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第7回 頸部・肩・上肢の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第7回 頸部・肩・上肢の痛み頸部の痛みは、誰もが経験する痛みでありますし、一般的な受診理由の1つでもあります。また、それに引き続いて生じる肩痛や上肢痛はQOLの低下にも大いに関連しますので、患者さんの訴えを理解するために必要な知識であろうと思います。今回は、この頸部・肩・上肢の痛みを取り上げたいと思います。頸部の痛みの鑑別の重要性頸部の痛みの発生源としては、頸部の筋・筋膜、腱・靭帯、椎骨、椎間関節、椎間板、上位頸神経根など頸部の構成組織が関連しております。いわゆる筋・骨格系の痛みに通常の日常診療ではよく遭遇します。重要なのは、これらの良性疾患による痛みと、腫瘍、感染など重大な病変をもつ腫瘍浸潤や頸椎骨転移・病的骨折、また、椎間板炎、化膿性脊椎炎、頸部硬膜外膿瘍などの鑑別診断になります。筋・骨格系の痛みの場合、通常は患者さんの訴える部位を圧迫すると、いわゆる圧痛がみられます。加えて明確な神経学的欠損はほとんどみられません。そのほか、患者さんの訴えと神経学的所見が一致しない場合には、心因性疼痛が疑われます。「五十肩」「肩こり」発生のメカニズム肩の痛みは、下部頸椎性の原因に基づく場合もありますが、肩関節周囲炎がよく取り上げられます。肩関節は、体の中で最大の可動域を有する球関節です。そのためにさまざまな関節が関与して、この可動域を生み出しております。加齢とともに変性が加わり、さらに外傷や運動によって、関節内の炎症や損傷をもたらします。肩関節には上腕二頭筋長頭腱の走行があります。結節間溝表面は横上腕靭帯が覆い、腱鞘のような構造になっております。この部分では長頭腱は炎症や摩耗変性を生じやすい状態になっており、まさにこのようにして生じた一連の障害が肩関節周囲炎です。いわゆる「五十肩」は複雑な病変部位が明確でない場合に付けられる病名です。圧痛部は複雑な病変部を推定するのに役立ちます。頸肩部でよくみられ、いわゆる「肩こり」と呼ばれる筋・筋膜疼痛症候群もよくある疾患です。また、頸肩腕部の痛みを主訴とするものも、明確な原因を特定できない場合には、頸肩腕症候群として診断されます。上肢の痛みには2つタイプがある上肢の痛みは、頸椎由来の痛みと上肢に限定される痛みがあります。上肢が原因として生じる痛みとしては、上腕骨内側上顆炎・外側上顆炎、変形性肘関節症、変形性手関節症、母指CM関節症、正中神経が関連する手根管症候群や回内筋症候群、尺骨神経が含まれるギヨン管症候群や肘部管症候群、橈骨神経が関連する橈骨神経管症候群などの絞扼性末梢神経障害などがあります。いずれも知覚障害が初期症状として出現します。それに対して、頸部由来の上肢痛や痺れも珍しくありません。図に示しますように頸部由来の上肢痛が、それぞれの皮膚分節に沿ってみられます。疑うべき疾患としては頸椎症性神経根症、頸椎椎間板ヘルニア、外傷性頸部症候群、頸椎手術後疼痛症候群、頸椎椎間関節症、パンコースト腫瘍などが挙げられます。腫瘍疾患は高齢者に多いのですが、夜間痛、安静時痛が特徴です。図 皮膚の分節(Cは頸髄神経を示す)画像を拡大する次回は、「腹痛」を取り上げます。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:124-125.2)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:136-137.3)花岡一雄ほか編集. ペインクリニック療法の実際. 南江堂;1996.p.331-345.

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エキスパートに聞きました!「痛みの治療」に関する素朴なギモン Part2

CareNet.comでは8月の1ヵ月間を通し、痛み、特に神経障害性疼痛にフォーカスして様々な情報をお届けしてきました。そんな中で視聴者から寄せられた痛みの治療に関する質問に対し、小川 節郎 先生にご回答いただきます。(前編/後編シリーズ)治療効果の評価方法は?急性痛の治療ゴールは疼痛をゼロにすることですが、慢性疼痛治療のゴールはQOLの向上を念頭に置いた治療目標を決めることが必要です。その際留意すべき点は、慢性疼痛とくに神経障害性疼痛の場合、疼痛ゼロを目標とすると達成は困難で、かつ患者さんも満足しないという点です。たとえば、まずは眠れるようにしましょう、次に10分散歩できるようにしましょう、その次には旅行できるようにしましょう、といった目標を立てそれを達成できたかを評価するとよいと思います。また、客観的に評価する場合には、VASスケール*を用いるとよいでしょう。*VAS:Visual Analogue pain Scale最近発売されたプレガバリン(商品名:リリカ)、デュロキセチン(商品名:サインバルタ)、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤(商品名:トラムセット)の使い分けは?神経障害性疼痛と考えたらまずCaチャネルα2σリガンドであるプレガバリンを使っていただくのがよいと思います。第一選択薬であるプレガバリンや三環系抗うつ薬などで副作用が強く出る場合には、デュロキセチンをお使いになっても良いと思います。プレガバリンとデュロキセチンは一緒に使っても構いません。どの薬剤でも副作用が出ることがありますので、その際は患者さんとって副作用が少ない方、患者さんがよいと言った方を使うということになります。それでもだめな場合は、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤を追加するか、同剤に変更するかとなるでしょう。また、プレガバリンが奏効するタイプ、奏効しないタイプの見極めという質問がありましたが、残念ながらそれは使ってみないとわからないというのが現状です。プレガバリンの副作用のマネジメント、増量方法、離脱方法は?副作用についてですが、眠気が出る場合は、1週間程度、夜だけ投与してみるのも一つの方法です。その後、夜の1回量を増やす、昼間も飲ませるなど段階的に増やしてきます。また、体重増加が出るケースがありますが、その場合は薬剤の減量しかないといえます。増量についてですが、添付文書では75mgから開始となっているものの、その用量でスタートすると副作用がでて治療初期から失敗することもあります。プレガバリンには25mg錠があるので、25mg夜1回から使い始め、1週間単位で25mgずつ増量することにより副作用をマネジメントしながら効果を出してく方法もあります。また、用量上限の目安は300mgとしていただく方がよいと思います。離脱についても、増量と同じく徐々に行うことになります。たとえば、1週間ごとに25mgあるいは50mgずつ減量していくことでよいと思います。いつまで使ってよいか?という質問がありましたが、これは難しい問題です。たとえば、薬剤を使いながら患者さんの体力を向上させる手段を併用し、診療のたびに生活の質を聞いて、薬剤を使わなくてもよいと判断したら積極的に減らすというのも一つの方法です。糖尿病性神経障害に伴う痛みに対する有効な治療法は?アルドース還元酵素阻害薬エパルレスタット(商品名:キネダックほか)を使ったり、メキシレチン(商品名:メキシチールなど)を使用します。抗けいれん薬のCaチャネルのα2σリガンド、三環系抗うつ薬、SNRIのデュロキセチンなどが、第一選択薬、第二選択薬がワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピンなど)となっています。それでも効果がない場合、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤、さらにひどい場合は強オピオイドということになりますが、一定のところで折り合いをつけることが重要です。その基準は経口モルヒネ換算で120mg/日です。それを越えるようであれば専門的な治療法を考える必要があります。脳卒中後の疼痛(視床痛)への最新の治療法は?治療方法としては、薬物療法は神経障害性疼痛の薬物療法に準じます。薬物以外の最新の治療は脳刺激療法です。脳に電極を挿入する脳深部刺激療法、脳の表面に電極を当て磁気刺激をする経皮頭蓋磁気療法などがあります。指切断・幻肢痛の機序は?これは神経障害性疼痛の機序そのものといえます。切断された神経が脳の帯状回や視床、前頭前野機能を変化させるので、それらに対する治療法になります。治療方法としては、神経障害性疼痛の薬物療法、薬物療法以外では、末梢神経電気刺激、脊髄電気刺激療法、電気けいれん療法なども用います。これらの方法を実施される場合は、脳神経外科やペインクリニックにご相談いただければよいかと思います。

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「痛み」の診療に関する緊急アンケート その4 ~非がん性痛に対するオピオイド使用実態【整形外科編】~

対象ケアネット会員の整形外科医師208名方法インターネット調査実施期間2012年8月16日~8月23日Q1.非がん性の痛みに対し、オピオイドを使用することはありますか?Q2. Q1 で「B.使用しない」とお答えになった先生にお伺いします。非がん性の痛みに対し、オピオイドを使わない理由を教えてください。(いくつでも)Q3.今後、非がん性の痛みに対し、オピオイドの使用を継続、または新たに使い始めるにあたって、必要な情報がありましたら、教えてください。(自由記入)【必要な情報(一部抜粋)】保険でけずられないか?/便秘、吐き気に対する予防薬投与の保険適応について、はっきりした返答がほしい。慢性疼痛症例にオピオイドを使用した場合に、離脱できるのか?/処方をやめるに際しての患者のうまい誘導の仕方。/依存症とやめ方に不安あり、既往先行品との違いを説明ほしい/休薬の具体例副作用への対応/副作用の防止方法を具体的に教えてください。/副作用情報/副作用の発生率/副作用軽減のための対策使い方/適応/どのような患者に処方したらよいのかが分からない。/どの程度の疼痛に対してオピオイドが適応になるのか 術後鎮痛についてガイドラインみたいなオピオイド使用のマニュアルがあれば知りたいです。信頼できるメーカーからの説明がほしい他のクスリが効かない場合【ご意見(一部抜粋)】長期に使用するのに問題がある副作用がなくなればテレビ新聞などでよくでてくればみなもなれて使えるようになる。年数が必要オピオイドの適応症例があれば、使用する予定である

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「痛み」の診療に関する緊急アンケート その3 ~非がん性痛に対するオピオイド使用実態【内科編】~

対象ケアネット会員の内科医師503名方法インターネット調査実施期間2012年8月16日~8月23日Q1.下記に示すオピオイド製品のうち、非がん性(疼)痛に対する適応を持つと思うものをすべてお選びください。Q2.非がん性の痛みに対し、オピオイドを使用することはありますか?Q3.Q2 で「B.使用しない」とお答えになった先生にお伺いします。非がん性の痛みに対し、オピオイドを使わない理由を教えてください。(いくつでも)

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エキスパートに聞きました!「痛みの治療」に関する素朴なギモン Part1

CareNet.comでは8月の1ヵ月間を通し、痛み、特に神経障害性疼痛にフォーカスして様々な情報をお届けしてきました。そんな中で視聴者から寄せられた痛みの治療に関する質問に対し、小川 節郎 先生にご回答いただきます。神経障害性疼痛の鑑別診断は?一番重要なのは問診と簡単な神経学的検査です。たとえば、『1年前に帯状疱疹に罹患、原疾患は治癒したものの痛みが残っている』、『昨年脚を骨折、治癒したものの折った部位に痛みが残る』、などのケースでは炎症はすでになくなっているわけです。そのようなケースでは神経障害性疼痛の要素があると考えられます。また、『腰痛を有するが足の先まで痺れる』、『触ってみると痺れている部分の感覚が落ちている』など簡単な神経学的な所見が糸口になりえます。特に、触れただけで痛い、風があたっただけでも痛いなどアロディニア症状を呈する例では神経障害性疼痛の要素が強いといえます。神経障害性疼痛診療ガイドブック(南山堂)http://www.nanzando.com/books/30881.phpに掲載されている神経障害性疼痛の簡易調査票もご活用いただければと思います。肩手症候群、肩こり、頭痛、視床痛は神経障害性疼痛に含まれるのか?これらご質問の痛みにはすべて神経障害性の要素があるといえます。肩手症候群=神経障害性疼痛というわけではなく、肩手症候群の中に神経障害性疼痛の要素が含まれている患者さんがいるということです。頭痛も種類によっては神経障害性疼痛の要素が高いものがあります。頸性頭痛では頸椎から出る神経を傷害していることが多く、ビーンとした痛みを呈する場合などは神経障害性の要素が強いといえます。視床痛はほとんどが神経障害性疼痛といってよいでしょう。痺れと痛み、同じ認識で治療しても良いか?痺れ自体が十分解明されているとはいえないものの、神経繊維も違うようですし、最近は痺れと痛みは別のものであろうという認識になっています。もう少し時間が経過すると興味深い結果がでてくると思いますが、今のところは同じ認識で治療せざるを得ないというのが現状です。ペインクリニック専門医への紹介のタイミングは?オピオイド処方時は、「経口モルヒネ換算120mg/日でコントロールできないとき」というのも一つの目安だといえます。しかしながら、先生方ができる通常の治療経過で改善しない場合は、いつでも相談していただきたいです。慢性的に薬剤を出しているという状況は避けた方がよいでしょう。

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「痛み」の診療に関する緊急アンケート その2 ~「痛み」の評価、どうしてますか?~

対象ケアネット会員の内科医師244名方法インターネット調査実施期間2012年8月7日~8月13日Q1.痛みの強さに関して、客観的な指標を用いて評価していますか?Q2.帯状疱疹を発症し、皮膚科で抗ウィルス薬を処方されていた患者さん(60代、女性)が、発症後4日目で痛みを訴えて受診してきました。この患者さんの痛みに対し、どのような治療を行いますか?Q3.2011年7月に発刊された神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン(日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループ編集)をご存じですか?

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特集 慢性疼痛 神経障害性疼痛 ペインクリニック学会レポート

2012年7月5日~7日、松江市のくにびきメッセにて、第46回日本ペインクリニック学会が「むすぶ」をメインテーマに開催された。この中から、プライマリ・ケアで遭遇するであろう“痛み”の演題を中心にレポートする。レポート帯状疱疹後関連痛(ZAP)のアンケート調査の結果から乳腺術後の遷延痛痛みの治療薬をどう選択するか 抗うつ薬痛みの治療薬をどう選択するか 抗てんかん薬「慢性の痛み」へのオピオイド適正使用を考える

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乳腺術後の遷延痛

慢性痛への早期介入の必要性東京慈恵会医科大学附属病院 麻酔科・ペインクリニック 小島圭子氏乳がんは、日本における女性のがんの1位であり、年間5万人が罹患し、現在も増加傾向にある。10年生存率はステージIで90%、ステージIIで80%程度と高く、治療や観察期間が長引く。さらに、手術の縮小化、入院期間の短縮、術後観察期間の長期化など乳がん治療を取り巻く状況は年々変化しており、それとともに慢性痛に関わる要素は増えている。こうした背景のもと、乳がんにおける術後慢性痛がとくに問題となっている。乳がん術後の慢性痛である乳房切除後疼痛症候群(Postmastectomy Pain Syndrome、以下PMPS)は、長期にわたり残存する。痛みの範囲は創よりも広く、痛みの部位は手術側の胸部皮下上腕、痛みの性質はひりひり、チリチリという訴えが多く、衣服がすれると増悪することが多い。また、痛み以外にも締め付けられる、肩に挟まっているなどの不快感を伴うことが多いのが特徴である。痛みの分類は神経障害性疼痛である。イギリスのMacdonald氏らの報告では、術後7~12年で22.4%、本邦のMatoba氏らの調査では、術後平均8.8年で21% 、Yamanouchi 氏らの調査では 術後3年で65%に発生したと報告されている。 腋下リンパ節郭清後では30~70%と高率に発生するとの報告もある。PMPSのリスクファクターとして、若年、肥満、独身、教育期間が短い、不安・うつ、拡大手術・腋下リンパ節郭清、術後の強い痛み、急性期の不十分な鎮痛・鎮痛薬の過少使用、術後合併症、がん治療などがある。手術については、拡大手術から縮小手術が主流となりリスクは減っているはずであるが、乳房温存術になっても痛みは減っていないという報告もみられる。また、腋下リンパ節郭清については、センチネルリンパ節生検が増加している。センチネルリンパ節生検と腋下リンパ節郭清後の痛みの発生率について前向き調査では、術後1年のPMPS発生率は、それぞれ46.8%、28.7%と、センチネルリンパ節生検の増加により痛みがかなり減っていることがわかる。加えて、手術後の合併症(リンパ浮腫、感染、出血など)を予防することが痛みの遷延防止にもつながっている。また、不安を緩和する心理療法の導入で急性痛が減ったと報告がある。術後の強い痛みは、鎮痛薬の過少使用もリスクファクターであり、術後の十分な鎮痛薬投与が推奨される。これらリスクファクターの改善にあたっては、中枢性感作を予防するためのプレガバリン、リドカイン投与による慢性痛の予防、二次障害予防のための早期リハビリなどを行う。いずれにしても、慢性痛に移行するリスクの高い患者への継続フォローを考えていくことが最も重要だといえる。ところで、前述のMatoba氏らの調査の中で、主治医に慢性痛を相談できないという患者が多くおり、主治医のキーパーソンとしての役割が大きいことが明らかになった。そこで、 日本乳癌学会の協力を得て、PMPSに対する意識と治療の現状調査を行った。対象は、日本乳癌学会専門医で、 647人から回答を得た(回収率34.7%)。その結果、PMPSの認識率は 70.5%と高かった。しかし、患者への対処はどうしていますか、という問いに対しては65%が経過観察と答え、治療を受けている割合が少ないことがわかった。治療薬をみると、PMPSでは効果が認められないと思われるNSAIDsが78.4%を占めた。さらに、現在の治療の効果に関しては約7割が不十分と答えていた。乳がんは増加しており、術後慢性痛はもはや一般的な問題である。慢性痛のリスクファクターが指摘されているが、術前、麻酔、術後急性期鎮痛、慢性期治療のいずれにおいても、 リスクファクターを改善できる余地があると思われる。一方、乳腺専門医に対する現状調査から、本邦においてもPMPSに対して治療が行われている割合が少なく、適切な治療が行われていないこと、治療が奏効していないことが明らかとなった。PMPSを減らすためには、周術期からリスクファクターを改善するためのさまざまなアプローチが必要である。慢性痛への早期介入の一環として、問題点を改善するためのさらなる研究が必要である。

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帯状疱疹後関連痛(ZAP)のアンケート調査の結果から

多角的痛み治療における薬物療法の現状と未来順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座 井関雅子氏ペインクリニックは痛みの総合医療であるが、帯状疱疹後関連痛(Zoster associated pain,以下ZAP)に関しては罹患期間の長短により選択される治療が変化する。また、侵害受容性疼痛から神経障害性疼痛への変化、それらの混在病態など、永年の臨床的疑問がある。そのような中、痛みの専門医が選択している治療法を再確認するため、ZAPについて帯状疱疹の九世紀から神経痛にいたるまで、アンケート調査を実施した。アンケートは、日本ペインクリニック学会専門医に対し、2012年3月から行われた。回答数は536名であった。アンケートでは、ZAPの診療患者数、罹患期間別の全般的な治療法、罹患期間別・VAS別の薬物選択、最後にZAPに対するオピオイド使用について聞いた。ZAPの年間実患者数10~50人未満が半数を占めていた。発症から受診までの経過期間をみると、発症3ヵ月未満の占める割合が40%以上であり、ペインクリニックの専門医が急性期からZAPに関わっているということがわかった。罹患期間別の治療法発症2週間未満および2週間~1ヵ月未満の治療法として最も頻度の高い治療は薬物療法、その次に神経ブロック療法であった。一方、それ以外に光線療法やイオントフォレーシスも一定の割合で選ばれている。発症1ヵ月~3ヵ月未満、発症3ヵ月以上では、薬物治療が最も多く、神経ブロック療法は急性期よりかなり低い状態になっている。さらに、3ヵ月以上では、認知療法が増えていることも特徴的である。罹患期間別・VAS別の薬物療法選択(1)発症2週間未満VAS=30では、第一選択薬にはNSAIDsが選ばれている、しかし、プレガバリンも2番目に出ている。VAS=60も同様の傾向であるが、VAS=90では、それに加え、次の選択薬としてオピオイド、抗うつ薬が出てくる。(2)発症2週間~1ヵ月未満VAS=30では、やはりNSAIDsとプレガバリンが上位であるが、第二選択薬・第三選択薬には抗うつ薬、ノイロトロピンといったような薬剤が入っていきている。VAS=60 およびVAS=90でも同様であるが、抗うつ薬に加え、オピオイドが第二選択薬・第三選択薬に入ってくる。(3)発症1ヵ月~3ヵ月未満VAS=30では、プレガバリンが第一選択薬に、次に抗うつ薬が出ている。(4)発症3ヵ月以上VAS=30では、上記と結果は大きくは変わらず、プレガバリン、抗うつ薬が主体である。VAS=60およびVAS=90でもやはりプレガバリンが、最も多いが、さまざまな剤形のオピオイドや、抗うつ薬、SNRI等も選ぶ傾向がある。NSAIDsの割合は非常に少なくなっているものの一定割合の選択はある。ZAPに対するオピオイド使用使用時期については、発症初期の強い痛みに使用するとの回答が52.8%と約半数を占める。年齢制限をみてみると、高齢者には使わないという回答と、若年者には使わないという回答の2つに分かれる傾向があり、興味深いところである。さらに、弱オピオイドのみ使用とする回答が34.9%、強オピオイドも使用するという回答が34.0%あった。アンケート結果から、ペインクリニシャンは種々の治療法を組み合わせてZAPの治療を行っていることが分かった。また、ZAPの薬物療法については、この調査結果をもとに今後検討をする必要があると思われる。

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痛みの治療薬をどう選択するか 「抗うつ薬」

「抗うつ薬の鎮痛薬としての使用法とその具体例」独協医科大学医学部 麻酔科学講座 濱口眞輔氏2009年以降に発売された抗うつ薬、ミルタザピン、デュロキセチン、エスシタロプラムを中心に、その使用経験を含め解説する。まずミルタザピンであるが、この薬剤はNaSSA(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)とよばれ、構造的には四環系抗うつ薬に近い。2006年の海外の報告では、頭痛、腰背部痛、腹筋・筋膜性等の痛み、三叉神経痛、CRPS等594人の慢性痛患者に対しミルタザピン投与を投与した結果、80%の患者で無痛または中等度以上の改善を示している。用量設定は、15mg錠の1規格のみで、最大用量は3錠と増量もシンプルに行える。ただし、実際の使用にあたっては眠気を経験されている臨床医もおられると思う。また、体重増加についても報告があり、糖尿病患者などには注意が必要である。デュロキセチンは、日本ペインクリニック学会の神経障害性疼痛薬物療法アルゴリズムにも入っている。さらに最近では、糖尿病性神経障害痛に対する効能・効果の追加が承認された。デュロキセチンは、既存のSNRIよりノルアドレナリンの再取り込み阻害作用が強く、ドーパミン系の再取り込み作用が少ないといわれている。また、各神経伝達物質と受容体に対しての親和性が低く、抗コリン作用が少ない、α1遮断作用など副作用を抑えた抗うつ薬ともいわれるようである。離脱症候群は比較的軽度であるといわれ、これも安全に使うためには有利な点であると考えられる。デュロキセチンの実際の使用法であるが、用量設定20mgのカプセルのみで、3カプセルが最大である。日本のII相・III相試験では朝食後だったが、実際には少し眠気がでるため夕食後がよいという患者もいるようである。最後に、最近承認された薬剤でエスシタロプラムがある。SSRIの中で最も選択的な5-HT再取り込み阻害作用を有するといわれる。H1受容体に介した傾眠や沈静が発現する可能性は有しているが、これまで眠気が問題となり中止した症例は経験していない。論文では、抑うつをもっている患者の痛み強度を、最大用量でコントロール群に比して有意に減少させたという報告もある。また、痛みの減少は抑うつ状態のスコア変化で補正しても認められ、エスシタロプラム鎮痛効果は抗うつ作用とは独立していると報告している。実際の使用法であるが、用量設定は10mg錠のみで、最大用量は20mgとシンプルである。抗うつ薬の鎮痛機序として、最近は下降性痛覚抑制系以外の可能性も示唆されており、今後の研究が進められていくことと思う。とはいえ、新しい抗うつ薬は薬剤費が高い。患者の医療費負担と症状の改善、双方を考慮した有効な薬剤選択が必要だと考えている。

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痛みの治療薬をどう選択するか 「抗てんかん薬」

「抗てんかん薬の使い方」広島大学病院 手術部 大下恭子氏鎮痛薬としての抗てんかん薬の歴史は、1960年代のジフェニルヒダントイン、カルバマゼピンの三叉神経痛に対する報告から始まっている。その後、コントロールスタディや動物実験の疼痛モデルにおいて、鎮痛効果が次々と報告されるようになった。 1998年にRCTで帯状疱疹後神経痛に対するガバペンチンの有効性が報告され、米国でもガバペンチンの帯状疱疹後神 経痛への適応が承認され、国際疼痛学会でのアルゴリズムでも第一選択薬として発表されるに至っている。本邦の日本ペインクリニック学会の薬物治療アルゴリズムにおいても、Caチャネルα2σリガンドであるプレガバリンとガバペンチンが第一選択薬となっており、ほかの抗てんかん薬も、第一選択、第二選択、第三選択で効果が出ない場合に考慮してもよいオプションとして、その他に分類されている。それらガイドラインのアルゴリズムのもとになったのは、多くのRCTとNNTの指標であるが、ガバペンチン、プレガバリンはオピオイドや三環系抗うつ薬と並んでNNTが低く、有効性の高い薬物として分類されている。しかしながら、そのガイドラインにも問題点が指摘されている。RCTの対象疾患が限られた疾患であること、2剤の効果の直接的比較研究が少ないこと、長期予後を評価したものが少ないこと、臨床を反映したコンビネーション処方による研究が少ないことである。今回、当施設麻酔科外来において、抗てんかん薬のうちプレバカリンとクロナゼパムについて3年間の処方状況調査を行った。痛みの種類を持続痛・発作痛・誘発痛の3つに分け、投薬開始直前と投薬後の2点で患者に聴取しNRSで評価、同時に痛みの性状についても別の評価を行った。まず処方状況であるが、プレガバリン処方開始前はクロナゼパムが多かったが、プレガバリン処方開始後は、プレガバリンの処方件数が伸びている。プレガバリン処方患者数は、2012年3月までで114名。そのうち73名でプレガバリン開始後に痛みの改善を自覚している。投薬疾患は、帯状疱疹後神経痛、帯状疱疹の急性期の痛み、各種の神経障害を呈する疾患が多い。プレガバリン処方全症例でのNRSの変化をみると、持続痛・発作痛・誘発痛、いずれも開始後に有意差をもって低下している。他剤との併用も含め64%の症例で鎮痛効果を認めた。プレガバリンとの併用薬は、ほかの抗てんかん薬が26%、抗うつ薬が37%、オピオイドが31%であった。痛みの性状別でみると、ほとんどの痛みの性状で軽減を示しているが、しびれるような痛みを訴える患者では有効率が低く出ている。クロナゼパムについては、他剤との併用例を含め48%、約半数の症例で鎮痛効果を認めた。クロナゼパム処方症例全体ではNRSは減少傾向にあるものの、有意な変化はみられなかった。ただし、有効症例に限って変化をみると、持続痛、発作痛、誘発痛いずれも有意にNRSの低下をみている。痛みの性状と治療効果を検討すると、灼けるような痛み、電気が走るなどの発作性痛みや誘発痛に対して高い有効性を示していた。ただ、プレガバリンと同様にしびれるような痛みに関しては有効症例が少なかった。副作用はプレガバリン、クロナゼバムともに眠気やふらつきの副作用が他剤と比較して高い頻度で出ていた。副作用による中止症例はプレガバリンで6例、クロナゼバムで2例だった。抗てんかん薬とひとくくりにいっても、さまざまな作用機序がある。今後、作用機序の異なる薬物の併用が有効である可能性が考えられる。

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「慢性の痛み」へのオピオイド適正使用を考える

非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン東京大学医学部附属病院 麻酔科・痛みセンター 住谷昌彦氏非がん性疼痛におけるオピオイド鎮痛薬の位置づけ2010年、国際疼痛学会(IASP)は「疼痛治療を受けることは基本的人権である」とするモントリオール宣言を採択している。その中でもオピオイド鎮痛薬は多くの痛みの病態に対する有効性が確立した薬剤であり、非がん性疼痛患者のQOLを大きく改善することにつながるため、その役割は非常に重要である。がん性疼痛と非がん性疼痛の治療戦略は異なる。がん終末期の侵害受容性疼痛、いわゆるがんの内臓痛に対しては、WHOが3段階除痛ラダーを提案している。第一段階は NSAIDsやアセトアミノフェンなど、中等度の痛みには第二段階の弱オピオイド、非常に強い痛みには第三段階の強オピオイド、というものである。この場合、オピオイド鎮痛薬については用量上限を決めず必要量を投与すること、疼痛が増強した場合は速放剤を投入すること、必要があれば静脈投与も実施することとなっている。だが、これはあくまでも終末期のがん性疼痛に対するストラテジーであり、非がん性の慢性疼痛に対する治療は大きく異なる。非がん性疼痛でのオピオイド鎮痛薬の使用については、用量上限を設け、頓用は行わないなどの原則がある。非がん性慢性痛に対し、WHO3段階除痛ラダーを適用するケースを見受けることがあるが、適切な治療戦略にしたがったオピオイド治療を行う必要がある。非がん性疼痛における侵害受容性疼痛変形性股関節症や変形性の膝関節症など非がん性の侵害受容性疼痛に対し、オピオイド鎮痛薬の使用はもっとも高いエビデンスレベルで認められている。日本ペインクリニック学会でもオピオイド使用が必要な患者に対して積極的に使うべきであると推奨している。今回発表された「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド処方ガイドライン」では、オピオイド鎮痛薬の上限用量は経口モルヒネ換算120mg/日以下とし、徐放剤を推奨している。一方、オピオイドの頓用、静脈投与は原則行わない事としている。これには、頓用や静脈投与によるオピオイド鎮痛薬の血中濃度が不安定な状態の繰り返しが招く依存性や耐性形成を防止するという理由がある。非がん性疼痛における神経障害性疼痛非がん性疼痛の中でも神経障害性疼痛は治療抵抗性である事が多い。2011年、日本 ペインクリニック学会が発行した「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」では、第一選択薬として三環系抗うつ薬、Caチャネルα2δリガンドであるプレカバリンやガバペンチン 、第二選択薬として、SNRI抗うつ薬デュロセキチン、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含(ノイロトロピン)、抗不整脈薬メキシレチン、第三選択薬として、麻薬性オピオイド鎮痛薬が推奨されている。このオピオイド鎮痛薬については、非がん性疼痛としての添付文書の適応を遵守したうえで、前出の「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド処方ガイドライン」に基づき、徐放剤を推奨する、疼痛増強時の頓用および静脈投与もしないなどの原則があてはめられる。非がん性疼痛における中枢機能障害性疼痛中枢機能障害性疼痛は、central dysfunctional painといわれ、疼痛の下行性抑制系の機能減弱が原因とも考えられているが、その本態は十分解明されていない。実臨床では、治癒後も痛みが残る外傷や手術後の遷延性疼痛、線維筋痛症や慢性の腰背部痛などがこれにあたる。中枢機能性疼痛に対するオピオイド使用の是非については国際的にも統一見解はない。この疾患概念に対しては、他の代替療法が無効の場合に限り、オピオイドの使用を検討し、用量は最小用量にとどめるべきとされている。また、このようなケースでは、心理・情動的影響や精神疾患に対する評価が重要だといわれており、オピオイド鎮痛薬使用時には、より入念なフォローアップが必要である。がん終末期の神経障害性疼痛一方、がんの終末期の神経障害性疼痛、たとえば脊髄に浸潤しているような場合、麻薬性鎮痛薬を第一選択薬として使用することは妥当だと考えられる。国際疼痛学会のレコメンデーションにも、 オピオイドは神経障害性疼痛に対しても有用で、その効果の発現が早さから積極的に痛みが強い場合や終末期の場合には使っていくとある。終末期の場合、オピオイド鎮痛薬は上限を決めず必要量を投与し、疼痛増強時の速放剤頓用、必要時には静脈投与も実施するといったがん性疼痛の治療原則が支持されるが、がんの治療中あるは生命予後が十分にある場合には、痛みが非常に強くても、モルヒネ120mgの上限、徐放剤推奨など非がん性疼痛の治療原則は遵守されるべきである。今回のガイドラインのキーメッセージ今回の非がん性疼痛に対するオピオイド処方ガイドラインのキーメッセージは、(1)オピオイドを用いて患者の生活を改善すること、(2)オピオイドの乱用・依存から患者を守ること、(3)オピオイドに関する社会の秩序を守ること、である。そのためには、慢性疼痛、オピオイド、薬物依存に関する知識と経験を有する医師の育成、そして、痛みの原因理解、薬の管理、疼痛の緩和目標理解という患者側の啓発が重要である。このような資質を持つ医師と患者の信頼関係の上に、適切なオピオイド使用が成り立つ。非がん性疼痛におけるオピオイド使用はすでに特殊なこととはいえない。オピオイドを適切に用い、患者の利益につなげていくべきであると考える。

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寄稿 線維筋痛症の基本

廿日市記念病院リハビリテーション科戸田克広痛みは原因の観点から神経障害性疼痛(神経障害痛)と侵害受容性疼痛(侵害受容痛)およびその合併に分類され、世界標準の医学では心因性疼痛単独は存在しないという考えが主流である。通常、日本医学ではこれに心因性疼痛が加わる。線維筋痛症(Fibromyalgia、以下FM)およびその不全型は日本医学の心因性疼痛の大部分を占めるが、世界標準の医学では神経障害痛の中の中枢性神経障害痛に含まれる。医学的に説明のつかない症状や痛みを世界の慢性痛やリウマチの業界はFMやその不全型と診断、治療し、精神科の業界は身体表現性障害(身体化障害、疼痛性障害)と診断、治療している。FMの原因は不明であるが、脳の機能障害が原因という説が定説になっている。器質的な異常があるのかもしれないが、現時点の医学レベルでは明確な器質的異常は判明していない。脳の機能障害が原因で生じる中枢性過敏症候群という疾患群があり、うつ病、不安障害、慢性疲労症候群、FM、むずむず脚症候群、緊張型頭痛などがそれに含まれる。先進国においてはFMの有病率は約2%であるが、その不全型を含めると少なくとも20%の有病率になる。FMおよび不全型の診断基準は「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント -」に記載されている1)。医学的に説明のつかない痛みを訴える場合には、FMあるいはその不全型を疑うことが望ましい。FMもその不全型も治療は同一であるため、これらを区別する意義は臨床的にはほとんどない。薬物治療のみならず、禁煙、有酸素運動、患者教育、認知行動療法などが有効である。ただし、認知行動療法は具体的に何をすればよいかわからない部分が多く、それを行うことができる人間が少ないため、実施している施設は少ない。人工甘味料アスパルテームによりFMを発症した症例が報告されたため、その摂取中止が望ましい1)。当初は必ず一つの薬のみを上限量まで漸増し、有効か無効かを判定する必要がある。副作用のために増量不能となった場合や、満足できる鎮痛効果が得られた場合には、上限量を使用する必要はない。つまり、上限量を使用せずして無効と判断することや、不十分な鎮痛効果にもかかわらず上限量を使用しないことは適切ではない(副作用のために増量不能の場合を除く)。一つの薬の最適量が決まれば、患者さんが満足できる鎮痛効果が得られない限り、同様の方法により次の薬を追加する。これは国際疼痛学会が神経障害痛に一般論として推奨している薬物治療の方法である。2、3種類の薬を同時に投与することは望ましくない。どの薬が有効か不明になり、同じ薬を漫然と投与することになりやすいからである。世界標準のFMでは有効性の証拠の強い順に薬物を使用することが推奨されているが、その方法は臨床的にはあまり有用ではない。投薬の優先順位を決定する際には有効性の証拠の強さのみならず、実際に使用した経験も考慮する必要がある。さらに論文上の副作用、実際に経験した副作用、薬価も考慮する必要がある。FMは治癒することが少ない上に、FMにより死亡することも少ないため、30年以上の内服が必要になることがしばしばあるからである。FMの薬物治療においては適用外処方は不可避であるが、保険請求上の病名も考慮する必要がある。さらに、日本独特の風習である添付文書上の自動車運転禁止の問題も考慮する必要がある。抗痙攣薬、抗不安薬、睡眠薬、ほとんどの抗うつ薬を内服中には添付文書上自動車の運転は禁止されているが、それを遵守すると、少なくない患者さんの生活が破綻するばかりではなく、日本経済そのものが破綻する。以上の要因を総合して、薬物治療の優先順位を決めている1)。これにより医師の経験量によらず、ほぼ一定の治療効果を得ることができる。ただし、それには明確なエビデンスはないため、各医師が適宜変更していただきたい。副作用が少ないことを優先する場合や自動車の運転が必須の患者さんの場合には、眠気などの副作用が少ない薬を優先投与する必要がある。すなわち、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン) 、メコバラミンと葉酸の併用、イコサペント酸エチル、ラフチジン、デキストロメトルファンを優先使用している。痛みが強い場合には、有効性の証拠が強い薬、すなわちアミトリプチリン、プレガバリン、ミルナシプラン、デュロキセチンを優先使用している。抗不安薬は常用量依存を引き起こしやすいため、鎮痛目的や睡眠目的には使用せず、パニック発作の抑制目的にのみ使用し、かつ3ヵ月以内に中止すべきである。FMにアルプラゾラムが有効と抄録に書かれた論文2)があるが、本文中では有効性に関して偽薬と差がないという記載があるため、注意が必要である。ステロイドはFMには有害無益であり、ステロイドが有効な疾患が合併しない限り使用してはならない。昨年、日本の診療ガイドラインが報告された。筋緊張亢進型、腱付着部炎型、うつ型、およびその合併に分類する方法および各タイプ別に優先使用する薬は世界標準のFMとは異なっており、私が個人的に決めた優先順位と同様に明確なエビデンスに基づいていない。たとえば、腱付着部炎型にサラゾスルファピリジンやプレドニンが有効と記載されているが、それはFMに有効なのではなく、腱付着部炎を引き起こすFMとは異なる疾患に有効なのである。糖尿病型FMにインシュリンが有効という理論と同様である。薬を何種類併用してよいかという問題があるが、誰も正解を知らない。私は睡眠薬を除いて原則的に6種類まで併用している。1年以上投薬すると、中止しても痛みが悪化しないことがある。そのため、1年以上使用している薬は中止して、その効果が持続しているかどうかを確かめることが望ましい。引用文献1) CareNetホームページ カンファレンス Q&A:戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」2)Russell IJ et al: Treatment of primary fibrositis/fibromyalgia syndrome with ibuprofen and alprazolam. A double-blind, placebo-controlled study. Arthritis Rheum. 1991;34:552-560.

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医師900名が回答!「痛み」の診療に関する緊急アンケート その1

対象ケアネット会員の医師927名(内訳:内科45% 循環器19% 脳神経外科9% 神経内科8% 外科5% 消化器科3% 代謝内分泌3% その他9%)方法インターネット調査実施期間2012年7月31日~8月7日Q1.先生が診ていらっしゃる患者さんの中で、「何らかの痛み」を訴えて治療を行っている患者さんは月平均何名くらいいらっしゃいますか?Q2.Q1でお答えになった人数のうち、「神経障害性疼痛」だと思われる痛みをお持ちの患者さんはどのくらいいらっしゃいますか?

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