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2017年度認定内科医試験、直前対策ダイジェスト(後編)

【第1回】~【第6回】は こちら【第7回 消化器(消化管)】 全9問消化器は、最近ガイドライン改訂が続いているため、新たなガイドラインはチェックしておきたい。また潰瘍性大腸炎とクローン病については毎年出題されているので、両疾患の相違点を確認しておくことも重要である。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)胃食道逆流症(GERD)について正しいものはどれか?1つ選べ(a)コレシストキニンは下部食道括約筋(LES)収縮作用を持つ(b)シェーグレン症候群の合併症に胃食道逆流症(GERD)がある(c)食道粘膜障害の内視鏡的重症度は、自覚症状の程度と相関する(d)非びらん性胃食道逆流症はびらん性胃食道逆流症と違い、肥満者に多いという特徴を持つ(e)除菌治療によるピロリ菌感染率低下により、今後、患者数は減少すると予想されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第8回 消化器(肝胆膵)】 全8問肝臓については、各々の肝炎ウイルスの特徴と肝細胞がんの新たな治療アルゴリズムを確認しておきたい。膵臓については、膵炎の新たなガイドラインについて出題される可能性があるので、一読の必要がある。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)肝炎について正しいものはどれか?1つ選べ(a)急性肝炎でAST(GOT)>ALT(GPT)は、極期を過ぎて回復期に入ったことを示している(b)de novo B型肝炎は、HBV既往感染者(HBs抗原陰性・HBc抗体陽性・HBs抗体陽性)にステロイドや免疫抑制薬を使用した際にHBV再活性化により肝炎を発症した状態であり、通常のB型肝炎に比べて劇症化や死亡率は低い(c)HBVゲノタイプC感染に伴うB型急性肝炎では、肝炎が遷延もしくは慢性化する可能性がほかのゲノタイプよりも高い(d)B型急性肝炎とキャリアからの急性発症との鑑別にIgM-HBc抗体価が使用される(e)HBs抗原陽性血液に曝露した場合の対応として、 被曝露者がHBs抗原陰性かつHBs抗体陰性であれば十分な水洗いと曝露時のワクチン接種ならびに72時間以内のB型肝炎免疫グロブリン(HBIG)が推奨されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第9回 血液】 全7問血液領域については、何といっても白血病が設問の中心である。認定内科医試験では、治療よりも染色の特徴、検査データ、予防因子についてよく出題される傾向がある。このほか、貧血に関する出題も多いので、しっかりと押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)急性白血病について正しいものはどれか?1つ選べ(a)急性骨髄性白血病(AML)MO・M5b・M7では、MPO染色陰性であるため、注意する必要がある(b)急性前骨髄球性白血病(APL)では、白血病細胞中のアズール顆粒内の組織因子やアネキシンIIにより、播種性血管内凝固症候群(DIC)を高率に合併する(c)AMLのFAB分類M5では、特異的エステラーゼ染色・非特異的エステラーゼ染色とも陽性を示す(d)AMLの予後不良因子は、染色体核型がt(15:17)・t(8:21)・inv(16)である(e)ATRAを用いた治療中にレチノイン酸症候群または分化症候群を発症した場合、治療中断による白血病増悪を考え、ステロイド併用などを行いつつ治療を継続すべきである例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第10回 循環器】 全9問循環器領域については、弁膜症や心筋梗塞など主要疾患の診断確定に必要な身体所見と検査所見をしっかり押さえることが重要である。高血圧や感染性心内膜炎の問題は毎年出題されているので、フォローしておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)弁膜症について正しいものはどれか?1つ選べ(a)僧帽弁狭窄症(MS)は、本邦では高齢化に伴い近年増加傾向である(b)僧帽弁狭窄症(MS)では、拡張期ランブルを聴診器ベル型で聴取する(c)僧帽弁狭窄症(MS)では、心音図でQ-I時間が短いほど、II-OS時間が長いほど重症と判定する(d)僧帽弁狭窄症(MS)の心臓超音波検査では、僧帽弁前尖の拡張期後退速度(DDR)の上昇を認める(e)僧帽弁逸脱症(MVP)は肥満体型の男性に多く認める例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第11回 神経】 全8問神経領域については、今年度も「脳卒中治療ガイドライン2015」と血栓溶解療法の適応に関する出題が予想される。各神経疾患における画像所見、とりわけスペクトとMIBGシンチグラフィは毎年出題されている。アトラス等でしっかりと確認しておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)脳梗塞について正しいものはどれか?1つ選べ(a)心原性脳塞栓症は、階段状増悪の経過をとることが多い(b)一過性脳虚血発作(TIA)で一過性黒内障の症状を認めた場合、椎骨脳底動脈系の閉塞を疑う(c)TIAを疑う場合のABCD2スコアは、A:Age(年齢)、B:BP(血圧)、C:Consciousness level(意識障害の程度)、D:duration(持続時間)とdiabetes(糖尿病の病歴)の5項目をスコアリングし、合計したものである(d)CHADS2スコア1点の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の脳卒中発症予防には、ワルファリンによる抗凝固療法が勧められている(e)血栓溶解療法(アルテプラーゼ静注療法)は、血小板8万/mm3では適応外である例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第12回 総合内科/救急】 全5問総合内科/救急では、「心肺蘇生ガイドライン2015」や、JCS・GCSスコアリング、確率計算の出題が予想される。2016年12月に「日本版敗血症診療ガイドライン2016」が発表されたので、内容を押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)事前確率25%で感度60%・特異度80%の検査が陽性であった場合の正しい事後確率はどれか?1つ選べ(a)15%(b)20%(c)50%(d)60%(e)80%例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【例題の解答】第7回:(b)、第8回:(d)、第9回:(b)、第10回:(b)、第11回:(e)、第12回:(c)【第1回】~【第6回】は こちら

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日本人心房細動患者における左心耳血栓、有病率と薬剤比較:医科歯科大

 心房細動(AF)は、一般的な心臓不整脈であり、血栓塞栓性事象を含む心血管罹患率および死亡率の増加と関連している。東京医科歯科大学の川端 美穂子氏らは、抗凝固療法中に前処置経食道心エコー(TEE)を受けている日本人非弁膜症性心房細動(NVAF)患者における左心耳(LAA)血栓の有病率を評価し、ワルファリンと直接経口抗凝固薬(DOAC)の有効性の比較を行った。Circulation journal誌オンライン版2017年2月7日号の報告。 抗凝固療法を3週間以上行ったのち、前処置TEEを受けたNVAF患者559例(男性:445例、年齢:62±11歳)をレトロスペクティブに検討した。 主な結果は以下のとおり。・非発作性のAFは、275例(49%)で認められた。・LAA血栓は、15例(2.7%)で認められた。・LAA血栓の有病率は、DOAC群(2.6%)とワルファリン群(2.8%)で同様であった(p=0.86)。・CHA2DS2-VAScスコア0、脳卒中歴のない発作性AF、一過性虚血発作では、LAA血栓を有する患者はいなかった。・単変量解析では、LAA血栓と関連していた項目は、非発作性AF、心構造疾患、抗血小板療法、左心房の大きさ、高BNP、LAA流量の減少、CHA2DS2-VAScスコアの高さであった。・多変量解析では、BNP173pg/mL以上のみがLAA血栓の独立した予測因子であった。 著者らは「経口抗凝固療法を継続しているにもかかわらず、LAA血栓は、日本人NVAF患者の2.7%に認められた。血栓の発生率は、DOAC群、ワルファリン群で同様であった」としている。

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AFの抗凝固療法での骨折リスク、ダビガトランは低減/JAMA

 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の抗凝固療法では、ダビガトラン(商品名:プラザキサ)がワルファリンに比べ骨粗鬆症による骨折のリスクが低いことが、中国・香港大学のWallis C Y Lau氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2017年3月21日号に掲載された。ワルファリンは、骨折リスクの増大が確認されているが、代替薬がないとの理由で数十年もの間、当然のように使用されている。一方、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)ダビガトランは、最近の動物実験で骨体積の増加、骨梁間隔の狭小化、骨代謝回転速度の低下をもたらすことが示され、骨粗鬆症性骨折のリスクを低減する可能性が示唆されている。リスクを後ろ向きに評価するコホート試験 本研究は、香港病院管理局が運営するClinical Data Analysis and Reporting System(CDARS)を用いて2つの抗凝固薬の骨粗鬆症性骨折リスクをレトロスペクティブに評価する地域住民ベースのコホート試験である。 CDARSの登録データから、2010年1月1日~2014年12月31日に新規にNVAFと診断された患者5万1,946例を同定した。このうち、傾向スコアを用いて1対2の割合で背景因子をマッチさせた初回投与例8,152例(ダビガトラン群:3,268例、ワルファリン群:4,884例)が解析の対象となった。 ポアソン回帰を用いて、2群の骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折および椎体骨折のリスクを比較した。罹患率比(IRR)および絶対リスク差(ARD)と、その95%信頼区間(CI)を算出した。転倒、骨折の既往例でリスク半減 ベースラインの全体の平均年齢は74(SD 11)歳、50%(4,052例)が女性であった。平均フォローアップ期間は501(SD 524)日だった。この間に、104例(1.3%)が骨粗鬆症性骨折を発症した(ダビガトラン群:32例[1.0%]、ワルファリン群:72例[1.5%])。初回投与から骨折発症までの期間中央値は、ダビガトラン群が222日(IQR:57~450)、ワルファリン群は267日(81~638)だった。 ポアソン回帰分析において、ダビガトラン群はワルファリン群に比べ骨粗鬆症性骨折のリスクが有意に低いことが示された。すなわち、100人年当たりの発症割合はそれぞれ0.7、1.1であり、100人年当たりの補正ARDは-0.68(95%CI:-0.38~-0.86)、補正IRRは0.38(0.22~0.66)であった(p<0.001)。また、投与期間が1年未満(1.1 vs.1.4/100人年、p=0.006)、1年以上(0.4 vs.0.9/100人年、p=0.002)の双方とも、ダビガトラン群のリスクが有意に低かった。 転倒、骨折、これら双方の既往歴がある患者では、ダビガトラン群のリスクが統計学的に有意に低かった(1.6 vs.3.6/100人年、ARD/100人年:-3.15、95%CI:-2.40~-3.45、IRR:0.12、95%CI:0.04~0.33、p<0.001)が、これらの既往歴がない患者では両群間に有意差は認めなかった(0.6 vs.0.7/100人年、ARD/100人年:-0.04、95%CI:0.67~-0.39、IRR:0.95、95%CI:0.45~1.96、p>0.99)(交互作用検定:p<0.001)。 事後解析では、ダビガトラン群は無治療の患者との比較でも、骨粗鬆症性骨折リスクが有意に良好であった(ARD/100人年:-0.62、95%CI:-0.25~-0.87、IRR:0.52、95%CI:0.33~0.81)。 著者は、「これら2つの薬剤と骨折リスクの関連の理解を深めるには、無作為化試験を含め、さらなる検討を要する」と指摘している。

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アブレーション周術期の抗凝固、ダビガトランが有用/NEJM

 心房細動(AF)へのカテーテルアブレーション周術期の抗凝固療法において、ダビガトランの継続投与はワルファリンに比べ大出血イベントの発生が少ないことが、米国・ジョンズ・ホプキンス医学研究所のHugh Calkins氏らが行ったRE-CIRCUIT試験で示された。脳卒中や全身性塞栓症は発現しなかったという。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2017年3月19日号に掲載された。ダビガトランなどの非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)は、ワルファリンよりも安全性が優れる可能性が示唆されているが、これを検証したデータはこれまでなかった。635例で大出血を評価する無作為化試験 本研究は、日本を含む11ヵ国104施設が参加する非盲検無作為化対照比較試験であり、2015年4月~2016年7月に患者登録が行われた(Boehringer Ingelheim社の助成による)。 カテーテルアブレーションが予定されている発作性および持続性の非弁膜症性AF患者が、2つの抗凝固薬に無作為に割り付けられた。このうち実際にアブレーションを受けた635例(ダビガトラン群:317例、ワルファリン群:318例)が解析の対象となった。 ダビガトランは150mgを1日2回投与し、ワルファリンは国際標準化比(INR)2.0~3.0を目標値とした。アブレーションは4~8週間の継続的抗凝固療法後に施行され、アブレーション中および施行後8週間の継続的抗凝固療法が行われた。 主要評価項目は、アブレーション中および施行後8週間までの大出血の発生とし、副次評価項目には血栓塞栓症などの出血イベントが含まれた。大出血イベント:1.6 vs.6.9% ベースラインの平均年齢は、ダビガトラン群が59.1歳、ワルファリン群は59.3歳、男性がそれぞれ72.6%、77.0%を占めた。発作性AFが67.2%、68.9%であり、平均活性化全血凝固時間は330秒、342秒、平均CHA2DS2-VAScスコアは2.0、2.2であった。 アブレーション中および施行後8週間までの大出血イベントの発生率は、ダビガトラン群が1.6%(5例)と、ワルファリン群の6.9%(22例)に比べ有意に低かった(リスクの絶対差:-5.3%、95%信頼区間[CI]:-8.4~-2.2、p<0.001)。ダビガトラン群の相対的なリスク低下率は77.2%であった。Cox比例ハザード解析では、ハザード比(HR)は0.22(95%CI:0.08~0.59)だった。 ダビガトラン群は、大出血イベントのうち心膜タンポナーデ(1 vs.6件)および鼠径部血腫(0 vs.8件)が少なく、アブレーション中~施行後1週間の大出血(4 vs.17件)が少なかった。また、ダビガトラン群の大出血のうち、処置を要したのは心膜タンポナーデの4例(心膜ドレナージ)のみで、特異的中和薬イダルシズマブを要する患者はいなかった。 ダビガトラン群では脳卒中、全身性塞栓症、一過性脳虚血発作(TIA)は認めず、ワルファリン群ではTIAが1例にみられた。小出血イベントの頻度は両群でほぼ同等であった(ダビガトラン群:18.6%、ワルファリン群:17.0%)。また、大出血と血栓塞栓イベント(脳卒中、全身性塞栓症、TIA)の複合エンドポイントの発生率は、ダビガトラン群が低かった(1.6 vs.7.2%)。 重篤な有害事象は、ダビガトラン群の18.6%、ワルファリン群の22.2%にみられたが、致死的イベントは発現しなかった。重度有害事象はダビガトラン群で少なく(3.3 vs.6.2%)、投与中止の原因となった有害事象の頻度は両群とも低かった(5.6 vs.2.4%)。 著者は、「ダビガトランの大出血イベントの抑制作用は、より特異的な作用機序に関連する可能性があり、凝固因子産生の抑制作用よりも、直接的なトロンビン阻害作用によると考えられる」とし、「これらのアウトカムは、ダビガトランの有用性が示されたRE-LY試験の結果と一致する」と指摘している。

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リバーロキサバン、VTE再発リスクを有意に低下/NEJM

 6~12ヵ月間の抗凝固薬投与を完了した静脈血栓塞栓症(VTE)患者において、リバーロキサバンの治療用量(20mg)または予防用量(10mg)はいずれも、アスピリンと比較し、出血リスクを増加させることなく再発リスクを有意に低下させることが認められた。31ヵ国244施設で実施された無作為化二重盲検第III相試験「EINSTEIN CHOICE」の結果を、カナダ・マックマスター大学のJeffrey I Weitz氏らが報告した。抗凝固療法の長期継続はVTEの再発予防に有効であるが、出血リスクの増加が懸念されることから、6~12ヵ月以上の抗凝固療法には抵抗感も強い。長期治療時の出血リスクを減少するため、低用量の抗凝固薬あるいはアスピリンの使用が試みられているが、どれが効果的かはこれまで不明であった。NEJM誌オンライン版2017年3月18日号掲載の報告。リバーロキサバン2用量とアスピリンの有効性および安全性を比較 研究グループは、2014年3月~2016年3月に、ワルファリンまたは直接経口抗凝固薬(DOAC)による6~12ヵ月の治療を完了した18歳以上のVTE患者3,396例を、リバーロキサバン20mg、10mgまたはアスピリン100mgの各投与群(いずれも1日1回)に1対1対1の割合で無作為に割り付け、12ヵ月間投与した。 有効性の主要評価項目は、致死的または非致死的な症候性再発性VTE、安全性の主要評価項目は大出血(2g/dL以上のヘモグロビン低下、2単位以上の赤血球輸血または致死的)とした。解析にはCox比例ハザードモデルを使用し、診断(深部静脈血栓症/肺塞栓症)で層別化も行った。リバーロキサバンで症候性再発性VTEの相対リスクが約70%減少 3,365例がintention-to-treat解析に組み込まれた(治療期間中央値351日)。 致死的/非致死的症候性再発性VTEの発生は、リバーロキサバン20mg群が1,107例中17例(1.5%)、リバーロキサバン10mg群が1,127例中13例(1.2%)、一方、アスピリン群では1,131例中50例(4.4%)であった(リバーロキサバン20mg群 vs.アスピリン群のハザード比[HR]:0.34、95%信頼区間[CI]:0.20~0.59/リバーロキサバン10mg群 vs.アスピリン群のHR:0.26、95%CI:0.14~0.47、いずれもp<0.001)。 大出血の発生率は、リバーロキサバン20mg群0.5%、リバーロキサバン10mg群0.4%、アスピリン群0.3%、重大ではないが臨床的に問題となる出血はそれぞれ2.7%、2.0%および1.8%であった。有害事象の発生率は3群すべてにおいて同程度であった。 本研究では、治療用量での抗凝固薬長期投与を必要とする患者は除外されていた。また、試験期間が最大12ヵ月と短かった。著者は「より長期にわたる継続投与の有益性を検証するさらなる試験が必要である」とまとめている。

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日本人の心房細動患者に適した脳梗塞リスク評価~日本循環器学会

 日本人の非弁膜症性心房細動(AF)患者の心原性脳塞栓症リスク評価において、脳卒中の既往、高齢、高血圧、持続性心房細動、低BMIの5つの因子による層別化が、従来のCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアによる層別化よりリスク予測能が高いことが報告された。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援による、層別化指標の確立を目的とした共同研究であり、第81回日本循環器学会学術集会(3月17~19日、金沢市)のLate Breaking Cohort Studiesセッションで弘前大学の奥村 謙氏が発表した。 非弁膜症性AF患者における心原性脳塞栓症リスクの層別化は 従来、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアが用いられており、わが国のガイドラインでも推奨されている。一方、伏見AFレジストリでは、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアの危険因子がすべてリスクとはならないということや、体重50kg以下がリスクとなることが示されている。したがって、CHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアを日本人にそのまま当てはめることは、必ずしも適切ではないということが示唆される。 本研究では、5つの大規模心房細動レジストリ(J-RHYTHM Registry、伏見AFレジストリ、心研データベース、慶應KiCS-AFレジストリ、北陸plus心房細動登録研究)のデータを統合した。非弁膜症性AF患者1万2,127例について、登録時の観察項目・リスク項目を単変量解析後、ステップワイズ法、Cox比例ハザード法を用いて多変量解析し、心原性脳塞栓症における独立した危険因子を検討した。また、各因子についてハザード比に基づいてスコアを付与し、その合計によるリスク評価が実際にCHADS2スコアより優れているかを検討した。 患者の平均年齢は70.1±11歳、平均CHADS2スコアは1.7±1.3であり、74%の患者に抗凝固療法が施行されていた。脳梗塞発症は2万267人年で226例(1.1%)に認められた。 各因子の脳梗塞発症について単変量解析を行ったところ、うっ血性心不全、高血圧、高齢、脳卒中の既往、持続性AF、高クレアチニン、低BMI、低ヘモグロビン、低ALTで有意であった。さらに多変量解析で、脳卒中の既往(ハザード比2.79、95%CI 2.05~3.80、p<0.001)、年齢(75~84歳:1.65、1.23~2.22、p=0.001、85歳以上:2.26、1.44~3.55、p<0.001)、高血圧(1.74、1.20~2.52、p=0.003)、持続性AF(1.65、1.23~2.23、p=0.001)、BMI 18.5未満(1.53、1.02~2.30、p=0.04)が脳梗塞の独立した危険因子ということがわかった。 各因子のスコアはハザード比に基づいて、脳卒中の既往を10点、75~84歳を5点、85歳以上を8点、高血圧を6点、持続性心房細動を5点、BMI 18.5未満を4点とした。スコアの合計を0~4点、5~12点、13~16点、17~33点で層別化し、カプランマイヤーによる脳梗塞累積発症率をみたところ、0~4点の群を対照として有意にリスクが上昇することが示され、C-statisticは0.669であった。抗凝固療法なしの群ではこの結果がより明らかで、C-statisticが0.691と、CHADS2スコアでの0.631、CHA2DS2-VAScスコアでの0.581より高く、リスク評価法として予測能が高まったと言える。 今回の結果から、日本人の非弁膜症性AF患者の心原性脳塞栓症リスク評価として、今回の5つの因子による評価法が従来のリスク評価法より有用と考えられる。しかし、今回のC-statisticの値はリスク評価法としてはまだそれほど高いわけではなく、客観的指標(BNPレベル、心エコーの値など)を追加することでさらに予測能が高まるのではないかと奥村氏らは推察している。

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脳卒中発症AF患者の8割強、適切な抗凝固療法を受けず/JAMA

 抗血栓療法は心房細動患者の脳卒中を予防するが、地域診療では十分に活用されていないことも多いという。米国・デューク大学医療センターのYing Xian氏らPROSPER試験の研究グループは、急性虚血性脳卒中を発症した心房細動患者約9万5,000例を調査し、脳卒中発症前に適切な経口抗凝固療法を受けていたのは16%に過ぎず、30%は抗血栓療法をまったく受けていない実態を明らかにした。JAMA誌2017年3月14日号掲載の報告。抗血栓療法の有無別の脳卒中重症度を後ろ向きに評価 PROSPER試験は、心房細動の既往歴のある急性虚血性脳卒中患者において、脳卒中の発症前にガイドラインが推奨する抗血栓療法を受けていない患者と、各種抗血栓療法を受けた患者の脳卒中の重症度および院内アウトカムの評価を行うレトロスペクティブな観察研究である(米国患者中心アウトカム研究所[PCORI]の助成による)。 対象は、2012年10月~2015年3月に、米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)によるGet With the Guidelines–Stroke(GWTG-Stroke)プログラムに参加した心房細動の既往歴のある急性虚血性脳卒中患者9万4,474例(平均年齢:79.9[SD 11.0]歳、女性:57.0%)であった。 主要評価項目は、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS、0~42点、点が高いほど重症度が重く、≧16点は中等度~重度を表す)による脳卒中の重症度および院内死亡率とした。高リスク例でさえ84%が適切な治療を受けていない 7万9,008例(83.6%)が脳卒中発症前に適切な抗凝固療法を受けておらず、脳卒中発症時に治療量(国際標準化比[INR]≧2)のワルファリンが投与されていたのは7,176例(7.6%)、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の投与を受けていたのは8,290例(8.8%)に過ぎなかった。 また、脳卒中発症時に1万2,751例(13.5%)が治療量に満たない(INR<2)ワルファリンの投与を受け、3万7,674例(39.9%)は抗血小板薬のみが投与されており、2万8,583例(30.3%)は抗血栓療法をまったく受けていなかった。 高リスク(脳卒中発症前のCHA2DS2-VASc≧2)の患者9万1,155例(96.5%)のうち、7万6,071例(83.5%)が脳卒中発症前に適切な抗凝固療法(治療量ワルファリンまたはNOAC)を受けていなかった。 中等度~重度脳卒中の未補正の発症率は、治療量ワルファリン(INR≧2)群が15.8%(95%信頼区間[CI]:14.8~16.7%)、NOAC群は17.5%(16.6~18.4%)であり、非投与群の27.1%(26.6~27.7%)、抗血小板薬単独群の24.8%(24.3~25.3%)、非治療量ワルファリン(INR<2)群の25.8%(25.0~26.6%)に比べて低かった(p<0.001)。 院内死亡の未補正発症率も、治療量ワルファリン群が6.4%(95%CI:5.8~7.0%)、NOAC群は6.3%(5.7~6.8%)と、非投与群の9.3%(8.9~9.6%)、抗血小板薬単独群の8.1%(7.8~8.3%)、非治療量ワルファリン群の8.8%(8.3~9.3%)に比し低かった(p<0.001)。 交絡因子で補正すると、非投与群に比べ、治療量ワルファリン群、NOAC群、抗血小板薬単独群は中等度~重度脳卒中のオッズが有意に低く(補正オッズ比:0.56[95%CI:0.51~0.60]、0.65[0.61~0.71]、0.88[0.84~0.92])、院内死亡率も有意に良好であった(同:0.75[0.67~0.85]、0.79[0.72~0.88]、0.83[0.78~0.88])。 著者は、「脳卒中発症前に何らかの経口抗凝固薬の投与を受けていたのは30%で、ワルファリン投与患者の64%は治療量に満たない用量(INR<2)であり、脳卒中発症前の血栓塞栓症リスクが高い患者でさえ、84%がガイドラインで推奨された抗凝固療法を受けていなかった」とまとめている。

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NOAC登場で変わる世界の心房細動の脳卒中予防

 心房細動(AF)は世界中で最もよく遭遇する不整脈で、脳卒中のリスクが5倍に高まる危険性がある。抗凝固薬、とりわけビタミンK拮抗薬が長い間、心房細動患者の基礎であり、過去の臨床試験において、コントロール群やプラセボと比較して、虚血性脳卒中を64%、全死亡率を26%減少させることが明らかになっている。Gloria-AF(Global Registry on Long Term Oral Antithrombotic Treatment in Patients with AF)は、脳卒中のリスクがあり、新規に診断された非弁膜症性心房細動に対する前向きのグローバルレジストリである。オランダのHuisman氏らは、このレジストリを用いて、ダビガトラン登場前後における世界全体での抗凝固療法の種類と割合を比較、検討した。Journal of the American College of Cardiology誌2017年2月号の掲載。86.1%がCHA2DS2-VAScスコア2以上のハイリスク患者、79.9%が抗凝固薬を使用 最初の非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(NOAC)であるダビガトランが使用可能となり、フェーズ2の研究が開始された。本研究では、フェーズ2のベースラインにおける患者データを、NOAC以前(フェーズ1)に集められたデータと比較した。 フェーズ2では、1万5,641例の患者がレジストリに登録され(2011年11月~2014年12月)、このうち1万5,092例が研究基準を満たした。横断的分析には、研究基準を満たした患者の特徴を示し、それによりAFの特徴、医学的転帰、併存疾患、薬剤の情報が集められた。解析には記述統計学の手法が用いられた。 全体の45.5%は女性で、平均年齢中央値は71歳(四分位範囲:64~78歳)であった。患者の47.1%はヨーロッパ、以下、北米(22.5%)、アジア(20.3%)、ラテンアメリカ(6.0%)、中東/アフリカ(4.0%)であった。また、86.1%の患者が、CHA2DS2-VASc スコア2以上の脳梗塞ハイリスク患者であった。13.9%はCHA2DS2-VASc スコアが1で、脳梗塞のリスクは中等度と考えられた。 全体の79.9%が経口抗凝固薬を使用しており、47.6%はNOAC、32.3%がビタミンK拮抗薬(VKA)、12.1%が抗血小板薬を使用し、7.8%は抗凝固療法を受けていなかった。比較対象のフェーズ1(1,063例)における割合は、VKA32.8%、アセチルサリチル酸41.7%、無投薬20.2%であった。ヨーロッパ、北米では半数以上がNOAC、アジアでは27.7%にとどまる ヨーロッパでは、フェーズ2においてNOACがVKAよりも頻繁に使用されており(52.3% vs.37.8%)、6.0%の患者が抗血小板薬を内服し、3.8%が抗血栓療法を受けていなかった。  北米ではNOAC、VKA、抗血小板薬がそれぞれ、52.1%、26.2%、14.0%であり、7.5%は抗血栓療法を受けていなかった。 アジアでは、ヨーロッパや北米と比較するとNOACは27.7%で、それほど頻繁に使われておらず、VKA27.5%、抗血小板薬25.0%で、19.8%は抗血栓療法を受けていなかった。 GLORIA-AF試験で示された、新たに診断された非弁膜症性心房細動の患者のベースラインデータにおいて、NOACが実臨床で広く使用されており、ヨーロッパや北米ではVKAよりも頻繁に使用されていることが明らかになった。しかしながら、世界全体をみると、かなりの割合の患者が依然として十分な治療を受けておらず、その傾向はとくに北米とアジアで顕著であった。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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金子英弘のSHD intervention State of the Art 第7回

肺静脈隔離術後の抗凝固中止は脳梗塞リスク?今回はSHD interventionの話題からは少し離れますが、心房細動患者さんへの肺静脈隔離術後の脳梗塞リスクについて興味深い報告1)がJAMA Cardiology誌に掲載されましたのでご紹介します。肺静脈隔離術(Pulmonary vein isolation; PVI)は心房細動に対する標準的なアブレーション治療として確立されていますが、PVIが脳梗塞のリスクを軽減できるかについては明らかでありませんでした。本試験においては、PVI後に抗凝固療法を中止することに伴う脳梗塞リスクについて検討を行いました。対象は2006年1月から2012年12月までにスウェーデンのSwedish Catheter Ablation Registerに登録された合計1,585名の初回PVIが施行された心房細動症例(平均観察期間2.6年)です。抗凝固療法としてはワルファリンが用いられました。登録された1,585名のうち、73%は男性で平均年齢は59歳、CHAD2DS2-VAScスコアは平均1.5でした。1,175名が1年以上にわたってフォローされ、そのうち360名(31%)が1年以内にワルファリンを中止していました。その結果、CHAD2DS2-VAScスコアが2以上の症例ではワルファリン中止群でワルファリン継続群と比較して脳梗塞の発生率が上昇していました(1.6%/年 vs.0.3%/年、 p=0.046)。そしてCHAD2DS2-VAScスコアが2以上あるいは脳梗塞の既往がある症例ではワルファリン中止によって脳梗塞発症のハザード比がそれぞれハザード比4.6(p=0.02)、13.7(p=0.007)と上昇していました。 この結果から本論文では、ハイリスク症例においては心房細動に対するPVI後にワルファリンを中止することは安全ではないことが示唆されると述べられています。本連載でも心房細動症例における脳梗塞予防法である左心耳閉鎖術について取り上げたように、心房細動症例における脳梗塞予防は非常に大切です。もちろんPVIは心房細動の根治治療を目指す治療であり、脳梗塞予防だけが目的ではありません。しかしながらPVIが奏効した症例でもCHAD2DS2-VAScスコアが高い症例や脳梗塞の既往がある症例では抗凝固療法が中止できないとなると、今後の治療におけるdecision makingにも影響を及ぼす可能性があります。もちろん本研究は症例数・イベント数共に限られ、またレジストリ研究でもあることから、今回の結果のみから考察されることには限界があります。また、PVI治療後の心房細動再発の有無についても電気的除細動や再度のPVIなどの記録から判定していますので、ワルファリン中止群で心房細動の再発が見逃された結果として、多くの脳梗塞が発症した可能性もあります。一方で心房細動における脳梗塞予防を主眼においた場合には、現在、いくつかのヨーロッパの施設で試験的に行われているようにPVIと左心耳閉鎖術を一期的に行うというオプションも脳梗塞のハイリスク症例やPVI後の再発が予想される症例に対しては1つの現実的な選択肢かも知れません。また、本試験においてはPVI後の脳梗塞イベントが心房細動に伴う心原性脳梗塞であるかについても不明です。ワルファリンを中止した群での脳梗塞発生も1.6%/年であり、CHAD2DS2-VAScスコア2点以上の心房細動症例における脳梗塞の自然発生率2)を下回っています。したがってPVIが脳梗塞の抑制に無効だとはいえませんし、アテローム血栓性やラクナ梗塞など心原性以外のエチオロジーによるものだとすればPVIを行ってもこれらを予防することは出来ないのは当然です。一方でワルファリンは、血小板活性化因子であるトロンビンの産生を抑制しますので、抗凝固作用だけでなく、血小板凝集に対し抑制的に働く、と考えることができます。また、心原性脳梗塞だけでなく、非心原性脳梗塞に対する有用性も報告されていますので、3)、ワルファリン投与により心原性以外の脳梗塞が予防され、今回のような結果が導かれた可能性があります。議論が少し飛躍しますが、このようなことを考えた時にWatchman(R)(ボストン・サイエンティフィック社)を用いた左心耳閉鎖術後にバイアスピリンを永年継続させるというPROTECT-AF試験のプロトコールは「良い落としどころ」なのかも知れません。今後、さらに高齢化が進むことが予想される先進国において、心房細動症例における脳梗塞の予防はきわめて大きなテーマです。Watchman(R)の日本への導入機運も高まる中で、本論文を含めて、心原性脳梗塞のトータルマネージメントについて考えることが重要になってくると考えています。1)Sjalander S, et al. JAMA Cardiol. 2016 Nov 23. [Epub ahead of print]2)Lip GY, et al. Stroke. 2010 Dec;41(12):2731-27383)Mohr JP, et al. N Engl J Med. 2001;345:1444-1451.

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正直驚いたNEJMにおける心房細動合併PCI例の標準治療の設定…(解説:後藤 信哉 氏)-623

 EBMは「平均的症例」の「標準治療」の確立に役立つ。ばらつきが大きく「平均的症例」の幅が広い場合にランダム化比較試験を行っても、その結果の臨床的インパクトは乏しい。抗凝固療法が勧められる症例は「脳卒中リスクを伴う心房細動」であり、抗血小板薬併用療法が勧められるのは「PCI/Stent留置後」の症例である。抗凝固療法による重篤な出血合併症は年率2~3%であり、抗血小板薬併用療法による重篤な出血合併症は年率1%程度である。各々、単独でも100例のうち数例が重篤な副作用を起こす医療介入の決断は苦しい。PCI/Stent後は、1年以上→1年→6ヵ月と推奨期間が短縮しているので、絶対的な出血イベントリスクは減少している。脳卒中リスクは加齢と共に増加するので、一度抗凝固療法を始めてしまうと出血リスクを長期に引きずることになる。PCI/Stent後の抗血小板療法は、併用療法からクロピドグレルないし相同薬(プラスグレル、チカグレロル)単独への流れはあるが、抗血小板薬なしの選択は厳しい。「心房細動と脳卒中リスクを合併した」「PCI/Stent症例」では、一定期間のクロピドグレルないし相同薬を必須として、その後の併用薬を考えることになる。適応症のほかに医師の裁量を考えれば、日本には25 mgのクロピドグレルの錠剤がある。欧米と異なり、個別調整が可能である。プラスグレルの場合には、世界の1/3量が日本の推奨用量でもある。最小限の基盤治療さえ標準化できない状況でのランダム化比較試験の目的の設定は、きわめて困難である。 最近、悪者になりがちなワルファリンはPT-INRに応じた個別最適化が可能である。PT-INR 2~3を標的としたワルファリン治療を仮の標準治療として、各種NOACの開発試験が施行されたが、各種NOAC試験はINR 2~3を標的としたワルファリン治療による重篤な出血合併症が3%程度と、実臨床との解離を示した。実臨床では、PT-INR 2前後を標的とした医師もいれば、INR 1.6程度を標的とした医師もいる。アジア地区のPT-INRのコントロールは、実態として1.5~2程度であることも示されている1)。抗凝固薬のアームは、ワルファリンでも標的PT-INRの設定を標準化できない。抗血小板薬併用療法にて十分に出血イベントが起こることを経験している臨床医は、現実には低い標的PT-INRを設定していると想定されるが、実態のデータもない。過去に「標準治療」が確立されていない段階ではランダム化比較試験を施行しても、その結果を将来の「標準治療の転換」には利用できない。ヤンセン、バイエルが試験の「スポンサー」であるが、将来の「標準治療の転換」、適応拡大につながらない可能性のある試験への投資は難しかったと想定される。 抗血小板薬による出血リスクの増加を当然のこととして、抗凝固薬を減量するのは当然の発想である。しかし、ワルファリンではあえて、「脳卒中リスクを有する心房細動」にて十分に出血したPT-INR 2~3を標的とした。しかし、「スポンサー」が売っているリバーロキサバンは減量した。世界では「脳卒中リスクを有する心房細動」には20mgを使用するが、15mgに減量した。出血を恐れている以外の理由が考えられるだろうか? 出血を恐れるのであれば、なぜワルファリンのPT-INRの標的を下げなかったのであろうか? 日本では適応を取得していないが、欧州では過去のATLAS-TIMI 51試験の結果に基づき、2.5mg×2/日のリバーロキサバンが急性冠症候群に承認されている。急性冠症候群の心血管イベントが減少し、出血イベントは増えることが2.5mg×2/日のリバーロキサバンでも示されているので、この用量にて「脳卒中リスクを有する心房細動」の心原性脳血栓塞栓を予防できれば、そこには新規性がある。 筆者は「標準治療」が確立されていない領域での「仮の標準治療」設定時には、試験の最初から終了まで一貫して当初の仮定が「仮の標準治療」であることを、著者、読者、共に理解しなければならないと思う。本試験にて「仮の標準治療」とされた抗血小板薬併用療法とPT-INR 2~3を標的としたワルファリン治療の組み合わせは、一般的な「脳卒中リスクを有する心房細動」に「PCI/Stent」をするときに、INR 2~3を標的としたワルファリンと抗血小板薬併用療法を併用すると、臨床的に意味のある出血イベントが年率27%も起こるとされた。New Engl J Medのような一流雑誌であっても、「仮の標準治療」とされるべきPT-INR 2~3を標的としたワルファリンと抗血小板薬併用療法の併用を「standard of therapy」と記載している。確立された「標準治療」のない領域にて「仮の標準治療」を設定するのは危険である。本試験の結果を拡大解釈しないように賢く対応することが重要と、筆者は考える。

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ヘパリン起因性血小板減少症〔HIT:heparin-induced thrombocytopenia〕

1 疾患概要■ 定義ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)は、治療のために投与されたヘパリンにより血小板が活性化され、血小板減少とともに新たな血栓・塞栓性疾患を併発する病態である。■ 疫学HITの頻度は報告によりさまざまであるが、欧米では約1~3%とされている。わが国においては多施設共同前向き観察研究の結果、ヘパリン治療を受けた患者の0.1~1%程度の発症率と考えられ1)、海外と比較してやや低い発症率と考えられる。■ 病因HITの発症において、血小板第4因子(platelet factor 4: PF4)とヘパリンの複合体に対する抗体(HIT抗体)が中心的な役割を果たす。PF4は、血小板α顆粒に貯蔵されているケモカインであり、血小板活性化に伴って流血中に放出される。PF4は血管内皮細胞上のヘパラン硫酸などのヘパリン様物質と結合するが、投与されたヘパリンはこの内皮細胞上のPF4と複合体を形成し、その結果PF4に立体構造の変化、新たなエピトープが露出すると推定されている。PF4・ヘパリン複合体に対してHIT抗体が産生され、HIT抗体はそのFab部分でPF4分子を認識する一方、そのFc部分が血小板上のFcγRIIA受容体に結合して、血小板を強く活性化する。また、HIT抗体は血小板のみならず、血管内皮細胞や単球の活性化も引き起こし、最終的にはトロンビンの過剰生成につながる。トロンビンは凝固系の中心的役割を担うだけでなく、血小板も強く活性化し、HITにおける病態の悪循環形成に関与していると考えられる2)。■ 症状典型例ではヘパリン投与の5~10日後にHITの発症を見るが、過去3ヵ月以内にヘパリンを投与された既往のある症例などでは、すでにHIT抗体が存在するためにヘパリン投与後HITが急激に発症することもある。通常血小板数は50%以上、また10万/μL以下に減少する。HIT症例では注射した部位に発赤や壊死などが起きやすい。HIT症例の35~75%に動静脈血栓症が起きるが、血栓症がすぐに起きない症例でもヘパリンを中止し、他の抗凝固療法を行わないと血栓症のリスクが高くなる。静脈血栓症としては深部静脈血栓、肺梗塞、脳静脈洞血栓などが知られるとともに、静脈血栓症より頻度は少ないが、動脈血栓症としては上下肢の急性動脈閉塞、脳梗塞、心筋梗塞などが起きる。■ 分類従来、ヘパリン投与後の血小板減少症は2つの型に分類されてきた。1型はヘパリン投与患者の約10%に認められ、ヘパリンの直接作用による非免疫性の機序で血小板減少が起きる。ヘパリン投与直後より、一過性の軽度から中等度の血小板減少が起きるが、血小板数は10万/μL以下になることは少なく、また、血栓症を起こすこともない。現在では本当の意味のHITではないと考えられ、ヘパリン関連性血小板減少症とも呼ばれる。2型は、免疫学的機序による血小板減少症と動静脈血栓症が起きるもので、現在はHITというと、この2型を意味する。2型には血小板減少が、ヘパリン投与後5~14日で起きる典型例と、直近(約100日以内)のヘパリン投与などにより、HIT抗体が高抗体価である患者にヘパリン投与した場合、数分から1日以内に急激に発症する症例があり、「急速発症型」と名付けられている。■ 予後HITの適切な治療が行われなかった場合、約50%の患者に動脈血栓症、静脈血栓症が起き、死亡率は10%を超える。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断ヘパリン投与後の血小板減少の程度、発症期間、血栓症の合併、注射した部位の発赤や壊死などのHITの臨床的特徴を用いた4T スコアリングシステムが開発され、臨床的に有用とされている3)(表)。低スコア(0~3)の場合は、ほぼHITの存在が否定できる。中間スコア、高スコアとHITの確率は高くなるが、血清学的診断の結果も考慮して、総合的に診断を行うことで、現在散見されるHITの過剰診断を防ぐことができる。画像を拡大する■ 血清学的診断免疫測定法などによるPF4・ヘパリン複合体検出法とHIT抗体が血小板を活性化させることを利用した機能的測定法がある。1)免疫測定法ELISA法、ラテックス凝集法、化学発光免疫測定法などがあり、後2法は保険収載されている。HIT検出の感度は高い(80~100%)が、特異度はやや低いとされており、免疫測定法によるHIT抗体陰性の症例はほぼ(90~99%)HITを否定しても良いとされている。偽陽性率が多い原因は、臨床的に意味がないと考えられているIgMやIgAを、実際にHITを引き起こすIgGとともに測り込んでしまうためと考えられている。強陽性例(とくにIgG抗体)は、弱陽性例よりもHITである可能性が高いと報告されている。2)機能的測定法HIT抗体が実際に血小板を強く活性化させるかどうかを判定する機能的測定法は、とくに特異度に優れており、臨床的にHITが疑われ、機能的測定法が陽性であれば、HITの診断に強く繋がる。患者血漿、ヘパリンを健康な人の血小板に加え、血小板凝集能を測定する方法、セロトニン放出などでHIT抗体の存在を評価する方法が行われている。ただ、機能的測定法は、高いクオリティコントロールと標準化を必要とし、わが国では研究室レベルにとどまる。最近、わが国では、HIT抗体により活性化された血小板より産生される血小板マイクロパーティクルをフローサイトメトリーで測定することにより、機能検査を行っている施設があり、臨床的に有用との評価を得ている4)。3 治療HITが疑われる場合は、ただちにヘパリンを中止し、HITの確定検査を行いながら、代替の抗凝固療法を始める。治療薬として投与されているヘパリンのみならず、ヘパリンロック、ヘパリンコーティングカテーテルなども中止する必要がある。また、HITによる血栓症がすでに起きてしまった場合は、血栓溶解療法、外科的血栓除去術も必要になることがあるが、この適応についてのわが国でのエビデンスは乏しい状態である。ワルファリン単独療法は、protein C、Sなどの低下によりかえって血栓症を増悪し、皮膚壊死などを来すので、禁忌である。ワルファリンは、抗トロンビン剤などの投与により血小板数がある程度回復したときに、投与を始め、臨床症状が安定化してからワルファリン単独投与に切り替える。アスピリンなどの抗血小板剤も、適応のある治療法とは認められていない。■ アルガトロバンとダナパロイドHITの治療法としてわが国で使用可能な薬剤は、アルガトロバン(商品名: ノバスタンHI、スロンノンHI)とダナパロイド(同: オルガラン)である。1)アルガトロバン合成トロンビン阻害剤であり、以前より脳血栓急性期、慢性動脈閉塞症などで認可されているが、最近になり医師主導型治験の結果、HITの治療薬として薬事承認された。アルガトロバンの初期投与量は、アメリカでは2.0μg/kg/分であり、aPTTを使用として投与前値の1.5~3倍になるように投与量を調節することが推奨されているが、日本人でこの量では出血傾向が起きるようであり、わが国での推奨初期投与量は0.7μg/kg/分(肝機能障害者では0.2μg/kg/分)である。2011年にはさらにHIT患者における体外循環時の灌流血液の凝固防止、HIT患者における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)にも適応が拡大された。2)ダナパロイド低分子量のヘパリノイドであり、ヨーロッパ、北米などでHIT治療薬として使用され、その有効性は確認されている。わが国では播種性血管内凝固症候群(DIC)への適応は承認されているが、HITへの治療量についてはまだ確立していない。ダナパロイドの添付文書では、HIT抗体がこの薬剤と交差反応する場合は、原則禁忌と記載されているが、最近の大規模臨床研究では、ヘパリンとの交差反応(血清反応および血小板減少や新規の血栓症発生などの臨床経過より評価)は3.2%とかなり低い値であった5)。アルガトロバンと異なり胎盤通過性がないなどの利点があり、症例によってはわが国でも選択されるべき薬剤の1つであろう。4 今後の展望HITは、わが国における一般の認識度の増加とともに症例数が増加してきており、簡便で信頼性のある診断方法の開発が望まれる。新規経口抗凝固薬(NOAC)のHIT治療薬としてのエビデンスはまだ少ないが、これから検討が進むことが期待される。5 主たる診療科輸血部、心臓血管外科、循環器内科 など患者を紹介すべき施設国立循環器病研究センター病院 輸血管理室6 参考になるサイト診療・研究情報国立循環器病研究センター病院 輸血管理室(医療従事者向けのまとまった情報)NPO法人 血栓止血研究プロジェクト HITセンター(医療従事者向けのまとまった情報)1)Kawano H, et al. Br J Haematol. 2011;154:378-386.2)Warkentin TE. Curr Opin Crit Care. 2015;21:576-585.3)Greinacher A. N Engl J Med. 2015;373:252-261.4)Maeda T, et al. Thromb Haemost. 2014;112:624-626.5)Magnani HN, et al. Thromb Haemost. 2006;95:967-981.公開履歴初回2016年12月6日

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完全磁気浮上型HeartMate IIIは第4世代のLVADとなるか?(解説:絹川 弘一郎 氏)-617

コメント対象論文Mehra MR, et al. N Engl J Med. 2016 Nov 16. [Epub ahead of print] 植込み型左室補助人工心臓LVADは、第1世代の拍動流型(Novacor、HeartMate I)、第2世代の軸流ポンプ型(HeartMate II、Jarvik 2000)、第3世代の遠心ポンプ型(EVAHEART、DuraHeart、HVAD)に分類されることが多い。内科治療抵抗性の重症心不全に対して、REMATCH試験という金字塔を打ち立てた第1世代の拍動流型HeartMate Iは、第2世代のHeartMate IIに瞬く間に駆逐されたが、2008年以来世界中で植込まれ、現在でもベストセラーとなっているのは実はそのHeartMate IIのままである。より新しい技術と考えられた第3世代の遠心ポンプ型で、動圧浮上と磁気浮上を組み合わせたHVADは、ADVANCE試験の結果をみると脳血管障害やポンプ血栓症などの重大合併症はHeartMate IIと同等かむしろ多いという結果で、第3世代が第2世代を凌駕するには至っていない。 そこに今回登場したのがHeartMate IIIである。遠心ポンプという点で第3世代に属し、さらに完全磁気浮上を電磁石により達成し、非接触軸受であるばかりかその間隙がHVADよりも20倍程度大きいということで、小型化を実現しながら血液成分に対する機械的影響がきわめて少ないという想定であった。その効果は、このMomentum 3試験で期待を裏切らず遺憾なく発揮されるところとなり、HeartMate IIで植込み後6ヵ月間に約10%の患者で認められたポンプ血栓症はHeartMate IIIではゼロ!であった。HeartMate IIIの1次エンドポイントの優越性を支えているのはポンプ血栓症によるデバイス交換の回避ということに尽きるようで、全死亡やよく知られた重大なその他の合併症(右心不全、不整脈、消化管出血、脳血管障害、ドライブライン感染)に関しては、基本的にHeartMate IIと差がない。植込み型LVADの最大の問題点として上記のさまざまな合併症による再入院率が、植込み後1年で75%にも上ることが指摘されている。 したがって、HeartMate IIIにおいても一定程度の再入院は引き続きケアする必要があるということになるが、ポンプ交換を必要とする医療コスト的にもまた患者の生命リスクにとっても重大イベントであるポンプ血栓症がデバイスの進化によってほとんど駆逐できたということは著しい進歩といえる。また、ポンプ血栓症がほぼ皆無ということになれば、抗凝固療法を一定程度緩和することで少なくとも重大な消化管出血や一部の脳出血の発症を減らすことができると考えられ、この結果を受けたHeartMate III植込み後のさらなる抗凝固プロトコル最適化が期待される。 実は、HeartMate IIIにはもう1つ回転数を周期的変化させるモードにより連続流型LVADの問題点である脈圧の狭小化を回避できる可能性がある。消化管出血の大きな原因となっている消化管の動静脈奇形出現は、少なくとも一部はこの連続流型LVADの脈圧狭小化によって生じるとの意見が強く、今回のMomentum 3試験6ヵ月時点で消化管出血に差は出ていないものの、予定されている長期フォローデータでは異なる結果になる可能性もある。いずれにせよ、NEJM誌に掲載されたことからすでにCEマークは取得しているがFDAの認可も間もなくではないか。 さて、最後にわが国の対応である。日本での植込み型LVADは、2016年12月現在保険償還されている機種はEVAHEART、HeartMate II、Jarvik 2000であり、Duraheartは2017年3月販売終了の予定で、今後の新規植込みはまずないものと思われる。HVADも治験終了し、製造販売承認手続き中である。しかしながら、Momentum 3試験のデータは、HeartMate IIIが今後第4世代のLVADとなりうる可能性を十分予想させるものであり、どのような形でわが国に導入されていくか、黒船襲来ともいうべきインパクトを感じる。

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日本初のDOAC中和剤発売、迅速・完全・持続的な効果

 経口抗凝固薬ダビガトランに対する特異的中和剤であるイダルシズマブ(商品名:プリズバインド、日本ベーリンガーインゲルハイム)が、7ヵ月という短い審査期間で今年9月に承認され、11月18日に発売された。11月15日の発売記者説明会では、国立病院機構九州医療センター脳血管センター脳血管・神経内科の矢坂正弘氏が、抗凝固薬による出血リスク、イダルシズマブの効果や意義について紹介し、「迅速・完全・持続的に効果を示すイダルシズマブは臨床現場で有用な薬剤になるだろう」と述べた。DOACでも大出血は起こりうる 心原性脳塞栓症予防のための抗凝固療法において、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)はワルファリンと比較し、「管理が容易」「脳梗塞予防効果は同等かそれ以上」「大出血は同等かそれ以下」「頭蓋内出血が大幅に低下」というメリットがあり、ガイドラインでも推奨されるようになった。しかしDOACでも大出血は起こりうる、と矢坂氏は強調する。大出血時の一般的な対応は、まず休薬し、外科的処置を含めた止血操作、点滴でのバイタルの安定、出血性脳卒中なら十分な降圧を行うことである。この処置に加えて、活性炭や第IX因子複合体(保険適応外)の投与などの工夫がなされてきたが、より急速な中和剤が望まれていた。このような現状の中、ダビガトランに特異的な中和剤イダルシズマブが承認された。 商品名のプリズバインド(PRIZBIND)は、PRazaxaとIdaruciZumabがBIND(結合)して効果を発揮することに由来しているという。効能・効果は次のとおり。 以下の状況におけるダビガトランの抗凝固作用の中和  ・生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時  ・重大な出血が予想される緊急を要する手術又は処置の施行時中和剤に求められる特性を達成 矢坂氏は、中和剤に求められる特性として、「迅速に」「完全に」「持続的に」効くという3つを挙げ、「イダルシズマブはこれを達成した中和剤と言える」と紹介した。 国内第I相試験によると、イダルシズマブ静注後1分以内に、希釈トロンビン時間(dTT)が正常値上限を下回り(すなわち、抗凝固作用を完全に中和)、それが24時間持続することが示され、第III相試験(RE-VERSE AD試験)においても同様に、迅速・完全・持続的な中和効果が認められている。 RE-VERSE AD試験における患者において、出血の種類は消化管出血・頭蓋内出血が大部分を占め、緊急手術・処置の理由は骨折が最も多かった。 また、同試験の中間集計では、243例中13例(5.3%)に脳梗塞や深部静脈血栓症などの血栓性イベントが発現したが、1例を除き血栓性イベント発現時点で抗凝固療法を再開していなかった。矢坂氏は、これは抗凝固療法を適切な時点で再開するようにというメッセージを示していると述べた。ダビガトランの場合は24時間後に再開が可能であり、他の抗凝固薬であれば24時間以内でも投与できる。中和剤は自動車のエアバッグのようなもの 矢坂氏は、中和剤の必要性について、「DOACはワルファリンに比べて頭蓋内出血は大幅に低下するがゼロになるわけではなく、また避けられない転倒や事故による出血も起こりうるので、リバースする中和剤は必要である」と指摘した。 中和剤はよく自動車のエアバッグに例えられるという。エアバッグがなくても運転できるし、ほとんどの人は事故に遭わないが、なかには衝突し、エアバッグがあったので助かったということも起こりうる。このエアバッグに相当する中和剤があるということは「抗凝固薬選択のオプションの1つになるだろう」と矢坂氏は述べ、講演を終えた。

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生分解性ポリマーDES vs.耐久性ポリマーDES、1年後の結果/Lancet

 薬剤溶出ステント留置術を要す冠動脈疾患に対する、極薄型ストラット生分解性ポリマー・エベロリムス溶出ステントまたはシロリムス溶出ステントは、耐久性ポリマー・ゾタロリムス溶出ステントと比較し、術後1年後のアウトカムについて、非劣性であることが示された。オランダ・Thoraxcentrum TwenteのClemens von Birgelen氏らが行った、大規模無作為化比較試験「BIO-RESORT」の結果、明らかにした。Lancet誌オンライン版2016年10月30日号掲載の報告。1年後の心臓死・標的血管関連心筋梗塞の発生率などを比較 BIO-RESORT試験は、2012年12月21日~2015年8月24日にかけて、オランダ国内4つのクリニックにて、冠動脈疾患で薬剤溶出ステント留置術を要する18歳以上の患者3,514例を対象に行われた。除外基準は、主要エンドポイント達成前に、他の割付治療(薬物またはデバイス)を受けた場合、施術後6ヵ月以内に抗血小板薬2剤併用療法の中断が予定されている場合、割付治療薬剤や関連薬剤(抗凝固療法や抗血小板療法など)に対する既知の不耐性が認められる場合、フォローアップ治療へのアドヒアランスまたは1年未満の推定予後が不確定な場合、妊娠が明らかな場合だった。 被験者はコンピュータ無作為化にて3つの群に割り付けられ、1群には極薄型ストラット・エベロリムス溶出ステントを、2群には極薄型ストラット・シロリムス溶出ステントを3群には薄型ストラット・耐久性ポリマー・ゾタロリムス溶出ステントを、それぞれ留置した。 主要評価項目は、12ヵ月後の安全性(心臓死または標的血管関連の心筋梗塞の発症)および有効性(標的血管再建術の実施)の複合エンドポイントで、生分解性ポリマーを用いた2つの群と、耐久性ポリマー・ゾタロリムス群を比較した。非劣性マージンは3.5%だった。主要評価項目発生率、いずれの群も5% 被験者のうち、70%(2,449例)が急性冠症候群で、31%(1,073例)がST上昇型心筋梗塞の患者だった。 検討の結果、主要評価項目の発生率は、エベロリムス群が5%(55/1,172例)、シロリムス群が5%(55/1,169例)に対し、ゾタロリムス群は5%(63/1,173例)だった。ゾタロリムス溶出ステント群に対して、極薄型ストラット・生分解性ポリマーを用いたエベロリムスおよびシロリムスの両ステントの非劣性が示された(絶対リスク差:両群とも-0.7%、95%信頼区間:-2.4~1.1、非劣性のp<0.0001)。 学術研究コンソーシアム(Academic Research Consortium)の定義による確定的ステント血栓症は、エベロリムス群は4例(0.3%)、シロリムス群は4例(0.3%)、ゾタロリムス群は3例(0.3%)の発生だった(log-rank検定によるゾタロリムス群と他2つの群との比較のp=0.70)。

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金子英弘のSHD intervention State of the Art 第5回

TAVIの新たな課題~デバイス血栓症~世界的に急速に普及が進む経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)ですが、それに伴い術後の人工弁血栓症が新たな懸念として浮上しています。これまでの報告では「TAVI後の人工弁血栓の発生はきわめてまれである」とされてきました1)~3)。一方で、人工弁血栓がTAVI後の大動脈弁圧較差の原因となりうること3)、そして生体弁による外科的弁置換術後の血栓症も予想以上に多く、術後数年を経過してから発生すること4)もありうることが報告されています。われわれの施設でもTAVI後、約2年が経過した症例で人工弁に血栓が生じ、左冠動脈主幹部に塞栓症を起こし、重篤な転帰となった症例を経験しており5)、見逃すことのできない合併症と考えています。最近、TAVI後の血栓症について新たな興味深い報告が発表されましたので紹介したいと思います。本研究では、デンマークの単施設で行われたSAPIEN XTあるいはSAPIEN 3を用いたTAVIの連続登録症例460例のうち、術後1~3ヵ月以内にMDCTおよび経胸壁・経食道心エコーによる人工弁血栓症の評価が行われた405例で解析が行われました。その結果、28例(7%)の症例で血栓の発生が確認され、大きな人工弁(29mm)留置と、術後ワルファリン未使用が人工弁血栓の独立した予測因子であることが示されました。また、ワルファリン使用によって人工弁血栓が消退することも同時に報告されています6)。これまでの報告と同様に、今回の研究でも多くの症例で人工弁血栓症は無症候性で、脳梗塞の発症などのイベントとの関連を示すには至っていません。ただ、当院で経験した症例のように重篤な転帰に至る症例もあることから、TAVI後の人工弁血栓の臨床的意義、予測因子、そして予防法・治療法を明らかにすることは非常に重要です。TAVI後の抗血栓療法のレジメンとしては、心房細動を合併しない症例では、アスピリン・クロピドグレルの抗血小板薬2剤併用を6ヵ月間、その後抗血小板薬1剤を継続することが推奨されています。しかしながら、今回の研究結果をみると、血栓症のリスクの高い症例では抗凝固療法を加えたプロトコルのほうが優れているのではないかとも考えられます。この点については、現在進行中のRandomized trialであるGALILEO trial、 POPular-TAVI trial、ATLANTIS trialなどの結果によって明らかになると思われます。これまでの連載で紹介したSAPIEN 3(エドワーズライフサイエンス社)など新世代デバイスの登場によって急性期の合併症が著しく減少したTAVIですが、その分、今後はこのような長期的な予後や管理について明らかにすることが重要になってくると考えています。ドイツでは年間1万3,000例以上のTAVIが行われ、私が勤務する施設においても年間300例以上と、大変多くの症例を経験することができています。これまではTAVIにおける症例選択やより安全なTAVIの施行に重点を置いてきましたが、今後は術後の至適治療という視点からもTAVIについて考えていきたいと思っています。1.Latib A, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2015;8.2.De Backer O, et al. Eur Heart J. 2016;37:2271.3.De Marchena E, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2015;8:728-739.4.Egbe AC, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66:2285-2294.5.Neuss M , Kaneko H, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2016.6.Hansson NC, et al. J Am Coll Cardiol. 2016.

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エドキサバンは電気的除細動時の抗凝固療法として有用/Lancet

 エドキサバンは、心房細動(AF)患者への電気的除細動施行時の抗凝固療法として、エノキサパリン+ワルファリンと同等の高度な安全性と有効性を発揮することが、ドイツ・St Vincenz病院のAndreas Goette氏らが実施したENSURE-AF試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年8月30日号に掲載された。経口第Xa因子阻害薬エドキサバンは、AF患者の抗凝固療法において、エノキサパリン+ワルファリンと比較して、脳卒中や全身性塞栓症の予防効果が非劣性で、出血は少ないことが知られている。一方、AFへの電気的除細動の試験の事後解析では、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)の良好な安全性プロファイルが示されているが、エドキサバンの安全性データは十分ではないという。電気的除細動施行AFでの有用性を無作為化試験で評価 ENSURE-AF試験は、電気的除細動および抗凝固療法が予定されている非弁膜症性AF患者において、エドキサバンとエノキサパリン+ワルファリンの有用性を比較する無作為化第IIIb相試験(Daiichi Sankyo社の助成による)。 被験者は、エドキサバン(60mg/日)またはエノキサパリン+ワルファリンを投与する群に無作為に割り付けられた。エドキサバンは、クレアチニンクリアランスが15~50mL/分、体重≦60kg、P糖蛋白阻害薬併用例では30mg/日に減量することとした。 初回の薬剤投与は、電気的除細動施行の前に行われ、施行後28日間の治療が実施された。その後、30日間のフォローアップを行った。 有効性の主要評価項目は、脳卒中、全身性塞栓イベント、心筋梗塞、心血管死の複合エンドポイントとした。安全性の主要評価項目は、重大な出血および重大ではないが臨床的に問題となる出血(CRNM)であった。 2014年3月25日~2015年10月28日までに、欧米19ヵ国239施設に2,199例が登録され、エドキサバン群に1,095例が、エノキサパリン+ワルファリン群には1,104例が割り付けられた。安全性の解析は、それぞれ1,067例、1,082例で行われた。両群とも良好な有効性と安全性を達成 全体の平均年齢は64歳で、約3分の2が男性であり、平均CHA2DS2-VAScスコアは2.6(SD 1.4)であった。経口抗凝固薬の投与歴がない患者は27%であった。エドキサバン群の47%がビタミンK拮抗薬の投与を受けており、エドキサバンに変更された。 有効性のエンドポイントは、エドキサバン群が5例(<1%)、エノキサパリン+ワルファリン群は11例(1%)に認められた(オッズ比[OR]:0.46、95%信頼区間[CI]:0.12~1.43)。 脳卒中はエドキサバン群が2例(<1%)、エノキサパリン+ワルファリン群は3例(<1%)(OR:0.67、95%CI:0.06~5.88)にみられ、頭蓋内出血は両群ともに認めず、全身性塞栓イベントは1例(<1%)、1例(<1%)、心筋梗塞は2例(<1%)、3例(<1%)(OR:0.67、95%CI:0.06~5.88)、心血管死は1例(<1%)、5例(<1%)(OR:0.20、95%CI:0~1.80)に発現した。 安全性のエンドポイントは、エドキサバン群が16例(1%)、エノキサパリン+ワルファリン群は11例(1%)にみられた(OR:1.48、95%CI:0.64~3.55)。 重大な出血はエドキサバン群が3例(<1%)、エノキサパリン+ワルファリン群は5例(<1%)(OR:0.61、95%CI:0.09~3.13)に認め、CRNMはそれぞれ14例(1%)、7例(1%)(OR:2.04、95%CI:0.77~6.00)にみられた。生命を脅かす出血は1例ずつに認められた。すべての出血の発現数は32例(3%)、35例(3%)(OR:0.93、95%CI:0.55~1.55)であった。 これらの結果は、電気的除細動における経食道心エコー(TEE)ガイドの有無や、抗凝固薬の投与状況の違いによって差が生じることはなかった。また、エドキサバン群は99%以上というきわめて良好な服薬遵守(アドヒアランス)が達成された。 著者は、「エドキサバンは安全に投与でき、患者にとって使用しやすく、電気的除細動施行時に経口抗凝固療法を迅速に開始するのに有用であり、従来のヘパリン+ワルファリンの代替療法として使用可能と考えられる」としている。

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ESC 2016 注目の演題

2016年8月27~31日、イタリア・ローマでESC(欧州心臓病学会)2016が開催されます。ケアネットでは、聴講スケジュールを立てる際の参考にしていただけるよう注目演題に関するアンケートを実施しましたので、その結果を学会開催前にご紹介します。また、ローマのおすすめスポットについても、会員の方々から情報をお寄せいただきました。併せてご活用ください。ローマのおすすめスポットはこちらイタリア留学経験のある循環器内科医が選ぶESC 2016注目の演題はこちら※演題名および発表順は、8月12日時点でESC 2016ウェブサイトに掲載されていたものです。当日までに発表順などが変更となる可能性がございますのでご注意ください。Clinical Trial Update coronary artery diseaseChairperson: Stephan ACHENBACH8/29(月)14:00 - 15:30、Forum - The Hub1.5-year outcomes after implantation of biodegradable polymer-coated biolimus-eluting stents versus durable polymer-coated sirolimus-eluting stents in unselected patients2.A life-time perspective on the effects of an early invasive compared with a non-invasive treatment strategy in patients with non-ST-elevation acute coronary syndrome - the FRISC II 15 years follow-up3.10-year follow-up of clinical outcomes in a randomized trial comparing routine invasive versus selective invasive management in patients with non ST-segment elevation acute coronary syndrome.4.Comparative Efficacy of Coronary Artery Bypass Surgery Versus Percutaneous Coronary Intervention in Diabetic Patients with Multivessel Coronary Artery Disease With or Without Renal Dysfunction5.The effect of CABG by age in patients with heart failure: 10 year follow data from the STICHES study6.ABSORB Japan: 2-year clinical results from a randomized trial evaluating the Absorb Bioresorbable Vascular Scaffold vs. metallic drug-eluting stent in de novo native coronary artery lesionsQ. 上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=100)画像を拡大するHot Line coronary artery disease and imagingChairpersons: Fausto Jose PINTO, Michael HAUDE8/29(月)16:30-18:00、Rome - Main Auditorium1.CONSERVE - Direct catheterization versus selective catheterization guided by Coronary Computed Tomography in patients with stable suspected Coronary Artery Disease2.DOCTORS - Does Optical Coherence Tomography Optimise Results of Stenting?3.CE-MARC 2 - A randomized trial of 3 diagnostic strategies in patients with suspected coronary heart disease.4.PACIFIC trial - Head-to-head comparison of coronary CT angiography, myocardial perfusion SPECT, PET, and hybrid imaging for diagnosis of ischemic heart disease5.AMERICA - Systematic detection and management of multivascular involvement of atherothrombosis in coronary patients in comparison with treatment of coronary disease onlyQ. 上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=100)画像を拡大するRegistries coronary artery disease, stroke and interventionChairperson: Elliott ANTMAN, Leonardo BOLOGNESE8/29(月)16:30-18:00、Sarajevo - Village 21.SWEDEHEART: Stent thrombosis and all-cause mortality in bivalirudin and heparin treated ST-elevation myocardial infarction patients undergoing primary percutaneous intervention2.Feasibility and safety of direct catheter-based thrombectomy in the treatment of acute ischemic stroke. Prospective registry PRAGUE-163.Quality Indicators for Acute Myocardial Infarction: rate of implementation and relation with 3 year survival. A study using data from the nationwide FAST-MI 2005 and FAST-MI 2010 registries4.Modulators of the response to CRT in international practice: the ADVANCE CRT registry5.ELECTRa (European Lead Extraction ConTRolled) Registry: a deeper snapshot on transvenous lead extraction in europe6.Two year prospective follow up of patients treated with dabigatran etexilate for stroke prevention in non-valvular atrial fibrillation: The GLORIA-AF RegistryQ. 上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=100)画像を拡大するHot Line coronary artery disease and stentingChairpersons: Steen Dalby KRISTENSEN, Andreas BAUMBACH8/30(火) 11:00-12:30、Rome - Main Auditorium1.NorStent - Comparison of long term effects of new generation DES vs contemporary BMS on mortality, morbidity, revascularization, and quality of life2.BASKET-SAVAGE - Drug-eluting vs. bare metal stents in saphenous vein grafts3.PRAGUE -18 - Randomized comparison of ticagrelor versus prasugrel in ST elevation myocardial infarction4.Can patients with acute coronary syndromes caused by plaque erosion be treated with anti-thrombotic therapy without stenting?5.BBK II trial - Culotte versus T-stenting for treatment of coronary bifurcation lesionsQ. 上記のうち、注目している演題は?(複数回答可、n=100)画像を拡大する欧州留学経験のある循環器内科医が選ぶESC 2016の注目演題ESC 2016開催に当たり、欧州留学経験のある循環器内科臨床医、大野 洋平氏が注目の演題を厳選して紹介する。ESCならではの循環器領域の多岐にわたる興味深い臨床研究が幾つもあり、会場でのdiscussionも含めて非常に楽しみである。まずは、ABSORB Japanの2年フォローアップの臨床結果に注目したい。ABSORB Japanは、薬剤溶出性生体吸収スキャフォールドAbsorbと第3世代薬剤溶出性ステントXienceの無作為化比較試験であり、昨年ロンドンで開催されたESC 2015のLate Breakingで1年フォローアップのデータが発表された。現在、スキャフォールド血栓症が話題であるが、本試験でのVery Late Scaffold Thrombosisが比較対象のXience 群と比べてどうだったのか、非常に気になるところである。血管内イメージング王国である日本では、IVUSあるいはOCTガイドによるPCIが日常臨床で行われている。しかし、OCTガイドPCIがはたして良好な治療転帰につながるかという明確な答えはまだ存在しない。今回のHot Lineでは、OCTはPCIの治療成績を最適化するか?という命題に答えを出すべく、フランスの多施設で実施されているDOCTORS(NCT01743274)試験の結果が発表される。非ST上昇型急性冠症候群の患者を「通常透視のみ使用群」と「OCTガイド群」に無作為に割り付け、DESあるいはBMSを留置するというもので、ステント留置後にFFRを評価する1次エンドポイントが特徴の試験である。半年後の有害心イベント(死亡、心筋梗塞の再発、ステント血栓症、標的血管血行再建)と併せて結果を確認したい。金属ステントだけでなく、BRSも入ってくるともっと面白いのだが。“Hot Line coronary artery disease and stenting”のセッションでは、“Can patients with acute coronary syndromes caused by plaque erosion be treated with anti-thrombotic therapy without stenting?”という演題に注目したい。近年、急性冠症候群を呈した患者の血管内イメージングにて、“plaque erosion”というplaque ruptureは来していないが病変に血栓を伴う症例が報告されるようになり、ステントを留置せず、抗血小板療法や抗凝固療法といった抗血栓療法のみで加療が可能ではないかという議論がある。こういった病変に対して金属ステントを留置することなく、抗血栓療法のみで安全に加療できるのであれば、非常に意義のあることだと考える。それを裏付ける結果が得られるかどうか、楽しみである。TAVI関連の臨床試験は今回あまり多くはないようだが、SENTINEL(NCT02214277)試験に注目したい。TAVIの合併症の1つに脳梗塞がある。幸い、後遺症を残すようないわゆるdisabling strokeに臨床で遭遇することはあまりないが、もちろん可能であれば予防したい。ちなみに、最新の自己拡張型生体弁であるMedtronic社のEvolut Rを使用した臨床試験(Evolut R CE Study)では、30日のdisabling strokeはなんと0%。より太いシステムであるEdwards Lifesciences社のSapien 3を使用した臨床試験(PARTNER II S3 Trial)でも0.9%と非常に良好な成績が報告されている。本試験で使用する脳梗塞予防デバイスはClaret Medical社のSentinelという脳保護システムである。右橈骨動脈よりアプローチして、右腕頭動脈および左総頸動脈にフィルターをかけるデバイスである。日本人オペレーターであれば、フィルターの留置に難渋することは少ないと思われるが、処置時間が短くなってきた現在のTAVIという治療の中では、やはり時間のかかる操作になる。筆者もイタリアで使用経験があるが、時間がかかるわりに効果はどうなのか、という印象がある。脳梗塞ハイリスクの一部の患者のみをターゲットにすれば有用である可能性はあるが、少なくとも全例に使用するデバイスではないと考える。どういった結果が出るのか、注目したい。

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金子英弘のSHD intervention State of the Art 第2回

左心耳閉鎖デバイスWatchmanの真の実力を検証!!心房細動に伴う心原性脳梗塞の脳梗塞予防として左心耳閉鎖術は欧州ではすでに標準的治療として行われています。一方、PROTECT-AF試験1)、PREVAIL試験2)など抗凝固療法とのランダム化比較試験のデータはありましたが、実臨床に基づく大規模なデータの報告はありませんでした。今回、ヨーロッパ、ロシア、中東の13ヵ国47施設が参加し、左心耳閉鎖デバイスとして現在、最も広く普及しているデバイスであるWatchman(ボストン・サイエンティック社)の実臨床における手技成功率や周術期の安全性について評価したEWOLUTION試験3)がEuropean Heart Journal誌に報告されました。画像を拡大する登録された1,021症例の平均年齢は73歳で6割が男性、高血圧や糖尿病、血管疾患の既往を高率に有し、34%の症例はうっ血心不全を合併しています。そして約半数の症例で一過性脳虚血発作、脳梗塞、あるいは出血性脳梗塞の既往が存在しました。全体の62%は既存の合併症や低アドヒアランス、出血のハイリスクなどのために抗凝固療法に不適とされ、Watchman植込み術の適応となった症例でした。患者背景として、PROTECT-AF試験(CHADS2スコア平均2.2、HA2DS2-VAScスコア平均3.4)、PREVAIL試験(CHADS2スコア平均2.6、HA2DS2-VAScスコア平均4.0)と比較し、EWOLUTION試験ではCHADS2スコア平均2.8、HA2DS2-VAScスコア平均4.5であり、より脳梗塞リスクの高い症例が集まっています。さらにHAS-BLEDスコア3以上の(抗凝固療法に伴う)出血リスクの高い症例もPROTECT-AF試験では20%、PREVAIL試験では30%なのに対して、EWOLUTION試験では約40%含まれ、抗凝固療法が行いづらい患者群であることもわかります。このようにこれまでの試験と比較して、EWOLUTION試験では実臨床を反映してハイリスクの患者群を対象としました。画像を拡大する結果としてWatchmanデバイスは98.5%の症例で成功裏に植込まれました。PROTECT-AF試験での手技成功率は90.9%であったことから、植込み技術の経時的な向上によって、ハイリスク症例を対象としても高い手技成功率を達成できることがわかります。手技に伴う重大な合併症としては、心嚢液貯留が5例(そのうち1例が心タンポナーデ)報告されていますが、この頻度もPROTECT-AF試験の約5%からは大きく改善されており、経験の蓄積により手技の安全性も高まることが示唆されます。そして特筆すべき点として、本研究では上記のように抗凝固療法不適と判断されてWatchman植込み術が行われた症例が6割を超えており、術後も7割以上の症例で抗凝固療法が行われていませんでした(6%の症例では抗血小板剤を含め一切の抗血栓療法が行われていません)。しかしながら、術後30日以内の脳梗塞発症はわずか3例(0.3%)ときわめて稀であり、一方で輸血を要する大出血は19例(2%)に認められました。この結果を踏まえて今後はWatchman植込み術後の至適抗血栓療法のプロトコルを考えていく必要があります。左心耳閉鎖術に関して、実臨床の患者群を対象としては初の大規模多施設研究であるEWOLUTION試験のインパクトは大きく、この結果は「Watchmanが実臨床において安全かつ成功裏に植込めるデバイスであり、抗凝固療法が困難な心房細動症例における脳梗塞予防の標準的治療として妥当である」との見解を支持するものだと考えます。日本人を含むアジア人は欧米人と比較して人種的に出血のリスクが高く、左心耳閉鎖術の恩恵を受ける可能性がある患者さんも多いと考えられます。本治療の安全かつ迅速なわが国への導入が期待されます。1)Holmes DR, et al. Lancet. 2009;374:534-542.2)Holmes DR, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;64:1-12.3)Boersma LV, et al. Eur Heart J. 2016 Jan 27. [Epub ahead of print]

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安定冠動脈疾患への長期DAPTの有益性・有害性/BMJ

 安定冠動脈疾患への2剤併用抗血小板療法(DAPT)の長期治療について、有益性と有害性を明らかにするCALIBER抽出患者(任意抽出集団;リアルワールド) vs.PEGASUS-TIMI-54試験の被験者(急性心筋梗塞後1~3年の患者が登録;試験集団)の検討が、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのA Timmis氏らにより行われた。結果、リアルワールドで試験集団の包含・除外基準を満たした患者は4分の1で、同集団の発症後1~3年の再発リスクは約19%であったこと、リスクは試験集団よりも倍増してみられたこと、脳卒中既往歴なしや直近の抗凝固療法歴のないハイリスク患者で、1年超のDAPTの有益性は大きくなる可能性が示唆されたという。急性心筋梗塞後の2次予防として、生涯にわたる複数併用の薬物療法が推奨されるが、最近の検討を踏まえDAPTは1年までとする勧告が直近のガイドラインで示されていた。BMJ誌オンライン版2016年6月22日号掲載の報告。CALIBER抽出患者 vs. PEGASUS-TIMI-54試験の被験者 研究グループは、試験集団のハイリスク集団でみられる急性心筋梗塞(AMI)後のDAPTの長期有益性と有害性について、リアルワールドでの大きさを推算する住民ベースの観察コホート試験を行った。CALIBER(ClinicAl research using LInked Bespoke studies and Electronic health Records)は英国プライマリケアの電子医療記録を結ぶデータベース。PEGASUS-TIMI-54試験にはAMI後1~3年の患者が登録され、ticagrelor60mg+アスピリンはアスピリン単独と比べて、心血管死、心筋梗塞、脳卒中のリスクを16%抑制する一方、大出血リスクを2.4倍増大することが示されていた。 CALIBER(2005年4月~10年3月)からAMI後生存患者を抽出(リアルワールド集団、7,238例)、そのうちPEGASUS-TIMI-54試験を満たす患者を特定し(ハイリスク集団、5,279例)、さらに試験除外基準を適用して患者を抽出し(ターゲット集団、1,676例)、PEGASUS-TIMI-54試験プラセボ群(アスピリン単独群、7,067例)と比較検討した。主要評価項目は、AMIの再発・脳卒中・致死的心血管疾患の発生(有益性エンドポイント)、致死的・重度または頭蓋内の出血(有害性エンドポイント)とした。 発症後1年を起点とした追跡期間は、中央値1.5年(範囲:0.7~2.5)であった。リアルワールドでは有益性、有害性ともに試験集団よりも大きいことが判明 リアルワールドにおける試験の包含・除外基準を満たしたターゲット集団の割合は、23.1%(1,676/7,238例)であった。同集団は試験プラセボ集団と比較して、集団年齢中央値が12歳高く、女性の比率が高かった(48.6 vs.24.3%)。 解析の結果、3年累積発生率は有益性エンドポイント(18.8%[95%信頼区間[CI]:16.3~21.8] vs.9.04%)、有害性エンドポイント(3.0%[同:2.0~4.4%] vs.1.26%[プラセボ群についてはTIMI重大出血の発生率])ともに、ターゲット集団が試験プラセボ集団と比べて大幅に高かった。致死的または頭蓋内出血についてみた場合も、プラセボ集団の約2倍であった。試算の結果、これらターゲット集団の治療にticagrelorを加えることで、年間患者1万治療当たり、虚血性イベントを101例(95%CI:87~117)予防できること、また致死的・重度または頭蓋内出血の発生過剰は75例(同:50~110)であることが示された。 リアルワールドで試算した場合も、類似の結果が得られた。有益性エンドポイント(虚血性イベント)の3年リスクは17.2%(95%CI:16.0~18.5)で、予防可能なイベント数は92例(同:86~99)であり、出血イベントは2.3%(同:1.8~2.9)、発生過剰は58例(同:45~73)であった。 著者は、「CALIBERを用いることで、“ヘルシー試験参加者”の影響を明らかにでき、AMI後1年超の代表的な患者でのDAPTの絶対的な有益性と有害性を確認することが可能であった」と述べている。

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