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PADIS-PE試験:ワルファリンをいつ中止するのが良いのか?~特発性肺血栓塞栓症の初発患者の場合(解説:西垣 和彦 氏)-398

 ワルファリンは、いわば“両刃の剣”である。深部静脈血栓症(DVT)を含めた静脈血栓塞栓症(VTE)による肺血栓塞栓症(PE)予防の有効性は顕著であるが、抗血栓薬自体の宿命でもある出血も、しばしば致命的となる症例も少なくない。したがって、メリットとデメリットを十分に勘案し、最大限の効果が得られる抗凝固療法継続期間を求めることには必然性がある。 PEの抗凝固療法継続期間に関して、昨年出された欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、次のように記載されている。1)PEの患者には少なくとも3ヵ月は抗凝固療法を行うこと。2)抗凝固療法中止後のPE再発の危険性は、抗凝固薬を6ヵ月ないし12ヵ月で中止しても、3ヵ月で中止した場合と同程度である。3)無制限の抗凝固療法は、再発性VTEのリスクを約90%減少させるが、大出血の発症リスクを年1%以上上昇させ、メリットを部分的に相殺する。 一方、リスクのない特発性PEに関しては、抗凝固療法中止後の再発率が高いため、出血のリスクを勘案したうえでより長期間の継続が望ましいと記載されているだけで、具体的にいつまで継続するかに関して記載がなく、担当医の判断とされている。 今回PADIS-PE試験は、この特発性PEに関して、建設的な見解を出した。それは、(1)抗凝固療法を3~6ヵ月で中止すると、手術などの一時的なリスクにより起因するVTEよりも再発リスクが高くなる、(2)さらに3~6ヵ月延長すると、治療継続中は再発リスクが抑制される結果から、より長期の抗凝固療法が求められたことである。 そもそも、未知の凝固線溶系異常患者を含み、人種差も大きい凝固線溶系であるからこそ、PADIS-PE試験で組み入れた特発性PEの観察対象者自体がすでに異質であり、この結果をそのまま受諾するのは、いささか早計ではある。しかし、PEの再発防止目的でより長期の抗凝固療法を行うことは、賛同できる結果ではないだろうか。 重要なことは、(1)PT-INRをより適切な治療域に保つ努力を怠らないこと、(2)ワルファリンの特質を、医師と患者の双方が十分に理解し、密な相互の関係を築くことである。そのうえで、再発率が高い下肢静脈近位側にDVTが残存している症例や、抗凝固療法中止1ヵ月後のDダイマーが高値である症例などに関しては、無期限の抗凝固療法も視野に入れた、より長期間の抗凝固療法継続を行うべきと考えられる。

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優れた抗血栓性を目指し、ポンプ本体の内面をすべて生体材料で構成したCARMAT完全植込み完全置換型の開発と世界最初の臨床応用(解説:許 俊鋭 氏)-394

 2008年に、僧帽弁形成手術で世界的に著名な心臓外科医Alain Carpentier氏が、真に心臓移植の代替治療となりうる完全植込み完全置換型(fully implantable artificial heart)の臨床治験を、2011年までに実施する準備ができたと発表した1)。 ポンプ本体の内面はすべて生体材料 (“biomaterials”or a“pseudo-skin”of biosynthetic、microporous materials)で構成され、これまでの人工心臓でまったく未解決の問題であった、ポンプ内血栓形成が生じない人工心臓をつくるという、きわめて野心的なプロジェクトであった。 CARMAT完全植込み完全置換型(C-TAH)は、4つの生体弁を持つ電気駆動型拍動流拍動完全置換型で、現時点では体外のバッテリーと接続し、エネルギーは体外から供給するシステムではあるが、近い将来、経皮的エネルギー伝送により完全植込み型デバイスになることも可能である。ポンプ内面は、表面処理された生物心膜組織(processed bioprosthetic pericardial tissue)および拡張ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)から成り、抗凝固療法の軽減が潜在的に可能である2)。12頭の牛(体重102~112kg)を用いた平均3日間の実験で、4頭が4日以上(最長10日)生存した。まったく抗凝固療法なしで術後管理されたが、剖検では2頭に小さな腎梗塞がみられたのみであった。 2015年になって立て続けに3本の論文2)3)4)が発表され、本論文はその1つで2013年から始まった臨床例の最初の報告である。ただし、この臨床試験では当初目指した完全植込みには至らず、デバイスは外径8mmのきわめて屈曲性に富んだドライブラインで、体外のリチウムイオンバッテリーに接続して使用している。 C-TAHは2人の男性の患者に植え付けられた。患者1(76歳)は、2013年12月18日の植込み症例、患者2(68歳)は2014年8月5日の植込み症例で、C-TAH植込み手術の人工心肺時間は、157分、170分であった。2例とも術後12時間以内に抜管され、呼吸および循環機能は急速に回復した。 患者1は、術後23日に心タンポナーデのために再開胸止血手術施行し、以後抗凝固療法を中止した。C-TAHは良好に機能し、4.8~5.8L/分の良好な流量が得られた。術後74日目にデバイス機能不全のため患者は死亡した。抗凝固薬なし期間が50日間あったにもかかわらず、剖検ではポンプ内や末梢臓器に血栓はみられなかった。 患者2は、一時的な腎不全と心嚢液貯留に対してドレナージを必要としたが、それ以外は問題なく、術後150日で携帯電源システムとともに自宅に戻った。在宅4ヵ月後に低心拍出状態になりデバイス交換を試みたが、多臓器不全のために患者は死亡した。 本論文掲載決定時にはすでに3症例目の植込みが成功していて、術後104日目で退院直前の状態にある。 日本では、年間20万例が心不全のため死亡している。人口の高齢化とともに心不全はますます増加傾向にあり、65歳以上の循環器疾患医療費はがんを中心とした新生物医療費の2倍(13.3% vs.27.4%、2011年)を要している。心臓移植の対象となる65歳未満の心不全死亡は2万例弱であり、全心不全死亡数の9.7%にしか過ぎない。しかも、日本における年間心臓移植数は40例弱であり、2万例の65歳未満心不全死亡数はおろか、現在心臓移植登録・待機している400例に対しても極端に少ない。 すなわち、心臓移植治療はその絶対数において末期心不全に対する標準的治療とはなり得ない。そのため、米国で2002年に年齢などにより心臓移植適応除外となった症例に対する、心臓移植代替治療としての植込み型補助人工心臓(LVAD)を用いたDestination Therapy(DT)がFDAにより承認され、保険償還が始まった。DTは当初2年生存を目標にスタートしたが、INTERMACSデータでは現時点で2年生存率60%、3年生存率50%が達成されていて5)、今後、さらに治療成績が向上していくものと考えられる。長期の補助人工心臓の成績向上のために解決しなければならない主な課題として、(1)システムの長期耐久性、(2)抗血栓性の向上、(3)感染防止がある。その中で、今日の第2・第3世代の定常流植込み型LVADにおいて、すでに10年生存症例も報告され「(1)システムの長期耐久性」は達成されているが、「(2)抗血栓性の向上」と「(3)感染防止」はまったく解決できていない課題である。C-TAHは「(2)抗血栓性の向上」を目指した野心的なプロジェクトであり、抗凝固療法なしで50日間管理し、まったく血栓が生じなかったことは大きな成果である。また、C-TAHは近い将来、完全植込みを目標としており「(3)感染防止」にも意欲を示している。 残念なことに、ポンプシステムが第1世代拍動流ポンプであることにより、C-TAHには「(1)システムの長期耐久性」は期待できない。しかし、C-TAHポンプ本体の内面をすべて生体材料で構成するという試みは、今日の長期耐久性に優れた第2・第3世代の定常流植込み型LVAD製造技術と結び付くことにより、植込み型LVADの「(2)抗血栓性の向上」に大きく貢献するものと期待される。 近い将来、経皮的エネルギー伝送システムの導入で有効な「(3)感染防止」技術が確立した暁には、植込み型LVADの心臓移植に匹敵するQOL・長期生存率が達成されるものと期待される。

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ワルファリン延長投与、中止後も効果は持続するか/JAMA

 6ヵ月間の抗凝固治療を受けた特発性肺塞栓症の初発患者に対し、さらに18ヵ月間のワルファリン投与を行うと、とくに静脈血栓塞栓症の再発リスクが大きく改善されるが、治療を中止するとこのベネフィットは消失することが、フランス・ブレスト大学医療センターのFrancis Couturaud氏らが進めるPADIS-PE試験で示された。本症に対する抗凝固療法を3~6ヵ月で中止すると、一時的なリスク因子(手術など)に起因する静脈血栓塞栓症よりも再発リスクが高くなる。これらの高リスク集団に、さらに3~6ヵ月の延長治療を行うと、治療継続中は再発リスクが抑制されるが、治療中止後もこの効果が持続するかは不明だという。JAMA誌2015年7月7日号掲載の報告。治療終了後2年時の転帰も評価 PADIS-PE試験は、特発性肺塞栓症に対するワルファリンの18ヵ月延長投与の有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験(ブレスト大学病院などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、静脈血栓塞栓症のリスク因子がないにもかかわらず症候性の肺塞栓症を発症し、ビタミンK拮抗薬(INR目標値:2.0~3.0)による6ヵ月間の初期治療を受けた患者であった。 被験者は、ワルファリン(INR目標値:2.0~3.0)またはプラセボを18ヵ月間投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は18ヵ月時の静脈血栓塞栓症の再発および大出血の複合エンドポイントであり、副次評価項目は42ヵ月時(治療終了後24ヵ月時)の複合エンドポイントなどであった。 2007年7月~2012年3月の間に、フランスの14施設に371例が登録され、2014年9月までフォローアップが行われた。ワルファリン群に184例(平均年齢:58.7±17.9歳、>65歳:40.2%、女性:57.6%)、プラセボ群には187例(57.3±17.4歳、37.4%、44.9%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は23.4ヵ月だった。相対リスクが78%低減、24ヵ月後は有意差消失 18ヵ月の治療期間中の主要評価項目発現率は、ワルファリン群が3.3%(6/184例、2.3/100人年)であり、プラセボ群の13.5%(25/187例、10.6/100人年)に比べ、相対リスクが78%低減した(ハザード比[HR]:0.22、95%信頼区間[CI]:0.09~0.55、p=0.001)。 静脈血栓塞栓症の再発率は、ワルファリン群が1.7%(3例、1.1/100人年)、プラセボ群は13.5%(25例、10.6/100人年)とワルファリン群で良好であった(HR:0.15、95%CI:0.05~0.43、p<0.001)が、大出血はそれぞれ2.2%(4例)、0.5%(1例)であり、両群間に差を認めなかった(3.96、0.44~35.89、p=0.22)。 42ヵ月時の主要評価項目発現率は、ワルファリン群が20.8%(33例)、プラセボ群は24.0%(42例)であり、18ヵ月時に認めた有意な差は消失した(HR:0.75、95%CI:0.47~1.18、p=0.22)。42ヵ月時の静脈血栓塞栓症の再発(17.9 vs.22.1%、p=0.14)および大出血(3.5 vs.3.0%、p=0.85)に差はなかった。 静脈血栓塞栓症の再発および大出血以外の原因による死亡は、18ヵ月時(1.1 vs.1.1%、p=0.78)、42ヵ月時(9.1 vs.3.6%、p=0.45)ともに、両群間に差はみられなかった。 著者は、「本試験に参加した患者などでは、長期的な2次予防治療を要すると考えられるが、ビタミンK拮抗薬や新規抗凝固薬、アスピリンを用いた体系的な治療を行うべきか、あるいはDダイマー値上昇などのリスク因子に従って個別的な治療を行うべきかを決定するには、さらなる検討を要する」と指摘している。

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ヘパリンブリッジに意味はあるのか?(解説:後藤 信哉 氏)-381

 抗血栓療法は、リスクを飲み込んでメリットを期待する「両刃の剣」の治療である。 脳卒中リスクを有する心房細動症例ではとくに喧伝されているが、血栓イベントの多くが不可逆的なので、血栓リスク・出血リスクのどちらを重視するかは、個別の臨床医と患者さんの選択である。 多くの抗血栓薬は、2~3年間の観察期間内の血栓イベント、出血イベントにより、有効性、安全性を検証されて一般臨床における使用推奨がなされる。 日本人の死因の第1位は出血疾患としての悪性腫瘍なので、過去のランダム化比較試験に基づいて抗凝固療法が開始された症例であっても、将来発がんし、出血を伴う検査、手術などが発生するリスクが高い。日本でも多くの症例が抗凝固治療を受けており、消化器内視鏡治療を受けるために一時的にヘパリンブリッジを受けている症例も多い。各種診療ガイドラインではヘパリンブリッジについて触れているが、一様に「明確なエビデンスはないが…」と記載されている。 本試験は、日本の標準治療である未分画ヘパリンではなく低分子ヘパリンではあるが、明確なエビデンスである。Medical legal issueとしても、手術時に「ヘパリンブリッジ」をしなかったと苦情を受けることが多い。今後は「ヘパリンブリッジについてのevidenceはある」、「evidenceはヘパリンブリッジをしても、非ヘパリンブリッジと比較して血栓イベント・出血イベントについて劣らないことを示した」と明確に答える根拠ができてとてもよかった。

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心房細動患者の手術、ブリッジング抗凝固療法は必要か/NEJM

 待機的手術などの侵襲性の処置のためにワルファリン治療を中断する必要のある、心房細動(AF)患者に対するブリッジング抗凝固療法の必要性は不明とされる。今回、カナダ・マクマスター大学のJames D Douketis氏らは、BRIDGE試験を行い、低分子量ヘパリンによる周術期のブリッジング抗凝固療法は、動脈血栓塞栓症の予防や大出血リスクの抑制には効果がないことを確認したことを報告した。ブリッジング抗凝固療法の必要性そのものに対する根本的な疑問があり、エビデンスもないため、現行の診療ガイドラインの勧告には説得力がなく、一貫性に欠ける状況だという。NEJM誌オンライン版2015年6月22日号掲載の報告。動脈血栓塞栓症予防の非劣性、大出血リスク抑制の優越性を検証 BRIDGE試験は、AF患者の周術期の動脈血栓塞栓症予防における非ブリッジング抗凝固療法の、低分子量ヘパリンによるブリッジング抗凝固療法に対する非劣性、および大出血リスク抑制における優越性を検証する二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、心電図またはペースメーカーに関連する診察時に慢性のAFまたは心房粗動が確認されて3ヵ月以上のワルファリン治療(INR:2.0~3.0)を受けており、待機的手術などの侵襲性の処置のためワルファリン治療の中断を要する患者であった。 被験者は、低分子量ヘパリン(ダルテパリン100IU/kg、1日2回、皮下投与)によるブリッジング抗凝固療法を受ける群またはプラセボ群(非ブリッジング群)に無作為に割り付けられた。ワルファリン治療は手術の5日前に中止された。試験薬の投与は手術の3日前に開始し、24時間前まで続けられた。 ワルファリンは手術日の夕方または翌日に再投与が開始された。試験薬は、出血リスクの低い手技の場合は術後12~24時間に、出血リスクの高い手技の場合は術後48~72時間に再投与が開始された。フォローアップは術後30日まで続けられた。 主要評価項目は、動脈血栓塞栓症(脳卒中、全身性塞栓症、一過性脳虚血発作)および大出血であった。大出血、小出血ともブリッジング群で高頻度 2009年7月~2014年12月までに北米の108施設に1,884例が登録され、非ブリッジング群に950例(平均年齢71.8±8.74歳、男性73.3%、平均CHADS2スコア2.3±1.03)、ブリッジング群には934例(71.6±8.88歳、73.4%、2.4±1.07)が割り付けられた。 術後30日時の動脈血栓塞栓症の発生率は、非ブリッジング群が0.4%(4/918例)、ブリッジング群は0.3%(3/895例)であり、非ブリッジング群のブリッジング群に対する非劣性が確証された(平均群間差:0.1%、95%信頼区間[CI]:-0.6~0.8、非劣性検定:p=0.01、優越性検定:p=0.73)。 また、大出血の発生率は、非ブリッジング群が1.3%(12/918例)、ブリッジング群は3.2%(29/895例)であり、非ブリッジング群の優越性が示された(相対リスク:0.41、95%CI:0.20~0.78、優越性検定のp=0.005)。 副次評価項目である死亡(0.5 vs.0.4%、優越性検定のp=0.88)、心筋梗塞(0.8 vs.1.6%、p=0.10)、深部静脈血栓症(0 vs.0.1%、p=0.25)、肺塞栓症(0 vs.0.1%、p=0.25)には優越性に関する差はみられなかったが、小出血の頻度はブリッジング群で有意に高かった(12.0 vs.20.9%、p<0.001)。 著者は、「全体的な臨床ベネフィットは、非ブリッジングのほうが良好であることが示された」と結論し、「ワルファリン中断中の周術期の動脈血栓塞栓症リスクは過大に評価され、ブリッジング抗凝固療法では抑制されない可能性がある。周術期の動脈血栓塞栓症の発症メカニズムには、手術の種類や術中の血圧変動が、より密接に関連している可能性がある」と指摘している。

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よくある話【1】目に見えるリスクに対する過大評価:下大静脈フィルターの使い方(解説:香坂 俊 氏)-376

われわれはどうも昔から「見えてしまう」とそれを治療せずにはいられないようである。古いところでは乳がんに対する拡大郭清術、新しいところでは安定狭心症に対するステント治療などがそれに当たるだろうか。現在では、いずれの手技もごく限られたハイリスク症例だけに行われるようになっている(ハズである)。そこに、今回下大静脈フィルター(IVC Filter)が加わった、というのは言い過ぎだろうか?抗凝固に加えてFilterを入れることは、「一応、念のためにね」といったadjunctive(補助的)な位置付けで広く行われてきた。Filterを入れて悪いこともなさそうだし、最近は回収できるようにもなっている。だから「いっちょやっとくか」という発想はいかにも自然だ。ただ、以前よりFilterのルーチン使用には警鐘が鳴らされるようになってきている。確かに初代のPREPIC試験では、Filterに急性期PE(肺塞栓症)の予防効果がみられた(12日以内、対象はDVT[深部静脈血栓症]患者)1)。しかし、2年、8年と長期的にみていくとDVTの発症が増え(おそらくはFilterの目詰りが原因)、トータルでみるとFilterを入れても入れなくても予後に大きな影響がないことが示されている2)。そして、PREPIC試験の2代目の試験がデザインされた3)。今回は、短期的に回収可能なFilterを入れるか入れないかというところでランダム化されている(対象はハイリスクPE患者)。試験の結果をみてみると、Filterの留置に伴う合併症の発生率は低く(<2%)、しかも90%以上の症例できちんと3ヵ月以内に回収されている。しかし、それでもFilterの留置によるPEの再発予防効果はみられなかった(6ヵ月)。どうもPEやDVTといった静脈系の血栓性疾患に対する物理的な治療法は分が悪いようである。現段階でのDVTやPEに対するマネジメントの中心は抗凝固療法であり、たとえハイリスク症例であったとしてもルーチンのFilter使用は推奨されない。Filter使用の適応として現在でも残っているのは抗凝固禁忌例(例:最近手術や脳出血を経験した症例)であるが、その根拠は観察研究からの「結果的にPE再発の率が低かった」というところに留まり、いまだRCTは行われていない。ここがおそらく最後の砦であり、今後議論がクローズアップされていくものと思われる。

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下大静脈フィルター併用、肺塞栓症の再発リスク低下せず/JAMA

 重症急性肺塞栓症入院患者において、抗凝固療法+回収可能型下大静脈フィルター留置を行っても、3ヵ月時点の症候性肺塞栓症の再発リスクは抗凝固療法単独と比べて減少しなかったことが示された。フランス・サンテティエンヌ大学中央病院のPatrick Mismetti氏らが無作為化試験の結果、報告した。回収可能型下大静脈フィルターは、急性静脈血栓塞栓症患者において抗凝固療法と併用して行われる頻度が高いが、そのリスク-ベネフィットについては不明であった。今回の結果について著者は、「抗凝固療法治療が可能な患者に対する同タイプフィルターの使用を支持しないという所見が示された」とまとめている。JAMA誌2015年4月28日号掲載の報告より。抗凝固療法+回収可能型下大静脈フィルター留置vs. 抗凝固療法単独 検討はPREPIC2と称され、非盲検だがエンドポイント盲検の無作為化試験にて、2006年8月~2013年1月にフォローアップ6ヵ月間を設定して行われた。  適格被験者は、急性の症候性肺塞栓症入院患者で下肢静脈血栓症を有しており、1以上の重症度判定基準を有していた。  被験者を、抗凝固療法+回収可能型下大静脈フィルター留置群(フィルター群)と、抗凝固療法単独群(対照群)に割り付け、外来でフォローアップした。なお初回入院の発生場所は、フランスにある17の医療センターだった。  全患者に6ヵ月以上のfull-doseの抗凝固療法が行われ、フィルター群に割り付けられた患者のフィルター回収は、留置後3ヵ月時とされた。  主要有効性アウトカムは、3ヵ月時点での症候性肺塞栓症の再発とし、副次アウトカムには、6ヵ月時点の肺塞栓症の再発、症候性深部静脈血栓症、重大出血、死亡で3ヵ月、6ヵ月時点で評価した。またフィルター関連合併症も評価に含まれた。3ヵ月時点、有意差はないがフィルター群の相対リスク2.00 フィルター群に200例が、対照群には199例が割り付けられた。 フィルター群のフィルター留置の成功例は193例。フィルター回収が予定どおり行われたのは、回収が試みられた164例中153例であった。  結果、3ヵ月時点での、肺塞栓症再発発生例はフィルター群6例(3.0%、すべて致死例)、対照群は3例(1.5%、2例が致死例)で、フィルター群の相対リスク(RR)は2.00(95%信頼区間[CI]:0.51~7.89、p=0.50)であった。6ヵ月時点の結果も同様であった(RR:1.75、95%CI:0.52~5.88、p=0.54)。  その他のアウトカムについても、2群間の差は観察されなかった。深部静脈血栓症の再発は3ヵ月時点のRRは1.00(p>0.99)、6ヵ月時点0.50(p>0.99)、重大出血は0.80(p=0.63)と0.87(p=0.69)、死亡は1.25(p=0.55)と1.40(p=0.29)であった。死亡の主原因は両群ともがんであった。  なお、フィルター塞栓症は3例で報告されている。

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新しい結論がないことが結論(解説:野間 重孝 氏)-343

 多くの循環器科医師たちが、薬物溶出ステント(DES)と抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)とその持続期間に関するコンセンサスとして考えていることは、以下のようなものではないかと思う。(1)適切なDAPTを行うことにより、DESにおける遅発性ステント血栓症をある程度確実に抑制することができる。(2)DAPTを長期にわたって行うことと一連の出血性合併症の発生は、いわばトレードオフの関係にある。(3)そこで、臨床医は各患者の年齢、病変形態、合併症、全身状態などを勘案し、(一応の指針はあるものの)DESの期間については各患者について適宜判断する必要がある。  本論文は、最近発表された10の論文を取り上げてメタアナリシスを行うことにより、上記の内容をほぼ追認した形になっている。ただし(2)については単純なトレードオフとはいえず、長期DAPT群では心臓死の減少分を非心臓死の増大分が上回るため、長期DAPT群では死亡率にわずかではあるが上昇がみられるという知見を付け加えた。 これまでもDAPTの継続期間に関する論文が数多く出版されているが、いまだに決定的な回答が得られるには至っていない。その理由としては次のようなものが挙げられると思う。1. 最大の原因はまず母集団が均等でないことである。使用されたステントの薬物、薬物放出プログラム、ステントデザインはさまざまであり、かつステント以外の要素(年齢、病変形態、使用薬剤、合併症など)も一様ではない。また、PCIに関する臨床研究はその性格上無作為二重盲検は不可能である。2. silentに発生しているものまで含めたステント血栓症の、真の発生頻度は不明であること。なぜなら、ステント血栓症は臨床的に何らかの合併症を起こして初めて認識されるものだからである。3. 治療の進歩により心筋梗塞、脳卒中の急性期の臨床成績は向上しているため、心血管事故がただちに死亡に結び付くことが少なくなった。同様のことが他の死亡原因についてもいえる。4. 対比される非心臓死についての分析がどうしても不十分になる。とくにメタアナリシスではほぼ無視されている。たとえば、この論文でもがん患者において長期DAPTの死亡率が高いことが挙げられているが、理由は不明である。 高齢者、抗凝固療法が必要な患者、他の重大な合併症を有する患者では、当然DAPTの期間は短いほうが望ましいため、いわゆる第2世代ステントが主流になって以来、さまざまな形でDAPT期間の短縮が図れないかと、研究が行われている。しかし、上記のコンセンサスをはっきり越える結論は得られていないのが実情である。実際私は、この分野で現在進行中のいくつかの研究についても、正直多くを期待していない。 私は、この問題にははっきりした結論が出ないまま、時代は次世代の治療法へと移行していくのではないかと予想している。少し乱暴な言い方に聞こえる向きもあるかと思うが、医学では疾病や治療法の枠組みが変わるときによく起こることなのである。そして、私たちはいつまでも同じ地点に立ち止まって、同じような議論を繰り返していてはいけないのである。 現在ざっと考えてみても、まず生体吸収型ポリマーの開発があり、これはすでに一部で実用化されている。さらに、ポリマーを溶着させる際に下塗りに使っているパリレンなどを使用せずに、ポリマーを溶着させる技術が考えられる。これはまだ実用化には至っていないが、技術的には可能な段階に来ている。生体吸収型ステントはすでに製品化されているが、現在のステントに取って代わるにはまだ少し時間がかかりそうである。さらに、術後にステントを使用しなくても再狭窄を来さないような新しいdebulking device開発の問題があるが、これはまだ端緒についていない。もちろん、今考えつきもしないような治療法が登場する可能性も十分にあるだろう。 本論文の内容は、ほとんどの循環器科医がコンセンサスとしている事柄を確認したに過ぎないため、一種のnegative studyのように思われるかもしれない。しかし、私はこの問題には、結局1つだけの正解はないことを示したことに意義があると考え、むしろ積極的に評価したい。最近、インターベンションの世界に一種の閉塞感のようなものが漂っているように感じるのは、私だけではないと思う。しかし、明日は必ずやってくる。そうしたとき振り返ってみて、本研究が1つの道標となっているならば、著者たちにとって、これこそが最高の喜びなのではないだろうか。

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歴史的なジギタリスと心房細動:ROCKET-AF試験(解説:後藤 信哉 氏)-338

 筆者の世代の循環器医にとって、ジギタリスはなじみの深い薬物である。学生のころ、ジギタリスは南米の矢毒から分離されたと教わったが、本当であるか否かを確認していない。筆者の世代にとって、心不全治療の唯一の選択ともいえる時代があった。ジギタリスは房室伝導を阻害するので、頻拍性不整脈に対しても広く使用されていた。また心房細動症例に対しても、脈拍コントロールのための主要薬剤であった。 心不全症例にジギタリスを使用しても効果がないとの報告はあった。それでも筆者の世代の循環器医は、若い時代からの慣習によりジギタリスを広く使用している。慢性心房細動の心拍コントロールにも実臨床ではいまだに広く使用されている。 今回発表されたROCKET-AFのデータベースでも、心房細動症例の37%がジギタリスを使用している実態を示した。ランダム化比較試験に登録される症例は、厳密な症例登録基準と除外基準を満たし、いわゆる治験慣れした施設からの特殊な症例サンプルである。また、ROCKET-AF試験の目的はPT-INR 2~3のワルファリン治療と、1日20mgを標準用量とするリバロキサバンの脳卒中・全身塞栓症予防効果の差異の有無の検証であって、死亡は2次エンドポイントにすぎない。そのため、本サブ解析はLancetというインパクトファクターの高い雑誌に発表され、統計解析はそれなりに充実しているが、発表された結果が実臨床に応用可能であるか否かの判断には、慎重になる必要がある。 ROCKET-AFに登録されたCHADS2 score 2点以上の非弁膜症性心房細動症例は、年間100例当たり4例以上が死亡する、死亡リスクの高い集団である。ジゴキシン使用と総死亡、血管死亡、突然死の増加も興味ある課題であるが、死亡に関するサブ解析が可能なほど死亡リスクの高い患者集団において、死亡率よりも低い脳卒中・全身塞栓症が1次エンドポイントであった事実を、臨床家は再認識する必要がある。非弁膜症性心房細動の症例を見たら、とくに抗凝固療法をしている症例では近未来の死亡リスクにこそ、注意を向ける必要があるのだ。

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PROTECT AF試験:経皮的左心耳閉鎖術~心房細動患者が抗凝固療法を中止できる日は本当に来るのか(解説:矢崎 義直 氏)-329

 PROTECT AF試験は、非弁膜症性心房細動に対する経皮的左心耳閉鎖術の有効性および安全性をワルファリン療法と比較した非盲検無作為化試験である。 経皮的左心耳閉鎖術とは、血栓の好発部位である左心耳の入口部に傘状のWATCHMANデバイス(Boston Scientific社製)を挿入し、左心耳を閉塞させ血栓形成を予防する方法である。心房細動患者に対する抗凝固療法の中止が期待できるのは、カテーテルアブレーションでの根治以外に、この左心耳閉鎖術が有力である。本試験の観察期間18ヵ月および2.3年の結果はすでに報告されているが、今回は3.8年と長期成績の報告である。 ワルファリン投与群のTTR(Time in Therapeutic Range)は70%であり、比較的良好な凝固コントロール群との比較である。左心耳閉鎖術は、ワルファリンと比較して、主要エンドポイントである複合イベント(脳卒中、全身性塞栓症、心血管死)について、非劣性であり全死亡を有意に抑制させた。 左心耳閉鎖術は、ワルファリン療法と同等以上の効果と安全性が示されたわけであるが、当然、NOACs(新規経口抗凝固薬)との比較が気になるところである。本試験の対象は707例であり、1万例を超えるNOACsの大規模臨床試験と直接の比較はできないが、それぞれのデータを見比べてみる。 本試験のCHADS2スコアは平均2.2とRELY試験(ダビガトラン)やARISTOTLE試験(アピキサバン)と類似する。複合イベント発生は有意に低下させたが、ワルファリン群と比べて虚血性脳卒中に差がついていない点は、RELY試験におけるダビガトラン300mg投与群を除くすべてのNOACsの試験と同様の傾向である。出血性脳卒中や心血管死、全死亡は低く、これらがエンドポイントに影響している可能性があり、これも他の試験と類似している。それぞれの試験デザイン、解析方法も違うが、効果に関してはNOACsと同等という印象である。 安全性の複合エンドポイント(頭蓋内出血、輸血を要する出血、LAA閉鎖術群では手技に関連する出血)の発生率は、左心耳閉鎖術はワルファリン群と同等となっているが、2つの点で改善の余地がある。まずは、左心耳閉鎖術はある程度のラーニングカーブが必要であり、手技の習得システムの確立と症例の経験により、周術期の出血の合併症を減らす事ができる。 もう1つ複合イベントの多くを占めているのが、術後の大出血である。デバイス挿入後の抗血栓療法は、ワルファリンとアスピリンの併用となる。動物実験の結果を基に、デバイスが内皮化するとされる術後45日頃に、経食道エコーで左心耳からのリークがなければワルファリンを中止する。代わりにクロピドグレルを追加し、半年間は抗血小板薬2剤となる。半年以降はアスピリン単剤となる。もとよりこのデバイスは出血のハイリスク症例が適応となるため、術後半年の抗血栓薬の併用療法が、大出血の要因となりかねない。小規模な試験ではあるが、術後の抗血栓療法なしの安全性も報告されており、今後のエビデンスの構築が望まれる。 また、本試験の対象はCHADS2スコアが比較的低く、発作性心房細動が43%も含まれており、このような症例にはアブレーションによる根治、抗凝固療法の中止が期待できるわけである。今後、より心耳閉鎖術の適応となるであろうROCKET AF試験(リバーロキサバン)のようなCHADS2スコアの高い、根治が困難な永続性心房細動を対象とした比較試験が必要と考える。さらには、本試験の症例は9割が白人であることには留意すべきで、とくに凝固能には人種間の差があるため、日本人独自の臨床試験が必要である。 WATCHMANデバイスによる左心耳閉鎖術が、つい先日(2015年3月13日)FDAにより承認されたので、近い将来この技術が日本にも入ってくる。デバイス挿入のサポートには経食道心エコーの技術が必須であり、当然全身麻酔も必要となる。日本のカテーテル検査室の現状を考えると、このデバイスを導入するにはいくつかのハードルを越えなければいけないが、抗凝固療法を中止できるのは非常に魅力的であり、脳梗塞予防における治療の選択肢の1つとして期待される。

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アリスミアのツボ Q24

Q24 抗凝固療法、抗血小板薬2剤の併用(triple therapy)は大丈夫? 「混ぜるな、危険」が基本ですが…… ヒトは太古の昔から出血と闘ってきました。今でこそ血栓症が死因の多くを占めますが、つい江戸時代までは斬る、斬られるで、大出血や感染症が死因の多くを占めていたと考えられます。 そして、この大出血を防ぐための生体のシステムが、血小板と凝固カスケードです。と考えれば、抗凝固療法で凝固カスケードをブロックし、抗血小板薬2剤併用で二方向から血小板機能をブロックすれば、大出血を防ぐためのシステムがなくなり……その結果すべての出血が大出血へと変化してしまいます。“The more, the better”は、そもそもこの領域には当てはまらないのです。 なので、抗血栓薬は「混ぜるな、危険」が基本です。ただ、人間の行動には慣性モーメントが働いています。これまで動脈血栓予防には抗血小板薬を、静脈血栓予防には抗凝固薬をと身に染みつくくらい習ってきたので、両方のリスクがあるなら抗血栓薬を重ねるという慣性モーメントが働いてしまいます。 まだ、この分野には十分なエビデンスがなく、最低限これだけで大丈夫とはいえないのですが(具体的な処方はまだ確定していません)、できるだけ抗血栓薬は少なくできないかを考える機会を持つことが重要でしょう。そのとき、 (1)ステントを用いていない場合は、抗凝固療法は抗血小板薬を兼ねる (2)ステントが入っている場合でも、ステントの改良で抗血小板薬2剤の併用が必要となる期間は短縮している という2つの知識が生かされると思います。長い間お楽しみいただいた「Dr山下のアリスミアのツボ」は、今回で最終回となります。ご愛読ありがとうございました。

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抗凝固療法の出血リスク、遺伝子型で異なる/Lancet

 ワルファリンの出血リスクについて、CYP2C9、VKORC1の遺伝子型を持つ患者において早期出血の傾向がある人を特定できることが示された。米国ハーバード・メディカル・スクールのJessica L Mega氏らが、ENGAGE AF-TIMI 48試験の被験者データを分析し報告した。検討では、ワルファリンと比較して、エドキサバンの早期安全性に関するベネフィットが大きいことも明らかになったという。Lancet誌オンライン版2015年3月10日号掲載の報告より。ワルファリン感受性について遺伝子型に基づき3分類し評価 研究グループは、遺伝子型により、ワルファリンによる出血リスクが高い患者を特定可能か、またワルファリンと比べてより安全な直接作用経口抗凝固薬を特定可能かを検討した。 ENGAGE AF-TIMI 48は、心房細動患者を対象とした無作為化二重盲検試験で、被験者をワルファリン群、エドキサバン高用量(60mg)群、エドキサバン低用量(30mg)群に無作為に割り付けて、国際標準比(INR)2.0~3.0の達成について検討した試験であった。 事前規定の遺伝子分析に組み込まれたサブグループ患者は、CYP2C9、VKORC1の遺伝子型を持つことが示された。そのデータを用いて、ワルファリンへの反応性について、3つの遺伝子型機能区分(標準、感受性が高い、感受性が高度に高い)に分類し分析した。ワルファリン感受性が高いほど出血リスクが高いことが判明 遺伝子分析に含まれたのは、1万4,348例の患者であった。 このうちワルファリン群の患者4,833例は、ワルファリン感受性について、標準群2,982例(61.7%)、感受性が高い群1,711例(35.4%)、非常に感受性が高い群140例(2.9%)に分類された。 標準群と比較して、他の2群は治療開始90日間において抗凝固作用が過剰であった時間割合が大きかった。標準群は中央値2.2%(IQR:0から20.2%)に対し、感受性が高い群は8.4%(同:0~25.8%)、非常に感受性が高い群は18.3%(同:0~32.6%)であった(傾向のp<0.0001)。 そしてワルファリン出血リスクは感受性が高いほど増大することが認められた。標準群と比較した感受性が高い群のハザード比は1.31(95%信頼区間[CI]:1.05~1.64、p=0.0179)、非常に高い群は2.66(同:1.69~4.19、p<0.0001)であった。遺伝子型は臨床リスクスコアとは異なる独立した情報を与えることが認められた。 一方、治療開始90日間において、ワルファリン群と比較してエドキサバン群で出血リスクが低く、感受性について標準群よりも感受性が高い群および非常に感受性が高い群で、より低下することが両用量群ともに認められた(エドキサバン高用量群の相互作用p=0.0066、低用量群の相互作用p=0.0036)。 90日以降は、出血リスクの低下に関するベネフィットはエドキサバン群とワルファリン群で遺伝子型を問わず同程度であった。

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ビタミンK拮抗薬の急速中和製剤(4F-PCC)の効果は?/Lancet

 緊急の外科的・侵襲的手技においてビタミンK拮抗薬(VKA)投与を必要とする患者について、4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤(4F-PCC)の血漿製剤に対する、急速VKA中和および止血効果に関する非劣性と優越性が確認された。米国・マサチューセッツ総合病院のJoshua N Goldstein氏らによる第IIIb相の非盲検非劣性無作為化試験の結果、示された。VKAによる抗凝固療法は、緊急外科的・侵襲的手技を要する患者に関して迅速中和を必要とする頻度が高い。しかしこれまでその至適な手法について、臨床比較試験による確定は行われていなかったという。Lancet誌オンライン版2015年2月26日号掲載の報告より。止血効果と急速INR低下の2つを主要エンドポイントに比較 研究グループは、4F-PCCの有効性と安全性を血漿製剤と比較して検討した。試験は国際多施設共同(33病院;米国18、ベラルーシ2、ブルガリア4、レバノン2、ルーマニア1、ロシア6)にて行われ、緊急外科的・侵襲的手技の前に急速VKA中和を必要とする18歳以上の患者を登録した。 患者を、VKA投与と共に4F-PCC(Beriplex/Kcentra/Confidex;ドイツ・CSLベーリング社製)または血漿製剤を単回投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。投与量は国際標準化比(INR)と体重に基づき調整した。 主要エンドポイントは2つで、止血効果と急速INR低下(投与後0.5時間時点で1.3以下)。 解析は、最初に両エンドポイントについて非劣性(両群差の95%信頼区間[CI]下限値が-10%超と定義)を評価し、次いで非劣性が認められた場合に優越性(同0%超と定義)を評価した。 有害事象と重篤有害事象は、それぞれ10日時点、45日時点まで報告された。いずれのエンドポイントも4F-PCCの非劣性、優越性を確認 181例の患者が無作為に割り付けられた(4F-PCC群90例、血漿製剤群91例)。有効であったintention-to-treat比較集団は168例(それぞれ87例、81例)であった。 止血効果が認められたのは、4F-PCC群78例(90%)に対し血漿製剤群61例(75%)で、4F-PCCの血漿製剤に対する非劣性および優越性が確認された(両群差14.3%、95%CI:2.8~25.8%)。 また、急速INR低下を達成したのは、4F-PCC群48例(55%)に対し血漿製剤群8例(10%)で、こちらについても4F-PCCの血漿製剤に対する非劣性および優越性が確認された(両群差45.3%、95%CI:31.9~56.4%)。 4F-PCCと血漿製剤の安全性プロファイルは類似していた。有害事象の発現は4F-PCC群49例(56%)、血漿製剤群53例(60%)であった。とくに注目された有害事象は、血栓塞栓イベント(4F-PCC群6例[7%] vs. 血漿製剤群7例[8%])、輸液過剰または関連心イベント(3例[3%] vs. 11例[13%])、遅発性出血イベント(3例[3%] vs. 4例[5%])であった。

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抗凝固薬による脳内出血、血腫増大の分岐点/JAMA

 抗凝固療法の合併症で脳内出血を発症した人は、4時間以内の国際標準比(INR)が1.3未満で、収縮期血圧が160mmHg未満だと、血腫増大リスク、院内死亡リスクともに減少することが明らかにされた。オッズ比はそれぞれ0.28、0.60であった。ドイツ・エアランゲン-ニュルンベルク大学のJoji B. Kuramatsu氏らが、約1,200例の患者について行った後ろ向きコホート試験の結果、明らかにした。同発症患者について、経口抗凝固薬の再開についても分析した結果、再開は虚血イベントの低下につながることが示されたという。なお、これらの結果について著者は、前向き試験での再現性と評価の必要性を指摘している。JAMA誌2015年2月24日号掲載の報告より。血腫増大リスクや経口抗凝固薬の再開について分析 研究グループは2006~2012年にかけて、ドイツ19ヵ所の三次医療機関を通じ、抗凝固療法の合併症で脳内出血を発症した患者1,176例について追跡した。そのうち853例については血腫増大、719例については経口抗凝固薬の再開について、それぞれ分析を行った。 主要評価項目は、INR値や血圧値と血腫増大発症率との関連などだった。INR値1.3未満の血腫増大発症率は19.8%、1.3以上では41.5% その結果、血腫増大が発症したのは、853例中307例(36.0%)だった。血腫増大率低下と関連がみられたのは、入院4時間以内のINR値が1.3未満と、同じく4時間以内の収縮期血圧160mmHg未満だった。具体的には、INR値1.3未満の血腫増大率は19.8%に対し、INR値1.3以上の同発症率は41.5%(p<0.001)。収縮期血圧160mmHg未満の同発症率は33.1%に対し、収縮期血圧160mmHg以上では52.4%だった(p<0.001)。 入院4時間以内のINR値が1.3未満で収縮期血圧160mmHg未満だった場合、血腫増大に関するオッズ比は0.28(95%信頼区間[CI]:0.19~0.42、p

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心房細動による脳卒中での寝たきり予防に 提言書 第二版を発表

 公益社団法人日本脳卒中協会とバイエル薬品株式会が共同事業として展開する「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」は3月4日、「脳卒中予防への提言 ―心原性脳塞栓症の制圧を目指して―(第二版)」を発表した。本提言書は、昨年5月に発表した「脳卒中予防への提言─心原性脳塞栓症の制圧を目指すために─初版」で示した提言について、どのように実行が可能なのかを、各地で進む事例を取り上げながら、具体的な実行策を示したもの。 提言書 第二版は同プロジェクトの過去1年間の活動成果、および各地域での先進的な取り組みなどを取り上げ、自治体、保険者、医療関係者などが、提言を実行に移すための具体的な施策について提示している。提言は、1)心房細動の早期発見 2)脳卒中予防のための適切な治療の推進 3)切れ目ない地域連携で乗り越える制度間の課題──の3部構成となっており、各項目について具体的な解決策や事例を紹介している(提言の要旨は別紙参照)。 心原性脳塞栓症の予防には、心房細動を早期に発見し、脳卒中予防のための治療(主に抗凝固療法)を適切に行うことが大切だが、現在は「発見」と「治療」の両方に多くの課題があるという。同プロジェクトでは、これら課題の解決には、自治体、保険者、医療関係者などの連携が鍵を握ると考え、昨年5月に、地域一体での取り組みの必要性を「初版」として提言していた。 なお、今回発表された提言書 第二版の全文は「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」のウェブサイトに掲載されている(PDF)。詳細はプレスリリース(PDF)へ

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Vol. 3 No. 2 AF患者の脳卒中にどう対応するか? NOAC服用患者への対応を中心に

矢坂 正弘 氏国立病院機構九州医療センター脳血管センター脳血管・神経内科はじめに非弁膜症性心房細動において新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulant : NOAC)の「脳卒中と全身塞栓症予防」効果はワルファリンと同等かそれ以上である1-3)。大出血や頭蓋内出血が少なく、管理が容易であることを合わせて考慮し、ガイドラインではNOACでもワルファリンでも選択できる状況下では、まずNOACを考慮するように勧めている4)。しかし、NOACはワルファリンより脳梗塞や頭蓋内出血の発症頻度が低いとはいえ、その発症をゼロに封じ込める薬剤ではないため、治療中の脳梗塞や頭蓋内出血への対応を考慮しておく必要がある。本稿では、NOACの療法中の脳梗塞や頭蓋内出血時の現実的な対応を検討する。NOAC療法中の急性脳梗塞NOAC療法中の症例が脳梗塞を発症した場合、一般的な脳梗塞の治療に加えてNOAC療法中であるがゆえにさらに2つの点、rt-PA血栓溶解療法施行の可否と急性期抗凝固療法の実際を考慮しなくてはならない。(1) rt-PA血栓溶解療法の可否ワルファリン療法中は適正使用指針にしたがってPTINRが1.7以下であればrt-PA血栓溶解療法を考慮できる5)。しかし、ダビガトラン、リバーロキサバンおよびアピキサバン療法中の効果と安全性は確立しておらず、明確な指針はない。表1にこれまで発表されたダビガトラン療法中のrt-PA血栓溶解療法例を示す6-8)。ダビガトラン療法中の9例のうち中大脳動脈広範囲虚血で190分後にrt-PAが投与された1例を除き、8例で良い結果が得られている。それらに共通するのは、ダビガトラン内服から7時間以後でrt-PAが投与され、投与前APTTが40秒未満であった。ダビガトランの食後内服時のTmaxが4時間であることを考慮すると、rt-PA投与が内服後4時間以降であり、APTTが40秒以下(もしくは前値の1.5倍以下)であることがひとつの目安かもしれない。内服時間が不明な症例では来院時のAPTTと時間を空けてのAPTTを比較し、上昇傾向にあるか、低下傾向にあるかを見極めてTmaxを過ぎているかどうかを判断することも一法であろう。NOAC療法症例でrt-PA血栓溶解療法を考慮する場合は、少なくとも各薬剤のTmax 30分から4時間程度、ダビガトランではAPTTが40秒以下、抗Xa薬ではプロトロンビン時間が1.7以下であることを確認し、論文を含む最新情報に十分に精通した上で施設ごとに判断をせざるを得ないであろう5)。アピキサバンはAPTTやPT-INRと十分に相関しないことに注意する。抗Xa薬では、血中濃度と相関する抗Xa活性を図る方法も今後検討されるかもしれない。表1 ダビガトラン療法中のtPA血栓溶解療法に関する症例報告画像を拡大する(2) 急性期抗凝固療法心原性脳塞栓症急性期は脳塞栓症の再発率が高いため、この時期に抗凝固療法を行えば、再発率を低下させることが期待されるが、一方で栓子溶解による閉塞血管の再開通現象と関連した出血性梗塞もこの時期に高頻度にみられる。したがって、抗凝固療法がかえって病態を悪化させるのではないかという懸念もある。この問題はまだ解決されていないため、現時点では、脳塞栓症急性期の再発助長因子(発症後早期、脱水、利尿薬視床、人工弁、心内血栓、アンチトロンビン活性低下、D-dimer値上昇など)や、抗凝固療法による出血性合併症に関連する因子(高齢者、高血圧、大梗塞、過度の抗凝固療法など)を考慮して、個々の症例ごとに脳塞栓症急性期における抗凝固療法の適応を判断せざるを得ない。われわれの施設では症例ごとに再発の起こりやすさと出血性合併症の可能性を検討して、抗凝固療法の適応を決定している。具体的には感染性心内膜炎、著しい高血圧および出血性素因がないことを確認し、画像上の梗塞巣の大きさや部位で抗凝固療法開始時期を調整している(表2)9)。表2 脳塞栓症急性期の抗凝固療法マニュアル(九州医療センター2013年4月1日版)画像を拡大する(別タブが開きます)出血性梗塞の発現は神経所見とCTでモニタリングする。軽度の出血性梗塞では抗凝固療法を継続し、血腫型や広範囲な出血性梗塞では抗凝固薬投与量を減じたり、数日中止し、増悪がなければ再開する10)。新規経口抗凝固薬、ヘパリン、およびワルファリン(ワーファリン®)の投与量および切り替え方法の詳細も表2に示す。ワルファリンで開始する場合は即効性のヘパリンを必ず併用し、PT-INRが治療域に入ったらヘパリンを中止する。再発と出血のリスクがともに高い場合、心内血栓成長因子である脱水を避けること,低容量ヘパリンや出血性副作用がなく抗凝血作用のあるantithrombin III製剤の使用が考えられる11)。NOAC療法中に脳梗塞を発症した症例で、NOAC投与を考慮する場合、リバーロキサバンとアピキサバンは第III相試験が低用量選択基準を採用した一用量で実施されているので、脳梗塞を発症したからといって用量を増量したり、調節することは適切ではない2,3)。他剤に変更するか、脳梗塞が軽症であれば、あるいは不十分なアドヒアランスで発症したのであれば、継続を考慮することが現実的な対応であろう。一方ダビガトランは第III相試験が2用量で行われ、各々の用量がエビデンスを有しているので、低用量で脳梗塞を発症した場合、通常用量の可否を考慮することは可能である1)。NOAC療法中の頭蓋内出血ここではNOAC療法中の頭蓋内出血の発症頻度や特徴をグローバルやアジアでの解析結果を参照にワルファリン療法中のそれらと対比しながら概説する。(1) グローバルでの比較結果非弁膜症性心房細動を対象に脳梗塞の予防効果をワルファリンと対比したNOAC(ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)の4つの研究(RE-LY、ROCKET AF、ARISTOTLE、ENGAGE-AF)においてワルファリン群と比較してNOAC群の頭蓋内出血は大幅に減少した(本誌p.24図1を参照)1-3,12)。(2) アジアでの比較結果各第III相試験サブ解析から読み取れるアジアや東アジアの人々の特徴は、小柄であり、それに伴いクレアチニンクリアランス値が低く、脳卒中の既往や脳卒中発症率が高いことである13-16)。またワルファリンコントロールにおけるtime in therapeutic range(TTR)が低く、PT-INRが低めで管理されている症例が多いにもかかわらず、ワルファリン療法中の頭蓋内出血発症率は極めて高い特徴がある(本誌p.24図2を参照)13-16)。しかし、NOACの頭蓋内出血発症率はワルファリン群より大幅に低く抑えられており、NOACはアジアや東アジアの人々には一層使いやすい抗凝固薬といえよう。(3) NOAC療法中に少ない理由NOACで頭蓋内出血が少ない一番の理由は、脳に組織因子が多いことと関連する16-18)。組織が損傷されると組織因子が血中に含まれる第VII因子と結びつき凝固カスケードが発動する。NOAC療法中の場合は第VII因子が血液中に十分にあるので、この反応は起こりやすい。しかし、ワルファリン療法中は第VII因子濃度が大幅に下がるのでこの反応は起こりにくくなり止血し難い。次にワルファリンと比較して凝固カスケードにおける凝固阻止ポイントが少ないことが挙げられる。ワルファリンは凝固第II、VII、IX、X因子の4つの凝固因子へ作用するが、抗トロンビン薬や抗Xa薬はひとつの凝固因子活性にのみ阻害作用を発揮するため、ワルファリンよりも出血が少ない可能性がある。さらに安全域の差異を考慮できる。ある薬剤が抗凝固作用を示す薬物血中濃度(A)と出血を示す薬剤の血中濃度(B)の比B/Aが大きければ安全域は広く、小さければ安全域は狭い。ワルファリンはこの比が小さく、NOACは大きいことが示されている19)。最後に薬物血中濃度の推移も影響するだろう。ワルファリンはその効果に大きな日内変動はみられないが、ダビガトランは半減期が12時間で血中濃度にピークとトラフがある。ピークではNOAC自身の薬理作用が、トラフでは生理的凝固阻止因子が主となり、2系統で抗凝固作用を発揮し、見事に病的血栓形成を抑制しているものと理解される(Hybrid Anticoagulation)(図)16,17)。トラフ時には生理的止血への抑制作用は強くないため、それが出血を減らすことと関連するものと推測される。図 ハイブリッド抗凝固療法画像を拡大する(4) 特徴NOAC療法中は頭蓋内出血の頻度が低いのみならず、一度出血した際に血腫が大きくなり難い傾向も有するようだ。われわれはダビガトラン療法中の頭蓋内出血8例9回を経験しケースシリーズ解析を行い報告した20)。対象者は高齢で9回中7回は外傷と関連する慢性硬膜下出血や外傷性くも膜下出血などで、脳内出血は2例のみであった。緊急開頭が必要な大出血はなく、入院後血腫が増大した例もなく、多くの転帰は良好であった。もちろん、大血腫の否定はできず、血圧、血糖、多量の飲酒、喫煙といった脳内出血関連因子の徹底的な管理は重要であるが、ダビガトラン療法中の頭蓋内出血が大きくなりにくい機序としては、前述の頻度が低い機序が同様に関連しているものと推定される。(5) 出血への対応1.必ず行うべき4項目基本的な対応として、まず(1)休薬を行うこと、そして外科的な手技を含めて(2)止血操作を行うことである。(3)点滴によるバイタルの安定は基本であるが、NOACでは点滴しバイタルを安定させることで、半日程度で相当量の薬物を代謝できるので極めて重要である。(4)脳内出血やくも膜下出血などの頭蓋内出血時には十分な降圧を行う。2.場合によって考慮すること急速是正が必要な場合、ワルファリンではビタミンK投与や新鮮凍結血漿投与が行われてきたが、第IX因子複合体500~1,000IU投与(保険適応外)が最も早くPT-INRを是正できる。NOACの場合は、食後のTmaxが最長で4時間程度なので、4時間以内の場合は胃洗浄や活性炭を投与し吸収を抑制する。ダビガトランは透析で除去されるが、リバーロキサバンやアピキサバンは蛋白結合率が高いため困難と予測される。NOAC療法中に第IX因子複合体を投与することで抗凝固作用が是正させる可能性が示されている21)。今後の症例の蓄積とデータ解析に基づく緊急是正方法の開発が急務である。抗体製剤や低分子化合物も緊急リバース方法の1つとして開発が進められている。おわりにNOACは非常に有用な抗凝固薬であるが、実臨床における諸問題も少なくない。登録研究や観察研究を積極的に行い、安全なNOAC療法を確立する必要があろう。文献1)Connolly SJ et al. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151 and Erratum in. N Engl J Med 2010; 363: 1877.2)Patel MR et al. Rivaroxaban versus Warfarin in Nonvalvular Atrial Fibrillation. N Engl J Med 2011;365: 883-891.3)Granger CB et al. Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 981-992.4)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf5)日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法指針改訂部会: rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版 http://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA02.pdf6)矢坂正弘ほか. 新規経口抗凝固薬に関する諸問題.脳卒中2013; 35: 121-127.7)Tabata E et al. Recombinant tissue-type plasminogen activator (rt-PA) therapy in an acute stroke patient taking dabigatran etexilate: A case report and literature review, in press.8)稲石 淳ほか. ダビガトラン内服中に出血合併症なく血栓溶解療法を施行しえた心原性脳塞栓症の1例―症例報告と文献的考察. 臨床神経, 2014; 54:238-240.9)中西泰之ほか. 心房細動と脳梗塞. 臨牀と研究 2013;90: 1215-1220.10)Pessin MS et al. Safety of anticoagulation after hemorrhagic infarction. Neurology 1993; 43:1298-1303.11)Yasaka M et al. Antithrombin III and Low Dose Heparin in Acute Cardioembolic Stroke. Cerebrovasc Dis 1995; 5: 35-42.12)Giugliano RP et al. Edoxaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2013;369: 2093-2104.13)Hori M et al. Dabigatran versus warfarin: effects on ischemic and hemorrhagic strokes and bleeding in Asians and non-Asians with atrial fibrillation. Stroke 2013; 44: 1891-1896.14)Goto S et al. Efficacy and safety of apixaban compared with warfarin for stroke prevention in atrial fibrillation in East Asia with atrial fibrillation. Eur Heart J 2013; 34 (abstract supplement):1039.15)Wong KS et al. Rivaroxaban for stroke prevention in East Asian patients from the ROCKET AF trial. Stroke 2014, in press.16)Yasaka M et al. Stroke Prevention in Asian Patients with Atrial Fibrillation. Stroke 2014, in press.17)Yasaka M et al. J-ROCKET AF trial increased expectation of lower-dose rivaroxaban made for Japan. 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アリスミアのツボ Q20

Q20高血圧を有する心房細動患者での抗凝固療法はどう開始したらよいですか?まずは血圧管理から……。血圧管理が終わってから抗凝固療法を開始する心房細動と高血圧は蜜月いまや心房細動患者数はうなぎのぼりだと思いますが、そのほとんどに高血圧が合併しています。多くの疫学研究をみると、心房細動患者の80~90%に高血圧を合併しているというところでしょうか。つまり、ほとんどの場合、高血圧治療と心房細動治療を両者同時に行うということになりそうです。2つのことを同時に行えればよいが……では、この2つの治療をどの順序で行うべきでしょうか。両者同時に、あるいは個別に? 心不全に対するβ遮断薬とRAS抑制薬、どちらから始めるべきかという議論は決着をみることなく、できれば両者同時に、不可能なら個別に考えてという落ち着きどころがみえてきました。しかし今回の抗凝固療法と降圧、心房細動治療と高血圧治療には実はれっきとした順番があるのです。まずは高血圧治療から高血圧が残存している状態で、抗凝固療法が行われると、致命的な大出血を生じやすいことが知られているからです。心房細動で血圧が高い……これは脳梗塞のリスクが高いことを意味しているので、即座に抗凝固療法を開始したくなります。でもそこは思い留まって、まずできるだけ早急に血圧の是正を開始し、血圧が正常化するまでは抗凝固療法を開始しないという心構えを持つ必要があります。血圧が是正される前に脳梗塞になったらどうする? の逆質問もあります。医療自身によるharmはできるだけ少なくというのが私の方針です。

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アリスミアのツボ Q19

Q19超高齢者の心房細動に対して、どこまで抗凝固療法を勧めるべきなのでしょう?基本的に平均寿命の上下で分けて考えますが、見た目年齢が一番「入口戦略」だけでよいのだろうか日本、欧米を含めたすべてのガイドラインで、心房細動患者の脳卒中予防を積極的に勧めています。心房細動による脳卒中の頻度と悲惨さを知れば、もちろん私はそれに大賛成です。しかし、進む高齢化社会を考えると、少し心もとない気もするのです。CHADS2スコア、あるいはCHA2DS2-VAScスコアで、脳卒中予防に対する抗凝固療法の守備範囲ばかりを広げていく……それで大丈夫なのでしょうか。「入口戦略」ばかりが討論され、「出口戦略」はほとんど表だって討論されません。「65歳未満で基礎疾患のない心房細動」以外はすべて抗凝固療法(新規抗凝固薬が望ましい)……というESCガイドラインにのっとり、まだCHA2DS2-VAScを用いない日本のガイドラインに近いカナダのガイドラインにはすぐに欧米からケチがつく……。高齢化社会の中で「入口戦略」の入口をただひたすらその範囲を広げていくことには不安を感じます。1次予防と2次予防の立場は異なるこの問題は、1次予防を担っている医師と2次予防を担っている医師では、たぶん大きく感覚は異なるでしょう。2次予防の現場ではいくら高齢であるからといっても抗凝固療法をしないという選択肢は考えにくいでしょう。患者や患者家族も一度痛い目にあっている立場では、考え方が異なるものです。しかし、1次予防の現場では、一度も痛い目にあっていない患者、患者家族を前に、心房細動による脳梗塞を教育することに奔走し、どれだけ理解してくれたのかもわからず、大出血率の高い高齢者にどんどん抗凝固療法を行えば、いずれ脳卒中の前に大出血に出会うでしょう。しかも、抗凝固療法による大出血が引き金となって死亡に至ることも知っていると、そう簡単に入口の間口だけをただ広げるというわけにもいかないと思うのです。「フレイル」という概念しかし、年齢だけでものを語ることができないのも事実です。見た目年齢が重要……これはけっこうその患者のクレアチニンクリアランスに反映されている気もします。高齢医学では、「フレイル」という概念があります。青信号を渡れない患者、認知症を有する患者、独居老人などが挙げられています。このフレイルに相当する患者に抗凝固療法をまっとうに行うことはかなり困難でしょう。これはあくまでも個人的な考えの医療となってしまいますが、基本的に平均寿命以下ならガイドライン通りに、それ以上のフレイルに相当する患者では抗凝固療法を行わないという選択肢も医療としてありうると思っています。もちろんこれは医療者が決定することではなく、むしろ家族や介護提供者の意思がより重要視されるべきでしょう。

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皮膚科医が知っておくべき抗凝固薬と抗血小板薬の特性

 米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学のDeanna G. Brown氏らは、皮膚科臨床で新規の抗凝固薬や抗血小板薬を服用する患者と遭遇する機会が増えているとして、皮膚科医および皮膚科形成外科医が知っておくべき、従来および新規の抗凝固療法および抗血小板療法についてレビューを行った。Journal of American Academy of Dermatology誌オンライン版2014年12月6日号の掲載報告。 レビューでは、抗凝固薬や抗血小板薬をサプリメントとともに服用している従来および新規の抗凝固療法および抗血小板療法の、薬物動態、薬効、副作用を概説することを目的とした。 「アスピリン」「ワルファリン」「クロピドグレル」「ダビガトラン」「リバーロキサバン」「アピキサバン」「プラスグレル」「チカグレロル」をキーワードにPubMed検索を行い、経口抗凝固薬または抗血小板薬の周術期投与が強調されている最近のレビュー論文または出版物を選択した。さらに「皮膚科(dermatology)」「皮膚科手術(dermatologic surgery)」「皮膚手術(cutaneous surgery)」と「出血(hemorrhage)(bleeding)」「血栓症(thrombosis)」を関連させた検索も行った。 主な知見は以下のとおり。・アスピリン、クロピドグレル、ワルファリンは、投与量、モニタリング、有効性に関する情報が不十分である。・複数の試験で、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンは、ワルファリンと比較して有効性は優っており、出血リスクは同等あるいは抑制することが示されている。・プラスグレルとチカグレロルは、出血リスクの増大と関係している可能性がある。・多くの店頭で販売されている薬物にも、出血リスクと関連する無視することができない抗凝固特性がある。・本検討は、デイサージャリー患者に対する新規の経口抗凝固薬の効果を評価している出版物がほとんどない点で限定的である。・これらの所見を踏まえて著者は、「新規の抗凝固薬、抗血小板薬は、心血管疾患の治療に革命をもたらしている。これらの薬物使用がより一般的になるにつれて、皮膚科医と皮膚科形成外科医は、日常診療において出血リスクが常に存在することを心に留めておかなければならない」とまとめている。

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本当の「新規の抗凝固療法」?従来のワルファリン、ヘパリンでは影響を受けない血液凝固第XI因子機能低下による「出血しない抗凝固療法」への期待(解説:後藤 信哉 氏)-294

 新薬が開発されると「主作用」が「副作用」より効率的に発現することが期待される。抗凝固薬では「主作用」は心筋梗塞、脳梗塞、心血管死亡などの血栓イベントの低減であり、「副作用」は「重篤な出血イベントの増加」である。 古典的な経静脈的抗凝固薬ヘパリンはトロンビンとXaの、古典的な経口抗凝固薬ワルファリンはビタミンK依存性のトロンビン、第VII、IX、X因子の阻害薬であった。今までは「新薬」と呼ばれても、フォンダパリヌクス、ダビガトラン、アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバンのすべてが、古典的なヘパリン、ワルファリンも作用するトロンビン、Xaを標的としていた。血液凝固カスケードにおいてトロンビン、Xaが重要な役割を演じていること、ヘパリン、ワルファリンのいずれもモニタリングによる用量調節が必須であったことから、トロンビン、Xaの阻害薬は古典的抗凝固薬よりも「主作用」の発現が「副作用」に比較して効率的であると言われても信じ難かった。 新薬開発メーカーは各種の工夫をこらして、古典的なヘパリン、ワルファリンに対する有効性または安全性の優位性を示そうと全力を尽くしたが、公開された各種ランダム化比較試験の結果は、新規の抗凝固薬使用時の「副作用」(重篤な出血合併症)の発現リスクが無視し得ないレベルであることを示した。 筆者の友人でもあるBuller 博士らは、古典的な抗凝固薬に影響を受けない第XI因子を標的として興味深い臨床研究成果を発表した。基礎研究としては、本邦からも宮崎大学の浅田教授らが第XI因子の機能阻害による動脈、静脈血栓発症予防の可能性を示唆していた1)2)。しかし、動物モデルにおいて設定された仮説は、ヒトを対象とした臨床試験においてしばしば正しくないことが示されるので、Buller らの今回の論文には大きなインパクトがある。 本研究の対象例は300例と少ない。本試験は薬剤の臨床開発としては安全性と用量設定を主眼とする第II相試験である。並行群間オープンラベル試験であり、エンドポイントも静脈造影による深部静脈血栓の発症を含むソフトエンドポイントである。仮説検証試験としての質は試験のデザインの観点から必ずしも高いとは言えないが、抗トロンビン薬、抗Xa薬にて果たせなかった「出血しない抗凝固療法」への期待の大きさを反映してN Engl J Medに採択となった。実際、本研究の筆頭著者であるBuller 博士は、新規経口抗Xa薬エドキサバンの静脈血栓塞栓症予防効果を検証したHOKUSAI試験のprincipal investigatorでもある。抗Xa薬の限界を実感したゆえに第XI因子阻害に期待したのであろう。 本研究にて使用されたのは「抗XI薬」ではない。血液凝固第XI因子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。血液凝固第XI因子の体内合成を阻害する。第II相試験でもあり、Buller 博士らsteering committeeが「投与量」、「投与時期」を試験期間内に変更している。生真面目なヒトが多い日本では「臨床試験のプロトコールは事前に決定されているべき」と定式に考えるヒトが多いが、欧米で施行される臨床試験では現実的に試験中途で「protocol amendment」を行うことが多いこともこの機会に学んでおこう! 「modify」でも「revise」でもない「amendment」で、現実的に合わないprotocolを「修正」しながらベストの結果を目指す欧米人の現時的対応が、本研究でも用いられている。 症例数は少ないが、膝関節置換術後に静脈造影にて検出される血栓の頻度は多い。本研究でも、標準治療のエノキサパリン群で30%に血栓を認めている。用量依存性にエノキサパリンよりも血栓が少なくなる可能性と重篤な出血イベントは、エノキサパリンよりも少なくなる可能性を示唆した本研究は、血栓症専門家の視点から興味深い。 Last Authorが血栓の大家であるWeitz博士なのでアンチセンスXIの作用機序を示した図1はいかにも真実性がある。しかし、筆者の知る限り、ヒトにおいて第XI因子の血栓と出血に関する関係を示した十分な症例を含むランダム化比較試験は、本試験が最初である。Weitz博士が示すような内因性凝固因子の血栓形成における寄与が構成論的に真実であるか否かの検証は、今後の課題である3)。

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