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世界初の第3世代がん治療用遺伝子組換えヘルペスウイルス「G47Δ」

単純ヘルペスウイルスベクターを用いた抗腫瘍免疫増強法「G47Δ」※クレジットは下記の通りG47Δは、口唇ヘルペスの原因ウイルスである単純ヘルペスウイルス1型を用いた第3世代のがん治療用遺伝子組換えヘルペスウイルス。3つのウイルス遺伝子を改変することで、正常細胞では増殖せず、がん細胞だけで増殖するウイルスを作製した。東京大学医科学研究所先端医療研究センター先端がん治療分野の藤堂具紀氏らが創製に成功し、開発を進めている。ウイルス療法は、がん細胞に感染させたウイルスが増殖することで、直接的にがん細胞を破壊する治療法である。単純ヘルペスウイルス1型の主な特徴として、1)ヒトのあらゆる種類の細胞に感染、2)殺細胞効果が比較的強い、3)抗ウイルス薬があるため治療を中断できる、4)患者がウイルスに対する抗体を持っていても治療効果が減弱しない、などが挙げられている。また、G47Δは、既存のがん治療用ウイルスに比べ、安全性と治療効果が高いとされる。さらに、がん細胞を破壊する過程で抗腫瘍免疫を引き起こすため、投与部位だけでなく非投与部位のがんにも、免疫を介した抗腫瘍効果が期待できるという。加えて、がんの根治を阻害するとされるがん幹細胞をも、破壊することが知られている。G47Δは、2016年2月に、厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目に、2017年7月には、悪性神経膠腫を対象とした「希少疾病用再生医療等製品」に指定されている。※Content Providers: CDC/ E. L. Palmer - This media comes from the Centers for Disease Control and Prevention's Public Health Image Library (PHIL), with identification number #2171.G47Δは1年生存割合において高い効果を示す藤堂氏らの研究グループは、初期治療後に残存または再発した膠芽腫病変(悪性脳腫瘍の一種)を有する予後不良の患者を対象に、医師主導治験(第II相試験)を行った。初回手術後に、放射線照射と化学療法(テモゾロミド)を行う標準治療に、G47Δによるウイルス療法を上乗せする治療法の有効性を検討した。G47Δは、定位脳手術により最大6回、腫瘍内に投与された。試験は、30例の登録を予定し、2015年5月に開始された。2018年7月、13例が治療開始から1年経過した時点で、事前に規定された中間解析が行われた。主要評価項目である1年後の生存割合は92.3%(12/13例)であり、他の複数の臨床試験の結果から算出された標準治療の1年生存割合(15%)と比較して高い有効性を示した。また副次評価項目である全生存期間中央値は、中間解析時点では中央値に達しておらず、無増悪生存期間中央値は8.6ヵ月、2年間の経過観察が終了した4例の腫瘍縮小効果の最良効果はいずれも安定(SD)であった。中間解析時に16例で安全性の評価を行ったところ、主な副作用は発熱が15例(93.8%)、嘔吐とリンパ球数減少がそれぞれ8例(50.0%)、悪心が7例(43.8%)で認められた。入院期間の延長が必要となった副作用は、Grade 2(軽度)の発熱による2例(12.5%)のみであった。これらの結果により、中間解析の時点で、本治験におけるG47Δの治療効果の有効性が確実となったため、独立データモニタリング委員会の勧告で、患者登録は終了となった。これらの知見に基づき、2020年12月、悪性神経膠腫を適応症とするG47Δの製造販売承認申請が行われた。G47Δへの期待G47Δは、動物実験で、あらゆる固形がんに有効であることが示されており、今後、速やかにすべての固形がんに適応を広げることを目指すという。2013年には、前立腺がんおよび嗅神経芽細胞腫を対象とした臨床試験が行われた。また、2018年からは、悪性胸膜中皮腫の患者の胸腔内にG47Δを投与する臨床試験も開始されている。ウイルス療法は、がん治療における標準的な治療法として確立されると期待されている。

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C型肝炎ウイルスの薬剤耐性変異、世界規模で検証

 直接作用型抗ウイルス治療薬(DAA)の登場により、C型肝炎の治療は大幅に改善された。しかしその治療奏効率は、C型肝炎ウイルス(HCV)の薬剤耐性変異により低下する可能性がある。現在、DAAにはNS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5A阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬があり、それぞれグレカプレビル、ピブレンタスビル、ソホスブビルなどが臨床で使用されている。今回、それらに対する耐性変異について、世界的状況を中国・復旦大学のZhenqiu Liu氏らがメタ解析により検討した。その結果、114個の耐性変異を同定し、頻度や種類は日本、米国、ドイツ、タイ、英国で多いことを示した。Clinical Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2019年11月1日号掲載の報告。 DAAの耐性変異に関連した文献を検索し、32ヵ国の計50件を選択した。最終的に49,744例のHCV感染患者をメタ解析に組み込み、変異部位と頻度を検討した。変異の世界的な分布は、Los Alamos HCV 配列データベースに登録された12,612例のサンプルより検討した。薬剤の50%効果濃度(EC50)が野生型の2倍以上となる変異を、耐性変異と定義した。DAA投与後に出現した変異は解析から除外した。 メタ解析より、56個のアミノ酸変異と114個の点変異を同定した。HCVの遺伝子型別に見ると、変異の頻度はジェノタイプ6型で最も高かった。変異の種類別に見ると、とくにジェノタイプ1a型のQ80KやY93Tで頻度が高かった。ジェノタイプ1a型のQ80K多型は、DAA治療によるウイルス学的著効(SVR)率を大幅に低下させたことが報告されている。 次に地域ごとの耐性変異の頻度は、NS3/4Aではブラジル(25.0%、95%CI:11.2~36.3%)、ベトナム、ロシアで高かった。NS5Aではポルトガル(33.3%、95%CI:16.9~55.3%)、ロシア(25.0%、95%CI:6.3~62.2%)で高かった。NS5Bでは台湾(34.3%、95%CI:14.9~60.9%)、オーストラリア(28.2%、95%CI:17.3~42.6%)で高かった。また耐性変異ウイルスの種類は日本で最も多く、タイ、米国、ドイツ、英国と続いた。 研究グループは、とくに耐性変異の頻度が高い地域のHCV感染患者では、DAA治療を開始する前に変異の検査を実施するべきだと述べている。

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早く治療すれば怖くないHIV感染症

 ギリアド・サイエンシズ会社は、12月1日の「世界エイズデー」を前に都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、2020年の東京オリンピックを控え、性感染症のアウトブレイクへの備えについて講演が行われた。 なお、12月1日より日本で販売されている抗HIV薬テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(商品名:ビリアード)、エムトリシタビン(同:エムトリバ)など6品目の製造販売承認は鳥居薬品株式会社から同社が承継する。寿命は健康な人に近付きつつあるが… セミナーでは、「HIV感染症・エイズ -予防・治療の新時代-」をテーマに、松下 修三氏(熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター 臨床レトロウイルス学分野 教授)を講師に迎え、最新のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症に関する知見のほか、オリンピックへの備えについて過去の取り組み例とともに説明された。 エイズは、HIVが免疫の中心的な働きを担うCD4+細胞に感染し、CD4+細胞を破壊することで身体の免疫機能が減少する感染症である。感染経路は、性的接触、血液感染、母子感染の3経路が知られている。 わが国のHIV感染者、エイズ患者数は2018年で累計3万人を超え、2017年では1,389人が報告されている。 初発の感染症状は、発熱、リンパ節腫脹、咽頭炎、皮疹、筋肉・関節痛、頭痛、下痢などインフルエンザに似ており、この後6ヵ月~10年の無症候期を経て、エイズを発症する。エイズ発症期には、ニューモシスチス肺炎、口腔/食道カンジタ症、サイトメガロウイルス網膜炎がみられ、2~3年でエイズ脳症へ進展する。 治療では、抗ウイルス療法(ART)として、クラスの異なる抗ウイルス薬を組み合わせる多剤併用療法が行われる。標準的には、核酸系逆転写阻害剤2種類にプラスして、インテグラーゼ阻害剤またはプロテアーゼ阻害剤か、非核酸系逆転写阻害剤を用いる。ARTの導入によりHIV感染者の平均寿命は、一般人の寿命に近付きつつあり、20歳でHIV感染の診断を受けても60歳近くまで生存できる寿命予測がスイスから報告されている1)。 エイズは現在では、早期発見・早期治療の開始により、怖い病気ではなくなったといえる。しかし一方で、一度罹患したHIVの排除ができないことから生涯の服用が必要となるほか、服用にともなう内分泌疾患や易骨折などの合併症が知られ、これらへの対応が急務となる。コンドームで予防、課題は検査のハードル エイズの予防には、どのような手段があるだろうか。広く性感染症も含めエイズでも、現在コンドームの使用が推奨されているが、同性間の性交渉では使用率が50%前後にとどまり、「この使用率の引き上げが今後の課題だ」と同氏は指摘する。また、早期治療で93%の感染減少が報告されたHPTN 052の最終報告を示し、たとえパートナーがHIV感染者であっても早期からARTを開始し、ウイルスが抑制されていれば他者への感染が起こらないという2)。 そのほか、最近では曝露前予防内服(PrEP)としてHIV未感染のハイリスク者が、あらかじめ感染リスクを軽減するためにエムトリシタビン・テノホビル(同:ツルバダ)などの抗HIV薬を予防的に内服することが米国、フランス、カナダ、オーストラリアなどで実施されている(なお日本では予防薬として承認された薬剤はない)。 今後、予防のためにも早期発見が重要となるが、「無料かつ匿名で検査できる保健所の検査の認知度が低く、これらの啓発や検査へのハードルをいかに下げていくか解決が必要」と同氏は語る。持ち込み感染症対策で何をすべきか 東京オリンピックが開催される2020年は、広範囲で健康問題が引き起こされる可能性(とくに感染症のリスク)があり、医療者はイベント主催者などと協力し、健康に対する緊急事態に備える必要がある。 日本感染症学会では、「症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~ 感染症クイック・リファレンス」(www.kansensho.or.jp/ref/)のウェブサイトを設置し、持ち込み感染症への情報提供を行っている。 過去のオリンピックの事例につき、ロンドンでは、選手へのコンドームの配布や一般への啓発資材の配布が、リオデジャネイロでは、オンラインカウンセリングの実施や外国人感染者むけのARTの提供などが行われた。わが国でもこれらを参考に、「診療できる施設や専門医との連携システムの整備、新しい検査体制の確立、HIV診療の期間短縮、早期診断治療のためのPrEPなど、オリンピックを契機に整備・構築されることが期待される」と展望を語り、講演を終えた。

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サイトメガロウイルス(CMV)の再活性化に対するmaribavirの効果(解説:吉田敦氏)-1140

原著論文はこちらMaribavir for Preemptive Treatment of Cytomegalovirus Reactivation これまで臨床応用された抗サイトメガロウイルス(CMV)薬(治療薬)の効果は、概して高くはなく、一方で副作用が多いという短所があった。ガンシクロビルは骨髄抑制、ホスカルネットは腎障害・電解質異常、cidofovir(本邦未承認)は腎障害がしばしば出現し、使用に当たっては躊躇することもある。四半世紀前と比べても、それほど進歩したという印象はない。今回、新規の抗CMV薬として開発されたmaribavir(マリバビル)の効果について、第II相オープンラベル試験の結果が発表された。 造血幹細胞移植、固形臓器移植を受けた後の成人で、血中(全血・血漿中)のCMV DNA量が1,000~10,000コピー/mLとなり、CMVの再活性化が生じているものの、明らかなCMV感染症が認められない患者、つまりCMV感染症発症の前段階の患者に、本薬が投与された。対照はバルガンシクロビルで、CMV DNA量が減少し、検出感度(200コピー/mL)未満を達成した患者割合、到達までの期間、CMV感染症発症率が比較された。結果として、CMV DNA量が減少した患者割合、到達までの期間は2群でほぼ同等であったが、maribavir耐性関連変異を認めた者が少数おり、さらにmaribavir群において消化器症状(とくに味覚障害)を中心とした副作用が多かったこと、一方で、バルガンシクロビル群で有意に白血球減少が多かったことが明らかとなった。 今回のデザインは、CMVの再活性化に対し早期に薬剤を開始するpreemptive therapy(先制治療)の評価である。maribavirはウイルスカプシドの集合を阻害するため、DNAポリメラーゼを阻害する従来の抗CMV薬とは作用機序を異にする。従来薬を大きく上回るほどの抗ウイルス効果は示せなかったが、今回の第II相試験で、供試した中では低用量(400mgを1日2回)でも効果が変わらなかったことは明らかにできた。 確かに著者が考察しているとおり、オープンラベル試験であり、maribavir群に割り付けられていることを知っているために生じる、副作用の報告バイアスは存在するかもしれない。しかし消化器系の副作用はほかの臨床試験でも認められており、再現性があることはおそらくほぼ動かないであろう。一方でバルガンシクロビルによる白血球減少には、ほかの感染症への易感染性を助長するといった、負の影響も大きい。 あらためて、理想的な抗CMV薬の開発はかなり難しい課題といえよう。選択肢が増えることは歓迎されるが、maribavirの特徴が効果的に発揮されるような患者集団あるいは状況での使用について、さらに追究が必要かもしれない。maribavirの臨床応用に関する検討そのものも、最初の報告がなされてからすでに15年以上が経過している。ハードルの高い課題ではあるが、maribavirの適切な使用、およびmaribavirの後継となりうる改良薬の候補の探求についても、研究が進むことを期待したい。

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インフルエンザ予防の新知見、養命酒の含有成分が有効か

 クロモジエキスを配合した、あめの摂取によるインフルエンザ予防効果が示唆された―。養命酒製造株式会社(以下、養命酒)と愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センターの共同研究グループは、2017/2018シーズンに実施した「クロモジエキス配合あめ」のインフルエンザ予防効果に関する二重盲検試験を実施。風邪症状(発熱、喉・鼻症状)の有無や有症日数についても同時に解析を行った結果、クロモジエキス配合あめ摂取群がプラセボあめ摂取群と比較して、インフルエンザ感染患者の抑制ならびに風邪症状の有症期間を有意に短縮した。対象者は同大学で勤務し、インフルエンザワクチン接種済みの看護師の男女134名で、1日3回、12週間にわたりクロモジエキス67mgを配合したあめ摂取群とプラセボあめ群に割り付けられていた。この報告はGlycative Stress Research誌オンライン版2019年9月30日号1)に掲載された。 また、今年9月20日には、養命酒と信州大学農学部の共同研究グループがクロモジエキスのインフルエンザウイルス増殖抑制効果の長時間持続に関する可能性を示唆し、「クロモジ熱水抽出物の持続的なインフルエンザウイルス増殖抑制効果」に関する論文を、薬理と治療(JPT)誌2019年8月号で発表した。2) このような論文報告を受け、2019年11月11日、養命酒がメディアセミナー「国産ハーブ『クロモジ』の機能性研究におけるインフルエンザ予防の新たな可能性」を開催。伊賀瀬 道也氏(愛媛大学医学部附属病院 抗加齢・予防医療センター長)が「クロモジエキスのインフルエンザ・風邪予防に関するヒト試験について」、河原 岳志氏(信州大学学術研究院農学系 准教授)が「クロモジエキスの持続的な抗ウイルス活性~3回チャージで19時間キープ~」について講演し、報告研究の詳細を語った。クロモジとは… クロモジ(黒文字、漢方名:烏樟[うしょう])は、日本の産地に自生するクスノキ科の落葉低木である。クロモジから得られる精油はリラックス作用が期待されるリナロールを主成分とし、非常に良い香りがあることから、古くから楊枝や香木などに使用されてきた。また、耐久性もあるため、桂離宮の垣根や天皇の即位式後の大嘗祭でも使用された。 これまではクロモジをそのままで利用することが多かったが、近年では加工抽出される精油やアロマウォーターの活用が広がっている。今回の研究では、クロモジを煮出して濃縮、乾燥させて作られるエキス剤が用いられた。このように用途の広がるクロモジだが、近年ではさまざまな機能性研究がなされており、今回は抗ウイルス作用に着目した研究が行われた。食後のクロモジ摂取でインフルエンザの予防、症状緩和 現時点でクロモジの作用機序は解明されていないが、ノロウイルスやロタウイルスの代替ウイルス(ネコカリシウイルス)、日本脳炎ウイルスなどの細胞増殖抑制について報告されている。これを踏まえて、伊賀瀬氏は「in vitroの実験ではインフルエンザウイルスの増殖抑制が達成されており、今回の臨床試験でも同様の結果が得られた。風邪症状の有症期間の短縮については、風邪に感染した後でもクロモジエキス配合あめを摂取することで予後が良好になったのではないか」と推測している。 クロモジは全国各地でお茶として販売されているが、本研究ではあめを利用している。その理由として、同氏は「インフルエンザウイルスは主に上気道で感染して増殖する。抗インフルエンザ効果が長期間発揮するには成分が長く滞留することが必要であり、あめならば咽頭から喉頭部分に滞留するため予防が可能と考えた」と述べた。加えて、「ただし、一般的な予防法(流行前のワクチン摂取、外出後の手洗いなど)を行いながらの摂取が前提」と、注意事項も伝えた。クロモジエキス、1日3回摂取でインフルエンザウイルスの抑制効果アップ 河原氏らは前述の伊賀瀬氏の研究報告を受け、培養細胞を利用したクロモジエキスによるインフルエンザウイルスの増殖抑制タイミングと、その効果の持続性について検証した。その結果、クロモジエキスを細胞培養液から取り除いた24時間後にウイルス感染させても、ウイルス増殖指標の抑制が確認できた。また、本研究では細胞にクロモジエキスを8分間処理して5時間後にウイルス感染させても効果が持続し、さらに、繰り返しクロモジエキス処理を行うことで抑制効果が高まることを実証した2)。これらの結果を踏まえ、同氏は「クロモジエキスはウイルス感染に対して予防的な働きをする」と述べ、今後の作用メカニズムなどの詳細解明について意気込んだ。

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痛くなってからでは遅い帯状疱疹

 帯状疱疹は、60歳以降が好発年齢といわれており、強い痛みと残存する神経痛が患者のQOLに大きな影響を及ぼす。水痘として感染したウイルスによるが、一度感染してしまったウイルスを排除する術は今のところなく、ワクチンで予防することが高齢での発症・重症化を防ぐ唯一の手段となる。 2019年8月27日、武田薬品工業が「帯状疱疹の診療・予防の最新動向」をテーマに、都内にてセミナーを開催した。最新の帯状疱疹診療にはどのようなポイントがあるのだろうか。今後も増え続ける? 高齢者の帯状疱疹 はじめに、川島 眞氏(医療法人社団ウェルエイジング Dクリニック東京 総院長/東京女子医科大学 名誉教授)が「高齢化社会における帯状疱疹診療の方向性」について講演を行った。わが国では年間約60万人が帯状疱疹を発症すると推定されており、そのうち50歳以上が約7割を占める。80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を経験するという報告もあり、近年、50歳以上の発症率は増加傾向にある1)。 原因として、小児の水痘ワクチンが2014年に定期接種化されて以降、水痘患者の減少により免疫のブースター効果を受ける機会が減っていることが考えられる。帯状疱疹の発症数と水痘の流行は逆相関することが以前から知られており、帯状疱疹患者は今後も増加していくと予想される。発症予防には細胞性免疫の強化が必須 小豆島における前向き疫学研究(SHEZ study2))において、帯状疱疹の発症率や、発症リスク・重症度と免疫の関連などについて調査が行われた。その結果、発症リスクは水痘皮内反応(細胞性免疫)が強い人ほど低く、一方で、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に対する抗体価は発症リスクに影響しないことが明らかになった。帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛(PHN)の発症予防には、細胞性免疫が重要だ。 水痘・帯状疱疹ワクチンの接種で、VZV特異的細胞性免疫の強化が期待されている。海外の臨床試験では、水痘・帯状疱疹ワクチンにより、プラセボと比較して帯状疱疹の発症が51.3%、PHNの発症が66.5%減少したという報告3)がある。 川島氏は「帯状疱疹診療は、高齢化に伴い治療から予防へ方針が移ってきている。帯状疱疹を予防するワクチンは50歳以上が対象なので、免疫が低下してワクチンが打てなくなる前に接種勧奨することが重要」と強調した。発症後の経過で、痛みは変化していく 続いて、山口 重樹氏(獨協医科大学 医学部 麻酔科学講座 教授)が「帯状疱疹にまつわる痛みについて」をテーマに語った。帯状疱疹の痛みは、「焼けつくよう」「電気が走るよう」などと表現され、病期に伴い侵害受容性疼痛から神経障害性疼痛へ変化していくことが特徴だ。 山口氏は「痛みとは心身共に影響があるもので、痛みの続く期間が長いほど正常な生活が妨げられ、生命予後にも影響を及ぼすことがわかっている。よって、治療では痛みをできる限り早く改善することが非常に大切だ」と示した。皮膚症状が改善しても、患者の痛みは続いている 帯状疱疹患者の半数以上が、発症時(初診時)から中等度以上の強い痛みを自覚している。皮膚症状は、抗ウイルス薬の投与によって2週間程度で軽減し、4週間程度で消失に至るが、疼痛残存率は21日後で50%、90日後で12.4%、1年後で4.0%という報告4)がある。皮膚症状が重篤であるほど、また高齢であるほど痛みが遷延する可能性が高くなる。 「帯状疱疹は皮膚の病気と思われがちだが、神経の病気でもある。皮膚症状が治まった後も残る疼痛のつらさは、家族や周りの人から理解されにくい面がある」と指摘した。 PHNを疑う兆候として「針で刺されるような痛み」「電気が走るような痛み」など、「しびれ」を連想させる表現がよく用いられるという。とくに、衣服がこすれたり冷風にあたったりするだけで痛む「アロディニア(異痛症)」がある場合は注意しなければならない。「神経障害性疼痛を感じている患者さんは、着替えや入浴を嫌がったり、罹患部にガーゼを当てたり保湿剤を塗ったりする様子が見受けられることがある」と診断のポイントを示した。強い痛みが改善したあとは、休薬を目指す 長期間強い痛みを感じている患者は、抑うつや不安、不眠、自己肯定感の低下、痛みの破局化(死んだほうがまし、生きている意味がないと感じるなど)など、生活でのさまざまな苦痛を感じている。医療者は、患者の感じている痛みの強弱だけでなく、種々の尺度で痛みを多面的に評価し、治療を進めていくことが求められる。 「私が考える痛み治療の目安は半年間。ピークを超えたら徐々に減薬し、休薬を目指す。神経が損傷している場合、痛みが完全になくなることはないので、元の生活に戻すことを意識して、痛みから気を逸らせる環境(趣味など)を作ることも大切」とまとめた。 帯状疱疹やPHNの予防にはワクチンが有効だが、発症後の早期介入も予後に大きく関わる。院内の待合室などに帯状疱疹のポスターを貼っておくと、患者だけでなく家族の目にも止まり、疾患・ワクチンの啓発につながるかもしれない。

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家族性良性慢性天疱瘡〔familial benign chronic pemphigus〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性良性慢性天疱瘡(ヘイリー・ヘイリー病[Hailey-Hailey disease])は、厚生労働省の指定難病(161)に指定されている皮膚の難病である。常染色体優性遺伝を示す先天性の水疱性皮膚疾患で、皮膚病変は生下時には存在せず、主として青壮年期以降に発症する。臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部に小水疱、びらん、痂皮などによる浸軟局面を生じる。通常、予後は良好である。しかし、広範囲に重篤な皮膚病変を形成し、極度のQOL低下を示す症例もある。また、一般的に夏季に増悪、冬季に軽快し、紫外線曝露・機械的刺激・2次感染により急激に増悪することがある。病理組織学的に、皮膚病変は、表皮下層を中心に棘融解性の表皮内水疱を示す。責任遺伝子はヒトsecretory pathway calcium-ATPase 1(hSPCA1)というゴルジ体のカルシウムポンプをコードするATP2C1であり、3番染色体q22.1に存在する。類似の疾患として、小胞体のカルシウムポンプ、sarco/endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase type 2 isoformをコードするATP2A2を責任遺伝子とするダリエ病があり、この疾患は皮膚角化症に分類されている。■ 疫学わが国の患者数は300例程度と考えられている。現在、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」(研究代表者:大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学 橋本 隆)において、アンケートを中心とした疫学調査が進められている。その結果から、より正確なわが国における本疾患の疫学的情報が得られることが期待される。■ 病因本症の責任遺伝子であるATP2C1遺伝子がコードするヒトSPCA1はゴルジ体に存在し、カルシウムやマグネシウムをゴルジ体へ輸送することにより、細胞質およびゴルジ体のホメオスタシスを維持している。ダリエ病と同様に、常染色体優性遺伝する機序として、カルシウムポンプタンパクの遺伝子異常によってハプロ不全が起こり、正常遺伝子産物の発現が低下することによって本疾患の臨床症状が生じると考えられる。しかし、細胞内カルシウムの上昇がどのように表皮細胞内に水疱を形成するか、その機序は明らかとなっていない。■ 症状生下時には皮膚病変はなく、青壮年期以降に、腋窩・鼠径部・頸部・肛門周囲などの間擦部を中心に、小水疱、びらん、痂皮よりなる浸軟局面を示す(図1)。皮膚症状は慢性に経過するが、温熱・紫外線・機械的刺激・感染などの因子により増悪する。時に、胸部・腹部・背部などに広範囲に皮膚病変が拡大することがあり、極度に患者のQOLが低下する。とくに夏季は発汗に伴って増悪し、冬季には軽快する傾向がある。皮膚病変上に、しばしば細菌・真菌・ヘルペスウイルスなどの感染症を併発する。皮膚病変のがん化は認められない。高度の湿潤状態の皮膚病変では悪臭を生じる。表皮以外にも、全身の細胞の細胞内カルシウムが上昇すると考えられるが、皮膚病変以外の症状は生じない。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は主として、厚生労働省指定難病の診断基準に従って行う。すなわち、臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部位に、小水疱、びらんを伴う浸軟性紅斑局面を形成し、皮疹部のそう痒や、肥厚した局面に生じた亀裂部の痛みを伴うこともある。青壮年期に発症後、症状を反復し慢性に経過する。20~50歳代の発症がほとんどである。皮疹は数ヵ月~数年の周期で増悪、寛解を繰り返す。常染色体優性遺伝を示すが、わが国の約3割は孤発例である。参考項目としては、増悪因子として高温・多湿・多汗(夏季)・機械的刺激、合併症として細菌・真菌・ウイルスによる2次感染、その他のまれな症状として爪甲の白色縦線条、掌蹠の点状小陥凹や角化性小結節、口腔内および食道病変を考慮する。皮膚病変の生検サンプルの病理所見として、表皮基底層直上を中心に棘融解による表皮内裂隙を形成する(図2)。裂隙中の棘融解した角化細胞は少数のデスモソームで緩やかに結合しており、崩れかけたレンガ壁(dilapidated brick wall)と表現される。画像を拡大するダリエ病でみられる異常角化細胞(顆粒体[grains])がまれに出現する。棘融解はダリエ病に比べて、表皮中上層まで広く認められることが多い。生検組織サンプルを用いた直接蛍光抗体法で自己抗体が検出されない。最終的には、ATP2C1の遺伝子検査により遺伝子変異を同定することによって診断確定する(図3)。変異には多様性があり、遺伝子変異の部位・種類と臨床的重症度との相関は明らかにされていない。別に定められた重症度分類により、一定の重症度以上を示す場合、医療費補助の対象となる。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド軟膏や活性型ビタミンD3軟膏などの外用療法やレチノイド、免疫抑制薬などの全身療法が使用されているが、対症療法が主体であり、根治療法はない。2次的な感染症が生じたときには、抗真菌薬・抗菌薬・抗ウイルス薬を使用する。予後としては、長期にわたり皮膚症状の寛解・再燃を繰り返すことが多い。比較的長期間の寛解状態を示すことや、加齢に伴い軽快傾向がみられることもある。4 今後の展望前述のように、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」において、各種の臨床研究が進んでいる。詳細な疫学調査によりわが国での本疾患の現状が明らかとなること、最終的な診療ガイドラインが作成されることなどが期待される。最近、新しい治療として、遺伝子上の異常部位を消失させるmutation read throughを起こさせる治療として、suppressor tRNAによる遺伝子治療やゲンタマイシンなどの薬剤投与が試みられている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省の難治性疾患克服事業(難治性疾患政策研究事業)皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班(研究代表者:橋本 隆 大阪市立大学・大学院医学研究科 皮膚病態学 特任教授)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 家族性良性慢性天疱瘡(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Hamada T, et al. J Dermatol Sci. 2008;51:31-36.2)Matsuda M, et al. Exp Dermatol. 2014;23:514-516.公開履歴初回2019年6月25日

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肝性脳症〔Hepatic encephalopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義意識障害には脳機能障害以外に多くの原因があるが、肝機能低下に伴う意識障害が肝性脳症とされている。肝性脳症は多くの場合、肝硬変や劇症肝炎患者などの肝障害が進行した状況において発生する。傾眠傾向といった軽度のものから、重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す合併症で、肝不全の特徴的徴候の1つである。顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態を「ミニマル脳症」と呼ぶ。■ 疫学わが国では数十万人の肝硬変患者が存在するとされており、病状の悪化に伴い、いずれの患者においても肝性脳症を発症しうる。ミニマル脳症については、肝硬変患者の1/3が有しているとの報告もあり、ミニマル脳症患者のうち約20%が半年以内に顕性脳症に移行するとされている。急性型の劇症肝炎の発症数は減少しているものの、肝硬変を基礎疾患として急性増悪を来す“Acute-on chronic liver failure(ACLF)”がアルコールを原因とするものとして近年増加している。■ 病因急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。最近では肝硬変などの慢性肝疾患が急性増悪して、急激に肝不全症状を呈した場合を“Acute on chronic”と呼ぶことが提唱されている。慢性型では肝硬変によるものが臨床的に最も多い。肝硬変では、門脈大循環短絡路を形成していることが多く、その程度により治療反応性と予後が異なることから、短絡路の評価を行ったうえで治療法を決定する。頻度は高くないものの、先天性尿素サイクル異常症も、念頭において診療に当たることが必要である。アンモニア高値のみを示す成人では、オルニチントランスカルバミラーゼ (OTC)欠損症とシトルリン血症などの可能性が考えられる。■ 症状肝性脳症は、傾眠傾向といった軽度のものから重度の深昏睡に至るまで多様な精神神経症状を来す。わが国で広く使用されている犬山シンポジウムの分類を表1に示す。先に述べたミニマル脳症は、臨床的には診断できないためナンバーコネクション(数字追跡)試験などの精神神経学的テストで判断する。なお、このテストはiPadなどにダウンロードして使用でき、日本肝臓学会のホームページから無料でダウンロードできるようになっている。表1 肝性脳症の犬山分類画像を拡大する■ 分類顕性肝性脳症の臨床病型は急性型、慢性型、および先天性尿素サイクル異常症など代謝異常に伴う特殊型に大別される。また、顕性の意識障害はないが、精神神経機能検査で異常を認める状態をミニマル脳症と呼ぶ(表2)。欧米での肝性脳症の分類を表3に示す。表2 臨床病型分類画像を拡大する表3 欧米における肝性脳症の分類画像を拡大する表3に示したように、肝性脳症は大きく(A)急性型、(B)バイパス型、(C)肝硬変型に分けられる。型別頻度は、急性型28%、慢性型のうち再発型54%、末期昏睡型18%といわれており、初回脳症時の生存率は慢性再発型で76%であるのに対し、末期昏睡型では23%と報告されている。救急外来を受診した意識障害患者において、肝性脳症の頻度は約2%とされており、頻度が高いものではないが常に念頭に置くべき疾患の1つである。急性型では劇症肝炎が代表的原因である。先行する慢性肝疾患が存在しない患者において、さまざまな原因により広範な肝細胞壊死を来し肝不全に至る。以前はB型肝炎ウイルスによるものが多かったが、近年は減少傾向にある。■ 予後肝性脳症が出現した患者の予後は悪いことが知られている。海外の報告では脳症出現後の1年生存率は約35%、2年で30%、3年で20%、5年で15%とされている。慢性型では肝硬変によるものが最も多いが、脳症の出現は予後を悪化させる合併症であり、脳症の出現した肝硬変患者の生存率は30~40%と考えられる。また、ACLFに関しても、脳症出現が重症度分類に加えられていることから、脳症の出現は肝疾患全体に関する予後決定因子の1つと考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)臨床症状に加えて検体検査、画像検査、精神神経機能検査などを行って総合的に診断する。身体所見としては肝不全に伴う皮膚黄染(黄疸)、浮腫、腹部膨隆(腹水貯留)を認める場合が多い。羽ばたき振戦や、肝性口臭などは急性型、慢性型のいずれにもみられるが、手掌紅斑、くも状血管腫、腹壁静脈怒張などは慢性型を疑う所見となる。ミニマル脳症は臨床的所見による診断が困難である。わが国では顕性脳症の昏睡度分類として主に表1の犬山分類が用いられる。脳症の昏睡度I度は臨床的には判定困難なことが多く、振り返って初めて診断できることも少なくない。II度になると、羽ばたき振戦など診断は比較的容易であるが、羽ばたき振戦は尿毒症や低血糖症でも出現することがあるので鑑別が必要である。1)検体検査肝不全を判定するため、一般肝機能検査、肝予備能(アルブミン、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼなど)とともにアンモニア値を測定する。シトルリン血症などの尿素サイクル異常症では、アンモニア以外の肝機能は正常であることが多い。BCAA/AAAモル比(フィッシャー比)の低下を認めるが、最近では簡便な指標としてBCAA/チロシン比であるBTRが用いられることが多い。また、脱水や消化管出血が誘因となっている場合は、BUN(血液尿素窒素)/Cr(血中クレアチニン)比の上昇がみられ、利尿剤使用による低カリウム血症などの電解質異常を認める場合も多い。2)画像検査腹部超音波、CT検査などで慢性肝疾患や脾腫、短絡路の有無などを検索する。また、頭部MRI検査などで中枢神経系の疾患を除外する。深昏睡では脳浮腫の有無も評価する。慢性再発型ではMRI T1強調検査で淡蒼球の高信号が特徴的とされている。3)精神神経機能検査症状に乏しいミニマル脳症を疑う患者に対しては数字追跡試験、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)式成人知能検査などによる評価を行う。脳波は三相波が出現し、進行とともに低振幅徐波となっていく。意識障害を伴っている患者の場合、頭部CT、MRI検査や髄液検査などの検査を行い、中枢神経系の疾患を除外することが大切である。さらに、糖尿病性ケトアシドーシスや低血糖症など代謝性疾患の除外のため、血糖、尿中ケトン体、血液ガス検査なども行う。肝性脳症初期の症状は、睡眠パターン変化、人格変化、被刺激性、精神反応の鈍化など軽微で非特異的な症状であり、臨床的診断は困難である。必要に応じて、定量的精神神経機能検査(数字追跡試験、WAIS式成人知能検査など)や電気生理学的神経検査(脳波[三相波がみられる]、大脳誘発電位など)を組み合わせて診断を試みる。アンモニア値が低いからといって肝性昏睡を否定できないことに注意が必要である。逆にアンモニア値が高くても意識障害を認めない症例も多数あるため、肝性脳症の診断には家人を含めた詳細な問診が必要となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝性脳症の治療は、誘因の除去および食事療法による一般療法と薬物療法に分けられる。1)誘因の除去タンパク質の過剰摂取、便秘、下痢などの便通異常、脱水、感染症、利尿剤や睡眠剤、安定剤の過剰投与などは、非代償性肝硬変患者において容易に肝性脳症を誘発するため、普段より生活指導を行うことが重要である。2)食事療法肝性脳症時の食事療法は、低タンパク食(0.4~0.6kg/標準体重)が基本であるが、長期間のタンパク制限は栄養不良を助長し、予後に悪影響を及ぼすことが懸念されるため、漫然と継続しないことに注意する。3)薬物療法アンモニアの生成および吸収抑制のため(1)合成二糖類、(2)難吸収性抗生物質を用いる。(2)に関して、これまではカナマイシンや硫酸ポリミキシンBが使われてきたが、いずれも保険適用外であり、長期投与による聴力障害や腎機能障害を生じるなどの問題があった。2016年に、海外では30年以上前から使用されていたリファキシミン(商品名:リフキシマ)が、肝性脳症に対してわが国でも使用が認可された。海外のガイドラインでは難吸収性抗生物質は、合成二糖類に併用投与が推奨されている。リファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類や分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの報告がある。亜鉛補充は、これまで各施設で硫酸亜鉛などを調剤していたが、ウイルソン病治療薬である酢酸亜鉛(同:ノベルジン)が肝疾患の低亜鉛血症に対して適応拡大となった。4 今後の展望最新の認知症ガイドラインにおいて、早期認知症との鑑別すべき疾患の1つとして肝性脳症が挙げられている。最近問題となっている車の運転における逆走などは、ミニマル脳症の患者も同様のハイリスクを有していることから、ミニマル脳症を含めた早期治療介入の重要性が今後注目されると思われる。さらにリファキシミンに関しては、長期投与の安全性が認められていることから、第1選択薬としての可能性もあり、今後わが国における検証が期待される。亜鉛補充やカルニチン製剤が、単独投与あるいは合成二糖類やBCAA製剤との併用投与により高アンモニア血症を改善するとの複数の報告もなされている。肝性脳症を含めて肝硬変領域においては、この数年間で多くの新薬が上市された。2019年には非代償期のC型肝硬変患者に対する直接的抗ウイルス治療薬(DAA)製剤も認可されており、今後肝硬変診療は新たなパラダイムシフトに向かっていくと思われる。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本消化器病学会ガイドライン閲覧サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肝臓学会肝性脳症診断ツールダウンロード(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2019年6月11日

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進行性多巣性白質脳症、ペムブロリズマブで臨床的改善/NEJM

 進行性多巣性白質脳症(PML)の患者に対し、PD-1阻害薬ペムブロリズマブ投与により8例中5例で脳脊髄液(CSF)中のJCウイルス量が減少し、臨床的改善や安定化につながったことが示された。米国・国立神経疾患・脳卒中研究所のIrene Cortese氏らによる試験の結果で、著者は「PML治療における免疫チェックポイント阻害薬のさらなる研究の根拠が得られた」とまとめている。NEJM誌2019年4月25日号掲載の報告。ペムブロリズマブ2mg/kgを4~6週間ごと、1~3回投与 PMLは、JCウイルスが原因の脳の日和見感染症で、免疫機能が回復できなければ通常は致死的である。PD-1は、ウイルスクリアランスの障害に寄与する可能性がある免疫応答の制御因子であることが知られている。しかし、PD-1阻害薬ペムブロリズマブがPML患者において、抗JCウイルス免疫活性を再活性化しうるかは明らかになっていなかった。 研究グループは、「ペムブロリズマブはJCウイルス量を低下し、CD4陽性細胞およびCD8陽性細胞の抗JCウイルス活性を上昇させる」との仮説を立て試験を行った。 PMLの成人患者8例に対し、ペムブロリズマブ2mg/kgを4~6週間ごとに、1~3回投与した。被験者には、それぞれ異なる基礎疾患が認められた。in vitroでCD4陽性、CD8陽性の抗JCウイルス活性の上昇も確認 被験者はいずれも、少なくとも1回の投与を受け、3回超の投与は受けなかった。 全8例で、ペムブロリズマブによる末梢血中とCSF中のリンパ球におけるPD-1発現の下方制御が認められた。 5例については、PMLの臨床的改善や安定化が認められ、CSF中のJCウイルス量の減少と、in vitroのCD4陽性細胞およびCD8陽性細胞の抗JCウイルス活性の上昇も認められた。 一方で残りの3例については、ウイルス量や、抗ウイルス細胞性免疫応答の程度について、意味のある変化はみられず、臨床的改善も認められなかった。

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C型肝炎へのDAA、実臨床での有効性を前向き調査/Lancet

 直接作用型抗ウイルス薬(DAA)は、慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染患者の治療に広範に使用されてきたが、その実臨床における有効性の報告は十分でなく、投与例と非投与例を比較した調査はほとんどないという。今回、フランス・ソルボンヌ大学のFabrice Carrat氏らの前向き調査(French ANRS CO22 Hepather cohort研究)により、DAAは慢性C型肝炎による死亡および肝細胞がんのリスクを低減することが確認された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年2月11日号に掲載された。ウイルス蛋白を標的とするDAA(NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬、NS5A複製複合体阻害薬)の2剤または3剤併用療法は、HCV感染に対し汎遺伝子型の有効性を示し、95%を超える持続的ウイルス陰性化(SVR)を達成している。DAAの有無でアウトカムを比較するフランスの前向きコホート研究 研究グループは、DAA治療を受けた患者と受けていない患者で、死亡、肝細胞がん、非代償性肝硬変の発生率を比較するコホート研究を実施した(INSERM-ANRS[France Recherche Nord & Sud Sida-HIV Hepatites]などの助成による)。 フランスの32の肝臓病専門施設で、HCV感染成人患者を前向きに登録した。慢性B型肝炎患者、非代償性肝硬変・肝細胞がん・肝移植の既往歴のある患者、第1世代プロテアーゼ阻害薬の有無にかかわらずインターフェロン-リバビリン治療を受けた患者は除外された。 試験の主要アウトカムは、全死因死亡、肝細胞がん、非代償性肝硬変の発生の複合とした。時間依存型Cox比例ハザードモデルを用いて、DAAとこれらアウトカムの関連を定量化した。 2012年8月~2015年12月の期間に、1万166例が登録された。このうちフォローアップ情報が得られた9,895例(97%)が解析に含まれた。全体の年齢中央値は56.0歳(IQR:50.0~64.0)で、53%が男性であった。補正前は高リスク、多変量で補正後は有意にリスク低下 フォローアップ期間中に7,344例がDAA治療を開始し、これらの患者のフォローアップ期間中央値(未治療+治療期間)は33.4ヵ月(IQR:24.0~40.7)であった。2,551例は、最終受診時にもDAA治療を受けておらず、フォローアップ期間中央値は31.2ヵ月(IQR:21.5~41.0)だった。 DAA治療群は非治療群に比べ、年齢が高く、男性が多く、BMIが高値で、過量アルコール摂取歴のある患者が多かった。また、DAA治療群は、肝疾患や他の併存疾患の重症度が高かった。さらに、DAA治療群は、HCV感染の診断後の期間が長く、肝硬変への罹患、HCV治療中、ゲノタイプ3型の患者が多かった。 試験期間中に218例(DAA治療群:129例、DAA非治療群:89例)が死亡し、このうち73例(48例、25例)が肝臓関連死、114例(61例、53例)は非肝臓関連死で、31例(20例、11例)は分類不能であった。258例(187例、71例)が肝細胞がん、106例(74例、32例)が非代償性肝硬変を発症した。25例が肝移植を受けた。 未補正では、DAA治療群のほうが非治療群に比べ、肝細胞がん(未補正ハザード比[HR]:2.77、95%信頼区間[CI]:2.07~3.71、p<0.0001)および非代償性肝硬変(3.83、2.29~6.42、p<0.0001)のリスクが有意に高かった。 これに対し、年齢、性別、BMI、地理的発生源、感染経路、肝線維化スコア(fibrosis score)、HCV未治療、HCVゲノタイプ、アルコール摂取、糖尿病、動脈性高血圧、生物学的変量(アルブミン、AST、ALT、ヘモグロビン、プロトロンビン時間、血小板数、α-フェトプロテイン)、肝硬変患者の末期肝疾患モデル(MELD)スコアで補正したところ、DAA治療群では非治療群と比較して、全死因死亡(補正後HR:0.48、95%CI:0.33~0.70、p=0.0001)および肝細胞がん(0.66、0.46~0.93、p=0.018)のリスクが有意に低下し、未補正での非代償性肝硬変のリスクの有意差は消失した(1.14、0.57~2.27、p=0.72)。 また、全死因死亡のうち、肝臓関連死(0.39、0.21~0.71、p=0.0020)と非肝臓関連死(0.60、0.36~1.00、p=0.048)のリスクは、いずれもDAA治療群で有意に低かった。 著者は、「DAA治療は、あらゆるC型肝炎患者において考慮すべきである」と結論し、「今回の結果は、重症度の低い患者へフォローアップの対象を拡大し、DAAの長期的な臨床効果の評価を行うことを支持するものである」としている。

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C型肝炎ウイルス感染症にエプクルーサ配合錠発売

 ギリアド・サイエンシズは、非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の成人患者、および直接作用型抗ウイルス療法(DAA)の前治療歴を有する慢性肝炎又は代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の患者に対する1日1回投与の治療薬「エプクルーサ配合錠」(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル)を2月26日に発売した。 本剤は、核酸型NS5Bポリメラーゼ阻害剤ソホスブビル(商品名:ソバルディ、2015年3月承認)とNS5A阻害作用を有する新有効成分ベルパタスビルを含有する新規配合剤。日本における非代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス感染症の成人患者に対する最初の治療薬であり、また難治性患者に対して新たな治療選択肢を提供できることとなる。<エプクルーサ配合錠の概要>●効能・効果前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善●用法・用量1. 前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善リバビリンとの併用において、通常、成人には、1日1回1錠(ソホスブビルとして400mg 及びベルパタスビルとして100mg)を24週間経口投与する。2. C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善通常、成人には、1日1回1錠(ソホスブビルとして400mg及びベルパタスビルとして 100mg)を12週間経口投与する。●発売日2019年2月26日●薬価1錠 60,154.50円■関連記事非代償性肝硬変を伴うC型肝炎に初の承認

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C型肝炎撲滅、2030年の世界目標に向けた介入の有効性/Lancet

 直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral:DAA)の開発がもたらしたC型肝炎治療の大変革は、公衆衛生上の脅威としてのこの疾患の世界的な根絶に関して、国際的な関心を生み出した。これを受け2017年、世界保健機関(WHO)は、2030年までに根絶との目標を打ち出した。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAlastair Heffernan氏らは、WHOのC型肝炎ウイルス(HCV)根絶目標について現状の達成状況を調査した。Lancet誌オンライン版2019年1月28日号掲載の報告。6つのシナリオに基づく介入拡大の世界的な影響を評価 研究グループは、世界的なHCV蔓延に及ぼす公衆衛生的介入の影響を評価し、WHOの根絶目標の条件を満たしているかを検証する目的で、数学的モデルを用いた検討を行った(Wellcome Trustの助成による)。 世界190ヵ国におけるHCV蔓延の動的伝播モデルを開発した。モデルには、人口統計学的要因、注射薬物使用者(PWID)、現行の治療・予防計画の適用範囲、疾病の自然史、HCV有病率、HCVに起因する死亡のデータが組み込まれた。 HCV感染の伝播リスクを低減し、治療機会を改善し、スクリーニングを受ける機会を増やす介入拡大が、世界に及ぼす影響を推定するために、以下の6つのシナリオに基づいて評価を行った。 (1)現状維持:既存の診断・治療レベルに変化がない、(2)介入1:血液安全性と感染管理の推進、(3)介入2:PWIDの健康被害の削減(harm reduction)、(4)介入3:診断時のDAA提供、(5)介入4:診断数を増やすためのアウトリーチ・スクリーニングの実施、(6)DAA非導入:治療をペグインターフェロンと経口リバビリンに限定(DAA使用の影響の調査のため)。HCV感染削減目標、死亡削減目標の達成は2032年か PWIDを除く人口における伝播リスクを80%削減し、健康被害削減サービスの適用範囲をPWIDの40%に拡大する介入により、2030年までに、1,410万件(95%確信区間[CrI]:1,300万~1,520万)の新たな感染が防止される可能性が示された。 また、すべての国で診断時にDAAを提供すると、肝硬変および肝がんによる64万件(95%CrI:62万~67万)の死亡が予防可能であることが示唆された。 ベースライン(2015年)と比較して、予防、スクリーニング、治療介入から成る包括的な対策は、1,510万件(95%CrI:1,380万~1,610万)の新たな感染と、150万件(140万~160万)の肝硬変および肝がんによる死亡を防止し、これにより感染率が81%(78~82)抑制され、死亡率は61%(60~62)低下すると推定された。 これは、WHOのHCV感染削減目標の80%に相当するが、死亡削減目標の65%には達しておらず、目標達成は2032年となる可能性が示された。 世界的な疾病負荷の低減は、予防介入の成功、アウトリーチ・スクリーニングの実践とともに、中国、インド、パキスタンなどの主要な高負荷国における進展に依存することが明らかとなった。 著者は、「HCVの疾病負担の削減には、すべての国において、併用治療とともに、血液安全性と感染管理の推進、PWIDの健康被害削減サービスの拡大と創設、大規模なHCVスクリーニングのさらなる改善が必要である」としている。

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非代償性肝硬変を伴うC型肝炎に初の承認

 平成元年(1989年)に発見されたC型肝炎ウイルス(HCV)。近年、経口の直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals:DAA)が次々と発売され、C型慢性肝炎や初期の肝硬変(代償性肝硬変)の患者では高い治療効果を得られるようになったが、非代償性肝硬変を伴うHCV感染症に対する薬剤はなかった。そのような中、平成最後の今年、1月8日にエプクルーサ配合錠(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠、以下エプクルーサ)が、「C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」に承認された。また、DAA治療失敗例に対する適応症(前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善)も取得した。ここでは、1月25日に都内で開催されたギリアド・サイエンシズ主催のメディアセミナーで、竹原 徹郎氏(大阪大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学 教授)が講演した内容をお届けする。予後の悪い非代償性肝硬変で初めて高い治癒率を実現 HCV感染者は長い期間を経て、慢性肝炎から代償性肝硬変、非代償性肝硬変へと進行する。非代償性肝硬変患者の予後は悪く、海外データ(J Hepatol. 2006)では、2年生存率が代償性肝硬変患者では約90%であるのに対し、非代償性肝硬変患者では50%以下という。国内データ(厚生労働科学研究費補助金分担研究報告書)でも、Child-Pugh分類A(代償性肝硬変)では3年生存率が93.5%に対して、非代償性肝硬変であるB、Cではそれぞれ71.0%、30.7%と低い。しかし、わが国では非代償性肝硬変に対して推奨される抗ウイルス治療はなかった(C型肝炎治療ガイドラインより)。 このような状況のもと、非代償性肝硬変に対する治療薬として、わが国で初めてエプクルーサが承認された。 非代償性肝硬変患者に対する承認は、エプクルーサ単独とリバビリン併用(ともに12週間投与)を比較した国内第 3 相臨床試験(GS-US-342-4019)の結果に基づく。竹原氏は、「海外試験ではリバビリン併用が最も良好なSVR12(治療終了後12週時点の持続性ウイルス学的著効率)を達成したが、この国内試験では両者のSVR12に差がみられなかったことから、有害事象の少なさを考慮して併用なしのレジメンが承認された」と解説した。 本試験でエプクルーサ単独投与群には、年齢中央値67歳の51例が組み入れられ、うち24例はインターフェロンやリバビリン単独投与などの前治療歴を有する患者であった。主要評価項目であるSVR12は92.2%で、患者背景ごとのサブグループ解析でも高いSVR12が認められ、治療歴ありの患者で87.5%、65歳以上の患者でも96.6%であった。同氏は、「より進行した状態であるChild-Pugh分類Cの患者で若干達成率が低かったが、それでも約80%で治癒が確認されている」とその有効性を評価。有害事象は9例で認められ、主なものは発疹、皮膚および皮下組織障害、呼吸器・胸郭および縦郭障害(それぞれ2例で発現)であった。他の薬剤で治癒が確認されていない特殊な薬剤耐性例でも効果 一方、DAA治療失敗例に関しては、DAA既治療のジェノタイプ1型および2型患者を対象とした試験(GS-US-342-3921)において、リバビリン併用の24週間投与により96.7%のSVR12率を達成している。「DAA既治療失敗例は、複雑な耐性変異を有する場合が多いが、これらの患者さんでも95%以上の治癒が得られたのは非常に大きい。とくに他の薬剤で治癒が確認されていない特殊な薬剤耐性P32欠損についても、5例中4例で治癒が確認された」と同氏は話した。また有害事象に関しては、リバビリンに伴う貧血の発現が約20%でみられたが、「貧血が起こっても、薬剤の量を調整することで症状を抑えることが可能。貧血が原因で投与中止となった例はない」と話している。 最後に同氏は、「非代償性肝硬変とDAA治療失敗例という、これまでのアンメットメディカルニーズを満たす治療薬が登場したことを、広くすべての医療従事者に知ってもらい、専門医と非専門医が連携して、治療に結び付けていってほしい」とまとめた。

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出揃ったC型肝炎治療薬、最新使い分け法

 相次いで有効な新経口薬が登場し、適切に使い分けることでほぼ全例でウイルス排除が可能となったC型肝炎。しかし、陽性患者の治療への移行割合が伸び悩むなど課題は残っており、医師・患者双方が、治療によるメリットと治療法をより正しく認識することが求められている。1月9日、都内で「C型肝炎の撲滅に向けた残された課題と今後の期待~C型肝炎治療の市販後の実臨床成績~」と題したメディアセミナーが開催され(主催:アッヴィ合同会社)、熊田 博光氏(虎の門病院 顧問)、米澤 敦子氏(東京肝臓友の会 事務局長)が講演した。マヴィレットは実臨床でも高いSVRを達成、残された非治癒例とは? 発売から約1年が経過したC型肝炎治療薬マヴィレット配合錠(一般名:グレカプレビル/ピブレンタスビル)の虎の門病院における市販後成績は、治療終了後12週時点の持続性ウイルス学的著効率(SVR12)はすべてのジェノタイプ、治療歴の患者で臨床試験と同様の良好な結果が得られ、有害事象に関しても新たな事象の発現はみられなかった。 ただし、他の直接作用型抗ウイルス療法(DAA)既治療の患者、ならびにジェノタイプ3型感染者については、98.7%、87.5%とSVR12が若干低い傾向がみられている(臨床試験ではそれぞれ93.9%、83.3%)。熊田氏は、この両者への対応について解説した。 まずDAA既治療患者について、ジェノタイプ1型のマヴィレット非治癒例の詳細解析を行ったところ、C型肝炎ウイルスのNS5A領域P32遺伝子欠損という共通点がみつかった。このP32遺伝子欠損の患者には、1月8日に薬事承認されたエプクルーサ配合錠(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル)とリバビリンの併用療法が80%の患者に効果があったと報告されている。「P32遺伝子欠損の患者には、エプクルーサ+リバビリン24週投与が第一選択になるだろう」と同氏。DAA既治療患者のうち、P32遺伝子欠損症例の発現頻度は5%ほどと考えられるという1)。 3型感染者については、日本人では元々非常に少ない(虎の門病院のデータで、1万879例中55例[0.5%])。「マヴィレットで大部分の患者に対応できるが、非治癒だった症例に対しては、ソバルディとリバビリンの併用を24週投与することで治癒する症例が確認されている」と話した。DAA未治療/既治療それぞれのC型肝炎治療薬の使い分け 上記を踏まえ、同氏は虎の門病院で医師間の申し送り時に使用しているという「DAAの使い分け法」を解説。DAA未治療/既治療それぞれの、C型肝炎治療薬の使い分けを以下に紹介する。 [初回・DAA未治療] 慢性肝炎(1型、2型とも)→マヴィレット8週間 肝硬変  代償性→(1型、2型とも)ハーボニーあるいはマヴィレット12週      (1型のみ)エレルサ・グラジナ12週間  非代償性→エプクルーサ12週間 [DAA既治療] 1型  Y93H、L31ダブル耐性あり→マヴィレット12週間*あるいはエプクルーサ  +リバビリン24週間  Y93H、L31ダブル耐性なし→マヴィレット*、ハーボニー、エレルサ・グラジナの  いずれか12週間、あるいはエプクルーサ+リバビリン24週間 *P32欠失例を除く 2型→マヴィレット(ハーボニー)12週間あるいはエプクルーサ+リバビリン24週間 3型→マヴィレット12週間(ただし、マヴィレット非治癒例にはソバルディ  +リバビリン24週間) 最後に同氏は、C型肝炎ウイルスへの感染が肝臓以外のさまざまな他臓器疾患にも影響を及ぼすことに言及。SVR非達成例では、達成例と比較してCKD発症率が約2.7倍2)、骨粗鬆症症例における骨折の発症率が約3倍3)というデータを紹介し、「糖尿病のコントロール向上に関連するというデータもあり、早いうちにC型肝炎を確実に治療することで、肝外病変に対しても好影響がある。短期間の経口薬投与でこれだけの治療率が達成されているので、他科の先生方もぜひ積極的にC型肝炎チェックを実施して、治療につなげていってほしい」と呼び掛けた。C型肝炎治療は高齢者には難しいという認識が根強いが・・・ 続いて登壇した米澤氏は、東京肝臓友の会にこの1年半ほどの間で寄せられた相談内容をいくつか紹介。「医師から一人暮らしの後期高齢者にそんな治療はしないぞ! と怒られた」「過去にインターフェロン治療を行ったが効かず、治療薬のことを知りかかりつけ医に相談したが、知らないと言われた」などの相談が実際に寄せられているという。 患者側も、自覚症状がなければ治療に踏み切れない事例も多い。「主治医から治療を勧められたが、肝機能はずっと正常値。症状もないので治療はしなくてもいいか?」などで、同氏は「インターフェロン治療の時代が長かったため、C型肝炎治療は高齢者には難しい、あるいは大変な治療という認識が根強くある。またかかりつけ医から専門医への受け渡しがスムーズにいっていない事例もあると感じる」と話した。 なお、肝炎ウイルス検査陽性の場合の精密検査費用の国による助成が、2019年度から民間分も対象になる予定であることも紹介された。

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1日1回1錠で他の抗HIV薬を併用する必要がない「オデフシィ配合錠」【下平博士のDIノート】第15回

1日1回1錠で他の抗HIV薬を併用する必要がない「オデフシィ配合錠」今回は、「リルピビリン塩酸塩/テノホビル アラフェナミドフマル酸塩/エムトリシタビン配合錠(商品名:オデフシィ配合錠)」を紹介します。本剤は、3剤の抗ウイルス薬を配合した1日1回服用のヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染症治療薬であり、服薬率が治療の成否に関わるHIV治療において良好なアドヒアランスを維持することが期待されています。<効能・効果>本剤はHIV-1感染症の適応で、2018年8月21日に承認され、2018年9月20日より販売されています。HIV-1の逆転写酵素活性を阻害することで、ウイルスの増殖を抑制します。<用法・用量>通常、成人および小児(12歳以上かつ体重35kg以上)には、1回1錠を1日1回食事中または食直後に経口投与します。本剤は、空腹時に服用すると、リルピビリンの血中濃度が低下する恐れがあるなどの理由により、「食事中または食直後」となっているので、監査・投薬時には注意が必要です。<副作用>他剤によってウイルス学的に抑制されているHIV-1患者を対象として本剤に切り替えた海外第III相試験では、6.3~12.8%に臨床検査値異常を含む副作用が認められ、主な副作用は下痢、悪心、頭痛、鼓腸、不眠症、異常な夢でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.3種類の抗ウイルス薬でHIVの増殖を抑え、AIDS(後天性免疫不全症候群)の発症・進行を防ぐ薬です。2.飲み合わせに注意すべき薬や食品が多くあるため、現在服用している薬やサプリメントがある場合は、医師・薬剤師にお伝えください。また、新たに薬を飲み始める場合は、あらかじめ相談してください。3.抗HIV薬は、飲み忘れが繰り返されると、HIVが耐性を獲得して治療に失敗する可能性が高くなりますので、医師の指示どおりに毎日きちんと服用してください。4.抗HIV薬はHIV感染症を根本的に治す薬ではなく、ほぼ生涯にわたって治療を継続する必要があります。5.本剤服用後に、むくみ、尿量減少、全身倦怠感、過呼吸、手足の震え、意識障害などが現れた場合は、ただちに受診してください。6.母乳中に移行することが報告されているため、本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>HIV感染症は抗ウイルス薬を3~4種類併用する抗レトロウイルス療法(ART)が標準治療となっており、強力にHIVを抑制する「キードラッグ」1剤と、キードラッグを補足してウイルス抑制効果を高める「バックボーン」2剤を組み合わせるのが一般的です。本剤は、キードラッグとしてリルピビリン、バックボーンとしてテノホビル アラフェナミドフマル酸(TAF)とエムトリシタビンの3剤が含有されており、1日1回1錠の服用で他の抗HIV薬を併用する必要はありません。本剤は、既存のリルピビリン塩酸塩/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩/エムトリシタビン配合錠(商品名:コムプレラ配合錠)に含まれるテノホビル ジソプロキシルフマル酸(TDF)をTAFに置換した製剤です。TDFとTAFは、どちらもテノホビルのプロドラッグですが、TDFが血漿中で活性体であるテノホビルに変換されるのに対し、TAFは細胞内で変換されるため、テノホビルを効率的に感染細胞内へ送達できます。そのため、TAFは低用量でTDFと同等の抗HIV効果を示すことができると考えられています。TDFを含む抗HIV治療薬では、腎機能障害や骨密度低下について安全性の懸念がありますが、TDFをTAFに置き換えた本剤では、体内への暴露量が減ることなどにより、これらの副作用の軽減が期待されています。相互作用に気を付けるべき薬は複数あり、とくに注意が必要なのはプロトンポンプ阻害薬(PPI)です。PPIの胃酸分泌抑制作用によって胃内pHが上昇すると、リルピビリンの血中濃度が低下する恐れがあるため、併用禁忌となっています。同様の理由から、H2ブロッカーや制酸剤も時間をずらして投与する必要があり、他科からの処方薬やOTC薬にも念入りなチェックが必要です。近年HIV感染症の薬物療法は格段に進化し、適切な治療さえ行っていれば、もはや死の病とは言えなくなりました。しかし、アドヒアランスが非常に重要で、飲み忘れなく続けることが治療の成否に関わることを患者さんに十分に理解してもらうことが大切です。ガイドラインでもアドヒアランスの観点から、新規に治療を開始する患者さんでは1日1回投与の薬剤を積極的に選択するように記載されています。1日1回投与で他の抗HIV薬を併用する必要がない配合剤はすでに4剤発売されていますが、本剤はそれらよりも小さい薬剤であり、患者さんの負担の少ない選択肢が増えたことはHIV感染症の患者さんにとって大きな意義があるでしょう。

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免疫再構築症候群(IRIS)による結核発症・悪化の予防にprednisoneが有効(解説:吉田敦氏)-973

 HIV感染者において、抗ウイルス療法(ART)開始後に併存している感染症が悪化することを経験するが、これはARTによって免疫再構築が生じることによるとされ、免疫再構築症候群(IRIS)と総称されている。ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス感染症、結核、クリプトコッカス髄膜炎が代表的であり、これらの感染症を発症した後にARTを開始する際には、IRISによる悪化ないし発症を少なくするために、感染症治療からある程度の時間をおいてからARTを開始するのがよいとされてきた。 しかしながら、ART開始が遅れると免疫低下の強い期間がそれだけ長くなるために、全身状態の改善が遅れたり、他の日和見感染症の発症を招き、ひいては死亡につながる。このためART開始時期については、たとえばニューモシスチス肺炎では治療開始後2週間以内、クリプトコッカス髄膜炎では抗真菌薬開始後5週間以降が目安とされている。ただし結核については開始時期のみならず、IRIS発症予防ないし発症時に用いられるステロイド投与についても議論があった※。またその際、ステロイド投与を避けるべきとされるカポジ肉腫(KS)の合併や悪化にも懸念があった。 今回の試験では、結核治療開始後1ヵ月以内にARTを開始した、CD4陽性リンパ球数100個/μL以下の患者において、ARTと同時にprednisoneを開始し、28日間続け、結核によるIRIS発生率をプライマリーエンドポイントとして評価した。結果としてIRIS発生率はprednisone投与群で有意に低く、さらに合併した場合でもその程度は軽度であった。さらにKS合併率も増加しなかった。 prednisoneの初期投与量は40mg/日であったが、同時に投与されていたリファンピシンとの相互作用を鑑みると、実際の体内濃度はこの半分程度であろう。低用量であるといえ、この量でも効果がみられたことは興味深い。さらにCD4陽性リンパ球数が中央値49個/μLとかなり低下し、ARTをできる限り早く開始すべきである一方、ステロイド投与によるさらなる免疫低下と他の感染症の合併を容易に来しやすい患者群でありながら、日和見感染症を含む他の感染症もKSも増加せず、さらに抗結核薬の副作用の出現も少なかったことは、ステロイドによるIRIS抑制・アレルギー抑制というポジティブな効果が高く発揮された結果といえよう。 本検討の限界として筆者らは、今回の対象者が歩行可能な患者であったことと、死亡率の比較まで行えるほど集団が大きくなかったことを挙げている。入院患者では結核もさらに進行しているのが通常であり、より重症な患者でのIRISによる結核の悪化に対しては、ステロイドの効果は異なる可能性がある。また従来のコンセンサス※は生存率まで含んだものであったので、この点も今後の知見が待たれるところである。なお他論文ではART開始前のIL-6が結核のIRIS発症と相関することが報告されており1)、これをマーカーとしたIRISのハイリスク患者の区別と、ステロイド投与法の工夫も今後検討される課題であろう。※従来では、CD4リンパ球数<50ならば、結核治療開始後2週間以内にARTを開始すると生存率が改善、CD4>50ならば早期のART開始による生存率改善は認められず、中等症~重症結核では結核治療開始後2~4週、重症結核では8~12週でART開始、とされてきた。

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新規抗インフルエンザ薬の位置付け

 インフルエンザの流行期に備え、塩野義製薬が「インフルエンザ治療の最前線」と題したメディアセミナーを都内にて開催した。本講演では、廣津 伸夫氏(廣津医院 院長)が、「抗インフルエンザウイルス薬『ゾフルーザ(一般名:バロキサビル)』の臨床経験を通じた知見」について語り、「従来の治療薬と同等の立場で選択されるべき治療薬だ」との見解を示した。既存のNA阻害薬と新規作用機序のバロキサビル はじめに、最新のインフルエンザ治療に関する自身の研究成果が紹介された。本人・家族における過去のインフルエンザ感染既往は、ワクチン接種後の抗体価上昇に良好に影響し、ウイルスの残存時間を短縮するという。既存の抗インフルエンザウイルス薬であるノイラミニダーゼ(NA)阻害薬は、薬剤によってウイルスの残存時間への影響が異なり、ウイルス残存時間が短いNA阻害薬ほど、家族内感染率を下げたと報告された。 次に、2018年3月に発売されたバロキサビルについて解説された。バロキサビルは、新規作用機序をもつ抗インフルエンザウイルス薬であり、インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。 廣津氏は、第II相、第III相、および小児の治験から得られた、バロキサビルの利便性、抗ウイルス効果、安全性についての結果と、自ら携わった治験での臨床経験を語った。バロキサビルはインフルエンザの罹病期間を短縮する バロキサビルの、成人および青少年(12歳以上65歳未満)の患者を対象とした国際共同第III相試験において、A型および/またはB型インフルエンザウイルス感染症患者1,064例を対象とした結果、主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間の中央値は、プラセボ群(80.2時間、95%信頼区間[CI]:72.6~87.1)と比較して、バロキサビル群(53.7時間、95%CI:49.5~58.5)で有意に短かった(p<0.0001)。 また、副次評価項目であるウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間の中央値は、オセルタミビル群(72.0時間、95%CI:72.0~96.0)と比較して、バロキサビル群(24.0時間、95%CI:24.0~48.0)で有意に短く(p<0.0001)、インフルエンザ罹患時にバロキサビルを服用すると、体内のインフルエンザウイルスが早くいなくなる可能性が示唆された。 しかし、オセルタミビルとの比較試験では、主要評価項目の基準となったインフルエンザの7症状(咳、喉の痛み、頭痛、鼻づまり、熱っぽさまたは悪寒、筋肉または関節の痛み、疲労感)の消失を基準にした罹病期間はほとんど変わらなかったが、「何よりも治療を受けた患者さんたちの『楽になった』との自覚症状の改善が印象的」と語った。低年齢の小児では、治療後に変異ウイルス発現の可能性 続けて小児(6ヵ月以上12歳未満)のA型および/またはB型インフルエンザウイルス感染症患者104例を対象とした国内第III相試験について、成人を対象とした試験と同様にインフルエンザの罹病期間の中央値を評価したところ、バロキサビル群で44.6時間(95%CI:38.9~62.5)と良好な結果が得られた。 一方で、小児では治療後にバロキサビルに対する感受性低下を示す可能性のある変異ウイルスが観察されており、低年齢(とくに5歳未満)で変異率が高くなるという報告がある。しかし、臨床効果への影響についてはまだわかっていないため、今後の検討が必要であるという旨の提言が日本感染症学会インフルエンザ委員会から出されている。これに対しては、抗体価が高いと、変異のリスクを低下させる可能性があるという治験での結果から、ワクチン接種の効果も期待できるとの見解が示された。 最後に、同氏は「インフルエンザ患者の初診時に、効果、安全性、利便性を考えたうえでの薬剤選択が必要。バロキサビルという新薬の登場で、インフルエンザ診療に新たな選択肢が増えた。バロキサビルの単回経口投与という利便性と、高い有効性と安全性から、従来の薬にとって代わる薬剤になるのではないかと思っている。ただし、変異ウイルスに関しては、今後も十分な観察・注意が必要だ」と講演を締めくくった。

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「かぜには抗菌薬が効く」と認識する患者が約半数、どう対応すべきか

 一般市民対象の抗菌薬に関する意識調査の結果、約半数が「かぜやインフルエンザなどのウイルス性疾患に対して抗菌薬が効く」と誤った認識をしていることが明らかになった。AMR臨床リファレンスセンターは10月30日、「抗菌薬意識調査2018」の結果を公表し、「薬剤耐性(AMR)対策の現状と取り組み 2018」と題したメディアセミナーを開催した。セミナーでは大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター病院 副院長/国際感染症センター長/AMR臨床リファレンスセンター長)、具 芳明氏(AMR臨床リファレンスセンター 情報‐教育支援室長)らが登壇し、意識調査結果や抗菌薬使用の現状などについて講演した。抗菌薬で熱が下がる? 痛みを抑える? 「抗菌薬意識調査2018」は、2018年8~9月に、10~60代の男女721人を対象に実施されたインターネット調査1)。「抗菌薬・抗生物質という言葉を聞いたことがあるか」という質問に対し、94.2%(679人)が「ある(66.7%)」あるいは「あるが詳しくはわからない(27.5%)」と回答した。「抗菌薬・抗生物質はどのような薬だと思うか」と複数回答で聞いた結果、「細菌が増えるのを抑える」と正しく回答した人はうち71.9%(488人)。一方で「熱を下げる(40.9%)」、「痛みを抑える(39.9%)」など、直接の作用ではないものを選択する人も多く、抗菌薬に対する誤った認識が浮き彫りとなった。 「抗菌薬・抗生物質はどのような病気に有用か知っているか」という質問に対しては、「かぜ」と答えた人が49.9%(339人)で最も多く、2番目に多かった回答は「インフルエンザ(49.2%)」であった。正しい回答である「膀胱炎」や「肺炎」と答えた人はそれぞれ26.7%、25.8%に留まっている。「かぜで受診したときにどんな薬を処方してほしいか」という質問にも、30.1%の人が「抗菌薬・抗生物質」と回答しており、“ウイルス性疾患に抗菌薬が効く”と認識している人が一定数いる現状が明らかになった。抗ウイルス薬を約3割の人が抗菌薬と誤解 さらに、抗菌薬5種類を含む全12種類の薬品名を挙げ、「あなたが思う抗菌薬・抗生物質はどれか」と複数回答で尋ねた質問では、多かった回答上位5種類のうち3種類が抗菌薬以外の薬剤であった。最も多かったのは抗ウイルス薬のT(頭文字)で、29.3%(199人)が抗菌薬だと誤解していた。他に、鎮痛解熱薬のL(18.1%)やB(14.4%)も抗菌薬だと回答した人が多かった。 本調査結果を解説した具氏は、「医療従事者が思っている以上に、一般市民の抗菌薬についての知識は十分とは言えず、適応や他の薬剤との区別について誤解が目立つ結果なのではないか。このギャップを意識しながら、十分なコミュニケーションを図っていく必要がある」と話した。 “不必要なことを説明して、納得してもらう”ために 医師側も、一部でこうした患者の要望に応え、抗菌薬処方を行っている実態が明らかになったデータがある。全国の診療所医師を対象に2018年2月に行われた調査2)で、「感冒と診断した患者や家族が抗菌薬処方を希望したときの対応」について聞いたところ(n=252)、「説明しても納得しなければ処方する」と答えた医師が50.4%と最も多かった。「説明して処方しない」は32.9%に留まり、「希望通り処方する」が12.7%であった。 大曲氏は、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを取りまとめる過程で検討したデータからも、感冒をはじめとした急性気道感染症や下痢症など、本来抗生物質をまず使うべきでないところで多く使われている現状が明らかになっている」と話し、必要でないケースでは医師側が自信を持って、ときには繰り返し患者に説明していくことの重要性を強調した。2018年度の診療報酬改定で新設された、「小児抗菌薬適正使用支援加算」3)は、不必要な抗菌薬を処方するのではなく、患者への十分な説明を重視したものとなっている。そのためのツールの1つとして、2017年発行の「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」や、センターが運用している「薬剤耐性(AMR)対策eラーニングシステム」4)などの活用を呼び掛けている。■参考1)国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター プレスリリース2)日本化学療法学会・日本感染症学会合同外来抗菌薬適正使用調査委員会「全国の診療所医師を対象とした抗菌薬適正使用に関するアンケート調査」2018.3)厚生労働省「第3回厚生科学審議会感染症部会薬剤耐性(AMR)に関する小委員会 資料5」4)国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター情報サイト「かしこく治して、明日につなぐ」 ■関連記事全国の抗菌薬の使用状況が一目瞭然「抗微生物薬適正使用の手引き」完成●診療よろず相談TV シーズンII第30回「抗微生物薬適正使用の手引き」回答者:国立成育医療研究センター 感染症科 宮入 烈氏第32回「『抗微生物薬適正使用の手引き』の活用法」回答者:東京都立多摩総合医療センター 感染症科 本田 仁氏

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第11回 レジパスビル/ソホスブビルの8週、12週、24週投与による有効性の違いは?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 C型肝炎の治療薬は近年急速に充実してきました。そのはしりがアスナプレビルとダクラタスビルの併用療法ですが、すぐにソホスブビル(商品名:ソバルディ錠)がインターフェロン無効例でも高い奏効率を示したことから、画期性加算が100%上乗せされて同薬剤には高額な薬価が設定されました。次いでレジパスビル/ソホスブビル(商品名:ハーボニー配合錠)が発売され、「ジェノタイプ(遺伝子型)1型のC型慢性肝炎において、リバビリン併用なしでSVR12を100%達成」と大きな話題になりました1)。レジパスビル/ソホスブビルも高額な薬価が設定され、IQVIAジャパンの調査によれば、レジパスビル/ソホスブビルは2016年の売上金額第1位でした。その後も、2017年にグレカプレビル/ピブレンタスビル(商品名:マヴィレット配合錠)が発売され、こちらも2018年の第1・第2四半期で売上金額第1位となっています2)。何かと話題に事欠かないC型肝炎治療薬の中から、今回はレジパスビル/ソホスブビルに関する研究を紹介します。レジパスビル/ソホスブビルの第III相試験には、多施設オープンラベルのランダム化比較試験のION-1、ION-2、ION-33-5)の3つがあります。いずれも18歳以上のジェノタイプ1のC型肝炎患者を対象としており、未治療例、他剤無効例、肝硬変例などの属性の患者ごとにレジパスビル/ソホスブビルあるいはレジパスビル/ソホスブビル+リバビリン併用の効果を、SVR12をプライマリエンドポイントとして検討しています。なお、SVRとはsustained virological response(持続陰性化)の略で、服用終了から12週後にC型肝炎ウイルス陰性(検出限界未満)が確認された場合にはSVR12となり、24週後も陰性が確認された場合にはSVR24となります。それぞれの試験の結果は下表のとおりです。結果から、インターフェロンが無効であった例でも高い奏効率であること、肝硬変例においても有効であることが読み取れます。また、ION-3において肝硬変なしの未治療例の研究では、8週服用と12週服用で大きな差はみられませんでした。本邦では12週服用が原則ですが、英国のNICEガイダンスにおいては、肝硬変を伴わないジェノタイプ1のC型肝炎については8週服用が推奨されています6)。国民保健サービス(NHS)により原則公費負担で提供される英国の医療制度においては、診療ガイドライン作成時に費用対効果も厳しく査定され、期待できる効果に大差がなければ8週で終了というのは経済的にも副作用予防の側面でも合理的なのかもしれません。なお、比較的多くみられた有害事象は、倦怠感や頭痛に不眠、吐き気、無力症、下痢、発疹などでした。これらの試験は肝がんへの進展や総死亡をプライマリエンドポイントとしているわけではないため、厳密には総死亡や肝がん発生率を語ることはできないのですが、SVR12の達成率が高いということはウイルス陰性が長く続くということなので、肝障害の進展抑制が期待できるものと推察されます。ただし、事例として多いわけではないものの、インターフェロンと異なり免疫活性作用が期待できない直接作用型の抗ウイルス薬治療で肝細胞がんの再発が増えた事例も報告されていますから、一定の認識はあってもよいかと思います7)。飲み忘れ時は「気づいた時点で服用」が原則経験上、レジパスビル/ソホスブビルは自己負担の上限はあれど薬価がきわめて高いことや、肝硬変や肝がんに進行させたくないという治療目的から、患者さんが普段以上に相互作用や飲み忘れ時の対応などで慎重になるように思います。レジパスビルは胃内pHの上昇により溶解性が低下するため、添付文書にはH2ブロッカー併用時は同時投与または12時間の間隔を空け、PPI併用時は空腹時に同時服用となっています。酸化マグネシウムは本邦の添付文書には具体的な服用間隔の指示はありませんが、米国の添付文書では4時間の間隔を空けるとあります。飲み忘れて慌てて連絡してくる患者さんもお見かけしますが、メーカーに問い合わせてみると「一般的に飲み忘れに気付いた時点で服用し、その日の服用はそれのみとして、その翌日から従来通りの服用時点で服用する。同じ日に2回分を飲まないという原則を守る。薬を体内から切らさないようにすることが大切」という回答を得たことがありますので参考にしていただければと思います。1)ギリアド ・サイエンシズ株式会社プレスリリース(2015年8月31日付)2)IQVIAジャパン トップライン市場データ3)Afdhal N, et al. N Engl J Med. 2014;370:1889-1898.4)Afdhal N, et al. N Engl J Med. 2014;370:1483-1493.5)Kowdley KV, et al. N Engl J Med. 2014;370:1879-1888.6)NICE guidance Ledipasvir-sofosbuvir for treating chronic hepatitis C7)Reig M, et al. J Hepatol. 2016;65:719-726.8)ハーボニー配合錠 添付文書(2018年2月改訂 第7版)、インタビューフォーム(2018年7月改訂 第8版)9)HARVONI package insert

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抗インフル薬バロキサビルの第II相・第III相試験の結果/NEJM

 合併症を伴わない急性インフルエンザの思春期・成人患者へのバロキサビル マルボキシル(商品名:ゾフルーザ)の単回投与は、症状緩和についてプラセボに対し優越性を示し、投与開始1日後時点のウイルス量低下についてプラセボおよびオセルタミビルに対する優越性が示された。安全性に関する明らかな懸念はなかったが、治療後にバロキサビルに対する感受性の低下を示す知見も観察されたという。米国・バージニア大学のFrederick G. Hayden氏らによる、日本と米国の患者を対象に行った2件の無作為化試験の結果で、NEJM誌2018年9月6日号で発表された。バロキサビル マルボキシルは、インフルエンザウイルス・キャップ依存性エンドヌクレアーゼ選択的阻害薬。前臨床モデル試験で、既存の抗ウイルス薬では効果が認められない耐性株を含むインフルエンザA型とB型に対して、治療活性が示されていた。20~64歳、12~64歳の合併症のないインフルエンザ患者を対象に試験 研究グループは、合併症のない急性インフルエンザを発症し、それ以外は健康な患者を対象に2つの無作為化試験を行った。1つ目は、2015年12月~2016年3月にかけて20~64歳の日本人成人を対象に行った、第II相の二重盲検プラセボ対照無作為化用量範囲探索試験。被験者を4群に分け、バロキサビルを10mg、20mg、40mg、プラセボをそれぞれ単回投与した。 もう1つの試験は、2016年12月~2017年3月にかけて、インフルエンザ様症状で外来受診した12~64歳の米国人・日本人を対象に行った、第III相の二重盲検プラセボ/オセルタミビル対照無作為化試験「CAPSTONE-1」。20~64歳の被験者を無作為に3群に分け、バロキサビル(体重80kg未満は40mg、体重80kg以上は80mgを1回)、オセルタミビル(75mgを1日2回5日間)、プラセボをそれぞれ投与した。12~19歳の患者は、2対1の割合で無作為に割り付けてバロキサビルまたはプラセボを投与した。 有効性の主要評価項目は、intention-to-treat(ITT)感染集団におけるインフルエンザ症状緩和までに要した時間だった。バロキサビル群がプラセボ群よりも23.4~28.2時間早く症状が緩和 第II相試験では、症状緩和までの時間中央値は、バロキサビル群がプラセボ群よりも23.4~28.2時間短かった(p<0.05)。 CAPSTONE-1試験では、ITT感染集団1,064例のうち、インフルエンザA型(H3N2)感染が各群で84.8~88.1%に認められた。症状緩和までの時間中央値は、プラセボ群80.2時間(95%信頼区間[CI]:72.6~87.1)に対し、バロキサビル群53.7時間(同:49.5~58.5)だった(p<0.001)。また、バロキサビル群では、プラセボ群やオセルタミビル群と比べ、レジメン開始1日後のウイルス量が有意に減少した。 なお、バロキサビル群とオセルタミビル群の症状緩和までの時間中央値は類似していた。 有害事象の発生は、バロキサビル群20.7%、プラセボ群24.6%、オセルタミビル群24.8%で認められた。バロキサビルへの感受性低下につながるI38T/M/F置換を伴うポリメラーゼ酸性蛋白領域の変異は、第II相試験とCAPSTONE-1試験で、それぞれバロキサビル投与例の2.2%と9.7%で認められた。

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