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第180回 エビやキノコなどの食物繊維キチンは肥満を生じ難くする/GLP-1薬セマグルチドが1型糖尿病にも有効らしい

エビやキノコなどの食物繊維キチンは肥満を生じ難くする食物繊維の摂取は代謝を好調にし、肥満などの代謝疾患が生じ難くなることと関連します。とはいうものの食物繊維の代謝への恩恵をわれわれの体が引き出す仕組みはあまりわかっていません。不溶性の多糖繊維のほとんどは哺乳類の酵素で消化されず、腸の微生物による分解もごく限られています。しかしエビやカニなどの甲殻類、昆虫、真菌(キノコ)などの外骨格や細胞壁の主成分であるキチンは例外的で、ほかの食物繊維と一線を画します。マウスやヒトはキチンを作れませんが、キトトリオシダーゼ(Chit1)と酸性哺乳類キチナーゼ(AMCase)と呼ばれるキチン分解酵素2つを作ることができます。摂取したキチンがその消化を促す胃でのAMCase発現亢進を導くまでの免疫反応絡みの回路が新たな研究で同定され、AMCase欠如マウスにキチンを与え続けると高脂肪食にもかかわらずあまり太らずに済むことが示されました1)。キチンとともに高脂肪食が与えられたAMCase欠如マウスは、キチンを与えなかったマウスやキチンを与えたけれどもそれを分解できるマウスに比べて体重増加や脂肪量が少なくて済み、肥満になりにくいという結果が得られています。今後の課題として研究チームはヒトではどうかを検討する予定です2)。食事にキチンを含めることで肥満を予防できるかどうかを調べることを目標としています。また、胃のキチン分解酵素の阻害とキチン補給を組み合わせることでAMCase欠如マウスのキチン摂取と同様の最大の効果を引き出せそうと研究チームは考えています。チームのリーダーSteven Van Dyken氏によると胃のキチン分解酵素を阻害する手段はいくつか存在するとのことです。GLP-1薬セマグルチドが1型糖尿病にも有効らしい肥満治療といえば2型糖尿病(T2D)治療薬として出発したノボ ノルディスク ファーマのGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)セマグルチドが大人気ですが、同剤がT2Dのみならず1型糖尿病(T1D)にも有効らしいことを示す米国・バッファロー大学のチームによる症例解析がNEJM誌に先週掲載されました3)。T1Dになったばかりの患者のほとんどはまっとうなβ細胞を有しています。そういう初期段階であればインスリン分泌を促すセマグルチドが効くかもしれず、バッファロー大学の研究者はT1D診断後3ヵ月後以内に同剤投与が始まった患者10例の1年間の経過を調べました。10例とも食事の際のインスリンと基礎インスリンを使っていましたが、セマグルチド開始から3ヵ月以内に全員が食事時のインスリンを使わずに済むようになりました。また、10例中7例は6ヵ月以内に基礎インスリンも不要となってその後もそうして過ごせました。血糖値も落ち着き、もとは12%ほどもあった糖化ヘモグロビン値はセマグルチド使用開始後半年時点では5.9%、1年時点では5.7%に落ち着きました。セマグルチドの用量を増やしている期間に軽い低血糖が生じましたが、投与量が一定になって以降の発生は認められませんでした。T1D診断後すぐからのセマグルチド投与をより大人数の無作為化試験で検討する価値があると著者は言っています。T1Dへの有効性が示唆されたことが示すようにセマグルチドなどのGLP-1薬は代謝疾患の領域で手広い用途がありそうです。もっと言うと、その域を超えて依存症分野でも活躍できる可能性を秘めています。そういう可能性の臨床検討はすでに始まっており、たとえばセマグルチドと飲酒や喫煙量の変化の関連がノースカロライナ大学主催の試験で調べられています4,5)。参考1)Kim DH, et al. Science. 2023;381:1092-1098.2)Fiber from crustaceans, insects, mushrooms promotes digestion / Eurekalert3)Dandona P, et al. N Engl J Med. 2023;389:958-959.4)ClinicalTrials.gov(NCT05520775)5)ClinicalTrials.gov(NCT05530577)

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第65回 ロジスティック回帰分析のオッズ比?【統計のそこが知りたい!】

第65回 ロジスティック回帰分析のオッズ比?今回はロジスティック回帰分析(Logistic regression analysis)におけるオッズ比(Odds ratio)について解説します。ロジスティック回帰分析のオッズは、回帰式の回帰係数から算出されます。前回の事例で求められた回帰式を示します。図1回帰係数は、変数が1変化したときの目的変数に及ぼす影響の程度を表します。値が大きいほど目的変数への影響度が高くなりますが、この事例の場合、データの単位が飲酒は日数、喫煙は本数というように、異なる場合は変数相互の比較はできません。この回帰係数を変換した数値を「調整したオッズ比」と言います。統計学の基礎オッズ比と結果は異なります。(第11回を参考にしてください)オッズは競馬などのギャンブルで使われている確率を示す数値であり、「ある事象が起こる確率P/ある事象が起こらない確率P」で定義されます。割合と似ていますが、以下の点で違いがあります。【割合】割合=任意の数/全体:(0~1)例:がんである人25人/調査した全体人数100人=0.25【オッズ】オッズ=起こる確率/起こらない確率:(0~∞)例:がんが起こる確率0.25/がんが起こらない確率0.75=0.333そして、2つのオッズを比較して示す尺度が統計学の基礎「オッズ比」です。図2調整したオッズ比はロジスティック回帰で求められるもので、統計学の基礎オッズ比と結果は異なります。オッズ比は2群データ、調整したオッズ比は数量データに適用され、調整したオッズ比は回帰係数を変換した数値になります。調整したオッズ比は、説明変数の値が1つ増加した場合のオッズ比を表します。図3オッズ比が1より大きい場合は事象が第1群で起こりやすく、1より小さい場合は第2群で起こりやすいということになります。図4この事例では、飲酒日数のオッズ比は1.11で、飲酒日数が1ヵ月間で1日増えたときのがんになる危険度は1.11倍で、オッズ比は1より大きく、飲酒量が多いほど「がんである」が起こりやすいと言えます。喫煙本数のオッズ比は1.2で、喫煙本数が1日で1本増えたときのがんになる危険度は1.2倍で、オッズ比は1より大きく、喫煙本数が多いほど「がんである」が起こりやすいといえます。ここで注意したいことに、データの単位が異なる場合、オッズ比の比較はできません。オッズ比は飲酒日数(日/1ヵ月間)は1.11、喫煙本数(本/1日)は1.20で、がんへの影響度は飲酒日数の方が喫煙本数より低いと言えません。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その1)質問5(続き) リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その2)質問18 ロジスティック回帰分析とは?質問21 ロジスティック回帰分析の説明変数の選び方は?質問22 ロジスティック回帰分析の事例

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慢性呼吸器疾患の世界的負荷を定量化

 慢性呼吸器疾患(CRD)は、2019年の全世界における死因の第3位で、死亡者数は400万人に上った、とする研究結果が「eClinicalMedicine」5月号に掲載された。 内分泌・代謝人口科学研究所(イラン)のSara Momtazmanesh氏らによる慢性呼吸器疾患の国際共同研究グループは、204カ国・地域における、1990年から2019年までのCRDの死亡者数、有障害年数、損失余命年数、障害調整生存年数(DALY)、有病者数、新規発症者数を、性別、年齢、地域、社会人口統計学的指標で分けて推定した。CRDは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、じん肺、間質性肺炎、サルコイドーシス、その他と定義した。 解析の結果、CRDは2019年の全世界における死因の第3位で、死亡者数は400万人、有病者数は4億5460万人であった。1990年から2019年にかけて、CRDの総死亡者数と有病者数はそれぞれ28.5%、39.8%増加したが、年齢調整後の総死亡者数と有病者数はそれぞれ41.7%、16.9%減少した。CRDによる死亡の主要原因はCOPDで、有病者数は2億1230万人、死亡者数は330万人であった。CRDの中で最も有病者数が多かったのは喘息で、2億6240万人であった。1990年から2019年にかけて、COPD、喘息、じん肺の年齢調整後の負荷指標は世界的に減少したが、同期間に間質性肺炎とサルコイドーシスの年齢調整後の新規発症者数と有病者数は上昇した。CRDによる死亡とDALYに最も寄与した要因は喫煙であり、次いで大気汚染と職業的リスクであった。 著者らは「CRDによる疾病負荷を軽減するためには、タバコ規制対策と大気の質改善戦略を世界的に完全に遵守することが重要である。社会人口統計学的指標が低度または低中度の国での死亡者数やDALYの高さは、予防、診断、治療の改善策の緊急的必要性を強調している」と述べている。 なお複数人の著者が、バイオ医薬品業界との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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シスタチンC/クレアチニン比で骨粗鬆症性骨折のリスクを予測可能

 腎機能の指標であるシスタチンCとクレアチニンの比が、骨粗鬆症性骨折の発生リスクの予測にも利用可能とする研究結果が報告された。吉井クリニック(高知県)の吉井一郎氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of General and Family Medicine」に4月20日掲載された。 骨粗鬆症による骨折は、生活の質(QOL)を大きく低下させ、生命予後を悪化させることも少なくない。骨粗鬆症による骨折のリスク因子として、高齢、女性、喫煙、飲酒、糖尿病などの生活習慣病、ステロイドの長期使用などが知られているが、近年、新たなリスクマーカーとして、シスタチンCとクレアチニンの比(CysC/Cr)が注目されつつある。 シスタチンCとクレアチニンはいずれも腎機能の評価指標。これらのうち、クレアチニンは骨格筋量の低下とともに低値となるために腎機能低下がマスクされやすいのに対して、シスタチンCは骨格筋量変動の影響を受けない。そのため骨格筋量が低下するとCysC/Crが上昇する。このことからCysC/Crはサルコペニアのマーカーとしての有用性が示されており、さらに続発性骨粗鬆症を来しやすい糖尿病患者の骨折リスクも予測できる可能性が報告されている。ただし、糖尿病の有無にかかわらずCysC/Crが骨折のリスクマーカーとなり得るのかは不明。吉井氏らはこの点について、後方視的コホート研究により検討した。 解析対象は、2010年11月~2015年12月の同院の患者のうち、年齢が女性は65歳以上、男性は70歳以上、ステロイド長期投与患者は50歳以上であり、腰椎と大腿骨頸部の骨密度およびシスタチンCとクレアチニンが測定されていて、長期間の追跡が可能であった175人(平均年齢70.2±14.6歳、女性78.3%)。追跡中の死亡、心血管疾患や肺炎などにより入院を要した患者、慢性腎臓病(CKD)ステージ3b以上の患者は除外されている。 平均52.9±16.9カ月の追跡で28人に、主要骨粗鬆症性骨折〔MOF(椎体骨折、大腿骨近位部骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折で定義)〕が発生していた。MOF発生までの平均期間は15.8±12.3カ月だった。 単変量解析から、MOFの発生に関連のある因子として、MOFの既往、易転倒性(歩行障害、下肢の関節の変形、パーキンソニズムなど)、生活習慣病(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、心不全、COPD、不眠症など)、ステージ3a以上のCKDとともに、CysC/Cr高値が抽出された。年齢や性別、BMI、骨密度、飲酒・喫煙習慣、骨粗鬆症治療薬・ビタミンD・ステロイドの処方、ポリファーマシー、関節リウマチ、認知症などは、MOF発生と有意な関連がなかった。 多変量解析で有意性が認められたのは、易転倒性と生活習慣病の2項目のみだった。ただし、単変量解析で有意な因子についてROC解析に基づく曲線下面積(AUC)を検討したところ、全ての因子がMOFの有意な予測能を有することが確認された。例えば、易転倒性ありの場合のAUCは0.703(P<0.001)、生活習慣病を有する場合は0.626(P<0.01)であり、CysC/Crは1.345をカットオフ値とした場合に0.614(P<0.01)だった。また、カプランマイヤー法によるハザード比はCysC/Crが6.32(95%信頼区間2.87~13.92)と最も高値であり、易転倒性が4.83(同2.16~10.21)、MOFの既往4.81(2.08~9.39)、生活習慣病3.60(1.67~7.73)、CKD2.56(1.06~6.20)と続いた。 著者らは、本研究が単施設の比較的小規模なデータに基づく解析であること、シスタチンCに影響を及ぼす悪性腫瘍の存在を考慮していないことなどの限界点を挙げた上で、「CysC/Crが1.345を上回る場合、MOFリスクが6倍以上高くなる。CysC/CrをMOFリスクのスクリーニングに利用できるのではないか」と結論付けている。

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喫煙者/喫煙既往歴者でスパイロメトリー測定値がCOPD基準を満たさないTEPS群の中で呼吸器症状有群(FEV1/FVC<0.7かつCAT≧10)は臨床の視点からCOPD重症化予備群として対応すべき?―(解説:島田俊夫氏)

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)と喫煙に関する研究は、これまで数多くの研究が行われている。しかしながら、スパイロメトリー測定値がCOPDの定義を満たさない対象者に関する研究はほとんどなく、治療法も確立されていない1,2)。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のWilliam McKleroy氏らによる多施設共同長期観察試験(SPIROMICS II試験)の結果が、JAMA誌2023年8月1日号に掲載された。 対象者はSPIROMICS I試験登録後5~7年に、対面受診を1回実施。呼吸器症状はCOPD Assessment Test(CAT、スコア範囲:0~40重症ほど高値)で評価した。TEPS(tobacco exposure and preserved spirometry)群は、これまでCOPD治験対象から除外されており、治療のエビデンスは確立されていない。本研究はTEPS群の自然経過に照準を絞った研究として行われた。TEPS群のスパイロメトリー測定は気管支拡張薬投与後のFEV1/FVC>0.70でCATスコア10≧を有症状群、10<を無症状群の2群に分類した。 研究対象は1,397例で内訳は226例が有症状TEPS群(平均年齢60.1歳、女性59%)、269例が無症状TEPS群(平均年齢63.1歳、女性50%)、459例が有症状COPD(平均年齢65.2歳、女性47%)、279例が無症状COPD(平均年齢67.8歳)、164例が非喫煙対照群から構成。呼吸器症状の増悪は4ヵ月ごとに電話で自己申告。 主要アウトカム:FEV1の低下。副次アウトカム:COPD発症、呼吸器症状増悪頻度、CT検査での気道壁肥厚、気腫肺。 追跡期間中央値5.76年でTEPS両群にCOPDの発生を認めたが、両群間に差はなかった。TEPS群は非喫煙対照群よりも有意にCOPDの発生率が高かった。一方でTEPS有症状群はTEPS無症状群に比べ、症状増悪率は有意に高かった(0.23 vs.0.08件/人・年、率比:2.38、95%CI:1.71~3.31[p<0.001])。論文へのコメント TEPS両群に対して禁煙は最優先で行うべき治療である。喫煙者でスパイロメトリー正常範囲の対象者は通常は治験対象から除外されていたために治療法は確立されていない。COPDの診断基準を満たさないTEPS群を症状有群と無群に分け、経時的に追跡の結果、TEPS各群共にCOPD発生の増加を認めたが、有/無症状群の比較ではCOPD発生率に差はなかった。しかし、呼吸器症状の増悪は有症状群が無症状群に比べ顕著に症状が増悪した。臨床の視点から症状増悪は軽視できず、有症状TEPS群はCOPD重症化予備群として治療を行い、適正治療確立は喫緊の課題である。 COPD予備群に対する気管支拡張剤、抗コリン剤、ステロイド剤らの使用法は確立していない。近頃、注目を集めているPRISm(preserved ratio impaired spirometry)はFEV1/FVC≧0.7かつ%FEV1(FEV1/FEV1予測値)<80%を満たす予後不良の病態である3,4)。この病態も含めてCOPD近縁疾患相互の絡み解明が必要と考える。

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心血管疾患や死亡のリスクの低さと関連のある6種類の食品

 世界80カ国の人々の食事関連データを解析した研究から、野菜、果物、魚などの摂取量が多いほど、全死亡(あらゆる原因による死亡)や心筋梗塞・脳卒中などの心血管疾患(CVD)発症のリスクが低いことが明らかになった。マクマスター大学(カナダ)のSalim Yusuf氏らの研究によるもので、詳細は「European Heart Journal」に7月6日掲載された。 この研究ではまず、21カ国の35~70歳の一般住民16万6,762人が参加し現在も進行中の大規模疫学研究「PURE研究」のデータを用いて、新たな食事スコアを開発。そのスコアを、5件の疫学研究(80カ国、24万4,597人)に適用し、全死亡およびCVDリスクとの関連が検討された。なお、論文の上席著者であるYusuf氏によると、「これまでにも地中海食スコアなどを用いた同様の検討が行われているが、それらのスコアは主に欧米の高所得国のデータを基に作られたものである」という。それに対してPURE研究は、「低・中・高所得国が含まれていることが特徴だ」としている。 新たに開発された食事スコアは、野菜、果物、ナッツ、豆類、魚、乳製品という6種類の食品について、対象全体の摂取量の中央値以下の場合は「0」、中央値より多い場合は「1」として、合計6点のスコアで評価するというもの。PURE研究の参加者の平均は2.95±1.50点であり、国民1人当たり所得と正相関していた(傾向性P<0.0001)。 PURE研究では、中央値9.3年(四分位範囲7.5~10.8)の追跡で全死亡1万76件、CVDイベント8,201件が記録されていた。食事スコアと全死亡およびCVDリスクとの関連の解析に際しては、交絡因子〔年齢、性別、喫煙・運動習慣、摂取エネルギー量、ウエスト・ヒップ比、糖尿病、教育歴、経済状態、スタチン・降圧薬の使用、居住環境(都市部か否か)など〕の影響を統計学的に取り除いた。その結果、スコアが1点以下の群(17.6%が該当)と比較して5点以上の群(17.0%が該当)は、全死亡〔ハザード比(HR)0.70(95%信頼区間0.63~0.77)〕、CVD〔HR0.82(同0.75~0.91)〕ともに有意に低リスクだった。 PURE研究とは別の血管障害を有する患者を対象とする3件の研究、および2件の症例対照研究のデータを用いた解析からも、同様の結果が示された。 また、PURE研究を通じて、以下のような健康的な食事パターンが明らかになった。それは、スコアが5点以上の人が摂取しているものであり、野菜と果物は毎日それぞれ2~3食分(サービング)摂取し、そのほかに1週間で豆類を3~4サービング、ナッツを7サービング、魚を2~3サービング、乳製品を14サービング摂取するというもの。ただしYusuf氏によると、これら以外にも「精製されていない全粒穀物や未加工の肉であれば、適量の範囲内である限り、健康上のメリットは変わらない」としており、それぞれ1日に1サービング程度はほかの食品と置き換えてもよいという。 なお、世界保健機関(WHO)によると、2019年には世界中で約1800万人がCVDにより死亡しており、これは全死亡者数の約32%に相当する。またCVD死の約85%は、心筋梗塞と脳卒中によるものだった。

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ASCVDリスク評価、タンパク質リスクスコアが有望/JAMA

 アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスク評価において、プロテオミクスに基づくタンパク質リスクスコア(protein risk score)は、1次および2次予防集団の双方で優れた予測能を示し、1次予防集団で臨床的リスク因子にタンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、統計学的に有意ではあるもののわずかな改善が得られたことが、アイスランド・deCODE genetics/AmgenのHannes Helgason氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月22・29日合併号に掲載された。3つのリスク評価法を比較するアイスランドの研究 研究グループは、1次および2次予防集団において、ASCVDのリスクを予測するタンパク質リスクスコアを開発し、臨床的リスク因子モデルおよび多遺伝子リスクスコアと比較した。 主解析は1次予防集団の後ろ向き研究であり、募集時にプロテオミクスのデータを有し、主要なASCVDイベント既往のない年齢40~75歳のアイスランド居住者1万3,540人を対象とした。募集期間は2000年8月23日~2006年10月26日で、2018年まで追跡調査を行った。 2次予防集団の解析では、スタチン治療を受けている安定期のASCVD患者を対象とした二重盲検無作為化試験(FOURIER試験、2013~16年)の参加者で、プロテオミクスのデータを有する6,791人を対象に含めた。 4,963人の血漿タンパク質の値に基づき、1次予防集団の訓練セットを用いてタンパク質リスクスコアを開発し、冠動脈疾患と脳卒中の多遺伝子リスクスコア、および血漿採取時の年齢、性別、スタチン使用、高血圧治療、2型糖尿病、BMI、喫煙状況などを含む臨床的リスク因子のモデルと比較した。 主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈性心疾患死、心血管死の複合とした。Cox生存モデルと、非ASCVD死の競合リスクを考慮した判別および再分類の指標(C index)を用いて、3つのリスク評価法の性能を解析した。アフリカ/アジア系の2次予防で、MACEと有意な関連 1次予防集団のテストセット(白人4,018人[女性59.0%]、イベント発生数465件、追跡期間中央値15.8年)では、タンパク質リスクスコアの1標準偏差(SD)当たりのハザード比(HR)は1.93(95%信頼区間[CI]:1.75~2.13)であった。 また、臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.022、95%CI:0.007~0.038)。臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアのみを追加した場合も、C indexの有意な上昇を認めた(群間差:0.014、95%CI:0.002~0.028)。 2次予防集団(白人6,307人、イベント発生数432件、追跡期間中央値2.2年)では、タンパク質リスクスコアの1SD当たりのHRは1.62(95%CI:1.48~1.79)であり、臨床的リスク因子モデルにタンパク質リスクスコアを加えた場合、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.026、95%CI:0.011~0.042)。 また、2次予防集団のアフリカ系およびアジア系の人種では、タンパク質リスクスコアが主要有害心血管イベント(MACE:心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合)と有意な関連を示した(アフリカ系の1SD当たりのHR:1.82、p=0.001、アジア系の同HR:1.82、p=0.008)。 著者は、「タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアが、スクリーニングを目的とした場合に臨床的に有用かを明らかにするために、さらなる検討を要する」としている。

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心房・心室の期外収縮は心血管イベントと関連

 心血管疾患を発症していなくても、ウェアラブル心電計で心室性期外収縮(PVC)または心房性期外収縮(PAC)が検出された人では、心房細動および心不全のリスクが高いという研究結果が、「European Heart Journal - Digital Health」3月号に掲載された論文で明らかにされた。 英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMichele Orini氏らは、心血管疾患のないUKバイオバンクの参加者5万4,016例〔UKB-1コホート、年齢中央値58歳(四分位範囲50~63)、女性54%〕を対象に、PVCまたはPACと心血管アウトカムとの関連を検討する研究を実施した。 PVCおよびPACの計測には、15秒間隔の単極誘導のウェアラブル心電計を用いた。年齢、性別、BMI、高血圧、喫煙歴、LDLコレステロール値、糖尿病などを含むリスク因子で調整したCox回帰モデルを用いて、PVCまたはPACと、心血管アウトカム〔心房細動、心不全、心筋梗塞、脳卒中および致死的な心室性不整脈(LTVA)〕との関連を検討した。 ベースライン時における期外収縮の有病率は、PVC 2.2%、PAC 1.9%であった。追跡期間中央値11.5年(四分位範囲11.4~11.7)の時点における心血管アウトカムの有病率は、死亡4.4%、心房細動4.2%、心筋梗塞2.7%、脳卒中1.7%、心不全1.5%、LTVA 0.6%であった。 リスク因子で調整したCox回帰モデルで解析した結果、PVCと最も強い関連が認められたのは心不全〔ハザード比(HR)2.09、95%信頼区間(CI)1.58~2.78、P<0.001〕、PACと最も強い関連が認められたのは心房細動(同2.50、2.11~2.96、P<0.001)であった。心房細動のリスクは、先行収縮とPACの間隔(連結期)が短いほど、そしてPACの頻度が高いほど上昇した。さらに、PVCおよびPACはLTVAのリスクとも有意に関連しており、LTVAのHRは、PVCで1.71(95%CI 1.01~2.88、P=0.044)、PACで1.85(同1.10~3.12、P=0.020)であった。 PVCまたはPACと、心筋梗塞、脳卒中および死亡のリスクとの関連は、未調整のモデルで解析した場合には有意であったが、リスク因子で調整後は有意ではなくなった。 これらの結果を検証するために、UKバイオバンクの別のサブスタディに参加した2万9,324例〔UKB-2コホート、年齢中央値64歳(四分位範囲58~70)、女性54%、追跡期間中央値3.5年(四分位範囲2.6~4.8)〕を対象に同様の検討を行った。リスク因子で調整したCox回帰モデルで解析したところ、UKB-1とほぼ同じ結果が得られ、PACは心房細動と有意に関連し(HR 1.80、95%CI 1.12~2.89、P=0.016)、PVCは心不全と有意に関連していた(同2.32、1.28~4.22、P=0.006)。 著者らは、「ウェアラブル心電計のようなモバイルヘルスデバイスを活用して期外収縮を検出することによって、早期の心血管リスクを層別化することが臨床的に重要な意味を持つことを示唆する結果が得られた。今後の研究でさらに検討する必要がある」と述べている。

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静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(後編)【見落とさない!がんの心毒性】第24回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。前回は、深部静脈血栓塞栓症に対する治療選択、がん関連血栓塞栓症のリスクとして注目すべき患者背景について解説を行いました。今回は同じ症例でのDVT治療継続における問題点を考えてみましょう。《今回の症例》年齢・性別30代・男性既往歴なし併存症健康診断で高血圧症、脂質異常症を指摘され経過観察喫煙歴なし現病歴発熱と咳嗽が出現し、かかりつけ医で吸入薬や経口ステロイド剤が処方されたが改善せず。腹痛が出現し、総合病院を紹介され受診した。胸部~骨盤部造影CTで右下葉に結節影と縦隔リンパ節腫大、肝臓に腫瘤影を認めた。肝生検の結果、原発性肺腺がんcT1cN3M1c(肝転移) stage IVB、ALK融合遺伝子陽性と診断した。右下肢の疼痛と浮腫があり下肢静脈エコーを実施したところ両側深部静脈血栓塞栓症(deep vein thrombosis:DVT)を認めた。肺がんに伴う咳嗽以外に呼吸器症状なし、胸部造影CTでも肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)は認めなかった。体重65kg、肝・腎機能問題なし、血圧132/84 mmHg、脈拍数82回/min。肺がんに対する一次治療としてアレクチニブの投与を開始した。画像所見を図1に、採血データを表1に示す。(図1)中枢性DVT診断時の画像所見画像を拡大する(表1)診断時の血液検査所見画像を拡大するアレクチニブと直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)の内服を継続したが、6ヵ月後に心膜播種・胸膜播種の出現と肝転移・縦隔リンパ節転移の増悪を認めた。ALK阻害薬の効果持続が短期間であったことから、がん治療について、ALK阻害薬から細胞傷害性抗がん薬への変更を提案したが本人が希望しなかった。よって、ALK阻害薬をアレクチニブからロルラチニブへ変更した。深部静脈血栓症(Venous Thromboembolism:VTE)に関しては悪化を認めなかったためDOACは変更せず内服を継続した。その後、肺がんの病勢は小康状態を保っていたが、1ヵ月後に胸部レントゲン写真で左下肺野にすりガラス陰影が出現し、造影CTを実施したところ新規に左下葉肺動脈のPEを認めた(図2)。(図2)PE発症時の画像所見画像を拡大する【問題】DOAC内服中にVTEが増悪した場合、どのような対応を行うか?1)Farge D, et al. Lancet Oncol. 2022;23:e334-e347.講師紹介

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頻繁な入浴で長期的な抑うつリスク低減

 湯に浸かる入浴(浴槽入浴)の頻度と長期的な抑うつ発症との関連を調査した6年にわたるコホート研究の結果、冬に浴槽入浴を頻繁に行う高齢者では新たな抑うつの発症が有意に少ないことを、東京都市大学の早坂 信哉氏らの研究グループが明らかにした。日本温泉気候物理医学会雑誌2023年オンライン版7月24日号掲載の報告。 これまでの研究において、頻繁な浴槽入浴が高い自己評価と関連していることや、介護保険が必要になる可能性が低いことなどが報告されているが、生活習慣としての浴槽入浴が健康にどのような影響を及ぼすかについてはまだ十分に解明されていない。 そこで、研究グループは、日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)の2010年および2016年調査の対象となった65歳以上の1万1,882人のうち、夏の入浴頻度の記録がある6,452人と冬の入浴頻度の記録がある6,465人をそれぞれ解析した。すべての解析対象者は要介護認定を受けておらず、老年期うつ病評価尺度スコアが4点以下でうつ病ではなかった。 浴槽入浴が0~6回/週のグループと、7回以上/週のグループの6年後のGDSによる抑うつの発症割合を求めた。浴槽入浴と抑うつの関連をロジスティック回帰分析によって年齢、性別、治療中の病気の有無、飲酒の有無、喫煙の有無、婚姻状況、教育年数、所得を調整して多変量解析を行い、オッズ比(OR)を求めた。 主な結果は以下のとおり。・夏の浴槽入浴が0~6回/週のグループの抑うつ新規発症率は12.9%、7回以上/週のグループは11.2%であった(p=0.192)。・冬の浴槽入浴が0~6回/週のグループの抑うつ新規発症率は13.9%、7回以上/週のグループは10.6%で有意差が認められた(p=0.007)。・共変量で調整した多変量解析において、夏の浴槽入浴が0~6回/週のグループを基準とした場合、7回以上/週のグループの抑うつ新規発症のORは0.84(95%信頼区間[CI]:0.64~1.10)で、浴槽入浴の頻度が高いほど抑うつの新規発症が少ない傾向にあった(p=0.213)。・冬の浴槽入浴では、7回以上/週のグループの抑うつ新規発症のORは0.76(95%CI:0.59~0.98)で、統計学的に有意に少なかった(p=0.033)。 これらの結果より、研究グループは「習慣的な浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整などによる抑うつ予防作用による結果の可能性があり、健康維持のため高齢者へ浴槽入浴が勧められることが示唆された」とまとめた。

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白血球高値は高LDL-C血症の独立したリスク因子

 白血球数が高いことが、悪玉コレステロール(LDL-C)が高いことの独立したリスク因子であることを示すデータが報告された。福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教室の奥津翔太氏、有馬久富氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に5月22日掲載された。 高LDL-C血症は心血管疾患(CVD)の確立されたリスク因子であり、LDL-Cを下げることでCVDリスクが低下することも、確固たるエビデンスにより支持されている。LDL-C上昇につながる要因としては、加齢、肥満、運動不足、トランス脂肪酸の過剰摂取などが知られている。近年、これらに加えて白血球数が高いことも、LDL-C上昇と関連がある可能性が報告されているが、いまだ明確になっていない。奥津氏らは、一般住民の健診データを用いた縦断的研究により、この点について検討した。 解析には、長崎県壱岐市で行われたアテローム性動脈硬化症と慢性腎臓病に関する疫学調査(ISSA-CKD研究)のデータを用いた。2008~2017年の間に健診を2回以上受けていて、縦断的な解析が可能な30歳以上の人のうち、ベースライン時(初回の健診時)に高LDL-C血症でなく、白血球数などのデータ欠落のない3,312人を解析対象とした。なお、高LDL-C血症はLDL-C140mg/dL以上または脂質低下薬の処方で定義した。 平均4.6年の追跡で698人が高LDL-C血症を新たに発症。1,000人年当たりの罹患率は46.8だった。ベースラインの白血球数の四分位数で4群に分けると、第1四分位群は1,000人年当たり38.5、第2四分位群は47.7、第3四分位群は47.3、第4四分位群は52.4であり、白血球数が高いほど高LDL-C血症の罹患率が高いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.012)。 次に、解析結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、肥満、高血圧、糖尿病)の影響を調整後、第1四分位群を基準として他群の罹患率を比較。すると、第2四分位群は非有意ながら〔ハザード比(HR)1.24(95%信頼区間0.99~1.54)〕、第3四分位群〔HR1.29(同1.03~1.62)〕と第4四分位群〔HR1.39(同1.10~1.75)〕は有意にハイリスクであり、ベースラインの白血球数と高LDL-C血症罹患率との間に、粗解析と同様、有意な正の関連が認められた(傾向性P=0.006)。 続いて、年齢(65歳未満/以上)、性別、肥満の有無、喫煙・運動習慣の有無、糖尿病の有無で層別化して解析。その結果、いずれについても交互作用は非有意であり、白血球数と高LDL-C血症罹患率との正の関連は、一貫したものだった。 以上より論文の結論は、「日本人の一般成人において、白血球数が高いことと高LDL-C血症リスクの高さとの関連が認められた」とまとめられている。著者らによると、白血球数と高LDL-C血症との関連を示すエビデンスはこれまで主としてアジア人を対象とする研究から示されてきていて、その理由として「食習慣の違いなどによって、アジア人は欧米人より総じて炎症レベルが低いことが関与している可能性がある」としている。ただし、この点の確認のために多くの人種/民族での同様の研究が必要とされ、また、白血球数が高いことを根拠とする治療介入の強化がCVD転帰の改善に結びつくのかという点も、今後の研究課題として挙げている。

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飲酒で発症リスクが上がるがん、下がるがん~女性80万人の前向き研究

 アルコール摂取は一部のがん発症リスクの増加や減少に関連していると考えられている。今回、英国・オックスフォード大学のSarah Floud氏らが、前向き研究であるUK Million Women Studyで調査したところ、アルコール摂取量が増えると、上部気道・消化管がん、乳がん、大腸がん、膵臓がんのリスクが増加し、甲状腺がん、非ホジキンリンパ腫、腎細胞がん、多発性骨髄腫のリスクが低下する可能性が示された。また、この関連は、上部気道・消化器がんを除いて、喫煙、BMI、更年期ホルモン療法による変化はなかった。BMC Cancer誌2023年8月16日号に掲載。 本研究では、がん既往のない閉経後女性123万3,177人(平均年齢56歳)において、中央値1998年(四分位範囲:1998~99年)での飲酒量の報告をがん発症の記録とリンクさせた。非飲酒と1杯/週未満の女性(43万8,056人)を除外した79万5,121人について、ベースライン時の飲酒量(ワイン1杯、ビール半パイント[284mL]、蒸留酒1メジャー[30mL]を1杯と換算)に応じて4つのカテゴリー(週当たり1~2杯、3~6杯、7~14杯、15杯以上)に分類。Cox比例ハザードモデルで、21種類のがんにおける飲酒量ごとの調整相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を推定した。喫煙、BMI、更年期ホルモン療法との相互作用の統計学的有意性は多重検定を考慮し評価した。 主な結果は以下のとおり。・調査した79万5,121人の平均飲酒量は週6.7杯(SD:6.4杯)だった。・17年(SD:5年)の追跡調査中に14万203人ががんを発症した。・飲酒と上部気道・消化器がん(食道扁平上皮がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん)リスクとの間に強い関連がみられた(1杯/日当たりのRR:1.38、95%CI:1.31~1.46)。・乳がん、大腸がん、膵臓がんと飲酒との間に中程度の正相関がみられた(1杯/日当たりの RR:乳がん1.12[95%CI:1.10~1.14]、大腸がん1.10[同:1.07~1.13]、膵臓がん1.08[同:1.02~1.13])。・甲状腺がん、非ホジキンリンパ腫、腎細胞がん、多発性骨髄腫と飲酒との間に中程度の逆相関がみられた(1杯/日当たりのRR:甲状腺がん0.79[95%CI:0.70~0.89]、非ホジキンリンパ腫0.91[同:0.86~0.95]、腎細胞がん0.88[同:0.83~0.94]、0.90[同:0.84~0.97])。・上部気道・消化器がんでは、飲酒と喫煙の間に有意な相互作用がみられた(1杯/日当たりのRR:現在喫煙者1.66[95%CI:1.54~1.79]、過去喫煙者1.23[同:1.11~1.36]、非喫煙者1.12[同:1.01~1.25])。・BMIおよび更年期ホルモン療法は飲酒関連リスクに有意な変化をもたらさなかった。

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Long COVIDは頭痛の有無でQOLが異なる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降にさまざまな症状が遷延している状態、いわゆる「long COVID」の病状を、頭痛に焦点を当てて詳細に検討した結果が報告された。頭痛を有する患者はオミクロン株流行以降に増加したこと、年齢が若いこと、生活の質(QOL)がより大きく低下していることなどが明らかになったという。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科総合内科学分野の大塚文男氏の率いる診療・研究チームによるもので、「Journal of Clinical Medicine」に5月18日掲載された。 この研究は、岡山大学病院総合内科・総合診療科に設けられている、コロナ・アフターケア(CAC)外来を2021年2月12日~2022年11月30日に受診した患者から、研究参加への不同意、年齢が10歳未満、データ欠落などに該当する人を除外した482人を対象とする、後方視的観察研究として行われた。Long COVIDは、COVID-19感染から4週間以上経過しても何らかの症状が持続している状態と定義した。 解析対象の4分の1弱に当たる113人(23.4%)が受診時に頭痛を訴えていた。頭痛の有無で二分し比較すると、頭痛あり群は年齢が若いこと〔中央値37(四分位範囲22~45)対42(28~52)歳、P<0.01〕以外、性別の分布、BMI、喫煙・飲酒習慣に有意差はなかった。COVID-19急性期の重症度についても、両群ともに軽症が8割以上を占めていて、有意差はなかった。また採血検査の結果は、炎症マーカー、凝固マーカーも含めて、主要な項目に有意差が認められなかった。 その一方、COVID-19罹患の時期を比較すると、頭痛なし群はデルタ株以前の流行時に罹患した患者が53.9%と過半数を占めていたのに対して、頭痛あり群ではオミクロン株出現以降に罹患した患者が61.1%を占めていた(P<0.05)。また、頭痛なし群ではCOVID-19罹患から平均84日後にCAC外来を受診していたが、頭痛あり群では約2週間早く外来紹介されていた(P<0.01)。 頭痛以外の症状の有病率を比べると、以下に挙げるように、頭痛あり群の方が有病率の高い症状が複数認められた(以下の全てがP<0.05)。倦怠感(76.1対54.7%)、不眠症(36.2対14.9%)、めまい(16.8対5.7%)、発熱(9.7対3.8%)、胸痛(5.3対1.1%)。一方、嗅覚障害の有病率は、頭痛あり群の方が有意に低かった。 次に、さまざまな症状の主観的評価指標〔抑うつ症状(SDS)、胃食道逆流症(FSSG)、倦怠感(FAS)〕のスコアを見ると、それらのいずれも、頭痛あり群で症状が有意に強く現れていることを示しており、QOLの評価指標(EQ-5D-5L)は頭痛あり群の方が有意に低かった(P<0.01)。 続いて、EQ-5D-5Lスコア0.8点未満をQOL障害と定義して、多変量解析にて独立して関連する症状を検討。その結果、最もオッズ比(OR)の高い症状は頭痛であることが明らかになった〔OR2.75(95%信頼区間1.55~4.87)〕。頭痛のほかには、しびれ〔OR2.64(同1.33~5.24)〕、倦怠感〔OR2.57(1.23~5.34)〕、不眠症〔OR2.14(1.24~3.70)〕などがQOL低下と独立した関連があり、反対に嗅覚障害は唯一、負の有意な関連因子として抽出された〔OR0.47(0.23~1.00)〕。 著者らは本研究の限界点として、単一施設での後方視的研究であるため解釈の一般化が制限されること、頭痛の臨床像が詳しく検討されていないことなどを挙げている。その上で、「頭痛はlong COVIDの最も深刻な症状の一つであり、単独で出現することもあれば、ほかの多くの症状と併存することもある。頭痛がほかの症状の主観的評価に悪影響を及ぼす可能性もあり、long COVIDの治療に際しては頭痛への対処も優先すべきではないか」とまとめている。

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8月21日 治療アプリの日【今日は何の日?】

【8月21日 治療アプリの日】〔由来〕株式会社CureAppが製造・販売する「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ」が厚生労働省から薬事承認を取得した2020年8月21日を記念して制定。治療アプリは、従来の医薬品やハードウェア医療機器では治療効果が不十分だった病気を治すためのもので、アプリを第3の治療法として多くに人に知ってもらい、活用してもらうことが目的。関連コンテンツ禁煙を助ける道具を上手に使おう【患者説明用スライド】ニコチン依存症治療用アプリが人間味を帯びたら医者いらず?【バズった金曜日】世界初「NASH治療用アプリ」の効果を臨床試験で確認/東大世界初の高血圧治療補助アプリが保険適用/CureAppうつ病治療アプリに対する医師や患者の期待

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孤独が糖尿病患者の心臓にダメージを与える?

 糖尿病患者にとって不健康な生活習慣よりも、孤独であることの方が、予後に悪影響を及ぼすのではないかとする研究結果が報告された。米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のLu Qi氏らの研究によるもので、詳細は「European Heart Journal」に6月29日掲載された。孤独を感じている糖尿病患者は、社会とのつながりを感じている患者に比べて、その後10年間で心血管疾患(CVD)イベントを起こすリスクが、最大26%高いという。 この研究では、英国の大規模ヘルスケアデータベース「UKバイオバンク」に登録されている糖尿病患者1万8,509人のデータが解析に用いられた。「孤独を感じることがしばしばあるか?」、「相談相手が身近にいるか?」という二つの質問で孤独レベルを評価すると、対象者の61%は孤独を感じていない(スコア0)と判定され、30%弱がスコア1であり、約9%はスコア2で強い孤独を感じていると判定された。この結果とCVDイベントリスクとの関連を、既知のCVDリスク因子であるHbA1cや血圧、LDL(悪玉)コレステロール(LDL-C)、喫煙習慣、腎機能などとともに検討した。 平均10.7年の追跡期間中に、冠動脈性心疾患(CHD)2,771件、脳卒中701件を含む合計3,247件のCVDイベントが記録されていた。結果に影響を及ぼし得る交絡因子を調整後、孤独を表すスコアが最も低い(ゼロ)の群に比較して、スコアが1の群はCVDイベントリスクが11%高く〔ハザード比(HR)1.11(95%信頼区間1.02~1.20)〕、スコアが2の群は26%ハイリスクであり〔HR1.26(同1.11~1.42)〕、有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。 CVDイベントリスクとの関連の強さを他のリスク因子と比較すると、関連が強い因子から順に、LDL-C、BMI、尿中アルブミン/クレアチニン比、腎機能(eGFR)に続いて、孤独が上位にランク入りした。HbA1c、収縮期血圧、喫煙、運動不足、非健康的な食習慣などは、孤独より下位だった。 この結果は、孤独がCVDリスクに直接的な影響を及ぼすことを証明するものではない。ただし、これと同様の研究結果は以前にも報告されている。米サウスフロリダ大学のTheresa Beckie氏は今回の研究には関与していないが、このトピックに関する米国心臓協会(AHA)の2022年の声明の著者陣の1人だ。その声明をまとめる段階で行われた既報研究のレビューでは、孤独や孤立した状態にあることが、CVDイベントの発生やそれによる死亡のリスクが30%高いことと関連していることが示されていた。 Beckie氏は今回の研究報告について、喫煙や運動不足よりも孤独の方がさらに、CVDイベントの脅威である可能性が示されたことに注目している。その理由について同氏は、「詳細は不明でさらなる研究が必要だが、孤独を感じている人は自分の健康に気を配ろうとしない傾向があるのではないか」と指摘している。なお、今回の研究では社会的な孤立とCVDリスクとの関連も検討されていたが、その関連は非有意だった。この点についてQi氏は、「孤立は個人が置かれた状況を示しているのに対して、孤独は個人の感じ方であるという違いによるものかもしれない」と述べている。

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生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関係が明らかに

 特定健診データを利用した解析から、生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関連が明らかになった。喫煙習慣の有無にかかわらず、身体活動の低下は呼吸器疾患関連死の独立したリスク因子である可能性などが示された。山形大学医学部第一内科の井上純人氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月22日掲載された。 生活習慣と心血管代謝性疾患リスクとの関連については数多くの研究がなされているが、呼吸器疾患については、喫煙と肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の関連を除いてほとんど明らかにされていない。これを背景として井上氏らは、2008~2010年の7都道府県の特定健診受診者、66万4,926人のデータを用いた縦断的解析により、生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関連を検討した。 解析対象者の主な特徴は、平均年齢62.3±8.8歳、男性42.76%、BMI23.4±3.5、喫煙者15.56%、習慣的飲酒者46.50%。7年間の追跡で8,051人の死亡が記録されていた。死因のトップは悪性新生物で4,159人(51.66%)であり、呼吸器疾患は437人(5.43%)で4位だった。死因としての呼吸器疾患には、ウイルスまたは細菌感染症(202人)、間質性肺炎(126人)、閉塞性肺疾患(42人)、誤嚥(30人)などが含まれていた。 悪性新生物の中の「気管支及び肺の悪性新生物」による死亡(826人)を加えた計1,263人を「呼吸器疾患による死亡」として、特定健診の健診項目データとの関連を検討すると、単変量解析では、高齢、男性、収縮期血圧高値、喫煙・飲酒習慣などが、オッズ比上昇と有意な関連があり、反対にBMI高値や運動習慣はオッズ比低下と有意な関連が認められた。 単変量解析で有意な関連が認められた因子を説明変数とする多変量解析の結果、呼吸器疾患による死亡リスクに正の独立した関連のある因子とそのハザード比(HR)は、高齢(1歳ごとに1.106)、男性(3.750)、喫煙習慣(1.941)、HbA1c(1%高いごとに1.213)、尿酸(1mg/dL高いごとに1.056)、尿蛋白陽性(1.432)、および脳血管疾患の既往(1.623)となった。反対に、負の独立した関連因子は、BMI(1高いごとに0.915)、運動習慣(0.839)、飲酒習慣(0.617)、歩行速度が速いこと(0.518)、LDL-コレステロール(1mg/dL高いごとに0.995)だった。 次に、「気管支及び肺の悪性新生物による死亡」を除く437人で多変量解析を行うと、高齢(1.141)、男性(3.898)、HbA1c(1.241)、尿酸(1.066)、尿蛋白陽性(1.876)、eGFR(1mL/分/1.73m2高いごとに1.006)および脳血管疾患の既往(2.049)が正の独立した関連因子、BMI(0.831)、運動習慣(0.591)、歩行速度が速いこと(0.274)、LDL-コレステロール(0.995)が負の独立した関連因子として抽出された。喫煙習慣や飲酒習慣は、単変量解析の段階で有意な関連が示されなかった。 続いて、「気管支及び肺の悪性新生物による死亡」の826人のみで多変量解析を行うと、独立した正の関連因子は、高齢(1.096)、男性(3.607)、喫煙習慣(3.287)、HbA1c(1.209)であり、独立した負の関連因子は歩行速度が速いこと(0.629)とヘモグロビン(1g/dL高いごとに0.884)が抽出された。 著者らは、上記3パターンの解析のいずれにおいても、運動習慣を有することや歩行速度が速いことと死亡リスクの低さとの強い関連が認められたことから、「日本人60万人以上を対象とする大規模なサンプルを用いた解析から、喫煙習慣の有無にかかわらず、運動は呼吸器疾患による死亡リスクを抑制するための重要な因子と考えられる」とまとめている。

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1カ月の生活習慣改善で精液の質が向上する

 タバコやお酒を控えたり、熱がこもりにくいタイプの下着を履く、禁欲期間が長くならないようにするといった生活習慣の見直しによって、精液の質が改善する可能性を示す研究結果が報告された。不妊外来を受診した男性に対してこのような指導を行ったところ、約1カ月後に精子の運動能の有意な向上などが確認されたという。千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学・亀田IVFクリニック幕張の小宮顕氏らの研究によるもので、詳細は「Heliyon」に4月4日掲載された。 男性不妊の一因として不適切な生活習慣や慢性疾患の影響が関与していることが知られている。また、男性の生殖能力が低いことは、がんなどの疾患罹患や死亡リスクの高さ、あるいは生まれてくる子どもが早産や低出生体重児となるリスクの高さと関連しているとする報告もある。そのため、男性不妊のリスク因子の中で修正可能のものを早期に見いだして介入することが、不妊治療の成功とともに本人と子どもの健康につながる可能性もある。とはいえ、男性の生殖能力に影響を与える修正可能な因子へ介入することの効果は、いまだ明確になっていない。 以上を背景として小宮氏らは、体外受精(IVF)や顕微授精を行っている生殖医療専門施設である亀田IVFクリニック幕張をカップルで受診した男性患者を対象に、生活習慣改善の指導を行って、その前後での生殖能力に関わる検査値の変化を検討した。解析対象は、初回受診時に精子の数や精液の質の低下を示す何らかの所見があり、かつ無精子症ではない402人(平均年齢35.8±5.6歳)。なお、全カップルの80.6%が原発性不妊症(過去に妊娠成立が一度もない)であり、52.9%は不妊症の女性要因ありと診断されていた。 解析対象男性の主な特徴は以下の通り。現喫煙者22.6%、習慣的飲酒者47.0%、夜間勤務者14.8%、性器に熱ストレスが加わりやすい肌に密着する下着を用いている割合が68.7%、禁欲期間が3日を超えている割合が31.2%で、性交頻度は月4回以下が75.6%、月1回以下が22.2%だった。また、生殖能力の低下に関連する可能性のある検査指標や併存疾患として、BMI30以上が7.0%、糖尿病3.4%、亜鉛欠乏症16.2%、性腺機能低下症17.0%、触知可能な精索静脈瘤25.9%、軽症以上の勃起障害(SHIMという評価スコアが21点以下のED)44.2%、中等症以上のED(SHIMが16点以下)18.8%などが認められた。患者全体の98.8%が、生殖機能低下につながる可能性のあるこれらの因子を一つ以上有していた。 生活習慣改善指導の主な内容は、タバコやアルコールをやめるか減らす、性器への熱ストレスを抑える(ゆったりとした下着を着用、パソコンを膝の上に置いて使わない、サウナや長湯を避ける)、脱毛症治療薬の服用中止、禁欲期間を最大3日以内とする(禁欲が長引くと精液の質が低下するため)など。なお、糖尿病などの併存疾患の治療は行わなかった。 初回の検査から中央値28日(平均36.1±54.3日)後に2回目の検査を実施。その間に、禁欲期間は平均3.6日から2.9日へと有意に短縮していた。検査所見については、精液量や総精子数は有意な変化が見られなかったが、精液の質を表す精子濃度、精子の運動性、総運動精子数(TMSC)は有意に上昇し、精子DNA断片化率は有意に低下していた。また、乏精子症に該当する割合は49.1%から33.6%に、精子無力症は74.8%から53.4%に、いずれも有意に減少していた。 介入前後のTMSCの差は720万だった。これを患者背景別に解析すると、35歳以上や喫煙・飲酒習慣あり、短時間睡眠(6.5時間未満)、性器への熱ストレスが生じやすい生活習慣、精液量が少ない(1.0mL未満)、軽症EDに該当する患者でも、TMSCの有意な増加が認められた。さらに、性腺機能低下症、触知可能な精索静脈瘤、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害を有する患者も、介入によるTMSCの有意な増加が認められた。 その一方で、BMI30以上、高血圧、糖尿病、亜鉛欠乏症、夜間勤務、禁欲期間が3日を超える、中等症以上のEDなどに該当する患者では、TMSCの有意な変化が見られなかった。それらの因子を独立変数、介入によるTMSCの増加が720万未満であることを従属変数とする多変量回帰分析からは、中等症以上のEDのみが独立した関連因子として抽出された。 著者らは、本研究は単施設の後方視的観察研究であること、精液の質に影響を及ぼし得るビタミンDを含む栄養素摂取量を評価していないことなどの限界点があると述べた上で、「男性不妊患者に対して生活習慣の修正を指導すれば、泌尿器科での専門的治療を受ける前に、精液の質をある程度改善できるのではないか」とまとめている。

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習慣的に運動をしていた健康な53歳の男性を襲った心臓発作

 53歳の米国人男性、Ed Frauenheimさんは、サンフランシスコの丘陵地帯をしばしばウォーキングしていた。ある夏の日、彼はお気に入りの公園の急な坂を、いつものように大股で上った。上りは息が切れたが下りは楽だった。しかし、下り坂の途中で胸が締め付けられ、吐き気とめまい、立ちくらみに襲われた。そのまま気を失ってしまうのではないかと心配になり、歩道の脇にそれて数分間休んだ。すると、それらの症状はなくなった。 家に帰り、妻のRowena Richieさんにそのことを話すと、彼女は深刻に捉えず、「朝食が少なかったか、水分が不足していたのでは?」と答えた。Frauenheimさんも「そうかもしれない」と思い、一度は仕事にとりかかったが、やはり気になり、健康保険会社が提供している電話相談に電話してみた。応対した看護師は、直ちに救急外来を受診するように勧めた。 血液検査の結果、トロポニンの上昇が分かり、心臓発作を起こしている可能性が示唆された。心電図の所見も同じことを示していた。医師は、「軽い心臓発作を起こしたようです」と話した。Frauenheimさんは、医師の目を見つめ次の言葉を待った。「あなたが今、多くのことを理解し受け入れるのは大変なことだと思います。大丈夫、われわれが付いています。あなたは最も安全な場所にいます」と医師は説明した。その瞬間まで、Frauenheimさんは、自分は強くあるべきだとストイックに考え続けていた。しかし、その感情のせきが切れると同時に、涙があふれ始めた。 彼は引き締まった体格を維持し、ウォーキングに加えて水泳やヨガも続けていた。心臓発作という診断に驚きつつ、恐怖が体を駆け巡った。妻と2人の10代の子どもを残して、自分は死ぬのだろうか? 翌日の心臓カテーテル検査の結果、Frauenheimさんの心臓発作は冠動脈の攣縮(血管の痙攣による閉塞)によるものと判明した。冠攣縮が長時間続くと心筋にダメージが生じることがある。Frauenheimさんの心臓にもそれが起きていた。少量のニトログリセリンの投与によって、冠攣縮が解除されることも確認された。 医師は、一般的な冠攣縮の原因として、薬物、喫煙、ストレスが挙げられると話した。最初の二つは彼には当てはまらなかったが、ストレスは確かに抱えていた。彼は長年、不安症を患っており、パニック発作を起こしたこともあった。また、半年ほど前に会社勤めをやめて、個人事業主として働くようになっていた。数多くのやりがいのあるプロジェクトに取り組んでいたが、その結果、仕事に膨大な時間を充てるようになっていた。 退院後にもFrauenheimさんの心臓発作再発に対する不安は続いた。その不安からパニック発作が起きてしまった。医師による徹底的な検査を受け、ようやく彼は、その症状の原因が心臓ではなく、不安によるものだと納得した。妻のRichieさんは、夫が悪循環に陥っていると感じていた。「Edは、『ストレスを感じてはいけない、絶対に感じてはいけない』と考え続けていた。もちろん、そのように考えることはストレスになる」。 Frauenheimさんはその後、仕事を減らして運動量を増やすなど、ライフスタイルをアレンジした。薬の服用を続けるとともに、精神科医の診察も受けた。彼は、男性はタフで疲れを知らない存在であるべきだという考え方にとらわれないことが、健康を取り戻す鍵だと考えている。昨年には、男性がより健康で充実した生活を送るための方法について、共著による本を出版した。その内容は、彼自身が周囲のアドバイスを受け入れる過程で経験したことだった。今では、以前とは態度や行動が変わり、人生がより充実して、より幸せになったという。「恐れを感じることが減って、家族や友人、同僚に対してより正直に、そして深く接するようになり、自分の夢を追いかけられるようになった」と彼は話している。 一方で、FrauenheimさんとRichieさんは、心臓発作を体験した後の精神的な面への影響について、もっと医師から情報を提供してほしかったと感じている。Frauenheimさんは現在、執筆活動などを通じて、心臓病を体験した男性に手を差し伸べ、“健全といえない男らしさ”を追求するために生じる問題を乗り越えるサポートをしている。「研究によると、心臓発作を含む冠動脈疾患は、男性としての自信を低下させやすいという。私の場合も、健康に対する不安を取り除くために、ただ薬を飲んでライフスタイルを変える以上のことが必要だった」とFrauenheimさんは話している。[2023年7月5日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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第64回 ロジスティック回帰分析とは?【統計のそこが知りたい!】

第64回 ロジスティック回帰分析とは?医学統計において、多変量解析で用いられる統計手法の1つに「ロジスティック回帰分析(Logistic regression analysis)」があります。ロジスティック回帰分析は、いくつかの要因(説明変数)から、「2値の結果(目的変数)」が起こる確率を予測する解析手法であり、目的変数は2群のカテゴリーデータ、説明変数は数量データで判別分析と類似した解析手法です。ロジスティック回帰分析は図の回帰式を用いて、次の2点を明らかにする解析手法です。(1)サンプルごとに目的変数が起こる確率(予測値)の算出(2)回帰式に用いた説明変数の目的変数に対する影響度図1 ロジスティック回帰分析の回帰式では、実際に表1のデータでBさんが「がん」かどうかの確率を回帰式を用いて求めてみましょう。表1図2ロジスティック回帰分析で求められた回帰式に説明変数のデータを代入し、確率(判別得点という)を算出します。確率は0~100%の間の値をとります。では、Bさんが「がん」である確率を求めてみましょう。Bさんは、嗜好歴として飲酒日数=15日/1ヵ月間、喫煙本数=20本/1日があります。回帰式にその値を代入して計算します。図3結果、Bさんが「がん」である確率は68%となりました。確率が50%以上あれば「がん」であると判定します。ロジスティック回帰分析で求められた回帰式のモデルの適合度を表す指標としては、AIC(赤池情報量基準)、c統計量(AUC)、判別的中率、決定係数、Hosmer-Lemeshowの適合度などがあります。この事例の場合の判別的中率を表2でみてみましょう。表210人中9人が的中(90%的中)しており、判別的中率が目安とする基準75%を上回っているので、予測に使えると判断します。また、先の回帰式で算出された確率と実測値との相関比0.5以上でも予測に使えると判断します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決!一問一答質問18 ロジスティック回帰分析とは?質問21 ロジスティック回帰分析の説明変数の選び方は?質問22 ロジスティック回帰分析の事例

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1日3.4分の高強度の身体活動で、がんリスク17%減

 高強度の身体活動(Vigorous Physical Activity:VPA)は、がん予防のために推奨される身体活動(Physical Activity:PA)を達成するための効率のよい方法であるが、多くの人にとって継続のハードルが高い。「日常生活中の高強度の断続的な身体活動(Vigorous Intermittent Lifestyle Physical Activity:VILPA)」を継続することで、がん発症のリスクを大幅に低下させる可能性があることが、新たな研究で明らかになった。オーストラリア・シドニー大学のEmmanuel Stamatakis氏らによる本研究の結果は、JAMA Oncology誌オンライン版2023年7月27日号に掲載された。 オーストラリア、シドニー大学の研究者らは、英国バイオバンクで「普段運動をしていない」と申告した人を対象にウェアラブルデバイスのデータを収集し、その後6~7年間の健康記録を調べた。参加者は2021年10月30日(死亡および入院)、2021年6月30日(がん登録)まで追跡された。 主要アウトカムは、全がんおよびPA関連がん(低いPAと関連する13のがん部位の複合アウトカム)の発生率だった。ハザード比および95%信頼区間(CI)は、年齢、性別、教育レベル、喫煙、アルコール摂取、睡眠時間、果物および野菜の摂取、両親のがん既往等で調整して推定した。 VILPAの例としては、負荷が高い家事、スーパーでの買い物袋の持ち運び、早足のウォーキング、身体を動かすゲームなどがある。このような活動は一度に行うのではなく、数分ごとに行うことが特徴だ。 主な結果は以下のとおり。・登録された2万2,398例は、平均年齢62.0(SD:7.6)歳、男性1万122例(45.2%)だった。平均追跡期間6.7(SD:1.2)年に2,356例のがんイベントが発生し、うち1,084例がPA関連がんであった。・1日のVILPA持続時間中央値が1分まで(1日当たり4.5分)の場合、VILPAを行わない場合と比較して、全がんのHRは0.80(95%CI:0.69~0.92)、PA関連がんのHRは0.69(95%CI:0.55~0.86)であった。・全がん発生率との関連が認められたVILPAの最小量は1日当たり3.4分(HR:0.83、95%CI:0.73~0.93)、PA関連がんは1日当たり3.7分(HR:0.72、95%CI:0.59~0.88)であった。 最低3.4分のVILPAを毎日行うことで、行わない場合と比較して、全がん発生率の17%減少、1日4.5分で肺がん、腎臓がん、膀胱がん、胃がんなど、PAがんの発生率の31%減少につながることが示された。著者らは「運動ができない集団や意欲のない集団にとって、断続的な短い身体活動の継続が、がん予防の有望な介入になる可能性がある」としている。

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