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COPD患者への増悪予防としてのアジスロマイシン

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者への増悪予防を目的としたアジスロマイシン(AZM)投与は、急性増悪の頻度を減らしQOLを改善することが、プラセボ対照無作為化試験の結果、報告された。米国・コロラド大学デンバー健康科学センターのRichard K. Albert氏らCOPD Clinical Research Networkが、増悪リスクの高い特定の患者1,557例を対象に、標準治療に加えアジスロマイシン250mg/日を1年間投与した結果による。ただし、被験者の一部で聴覚障害が認められたという。NEJM誌2011年8月25日号掲載報告より。250mg/日を1年間投与COPDの急性増悪は、死亡リスクの上昇や肺機能の急速な低下はもとより、本人の労働機会を奪い、開業医やER受診、入院機会の頻度を増し治療コストを上昇させる。標準治療〔吸入ステロイド薬、長時間作用性β2刺激薬(LABA)、長時間作用性抗コリン薬〕も頻度は減らすものの、なお年平均1.4回の急性増悪が認められることから、Albert氏らは、種々の炎症性気道疾患に有効なマクロライド系抗菌薬の予防的投与について検討した。試験対象となったのは、40歳以上のCOPDの増悪リスクは高いが、聴覚障害、安静時頻脈または補正QT間隔延長の著明なリスクはない患者であった。合計1,577例がスクリーニングを受け、うち1,142例(72%)が、標準治療に加えてアジスロマイシン250mg/日を1年間受ける群(570例)、または同プラセボを受ける群(572例)に無作為に割り付けられた。試験登録は2006年3月から始まり、1年間投与後2010年6月末まで追跡評価された。主要アウトカムは、初回急性増悪までの期間。副次アウトカムには、QOL、黄色ブドウ球菌や肺炎レンサ球菌などの鼻咽頭細菌コロニー形成、服薬アドヒアランスが含まれた。急性増悪の頻度減少、QOL改善も、一部患者で聴覚障害、耐性菌出現の影響は不明1年間の追跡調査を完了した患者は、アジスロマイシン群89%、プラセボ群90%であった。初回増悪までの期間の中央値は、アジスロマイシン群266日(95%信頼区間:227~313)に対して、プラセボ投与群は174日(同:143~215)で有意な延長が認められた(P

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ピロリ菌の除菌治療、4剤併用/連続治療は3剤標準治療よりも不良

ラテンアメリカのピロリ菌(Helicobacter pylori)感染患者の除菌治療では、標準的な3剤の14日間投与が、4剤の5日間併用治療や10日間連続治療よりも良好なことが、アメリカFred Hutchinsonがんセンター(シアトル市)のE Robert Greenberg氏らの検討で示された。ヨーロッパ、アジア、北米では、ピロリ菌に対するプロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+クラリスロマイシンによる標準治療は、これにニトロイミダゾールを加えた4剤の5日間併用治療や10日間連続治療よりも除菌効果が有意に低いことが報告されている。4剤レジメンは、3剤レジメンよりも抗生物質の用量が少ないため、医療資源が乏しい環境での除菌計画に適すると考えられる。ラテンアメリカはピロリ菌関連の疾病負担が大きい地域だが、除菌戦略に関する試験は少ないという。Lancet誌2011年8月6日号(オンライン版2011年7月20日号)掲載の報告。3つの治療法の除菌効果を評価する非盲検無作為化試験研究グループは、ラテンアメリカ地域におけるピロリ菌の除菌治療として、4剤の5日間併用治療および10日間連続治療の有効性を、標準的な3剤の14日間治療と比較する無作為化試験を実施した。2009年9月~2010年6月までに、6ヵ国(チリ、コロンビア、コスタリカ、ホンジュラス、ニカラグア、メキシコ)の7地域から尿素呼気試験でピロリ菌陽性と判定された21~65歳の患者が登録された。これらの患者が、ランソプラゾール+アモキシシリン+クラリスロマイシン14日間投与(標準治療)、ランソプラゾール+アモキシシリン+クラリスロマイシン+メトロニダゾール5日間投与(併用治療)、ランソプラゾール+アモキシシリン5日間投与→ランソプラゾール+クラリスロマイシン+メトロニダゾール5日間投与(連続治療)のいずれかを施行する群に無作為に割り付けられた。除菌効果は、無作為割り付け後6~8週に尿素呼気検査で評価した。治療割り付け情報はマスクされなかった。主要評価項目はピロリ菌除菌率とした。除菌率:標準治療82.2%、併用治療73.6%、連続治療76.5%1,463例が登録され、標準治療群に488例が、併用治療群に489例が、連続治療群には486例が割り付けられた。患者背景は3群でバランスがとれていた。標準治療群の除菌率は82.2%(401/488例)であり、併用治療群の73.6%(360/489例)よりも8.6%(調整後の95%信頼区間:2.6~14.5)高く、連続治療群の76.5%(372/486例)に比べ5.6%(同:-0.04~11.6)高かった。7つの地域のいずれにおいても、4剤レジメンの除菌率が標準治療よりも優れることはなかった。服薬アドヒアランスや重篤な有害事象の発生率の3群間の差は小さかった。著者は、「多様なラテンアメリカの地域集団におけるピロリ菌感染の治療法としては、標準的な3剤の14日投与が、4剤の5日間併用治療や10日間連続治療よりも良好であった」と結論したうえで、「特に医療資源の乏しい環境では、治療期間が短く低コストのレジメンが許容されるかもしれない」としている。(菅野守:医学ライター)

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重症感染症児への輸液ボーラス投与、48時間死亡率を上昇

 ショック患者への急速早期の輸液蘇生術は、救急治療ガイドラインに示されており、小児科における生命維持訓練プログラムでも支持されている。しかし、処置法、用量、輸液の種類に留意したエビデンスはなく、集中ケア施設がまず利用できないアフリカのような、医療資源が限られた環境下でのショック患児や生命に関わるような重症感染症児への治療に対する輸液蘇生の役割は確立されていない。そこでケニア中央医学研究所(KEMRI)のKathryn Maitland氏らは、アフリカ東部3ヵ国で輸液蘇生の効果を調べる無作為化試験を行った。NEJM誌2011年6月30日号(オンライン版2011年5月26日号)掲載より。アルブミンボーラス、生食ボーラスと対照群の3群に無作為化し48時間後の転帰を比較 研究グループは、ウガンダ、ケニア、タンザニアで、重症熱性疾患と循環不全で入院した小児を、5%アルブミン溶液20~40mL/kg体重ボーラス投与(アルブミンボーラス群)もしくは0.9%生食液20~40mL/kg体重ボーラス投与(生食ボーラス群)する群か、ボーラス投与しない群(対照群)の3群に無作為に割り付け検討した(A層試験)。このA層試験では、重症低血圧の小児は除外されB層試験にて、いずれかのボーラス投与群に無作為に割り付けられ検討された。 >被験児は全員、ガイドラインに基づく、適切な抗菌薬治療や静脈内維持輸液ならびに生命維持のためのトリアージや救急療法を受けた。なお、栄養失調または胃腸炎の患児は除外された。 主要エンドポイントは、48時間時点の死亡率とし、副次エンドポイントには、肺水腫、頭蓋内圧亢進、4週時点の死亡または神経学的後遺症の発生率などが含まれた。 A層試験は3,600例の登録を計画していたが、3,141例(アルブミンボーラス群1,050例、生食ボーラス群1,047例、対照群1,044例)が登録された時点でデータ安全モニタリング委員会の勧告により補充が停止された。 マラリアの保有率(全体で57%)、臨床的重症度は全群で同程度だった。ボーラス後48時間死亡率が有意に上昇 A層における48時間死亡率は、アルブミンボーラス群10.6%(1,050例中111例)、生食ボーラス群10.5%(1,047例中110例)、対照群7.3%(1,044例中76例)だった。生食ボーラス群 vs. 対照群の相対リスクは1.44(95%信頼区間:1.09~1.90、P=0.01)、アルブミンボーラス群vs.生食ボーラス群の相対リスクは1.01(同:0.78~1.29、P=0.96)、両ボーラス群vs.対照群の相対リスクは1.45(同:1.13~1.86、P=0.003)だった。 4週時点の死亡率は、それぞれ12.2%、12.0%、8.7%だった(両ボーラス群vs.対照群の相対リスクは1.39、P=0.004)。神経学的後遺症発生率は、2.2%、1.9%、2.0%だった(同1.03、P=0.92)だった。肺水腫または頭蓋内圧亢進の発生率は、2.6%、2.2%、1.7%だった(同1.46、P=0.17)。 B層では、死亡率がアルブミンボーラス群69%(13例中9例)、生食ボーラス群56%(16例中9例)だった(アルブミンボーラスの相対リスク:1.23、95%信頼区間:0.70~2.16、P=0.45)。 これらの結果は、施設間、サブグループ間(ショック重症度や、マラリア、昏睡、敗血症、アシドーシス、重症貧血の状態に基づく)で一貫して認められた。 研究グループは「医療資源が限られたアフリカでの重症循環不全児に対する輸液ボーラスは、48時間死亡率を有意に高める」と報告をまとめている。

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市中肺炎に対するデキサメサゾン補助療法で入院期間が短縮

免疫不全状態にない市中肺炎患者の治療では、抗菌薬に補助療法としてデキサメサゾンを追加すると、入院日数が短縮する可能性があることが、オランダ・St Antonius病院(ニューウェハイン)のSabine C A Meijvis氏らの検討で示された。追加に伴い高血糖の頻度が上昇したものの、重篤な有害事象はまれだった。市中肺炎治療の中心は早期診断に基づく適切な抗菌薬療法だが、ワクチンによる予防治療の導入や抗菌薬の進歩にもかかわらず罹患率、死亡率は高いままで、医療コストを押し上げている。補助療法の有効性が示唆されており、デキサメサゾン追加は全身性の炎症を抑制することで肺炎の早期消退をもたらす可能性があるが、抗菌薬への追加のベネフィットは不明だという。Lancet誌2011年6月11日号(オンライン版2011年6月1日号)掲載の報告。デキサメサゾン追加の入院期間短縮効果を評価するプラセボ対照無作為化試験研究グループは、市中肺炎患者の入院期間に及ぼすデキサメサゾン追加の効果を評価するプラセボ対照無作為化試験を実施した。オランダの2つの教育病院の救急外来を受診し、市中肺炎と診断された18歳以上の患者が、デキサメサゾン(5mg/日)あるいはプラセボを入院後4日間静注する群に無作為に割り付けられた。免疫不全状態の患者、迅速なICUへの搬送を要する患者、すでに副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の投与を受けている患者は除外した。主要評価項目は入院期間であった。入院期間中央値が1日短縮、高血糖が高頻度に発現2007年11月~2010年9月までに304例が登録され、デキサメサゾン群に151例(男性56%、平均年齢64.5歳)が、プラセボ群には153例(同:57%、62.8歳)が割り付けられた。304例中143例(47%)は肺炎重症度指数(pneumonia severity index:PSI)でクラス4~5の患者であった(デキサメサゾン群79例、プラセボ群64例)。入院期間中央値は、デキサメサゾン群が6.5日(IQR:5.0~9.0)と、プラセボ群の7.5日(同:5.3~11.5)に比べ有意に短縮した(p=0.0480)。院内死亡や重篤な有害事象はまれで、両群間に差は認めなかった。重複感染がデキサメサゾン群の7例(5%)、プラセボ群の5例(3%)にみられた(p=0.54)。デキサメサゾンによると考えられる胃穿孔が1例(第3日目)に認められた。高血糖が、デキサメサゾン群で44%(67/151例)と、プラセボ群の23%(35/153例)に比べ有意に高頻度にみられた(p<0.0001)。著者は、「免疫不全状態にない市中肺炎患者の治療では、抗菌薬にデキサメサゾンを追加することで、入院期間を短縮できる可能性がある」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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小児の細菌性髄膜炎に対するCTRX、5日間投与vs. 10日間投与/Lancet

発展途上国の小児において重大な疾病であり死亡の原因となっている細菌性髄膜炎に対して、静注の抗菌薬セフトリアキソン(CTRX、商品名:ロセフィンなど)が多くの国で推奨されているが、その至適な投与期間について確立されていない。アフリカ南東部のマラウイ共和国・マラウイ大学医学校小児科のElizabeth Molyneux氏らは、CTRXの投与期間について、5日間投与と10日間投与との同等性を検証する国際共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験を、2ヵ月~12歳児を対象に行った。Lancet誌2011年5月28日号(オンライン版2011年5月26日号)掲載より。細菌学的治療失敗、再発を主要アウトカムに無作為化試験試験は2001年9月~2006年12月にかけて、バングラデシュ、エジプト、マラウィ、パキスタン、ベトナムの5ヵ国10小児科病院の協力を得て行われた。いずれの病院も年間150例以上の細菌性髄膜炎患児を受け入れていた。対象は、細菌性髄膜炎の原因菌として肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌b型、髄膜炎菌を有した2ヵ月~12歳児。無作為化は、5日間のCTRX治療で臨床的に安定したと診断された1,027例を、均等にコンピュータ配分で、さらに5日間治療を行う群とプラセボ群とに割り付ける方法で行われた。割り付け情報は患児、保護者、また医療スタッフにも知らされなかった。主要アウトカムは、細菌学的治療失敗(脳脊髄液または血液培養検査で陽性)および再発。分析は、パー・プロトコール解析にて行われた。5日間で症状が安定したら投与を打ち切って問題ない解析に含まれたのは、1,004例(5日間治療群:496例、10日間治療群:508例)だった。治療失敗例は、5日間治療群、10日間治療群ともに0例だった。再発は、5日間治療群で2例が報告、うち1例はHIVを有する患児だった。10日間治療群では再発はみられなかった。抗菌薬投与の副作用は、両群とも軽度で同等に認められた。Molyneux氏は、「肺炎レンサ球菌、インフルエンザ菌b型または髄膜炎菌による細菌性髄膜炎を発症した2ヵ月~12歳児で、CTRXの5日間投与で症状が安定した患児は、問題なく投与を打ち切ってよい」と結論している。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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2008年英国NICEの勧告による、歯科治療での抗菌薬予防的投与中止の影響

感染性心内膜炎のリスクが高いと思われる患者に対する抗菌薬の予防的投与は、いまだ多くの国で行われているが、英国国立医療技術評価機構(NICE)は2008年3月に、歯科の侵襲的治療に先立って行われる同抗菌薬予防的投与の完全中止を勧告した。シェフィールド大学臨床歯科学部門のMartin H Thornhill氏らは、このNICEガイドライン導入前後の同処置変化および感染性心内膜炎発生率の変化を調査した。BMJ誌2011年5月21日号(オンライン版2011年5月3日号)掲載より。ガイドライン後、予防的投与は78.6%減少、症例・関連死の増加傾向がストップ英国では全入院患者について、1次的退院診断名と最大12の2次的診断名がデータベース化されている。Thornhill氏らは、そのデータから、1次的退院診断名および2次的診断名として、急性または亜急性の感染性心内膜炎のデータがある患者を対象に、ガイドライン導入前後の比較研究を行った。主要評価項目は、予防的投与に用いられたアモキシシリン(商品名:サワシリンなど)3g単回経口投与またはクリンダマイシン(同:ダラシン)600mg単回経口投与の1ヵ月間の処方数、感染性心内膜炎の毎月の症例数、同疾患関連による病院死または口腔レンサ球菌によると考えられる感染性心内膜炎の症例数とした。結果、NICEガイドライン導入後、抗菌薬予防的投与の処方数は、月平均1万277例(標準偏差:1,068)から2,292例(同:176)と、78.6%(P<0.001)減少という有意に大きな変化がみられた。一方で、ガイドライン導入前にみられていた感染性心内膜炎の普遍的な増加傾向が、導入後は一転してみられなくなっていた(P=0.61)。非劣性試験の結果、ガイドライン導入後、症例増加については9.3%以上、また感染性心内膜炎関連の病院死増加については12.3%以上を削減した可能性が示された。ハイリスク患者への予防的投与についてはさらなる検証をThornhill氏は、「NICEガイドライン導入後、抗菌薬予防的投与の処方は78.6%も減少したにもかかわらず、導入後2年間の感染性心内膜炎の発症例または死亡率の増加を大きく削減していた。このことはガイドライン支持に寄与するが、今後もデータのモニタリングを行い、さらに臨床試験によって、特にハイリスク患者を感染から守るには抗菌薬予防的投与が有用であるのかどうか決定する必要がある」と述べている。

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急性虫垂炎に対する抗生物質治療 vs. 切除術

単純性急性虫垂炎の治療におけるアモキシシリン+クラブラン酸による抗生物質治療の効果は、緊急虫垂切除術よりも劣っており、現在でもgold standardは虫垂切除術であることが、フランス・アントワーヌ・ベクレール病院のCorinne Vons氏らの検討で明らかとなった。急性虫垂炎は、急性の腹痛で入院した患者の中で手術を要する頻度が最も高い疾患だという。4つの無作為化試験をはじめいくつかの検討で、単純性急性虫垂炎は抗生物質治療で治癒が可能であり、1次治療となる可能性もあることが示唆されている。Lancet誌2011年5月7日号掲載の報告。抗生物質治療の虫垂切除術に対する非劣性試験研究グループは、単純性急性虫垂炎の治療における抗生物質治療(アモキシシリン+クラブラン酸)の緊急虫垂切除術に対する非劣性を検証する非盲検無作為化試験を実施した。2004年3月11日~2007年1月16日までに、フランスの6つの大学病院からCT検査で診断された18~68歳の単純性急性虫垂炎患者が登録された。これらの患者が、アモキシシリン+クラブラン酸(体重90kg未満:3g/日、90kg以上:4g/日)を8~15日間投与する群あるいは緊急虫垂切除術を施行する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、介入後30日以内の腹膜炎の発生率とした。主要評価項目:8% vs. 2%243例が登録され、123例が抗生物質治療群に、120例は虫垂切除術群に割り付けられた。介入前に早期脱落した4例を除外した239例(抗生物質治療群120例、虫垂切除術群119例)がintention-to-treat解析の対象となった。30日以内の腹膜炎の発生率は、抗生物質治療群が8%(9/120例)と、虫垂切除術群の2%(2/119例)に比べ有意に高かった(治療群間差:5.8例、95%信頼区間:0.3~12.1)。虫垂切除術群では、事前にCT検査による評価を行ったにもかかわらず、予想外にも手術時に119例中21例(18%)が腹膜炎を伴う複雑性虫垂炎であることが判明した。抗生物質治療群120例のうち14例(12%、95%信頼区間:7.1~18.6)が30日以内に虫垂切除術を施行され、この14例と30日以内に追跡を中止した4例を除く102例のうち30例(29%、同:21.4~38.9)が30日~1年までの間に虫垂切除術を受けた。前者のうち急性虫垂炎であったのは13例(再発率:11%、同:6.4~17.7)、後者では26例であった(同:25%、18.0~34.7)。著者は、「急性虫垂炎の治療におけるアモキシシリン+クラブラン酸による抗生物質治療の緊急虫垂切除術に対する非劣性は確認されなかった。現在でも、緊急虫垂切除術は単純性急性虫垂炎の治療のgold standardである」と結論し、「CT検査に関する予測マーカーが同定されれば、抗生物質治療が有効な患者の選出が可能になるかもしれない」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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ピロリ菌除菌効果、ビスマス製剤を含む4剤併用が標準治療を凌駕

 ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:以下、ピロリ菌)の除菌効果は、プロトンポンプ阻害薬オメプラゾールと次クエン酸ビスマス+メトロニダゾール+テトラサイクリンの4剤併用レジメンが、標準的な3剤併用療法よりも優れることが、ドイツ・Otto-von-Guericke大学のPeter Malfertheiner氏らの検討で示された。ピロリ菌は、消化性潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫など上部消化管の良性/悪性疾患を引き起こすが、先進国では国民の20~50%が、開発途上国では最大で80%が感染しているとされる。日本を含め国際的なガイドラインでは、標準的な1次治療としてオメプラゾールにアモキシシリンとクラリスロマイシンを併用する方法が推奨されるが、最近の耐性菌の増加に伴い新たなレジメンの開発が求められているという。Lancet誌2011年3月12日号(オンライン版2011年2月22日号)掲載の報告。除菌率を比較する非劣性試験、優越性も評価 研究グループは、ピロリ菌の除菌治療における標準治療とオメプラゾール+3つの抗菌薬を含有するカプセル薬併用療法の有効性および安全性を比較するオープンラベルの無作為化第III相非劣性試験を行った。 2008年6月~2009年6月までに、7ヵ国(フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ポーランド、スペイン、イギリス)の39施設から、ピロリ菌感染が確認され、上部消化管症状を呈する18歳以上の患者が登録された。 これらの患者が、オメプラゾール20mg(1カプセルを朝夕食後の1日2回)+3剤含有カプセル薬(次クエン酸ビスマス140mg、メトロニダゾール125mg、テトラサイクリン125mg、3カプセルを毎食後と就寝前の1日4回)を10日間服用する群(4剤併用群)、あるいはオメプラゾール20mg+アモキシシリン500mg+クラリスロマイシン500mg(朝夕食前の1日2回)を7日間服用する群(標準治療群)に無作為に割り付けられた。 主要評価項目はピロリ菌除菌率とし、治療終了後28日以降と56日以降に13C尿素呼気試験(UBT)を行い、2回とも陰性の場合に「除菌」と判定した。本研究は非劣性試験としてデザインされたが優越性の検出能も備えていた。非劣性の評価ではper-protocol(PP)解析を行い、優越性についてはintention-to-treat(ITT)解析を実施した。除菌率:PP解析で93% vs. 70%、ITT解析で80% vs. 55% ITT集団の440例(4剤併用群:218例、標準治療群:222例)のうち、UBT非施行例など101例(それぞれ40例、61例)を除く339例(178例、161例)がPP集団となった。 PP解析における除菌率は、4剤併用群が93%(166/178例、95%信頼区間:88.5~96.5%)、標準治療群は70%(112/161例、同:61.8~76.6%)であった。両群間の差の95%信頼区間は15.1~32.3%(p<0.0001)であり、4剤併用群の95%信頼区間の下限値は事前に規定された非劣性の境界値である-10%よりも大きく、標準治療に対する非劣性が確認された。 ITT解析でも、4剤併用群の除菌率は80%(174/218例)と、標準治療群の55%(123/222例)に比べ有意に優れていた(p<0.0001)。 安全性プロフィールは両群で同等であり、主な有害事象は消化管および中枢神経系の障害であった。著者は、「ピロリ菌の除菌治療においては、標準的な3剤併用レジメンの7日間服用よりも、ビスマス製剤を含む抗菌薬3剤+オメプラゾールの4剤併用レジメンの10日間服用のほうが有意に優れる」と結論し、「4剤併用は安全性と耐用性が標準治療と同等で、除菌効果は有意に優れるため、クラリスロマイシン耐性ピロリ菌増加の観点からは、4剤併用レジメンを1次治療として考慮すべき」と指摘している。

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教授 富田剛司 先生の答え

緑内障手術を受けた患者さんの細菌感染について日本緑内障学会からの災害時の注意を読みました。緑内障手術を受けた患者様では、衛生環境の悪化や抵抗力の低下によって細菌感染(濾過胞炎・眼内炎)を生じる危険があります。とありますが、術後どのくらいの期間までを指すのでしょうか?術後1年以上であれば危険がないのか、そもそも緑内障手術を受けた患者さんは常に細菌感染のリスクがあるのか?教えていただけると助かります。私の地域でも被災地からの避難者(疎開?)が増えてきました。整形外科(クリニック)をやっていますが、できることは全てやって差し上げようと他の領域についても勉強を始めた次第です。初歩的なことかとは思いますが宜しくお願いします。緑内障手術の中でも術部位に濾過胞が形成される線維柱帯切除手術後の、濾過胞関連感染症の発症頻度は、報告にもよりますが、1から3%とされており、感染のリスクは濾過胞が形成されている限り(これがあるために眼圧が下がるのですが)続きます。濾過胞の壁(結膜)が非常に薄くそこから房水が漏出しているような状況の場合、濾過胞が眼球下方に形成されている場合は、特に感染のリスクは高くなります。逆に、十分に壁の厚い(厚い結膜で覆われている)濾過胞の場合はリスクはほとんど無くなります。眼科医にすぐ診察を受けられないような状況下で緑内障術後の患者さんがいらした場合は、点眼中止が可能かどうかの判断は難しいと思いますので、念のため抗生物質の点眼薬を継続して使用していただく方がよいと思います。 眼底三次元画像解析装置について眼底三次元画像解析装置については3,4年前に記事を読んだ記憶があります。(確か富田先生の記事でした。)まだ完成に至ってないとのことですが、完成度としてはどの程度まできているのか教えてください。眼底三次元画像解析装置は、すでに検査技術料が保険収載されており、そういう意味では眼科診療に一般的に受け入れられています。完成に至っていないとの記事内容ですが、画像解析装置のみを用いて緑内障を100%自動診断するには至っていない、という意味で書きました。画像解析装置の使用目的として、健康診断などで眼科医がいないような状況下においても緑内障を早期に自動診断することが究極的な目標の一つに挙げられています。しかし、今のところ装置のみによる診断精度は80%から90%くらいであり、現時点では画像解析結果の最終判断は眼科専門医に委ねられるべきであると考えています。心身不安からくる疾患(眼科領域)について災害時などでは心身不安から急性緑内障発作をおこす方がいるとのことですが、他にも気をつけるべき疾患はありますでしょうか?眼科分野において、緑内障の急性発作以外に急激に発症し早急な治療を要する疾患としては、網膜剥離、網膜中心動脈あるいは静脈閉塞症、視神経炎(眼を動かすと眼の奥が痛いなどの症状を伴って、強い視力低下を自覚する)、ぶどう膜炎の発作(ベーチェット病など)等々がありますが、自覚症状としては通常、眼の症状に限定されるので、少なくとも眼疾患であることは比較的分かりやすいと思います。災害時の心身不安ということを考えた場合、逆に目に関する不定愁訴のようなものが増える可能性もあると思います。緊急性を見分ける検査としては、やはり視力検査が重要と思いますので、どこかに視力表があるとよいと思います。この場合、メガネを掛けた状態で矯正視力を評価するのが重要な点です。急性緑内障先生の記事大変勉強になりました。大橋病院さんで、救急に運ばれてきて、結果、急性緑内障だったケースは年間何例くらいあるのでしょうか?私は、強い頭痛、吐き気を訴えてきた患者さんは、まず近くの脳神経外科に直ぐ行かせていました。今のところ、結果急性緑内障と診断されたことはないのですが、先生の記事を拝見する限りでは、眼科もある病院を紹介した方がよいのでは?と考え直しているところです。緑内障の発作であると最初はわからなくて体調不良として救急を受診される方はさすがに少なくて、ほとんどがすでに眼科医を受診された上で緊急紹介されるか、救急で受診されても眼の症状ということで最初から眼科に廻されてくることが多いです。大橋病院で救急に運ばれてきて、最初はわからなくて脳外科的検査も受けた後、結果、急性緑内障だったケースは私の記憶では、この5年間でお一人くらいだったと思います。なので、ほとんどの場合は問題とはならないと思いますが、眼科医が眼をみて初めて、「あ、緑内障の発作だ」という事例はありますので、やはり、可能であれば眼科もある施設にご紹介されるのがベストと考えます。40歳からの眼科健診先生が推奨されている「40歳からの眼科健診」は私も賛成です。先生も他でご指摘されているように、生活習慣病に焦点があてられている住民健診では眼科健診を取り入れることは難しい、と考えますが…。しかし一方で、全ての自治体が動き、住民健診の中に眼科健診が取り入れられた場合、現状の眼科医でさばけるのでしょうか?緑内障の診断は難しいと聞きます。健診を標準化できるように眼底三次元画像解析装置など開発されているかと思いますが、住民健診の場全てにその装置を配備することは難しいのでは?と思います。この点について先生の見解をお聞かせいただければと思います。先生のご指摘はまったくその通りだと思います。先の眼底画像解析装置のご質問にもお答えしましたが、画像解析装置での眼底スクリーニングには限界がありますので、住民健診の場で使用できる現状にはまだ至っていません。現時点で私が考える最も効率的な緑内障を含めての眼底疾患スクリーニング法は、無散瞳眼底写真撮影です。考え方としては、胸部レ線による疾患のスクリーニングに近いと思います。眼底カメラの価格は300から500万円くらい。熟練した技師であれば眼底写真撮影は数分ですみますので、畳一畳分くらいの暗室があればOKです。写真はカラープリント(あるはスライド)にして眼底読影医(眼科専門医が望ましい)が判定することになります。したがって、健診の場に眼科医がかならずしも常駐する必要はありません。問題は、先生もご指摘のように、眼科医が対応できるのか、ということです。眼底読影という点については、各健診地区で読影の拠点施設(眼科医会の協力が必要か)を確立できれば良いように思いますが、スクリーニングで精密検査が必要となった場合が問題となります。緑内障で言うと有病率は5%であり、おそらく日本人全体で350万人くらいの緑内障が患者いると想定されます。日本眼科学会に登録している眼科医は現在1万5千名くらいですので、単純計算で眼科医すべて(後期研修医も含め)が200人強の緑内障患者を受け持つことになります。残念ながらこれは眼科医からみれば無理な数字です。誰が緑内障を診るのか、ということについては今後の議論を待たねばなりませんが、"40歳以降の目の健診"については、現在は会社の健康診断や各病院の人間ドックメニューに眼底写真撮影を取り入れてもらうようにすることから健診者を増やしていければと思っています。手術時の患者さん対応について目の手術となると患者さんの不安は大きく(当然ながらメスが近づいてくるのが見えるんですよね?)、しかも局所麻酔なので、周囲の音も聞こえ、ますます不安が大きくなるのかと想像します。手術の時に患者さんをリラックスさせるために行っていることや、気をつけていることがあればご教示ください。大変重要なご質問です。手術前の患者さんをリラックスさせるための手段として、多くの眼科施設でBGMを流しています。私の施設でもクラッシックやヒーリング系の音楽を流すようにしています。子供や若い患者さんには、あらかじめ自分の好きなCDなどを持ってきてもらって、それを流しています。また、洗眼などの手術準備中はできるだけ声を掛けながら、場合によっては世間話をしながら、患者さんの緊張をほぐすようにしています。富田先生は最初から眼科医を目指していたのでしょうか?富田先生は最初から眼科医を目指していたのでしょうか?また眼科医を目指そうと思ったきっかけなどあれば教えていただければと思います。私は学生の頃は、循環器内科に興味を持っていました。心電図を読むのが好きで、先生に褒められたのも一因です。ただ、眼科のポリクリの時に、アメリカのNIHでの留学から帰ってきたばかりの講師の先生が、眼科の疾患の説明はそっちのけで、人間の眼と、魚やカタツムリの眼の構造上の違いや類似点を楽しそうに話してくれたのが強い印象となって、父が眼科医であることもありましたが、眼科医の道を選びました。日本人と欧米人の眼の違い外科系の先生からは日本人と欧米人では体質が違う(肉食系の欧米人は血がドロドロ、でも止まりやすい、日本人は臓器が小ぶりなので欧米人よりも手術に気を遣う)ので、注意するようにと教わりました。眼もそのような質の違いがあるのでしょうか?(医学生)確かに日本人の眼と欧米人の眼で違いがあるように感じます。眼球は、眼窩という頭蓋骨のくぼみの中に収まっていますが、欧米人の眼窩は広くゆったりしており、日本人の眼窩はそれよりは狭い感じがあります。眼球の大きさはさほど違わないので、日本人の眼は眼窩周囲の組織に圧迫されているような感じがあります。したがって、硝子体圧が高めです。これは、白内障手術などをする場合、水晶体がせりあがってくる感覚があり、やや、手術がやりにくいと感じる場合があります。ただ、日本人の眼で慣れてしまうと、逆に白人の手術をする場合、眼球内がふにゃふにゃしている感じがあります。したがって、白人の眼はそっと丁寧に扱う必要性があるように思います。ただ、これは微妙な違いなので、ものすごく問題になることはありません。眼科医以外が眼科のことを学べる取り組み「どの科の専門であっても医師ならば必ず眼科の講義は受けているはずですが、眼の疾患がおざなりになっている現状を危惧せずにはいられません。」全くその通りです。私も講義を受けた記憶はありますが…。数年前から大学を離れ、診療所で患者を診るようになり、今更ながら後悔しています。プライマリー・ケア医に役立つ眼科セミナーや、勉強会など、眼科医以外が眼科のことを学べる取り組みがあれば参加したいと思います。もしご存知でしたらご教示お願いします。真摯なご姿勢に敬意を表します。大変重要なポイントをご指摘いただいたと思います。残念ながら、日本眼科学会や眼科医会には、他科の医師を対象とした眼科プライマリー・ケアに関する講習プログラムはこれまで存在しておりません。今回のような大震災を経験しますと、専門科を超えて医師が最低限知っておくべきプライマリー・ケアの知識と技量の生涯教育の必要性を痛感します。他科医師を対象とした眼科のプライマリー・ケア―のセミナーに関して、一度、学会に提言してみたいと思います。海外と日本の違い富田先生は海外留学のご経験も豊富とのこと。富田先生が思う、世界で一番眼科医療が進んでいる国はどこでしょうか?またその理由もご教示ください。失明率(一定人口中の失明者の数)や人口あたりの眼科医の数、眼科診療器械の普及度、眼科手術の件数、等々でその国の眼科医療を評価した場合、日本の眼科医療が実は世界一という結果が出ています。これは、日本の保険医療制度が大きく貢献しているとも言われていますが、日本の眼科医の質の高さを示す、誇るべきことであると思っています。近年、岐阜県の多治見市と沖縄の久米島で緑内障に関する疫学調査が行われましたが、それに付随するデーターとして、両地域間の失明率に違いはないことが明らかになりました。このことは、すくなくとも眼科医療に関しては、日本のどの地域であっても遜色なく普遍的に行われていることが示されており、日本の眼科医療が世界一であることを裏付けるものであると思います。総括大変多くの方からご質問をいただき感激しました。今回の質問にもありましたが、何と言っても、東日本大震災に関することで、眼科医療の重要性が再認識されていることをお伝えしたいと思います。今回、被災地から点眼薬やコンタクトレンズ用品、眼科医の不足を訴える声が大きいと聞きます。災害地が広範囲にわたるため、とりあえず近隣の眼科医を受診するということが出来なくなっているのです。災害では救急救命が重要なことは言うまでもありませんが、避難生活が長期化しだすと、やはり慢性疾患や、視覚などの生活の質を左右する要素に関するする対応も重要であることが痛切に感じられました。現在、産科医や小児科医の不足が問題になっていますが、実は、眼科医の数も年々減っています。今後日本が超高齢化社会を迎えるにあたり、物がみえているという最低限の生活のクオリティーを守るべき人がもっと増えてもいいのではないかと思っています。教授 富田剛司 先生「全身の疾患が眼に現れることは明確 眼を診るのは診断の第一歩である」

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肺結核症にビタミンD補助薬は有効か?

肺結核症の集中治療期に標準的な抗生物質治療を受けている患者に、高用量のビタミンD補助薬を投与すると、ビタミンD受容体TaqI tt遺伝子型の患者で喀痰培養陰転時間の短縮効果を認めることが、イギリス・ロンドン大学クイーン・メアリーのAdrian R Martineau氏らの検討で明らかとなった。抗生物質が普及する以前は、ビタミンDが結核症の治療に用いられており、その代謝産物はin vitroで抗マイコバクテリア免疫を誘導することが知られている。これまでに、ビタミンDが喀痰培養菌に及ぼす影響を評価した臨床試験はないという。Lancet誌2011年1月15日号(オンライン版2011年1月6日号)掲載の報告。ビタミンD補助薬の喀痰培養陰転時間を評価する無作為化プラセボ対照試験研究グループは、ロンドン市在住の喀痰塗抹陽性肺結核症患者に対するビタミンD補助薬の効果を検討する多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験を実施した。146例が、ビタミンD3 2.5mgあるいはプラセボをそれぞれ4回(ベースライン、標準的な抗生物質治療開始後14、28、42日)投与する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、抗生物質治療開始から喀痰培養陰転までの期間とした。ビタミンD受容体であるTaqIおよびFokIの遺伝子多型解析を行い、ビタミンD受容体遺伝子型がビタミンD3に対する反応に及ぼす効果を評価するために相互作用解析を実施した。喀痰培養陰転時間に差はなし126例(ビタミンD群62例、プラセボ群64例)で主要評価項目の解析が可能であった。喀痰培養陰転までの期間の中央値は、ビタミンD群が36.0日、プラセボ群は43.5日であり、両群間に有意な差は認めなかった(補正ハザード比:1.39、95%信頼区間:0.90~2.16、p=0.14)。TaqI遺伝子型ではビタミンD補助薬が喀痰培養陰転時間に影響を及ぼしており(相互作用p=0.03)、TaqI tt遺伝子型で陰転時間の短縮効果が認められた(補正ハザード比:8.09、95%信頼区間:1.36~48.01、p=0.02)。FokI遺伝子型ではビタミンD補助薬の効果は認めなかった(相互作用p=0.85)。56日目における平均血清25-hydroxyvitamin D濃度は、ビタミンD群が101.4nmol/L、プラセボ群は22.8nmol/Lと有意な差が認められた(両群の差の95%信頼区間:68.6~88.2、p<0.0001)。著者は、「肺結核症に対する集中治療を受けている患者にビタミンD3 2.5mgを補助的に4回投与すると、血清25-hydroxyvitamin D濃度が増加した。全体としてビタミンDは喀痰培養陰転時間を短縮しなかったが、ビタミンD受容体TaqI遺伝子多型がtt遺伝子型の患者では有意な短縮効果が認められた」とまとめている。(菅野守:医学ライター)

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急性中耳炎児へのアモキシシリン-クラブラン酸治療は有効か―その1

2歳未満の急性中耳炎について、即時に抗菌薬治療を行うべきか、それとも経過観察をすべきか、国によって勧告は異なっている。米国ピッツバーク大学小児科部門のAlejandro Hoberman氏らは、無作為化プラセボ対照試験の結果、生後6~23ヵ月の2歳未満の急性中耳炎に対する抗菌薬アモキシシリン-クラブラン酸(商品名:オーグメンチン)の10日間投与は、症状消失期間の短縮など短期的ベネフィットをもたらすと報告した。NEJM誌2011年1月13日号掲載より。7日間の症状スコア、アモキシシリン-クラブラン酸投与群の方が低い試験は、発症48時間以内で両親によるAOM-SOS(Acute Otitis Media Severity of Symptoms)スコア評価が3以上、中耳滲出液が認められ、中等度、鼓膜隆起、耳痛を伴う腫脹があるなど厳密な診断基準で急性中耳炎と診断された生後6~23ヵ月児291例を無作為に、10日間アモキシシリン-クラブラン酸を投与される群(144例)もしくはプラセボ投与群(147例)に割り付け、症状についての反応と臨床的失敗率を評価した。結果、初期症状の消失は、アモキシシリン-クラブラン酸投与群の小児については、投与2日で35%に、4日までに61%、7日までに80%に認められた。一方プラセボ投与群では、初期症状の消失は2日で28%、4日で54%、7日で74%に認められるという結果であった(全体の比較のP=0.14)。症状の持続的な消失も同様の傾向が認められた。アモキシシリン-クラブラン酸投与群の小児については、投与2日で20%に、4日までに41%、7日までに67%に認められる一方、プラセボ投与群では、同14%、36%、53%であった(全体の比較のP=0.04)。治療7日間の症状スコアの平均値は、プラセボ群よりもアモキシシリン-クラブラン酸投与群の方が低かった(P=0.02)。厳密な基準で診断された患児への短期的ベネフィットは大きい臨床的な失敗(耳鏡検査で急性感染症の徴候の持続していることを確認)率も、プラセボ群と比べてアモキシシリン-クラブラン酸投与群の方が低かった。具体的には、4~5日もしくはそれ以前の受診時の失敗率は4%対23%(P<0.001)、10~12日もしくはそれ以前の受診時の失敗率は16%対51%(P<0.001)であった。有害事象については、乳様突起炎がプラセボ群で1例認められた。また、アモキシシリン-クラブラン酸投与群の方が、下痢、おむつ皮膚炎が多くみられた。鼻咽頭の非感受性肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeの保菌率については、両群とも有意な変化は認められなかった。これら結果を受けてHoberman氏は、「重症度に関係なく、アモキシシリン-クラブラン酸の10日間投与は、相当な短期的ベネフィットをもたらす」と結論。その上で、「このベネフィットについては、有害事象だけでなく耐性菌出現のことも重視し、治療は厳密な基準で診断された患児に限定して行うことが強調される」とまとめている。(武藤まき:医療ライター)

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急性中耳炎児へのアモキシシリン-クラブラン酸治療は有効か―その2

急性中耳炎児への抗菌薬治療の有効性については、なお議論が続いている。フィンランド・トゥルク大学病院小児科部門のPaula A. Tahtinen氏らは、二重盲検無作為化試験の結果、3歳未満の急性中耳炎に対する抗菌薬アモキシシリン-クラブラン酸(商品名:オーグメンチン)投与は、プラセボと比べて有害事象は多いがベネフィットがあると報告した。NEJM誌2011年1月13日号掲載より。8日間の治療失敗62%低下、レスキュー治療の必要性81%低下試験は二重盲検無作為化試験で、(1)耳鏡検査で中耳滲出液が認められ隆起や可動性の喪失・制限など二つ以上の鼓膜所見があり、(2)鼓膜に紅斑など一つ以上の急性炎症性徴候が認められ、(3)発熱、耳痛など小児が急性症状を呈する、といった厳密な基準で急性中耳炎と診断された生後6~35ヵ月児319例を対象とした。被験児は、無作為に、7日間アモキシシリン-クラブラン酸を投与される群(161例)もしくはプラセボ投与群(158例)に割り付けられ、治療開始から終了までの8日間における治療失敗までの期間を主要転帰に評価が行われた。治療失敗の定義は、有害事象を含む小児の病態全般と耳鏡検査下での急性中耳炎の徴候とした。結果、治療失敗は、アモキシシリン-クラブラン酸投与群は18.6%であったが、プラセボ群は44.9%に認められた(P

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ヨーロッパにおけるC. Difficile感染の現況:34ヵ国106施設の調査から

 ヨーロッパにおけるClostridium difficileの分離株は、北米で多いとされるPCRリボタイプ027よりも014/020、001、078、018、106の頻度が高く、重篤な病態のアウトカムと関連するPCRリボタイプとして018や056が重要なことが、オランダ感染症制御センターのMartijn P Bauer氏らによる調査で明らかとなった。2003年初め、カナダとアメリカでC. Difficile感染の増加と病態の重篤化が報告され、その一因としてPCRリボタイプ027に属するフルオロキノロン系抗菌薬抵抗性株の蔓延が指摘されている。ヨーロッパでは、2005年にイギリスから初めて027の報告がなされ、直後にオランダでも発見されたが、C. Difficileの院内感染の実態はほとんどわかっていないという。Lancet誌2011年1月1日号(オンライン版2010年11月16日号)掲載の報告。C. Difficilee感染の現況を把握し、診断能向上、サーベイランスの確立を目指す研究グループは、ヨーロッパにおけるC. Difficile感染の現況を把握し、診断能の向上およびサーベイランスの確立を目的とした調査を実施した。ヨーロッパ34ヵ国106検査施設を結ぶネットワークを創設した。2008年11月、人口規模に応じて選定された各国1~6施設において、C. Difficile感染が疑われる患者、あるいは入院後3日以上経過してから下痢を発症した患者の糞便検査を行った。糞便サンプル中にC. Difficileトキシンが検出された場合にC. Difficile感染と診断した。詳細な臨床データや糞便サンプルからの分離株は、各施設の最初の10例から収集し、3ヵ月後に臨床データのフォローアップを行った。死亡例の40%にC. Difficile感染が関与C. Difficile感染の発生率は、1施設10,000人・年当たりの加重平均値が4.1、範囲は0.0~36.3であり、施設間のばらつきがみられた。詳細な情報が得られた509例のうち389例で分離株の微生物学的特性が確認され、65のPCRリボタイプが同定された。そのうち最も多かったのはPCRリボタイプ014/020の61例(16%)で、次いで001が37例(9%)、078が31例(8%)の順であった。高頻度かつ予後不良とされるPCRリボタイプ027は19例(5%)と少なかった。ほとんどが、高齢、併存疾患、直近の抗生物質の使用歴などのリスク・プロファイルが事前に同定されている患者であった。3ヵ月後のフォローアップの時点で、22%(101/455例)が死亡しており、そのうち40%(40例)においてC. Difficile感染が何らかの形で関与していた。交絡因子を補正後に「重篤な病態(complicated disease、C. Difficile感染がICU入院や死亡に寄与あるいは直接の原因である場合、もしくは結腸切除術導入の理由である場合)」のアウトカムと有意な関連を示した因子として、65歳以上(補正オッズ比:3.26、95%信頼区間:1.08~9.78、p=0.026)、PCRリボタイプ018感染(同:6.19、同:1.28~29.81、p=0.023)、同056感染(同:13.01、同:1.14~148.26、p=0.039)が確認された。著者は、「ヨーロッパでは027以外のPCRリボタイプのC. Difficileの院内感染の頻度が高かった。これらのデータは、ヨーロッパにおけるC. Difficile感染の検出とそのコントロールには、多数の国によるサーベイランスが重要であることを浮き彫りにするものである」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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教授 鈴木康夫先生の答え

気分転換方法について潰瘍性大腸炎やクローン病などは、ある意味患者さんと一生の付き合いかと思います。私も慢性疾患を診ていますが、患者、家族とのコミュニケーション疲れから、医局を去る後輩もいます。先生のところでは、息抜きといいますか、コミュニケーション疲れを取り除くような気分転換について、何か取り組まれているでしょうか?もし極秘のノウハウ等あれば是非ご教示ください!残念ながら特別なノウハウはありませんし、特別な息抜き法もありません。確かに慢性疾患患者さん特有の気質があり、外来診療時間は長く神経を使う度合いも多いのはそれぞれ担当医の辛いところかもしれません。しかし、教科書や論文では判らない知識を個々の患者さんとの直接的対話や診療で初めて会得できることが未だ多くあるのも炎症性腸疾患の特徴ではないかと感じています。患者さんは日々の辛い思いを主治医に吐き出した時に初めて救われるのだ、と自分を納得させ、目の前の患者さんこそが生きた教材と知識の源だ、と思い日々の診療を楽しんでください。幸い、炎症性腸疾患は治療法が適切であれば患者さんは明らかに改善し満足いたします。患者さんが寛解し喜ぶ瞬間こそが我々主治医にとっての本当の息抜きを与えてくれる瞬間なのです。講演会の予定について是非先生の講演会に参加させていただきたいのですが、どこかに講演会のスケジュールなど掲載されているのでしょうか?ホームページなどがあれば教えていただきたく思います。宜しくお願いします。残念ながら、私個人の講演会のスケジュールをまとめてホームページでは掲載してはおりません。ただし、各市町村保健所が主催する講演会に関しては、各市町村の難病ホームページで開示している筈ですので参考にしてください。また、炎症性腸疾患に関するサイトがいくつか設立運営されており、そのようなサイト上に講演会の日程などが開示される場合もあるかもしれませんので、チェックして参考にしてください。患者・家族対応慢性疾患、特に難病だと、診断結果を患者・家族へ伝える瞬間が特に重要かと思います。先生が診断結果を伝えるときに気をつけていることや工夫していることをご教示ください。突然、難病と言い出すのは大変な誤りです。炎症性腸疾患患者さんに対して、いきなり難病ですと切り出すことは絶対にしてはならないことです。まずは病気の特徴や一般的な長期経過、そして治療法の説明をすること、個々の患者さんによって病状は様々であることを告げることも必要です。そして最終的には、現状では病因が不明であり完治が難しいという意味で、俗にいう難病に指定されている、ということを説明するべきです。難病といえども、以前に比べ格段に治療法は進歩し完治に近い治癒も可能であることも教えてあげる必要があります。後期研修について後期研修医は募集しておりますでしょうか?卒後4年目、肛門科にいますが、炎症性腸疾患の患者を多くみるようになり、興味を持っています。できれば専門としたいと考えております。情報あれば教えていただきたく存じます。当科では後期研修医制度を設け、積極的な受け入れ態勢を十分に準備しております。詳細は佐倉病院内科のホームページを参考にしてください。判りにくい場合には、ご連絡いただければいつでも対応いたしますし、参考のために来院され見学することや体験学習も可能です。 研究について現在行われている研究について教えてください。ホームページには、C型慢性肝疾患の発表資料は掲載されていますが、それ以外の情報がありません。他に何の研究を行っているのか教えてください。(医学部5年)炎症性腸疾患に関しては、基礎研究・臨床研究を含め多くの様々な研究を行なっています。その主な研究は:遺伝子工学技術を応用した細菌分析法により潰瘍性大腸炎・クローン病患者における腸内細菌叢変動の分析、その研究法を応用したprobioticsとsynbioticsの治療効果の解析、顆粒球吸着除去療法における有効性発現機序の解明、潰瘍性大腸炎病態形成と顆粒球機能異常の関連性、抗TNF-α抗体測定キットの開発、炎症性腸疾患患者抗TNF-α抗体製剤二次無効発現機序の解明、クローン病におけるre-set therapyの開発、免疫抑制剤至適投与法の開発、サイトメガロウイルス腸炎の診断と治療、新規内視鏡画像診断法の開発などを実施しています。その他、肝臓癌・膵臓癌に対する多剤併用カクテル療法の開発、肝炎・肝硬変に対するインターフェロン療法の開発なども行なっています。小児潰瘍性大腸炎記事拝見しました。毎日100人ほどの診察、恐れ入ります。外来患者のうち、小児潰瘍性大腸炎の患者さんはどの位いるのでしょうか?最近は小児潰瘍性大腸炎が増えてきたと聞くのですが、やはり増加傾向にあるのでしょうか?実際に診療されている先生の感覚値をお聞きしたく思います。私自身は内科医で小児科が専門ではありませんので、特段に潰瘍性大腸炎小児患者を多く診ているわけではありません。しかし、近隣の病院から小学生高学年以上の中学生・高校生で潰瘍性大腸炎・クローン病と診断された場合に私のところへ紹介されてくる場合が多いようです。最近では、以前に比べそのような若年者潰瘍性大腸炎患者さんの紹介率が増加傾向にあると感じています。以前には詳細な統計が存在していなかったようですが、最近炎症性腸疾患を専門にしている小児科の先生達が集計した全国統計では、小児潰瘍性大腸炎患者数は近年増加傾向にあり、重症化・難治化しやすい特徴があると報告されています。潰瘍性大腸炎罹患後の瘢痕症例は24歳男性。12年前潰瘍性大腸炎に罹患し、ステロイドパルスなどの治療を受け、現在は緩解。内服薬も必要としない。2年前のCFで、罹患時の影響か(?)5cmくらいの線状の瘢痕を認めた。この部分は将来、悪性化の可能性が他の部分に較べて高くなるのでしょうか。よろしくお願い致します。重症の潰瘍性大腸炎では、治癒寛解後も強い炎症部位に一致して瘢痕が残る場合があります。そのような部位が完全に瘢痕化したままで再燃を生じない限り、癌化の心配は通常はありません。潰瘍性大腸炎に関連した大腸癌の発生は、慢性的炎症が持続する結果として癌化を生じることが推測されています。従って、瘢痕化した部位は通常炎症が全く消失していますので特段に癌化の恐れはありません。潰瘍性大腸炎と他の腸炎との鑑別、治療方針について30代女性が粘血便で外来受診し、大腸内視鏡検査実施、所見としては盲腸と直腸にやや易出血性の発赤した粘膜があり、数か所を生検しました。病理診断は潰瘍性大腸炎の寛解期に矛盾しないがUCとの確定診断はできずとのことでした。ペンタサの投与で患者さんの症状は一旦軽減しましたが、ペンタサを中止して半年後くらいから、時に粘血便があり、なんとなく腹がすっきりしないとの訴えです。下痢はなく著名な下血はありません。再度CF生検でもUCの寛解期に矛盾せずとの診断です。現在、ペンタサを再度処方して様子を見ております。特に悪化するわけではありませんが、すっきりと良くなるわけでもなく、診断もはっきりせず、対応に苦慮しております。今後どのような方針あるいは検査、治療で臨めばよいのかご教示いただけるとありがたくよろしくお願いいします。実際の大腸内視鏡写真がないので明確なお答えは困難ですが、文面から推測すると直腸炎型潰瘍性大腸炎と診断されます。直腸炎型では盲腸にも同時に炎症所見を伴うことがよく観察されますので、潰瘍性大腸炎としては矛盾がありません。潰瘍性大腸炎では多くの患者さんが寛解後も再燃を繰り返しますので、症状が改善しても直ぐに服用は中止せずそのまま継続することが望まれます。直腸炎型でペンタサ服用によっても改善を認めない場合には、ペンタサ注腸剤の併用をお勧めいたします。ペンタサ剤の特性として病変部位に直接到達作用する必要があり、直腸炎型では注腸剤によるペンタサあるいはステロイド剤の直接的注入法が内服に比べ副作用が少なく有効性をさらに発揮してくれる可能性があります。潰瘍性大腸炎の食事私は管理栄養士です。先日潰瘍性大腸炎の患者さんから「生寿司を食べたい」の質問を受けました。潰瘍性大腸炎の症状にもよると思いますが時節がらノロウィルスの流行している時期であり、ノロウィルスに感染し下痢をすることは潰瘍性大腸炎にとって好ましくないと考えます。果物、大根おろし等は生で食べてもおかずになるものは原則加熱して食べることが必要と考えますがいかがでしょうか。アドバイスを頂きたく投稿しました。潰瘍性大腸炎の患者さんが、ウイルス・細菌感染による各種感染性腸炎や抗生剤・消炎鎮痛剤服用に伴う薬剤性腸炎の発症に注意することは、病状の再燃予防には重要であります。しかし、通常の感染予防・衛生管理を怠らなければ必要以上に過剰な食事管理をすることが医学的な意味を持つとは思えません。本来生で食することが可能である、新鮮で衛生的な食材であれば、加熱など必要ないと考えます。個々の患者・個々の病状に応じて適切な食事指導を実施すべきであり、科学的根拠のない画一的食事指導は人生の大事な要素である食の楽しみを奪いストレスを誘引してむしろマイナスになることを肝に銘じるべきです。潰瘍性大腸炎の合併症について潰瘍性大腸炎を発症3ヶ月で大腸の全摘出を受けた患者さん術後、膵炎を発症されたとのこと医師からは潰瘍性大腸炎の合併症で免疫性の膵炎だろうと診断されたとのことです現在は症状も治まっており、ときおりある自覚症状にフオイパンの服用をしているとのことでしたただ、膵炎が悪化した場合はステロイドを再開する必要がでてくるかもしれないと医師より言われているそうですせっかく大腸を全摘出しステロイドを中止することができたのにまた服用しなければならないのかと心配されています大腸を全摘出しても合併症は軽減されないのでしょうかまた、膵炎が悪化した場合の治療方法について伺えれば幸いですよろしくお願いいたします通常は膵炎を含めた様々な潰瘍性大腸炎の腸管外合併症は大腸全摘術によって改善するものですが、稀に大腸全摘術後に発症する場合もあります。その様な場合は、発現している症状・臓器に応じ限定した治療法も考慮されますが一般的にはステロイド剤を中心にした全身的治療薬の投与が必要となってきます。そして、ステロイド剤投与を避けたい場合には代わりに免疫抑制剤・免疫調節薬投与が有効性を発揮します。今回の場合、仮にフォイパンを服用しているにも関わらず自己免疫性膵炎が悪化しステロイド剤投与を避けたいとお考えであれば、主治医と相談し免疫抑制剤治療をご考慮してはいかがでしょうか。総括炎症性腸疾患は多彩な病像を形成する複雑な疾患群です。画一的にならず個々の患者さんの病状・病態を的確に判断し、適切な判断に基づいたきめ細かな医療の実践が望まれます。最近、炎症性腸疾患に関する情報が氾濫し一部には不適切な情報も含まれて患者さんに誤解を生んでいます。炎症性腸疾患における診療レベルは近年、著しいスピードで進化しています。我々主治医は勿論、薬剤師・看護師や栄養士といった患者さんに関わる全ての医療人は、科学的根拠に基づいた正確な情報を患者さんに対して迅速に適切に開示する努力を怠ってはなりません。教授 鈴木康夫 先生「最先端の治療で難病患者を支える、グローバルな医療現場」

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乳幼児の喘鳴は、細菌感染、ウイルス感染とそれぞれ独立して関連

乳幼児における急性の喘鳴と細菌感染には、有意な関連があることが明らかにされた。デンマーク・コペンハーゲン大学のHans Bisgaard氏らが、前向き出生コホート研究を行い報告したもので、関連はウイルス感染と同様だが独自のものだという。ガイドラインでは、乳幼児の喘鳴には抗菌薬投与をルーチンに行わないよう勧告している。無作為化試験による喘鳴への抗菌薬投与の有効性も報告されていないが、欧米での最近の就学前児童を対象とした調査で、ウイルス感染による急性喘鳴例では抗菌薬が最も多く処方されていることが明らかになっている。こうした背景を受けBisgaard氏らは、これまで研究報告がされていない喘鳴と気道への細菌感染との関連、およびその関連がウイルス感染のものとは別のものなのか調査を行った。BMJ誌2010年10月9日号(オンライン版2010年10月4日号)掲載より。生後4週~3歳児を対象に、喘鳴と細菌感染との関連を調査本研究は、コペンハーゲンで喘息の母親から生まれた411例を追跡調査している「コペンハーゲン前向き小児喘息研究」の被験児を対象に行われた。母子は生後4週から3歳になるまで、研究拠点のクリニックに定期通院または緊急入院した記録があった。主要評価項目は、喘鳴発作時の気道に認められた細菌あるいはウイルスの頻度と、定期通院時に呼吸器症状が伴わなかった頻度とした。喘鳴との関連オッズ比、細菌感染2.9、ウイルス感染2.8細菌感染に関する解析対象は984検体(幼児361人)だった。ウイルスに関する解析対象は844検体(幼児299人)、両方一緒に解析されたのは696検体(幼児277人)だった。喘鳴発作は、細菌感染、ウイルス感染いずれとも関連が認められた。細菌感染のオッズ比は2.9(95%信頼区間:1.9~4.3、P

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大腸手術時のゲンタマイシン・コラーゲン・スポンジの感染予防効果

埋め込み型局所用抗菌薬ゲンタマイシン・コラーゲン・スポンジについて術後感染予防の効果は認められないとの報告が、米国デューク大学臨床研究所のElliott Bennett-Guerrero氏らによる第3相臨床試験の大規模多施設共同試験の結果、報告された。術後感染予防を目的とした抗菌薬全身投与はルーチンになっているが、大腸手術後の感染症罹患率もかかる医療コストも高いままである。ゲンタマイシン・コラーゲン・スポンジの外科的埋め込みは世界54ヵ国で承認されており、1985年以降、100万例以上の患者が埋め込みを受けているという。NEJM誌2010年9月9日号(オンライン版2010年8月4日号)より。術後60日以内の感染症イベント率で判定研究グループは、全米39施設で開腹または腹腔鏡下の大腸手術を受けた602例の患者を被験者とし、縫合時、筋膜上に二つのスポンジを挿入する群(スポンジ群)と、挿入しない群(対照群)のいずれかに無作為に割り付け追跡した。すべての患者は予防的な抗菌薬全身投与を含む標準ケアを受けた。プライマリーエンドポイントは、術後60日以内に起きた手術部位感染症とされた。判定は、試験割り付けを知らされていない臨床イベント分類委員会によって行われた。予防どころか、有意により多くの感染症を招いている手術部位感染症の発生率は、スポンジ群(300例中90例・30.0%)の方が対照群(302例中63例・20.9%)より高かった(P=0.01)。表層部の手術部位感染症は、スポンジ群20.3%、対照群13.6%で発生し(P=0.03)、深部の手術部位感染症はそれぞれ8.3%と6.0%(P=0.26)だった。スポンジ群は、創関連の徴候または症状で救急外来や外科外来を受診する頻度(19.7%対11.0%、P=0.004)、手術部位感染症のための再入院(7.0%対4.3%、P=0.15)のいずれも、より高かった。有害事象の頻度は、両群間で有意差はなかった。研究グループは、「大腸手術における手術部位感染症予防目的でのゲンタマイシン・コラーゲン・スポンジ埋め込みは、効果的ではないことが示された。逆説的にむしろ、有意により多くの手術部位感染症をもたらすと思われる」と結論づけている。(朝田哲明:医療ライター)

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鳥谷部俊一先生の答え

ラップ療法の患者家族への説明方法患者さんを自宅で介護している家族の方へ、ラップがガーゼよりも有効である旨を説明するときに上手く伝える方法はあるのでしょうか?また先生のご経験で、このように伝えると上手くいく。というノウハウがございましたら是非教えて頂きたいと考えております。宜しくお願いします。このような場合は、モイスキンパッドをお勧めします。「ガーゼの替わりにバンドエイド、キズパワーパッドを貼るのが時代の先端。治りも早く、痛くない。モイスキンパッドをよく見てください、巨大なバンドエイドですよ」。こんなふうに説明してください。モイスキンパッドで良くなってきたら、床ずれパッドを見せて、「そっくりでしょ。しかも安いんです」とお話しましょう。アトピー性皮膚炎のラップ療法アトピー性皮膚炎でもラップ療法が有効であるとか有効でないとか、賛否両論のようですが、先生はどのようにお考えでしょうか?また、有効である場合に、どのような点に気をつければ宜しいでしょうか?ご教示宜しくお願いします。ラップ療法は、床ずれの治療法です。「アトピー性皮膚炎にドレッシング療法が有効か」という質問にお答えできる立場ではありません。アトピー性皮膚炎に対するドレッシング療法の可能性の問題は興味深く、論議が深まることを期待します。モイスキンパッドはじめまして。日々、「皮膚・排泄ケア認定看護師」とともに床ずれの診療をさせていただいている一皮膚科医です。以前、形成外科の先生が手作りで、「モイスキンパッド」と同様なものを使用されていました。「皮膚・排泄ケア認定看護師」は、あまりいい顔をしていませんでした。実際、ある程度褥瘡は改善するものの、その周囲にかぶれを起こしたり、体部白癬に罹患する患者さんが後を立ちませんでした。結局、ラップ療法を中止することとなりました。これについて、先生はどのようにお考えになりますか?どのようにすれば、こうした皮膚トラブルを避けられますか?改善点はありますでしょうか?ご教示いただけるとありがたいと思います。ご質問ありがとうございます。いろいろ工夫してラップ療法を試みたことに敬服します。ラップ療法や、モイスキンパッド処置では、抗真菌剤を塗布して真菌症を簡単に治療することができます。2000年の医師会雑誌に書いたラップ療法の論文では、合併した「カンジダ症2例を抗真菌剤で治療した」と明記しております。夏など暑い季節には、予防的に抗真菌剤を塗ります。クリーム類がお勧めです。ラップ療法や、モイスキンパッド処置ではドレッシングを絆創膏で固定しないで毎日交換するので、外用薬を毎日塗るのが容易です。真菌は湿潤環境で増殖しますので、吸水力の高いモイスキンパッドを使って皮膚を乾燥させることをお勧めします。手作り「モイスキンパッド」の吸水力についてはデータがありませんのでコメントできません。既成のドレッシングや軟膏ガーゼの治療の場合も真菌感染を生ずるのですが、なぜか話題になることが少ないようです。高齢者の足をみると、ほとんどの方の爪が白く濁って変形しております。白癬症です。爪白癬がある人をよく観察すると、全身に角化した皮疹が見られます。掻痒感があれば、爪で引っかいた痕跡や、体を捩って背中を擦り付ける動作があるでしょう。足ユビ、足底、足背、下腿、膝、臀部、背部、後頭部、手、上肢などをよく調べれば、白癬菌が検出されます。皮膚を湿潤環境にすると、真菌類(カンジダ、白癬)が増殖しやすくなります。抗真菌外用薬(クリーム)を積極的に使用して治療します。基礎疾患が重篤な場合は?現場の知恵を洗練していく先生に敬意を持っております。通常の免疫能がある患者さんにおいては、水道水による洗浄と湿潤環境で軽快するというのはわかりますが、がん治療に伴い免疫不全状態にある患者さん、糖尿病のコントロールがうまくなくこれも免疫不全のある患者さん等、表在の細菌、真菌に弱いと考えられる患者さんにも同様に適応し、効果を期待できるのでしょうか。こうした患者さんにはある程度の消毒なり軟膏治療が必要になるのではないでしょうか。困難な症例に取り組むご様子に敬服します。基礎疾患が重篤な症例に対するラップ療法の有効性は確立しておりません。よって、このような症例には、「ガイドライン」に従った治療をするのが安全であると考えます。ただし、「こうした患者さんに消毒・軟膏治療が有効である」というエビデンスが無いのが現状です。また、「基礎疾患が重篤な患者にこそ、消毒や軟膏による有害事象が生じ易いのではないか」という観点からの検討も必要です。床ずれに対するラップ療法の治癒の機序床ずれはもともと血流障害ですが、これがラップ療法で治癒する機序は何でしょうか。創傷治療の本質に迫るご質問、ありがとうございます。既存の軟膏ガーゼ処置は、「厚い小さなドレッシング」が外力(圧力/ずれ力)を床ずれに加えるため、血流障害をおこして治癒を遷延させます。ラップ療法は、「薄い大きななドレッシング」が外力(圧力/ずれ力)を打ち消すことにより、血流を改善して治癒を促進する湿潤療法です。床ずれの原因は、「外力による血流障害」です。一方、下腿潰瘍などの末梢動脈疾患(PAD)は、「外力によらない血流障害」です。床ずれは、外力(圧力/ずれ力)を取り去ることにより血流が改善して治癒に向かいます。例えば、仙骨部の床ずれは、「腹臥位」で圧迫を防ぐことにより治癒した、という報告があります。要するに、「圧迫さえ無ければ床ずれは普通の切り傷と同じような治り方をする」ということです。圧迫を減らすための工夫が、体圧分散マットレス、体位変換、ポジショニングなどです。ラップ療法は、外力を分散するドレッシング療法・湿潤療法です。感染がある 虚血がある感染症があれば、抗菌作用のパスタ剤や、感受性のある抗菌軟膏やソフラチュールなどは一定期間必要じゃないでしょうか。血流を高めるPG剤も必要では。また、化学的デブリードメントにあたるプロメラインなども必要ではないでしょうか。ラップ療法を実践している医療者の多くは、感染症は抗生剤全身投与で、血流改善は(必要に応じて)PG剤全身投与で治療しております。デブリードメントは、外科的デブリードメントと湿潤療法による自己融解を行なっており、化学的デブリードメント剤は使っておりません。「学会ガイドライン」を参照したところ、ご指摘の外用剤はガーゼとの組み合わせでエビデンスが証明されているようですが、ラップ療法やモイスキンパッドとの組み合わせによるエビデンスはございません。今後、エビデンスが集積されてから併用されることをお勧めします。ラップで治療困難な症例の判別皮膚所見をみた当初から、外科治療、皮弁手術が必要かどうかは、判別可能でしょうか。ある程度ラップしたあとで、考慮するのでしょうか。もちろん他の疾患の管理をし栄養、感染など評価をした場合として。ラップ療法は床ずれの保存療法です。外科治療、皮弁手術を考慮される場合は、「学会ガイドライン」に従った治療をお勧めします。2010年の日本褥瘡学会での議論を拝見した限りでは、外科治療、皮弁手術の適応症例は減っているようでした。感染症に対して抗生剤と抗真菌薬の外用と全身投与について感染症には抗生剤の全身投与は理解できるのですが、表在真菌感染症に抗真菌薬の外用が効くのはどうしてでしょうか?抗生剤の外用はなぜ不適切なのでしょうか?ご教授よろしくお願いします。一部の領域(皮膚科、耳鼻科、歯科など)を除き、細菌感染症の治療は抗生剤全身投与が標準治療です。創感染に対する抗生剤外用は、耐性菌誘発リスクなどの理由から、CDCガイドラインなどは推奨しておりません、「学会ガイドライン」にも推奨の記載が見当たりません。表在真菌感染症は、表皮が感染の舞台なので、抗真菌外用剤がよく効きます。抗生剤の外用は無効です。細菌感染の舞台は真皮や皮下組織、あるいはさらに深部の組織です。閉鎖療法の場合は、創を閉鎖して組織間液が深部組織に逆流する結果抗菌薬が感染部位に到達すると想像されますが、ラップ療法・開放性湿潤療法では、創を開放するので組織間液の逆流は起きず、抗菌剤は感染部位に到達しないと考えます。全身投与された抗生物質は、血流を通じて感染部位に到達します。糖尿病性神経症、ASO合併の下肢壊疽80歳、女性、糖尿病で血液透析の患者です。3年前 右足趾を壊疽で切断。今回は左下足に足趾を中心に踵まで、壊疽、深い、汚染の褥瘡様潰瘍があります、悪臭がします。切断は拒否しています。ラップ療法は有効でしょうか?ラップ療法は、床ずれの治療法です。よって、この症例はラップ療法の適応外です。PADのガイドラインに従った治療をお勧めします。血管治療、デブリドマン後のドレッシング材としてモイスキンパッドが有効であったとの報告があります。このような処置は、ラップ療法とではなく、ドレッシング療法、湿潤療法と呼称すべきです。病院皮膚科形成外科との調整病院内科勤務医です。当院では褥瘡ケアは皮膚科の褥瘡ケアチームが回診しています。形成外科は陰圧吸引療法の高価な機械を使いますが患者の一部費用負担はあるものの病院としては赤字になるようです。どのようにして病院全体の褥瘡ケアを統一改善していったらよいでしょうか。アドバイスをお願い申し上げます。かつて同様の立場にあった内科医として、同情申し上げます。1999年に日本褥瘡学会でラップ療法の発表をして12年になりますが、2009年の学会シンポジウムで「ラップ療法と学会ガイドラインは並立する」と(私が)宣言したことが、「在宅のラップ療法を条件付で容認する」という2010年の学会理事会見解につながったようです。「褥瘡ケアの統一」は、学会ガイドラインで統一するか、ラップ療法で統一するかの選択問題ですが、未だ結論が出ておりません。より多くの方がラップ療法を支持するようになれば、学会がラップ療法を受容する日がいずれ来るでしょう。皆様のお働きを期待申し上げます。総括医学の歴史を紐解くと、新しい考え方が「専門領域の侵害」と受け止められ、いろいろな形で抵抗を受けてきたことが分かります。ゼンメルヴァイスの「消毒法」が医学界で受け入れられたのは、ゼンメルワイスの死後のことです。ラップ療法はインターネットの時代に遭遇して、学会よりも一般社会で先に普及しました。情報化社会では、権威者よりも一般社会が先に一次情報を入手することができます。そうした中にあって、情報の真贋を見抜く力(情報リテラシー)が必要であり、そうした能力が専門家と呼ばれる人々に求められております。MediTalkingという場でラップ療法の議論が深められたのはこうした時代の反映であり、有意義なものと考えます。顧問 鳥谷部俊一先生「床ずれの「ラップ療法」は高齢者医療の救世主!」

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鳥谷部俊一先生 [追加記事] 床ずれの「ラップ療法」は高齢者医療の救世主!

1979年東北大学医学部卒業。東北大学医学部第二内科、鹿島台町国民健康保険病院内科、慈泉会相澤病院 統括医長、至高会たかせクリニック 顧問を経て、現職に至る。床ずれ治療「ラップ療法」の創案者。追加記事掲載について形成外科専門医の方から「ラップ療法」の危険性について指摘いただきました。<指摘内容>閉鎖療法は簡便なので、医療従事者が取り掛かりやすい。しかし創傷に精通したものでないと症状を悪化させる場合がある。傷の中には感染を伴っている状態のものがあり、これにラップ療法を行ったため、細菌が中で繁殖し、敗血症に陥った例がある。この点に関して、鳥谷部先生からのコメントを追加記事として掲載いたします。鳥谷部先生からのコメント「2010年に、『いわゆる「ラップ療法」に関する日本褥瘡学会理事会見解』が発表されました。http://www.jspu.org/jpn/info/pdf/20100303.pdf『褥瘡の治療にあたっては医療用として認可された創傷被覆材の使用が望ましい。非医療用材料を用いた、いわゆる「ラップ療法」は、医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な在宅などの療養環境において使用することを考慮してもよい。ただし、褥瘡の治療について十分な知識と経験を持った医師の責任のもとで、患者・家族に十分な説明をして同意を得たうえで実施すべきである。』2011年、ラップ療法(食品用ラップまたは穴あきプラスチックフィルムを貼付する処置と標準治療(学会ガイドラインに準拠した処置)を比較したランダム化比較研究が行われ、両群の治療成績が同等であるとの結果が学会誌に発表されました*1。この結果をうけ、近く改訂される日本褥瘡学会ガイドラインでは、「"いわゆる"ラップ療法(食品用ラップや穴あきプラスチックフィルムを貼付する処置)」が推奨度C1の処置法として掲載される見通しです。学会ガイドライン検討委員会は、ラップ療法のリスクが高いことを考慮して「十分な知識と経験を持った医師の責任のもとで、患者・家族に十分な説明をして同意を得たうえで実施すべきである」との文言を付け加えたようですが、それならばむしろ「医師の目の届きにくい在宅などではなく、病院に入院している患者に限定して行い、入院患者の治療に習熟した医師が在宅患者を治療すべきである」とするべきでしょう。そもそもラップ療法のランダム化試験は大部分が入院患者を対象にした臨床研究です。そのエビデンスを入院患者ではなくあえて在宅患者に限定適用しガイドラインに書き込んだのは、諸般の事情があったのでしょうか。筆者が日本医師会雑誌(2000年)に発表したラップ療法を追試した方々の多くは、それまでの外用剤とガーゼによる処置法で苦労を重ね、創感染治療に習熟した医師たちでした。最初の何例かは慎重を期して入院管理下で行い、医師自ら毎日処置を行いました。創感染など合併症の管理は当然のことでしたが、それでも従来の治療法よりは比較的容易に対処できたと伝え聞いています。ラップ療法が普及するに従い、従来の治療経験なくして最初からラップ療法を行う医師あるいは非医師があらわれたのでしょうか。ラップ療法(ラップや穴あきポリエチレンを貼付)は、素人目には「簡単な治療」に見えるため、ややもすると安易に行われ、医師の目の届かないところで行われているうちに重症感染を併発し、対応が遅れて敗血症のため亡くなった事例があったのではないかと危惧しております。ラップ療法の臨床研究によると、ラップ療法が他の治療法に比べて特別に創感染を起こしやすいという傾向は認められなかったそうです*1。創感染については筆者は以下のように対応していますので参考にしてください。『褥瘡周囲の熱感,浮腫,滲出液増加,疼痛,発熱,白血球増多,CRP上昇を認めた場合は,感染あるいは持続感染と考え,第一,第二世代のセフェム系あるいは合成ペニシリン系抗生剤,マクロライド,アミノグリコシドなどを全身投与する.創面を細菌培養すると,創感染の有無にかかわらず,大腸菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌が検出される.創面より培養された菌の多くは耐性菌で前述の抗生剤は無効と思われるのだが,実際のところ感染兆候は消失し創所見は改善する.感染終息後に細菌培養をすると,これらの耐性菌が検出される.すなわち,創の表面にいる菌は創感染とは無関係であり,起炎菌は創の深部に存在し,その多くは耐性菌ではないのだろう.褥瘡を有する患者が肺炎や尿路感染を起こすと,創感染がなくても創の状態が悪化(浮腫,滲出液の増加,肉芽壊死)することが多い.発熱時は全身状態を評価し,感染を疑った場合は積極的に抗生剤を全身投与して治療してほしい.』褥瘡の治療は、ラップ療法であれ、学会標準治療であれ、いずれの場合でも創傷治療に経験のある医師が十分な注意を払って行うべきものです。褥瘡治療の経験に乏しい医師は、入院患者を対象に、感染のない浅い褥瘡を医療用ドレッシング(モイスキンパッド・白十字)で治療し、経験を積んでください。3度の褥瘡に対しては早期のデブリードマンを行って創感染を未然に防いでください。感染の兆候(発熱、熱感、腫脹、疼痛、膿性浸出液)を認めたら、早期に抗生物質を全身投与して感染の進展を防ぎましょう。感染が深部に及ぶ症例、骨壊死を伴う症例、閉塞性動脈症を伴う足病変は、しかるべき専門医のいる病院に入院させて治療してください。以上の事例に習熟してから、ラップや穴あきポリエチレンを貼付する「"いわゆる"ラップ療法」に挑戦したり、在宅患者の治療をしていただきたい。褥瘡を発症するような患者はもともと重篤な基礎疾患を合併しており、一旦感染が重症化すると敗血症のため亡くなる可能性が高いのはご承知のことと存じます。患者・家族には、褥瘡がしばしば致死的な疾患であることを十分に説明し、同意を得たうえで治療してください。筆者は2002年以来同意書書式例を公開しておりますので、ぜひ活用してください。*1 文献:水原章浩,尾藤誠司,大西山大 ほか:ラップ療法の治療効果~ガイドラインによる標準法との比較検討.褥瘡会誌, 13:134-141,2011. 褥瘡の予防・治療に関する説明書(例)褥瘡(じょくそう)・床ずれとは、ふとんに接触している皮膚が、すれや圧迫によって血のめぐりが悪くなってできる傷です。自力で寝返りを打てない状態になると、一定の部位に力が加わり続け、皮膚には血液が流れなくなり壊死が生じます。これが褥瘡です。○○○病院では褥瘡対策委員会をつくり、病院内のみならず地域での褥瘡の予防と治療および研究に取り組んでいます。最近褥瘡の研究が進み、次のようなことがわかってきました。圧力を分散させるエアマットレスや体位変換などによって褥瘡の発生を減らすことができるが、最大限の努力をしても患者の全身状態が悪ければ発生を免れない。病院を受診する前にできかかっていた褥瘡が受診または入院後に完成して、あたかも受診後(入院後)にできたように見える経過をたどる例がある。褥瘡の治療法はこの数年間で大きく進歩したが、患者の全身状態が悪ければ必ずしも治らない。褥瘡の治療法はいまだ発展途上である。○○○病院では褥瘡の患者さまにラップ療法を実施しております。(鳥谷部俊一,末丸修三:食品包装用フィルムを用いるⅢ-Ⅳ度褥瘡治療の試み,日本医師会雑誌2000;123(10):1605-1611.水原章浩,尾藤誠司,大西山大 ほか:ラップ療法の治療効果~ガイドラインによる標準法との比較検討.褥瘡会誌, 13:134-141,2011.)ラップ療法は、日本褥瘡学会ガイドライン(次回改訂)に掲載が予定されており、すでに多くの施設で実施されておりますが、非医療材料(食品用ラップや穴あきプラスチックフィルム)を用いますので患者さま(ご家族)の同意が必要です。同意をいただけない場合は厚生労働省の承認をうけた医療材料を用いた方法で治療します。また安全性と有効性を確認するための検査、記録をしております。許可いただければ結果を外部に発表させていただきます。発表に際して、個人のプライバシーは十分に保護されるよう配慮されます。どのようなかたちで発表されるかについては、担当医または院長にお尋ねください。発表にご協力いただけるかどうかは全く自由です。同意いただいた後の撤回もいつでも可能です。また、ご協力いただけなくてもあなたの診療に不利益を生ずることはありません。日付   年   月   日○○○病院 院長私は、褥瘡の予防治療に関し口頭及び文書を用いて説明を受け、その内容を十分理解いたしました。本人  氏  名生年月日代理人 氏名 続柄説明者 職名 氏名ラップ療法を実施することについての同意書検査結果、記録などの学術発表についての同意書私は、褥瘡の治療にラップ療法を実施することについて、および○○○病院における診療で得られた検査結果、記録(写真を含む)の学術発表への利用について、口頭及び文書を用いて説明を受け、その内容を十分理解いたしました。私は、次のように判断いたします。私の褥瘡の治療においてラップ療法をおこなうことに、1 同意します。2 同意しません。診療後、検査結果、記録(写真を含む)の学術発表への利用について、1 同意します。2 同意しません。日付   年   月   日○○○病院 院長-------------------------------------※本記事は、追加記事です。ページ下部にある[質問と回答を見る]をクリックすると、前回と同じ「質問と回答ページ」が表示されます。予めご了承ください。質問と回答を公開中!

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PEG施行時の創傷感染に対する新たな予防戦略

経皮的内視鏡下胃瘻造設術(PEG)施行患者の創傷感染の予防では、PEGカテーテル挿入時のコ・トリモキサゾール液[トリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST)合剤、商品名:バクタ、バクトラミンなど]の投与は、従来のPEG施行前のセフロキシム(商品名:オラセフ)の予防投与と同等の予防効果を有することが、スウェーデン・カロリンスカ研究所分子外科学のJohn Blomberg氏らによる無作為化試験で示された。PEGの合併症である創傷感染の予防法として、通常、PEG開始直前に第2世代セファロスポリンの静脈内投与が行われるが、高価で時間がかかり、PEGが完遂できない患者に無駄に投与している場合もあるという。BMJ誌2010年7月10日号(オンライン版2010年7月2日号)掲載の報告。新たな予防戦略と従来の予防投与を比較する二重盲検無作為化対照比較試験研究グループは、PEG施行時の抗生物質予防投与の簡便な治療戦略について検討するために、単一施設における二重盲検無作為化対照比較試験を行った。2005年6月~2009年10月までに、カロリンスカ大学病院内視鏡部でPEGを施行された234例が対象となった。これらの患者が、PEGカテーテル挿入直後にコ・トリモキサゾール経口液20mLを投与する群あるいは従来法であるPEGカテーテル挿入前にセフロキシム1.5gを静脈内に予防投与する群(対照群)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、PEGカテーテル挿入後14日以内における臨床的に顕性化した創傷感染の発症とした。副次的評価項目は、細菌培養および血液検査(高感度C反応性蛋白、白血球数)における陽性率とした。intention-to-treat解析、per-protocol解析ともに非劣性の条件を満たす234例のうち、コ・トリモキサゾール群に116例が、対照群には118例が割り付けられた。intention-to-treat(ITT)解析では、PEGカテーテル挿入後のフォローアップ期間7~14日における創傷感染の発症率は、コ・トリモキサゾール群が8.6%(10/116例)、対照群は11.9%(14/118例)であり、むしろ新規予防戦略群が3.3%(95%信頼区間:-10.9~4.5%)低かった。per-protocol解析(対象は両群とも100例ずつ)による創傷感染の発症率は、コ・トリモキサゾール群10%、対照群13%であり(両群間の差:-3.0%、95%信頼区間:-11.8~5.8%)、ITT解析と同様の結果であった。事前に規定された非劣性限界値は95%信頼区間上限値15%であった。intention-to-treat解析、per-protocol解析ともにこれを満たしたことから、セフロキシムに対するコ・トリモキサゾールの非劣性が確認された。副次的評価項目も、これらの知見を裏付ける結果であった。著者は、「PEG施行患者の創傷感染の予防では、PEGカテーテル挿入時のコ・トリモキサゾール液20mLの投与は、少なくともPEG施行前のセフロキシム予防投与と同等の効果を有する」と結論し、「この新たな予防戦略は迅速に施行できるうえに安価で安全であり、不必要な投与も減少し、PEGが行われる地域ならば世界中どこでも使用可能である」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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かかりつけ医の抗菌薬処方が、地域に耐性菌を出現・増大

プライマリ・ケア医(かかりつけ医)の抗菌薬処方が、地域に第1選択薬の耐性菌を出現・増加させ、第2選択薬の乱用をもたらしていることが報告された。イギリス・ブリストル大学地域医療部門のCe'ire Costelloe氏らが行ったメタ解析によるもので、BMJ誌2010年5月22日号(オンライン版2010年5月18日号)に掲載された。システマティックレビューで24論文をメタ解析Costelloe氏らは、Medline、Embase、Cochraneをデータベース(1955~2009年5月)に、システマティックレビュー、メタ解析を行った。電子検索で「抗菌薬治療」「薬剤耐性」などの単語にヒットした4,373論文から、2人の独立したレビュアーが、かかりつけ医が処方した抗菌薬とその後の耐性菌出現との定量的関係性を調査したものを選定。24論文がレビューされた。22件は感染症状を有した患者が関与、2件は健康なボランティアが関与しており、19件は観察研究(うち2件は前向き研究)で、無作為化試験は5件だった。長期投与・多剤投与で耐性菌出現率高める尿路感染に関する5試験で、耐性菌出現の統合オッズ比は、抗菌薬処方後2ヵ月間2.5(95%信頼区間:2.1~2.9)、12ヵ月間1.33(1.2~1.5)であった。呼吸器感染に関する7試験では、耐性菌出現の統合オッズ比は各期間とも2.4(1.4~3.9)、2.4(1.3~4.5)だった。また、抗菌薬処方量が報告されていた試験で、長期投与・多剤投与がより高い耐性菌出現率と関連していることが認められた。前向き試験で、長期にわたり耐性菌出現が低下したことが報告されていたのは1試験だけだった。統合オッズは、1週12.2(6.8~22.1)、1ヵ月6.1(2.8~13.4)、2ヵ月3.6(2.2~6.0)、6ヵ月2.2(1.3~3.6)だった。

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