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ACC/AHA脂質異常症GLで格上げの石灰化スコア、30分の心臓ドックで評価/CVIC

 心臓画像診断を専門とする医療法人社団CVIC心臓画像クリニック飯田橋(以下、CVIC)は、30分で心血管リスクを可視化する新サービス「スピーディー心臓ドック」の提供を開始した。これは冠動脈石灰化スコア、大動脈石灰化スコア、心血管バイオマーカー検査を組み合わせたもので、非造影CTおよび血液検査によって行われる。この中に含まれる冠動脈石灰化スコアは、近年その重要性が明らかになっており、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)の合同委員会が関連学会とともに2026年3月に公開した『脂質異常症管理ガイドライン2026年版』1)において、推奨度が引き上げられた。そこで、CVICは2026年5月27日にメディアラウンドテーブルを開催し、CVIC理事長の寺島 正浩氏が、突然死を防げない日本の健診制度の課題、心血管病予防における画像診断の役割について解説した。最初の発作が最後の発作、突然死の半数以上は症状なし 寺島氏がまず指摘したのは、一般的な健康診断だけでは冠動脈疾患のリスクを十分に把握しにくく、心臓突然死を防ぐことが難しいという問題である。日本の健診で広く行われている心電図や胸部X線は、低コストで簡便なスクリーニング検査として有用である一方、冠動脈の狭窄や動脈硬化の進展を直接評価する検査ではない。 米国のフラミンガム研究では、突然死の50%以上はまったく症状がなかったことが報告されている。また、急性心筋梗塞の68%は50%未満の軽度冠動脈狭窄から生じていたという報告もある。寺島氏は、この突然性が心臓病の問題であると述べる。 一方で、心筋梗塞の多くは予防可能でもある。INTERHEART研究に基づき、喫煙、脂質異常、高血圧、糖尿病、内臓脂肪、ストレス、食事、運動、飲酒といった9つの修正可能な危険因子により、心筋梗塞リスクの9割が説明されることを紹介した。寺島氏は、9割予防可能な病気で死亡する人が後を絶たないことを指摘。その背景には「自分は大丈夫と考え、行動変容に至らない人が多いことがある」と述べた。数字は忘れても自分の画像は忘れない そこで重要になるのが、リスクの「可視化」である。寺島氏は、血圧、LDL-C、血糖値といった数値は忘れてしまうが、冠動脈や大動脈に石灰化がある画像を見れば、その画像は忘れないと指摘する。実際に、画像を提示することで、真剣に治療に取り組むようになった症例を多く経験してきたとのことだ。また、2018年のVIPVIZA試験では頸動脈エコーの結果を視覚的なレポートとして提示することで、治療効果が増大することも報告されている。クラス1推奨に引き上げられた冠動脈石灰化スコア ACC/AHAの『脂質異常症管理ガイドライン2026年版』では、動脈硬化性疾患のリスク評価方法が変更され、PREVENT-ASCVD方程式が採用された。また、PREVENT-ASCVD方程式で中等度リスク、ボーダーラインリスクと判定され、脂質低下療法の開始・強度について判断が難しい場合に、冠動脈石灰化スコアを用いてリスクを再分類することがクラス1推奨として位置付けられた。 冠動脈石灰化スコアは、非造影CTで冠動脈壁の石灰化を定量化する指標である。冠動脈石灰化スコアによる石灰化の分類は、0をなし、1~99を軽度、100~299を中等度、300~999を高度、1000~を超高度とする。このスコアが、冠動脈疾患死亡率や心血管病死亡率と強く関連する。 さらにCVICでは、冠動脈だけでなく大動脈の石灰化にも注目する。大動脈石灰化は冠動脈石灰化よりも先に出現する早期の動脈硬化マーカーとされ、冠動脈石灰化スコアが0であっても60%で大動脈石灰化が認められるとのことだ。30分で完了する「スピーディー心臓ドック」 今回発表された「スピーディー心臓ドック」は、こうした心血管リスク評価を短時間で実施するサービスである。所要時間は来院から検査終了まで約30分。検査方法は非造影CTによる冠動脈・大動脈評価と採血で、検査内容は冠動脈石灰化スコア、大動脈石灰化スコア、心血管バイオマーカー検査で構成される。心血管バイオマーカーは、NT-proBNP、高感度心筋トロポニン、apoB、高感度CRPの4項目である。 寺島氏は、通常の健診では測定されないこれらの項目を組み合わせることで、より詳細な心血管リスクを把握できると説明した。CVICでは、以下をすべて満たす場合を「パーフェクトスコア」とし、心血管リスクがきわめて低い状態として示している。冠動脈石灰化スコア0大動脈石灰化スコア0NT-proBNP<55pg/mLapoB<65mg/dL(または70mg/dL)心筋トロポニンT<0.003ng/mL高感度CRP<0.02mg/dL 講演では、実際の症例も紹介された。そのなかで紹介された60歳女性は、LDL-C、HDL-C、TG、総コレステロールは、健康診断の正常値の範囲に収まっていたという。冠動脈石灰化スコアも0であったが、大動脈石灰化スコアをみると約700であり、中等度の石灰化が認められた。また、apoBも106mg/dLと軽度高値であった。寺島氏は「大動脈石灰化スコアをとることで、このような方が見つかることがある。可視化することで、行動変容につながっていくのではないかと期待している」と語った。Q&A――石灰化スコアは不可逆とのことであるがどれくらいの頻度で実施すべきか? 1回測定したらその後は不要とする意見があるなど、議論が分かれているが、一般的には5年ほどの間隔を空けて測定するのがよいのではないかとされている。しかし、CVICとしては、冠動脈石灰化スコアが100以上、ないしは300以上の方は、2~3年に1回は検査を実施したほうがよいと考えている。このような方のなかで、生活習慣を気にしない方は次回の測定でスコアが2倍になっている場合もある。一方で、生活習慣が改善されてスコアの変動がみられないという方もいる。このような経過を追うために、石灰化スコアを活用するのもよいのではないか。 石灰化は不可逆であるからこそ、早めの対策が重要である。9つの修正可能な危険因子を修正することで、動脈硬化の進行を遅らせることができる。 なお、「スピーディー心臓ドック」は自費検査で、CVICは通常価格を8万8,000円としているが、2026年10月末日まで3万3,000円で提供する予定とのことだ。

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事例48 令和8年度診療報酬改定後の生活習慣病管理料留意点【斬らレセプト シーズン4】

令和8年度の診療報酬改定の内容が通知されています。本稿では、よく質問のある項目を紹介します。生活習慣病管理料(以下「同管理料」)(I)です。「必要な血液検査等を少なくとも6月に1回以上」行い、結果を患者に説明してカルテに記載することが義務付けられました。採血予定の診察日には空腹で来院されるなどの注意事項をあらかじめ患者に伝えておくことも必要です。同管理料(II)では、同月または同日に算定できる医学管理料が増えました。改定通知をご参照ください。同管理料(I)(II)にかかる共通事項は次のとおりです。1)「糖尿病を主病とする患者に、糖尿病用剤(薬剤名は通知をご参照ください)以外の自己注射用薬剤を投与する場合、在宅自己注射指導管理料が別に算定できる」とされました。2)療養計画書の「患者署名は不要」です。計画書写しのカルテ添付と説明した旨のカルテ記載は今までどおり必要です。3)糖尿病主病の患者の重症化予防に、眼科又は歯科に紹介などの連携を行うと、それぞれ年1回「眼科又は歯科医療機関連携強化加算」が算定できます。診療情報提供書料は別に算定できます。4)外来データ提出が望ましいとされました。届出は年2回とされており、詳細は通知を参照願います。届出後は、実績に応じて3段階の「充実管理加算」いずれかが算定できます。現時点では「望ましい」ですが、次回改定以降には算定要件化を予測しています。5)患者に対して次回の来院日を伝えるとありますが、患者と調整しても受診日が定まらないときは、「受診が必要な時期」を伝えてもよいとされています。カルテに受診予定日または時期の記載は必要です。今改定は、かかりつけ対応される診療所にとってはメリットのある改定と考えられています。改定にかかる漏れや査定を少しでも減らすために、通知などをよく確認されることをおすすめします。本稿は今回で最終回となります。長らくのご愛読ありがとうございました。

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肥大型心筋症の長期予後予測、心臓MRIとNT-proBNPが有用/JAMA

 肥大型心筋症(HCM)患者のリスク評価に、心臓MRIおよびNT-proBNPの組み入れが有用であることが示された。米国・University of Virginia HealthのChristopher M. Kramer氏らHCMR Investigatorsが、米国国立心肺血液研究所(NHLBI)主導の大規模前向き登録研究「NHLBI HCM Registry」の結果を報告した。HCMに関する現在のリスク予測ガイドラインは心臓突然死のみを予測するものであり、そのため回避可能であったはずの死亡や、不必要であったはずの植込み型除細動器装着という事態を招いているとされる。JAMA誌オンライン版2026年5月11日号掲載の報告。欧米6ヵ国の44施設で2,750例のデータを登録 研究グループは、2014年4月1日~2017年4月7日に、欧米6ヵ国の44施設において、HCM患者2,750例を前向きに登録した。 患者の健康歴についてアンケート調査を行い、臨床心エコー検査報告書を含む臨床データを収集し、バイオマーカーおよび遺伝子検査のための採血、造影剤を用いた心臓MRI検査を実施した。イベントの確認のため、電話および診療記録により毎年追跡調査を行った。 主要エンドポイントは、HCMに関連する心血管死、電気的除細動または除細動を要する非致死的持続性心室性不整脈(VA)、および左室補助装置(LVAD)埋設または心臓移植の複合、副次エンドポイントは心臓突然死および非致死的VAイベントの複合とすることが事前に規定された。エラスティックネット法を用いて最も重要な予測因子を特定し、Cox比例ハザード回帰分析を用いて最終モデルを推定した。心臓MRIとNT-proBNPをリスク評価に組み込むことが有用 前向きに登録された2,750例のうち、HCMの表現型類似疾患と診断された9例、および同意撤回または追跡データがない43例を除外した2,698例(98%)が解析対象となった。1,919例(71%)が男性で、平均(±標準偏差)年齢は50±11歳、423例(16%)が少数民族グループに属していた。 平均追跡期間6.9±2.1年において、104例(3.9%)に117件の主要エンドポイントのイベントが認められた。 主要イベント初回発生に関するモデルには、ガドリニウム遅延造影による左室心筋重量に対する左室瘢痕の割合(LGE%、ハザード比[HR]:1.86、95%信頼区間[CI]:1.58~2.20、p<0.001)、左室心筋重量係数(HR:1.09、95%CI:1.01~1.17、p=0.03)、ならびに左室収縮末期容積係数(HR:1.28、95%CI:1.12~1.46、p<0.001)(いずれも10単位増加当たりのHR)、研究開始時の心不全既往歴(HR:2.89、95%CI:1.75~4.77、p<0.001)、およびNT-proBNPのlog変換値(log単位当たりHR:1.41、95%CI:1.17~1.70、p<0.001)が含まれた(全体のC統計量0.77)。 左室心筋重量に対するLGE%が9%以上の場合、主要エンドポイントの複合イベント発生率が著明に増加した(p=0.001)。 副次エンドポイントの心臓突然死およびVAのリスク因子モデル(69例)には、LGE%、左室心筋重量係数、左室駆出率、およびNT-proBNPのlog変換値が含まれた(C統計量0.76)。

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喘鳴をみたら喘息?【喘息・COPDのここが知りたい!】第1回

皆さま、こんにちは。神奈川県川崎市にあります日本鋼管病院という地域の総合病院で呼吸器内科医として働いています田中 希宇人(たなか きゅうと)と申します。ネット上では「キュート先生」の名前で医療情報発信を行っています。川崎南部地域は肺がん・COPD・喘息など、呼吸器疾患の患者さんが多く、呼吸器の症状で困っている方を10年以上診療してきています。喘息・COPDのガイドラインはしっかり策定されておりますが、すべての患者さんがガイドラインに当てはまるわけではありません。本連載では、それらのガイドラインの隙間を埋めるような実臨床で役立つ内容、悩む状況などについて一緒に考えていきたいと思います。ぜひご意見やご感想もお寄せいただけますと幸いです。喘鳴をみたら喘息?はじめに:その喘鳴をどう診ますか?日常診療において、患者さんが「ゼーゼーする」「ヒューヒューいう」と訴えて来院された際、真っ先に頭に浮かぶのは「喘息」ではないでしょうか。実際に喘息は非常に頻度の高い疾患であり、その症状の1つに「喘鳴(ぜんめい)」があります。喘鳴とは、気道が狭くなることで「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音が連続的に発生する状態を指します。この音は、狭くなった気道を空気が無理に通過する際に生じる振動によるものです。喘鳴は、聴診器を使わなくても聞こえることもあります。息を吸う時に聞かれる「吸気性喘鳴」と吐く時に聞かれる「呼気性喘鳴」があります。音が聞こえるタイミングや、気道のどの部分が狭くなっているかで病気を推測できる場合があります。しかし「All that wheezes is not asthma(喘鳴がすべて喘息とは限らない)」1,2)という言葉があります。ガイドラインには「喘息の治療法」については詳しく書いてありますが、「この喘鳴が本当に喘息なのか」という診断や鑑別プロセスについては、多くを語ってくれません。ましてや、目の前の患者さんが「喘息なのか」については教えてくれません。本連載では、ガイドラインの行間に隠れた、実臨床での「診療のコツ」をお伝えしていきたいと考えています。第1回は多くの先生方が最も迷いやすく、かつ見逃してはならない「喘鳴の鑑別」について深掘りしていきます。喘鳴の「音」を解剖する:stridorとwheeze聴診器を当てて何か「音がする」だけで満足してはいけません。その異常な音が「いつ」「どこで」聞こえるかが、診断の最大のヒントになります。外来診療では長い時間がとれないため、患者の頸部で聴診します。深呼吸で、呼気は勢いよく最後の最後まで吐ききってもらいます。典型的な喘息の喘鳴は、呼気終末に聴取されます。喘鳴が聞かれる場合に、まず重要なのは音が吸気時(息を吸うとき)に強いのか、呼気時(吐くとき)に強いのかという点です。呼気性喘鳴(wheeze)主に末梢気道が狭窄しているサインです。喘息やCOPDの典型的な音です。吸気性喘鳴(stridor)主に上気道・中枢気道の閉塞を示唆します。喉頭浮腫、声帯機能不全、異物、気管腫瘍などが疑われます。もし吸気時に強い「ヒュー」という音が聞こえたなら、それは喘息の増悪ではなく「上気道の緊急事態」かもしれません。この見極め一つで対応が劇的に変わります。次に、聞かれる音がmonophonic(単音性)なのか、polyphonic(多音性)かということがわかると、さらに病気が絞られます。monophonic聴診してどこの部位で聞いても同じ高さの「ピー」という音が聞こえる状態。これは、特定の太い気道が1点で狭まっている、腫瘍や異物などの病態の可能性を考えます。polyphonic胸のあちこちで異なる高さの音が混ざって聞こえる状態。これは喘息のように、肺全体であちこちの気道が狭くなっている病態を示します。喘息と間違えやすい3つの病態咳・息切れ・喘鳴などの症状があると「喘息」が疑われ、呼吸器外来を受診することが多いです。そこで気を付けなければいけない、喘息と間違えやすい代表的な3つの疾患を紹介しましょう。(1)心不全最も頻度が高く、かつ命にかかわるのが心不全です。左心不全による肺水腫で気管支粘膜が浮腫を起こすと、喘息そっくりの喘鳴が聴取されます。見分けるポイントがいくつかあります。喘息の喘鳴は「夜間・早朝」に強く認められますが、心不全は「横になる時(臥位)」に症状が悪化します。また、心不全徴候であるIII音の聴取、下腿浮腫や頸静脈怒張の有無、X線で心拡大やバタフライシャドウ、採血でBNP高値などをあわせて確認します。喘息の既往がある高齢者が「最近ゼーゼーがひどい」と受診した場合、じつは心不全がベースにあるケースは珍しくありません。喘息とうっ血性心不全が合併していることがあり、私も気管支拡張薬、ステロイド、利尿薬、降圧薬を同時に投与したことがあります。(2)声帯機能不全(VCD)喘息と考えて吸入ステロイドや気管支拡張薬など各種吸入薬を使ってもまったく症状が改善しない「難治性喘息」の中に紛れ込んでいるのが、声帯機能不全(Vocal Cord Dysfunction:VCD)です。本来、息を吸うときに開くはずの声帯が上手に開かない病態です。VCDによる喘鳴が最も強く聞こえるのは「胸」ではなく「首」です。また、喘息増悪(発作)時にはSpO2が低下することが多いですが、VCDでは正常に保たれていることが多いのも特徴です。「吸入薬が効かない」と訴える方や、心理的ストレスを抱える方では、VCDの可能性を考え耳鼻科医に診察してもらうことも重要です。(3)中枢気道病変(腫瘍・異物)ときどき呼吸器外来で診るのが、肺がんや気管支結核、あるいは高齢者の誤嚥による異物などが原因の喘鳴です。肺がん・気管支がんなどの悪性腫瘍、異物などによる物理的閉塞による喘鳴は「片側だけ」「ある特定の部位だけ」で聞こえます。喘鳴は全肺野で聞かれるはず、という思い込みを捨て、左右の胸の音を丁寧に聞き比べるとわかることがあります。また、喘息増悪で聞かれる喘鳴は、比較的急な経過で聴取されますが、悪性腫瘍が原因の場合には徐々に症状が強くなることが特徴です。喫煙歴のある高齢者の喘鳴で安易に「喘息やCOPDが原因」と決めつけるのは危険です。X線やCTでの精査を躊躇してはいけません。喘鳴を正しく見極めるためのコツ喘鳴が聴取される患者さんで喘息か他疾患の病態かで迷ったとき、実際の医療現場で行っているいくつかのコツを紹介しましょう。(1)SABA(短時間作用性β2刺激薬)に対する反応をみるまず比較的簡単にできるのが、喘息増悪に準じてメプチンなどのSABAをネブライザーで吸入させ、その場で喘鳴が消失あるいは軽減するかを確認することです。これは、非常に有用な診断的治療になります。喘息であれば反応が良いはずですが、心不全や腫瘍による気道の物理的狭窄では反応が乏しいことがわかります。(2)「いつもの喘鳴」との違いを聞いてみる喘息増悪を繰り返す患者さんが一番自分の状態をわかっています。しかし、喘息患者さんでも別の病気を合併することがあります。「今回の症状は、今までの喘息発作と同じ感じですか?」という一言が、別の病気を見つけるカギになることがあります。患者さんが感じる「今回はなんか違う、息が吸い込みにくい感じがする」といった症状には注意が必要です。(3)喘鳴の起こり方を探る喘息の増悪は何かをきっかけに発作的に起こりますが、COPDや心不全の増悪は、動いたときの息切れが先行し、徐々に症状が悪化することが多いです。そのようなきっかけ、安静時の喘鳴なのか労作時の喘鳴なのか、など喘鳴の起こり方を探ってみましょう。おわりに:診断の「質」が治療の「質」を決める喘息治療の進歩により、多くの患者さんが発作を経験せずに平穏に過ごせるようになりました。喘息死も私が研修医だった20年前に比べるとだいぶ減りました。しかし、その一方で咳・息切れ・喘鳴のような症状がある場合に、「とりあえず喘息として吸入薬を出す」ことが、本来見つけるべき他の疾患を見逃すリスクを生んでいる側面もあります。「喘鳴=喘息」という思考をいったんやめて、聴診器から聞こえる音の正体を疑ってみる姿勢が第一歩です。正しい診断が下されれば、正しい治療につながります。そこで既存のガイドラインがさらに活きてくるものと考えています。 1) Jackson C. BMQ. 1865;16:86 2) Kaminsky DA. Chest. 2015;147:284-286.

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入院患者の静脈血栓塞栓症予防【医療訴訟の争点】第21回

症例入院患者については、原疾患や手術そのほかの治療との関係で、診療科を問わず、肺血栓塞栓症の発症リスクがあるため、予防についても意識を払った対応がされている。本稿では、精神科入院患者に対する身体拘束下における肺血栓塞栓症(PTE)の予防義務の有無が争われた大阪高裁令和7年3月26日判決を紹介する。<登場人物>患者(P3)精神疾患を有する入院患者(肥満[BMI≧30]に該当)原告患者の母(唯一の相続人)被告大学医学部附属病院(国立大学法人)事案の概要は以下の通りである。平成29年(2017年)2月15日P3、精神症状の増悪により、被告病院に入院。入院後、精神科において薬物療法などが開始され、経過観察が行われた。2月中旬~5月下旬入院継続中、P3にはカタトニア様症状(強い緊張状態、反応低下など)が認められ、症状の増悪と改善を繰り返していた。向精神薬の投与が行われる一方、活動性の低下や脱水傾向などもみられていた。5月29日P3は精神症状の悪化により興奮・不穏状態が強まり、自傷他害のおそれがあると判断された。このため、保護室に隔離の上、四肢拘束を含む身体拘束が開始された。同日以降、看護師はバイタルサイン、呼吸状態、末梢循環(浮腫、皮膚色)、下肢の状態などの観察を、行動制限時フローシートなどに基づき継続的に実施した。もっとも、この時点で、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査といった客観的検査は実施されなかった。5月30日身体拘束の継続の要否についてカンファレンスが実施され、拘束継続の必要性が確認された。一方、拘束期間が長期化するかについては、この時点で明確な見通しは立っていなかった。5月31日午前P3は依然として拘束下にあり、自発的な運動は乏しい状態であった。医師は、血栓予防の観点から、同日午前11時頃、弾性ストッキングの装着を指示し、これが実施された。もっとも、体位変換の積極的実施、IPC(間欠的空気圧迫法)、抗凝固薬投与といったほかの予防措置は行われていなかった。また、同日午前までの時点においても、下肢の腫脹、発赤、疼痛など、深部静脈血栓症(DVT)を疑わせる症候は認められていなかった。午後2時頃看護師が訪室したところ、P3は反応が乏しく、呼吸・脈拍の異常が疑われる状態で発見された。午後2時20分頃スタットコールがなされ、医療スタッフが集結し、心肺蘇生措置(胸骨圧迫など)が開始された。なお、最初の異常指摘から蘇生開始までの時間は長くても約6分程度であったと認定されている。午後2時38分頃蘇生継続中の状態で院内搬送がなされたが、回復には至らなかった。同日P3死亡。 実際の裁判結果本件の第一審(神戸地裁)は、P3の死因を呼吸停止(呼吸不全)と認定し、呼吸管理義務違反を肯定して一部認容した。これに対し、被告病院が控訴し、原告も附帯控訴*を提起した。控訴審では、死因が急性肺血栓塞栓症(PTE)であるとの新たな主張がなされたほか、身体拘束後のVTE予防義務違反、検査義務違反などの主張も追加され、以下のような注意義務違反の有無が争われた。*控訴された側が、自身もより有利な内容へと一審判決を変更することを求めて控訴すること血液検査義務違反抗精神病薬の副作用防止義務違反呼吸管理義務違反救急対応義務違反PTE予防義務違反(控訴審で追加)VTE早期発見のための検査義務違反(控訴審で追加)控訴審(大阪高裁)は、P3の死因は急性PTEであると認定した上で、原告(患者家族)の主張する被告の注意義務違反をいずれも否定し、原告の請求を全面的に棄却した。控訴審で追加されたPTE予防義務違反とVTE早期発見のための検査義務違反を取り上げる。裁判所の判断1)P3の死因について詳細はこちら控訴審は、死因究明におけるAi(Autopsy imaging、死亡時画像診断)を用いた画像診断を行う第三者的医療機関として設立された一般財団法人Ai情報センターが作成したAi診断の報告書において、P3が心肺停止になってから1時間強後である5月31日午後3時35分頃に撮影された単純CT画像に、両側肺門部の肺動脈内に凝血塊を示唆する軽度高吸収が認められ、これらが肺動脈左右分岐部を横断するようにして連続していることから、P3の死因はPTEと考える旨の意見が述べられていることなどを踏まえ、P3の死因を「急性PTE」と認定した。2)PTE予防義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束開始後にVTEリスク評価を行い、体位変換、早期離床、弾性ストッキング、IPC、ヘパリンなどの予防策を講ずべき義務を主張した。しかし裁判所は、以下の点を指摘し、「控訴人病院スタッフである医師が、P3に対し、5月29日午後4時45分に体幹部及び両上肢を拘束したが、下肢拘束はせず、その時点ではVTEのリスクが高いとは判断せずに、積極的な運動(マッサージ、他動的な足関節運動など)、弾性ストッキング、IPC法または低用量未分割ヘパリンなどの予防法を取らず、それから48時間が経過する前である5月31日午前11時6分頃に、下肢を自発的に動かせないことから、DVTのリスクが高いと判断して弾性ストッキングの装着を指示したが、ほかの予防法を取らなかったことが、大学医学部の附属病院という控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできない」として、急性PTEの発症を回避するための予防策を取るべき注意義務違反があったとは認められないとした。5月29日以降、カタトニアにより下肢が不動化した状態にあったP3のDVTのリスクは客観的には相当に高かったといえ、P3が急性PTEにより死亡したのも、そのようなリスクが現実化したものと考えるのが自然であること日本血栓止血学会のガイドラインおよび研究班ガイドラインに挙げられたVTEの危険因子で、P3が該当するのは肥満だけであり、この場合の推奨予防法は「早期離床及び積極的な運動」であること72時間以上の身体拘束がVTEのリスクを高めるとの記載がある文献もあり、被告病院も含め、48時間以上の安静の必要をリスク評価の前提とする医療機関が多い中、P3につき5月29日の拘束開始時点やその翌日のカンファレンスにおいて、48時間以上の拘束が必要であると判断されていないこと平成29年当時、ほかの医療機関においても、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防あるいはIPC法を考慮することにはなっていなかったこと弾性ストッキング、IPC法及び薬物療法(低用量未分割ヘパリン)には、それぞれ副作用などのリスクがある上、弾性ストッキングやIPC法には、PTEの発症リスクが高いことが保険適用の条件となっていること被告病院では、P3の身体拘束後、生体モニターシステムを用いた測定をするとともに、行動制限時フローシートなどに従い、看護師が末梢循環状態や皮膚状態を継続的に観察しており、症候性DVTの臨床症状である浮腫や皮膚色の変化の有無なども確認されていたが、症候性DVTを疑わせる所見は認められていないこと3)VTE早期発見のための検査義務違反について詳細はこちら原告は、身体拘束時などにDダイマー測定や下肢エコーを行うべきと主張したが、裁判所は、以下の点を指摘し、「医師がP3に対し、身体拘束時から5月31日の弾性ストッキングの装着開始指示時点までの間において、Dダイマー検査などを実施しなかったことが、控訴人病院の性格などの諸般の事情を考慮しても、当時の控訴人病院スタッフの医師に要求される医療水準に反すると認めることはできず、控訴人病院スタッフに、被控訴人主張の注意義務違反があったとは認められない」とした。Dダイマー検査などの実施は、学会予防指針では“身体拘束の解除の際に、場合によりDダイマーなどのスクリーニングを行う”と記載するに止まること大病院では入院時や身体拘束時にDダイマーを測定するとなっているが、病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに被告病院における注意義務の内容となると解することはできないことVTEの予防法などを定めるに当たって、Dダイマー検査などについて記載していないか、IPC法を行う症例の場合やDVTの可能性が高い患者またはDVTの臨床症状が疑われる患者に限って実施するという医療機関もあることDダイマー検査については、血栓症の発症リスクの高い症例についてのみ手術前のスクリーニング検査の保険適用がなされ、DVTリスクが高くない限り、患者に対するスクリーニングとしてDダイマー検査などを行うことに否定的な見解もあること被告病院では、下肢の不動化が認められた後は、弾性ストッキングを装着して予防法を取っており、その装着時を含め、DVTを疑わせる所見が存したとは認められないこと注意ポイント解説本件は、控訴審で提出されたAi画像診断の報告書に基づきP3の死因がPTEと認定された上で、その予防義務違反の有無が争われ、本判決は、患者側の主張する予防義務違反をいずれも否定した。PTEは突発的に発症し、救命困難な場合も多いため、その予防を実施しているかが重要となる。本件当時のガイドラインやほかの医療機関での予防の実施状況を踏まえた判断をしているが、本判決でも「平成30年時点の報告を前提にすると、ベッド上で拘束する場合は、高リスクとして薬物予防かIPC法を考慮することになっているが、平成29年5月当時、控訴人病院が、規模も異なるq1病院(注:他自治体が開設・運営する大規模な精神病院)の上記基準に従い、運用すべきであったとはいえない」としているように、ガイドラインの内容はアップデートされるものである。同様に、本判決が、被告病院では実施していない予防措置を実施している他院が存在していることについて「病院の規模などからすると、これらの病院において実施されている予防措置が直ちに控訴人における注意義務の内容となると解することはできない」としていることに表れているとおり、予防のために実施する対応内容については、医療機関の規模などによっても異なる。したがって、本判決と同様の対応をしていれば、予防措置が履行されているとして義務違反が否定されることになるとは限らない点に留意する必要がある。医療者の視点本件は、精神科における身体拘束中のPTE予防と検査のあり方が問われた事例です。裁判所は、当時のガイドラインや病院の規模を考慮し、Dダイマー検査や下肢静脈エコー検査、IPC法などの画一的な実施義務を否定しました。これは、予防策に伴う副作用リスクや患者ごとの状況を総合的に評価する、実際の臨床現場の感覚と合致しています。実臨床において、自傷他害の恐れがある興奮・不穏状態の患者の安全を確保するためには、身体拘束を実施せざるを得ない場面が多々あります。しかし、そのような患者に対して、PTE予防のための弾性ストッキングやIPC法を装着することは容易ではありません。不快感からさらなる不穏を招くリスクがあるためです。また、採血や長時間を要するエコー検査を安全に実施することも物理的に困難なケースが少なくありません。このようなジレンマの中で身を守るためには、入院時や拘束開始時にVTEのリスク評価をしっかり行うことが大事です。その上で、患者の状態に応じて早期離床や下肢の運動など、可能な予防策を選択してください。もし不穏などの理由で積極的な予防策や検査が困難な場合は、下肢の腫脹や色調変化などの継続的な観察を行い、その結果や「なぜ検査・処置ができないのか」という理由をカルテに詳細に記録しておくことを心がけると良いでしょう。Take home messagePTEは突発的に発症し、救命困難な場合があるため、裁判においては、然るべき予防措置を取っていたかが問題となる VTE予防はリスク評価に基づいて個別判断がなされるが、ガイドラインや同種医療機関での実施状況が、予防措置義務の履行がなされていたかの判断基準となるキーワード肺血栓塞栓症(PTE)/静脈血栓塞栓症(VTE)/身体拘束/予防義務/医療水準

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第291回 診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省

<先週の動き> 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ 1.診療報酬「ベースアップ評価料」の対象が拡大、5月中の再届出が必須/厚労省人件費や物価の上昇で経営環境が厳しさを増すなか、厚生労働省はクリニックや中小病院に対して支援策を拡充し、日本医師会はその活用を呼びかけている。国は2026年度の「働き方改革推進支援助成金」を拡充し、常勤10人未満の小規模事業所では賃上げ加算の上限を引き上げ、最大300万円を上乗せできるようにした。労務管理研修やソフト導入、勤務間インターバル導入、時間外労働削減などの取り組みに応じ、補助上限は最大520万円となる。加えて、月60時間以内の時間外労働の割増賃金率を5%以上引き上げた場合の加算も新設された。その一方で、診療報酬ではベースアップ評価料が見直され、対象職種は看護師や薬剤師に加え、40歳未満の医師や歯科医師、事務職員にも広がった。点数も大幅に引き上げられ、継続的な賃上げを行う医療機関はより高く評価される。しかし、診療所の届出率は病院よりも低く、無床診療所59.2%、有床診療所70.0%にとどまっている。6月の診療報酬改定に向けて、算定するためには医療機関は5月中に必ず届出を行う必要がある。また、2024年度にすでに届け出ている医療機関も再届出が必要となる。賃金改善計画書は不要となり、手続き負担は軽減された。さらに、評価料収入は全額を賃上げに充てること、8月の実績報告に備えて対象職員数や賃上げ実績を整理しておくことが重要となる。人材流出を防ぎ、他産業に見劣りしない処遇改善を進めるためにも、診療所は助成金と評価料を組み合わせて活用する姿勢が求められる。 参考 1)働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)(厚労省) 2)令和8年度診療報酬改定ベースアップ評価料による賃上げについて(日医) 3)日医がベースアップ評価料の積極的な算定を呼びかけ、届け出率は無床診療所で約6割(日経メディカル) 4)日医がベースアップ評価料の届け出を呼びかけ(MEDICAL TRIBUNE) 2.麻しん236人、コロナ後最多ペース 10~20代中心に感染拡大/小児学会麻しん(はしか)の感染拡大が続いている。2026年4月上旬までに報告された患者は236人に達し、新型コロナ禍後で最多だった2025年(265人)を上回るペースで推移している。感染者は10~20代が半数を占め、若年層を中心に流行の兆しが強まっている。麻しんは極めて感染力が強く、免疫を持たない場合ほぼ100%発症するほか、肺炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こす可能性がある。わが国は2015年に世界保健機関(WHO)から「排除状態」と認定されたが、近年は海外からの持ち込みを起点とした感染が続いている。世界的にも患者数は増加しており、各国で流行が拡大している。国内ではコロナ禍の水際対策で患者数は一時減少したが、2023年以降は増加に転じた。地域別では東京都が最多で、鹿児島県、愛知県と続く。とくに都市部での感染が目立ち、成人を含む若年層への広がりが確認されている。背景にはワクチン接種率の低下がある。麻疹の排除維持には2回接種で95%以上の接種率が必要とされるが、現状はこれを下回っている。感染者の半数以上が未接種、1回接種、あるいは接種歴不明であり、十分な免疫を持たない層の存在が流行拡大の要因となっている。麻しんへの予防接種は1歳時と小学校入学前の2回接種で高い予防効果が得られる。日本小児科学会は、接種歴を確認し未接種や不明の場合は任意接種を検討するよう呼びかけるとともに、発熱や発疹などの症状がある場合は事前連絡のうえで医療機関を受診するよう求めている。流行抑制には、ワクチン接種の徹底と早期受診が不可欠だ。 参考 1)麻しん累積報告数の推移 2019~26年 (JIHS) 2)2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起 (小児科学会) 3)はしか感染、230人超 新型コロナ後で最多ペース-10~20代が中心(時事通信) 4)はしか感染者増加“子どもの定期接種確実に”日本ワクチン学会(NHK) 5)海外からの流入・予防接種率低下等で麻疹(はしか)流行の兆し、適切なワクチン接種(定期・任意)と医療機関受診を-小児科学会(Gem Med) 3.中東情勢緊迫化で医療物資「目詰まり」 5月に手袋5,000万枚放出/内閣府中東情勢の緊迫化による原油・ナフサ供給不安が、医療物資の流通に影響を及ぼしている。政府は4月16日に「中東情勢に関する関係閣僚会議」を開き、対策として感染症流行に備え備蓄している医療用手袋約5億枚のうち、5,000万枚を2026年5月から医療機関向けに放出する方針を決定した。放出対象は、採血や検査で用いる非滅菌手袋で、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて医療機関が必要量を申請し供給される仕組みを整備する。厚生労働省によると、医療物資の供給不安に関する相談はメーカー・卸・医療機関を合わせ2,956件に上り、うち34件が供給に影響ありと判断された。消毒液や透析関連物資など一部は解決が進む一方で、透析用チューブや滅菌関連資材などでは中長期的な供給不安が残る。医療機関からの相談は急増しており、需給逼迫の兆しが強まっている。背景には、医療用手袋やガウン、チューブなど多くの医療消耗品が石油由来であり、原料のナフサを中東に依存している構造がある。現場では価格上昇や出荷制限の動きもみられ、手術や透析など生命維持医療への影響を懸念する声が上がる。実際に通販業者では購入制限が導入され、需給の不安定化が流通段階にも波及している。政府は約1.3万の医療機関から情報収集できるシステムを稼働させ、専門チームを増員して供給状況の把握と対策を強化している。また、アジア諸国との連携によるサプライチェーン強靭化にも着手し、エネルギー供給の安定化を通じた医療物資確保を図る方針。医療物資の安定供給は、エネルギー安全保障と一体の課題となっており、短期対応と中長期対策の両立が求められる。 参考 1)石油関連製品の供給不足に伴う厚生労働分野の影響・対応について(厚労省) 2)中東情勢に関する関係閣僚会議(首相官邸) 3)高市首相 5月から医療用手袋5,000万枚の備蓄放出を表明(NHK) 4)高市首相、医療用手袋5,000万枚放出表明 中東情勢で確保困難(毎日新聞) 4.2040年の外科医不足に備え、がん治療の拠点病院を再編へ/厚労省厚生労働省は、4月16日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、高度ながん治療を担う病院の集約化を進める方針を明確にした。従来は全国どこでも一定水準のがん医療を受けられる「均てん化」を重視してきたが、今後は人口減少や医師不足、医療の高度化を踏まえ、質の高い治療を維持するために「集約化」との両立へ軸足を移す。とくに消化器外科では担い手不足が深刻で、現状のままでは2040年にがん治療を担う外科医が約9,200人と足元から39%減り、需要の5,200人を下回る見通しとなっている。一般の医師数は増加している一方で、一般外科医・消化器外科医はこの10年で減少し、若手ほど減り幅が大きい。長時間労働や負担に見合わない処遇が背景にあり、外科医がいる病院の約半数で消化器外科医は1~2人にとどまる。こうした状況から、厚労省は食道がんや膵がんなど高難度手術を拠点病院や大学病院へ集約し、希少がんでは県域を超えた集約も視野に入れる。その一方で、胃がんや大腸がんの標準的手術、長期の薬物療法や検診などは地域の医療機関で担う考え。今後は、新たな地域医療構想と連動し、各医療機関の機能を2028年度までに整理し、第9次医療計画へ反映する。がん診療連携拠点病院の整備指針も見直され、指定期間は最長3年に短縮される見通しで、構想や医療計画との整合性を高める。もっとも、都道府県ごとの議論の進捗にはばらつきが大きく、実施時期未定の地域も多い。国によるデータ提供や技術支援を強化しつつ、患者の受療アクセス低下を防ぎながら、医療の質、病院経営、勤務環境改善を両立できる再編を進められるかが焦点となる。 参考 1)第20回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省) 2)がん医療・地域医療構想・医療計画等を連動させ「集約化すべき病院、高度医療の内容」等を明確化する-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 3)がんの医療体制、地域医療構想と連動して整備へ 厚労省案 「28年度までに決定」(CB news) 4)がん手術維持へ病院集約 40年に外科医5,000人超不足、厚労省(日経新聞) 5.医師偏在対策の柱・地域枠が再設計へ 2028年度以降は定員減も/厚労省医師偏在対策の柱として拡大してきた医学部の地域枠が、現在見直しの局面に入っている。厚生労働省は、4月17日に開催した「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、2027年度の医学部臨時定員の調整方法を了承し、医師多数県を中心に削減を進めつつ、へき地尺度などを用いて一部地域では削減幅を緩和する方針を示した。医学部定員に占める地域枠などは2007年度の173人から2025年度には1,847人へと増え、全体の19.9%を占めるまで拡大しており、医学部定員9,393人のなかで大きな比重を占めている。この拡大は2008年度以降の臨時定員増を背景とするが、近年は医師数の増加ペース見直しの議論が進み、今後は臨時定員の縮減とともに、地域枠を恒久定員内で運用する方向が示された。検討会では、2027年度以降は医師多数県の臨時定員削減を基本としつつ、へき地尺度や高齢化の進展を踏まえて調整する方針を確認した。さらに2028年度以降は、医師多数県に限らず定員適正化を進める方向性が示され、量的拡大から質的最適化への転換が明確になりつつある。地域枠の制度設計も見直し対象となっている。現在は卒後9年以上の地域勤務が求められ、一定期間を医師不足地域で従事する仕組みとなっているが、義務履行中断者が約7%に上るなど、若手医師のライフイベントや専門医取得との両立が課題となっている。厚労省の資料でも、仕事と育児の両立志向の高まりなど、若年層の価値観変化が制度運用に影響していることが示されている。実際、日経メディカルの調査では「地域枠は必要だが見直しが必要」との回答が約半数を占め、当事者では6割近くに達した。背景には、都市部の生活の利便性や教育環境、キャリア形成機会の偏在があり、単なる配置義務では地域定着につながらない現実がある。地域枠は一定の成果を上げつつも、若手医師の価値観変化や医師需給の転換期を受け、制度疲労が顕在化している。今後は定員管理、勤務環境改善、経済的インセンティブを組み合わせた総合的な再設計が求められる。 参考 1)医師の確保・偏在対策における医学部臨時定員の方針について(厚労省) 2)今後の地域枠等の運用について(同) 3)27年度臨時定員、へき地尺度で多数県の削減幅を緩和 検討会が了承(MEDIFAX) 4)地域枠、医師48%が「従事期間や奨学金の利息見直しが必要」(日経メディカル) 6.医療機関倒産、20年で最多 人件費高騰が経営圧迫/東京商工リサーチ東京商工リサーチの調査によると、2025年度に倒産した医療機関(病院、診療所、歯科医院)は前年度比20.3%増の71件となり、過去20年で最多を更新した。コロナ禍では支援策により低水準に抑えられていたが、収束後の2023年度以降は53件、59件、71件と増加が続き、経営の悪化が顕在化している。業態別では診療所が32件、歯科医院が31件といずれも最多で、とくに歯科は前年度比1.5倍と急増した。その一方で、病院は8件と減少したものの、依然として高い水準にある。負債規模では1億円以上の案件も多く、中堅規模以上の医療機関の倒産が目立つ点も特徴だ。原因は「販売不振」が66%を占め、「既往のシワ寄せ」と合わせ約9割に達した。人口減少による患者数減少や診療報酬改定の影響に加え、光熱費や人件費、医療材料費の上昇により収益構造が悪化している。さらに、経営者の高齢化や人手不足、設備の老朽化も重なり、経営継続が困難となるケースが増えている。倒産形態は破産が69件で全体の97%を占め、再建型の民事再生は2件にとどまった。医療機関は収益規制や後継者不足などから再建が難しく、退出に直結しやすい構造が浮き彫りとなっている。医療機関の倒産は地域の医療提供体制に影響を及ぼし、とくに高齢化が進む地方では受診機会の喪失につながる懸念が強い。2026年6月の診療報酬改定の効果は不透明で、今後、公的支援の強化に加え、M&Aなどを含めた医療機関の再編・集約が一層進む可能性がある。 参考 1)2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超(東京商工リサーチ) 2)25年度の医療機関倒産、過去20年で最多の71件 商工リサーチ調べ(日経新聞)

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歯科でのHbA1c測定、3人に1人で糖尿病早期発見の可能性

 歯科への受診をきっかけに、未診断の糖尿病発見につながる可能性が報告された。歯科の患者に、指先穿刺による簡便な血液検査を行ったところ、3人に1人以上の割合で糖尿病または糖尿病前症が見つかったという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のGiuseppe Mainas氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Dentistry」4月号に掲載された。 この研究では、歯科受診者に対して診察室内でのHbA1c測定が、糖尿病のスクリーニングとして機能するか、横断的に検討された。英国成人の歯科受診頻度はかかりつけ医の受診頻度よりも高い傾向があり、かつ、医科受診時のHbA1c測定が日常的に行われているわけではないことが、この研究の背景にあるという。 解析対象はKCLによる口腔・歯科関連のバイオバンクに参加している911人で、このうち104人は、既に2型糖尿病の診断を受けている患者だった。歯肉の状態は、6.0%が健康、11.3%は歯肉炎、82.7%は歯周病だった。HbA1cは診察室内で指先穿刺により採血して測定し、所要時間は6分ほどだった。 HbA1cの平均は5.71±0.94%であり、既診断や自覚症状のある糖尿病患者を除くと、227人(28.7%)がHbA1c 5.7~6.3%で「糖尿病前症」に該当し、58人(7.3%)はHbA1cがより高く「糖尿病」に該当した。つまり、歯科でのスクリーニングにより、3人に1人以上に未診断の糖尿病前症または糖尿病が発見される可能性が示された。 また、歯肉の状態が悪いほどHbA1cが高いという関連も見つかった。具体的には、歯肉が健康な人のHbA1cは5.43±0.51%、歯肉炎の人は5.51±0.91%、歯周病の人は5.76±0.97%だった(傾向性P=0.004)。 Mainas氏は、「われわれの研究結果は、歯科受診が糖尿病リスクのある人を見いだす有用な機会となり得ることを示唆している。特に高齢者やBMIが高い人、歯周病のある人では、その可能性が高い」と述べている。また、論文の筆頭著者であるKCLのMark Ide氏は、「歯科受診を契機にHbA1cが高いことが判明した場合、患者はかかりつけ医を受診し詳しく調べてもらうことができる。歯科でHbA1cが検査されなければ、その機会はかなり先になってしまうかもしれない。実際、本研究に参加してHbA1cが高いことが判明した患者の大半は、自分が糖尿病前症や糖尿病に該当するとは思っておらず、判定結果に驚いていた」と話している。 なお、歯周病と糖尿病の関連について、論文の上席著者であるKCLのLuigi Nibali氏は、「これまでの多くの研究で、両者に双方向性の関連があることが示されている。歯周病による炎症は糖代謝に変化をもたらし、糖代謝の乱れは炎症に影響を与える。歯周病は糖尿病の発症や悪化に関連する可能性があり、その逆もまた同様だ」と解説している。

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術後の状態管理(術後出血は大丈夫?)【医療訴訟の争点】第19回

症例PCI(経皮的冠動脈形成術)は虚血性心疾患に対する標準的治療として広く行われている一方、穿刺部合併症や後腹膜出血など、まれではあるが致命的となり得る合併症も知られている。本稿では、PCI後に循環動態の破綻を来し、最終的に死亡に至った症例について、出血性ショックの見落としが争われた東京地裁令和6年12月26日判決を紹介する。<登場人物>患者75歳・女性原告患者の夫および子2名(相続人)被告地方自治体(市立病院を開設)被告医師ら循環器内科医(PCI担当医)事案の概要は以下の通りである。平成30年10月24日胸部圧迫感を主訴として被告病院内科外来を受診。労作性狭心症が疑われ、循環器内科へ紹介。10月26日循環器内科の医師1が診察。11月6日冠動脈造影検査および左心室造影検査を実施。その結果、左前下行枝に99%の高度狭窄が認められ、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)によりアスピリンおよびプラスグレルの内服開始。薬物療法のみでは不十分と判断され、PCIが予定。11月13日12時19分本件PCIの開始13時19分本件PCIの終了11月14日5時15分死亡 【本件PCI施行中の経過】平成30年11月13日正午過ぎより、右大腿動脈アプローチによりPCIが開始された。穿刺が2~3回試みられた後、6Frのロングシースが挿入された。手技中、患者は急性冠閉塞を来し、意識レベル低下、血圧測定不能となるなど心原性ショックの状態に陥った。これに対し、被告医師らは酸素投与、輸液負荷、昇圧剤投与を行い、バルーン拡張により冠血流を再開させた。循環動態は一旦改善し、左前下行枝に薬剤溶出性ステントが留置された。最終造影では血流良好であり、穿刺部には止血デバイスが使用され、PCIは終了した。PCI施行中の詳細はこちら 12時19分本件PCIの開始12時25分医師2が本件患者の右鼠径部から右大腿動脈を2、3回穿刺したが血管内に挿入できなかったため、医師3に交代し、医師3が、本件患者の右大腿動脈内に太さ6Frのロングシースを挿入。ヘパリン5,000単位が投与。12時55分本件患者の意識レベルが低下し、声掛けや痛み刺激に反応がなく、血圧は測定不能、SpO2は90%、心拍数は68で、急性冠閉塞を発症し、心原性ショックとなる。12時56分酸素マスクによる4L/分の酸素投与および輸液全開投与を開始し、医師3は、本件患者の左前下行枝7番狭窄部位を2回バルーン拡張。12時59分5mL/時で昇圧剤(塩酸ドパミン注キット)の投与を開始。本件患者は、声掛けに対して反応して会話が成立し、全身に発汗が著明にみられる状態。13時頃心拍数112、血圧84/57mmHg、SpO2は100%。13時3分左前下行枝7番に薬剤溶出性ステントを挿入。13時9分冠動脈造影により左前下行枝7番の血流が良好であり、急性冠閉塞などの所見は認められないことを確認。13時12分大腿動脈穿刺部止血デバイスを挿入して穿刺部を止血。13時18分心拍数90、血圧141/63mmHg、SpO2は100%。13時19分本件PCIの終了【本件PCI後の経過】PCI終了後、患者はHCUへ移動したが、その後、再び頻脈と血圧低下を認めるようになった。心電図ではST低下や虚血性変化が出現し、被告医師らは、急性ステント血栓症やNo reflow(造影剤の流れが血液の代わりに冠動脈中を占拠することによって、実質的には血流がなくなる状態)など、再度の心原性イベントを疑った。この時点でのHb値は明らかな低下を示しておらず、穿刺部にも明らかな血腫や出血所見は確認されなかった。そこで、循環動態不安定の原因精査のため、再度冠動脈造影が行われたが、ステントは開存しており、急性冠閉塞は否定された。さらに、腹部大動脈から腸骨動脈、大腿動脈近位部にかけて血管造影が行われたものの、造影剤の血管外漏出など、明確な出血所見は認められなかった。また、心エコー検査では心嚢液貯留はなく、壁運動も保たれており、心タンポナーデは否定的と評価された。Hb値も午後4時49分時点で12.4g/dLと基準範囲内であった。これらの所見を踏まえ、被告医師らは、出血性ショックよりも、頻脈性不整脈を背景とした心原性ショックの可能性が高いと判断し、循環補助を目的としてIABPを導入した。しかし、IABP導入後も循環動態は安定せず、昇圧剤投与が継続された。夜間以降も頻脈と低血圧は遷延し、翌未明には意識障害が進行、心停止に至った。蘇生処置が行われたものの、平成30年11月14日午前5時15分、死亡が確認された。PCI後の詳細な経過はこちら 11月13日13時19分本件PCIの終了13時29分HCU(高度治療室)に移動し、昇圧剤(塩酸ドパミン注キット)は5mL/時で継続13時42分血圧98/56mmHgであり、13時43分の12誘導心電図検査(ECG)の結果、STの低下14時39分12誘導ECGの結果、心拍数125で洞性頻脈、ST変化、急性心筋梗塞波形および外側心筋障害。医師1は、医師2らと本件患者の血圧低下の原因について検討し、本件施術中に冠動脈に血流低下が生じたことおよびHCU入室後の12誘導ECGの結果ST低下が出現したことから、急性ステント血栓症の可能性があると判断し、同日中に再度、冠動脈造影検査(CAG)を実施し、血圧を調整するために大動脈内バルーンパンピング(IABP)を留置する方針とした。14時56分血圧55/40mmHgであったため、医師1は、昇圧剤を6mL/時に増量し、15時頃には7mL/時に、15時15分頃には8mL/時に増量するとともに、15時10分頃にヘパリンの投与を開始。15時29分12誘導ECGの結果、心拍数156で洞性頻脈、下壁心内膜障害疑い。医師1は、本件患者の心筋虚血が進行している可能性があると判断16時6分心拍数148、血圧69/48mmHg、呼吸数24であり、16時30分頃に3mL/時で昇圧剤(ノルアドレナリン)の投与が開始されたが、16時31分頃には、心拍数155、血圧65/36mmHg、呼吸数20、16時44分頃には、心拍数154、血圧70/49mmHg。16時45分簡易心エコー検査を実施。可視範囲内では心臓壁運動は良好であり、心嚢液の貯留はみられなかった。16時49分Hb値は12.4g/dL。17時30分血圧71/49mmHg、呼吸数24であり、12誘導ECGの結果、心拍数153で洞性頻脈、ST異常、下壁心内膜障害疑い、心筋虚血疑い。医師1は、心タンポナーデや後腹膜出血によるショックの可能性は低く、心エコー検査の結果からすると、ポンプ失調の可能性も低いところ、単に洞性頻脈に伴う血圧低下の可能性もあるが、本件施術後のno flowなどの可能性もあり再検すべきであると考えた。18時12分左冠動脈造影を実施したが、急性冠閉塞の所見は認めず。医師1らは、「本件患者がステント血栓症による心原性ショックを発症したものではない」と判断した。18時15分頃までに右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影を行ったところ、活動性のある出血や出血点は確認されなかった。医師1らは、後腹膜出血による出血性ショックを生じているのではなく、頻脈性不整脈による心原性ショックを生じているものと考えた。18時26分IABPを挿入し、駆動を開始。18時40分脈拍152、血圧62/38mmHg、午後6時45分頃には、脈拍155、血圧68/24mmHg、午後6時50分頃には、脈拍153、血圧90/29mmHg。医師1は、頻拍の原因として心房粗動が疑われることから、夜間はrate controlで経過観察とし、頻拍が持続すれば除細動も考慮することとした。19時シース固定部位に少量の出血が認められたが、シース固定部および穿刺部に出血などの異常はみられなかった。19時49分12誘導ECGの結果、心拍数154、洞性頻脈であり、ST異常がみられた。20時Hb値10.921時57分腸骨大腿動脈造影を施行。その結果、造影剤の血管外漏出像は認めず、医師1は、有意なHb値の低下もないため、出血性ショックも否定的であることから、遷延するショックの原因は頻脈以外に挙げることはできないと考えた。22時30分オーグメンテーション圧(IABPバルーン拡張期圧)低下のアラームが鳴り、本件患者は胸部症状がみられ、嘔吐。22時40分心拍数126、血圧72/43mmHg(観血)11月14日3時07分オーグメンテーション圧低下アラームが鳴り、呼吸下顎様となり、意識レベルはJCS 2に低下、心拍数100台、血圧50/29mmHg(観血)へと低下3時16分意識レベルJCS 3(-300:痛み刺激に反応しない状態)3時31分心静止状態となったため心臓マッサージが開始5時15分死亡【病理解剖および医療事故調査・支援センターの評価】本件患者の死後実施された病理解剖では、両側大腿動脈周囲から後腹膜に連続する広範な出血が認められ、明確な血管損傷部位は特定できなかった。医療事故調査・支援センターは、病理検査の結果を踏まえ、微小血管からの持続的出血が抗血栓療法の影響で止血されず、出血性ショックに至ったと評価した。実際の裁判結果本件では、原告らは、本件患者が、本件施術中から穿刺部を中心とした微小出血が持続したことにより平成30年11月13日14時40分頃に出血性ショックを生じ、それ以降死亡に至るまで出血性ショックの状態が遷延していたことを前提とし、被告病院の医師らについて、〔1〕14時40分の時点、〔2〕16時49分の時点、〔3〕18時12分の時点、および〔4〕20時の時点において、本件患者の心原性ショックのみならず、出血性ショックを疑い、CT検査または腹部エコーによる検査で出血の有無を確認し、出血性ショックを診断の上、ヘパリンを中止し、輸液・輸血や出血点の治療を行う義務があったにもかかわらず、これを怠った旨を主張した。裁判所は、以下の点を指摘し、「本件患者が、午後2時40分頃に出血性ショックを生じ、以後、出血性ショックの状態が続いていたと認めることはできない」として原告らの主張はその前提を欠くと判断した。出血性ショックにおいて血圧低下が生じるのは、重度の循環血液量減少(血液量の40%超え)が起きている場合であるから、仮に、14時40分以降の低血圧が、14時40分頃に生じた出血性ショックによるものであるとすれば、本件施術の実施(大腿動脈穿刺を開始した12時25分頃)から14時40分頃までの約2時間前後の間に血液量の40%を超える出血があったことになる。しかし、18時15分頃に行われた腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影検査の結果、活動性のある出血や出血点は確認されておらず、病理解剖の結果からも、出血部位は同定できず、本件施術による穿刺部や周囲小血管からの微小出血が、施術に伴う抗血栓療法の影響で凝固せずに長時間持続したため、大量出血に至ったと考えられるとされていること本件患者のHb値は、16時49分頃には12.4g/dLとまだ基準値内にとどまっており、20時に至っても10.9と被告病院において設定されている下限値(11.6)をわずかに下回る程度で、急性出血に対する外科的適応として輸血を必要とする値にも達していなかったこと本件患者に約2時間前後の間に重度の循環血液量減少が生じるほどの急激かつ大量の出血が生じたのであれば、出血からHb値の低下までに時間差があるとしてもHb値は急激に低下するはずであるが、本件PCI以降、16時49分頃に12.4g/dL、20時頃に10.9と緩やかに低下しており、14時40分までに出血性ショックを惹起させる大量の出血があったことと整合しないことまた、裁判所は、原告らの主張する各時点における検査義務について、それぞれ以下の点を指摘し、いずれも「CT検査または腹部エコー検査を行うべき義務を負っていたとは認められない」と判断した。1)14時40分の時点について14時40分頃、ショック症状と矛盾しない低血圧および頻脈が出現していたものの、ほかに出血性ショックや後腹膜出血を疑わせる症状はみられていないこと本件PCI中の12時55分頃に急性冠閉塞を発症し、心原性ショックをきたしたことやHCU入室後の12誘導ECGの結果からすると、14時40分頃に生じたショック症状も心原性ショックである可能性は十分にあり得たこと上記のことから、被告医師らが、急性ステント血栓症の可能性があると考えたことが不合理とはいえないこと2)16時49分の時点について16時49分の時点においてもHb値は12.4g/dLと基準値の範囲内であったこと14時40分頃と同様に、低血圧と頻脈以外に出血性ショックや後腹膜出血を疑わせる症状はみられていないこと16時45分頃に簡易心臓エコー検査を行った結果、心タンポナーデの可能性は低いと判断しているものの、未だ急性ステント血栓症の可能性は否定されていないこと3)18時12分の時点について被告医師らは、18時12分の左冠動脈造影検査に引き続いて、18時15分頃までに右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影を行っており、同検査で活動性のある出血や出血点は確認されていないこと本件PCIから14時40分頃までの約2時間前後で後腹膜出血により低血圧に陥るほどの重度の出血性ショックに陥ったのであれば、活動性のある出血や出血点が造影検査で確認できないほど微小であるとは考え難いことからすると、医師らが、この造影検査の結果を踏まえて、本件患者が後腹膜出血による出血性ショックを生じているのではないと判断したことは不合理とは言い難いこと4)20時の時点について本件患者のHb値は、20時頃には、基準値をやや下回る10.9となっているが、これ自体は輸血を要するような値ではないこと本件PCI以降、Hb値は16時49分頃に12.4g/dL、20時頃に10.9と緩やかに低下しているものの、低血圧が生じるとされる重度の循環血液量減少が生じていると疑わせるような著しい低下はみられていないこと。むしろ、この時点では、3回の観血的処置による出血や輸液の投与により血液が希釈されたことにより生じたHb値の低下である可能性も否定できないこと18時15分頃の右冠動脈、腹部大動脈、腸骨動脈および大腿動脈近位部の造影検査において、後腹膜出血が生じていることを示す活動性のある出血や出血点は確認されなかったこと同時点までに穿刺部やその周辺に血腫を疑わせる腫脹等の異常がみられず、本件患者が後腹膜出血の症状である頑固な背部痛および腰部痛を訴えていなかったこと上記からすると、医師らが、Hb値の低下が出血性ショックによるものであると判断しなかったことが不合理であるとまでは言い難いこと注意ポイント解説本稿も、第17回と同様にショックが問題となったケースであるが、本判決の特徴は、結果として死因が出血性ショックであったにもかかわらず、診療過程での判断が過失とはされなかった点にある。本件で裁判所が過失と判断しなかったのは、以下の点による。診療当時のHb値が出血性ショックを惹起させる大量出血と整合しない推移であったことPCI後(PCI中の急性冠閉塞を含む)であったこと診療経過に鑑みて心原性のショックであることが十分に疑われる状況であったこと後腹膜出血を疑わせる所見がなかったことこのため、Hb値が出血性ショックを惹起させる大量出血と整合するものであったり、後腹膜出血を疑わせる所見があったりする場合には、異なる結論となり得たことに留意する必要がある。同様に、そもそも診療中に原因を探る検査がほとんど行われていない場合、原因探求のための検査を怠り漫然と対応したとして過失(注意義務違反)が認められる可能性があることにも留意する必要がある。なお、本件では、被告病院の院内調査委員会が詳細な検討を経て作成した報告書において、医師の過失を認める記述がなされており、原告らは、この報告書に基づく被告医師らの過失を主張していた。これについて裁判所は、以下のとおり判示し、この報告書に基づいて過失を認めることはできないとした。「本件報告書は、調査の目的が“医療安全の確保であり、個々の責任を追及するためのものではない”とされているとおり、患者の死亡の原因究明や将来における安全性の高い医療の提供確保の観点から作成されたものであって、被告病院の医師に法的に過失があるか否かという観点から作成されたものではない。本件報告書の内容からしても、後方視的にみて、本件患者の後腹膜出血を疑うべき積極的所見がなくても、Hb値が低下しているのであるからCT検査を行う必要があったとするにとどまるものであり、被告病院の医師らによる診療行為について、その当時の具体的な状況および医療水準に照らし、前方視的にみて注意義務違反があったと評価するものではない。そうである以上、本件報告書の記載をもって被告病院の医師に過失があると認めることはできないことは明らかである」過失については、後方視的に評価するものではなく、診療時点に認識できた事実に基づいて前方視的に評価すべきであるという原則を確認するものであるが、この点が確認されたことは、然るべき事故原因の調査報告がなされ安全性の高い医療提供に寄与する(責任逃れのための調査報告書が作成されることを回避できる)ものであり、意義がある。医療者の視点PCI後の循環動態不安定において、「心原性ショック」と「出血性ショック」の鑑別は実臨床でも常に悩ましい問題です。本件のように術中に急性冠閉塞の既往がある場合、術者はまずステント血栓症などの心原性要因を除外することに全力を注ぎます。抗血栓療法を中断すれば致死的な転帰に直結するため、出血源が特定できない段階での判断は極めて困難です。今回の判決で注目すべきは、裁判所が「急性出血におけるHb値低下のタイムラグ」という生理学的現象を正しく認定した点です。実臨床において、急激な出血であっても直後の採血データには反映されないことは常識ですが、これが司法の場でも認められた意義は大きいです。また、IABP駆動中の不安定な患者をCT室へ搬送するリスクとベネフィットの天秤についても、現場の判断が尊重されました。さらに、院内事故調査委員会が再発防止の観点から「過失」を認める記載をしていても、裁判所はこれを後方視的な評価として法的責任とは切り離しました。これは、医療安全文化の醸成と法的紛争を混同すべきではないという重要なメッセージであり、われわれが萎縮せずに検証を行うための支えとなる判断です。本判決は、結果のみにとらわれず、その時々の臨床判断のプロセスが正当に評価されることを示しており、日々の診療において、なぜその判断に至ったか、という思考過程を記録に残すことの重要性を再認識させてくれます。Take home messagePCI後の循環不全では、心原性ショックと出血性ショックの鑑別が常に問題となる急性出血ではHb低下が遅れることがあるが、その時点の数値と所見に基づく判断の合理性が評価される結果的に重篤な合併症が判明しても、当時の臨床判断が医学的に説明可能であれば、注意義務違反とはされない場合があるキーワードPCI、後腹膜出血、出血性ショック、心原性ショック、Hb値、IABP

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義1817年、英国の外科医であり地質学者であったJames Parkinsonは“Essay on The Shaking Palsy”として6症例のパーキンソン病患者の症状を詳細に報告した。その後、神経学の祖であるJean-Martin Charcotがこのエッセイに着目し「パーキンソン病」と名付け、疾患概念が確立された。本疾患はドパミン神経細胞が脱落するため、動作緩慢、振戦、筋強剛などが出現する。進行すると姿勢保持障害、歩行障害なども顕著になり、転倒のリスクが高まる。さらに、運動症状以外にも睡眠障害、嗅覚低下、自律神経障害、認知症、精神症状など多彩な非運動症状を合併する。そのため日常生活動作が低下し、介護度が高くなり、患者本人の生活の質を悪化させるのみならず、介護者にも多大な影響が及ぶ疾患である。病理学的所見としては、黒質緻密部を中心としたドパミン神経細胞の変性・脱落とレビー小体の形成が特徴である。■ 疫学有病率は10万人当たり100~180人とされているが、65歳以上では1,000人程度存在するといわれている。海外で行われた年齢別有病率を調査した研究では、40~49歳では10万人当たり約40人であるのに対し、80歳以上では約1,900人と報告されており、加齢に伴い急激に増加することがわかる。発症頻度には地域差があり、欧州や北米では高く、アジアやアフリカでは低い傾向がある。また、海外では男性に多いとされる一方で、わが国では女性の有病率が高いと報告されている。■ 病因本疾患の病因は長らく不明とされてきたが、近年の分子病理学的・遺伝学的研究の進展により、その中核にはαシヌクレインの異常凝集と蓄積があることが明らかとなっている。αシヌクレインは、本来シナプス前終末に豊富に存在する可溶性タンパク質であるが、異常構造へ変化するとオリゴマー、プロトフィブリル、フィブリルへと段階的に凝集し、神経毒性を獲得する。これらの凝集体は、神経細胞内でレビー小体やレビー神経突起を形成し、ドパミン神経を中心とした神経変性を引き起こすと考えられている。さらに、病的αシヌクレインは細胞間を伝播する性質を有し、特定の神経回路に沿って病理が拡大することが示唆されている。その一方で、パーキンソン病は単一の原因で発症する疾患ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡む多因子疾患である。αシヌクレインをコードするSNCAは最初に発見された家族性パーキンソン病の原因遺伝子である。さらに常染色体顕性遺伝性パーキンソン病に頻度が高いLRRK2、重大なリスク遺伝子であるGBAなどが同定されており、これらはαシヌクレインの凝集に関与している。また、孤発例においても、複数の感受性遺伝子が発症リスクに寄与することが明らかとなっており、遺伝的背景が病態形成に重要な役割を果たす。そのほか農薬曝露、頭部外傷、腸内細菌叢などの環境因子も発症リスクとして報告されており、遺伝要因と環境要因の相互作用が発症の引き金となる可能性が考えられている。さらに近年では、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、神経炎症、タンパク質分解系の破綻など、複数の細胞内異常が相互に関連しながら神経変性を進行させることが示唆されている。とくにリソソーム・オートファジー系の障害は、異常αシヌクレインの蓄積を促進し、分解不能になるという悪循環を形成する重要な病態基盤と考えられている。このようにパーキンソン病の病因は、αシヌクレイン凝集を中心とした分子病態を軸に、多層的・連続的な異常が重なり合うことで発症すると考えられる。2 診断臨床診断は主に症候学的所見に基づいて行われる。2015年に国際パーキンソン病・運動障害学会が診断基準を策定した(表)。この診断基準では、寡動を中心に、振戦と筋強剛のどちらか1つがあるとパーキンソン症状があると判断し、特異的な所見である、レボドパ製剤に対する良好な反応性、レボドパ誘発性ジスキネジア、四肢の静止時振戦、嗅覚低下および123I-MIBG心筋シンチグラフィによる心臓交感神経脱落の証明を支持的診断基準としている。除外基準のみならず、パーキンソン病でも認められるが非典型的な症状や経過をレッドフラッグとして挙げている。支持的基準を2つ以上満たし、除外基準およびレッドフラッグが認められない場合は“clinically established”であり、支持的基準を満たしていてもレッドフラッグを認める場合や、レッドフラッグがなくても十分に支持的基準を満たさない場合は“probable”と診断される。診断基準の特異度は高いが感度は低く、類縁疾患である多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といったParkinson-like disorderとの鑑別は難しい。また、運動症状が発症する前より、便秘、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症が認められる場合がある。ビデオ睡眠ポリグラフでレム睡眠行動異常障害認められる場合、パーキンソン病を発症するリスクが高まる。採血や画像診断は補助的な診断である。採血では特異的な変化はないが、パーキンソン症状を来す疾患(甲状腺機能亢進症や低下症、ウィルソン病、抗リン脂質抗体症候群など)の鑑別は必要である。神経画像は診断に有用であり、頭部MRIやCTなどの構造画像は除外診断目的で行われる。とくにMRIは被殻の萎縮と被殻外側のスリット、脳梁の萎縮、中脳背側(中脳被蓋部)の萎縮、上/中小脳脚の萎縮、橋の萎縮などに注目し、Parkinson-like disorderと鑑別する。また、DATスキャンを行うことで、パーキンソン症状が黒質線条体のドパミン機能障害により引き起こされていることが確認できる。薬剤性パーキンソニズム、本態性振戦、ジストニア、錐体路障害などによるパーキンソン様症状は正常であり除外できる。123I-MIBG心筋シンチグラフィは心臓交感神経の脱落を確認できるが、認める場合はパーキンソン病に特異的な所見であり、重要な診断の手掛かりとなる。最近、髄液に存在する微量な凝集型αシヌクレインを増幅することで診断できる可能性が示されているが、研究レベルであり実用化はされていない。表 国際パーキンソン病・運動障害学会の診断基準画像を拡大する診断のフローを以下に示す。【パーキンソン病の診断基準(MDS)】■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。3)相対的除外基準に抵触しない。■臨床的にほぼ確実なパーキンソン病(clinically probable Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在しさらに、1)絶対的除外基準に抵触しない。2)相対的除外基準と同数以上の支持基準がみられる。ただし、2つを超える相対的除外基準がみられてはならない。■支持的基準(Supportive criteria)1)明白で劇的なドパミン補充療法に対する反応性がみられる。この場合、初期治療の段階では正常かそれに近いレベルまで改善がみられる必要がある。もし、初期治療に対する反応性が評価できない場合は以下のいずれかで判断する。用量の増減により、顕著な症状の変動(UPDRS partIIIでのスコアが30%を超える)がみられる。または患者または介護者より治療により顕著な改善がみられたことが確認できる明らかに顕著なオン/オフ現象がみられる2)L-ドパ誘発性のジスキネジアがみられる。3)四肢の静止時振戦が診察上確認できる。4)ほかのパーキンソニズムを示す疾患との鑑別診断上、80%を超える特異度を示す検査法が陽性である。現在この基準を満たす検査として以下の2つが挙げられる。嗅覚喪失または年齢・性を考慮したうえで明らかな嗅覚低下の存在MIBG心筋シンチグラフィによる心筋交感神経系の脱神経所見■絶対的除外基準(Absolute exclusion criteria)1)小脳症候がみられる。2)下方への核上性眼球運動障害がみられる。3)発症5年以内に前頭側頭型認知症や原発性進行性失語症の診断基準を満たす症状がみられる。4)下肢に限局したパーキンソニズムが3年を超えてみられる。5)薬剤性パーキンソニズムとして矛盾のないドパミン遮断薬の使用歴がある。6)中等度以上の重症度にもかかわらず、高用量(>600mg)のL-ドパによる症状の改善がみられない。7)明らかな皮質性感覚障害、肢節観念運動失行や進行性失語がみられる。8)シナプス前性のドパミン系が機能画像検査により正常と評価される。9)パーキンソニズムを来す可能性のある他疾患の可能性が高いと考えられる。■相対的除外基準(Red flags)1)5年以内に車椅子利用となるような急速な歩行障害の進展がみられる。2)5年以上の経過で運動症状の増悪がみられない。3)発症5年以内に重度の構音障害や嚥下障害などの球症状がみられる。4)日中または夜間の吸気性喘鳴や頻繁に生じる深い吸気*注など、吸気性の呼吸障害がみられる。5)発症から5年以内に以下のような重度の自律神経障害がみられる。起立性低血圧:立位3分以内に少なくとも収縮期で30mmHgまたは拡張期で15mmHgの血圧低下がみられる発症から5年以内に重度の尿失禁や尿閉がみられる6)年1回を超える頻度で繰り返す発症3年以内の転倒。7)発症から10年以内に、顕著な首下がり(anterocollis)や手足の関節拘縮がみられる。8)5年の罹病期間の中で以下のようなよくみられる非運動症候を認めない。睡眠障害:睡眠の維持障害による不眠、日中の過剰な傾眠、レム睡眠行動障害の症状自律神経障害:便秘、日中の頻尿、症状を伴う起立性低血圧嗅覚障害精神症状:うつ状態、不安、幻覚9)他では説明のできない錐体路症状がみられる。10)経過中一貫して左右対称性のパーキンソニズムがみられる。*注:inspiratory sighs;多系統萎縮症で時にみられる呼吸障害の1つで、しばしば突然不規則に生じる深いため息様の吸気。(文献1より引用)3 治療本疾患はドパミン神経変性により運動症状および多彩な非運動症状を呈するため、ドパミン補充療法が治療の中心である。L-ドパ製剤は最も有効性が高く中心的薬剤であるが、吸収に食事の影響を受けやすいこと、phasicな刺激によりL-ドパ誘発性ジスキネジアが生じやすく、半減期が短いためウェアリングオフを誘発することが課題となる。MAO-B阻害薬はドパミン分解を抑制することで効果を発揮する。すくみ足に効果があることが示されている。ドパミン受容体作動薬は半減期が長く、continuous dopaminergic stimulation(CDS)に近い刺激が可能で、ジスキネジア発現を遅らせる一方、眠気、衝動制御障害、精神症状に注意を要する。ウェアリングオフ出現時には、L-ドパ頻回投与やCOMT阻害薬併用により血中濃度の安定化を図る。また、アマンタジンを早期から始めることで、ジスキネジアの発現抑制が可能であることが示されている。経口治療で調整困難な場合にはデバイス補助療法を考慮する。経腸的L-ドパ持続療法や皮下持続投与製剤はオフ時間を短縮し、運動の日内変動を大きく改善する。さらに、L-ドパ製剤への反応性を有し、重度の認知症や精神症状を伴わない症例では脳深部刺激療法(DBS)も考慮される。主なターゲットは視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)であり、STN刺激は薬剤減量効果が期待できる一方、GPi刺激はL-ドパ誘発性ジスキネジアの抑制に有効である。効果は同等とされるが、薬剤減量ができるSTNがfirst choiceである。強い振戦が主体の場合には視床Vim核が選択される。DBSは運動症状を安定化させ、薬物治療の限界を補完する治療オプションであり、適応がある症例の場合、必ず考慮すべきである。4 今後の展望近年、分子病理学的研究やバイオマーカー研究の進展により、パーキンソン病は従来の臨床症候に基づく疾患概念から、αシヌクレイン病理を中核とした生物学的疾患概念へと大きく変容しつつある。とくに、微量な病的αシヌクレインを検出可能とする種増幅アッセイ(seed amplification assay:SAA)は、発症前・前駆期から疾患を同定しうる技術として注目されている。また、脳に蓄積するαシヌクレインを可視化するPET検査も開発されている。これらのバイオマーカーの確立は、早期診断のみならず、疾患の生物学的病期分類や層別化を可能とし、疾患修飾療法(disease-modifying therapy:DMT)の研究を推進する際に適切な対象集団の選定に直結する。現在までに、αシヌクレイン病理、神経変性、遺伝背景を統合した新たな分類・病期分類の枠組みが提唱されており、今後の臨床試験や治療戦略の基盤となることが期待される。5 主たる診療科脳神経内科脳深部刺激療法を行う場合は脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター パーキンソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Bloem BR, et al. Lancet. 2021;397:2284-2303. 2) Armstrong MJ, et al. JAMA. 2020;323:548-560. 3) Ben-Shlomo Y, et al. Lancet. 2024;403:283-292. 4) Hatano T, et al. J Mov Disord. 2024;17:127-137. 5) Postuma RB, et al. Mov Disord. 2015;30:1591-1601. 公開履歴初回2026年2月13日

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指先からの採血による血液検査でアルツハイマー病の兆候を正確に評価

 指先から採取した血液を郵送して行う血液検査によって、アルツハイマー病に関連するマーカーを正確に検出できることが、新たな研究で示された。これによって脳の変性疾患であるアルツハイマー病の診断や研究がより容易になる可能性があるという。米バナー・ヘルス、フルイド・バイオマーカー・プログラムのシニアディレクターであるNicholas Ashton氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に1月5日掲載された。 この検査は、指先に針を刺して少量の血液を採取するフィンガー・プリック・テストと呼ばれるもので、リン酸化タウタンパク質(p-tau217)やグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)の血中濃度を正確に測定できるという。これらはいずれもアルツハイマー病に関連する脳損傷の指標である。p-tau217は、アルツハイマー病に特徴的なタウ病理を反映するリン酸化タウタンパク質の一種、GFAPは、中枢神経系の支持細胞であるアストロサイトに由来し、脳損傷や神経疾患の指標となるタンパク質、NfLは脳神経細胞軸索に由来し、神経細胞の損傷や神経変性を反映するタンパク質である。 Ashton氏らは、7つのコホートに属する337人を対象に、指先から採取した少量の血液をカード上で乾燥させたサンプルの解析を行い、そのうちの304人については静脈血漿サンプルを用いた測定結果と比較した。その結果、指先採血サンプル中のp-tau217値は静脈血漿サンプル中のp-tau217値と強く相関し、疾患重症度の進行や脳脊髄液バイオマーカー陽性を良好に反映していた。また、GFAPおよびNfLについても、指先採血サンプルと静脈血漿サンプルの測定値との間に強い相関が認められた。 Ashton氏らは、この簡便な検査法によって遠隔地からも研究に参加できるようになり、大規模なアルツハイマー病研究を実施しやすくなる可能性があるとの期待を示している。同氏らは、この検査が一般の患者に対して臨床で使用できるようになるのは、まだ何年も先のことではあるが、現時点でも、アルツハイマー病研究を加速させる一助になる可能性はあると話している。Ashton氏は、「最終的にわれわれは、症状が現れる前段階でアルツハイマー病を治療する方向へと移行しつつある。この流れが続くのであれば、定期的に医療機関を受診しない適格者を特定するための革新的な方法が必要になるだろう。今回の研究は、その方向性における一つのアプローチを示すものであり、さらなる検証が必要だ」とニュースリリースの中で述べている。 共著者の1人である英エクセター大学のAnne Corbett氏は、「私にとっても最も楽しみなのは、この技術によってバイオマーカー研究の民主化が可能になることだ。誰でも、どこにいても、脳疾患の解明に貢献できる未来に向かって、われわれは進んでいる。これは単なる技術的な進歩ではなく、神経科学研究のあり方を変えるパラダイムシフトである」とニュースリリースの中で話している。 研究グループによると、この方法はパーキンソン病や多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳損傷などアルツハイマー病以外の脳疾患に関する研究にも役立つ可能性があるという。

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庭で倒れていた家族から有機溶媒臭【中毒診療の初期対応】第4回

<今回の症例>年齢・性別55歳・女性患者情報 2ヵ月前に母親がクモ膜下出血で突然死した。1ヵ月前頃よりうつ状態となり、最近では「死にたい」などと家族に訴えていた。仕事から帰宅した夫に、自宅の庭で倒れているところを発見され、救急要請された。救急隊現着時は鼾様呼吸、呼吸数24回/分、SpO2 82%、血圧 94/60mmHg、心拍数 42bpm、意識レベルJCS 100、瞳孔左右 1.5mm同大、対光反射±、体温35.6℃であった。患者の着衣は吐物で汚染され、シンナーのような有機溶剤臭がした。また、気道分泌物が著明で、尿失禁および便失禁を認めた。非再呼吸式リザーバー付きフェイスマスクにて酸素10L/分を投与しSpO2 92%となった。患者は経口摂取による急性中毒を疑われて救命救急センターに搬送された。<問題1><解答はこちら>4.脱衣・シャワー浴救急車内は換気されていたが、有機溶剤臭が著しく、救急隊員は気分不快を訴えた。除染スペースで患者を脱衣させ衣類をビニール袋に密閉し、シャワーで身体を洗浄してからERに搬入した。初診時は気道分泌過多による呼吸不全、洞性徐脈、血圧低下、昏睡、縮瞳、尿失禁、便失禁を認めた。胸部の聴診では湿性ラ音を、腹部の聴診では腸蠕動音の亢進を認めた。気管挿管により気道を確保し、人工呼吸器管理とした。並行して、静脈路の確保・急速輸液、および採血を施行した。検査値・画像所見末梢血では、WBC 8.90x103/mm3、Hb 13.2g/dL、Ht 38.0%、Plt 142x103/mm3、生化学検査では、TP 7.1g/dL、AST(GOT) 14IU/L、ALT(GPT) 11IU/L、LDH 158IU/L、CPK 78IU/L、AMY 222IU/L、Glu 112mg/dL、BUN 10mg/dL、Cr 0.6mg/dL、Na 142mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 104mEq/L、血清コリンエステラーゼ(ChE)40IU/L未満、動脈血ガス(非再呼吸式リザーバー付きフェイスマスクにて酸素10L/分)、pH 7.362、PaCO2 42.4Torr、PaO2 64.3Torr、HCO3- 19.4mmol/L、BE -2.2mmol/L、乳酸値 3.8mmol/Lであった。<問題2><解答はこちら>3.有機リン後日、患者の夫が庭の収納棚で有機リンであるフェニトロチオンを50.0%含有する殺虫剤100mLの空ボトルを発見した。 <問題3><解答はこちら>1.アトロピン1)上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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多疾患併存に迷わない:高齢者診療の「5つの型」実践フレーム【こんなときどうする?高齢者診療】第17回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回はマルモ(多疾患併存)患者の治療に向き合うための型を学びます。高齢者の多疾患併存(マルモ)は、“ガイドラインの足し算”では解けません。(1)意向 (2)エビデンス適用 (3)予後×時間 (4)実行可能性 (5)最適化の5項目で落としどころを構造化しましょう。今回は、初めに皆さんも出合ったことがあるかもしれない典型的なマルモの症例を5つ挙げてみます。(1)90歳男性 心房細動があるものの、抗凝固薬を飲みたくない(2)85歳女性 高脂血症に対して長年スタチンを服用している(3)80歳女性 大腸がん検査の大腸内視鏡を勧められている既往症糖尿病、心不全、慢性腎機能不全(4)88歳女性 15種類の薬を服用中既往症認知症・心不全・骨粗鬆症・糖尿病・慢性腰痛(5)92歳男性 再発する心不全急性増悪発作に対して、埋め込み式除細動器を勧められている既往症認知症・慢性変形性関節症、抑うつ、不安症挙げたケースはいずれも、高齢者診療で頻繁に遭遇する場面です。65歳以上の2人に1人は、3つ以上の慢性疾患を有する状態・マルモ(多疾患併存)です。そして、同じ疾患であっても、AさんとBさんでは、併存疾患の状況や本人の価値観、自立度や家族との関係・住んでいる土地や利用できるサービスなどの条件がまったく異なります。1人の患者が持つ疾患の複雑性に加えて、身体認知機能・心理社会的な複雑性も考慮したうえで、患者それぞれに適した医療やケアの落としどころを見つけることが高齢者を診るときに欠かせません。ですが、複数の疾患ガイドラインをあてはめて治療してもよいアウトカムにつながらないのは皆さんもすでにご経験なさっていると思います。また高齢者やマルモ患者は臨床研究の対象から除外されていることが多く、ガイドラインの適応範囲に入っていないことがほとんどです。つまり65歳以上の約半数が3疾患以上のマルモ。併存疾患だけでなく家族・住環境・利用資源が異なる。ガイドライン合算=最適とは限らない(除外基準・一般化の限界)。ではどうしたらいいのか?頭を抱えて動けなくなって当たり前です。だからこそ落としどころを「5つの型」で探ることが思考停止に陥らないために重要なのです。マルモに向きあう5つの型そこで今回は、米国老年医学会が出している1)、高齢者のマルモに向き合う型をご紹介します。状況に応じて、以下の5つの項目を確認することで落としどころを見つけやすくなります。1:意向(What Matters)- 患者の意向・希望・気がかりなこと患者が何を望んでいるか。あるいは何はしたくないか。たとえば自立した生活や症状がコントロールされること、身体認知機能の維持を望む方は多くいます。逆にしたくないことやこうなったら死んだほうがまし、ということを聞くことで理由が明らかになる場合もあります。2:エビデンス適用の可能性 - エビデンスが目の前の患者に使えるか?参照しようとしているガイドラインや研究において、その推奨は誰を対象に、どのアウトカムに、どの時間軸で価値があるか。除外基準や外的妥当性を確認し、目の前の患者に適用できるか?患者の優先事項と統合することができるか、を検討しましょう。3:予後×時間 - 患者の予後は?患者の希望する治療/ケアと、その治療の効果が発現するまでにかかる時間を考慮にいれることは不可欠です。4:実行可能性 - ケアは実行可能か?負担は大きすぎないか?継続できるか?治療やケアの負担が大きすぎないか、本人や介護者が継続できるケアの範囲に治療方針は収まっているかを確認することが必要です。5:最適化 - 最適化のために何ができるか?患者のおかれた状況において、ベネフィットを増やしリスクを小さくするために何をしたらいいかを考えることです。最初に挙げた5つの症例に、これらの型から必要な項目を使うとどうなるか、みてみましょう。(1)90歳男性 抗凝固薬NO!心房細動があるものの、抗凝固薬を飲みたくない→1:意向を深掘りし、抗凝固薬を飲みたくないという意向の背後にどんな希望や気がかりがあるのかを探るのが近道です。それにより本人は頻回採血や通院の負担を懸念していることが明らかになり、選択肢として、生活背景に合う抗凝固法(採血不要のDOAC等)を検討し、転倒・出血リスク評価、目標の再設定が挙がってきます。このケースでは一時的にアスピリン投与としましたが、定期的に再検討し、本人の価値観×安全性の最適点を探る視点が必要です。(2)85歳女性 高脂血症に対して長年スタチンを服用してきた…これからも続ける?→2:エビデンス適用可能性と、3:予後×時間 の2項目が判断のポイントです。高脂血症に対するスタチンは、二次予防や高リスク群の一次予防では有益ですが、高齢者(75~80歳以降)の一次予防はエビデンスが限定的です2)。さらに、スタチンのベネフィットの発現は2~5年後とされています。予後や本人の優先事項と照合し、減量/中止を含めて再評価するのが妥当です3)。とすると、この方が長年スタチンを服用してきたとしても、現在のエビデンスに照らし合わせると効果が見込めない薬として中止にするほうが妥当でしょう。(3)80歳女性 既往は糖尿病・心不全・慢性腎機能不全。大腸がん検査のために大腸内視鏡を勧められている→3:予後×時間を見積もり、治療介入の効果発現の時間と併せて考えるのが適当です。大腸がん検診が利益になるのはおよそ10年後。この方の既往症から予測すると、検査のメリットが発生する前に予後が障害される可能性が高く、大腸内視鏡は不適当と考えられます。娘さんを含めて、予後予測をもとに話合いを設定するとよいでしょう。(4)88歳女性 15種類の薬を服用中。マルモ(認知症・心不全・骨粗鬆症・糖尿病・慢性腰痛)。→4:ケアの実行性について確認する認知機能が低下してきている状態で15種類を飲み続けるのは現実的ではありません。それぞれの疾患に対してガイドライン通りに処方すると15種類になりますが、本人や介護者の負担が大きすぎて服薬自体ができないならば、残す薬を絞る、あるいは服用しないといった選択肢も視野にいれた調整を行うのが妥当でしょう。(5)92歳男性 再発する心不全急性増悪発作があり、埋め込み式除細動器を勧められる。認知症・慢性変形性関節症、抑うつ、不安症の既往。→5:最適化を考えるこの患者の場合、認知症や不安症に加えて変形性関節症があり、家を出て入院し、手術でデバイスを埋め込むという一連の流れに、身体的・心理的負担が大きいことが予想できます。入院から退院までの間にパニックに陥り転倒するといったリスクも考えられます。ガイドラインではデバイス埋込みが推奨されますが、”この患者”にとってデバイスを埋め込むことが、本当にQOLの向上につながるのか、患者にメリットがあるのか、あるとすれば何か、延命することが本当にベネフィットか?といったゴールの再確認をする必要があると考えます。このように、一つの項目をあてはめるだけでも、すべきことがクリアになると思います。ケースによっては5つすべてを検討する場合もあるかもしれません。日ごろ5つのMを使うときに、これらの項目を少しずつ加えて確認することをおすすめします。明日のカンファで(1)意向 (2)エビデンス適用 (3)予後×時間 (4)実行 (5)最適化を確認してみましょう。迷いが整理され、次の一手が見えてきます。 ※今回のトピックは、2022年10月度、2024年11月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でより詳しい解説やディスカッションをご覧ください。参考 1) Cynthia Boyd,et al. J Am Geriatr Soc. 2019 Apr;67(4):665-673. 2) Han BH, et al. JAMA Intern Med. 2017;177(7):955-965. 3) Yourman LC, et al. JAMA Intern Med. 2021;181(2):179-185.

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第41回 「採血だけでがんが見つかる」は本当か? 「リキッドバイオプシー」の現在地

痛い検査なしで、採血一本でがんを早期発見したい。 これは多くの人にとっての願いであり、医療界が追い続けてきた夢でもあります。近年、日本でも自由診療のクリニックなどで「血液でわかるがん検査」を目にする機会が増えました。しかし、最新の科学はどこまでその「夢」に近づいているのでしょうか。医学雑誌Nature Medicine誌に掲載された最新の論文1)を基に、この技術の「期待」と「現実」を解説していきます。そもそも「リキッドバイオプシー」とは何か?まずは言葉の意味を確認しておきましょう。私たちが健康診断で行う血液検査とは異なり、がん細胞から血液中に漏れ出した微量なDNAなどを検出する技術を「リキッドバイオプシー」と呼びます。がん細胞は通常の細胞と同じように死滅し、その際に自分自身のDNAの断片を血液中に放出します。この「がんの破片」を高度な遺伝子解析技術で見つけ出し、がんの有無や性質、薬が効くかどうかを調べようというのが、このリキッドバイオプシーです。従来のがんの診断法である組織生検(体に針を刺したり手術で組織を切り取ったりする検査でこれが従来からバイオプシーと呼ばれるもの)に比べて、体への負担が圧倒的に少ないのが最大の特徴です。「がん検診」としての実力は?現在、最も関心が高いのは「健康な人が採血だけでがんを見つけられるか(スクリーニング)」という点でしょう。しかし、結論から言えば、「技術は進歩しているが、早期発見ツールとしてはまだ課題が多い」というのが現状です。実際、論文の中でも、一度に50種類以上のがんを検出できるとされる「Galleri」という検査の臨床試験データが紹介されています。この検査は、StageIV(進行がん)であれば93%という高い感度でがんを見つけることができました。しかし、私たちが検診に求めるStage I(早期がん)の検出率は、わずか18%にとどまりました。つまり、症状が出る前の「治りやすい段階」のがんを見つけることは、現在の技術でもまだ難しい場合があるのです。さらに問題となるのが「偽陽性(本当はがんではないのに陽性と出る)」です。ある追跡調査では、検査で「陽性」と出た人のうち、本当にがんだったのは半数以下(陽性の61%が偽陽性)でした。健康な人がこの検査を受け、「陽性」と言われれば、大きな不安を抱えながらCTやMRIなどの精密検査を受けることになります。結果的に何もなかったとしても、CTやMRIも早期のがんを見つけるのに優れたものとはいえず、その精神的負担やさらなる追加検査のリスクは無視できません。すでに「当たり前」になりつつある分野も一方で、リキッドバイオプシーがすでに医療現場で不可欠なツールとなっている領域もあります。それは、「すでにがんと診断された患者さんの治療方針決定」です。とくに進行がんの患者さんにおいて、どの抗がん剤や分子標的薬を使うべきかを決めるための遺伝子検査として、米国食品医薬品局(FDA)も複数の検査を承認しています。たとえば肺がんにおいて、組織を採取するのが難しい場合でも、血液検査で特定の遺伝子変異(EGFR変異など)が見つかれば、それに合った薬をすぐに使い始めることができます。これにより、治療開始までの時間を短縮できるというメリットも確認されています。また、手術後の「再発リスク」の予測にも大きな期待が寄せられています。手術でがんを取り切ったように見えても、目に見えない微細ながん(MRD:微小残存病変)が残っていることがあります。手術後の血液検査でこの痕跡が見つかった場合、再発のリスクが高いと判断でき、抗がん剤治療を追加するかどうかの重要な判断材料になりつつあります。自由診療での検査を受ける前に知っておくべきこと冒頭で述べたように、日本国内でも、がんの早期発見をうたった高額な血液検査が自由診療として提供されていることがあります。しかし、今回の論文が指摘するように、多くの検査法(マルチキャンサー検査など)は、まだ「検査を受けることで生存率を改善する(命を救う)」という明確な証拠が確立されているわけではありません。論文では、現在の技術的な限界として、血液中のがんDNAがあまりに微量であることや、加齢に伴って正常な血液細胞に生じる遺伝子変異をがんと見間違えてしまうリスクなどが挙げられています。もし、あなたが「安心」のためにこうした検査を検討しているのであれば、以下の点を理解しておく必要があります。 「陰性」でも安心はできない 早期がんの多くを見逃す可能性があります(Stage Iの検出率はまだ低い)。 「陽性」が本当とは限らない がんではないのに陽性と出る可能性があり、その後の精密検査の負担が生じます。 従来の検診の代わりにはならない 現時点では、確立されたがん検診(便潜血検査やマンモグラフィなど)を置き換えるものではありません。 未来への展望:AIと新技術の融合とはいえ、未来は決して暗くもないと思います。現在進行形で、DNAの断片化パターンや、DNAへの目印など、複数の情報をAIで統合的に解析する新しい手法を開発しています。これにより、早期がんの検出率を上げ、偽陽性を減らし、さらには「どこの臓器にがんがあるか」まで正確に予測できるようになると期待されているからです。リキッドバイオプシーは、間違いなく医療の未来を変えうる技術です。しかし、それが「魔法の杖」として誰もが手軽に使えるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうです。今は過度な期待を持たず、しかしその進歩に注目し続ける、そんな冷静な視点が必要とされていると思います。 参考文献・参考サイト 1) Landon BV, et al. Liquid biopsies across the cancer care continuum. Nat Med. 2025 Dec 10. [Epub ahead of print]

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リンパ浮腫のコメントへのお返事と知識のアップデート【非専門医のための緩和ケアTips】第109回

リンパ浮腫のコメントへのお返事と知識のアップデート第103回でリンパ浮腫について取り上げたのですが、読者の方からコメントをいただきました。私もアップデートできていない部分だったので勉強になりました。今回の質問第103回のリンパ浮腫についてですが、「採血は健側で行う」とあります。最近のリンパ浮腫のガイドラインでは「生活関連因子(採血・点滴、血圧測定、空旅、感染、温度差、日焼け)は続発性リンパ浮腫の発症、増悪の原因となるか?」というCQがあります。これに対する回答は「採血、血圧測定、空旅がリンパ浮腫の発症や増悪の原因となる可能性は少ない」となっています。これを踏まえ、患者さんには「採血は健側で行えば無難ですが、困れば反対でもよい」と伝えています。こちらは乳腺外科の先生からいただいたものです。コメント、ありがとうございます。該当するのは『リンパ浮腫診療ガイドライン 2024年版』ですね。存在は知っていたのですが、恥ずかしながら内容まで確認していなかったので、今回のご指摘で勉強になりました。患側の採血・点滴、血圧測定は原則禁忌と思っていたのですが、必ずしもそうではないのですね。患者さんの生活や受ける医療の内容にも関わることであり、重要な臨床疑問に対してガイドラインでしっかりと指針を示していることが素晴らしいと感じました。さて、今回のコメントを通じて、私があらためて感じたことです。「緩和ケア」のように臓器横断的な分野を専門にしていると、各領域の最新知識や専門知識をどこまで学ぶか、という問題が常に付きまといます。緩和ケアの実践ではさまざまな疾患や分野に関わる必要があり、その多くが自分の専門領域ではありません。大前提として、膨大な医学情報のすべてを把握することは不可能です。一方で、「専門領域以外は一切わからない」となると、対応可能な患者さんが限られ、緩和ケアを多くの方に届けることが難しくなります。このジレンマに対し、何ができるのでしょうか?私自身が心掛けていることは、まずは「自分がアップデートできていない領域がある」ときちんと認識することです。そしてもう1つは、今回のように専門の先生に教えてもらえる関係を維持することと、教えてもらった時は感謝とともに自分でもできる範囲で学ぶことです。今回は緩和ケアの実践の際に、重要な生涯学習に近い内容を扱いました。おそらく緩和ケアに限らず、医師としてキャリアを積むうえで、ある程度の年齢になれば誰でも直面する問題だと思います。皆さんの工夫もぜひ教えてください。今回のTips今回のTips自分なりの知識をアップデートしていく工夫と、専門家から学ぶ姿勢を持ち続けることが大切。

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献血前のカフェイン摂取が赤血球の質に影響か

 コーヒーの摂取は献血された血液の質に悪影響を与える可能性のあることが、新たな研究で示された。献血された血液に高濃度のカフェインが含まれていると、赤血球は保存中に損傷を受けやすくなることや、カフェインを多く含んだ血液を輸血すると、輸血後のヘモグロビン濃度の増加が抑制されることが明らかになったという。ヘモグロビンは赤血球内のタンパク質で、酸素を運び二酸化炭素を除去する役割を担っている。米コロラド大学医学部のAngelo D’Alessandro氏らによるこの研究結果は、「Haemotologica」に9月4日掲載された。 研究グループは、「米国人の75%が定期的にカフェインを摂取していることを考えると、本研究結果は、米国の血液供給の質に関して重要な疑問を投げかけるものだ」との見方を示している。D’Alessandro氏は、「カフェインが脳や中枢神経系に影響を及ぼすことは以前から知られていたが、赤血球の生物学に及ぼす影響を示した大規模研究は、今回の研究が初めてだ。これらの結果は、朝の1杯のコーヒーのようにありふれたものが、保存された血液の質と患者に輸血された際のその機能に重要な影響を及ぼす可能性があることを示唆している」とコロラド大学のニュースリリースで述べている。 今回の研究でD’Alessandro氏らは、REDS RBC-Omics研究に参加した1万3,091人の献血者データを解析し、カフェインが赤血球の保存品質に与える影響を調査した。 その結果、血液中のカフェイン濃度が高い献血者では、グルコースをエネルギー(アデノシン三リン酸〔ATP〕)に変換する主要な代謝経路である解糖系の活性低下、総アデニル酸プール(体内のATP、ADP〔アデノシン二リン酸〕、AMP〔アデノシン一リン酸〕の総和)や2,3-ビスホスホグリセリン酸(2,3-BPG)の減少、酸化ストレスや浸透圧脆弱性の増加などが確認され、赤血球の代謝が乱れることが明らかになった。また、血液中のカフェイン濃度が高い献血者由来の赤血球は、溶血の増加や輸血後のヘモグロビン増加量の低下と関連することが示された。これらの所見は、特に、低酸素状態で赤血球代謝を調節する遺伝子であるADORA2b遺伝子によく見られる多型を有する献血者で顕著に認められた。 現在、ヨーロッパのいくつかの国では、献血者に献血前のカフェイン摂取を制限するよう勧めているが、米国では積極的には推奨されていないという。カフェインは血圧を上昇させて血管を拡張させるため、献血者からの採血を容易にする可能性があると研究グループは述べている。D’Alessandro氏は、「しかしこの利点と、カフェインが持つ軽度の利尿作用による脱水リスクとのバランスを考える必要がある」と指摘している。 本研究ではまた、ヒトで認められた結果が、マウスモデルを用いて検証された。その結果、解糖系の活性低下などヒトで見られたカフェインの影響が再現された。また、カフェインは、赤血球の代謝に関与するG6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)の活性とADORA2B受容体の活性化を阻害することが示された。 研究グループは、これらの知見が、カフェイン摂取によって赤血球で酸化ストレスが増加することが逆説的に運動中の代謝的適応を促進し、その結果として運動やスポーツのパフォーマンスが向上する理由を説明する手がかりになるかもしれないと指摘している。

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米国ドラマ「24」【その1】なんでショックで記憶喪失になるの? なんで恐怖で腰が抜けるの?-「解離=ローカルスリープ」説

今回のキーワード全生活史健忘迷走神経反射ポリヴェーガル理論離人感・現実感消失症ローカルスリープ解離性神経学的症状症[目次]1.記憶喪失の特徴とは?2.なんでショックで失神するの?―ポリヴェーガル理論3.なんでショックで記憶喪失や腰抜けになるの?-「解離=ローカルスリープ」説ショックで自分が誰で今までどう生きてきたかの記憶すべてを急に思い出せなくなる…いわゆる記憶喪失は何とも不思議です。なぜショックで記憶喪失になるのでしょうか? また、恐怖で腰が抜けて立てなくなるのも、よくよく考えると、腰には医学的な問題はなく、脳の問題です。どうなっているのでしょうか?これらの謎を解き明かすために、今回は米国ドラマ「24(トゥエンティ・フォー)」のあるシーンを取り上げ、記憶喪失の特徴を説明します。そして、脳科学の視点から、ある仮説をこの記事で提唱し、記憶喪失や腰抜けをはじめとして意識から精神機能や身体機能が分離する病態(解離症)のメカニズムを解き明かします。さらに、進化医学の視点から、これらの病態の起源に迫ります。なお、記憶喪失の正式名称は解離性健忘です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、よく使われる通称の「記憶喪失」で表記します。記憶喪失の特徴とは?主人公は、米国の連邦捜査官ジャック・バウアー。彼が、テロリストと戦う24時間を毎回1時間ずつのドラマに分けて、時間軸に沿ってそれぞれの登場人物の視点からリアルタイムで展開していくつくりになっています。毎回のエピソードではらはらさせられて「次はどうなるの?」と気になり、私たちも視聴者という立場で「24」になってしまいそうになります。そのなかのあるシーンで、彼の妻テリーが記憶喪失になりますが、とてもリアリティがありました。そこで、彼女の言動から、記憶喪失の特徴を大きく3つ挙げてみましょう。(1)直前にトラウマ体験がある-重度ストレステリーは、娘と一緒にテロリストの隠れ家に人質として誘拐されていました。そんななか、2人で脱出して山道を車で逃走するのですが、テリーは追っ手をまいたか確かめるために、途中で車を止めて出ます。その直後、まだ娘を乗せている車が崖から滑り落ちてしまい、爆発して炎に包まれるのです。テリーは、その瞬間、テリーは娘が死んだと思い、あまりのショックで気を失います。1つ目の特徴は、直前にトラウマ体験があることです。精神医学的には、重度ストレスと言い換えられます。実際に、記憶喪失の先行要因として、災害や戦争などが指摘されています1)。(2)自分についてすべて思い出せない-全生活史健忘テリーは、数分後に目を覚まし、車道をふらふらと歩き出します。たまたま車で通りがかった女性から不審がられて、「ねえ、大丈夫? どうしたの?」と声をかけられますが、テリーは何も言えません。「名前は?」と聞かれても、「思い出せない」としか答えないのです。こうして、近くの病院まで送ってもらうことになります。2つ目の特徴は、自分についてすべて思い出せないことです。精神医学的には、全生活史健忘(全般性健忘)と呼ばれます。自分の名前や生い立ちをすべて思い出せなくなるのですが、言葉自体や一般常識は覚えていて、話は通じます。つまり、記憶障害になるのは、エピソード記憶のみであり、意味記憶は保たれています。なお、すべてのエピソード(全生活史)ではなく、特定のエピソード(トラウマ体験)だけが思い出せない場合は、選択的健忘と呼ばれます。(3)ぼうっとしている-「美しき無関心」テリーは、車に乗せてくれた女性から、「記憶喪失の人、初めて見たわ」「つらいでしょ?」と言われても返事をせず、心ここにあらずです。3つ目の特徴は、ぼうっとしていることです。精神医学的には、従来から「美しき無関心」(もうろう状態)と呼ばれてきました。自分の記憶がないことに対して、戸惑うというよりも、むしろ無関心なのです。「ここはどこ? 私は誰?」とあわてふためくことは実はなく、むしろ清々しくも見えてしまうのです。なんでショックで失神するの?―ポリヴェーガル理論テリーは、「目の前で自分の娘が炎に包まれて死んだ」と思い、そのショックから気を失いました。このような失神は、実は私たちにも身近で、歯の治療や採血などでの痛みから極度の恐怖を感じた時にも見られます。これは、迷走神経反射(神経原性ショック)と呼ばれています。それでは、なぜショックで失神するのでしょうか?このメカニズムは、ポリヴェーガル理論(多層迷走理論)から説明することができます2)。この理論を簡単に言うと、私たちの体は、恐怖がなければ、副交感神経系(主に腹側迷走神経複合体)が働いて心拍や血圧が安定して、低活動の状態です。しかし、恐怖(ストレス)があれば、交感神経系(交換神経幹)が働いて心拍や血圧が上がり、過活動になります。そして、絶体絶命なほどの極度の恐怖(重度ストレス)になると、今度は副交感神経系(背側迷走神経複合体)がより働くように切り替わり、逆に心拍や血圧が下がり、不活性化します。このように、「第3の自律神経」(背側迷走神経複合体)を含んだ自律神経系は多層的に機能していると考えられています。イメージとしては、副交感神経優位は安静モード、交感神経優位は興奮モード、そして迷走神経反射は絶体絶命モードと言えます。とくに、興奮モードと絶体絶命モードは合わせて、「戦うか逃げるか、または固まるか(”fight, flight, or freeze”)」と呼ばれています。この現象は、体の反応であると同時に、その体をコントロールする脳の反応でもあります。体だけでなく脳も全体的に不活性化するので、意識レベル(覚醒水準)はやや下がり、低覚醒の状態になります。すると、五感や体感の感度が鈍くなり、現実感がなくなった病態(離人感・現実感消失症)になるでしょう。これは、先ほどの「美しき無関心」の症状にも重なります。実際の画像研究では、この離人感・現実感消失症の人は、嫌悪感を刺激する画像への反応において、扁桃体などがある大脳辺縁系の活動性の低下が確かめられています3)。なお、厳密には右前頭葉の一部(腹側前頭前野)は逆に活動性が亢進することも確かめられています。迷走神経反射は、脳全体の活動性が低下するイメージではあるのですが、この部位に限っては、扁桃体と拮抗関係にあることから、扁桃体の活動性が低下した結果、二次的にこの部位の活動性が亢進してしまったと理解することができます。そして、この部位は自己意識を司る脳領域であることから、この二次的な影響は、自分を俯瞰して上から見ているという離人感が出てくるメカニズムを説明することができます。さらには、同じく極限状態である臨死体験でいわゆる幽体離脱をしている感覚になるメカニズムも説明することができます。つまり、極限状況では、迷走神経反射によって逆説的にも変に冷静になってしまうのです。なんでショックで記憶喪失や腰抜けになるの?-「解離=ローカルスリープ」説テリーが記憶喪失になったのは、明らかに「目の前で自分の娘が炎に包まれて死んだ」という重度ストレスです。それでは、実際にどのようにして記憶喪失になるのでしょうか? また、どのようにして腰抜けになるのでしょうか?先ほどのポリヴェーガル理論から、意識からすべての精神機能と身体機能が不活性化する病態(離人感・現実感消失症)のメカニズムは説明できました。しかし、意識から特定の精神機能または身体機能だけが分離して不活性化する病態のメカニズムは説明できません。これを説明できる理論がさらに必要です。そこでご紹介したいのが、ローカルスリープという概念です。これを簡単に言うと、睡眠は脳全体で一様ではなく局所で多様に行われうるということです。実際の研究では、起きている時にストレスのかかった脳の領域ほど深い睡眠になることがわかっています4)。今回の記事で、このローカルスリープの概念を使って、以下の仮説を提唱します。それは、このローカルスリープによって、重度ストレス後に特定の脳領域のニューラルネットワークが文字どおり眠ってしまい完全に不活性化してしまう(機能不全になってしまう)ということです。名付けるなら、「解離=ローカルスリープ」説です。この不活性化という点で、先ほどのポリヴェーガル理論の局所モデルがローカルスリープであると言い換えることができます。たとえば、それぞれの体の部位を司る特定の脳領域のニューラルネットワークがローカルスリープを起こせば、腰を抜かす(脱力発作)、声が出なくなる(失声)、聞こえなくなる(突発性難聴)、喉にボールがあるように感じる(ストレス球)などのさまざまな病態(解離性神経学的症状症または変換症)になるでしょう。これが、腰抜けになるメカニズムです。同じように、記憶を司る特定の脳領域のニューラルネットワークがローカルスリープを起こせば、特定のエピソード(トラウマ体験)だけを思い出せない(選択的健忘)、または自分の名前や今まで自分がどう生きてきたかというすべてのエピソードを思い出せない(全般性健忘)という病態になるでしょう。そしてその後に、何かのきっかけで、または何のきっかけもなく、ようやくそのニューラルネットワークがローカルスリープから脱して(再活性化して)、トラウマ体験を含めて思い出すことができると説明することができます。これが、記憶喪失になるメカニズムです。ちなみに、起きている最中に脳が局所的に不活性化してしまうローカルスリープとは対照的に、深く眠っている最中(ノンレム睡眠中)に、脳が局所的に活性化してしまう「ローカル・アウェイクニング(局所覚醒)」の状態は、睡眠サイクルを含め脳がまだ未発達な子供に見られる「夜泣き」(睡眠時驚愕症)や「夢遊病」(睡眠時遊行症)が当てはまります。 1) DSM-5-TR、p330、p352:日本精神神経学会、医学書院、2023 2) ポリヴェーガル理論入門、p23:ステファン・W・ポージェス、春秋社、2018 3) 心の解離構造、p192、p198:エリザペス・F・ハウエル、金剛出版、2020 4) 睡眠科学、p10:三島和夫、化学同人、2016

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事例30 特異的IgE定量・半定量の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、アレルギー性接触性皮膚炎に対する「D015 13 特異的IgE定量・半定量検査」がA事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。この検査は、1回の採血において特異抗原の種類ごとに13種類まで所定点数を算定できます。さらに多くの種類の特異抗原が保険診療対象に認められており、病名との不適切な組み合わせがA事由による査定対象となることを経験しています。事例の査定原因を調べる途中で、支払基金の公開情報を思い出しました。支払基金・国保統一事例454にて、「同検査は、(1)アレルギー性接触皮膚炎(疑い含む)、アレルギー疑いには認められない」と通知されています。通知の理由には「(1)病は、アレルゲンの皮膚接触により発生する(IV[遅延]型アレルギー)であり、IgEの関与はなく、診断的には皮内反応検査(パッチテスト)が実施される。単にIgEの関与を確認することなく特異的IgE検査をすることは不適切」とありました。検査会社の臨床意義などには、「IgEが大きく関与するI型アレルギーに分類される疾患の治療に用いる」とあります。事例では、非特異的IgEの検査もなく、特異的IgE定量・半定量検査が診療報酬上限の13種類も実施されています。また、医学的に適応とならないと通知されている病名に対して算定されていることも査定の原因であると推測ができます。レセプトチェックシステムでは、同検査に対する病名の記載がないことが指摘されていました。レセプト担当者に指摘への対応を聞いたところ、「病名末尾の(体幹・四肢)を見て、広範囲のアレルギー反応だから追加病名は必要がない」と判断されたとのことでした。事例の場合は、当該病名が適用外と明確に公表されていることから、検査に対する適切な病名が必要であることを医事担当に研修を行い査定対策としています。

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「永遠の化学物質」が2型糖尿病リスクと関連?

 ほとんど分解されないために環境中に長期間存在し続けることから、「永遠の化学物質」と呼ばれているPFAS(ペルフルオロアルキル化合物やポリフルオロアルキル化合物)の血中濃度と、2型糖尿病発症リスクとの有意な関連性を示唆する研究結果が、「eBioMedicine」に7月21日掲載された。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のVishal Midya氏らの研究によるもので、同氏は、「われわれの研究は多様な背景を持つ米国の一般人口において、PFASがいかに代謝を阻害し糖尿病リスクを高めているのかを探索するという、新たな研究の一つである」と述べている。 PFASは1940年代から一般消費財に用いられるようになり、現在では焦げ付き防止処理の施された調理器具、食品包装材、家具、防水機能を持つ衣類など、さまざまな製品に利用されている。Midya氏は、「PFASは熱、油、水、汚れに強い合成化学物質で、極めて多くの日用品に含まれている。そしてPFASは容易に分解されない。そのため、環境中だけでなく、人体にも蓄積されていく」と解説している。 この研究は、マウントサイナイ病院でプライマリケアを受けている6万5,000人以上の患者データを用いたコホート内症例対照研究として実施された。糖尿病既往者を除外した上で、後に2型糖尿病を発症した患者群と、年齢、性別、人種/民族が一致する糖尿病未発症の対照群、各群180人を抽出。ベースライン(糖尿病群における糖尿病診断の中央値6年〔四分位範囲1~10〕前。対照群ではそれと同時点)で採取されていた血液サンプルのPFAS濃度と、糖尿病リスクとの関連を検討した。 PFAS濃度の三分位に基づき全体を3群に分け、年齢、性別、人種/民族、ベースラインのBMI、喫煙習慣、PFAS濃度測定検体の採血時期などを調整して解析すると、PFAS濃度が高い一つ上の三分位群に上がるごとの糖尿病診断オッズ比が1.31(95%信頼区間1.01~1.70)であり、両者の間に有意な関連が認められた。また、PFASはアミノ酸や炭水化物、および一部の薬物の代謝に影響を及ぼすことを示唆するデータも得られた。例えば、体内の脂質、血糖、薬物、エネルギーの代謝の調整に重要なシグナル伝達分子(sulfolithocholyglycine)のレベルが、PFASへの曝露によって変化している可能性が見いだされた。 ただし研究者らは、「研究の性質上、この結果のみではPFASと2型糖尿病の間に直接的な因果関係があるとは言えない」としている。因果関係の有無を確かめ、PFASがどのように代謝を変化させ糖尿病リスクに影響を及ぼすのかを詳細に理解するためには、さらなる研究が必要だという。

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死亡診断のために知っておきたい、死後画像読影ガイドライン改訂

 CT撮影を患者の生前だけではなく死亡時に活用することで、今を生きる人々の疾患リスク回避、ひいては医師の医療訴訟回避にもつながることをご存じだろうか―。2015年に世界で唯一の『死後画像読影ガイドライン』が発刊され、2025年3月に2025年版が発刊された。改訂第3版となる本書では、個人識別や撮影技術に関するClinical Questionや新たな画像の追加を行い、「見るガイドライン」としての利便性が高まった。今回、初版から本ガイドライン作成を担い、世界をリードする兵頭 秀樹氏(福井大学学術研究院医学系部門 国際社会医学講座 法医学分野 教授)に、本書を活用するタイミングやCT撮影の意義などについて話を聞いた。死亡診断にCTを活用する 本書は全55のClinical Question(CQ)とコラムで構成され、前版同様に死後変化や死因究明、画像から得られる状態評価に関する知見を集積、客観的評価ができるよう既発表論文の知見を基に記述が行われている。また、「はじめに」では死後画像と生体画像の違いを解説。死後画像では生体画像でみられる所見に加え、血液就下、死後硬直、腐敗などの死体特有の所見があること、心肺蘇生術による変化、死後変化などを考慮する点などに触れている。また、本ガイドラインに係る対象者は、院外(在宅)での死亡例、救急搬送後の死亡例、入院時の死亡例であることが一般的なガイドラインと異なっている。以下、実臨床における死亡診断に有用なCQを抜粋する。―――CQ2 死後CT・MRIで血液就下・血液凝固として認められる所見は何か?(p.7)CQ10 死後CT・MRIは死因推定に有用か?(p.34)CQ11 死後CTは院外心肺停止例の死因判定に有用か?(p.38)CQ14 死後画像を検案時に用いることは有用か(p.49)CQ33 死後CTで死因となる血性心タンポナーデの読影は可能か?(p.119)CQ35 死後画像で肺炎の判定に有用な所見は何か?(p.127)―――死者の身体記録を行う意義と最も注意すべきポイント 日本における死後画像読影や本書作成については、2012年の「医療機関外死亡における死後画像診断の実施に関する研究」に端を発する。死後画像読影が2014年に「死因究明等推進計画」の重要施策の一環となり、2020年に「死因究明等推進基本法」が施行されたことで、本格的に稼働しはじめた。現在、院外死亡例の死後画像読影は法医学領域に限定すると全国約50ヵ所での実施となるが、CT画像装置があれば解剖医や放射線診断医の在籍しない病院やクリニックでも行われるようになってきている。その一方で、本書の対象に含まれる“入院中に急変などで亡くなった方”については、「“CT撮影から解剖へ”という理解が進んでいない」と兵頭氏は指摘する。「解剖を必要としないような例であっても、亡くなった段階の身体の様子を記録に残すことは医療訴訟の観点からも重要」と強調。「ただし、全例を撮ることが実際には可能だが、CTを撮れば必ず死因がわかるわけではない」ことについても、過去に広まった誤解を踏まえて強調した。 撮影する意義について、「死後画像読影は、その患者にどのような治療過程があったのかを把握するために実施する。生前は部位を特定する限定的な撮影を行うが、死後は全体を撮影するため見ていなかった点が見えてくる。併せて死後の採血や採尿を実施することで、より死因の確証に近づいていく」と説明した。そのうえで、死後画像読影の判断を誤らせる医療行動にも注意が必要で、「救急搬送された患者にはルート確保などの理由で生理食塩水(輸液)を投与することがあるが、その生理食塩水の投与量がカルテに入力されていないことがよくある。輸液量は肺に影響を及ぼすことから、海外では医療審査官が来るまでは、点滴ルートを抜去してはいけないが、国内ではすぐにエンゼルケアを実施してしまう例が散見される。そうすると、適切な医療提供の是非が不明瞭になってしまう。家族へ患者を対面させることは問題ないが、エンゼルケア後の死後画像を実施すると真の死因解明に繋がらず、医療訴訟で敗訴する可能性もある」と強調した(CQ19:心肺蘇生術による輸液は死後画像に影響するのか?」)。 そして、多くの遺族は亡くなった患者のそばにいたい、葬儀のことも考えなくてはいけないといった状況にあるため、懲罰的なイメージを連想させる解剖を受け入れてもらうのはなかなか難しい。だからこそ「遺族には死後画像読影と解剖を分けて考えてもらい、一緒に死因を確認する方法として提案することが重要である。入院患者の死亡原因を明らかにするためと話せば、撮影に協力してもらいやすい」とコメントした。実際に解剖に承諾してくださる方が減少する一方で、画像読影のニーズは増加しているという。他方、在宅など院外で亡くなった方においては、「感染症リスクなどを排除する観点からも、CT撮影せずに解剖を行うのは危険を伴う」とも指摘している。医師も“自分の身は自分で守る”こと 医療者側のCT撮影・読影のメリットについて、「万が一、遺族が医療訴訟を起こした場合、医療施設がわれわれ医師を守ってくれるわけではない。死後画像読影は死者や遺族のためでもあるが、医師自らを守るためにも非常に重要な役割を果たす。遺族に同意を得てCT画像として身体記録を残しておくことは、医療事故に巻き込まれる前段階の予防策にもつながる」と強調した。このほかのメリットとして、「医師自身が予期できなかった点を発見し、迅速に家族へ報告することもできる。きちんとした医療行為を行ったと胸を張って提示できるツールにもなる」と話した。 なお、撮影技術に関しては、放射線技師会において死後画像撮影に関するトレーニングが実施されており、過去のように、生きている人しか撮らないという医療者は減っているという。死後画像撮影の課題、院外では診療報酬が適用されず 同氏は本ガイドライン作成のもう1つの目的として「都道府県ごとの司法解剖の均てん化を目指すこと」を掲げているが、在宅患者の死後画像撮影を増やしていくこと、警察とかかりつけ医などが協力し合うことには「高いハードルがある」と話す。近年では、自宅での突然死(院外での死亡)の場合には、各都道府県の予算をもって警察経由で検視とともに画像撮影の実施が進み、亡くなった場所、生活環境・様式(喫煙、飲酒の有無など)を把握、病気か否かの死因究明ができる。ところが、「かかりつけの在宅患者が亡くなった際に実施しようとすると、死者には診療報酬が適用されないのでボランティアになってしまう。CT撮影料以外にも、ご遺体の移動、読影者、葬儀会場へのご遺体の持ち込み方法など、画像撮影におけるさまざまな問題点が生じる」と現状の課題を語った。死後画像が生きる人々の危険予測に 本書の作成経緯や利用者像について、同氏は「2015年、2020年と経て、項目の整理ができた。エビデンスが十分ではないため、新たな論文公開を基に5年ごとの更新を目指している。法医学医はもちろんのこと、放射線技師や病理医など読影サポートを担う医療者に対して、どこまで何を知っておくべきかをまとめるためにガイドラインを作成した」とし、「ガイドラインの認知度が上がるにつれて利用者層が増え、今回は救急科医にも作成メンバーとして参加してもらった」と振り返る。 最後に同氏は「本書は他のガイドラインとは趣が少々異なり、読影の現状を示すマイルストーンのような存在、道しるべとなる書籍だと認識いただきたい。エビデンスに基づいた記述だけでは国内の現状にそぐわないものもあるため、それらはコラムとして掲載している。今年、献体写真がSNSで大炎上したことで、死後画像読影に関する誤った情報も出回ってしまったが、海外をリードする立場からも、死後画像読影によって明らかになっていない点を科学的に検証し、今を生きる人々の危険回避に役立つ施策を広めていきたい」と締めくくった。

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薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

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