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整形外科の先生方は日常診療の中で、便秘のある患者さんに遭遇することが多いのではないでしょうか。整形外科の患者さんに便秘のある方が多い理由は、高齢の患者さんが多いからというだけでなく、一部の整形外科の疾患や治療が便秘を誘発するからです。整形外科医が全般的に便秘の治療を行うケースは少ないかと思いますが、中には積極的な介入が必要な場合もあります。そこで今回は、整形外科でよく見られる便秘について、その原因と介入方法をご紹介します。整形外科に多い便秘の原因とは?整形外科で遭遇する便秘の原因の多くは、脊椎脊髄疾患による膀胱直腸障害あるいは慢性疼痛治療に使用する鎮痛薬によるものです1)。これらが原因で生じる便秘は、いずれも自然治癒しないため何らかの治療介入が必要となります。では、これらの便秘に対して整形外科医はどのように介入していくべきでしょうか。どのような脊椎脊髄疾患で便秘が起こる?膀胱直腸障害をきたす脊椎脊髄疾患として、高齢の患者さんでは、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなどの脊椎の変性疾患が多い印象で、若い患者さんでは、数は少ないですが脊髄損傷などが挙げられます。これらの疾患は、病態の進行に伴い便秘をきたすことがあります。言い換えれば、便秘は疾患の進行をとらえる一助となります。しかし、患者さんの中には、そのことを知らずに、便秘が生じても医師に伝えないことがあります。そのため、脊椎脊髄疾患のある患者さんには、疾患の進行によって便秘をきたす可能性があることを予めお伝えしておくことが必要です。膀胱直腸障害に対する治療としては、脊椎責任病巣への手術治療が第一選択となります。しかし、手術をしても膀胱直腸障害が改善するとは限らず、後遺症として便秘が残存し継続的な治療が必要となる可能性もあります1)。便秘が生じやすい慢性疼痛治療薬とは?慢性疼痛治療薬によって便秘が生じることもあります。具体的には、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、三環系抗うつ薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などの精神神経用薬とオピオイド鎮痛薬です1)。中でも、オピオイド鎮痛薬は便秘の発現頻度が高く、オピオイド鎮痛薬で治療中の患者さんの40~80%に認められるという報告もあります2-5)。オピオイド鎮痛薬には、嘔気や嘔吐などの副作用もありますが、便秘はこれらとは異なり、耐性ができないとされています1)。また、海外のデータでは、オピオイド鎮痛薬による便秘(オピオイド誘発性便秘症:OIC)が患者さんの生活の質(QOL)低下や疼痛管理の妨げになる可能性が示唆されています6)。これらのことから、OICに対しては継続的な治療が必要と言えるでしょう。OICには整形外科医の介入が重要どのような患者さんでOICが発現しやすいかと言えば、私の経験上、特に腰痛のある方、慢性疼痛治療中の方、元々便秘のある方で、リスクが高い印象です。そのため、これらの患者さんにオピオイド鎮痛薬を処方する際は、便秘が発現または悪化するリスクをお伝えしておくことが必要です。そして、オピオイド鎮痛薬投与中は便秘が起きていないか、悪化していないか確認します。OICを認めた場合には、浸透圧性下剤や刺激性下剤などの一般的な緩下薬の他、OICの原因に対する治療薬の末梢性μオピオイド受容体拮抗薬であるスインプロイクなどが治療の選択肢となります。最後に整形外科の疾患や治療による便秘を見逃さないためには、患者さんへの声かけが重要です。先生方は、普段から治療薬に伴う副作用の注意喚起として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方する際、上部消化管障害に注意するよう患者さんにお伝えしていると思います。それに加えてこれからは、オピオイド鎮痛薬を処方する際に下部消化管の副作用に注意するよう患者さんにお伝えしていくことも重要なのではないでしょうか。1)奥田貴俊ほか. 整形外科領域の便秘. In: 中島淳編. すべての臨床医が知っておきたい便秘の診かた:羊土社;2022.p.233-238.2)Droney J, et al. Support Care Cancer. 2008;16:453-459.3)Abramowitz L, et al. J Med Econ. 2013;16:1423-1433.4)Kalso E, et al. Pain. 2004;112:372-380.5)Caldwell JR, et al. J Pain Symptom Manage. 2002;23:278-291.6)Varrassi G, et al. Pain Ther. 2021;10:1139-1153.スインプロイクの電子添文はこちら2024年4月作成SYP-LM-0006(V01)