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“Real-world”での高齢者に対するRSVワクチンの効果(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 60歳以上の高齢者に対する呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syncytial Virus)に対するワクチンの薬事承認を可能にした第III相臨床試験の結果に関しては以前の論評で議論した(CLEAR!ジャーナル四天王-1775)。今回は実臨床の現場で得られたデータを基に高齢者に対するRSVワクチンの“Real-world”での効果(入院、救急外来受診予防効果)を検証し、高齢者に対するRSVワクチン接種を今後も積極的に推し進めるべき根拠が提出されたかどうかについて考察する。RSVのウイルス学的特徴 RSVは本邦において5類感染症に分類されるParamyxovirus科のPneumovirus属に属するウイルスである。RSVはエンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示すネガティブ・センス一本鎖RNAウイルスで、11個の遺伝子をコードする約1万5,000個の塩基からなる。自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。ヒトRSVの始祖は1766年頃に分岐し、2000年以降に下記に述べる複数のA型ならびにB型に分類される亜型が形成された(IASR. 国立感染症研究所. 2022;43:84-85.)。A型、B型を特徴付けるものはRSVの膜表面に存在する糖蛋白(G蛋白)の違いである。G蛋白は宿主細胞との接着に関与し、宿主の免疫に直接さらされるためRSVウイルスを形成する構造の中で最も遺伝子変異を生じやすく、A型、B型には約20種以上の亜型が報告されている(A型:NA1、NA2b、ON1など、B型:BA7、BA8、BA9、BA10など)。しかしながら、A型とB型ならびにそれらの亜型によって病原性が明確に異なることはなく、A型、B型が年の単位で交互に流行すると報告されている。G蛋白によって宿主細胞と接着したRSVは、次項で述べるF蛋白(1,345個のアミノ酸で構成)を介して宿主細胞と融合し細胞内に侵入する。 新生児においては母親と同程度のRSV抗体(母体からのIgG移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し生後7ヵ月で新生児のRSV抗体は消失する。すなわち、RSV液性抗体の持続期間は約6ヵ月と考えなければならない。これ以降に認められるRSV抗体は生後に起こった新規感染に起因する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、ヒトは生涯を通じてRSVの再感染を繰り返し、血液RSV抗体価は再感染に依存して上昇・下降を繰り返す。新生児の現状を鑑みると、RSV抗体が有意に存在する生後6ヵ月以内の新生児において新規のRSV感染は、より重篤な呼吸器病変を発現する場合があることが知られている。すなわち、RSVに対するワクチン接種によって形成されるRSV液性免疫は即座に感染防御を意味するものではなく、RSVを標的としたワクチン接種がより重篤な呼吸器病変を誘発する可能性があることを念頭に置く必要がある。以上の事実は、RSVワクチン接種を今後励行するか否かは、その予防効果を確実に検証した臨床試験の結果を踏まえて決定する必要があることを意味する。RSVワクチンの薬事承認 RSVに対するワクチンの開発は1960年代から始まり、不活化ワクチンの生成が最初に試みられた。しかしながら、不活化ワクチンは“抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)”を高頻度に発現し、臨床的に使用できるものではなかった。それ以降、RSVの蛋白構造ならびに遺伝子解析が進められ、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的作用を有する膜融合蛋白(F蛋白:Fusion protein、コロナウイルスのS蛋白に相当)を標的にすることが有効な薬物作成に重要であることが示された。実際には、宿主の細胞膜と融合していない安定した3次元構造を有する膜融合前F蛋白(Prefusion F protein)が標的とされた。まず初めに膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えモノクローナル抗体(mAb)であるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のリスクを有する新生児、乳児のRSV感染に伴う下気道病変の重症化阻止薬として使用されている。 新型コロナ発生に伴い高度の蛋白・遺伝子工学技術を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、Protein-based vaccine(Subunit vaccine)とGene-based vaccineが存在する。これらの技術がRSVワクチンの作成にも適用され、遺伝子組み換え膜融合前F蛋白を抗原として作成されたProtein-based vaccineである、グラクソ・スミスクライン(GSK)のアレックスビー筋注用(A型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチン)とファイザーのアブリスボ筋注用(A型、B型両方のF蛋白を添加した2価ワクチン)が存在する。一方、Gene-based vaccineとしてはModernaのmRESVIA(mRNA-1345、A型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチン)が存在する。 GSKのアレックスビーは60歳以上の高齢者を対象としたRSV予防ワクチンとして世界に先駆け2023年5月に米国FDA、2023年9月に本邦厚生労働省の薬事承認を受けた。2024年11月、本邦におけるアレックスビーの適用が種々の重症化リスク(慢性肺疾患、慢性心血管疾患、慢性腎臓病または慢性肝疾患、糖尿病、神経疾患または神経筋疾患、肥満など)を有する50~59歳の成人にまで拡大された。一方、ファイザーのアブリスボは母子ならびに高齢者用のRSVワクチンとして2023年8月に米国FDAの薬事承認を受けた。本邦におけるアブリスボの薬事承認は2024年1月であり、適用は母子(妊娠28~36週に母体に接種)に限られ高齢者は適用外とされた。これは、アブリスボが高齢者に対して効果がないという意味ではなく、アレックスビーとの臨床的すみ分けを意図した日本独自の政治的判断である。ModernaのmRESVIA(mRNA-1345)は、2024年5月に高齢者用RSVワクチンとして米国FDAの薬事承認を受けたが本邦では現在申請中である。 以上より、2024年12月現在、本邦のRSV感染症にあっては、母子に対してはファイザーのアブリスボ、60歳以上の高齢者あるいは50歳以上で重症化リスクを有する成人に対してはGSKのアレックスビーを使用しなければならない。高齢者RSV感染に対するワクチンの予防効果―主たる臨床試験の結果Protein-based vaccineの第III相試験 60歳以上の高齢者を対象としたGSKのアレックスビーに関する国際共同第III相試験(AReSVi-006 Study)は2万4,966例を対象として追跡期間が6.7ヵ月(中央値)で施行された(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。ワクチンのRSV下気道感染全体に対する予防効果は82.6%であり、A型、B型に対する予防効果に明確な差を認めなかった。COPD、喘息、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患などの基礎疾患を有する高齢者に対する下気道感染予防効果は94.6%と高値であった。ワクチン接種により、RSVに対する中和抗体(液性免疫)ならびにCD4陽性T細胞性免疫が発現する。しかしながら、アレックスビー接種後の液性免疫、細胞性免疫の持続期間に関する正確な情報は提示されていない。有害事象はワクチン群の71.6%に認められたが、注射部位を中心とする局所副反応が中心であった。本邦では適用外であるが、60歳以上の高齢者を対象としたファイザーのアブリスボに関する治験結果も報告されており、予防効果はGSKのアレックスビーとほぼ同等であった(国際共同第III相試験:C3671008試験、2024年1月18日ファイザー発表)。Gene-based vaccineの第III相試験 高齢者を対象としたGene-based vaccineであるModernaのmRESVIA(mRNA-1345)に関する国際共同第III相試験は、3万5,541例を対象とし、追跡期間3.7ヵ月(中央値)で施行された。RSV関連下気道感染に対する予防効果は83.7%であり、基礎疾患の有無、RSVの亜型(A型、B型)によって予防効果に明確な差を認めなかった(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。以上の結果は、Gene-based vaccineの予防効果はProtein-based vaccineと質的・量的に同等であり、mRESVIAは本邦においても来年度には厚労省の薬事承認が得られるものと期待される。Real-worldでの観察結果 綿密に計画された第III相試験ではなく、ワクチン承認後の最初のRSV流行シーズンでの60歳以上の高齢者を対象とした“Real-world”でのRSVワクチン予防効果に関する報告が米国から提出された(Payne AB, et al. Lancet. 2024;404:1547-1559.)。この検討は、米国8州の電子カルテネットワークVISION(Virtual SARS-CoV-2, Influenza, and Other respiratory viruses Network)を用いて施行された(対象の集積は2023年10月1日~2024年3月31日の6ヵ月)。解析対象は試験期間中にVISIONによって抽出された入院症例(3万6,706例)あるいは救急外来を受診した症例(3万7,842例)であった。入院症例のうちGSKのアレックスビー、ファイザーのアブリスボを接種していた人の割合はおのおの7%、2%であった。救急外来を受診した症例にあっては、アレックスビーを接種していた人が7%、アブリスボを接種していた人が1%であった。 免疫正常者の入院者数は2万8,271例で、RSV関連入院に対するワクチンの予防効果は80%、RSV感染による重篤な転帰(ICU入院、死亡)に対するワクチンの予防効果は81%であり、重症化もワクチン接種によって明確に軽減できることが示された。免疫正常者のRSV関連救急外来受診者数は3万6,521例で、ワクチン接種の予防効果は77%であった。免疫不全患者のRSV感染による入院者数は8,435例で、免疫不全症例におけるRSV感染関連入院に対するワクチンの予防効果は73%であった。以上の結果はワクチンの種類によって影響されなかった。すなわち、第III相試験ならびにReal-worldでの観察結果は高齢者に対するRSVワクチン接種の有効性を証明した。数十年前に作成されたRSV不活化ワクチン接種時に高頻度に認められた“抗体依存性感染増強”を中心とする重篤な副反応は、現在のProtein-based vaccine、Gene-based vaccineでは発生しないことが実臨床の場で確認された。 成人におけるRSVワクチン接種の今後の課題として、以下が挙げられる。1)ワクチン接種後のIgG由来の液性免疫動態ならびにT細胞由来の細胞性免疫動態の時間的推移を確実にする必要がある。この解析を介してRSVワクチンの至適接種回数を決定できる(年2回、年1回、2年に1回など)。米国CDCは成人に対するRSVワクチンは毎年接種する必要はないとの見解を示しているが、ワクチン接種後の液性免疫、細胞性免疫の持続期間が確実にならない限り、米国CDCの推奨が正しいとは結論できない。2)ワクチン作成の本体を担うF蛋白に関して、その遺伝子変異の状況をもっと詳細にモニターするシステムを構築する必要がある。これによって今後のRSV流行時に、今年度までに作成されたワクチンをそのまま適用できるか否かを決定できる。3)ワクチン接種時期はその年の流行直前が理想的である。しかしながら、本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、成人データは確実性に乏しい。今後、RSV感染症に関する流行情報を、成人を含めた広範囲な対象で収集する本邦独自のサーベイランス・システムの構築が必要である。この情報を基に、高齢者におけるワクチン接種の正しい時期を決定する必要がある。4)小児では迅速抗原検査がRSV感染の診断に有用であるが、成人では感染に伴うウイルス量が少なく迅速抗原検査の感度が低い(単独PCR検査の10~20%)。すなわち、現状では成人におけるRSV感染の簡易確定診断が難しく、RSVワクチン接種の対象となる成人を抽出するのに支障を来す。たとえば、ワクチン接種前数ヵ月以内の感染者に対してはワクチン接種を避けるべきである。5)本邦ではRSVワクチン接種の対象が50歳以上(ただし、感染による重症化リスクを有する)まで引き下げられたが、米国CDCは今年になって、本邦の考えとは逆にRSVワクチン接種の対象を75歳以上あるいは60~74歳で重症化リスクを有する高齢者に引き上げた。米国CDCの考えは、医学的側面に加え医療経済的側面を考慮した変更と考えられる。従来の対象者選択基準が正しいのか、米国CDCの新たな選択基準が正しいのか、今後の“Real-world”での観察結果が待たれる。

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Staphylococcus saprophyticusによる膀胱炎【1分間で学べる感染症】第17回

画像を拡大するTake home messageStaphylococcus saprophyticusは膀胱炎の原因菌として重要!Staphylococcus saprophyticus(S. saprophyticus)は、聞き慣れない方も多いと思いますが、膀胱炎の原因菌として、とくに若年女性を診るときに重要な菌の1つです。今回は、このS. saprophyticusに関して一緒に学んでいきましょう。歴史的背景S. saprophyticusは、もともとは尿培養から検出された場合でもコンタミネーションと考えられていました。しかし、1960年代からとくに若年女性においてこの菌が頻繁に検出されることが認識され、膀胱炎における大腸菌以外の主要な病原菌として注目されるようになりました。微生物学的特徴S. saprophyticusはグラム陽性球菌であり、コアグラーゼ陰性、非溶血性です。古典的には、ノボビオシンに対する耐性があることが、ほかのコアグラーゼ陰性菌と区別するための重要な特徴とされてきました。もう1つの重要な特徴がウレアーゼ産生で、この特性によって腎結石および尿管結石を形成しやすいとされています。病原因子S. saprophyticusの病原因子としては、表面関連タンパク質による尿路上皮細胞への粘着やヘマグルチニン、ヘモリシンなどの産生が知られています。これらの機序により尿路において病原性を示し、尿路感染症を引き起こします。臨床症状若年女性の膀胱炎や尿路結石で多くの報告があります。まれですが、腎盂腎炎、尿道炎、副睾丸炎、前立腺炎の報告もあります。性的に活発な若年女性では、膀胱炎の原因菌として大腸菌に続いて2番目であるとも報告されています。薬剤感受性一般的にはST合剤に優れた感受性を示すとされています。そのほか、アモキシシリン/クラブラン酸塩、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、バンコマイシンなどの感受性も報告されていますが、これらの耐性増加も報告されており、感受性試験が推奨されます。S. saprophyticusは、若年女性における膀胱炎の重要な原因菌です。尿グラム染色でグラム陽性球菌が確認された際には鑑別の1つとして本菌を考慮するようにしましょう。1)Raz R, et al. Clin Infect Dis. 2005;40:896-898.2)Widerstrom M, et al. J Clin Microbiol. 2007;45:1561-1564.3)Marrie TJ, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1982;22:395-397.4)Olsen RC, et al. AIM Clinical Cases. 2024;3:e230613.

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mumps(ムンプス、おたふく風邪)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第17回

言葉の由来ムンプスは英語で“mumps”で、「マンプス」に近い発音になります。なお、耳下腺は英語で“parotid gland”で、耳下腺炎は“parotitis”といいます。英語での“mumps”は日本語での「おたふく風邪」のように、医療者以外でも一般的に広く使われる言葉です。“mumps”の語源は諸説あります。1つの説によると、“mumps”という病名は1600年ごろから使用され始め、「しかめっ面」を意味する“mump”という単語が複数形になったものとされています。ムンプスが引き起こす耳下腺の腫れと痛み、嚥下困難などの症状による独特の顔貌や表情からこの名前が付いたと考えられています。もう1つの説は、ムンプスでは唾液腺の激しい炎症で患者がぼそぼそと話すようになることから、「ぼそぼそ話す」を意味する“mumbling speech”が元になって“mumps”と呼ばれるようになったというものです。日本語の「おたふく風邪」も、耳下腺が腫れた様子が「おたふく」のように見えることに由来します。いずれの呼び方も、特徴的な見た目や症状から病気の名前が付けられたことがわかりますよね。ムンプスは古代から知られており、ヒポクラテスが5世紀にThasus島での発生を記録し、耳周辺の痛みや睾丸が腫脹することも記載しています。近代では、1790年に英国のロバート・ハミルトン医師によって科学的に記述され、第1次世界大戦期間中に流行し兵士たちを苦しめました。1945年に初めてムンプスウイルスが分離され、その後ワクチンが開発されたことで予防可能な疾患になりました。併せて覚えよう! 周辺単語耳下腺炎parotitis精巣炎orchitis卵巣炎oophoritis無菌性髄膜炎aseptic meningitisMMRワクチンMeasles, Mumps, and Rubella vaccineこの病気、英語で説明できますか?Mumps is a contagious viral infection that can be serious. Common symptoms include painful swelling of the jaw, fever, fatigue, appetite loss, and headache. The MMR vaccine offers protection from the virus that causes mumps.講師紹介

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レムデシビルの添付文書改訂、「重度の腎障害患者への投与は推奨しない」を削除

 新型コロナウイルス感染症治療薬であるレムデシビル(商品名:ベクルリー)の添付文書の改訂について、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページ上に12月16日掲載された。「eGFR30未満の重度の腎機能障害患者への投与は推奨しない」を削除 今回の改訂では、「特定の背景を有する患者に関する注意」の「腎機能障害患者」の項目で、「重度の腎機能障害(成人、乳児、幼児及び小児はeGFRが30mL/min/1.73m2未満、正期産新生児(7日~28日)では血清クレアチニン1mg/dL以上)の患者投与は推奨しない。治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を考慮すること」という記載が削除された。また、「薬物動態」の項目では、腎機能障害患者におけるレムデシビルの薬物動態データが追記された。 本改訂において、COVID-19で入院した重度の腎機能障害患者(eGFR30未満)を対象とした海外第III相試験(GS-US-540-5912試験)および腎機能の程度別被験者(eGFR15未満、15以上30未満、30以上60未満、60以上90未満、90以上)を対象とした海外第I相試験(GS-US-540-9015試験)の試験成績を得られたことから、改訂可能と判断された。 なお本剤について、欧州では2023年6月、米国では2023年7月に、透析を受けている患者を含む重度の腎機能障害を有するCOVID-19患者の治療薬として承認されており、全ステージの腎疾患に対して使用可能である。

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エンシトレルビルとモルヌピラビル、妊婦禁忌の注意を強化/PMDA

 医薬品医療機器総合機構(PMDA)は12月17日、新型コロナウイルス感染症治療薬のエンシトレルビル フマル酸(商品名:ゾコーバ錠)およびモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル)について、妊娠する可能性のある女性への投与における適正使用のお願いを発出した1)。 新型コロナウイルス感染症の経口抗ウイルス薬であるエンシトレルビルおよびモルヌピラビルは、催奇形性リスクを有することから、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌とされている。一方で、各薬剤の投与後に妊娠が判明した症例の報告が現在も継続している。これまでに、エンシトレルビルで54例、モルヌピラビルで19例が報告されている。 今回公表された「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」には、以下のとおり記載している。妊娠する可能性のある女性への投与に際しての注意事項 妊娠する可能性のある女性への投与に際しては、本剤投与の必要性を十分に検討すること。また、投与が必要な場合には、次の注意事項に留意すること。●本剤投与開始前に十分な問診により患者が妊娠していないこと及び妊娠している可能性がないことを確認すること。●次の事項について、本剤投与開始前に患者に説明すること。・妊娠中に本剤を服用した場合、胎児に影響を及ぼす可能性があること。・本剤服用中に妊娠が判明した又は疑われる場合は、直ちに服用を中止すること。・本剤服用中及び最終服用後2週間(ゾコーバ錠)又は4日間(ラゲブリオカプセル)における妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに医師、薬剤師等に相談すること。 これらの注意事項の確認とともに、製造販売業者が周知している薬剤服用時の事前のチェックリスト(医薬品リスク管理計画書[RMP]医療従事者向け資材)および処方された女性患者と家族向けの資材(RMP患者向け資材)の活用を促している2~5)。 また厚生労働省は同日に、上記の内容について、両剤の添付文書の重要な基本的注意の項目に追記する改訂指示を発出した。

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慢性B型肝炎への低分子干渉RNA薬xalnesiran、抗原消失率は?/NEJM

 ヌクレオシド/ヌクレオチドアナログ(NA)療法でウイルス学的抑制が得られている慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者において、xalnesiranと免疫調節薬の併用療法は高頻度に治療終了後24週時のHBV表面抗原(HBs抗原)の消失をもたらしたが、Grade3または4の有害事象が半数の患者に認められた。中国・南方医科大学のJinlin Hou氏らPiranga Study Groupが、海外第II相多施設共同無作為化非盲検アダプティブプラットフォーム試験「Piranga試験」の結果を報告した。xalnesiranは、HBVゲノムの保存領域を標的とし複数の転写産物を抑制する低分子干渉RNA薬で、免疫調節薬併用の有無にかかわらず慢性HBV感染患者に対する有効性が示されている。今回は、免疫調節薬として、肝臓で選択的に活性化されるToll様受容体7(TLR7)アゴニストのruzotolimod、またはペグインターフェロン アルファ-2a(PEG-IFNα-2a)とxalnesiranの併用、xalnesiran単剤の有効性と安全性が評価された。NEJM誌2024年12月5日号に掲載の報告。xalnesiran単剤または免疫調節薬併用をNA療法と比較 研究グループは、12ヵ月以上前からNA単剤療法を受け、スクリーニングの6ヵ月以上前からHBV DNAが20 IU/mL未満の18~65歳の慢性HBV肝炎患者を、xalnesiran 100mg(第1群)、同200mg(第2群)、xalnesiran 200mg+ruzotolimod 150mg(第3群)、xalnesiran 200mg+PEG-IFNα-2a 180μg(第4群)、NA療法単独群(第5群)の5群に無作為に割り付けた。 xalnesiranは4週ごとに48週間皮下投与、ruzotolimodは13~24週時および37~48週時に隔日経口投与、PEG-IFNα-2aは週1回48週間皮下投与した。NA療法は、すべての群で全例、中止基準を満たすまで継続した。 有効性の主要エンドポイントは、48週間の治療終了後24週時点におけるHBs抗原消失(HBs抗原値が検出限界[0.05 IU/mL]未満と定義)、副次エンドポイントは、HBs抗原セロコンバージョンなどとし、安全性についても評価した。 本試験は各群約30例を目標症例数として2020年7月5日~2021年11月29日に登録が行われ、計160例が無作為化された(試験完了は2021年2月22日~2023年10月2日)。HBs抗原消失率は、xalnesiran単独3~7%、ruzotolimod併用12%、PEG-IFNα-2a併用23% 投与開始前に試験を中止した第5群の1例を除く159例が解析対象となった(第1~5群でそれぞれ30例、30例、34例、30例、35例)。 主要エンドポイントを達成した患者の割合は、第1群7%(95%信頼区間:1~22)、第2群3%(0~17)、第3群12%(3~28)、第4群23%(10~42)、第5群0%(0~10)であった。 治療終了後24週時点におけるHBs抗原セロコンバージョンは、第1~5群においてそれぞれ3%、0%、3%、20%、0%に認められた。HBs抗原が消失、セロコンバージョンが得られた患者は、スクリーニング時のHBs抗原値が1,000 IU/mL未満の患者のみであった。 Grade3または4の有害事象は、第1~5群においてそれぞれ17%、10%、18%、50%および6%に発現し、最も頻度の高い事象はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)上昇であった。

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BCMA標的CAR-TのICAHTに対する幹細胞ブースト療法の有用性/ASH2024

 免疫エフェクター細胞関連造血毒性(ICAHT)は、CAR-Tをはじめとする免疫療法による血球減少を引き起こし、感染症などのリスクとなる。KarMMa-1試験、CARTITUDE試験といった多発性骨髄腫の国際研究では、CAR-T投与早期(30日以内)に90%前後で好中球減少が発現し、それ以降も50%程度の割合で発現が続くと報告されている。 そのような中、CAR-T細胞療法を受けた再発・難治多発性骨髄腫(R/R MM)におけるICAHTの臨床経過と、ICAHTに対する自己幹細胞ブースト療法の効果を確認する後ろ向き試験が行われた。研究結果が米国・ウィスコンシン医科大学のKiritika Yadav氏により、第66回米国血液学会(ASH)で発表された。 対象はBCMA標的CAR-T細胞療法(ide celまたはcita cel)を受けたR/R MM患である。血球減少の定義は好中球≦1,000/mL、血小板≦50x109/L、ヘモグロビン≦9g/dL。ICAHTはCAR-T細胞投与後21日、3ヵ月、6ヵ月の時点で評価された。評価項目は、血球数回復、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)であった。 主な結果は以下のとおり。・全体で159例が登録された。・患者の年齢中央値は65歳、FISHまたはPET高リスクが77%、自家造血幹細胞移植(ASCT)実施が87%、前治療ライン数中央値は5、髄外病変あり28%、サイトカイン放出症候群(CRS)は85%、ICANSは12%に発現していた。・評価症例154例中89例でICAHTが発現した。・ICAHTの発現は21日後の58%(89例/154例)から3ヵ月後28%、6ヵ月後17%と時間とともに減少した。・ICAHTのリスク因子は、ASCT≧2回、前治療歴≧5ライン(対4ライン p=0.002)、ベースライン時の血小板数≦146×109/L(対194×109 p=0.005)、FISHまたはPET高リスク(p=0.012)、ICANS発現(p=0.006)、トシリズマブ使用(p=0.013)であった。・ICAHT発現82例(自家幹細胞保存症例)のうち、重度の血球減少のため自己幹細胞ブースト療法を受けた患者は22例(27%)であった。・自己幹細胞ブースト療法の投与期間中央値はCAR-T投与後52日間であった。・自己幹細胞ブーストを受けた患者の血球数は早期(CAR-T療法21日後)においては低値であったが、3ヵ月および6ヵ月後にはには受けない患者よりも大きく改善した。 Yadav氏は、重症ICAHT発現患者に対する自己幹細胞ブースト療法の恩恵を明らかにするためには、さらなる研究が必要だと述べた。

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Long COVIDの神経症状は高齢者よりも若・中年層に現れやすい

 新たな研究によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(long COVID)のうち、重篤な神経症状は、高齢者よりも若年層や中年層の人に現れやすいことが明らかになった。米ノースウェスタン・メディスン総合COVID-19センターの共同所長を務めるIgor Koralnik氏らによるこの研究結果は、「Annals of Neurology」に11月22日掲載された。 Long COVIDの神経症状は、頭痛、しびれやうずき、嗅覚障害や味覚障害、目のかすみ、抑うつ、不安、不眠、倦怠感、認知機能の低下などである。論文の上席著者であるKoralnik氏は、「COVID-19による死亡者数は減少し続けているが、人々は依然としてウイルスに繰り返し感染し、その過程でlong COVIDを発症する可能性がある」と指摘する。同氏は、「long COVIDは、患者の生活の質(QOL)に変化を引き起こしている。ワクチン接種や追加接種を受けている人でも、COVID-19患者の約30%にlong COVIDの何らかの症状が現れる」と話す。 今回の研究では、2020年3月から2023年3月の間にノースウェスタンメモリアルホスピタルのNeuro-COVID-19クリニックを受診し、新型コロナウイルス検査で陽性が判明した最初の1,300人(COVID-19による入院歴のある患者200人、入院歴のない患者1,100人)を対象に、COVID-19の重症度(入院歴の有無)によるlong COVIDの神経症状の違いを検討した。対象患者は、若年層(18〜44歳)、中年層(45〜64歳)、高齢者(65歳以上)に分類された。 COVID-19の発症から10カ月後の時点で、若年層と中年層では、高齢者に比べてlong COVIDの神経症状の発生率が高く、症状の負担も大きいことが明らかになった。また、入院歴のない患者群では、若年層と中年層で高齢者に比べて、主観的な倦怠感や睡眠障害のスコアが高く、これらの層はQOLへの障害をより強く感じていることが浮き彫りになった。さらに、入院歴のない患者群では、認知機能(実行機能や作業記憶)のスコアが最も低かったのは若年層であることも判明した。一方、入院歴のある患者群では、認知機能の一部(実行機能)に統計学的に有意に近い年齢による差が認められたものの、QOLには年齢による有意な差は確認されなかった。 Koralnik氏は、「long COVIDは、社会の労働力、生産性、革新の多くを担う働き盛りの若年成人に特に大きな影響を及ぼし、健康上の問題や障害を引き起こしている」と述べ、「これは社会全体にとって厳しい状況だ」との見方を示している。 さらにKoralnik氏は、「この研究は、long COVIDに苦しむあらゆる年齢の人々に対し、症状を緩和し、QOLを向上させるために必要な治療とリハビリテーションのサービスを提供すべきことの重要性を浮き彫りにするものだ」と米ノースウェスタン大学のニュースリリースで述べている。

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ビタミンB3はCOPD患者の肺の炎症を軽減する?

 ビタミンB3を毎日摂取することで、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の肺の炎症が軽減する可能性のあることが、小規模な臨床試験で明らかになった。コペンハーゲン大学(デンマーク)のMorten Scheibye-Knudsen氏らによるこの研究結果は、「Nature Aging」に11月15日掲載された。Scheibye-Knudsen氏は、「炎症は、COPD患者の肺機能を低下させる可能性があるため、この結果が意味するところは大きい」と述べている。 COPD患者は、肺炎やインフルエンザ、その他の重篤な呼吸器感染症に罹患しやすく、罹患した場合には致命的となることもある。Scheibye-Knudsen氏らは、安定期COPD患者40人(平均年齢71.9歳)と、年齢や性別、BMIが類似した健康な対照20人(平均年齢70.9歳)を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施し、COPDに対するニコチンアミドリボシド(NR)の効果を評価した。NRはビタミンB3の一種である。COPD患者と対照は、それぞれの群内で、6週間にわたりNR(2g)またはプラセボを摂取する群に1対1の割合でランダムに割り付けられた。対象者は12週間後に追跡調査を受けた。主要評価項目は、炎症マーカーであるインターロイキン8(IL8)のベースラインから6週間目までの変化量とした。 その結果、COPD患者では、IL8の変化量の最小二乗平均値が、NR群で−46.2%、プラセボ群で13.4%であることが明らかになった。両群間の治療効果の差は−52.6%(95%信頼区間−75.7〜−7.6%、P=0.030)であり、NR群ではプラセボ群に比べてIL8の値が有意に低下していた。このようなNRの効果は12週間後も持続しており、治療効果の差は−63.7%(同−85.7〜−7.8%、P=0.034)と推定された。 次に、NR摂取により体内のNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)のレベルがどの程度変化するのかをCOPD患者と対照との間で比較・検討した。NAD+は、免疫機能や炎症などの加齢に関連した複数の経路に関与する中心的な分子として注目されており、ヒトや動物では加齢とともに減少することも知られている。ベースライン時のNAD+の最小二乗平均値は、COPD患者で31.9μM、対照で34.8μMであったが、6週間後には、COPD患者のNR群で71.1μM、対照のNR群で49.4μMに上昇していた。しかし、プラセボ群では、COPD患者でも対照でもNAD+に有意な変化が認められなかった。COPD患者では対照に比べて、NR摂取によるNAD+の増加量が多かったものの、この差は統計学的に有意ではなかった。 Scheibye-Knudsen氏は、「われわれの体内では、加齢に伴いNAD+の代謝も進むようだ。NAD+の減少は、喫煙により生じるようなDNA損傷後にも見られる」と話している。この研究で、ビタミンB3(NR)の摂取によりNAD+レベルが上昇し、細胞の老化の兆候が抑えられたことから、同氏は、「NAD+は、今後の研究と治療の対象となる可能性がある」と述べている。 Scheibye-Knudsen氏は、「この研究結果を確認し、NRのCOPD治療における長期的な効果を判断するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。研究グループは、そのために、より大規模な研究を計画しているところだという。Scheibye-Knudsen氏は、「この研究が、COPD患者に新たな治療選択肢への道を切り開くことを期待している」と話している。

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第221回 医師偏在対策は2026年度から実施、重点区域設定と支援強化/厚労省

<先週の動き>1.医師偏在対策は2026年度から実施、重点区域設定と支援強化/厚労省2.専門医研修制度見直し、指導医派遣にかかわる議論は継続へ/厚労省3.電子カルテ情報共有サービスは2025年度本格稼働へ/厚労省4.不透明な資金問題で抜本改革に、改善計画を公表/女子医大5.医療脱毛クリニック大手が破産、広告費増加や顧客減少で経営悪化1.医師偏在対策は2026年度から実施、重点区域設定と支援強化/厚労省厚生労働省は12月10日、新たな地域医療構想等に関する検討会を開き、医師の地域偏在解消に向けて、医師偏在対策の取りまとめ案が示され、大筋で了承された。この案では、医師不足が深刻な地域を「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」に指定し、集中的な対策を講じることが盛り込まれている。具体的には、重点区域指定を行い、各都道府県で医師偏在指標が最も低い二次医療圏などを候補とし、地域の実情に応じて指定する。この重点区域を対象に、支援対象医療機関や必要医師数、医師偏在是正に向けた取り組みなどを盛り込んだプランを策定する。また、重点区域で開業する診療所への支援や、区域内の医療機関で働く医師への手当増額などを検討する。このほか、医師少数区域での勤務経験を管理者要件とする医療機関を拡大したり、外来医師多数区域での開業規制の強化など、地域の医療機関が連携して医師不足を解消する仕組みを構築する。また、経済的インセンティブの財源として、保険料を充当する案も議論されたが、意見が分かれたため、取りまとめでは両論併記となった。そのほか、開業規制などの施策については、施行後5年を目処に効果を検証し、必要があればさらなる対策を検討する方針。厚労省は、これらの総合的な対策パッケージを、関係審議会での議論などを経て、年内に策定し、2026年度から実施する予定。参考1)第15回 新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)医師偏在対策を大筋で了承、「医師少数区域等で勤務する」医師の手当て増額を行う経費の一部を保険者にも拠出求める-新地域医療構想検討会(Gem Med)3)医師偏在対策の取りまとめ案が大筋了承、開業規制などは施行後5年めどに検証(日経メディカル)2.専門医研修制度見直し、指導医派遣にかかわる議論は継続へ/厚労省厚生労働省は12月13日、医道審議会医師分科会の医師専門研修部会を開き、専門研修プログラムの定員数に上限を設ける専攻医のシーリングについて、大学病院などから医師少数区域に指導医を派遣した実績に応じて、通常プログラムの定員数を増やす見直し案を提案した。専門研修制度は、医師が専門医資格を取得するための研修制度で、2018年度から始まった新たな専門医制度では、医師の質向上と地域医療の充実を目的として、研修プログラムの質の向上や地域医療への配慮などが求められている。厚労省は、専門研修プログラムの質向上と地域医療の充実を図るため、シーリング制度の見直しを検討している。今回の見直し案では、大学病院などが医師少数区域に指導医を派遣した場合、その実績に応じて通常プログラムの定員数を増やすというインセンティブを設けることが提案された。しかし、この提案に対して、委員からは大学病院の負担増加を懸念する声が上がった。また、大学病院では、すでに地域医療への医師派遣などを行っており、指導医派遣の義務化はさらなる負担となる可能性があると指摘している。厚労省は、次回の会合でシーリング制度見直し案に基づくシミュレーション結果を示し、指導医の派遣を含めた見直しについて改めて議論する予定。参考1)令和6年度第3回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省)2)医師少数区域への「指導医の派遣」に慎重論 シーリング制度の見直し 厚労省(CB news)3.電子カルテ情報共有サービスは2025年度本格稼働へ/厚労省厚生労働省は12月12日、2025年度に本格稼働する電子カルテ情報共有サービスの費用負担について、国、医療機関、保険者のそれぞれが一定程度負担する案を社会保障審議会の医療保険部会に示し、了承された。このサービスは、医療機関間で患者の電子カルテ情報を共有することで、安全で質の高い医療を効率的に提供することを目指すもの。費用負担については、サービスの受益者である患者、医療機関、保険者、そして国がそれぞれ応分の負担を負うべきとの考えに基づいている。具体的には、国がシステム開発・改修費用や、医療機関の電子カルテシステム改修への財政補助など、サービス立ち上げに必要な費用を負担する。医療機関側は電子カルテシステムの改修や運用保守費用、3文書(診療情報提供書/退院時サマリー/健診結果報告書)6情報(傷病名/アレルギー/感染症/薬剤禁忌/検査/処方)の登録費用などを負担し、保険者が、システム運用費用を負担する。保険者の負担開始時期は、標準型電子カルテの導入率が5割程度に達し、国民がサービスのメリットを実感できる段階とされている。費用負担の目安は、年間約18億円、医療保険加入者1人当たり月額約1.25円と試算されている。委員からは、医療機関の電子カルテ導入支援や、費用負担の詳細な説明を求める声が上がっていた。厚労省では、サービスの速やかな普及に向けて、あらゆる方策を講じていくとしている。参考1)医療DXの推進等について(厚労省)2)国の電子カルテ共有システム、運用費は社会保険料で負担(日経新聞)3)電カル情報共有、医療機関はシステム改修費など負担 保険者では運用費(CB news)4)電子カルテ情報共有サービスの運用費用、標準型電子カルテが5割程度普及した段階で保険者等に負担求める-社保審・医療保険部会(Gem Med)4.不透明な資金問題で抜本改革に、改善計画を公表/女子医大12月13日、同窓会組織を巡る不透明な資金問題で元理事長が解任された東京女子医科大学(理事長:清水 治氏)は、大学運営の改善計画を公表した。第三者委員会の報告書で指摘された、元理事長による「1強体制」によるガバナンス不全を重く受け止め、コンプライアンス意識の徹底、執行部への監督体制の構築など、抜本的な改革に取り組む姿勢を強調した。具体的な改革内容としては、不透明な資金の流れに関与したとされる同窓会組織「至誠会」の審査に基づく卒業生子女向けの推薦入試制度を2026年度入試から廃止すること、寄付金が考慮されていたとされる学内人事制度の見直しなどが盛り込まれた。また、資金問題の温床となったとされる「経営統括部」を廃止し、支出の妥当性を審査する委員会を新設するなど、チェック機能の強化を図るほか、内部通報制度の見直しや利益相反行為の禁止など、コンプライアンス体制の強化も進める。6日に理事長に就任した清水氏は、「不祥事により信頼が大きく傷ついた。全身全霊で抜本改革に取り組む」と語り、再発防止に全力を尽くす決意を示した。東京女子医大では、同窓会組織「至誠会」を巡り、不透明な資金の動きが発覚し、警視庁が3月に特別背任容疑で家宅捜索していた。今回の改善計画は、こうした問題を受けた組織改革の一環であり、大学側の信頼回復に向けた取り組みが注目されている。参考1)東京女子医科大学第三者委員会の調査報告書に対する本法人の今後の対応及び方針について(東京女子医大)2)東京女子医大、理事長「1強体制」だったガバナンス見直しへ 改善計画を公表「全身全霊で取り組む」(東京新聞)3)東京女子医科大、推薦入試に合わせ受験生から受け取っていた寄付金返金へ…文科省に改善計画提出(読売新聞)4)東京女子医大、推薦入試の「不正」認める 「同窓会枠」で寄付金(朝日新聞)5.医療脱毛クリニック大手が破産、広告費増加や顧客減少で経営悪化医療脱毛大手の「アリシアクリニック」を運営する医療法人社団「美実会」と一般社団法人「八桜会」が12月10日、破産手続き開始の決定を受けた。負債総額は約124億円で、債権者数は約9万2,000人に上り、過去最大規模の消費者被害となる可能性がある。同クリニックは、全国に43のクリニックを展開し、自由診療の医療脱毛などを提供していたが、12月10日までに全クリニックで営業を停止した。破産の原因は、競争激化による広告費の増加や、新型コロナウイルスの影響による顧客の減少などによる経営悪化とされている。利用者からは、未施術分の返金が難しいとの説明に怒りや落胆の声が上がっていた。今回の破産は、脱毛業界の競争激化と、前払い金ビジネスのリスクを浮き彫りにした。脱毛業界では、近年、新規参入が相次ぎ、競争が激化している。高額な施術費用を前払いさせるビジネスモデルが一般的だが、経営破綻時には返金が困難になるケースが多い。消費者問題の専門家は、消費者に対しては、契約前にクリニックの経営状況をよく確認すること、前払いにはリスクが伴うことを理解しておくことなどをアドバイスしている。また、業界団体に対しては、消費者保護のための枠組み作り、たとえば保証基金の設立などを検討する必要があると指摘している。参考1)医療脱毛「アリシアクリニック」運営法人の破産手続き開始(NHK)2)脱毛サロンの倒産、年間最多 14件、「通い放題」曲がり角(中日新聞)3)医療脱毛大手「アリシアクリニック」経営会社が破産を申請(東京商工リサーチ)

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急性呼吸器感染症が2025年4月から5類感染症に/厚労省

 厚生労働省は、2025(令和7)年4月7日から感染症法施行規則改正により急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection:ARI)を感染症法上の5類感染症に位置付け、定点サーベイランスの対象とすることを発表した。 ARIは、急性の上気道炎(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎)または下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)を指す病原体による症候群の総称で、インフルエンザ、新型コロナウイルス、RSウイルス、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、ヘルパンギーナなどが含まれる。 ARIを5類感染症に位置付けた目的として、飛沫感染などにより周囲の人に感染させやすいのが特徴であり、新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、次の2点が示されている。(1)流行しやすいARIの流行の動向を把握すること(2)仮に未知の呼吸器感染症が発生し、増加し始めた場合に、迅速に探知することが可能となるよう、平時からサーベイランスの対象とする 厚労省では、今回の5類感染症への位置付けにより、公衆衛生対策の向上につながるとしている。 来年の4月7日以降、ARI定点医療機関および病原体定点医療機関は、多くの5類感染症の定点把握と同様に、1週間当たりの患者数の報告(発生届のように患者ごとに届出を作成・報告する必要はない)が求められ、ARI病原体定点医療機関には、これまでどおり、検体の提出が求められる。また、定点医療機関の指定は都道府県が実施し、指定以外の医療機関に対し、新たに報告を求めることはない。 ARI定点医療機関および病原体定点医療機関が報告する患者または検体を提出する患者は、「咳嗽、咽頭痛、呼吸困難、鼻汁、鼻閉のどれか1つの症状を呈し、発症から10日以内の急性的な症状であり、かつ医師が感染症を疑う外来症例」とされている。提出する検体は、すべての患者から採取するのではなく、一部の患者からのみ採取し、検体の数などは今後公表される予定。 そのほか、今回の位置付けにより特別な患者負担や学業・就業など日常生活での制約はない。 参考までに現在5類感染症に指定されている感染症では、新型コロナウイルス感染症、RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、伝染性紅斑、突発性発疹、百日咳などがある。

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再発・難治性B細胞性ALLにobe-celが有効/NEJM

 obecabtagene autoleuce(l以下obe-cel)は、自家41BB-ζ抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法であり、毒性作用を軽減してCAR-T細胞の生着と持続性を改善するために、CD19に対する親和性が中等度のCARを使用している。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのClaire Roddie氏らは「FELIX試験」において、再発または難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)の成人患者の治療として、obe-celは高い割合で持続的奏効をもたらし、Grade3以上の免疫関連毒性作用の発現率が低いことを示した。研究の成果は、NEJM誌2024年12月12日号で報告された。3ヵ国の第Ib/II相試験 FELIX試験は、再発・難治性B細胞性ALLにおけるobe-celの安全性、有効性、拡張性の評価を目的とする第Ib/II相試験であり、3ヵ国(スペイン、英国、米国)の34施設で患者を登録した(Autolus Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18歳以上の再発または難治性のB細胞性ALL患者を対象とし、主要コホートであるコホート2Aは形態学的病変(骨髄芽球≧5%)を有する患者、コホート2Bは測定可能な微小残存病変(MRD)(骨髄芽球<5%)を有する患者とした。 患者は、obe-celを製造するために白血球アフェレーシスを受けた。ブリッジング療法は、担当医の裁量で必要に応じて行われた。obe-celは、リンパ球除去療法後に、骨髄負荷(bone marrow burden)を調整した分割用量で投与した。1回目の投与後に、重篤な毒性作用や未解消の毒性作用がない場合に2回目の投与を行った。 主要エンドポイントは、コホート2Aにおける全寛解(完全寛解[CR]+血球数の回復が不十分な完全寛解[CRi])とし、副次エンドポイントとして無イベント生存、全生存、安全性を評価した。全寛解は77% 153例を登録し、このうち127例(83.0%)が少なくとも1回のobe-celの投与を受け、評価が可能であった。127例の年齢中央値は47歳(範囲:20~81)、女性が61例(48%)で、前治療ライン数中央値は2(範囲:2~6)であり、52.0%が最終の前治療時に難治性であった。56例(44.1%)が同種幹細胞移植を受けており、登録時の骨髄芽球中央値は40%(範囲:0~100)だった。 コホート2A(94例、追跡期間中央値20.3ヵ月)における全寛解の割合は77%(95%信頼区間[CI]:67~85)であり、このうちCRが55%(45~66)、CRiは21%(14~31)であった。事前に規定された帰無仮説は、全寛解(≦40%)および完全寛解(≦20%)のいずれについても棄却された(p<0.001)。 少なくとも1回の投与を受けた127例(追跡期間中央値21.5ヵ月)の無イベント生存期間中央値は11.9ヵ月(95%CI:8.0~22.1)であり、推定6ヵ月無イベント生存率は65.4%、12ヵ月無イベント生存率は49.5%であった。また、全生存期間中央値は15.6ヵ月(12.9~評価不能)で、推定6ヵ月全生存率は80.3%、12ヵ月全生存率は61.1%だった。Grade3以上のICANSは7.1% サイトカイン放出症候群は87例(68.5%)に発現し、このうちGrade3以上は3例(2.4%)であった。また。免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は29例(22.8%)に、Grade3以上は9例(7.1%)に認めた。 obe-cel投与後60日以内に、発熱性好中球数減少が31例(24.4%)で発生し、5例が感染症で死亡した。obe-celに起因する死亡は2例にみられ、1例はICANSの進行を伴う急性呼吸窮迫症候群、もう1例は好中球減少性敗血症によるものであった。 著者は、「obe-cel投与後の重篤なICANSはリンパ球除去療法前の骨髄負荷が高度(芽球>75%)な患者にほぼ限定されていたことから、骨髄負荷が軽度(芽球<5%)の患者では、obe-celを外来で安全に投与できる可能性が示唆される」「obe-celは、より早期の治療ラインでの地固め療法としても検討に値する」としている。

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活動期クローン病の導入・維持療法、ミリキズマブが有効/Lancet

 中等症~重症の活動期クローン病患者の導入療法および維持療法において、プラセボまたはウステキヌマブと比較してヒト化抗ヒトIL-23p19抗体ミリキズマブは、安全性は既知の良好なプロファイルと一致し、かつ有効性に関する2つの複合エンドポイントがいずれも有意に良好であることが、ベルギー・ルーベン大学病院のMarc Ferrante氏らが実施した「VIVID-1試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年11月21日号に掲載された。国際的な第III相無作為化プラセボ/実薬対照比較試験 VIVID-1試験は、中等症~重症の活動期クローン病におけるミリキズマブの有効性と安全性の評価を目的とするtreat-throughデザインを用いた第III相二重盲検ダブルダミー無作為化プラセボ/実薬対照比較試験であり、2019年7月~2023年8月に日本を含む33ヵ国の324施設で患者の無作為化を行った(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18~80歳、中等症~重症の活動期クローン病と診断され、過去に1つ以上の従来治療または生物学的製剤による治療で効果不十分、効果消失、不耐容であった患者を対象とした。 これらの患者を、ミリキズマブ900mgを0、4、8週目に静脈内投与し、その後300mgを12~52週目まで4週ごとに皮下投与する群、ウステキヌマブ約6mg/kgを0週目に静脈内投与し、その後90mgを8~52週目まで8週ごとに皮下投与する群、またはプラセボを投与する群に、6対3対2の割合で無作為に割り付けた。 主要複合エンドポイントは以下の2つで、発生率に関してプラセボ群に対するミリキズマブ群の優越性を評価した。(1)12週の時点での患者報告アウトカム(PRO)の臨床的奏効(排便回数または腹痛スコア、あるいはこれら両方の30%以上の減少、かつ両方ともベースラインより悪化しない)と52週時の内視鏡的奏効(SES-CD総スコアのベースラインから50%以上の低下)の複合、(2)12週時のPROの臨床的奏効と52週時のクローン病活動指数(CDAI)に基づく臨床的寛解(CDAIスコア<150点)の複合。副次エンドポイントもすべて満たした 1,150例(安全性評価集団)を登録し、このうち1,065例(平均年齢36.2[SD 13.0]歳、女性44.9%)を有効性評価集団(ミリキズマブ群579例、ウステキヌマブ群287例、プラセボ群199例)とした。 2つの主要複合エンドポイントはいずれも達成された。このうち(1)の発生率は、プラセボ群が9.0%(18/199例)であったのに対し、ミリキズマブ群は38.0%(220/579例)と有意に優れた(補正後群間差:28.7%、99.5%信頼区間[CI]:20.6~36.8、p<0.0001)。また、(2)の発生率は、プラセボ群の19.6%(39/199例)に対し、ミリキズマブ群は45.4%(263/579例)であり、有意に良好だった(補正後群間差:25.8%、99.5%CI:15.9~35.6、p<0.0001)。 12週時のPROの臨床的奏効、12週時の内視鏡的奏効、12週時のCDAIに基づく臨床的寛解など10項目の副次エンドポイントは、すべてプラセボ群に比べミリキズマブ群で有意に優れた。 一方、ウステキヌマブ群との比較では、ミリキズマブ群は52週時の内視鏡的奏効については優越性を示せなかったものの(ミリキズマブ群48.4% vs.ウステキヌマブ群46.3%、p=0.51)、52週時のCDAIに基づく臨床的寛解は非劣性の基準(非劣性マージン10%、多重性を考慮)を満たした(54.1% vs.48.4%、群間差:5.7%[95%CI:-1.4~12.8])。重篤な有害事象は10.3% プラセボ群に比べミリキズマブ群では、全有害事象および投与中止の発生率が低かった。ミリキズマブ群で頻度の高かった有害事象は、COVID-19(16.5%)、貧血(6.7%)、関節痛(6.5%)、頭痛(6.5%)、上気道感染症(6.0%)などであった。 重篤な有害事象は、ミリキズマブ群で10.3%、ウステキヌマブ群で10.7%、プラセボ群で17.1%に発生した。3例が死亡した(ウステキヌマブ群1例、プラセボ群2例[12週後にミリキズマブ群に切り換えた1例を含む])が、試験薬関連死は認めなかった。 著者は、「これらの知見は、クローン病の発症機序におけるIL-23の重要性をより強固なものにし、中等症~重症の活動期クローン病患者において、ミリキズマブは良好なベネフィット・リスクプロファイルを有する治療法であることを示唆する」としている。

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第241回 今だから言える!? 村上氏が明かすコロナ感染の変遷

従来から本連載で私がワクチンマニアであることは何度も触れている(第107回、第204回など参照)。にもかかわらず、昨年は季節性インフルエンザワクチン接種を逃してしまっていた。ということで、今年はかかりつけ医療機関でしっかり接種してきたが、そろそろ効力も落ちてきただろうということで日本脳炎と腸チフスのワクチンも追加接種。さらにこうした機会に私はいつも新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の抗体検査用の採血も行っている。ご存じのように新型コロナの抗体検査は、感染の有無がわかるヌクレオカプシドタンパク質抗体(N抗体)とワクチン接種により獲得したスパイクタンパク質抗体(S抗体)の2種類を調べるもの。私は新型コロナに限らず、ワクチン接種の際にこの2種類の抗体検査を行っている。検査時期はかなりランダムだが、これまでN抗体は6回、S抗体は5回の検査を行っている(共にロシュ・ダイアグノスティックス社のECLIA法)。回数が違うのは、N抗体は新型コロナのmRNAワクチンが登場し、2021年6月に1回目接種する直前に試しに受けてみたのである。この1回目の検査結果は、私がキャンセル待ちで急遽獲得した1回目のワクチン接種後のアナフィラキシー・チェックの待機時間中にA医師から第1報としてメールで受け取った。本当の私のコロナ感染変遷今だから話すが、このとき、A医師から検査結果用紙の写真とともに「陽性です」とのメッセージが送られてきた。1回目のワクチン接種に辿り着けたと、安堵感に満ち溢れていた中で、過去の感染歴とは言え「陽性」という事実にかなり戸惑った。しかもコロナ禍からまだ約1年半という時期。後にオミクロン系統で爆発的に感染者が増加したような時期ではなく、感染者はまだそう多くない時期なのである。実際、それまでにA医師のクリニックでN抗体検査を受けた人の中で陽性者は初だったという。この時、写真に記載されていた数値「COI(Cut off index)」は陰性が1未満に対し、私の検査結果は194.00。完全な陽性なのだが、私は間抜けにも「偽陽性ってことはないですよね? うー、いつ感染したのだろう? 覚えがないです」と返信し、A医師からは「この抗体価は偽陽性ではないですね」と断言された。この直前に感染を疑う症状はまったくなかった。当時は感染者での味覚・嗅覚障害の割合が高いことが報告されており、感染時にいち早く気付けるよう一日一食は納豆を食べていたのに。納豆は私の好物なのだが、毎日食べるほどではなかった。もっともこの時の習慣が定着し、現在は毎日食べるようになった。ちなみに、この時の感染源は後におおよそ特定できた。この検査から過去7ヵ月間に家族以外でノーマスクでの会話を伴う接触をした人は3人しかおらず、全員に私の感染の事実を伝え、3人とも検査を受けた結果、そのうちの1人が陽性だったからだ。その結果、私の感染時期として濃厚なのは2020年12月。α株が感染主流株だった時期である。その後も検査は続けていたが、N抗体は一貫して右肩下がりとなっていった。一方、S抗体はというと、1回目の検査が新型コロナワクチン2回接種の初回免疫終了から約4ヵ月後で、数値は4,583.0U/mL。A医師から「僕の10倍くらいある」と感心された。自然感染とワクチン接種のハイブリッド免疫であるがゆえだったのだろう。その後の推移は、3回目接種(モデルナ製)直前(初回免疫終了から約7ヵ月後)の2022年2月が2,785.0 U/mL、4回目接種(モデルナ製)直前(3回目接種終了から約11ヵ月後)の2022年12月が4,521.0 U/mL 、5回目接種(第一三共製)直前(4回目接種終了から15ヵ月後)の2024年3月が6,252.0 U/mLだった。ちなみにこの間、N抗体のCOIは194.00から51.60 → 27.60 → 13.10 → 7.73と順調に低下していった。直近のS抗体価にがっかり、N抗体価にビックリ!さて今回の抗体検査の結果は2日後に判明した。5回目接種から約8ヵ月後のS抗体は9,999.9 U/mLと上限値オーバー。子供っぽい言い方をすれば「とにかくたくさん」と言うことだ。この結果の感想を言うならば、「ホッとする反面、正確な数値がわからず、ワクチンマニアとしてはちょっとがっかり」というところ。そろそろ6回目の完全自費の新型コロナワクチン接種をしようと思っていた矢先だけに、接種後どれだけ抗体価が上昇したかが正確にわからないのでは、ややつまらない。どこかより厳格な検査結果を示してくれるところはないだろうかと思案している(臨床研究を実施している先生方がいればいつでも協力します 笑)。だが、問題はN抗体のほうだ。今回のCOIは25.50。3回前の検査結果に近い数値まで再上昇していたのである。すなわちこの約8ヵ月間に再感染していたことになる。「え?」「は?」という感じだ。今回も約8ヵ月間に咽頭痛などの自覚症状は記憶がない。数値を見ると、1回目の無症候感染時ほどCOIは高くないので、好意的に解釈すればワクチン接種の恩恵があったとも言えそうだ。しかし、無症候であっても再感染は嬉しくない。ちなみに2023年7月のnature誌に米・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のグループが、アメリカ骨髄バンク登録ドナーのうちヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のデータが利用できる約3万人について、無症候感染者と有症状感染者のHLAを比較した研究1)を行い、HLAのバリアントの1つであるHLA-B*15:01を有する人は無症候者に多いと報告されている。もちろん自分がこれに該当するのかはわからない。そして余談を言えば、前回触れた消費者向け遺伝子検査の結果では、私の新型コロナ感染時の重症化リスクは「大」の判定である。まあ、いずれにせよ今もこの感染症は油断がならないことを、なかば身をもって証明したのかもしれない。参考1)Augusto DG, nature. 2023;620:128-136.

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HEPAフィルターによる空気清浄、急性呼吸器感染症の予防効果は?

 高齢者居住施設において、HEPA-14フィルターを使った高性能空気清浄が急性呼吸器感染症(ARI)の発生率に及ぼす影響について、オーストラリア・ニューカッスル大学のBismi Thottiyil Sultanmuhammed Abdul Khadar氏らの研究チームがランダム化臨床試験を実施した。その結果、HEPA-14フィルターを用いた場合とそうでなかった場合で、ARI発生率に有意差は認められなかった。JAMA Network Open誌2024年11月11日号に掲載。 本研究では、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州にある高齢者居住施設3ヵ所において、2023年4月7日~10月26日の6ヵ月間、135人の個室居住者を対象に、多施設共同二重盲検クロスオーバーランダム化臨床試験が行われた。第1フェーズでは、対象者を介入群と対照群に割り付け、介入群の部屋にはHEPA-14フィルター付きの空気清浄機が設置され、対照群の部屋にはHEPA-14フィルターのない空気清浄機が設置された。試験開始から3ヵ月後に、1週間のウォッシュアウト期間を設け、両群を入れ替えて第2フェーズの試験が行われた。ロジスティック混合モデル回帰分析によりARI発生率が評価された。主要評価項目は感染または感染なしの2値で評価したARI発生率で、咳嗽、咽頭痛、息切れ、鼻炎の少なくとも1つが突然発症し、臨床医が感染症によるものであると判断したものと定義された。 主な結果は以下のとおり。・第1フェーズの参加者135人の年齢中央値は86.0歳(範囲 59.0~103.0)、平均年齢は85.2歳(SD 8.6)、女性が57.8%だった。介入群に70人、対照群に65人が割り付けられた。このうち113人が、入れ替え後の第2フェーズに参加した(介入群:55人、対照群58人)。・全参加者における解析では、介入群(125人)のARI発生率は24.8%(95%信頼区間[CI]:17.8~32.9)、対照群(123人)のARI発生率は34.2%(26.2~42.9)であり、ARI発生率に有意差は認められなかった(オッズ比[OR]:0.57、95%CI:0.32~1.04、p=0.07)。・104人の参加者(77.0%)が全試験を完了し、対照群と介入群の両方に曝露した。全試験を完了した参加者におけるサブグループ解析では、介入群(104人)のARI発生率は24.0%(95%CI:16.7~32.9)、対照群(104人)のARI発生率は35.6%(95%CI:26.8~45.1)であり、介入群のARI発生率が有意に少なかった(OR:0.53、95%CI:0.28~1.00、p=0.048)。・病原体が特定されたARI 36件のうち、SARS-CoV-2が19件(52.8%)、RSウイルスが16件(44.4%)、ライノウイルスが1件(2.8%)だった。・介入群は対照群と比較して、初回のARI感染までの時間を短縮しなかった。90日以内の感染までの制限平均時間では、介入群では78.1日(SE 2.1)、対照群では74.2日(SE 2.3)であり、有意差はなかった(ハザード比:0.67、95%CI:0.42~1.07、p=0.09)。 著者らは本結果について、全体の解析では統計学的に有意な結果は得られなかったが、全試験を完了した参加者ではARIが有意に減少したことが確認され、HEPAフィルターを備えた空気清浄機がARI予防に有用である可能性を示唆し、今後の大規模研究の基盤になるだろう、との見解を示した。

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レナカパビル年2回投与、男性/ジェンダーダイバースのHIV曝露前予防に有効/NEJM

 男性およびジェンダーダイバースのHIV感染発生率は、レナカパビルの年2回皮下投与により、バックグラウンドおよびエムトリシタビン/テノホビル・ジソプロキシルフマル酸塩(F/TDF)投与と比較して89~96%有意に低下した。米国・エモリー大学のColleen F. Kelley氏らPURPOSE 2 Study Teamが、米国、ブラジル、タイ、南アフリカ、ペルー、アルゼンチンおよびメキシコの計92施設で実施した第III相無作為化二重盲検実薬対照比較試験「PURPOSE 2試験」において示された。年2回のレナカパビル皮下投与は、シスジェンダー女性におけるHIV曝露前予防(PrEP)に有効であることが示されているが、シスジェンダー男性、トランスジェンダー女性、トランスジェンダー男性およびジェンダーノンバイナリーにおけるレナカパビルPrEPの有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2024年11月27日号掲載の報告。16歳以上ジェンダーダイバース3,271例をレナカパビル群、F/TDF群に無作為化 PURPOSE 2試験の対象は、出生時の性別が男性とされたパートナーと性交渉をもつシスジェンダー・バイセクシュアル・その他の男性、トランスジェンダー女性、トランスジェンダー男性、およびノンバイナリージェンダーで、年齢が16歳以上、HIV感染状況が不明、スクリーニング前3ヵ月間にHIV検査またはPrEP使用歴がない人であった。 研究グループは、参加者をスクリーニングし、中央検査でHIV陰性が確認された人を、レナカパビル群(927mgを26週間ごとに2回皮下投与、プラセボ経口投与、ローディングとして1日目および2日目にレナカパビル300mg錠×2錠を経口投与)、またはF/TDF群(エムトリシタビン200mgとTDF 300mgを1日1回経口投与、プラセボを皮下投与およびローディングで経口投与)、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、HIV感染の発生であった。有効性の主要解析では、レナカパビル群のHIV感染発生率をバックグラウンドHIV感染発生率(スクリーニングでHIV陽性が確認された集団に基づくHIV感染発生率)と比較した。また副次解析として、レナカパビル群とF/TDF群のHIV感染発生率を比較した。 2021年6月28日~2023年12月12日に、4,807例がスクリーニングを受け、HIV検査の結果が得られた4,634例のうち378例(8.2%)がHIV感染と診断され、そのうち45例(11.9%)が最近の感染であった。バックグラウンドHIV感染発生率は、100人年当たり2.37(95%信頼区間[CI]:1.65~3.42)であった。 4,807例のうちHIV陰性で適格基準を満たした3,271例が、無作為化され試験薬を少なくとも1回投与された。このうち、1日目にHIV感染が判明した症例を除く3,265例が修正ITT集団として有効性の解析対象となった(レナカパビル群2,179例、F/TDF群1,086例)。HIV感染の発生率、レナカパビル群2例vs.F/TDF群9例 解析対象3,265例のうち、11例のHIV感染の発生が観察された。レナカパビル群は2例(発生率0.10/100人年[95%CI:0.01~0.37])、F/TDF群は9例(0.93/100人年[0.43~1.77])であった。 レナカパビル群におけるHIV感染発生率は、バックグラウンドより96%(発生率比:0.04、95%CI:0.01~0.18、p<0.001)、F/TDF群より89%(0.11、0.02~0.51、p=0.002)、いずれも有意に低かった。 安全性に関する懸念は認められなかった。レナカパビル群では2,183例中26例(1.2%)、F/TDF群では1,088例中3例(0.3%)が、注射部位反応により投与を中止した。 著者は研究の限界として、レナカパビルが、治療経験が豊富な多剤耐性HIV患者のみに使用することが承認されており、対象者は限られていたことなどを挙げている。

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第242回 病院経営者には人ごとでない順天堂大の埼玉新病院建設断念、「コロナ禍前に建て替えをしていない病院はもう建て替え不可能、落ちこぼれていくだけ」と某コンサルタント

埼玉県がさいたま市に誘致し、新設予定だった順天堂大付属病院の建設計画が頓挫こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。俳優で歌手の中山 美穂さんの急死には驚きました。検視の結果、事件性はないことが確認され、「入浴中に起きた不慮の事故」と公表されました。朝日新聞等の報道によれば、事件性が疑われる場合に行われる「司法解剖」ではなく、「調査法解剖」が行われたとのことです。調査法解剖は、2013年に施行された「死因・身元調査法」に基づいて実施される比較的新しい解剖の制度です。犯罪捜査の手続きが行われていなくても、警察等が法医等の意見を踏まえて死因を明らかにする必要があると判断した場合に、遺族への事前説明のみで実施が可能とのことです。死亡推定時刻は12月6日午前3時~5時頃で「入浴中に起きた不慮の事故」ということは、飲んで浴槽で寝てしまったのかもしれません。私もぐでんぐでんに酔っ払い、家に帰って浴槽で寝てしまい、お湯が冷めて寒さを感じやっと起きたという経験や、ぶくぶくと溺れそうになって起きた経験があります。飲んでからのお風呂はいろいろな意味で危険ですね。忘年会シーズン、皆さんもお気を付けください。さて今回は、埼玉県がさいたま市の浦和美園地区に誘致し、新設予定だった順天堂大付属病院の建設計画が頓挫したニュースについて書いてみたいと思います。建築費などの高騰がその理由とのことですが、建て替えに悩む多くの病院経営者は人ごととは思えなかったのではないでしょうか。総事業費が当初予想した規模の2.6倍、2,186億円に達することが明らかに順天堂大学は11月29日、埼玉県がさいたま市の浦和美園地区に誘致し、新設予定だった順天堂大付属病院について、建設費高騰などを理由に計画を中止すると県に伝えました。東京新聞などの報道によれば、順大は11月27日の理事会で中止を決定、29日に代田 浩之学長、天野 篤理事らが県庁を訪れ、大野 元裕知事に報告したとのことです。代田学長は取材に「県民の皆さまにご期待をいただいたが、残念ながら断念することになった。大変申し訳なく思う」と謝罪、大野知事は、「これまでも大学からの申し出に対し、期限を延長するなどの措置をしてきた。その上でのこの報告は、大変遺憾だ」と述べたとのことです。順大は同日、同大のウェブサイトに「埼玉県浦和美園地区病院の整備計画中止について」と題するニュースリリースを発信、中止の主な理由について、「建築業界の急激な需要増や資材の高騰に加え、深刻な人手不足などの要因も重なり建築費が大幅に高騰し、さらにその他の費用も上昇した結果、総事業費が当初平成27年に予想した規模の2.6倍にあたる2,186億円に達することが明らかになりました」と記しています。800床で、建設予定地は約7万7,000m2、県は土地取得に55億5,000万円かける新病院は、県内の医師確保困難地域への医師派遣などを条件に、2015年の県医療審議会で順大による開院計画が採択されました。当初計画の病床数は800床で、建設予定地は約7万7000m2。県有地とさいたま市有地からなり、県は土地取得に55億5,000万円をかけていました。県が2018年に順大側と交わした確認書では、病院整備費用の2分の1を上限に補助することになっていました。度重なる延期の末、最終的に2027年11月の開院予定となっていましたが、今年7月末に順大から県に対し、2,186億円の総事業費、開院を20ヵ月延期する工期とともに「事業計画の見直しが必要との結論に至った」との通知が届けられていました。県は計画変更を希望する場合には申請書を速やかに提出するよう要請したものの申請書が提出されなかったことから、10月25日付で12月2日までに変更申請書を提出するよう求めていました。9年余りで建設費は2.3倍、機器・備品・システムは4.4倍に順大のWebサイトには、当初2015年1月に予想した総事業費が2024年7月には2.6倍まで膨らんだ状況が棒グラフで示されています。それによれば、2015年時点の総事業費は建設費709.5億円、機器・備品・システム124.3億円で合計834億円。それが2024年時点では建設費1640.3億円、機器・備品・システム546.2億円で合計2,186億円となっています。9年余りで建設費は2.3倍、機器・備品・システムは4.4倍になっており、医療機器やシステム(電子カルテ等)の方が高騰していることがわかります。ちなみに、建設費は昨年2023年11月予想では936.2億円とその時点までは漸増程度でしたが、その後8ヵ月余で704億円も増加している点も目を引きます。「6つの医学部附属病院を抱える本学は、かつてないほどの厳しい財政状況」と順大順大はWebサイトで次のように大学病院経営自体の苦境も吐露しています。「現在、新型コロナウイルス感染症の流行による病院運営への負の影響や、先進的な医薬品・診療材料の価格高騰などが原因で、多くの国立大学病院や都立病院では収支が赤字となり、その赤字幅が拡大する厳しい状況にあります。この厳しい状況は本学にとっても例外ではなく、令和6年4月から施行された医師の働き方改革への対応も含め、6つの医学部附属病院を抱える本学は、かつてないほどの厳しい財政状況に直面しています」。そして、「現在の診療報酬の下では急速な大幅増益が見込めないことから、当該事業に充当する予定の準備資金の確保及び開設後の運営資金の捻出することが難しい事態」となったため、病床規模を800床から500床程度に縮小するなどの検討も行ったが、「埼玉県民の皆様に貢献することができるための最先端医療機能を備え、かつDXを活用した未来型基幹病院の開設は到底困難」と判断した、としています。“未来型基幹病院”を目指したとしても、2,186億円はやや法外か?800床の病院で総事業費2,186億円(建設費1,640億円)というのは、“未来型基幹病院”を目指したとしても、やや法外な(あるいは相当ふっかけられた)金額と言えなくもありません。ちなみに、福祉医療機構のデータによれば、病院の「定員1人当たり建設費」は2023年度には2,387万2,000円でした。仮に800床だと約190億円になります。順大の新病院の建設費は昨年、2023年11月予想では936億円でしたから、この時点でも実に普通の病院の5倍の建設費だったことになります。もちろん、福祉医療機構のデータは回復期機能を中心とする民間病院の割合が比較的多く、超急性期病院や大学病院と単純比較はできませんが、当初計画において、病院の規模や装備面で相当“背伸び”をし過ぎていた感は否めません。順大医学部は学費下げの戦略などが奏功し、偏差値も上昇、私立医大の新御三家(慶應大、慈恵医大、順大)と呼ばれるほどになっています。また、関東に本院含む6病院を経営、その附属病院の展開戦略は、大学病院経営の“お手本”と言われたこともありました。しかし、コロナ禍、戦争、人口減、物価高、医師の働き方改革など、さまざまな要因が絡み合って起きている病院の経営環境の悪化が、イケイケだった順大の”未来型基幹病院”の夢を打ち砕いてしまったわけです。公立と民間の医療機関の再編・統合事例が増えていく可能性は高いとは言え、順大の撤退は、多くの病院経営者にとって人ごとではないでしょう。順大は総事業費が当初考えていた金額の2.6倍になったことを撤退の理由に挙げていますが、そうした厳しい状況はこれから建て替えを考える病院共通の問題だからです。2ヵ月ほど前に会ったある医療経営コンサルタントは、「病院の建設費が10年前の3〜4倍にもなっている。コロナ禍とウクライナ戦争の前に建て替えを行っていなかった病院は、もう実質建て替えは不可能。公立病院と統合するなどよほど大胆な手を打たないと、これからは落ちこぼれていくだけ」と話していました。実際、建築費などの高騰は、病院の再編・統合にも影響を及ぼしはじめています。民間病院と公立病院の再編事例が各地で増えていることもその表れです。代表的なのは2021年4月に兵庫県で設立された川西・猪名川(いながわ)地域ヘルスケアネットワーク(川西市)です。連携の目玉として市立川西病院(250床)と医療法人協和会の協立病院(313床)が合併、2022年9月に新たな場所で川西市立総合医療センター(405床)としてスタートを切りました。新病院は川西市が設立し、医療法人協和会は指定管理者として管理運営を担うことになりました。赤字続きだった市立川西病院の移転計画に、建物の老朽化などで同じく移転を計画していた医療法人協和会が乗るかたちで実現しました。再編・ネットワーク化を伴う公立病院のケースでは、病院事業債(特別分)の元利償還金の40%が普通交付税措置(通常25%)される、というスキームを活用しての再編です。事業費の相当部分を交付税で賄うことができるメリットは大きいと言えます。民間病院が独自で巨額の建設費を調達することが困難になってきた現在、こうしたスキームを活用した、公立と民間の医療機関の再編・統合事例が増えていく可能性は高いと考えられます。

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COVID-19罹患で自己免疫・炎症性疾患の長期リスクが上昇

 COVID-19罹患は、さまざまな自己免疫疾患および自己炎症性疾患の長期リスクの上昇と関連していることが、韓国・延世大学校のYeon-Woo Heo氏らによる同国住民を対象とした後ろ向き研究において示された。これまでCOVID-19罹患と自己免疫疾患および自己炎症性疾患との関連を調べた研究はわずかで、これらのほとんどは観察期間が短いものであった。著者は「COVID-19罹患後のリスクを軽減するために、人口統計学的特性、重症度、ワクチン接種状況を考慮しながら、長期的なモニタリングと管理が重要であることが示された」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年11月6日号掲載の報告。 研究グループは、Korea Disease Control and Prevention Agency-COVID-19-National Health Insurance Service(K-COV-N)コホートを対象に、COVID-19罹患後の長期における自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクを調べた。対象は、2020年10月8日~2022年12月31日にCOVID-19罹患が確認された住民(COVID-19罹患群)、2018年に一般健康診断を受けた住民(対照群)とした。 主要アウトカムは、COVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患の発症率とリスクとした。逆確率重み付け法を用いて、人口統計学的特性、一般的な健康データ、社会経済的状況、併存疾患などの共変量を調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・観察期間180日超のCOVID-19罹患者314万5,388例、対照376万7,039例の計691万2,427例(男性53.6%、平均年齢53.39[SD 20.13]歳)が解析に含まれた。・COVID-19罹患群でリスクが高かった疾患(調整ハザード比、95%信頼区間)は以下のとおりであった。 円形脱毛症(1.11、1.07~1.15) 全頭脱毛症(1.24、1.09~1.42) 尋常性白斑(1.11、1.04~1.19) ベーチェット病(1.45、1.20~1.74) クローン病(1.35、1.14~1.60) 潰瘍性大腸炎(1.15、1.04~1.28) 関節リウマチ(1.09、1.06~1.12) 全身性エリテマトーデス(1.14、1.01~1.28) シェーグレン症候群(1.13、1.03~1.25) 強直性脊椎炎(1.11、1.02~1.20) 水疱性類天疱瘡(1.62、1.07~2.45)・人口統計学的特性(男性/女性、40歳未満/以上)別のサブグループ解析では、COVID-19罹患による自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクは、性別や年齢によって異なることが示された。・とくに、ICU入室を要する重症COVID-19罹患、デルタ株優勢期の感染、ワクチン未接種はCOVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクが高かった。

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水分摂取を増やすと肥満や腎結石以外にも有効な可能性

 1日の水分摂取量に関しては、公的な推奨がいくつかされているもののそれを裏付けるエビデンスは明確ではなく、水分摂取量を変更することによる利点は十分に確立されていない。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のNizar Hakam氏らが実施したシステマティックレビューの結果、エビデンスの質と量は限定的であるものの、少数の研究で1日の水分摂取量の増加が体重減少や腎結石予防に有益であることが示され、また、単一の研究では片頭痛予防、尿路感染症、糖尿病管理、低血圧に対する有益性が示唆された。JAMA Network Open誌2024年11月25日号掲載の報告。 2023年4月6日まで、PubMed、Web of Science、Embaseについて系統的文献検索を実施した。対象は、定義された量の水分を毎日摂取することが健康関連のアウトカムに与える影響を評価した研究とされた。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた1,464件のうち、1999~2023年に発表された18件(1%)が適格とされレビューに含まれた。うち15件(83%)は並行群間無作為化比較試験(RCT)、3件(16%)はクロスオーバー研究であった。・これらの研究における介入としては、4日間~5年間の決められた期間、毎日の水分摂取量を特定の量だけ変更することが推奨され(18件中17件が水分摂取量の増加、1件が水分摂取量の削減)、対照群には主に通常の水分摂取習慣を維持することが求められた。・主要評価項目には、体重減少、空腹時血糖値、頭痛、尿路感染症、腎結石などが含まれた。・10件の研究(55%)で1つ以上の肯定的な結果が報告され、8件の研究(44%)で否定的な結果が報告されていた。・水分摂取量の増加は、体重減少(対照群と比較し44~100%大きな体重減少)および腎結石イベントの減少(5年間にわたり参加者100人当たり15イベント減少)と関連していた。・体重減少に関しては、3件の過体重および肥満の成人対象のRCTにおいて、12週間~12ヵ月間食前に1,500mL/日の水を摂取したところ、対照群と比較して大きな体重減少がみられた。・腎結石に関しては、1件の健康成人対象のRCTおよび1件の特発性カルシウム結石の初回エピソードを有する患者対象のRCTにおいて、2,000mL/日の水分摂取量増加および尿量2,000mL/日を達成するための水分摂取量増加により、対照群と比較して結石および再発リスクが低下した。・個々の研究では、片頭痛予防、尿路感染症、糖尿病管理、低血圧に対する有益性が示唆された。 著者らは、水分摂取量が健康上のアウトカムに及ぼす影響を評価した臨床試験の数は限られていると指摘し、低コストで有害作用が少ないことを考慮すると、特定の条件下での有益性を評価するより十分にデザインされた研究が必要としている。

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心筋梗塞へのコルヒチンは予後を改善するか/NEJM

 急性心筋梗塞患者の治療において、発症後すぐに抗炎症薬コルヒチンの投与を開始し、3年間継続しても、プラセボと比較して心血管アウトカム(心血管系の原因による死亡、心筋梗塞の再発、脳卒中、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術の複合)の発生率は減少せず、その一方で3ヵ月後には炎症マーカーが有意に低下することが、カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR Investigatorsが実施した「CLEAR試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2024年11月17日号で報告された。14ヵ国の医師主導型無作為化プラセボ対照比較試験 CLEAR試験は、心筋梗塞発症後におけるコルヒチンとスピロノラクトンの心血管アウトカムの改善効果の評価を目的とする2×2ファクトリアルデザインの医師主導型無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年2月~2022年11月に14ヵ国104施設で患者を登録した(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 心筋梗塞患者をコルヒチンまたはプラセボ、スピロノラクトンまたはプラセボの投与を受ける群に無作為に割り付けた。本論では、コルヒチンに関する結果が報告された。 有効性の主要アウトカムは、心血管系の原因による死亡、心筋梗塞の再発、脳卒中、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術の複合とし、time-to-event解析を行った。主要アウトカムの個々の項目にも差はない 7,062例を登録し、コルヒチン群に3,528例、プラセボ群に3,534例を割り付けた。全体の平均年齢は61歳、女性が20.4%であった。9.0%が心筋梗塞の既往歴を有し、10.0%が経皮的冠動脈インターベンションを受けており、18.5%が糖尿病で、95.1%がST上昇型心筋梗塞(STEMI)、4.9%が非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)だった。 追跡期間中央値3年の時点で、主要アウトカムのイベントは、コルヒチン群が322例(9.1%)、プラセボ群は327例(9.3%)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.85~1.16、p=0.93)。 主要アウトカムを構成する4つの項目にも差はなかった。心血管系の原因による死亡はコルヒチン群3.3% vs.プラセボ群3.2%(HR:1.03、95%CI 0.80~1.34)、心筋梗塞の再発は2.9% vs.3.1%(0.88、0.66~1.17)、脳卒中は1.4% vs.1.2%(1.15、0.72~1.84)、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術は4.6% vs.4.7%(1.01、0.81~1.26)であった。重篤な有害事象に差はない、下痢が多かった 3ヵ月の時点におけるC反応性蛋白の最小二乗平均(ベースラインの値で補正)はコルヒチン群で低かった(2.98±0.19mg/L vs.4.27±0.19mg/L、群間差:-1.28mg/L、95%CI:-1.81~-0.75)。 有害事象(コルヒチン群31.9% vs.プラセボ群31.7%)および重篤な有害事象(6.7% vs.7.4%)の発生率は両群で同程度だった。また、下痢の頻度がコルヒチン群で高かった(10.2% vs.6.6%、p<0.001)が、重篤な感染症には差がなかった(2.5% vs.2.9%)。 著者は、「下痢の発生率の増加とC反応性蛋白の低下は予想どおりであり、本試験におけるコルヒチンの生物学的効果を支持するものであった」「最近のメタ解析では、コルヒチンによる心血管系以外の原因による死亡の名目上の増加が示されているが、本試験では逆にプラセボ群に比べて発生率が低かった(1.3% vs.1.9%、HR:0.68、95%CI:0.46~0.99)」としている。また、「本試験のデータが提示される前に、欧州心臓病学会は冠動脈アテローム硬化性疾患患者に対するコルヒチンの推奨をクラスIIbからクラスIIaに変更し、米国食品医薬品局は冠動脈疾患の治療薬として本薬を承認している」という。

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