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第226回 医療従事者の熱中症リスク、アンケートでみえてきたこと

昨今の報道でよく話題になるのが猛暑と台風だ。今年の7月の平均気温は2年連続過去最高を更新。福岡県太宰府市では8月27日まで最高気温が35℃以上の猛暑日が40日連続となり、国内の連続猛暑日最長記録を更新した。もっともそろそろ9月になるので暑さも和らぐかと思いきや、気象庁の3ヵ月予報によると、今年の9~10月の平均気温は全国的に高いとのこと。気象庁の異常気象情報センターは「残暑が厳しく、秋の訪れが遅くなる見込みのため、油断をせずに熱中症対策を続けてほしい」と呼び掛けている。その警戒すべき熱中症だが、総務省消防庁の集計では、7月の熱中症による救急搬送者は全国で4万3,195人。同集計が始まった2008年以降、2018年の5万4,220人に次ぐ多さとなっている。ちなみにこのうち死者は62人。入院が必要な「中等症」「重症」の合計は全体の3分の1以上にあたる1万5,326人で、搬送者の59%が65歳以上の高齢者である。以前から外気温の上昇やのどの渇きに対する感度が加齢により低下した高齢者では、熱中症の罹患とそれによる死亡リスクが高いのは周知のことである。加えて現在の国内高齢者層は家庭にエアコンが常備されていない時代を経験している世代のためか、エアコン使用そのものを避けたがる傾向があることなども、熱中症リスクの高さに影響していると言われる。そのような最中、たまたま見かけたある調査結果に驚愕している。人材マッチング事業を行う株式会社SOKKIN(本社:東京都新宿区)が2024年8月中旬に現役介護士を対象に実施したインターネット調査「(介護士限定)介護士の熱中症対策に関する簡単アンケート」の結果1)である。そもそも営利企業が行う調査は自社サービスを売り込むための我田引水の傾向があるため、自分の場合は流し読みすることがほとんど。しかも、この調査は回収サンプル数が59票と極めて小規模で本来ならば事実上無視するレベルのものだが、内容があまりにも想像を超えており、かつ同種の調査結果はほとんど見かけないため、ついつい読み込んでしまった。ちなみに調査回答者の年齢層は、30代までが7割強とかなり若年層であることも特徴的である。無視できない介護職のアンケート結果その内容なのだが、「勤務中に暑さが原因での体調不良を経験したことはありますか?」との問いに対しては「経験がある」との回答が93%、「勤務中に熱中症にかかったことはありますか?」との問いに対しては「頻繁にある」が7%、「ある」が54%。ざっくり言えば介護職の大半が業務中に熱中症を経験しているというのだから驚きしかない。ちなみに暑さが原因の体調不良に関しては、症状と発症したシチュエーションに関する自由記述回答も公開されており、「入浴介助が続き、飲水や休憩が取れなくて、頭痛や倦怠感が出現した(30代女性)」に代表されるような入浴介助に関するものが目立つ。確かに真夏の入浴介助の場合、日中の暑い時間はかなり湿気の高い環境になるので熱中症になる危険性が高まるだろう。また、これ以外には「クーラーが嫌いな利用者がいるので、そこの部屋はムシムシしていて暑さが強烈。扇風機だけ回して過ごしており、お風呂の手伝いや着替えなどさせている時に汗がダラダラ出てきて、終わった頃には全身びしょびしょになっている。汗をかき過ぎてめまいや吐き気がすることがあり、その時は車に戻ってエンジンをかけて休ませてもらっている(40代男性)」「施設内でもしっかり冷房が効いている場所とそうでない場所があり、洗濯物を干す時や倉庫に近い備品の補充などそうでない場所での作業が続いて、疲れやすさなどの体調不良が起きた(40代女性)」という記述もある。訪問系サービスの場合、自由記述の回答にあったように、利用者のエアコン嫌いなど相手方の環境に左右されるのが実状だが、後者のように施設系サービスでもリスクを抱えていることは驚きだった。しかも、調査回答者の勤務サービス種別では施設系が7割超。調査回答者の大半が勤務中の熱中症を経験している事実と重ね合わせれば、施設内勤務でもそれなりに熱中症リスクがあると解釈しなければ辻褄が合わないことになる。このあたりは利用者本人による室温設定ができるユニット型の施設が増加していることを考慮すれば、一部の説明がつくかもしれない。そして、同調査によると回答者の8割以上が自衛策として「こまめな水分補給」を行っているが、職場の熱中症対策については「対策はあるが不十分」が最多の59%、「十分な対策はある」が22%、「対策がない」が19%で、回答者の約8割が職場の熱中症対策が十分でないと指摘している。さて、医療者はどうなのかさてこの調査結果を知って気になったのが「では医師や看護師はどうなのだろう?」ということだ。この疑問から今回の介護職の熱中症実態調査に類する医師・看護師版の調査がないものかと検索をしてみたのだが、それらしきものは私の検索した範囲では見当たらない。批判を招く表現になるが、医師・看護師は介護職と比べれば“雲上人”なので、より快適な環境で業務についているのでは? という解釈もあるだろう。だが、介護関係でも介護老人保健施設(老健)のように医師が常勤している施設もあるし、看護師の場合は老健だけでなく介護老人福祉施設(特養)でも常勤者がいる。さらに昨今では在宅医療が増加し、それに応じて訪問看護ステーションも雨後の筍のごとく各地で開設され、医師・看護師が患者宅を訪問する機会はかなり増加している。ということは、勤務中の医療従事者の熱中症の実態は、単に少ないゆえに見逃されている、あるいは水面下でくすぶっているということだろうか?昨今の猛暑による熱中症リスク増加で、メディアでは一般市民に向けて熱中症リスクを訴える医師はよく見かけるが、「紺屋の白袴」でなければ良いのだが…と老婆心ながら思ってしまう。なお「勤務中に熱中症になってしまった」という医師・看護師の方がいらしたら、ぜひ体験談を聞きたいとも思っている。参考1)1)株式会社SOKKIN:現役介護士にアンケート!介護士に聞いた熱中症対策アンケート調査

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脾腫の鑑別診断(2)[感染症編]【1分間で学べる感染症】第10回

画像を拡大するTake home message脾腫の感染症の鑑別診断は「MESHBELT」で覚えよう。今回は脾腫の鑑別診断、とくに感染症に焦点を当てて学んでいきましょう。前回は脾腫の鑑別診断を「CHINA」で覚えました。脾腫を来した患者を診る場合には、この「CHINA」に加えて感染症疾患の多様な鑑別診断を念頭に置いて、精査やリスクに応じた治療を開始することが重要です。脾腫を来す感染症で頻度が高いものとしては、EBウイルスやCMVなどによる伝染性単核球症が重要です。また、海外からの渡航者であれば渡航地域のリスクによって、マラリアや腸チフスなど、地域特有の疾患を考える必要があります。さらには、ネコの曝露によりバルトネラやトキソプラズマ、ネズミや汚染された土壌・淡水などの曝露によりレプトスピラが考えられます。レプトスピラは農業従事者、下水管作業従事者、食肉処理業者だけではなく健常者でも報告があります。最後に、感染性心内膜炎の合併症としては、免疫複合体による脾梗塞の機序や菌体そのものが脾膿瘍を引き起こして脾腫を来すこともあるため、注意が必要です。脾腫を来した患者を診る場合、まずは感染症の診断・除外が重要になります。それぞれの疾患に対してのリスクを問診や身体所見、そのほかの他覚的所見で絞り込むようにしましょう。1)Aldulaimi S, et al. Am Fam Physician. 2021;104:271-276.

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新クラスの抗菌薬、「人喰いバクテリア」にも有効か

 新たな抗菌性化合物により、マウスに感染した化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)を効果的に除去できることを示した研究成果が報告された。S. pyogenesは「人喰いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)」の主な原因菌であり、この細菌による感染症により毎年50万人が死亡している。研究グループは、「この化合物は、薬剤耐性菌との闘いにおいて貴重な存在となり得る、新規クラスの抗菌薬の第1号となる可能性がある」と述べている。米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のScott Hultgren氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に8月2日掲載された。 ペプチドミメティックなジヒドロチアゾロ環縮合2-ピリドンという分子構造を持つこの新しい化合物は、「GmPcides」と名付けられている。当初、Hultgren氏らは、共同研究者であるウメオ大学(スウェーデン)化学分野のFredrik Almqvist氏に、尿道カテーテルの表面に細菌のバイオフィルムが付着するのを防ぐ化合物の開発を依頼したが、結果的に、この化合物が複数の種類の細菌に対して感染防止効果を持っていることが判明したという。 論文の上席著者である、セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学分野のMichael Caparon氏は、「エンテロコッカス属やブドウ球菌、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)など、われわれがテストした全てのグラム陽性菌がこの化合物に対して感受性を示した」と話す。グラム陽性菌は細胞壁が厚く、感染時にさまざまな毒素を放出する傾向があり、薬剤耐性の黄色ブドウ球菌感染症、中毒性ショック症候群、その他の致命的な感染症の原因となっていると研究グループは説明する。 今回の研究では、S. pyogenesに感染させたマウスを用いて、皮膚軟部組織感染症(SSTI)に対するGmPcidesの効果が検討された。壊死性筋膜炎などで知られる皮膚軟部組織感染症には複数の細菌が関与し、症状の進行が早く、感染の広がりを抑えるために肢の切断を要する場合もあり、罹患者の約20%が死亡する。 その結果、GmPcidesを投与されたマウスでは未治療のマウスに比べて、体重減少が少なく、感染による症状として現れる潰瘍が小さく、感染からの回復も速いことが示された。 ただし、GmPcidesがどのようにしてこのような効果をもたらすのかは明確になっていない。しかし、顕微鏡による観察からは、GmPcidesが細菌の細胞膜に重要な影響を与えていることが示されている。Caparon氏は、「細胞膜の機能の1つは、外部からの物質を排除することだ。GmPcidesによる処理後5〜10分以内に膜が透過性を持ち始め、通常は排除されるべきものが細菌の中に入り込むようになることが分かっている」と説明する。GmPcidesによる細胞膜の損傷は、細菌が宿主に対して損傷を引き起こす機能や、宿主の免疫応答に対抗する能力を低下させることが考えられるという。 さらにGmPcidesによる治療では、薬剤耐性菌の発生が少ない可能性も示された。薬剤耐性菌を作成する実験では、治療に耐えられる細胞はごくわずかであり、そのため耐性を持つ菌が次世代に引き継がれることはほとんどなかった。 以上のように有望な結果が得られたとはいえ、Caparon氏は、GmPcidesが病院や薬局で入手できるようになるまでには、まだ時間がかかると話す。同氏らは、この研究で使用された化合物の特許を取得し、彼らが所有権を持つ企業QureTech Bio社にライセンスを供与した。同氏らはこの企業と協力して製薬開発や臨床試験を進め、GmPcidesを市場に出すことを計画している。

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第111回 増えるマイコプラズマ肺炎、今年のマクロライド耐性率は?

増えるマイコプラズマ肺炎マイコプラズマ肺炎は、基幹定点医療機関において週ごとに報告される5類感染症です。新型コロナやインフルエンザと比べると報告義務のある医療機関はかなり少なくなります。さて、感染症発生動向調査週報2024年第31・32週(第31・32合併号)において、2016年と同じくらいの流行に陥っていることが示されました(図1)1)。定点当たりの報告数としては新型コロナほどではないのですが、マイコプラズマ気管支炎や咽頭炎などは報告数に入っておらず、肺炎が対象となっているので、水面下にはそれなりの感染者数がいると認識したほうがよいでしょう。画像を拡大する図1. マイコプラズマ肺炎の定点医療機関当たりの報告数(参考文献1より引用)マクロライド耐性率15年ほど前に、マクロライド耐性マイコプラズマが流行したことを覚えているでしょうか2)。といっても、これを読んでいるのがアラフォー・アラフィフばかりとは限らないので、その事実を知らない読者のほうが多いかもしれません。私の研修医時代はあまりそういう話はなかったのですが、5年10年経つと「マクロライド耐性」がやたら騒がれるようになって、いつの間にか8割以上がマクロライド耐性になっていました。当時、時折開かれる感染症セミナーでも、専門家の方々が「耐性化がハンパない」と連呼していましたが、結局思ったほど流行せず、しかもその後は徐々に耐性率は下がっていきました3)。この背景として、遺伝子型の違いが挙げられます。Mycoplasma pneumoniaeの細胞接着タンパク(P1)の遺伝子型は1型と2型があり、この2つは10~20年ごとに交互に流行するという傾向があります(図2)4)。1990年代は2型が優勢で、マクロライド耐性率は低かったようです。2001~16年あたりまでは1型菌が優位になっていたのですが、マクロライドの曝露を受けたことによって、この1型菌たちが耐性化したのではないかと考えられています。最近、中国で分離されたM. pneumoniaeのp1遺伝子型の頻度が報告されています5)。この報告では、1型菌が明らかに優勢で、全体の約4分の3を占めていたとされています。1型菌は当然ながらマクロライド耐性遺伝子を有していたのですが、驚いたのは2型菌もすべてマクロライド耐性遺伝子を持っていたことです(1型:54株すべてがA2063G変異、2型:3株がA2063G変異陽性・1株がA2064G変異陽性、2c型:13株すべてA2063G変異陽性)。画像を拡大する図2. M. pneumoniae分離株の遺伝子型とマクロライド耐性率の年別推移(参考文献4より引用)日本では2017年以降、2型菌が優勢となっていて、M. pneumoniaeのマクロライド耐性率が低減したとされています。上述した中国の報告を考慮すると、2型菌とて安心できるわけではないのかもしれません。また、地域によって耐性率に差があります。米国疾病予防管理センター(CDC)のウェブサイトによると、マクロライド耐性率はカナダで12%、中国で80%(上記の研究は100%でしたが)、ヨーロッパは5%(イタリアは20%)、日本は50%以上(上述したように時期によって変動があります)、アメリカは10%と記載されています6)。とはいえ、日本呼吸器学会の『成人肺炎診療ガイドライン2024』7)の中には、「マイコプラズマ肺炎は軽症例が多く、マクロライド耐性株が数十パーセント存在するがマクロライド系薬の有効性は示されている」と書かれており、“初手アジスロマイシン”はとくに否定されるものではないと考えられます。各医療機関、コロナ禍で検査技術が進展し、蛍光標識プローブ(Qプローブ)などでマクロライド耐性遺伝子があるかどうか判定できるようになりました。成人の場合、最初からテトラサイクリンやキノロンを用いる戦法だけでなく、アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬の治療失敗を早めに判断してスイッチすることも検討されます。ただし小児においては、使用する必要があると判断される場合、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮しますが、8歳未満には、テトラサイクリン系薬は原則禁忌です。参考文献・参考サイト1)感染症発生動向調査週報2024年第31・32週(第31・32合併号)2)Kawai Y, et al. Nationwide Surveillance of Macrolide-Resistant Mycoplasma pneumoniae Infection in Pediatric Patients. Antimicrob Agents Chemother. 2013 Aug;57(8):4046-4049.3)Kenri T, et al. Periodic Genotype Shifts in Clinically Prevalent Mycoplasma pneumoniae Strains in Japan. Front Cell Infect Microbiol. 2020 Aug 6;10:385.4)見理剛. 肺炎マイコプラズマの遺伝子型別法と薬剤耐性の動向. IASR. 2024 Jan;45:6-8.5)Chen Y, et al. Increased macrolide resistance rate of Mycoplasma pneumoniae correlated with epidemic in Beijing, China in 2023. Front Microbiol. 2024 Aug 6;15:1449511.6)CDC. Mycoplasma pneumoniae Infection Surveillance and Trends7)日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社.

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コロナ後遺症、6~11歳と12~17歳で症状は異なるか/JAMA

 米国・NYU Grossman School of MedicineのRachel S. Gross氏らは、RECOVER Pediatric Observational Cohort Study(RECOVER-Pediatrics)において、小児(6~11歳)と思春期児(12~17歳)の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)を特徴付ける研究指標を開発し、これらの年齢層で症状パターンは類似しているものの区別できることを示した。これまでPASC(またはlong COVID)に関する研究のほとんどは成人を対象としたもので、小児におけるPASCの病態についてはあまり知られていなかった。JAMA誌オンライン版2024年8月21日号掲載の報告。6~11歳の約900例と12~17歳の約4,500例について解析 RECOVER-Pediatricsコホート研究は、4つのコホートで構成され、前向き研究と後ろ向き研究を併合して解析した。今回は、SARS-CoV-2感染歴の有無にかかわらず医療機関および地域から新規に募集した0~25歳の参加者を含むde novo RECOVERコホートと、米国最大の思春期の脳の発達に関する長期研究であるAdolescent Brain Cognitive Development(ABCD)コホートのデータの解析結果が報告された。 対象は2022年3月~2023年12月に登録された6~17歳の、初感染日が明らかなSARS-CoV-2感染既往者(感染群)と、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド抗体陰性が確認された非感染者(非感染群)であった。 9つの症状領域にわたる89の遷延症状に関する包括的な症状調査を行った。 主要アウトカムは、COVID-19パンデミック以降に発症または悪化した、調査完了時(感染後少なくとも90日以上)の4週以上持続する症状とした。4週以上続く症状を有していたが調査完了時に症状がなかった場合は、対象に含まなかった。 小児898例(感染群751例、非感染群147例)および思春期児4,469例(感染群3,109例、非感染群1,360例)が解析対象集団となった。背景は、小児が平均年齢8.6歳、女性49%、黒人またはアフリカ系アメリカ人11%、ヒスパニック系、ラテン系またはスペイン人34%、白人60%、思春期児がそれぞれ14.8歳、48%、13%、21%、73%であった。初感染から症状調査までの期間の中央値は、小児で506日、思春期児で556日であった。小児は神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児は嗅覚/味覚障害、疼痛、疲労が多い 小児では感染者の45%(338/751例)、非感染者の33%(48/147例)、思春期児ではそれぞれ39%(1,219/3,109例)、27%(372/1,369例)が、持続する症状を少なくとも1つ有していると報告した。 性別、人種、民族で調整したモデルにおいて、小児と思春期児の両方で非感染者と比較して感染者で多くみられた症状(オッズ比の95%信頼区間下限が1を超えるもの)は14個あり、さらに小児のみでみられた症状は4個、思春期児のみでみられた症状は3個であった。これらの症状はほとんどすべての臓器系に影響を及ぼしていた。 感染歴と最も関連の高い症状の組み合わせを特定し、小児と思春期児のPASC研究指標を作成した。いずれも、全体的に健康や生活の質の低下と相関していた。小児では神経認知症状、疼痛、消化器症状、思春期児では嗅覚や味覚の変化や消失、疼痛、疲労に関連する症状が多かった。 クラスタリング解析により、小児では4個、思春期児では3個のPASC症状表現型(クラスター)が同定された。両年齢群ともに症状の負荷が大きいクラスターが1個存在し(成人と同様)、疲労と疼痛の症状が優勢なクラスターも同定された。その他のクラスターは年齢群で異なり、小児では神経心理および睡眠への影響を有するクラスター、消化器症状が優勢なクラスターが、思春期児では、主に味覚と嗅覚の消失を有するクラスターが同定された。

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「どのくらいで治る?」と聞かれたら?【もったいない患者対応】第12回

「どのくらいで治る?」と聞かれたら?登場人物<今回の症例>50歳男性工事現場で作業中、機械の誤作動で右手を打撲右手背に約5cmの裂創あり<手術で裂創を縫合しました>局所麻酔で10針縫いましたよ。ありがとうございます。職場にはできる限り早く復帰するよう言われています。治るまでにどのくらいかかるでしょうか?そうですね、順調であれば1週間から10日で抜糸できます。治療期間はその程度とお考えください。わかりました。ありがとうございます。~7日後~どうやら傷口が感染を起こしているようです。少し傷を開いて膿を出す処置をしなくてはなりません。そうですか。長くても10日で治ると聞いていましたが、3日後には復帰してもいいんですよね?傷が膿んでいる状態なので、まだ難しいと思います。そんな…もっと長引くということでしょうか? 職場には10日で復帰すると伝えてしまったんです。困りますよ!【POINT】患者さんから治癒までの期間を尋ねられた唐廻先生は、抜糸までの期間として「1週間から10日」と伝えました。しかし、残念ながら創部感染が起こり、治療は長引きそうです。「長くても10日」と思い込んでいた患者さんは、予定どおりに職場復帰できなくなり、憤慨してしまいました。何が悪かったのでしょうか?“どのくらいで治るか”は明確にわかるものだと誤解されやすい外傷ではとくに、患者さんから治癒までの期間を問われることが多いでしょう。職場から正確な治療期間を伝えるよう求められているケースも多く、医師が診断書に治癒までの期間を書かねばならないこともよくあります。こうした際に患者さんに伝える“治療期間”はあくまでも目安にすぎませんが、多くの患者さんはこのことを知りません。ニュースなどではよく「全治○ヵ月の怪我」といった報道もされるため、医師は患者さんに“治癒までの期間”を比較的明確に伝えられるものだ、と信じている方は多いのです。実際には、創傷治癒にかかる時間には個人差がありますし、何より、創部感染などの合併症が起こり、予想外に治療が長引くリスクは誰にでもあります。長引く可能性についても事前に説明を治癒するまでの期間を問われた場合、患者さんには、治療期間を正確に予測することはできず、ケースバイケースであること順調なら治療期間は〇〇くらいだが、途中で何かのトラブルが起こればもっと長引く可能性はあるということを、きちんと伝えておく必要があります。とくに、職場から復帰できるまでの期間を知りたいと言われているケースでは、医師が予想した期間を超えて治療が長引くと、職場に混乱が生じるおそれがあります。患者さん自身も、一緒に働く職場の同僚も、医師が伝えたタイミングで職場復帰するつもりで準備しているためです。そこで、患者さん本人から「治療期間を予測することは難しい」という旨が職場にもきちんと伝わるよう、医師も配慮することが望ましいのです。“治癒”の意味についても共有しておくちなみに、患者さんが“治癒=まったく元のとおりに戻ること”と捉えているケースは多くあります。しかし、実際には“社会復帰はできるものの、多少の後遺症は生じる”というケースはありえます。たとえ小さな傷であっても、感染を起こして目立つ瘢痕が残るケースもあります。完全に元どおりに戻ることが難しいこともあるという点を、患者さんにはあらかじめ理解してもらう必要があるでしょう。これでワンランクアップ!局所麻酔で10針縫いましたよ。ありがとうございます。職場にはできる限り早く復帰するよう言われています。治るのにどのくらいかかるでしょうか?そうですね、もし順調であれば1週間から10日で抜糸できます※1。ただし、途中で傷が膿んだり、治りが悪かったりする患者さんもいるので、これはあくまで目安です※2。いつ職場に復帰できるかは、いまの時点でははっきりお伝えすることはできません。傷の治り方次第で変わると思っておいてください。くれぐれも、職場の方にもそのように伝えておいてくださいね※3。※1:まずは簡単に見通しを伝える※2:順調にはいかない可能性も最初に共有しておく。※3:周囲の理解を得ることも大事。わかりました。ありがとうございます。

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新型コロナの経鼻ワクチン、動物実験で感染を阻止

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の次世代経鼻ワクチンは、従来の注射型のワクチンにはできなかった、人から人へのウイルスの伝播を阻止できる可能性のあることが、動物実験で示された。この経鼻ワクチンが投与されたハムスターは、ウイルスに感染しても他のハムスターにそれを伝播させることはなく、感染の連鎖を断ち切ったと米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学および病理学・免疫学分野のAdrianus C. M. Boon氏らが報告した。詳細は、「Science Advances」8月2日号に掲載された。研究グループは、今回の動物を用いた研究によって、鼻や口へのワクチン投与がインフルエンザやCOVID-19といった呼吸器感染症の感染拡大を抑えるカギになる可能性があることを支持するエビデンスが増えたと話している。 注射型のCOVID-19のワクチンは重症化例や死亡例を減らすことはできたが、感染拡大を防ぐことはできなかった。ワクチン接種済みの軽症患者でも、ウイルスを他の人にうつす可能性はあったからだ。Boon氏らによると、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、RSウイルスなどは鼻の中で急速に増殖するため、咳やくしゃみ、さらには呼吸するだけでも、人から人へと広がっていくのだという。 注射型のワクチンは、血流中と比べると鼻の中での効果が大幅に低いため、鼻の中は急速に増殖して広がっていくウイルスに対して無防備な状態になりやすい。そのため、研究者らは長年、スプレーや滴下によって鼻や口にワクチンを投与すれば、最も必要とされる場所で免疫反応が引き起こされ、感染症の伝播を抑えることができると考えてきた。 Boon氏らは今回、ハムスターを用いて、インドで使用されているCOVID-19の経鼻ワクチン(iNCOVACC)をファイザー社の注射型のワクチンと比較する2段階のプロセスから成る実験を行った。 まず、一群のハムスターに2種類のワクチンを投与した後、十分な免疫応答が誘導されるまで数週間待った上で、新型コロナウイルスを感染させた他のハムスターとともに8時間にわたって同じ空間に置いた。その結果、経鼻ワクチンが投与された14匹中12匹(86%)、注射型ワクチンが投与された16匹中15匹(94%)の鼻と肺からウイルスが検出された。しかし、経鼻ワクチンが投与されたハムスターでは、注射型ワクチンが投与されたハムスターと比べて、気道から検出されたウイルス量が10万分の1~100分の1にとどまっていることが明らかになった。 さらに、次の段階の実験で、ウイルスに感染した、経鼻または注射型ワクチン接種済みのハムスターを他のワクチン接種済みまたは未接種の健康なハムスターと同じ空間で8時間一緒に過ごさせた。その結果、経鼻ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、ワクチン接種済みか未接種かにかかわらず1匹も感染していなかった。一方、注射型ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、約半数が感染していた。 こうした結果を受けてBoon氏らは、「鼻からのワクチン接種によってウイルス伝播のサイクルが断ち切られた」と結論付けた。またBoon氏は、「粘膜ワクチンは呼吸器感染症に対するワクチンの未来の姿だ」と期待を示し、「これまで、このようなワクチンの開発は困難だった。われわれが必要とする免疫応答はどのようなものなのか、それを誘導するにはどうすればよいのか、まだ不明なことがたくさんある。今後数年のうちに、呼吸器感染症用ワクチンの大幅な改良につながるような刺激的な研究が続々と出てくるだろう」と述べている。

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第207回 マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労省5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大1.マイコプラズマ肺炎が全国で急増、8年ぶりの大流行/感染研今夏、マイコプラズマ肺炎が全国的に急増しており、過去8年間で最も大きな流行が確認されている。この感染症は、発熱や長引く咳といった風邪に似た症状が特徴で、とくに子供に多くみられるが、大人の感染例も報告されている。マイコプラズマ肺炎は、潜伏期間が2~3週間と長く、症状が現れても風邪と誤認されがちであるため「歩く肺炎」とも呼ばれている。国立感染症研究所によると、8月11日までの1週間で全国の医療機関での報告数は1医療機関当たり1.14人に達し、昨年同期比で57倍の増加をみせている。専門家は、この感染急拡大の背景として、新型コロナウイルス感染症対策の緩和とともに、人々の行動が活発化し、他人との接触機会が増加したことが一因であると指摘する。また、徹底したコロナ対策により地域全体の免疫が低下し、マイコプラズマ肺炎が流行しやすくなったとも考えられている。診療現場では、抗菌薬による治療が行われているが、最近では耐性菌の増加が問題となっており、従来の抗菌薬が効かないケースも増えている。さらに、抗菌薬の供給不足が続いており、薬局間での融通が必要な状況も報告されている。帝京大学大学院教授で小児科医の高橋 謙造氏は、抗菌薬の不適切な使用を避け、本当に必要な患者に処方が行き渡るよう、医療関係者に対して注意を呼びかけている。今後、学校や職場などの集団生活の場での感染拡大が懸念されるため、基本的な感染対策であるマスク着用や手洗いの徹底が重要とされる。とくに、熱や咳の症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが推奨される。参考1)IDWR速報データ 2024年(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎 8年ぶり大流行 感染気付かず広がるリスク(NHK)3)マイコプラズマ肺炎が過去10年で最多ペース、昨年同期の57倍 コロナ明けで感染拡大か(産経新聞)4)マイコプラズマ肺炎が猛威 長引くせき、高齢者もリスク(日経新聞)2.「かかりつけ医機能」報告を義務付け、医療情報システム「ナビイ」/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、「医療機能情報提供制度」をもとに、2024年4月にスタートした全国統一の医療情報ネット「ナビイ」のリニューアルするため、新たな報告項目の追加や既存項目の修正を承認した。今回の修正案を基に障害者向けサービス情報やかかりつけ医機能の情報をさらに充実させる予定。患者が受診先を適切に選択できるように支援する医療情報ネット「ナビイ」の現行のシステムについて、障害者向けサービスの情報提供が不十分であるとして、医療機関の駐車場の台数、電話・メールによる診療予約の可否、家族や介助者の入院中の対応状況など、障害者が医療機関を選ぶ際に重要となる情報が報告を求めるほか、既存の項目について、たとえば「車椅子利用者へのサービス内容」が「車椅子・杖等利用者に対するサービス内容」に、「多機能トイレの設置」が「バリアフリートイレの設置」に見直される。また、障害者団体との意見交換を通じて、医療機関がより使いやすい形で情報を提供できるように報告システムの改修が行われる予定。さらに、「かかりつけ医機能」についても報告が義務付けられ、一般国民や患者が必要な医療機関を適切に選択できるよう支援が強化される。この報告制度の見直しは、2025年4月に施行され、2026年1月から報告が始まる予定で、同年4月からは「ナビイ」での公表が行われる。ただ、医療機能情報提供制度への報告率には、地域ごとに大きなばらつきがあり、全国平均では73.5%に止まっている。秋田県や徳島県などでは報告率が100%に達しているが、沖縄県や京都府では30%未満と著しく低い。このため、厚労省では各都道府県に報告の徹底を促すとともに、医療機関自身の適切な報告を求めている。今後、「ナビイ」は障害者やその家族、そしてすべての国民が必要な医療情報を簡単に取得できるプラットフォームとして進化を遂げる見通し。参考1)医療機能情報提供制度の報告項目の見直しについて(厚労省)2)医療機能情報提供制度について(同)3)「ナビイ」サイト(同)4)全国の医療機関等情報を掲載する「ナビイ」、かかりつけ医機能情報や障害患者サービス情報なども搭載-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)5)医療機能情報提供、障害者関連の項目追加・修正へ「駐車場の台数」など26年1月報告から(CB news)3.美容・歯科で違反広告が急増、適正化へ行政指導強化/厚労省8月22日に厚生労働省は、医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会を開催し、2023年度に1,098の医療広告サイトが医療広告規制に違反していることを確認し、これらのサイトに対して運営する医療機関に自主的な見直しを促す通知を行ったことを明らかにした。違反件数は6,328件に達し、1サイト当たり平均で約5.8件の違反が確認された。とくに、歯科と美容分野が違反の中心であり、全体の76.6%を占めるという結果だった。違反の内訳を詳細にみると、歯科関連では「審美」が最も多く、次いで「インプラント」が続き、美容関連では「美容注射」が最も多かった。違反の内容としては、広告が可能とされていない事項の広告が大半を占め、とくに美容分野では、リスクや副作用の記載が不十分な自由診療の広告が目立っていた。厚労省は、こうした長期にわたって改善がみられない違反に対する対応を強化するため、行政処分の標準的な期限を定めた手順書のひな型を関連の分科会に提示し、了承を得た。この手順書によると、違反の覚知から2~3ヵ月以内に行政指導を行い、改善がみられない場合は6ヵ月以内に広告の中止や是正命令を行う。さらに、1年以内に管理者変更や開設許可取り消しなどの行政処分を完了させることが望ましいとされている。このひな型は、医療広告の違反が長期にわたり改善されない事例を抑制し、早期の適正化を図ることを目的としている。また、各自治体がこのひな型を参考にしながら、標準的な対応を進めることが期待される。しかし、自治体からは他県との対応差に対する懸念も出されており、対応には慎重な姿勢も求められている。厚労省は、これらの取り組みを通じて、違反広告の早期是正と適正な医療情報の提供を目指すとともに、医療機関に対して適切な広告活動を行うよう指導を続けていく方針。参考1)医療広告違反、行政処分は覚知から1年以内に 自治体に目安提示へ 厚労省(CB news)2)医療広告違反、1,098サイトで計6,328件 23年度に、厚労省が報告(同)4.ゲノム情報による就職差別を防止へ、ゲノム収集禁止を周知/厚労厚生労働省は、個人のゲノム情報を基にした就職差別を防止するため、「労働分野でのゲノム情報の取り扱いに関するQ&A」を公表した。このQ&Aは、企業や労働者がゲノム情報をどのように扱うべきかを明確にし、不当な差別が生じないようにすることを目的としている。具体的には、職業安定法や労働安全衛生法に基づき、ゲノム情報は「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に該当し、その収集は禁じられているとされている。これは、業務遂行に必要であっても例外ではなく、ゲノム情報の収集が禁止されていることを明確にしている。また、労働者が採用後にゲノム情報の提出を求められても、個人情報保護法に基づき応じる必要はなく、そのために不当な評価や処遇を受けることは「不適切」と指摘されている。さらに、労働者がゲノム情報を提出し、それによって解雇や不利益な人事評価を受けた場合、それは職権濫用に該当し、無効とされる。こうした対応は、2023年に施行されたゲノム医療推進法に基づき、ゲノム情報の活用拡大とともに不当な差別が懸念されることから行われたものである。厚労省は、ゲノム情報が労働者に不利益をもたらすことがないよう、既存の法令に基づいて、その収集を禁止していることを強調しており、労働者が不当な扱いを受けた場合には、労働基準監督署などで相談を受け付けている。参考1)「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」(ゲノム医療推進法)2)ゲノム情報による不当な差別等への対応の確保(労働分野における対応)(厚労省)3)ゲノム情報による就職差別防止へ、Q&Aを公表 収集の禁止を周知 厚労省(CB news)4)遺伝情報に基づく雇用差別禁止、厚労省が法令Q&A解説(日経新聞)5)遺伝情報に基づく雇用差別禁止 厚労省が労働法令をQ&Aで解説、労働者は提出の必要なし(産経新聞)5.炎症を肺がんと誤診し不要な肺摘出術、大学病院を提訴/鹿児島大鹿児島市の72歳の女性が、鹿児島大学病院を相手取り、約1,000万円の損害賠償を求めて鹿児島地方裁判所に提訴した。女性は2017年2月に同病院で定期検診を受けた際、肺がんと誤診され、「早期に手術しなければ危険」と外科手術を促され、右肺の上部を全摘出する手術を受けた。しかし、約4ヵ月後、実際には肺がんではなく、単なる炎症であり、手術は不要であったことが病院から告げられた。女性は手術後、息苦しさや体調不良に悩まされており、日常生活に支障を来していると訴えている。また、病院が手術前後に十分な説明を行わず、診断上の注意義務に違反したと主張している。同院は、訴状の内容を詳細に検討し、適正に対応するとしている。女性は「二度と同じような被害を生むことがないようにしたい」と述べ、病院の対応に改善を求めている。参考1)肺がんと診断され右肺上部を全摘…実は「単なる炎症。手術も不要だった」 誤診を訴え鹿児島大学病院を提訴 鹿児島市の女性(南日本新聞)2)「炎症を肺がんと誤診、右肺の大部分摘出」患者女性が鹿児島大を提訴…1,000万円賠償求める(読売新聞)6.システム不具合のため大学病院で抗がん剤を過剰投与/阪大大阪大学医学部附属病院は8月21日、がん治療中の60代男性患者2人に対し、「抗がん剤を過剰投与するミスが発生した」と発表した。原因は、投与量を計算するシステムの不具合によるもので、今年の1~2月にかけて通常の1.2~2倍の抗がん剤が誤って投与されたもの。このうち、男性の1人には通常の約2倍の抗がん剤が3日間連続で投与され、その後、高度な神経障害を発症した。この患者は6月に元々の血液がんの進行により死亡したが、過量投与による神経障害が死亡に影響を与えた可能性が指摘されている。一方、もう1人の患者には1.2倍の量が投与されたが、明らかな影響は確認されていない。この過剰投与の原因は、薬の投与量を計算するシステムにおいてmgからmLへの単位変換時に、小数点以下の四捨五入が正しく行われなかったことに起因する。このシステムは、大阪のメーカー・ユヤマが開発したもので、同社は同様のシステムを使用している他の35の病院についても確認を行ったが、同様の問題は確認されていない。同院では、今回の医療ミスについて、患者や家族に謝罪するとともに、再発防止に努めると表明。また、システムの開発企業も再発防止策として、新たなチェックプログラムの開発や品質管理体制の強化に取り組んでいる。なお、病院側は、このケースが医療事故調査制度の対象には該当しないとして、医療事故には認定されないと説明しているが、今回の事態は病院に対する信頼を揺るがす重大な問題として受け止められている。参考1)薬剤部門システムのプログラム不具合による注射抗がん薬の過量投与の発生について(大阪大学)2)阪大病院 抗がん剤を入院患者2人に過剰投与 システムに不具合(NHK)3)大阪大病院でがん患者2人に抗がん剤を過量投与、プログラムの不具合(朝日新聞)

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モデルナのJN.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナは2024年8月23日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1に対応する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「スパイクバックス筋注(1価:オミクロン株JN.1)」の承認事項の一部変更承認を厚生労働省より取得したことを発表した。 厚生労働省は2024年5月に、2024/2025秋冬シーズンの定期接種に使用する新型コロナワクチンの製造株として、JN.1系統および下位系統に中和抗体を誘導する抗原を採用することを決定していた。このガイダンスは、世界保健機関(WHO)のTAG-CO-VACの勧告と一致している1)。 この秋冬に自治体により行われる新型コロナワクチンの定期接種の対象は65歳以上または、60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能であるなど一定の健康状態にある人が対象だ。ただし、対象外でも任意で接種を受けることができる。 また同社は7月に、田辺三菱製薬と、日本におけるモデルナのmRNA呼吸器ワクチンポートフォリオのコ・プロモーション契約を締結したことを発表した。同社のリリースによると、当初契約期間は2029年3月31日までであり、本契約の締結に基づき、モデルナのmRNA呼吸器ワクチンの製造、販売、メディカル活動および流通をモデルナ・ジャパンが行い、日本における公衆衛生のためのプロモーション活動を両社が実施する。このポートフォリオには、モデルナのCOVID-19ワクチンであるスパイクバックスも含まれるという。

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重篤な薬疹を起こしやすい経口抗菌薬は?/JAMA

 一般的に処方される経口抗菌薬の中には、マクロライド系薬と比較して救急外来受診または入院に至る重篤な皮膚有害反応(cADR)のリスクが高い薬剤があり、とくにスルホンアミド系とセファロスポリン系で最も高いことが、カナダ・トロント大学のErika Y. Lee氏らによるコホート内症例対照研究の結果で示された。重篤なcADRは、皮膚や内臓に生じる生命を脅かす可能性のある薬物過敏症反応である。抗菌薬はこれらの原因として知られているが、抗菌薬のクラス間でリスクを比較した研究はこれまでなかった。結果を踏まえて著者は、「処方者は、臨床的に適切な場合はリスクの低い抗菌薬を優先して使用すべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年8月8日号掲載の報告。経口抗菌薬のクラスと重篤なcADRの関連性について解析 研究グループは、2002年4月1日~2022年3月31日に、カナダ・オンタリオ州の行政保健データベースを用いて、コホート内症例対照研究を実施した。データソースは、65歳以上のオンタリオ州住民に処方された外来処方薬のデータを含むOntario Drug Benefit database、救急外来受診の詳細情報を含むCanadian Institute for Health Information(CIHI)National Ambulatory Care Reporting System、入院患者の診断と治療のデータを含むCIHI Discharge Abstract Database、オンタリオ州健康保険(Ontario Health Insurance Plan)データベースである。ICES(旧名称:Institute for Clinical Evaluative Sciences)でこれらのデータを個人レベルで連携し、分析した。 対象は、少なくとも1回経口抗菌薬を処方された66歳以上の患者で、このうち、処方後60日以内に重篤なcADRのため救急外来を受診または入院した患者を症例群、これらのイベントがなく各症例と年齢と性別をマッチさせた患者(症例1例当たり最大4例)を対照群とした。 主要解析では、条件付きロジスティック回帰分析を用い、マクロライド系抗菌薬を参照群として、抗菌薬のクラスと重篤なcADRとの関連を評価した。スルホンアミド系とセファロスポリン系で重篤なcADRのリスク大 20年の研究期間において、症例群2万1,758例、対照群8万7,025例を特定した(両群とも年齢中央値75歳、女性64.1%)。 多変量調整後、スルホンアミド系抗菌薬が重篤なcADRと最も強く関連しており、マクロライド系抗菌薬に対する補正後オッズ比(aOR)は2.9(95%信頼区間[CI]:2.7~3.1)であった。次いで、セファロスポリン系(2.6、2.5~2.8)、その他の抗菌薬(2.3、2.2~2.5)、ニトロフラントイン系(2.2、2.1~2.4)、ペニシリン系(1.4、1.3~1.5)、フルオロキノロン系(1.3、1.2~1.4)の順であった。 重篤なcADRの粗発現頻度が最も高かったのはセファロスポリン系(処方1,000件当たり4.92、95%CI:4.86~4.99)で、次いでスルホンアミド系(3.22、3.15~3.28)であった。 症例群2万1,758例のうち重篤なcADRで入院した患者は2,852例で、入院期間中央値は6日(四分位範囲[IQR]:3~13)、集中治療室への入室を要した患者は273例(9.6%)で、150例(5.3%)が病院で死亡した。 なお、著者は研究の限界として、ICD-10コードを使用してcADRを特定したが重篤なcADR専用のコードはなく本研究固有の定義を作成したこと、cADRを引き起こす可能性のある非ステロイド性抗炎症薬などの市販薬の使用については調査できなかったことなどを挙げている。

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第110回 MSDが「HPVワクチン訴訟」にコメント

HPVワクチンのキャッチアップは9月末まで子宮頸がんの原因となっているヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンについては、一時、積極的な接種勧奨が控えられていましたが、2022年より勧奨が再開されました。勧奨が一時控えられ、「空白期間」ができてしまった理由として、ワクチンの副反応に対する声がマスコミに取り上げられたことが挙げられます。産婦人科の漫画として有名な『コウノドリ』においても、マスコミの科学的根拠のないHPVワクチンに反対するキャンペーンに屈したのは日本だけである、と書かかれています。日本では毎年約1万人の女性が子宮頸がんと診断され、約3,000人が亡くなっています。HPVワクチンの接種率は激減し、後進国になってしまい、欧米の接種率と大きく差が付きました。子宮頸がんに罹患する割合も、先進国の中では高いほうで、今後ワクチン未接種の子宮頸がんの女性がさらに増えていくと予想されています。現在、HPVワクチンの定期接種の機会を逃した高校2年生から27歳の女性を対象にした無料キャッチアップ接種を実施しています。しかしながら、この施策は2025年3月末で終了します。HPVワクチンは3回接種が必要なので、無料で完遂するためには、2024年9月末までに初回接種を開始しなければいけません。MSDがコメントを発表2016年に複数の女性がHPVワクチンの接種後に体調不良を訴え、製薬会社と国を相手取って訴訟を起こしています。これに関して、HPVワクチンを販売しているMSDが、2024年8月14日にHPVワクチン訴訟に関してステートメントを出しました1)。名古屋市における調査で、HPVワクチンと接種後の体調不良については、非接種集団と有意差が付いていないことが示されています。MSDも、この部分について触れています。「HPVワクチンが世界で初めて発売された2006年よりも遥か前から、特に思春期の若い方に見られる症状として知られており、(中略)[国内の]大規模な疫学調査では、HPVワクチンの接種歴のない方においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を有する方が一定数存在した」。これは、おおむね機能性神経症状症(変換症)や機能性身体症状のことを指していると思われます。たとえば機能性身体症状は、決して思い込みやウソなどではなく、実際に起こる症状なのですが、「症状の訴えや苦痛が、確認できる組織障害の程度より大きい」というものです。身体的要因だけでなく、心理的要因も大きく影響しています。ナラティブな医療従事者が、傾聴的になりすぎることでワクチン反対の声を増幅してしまう可能性があります。もちろん、ワクチンによる症状のすべてが機能性症状とは限りません。こういったデリケートな事情も踏まえたうえで、厚労省やMSDは「接種することのメリットが接種することのデメリットを上回る」という主張を展開し続けています。コロナ禍でも問題になった「医療のリスクコミュニケーション」。うまく行政が、舵取りしてほしいところです。参考文献・参考サイト1)HPVワクチン訴訟に関するMSD株式会社のステートメント(2024年8月14日)

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長期のコロナ罹患後症状、入院後6ヵ月時点がカギに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、急性期以降の認知および精神医学的転帰のリスク増加と関連することが知られている。英国で行われた大規模研究ではCOVID-19による入院後2~3年間における認知・精神症状の進行を追跡し、その症状と就労への影響について調査した。The Lancet Psychiatry誌2024年9月号掲載の報告。 本研究は英国の臨床医コンソーシアムであるThe Post-hospitalisation COVID-19 study(PHOSP-COVID)の登録データを使い、英国全土の参加病院でCOVID-19の臨床診断を受けて入院した成人(18歳以上)を対象とした前向き縦断コホート研究だった。参加者は入院から2~3年の間に、客観的な認知機能、うつ病、不安障害、慢性疾患治療疲労機能を評価する課題と、主観的な認知機能を評価する質問票に回答した。また、参加者は就労状況の変化やその理由についても報告した。6ヵ月後、12ヵ月後、2〜3年後の追跡調査において症状の絶対リスクの変化を評価し、2〜3年後の症状が初期症状によって予測できるかを検討した。 主な結果は以下のとおり。・83病院の入院患者2,469例が対象となり、うち475例(男性284例[59.8%]、平均年齢58.3[SD 11.13]歳)が2~3年後の追跡調査時にデータを提供した。・参加者は、テストされたすべての認知領域において、社会人口統計学的に予想されるよりもスコアが悪かった。・多くの参加者が、軽度以上のうつ病(263/353例[74.5%])、不安(189/353例[53.5%])、疲労(220/353例[62.3%])、主観的な認知機能低下(184/353例[52.1%])を報告した。・5分の1以上が重度のうつ病(79/353例[22.4%])、重度の疲労(87/353例[24.6%])、重度の認知機能低下(88/353例[24.9%])を報告した。・抑うつ、不安、疲労は、6ヵ月後や12ヵ月後よりも2〜3年後のほうが悪化しており、既存の症状の悪化と新たな症状の出現の両方が認められた。新たな症状の出現は、6ヵ月後と12ヵ月後にほかの症状がみられた人に多くみられ、それ以前の時点で完全に良好であった人にはみられなかった。・2~3年後の症状は、COVID-19の急性期の重症度とは関連しなかったが、6ヵ月後の回復度、急性期のC反応性蛋白に関連するD-ダイマー値上昇、および6ヵ月後の不安、抑うつ、疲労、主観的な認知機能低下と強い関連がみられた。・2〜3年後の客観的な認知機能低下と関連する因子は、6ヵ月後の客観的な認知機能低下のみだった。・95/353例(26.9%)が「職業が変わった」と報告し、その理由として最も多いものは「健康不良」であった。職業の変化は、客観的な認知機能低下(オッズ比[OR]:1.51 )および主観的な認知機能低下(OR:1.54)と強く特異的に関連していた。 著者らは「精神症状および認知症状は、入院後2〜3年の間に、6ヵ月時点ですでに存在していた症状の悪化と、新たな症状の出現の両方により増加するようだ。新たな症状は6ヵ月時点ですでにほかの症状がみられる人に多くみられた。したがって、症状を早期に発見し管理することは、後に複合症候群が発症するのを防ぐ有効な戦略である。COVID-19は、客観的および主観的な認知機能低下を伴う。COVID-19の機能的・経済的影響を抑制するためには、認知機能の回復を促進する、あるいは認知機能の低下を予防するための介入が必要である」としている。

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流行株によるコロナ罹患後症状の発生率とコロナワクチンの効果(解説:寺田教彦氏)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、起源株やアルファ株、デルタ株といったプレオミクロン株流行時期は、重症化率・死亡率の高さから、国内でも緊急事態宣言が出されるほど公衆衛生に多大な影響を与えていた。その後コロナワクチンや中和抗体治療薬により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化率や死亡率は低下したが、2021年ごろから後遺症の問題が注目されるようになった。 新型コロナウイルス感染症罹患後症状(以下、本文ではPASC:post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infectionとする)は、診断基準を提案する論文はあるが(Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.)、世界的に統一された明確な定義や診断基準はなく、病態や治療法も判明しきってはいない。 PASCはオミクロン株では、過去のアルファ株やベータ株、デルタ株などより発症率が低下していること(Couzin-Frankel J. Science. 2023;379:1174-1175.)や、ワクチン接種者でPASC発症のリスクが軽減する可能性は指摘されていた(Mizrahi B, et al. BMJ. 2023;380:e072529. , Iversen A, et al. Front Public Health. 2024;12:1320059.)が、ウイルス変異の影響(罹患した株による違い)とワクチン接種の効果が、どの程度PASC発症のリスクに影響しているかははっきりしていなかった。 本研究では、新型コロナウイルス感染者のうち、感染時期がプレデルタ株、デルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン未接種者と、感染時期がデルタ株、オミクロン株優勢期だったワクチン接種者のSARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定し、優勢株の時期に関連した影響(ウイルスの特性やそのほかの時間的影響)とワクチンによる効果を報告している。 結果は、「コロナ罹患後症状の累積発生率、変異株で異なるか/NEJM」に報告されたとおりで、ウイルスの特性(変異)による影響も罹患後症状リスク低下に関与していたが、罹患後症状が減少した主因(71.89%)はコロナワクチン接種による影響と考えられた。 本研究の特徴として、退役軍人省の大規模な健康記録を活用したため膨大なデータではあるものの、研究対象集団が主に高齢白人男性で構成されていることがある。PASCが問題となる患者層は、女性、高齢者、BMI高値、喫煙歴や基礎疾患がある患者など(Tsampasian V, et al. JAMA Intern Med. 2023;183:566-580.)であり、リスクファクター層と一部合致していない。しかし、本研究結果は過去の研究と同様の傾向を読み取ることができ、おそらくリスク集団を含めたほかの集団でも、同様の傾向となることは予測されるだろう。 ところで、本研究結果からはコロナワクチン接種がPASC発症のリスク軽減に役立つことはわかったが、ワクチンの種類や接種回数、接種時期については調査していないため、コロナワクチン接種後、どの程度の期間PASCのリスク軽減に役立つかはわからなかった。 COVID-19は、今夏も昨年と同様に増加傾向となっており、当院でも入院を要する中等症・重症患者が増加してきている。 今年も昨年同様に8月中旬ごろにピークを迎え、秋に患者数が減少し、冬季に再度ピークとなる可能性が考えられる。本研究から、新型コロナワクチンはPASC発症のリスク軽減に大きな役割を果たしたことが判明したが、新型コロナワクチンはリスクのある患者に接種することで、重症化率や死亡率の軽減にも役立つことも期待されている。今年度より、新型コロナワクチンは65歳以上や、60~64歳でリスクのある対象者で定期接種となっている(厚生労働省「新型コロナワクチンについて」)。 気道ウイルス感染症は冬季に流行しやすい性質があり、定期接種の対象者に対する秋から冬にかけてのコロナワクチン接種は、COVID-19による入院や死亡を減らすためにメリットが大きいと私は考えている。本研究結果からは、PASCリスク軽減にワクチン接種が大きく貢献したことも確認でき、ワクチン接種を推奨するさらなる1つの理由になるだろう。

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重症敗血症へのアセトアミノフェン、生存日数を改善せず/JAMA

 重症敗血症患者において、アセトアミノフェン(パラセタモール)の静脈内投与は、安全性は高いものの、生存日数および臓器補助(腎代替療法、機械換気、昇圧薬)が不要な日数を改善しないことが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのLorraine B. Ware氏らが実施した「ASTER試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2024年8月6日号で報告された。米国の無作為化第IIb相試験 ASTER試験は、米国の40の病院の救急診療部または集中治療室(ICU)で実施した二重盲検無作為化第IIb相試験であり、2021年10月~2023年4月に参加者のスクリーニングを行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 年齢18歳以上の敗血症で、呼吸器系または循環器系の臓器障害を有する患者447例(平均年齢64[SD 15]歳、女性51%、平均SOFAスコア5.4[SD 2.5]点)を登録した。被験者を、アセトアミノフェン1gを6時間ごとに静脈内投与する群(227例)、またはプラセボ群(220例)に無作為に割り付け、5日間投与した。 主要エンドポイントは、28日目までの生存日数および臓器補助(腎代替療法、機械換気、昇圧薬)が不要な日数とした。28日間の全死因死亡にも差はない ベースラインで全体の76%の患者が昇圧薬の投与を、42%が補助換気を受けており、登録前に44%がアセトアミノフェンの投与を受けていた。 アセトアミノフェンは安全であり、治療群間で肝酵素値の異常や低血圧の頻度、体液バランスに差はなかった。 28日目までの生存日数および臓器補助不要日数は、アセトアミノフェン群が20.2日(95%信頼区間[CI]:18.8~21.6)、プラセボ群は19.6日(18.2~21.0)であり、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:0.6日、95%CI:-1.4~2.6、p=0.56)。 また、臓器補助の各項目のいずれにも両群間に差はなく、28日間の全死因死亡(アセトアミノフェン群17.5% vs.プラセボ群22.5%、群間差:-5.0%、95%CI:-12.4~2.5、p=0.19)にも差はみられなかった。7日以内のARDSの発生率が有意に改善 15項目の副次アウトカムのうち、7日以内の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発生率のみがアセトアミノフェン群で有意に低く(2.2% vs.8.5%、群間差:-6.3%、95%CI:-10.8~-1.8、p=0.01)、他の項目には両群間に差はなかった。 また、アセトアミノフェン群は、2、3、4日目の総SOFAスコア(いずれもp<0.05)とSOFA凝固系スコア(いずれもp<0.05)の改善度が有意に優れた。 著者は、「本試験の結果で重要な点は、重症敗血症では、アセトアミノフェンの6時間ごとの5日間投与はプラセボに比べ、肝障害のバイオマーカーの異常、全身性低血圧、その他の有害事象の発生率に差がなく安全であったことである」としている。

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マクロライドとキノロンを組み合わせたmacrolones、耐性菌に有望か

 2方向から同時に細菌を攻撃する抗菌薬が、薬剤耐性菌と闘うための解決策になるかもしれない。互いに異なる標的に作用する2種類の抗菌薬を組み合わせたmacrolonesと呼ばれる合成抗菌薬が、細菌のタンパク質合成の阻害とDNA複製の阻害という2つの異なる方法で細菌の細胞機能を破壊することが示された。米イリノイ大学シカゴ校(UIC)生物分子科学および薬学分野のAlexander Mankin氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Chemical Biology」に7月22日掲載された。 Macrolonesは、広く使われている2種類の抗菌薬であるマクロライド系抗菌薬とフルオロキノロン系抗菌薬を組み合わせたものである。エリスロマイシンのようなマクロライド系抗菌薬は、細菌の細胞内にあるリボソームでのタンパク質合成を阻害し、シプロフロキサシンのようなフルオロキノロン系抗菌薬は、細菌がDNAを複製する際に必要とする酵素(DNAジャイレース、トポイソメラーゼIV)を標的にする。 今回の研究では、論文の共著者の1人でありUIC生物科学分野のYury Polikanov氏らの構造生物学を専門とする研究室と、Mankin氏らの薬学を専門とする研究室が、さまざまなmacrolonesの細胞内での作用を調べた。 Polikanov氏らはmacrolonesとリボソームの相互作用を調べた。その結果、macrolonesは従来のマクロライド系抗菌薬よりも強固にリボソームに結合し、マクロライド耐性の細菌株のリボソームも阻害することが示された。また、耐性遺伝子の活性化を引き起こすこともないことが確認された。 一方、Mankin氏らの研究室では、macrolonesがリボソームやDNAジャイレースのどちらを優先的に阻害するのかを、さまざまな投与量で調べた。その結果、いくつかの投与量でいずれかの標的を効果的に阻害することが示されたものの、低用量でリボソームとDNAジャイレースの両方に作用する、特に有望なmacrolonesが特定された。 Polikanov氏は、「基本的に同じ濃度で2つの標的を同時に攻撃することで、細菌による単純な遺伝的防御をほぼ不可能にすることができる」と話す。この点についてMankin氏は、「細菌がどちらか一方の標的に対して変異を起こしても(もう一方に対する変異を同時に起こすことはできないため)結果的に耐性を獲得することができないからだ」と説明している。 Polikanov氏は、「この研究の主な成果は、今後、進むべき方向性を明らかにしたこと、また、化学者に対しては、macrolonesが両方の標的を同時に攻撃するように最適化する必要があることを示した点だ」と述べている。

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腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!【とことん極める!腎盂腎炎】第6回

腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!Teaching point(1)セフトリアキソンは1日1回投与が可能で、スペクトラムの広さ、臓器移行性のよさ、腎機能での調整が不要なことから、腎盂腎炎に限らず多くの感染症に対して使用される(2)セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであるが、投与回数の違い、腎機能での調整の有無の違いがある(3)セフトリアキソンは利便性から頻用されているが、効かない菌を理解し状況に合わせて注意深く選択する必要があることや、比較的広域な抗菌薬で耐性化対策のために安易に使用しないことに注意する(4)セフトリアキソンは、1日1回投与の特徴を活かして、外来静注抗菌薬療法(OPAT)に使用される1.セフトリアキソンの歴史セフトリアキソンは、1978年にスイスのF. Hoffmann-La Roche社のR. Reinerらによって既存のセファロスポリン系薬よりさらに強い抗菌活性を有する新しいセファロスポリンの研究開発のなかで合成された薬剤である。特徴としては、強い抗菌活性と広い抗菌スペクトラムならびに優れたβ-ラクタマーゼに対する安定性を有し、かつ既存の薬剤にはない独特な薬動力学的特性をも兼ね備えている。血中濃度半減期が既存のセファロスポリンに比べて非常に長く、組織移行性にも優れるため、1日1回投与で各種感染症を治療し得る薬剤として、広く使用されている。わが国においては、1986年3月1日に製造販売承認後、1986年6月19日に薬価基準収載された。海外では筋注での投与も行うが、わが国においては2024年8月時点では、添付文書上は認められていない。2.特徴セフトリアキソンは、セファゾリン、セファレキシンに代表される第1世代セファロスポリン、セフォチアムに代表される第2世代セファロスポリンのスペクトラムから、グラム陰性桿菌のスペクトラムを広げた第3世代セファロスポリンである。多くのセファロスポリンと同様に、腸球菌(Enterococcus属)は常に耐性であることは、同菌が引き起こし得る尿路感染や腹腔内感染の治療を考える際には重要である。その他、グラム陽性球菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に耐性がある。グラム陰性桿菌は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Stenotrophomonas maltphilia、偏性嫌気性菌であるBacteroides fragilisはカバーせず、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)も感受性があることが少ない。ESBL(extended-spectrum β-lactamase:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌やAmpC過剰産生菌といった耐性菌に対しては感受性がない。グラム陽性桿菌は、リステリア(Listeria monocytogenes)をカバーしない。血漿タンパク結合率が85~95%と非常に高く、半減期は健康成人で8時間程度と長いため、1日1回投与での治療が可能な抗菌薬となる。タンパク結合していない遊離成分が活性をもつ。そのため、重症患者ではセフトリアキソンの実際のタンパク結合は予想されるより小さいとされているが1)、その臨床的意義は現時点では不明である。排泄に関しては、尿中排泄が緩徐であり、1gを投与12時間までの尿中には40%、48時間までには55%の、未変化体での排泄が認められ、残りは胆汁中に、血清と比較して200~500%の濃度で分泌される。水溶性ではあるが、胸水、滑液、骨を含む、組織や体液へ広く分布し、髄膜に炎症あれば脳脊髄移行性が高まり、高用量投与で髄膜炎治療が可能となるため、幅広い感染症に使用される。3.腎盂腎炎でセフトリアキソンを選択する場面は?腎盂腎炎の初期抗菌薬治療は、解剖学的・機能的に正常な尿路での感染症である「単純性」か、それ以外の「複雑性」かを分類し、さらに居住地域や医療機関でのアンチバイオグラム、抗菌薬使用歴、過去の培養検査での分離菌とその感受性結果を踏まえて抗菌薬選択を行う。いずれにしても腎盂腎炎の起因菌は、主に腸内細菌目細菌(Enterobacterales)となり、大腸菌(Escherichia coli)、Klebsiella属、Proteus mirabilisが主な起因菌となる2)。セフトリアキソンは一般的にこれらをすべてカバーするため、多くのマニュアルにおいて第1選択とされている。しかし、忘れられがちであるが、セフトリアキソンは比較的広域な抗菌薬であり、これらの想定した菌の、その地域でのアンチバイオグラム上のセファゾリンやセフォチアムの耐性率が低ければ、1日1回投与でなければいけない事情がない限り、後述の耐性化のリスクや注意点からも、セファゾリンやセフォチアムといった狭域の抗菌薬を選択すべきである。アンチバイオグラムを作成していない医療機関での診療の場合は、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)の都道府県別公開情報3)や、国立研究開発法人国立国際医療研究センター内のAMR臨床リファレンスセンターが管理する感染対策連携共通プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology:J-SIPHE)の公開情報4)を参考にする。国内全体を見た場合にはセファゾリンに対する大腸菌の耐性率は高く、多くの施設において使用しづらいのは確かである。一方で、セフトリアキソンは、前述の通り耐性菌である、ESBL産生菌、AmpC過剰産生菌、緑膿菌はカバーをしないため、これらを必ずカバーをする必要がある場面では使用を避けなければいけない。4.セフトリアキソンとセフォタキシムとの違いは?同じ第3世代セファロスポリンである、セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであり、使い分けが難しい薬剤ではあるが、2剤の共通点・相違点について説明する。セフトリアキソンとセフォタキシムとのスペクトラムについては、尿路感染症の主な原因となる腸内細菌目細菌に対してのスペクトラムの違いはほとんどなく、対象菌を想定しての使い分けはしない。2剤の主な違いは、薬物速度、排泄が大きく異なる点である。セフォタキシムは投与回数が複数回になること、主に腎排泄であり腎機能での用法・用量の調整が必要であり、利便性からはセフトリアキソンのほうが優位性がある。しかし、セフトリアキソンが胆汁排泄を介して便中に排出され、腸内細菌叢を選択するためか5)、セフォタキシムと比較し、腸内細菌の耐性化をより誘導する可能性を示す報告が少なからずある6,7)。そのため、投与回数や腎機能などで制限がない限り、セフトリアキソンよりセフォタキシムの使用を優先するエキスパートも存在する。5.投与量論争? 1gか2gかサンフォード感染症治療ガイドでは、化膿性髄膜炎を除く疾患では通常用量1〜2g静注24時間ごと、化膿性髄膜炎に対しては2g静注12時間ごと、Johns Hopkins ABX guidelineでは、化膿性髄膜炎を除く通常用量1〜2g静注もしくは筋注24時間ごと(1日最大4mg)での投与と記載されている。米国での集中治療室における中枢神経感染症のない患者でのセフトリアキソン1g/日と2g/日を後方視的に比較評価した研究において、セフトリアキソン1g/日投与患者で、2g/日投与患者より高い治療失敗率が観察された8)。腎盂腎炎ではないが、非重症市中肺炎患者を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、1g/日と2g/日の直接比較ではないが、同等の効果が期待できる可能性が示唆された9)。日本における全国成人肺炎研究グループ(APSG-J)という多施設レジストリからのデータを用いたpropensity score-matching研究において、市中肺炎に対するセフトリアキソン1g/日投与は2g/日と比較し、非劣性であった10)。以上から、現時点で存在するエビデンスからは、重症患者であれば、2g/日投与が優先され、軽症の肺炎やセフトリアキソンの移行性のよい臓器の感染症である腎盂腎炎であれば、1g/日も許容されると思われるが、1g/日投与の場合は、慎重な経過観察が必要と考える。6.セフトリアキソン使用での注意点【アレルギーの考え方】セファロスポリン系では、R1側鎖の類似性が即時型・遅延型アレルギーともに重要である11)。ペニシリン系とセファロスポリン系は構造的に類似しているが、分解経路が異なり、ペニシリン系は不完全な中間体であるpenicilloylが抗原となるため、ペニシリン系アレルギーがセファロスポリンアレルギーにつながるわけではない。セフトリアキソンは、セフォタキシム、セフェピムとR1で同一の側鎖構造(メトキシイミノ基)を有するため、いずれかの薬剤にアレルギーがある場合は、交差アレルギーが起こり得るので、使用を避ける。ただし、異なるR1側鎖を有する複数のセファロスポリン系にアレルギーがある場合は、β-ラクタム環が抗原である可能性があり、β-ラクタム系薬以外の抗菌薬を選択すべきである。【胆泥、偽性胆道結石症】小児で問題になることが多いが、セフトリアキソンは胆泥を引き起こす可能性があり、高用量での長期使用(3週間)により胆石症が報告されている。胆汁排泄はセフトリアキソンの排泄の40%までを占め、胆汁中の薬物濃度は血清の200倍に達することがある12,13)。過飽和状態では、セフトリアキソンはカルシウムと錯体を形成し、胆汁中に沈殿する。この過程は、経腸栄養がなく胆汁の停留がある集中治療室患者では、増強される可能性がある。以上から、重症患者、高用量や長期使用の際には、胆泥、胆石症のリスクになると考えられるため、注意が必要である。【末期腎不全・透析患者とセフトリアキソン脳症】脳症はセフトリアキソンの副作用のなかではまれであるが、報告が散見される。セフトリアキソンによる脳症の病態生理的メカニズムは完全には解明されていないが、血中・髄液中のセフトリアキソン濃度が高い場合に、β-ラクタム系抗菌薬による中枢神経系における脳内γ-アミノ酪酸(GABA)の競合的拮抗作用および興奮性アミノ酸濃度の上昇により、脳症が引き起こされると推定されている。セフトリアキソン関連脳症の多くは腎障害を伴い、患者の半数は血液透析または腹膜透析を受けていることが報告され、これらの患者のほとんどは、1日2g以上のセフトリアキソンを投与されていた14)。セフトリアキソンの半減期は、血液透析患者では正常腎機能患者と比較し、8~16時間と倍増することが判明しており15)、透析性の高いほとんどのセファロスポリンとは異なり、セフトリアキソンは血液透析中に透析されない14)。以上から、末期腎不全患者の血中および髄液中のセフトリアキソン濃度が高い状態が持続する可能性がある。サンフォード感染症治療ガイドやJohns Hopkins ABX guidelineなど、広く使われる抗菌薬ガイドラインでは、末期腎不全におけるセフトリアキソンの減量については言及されておらず、一般的には腎機能低下患者では投与量の調節は必要ないが、末期腎不全患者ではセフトリアキソンの減量を推奨するエキスパートも存在する。また1g/日の投与量でもセフトリアキソン脳症となった報告もあるため16)、長期投与例で、脳症を疑う症例があれば、その可能性に注意を払う必要がある。7.外来静注抗菌薬療法(OPAT)についてOPATはoutpatient parenteral antimicrobial therapyの略称で、外来静注抗菌薬療法と訳され、外来で行う静注抗菌薬治療の総称である。外来で点滴抗菌薬を使用する行為というだけではなく、対象患者の選定、治療開始に向けての患者教育、治療モニタリング、治療後のフォローアップまでを含めた内容となっている。OPATという名称がまだ一般的ではない国内でも、セフトリアキソンは1日1回投与での治療が可能という特性から、外来通院や在宅診療でのセフトリアキソンによる静注抗菌薬治療は行われている。外来・在宅でのセフトリアキソン治療は、本薬剤による治療が最も適切ではあるものの、全身状態がよく自宅で経過観察が可能で、かつアクセスがよく連日治療も可能な場合に行われる。OPATはセフトリアキソンに限らず、インフュージョンポンプという持続注射が可能なデバイスを使用することで、ほかの幅広い薬剤での外来・在宅治療が可能となる。詳細に関しては、馳 亮太氏(成田赤十字病院/亀田総合病院感染症内科)の報告を参考にされたい17)。1)Wong G, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:6165-6170.2)原田壮平. 日本臨床微生物学会雑誌. 2021;31(4):1-10.3)厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業:道府県別公開情報.4)感染対策連携共通プラットフォーム:公開情報.5)Muller A, et al. J Antimicrob Chemother. 2004;54:173-177.6)Tan BK, et al. Intensive Care Med. 2018;44:672-673.7)Grohs P, et al. J Antimicrob Chemother. 2014;69:786-789.8)Ackerman A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2020;64:e00066-20.9)Telles JP, et al. Expert Rev Anti Infect Ther. 2019;17:501-510.10)Hasegawa S, et al. BMC Infect Dis. 2019;19:1079.11)Castells M, et al. N Engl J Med. 2019;381:2338-2351.12)Arvidsson A, et al. J Antimicrob Chemother. 1982;10:207-215.13)Shiffman ML, et al. Gastroenterology. 1990;99:1772-1778.14)Patel IH, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1984;25:438-442.15)Cohen D, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1983;24:529-532.16)Nishioka H, et al. Int J Infect Dis. 2022;116:223-225.17)馳 亮太ほか. 感染症学雑誌. 2014;88:269-274.

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第228回 ウイルス感染の運命の鍵を握る脂肪酸生成酵素を同定

ウイルス感染の運命の鍵を握る脂肪酸生成酵素を同定2013年に中国で初めて確認された鳥インフルエンザのヒト感染で、およそ35%が命を落としています。その感染で死ぬ人とそうでない人の運命の差はどのようにして生じるのか?オーストラリアのPeter Doherty Institute for Infection and Immunityと世界各地の16の研究所のチームの取り組みで、OLAHという名の意外な酵素遺伝子がその運命の分かれ道の鍵を握ると示唆されました1-3)。OLAHはオレイン酸などの脂肪酸生成に携わるオレオイル-アシル-キャリアタンパク質加水分解酵素の遺伝子です。何らかの病気の免疫や経過に寄与するOLAHの役割を調べた研究はかつてありませんでした。そんな意外な遺伝子にたどり着いた今回の研究の手始めに、チームは鳥インフルエンザA(H7N9)感染で死んだ4例の血液を解析しました。先立つ成果から予想されたとおり、サイトカイン過剰がもたらす炎症の高まりが認められました。遺伝子発現を調べたところOLAHを含む10種の発現が上がるか下がっていました。OLAHの発現は感染の初期から死に至るまでずっと高く、感染するも死なずに済んだ4例に比べて約82倍も上回っていました。OLAHの発現上昇は鳥インフルエンザA(H7N9)感染に限らず他のウイルス感染でも生じるようです。入院して人工呼吸に至った季節性インフルエンザ患者3例のOLAH mRNAは健康な人をだいぶ上回りました。米国のいくつかの小児病院の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者群の最重症例でもOLAHの発現が高まっていました。テネシー州の同じく小児病院の23例の血液を解析したところ、より重症の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染とOLAHが多いことが関連しました。続くマウスの検討でOLAHが感染の重症化を促すことが示されました。検討の結果、OLAH遺伝子を省いたマウスは致死量のインフルエンザウイルスを被っても生き残れましたが、対照群の野生型マウスはそうはいかず約半数が死にました。OLAH欠損マウスのインフルエンザ感染の病状が軽いことは、免疫細胞の1つであるマクロファージでの脂肪滴形成の抑制のおかげのようです。今回の研究によるとマクロファージでのOLAH発現はウイルス感染に伴う脂肪滴形成を促し、果てはサイトカイン生成を増やします。一方、脂肪滴形成を阻害するとマクロファージでのウイルス感染が減りました。さらに突き詰めると、OLAHの酵素反応の主産物であるオレイン酸がマクロファージでのウイルス複製を促します。マウスにオレイン酸を与えたところマクロファージでのインフルエンザウイルス複製が増え、炎症反応が促進しました。また、COVID-19患者73例を調べたところ、入院した35例のオレイン酸は外来治療で済んだ患者38例に比べて過剰でした。いまや研究者はオレイン酸過剰の呼吸器感染症患者の治療に使いうるOLAH阻害化合物作りに取り組んでいます4)。また、OLAHの量を測定し、最終的には重症度を予測しうる診断検査も開発したいと考えています。参考1)Jia X, et al. Cell. 2024 Aug 6. [Epub ahead of print] 2)Scientists discover gene linked to the severity of respiratory viral infections / Peter Doherty Institute for Infection and Immunity3)Study reveals oleoyl-ACP-hydrolase underpins lethal respiratory viral disease / St. Jude Children’s Research Hospital4)An unexpected gene may help determine whether you survive flu or COVID-19 / Science

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重症HDFNのリスクが高い妊婦、nipocalimabが胎児輸血を抑制/NEJM

 早期発症の重症胎児・新生児溶血性疾患(HDFN)では、母体の抗赤血球IgG同種抗体が経胎盤的に胎児に移行することで胎児貧血が引き起こされ、これによる胎児水腫や胎児死亡を回避するために高リスクの子宮内胎児輸血が行われている。米国・テキサス大学オースティン校のKenneth J. Moise氏らは「UNITY試験」において、重症HDFNのリスクが高い妊娠では、胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬nipocalimabが、過去の基準値(historical benchmark)と比較して胎児貧血とこれに対する胎児輸血を遅延または予防することを示した。研究の成果は、NEJM誌2024年8月8日号に掲載された。国際的な単群第II相試験 UNITY試験は、重症HDFNのリスクが高い妊婦の胎児輸血回避におけるnipocalimabの安全性と有効性の評価を目的とする国際的な非盲検単群第II相試験であり、2019年4月~2022年11月に参加者を登録した(Janssen Research and Developmentの助成を受けた)。 年齢18歳以上、早期発症の重症HDFNのリスクが高い単胎妊娠の妊婦に対し、妊娠14~35週にnipocalimab(30~45mg/kg体重)を週1回、静脈内投与した。7ヵ国8施設で13例(平均年齢35.8±4.8歳、白人12例[92%])の妊婦(14件の妊娠)を登録し、生児出生12例を解析に含めた。 主要エンドポイントは、胎児輸血なしでの妊娠32週以降の生児出生とし、過去の基準値(0%)と比較した(臨床的に意義のある差は10%)。54%で主要エンドポイント達成 胎児輸血なしでの妊娠32週以降の生児出生は、13件の妊娠中7件(54%、95%信頼区間[CI]:25~81)で認め、これは過去の基準値との臨床的に意義のある差(10%)を有意に上回った(p<0.001)。 胎児水腫の発症はなく、6例(46%)は出生前輸血も新生児輸血も受けなかった。胎児輸血を受けたのは6例(46%)で、このうち5例は妊娠24週以降であり、1例は妊娠22週5日に受けた後に死亡した。 生児出生12例の分娩時の妊娠期間中央値は36週4日だった。このうち1例が1回の交換輸血と1回の単純輸血を受け、5例が単純輸血のみを受けた。さらなる評価を進めることを支持する結果 母体の検体と臍帯血に、同種抗体力価とIgG値の治療関連の低下を認めた。母親と生児に、まれな感染症はみられなかった。 重篤な有害事象は、母親13例中5例(38%)、生児12例中5例(42%)にみられ、重度有害事象はそれぞれ6例(46%)および4例(33%)で発現し、HDFN(黄疸、高ビリルビン血症、貧血)、未熟性(呼吸困難)、妊娠に関連したものであった。とくに注目すべき有害事象は、母親5例(38%)および生児4例(33%)で発現した。 著者は、「これらの予備的な有効性の結果は、予備的な安全性のデータや予想される薬効機序のエビデンスと共に、重症HDFNにおけるnipocalimabのさらなる評価を進めることを支持するものである」としている。

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HIV感染症完治と見られる7例目の症例が報告される

 あるドイツ人男性が、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症が完治した7人目の患者となったと、シャリテ・ベルリン医科大学(ドイツ)のOlaf Penack氏らが報告した。報告書の中で「次のベルリンの患者(next Berlin patient)」と表記されているこの60歳の男性は、2015年10月に急性骨髄性白血病の治療のため幹細胞移植を受けていた。彼は2018年9月、エイズを引き起こすウイルスであるHIVを抑制するために必要な抗レトロウイルス薬の服用を中止したが、それ以来、約6年間にわたってHIVが検出されていないという。この症例については、同医科大学のChristian Gaebler氏が、第25回国際エイズ会議(AIDS 2024、7月22~26日、ドイツ・ミュンヘン)で報告予定。 男性の治療を担当した医師らは、この症例からHIV感染症の遺伝子治療が全ての患者に治癒をもたらす可能性を示す新たな知見が得られたと話している。これまでに報告されているHIV感染症の完治例とは、白血病などの血液がんの診断後に幹細胞移植を受けたという点が共通している。これらの症例でHIV感染症が完治に至ったのは、幹細胞提供ドナーが、白血球の表面に存在するCCR5(C-Cケモカイン受容体5)をコードする2つのCCR5遺伝子にCCR5-delta 32と呼ばれる変異を保有していたからだった。この遺伝子変異は、HIVが免疫細胞に侵入するのを阻害することで、この変異を保有する人にHIVに対する免疫を与えるとPenack氏らは説明している。 今回報告された「次のベルリンの患者」は、CCR5-delta 32を1コピーのみ持っているドナーから提供された幹細胞が移植され、完治に至った初めての例であるという。1コピーのみ持つドナーからの幹細胞の場合、HIVに感染する可能性は残るが、感染しても病気の進行は遅くなる。Penack氏は、「われわれはHIVに対して免疫を持つ幹細胞ドナーを見つけることはできなかったが、細胞にCCR5受容体の2つのバージョン、つまり正常なものと遺伝子変異したものの2種類を持つドナーを見つけることはできた」と言う。 遺伝子変異のコピーを2つ持っている人よりも1つだけ持っている人の方がはるかに多いため、将来的に血液がんを併発したHIV感染者のHIV感染症が完治する確率が高まる可能性があるとPenack氏らは期待を示している。 Penack氏は、「この患者が良好な健康状態で元気に過ごしていることを、われわれは極めて喜ばしく思っている」と話す。また同氏は、「彼は5年以上にわたって経過観察下にあるが、その間ずっとHIVが検出されない状態が続いている。このことは、彼の体からHIVを完全に消滅させることに成功したことを示している。したがって、われわれは彼のHIV感染症は完治したと考えている」としている。 Gaebler氏は、「幹細胞ドナーがHIVに対する免疫を持っていなかったにもかかわらず、この患者が完治に至ったことは極めて驚くべきことだ」とシャリテ・ベルリン医科大学病院のニュースリリースの中で述べ、「免疫のないドナーから提供された幹細胞の過去の移植症例では、移植の数カ月後にはHIVが複製を再開していた」としている。 国際エイズ学会会長のSharon Lewin氏は、「幹細胞移植は白血病のような他の疾患の患者に対してのみ行われる治療ではあるが、『次のベルリンの患者』の経験から、このような症例に対してドナープールを拡大できることが示唆された」と話す。また、同氏は、「このことは、将来的にHIV感染症を治癒に導く戦略につながり得るという点で有望だ。それは、寛解を達成するためにCCR5をひとつ残らず除去する必要はないことが示されたからだ」と同学会のニュースリリースの中で付け加えている。 ただし、このことはCCR5遺伝子の変異がHIV感染症の治癒には全く関与していない可能性も示しているとGaebler氏は指摘。その場合、ドナーから移植された免疫細胞が「次のベルリンの患者」のHIVに感染した全ての細胞を排除したことで、患者が治癒に至ったと考えられるとしている。

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第206回 日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO

<先週の動き>1.日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO2.市町村国保2年連続で赤字拡大、医療費適正化など検討/厚労省3.医師の偏在に危機感、厚労省に地域枠拡大と定員増を求める/全国知事会4.臓器あっせん機関の複数化で移植体制強化へ/厚労省5.岩本前理事長を全役職から解任、諮問委員会を設置/東京女子医大6.障害福祉サービスの不正受給が続発、監査体制に課題1.日本でも広がるエムポックス感染、WHOが再び緊急事態を宣言/WHO世界保健機関(WHO)は2024年8月14日、アフリカ中央部で拡大するエムポックス(サル痘)に対し、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を再び宣言した。2022年7月に続き、2度目の宣言となる。コンゴ民主共和国を中心に感染が急拡大しており、WHOは国際的な協力の重要性を強調。日本国内ではこれまでに248例の感染が確認され、今後も慎重な対応が求められている。エムポックスは、天然痘ウイルスに似たウイルスによる感染症で、症状には発熱、頭痛、リンパ節の腫れ、水疱を伴う発疹が含まれる。発症から自然回復まで2~4週間程度かかるが、死亡例も報告されている。感染経路は、動物との接触や感染者との濃厚接触を通じたものであり、とくにMSM(男性と性的接触を行う男性)がリスクグループとされるが、女性や子供にも感染が広がっている。今回の流行は、コンゴ民主共和国で新たに確認された「クレード1b」系統が主な原因とされ、とくに女性や子供の間で感染が拡大していることが特徴。WHOは、ワクチンの供給と接種の強化を求めており、日本政府もコンゴへのワクチン供与の準備を進めている。わが国では、感染が確認された248例のうち、エイズウイルス(HIV)感染者を含む一部の患者が死亡している。国内での感染者数は増加傾向にあり、関係省庁は引き続き検査体制の強化と感染者の早期発見に注力している。エムポックスの新たな流行が広がる可能性は低いとされているが、予防策としてのワクチン接種が進められる見通しだ。参考1)「緊急事態宣言」2度目のエムポックス(サル痘) 日本でも散発的に発生、248例を確認(産経新聞)2)エムポックス対応「万全期す」 緊急事態で厚労相 ワクチン供与も(朝日新聞)3)WHO、エムポックスの感染拡大で「緊急事態」宣言 22年7月以来(同)2.市町村国保2年連続で赤字拡大、医療費適正化など検討/厚労省8月8日に厚生労働省は、市町村が運営する国民健康保険(国保)の2022年度決算を発表し、実質収支が1,067億円の赤字となったことを明らかにした。これは2年連続の赤字であり、前年度から赤字幅が約1,000億円拡大した。主な要因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による受診控えが影響し、交付金が減額されたこと、高齢化に伴う医療費の増加、そして国保加入者の減少に伴う保険料収入の減少である。2022年度の国保加入者数は前年度から124万人減少し、過去最少の2,413万人となった。この減少は、団塊の世代が75歳以上となり後期高齢者医療制度に移行したことが一因とされる。加入者減少により、保険料収入も9年連続で減少し、前年度比502億円減の2兆4,513億円となった。一方、国からの支出金は823億円減の3兆3,650億円、他の医療保険からの交付金も2,521億円減の3兆5,397億円となった。これに対し、医療費の自己負担を除く「保険給付費」は、加入者減少により1,338億円減少したものの、8兆6,244億円に達している。国保の財政状況は、加入者の4割以上が65~74歳の高齢者であり、1人当たりの医療費が高い一方で、加入者の平均所得が低いため、厳しさが増している。これに加え、COVID-19の影響による受診控えが、2020年度の交付金に影響を与え、その後の赤字をさらに拡大させた。厚労省は、医療費の適正化を進めるとともに、財政支援のあり方も検討する考えを示している。国保の持続可能な運営を図るためには、これまで以上に効果的な対策が求められる状況にある。参考1)令和4年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況について(厚労省)2)市町村国保、2年連続の赤字 コロナ受診控えの影響 厚労省(時事通信)3)国民健康保険の2022年度収支、1,067億円の赤字 赤字幅拡大(朝日新聞)4)「国民健康保険」令和4年度決算 実質的な収支1,067億円の赤字(NHK)3.医師の偏在に危機感、厚労省に地域枠拡大と定員増を求める/全国知事会地域の医師不足の深刻化に対し、地方12県の知事団体と全国知事会が相次いで医師不足解消に向けた提言をまとめ、厚生労働省や文部科学省に提出した。8月9日、岩手県など12県の知事団体は、医師の偏在がとくに顕著な地域における医学部定員の増加と「地域枠」の拡大を求め、医師不足が深刻な地域での地域医療崩壊を防ぐための対策を訴えた。また、これに先立つ8月1日には、全国知事会が2040年を見据えた医療・介護提供体制の構築に向けた提言を発表し、医師不足が顕著な地域や診療科に対応するための医学部新設や別枠制度の創設を求めた。全国知事会の提言では、医師需給の再検証を行い、地域ごとに必要な医師数を算定した上で定員を設定することを要請。また、医学部臨時定員増の延長や恒久定員の増員も求め、地域医療の維持に向けた具体的な方策を示した。これには、医師偏在指標に基づく定員設定や都市部と地方の医師派遣の連携強化、さらには専攻医の募集定員におけるシーリングの厳格な適用も含まれている。岩手県の達増 拓也知事は提言の提出後、記者団に対し「医師不足対策が今年の骨太の方針に盛り込まれたことは大きなチャンスであり、対策が前進することを期待している」と語った。これに対し、厚労省は、年末までに医師の偏在解消に向けた総合的な対策パッケージを策定する予定であり、これらの提言が今後の議論に影響を与えることが期待される。これらの提言は、医師不足が深刻な地域での医療崩壊を防ぎ、全国的な医師の適正配置を目指すものであり、地方の医療を支えるために国が一層の対策を講じる必要性が強く求められている。参考1)2040年を見据えた医療・介護提供体制の構築に向けた提言(全国知事会)2)「医師の偏在」解決へ 12県の知事団体が厚労省などに提言提出(NHK)3)医学部定員増の延長提言、医師不足の岩手など 厚労省に(日経新聞)4)全国知事会が2040年を見据え医師不足顕著な地域での医学部新設を提言(日経メディカル)4.臓器あっせん機関の複数化で移植体制強化へ/厚労省厚生労働省は、臓器移植の円滑な実施と体制の見直しを進めるため、日本臓器移植ネットワーク(JOT)の業務を分散する方針を検討している。JOTは現在、国内唯一の臓器あっせん機関として、臓器提供者の家族対応や移植希望者の選定など、多岐にわたる業務を担っているが、コーディネーターの派遣が不足し、対応の遅れが指摘されている。2024年8月14日に開かれた厚労省の臓器移植委員会では、JOTに業務が集中している現状を改善するため、臓器提供に関する家族への対応を各都道府県に配置された地域のコーディネーターが担うことを提案。さらに、複数のあっせん機関を設置し、JOTの負担軽減を図る案も示された。委員会では、これらの案を基に、今後の体制見直しを進める予定で、早ければ2024年10月にも結論が出る見通し。また、脳死状態にある患者の情報共有を強化し、臓器提供の可能性を高めるため、医療機関とあっせん機関の連携を強化することも検討されている。現在、脳死と診断され得る患者数は国内に約4,400人いるが、実際に家族に臓器提供の選択肢が示されるのは約25%に過ぎず、提供者数は限られている。JOTに対しては、知的障害者に対する臓器提供の扱いについて差別的な運用が行われていたことが判明し、組織としてのガバナンスも問われている。これを受け、厚労省は過去の事例についても調査を進め、改善策を検討することを求めている。今回の見直しによって、臓器移植の体制が強化され、より多くの患者が適切な移植を受けられることが期待される。参考1)「日本臓器移植ネットワーク」業務分散を検討へ 厚労省専門委(NHK)2)臓器あっせん機関の複数化、厚労省検討 移植推進へ体制を大幅見直し(朝日新聞)5.岩本前理事長を全役職から解任、諮問委員会を設置/東京女子医大8月16日に東京女子医科大学(東京都新宿区)は、臨時評議員会を開催し、岩本 絹子前理事長を理事および評議員から解任した。これにより、岩本氏は大学のすべての役職から退くこととなった。岩本氏は、同大学の同窓会組織「至誠会」を巡る特別背任容疑で警視庁の捜査対象となっており、勤務実態のない女性職員に約2,000万円の給与を支払った疑いが持たれている。また、第三者委員会の調査により、岩本氏が自身の側近に過大な報酬を与え、不正な資金の流れを作り出していたことが指摘されている。今回の解任に伴い、大学は再発防止策を講じるため「新生東京女子医科大学のための諮問委員会」を設置した。この委員会は、企業再生、ガバナンス、内部統制、コンプライアンスなどの分野に精通した5名の専門家で構成され、大学経営の正常化に向けた助言を行う予定。委員には、元厚生労働省局長の岩田 喜美枝氏、青山学院大学名誉教授の八田 進二氏などが名を連ねている。同大学は、理事長の解任により、過去の不正に対する責任を明確にするとともに、諮問委員会の助言を基に経営体制の立て直しを図る考え。さらに、新理事長に就任した肥塚 直美氏を中心に、関係者全員が責任を果たし、新たなスタートを切る方針を固めている。参考1)諮問委員会設置のお知らせ(東京女子医大)2)東京女子医大の岩本前理事長、理事・評議員も解任 評議員会が議決(朝日新聞)3)東京女子医大、岩本絹子・前理事長を全役職から解任…「一強体制」で数々の疑惑(読売新聞)4)東京女子医大の前理事長、大学から完全に離れる 臨時評議員会で理事職からも解任(東京新聞)6.障害福祉サービスの不正受給が続発、監査体制に課題障害福祉サービスを巡る不正受給が深刻な問題となっている。2023年度までの5年間で、不正受給の総額は58億6千万円を超え、全国で427件の行政処分が行われた。とくに、放課後などデイサービスや就労支援、訪問系サービスにおいて、利用者数や日数の水増し、職員配置の偽装といった不正が多くみられた。名古屋市では、グループホーム運営会社「恵(めぐみ)」が3つの事業所で2億円を超える不正請求を行っていたことが発覚し、事業所指定の取り消しなどの行政処分が下された。この事例を含め、多くの自治体が不正行為の摘発と対応に追われている。障害福祉サービスは、障害者が地域で自立した生活を送るために重要な役割を果たしている。しかし、事業所数の急増に伴い、自治体による監査が追いつかず、不正行為が横行している現状がある。厚生労働省は、事業所の適切な運営を確保するために3年に1度の現地調査を指導しているが、自治体の人員不足や新型コロナウイルス感染症の影響で、実施率は低いままに止まっている。こうした背景から、自治体や厚労省は、不正受給の防止に向けた体制の強化が急務としている。福祉サービスの質の確保と適正な運営を目指し、今後、事業者に対するチェック体制や参入要件の厳格化が求められる。参考1)障害福祉サービスの不正受給58億円超 19~23年度全国調査、行政処分は427件(中日新聞)2)「親から金とってないんだからいいじゃん」障害福祉不正、悪質な事業者は後を絶たず(中日新聞)3)障害児事業2億円不正請求 「恵」運営の名古屋3施設(東京新聞)

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