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もう世間では新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のことはどこ吹く風だろう。厚生労働省の人口動態統計を見ると、概数が発表されている昨年10月までの新型コロナによる国内の累計死者数は3万1,376例である。参考までに過去の数字を挙げると、感染症法上の5類移行が行われた2023年は3万8,086例、その前年の2022年は4万7,638例である。2023年の11月と12月の新型コロナによる死亡者の月報概数合計が約3,500例なので、同年と2024年が同水準と仮定すれば、2024年の新型コロナの死者数は前年よりもやや少なくなる可能性がある。ちなみにその定義にはやや注意が必要なものの、2023年の同統計上のインフルエンザの死亡者数は1,383例である。もちろんインフルエンザ後の合併症による死亡も考慮するならば、この数字もかなり大きなものになるだろう。とはいえ、それは新型コロナも同様である。しかも、感染者報告がほぼ冬に限られるインフルエンザと違い、新型コロナは通年で患者が発生する。実際、2023年の同統計では、新型コロナの死亡者数は1~3月と7~9月に増加する二峰性を示している。結局、現在の新型コロナの死者数は統計上の数字としてフラットに捉えてよいものではなく、インフルエンザと比べても厄介なことは明らかだろう。今後、この数字が改善するのかどうかと言えば、個人的にはやや悲観的に見ている。少なくとも2025年は悪化するのではないかと予想している。この予想は昨秋から始まった初の新型コロナワクチンの定期接種状況に由来する。昨年9月に厚生労働省が厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会)で明らかにした2024年度定期接種に伴う新型コロナワクチン供給量の見込みは約3,224万回分。しかし、一部報道によると、1月下旬時点での医療機関納入実績を基に算出される65歳以上の接種率は22%に過ぎない。ここから考えるに、2024年の新型コロナの死者数がその前年と同レベルかやや低い水準に留まる見込みなのは、それまでの特例臨時接種で高齢者が比較的マメにワクチン接種をしていることによるブースター効果が2024年中は比較的保たれていたからと見ている。こうした見方をするのは個人的な経験も影響している。以前の本連載で触れたように、私は2024年3月末の特例臨時接種期限ギリギリに5回目の新型コロナワクチン接種をしている。この前日に採血した新型コロナのスパイクタンパク抗体(中和抗体)検査(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)の結果は6,252.0U/mLだった。1つ前の4回目接種が2022年12月なので、自分で言うのも何だが、1年3ヵ月が空いたわりにはかなり高めの値である。そして6回目を任意接種する判断材料として、昨年12月上旬にインフルエンザワクチン接種に合わせて再びスパイクタンパク抗体検査をしたが、その結果は9,999.9U/mL。要は上限オーバーである。この結果を受けて、費用対効果を加味して6回目接種を行おうと考え、今はその時期を検討中である。65歳以上の高齢者の場合、特例臨時接種の期間にかなり真面目に接種している人は5回以上接種しているはずなので、一定程度のブースター効果は維持されていると考えられる。しかし、最新の接種率が約5人に1人程度であるならば、かなりの人が夏の流行時期には感染・発症防御できるレベルの抗体価を維持できていないだろう。正直、表現は適切ではないのは百も承知だが、この夏はその答え合わせとなる。いや、もしかしたら、今後、確定値が発表される2025年1~3月の新型コロナ死者数でその一端が見えてくるかもしれない。正直、私の嫌な予想は外れてほしいと思うのだが…。