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生理食塩水での口腔ケアは、ICU死亡率を低減【論文から学ぶ看護の新常識】第5回

生理食塩水での口腔ケアは、ICU死亡率を低減集中治療室(ICU)にて機械的人工呼吸管理を行っている患者に、口腔ケアで酸化剤を使用することは人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症を抑え、生理食塩水の使用ではICU死亡率を低下させる効果が示された。Qianqian He氏らの研究で、Australian Critical Care誌2025年1月号に掲載された。集中治療室患者における人工呼吸器関連の転帰と死亡率に対するさまざまなマウスウォッシュの効果:ネットワークメタアナリシス研究グループは、ICUにおける機械的人工呼吸管理患者に対する異なるマウスウォッシュの効果と安全性を、VAPの発生率、ICU死亡率、人工呼吸器装着期間、および大腸菌定着率を指標に比較評価した。PubMed、Web of Science、Embase、Cochrane Libraryを検索し、生理食塩水、クロルヘキシジン(CHX)、重炭酸ナトリウム、酸化剤、ハーブ抽出物、ポビドンヨード(PI)を比較したランダム化比較試験(RCT)を対象とした。14件のランダム化比較試験(RCT)に登録された1,644人のICU患者(平均年齢57.86歳、男性58.73%)が対象となった。評価項目は、VAP発生率、ICU死亡率、人工呼吸器装着期間、大腸菌の定着率。統計手法は、Rソフトウェアを用いたネットワークメタアナリシスで、異質性はI2検定で評価され、優越率は累積順位曲線下面積(SUCRA)で推定された。主な結果は以下のとおり。VAP発生率:酸化剤はVAP発生率を低減する傾向を示した(リスク比[RR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.05~1.10)。ICU死亡率:生理食塩水はICU死亡率を有意に低下させた(RR:0.18、95%CI:0.04~0.88)。CHXやPIはICU死亡率に有意な影響を与えなかった。人工呼吸器装着期間:CHXおよびPIは人工呼吸器装着期間に有意な影響を与えなかった。大腸菌定着率:すべての介入群で統計的有意差は観察されなかった。クロルヘキシジンなどの抗菌性マウスウォッシュは、ICU患者に対して潜在的なリスクを伴う可能性がある。一方で、酸化剤は比較的安全であると考えられる。また、生理食塩水はICU死亡率を有意に低下させる有望な選択肢として示唆された。今後は、より大規模で高品質なRCTが必要である。この論文は、ICU患者における異なるマウスウォッシュの効果を比較検討したネットワークメタアナリシスです。特に、人工呼吸器関連肺炎の発生率、ICU死亡率、人工呼吸器装着期間、大腸菌定着率に焦点を当てています。まず、最も注目すべきは生理食塩水に関する結果です。これまで生理食塩水は「標準的で無害な選択肢」にすぎず、口腔内に殺菌する成分が入っていたほうがよいという考えが強かったと思います。しかし、今回の研究では、生理食塩水の使用はICU死亡率を有意に低下させることが示されました。これは、抗菌薬を使用しないことで副作用を回避しつつ、安全に口腔ケアを行える点で重要な知見かと思います。論文での考察としては、生理食塩水は、抗菌性マウスウォッシュと比較すると口腔内の自然な細菌叢のバランスを崩さず、維持に貢献すると考えられるとされています。一方で、よく使用されるクロルヘキシジンやポビドンヨードについては、注意が必要です。日本国内では、クロルヘキシジンを海外のように高い濃度で口腔内へ使用することはできません。そのため、主流になっていくことはないかと思いますが、クロルヘキシジンは心臓外科手術後の患者には効果的である可能性がある一方、非心臓外科患者では死亡リスクが増加する可能性が示されています。また、味覚障害や歯の変色といった副作用があることも臨床現場では無視できません。次に、過酸化水素いわゆるオキシドールなどの酸化剤の効果も見逃せません。酸化剤は人工呼吸器関連肺炎の発生率を抑制する可能性があることが示唆されており、特にクロルヘキシジンの副作用を軽減する効果も期待されています。これにより、患者の快適性や口腔ケアの継続性が向上する可能性があります。しかし、臨床に看護師主導で酸化剤のマウスウォッシュを導入するのはハードルが高い印象です。これらをまとめると、すぐに導入でき、また日頃からも行われている、生理食塩水での口腔ケアは「意外とよい」と言えるでしょう。論文はこちらHe Q, et al. Aust Crit Care. 2025;38(1):101095.

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世界初、遺伝子編集ブタ腎臓の異種移植は成功か/NEJM

 米国・マサチューセッツ総合病院の河合 達郎氏らは、遺伝子編集ブタ腎臓をヒトへ移植した世界初の症例について報告した。症例は、62歳男性で、2型糖尿病による末期腎不全のため69の遺伝子編集が施されたブタ腎臓が移植された。移植された腎臓は直ちに機能し、クレアチニン値は速やかに低下して透析は不要となった。しかし、腎機能は維持されていたものの、移植から52日目に、予期しない心臓突然死を来した。剖検では、重度の冠動脈疾患と心室の瘢痕化が認められたが、明らかな移植腎の拒絶反応は認められなかった。著者は、「今回の結果は、末期腎不全患者への移植アクセスを拡大するため、遺伝子編集ブタ腎臓異種移植の臨床応用を支持するものである」とまとめている。NEJM誌オンライン版2025年2月7日号掲載の報告。69の遺伝子編集を組み込んだブタ腎臓を2型糖尿病による末期腎不全患者に移植 移植に用いたブタ(Yucatanミニブタ)は、3つの主要な糖鎖抗原を除去し、7つのヒト遺伝子(TNFAIP3、HMOX1、CD47、CD46、CD55、THBD、EPCR)を導入して過剰発現させ、ブタ内在性レトロウイルスを不活性化するなど、計69の遺伝子編集を組み込んだ。 レシピエントは、2型糖尿病による末期腎不全の62歳男性であった。心筋梗塞、副甲状腺摘出術が既往で、2018年に献腎移植を受けたが、2023年5月にBKウイルス感染および糖尿病性腎症の再発により移植腎が機能不全となり、血液透析中であった。 マサチューセッツ総合病院の集学的チームによる包括的評価と、独立した精神科医および倫理委員会による評価を経て、移植を実施した。 免疫抑制療法は、前臨床研究に基づき、抗胸腺細胞グロブリン(ウサギ)、リツキシマブ、Fc修飾抗CD154モノクローナル抗体(tegoprubart)および抗C5抗体(ラブリズマブ)、タクロリムス、ミコフェノール酸とprednisoneを併用した。移植腎は機能していたが、糖尿病性虚血性心筋症に伴う不整脈で心臓突然死 移植手術は、冷虚血時間4時間38分で終了した。移植したブタ腎臓は移植後5分以内に尿を産生し、最初の48時間で6L超に達した。その後、尿量は1日1.5~2Lで安定した。患者の血漿クレアチニン値は、術前の11.8mg/dLから術後6日目には2.2mg/dLに低下した。 術後8日目に血漿クレアチニンが2.9mg/dLに上昇し、発熱、圧痛、尿量の減少を認めたが、感染症の検査は陰性であった。抗体介在性拒絶反応が疑われたため、メチルプレドニゾロン、トシリズマブを投与した。投与前の腎生検で、急性T細胞介在性拒絶反応(Banffグレード2A)が確認された。 術後9日目および10日目にメチルプレドニゾロンおよび抗胸腺細胞グロブリンを投与し、タクロリムスとミコフェノール酸を増量し、さらに補体C3阻害薬のペグセタコプランを投与した。トシリズマブの追加投与は行わなかった。その後、患者の尿量は増加し、血漿クレアチニン値は低下した。 術後18日目、血漿クレアチニン値2.5mg/dLで退院した。34日目に再び上昇したが、水分補給により1.57mg/dLまで低下した。推算糸球体濾過量(eGFR)は40~50mL/分/1.73m2であった。 術後25日目に皮下創感染症が発生し、外科的に一部切開するとともに、抗菌薬(リネゾリド、メロペネム)の投与を開始し、排膿ドレナージを実施した。緑膿菌陽性の後腹膜貯留液が排出された。切開は37日目に閉鎖し、2週間培養陰性および腹部CTにより貯留液の消失が確認されことから、51日目にドレーンを抜去した。 術後51日目、患者は外来を受診した。水分摂取量が少なく血漿クレアチニン値が2.7mg/dLと比較的高値であったため、補液を実施した。それ以外は、うっ血性心不全の症状はなく、身体所見も腎臓超音波検査でも異常は認められなかった。血圧、心拍数、呼吸数もすべて正常であった。 しかし、夕方に突然、呼吸困難に陥り、蘇生に努めたが術後52日目に亡くなった。剖検の結果、重度のびまん性冠動脈疾患を伴う心臓肥大、びまん性左室線維化などが認められ、これらはすべて糖尿病性虚血性心筋症によるものと考えられた。急性心筋梗塞、肺塞栓症、肺炎、他の臓器の炎症または薬物毒性は認められなかったことから、重症虚血性心筋症に伴う不整脈による心臓突然死と結論付けられている。

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非代償性肝硬変、スタチン+抗菌薬併用療法は有効か/JAMA

 スタチンは肝硬変患者の門脈圧を低下させ、肝硬変合併症のリスクを軽減し、生存期間を延長する可能性が示唆されており、広域スペクトル抗菌薬であるリファキシミンは肝性脳症の再発リスクを低下させ、肝硬変患者にみられる腸内細菌叢の顕著な異常を改善することが知られている。スペイン・バルセロナ病院のElisa Pose氏らLIVERHOPE Consortiumは、「LIVERHOPE試験」において、非代償性肝硬変患者の慢性肝不全の急性増悪(acute-on-chronic liver failure:ACLF)の予防では、プラセボと比較してシンバスタチン+リファキシミンの併用療法はその発生率を抑制せず、肝硬変の合併症や有害事象の頻度は同程度であることを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年2月5日号で報告された。欧州14病院のプラセボ対照第III相試験 LIVERHOPE試験は、非代償性肝硬変患者におけるシンバスタチン+リファキシミン併用療法の有用性の評価を目的とする二重盲検プラセボ対照第III相試験であり、2019年1月~2022年12月に欧州の14病院で患者を登録した(Horizon 20/20 programの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、肝硬変合併症の発症リスクが高く死亡率も高いとされるChild-Pugh分類のBまたはCの非代償性肝硬変と診断された患者を対象とした。被験者を、標準治療に加え、シンバスタチン(20mg/日)+リファキシミン(1,200mg/日)の投与を受ける群、またはプラセボ群に無作為に割り付け、12ヵ月間投与した。 主要エンドポイントは、欧州肝臓学会/慢性肝不全(EASL-CLIF)の定義によるACLFの判定基準を満たす臓器不全を伴う肝硬変の重症合併症の発現とした。肝硬変の合併症の頻度も同程度 237例(平均年齢57歳、男性72%、アルコール性肝硬変80%、Child-Pugh分類B 194例、同C 43例)を登録し、シンバスタチン+リファキシミン群に117例、プラセボ群に120例を割り付けた。追跡期間中央値は両群とも365日だった。 少なくとも1回のACLFを発症した患者は、シンバスタチン+リファキシミン群が21例(17.9%)、プラセボ群は17例(14.2%)であり、ハザード比(HR)は1.23(95%信頼区間[CI]:0.65~2.34)と両群間に有意な差を認めなかった(p=0.52)。 副次アウトカムである肝移植または死亡例は、シンバスタチン+リファキシミン群で22例(18.8%、肝移植5例、死亡17例)、プラセボ群で29例(24.2%、肝移植12例、死亡17例)であった(HR:0.75、95%CI:0.43~1.32、p=0.32)。また、肝硬変の合併症(腹水[新規、増悪]、細菌感染、肝性脳症、急性腎障害、消化管出血)は、それぞれ50例(42.7%)および55例(45.8%)に発現した(HR:0.93、95%CI:0.63~1.36、p=0.70)。シンバスタチン+リファキシミン群でのみ横紋筋融解症が3例 有害事象の発生率は両群で同程度であった(シンバスタチン+リファキシミン群426件[101例、86.3%]vs.プラセボ群419件[100例、83.3%]、p=0.59)。有害事象の種類別の解析でも、両群間に頻度の差があるものはなかった。 重篤な有害事象(シンバスタチン+リファキシミン群44例[37.6%]vs.プラセボ群 50例[41.7%]、p=0.79)および致死的有害事象(17例[14.5%]vs.17例[14.2%]、p>0.99)についても、発生率は両群で同程度だった。注目すべき点として、横紋筋融解症が、プラセボ群ではみられなかったのに対し、シンバスタチン+リファキシミン群で3例(2.6%)に認めたことが挙げられる。 著者は、「シンバスタチンとリファキシミンの併用療法は、肝機能検査所見、腎機能検査所見、肝機能障害の重症度の指標であるModel for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアも改善しなかった」「今回の結果は、肝性脳症の再発予防以外の目的で、肝硬変患者の管理にリファキシミンを使用することを支持しない」「本研究の参加者は中等度~重度の肝機能障害を伴う肝硬変であり、これらの知見が、進行度の低い肝硬変患者にも当てはまるかは不明である」としている。

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抗菌薬による虫垂炎治療、虫垂切除の回避率は?~メタ解析

 個々の患者データを用いたメタ解析の結果、急性虫垂炎に対する抗菌薬治療によって、最初の1年間で約3分の2の患者が虫垂切除を回避できたものの、虫垂結石を伴う場合は合併症のリスクが高まったことを、オランダ・アムステルダム大学のJochem C. G. Scheijmans氏らが明らかにした。Lancet Gastroenterology & Hepatology誌2025年3月号掲載の報告。 これまでのランダム化比較試験によって、合併症のない急性虫垂炎に対する抗菌薬は、虫垂切除術に代わる効果的で安全な治療とされている。しかし、これらの試験はそれぞれの包含基準が異なり、アウトカムや合併症の定義も異なっている。そこで研究グループは、個々の患者データのメタ解析を実施し、虫垂切除術と比較した抗菌薬治療の安全性と有効性を評価した。 PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trialsをデータベースの開設から2023年6月6日まで検索し、画像診断で急性虫垂炎が確認された成人(18歳以上)の治療として、虫垂切除術と抗菌薬治療を比較したランダム化比較試験を抽出した。合併症に関する1年間の追跡データがない試験は除外した。主要アウトカムは1年間の合併症発生率とし、重要な副次アウトカムは1年間の虫垂切除率であった。 主な結果は以下のとおり。・887件の論文がスクリーニングされ、8件が組み入れ対象となり、そのうち6件のランダム化比較試験の2,101例が解析対象となった。抗菌薬群は1,050例、虫垂切除術群は1,051例であった。・1年間の追跡期間で合併症が認められたのは、抗菌薬群57例(5.4%)、虫垂切除術群87例(8.3%)であった(オッズ比[OR]:0.49[95%信頼区間[CI]:0.20~1.20]、リスク差:-4.5%ポイント[95%CI:-11.6~2.6])。・介入前の画像診断で虫垂結石を認めた集団では、抗菌薬群のほうが虫垂切除術群よりも合併症リスクが高かった(193例中29例[15.0%]vs.190例中12例[6.3%]、OR:2.82[95%CI:1.11~7.18]、リスク差:13.2%ポイント[95%CI:2.3~24.2])。・抗菌薬群で虫垂切除術を受けたのは356例(33.9%)であった。・抗菌薬群の虫垂結石を認めた集団で虫垂切除術を受けたのは193例中94例(48.7%)と多かった一方、抗菌薬群の虫垂結石を認めなかった集団では857例中262例(30.6%)であった。 研究グループは、「これらのデータは、共同意思決定(Shared Decision Making)における重要な要素となるだろう」とまとめた。

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sepsis(敗血症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第20回

言葉の由来「敗血症」は英語で“sepsis”といいます。日本の臨床現場でもよく用いられるため、なじみのある人も多いかもしれません。この言葉は「腐敗、物質の分解」を意味する古代ギリシャ語の“sepsis(「e」はeにサーカムフレックス)”に由来するという説が一般的です。紀元前4世紀という大昔に、すでにヒポクラテスが“sepsis”を医学的な概念として用いていたことが記録に残っているといいます。ほかの医学用語と比べても、殊に歴史の深い言葉であることがわかります。それほどまでに歴史のある病名ですが、長年統一された定義があったわけではなく、地域や医師それぞれが思い思いの定義で使っている、という状況でした。ようやく1991年にロジャー・ボーンらがSCCM-ACCP(米国集中治療医学会-米国臨床薬学会)会議にて敗血症の統一的な定義をつくることを提唱し、「Sepsis」という国際的なガイドラインが策定されました。以降も改訂が繰り返されていますが、厳密な疾患の定義や診断基準が規定されています。併せて覚えよう! 周辺単語全身性炎症反応症候群systemic inflammatory response syndrome(SIRS)多臓器不全multiple organ failure抗菌薬antibiotics感染源管理source control敗血症性ショックseptic shockこの病気、英語で説明できますか?Sepsis is a life-threatening condition caused by the body's extreme immune response to an infection. It leads to systemic inflammation, organ dysfunction, and can progress to septic shock if not treated promptly.講師紹介

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尿路感染を起こしやすいリスクファクターへの介入【とことん極める!腎盂腎炎】第12回

尿路感染を起こしやすいリスクファクターへの介入Teaching point(1)急性期治療のみではなく前立腺肥大や神経因性膀胱などによる複雑性尿路感染症の原因にアプローチできるようになる(2)排尿障害を来す薬剤を把握し内服調整できるようになる《症例1》72歳、男性。発熱を主訴に救急外来を受診し、急性腎盂腎炎の診断で入院となった。抗菌薬加療で経過良好、尿培養で感受性良好な大腸菌が同定されたため経口スイッチし退院の日取りを計画していた。チームカンファレンスで再発予防のアセスメントについて指導医から質問された。《症例2》66歳、男性。下腹部痛、尿意切迫感を主訴に救急外来を受診した。腹部超音波検査で膀胱内尿貯留著明であり、導尿で800mL程度の排尿を認めた。前立腺肥大による尿閉を考えバルーン留置で帰宅、泌尿器科受診の方針としていた。今回急に尿閉に至った原因がないのか追加で問診するように指導医から提案された。はじめに腎盂腎炎を繰り返す場合や男性の尿路感染症では背景疾患の検索、治療が再発予防に重要である。本項では前立腺肥大や神経因性膀胱についての対応、排尿障害を来す薬剤についてまとめる。まず、排尿障害と治療を理解するために、前立腺と膀胱に関与する酵素と受容体、その作用について図に示す。排尿筋は副交感神経によるコリン刺激で収縮、尿道括約筋にはα1受容体が分布しており、α1刺激で収縮する。また、β3受容体も分布しておりβ3刺激で弛緩する。β3受容体は膀胱の平滑筋細胞にも広く分布しており、β3刺激で膀胱を弛緩させる。図 前立腺と膀胱に関与する酵素と受容体画像を拡大する1.前立腺肥大男性は解剖学的に尿路感染症を起こしにくいが、60歳以上から大幅に増加し女性と頻度が変わらなくなる。これは前立腺肥大の有病率の増加が大きく影響する1)。肥大していても症状を自覚していないこともあるので注意しよう。症状は国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOLスコアを使用し聴取する2)。薬物療法として推奨グレードA2)であるα1遮断薬、5α還元酵素阻害薬とPDE5阻害薬を処方例とともに表1で解説する。生活指導(多飲・コーヒー・アルコールを含む水分を控える、膀胱訓練・促し排尿、刺激性食物の制限、排尿障害を来す薬情提供、排便コントロール、適度な運動、長時間の坐位や下半身の冷えを避ける)も症状改善に有効である2)。2.神経因性膀胱神経因性膀胱では、上流の原因検索と排尿機能廃絶のレッテルを早期に貼らないことが大事な2点であると筆者は考える。中枢神経障害(脳血管障害、脊髄疾患、神経変性疾患など)、末梢神経障害(骨盤内手術による直接的障害、帯状疱疹などの感染症や糖尿病性ニューロパチー)で分けて考える。機能からも、蓄尿機能と排尿機能のどちらに障害を来しているのか評価するが、両者を合併することも多い。薬物治療は蓄尿障害であれば抗コリン薬などが用いられ、排尿障害であればコリン作動薬やα1受容体遮断薬が用いられる(表1)。 表1 前立腺肥大症治療薬、神経因性膀胱治療薬の特徴と処方例画像を拡大する薬剤で奏功しない場合でも、尿道バルーンカテーテル留置はQOLの低下や感染リスクを伴うことから、間欠的自己導尿が対応可能か考慮しよう。臥位では腹圧をかけにくいため排尿姿勢の確認も大切である。急性期の状態を脱し、全身状態、ADLの改善とともに排泄機能も改善するため、看護師やリハビリを含めた多職種で協力して経時的に評価を行っていくことを忘れてはならない。看護記録の「自尿なし」という記載のみで排尿機能廃絶というレッテルを貼らないようにしよう。3.薬剤による排尿障害薬剤も排尿障害の原因となり、尿閉の原因の2~10%程度といわれている6,7)。抗コリン作用のある薬剤、α刺激のある薬剤、β遮断作用のある薬剤で尿閉が生じる。プロスタグランジンも排尿筋の収縮を促すため、合成を阻害するNSAIDsも原因となる8)。カルシウム拮抗薬も排尿筋弛緩により尿閉を来す。過活動性膀胱に対して使用されるβ3作動薬のミラベグロンで排尿障害となり尿路感染症の原因となる例もしばしば経験する。急性尿閉の原因がかぜ薬であったというケースは読者のみなさんも経験があるだろう。総合感冒薬には第1世代抗ヒスタミン薬やプソイドエフェドリンが含まれるものがあり、かぜに対して安易に処方された薬剤の結果で尿閉を来してしまうのである。排尿障害の原因検索という観点と自身の処方薬で排尿障害を起こさないためにも排尿障害を起こし得る薬剤(表2)9)を知っておこう。表2 排尿障害を来す薬剤リスト画像を拡大する《症例1(その後)》担当看護師に夜の様子を確認すると夜間頻尿があり排尿のために数回目覚めていた。IPSSを評価したところ16点、前立腺体積は42mLで中等症の前立腺肥大症が疑われた。退院後外来で泌尿器科を受診し前立腺肥大症と診断、タムスロシン処方開始となり夜間頻尿は改善し尿路感染症の再発も認めなかった。《症例2(その後)》追加問診で1週間前に感冒のため市販の総合感冒薬を内服していたことが判明した。抗ヒスタミン薬が含まれており抗コリン作用による薬剤性の急性尿閉と考えられた。感冒は改善しており薬剤の中止、バルーン留置し翌日の泌尿器科を受診した。前立腺肥大症が背景にあることが判明したが、内服中止後はバルーンを抜去しても自尿が得られたとのことであった。1)Sarma AV, Wei JT. N Engl J Med. 2012;367:248-257.2)日本泌尿器科学会 編. 男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン リッチヒルメディカル;2017.3)Fisher E, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD006744.4)National Institute for health and care excellence. Lower urinary tract symptoms in men:management. 2010.5)Tsukamoto T, et al. Int J Urol. 2009;16:745-750.6)Tesfaye S, et al. N Engl J Med. 2005;352:341-350.7)Choong S, Emberton M. BJU Int. 2000;85:186-201.8)Verhamme KM, et al. Drug Saf. 2008;31:373-388.9)Barrisford GW, Steele GS. Acute urinary retention. UpToDate.(最終閲覧日:2021年)

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市中肺炎、ステロイドを検討すべき患者は?

 市中肺炎(CAP)は、過剰な炎症反応が死亡と関連することから、ステロイドの併用が有効である可能性が指摘されている。そこで、複数の無作為化比較試験(RCT)やシステマティックレビュー・メタ解析が実施されているが、ステロイドの併用による死亡率への影響については議論が続いている。そのような背景から、オランダ・エラスムス大学医療センターのJim M. Smit氏らの研究グループは、CAPによる入院患者を対象としたRCTの個別患者データ(IPD)を用いたメタ解析を実施し、ステロイドの併用の30日死亡率への影響を評価した。その結果、ステロイドの併用により30日死亡率が低下し、とくにCRP高値の患者集団で有用である可能性が示された。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年1月29日号に掲載された。 CAPにより入院した患者を対象に、ステロイド併用の有用性を検討した8つのRCTを抽出した。これらのRCTのIPDを用いてメタ解析を実施した。主要評価項目は30日死亡率とし、抗菌薬にステロイドを併用した群(ステロイド群)と抗菌薬にプラセボを併用した群(プラセボ群)を比較した。CRPや肺炎重症度(PSI)スコアなどによる治療効果の異質性も検討した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は、8つのRCTの対象患者3,224例であった。・30日死亡率は、ステロイド群6.6%(106/1,618例)、プラセボ群8.7%(140/1,606例)であり、ステロイド群が有意に低かった(オッズ比[OR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.56~0.94)。・CRP 204mg/L以下の集団における30日死亡率は、ステロイド群13.0%(46/355例)、プラセボ群13.2%(49/370例)であり、両群間に差はみられなかった(OR:0.98、95%CI:0.63~1.50)。・CRP 204mg/L超の集団における30日死亡率は、ステロイド群6.1%(20/329例)、プラセボ群13.0%(39/301例)であり、ステロイド群が低かった(OR:0.43、95%CI:0.25~0.76)。・PSIスコア(クラスI~III vs.クラスIV/V)による治療効果の差はみられなかった。・ステロイド群では、高血糖の発現(OR:2.50、95%CI:1.63~3.83、p<0.0001)、再入院(OR:1.95、95%CI:1.24~3.07、p=0.0038)が多かった。 本研究結果について、著者らは「CAPによる入院患者において、CRP高値の場合はステロイドの併用を考慮すべきであることが示唆された」と考察した。

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適切な感染症管理が認知症のリスクを下げる

 認知症は本人だけでなく介護者にも深刻な苦痛をもたらす疾患であり、世界での認知症による経済的損失は推定1兆ドル(1ドル155円換算で約155兆円)を超えるという。しかし、現在のところ、認知症に対する治療は対症療法のみであり、根本療法の開発が待たれる。そんな中、英ケンブリッジ大学医学部精神科のBenjamin Underwood氏らの最新の研究で、感染症の予防や治療が認知症を予防する重要な手段となり得ることが示唆された。 Underwood氏によると、「過去の認知症患者に関する報告を解析した結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬の使用は、いずれも認知症リスクの低下と関連していることが判明した」という。この研究結果は、同氏を筆頭著者として、「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に1月21日掲載された。 認知症の治療薬開発には各製薬企業が注力しているものの、根本的な治療につながる薬剤は誕生していない。このような背景から、認知症以外の疾患に使用されている既存の薬剤を、認知症治療薬に転用する研究が注目を集めている。この方法の場合、薬剤投与時の安全性がすでに確認されているので、臨床試験のプロセスが大幅に短縮される可能性がある。 Underwood氏らは、1億3000万人以上の個人、100万症例以上の症例を含む14の研究を対象としたシステマティックレビューを行い、他の疾患で使用される薬剤の認知症治療薬への転用可能性について検討を行った。 文献検索には、MEDLINE、Embase、PsycINFOのデータベースを用いた。包括条件は、成人における処方薬の使用と標準化された基準に基づいて診断された全原因認知症、およびそのサブタイプの発症との関連を検討した文献とした。また、認知症の発症に関連する薬剤(降圧薬、抗精神病薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬など)と認知症リスクとの関連を調べている文献は除外した。 検索の結果、4,194件の文献がヒットし、2人の査読者の独立したスクリーニングにより、最終的に14件の文献が抽出された。対象の文献で薬剤と認知症リスクとの関連を調べた結果、ワクチン、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗炎症薬が認知症リスクの低減に関連していることが明らかになった。一方、糖尿病治療薬、ビタミン剤・サプリメント、抗精神病薬は認知症リスクの増加と関連していた。また、降圧薬と抗うつ薬については、結果に一貫性がなく、発症リスクとの関連について明確に結論付けられなかった。 Underwood氏は、「認知症の原因として、ウイルスや細菌による感染症が原因であるという仮説が提唱されており、それは今回得られたデータからも裏付けられている。これらの膨大なデータセットを統合することで、どの薬剤を最初に試すべきかを判断するための重要な証拠が得られる。これにより、認知症の新しい治療法を見つけ出し、患者への提供プロセスを加速できることを期待する」と述べた。 また、ケンブリッジ大学と共同で研究を主導した英エクセター大学のIlianna Lourida氏は、ケンブリッジ大学のプレスリリースの中で、「特定の薬剤が認知症リスクの変化と関連しているからといって、それが必ずしも認知症を引き起こす、あるいは実際に認知症に効くということを意味するわけではない。全ての薬にはベネフィットとリスクがあることを念頭に置くことが重要である」と付け加えている。

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Austrian症候群【1分間で学べる感染症】第20回

画像を拡大するTake home messageAustrian症候群は、肺炎球菌による肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つがそろった症候群。とくに脾臓摘出後の患者を中心に液性免疫低下患者では、脾臓摘出後重症感染症(overwhelming postsplenectomy infection:OPSI)と呼ばれる致死率の高い重症感染症を引き起こすことがある。皆さんは、Austrian症候群という言葉を聞いたことがありますか。Austrian症候群は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を原因菌とする肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つが、同時または短期間に発生することを特徴とする疾患です。疾患名を覚えることは必須ではありませんが、肺炎球菌による感染症はこれまで取り上げた感染症の中でも頻度が高い感染症であり、肺炎球菌は世界的にも重要な菌の1つです。今回は、Austrian症候群を入口として、肺炎球菌感染症について学んでいきます。背景Austrian症候群はRichard Heschlがドイツで最初に提唱したとの記述がありますが、正式には1881年にWilliam Oslerによって「Osler's triad(オスラーの3徴)」として報告されました。そして、1957年にRobert Austrianが詳細な臨床報告を発表したことから、その名を取ってAustrian症候群という疾患名で広く認知されています。リスク因子肺炎球菌は、市中肺炎や細菌性髄膜炎、さらに菌血症の原因菌として最も頻度が高い病原体の1つです。リスク因子を持つ患者では、通常よりも侵襲性感染症に進行する可能性が高くなります。具体的には、アルコール多飲、高齢、脾摘後や脾機能低下、免疫抑制(HIV感染者や化学療法中の患者など)が主なリスク因子として挙げられます。臨床症状近年では、Austrian症候群の「オスラーの3徴」がすべてそろうことはまれですが、3つの中で最も頻度の高い肺炎球菌による肺炎患者において、頭痛、発熱、意識障害、項部硬直など髄膜炎を疑う症状を合併する、心雑音、塞栓症状、持続的菌血症などを伴い感染性心内膜炎を疑う所見を合併する、といった場合には、血液培養のみならず髄液検査、心エコー検査(とくに経食道エコー)など、それぞれの診断のための精査を進めることが求められます。治療法、予防Austrian症候群は致死率が高いため、迅速な治療が求められます。臨床的に髄膜炎を疑った段階では、抗菌薬の髄液移行性とペニシリン耐性肺炎球菌の可能性を考慮し、セフトリアキソンとバンコマイシンの併用療法をただちに開始します。とくに脾摘後患者を中心に液性免疫低下患者では、致死率が高い脾臓摘出後重症感染症を引き起こすことがあります。こうしたリスクのある患者に対しては、肺炎球菌感染症の予防のために、積極的な肺炎球菌ワクチン接種やペニシリンの予防内服が推奨されます。1)AUSTRIAN R. AMA Arch Intern Med. 1957;99:539-544.2)Rakocevic R, et al. Cureus. 2019;11:e4486.3)Rubin LG, et al. N Engl J Med. 2014;371:349-356.

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“添付文書に従わない経過観察”の責任は?【医療訴訟の争点】第8回

症例薬剤の添付文書には、使用上の注意や重大な副作用に関する記載があり、副作用にたりうる特定の症状が疑われた場合の処置についての記載がされている。今回は、添付文書に記載の症状が「疑われた」といえるか、添付文書に記載の対応がなされなかった場合の責任等が争われた京都地裁令和3年2月17日判決を紹介する。<登場人物>患者29歳・女性妊娠中、発作性夜間ヘモグロビン尿症(発作性夜間血色素尿症:PNH)の治療のためにエクリズマブ(商品名:ソリリス)投与中。原告患者の夫と子被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成28年(2016年)1月妊娠時にPNHが増悪する可能性を指摘されていたため、被告病院での周産期管理を希望し、被告病院産科を受診。4月4日被告病院血液内科にて、PNHの治療(溶血抑制等)のため、エクリズマブの投与開始(8月22日まで、薬剤による副作用はみられず)7月31日出産のため、被告病院に入院(~8月6日)8月22日午前被告病院血液内科でエクリズマブの投与を受け、帰宅昼過ぎ悪寒、頭痛が発生16時55分本件患者は、被告病院産科に電話し、午前中にエクリズマブの投与を受け、その後、急激な悪寒があり、39.5℃の高熱があること、風邪の症状はないこと等を伝えた。電話対応した助産師は、感冒症状もなく、乳房由来の熱発が考えられるとし、本件患者に対し、乳腺炎と考えられるので、今晩しっかりと授乳をし、明日の朝になっても解熱せず乳房トラブルが出現しているようであれば、電話連絡をするよう指示した。21時18分本件患者の母は、被告病院産科に電話し、熱が40℃から少し下がったものの、悪寒があり、発汗が著明で、起き上がれないため水分摂取ができず脱水であること、手のしびれがあること、体がつらいため授乳ができないこと等を伝えた。21時55分被告病院産科の救急外来を受診し、A医師が診察。診察時、血圧は95/62 mmHgであり、SpO2は98%、脈拍は115回/分、体温は36.3℃(17時に解熱鎮痛剤服用)、項部硬直及びjolt accentuation(頭を左右に振った際の頭痛増悪)はいずれも陰性であった。22時45分乳腺炎は否定的であること、エクリズマブの副作用の可能性があること等から、被告病院血液内科に引き継がれ、B医師が診察した。診察時、本件患者の意識状態に問題はなく、意思疎通可能、移動には介助が必要であるものの短い距離であれば介助なしで歩行可能であった。血液検査(22時15分採血分)上、白血球、好中球、血小板はいずれも基準値内であった。23時30分頃経過観察のため入院となった。8月23日4時25分本件患者の全身に紫斑が出現、血圧67/46mmHg、血小板数3,000/μLとなり、敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態に陥った。抗菌薬(タゾバクタム・ピペラシリン[商品名:ゾシンほか])が開始された。10時43分敗血症性ショックとDICからの多臓器不全により、死亡。8月24日本件患者の細菌培養検査の結果が判明し、血液培養から髄膜炎菌が同定された。8月29日薬剤感受性検査の結果、ペニシリン系薬剤に感受性あることが判明した。実際の裁判結果本件では、(1)エクリズマブの副作用につき血液内科の医師が産科の医師に周知すべき義務違反、(2)8月22日夕方に電話対応した助産師の受診指示義務違反、(3)8月22日夜の救急外来受診時の投薬義務違反等が争われた。本稿では、このうちの(3)救急外来受診時の投薬義務違反について取り上げる。本件で問題となったエクリズマブの添付文書には、以下のように記載されている。※注:以下の内容は本件事故当時のものであり、2024年9月に第7版へ改訂されている。「重大な副作用」「髄膜炎菌感染症を誘発することがあるので、投与に際しては同感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、羞明、精神状態の変化、痙攣、悪心・嘔吐、紫斑、点状出血等)の観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う(海外において、死亡に至った重篤な髄膜炎菌感染症が認められている。)。」「使用上の注意」「投与により髄膜炎菌感染症を発症することがあり、海外では死亡例も認められているため、投与に際しては、髄膜炎菌感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直等)に注意して観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌剤の投与等の適切な処置を行う。髄膜炎菌感染症は、致命的な経過をたどることがある」この「疑われた場合」の解釈につき、患者側は、「疑われた場合」は「否定できない場合」とほぼ同義であり、症状からみて髄膜炎菌感染症の可能性がある場合には「疑われた場合」に当たる旨主張した。対して、被告病院側は、「疑われた場合」に当たると言えるためには、「否定できない場合」との対比において、「積極的に疑われた場合」あるいは「強く疑われた場合」であることが必要である旨を主張した。このため、添付文書に記載の「疑われた場合」がどのような場合を指すのかが問題となった。裁判所は、添付文書の上記記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなるという副作用を有し、髄膜炎菌感染症には急速に悪化し致死的な経過をたどる重篤な例が発生しているため、死亡の結果を回避するためのものであることを指摘し、以下の判断を示した(=患者側の主張を積極的に採用するものではないが、被告病院側の主張を排斥した)。積極的に疑われた場合または強く疑われる場合に限定して理解することは、その趣旨に整合するものではない少なくとも、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めて理解する必要がある添付文書の警告の趣旨・理由を強調すると、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるにすぎない場合)を含めて理解する余地があるその上で、裁判所は、以下の点を指摘し、本件は添付文書にいう「疑われた場合」にあたるとした。『入院診療計画書』には、「細菌感染や髄膜炎が強く疑われる状況となれば、速やかに抗生剤を投与する」ために入院措置をとった旨が記載されており、担当医は、髄膜炎菌感染症を含む細菌感染の可能性について積極的に疑っていなくとも、相応の疑いないし懸念をもっていたと解されること(CRPや白血球の数値が低い点はウイルス感染の可能性と整合する部分があるものの)ウイルス感染であれば上気道や気管の炎症を伴うことが多いのに、本件でその症状がなかった点は、これを否定する方向に働く事情であり、ウイルス感染の可能性が高いと判断できる状況ではなかったといえること(CRPや白血球の数値が低いことは細菌感染の可能性を否定する方向に働き得る事情ではあるものの)細菌感染の場合、CRPは発症から6~8時間後に反応が現れるといわれており、それまではその値が低いからといって細菌感染の可能性がないとは判断できず、疑いを否定する根拠になるものではないこと。同様に、白血球の数値も重度感染症の場合には減少することもあるとされており、同じく細菌感染の疑いを否定する根拠になるものではないことそして、裁判所は「細菌感染の可能性を疑いながら速やかに抗菌薬を投与せず、また、(省略)…細菌感染の可能性について疑いを抱かなかったために速やかに抗菌薬を投与しなかったといえるから、いずれにしても速やかに抗菌薬を投与すべき注意義務に違反する過失があったというべき」として、被告病院担当医の過失を認めた。この点、被告病院は「すぐに抗菌薬を投与するか経過観察をするかは、いずれもあり得る選択であり、いずれかが正しいというものではない」として医師の裁量である旨を主張したが、裁判所は、以下のとおり判示し、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠とならないとした。「あえて添付文書と異なる経過観察という選択が裁量として許容されるというためには、それを基礎づける合理的根拠がなければならないところ、細菌感染症でない場合に抗菌薬を投与するリスクとして、抗菌薬投与が無駄な治療になるおそれ、アレルギー反応のリスク、肝臓及び腎臓の障害を生じるリスク、炎症の原因判断が困難になるリスクが考えられるが、これらのリスクは、髄膜炎菌感染症を発症していた場合に抗菌薬を投与しなければ致死的な経過をたどるリスクと比較すると、はるかに小さいといえるから、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠となるものではない」注意ポイント解説本件では、添付文書において「髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う」となっているところ、抗菌薬の投与等がなされないまま経過観察となっていた。そのため、「疑われた場合」にあたるのか、あたるとして経過観察としたことが医師の裁量として許容されるのかが問題となった。添付文書の記載の解釈について判断が示された比較的新しい裁判例である上、添付文書でもよく目にする「疑われた場合」に関する解釈を示した裁判例として注目される。「疑われた場合」の判断において本判決は、その記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなる副作用を有し、髄膜炎菌感染症は急速に悪化し致死的な経過をたどる例があり、そのような結果を避けるためであることを理由とする。そのため、本判決の判断が、他の薬剤の添付文書の解釈でも同様に妥当するとは限らない。とくに、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるに過ぎない場合)を含めて理解する余地があるかについては、生じうる事態の軽重によりケースバイケースで判断されることとなると考えられる。しかしながら、一定の悪しき事態が生じうることを念頭に添付文書の記載がなされていることからすると、添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高いと認識しておくことが無難である。また、本判決は、添付文書と異なる対応をすることが医師の裁量として許容されるかについて、生じうるリスクの重大性を比較しており、生じ得るリスクの重大性の比較が考慮要素の一つとして斟酌されることが示されており参考になる。もっとも、添付文書の記載に従ったほうが重大な結果が生じるリスクが高い、という事態はそれほど多くはないと思われるうえ、そのような重大な事態が生じるリスクが高いことを立証することは容易ではないと考えられる。このため、前回(第7回:造影剤アナフィラキシーの責任は?)にコメントしたように、添付文書の記載と異なる使用による責任が回避できるとすれば、それは必要性とリスク等を患者にきちんと説明して同意を得ている場合がほとんどと考えられる(ただし、医師の行ったリスク説明が誤っている場合には、患者の同意があったとして免責されない可能性がある)。なお、本件薬剤の投与にあたり、患者に「患者安全性カード」(感染症に対する抵抗力が弱くなっている可能性があり、感染症が疑われる場合は緊急に診療し必要に応じて抗菌剤治療を行う必要がある旨が記載されたもの)が交付されており、診療にあたりすべての医師に示すように伝えられていたものの、このカードが示されなかったという事情がある。しかし、裁判所は、患者からは本件薬剤の投与を受けている旨の申告がされており、このカードの記載内容は添付文書にも記載されているとして、患者からカードの提示がなかったことが医師の判断を誤らせたという関係にはないとしている。医療者の視点本判決の焦点は、添付文書の記載の解釈でした。しかし、一臨床医としてより重要と考えた点は、「普段使用することが少ない薬剤であっても、しっかりと添付文書を確認し、副作用や留意点に目を通しておく必要がある」ということです。本件においても、関係した医療者がエクリズマブという比較的新しい薬剤の副作用を熟知していれば、あるいは処方した医師や薬剤師から情報共有がなされていれば、このような事態は回避できたかもしれません。エクリズマブの適応疾患は非常に限られており、使用経験のある医師は少ないと考えられます。たとえそのような稀にしか使用されることがない薬剤であっても、その副作用を熟知しておかなければならない、という教訓を示した案件と考えました。昨今は目まぐるしい速度で新薬が発表されています。常に知識・情報をアップデートしていないと、本件のようなトラブルを引き起こしかねません。多忙な勤務の中、各科の学会誌やガイドラインを熟読することは困難です。医療系のウェブサイトやSNSなどを有効的に活用し、効率よく情報を刷新していくことも重要と考えます。Take home message普段使用することが少ない薬剤であっても、その副作用や留意点を熟知しておく必要がある。添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高い。副作用と疑われる症状が発症した場合、副作用であることを念頭に添付文書の推奨に従って対応することが望ましく、もし添付文書と異なる対応をする場合、患者や家族に十分な説明を行う必要がある。キーワード添付文書(能書)の記載事項と過失との関係最高裁平成8年1月23日判決が、以下のように判断しており、これが裁判上の確立した判断枠組みとなっているため、添付文書の記載と異なる対応の正当化には医学的な裏付けの立証が必要であり、それができない場合には過失があるものとされる。「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」

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小児の急性単純性虫垂炎、抗菌薬は切除に非劣性示せず/Lancet

 小児の急性単純性虫垂炎に対する治療について、抗菌薬投与の虫垂切除術に対する非劣性は示されなかった。米国・Children's MercyのShawn D. St. Peter氏らが、カナダ、米国、フィンランド、スウェーデンおよびシンガポールの小児病院11施設で実施した無作為化非盲検並行群間比較試験の結果を報告した。合併症のない虫垂炎に対して、手術治療よりも非手術的治療を支持する文献が増加していることから、研究グループは抗菌薬投与の虫垂切除術に対する非劣性を検討する試験を行った。Lancet誌2025年1月18日号掲載の報告。抗菌薬群vs.虫垂切除術群、1年以内の治療失敗率を比較 研究グループは、X線検査の有無にかかわらず単純性虫垂炎と臨床診断された5~16歳の小児を、抗菌薬群と虫垂切除術群に、性別、試験施設、症状持続時間(48時間以上vs.48時間未満)で層別化し、1対1の割合で無作為に割り付けた。 抗菌薬群では、観察のため入院した患児に、各施設の虫垂炎に対する標準治療に基づき選択した抗菌薬を最低12時間点滴静注にて投与し、通常食を摂食でき疼痛コントロールが良好でバイタルサインが正常範囲内であれば退院可とした。入院翌日に改善がみられない場合は、抗菌薬をさらに1日投与するか虫垂切除術を予定した。退院後は経口のアモキシシリン・クラブラン酸またはシプロフロキサシンおよびメトロニダゾールを10日分処方し、患児がこれらを7日間以上服用した場合に試験完了とした。家族には、1年以内に虫垂炎が再発した場合、虫垂切除術を行うことが事前に説明された。 虫垂切除術群では、輸液と抗菌薬の点滴を開始した後、腹腔鏡下虫垂切除術を行った。穿孔が認められなければ術後の抗菌薬投与は行わず、当日を含み可能な時点で退院とした。 主要アウトカムは、無作為化後1年以内の治療失敗。抗菌薬群では1年以内の虫垂切除、虫垂切除術群では陰性虫垂切除または1年以内の全身麻酔を要する虫垂炎関連合併症と定義した。 非劣性マージンは、治療失敗率の両群間差の90%信頼区間(CI)の上限が20%とした。治療失敗率、抗菌薬群34% vs.虫垂切除術群7% 2016年1月20日~2021年12月3日に9,988例がスクリーニングを受け、978例が登録された。このうち936例が抗菌薬群(477例)または虫垂切除術群(459例)に無作為に割り付けられた。 12ヵ月時点で、主要アウトカムのデータが得られたのは846例(90%)であった。このうち、治療失敗率は抗菌薬群34%(153/452例)、虫垂切除術群7%(28/394例)、群間差は26.7%(90%CI:22.4~30.9)であり、90%CIの上限が20%を超えており、抗菌薬群の非劣性は検証されなかった。 虫垂切除術群の治療失敗例は、1例を除きすべて陰性虫垂切除の患児であった。抗菌薬群で虫垂切除術を受けた患児のうち、13例(8%)は病理所見が正常であった。 いずれの群でも死亡や重篤な有害事象は認められず、抗菌薬群の虫垂切除術群に対する、治療に関連した有害事象発現の相対リスクは4.3(95%CI:2.1~8.7、p<0.0001)であった。

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敗血症、thymosinα1は死亡率を改善するか/BMJ

 敗血症の成人患者の治療において、プラセボと比較して免疫調整薬thymosinα1は、28日以内の全死因死亡率を低下させず、90日全死因死亡率や集中治療室(ICU)内死亡率も改善しないが、60歳以上や糖尿病を有する患者では有益な効果をもたらす可能性があり、重篤な有害事象の発生率には両群間に差を認めないことが、中国・中山大学のJianfeng Wu氏らTESTS study collaborator groupが実施した「TESTS試験」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2025年1月15日号で報告された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 TESTS試験は、thymosinα1は敗血症患者の死亡率を低減するかの検証を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2016年9月~2020年12月に中国の22施設で患者を登録した(Sun Yat-Sen University Clinical Research 5010 Programなどの助成を受けた)。 年齢18~85歳、Sepsis-3基準で敗血症と診断された患者1,106例を対象とし、thymosinα1の投与を受ける群に552例、プラセボ群に554例を無作為に割り付け、それぞれ12時間ごとに7日間皮下注射した。 主要アウトカムは、無作為化から28日の時点における全死因死亡とし、修正ITT集団(試験薬を少なくとも1回投与された患者)について解析した。副次アウトカムもすべて有意差はない 試験薬の投与を受けなかった17例を除く1,089例(年齢中央値65歳[四分位範囲[IQR]:52~73]、男性750例[68.9%])を修正ITT集団とした(thymosinα1群542例、プラセボ群547例)。スクリーニングの時点で1,046例(96.1%)が抗菌薬の投与を受けており、APACHE-IIスコア中央値は14点(IQR:10~19)、SOFAスコア中央値は7点(5~10)だった。 28日全死因死亡は、thymosinα1群で127例(23.4%)、プラセボ群で132例(24.1%)に認め、両群間に有意な差はなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.77~1.27、p=0.93[log-rank検定])。また、90日全死因死亡率(thymosinα1群31.0% vs.プラセボ群32.4%、HR:0.94、95%CI:0.76~1.16、p=0.54)にも差はみられなかった。 ICU内死亡率(thymosinα1群8.5% vs.プラセボ群9.9%、p=0.40)、SOFAスコア変化率中央値(38% vs.40%、p=0.56)、28日間における新規感染症発症率(25.3% vs.26.1%、p=0.74)・機械換気を受けない日数中央値(19日vs.21日、p=0.15)・昇圧薬治療を受けない日数中央値(23日vs.23日、p=0.84)・持続的腎代替療法を受けない日数中央値(17日vs.19日、p=0.88)などの副次アウトカムもすべて両群間に有意差を認めなかった。予想外の重篤な有害事象はない 事前に規定されたサブグループ解析では、主要アウトカムの発生率が年齢60歳未満ではthymosinα1群で高かった(HR:1.67、95%CI:1.04~2.67)が、60歳以上ではthymosinα1群で低く(0.81、0.61~1.09)、有意な交互作用を認めた(交互作用のp=0.01)。 また、糖尿病を有する集団ではthymosinα1群で主要アウトカムの発生率が低かった(HR:0.58、95%CI:0.35~0.99)が、糖尿病がない集団ではthymosinα1群で高く(1.16、0.87~1.53)、交互作用は有意であった(交互作用のp=0.04)。さらに、冠動脈性心疾患(p=0.06)および高血圧(p=0.06)を有する集団でも、thymosinα1群で主要アウトカムの発生率が低い傾向がみられた。 90日の追跡期間中に、少なくとも1つの有害事象が、thymosinα1群で360例(66.4%)、プラセボ群で370例(67.6%)に認め(p=0.70)、少なくとも1つの重篤な有害事象は、それぞれ145例(26.8%)および160例(29.3%)に発現した(p=0.38)。全体で最も頻度の高い有害事象は貧血(10.7%)で、次いで発熱(9.6%)、腹部膨満(5.4%)、凝固障害(4.8%)の順であった。試験期間中に、thymosinα1に起因する予想外の重篤な有害事象はみられなかった。 著者は、「thymosinα1が成人敗血症患者の死亡率を減少させるという明確なエビデンスは得られなかったが、本薬の良好な安全性プロファイルが確認された」「thymosinα1は60歳以上の患者や糖尿病などの慢性疾患を有する患者にも有益な効果をもたらす可能性があり、今後、これらの患者に焦点を当てた研究が進むと考えられる」としている。

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敗血症へのβ-ラクタム系薬+VCM、投与順序で予後に差はあるか?

 敗血症が疑われる患者への治療において、β-ラクタム系薬とバンコマイシン(VCM)の併用療法が広く用いられている。しかし、β-ラクタム系薬とVCMの投与順序による予後への影響は明らかになっていない。そこで、近藤 豊氏(順天堂大学大学院医学研究科 救急災害医学 教授)らの研究グループは、β-ラクタム系薬とVCMの併用による治療が行われた敗血症患者を対象として、投与順序の予後への影響を検討した。その結果、β-ラクタム系薬を先に投与した集団で、院内死亡率が低下することが示唆された。本研究結果は、Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2024年12月5日号に掲載された。 研究グループは、米国の5施設において後ろ向きコホート研究を実施した。対象は、救急外来到着後24時間以内に、β-ラクタム系薬とVCMの併用による治療が行われた18歳以上の敗血症患者2万5,391例とした。対象患者を抗菌薬の投与順に基づき、β-ラクタム系薬先行群(2万1,449例)、VCM先行群(3,942例)に分類した。主要評価項目は院内死亡率とし、傾向スコアによる逆確立重み付け法(Inverse Probability Weighting:IPW)を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・β-ラクタム系薬先行群は菌血症(β-ラクタム系薬先行群51.7%、VCM先行群46.4%)、尿路感染症(それぞれ10.3%、7.5%)、腹腔内感染症(それぞれ9.2%、7.7%)が多かった。・VCM先行群は皮膚および筋骨格系感染症(β-ラクタム系薬先行群7.8%、VCM先行群20.0%)、その他の感染症(それぞれ7.3%、10.5%)が多かった。・主要評価項目の院内死亡率は、β-ラクタム系薬先行群13.4%、VCM先行群13.6%であり、未調整の解析では両群間に有意差はみられなかった。しかし、IPW解析ではβ-ラクタム系薬先行群がVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが有意に低下した(調整オッズ比[aOR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.80~0.99、p=0.046)。・サブグループ解析において、敗血性ショックのない集団ではβ-ラクタム系薬先行群がVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが低下した(aOR:0.80、95%CI:0.64~0.99)。その他の集団でも一貫してβ-ラクタム系薬先行群で院内死亡のオッズが低下する傾向にあったが、有意差はみられなかった。・主にVCMを用いて治療されるMRSAが陽性であった集団でも、β-ラクタム系薬先行群はVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが上昇しなかった(aOR:0.91、95%CI:0.55~1.51)。・傾向スコアマッチングを行った場合、院内死亡率について両群間に有意差はみられなかった(aOR:0.94、95%CI:0.82~1.07)。 本研究結果について、著者らは「敗血症治療においてβ-ラクタム系薬とVCMを併用する場合は、β-ラクタム系薬を優先して投与することを支持する結果であった。しかし、本研究は観察研究であり、交絡が残存する可能性を考慮すると、無作為化比較試験による評価が理想的であると考えられる」とまとめた。

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若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?【とことん極める!腎盂腎炎】第11回

若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?Teaching pointリスク因子を評価し適切な再発予防指導(飲水励行や排泄後の清拭など)までできるようになるはじめに女性は解剖学的に尿路感染症を起こしやすく、約3人に1人は24歳までに尿路感染症を少なくとも1回は経験する1)。尿路感染の既往をもつ女性のうち30〜44%が再発し、0.3〜7.6回/年生じるという報告もあり、生活の質(QOL)にかかわる重要な問題である2)。再発防止は本人のQOL維持、繰り返す抗菌薬曝露による耐性菌発生の予防の観点からも重要である。若い女性への尿路感染症の再発予防の生活指導方法について紹介する。1.若い女性の再発性尿路感染症のリスク因子閉経前の女性のリスク因子として、(1)性的活動の活発であること、(2)殺精子剤の使用、(3)新たな(1年以内の)性的パートナー、(4)尿路感染症の既往のある母親、(5)小児尿路感染症の既往がある。しかし、遺伝的な素因よりも性交や殺精子剤のリスクのほうが大きいとされ、行動への介入は予防可能なリスクとなる3)。2.再発予防への日常生活への指導防御機構とリスク因子を踏まえ予防的な介入を考えていく。本項では介入として日常生活への指導をまとめる(薬剤、サプリメントによる予防は第13回で紹介する)。日常生活への指導の有効性を裏づけるエビデンスは限られるが、介入によるリスクの低さから薬物などによる介入前に実践することが推奨されている。飲水量の増加は単施設であるがRCTで有効性が示されている4)。水分摂取量が少ない(1.5L/日未満)、再発性膀胱炎(3回以上繰り返す)を来たした成人女性において通常量の飲水に加えて、1.5L/日の追加飲水の介入を行ったところ非介入群と比較して、膀胱炎の発症が1年あたり1.5回減少した(1.7回[95%信頼区間[CI]:1.5~1.8]vs. 3.2回[95%CI:3.0~3.4])。筆者はさらに飲水行動について詳しく問診するようにしている。飲水量が少なかった場合、「なぜ飲水量が少ないか」を聞くとさらに背景に迫れることがある。気軽に排泄に行きづらい職場環境(例:コンビニ店員でトイレに行くタイミングがないなど)が背景にあり飲水を控えているというケースも経験する。その場合は、職場環境改善への働きかけなどに協力してあげることも大切となる。また、性交や殺精子剤は尿路感染症のリスク因子であり、性交を減らすことや殺精子剤を含む避妊具を避けることを、本人やパートナーとカウンセリングを行うこともリスクを減らすと期待される。その他、明確な関連は示されていない個別での相談や効果を評価する指導内容も含め表にまとめた4,5)。小児期から繰り返している場合や腎結石、尿路閉塞、間質性膀胱炎、尿路上皮がんが疑われるような場合は泌尿器科受診を勧めることも忘れてはならない。表 若年女性の単純性尿路感染症の再発を予防するための日常生活への指導画像を拡大する再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことはプライマリ・ケア医の重要な役割である。1)Foxman B. Dis Mon. 2003;49:53-70.2)Gupta K, Trautner BW. BMJ 2013;346:f3140.3)Hooton TM, et al. N Engl J Med 1996;335:468-474.4)Hooton TM, et al. JAMA Intern Med 2018;178:1509-1515.5)Hooton TM. N Engl J Med 2012;366:1028-1037.

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高齢患者の抗菌薬使用は認知機能に影響するか

 高齢患者の抗菌薬の使用は認知機能の低下とは関連しないことが、新たな研究で明らかにされた。論文の上席著者である米ハーバード大学医学大学院のAndrew Chan氏は、「高齢患者は抗菌薬を処方されることが多く、また、認知機能低下のリスクも高いことを考えると、これらの薬の使用について安心感を与える研究結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「Neurology」に12月18日掲載された。 研究グループは、人間の腸内には何兆個もの微生物が存在し、その中には認知機能を高めるものもあれば低下させるものもあると説明する。また、過去の研究では、抗菌薬を使用すると、腸内細菌叢のバランスが崩れる可能性のあることが示されているという。Chan氏は、「腸内細菌叢は、全体的な健康の維持だけでなく、おそらくは認知機能の維持にも重要とされている。そのため、抗菌薬が脳に長期的な悪影響を及ぼす可能性が懸念されている」と話す。 今回の研究でChan氏らは、低用量アスピリンの毎日の使用が健康に与える影響を検証する臨床試験のデータを用いて、抗菌薬の使用と認知機能との関連を検討した。対象は、最初の2年間の追跡期間中に認知症を発症しなかった70歳以上の健康なオーストラリア人高齢者1万3,571人(平均年齢75.0歳、女性54.3%)。Anatomical Therapeutic Chemical(ATC)コードを基に、対象者の追跡期間中における抗菌薬の使用を特定したところ、約63%が2年間に少なくとも1回は抗菌薬を使用していた。 2年間の追跡調査終了後、対象者は中央値で4.7年間追跡された。その間に、461人が認知症を発症し、2,576人が認知機能障害はあるが認知症ではない状態を指すCIND(cognitive impairment, no dementia)と診断されていた。社会人口統計学的特徴やライフスタイル因子、認知症の家族歴、試験開始時の認知機能、認知機能に影響を与えることが知られている薬剤の使用を考慮して解析した結果、抗菌薬使用者では非使用者に比べて、認知症リスク(ハザード比1.03、95%信頼区間0.84〜1.25)やCINDリスク(同1.02、0.94〜1.11)の有意な上昇や認知機能スコアの有意な低下は認められなかった。また、抗菌薬の累積使用頻度、長期使用、特定の抗菌薬クラス(β-ラクタム系、テトラサイクリン系、サルファ剤など)や、リスク因子に基づき分類されたサブグループにおいても、抗菌薬の使用と認知機能との間に有意な関連は認められなかった。 このような結果が示されたとはいえ、Chan氏および付随論評の著者である米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のWenjie Cai氏とAlden Gross氏は、「さらなる研究で、抗菌薬の使用と認知機能低下との間に関連性はないことを確かめる必要がある」と述べている。Chan氏は、今回の研究の限界点として、対象者の追跡期間が短期間であった点を挙げ、より長期間の研究を実施して、抗菌薬の使用が長期的に脳の健康に悪影響を及ぼさないことを確認する必要があるとしている。 また、Cai氏らは、「この研究は処方箋の記録に依存しているため、対象者の実際の抗菌薬の使用状況を正確に追跡することはできなかった」ことを別の限界点として挙げている。その上で同氏らは、今後の研究では、抗菌薬の正確な投与量と使用期間を記録し、潜在的な用量反応関係を調査すること、また、異なるクラスの抗菌薬とその相互作用が認知機能に与える影響を調査することの必要性を強調している。

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敗血症が疑われる入院患者に対するバイオマーカーガイド下の抗菌薬投与期間(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、敗血症が疑われる重篤な入院成人患者に対して連日血液検査を行い、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]またはC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールに基づいた抗菌薬中止に関する助言を臨床医が受けた際の、標準治療と比較した有効性(総抗菌薬投与期間)と安全性(全死因死亡率)を評価している。 本論文の筆者は、ジャーナル四天王「敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA」にもあるように、有効性(無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間)はDaily PCTガイド下プロトコール群(以下PCT群)で認め(期間短縮)、Daily CRPガイド下プロトコール群(以下CRP群)では有意差なし。安全性(無作為化から28日までの全死因死亡)はPCT群で非劣性だが、CRP群では非劣性の確証は得られなかった、と結論付けている。 本研究を評価するに当たって、まず、ガイド下とは具体的にどのような手順だったのかを確認する。 本文のInterventionによると、試験患者らは、無作為化後、敗血症に対する抗菌薬の中止あるいは退院まで毎日血液を採取された。そして、患者の治療医師らは、以下のような抗菌薬中止に関する書面助言を毎日受け取っていた(Supplement3のeTable1参照)。(1)PCT群:PCT<0.25μg/Lの場合は、強く抗菌薬中止を支持する(STRONGLY SUPPORTS)。PCTがベースラインから80%以上低下、あるいは0.25μg/L≦PCT≦0.50μg/Lの場合は、抗菌薬中止を支持する(SUPPORTS)。それ以外の場合は、標準療法を支持する。(2)CRP群:CRP<25mg/Lの場合は、強く抗菌薬中止を支持する(STRONGLY SUPPORTS)。CRPがベースラインから50%以上低下した場合は、抗菌薬中止を支持する(SUPPORTS)。それ以外の場合は、標準療法を支持する。(3)標準治療群:常に標準療法を支持する。 次に、上記のプロトコールにより、書面助言で抗菌薬中止の推奨や強い推奨をされた頻度を確認する。 無作為化から抗菌薬を最初に中止あるいは強く中止の書面助言を受け取るまでの期間は、eTable29によると、PCT群が中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.7日、SDは1.9日、件数は502件だった。強く中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.5日、SDは3.8日、件数は248件だった。CRP群では中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.7日、SDは2.3日、件数は519件だった。強く中止の推奨を受け取るまでの時間は平均5.1日、SDは4.0日、件数は139件だった。 敗血症期間の抗菌薬総投与期間は、PCT群では平均7.0日、SDは5.7日で、CRP群では平均7.4日、SDは6.0日だった。 それぞれの治療群で受け取った書面助言の割合は、Supplement3のeFigure6とeTable30に示され、以下のような結果である。PCT群は、1日目の書面助言で約10%程度が強く中止の助言を受けており、その後も10%以上程度は強く中止の助言を受けていそうなグラフだが、CRP群は強く中止の助言は多くはなされず、中止の助言の割合が高かった。このグラフは、上記のPCT群とCRP群の中止や強く中止の推奨の件数と一致する情報と考えられた。 以上のことを参考に、本研究で得られたアウトカムについて考えてみる。今回のアウトカムは抗菌薬総投与期間だが、バイオマーカー結果は臨床医に抗菌薬中止に関する書面助言を与えたのみで、最終的に抗菌薬の投与中止を判断したのは臨床医だった。臨床医は、抗菌薬中止の書面助言が、PCTに基づく推奨かCRPに基づく推奨かはわからなかったため、書面助言結果を科学的な判断材料には用いづらかったのではないかと思う。 本研究での、PCTやCRPに基づく抗菌薬の中止助言の役割は、科学的な知見を臨床医に与えることで抗菌薬を中止したというよりも、単に臨床医に抗菌薬終了のプレッシャーをかけたのではないだろうか。そして、PCTはCRPよりも強く中止を推奨する助言の割合が高かったので、抗菌薬投与期間が短縮されたのではないかと予測する。 本研究結果からわかったこととして、「この研究に参加した医療機関では、PCTガイドにより全死因死亡率を上げることなく、0.88日の抗菌薬投与期間短縮を示した」は事実ではあるが、臨床医の判断基準は所属施設や国により異なる可能性があり、他の医療機関や本邦でも当てはめることができるかは疑問である。また、本研究では連日の採血と生化学検査を必要とするが、本研究で示されたメリットが、連日の血液検査およびPCT/CRP評価による医療従事者(採血者、検査技師)や患者の肉体的・金銭的負担の割に合うかを考える必要もあるだろう。 本研究ではPCTの比較対象としてCRPが用いられた。CRPガイドでは「抗菌薬投与期間の短縮なしで、全死因死亡の非劣性の確証が得られなかった」ことは、PCTが優れていると考えるよりも、CRPの結果をうのみにする診療は避けるべきであることを示唆しているのだろう。 抗菌薬投与期間について、バイオマーカーを利用して患者ごとに適切な治療期間を判断するという試みには興味をそそられるが、現時点では、感染症の治療期間は患者背景や感染臓器、原因微生物のすべてを考慮して決定するのがよいと考える(「抗微生物薬適正使用の手引き 第三版」)。

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自壊創への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第91回

自壊創への対応がん患者の緩和ケアでは、皮膚症状の対応が求められることもあります。中でもがん患者の「自壊創」は、経験がないと対応に苦慮することが多いでしょう。今回は、この自壊創の対応について考えます。今回の質問今度、訪問診療で新たに担当する乳がん患者がいます。紹介状では自壊創があり、訪問看護など定期的な創処置が必要とのことです。経験がないのですが、どのような対応や経過が想定されるのでしょうか?緩和ケアを実践していると、悪性腫瘍による自壊創を経験します。乳がんがその代表例ですが、ほかにも喉頭がんや子宮頸がんの患者さんもいました。腫瘍が増大して表層に露出した場合、そこが自壊創として難治性の潰瘍となります。ほかにも、頸部や鼠径部のリンパ節転移が増大して自壊創になったケースもありました。どのがん種でも、自壊創が引き起こす問題はある程度共通しています。出血、滲出液、そして悪臭です。そしてこれらは直接見えるため、患者本人や家族にとってつらい問題となります。私の経験では、滲出液や悪臭のために外出することすらできなくなってしまった患者さんもいました。このような創に対しては1)洗浄2)滲出液のドレッシング3)適切な薬剤の使用が基本的なアプローチとなります。自壊創は常にじわじわと滲出液が染み出しており、かつ創部には壊死組織があるため、定期的に洗浄することが有効です。そのうえで滲出液の多い部位に、吸水性のある被覆材でドレッシングします。創部が滲出液で湿ったままになると、そこが嫌気性菌などの繁殖源となり、悪臭が発生します。定期的な洗浄と適切なドレッシングで、まずはこれを阻止します。薬剤は疾患の状態によって使い分けますが、緩和ケアの面からは2つの軟膏について知っておくと良いでしょう。1)メトロニダゾール軟膏自壊創の悪臭は滲出液と壊死組織により繁殖した嫌気性菌が原因です。なので、嫌気性菌をカバーする抗菌薬であるメトロニダゾールを含む軟膏を創部に塗るというのは理にかなっていますよね。以前は薬剤部での製剤が必要でしたが、今はロゼックスゲルという製品が登場しており、そのまま使えて便利です。2)モーズ軟膏これは聞いたことがない方が多いかもしれません。塩化亜鉛による腐食作用により、自壊創のタンパク質を硬化することで効果を発揮します。化学的に熱傷をつくるような作用ですので、使用することで腫瘍塊も徐々に小さくなるケースも見られます。また圧迫で止血されない、じわじわとした出血を止める効果もあります。ただ、モーズ軟膏については、私は皮膚科の先生に対応をお願いしています。モーズ軟膏は刺激が非常に強く、正常皮膚に付くとその部位が化学的熱傷を起こしてしまいます。また、塩化亜鉛を溶かした軟膏の硬さは水分と亜鉛華デンプンの配合バランスで調節するのですが、これがなかなか難しく経験を要します。これらの理由から、使い慣れてない中で処置するのは危険もあるため、ぜひ専門の先生と相談しながら活用してください。今回のTips今回のTipsたまに遭遇する自壊創の対応、皮膚科の知識を身に付けて対応しましょう。

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1月9日 風邪の日【今日は何の日?】

【1月9日 風邪の日】〔由来〕寛政7(1795)年の旧暦の今日、第4代横綱で63連勝の記録を持つ谷風 梶之助が風邪で亡くなったことに由来して制定。インフルエンザや風邪が流行する季節でもあることから、医療機関や教育機関で風邪などへの予防啓発で周知されている。関連コンテンツこじれた風邪には…【漢方カンファレンス】風邪で冷えてきつい…【漢方カンファレンス】風邪の予防・症状改善に亜鉛は有用か?~コクランレビュー“風邪”への抗菌薬処方、医師の年齢で明確な差/東大小児の風邪への食塩水点鼻、有症状期間を2日短縮か/ERS2024

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ミノサイクリン処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第18回

画像を拡大するTake home messageミノサイクリンを使用する際には、皮膚症状の副作用を中心とした5つの副作用を覚えておこうミノサイクリンはテトラサイクリン系抗菌薬の1つで、あらゆる感染症に対して効果を発揮します。腎機能にかかわらず使用できるため便利な反面、いくつかの重要な副作用には注意する必要があります。今回は、とくに気を付けるべき5つの副作用を学んでいきます。1. 皮膚:光線過敏症まれに光線過敏症が生じることがあります。日光に長時間さらされることを避け、外出時には日焼け止めの使用や遮光性の高い衣類の着用を推奨します。2. 皮膚:色素沈着(青灰色・褐色)青灰色や褐色の色素沈着がみられることがあり、長期使用で患者の3~15%に発現するという報告もあります。この色素沈着は、タイプ1~4が報告されており、分布や機序が異なります。高用量のミノサイクリンを長期間使用した場合に発生率が高くなるといわれますが、短期間の使用における報告もあります。色素沈着の改善には時間を要することが多く、一部では不可逆的な場合の報告もあるため、注意が必要です。3. 消化器系および前庭神経症状(嘔気・嘔吐、めまい・運動失調)最も一般的な副作用として、消化器系症状(嘔気・嘔吐)および前庭系症状(めまい・運動失調)が挙げられます。前庭神経症状は、ミノサイクリンがほかのテトラサイクリンと異なり、血液脳関門を通過しやすい特性を持つために発生すると考えられています。とくに女性に多くみられる傾向があり、対症療法で改善する場合が多いものの、症状が継続する場合は薬剤変更を検討します。4. 良性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍)これもまれですが、良性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍)が発生することがあります。とくに女性に多くみられ、頭痛が主な症状です。偽脳腫瘍が疑われる場合は、眼科での診察を依頼し、乳頭浮腫の有無を確認することが重要です。この副作用は通常は可逆的ですが、まれに視覚障害が回復しないケースも報告されているため、早期発見と対応が重要です。5. 小児/胎児における歯の変形および着色、骨発達の遅延小児/胎児において歯の変形および着色、骨発達の遅延を引き起こす可能性があるとされています。ミノサイクリンは胎盤を通過するため、妊婦には禁忌とされています。また、8歳未満だけでなく、歯冠がすべて発達する(13~19歳)までミノサイクリンの使用は避けるべきという報告もあるため、ほかに選択肢がある場合は小児への使用は避けたほうがよい、という意見が多いです。このように、ミノサイクリンは頻度の高いものからまれなものまで多様な副作用があり、十分に理解しておくことが重要です。とくに色素沈着に関しては青黒色や灰色の外観が非常に印象的であること、回復まで時間を要することが多いため、患者に対する十分な説明と理解が必要です。ほかの抗菌薬と同様に、可能な限り短期間の使用にとどめることが重要です。1)Wang P, et al. JAMA Dermatol. 2021;157:992.2)Katayama S, et al. N Engl J Med. 2021;385:2463.3)Martins AM, et al. Antibiotics (Basel).4)Smilack JD, Mayo Clin Proc. 1999;74:727-729.5)Mouton RW, et al. Clin Exp Dermatol. 2004;29:8-14.6)Raymond J, et al. Australas Med J. 2015;8:139-142.

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抗菌薬と手術、小児の虫垂炎に最善の治療法はどちら?

 過去数十年にわたり、小児の虫垂炎(いわゆる盲腸)に対しては、手術による虫垂の切除が一般的な治療とされてきた。しかし、新たな研究で、手術ではなく抗菌薬を使う治療が、ほとんどの症例で最善のアプローチであることが示唆された。この研究では、合併症のない虫垂炎(単純性虫垂炎)の治療に抗菌薬を使用することで、痛みが軽減し、学校を休む日数も減ることが示されたという。米ネムール小児医療センターのPeter Minneci氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に11月19日掲載された。 本研究の背景情報によると、米国では、小児の入院理由として5番目に多いのが虫垂炎であり、また、入院中の小児に対して行われる外科手術の中で最も多いのが虫垂切除術だという。Minneci氏らは、2015年5月から2018年10月の間に中西部の小児病院で単純性虫垂炎の治療を受けた7〜17歳の小児1,068人のデータを分析し、1年間の追跡期間を通じて、抗菌薬による非手術的管理と手術的管理(緊急腹腔鏡下虫垂切除)の費用対効果を比較した。対象者の親には、子どもの虫垂を切除するか、手術回避の可否を確認するために少なくとも24時間の抗菌薬による点滴治療を行うかの選択肢が与えられていた。370人(35%)は抗菌薬による非手術的な管理、698人(65%)は手術的管理を選んでいた。 費用対効果の評価では、増分費用効果比(ICER)を主な指標として採用した。これは、非手術的管理と手術的管理の費用の差を健康アウトカムの差で割ったもので、1単位の質調整生存年(QALY)または障害調整生存年(DALY)を得るために必要な追加費用を意味する。1QALYまたは1DALY当たりの支払い意思額(WTP、支払っても良いと思う最大金額)を10万ドル(1ドル150円換算で1500万円)に設定し、この閾値を基準として費用対効果を評価した。 その結果、非手術的な管理は手術的管理よりも費用対効果の高いことが明らかになった。手術的管理にかかった費用は、1人当たり平均9,791ドル(1ドル150円換算で146万8,650円)であり、平均0.884QALYを獲得していた。一方、非手術的管理にかかった費用は1人当たり平均8,044ドル(同約120万6,600円)であり、平均0.895QALYを獲得していた。 Minneci氏は、「この結果は、合併症のない小児の急性虫垂炎に対しては、非手術的管理の方が手術的管理よりも1年を通して最も費用対効果の高い治療戦略であることを示している」と述べている。 Minneci氏はさらに、「われわれの研究は、抗菌薬のみの治療の方が小児にとって安全かつ効果的であるだけでなく、費用対効果も高いというベネフィットがあることを明らかにした。虫垂炎に対する非手術的管理は、安全かつ費用対効果の高い初期治療であり、手術に代わる合理的な選択肢だ」と述べている。 研究グループは今後、それぞれの治療法が失敗する頻度を比較し、虫垂炎の小児に病院ではなく自宅で抗菌薬を投与できるかどうかを検討する予定だとしている。

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