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心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】第1回

第1回 心不全の分類とそれぞれの治療法UpdateKey Points心不全の分類として、まずはStage分類とLVEFによる分類を理解しよう心不全発症予防(Stage Aからの早期介入)の重要性を理解しようRAS阻害薬/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の偉大さを理解しようはじめに心不全の国際定義(universal definition)が日米欧の3つの心不全学会から昨年合同で提唱され、「器質的または機能的な心臓の異常を原因とする症候を呈し、Na利尿ペプチド上昇または肺・体うっ血の客観的エビデンスが認められる臨床症候群」とされた1)(図1)。また心不全のStage分類もそれぞれAt-risk for HF(Stage A)、Pre-HF(Stage B)、HF(Stage C)、Advanced HF(Stage D)と分かりやすく表現された(図1)。この心不全の予防、治療を理解する上で役立つ心不全の分類について、本稿では考えてみたい。画像を拡大する予防と治療を意識した心不全の分類まず覚えておくべき分類が、上記で記載した心不全Stage分類である(図1)。この分類は適切な治療介入を早期から行うことを目的にされており、とくにStage Aの段階からさらなるStage進展予防(心不全発症予防)を意識して、高血圧などのリスク因子に対する積極的な介入を行うことが極めて重要となる2)。次に、一番シンプルで有名な治療に関わる分類が、検査施行時の左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)による分類で、HFrEF(LVEF<40%、HF with reduced EF)、HFmrEF(LVEF 40~49%、HF with mildly reduced EF)、HFpEF(LVEF≧50%、HF with preserved EF)に分類される(図1)。またLVEFは経時的に変化し得るということも忘れてはならない。とくにLVEFが40%未満であった患者が治療経過で40%以上に改善した患者群は予後が良く、これをHFimpEF (HF with improved EF)と呼ぶ3)。つまり、同じLVEF40%台でも、HFimpHFは、LVEFの改善がないHFmrEFとは生物学的にも臨床的にも同義ではないのである4)。そもそもLVEFとは…と語りたいところではあるが、字数が足りずまたの機会とする。慢性心不全治療のエッセンス慢性心不全治療は大きく2つに分類される。1つはうっ血治療、もう1つは予後改善のための治療である。まず、うっ血に対しては利尿薬が必要不可欠であるが、ループ利尿薬は慢性心不全患者において神経体液性因子を活性化させる5)など予後不良因子の1つでもあり、うっ血の程度をマルチモダリティで適正に評価し、利尿薬はできる限り減らす努力が重要である6)。次に予後改善のための治療について考えていく。1. HFrEFに対する治療生命予後改善効果が示されている治療法の多くは、HFrEFに対するものであり、それには深い歴史がある。1984年に発表された慢性心不全に対するエナラプリルの有効性を検証した無作為化比較試験(RCT)を皮切りに、その後30年以上をかけて数多くのRCTが行われ(図2)、現在のエビデンスが構築された(図3)7-9)。偉大な先人達へ心からの敬意を表しつつ、詳細を説明していく。画像を拡大する画像を拡大するまず、すべてのHFrEF患者に対して生命予後改善効果が証明されている薬剤は、ACE阻害薬/ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬である(図3)。とくにARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬は、米国の映画に擬えて“the Fantastic Four”と呼ばれるようになって久しい10)。この4剤はすべて投与後早期から心不全入院抑制効果があるため、診断後早期に開始すべき薬剤である。また、一見安定しているように見える慢性心不全患者でも突然死が少なくないことをご存知だろうか11,12)。この“Fantastic Four”すべてに突然死予防効果もあり、症状がごく軽度(NYHA IIs)であってもぜひ積極的に投与を検討いただきたい13)。そして、この4剤を基本に、うっ血、心房細動、鉄欠乏、虚血、弁膜症の有無、QRS幅、心拍数に合わせて、さらなる治療を検討していくこととなる(図3)。2. HFmrEFに対する治療HFmrEFの発症機序や治療法に関する知識は、まだ完全に解明されているとはいえないが、現時点では、HFrEFにおいて予後改善効果のある4剤がHFmrEFにもある程度の効果を示すことから、この4剤を投与するという姿勢で良いと考えられる14-19)。では、LVEFがどれくらいまでこの4剤の効果が期待されるのか。HFmrEF/HFpEFを含めた慢性心不全に対するARB/ARNI、β遮断薬、MRAの有効性を検証したRCTの結果からは、LVEFが55%くらいまでは予後改善効果が期待される20)(図4)。つまり、左室収縮障害が少しでも伴えば、神経体液性因子が心不全の病態形成に重要な役割を果たしているものと考えられ、これらの薬剤が有用なのであろう。なお、SGLT2阻害薬においては、最近発表されたEmpagliflozinのLVEF>40%の慢性心不全に対する有効性を検証したEMPEROR-Preserved試験の結果、心血管死または心不全入院の複合リスク(主に心不全による入院リスク)を有意に低下させることが報告された。ただし、LVEFが65%を超えるとその効果は認めなかった19)(図4)。画像を拡大する3. HFpEFに対する治療HFpEFは、2000年代前半までは「拡張期心不全」と呼ばれ、小さな左心室に著しい左心室肥大があり、拡張機能不全が主要な病態生理学的異常であると考えられていた。しかし、2000年代初頭からHFpEFはより複雑で複数の病態生理を持ち、多臓器の機能障害があることが明らかになってきた。現在HFpEFは、高血圧性リモデリング、心室・血管の硬化、肥満、代謝ストレス、加齢、座りがちな生活習慣などが関与する多面的な多臓器疾患であり、その結果として心臓、血管、および骨格筋の予備能低下につながると考えられている21)。このことからHFpEFの治療法が一筋縄では行かないことは容易に想像できるであろう。実際、本邦の心不全ガイドラインにおいても、うっ血に対する利尿薬と併存症に対する治療しか明記されていない3)。ただ最新のACC/AHAガイドラインでは、上記EMPEROR-Preserved試験の結果も含めSGLT2阻害薬が推奨クラスIIa、ARNI、MRA、ARBが推奨クラスIIbとなっている2)。ARNI、MRA、ARBについては「LVEFが50%に近い患者でより大きな効果が期待できる」との文言付であり、その背景は上記で説明した通りである20)。よって、今後はこの潜在性左室収縮障害をいかに早期にわれわれが認識できるかが鍵となるであろう。以上の通り、HFpEFに対してはまだ確立した治療法がなく、この複雑な症候群であるHFpEFを比較的均一なサブグループに分類するPhenotypingが今後のHFpEF治療の鍵であり、これについては今後さらに深堀していく予定である。1)Bozkurt B,et al. J Card Fail. 2021 Mar 1:S1071-9164. 00050-6.2)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.3)Tsutsui H, et al. Circ J. 2019 Sep 25;83:2084-2184.4)Wilcox JE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 11;76:719-734.5)Bayliss J, et al. Br Heart J. 1987 Jan;57:17-22.6)Mullens W,et al. Eur J Heart Fail. 2019 Feb;21:137-155.7)Sharpe DN, et al. Circulation. 1984 Aug;70:271-8.8)Sharma A,et al. JACC Basic Transl Sci. 2022 Mar 2;7:504-517.9)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021 Sep 21;42:3599-3726.10)Bauersachs J. et al. Eur Heart J. 2021 Feb 11;42:681-683.11)Lancet.1999 Jun 12;353:2001-7.12)Kitai T, et al. JAMA Netw Open. 2020 May 1;3:e204296.13)Varshney AS, et al. Eur J Heart Fail. 2022 Mar;24:562-564.14)Vaduganathan M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2356-2362.15)Solomon SD, et al. Circulation. 2020 Feb 4;141:352-361.16)Solomon SD, et al. Eur Heart J. 2016 Feb 1;37:455-62.17)Cleland JGF, et al. Eur Heart J. 2018 Jan 1;39:26-35.18)Lund LH, et al. Eur J Heart Fail. 2018 Aug;20:1230-1239.19)Butler J, et al. Eur Heart J. 2022 Feb 3;43:416-426.20)Böhm M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2363-2365.21)Shah SJ. J Cardiovasc Transl Res. 2017 Jun;10:233-244.

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4【「実践的」臨床研究入門】第24回

下記は、連載第22回でも提示した、われわれのコクラン・システマティックレビュー(SR:systematic review)論文1)のクリニカル・クエスチョン(CQ)とリサーチ・クエスチョン(RQ)のP(対象)とI(介入)です。CQ:アルドステロン受容体拮抗薬は維持透析患者の予後を改善するかP:維持透析患者I:アルドステロン受容体拮抗薬今回からは、このコクランSR論文1)の検索式の具体例を読み解きながら、実際の検索式の構造について解説します。Pの構成要素をORでつないでまとめる検索式はPとI(もしくはE)で構成すると説明しました(連載第22回参照)。実際の検索式ではPとI(もしくはE)の構成要素に分けて、論理演算子(ANDやOR)でつなぎます。PやI(もしくはE)、それぞれの構成要素は、MeSH(Medical Subject Headings)やテキストワードで表される類似した語句を"OR"でつなげて、できるだけ検索漏れが少なくなるようにするのです。それでは、われわれのコクランSR論文1)の実際の検索式をみてみましょう(参照 Appendix 1. Electronic search strategies)。データベースごと(CENTRAL、MEDLINE、EMBASE)の検索式が公開されています。これらの検索データの違いについては連載第17回をご参照ください。ここでは、実際の文献検索の参考になるように、MEDLINEの検索式をPubMed用に変換した検索式を用いて解説します。以下は、Pの構成要素に該当する部分の検索式です。1.Renal Replacement Therapy[mh:noexp]2.Renal Dialysis[mh:noexp]3.Peritoneal Dialysis[mh]4.CAPD[tiab] OR CCPD[tiab] OR APD[tiab]5.Hemodiafiltration[mh]6.Hemodialysis, home[mh]7.dialysis[tiab]8.hemodialysis[tiab] OR haemodialysis[tiab]9.hemofiltration[tiab] OR haemofiltration[tiab]10.hemodiafiltration[tiab] OR haemodiafiltration[tiab]11.end-stage-kidney[tiab] OR end-stage-renal[tiab] OR endstage-kidney[tiab] OR endstage-renal[tiab]12.ESKD[tiab] OR ESKF[tiab] OR ESRD[tiab] OR ESRF[tiab]13.#1 OR #2 OR #3 OR #4 OR #5 OR #6 OR #7 OR #8 OR #9 OR #10 OR #11 OR #12まず、#1-3ではPの構成要素の概念である「透析」に関連するMeSH term (統制語)がリストアップされ、「タグ」でもMeSHが検索項目として指定されています(連載第23回参照)。#3のタグは[mh]、#1、 2のタグは[mh: noexp]ですが、そのMeSH term に付随する下位のMeSH termも含むか含まないか、という指定の違いになります。たとえば、#1の"Renal Replacement Therapy"というMeSH termの階層構造は下記およびリンクのようになっています。○Renal Replacement Therapy■Continuous Renal Replacement Therapy■Hemofiltration■Hemoperfusion■Hybrid Renal Replacement Therapy■Intermittent Renal Replacement Therapy■Kidney Transplantation■Renal Dialysis●Hemodiafiltration●Hemodialysis, Home●Peritoneal DialysisこのコクランSR論文1)のPの構成要素の概念は「透析」のなかでも慢性期に行う「維持透析」です。したがって、"Renal Replacement Therapy"のひとつ下の階層に位置するMeSH termのうち、急性期に行う"Continuous Renal Replacement Therapy"や、特殊な血液浄化療法である"Hemoperfusion"、”Hybrid Renal Replacement Therapy"、”Intermittent Renal Replacement Therapy”、また"Kidney Transplantation"は、Pの構成要素に該当しません。そのため、Renal Replacement Therapy[mh:noexp]として、これらの下位のMeSH termは含まない検索式にしているのです。"Renal Dialysis”以下の「維持透析」の概念に含まれるMesh Termは#2、 3、 5、 6で個別に指定して補完しています。また、#4、 7、 8-10ではMeSHで拾えない同義語・関連語をテキストワードで記述し、「タグ」でTitle/Abstractを指定して検索式に組み込んでいます(連載第23回参照)。Pである維持透析患者は末期腎不全患者という表現もされます。#11では「フレーズ検索」を使用することにより、これらのテキストワードが「タグ」で指定したTitle/Abstractに含まれる論文を検索しています。「フレーズ検索」とはハイフンでつないだ単語が指定した順序で出現するフレーズを検索する機能です。ハイフンを使わずに、フレーズを””(ダブルクォーテーション)で囲んでも「フレーズ検索」になります。#12は、”ESKD”や”ESKF”などの末期腎不全を示す略語をカバーしています。最後に、#13で#1から#12までをORでつなぐことにより、Pの構成要素の検索式が出来上がります。1)Hasegawa T,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Feb 15;2:CD013109.

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JAK阻害薬とSteroid併用の重要性(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 今回取り上げた論文は、英国のRECOVERY試験の一環としてJanus kinase(JAK)阻害薬であるバリシチニブ(商品名:オルミエント)のコロナ感染症における死亡を中心とした重症化阻止効果を検証した多施設ランダム化非盲検対照試験(Multicenter, randomized, controlled, open-label, platform trial)の結果を報告している。本論評では、非盲検化試験(Open label)の利点・欠点を考慮しながら、重症コロナ感染症治療におけるJAK阻害薬とSteroid併用の意義について考察する。非盲検化試験の意義―利点と欠点 ランダム化非盲検対照試験では、試験の標的薬物の内容を被験者ならびに検者(医療側)が認知している状態でランダム化される。従来の臨床治験では非盲検法はバイアスの原因となり質的に問題があるものとして高い評価を受けてこなかった。しかしながら、コロナ感染症が発生したこの数年間では、その時点で効果を見込める基礎治療を標準治療として導入しながら標的の薬物/治療を加えた群(治験群)と加えなかった群(対照群)にランダムに振り分け、標的薬物/治療の有効性を判定する非盲検化試験が施行されるようになった。 非盲検化試験では:(1)基礎的標準治療を導入しながら経過を観察するため安全な形で治験遂行が可能、(2)二重盲検化試験に比べ最終結果が出るまでの時間が短縮、(3)同一症例を別の薬物/治療に関する治験に簡単に組み入れ可能であり複数個の臨床治験をほぼ同時並行的に施行可能、(4)症例の選択が比較的容易で各臨床試験にエントリーされる人数が多くなるという利点を有する。しかしながら、非盲検化試験では:(1)被験者側、医療側の両者に発生するバイアスを完全には取り除けない、(2)標準治療に治験標的の薬物/治療と相互作用を有するものが含まれる可能性があり、標的の薬物/治療の純粋な効果を把握できない場合があることを念頭に置く必要がある。 RECOVERY試験では非盲検化試験の利点を生かし、現在までに10個の治験結果が報告されている。それらの中には、低用量Steroid(デキサメタゾン)、IL-6受容体拮抗薬、回復期血漿、本論評で取り上げたJAK阻害薬などに関する報告が含まれ、コロナ感染症に対する多角的治療法について重要な知見を提供してきた。しかしながら、これらの報告では非盲検化試験に必須の欠点を有することを念頭に置きながら結果を解釈する必要がある。RECOVRY試験の結果からみたJAK阻害薬の効果 JAK阻害薬に関する臨床治験にあってRECOVRY試験は過去最大規模のものであり(8,156例)、入院治療が必要であった中等症以上のコロナ感染症患者におけるJAK阻害薬(バリシチニブ、4mg/日、10日間経口投与)の効果を、28日以内の死亡率をPrimary outcomeとして検証したものである。 本治験にあって注意すべき点は:(1)治験はオミクロン株感染者を対象としたものではない(2021年2月2日~12月29日に施行)、(2)標準治療としてSteroidがJAK群の96%、対照群の95%に、IL-6受容体拮抗薬が両群で31%、抗ウイルス薬レムデシビルがJAK群の21%、対照群の20%に投与されていた事実である。Steroidがほぼ全例に投与されているので、本治験の結果は厳密には、Steroid同時投与下でのJAK阻害薬の効果を検証したものと考えなければならない。全症例解析では、28日間の死亡率がJAK群で13%低下、非機械呼吸管理症例の機械呼吸管理への移行率も11%低下した。しかしながら、少数例の解析ではあるが、Steroid非投与者(約400例)のみの解析ではJAK群と対照群で死亡率に有意差を認めなかった。レムデシビル、IL-6受容体拮抗薬の同時投与の死亡率への影響は解析されていない。Steroidが89%の対象に同時投与された状況下で他のJAK阻害薬であるトファシチニブの効果を観察したSTOP-COVID Trialでも同様の結果が報告されている(Guimaraes PO, et al. N Engl J Med. 2021;385:406-415.)。 一方、Steroidの同時投与を禁止しレムデシビル投与下でJAK阻害薬の効果を検証したACTT-2試験では、対照群に比べレムデシビルとJAK阻害薬の同時投与群で回復までの時間が有意に短縮されたものの死亡率には有意差を認めなかった(Kalil AC, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807.)。レムデシビル投与下でデキサメタゾンとJAK阻害薬の効果を比較したACTT-4試験では機械呼吸管理なしの生存率に両薬物群間で有意差を認めなかった(Wolfe CR, et al. Lancet Respir Med. 2022;10:888-899.)。 以上より、JAK阻害薬の死亡を含む重症化阻止効果はSteroidの同時投与下で発現するものと考えなければならない。米国、本邦におけるJAK阻害薬の使用はACTT-2試験の結果を基に回復までの時間を短縮するレムデシビルの同時投与下において承認されている。この投与指針はコロナ感染後の回復までの時間を短縮するという観点からは正しい。しかしながら、重症化したコロナ感染者の死亡を抑制するという、さらに重要な観点からは問題がある。現在までの治験結果を総括すると、JAK阻害薬に関してはレムデシビル(抗ウイルス薬)との併用以上にデキサメタゾン(免疫抑制薬)との併用がコロナ重症例に対する治療法としてより重要な位置を占めるものと考えるべきであろう。JAK阻害薬に対するSteroid併用の分子生物学的意義 ウイルス感染をトリガーとするCytokine storm(過剰免疫反応)の発生は肺を中心とする全身臓器/組織の過剰炎症を惹起し、コロナ感染患者の生命予後を悪化させる。多様な炎症性Cytokine産生の分子生物学的機序は複雑であるが、最も重要な機序は免疫細胞、非免疫細胞における炎症性転写因子NF-κBとSTAT3(Signal transducers and activators of transcription)の持続的活性化である。JAK阻害薬は4つのtransmembrane protein kinase(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)の抑制を介して転写因子STAT3を抑制する。その結果として、数多くのCytokine産生が抑制される。同時に、STAT3の抑制はそれと相互作用(Cross talk)を有するNF-κBの活性を抑制し、Cytokineの産生はさらに抑制される。その意味で、NF-κBに対する抑制能力が高いSteroidの同時投与はJAK阻害薬のCytokine産生抑制効果をさらに増強することになる。 JAK阻害薬と同様に、Steroid併用の重要性が議論された免疫抑制薬にIL-6受容体拮抗薬(トシリズマブ、商品名:アクテムラ)がある。IL-6受容体拮抗薬はJAK阻害薬と異なる作用点を介してSTAT3、NF-κB経路を抑制する(山口. CLEAR!ジャーナル四天王-1383)。すなわち、JAK阻害薬、IL-6受容体拮抗薬は作用点が異なるものの本質的機序は同じで最終的にSTAT3とNF-κB経路の抑制を介して抗炎症作用を発現する。それにもかかわらず、現時点の投与基準では、IL-6受容体拮抗薬がSteroidの同時投与下で承認されているのに対し、JAK阻害薬はレムデシビルとの同時投与下で承認されておりSteroid併用の重要性が強調されていない。両薬物の治験結果が出そろいつつある現在、JAK阻害薬の投与基準もSteroidの併用を強調したものに変更していくべきではないだろうか?

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リウマチ性心疾患AF、ビタミンK拮抗薬がリバーロキサバンより有効/NEJM

 リウマチ性心疾患のAF(心房細動)患者において、ビタミンK拮抗薬治療はリバーロキサバン治療よりも、心血管イベントまたは死亡の複合発生率が低く、出血の発生率は両群で有意差はないことが、カナダ・マックマスター大学のStuart J. Connolly氏らによる4,565例を対象とした非盲検無作為化試験の結果、示された。リウマチ性心疾患の心房細動患者における心血管イベントの予防について、第Xa因子阻害薬の試験は限られていた。NEJM誌オンライン版2022年8月28日号掲載の報告。リバーロキサバンのビタミンK拮抗薬に対する非劣性を検証 研究グループは、心エコーでリウマチ性心疾患が確認された心房細動で、CHA2DS2VAScスコアが2以上(スコア範囲0~9、高スコアほど脳卒中リスクが高い)、僧帽弁口面積2cm2以下、左心房もやもやエコー、左房血栓のいずれかが認められた患者を登録し試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはリバーロキサバン標準量を、もう一方には用量調節にてビタミンK拮抗薬を投与した。 有効性に関する主要アウトカムは、脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血管疾患(心臓性、非心臓性)または原因不明による死亡の複合だった。安全性に関する主要アウトカムは、国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血。 研究グループは、リバーロキサバンがビタミンK拮抗薬に対し、非劣性であると仮説を立て検証した。死亡率もリバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高率 被験者は4,565例で、うち4,531例(リバーロキサバン群2,275例、ビタミンK拮抗薬群2,256例)を対象に最終解析を行った。被験者の平均年齢は50.5歳、72.3%が女性だった。 試験薬を完全に中止した割合は、すべての評価時点でリバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高率だった。 ITT解析では、主要複合アウトカムの発生は、リバーロキサバン群2,275例中560例、ビタミンK拮抗薬群2,256例中446例で認められた(比例ハザード比:1.25、95%信頼区間[CI]:1.10~1.41)。生存曲線は非比例であったため、境界内平均生存期間(RMST)分析を行った。主要複合アウトカムのRMSTは、ビタミンK拮抗薬群が1,675日に対し、リバーロキサバン群は1,599日で有意差が認められた(群間差:-76日、95%CI:-121~-31、p<0.001)。 死亡率は、リバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高かった(RMST:リバーロキサバン群1,608日vs.ビタミンK拮抗薬群1,680日、群間差:-72日、95%CI:-117~-28)。 大出血発生率は、両群で有意差は認められなかった。リバーロキサバン群40例、ビタミンK拮抗薬群56例で発生が認められ(比例ハザード比:0.76、95%CI:0.51~1.15)、RMSTはそれぞれ1,965日、1,954日だった(群間差:11、95%CI:-5~28、p=0.18)。

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アルツハイマー病およびMCIに対する治療薬aducanumabとリチウムの有効性比較~ネットワークメタ解析

 2021年、米国FDAはアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)を有する患者に対する治療薬としてaducanumabの迅速承認を行ったが、そのコストは高く、患者1人当たり年間約2万8,000ドルを要する。一方、リチウムは年間約40ドルと非常に安価であり、MCIおよびアルツハイマー病にみられる認知機能低下に効果があると報告されている。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬とは対照的に、aducanumabやリチウムにはdisease-modifying drugとしての可能性が示唆されている。東京医科大学の寺尾 樹氏らは、MCIおよびアルツハイマー病の認知機能低下に対するaducanumabとリチウムの効果を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Ageing Research Reviews誌オンライン版2022年8月9日号の報告。MCI治療薬aducanumabとリチウムの認知機能低下に対する有用性評価 2022年1月までに公表されたMCIまたはアルツハイマー病患者に対する治療薬として承認されたaducanumabとリチウムの認知機能低下に対する有用性を評価したランダム化比較試験を、PubMed、Cochrane Library、CINHAL、ClinicalTrials.govより検索した。直接的および間接的な効果を推定するため、頻度論的固定効果ネットワークメタ解析を用いた。主要アウトカムは、ミニメンタルステート検査(MMSE)で測定した認知機能スコアの変化とした。 MCI治療薬として承認されたaducanumabとリチウムの認知機能低下に対する有用性を評価した主な結果は以下のとおり。・ネットワークメタ解析では、リチウムはaducanumabよりも、主要アウトカムに対する有効性が有意に高いことが示唆された。・本研究では、さまざまな制限があったものの、MCIおよびアルツハイマー病の認知機能低下に対するリチウム治療は、MCIまたはアルツハイマー病患者に対する治療薬として承認されたaducanumabよりも費用対効果に優れる治療法である可能性が示唆された。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2【「実践的」臨床研究入門】第22回

前回、網羅的なPubMed検索を行うために役立つツールであるMeSH(Medical Subject Headings)の概要を説明しました。今回からは、MeSHも活用したPubMed検索式の具体的な作成方法について解説します。まずは、あなたの「漠然とした臨床上の疑問」であるクリニカル・クエスチョン(CQ)を「具体的で明確な研究課題」であるリサーチ・クエスチョン(RQ)に変換しましょう(連載第1回参照)。言い換えると、CQをRQの典型的な「鋳型」であるPE(I)COのP(対象)とE(曝露要因)もしくはI(介入)、C(比較対照)、O(アウトカム)に流し込むのです。ここでは、われわれが最近出版したコクラン・システマティックレビュー (SR: systematic review)論文1)のPICOを例に挙げて、説明します。検索式はPとI(もしくはE)で構成する降圧薬の1種であるアルドステロン受容体拮抗薬は、心血管疾患(CVD: cardiovascular disease)発症リスクを低下させることが知られています。しかし、腎機能が廃絶した透析患者では、アルドステロン受容体拮抗薬の作用機序から重篤な高カリウム血症を生じる懸念もあり、その有効性と安全性については確かなエビデンスは確立されていませんでした。このような背景のもと、われわれは下記のCQとRQ(PICO)を立案しました。CQ:アルドステロン受容体拮抗薬は透析患者の予後を改善するかP:透析患者I:アルドステロン受容体拮抗薬C:プラセボもしくは通常治療(アルドステロン受容体拮抗薬なし)O:全死亡、CVD死亡、CVD発症、高カリウム血症、などこのように、RQ(PICO)を立てた後、はじめに押さえておくべき検索式作成のポイントは、下記のとおりです。まず、PとI(またはE)というRQの2つの構成要素の概念を英語検索ワードに変換して、検索式の構築を考えます。適切な英語検索ワードの選択については連載第3回で解説しました。その手順を踏んで、Pの構成要素の概念である「透析」をライフサイエンス辞書で検索してみると、まず"dialysis"という英語キーワードがヒットします。続いて、前回解説したMeSHも調べてみましょう。MeSHデータベースで"dialysis"を検索すると、リンクのように"Renal Dialysis"や”Dialysis”、"Peritoneal Dialysis"などのMeSH term(統制語)がヒットします。Iのアルドステロン受容体拮抗薬もライフサイエンス辞書で調べると、"aldosterone receptor antagonist"という英語キーワードが検索されます。同様に、MeSHデータベースで"aldosterone receptor antagonist"をキーワードに検索すると、リンクのように”Mineralocorticoid Receptor Antagonists”がMeSH termでした。検索式作成におけるもう一つのポイントは、CとOは検索式に一般的には含めない、ということです。なぜなら、CやOはひとつの構成概念では決まらないことが多いからです。実際、今回提示したわれわれのコクランSR1)論文のRQ(PICO)でも、Cはプラセボもしくは通常治療と2つの概念で構成されています。Oも、ここで記載した4つのアウトカムだけでなく、Summary of findings tableに記載した主要なものだけでも、女性化乳房(アルドステロン受容体拮抗薬の頻度の多い副作用)、左心室重量(心エコーにて評価)と計6つ挙げています1)。また、PubMedでの検索の対象になるのは論文タイトルと抄録ですので、CやOの構成概念は必ずしも記載されていないことが多い、ということもCとOを検索式に含めない理由とされています。1)Hasegawa T,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Feb 15;2:CD013109.

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国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」【下平博士のDIノート】第101回

国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」今回は、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬「フィネレノン(商品名:ケレンディア錠10mg/20mg、製造販売元:バイエル薬品)」を紹介します。本剤は、わが国初の2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)の進行を防ぐMR拮抗薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月2日に発売されています。なお、原則としてACE阻害薬またはARBが投与されている患者に使用します。<用法・用量>通常、成人にはフィネレノンとして20mgを1日1回経口投与します。ただし、eGFRが60mL/min/1.73m2未満の場合は10mgから投与を開始し、血清カリウム値・eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量します。なお、血清カリウム値が4.8mEq/L以下の場合は、投与量が10mgでもeGFRが前回の測定から30%を超えて低下していない限り20mgに増量します。一方、血清カリウム値が5.5mEq/L超える場合は投与を中止し、中止後に5.0mEq/Lを下回った場合には、10mgから投与を再開することができます。<安全性>2つの国際共同第III相試験(FIGARO-DKDおよびFIDELIO-DKD)では、安全性解析対象6,510例中1,206例(18.5%)において、臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。主な副作用は、高カリウム血症496例(7.6%)、低血圧92例(1.4%)、血中カリウム増加85例(1.3%)、血中クレアチニン増加69例(1.1%)、糸球体ろ過率減少67例(1.0%)などでした。また、重大な副作用として、高カリウム血症(8.8%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれ、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者における心臓や腎臓の機能低下を防ぎます。2.血圧が下がることにより、めまいやふらつきが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には注意してください。3.飲み合わせに注意が必要な薬剤が多数あります。服用している薬剤や健康食品、サプリメントがあれば報告してください。4.グレープフルーツやグレープフルーツジュースは、薬の効果を強めてしまう恐れがあるため、摂取を避けてください。5.この薬の服用により、血中のカリウム値が上昇することがあります。手や唇がしびれる、手足に力が入らない、吐き気などの症状が現れた場合はすぐに相談してください。また、カリウムの摂り過ぎや脱水、便秘には注意してください。6.(授乳中の方に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤を服用中は授乳しないでください。<Shimo's eyes>近年、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が心腎保護作用の点から注目されています。既存のMR拮抗薬としては、スピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)、エプレレノン(同:セララ錠)、エサキセレノン(同:ミネブロ)が発売されています。スピロノラクトンは女性化乳房などの副作用の課題があり、比較的それらの副作用が少ないエプレレノンも、中等度以上の腎機能障害患者(Ccr:50mL/min未満)や、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者への投与は禁忌となっています。一方で、エサキセレノンは本剤と同様にステロイド骨格を持たないという特徴がありますが、適応は高血圧症のみとなっています。2つの臨床試験では、CKDステージが軽度~比較的進行した糖尿病性腎症の患者さんに、ACE阻害薬・ARBによる既存の治療を行った上で本剤を投与した結果、主要評価項目である心血管複合エンドポイントの発現リスクは13%、腎複合エンドポイントの発現リスクは18%、プラセボ群に比べ有意に低下させました。こういった結果をもたらした国内で初めてのMR拮抗薬であり、2型糖尿病合併CKDの適応を持つ唯一のMR拮抗薬です。相互作用で注意すべき点として、本剤は主にCYP3A4により代謝されるため、強力なCYP3A4阻害作用を持つ薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン等)を投与中の患者さんには禁忌となっています。また、併用注意の薬剤も多数あるので、併用薬はサプリメント等を含め、細やかに聞き取りましょう。MR拮抗薬といえば血清カリウム値上昇に注意が必要ですが、本剤はACE阻害薬あるいはARBとの併用が原則となっていることから、血清カリウム値のモニタリングが必須となります。対象患者の腎機能について、eGFRが60mL/min/1.73m2未満では投与量に制限があります。また、eGFRが25mL/min/1.73m2未満の場合は、本剤投与によりeGFRが低下することがあるため、リスクとベネフィットを考慮し投与の適否を慎重に判断することとされています。なお、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジン(同:フォシーガ)が2021年8月にCKDの適応を取得し、カナグリフロジン(同:カナグル)も、2022年6月に本剤と同じ2型糖尿病を合併するCKDに対する適応を取得しています。参考1)PMDA 添付文書 ケレンディア錠10mg/ケレンディア錠20mg

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スボレキサントからレンボレキサントへの切り替え治療の睡眠障害に対する有効性

 昭和大学 横浜市北部病院の沖野 和麿氏らは、不眠症治療におけるオレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントからレンボレキサントへの切り替えの影響について調査を行った。その結果、スボレキサントからレンボレキサントへの切り替えで、入眠障害の改善が認められたことを報告した。Psychogeriatrics誌オンライン版2022年6月10日号の報告。スボレキサントからレンボレキサントへの切り替えで12週間後の入眠障害に有意な改善 対象は、症状が3ヵ月以上持続し、スボレキサント治療を3ヵ月以上行っている慢性不眠症患者。対象患者をスボレキサント維持群またはスボレキサントからレンボレキサントへの切り替え群の2群に割り付けた。不眠症の4つのサブタイプ(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)について調査を行った。両群における12週間後の改善効果を評価するため、ロジスティック回帰分析を用いた。 スボレキサントからレンボレキサントへの切り替えの影響について調査を行った主な結果は以下のとおり。・対象患者は77例(スボレキサント維持群:34例、レンボレキサント切り替え群:43例)であった。・両群間の睡眠障害を比較すると、レンボレキサント切り替え群は、スボレキサント継続群と比較し、12週間後の入眠障害に有意な改善が認められた(オッズ比:0.036、p=0.008、95%CI:0.003~0.415)。・中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害に両群間の有意な差は認められなかった。・スボレキサントからレンボレキサントへの切り替えによる重篤な副作用の発現は認められず、安全性および忍容性が確認された。

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子宮内膜症、レルゴリクス併用療法が有効か/Lancet

 経口ゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗薬レルゴリクス+エストラジオール+酢酸ノルエチステロン併用療法は、子宮内膜症関連疼痛を有意に改善し、忍容性も良好であることが、米国・カリフォルニア大学のLinda C. Giudice氏らが実施した2つの多施設共同無作為化二重盲検第III相試験「SPIRIT 1試験」と「SPIRIT 2試験」の結果、示された。著者は、「この経口療法は、オピオイドの使用や外科的治療の必要性を減らし、子宮内膜症の長期薬物療法に対するアンメットニーズを解決する可能性がある」とまとめている。子宮内膜症は女性の骨盤痛でよくみられる原因であり、現状では最適な治療選択肢がない。Lancet誌2022年6月18日号掲載の報告。レルゴリクス併用療法vs.プラセボvs.遅延レルゴリクス併用療法を比較検討 SPIRIT 1試験およびSPIRIT 2試験は、アフリカ、オーストララシア、欧州、北米、南米の計219施設で、組織学的確定診断の有無にかかわらず外科的または視診により診断された子宮内膜症、または組織学的確定診断のみの子宮内膜症を有する18~50歳の女性を対象に実施された。被験者の適格基準は、35日間の導入期間に月経困難症の数値的評価スケール(NRS)スコア4点以上が2日以上、非月経性骨盤痛のNRS平均スコアが2.5以上、または平均スコア1.25以上(スコア5以上を含む)が4日以上の中等度~重度の子宮内膜症関連疼痛を有する患者とした。 研究グループは被験者を、プラセボ群、レルゴリクス併用療法群(レルゴリクス40mg、エストラジオール1mg、酢酸ノルエチステロン0.5mg)、遅延レルゴリクス併用療法群(レルゴリクス40mg単剤を12週間後にレルゴリクス併用療法を12週間)の3群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回24週間経口投与した。二重盲検無作為化治療期間およびフォローアップ期間中、全患者、研究者およびスポンサーのスタッフ/代表者は、治療の割付をマスキングされた。 主要評価項目は、治療終了時(24週時)における月経困難症および非月経性骨盤痛それぞれの、NRSスコアと鎮痛剤使用に基づく奏効患者の割合(奏効率)であった。 SPRIT 1試験では、2017年12月7日~2019年12月4日の期間に638例が登録され、レルゴリクス併用療法群212例(33%)、プラセボ群213例(33%)、遅延レルゴリクス併用療法群213例(33%)に無作為化された。SPRIT 2試験では2017年11月1日~2019年10月4日の期間に623例が登録され、レルゴリクス併用療法群208例(33%)、プラセボ群208例(33%)、遅延レルゴリクス併用療法群207例(33%)に無作為化された。SPIRIT 1試験で98例(15%)、SPIRIT 2試験で115例(18%)が早期に試験を中止した。レルゴリクス併用療法で月経困難症および非月経性骨盤痛が有意に改善 月経困難症に対する奏効率は、SPIRIT 1試験でレルゴリクス併用療法群75%(158/212例)、プラセボ群27%(57/212例)(群間差:47.6%、95%信頼区間[CI]:39.3~56.0、p<0.0001)、SPIRIT 2試験でそれぞれ75%(155/206例)および30%(62/204例)(44.9%、36.2~53.5、p<0.0001)であった。 非月経性骨盤痛に対する奏効率は、SPIRIT 1試験でレルゴリクス併用療法群58%(124/212例)、プラセボ群40%(84/212例)(群間差:18.9%、95%CI:9.5~28.2、p<0.0001)、SPIRIT 2試験でそれぞれ66%(136/206例)、43%(87/204例)(23.4%、13.9~32.8、p<0.0001)であった。 最も頻度の高い有害事象は頭痛、鼻咽頭炎、ホットフラッシュであった。自殺企図は両試験で9例(プラセボ導入期2例、プラセボ群2例、レルゴリクス併用療法群2例、遅延レルゴリクス併用療法群3例)が報告されたが、死亡の報告はなかった。 腰椎骨密度の最小二乗平均変化率(レルゴリクス併用療法群vs.プラセボ群)は、SPIRIT 1試験で-0.70% vs.0.21%、SPIRIT 2試験で-0.78% vs.0.02%であった。また、遅延レルゴリクス併用療法群では、SPIRIT 1試験で-2.0%、SPIRIT 2試験で-1.9%であった。 プラセボ群と比較してレルゴリクス併用療法の2群で、オピオイド使用の減少が認められた。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法における低分子医薬品ウパダシチニブの有用性 (解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療は生物学的製剤や低分子化合物の出現により大きく変化している。すなわち、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬ベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブやフィルゴチニブなど新規薬剤の出現で難治性UCが次第に少なくなってきている。しかし、中等度以上の活動性を有するUC症例の中にはいまだに十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者が少なくなく、次々に新たな作用機序を有する治療薬の追加が求められているのが現状である。 今回、新たな経口低分子化合物でJAK1選択的阻害薬であるウパダシチニブの中等度から重度UC患者を対象とした2本の寛解導入試験と引き続き施行された寛解維持試験の結果、UCの寛解導入および寛解維持に対するウパダシチニブの有効性と安全性が示された論文が2022年5月のLancet誌に掲載された。 本研究で特記すべきは有用性を検証した評価項目である。従来の臨床研究において病勢の推移に使用されてきたMayoスコア(排便回数、血便、内視鏡的粘膜所見、医師による全般評価)から主観性の高い医師による全般評価を除き内視鏡的所見と組織学的所見の評価に重点を置いたAdapted Mayoスコアを用いて、さらに粘膜の炎症状態を把握する高感度CRPと便中カルプロテクチンや患者の治療方針に影響する腸管切迫感や腹痛を新たに含む評価としている。客観的で厳密なアウトカムの評価は、試験結果の信ぴょう性を高くして、一般診療現場における有用性を期待できるものとなり、今後の臨床試験での評価モデルとなる可能性が示唆された。 JAK阻害薬であるウパダシチニブ、トファシチニブおよびフィルゴチニブは、わが国の一般診療で慢性関節リウマチ(RA)に対して比較的長い間使用されているが、UCやRAなど自己免疫性疾患に対する新規薬剤のリスクとして結核やB型肝炎ウイルスの再活性化はよく知られており、長期使用に関しては感染症および悪性疾患の発生には留意する必要がある。そのほか、血管血栓症や帯状疱疹の発生リスク上昇の可能性、進行性多巣性白質脳疾患(PML)の発現も報告されており、薬理作用に精通した患者管理が重要である。

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血圧コントロールのため慢性心不全治療の見直しを提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第47回

 今回は、心不全患者の降圧薬の処方提案について紹介します。高血圧が理由でデイサービスの利用に影響が生じた場合は降圧だけに着目しがちですが、慢性心不全の標準治療薬を見直して心不全そのものをコントロールすることで、血圧やうっ血などの改善も兼ねられます。患者情報70歳、女性(グループホーム入居)基礎疾患慢性心不全(HFrEF)、心房細動、狭心症、高血圧服薬管理施設管理処方内容1.クロピドグレル錠75mg 1錠 朝食後2.ジゴキシン錠0.125mg 1錠 朝食後3.ランソプラゾール口腔内崩壊錠15mg 1錠 朝食後4.カンデサルタン錠4mg 1錠 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 朝食後6.アトルバスタチン錠5mg 1錠 朝食後7.カルベジロール錠2.5mg 1錠 朝食後8.スピロノラクトン錠25mg 1錠 朝食後本症例のポイントこの患者さんは、最近は収縮期血圧が170~180台と高値が持続するようになり、下腿浮腫も増強したことからフロセミド錠20mgが開始となりました。下腿浮腫は軽減しましたが、血圧は高値で横ばいの状態が続き、デイサービスの利用や入浴の制限などがかかったことから、施設スタッフより医師に降圧薬追加の依頼がありました。そこで、医師よりCa拮抗薬を追加しようと思っているがどの薬がいいか、と相談がありました。確かに血圧だけを下げるのであればCa拮抗薬が妥当ですが、現在の患者さんの状態や治療薬などから、ほかの薬剤でうまくコントロールできないか検討することにしました。まず、基礎疾患とその治療をみると、HFrEFの治療として標準治療薬であるARBのカンデサルタン、β遮断薬のカルベジロール、MR拮抗薬のスピロノラクトンを服用しています。また、下腿のうっ血治療として直近でフロセミド錠が追加されています。現行の薬剤の増量やCa拮抗薬の追加によって降圧を図るという方法もありますが、うっ血症状が最近現れるようになったことから心不全治療薬の再考も選択肢となります。「2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」の治療アルゴリズムのとおり、ARBからARNIへ基本薬の変更を行うことは、血圧のコントロールに加え、心不全の管理としても有効ではないかと考えました。処方提案と経過医師に、「Ca拮抗薬の追加も選択肢の1つですが、降圧とともにうっ血症状の管理が必要なため、心不全管理の観点からカンデサルタンをARNIのサクビトリルバルサルタンに変更してみるのはどうですか」と提案しました。心不全診療ガイドラインの改訂についてはPDFファイルでその場で医師と共有してARNIの位置づけを再確認し、提案内容で2週間様子をみようと承諾を得ることができました。翌日の朝よりカンデサルタンからサクビトリルバルサルタン100mg 朝食後に切り替えとなり、開始4日目から血圧は130/80台で安定するようになりました。その後も過度に血圧が下がることはなく、下腿浮腫の増悪や体重増加もなく経過は安定しています。日本循環器学会 / 日本心不全学会.2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版

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アルツハイマー病およびMCI患者におけるCOVID-19の臨床アウトカム

 アルツハイマー病や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、高血圧などの共通のリスク因子を有しているといわれる。高血圧の治療においては、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が頻繁に使用される。米国・ベントリー大学のYing Wang氏らは、アルツハイマー病または軽度認知障害(MCI)の患者おけるCOVID-19に対する、ACEI/ARB使用の影響について調査した。その結果、ARB使用はアルツハイマー病およびMCIの患者におけるCOVID-19発症リスクの低下に有意な影響を及ぼしていることが報告された。Alzheimer's & Dementia誌オンライン版2022年4月4日号の報告。 対象は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の検査を行った退役軍人。アルツハイマー病またはMCIを有する場合と認知障害を有さない場合におけるCOVID-19アウトカムを比較するため、古典的スコアと傾向スコアの加重ロジスティック回帰分析を実施し、ACEI/ARB使用の影響を評価した。 主な結果は以下のとおり。・アルツハイマー病と感染率および死亡率の増加との間に、統計学的に有意な関連が認められた。・MCIは、感染のリスク因子であるとは認められなかった。・MCIを有する患者は、臨床アウトカムが不良であった。・ARBの使用により、アルツハイマー病およびMCIの患者におけるCOVID-19発症リスクの有意な低下が認められたが、ACEIでは認められなかった。 著者らは「アルツハイマー病またはMCIの患者においてCOVID-19の影響を減少させるためには、既存薬による効果を調査することが非常に重要である」としている。

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新機序の難治性慢性咳嗽治療薬「リフヌア錠45mg」【下平博士のDIノート】第96回

新機序の難治性慢性咳嗽治療薬「リフヌア錠45mg」今回は、選択的P2X3受容体拮抗薬「ゲーファピキサントクエン酸塩錠(商品名:リフヌア錠45mg、製造販売元:MSD)」を紹介します。本剤は、P2X3受容体を標的とした非麻薬性の咳嗽治療薬で、難治性の慢性咳嗽への効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、難治性の慢性咳嗽の適応で、2022年1月20日に承認されました。なお、効能または効果に関連する注意として「最新のガイドライン等を参考に、慢性咳嗽の原因となる病歴、職業、環境要因、臨床検査結果等を含めた包括的な診断に基づく十分な治療を行っても咳嗽が継続する場合に使用を考慮すること」、重要な基本的注意として「本剤による咳嗽の治療は原因療法ではなく対症療法であることから、漫然と投与しないこと」が記載されています。<用法・用量>通常、成人にはゲーファピキサントとして1回45mgを1日2回経口投与します。なお、重度腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)で透析を必要としない患者には、本剤45mgを1日1回投与すること。<安全性>難治性の慢性咳嗽患者を対象とした国際共同第III相試験および海外第III相試験の併合データにおいて認められた主な副作用は、味覚不全(40.4%)、味覚消失、味覚減退、味覚障害、悪心、口内乾燥などでした。味覚に関連する副作用の大多数は軽度または中等度であったものの、投与を中止している症例も認められたことから、医薬品リスク管理計画書(RMP)において「味覚異常」が重要な特定されたリスクとされています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、気道の神経の伝達を遮断して感覚神経の活性化や咳嗽反射を鎮めることで、慢性の咳を緩和します。2.苦味、金属味、塩味などを感じて食事がおいしく感じられなくなることがあります。不快感が強く、食事が取れないなど日常生活に支障を来す場合はご相談ください。 <Shimo's eyes>咳嗽は、医療機関を受診する患者さんの主訴として最も頻度が高い症候で、持続期間が3週間未満の場合は「急性咳嗽」、3週間以上8週間未満は「遷延性咳嗽」、8週間以上は「慢性咳嗽」と分類されています。これまで使用されてきた咳嗽治療薬としては、コデイン類のような麻薬性鎮咳薬や、デキストロメトルファンのような非麻薬性の中枢性鎮咳薬などがありますが、慢性咳嗽患者の中には治療抵抗性を示す例や、原因がわからず改善が不十分な例があります。本剤は世界で初めて承認された選択的P2X3受容体拮抗薬であり、非麻薬性かつ末梢に作用する経口の慢性咳嗽治療薬です。咳嗽が1年以上継続している治療抵抗性または原因不明の慢性咳嗽患者を対象としたプラセボ対照国際共同第III相試験(027試験)および海外第III相試験(030試験)において、52週投与の結果、本剤45mg投与群はプラセボ群と比較して、4週時から24時間の咳嗽頻度の有意な減少がみられ、12週時もしくは24週時まで持続しました。副作用については、上記試験の併合データにおいて、味覚不全、味覚消失、味覚減退、味覚障害等の味覚関連の副作用が63.1%に発現しました。多数は投与開始後9日以内に発現し、軽度または中等度でしたが、味覚関連の有害事象により服用中止に至った症例も13.9%ありました。なお、味覚関連の副作用は曝露量依存的に増加する傾向が認められており、その多くは本剤の投与中または投与中止後に改善するとされています。相互作用については設定されていませんが、本剤の有効成分であるゲーファピキサントはスルホンアミド基を有するため、スルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者では交叉過敏症が現れる可能性があり、注意が必要です。本剤は腎排泄型であり、腎機能の低下が疑われる患者さんに投与する場合は定期的に腎機能検査値を確認しましょう。参考1)PMDA 添付文書 リフヌア錠45mg

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女性の頻尿、どう尋ねるべき?【Dr.山中の攻める!問診3step】第13回

第13回 女性の頻尿、どう尋ねるべき?―Key Point―1日3L以上の排尿と強い口渇があるかを確認する2回以上の夜間頻尿があると生活に支障をきたす医師が質問をしないと女性は尿失禁を訴えないことが多い症例:76歳 女性主訴)頻尿現病歴)2週間前から頻尿と排尿時痛がある。近くの診療所で抗菌薬の処方を受けたが、症状の改善はない。尿の排出時、下腹部に痛みを生じる。3日前からトイレに間に合わず尿を漏らすことが増えてきたため紙パンツを使用するようになった。夜間の排尿回数は5回。熟眠できない。既往歴)変形性関節症薬剤歴)なし生活歴)機会飲酒、喫煙:5本/日(20歳~)身体所見)体温36.8℃、血圧132/80mmHg、心拍数86回/分、呼吸回数18回/分意識:清明腹部:軟。膨隆なし。下腹部に軽度の圧痛あり経過)尿意切迫感と頻尿、切迫性尿失禁の症状から過活動膀胱を疑い牛車腎気丸を処方した。尿意切迫感は改善を認めた。その後、ナースに「最近、子宮脱が気になっている」との訴えがあった。子宮脱も夜間多尿の原因となっていた可能性がある。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!年をとると過活動膀胱に罹患する割合が増加する(70代で20%、80歳以上で35%)1)カルシウム拮抗薬は夜間頻尿を起こす成人女性の25%に尿失禁がある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】多尿(>3L/日)か確認する2)問診:口渇の程度、飲水量、塩分摂取量、利尿薬、アルコールやカフェイン摂取心因性多飲症では1日3~5Lの飲水により低ナトリウム血症を起こすスポット尿のナトリウム濃度(mmol/L)を17で割ると、尿1LあたりのNaCl量(g)が推定できる。この数値に尿量(L)をかければ1日あたりの推定食塩摂取量となる多尿があれば、尿浸透圧を測定する。250mOsm/kg以下ならば水利尿、300mOsm/kg以上ならば浸透圧利尿である水利尿の原因:尿崩症(中枢性、腎性)、心因性多尿浸透圧利尿の原因:糖尿病、薬剤(マンニトール)、ナトリウム負荷、利尿薬、腎不全【STEP3-1】夜間は何度トイレに起きるか就寝後に2回以上、排尿のため起きなければならない症状を夜間頻尿と呼ぶ健常者では抗利尿ホルモン(バソプレシン)は夜間に多く分泌されるため、夜間尿は少なくなる。<夜間頻尿の原因>夜間のみ尿量が多くなる夜間多尿、膀胱容量の減少(過活動性膀胱、前立腺肥大症、間質性膀胱炎、骨盤臓器脱)、睡眠障害<夜間多尿の原因>高血圧、心不全、腎不全、睡眠時無呼吸症候群、寝る前の水分過剰摂取【STEP3-2】尿失禁はあるか2)3)4)◆新たに出現した尿失禁の鑑別診断(DIAPERS)Drug(薬剤)Atrophic vaginitis(萎縮性膣炎)Endocrine(高血糖、高カルシウム血症)Stool impaction(宿便)Infection(感染症:とくに尿路感染症)Psychological(うつ、認知症、せん妄)Restricted mobility(運動制限)(表)尿失禁のタイプ画像を拡大する<参考文献・資料>1)日本泌尿器科学会:頻尿(ひんにょう)とは2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 2018. p294-295,p3432-3436.3)MKSAP19 General Internal Medicine1. 2021. p95-98.4)山中克郎ほか. UCSFに学ぶ できる内科医への近道. 改訂4版. 2012. p343.

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化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)に対する新規NK-1受容体拮抗薬:CONSOLE試験【肺がんインタビュー】 第77回

第77回 化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)に対する新規NK-1受容体拮抗薬:CONSOLE試験出演:神戸低侵襲がん医療センター 秦 明登氏化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)に対する新規NK-1受容体拮抗薬fosnetupitantの第III相CONSOLE試験の結果がJournal of Clinical Oncology誌で発表された。この試験ではfosnetupitantの評価にあたりbeyond delayed emesisという概念も採用されている。論文筆頭著者の神戸低侵襲がん医療センターの秦明登氏に、試験の主要結果について聞いた。参考Hata A,et al. JCO.2021;40:180-188.

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ICU入室COVID-19重篤例、抗血小板療法は有効か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重篤例では、抗血小板薬による治療はこれを使用しない場合と比較して、集中治療室(ICU)で呼吸器系または心血管系の臓器補助を受けない生存日数が延長される可能性は低く、生存退院例の割合も改善されないことが、英国・ブリストル大学のCharlotte A. Bradbury氏らREMAP-CAP Writing Committee for the REMAP-CAP Investigatorsが実施した「REMAP-CAP試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2022年3月22日号で報告された。8ヵ国105施設の適応プラットフォーム試験 本研究は、重度の肺炎患者における最良の治療法を確立するために、複数の介入を反復的に検証する適応プラットフォーム試験で、COVID-19患者ではこれまでにコルチコステロイド、抗凝固薬、抗ウイルス薬、IL-6受容体拮抗薬、回復期患者血漿の研究結果が報告されており、今回は抗血小板療法の有用性について検討が行われた(欧州連合のPlatform for European Preparedness Against[Re-]Emerging Epidemics[PREPARE]などの助成を受けた)。 この試験では、2020年10月30日~2021年6月23日の期間に8ヵ国105施設で患者の登録が行われ、90日間追跡された(最終追跡終了日2021年7月26日)。 対象は、年齢18歳以上、臨床的にCOVID-19が疑われるか微生物学的に確定され、ICUに入室して呼吸器系または心血管系の臓器補助を受けている患者であった。呼吸器系臓器補助は侵襲的または非侵襲的な機械的人工換気の導入、心血管系臓器補助は昇圧薬または強心薬の投与と定義された。 被験者は、非盲検下にアスピリン、P2Y12阻害薬、抗血小板療法なし(対照群)の3つの群に無作為に割り付けられた。標準治療として抗凝固薬による血栓予防療法が施行され、これとの併用で最長14日間、院内での介入が行われた。 主要エンドポイントは、21日間における臓器補助不要期間(ICUで呼吸器系または心血管系の臓器補助を受けない生存日数)とされた。院内死亡を-1、臓器補助なしでの21日間の生存を22とし、この範囲内で評価が行われた。主解析では、累積ロジスティックモデルのベイズ解析が用いられ、オッズ比が1を超える場合に改善と判定された。無益性により患者登録は中止に アスピリン群とP2Y12阻害薬群は、適応解析で事前に規定された同等性の基準を満たし、次の段階の解析のために抗血小板薬群として統計学的に統合された。また、事前に規定された無益性による中止基準を満たしたため、2021年6月24日、本試験の患者登録は中止された。 全体で1,549例(年齢中央値57歳、女性521例[33.6%])が登録され、アスピリン群に565例、P2Y12阻害薬群に455例、対照群に529例が割り付けられた。 臓器補助不要期間中央値は、抗血小板薬群および対照群ともに7(IQR:-1~16)であった。抗血小板薬群の対照群に対する有効性の補正オッズ比中央値は1.02(95%信用区間[CrI]:0.86~1.23)で、無益性の事後確率は95.7%であり、無益性が確認された(オッズ比が1.2未満となる無益性の事後確率が、95%を超える場合に無益性ありと判定)。また、生存例における臓器補助不要期間中央値は、両群とも14だった。 生存退院患者の割合は、抗血小板薬群が71.5%(723/1,011例)、対照群は67.9%(354/521例)であった。補正後オッズ比中央値は1.27(95%CrI:0.99~1.62)、補正後絶対群間差は5%(95%CrI:-0.2~9.5)で、有効性の事後確率は97%であり、有効性は示されなかった(オッズ比が1を超える有効性の事後確率が、99%を超える場合に有効性ありと判定)。 大出血は、抗血小板薬群が2.1%、対照群は0.4%で発生した。補正後オッズ比は2.97(95%CrI:1.23~8.28)、補正後絶対リスク増加は0.8%(95%CrI:0.1~2.7)で、有害性の事後確率は99.4%であった。 著者は、「抗血小板薬は、臓器補助不要期間に関して無益性が確認されたが、生存退院を改善する確率は97%で、死亡を5%低減し、90日間の解析では生存を改善する確率は99.7%であった。本試験に参加した8ヵ国では、抗血小板薬は安価で広範に入手可能で、投与も容易であることから、世界規模での適用が可能かもしれない」と考察している。

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NVAF患者における経皮的左心耳閉鎖術の有効性~初の全国規模データ(Terminator Registry)/日本循環器学会

 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者において、長期的な抗凝固療法に代わる治療法として経皮的左心耳閉鎖術(LAAC)が世界的に行われている。ビタミンK拮抗薬と比較して、死亡率と出血イベントは有意に少なく、QOLは大きく改善されているが、欧米からのデータが中心で、日本におけるデータは十分ではない。第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11日~13日)で原 英彦氏(東邦大学医療センター大橋病院)が国内23施設による初の大規模観察研究TERMINATOR Registryから最初の集計結果を報告した。 2019年にLAAC用デバイス「WATCHMAN」が日本で承認され、現在はその後継となる新型デバイス「WATCHMAN FLX」が登場している。そこで本研究は、NVAFで血栓塞栓リスクの高い日本人患者を対象に、左心耳閉鎖デバイス(WATCHMAN generation-2.5、WATCHMAN FLX)によるLAACの長期実臨床成績を明らかにすることを目的に実施された。主要評価項目は死亡、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、後遺症を残す脳卒中、全身性塞栓症または開心術や重大な血管内インターベンションを要する左心耳閉鎖デバイスもしくは手技関連事象とされた。 主な結果は以下の通り。・2019年9月~2021年8月に各施設でLAACを受けた743例が対象。平均年齢:74.9(±8.8)歳、持続性/永続性心房細動:61.9%、平均CHA2DS2スコア:3.2(±1.2)、平均CHA2DS2-VAScスコア:4.7(±1.5)、平均HAS-BLEDスコア:3.4(±1.0)、Clinical Frailty Scale:3.4(±1.3)、DOACの不適切低用量処方が11.2%で確認された。・植込み成功率は98.9%、4.2%でデバイスリリースの基準であるPASSクライテリアを満たしていなかった。37.3%でpartial recaptureが行われた。・術後の有害事象については、心タンポナーデ:0.9%、心嚢液貯留:1.1%、デバイス脱落:0.2%、仮性動脈瘤:0.1%と全体的に低発生率だった。・デバイスごとの留置手技時間はWATCHMAN gen2.5:53±36分、WATCHMAN FLX:57±30分とほぼ同等で、両デバイスとも30mm以上のサイズが多く使用されていた。・死亡(原因不明)は0.9%、脳卒中は2.2%、出血イベントは5.7%、デバイス関連血栓(DRT)は2.8%で発生。ただし、DRTによる脳卒中はすべてmRS<2であった。・経口抗凝固薬の使用量は、退院時と比較し45日後には減少し、6ヵ月後にはさらに減少していた。 原氏は日本におけるLAACのリアルワールドデータは高い成功率を示し、6カ月間のフォローアップデータにおいてDRTなどの有害事象は他の研究と同等の低い発生率を示したとして、今後はより長期のフォローアップにより、この治療法が心房細動による心原性脳塞栓症を防ぎ、かつ出血イベントを減らすことができるかどうかを示していく必要があるとした。

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薬物性味覚障害マニュアルが11年ぶりに改定、注意すべき薬剤と対策は?/厚労省

 『重篤副作用疾患別対応マニュアル』は77項目に細分化され、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページに掲載されているが、今回、「薬物性味覚障害」の項が11年ぶりに改定された。薬剤性味覚障害は味覚障害の原因の約20%を占めていること、多くの薬剤の添付文書の副作用に記載されていることから、以下に示すような薬剤を服用中の患者の訴えには十分注意が必要である。<添付文書に口腔内苦味の記載がある薬剤の一例>・ニコチン(禁煙補助剤)・フルボキサミンマレイン酸塩(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI])・ラベプラゾールナトリウム(PPI)・レバミピド(胃炎・胃潰瘍治療薬) ・レボフロキサシン水和物(ニューキノロン系抗菌薬)・炭酸リチウム(躁病・躁状態治療薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照<添付文書に味覚障害の記載がある薬剤の一例>・アロプリノール(キサンチンオキシダーゼ阻害薬・高尿酸血症治療薬)・ジクロフェナクナトリウム(フェニル酢酸系消炎鎮痛薬)・レトロゾール(アロマターゼ阻害薬・閉経後乳癌治療薬)・ロサルタンカリウム(アンギオテンシンII受容体拮抗薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照<添付文書に味覚異常の記載がある薬剤の一例>・アカルボース(α-グルコシダーゼ阻害薬)・アプレピタント(選択的NK1受容体拮抗型制吐薬)・イリノテカン塩酸塩水和物(I型DNAトポイソメラーゼ阻害型抗悪性腫瘍薬)・インスリンデグルデク[遺伝子組換え]・リラグルチド[遺伝子組換え](持効型溶解インスリンアナログ/ヒトGLP-1アナログ配合薬)・エルデカルシトール(活性型ビタミンD3)・オロパタジン塩酸塩(アレルギー性疾患治療薬)・チアマゾール(抗甲状腺薬)・テルビナフィン塩酸塩(アリルアミン系抗真菌薬)・バルサルタン(選択的AT1受容体遮断薬)・フェンタニル(経皮吸収型持続性疼痛治療薬)・ボリコナゾール(トリアゾール系抗真菌薬)・メトトレキサート(抗リウマチ薬/葉酸代謝拮抗薬)*そのほかは重篤副作用疾患別対応マニュアル(薬物性味覚障害)参照 上記のような薬剤を服用している患者が症状を訴えた場合、まずは(1)原因薬剤の中止・減量を行うが、原疾患の治療上、中止などの対応ができない場合、または味覚障害を起こす可能性のある薬剤を複数服用して特定が困難な場合もある。そのような場合でも(2)亜鉛剤の補給[低亜鉛血症がある場合、味蕾の再生促進を期待して補給]、(3)口腔乾燥の治療などで唾液分泌を促進させる、(4)口腔掃除とケアで対応することが必要で、とくに(1)(2)は重要度が高いと記載されている。<早期に認められる症状>薬物性味覚障害は高齢者に多く、複数の薬剤を服用しており、また発症までの時間や症状もまちまちで、初期の症状を捉えることは困難なことが多い。初期症状を含め、よく訴える症状に以下のようなものがある。 1:味(甘・塩・酸・苦)が感じにくい 2:食事が美味しくない3:食べ物の好みが変わった 4:金属味や渋味など、嫌な味がする 5:味のしないところがある 6:口が渇く<患者が訴えうる自覚症状>1:味覚減退:「味が薄くなった、味を感じにくい」2:味覚消失・無味症:「まったく味がしない」 3:解離性味覚障害:「甘みだけがわからない」4:異味症・錯味症:「しょう油が苦く感じる」 5:悪味症:「何を食べても嫌な味になる」6:味覚過敏:「味が濃く感じる」 7:自発性異常味覚:「口の中に何もないのに苦みや渋みを感じる」 8:片側性味覚障害:一側のみの味覚障害 本マニュアルには医師、薬剤師などの医療関係者による副作用の早期発見・早期対応に資するため、ポイントになる初期症状や好発時期、医療関係者の対応などが記載されている。 また、患者が読みやすいように、患者やその家族に知っておいてもらいたい副作用の概要、初期症状、早期発見・早期対応のポイントをできるだけわかりやすい言葉で記載してもいるので、ぜひ参考にしていただきたい。

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難治性慢性咳嗽へのgefapixant、第III相試験で有望な結果/Lancet

 難治性の慢性咳嗽または原因不明の慢性咳嗽に対して、gefapixant 45mgの1日2回投与は新規開発の治療法として、許容可能な安全性プロファイルと有効性を有することが示された。英国・クイーンズ大学ベルファストのLorcan P. McGarvey氏らが、2つの第III相臨床試験「COUGH-1試験・COUGH-2試験」の結果を報告した。gefapixantは経口P2X3受容体拮抗薬であり、同薬はこれまでに、難治性の慢性咳嗽または原因不明の慢性咳嗽に対する有効性と安全性が示されていた。Lancet誌2022年3月5日号掲載の報告。COUGH-1試験とCOUGH-2試験の2つの第III相試験で検証 COUGH-1試験とCOUGH-2試験はいずれも、第III相の二重盲検無作為化並行群プラセボ対照試験。COUGH-1試験は17ヵ国156試験地、COUGH-2試験は20ヵ国175試験地で実施された。登録被験者は、1年以上続く難治性の慢性咳嗽または原因不明の慢性咳嗽と診断された18歳以上で、スクリニーングおよびベースラインでの咳嗽重症度視覚アナログスケールスコアが40mm以上の患者とした。 適格患者は、コンピュータ生成割付スケジュールを用いて1対1対1の割合で無作為に、3治療群(プラセボ、gefapixant 15mgを1日2回、gefapixant 45mgを1日2回)のいずれか1群に割り付けられた。試験薬はすべて経口薬であった。 COUGH-1試験の主要試験(投薬)期間は12週、COUGH-2試験は同24週であったが、いずれも投薬期間は延長され、総計52週間治療が行われた。 主要アウトカムは、プラセボを補正した24時間咳嗽頻度の平均変化で、COUGH-1試験では12週時点、COUGH-2試験では24週時点で評価した。gefapixant 45mg・1日2回投与は、プラセボと比較し24時間咳嗽頻度を有意に低下 2018年3月14日(最初の被験者スクリーニング)~2019年7月26日(最後の被験者スクリーニング)に、COUGH-1試験に732例が、COUGH-2試験に1,317例が登録された。無作為化および試験治療を受けたのは、COUGH-1試験は730例(プラセボ群243例[33.3%]、gefapixant 15mg・1日2回投与群244例[33.4%]、gefapixant 45mg・1日2回投与群243例[33.3%])、COUGH-2試験は1,314例(435例[33.1%]、440例[33.5%]、439例[33.4%])であった。 被験者は、大半が女性で(COUGH-1試験542/730例[74.2%]、COUGH-2試験984/1,314例[74.9%])、平均年齢はCOUGH-1試験59.0歳(SD 12.6)、COUGH-2試験は58.1歳(12.1)。平均咳嗽期間はCOUGH-1試験11.6年(SD 9.5)、COUGH-2試験は11.2年(9.8)であった。 gefapixant 45mg・1日2回投与はプラセボと比較し、COUGH-1試験の12週時点(18.5%、95%信頼区間[CI]:32.9~0.9、p=0.041)、COUGH-2試験の24週時点(14.6%、95%CI:26.1~1.4、p=0.031)のいずれにおいても、24時間咳嗽頻度が有意に低下したことが確認された。 gefapixant 15mg・1日2回投与は、両試験ともに咳嗽頻度がプラセボと比較して有意に低下はしなかった。 最も頻度の高い有害事象は、味覚の異常に関連したものであった。味覚消失がCOUGH-1試験36/730例(4.9%)、COUGH-2試験86/1,314例(6.5%)に、味を不快と感じる味覚障害(dysgeusia)はそれぞれ118/730例(16.2%)、277/1,314例(21.1%)、味覚過敏(hypergeusia)は3/730例(0.4%)、6/1,314例(0.5%)、味覚減退(hypogeusia)が19/730例(2.6%)、80/1,314例(6.1%)、分類不能の味覚障害(taste disorder)は28/730例(3.8%)、46/1,314例(3.5%)にそれぞれ報告された。

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