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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるリサンキズマブの有用性 (解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療は、生物学的生物学的製剤や低分子化合物の出現により大きく変化している。わが国では、既存治療である5-ASA製剤、ステロイド、アザチオプリン、6-MP等に対して効果不十分または不耐容となったUC患者には、インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNF阻害薬、インターロイキン(IL)阻害薬のウステキヌマブやミリキズマブ、インテグリン拮抗薬であるベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブやフィルゴチニブなどの使用が推奨されている(『潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和5年度改訂版(令和6年3月31日)』厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和5年度 総括・分担研究報告書)。しかしながら、中等度以上の活動性を有するUC症例の中には新たな薬剤でも十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者が少なくなく、新たな作用機序を有する治療薬が次々と開発されている。 今回、日本人を含む中等度から重度のUC患者を対象としたUCの寛解導入および寛解維持に対する新たなIL阻害薬であるリサンキズマブの有効性と安全性を検証した国際共同試験の結果が2024年7月22日号のJAMA誌に掲載された。なお、わが国の保険診療現場ではIL阻害薬としてIL-12とIL-23に共通するp40サブユニットを標的とするウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)とIL-23に特有のp19サブユニットを標的とするミリキズマブ(同:オンボー)が使用されている。 リサンキズマブ(同:スキリージ)はIL-23p19サブユニットを選択的に標的としてIL-23受容体を介したシグナル伝達を阻害するモノクローナル抗体であり、わが国でクローン病、尋常性乾癬、乾癬性関節炎の治療薬として、すでに薬事承認および保険適用を有している。今回は、中等度以上のUCに対する寛解導入および寛解維持目的とした治療薬として2024年6月に薬事承認を取得している。なお、リサンキズマブはウステキヌマブと同じIL-12ファミリーに属する炎症性サイトカインを標的とするが、IL-23のp19サブユニットに対してのみ特異的に結合して大腸粘膜の炎症を抑えることから感染症や悪性腫瘍の発生リスクを軽減する可能性が期待されている。 今回も昨年承認されたミリキズマブと同様、国際共同治験の成績がトップジャーナルに掲載される前に薬事承認されていることは驚きであるが、今後は国際共同治験の結果がジャーナルに掲載される前に保険適用の承認を取得する薬剤が増加するものと思われる。 一方、難治性のUCに対する薬物療法に関する臨床現場からの要望としては、既存の薬物治療に抵抗性を示す患者を対象として、プラセボを対照とした臨床試験の結果から次々に市販されている生物学的製剤それぞれの役割と具体的な使用方法に関するガイドラインの改訂が必要と思われる。

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中等症~重症アトピー性皮膚炎、ネモリズマブ追加で治療成功率が向上/Lancet

 そう痒を伴う中等症~重症のアトピー性皮膚炎を有する成人および青少年の治療において、基礎治療(局所コルチコステロイド[TCS]±局所カルシニューリン阻害薬[TCI])単独と比較して、基礎治療+ネモリズマブ(インターロイキン-31受容体サブユニットα拮抗薬)は、治療成功および皮膚症状改善の達成率の向上をもたらし、安全性プロファイルは両群でほぼ同様であることが、米国・ジョージ・ワシントン大学のJonathan I. Silverberg氏らが実施した2つの臨床試験(ARCADIA 1試験、ARCADIA 2試験)で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年8月3日号に掲載された。同じデザインの2つの無作為化プラセボ対照第III相試験 ARCADIA 1試験とARCADIA 2試験は、同じデザインの48週の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、ARCADIA 1試験は2019年8月~2021年9月に14ヵ国161施設で、ARCADIA 2試験は2019年8月~2022年11月に11ヵ国120施設で患者を登録した(Galdermaの助成を受けた)。 2つの試験とも、年齢12歳以上、そう痒を伴う中等症~重症のアトピー性皮膚炎(登録の2年以上前に診断)で、TCS±TCIによる治療で効果が不十分であった患者を対象とした。 被験者を、基礎治療(TCS±TCI)との併用で、ネモリズマブ30mg(ベースラインの負荷用量60mg)を4週に1回皮下投与する群、またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは2つで、16週目の時点でのInvestigator's Global Assessment(IGA)に基づく治療成功(IGAが0[皮膚病変消失]または1[同ほぼ消失]で、かつベースラインから2段階以上の改善)、およびEczema Area and Severity Index(EASI)のベースラインから75%以上の改善(EASI-75)とした。9つの主な副次エンドポイントもすべて有意に改善 2つの試験に合計1,728例を登録した。ネモリズマブ群に1,142例(ARCADIA 1試験620例[平均年齢33.5歳、女性48%]、ARCADIA 2試験522例[34.9歳、52%])、プラセボ群に586例(321例[33.3歳、45%]、265例[35.2歳、51%])を割り付けた。 両試験とも2つの主要エンドポイントを満たした。16週時のIGAに基づく治療成功の割合はプラセボ群に比べネモリズマブ群で有意に優れた(ARCADIA 1試験:36% vs.25%、補正後群間差:11.5%[97.5%信頼区間[CI]:4.7~18.3]、p=0.0003/ARCADIA 2試験:38% vs.26%、12.2%[4.6~19.8]、p=0.0006)。 また、EASI-75の達成割合も、プラセボ群に比しネモリズマブ群で有意に良好だった(ARCADIA 1試験:44% vs.29%、補正後群間差:14.9%[97.5%CI:7.8~22.0]、p<0.0001/ARCADIA 2試験:42% vs.30%、12.5%[4.6~20.3]、p=0.0006)。 9つの主な副次エンドポイント(そう痒[Peak Pruritus Numerical Rating Scale:PP-NRS]、睡眠[Sleep Disturbance Numerical Rating Scale:SD-NRS]など)はいずれも、ネモリズマブ群で有意な有益性を認めた。ネモリズマブ関連の可能性がある有害事象は1% 安全性プロファイルは両群でほぼ同様だった。少なくとも1件の試験治療下における有害事象を発現した患者は、ネモリズマブ群ではARCADIA 1試験で50%(306/616例)、ARCADIA 2試験で41%(215/519例)、プラセボ群ではそれぞれ45%(146/321例)および44%(117/263例)であった。このうち重篤な有害事象は、ネモリズマブ群ではARCADIA 1試験で1%(6例)、ARCADIA 2試験で3%(13例)、プラセボ群ではそれぞれ1%(4例)および1%(3例)であった。 ネモリズマブ関連の可能性がある治療関連有害事象は、ARCADIA 2試験で5例(1%)に10件報告された。 著者は、「アトピー性皮膚炎は多面的な病態生理を有する疾患で、臨床においてはさまざまな作用機序を有する薬剤を必要とするため、有効な治療法の探索を継続することは重要である」と述べた。

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「かゆみのない」世界の実現には?初期治療とアレルギー結膜炎新薬の役割

参天製薬は、5月に持続性・経眼瞼アレルギー性結膜炎治療剤「アレジオン眼瞼クリーム0.5%」(一般名:エピナスチン塩酸塩、以下アレジオンクリーム)を発売した。これを受け、7月にアレルギー疾患の現状と新薬が果たす役割をテーマとした「『かゆみのない世界』の実現を目指す“これからの”アレルギー結膜炎治療とは」と題したプレスセミナーを行った。日本人の2人に1人がアレルギー性結膜炎、もはや国民病(海老原氏)セミナーでは、順天堂大学の海老原 伸行氏が「アレルギー性結膜炎の病態と疫学、薬物治療について」と題した講演を行った。――アレルギー性疾患の有病率を見ると、アレルギー性結膜疾患が48.7%、アレルギー性鼻炎が36.5%、日本人の2人に1人は何かしらのアレルギーを持っているわけで、もはや国民病といえる。アレルギーの原因を見ると、日本人を対象としたIgE抗体価の調査1)では、39の調査項目のうちスギが58.7%と最多、ヒノキ34.2%など草木類が多いものの、ダニやハウスダストも36~7%と高い。また複数の抗原に反応する「多重抗原陽性者」も多く、7割近くが2つ以上の抗原に反応し、最大で30項目に反応した人もいた。こうした多重抗原陽性者はアレルギー症状が重症かつ罹患期間も長くなる傾向がある。アレルギー症状の中でもっとも多いのが「目のかゆみ」で、100%近い患者が自覚症状がある。かゆみは患者のQOLに大きく影響し、かゆみを筆頭としたアレルギー症状が仕事や勉強に影響を来している、というアンケート結果も多数ある。患者へのアンケートで抗アレルギー点眼薬に求めるものを聞いたところ、計86%の人が「まったく・ほとんどかゆみを感じない状態」を期待しており、薬剤への期待は大きい。現在、アレルギー性結膜炎に使える抗アレルギー薬は、ヒスタミンH1受容体拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬があり、ヒスタミンH1受容体拮抗薬が主流だ。現在、ヒスタミンH1受容体拮抗薬の点眼薬は5剤あり、うち4剤が1日4回投与、1剤が1日2回投与となっている。ここに新たに加わったのが今回発売されたアレジオンクリームで、これだけが1日1回投与となる。投与回数が重要な理由は、点眼薬は内服薬よりもアドヒアランスが低く、投与回数が少ないほどアドヒアランスを高めやすいためだ。アレルギー疾患は初期療法が重要だが、このことがあまり知られていない。多くの患者さんは症状を自覚してから点眼をはじめるが、自覚症状の出る前、具体的には花粉飛散の2週間程度前から点眼をはじめることで症状を抑えられる、というエビデンスがある2)。ただ、自覚症状のない状況における1日4回の点眼はハードルが高い。こうした面からも投与回数が少ない薬剤は受け入れられやすいだろう。症状がなくても、用法通りに点眼することでかゆみを抑えられる(高村氏)続いて、元東京女子医科大学眼科教授・高村 悦子氏が「アレルギー性結膜炎治療の変遷」と題した講演を行った。――抗アレルギー薬が発売されるまで、アレルギー性結膜炎の治療薬はステロイドの点眼薬しかなかった。ステロイド点眼薬は眼圧上昇や感染症の悪化といった副作用があり、毎日使い続けられる薬剤を、というニーズから開発されたのが抗アレルギー点眼薬だった。しかしながら、現在でも多くの患者が「目のかゆみ」を訴えている。症状が改善しない理由の1つに、点眼薬が用法通りに使われていないことがある。1日4回投与する抗ヒスタミン点眼薬を処方された患者に対し、実際の使い方を聞いたアンケート3)では、「症状がひどいとき」は67.3%の人が規定通りの4回もしくはそれ以上の回数を点眼していたが、「症状がラクなとき」はこの割合は10.6%まで急落していた。本来、症状の有り無しにかかわらず、用法を遵守することで薬剤の有効性が上がるが、点眼薬ではこれがなかなか難しく、対症療法的に使われている実態が明らかになった。私自身、このアンケート結果を見て「投与回数に気を取られ、症状がなくても用法遵守することの重要性を患者さんにきちんと伝えていただろうか?」と反省した。以後は、発症期間中はかゆみの有無にかかわらず、用法遵守で点眼するという「プロアクティブ点眼」を積極的に啓蒙するようにしている。とはいえ、この名称では取っ付きにくいので、独自で「あらかじめ点眼」と言い換え、スライドを使って「症状がなくても、用法通りに点眼することでかゆみを抑えられる。あるいは軽くすることができる」と説明している。「あらかじめ点眼」の患者説明用スライド(高村氏作成)画像を拡大するまた、別のアンケート4)では、4回点眼よりも2回点眼の薬剤を処方された人のほうが適正使用していた比率が高く、投与回数が少ないほうがアドヒアランスが高いことが確認された。4回投与だった点眼薬に2回投与が登場し、今回発売されたアレジオンクリームではじめて投与回数が1回になった。投与時間も規定がなく、1日1回塗ればよい。とくに幼児や学童期、身体が不自由な方、認知症の高齢者など、自分での点眼が難しい人とケアする人にとって、1日1回、塗ればよいという手軽さは大きな利点となるはずだ。アレルギー性結膜炎の治療は、洗眼薬によるセルフケア、花粉飛散前の初期療法、花粉飛散時期の用法遵守の点眼の組み合わせが肝要だ。症状が発生してからの対症療法ではなく、かゆみの有無にかかわらず用法遵守で点眼する症状を予防する『あらかじめ点眼』を普及させるため、新たな薬剤に期待したい。アレジオン3製剤の比較画像を拡大する最後に、参天製薬製品開発本部の小山 真治氏が、今回の製品開発の狙いなどについて話した。「1日1回投与を実現するにあたり、効果が長期に持続するクリームという剤形を選択した。結果として幼児や高齢者といった点眼がうまくできない方のニーズも汲み取ることができた。眼瞼クリーム1本当たりの薬価は2回投与の点眼薬に比較して少し高くなるが、1日1回の塗布で使用量も限られるため、トータルの患者負担は大きくは変わらないと考えている。まぶたに塗布するクリーム状の眼薬は独自技術であり、ニーズに応じて他剤に拡大することも検討したい」と説明した。1)岡本 茂樹ほか. 2017年度日本眼科アレルギー学会アレルギー性結膜疾患実態調査. 日本眼科学会雑誌. 2022;126:625-635. 2)深川 和己ほか. 季節性アレルギー性結膜炎に対するエピナスチン塩酸塩点眼薬による初期療法の効果. アレルギー・免疫. 2015;22:1270-1280.3)深川 和己ほか. 季節性アレルギー性結膜炎患者におけるWebアンケートを用いた抗ヒスタミン点眼薬の点眼遵守状況によるQOLへの影響.アレルギーの臨床. 2019;39:29-41.4)福島 敦樹ほか. 季節性アレルギー性結膜炎患者における1日2回の抗ヒスタミン点眼薬の使用状況,自覚症状およびQOLへの影響. アレルギーの臨床. 2021;41:37-46.

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オピオイド拮抗薬ナロキソン、患者自己負担と処方の関連~米国/JAMA

 オピオイド使用障害の治療薬ナロキソンについて、患者の一部自己負担(cost sharing、費用分担)の廃止で、民間保険加入患者およびメディケア患者への処方調剤は増加可能であることが、米国・ミシガン大学のKao-Ping Chua氏らによる検討で示された。オピオイド使用障害による死亡が深刻な米国では、オピオイド死の抑止のために、ナロキソンへのアクセスの障壁を取り除くことが重要なステップとされている。先行研究で、費用分担がナロキソン処方調剤の障壁になっている可能性が示唆されていたが、横断研究のデザインや使用したデータベースが調剤されなかった処方箋を捕捉していないという限界があった。JAMA誌2024年7月9日号掲載の報告。費用分担とナロキソン処方箋の放棄の関連を評価 研究グループは、民間保険とメディケア保険では税控除が通常年初にリセットされることを利用して、横断的な回帰不連続分析により、費用分担とナロキソン処方箋の放棄(ナロキソン処方の非調剤)の関連を評価した。 2020~21年のIQVIA Formulary Impact Analyzer(米国の薬局の処方箋の63%を占める薬局取引データベース)のデータを用い、2021年1月1日より前の60日間および2021年1月1日以後の59日間に発生した民間保険加入患者とメディケア患者のナロキソン点鼻薬の請求情報を解析に組み込んだ。 費用分担は、処方を完遂するために患者が支払った金額と定義。局所線形回帰モデルを用いて、2021年1月1日の費用分担の急な変更と処方箋の放棄の可能性を評価した。また、ファジー回帰不連続分析を行い、費用分担と処方箋放棄との関連を推定した。費用負担の増加は処方箋放棄の確率上昇と関連 解析には、民間保険加入患者7万1,306例(女性4万19例[56.1%])およびメディケア患者10万1,706例(女性6万1,410例[60.4%])のナロキソン請求データ(民間保険加入患者7万3,311件、メディケア患者10万6,076件)が含まれた。 2021年1月1日に、請求1件当たりの平均費用負担は、民間保険加入患者では15.0ドル(95%信頼区間[CI]:13.8~16.2)増加し、メディケア患者では12.3ドル(10.9~13.6ドル)増加した。放棄の確率はそれぞれ4.7ポイント(95%CI:3.2~6.2)、2.8ポイント(1.6~4.1)上昇した。 ファジー回帰不連続分析の結果では、民間保険とメディケアのプランがナロキソンの費用負担を10ドル引き上げる決定が、放棄の確率をそれぞれ3.1ポイント(95%CI:2.2~4.1)、2.3ポイント(1.4~3.2)上昇させることが示唆された。

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片頭痛の予防薬は薬物乱用頭痛も減らす?

 慢性片頭痛に苦しんでいる人は、鎮痛薬を飲み過ぎると薬物乱用頭痛に襲われるという悪循環に陥ることがある。こうした中、片頭痛の予防薬として広く使用されているカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬のatogepant(商品名Qulipta、日本国内未承認)が、薬物乱用頭痛の回避にも役立つ可能性のあることが、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のPeter Goadsby氏らの研究で示された。CGRPは、片頭痛を誘発するタンパク質の1つである。この研究の詳細は、「Neurology」に6月26日掲載された。 慢性片頭痛とは、頭痛が月に15日以上の頻度で起こり、そのうち8日以上が片頭痛の診断基準を満たしている状態と定義されている。今回の研究には、755人の慢性片頭痛患者が参加した。参加者の平均的な1カ月当たりの片頭痛の日数は18.6~19.2日、頭痛薬の使用日数は14.5~15.5日だった。また、頭痛薬の使用歴について報告があった参加者の3分の2に当たる500人(66.2%)が頭痛薬の使用過多の基準を満たしていた。この基準は、頭痛薬の種類がアスピリンやアセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の場合は月に15日以上、トリプタン製剤やエルゴタミン製剤の場合は月に10日以上、複数の頭痛薬を併用した場合は月に10日以上使用した場合と定義された。 参加者は12週間にわたって、1)atogepant 30mgを1日2回、2)atogepant 60mgを1日1回、3)プラセボを摂取する群のいずれかにランダムに割り付けられた。 その結果、頭痛薬使用過多の基準を満たしていた患者のうち、プラセボを使用していた群と比べてatogepant 30mg群では1カ月当たりの片頭痛日数が約3日少なく(最小二乗平均の差−2.7日)、頭痛日数も約3日少なかった(同−2.8)。また、atogepant 60mg群では、プラセボ群と比べて片頭痛日数が約2日少なく(同−1.9)、頭痛日数も約2日少なかった(同−2.1)。Goadsby氏らによると、頭痛薬使用過多の基準を満たしていなかった研究参加者においても、同様の結果が示されたという。 さらに、頭痛薬使用過多の基準を満たしていた患者のうち、1カ月当たりの片頭痛の平均日数が50%以上減少した患者の割合は、プラセボ群の24.9%に対してatogepant 30mg群では44.7%、atogepant 60mg群では41.8%であることも示された。このほか、頭痛薬使用過多の基準を満たした患者の割合も、atogepant 30mg群では61.9%、atogepant 60mg群では52.1%減少したのに対し、プラセボ群では38.3%の減少にとどまっていた。 Goadsby氏は、「片頭痛持ちの人は、衰弱性の症状となることの多い頭痛を抑えるために鎮痛薬を多用する傾向がある。しかし、薬の使い過ぎは薬物乱用頭痛と呼ばれる頭痛を引き起こす可能性があるため、予防的な治療が必要だ」と言う。そして、「この結果に基づけば、atogepantによる治療は頭痛薬の使用量を減らし、薬物乱用頭痛の発生リスクを低下させ得ると考えられる。このことは、片頭痛を抱える人の生活の質(QOL)の向上をもたらす可能性がある」と「Neurology」のニュースリリースの中で述べている。ただし、今後、atogepantの有効性と安全性を評価するためのさらなる研究が必要である。 またGoadsby氏らは、今回の研究の限界として、頭痛や頭痛薬使用の状況が研究参加者の自己報告に基づいているため、報告が正確でない可能性も考えられることを挙げている。なお、この研究はatogepantを製造しているAbbVie社の資金提供により実施された。

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日本のプライマリケアにおける不眠症の治療戦略の実態

 オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬などの新規睡眠薬の導入後、プライマリケア医による不眠症治療実態は、明らかとなっていない。秋田大学の竹島 正浩氏らは、日本のプライマリケア診療における不眠症の治療戦略を調査するため、Webベースのアンケート調査を実施した。BMC Primary Care誌2024年6月18日号の報告。 対象は、プライマリケア医117人。不眠症の各マネジメントオプションの精通度を2段階(精通していない:0、精通している:1)で評価し、不眠症のマネジメント法を9段階リッカート尺度(処方/実施したことがない:1、頻繁に処方/実施している:9)を用いて調査した。マネジメントオプションに精通していないと回答した医師は、処方/実施したことがないとみなした。 主な結果は以下のとおり。・薬物療法に関しては、ほとんどのプライマリケア医が、新規睡眠薬に精通していると回答した。・最も多く使用されていた睡眠薬はスボレキサントであり、次いでレンボレキサント、ラメルテオンであった。・これら新規睡眠薬の9段階リッカート尺度は、入眠障害に対し平均4.8〜5.4ポイント、中途覚醒に対し平均4.0〜4.7ポイントであった。・対照的に、多くのベンゾジアゼピン系睡眠薬は2ポイント未満であり、使用されることは少なかった。・心理療法に関しては、認知行動療法(CBT-I)に精通しているプライマリケア医は、約40%であり、9段階リッカート尺度は平均1.5〜1.6ポイントと、ほとんど行われていなかった。・CBT-Iと比較し、多くの医師はリラクゼーション、睡眠制限法、刺激制御法などに精通していると回答した。このようなプライマリケア医はCBT-Iをやや頻繁に実施し(48〜74%)、スコアは2.6〜3.4ポイントであった。 著者らは、「日本のプライマリケア医は、不眠症に対してCBT-Iをほとんど行っておらず、薬物療法に関しては、ベンゾジアゼピン系睡眠薬ではなく新規睡眠薬を使用する傾向にあった。日本のプライマリケア医による不眠症に対するCBT-Iの利用促進には、教育、簡易またはデジタルCBT-Iの導入、CBT-I専門医との連携構築などが求められる」としている。

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2型糖尿病薬で高K血症リスクが低いのは?/BMJ

 2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬と比較して高カリウム血症のリスクが低いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のEdouard L. Fu氏らによる同国内の3つの医療保険請求データベースを用いた解析結果で示された。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬およびDPP-4阻害薬は、2型糖尿病の治療においてますます用いられるようになっているが、日常臨床における高カリウム血症の予防に関して、これらの薬剤の相対的な有効性は不明であった。著者は、「SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の各クラスにおける個々の薬剤で結果は一貫していることから、クラス効果が示唆される。このことは2型糖尿病患者、とくに高カリウム血症のリスクがある患者へのこれらの薬剤の使用を支持するものである」とまとめている。BMJ誌2024年6月26日号掲載の報告。傾向スコアマッチングでSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬の高K血症の発症を比較 研究グループは、2013年4月~2022年4月の3つの米国医療保険請求データベース(メディケア、Optum’s deidentified Clinformatics Data Mart、MarketScan)を用い、1対1の傾向スコアマッチングにより、新たに治療を開始したSGLT2阻害薬vs.DPP-4阻害薬(コホート1:77万8,908例)、GLP-1受容体作動薬vs.DPP-4阻害薬(コホート2:72万9,820例)、SGLT2阻害薬vs.GLP-1受容体作動薬(コホート3:87万3,460例)の3つのコホートを同定し解析した。 解析対象は、2型糖尿病と診断され、過去365日間に比較対象である2種類の薬剤のいずれかを使用しておらず、年齢18歳以上(メディケアの場合は65歳以上)、コホート登録前に12ヵ月以上継続して保険に加入していた患者であった。 主要アウトカムは、入院または外来における高カリウム血症の診断、副次アウトカムは、外来での追跡中における高カリウム血症(血清カリウム値5.5mmol/L以上)の発症、および入院または救急外来における高カリウム血症の診断とした。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬よりリスクが低い SGLT2阻害薬による治療開始は、DPP-4阻害薬より高カリウム血症の発症率が低く(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.73~0.78)、GLP-1受容体作動薬との比較でも発症率がわずかに低下した(HR:0.92、95%CI:0.89~0.95)。GLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬より高カリウム血症の発症率が低かった(HR:0.79、95%CI:0.77~0.82)。 3年間の絶対リスクは、SGLT2阻害薬(4.6%)がDPP-4阻害薬(7.0%)より2.4%(95%CI:2.1~2.7)低く、GLP-1受容体作動薬(5.7%)がDPP-4阻害薬(7.5%)より1.8%(95%CI:1.4~2.1)低く、SGLT2阻害薬(4.7%)がGLP-1受容体作動薬(6.0%)より1.2%(95%CI:0.9~1.5)低かった。 これらの結果は、副次アウトカム、および年齢、性別、人種、併存疾患、他の薬剤の使用、HbA1c値によって定義されたサブグループ間で一貫していた。SGLT2阻害薬ならびにGLP-1受容体作動薬のDPP-4阻害薬に対する絶対スケールでの有益性(率差)は、心不全、慢性腎臓病、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を使用している患者で最も大きかった。 DPP-4阻害薬と比較して高カリウム血症の発症率が低いことは、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン)およびGLP-1受容体作動薬(デュラグルチド、エキセナチド、リラグルチド、セマグルチド)の個々の薬剤で一貫して観察された。

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統合失調症とうつ病の治療ガイドライン普及が睡眠薬処方に及ぼす影響

 信州大学の中村 敏範氏らは、「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」が、日本における統合失調症およびうつ病に対する、精神科医による睡眠薬の処方や処方する睡眠薬の種類に及ぼす影響を調査した。これは、精神疾患の治療ガイドラインによる教育が、精神科医の睡眠薬処方に及ぼす影響を評価した、初めての研究である。BMC Psychiatry誌2024年5月29日号の報告。 EGUIDEプロジェクトは、日本における統合失調症とうつ病のエビデンスに基づく臨床ガイドラインに関する、全国的なプロスペクティブ研究である。2016〜21年にEGUIDEプロジェクト参加施設から退院した患者を対象に、臨床データと処方データを用いて、睡眠薬の処方状況を調査した。EGUIDEプロジェクトに参加している精神科医から処方された患者と参加していない精神科医から処方された患者における、睡眠薬の処方率および各タイプの睡眠薬の処方率を比較した。睡眠薬のタイプは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬、非ベンゾジアゼピン受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬に分類した。EGUIDEプロジェクトが睡眠薬処方に及ぼす影響を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、統合失調症患者1万2,161例、うつ病患者6,167例。・EGUIDEプロジェクトに参加した精神科医は、統合失調症患者およびうつ病患者に対し、睡眠薬、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方率が有意に低かった(各々、p<0.001)。 著者らは「EGUIDEプロジェクトは、睡眠薬の処方、とくにベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方率削減に、重要な役割を果たしていると考えられる。本結果は、EGUIDEプロジェクトが治療行動の改善に寄与する可能性を示唆している」としている。

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降圧薬による湿疹性皮膚炎リスクの上昇

 湿疹性皮膚炎(アトピー性皮膚炎)と診断される高齢者が増加しているが、多くの湿疹研究は小児および若年成人を対象としており、高齢者の湿疹の病態および治療法はよく知られていない。高齢者の湿疹の背景に薬物、とくに降圧薬が関与している可能性を示唆する研究結果が発表された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMorgan Ye氏らによる本研究は、JAMA Dermatology誌オンライン版2024年5月22日号に掲載された。 本研究は縦断コホート研究であり、英国The Health Improvement Networkに参加するプライマリケア診療所における60歳以上の患者を対象とした。1994年1月1日~2015年1月1日のデータを対象とし、解析は2020年1月6日~2024年2月6日に行われた。主要アウトカムは湿疹性皮膚炎の新規診断で、最も一般的な5つの湿疹コードのうち1つの初診日によって判断した。 主な結果は以下のとおり。・156万1,358例の高齢者(平均年齢67[SD 9]歳、女性54%)が対象となった。45%が高血圧の診断を受けたことがあり、追跡期間中央値6年(IQR:3~11年)における湿疹性皮膚炎の全有病率は6.7%だった。・湿疹性皮膚炎の罹患率は、降圧薬投与群のほうが非投与群よりも高かった(12例vs.9例/1,000人年)。・Cox比例ハザードモデル調整後、いずれかの降圧薬を投与された参加者は、いずれかの湿疹性皮膚炎のリスクが29%増加した(ハザード比[HR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.26~1.31)。・降圧薬を個別に評価したところ、皮膚炎リスクへの影響が大きいのは利尿薬(HR:1.21、95%CI:1.19~1.24)とカルシウム拮抗薬(HR:1.16、95%CI:1.14~1.18)で、小さいのはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(HR:1.02、95%CI:1.00~1.04)とβ遮断薬(HR:1.04、95%CI:1.02~1.06)であった。 研究者らは「このコホート研究により、降圧薬は湿疹性皮膚炎の増加と関連しており、その関連は利尿薬とカルシウム拮抗薬で大きく、ACE阻害薬とβ遮断薬で小さいことが明らかになった。この関連性の根底にある機序を理解するためにはさらなる研究が必要だが、これらのデータは、高齢患者の湿疹性皮膚炎の管理指針として臨床に役立つ可能性がある」としている。

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PPIとH2ブロッカーで頭痛リスク上昇か

 胸焼けを抑えるための薬を服用している人は、服用していない人に比べて片頭痛やその他の重度の頭痛のリスクが高い可能性のあることが、新たな研究で示唆された。このようなリスク上昇は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)、制酸薬など、検討した全ての種類の胃酸分泌抑制薬で認められたという。米メリーランド大学栄養学・食品科学部門のMargaret Slavin氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に4月24日掲載された。 Slavin氏は、「胃酸分泌抑制薬は幅広い用途で使用されている。この薬剤と片頭痛や重度の頭痛との潜在的な関連を考慮すると、今回の研究結果はさらなる調査実施の必要性を示したものだと言えるだろう」と述べる。同氏はさらに、「胃酸分泌抑制薬に関しては、しばしば過剰処方が指摘されている。また、PPIの長期使用により認知症リスクなど他のリスクが上昇する可能性を示唆する新たな研究結果も報告されている」と付け加えている。 胃酸が食道まで逆流する胃酸逆流は、食後や横になっているときに起こり、胸焼けや胃潰瘍を引き起こす。頻回な胃酸逆流は胃食道逆流症(GERD)の原因となり、それが食道がんにつながることもある。今回、Slavin氏らは、胃酸分泌抑制薬(PPI、H2ブロッカー、制酸薬)を使用している成人患者1万1,818人を対象に、胃酸分泌抑制薬の使用と片頭痛や重度の頭痛との関連を検討した。 胃酸分泌抑制薬使用者と非使用者での片頭痛や重度の頭痛の有病率は、PPIでそれぞれ25%と19%、H2ブロッカーで25%と20%、制酸薬で22%と20%であった。年齢や性別など頭痛に影響を及ぼす因子を調整して解析した結果、胃酸分泌抑制薬の使用者は非使用者に比べて、偏頭痛や重度の頭痛の発症リスクが有意に高いことが明らかになった。リスクは、PPI使用者で70%、H2ブロッカー使用者で40%、制酸薬使用者で30%の増加であった。 このような結果が示されたものの、Slavin氏は、この研究で対象としたのは処方薬のみであり、処方薬よりも薬効が低い傾向にある市販薬は対象としていない点を強調。その上で、「医師に相談することなく使用中の胃酸分泌抑制薬の服用を中止すべきではない」と主張している。同氏は、「胃酸の逆流とそれに付随する症状を抑えるために胃酸分泌抑制薬を必要とする人は数多く存在する。胃酸分泌抑制薬やサプリメントを使用していて、片頭痛や重度の頭痛に悩まされている人は、薬の服用を続けるべきかどうかを医師と相談する必要がある」と「Neurology」誌のニュースリリースの中で述べている。

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アレジオン眼瞼クリームは世界初、「塗る」アレルギー性結膜炎治療薬/参天

 参天製薬などは、5月22日、持続性・経眼瞼アレルギー性結膜炎治療剤「アレジオン眼瞼クリーム0.5%」(一般名:エピナスチン塩酸塩)の発売を開始したと発表した。塗布するクリームタイプのアレルギー性結膜炎治療薬は世界初となる。アレジオン眼瞼クリームはアレジオン点眼薬と同様にコンタクトレンズ装着時に使用可 国内で無症状期のアレルギー性結膜炎患者を対象として行われた第III相試験(プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験)では、アレルギー性結膜炎の主症状である眼そう痒感スコアおよび結膜充血スコアにおいて、アレジオン眼瞼クリームのプラセボ眼瞼クリームに対する優越性が検証された。また、アレジオン眼瞼クリームの長期投与試験において認められた副作用は眼瞼そう痒症1.6%(2/124例)および眼瞼紅斑0.8%(1/124例)で、重篤な副作用は認められなかった。 現在、アレルギー性結膜炎に対しては同社の「アレジオン点眼液」をはじめとするヒスタミンH1受容体拮抗薬の点眼薬が広く処方されているが、1日2回または4回の点眼が必要となる。アレジオン眼瞼クリームは1日1回の塗布で終日にわたって有効性を維持でき、点眼が困難な患者でも容易かつ適切に投与しやすいことが特長で、アレジオン点眼薬と同様にコンタクトレンズ装着時にも使用できる。アレジオン眼瞼クリームと点眼薬の併用効果は前例なく現状では不明 従来の点眼薬との使い分けについて参天製薬は「アレジオン眼瞼クリームは患者さんの投薬負担の軽減が期待でき、服薬コンプライアンス、QOL向上にも貢献できると考えている。新規治療だけでなく、点眼薬で治療中の患者さんの置き換えも視野に入れている」とする。また、点眼薬とアレジオン眼瞼クリームの併用については、「臨床試験では他剤の併用例はなく、他剤と併用した場合の効果や安全性は現時点では不明だが、日本眼科学会の『アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン』では、抗アレルギー点眼薬だけでは効果不十分な場合には、ステロイド点眼薬、NSAIDs点眼薬の併用、また花粉など抗原に対するセルフケアとして洗眼薬の使用が勧められていることから、そうした治療薬との併用が必要な場合もあると考える。一方で、同ガイドラインに抗アレルギー点眼薬同士の併用を推奨する記載はなく、アレジオン眼瞼クリームは前例がない剤形であることからも、追加薬剤としての抗アレルギー点眼薬との併用治療の考え方などは現状では不明である」としている。アレジオン眼瞼クリーム製品概要製品名:アレジオン眼瞼クリーム 0.5%一般名:エピナスチン塩酸塩性状:白色~淡黄白色のクリーム剤効能・効果:アレルギー性結膜炎用法・用量:通常、適量を1日1回上下眼瞼に塗布する貯法:室温保存包装:2gチューブ入×10本薬価:1,686.7円/g保険給付上の注意:なし発売日:2024年5月22日

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ゾルベツキシマブ併用化学療法への適切な制吐薬の対応/日本癌治療学会

 5月22日に薬価収載された「CLDN18.2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がん」を適応症とする抗Claudin18.2抗体薬ゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)。本薬はCLDN18.2陽性(免疫染色にて75%以上のがん細胞において発現が2+以上)の治癒切除不能な進行・再発の胃がんの治療成績の向上が期待される。その一方で、臨床試験の段階で催吐性が高いことも報告されていた。 この背景を踏まえ、今回、制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループの青儀 健二郎氏(同 委員長)らは、ゾルベツキシマブの導入に際し、日常診療において適切な制吐療法を遅滞なく行うことができるよう、『HER2陰性CLDN18.2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がんに対するゾルベツキシマブ併用一次化学療法における制吐療法』に関する速報1)を日本癌治療学会のホームページに公開した。 この速報では、臨床試験結果の概要、ゾルベツキシマブ併用化学療法の催吐リスク、悪心・嘔吐の発現時期などについて詳細に触れられているが、本稿では制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループからの提言に焦点を当ててお伝えする。制吐薬の投与タイミング、適切な治療薬は? 適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループは、ゾルベツキシマブが日常診療に導入されるに際して、患者のQOLの維持や治療継続のために、以下の点に注意して適切な制吐療法を行うよう提言している。―――――――――――――――――――・ゾルベツキシマブの催吐性は標的に対するon-targetの有害事象である。・ゾルベツキシマブを併用する化学療法(フッ化ピリミジン系抗がん剤+オキサリプラチン)レジメンの催吐性については、高度催吐性リスクに分類するのが妥当であると考えられる。・悪心・嘔吐は、ゾルベツキシマブ投与開始1時間以内に発現することが多いため、一次予防・早期対応が必要である。とくに初回はゾルベツキシマブの投与量が多いため注意が必要である。2回目以降の悪心・嘔吐の発現頻度は低下するが、初回だけでなく点滴速度を含めた適切な制吐療法を継続して行うことが重要である。・併用されるフッ化ピリミジン系抗がん剤+オキサリプラチンは中等度催吐性リスクであることから、一次予防を目的とした制吐療法として5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+ステロイドの3剤併用は必須である。治験では「3剤併用療法+others」において最も良好な傾向が認められたが、「others」として何を用いるかについては一定しておらず、抗ヒスタミン薬やオランザピンなどが使われていた。・ただし、これまでの制吐療法の臨床試験では抗ヒスタミン薬の制吐作用は明らかではなく、治験に参加した医師の考察ではあるが、抗ヒスタミン薬による眠気が制吐効果をもたらした可能性もある。・ゾルベツキシマブによる悪心・嘔吐は投与後早期から発現することが多いため、通常行われている化学療法当日の夕方もしくは眠前のオランザピン投与では、ゾルベツキシマブによる急性期の悪心・嘔吐への対応策とならないことに注意が必要であり、オランザピンの前日眠前や当日朝の投与の追加も考えられる。また、ドパミンD2受容体拮抗薬もレスキュー薬も適宜使用する。・悪心・嘔吐発現時の対処法として制吐薬はどの組み合わせでも約半数で悪心・嘔吐がみられたため、制吐薬以外の対応方法も求められる。ゾルベツキシマブの投与速度と催吐性の関連性があり、点滴速度によって催吐性が異なる(中断や速度低下により軽減する)ことが経験されているため、点滴速度の調整を適切に行う必要がある。初回投与時には点滴速度を遅くして開始し、悪心・嘔吐に注意しながら徐々に速度を上げて、悪心・嘔吐発現時には中断、速度を下げるなど柔軟に対応し、個々の患者での適正な投与速度を見つけることが重要である。このように速度調節を行うために長時間の点滴時間を要する可能性を考慮して、とくに初回投与時には入院での治療を提案してもよいと思われる。・遅発期の悪心・嘔吐については結果が公表されていないが、治験に参加した医師によると、遅発期にも悪心・嘔吐がみられたため、高度催吐性リスクに対する制吐療法として推奨されている遅発期での制吐目的のためのオランザピン併用が望ましい。・治験において、ゾルベツキシマブ/プラセボの減量は認められていなかったため、悪心・嘔吐対策としてのゾルベツキシマブの減量は慎重に検討すべきである。・ゾルベツキシマブを含む化学療法の治療選択に際して、患者に十分な情報を提供し、担当医に加え、看護師、薬剤師などが多角的に継続的に関わり、自宅での悪心・嘔吐への対応などについて理解を得られるよう、安心して治療を受けられるようにすることが求められる。・ゾルベツキシマブを含む化学療法についての情報は治験など限定されているので、日常診療に導入される際には、効果や有害事象に関する患者のアウトカムについての情報を収集し、適切に対応することが求められる。――――――――――――――――――― なお、制吐薬適正使用ガイドラインは2023年に第3版へと改訂されたが、ゾルベツキシマブの制吐療法について、将来的に診療ガイドラインへの反映を予定しているという。 このほか、ゾルベツキシマブの臨床的な有用性や意義については、日本胃癌学会の速報2)を参照されたい。

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レートコントロールと重篤な出血イベント(解説:後藤信哉氏)

 非弁膜症性心房細動に対する抗凝固療法は広く普及した。心房細動の動悸に対してレートコントロールが必要となる。レートコントロールにはβ遮断薬かカルシウム拮抗薬を使っているケースが多いと思う。カルシウム拮抗薬としては、作用時間の短いベラパミルよりもジルチアゼムを使うことが多いと思う。レートコントロールで用いる薬と抗凝固薬の薬物相互作用などは十分に詳細に検討されてこなかった。薬物代謝的には、レートコントロール薬の代謝により代謝酵素が使用される結果、抗凝固薬の血中濃度が増加するリスクは想定された。本研究は後ろ向き観察研究コホートを用いて、レートコントロールに用いる薬剤による出血イベントリスクへのインパクトについての仮説産生を目指した。 日本の国民皆保険制度の中にも国保、社保など不均一性がある。米国は一般に医療保険がないイメージがあるが、実際は、米国の医療保険制度はそれなりに充実している。オバマケアが嫌われたのは、連邦政府による過度の介入が米国人に忌避されたためである。米国の勤労者には会社からの手厚い医療保険がある場合が多い。筆者が米国で暮らしていた間に、勤務先が用意した健康保険の自己負担率が、現在の日本より少なかった。また、米国暮らしが長く、それなりに社会保険税(social security tax)を支払っていた筆者のところには、最近、勤労していない高齢者を対象としたメディケアの案内が来た。本研究はメディケアのデータベースを用いた後ろ向き観察研究である。政府の管理する健康保険データなので、日本でも同様の解析は原理的に可能だと思う。データベースに基づいた最適医療を最小限のコストにて供給しようとのインセンティブがあれば、データベース解析と解析結果に基づいた医療のシステム的改善は必須と思う。 20万4,155 例のうち、5万3,275例がジルチアゼム、15万880例がメトプロロールによるレートコントロールを受けていた。いずれも特許切れした安価な薬剤であり、公的保険医療に適した薬剤である。抗凝固薬としては薬効を標準化できるいわゆるDOACのうち、米国にて実際に使用可能なリバーロキサバンとアピキサバンを用いた。日本で広く使用されるエドキサバンは、米国では腎機能正常性に使用できないとの制限があるため研究対象とされていない。 メトプロロール群に比較してジルチアゼム群における重篤な出血による入院・死亡リスクは、1.21 (95%信頼区間:1.13~1.29)倍大きく、差は観察早期から見られた。重篤な出血による入院、死亡は同じ方向性であった。ジルチアゼムの容量依存性もあり、各種sensitivity analysisの結果も同様で、メトプロロールよりジルチアゼム群で出血が多いのは本当らしい。 後ろ向きコホートにて、レートコントロールの薬剤がDOACによる出血リスクに影響を与えるとの仮説はできた。ランダム化比較試験により仮説検証を目指すか、ジルチアゼム群のメトプロロール群への移行をメディケアとして促すか、科学に基づいた政策決定の今後を見守りたい。

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PPIの不適切処方に薬剤師が介入、その効果は?/BMJ

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の過剰使用を減らすための薬局を中心とした大規模な多面的介入は、全体的なPPI使用を減少することが示された。PPIによる胃の保護が適切とされる患者においても使用が減少したが、臨床的な有益性または有害性のいずれについても最小のエビデンスしか認められなかったという。米国・ミシガン大学のJacob E. Kurlanderらが、米国退役軍人のための最大規模の統合医療システム「US Veterans Affairs Healthcare System」(医療施設1,255、外来拠点1,074)のデータを用いた差分の差分(difference-in-difference)分析の結果を報告した。これまでPPIの過剰使用を減らすための介入が及ぼす影響を、包括的に評価した研究はほとんどなかった。BMJ誌2024年4月11日号掲載の報告。薬局を中心とした介入前後の4.5年間のPPI処方を、介入群と対照群で比較 研究グループは、US Veterans Affairs Healthcare Systemを構成する18の地域医療システム(Veterans Integrated Service Networks:VISN)のうち、1つのVISNでPPI過剰使用に対する新たな取り組み(VISN 17)を実施し、他の17のVISNを対照とし評価した。VISNにはそれぞれ独自の外来薬局システムが整備されており、Veterans Affairsクリニックでの処方薬は、ほぼVeterans Affairs薬局で調剤されるという。 VISN 17は、次の5つから構成された。(1)PPIのリフィル処方箋の使用制限(慢性使用の適切な適応が処方箋に明記されていない場合)、(2)6ヵ月以内に使用されなかった処方箋の無効化、(3)H2受容体拮抗薬の処方促進、(4)臨床医と患者への教育(臨床医には、PPIを2週間で漸減し、その後H2受容体拮抗薬を1~2ヵ月間必要に応じて使用することを推奨、患者には情報レターの送付等)、(5)薬剤師による高用量PPIの処方を把握する報告ツールの作成。 VISN 17は2013年8月~2014年7月に実施し、実施前後4.5年間の動向を捉えるため研究対象期間は2009年2月~2019年1月とした。研究期間を、連続した6ヵ月間隔で区切り、各期間において過去2年間にプライマリケアを2回以上受診した患者を解析対象とした。 主要アウトカムは、6ヵ月当たりのPPIが処方された患者の割合であった。介入により全体的なPPI処方が減少、必要な患者でのPPI処方も減少 1間隔当たりの解析対象患者数は、VISN 17実施施設で19万2,607~25万349例、対照施設で377万5,953~436万868例の範囲であった。 取り組み実施前は、PPIが処方された患者の割合は、VISN 17群で平均25.8%、対照群で平均25.4%であった。 差分の差分分析の結果、取り組みの実施によりVISN 17群では対照群と比較し、PPIが処方された患者の割合が7.3%低下した(95%信頼区間[CI]:-7.6~-7.0)。 副次アウトカムについては、上部消化管出血のリスクが高い患者におけるPPI処方日数が11.3%短縮(95%CI:-12.0~-10.5)し、PPIまたはH2受容体拮抗薬が処方された患者の割合が5.72%低下(-6.08~-5.36)した。しかし、上部消化管疾患の診断、上部内視鏡検査のためのプライマリケア受診、PPIによる胃の保護が適切な高齢者の酸関連消化器疾患による入院の増加は確認されず、PPI関連の臨床症状も臨床的に有意な変化はみられなかった。

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日本人不眠症患者におけるレンボレキサント切り替えの有効性と安全性

 慢性不眠症患者は、従来の治療法では必ずしも満足のいく有効性および安全性を得られているとはいえない。したがって、代替治療法への切り替えを考慮する必要があるものの、これらの有効性を評価したプロスペクティブ研究は不十分である。久留米大学の小曽根 基裕氏らは、慢性不眠症患者に対するレンボレキサントへの切り替えにより患者の満足度が向上するかを評価した。Advances in Therapy誌2024年4月号の報告。 対象は、現在の治療に満足していない日本人慢性不眠症患者90例。4つのコホート研究から、プロスペクティブ非ランダム化オープンラベル介入的多施設共同研究を実施した。コホート研究には、非ベンゾジアゼピン系鎮痛催眠薬(ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン)単剤療法、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)単剤療法、スボレキサントとベンゾジアゼピン受容体作動薬の併用療法、スボレキサントとメラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)からレンボレキサントへの切り替えの4つを含めた。主要エンドポイントは、2週間(漸増期終了)時点でのレンボレキサント切り替え成功率とした。切り替え成功の定義は、漸増期にレンボレキサントを服薬し、その後の維持期(2~14週目)においてレンボレキサントの継続使用意向を示した患者の割合とした。患者の満足度と安全性(治療中に発現した有害事象[TEAE]の発生率)の評価は、14週目(漸増期および維持期終了時)に実施した。 主な結果は以下のとおり。・2週間のレンボレキサント切り替えに成功した患者の割合は、95.6%(95%信頼区間:89.0~98.8%)であった。・レンボレキサントの継続に成功した患者の割合は、漸増期(2週目)97.8%、維持期(14週目)で82.2%であった。・全体的なTEAEの発生率は47.8%であり、重篤なTEAEは認められなかった。・Patient Global Impression-Insomnia versionの3つの尺度による患者の満足度評価では、すべてのコホートにおいて、肯定的な反応を示す患者が否定的な反応よりも多かった。・維持期では、レンボレキサントに切り替え後、2週目、6週目、14週目において不眠重症度指数の改善が認められた。 著者らは「現在の治療に満足していない不眠症患者に対するレンボレキサント切り替えは、有効な選択肢となる可能性が示唆された」としている。

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咳が1年以上続く…、疑うべき疾患は?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第19回

咳が1年以上続く…、疑うべき疾患は?講師獨協医科大学医学部 小児科学 助教 高柳 文貴 氏獨協医科大学医学部 小児科学 教授 吉原 重美 氏【今回の症例】8歳女児。6歳の時に肺炎で入院歴があり、その後から長引く咳嗽、労作性の呼吸苦を呈している。気管支喘息を疑い、吸入ステロイド薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬による加療を1年以上継続しているが、症状の改善を認めなかった。胸部レントゲン検査ではわずかに過膨張所見があり、胸部CTではモザイクパターンの浸潤影を認めていた。

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PPIだけでない?P-CABでも胃がんリスク上昇か/東大病院ほか

 ピロリ菌除菌後の胃がん発症とプロトンポンプ阻害薬(PPI)との関連が報告されている。近年、PPIに替わってカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)が用いられているが、P-CABでもピロリ菌除菌者の胃がん発症リスクの上昇が認められたことが、新井 絢也氏(東京大学医学部附属病院 消化器内科)らによって、Clinical Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2024年2月12日号で報告された。 本研究では、約1,100万例の患者情報を有する大規模レセプトデータを用いて、ピロリ菌除菌後患者5万4,055例を抽出し、P-CABによる胃がん発症リスクを検討した。P-CABによる胃がん発症リスクの上昇の有無は、胃がん発症リスクと関連がないとされるヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)を内服する患者を対照群(H2RA群)とし、傾向スコアマッチングを行うことで評価した。また、感度分析として、P-CABを内服する患者(P-CAB群)とPPIを内服する患者(PPI群)を比較した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間3.65年時点において、5万4,055例のうち568例(1.05%)が胃がんを発症した。・P-CAB群の3~5年時の胃がん累積発症率は、3年時1.64%、4年時2.02%、5年時2.36%で、H2RA群はそれぞれ0.71%、1.04%、1.22%であった。・P-CAB群は、H2RA群と比較して胃がん発症リスクが有意に上昇した(ハザード比[HR]:1.92、95%信頼区間[CI]:1.13~3.25、p=0.016)。・P-CAB内服期間3年以上(HR:2.36)、P-CAB高用量(HR:3.01)ではさらにリスクが上昇し、用量・期間依存性も示された。・感度分析において、P-CAB群とPPI群を比較すると、胃がん発症リスクは同等であった(HR:0.88)。 著者らは、本研究結果について「P-CABはPPIと同様にピロリ菌除菌後の胃がん発症リスクを上昇させる可能性が考えられた。今後は、ピロリ菌除菌後患者に対する処方・内服期間の適正化や内視鏡サーベイランスの徹底が必要になる可能性がある」とまとめた。

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フィネレノンの効果の多くはアルブミン尿抑制作用が媒介

 非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノンによる腎転帰および心血管転帰改善効果の多くは、アルブミン尿抑制作用が媒介した結果であることを示唆するデータが報告された。米インディアナ大学のRajiv Agarwal氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に12月5日掲載された。 フィネレノンは、慢性腎臓病(CKD)患者や2型糖尿病患者のアルブミン尿抑制という他覚所見の改善とともに、心腎イベント発生リスクを低下させ、転帰を改善し得ることが報告されている。ただし、心腎イベント抑制効果に対して、アルブミン尿抑制作用がどの程度関与しているのかは明らかにされていない。Agarwal氏らは、同薬の第3相臨床試験として実施された2件の研究のプールされたデータを用いた媒介分析を行い、この点を検討した。 解析対象研究には、48カ国のCKDまたは2型糖尿病患者1万2,512人が組み込まれ、フィネレノン群とプラセボ群に1対1で割り付けられていた。ベースラインにおいて、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)は中央値514mg/gCrだった。介入から4カ月間でのUACRの対数変換値(log UACR)の低下幅によってアルブミン尿抑制作用を評価し、介入後4年間での心腎イベントリスクに対する影響を定量化した。関連性を解析した心腎イベントは、複合腎関連イベント(血清クレアチニンの倍化、腎不全、腎関連死)、および複合心血管イベント(非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全入院、心血管死)とした。 介入後にUACRが30%以上低下した患者は、フィネレノン群3,338人(53.2%)、プラセボ群1,684人(27.0%)だった。UACRを連続変数とする媒介分析の結果、複合腎関連イベント抑制効果の84%、複合心血管イベント抑制効果の37%は、UACRの低下が媒介したと計算された。また、UACR低下幅30%以上/未満で二分して施行した媒介分析では、同順に64%、26%がUACR低下によって媒介されたと計算された。なお、UACRの30%の低下は、末期腎不全リスクを有意に抑制するための一つの目安となることが報告されている。 以上より論文の結論は、「CKDまたは2型糖尿病の患者に対するフィネレノンを用いた早期介入による腎転帰改善効果の多くは、アルブミン尿抑制作用によって媒介されており、心血管転機改善効果に対するアルブミン尿抑制作用の媒介効果は中程度と言える」と総括されている。なお、「この結果を、アルブミン尿抑制作用を有する他の薬剤に外挿することはできない」との留意事項が付け加えられている。 また著者らは、「われわれの研究結果は、CKD患者や2型糖尿病患者に対する治療開始後にUACRをモニタリングすることの重要性を強調している。UACRの変化は早期介入効果のサロゲートマーカーであって、腎臓および心血管に対する将来的なメリットを評価し、長期予後の予測に利用できる可能性がある」とも述べている。 なお、本研究にはフィネレノンの製造元であるバイエル社が資金を提供した。

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10項目の要点確認で災害高血圧を防ぐ/日本高血圧学会

 日本高血圧学会(理事長:野出 孝一氏[佐賀大学医学部内科学講座 主任教授])は、今般の能登半島地震の発生を受け、避難所での災害関連死を予防する観点から「被災地における高血圧疾患予防」をテーマに、緊急メディアセミナーを開催した。 セミナーでは、10項目の「寒冷被災地における血圧管理と高血圧合併症予防の要点」を示し、震災の避難所で医療者も一般の人も確認できる高血圧予防指標の紹介と震災地での初動活動について報告が行われた。なお、10項目の要点は、同学会のホームページで公開され、ダウンロードして使用することができる。140mmHg超の血圧ではまわりの医療者へ相談を 苅尾 七臣氏(自治医科大学内科学講座循環器内科学部門 教授)は、今回の10項目の要点の制作についてその背景を語った。 過去の大規模災害を振り返ると災害被災周辺地域では、災害高血圧が発生し、心血管疾患、脳卒中、大動脈解離などの循環器疾患が増加、命を落とす方も多かった。また、今回の能登半島地震のように冬季でしかも寒冷地域のようなところでは、血圧コントロールも難しく、さらなる循環器疾患の増加も懸念されている(とくに心血管死亡は血圧が10/20mmHg上昇するごとに2倍ずつ増えるとされ、90/140mmHgがリスクの目安となる)。 こうした事態から高血圧の特徴と循環器リスク低減のために要点が制作された。ただ、災害時の血圧管理に関する十分なエビデンスはなく、過去の災害から得られた知見などをもとにレトロスペクティブなエビデンスに基づき本要点は作成されているので、この点を注意していただき、診療での目安として現地で役立ていただきたいと期待を寄せた。【寒冷被災地における血圧管理と高血圧合併症予防の要点】(抜粋)※できているものにチェックし、1つでも多くのチェックが付くようにする。〔A 生活環境の整備〕1.寒さ対策:保温性の高い衣服を着用し、体を冷やさない。理想の室温は18℃以上2.睡眠:できるだけ横になる、6時間以上の睡眠を心掛ける〔B 生活習慣の維持〕3.生活リズム:できる限り起床・就寝時刻を決め、生活のリズムを作る4.運動:身体を動かす。1日に20分以上の歩行でも大丈夫5.食事:なるべく塩分の摂り過ぎに注意し、野菜、果物、乳製品などカリウムの多い食事を心がける(医師からカリウム制限を受けている腎臓病の方は指示通りに)6.体重の維持:体重計があれば測って、増減を確認7.感染症予防:できる限りマスク着用、手洗いが大切8.血栓の予防:こまめに水分を摂り、1時間に1回は足を動かす〔C 治療の継続〕9.薬の継続:普段飲んでいる薬は、いつも通り飲み続ける10.血圧管理:血圧を測定し140mmHg以上なら医師、看護師、保健師に相談(とくに160mmHg以上は、できるだけ早い時期に医師に相談) また、苅尾氏はさらに詳しく災害高血圧について説明。「災害地域に生じる高血圧(≥90/140mmHg)」と定義し、被災直後から発生、生活環境と生活習慣が回復・安定するまで持続し、とくに循環器疾患のリスクが高い早朝高血圧は寒冷の影響を受けやすいと詳しく解説した。 特徴として以下の項目がある。・災害後の血圧上昇は一過性で1ヵ月以降低下するが、高齢者、慢性腎臓病、肥満者などの患者では遷延すること・災害時の血圧140mmHg未満を目標とし、血圧レベルは2週間毎に再評価すること(なお、災害時は白衣効果が増大することから避難所などに自動血圧計の設置が望ましい)・患者の服薬状況が不明な場合、安全性と効果の高い長時間作用型カルシウム拮抗薬が適切であること そのほか、過去の震災などの知見から脳血管疾患の発症について、外部仮設トイレ、早朝(とくに午前5時~午前11時)、70歳以上の高齢者はリスクが高くなることを指摘し、これからの数ヵ月、循環器疾患リスクを可能な限り減らしてもらいたいと述べ、説明を終えた。 勝谷 友宏氏(勝谷医院 院長)は、同学会の実地医家部会ネットワークを活用した被災地支援について、血圧計と減塩食について、メーカーなどと協議を行い、現地に手配する準備を行っていることを報告した。 宮川 政昭氏(宮川内科小児科医院 院長)は、日本医師会と連携した被災地支援について説明した。医師会は対策本部を七尾市に置き、日本医師会災害医療チーム(JMAT)の支援を行っている。今回の震災は、過去の震災と違い、現場への派遣に困難を来たし、支援に遅れが生じている。そのため、今までは災害医療派遣チーム(DMAT)からJMATに引き継がれることが多かったが、現在は両チームが並列して活動している。JMATの派遣も約900名となり、今後も能登北部への支援に現地の医師と連携して診療支援を行っていくと展望を語った。

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止まらない咳、でもどの検査にも異常がない!?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第16回

止まらない咳、でもどの検査にも異常がない!?講師獨協医科大学医学部 小児科学 助教 高柳 文貴 氏獨協医科大学医学部 小児科学 教授 吉原 重美 氏【今回の症例】14歳女子。長引く咳嗽を主訴に受診した。咳嗽は昼間に多く、夜間の睡眠中は咳嗽を認めない。胸部、副鼻腔レントゲン検査は異常なし。血液検査ではWBC、CRP、IgEの上昇は認めない。FeNO測定は10ppb。スパイログラム(呼吸機能検査)で肺活量、一秒率の低下は認めなかった。今までに、吸入ステロイド薬(ICS)の定期吸入、ロイコトリエン受容体拮抗薬、抗ヒスタミン薬の定期内服などを行ったが効果はなし。同居の祖母との折り合いが悪いとの訴えあり。

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