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敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA

 敗血症が疑われる重篤な入院成人患者において、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]とC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールによる抗菌薬投与期間の決定について、標準治療と比較してPCTガイド下では、安全に投与期間を短縮でき全死因死亡も有意に改善したが、CRPガイド下では投与期間について有意な差は示されず、全死因死亡は明らかな改善を確認することはできなかった。英国・マンチェスター大学のPaul Dark氏らADAPT-Sepsis Collaboratorsが、多施設共同介入隠蔽(intervention-concealed)無作為化試験「ADAPT-Sepsis試験」の結果を報告した。敗血症に対する抗菌薬投与の最適期間は不明確であり、投与中止の判断はバイオマーカー値に基づいて行われているが、その有効性および安全性の根拠は不明確なままであった。JAMA誌オンライン版2024年12月9日号掲載の報告。総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)を評価 ADAPT-Sepsis試験は2018年1月1日~2024年6月5日に、英国国民保健サービス(NHS)の集中治療室(ICU)41ヵ所で行われた。敗血症が疑われ24時間以内に抗菌薬の静脈内投与を開始した、少なくとも72時間の投与継続の可能性がある18歳以上の成人患者2,760例を対象に、PCTまたはCRPの評価に基づく決定が抗菌薬期間を安全に短縮可能かどうかについて検証した。 被験者は、daily PCTガイド下プロトコール群(918例)、daily CRPガイド下プロトコール群(924例)、標準治療群(918例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)であった。副次アウトカムは、CCU(critical care unit)入室期間、入院期間データなどであった。90日全死因死亡も評価した。PCTガイド下の有効性、安全性を確認 無作為化された2,760例のベースライン特性は3群間で類似しており、平均年齢は60.2(SD 15.4)歳、男性60.3%であった。ほぼすべての患者が敗血症診断Sepsis-3基準を満たしていたと考えられ(SOFAスコア:7[四分位範囲:5~9])、敗血症患者は1,397例(50.8%)、敗血症性ショック患者は1,352例(49.2%)であった。 無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間は、daily PCTガイド下プロトコール群が標準治療群と比較して有意に短縮した(平均期間:9.8日[SD 7.2]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.88[95%信頼区間[CI]:0.19~1.58]、p=0.01)。一方、daily CRPガイド下プロトコール群は標準治療群と比較して、総抗菌薬投与期間について差はみられなかった(10.6日[SD 7.7]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.09[95%CI:-0.60~0.79]、p=0.79)。 無作為化から28日までの全死因死亡について、daily PCTガイド下プロトコール群(全死因死亡率20.9%[184/879例])の標準治療群(19.4%[170/878例])に対する非劣性(非劣性マージンは5.4%)が示された(絶対群間差:1.57[95%CI:-2.18~5.32]、p=0.02)。daily CRPガイド下プロトコール群(全死因死亡率21.1%[184/874例])の標準治療群に対する非劣性は確証が得られなかった(絶対群間差:1.69[95%CI:-2.07~5.45]、p=0.03)。

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再利用ペースメーカーは安全で再利用可能

 再利用ペースメーカーは新しいペースメーカーと同程度に安全かつ効果的であり、低・中所得国の多くの人に利用可能な治療選択肢を提供する可能性があるとする研究結果が報告された。この研究を実施した米ミシガン大学医学部循環器科内科部門のThomas Crawford氏は、「米国と異なり、低・中所得国の人は、ペースメーカー治療が利用できなかったり、利用できたとしても費用が高額過ぎたりすることが多い」と指摘。「われわれのMy Heart Your Heart(MHYH)プログラムは、それを変えることを目指している」と話している。この研究結果は、米国心臓協会年次学術集会(AHA 2024、11月16〜18日、米シカゴ)で発表された。 Crawford氏らは、7カ国の298人の成人を対象にしたランダム化比較試験で、再利用ペースメーカーの機能と安全性を、新しいペースメーカーと比較した。対象者は149人ずつ、新しいペースメーカーを植え込む群(新規ペースメーカー群)と再利用ペースメーカーを植え込む群(再利用ペースメーカー群)にランダムに割り付けられ、植え込みから2週間後と最長90日後に転帰の評価が行われた。 その結果、植え込み部位での感染症が生じ、ペースメーカーの抜去が必要になった患者は5人であり、そのうちの3人は新規ペースメーカー群、2人は再利用ペースメーカー群の患者であったことが明らかになった。また、新規ペースメーカー群の1人に、抗菌薬で対応可能な表在性皮膚感染症が発生した。ペースメーカーの植え込み後にリードの移動または交換手術を必要とした患者は、新規ペースメーカー群で5人、再利用ペースメーカー群で6人だった。ペースメーカーの故障は、いずれの群でも報告されなかった。再利用ペースメーカー群では死亡が3件発生したが、ペースメーカーの植え込みとは無関係だった。新規ペースメーカー群に死亡は発生しなかった。 こうした結果を受けてCrawford氏は、「これらの肯定的な初期の結果により、ペースメーカーの大規模な寄付とその再利用により世界中の人々の命を救うという現実に一歩近付いた」とAHAのニュースリリースの中で述べている。 研究者らは、「今回の3カ月間の結果は希望が持てるものだった。6カ月後と12カ月後の転帰を調査することで、電池の寿命を除けば、再利用ペースメーカーが新品同様に機能するかどうかが明らかになるだろう」と述べている。 米国では、リサイクルされたペースメーカーを植え込むことは違法だが、米食品医薬品局(FDA)は、それを海外に送ることは許可している。2010年、MHYHプログラムは、命を救うための代替治療法がない心臓病患者に対する人道的な使用のために、再利用ペースメーカーの海外への送付を開始した。リサイクルされるペースメーカーは、死亡した患者や、より高度なデバイスへのアップグレードを必要とする患者が使っていたものである。同プログラムでは、電池の寿命が4年以上のペースメーカーが、ミシガン州の研究所で再処理され、コネチカット州で再滅菌される。多くは墓地や火葬場業界にサービスを提供するリサイクル会社が回収したもので、全国の葬儀場からも寄付が寄せられているという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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尿グラム染色でグラム陽性球菌が見えたとき何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第10回

尿グラム染色でグラム陽性球菌が見えたとき何を考える?Teaching point(1)尿からグラム陽性球菌が検出されたときにどのような起因菌を想定するかを学ぶ(2)腸球菌(Enterococcus属)に対して、なぜグラム染色をすることが重要なのかを学ぶ(3)尿から黄色ブドウ球菌(S. aureus)が検出された場合は必ず菌血症からの二次的な細菌尿を考慮する(4)一歩進んだ診療をしたい人はAerococcus属についても勉強しよう《症例1》82歳女性。施設入所中で、神経因性膀胱に対し、尿道カテーテルが挿入されている方が発熱・悪寒戦慄にて救急受診となった。研修医のA先生は本連載の第1~4回(腎盂腎炎の診断)をよく勉強していたので、病歴・身体所見・血液検査・尿検査などから尿路感染症と診断した。グラム染色では白血球の貪食像を伴うグラム陽性の短レンサ球菌が多数みられた。そこから先はよく勉強していなかったA先生は、尿路感染症によく使われる(とA先生が思っている)セフトリアキソン(CTRX)を起因菌も考えず「とりあえず生ビール」のように投与した。A先生は翌朝、自信満々にプレゼンテーションしたが、なぜか指導医からこっぴどく叱られた。《症例2》65歳女性、閉経はしているがほかの基礎疾患はない。1ヵ月前に抜歯を伴う歯科治療歴あり。5日前からの発熱があり内科外来を受診。後期研修医のB先生は病歴・身体所見・血液検査・尿検査を行った。清潔操作にて導尿し採取した尿検体でグラム染色を行ったところ、グラム陽性球菌のcluster像(GPC-cluster)が確認できた。「尿路感染症の起因菌でブドウ球菌はまれって書いてあったので、これはコンタミネーションでしょう! 尿路感染症を疑う所見もないしね!」と考えたA先生は患者を帰宅させた。夕方、A先生のカルテをチェックした指導医が真っ青になって患者を呼び戻した。「え? なんかまずいことした…?」とA先生も冷や汗びっしょりになった…。はじめに尿路感染症を疑い、グラム染色を行った際に「グラム陽性球菌(GPC)」が検出された場合、もしくは細菌検査室から「GPC+」と結果が返ってきた場合、自信をもって対応できるだろうか? また危険な疾患を見逃しなく診療できるだろうか? 今回は、なかなか整理しにくい「尿からグラム陽性球菌が検出されたときの考え方」について解説する。1.尿路感染症の起因菌におけるグラム陽性球菌検出の割合は?そもそも尿路感染症におけるグラム陽性球菌にはどのような種類がいるのか、その頻度はどれくらいなのかを把握する必要がある。表11)は腎盂腎炎の起因菌を男性・女性・入院の有無で分けた表である。なお、このデータは1997〜2001年とやや古く、かつ米国の研究である。表22)にわが国における2010年のデータ(女性の膀胱炎患者)を示すが、表1のデータとほぼ同様であると考えられる。画像を拡大する画像を拡大するほかの文献も合わせて考えると、おおよそ5~20%の割合でグラム陽性球菌が検出され、Staphylococcus saprophyticus、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Streptococcus agalactiaeなどが主な起因菌であるといえる3)。閉経後や尿道カテーテル留置中の患者の場合はどうだろうか? 閉経後に尿路感染症のリスクが上昇することはよく知られているが、その起因菌にも変化がみられる。たとえば若年女性では高齢女性と比較してS. saprophyticusの検出割合が有意に多かったと報告されている2)。また尿道カテーテル留置中の患者の尿路感染症、いわゆるCAUTI(カテーテル関連尿路感染症)においてはEnterococcus属が約15%程度と前述の報告と比較して高いことが知られている4)。グラム陽性球菌が検出されたときにまず考えるべきこと尿からグラム陽性球菌が検出された際にまず考えるべきことはコンタミネーションの存在である。これは女性の中間尿による検体の場合、とくに考慮する必要がある。過去の文献によると、女性の膀胱炎において、S. saprophyticusはコンタミネーションの可能性が低いとされる一方で、Enterococcus属やS. agalactiaeはコンタミネーションの可能性が高いとされている5)。中間尿を用いた検査結果の判断に悩む場合はカテーテル尿による再検を躊躇しない姿勢が重要である。また採取後常温で長時間放置した検体など、取り扱いが不適切な場合もコンタミネーションの原因となるため注意したい。グラム染色でこれらをどう判断する?コンタミネーションの可能性が低いと判断した場合、次に可能な範囲でグラム染色による菌種のあたりをつけておくことも重要である。以下に各菌種の臨床的特徴およびグラム染色における特徴について簡単に述べる。●Enterococcus属Enterococcus属による尿路感染症は一般的に男性の尿路感染症やCAUTIでしばしばみられる一方で、若年女性の単純性尿路感染症では前述のとおり、コンタミネーションである可能性が高いことに注意する必要がある。Enterococcus属は基本的にセフェム系抗菌薬に耐性を示す。言い換えると「グラム染色なしに『尿路感染症なのでとりあえずセフトリアキソン』と投与すると治療を失敗する可能性が高い」ということである。つまり、グラム染色が抗菌薬選択に大きく寄与する菌種ともいえる。Enterococcus属は一般的に2〜10個前後の短連鎖の形状を示すことが特徴である。また、Enterococcus属は一般的にペニシリン系抗菌薬に感受性のあるE. faecalisとペニシリン系抗菌薬への耐性が高いE. faeciumの2種類が多くを占め、治療方針を大きく左右する。一般的にE. faecalisはやや楕円形、E. faeciumでは球形であることが多く、両者を区別する一助になる(図1)。画像を拡大するまた血液培養においては落花生サイン(2つ並んだ菌体に切痕が存在し、あたかも落花生のように見える所見)が鑑別に有用という報告もあるが6)、条件のよい血液培養と異なり、尿検体ではその特徴がハッキリ現れない場合も多い(図2)。画像を拡大する●Staphylococcus属Staphylococcus属は前述のとおり、S. saprophyticusとS. aureusが主な菌種である。S. saprophyticusは若年女性のUTIの原因として代表的であるが、時に施設入所中の高齢男性・尿道カテーテル留置中の高齢男性にもみられる。一方で、S. aureusが尿路感染症の起因菌となる可能性は低く、前述の表1などからも全体の約1〜2%程度であることがわかる。またその多くは妊娠中の女性や尿道カテーテル留置中の患者である。ただし、S. aureus菌血症患者で、尿路感染症ではないにもかかわらず尿からS. aureusが検出されることがある7)。したがって、尿からS. aureusが検出された場合は感染性心内膜炎を含む尿路以外でのS. aureus感染症・菌血症の検索が必要になることもある。Staphylococcus属はグラム染色でcluster状のグラム陽性球菌が確認できるが、S. saprophyticusの同定にはノボビオシン感受性テストを用いることが多く、グラム染色だけでS. saprophyticusとS. aureusを区別することは困難である。●Streptococcus属Streptococcus属ではS. agalactiae(GBS)が尿路感染症における主要な菌である。一般的に頻度は低いが、妊婦・施設入所中の高齢者・免疫抑制患者・泌尿器系の異常を有する患者などでみられることがあり、またこれらの患者では感染症が重篤化しやすいため注意が必要である。グラム染色ではEnterococcus属と比較して長い連鎖を呈することが多い。●Aerococcus属前述の頻度の高い起因菌としては提示されていなかったが、Aerococcus属による尿路感染症は解釈や治療に注意が必要であるため、ここで述べておく。Aerococcus属は通常の検査のみではしばしばGranulicatella属(いわゆるViridans streptococci)と誤認され、常在菌として処理されてしまうことがある。主に高齢者の尿路感染症の起因菌となるが、スルホンアミド系抗菌薬に対して耐性をもつことが多く、Aerococcus属と認識できずST合剤などで治療を行った場合、重篤化してしまう可能性が指摘されている8)。グラム染色では球菌が4つくっついて四角形(四量体)を形成するのが特徴的だが、Staphylococcus属のようにクラスター状に集族することもある。《症例1》のその後また別の日。過去に尿路感染症の既往があり、施設入所中・尿道カテーテル挿入中の80歳女性が発熱で救急搬送された。A先生は病歴・身体所見・検査所見から尿路感染症の可能性が高いと判断した。また、尿のグラム染色からは白血球の貪食像を伴うグラム陽性の短レンサ球菌が多数みられた。1つ1つの球菌は楕円形に見えた。過去の尿培養からもE. faecalisが検出されており、今回もE. faecalisによる尿路感染症が疑われた。全身状態は安定していたため、治療失敗時のescalationを念頭に置きながら、E. faecalisの可能性を考慮しアンピシリンで治療を開始した。その後、患者の状態は速やかに改善した。《症例2》のその後指導医から電話を受けた患者が再来院した。追加検査を行うと、経胸壁エコーでもわかる疣贅が存在した。幸いなことに現時点で弁破壊はほとんどなく、心不全徴候も存在しなかった。黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎が疑われ、速やかに血液培養・抗菌薬投与を実施のうえ、入院となった。冷や汗びっしょりだったA先生も、患者に大きな不利益がなかったことに少し安堵した。おわりに尿グラム染色、あるいは培養検査でグラム陽性球菌が検出された場合の対応について再度まとめておく。尿路感染症におけるグラム陽性球菌ではS. saprophyticus、E. faecalis、S. aureus、S. agalactiaeなどが代表的である。グラム陽性球菌が検出された場合、S. saprophyticus属以外はまずコンタミネーションの可能性を考慮する。コンタミネーションの可能性が低いと判断した場合、Enterococcus属やStreptococcus属のような連鎖状の球菌なのか、Staphylococcus属のようなクラスター状の球菌なのかを判断する。また四量体の球菌をみつけた場合はAerococcus属の可能性を考慮する。また、S. aureusの場合、菌血症由来の可能性があり、感染性心内膜炎をはじめとしたほかの感染源の検索を行うこともある。<謝辞>グラム染色画像は大阪市立総合医療センター笠松 悠先生・麻岡 大裕先生よりご提供いただきました。また、笠松先生には本項執筆に際して数々のご助言をいただきました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。1)Czaja CA, et al. Clin Infect Dis. 2007;45:273-280.2)Hayami H, et al. J Infect Chemother. 2013;19:393-403.3)Japanese Association for Infectious Disease/Japanese Society of Chemotherapy, et al. J Infect Chemother. 2017;23:733-751.4)Shuman EK, Chenoweth CE. Crit Care Med. 2010;38:S373-S379.5)Hooton TM et al. N Engl J Med. 2013;369:1883-1891.6)林 俊誠 ほか. 感染症誌. 2019;93:306-311.7)Asgeirsson H, et al. J Infect. 2012;64:41-46.8)Zhang Q, et al. J Clin Microbiol. 2000;38:1703-1705.

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喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用? 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。  そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは? 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。FeNOに基づく管理は有用か? 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは? 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。■参考文献1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 20244)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

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退院時の説明が不十分だと責任発生?【医療訴訟の争点】第6回

症例入院患者は退院した後、直ちに入院前と同様の生活を送ってよいわけではなく、食事や運動制限を段階的に緩和していくなど、生活していく中で留意すべき事項がある。また、退院後に、急変が生じた場合はもちろん、それに至る前の異常が生じた場合には速やかに受診をしてもらう必要がある。このようなことから、療養方法の指導の適否が問題となる。今回は、退院時の説明義務の違反の有無等が争われた東京地裁令和5年3月23日判決を紹介する。<登場人物>患者69歳・男性十二指腸乳頭部腫大と診断され、内視鏡的乳頭部切除術および胆管・膵管ステント留置術後。切除組織の病理検査結果が深部断端陽性であったため、追加切除のため受診。原告患者の妻子被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成27年7月28日他院の上部消化管内視鏡検査にて十二指腸乳頭部腫大を疑われ、生検にてGroup3と診断された。11月10日上記施設にて、内視鏡的乳頭部切除術および胆管・膵管ステント留置術を受けた。術後切除組織による病理検査の結果報告にて深部断端陽性(断面にがんが露出した状態)と診断され、追加切除を検討すべき旨の説明を受けた。患者は被告病院での手術を希望した。12月16日上記施設にて、留置していた膵管ステントおよび胆管ステントを抜去した。平成28年1月15日患者は妻子とともに被告病院消化器外科を受診。A医師から、治療方法には経過観察と膵頭十二指腸切除術の2つがある旨の説明がなされた。患者は、膵頭十二指腸切除術を受けることを決めた。1月25日被告病院に入院。患者はA医師から亜全胃温存膵頭十二指腸切除術の説明を受け、同意書に署名した。1月26日A医師の執刀で本件手術が実施された。1月30日胆管空腸ドレーンを抜去2月2日膵管空腸ドレーンを抜去2月5日ドレーン抜去部から膿状の排液が認められた。2月6日腹部の造影CT検査にて膵頭部摘除部に膵液瘻、仮性嚢胞形成過程の疑いと診断された。このため、ドレーン抜去部から再度ドレーンの留置を試みるが、皮下への挿入となり、膵空腸吻合部の腔(cavity)に到達せず、抗生物質の投与による保存的治療を実施した。2月8日瘻孔造影検査にて瘻孔からcavityが造影されたため、ドレーン抜去部から再度ドレーンの留置を試みたが、ドレーンが入らず、翌日に超音波ガイド下の穿刺ドレナージを予定した。2月9日再度瘻孔造影検査を行い、cavity内にドレーン(ファイコン14Fr)を留置し、以後、生理食塩水による洗浄ドレナージを実施した。2月15日再度瘻孔造影検査を行い、cavityに留置するドレーンをファイコン 14Frからピッグテールカテーテル(ソフトタイプ)に交換した。2月25日再度、瘻孔造影検査を行い、造影の結果、膵腸吻合部に小腔が確認されたため、ソフトピッグテールカテーテルを留置。2月29日ソフトピッグテールカテーテルを抜去3月1日患者に退院後の療養指導・説明3月2日退院(再診日は3月11日予定)3月9日午後4時頃自宅療養中の患者は、妻に対し、お腹が痛いから2階で休むと述べ、寝室がある2階に上がった。午後5時30分頃2階から音が聞こえたため、妻が2階に上がると、患者が倒れていたため、救急要請。午後5時49分救急隊が到着したが、本件患者は既に心停止の状態であった。午後6時21分頃病院に到着する直前に無脈性電気活動の状態。病院において、心肺蘇生措置、気管挿管、アドレナリンの投与等を受けたが、自己心拍は再開せず。午後7時43分死亡実際の裁判結果本件の争点は、ドレーン抜去のタイミングの適否をはじめとして多岐にわたるが、本稿では、退院時の説明義務違反について取り上げる。退院時の説明義務について、原告(患者家族)は、患者および退院後のキーマンとなる家族に対し、説明用の資料を作成して、退院に至る総合的な判断の具体的な内容、退院時の病状、退院後のリスク、退院後の生活における留意事項等について具体的に説明すべきであったと主張した。これに対し、裁判所は、A医師が2月29日にドレーンを抜去し、患者に対し、明日(3月1日)一日様子を見て大丈夫であれば明後日に退院となる旨を伝えたことを指摘し、「本件病院の医師は、本件患者に対し、退院に至る判断の具体的な内容および退院時の病状について、ドレーンを抜去しても問題がなく、病状が軽快したから退院となる旨、大まかに説明したものと認められる。よって、被告病院の医師に、退院に至る判断の具体的な内容および退院時の病状について、説明義務違反があったと認めることはできない」とした。また、裁判所は、被告病院の看護師が退院前日に、退院後の注意点として、食事については手術後の食事指導のパンフレットを参考にすること入浴および飲酒は次の外来(3月11日)まで控えること激しい運動は避けること重い荷物を持つことは避けること38度を超える発熱がある場合、吐気・嘔吐がある場合、食事・水分がまったく取れない場合、傷口が痛い・腫れる・血が出る場合、腹痛がある場合で心配なときは、被告病院に電話連絡し、受診したほうがいいかなどについて医師または看護師に相談することを説明したことや薬剤部の職員(原文ママ)が、患者に対し退院時の処方について用法用量の説明をしたこと栄養士が、患者および妻に対し食事指導を行ったこと等を指摘し、「被告病院の看護師は、本件患者に対し、本件説明書を用いて、退院後の生活における留意事項および受診の目安を説明し、また、被告病院の栄養士および薬剤部の職員も、本件患者に対し、食事上の留意事項や服薬に関する事項を説明したから、被告病院の医療従事者は、患者に対し退院後の生活における留意事項等を説明したと認められる」とした。なお、「本件説明書」とは「退院に向けての確認事項」と題する書面とのことであり、判決文からは記載内容の詳細は定かでないが、上記の看護師の説明内容として認定されている事項に沿う記載がなされている書面と推察される。注意ポイント解説本件訴訟では、退院時の説明について、被告病院は「被告病院の医師は、退院前日の3月1日、本件患者に対し、食事は消化の良い物を食べ、脂質の多い食事は避けること、運動は軽めの散歩等とし、激しい運動は避けること等を指示するとともに、腹痛や発熱等の症状が出た場合には直ちに来院するよう指示し、…本件患者の理解も良好であった」と主張した。しかし、判決文では、上記のとおり、「ドレーンを抜去しても問題がなく、病状が軽快したから退院となる旨、大まかに説明した」との判断にとどまっている。これは、被告病院の主張したような説明をしたことにつき、説明に用いた書面もなく、カルテに説明内容の記載もなかったためと推察される。そうであるとすれば、退院時の療養指導に関して必要な説明がされたと認定できず、説明義務違反があると判断される可能性もあり得たと思われる。このような状況であったにもかかわらず、裁判所が「説明義務違反がない」と判断したのは、被告病院の看護師が「退院に向けての確認事項」と題する書面を用いて、退院後の生活における留意事項および受診の目安を説明していたことや、被告病院の栄養士や薬剤部の職員が、食事上の留意事項や服薬に関する事項の説明をしていることの記録・記載があったことに加え、退院時に説明が求められる内容は、医師による説明でなければならないとは言えないものであったこと(コメディカルによる説明が許容されるものであったこと)によると考えられる。本来は、退院時の説明についても医師が説明を行い、その記録が残っていることが望まれるところであるが、看護師や薬剤部職員、栄養士らほかの医療職の説明により、退院時に説明すべき事項が補完された例と言える。また、医師自身が説明した内容について、カルテにきちんと記載しておくことが望まれることや、ある程度の定型的な留意事項についてはあらかじめ説明書を用意しておく(その上で、当該症例に即した個別の留意事項について追記等を行いつつ説明する)ことの有益性が改めて確認された例とも言える。医療者の視点多忙な勤務医にとって、患者への説明時間の確保は難解なテーマです。昨今では、単に病状説明をするだけではなく、誰に、どのような内容を、どれだけ詳しく説明し、さらにその説明を聞いた患者さん側がどの程度理解されたかなど、事細かにカルテに記載しなければなりません。働き方改革の影響もあり、一人ひとりの患者さんに多くの時間を割けない状況になっているため、(1)定型の説明文書を記載しておく、(2)チーム内の医師同士やコメディカルと説明業務を分担する、などの工夫が重要となります。ただし、当然のことながら、患者さんごとに病状/病態、背景、併存症などが異なるため、各患者さんに個別の注意喚起をする必要もあります。必要十分な説明を患者さんに届けるには、業務の効率化やチーム医療の推進が肝要です。Take home message退院にあたっての一般的な留意事項は定型の説明書を用いることも含め、医師の説明内容を記録化する(定型の説明書を用いる場合、当該症例に即した個別の留意事項について追記等を行いつつ説明し、コピーを残す)ことが重要である。医師に限らず、看護師らコメディカルが、それぞれの立場から留意事項を説明することもまた有益である。キーワード療養方法の指導としての説明義務退院時や診療の結果、入院させないで帰宅させて自宅で経過観察をする際に、生活上の留意事項やどのような症状が生じたときに病院を受診すべきか等につき指示・説明をする義務。患者に対する診療行為の一環として行われるものであり、患者の生命・身体の安全そのものを保護する見地から導かれる説明義務であり、治療法の選択に関する説明義務が患者の自己決定権の尊重を根拠に置くのとは根拠を異にする。

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血流感染症の抗菌薬治療、7日間vs.14日間/NEJM

 血流感染症の入院患者への抗菌薬治療について、7日間投与は14日間投与に対して非劣性であることが示された。カナダ・トロント大学のNick Daneman氏らBALANCE Investigatorsが、7ヵ国の74施設で実施した医師主導の無作為化非盲検比較試験「BALANCE試験」の結果を報告した。血流感染症は、罹患率と死亡率が高く、早期の適切な抗菌薬治療が重要であるが、治療期間については明確になっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年11月20日号掲載の報告。重度の免疫抑制患者等を除く患者を対象、主要アウトカムは90日全死因死亡 研究グループは、血流感染症を発症した入院患者(集中治療室[ICU]の患者を含む)を抗菌薬の短期(7日間)治療群または長期(14日間)治療群に1対1の割合で無作為に割り付け、治療チームの裁量(抗菌薬の選択、投与量、投与経路)により治療を行った。 重度の免疫抑制状態にある(好中球減少症、固形臓器または造血幹細胞移植後の免疫抑制治療を受けている)患者、人工心臓弁または血管内グラフトを有する患者、長期治療を要する感染症(心内膜炎、骨髄炎、化膿性関節炎、未排膿の膿瘍、未除去の人工物関連感染)、血液培養で一般的な汚染菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌など)が陽性、黄色ブドウ球菌またはS. lugdunensis菌血症、真菌血症などの患者は除外した。 主要アウトカムは血流感染症診断から90日以内の全死因死亡で、非劣性マージンは4%ポイントとした。診断後90日以内の全死因死亡率は7日群14.5%、14日群16.1% 2014年10月17日~2023年5月5日に、適格基準を満たした1万3,597例のうち3,608例が無作為化された(7日群1,814例、14日群1,794例)。登録時、1,986例(55.0%)はICUの患者であった。 血流感染症の発症は、市中感染75.4%、病棟内感染13.4%、ICU内感染11.2%であり、感染源は尿路42.2%、腹腔内または肝胆道系18.8%、肺13.0%、血管カテーテル6.3%、皮膚または軟部組織5.2%であった。 血流感染症診断後90日以内の全死因死亡は、7日群で261例(14.5%)、14日群で286例(16.1%)が報告された。群間差は-1.6%ポイント(95.7%信頼区間[CI]:-4.0~0.8)であり、7日群の14日群に対する非劣性が検証された。 7日群の23.1%、14日群の10.7%でプロトコール不順守(割り付けられた日数より2日超短縮または延長して抗菌薬が投与された)が認められたが、プロトコール順守患者のみを対象とした解析(per-protocol解析)においても主要アウトカムの非劣性が示された(群間差:-2.0%ポイント、95%CI:-4.5~0.6)。 これらの結果は、副次アウトカムや事前に規定されたサブグループ解析においても一貫していた。

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低温持続灌流はドナー心臓の虚血時間を安全に延長できる(解説:小野稔氏)

 低温浸漬保存(SCS)は脳死ドナーから提供された心臓を保存するゴールドスタンダードであるが、保存時間が4時間を超えると虚血、嫌気性代謝に続く臓器障害を来たし、移植後の合併症や死亡に至る場合がある。肝臓移植においてはXVIVO(XVIVO AB, Sweden)による低温灌流保存(HOPE: hypothermic oxygenated machine perfusion)についての12のメタアナリシスやシステマティックレビューがあり、その安全性と有効性が証明されている。 心臓移植におけるXVIVO装置を用いたHOPEの安全性と有効性を証明するために、欧州8ヵ国の15の心臓移植センターにおいて、多国多施設無作為化オープンラベル試験が実施された。対象は18歳以上の成人心臓移植患者で、いずれかの臓器移植の既往、先天性心疾患、腎不全、脱感作中、LVAD以外の循環補助中の場合には除外された。ドナーについては18~70歳が対象で、心停止後ドナーや再開胸が必要な場合には除外とした。心保存について従来のSCSとHOPEに1:1で割り付けられた。SCS群では各施設のプロトコルで心停止を誘導してアイススラッシュ保存を行った。HOPE群では、300~500mLの血液、抗生剤とインスリンが添加されたXVIVO Heart Solutionで満たされたXVIVO灌流装置を使用した。心臓摘出後に上行大動脈にカニューレを挿入して装置に接続し、大動脈圧20mmHgで8度を維持して灌流(毎分100~200mLに相当)した。 2020年11月から2023年5月までに1,050例がスクリーニングされ、HOPE群には101例、SCS群には103例が割り付けられた。レシピエント(56歳vs.58歳)、ドナー(48歳vs.50歳)共に両群間で背景因子、原疾患、循環補助の状態に差はなかった。ドナー心保存時間はHOPE群のほうが長かった(240分vs.215分)。主要評価項目(心臓関連死、中~高度の左室のグラフト不全、右室のグラフト不全、Grade 2R以上の細胞性拒絶反応を含む複合エンドポイント)はHOPE群19例(19%)、SCS群31例(30%)に見られ、HOPE群のリスク軽減率は44%となったがp値は0.059であった。副次評価項目である移植後グラフト不全単独では、SCS群28%に対してHOPE群11%と有意に少なかった。心臓関連主要有害事象についてはHOPE群18%で、SCS群32%に対して有意に少なかった。心臓関連死については両群間で差は見られなかった。 主要評価項目では有意差はなかったが、HOPE群に見られた44%のリスク軽減は臨床的には意義がある。とくに移植後グラフト不全がHOPE群に有意に少ないことは、遠方からのドナー心の搬送や複雑な手技が必要な心臓移植において、虚血時間等の問題解決につながる可能性がある。

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“しなくてもいいこと”を言う【もったいない患者対応】第18回

“しなくてもいいこと”を言う患者さんに対して指示を出す際に、「〇〇してください」だけでなく、「〇〇しなくてもいいですよ」という指示が必要なケースがあります。軽度外傷の消毒、抗菌薬たとえば、縫合処置のいらないような切り傷や擦り傷など、軽度の外傷で来院した患者さんには、「以前はこういった傷にはイソジン(ヨード液)のような消毒液で消毒していたんですが、いまは消毒が傷の治りを悪くすることがわかっているのでやらないんですよ」といった説明をしておくのが望ましいと考えています。というのも、「傷は消毒しなければならないものだ」と考えている患者さんは多いので、消毒をせず水道水による洗浄だけで対処し、のちに創部感染を起こしたりすると、「消毒してもらえなかったからではないか」と医師に対して不信感を抱くおそれがあるからです。ほかにも、「こうした小さな傷であれば抗生物質抗菌薬)は不要です。傷が膿んだりしたときには抗生物質を処方しますが、いまの時点では必要ないんですよ」といった説明が必要なのも、同じ理由です。患者さんによっては、過去の経験から「怪我には抗生物質が必要だ」と思い込んでいる方が多いからです。消毒と同様に、創部感染などの合併症を起こした際に問題になるため、あらかじめ説明すべきです。風邪に対する抗菌薬抗菌薬でいえば、風邪も同じです。もし風邪の患者さんから「抗生物質をもらえませんか?」と言われたら、前述のとおり「風邪はほとんどがウイルス感染なので、抗生物質は効かないんですよ。吐き気や下痢、アレルギーなどの副作用のデメリットのほうが大きいので、いまの時点では使用しないほうがいいでしょう」といった説明を返すことができますが、なかにはこうした質問をわざわざせず、心の中で、「抗生物質がもらえると思っていたのにもらえなかった」という不満を抱える患者さんもいるかもしれません。すると、のちに悪化して肺炎などを起こしてから、「あのとき、抗生物質を処方してもらえなかったからこんなことになったのだ」と誤解されるリスクがあるのです。医師が説明する必要がないと思ったことでも、一般的に知られておらず、かつ患者さんが誤解しがちなポイントは、先回りして伝えておくことが大切です。“すべきこと”に比べると“しなくてもいいこと”は、きちんと意識していないと抜け落ちてしまいがちです。十分に注意しましょう。

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第218回 医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省

<先週の動き>1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省11月20日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師不足地域での開業や勤務を促すための経済的支援策と、医師過剰地域での開業規制などを検討する案を有識者検討会に提示した。医師不足地域では、開業や勤務に対する経済的支援を強化するほか、医師派遣を行う医療機関への支援も検討される。その一方で、医師過剰地域では、都道府県が必要な医療機能を要請し、応じない場合は勧告や公表を行うことができるようにする案が示された。医師不足地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関を拡大する案も提示され、地域医療支援病院だけでなく、公立病院や公的医療機関も対象とする方針。日本病院会は、強制的な配置ではなく、医師の意欲や情熱を高める対策を重視するよう提言している。今後、医師の地域偏在是正に向け、厚労省は規制強化と経済的支援を組み合わせた総合的な対策パッケージを年内に策定する。参考1)第12回新たな地域医療構想等に関する検討会 医師偏在是正対策について(厚労省)2)医師不足地域で診療所開業支援など 医師の偏在に対策案 厚労省(NHK)3)医師過剰地域の診療所、開業に要件 厚労省案(日経新聞)4)医師少数地域での勤務要件、対象拡大を提案 厚労省、勤務期間は「1年以上」に延長(Gem Med)2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省厚生労働省は、11月19日に電子処方箋を導入した施設が全国で18.9%に止まっており、政府が推進する医療DXの進捗に遅れが生じていることを明らかにした。調剤薬局では導入率は5割を超えているものの、病院や診療所では導入が遅れている。電子処方箋は、薬の処方箋を電子化し、医療機関や薬局間で共有するシステム。政府は、医療情報の共有による重複投薬の防止や医療の質向上などを期待して導入を進めているが、システム改修の費用や時間などが課題となっている。福岡 資麿厚生労働大臣は、記者会見で「システム改修費の負担や周囲の施設への普及状況を様子見する医療機関が多いことが要因だ」と説明し、普及拡大に努める姿勢を示した。一方、マイナ保険証の利用率も低迷している。11月21日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、今年10月の利用率は15.67%と、前月から増加したものの、目標には到達していない。12月2日には現行の健康保険証の新規発行が停止され、マイナ保険証が基本となるが、混乱を避けるために政府は、現行の健康保険証も1年間は使用できる措置を設けている。政府は、これまで電子処方箋の導入とマイナ保険証の利用を進めてきた。来年度からは介護保険証もマイナンバーカードに一体化されるなど、今後も普及を促進していく方針だが、医療・介護事業者への支援や国民への丁寧な説明など、さらなる取り組みが必要とみられる。参考1)第186回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)マイナ保険証の利用率 10月なのに15.67% 病院27.96%、医科診療所12.91%(CB news)3)マイナ保険証を活用 電子処方箋導入の医療機関などは18.9%(NHK)3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省11月22日に厚生労働省は、2023年の医療施設(静態・動態)調査・病院報告を公表した。これによると美容外科を標榜する診療所が2,016施設となり、3年間で43.6%増加したことが明らかになった。その一方で、産婦人科・産科を有する一般病院は前年比17施設減の1,254施設、小児科を有する一般病院は29施設減の2,456施設となり、それぞれ30年以上減少が続いている。近年は少子化による需要低下に加え、出産数そのものが大幅に減少していることが背景にある。今年1~9月の出生数は前年比5.2%減の54万人で、通年で70万人を割る見通し。日本医師会総合政策研究機構(日医総研)のレポートによると、美容外科医の増加が顕著で、2020年には診療所の35歳未満の医師の15.2%が美容外科で勤務していることが明らかになった。こうした状況について、山形大学大学院の村上 正泰教授は、医局の影響力低下や給与の低さ、長時間労働などが、若手医師の美容外科流出の要因になっていると指摘している。政府は、医師の働き方改革や待遇改善、キャリア支援などを進めることで、若手医師が保険診療の現場で働き続けられる環境を整備する必要がある。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況2)産婦人科・産科が33年連続で最少更新 小児科のある一般病院も30年連続減 厚労省調査(産経新聞)3)診療所の美容外科が急増、3年間で4割増 厚労省調査、小児科は減少(朝日新聞4)美容外科3年で4割増 厚労省調査、伸び率首位 医師偏在助長の指摘も(日経新聞)5)1~9月出生数54万人 通年で70万人割れ公算大(東京新聞)4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会日本医師会は、2025年1月から医療機関や医療従事者を対象とした「SNS等における誹謗中傷相談窓口」の運用を開始する。この窓口は、SNSや口コミサイト上での誹謗中傷や悪意ある書き込みに対処するための支援を目的としており、背景には医療機関に対する誹謗中傷が深刻化している状況がある。総務省は11月21日、SNS事業者に対し、誹謗中傷への対応を義務付ける改正プロバイダ責任制限法の施行に向け、月平均利用者数が1,000万人超のSNSを対象とする方針を示した。これにより、X(旧Twitter)やFacebook、Instagramなどが規制対象になるとみられる。改正法は2025年5月までに施行される予定で、SNS事業者には投稿削除の申し出に対し、迅速な判断と結果通知が義務付けられる。10月に日医が実施したアンケートでは、回答者の77%が誹謗中傷を経験し、そのうち削除を求めた投稿の8割が削除されていないことが判明。また、「相談したい」と答えた医療従事者は82%に達した。この結果を受け、相談窓口では電話とWebでの相談を受け付け、対応策を提示するほか、必要に応じて弁護士の紹介も行う。さらに、口コミサイトやSNSにおける「ペイシェントハラスメント」への関心が高まり、法的アドバイスを求める声も多い。相談窓口の開設により、医療現場の負担軽減と情報共有の場の構築が期待されている。日医の取り組みは、医療従事者と患者間の信頼関係を守る一助となるだけでなく、医療機関の社会的信用を保つ重要なステップとなる。今後の運用状況に注目が集まっている。参考1)SNS等における誹謗中傷相談窓口開設について(日本医師会)2)口コミサイトの誹謗中傷、日医が相談窓口開設へ 25年1月ごろ運用開始 法的アドバイスも(CB news)3)中傷対応義務、利用者1,000万人超のSNS対象 Xなど念頭(日経)5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が合同で行った病院経営調査によると、2023年度の病院経営は、新型コロナウイルス関連の補助金減少や収入減の影響を受け、深刻な赤字に転落したことが明らかになった。調査対象となった967病院の2023年度の経常利益率は、100床当たりマイナス1.3%で、前年度のプラス4.9%から赤字に転落した。これは、新型コロナ関連の補助金などが大幅に減少したことに加え、本業の医療収入も減少したことが主な要因。2024年6月単月のデータでは、国の病院、自治体の病院、医療法人など、5つの開設主体のすべてで赤字を計上した。とくに、自治体病院の赤字幅が大きく、100床当たりマイナス9.2%に達した。病床区分別にみると、一般病院の赤字幅が最も大きく、100床当たりマイナス5.8%だった。療養・ケアミックス病院と精神科病院は黒字を維持したものの、前年同月からは悪化している。3団体では、2024年度の病院経営はさらに厳しさを増すと予想しており、病院経営の大きな転換点を迎えたと指摘している。また、医療機関の人材不足や人件費の高騰、医療材料費の高騰なども経営悪化に拍車をかけている。病院経営の悪化は、医療の質低下や医療提供体制の縮小に繋がりかねないと懸念されている。政府は、病院経営の安定化に向けた抜本的な対策を早急に講じる必要がある。参考1)2024年度 病院経営定期調査 概要版-最終報告(集計結果)-(病院3団体)2)病院の経常収支、5つの開設主体全て赤字に 6月単月、3団体の病院経営定期調査で(CB news)3)967病院の経常利益率マイナス1.3%に 23年度 3団体調査「24年度はさらに厳しさ増す」(同)6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連近年、国内においてジェネリック医薬品を中心に医療用医薬品の供給不安が続き、とくに咳止め薬や解熱鎮痛剤の不足が深刻化し、小児科や薬局で患者対応に苦慮する現場が広がっている。中でもジェネリック(後発薬)医薬品を中心に薬局や医療機関で不足が深刻化している。日本製薬団体連合会が行った今年9月の調査では、医療用医薬品の18.5%に当たる3,103品目が出荷調整の対象となり、その6割以上がジェネリック医薬品だった。咳止め薬や解熱鎮痛剤、抗生物質の不足は、小児科や薬局ではとりわけ深刻で、代替薬への対応や粉薬が足りない場合に錠剤をすり潰す処方も行われている。冬季には、インフルエンザなど感染症の流行による患者の増加が予想され、薬不足が患者や医療現場にさらなる負担をかける懸念が高まっている。薬不足の背景には、複数のジェネリックメーカーによる品質不正がある。2020年以降、小林化工や日医工、業界最大手の沢井製薬で重大な不正が発覚した。これらの企業では、試験結果の捏造などの不正行為を防ぐ体制が機能しなかった。わが国のジェネリック市場は約1.4兆円で190社が参入しており、1社当たりの平均売上高はわずか70億円強と小規模。少量多品目生産による非効率な状態の中、シェア獲得のためにメーカーは価格競争を激化させ、さらに薬価の引き下げもあり、コスト競争がメーカーの収益を圧迫しているため、後発品の製造から撤退するメーカーも相次いでいる。安定供給のためには、医薬品の品質管理強化や生産体制の改革が急務とされているが、ジェネリック医薬品の生産効率を高めるための仕組み作りが求められている。今後の見通しとしては大手製薬会社による増産で、半年後に改善が見込まれている。薬不足は、患者や医療従事者に深刻な影響を与えており、政府と業界が一体となって安定供給に向けた取り組みを加速する必要がある。参考1)「医薬品供給状況にかかる調査(2024年10月)」 について(日薬連)2)医薬品 依然約2割が供給に支障 せき止め薬や解熱鎮痛剤も(NHK)3)薬不足はいつ終わる?ジェネリック再編#1(ダイヤモンドオンライン)4)第一三共・エーザイ・田辺三菱製薬…国内製薬大手が、処方薬の8割を占めるジェネリック市場から軒並み撤退した理由(同)

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Staphylococcus lugdunensis【1分間で学べる感染症】第15回

画像を拡大するTake home messageS. lugdunensisは、ほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なる特徴を持つ。黄色ブドウ球菌と同様に侵襲性感染を引き起こすことを覚えておこう。皆さんはStaphylococcus lugdunensis(スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス:S. lugdunensis)という菌の名前を聞いたことがありますか? 今回は、この菌になじみがある方もそうでない方も、いま一度一緒に学んでいきましょう。では、なぜこの菌が重要なのでしょうか。結論から言うと、S. lugdunensisは「治療が遅れると致死率が高いから」です。皆さんは、表皮ブドウ球菌にはなじみがあるかもしれません。S. lugdunensisは表皮ブドウ球菌と同じコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であるにもかかわらず、黄色ブドウ球菌に非常によく似た特徴を持っています。最も重要なポイントは、コンタミネーションが疑われることの多い表皮ブドウ球菌をはじめとするほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なり、血液培養でS. lugdunensisが検出されたら、メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)と思って、その後の感染巣の検索や治療を検討しなければならない、ということです。S. lugdunensisの歴史から簡単に紹介すると、1988年にフランスのリヨンで初めて報告されました。lugdunumはリヨンのラテン語名であり、報告された土地の名が付けられました。微生物学的特徴としては、グラム陽性球菌に分類され、上記コアグラーゼ陰性を示します。コロニーはクリーム色で血液寒天培地において溶血を示すことが特徴です。粘着因子を有することが、高い病原性を示す理由でもあり、人工物が体内に存在する場合にはバイオフィルムを形成して抗菌薬が効果を発揮するのに難渋することがあります。主な臨床的な特徴としては、感染性心内膜炎や菌血症、皮膚軟部組織感染症や骨関節感染症など、黄色ブドウ球菌と類似の感染症を引き起こします。抗菌薬の感受性に関しては、セファゾリンを中心とした抗MSSA用の抗菌薬のほか、バンコマイシン、ダプトマイシン、ST合剤などにも感受性を示すことが多いとされます。以上、S. lugdunensisについて解説しました。「S. lugdunensisを見たらMSSAと思って治療する」という鉄則を念頭に置き、迅速な診断と適切な治療を心掛けるようにしましょう。1)Aldman MH, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2021;40:1103-1106.2)Heilbronner S, et al. Clin Microbiol Rev. 2020;34:e00205-e00220.3)Argemi X, et al. J Clin Microbiol. 2017;55:3167-3174.

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第239回  温暖化でツツガムシ病はこれから増える?須藤・秋田大名誉教授の訃報を聞いて考えたこと

ツツガムシ病の早期診断法の開発、危険性・治療法の啓発活動に尽力した須藤恒久氏こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いやあ、米国の大統領選に続き、兵庫県知事選の結果には驚きました。報道ではSNSを駆使して選挙運動を行ったとのことですが、誤情報も多く発信され、対立候補はその対応に相当苦慮したようです。新聞やテレビといった旧来のマスコミ報道の限界も垣間見えました。日本もポピュリズム政治がメインストリームになっていきそうで心配です。さて、今回は突然ですが、「ツツガムシ病」について書いてみたいと思います。というのも、私が新人記者時代、何度も取材でお世話になった秋田大学名誉教授の須藤 恒久氏が10月23日、98歳で逝去されたニュースを読んだからです。ツツガムシ病の早期診断法の開発、その危険性・治療法の啓発活動に尽力された須藤先生を悼みつつ、ツツガムシ病をはじめとするダニ媒介性疾患のこれからについて勝手に予想してみます。医師の頭にツツガムシ病の知識があれば診断できるが、なければ診断できず死に至る病ツツガムシ病は、ダニの一種であるツツガムシに刺されることによって発症する感染症です。かつては山形県、秋田県、新潟県などで夏季に河川敷で感染する“風土病”と言われていましたが、現在は媒介するツツガムシの種類も増え、ほぼ全国(北海道以外)で発生が確認されています。国立感染症研究所のWebサイトなどによれば、潜伏期は5〜14日で、典型的な症例では39℃以上の高熱、頭痛が現れます。その他の症状としては筋肉痛、咳、全身性のリンパ節腫脹、悪心、嘔吐、腹痛などがあります。早期に適切な治療を受けないと間質性肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、髄膜脳炎、急性腎障害、播種性血管内凝固(DIC)などを起こし、死亡する患者もいます。皮膚のどこかに特徴的なダニの刺し口がみられ、発症後数日で体幹部を中心に発疹が出るのも特徴です。この病気の最大のポイントは、ダニ媒介性のリケッチア症であることです。リケッチア症にはβラクタム系抗菌薬は効きません。ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択となります。というわけで、ツツガムシ病の診療経験がなく、リケッチア症の存在や、その治療法に疎い医師が初診でこの病気を診た場合、通常の抗菌薬が効かないために右往左往し、最悪、患者は死に至ることになります。実際、昨年1月、千葉県船橋市で70歳男性がツツガムシ病で死亡しています。この男性は、ツツガムシ病の発生が多い千葉県の南部地域に滞在中に草刈りをし、その約1週間後から咽頭痛や発熱、発疹の症状が出て、入院先の病院で約18日後に敗血症で死亡しています。ツツガムシ病との検査結果が出たのは死亡後でした。抗菌薬使用の主流がβラクタム系に変わり、知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなるさて、私が新人記者だった1980年代半ば頃、ツツガムシ病はまだ“風土病”の範疇で、全国的にはそれほど知られた病気ではありませんでした。ですから、医師向け月刊誌の企画にも選ばれたのでしょう。須藤氏に取材を依頼したのは、学会発表を聞いたか、学会誌などでの論文を読んだことがきっかけだったと思います。秋田大医学部の微生物学教室の狭い教授室で会った須藤氏は実に温厚で、秋田弁なまりの言葉でゆっくりと、そしてわかりやすくツツガムシ病について解説してくれました。須藤氏は秋田県由利本荘市出身で、東北大医学部を卒業後、県立中央病院微生物検査科長などを経て、1971年に秋田大医学部に創設された微生物学教室の教授に就任しました。1973年にツツガムシ病の研究を始め、1976年頃からツツガムシ病の早期診断・早期治療の啓発に取り組みました。その理由を須藤氏は、「秋田県の雄物川水系の風土病と言われていたツツガムシ病をなんとかしたかった」ことと、「医師の抗菌薬使用の主流がクロラムフェニコールやテトラサイクリン系からβラクタム系に変わってきたことで、それまで抗菌薬投与で知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなり、死亡例も多くなってきた」ことを挙げていました。須藤氏は1980年に免疫ペルオキシダーゼ反応による迅速血清診断法を確立、この診断法が普及していなかった当初は、全国からの検査依頼に対応したそうです。また、この方法は世界保健機関(WHO)の標準診断法に推薦され、東南アジア各国でも活用されるに至っています。こうした功績が認められ、須藤氏は1987年には病原微生物学、感染症学、公衆衛生学分野でわが国最高の賞とされる小島三郎記念文化賞を受賞しています。1992年に大学を退職した後も、医学誌などでツツガムシ病への注意喚起や早期診断・早期治療の啓発を続けられていました。4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれたツツガムシ病の記事1980年代に書いた私の記事はとても読まれました。それだけ当時の医師にツツガムシ病の知識がなかったからだとも言えます。その後、日本紅斑熱(やはりマダニに刺されて発症するリケッチア症)やライム病(やはりマダニに刺されて発症するが、こちらはスピロヘータ感染症)などの取材で、幾度か秋田を訪れ、須藤氏を取材しました。当時は秋田の飲み屋街、川反通りも大変賑やかで、それはそれでいい思い出です。ツツガムシ病の記事は、4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれました。それは、一定の期間が経てばこの病気を知らない医師が出てくることを意味します。須藤氏が生涯にわたって啓発活動に取り組んだ理由がわかる気がします。なお、ツツガムシ病は1999年4月に新感染症予防法の施行に伴って第4類感染症となり全数把握の対象となりました。ということで、国立感染症研究所のWebサイトに行けばその発症数を確認することができます。夏に患者数が多いわけではなく、むしろ今の時期、11月〜12月に患者数が多い地域もツツガムシ病は1種類のツツガムシによって発症するのではありません。かつての東北地方の”風土病”のように、夏に患者数が多いわけでもありません。むしろ今の時期、12月に患者数が多い地域もあります(先述した千葉県の死亡例は1月でした)。国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)の2022年8月号によれば、「全国集計では3~5月の春と11~12月の秋~初冬にかけた2つのピークがある。患者発生時期はツツガムシの種ごとの生息地域での幼虫の活動時期に左右される。寒冷に強いフトゲツツガムシが主に分布する地域では、孵化後の秋~初冬に患者が発生すると同時に、越冬した幼虫により春にも患者届出数のピークがみられる。一方、寒冷に弱いタテツツガムシの幼虫は越冬できず、その生息地では孵化した後の秋~初冬にかけて患者発生数のピークを示す」とのことです。ちなみに、かつて秋田県雄物川流域のほかに山形、新潟県の一部河川流域で多発していたツツガムシ病はアカツツガムシによるものだったそうです(最近は症例数が少なく、「古典型つつが虫病」と呼ばれています)。つまり、生息するツツガムシの種類とその地域の気候によって、患者の発生パターンは変わってくるということです。今後、温暖化が進めば、患者発生パターンも変動していくでしょう。たとえば、寒冷に弱いタテツツガムシが越冬できる地域が増えれば、そこでの春の発生も増えてくるかもしれません。ツツガムシ病は微増傾向、マダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向気になって、国立感染症研究所のWebサイトで年別の発生動向を調べてみました1)。それによると、ツツガムシ病は微増傾向、そしてマダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向にあるようです。マスコミは、北海道でブリが大漁となるなど、地球温暖化でとれる魚が変化することなどは大騒ぎしますが、ツツガムシ病などのダニの生息域の変化は大きくは報道されていません。日常診療と温暖化は今のところ関係ないように見えますが、昆虫などが媒介する感染症は大きな影響を受けます。ヤブ蚊(ヒトスジシマカ)が媒介するデング熱の発症地域が日本でも北上中との報道もあります。日頃から各都道府県の衛生研究所や地元の保健所からの最新情報には敏感になっておきたいものです。参考1)発生動向調査年別一覧(全数把握)/国立感染症研究所

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尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第9回

尿から嫌気性菌が発育したら何を考える?Teaching point(1)ルーチンで尿検体の嫌気性培養は依頼しない(2)汚染のない尿検体のグラム染色で菌体が見えるのに通常の培養で発育がないときに嫌気性菌の存在を疑う(3)尿検体から嫌気性菌が発育したら、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患や瘻孔形成を疑う《今回の症例》66歳女性。進行子宮頸がんによる尿管狭窄のため半年前から尿管ステントを留置している。今回、発熱と腰痛で来院し、右腰部の叩打痛から腎盂腎炎が疑われた。ステントの交換時に尿管から尿検体を採尿し、グラム染色で白血球と複数種のグラム陰性桿菌を認めた。通常の培養条件では大腸菌のみが発育し、細菌検査室が嫌気培養を追加したところ、Bacteroides fragilisが発育した。検体採取は清潔操作で行われ、汚染は考えにくい。感染症内科に結果の解釈と治療についてコンサルトされた。1.尿検体の嫌気性培養は通常行わない細菌検査室では尿検体の嫌気性培養はルーチンで行われず、また医師側も嫌気培養を行う明確な理由がなければ依頼すべきではない。なぜなら、尿検体から嫌気性菌が分離されるのは約1%1)とまれで、嫌気性菌が常在している陰部からの採尿は汚染の確率が高く起炎菌との判別が困難であり、培養に手間と費用を要するためだ。とくに、中間尿やカテーテル尿検体の嫌気性培養は依頼を断られる2)。嫌気性培養が行われるのは、(1)恥骨上穿刺や泌尿器手技による腎盂尿などの汚染の可能性が低い尿検体、(2)嫌気性菌を疑う尿所見があるとき、(3)嫌気性菌が関与する病態を疑うときに限られる2)。2.嫌気性菌を疑う尿所見は?尿グラム染色所見と培養結果の乖離が嫌気性菌を疑うきっかけとして重要である2)。まず、検体の採取状況で汚染がないことを確認する。扁平上皮の混入は皮膚接触による汚染を示唆する。また、抗菌薬の先行投与がないことも確認する。そのうえで、尿検体のグラム染色で膿尿と細菌を認めるが通常の培養(血液寒天培地とBTB乳糖寒天培地)で菌の発育がなければ嫌気性菌の存在を疑う2)。細菌検査室によっては、この時点で嫌気性培養を追加することがある。グラム陰性桿菌であればより嫌気性菌を疑うが、グラム陰性双球菌の場合には淋菌を疑い核酸増幅検査の追加を考える。一方で、膿尿がみられるのにグラム染色で菌体が見えず、通常の尿培養で発育がなければ嫌気性菌よりも、腎結核やクラミジア感染症などの無菌性膿尿を疑う。3.嫌気性菌が発育する病態は?表に嫌気性菌が発育した際の鑑別疾患をまとめた。なかでも、泌尿器および生殖器関連の膿瘍疾患と、泌尿器と周囲の消化管や生殖器との瘻孔形成では高率に嫌気性菌が同定され重要な鑑別疾患である。その他の感染経路に、便汚染しやすい外性器および尿道周囲からの上行性感染やカテーテル、泌尿器科処置に伴う経尿道感染、経血流感染があるがまれだ3)。画像を拡大する主な鑑別疾患となる泌尿器・生殖器関連の膿瘍では、103例のうち95例(93%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定され、その内訳はグラム陰性桿菌(B. fragilis、Prevotella属、Porphyromonas属)、Clostridium属のほか、嫌気性グラム陽性球菌やActinomyces属だったとされる3)。膀胱腸瘻についても、瘻孔形成による尿への便混入を反映し48例のうち44例(92%)で嫌気性菌を含む複数菌が同定されたとされる4)。逆に尿検体から嫌気性菌が同定された症例を集めて膿瘍や解剖学的異常の頻度を調べた報告はないが、筆者はとくに悪性腫瘍などの背景のある症例や難治性・反復性腎盂腎炎の症例などでは、解剖学的異常と膿瘍の検索をすることをお勧めしたい。また、まれな嫌気性菌が尿路感染症を起こすこともある。通性嫌気性菌のActinotignum(旧Actinobaculum)属のA. schaalii、A. urinale、A. massilienseで尿路感染症の報告がある。このうち最多のA. schaaliiは腎結石や尿路閉塞などがある高齢者で腎盂腎炎を起こす。グラム染色ではわずかに曲がった時々分岐のあるグラム陽性桿菌が見えるのに通常の培養で発育しにくいときは炭酸ガスでの嫌気培養が必要である。A. schaaliiはST合剤とシプロフロキサシンに耐性で、β-ラクタム系薬での治療報告がある5)。Arcanobacterium属もほぼ同様の経過で判明するグラム陽性桿菌で、やはり発育に炭酸ガスを要し、β-ラクタム系薬での治療報告がある6)。グラム陽性桿菌のGardnerella vaginalisは性的活動期にある女性の細菌性膣症や反復性尿路感染症、パートナーの尿路感染症の原因になるが、約3万3,000の尿検体中の0.6〜2.3%とまれである7)。メトロニダゾールなどでの治療報告がある。臨床経過と背景リスクによっては炭酸ガスを用いた嫌気培養の追加が考慮されるだろう。《症例(その後)》造影CTを追加したところ骨盤内膿瘍が疑われ、緊急開腹で洗浄したところ、腫瘍転移による結腸膀胱瘻が判明した。細菌検査室の機転により発育した嫌気性菌が膿瘍および膀胱腸瘻の手掛かりになった症例であった。1)Headington JT、Beyerlein B. J Clin Pathol. 1966;19:573-576.2)Chan WW. 3.12 Urine Cultures. Clinical microbiology procedures handbook, 4th Ed. In Leber AL (Ed), ASM Press, Washington DC. 2016;3.12.14-3.12.17.3)Brook I. Int J Urol. 2004;11:133-141.4)Solkar MH, et al. Colorectal Dis. 2005;7:467-471.5)Lotte R, et al. Clin Microbiol Infect. 2016;22:28-36.6)Lepargneur JP, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1998;17:399-401.7)Clarke RW, et al. J Infect. 1989;19:191-193.

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「電気絆創膏」で皮膚感染を予防する可能性

 実験段階にある「電気絆創膏」によって、いつの日か医師は薬を全く使わずに細菌感染を防げるようになる可能性のあることが、新たな研究で示された。皮膚パッチを通じて知覚できないほど弱い電気的刺激を与えることで、人間の皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が10倍近く減少したことが確認されたという。米シカゴ大学化学科教授のBozhi Tian氏らによるこの研究の詳細は、「Device」に10月24日掲載された。Tian氏は、「この研究により、薬剤を使わない治療、特に薬剤耐性が深刻な問題となっている皮膚感染症や創傷の治療において素晴らしい可能性が広がった」と話している。 Tian氏らによると、電気はすでに数多くの疾患の管理に利用されている。例えば、ペースメーカーは電気を利用して安定した心拍を維持しており、眼球インプラントは電気で網膜を刺激することで視力を部分的に回復させることができる。 今回の研究では、抗菌薬の代わりに電気を使って表皮ブドウ球菌の増殖を制御できるかが調査された。研究グループは、表皮ブドウ球菌に着目した理由を、切り傷や医療処置によってこの菌が人体に侵入すると深刻な感染症を引き起こす可能性があるからだと説明している。なお、これまでに、全てのクラスの抗菌薬に耐性を持つ3種類の表皮ブドウ球菌の菌株が出現している。論文の責任著者の一人で米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)分子生物学教授のGurol Suel氏は、「ブドウ球菌は皮膚の常在菌であり、微生物生態系の一部を構成している。そのため、皮膚から完全に除去することは、別の問題が生じる可能性があるため望ましいことではない」と説明している。 今回の研究では、まず、マイクロエレクトロニクス技術を用いて、表皮ブドウ球菌の電気的刺激に対する生理的な反応を調査した。その結果、理想的な酸性条件下(pH 5)では、抗菌薬を使用しなくても細菌のバイオフィルム形成を99%抑制することが示された。しかし、弱アルカリ性(pH 7.4)の条件下では、細菌に対する電流の効果は示されなかった。健康な人間の皮膚は弱酸性だが、慢性の傷は中性からアルカリ性になる傾向がある。 この情報に基づき、研究グループは電子薬学皮膚パッチを設計した。この皮膚パッチには、1.5ボルトの微弱な電流を流すための電極と、酸性環境を作り出す水性ゲルが含まれている。豚の皮膚モデル上でこの皮膚パッチによる18時間の治療を行ったところ、表皮ブドウ球菌のレベルは、電気的刺激を与えていないブタの皮膚モデルと比べて10倍近く減少したことが示された。細菌に汚染されたカテーテルに皮膚パッチを貼った場合も、結果は同様であった。 研究論文の筆頭著者であるシカゴ大学のSaehyun Kim氏は、「電気的刺激に対する細菌の反応に関しては十分に研究されていない。その一因は、細菌が反応を示す条件が明らかになっていないことにある」と話し、「細菌が特定の条件下でのみ反応する性質を明らかにすることは、異なる条件を調べて他の細菌種を制御する方法を見つけ出すことにつながる」としている。 さらなる研究でこの皮膚パッチの安全性と有効性を検証する必要はあるが、Tian氏らは、薬なしで感染症を制御できる「電気絆創膏」につながる可能性があるとの考えを示している。

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第217回 医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省

<先週の動き>1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県1.医師偏在対策で自由開業の見直しも? 規制強化を提言/財務省11月13日に財政制度等審議会は、2025年度予算編成に向けた議論を行い、財務省は医師の偏在対策が不十分であるとして、規制強化などを求める提言を行った。審議会で増田 寛也分科会長代理は、「これまでの取り組みは実効性が乏しかった」と指摘し、「診療報酬の減算などの経済的ディスインセンティブ措置を含め、より強力な対策が必要だ」と強調した。財務省は、医師多数区域での開業規制や診療報酬の地域別単価設定、自由開業・自由標榜の見直しなどを提言、また、地域で過剰な医療サービスを提供する医療機関に対し、診療報酬を減算する仕組みの導入の提案を行った。さらに、診療科別の医師偏在指標が不足している点を批判し、厚生労働省に対し、診療科ごとの医師偏在指標を早急に作成するよう求めた。これらの提言に対し、日本医師会は反発する可能性がある。政府は、年末までに医師偏在対策の総合的な対策パッケージを策定する予定だが、規制強化と医師確保の両立が課題となる。参考1)社会保障(財務省)2)過剰な医療への診療報酬減算を提言、財務省 偏在是正策、外来機能は「転換・集約」(CB news)3)医師偏在対策「手ぬるかった」財政審分科会で 増田氏は「もう一段強く」と主張(同)2.マイナ保険証一本化へ、資格確認方法見直しを中医協で了承/厚労省12月2日から健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」が基本となることを受け、中央社会保険医療協議会(中医協)は11月13日、患者の資格確認方法の変更に伴うルール見直しを了承した。このため厚生労働省は、医療機関や薬局がマイナ保険証や資格確認書で患者の資格を確認できるよう、療養担当規則を改正する。マイナンバーカードを持っていない人や、健康保険証としての利用を登録していない人でも、保険者から発行される「資格確認書」を医療機関に提示することで、これまで通り保険診療が受けられる。資格確認書は、カード型、はがき型、A4型の3種類があり、氏名や被保険者番号などが記載される。申請は不要で、対象者には現行の健康保険証の有効期限に応じて、加入している医療保険者から無償で交付される。デジタル庁では、資格確認書の交付や健康保険証の有効期限に関する情報を公開し、マイナンバーカードの未取得者や、マイナンバーカードを健康保険証としての利用を登録していない人が従来通り保険診療を受けられるよう国民へ周知を図っている。中医協の小塩 隆士会長は、「マイナ保険証への移行に伴う混乱を懸念し、保険診療を受けられない人が出ないよう、必要があれば制度を改めるべきだ」と危惧している。厚労省は、マイナ保険証の利用促進に取り組む一方、国民が安心して保険診療を受けられるよう、制度の周知徹底に努めるとしている。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)12月2日以降の資格確認、療担規則見直しへ 厚労相が諮問 即日答申(CB news)3)2024年12月2日以降のマイナ保険証「以外」(資格確認書等)で保険診療受けるための法令整備を決定-中医協総会(2)(Gem Med)4)12月2日で発行停止の健康保険証、代わりとなる「資格確認書」の交付対象や方法は?-デジ庁が公開(CNET Japan)3.医療費高騰で現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直しを検討/政府医療費が高額になった場合に患者の自己負担を軽減する「高額療養費制度」について、政府は自己負担の上限額を引き上げる方向で検討に入った。11月15日、政府の有識者会議「全世代型社会保障構築会議」で、高額療養費制度の見直しを求める意見が相次いだ。厚生労働省は、医療費の増加や患者の負担能力向上を踏まえ、上限額を引き上げることで医療費の抑制と現役世代の保険料負担軽減を図りたい考え。具体的な引き上げ幅は、年収区分に応じて7~16%を軸に調整されており、所得が低い人への配慮も検討されている。引き上げは2段階で行われ、2025年度に上限額を引き上げた後、2026年度には年収区分を細分化し、高所得者はより高い上限額とする見込みである。高額療養費制度は、医療費の自己負担に上限を設け、超過分を健康保険組合などの保険者が給付する仕組み。近年、高額な新薬の登場や高齢化により、医療費が高額化するケースが増加しており、制度の適用件数と支給総額は増加している。政府は、今回の見直しを通じて、支払い能力に応じた負担を求める「応能負担」を強化したい考え。その一方で、患者の自己負担が増えることから、与野党を問わず反発が出る可能性もあり、今後の議論の行方が注目されている。参考1)全世代型社会保障構築会議[第19回](内閣府)2)高額療養費、見直し求める 政府の有識者会議(日経新聞)3)「高額療養費制度」上限額引き上げる方向で検討 厚労省(NHK)4)高額療養費制度の上限額引き上げ検討 最大5万400円、来年夏めど(朝日新聞)4.出産費用高騰、妊婦の負担軽減へ対策急務 保険適用など議論続く/厚労省値上げが続く出産費用と支援策の課題について、厚生労働省は11月13日に「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」を開き、出産費用の上昇や支援策の有効性を巡り多角的な議論が展開された。全国の正常分娩による出産費用は2024年度上半期で平均51万8,000円に達し、昨年度からさらに1万1,000円増加した。出産育児一時金は、2023年4月に42万円から50万円に引き上げられたが、実際の負担額を賄いきれないケースが多く、都道府県別では東京や神奈川で高額化が顕著となっている。一時金が不足する割合は、全国平均で45%に上り、個室利用料などを含めるとその割合は80%に達している。また、出産費用の「見える化」を目的としたウェブサイト「出産なび」についても検討会で報告が行われた。2024年5月に開設されたこのサイトは、認知率は36%、利用率は18%と低調で、妊婦の情報収集への活用が進んでいない現状が明らかとなった。その一方で、利用者の満足度は高く、妊婦が望む情報の充実が求められている。出産費用の保険適用(現物給付化)については賛否が分かれている。推進派は、経済的負担軽減や標準化の重要性を訴える一方、地方の産科医療体制への悪影響や財源問題を懸念する声もある。とくに一時金引き上げと同時に医療機関が費用を引き上げた印象が拭えず、さらなる分析が必要との意見が多く挙げられた。少子化対策として「安心して出産できる環境整備」の必要性が叫ばれる中、今後は出産費用の地域差解消や制度の簡素化、支援内容の拡充が急務となる。2025年春を目途に検討会での意見が集約される予定。参考1)第5回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(厚労省)2)「出産なび」を知らない妊産婦が6割超 開設後3ヵ月時点で 厚労省検討会に報告(CB news)3)出産育児一時金の引き上げで軽減されたはずが…妊婦の負担額が再び増加、原因は産院の値上げ(読売新聞)4)出産費用 半数近くで一時金の50万円上回る 厚生労働省(NHK)5)出産費用の保険適用には賛否両論、「出産育児一時金の引き上げを待って、医療機関が出産費用引き上げる」との印象拭えず-出産関連検討会(Gem Med)5.美容医療トラブル増加で規制強化へ、年次報告義務化などを検討/厚労省美容医療をめぐるトラブル増加を受け、厚生労働省は規制強化に乗り出す。11月13日に開かれた厚労省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」では、クリニックなどに安全管理措置の状況を年1回、自治体に報告することを義務付ける案を含む報告書案が議論された。この背景には、美容医療に関する健康被害や料金トラブルなどの相談が急増している現状がある。国民生活センターへの相談件数は、2023年度には5,507件と、5年間で3倍に増加した。報告書案では、自由診療が多い美容医療は、保険診療に比べて行政による指導・監査の範囲が限定的であることや、患者の要望や医師の技量によって合併症や後遺症のリスクも高まる可能性があることなどが課題と指摘している。対応策として、医療機関による定期報告の仕組み導入が提案された。報告内容には、安全管理措置の実施状況、医師の専門医資格の有無、トラブル発生時の相談窓口などが含まれ、患者にとって必要な情報は自治体が公表する。厚労省は、年内にも正式な対策をまとめる方針。また、この検討会で臨床研修修了直後に若手の医師が美容医療分野に流入していることが指摘されたが、この問題は医師の偏在是正の観点から、厚労省において別途必要な検討がなされる見込み。参考1)美容医療の適切な実施に関する報告書(案)(厚労省)2)美容医療の安全管理状況を自治体に年1回定期報告へ 健康被害や料金相談増加で厚労省方針(産経新聞)3)美容医療、安全管理状況を年1回報告へ 自治体に 厚労省方針(毎日新聞)4)美容医療「安全管理の報告」取りまとめ案 若手医師の“直美”「別途検討必要」(CB news)6.生後6ヵ月の女児、抗菌薬過剰投与で死亡/兵庫県兵庫県立こども病院(神戸市中央区)は11月14日、生後6ヵ月の女児に抗菌薬を過剰投与する医療ミスがあり、女児が死亡したと発表した。女児は先天性疾患で入院しており、9月に肺炎症状がみられたため、医師が抗菌薬の点滴を指示した。しかし、医師は通常濃度の5倍の抗菌薬を投与するよう誤って指示し、看護師もそれに気付かず投与。さらに、投与時間も本来の2時間ではなく1時間と指示し、2倍の速度で投与していた。女児は点滴開始から約1時間後に心拍数が低下し、その後死亡が確認された。医師は「なぜ初歩的なことを間違ったのかわからない」と話しているという。病院では、医療事故調査委員会を設置し、投与と死亡の因果関係を調査する。また、病理解剖では、新型コロナウイルス感染や敗血症などの疑いもみられたが、抗菌薬の副作用に多い不整脈などは確認されなかったという。病院側は、医療ミスと死亡の因果関係は現時点では明らかではないとしているが、再発防止に向け、正しい希釈方法を看護師らが確認できるようシステムを改修するなどの対策を講じるとしている。参考1)規定量5倍の抗菌薬投与、女児が1時間半後に死亡…医師「なぜ初歩的なこと間違ったかわからない(読売新聞)2)兵庫県立こども病院 生後6か月の乳児 薬の過剰投与後に死亡(NHK)3)乳児に抗菌薬を過剰に投与、直後に死亡 兵庫・こども病院で医療事故(朝日新聞)4)兵庫県立こども病院で医療ミス 生後6カ月の女児に高濃度の抗菌薬を投与、2時間半後に死亡(神戸新聞)

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酒さ〔Rosacea〕・鼻瘤〔Rhinophyma〕

1 疾患概要■ 定義酒さは20歳代以降に好発し、顔面中央部の前額・眉間部、鼻部、頬部(中央寄り)、頤部に、紅斑・潮紅や毛細血管拡張による赤ら顔を来す疾患である。■ 疫学白人(コーカソイド)では5~10%程度までとする報告が欧米の地域からなされている。アジア人(モンゴロイド)では数~20%程度までの報告がある。日本人の酒さの罹患率の正確なデータはないが、自覚していない軽症例を含めると0.5~1%程度の罹患率が見込まれる。■ 病因酒さに一元的な病因は存在しない。酒さの病理組織学的病変の主体は、脂腺性毛包周囲の真皮内にあり、脂腺性毛包を取り囲む炎症と毛細血管拡張を来す。コーカソイドを祖先に持つ集団でのゲノムワイド関連解析(GWAS)調査では酒さ発症に遺伝的背景の示唆がある1)。後天的要因として、環境因子からの自然免疫機構・抗菌ペプチドの過活性化2,3)や肥満細胞の関与する皮膚炎症の遷延化4)、末梢神経応答などの関与する知覚過敏や血管拡張反応などが病態形成に関与することが示されている。■ 症状・分類酒さの皮疹は眉間部、鼻部・鼻周囲、頬部、頤部の顔面中央部に主として分布する。まれに頸部や前胸部、上背部の脂腺性毛包の分布部に皮疹が拡大することもある。酒さは主たる症候・個疹性状に基づいて、紅斑血管拡張型酒さ、丘疹膿疱型酒さ、瘤腫型酒さ・鼻瘤、眼型酒さの4病型・サブタイプに分類される。1)紅斑血管拡張型酒さ脂腺性毛包周囲の紅斑と毛細血管の拡張を主症候とし、酒さの中で最も頻度が高い病型である。寒暖差などの気温変化、紫外線を含む日光曝露、運動や香辛料の効いた食餌などの顔面血流が変化する状況で、火照りや顔の熱感などの自覚症状が悪化する。2)丘疹膿疱型酒さ尋常性ざ瘡と類似の丘疹や膿疱が頬部、眉間部、頤部などに出現する。背景に紅斑血管拡張型酒さにみられる紅斑や毛細血管拡張を併存することも多い。尋常性ざ瘡と異なり、丘疹膿疱型酒さには面皰は存在しないが、酒さと尋常性ざ瘡が合併する患者もあり得る。尋常性ざ瘡との鑑別には面皰の有無に加えて、寒暖差による火照り感や熱感などの外界変化による自覚症状の変動を確認するとよい。3)瘤腫型酒さ・鼻瘤皮下の炎症に伴って肉芽腫形成や線維化を来す病型である。とくに、鼻部に病変を来すことが多く、「鼻瘤」という症候名・病名でも知られている。頬部の丘疹膿疱型酒さを合併することがまれではない。紅斑毛細血管拡張型酒さや丘疹膿疱型酒さは女性患者の受診者が多いが、瘤腫型酒さ・鼻瘤では男女比は1対1である5)。4)眼型酒さ眼瞼縁のマイボーム腺周囲炎症・機能不全を主たる病態とし、初期症状は、眼瞼縁睫毛部周囲の紅斑と毛細血管拡張、そして眼瞼結膜の充血や血管拡張である。自覚症状として眼球や眼瞼の刺激感や流涙を訴えることが多い。眼型酒さのほとんどは、他の酒さ病型に併存しており、酒さの眼合併症という捉え方もされる。■ 予後生命予後は良い。紅斑血管拡張型酒さの毛孔周囲炎症と毛細血管拡張の改善には数年を要する。丘疹膿疱型酒さの丘疹・膿疱症状は、3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。瘤腫型酒さ・鼻瘤は鼻形態の変形程度に併せて、抗炎症療法から手術療法までが選択されるが、症候の安定には数年を要する。眼型酒さの炎症症状(結膜炎や結膜充血)は3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)酒さの診断のための特定の検査方法はなく、皮疹性状や分布、臨床経過から総合的に酒さを診断する。酒さ患者にはアトピー素因やアレルギー素因を有する患者が20~40%ほど含まれており、特異的IgE検査(VIEW39など)を行い、増悪因子の回避に努める5)。アレルギー性接触皮膚炎の併存が疑われる場合にはパッチテスト(貼布試験)を考慮する。酒さ病変部では、毛包虫が増えていることがあり、毛包虫の確認には皮膚擦過試料の検鏡検査を行う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)酒さの治療では、主たる症候を見極めて治療計画を立てる。一般的には、抗炎症作用を有する治療薬で酒さの脂腺性毛孔周囲の紅斑、丘疹、膿疱の治療を3~6ヵ月程度行う。炎症性皮疹のコントロールの後に、器質的変化による毛細血管拡張や、瘤腫や鼻瘤にみられる線維化と形態変形に対する治療を計画する。酒さ症候は、生活環境や併存症によっても症状の増悪が起こる5,6)。酒さの再燃や増悪の予防には、患者毎の増悪因子や環境要因に沿った生活指導と肌質に合わせたスキンケアが重要である。■ 丘疹膿疱型酒さに対する抗炎症外用薬・内服薬1)メトロニダゾール外用薬欧米では、メトロニダゾール外用薬(商品名:ロゼックスゲル)が酒さの抗炎症薬として1980年代から使用されている7,8)。わが国でも2022年に国際的酒さ標準治療薬の1つであるメトロニダゾール外用薬0.75%が酒さに対して保険適用が拡大された9)。メトロニダゾール外用薬は、その炎症反応抑制効果から丘疹膿疱型酒さにみられる炎症性皮疹の丘疹と膿疱の抑制効果、脂腺性毛包周囲の炎症による紅斑に対して改善効果が期待できる。2)イオウ・カンフルローションイオウ・カンフルローションは、わが国では1970年代から発売されざ瘡と酒さに対して保険適用がある。ただ、イオウ・カンフルローションの保険適用は、わが国での酒さ患者を対象とした臨床試験に基づいた承認経過の記録が見当たらず、現代のガイドライン評価基準に則した本邦での良質なエビデンスはない。イオウ・カンフルローションは、エタノールを含んでおり、皮脂と角層内水分の少ない乾燥肌の患者に用いると、乾燥感や肌荒れ感が強くなる場合がある。イオウ・カンフルローション懸濁液は、淡黄色で塗布により肌色調が黄色調となることがある。肌色調が気になる患者には、上澄み液だけを用いるなどの工夫をする。3)テトラサイクリン系抗菌薬ドキシサイクリンは、丘疹膿疱型酒さの炎症性皮疹(丘疹、膿疱)に有効である。酒さ専用内服薬としてドキシサイクリンの低用量徐放性内服薬が欧米では承認されている。ミノサイクリンは、ドキシサイクリン低用量徐放性内服薬と同等の効果が示されているが、間質性肺炎や皮膚色素沈着などの副作用から、長期服用時に留意が必要である10)。■ 紅斑毛細血管拡張型酒さに対する治療紅斑毛細血管拡張型酒さの主たる症候は、毛細血管の拡張に伴う紅斑や一過性潮紅である。治療には拡張した毛細血管を縮小させる治療を行う。パルス色素レーザー(pulsed dye laser:PDL)[595nm]、Nd:YAGレーザー[1,064nm]、Intense pulsed light (IPL)が、酒さの毛細血管拡張と紅斑を有意に減少させることが報告されている。これらのレーザー・光線治療は酒さに対しては保険適用外である。4 今後の展望2022年にメトロニダゾールが酒さに対して保険適用となり、わが国でも酒さ標準治療薬が入手できるようになった。酒さの診断名登録が増えており、医療関係者と患者ともに酒さ・赤ら顔に対する認知度の増加傾向が感じられる。しかしながら、潮紅や毛細血管拡張を主体とする紅斑毛細血管拡張型酒さに対する保険適用の治療方法は十分ではなく、今後の治験や臨床試験が期待される。5 主たる診療科皮膚科顔面の丘疹・膿疱を主たる皮疹形態とする疾患の多くは皮膚表面の表皮の疾患ではなく、真皮における炎症、肉芽腫性疾患、感染症、腫瘍性疾患である可能性が高い。皮膚炎症性疾患に頻用されるステロイド外用薬は、これらの疾患に効果がないばかりか、悪化させることがしばしば経験される。酒さは、ステロイドで悪化する代表的な皮膚疾患であり、安易なステロイド使用が患者と医療者の双方にとって望ましくない経過につながる。顔面に赤ら顔や丘疹や膿疱をみかける症例は、ステロイドなどの使用の前に鑑別疾患を十分に考慮する必要があるし、判断に迷う場合には外用薬を処方する前に速やかに皮膚科専門医にコンサルタントすることをお勧めする。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報酒さナビ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Rosacea Society(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)American Acne and Rosacea Society(医療従事者向けのまとまった情報、米国の本症の診療サイト)1)Aponte JL, et al. Hum Mol Genet. 2018;27:2762-2772.2)Yamasaki K, et al. Nat Med. 2007;13:975-980.3)Yamasaki K, et al. J Invest Dermatol. 2011;131:688-697.4)Muto Y, et al. J Invest Dermatol. 2014;134:2728-2736.5)Wada-Irimada M, et al. J Dermatol. 2022;49:519-524.6)Yamasaki K, et al. J Dermatol. 2022;49:1221-1227.7)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;109:63-66.8)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;108:327-332.9)Miyachi Y, et al. J Dermatol. 2022;49:330-340.10)van der Linden MMD, et al. Br J Dermatol. 2017;176:1465-1474.公開履歴初回2024年11月14日

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市中肺炎の入院患者、経口抗菌薬単独での有効性

 市中肺炎の入院患者のほとんどで、静注抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えが安全であることが無作為化比較試験で示されているが、最初から経口抗菌薬のみ投与した場合のデータは限られている。今回、入院中の市中肺炎患者を対象にβラクタム系薬の投与期間を検討したPneumonia Short Treatment(PST)試験の事後解析として、投与開始後3日間の抗菌薬投与経路を静脈内投与と経口投与に分けて有効性を比較したところ、有意差が認められなかったことをPST研究グループのAurelien Dinh氏らが報告した。Clinical Microbiology and Infection誌2024年8月号に掲載。 PST試験は、ICU以外の病棟に市中肺炎で入院した患者を対象に、投与開始から3日間はアモキシシリン・クラブラン酸または第3世代セファロスポリン(セフトリアキソン、セフォタキシム)を静脈内投与または経口投与し、その後プラセボ群とアモキシシリン・クラブラン酸群に無作為化して5日間経口投与した無作為化プラセボ対照試験である。本試験では、主要評価項目である抗菌薬の投与開始から15日目の治療失敗(「体温37.9℃超」「呼吸器症状の消失・改善なし」「原因を問わず抗菌薬を追加投与」の1つ以上)について、3日間投与が8日間投与に非劣性を示したことがすでに報告されている。 今回の事後解析では、投与経路別の有効性を調べるため、最初の3日間が静脈内投与、すべて経口投与の症例の治療失敗率を比較し、さらにサブグループ(アモキシシリン・クラブラン酸と第3世代セファロスポリン、アモキシシリン・クラブラン酸の静注と経口、多葉性肺炎、65歳以上、CURB-65スコア3~4)でも比較した。 主な結果は以下のとおり。・PST試験から200例が組み入れられ、最初の3日間静脈内投与の症例は93例(46.5%)、すべて経口投与の症例は107例(53.5%)であった。・15日目の治療失敗率は静脈内投与(26.9%)と経口投与(26.2%)で有意差はなかった(調整オッズ比:0.973、95%信頼区間:0.519~1.823、p=0.932)。・15日目の治療失敗率はサブグループ間で有意差はなかった。 著者らは「本研究は探索的事後解析で、少ない症例数とロジスティック回帰に基づいているため結論には限界がある」と述べ、またニューキノロン系薬が本試験から除外されていることから「入院を必要とする市中肺炎に対する投与経路による新たな無作為化比較試験が必要」としている。

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救急外来でのChatGPTの活用は時期尚早

 人工知能(AI)のChatGPTを病院の救急外来(ED)で活用するのは時期尚早のようだ。EDでの診断にAIを活用すると、一部の患者に不必要な放射線検査や抗菌薬の処方を求め、実際には入院治療を必要としない患者にも入院を求めるような判断を下す可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のChristopher Williams氏らによるこの研究は、「Nature Communications」に10月8日掲載された。Williams氏は、「本研究結果は、AIモデルの言うことを盲目的に信頼するべきではないという、臨床医に対する重要なメッセージだ」と話している。 この研究でWilliams氏らは、EDの臨床ノートを用いて、AIモデル(GPT-3.5 turboとGPT-4 turbo)が、入院、放射線検査、抗菌薬処方の必要性の3点についての推奨を的確に提供できるかどうかを評価した。25万1,000件以上のED受診から、それぞれのタスクにつき1万件の受診サンプルをランダムに抽出し、患者の症状や診察所見などの書かれた臨床ノートの内容をAIモデルに分析させた。モデルには、患者に入院が必要か、放射線検査が必要か、抗菌薬の処方が必要かについて、全て「はい」か「いいえ」で答えさせた。 その結果、AIモデルは全体的に、実際に必要とする以上の過剰なケアを推奨する傾向があることが明らかになった。レジデントの医師の診断精度に比べて、GPT-4 turboモデルの精度は8%、GPT-3.5 turboモデルの精度は24%低かった。 こうした結果を受けてWilliams氏は、「AIモデルは医学試験の質問に答えたり臨床記録の作成を手助けしたりすることはできるが、現時点では、EDのような複数の要素を考慮する必要がある状況に対処できるようには設計されていない」とUCSFのニュースリリースで述べている。 Williams氏は、「AIモデルのこのような過剰処方の傾向は、モデルがインターネット上でトレーニングされているという事実によって説明できるかもしれない」と話す。正規の医療アドバイスサイトは、緊急性の高い医学的質問に回答するためではなく、それに答えることのできる医師に患者を紹介するために設計されている。 またWilliams氏は、「これらのAIモデルは、たいていの場合、『医師の診察を受けてください』と答えるようになっている。これは、安全性の観点からはもっともなことだが、EDの現場では、用心し過ぎることが必ずしも適切であるわけではない。不必要な介入が患者にはかえって害となり、リソースの浪費と患者の医療費増加につながる可能性があるからだ」と述べている。 Williams氏は、AIモデルをEDで活用するには、患者の診察により得られる情報を評価するためのより優れたフレームワークが必要だとの見方を示す。そして、そのようなフレームワークの設計者は、AIモデルが重大な問題を見逃さないようにしつつ、不要な検査や費用が発生しないようにバランスを取る必要があると述べる。同氏は、「完璧な解決策はない。それでも、ChatGPTのようなモデルにはこのような傾向があることが明らかになったのだから、われわれには、AIモデルを臨床現場でどのように機能させたいかを熟考する責任がある」と話している。

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“風邪”への抗菌薬処方、医師の年齢で明確な差/東大

 日本における非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬の処方実態を調査した結果、高齢院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では抗菌薬を処方する割合が高く、とくに広域スペクトラム抗菌薬を処方する可能性が高かったことを、東京大学大学院医学系研究科の青山 龍平氏らがJAMA Network Open誌2024年10月21日号のリサーチレターで報告した。 日本では2016年より薬剤耐性(AMR)対策アクションプランなど、適切な抗菌薬処方を推し進める取り組みが行われているが、十分な成果は出ていない。そこで研究グループは、急性呼吸器感染症が不適切な抗菌薬処方を受けることが多い疾患の1つであることに注目し、非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬処方とそれに関連する診療所の特性を調査した。 研究グループは、電子カルテデータベースを用いて、2022年10月1日~2023年9月30日に非細菌性の急性呼吸器感染症(ICD-10のJ00~J06またはJ20~J22)と診断された外来の成人患者を抽出し、診療所の特性(院長の年齢や性別、患者数、グループ診療か単独診療か)と抗菌薬処方との関連を分析した。なお、成人のプライマリケアに従事する診療所に焦点を当てるため、耳鼻咽喉科および小児科の診療所と、研究期間中の非細菌性の急性呼吸器感染症の診療が100例未満の診療所は除外した。 主な結果は以下のとおり。・1,183軒の診療所を受診した97万7,590例(平均年齢:49.7[SD 20.1]歳、女性:56.9%)の非細菌性の急性呼吸器感染症患者を解析した。・抗菌薬は17万1,483例(17.5%)に処方され、広域スペクトラム抗菌薬抗菌薬処方全体の88.3%を占めた。・最も多く処方されたのはクラリスロマイシン(30.7%)で、レボフロキサシン(12.2%)、セフジトレン(11.2%)、アジスロマイシン(11.1%)、セフカペン(9.2%)、アモキシシリン(7.9%)と続いた。・高齢の院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では、抗菌薬の処方が有意に多かった。 【院長の年齢が60歳以上vs.45歳未満】調整オッズ比(aOR):2.14、95%信頼区間(CI):1.56~2.92、p<0.001 【患者数が年間中央値58例/日以上vs.35例/日以下】aOR:1.47、95%CI:1.11~1.96、p=0.02 【グループ診療vs.単独診療】aOR:0.71、95%CI:0.56~0.89、p=0.01・院長の性別では統計学的に有意な差は認められなかった。・広域スペクトラム抗菌薬の処方に限定した解析でも、上記すべての特性で同様の傾向が認められた。 研究グループは「患者数の多い診療所は、時間的なプレッシャーや決断疲れのために抗菌薬を過剰に処方している可能性がある」と示唆したうえで、「今回の結果は抗菌薬の適正使用に向けて、より的を絞った介入の実施に役立つだろう」とまとめた。

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糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査、胃がん予防に有効か/JAMA

 国立台湾大学のYi-Chia Lee氏らは、糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検査(HPSA)の勧奨が胃がんの罹患率および死亡率に与える影響を評価する目的でプラグマティックな無作為化臨床試験を行い、免疫学的便潜血検査(FIT)単独との比較において、HPSA+FITの勧奨は胃がんの罹患率や死亡率を低減しなかったことを報告した。ただし、検査への参加率と追跡期間の違いを考慮すると、HSPA+FIT群ではFIT単独群と比較し、胃がん死亡率に差はなかったが、罹患率低下との関連が示されたという。これまでHPSAが胃がんの罹患率と死亡率に及ぼす影響は不明であった。JAMA誌オンライン版2024年9月30日号掲載の報告。HPSA+FIT vs.FIT単独、胃がんの罹患率と死亡率を比較 研究グループは、2014年1月1日~2018年9月27日に、台湾の彰化県に在住し、大腸がん検診プログラム(2年ごとのFIT)の対象となる50~69歳の住民26万9,870例から24万例を無作為に抽出し、HPSA+FIT群またはFIT単独群に1対1の割合で無作為に割り付け、各検査への参加を募った(最終追跡調査は2020年12月31日)。 HPSA+FIT群でHPSAの結果が陽性の場合は、標準的な10日間の除菌療法(1~5日目:エソメプラゾール[40mg]1日1回+アモキシシリン[1g]1日2回、6~10日目:エソメプラゾール[40mg]1日1回+クラリスロマイシン[500mg]1日2回+メトロニダゾール[500mg]1日2回)を行い、終了後6~8週時のHPSAでも陽性だった場合は、さらに10日間の3剤併用療法(エソメプラゾール[40mg]1日1回+アモキシシリン[1g]1日2回+レボフロキサシン[500mg]1日1回)を行った。 主要アウトカムは、胃がんの罹患率および死亡率、副次アウトカムは大腸がんの罹患率および死亡率とし、ポアソン回帰モデルを用いて群間差を解析した。胃がんの罹患率と死亡率に有意差なし 無作為に抽出した24万例(平均年齢58.1歳[SD 5.6]、女性46.8%)のうち、3万8,792例は電話による連絡が取れず、4万8,705例には必要例数に達したため電話招待を行わなかった。参加率(電話による連絡が取れ招待された人のうち検査を受けた人の割合)は、HPSA+FIT群で49.6%(3万1,497/6万3,508例)、FIT単独群で35.7%(3万1,777/8万8,995例)であった。 HPSAを受けた3万1,497例中1万2,142例(38.5%)が陽性で、このうち8,664例(71.4%)が治療を完了し、91.9%で除菌が達成された。 胃がん罹患率(/100人年)は、HPSA+FIT群0.032%、FIT単独群0.037%、平均群間差は-0.005%(95%信頼区間[CI]:-0.013~0.003、p=0.23)、胃がん死亡率はそれぞれ0.015%と0.013%で、平均群間差は0.002%(95%CI:-0.004~0.007、p=0.57)であった。 事後解析において、検査への参加率、追跡期間、患者背景を補正後、HPSA+FIT群ではFIT単独群と比較し、胃がん罹患率の低下と関連していたが(補正後相対リスク[RR]:0.79、95%CI:0.63~0.98)、胃がん死亡率に差はなかった(1.02、0.73~1.40)。 抗菌薬を投与された参加者における主な副作用は、腹痛または下痢(2.1%)、消化不良または食欲不振(0.8%)であった。 なお、著者は研究の限界として、参加率が41.5%であったこと、HPSAの結果が陽性の参加者のうち治療を受けたのは71.4%であったこと、追跡期間が相対的に短かったことなどを挙げている。

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耐性菌が出ているけど臨床経過のよい腎盂腎炎に遭遇したら【とことん極める!腎盂腎炎】第8回

耐性菌が出ているけど臨床経過のよい腎盂腎炎に遭遇したらTeaching point(1)耐性菌が原因菌ではないことがあり、その原因について考える(2)多くが検体採取時のクリニカルエラーであるため採取条件の確認を行う(3)尿中の抗菌薬は高濃度のため耐性菌でも効いているように見えることがある(4)診断が正しいかどうか再確認を行うはじめに尿培養結果と臨床症状が合わない事例は、たまに遭遇することがある。“合わない”事例のうち、耐性菌が検出されていないのに臨床経過が悪い場合と、耐性菌が検出されているが臨床経過はよいものがある。今回は後者について解説していく。培養検査は原因菌のみ検出されるわけではなく、尿中に一定量の菌が存在する場合はすべて陽性となる。そのため、培養検査で検出されたすべての微生物が原因菌ではなく、複数菌が同時に検出された場合では、原因菌以外の菌が分離されていたことになる。それは耐性菌であっても同じであり、耐性菌が検出されているが臨床経過がよい場合、以下の2点が考えられる。1.検出された耐性菌が原因菌ではない場合膀胱内に貯留している尿は一般的に無菌であるが、尿路感染症を引き起こした場合、尿には菌が確認されるようになる。尿培養では尿中の菌量が重要になるが、採取条件が悪くなることで、周辺からの常在菌やデバイス留置による定着菌の混入を最小限におさえて検査を行うことで正しい検査結果が得られる。【採取条件が悪い場合(図)】尿は会陰や腟、尿道周囲の常在菌が混入しやすいため、採取条件が悪い場合は不正確な検査結果を招く恐れがある。画像を拡大する中間尿標準的な採取法で通常は無菌的に採取できるが汚染菌が混入するシチュエーションを把握しておく。女性は会陰や腟、尿道の常在菌が混入しやすいため、採取時は尿道周囲や会陰部を洗浄した後に採尿する。男性は外尿道口を水洗するだけで十分であるが、包茎であれば皮膚常在菌が混入しやすいので包皮を剥いてから採尿する。間欠導尿による採尿で汚染菌の混入を減らすことができる。尿道留置カテーテルからの採尿入れ替え直後のカテーテルを除き、通常カテーテルには細菌がバイオフィルムを形成しているため、検出された細菌が膀胱に停留しているものかどうかはわからない。もし、採尿する場合は、ポートを消毒後に注射器を使い採取をする。また、採尿バッグから採取を行うと室温で自然に増殖した細菌が検出されて不適切であるため行わないこと。尿バッグからの採尿乳児の場合は中間尿の採取は技術的に難しいため、粘着テープ付き採尿バッグを装着する。女児や包茎の男児では常在菌の混入が免れないため、不必要な治療や入院が行われる原因となる。回腸導管からの採尿回腸に常在菌は多く存在しないが、回腸導管やストーマ内は菌が定着しているため採取した尿は解釈が難しくなる。【保存条件が悪い場合】尿を採取後はできるだけ早く培養を開始しないといけないが、院外検査であったり、夜間休日で搬送がスムーズにできなかったりするなど、検査をすぐに開始できない場合が考えられる。尿の保存条件が悪い場合は、少量混入した汚染菌や定着菌が増え、原因菌と判別がしにくくなるほど尿培養で検出されてしまう。尿は採取後2時間以内に検査を開始するか、検査がすぐに開始できない場合は冷蔵庫(4℃)に保管をしなければならない。【複数菌が同時に検出されている場合】原因菌以外にも複数菌が同時に検出され、主たる原因菌が感受性菌で、汚染菌や定着菌、通過菌が耐性菌として検出された可能性がある。たとえば、尿道留置カテーテルが長期挿入されている患者や回腸導管でカテーテル挿入患者からの採尿で観察される。【常在菌の混入や定着菌の場合】Enterococcus属やStreptococcus agalactiae、Staphylococcus aureus、Corynebacterium属、Candida属については汚染菌や定着菌のことが多く、菌量が多くても原因菌ではないこともある(表1、2)1,2)。画像を拡大する画像を拡大する【検査のクリニカルエラーが原因となる場合】検体の取り違え(ヒューマンエラー)別患者の尿を誤って採取し提出した。別患者の検体ラベルを誤って添付した。別患者の検体で誤って培養検査を行った。培養時のコンタミネーション別患者の検体が混入してしまった。環境菌の汚染があった。感受性検査のエラー(テクニカルエラー)感受性検査を実施したところ、誤って偽耐性となった。感受性検査の試薬劣化。感受性検査に使用する試薬が少なかった。感受性試験に使用した菌液濃度が濃かった。2.検出された耐性菌が原因菌の場合【疾患の重症度が低い場合】入院適用がなく、併存疾患もなく、血液培養が陰性で、経口抗菌薬が問題なく服用ができる患者であれば外来で治療が可能な場合がある。その後の臨床経過もよいが、初期抗菌薬に耐性を認めた場合であってもそのまま治療が奏功する症例も経験する。しかし、耐性菌が検出されているため、抗菌薬の変更や治療終了期間の検討は慎重に行わなければならない。【抗菌薬の体内動態が原因となる場合】抗菌薬は尿中へ排泄されるため、尿中の抗菌薬は高濃度となる。尿中に排泄された抗菌薬濃度は血中濃度と平衡状態になく高濃度で貯留するため、たとえ耐性菌であっても感受性の結果どおりの反応をみせないことがある3)。抗菌薬のなかでも、濃度依存性のもの(ニューキノロンやアミノグリコシドなど)では効果が期待できると思うが、時間依存性のもの(β-ラクタム)でも菌が消失することを経験する。しかし、耐性菌であるため感受性菌に比べると細菌学的に効果が劣ることから、感受性の抗菌薬への変更も検討が必要になる。【診断は正しくされているのか】尿路感染症を診断する場合、鑑別疾患から尿路感染症が除外される条件が必要になる。たとえば、細菌が確認されない、膿尿が確認されない、尿路感染症に特徴的な所見が確認されないことが条件になる。尿は、汚染菌や定着菌が同時に検出されやすい検査材料になるため、検出菌の臨床的意義を再度検討し、診断が正しいのか確認することも求められる。おわりに感染症診療がnatural courseどおりにいかないことは、苦しいことであり、診療のうえで楽しみでもある。投与している抗菌薬に感受性の菌しか検出されていないのに、治りが悪いということはたまに遭遇するが、耐性菌が検出されているのにもかかわらず治療経過がよいというのは、どこかにピットフォールが隠れていないか疑心暗鬼になりがちである。治療経過がよいので、わざわざ抗菌薬を変更しないといけないのか、そもそも治療は必要なのか答えはみつからないことが多い。看護師に指示をして結果だけ待つのではなく、採取した尿を確認し、検査結果がどのように報告されているのか一度確認を行うことは、今後の感染症診療をステップアップする足がかりになるため、1つ1つ解決していきたいものである。1)Hooton TM, et al. N Engl J Med. 2013;369:1883-1891.2)Chan WW. Chapter 3 Aerobic Bacteriology. Urine Culture. Clinical Microbiology Procedures Handbook 4th Ed. ASM Press. 2016.3)Peco-Antic A, et al. Srp Arh Celok Lek. 2012;140:321-325.

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