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歯科医院で定期的な口腔メンテナンスを受けている人は歯を失いにくい

 一般歯科医院で歯科衛生士による口腔メンテナンスを受けている人を20年以上追跡した研究から、決められたスケジュール通りに受診している人ほど歯を失いにくいという有意な関連のあることが明らかになった。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔疾患予防学分野の安達奈穂子氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Dental Hygiene」に8月27日掲載された。 口腔メンテナンス受診率が高いほど歯の喪失が少ないことを示唆する研究結果は、既に複数報告されている。ただし、それらの研究は主として大学病院や歯周病専門歯科という限られた環境で行われた研究の結果であり、大半の地域住民が受診する一般歯科における長期的な歯科受療行動と、歯の喪失との関連については知見が少ない。これを背景として安達氏らは、一般歯科医院の患者データを用いて、以下の遡及的な解析を行った。 この研究の対象は、山形県酒田市にある歯科医院に20年以上継続して受診しており、初診時に16~64歳だった395人(男性29.9%)。より高度な治療が必要とされ専門施設へ紹介された患者や、う蝕(むし歯)が進行しやすいエナメル質形成不全の患者は除外されている。 解析対象全員に対して、むし歯や歯周病などに対する初期治療が行われ、一定の基準(歯肉出血の箇所が10%未満、深さ4mm以上の歯周ポケットが10%未満、プラークスコアが15%未満など)に到達した以降は、歯科衛生士による定期的なメンテナンスが行われた。メンテナンスの頻度は、深さ4mm以上の歯周ポケットがある場合は3カ月ごと、それ以外は半年ごとに行われた。メンテナンスの内容は、口腔衛生指導、歯石除去、歯面清掃、フッ化物歯面塗布などの一般的なものだった。 ベースライン時点の主な特徴は、平均年齢41.4±11.2歳、残存歯数25.4±3.7本、むし歯の経験歯数〔未処置のむし歯、詰め物などの処置済み歯、喪失歯の合計本数(DMFT)〕16.4±6.4本、深さ4mm以上の歯周ポケットを有する割合8.2±12.4%、歯肉出血の割合13.4±13.1%で、喫煙者が11.1%、糖尿病患者が3.0%含まれていた。前記のメンテナンススケジュールに対して通院遵守率が75%以上の患者を「高遵守」、75%未満を「低遵守」として二分すると、前者が36.2%、後者が63.8%を占めた。両群のベースラインデータを比較すると、喫煙者率が高遵守群で有意に低いことを除いて(7.0対13.5%、P=0.048)、上記の全ての指標および歯槽骨吸収率に、群間の有意差は認められなかった。なお、各群の通院遵守率の平均は、高遵守群が85.8±7.0%、低遵守群は54.9±13.5%だった。 平均23.2±2.1年の観察期間中に、高遵守群の37.8%、低遵守群の72.2%が歯を1本以上失っていた。また、DMFTの増加は同順に17.5%、39.7%だった。1年当たりの変化で比較すると、歯の喪失は0.05、0.11本/年、DMFTの増加は0.02、0.05本/年であり、いずれも低遵守群の方が有意に多かった(ともにP<0.001)。 次に、多重ロジスティック回帰分析にて、歯の喪失に独立して関連のある因子を検討。その結果、ベースライン時点での喫煙〔オッズ比(OR)2.67(95%信頼区間1.01~7.05)〕、DMFT〔1本多いごとにOR1.09(同1.04~1.14)〕、歯槽骨吸収率〔軽微を基準として中等度以上でOR4.11(2.09~8.09)〕とともに、通院遵守率〔高遵守群を基準として低遵守群はOR6.50(3.73~11.32)〕が抽出された。年齢や性別、糖尿病、観察期間、ベースライン時の4mm以上の歯周ポケットの割合および歯肉出血の割合は、有意な関連がなかった。 続いて、通院遵守率を75%以上、50~75%未満、50%未満の3群に分けて、多重ロジスティック回帰分析を施行すると、歯の喪失リスクは、遵守率75%以上の群(患者割合は36.2%)を基準として、50~75%未満の群(同43.0%)はOR5.43(3.02~9.74)、50%未満の群(20.8%)はOR10.55(4.87~22.85)となり、通院遵守率が下がるにつれて歯の喪失リスクが上昇することが確認された。 著者らは本研究の限界点として、20年以上の観察が不可能だった患者の転帰が評価されていないこと、観察期間中に他院で治療を受けていた場合の影響が考慮されていないことなどを挙げた上で、「地域の一般歯科医院での長期にわたるメンテナンススケジュールが遵守された場合、歯の喪失リスクが抑制される可能性が示された」と結論付けている。 なお、過去の同様の研究の中には、通院遵守率が高いほど歯を失う確率が高いという、本研究とは反対のデータがあるが、調整因子にベースライン時のDMFTが含まれていない、観察期間が本研究より短いなどの差異があり、それらが結果の違いとなって現れた可能性があるとの考察が述べられている。

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糖尿病患者の下肢切断に関連する因子を特定

 糖尿病と新規診断された患者では、喫煙や身体活動量の少なさに加えて、高齢、男性、離婚などが下肢切断(lower-limb amputation;LLA)の潜在的リスク因子である可能性が明らかになった。オレブロ大学(スウェーデン)のStefan Jansson氏らが行った研究の結果であり、詳細は欧州糖尿病学会年次総会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表される予定。 糖尿病患者はLLAリスクが高いことが知られているが、そのリスク因子は十分に明らかになっているとは言えない。これには、LLAが糖尿病の主徴である高血糖だけでなく、合併症である血管障害、神経障害、易感染や、年齢、罹病期間、喫煙習慣、居住環境(同居者の有無)、医療環境など、さまざまな因子が関与して発症・進行することが一因として挙げられる。これを背景としてJansson氏らは、検討対象を糖尿病と新たに診断された集団に絞り込み、人口統計学的因子、社会経済的因子、生活習慣関連因子、および医療介入時の臨床評価指標を考慮して、LLAリスクを検討した。 研究には、スウェーデン全体の医療情報が登録されている国家レジストリが利用された。2007~2016年に同国内で新たに糖尿病と診断され、LLA既往のない18歳以上の患者を、LLA施行、移住、死亡、または2017年の最終追跡日のいずれかの最も早い日まで観察を継続。欠損データが40%を超える症例を除外し、6万6,569人を解析対象とした。 中央値4年の追跡で133人にLLAが施行されていた。全ての交絡因子を調整後、高齢〔ハザード比(HR)1.08(95%信頼区間1.05~1.10)〕、男性〔HR1.57(同1.06~2.34)〕、離婚〔HR1.67(1.07~2.60)〕は、LLA施行と有意な正の関連が認められた。ベースライン時のLLAリスクに関与する病態の存在も、有意な正の関連が確認された。例えば、神経障害または血管障害がある場合はHR4.12(2.84~5.98)、創傷の既往はHR8.26(3.29~20.74)、進行性の重篤な下肢疾患はHR11.24(4.82~26.23)だった。また、食事療法のみで血糖管理されている群を基準として、インスリン治療が行われていた群はHR2.03(1.10~3.74)だった。 生活習慣関連因子の中では、喫煙〔HR1.99(1.28~3.09)〕や身体活動の頻度が週1回未満〔毎日の群を基準としてHR2.05(1.30~3.23)〕が、LLA施行と有意な正の関連のある因子だった。その一方で、肥満は負の関連因子だった〔普通体重を基準としてHR0.46(0.29~0.75)〕。HbA1cや高血圧は、LLA施行と有意な関連がなかった。 以上を基に著者らは、「生活習慣関連因子はLLA施行と強い関連があり、身体活動量の増加や低体重を回避すること、および禁煙などが、LLAリスク軽減のための効果的な介入となる可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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多くの人は受動喫煙に気が付いていない

 自分は副流煙(他人が吸っているタバコの燃焼部分から立ち上る煙)にさらされていないと思っている人の多くが、実際には副流煙にさらされている(受動喫煙)ことが、米国成人を対象に行われた新たな研究で明らかになった。血液検査では、調査対象者の半数以上が過去数日内に副流煙にさらされていたことが示されたにもかかわらず、大半はその自覚がなかったのだ。米フロリダ大学College of Public Health and Health ProfessionsのRuixuan Wang氏らによるこの研究の詳細は「Nicotine & Tobacco Research」に8月30日掲載された。 Wang氏は、「副流煙曝露に安全なレベルはなく、長期間の曝露は、冠動脈疾患や呼吸器疾患、がんなどの多くの慢性疾患のリスクを高める可能性がある。われわれは、人々が防御措置を講じることができるように、自分が副流煙に曝露していることに気付いてほしいと思っている」と同大学のニュースリリースで述べている。 今回の研究では、2013年から2020年にかけての米国国民健康栄養調査(NHANES)への参加者から抽出した非喫煙者1万3,503人のデータが分析された。参加者のうち、あらゆるタバコ製品への曝露(ニコチン曝露)はないと報告したが、血清中のコチニン(ニコチンの体内での代謝産物)が検出可能な値(>0.015ng/mL)であった場合を「ニコチン曝露の過小報告」と見なし、これに関連する社会人口統計学的因子や慢性疾患について検討した。 その結果、参加者の22.0%がニコチン曝露のあったことを自己報告し、51.2%で血清コチニンレベルからニコチン曝露が確認され、34.6%がニコチン曝露を過小報告していたことが明らかになった。血清中のコチニンが検出可能レベルだった参加者に占める過小報告者の割合は67.6%に上った。男性、非ヒスパニック系の黒人、その他の人種(アジア系米国人、ネイティブ・アメリカン、太平洋諸島系米国人)、心血管疾患のない人は、ニコチン曝露を過小報告する傾向が強かった。血清コチニンレベルの中央値は、ニコチン曝露を自己報告した人で0.107ng/mLであったのに対し、ニコチン曝露を過小報告した人で0.035ng/mLだった。 Wang氏は、「この研究結果は、ニコチン曝露リスクのあるグループに的を絞った介入の考案に役立つと思われる」と話す。 なぜ、参加者の多くがニコチンに曝露していることに気が付かなかったのだろうか。その理由について、論文の上席著者であるフロリダ大学健康アウトカム・生物医学情報学分野のJennifer H. LeLaurin氏は、「低レベルの曝露であれば、気付かない可能性もある。公共の場で、周囲の誰かがタバコを吸っていることに気が付かなかったという状況は考えられる。あるいは、わずかな曝露であれば、忘れてしまう可能性もある」と分析する。同氏はさらに、「研究参加者の中には、スティグマに対する懸念から、自分が副流煙にさらされていることに気付いていたにもかかわらず、それを報告しなかった人がいる可能性もある」と述べている。 なお、研究グループによると、今回の結果を米国全土に当てはめると、およそ5600万人が、気付かないうちに有害な副流煙に日常的にさらされていると計算されたとのことだ。

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クロザピン治療中の治療抵抗性統合失調症の喫煙患者、再発リスクにバルプロ酸併用が影響

 喫煙習慣とバルプロ酸(VPA)併用がクロザピンによる維持療法の臨床アウトカムに及ぼす影響を調査した研究は、これまでなかった。岡山県精神科医療センターの塚原 優氏らは、クロザピンを投与している治療抵抗性統合失調症患者の退院1年後の再発に対する喫煙習慣とVPA併用の影響を調査するため、本研究を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2023年9月8日号の報告。 日本国内の2つの3次精神科病院において入院中にクロザピン投与を開始し、2012年4月~2022年1月に退院した治療抵抗性統合失調症患者を対象に、レトロスペクティブコホート研究を実施した。再発の定義は、退院1年間の精神疾患増悪による再入院とした。喫煙習慣とVPA併用が再発に及ぼす影響の分析には、多変量Cox比例ハザード回帰分析を用いた。喫煙習慣とVPA併用との間の潜在的な相互作用を調査するため、サブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者192例中、69例(35.9%)が再発基準を満たした。・喫煙習慣は、独立して再発リスクを増加させたが(調整ハザード比[aHR]:2.27、95%信頼区間[CI]:1.28~4.01、p<0.01)、喫煙習慣とVPA併用の有無との間に再発リスクに関する有意な相互作用が認められた(p-interaction=0.015)。・VPAの併用を避けることで、喫煙習慣に関連する再発リスク増加を効果的に修正する可能性が示唆された。・喫煙患者のうち、VPAを併用している患者(aHR:5.32、95%CI:1.68~16.9、p<0.01)では、併用していない患者(aHR:1.41、95%CI:0.73~2.70、p=0.30)と比較し、再発リスクが高かった。 著者らは「この結果により、喫煙習慣とVPA併用により、退院後の再発リスクが高まる可能性が示唆された。クロザピンの血中濃度低下など、これらの所見の根底にあるメカニズムを解明するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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魚の摂取で動脈硬化リスク低下、血小板数が影響か

 魚の摂取頻度と血小板数が低いことに関連性のあることが報告された。日本大学病院循環器内科の谷樹昌氏らの研究によるもので、詳細は「Preventive Medicine」に8月23日掲載された。魚摂取頻度が高い人には健康的なライフスタイルの人が多いことも示されている。 疫学研究から、魚の摂取量が多いほどアテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクが低いことが示唆されており、その主要なメカニズムとして、魚油に豊富なエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA)による抗炎症作用が想定されている。また、炎症マーカーと見なされることもある血小板数が、魚油の摂取によって低下するという報告もある。ただし、魚の摂取頻度と血小板数との関連については明らかでない。一方、ASCVDリスクは喫煙、飲酒、運動、睡眠などの生活習慣によって大きく変化することも知られている。そこで谷氏らは、魚の摂取頻度を含む生活習慣関連因子と血小板数との関連を詳細に検討した。 研究対象は、2019年度1年間の日本大学病院健診センター受診者1万1,673人から、ASCVD既往、降圧薬・血糖降下薬・脂質改善薬・抗血小板薬の処方、血小板数45万/μL以上、データ欠落、および研究参加への不同意に該当する人を除外した9,329人(平均年齢46.9±12.9歳、男性59.3%、BMI23.3±3.8)。魚の摂取頻度は、週0日が5.1%、週1日が28.8%、週2日が31.7%、週3日が23.3%、週4日が6.0%、週5日が3.1%、週6日が0.9%、週7日が1.1%であり、平均2.15±1.28日/週だった。n-3PUFAの推計摂取量は平均5.05±3.13g/週、血小板数は中央値22.7万/μL(四分位範囲19.7~26.0万)だった。 解析の結果、魚摂取頻度はn-3PUFA摂取量と有意に正相関しており(ρ=0.962)、血小板数とは有意な負の相関(ρ=-0.103)が確認され、n-3PUFA摂取量と血小板数との負の相関(ρ=-0.100)も認められた(いずれもP<0.0001)。また、魚摂取頻度が高いほど、有酸素運動や高強度運動を習慣としている人、および非喫煙者が多く、睡眠時間は長いという有意な関連が存在した(全て傾向性P<0.0001)。 次に、解析対象全体を血小板数20万以下、20.1~25万、25.1~30万、30万/μL超の4群に群分けして、各群の特徴を比較。すると血小板数高値群は、代表的な炎症マーカーであるC反応性蛋白(CRP)が高く、ヘモグロビン(Hb)や魚摂取頻度、n-3PUFA摂取量が低く、睡眠時間が短いといった相違が見られた。その一方で、ASCVDの既知のリスク因子である年齢や男性の割合、BMI、血圧、糖・脂質代謝関連指標、腎機能、尿酸値には有意差がなかった。 続いて、血小板数30万/μL超を従属変数、単変量解析で血小板数との有意な関連が認められた因子を独立変数とする多変量解析を施行。その結果、CRP1.0mg/dL以上〔オッズ比(OR)2.841(95%信頼区間1.685~4.790)〕、Hb10g/dL未満〔OR4.571(同2.624~4.796)〕、喫煙〔OR1.242(1.003~1.539)〕が独立した正の関連因子として抽出された。反対に、有酸素運動〔OR0.775(0.620~0.968)〕、睡眠時間〔OR0.884(0.810~0.964)〕は独立した負の関連因子であり、かつ魚摂取頻度も独立した負の関連因子として抽出された〔1週間の摂取頻度0日を基準として、1~7日でOR0.310~0.642(週6日のみ非有意)〕。なお、高強度運動は有意な関連がなかった。 以上の結果に基づき著者らは、「魚の摂取頻度が高いことがn-3PUFA摂取量の多さや健康的な生活習慣と有意な関連があり、かつ血小板数が低値であることと有意に関連していた。これらの相互作用によって、魚摂取がASCVDリスクを抑制するのではないか」と述べている。なお、本研究が横断的デザインであることから、「これら諸因子の因果関係を検証するため、さらなる研究が必要」とも述べられている。

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仕事のストレスは男性の心疾患リスクを高める

 過酷なのにやりがいの感じられない仕事は、男性の心臓の健康に大きな打撃を与える可能性のあることが、6,400人以上を対象にした大規模研究で示唆された。仕事にストレスを感じている男性の心疾患発症リスクは、仕事への満足度がより高い同世代の男性の最大で2倍に達することが明らかになったという。CHU de Quebec-Universite Laval Research Center(カナダ)のMathilde Lavigne-Robichaud氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に9月19日掲載された。 この研究は、心疾患のない6,465人(男性3,118人、女性3,347人)のホワイトカラー(平均年齢45.3±6.7歳)を2000年から2018年まで追跡して、職場ストレイン(仕事の要求度は高いが裁量権や支援が不足している状態)や、努力報酬不均衡(effort-reward imbalance;ERI、努力が適切な報酬や昇進に結び付いていないと感じている状態)と心疾患発症との関連を検討したもの。職場ストレインとERIはそれぞれ信頼性と妥当性が示されている質問票により評価された。 中央値18.7年の追跡期間中に男性571人と女性265人に冠動脈疾患(CHD)が生じた。解析の結果、職場ストレインまたはERIのいずれかを感じている男性では、仕事のストレスに曝露していない(軽度の職場ストレインはあるが報酬は低くない)男性に比べて、CHDの発症リスクが49%(ハザード比1.49、95%信頼区間1.07〜2.09)、職場ストレインとERIの両方を感じている男性では103%(同2.03、1.38〜2.97)、有意に高かった。これらの結果は、教育レベルや婚姻状態、喫煙や飲酒の習慣、糖尿病や高血圧などの健康状態を考慮しても変わらなかった。これに対して、女性では、職場ストレインやERIとCHD発症との間に有意な関連は認められなかった。 研究グループは、これらの結果は、仕事のストレスが男性の心臓には打撃を与えるが、女性の心臓には影響を及ぼさないことを証明するものではないと話す。それでも、成人が1日の大半の時間を費やす職場でのストレスが心疾患の原因になり得る理由はあるという。その一つとしてLavigne-Robichaud氏は、慢性的なストレスが心血管系に直接的に影響を及ぼし得ることを指摘する。「職場ストレインとERIは、心拍数の増加、血圧の上昇、心血管の狭窄を含む身体的反応を引き起こす。これらが直接的に心臓に負荷をかけ、血流や心拍リズムに問題が生じ、最終的に心疾患の発症リスクが高まる」と説明する。 仕事のストレスが、それほど直接的でない方法で心臓に害を与えることもあるという。Lavigne-Robichaud氏は、「仕事でストレスを抱えていると、健全な食生活を送り、定期的に運動を行い、リラックスする時間を見つける能力が妨げられる可能性がある」と指摘し、「健康的なライフスタイルを送ることが困難な状況下では、ストレスが心血管系に及ぼす直接的な影響がいっそう顕著になる可能性がある」と付け加えている。同氏は、この研究結果は、職場は従業員の心臓の健康を促進することができ、また促進すべきであるとする、すでに山と積み上げられたエビデンスに加わるものだと述べている。 なお、本研究で、女性では仕事のストレスとCHDとの間に関連が認められなかった点についてLavigne-Robichaud氏は、「この研究での女性のCHD症例が男性の半分程度だったように、女性は、人生の後半に心疾患を発症する人が男性よりも多い。そのため、仕事のストレスと心疾患との間に明確な関連性を見出しにくくなっている可能性がある」と説明している。 Lavigne-Robichaud氏によると、米国心臓協会(AHA)などの団体は、すでに雇用主に対して、健康診断の実施や栄養価の高い食事選択肢の提供などを含む「包括的なウェルネスプログラム」を推奨しているとのことだ。「われわれの研究は、これらのプログラムに仕事のストレス軽減を目的とした介入を取り入れることが、心疾患の予防に役立つ可能性を示唆するものだ」と述べている。

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脳梗塞急性期の尿酸値低下が転帰不良に関連―福岡脳卒中データベース研究

 脳梗塞急性期に尿酸値が大きく低下するほど、短期転帰が不良であることを表すデータが報告された。九州大学大学院医学研究院病態機能内科学の中村晋之氏、松尾龍氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に6月29日掲載された。この関連は交絡因子調整後にも有意であり、かつ年齢や性別、入院時の尿酸値、脳梗塞の重症度にかかわらず、一貫して認められるという。 高尿酸血症は脳梗塞を含む心血管疾患発症のリスクマーカーであることは明らかになっており、独立したリスクファクターである可能性も示唆されている。その一方で尿酸には強力な抗酸化作用があり、尿酸値高値と健康関連指標の一部が良好であることとの関連を示した報告も散見される。ただし、脳梗塞急性期の尿酸値の変動と予後との関連は、ほとんど研究されていない。中村氏、松尾氏らはこの点について、福岡県内の急性期病院7施設が参加している「福岡脳卒中データベース研究(Fukuoka Stroke Registry:FSR)」(研究代表者:北園孝成氏)のデータを解析して検討した。 2007年6月~2019年9月に脳梗塞発症後1週間以内に入院した患者1万5,569人から、発症以前に生活機能障害のあった患者、追跡期間が発症後3カ月未満の患者、入院中に尿酸値が入院初日を含め2回以上測定されていなかった患者などを除外し、4,621人(平均年齢70.1±12.2歳、男性64.4%)を解析対象とした。主要評価項目は、脳梗塞発症3カ月時点の転帰不良〔修正ランキンスケール(mRS)が3~6点〕と、機能的依存〔mRSが3~5点(転帰不良から死亡を除外)〕とし、副次的に入院中の神経学的改善〔米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)が4点以上低下または退院時に0点〕、神経学的悪化(NIHSSが1点以上上昇)などを評価した。 入院時の尿酸値は、男性が平均6.01±1.61mg/dL、女性は5.11±1.65mg/dLであり、男性・女性ともに入院1~3日目、4~6日目、7~10日目に測定されていた値は、入院初日より有意に低値だった。入院中の尿酸値の低下幅(入院初日と入院期間中に記録された最低値)の四分位で4群に分けて比較すると、低下幅の大きい群ほど高齢で女性の割合が高く、BMIが低値であり腎機能(eGFR)が低く、再灌流量療法施行率が高くNIHSSスコアが高値であり、入院期間が長いという有意な傾向が認められた。 解析結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、eGFR、発症前mRSスコア、入院時尿酸値、NIHSSスコア、入院期間、喫煙・飲酒習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動の既往、脳梗塞病型(心原性/非心原性)、再灌流療法の施行など〕を統計学的に調整後、入院中の尿酸値の低下幅と主要評価項目との間に有意な関連が見られた。具体的には、尿酸値低下幅の第1四分位群を基準として第3四分位群は転帰不良のオッズ比(OR)が1.51(95%信頼区間1.16~1.96)、第4四分位群はOR2.66(2.05~3.44)であり、機能的依存については同順にOR1.48(1.13~1.95)、OR2.61(2.00~3.42)だった(ともに傾向性P<0.001)。 副次的評価項目の神経学的改善は入院中の尿酸値の低下幅が大きいほどオッズ比が低く、反対に神経学的悪化は尿酸値の低下幅が大きいほどオッズ比が高かった(ともに傾向性P<0.001)。 続いて、年齢(75歳未満/以上)、性別、脳梗塞病型、神経学的重症度(NIHSSスコア5点未満/以上)、慢性腎臓病の有無、入院時の尿酸値(男性は5.9mg/dL、女性は4.9mg/dLで二分)で層別化したサブグループ解析を実施。その結果、いずれの群においても、入院中の尿酸値の低下幅が大きいほど、転帰不良のオッズ比が高いという有意な傾向性が示された。 以上を基に著者らは、「脳梗塞急性期の尿酸値の低下は好ましくない短期転帰と独立して関連していることが明らかになった」と結論付けている。なお、「本研究が観察研究であるため因果関係は不明」と述べた上で、脳梗塞急性期に尿酸値が変化するメカニズムとしては、輸液などによる体液量の変化や栄養素摂取量の低下などの影響を考察として記している。また、尿酸値低下と転帰不良との関連のメカニズムに関しては、尿酸が酸化ストレス抑制を介して脳神経細胞や血管内皮細胞に対して保護的に働く可能性があり、その作用の減弱によるものではないかとしている。

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化学物質を扱う労働者のがんリスクの実態

 国内で化学物質を取り扱う職業に就いている労働者は、がんに罹患するリスクが有意に高く、勤務歴が長いほどそのリスクが上昇する可能性を示すデータが報告された。東海大学医学部衛生学公衆衛生学の深井航太氏らの研究によるもので、詳細は「Occupational & Environmental Medicine」に6月9日掲載された。 がんリスクを高める因子として加齢や遺伝素因のほかに、喫煙や飲酒、運動不足といった生活習慣が知られており、がん予防のため一般的には後者のライフスタイル改善の重要性が強調されることが多い。一方、複数の先進国から、全てのがんの2~5%程度は職業に関連するリスク因子が関与して発生しているという研究結果が報告されている。それに対してわが国では、労災認定される職業がんは年間1,000件ほどにとどまり、約100万人とされる1年当たりの全国のがん罹患数に比べて極めて少ない。さらに、労災認定されるがんはアスベスト曝露による肺がんや中皮腫が大半を占めていて、多くの職業がんが見逃されている可能性がある。深井氏らはそのような職業がんの潜在的リスク因子として、化学物質への曝露の影響に着目し、以下の検討を行った。 この研究は、国内最大級の入院患者レジストリである、労働者健康安全機構の労災病院グループ34施設の「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータを用いた多施設症例対照研究として実施された。2005~2020年度に同グループ病院に入院した20歳以上の男性がん患者から、化学物質を取り扱うために特殊健康診断が義務付けられている職業に従事している労働者12万278人を「症例群」として設定。一方、がん以外の入院患者の中から、がんの既往がなく、年齢カテゴリー(5歳ごと)、入院した年、医療機関が症例群に一致する、特殊健康診断の対象でない職業に従事している労働者21万7,605人を「対照群」とした。なお、女性は特殊健康診断を受けていたサンプル数が少数であったため、解析から除外している。 症例群と対照群を比較すると、前者の方が喫煙者・前喫煙者および習慣的飲酒者の割合が高かった。前記のデータセット作成時にマッチングさせた因子(年齢、入院年度、入院医療機関)と、喫煙、飲酒、および職歴(就業年数が最長の職種)を交絡因子として調整したロジスティック回帰分析の結果、化学物質の取り扱い期間(職業的曝露年数)が1年以上の労働者は、以下に記すように、化学物質の取り扱いがない労働者に比べ、全がんと複数の部位のがんの罹患率が有意に高いことが明らかになった。全がんはオッズ比(OR)1.05(95%信頼区間1.01~1.10)、肺がんはOR1.87(同1.66~2.11)、食道がんOR1.63(1.21~2.21)、膵臓がんOR1.80(1.35~2.41)、膀胱がんOR1.38(1.16~1.65)。胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆道がんの罹患率には有意差がなかった。 次に、職業的曝露年数の三分位で3群に分類してがんリスクを検討。その結果、全がん、肺がん、食道がん、膵臓がん、膀胱がんについては、曝露年数が長いほど罹患リスクが高いという有意な相関が認められた(全て傾向性P<0.01)。曝露年数を、1~10年、11~20年、21年以上の3群で層別化した検討の結果も同様だった。 続いて、喫煙習慣の有無と職業的曝露年数(曝露なし、20年以下、21年以上)とで全体を6群に分類。喫煙歴と職業的曝露がともにない群を基準としてがん罹患リスクを検討した。すると、喫煙歴がなければ曝露年数が21年以上の場合に肺がんのオッズ比上昇が認められたが、曝露年数20年以下では非有意であり、かつ、肺がん以外のがんは曝露年数にかかわらず、有意なオッズ比上昇は見られなかった。それに対して喫煙者では、曝露年数にかかわらず、全がん、肺がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、膀胱がん罹患のオッズ比が有意に高かった。 以上の結果を基に著者らは、「化学物質の取り扱いに従事する期間が長いほど、がんリスクが高い可能性が示され、特に喫煙習慣が重なった場合にはよりハイリスクとなると考えられる」と結論付けている。ただし、入院患者対象の症例対照研究であるためサンプリングバイアスが存在すること、残余交絡の存在を否定できないことなどの限界点を挙げた上で、「労働安全衛生法施行令の一部改正により、2023年4月より新たな化学物質規制の制度がスタートしている。今後、他のコホート研究などでの追試や、化学物質への職業的曝露を抑制するアプローチが、がん予防につながるのかの検証が求められる」と付言している。

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夜型生活は糖尿病リスクを高める

 生活パターンが夜型の女性は、糖尿病になりやすいことを示すデータが報告された。生活習慣関連リスク因子の影響を調整しても、有意な差が認められるという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のSina Kianersi氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に9月12日掲載された。 この研究は、米国で行われている看護師対象研究(Nurses’ Health Study II)のデータを用いて行われた。2009年時点で、がん、心血管疾患、糖尿病の既往歴のなかった45~62歳の女性看護師6万3,676人を2017年まで追跡。アンケートで把握したクロノタイプは、35%が朝型、11%が夜型で、その他は朝型でも夜型でもないと判定されていた。 46万9,120人年の追跡で1,925人が糖尿病を発症した。朝型の人に比べて夜型の人の糖尿病発症リスクは72%高く〔ハザード比(HR)1.72(95%信頼区間1.50~1.98)〕、朝型でも夜型でもない人は21%ハイリスクだった〔HR1.21(同1.09~1.35)〕。ただ、この関連の大部分は生活習慣によって説明できることも分かった。Kianersi氏は、「夜型の人は概して不健康な生活習慣であることが多い。彼らは、食事が非健康的で身体活動量は少なく体重が重くて、喫煙や飲酒習慣のある割合が高く、さらには睡眠時間が短い人が多かった」と解説している。 具体的には、朝型の人に比べて夜型の人は、そのような不健康な生活習慣の人が54%(49~59)多かった。また、最も健康的な生活習慣と判定された群に占める夜型の人の割合は6%だったが、最も非健康的な生活習慣と判定された群では25%を夜型の人が占めていた。しかし、年齢やBMI、交代勤務、糖尿病の家族歴などのほかに、身体活動量や食事の質などの生活習慣関連因子の影響を調整してもなお、朝型の人を基準とする夜型の人の糖尿病リスクは19%高かった(HR1.19(1.03~1.37)〕。 一方で、勤務時間帯がその人のクロノタイプと一致している場合は、夜型生活であることによる糖尿病リスクの上昇は顕著でないことも分かった。Kianersi氏は、「朝型か夜型かの違いの一部は遺伝的素因によって決まる可能性があり、その傾向に逆らおうとすると、健康に悪影響が生じることを意味していると考えられる」と述べている。なお、夜型生活による糖尿病リスクの上昇は、夜間の勤務歴の経験が10年未満の場合により高かった。 Kianersi氏によると、「ヒトのクロノタイプは約350の遺伝子マーカーとの関連が解明されている」とのことで、「今回の研究はそのような遺伝的素因の影響を理解することが、夜型生活の人の健康を守るのに役立つ可能性を示唆している。この知見は、勤務時間を柔軟に設定可能とするなどの制度設計の立案につながるのではないか」と語っている。ただし、「クロノタイプに関連している遺伝的素因が、糖尿病の発症にも関与しているのか否かということについては、さらなる研究が必要だ」としている。 なお、本報告に対する付随論評を寄せた、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のKehuan Lin氏は、「この研究結果は、生活習慣がクロノタイプと糖尿病との関連を媒介している可能性を示しているのかもしれない」としながらも、「ただし、依然として不明点が多く残されている」と指摘している。

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10代前半男子の喫煙、将来の子どものDNAに悪影響

 10代前半での男児の喫煙は、将来の子どものDNAに悪影響を与え、子どもの喘息、肥満、肺機能低下のリスクを高めることが、新たな研究で明らかにされた。英サウサンプトン大学のNegusse Kitaba氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Epigenetics」に8月31日掲載された。 この研究では、RHINESSA試験参加者875人(7〜50歳、男性457人、女性418人)を対象にエピゲノムワイド関連研究(EWAS)を実施してDNAメチル化パターンを調べ、参加者の母親が妊娠する前の父親の喫煙との関連を検討した。参加者のうちの328人では、父親が母親の妊娠前(参加者の出生年より2年以上前)に喫煙を開始しており、うち64人では、父親の喫煙開始年齢が15歳未満だった。なお、DNA分子にメチル基が付加されるDNAメチル化は、DNAの配列を変更せずに遺伝子の機能を制御するプロセス(エピジェネティクス)の主要素であり、主に遺伝子の発現を抑制する役割を果たす。 その結果、15歳未満で喫煙を開始した父親の子どもでは、14種類の遺伝子にマッピングされた19カ所のCpGサイトでのメチル化が確認された。また、これらのメチル化は、喘息、肥満、および喘鳴と関連していることも示された。さらに、19種類のメチル化のうちの16種類は、過去の研究では母親や当人の喫煙歴とは関連付けられていないものであった。この結果について、論文の共著者であるベルゲン大学(ノルウェー)のGerd Toril Morkve Knudsen氏は、「このことは、これらの新しいメチル化バイオマーカーが、思春期初期に喫煙を開始した父親の子どもに特有のものである可能性を示唆している」と語る。 Kitaba氏は、「このエピジェネティックなマーカーの変化は、思春期初期に喫煙を開始した父親の子どもでは、時期を問わず母親が妊娠する前に喫煙を開始した父親の子どもよりもはるかに顕著だった」と話す。そして、「思春期初期は、男児の生理的変化の重要な時期なのかもしれない。なぜなら、幹細胞が生涯にわたり精子を作り続けるための基盤を築くのがこの時期にあたるからだ」と同大学のニュースリリースで説明している。 一方、論文の共同上席著者であるベルゲン大学のCecilie Svanes氏は、「子どもの健康は、若者の今の行動にかかっている。特に重要なのは、思春期初期の男児(将来の父親)と、妊娠前および妊娠中の母親と祖母の行動だ」と話す。 英国での若年喫煙者の数は減少傾向にあるが、論文の共同上席著者であるサウサンプトン大学のJohn Holloway氏は、電子タバコの人気の高まりに懸念を示している。Holloway氏は、「動物実験の中には、紙巻きタバコの煙に含まれているニコチンが、喫煙者の子どもにエピジェネティックな変化を引き起こす可能性を示唆するものもある。そのため、今のティーンエイジャー、特に男児が、電子タバコを通じて非常に高レベルのニコチンにさらされているのは、深く憂慮すべきことだ」と述べている。 Holloway氏は、今回の研究は、タバコの使用が今よりはるかに一般的であった1960〜1970年代に10代であった父親の子どもを対象にしたものであることを指摘する。その上で、「電子タバコが世代を超えて同様の影響を及ぼすと断言することはできない。しかし、ティーンエイジャーの電子タバコ使用がもたらす影響を明らかにするのに数世代を待つべきではない。われわれは、今行動する必要がある」と強調している。

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過去30年で50歳未満のがん患者が大幅に増加

 50歳未満のがん患者が世界的に急増しているとの研究結果が報告された。過去30年間で、この年齢層の新規がん患者が世界で79%増加しており、また、若年発症のがんによる死亡者数も28.5%増加したことが明らかになったという。英エディンバラ大学のXue Li氏らによるこの研究の詳細は、「BMJ Oncology」に9月5日掲載された。 研究グループによると、がんは高齢者に多い疾患であるが、1990年代以降、世界の多くの地域で50歳未満のがん患者の数が増加していることが複数の研究で報告されているという。Li氏らは、2019年の世界の疾病負担(Global Burden of Disease;GBD)研究のデータを用いて、若年発症のがんの世界的な疾病負担について検討した。GBD 2019から、204の国と地域における14〜49歳の人での29種類のがんの罹患率や死亡率、障害調整生存年(DALY)、リスク因子に関するデータを抽出し、1990年から2019年の間にこれらがどのように変化したかを推定した。 その結果、2019年に50歳未満でがんの診断を受けた患者は326万人に上り、1990年と比べると79.1%も増加していたことが明らかになった。29種類のがんの中で、乳がんは発症率と死亡率ともに最も高かった(発症率:13.7/10万人、死亡率:3.5/10万人)。1990年から2019年の間に発症率の伸びが最も大きかったのは上咽頭がんと前立腺がんであり、それぞれ年平均2.28%と2.23%ずつ増加したと推定された。 2019年の50歳未満でのがんによる死亡者数は106万人以上に上り、1990年から27.7%増加していた。10万人当たりの死亡率とDALYが高かった上位4種のがんは、乳がん、気管・気管支・肺のがん、胃がん、大腸がんであり、また、腎臓がんと卵巣がんは死亡率が急上昇していた。 2019年に若年発症のがん症例が最も多く認められたのは、北米(273.2/10万人)、オーストラリア(157.7/10万人)、西ヨーロッパ(125.6/10万人)であった。一方、年齢調整死亡率(ASDR)が最も高かったのは、オセアニア(39.1/10万人)、東欧(33.7/10万人)、中央アジア(31.8/10万人)であり、若年発症のがんが低・中所得国にも大きな影響を及ぼしていることがうかがわれた。 このような世界的な傾向を考慮に入れた上で研究グループは、2030年までに若年発症のがんの新規患者数は31%、それによる死亡者数は21%増加し、特に40代でのリスクが高まると予測している。 なぜ若年発症のがんが急増しているのだろうか。研究グループは、遺伝的要因はもちろんのこと、それ以外にも、赤肉と塩分の摂取が多く果物や牛乳の摂取が不足した食生活、飲酒、喫煙、運動不足、肥満、高血糖も、がん患者の増加に影響している可能性があるとの見方を示している。 この論文の論説を執筆した英クイーンズ大学ベルファストのAshleigh Hamilton氏らは、「予防と早期発見のための対策を講じることが、若年発症のがんに対する最適な治療戦略の特定とともに喫緊に必要とされている」と述べている。同氏らは、「どのような治療法であれ、若年発症のがん患者に対する治療では、患者の特定のニーズに合わせた総合的なアプローチを取るべきだ」と強調している。

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糖尿病教育入院後の血糖管理に性格特性の一部が独立して関連

 糖尿病教育入院患者を対象として、性格特性と退院後の血糖コントロール状況との関連を検討した結果が報告された。ビッグファイブ理論に基づく5因子のうち、神経症傾向のスコアと、退院3カ月後、6カ月後のHbA1c低下幅との間に、独立した負の相関が見られたという。宮崎大学医学部血液・糖尿病・内分泌内科の内田泰介氏、上野浩晶氏らの研究によるもので、詳細は「Metabolism Open」6月発行号に掲載された。 糖尿病は患者の自己管理が治療(血糖管理)の良し悪しを大きく左右する疾患であり、その自己管理をどの程度徹底できるかは、個々の患者の性格特性によってある程度左右される可能性が考えられる。ただし、過去に行われたこのトピックに関する研究結果は一貫しておらず、議論の余地が残されている。また、それらの研究は主として外来患者を対象に実施されてきている。 一方、糖尿病と診断されてから間もない患者や、外来治療を継続しても血糖管理不良が続く患者に対して、短期間入院してもらい、糖尿病治療に必要な知識や方法を集中的に指導する「教育入院」が行われる。その教育入院の効果にも、性格特性が関係している可能性が想定されるが、これまでのところ明らかにされていない。内田氏らは本研究を、「糖尿病教育入院患者の性格特性と退院後の血糖管理状況との関連を検討した、初の縦断的研究」と位置付けている。 研究対象は、2021年の1年間に同大学附属病院や古賀総合病院で糖尿病教育入院を受けたHbA1c7.5%以上の患者のうち、退院後6カ月間追跡可能だった117人。性格特性は、ビッグファイブ理論の5因子をそれぞれ1~7点のスコアで評価し、入院時のHbA1c、および退院1、3、6カ月後時点のHbA1c低下幅との関連を解析した。 対象者の入院時点の主な特徴は、平均年齢60.4±14.5歳、男性59.0%、2型糖尿病82.9%、罹病期間11.4±10.5年、BMI24.9±5.1で、性格特性を表すスコアは、神経症傾向3.9±1.4、外向性4.0±1.4、開放性3.9±1.0、協調性5.3±1.0、勤勉性3.8±1.3。HbA1cは、入院時が10.2±2.1%であり、退院1カ月後は8.3±1.4%、3カ月後7.6±1.4%、6カ月後7.7±1.5%と、有意に改善していた。 入院時のHbA1cや退院後のHbA1c低下幅を目的変数とし、年齢、性別、病型、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、治療内容(1日当たりの経口・注射薬の投与回数)、および性格特性を説明変数とする重回帰分析の結果、性格特性は入院時のHbA1c、および退院1カ月後時点のHbA1c低下幅との有意な関連は認められなかった。また、性格特性の各因子のスコアの中央値で高値群と低値群に二分した上で、退院1カ月後時点のHbA1c低下幅を比較した結果も、群間に有意差はなかった。 それに対して、退院3、6カ月後時点のHbA1c低下幅は、神経症傾向のスコアと独立した負の関連がある(神経症傾向が強いほどHbA1cが大きく改善している)ことが明らかになった。具体的には、退院3カ月後時点のHbA1c低下幅との関連はβ=-0.192(P=0.025)、退院6カ月後時点はβ=-0.164(P=0.043)だった。また、神経症傾向のスコアの中央値で二分して比較すると、退院3カ月後時点のHbA1c低下幅はスコア高値群の方が有意に大きく(P=0.034)、退院6カ月後時点も境界域の有意差が認められた(P=0.050)。なお、神経症傾向以外の性格特性は、いずれの時点のHbA1c低下幅とも有意な関連がなかった。 これらの結果は、教育入院期間中に行われる集中的な療養指導が、患者の性格特性にかかわらず有意なHbA1c改善効果をもたらすこと、および、神経症傾向が強い性格特性の患者では、教育入院の効果が長期間持続しやすいことを意味している。著者らは、「患者の性格特性は容易には変えられないが、性格特性に応じて治療アプローチをアレンジすることは可能である。今後の研究により、そのようなアレンジの手法を確立することが期待される」と述べている。

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がん遺伝子パネル検査、もっと多く、もっと早く/イルミナ

 イルミナは2023年8月31日に、都内でプレスセミナー「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の現状と課題」を開催した。演者からは、がん遺伝子パネル検査(包括的がんゲノムプロファイリング[CGP]検査)のさらなる活用と、早期適用についての要望が発せられた。一般大衆のがんゲノム医療への認知度は低い 同社メディカルアフェアーズ本部長である猪又 兵衛氏は、2023年5月に同社が一般成人1,000人を対象に行った「がんゲノム医療に対する意識調査」の結果を紹介した。 がんの根本的な原因について問う質問に対し、「喫煙」「遺伝」「飲酒、偏食」という回答が上位を占め、「遺伝子異常」と認識していた人の割合はそれ以下で5割強にとどまった。また、がんゲノム医療を知っているか、との質問に対し、知っていたと回答した割合は7%であった。 猪又氏は、「がん患者やその家族など、がんに関わっている方でさえ、がんゲノム検査の認知度とがんへの正しい理解度はまだ低く、さらなる向上の余地がある」と総括した。今以上に増やせる日本の遺伝子パネル検査の活用機会は 同社ゼネラルマネジャーのArjuna Kumarasuriyar氏は、世界と日本のCGP活用に関する統計データを示した。 日本ではCGP検査が保険承認されているものの、希少がんを除き、標準治療終了後という制限がある。制限の中でCGP検査を受けているがん患者は約1万7,000例で、日本における年間の新規がん罹患数の約100万人から換算すると、58対1の比率である。この比率は韓国では10対1、ドイツでは13対1で、CGP検査を受けているがん患者の比率は日本の4〜5倍多い。Kumarasuriyar氏は、「日本では今以上にCGPの活用機会がある」と述べた。CGPをさらに治療に結び付けるために必要な、基礎・臨床研究の増加 国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT)センター長の河野 隆志氏は、C-CATの実績について紹介した。 2019年6月以降のC-CATの登録累計は6万人に達する。登録者は増加傾向で、現在は月2,000件程度が新たに登録されている。CGP検査により治療薬が提示された患者は44.5%(1万3,713例)、CGP検査で提示された標的治療薬が投与された患者は9.4%(2,888例)であるという。 河野氏は、「多くの患者で遺伝子変異が見つかっているが、必ずしも薬剤に紐付いているわけではない。今後は遺伝子と薬剤の関係を導き出す基礎研究と、治療につなげる治験の増加が必要だ」と訴えた。CGP活用拡大に欠かせない、医師からの提案と診断初期からの適用 NPO法人パンキャンジャパン理事長の眞島 喜幸氏からは、希少がんと膵臓がん患者のアンケート結果が紹介された。 希少がんでは治療初期からCGP検査が認められている。しかし、医師からがんゲノム医療の説明を受けた希少がん患者は22.5%しかいない。結果、CGP検査を受けた希少がん患者は12%だった。CGP検査を受けなかった理由の第1位は「医師からの説明がなかった」である。眞島氏は、「患者から検査の要望を切り出せる状況には至っていない。医師からの提案が重要」と述べた。 また、同氏はCGPの活用時期についても言及した。膵がんではKRASやBRCAなど代表的な遺伝子変異が多い。米国のNCCNガイドラインでは、進行膵がんに対し治療初期からCGP検査が推奨されているが、日本では、膵がんでのCGP検査適用は標準治療後である。眞島氏は、「膵がんの治療は待ったなし。現在の制限を解除し、米国のように診断時からCGP検査を活用してゲノム医療につなげたい」と訴えた。

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漫画『王の病室』がリアル!【Dr. 中島の 新・徒然草】(495)

四百九十五の段 漫画『王の病室』がリアル!「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、本当に彼岸を過ぎたらこの暑さが和らぐのでしょうか? 外来受診をしたタイ人の患者さんが「日本のほうが暑い!」と言っていたくらいですから、まだまだ続くのかもしれません。さて、前々回は『響~小説家になる方法』という漫画を紹介しましたが、今回は『王の病室』(講談社、原作:灰吹 ジジ、漫画:中西 淳)という医療漫画を紹介したいと思います。医学部を卒業して新しく研修医になった赤城くんが主人公。彼が研修をしながら、医療の現実の中で悩みながら成長する物語です。漫画の中の登場人物のセリフがリアル。我知らず感心してしまいました。以下、いくつかの例を紹介させていただきます。ここがリアル! その1まず、赤城くんが担当患者さんのご家族に「少しお伺いしたいことが」と呼び止められる場面。ご家族が赤城くんに尋ねます。「父が治るまでに一体いくらぐらい用意しておけばよろしいのでしょうか」これに対して赤城くんの答えが笑えます。「さあ」何ですか、「さあ」って!でも、開業医の先生はともかく、私を含めて勤務医はあまり医療費のことを考えていません。ましてや赤城くんは卒業したばかりの研修医ゆえ、「さあ」以外の答えがないのは当然です。それにしても、もう少しマシな答えはなかったものでしょうか?ここがリアル! その2先輩の獄門院 聖(ごくもんいん ひじり)先生が赤城くんを慰める場面。「安心しろ赤城。この世に絶対の名医なんて存在しねェ。だから潔く泥仕合に励むんだな」赤城くんはグッドパスチャー症候群に対して血漿交換で挑もうとしていたのですが、いくら繰り返しても改善しない、という経過を予想できていません。泥仕合とは言い得て妙です。ここがリアル! その3指導医の高野 孝太郎(たかの こうたろう)先生に血漿交換の許可をもらいに行ったときのこと。すでに負け戦が見えている高野先生にとって、血漿交換は貴重な医療資源の浪費にしか思えません。でも一生懸命な赤城くんを見てこう言います。「赤城先生のためと思って今回は大目にみましょう…(略)…ここで血漿交換療法を経験した赤城先生が未来で誰かを救うかもしれない」大金をドブに捨てるみたいな治療ではあるけれども若者の教育のため、と思って自分を無理に納得させているのでしょう。ここがリアル! その4腎臓内科の松下 優音(まつした ゆね)先生は獄門院先生や高野先生とは別の考えを持っています。彼女のセリフが私にとっては一番腑に落ちるものでした。ちょっと長いけど引用させてもらいます。「この世で最も平等なものは『病』だと思うんだ…(略)…平等という言葉を使うとき我々は少し歪んだ認識をしてると思うんだけど。『善人が救われる』『悪人が罰を受ける』どこかそんな勧善懲悪をイメージしてない?」見事に我々が無意識に持っている考えを言い当ててくれます。そして松下先生はこう続けました。「本当の平等はもっと残酷だよ。老いも若きも金持ちも貧乏人も善人も悪人も区別なくただただ病は降り注ぐ」まさしく、その通り!「だからこそ私は信じてるんだよね。病と闘う者もまた同じくらい平等が許されると。若者を助けるべきとか誰を優先すべきとか、そういう小賢しい判断は国のお偉いさんにお任せ。与えられた手段全部使って誰でも治すのが私のやり方だから」飲酒喫煙しながら長生きする人が大勢いる一方、清く正しい生活で早死にしてしまう人も少なくありません。まさしく病は平等、そして理不尽です。だからこそ、自分のほうも理不尽に振る舞い、使えるものは何でも使って治療する、という松下先生の考え方には頷かされてしまいます。この漫画には、ほかにも示唆に富むセリフが沢山出てきました。読者の皆さまには、是非ともこの漫画を買って読んでいただきたく思います。きっと「あるある」と笑えることでしょう。ということで最後に1句彼岸すぎ リアルな漫画に 感心す

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男性での加齢に伴うテストステロン減少に影響し得る要因とは

 男性のテストステロンの分泌量は、70歳まではかなり安定しているが、その後は減少し始めることが新たな研究で示された。このことから「高齢者でのテストステロンの減少は正常な老化のプロセスの一つなのか、それとも、高齢男性が直面するさまざまな健康問題を反映したものなのか」という疑問が浮上する。この研究結果を報告した西オーストラリア大学医学部教授でオーストラリア内分泌学会元会長のBu Yeap氏らは、これらの疑問に対する答えは、いずれも「イエス」ではないかとの見方を示し、肥満や高血圧、糖尿病のほか、婚姻状況までもが、加齢に伴うテストステロン減少の要因になり得るとしている。この研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に8月29日掲載された。 テストステロンの減少は、脆弱性や倦怠感を増大させるほか、性機能の衰えや筋肉量の減少、糖尿病や認知症のリスクを上昇させる可能性がある。加齢に対してできることはないが、生活習慣の是正が男らしさの維持に役立つ可能性はある。 Yeap氏らのグループは今回、オーストラリア、ヨーロッパ、北米で2019年7月までに実施された11件の研究のデータを解析した。解析に組み入れた対象者は合計2万5,149人の男性で、いずれの研究でも、質量分析法と呼ばれる方法で対象者の総テストステロン値が複数回にわたって測定されていた。 その結果、70歳超の男性では、テストステロンの平均値が70歳以下(18〜70歳)の男性よりも低いことが明らかになった。ただし、解析からは、テストステロンの分泌を促す黄体形成ホルモン(LH)の濃度が70歳以降に上昇することも示された。Yeap氏はまた、「老化を直接の原因としたテストステロン値の低下度は、比較的軽度と考えられた」とも説明している。 一方で、さまざまな要因が70歳以降のテストステロン値の低下を促していることも明らかになった。具体的には、心疾患や喫煙歴、がん、糖尿病、高血圧、過体重または肥満(高BMI)、運動不足、既婚が要因として示された。「特に過体重または肥満は、高年齢と比較してテストステロン値低下との関連がより強かった」とYeap氏は付け加えている。結婚しているか長期にわたるパートナーがいることが、高齢男性でのテストステロン値の低下に関連している点について、Yeap氏は、「結婚して家族のいる男性はストレスが多く、そのことがテストステロン値の低下をもたらしている可能性がある。ただし、われわれの研究は、この結果の詳細を明らかにできるようデザインされたものではなかった」と話している。 その上でYeap氏は、さまざまな社会人口学的要因や生活習慣要因、医学的要因が男性のテストステロン値に影響を与えているということが、今回の研究から得られた主な知見であると説明。「医師はこれらの要因を考慮した上で男性のテストステロン値の検査結果を解釈すべきだ。検査結果が予測値よりも低い場合、それは必ずしも年齢が原因であるわけではなく、これらの要因が影響している可能性も考えられる」と付け加えている。 米国心臓協会(AHA)の元会長であるRobert Eckel氏は、今回の報告を受けて、テストステロンの分泌動態は、解明が進むにつれ「どんどん複雑になっていくようだ」と話す。また、テストステロン値の低下をもたらすさまざまな要因を正確に把握するのは難しいとしながらも、2つの重要な潜在的要因として、テストステロンを全身に運ぶ働きを担っているLHと性ホルモン結合グロブリン(SHBG)と呼ばれるタンパク質を挙げている。LHとSHBGのいずれかが、健康上の問題がある場合や加齢に伴い減少すると、テストステロン値あるいは利用可能なテストステロンの量が減少する可能性があるのだとEckel氏は言う。 テストステロンの減少は、究極的にはQOLの低下につながるが、それに対して高齢男性は何をすべきなのだろうか。Eckel氏やYeap氏は、テストステロン補充療法の適切さや有用性について医師に相談するべきだと主張している。Yeap氏は「テストステロンを用いた治療は、明確な医学的理由がある場合にのみ、必ず医学的管理下で実施する必要がある」と強調している。

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脳梗塞の疾病負荷は今後も増大するとの予測

 脳梗塞の疾病負荷は1990~2019年にかけて増加しており、今後も増加が続くと予測されるとの研究結果が、「Neurology」に5月17日掲載された。 上海第四人民医院(中国)のJiahui Fan氏らは、GBD2019データベースに基づく年齢調整死亡率(ASMR)および障害調整生存年(ASDR)を用いて、1990~2019年における脳梗塞の世界的疾病負荷の地理的分布と傾向を示した。また、7つの主要リスク因子で説明可能な脳梗塞の死亡数を解析し、2020~2030年の死亡数を予測した。 解析の結果、世界の脳梗塞による死亡者数は1990~2019年に204万人から329万人に増加し、2030年までに490万人に増加すると予測された。脳梗塞のASMRとASDRは経時的に一貫した減少傾向を示し、女性、若者、社会人口統計学的特性指数(SDI)が高い地域ではこの傾向がより顕著であった。現在確認されている脳梗塞の疾病負荷の増加と、将来予測されるさらなる増加の主な寄与因子は、2つの行動因子(喫煙および高塩分の食事)と5つの代謝因子(収縮期血圧高値、LDLコレステロール高値、腎機能障害、空腹時血糖高値、BMI高値)である。 共著者の1人は「脳梗塞による世界的な死亡者数の増加と、将来のさらなる増加の予測は懸念すべきものである。しかし脳梗塞は、予防できる可能性が高い疾患である」と述べている。

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日本人NAFLD患者のCVDリスクはBMI23未満/以上で有意差なし

 痩せている非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者の心血管疾患(CVD)リスクは、痩せていないNAFLD患者と同程度に高いことが明らかになった。武蔵野赤十字病院の玉城信治氏、黒崎雅之氏、泉並木氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Gastroenterology」に6月17日掲載された。 NAFLDはメタボリックシンドローム(MetS)の肝臓における表現型と位置付けられており、世界人口の25%が該当するとされる主要な健康問題の一つ。NAFLD患者の多くは肥満だが、一部の患者は痩せているにもかかわらずNAFLDを発症する。欧米ではBMI25未満、アジアでは23未満のNAFLDが「痩せ型NAFLD」と定義されている。肥満併発NAFLDはCVDリスクが高いことは知られているが、痩せ型NAFLDもCVDハイリスクなのか否かは、これまでのところ十分明らかになっていない。黒崎氏らは同院の健診データを用いて、この点に関する後方視的研究を行った。 2017年1月~2022年5月に同院で健診を受け脂肪肝と診断され、3年以上追跡が可能だった人から、習慣的飲酒者(エタノール換算で男性は30g/日以上、女性は20g/日以上)、ベースライン時点でのCVD既往者、データ欠落者などを除外した581人のNAFLD患者を解析対象とした。このうち219人(37.7%)がBMI23未満の痩せ型NAFLDだった。 痩せ型/非痩せ型NAFLDのベースラインデータを比較すると、年齢は有意差がなく(58±12対59±11歳)、性別は後者に男性が多いという有意差が見られた〔50.2対60.8%(P=0.02)〕。BMIは21.5±1.1対26.2±2.8(P<0.01)であり、そのほかに高血圧、糖尿病の有病率、AST、ALT、GGT、中性脂肪は非痩せ型の方が高く、HDL-Cは痩せ型の方が高いという有意差があった。喫煙者率、脂質異常症有病率、LDL-C、血小板数、アルブミンには有意差がなかった。なお、高血圧や糖尿病、脂質異常症患者は、比較的良好に管理されていた(血圧は中央値128/81mmHg、HbA1cは同6.8%、LDL-Cは同143mg/dL)。 3年間のCVD(虚血性心疾患、心不全、脳血管疾患、末梢動脈疾患)発症率は、痩せ型群2.3%、非痩せ型群3.9%で、有意差がなかった(P=0.3)。 次に、年齢、性別(男性)、高血圧、糖尿病、脂質異常症、痩せ型/非痩せ型NAFLDを説明変数、CVD発症を目的変数とする単変量解析を施行。すると、年齢、高血圧、糖尿病と、CVD発症との有意な関連が認められた。続いて行った多変量解析の結果、CVD発症と独立した関連のある因子として、年齢のみが抽出された〔10歳ごとのオッズ比が2.0(95%信頼区間1.3~3.4)〕。 著者らは、単一施設での後方視的解析でありサンプル数が少なく、追跡期間も十分とは言えないことなどを本研究の限界点として挙げた上で、「われわれの研究結果は、痩せ型NAFLDでも非痩せ型NAFLDと同等のCVDリスクを有していると見なし、予防介入すべきであることを示している」と結論付けている。 また、CVDリスクに差がないことの背景としては、「非痩せ型NAFLDでは高血圧や糖尿病が多かったが、血圧、血糖値、およびLDL-Cが良好にコントロールされていたことが、CVDリスク低下に寄与していた可能性がある」との考察が述べられている。なお、本研究で示された痩せ型NAFLDの割合が37.7%という値は、国内の既報研究より高い。その理由として、「3年以上連続して健診を受けた対象での検討結果であり、既報研究に多い患者または一般集団での横断研究とは異なるためではないか」としている。

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心筋梗塞後の痛みで死亡リスクが上昇か

 心筋梗塞後の痛みは、胸痛に限らず、長期生存の予測因子となるようだ。新たな研究によると、心筋梗塞から1年後に痛みがある人では、その後の死亡リスクが上昇する可能性のあることが示唆された。ダーラナ大学(スウェーデン)保健福祉学分野のLinda Vixner氏らによるこの研究の詳細は、米国心臓協会(AHA)が発行する「Journal of the American Heart Association」に8月16日掲載された。 Vixner氏は、「痛みは重大な機能喪失を引き起こし、身体障害をもたらす可能性がある。これらの問題は、いずれも世界的な公衆衛生問題につながっている。しかし、心筋梗塞後に生じる痛みが死亡リスクに与える影響について、これまで大規模な研究で検討されたことはない」と述べる。 この研究でVixner氏らは、スウェーデンの心疾患のデータベース(SWEDEHEART)から、2004年から2013年の間に心筋梗塞を起こした75歳未満の患者1万8,376人(平均年齢62.0歳、男性75%)のデータを分析した。患者は、退院から12カ月後の時点の追跡調査において、痛みも含めた健康に関する質問票に回答していた。痛みについては、「痛みや不快感はない」「中等度の痛みや不快感がある」「非常に強い痛みや不快感がある」の3つの選択肢が用意されていた。この追跡調査から最長8.5年間(中央値3.4年間)のあらゆる原因による死亡(全死亡)に関するデータを集めて、心筋梗塞から1年後の痛みの重症度と全死亡との関連について検討した。 対象者の4割以上が、退院から12カ月後の追跡調査時に中等度または非常に強い痛みのあることを報告していた(中等度の痛み:7,025人、非常に強い痛み:834人)。年齢や性別、胸痛、BMIなどの関連因子を調整して解析した結果、中等度の痛みがあった患者では、その後、最長8.5年間における全死亡リスクが、痛みのない患者よりも35%高いことが明らかになった(ハザード比1.35、95%信頼区間1.18〜1.55)。また、非常に強い痛みのある患者での同リスクは、痛みのなかった患者の2倍以上だった(同2.06、1.63〜2.60)。心筋梗塞後の痛みについては、退院から2カ月後にも調査が行われたが、この際に痛みを経験していた患者の65%は12カ月後の追跡調査時にも痛みを訴えており、痛みが慢性的なものであることが示唆された。 Vixner氏は、「心筋梗塞後には、将来の死亡の重要なリスク因子として痛みの有無を評価し、認識することが重要だ。また、激しい痛みは、リハビリテーションや定期的な運動などの心臓を保護する重要な活動への参加を妨げる可能性がある」と指摘。「痛みのある患者においては、喫煙、高血圧、高コレステロール値など、他のリスク因子を減らすことが特に重要だ」と話している。さらに研究グループは、「医師は、治療を勧めたり予後を判断したりする際に、患者が中等度または非常に強い痛みを経験しているかどうかを考慮すべきだ」と述べている。ただし、この研究はスウェーデンに住んでいる人だけを対象としているため、他の国に住んでいる人には当てはまらない可能性がある。 なお、AHAによると、米国では40秒に1件の割合で心筋梗塞が生じているという。

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血液中のビタミンK濃度は肺の健康と関連

 ビタミンDほど有名ではないかもしれないが、葉物野菜に含まれているビタミンKは、肺の健康を促進する可能性のあることが、新たな大規模研究で示された。この研究では、血液中のビタミンK濃度が低い人では肺の機能が低下しており、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘鳴を訴える人が多いことも明らかにされた。コペンハーゲン大学病院およびコペンハーゲン大学(デンマーク)のTorkil Jespersen氏らによるこの研究の詳細は、「ERJ Open Research」に8月9日掲載された。 ビタミンKは、緑葉の野菜のほか、食物油、穀物粒に含まれており、血液凝固に関与し、傷の治癒を助ける。しかし、肺の健康における役割についてはほとんど知られていない。Jespersen氏らは今回、24〜77歳のコペンハーゲン市民4,092人を対象に、血液中のビタミンK濃度の低い状態が肺の機能や疾患・症状に関連するのかどうかを検討した。対象者は、肺機能検査(スパイロメトリー)を受け、血液と尿のサンプルを提出していた。スパイロメトリーでは、息を最大まで吸い込んだ状態から一気に吐き出す際の最初の1秒間の呼出量〔1秒量(FEV1)〕と、最大まで吸い込んだ息を一気に全て吐き出した際の呼出量〔努力肺活量(FVC)〕を調べる。対象者には、健康全般と、慢性疾患、喫煙や飲酒、運動、食事などのライフスタイル因子に関する調査も行われた。 その結果、血液中のビタミンK濃度の低い人は、FEV1とFVCが減少している傾向があり、また、COPD、喘息、喘鳴があると回答する可能性の高いことも判明した(オッズ比は、それぞれ2.24、1.81、1.44)。ただし、この結果は、ビタミンK濃度と肺機能との間の関連を示しているに過ぎず、両者の因果関係が証明されたわけではない。 Jespersen氏は、「この結果は、ビタミンKが肺の健康維持に一役買っている可能性を示唆するものだ」と話す。その上で、「この結果だけで、現行のビタミンK摂取に関する推奨事項が変更されるわけではない。しかし、肺疾患を持つ人など一部の人においてビタミンKの補充が有益であるかどうかについて、さらなる研究で検討するべきことを示唆する結果であることに間違いはない」との考えを示している。 この研究には関与していない、カロリンスカ研究所(スウェーデン)のApostolos Bossios氏は、「この研究において、血液中のビタミンK濃度が低い人では、肺機能が低下している可能性が示唆された。さらなる研究により、ビタミンK濃度を上昇させることで肺機能が改善するかどうかを確認し、ビタミンK濃度と肺機能の関連に対する理解を深めるのが有益だろう」との見方を示している。 Bossios氏はさらに、「その一方で、われわれは健康的でバランスの取れた食生活を心がけて全身の健康をサポートするとともに、禁煙、運動、大気汚染に対する対策を通じて肺の健康を守ることができる」と話している。

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健康な人でも少量の習慣的な飲酒で血圧上昇

 高血圧でない人が少量のアルコールを習慣的に飲み続けていると、血圧が上昇する可能性のあることが明らかになった。モデナ・レッジョ・エミリア大学(イタリア)のMarco Vinceti氏らの研究によるもので、詳細は「Hypertension」に7月31日掲載された。 アルコール摂取が血圧を高めることが知られているが、摂取量がわずかな場合にもそのような影響が生じるのか否かは明確になっていない。そこでVinceti氏らは、飲酒量と血圧との関連を縦断的に調査した過去の研究のデータを用いた用量反応メタ解析によって、この点を検討した。PubMedまたはEmbaseに、2023年5月9日までに収載された論文から、研究参加者が健康な成人であることなどの包括基準を満たす、日本、米国から各3件、韓国から1件、計7件の研究報告を抽出。研究参加者数は合計1万9,548人、追跡期間は中央値5.3年(範囲4~12)だった。 アルコールを全く飲まない場合を基準として、1日の摂取量が12gの場合は追跡期間中に、収縮期血圧(SBP)に1.25mmHg、拡張期血圧(DBP)には1.14mmHgの差が生じていた。アルコール12gとは、12オンス(約350mL)の缶ビールに含まれる量よりもやや少ない量に過ぎない。また、1日のアルコール摂取量が48gの場合は、SBPに4.90mmHg、DBPに3.10mmHgの差が生じていた。Vinceti氏は「結論として、飲酒と血圧管理は両立しない。つまり、習慣的な飲酒によって高血圧のリスクが上昇し、心臓病や脳卒中のリスクが増加する」と総括している。 では、リスクを高めない飲酒量とはどのくらいだろうか?Vinceti氏は、「少なければ少ないほうが良いことは間違いなく、さらに良いのは飲まないことだ。われわれの研究結果は、たとえわずかであってもアルコールを摂取していれば、時間の経過とともに血圧が高くなるという直線的な正の関連を示している」と解説。ただし同氏は、「飲酒が高血圧の唯一の原因というわけではない。また、少量の飲酒と血圧上昇リスクとの関連は、大量飲酒ほどには明確でないことも確かなことだ」と付け加えている。なお、飲酒以外の高血圧の原因として、米疾病対策センター(CDC)は、非健康的な食事、肥満、運動不足、喫煙などを挙げている。 論文共著者の1人で世界高血圧連盟の会長でもある米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のPaul Whelton氏は、飲酒によって血圧が上昇する理由について、「完全に明らかにされているわけではないが、最も可能性の高い理由は、アルコールによって交感神経が活性化することではないか」と解説。また同氏は飲酒に関してシンプルなアドバイスも述べている。それは、「現在、習慣的に飲酒していない場合は、飲み始めないことだ。飲酒の習慣がある場合は、断酒または節酒すべきた」というもの。同氏はこのアドバイスを、「高血圧患者ばかりでなく、血圧が正常範囲内ながらも高いという人に対して、特に強く伝えたい。なぜなら、そのような人が飲酒習慣を続けた場合、血圧上昇の経時的変化がより強く現れるからだ」と話している。 また、本研究には関与していない、米国心臓協会(AHA)のボランティアスタッフで米ニューヨーク大学グロスマン医学部のNieca Goldberg氏は、「重要なメッセージは、飲酒は高血圧や心臓病の予防にはならないという点だ」と述べ、地中海食などの健康的な食事と減塩、運動の励行、睡眠時間の確保を勧めている。

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