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ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、HFmrEFとHFpEFにおける有効性は?/Lancet

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者ではステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)により、左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)または左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)患者では非ステロイド型MRAにより、心血管死または心不全による入院のリスクが減少することを、英国・グラスゴー大学のPardeep S. Jhund氏らが4つの大規模臨床試験、「RALES試験」「EMPHASIS-HF試験」「TOPCAT試験」「FINEARTS-HF試験」のメタ解析の結果、報告した。MRAはHFrEF患者の入院および死亡を減少させるが、HFmrEFまたはHFpEF患者におけるベネフィットは不明であった。Lancet誌オンライン版2024年9月1日号掲載の報告。4件の大規模臨床試験、約1万4,000例の個人データをメタ解析 研究グループは、左室駆出率(LVEF)35%以下のHFrEF患者を対象としたRALES試験(スピロノラクトン)およびEMPHASIS-HF試験(エプレレノン)(以下、HFrEF試験)、ならびにHFmrEFまたはHFpEF患者を対象としたTOPCAT試験(LVEF45%以上、スピロノラクトン)およびFINEARTS-HF試験(LVEF40%以上、フィネレノン)(以下、HFmrEF/HFpEF試験)のデータを統合し、計1万3,846例の個別患者レベルのメタ解析を実施した。 主要アウトカムは、心不全による初回入院または心血管死までの期間の複合、副次アウトカムは、心不全による初回入院までの期間、心不全による全入院(初回または再入院)、心不全による全入院と心血管死、心血管死、全死因死亡についてMRAの効果を推定した。血清クレアチニン、推定糸球体濾過率、血清カリウム、収縮期血圧などの安全性も評価した。統計解析では、試験と治療の相互作用を検証し、これらの集団における有効性の異質性を検討した。ステロイド型MRAはHFrEF、非ステロイド型MRAはHFmrEFまたはHFpEFで有効 全体としてプラセボ群に対するMRA群の、心不全による初回入院または心血管死に関するハザード比(HR)は0.77(95%信頼区間[CI]:0.72~0.83)であった。しかし、試験と治療効果との間に統計学的に有意な交互作用が認められ(交互作用のp=0.0012)、MRA群の有効性は、HFmrEF/HFpEF試験(0.87、0.79~0.95)と比較してHFrEF試験(HR:0.66、95%CI:0.59~0.73)で、より大きかった。 試験間の治療効果の異質性は、心不全による全入院(心血管死の有無にかかわらず)、心血管死、および全死因死亡においても同様に認められた。心不全による初回入院に関するMRA群のHRは、HFrEF試験では0.63(95%CI:0.55~0.72)、HFmrEF/HFpEF試験では0.82(0.74~0.91)であった(交互作用のp=0.022)。心不全による全入院についても同様の結果であった。 心血管死についてMRA群の有効性は、HFrEF試験では低かったが(HR:0.72、95%CI:0.63~0.82)、HFmrEF/HFpEF試験では低下はみられなかった(0.92、0.80~1.05)。全死因死亡についても同様で、プラセボ群に対するMRA群のHRは、HFrEF試験が0.73(95%CI:0.65~0.83)に対し、HFmrEF/HFpEF試験は0.94(95%CI:0.85~1.03)であった。 安全性に関しては、すべての試験でプラセボ群と比較してMRA群で中等度(>5.5mmol/L)または重度(>6.0mmol/L)の高カリウム血症のリスクが倍増したが(オッズ比[OR]:2.27、95%CI:2.02~2.56)、重度高カリウム血症の絶対リスク(発現割合)は低く、MRA群で約2.9%、プラセボ群で約1.4%であった。一方、低カリウム血症(<3.5mmol/L)のリスクは、すべての試験でMRA群(7%)がプラセボ群(14%)と比較して半減した(OR:0.51、95%CI:0.45~0.57)。

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TAVI周術期の経口抗凝固薬、継続vs.中断/NEJM

 経口抗凝固療法の適応を有する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)施行患者において、周術期の経口抗凝固薬継続は中断と比較し、TAVI後30日以内の心血管死、全脳卒中、心筋梗塞、主要血管合併症または大出血の複合アウトカムに関する非劣性は認められなかった。オランダ・St. Antonius HospitalのDirk Jan van Ginkel氏らが、欧州22施設で実施された医師主導の無作為化非盲検非劣性試験「Periprocedural Continuation versus Interruption of Oral Anticoagulant Drugs during Transcatheter Aortic Valve Implantation trial:POPular PAUSE TAVI試験」の結果を報告した。TAVIを受ける患者の3分の1は、併存疾患のため経口抗凝固薬の適応がある。TAVI中の経口抗凝固薬中断は出血リスクを軽減する可能性がある一方で、継続は血栓塞栓性イベントのリスクを軽減する可能性があった。NEJM誌オンライン版2024年8月31日号掲載の報告。約869例を無作為化、主要アウトカムは心血管死、全脳卒中、心筋梗塞等の複合 研究グループは、長期間経口抗凝固薬の投与を受けており大腿動脈または鎖骨下動脈アプローチによるTAVIを受ける予定の患者を、周術期に経口抗凝固薬を継続する群または中断する群に、施設および経口抗凝固薬の種類(ビタミンK拮抗薬、直接経口抗凝固薬)で層別化して1対1の割合で無作為に割り付けた。 中断群では、ダビガトラン投与中の腎不全合併患者を除き、直接経口抗凝固薬を投与中の患者はTAVIの48時間前、ダビガトラン投与中でeGFRが50~80mL/分/1.73m2の患者は72時間前、同30~50mL/分/1.73m2未満の患者は96時間前に中断した。ビタミンK拮抗薬投与中の患者では、acenocoumarolはTAVIの72時間前、phenprocoumonおよびワルファリンは120時間前に中断した。ヘパリンまたは低分子ヘパリンによるブリッジングは開始しなかった。TAVI後は、いずれも術者または担当医が安全と判断した時点で再開した。 継続群では、TAVI当日も含めて経口抗凝固薬を継続した。 主要アウトカムは、TAVI後30日以内の心血管死、全脳卒中、心筋梗塞、主要血管合併症、または大出血(VARC-3基準の2以上)の複合であった。主要解析は、無作為割り付けされた全患者のうち、TAVIが予定日の5日以上前にキャンセルされた患者を除いた修正ITT集団を対象とした。 2020年11月~2023年12月に計869例が無作為に割り付けられ(継続群435例、中断群434例)、858例が修正ITT集団となった(それぞれ431例、427例)。16.5% vs.14.8%、継続群の非劣性は示されず 主要アウトカムの複合イベントは、継続群で71例(16.5%)、中断群で63例(14.8%)に発生した。絶対群間差(リスク差)は1.7%ポイント(95%信頼区間[CI]:-3.1~6.6、非劣性のp=0.18)で、事前に設定した非劣性マージン(4.0%)を満たさなかった。 副次アウトカムである血栓塞栓性イベントは、継続群で38例(8.8%)、中断群で35例(8.2%)に発生した(群間リスク差:0.6%ポイント、95%CI:-3.1~4.4)。また、全出血は、それぞれ134例(31.1%)、91例(21.3%)に認められた(9.8%ポイント、3.9~15.6)。 なお、著者は、非盲検試験であること、神経学的検査や神経画像検査は行われなかったこと、血栓塞栓症と出血の2つのアウトカムではなく主要複合アウトカムとして非劣性の検出力が設定されたこと、ほぼ全例で大腿動脈アプローチが用いられたため本結果をTAVIの他の血管アクセスアプローチに一般化できないことなどを、研究の限界として挙げている。

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日本人高齢入院患者のせん妄軽減に対するスボレキサントの有用性~ランダム化試験

 高齢入院患者において頻繁にみられるせん妄は、早急なマネジメントを必要とするだけでなく、認知症、施設入所、死亡率など長期的なリスクに影響を及ぼす可能性がある。せん妄は、睡眠障害と関連しているといわれており、特定の睡眠導入薬によりせん妄が軽減する可能性が示唆されている。順天堂大学の八田 耕太郎氏らは、せん妄リスクの高い高齢入院患者を対象に、せん妄軽減に対するオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントの有用性を評価した。JAMA Network Open誌2024年8月1日号の報告。 2020年10月22日~2022年12月23日、日本の医療機関50施設において二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化臨床試験を実施した。研究対象集団は、せん妄リスクが高く、急性疾患または待機的手術のために入院した65~90歳の日本人高齢者。データ分析は、2023年1月23日~3月13日に実施した。対象患者は、入院中に最大7日間のスボレキサント15mg/日就寝前投与を行うスボレキサント群またはプラセボ投与を行う対照群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要エンドポイントであるせん妄は、入院中にDSM-Vの基準に従い診断した。両群間におけるせん妄発生の違いを分析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は203例、スボレキサント群101例(平均年齢:81.5±4.5歳、男性:52例[51.5%]、女性:49例[48.5%])、対照群102例(平均年齢:82.0±4.9歳、男性:45例[44.1%]、女性:57例[55.9%])であった。・せん妄が発生した患者は、スボレキサント群で17例(16.8%)、対照群で27例(26.5%)であった(差:−8.7%、95%信頼区間:−20.1〜2.6、p=0.13)。・有害事象は、両群間で同様であった。 著者らは「せん妄リスクの高い高齢入院患者に対するスボレキサント投与は、対照群と比較し、せん妄発生率が低かったが、統計学的に有意な差は認められなかった。今後は、とくに過活動性を伴うせん妄の軽減に対するスボレキサントの有用性を評価するために、さらなる研究が求められる」としている。

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第227回 Nature誌の予言的中?再生医療の早期承認の現状は…

科学誌「Nature誌」の“予言”は正しかったのか? 2015年12月、同誌のエディトリアルに「Stem the tide(流れを止めよ)」というやや過激なタイトルの論評が掲載されたことを覚えている人もいるのではないだろうか?ちなみにこの論評には「Japan has introduced an unproven system to make patients pay for clinical trials(日本は臨床試験費用を患者に支払わせる実績のない制度を導入)」とのサブタイトルが付け加えられていた。Nature誌が批判した日本の制度とは、2014年11月にスタートした再生医療等製品に関する早期承認(条件および期限付承認)制度のことである。同制度はアンメットメディカルニーズで患者数が少なく、二重盲検比較試験実施も困難な再生医療等製品について、有効性が推定され、安全性が認められたものを、条件や期限を設けたうえで早期承認する仕組み。承認後は製造販売後使用成績調査や製造販売後臨床試験を計画・実施し、7年を超えない範囲で有効性・安全性を検証したうえで、期限内に再度承認申請して本承認(正式承認)を取得する。Nature誌の論評の直前、厚生労働省(以下、厚労省)の中央社会保険医療協議会は、同制度での承認第1号となった虚血性心疾患に伴う重症心不全治療のヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」(テルモ)の保険償還価格を決定していた。ハートシートは患者の大腿部から採取した筋肉組織内の骨格筋芽細胞を培養してシート状にし、患者の心臓表面に移植する製品。念のために言うと、Nature誌による批判の本丸は、同制度の承認の仕方そのものというよりは保険償還に関する点である。通常、製薬企業などが新たな治療薬や治療製品を開発する際は、開発費用は当然ながら企業側が全額負担する。しかし、条件付き承認制度では、企業は暫定承認状態で販売が可能になり、最低でも本承認の可否が決定するまでの期間、保険診療を通じた公費負担と患者の一部自己負担が製品の販売収益となる。そしてこの間にも企業側は本承認に向けた臨床試験を実施する。つまるところ、暫定承認期間中に、本来、企業負担で行うべき臨床試験費用の一部を事実上患者が負担し、効果が証明できずに本承認を得られなかったとしても過去の患者負担が返還されるわけでもない。企業が負うべきリスクを患者に付け回している、というのがNature誌の主張だ。そしてNature誌の論評では「条件付きかどうかに関わらず、すでに承認された医薬品を制御するのは容易ではないだろう。評価が甘く、医薬品の効果が明らかにされない、あるいは流通から排除されないなど生ぬるい評価が行われれば、日本は効果のない治療薬であふれてしまう国になる可能性がある」とまで言い切った。2014年から10年、制度利用の状況このハートシート以降、条件付き早期承認制度を利用して承認を取得したのは、脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善を適応としたヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞「ステミラック」(ニプロ)、慢性動脈閉塞症での潰瘍の改善を適応とする「コラテジェン(一般名:ベペルミノゲンペルプラスミド)」(アンジェス)、悪性神経膠腫を適応とする「デリタクト(一般名:テセルパツレブ)」がある。そして今年7月19日に開催された厚労省の薬事審議会の下部会議体である再生医療等製品・生物由来技術部会は、ハートシートについてメーカーが提出した使用成績調査49例とハートシートを移植しない心不全患者による対照群の臨床研究102例の比較検討から、主要評価項目である心臓疾患関連死までの期間、副次評価項目である左室駆出率(LVEF)のいずれでもハートシートの優越性は確認できなかったと評価し、「本承認は適切ではない」との判断を下した。また、これに先立つ6月24日、同じく条件付き早期承認を取得していた前述のコラテジェンでも動きがあった。製造・販売元のアンジェスが「HGF 遺伝子治療用製品『コラテジェン』の開発販売戦略の変更に関するお知らせ」なるプレスリリースを公表。同社はすでに2023年5月に本承認に向けた申請を行っていたが、プレスリリースでは「非盲検下で実施した市販後調査では、二重盲検の国内第III相臨床試験成績を再現できなかったことから上記申請を一旦取り下げ」と述べ、6月27日付で本承認申請を取り下げた。率直に言って、データを提出して本承認への申請を行っていながら、1年後には第III相試験成績を再現できなかったと申請を取り下げるのはかなり意味不明である。厚労省側は前述の7月19日の部会にコラテジェンに対するアンジェスの対応を報告。結果としてハートシートとコラテジェン共に暫定承認が失効した。制度発足から10年で、条件付き早期承認制度を利用して承認を受けた4製品のうち2製品が市場から姿を消したことになる。つまり同制度の暫定“打率”は5割という、医療製品としてはあまり望ましくない数字だ。薬事審議会後の厚労省医薬局の医療機器審査管理課の担当者による記者ブリーフィングでは、審議会委員から「今後こういったことが続かないように制度運用での有効な措置を考えるべきだ」との意見も出たことが明らかにされた。ある意味、当然の反応だろう。もっとも今回、医療機器審査管理課が公表したハートシート、コラテジェンの審議結果では、いずれも「有効性が推定されるとした条件及び期限付承認時の判断は否定されないものの」とのただし書きが付いた。さて、そのハートシートが条件付き期限付き承認を受けた当時の審査報告書に今回改めて目を通してみた。当時の審査報告何とも評価が難しいのは、承認の前提になった国内臨床試験が症例数7例の単群試験である点だ。この7例は▽慢性虚血性心疾患患者▽NYHA心機能分類III~IV度▽ジギタリス、利尿薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、アルドステロン拮抗薬、経口強心薬といった最大限の薬物療法を行っているにもかかわらず心不全状態にある▽20歳以上▽標準的な治療法に冠動脈バイパス術(CABG)、僧帽弁形成術、左室形成術、心臓再同期療法(CRT)、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施して3ヵ月以上経過しているにもかかわらず心不全の悪化が危慎される▽エントリー時の安静時LVEF(心エコー図検査) が35%以下、を満たす重症心不全患者である。実際の7例の詳細を見ると、年齢は35~71歳、NYHA心機能分類は全員がIII度、LVEFが22~33%。治療では全例がPCIかCABGを施行し、5例はその両方を施行していた。薬物治療では利尿薬、ACE阻害薬、β遮断薬のうちどれか2種類は必ず服用しており、心不全治療目的の治療薬は3~7種類を服用していた状態である。ハートシートによる治療は、開胸手術が必要になるが、この7例の状態はそれを行うだけでもかなりリスクの高い症例であることがわかる。同時にこれらの症例では、意図して対照群を設定して比較試験を行うことは、現実的にも倫理的にもかなり困難だろう。国内臨床試験の主要評価項目はLVEFの変化量である。ハードエンドポイントを意識するならば、心疾患関連死を見るべきかもしれないが、やはりこの試験セッティングでは難しいと言わざるを得ない。こうしたさまざまな制約の中で行われた臨床試験結果はどのようなものだったのか?まず、LVEFだが、ご存じのようにこの数値の算出には、心プールシンチグラフィ、心エコー、心臓CTなどの検査を行う必要があり、この中で最もバイアスが入りにくいのは心プールシンチグラフィである。臨床試験では、心プールシンチグラフィのデータでメインの評価を行っており、事前に設定したLVEFの変化量に基づく改善度の判定基準は、「悪化」が-3%未満、「維持」が-3%以上+5%未満、「改善」が+5%以上。ハートシート移植後26週時点での結果は「悪化」が2例、「維持」が5例、「改善」が0例だった。ちなみの副次評価項目では心エコー、心臓CTによるLVEF変化量も評価されており、前述の改善度判定基準に基づくならば、心エコーでは全例が「改善」、心臓CTでは「維持」が5例、「改善」が1例、残る1例はデータなし。LVEF算出において、心エコーはもっともバイアスが入りやすいと言われているが、さもありなんと思わせる結果でもある。ちなみに試験の有効性評価の設定では、試験対象患者が時問経過とともに悪化が危慎される重症心不全患者であったことから、「維持」以上を有効としたため、心プールシンチグラフィの結果では7例中5例が有効とされた。もっともここに示したデータからもわかるように、評価結果に一貫性があるとは言い難い。この点はメーカー側も十分承知していたようで、心臓外科医1名、循環器内科医2名の計3名からなる第三者委員会を組織し、各症例のデータなどを提供して症例ごとの評価を仰いでいる。審査報告書にあるその評価は「有効」が5例、「判定不能」が2例。とはいえ、有効と評価されていた症例でも、その評価にはある種の留保条件的なものが提示されたものもあった。そして最終的な医薬品医療機器総合機構(PMDA)の評価は「国内治験における本品の有効性の評価は限定的であるものの、個別症例に対する総合的な評価に基づき、標準的な薬物療法が奏効しない重症心不全患者に対して本品は一定の有効性が期待できると考える」とした。申請者、評価者、それぞれの努力がにじむ結果であり、今から振り返ってこの評価が妥当ではなかったとは言い切れないだろう。しかしながら、審査報告書を事細かに読むと、たとえば国内臨床試験の主要評価項目であるLVEF変化量についてPMDAは「申請者が設定した『悪化』、『維持』及び『改善』の各判定基準の臨床的意義は必ずしも明確ではないが」などと表現しており、あえて私見を言うならば、「第1号」ゆえの期待、もっと言えば“ご祝儀“意識も何となく感じてしまうのである。もっともNature誌のような酷評まではさすがに同意はしない。今回、薬事審議会が不承認の判断を下したことで「効果のない治療薬であふれてしまう国」という“最悪“の状況は回避されている。とはいえ、今後の同制度の運用にはかなり課題があることを示したのは確かだろうというのは、ほぼ万人に共通する認識ではないだろうか?

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ホットフラッシュに新規NK-1,3受容体拮抗薬が有効/JAMA

 選択的ニューロキニン(NK)-1,3受容体拮抗薬elinzanetantは、中等度~重度の更年期血管運動神経症状(vasomotor symptoms:VMS)に対し有効で、忍容性も良好であった。米国・バージニア大学のJoAnn V. Pinkerton氏らが、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「OASIS 1試験」および「OASIS 2試験」の結果を報告した。更年期VMSに対する安全で効果的な非ホルモン治療が必要とされていた。JAMA誌オンライン版2024年8月22日号掲載の報告。中等度~重度のVMSを有する女性をelinzanetant群とプラセボ群に無作為化 OASIS 1試験およびOASIS 2試験は、同一の試験方法により米国および欧州の異なる施設で並行して実施された(OASIS 1試験は2021年8月27日~2023年11月27日に米国、欧州、イスラエルの77施設、OASIS 2試験は2021年10月29日~2023年10月10日に米国、カナダ、欧州の77施設)。 対象は、中等度~重度のVMSを有する40~65歳の閉経後女性で、適格参加者をelinzanetant群(120mgを1日1回26週間経口投与)、またはプラセボ群(プラセボを12週間投与後、elinzanetant120mgを14週間投与)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ホットフラッシュを評価する電子日誌(electronic hot flash daily diary)で測定された、ベースラインから4週時および12週時までの中等度~重度VMSの頻度と重症度の平均変化量であった。重要な副次エンドポイントは、睡眠障害を評価する患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcomes Measurement Information System Sleep Disturbance Short Form 8b:PROMIS SD-SF-8b)総スコアならびに更年期特有のQOL質問票(Menopause-Specific Quality of Life questionnaire:MENQOL)総スコアの、ベースラインから12週時までの変化量であった。VMSの頻度と重症度、睡眠障害、更年期関連QOLがelinzanetant群で有意に改善 適格参加者がelinzanetant群(OASIS 1試験199例、OASIS 2試験200例)またはプラセボ群(同:197例、200例)に無作為に割り付けられた。参加者の平均(±SD)年齢はOASIS 1試験が54.6±4.9歳、OASIS 2試験が54.6±4.8歳であった。それぞれ計309例(78.0%)および324例(81.0%)が試験を完了した。 ベースラインにおける24時間当たりのVMS頻度(平均±SD)は、OASIS 1試験でelinzanetant群13.4±6.6、プラセボ群14.3±13.9、OASIS 2試験でそれぞれ14.7±11.1、16.2±11.2であった。また、ベースラインにおけるVMS重症度は、OASIS 1試験で2.6±0.2、2.5±0.2、OASIS 2試験で2.5±0.2、2.5±0.2であった。 elinzanetant群はプラセボ群と比較して、4週時および12週時のVMS頻度が有意に減少した。群間差は4週時がOASIS 1試験で-3.3(95%信頼区間[CI]:-4.5~-2.1、p<0.001)、OASIS 2試験で-3.0(-4.4~-1.7、p<0.001)、12週時がそれぞれ-3.2(-4.8~-1.6、p<0.001)、-3.2(-4.6~-1.9、p<0.001)であった。 同様にelinzanetant群はプラセボ群と比較して、4週時および12週時のVMSの重症度が改善した。群間差は4週時がOASIS 1試験で-0.3(95%CI:-0.4~-0.2、p<0.001)、OASIS 2試験で-0.2(-0.3~-0.1、p<0.001)、12週時がそれぞれ-0.4(-0.5~-0.3、p<0.001)、-0.3(-0.4~-0.1、P<0.001)であった。 重要な副次エンドポイント(睡眠障害、更年期関連QOL)についても、両試験においてプラセボに対しelinzanetant群で有意な改善が認められた。 elinzanetant群の安全性プロファイルは良好であった。

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臨床意思決定支援システム導入で、プライマリケアでの降圧治療が改善/BMJ

 中国のプライマリケアでは、通常治療と比較して臨床意思決定支援システム(clinical decision support system:CDSS)の導入により、ガイドラインに沿った適切な降圧治療の実践が改善され、結果として血圧の緩やかな低下をもたらしたことから、CDSSは安全かつ効率的に高血圧に対するよりよい治療を提供するための有望なアプローチであることが、中国・National Clinical Research Centre for Cardiovascular DiseasesのJiali Song氏らLIGHT Collaborative Groupが実施した「LIGHT試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年7月23日号で報告された。中国の94プライマリケア施設でのクラスター無作為化試験 LIGHT試験は、中国の4つの都市部地域の94施設で実施した実践的な非盲検クラスター無作為化試験であり、2019年8月~2021年に患者を登録した(Chinese Academy of Medical Sciences innovation fund for medical scienceなどの助成を受けた)。 94のプライマリケア施設のうち、46施設をCDSSを受ける群に、48施設を通常治療を受ける群(対照)に無作為に割り付けた。CDSS群では、電子健康記録(EHR)に基づき、降圧薬の開始、漸増、切り換えについて特定のガイドラインに準拠したレジメンを患者に推奨し、通常治療群では同じEHRを用いるが、CDSSを使用せずに通常治療を行った。 対象は、ACE阻害薬またはARB、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬のうち0~2種類のクラスの降圧薬を使用し、収縮期血圧<180mmHg、拡張期血圧<110mmHgの高血圧患者であった。 主要アウトカムは、高血圧関連の受診のうちガイドラインに準拠した適切な治療が行われた割合とした。適切な治療が行われた受診の割合が15.2%高い 1万2,137例を登録した。CDSS群が5,755例(総受診回数2万3,113回)、通常治療群は6,382例(2万7,868回)であった。全体の平均年齢は61(SD 13)歳、42.5%が女性だった。平均収縮期血圧は134.1(SD 14.8)mmHgで、92.3%が少なくとも1種類のクラスの降圧薬を使用していた。 追跡期間中央値11.6ヵ月の時点で、適切な治療が行われた受診の割合は、通常治療群が62.2%(1万7,328/2万7,868回)であったのに対し、CDSS群は77.8%(1万7,975/2万3,113回)と有意に優れた(絶対群間差:15.2%ポイント[95%信頼区間[CI]:10.7~19.8、p<0.001]、オッズ比:2.17[95%CI:1.75~2.69、p<0.001])。<140/90mmHg達成割合も良好な傾向 最終受診時の収縮期血圧は、通常治療群がベースラインから0.3mmHg上昇したのに比べ、CDSS群は1.5mmHg低下し、その差は-1.6mmHg(95%CI:-2.7~-0.5)とCDSS群で有意に良好であった(p=0.006)。また、血圧コントロール率(最終受診時の<140/90mmHgの達成割合)は、CDSS群が69.0%(3,415/4,952回)、通常治療群は64.6%(3,778/5,845回)であり、群間差は4.4%ポイント(95%CI:-0.7~9.5、p=0.07)だった。 患者報告による降圧薬治療関連の有害事象はまれであり、発現頻度は両群間で同程度であった。 著者は、「CDSSは、高血圧に対する質の高い治療へのアクセスと公平性を改善するための、低コストで効率的、かつ拡張性に優れ、持続可能な手段として機能する可能性がある」と述べ、「高血圧の管理にCDSSを用いる戦略は、とくに中国のような心血管疾患の負担が大きく、医療資源に制約のある地域にとって、質の高い高血圧治療を効率的かつ安全に提供する有望なアプローチになると考えられる」としている。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるリサンキズマブの有用性 (解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療は、生物学的生物学的製剤や低分子化合物の出現により大きく変化している。わが国では、既存治療である5-ASA製剤、ステロイド、アザチオプリン、6-MP等に対して効果不十分または不耐容となったUC患者には、インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNF阻害薬、インターロイキン(IL)阻害薬のウステキヌマブやミリキズマブ、インテグリン拮抗薬であるベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のトファシチニブやフィルゴチニブなどの使用が推奨されている(『潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和5年度改訂版(令和6年3月31日)』厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和5年度 総括・分担研究報告書)。しかしながら、中等度以上の活動性を有するUC症例の中には新たな薬剤でも十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される患者が少なくなく、新たな作用機序を有する治療薬が次々と開発されている。 今回、日本人を含む中等度から重度のUC患者を対象としたUCの寛解導入および寛解維持に対する新たなIL阻害薬であるリサンキズマブの有効性と安全性を検証した国際共同試験の結果が2024年7月22日号のJAMA誌に掲載された。なお、わが国の保険診療現場ではIL阻害薬としてIL-12とIL-23に共通するp40サブユニットを標的とするウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)とIL-23に特有のp19サブユニットを標的とするミリキズマブ(同:オンボー)が使用されている。 リサンキズマブ(同:スキリージ)はIL-23p19サブユニットを選択的に標的としてIL-23受容体を介したシグナル伝達を阻害するモノクローナル抗体であり、わが国でクローン病、尋常性乾癬、乾癬性関節炎の治療薬として、すでに薬事承認および保険適用を有している。今回は、中等度以上のUCに対する寛解導入および寛解維持目的とした治療薬として2024年6月に薬事承認を取得している。なお、リサンキズマブはウステキヌマブと同じIL-12ファミリーに属する炎症性サイトカインを標的とするが、IL-23のp19サブユニットに対してのみ特異的に結合して大腸粘膜の炎症を抑えることから感染症や悪性腫瘍の発生リスクを軽減する可能性が期待されている。 今回も昨年承認されたミリキズマブと同様、国際共同治験の成績がトップジャーナルに掲載される前に薬事承認されていることは驚きであるが、今後は国際共同治験の結果がジャーナルに掲載される前に保険適用の承認を取得する薬剤が増加するものと思われる。 一方、難治性のUCに対する薬物療法に関する臨床現場からの要望としては、既存の薬物治療に抵抗性を示す患者を対象として、プラセボを対照とした臨床試験の結果から次々に市販されている生物学的製剤それぞれの役割と具体的な使用方法に関するガイドラインの改訂が必要と思われる。

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中等症~重症アトピー性皮膚炎、ネモリズマブ追加で治療成功率が向上/Lancet

 そう痒を伴う中等症~重症のアトピー性皮膚炎を有する成人および青少年の治療において、基礎治療(局所コルチコステロイド[TCS]±局所カルシニューリン阻害薬[TCI])単独と比較して、基礎治療+ネモリズマブ(インターロイキン-31受容体サブユニットα拮抗薬)は、治療成功および皮膚症状改善の達成率の向上をもたらし、安全性プロファイルは両群でほぼ同様であることが、米国・ジョージ・ワシントン大学のJonathan I. Silverberg氏らが実施した2つの臨床試験(ARCADIA 1試験、ARCADIA 2試験)で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年8月3日号に掲載された。同じデザインの2つの無作為化プラセボ対照第III相試験 ARCADIA 1試験とARCADIA 2試験は、同じデザインの48週の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、ARCADIA 1試験は2019年8月~2021年9月に14ヵ国161施設で、ARCADIA 2試験は2019年8月~2022年11月に11ヵ国120施設で患者を登録した(Galdermaの助成を受けた)。 2つの試験とも、年齢12歳以上、そう痒を伴う中等症~重症のアトピー性皮膚炎(登録の2年以上前に診断)で、TCS±TCIによる治療で効果が不十分であった患者を対象とした。 被験者を、基礎治療(TCS±TCI)との併用で、ネモリズマブ30mg(ベースラインの負荷用量60mg)を4週に1回皮下投与する群、またはプラセボ群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは2つで、16週目の時点でのInvestigator's Global Assessment(IGA)に基づく治療成功(IGAが0[皮膚病変消失]または1[同ほぼ消失]で、かつベースラインから2段階以上の改善)、およびEczema Area and Severity Index(EASI)のベースラインから75%以上の改善(EASI-75)とした。9つの主な副次エンドポイントもすべて有意に改善 2つの試験に合計1,728例を登録した。ネモリズマブ群に1,142例(ARCADIA 1試験620例[平均年齢33.5歳、女性48%]、ARCADIA 2試験522例[34.9歳、52%])、プラセボ群に586例(321例[33.3歳、45%]、265例[35.2歳、51%])を割り付けた。 両試験とも2つの主要エンドポイントを満たした。16週時のIGAに基づく治療成功の割合はプラセボ群に比べネモリズマブ群で有意に優れた(ARCADIA 1試験:36% vs.25%、補正後群間差:11.5%[97.5%信頼区間[CI]:4.7~18.3]、p=0.0003/ARCADIA 2試験:38% vs.26%、12.2%[4.6~19.8]、p=0.0006)。 また、EASI-75の達成割合も、プラセボ群に比しネモリズマブ群で有意に良好だった(ARCADIA 1試験:44% vs.29%、補正後群間差:14.9%[97.5%CI:7.8~22.0]、p<0.0001/ARCADIA 2試験:42% vs.30%、12.5%[4.6~20.3]、p=0.0006)。 9つの主な副次エンドポイント(そう痒[Peak Pruritus Numerical Rating Scale:PP-NRS]、睡眠[Sleep Disturbance Numerical Rating Scale:SD-NRS]など)はいずれも、ネモリズマブ群で有意な有益性を認めた。ネモリズマブ関連の可能性がある有害事象は1% 安全性プロファイルは両群でほぼ同様だった。少なくとも1件の試験治療下における有害事象を発現した患者は、ネモリズマブ群ではARCADIA 1試験で50%(306/616例)、ARCADIA 2試験で41%(215/519例)、プラセボ群ではそれぞれ45%(146/321例)および44%(117/263例)であった。このうち重篤な有害事象は、ネモリズマブ群ではARCADIA 1試験で1%(6例)、ARCADIA 2試験で3%(13例)、プラセボ群ではそれぞれ1%(4例)および1%(3例)であった。 ネモリズマブ関連の可能性がある治療関連有害事象は、ARCADIA 2試験で5例(1%)に10件報告された。 著者は、「アトピー性皮膚炎は多面的な病態生理を有する疾患で、臨床においてはさまざまな作用機序を有する薬剤を必要とするため、有効な治療法の探索を継続することは重要である」と述べた。

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「かゆみのない」世界の実現には?初期治療とアレルギー結膜炎新薬の役割

参天製薬は、5月に持続性・経眼瞼アレルギー性結膜炎治療剤「アレジオン眼瞼クリーム0.5%」(一般名:エピナスチン塩酸塩、以下アレジオンクリーム)を発売した。これを受け、7月にアレルギー疾患の現状と新薬が果たす役割をテーマとした「『かゆみのない世界』の実現を目指す“これからの”アレルギー結膜炎治療とは」と題したプレスセミナーを行った。日本人の2人に1人がアレルギー性結膜炎、もはや国民病(海老原氏)セミナーでは、順天堂大学の海老原 伸行氏が「アレルギー性結膜炎の病態と疫学、薬物治療について」と題した講演を行った。――アレルギー性疾患の有病率を見ると、アレルギー性結膜疾患が48.7%、アレルギー性鼻炎が36.5%、日本人の2人に1人は何かしらのアレルギーを持っているわけで、もはや国民病といえる。アレルギーの原因を見ると、日本人を対象としたIgE抗体価の調査1)では、39の調査項目のうちスギが58.7%と最多、ヒノキ34.2%など草木類が多いものの、ダニやハウスダストも36~7%と高い。また複数の抗原に反応する「多重抗原陽性者」も多く、7割近くが2つ以上の抗原に反応し、最大で30項目に反応した人もいた。こうした多重抗原陽性者はアレルギー症状が重症かつ罹患期間も長くなる傾向がある。アレルギー症状の中でもっとも多いのが「目のかゆみ」で、100%近い患者が自覚症状がある。かゆみは患者のQOLに大きく影響し、かゆみを筆頭としたアレルギー症状が仕事や勉強に影響を来している、というアンケート結果も多数ある。患者へのアンケートで抗アレルギー点眼薬に求めるものを聞いたところ、計86%の人が「まったく・ほとんどかゆみを感じない状態」を期待しており、薬剤への期待は大きい。現在、アレルギー性結膜炎に使える抗アレルギー薬は、ヒスタミンH1受容体拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬があり、ヒスタミンH1受容体拮抗薬が主流だ。現在、ヒスタミンH1受容体拮抗薬の点眼薬は5剤あり、うち4剤が1日4回投与、1剤が1日2回投与となっている。ここに新たに加わったのが今回発売されたアレジオンクリームで、これだけが1日1回投与となる。投与回数が重要な理由は、点眼薬は内服薬よりもアドヒアランスが低く、投与回数が少ないほどアドヒアランスを高めやすいためだ。アレルギー疾患は初期療法が重要だが、このことがあまり知られていない。多くの患者さんは症状を自覚してから点眼をはじめるが、自覚症状の出る前、具体的には花粉飛散の2週間程度前から点眼をはじめることで症状を抑えられる、というエビデンスがある2)。ただ、自覚症状のない状況における1日4回の点眼はハードルが高い。こうした面からも投与回数が少ない薬剤は受け入れられやすいだろう。症状がなくても、用法通りに点眼することでかゆみを抑えられる(高村氏)続いて、元東京女子医科大学眼科教授・高村 悦子氏が「アレルギー性結膜炎治療の変遷」と題した講演を行った。――抗アレルギー薬が発売されるまで、アレルギー性結膜炎の治療薬はステロイドの点眼薬しかなかった。ステロイド点眼薬は眼圧上昇や感染症の悪化といった副作用があり、毎日使い続けられる薬剤を、というニーズから開発されたのが抗アレルギー点眼薬だった。しかしながら、現在でも多くの患者が「目のかゆみ」を訴えている。症状が改善しない理由の1つに、点眼薬が用法通りに使われていないことがある。1日4回投与する抗ヒスタミン点眼薬を処方された患者に対し、実際の使い方を聞いたアンケート3)では、「症状がひどいとき」は67.3%の人が規定通りの4回もしくはそれ以上の回数を点眼していたが、「症状がラクなとき」はこの割合は10.6%まで急落していた。本来、症状の有り無しにかかわらず、用法を遵守することで薬剤の有効性が上がるが、点眼薬ではこれがなかなか難しく、対症療法的に使われている実態が明らかになった。私自身、このアンケート結果を見て「投与回数に気を取られ、症状がなくても用法遵守することの重要性を患者さんにきちんと伝えていただろうか?」と反省した。以後は、発症期間中はかゆみの有無にかかわらず、用法遵守で点眼するという「プロアクティブ点眼」を積極的に啓蒙するようにしている。とはいえ、この名称では取っ付きにくいので、独自で「あらかじめ点眼」と言い換え、スライドを使って「症状がなくても、用法通りに点眼することでかゆみを抑えられる。あるいは軽くすることができる」と説明している。「あらかじめ点眼」の患者説明用スライド(高村氏作成)画像を拡大するまた、別のアンケート4)では、4回点眼よりも2回点眼の薬剤を処方された人のほうが適正使用していた比率が高く、投与回数が少ないほうがアドヒアランスが高いことが確認された。4回投与だった点眼薬に2回投与が登場し、今回発売されたアレジオンクリームではじめて投与回数が1回になった。投与時間も規定がなく、1日1回塗ればよい。とくに幼児や学童期、身体が不自由な方、認知症の高齢者など、自分での点眼が難しい人とケアする人にとって、1日1回、塗ればよいという手軽さは大きな利点となるはずだ。アレルギー性結膜炎の治療は、洗眼薬によるセルフケア、花粉飛散前の初期療法、花粉飛散時期の用法遵守の点眼の組み合わせが肝要だ。症状が発生してからの対症療法ではなく、かゆみの有無にかかわらず用法遵守で点眼する症状を予防する『あらかじめ点眼』を普及させるため、新たな薬剤に期待したい。アレジオン3製剤の比較画像を拡大する最後に、参天製薬製品開発本部の小山 真治氏が、今回の製品開発の狙いなどについて話した。「1日1回投与を実現するにあたり、効果が長期に持続するクリームという剤形を選択した。結果として幼児や高齢者といった点眼がうまくできない方のニーズも汲み取ることができた。眼瞼クリーム1本当たりの薬価は2回投与の点眼薬に比較して少し高くなるが、1日1回の塗布で使用量も限られるため、トータルの患者負担は大きくは変わらないと考えている。まぶたに塗布するクリーム状の眼薬は独自技術であり、ニーズに応じて他剤に拡大することも検討したい」と説明した。1)岡本 茂樹ほか. 2017年度日本眼科アレルギー学会アレルギー性結膜疾患実態調査. 日本眼科学会雑誌. 2022;126:625-635. 2)深川 和己ほか. 季節性アレルギー性結膜炎に対するエピナスチン塩酸塩点眼薬による初期療法の効果. アレルギー・免疫. 2015;22:1270-1280.3)深川 和己ほか. 季節性アレルギー性結膜炎患者におけるWebアンケートを用いた抗ヒスタミン点眼薬の点眼遵守状況によるQOLへの影響.アレルギーの臨床. 2019;39:29-41.4)福島 敦樹ほか. 季節性アレルギー性結膜炎患者における1日2回の抗ヒスタミン点眼薬の使用状況,自覚症状およびQOLへの影響. アレルギーの臨床. 2021;41:37-46.

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オピオイド拮抗薬ナロキソン、患者自己負担と処方の関連~米国/JAMA

 オピオイド使用障害の治療薬ナロキソンについて、患者の一部自己負担(cost sharing、費用分担)の廃止で、民間保険加入患者およびメディケア患者への処方調剤は増加可能であることが、米国・ミシガン大学のKao-Ping Chua氏らによる検討で示された。オピオイド使用障害による死亡が深刻な米国では、オピオイド死の抑止のために、ナロキソンへのアクセスの障壁を取り除くことが重要なステップとされている。先行研究で、費用分担がナロキソン処方調剤の障壁になっている可能性が示唆されていたが、横断研究のデザインや使用したデータベースが調剤されなかった処方箋を捕捉していないという限界があった。JAMA誌2024年7月9日号掲載の報告。費用分担とナロキソン処方箋の放棄の関連を評価 研究グループは、民間保険とメディケア保険では税控除が通常年初にリセットされることを利用して、横断的な回帰不連続分析により、費用分担とナロキソン処方箋の放棄(ナロキソン処方の非調剤)の関連を評価した。 2020~21年のIQVIA Formulary Impact Analyzer(米国の薬局の処方箋の63%を占める薬局取引データベース)のデータを用い、2021年1月1日より前の60日間および2021年1月1日以後の59日間に発生した民間保険加入患者とメディケア患者のナロキソン点鼻薬の請求情報を解析に組み込んだ。 費用分担は、処方を完遂するために患者が支払った金額と定義。局所線形回帰モデルを用いて、2021年1月1日の費用分担の急な変更と処方箋の放棄の可能性を評価した。また、ファジー回帰不連続分析を行い、費用分担と処方箋放棄との関連を推定した。費用負担の増加は処方箋放棄の確率上昇と関連 解析には、民間保険加入患者7万1,306例(女性4万19例[56.1%])およびメディケア患者10万1,706例(女性6万1,410例[60.4%])のナロキソン請求データ(民間保険加入患者7万3,311件、メディケア患者10万6,076件)が含まれた。 2021年1月1日に、請求1件当たりの平均費用負担は、民間保険加入患者では15.0ドル(95%信頼区間[CI]:13.8~16.2)増加し、メディケア患者では12.3ドル(10.9~13.6ドル)増加した。放棄の確率はそれぞれ4.7ポイント(95%CI:3.2~6.2)、2.8ポイント(1.6~4.1)上昇した。 ファジー回帰不連続分析の結果では、民間保険とメディケアのプランがナロキソンの費用負担を10ドル引き上げる決定が、放棄の確率をそれぞれ3.1ポイント(95%CI:2.2~4.1)、2.3ポイント(1.4~3.2)上昇させることが示唆された。

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片頭痛の予防薬は薬物乱用頭痛も減らす?

 慢性片頭痛に苦しんでいる人は、鎮痛薬を飲み過ぎると薬物乱用頭痛に襲われるという悪循環に陥ることがある。こうした中、片頭痛の予防薬として広く使用されているカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬のatogepant(商品名Qulipta、日本国内未承認)が、薬物乱用頭痛の回避にも役立つ可能性のあることが、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のPeter Goadsby氏らの研究で示された。CGRPは、片頭痛を誘発するタンパク質の1つである。この研究の詳細は、「Neurology」に6月26日掲載された。 慢性片頭痛とは、頭痛が月に15日以上の頻度で起こり、そのうち8日以上が片頭痛の診断基準を満たしている状態と定義されている。今回の研究には、755人の慢性片頭痛患者が参加した。参加者の平均的な1カ月当たりの片頭痛の日数は18.6~19.2日、頭痛薬の使用日数は14.5~15.5日だった。また、頭痛薬の使用歴について報告があった参加者の3分の2に当たる500人(66.2%)が頭痛薬の使用過多の基準を満たしていた。この基準は、頭痛薬の種類がアスピリンやアセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の場合は月に15日以上、トリプタン製剤やエルゴタミン製剤の場合は月に10日以上、複数の頭痛薬を併用した場合は月に10日以上使用した場合と定義された。 参加者は12週間にわたって、1)atogepant 30mgを1日2回、2)atogepant 60mgを1日1回、3)プラセボを摂取する群のいずれかにランダムに割り付けられた。 その結果、頭痛薬使用過多の基準を満たしていた患者のうち、プラセボを使用していた群と比べてatogepant 30mg群では1カ月当たりの片頭痛日数が約3日少なく(最小二乗平均の差−2.7日)、頭痛日数も約3日少なかった(同−2.8)。また、atogepant 60mg群では、プラセボ群と比べて片頭痛日数が約2日少なく(同−1.9)、頭痛日数も約2日少なかった(同−2.1)。Goadsby氏らによると、頭痛薬使用過多の基準を満たしていなかった研究参加者においても、同様の結果が示されたという。 さらに、頭痛薬使用過多の基準を満たしていた患者のうち、1カ月当たりの片頭痛の平均日数が50%以上減少した患者の割合は、プラセボ群の24.9%に対してatogepant 30mg群では44.7%、atogepant 60mg群では41.8%であることも示された。このほか、頭痛薬使用過多の基準を満たした患者の割合も、atogepant 30mg群では61.9%、atogepant 60mg群では52.1%減少したのに対し、プラセボ群では38.3%の減少にとどまっていた。 Goadsby氏は、「片頭痛持ちの人は、衰弱性の症状となることの多い頭痛を抑えるために鎮痛薬を多用する傾向がある。しかし、薬の使い過ぎは薬物乱用頭痛と呼ばれる頭痛を引き起こす可能性があるため、予防的な治療が必要だ」と言う。そして、「この結果に基づけば、atogepantによる治療は頭痛薬の使用量を減らし、薬物乱用頭痛の発生リスクを低下させ得ると考えられる。このことは、片頭痛を抱える人の生活の質(QOL)の向上をもたらす可能性がある」と「Neurology」のニュースリリースの中で述べている。ただし、今後、atogepantの有効性と安全性を評価するためのさらなる研究が必要である。 またGoadsby氏らは、今回の研究の限界として、頭痛や頭痛薬使用の状況が研究参加者の自己報告に基づいているため、報告が正確でない可能性も考えられることを挙げている。なお、この研究はatogepantを製造しているAbbVie社の資金提供により実施された。

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日本のプライマリケアにおける不眠症の治療戦略の実態

 オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬などの新規睡眠薬の導入後、プライマリケア医による不眠症治療実態は、明らかとなっていない。秋田大学の竹島 正浩氏らは、日本のプライマリケア診療における不眠症の治療戦略を調査するため、Webベースのアンケート調査を実施した。BMC Primary Care誌2024年6月18日号の報告。 対象は、プライマリケア医117人。不眠症の各マネジメントオプションの精通度を2段階(精通していない:0、精通している:1)で評価し、不眠症のマネジメント法を9段階リッカート尺度(処方/実施したことがない:1、頻繁に処方/実施している:9)を用いて調査した。マネジメントオプションに精通していないと回答した医師は、処方/実施したことがないとみなした。 主な結果は以下のとおり。・薬物療法に関しては、ほとんどのプライマリケア医が、新規睡眠薬に精通していると回答した。・最も多く使用されていた睡眠薬はスボレキサントであり、次いでレンボレキサント、ラメルテオンであった。・これら新規睡眠薬の9段階リッカート尺度は、入眠障害に対し平均4.8〜5.4ポイント、中途覚醒に対し平均4.0〜4.7ポイントであった。・対照的に、多くのベンゾジアゼピン系睡眠薬は2ポイント未満であり、使用されることは少なかった。・心理療法に関しては、認知行動療法(CBT-I)に精通しているプライマリケア医は、約40%であり、9段階リッカート尺度は平均1.5〜1.6ポイントと、ほとんど行われていなかった。・CBT-Iと比較し、多くの医師はリラクゼーション、睡眠制限法、刺激制御法などに精通していると回答した。このようなプライマリケア医はCBT-Iをやや頻繁に実施し(48〜74%)、スコアは2.6〜3.4ポイントであった。 著者らは、「日本のプライマリケア医は、不眠症に対してCBT-Iをほとんど行っておらず、薬物療法に関しては、ベンゾジアゼピン系睡眠薬ではなく新規睡眠薬を使用する傾向にあった。日本のプライマリケア医による不眠症に対するCBT-Iの利用促進には、教育、簡易またはデジタルCBT-Iの導入、CBT-I専門医との連携構築などが求められる」としている。

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2型糖尿病薬で高K血症リスクが低いのは?/BMJ

 2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬と比較して高カリウム血症のリスクが低いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のEdouard L. Fu氏らによる同国内の3つの医療保険請求データベースを用いた解析結果で示された。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬およびDPP-4阻害薬は、2型糖尿病の治療においてますます用いられるようになっているが、日常臨床における高カリウム血症の予防に関して、これらの薬剤の相対的な有効性は不明であった。著者は、「SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の各クラスにおける個々の薬剤で結果は一貫していることから、クラス効果が示唆される。このことは2型糖尿病患者、とくに高カリウム血症のリスクがある患者へのこれらの薬剤の使用を支持するものである」とまとめている。BMJ誌2024年6月26日号掲載の報告。傾向スコアマッチングでSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬の高K血症の発症を比較 研究グループは、2013年4月~2022年4月の3つの米国医療保険請求データベース(メディケア、Optum’s deidentified Clinformatics Data Mart、MarketScan)を用い、1対1の傾向スコアマッチングにより、新たに治療を開始したSGLT2阻害薬vs.DPP-4阻害薬(コホート1:77万8,908例)、GLP-1受容体作動薬vs.DPP-4阻害薬(コホート2:72万9,820例)、SGLT2阻害薬vs.GLP-1受容体作動薬(コホート3:87万3,460例)の3つのコホートを同定し解析した。 解析対象は、2型糖尿病と診断され、過去365日間に比較対象である2種類の薬剤のいずれかを使用しておらず、年齢18歳以上(メディケアの場合は65歳以上)、コホート登録前に12ヵ月以上継続して保険に加入していた患者であった。 主要アウトカムは、入院または外来における高カリウム血症の診断、副次アウトカムは、外来での追跡中における高カリウム血症(血清カリウム値5.5mmol/L以上)の発症、および入院または救急外来における高カリウム血症の診断とした。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬よりリスクが低い SGLT2阻害薬による治療開始は、DPP-4阻害薬より高カリウム血症の発症率が低く(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.73~0.78)、GLP-1受容体作動薬との比較でも発症率がわずかに低下した(HR:0.92、95%CI:0.89~0.95)。GLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬より高カリウム血症の発症率が低かった(HR:0.79、95%CI:0.77~0.82)。 3年間の絶対リスクは、SGLT2阻害薬(4.6%)がDPP-4阻害薬(7.0%)より2.4%(95%CI:2.1~2.7)低く、GLP-1受容体作動薬(5.7%)がDPP-4阻害薬(7.5%)より1.8%(95%CI:1.4~2.1)低く、SGLT2阻害薬(4.7%)がGLP-1受容体作動薬(6.0%)より1.2%(95%CI:0.9~1.5)低かった。 これらの結果は、副次アウトカム、および年齢、性別、人種、併存疾患、他の薬剤の使用、HbA1c値によって定義されたサブグループ間で一貫していた。SGLT2阻害薬ならびにGLP-1受容体作動薬のDPP-4阻害薬に対する絶対スケールでの有益性(率差)は、心不全、慢性腎臓病、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を使用している患者で最も大きかった。 DPP-4阻害薬と比較して高カリウム血症の発症率が低いことは、SGLT2阻害薬(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン)およびGLP-1受容体作動薬(デュラグルチド、エキセナチド、リラグルチド、セマグルチド)の個々の薬剤で一貫して観察された。

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統合失調症とうつ病の治療ガイドライン普及が睡眠薬処方に及ぼす影響

 信州大学の中村 敏範氏らは、「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」が、日本における統合失調症およびうつ病に対する、精神科医による睡眠薬の処方や処方する睡眠薬の種類に及ぼす影響を調査した。これは、精神疾患の治療ガイドラインによる教育が、精神科医の睡眠薬処方に及ぼす影響を評価した、初めての研究である。BMC Psychiatry誌2024年5月29日号の報告。 EGUIDEプロジェクトは、日本における統合失調症とうつ病のエビデンスに基づく臨床ガイドラインに関する、全国的なプロスペクティブ研究である。2016〜21年にEGUIDEプロジェクト参加施設から退院した患者を対象に、臨床データと処方データを用いて、睡眠薬の処方状況を調査した。EGUIDEプロジェクトに参加している精神科医から処方された患者と参加していない精神科医から処方された患者における、睡眠薬の処方率および各タイプの睡眠薬の処方率を比較した。睡眠薬のタイプは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬、非ベンゾジアゼピン受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬に分類した。EGUIDEプロジェクトが睡眠薬処方に及ぼす影響を評価するため、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、統合失調症患者1万2,161例、うつ病患者6,167例。・EGUIDEプロジェクトに参加した精神科医は、統合失調症患者およびうつ病患者に対し、睡眠薬、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方率が有意に低かった(各々、p<0.001)。 著者らは「EGUIDEプロジェクトは、睡眠薬の処方、とくにベンゾジアゼピン受容体作動薬の処方率削減に、重要な役割を果たしていると考えられる。本結果は、EGUIDEプロジェクトが治療行動の改善に寄与する可能性を示唆している」としている。

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降圧薬による湿疹性皮膚炎リスクの上昇

 湿疹性皮膚炎(アトピー性皮膚炎)と診断される高齢者が増加しているが、多くの湿疹研究は小児および若年成人を対象としており、高齢者の湿疹の病態および治療法はよく知られていない。高齢者の湿疹の背景に薬物、とくに降圧薬が関与している可能性を示唆する研究結果が発表された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMorgan Ye氏らによる本研究は、JAMA Dermatology誌オンライン版2024年5月22日号に掲載された。 本研究は縦断コホート研究であり、英国The Health Improvement Networkに参加するプライマリケア診療所における60歳以上の患者を対象とした。1994年1月1日~2015年1月1日のデータを対象とし、解析は2020年1月6日~2024年2月6日に行われた。主要アウトカムは湿疹性皮膚炎の新規診断で、最も一般的な5つの湿疹コードのうち1つの初診日によって判断した。 主な結果は以下のとおり。・156万1,358例の高齢者(平均年齢67[SD 9]歳、女性54%)が対象となった。45%が高血圧の診断を受けたことがあり、追跡期間中央値6年(IQR:3~11年)における湿疹性皮膚炎の全有病率は6.7%だった。・湿疹性皮膚炎の罹患率は、降圧薬投与群のほうが非投与群よりも高かった(12例vs.9例/1,000人年)。・Cox比例ハザードモデル調整後、いずれかの降圧薬を投与された参加者は、いずれかの湿疹性皮膚炎のリスクが29%増加した(ハザード比[HR]:1.29、95%信頼区間[CI]:1.26~1.31)。・降圧薬を個別に評価したところ、皮膚炎リスクへの影響が大きいのは利尿薬(HR:1.21、95%CI:1.19~1.24)とカルシウム拮抗薬(HR:1.16、95%CI:1.14~1.18)で、小さいのはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(HR:1.02、95%CI:1.00~1.04)とβ遮断薬(HR:1.04、95%CI:1.02~1.06)であった。 研究者らは「このコホート研究により、降圧薬は湿疹性皮膚炎の増加と関連しており、その関連は利尿薬とカルシウム拮抗薬で大きく、ACE阻害薬とβ遮断薬で小さいことが明らかになった。この関連性の根底にある機序を理解するためにはさらなる研究が必要だが、これらのデータは、高齢患者の湿疹性皮膚炎の管理指針として臨床に役立つ可能性がある」としている。

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PPIとH2ブロッカーで頭痛リスク上昇か

 胸焼けを抑えるための薬を服用している人は、服用していない人に比べて片頭痛やその他の重度の頭痛のリスクが高い可能性のあることが、新たな研究で示唆された。このようなリスク上昇は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)、制酸薬など、検討した全ての種類の胃酸分泌抑制薬で認められたという。米メリーランド大学栄養学・食品科学部門のMargaret Slavin氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に4月24日掲載された。 Slavin氏は、「胃酸分泌抑制薬は幅広い用途で使用されている。この薬剤と片頭痛や重度の頭痛との潜在的な関連を考慮すると、今回の研究結果はさらなる調査実施の必要性を示したものだと言えるだろう」と述べる。同氏はさらに、「胃酸分泌抑制薬に関しては、しばしば過剰処方が指摘されている。また、PPIの長期使用により認知症リスクなど他のリスクが上昇する可能性を示唆する新たな研究結果も報告されている」と付け加えている。 胃酸が食道まで逆流する胃酸逆流は、食後や横になっているときに起こり、胸焼けや胃潰瘍を引き起こす。頻回な胃酸逆流は胃食道逆流症(GERD)の原因となり、それが食道がんにつながることもある。今回、Slavin氏らは、胃酸分泌抑制薬(PPI、H2ブロッカー、制酸薬)を使用している成人患者1万1,818人を対象に、胃酸分泌抑制薬の使用と片頭痛や重度の頭痛との関連を検討した。 胃酸分泌抑制薬使用者と非使用者での片頭痛や重度の頭痛の有病率は、PPIでそれぞれ25%と19%、H2ブロッカーで25%と20%、制酸薬で22%と20%であった。年齢や性別など頭痛に影響を及ぼす因子を調整して解析した結果、胃酸分泌抑制薬の使用者は非使用者に比べて、偏頭痛や重度の頭痛の発症リスクが有意に高いことが明らかになった。リスクは、PPI使用者で70%、H2ブロッカー使用者で40%、制酸薬使用者で30%の増加であった。 このような結果が示されたものの、Slavin氏は、この研究で対象としたのは処方薬のみであり、処方薬よりも薬効が低い傾向にある市販薬は対象としていない点を強調。その上で、「医師に相談することなく使用中の胃酸分泌抑制薬の服用を中止すべきではない」と主張している。同氏は、「胃酸の逆流とそれに付随する症状を抑えるために胃酸分泌抑制薬を必要とする人は数多く存在する。胃酸分泌抑制薬やサプリメントを使用していて、片頭痛や重度の頭痛に悩まされている人は、薬の服用を続けるべきかどうかを医師と相談する必要がある」と「Neurology」誌のニュースリリースの中で述べている。

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世界初、「塗る」アレルギー性結膜炎治療薬が登場/参天

 参天製薬などは、5月22日、持続性・経眼瞼アレルギー性結膜炎治療剤「アレジオン眼瞼クリーム0.5%」(一般名:エピナスチン塩酸塩、以下アレジオンクリーム)の発売を開始したと発表した。塗布するクリームタイプのアレルギー性結膜炎治療薬は世界初となる。 国内で無症状期のアレルギー性結膜炎患者を対象として行われた第III相試験(プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験)では、アレルギー性結膜炎の主症状である眼そう痒感スコアおよび結膜充血スコアにおいて、アレジオンクリームのプラセボ眼瞼クリームに対する優越性が検証された。また、長期投与試験において認められた副作用は眼瞼そう痒症1.6%(2/124例)および眼瞼紅斑0.8%(1/124例)で、重篤な副作用は認められなかった。 現在、アレルギー性結膜炎に対しては同社の「アレジオン点眼液」をはじめとするヒスタミンH1受容体拮抗薬の点眼薬が広く処方されているが、1日2回または4回の点眼が必要となる。アレジオンクリームは1日1回の塗布で終日にわたって有効性を維持でき、点眼が困難な患者でも容易かつ適切に投与しやすいことが特長で、アレジオン点眼薬と同様にコンタクトレンズ装着時にも使用できる。 従来の点眼薬との使い分けについて参天製薬は「アレジオンクリームは患者さんの投薬負担の軽減が期待でき、服薬コンプライアンス、QOL向上にも貢献できると考えている。新規治療だけでなく、点眼薬で治療中の患者さんの置き換えも視野に入れている」とする。また、点眼薬とアレジオンクリームの併用については、「臨床試験では他剤の併用例はなく、他剤と併用した場合の効果や安全性は現時点では不明だが、日本眼科学会の『アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン』では、抗アレルギー点眼薬だけでは効果不十分な場合には、ステロイド点眼薬、NSAIDs点眼薬の併用、また花粉など抗原に対するセルフケアとして洗眼薬の使用が勧められていることから、そうした治療薬との併用が必要な場合もあると考える。一方で、同ガイドラインに抗アレルギー点眼薬同士の併用を推奨する記載はなく、アレジオンクリームは前例がない剤形であることからも、追加薬剤としての抗アレルギー点眼薬との併用治療の考え方などは現状では不明である」としている。製品概要製品名:アレジオン眼瞼クリーム 0.5%一般名:エピナスチン塩酸塩性状:白色~淡黄白色のクリーム剤効能・効果:アレルギー性結膜炎用法・用量:通常、適量を1日1回上下眼瞼に塗布する貯法:室温保存包装:2gチューブ入×10本薬価:1,686.7円/g保険給付上の注意:なし発売日:2024年5月22日

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ゾルベツキシマブ併用化学療法への適切な制吐薬の対応/日本癌治療学会

 5月22日に薬価収載された「CLDN18.2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がん」を適応症とする抗Claudin18.2抗体薬ゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)。本薬はCLDN18.2陽性(免疫染色にて75%以上のがん細胞において発現が2+以上)の治癒切除不能な進行・再発の胃がんの治療成績の向上が期待される。その一方で、臨床試験の段階で催吐性が高いことも報告されていた。 この背景を踏まえ、今回、制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループの青儀 健二郎氏(同 委員長)らは、ゾルベツキシマブの導入に際し、日常診療において適切な制吐療法を遅滞なく行うことができるよう、『HER2陰性CLDN18.2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がんに対するゾルベツキシマブ併用一次化学療法における制吐療法』に関する速報1)を日本癌治療学会のホームページに公開した。 この速報では、臨床試験結果の概要、ゾルベツキシマブ併用化学療法の催吐リスク、悪心・嘔吐の発現時期などについて詳細に触れられているが、本稿では制吐薬適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループからの提言に焦点を当ててお伝えする。制吐薬の投与タイミング、適切な治療薬は? 適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループは、ゾルベツキシマブが日常診療に導入されるに際して、患者のQOLの維持や治療継続のために、以下の点に注意して適切な制吐療法を行うよう提言している。―――――――――――――――――――・ゾルベツキシマブの催吐性は標的に対するon-targetの有害事象である。・ゾルベツキシマブを併用する化学療法(フッ化ピリミジン系抗がん剤+オキサリプラチン)レジメンの催吐性については、高度催吐性リスクに分類するのが妥当であると考えられる。・悪心・嘔吐は、ゾルベツキシマブ投与開始1時間以内に発現することが多いため、一次予防・早期対応が必要である。とくに初回はゾルベツキシマブの投与量が多いため注意が必要である。2回目以降の悪心・嘔吐の発現頻度は低下するが、初回だけでなく点滴速度を含めた適切な制吐療法を継続して行うことが重要である。・併用されるフッ化ピリミジン系抗がん剤+オキサリプラチンは中等度催吐性リスクであることから、一次予防を目的とした制吐療法として5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+ステロイドの3剤併用は必須である。治験では「3剤併用療法+others」において最も良好な傾向が認められたが、「others」として何を用いるかについては一定しておらず、抗ヒスタミン薬やオランザピンなどが使われていた。・ただし、これまでの制吐療法の臨床試験では抗ヒスタミン薬の制吐作用は明らかではなく、治験に参加した医師の考察ではあるが、抗ヒスタミン薬による眠気が制吐効果をもたらした可能性もある。・ゾルベツキシマブによる悪心・嘔吐は投与後早期から発現することが多いため、通常行われている化学療法当日の夕方もしくは眠前のオランザピン投与では、ゾルベツキシマブによる急性期の悪心・嘔吐への対応策とならないことに注意が必要であり、オランザピンの前日眠前や当日朝の投与の追加も考えられる。また、ドパミンD2受容体拮抗薬もレスキュー薬も適宜使用する。・悪心・嘔吐発現時の対処法として制吐薬はどの組み合わせでも約半数で悪心・嘔吐がみられたため、制吐薬以外の対応方法も求められる。ゾルベツキシマブの投与速度と催吐性の関連性があり、点滴速度によって催吐性が異なる(中断や速度低下により軽減する)ことが経験されているため、点滴速度の調整を適切に行う必要がある。初回投与時には点滴速度を遅くして開始し、悪心・嘔吐に注意しながら徐々に速度を上げて、悪心・嘔吐発現時には中断、速度を下げるなど柔軟に対応し、個々の患者での適正な投与速度を見つけることが重要である。このように速度調節を行うために長時間の点滴時間を要する可能性を考慮して、とくに初回投与時には入院での治療を提案してもよいと思われる。・遅発期の悪心・嘔吐については結果が公表されていないが、治験に参加した医師によると、遅発期にも悪心・嘔吐がみられたため、高度催吐性リスクに対する制吐療法として推奨されている遅発期での制吐目的のためのオランザピン併用が望ましい。・治験において、ゾルベツキシマブ/プラセボの減量は認められていなかったため、悪心・嘔吐対策としてのゾルベツキシマブの減量は慎重に検討すべきである。・ゾルベツキシマブを含む化学療法の治療選択に際して、患者に十分な情報を提供し、担当医に加え、看護師、薬剤師などが多角的に継続的に関わり、自宅での悪心・嘔吐への対応などについて理解を得られるよう、安心して治療を受けられるようにすることが求められる。・ゾルベツキシマブを含む化学療法についての情報は治験など限定されているので、日常診療に導入される際には、効果や有害事象に関する患者のアウトカムについての情報を収集し、適切に対応することが求められる。――――――――――――――――――― なお、制吐薬適正使用ガイドラインは2023年に第3版へと改訂されたが、ゾルベツキシマブの制吐療法について、将来的に診療ガイドラインへの反映を予定しているという。 このほか、ゾルベツキシマブの臨床的な有用性や意義については、日本胃癌学会の速報2)を参照されたい。

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レートコントロールと重篤な出血イベント(解説:後藤信哉氏)

 非弁膜症性心房細動に対する抗凝固療法は広く普及した。心房細動の動悸に対してレートコントロールが必要となる。レートコントロールにはβ遮断薬かカルシウム拮抗薬を使っているケースが多いと思う。カルシウム拮抗薬としては、作用時間の短いベラパミルよりもジルチアゼムを使うことが多いと思う。レートコントロールで用いる薬と抗凝固薬の薬物相互作用などは十分に詳細に検討されてこなかった。薬物代謝的には、レートコントロール薬の代謝により代謝酵素が使用される結果、抗凝固薬の血中濃度が増加するリスクは想定された。本研究は後ろ向き観察研究コホートを用いて、レートコントロールに用いる薬剤による出血イベントリスクへのインパクトについての仮説産生を目指した。 日本の国民皆保険制度の中にも国保、社保など不均一性がある。米国は一般に医療保険がないイメージがあるが、実際は、米国の医療保険制度はそれなりに充実している。オバマケアが嫌われたのは、連邦政府による過度の介入が米国人に忌避されたためである。米国の勤労者には会社からの手厚い医療保険がある場合が多い。筆者が米国で暮らしていた間に、勤務先が用意した健康保険の自己負担率が、現在の日本より少なかった。また、米国暮らしが長く、それなりに社会保険税(social security tax)を支払っていた筆者のところには、最近、勤労していない高齢者を対象としたメディケアの案内が来た。本研究はメディケアのデータベースを用いた後ろ向き観察研究である。政府の管理する健康保険データなので、日本でも同様の解析は原理的に可能だと思う。データベースに基づいた最適医療を最小限のコストにて供給しようとのインセンティブがあれば、データベース解析と解析結果に基づいた医療のシステム的改善は必須と思う。 20万4,155 例のうち、5万3,275例がジルチアゼム、15万880例がメトプロロールによるレートコントロールを受けていた。いずれも特許切れした安価な薬剤であり、公的保険医療に適した薬剤である。抗凝固薬としては薬効を標準化できるいわゆるDOACのうち、米国にて実際に使用可能なリバーロキサバンとアピキサバンを用いた。日本で広く使用されるエドキサバンは、米国では腎機能正常性に使用できないとの制限があるため研究対象とされていない。 メトプロロール群に比較してジルチアゼム群における重篤な出血による入院・死亡リスクは、1.21 (95%信頼区間:1.13~1.29)倍大きく、差は観察早期から見られた。重篤な出血による入院、死亡は同じ方向性であった。ジルチアゼムの容量依存性もあり、各種sensitivity analysisの結果も同様で、メトプロロールよりジルチアゼム群で出血が多いのは本当らしい。 後ろ向きコホートにて、レートコントロールの薬剤がDOACによる出血リスクに影響を与えるとの仮説はできた。ランダム化比較試験により仮説検証を目指すか、ジルチアゼム群のメトプロロール群への移行をメディケアとして促すか、科学に基づいた政策決定の今後を見守りたい。

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PPIの不適切処方に薬剤師が介入、その効果は?/BMJ

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)の過剰使用を減らすための薬局を中心とした大規模な多面的介入は、全体的なPPI使用を減少することが示された。PPIによる胃の保護が適切とされる患者においても使用が減少したが、臨床的な有益性または有害性のいずれについても最小のエビデンスしか認められなかったという。米国・ミシガン大学のJacob E. Kurlanderらが、米国退役軍人のための最大規模の統合医療システム「US Veterans Affairs Healthcare System」(医療施設1,255、外来拠点1,074)のデータを用いた差分の差分(difference-in-difference)分析の結果を報告した。これまでPPIの過剰使用を減らすための介入が及ぼす影響を、包括的に評価した研究はほとんどなかった。BMJ誌2024年4月11日号掲載の報告。薬局を中心とした介入前後の4.5年間のPPI処方を、介入群と対照群で比較 研究グループは、US Veterans Affairs Healthcare Systemを構成する18の地域医療システム(Veterans Integrated Service Networks:VISN)のうち、1つのVISNでPPI過剰使用に対する新たな取り組み(VISN 17)を実施し、他の17のVISNを対照とし評価した。VISNにはそれぞれ独自の外来薬局システムが整備されており、Veterans Affairsクリニックでの処方薬は、ほぼVeterans Affairs薬局で調剤されるという。 VISN 17は、次の5つから構成された。(1)PPIのリフィル処方箋の使用制限(慢性使用の適切な適応が処方箋に明記されていない場合)、(2)6ヵ月以内に使用されなかった処方箋の無効化、(3)H2受容体拮抗薬の処方促進、(4)臨床医と患者への教育(臨床医には、PPIを2週間で漸減し、その後H2受容体拮抗薬を1~2ヵ月間必要に応じて使用することを推奨、患者には情報レターの送付等)、(5)薬剤師による高用量PPIの処方を把握する報告ツールの作成。 VISN 17は2013年8月~2014年7月に実施し、実施前後4.5年間の動向を捉えるため研究対象期間は2009年2月~2019年1月とした。研究期間を、連続した6ヵ月間隔で区切り、各期間において過去2年間にプライマリケアを2回以上受診した患者を解析対象とした。 主要アウトカムは、6ヵ月当たりのPPIが処方された患者の割合であった。介入により全体的なPPI処方が減少、必要な患者でのPPI処方も減少 1間隔当たりの解析対象患者数は、VISN 17実施施設で19万2,607~25万349例、対照施設で377万5,953~436万868例の範囲であった。 取り組み実施前は、PPIが処方された患者の割合は、VISN 17群で平均25.8%、対照群で平均25.4%であった。 差分の差分分析の結果、取り組みの実施によりVISN 17群では対照群と比較し、PPIが処方された患者の割合が7.3%低下した(95%信頼区間[CI]:-7.6~-7.0)。 副次アウトカムについては、上部消化管出血のリスクが高い患者におけるPPI処方日数が11.3%短縮(95%CI:-12.0~-10.5)し、PPIまたはH2受容体拮抗薬が処方された患者の割合が5.72%低下(-6.08~-5.36)した。しかし、上部消化管疾患の診断、上部内視鏡検査のためのプライマリケア受診、PPIによる胃の保護が適切な高齢者の酸関連消化器疾患による入院の増加は確認されず、PPI関連の臨床症状も臨床的に有意な変化はみられなかった。

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