形脱毛症に使用する経口JAK阻害薬として、すでにバリシチニブ(商品名:オルミエント)が2022年6月に適応追加になっています。バリシチニブは15歳以上が対象ですが、本剤は12歳以上の小児でも使用可能です。本剤はほかのJAK阻害薬と同様に、活動性結核、妊娠中、血球減少は禁忌となっています。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。円形脱毛症は、多くの場合は頭皮で脱毛しますが、ときには眉毛、まつ毛を含む頭部全体や全身に症状が出ることでQOLが著しく低下する疾患です。ストレスが多い現代社会で、ニーズの高い医薬品と言えます。

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出生前母体ステロイド投与、児の重篤な感染症のリスク大/BMJ

 出生前ステロイド投与1コースが行われた母親から生まれた児は、生後12ヵ月間、重篤な感染症のリスクが有意に高いことが、台湾・長庚記念病院のTsung-Chieh Yao氏らによる全国コホート研究の結果で示された。新生児の死亡率および罹患率の減少における出生前ステロイド投与の有益性が多くの研究で報告されているが、小児の重篤な感染症に対する出生前ステロイド曝露の潜在的な有害性に関するデータは乏しく、とくに地域住民を対象とした大規模なコホートに基づく厳密なエビデンスは不足していた。著者は今回の結果について、「治療を開始する前に、出生前ステロイド投与による周産期の有益性と、まれではあるが重篤な感染症の長期的リスクについて慎重に比較検討する必要がある」とまとめている。BMJ誌2023年8月2日号掲載の報告。生後12ヵ月以内の重篤な感染症の発生率を出生前ステロイド曝露児と非曝露児で比較 研究グループは、台湾のNational Health Insurance Research Database、Birth Reporting DatabaseおよびMaternal and Child Health Databaseを用い、2008年1月1日~2019年12月31日における台湾のすべての妊婦とその出生児を特定し解析した。 主要アウトカムは、出生前に副腎皮質ステロイド曝露があった児と非曝露児における、生後3ヵ月、6ヵ月および12ヵ月時の入院を要する重篤な感染症、とくに敗血症、肺炎、急性胃腸炎、腎盂腎炎、髄膜炎または脳炎、蜂窩織炎または軟部組織感染症、敗血症性関節炎または骨髄炎、心内膜炎の発生率で、Cox比例ハザードモデルを用い補正後ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 台湾において一般的な母体出生前ステロイド投与は、ベタメタゾン12mgを24時間間隔で2回筋肉内投与、またはデキサメタゾン6mgを12時間間隔で4回筋肉内投与である。すべての重篤な感染症、敗血症、肺炎、急性胃腸炎のリスクが有意に増加 解析対象は、196万545組の妊婦(単胎妊娠)とその出生児で、出生前に副腎皮質ステロイド曝露があった児が4万5,232例、非曝露児が191万5,313例であった。 生後6ヵ月において、出生前ステロイド曝露児は非曝露児と比較し、すべての重篤な感染症、敗血症、肺炎および急性胃腸炎の補正後HRが有意に高かった。補正後HRは、すべての重篤な感染症1.32(95%CI:1.18~1.47、p<0.001)、敗血症1.74(1.16~2.61、p=0.01)、肺炎1.39(1.17~1.65、p<0.001)、急性胃腸炎1.35(1.10~1.65、p<0.001)であった。 同様に、生後12ヵ月において、すべての重篤な感染症(p<0.001)、敗血症(p=0.02)、肺炎(p<0.001)、急性胃腸炎(p<0.001)の補正後HRも有意に高かった。 きょうだいをマッチさせたコホートにおいても、コホート全体で観察された結果と同様、生後6ヵ月(p=0.01)および12ヵ月(p=0.04)において敗血症のリスクが有意に高かった。

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コロナ入院患者の他疾患発症、インフルと比較

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化した人は、急性期後も心血管疾患、神経疾患、精神疾患、炎症性疾患や自己免疫疾患などを発症するリスクが高まり、Long COVIDとして問題になっている。しかし、それはほかの感染症と比較した場合にも、リスクが高いと言えるのだろうか? カナダ・トロント大学のKieran L Quinn氏らはカナダのオンタリオ州において、臨床データベースと医療行政データベースをリンクさせた集団ベースのコホート研究を実施し、研究結果はJAMA Internal Medicine誌オンライン版2023年6月20日号に掲載された。 2020年4月1日~2021年10月31日にCOVID-19で入院した全成人を試験群とし、「過去にインフルエンザで入院」「過去に敗血症で入院」した人を対照群とした。さらにパンデミック中に治療パターンや入院の閾値が変化した可能性を考慮するため「期間中に敗血症で入院」も対照群に加え、年齢、性別、過去5年内の肺炎による入院、COVID-19ワクチン接種状況などの交絡因子を調整した。 アウトカムは入院後1年以内の虚血性および非虚血性の脳血管障害、心血管障害、神経障害、関節リウマチ、精神疾患など、事前に規定した13疾患の新規発症だった。 主な結果は以下のとおり。・試験群として期間中のCOVID-19入院:2万6,499例、対照群として過去にインフルエンザで入院:1万7,516例、過去に敗血症で入院:28万2,473例、期間中に敗血症で入院:5万2,878例が登録された。年齢中央値75(四分位範囲[IQR]:63~85)歳、54%が女性だった。・COVID-19入院は、インフルエンザ入院と比較して、入院1年以内の静脈血栓塞栓症(VTE)の発症リスク上昇と関連していた(調整ハザード比:1.77、95%信頼区間:1.36~2.31)。しかし、インフルエンザまたは敗血症コホートと比較して、その他の規定された13疾患の発症リスクは上昇しなかった。 研究者らは「COVID-19入院後は、他疾患の発症リスクが高まると考えられるが、その程度はVTEを除けば他感染症と同じであった。このことは、COVID-19の急性期以降のアウトカムの多くは、SARS-CoV-2感染による直接的な結果ではなく、入院を必要とする重症の感染症に罹患したことに関連している可能性がある」としている。

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ホジキンリンパ腫初回治療、ニボルマブ+AVD療法がPFSを改善(SWOG S1826)/ASCO2023

 成人の古典的ホジキンリンパ腫の初回治療は、長らくABVD(ブレオマイシン+ドキソルビシン+ビンブラスチン+ダカルバジン)療法が標準治療であったが、2022年にA+AVD(ブレンツキシマブ ベドチン+ドキソルビシン+ビンブラスチン+ダカルバジン)療法がABVD療法と比較して全生存期間(OS)を延長したことが報告された。しかし、若い患者を中心に、長期間続く治療による毒性の問題が依然として残っている。 米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)のプレナリーセッションとして、新たな標準療法となったA+AVD療法と、再発難治ホジキンリンパ腫の治療で有効性を示した抗PD-1抗体ニボルマブをAVD療法に加えたN-AVD療法を比較した第III相SWOG S1826試験の結果が、米国・シティ・オブ・ホープ総合がんセンターのAlex Francisco Herrera氏によって報告された。・対象:12歳以上、StageIII~IVのホジキンリンパ腫患者・試験群(N-AVD群):ニボルマブ+AVDを6サイクル。G-CSF製剤による好中球減少症予防治療は任意・対照群(A+AVD群):ブレンツキシマブ ベドチン+AVDを6サイクル。G-CSF製剤投与は必須・評価項目:[主要評価項目]無増悪存期間(PFS)[副次評価項目]OS、無イベント生存期間(EFS)、患者報告アウトカム(PROs)、安全性 主な結果は以下のとおり。・2019年7月19日~2022年10月5日に976例が組み入れられ、N-AVD群(489例)とA+AVD群(487例)に無作為に割り付けられた。年齢中央値は27歳(12~83歳)、56%が男性、76%が白人であった。24%が18歳未満、10%が60歳以上、32%がIPSスコア4~7であった。・N-AVD群では30件のPFSイベントが発生し、A+AVD群では58件のPFSイベントが発生した。・追跡期間中央値12.1ヵ月時点で、PFSはN-AVD群で優れていた(ハザード比[HR]:0.48、99%信頼区間[CI]:0.27~0.87、p=0.0005)。1年PFS率はN-AVD群94%、A+AVD群86%だった。年齢、IPSスコア、Stage別のサブグループ解析でも同様の結果が得られた。・試験期間中の死亡はN-AVD群4例、A+AVD群11例、放射線治療を受けたのはN-AVD群2例、A+AVD群4例だった。・Grade3以上の血液関連の有害事象はN-AVD群48.4%(うち好中球減少症47%)、A+AVD群30.5%(同25%)、全Gradeの骨の痛みはN-AVD群8%、A+AVD群20%だった。発熱性好中球減少症、敗血症、感染症、ALT上昇、甲状腺機能低下症などの発生率は低く、両群で同等であった。 Herrera氏は「N-AVDはA+AVDに比べPFSを改善した。免疫関連の有害事象はほとんど観察されず、放射線療法を受けた患者は1%未満であった。OSとPROを評価するためにはより長いフォローアップが必要だが、本試験はホジキンリンパ腫の小児と成人の治療を進化させるための重要なステップである」とした。

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