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第203回 新型コロナ感染者数が11週連続増加、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ感染者数が11週連続増加、厚労省が注意喚起/厚労省2.日本人の平均寿命、3年ぶりにコロナ死者減少で延びる/厚労省3.脳死診断は脳死患者の3割、臓器提供の意思の尊重を/厚労省4.経口中絶薬の安全性を確認、使用条件の緩和を検討へ/厚労省5.国立大学病院、2023年度決算で60億円赤字で存続の危機/国立大学病院会議6.救急車の安易な利用を抑制、緊急性ない救急搬送に7,700円徴収へ/茨城県1.新型コロナ感染者数が11週連続増加、厚労省が注意喚起/厚労省厚生労働省は、7月26日に7月15~21日までの1週間における新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が全国で6万7,334人となり、11週連続で増加していると発表した。全国の定点医療機関当たりの患者報告数は13.62人で、前週から1.22倍に増加。とくに10歳未満の感染者数が最も多く、1医療機関当たり1.75人だった。都道府県別では、佐賀県が31.08人と最も多く、次いで宮崎県(29.72人)、鹿児島県(27.38人)となっている。感染者数が最も少なかったのは青森県(3.89人)、次いで北海道(5.34人)、山形県(6.16人)。全45都道府県で感染者数が増加しており、とくに九州地方での増加が前週に続き顕著だった。新規入院患者数も増加傾向で、21日までの1週間で3,827人となり、前週の3,083人から744人増加した。この数値は過去のピークを超えており、集中治療室(ICU)に入院した患者数も167人と、前週から54人増加していた。厚労省は、増加傾向が続いていることから、今後も感染者数が増える可能性が高いと警戒している。とくにお盆明けが感染拡大のピークになることが多いため、注意が必要とされ、感染対策として、室内の換気やマスクの着用、手洗いの徹底が呼びかけられている。感染症の専門家である東京医科大学の濱田 篤郎客員教授は、九州地方の患者数はピークを迎えつつあるが、本州ではさらに増加する可能性があると指摘している。また、受診控えにより実際の患者数は報告されている以上に多い可能性があるとして、高齢者を中心に早期受診を促している。厚労省は感染者数の増加を受け、治療薬と対症療法薬の安定供給に向けた措置を日本製薬団体連合会に要請した。とくに解熱剤や鎮痛薬、去痰薬の不足が懸念されており、需給状況に応じた適切な増産と早期納品が求められている。厚労省は、今後も感染者数の増加が見込まれる中で、感染拡大の防止に向けた対策を強化する方針であり、感染対策の徹底に加え、医療体制の強化と治療薬の安定供給に向けた取り組みが求められている。参考1)新型コロナ患者数 11週連続増加 “今後も増加か” 厚労省(NHK)2)全国コロナ感染者数、11週連続増 入院者数は昨冬・夏のピーク超え(朝日新聞)3)新型コロナ患者6万7千人、11週連続増加 10歳未満が最多(CB news)2.日本人の平均寿命、3年ぶりにコロナ死者減少で延びる/厚労省7月26日に厚生労働省は「簡易生命表」を公表した。これによると2023年の日本人の平均寿命は、女性87.14歳、男性81.09歳となり、いずれも3年ぶりに前年を上回った。前年度と比較して女性は0.05歳、男性は0.04歳延長していた。いずれも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡者数が減少したことなどが影響したと考えられる。2023年のCOVID-19による死者数は3万8,080人で、前年から約1万人減少し、これが平均寿命の延びに寄与したと推定されている。また、がんによる死者数も減少し、2022年の38万5,797人から2023年は38万2,492人へと減少した。国際的な比較では、日本人女性の平均寿命は39年連続で世界1位を維持し、スイス(85.9歳)、フランス(85.75歳)が続く。男性では1位がスイス(82.3歳)、スウェーデン(81.58歳)、ノルウェー(81.39歳)、オーストラリア(81.22歳)と続き、前年の4位から5位に後退した。厚労省は「新型コロナが原因で亡くなる人が減少したことが、平均寿命の延びに寄与した。今後も高い保健水準を維持し、保健福祉の推進に全力を尽くす」としている。参考1)令和5年簡易生命表の概況(厚労省)2)日本人の平均寿命延びる 女性87.14歳 男性81.09歳 理由は…(NHK)3)平均寿命、3年ぶりに延びる 女性87.14歳、男性81.09歳に(朝日新聞)3.脳死診断は脳死患者の3割、臓器提供の意思の尊重を/厚労省厚生労働省は、厚生科学審議会 疾病対策部会臓器移植委員会を7月26日に開き、2022年度における脳死下での臓器提供の現状について、厚労省研究班の調査結果を明らかにした。これによると脳死の可能性がある患者のうち実際に「脳死とされうる状態」と診断されたのは約30%で、臓器提供の意思が尊重されるケースはさらに限られることが明らかになった。全国の医療機関に対する調査では、脳死の可能性がある患者は年間約4,400人と推計されたが、実際に脳死診断を受けたのは約1,300人、そのうち臓器提供の意思が確認されたのは25.2%に止まった。日本移植学会は、脳死者からの臓器移植手術を行う大学病院が人員や病床不足のために臓器受け入れを断念する問題に対し、「移植を待つ患者の権利を尊重し、確実に移植を実施できる医療体制の確立」を求める提言を策定した。同学会の調査では、昨年、東京大学、京都大学、東北大学の3大学病院で62件の臓器受け入れが断念されたことが判明した。厚生労働省の臓器移植に関する専門家委員会では、脳死下での臓器移植が実現されるためには、専門のコーディネーターや医療機関スタッフの不足が大きな課題となっていると指摘されたほか、臓器提供の意思が示されても、対応するための体制が整っていないため、多くのケースでその意思が尊重されない可能性があることが明らかになった。委員会では、移植の実施体制の見直しを進めるため、今年度中に具体的な方針をまとめる予定。参考1)今後の臓器移植医療のあり方について(厚労省)2)脳死診断は年間30% 臓器提供の意思確認が少ない背景には…(毎日新聞)3)脳死の臓器移植“提供側意思尊重されず”体制見直し方針策定へ(NHK)4)「確実な移植へ医療体制を確立」…大学病院の受け入れを断念問題で日本移植学会が提言(読売新聞)4.経口中絶薬の安全性を確認、使用条件の緩和を検討へ/厚労省2023年4月に承認された人工妊娠中絶用製剤「ミフェプリストン・ミソプロストール(商品名:メフィーゴパック、製造販売元:ラインファーマ)」が、承認から約半年間で少なくとも435例使用されたことが国の研究班の調査で明らかになった。この薬は妊娠9週までの人工妊娠中絶に用いられ、手術を必要とせず2種類の薬について時間を空けて服用することで中絶が完了する。調査によると、大きな合併症は報告されておらず、安全に使用されていることが確認された。調査は日本産婦人科医会の中井 章人副会長を中心に行われ、全国の2,000余りの医療機関から回答を得た。結果、昨年10月までの半年間に「メフィーゴパック」を使用したのは43施設で、症例数は435例。このうち396例は薬の服用のみで中絶が完了し、39例は追加の手術が必要だったが、重篤な合併症や他の医療機関への搬送はなかった。この調査結果を受け、厚生労働省は「メフィーゴパック」の使用条件を緩和する方針を明らかにした。現在は入院可能な医療機関でのみ使用が許可されているが、今後は無床診療所でも使用できるようにする。これには、緊急連絡体制の確保や医療機関との連携が条件となる。また、医療機関の近くに住む場合は帰宅も認められるが、中絶確認のために1週間以内に再来院が必要となる。調査では、手術よりも安全であることが示されており、無床診療所でも使用可能にすることで女性の選択肢が増えると期待される。厚労省では、この方針を軸に8月にも専門部会で要件の変更を議論する予定。参考1)経口中絶薬、無床診療所でも使用方針 実態調査で「重い合併症なし」(朝日新聞)2)“経口中絶薬” 承認から約半年 少なくとも435件使用 国が調査(NHK)3)人工妊娠中絶の飲み薬「メフィーゴパック」を無床診療所でも使用可能に…厚労省が見直し案(読売新聞)5.国立大学病院、2023年度決算で60億円赤字で存続の危機/国立大学病院長会議7月26日に国立大学病院長会議は、全国の42国立大学病院のうち約半数にあたる22病院が2023年度の経常損益で赤字となったことを明らかにした。全体でも約60億円の赤字となり、2004年の法人化以降初の赤字決算となった。赤字の主な原因は、人件費や医療費の増加、物価高騰、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連補助金の廃止などが挙げられる。病院全体の収益は2010年度以降増加し続け、2023年度も前年度比で184億円増の1兆5,657億円となった。しかし、働き方改革に伴う人件費や医薬品費、材料費の増加、COVID-19対策に関する補助金の廃止が影響し、収益は増えたものの利益が減少した。とくに光熱水費の増加が大きく、COVID-19拡大前の5年間と比較して約98億円の増加となった。国立大学病院長会議の大鳥 精司会長は、「病院の経常赤字は非常に大きく、危機的状況にある」と述べ、2024年度にはさらに赤字幅が拡大する見通しを示した。病院経営が困難な状況にある一因として、病院の収益の6割が大学全体の経営を支える構造にあるため、病院が経営破綻すると大学自体の存続に関わると強調した。これに対し、国立大学協会も国立大学の財務状況について「限界」とし、国民に理解を求める声明を発表している。声明では、運営費交付金の削減と物価高騰による実質的な予算減少が指摘された。大鳥会長は、病院を持つ国立大学に対する運営費交付金の増額を求めるなど、経営改善のための具体策を求めた。一方、一部で検討されている国立大学の授業料引き上げについては、「病院の赤字補填のためとしては合意が得られない」として否定的な見方を示した。参考1)国立大病院の半数が赤字 全体でも法人化後初の赤字 2023年度(毎日新聞)2)国立大学病院、23年度の経常損益60億円のマイナス 04年度の法人化後初の赤字 速報値(CB news)6.救急車の安易な利用を抑制、緊急性ない救急搬送に7,700円徴収へ/茨城県茨城県は、緊急性がないにもかかわらず救急車を利用した患者から「選定療養費」として7,700円以上を徴収することを12月1日から運用するという方針を発表した。これは全国で初めて都道府県単位で導入される取り組みで、救急車の適正な利用を促し、増加傾向にある救急車の出動件数を抑える狙いがある。茨城県内の救急車出動件数は、2023年に約14万件に達し、そのうち約6万件は入院を必要としない軽症者だった。県内23病院がこの徴収制度に前向きな姿勢を示しており、緊急性を判断する基準を作成し、制度の運用に備える。具体的な緊急性のない事例として「包丁で指先を切り、血がにじんだ」や「発熱、咽頭痛、頭痛の症状」などが挙げられている。記者会見で茨城県知事の大井川 和彦氏は、「救急車が無料のタクシー代わりになっている現状は憂慮すべきだ。本当に必要な人に救急医療が提供できるよう協力をお願いしたい」と述べた。また、医師の働き方改革や診療体制の縮小に伴う医療現場の負担軽減も理由に挙げられている。この取り組みは、救急車を無料のタクシー代わりに利用するケースを減らし、重症患者に対して迅速な救急医療を提供するためのものである。救急車の安易な利用を抑えるために、電話相談窓口の利用も呼びかけている。茨城県は、15歳以上は「#7119」、15歳未満は「#8000」の相談窓口を設け、救急車を呼ぶべきか判断に迷った際の支援を行う方針。茨城県のこの新しい取り組みは、救急医療の逼迫を抑え、医療資源の適正な配分を目指す重要な一歩となる。今後、他の都道府県でも同様の取り組みが広がることが予想される。参考1)救急搬送における選定療養費の取扱いについて(茨城県)2)緊急性ないのに救急車利用、患者から7,700円徴収 安易な利用減へ(朝日新聞)3)「救急車を無料タクシー代わり」撲滅へ 緊急性ない救急搬送は7,700円徴収…茨城県が12月運用目指す(東京新聞)4)緊急性認められない救急搬送、7,700円以上徴収へ 茨城(毎日新聞)

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タトゥーを入れると悪性リンパ腫になりやすい

 近年、欧米では自己表現の1つとして思い思いのタトゥーを入れる人が増えてきている。ただ、以前からタトゥーの弊害として施術での感染症の罹患などが言われてきた。タトゥーの施術で使用されるインク成分への長期的曝露がもたらす健康への影響はほとんど理解されていないことから、スウェーデンのルンド大学医学部臨床検査部産業・環境医学部門のChristel Nielsen氏らの研究グループは、タトゥー施術と悪性リンパ腫全体およびリンパ腫亜型との関連を調査した。その結果、タトゥーのある人ではリンパ腫全体のリスクが高いことがわかった。EClinicalMedicine誌2024年5月21日号の報告。最初のタトゥーから2年未満の人はリンパ腫のリスクが高い Nielsen氏らの研究グループは、スウェーデン全国がん登録に登録されている20~60歳で、2007~17年の間に悪性リンパ腫と診断された症例を同定し、症例対照研究を行った。方法としては、悪性リンパ腫患者を特定し、人口統計学的に1:3の割合でマッチングされた対照サンプルとともに、タトゥー曝露(2021年の質問表調査により評価)と悪性リンパ腫との関連を検討した。解析では、多変量ロジスティック回帰を用い、タトゥーのある人における悪性リンパ腫の発生率比(IRR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万1,905例を検討し、回答率は悪性リンパ腫症例群では54%(1,398例)で、対照群では47%(4,193例)だった。うちタトゥーのある人の割合は悪性リンパ腫症例群で21%、対照群で18%だった。・タトゥーのある人はリンパ腫全体の調整後リスクが高かった(IRR=1.21、95%信頼区間[CI]:0.99~1.48)。・リンパ腫のリスクは、最初のタトゥーから指標年までの期間が2年未満の人で最も高かった(IRR=1.81、95%CI:1.03~3.20)。・リスクは中等度の曝露期間(3~10年)になると減少したが、指標年の11年以上前に最初のタトゥーを入れた人では再び増加していた(IRR=1.19、95%CI:0.94~1.50)。・タトゥーを入れた体表面の総面積が大きいほどリスクが増加するというエビデンスは、認められなかった。・タトゥー曝露に関連するリスクは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(IRR=1.30、95%CI:0.99~1.71)と濾胞性リンパ腫(IRR=1.29、95%CI:0.92~1.82)で最も高いと示唆された。

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ニルマトレルビル・リトナビル、曝露後予防の効果なし/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の家庭内接触者を対象に、ニルマトレルビル・リトナビルの曝露後予防の有効性および安全性を検討した第II/III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、ニルマトレルビル・リトナビルの5日間または10日間投与はいずれも、症候性COVID-19発症リスクの有意な低下が認められなかった。米国・PfizerのJennifer Hammond氏らが報告した。COVID-19治療薬の臨床試験では、これまで曝露後予防の有効性は示されていなかった。NEJM誌2024年7月18日号掲載の報告。COVID-19家庭内接触後96時間以内で無症状かつ迅速抗原検査陰性の成人が対象 研究グループは、無作為化前96時間以内にCOVID-19患者と家庭内接触があり、無症状かつSARS-CoV-2迅速抗原検査陰性の成人を、ニルマトレルビル・リトナビル(ニルマトレルビル300mg、リトナビル100mg)の5日間投与群、10日間投与群、またはプラセボ群(5日間または10日間投与)に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインでRT-PCR検査が陰性であった参加者(解析対象集団)における、14日目までの症候性COVID-19の発症(RT-PCR検査または迅速抗原検査でSARS-CoV-2感染を確認)であった。 2021年9月9日~2022年4月12日に、計2,736例が5日間投与群921例、10日間投与群917例、およびプラセボ群898例に無作為化された。症候性COVID-19発症率にプラセボ群と有意差認められず 投与14日目までのRT-PCR検査または迅速抗原検査でSARS-CoV-2感染が確認された症候性COVID-19の発症率は、5日間投与群2.6%(22/844例)、10日間投与群2.4%(20/830例)、プラセボ群3.9%(33/840例)であった。 プラセボ群に対する相対リスクの減少は、5日間投与群で29.8%(95%信頼区間[CI]:-16.7~57.8、p=0.17)、10日間投与群で35.5%(-11.5~62.7、p=0.12)であり、統計学的な有意差は認められなかった。 有害事象の発現率は、5日間投与群23.9%(218/912例)、10日間投与群23.3%(212/911例)、プラセボ群21.7%(195/898例)で、いずれも同程度であった。最も発現率が高かった有害事象は味覚障害で、それぞれ5.9%、6.8%、0.7%であった。 なお著者は、ニルマトレルビル・リトナビルの独特の味による盲検化への影響、COVID-19患者に関する診断や治療に関する詳細なデータの不足、家庭内の他の家族の影響などを本研究の限界として挙げている。

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感謝の気持ちは寿命を延ばす

 感謝の気持ちを持つことは長生きの秘訣となる可能性が、新たな研究で示唆された。Nurses’ Health Study(NHS)に参加した4万9,000人以上の女性を対象にしたこの研究では、感謝の気持ちを測定する質問票での得点が高かった女性では、低かった女性に比べてあらゆる原因による死亡(全死亡)のリスクが9%低いことが明らかになったという。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のYing Chen氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Psychiatry」に7月3日掲載された。 Chen氏は、「感謝の気持ちを持つことで精神的苦痛が軽減する一方で、感情的ウェルビーイングと社会的ウェルビーイングは向上する可能性のあることは、過去の研究で示唆されている。しかし、感謝の気持ちと身体的健康との関連について分かっていることは少ない」と話している。 今回の研究では、NHS参加女性4万9,275人(ベースライン時の平均年齢79歳)を対象に、感謝の気持ちと全死亡および原因別死亡との関連が検討された。対象女性は2016年に、感謝の気持ちを評価する質問票に回答していた。この質問票は、「私の人生には、ありがたいと思うものがとても多い」や「感謝の気持ちを感じるものをリストアップすると大変長くなる」などの6項目の質問に、1(全く同意しない)から7(強く同意する)で回答する内容だった。対象者の死亡(全死亡、原因別死亡)については2019年12月まで追跡された。 平均3.07年にわたる追跡期間中に4,608人の死亡が確認された。最も多かった死因は心血管疾患(1,364人)であり、そのほかの死因は、呼吸器疾患、がん、神経変性疾患などだった。質問票の回答を総計したスコアに応じて対象者を高・中・低の3群に分け、ベースライン時の社会人口学的特性や社会・宗教的参加、メンタルヘルスなどを調整して解析した結果、高スコア群では低スコア群に比べて全死亡リスクが9%低いことが明らかになった(ハザード比0.91、95%信頼区間0.84〜0.99)。また、死因別に解析したところ、心血管疾患による死亡と感謝の気持ちは逆相関の関係にあり、高スコア群では低スコア群に比べて同死亡リスクが15%有意に低い(同0.85、0.73〜0.995)ことが示された。そのほかの死因(がん、呼吸器疾患、神経変性疾患、感染症、外傷、その他)でもリスク低下は認められたが、統計学的に有意ではなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、「これらの結果に基づくと、人は感謝の気持ちを抱くものに心を傾けることで、健康を改善できる可能性がある」と述べている。またChen氏は、「先行研究では、週に数回、感謝していることを書き出したり話し合ったりするなど、意図的に感謝の気持ちを育む方法があることが示されている。健康的な老化の促進は公衆衛生の優先事項である。今後の研究で、長寿を増進する心理的資源としての感謝の気持ちに対する理解が深まることを期待している」と述べている。

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新型コロナ感染時、外出を控える推奨期間

新型コロナウイルス感染症に感染した場合の考え方①(5類感染症移行後)5類感染症に移行後、新型コロナ患者は法律に基づく外出自粛は求められません。外出を控えるかどうかは、個人の判断に委ねられます。新型コロナウイルス感染症を他の人にうつすリスクは?⚫ 一般的に、発症2日前から発症後7~10日間はウイルスを排出しているといわれている(症状軽快後もウイルスを排出しているといわれている)。⚫ 発症後3日間は感染性のウイルスの平均的な排出量が非常に多く、5日間経過後は大きく減少する。⚫ とくに発症後5日間が他人に感染させるリスクが高いことに注意。新型コロナにかかったとき、外出を控えることが推奨される期間は?⚫ 発症日を0日目(無症状の場合は検体採取日)として5日間は外出を控え、5日目に症状が続いていた場合は、熱が下がり痰や喉の痛みなどの症状が軽快して24時間程度が経過するまでは外出を控え様子を見ることが推奨される。⚫ 発症後10日間は不織布マスクを着用したり、高齢者などハイリスク者と接触は控えるなど、周りの人に配慮する。10日を過ぎても咳やくしゃみなどの症状が続く場合は、マスク着用など咳エチケットを心がける。厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html)より抜粋Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.新型コロナウイルス感染症に感染した場合の考え方②(5類感染症移行後)5類感染症に移行後、新型コロナ患者は法律に基づく外出自粛は求められません。外出を控えるかどうかは、個人の判断に委ねられます。家族が新型コロナウイルス感染症にかかったときは?⚫ 家族・同居人が新型コロナにかかったら、可能であれば部屋を分け、感染者の世話はできるだけ限られた人で行う。⚫ 外出する場合、新型コロナにかかった人の発症日を0日として、とくに5日間は自身の体調に注意する。7日目までは発症する可能性がある。その間、手洗いなどの手指衛生や換気などの基本的感染対策のほか、不織布マスクの着用や高齢者などハイリスク者と接触を控える。【参考】位置付け変更前との違い位置付け変更前感染症法に基づき外出自粛を求められる期間位置付け変更後(2023年5月8日~)外出を控えることが推奨される期間(個人の判断)新型コロナ陽性者(有症状)発症日を0日目として、発症後7日間経過するまで発症日を0日目として、発症後5日間経過するまで新型コロナ陽性者(無症状)・5日目の抗原定性検査キットによる陰性確認・検査を行わない場合は7日間経過するまで検査採取日を発症日(0日)として、5日間経過するまで濃厚接触者5日間の外出自粛なしかつ、症状軽快から24時間経過するまでの間厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について(https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html)より抜粋Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第106回 肺炎球菌ワクチン、「プレベナー20」一強時代の到来か

「プレベナー20」とは成人・小児共に最も有効かつエビデンスがある肺炎球菌ワクチンは「プレベナー20®水性懸濁注」(PCV20)です。小児における、「肺炎球菌(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、8、9V、10A、11A、12F、14、15B、18C、19A、19F、22F、23F及び33F)による侵襲性感染症の予防」を効能または効果として、2024年10月から定期接種される見込みです。え…?10月…ッ!!?( ゚д゚) …   (つд⊂)ゴシゴシ  (;゚ Д゚) …!?ええっと、今7月ですよね。医療機関の契約変更、医師会やクリニックの調整、そして予診票…、もろもろの準備、間に合うんでしょうか。その想定を受けて水面下で定期接種の話が進んでいたものと推察されるので、ちゃんと間に合わせてくるのかもしれません。プレベナー13(PCV13)はPCV20の入れ替わりのような形で供給が終了になっていくものと予想されます。どちらもファイザー社製品なので、供給のバランスを取ればいいだけです。本当は、成人にも使いたいできれば成人にもPCV20を使いたいところです。――というのも、海外ではPCV20を接種するのが当たり前になっているためです。国際的には、肺炎球菌感染症のリスクが高い成人については、基本的にPCV20が推奨されています。これまで定期接種に長らく使われてきたニューモバックス(PPSV23)は、2024年4月から助成の範囲が縮小されました。5の倍数の年齢ごとにチャンスがあったものが、65歳固定になりました。基礎疾患がある場合は、60~64歳と広めに対象が設定されていますが、「チャンスが減った」ということで今後も接種率は低くなっていくかもしれません。…まあ、もともと接種率が低いんですけど…。現在、新しい肺炎球菌ワクチンとして、バクニュバンス(PCV15)が小児および成人を対象として用いられています。ただ、国際的にはPCV15を接種する場合、1年後にPPSV23を追加接種するほうが予防効果が高いとされています。現在65歳の方は、助成をフルに活用するならPPSV23→PCV15の順番で接種することが望ましいかもしれません。ただ、1回のワクチンが1万円→数千円になるくらいの助成なので、そこまでこだわらなくてもよいのではないかと思っていますが。いずれにしても、PCV15+PPSV23の連続接種が完了すると、PCV20単独よりも3つの血清型に追加防御が生じるため、こちらのほうを好む専門家もいます1)。PCV13は成人にも使用することができますが、PCV13の代わりにPCV20を導入することで、医療費の削減効果は2,039億円あるとされており、労働産生的な損失も加味すると、費用削減としては約3,526億円の効果が期待できるとされています2)。画像を拡大する図. 3種のワクチン接種プログラム(人口当たり)の費用対効果(文献2より引用、CC BY 4.0)図は、右軸にQALYの増加、縦軸に費用の増加をプロットしており、PCV13から他ワクチンに置き換わった場合の効果および費用の増分を算出しています。医薬品のアプレイザル(総合評価)では、かなりポジティブなデータとなっています。…なので、どの方向に転んでも、現時点でのエビデンスでは「PCV20推し」となるわけです。さて、肺炎球菌ワクチンは今後どうなるのか、要注目です!ちなみに、私は肺炎球菌ワクチンに関して、開示すべきCOIはありません!参考文献・参考サイト1)Mt-Isa S, et al. Matching-adjusted indirect comparison of pneumococcal vaccines V114 and PCV20 Expert Rev Vaccines. 2022 Jan;21(1):115-123.2)Shinjoh M, et al. Cost-effectiveness analysis of 20-valent pneumococcal conjugate vaccine for routine pediatric vaccination programs in Japan. Expert Rev Vaccines. 2024 Jan-Dec;23(1):485-497.

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コロナ罹患後症状の累積発生率、変異株で異なるか/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染後に生じる罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)は多くの臓器システムに影響を及ぼす可能性がある。米国・退役軍人省セントルイス・ヘルスケアシステムのYan Xie氏らは、パンデミックの間にPASCのリスクと負担が変化したかを調べた。感染後1年間のPASC累積発生率はパンデミックの経過に伴って低下したが、PASCのリスクはオミクロン株が優勢になった時期のワクチン接種者においても依然として持続していることが示された。NEJM誌オンライン版2024年7月17日号掲載の報告。各株優勢期別に、SARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定 研究グループは、退役軍人省の健康記録を用いて、COVID-19パンデミックのプレデルタ株優勢期、デルタ株優勢期、オミクロン株優勢期におけるSARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定した。 試験集団は、2020年3月1日~2022年1月31日にSARS-CoV-2に感染した退役軍人44万1,583例と、同時期の非感染対照474万8,504例で構成された。ワクチン接種者のオミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.83件/100人 ワクチン非接種のSARS-CoV-2感染者において、感染後1年間のPASC累積発生率は、プレデルタ株優勢期では10.42件/100人(95%信頼区間[CI]:10.22~10.64)、デルタ株優勢期では9.51件/100人(9.26~9.75)、オミクロン株優勢期では7.76件/100人(7.57~7.98)であった。オミクロン株優勢期とプレデルタ株優勢期の差は-2.66件/100人(-2.93~-2.36)、オミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.75件/100人(-2.08~-1.42)であった。 ワクチン接種者では、1年時点のPASC累積発生率は、デルタ株優勢期では5.34件/100人(95%CI:5.10~5.58)、オミクロン株優勢期では3.50件/100人(3.31~3.71)で、オミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.83件/100人(-2.14~-1.52)であった。 1年時点のPASC累積発生率は、ワクチン接種者が非ワクチン接種者よりも低く、デルタ株優勢期では-4.18件/100人(95%CI:-4.47~-3.88)、オミクロン株優勢期では-4.26件/100人(-4.49~-4.05)であった。 分解分析の結果、オミクロン株優勢期ではプレデルタ株優勢期とデルタ株優勢期を合わせた時期よりも、1年時点の100人当たりのPASCイベント数が5.23件(95%CI:4.97~5.47)少ないことが示された。減少分の28.11%(95%CI:25.57~30.50)は、優勢期に関連した影響(ウイルスの変化やその他の時間的影響)によるものであり、71.89%(69.50~74.43)はワクチンによるものであった。

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線維筋痛症、治療用スマホアプリで症状改善/Lancet

 線維筋痛症の成人患者の管理において、スマートフォンアプリを用いて毎日の症状を追跡するアクティブコントロール群と比較して、アプリを用いたアクセプタンス・コミットメント療法(ACT)によるセルフガイド型のデジタル行動療法は、患者評価による症状の改善度が優れ、デバイス関連の安全性に関するイベントは発生しないことが、米国・Gendreau ConsultingのR. Michael Gendreau氏らが実施した「PROSPER-FM試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年7月8日号で報告された。 PROSPER-FM試験は、米国の25の地域施設が参加した第III相無作為化対照比較試験であり、2022年2月~2023年2月に患者のスクリーニングを行った(Swing Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢22~75歳、初発の線維筋痛症と診断された患者275例(女性257例[93%]、白人229例[83%])を登録した。スマートフォン用の治療アプリ(Stanza)を用いたデジタルACT群に140例(年齢中央値49.0歳[四分位範囲[IQR]:40.5~59.0])、症状追跡アプリと、健康関連および線維筋痛症関連の教育資料へのアクセスを提供するアクティブコントロール群に135例(同49.0歳[41.0~57.0])を割り付けた。治療割り付け情報は、統計解析の担当者を除き、マスクされなかった。 主要エンドポイントは、12週の時点における症状の変化に対する患者の全般的印象度(patient global impression of change:PGIC)の改善とし、ITT解析を行った。PGICは、患者の自己評価に基づく治療の全般的な有益性の尺度であり、7つのカテゴリ(著しく改善、かなり改善、最小限の改善、変化なし、最小限の悪化、かなり悪化、著しく悪化)から患者が選択した。「最小限の改善」以上:70.6% vs.22.2%、「かなり改善」以上:25.9% vs.4.5% 12週の時点で、PGICの「最小限の改善」以上を達成した患者の割合(主解析)は、アクティブコントロール群が22.2%(30/135例)であったのに対し、デジタルACT群は70.6%(99/140例)と有意に良好であった(群間差:48.4%、95%信頼区間[CI]:37.9~58.9、p<0.0001)。 また、同時点におけるPGICの「かなり改善」以上の患者の割合は、アクティブコントロール群の4.5%(6/135例)と比較して、デジタルACT群は25.9%(36/140例)であり、有意に優れた(群間差:21.4%、95%CI:13.0~29.8、p<0.0001)。 改訂版Fibromyalgia Impact Questionnaire(FIQ)のベースラインから12週までの総スコアの変化(最小二乗平均)は、アクティブコントロール群が-2.2点であったのに対し、デジタルACT群は-10.3点と改善度が有意に高かった(群間差:-8.0点、95%CI:-10.98~-5.10、p<0.0001)。デバイス関連の有害事象の報告はない デバイス関連の有害事象は、両群とも報告がなかった。最も頻度の高い有害事象は、感染症および寄生虫症(デジタルACT群28%、アクティブコントロール群25%)であり、次いで精神障害関連イベント(14% vs.14%)だった。 全体的な患者満足度は、デジタルACT群が80%、アクティブコントロール群は85%であり、それぞれ80%および79%が当該アプリを再度使用すると回答した。 著者は、「線維筋痛症に対するデジタルACTによる介入は、安全かつ有効な治療選択肢であり、ガイドラインで推奨される行動療法を受ける際の実質的な障壁に対処可能と考えられる」としている。

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なぜ子どもはコロナが重症化しにくいのか

 子どもというものは、しょっちゅう風邪をひいたり鼻水が出ていたりするものだが、そのことが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重症化から子どもを守っている可能性のあることが、米イェール大学医学部准教授のEllen Foxman氏らの研究で示された。この研究結果は、「Journal of Experimental Medicine」に7月1日掲載された。 COVID-19パンデミックを通して、子どもは大人よりもCOVID-19が重症化しにくい傾向があると指摘されていたが、その理由は明確になっていない。Foxman氏は、「先行研究では、子どもの鼻腔内の自然免疫の亢進は、小児期にのみ見られる生物学的なメカニズムによって生じることが示唆されていた。しかし、われわれは、子どもにおける呼吸器系ウイルスや細菌感染による負荷の高さも鼻腔内の自然免疫の亢進に寄与している可能性があると考えた」と言う。自然免疫系は、生まれつき体に備わっている、細菌やウイルスに対する防御システムだ。体は抗体を作り出すことで、より標的を絞った免疫反応を起こす一方で、自然免疫系は抗ウイルス性タンパク質と炎症性タンパク質を速やかに産生して、感染から体を守る働きを担っている。 Foxman氏らは今回、子どもでの頻繁な呼吸器感染症への罹患が鼻の自然免疫を高めるかどうかを調べるため、467点の鼻腔ぬぐい液検体の再分析を行った。これらの鼻腔ぬぐい液は、COVID-19パンデミック中の2021年から2022年にかけて、手術前のスクリーニング検査を受けた子どもや救急部門で診療を受けた子どもから採取されたものだった。研究グループは、上気道感染症の原因となる16種類の呼吸器系ウイルスと3種類の細菌について調べるとともに、自然免疫系によって産生されるタンパク質の量を測定した。 サンプルから最も多く検出されたウイルスは、2021年6〜7月ではライノウイルス(176検体中43点、24.4%)であり、2022年1月では新型コロナウイルス(291検体中65点、22.3%)であった。しかし、同時期にその他のウイルス感染が確認された検体も一定数あり、全体でのウイルス陽性率は、2021年6〜7月で38.6%、2022年1月で36.4%であった。また、RT-PCR検査でウイルスまたは病原性のある細菌、あるいはその両方について陽性と判定された検体に5歳未満の子どもの検体が占める割合は高く、2021年6〜7月で66.2%(51/77点)、2022年1月では53.3%(155/291点)であった。さらに、呼吸器系ウイルスや細菌の量が多い子どもでは、鼻腔内の自然免疫活性レベルも高いことが示された。 Foxman氏らがさらに、乳児健診時とその7〜14日後に健康な1歳児から採取された鼻腔ぬぐい液を調べた。その結果、いずれかの時点で何らかの呼吸器系ウイルスの感染が陽性と判定されていた子どもが半数以上を占めており、そのほとんどのケースで、自然免疫活性は、感染時には高まり非感染時には低下することが明らかになった。Foxman氏は、「このことから、低年齢の子どもでは、鼻の中でのウイルスに対する防御機構は常に厳戒態勢にあるのではなく、呼吸器系ウイルスの侵入に反応して活性化すること、そのウイルスが症状を引き起こしていない場合でも活性化することが明らかになった」と話す。 これらの結果は、子どもはライノウイルスのような比較的無害な呼吸器系ウイルスに感染することが多いため、自然免疫系が頻繁に、強く活性化されることを示している。 Foxman氏は、子どもが季節性ウイルスに頻繁に感染するのは、感染により得られる抗体が築かれていないのが理由ではないかとの考えを示している。新型コロナウイルスは新型のウイルスであったため、パンデミック発生時に感染を防御する抗体を持つ人は1人もいなかった。Foxman氏らは、「このような状況で、他の感染症によって子どものウイルスに対する防御機構が活性化され、これが新型コロナウイルスへの感染を初期段階で阻止することに寄与した可能性がある。さらに、そのことが、成人と比べて子どもでは重症度が低いという転帰につながったと考えられる」とニュースリリースの中で述べている。 Foxman氏は、季節性ウイルスや鼻腔内の細菌がCOVID-19の重症度にどのような影響を与えるのかについて、今後さらなる研究で検討する必要があると話している。

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重症敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性(BLING III)(解説:寺田教彦氏)

 β-ラクタム系抗菌薬は「時間依存性」の抗菌薬であり、薬物動態学/薬力学(PK/PD)理論からは投与時間を延ばして血中濃度が細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を超える時間(time above MIC)が長くなると、効果が高まることが期待される。β-ラクタム系抗菌薬の持続投与(投与時間延長)は、薬剤耐性菌の出現率低下や、抗菌薬総投与量を減らすことで経済的な利益をもたらす可能性があるが、抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)の欠点も指摘されている。たとえば、抗菌薬の持続投与では、経静脈的抗菌薬投与のために血管内デバイスやラインを維持する必要があり、血管内デバイス留置に伴うカテーテル関連血流感染症(CRBSI)のリスク増加や、同一ラインから投与する薬剤での配合変化に注意しなければならない可能性がある。また、薬剤の持続投与では患者行動に制限が生じたり、看護師の負担増加や、抗菌薬の安定性に注意したりする必要もある。また、理論上の話ではあるが、カルバペネム系抗菌薬などではPAE(postantibiotic effect)効果も期待される(Hurst M, et al. Drugs. 2000;59:653-680.)ため、持続投与は必須ではないのではないかとの意見もある。 重症敗血症患者に対するβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)は、これまで多くの臨床試験が行われてきたが、決定的なエビデンス確立には至ってはいない。代表的なガイドラインの記述「Surviving sepsis campaign guidelines(SSCG)2021」では、敗血症または敗血症性ショックの成人に対して維持(最初のボーラス投与後)のために、従来のボーラス注入よりもβ-ラクタムの長期注入を用いることを提案する(弱い、中等度の質のエビデンス)としており(Evans L, et al. Intensive Care Med. 2021;47:1181-1247.)、米国感染症学会(IDSA)を含めた国際的コンセンサス勧告では、重症成人患者、とくにグラム陰性桿菌患者における死亡率の低減や臨床治癒率向上のために、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入を推奨する(条件付き推奨、非常に弱いエビデンス)(Hong LT, et al. Pharmacotherapy. 2023;43:740-777.)、「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」では、敗血症に対するβ-ラクタム系抗菌薬は、持続投与もしくは投与時間の延長を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B)としている「The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2024」。 直近では、2024年6月号のJAMA誌に本研究も含まれたシステマティックレビューとメタ解析結果が掲載されており、ICUに入室した成人重症感染症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入と間欠投与の比較で、長期投与の有効性を示す報告がされていた(ジャーナル四天王「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬、持続投与vs.間欠投与~メタ解析/JAMA 」)(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本BLING III試験は、7ヵ国の104の集中治療室で実施した非盲検無作為化第III相試験で、敗血症患者7,031例(持続投与群:3,498例、間欠投与群:3,533例)と、敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与に関する研究としては患者登録数が最大の試験であり、β-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性の有無に結論が出ることが期待されていた(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本研究結果は「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬投与、持続と間欠の比較(BLING III)/JAMA」に示されたとおりで、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与により死亡率の有意な低下は示すことができなかったが、持続投与群で90日死亡率は2%低く、臨床的治癒率が6%高かった。潜在的に有効性のある患者がいる可能性はあり、筆者の主張するとおり、今回の患者集団におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与には重要な効果がない可能性と、臨床的に重要な有益性のある可能性が共に含まれるという解釈に同意したい。 本研究結果からは、重症敗血症患者に対してβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与が有益な可能性が残るが有意差は示せず、残念ながらβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与の是非を結論付けられなかった。β-ラクタムの種類や患者・微生物因子等によっては持続投与も含めた長期注入のほうが予後良好となる可能性はあり、今後も患者や医療従事者の状況を勘案して、持続投与も含めた長期注入は検討してもよいのかもしれない。 本研究結果では明確に示されなかったものの、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入が予後改善につながる可能性は残ると考えられ、引き続きβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入による臨床的影響の調査結果を期待したい。また、今回は重症敗血症患者に対する、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与の有効性と調査するため、患者背景を重症敗血症、抗菌薬はピペラシリン・タゾバクタムとメロペネムが対象とされたが、原因微生物や抗菌薬の種類によっては長期注入のメリットが明らかになるかもしれない。抗菌薬の適切な投与方法について、引き続き新規の研究結果を待ちたいと考える。

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コロナ変異株KP.3のウイルス学的特徴、他株との比較/感染症学会・化学療法学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第11波が到来したか――。厚生労働省が7月19日時点に発表した「新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移」によると、都道府県別では、沖縄、九州、四国を中心に、定点当たりの報告数が第10波のピークを上回る地域が続出している1)。全国の定点当たりの報告数は11.18となり、昨年同期(第9波)の11.04を超えた2)。また、東京都が同日に発表したゲノム解析による変異株サーベイランスによると、7月18日時点では、全体の87%をKP.3(JN.1系統)が占めている3)。KP.2やJN.1を合わせると、JN.1系統が98.7%となっている。 東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan(The Genotype to Phenotype Japan)」は、感染拡大中のKP.3、および近縁のLB.1と KP.2.3の流行動態や免疫抵抗性等のウイルス学的特性について調査した。その結果、これらの親系統のJN.1と比べ、自然感染やワクチン接種により誘導された中和抗体に対して高い逃避能や、高い伝播力(実効再生産数)を有することが判明した4)。6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて結果を発表した。本結果はThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年6月27日号に掲載された。 本研究ではJN.1より派生したKP.3、LB.1、KP.2.3の流行拡大のリスク、およびウイルス学的特性を明らかにするため、ウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内における各変異株の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、SARS-CoV-2感染によって誘導される中和抗体や、XBB.1.5対応ワクチンによって誘導される中和抗体に対しての抵抗性も検証した。 主な結果は以下のとおり。・2024年5月時点のカナダ、英国、米国のウイルスゲノム疫学調査情報を基にした調査において、KP.3の実効再生産数は、親系統のJN.1よりも1.2倍高いことが認められた。さらに、LB.1、KP.2.3は、KP.2とKP.3よりも高かった。・培養細胞におけるウイルスの感染性について、KP.2とKP.3はJN.1よりも低い感染性を示した。一方、LB.1とKP.2.3は、JN.1と同等の感染性を示した。・これまでの流行株(XBB.1.5、EG.5.1、HK.3、JN.1)の既感染もしくはブレークスルー感染血清を用いた中和アッセイでは、LB.1とKP.2.3に対する50%中和力価(NT50)は、JN.1に対するものよりも有意に(LB.1:2.2~3.3倍、KP.2.3:2.0~2.9倍)低かった。さらに、KP.2に対するものよりも(LB.1:1.6~1.9倍、KP.2.3:1.4~1.7倍)低かった。・KP.3はすべての回復期血清サンプルに対してJN.1よりも高い中和抵抗性(1.6~2.2倍)を示したが、KP.3とKP.2の間に有意差は認められなかった。・コロナ未感染のXBB.1.5対応ワクチン血清サンプルは、JN.1系統(JN.1、KP.2、KP.3、LB.1、KP.2.3)に対するNT50は非常に低かった。・XBB自然感染後のXBB.1.5対応ワクチン血清サンプルにおいて、KP.3、LB.1、KP.2.3に対するNT50は、JN.1に対するものよりも有意に(2.1~2.8倍)低く、さらにKP.2に対するものよりも(1.4~2.0倍)低かった。 本研究の結果、JN.1から派生したKP.2、KP.3、LB.1、KP.2.3は、JN.1と比較して免疫逃避能と実効再生産数が増加し、その中でも、LB.1とKP.2.3は、KP.2やKP.3よりも高い感染性とより強力な免疫逃避能を保持することが明らかとなった。G2P-Japanについて 佐藤氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan」では、所属機関を超えて研究者が共同で研究を行っている。2021年より、新たな懸念すべき変異株出現の超早期にウイルス学的性状について検証し、その成果は主要な医科学誌に断続的に掲載され、世界的に注目されている。佐藤氏は、次のパンデミックに備えるためにも、「G2P-Japan」としての研究活動を継続し、若手研究者の育成や啓蒙することの重要性を訴えた。ウイルス研究に関して、従来のin vivoやin vitroでの解析に加え、疫学や全世界的な流行動態の推定といったマクロの視点から、迅速に変異の影響を理解するためのタンパク質構造解析といったミクロの視点まで、多角的かつ統合的に理解することが必要であるとし、佐藤氏が創設した「システムウイルス学」という新たな研究分野によって解決していきたいと語った。第2回新型コロナウイルス研究集会を開催 新型コロナに関する最新の知見を共有するため、佐藤氏が大会長を務める「第2回新型コロナウイルス研究集会」が8月2~4日に東京・品川にて開催される5)。2023年に開催された第1回はウイルス学に関する基礎研究にフォーカスしたものだったが、第2回研究集会では、疫学、臨床医学、免疫学、ウイルス学と領域を拡大し、各分野で活躍する研究者が登壇する。 開催概要は以下のとおり。第2回新型コロナウイルス研究集会開催日時:2024年8月2日(金)〜4日(日)会場:東京コンファレンスセンター品川[現地開催]2024年8月2日(金)〜4日(日)[オンデマンド]2024年9月2日(月)正午〜9月30日(月)正午 ※予定[参加登録締切]2024年9月30日(月)大会長:佐藤 佳参加登録など詳細は公式ウェブサイトまで。

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第202回 新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府

<先週の動き>1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府林 芳正官房長官は7月19日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者数が増加していることについて、「今後、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」と述べ、感染対策を徹底するよう呼び掛けた。厚生労働省によると、全国約5,000の定点医療機関から7月8~14日に報告された感染者数は5万5,072人で、1医療機関当たり11.18人と、前週比1.39倍に増加。感染者数は10週連続で増加し、とくに九州地方での増加が目立った。鹿児島県の定点医療機関の感染者数は31.75人、佐賀県は29.46人、宮崎県は29.34人と高い水準を記録。東京(7.56人)、愛知(15.62人)、大阪(9.65人)、福岡(14.92人)でも増加が確認され、全国45都府県で感染者数が増加していた。入院者数も増加傾向にあり、14日までの1週間で新規入院患者は3,081人、前週の2,357人から724人増加。集中治療室(ICU)に入院した患者数も113人と、前週から11人増加していた。専門家は、今回の感染拡大の背景には、新たな変異株「KP.3」の存在があると指摘する。東京大学の研究チームによると、KP.3はオミクロン株から派生した変異株で、感染力が強く、免疫を回避しやすい特徴があるという。とくに高齢者は重症化するリスクがあるため、十分な対策を講じる必要がある。感染症に詳しい東京医科大学の濱田 篤郎客員教授は、「今後、夏休みやお盆期間中に人の移動が増えることで、感染がさらに拡大する可能性がある」と警告。室内の換気や手洗い、マスクの着用など基本的な感染対策の徹底を呼び掛けている。また、高齢者は人混みを避け、感染が疑われる場合には、速やかに医療機関を受診することが重要だとしている。参考1)新型コロナ流行、なぜ毎年夏に 「第11波」ピークは8月か(朝日新聞)2)新型コロナの感染者数増加 林官房長官が注意喚起(毎日新聞)3)コロナ「第11波」、夏の流行期前に変異株KP・3が主流 梅雨明けで影響か(産経新聞)2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省2024年7月18日に厚生労働省は、新型コロナウイルスと帯状疱疹のワクチンを定期接種化する方針を発表した。新型コロナワクチンの定期接種は10月1日から開始予定で、65歳以上の高齢者と60~64歳の重症化リスクが高い人を対象とする。帯状疱疹ワクチンについては、対象年齢を65歳とし、費用を公費で支援する定期接種とする案が示された。新型コロナワクチンの定期接種は、2023年度まで全額公費負担で無料接種が行われていたが、今秋からは季節性インフルエンザと同様に接種費用の一部自己負担が求められる。接種費用の自己負担額は自治体によって異なるが、最大で7,000円と設定される。国は接種1回当たり8,300円を各自治体に助成し、費用負担を軽減する。接種期間は、2024年10月1日~2025年3月31日までで、各自治体が設定する。対象外の人は「任意接種」となり、全額自己負担で費用は約1万5,000円程度となる見込み。また、帯状疱疹ワクチンの定期接種についても同日、厚労省の予防接種基本方針部会で議論が行われた。帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)と同じウイルスが引き起こし、加齢や疲労などによる免疫力の低下で発症する。日常生活に支障を来すほどの痛みが生じることがある。現在、国内で承認されている帯状疱疹ワクチンは、阪大微生物病研究会の生ワクチンと、英グラクソ・スミスクラインの不活化ワクチンの2種類である。部会では、65歳を対象とする定期接種化を検討し、帯状疱疹や合併症による重症化予防を目的とすることが提案された。厚労省は今後、専門家による会議での議論を経て正式に決定する予定。参考1)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(厚労省)2)帯状疱疹ワクチン65歳に定期接種化、厚労省案 引き続き検討(CB news)3)新型コロナワクチン 高齢者など対象の定期接種 10月めど開始へ(NHK)4)新型コロナワクチンの定期接種、10月から開始…全額自己負担の任意接種費は1万5,000円程度(読売新聞)3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省厚生労働省は、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を7月19日に開き、2025年4月に施行される新たな報告制度を巡る議論を大筋で取りまとめた。新しい報告制度によって、各都道府県が病院や診療所に対して、かかりつけ医の機能や診療できる疾患を毎年報告させる。報告された情報はウェブサイトで公開され、患者がかかりつけ医を選びやすくすることを目指す。この報告制度は、大学病院や歯科医療機関を除くすべての病院や診療所を対象とし、かかりつけ医の研修を修了した医師や総合診療専門医の有無も報告対象に含まれる。診療できる疾患は、患者にわかりやすいように高血圧や腰痛症、かぜ・感冒などの40疾患から選ぶ形となる。報告された情報は、厚労省の医療機関検索サイト「ナビイ」で公開される予定。地域の医療提供体制を把握し、足りない機能があれば対策を講じるよう各自治体に求める。初回の報告は2026年初めごろを見込んでおり、制度開始に向けてルールの改正やガイドライン作成が進められる。また、この報告制度では、病院や診療所は「日常的な診療」(1号機能)と「時間外診療」(2号機能)の2段階で報告する。1号機能は17の診療領域ごとに一時診療に対応できるかどうかを報告し、かかりつけ医機能に関する研修修了者や総合診療医の有無も報告する。2号機能には時間外診療や在宅医療、介護サービスとの連携が含まれる。時間外診療の体制については、在宅当番医制や休日夜間急患センターへの参加状況などを報告する。かかりつけ医機能の報告制度は、5年後を目途に報告内容の見直しが検討される。初回の報告時には「高血圧」「脳梗塞」「乳房の疾患」などの40疾患についての報告を求めるが、施行から5年後に改めて検討する予定である。また、かかりつけ医機能に関する研修の要件を設定し、それに該当する研修を示す予定。今回の制度導入により、患者が適切なかかりつけ医を選びやすくなると同時に、医療提供体制の強化が期待されることで、地域医療の質の向上が期待される。参考1)第8回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会(厚労省)2)「かかりつけ医機能報告」枠組み固まる 一次診療への対応は「17領域ごと」に(CB news)3)かかりつけ医、選びやすく 来年度、診療疾患をウェブ掲載(日経新聞)4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協7月17日に厚生労働省は、中央社会保険医療協議会を開催し、2024年度の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」の見直しを決定した。見直しでは、マイナカードの利用率の実績に応じて、医療DX推進体制整備加算を3区分に再編することが含まれている。具体的には、医科における加算1が現在の8点から11点に引き上げられる。医療情報取得加算についても変更があり、患者がマイナ保険証を利用するかどうかで区分されていた初診時と再診時の点数が、12月以降はそれぞれ1点に一本化されることが決定した。医療DX推進体制整備加算の医科における点数は、10月以降、加算1が11点、加算2が10点に引き上げられるのと同時に、マイナポータルの医療情報に基づき患者からの健康管理の相談に応じることが新たに求められる。加算3は現在の8点を維持し、相談対応の基準は設定されない。マイナ保険証の利用率は、原則として適用3ヵ月前のレセプト件数ベースでの実績を使い、10月から2025年1月までは2ヵ月前のオンライン資格確認件数ベースでの利用率の使用も認められる。具体的な基準値は、10~12月には加算1が15%、加算2が10%、加算3が5%となり、2025年1~3月にはそれぞれ30%、20%、10%に引き上げられる予定。2025年4月以降の基準は年末をめどに検討される予定となっている。医療情報取得加算については、医科の初診時と再診時の点数が12月以降に1点に一本化される。これは、現行の保険証が12月に廃止され、マイナ保険証に一本化されることに対応するための措置。厚労省は、この改定を8月中に告示する予定。一方、厚労省は、低迷するマイナ保険証の利用を推進するため、医療従事者のマイナ保険証に関する疑問を解消するためのセミナーを7月19日にYouTubeでライブ配信した。セミナー資料は下記のリンクを参照されたい。厚労省は、医療DX推進体制整備加算の見直しにより、マイナ保険証の利用率向上を図り、医療現場でのデジタルトランスフォーメーションを推進する考え。2025年度以降も、電子処方箋の普及のため、さらなる引き上げが検討される予定。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)徹底解決!マイナ保険証への医療現場の疑問 解消セミナー(同)3)医療DX推進体制加算1は11点、10月以降 加算3は8点、中医協が即日答申(CB news)4)マイナ保険証、来年度以降の基準は年末めどに 医療DX推進体制加算 中医協で検討・設定(CB news)5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省7月17日に厚生労働省は、厚生科学審議会感染症部会を開催し、新型インフルエンザ等対策政府行動計画に基づく新ガイドライン案を示した。このガイドラインでは、緊急時に備えて医療用マスク3億1,200万枚を国と都道府県で備蓄することを盛り込んでいる。ガイドライン案には、高機能なN95マスク2,420万枚や非滅菌手袋12億2,200万枚の備蓄など、物資確保の項目が新たに追加された。都道府県は、初動1ヵ月分の物資を備蓄し、国は2ヵ月目以降の供給が回復するまでの分を備蓄する。また、事実誤認の指摘など国民への情報発信の強化も求められている。2024年度からの新しい医療計画(第8次医療計画)では、「新興感染症対策」が追加され、各都道府県で感染患者受け入れ病床や発熱患者対応外来医療機関の確保が進展している。6月1日時点で病床確保は目標の81.8%、発熱外来は54.0%の達成率となっている。とくに流行初期に確保すべき病床の進捗率は109.5%、初期に対応すべき発熱外来は124.1%と目標を上回る進展をみせている。新医療計画では、新興感染症の流行初期や蔓延時に備えて、都道府県と医療機関が「医療措置協定」を締結することが義務付けられている。現在、各都道府県で協議が進行中であり、9月末までに協定の締結完了を目指している。協定締結が進む一方で、病床数や発熱外来の整備が依然として必要とされている。部会では、病床の確保だけでなく医療従事者の確保も課題として挙げられた。出席した委員からは、「病床数は多いが医療従事者が不足することで運用が難しい」との指摘があり、医療現場の状況の把握も検討が求められた。また、初動期には各都道府県が相談センターを整備し、受診調整を実施することが提案された。厚労省は同日、新型インフルエンザ等対策ガイドラインの案も示し、感染症発生前の「準備期」から発生後の「初動期」、「対応期」ごとに対応策を整理し、感染者の受け入れや流行段階に応じた対応を求めている。政府は、今後もガイドラインの内容を議論し、夏ごろに取りまとめを目指す予定。参考1)新型インフルエンザ等対策政府行動計画 ガイドライン案 概要(厚労省)2)第87回厚生科学審議会感染症部会(同)3)新興感染症対策、各都道府県の「感染患者受け入れ病床」「発熱患者に対応する外来医療機関」確保が着実に進展-社保審・医療部会(Gem Med)4)感染症のまん延防止策、ガイドライン案を公表 リスク評価に基づき、機動的に実施 厚労省(CB news)5)感染症有事の対応、「病床確保」だけでは不十分 厚科審でガイドライン案めぐり議論(同)6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省日本専門医機構は、7月19日に開催された厚生労働省の医道審議会の医師専門研修部会で、医師少数区域の施設で1年以上の研修を設ける「特別地域連携プログラム」の要件緩和案を示した。この案では、新たに医師を1年以上派遣する研修施設を連携先に加えることを提案。しかし、「ミニ一極集中」を招く恐れがあるとして反対意見が相次いだ。特別地域連携プログラムは、医師が不足している都道府県の医師少数区域の施設などを連携先とし、1年以上の研修を行うもの。しかし、研修施設としての要件を満たす施設が少ないことから、連携枠を設けるのが困難だという指摘が複数の学会から出ていた。そのため、同機構は2025年度に向けて、医師多数区域であっても、医師少数区域の医療機関に新たに医師を派遣する研修施設であれば、連携先に加えることを提案した。しかし、立谷 秀清委員(全国市長会相馬市長)は「ミニ一極集中を助長する」と反対を表明。2024年度のプログラムで採用された専攻医42人の連携先のうち、約4割が茨城県、約3割が埼玉県と、東京に近い地域に偏っていることが問題視され、他の委員からも反対意見が多く出された。花角 英世委員(全国知事会新潟県知事)は、要件緩和を行うにしても「シーリングの効果が十分に発揮されていない東北や東海、甲信越地域の医師少数区域に医師が派遣されるような制限を設けるべき」と主張し、医師の偏在解消に効果が期待できる制度設計を求めた。参考1)令和6年度第1回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省)2)特別地域連携プログラム、「要件緩和」に反対相次ぐ 25年度シーリング案 専門医機構(CB news)

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HPVワクチン、積極的勧奨の再開後の年代別接種率は?/阪大

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開しているが、接種率は伸び悩んでいる。この状況が維持された場合、ワクチンの積極的勧奨再開世代における定期接種終了年度までの累積接種率は、WHOが子宮頸がん排除のために掲げる目標値(90%)の半分にも満たないことが推定された。八木 麻未氏(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室 特任助教)らの研究グループは、2022年度までのHPVワクチンの生まれ年度ごとの累積接種率を集計した。その結果、個別案内を受けた世代(2004~09年度生まれ)では平均16.16%、積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)では2.83%と、積極的勧奨再開後も接種率が回復していない実態が明らかとなった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2024年7月16日号に掲載された。 HPVワクチンは2010年度に公費助成が開始され、2013年度に定期接種化されたが、副反応の報道や厚生労働省の積極的勧奨差し控えにより接種率が激減していた。2020年度から対象者へ個別案内が行われ、2022年度からは積極的勧奨が再開(キャッチアップ接種も開始)されたが、接種率の回復が課題となっている。そこで、研究グループは施策を反映した正確な接種状況や生まれ年度ごとの累積接種率を調べた。また、2022年度と同様の接種状況が続いたと仮定した場合の2028年度時点の累積接種率を推定した。 主な結果は以下のとおり。・生まれ年代別にみた、2022年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率は以下のとおり。接種世代(1994~99年度):71.96%停止世代(2000~03年度):4.62%個別案内世代(2004~09年度):16.16%積極的勧奨再開世代(2010年度):2.83%・生まれ年代別にみた、2028年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率の推定値は以下のとおり。接種世代(1994~99年度):71.96%停止世代(2000~03年度):4.62%個別案内世代(2004~09年度):28.83%積極的勧奨再開世代(2010~12年度):43.16% 本研究結果について、著者らは「日本においては、ほかの小児ワクチンの接種率やパンデミック下の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種率が世界的にみて高いことから、HPVワクチンの接種率だけが特異な状況にあることは明白である。今後、子宮頸がんによる悲劇を少しでも減らすため、HPVワクチンの接種率を上昇させる取り組みに加えて、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化も必要となる。本研究結果は、今後の日本における子宮頸がん対策を検討する際の重要な資料となるだろう」と考察している。

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高温短時間殺菌は鳥インフルエンザウイルスの除去に有効

 米国で鳥インフルエンザが乳牛の間で広がり続けている中、米食品医薬品局(FDA)と米国農務省(USDA)が実施した新たな研究で、摂氏100度以下の温度で行う殺菌法(パスチャライゼーション)の1つである高温短時間殺菌(HTST法)は、生乳中の鳥インフルエンザウイルスを効果的に死滅させることが明らかになった。FDAは、6月28日に発表したこの研究に関するニュースリリースの中で、「この結果は、食料品店で売られているパスチャライズド牛乳がH5N1型の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスに汚染されていない安全なものであることを示した最新の研究結果だ」と述べている。 FDA食品安全応用栄養センターディレクター代理のDon Prater氏はCBSニュースに対し、「逸話的なエビデンスはたくさんあったが、われわれはH5N1型のHPAIウイルスと牛乳に関する直接的なエビデンスを手に入れたかった」と話す。そして、「得られた結果は、小売店から収集した297点の乳製品のサンプルを調べ、その全てがH5N1型のHPAIウイルス陰性であったことを示した、FDAの最初の調査結果を補完するものだ。これらの研究結果は、商業的な牛乳のサプライシステムの安全性を強く裏付けるものだ」と語っている。 この最新の研究は、FDAとUSDAの研究者が、米国で牛乳の殺菌条件(温度と殺菌時間)が、H5N1型のHPAIウイルスの不活化に有効であるかどうかを検証したもの。そのために研究グループは、商業用の牛乳に使われる生乳のサンプルを、乳牛のH5N1型HPAIウイルス感染が報告されている4つの州の農場から計275点入手した。 これらのサンプルのRT-PCR検査から、158点(57.5%)はA型インフルエンザウイルス陽性と判定され、このうちの39点(24.8%)では感染性のあるウイルスが検出された。次に、これらのサンプルを人工的にH5N1型のHPAIウイルスで汚染した上で、米国で最も多く採用されているHTST法(72℃で15秒間加熱)で殺菌した。その結果、牛乳が72℃で保持される前の最高温度(72.5℃)まで加熱される過程でウイルスが死滅することが確認され、この殺菌方法は大きな安全マージンを提供することが示された。 米政府高官の報告によると、現時点では、鳥インフルエンザウイルスは感染牛から他の動物へ、そしてウイルスで汚染された生乳の飛沫を通して3人の酪農作業員へと広がっているという。CBSニュースによると、USDAのH5N1型HPAIウイルス対策の上級顧問代理であるEric Deeble氏は、「生乳を搾乳されていた牛の中に、これまでにH5N1型のHPAIウイルス感染が確認された牛はいない」と語ったという。 Prater氏らは次の研究で、生乳から作られたチーズでの鳥インフルエンザウイルス感染の有無を調べる予定であるとしている。 なお、FDAによると、この研究結果は、査読を経て「Journal of Food Protection」に掲載される予定であるという。

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第220回 コロナ第11波に反しワクチンが打てない!?その最大原因は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ワクチンの特例臨時接種が今年3月末で終了し、2024年4月以降は65歳以上の高齢者と基礎疾患を有する60~64歳が秋冬1回の定期接種、そのほかの人は任意接種となる1)のは周知のことだ。現在は秋冬の定期接種に向けての準備期間となるが、実はこの時期、新型コロナワクチン“難民”が出現している。コロナワクチン難民?私がこのことを知ったのは6月に入ってすぐだ。友人から何の脈絡もなく「ちょっと教えてほしいんだけど、コロナの予防接種って任意になってからできるとこが少ないの? 仙台の人なんだけど、病院や行政や医師会に聞いてもみつからなくて埼玉で接種したって…」とのメッセージが送られてきた。今だから明かすと、この時は多忙だったことに加え、極めて特殊事例か最悪はガセネタだと思って既読スルーしてしまった。もっとも特例臨時接種終了後、接種可能な医療機関が減少するであろうことは容易に想像がついた。ご存じのように新型コロナのmRNAワクチンは保管管理に手間がかかる。現在、国内で承認されているのは、ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックス、第一三共のダイチロナの3種類。このうちコミナティとスパイクバックスは、出荷時は超低温で冷凍され、2~8℃の冷蔵庫で解凍後の保存可能期間はコミナティが10週間、スパイクバックスが30日間。いずれも再冷凍は不可だ。ダイチロナは冷蔵保存が可能で保管可能期間は7ヵ月とコミナティやスパイクバックスよりは扱いやすい。そして、1バイアル当たりはコミナティが6回接種分、スパイクバックスが10~20回接種分、ダイチロナは2回接種分で、1度針を刺したバイアルはコミナティ、スパイクバックスでは12時間以内、ダイチロナは24時間以内に使い切らねばならない。要はそれだけの接種希望者を一度に集めなければ、残りは廃棄になり、医療機関側はその分の損失を被るだけになる。この点を解決すべく、コミナティに関しては5月中旬に1人用バイアルが登場したばかりだ。とはいえ、まさか東北地方の首都と言ってもいい仙台で、新型コロナワクチンを接種できない事態はあるはずがないと思っていた。実際、友人からのメッセージにも「あれだけたくさんあったはずのワクチンがないって」との記述があったが、私も同じ考えだったのだ。しかし、数日後、たまたまこの友人と直接会う機会があり、そこで話を聞いて一定の信憑性があると感じた。大元の情報提供者は私の地元である仙台に在住。たまたま、以前の本連載で触れた父親が使い始めた車椅子の操作を確認するため帰省する予定だったので、実際に話を聞いてみることにした。任意接種できる場所、どこにもみつからない!情報提供者のAさんは40代の大学教員。20年ほど前から風邪をひくと咳が1~2ヵ月続く体質で、仙台に住み始めてから呼吸器科を受診し、咳喘息の診断を受けている。このため年1回ぐらいの頻度でステロイド吸入薬を頓用していたが、コロナ禍中にユニバーサルマスクが社会全体に浸透したおかげで、2020年以降は咳喘息の症状をほとんど経験しなかったという。新型コロナワクチンに関しては、いわゆる自己申告の基礎疾患保有者として優先接種対象となり、昨年9月に6回目の接種を終了していた。しかし、今年2月にAさんの子供の学校で新型コロナが大流行し、自身も家庭内感染をしてから事態は一変。新型コロナの主な症状が治まった後も咳の症状はひかない。しかも、「大きめの声を出すと、咳が止まらなくなる。ひどいときは喋れないぐらい」(Aさん)まで症状が悪化したそうだ。受診した医療機関で新型コロナ感染や咳喘息の既往を伝えたところ、診察した医師から「半年くらい症状が続くと思われます」と即答された。いわゆる後遺症である。私が話を聞いたのは6月下旬だったが、取材中にも一度ひどく咳込んで水を口にし、ステロイド薬も1日1回は吸入しなければならなくなっていた。二度と感染したくないと思ったAさんは3月中旬から新型コロナワクチンの任意接種ができそうな医療機関を探し始めた。しかし、当時はいくら検索しても、見つかるのは同月末の特例臨時接種終了の告知ばかり。厚生労働省にも直接連絡を取ってみたが、「任意接種できる医療機関の情報はとりまとめていないので、各医療機関に個別に問い合わせてください」との返答で、かかりつけの呼吸器内科も、今後、任意接種を自院で行うかは未定とのことだった。一旦は諦めたA氏だったが、コミナティの1人用バイアルが5月中旬にも承認の見通しと報じられていたため、5月のゴールデン・ウイーク中から再び接種可能な施設を探すために医療機関へ問い合わせを始めた。仙台市内の大学附属病院、公立・公的病院から順に電話で問い合わせ、いずれも「接種は行っていない」との回答を受けたという。その後は呼吸器内科がありそうな病院・クリニック、特例臨時接種時に接種を行っていた病院・クリニックなどにも電話をかけ続けたAさん曰く、「『盛ってませんか?』と言われることもあるが、100軒以上は電話した」という。しかし、仙台市内でこの時期、任意接種可能な医療機関はついに見つからなかった。Aさんはこのほかにも宮城県庁、仙台市役所、宮城県と仙台市の医師会にも問い合わせたが、いずれも「現時点で任意接種できる医療機関はわからず、そうした情報をとりまとめてもいない。とりあえずご意見は承るが、現時点で任意接種対応医療機関情報をとりまとめる予定はない」という趣旨の回答しか得られなかった。新型コロナワクチン求め、問い合わせ窓口巡りまた、ファイザー、モデルナ両社の一般向け相談窓口にも問い合わせをしたが、接種可能な医療機関情報の公表について、ファイザーは「まだそういう予定はない」、モデルナは「検討中」との回答。そして嬉しいことにモデルナ社への問い合わせ時に秋田県由利本荘市が同市内で任意接種可能な医療機関名の一覧をホームページ(HP)で公表していたことを知った。Aさんは仙台から車で由利本荘市に行くことも念頭に、HPに掲載されていた各医療機関に問い合わせたが、いずれの医療機関もこの時点では接種を始めていないことがわかった。そこでAさんは由利本荘市健康福祉部健康づくり課に連絡を取り、市外在住者であることを伝えたうえでリストの更新を要請した。その甲斐があってか、現在は同HPでは各医療機関の任意接種開始時期が記載されている。この時点でほぼ万事休すかに思われた。AさんはX(旧Twitter)でワクチン接種医療機関をまとめているアカウントをウォッチし、東京都内で何軒か任意接種が可能な医療機関は見つけてはいたが、いずれも東京駅からはさらに電車で1時間は要する場所。「これでは接種に行くのはほぼ1日がかりになる」と思っていた矢先、X上で偶然、新幹線で大宮まで約1時間、そこから在来線に乗り換えて10分ほどで行ける埼玉県さいたま市浦和区で接種可能なクリニックを発見した。同クリニックのHPで接種可能なことを確認して予約を入れ、仙台から新幹線で現地に向かい無事接種することができた。ワクチンの接種料金は1万6,000円。これに仙台から浦和までの新幹線と在来線の往復料金が2万1,000円強。合計4万円弱の費用がかかった。なんとも高価な接種となったが、多くの人にとってはそこまでの対応はほぼ不可能だ。こんなにも苦労したAさんだが、現在はモデルナだけが接種可能な医療機関を公表している2)など状況はやや改善している。そこでmRNAワクチンを供給する3社に私自身が今回の事例を説明し、各社の対応について問い合わせてみた。任意接種可能な医療機関について、各社の対応まず、モデルナ社によると、接種可能医療機関の公表は5月下旬にスタート。その経緯について、同社のコミュニケーションズ&メディア担当者は「どの施設でワクチン接種できるのか情報がなく困っている患者さんやご家族は多く、コールセンターへの問い合わせも多くあったため」と回答した。現時点では掲載に同意した医療機関のみ公開しており、「当社サイトを経由して、ワクチンを接種できたとの声もいただいている」という。ファイザーの広報部門は「当社への問い合わせの詳細な内容は回答できないが、ワクチン接種医療機関がみつけられず、困っている人が一部にいることなどは認識している。現時点では、一般人に医療用医薬品の宣伝を禁じる広告規制なども鑑み、接種可能医療機関の検索システムなどはHPに設けてはいない。ただ、接種希望者への適切な情報伝達は社としても重視をしており、その実現のために現在さまざまな可能性を検討中」とのこと。第一三共のコーポレートコミュニケーション部広報グループは「一般の方から当社相談窓口に接種医療機関などに関する問い合わせをいただいている事実はあるが、現時点で接種可能な医療機関リストなどを公開する予定はない」という。ちなみに広告規制との兼ね合いについて、すでに接種医療機関を公表しているモデルナに重ねて問い合わせしたところ、「社内の必要な承認プロセスと厚生労働省への確認も経たうえで公開している」とのことだった。今回、接種に至るまで驚くほど苦労したAさんに改めてこの事態をどう考えるかを尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。「何よりもまず、行政や医師会がきちんと動いてほしい。私がネット上を見る限り、今現在も接種希望者は一定数いる。私は強い接種希望があったから、埼玉県まで接種に行ったが、多くの人が同じことはできない。任意接種と言いつつ、地域によっては事実上接種不可能という現状は問題だと思う」少なくとも今回のような事例は、行政、医師会、製薬企業のそれぞれが単独で解決できるコトではないのは確かである。参考1)厚生労働省:新型コロナワクチンについて2))モデルナワクチン接種医療機関一覧

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尿検体の迅速検査【とことん極める!腎盂腎炎】第5回

尿検査でどこまで迫れる?【後編】Teaching point(1)尿定性検査の白血球陽性反応の細菌尿に対する感度は70〜80%程度であり、白血球反応陰性で尿路感染症を除外しない(2)硝酸塩を亜硝酸塩に変換できない(もしくは時間がかかる)微生物による尿路感染症もあり、亜硝酸塩陰性で尿路感染症を除外しない(3)尿pH>8の際にはウレアーゼ産生菌の関与を考える《今回の症例》70代女性が昨日からの悪寒戦慄を伴う発熱を主訴に救急外来を受診した。いままでも腎盂腎炎を繰り返している既往がある。また糖尿病のコントロールは不良である。腎盂腎炎を疑い尿定性検査を提出したが、白血球反応は陰性、亜硝酸塩も陰性であった。今回は腎盂腎炎ではないのだろうか…?はじめに尿検査はさまざまな要因による影響を受けるため解釈が難しく、尿検査のみで尿路感染症を診断することはできない。しかし尿検査の限界を知り、原理を深く理解すれば重要な情報を与えてくれる。そこで、あえて尿検査でどこまで診断に迫れるかにこだわってみる。前回、「尿検体の採取方法と検体の取り扱い」「細菌尿と膿尿の定義や原因」について紹介した。今回は引き続き、迅速に細菌尿を検知するための検査として有用な尿定性検査(試験紙)や尿沈渣、グラム染色などの詳細を述べる。1.白血球エステラーゼ(試験紙白血球反応)尿定性検査での白血球の検出は、好中球に存在するエステラーゼが特異基質(3-N-トルエンスルホニル-L-アラニロキシ-インドール)を分解し、生じたインドキシルがMMB(2-メトキシ-4-Nホルモリノ-ベンゼンジアゾニウム塩)とジアゾカップリング反応し、紫色を呈することを利用している。そのため顆粒球しか検出できず、リンパ球には反応しない。多少崩壊した好中球や腟分泌物で偽陽性となりうる。糖>3g/dL、タンパク>500mg/dL、高比重、酸性化物質の混入(ケトン尿)などで偽陰性となる1)。尿試験紙を保存している容器の蓋が開いた状態で2週間以上放置すると試薬が変色し、約半数で亜硝酸は偽陽性となる2)のため注意が必要である。日本で市販されている白血球反応は、(±):10〜25個/μL、(1+):25〜75個/μL、(2+):75〜250個/μL、(3+):500個/μLに相当する(尿沈渣鏡検での陽性と判定するWBC≧5/HPFは20個/μL相当)。2.亜硝酸塩尿定性検査の亜硝酸塩は、細菌の存在を間接的に評価する方法である。細菌が硝酸塩を還元し、亜硝酸塩とすることを利用して検出している。細菌の細胞質内に亜硝酸をつくる硝酸還元酵素もあるが、主にNap(periplasmic dissimilatory nitrate reductase)と呼ばれる酵素を有する細菌がperiplasmic space(細胞膜と細胞外膜の間)に亜硝酸塩を作った場合に検出できると考えられている3)。食品などから摂取した硝酸塩が尿中に存在すること、前述のような菌種が膀胱内に存在すること、尿路への貯留時間が4時間以上あることが必要である4)。腸内細菌目細菌やStaphylococcus属は硝酸塩を亜硝酸塩に還元でき、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)も還元できるが還元するのに時間がかかり、レンサ球菌や腸球菌は還元できない5)。硝酸塩を亜硝酸塩に変換できない微生物、pH<6.0、ウロビロノーゲン陽性、ビタミンC(アスコルビン酸)が存在する場合に偽陰性となる1)。血清ビリルビン値が高いときは、機序不明だが偽陽性が報告されている6)。3.尿pH意外に思われるかもしれないが、実は尿路感染症の診断において、尿定性検査での尿pHも有用である。尿pH<4.5もしくは>8.0の場合は生理的範囲では説明できない。尿路感染症の場合に酸性尿となることもあるが、臨床的意義が高いのはアルカリ尿のほうである。尿pH>8であれば、ウレアーゼ産生菌の関与を考える。細菌のもつウレアーゼが尿素を加水分解し、アンモニアが生成され尿pHが上昇する(図)7)。画像を拡大する代表的菌種はProteus mirabilis、Klebsiella pneumoniae、Morganella morganiiなど8)である。また、Corynebacterium属もウレアーゼを産生する。Escherichia coliはウレアーゼを産生することはなく、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterococcus属も産生率は低い。尿路感染症での尿pHと培養結果を検討した研究では、pHが高いほどProteus mirabilisの頻度が高かったという報告もあり、実臨床でも起因菌の推定に有用である9)。また、尿pHが高いことは、リン酸マグネシウムアンモニウム結石(ストルバイトとも呼ばれる)ができやすいことにも関連する10)。グラム染色や尿沈渣でこれらを確認することで間接的に尿pHを予測することもできる。閉塞性尿路感染症+意識障害ではウレアーゼ産生菌による高アンモニア血症を鑑別する必要がある。4. 迅速検査の組み合わせから尿路感染症を診断するここまで各種検査の詳細について述べてきたが、いずれも単独で尿路感染症を診断できるものではない。しかしながら各種検査を正確に解釈し、組み合わせることで診断に迫ることができる。各種検査とその組み合わせによる診断特性についてまとめると表1~311-16)となる。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する白血球反応は膿尿検出の感度・特異度は比較的高いが、陽性であれば尿路感染症であるというわけではなく、また白血球反応が陰性で尿路感染症状がある患者では、尿沈渣や尿培養を検討する必要がある。亜硝酸塩は感度が低く、陰性でも尿路感染症を否定できないが、陽性なら尿路感染症を強く疑う根拠とはなる。逆に白血球エステラーゼと亜硝酸塩がともに陰性であれば尿路感染症の可能性を下げる。尿沈渣は簡便性に劣るが信頼性が高く、白血球数や細菌数によって尿路感染症の可能性を段階的に評価できる。尿グラム染色は迅速に施行することができ、得られる情報量も多く、診断特性が高い検査の1つである。とくに尿沈渣の検査を夜間・休日に施行できない施設では大きな武器となる。おわりに逆説的ではあるが、あくまで検査所見のみをもって尿路感染症を診断することができないことは繰り返し述べておく。検査を適切に解釈し、病歴・身体診察と組み合わせることでより正確な診断に迫れることは忘れないでほしい。本項が検査の解釈の一助となれば幸いである。《今回の症例の診断》昨日より頻尿を認めており、左CVA叩打痛も陽性であった。尿グラム染色ではレンサ状のグラム陽性球菌を認めた。尿定性での白血球反応陽性の感度が70%程度であること、腸球菌やレンサ球菌では亜硝酸塩は陰性になることを鑑みて、臨床所見とあわせて腎盂腎炎の疑いで入院加療とした。翌日、尿培養からB群溶連菌を認め、これに伴う腎盂腎炎と診断した。1)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.2)Gallagher EJ et al. Am J Emerg Med. 1990;8:121-123.3)Morozkina EV, Zvyagilskaya RA. Biochemistry. 2007;72:1151-1160.4)Wilson ML, Gaido L. Clin Infect Dis. 2004;38:1150-1158.5)Sleigh JD. Br Med J. 1965;1:765-767.6)Watts S, et al. Am J Emerg Med. 2007;25:10-14.7)Burne RA, Chen YY. Microbes Infect. 2000;2:533-542.8)新井 豊ほか. 泌尿器科紀要 1989;35:277-281.9)Lai HC, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2021;54:290-298.10)Daudon M, Frochot V. Clin Chem Lab Med. 2015;53:s1479-1487.11)Ramakrishnan K, Scheid DC. Am Fam Physician. 2005;71:933-942.12)Zaman Z, et al. J Clin Pathol. 1998;51:471-472.13)Williams GJ, et al. Lancet Infect Dis. 2010;10:240-250.14)Whiting P, et al. BMC Pediatr. 2005;5:4.15)Meister L, et al. Acad Emerg Med. 2013;20:631-645.16)Ducharme J, et al. CJEM. 2007;9:87-92.

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ニルセビマブ、乳児のRSV感染症入院リスクを83%減少/NEJM

 実臨床において、長時間作用型の抗RSVヒトモノクローナル抗体であるニルセビマブは、RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)関連細気管支炎による入院リスクの低下に有効であることが示された。フランス・Paris Cite UniversityのZein Assad氏らが、生後12ヵ月未満の乳児を対象とした多施設共同前向きマッチング症例対照研究「Effectiveness of Nirsevimab against RSV-Associated Bronchiolitis Requiring Hospitalization in Children:ENVIE研究」の結果を報告した。RSVは細気管支炎の主な原因であり、世界中で毎年300万例が入院している。ニルセビマブ承認後の、実臨床におけるRSV関連細気管支炎に対する有効性については不明であった。NEJM誌2024年7月11日号掲載の報告。前向きマッチング症例対照研究でニルセビマブの有効性を検証 フランスでは2023~24年のRSウイルス感染症シーズンに向けて、2023年2月6日以降に同国で生まれたすべての小児にニルセビマブ単回投与を無料で行うことが推奨され、このニルセビマブプログラムは2023年9月15日にフランス都市圏で開始された。 研究グループは、2023年10月15日~12月10日に、PCR法でRSVが検出されたRSV関連細気管支炎のために入院した乳児を症例群、RSV感染とは関係のない症状で同じ病院を受診した乳児を対照群として、年齢、病院受診日、試験施設を2対1の割合でマッチさせ、交絡因子を調整した多変量条件付きロジスティック回帰モデルを用いて、ニルセビマブのRSV関連細気管支炎による入院に対する有効性を算出した。いくつかの感度解析も実施した。 解析対象は1,035例で、症例群690例(年齢中央値:3.1ヵ月[四分位範囲[IQR]:1.8~5.3)、対照群345例(3.4ヵ月[1.6~5.6])であった。このうち、症例群60例(8.7%)、対照群97例(28.1%)にニルセビマブ投与歴があった。入院リスクを83.0%減少、重症化リスクを67.2~69.6%減少 RSV関連細気管支炎による入院に対するニルセビマブの調整推定有効率は83.0%(95%信頼区間[CI]:73.4~89.2)であった。すべての感度解析で、主要解析と同様の結果が得られた。 小児集中治療室(NICU)入室を要するRSV関連細気管支炎に対するニルセビマブの有効率は69.6%(95%CI:42.9~83.8)(症例群14.0%[27/193例]vs.対照群32.2%[47/146例])、人工呼吸器を必要とするRSV関連細気管支炎に対する有効率は67.2%(95%CI:38.6~82.5)(症例群14.3%[27/189例]vs.対照群30.5%[46/151例])であった。 著者は本研究の限界として、観察症例対照試験であるため因果関係についての結論を導き出すことはできないこと、対照群ではRSVのPCR検査が実施されていないこと、さらに対照群は小児救急外来を受診した患者であったが症例群は入院患者であったこと、ニルセビマブの有効性が国内プログラム開始後の非常に早い段階で評価されたことなどを挙げている。

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風邪で冷えてきつい…【漢方カンファレンス】第5回

風邪で冷えてきつい…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】20代男性(研修医)主訴咽頭痛、倦怠感既往特記事項なし病歴ここ数週間、日常業務に加えて当直や学会発表の準備が重なり多忙であった。朝からゾクゾクとした悪寒と咽頭痛があった。出勤したが、倦怠感が出てきて徐々に増悪し、つらくなったため当科を受診した。現症身長172cm、体重70.4kg。体温37.5℃、血圧110/60mmHg、脈拍56回/分 整。咽頭発赤軽度、扁桃肥大なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。経過受診時「???」エキス1包 分1を外来で内服。(解答は本ページ下部をチェック!)1週間後少し体が温まって、倦怠感が減少したため改めて3包分3で処方。(2~3時間おきに内服し、帰宅して安静にするように指導)翌日薬を飲む度に身体が温まる感じがして倦怠感が軽減した。咽頭痛が少しあるが、悪寒や倦怠感は消失して元気に働いている。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<悪寒・冷え・熱感を確認>いまもゾクゾクとした悪寒がありますか?昨日よりも軽くなりましたが、まだ少しゾクゾクします。体は熱っぽく感じますか?冷えを感じる箇所はありますか?熱っぽくはありません、手足や体が冷える感じです。<温冷刺激に対する反応を確認>のどは渇きませんか?今、温かい物と冷たい物のどちらが欲しいですか?のどはあまり渇きません。どちらかというと温かい物が飲みたいです。<ほかの随伴症状を確認>のどの痛みは強いですか?ほかに鼻汁、咳、痰はありませんか?のどは少し痛くて、チクチクします。水っぽい鼻水がでますが咳、痰はありません。きつくて横になりたいほどの倦怠感はありませんか?きつくて今でも横になりたいです。最近は疲れがたまっていたでしょう?いろいろ重なってしまい、睡眠時間を減らしていました。【診察】顔色が不良で、手足を触ると冷たく感じた。また、脈診では、指を沈めるとしっかり触れる沈の脈で反発力の弱い脈であった(脈:沈・弱)。カンファレンス今回は、研修医の後輩が風邪をひいて受診したケースですね。ゾクゾクとした悪寒があり冷えの自覚がありますが、体温は37.5℃と発熱があります。この場合は、どちらの病態であると考えればよいのでしょうか?漢方では体温計の温度より、自覚的な寒や熱を重視します。本症例では37.5℃と発熱はあっても、悪寒や冷えの自覚があるので寒が主体の病態と考えます。また、咽頭痛があるのに、温かい物を飲みたいということも寒を示唆する所見ですね。ゾクゾクとした悪寒だけでは、寒か熱のどちらの病態か区別するのは困難です。悪寒以外の自覚症状、顔色、咽頭痛や倦怠感の程度などから総合的に判断します(表)。本症例では、温かい飲み物を好む、冷えの自覚、倦怠感があるので明らかに寒の病態と判断することができますが、悪寒以外の症状に乏しい場合は、経過をみながら判断する場合もあります。風邪やインフルエンザに頻用される葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)を処方する際に注意することは、葛根湯や麻黄湯の適応は悪寒と同時かその後に熱の病態が存在することが前提です。逆に悪寒がして、本症例のように顔面紅潮や熱感は目立たず、悪寒から寒(冷え)に移行する場合を風邪の漢方治療では鑑別する必要があります。悪寒と寒(冷え)は区別するというより連続的なものだと考えた方がわかりやすいですよ。急性疾患では、脈が最初に変化するので、脈診が一番大事だよ! 脈は非常に反応が早く、食事を摂ったり、驚いたりするとすぐに表在性に触れるようになるし、風邪のひき始めにも浮いてくるのが典型だよ。本人が風邪をひいたという自覚がない時点でも脈は変化しているということもよくあるんだ。漢方医の先生は自覚症状に加え、脈の浮沈・強弱で風邪の病態を診断できるのですね。闘病反応が弱い陰証になるなんて、後輩の研修医で、若くて体格もよいのに意外です。若くて体格がよいからといって闘病反応が強い実証とは限りません。反対に虚弱な高齢者だとしても闘病反応が強い病態であることもあります。前出の表に鑑別ポイントをまとめたので参考にしてください。本症例をまとめると以下のようになります。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒、手足・体が冷える、倦怠感、温かい物を好む、脈:沈→陰証(2)虚実はどうか脈の反発力は弱い→虚証(3)気血水の異常を考える水様性鼻汁→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む悪寒、冷え、咽頭痛、倦怠感解答・解説【解答】本症例は、寒が主体の風邪であり、生体を強力に温める作用をもつ附子(ぶし)が含まれる麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)が適応になります。【解説】一般的に風邪のひき始めは、程度の差はあれ悪寒がして、発熱や発汗などの熱が出現します。風邪のひき始めの悪寒がある時期を太陽病(陽の始まりという意味、第4回「今回のポイント」の項参照)といいます。一方、全身が冷えて倦怠感が目立つ時期は少陰病といいます。本症例のように風邪のひき始めから寒の病態に陥ってしまった場合を「直中の少陰(じきちゅうのしょういん)」(直ちに少陰に中たる)といいます。麻黄附子細辛湯は、このタイプの風邪に用いられる漢方薬で、体表面の炎症を鎮めながら体を温める作用があります。高齢者、基礎疾患がある人、冷え性の人、疲労が蓄積している人などが風邪をひいた場合は、この冷える風邪を発症しやすく、水様性鼻汁、咽頭痛、倦怠感といった症状が特徴です。チクチクとした程度の軽い咽頭痛であることが典型で、「ノドチクの風邪」と呼ばれています。なお院内職員70人の風邪に対する漢方処方を調査した結果では、当院の職員は疲労がたまっているのか、平均年齢34.3歳と比較的若いにもかかわらず、麻黄附子細辛湯を含む寒の風邪の治療が約2割を占めていました1)。本症例のように外来で試しに飲んでもらって効果をみることを試服といい、漢方が合っていれば、内服15分後くらいから何らかの効果を実感できます。今回のポイント「脈診(脈の浮沈)」の解説脈診では橈骨動脈を橈骨茎状突起の高さに第2~4指を揃えて触知します。今回は重要なパラメーターである脈の浮沈を解説します。脈の診察で、軽く置いたときに表在性に触れることができれば浮(浮いている)と表現します。指を沈めていったときに初めてはっきり触れてくれば沈(沈んでいる)になります。一般に風邪のひき始めには、浮脈になりますが、この場合は闘病反応が体表面にあって熱の病態(陽証)と考えます。逆に風邪のひき始めにもかかわらず、沈脈の場合は寒の病態(陰証)であると診断できます。脈の浮沈・強弱はあまりなじみがなく、最初は難しいかもしれません。しかし、当科に見学に来る学生、研修医も2週間の外来の陪席でおおよそマスターできてきます。参考文献1)吉永亮ほか. 漢方の臨床. 2020;67:185-189.

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肺の空洞性病変の鑑別診断(1)[総論編]【1分間で学べる感染症】第7回

画像を拡大するTake home message肺の空洞性病変の鑑別診断は「CAVITY」で覚えよう。肺の空洞性病変を見たら、皆さんは何の鑑別を考えますか?鑑別診断は多岐にわたりますが、大まかな分類を覚えるのに 「CAVITY」という語呂合わせが有用です。CCancer がん(扁平上皮がん、肺転移)AAutoimmuneVVascular 血管性(肺塞栓症、敗血症性肺塞栓症)IInfection 感染(結核、非結核性抗酸菌症、細菌、真菌、寄生虫)※詳しくは次回説明します。TTrauma 外傷(肺気瘤)YYouth/congenital 若年性/先天性(非結核性抗酸菌症、細菌、真菌、寄生虫)重要な点は、「感染性だけではなく、非感染性の幅広い鑑別診断がある」ことを理解することです。診断には、気管支鏡検査や肺生検を要することも多いですが、その他の病歴や身体所見などを総合的に考慮し、診断のための検査を進める必要があります。1)Harding MC, et al. Fed Pract. 2021;38:465-467.2)Cho Y, et al. Am Osteopath Coll Radiol. 2019;8:18-24.

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オミクロン対応2価コロナワクチン、半年後の予防効果は?/感染症学会・化学療法学会

 第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会が、6月27~29日に神戸国際会議場および神戸国際展示場にて開催された。本学会では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する最新知見も多数報告された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2021年7月から国内での新型コロナワクチンの有効性を長期的に評価することを目的としてVERSUS研究1)を開始しており、これまで断続的にその成果を報告している。今回は、2023年4月1日~11月30日の期間(XBB系統/EG.5.1流行期)における、オミクロン株BA.1およびBA.4-5対応2価ワクチンの有効性についての結果を発表した。本結果によると、2価ワクチンの入院予防効果について、接種から半年後でも高い有効性が持続することなどが明らかとなった。 本研究では、コロナワクチンの発症予防の有効性および入院予防の有効性を評価している。発症予防については、全国9都県15施設でCOVID-19を疑う症状で医療機関を受診した16歳以上を対象とした。入院予防については、全国10都府県12施設で呼吸器感染症を疑う症状が2つ以上ある、または新たに出現した肺炎像を認め、医療機関に入院した60歳以上を対象に調査を行った。検査陰性デザイン(test-negative design:TND)を用いた症例対照研究で、ワクチン未接種と比較した2価ワクチン接種の有効性(回数によらない)を推定している。ワクチン接種歴不明、ワクチンの種類不明の場合(起源株対応の従来型のワクチンか2価ワクチンか不明の場合)は解析から除外した。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・全体で7,494例が解析対象となった。年齢中央値44歳(四分位範囲[IQR]:28~63)、男性45.2%、基礎疾患のある人27.5%。・コロナワクチンの接種歴は、ワクチン接種なし13.1%、起源株対応の従来型ワクチンのみ接種41.6%、オミクロン株BA.1/BA.4-5対応2価ワクチン接種45.2%であった。・16~64歳での2価ワクチンの発症予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では22.9%(95%信頼区間[CI]:-4.8~43.2)、91~180日では32.3%(7.7~50.4)、181日以上では2.9%(-21.5~22.5)となり、接種から半年間の有効性の低下が顕著であった。・65歳以上での2価ワクチンの発症予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では40.8%(95%CI:6.1~62.7)、91~180日では52.2%(21.7~70.8)、181日以上では40.8%(3.8~63.5)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の1,170例が解析対象となった。年齢中央値83歳(IQR:75~89)、男性57.1%、高齢者施設入居者29.7%、基礎疾患のある人76.5%。・コロナワクチンの接種歴は、ワクチン接種なし16.3%、起源株対応の従来型ワクチンのみ接種22.9%、オミクロン株対応2価ワクチン接種60.8%であった。・2価ワクチンの入院予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では59.6%(95%CI:31.2~76.2)、91~180日では69.4%(45.6~82.8)、181日以上では55.3%(19.1~75.3)であった。入院時呼吸不全あり、CURB-65で判断した重症度で入院時の重症度が中等症以上、入院時肺炎ありといったより重症の場合でも、ワクチンの有効性は全入院予防の有効性と比較して同等かそれ以上であった。 本研究により、オミクロン対応2価コロナワクチンの有効性について、発症予防はとくに若年者において低い値であったが、サンプルサイズは限られるものの、入院予防は接種から半年後も高い有効性が保たれていることが認められた。前田氏は、「ただし、より長期的に評価すると、接種から時間が経つにつれ効果は下がってくる可能性があるため、追加接種の必要性を考えるためにも継続して評価が必要である」と見解を示し、「新型コロナワクチン政策や流行株は各国で異なるため、国内におけるワクチンの有効性を評価することは、国内のワクチン政策を考慮する際にとくに重要であり、現在使用されているXBB.1.5対応ワクチンなどについても、今後も継続して評価をしていく」と語った。

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