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スパイロなしでも胸部X線画像で呼吸機能が予測可能!?

 スパイロメトリーなどを用いた呼吸機能検査は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患の管理に不可欠な検査である。しかし、高齢者や小児などでは正確な評価が困難な場合がある。また、新型コロナウイルス感染症流行時には、感染リスクを考慮して実施が控えられるなど、実施が制限される場合もある。そこで、植田 大樹氏(大阪公立大学大学院医学研究科人工知能学 准教授)らの研究グループは、14万枚超の胸部X線画像をAIモデルの訓練・検証に使用して、胸部X線画像から呼吸機能を推定するAIモデルを開発した。その結果、本AIモデルによる呼吸機能の推定値は、実際の呼吸機能検査の測定値と非常に高い一致率を示した。本研究結果は、Lancet Digital Health誌オンライン版2024年7月8日号で報告された。 本研究では、2003~21年の期間に収集した胸部X線画像14万1,734枚を用いて、3施設でAIモデルの訓練・内部検証を実施し、2施設で外部検証を実施した。外部検証では、努力性肺活量(FVC)と1秒量(FEV1)について、AIモデルの推定値とスパイロメトリーによる呼吸機能検査の実測値を比較した。 主な結果は以下のとおり。・外部検証の2施設におけるFVCについて、AIモデルによる推定値と実測値には強い相関があり(それぞれr=0.91、0.90)、誤差は小さかった(いずれの施設も平均絶対誤差[MAE]=0.31L)。・同様に、FEV1についても推定値と実測値には強い相関があり(いずれの施設もr=0.91)、誤差は小さかった(それぞれMAE=0.28L、0.25L)。・予測値に対するFVC(%FVC)80%未満、予測値に対するFEV1(%FEV1)80%未満、1秒率(FEV1/FVC)70%未満についても、AIモデルは高い予測能を示した。それぞれに関する2施設のROC曲線のAUCは以下のとおり。 %FVC 80%未満:それぞれ0.88、0.85 %FEV1 80%未満:いずれの施設も0.87 FEV1/FVC 70%未満:それぞれ0.83、0.87 著者らは、本研究結果について「本研究で開発したAIモデルは、胸部X線画像から呼吸機能を高精度に推定できる可能性を世界で初めて示した。本AIモデルは、呼吸機能検査の実施が困難な患者に対し、呼吸機能評価の選択肢を増やすことが期待される。今後は、異なる集団や環境下での性能を確認するとともに、実際の診療で使用した際の効果や影響を慎重に見極めていく必要がある」とまとめた。

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進行期古典的ホジキンリンパ腫の1次治療、BrECADDが有効/Lancet

 進行期の古典的ホジキンリンパ腫の成人患者に対する1次治療において、ブレオマイシン+エトポシド+ドキソルビシン+シクロホスファミド+ビンクリスチン+プロカルバジン+prednisone(eBEACOPP)療法と比較して、2サイクル施行後のPET所見に基づくbrentuximab vedotin+エトポシド+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ダカルバジン+デキサメタゾン(BrECADD)療法は、忍容性が高く、無増悪生存(PFS)率を有意に改善することが、ドイツ・ケルン大学のPeter Borchmann氏らAustralasian Leukaemia and Lymphoma Groupが実施した「HD21試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年7月3日号に掲載された。9ヵ国233施設の無作為化第III相試験 HD21試験は、欧州7ヵ国とオーストラリア、ニュージーランドの合計9ヵ国233施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2016年7月~2020年8月に患者を登録した(Takeda Oncologyの助成を受けた)。 新規に診断された進行期の古典的ホジキンリンパ腫(Ann Arbor病期分類のStageIII/IV、B症状を呈するStageII、リスク因子として大きな縦隔病変および節外病変のいずれか、または両方を有する)で、60歳以下の成人患者1,482例(ITT集団)を登録し、BrECADD群に742例、eBEACOPP群に740例を無作為に割り付けた。 両群とも試験薬を21日間隔で投与した。2サイクル(PET-2)および最終サイクルの終了後にPETまたはCTによる奏効の評価を行い、PET-2の所見に基づきその後のサイクル数を決定した。 主要評価項目は、(1)担当医評価による忍容性(投与開始から終了後30日までの治療関連疾患の発生)、および(2)有効性(PFS)に関するBrECADD群のeBEACOPP群に対する非劣性とし、非劣性マージンを6%に設定した。治療関連疾患は、有害事象共通用語規準(CTCAE)のGrade3/4の急性非血液学的臓器毒性、およびGrade4の急性血液毒性と定義した。PFSの優越性を確認 ベースラインの全体の年齢中央値は31歳(四分位範囲[IQR]:24~42)、644例(44%)が女性で、1,352例(91%)が白人であった。 1つ以上の治療関連疾患が発生した患者は、eBEACOPP群が732例中430例(59%)であったのに対し、BrECADD群では738例中312例(42%)と有意に少なかった(相対リスク:0.72、95%信頼区間[CI]:0.65~0.80、p<0.0001)。 PFSの中間解析で、BrECADD群の非劣性が確認されたため優越性の検定を行った。追跡期間中央値48ヵ月の時点における4年PFS率は、eBEACOPP群が90.9%(95%CI:88.7~93.1)であったのと比較して、BrECADD群は94.3%(92.6~96.1)と有意に良好だった(ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.45~0.97、p=0.035)。 また、4年全生存率は、BrECADD群が98.6%(95%CI:97.7~99.5)、eBEACOPP群は98.2%(97.2~99.3)であった。血液学的治療関連疾患が有意に少ない 血液学的治療関連疾患は、eBEACOPP群では732例中382例(52%)で発現したのに対し、BrECADD群では738例中231例(31%)と有意に少なかった(p<0.0001)。これは、赤血球輸血(52% vs.24%)および血小板輸血(34% vs.17%)がBrECADD群で少なかったことに反映されている。Grade3以上の感染症の発生(19% vs.20%)は両群で同程度であった。 ホジキンリンパ腫による死亡は、BrECADD群で3例、eBEACOPP群で1例に認めた。治療関連死はeBEACOPP群で3例にみられた。また、2次がんは、BrECADD群で742例中19例(3%)、eBEACOPP群で740例中13例(2%)に発生した。 著者は、「この第III相試験の結果に基づき、BrECADDは新規に診断された進行期古典的ホジキンリンパ腫の成人患者に対する標準的な治療選択肢となることが期待される」としている。

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新型コロナの抗原検査は発症から2日目以降に実施すべき

 今や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの迅速抗原検査はすっかり普及した感があるが、検査は、症状が現れてからすぐに行うべきなのだろうか。この疑問の答えとなる研究成果を、米コロラド大学ボルダー校(UCB)コンピューターサイエンス学部のCasey Middleton氏とDaniel Larremore氏が「Science Advances」に6月14日報告した。それは、検査を実施すべき時期はウイルスの種類により異なるというものだ。つまり、インフルエンザやRSウイルスの場合には発症後すぐに検査を実施すべきだが、新型コロナウイルスの場合には、発症後すぐではウイルスが検出されにくく、2日以上経過してから検査を実施するのが最適であることが明らかになったという。 Middleton氏らは、呼吸器感染症の迅速抗原検査がコミュニティー内での感染拡大に与える影響を検討するために、患者の行動(検査を受けるかどうかや隔離期間など)やオミクロン株も含めたウイルスの特性、その他の因子を統合した確率モデルを開発した。このモデルを用いて検討した結果、新型コロナウイルスの場合、発症後すぐに迅速抗原検査でテストした際の偽陰性率は最大で92%に達するが、発症から2日後の検査だと70%にまで低下すると予測された。発症から3日後だとさらに低下し、感染者の3分の1を検出できる可能性が示唆された。 この結果について研究グループは、「すでにほとんどの人が新型コロナウイルスへの曝露歴を有しているため、免疫系はウイルスに曝露するとすぐに反応できる準備ができている。そのため、最初に現れる症状は、ウイルスではなく免疫反応によるものだと考えられる。また、新型コロナウイルスの変異株は、ある程度の免疫力を持つ人に感染した場合には、オリジナル株よりも増殖スピードが遅い」と説明している。 一方、RSウイルスとインフルエンザウイルスに関しては、ウイルスの増殖スピードが非常に速いため、症状の出現後すぐに検査を実施するのがベストであることが示唆された。 Larremore氏は、最近では新型コロナウイルス、A型およびB型インフルエンザウイルス、およびRSウイルスへの感染の有無を1つの検査で同時に調べることができる「オールインワンテスト」が売り出されるようになり、また、薬局や診察室でも複数のウイルスを一度に調べるコンボテストが行われていることを踏まえ、「これは悩ましい問題だ。発症後すぐの検査だと、インフルエンザウイルスとRSウイルスについてはある程度のことが明らかになるが、新型コロナウイルスについては時期尚早だろう。だが、発症から数日後では、新型コロナウイルスの検査には最適のタイミングだが、インフルエンザウイルスとRSウイルスの検査には遅過ぎる」と話す。 また、Larremore氏は、「新型コロナウイルスの抗原検査の場合、疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたものだ」と指摘。その上で、「感染者の3分の1しか検出できなくても、最も感染力の強い3分の1を診断できれば、感染を大幅に減らすことができる」と説明している。 一方、Middleton氏は、最近、米疾病対策センター(CDC)が検査と予防のガイドラインを、「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」という内容に改訂したことについて、「より理にかなった内容になった」との見方を示す。同氏は、「以前の方針の『発症後5日間の隔離』は、ほとんどのケースで必要以上に長かったと思う」と話している。

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知ってますか? HeLa細胞、感動の1冊を通じて研究倫理を考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第74回

「誠に申し訳ございませんでした」一列に並んだ皆が頭を下げます。フラッシュが一斉にたかれ、シャッター音が鳴り続けます。5秒ほどたったでしょうか。一斉に頭をゆっくりと上げます。謝罪会見の冒頭です。社会の注目が集まります。謝罪側は、企業のこともあれば、行政組織のこともあれば、大学である場合もあります。大学では、しばしば研究不正が指摘され、そのたびに謝罪会見が行われます。研究活動の不正行為文部科学省のガイドラインで定義は、捏造(Fabrication)・改ざん(Falsification)・盗用(Plagiarism)の3つを特定不正行為としています1)。これらの研究内容の不正だけでなく、研究費の不正使用が問題となる場合もあります。倫理指針を逸脱した研究活動が問題となる場合もあります。倫理が重要視されるのは、「臨床研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければならない」という臨床研究の根本的規範があるからです。医の倫理の起源は、紀元前4世紀から伝わる「ヒポクラテスの誓い」であるそうですが、これは医師が医療行為を行う際の倫理であって、研究の倫理について議論されだしたのは、ずいぶんと時間を経た後のようです。研究者の倫理が論じられる契機としては、ジェンナーによる種痘や、パスツールによる狂犬病ワクチンなどの、開発の過程での人体実験的な側面が有名で、ご存じの方も多いと思います。研究倫理に関する原則は、過去の不適切な人体実験に対応するために作られてきたともいえます。HeLa細胞の医学研究への貢献HeLa(ヒーラ)細胞という名前の細胞をご存じでしょうか。世界中の研究者に用いられ、さまざまな医学研究に寄与し続けてきた細胞です。HeLa細胞はヒト子宮頸がん由来です。不死化しており無制限に細胞分裂を繰り返す能力を持っています。細胞ががん化するのは、遺伝子に突然変異が積み重なり、細胞が不死化することが原因です。正常の細胞は自己が生まれた組織の中で、必要な役割を担って何回か分裂したあと自然に死んでいきます。この不死化したHeLa細胞は、世界中の研究者の元に届けられました。ポリオワクチンの開発に大きく寄与しました。大量培養されたHeLa細胞に、ポリオウイルスを感染させてワクチンの安全性や効果を確認したのです。がんの研究はもちろんのこと、ウイルス感染や、原爆の被爆者への影響などの研究にも貢献しました。体外受精、クローン作成、遺伝子マッピングなどの生命科学の進歩を導きました。HeLa細胞を用いた学術論文は6万本以上といわれます。その過程で生物学的な研究材料を販売するビッグビジネスを創出し、数百万ドル規模の利益をもたらしました。HeLa細胞が問いかける研究倫理ヘンリエッタ・ラックスさんを称える像(バージニア州ロアノーク)HeLa細胞の名前の由来は、その細胞を採取されたヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)さんの名前の頭文字に由来します。貧しいアフリカ系アメリカ人女性が、子宮頸がんで米国・メリーランド州のジョンズ・ホプキンス病院の人種隔離病棟に入院し、1951年に亡くなりました。問題は、その細胞の採取が本人や家族の同意を得ることなく無断で行われたことです。その家族は採取された細胞がもたらした利益とは無縁でした。彼女の夫や子供は、研究者たちが同意なしに調査しようとしたことを契機に、ヘンリエッタ・ラックスさんの身体に由来する細胞が生き続けていることを知ります。研究倫理という問題について、HeLa細胞とその科学への貢献、その家族の経験を通じて見事に描いた作品があります。レベッカ・スクルート著の『The Immortal Life of Henrietta Lacks』です。邦訳は『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』(中里 京子訳、講談社)です。文庫本として『ヒーラ細胞の数奇な運命 医学の革命と忘れ去られた黒人女性』(中里 京子訳、河出文庫)もあります。難しい学術書ではなく、感動的な人間関係を見事に描いた文学作品というべきでしょう。ストーリーの背景に、インフォームドコンセント・人種差別・科学の進歩・研究倫理という問題を織り込んでいます。タイトルに「不死:immortal」とありますが、細胞が不死化するだけでなく、永遠の家族愛が不死化していることを感じます。幼少期に母を亡くした子供たちが、知らない場所で、命を紡ぎ続けた母であるHeLa細胞と出会うシーンは涙を誘います。今年の夏も暑い毎日が続くようです。「暑い」を超えて「熱い」という気温です。寝苦しい夜となります。そんな時には、エアコンを一晩中駆動させて、読書に耽ってみてはいかがでしょうか。中高生のご子息のいる皆さまには、夏休みの宿題になっている読書感想文の素材の1冊としてもお薦めします。読書が苦手という皆さまには、映画化されていることもお伝えしましょう。書籍と同タイトルの作品を日本語字幕でPrime Videoでも視聴できます。これもお薦めです。参考文献・参考サイト1)文部科学省:研究活動の不正行為等の定義

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急性肝障害の発現率、194種類の薬剤で比較

 実臨床における重度の薬剤誘発性急性肝障害の発現率に関するデータは少ない。そこで、米国・ペンシルベニア大学のJessie Torgersen氏らの研究チームは、肝毒性が疑われる194種類の薬剤について、重度の急性肝障害の発現率を調査した。その結果、1万人年当たり10件以上の重度の急性肝障害が認められた薬剤は7種類であった。また、重度の急性肝障害の発現率が高い薬剤には、抗菌薬が多かった。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年6月24日号で報告された。 研究チームは、米国退役軍人のデータを用いて後ろ向きコホート研究を実施した。本研究には、2000年10月1日~2021年9月30日の期間のデータを用いた。対象は、肝臓疾患や胆道疾患の既往歴がない患者789万9,888例とした。外来で処方される薬剤のうち、過去に薬剤誘発性肝障害が報告されている194種類について、1万人年当たりの重度の急性肝障害の発現率を調査した。主要評価項目は、薬物治療開始後に発現した入院を要する重度の急性肝障害の発現率とした。 主な結果は以下のとおり。・重度の急性肝障害が1万人年当たり10件以上発現した薬剤は7種類であった。薬剤の種類および1万人年当たりの発現率(95%信頼区間[CI])は以下のとおり。 スタブジン(販売中止):86.4件(27.7~269.7) エルロチニブ:19.7件(7.4~53.0) レナリドミド:13.7件(6.4~28.9) クロルプロマジン:12.0件(4.5~32.3) メトロニダゾール:11.8件(7.4~18.7) プロクロルペラジン:11.6件(7.4~18.2) イソニアジド:10.5件(5.8~19.2)・重度の急性肝障害が1万人年当たり5.0~9.9件以上発現した薬剤は10種類であった。薬剤の種類および1万人年当たりの発現率(95%CI)は以下のとおり。 モキシフロキサシン:9.3件(5.6~15.4) アザチオプリン:7.7件(3.7~16.4) レボフロキサシン:7.2件(4.6~11.1) クラリスロマイシン:6.7件(3.3~13.5) ケトコナゾール:6.1件(2.0~19.0) フルコナゾール:6.0件(3.4~10.4) カプトプリル:5.8件(2.7~12.2) アモキシシリン・クラブラン酸:5.4件(3.7~7.9) スルファメトキサゾール:5.1件(3.5~7.3) シプロフロキサシン:5.1件(3.5~7.4)・以上の17種類のうち11種類は、既存のケースレポートに基づく急性肝障害の発現リスク分類において、最上位に含まれていない薬剤であった。・17種類のうち11種類を抗菌薬・抗レトロウイルス薬が占めた。

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プライベートパーツを診る!

半分アトラス、臨床写真500枚超!「皮膚科の臨床」66巻7号(2024年6月臨時増刊号)“プライベートパーツ”疾患を網羅した豊富なアトラスと、エキスパートによる“プライベートパーツ”診療の注意点、鑑別診断、治療法などの解説からなる本特集。梅毒やエムポックスなど性感染症の最新トピックスも。貴重な臨床写真を眺めて学ぶもよし、興味のあるテーマから読み進めるもよし。皮膚科医のみならず外陰部疾患を診るすべての方へ。永久保存版の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するプライベートパーツを診る!定価8,800円(税込)判型B5判頁数244頁発行2024年6月編集「皮膚科の臨床」編集委員会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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試験紙による簡便な検査でインフルエンザウイルスの種類を判別

 試験紙を用いた簡便で安価な検査によりインフルエンザウイルス感染の有無を調べることができ、さらにその原因となったインフルエンザウイルスの種類まで特定できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この検査により、A型とB型のインフルエンザウイルスを区別できるほか、A型インフルエンザウイルス亜型のH1N1やH3N2など、より毒性の強い株をも判別できるという。米プリンストン大学のCameron Myhrvold氏らによるこの研究の詳細は、「The Journal of Molecular Diagnostics」7月号に掲載された。 この検査法は、SHINE(Streamlined Highlighting of Infections to Navigate Epidemics)と呼ばれる、CRISPR-Cas技術を用いたウイルス検出法をベースにしたもの。SHINEは、CRISPR-Cas酵素を利用してサンプル中の特定のウイルスのRNA配列を識別する技術である。研究グループはまず、新型コロナウイルスを検出するために、その後、デルタ株とオミクロン株を区別するためにSHINEを利用した。 次いで研究グループは2022年から、時期を問わず環境中に循環している他のウイルス、特にインフルエンザウイルスの検出にこの技術を適用し始めた。その目的は、ウイルス検査を病院や高価な設備を持つ臨床検査室ではなく、臨床現場で行えるようにすることだった。こうして開発された新たな検査法は、異なるインフルエンザ株(A型とB型)、およびその亜型(H1N1とH3N2)を区別することができる。研究グループが、臨床サンプルを用いてこの検査法の性能を確かめたところ、RT-PCR検査による検査結果と100%の一致度を示したという。 論文の共著者の1人である米マサチューセッツ工科大学(MIT)ブロード研究所のJon Arizti-Sanz氏は、「患者に感染しているインフルエンザウイルスの株や亜型を区別できることは、治療だけでなく、公衆衛生政策にも影響を及ぼす」と述べている。 一方、論文の筆頭著者である米ハーバード大学医学大学院のYibin B. Zhang氏は、「高価な蛍光測定装置の代わりに試験紙読み取り装置を使うことは、臨床医療だけでなく、疫学的サーベイランスの目的においても大きな進歩だ」と述べている。 一般的な診断アプローチであるPCR検査は処理に時間を要する上に、訓練を受けた人員、特殊な機器、試薬を−80°Cで保存するための冷凍庫を必要とする。これに対し、SHINEは室温で実施可能であり、所要時間も約90分と短い。現在、この診断方法で必要となるのは、反応を促進するための安価な加熱ブロックのみだ。研究グループは、処理工程を簡素化して15分で結果を出せるようにすることを目指しているという。Myhrvold氏は、「最終的には、この検査が新型コロナウイルス感染症の検査に使われている迅速抗原検査と同じくらい簡便なものにしたいと思っている」と話している。 研究グループは目下、この検査を、ヒトに感染する恐れのある鳥インフルエンザウイルス株や豚インフルエンザウイルス株を追跡できるように改良しているところだと話している。

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尿検体の採り方と取り扱い【とことん極める!腎盂腎炎】第4回

尿検査でどこまで迫れる?【前編】Teaching point腎盂腎炎を疑う場合の尿検体は、排尿しながら途中の尿を採取する(排尿は途中で止めない)《今回の症例》70代女性が昨日からの悪寒戦慄を伴う発熱を主訴に救急外来を受診した。いままでも腎盂腎炎を繰り返している既往がある。また糖尿病のコントロールは不良である。腎盂腎炎を疑い尿定性検査を提出したが、白血球反応は陰性、亜硝酸塩も陰性であった。今回は腎盂腎炎ではないのだろうか…?はじめに尿検査はさまざまな要因による影響を受けるため解釈が難しく、尿検査のみで尿路感染症を診断することはできない。しかし尿検査の限界を知り、原理を深く理解すれば重要な情報を与えてくれる。そこで、あえて尿検査でどこまで診断に迫れるかにこだわってみる。今回は、「尿検体の採取方法と検体の取り扱い」「細菌尿と膿尿の定義や原因」について取り上げ、次回、迅速に細菌尿を検知するための検査の詳細を紹介する。1.尿検体の採取方法と検体の取り扱い読者の皆さんは自身がオーダーした尿検体がどのように採取されているか述べることができるだろうか。尿検査を電子カルテの画面でオーダー、その結果を確認するだけになっていないだろうか。尿検査の奥深さは尿検体の採取方法から始まる。基本的には排尿時の最初の数mLは採取せず、排尿しながら途中の尿(=中間尿)を採取する。排尿は途中で止めない。従来は排尿前に陰部を洗浄、清拭することが推奨されていた。しかし成人女性では清拭を省いた中間尿でも、同等のコンタミネーション率という報告(表1)1)などもあり、検体の質を改善しないため、現在は推奨されていない。画像を拡大する女性は陰部を広げて、男性は包皮を後方にずらし外尿道口に触れないようにして中間尿を採取する。中間尿が取れないときは、カテーテル(導尿)で採取する1)。例外として、クラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌(Neisseria gonorrhoeae)などによる尿道炎を疑った場合は初尿を採取する。また、慢性細菌性前立腺炎を疑った際には、2杯分尿法(前立腺マッサージ前後の尿検体を採取)、もしくは、4杯分尿法([1]初尿10mLを捨てた後の尿、[2]中間尿、[3]前立腺液(中間尿採取後に前立腺マッサージを行い採取)、[4]マッサージ後10mL捨てた後の尿の4検体を採取)も報告されている2)。膀胱留置カテーテルが入っている場合は、蓄尿バッグにたまっている尿ではなく、検体採取用ポートから注射器で採取する。カテーテルのバイオフィルムに定着している菌と、真の感染の菌を区別するため、原則としてカテーテルをいったん抜去もしくは交換して採尿する。とくに2週間以上留置されており、まだカテーテルが必要な患者では交換後の採尿が推奨されている3)。長期(>30日)留置カテーテルのサンプリングポートから採取した尿とカテーテル再挿入後の尿を比べた研究では、前者では平均2菌種が検出され、多剤耐性菌は63%、後者では平均1菌種が検出され、多剤耐性菌は18%であった4)。また、カテーテルの先端培養は環境に生息する菌が検出されるだけなので提出しない。尿培養を行う検体は2時間以内に微生物検査室に搬送する。できない場合は4℃で24時間まで保存可能である。嫌気性菌は通常原因とならないので、嫌気培養を行う必要はない。2.細菌尿と膿尿尿路感染症は症候に細菌尿を組み合わせて臨床診断を行う。そのため尿培養は尿路感染症の診断において極めて重要な検査であるが尿路感染症と診断するための細菌尿の定義は論文によりさまざまである。尿中の細菌が105CFU/mL以上であることが細菌尿の一般的な定義だが、尿路感染症であっても105CFU/mL を下回ることも少なくない。尿路症状を呈する女性の下部尿路感染の診断において105CFU/mL以上では感度は51%のみであり、102CFU/mL以上とすると感度95%、特異度85%となる5)。米国感染症学会の尿路感染症の抗菌薬治療についてのガイドラインでは、女性の場合、膀胱炎で102CFU/mL以上、腎盂腎炎で104CFU/mL以上を採用している6)。コンタミネーションが少ない無症候性の男性の場合、1回の培養であっても103CFU/mL以上で感染を疑い、105CFU/mL以上で細菌尿と定義している7)。さらに無症候の場合に導尿で提出された検体ではコンタミネーションの機会がより少ないため、男性も女性も102CFU/mLと定義される7)。カテーテル関連尿路感染症の診断基準では、1種類以上の細菌が103CFU/mL以上の検出と定義されている3)。尿路感染症では、基本的に膿尿を伴う。膿尿とはWBC 10/μL(mm3)以上が一般的なコンセンサスとされる。尿中白血球数は、好中球減少患者や尿路の完全閉塞のある患者では低くなり、乏尿/血尿がある場合は高くなる。しかし、尿路感染症ではなくとも膿尿や細菌尿を認めることが、尿路感染症の診断を難しくする原因の1つである。細菌尿と膿尿の有無のそれぞれの組み合わせによる原因をまとめると表28, 9)のようになる。また、培養を用いた定義では細菌が発育するまで尿路感染症の診断ができない。そこで、迅速に細菌尿を検知するための検査として、尿定性検査(試験紙)や尿沈渣、グラム染色などが有用であり、次回詳細を述べる。画像を拡大する1)Carroll KC. Manual of Clinical Microbiology. ASM press. 2019:p.302-3302)Schaeffer AJ、Nicolle LE. N Engl J Med. 2016;374:562-571.3)Hooton TM, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:625-663.4)Shah PS, et al. Am J Health Syst Pharm. 2005;62:74-77.5)Stamm WE, et al. N Engl J Med. 1982;307:463-468.6)Warren JW, et al. Clin Infect Dis. 1999;29:745-758.7)Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis. 2005;40:643-654.8)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.9)LaRocco MT, et al. Clin Microbiol Rev. 2016;29:105-147.

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新型コロナ、感染から完全回復までにかかる期間は?

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の回復期間の評価と、90日以内の回復に関連する要因を特定するため、米国・コロンビア大学Irving Medical CenterのElizabeth C. Oelsner氏らは、米国国立衛生研究所(NIH)に登録された14のコホートを用いて前向きコホート研究を実施した。その結果、感染から回復までにかかった期間の中央値は20日で、90日以内に回復しなかった人が推定22.5%いたことなどが判明した。JAMA Network Open誌2024年6月17日号に掲載。 この前向きコホート研究では、1971年よりNIHが参加者を登録し追跡してきた進行中の14のコホートにおいて、2020年4月1日~2023年2月28日にSARS-CoV-2感染を自己申告した18歳以上の4,708例(平均年齢61.3歳[SD 13.8]、女性62.7%)に対してアンケートを実施した。アンケートでは回復するまでの日数を聞き、90日以内に回復した群と、90日超あるいは未回復である場合は、90日時点で未回復の群に分類した。回復までの期間と関連する潜在的要因は各コホートから事前に選択された。90日以内に回復しない確率および平均回復時間は、Kaplan-Meier曲線を用いて推定され、90日以内の回復と多変量調整後の関連性をCox比例ハザード回帰分析にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・全4,708例中3,656例(77.6%)が完全に回復し、回復までの期間の中央値は20日(四分位範囲[IQR]:8~75)だった。・回復までの期間の中央値は、第1波(野生株)では28日だが、次第に短縮し、第6波(オミクロン株)におけるワクチン未接種者では18日、ワクチン接種者では15日であった。・参加者の22.5%(95%信頼区間[CI]:21.2~23.7)が90日以内に回復しなかった。オミクロン株以前は23.3%(22.0~24.6)、オミクロン株以降は16.8%(13.3~20.2)であった。・制限平均回復時間は35.4日(95%CI:34.4~36.4)だった。・重篤な入院での平均回復時間は57.6日(95%CI:51.9~63.3)であり、外来受診の場合は32.9日(31.9~33.9)だった。・90日以内に回復する確率は、感染前にワクチン接種済のほうが未接種よりも高かった(ハザード比[HR]:1.30、95%CI:1.11~1.51)。・90日以内に回復する確率は、第6波(オミクロン株)のほうが第1波(野生株)よりも高かった(HR:1.25、95%CI:1.06~1.49)。・90日以内に回復する確率は、女性のほうが男性よりも低かった(HR:0.85、95%CI:0.79~0.92)。・90日以内に回復する確率は、パンデミック前に臨床心血管疾患(CVD)を有する人のほうが、CVDがない人よりも低かった(HR:0.84、95%CI:0.71~0.99)。・肥満、低体重、COPDは、有意ではないものの回復率が低かった。年齢、教育水準、パンデミック前の喫煙、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、喘息、抑うつ症状との関連は認められなかった。 本結果により、SARS-CoV-2に感染した成人の5人に1人が、感染から3ヵ月以内に完全に回復しなかったことが判明した。とくに、女性とCVDを有する人では、90日以内に回復する確率は低かった。著者らは本結果について、ワクチン接種による急性感染の重症度を軽減するための介入が、持続症状のリスクを軽減するのに役立つ可能性があるとまとめている。

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第104回  血培ボトル出荷制限が現場に与える影響

ベクトン・ディッキンソン(BD)の血液培養ボトルが出荷制限にわかに信じがたいニュースが飛び込んできました。毎日のように病院で提出される血液培養ボトルが、な、な、なんと出荷制限…!プラスチックボトルの供給が遅延し、少なくとも3ヵ月程度の納期がズレてしまい、しばらくは平時の50%程度になるとのことです(表)。「BD バクテックTM 血液培養ボトル」出荷調整のお知らせとお詫び(第一報)画像を拡大する表. 出荷制限対象製品対象商品は8種類ですが、BD社の血培ボトルを使っている病院も多く、この出荷制限は甚大な影響を与えるでしょう。他社の血培ボトルを採用している病院も、間接的に影響するかもしれないので楽観視はできません。対象を制限せざるを得ない日本感染症学会・日本臨床微生物学会から合同のステートメントが出ています。具体的には、菌血症・敗血症患者への2セット採取は必要とはしつつも、(1)菌血症の陰性化確認は対象を限定(2)1セットでの採取はやむを得ない(3)状態が比較的安定している患者や他の培養検査で原因菌の検索が可能と思われるような患者においては、血液培養の対象からはずすというのが具体案として提案されています。培養陰性化の確認はそこまで数自体が多くないので、現状焼け石に水になるかもしれません。なので、(2)を適用せざるを得ないのかもしれません。喀痰、尿、皮膚軟部組織の膿のように、直接検体が確保できる感染症かどうかも重要かと思います。深部感染症で何が菌血症を起こしているのか想定しにくい場合に、血液培養の優先度を上げていく必要があるでしょう。院内で早急に対応を強いられ、このコラムが出る頃にはある程度スタンスが決まっていると思いますが、今回の件で「どういった症例に血液培養を検査すべきか」「1セットでよいのか」「Candidaや黄色ブドウ球菌の菌血症の陰性確認は必要か」といった議論が進むとよいですね。

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【GET!ザ・トレンド】重症COPDの新治療「気管支バルブ治療」病診連携で普及を

重症COPDに気管支鏡的肺容量減量術(Bronchoscopic Lung Volume Reduction、BLVR)という新たな治療法が2023年12月に保険適用になった。重症COPD患者に希望をもたらす治療として注目される。市販後調査として実際にBLVRを施行しているNHO近畿中央呼吸器センターの田宮朗裕氏に聞いた。水面下に潜んでいる「症状緩和・機能改善が行えない重症COPD患者」COPDは世界の死因の第3位で年間323万人が死亡する1)。日本では40歳以上の8.6%、530万人以上がCOPDと推定されている2)。そのうち、きわめて高度な気流閉塞を有する患者(GOLD IV期)は11%、自覚症状が多く急性増悪のリスクが高い患者(GroupD)は10%との報告がある3)。重症COPDに対しては薬物療法、呼吸リハビリテーション、必要に応じた在宅酸素療法(HOT)、さらに肺容量減量手術、肺移植が治療選択肢となる。ただし、肺容量減量手術、肺移植については現在、日本ではほとんど行われていない。つまり、HOTなどの対症療法をしているものの、十分な症状緩和・機能改善が行えない重症COPD(根治的治療がCOPDにほぼないため)が水面下に潜んでいることになる。重症COPDの新治療BLVRとは?田宮氏によれば、重症COPDでは「家での軽い労作でも動けず買い物にも出られない方、ある程度呼吸機能はあっても非常に強い息切れによる生活への支障を訴える方」も少なくないという。さらに「肺機能が悪いとCOPDの急性増悪が非常に厳しくなる」と付け加える。そのような中、2023年12月に重症COPDに対する初のBLVRとして、Zephyr気管支バルブシステムが国内承認された。気管支バルブ治療は、気管支鏡を用いて一方弁の気管支バルブを治療対象の肺葉につながる気管支に留置して、肺葉を無気肺にさせ、肺の過膨張が原因で平坦化していた横隔膜運動を適正化させ呼吸機能を改善させる治療法だ。内科的治療では症状改善がみられない重症COPDに症状の改善をもたらす初の気管支内視鏡治療として注目されている。「体に傷を入れることなく、綺麗な部位を残すことで重症COPDの呼吸機能が改善している。非常に小さなサイズの中にシンプルな一方弁機能を実現した技術は素晴らしい」と田宮氏は評価する。Zephyr気管支バルブは25ヵ国以上で発売され、4万人超の治療患者に留置された実績を持つ。欧州では2003年に、米国ではブレークスルーデバイスに指定され2018年に発売されている。長年の海外での使用実績をもとに的確な患者選択や側副換気の評価によって、より効果を示す可能性のある患者を抽出できるようになった。また、気胸の発生に注意が置かれるようになり、発生時に迅速に対応できるよう準備が変わった。「全世界の開発者と医療者がさまざまな工夫を重ねた中の最終形で日本に来ている。美味しいところ取りしているようだ」と田宮氏は言う。多数のエビデンスが証明するZephyr気管支バルブの有効性Zephyr気管支バルブは重症COPDに対する複数の無作為化比較試験で標準治療単独と比べ、呼吸機能(FEV1)、運動機能(6分間歩行)、症状、QOL(St.George's Respiratory Questionnaire, SGRQ)、慢性COPDの生存期間予測指標であるBODE指数*について有意な改善を認めている。代表的な試験は不均一な肺気腫患者を対象としたLIBERATE試験4)と均一な肺気腫患者を対象としたIMPACT試験5)であり、両試験とも主要評価項目を有意に改善した。いずれも高度な気流閉塞(%FEV1 15~45%)を有するCOPD患者が対象である。「不均一な肺気腫でも均一な肺気腫でもしっかり結果が出た。これらの結果から肺容量を減量して残された肺がしっかり伸縮できるようになると、呼吸機能もQOLも改善することが確信できた。動いたあと“はあはあ”しているのに、息が吐けずに空気が溜まっていく一方という状態は非常に辛いもの。それが緩和されることはすばらしい」、さらに「片肺の過膨張を改善することで、もう一方の肺にも余裕ができる可能性もある」と評価する。また、LIBERATE試験の主要評価項目である「ベースラインからFEV1(L)が15%以上改善した患者」がZephyr気管支バルブ群で有意に多かった(群間差31%)という結果について「全体集団の差が30%を超えるのは素晴らしい。しかし、全ての患者に効くというわけではない。逆に考えれば、効く人には非常に高い効果が期待できるということ。患者の選定は重要なポイント」と述べた。Zephyr気管支バルブは日本での市販後調査による140例の症例収集が課せられている。現在は15施設だが、将来的には20施設まで増やす予定である。* BODE指数:Body mass index(BMI)、airflow Obstruction(気道閉塞度)、Dyspnea(呼吸困難)、Exercise capacity(運動能力)により算出され、慢性COPDの生存期間予測に用いられる指数。事前準備から術後フォローまで入念に設計された手技工程Zephyr気管支バルブによるBLVRを実施するには、外科治療を除く全ての治療法が実施されていることを確認し、術前にボディボックス、スパイロメーターによる呼吸機能精査を行い、6分間歩行距離、呼吸困難を評価する。さらに、CT解析システムによる気腫病変、肺葉間裂の確認、治療対象となる肺葉の選定を行う6)。施術当日も専用のChartis肺機能評価システムで留置部位の側副換気(肺葉間裂の完全性確認)を再確認する。そして、全身麻酔またはセデーション下で(NHO近畿中央呼吸器センターはセデーション)、専用のローディングシステムとデリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する。「デバイスが精巧にできているので手技自体はシンプルだが、気管支の位置によって難易度が高くなる。研修による技術習得は欠かせない」と田宮氏は言う。合併症として気胸、COPDの増悪、感染症などのリスクがあるので、気管支バルブ留置後も呼吸器内科、呼吸器外科が協力して診療にあたる。気胸の8割が術後4日以内に起こることもあり、術後は手術日を含め4日入院し、術直後と24時間毎に退院まで検査する。退院後も45日、3、6、12ヵ月後の定期検査が設定されている。なお、Zephyr気管支バルブは抜去・交換が可能で、術後の位置ずれが起きた場合も修正できる。画像を拡大するZephyr気管支バルブの径は4.0mmと5.5mmの2種類。それぞれレギュラーとショートタイプがあり、計4種類のバルブで異なる気管支形状に対応画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する専用デリバリーカテーテルで気管支鏡を用いてターゲットとなる気管支にバルブを留置する画像提供:パルモニクスジャパン(株)画像を拡大する画像を拡大する病診連携で重症COPD患者をレスキュー薬物療法、呼吸リハビリテーション、HOTを行いながらも手の施しようがない重症COPDは相当数いるのではないかと田宮氏は言う。高度な呼吸機能検査ができない施設では、mMRC質問票のGrade2以上、スパイロメーターで1秒率45%以下がBLVR適用の目安である。「BLVRは酸素を吸ってもどうにもならないという状態になる前にレスキューできる治療法。この治療に適用があるかはスクリーニングしてみないとわからない。(mMRC2以上の)症状があってこの治療に興味を示す患者さんがいれば、どんどん紹介していただきたい。ボディボックスなど精密な検査、治療、術後定期検査は当方で行った上で、吸入薬、HOTの管理などはかかりつけの先生にお任せしたい」と田宮氏はいう。治療方法が見つからない重症COPD患者に希望をもたらす新たな治療BLVRが普及していくには、専門施設とかかりつけ医の協同が欠かせないようだ。参考1)日本WHO協会2)NICE study3)Oishi K et, al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018:13:3901-3907.4)Criner GA et,al.Am J Respir Crit Care Med.2018;198:1151-1164.5)Valipour A et, al.Am J Respir Crit Care Med.2016;194:1073-1082.6)呼吸器学会 重症COPDに使用する気管支バルブの適正使用指針気管支バルブ治療情報サイト(pulmonx社)Zephyr気管支バルブ製品ページ(pulmonx社)(ケアネット 細田 雅之)

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英語で「コロナ陽性です」は?【1分★医療英語】第138回

第138回 英語で「コロナ陽性です」は?《例文1》I tested positive for COVID.(コロナの検査が陽性でした)《例文2》If you test positive for COVID, you must be quarantined for 5 days.(コロナの検査が陽性の場合、5日間の隔離が必要です)《解説》新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、日本では「新型コロナ」という呼び方が定着しましたが、英語圏では「COVID(コヴィット)」と呼ぶことがほとんどです。「コロナの検査」は“COVID test”、「検査を行うための綿棒」は“COVID swab”と呼ばれます。また、“test”という動詞には「自動詞」と「他動詞」があり、自動詞では、「検査の結果~を示す」という意味になります。“(誰=主語)test positive/negative for(○○=検査内容)”という構文で、「“誰”が“○○”の検査を受けて陽性/陰性だった」という表現となり、医療者同士はもちろん、患者さんとの会話でも頻出します。なお、コロナに関連する単語でよく使われるものに“quarantine”(隔離)という単語があります。「クアランティーン」と発音し、“self-quarantine”(自主隔離)という用語もしばしば使われます。講師紹介

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第222回 結核薬ベダキリンを米国と欧州が本承認

結核薬ベダキリンを米国と欧州が本承認欧米で10年以上前にひとまず許可されたJohnson & Johnsonの結核薬ベダキリン(商品名:サチュロ錠)がそれら地域で本承認にこぎ着けました1,2)。第II相試験で良い結果が得られたことを受けて、米国FDAは10年以上前の2012年に同剤を取り急ぎ承認(accelerated approval)しました。欧州はその2年後の2014年にやはり第II相試験結果に基づいてFDAと同様に同剤を条件付き承認(conditional approval)しています。米国での2012年の承認の際の同剤使用は成人に限られていました。2019年になって12歳以上の小児への使用も許可され、その翌年2020年には5歳以上の小児への使用も認められました。そして今回第III相STREAM Stage 2試験でベダキリンを含む経口薬治療の臨床的有用性(clinical benefit)が示されたことを受けて、米国と欧州の両方で本承認に至りました。2022年にLancet誌に結果が報告されたSTREAM Stage 2試験は7ヵ国の13の病院で実施され、15歳以上のリファンピシン耐性結核患者588例が参加しました3)。76週時点で結核菌が見当たらず(培養検査陰性)、それまでを死なずに無事に過ごした経過良好患者の割合の比較で、ベダキリンを含む経口薬治療群が対照の注射薬治療群に勝りました。経過良好の患者割合は、ベダキリンを含む経口薬治療群では83%、同剤を含まない対照群では71%でした。米国と欧州のどちらも、少なくともリファンピシンとイソニアジドに耐性のある結核菌が原因の肺結核の併用療法(combination therapy)の一環としてベダキリンを使うことを認めています。日本では2018年1月に承認され、同年5月に発売されました4)。いまやベダキリンは世界保健機関(WHO)が推奨する薬剤耐性結核治療の要となっており、ベダキリンを含む経口薬のみの投与が多剤耐性結核患者4例に3例の治療を担っています。昨年Johnson & Johnsonは結核治療普及の取り組みであるStop TB Partnershipがベダキリンの後発医薬品を世界のほとんどの低~中所得国(LMIC)に提供するのを許可しました。また、134のLMICでベダキリンの特許を行使しないとの意向も同社は示しています。参考1)Johnson & Johnson Receives Approval from U.S. FDA and European Commission for SIRTURO? (bedaquiline) / J&J2)FDA Roundup: June 25, 2024 / PRNewswire3)Goodall RL, et al. Lancet. 2022;400:1858-1868.4)新規抗結核薬「サチュロ錠100mg」新発売のお知らせ/ヤンセン

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消化器内科「ピロリ菌感染症関連」【臨床実習を味わうケアネット動画Café】第1回

動画解説臨床研修サポートプログラムの研修医のための内科ベーシック1消化器内科より、宮垣亜紀先生の「ピロリ菌感染症関連」を鑑賞します。実習中に聞かれがちなピロリ菌除菌に使用する3剤、答えられますか?

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第75回 確率分布とは?【統計のそこが知りたい!】

第75回 確率分布とは?確率分布とは、「ある確率変数が取りうる値とその値が起こる確率を表す数学的なモデル」のことです。医学論文でも、さまざまな現象やデータを解析するために確率分布が利用されています。今回はこの「確率分布」について解説します。■確率(probability)とは確率とは、「ある事象が起こる度合の大きさを表す数値」のことです。そして、0~1までの実数値をとる値です。また、%を用いて表現する場合は0~100%となります。■確率変数(random variable)とは確率変数とは、「試行の結果に対応してある、確率をもって定まる量」のことです。2つのサイコロを振って、出た目の和に値する量です。■確率分布(probability distribution)とは確率分布とは、「確率変数の各々の値に対し、その起こりやすさを記述するもの」です。■医学論文での事例以下に代表的な確率分布とその医学論文での事例を紹介します。(1)正規分布正規分布とは、「平均値と標準偏差によって特徴付けられる分布」であり、多くの自然現象やデータが正規分布に従うことが知られています。たとえば、身長や体重などの身体測定値が正規分布に従うことが多く、医療分野でも利用されています。ある病気の治療効果を測定するために、患者の病状に関するスコアを正規分布と仮定し、治療前後でのスコアの変化を比較する研究が行われることがあります。(2)二項分布二項分布とは、「2つの結果(成功と失敗)がある繰り返し試行を行った場合に、成功がk回起こる確率を表す確率分布」のことです。この試行をn回行った場合、各試行は互いに独立であり、成功確率がpであるとします。二項分布も、医療や経済学などの分野で、ある試行における成功確率が既知であり、その成功回数の分布を求めるためによく使われます。たとえば、ある病院で、ある種のがんを患っている患者に対して新しい治療法を試みた研究が行われました。治療法の効果を評価するため、治療群と対照群に分けて、それぞれのグループで治療が成功した人数を比較しました。治療群には100例、対照群には100例が含まれていました。治療群で成功した人数は70例で、対照群で成功した人数は50例でした。この場合、治療法の有効性を検証するために二項検定を行うことができます。二項分布を用いることで、治療群と対照群での治療成功率の差を比較することができます。(3)ポアソン分布ポアソン分布とは、「ある時間内に起こる事象の数が従う分布」であり、まれな事象が起こる確率を表すことで有名な分布です。たとえば医療分野では、ある地域での1日当たりの新型コロナウイルス感染症患者数がポアソン分布に従うと仮定し、感染者数の予測を行うことができます。他にも、ベルヌーイ分布やガンマ分布などが医療分野でもよく使われています。次回は「二項分布」を解説します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第31回 検定の落とし穴とは?第56回 正規分布とは?第70回 カイ二乗分布とは「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定 セクション1第4回 ギモンを解決!一問一答質問7 ノンパラメトリックの検定とは?(その1)

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セフトリアキソンとランソプラゾールの併用リスク、日本人では?

 セフトリアキソン(CTRX)とランソプラゾールの併用は、心室性不整脈、心停止、院内死亡を増加させることが示唆されるという研究結果が、2023年にカナダの研究グループから報告され、話題となった1)。そこで、三星 知氏(下越病院)らの研究グループは、医療データベースを用いた後ろ向きコホート研究により、日本人におけるこれらのリスクを検討した。その結果、日本人においてもCTRXとランソプラゾールの併用は、心室性不整脈や心停止のリスクを上昇させることが示唆された。本研究結果は、Journal of Infection誌オンライン版2024年6月17日号で報告された。 本研究は、JMDCが構築した日本の医療機関データベースを用いて、2014年4月〜2022年8月の期間に登録されたデータを解析した。対象は、CTRXまたはスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用する20歳超100歳未満の患者10万5,301例とした。主要評価項目は、心室性不整脈・心停止の発生率であった。 主な結果は以下のとおり。・CTRXを投与された患者5万5,437例およびSBT/ABPCを投与された4万9,864例を抽出した。対象患者の年齢中央値は81歳(四分位範囲:72~88)であった。・心室性不整脈・心停止は、CTRXを投与された患者187例(0.34%)、SBT/ABPCを投与された患者82例(0.16%)に認められた。・PPIを経口投与された患者集団において、CTRX+ランソプラゾール群はSBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して、心室性不整脈・心停止のリスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:2.92、95%信頼区間[CI]:1.99~4.29、p<0.01)。・一方、CTRX+その他のPPI(ラベプラゾール、エソメプラゾール、オメプラゾールのいずれか)群はSBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して、心室性不整脈・心停止のリスクが有意に低かった(HR:0.48、95%CI:0.27~0.88、p=0.02)。・PPIを静脈内投与された患者集団では、CTRX+ランソプラゾール群(HR:4.57、95%CI:1.24~16.8、p=0.02)およびCTRX+オメプラゾール群(HR:4.47、95%CI:1.44~13.9、p=0.01)が、SBT/ABPC+ランソプラゾール群と比較して心室性不整脈・心停止のリスクが高かった。 著者らは、本研究結果は観察研究から得られた知見であり、さらなる研究が必要としつつ「CTRXとランソプラゾールの併用が、経口および静脈内投与のいずれにおいても心室性不整脈や心停止のリスクを上昇させることが示唆された。PPIと抗菌薬の選択が転帰を悪化させる可能性がある」とまとめた。

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日本BDが血培ボトル出荷調整、学会が対応を注意喚起

 日本ベクトン・ディッキンソンは7月3日のリリースにて、「BDバクテック血液培養ボトル」8製品を出荷調整することを発表した。米国本社より、供給元からの同製品の原材料であるプラスチックボトルの供給に3ヵ月程度の遅延が発生したため、今後の製造と出荷が通常時の50%程度に制限される見込みであるとの報告があり、当面の間、世界的にすべての需要を満たすことが困難な状況となった。本報告を受けて、日本臨床微生物学会と日本感染症学会は同日、医療機関側でも出荷調整の数ヵ月間を大きな混乱なく診療ができるように、対応について告知した。 両学会は、「特にこのような情報を受け取った場合、自分の病院だけはなんとか十分量を確保しようとする動きが出てきますが、それが病院間のアンバランスを生み、極端に血液培養ボトルが不足する医療機関が生じかねない状況を生んでしまいます。そのため、国内の医療機関が歩調を合わせて被害を少なくするため、下記の点について会員の皆様に徹底をお願いします」と注意を促している。 両学会による注意喚起は以下のとおり。1. 血液培養ボトルの発注量の適正化 これまで発注していたレベル以上の発注や在庫の確保を目的とした発注については、極力控えていただくようお願いします。2. 血液培養の対象の見直し 血液培養の対象となる優先順位から考えて、菌血症・敗血症患者への2セット採取は必要と考えます。ただし、その一方で、菌血症の陰性化確認は対象を限定するか1セットでの採取はやむを得ないと思われます。また、状態が比較的安定している患者や他の培養検査で原因菌の検索が可能と思われるような患者においては、血液培養の対象からはずすこともご検討ください。3. 院内ルールの設定と周知の徹底 各医療期間によって血液培養の実施状況は異なるため、各施設に応じた院内ルールを決めていただく必要があります。現在よりも半数程度に血液培養を抑えるために、どの部分を減らせるかについては微生物検査室やASTなどで相談していただき、妥当な院内ルールの案をご検討ください。そしてそのルールが守られるよう院内における周知徹底をお願いします。

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第103回 現在、学会現地でマスクをすべきか?

SNSでちょっと話題学会シーズンです。平日に開催されると、私のような急性期病院の勤務医はなかなか行けないので、なかなか大変です。最近の学会は、やっと現地開催が主流となっています。オンデマンドでの視聴も可能ですが、単位を効率よく取得したい人にとっては現地参加が魅力的ですね。ところが、現地ではマスクの着用について意見が割れているようです。この話題、いまだに議論されているんですね…。微妙な流行期とくに今の時期、答えが簡単ではありません。咳をしている人はもちろん、マスクを着用すべきですが(感染症の症状がある場合は参加自体を控えるべきですが)、健康を守るために普段からマスクをする必要性については、賛否両論あるでしょう。確かに新型コロナがじわじわ増えていて、現在、全国の定点医療期間当たりの感染者数は4.61人です(図)1)。沖縄県に至っては、25.68人という、ちょっとびっくりする数字で流行が続いています。画像を拡大する図. 定点医療機関あたりの新型コロナウイルス感染症患者数ここからは私見ですが、いろいろな人のいろいろな気持ちがあるので、着用したい人はそうすればいいし、着用不要な人は別にしなくていいと思います。いずれにしても、外野がとやかく言う問題でもない。だから、学会後の懇親会や飲み会だって普通に行くし、パンデミックのときの自粛を延々と続けたいと思っているわけでもない。ある程度、「5類感染症」になってから、医師の皆さん現状をうまく咀嚼していると思います。まとめると、個々の判断でいいのではないか、というのが私の結論です。学会参加者全員が安全と健康を最優先にする意識を持ち、互いに配慮しつつ学術交流を深めることが望ましいと考えます。参考文献・参考サイト1)厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(2024年6月28日更新)

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コロナ罹患後症状、中年層や女性に高頻度/NCGM

 国立国際医療研究センターは7月1日付のプレスリリースにて、オミクロン株BA.5流行期の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(Long COVID)の頻度や関連要因について、同センターの射場 在紗氏らの研究グループが、東京都品川区、筑波大学、大阪大学と共同で行った調査の結果を発表した。本結果によると、40~49歳の中年層、女性、基礎疾患のある人、COVID-19の重症度が高かった人で罹患後症状の頻度が高かったが、感染前にワクチンを接種していた人では罹患後症状の頻度が低かったことなどが明らかとなった。罹患後症状がある人において、感染から約半年経過後も8.5%が日常生活に深刻な支障があるという。本結果は、Emerging Infectious Diseases誌2024年7月号に掲載された。 本研究では、2023年1〜2月に、東京都品川区在住の2022年7〜8月(いわゆる第7波、オミクロン株BA.5流行期)にCOVID-19に罹患しHER-SYSに登録された20〜69歳の感染者2万5,911例と、性別・年齢をマッチさせた非感染者2万5,911例を対象にwebアンケート方式で調査が行われた。有効回答が得られた感染者8,392例と非感染者6,318例が比較された。主要評価項目はCOVID-19の罹患後症状、副次評価項目は心身の健康状態、社会経済状況など。症例におけるコロナ罹患後症状に関連する因子を調査するため、多変量ロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・感染者8,392例の平均年齢は42.3歳、非感染者6,318例の平均年齢は42.4歳だった。・感染者は、初回感染から平均168日経過し、COVID-19の重症度は8,326人(99.2%)において軽症または無症状だった。・感染者の91.9%はCOVID-19罹患前にワクチンを1回以上接種していた。・感染者における罹患後症状の頻度は11.8%と、非感染者における2ヵ月以上続く症状の頻度5.5%よりも約2倍高い結果となった(性別・年齢調整オッズ比(OR):2.33、95%信頼区間[CI]:2.05〜2.64)。・感染者で非感染者よりも顕著に見られた症状は、味覚障害(OR:27.4、95%CI:6.7~111.8)、筋力低下(OR:11.8、95%CI:5.5~25.5)、嗅覚障害(OR:11.6、95%CI:4.7~28.6)、脱毛(OR:6.5、95%CI:4.4~9.6)、ブレインフォグ(OR:5.9、95%CI:3.8~9.0)だった。・女性は男性よりも罹患後症状の頻度が高かった(OR:2.00、95%CI:1.71~2.34)。・40~49歳は、20~29歳よりも罹患後症状の頻度が高かった(OR:1.26、95%CI:1.01~1.57)。・基礎疾患のある人は、ない人よりも罹患後症状の頻度が高かった(OR:1.36、95%CI:1.16〜1.59)。・COVID-19の重症度が高かった人では罹患後症状の頻度が高かった(無症状/軽症と比較したOR:2.07、95%CI:1.18〜3.66、中等症と比較したOR:4.49、95%CI:1.97〜10.23)。・感染前にワクチンを接種した人では、ワクチン未接種者よりも罹患後症状の頻度が低かった(OR:0.75、95%CI:0.60〜0.95)。・罹患後症状がある992人において、感染から約半年経過後も59.5%が日常生活へ何らかの支障があり、8.5%が深刻な支障があると回答した。 著者らは本結果について、ワクチン接種によって罹患後症状の発症リスクが低減するかどうかについては、より詳細な研究が必要だとしている。オミクロン株流行期のCOVID-19感染者における罹患後症状の頻度は、中年層でより一般的であることが示され、生産年齢人口のかなりの割合が影響を受けた可能性があり、今後さらに社会経済的な影響についても分析を進める予定だという。

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メンタルヘルスに長期的影響を及ぼす小児期逆境体験

 3万人弱の日本人を対象とした横断調査から、小児期に受けた虐待、いじめ、経済的困難といった逆境体験は、成人期のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていることが明らかとなった。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の西大輔氏、佐々木那津氏らによる研究の成果であり、「Scientific Reports」に5月26日掲載された。 従来、小児期逆境体験(adverse childhood experience;ACE)として虐待や家庭の機能不全が検討されてきたが、最近では学校でのいじめ、慢性疾患、自然災害なども含まれるようになっている。ACEは成人後のメンタルヘルスの問題につながる可能性が指摘されているものの、広義のACEの長期的影響を検討した研究は少ない。また、ACEに関する研究は米国のものが多いことから、日本人を対象とした研究が求められている。 そこで著者らは、「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」より、2022年9月のオンライン調査データを用いて、ACEと成人期のメンタルヘルスとの関連を検討した。対象者は18~79歳とし、経験したACEの種類と数について、15項目の質問票「ACE-J」により評価した。また、「K6」という尺度により心理的苦痛を評価し、合計得点が13点以上だった人を「心理的苦痛が強い」と判定した。 解析対象は計2万8,617人(平均年齢48±17.1歳、男性48.9%)であり、15のACEのうち1つ以上のACEを経験していた人の割合は75%に上った。経験割合が多かったACEは、心理的ネグレクト(38.5%)、貧困(26.3%)、学校でのいじめ(20.8%)だった。経験したACEの数は平均1.75±1.94であり、14.7%の人が4つ以上のACEを経験していた。女性は男性と比べ、ACEの数が有意に多く(1.85対1.65)、性的虐待の経験割合が有意に高かった(6.9%対1.8%)。年齢層別には、貧困の経験割合は50~64歳で29%、65歳以上で40%、学校でのいじめは若年層で21~27%、65歳以上で10%だった。 また、心理的苦痛が強いと判定された人は全体の10.4%だった。ACEの経験数が増加するほど心理的苦痛が強い人の割合が高まり、18~34歳かつACEの数が4つ以上で、その割合が最も高かった(40.7%)。ACEの数が同じ場合、若年層は高齢層と比較して心理的苦痛が強い人の割合が有意に高かった。 次に、ロジスティック回帰分析を用い、背景の差(年齢、性別、婚姻状況、世帯収入など)を統計学的に調整して検討したところ、全てのACEは、心理的苦痛が強いことと有意に関連していることが明らかとなった。具体的なオッズ比(95%信頼区間)は、学校でのいじめが3.04(2.80~3.31)、慢性疾患による入院が2.67(2.29~3.10)、自然災害が2.66(2.25~3.13)だった。また、ACEの数が4つ以上の人では、1つもない人と比較したオッズ比が8.18(7.14~9.38)に上った。 今回の研究の結果から著者らは、「ACEはメンタルヘルスに長期的な影響を及ぼしていた」と総括し、ACEを減らすためのさらなる研究と対策の必要性を指摘している。

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